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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 「やっぱり紫様の言う事は何でも当たるねぇ。すぐに紅白と【虚無】の少女を見つけちゃった」 ようやく捜していた二人を見つけ出した橙が嬉しそうに呟いた。 瞬間、霊夢は目の前にいる猫がいつぞやのマヨヒガで出会った八雲紫の式、八雲藍の式である橙だと気づいた。 それと同時に、ようやく迎えがやってきたのだと悟り、溜め息をついた。 「全く、いつかは来ると思ってたけど。まさか式の式をよこして来るなんてね」 聞き慣れない言葉を聞いたルイズは首を傾げた。 自分の横をかいくぐって部屋に入ってきた尻尾が二本もある黒猫に疑問の目を向ける。 「シキノシキ?…というよりその黒猫はなによ、知り合い?随分とアンタの事を知ってそうな感じだけど」 ルイズの声を聞いた橙はピクンと耳を動かすと彼女の方へと顔を向けた。 「どっちかというと、アタシの主人とその主人がこの紅白とはよく顔を合わせてるよ」 橙の説明を聞いたルイズは眉をしかめつつも霊夢に話し掛けた。 「ねぇレイム、私にはよくわからないから説明してよ。それも簡潔に」 ルイズにそう言われ、霊夢は面倒くさそうな顔をしつつもその質問に答えた。 「ん~…何でコイツが来たのかは私にも良くわからないけど…要するに、迎えかしらね」 「まぁそう言うことさ。後、コイツ呼ばわりはやめろよこの紅白」 霊夢の口から出たその言葉に、橙は文句を言いつつコクリと頷いた。 「ふ~ん、迎えねぇ…迎え…迎え…―――――って、えぇえぇえぇぇぇぇぇぇ!?」 数秒遅れて、ルイズは霊夢の口からあっさりと出たその言葉に、驚きの叫び声を上げた。 驚くのも無理は無い。何せいきなりの事である。 ロマリアの教皇聖下が突然「実践教義に鞍替えします」と全世界に発表する様なものだ。 突然の事に動揺を隠せないルイズは橙を指さしながら口を開いた。 「ちょっ…む、迎えって。まさかこんな黒猫が迎えだっていうの!?」 その時、今の今まで黙っていたデルフが突如話に割り込んできた。 『ただの黒猫だって?娘っ子、お前さんの目は節穴か?こいつは正真正銘の化け物だぜ』 橙が部屋に入ってきた所為でまだ途中だった話が中断されたことにより相当怒っていた。 勿論デルフをただの剣だと思っていた橙は苛立ちを露わにして喋る剣に驚いた。 しかし、すぐにデルフの言った事に反応し、ピンと両耳を尖らせた。 更に尻尾を大きく膨らませ、全身の毛を逆立てたら、剣を相手に威嚇している黒猫の完成である。 「私をただの化け物扱いするな!第一お前だってまともな剣じゃないだろう!」 その様子を見たデルフはまるで笑うかのようにぷるぷると刀身を奮わせながら言った。 『うっせぇ。第一、尻尾が二本あって、使い魔でもないのに人語を解す時点でまともな生物じゃねぇだろうが! それに俺様はお前のような得体の知れない存在とは……』 「…そこまでにしときなさいよ。全く、こっちだって聞きたいことがあるんだから」 お互い一歩も退かないその様子に、霊夢は呆れつつも口を開いた。 喧嘩になる前に霊夢が割り込んできたためか橙は何かを思い出したかの様に耳をピンと尖らせると霊夢に話しかけた。 「あ、そうそう。一つだけ言っておくことがあったのを忘れてたわ」 「…?何を言い忘れたのよ」 首を傾げた霊夢に、橙は尻尾を振りながら自慢気にこう言った。 「紫様からの伝言。『橙と一緒にその場でジッとしているだけで良いから』だって」 橙の言葉を聞いたルイズはキョトンとした顔になったが、橙の言う『紫様』をある程度知っている霊夢は瞬時にその言葉の意味を理解した。 一方のデルフは自分の話を遮った霊夢と橙に怒りをぶつけようと再び喋り始めた。 『おいレイム!