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完全無欠の無重力ダイブ 日向美ビタースイーツ♪ EXTREME Level 8 BPM 122 Notes 625 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①①① |⑥---| 3 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①口① |⑥---| 4 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①口① |⑥---| 5 ③口②口 |①--②| 口③口② |--③-| 口口口口 口①①① 口口口④ ⑦口口口 口⑤⑥口 |-④⑤⑥| 口⑨⑧口 |⑦⑧⑨-| 6 ③①①口 |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| ②口口口 |-⑤⑥-| 口⑥⑤口 |⑦---| 7 口①①③ |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| 口口口② |-⑤⑥-| 口⑤⑥口 |⑦---| 8 ③①①口 |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| ②口口口 |-⑤⑥-| 口⑥⑤口 |⑦---| 9 口①①③ |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| 口口口② |-⑤⑥-| 口⑤⑥口 |⑦---| 10 ①口③① |①--②| 口口口口 |③-④-| 口口②口 口④④口 口⑥口口 口口口口 ⑦⑤⑧⑦ |-⑤⑥-| 口口口口 |⑦-⑧-| 11 ①③口① |①--②| 口口口口 |③-④-| 口②口口 口④④口 口⑧⑥口 口口⑨口 ⑦口⑤⑦ |-⑤⑥-| 口口口口 |⑦-⑧⑨| 12 ①口③① |①--②| 口口口口 |③-④-| 口口②口 口④④口 口⑥口口 口口口口 ⑦⑤⑧⑦ |-⑤⑥-| 口口口口 |⑦-⑧-| 13 口口口口 |①--②| ①口口① |③④⑤-| 口口口口 ⑤③②④ ⑥口口⑦ ⑩口口口 口⑧⑨口 |⑥⑦⑧⑨| 口⑫⑪口 |⑩⑪⑫-| 14 口口口② |①---| 口①①口 |②---| ①口口① 口口口口 ③⑥口口 口口④口 ⑤口口口 |③-④-| 口口⑥口 |⑤-⑥-| 15 ②口③① |--①-| 口④口③ |--②-| ④口口⑤ |--③-| ①口⑤② |④-⑤-| 16 口④口口 |--①-| 口③口口 |----| 口②口口 |--②-| ①口口① |③-④-| 17 口口①口 |--①-| ③口口③ |②-③-| 口口②口 |④---| ④口口④ |----| 18 ②口⑤① |----| 口口口⑤ |①---| 口③④口 |②-③-| ①口口② |④-⑤-| 19 口①口④ |--①-| ①口口口 |--②-| 口②②口 |③---| 口③③口 |--④-| 20 口口口口 |--①-| 口口①口 |----| 口口口口 |--②-| ②③④口 |③-④-| 21 ①口①口 |--①-| 口③口③ |②-③-| ②口②口 |④---| 口④口④ |----| 22 ⑦⑪⑥② |①-②③| ⑪③⑩口 |④⑤⑥⑦| ⑤①①⑧ |⑧⑨⑩⑪| ⑫⑨④⑫ |--⑫-| 23 口口⑤① |-①②③| ⑥②口口 |④⑤⑥⑦| 口口⑦③ 口④口口 口口口⑪ 口口⑪口 口⑩口口 |⑧⑨⑩⑪| ⑧口口⑨ |----| 24 口②⑤⑤ |①②③④| 口⑥口③ |⑤-⑥⑦| 口口①口 ④口口⑦ ⑩口口口 口口⑪⑪ ⑧口⑨口 |⑧⑨⑩⑪| 口⑫⑫口 |--⑫-| 25 ③口口① |①-②-| ⑥口口⑥ |③-④-| ④⑥⑥② |⑤---| 口⑤⑤口 |⑥---| 26 ⑦①①④ |①-②③| 口③口口 |④⑤⑥⑦| 口口⑥口 ⑤口口② 口⑪口⑫ ⑪口⑧口 口⑨口口 |⑧⑨⑩⑪| ⑫口⑩口 |--⑫-| 27 ①③③口 |-①-②| 口⑤②口 |③-④⑤| 口口口④ 口口口① 口口口⑧ ⑦口⑩口 口口⑥口 |⑥⑦⑧⑨| ⑨⑨口口 |---⑩| 28 ①①口口 |①-②-| ②②口口 |③④--| 口口口③ ④④口口 口⑧口⑨ ⑧口⑤口 口⑥口口 |⑤⑥⑦⑧| 口口⑦口 |--⑨-| 29 ④④④④ |①---| ③③③口 |②---| ②②口口 |③---| ①口口口 |④---| 30 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 ①①①① ③口②口 口④口口 ③口口② |--②-| 口口④口 |③-④-| 31 口③口口 |----| ①口口② |----| 口口③口 |--①-| ①口②口 |②-③-| 32 ③⑥⑥① |①-②-| ⑦口⑦口 |③-④-| 口⑦口⑦ |⑤--⑥| ④⑤⑤② |--⑦-| 33 ①③④① |----| 口口口口 |--①-| 口口口口 |--②-| ②口口口 |③-④-| 34 口口口口 |①---| ②口口② |②---| 口口口口 口①①口 ④口口口 口口⑥口 ⑥口⑤口 |③-④-| 口⑥口③ |⑤-⑥-| 35 口口口① |--①-| 口②口口 |②-③-| 口③③口 |----| 口口口口 |----| 36 ①口口口 |①--②| 口④口口 |③-④-| 口③②口 口口口口 ⑦⑤⑥⑦ 口口口口 ⑧口口⑧ |⑤-⑥-| 口⑧⑧口 |⑦-⑧-| 37 ④口口④ |--①-| ⑥②②口 |②-③-| 口③③⑤ |④---| ①口口① |⑤-⑥-| 38 口①①口 |①---| 口①口① |----| ①①口口 ①①口口 口口⑤口 ⑤③④口 口口②⑤ |②-③-| 口⑤口口 |④-⑤-| 39 ①①口③ |--①-| 口⑤口口 |②-③-| 口口⑤口 |④-⑤-| ④口②② |----| 40 ⑥口⑤⑧ |①-②-| ⑥③③⑧ |③-④-| ②⑦⑦口 |⑤-⑥-| ②口①④ |⑦-⑧-| 41 ⑤口口④ |--①-| ⑦②②口 |②-③-| ①口口⑥ |④-⑤-| ①口口③ |⑥-⑦-| 42 口①①口 |①---| 口①口① |----| ①①口口 ①①口口 口⑤口口 ②③④⑤ ⑤口口口 |②-③-| 口口⑤口 |④-⑤-| 43 ③口①① |--①-| 口口⑤口 |②-③-| 口⑤口口 |④-⑤-| ②②口④ |----| 44 ⑧⑧⑥⑥ |①-②-| 口①⑤口 |③-④-| 口③③口 |⑤-⑥-| ④⑦②② |⑦-⑧-| 45 口口口口 |--①-| ②口口② |②-③-| 口口口口 ③口①① ④口口⑤ ⑦口口口 口口口⑥ |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 46 口①①口 |①---| 口①口① |----| ①①口口 ①①口口 ②口⑤③ ⑤④口口 口口口⑤ |②-③-| 口⑤口口 |④-⑤-| 47 ①①口③ |--①-| 口⑤口口 |②-③-| 口口⑤口 |④-⑤-| ④口②② |----| 48 口②②口 |①-②-| 口④④口 |③-④-| ①口口口 口口口③ ⑤口口口 口口口口 口⑥⑥口 |⑤-⑥-| ⑦⑦⑦⑦ |--⑦-| 49 ⑤①①④ |--①-| ⑦③③口 |②-③-| ②口口⑥ |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 50 口①①口 |①---| 口①口① |----| ①①口口 ①①口口 ③⑤口口 口口口⑤ ⑤口④口 |②-③-| 口口⑤② |④-⑤-| 51 ③口①① |--①-| 口口⑤口 |②-③-| 口⑤口口 |④-⑤-| ②②口④ |----| 52 ③②②口 |①-②-| 口④④口 |③-④-| ⑤⑥⑥① |⑤-⑥-| ⑦⑦⑦⑦ |--⑦-| 53 口①①口 |--①-| 口③③口 |②-③-| 口口口② 口口口口 口口口口 ④口口⑤ ⑥口口⑦ |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 54 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①口① |⑥---| 55 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①口① |⑥---| 56 ③口口⑤ |①--②| 口口②口 |③-④-| 口④口口 |⑤---| ⑥①口① |⑥---| 57 ③口②口 |①--②| 口③口② |--③-| 口口口口 口①①① 口口口④ ⑦口口口 口⑤⑥口 |-④⑤⑥| 口⑨⑧口 |⑦⑧⑨-| 58 ③①①口 |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| ②口口口 |-⑤⑥-| 口⑥⑤口 |⑦---| 59 口①①③ |①--②| ⑦④④⑦ |③-④-| 口口口② |-⑤⑥-| 口⑤⑥口 |⑦---| 60 口④③① |①--②| ⑮②⑭⑬ |③--④--⑤-⑥-⑦-| ⑫⑪⑩⑨ |⑧⑨⑩⑪⑫⑬| ⑧⑦⑥⑤ |⑭-⑮-| 61 ①④口① |①--②| 口口口⑤ |③④⑤⑥| 口口③口 ⑥②口口 口口⑨⑬ ⑫⑧口口 ⑩⑭口口 |⑦⑧⑨⑩| 口口⑦⑪ |⑪⑫⑬⑭| 62 ⑥⑥⑦口 |①②③④| 口④①③ |⑤⑥⑦⑧| 口口⑤③ |----| ⑧②口口 |----| 不確定度 0
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完全無欠の無重力ダイブ 日向美ビタースイーツ♪ BASIC Level 2 BPM 122 Notes 201 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 ①②口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 3 口口②① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 4 口口口口 |①---| ①②口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 5 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 6 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 7 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 8 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 9 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 10 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 11 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 12 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 13 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 14 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①口口 |②---| 口②口口 |----| 15 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①口 |②---| 口口②口 |----| 16 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |----| 17 口口口口 |①---| 口口②口 |----| 口①口口 |②---| 口口口口 |----| 18 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①口口 |②---| 口②口口 |----| 19 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①口 |②---| 口口②口 |----| 20 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |----| 21 口口口口 |①---| 口口②口 |----| 口①口口 |②---| 口口口口 |----| 22 口口口口 |①---| ①②口口 |②---| 口口口口 口口口口 口口口口 ④口③④ 口口③口 |③---| 口口口口 |--④-| 23 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |①---| 口口口口 |----| 24 口口口口 |①---| 口③②① |②---| 口③口口 |③---| 口口口口 |----| 25 口口①口 |①---| 口②口口 |②---| 口口③口 |③---| 口④口口 |④---| 26 口口口口 |①---| ①②口口 |②---| 口口口口 口口口口 口口口口 ④口③④ 口口③口 |③---| 口口口口 |--④-| 27 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |①---| 口口口口 |----| 28 口口口口 |①---| 口③②① |②---| 口③口口 |③---| 口口口口 |----| 29 口④口口 |①---| 口口③口 |②---| 口②口口 |③---| 口口①口 |④---| 30 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 31 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 32 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 33 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口②②口 |②---| 口口口口 |----| 34 口口口口 |①---| ①口口① |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 35 口口口口 |①---| 口③③口 |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 36 口口①口 |①---| 口②口口 |②---| ⑤口③⑤ |③---| 口④口口 |④-⑤-| 37 口口口口 |--①-| 口⑤⑥口 |②-③-| 口②①口 |④---| 口④③口 |⑤-⑥-| 38 ①口口① |①---| 口口口口 |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 39 口口口口 |①---| 口口口③ |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 40 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口②④口 |③---| 口①③口 |④---| 41 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口②口口 |③---| 口①③口 |④-⑤-| 42 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口③② |②---| 口口口口 |③---| 43 口口口口 |①---| ③口口口 |②---| ②①口口 |③---| 口口口口 |----| 44 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 45 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口口②口 |③---| 口③①口 |④-⑤-| 46 ①口口① |①---| 口口口口 |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 47 口口口口 |①---| 口口口③ |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 48 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口②④口 |③---| 口①③口 |④---| 49 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口②口口 |③---| 口①③口 |④-⑤-| 50 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口③② |②---| 口口口口 |③---| 51 口口口口 |①---| ③口口口 |②---| ②①口口 |③---| 口口口口 |----| 52 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 53 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 54 ①②口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 55 口口②① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 56 口口口口 |①---| ①②口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 57 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 58 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 59 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 60 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 61 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 62 口③③口 |①--②| 口②②口 |--③-| 口①①口 |----| 口口口口 |----|