お前さんまでもがその化け物の味方をするの…か…よ……!』 喋ってる途中に何かを感じたのか、デルフの刀身がブルブルと震え始めた。 先程怒っている橙を笑うかのようなそれとは違い、まるで何かを警戒しているかのような震え方であった。 ルイズはそんなデルフを見て一体どうしたのかと思ったが、そんな彼女の身にも異変がおこった。 「ねぇ…ちょっと部屋の中寒くないかしら?」 ふと自分の手で身体をさすりながらもルイズはそう言った。 まるで冷たい水を全身に浴びたかのような冷気が彼女の身体を包み、体温を少しずつ奪っていくような気がした。 窓も閉まっており、暖炉にはちゃんと火がついているというのに。 そんなルイズの様子を見て、霊夢は溜め息をつくと天井を見上げ、呟いた。 「やれやれ…待たせた分演出に凝ってみました…って所かしらねぇ?」 ◆ 「ミス・ヴァリエール。夜食の方をお持ちしに来ましたが…」 学院のメイド服を見事に着こなしている金髪碧眼のおっとりとした目つきの少女がルイズの部屋のドアをノックしていた。 左手にはワインの入ったミニボトルと食パンに野菜やハムをはさんだ軽食を入れたバスケットを持っている。 生徒達の中には夕食だけで腹を満たせる者が少なく、時折こうして夜食を頼む生徒が後を絶たないのだ。 かくいうルイズも例外ではなく、時折こうして頼むことが何回かあるのだ。 その為、こうして一人のメイドが夜食とワインを持ってルイズの部屋の前に突っ立ってドアをノックし続けているのだ。 なぜ部屋の前で立ち往生しているのかというと。こうやって何回もノックしても部屋の主人が出てこないのだ。 普通この時間帯の生徒達は部屋を出ることを禁止されており。真面目な者ならば部屋から出ようとはしない。 「あのーすいませんミス・ヴァリエール。せめてお返事だけでもぉ…」 給士は困ったようにそう言うが、ドアの向こうからは一切の声が聞こえない。 相手の返事が無いことに給士は溜め息をつくと、スッと目つきを変え、廊下に誰もいないのを確認した。 おっとりとしたようなソレではなく、まるで獲物を捜す鷹の目のソレである。 廊下には誰もいないのを確認した後、バスケットをそっと地面に置くと懐から小さな杖を取り出した。 一見すればただの羽ペンに見えるソレを振るいながら『アンロック』の呪文を唱えた。 魔法学院の校則では『アンロック』の呪文は生徒達のプライベート上、禁止とされている。 しかし今目の前でその呪文を唱えたメイドはそんなの関係ないと言わんばかりに唱えていた。 メイドは杖を再び懐に戻すとゆっくりとドアノブを捻ってドアを開け、そして目を丸くした。 簡単に言えば『部屋の中には誰もいなかった』。そう、誰一人として。 この部屋の主人である少女、そして彼女が召喚した少女もこの部屋にやってきた黒猫もいなくなっていた。 壁に立てかけられていた御幣やインテリジェンスソードも無くなっていたがこのメイドにとってはそれはどうでも良いことである。 彼女にとって、『今この部屋に主人とその使い魔がいない』という事が一番の問題であった。 みるみると顔色が青ざめていくメイドは信じられないという風に首を横に振りつつドアを閉めた。 そして再びバスケットを手にもつと早足で食堂に戻っていった。 食堂を戻りつつも彼女は下唇をキュッと噛み締めながら首から下げた聖具をギュッと握りしめた。 ◆ 「―――…ん、うぅ…。」 耳の中に入ってくる風の音で、ルイズはゆっくりと目を開けた。体の上には少しふんわりとした布団が掛けられている。 どうやらいつの間にか気を失っていたようだが、それよりも先にルイズはある事に気がついた。 もしも仰向けに倒れているのであればいつもの見知った天井が真っ先に視界に入る筈である。 しかし、今彼女の鳶色の瞳に映っているその天井は、彼女の見知らぬ天井であった。 見知らぬ天井を見てルイズは眉を顰めると、自分の身体の下に柔らかい布のような物が敷かれているのに気がついた。 