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 霊夢が正体不明のキメラと戦ってから早三日目―― トリステイン魔法学院にある食堂の朝は早い。 日が昇る二時間前に食堂の厨房で働いているコック達が起床し、朝食の支度を始める。 魔法学院に在学している生徒や教鞭を取っている教師たちは勿論、学院の警備を担当している衛士隊の分もあるのだ。 給士達もそれに見習うかのように起きてテーブルクロスを敷いたり、パンやフルーツを入れる為のバスケットを用意する。 ハルケギニアでも一、二を争う名門校と言われているだけあってかその動きは洗練され、そして無駄がない。 一部の給士達は仕事の合間に軽い会話を交えてはいるものの、手の動きが一切乱れていない程である。 料理を作るコック達もまた一流揃いであり、料理長に至っては自分で店を開いても充分やっていける程の腕を持っている。 他の者達もまた料理の腕には大いに自身があり、また料理長の性格もあってかお互いを信頼しあって働いていた。 そうしてゆっくりと、しかし確実に朝が訪れていようとしているなか、食堂の近くに作られた水汲み場に、一人の少女がいた。 彼女が着ている長袖のブラウスに白いフリルが付いた黒のロングスカートは、魔法学院の生徒達に支給されている制服ではない。 かといって教師と呼ぶには余りにも幼く、だけど子供と呼べる程小さくもない。 しかしウェーブのかかった金髪はまだ寝癖がついており、それが何処か子供っぽさを演出している。 人形とも思える程綺麗な瞳が入った眼はとろんとしており、まだベッドに潜っていたいという願望が浮かんでいた。 そうしたければ、紐を使って背中に担いでいる箒を使ってすぐにでも自分が゛居候゛しているもう一人の少女の部屋へと行くことが出来る。 ただそれをすると部屋の主に怒られるだろうし、何より寝起きに説教というのはキツイものがある。 それに、今こうしてわざわざ日が昇る前に外へと出た一番の原因は自分の不甲斐なさであった。 両手で持っていた籠の中に入っている゛大量の洗濯物゛を見て、少女は溜め息をつく。 「まったく、霊夢を相手にジャンケンなんてどうかしてたぜ…」 少女、魔理沙は後悔の念が混じった独り言を呟きながら、3人分の洗濯物を洗い始めた。 それから軽く一時間ぐらい経ったであろうか、女子寮塔にあるルイズの部屋では霊夢が目を覚ました。 ベッド代わりに使っている大きなソファに寝そべったまま目を開けると、数回瞬きをする。 右の耳からは暖炉の中に入れていた薪がパチパチという乾いた音を立てて部屋の中を暖めていた。 (あぁそういえば、魔理沙のヤツは洗濯に行ってるのよね…) 次に眼を動かして、魔理沙がいないのとルイズが未だ寝ているのを確認した後、ゆっくりと上半身をおこした。 体の上にかかっていた柔らかいシーツをどけると大きな欠伸をし、枕元に置いていた靴下を手に取る。 今水汲み場で洗濯をしているはずの魔理沙と同じ眠たそうな顔でもたもたと靴下を履き、その足をソファの上から床に下ろした。 途端無機質らしい冷たさが足から入ってジワジワと体中に浸透していき、頭の中もスッキリしてくる。 段々と意識がハッキリとしていくのを感じながらも、霊夢はゴシゴシと目を擦るとテーブルの上に置いていた自分の着替えへと手を伸ばした。 その向かい側には魔理沙が来ていたであろう白地に黒い星の刺繍があるパジャマが脱ぎ捨てられている。 「相変わらず、片づけとかそういうのが出来てないのね」 霊夢はポツリと呟き、ゆっくりと自分が来ている寝間着を脱ぎ始めた。 ◆ 以前ルイズと共に幻想郷に帰り魔理沙を連れて再びこの世界へと戻ってくる前に、神社にあった私物を幾つか持ってきていた。 といっても大した物はなく精々愛用している湯飲みや急須、戸棚に入れていた茶葉などである。 本当なら茶菓子も持っていきたかったのだが、ごっそりと消えていたので結局持ってこずじまいになってしまった。 その中には当然替えの服や下着もあるのだが、それを見ていたルイズは有り得ないと言いたげな表情を浮かべて言った。 「信じられない…なんで着替えの服が少ないうえに似たような服ばっかりなのよ!」 そう、下着はともかく箪笥に入っている服という服が全てが紅白の巫女服なのである。 一応細部に違いがあるものの、全体的なシルエットは殆どおなじであった。 更に数も少なく、精々六、七着程度しかない。 よそ行きや私服、パーティー用に会食用、礼服といった着替えを数十着くらい持つのが基本である貴族のルイズには信じられないことであった。 しかし霊夢には当然そんなことなど関係なく、その時はふ~んとだけ言って軽く流していた。 ◆ (そういえば…私ってあまり服なんかに興味が沸いたことなんかなかったわね) 服の着替えが終わり、姿見の前に立って頭に付けたリボンの調整をしつつ、霊夢はふと思った。 人里からかなり離れている神社に住んでいるということもあるが、霊夢は服に関してはあまり興味が無い。 無論一切無いということはないが、それでも彼女ほどの年齢の少女ならば、普通自分の服やアクセサリーにかなりの興味を示すものだ。 実際霊夢の周りにいる魔理沙やアリス辺りなんかは興味があるのか、時折人里で買ったり自宅でアクセサリーや服などを自作している。 そしてこの部屋の主であるルイズも例に漏れず、クローゼットには様々なドレスがありタンスの中には装飾用の宝石や指輪も幾つかあった。 このように女の子というの生物は、自然と身の回りを綺麗な物で囲みたいお年頃なのである。 だがしかし、そんな少女の中に霊夢という例外は存在していた。 (まぁ…あまりそういうのには興味がないし…何よりも考えるのが面倒だわ) 霊夢は首を横に振りつつリボンの両端を引っ張っていると、ふと窓の開く音が聞こえた。 誰かと思いそちらの方へ目を向けると、案の定そこにいたのは洗濯籠を左腕に抱え、空飛ぶ箒に腰掛けている魔理沙がいた。 右足だけが不自然に上がっているところをみると、半開きになっていた窓を軽く蹴って開けたのであろう。 「随分早いわね。アンタのことだからもう少し時間は掛かると思ったけど」 「なーに、魔法の森よりかは大分空気が乾燥してるしな。それほど時間はかからなかったさ」 霊夢は軽い冗談でそう言いつつ、リボンの調整を終えると自分の来ていた寝間着と魔理沙のパジャマを拾い始める。 それに対し魔理沙も軽い感じの言葉で返しつつも腰掛けている箒をうまく操り、左腕で抱えている洗濯物入りの籠を部屋の中に入れた。 ついで魔理沙もすばやく部屋の中に入ると空中に浮かんでいる箒を右手で取り、空いた左手で窓を閉めた。 霊夢の方はというと拾い終えた寝間着やパジャマを洗濯物を入れているのとは別の籠に入れていた。 「まだルイズのヤツは寝てるのか。幸せなヤツだぜ」 手に持っていた箒を壁に立てかけ、勢いよく椅子に座った魔理沙は呟いた。 ルイズは幸せそうな寝顔を浮かべており、あと一時間は夢の世界でしか味わえない事を体験しているのであろう。 魔理沙の言葉にルイズの方へと顔を向けた霊夢は、白黒の魔法使いへと向けて一言言った。 「アンタみたいに朝っぱらから空を飛んでいるよう魔法使いとはワケが違うのよ」 「酷い言い草だな。そういうお前も空を飛ぶじゃないか」 魔理沙は両手でヤレヤレという仕草をしつつ、霊夢に言う。 しかし霊夢はそれに怯まず、むしろカウンターと言わんばかりの返事を返す。 「少なくとも、私は朝食を食べてから飛ぶようにしてるわ」 「よく言うぜ。そう言ってお前が飛んでるところを見たことがない」 「まぁね。その後に神社の掃除とか賽銭箱の確認もあるし」 「…実際にしてる事と言えば、神社の掃除だけじゃないのか?おまえんところの賽銭箱なんて何も入ってないだろう」 遠慮のない魔理沙の言葉に、霊夢の眼がキッと鋭くなった。 魔理沙の言葉通り、博麗神社の賽銭箱には多少の埃や塵は入っているものの、肝心のお賽銭などは入っていない。 偶には言っているのは葉っぱや虫だったりと霊夢の望んでいない物が入っていることもある。 そんな神社の巫女である霊夢にとって魔理沙の言葉は少しだけ聞き逃せず、文句交じりの言葉を返した。 「そんなに言うんなら足を運んだ時にお賽銭入れていきなさいよ。この泥棒黒白魔法使い」 「冗談言うなよ貧乏紅白巫女。ご利益が何なのかわからない神社に賽銭なんて御免だぜ」 霊夢の刺々しさが混じった言葉に魔理沙は苦笑いしつつ、霊夢と同程度の刺々しさを持った言葉を返した。 そんな風にして、お互いの話が元の話題から逸れていくうえに段々と喧嘩腰になろうとした時… 『おいおい、こんな狭い部屋で喧嘩なんかしたらご主人様にボコられるぞ』 ふとベッドの方から聞こえてきた男の声に二人は会話を止め、そちらの方へと視線をやる。 声の聞こえてきた先には鞘に収まった一振りの太刀がベッドに寄り添うかのように立てかけられており、声の主と思える者はいない。 しかし二人は知っていた。先程の声が、あの太刀から発せられたものだと。 「それは霊夢の事を言ってるんだろデルフ?言っておくが私はただの居候だぜ」 先程の゛賽銭箱゛と同じくらい聞き捨てならない言葉を聞いた霊夢は魔理沙の方へと視線を向けて言った。 「私だってアイツの使い魔になった覚えはないわ。むしろ無理矢理使い魔にされたのよ」 『ま、どっちにしろ静かにしないと。オメーラ本当に追い出されるぜ?』 デルフは笑っているのか、鞘越しに刀身をプルプルと震わせた。 ◇ 霧雨魔理沙とデルフリンガー。 この二人が顔を合わせたのは二日前の朝、つまりはデルフが帰ってきた日の翌日である。 その日は少し早めに起きた魔理沙はベッドの上で上半身だけ起こし、何気無く部屋の中を見渡した。 ルイズと霊夢が未だ眠っているということを知って驚いた後、ふと見慣れない物が目に入ったのである。 (なんだあの剣は…みた感じ大分古そうな代物だな。というか何時の間に?) この部屋の住人たちにはあまり似合わない一振りのソレを見て、魔理沙は首を傾げた そんな時であった。その太刀――デルフリンガーが話し掛けてきたのは。 『よう。見ねぇ顔だがオメェはどっから来たんだ?』 突如その刀身を動かしながら喋ってきた事に対し、魔理沙は驚きつつも返事を返した。 「…私は霧雨魔理沙、そこら辺にでも普通の魔法使いだが…お前はそこら辺の武器屋じゃ売って無さそうだな」 突然の事で一瞬驚きはしたが、魔理沙の瞳は起きたばかりだとは思えぬほど輝いている。 今まで多くのマジックアイテムを蒐集してきた彼女であったがこのような喋る剣を見たことがなかったのである。 デルフの方も魔理沙の様子を見て(目のような部分は見あたらないが)嬉しそうな感じで言った。 『あったりめーよ!何たってオレ様は、インテリジェンスソードのデルフリンガーだからよ!』 デルフは部屋に響き渡る程の大声を出した。 しかしその結果、直ぐ傍のソファーで横になっていた霊夢の足に蹴飛ばされる事となった。 それから今日に至るまで、魔理沙はデルフという面白い話し相手兼ねマジックアイテムと親しくなった。 暇さえあれば話し掛けたり錆だらけの刀身を見て苦笑したりといった事をしていた。 デルフの方もそういうのは満更でもないのかそんな魔理沙に対しては本気で怒鳴るような事も無かった。(刀身が錆びていると言われた時は流石に怒ったが) 「全く、こうも騒がしいとお茶も飲めないじゃないの」 ただ余りにも騒ぎすぎたためかルイズと霊夢に怒られたりもしたのだが。 特にルイズからは「次、騒ぎすぎたらベッドに入れてあげないからね。ダメ剣は学院の倉庫に入れてやるんだから!」と言われた。 ◇ 魔法学院の食堂で働く者達は朝早くから起きて仕事をするが、その後にも当然仕事はある。 料理の仕上げや貴族の子弟達が食事を出来るよう準備した後、小休止を入れて再び動く。 それが意味する事は、この食堂に朝食を頂きに学院の生徒や教師達が来るという事であった。 朝食を頂く前の祈りも終え、生徒達は目の前に広げられた食事に手を伸ばしていた。 フルーツソースのかかったパイ皮に包まれた焼き鱒や豊富な野菜が入ったスープ。 焼きたてのクックベリーパイに、大きな籠に幾つも入った真っ赤な林檎。 しっかりと中まで火が通った鳥の丸焼き、そして極めつけに朝からワインを瓶で丸ごと一本 彼らが手を付けるメニューの中には、これが朝食のメニューなのかと思ってしまう料理もある。 教師たちならともかく、まだまだ育ち盛りの多い生徒達にとって質素――彼らの目から見て―な食事では満足しないのである。 料理長であるマルトーはそんな生徒たちに対してこりゃあ将来が大変そうだな、と思っていた。 しかし作らなければ仕事にならないので、同情するようなことはしなかった。 ◆ 「…ねぇねぇ。三日前の事件…あれってまだ解決してないのでしょう」 「えぇそうよ。確か警備の衛士たちが全員眠らされていたって事件…一体何だったのかしら?」 ふと耳に入ってきた話に、ルイズはクックベリーパイを食べるのを止めてしまう。 そして口元にまで近づいていたパイが刺さったままのフォークを受け皿の上に下ろし、安堵の溜め息をついた。 彼女にとって、この話を原因を作ったのが誰なのかは既に知っており。事情も聞いた。 といっても半ば無理矢理にでも聞いた。そうでなければあの少女は話してもくれないだろうから。 話を聞く限り、どうやら事件の原因や何があったのかは、全然わかっていないようだ。 少女の方も「まぁ跡形もなく消したし、今頃風に乗って何処かへ行ってるはずよ」と言っていたから大丈夫であろう。 ルイズが再度安堵の溜め息をついたとき、ふと横の方から声が掛かった。 「どうしたのよルイズ?具合でも悪いのかしら」 「…え?」 ふと自分の名前が呼ばれた事に少し驚き、そちらの方へ視線を向ける。 そこにはもう食事を終えたのか、綺麗にロールした金髪が目映い『香水』のモンモランシーがいた。 普段ならば自分の名前を呼ばないような彼女に名前を呼ばれ、思わず唖然としてしまう。 まさか今日は空から雨じゃなくて香水がふってくるのではと思い、鳶色の瞳に不安の色がよぎる。 それを見て何を考えているのかわかってしまったのか。すぐさまモンモランシーの顔に怪訝な色が浮かぶ。 「私が貴方の名前を呼ぶことってそんなに珍しいのかしら…?」 「そうなんじゃない?むしろ私が声を掛けた場合より驚いてるかもね」 「へ~、そうなんだ。…って、なんでアンタが私の後ろにいるのよ」 モンモランシーの言葉を返したのは唖然とした表情を浮かべていたルイズではなく、キュルケであった。 いつの間にか自分の背後に立っていたキュルケに軽く驚きつつ、モンモランシーは言った。 「貴方と同じよ。朝にあまり食べ過ぎるのもどうかと思ってもう出ようかと思ってたところよ」 燃えさかっている炎と同じような色をした赤色の髪を片手でサッとかき揚げつつも、キュルケはあっさりと言う。 それを聞いたモンモランシーは納得したかのような表情を浮かべた後、何度か頷いた。 「昔はそれ程気にしてなかったけど、何故か今年に入って妙に気になるしね…」 少し憂鬱そうな彼女の言葉に、キュルケも同意するかのようにウンウンと頷く。 「そうよね~。…まぁ私が知ってる限り、二人だけはもっと食べないとダメかも知れないけど」 そう言って未だ唖然としているルイズの顔へと視線を向けた。 自分の髪と同じ色の瞳には、何故か哀れみ色が惜しげもなく浮かんでいる。 まるで路地裏に捨てられた子猫を遠くの窓から見つめているかのような悲哀の色が。 「え…?何よ、何で私をそんな目で見つめてるのよ」 入学どころか生まれる前から好敵手であったツェルプストーの娘にそんな目で見られ、思わず驚いてしまう。 困惑の表情を浮かべているルイズに、モンモランシーが声を掛ける。 「大丈夫よルイズ…私だって数年前くらいは貴方と同じだったし…その、ちゃんと食べればもっと伸びるはずよ。…多分」 その声にはキュルケの言葉とよく似た悲哀の色が漂っていた。 「何よそれ!教えるのならハッキリ教えなさいよ!?」 この二人が言っていることの意味が良くわからないでいるルイズは、思わず言葉を荒げてしまう。 一方、食堂出入り口の傍にある休憩所でも、話をしている二人と一本の姿があった。 「…そういやアンタ。意志を持ってるって他にも特徴は無いの」 霊夢は朝食とした出た白パンの一欠片をスープに浸しながら、テーブルの上に置いてあるデルフに話し掛けた。 『唐突だなオイ…いんや、オレにはそんな力はないさね』 「つまらないわねぇ。アンタ本当に暇なときの話し相手じゃない」 『あのな、オレは意志を持っているタダの武器だぞ?武器なら敵に向けて振るのが一番良い使い方さ』 「そもそもアンタ、刀身が錆びてるんだから戦うのは無理なんじゃない?……ハグ」 霊夢はカチャカチャと音を立てながら喋るデルフにそう言い放ち、スープに浸ったパンを口の中に入れる。 無造作に置かれたインテリジェンスソードはそれを聞いて悲しかったのか、鞘が小刻みに震え始めた。 ◇ 霊夢とデルフが再会したのは今から三日前の夜。霊夢がキメラを倒して部屋に帰ってきた後である。 部屋に帰ってきた彼女がまず目にしたのは、ベッドで寝ている魔理沙の横でちょこんと座っていたルイズであった。 彼女は霊夢の姿を見るなりバッとベッドから飛び降り、どことなく疲れている巫女に詰め寄った。 「あっレイム!あんた今まで何処行ってたのよ!というか何してたのよ!」 「何処でも良いじゃないの。ちょっと虫退治に行ってただけだから。あとは眠いからまた明日ね…」 帰ってきて早々、ルイズの罵声を耳に入れた霊夢はうんざりとした様子で返すとソファに腰を下ろす。 霊夢としてはルイズに詰め寄られるよりも早く寝間着に着替えて横になりたかった。 そんな霊夢の態度にルイズは顔を赤くし、さっきよりも大きいボリュームで怒鳴ろうとしたとき――何者かが割って入ってきた。 『おいおい、使い魔とそのご主人さまはもっとこう…和気藹々としてるもんだろ。お前ら殺伐し過ぎだよ』 少しエコーが掛かっているような男の声に、ルイズと霊夢は一斉にそちらの方へと視線を向ける。 声の先にあるのは、ベッドの上に置かれた傍に一本の太刀であった。 何処かで見覚えがあるものの、一体何処で見たのかと一瞬だけ悩み、すぐにその答えが出た。 「デルフじゃないの。…そういや部屋に持ってきてたのをすっかり忘れてたわね」 『OK、お前らには共通点が一つだけある。お前らはまず自分たちの持ち物の存在を忘れないように心がけろ』 今思い出したかのような霊夢の言い方に、デルフは何処か諦めにも似た雰囲気を刀身から漂わせつつも言った。 ◇ 「まぁなんだ。武器として使われる以外にも良い使い方はきっとあると思うぜ」 霊夢とデルフの会話を横から聞いていた魔理沙は、手に持っていたフォークでデルフの入った鞘を軽く小突いた。 『おいおい…慰めてくれるのは嬉しいがそんな物で鞘を小突くなっての』 しかしそれがイヤだったのか声を荒げ、激しくその刀身を動かした。 それに驚いたのか否か魔理沙はすっとフォークを下げると受け皿に置き、肩をすくめて言った。 「何だよデルフ。フォークに付いてるソースなら洗えば落ちるだろ?」 多少の悪気が入った魔理沙の言葉にデルフはその刀身を一層激しく揺らす。 『そういう問題じゃねーっての!鞘っつーのはオレっちを剣にとって、家であり服でもあるんだぞ!』 デルフの言葉に、魔理沙は満面の笑みで言った。 「なら問題ないぜ。何せ服も家も、ついた汚れを水で洗い落とせるからな」 (ホント、見ていて飽きないわねぇ…) 霊夢は魔理沙とデルフのやりとりを見ながら、紅茶を啜っていた。 デルフと魔理沙、一見喧嘩しているようにも見えるが魔理沙の多少意地悪な性格がその一線を越えないでいる。 あっけらかんとした顔の彼女から出てくる言葉には毒が入っているものの、それを言う本人には何の悪気もない。 しかし、霊夢が知ってる限り゛毒が混じった言葉を出す゛ような性格の持ち主なら魔理沙の他にも何人かいる。 紅魔館のパチュリーはハッキリと言うし、妖怪の山からやってくる文は会話の途中途中に紛れ込ませ、紫に至っては意味が良く分からない毒を吐いてくる。 だが魔理沙にはその他にももう一つ゛笑顔゛という効くヤツには良く効く有効な武器を持っていた。 女の子の優しい笑顔とは違う、自分だけの秘密基地を作り終えたばかりの男の子のような元気で活発的な笑顔。 特に同じ魔法の森に住む人形遣いには効果抜群らしく、何度激しい喧嘩になっても結局最後には元の状態に戻ってる。 とまぁそんな魔理沙の笑顔にこのインテリジェンスソードは仕方ないと悟ったのか、 「イヤだから…はぁ~」諦めの雰囲気がイヤでも漂う深い溜め息をついている。 霊夢は紅茶を啜りながらも、そんな二人のやり取りを静かに見守っていた。 「平和ね…本当に平和ね」 幻想郷の巫女は誰に言うとでもなく呟いた。 その姿はとても、多くの人妖と戦ってきた少女には見えなかった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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完全無欠の無重力ダイブ 日向美ビタースイーツ♪ BASIC Level 2 BPM 122 Notes 201 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 ①②口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 3 口口②① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 4 口口口口 |①---| ①②口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 5 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 6 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 7 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 8 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 9 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 10 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 11 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 12 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 13 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 14 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①口口 |②---| 口②口口 |----| 15 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①口 |②---| 口口②口 |----| 16 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |----| 17 口口口口 |①---| 口口②口 |----| 口①口口 |②---| 口口口口 |----| 18 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①口口 |②---| 口②口口 |----| 19 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①口 |②---| 口口②口 |----| 20 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |----| 21 口口口口 |①---| 口口②口 |----| 口①口口 |②---| 口口口口 |----| 22 口口口口 |①---| ①②口口 |②---| 口口口口 口口口口 口口口口 ④口③④ 口口③口 |③---| 口口口口 |--④-| 23 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |①---| 口口口口 |----| 24 口口口口 |①---| 口③②① |②---| 口③口口 |③---| 口口口口 |----| 25 口口①口 |①---| 口②口口 |②---| 口口③口 |③---| 口④口口 |④---| 26 口口口口 |①---| ①②口口 |②---| 口口口口 口口口口 口口口口 ④口③④ 口口③口 |③---| 口口口口 |--④-| 27 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①口口① |①---| 口口口口 |----| 28 口口口口 |①---| 口③②① |②---| 口③口口 |③---| 口口口口 |----| 29 口④口口 |①---| 口口③口 |②---| 口②口口 |③---| 口口①口 |④---| 30 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 31 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 32 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 33 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口②②口 |②---| 口口口口 |----| 34 口口口口 |①---| ①口口① |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 35 口口口口 |①---| 口③③口 |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 36 口口①口 |①---| 口②口口 |②---| ⑤口③⑤ |③---| 口④口口 |④-⑤-| 37 口口口口 |--①-| 口⑤⑥口 |②-③-| 口②①口 |④---| 口④③口 |⑤-⑥-| 38 ①口口① |①---| 口口口口 |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 39 口口口口 |①---| 口口口③ |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 40 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口②④口 |③---| 口①③口 |④---| 41 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口②口口 |③---| 口①③口 |④-⑤-| 42 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口③② |②---| 口口口口 |③---| 43 口口口口 |①---| ③口口口 |②---| ②①口口 |③---| 口口口口 |----| 44 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 45 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口口②口 |③---| 口③①口 |④-⑤-| 46 ①口口① |①---| 口口口口 |----| ②③口口 |②---| 口口口口 |③---| 47 口口口口 |①---| 口口口③ |②---| 口口①② |③---| 口口口口 |----| 48 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口②④口 |③---| 口①③口 |④---| 49 口口口口 |①---| 口⑤④口 |②---| 口②口口 |③---| 口①③口 |④-⑤-| 50 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口③② |②---| 口口口口 |③---| 51 口口口口 |①---| ③口口口 |②---| ②①口口 |③---| 口口口口 |----| 52 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 53 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口④②口 |③---| 口③①口 |④---| 54 ①②口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 55 口口②① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 56 口口口口 |①---| ①②口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 57 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 58 口③口口 |①---| 口②口口 |②---| 口①口口 |③---| 口口口口 |----| 59 口口③口 |①---| 口口②口 |②---| 口口①口 |③---| 口口口口 |----| 60 ③口口口 |①---| ②口口口 |②---| ①口口口 |③---| 口口口口 |----| 61 口口口③ |①---| 口口口② |②---| 口口口① |③---| 口口口口 |----| 62 口③③口 |①--②| 口②②口 |--③-| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 不確定度 0
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん トリステイン魔法学院。 朝の始まりとも言える一限目の授業が始まってまだ数十分しか経っていない程度の時間帯… 教室から少し離れた階段の踊り場に、痛い目にあっている黒白の魔法使いと不機嫌な桃色ブロンドのメイジがやってきた。 「全く、どうしてこう…アンタってヤツはすぐ目立とうとするのよ」 「そ…その前にまず私の耳を引っ張ってる手を離してくれよ。変な病気にでもなったらどうする」 耳を引っ張られて教室の外に連れ出された魔理沙に、ルイズは開口一番にそう言った。 しかしそんな事を言われた魔理沙はというと、ルイズの言葉を聞くよりも先に耳の痛みに気が向いていた。 ルイズはその言葉に従い、耳を掴んでいた手を放す。 ようやく耳を解放された魔理沙はヒリヒリと痛む耳をさすりながら苦々しい表情を浮かべた。 「イタタ…何だよたくっ、一体私が何をしたっていうんだ?」 「何をしたですって…?アンタがあの装置を゛魔法゛で動かそうとしたから止めただけよ」 苦言を漏らす魔理沙に、ツンとした表情でルイズはハッキリと言った。 その言葉の意味が良くわからないのか、魔理沙の顔には怪訝な表情が浮かんだ。 「だってあの装置は、コルベールが言うところには魔法でしか動かないんだろう…?だったら魔法を使うしかないぜ」 「―――じゃあ一つ聞くけど。貴方は魔法を使うときに゛杖゛を使うのかしら」 「杖だって?残念ながら幻想郷じゃあ杖を媒介にして魔法を使う魔法使いの知り合いはいないな」 ルイズにとってはある程度予想していた魔理沙の言葉に、「やっぱり」と呟いて溜め息をついた。 「マリサ。この前オールド・オスマンと話したときに彼がなんて言っていたのか忘れてない?」 「オスマン?…あぁそういや異様に長い白髯の爺さんと話したっけなー……で、それが何なんだ?」 「オールド・オスマンはこう言ってたわ―――」 ―――良いか皆の者よ?今日の話は他言無用で頼むぞ。 迂闊にも誰かに話せばたちどころに広がるからのぅ。そこらへんには気をつけるのじゃ―― 「――…無論。ミス・ヴァリエールの後ろにいる二人もな」…って言ってたでしょう?その言葉の意味、わかるかしら?」 「おぉ!中々そっくりじゃないか。声真似大会に出たらベスト10間違い無しだぜ」 「そ、そう…私ってそんなに似てるかしら?……ってそういう事じゃない!!」 老人独特の、しわがれた声を瑞々しい少女の声で真似ながらもルイズは言った。 しかし魔理沙は、オスマンの言っていた言葉を思い出したことよりも、ルイズの声真似に感心していた。 そんなルイズに怒鳴られつつも、魔理沙は悪戯がばれた子供が浮かべるような笑顔を浮かべる。 「悪い悪い…つまりアレだろ?つまり「自分の事を話すな」って事だろう?それなら私の魔法を見せても…―――」 「わかってない…わかってないわマリサ…」 目の前に出された答案用紙の答えを全て知っているかのような感じで、魔理沙は自信を持って答えた。 だが、その回答は桃色ブロンドの小さな教師が想定していた回答ではない。 「良い?レイムはともかく、貴方はここでは゛幻想郷出身゛のマリサじゃなく、゛ハルケギニア出身゛のマリサなのよ…つまり――」 「…つまり?」 そこで一息入れると、ズイッと自身の顔を魔理沙の顔に近づけると、口を開いた。 「ここで゛ハルケギニア出身゛である筈の貴方が、ここで゛ハルケギニアにある魔法゛ではなく… ゛ハルケギニアにない魔法゛を見せたら、否が応でも目立ってしまうということよ」 目の前にいる黒白にハッキリと認識させるために、ルイズは強い口調でそう言った。 まだ魔理沙の魔法を見てはいないルイズであったが先程の「杖を使わない」という言葉を聞き、連れ出して良かったと内心思った。 ハルケギニアにおいて魔法というのは、一般的に゛杖゛を用いて発動させるものである。 それ以外の魔法と言えば先住魔法があるのだが、これは自分たち人間の敵であるエルフや亜人達の力だ。 もしもあのような広い教室で、魔理沙が゛杖を使わず魔法を発動゛すれば…たちどころにその話は学院中に伝わる。 下手すれば吸血鬼か何かだと勘違いされ、魔理沙どころかルイズや霊夢にも危害が及ぶかも知れないのだ。 そうなればルイズの家にも迷惑が掛かるし最悪お家潰しにもなりかねない。 ルイズは同学年の子達と比べれば頭の良い部類に入る。 だからこそそこまでの事を見越して、魔理沙の゛魔法゛を皆に見せまいと教室から出てきたのだ。 「――なら、そこは言いようだな」 「…へ?言いよう?」 しかし、そんな彼女の傍にいる黒白の魔法使いは、頭の回転が速かった。 そして他人の言葉を、自分に都合良く解釈してしまうほどの機転の早さも持ち合わせている。 最も、それは霊夢を含めた幻想郷の住人達の大半がそうなのであるが。 「あぁ、もしも私の魔法を見て、アイツ等が何か言ってきたら…こう言ってやるさ」 魔理沙はそう言うと頭に被っていた帽子を外し、クルリと裏返すと帽子の内側に入っていた゛八角形の置物゛を取り出した。 表面にはルイズの見たことがない文字が幾つも刻まれており、真ん中には小さな穴が開いていた。 それは霧雨魔理沙という人物を語るには必要不可欠な道具であり、また彼女を象徴する物である。 「…これは貴方達がかつて見たことのない。新しい魔法です―――ってね?」 魔理沙はそう言って、手に持った「ミニ八卦炉」を両手に持ち、ルイズの方へ向けた。 そして全く予想していなかった言葉に唖然とした表情を浮かべている彼女に対して、「バン!」と大きな声で叫んだ。 数秒後、ルイズの拳が「ドガッ!」という大きな音を立てて魔理沙の額に直撃した。 それから数十分後… 授業を再開して暫く経ったとき、ルイズだけが教室に戻ってきた。ハンカチで右手を拭きながら。 「み、ミス・ヴァリエール…」 「授業中の退室、申し訳ございませんでしたミスタ・コルベール」 落ち着いた様子で授業の最中に退室してしまった事を謝ると、そさくさと自分の席に座った。 彼女の顔には何処か憑きものが落ちたかのような、嬉しそうでスッキリとした表情を浮かんでいる。 近くにいた生徒達は、彼女の様子を見て何かを感じ取ったのか冷や汗を流していた。 もう気づいているのだろう、今のルイズに漂うひとつの゛疑問゛… ゛本当なら、ルイズと一緒に教室に戻ってきている人間がいない゛という疑問に。 だが、人としてはまだまだ幼い生徒達はその疑問に触れることを避けた。 何でか知らないが、今のルイズにはその事を聞かないでおこう――― 生徒達は言葉を交えずとも、それぞれの意見は驚くほど一致した。 しかし悲しきかな、世の中にはその場の雰囲気的にやってはいけない事をついついやってしまう人がいる。 誰が望まずとも、所謂゛空気の読めない人゛というのはいるものだ。 ルイズが落ち着いた様子で席に座ったところで、ふとコルベールが口を開いた。 「あの、ミス・ヴァリエール。…ミス・マリサは…?」 空気が読めなかったコルベールの言葉に、ルイズは笑顔で応えた。 「彼女は居候の身分で失礼な事を口にしたので鉄拳制裁の後、今は私の部屋で頭を冷やしていますわ」 ◆ 平日は授業がある為か、生徒達の暮らす寮塔は恐ろしいくらいの静寂に包まれる。 時折モップとバケツを持った給士達が床の掃除をしにくるだけで、後は授業が終わるまで誰も来ない。 窓から日差しが入るお陰で廊下はそれなりに明るいのだが、逆にその明るさは不気味さを醸し出していた。 まるで住む者達がいなくなった廃墟のような、朧気な切なさと儚さが立ちこめていた。 そんな場所と化していた女子寮塔の廊下に、景気よい靴音を響かせて歩いている霊夢がいた。 彼女は何処か暇そうな表情を浮かべながらこの世界の住処であるルイズの部屋へと向かっている。 ついさっきまでは最近手元に戻ってきたデルフリンガーという喧しい剣がいるので部屋に戻ろうという考えは浮かばなかった。 しかしいざ外へ出てみると今日に限って自分の暇をつぶせるものがなく、それならばあの剣とお喋りしていた方がマシだと思ったのである。 「ホント、廊下っていうのは誰もいない時に限って酷く殺風景よね」 ひとり呟きつつも、霊夢は窓から入ってくる陽の光に目を細めた。 どの塔もそうであるが、廊下には控えめであるものの装飾はされているが、何処か殺風景な雰囲気を漂わせていた。 その原因が薄暗いせいか、はたまた大理石の床が冷たい所為なのか、そこら辺の所は良くわかっていない。 だが廊下というのはどこもそうなのではないか?霊夢はそんな事を考えつつルイズの部屋の前にまで来ていた。 恐らくもう百回近くは回したであろうドアノブを捻り、霊夢はドアを開けた。 ドアはキィー…という音も立てずすんなりと開き、なんとか三人くらいは暮らせそうな部屋へと続いていた。 服を入れる大きなクローゼットや箪笥に鏡台、来客用の大きなソファーと丸テーブルと椅子もある。 暖炉には火が灯っていないものの、開けっ放しにされた窓から入ってくる日差しが暖かいのでどうということはない。 その窓の近くにはこの部屋の主には大きすぎるベッドが置かれており、寄り添うように大きめの旅行鞄が二つ放置されていた。 更にその鞄の傍には多数の本が小さな塔を三つほど築いている。 そこは正に、霊夢にとって見慣れた部屋であった。たった一つを覗いて――― 「ただいま~……ってアレ?」 ドアを開けて部屋の中に入って霊夢は、この部屋よりもずっと見慣れている人物がベッドの上で寝ている事に気が付く。 よく神社に足を運んでは頼んでもいないのにやたらと話し掛けてきてお茶をタダのみする自称普通の魔法使い。 時折スペルカード対決を挑まれては返り討ちにしたり、逆に自分を倒してしまうほどの黒白の魔法使い。 たまに鬱陶しいと感じてしまうが、それでもまぁ一緒にいるのも悪くないと思ってしまう魔法使いの霧雨魔理沙。 そんな彼女は、ベッドの柔らかいシーツに体を沈み込ませるかのようにうつ伏せになって倒れていた。 どんな表情を浮かべているのかわからないが、少なくとも息はしているのか体が上下に動いている。 いつも頭に被っている黒いトンガリ帽子は箪笥の上に置かれており、窓越しの直射日光を浴びていた。 「なんで魔理沙がここで寝てるのかしら?」 予想だににしていなかった人物の思わぬ予想外の登場に、さしもの霊夢も目を丸くしていた。 しかし霊夢の言葉はもっともであった。何せ今の時間帯なら魔理沙はこの部屋にいない。 この世界に来てからはルイズについていって授業を見ているし、今日も同じ筈だ。 だから霊夢は二つある喧しい要因の内一つがいないこの部屋に戻ったのだが…これはどういうことか? これを考察するために、霊夢が考え始めようとしたとき、あの゛剣゛が声を掛けてきた。 『おぉっ!戻ったかレイム!今まで何処にいたんだよ?オレっち寂しかったぜ!』 ベッドで倒れている魔理沙の腹の方から、あのだみ声がくぐもって聞こえてきた。 早速気づいたか…溜め息をつきつつ内心呟いた霊夢は魔理沙の方へと近寄る。 そしてフカフカのベッドで寝ている彼女の体を遠慮せず、思いっきり両手でひっくり返した。 うつ伏せから仰向けになった魔理沙はその顔に若干の苦痛を浮かべている。 恐らくルイズ辺りに思いっきり殴られたかして気絶したのであろう。額に大きなタンコブが出来ていた。 しかし今の霊夢にはそんな魔理沙より、その魔理沙の体の下にあった剣に話があった。 「ねぇデルフ、早速アンタに聞きたいことがあるんだけど」 帰ってきた霊夢の第一声に、デルフは詳しく聞くまでも無く、こう言った。 『マリサの事だろ?お前さんが帰ってくるずいぶん前に二人のメイドさんが運んできたんだよ』 「ふぅん…で、この黒白がなんでこうなったのかそのメイドは言ってなかったの?」 霊夢の問いに、デルフは鞘に収まった刀身をカチャカチャと音を立てて左右に揺らした。 『いんや別に…けど二人いた内の金髪メイド、首に聖具をぶら下げてたな…ったく』 そのデルフの言葉の最後には、何処か忌々しい雰囲気があるのを霊夢は僅かに感じ取った。 まるで親の仇を目にしたかのような、一見すれば他人には良くわからない小さな憎しみ… 「あんた、宗教ってのが嫌いなのかしら?人間じゃない癖して」 直球過ぎる霊夢の言葉に、デルフはその刀身を激しく揺らしながら応えた。 『あたぼぅよ!何せ連中ときたら、録にブリミルの事も知らないでアイツを崇拝してるのさ。それがもぉ、イラっとくるんでぃ』 何処か江戸っ子ぽい口調のデルフに、霊夢はすかさず言葉を入れる。 「そのブリミルってのは数千年前の人間でしょうに?そんなに固執しなくてもいいんじゃないの?」 『お前さんは知らないのさレイム。ブリミル教の連中は、アイツの名を看板にして今までヒデェ事を沢山してきたんだ!』 熱を多量に含んだデルフの弾幕トークに、霊夢は軽い溜め息をつきつつもこう言った。 「…そんだけ喋ってりゃあ、物忘れが激しくなるのも納得ね」 『あぁ?どういう意味だよ?』 彼女の口から出たその言葉に、デルフは思わずそう聞き返してしまう。 それ対し霊夢は、呆れたと言いたげな表情を浮かべながらデルフへ向けてこんな言葉を送る。 「我を忘れて喋りまくってると、文字通り自分のことすら忘れちゃうのよ」 ガンダールヴやブリミルの事を、殆ど忘れちゃったようにね 最後にそう言って、霊夢は大きな溜め息をついた。 ◆ 一方、場所は変わってトリステイン王宮にあるアンリエッタの居室。 そこでは今、女官や召使い達が、式で花嫁が纏うドレスの仮縫いを行っていた。 アンリエッタ勿論、そこには彼女の母である太后マリアンヌの姿もある。 彼女は人生に一度あるかないかの大事な儀式にしか着られないドレスに身を包んでいる娘を見て、目を細める。 その瞳の奥では、麗しかった頃の自分を思い出しているのであろうか。 色んな物に興味を持ち、小さくも勇敢で頼りがいのあった若騎士を連れて、街へと出かけていた頃の自分を―― だが、それと対を成すかのようにアンリエッタの表情には陰りが見えていた。 まるで医師に余命を宣告されたかのような、何処か諦めているかのような、それでいて告げられた事実に抗うかのような表情。 縫い子達が、袖の具合や腰の位置などを尋ねても意識が混濁している人間のように、曖昧に頷くだけ。 そんな彼女の様子に気づいたかの、何人かの侍女や女官達がその顔に不安の色を浮かべている。 マリアンヌが、そんな娘の様子を見かねたのか、一時縫い子達を下がらせることにした。 「どうやら私の娘は長い仮縫いで緊張してしまったようです。少し休むことに致しましょう」 太后直々の言葉に縫い子達は素直に従うとそさくさと退室していった。 次に彼女は後ろに控えている女官達に向き直り、彼女らにも退室を促す。 「貴方達も立ちっぱなしで疲れたでしょうに。すこし下に行ってお茶でも飲んできなさい」 縫い子達と同じく太后直々の言葉に彼女らは素直に従い、部屋を出て行った。 