いつも自分が愛用しているベッドじゃないということにすぐに気がつき、そして次に辺りを見回してアッと驚いた。 「ここ、どこよ…?」 掛け布団を蹴飛ばし、上半身を起こしたルイズはポツリと呟いた。 そう、そこは…少なくともルイズが今まで見たことのない感じの部屋であった。 床は見知った板作りではなく、全く見たことのない奇妙な物が敷かれている。 寝ているルイズの右側には木製の枠組みの両面に紙または布を張ったもの――つまりは襖があった。 ついで左側には足が短いテーブルがあり、その上には使い慣れた自分の杖が置かれていた。 ルイズは立ち上がると、ゆっくり深呼吸し右手でギュ~…っと頬を抓った。 「イタタタタ…!」 途端、激しい痛みが抓った頬に襲いかかり、すぐさま手を放した。 涙目になりながらもルイズはコレが夢ではないということを実感する事となった。 「一体どういう事なの…?私は霊夢と一緒に自分の部屋に居て…それからそれから黒猫が―――あれ?」 自ら口に出して自分が覚えていることを呟いていたとき、ふと言葉が途切れてしまった。 尻尾が二本もある黒猫が部屋に入ってきたまでの事は覚えているが、それから後の事は全く覚えていなかった。 まるでその時の記憶だけ抜き取られたかのように思い出せない。 (こんな事…前にもあったような…――イヤそんな事よりもここは一体何処なの?) この部屋といい、記憶が無いといい…一体どういう事なの…?とルイズは不安になり、テーブルに置かれた杖を手に取ろうとした時…。 襖の開く音がし、その後聞き慣れた声がルイズの耳に入ってきた。 「何キョロキョロしてんのよ?そんなにこの部屋が珍しいのかしら」 その声にルイズはハッとした顔をしつつも振り返ると、急須と湯飲みを載せたお盆を持った霊夢がそこにいた。 「れ、霊夢…。ここは一体何処なのよ?私、ついさっきまで魔法学院の自室にいた筈だけど…」 「…まぁ気を失ってたアンタからしてみればついさっきの事かもね。」 いつもの気怠そうな巫女の顔を見て、ルイズは不安そうな表情でそう言った。 一方の霊夢はその言葉にふぅ…と溜め息をつきつつもそう言い、手に持っていたお盆をテーブルの上に置いた。 霊夢は既にお茶が入っている湯飲みを手にするとそれをルイズの前に差し出した。 「ほら、とりあえず飲みなさいな。詳しいことはその後に話すから」 「え?あ、あぁどうも…って、これ取っ手が無いんだけど?」 「何言ってんのよ?取っ手がないのは当たり前じゃない。ティーカップじゃないんだから」 「…アンタ、口の悪さだけはキュルケより上なんじゃないの?」 馬鹿にするかのような霊夢の言葉に愚痴をこぼししつつも、ルイズは湯飲みを手に取った。 湯飲みは不思議と熱くはなく人肌に丁度良いくらいに暖かく、冷たくなっていたルイズの指を温めた。 そして若干湯気が立つ緑色のお茶をクイッと湯飲みを少し傾け、ゆっくりと口の中に入れた。 街で買ってあげたお茶とよく似た渋味と少し熱めの温度が舌を刺激し、喉を通っていく。 傾けていた湯飲みを再び傾ける前の角度にまで戻すとふぅっ…と息をついた。 「いつもコレを飲むたびに思うけど。渋味があってこれはこれで美味しいお茶ね。」 「よね~。私も好きよ、霊夢の出すお茶は」 「まぁ確かに、一度レイムの煎れてくれた紅茶を飲んだ事があったけど…――― …――って、誰よアンタ!」 横から聞こえてきたその言葉に、ウンウンと頷きつつ一人呟きながらも声の聞こえた方向に顔を向けた瞬間、ルイズは驚いた。 驚くのは無理もない。何せ白い導師服を着た金髪の女性がいつの間にか自分の横にいたのであるから。 「まぁまぁ、年頃の美少女がそんな驚いた顔をしてたら婿が一人も来ないわよ。ウフフ♪」 金髪の女性は手に持っている扇子で口元を隠しつつ、驚いたルイズを見てカラカラと笑った。 