こうしてマリアンヌとアンリエッタ、母と娘だけになったところでマリアンヌは自身の娘に話し掛けた。 「愛しい娘や。元気がないようね」 「母さま…」 沈んだ表情を浮かべたアンリエッタは、母の膝に頬をうずめた。 子供の頃のように、まだ夢と希望を小さな体に抱いて生きていた頃の事を思い出すかのように。 「望まぬ結婚だというのは、わかっていますよ」 その言葉に、アンリエッタ顔をうずめたまま首を横にある。 「そのような事はありません。私は幸せ者ですわ。生きて、結婚することが出来ます…それに」 アンリエッタそこまで言うと一息入れるとすっと立ち上がり、後ろへと振りむいた。 大きな観音開きの窓から空から降り注ぐ太陽の光が入り、二人の体を優しく包んでいる。 アンリエッタはその光に目を細めながら、再び喋り始めた。 「結婚は、女の幸せだと…母様は教えてくれたではありませんか」 もう一度振りむいて再び自らの母親と向き合ったアンリエッタは、泣いていた。 明るい調子であった言葉とは裏腹にその顔は曇っており、目にはうっすらと涙が溜まっていた。 そんな娘を見たマリアンヌは、泣き笑いのような表情を浮かべてアンリエッタの頭を撫でた。 「恋人が、いるのですね」 母の言葉に娘は首を横に振ることはなく、かといって頷くこともせず、静かに喋り始めた。 「『いた』と申すべきですわ。今の私は速い、速い川に流されているようなものです…。 全てが私の手に納まることなく、通り過ぎていく…愛も、優しい言葉も、何も残らない」 今までずっと我慢してきていたモノを今ここで解放しているのか、アンリエッタの声は涙ぐんだものへと変わっていた。 マリアンヌはそんな娘の頭を撫でつつも、口を開く。 「恋ははしかのようなもの。熱が冷めれば、すぐに忘れますよ」 「忘れることなど…できましょうか?」 不安を隠すことすらしないアンリエッタの言葉に、マリアンヌの表情が若干厳しいものへと変わった。 「おなたは王女なのです。忘れねばならぬことは忘れなければいけないのです。 あなたがそんな顔をしていては、貴女の後ろにいる家臣達が離れていくことになります。」 母の口から出たその言葉に、アンリエッタはハッとした表情を浮かべた。 「先々日の…内通者の事ですね」 「えぇ、枢機卿と幾人かの者達はこの事をなるべく穏便に済ませたいと考えてはいるようですが… 此度の内通者は、間違いなくアルビオンの手先。奴等とは不可侵条約を結びましたが…それは偽りの契りだったのです」 マリアンヌの言葉を聞き、アンリエッタは何処かやるせない気持ちになった。 ※ 時間はルイズと霊夢がアルビオンから帰ってきた翌日の事―― ゲルマニア皇帝とアンリエッタの婚姻が正式に発表され、それに先立ち軍事同盟が締結された。 それから程なくしてアルビオンの新政府樹立の公布が為され、トリステインとゲルマニア両国に緊張が走った。 しかし王国から共和国に変わったアルビオンの新皇帝クロムウェルは、すぐさま両国に不可侵条約の締結を打診してきた。 両国は協議の末、この締結を受け入れる事にした。 ゲルマニア、トリステイン両国の空軍ではアルビオンの誇る空軍に太刀打ちすることは出来ないからだ。 のど元に短剣を突きつけられている状態で、納得のいかない不可侵条約であったが…。 それでも未だ軍備が整えきれていない両国にとって、この申し出は願ったりであった。 トリステインで、アルビオンの内通者が見つかるまでは…。 ※ 「ひとまず今回のことは被害が出る前に食い止められましたが、これっきりという事はないでしょう」 「…つまり、不可侵条約はアルビオンが私たちの前に差し出した釣り餌だと…いうのですね」 アンリエッタの苦々しい言葉に、マリアンヌは頷いた。 広い部屋にアンリエッタの思い溜め息が聞こえ、その表情も暗くなっていく。 冷たい沈黙が部屋に漂い始めた時、アンリエッタが喋り始める。 「母様、私は時々疑問に思うのです。…何故人はこうも、他人を騙す事が出来るのでしょうか? 言葉を巧みに操って人を騙し、騙された人の事をなんとも思わぬ奴等は…どんな事を考えているのか… 私には全く理解できません。何で助け合うという事ができないのでしょうか?」 アンリエッタの言葉に、マリアンヌはすぐさま答える事が出来なかった。 ただその瞳には、いいようのない哀しみと共に渇望の色も垣間見えていた。 若い頃の自分もこんな風に純粋であった――マリアンヌは心の中でそう呟く。 好きなモノには好きと言い、嫌いなモノには嫌いと言っていたあの頃の自分を、思い出していた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 昼頃から始まったアンリエッタ王女によるトリステイン魔法学院の視察は予定通りというか、順調に進んだ。 宝物庫や中庭、食堂や生徒達が暮らす寮塔等を見回っている内に、すっかり日も沈んでしまった。 今回アンリエッタ王女は一晩泊まってから翌日王宮に帰るので、今夜は魔法学院で夜を明かすことになったのである。 その為、警備もかなり強化されている。前に土くれのフーケに忍びは居られたので尚更だ。 今夜の衛士達の警備はいつにも増してかなり厳しいがそれは本塔や生徒達が暮らす寮塔――そして城壁部分だけである。 逆に給士やコックとして働いている平民達の宿舎の警備はほぼゼロである。 金で雇われている学院の衛士達はこんな事を言っていた。 「平民をさらう者が居るとすれば、それは単なる人さらいか、ただの変わり者さ。」 その為今日の仕事を全て終え、明日の仕込みも済ませた彼らは酒を飲み交わしたり外にあるサウナ風呂に行ったりと、割と自由にしていた。 そんな場所から少し離れた草むらの中に、「五右衛門風呂の様な物」が置かれていた。 以前霊夢がマルトーから貰った大釜を使ってこしらえた物である。 その辺りには誰もいなかったがふと上空から霊夢が数枚のタオルと水が入った小さな桶、それと火種と洗濯道具を持ってやってきた。 勿論これらの道具は全てルイズの部屋から拝借してきた物である。 いつもは何か文句を言ってくるのだが、何故か今日のルイズはベッドに座ってボッーとしていた。 まぁその分取るのが楽だったので良しとしよう。 霊夢は着地すると鍋の下に敷いてあるレンガで作ったかまどに最初から入っていた枯れ木に火を付けた。 枯れ木が丁度良い位に乾いていたのか、どんどんと火が勢いを増していく。 やがて火が大きくなるのを見て霊夢は辺りをキョロキョロと見回し、誰もいないのを確認した。 「さてと…。」 確認をし終えると霊夢は首に巻いている黄色いリボンを解き、ソレを足下に置いた。 次ぎに上着に手をかけると思いっきり上へ捲り、真っ白な下着が――― ― ― 少女脱衣中だぜ。覗き見なんかするなよ? ― ― チャポ… 「ふぅ、気持ち良いわねぇ~♪」 服を全て脱ぎ終え、タオルを体に巻いた霊夢は丁度良い湯加減になった自作のお風呂に入っていた。 脱いだ衣類は一度洗濯した後、かまどの近くで乾かしている。 ―洗濯している最中は素肌にタオル一枚といういけない姿であったが…まぁそれは置いておこう ― 「~♪、~♪。」 霊夢はお湯で体を清めながらも段々と気分が良くなっていき、鼻歌も口ずさみ始めた。 片手でお湯をすくうとそれを肩にかけ、そこを軽く擦る。 次に顔、次に背中、と体のあちこちにお湯掛けているとふと左手の甲が視界に入った。 その瞬間、霊夢の脳裏に何日か前に言っていたオスマンという老人の言葉を思い出す。 「ガンダールヴ、伝説の使い魔ねぇ…。」 そうポツリと呟くと目を細め、左手の甲をじっと見つめた。そこにあるのは白い素肌だけだ。 オスマンが言っていた様なルーンなど何処にもない、というよりあったら不愉快だ。 今は幻想郷に帰れる証拠を掴むまでルイズの部屋に居るがあれはあくまでも利害の一致のうえである。 使い魔のルーンがないものの、召喚の儀式で霊夢が現れた限り、余程のことがなければルイズは再召喚が出来ない。 だが霊夢が無事に幻想郷へ帰ればルイズは使い魔を再召喚ができる。 今の扱いも使い魔というより客人に近い扱いであろう。霊夢自身もそれに甘んじている。 満足な食事とちゃんとした寝床。だけど一緒のベッドで寝るというのは癪だが。 ……だけど、もしもルーンなんかがあれば今頃は使い魔扱いにされていたに違いない。 霊夢はそれを考え、お湯につかっているというのに体に寒気が走った。 ルイズはこんな魔法の世界だけではなく幻想郷でもやっていける様な性格の持ち主である。 一体どんな環境で育ってきたのか気になるところだがそこはまぁ別に良いだろう。 素直じゃないうえにかなりのサディスト、しかし以前喧嘩をふっかけてきたギーシュや気軽な性格のキュルケよりかは清楚ではあるが同時にプライドも高い。 もしも使い魔扱いされていたら、今頃霊夢はぶち切れるどころかルイズを懲らしめていただろう。 そして何よりも恐ろしいのが…彼女の放つ魔法 ―つまりは何もない空間を爆発させるモノ― である。 霊夢は一度だけしか喰らっていないがあの爆発は自分が作り出した結界を打ち破ったのだ。 多少の自負はあり、即席ではあったがそれでも博麗の結界は他よりも強力である。 ルーミアやチルノといったクラスの相手の弾幕や攻撃なら十分に耐えうる性能を持っていた…それが一発の爆発で粉砕した。 一体あの力が何なのか良くわからないが…とりあえずは幻想郷へと帰る方法を探し出さなければいけない。 このハルケギニアとかいう世界は貴族やら平民やら色々とゴチャゴチャしたモノが多くて住みにくい。 ―それが幻想郷からこの魔法の世界へ連れてこられた霊夢の第一感想である。 ……最も、そんな事を考えている霊夢本人はお風呂にのんびりと浸かっているのだが。 「早いとこ幻想郷に戻りたいわね…。」 ふと霊夢は一人そう呟いた。 気づけばこのハルケギニアに来てから既に一ヶ月くらいは経過していた。 今頃魔理沙辺りが異変だとか何やら騒いで幻想郷中を飛び回っているに違いない。 そしてまず第一に疑われるのはあのスキマ妖怪―八雲 紫―だと思うがまあそれは仕方のないことだろう。 まぁでも、紫ならば今回のことを説明しつつも結界を維持しながら自分を探しに来てくれるかも知れない… そんな楽観的な考えも持っていた霊夢ではあるが同時にその後も事も考えていた― (だが紫の助けで幻想郷に戻ってきた後、きっと色々と持って行かれそうね。主に食料やお酒なんかを……って、ん?) と、そんな事を考えていると鼻の辺りをむずむずとした感覚が襲ってきた。 何かと思い鼻の下を軽く指で擦ると、指にベットリと赤い血が付いている。 「あ…鼻血でてる…。」 霊夢はまるで他人事のように、ポツリと呟いた。 「はぁ…。」 さて、そんなルイズは自室のベッドに腰掛けため息をついていた。 先程霊夢が幾つかの道具を持って部屋を出て行ったがそれすら彼女は気にしていない。 今ルイズの心の中には羽帽子を被った男―ワルド子爵―の姿が映し出されていた。 すらりと伸びた体、顔には立派な髭、鷹のように鋭い目、マントにはグリフォンの刺繍が施されている。 かつてルイズが子供の頃に知り合い、それからしばらくは会う暇がなかったが今日は久しぶりに会えた。 あの時よりも大分年を取ったかのように見えたがそれでもワルド子爵は美しかった。 同時に、もう一つその子爵に関してのある記憶をルイズは思い出した。 「そうだ…昔私とワルド子爵の父親が…。」 昔、ルイズの父とワルドの父がもっと大きくなったら結婚させようと約束をしていたのだ。 当時のルイズには、結婚というモノは考える暇がなかった。 厳しい母親や長女に追いかけられる日々…それが何時解放されるのかいつも考えていた。 自分の家の筈なのにあの頃の自分は何故か体の良い牢獄のように見えた。 それを今にも時々夢に見てしまい、起きたときには体中が汗まみれだった事もあった。 ――しかし、時には良い夢も見る。 忌まわしい牢獄から、自分を助け出してくれるナイトが現れるのだ。 その夢で自分を牢獄から救い出してくれるのは…当時、十六歳だったワルド子爵である。 ルイズはその時の夢を思い出すかのように、ゆっくりとベッドに倒れ込むと目を閉じた。 ―――イズ!ルイズ!お説教はまだ終わっていませんよ!!」 屋内だというのに、声を荒げて自分の名を叫ぶのはルイズの母。だれよりも規律を重んじる人。 ルイズでも頭が上がらない長女ですらも縮こまってしまう程である。 そんな厳しい母親は廊下を歩きながらルイズの姿を捜していた。 「はぁっ…!はぁっ…!」 そして夢の中では六歳であるルイズは今にも泣きそうな表情でとある場所へと向かっていた。 其所は中庭にある池であった。ほとりには小さなボートがあり、それを使って池の真ん中の島にある東屋へ行くのだ。 昔は良く家族でその東屋へ行ったのだが、今となってはそこへ赴く者は居ない。 軍を退役した父は近隣との付き合いと狩猟に夢中で、母は娘達の教育に必死である。 自然とその池には誰も近づかなくなり、ほぼ風景と化していた。 だからこそ隠れるのには最適で、夢の中の彼女は何かから逃げたいときにはいつも此所へ来ていた、 ルイズはあらかじめ小舟の中にしまいこんでいた毛布を頭から被り、そんな風にしていると… 「泣いているのかい?ルイズ。」 毛布越しから誰かが声を掛けてきた。 ルイズは被っていた毛布をどけると、自分の目の前には十六歳ぐらいのワルドがいた。 今と比べるとこの頃はまだまだ未熟だったがそれでも幼いルイズにとってはナイトも同然であった。 そう、自分をいつかこの牢獄のような家から救い出してくれる騎士。 「子爵さま、いらしていたのですね。」 幼いルイズは慌てて顔を隠した。みっともない姿をあこがれの人に見せるわけにはいかない。 ワルドはそんな彼女を見て天使のような微笑みを顔を隠したままのルイズに向けた。 「ああ、今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。君との婚約に関することでね…。」 ルイズはあこがれの人の口から「婚約」という言葉を聞いて顔を赤くした。 「い…いけない人ですわね、子爵さまは…。」 「ルイズ、ぼくの小さなルイズ。君は、僕の事が嫌いかい?」 ワルドが、おどけた調子でそう言った。ルイズはそれに対し首を振る。 「ち、ちがいますわ。ただ単に良くわからないだけです。」 ルイズは顔を上げ、ワルドに笑顔を見せてそう言った。 ワルドはにっこりと笑みを浮かべると、そっと手をルイズの目の前に差し伸べた。 「ミ・レディ。手を貸してあげるよ。ほら、つかまって。もうじき晩餐会だ。」 だがしかし…差し伸べられた手を、ルイズは掴むことを躊躇った。 その様子に気づき、ワルドはルイズに優しく呟く。 「また怒られたのかい?大丈夫、僕からお父上に取り直してあげよう。」 ワルドの言葉を聞き、ルイズはコクリと小さく頷き、その手を取ろうとした。 その時、突如強い風が吹き、ルイズは思わず目を瞑ってしまった。 やがて数秒して風は止み、ルイズは再び目を開け――― 「……ここ、何処?」 ――驚愕した。 目を開けた先には子爵の姿は無く、それどころか自分の家ですらなかった。 白いタイルに白い壁、おざなり程度に観葉植物を隅っこに置いている何処かの部屋。 ルイズはそんな所にいつの間にかそんな所にいた、我が家にはこんな部屋はない。 天井を見上げると明かりを灯すような物はないのに天井から光が差し込んでいた。 そして気づいたら、ルイズの体も六歳から十六歳―つまりは現在の姿――になっていた。 「一体何処なの?ここは…」 ルイズは今までワルド子爵の夢は時折見たりすることはあった。 そして色々なパターンがあった――晩餐会でワルド子爵とダンスしたり等々―がこんなのは全くの初体験であった。 ルイズは全くの初めての展開に目を白黒させていると、ふと誰かに声を掛けられた。 「あら?ちゃんと此所へ来てくれたのね。」 声を掛けられたルイズはそちらの方へと目を向けた。 そこには ――不条理なことがいくらでも通る夢の中だからか―― 白いイスに腰掛け、こちらを見つめている金髪の女性がいた。 作り物の様な綺麗な顔には笑みが浮かんでいて、それは先程ワルドが見せたものよりも更に優しいものに見える。 頭には変な形の白い帽子を被っており、白い導師服を身に纏っていた。 とりあえず声を掛けられたからにはちゃんと応えなければと思い、ルイズは口を開いた。 「ねぇ、そこの貴方。少し聞きたいんだけどここが何処だか―――」 しかし、ルイズの言葉は目の前に出された女性の手に制止され、言い切ることが出来なかった。 何も言わなくなったことを確認した女性はスッと手を下ろすと口を開いた。 「その前に、いくつか聞きたいことがあるのだけれど…よろしくて?」 女性のその透き通るような声にルイズは思わず頷いた。 まぁ夢の中なので…という考えも働き、ルイズは無意識の内にしていたのだ。 「じゃあまず一つめ…貴方は自分が特別な存在だと思ってる?」 その質問に、ルイズは首を横に振り、口を開いた。 「特別どころか蔑まれているわ…だって私は魔法が使えないし…。」 ルイズの卑屈な言葉に女性は肩をすくめた。 「ふ~ん…じゃあ二つめ、貴方は『虚無』という伝説の系統を信じてる?」 ルイズはその質問に言葉を詰まらせ、悩んだ後、半信半疑な様子で応えた。 「…私自身よくわからないわ。」 「そう…。まぁいいわ、信じなくても信じていても事実は一つだけだから。じゃあ最後の質問ね?」 妙に意味ありげに聞こえる風に女性は言うとルイズの方に少しだけ近寄ると中腰になった。 そして、不意にルイズの肩を掴むと口を開いた。 「あなた…使い魔を召喚した際、人間の少女を呼び出したでしょう。」 その直後、女性の目が優しそうな物から一気に鋭い物へと変貌し、ルイズを睨んだ。 それに伴い先程まで体中から発せられていた雰囲気もあっという間に緊迫した空気へと早変わりする。 自分を射抜かんばかりの鋭い視線に思わずルイズはビクッと体を大きく震わせる。 肩を掴まれたルイズは内心自分の夢のあまりの不条理と理不尽さに憤っていた。 なんだって夢の中だというのに痛い思いをしなければならないのだ! 折角の子爵様との甘い甘い夢を見ていたのにこれじゃあ台無しじゃない…! と、ルイズがそんな事を思っていると、もの凄い激痛が肩から脳髄へと伝わって来た。 どうやら段々と掴む力が強くなっていくのが肩から伝わる痛みでルイズはそれを知った。 このままだとその内腕をもぎ取られるのでは?というありもしない事を思い浮かべ、ルイズはゾッとした。 しかしそのとき、急に女性がルイズの肩を掴んでいた手を離すと立ち上がり、後ろを振り向いた。 「ちょっ…いきなりどうしたのよ?」 解放されたルイズは息を少しだけ荒くして立ち上がると女性の後ろにもう一人誰か居ることに気づいた。 その姿は光り輝いていて明確な正体がハッキリと掴めない。 ただ分かることは、ルイズと比べれば大分身長が高い。ただされだけである。 手には大きくて長い太刀を持っており、熟練の戦士特有の鋭い殺気を目と思われる二つの赤い光点から放っている。 ただ、その視線の先にいるのはルイズではなく、そのルイズの前に佇む女性であるが。 「あらあら、もう感づかれたみたい。残念、『夢の中』なら大丈夫だと思ってたのに。」 そんな視線で睨み付けられている女性はと言うとそれに対し小馬鹿にする様な態度で人影に話しかけた。 それが合図となったのか―――突如人影が太刀の切っ先を女性に向け、素早い突きを繰り出した。 女性はそれに対し、身構えもせっず突っ立ているとフッ…と半透明の壁が女性の前に現れた。 人影の突きはその壁によってあっさりと防がれたが、すぐに体勢を立て直し後ろへと下がる。 突然の戦闘にルイズは棒立ち状態になっていたがそれに気づいた女性が声を掛ける。 「あぁ、今回はもうこれくらいでお開きね。貴方はもう目を覚ましても構わなくてよ。」 その声にハッとした顔になったルイズは人影の方を指さし、声を荒げて叫んだ。 「何よあれ!?というかなんで闘う羽目になってるのよ!?というかこれ私の夢よね!」 「静かにしなさい――これは夢。そう思えば何も気にすることはないわ。」 先程肩を掴んでいた時とは打って変わって捲し立てるルイズを子供をあやすかのような感じで女性はそう言った。 ルイズはそんな態度に更にイラッと来てしまったがそれよりも先にふと給に眠気が襲ってきた。 「それじゃ、また会いましょうね?今度は二人だけでね…。」 プ ツ ッ ! まるでピンと張った糸を切った時に出る様な音を立ててルイズが意識を手放す直前、それを見た。 人影がダーツの要領で投げた太刀が女性の胸部を刺し貫いた瞬間を…。 だがしかし――女性はその攻撃に対して、顔に笑みを浮かべていた。 見る者を凍り付かせるような笑みを。 ――その直後、人影は頭上に現れた『裂け目』から出てきた『何か』に潰され、一瞬にして即席ミンチと化した。 ◇ ―――… ア ァ ア ァ ア ッ ! ! ! 」 夢から現実へと戻ってきたルイズはみっともない叫び声を上げると上半身を勢いよく起こした。 だが勢い余ってか、そのままベッドから吹っ飛ぶような体勢になってしまい、見事床とキスする羽目になった。 ルイズはスクッと立ち上がるとジンジンと痛む鼻を押さえ、涙目になりながらも先程の夢の中の出来事を思い出そうとした。 「イタタタ…何なのよあの女…は…おんなは…あれぇ~?」 なんとか思い出そうとするが――何故か肝心の部分―あの金髪の女性が刺された直後の事―だけは何故か思い出せなかった。 おかしいなぁ…と思いつつルイズは先程の事を思い返していたが、一向に夢の思い出すことが出来ない。 ただ、その女性と会ったことだけしかルイズは覚えていなかった。 された筈の質問や、最後に現れた太刀を持った謎の人影の事は一向に思い出せない。 (一体なんなのよこれ?でももしかすると…疲れてるのかしら、私? …きっと日頃の苦労や過労なんかが祟ってあんな夢を見たのね。) だからといって…あんな衝撃的な最後 ― 人影がミンチになる瞬間 ―― すら忘れてしまうのはどうかと思うが。 まぁそれを忘れていれば、当分肉料理が食えなくなるという事にはならないだろう。 (レイムの奴が帰ってきたら、とりあえずこの事を愚痴として話してやるわ。うん、そうしよう…!) 最も、そんな時霊夢は聞いている振りをしている事を幸か不幸かルイズは知らなかった。 ノックの音に気が付いたルイズはドアの方へと目を向ける。 (レイム…?いや、アイツならそのまま入ってくるだろうし…。) こんな時間帯に誰かと思い、怪訝な表情をしているとそのノックが規則正しいことに気づく。 初めに長く『二回』、今度は短く『三回』とリズムを奏でるかのように聞こえてくる。 ルイズは規則正しいそのノックに、何か思い出したような…ハッとした表情になる。 「……あれ?これって確か…。」 数十秒置いてから再び初めに長く二回、次に短く三回とノックの音が聞こえた。 ルイズはそれで何かを思い出したのか、目に堪っていた涙を拭き取ると急いでドアを開けた。 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をスッポリと被った、少女であった。 辺りをうかがうように首を回すと、そさくさと部屋に入り、勝手に扉を閉めた。 「あ、あなたは…?」 突然の訪問者にルイズは少し驚いたが、少女はシッと言わんばかりに口元に指を立てた。 それから。漆黒のマントの隙間から水晶の飾りが付いた杖を取り出すと軽くルーンを唱えて杖を振った。 光の粉が部屋を舞うのを見て、ルイズは一人呟いた。 「ディティクトマジック…。」 ポツリと呪文の名を呟いたルイズを見て、頭巾の少女は口を開いた。 「何処に目や耳があるかわからないものですからね。」 光の粉は静かに消え、部屋を覗く者がいないのを確認した後、少女は頭巾を取った。 そこから現れたのは、ルイズが良く知る相手で、幼い頃には遊び相手として付き合った存在。 いまではこの国のトップに近い少女として、民衆から支持されている。 ルイズは昔より美しくなったその顔を見て、急いで膝をつく。 「あ…アンリエッタ姫殿下…!?姫殿下じゃありませんか!」 無二の親友に名前を呼ばれ、若き麗しい王女は優しく微笑んだ。 「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」 ルイズの目の前に突如として現れたのは―――アンリエッタ王女であった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 夕闇にそまりつつあるトリステイン王国のとある山中――――― 太陽が真っ赤な夕日となり人気のない森の中を照らしている。 木々の間から漏れる赤い木漏れ日は幻想的で、この世の光景とは思えない程綺麗であった。 もしその場に画家か旅の絵描きでもいれば、その光景を写そうと鞄の中から急いで画材を取り出すに違いない。 人の手が一切加えられていないその森は、悠久の時を経て自然が生み出した一つの芸術。 とある世界の人々が、自らの手で破壊の限りを尽くした原生林そのものであった。 だが――今日に限って、その森の中で戦いのゴングを鳴らした者達がいた。 ある者達は自然の摂理から外れた異形から受けた突然の奇襲により危機に立たされ、またある者は正体の掴めない者から攻撃を受けた。 血肉に飢えた獣たちと、人の常識では計り知れないモノ達が集い来る゛夜゛がすぐそこまで迫りつつあるその場所で――― 我ながら油断した―――。 左肩に受けた傷を手で押さえつつ、魔理沙とルイズの上に乗っている霊夢は悔しさのあまり歯ぎしりをしそうになる。 しかしそれをすると傷口から流れ出る血の量が増えそうな気がしたので、することはしなかった。 それにそんな事をしている暇があるなら、すぐにでも体勢を整えた方が有意義だと考えた。 霊夢はすぐにも行動を移そうとしたが、思いのほか自分の体が言うことを聞かないのである。 「くっ…う…!」 体を動かそうとするたびに間接の節々が痺れるように痛み出し、ビクリと止まってしまうのだ。 一体どうしたのかと疑問に思ったとき、咄嗟に左肩の傷口が目に入った。 傷口自体は大して深くもないのに血は一向に止まらず、痛みも最初の時より強くなってきている。 出血が止まらない傷口と関節の痛み。―――その二つから見つかる仮説が、霊夢の脳裏をよぎった。 (まさか、アイツの爪に毒が仕込まれてるっていうの?) そこまで考えて、今の自分はかなり最悪な状況に陥ってるかもしれないと霊夢は改めて実感した。 一方、心中で冷や汗をかいた霊夢の事などつゆ知らず、下にいるルイズと魔理沙が声を掛けてくる。 「お、おい…そろそろどいてくれよ霊夢…いい加減苦しくなってきたぜ…」 リアルタイムで体力を削られている魔理沙に続き、その上にいるルイズも思わず苦言を漏らす。 「このまま倒れてたら…上にいるアイツに…」 「ヴヴヴゥ…!」 ルイズが言い終える前に頭上から二度目の呻き声を耳にした三人は、思わずそちらの方へと視線を向ける。 彼女らの視線の先、この世の生物とは思えない気配を放つ怪物が斜面の上から見下ろしていた。 先程悲鳴を上げたルイズはもう一度悲鳴を上げそうになるのを堪え、腰に差している杖に手を伸ばす。 しかし杖を取ろうとした右手はスカッと空気を掴んだだけで何も取れず、ルイズはハッとした表情を浮かべた。 (まさか斜面に転がり落ちたときに…) 瞬間、彼女の脳裏につい一、二分ほど前の光景が蘇る。 なんとか頭だけは満足に動かせるルイズはすぐに辺りを見回すが、自分の杖は見つからない。 今必要な物が一向に見つからず、ただ無駄な時間と焦燥だけが貯まっていく。 フーケのゴーレムと対峙したときや、霊夢がかつて自分の想い人だった男に刺されたときの様に―― (もう!どうしてこういう時だけ運が悪くなるのよ私は!?) ここぞという時で全く活躍できない自分自身に怒鳴りたくなったルイズの視界に、ある物が目に入った。 それはルイズの捜している物ではなかったが、すぐ傍にいる少女の持ち物である。 小さくもズッシリとした重量感のある六角形の「ソレ」は、日が暮れてゆく森の中で異様な存在感を放っていた。 あれは…と呟きかけた瞬間。頭上から足音が聞こえてきた。 何かと思い目を動かすと、斜面の上にいた怪物がこちらに向かって斜面をゆっくりと降りてくるのが見えた。 ズシャリ…ズシャリ…と柔らかい土と小さな石が混ざった斜面を一歩、一歩としっかり踏みしめて降りてくる。 ◆ 「マジかよ…あれを零距離で喰らって片腕だけで済むなんて、とんでもないヤツだぜ」 魔理沙はこちらに向かってくる怪物を見て、軽いショックを受けていた。 彼女の言葉通り、怪物の右腕は丁度肩の所から吹き飛んでしまったかのように無くなっている。 しかし不思議なことに血は一切出ておらず、赤く生々しい傷口は空からの夕日で艶めかしく光っている。 怪物は唯一残った左腕を空高く掲げ、指先から生えている鋭い爪をこれでもかと三人にアピールしていた。 未完成ながらも威力に自信のあった魔法を受けて倒れるどころかピンピンと立っているのだ。 魔理沙でなくとも、人形遣いや魔女でも同じような反応をしたかもしれない。多分。 一方、二人の上にいる霊夢は身体を蝕む毒に堪えつつこちらに向かってくる怪物を睨んでいた。 (参ったわね…まさかこんな状況に陥るなんて…) 未だ出血が止まらぬ左肩の傷口を押さえながら、霊夢は心の中で思考を始めた。 怪物は魔理沙の話や自分の目で見た感じ、恐らく背後からの不意打ちと接近戦を得意とするヤツだろう。 以前戦った虫の怪物と似通ったところはあるが、アレと比べれば外見はまだマシな方であった。 正面切って戦えば大して驚異にならない敵であるが、今の状況では正に強敵と言えた。 (どうやったか知らないけど…ギリギリまで気配を消すってのは卑怯じゃないの?) 背後からほぼ零距離で襲われた時、霊夢は怪物の気配を感じ取ることが出来なかった。 ※ 気配を消す…という事自体は思った以上に難しいが、訓練と経験を積めれば人間にも出来る。 だが霊夢が相手だと、普通に気配を消してもすぐに見つかってしまうだろう。 生まれつき勘が良いせいか、ある程度相手の気配を察知するといった事に長けてしまったのである。 その力は妖怪退治や異変解決の際に役立っているので、霊夢自身も便利だとは思っていた。 だが目の前にいる怪物は彼女の背後をとり、完全なる不意打ちを与えた。 まだ何処かにいないかルイズと話していた時にも密かに周囲の気配を探っていたのにもかかわらずだ。 魔理沙から話を聞いていた事もあって小屋の中にも入って調べていたのだが、塔の上で感じた気配の主は見つからなかった。 時間が経ち、突如やってきたルイズとの喧嘩もとりあえずの和解で収まった時――突然後ろから気配を感じたのである。 それはまるで、足下にあった石ころが突然爆発した時のような…霊夢にとって予想外どころか考えもしていなかった事であった。 いくら博麗の巫女と言えども、足下で爆発されては避ける暇も結界を張る暇も無いのだ。 ※ (そして結果がこのザマとは…ホント参ったわね) 時間にすればわずか数十秒の思考が終わった瞬間、直ぐ傍にまで近づいてきた怪物が予想外の行動に出た。 「 エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ ェ゛ イ ィ ! ! ! 」 耳元まで裂けていそうな口からおぞましい叫び声を上げて、いきなりその場で跳躍したのである。 突然の事に驚いた霊夢達は、飛び上がった怪物をその目で追い、そして驚いた。 異常な脚力で地上から五メイルほどジャンプした怪物は空中でくるりと一回転した後、なんと左手の爪を下にいる霊夢達に向けた状態で落ちてきたのだ。 それを見た三人はこれからの展開をなんとなく理解し、そして冷や汗を流しそうになった。 もしもこのままコッチに落ちてきたら、勢いよく突っ込んできた爪が霊夢どころかルイズと魔理沙の身体をも仲良く貫くに違いない。 「…うっわ、やべぇ!?コッチに向かって落ちてくるぞ!」 「ちょ、ちょっ…!」 相手がこれから何をしてくるのか気づいた魔理沙は驚愕し、次いでルイズが悲鳴にも似た叫び声を上げる。 そして何とか避けようと二人とも身体を動かすがルイズはともかく一番下の魔理沙はどう頑張っても逃げれそうになかった。 一方の霊夢は、落ちてくる怪物を睨み付けながらも逃げようとはせず、結界を張ろうと自分の体に軽く力を入れる。 しかしその瞬間、左肩の傷口を中心にして鋭い痛みと痺れが彼女の体を容赦なく攻撃してきた。 まるで傷口を容赦なく食い破る蛆虫のように、酷い激痛が襲い掛かってくる。 「ぐ…くっ!」 霊夢はソレに一瞬だけ怯むものの、後一メイルほどの距離にまで迫ってきた怪物を見て何とか力を振り絞る。 その結果が実ったのか、怪物の爪が霊夢の身体を突き刺すまであと十サントというところで結界は展開された。 急ごしらえの結界は実にお粗末な仕上がりであったが、怪物の攻撃を弾くことは出来た。 「ギェッ!!」 後一歩というところで霊夢の結界に勢いよくはじき飛ばされた怪物は十メイルほど吹き飛び、その姿は茂みの中に消えていった。 「…れ、レイム!」 「おぉ!流石のお前でもやる時は結構やるじゃないか」 霊夢が見事襲ってきた怪物を返り討ちにしたところを見たルイズと魔理沙は、自分たちの上にいる巫女へ賞賛の言葉を送った。 そんな二人の声を無視し、怪物がいなくなった事を確認した霊夢は両足にゆっくりと力を入れて立ち上がろうとした。 「うっ…」 しかし…先程無理をして結界を張ったせいか体中を這い回る毒が活性化し、呻き声を上げて前のめりに倒れた。 既に怪物によって付けられた爪の毒は、彼女の体を支配していた。 それは決して死に至る程ではないが、途方もない痛みと痺れが交互にやってくる。 「レイム!……あっ」 自分の直ぐ傍で倒れた霊夢を見たルイズは直ぐに立ち上がると彼女の傍に近寄り、そして驚いた。 先程までピンピンしていた彼女の体から、玉のような汗が滲み出てきているのだ。 浮かべている表情は高熱にうなされているかの如く苦しそうであり、呼吸も乱れ始めている。 「ちょっ、ちょっと…どうしたのよレイm…アツッ!」 状況が把握できないルイズは軽く錯乱した所為か偶然にも霊夢の額に触れ、驚く。 なんと彼女の額は、まるで沸騰したお湯が入ったティーポットのように熱くなっていた。 「ふぅ、一時はどうなることかと思って…ん?どうした霊夢?」 ようやく起きあがった魔理沙は、エプロンに付いた土を払い落とそうとしたところで霊夢の様子に気が付いた。 「ま、マリサ!何だかレイムの様子がおかしいのよ!?まるで熱にうなされてるみたいで…」 「何だって?」 ルイズの言葉を聞いてすぐさま霊夢の傍に寄ると彼女の言うとおり、確かに熱にうなされているかのような状態であった。 いつも霊夢の姿を傍で見ていた魔理沙は、それを見て目を丸くした。 「お、おいしっかりしろ霊夢。何か変な毒キノコでも喰ったのか?」 目を瞑って不規則な呼吸を繰り返す霊夢の頬をペシペシと叩きながら、魔理沙は話し掛ける。 いくら突然とはいえ、苦しそうな人間の頬を叩いて良いものだろうか? 魔理沙が霊夢の頬を叩く光景を目にしながらルイズはどうでも良いことを考えた。 「う、ぅ…」 しかしそれが功を成したのか、霊夢は閉じていた両目をゆっくりと開けた。 そして自分の傍にルイズ達がいるのに気が付き、二人の方へ顔を向ける。 「ルイズ…それと魔理沙」 意識を取り戻した霊夢に安堵しつつも、ルイズ達は早速彼女に話し掛ける。 「レイム!一体どうしたのよ?さっきまであんなに元気だったのに…」 魔理沙も気になっていたその質問を、ルイズが投げかけた。 「そうだぜ。いつも気怠そうな顔してるからって何も本当に倒れるこたぁないだろ」 「うっさいわね…この白黒…うくっ…」 魔理沙の言葉に罵声を混ぜて返しつつ、霊夢は言った。 「毒よ…アイツの爪に仕込まれてたのよ…」 その時であった、後ろの茂みからもう聞きたくも無かったあの叫び声が聞こえてきたのは。 キ ェ エ ー ッ ! まるで地獄からやってきた餓鬼のような声に魔理沙とルイズが振り向く。 そして振り向いたと同時に、背後の茂みからあの怪物が再び飛びかかってきた。 先程霊夢の結界にはじき飛ばされたのにもかかわらず、元気であった。悪い意味で。 ルイズ、霊夢、魔理沙の内、最初に体が動いたのは魔理沙であった。 彼女はまず自分の傍にいるルイズを霊夢ごと両手で突き飛ばしてから、後方へと倒れ込んだ。 少しだけ湿った地面と植物が服と顔を汚したが、そのお陰で怪物の攻撃からは逃れる事が出来た。 魔理沙が倒れ込んだ直後。先程まで霊夢が倒れていた場所に、飛びかかってきた怪物の爪が勢いよく突き刺さる。 ドスッという恐ろしい音が辺り一帯に響き、木の枝に留まっていた一羽のフクロウが声を上げずに飛び去っていく。 (クソッ…何だよコイツは!?) 魔理沙は地面にうつ伏せた姿勢のまま、自分の後ろにいる怪物のしつこさに驚いている。 これまで幻想郷の弾幕ごっこを通じて戦闘を経験してきた魔理沙にとって、未知なる強敵であった。 いくら強力な攻撃を仕掛けてようが片腕を失おうが、コイツは怯えることはない。 まるで命令を与えられた人形や式のように、ダメージを受けようが手足を失おうが自分たちを殺すために向かってくる。 逃げるという選択もあるが、あの霊夢がまともに立ち上がれない程の一撃を与えたのだ。背中を見せれば襲ってくるだろう。 そんな相手を止める方法は二つに一つ。息の根を止めるか、戦略的撤退をするか。 だが、今のような切羽詰まった状況において行うべき行動は…間違いなく前者であろう。 (あんまり殺生とかはしたくないが…かといってむざむざ殺されたくないしな!) やるしかないか―――心の中でそう決意した時、魔理沙の目がある物を捉える。 瞬間、彼女の心に残っていた未知なる敵に対する不安が驚愕と共に消え去った。 その道具は彼女、魔理沙にとって命の次に゛大切な道具゛であり、 いつも肌身離さず持ち歩き、その力と彼女自身の知識と技術を活かして幾多の戦いを共にくぐり抜け… そして、つい数時間前にルイズのキツイ一撃と共に奪い取られてしまった、相棒とも言える程の存在。 彼女にとってかけがえのない物は今、湿り気を帯びた地面に転がっている。 (何でこんな所に…いや、そんな事よりもまずは…) どうしてこんな所にあるのかわからなかったが、自然と体が動いた。 泥だらけの右手を動かしてすぐ目の前にある゛道具゛を手に取ろうとした時、悲鳴が聞こえてきた。 ハッとした表情を浮かべて振り向くと、あの怪物がルイズと霊夢を襲おうとしていたところであった。 まるで絵本の中に出てくる鬼の様に残った左手を天高く上げて、ゆっくりと二人に近づいていく。 「やだっ…!こっち来ないでよぉ!わたし達が何したっていうのよ!?」 先程悲鳴を上げたルイズは霊夢を庇うようにして怪物に背を向けながら、涙交じりの声で叫ぶ。 そして、一方の霊夢はもう殆ど意識が無いのか、目を瞑って苦しそうに息をしているだけだ。 そんな二人の姿を見た瞬間、魔理沙の瞳に明確な怒りの感情が灯ってゆく。 彼女はずっと以前に、幻想郷で似たような光景を幾つか目にしてきた。 その日暮らしの物乞いを平気な顔して集団で罵り、棒で叩こうとする良心の欠けた人間達。 弱り切って抵抗どころか命乞いすら出来ない人間を散々弄んだ挙げ句に喰い殺す下卑た妖怪。 所謂『圧倒的な力で弱者をいたぶる強者の構図』は、魔理沙にとって許せるものではなかった。 もはや遠慮はいらない。『コイツ』を一撃でぶっ飛ばしてやる―――! 心の中で決意した魔理沙は大きく息を吸い込み、力の限りこう叫んだ。 「おい!コッチ向けトカゲ野郎っ!!」 魔理沙が叫んだ瞬間、怪物はギィ!と鳴いてその体を彼女の方に向ける。 ルイズもまたその叫び声に反応して顔を上げると、偶然にも魔理沙と目があった。 魔理沙もそれに気づいてか一瞬だけルイズの方に顔を向けると、笑顔を浮かべてこう言った。 「よく見てろよルイズ、逆転の゛魔法゛を今からコイツにぶち込んでやるぜ」 「――――えっ…?」 それを聞いたルイズは魔理沙の言葉に目を丸くし、思わず声を上げてしまう。 その声を合図にしたのか、魔理沙は『魔法』を打ち上げるための行動に移った。 まず彼女はうつ伏せの姿勢からグルンと体を動かして仰向けの姿勢になると腰に力を入れて、勢いよく上半身だけを上げる。 次に、右手に持った゛道具゛に左手をそ添えて中央部分に作られた穴を怪物の方に向けた。 そして、体内にある魔力の一部を腕を通して迅速かつ正確に゛道具゛に注ぎ込んでいく。 目の前にいる相手を完膚無きまでに倒す一撃を与えるために。 「 キ ッ キ キ ィ ! ! ! 」 自分が先手を取るとでも言いたいのか、怪物は叫び声を上げて跳躍する。 先程と違い地上から一気に十メイル程跳び上がると、そのまま魔理沙の方へと落ちてくる。 もしも彼女がこのまま動かなかったら、あの霊夢をダウンさせた爪の餌食になるのは目に見えている展開であった。 しかし、今の魔理沙にとっては絶好のチャンスとも言える状況であった。 空中にいるのならば避けられはしないだろうし、何より空に向けて『撃てば』ルイズ達に危害は加わらない。 今の魔理沙にとって先程まで『ヤバイ』と思っていた状況は、『貰った!』と言える程好都合だった。 「今更こっちに気づいても、手遅れだぜ?」 魔理沙はこちらに向かって落ちてくる怪物にそう呟き、笑顔を浮かべた。 その笑顔は相手をバカにするような嘲笑でも、ましてや人を徹底的に見下すかのような残酷な笑みでもない。 まるで陽の光を浴びて元気に育つ向日葵の如き、見る者を安堵させ元気づけてくれるそんな笑顔。 魔理沙よりも少し下の子供達が浮かべるような快活な笑みを、彼女は襲い来る怪物に見せていた。 ――ザマァ見ろ!この勝負、私の勝ちだ! 魔理沙の心の内を代弁するかのように道具…否、『ミニ八卦炉』から一筋の光が放たれた。 丁度ピンポン球サイズの大きさを持つ光の線は速く、そして一直線に怪物の額を照らす。 しかしそれを意に介さず怪物は左手の爪を勢いよく振り上げ、叫び声を上げた。 「 キ ェ エ ェ ェ エ ェ ェ エ ! ! 」 さぁ死神よ、早く来い!お前の狩るべき命はここにあるぞ。 まるで人の命を狩りに来た死神を呼び寄せるかのような叫び声が森の中に響いた。 しかし、死神が選んだ命は魔理沙のものでもルイズのものでも霊夢のものでもなく――――怪物の命であった。 怪物の額を照らしていたミニ八卦炉の小さな光の線は一瞬にして何十倍もの大きさになり、その体を一気に飲み込んだ。 ビームが発射されたと同時にミニ八卦路からもの凄い異音が聞こえ始め、ついでそれを両手で持つ魔理沙の体を強い衝撃が襲う。 気を抜けばそのまま吹き飛ばされるかのような衝撃に歯を食いしばり、両足と腰にも力を入れて耐える。 「キャアッ…!」 一方のルイズは突然の出来事に驚くと同時に、目を開けていられないほどの閃光に思わず目を背けてしまう。 光の線から極太のビームへと昇華したそれは空を遮る無数の木の枝をも飲み込み、うっすらと星が見える夕暮れの空を上っていく。 時間にすれば僅か五秒であったが、ルイズとって五分もの時間が経ったように思えた。 