いつの間にか横にいた謎の女性に驚きつつも自分が笑われている事に気づき、カッとなってしまう。 「アンタ、道化師か何かなの?人を驚かしてその様を見て笑うなんて失礼よ!」 出来る限り目を鋭くしてそう言い放ったルイズを見て、女性は更にニヤニヤとする。 「道化師…ねぇ。まぁ確かに、今まで歴史の中で行ってきた一大行事には多くの人間が驚いていたわねぇ。特に月面戦争の時には―――あら?」 楽しそうに喋る女性の言葉を遮ったのは、ルイズが素早く手に持った杖であった。 「ふざけてるのかしら?だったら相手を選びなさい!恐れ多くも、私は公爵家…ム」 静かな怒りを抱えた鳶色の瞳を女性に向けつつ、ルイズは自分が誰なのかを教えようとしたがそれは霊夢の右手によって止められた。 「ハイハイそこまでにしときなさい。コイツ相手にムキになっても意味ないわよ」 「あらあら霊夢、私の数少ない楽しみを取るなんて…育て方を間違えたのかしら?しくしく…」 「変な言い方しないでよ!下手に勘違いされたらどうするの!」 一方の女性は泣きマネをしつつそう言うと、今度は霊夢が怒鳴った。 ルイズは憤りながらもそんな二人のやり取りを見つめつつも、霊夢に話しかけた。 「ねぇレイム、コイツは一体だれよ!?アンタよりタチが悪いじゃないの!」 「あら失礼な子ねぇ…まぁそれは置いておくとして、自己紹介がまだだったわね。」 そう言うと女性は立ち上がり、自らの名を名乗った。 「私の名前は八雲 紫。ここ、幻想郷を創りし者…ついでに趣味はその日その日で変わりますの。今日の趣味は…人攫いかしらねぇ」 紫は名乗った後。手に持っていた扇子で何もない空間をスッと撫でた。 瞬間、何もないはずの空間に線が現れ、一瞬にして大きな裂け目が生まれた。 「そして…境界を操る程度の能力を持っていますの。どうか以後お見知りおきを」 付け加えるかのように紫がそう言うと、裂け目の中から見える巨大な目がギロリとルイズを睨んだ。 その目に睨まれたルイズは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げると杖を取り落とし、その場で腰を抜かしてしまった。 ルイズの反応がお気に召したのか、元から笑顔だった紫は一層微笑んだ。 それは人を喜ばせるどころか…見た者を恐怖させる程の笑顔であった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 先ほどの授業でシャツがボロボロになったルイズは自分の部屋を目指しとぼとぼ歩いていた。 事は数十分前…。 今回行われる「練金」の授業では霊夢が一緒にいなかったので先生にそれを聞かれ少し恥ずかしかった。 最初の時は霊夢もほかの使い魔たちとともに教室の後ろで聞いていたのだが…。 もしかするとおさらいとしてそのとき授業を担当していた教師が言っていた属性のこととかメイジにもクラスはあるとか…そんなのを知りたかっただけなのかも。 それともただ単に飽きただけとか、そんな風に考えていると当然授業が頭に入らず、ルイズは先生に注意された。 「ミス・ヴァリエール。罰としてこの石くれを真鍮に変えてください。」 そういって担当教師のミセス・シュヴルーズが教壇の上にあいてある石くれを指さすと、ほかの生徒たちがいつもの様に机の下に隠れだした。 キュルケが先生に中止を呼びかけるがシュヴルーズ先生は一年生の時のルイズを知らないためかいっこうに彼女の言葉を聞き入れなかった。 ルイズは毎度の事だと我慢し、ため息をはくと教壇へと近づき、置かれている石くれに杖を向けると呪文を唱え始めた。 彼女は今このときだけ僅かばかりの自信を持っていた。あの召喚の儀式の時にはちゃんとやれたのであるから。 出てきた奴がこっちの言うことをあまり聞いてくれなくても一応は成功したからこれから魔法がどんどん使えていくのかな…と浅はかな心で思っていたが。 