しかし、その『五秒』が全てを終わらせた。 魔理沙のミニ八卦炉から放たれたビームは、見事怪物を消し去っていたのである。 それは比喩などではなく、文字通りの意味で。 ビームが放たれて一分が経ったであろうか、ルイズはゆっくりと魔理沙の方へと目を向けた。 魔理沙は双月がうっすらと見え始めた空にミニ八卦炉を向けた姿勢のまま、固まっている。 ふと頭上を見上げると、先程まで空を覆っていた幾つもの木の枝が綺麗サッパリ無くなっていた。 ルイズはそれを見て、先程ミニ八卦炉から出たビームが通った跡なのだと理解した。 そして自分たちを殺そうとした怪物はというと、何処にもその姿が見あたらなかった。 もしかすると、あのビームを直撃を受けて体が―――…そこまで考えて、ルイズは身震いする。 「すごい…こんな…」 ルイズは生まれて初めて見る゛魔法゛の感想かどうかはわからないが、無意識に呟く。 今まで数多くの魔法を見てきた彼女でも、パワーの塊とも言える魔理沙の゛魔法゛に驚きを隠せないでいた。 「どうだルイズ?見事この私があの怪物を退治してやったぜ」 ルイズの呟きに対し、魔理沙は満面の笑みを浮かべてそう言った。 その言葉に、流石のルイズもポカンと口を開けながら頷くしかなかった。 ◆ (全く、私が気絶してる間に終わっちゃったのね) そしてそんなルイズの後ろ姿と魔理沙の笑顔を、横になった霊夢は何も言わずに見ていた。 幸いにも怪物の毒は死に至るほどのものではなく、安い痺れ薬程度の効力しかなかったのである。 とはいえ一時的な呼吸困難と高熱で気を失ってしまい、つい先程目を覚ましたばかりではあるが。 だが目を開けたとき、既に怪物との戦いに決着はついていたらしい。 どうやら自分に一撃を与えたあの怪物は、結局魔理沙に退治されたようだ。 自慢のミニ八卦炉を持って嬉しそうにしている彼女を見れば、それは一目瞭然であった。 (役に立たない時は立たないけど、立つときはしっかり立つのよね…) まだ声を出せる程回復はしていないが、近いうちに礼でも述べてやろう。 霊夢は心の中でそう思いつつ、再度目を瞑った。 化け物がいなくなったのなら、無理に起きて体力を削る必要はないと思ったからだ。 目を瞑った後は体力も落ちていたからか、すぐに眠たくなってきた。 これが永眠にならない事を祈りつつ、霊夢は今日一日の感想を心の中で呟く。 (ホント、こうなることが分かってたら初めから屋上で寝てれば良かったわ…) そんな事を思いながらも、霊夢は再び眠り始めた。 次に目覚める時は、柔らかいベッドの上だと一心に願いながら。 ※ 幾多もの星と双月が、暗くなっていく空を飾り始める夕暮れの時間。 この日、トリステインに住まう者達の何人かが、トリステインの地で空高く登っていく光の柱を見た。 それの正体を全く知らない者達は何かの予兆だと勘違いし、始祖への祈りを始めたり家に篭もる者もいた。 本当の事実を知っている者は少なく、そして彼らはその事を他人に言いふらしたりはしないであろう。 何故なら、この真実がどれ程現実味に薄れているのか理解しているのだ。 無論、真実のすぐ傍にいたルイズもその事を知っていた。 明日はきっと、とても良い天気になるわね。 ルイズはそんな事を考えながら、ボンヤリと空を見つめていた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん トリステイン魔法学院はあいかわらず平和であった。 王都では多くの人々が戦争が起こるとか言ってやいのやいのと騒いではいるがここでは大した騒ぎにはなっていない。 あるとすれば、何人かの男子生徒達が談笑のネタとして話してるぐらいだ。 戦争が起これば自分の父や兄達が手柄をあげるとか、軍には行って敵を倒しやるぞ。といったものである。 トリステインの貴族の男子達は大きくなったら軍に入り、数々の手柄をあげたいという夢を大抵の者が持っている。 そんな事を話している彼らを見て、そのガールフレンドや親しい関係を持っている女子生徒達は顔を曇らせるのだ。 と、まぁ…とりあえずは魔法学院の生徒達は今の状況を充分に楽しんでいるのである。 実際に戦争が起こるかもしれない。というのは別にして。 そして、魔法学院の女子寮塔の部屋で暮らしているルイズはベッドに腰掛け窓ガラス越しに空を眺めていた。 珍しく今日は上空に雲一つ無く、清々しいほどの青い空が鳶色の瞳に映り込んでくる。 昨日の夕方頃に学院へ帰ってきたルイズと霊夢は、生徒達から質問攻めにあってしまった。 ギーシュが以前ルイズが魔法衛士隊の者と一緒に何処かへ行った事を、他の生徒達に言いふらしていたのだ。 霊夢はともかくとしてルイズは予期せぬ質問攻めにあってしまい、何と言おうか焦ってしまった。 流石に真実を話すのは躊躇い、少し学院長に頼まれて王宮までおつかいに行っていたと話すことにした。 結果それを聞いた生徒達はがっかりしながらも解散した。彼らは一体何を期待していたのであろう。 その後の霊夢はというと「疲れた」と言って一足先にルイズの自室へと戻っていった。 霊夢と別れた後、学院長室に呼ばれオスマン学院長とコルベールから「良く無事に帰ってきてくれた」という言葉を貰った。 二人の言葉を聞いたルイズは素直に喜んだ。ワルドに殺されかけた後、生きている事自体が素晴らしく思えてきたのである。 その後、オスマンから今日と明日は十分に休みなさいと言われた。まさかの休暇である。 ルイズは少しだけ慌ただしかった昨日を思い出しつつ、頭の中である考え事をしていた。 (姫様から貰ったこの指輪…。本当に貰って良かったのかしら?) 視線をテーブルに移し、小さな指輪ケースに入っている『水のルビー』を見つめた。 昨日、アンリエッタに手紙と『風のルビー』を手渡したルイズは、アンリエッタからこれを受け取ったのだ。 ルイズはすぐに首を横に振った。例えヴァリエール家でも、王国の秘宝を受け取るなんてことは恐れ多い。 しかし、アンリエッタは忠誠には報いるところがなければいけない。と言い、その一言でルイズもコクリと頷いた。 一緒にいた霊夢の方に対しても何かお礼がしたいとアンリエッタは言ったが霊夢はそれをハッキリと拒否した。 「お礼?それなら別にいいわよ。だって私はアンタの命令で行ったわけじゃないんだし」 という事を一国の姫の目の前で言ってのけたのだ。相変わらず遠慮のない巫女である。 アンリエッタはその返事を聞き、焦った風にこう言い直した。 「ち、違います…。私の友人であるルイズを助けてくれたお礼をしたいのです。別に忠誠とかそういうものではありません」 それを聞き勘違いしていた霊夢は「あっそう」と呟き、アンリエッタにある品物を要求した。 「王女様に要求した品物がこれだなんて…物欲が少ないというか…むしろ金目の物には余り興味がないというか…」 ルイズは指輪ケースを注いでいた視線を、その隣に置かれた茶葉が入った大きめの瓶に移した。 あの瓶の中に入っている茶葉は王宮でしかお目にかかれない代物であり、並大抵の貴族では拝むことすら出来ない。 それ程の高級品をアンリエッタは道ばたの雑草をむしり取るかのように霊夢に差し出したのである。 この瓶の中に入っている量を全て換金すると一体どれくらいの値段になるのか想像すらつかない。無論売る気など無いが。 そんな高級なお茶を手に入れた霊夢はというと、今この場にはいない。 昼食を食べた後、コルベールに聞きたいことがあると言って部屋を出て行ったきりである。 部屋を出て行くときに「そのお茶、私のなんだから勝手に飲まないでよ」という言葉を残して。 ルイズはその言葉に従いこうしてベッドに腰掛けて待ってはいるがその間にも沸々と怒りが沸いて出てきていた。 その怒りの原因は、霊夢が部屋を出て行く前にルイズに言った言葉であった。 ――――――――――そのお茶、私のなんだから勝手に飲まないでよね 要はこの部屋の主であるルイズが、居候(あえて使い魔とは言わない)である霊夢に命令されているのだ。 勿論その居候がアルビオンで自分の命を助けてくれたのは本当に有り難い。しかしそれとこれとは別である。 そんな風にイライラしてルイズが待っていると、ふと背後からカチャカチャという物音が聞こえてきた。 何かと思い後ろを振り向くと、突然大きめのカラスが開きっぱなしの窓から部屋の中へ入ってきたのである。 「うひゃっ!?か、カラス…!」 ルイズはそのカラスに驚き、ドアの方へと後ずさった。 カラスは二、三回羽ばたくと柔らかいシーツを敷いたベッドに降り、つぶらな赤い瞳でルイズの顔をジーッと見つめた。 その赤い瞳は透き通っており、まるで一種の工芸品かとルイズに思わせてしまう。 ルイズはと言うと外から飛んできたカラスが自分のベッドに居座っている事に気が気でなかった。 (折角洗濯に出して貰ったばかりのシーツに座るなんて…一体誰の使い魔よ!) カラスを使い魔とする生徒は大変多く、自然とそういう考えに至ってしまう。 一方のカラスは鳴き声一つ出さずにジーッとルイズの顔を数秒間見つめた後、羽を広げて外へ飛んで行った。 突如部屋に入ってきた鳥がいなくなり、ルイズはおそるおそるベッドへ近づこうとした。 そんな時、ドアを開けてようやく霊夢が帰ってきた。 ルイズは霊夢の暢気そうな顔を見た途端、そちらの方へ顔を向け彼女を怒鳴りつけた。 「遅かったじゃない、一体何してたのよ?」 怒り心頭のルイズとは正反対にのんびりとしている霊夢は怠そうに言った。 「何って…?ちょっとコルベールと相談よ相談。…あと話し相手を貰ってきたわ」 そんな事を言った霊夢が右手に持っているのは、薄汚れた鞘に入った薄手の長剣であった。 話し相手?とルイズは首を傾げつつ何処かで見たことがあるような、と思ったとき… 『おうよ、その話し相手こそがこの俺デルフリンガーさ!』 突然その剣がブルブルと震えだしたかと思うと鎬の部分までがひとりでに出てきて自慢げにそう言った。 それを見てルイズは思い出した。以前フーケ退治の際に学院長が霊夢に手渡したあのインテリジェンスソードだ。 あの時は霊夢の手によって無理矢理鞘に押し込まれていたが、何故かその霊夢がデルフリンガー片手に部屋に戻ってきた。 一体どういう風の吹き回しだろうか、と思っているとデルフリンガーは嬉しそうに喋り始めた。 『いやーそれにしてもこりゃどういう風の吹き回しかねぇ?何せ俺を乱暴に扱ったコイツがまさか「ガンダールヴ」とはねぇ。 伊達に数千年間は生きてるけどこれ程おでれーた事は…ってウォォ!?』 堪りに堪っていた鬱憤を晴らすかのように喋りまくっていたデルフリンガーの刀身部分を、ルイズが掴み掛かってきた。 恐らくこれは、六千年生きてきたデルフリンガーにとって二番目に驚いた出来事になるだろう。 幸い刀身の部分はまだ鞘に収まっているため怪我する事は無かったが、デルフリンガーは大いに驚いた。 「え…!?ちょっ、ちょっとアンタさっきのどういう事!」 『うぇ?伊達に数千年間生きてきたって…』 「違うわよこのバカ!さっきガンダールヴがどうとかって言ってたじゃない!?」 少々乱暴に揺すりながらもルイズはそう言った。 『あぁそっちかよ…。そうさ、いまアンタの目の前にいるお嬢ちゃんは紛れもなくガンダールヴだ。ってことさね』 デルフリンガーがそう言うと、霊夢は溜め息をつきつつ左手の甲をルイズの目の前に近づけてこう言った。 「良かったわね。私がアンタの使い魔になってて。私は全然嬉しくないけど」 イヤそうに言った霊夢の左手の甲には、のたくった蛇の様な文字が刻み込まれていた。 古の歴史に興味を持つ者が一目見たならば、それが何を意味するのかすぐにわかるであろう。 ルイズはそのルーンを見つめながら、つい三日ほどの前の事を思い出していた。 (そうよ…私はこれよりも前に見てたんだわ、あいつのルーンを…ニューカッスル城で) 心の中で呟きながらその時の会話を思い出した。 ―――ちょっとレイム、左手のソレって…! ―――――いきなり何よ?少し驚いたじゃないの ―――こっちの方が驚いたわよ!左手のソレ…使い魔のルーンじゃない! ―――え…?あぁ、やっぱりこれってそういうモノだったのね (あの時はワルドの事もあったけど…どうして今の今まで忘れてたのよ?) ルイズは自分の不甲斐なさに落胆する事となった。 使い魔のルーンをちゃんと刻めたのは良かったが、よりにもよってこんな奴が使い魔なのである。 たとえ自分が主人になろうとも今の生活状況は変わらない。絶対に。 これからの事を想像し、ルイズは大きな溜め息をついた。 その日の夕方頃… 魔法学院の一角にあるアウストリ広場に、二人の少女が仲良くベンチに腰掛けていた。 一人は青髪の小柄少女で眼鏡の奥のこれまた青い瞳をきらめかせ、熱心に本を読んでいる。タバサであった。 「ねぇタバサ、少し聞きたいことがあるんだけど」 そしてタバサの隣にいるのは、赤い髪が眩しいキュルケであった。 彼女は己の系統の゛火゛を象徴するかのような赤い髪をかきあげ、自分の隣で読書に没頭するタバサに話し掛けた。 「あなた、少しおかしいとは思わない。あのヴァリエールが行きは魔法衛士隊の隊長と一緒で、帰りはいつの間にかいなくなってたあの娘と帰ってくるなんて。」 それはギーシュがベラベラと話しまくっていたルイズの事であった。キュルケの言う゛あの娘゛とは霊夢のことである。 ギーシュの言うことが正しければルイズは魔法衛士隊の隊長と一緒に何処かへ行ったことになる。 そして帰りは何故かいつの間にか学院からいなくなっていた霊夢と一緒に竜籠に乗って帰ってきたのだ。 ルイズならば帰りも魔法衛士隊に送ってもらう筈なのに、何故かあの霊夢と、それも泥だらけの服で帰ってきたのだ。 あの二人の姿を見たキュルケは、絶対ただ事ではない何かが起こったのだと予想した。 「考えすぎ」 しかし、タバサは短くそう言うと次のページを捲ろうとしたが、その前にキュルケにしなだれかかられた。 「もう、あなたって本当こういう話に釣られないわよね。偶にはバカになってこういうゴシップ話を考察するのも楽しいのに」 キュルケは楽しそうに言うと自分の頭の中で色々と考えた説を興味を示さないタバサに話し始めた。 その様子を、少し離れたところから見るモノ達が三゛匹゛ほどいた。 『相変わらずというかなんというか…ウチのご主人様は君のご主人様に夢中だね』 真っ赤な皮膚を持つサラマンダーが、人間には低いうなり声にしか聞こえない発音で、隣にいる青い竜に話し掛けた。 青い竜は背中から生えた翼を少しだけ上下に動かしながらサラマンダーに返事をする。 『そうなのね。でもおねえさまも少しだけ嬉しそうなのね』 嬉しそうに言いながら青い竜――シルフィードはタバサとキュルケの方へ視線を向けた。 あの二人は自分たちがここへ召喚される前に随分と仲が良く、おかげで隣にいるサラマンダーのフレイムとも仲良くなれたのだ。 『でもさ、彼女って随分無表情だよね。君はもうあの主人の心の内側が読めるようになったのかい?』 そんな二匹のうしろにいるジャイアントモールのヴェルダンデが鼻をヒクヒク動かしながらそう言った。 ヴェルダンデの言葉にシルフィードは低いうなり声でこう言った。 『わからないのね。でも…私と一緒にいるときよりかはおねえさまの雰囲気が少しだけ良い気がするの』 『確かにね。ウチのご主人様も楽しそうだよ』 フレイムはクルクルと喉を鳴らしながらシルフィードにそう言った。 そんな時、ふと三匹の後ろからガサゴソと物音が聞こえてきた。 物音に気づいたフレイムがゆっくりと頭を後ろへ向けると、後ろにある草むらから黒猫がヒョッコリと顔を出していた。 フレイムに続いて他の二匹も振り向き、此方に顔を向けている黒猫に興味本意でヴェルダンデが声をかけた。 『見ない顔だねぇ。もしかして迷い込んだ野良猫かな?』 黒猫は鼻をヒクヒクと動かすヴェルダンデの方を一瞥した後、バッと草むらから飛び出し一目散に本塔の方へ走っていった。 あっという間に目の前から姿を消した黒猫の゛尻尾゛を一瞬だけ見た三匹は驚きの余り目を見開いてしまう。 『なぁ…あいつの尻尾…』 怯えているようにも見えるフレイムの言葉にシルフィードも少しだけ身体を震わせながら頷いた。 『一体全体何であんなのが私達のところへ来るのね。なんだか不吉な事がおこりそうなのね』 シルフィードはそういってブルブルと身体を震わせた。ヴェルダンデも同様である。 「でねータバサ、私はこう思うのよ…」 一方のキュルケはというと、未だタバサに話し続けていた。 ◆ その夜、夕食や入浴も終わり、消灯時間も近くなった頃… ルイズは自らの自室で霊夢とインテリジェンスソードのデルフリンガー(以後デルフ)と何やら話し合っていた。 「さっきも聞いたと思うけど。あんたそのルーンは本物なんでしょうねぇ?」 今霊夢の左手の甲に刻まれているルーンを見つめつつルイズは信じられないという風にそう言った。 「それならさっきも言ったでしょうに…。ちゃんとあのコルベールとかいう奴に調べて貰ったのよ?」 鬱陶しそうに霊夢はそう言うとティーカップの中に入った緑茶を口の中に入れた 「嘘ついてるなら今の内に吐きなさいよ。今なら拳骨ひとつですましてあげる」 ルイズはそんな霊夢を見て少し細めていた目を更に細めた。 最初にガンダールヴのルーンを見せて以来、ルイズは自分の目が信じられないようだ。 何せ今まで魔法が成功せず『ゼロのルイズ』と呼ばれた自分が、始祖ブリミルの使い魔であるガンダールヴを召喚していたのだ。 信じられないというのも無理はないし、別段ルイズがおかしいというわけではない。 一度フーケの事で学院長にその事を話されたときはまさかと思っていた。 その時には霊夢の左手にルーンがないものだから、てっきりコルベール先生の勘違いだと思っていたのだ。 デルフは話し合いを始めてから数分間はじっと黙っていたが、とうとう我慢できなくなったのかひとりでに鎬の部分が出てきて喋り始めた。 『おいおい娘っ子、疑っても始まらないぜ。そいつは正真正銘のガンダールヴのルーンだ』 突然割り込んできたデルフにルイズは顔を顰めるとズカズカと壁に立てかけられているデルフの横まで行き、持ち上げた。 持ち上げられたデルフは驚くこともせず、またもやチャカチャカと鎬の部分を鳴らして喋り始める。 『第一、使い魔のルーンには偽物なんて存在しねぇ事ぐらい、お前さんでも知ってるだろう?』 デルフの言葉にルイズは更に顔を顰める。 「わかってるわよそれぐらい。けどね…」 『けどね…?なんだよ?』 ルイズはそれを言う前に大きく深呼吸をすると、思いっきり叫んだ。 「 な ん で こ ん な 奴 が ガ ン ダ ー ル ヴ な の よ ォ ! ! 」 テーブルがフルフルと微かに震動するほどの叫び声に、さしものデルフもその刀身を揺らしてしまう。 霊夢はというといきなりの怒声に目を丸くし、思わず手に持ったティーカップを落としそうになった。 叫び終えたルイズはと言うと、ハッとした顔になりすぐに先程のしかめっ面に戻った。 どうやら部屋の壁がプライベート上の為か、全面防音性だという事を思い出したからであろう。 もしそうでなかったら、今頃寝間着の姿の隣人が鬼の様な形相で杖を片手にルイズの部屋へ入ってきたに違いない。 霊夢はやれやれと言う風に首を横に振るとティーカップをテーブルに置き、ルイズにこう言った。 「出来れば私もこんな薄気味悪いルーンなんか付けられたくなかったわよ」 嫌みたっぷりにそう言いはなった言葉に、ルイズはキッと霊夢の顔を睨み付けた。 霊夢も負けじとにらみ返し、そんな一触即発の状況を回避しようとしたか否か、デルフが口?を開いた。 『まぁそんなもんさ、始祖の使い魔だからといって根が真面目すぎる奴が召喚されるワケじゃないのさ 例えば、誰かが竜を召喚したいと願っても絶対に竜が出てくるという保証は無い。そんなものさ』 デルフの言葉に流石のルイズも返す言葉を無くしてしまった。 「うぅ~…でも納得がいかないわ。大体、どうして今頃になってルーンがまた刻まれたのよ?」 まだ納得がいかないルイズは、一番疑問に思っていたことを口に出した。 最初に話をした際、霊夢の話ではアルビオンへ行った時に気づいたらいつのまにか刻まれていたという。 それが一番の謎であった、何故契約した直後に消えたルーンがまた刻まれたのだろうか? ルイズの疑問に、すぐさまデルフリンガーが待っていましたと言わんばかりに答えた。 『詳しい事は俺は知らねぇが、恐らくは何かキッカケがあったんだろうよ。 おいレイム、アルビオンに行った際に何か無かったか?自分の記憶に残る事とか』 「アルビオンで、ねぇ…」 デルフに呼び捨てで名前を呼ばれたが霊夢は気にすることなく、つい数日前の出来事を思い出し始めた。 お姫様が持ってた幻想郷緑起…ラ・ロシェールでの戦い…アルビオンの真下にあった大穴… そんな風に記憶を掘り返している内に、二つほど思い出した。 「そうねぇ…二つほどあるわ。一つは森の中での事で…んで二つめは私がやられた時…」 霊夢はそう言って、その時の回想を頭の中に浮かべ始めた。 ▼ 一つめの思い当たる節――それはウエストウッドの森で出会った少女ティファニアのことである。 アルビオンにやってきた際、初めて出会ったのに、私を小さな村に泊めてくれた。 本当は食事だけをもらうつもりだけだっのだが、ちょっとした事情で泊まる事にもなった。 その事情を作ったミノタウロスと戦っていた時、ティファニアが呪文を唱えたのだ。 彼女の呪文を聞いていると気持ちが和らいでいく気がした。戦っていた化け物もその呪文で戦意をなくしたのか、何処かへ行ってしまった。 そしてその夜、ふと気がつくと左手にぼんやりとこのルーンが浮かんでいたのだ。 今ほどハッキリとではないが、それでも自分の目で認識することが出来ていた。 そして二つめ、これは少し思い出したくはないが… 裏切り者だったとか言うワルドにやられて用水路に落ちた後である。 もしかしたら、私が弱っていた時にこのルーンが表に出てきたのかも知れない。 詳しい事は知らないが、そうでなければまともに剣を握ったことのない私があんな芸当できるワケがないし… それに以前、ガンダールヴはありとあらゆる武器と兵器を使うことが出来るってオスマンとかいう奴が言ってたわね。 でも私は剣を振り回す趣味なんか無いし、 とりあえず、早くこのルーンを何とかしないと。呪われたりでもしたら厄介だし… ▼ そんな風に霊夢があまり良くない思い出に浸りつつ考えごとをしていると、ドアの方からノックの音が聞こえた。 「ん?…一体誰かしらこんな時間に」 ルイズはイスから腰を上げるとつかつかと歩き、ドアを開けた。 しかしドアを開ければ、そこには誰もいなかった。ルイズがあれ?と思った時、足下に何か黒い物体がいる事に気がついた。 視線を足下に移してみると、、そこには小さな黒猫が頭を上げてルイズの顔をジッと見つめていた。 「うわぁ…可愛いわね。どこからやって来たのかしら?」 ルイズはそう言って屈むと猫の頭をゆっくり撫でた。 黒猫も満足なのか、頭を撫でられた気持ちよさそうに鳴いた。 霊夢も猫の鳴き声に気づきそちらの方へ目を向ける。 「どうしたの?化け猫でもいたの?」 その瞬間――――頭を撫でられていた猫がピクンと耳を立てるとルイズの横を通って部屋の中に入って来た。 あっという間に黒猫は霊夢の足下まで来ると、霊夢の靴を肉球のある手でペシペシと叩き始めた。 「何よコイ―――…!?」 霊夢は部屋に入ってきて自分の靴を叩いている黒猫の゛尻尾゛を見て、驚きの余り言葉を無くしてしまう。 一方、自分の部屋に入られたルイズはすぐさま振り返りった。 「ちょっと…部屋に入らな――――…霊夢?」 言い終える前に、霊夢が目を見開いて猫を凝視している事に気がついた。 黒猫は靴を叩くのを止めると、霊夢のジーッと見つめると、その口を開いた。 「やっぱり紫様の言う事は何でも当たるねぇ。すぐに紅白と【虚無】の少女を見つけちゃった」 黒猫は元気溢れる少女の声でそう言うと、『二本もある尻尾』を嬉しそうに振った。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ―――幻想郷、霧の湖の真ん中に建てられている紅魔館。 妖怪の山の麓にあるこの湖は深い霧に包まれ、その霧に紛れて妖精なんかが飛び回っている。 そして、その湖の真ん中にはとてつもなく大きな洋館があった。 まるで人を寄せ付けぬかのような場所に立てられたその館は紅く染まっている。 ようやく顔を出した太陽の明かりがが、逆にその洋館を不気味にさせていた。 そして、その紅魔館のとある一室では…。 四人の少女達が椅子に座り、何やら話をしていた。 一見すれば、何のたわいもない談笑かと思うが、部屋の雰囲気はとても重苦しいものであった。 「――――で、霊夢が何処に行ったのか特定出来たという事?」 少し青みがかかった銀髪の吸血鬼――― レミリア・スカーレット ―が向かい側に座っている金髪の女性が話した内容に興味を示していた。 背中には蝙蝠のような大きな翼が生えており、カーテン越しの太陽の光がその翼を照らしている。 「そうよ。まぁその時は思わぬ妨害が入って逃げる羽目になってしまったけど。」 金髪の女性 ――― 八雲 紫 ― の方も、一見すれば白い導師服を着た普通の『人間』に見える。 だが、その体からにじみ出る言いようのない不快感と恐怖が彼女が人外だと証拠づけていた。 「意外ねぇー、まさか貴方の口から逃げるっていう言葉が出るなんて。」 部屋の重苦しい雰囲気に柔らかそうに言ったのは金髪の女性の隣にいた『亡霊』 ――― 西行寺 幽々子 ― であった。 青い着物を纏い、被っている青い帽子の上に重ねるかのように『@』という印が描かれた白い三角頭巾をつけている。 「余程手痛い目に合わせられたか…それとも油断して一太刀浴びせられたとか?」 幽々子は桜色の髪を死人のように白い手で撫でつけながら、笑顔で紫にそう言った。 その言葉に紫は顔を僅かに曇らせると、右の人差し指で頬をカリカリと掻きながらポツリ呟いた。 「まぁ、ね。確かに一太刀浴びせられたわ…というよりも刺されたっていう表現が正しいけど。」 「とりあえずそんなお喋りは後にして、次の話題を進めて頂戴。」 そんな二人の会話を見ていた幽々子の横に座っていた女性が口を開いた。 腰まで伸びた銀髪は月明かりでキラキラと輝いている。 服は青と赤という変わった色の基調をしたナース服を着ていた。 彼女は先の幻想郷で起こった『永夜異変』の主犯である ――― 八意 永琳 ― である。 永琳の言葉に紫はつまらなそうに肩をすくめると再び話し始めた。 「それから私は何度か様々な方法を使ってその世界へ侵入しようと試みたけどどれもコレも駄目だったわ。 後一歩と言うところでいつも誰かが私に襲いかかってくるのよ。本当、困るわ。」 あっけらかんにそう言った紫に永琳はため息をつくと紫に話しかけた。 「良くそんなに暢気にしていられるわね?幻想郷の創造主である貴方がそんなんだと心配になってくるわ…。」 「あら?これでも私には色々と苦手なモノは結構あるのよ。私はそんなものとは極力付き合わないようにしているだけ。」 紫は呆れている永琳に笑顔で軽く言うと再び話を戻した。 「まぁとりあえず今のところ、攫われてしまった博麗の巫女は未だ取り戻せていないという事よ。」 ☆ 時を遡り数週間前、ここ幻想郷で博麗の巫女である霊夢が神隠しに遭うという、未曾有の異変が発生した。 それを妖怪の山に住む天狗達はあっという間に嗅ぎつけ、幻想郷中に話は広まった。 霊夢が神隠しに遇ったという話を聞いた彼女と親しい間柄の者達はすぐに異変解決の為に行動し始めた。 ただ…特にアテがないので各々が好きなところへ赴いては何の成果も無しに帰ってくる。 見つからないのは仕方がないといえるだろう。 何せ霊夢は本当にこの幻想郷から消えてしまっていたのだから。 突如神社の境内に現れた光り輝く鏡の様なモノに取り込まれて…。 その真実を知っているのは目撃者である八雲紫と、今日になって彼女から教えて貰ったレミリア、永琳、幽々子の3人だけである。 ☆ 紫の言葉にレミリアはまるで相手を睨み殺すかのような目で紫を睨み付けながらこう言った。 「………まぁそこまで期待はしていなかったけど。まさかこれ程とはね?」 レミリアの冷たい言葉と視線に対し、紫は顔色一つ変えない。 幽々子はそんな光景を見て口元を扇子で隠しこそこそと笑っていた。 一方の永琳はというと…目を瞑り何が考えた振りをした後、紫に話しかけた。 「じゃあ、このままあの巫女が帰ってこなかったら結界が破れるのは時間の問題という事じゃない…?」 その一言に、紫は永琳の方へ顔を向けると顔色を変えた。 「結界ねぇ…確かに、『普通なら』後数日もすれば結界は跡形もなく崩壊するでしょうね。」 永琳はその言葉に残念そうな顔になったがそれは一瞬のことで、すぐにある事に気がつき真剣な顔になる。 「普通なら…?それは一体どういう意味なの。」 彼女の質問に、紫は被っていた帽子を脱ぐと気まずそうに頭を掻いた。 「う~ん、ぶっちゃけて言うとね…結界の様子がおかしいのよ。」 その言葉を皮切りに、今現在の結界の状況についての説明が始まった。 霊夢が消えてしまった後、紫はマヨヒガへ戻り博麗の巫女無しに結界がどれくらい持つか分析したらしい。 最初こそ予定では僅か二週間ぐらいで結界は崩壊してしまうという結果が出たが。それは大きく外れた。 二週間経っても結界にはひびひとつ入っておらず、何一つ問題なく結界は正常に働いていたのである。 「それじゃあ、今は霊夢がいなくても結界は大丈夫なわけ?」 話を聞いていたレミリアが横槍を入れるかのようにそう呟いた。 確かに、別に霊夢がいなくても結界が正常に動いていれば焦ることはない。 そう考えたレミリアは話の途中なのにも拘わらず安心したかのように大きなため息をついた。 「はぁ~、心配して損した………ってイタッ!?」 言い終わる前に、突如レミリアの頭上にスキマが現れ、そこから出てきた扇子に頭を叩かれた。 「何勝手に安心してるのよ吸血鬼、話の本題はここからよ。」 勝手に安心しているレミリアにスキマを通じて扇子で叩いた紫は話を再開した。 博麗の巫女無しに正常に動いている結界を訝しんだ紫はすぐに自分の式である九尾狐の藍に調査するように言った。 その間に紫は霊夢が何処へ行ったのか探るために、スキマを通ってあらゆる世界を行き来していた。 数日後…今日も何の成果も無しにマヨヒガへ帰ってきた紫に藍がある報告を入れてきた。 「紫様、少し結界の異常についてご報告を…。」 「どうしたの藍?ここ数週間前からずっと異常なんだけど。」 「いえ、今日はそれとはまた違い、見たことのない異常事態でして…。」 次に己の式の口から出た言葉に、紫は手に持っていた傘をうっかり取り落としてしまった。 それは、境界を操りありとあらゆる知識を持つ八雲紫ですら予想だにしていなかった事…。 ―――結界が、どんどん変異していってる。 紫の口からでたその言葉に、レミリアが目を丸くした。 「日を追うごとにどんどんと、まるで蝕むかのように結界は変異しているのよ。なんとかしようとしたけど既に手遅れだわ。」 「変異って…一体どういう風に?」 レミリアは威厳を保とうとしながらも、恐る恐る紫に質問した。 「そうねぇ、白紙に描かれた絵の上に更に絵を描いた、と例えればいいかしら。」 そういう風に例えた紫は一息ついてから喋り始めた。 「更に私がその事で心配しているのはその結界が完璧に元あった結界を取り込んだ際にどんな事が起こるか予想がつかないという事よ。 良くて何も起こらない、悪ければ…恐らく今まで起きた異変よりも相当悪い事になるわ。」 彼女の口から出たその結論に、レミリアは息を呑んだ。 結界が崩壊するならまだしもまさか突然変異するとは夢にも思わなかっただろう。 だが、驚かせる暇を与えないかのように紫は更に喋り続けた。 「ただ、その結界を調べていく内にある事がわかったのよ。 今の結界を構成している術式が…霊夢を攫っていったあの鏡を構成していた術式と似ているのよ。」 「「……!!」」 それを聞き、永琳を覗く二人が驚愕した。 永琳はと言うとそれを聞き、少し考えるような素振りを見せた後口を開いた。 「ということは、その術式をうまく利用すれば…」 「さすが月の頭脳ね?私の台詞を盗もうとするなんて。」 言い終わる前に紫はそう言うとその跡を継ぐかのように言った。 「近い内に、あの月面戦争と同じ方法を使って霊夢を攫った世界へ乗り込むわよ。」 ★ アルビオン王国はラ・ロシェールの町から丁度西の方角に存在している。 まず唯一の特徴は大陸そのものが『浮遊』している事だ。 その為、定期的にハルケギニア大陸の上空に進出することがある。 他にも「白の国」と呼ばれ、それは大陸の下部はいつも白い霧に覆われている事から由来が来ている。 アルビオン大陸の内側からこぼれ落ちてきた水が白い霧はいずれ雲となり、いずれはハルケギニア大陸へと運ばれ雨となるのだ。 他にもハルケギニア各国の中でもでエール を特に大量生産している国だったり、 「アルビオンで良い料理が食いたいならトリステイン産の食材を持ってこい」、等と呼ばれている国である。 また大昔にかの始祖ブリミルの3人の子供達に作らせた王国の1つであり、その歴史も古い。 サウスゴータの街は人口4万を数えるアルビオン有数の大都市で、円形状の城壁と内面に作られた五芒星形の大通りはユニークである。 他にも王都ロンディニウムや軍港ロサイス、ハヴィランド宮殿など、観光地としてもベスト10に入っている場所も随分多い。 ただ…この時期は観光客はおろか大陸に住む人々さえ外にも出ず、家の片隅でガタガタと震えている。 それは『レコン・キスタ』という組織のクーデターが原因であった。 彼らは今のアルビオン政府の現状を憂い、「共和制」という言葉の元に集まった。 最初の戦いこそ、王族派の勝利が連続で続きレコン・キスタはあっという間に鎮圧するかと思った。 だがしかし、レコン・キスタの軍団に突如としてかの「亜人」たちも参戦してからというものの、形勢は逆転してしまった。 名高いアルビオン空軍の象徴でもあった『ロイヤル・ソヴリン号』と王都ロンディニウムも奪われてしまい。 遂にはニューカッスルの城に立て篭もるほか無くなってしまったのである。 逃げ延びた王族派の者達は覚悟を決めたと同時に、1つの疑問が頭の中に浮かび上がった。 『どうして人を襲う亜人達がレコン・キスタの仲間として戦っているのか。』 基本亜人というのは人間を襲う者であると子供の頃から教え込まれていた。 事実上間違っている事ではなく、前例をあげていけばそれこそ辞典が数冊出来るほど沢山ある。 それ程亜人達は恐ろしい存在であり、同時に人間に協力する様な存在ではないはずだ。 では何故彼らは人間―それも貴族の集まりであるレコン・キスタと協力関係にあるのか。 ニューカッスルの城に立て篭もった彼らは頭を捻りながらこれまで何週間も考えてきたがもうあまりその時間はなかった―――― ◆ 一方、此所がどこかも分からない空の上… まるで密林の様に密集した雲の中を霊夢が一人、フラフラと飛んでいた。 「周囲には雲ばかり…遙か下には海があって、上には颯爽とした青空…ハァ。」 霊夢は右も左もわからない雲だらけの空を飛びながら少し疲れたようにそう呟く。 ラ・ロシェールの町にあった大樹から飛び立って既に四時間ほど経過していた。 ベンチの上で目を覚ましたときには、丁度火が顔を出し始めたところである。 とりあえず近くには水飲み場があったため、そこで水を飲んだ後に顔も洗った。 その後は何も食べずに西の方を目指して飛びたった事に、霊夢は今になって後悔してた。 (どうせ一時間も飛んでればつくと思っていたけど…ふぅ、何か食べとけば良かったわ。) だが実際は一時間どころか…四時間も飛んでいて尚雲以外のモノは一切目にしていない。 更にこの雲はまるで霊夢を取り囲むように空に浮いており、下手に移動すれば空の上で迷子になってしまう。 常人ならその状態から一刻も逃げだそうと西だけではなく東や北へと足を伸ばすところだが霊夢は違った。 彼女は四時間もずっと、西の方角だけを飛んでいるのだ。己の勘だけを信じて。 以前にも永夜事変の際に「迷いの竹林」と呼ばれる場所に訪れたことがあるため、既にこういう事には慣れているのだ。 その時にも、しっかりと己の勘を信じ、途中弾幕ごっこを挑んできた魔法使いをコテンパンにして無事に永遠亭へとたどり着けたのだ。 故に霊夢は今回も、昨日の夜に感じ取った嫌な気配を元に、こうして西の方角だけを飛んでいる。 「とりあえず…後一時間も飛んでいれば辿り着くかしらねぇ?」 霊夢は何も入っていない腹をさすりながら暢気に呟き、速度を少しだけ上げた。 ◆ 「なんだか、さっきから嫌な臭いがするけど。そろそろって所かしら。」 それから約一時間半が経過しただろうか…霊夢は今雲の中を突っ切っていた。 あの気配も段々と近づいてきており、それに伴い彼女の鼻を異様につく異臭が雲に紛れて漂ってくる。 恐らく、それは戦争や戦、そして科学とはほぼ無縁になってしまった幻想郷では嗅ぐことは殆ど無い火薬の臭いである。 そして数十分が経った頃、霊夢はブレーキを掛けるかのようにその場で動きを止めると上を向いた。 (あの気配が、私の頭上から感じるわ。) 霊夢は心の中でそう呟くと頭上目がけて高度を上げ、雲の中から飛び出した。 雲から出てみると――――頭上は真っ暗『闇』であった。それも一寸先すら見る事もかなわない程の… 周りには白い雲が辺りにフヨフヨと浮かんでおり、そしてすぐ上には黒い『闇』。 まるでこのこの世のものとは思えない奇妙な風景であった。 「一体此所はどこなのかしら?もう夜…ってわけじゃなさそうだし。」 気配だけはすぐ頭上から漂ってくるが、どうみても上へと続く入り口らしいものは見つからない。 首を傾げて不思議そうに呟いた直後、ふと右の方で何かが光り輝いているのを霊夢は見逃さなかった。 何かと思い、光の方へ近づいてみるとそれの正体があっという間に分かった。 その正体は発光する真っ白い特殊なコケであり、それが群生して発光していたのである。 「ふ~ん、光るコケねぇ。聞いたことはあったけど……ん?」 そして…そのコケの光のお陰で丁度頭上に大きな穴がある事に霊夢は気がついた。 自然に出来たモノかどうかは分からないが、どうやら船が丸々一隻はいるほどの大きさである。 「こんな所に穴…?っていうか、コレは岩だったのね。」 同時に、頭上にあるのが、『闇』ではなく岩だという事が判明した。 つまり今霊夢の目の前にあるのは『空に浮かんでいる大きな岩の塊』、だと言うことだ。 「全く…ここは幻想郷と同じで色んなモノが飛んでるわね…。」 そんな事をぼやき、これ以上此所にいても仕方ないと判断した霊夢は穴の中へと入っていった。 発光性のコケが生えていたのは出入り口部分だけで穴の中はとても暗く、霊夢は手探りで障害物を確認しつつ飛ばざるを得なかった。 もしも船なんかがこの穴に入るのならば…余程の腕利きの者達でなければすぐさま船は座礁してしまうだろう。 「このまま上へ行けば何かあるのかしら……ってまた光ってるところがあるわ。」 穴に入って数分も経った頃だろうか、霊夢は再びコケが光っている場所を見つけた。 光を頼りに近づいていくと、そこには人一人が通れるサイズの横穴があった。 この横穴にはあの光る苔が多数生えており、穴が小さいためかだいぶ明るい。 「このまま手探りで上へ上へ行くのも面倒だし…横穴の方へ行ってみようかしら。」 霊夢は暢気に言うとその横穴へと入り、奥へ奥へと進んでいった。 ―――アルビオン大陸 ウエストウッド周辺。 その森の中にある泉から流れる水は大きな水道を通史でアルビオン各地へと届いている。 泉のほとりには木の蓋で塞がられている古い井戸があった。 井戸と言っても既に水がくみ取れなくなっているが、それでもその井戸を封じている蓋の上は小動物達の休憩場となっている。 今日もまた、数匹のリスたちが仲良く体を寄せ合って眠っていた。 だがその時…。 ガタガタッ… 突如、蓋が音を立てながら大きく揺れ始めた。 たまらずリスたちは跳ね起きるとすばやく蓋の上から飛び降り、森の中へ逃げ去っていった。 リスだけではなく、突然の物音に小鳥は歌を止め、兎はいつでも逃げられるよう身構えている。 数秒してから、ふと物音と揺れが止まり―――次の瞬間、 バァンッ!! と、大きな音を立てて蓋が遙か空の彼方へと勢いよく吹っ飛んでいった。 周囲にいた森の小さな住民達はたちはそれに驚きササッと森の奥へと引っ込んでいった。 そして辺りには誰もいなくなった直後、長い黒髪の少女が井戸の中からフワフワと浮かびながら外へ飛び出てきた。 「ふう、ようやく薄暗くてじめじめした場所から出られたわ。」 黒髪の少女――霊夢は地面に降り立つと上空にある太陽を見て嬉しそうに呟いた。 横穴へと入った霊夢はあの後ジメジメとした穴の中を通り、苦労の甲斐あってようやく地上へと出てこれたのである。 そして道なりに進んでいくとこの井戸の底へと通じていたということである。 「それにしても、どうして空の上にあった岩穴からこんな森の中へたどり着くのかしら…。」 霊夢は不思議そうにそう呟いた後、直ぐ側から水の流れる音が聞こえてくることに気がついた。 そちらへ振り向くと、そこには太陽の光でキラキラと綺麗に輝く泉があった。 ちなみに、水の流れる音というのは人工的に造られた溝へと流れていく音である。 濁り一つ見あたらないその綺麗な泉の水を見て、霊夢は先程からずっと喉が渇いていたのを思い出した。 霊夢は素早く泉の側へ近づくと、両手で水を掬い一気にそれを口の中へ入れ、飲み込んだ。 「あーおいしい!なんだか生き返った感じだわ。」 喉が乾きに乾いていた霊夢は満足そうに言うと、もう一度水を手で掬い口の中に入れる。 そして最後に顔に水を軽く洗った後、ふと空を見上げた。 木々の間から漏れだし太陽の光は、体を温めるのに丁度良かった。 喉を渇きを潤し。ついでに体も暖まった霊夢は未だここが何処なのかわからなかった。 だが、昨日から感じていたイヤな気配が今までとは比べものにならないほど近くから漂ってくる。 「もしかしたら、ここがそのアルビオンって所かしら…。」 霊夢がそう呟いた瞬間、 ガサッ… 後ろから何か物音が聞こえてきた。 何だと思い振り返ると…すぐ後ろにあった木の後ろに誰かが隠れていた。 多分相手は隠れているつもりなのだろうが、腰まで伸びた金色の髪が風に煽られ揺れている所為でバレバレである。 だが、その髪の細さが普通の人間の半分ほどしかない事に気づき霊夢は少しだけ目を丸くした。 シャララ…シャララ、と風に揺られる度に髪が空気をかき乱す音を奏でている。 とりあえずこのままでは何の進展もないので、仕方なしに霊夢は木の後ろに隠れているであろう者に声を掛けた。 「……そこの木に隠れている奴、出てきなさいよ。」 霊夢の言葉に相手は驚いたのだろうか?バッと木の後ろから飛び出したかと思うと森の奥へと逃げようとした。 しかしそれを見逃す博麗の巫女ではなかった、霊夢は咄嗟に相手の肩を掴んだ。 その時になって初めて、こちらをこそこそ見ていた相手が自分とはそれほど年が離れていない少女だと判明した。 粗末で丈の短い草色のワンピースに身を包み、頭には耳元まで隠している白い帽子を被っていた。 