現実は非情である…誰が言ったのか知らないがまさにその通りであった。 そんなこんなで巨大戦艦の主砲が放つ砲弾も裸足で逃げ出す程の爆発で教室は滅茶苦茶になり、ミセス・シュヴルーズは奇跡的に気を失うだけですんだ。 それと一部の生徒たちも巻き添えを食らって気絶してしまった事により授業は中止となった。 廊下へ出たときにルイズと同じボロボロになりながらも無事だった生徒たちの怨嗟の声を軽くスルーし、今こうして自分の部屋へと向かっているところであった。 ようやくたどり着き、小さくため息をはいてからドアを開けた先にいた人物を見てまたため息をはいた。 「おかえりなさい、その格好を見ると外で見た爆発はアンタの所ね。」 彼女がこの世界に呼び出した異邦人、博麗 霊夢がイスに座っていた。 テーブルの上には食堂で使っているティーセットが置かれており、ポットからは小さな湯気が立っている。 大方給士にでも頼んで借りたのだろう。 ルイズの部屋にもティーセットはあったのが不運にも二日前に壊してしまったのだ。 「えぇそうよ…。」 ルイズは顔に多少疲れを浮かべながらそう言った。 ドアを閉めるとクローゼットを開け中から着替えのブラウスを取り出した。 いつまでもボロボロのブラウスを着ても仕方がない。 先ほどのことで次の授業開始時間は延長されたがいつまでもこんなススだらけの服など着ていられない。 そんな時、ふと目の前に湯気を立ち上らせているティーカップが スッ と横から出てきた。 そのティーカップを持っていたのは霊夢であった。 「え、あたしに…?」 「お茶の一杯くらいは飲んで行きなさい、案外気持ちがやすらぐわよ。」 「ん、…ありがとう。」 ルイズはお礼の言葉を言ってから霊夢の持っているティーカップを受け取るとイスに座り、湯気を立たせている薄緑の液体に慎重に口を付けた。 お茶を飲んだルイズの第一感想は「渋くて素朴だわ。」第二感想は「だけど、これはこれでおいしいわね。」 「でしょ?これはこれでおいしいものよ。」 その答えを聞いて満足したのか霊夢は柔らかい笑顔でそう言うとティーカップを手に取るとゆっくりとお茶を飲んでいく。 午前の柔らかい日差しが窓から入る中、霊夢とルイズは静かにお茶を飲んでいた。 先にお茶を飲み終えたルイズが口を開いた。 「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」 「なに?」 「今更なうえ唐突だけどね、アンタが空を飛ぶのに杖も詠唱も無しに行うなんてどうやってするの?やっぱり先住魔法?」 「本当に今更ね…しかも唐突すぎるわ。まぁいいけど。」 霊夢は少し面倒くさそうな顔をした。 「アレは私の能力よ。空を飛ぶ程度の能力。誰にも縛られない能力でもあるけど。」 誰にも縛られない、ということはやっぱりあの使い魔のルーンもそれで消えてしまったのだろうか。 しかしそれよりもルイズはあの先住魔法と見間違えるような行為が能力だと言うことにまず驚いた。 「の、能力…?魔法で飛んでるんじゃなくて?」 「えぇ、…まぁ魔法使って空を飛んでる奴もいるけどね。」 そう言った彼女の目は一瞬だけ何処か懐かしむような目をしていた。 きっと元いた世界にメイジかなんかの親戚がいたのだろうか。 霊夢は手に持っていたカップをテーブルに置くとイスから立ち上がり、座り心地のいいベッドに腰を下ろした。 一方のルイズは少し落胆したような顔を浮かべた。 「そう…別にそれは魔法とかじゃなくて最初から備わっていたものなのね……。」 つまりは生まれたときからそのような力を持っていたのだ。 ルイズは思った…まるで私と正反対だなぁ。 と。 そんなことを思い、ちいさな憂鬱の波がやってくる。 どこか妙な寂しい雰囲気を醸し出しながらルイズは力なく項垂れた。 「どうしたの?」 それに気づいたのか霊夢はルイズに声をかける。 「…あのね、ちょっと話聞いてくれる。」 「え?…まぁちょっとだけなら。」 そう言ってルイズは語り始めた。 自分がさる公爵家の末女として生まれたのだが物心付いたときからまともな魔法が行えず、常に失敗し続けてきたこと。 父はその事についてあまり触れなかったが母と姉がそれをもの凄く気にしていること。 いつまでたっても魔法は使えず、無駄に失敗したときの爆発が強くなるだけ。 「それがほかの生徒達に『ゼロ』って呼ばれている理由よ。」 一通り語り終えたルイズは一度間をおいて言った。その鳶色の瞳は何処か悲しみを湛えていた。 霊夢はお茶すすりながら黙って話を聞いていたがそんなルイズに気にする風もなくこう言った。 「つまり何?アンタより強い私が羨ましいって事なのね。人に長ったらしい愚痴を聞かせておいて。」 少々呆れた言い方と突き刺すような視線で霊夢はそう言った。 ルイズは霊夢の視線に少々たじろぐが力弱く首を振った。 いつにもまして珍しく今のルイズは少し弱気であった。 そりゃいつもは気の強い女子生徒だが霊夢の方が気の強さは勝っている。 「べ、別にそんなんじゃ…。」 「それにたぶん、そんなのは失敗の内に入らないわよ。」 その言葉にハッとした顔になった。 「え?それって、どういう意味なの?」 「例えどんな形式でも杖から出ているんでしょう?ならそれはアンタたちが言う魔法なんじゃないの。」 少々無理がありそうな解釈である。 「幻想郷にもアンタみたいに馬鹿みたいに威力を持った魔法を使う奴だっていたわよ。それと同じなんじゃない?」 そう言うと残っていたお茶をクイっと飲み干すと続けた。 「それに魔法なんて勝手に新しいのホイホイと作れるような物なんだしこの際それを新しい魔法だと思えばいいのよ。」 言いたいことを言い終えて満足したのだろうか霊夢はカップをテーブルに置くと最後にこう言った。 「それに、アンタはちゃんと召喚に成功したんだから。」 そう言って霊夢はゴロンとルイズのベッドに寝転がった。 一方のルイズは先ほどの言葉に少ない希望を見いだしていた。 同級生達には茶化され、家族に冷たくあしらわれてきた彼女にはとても影響力のある言葉だった。 そして、霊夢の言うとおり、結果はどうアレ形式的にはちゃんと召喚の儀式は成功しているのだ。 授業時の爆発も、きっと未知の魔法に違いない。 (それに…よくよく思い出せば…。) 今まで、ルイズの失敗魔法を至近距離で受けて無事だったものはいなかった。 絶対割れないと言われていた家の壺を爆砕させたり。 家で練習していたときにたまたま母が魔法を喰らってしまい、髪がアフロになってしまったり。 学院では授業の時に実践をしろといわれた時には必ず何かが彼女の魔法で壊れる。 一年生の冬に部屋で『ロック』の呪文をドアに向けて唱え、結果丸一日雪風に震えながら一夜を過ごした。 今まではそれを全て『失敗魔法』と一括りしてきたがどれにも共通点はある。 そう、『いかなる物でも爆発』するということだ。 それを全く未知の新しい魔法と考えればかなり強い魔法ではないのだろうか。しかし… 「どんな呪文を唱えても爆発しか起こらないって…やっぱりそれってどうなのかしら。」 ルイズはそんなことを考えながら空になった自分のカップに新しいお茶を入れた。 「と、いうよりアンタはいつから私のベッドを好き勝手に使ってるのよ?」 「いいじゃない減るもんじゃないんだから。」 場所変わって学院長の部屋。 普段はここの最高責任者のオスマンと秘書が常に待機している部屋だが今日に限って秘書はお暇を頂きこの場におらず。 部屋にはオスマンと教師の二人だけであった。 「ミスタ・コルベール。今日は何の話かね?」 「実は、見ていただきたい物があるのです。」 コルベールと呼ばれた教師はそう言うと手に持っていた細長い包みを机の上に置いた。 そして包みを結んでいる黒い紐をとくと鹿の皮で包まれていた太刀が姿を見せる。 「太刀…じゃのぉ。ミスタ、これは一体?」 コルベールが答える前に突如太刀がブルブルと震えだしたかと思うと… 『おいおい、やっと暑苦しい動物の皮から出してくれたと思ったら何処だよここは!?』 金具部分をカチカチ動かし荒っぽい口調でしゃべった。 それを見たオスマンは目を細め、それがただの剣ではないということを悟った。 「ふぅむ、インテリジェンスソード…か。」 「インテリジェンス」。要は意志を持つ武器のことである。 価値はそれほどでもないが歴史は古く、中には作られてから数千年の時が経つ物も存在する。 「えぇ、ブルドンネ街で購入いたしました。それと、この本の六十ページを…。」 叫び続けているインテリジェンスソードを無視し、コルベールは一冊の古い本を剣の横に置いた。 「ん?『始祖の使い魔達』か。随分とまた古い物を…。」 そう言いオスマンは六十ページまで一気にめくるとそこに描かれていた『ガンダールヴ』の押し絵を見て体が硬直した。 白銀の鎧をまとった騎士が両の手に持っている二つの武器の内一つは太刀であった。 しかしその太刀と今机の上に置かれているインテリジェンスソードと余りにも似ている。 一度交互に目を配らせ見比べてみるがやっぱり似ているのだ。 「もしもこのインテリジェンスソードがガンダールヴが使用していた物ならば…。」 コルベールは喋り続けていたインテリジェンスソードを鞘に戻した。 「あの少女に持たせ、どうなるかを見てみたいと思いまして。」 その言葉にオスマンは顎髭をいじり神妙な面持ちになった。 「だがのぉ、あの娘は聞いてくれるだろうか。個人的には少々我を通しすぎだと思うのだが。」 「でも我が儘という程強くはありません。この程度の願いなら聞いてくれるかと。」 二人の間に少し静寂が訪れるがオスマンが口を開いた。 「しかし彼女がガンダールヴというのを知ってるのは君とわしぐらいじゃ。召喚した本人も承諾を取らねばいかん。 まぁ近日中にでもここへミス・ヴァリエールとあの娘を呼んで話を聞かせよう。あ、あぁ後そのインテリジェンスソードはここに置いていってくれんか?」 それで話し合いが終わり、コルベールは頭を下げインテリジェンスソードを机に置いたまま部屋を出た。 オスマンは引き出しからパイプを取ると口にくわえ一服をした。 時間は進み昼食の時間、食堂前は生徒達によりごった返していた。 一度に大量の生徒達がここへ来るのだからそれはまぁ仕方のないことだが。 そんな人混みの外にルイズはいた。 「これじゃあしばらくは入れそうにないわね…。アイツは先に入って行っちゃったし。」 ルイズはそう言い頭を掻いた。 先ほどまで霊夢もいたが目を離してる隙に一人で勝手に空へと飛び上がり開けっ放しにされていた窓から食堂の中へ入っていった。 主人と共に人生を生きてゆく事を義務づけられた使い魔がとるとは思えない行動である。 しかし実際には彼女の左手にはルーンが無いため、使い魔ではないと思うのだが。 ルイズは軽いため息を吐くと後ろから誰かに肩をたたかれた。 後ろを振り返ると、この前霊夢に叩きのめされたというギーシュが手に花束を持って突っ立ていた。 「なによ。」 突き放すようにルイズは言うと彼は少し躊躇いながらも口を開いた。 「い、いや実は…あの使い魔君に、これを渡してくれないか?」 そういってギーシュはルイズに花束を突きつけた。 赤と白のバラが一緒くたになって入っている。 「どうして私なのよ?アンタの手で直接渡せばいいじゃない。」 こういうのは本当に自分の手で渡した方が良いのである。 「い、いやぁ…もしも君の使い魔が男だったのなら直接僕の手で渡していたけど女の子だと…ね?」 そう言ってギーシュは目だけを右方向に動かした。そこにいたのはほかの女子達と談笑しながら食堂中へと入っていくモンモランシーがいた。 この前彼は浮気がばれてしまい、その後に霊夢と決闘をして負けたらしい。 女の子達の間では当時少し低めであった彼の評価は見も知らずの少女に負けてしまったせいで地に落ちた。 しかしモンモランシーただ一人だけが今も彼とつきあっているのだ。 なんと健気なことだろうか。まぁでも皆はこの二人のことを「バカップル」とか呼んでいるらしい。 特にキュルケあたりが。 「うーん…、でもレイムだと薔薇の花束なんて貰っても喜びそうにないわよ。」 今までの彼女を見てきたルイズはキッパリとそう言った。 それに霊夢はギーシュのことを毛嫌いしていたし初めてあったときにも「女の敵」とか言っていたのをよく覚えている。 しかしそんなギーシュは尚もこちらに花束を突きつけてくる。 「でもねぇ、このままじゃなんというか…レディに優しい僕としては申し訳が立たなくて。頼むよ。」 そう言うとギーシュは一方的にルイズの手に花束を預けるとそのままそさくさと食堂の中へと入っていった。 取り残されたルイズはギーシュ本人の性格を丸写しにしたようなこの薔薇の花束をどうしようかと悩むだけであった。 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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 午前11時 ――学院長室 普段ここは午前の時間帯なら学院長と秘書だけしかおらず非常に静かな場所だ。 しかし今はここの学院で勤めている教師達が全員部屋に集まっていた。 それぞれの手にはメイジとしての証とプライドである杖ではなく、ただの紙切れが握られていた。 それは椅子にドッシリと構えている学院長が前に出している右手で握っている紙の束である。 少し頭の髪が死にかけている中年の男性教師が前に出、老いているとはとても思えないガッシリとした学院長の手が握っている紙の束から一枚だけ引き抜く。 それを終えると彼は一歩下がり手に取った紙を確認する。紙の先端には赤いインクで「アタリ」と書かれていた。 それはいわゆる「くじ引き」というものである。 縁日やお祭りの時、一回三百円程度で箱の中に手を入れて紙を一枚取って確かめる。 紙に書かれた一等賞や三等賞で区別された大小様々な景品が貰えるのだ。 誰もがこれに挑戦し、望みの物が手に入らなくて泣いたり悔しがったりしただろう。 しかし…。 当たり紙を引いた男性教師は少し顔色が悪い。 そう、この赤マークの紙は正確には「当たり」ではない、むしろ「ハズレ」の部類だ。 手にはいるのは景品ではなく任務である。それもかなり危険な。 学院長はそんな彼を見ると重い腰を上げ、しっかりとした歩みで彼の傍の寄った。 そして動かない肩をぽんぽんと手で叩くとなんとも言えない笑顔でこういった。 「ミスタ・コルベール。わるいがミス・ロングビルと共にフーケ捜索へと向かってくれ。」 コルベールは学院長のオスマンの言葉にただただ頷く事だけしかできなかった。 学院を囲っている外壁を抜けた先にあるのは広大な自然。何百年も人が触れていない森だ。 大きい木が何本もそびえ立っている。ライカ欅では無いため伐採を免れているので樹齢は相当なものである。 学院が完成した後外壁に沿って散歩道が作られ生徒達は勉強などで疲れたときにはいつもお世話になっている。 ――午後一時を少し過ぎた頃。 太陽が少し真上の時間帯。 地上にある巨大な木々が陽の光を受け更に成長を続けていく。 そんな森の上空を飛ぶ一匹と一人がいた。 一匹の方は蒼い鱗に大きい翼と巨大な体躯は立派である。 それはハルケギニアの幻獣でもトップクラスを誇る風竜であった。 この風竜もなかなかの大きさだがこれでもまだ小さい方。これからグングンと大きくなっていく。 そしてその背には三人の少女が乗っていた。三人とも首元に五芒星のエンブレムを付け貴族見習いであることを示す。 ピンクブロンドの少女の名はルイズ・F・