手には木の実をいっぱい入れた篭を持っている。 目は怯えているせいか少し潤んでおり、顔も若干ふにゃっと崩れていて、今にも泣きそうな表情をしている。 普通の男がその目と顔を見れば、間違いなくその少女に一目惚れしてしまうだろう。 だが霊夢は生憎女である為、そのような誘惑(?)は効かず職務質問のように少女に話しかけた。 「ちょっと、何も逃げることはないじゃないの?」 空腹だったためか、霊夢の言葉は少し苛ついたものとなっていた。 「ご、ごめんなさい…、木の実を摘んでいる最中に大きな音がしたから…。」 霊夢に疑いの目で見られ少女は更に表情を崩し、今にも泣きそうな声で弱々しく言った。 その様子を見た霊夢は相手が何の害もないと確認し、パッと肩を離した。 やっと解放された少女は緊張の糸が切れたのか、その場にヘニャヘニャと座り込み、ついで頭に被っていた帽子が落ちてしまった。 ―――――――帽子に隠れていて見えなかった耳は、普通の人間のソレと違い尖っていた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん それは捜していた。果てしない森の中を飛び回りながら捜していた。 ゛それ゛は指の先に生えた鉤爪で木に抱きつき、辺りをギョロギョロと見回していた。 顔から半ば飛び出した様な目が忙しく動き回り、自分の視界に゛動くモノ゛がいれば、ソイツに注目する。 そして『捜しているもの』がいなければ、近くの木に狙い定めて、自分の身体を投げるようにそちらへ飛び移る。 飛び移った先にある木でも先程と同じように抱きつき、ギョロギョロと目を動かす。 何故そんなことをしているのか?一体なにを捜しているのか? 何処かの誰かがそんなことを゛それ゛に聞いても、答えることはないだろう。否、答えすら浮かばないだろう。 ゛それ゛に組み込まれた脳の中には『指示された命令を完璧にこなせるか』という事と『ある程度の判断力』しか入っていない。 やがて木から木へと飛び移る内に、゛それ゛の視界に、山道に沿って建てられた一軒小屋があることに気が付いた。 自分の目を上下左右と激しく動かしながら、小屋の中に゛二人のニンゲン゛がいることを知った。 小屋の窓から見える部屋の中では、大きなニンゲンと小さなニンゲンがいる。 それだけなら、゛それ゛はすぐに山小屋から離れるつもりであった。 しかし、見つけたのだ。゛それ゛は捜し物を見つけたのだ。 小屋の中から『捜しているもの』の体を流れる血の匂いと、『あの場所の匂い』が鼻をつく。 自分を閉じこめていた大きなニンゲンたちが嗅がせた、『あの場所の匂い』をハッキリと鼻で感じたのだ。 とどのつまり、自分は一歩前進したのである。『与えられた命令を完遂する』という自分の道を。 「クル…クックゥ?クゥルル…!」 まるで鳥の鳴き声にも似た声を上げながら、゛それ゛はゆっくりと口を開けた。 そして奈落の底を彷彿とさせるような真っ暗闇の口の中から、赤い舌が少しずつ出てくる。 その舌はまるで、林檎の皮のように真っ赤で、とても長かった。 「リッンゴォ♪リンゴォ♪真っ赤なリーンゴォ~♪」 ニナの口ずさむ唄をBGMにしつつ、男は林檎の皮を剥いている。 剥いた皮はまるで口から垂れ下がった舌のような赤い部分がテーブルの上にとぐろを巻いている。 常日頃からこういう事や家事をしているのか、男の手つきはかなりのものである。 男が林檎の皮を剥き終えた頃には、身から剥かれたばかりの皮がテーブルの上に山を作っていた。 「ニナ、お皿を持ってきてくれないか。これより二回り小さめのヤツでいいよ」 いつの間にか唄うのをやめていたニナはコクリと頷き、トテトテと台所へ向かう。 その間に男は白い身をさらけ出している林檎を小さく切り分ける。 六等分に切り分けた林檎は、目の前にある大きな皿の上に盛りつける。 それから一分もしないうちにニナがトテトテと歩きながら小さな皿を両手に持って戻ってきた。 男は大皿に盛りつけた一口サイズの林檎を四個手に取り、ニナの持っている皿の上に盛りつけた。 「ニナ、この林檎は右の寝室で寝てるあの子に食べさせてあげなさい」 「うん!わかった!」 男の優しい言葉にニナは返事をすると、右側の寝室へと向かう。 片手でドアノブを捻る彼女の後ろ姿を暖かい目で見つつ、男はリュックに手を伸ばした。 「ふんふふ~ん♪ふんふふ~ん♪」 上機嫌で鼻歌を口ずさみながら、ニナは寝室へと入った。 この山小屋には寝室が二つあり、多数の遭難者がここを訪れても大丈夫なように作られている。 毛布やシーツの他に乾燥させた薬草や包帯といった医療品等が入っている箪笥もあり、有事の際にも事欠かない。 更にリビングと違って鉄格子の付いた大きな窓があるお陰で、陽の光が良く入ってとても明るかった。 そしてその寝室に置かれている二つあるベッドの内一つの上で、赤いリボンを着けた黒髪の少女が寝ていた。 規則的な寝息を立てている少女の身体に掛けられた薄いタオルケットが、寝息に合わせて上下に動いている。 ニナはニコニコと笑みを浮かべながらもトテトテとそちらの方へ駆け寄った。 両手に持っていた皿はベッドの側に置いてある小さなテーブルの上に置き、ついで盛りつけられていた林檎を一つ手に取る。 美味しそうな色をしたそれを暫し眺めた後、勢いよく口の中に入れた。 まるで野に咲く花の如き美しさを持った少女の口が、歪に動きながら林檎を咀嚼していく。 シャリシャリ…シャリシャリ…とスコップで土を掘ると聞こえてくるような音を立てながら、林檎はニナの口の中で粉々になっていく。 林檎独特の酸味や甘みを一通り堪能したニナは可愛らしい笑みを浮かべ、かみ砕いたそれを一気に飲み込んだ。 ゴクリ、と擬音がつきそうなくらいの勢いで飲み込んだ彼女は満足そうな笑みを浮かべ、プハー…と一息ついた。 「ん…んぅ…うぅ…」 その時、ベッドで寝ていた少女の口から呻き声が聞こえてきた。 「あっ!目ぇ覚ましたんだね?」 ニナは素早くその声に気が付きそちらの方へ目をやると、少女が瞬きをしていいるところであった。 何回か目をパチクリさせた後、黒みがかった赤い瞳が自分の顔を覗き込んでいるニナの姿を捉える。 その時一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに元の眠たそうな目に戻るとゆっくりと口を開いた。 「こ…ここは…」 「ここ?山小屋だよ」 少女の口から出た質問を簡潔に答えるとニナは林檎を一つ手に取り、少女の前に差し出した。 一方の少女は、目の前に差し出された林檎か何なのか分からず、突然の事に怪訝な表情を浮かべる。 「アーンして?アーン…」 ニナはそんな表情を浮かべている少女に対し、催促するかのように言った。 彼女の言葉を理解した少女は、少しうろたえながらも口を開けた。 「…?あ、あ~…――…む!」 瞬間、開いた口にニナが容赦なく一口サイズの林檎を三分の二程突っ込んだ。 突然の事に少女は再度目を丸くしたもののそれが食べ物だとわかったのか、林檎が入った口をゆっくりと閉じていく。 シャク…シャリ…シャリ… 一定の間隔を置いて口を動かし、少女は林檎を咀嚼していく。 その顔に浮かべた表情は、怪訝なものからキョトンとしたものへと変わっていた。 「ねーねーおいしぃ?ニナはとっても美味しかったけど、お姉ちゃんはおいしぃと思う?」 一方のニナはニヤニヤと笑みを浮かべながら、捲し立てるように聞いてくる。 とても酸味と甘みが利いた林檎を噛み締めながら、少女は何が何だかよく分からない表情を浮かべつつ、頷いた。 ◆ 一方リビングからニナの楽しそうな声を聞いていた男は、その顔に笑みを浮かべていた。 「今日はニナと一緒で本当に良かった。僕だけじゃうまいこと対応できそうにないからな…」 自虐ともいえる言葉を呟きながら、男は二個目になる林檎の皮を剥いていく。 十五の頃から山に入って木の実やキノコの採取、シカ狩りを行ってきた彼は女性の扱い方というのを知らなかった。 特にあの少女のような、思春期真っ只中(?)の女の子をどう扱って良いか全く知らないのである。 それにひきかえニナは分け隔て無く、他人と接することができる良い子だ。 あんな良い子もやがては大人になっていく過程で、世の中がいかに残酷なのか理解していくのだろう。 そんな事を考えていた男の気分は憂鬱なものとなっていくが、ふとある事が思い浮かんだ。 「それにしてもあの子、見たことのない服を着てたな…」 男は林檎をグルグルとゆっくり回す左手とナイフを動かしていた右手を止め、ポツリと呟く。 彼の言うあの子とは、いま隣の部屋で起きたばかりの黒髪の少女の事である。 少女が水飲み気絶したあの後、仕方なくベッドへ運ぼうと抱き上げたようとして身体に着けていたボロ布がズレ落ちた。 ボロ布の下に隠れていた彼女の服は、ニナと男が初めて目にする異国情緒漂う奇妙なものであった。 ハルケギニアは各国ごとに服の主旨は違うものの、結構似ているものが多い。 それ故にだろうか、二人には少女の着ている服はどうひいき目に見ても『趣味の良い者が着る服』とは思えなかった。 (まぁその事は別に良いとして…これからどうするか…だな) ひとまずその事は頭の片隅に置いておくことした男は、ニナの笑い声が聞こえてくる部屋の方へと目を向ける。 ニナは初めて会う少女に優しく接しているが、男はどうにも信用する事が出来なかった。 こうして自然と長く付き合っていると、人を惑わしその血肉を糧とする人間と瓜二つの亜人を見かけたという話を良く耳にする。 オーク鬼、トロール鬼、コボルド…そして吸血鬼や翼人にエルフの他、この大陸にはマイナーながらも亜人が数多く生息している。 その大半が樹海や洞窟、渓谷や高原地帯に砂漠など人が滅多に来ない場所に好んで住む。 そして言うに及ばずこの小屋のある場所も、人が大挙して押し寄せてこない山中だ。 そんな山の中にある小屋で、しかも日中に迷い込んでくる人間はいるものだろうか? 勿論いるのかも知れないが、男は万が一の事も考えて目を細める。 (もし最悪の事態になったとしても…オレがニナを守らなければ) 男は心の中でそう呟きながら、手に持った果物ナイフをまじまじと見つめていた。 カラ…カラン… 「―――…ん?」 その時、ふと背後から物音が聞こえてきた。 思わず後ろの方へ向けると、背後にある暖炉の中に見慣れた物が一本、落ちているのに気が付く。 「…木の枝?」 それは山で日々の仕事をする男にはありふれた、一本の木の枝であった。 森の中や道ばたで見かけるならいざしらず、この枝は何故か暖炉の中に入っていた。 たまたま折れたモノが煙突を通して入ってきたというのなら説明はつくが、それにしてもおかしい。 訝しげに枝を睨み付けながら男は腰を上げると剥きかけの林檎を皿の上に置き、右手にナイフを持ったままそちらの方へ近づく。 そして暖炉の側に来ると腰をかがめ、中に落ちている木の枝を左の手で取る。 (まだ若くて丈夫な枝だ。それにこの折れ方…明らかに人の手によるものだ) 男が落ちてきた枝をマジマジと見ていると、暖炉と外を繋ぐ煙突の中から奇妙な音が聞こえてきた。 ペタ…ペタ……ペタ… 先程の音とは違う、明かに異質な音である。 何処か粘着質漂うそれはまるで、誰かの足音にも聞こえた。 その音を耳にした男は素早く起ち上がると、二、三歩後ろへ下がった。 左手に持っていた木の枝をすばやく放り投げ、ナイフを両手で握りしめる。 何だ?一体何がいるんだ? 男は自らの呼吸が段々と荒くなっていくのを自覚しながら、暗い暖炉の中を凝視した。 後ろに下がった後も尚ペタペタ…という音が暖炉をとおして聞こえてくる。 やがて十秒もしないうちに音は大きくなり、こちらに近づいてくるのがハッキリとわかった。 最初はペタ…ペタ…と間隔を開けていた音がペタペタ…ペタペタペタ…とその間隔が短くなっている。 音が近づくに連れ男の呼吸も荒くなっていき、ナイフを持った手の力もどんどん強くなっていく。 男は覚悟を決めたのか、握りしめていたナイフをテーブルに置くと、素早くリュックの中に手を入れた。 (何が来るのか知れないが…来るなら来い!) 男は力強く心の中で叫び、リュックの中から無骨な鞘に入った大きな獲物を取り出す。 それは、山仕事をするような者達が常日頃持ち歩いている一振りの大きな鉈であった。 薪を割ったり小さな木の枝を切り落とす事もでき、時には襲い来る獣たちを倒すことも出来る。 木こりや旅の平民にとって、その鉈は絶対に欠かせないモノであった。 男は鞘から獲物をスラリと抜き、左手に持った鞘をナイフ同じくテーブルに置いた。 ゆっくりと、音を立てぬように置くと右側の寝室へとつづくドアへ視線を向ける。 あのドアを越えた先には、無垢な心を持つニナと素性の知れない行き倒れの少女がいるのだ。 (あの子たちを怖がらせるワケにはいかない…出来るならば一発で仕留めてなければ) 男は心中で考えつつ、血痕一つ付いていない綺麗な鉈の刃先を火がついていない暖炉の方へ向ける。 日々の手入れで鉈は綺麗ではあるものの、その刀身はこれまで多くの命を断っていた。 野犬や狼、時には毒蛇の身体を切り刻みその頭を切り落としてきた。 男の方も鉈で戦うという経験は一度や二度ではない、山で仕事をするのならばそれなりの覚悟は必要なのだ。 でなければ襲い来る獣たちに殺されるか、荷物を纏めて故郷を飛び出して街へ行くかの二つしかない。 男はその選択で山に残ることを決め、ここにいるのである。 「フゥ…!…フゥ!」 段々と大きくなっていく自分の呼吸音に焦りながらも、男は待ちかまえる。 ペタペタという音は段々と大きくなり、もうすぐこの暖炉から音の主が出てくるのは目に見えていた。 自分がやらなければ隣の部屋にいる少女達の命が危なくなるのだ、やるしかない。 再度決意を固めた彼は鉈を振り上げ、そして――― シュッ…!――――― ※ ―――――ゴトリ… 「…?」 寝室で寝ていた少女に林檎を食べさせていたニナの耳に、変な音が入ってきた。 まるで、胸の高さにまで持ち上げた大きな岩を地面に落としたときの音と似ている。 しかし今聞こえた音には何処か湿っぽい、粘着質な音も含まれていた。 まだ幼いニナにはその違いがわからないものの、リビングからの異音に首を傾げた。 一方、ニナに林檎を食べさせてもらっていた黒髪の少女も、その音に気づいてドアの方へと顔を向ける。 口の中に入った林檎をモグモグと噛みながら、目を丸くしてドアを見つめている。 「お兄さんが林檎でも落としたのかな?」 丸くて可愛い目をパチクリさせながら、ニナはリビングへと続くドアを凝視していた。 木造のドア一枚越えた先にあるリビングだが、ドアがあればリビングの様子は全く分からない。 ニナはリビングで何が起こったのか気になったのか、「おにーさーん!」と男を呼びながらドアの方へ近づこうとしたが… 「…駄目よ」 「えっ?」 歩き出す前に後ろから聞こえてきた声の主が、ニナの肩を掴んだのである。 何かと思いニナが後ろを振り返ると、ベッドで横になっていた黒髪の少女が自分の肩を掴んでいるのに気が付いた。 村へ帰る前の小休止にと入った小屋の中で倒れていた彼女はドアを凝視していた。 特徴的な黒い瞳は鋭く光り、可愛らしい10代半ば相応の目をキッと細めている。 一方、肩を掴まれたニナは訳が分からないという表情を浮かべながらも、そんな少女に話し掛けた。 「お姉ちゃん何するの?はなしてよ」 その言葉に少女は反応せず、ニナの肩を掴む手の力も緩めようとしない。 尚もリビングへと通じるドアを凝視しているその姿は、まるで何かの動きを読もうとしているかのようであった。 肩を掴まれているニナは突如豹変したかのように表情が変わった少女に、僅かばかりの恐怖を覚えた。 「お姉ちゃん…ねぇ…いい加減離し――――え?」 なんとか離して貰おうと苦しそうな声で言いかけた言葉を、ニナは飲み込まざるを得なかった。 先程まで片方の手でニナの肩を掴んでいただけであった少女は、突如ニナの腰を両手で掴んだのである。 一言も発さず素早い手つきでニナの身体を抱きしめた少女は転がるように、横になっていたベッドから飛び出した。 埃がうっすらと積もった床に足を着けた少女はニナを抱えたまま何かを捜すように辺りを見回し、すぐに目当てのモノを見つけた。 それは寝かされる前に脱がしてくれたのだろうか、ベッドの下に一足の黒い革のブーツが置かれている。 少女はニナを抱えたまま器用にブーツを履くと、先程まで二人が凝視していたドアがミシッベキッ!と音を立て始めた。 そこへ視線を向けてみると、丁度ドアの真ん中当たりからもの凄い音と共に木片が飛び散っていく。 「え…?なに、何……きゃ!」 不吉な音をたて始めたドアにニナが気づいた瞬間、一切れの木片が彼女の頬を掠る。 掠っただけで幸いにも血は流れていないが、珠のように白くて綺麗な肌に赤い一筋のかすり傷が付いてしまった。 尚も激しい音を立てて壊れていくドアにとうとう一つの小さな穴が開いた瞬間、そこから一本の腕がものすごい勢いで出てきた。 そしてある程度出たところでピタリと止まり、何かを掴もうとするかのようにジタバタと滅茶苦茶に動かし始める。 それは平均的な成人男性の立派な腕であったが、その肌はとても人間のものとは思えなかった。 人間の腕にしてはやけにゴツゴツとしており、所々に爬虫類のそれとそっくりな鱗も貼り付いている 肌の色も普通の人間と違い、とある世界では『FLORA(フローラ)』と呼ばれる系統の迷彩と類似していた。 これだけ見ればとても腕の持ち主が人間とは思えないが、それらを無しにしても十分に人間のモノとは思えない証拠を持っていた。 その証拠は、飛び出してきた腕の五本指にそれぞれ付いた長く、鋭利な鉤爪であった。 まるで火竜の手からもぎ取ってそのまま移植したかのような鉤爪には――――赤い血がベットリと付着していた。 「……!?キャアアアアアアアアアッ!」 突如ドアを突き破ってきた手に、とうとうニナがその小さな口を大きく上げた悲鳴を漏らした。 瞬間、その悲鳴を合図に黒髪の少女は片足で勢いよく床を蹴った。 トンッ!と気持ちの良い音を立てて少女の身体が床から離れ、そのまま背後にある窓へと向かって飛んでいく。 そして、窓の割れる大きな音と共にニナを抱えた一つの影が、山小屋から離れていった。 シ ャ ア ァ ァ ァ ァ ! キ キ ィ イ ィ イ イ イ イ イ ィ ! 少女とニナが消え、『人のいなくなった山小屋』を中心に、この世の物とは思えない鳴き声が響き渡る。 その声は森と周囲の山々に伝わり、獣たちは恐怖に駆られて鳴き声の聞こえた場所から離れようと走り出す。 オーク鬼たちも謎の鳴き声に驚いたのか、獲物を求めて山の中をうろいていた何匹かが仲間達のいる塒へと戻っていく。 ふとした事が死に繋がる野生の世界において、この選択は正しいものである。 そして山の中にある村に住む人間達も同じで、皆が皆不安に駆られていた。 しかし、その様な状況になっても平然としている人間はいることにはいた。 その少女は森の中に出来た広場のような場所に佇み、空を見上げていた。 周りの景色から明らかに浮いている黒と白の服装は、彼女の存在をこれでもかとアピールしている。 太陽のように輝く金髪はさながら超一級のアンティークドールのようであるが、正真正銘彼女は生きた人間だ。 つい先程までここで昼寝をしていた少女の耳にも、あの甲高くおぞましい怪物の鳴き声は聞こえていた。 それが原因でついつい目を覚ましてしまい、ふと起ち上がって今に至る。 「ふぅ…人が折角昼寝と洒落込んでたってのに…迷惑な奴だ」 その口から出た言葉はおしとやかなお嬢様のそれではなく、まるで男のような言葉遣いであった。 だが少女の瞳に宿る強い意志と少々不機嫌そうな表情の前では、その言葉遣いがしっくりと来る。 この少女の名前と性格を良く知るものなら、誰もがそう思うだろう。 相変わらず森の奥から怪物の鳴き声が聞こえ、鳥の囀りすら消えてしまっている。 「こんな真っ昼間から鳴くなんて迷惑もいいところだぜ」 自分以外誰もいないのにもかかわらず少女は一人呟き、足下に置いてあった箒を拾い上げた。 ちゃんと手入れが行き届いているが扱いが手荒いせいかところどころに傷が入っているソレは、単なる掃除道具には見えない。 それはこの少女が数多く持つ゛大切な持ち物゛の一つであるからだ。その内の一つで最も大切な物は今手元に無いが。 「まぁ、人が寝静まってる夜中に鳴いても…迷惑だ」 少女は尚も呟きながら右手に持っていた黒い大きなトンガリ帽子を頭に被った。 まるで絵本の中の魔女か魔法使いが被っているようなそれは、少女には何故か似合っている。 何故なら、彼女がその帽子を被っているような゛魔法使い゛をしているだからだ。似合わないはずがない。 少女は頭に被ったソレを左右上下に動かして調節しながら、箒を持つ左手に力を込める。 この世界で使われている力とは全く異なる、自らの身体に溜まった魔力を少しだけ箒の中に入れていく。 「人様に迷惑かける奴は、懲らしめてやらないとっ…――な!」 少女、魔理沙は最後にそう呟くとその場でピョンッ!とジャンプした。 そして空中に浮遊している間に素早く箒の胴体部分に腰掛け、箒に込めた魔力を放出させる。 すると驚いた事に箒は地面に落ちず、魔理沙を乗せたまま空中に浮かんでいる。 数秒ほどその場で浮遊した後、箒が出せる力とは思えないほどの早さで上空へと飛び上がっていった。魔理沙を乗せたまま。 その箒もとい魔理沙が目指す所は無論、鳴き声の主の元であった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん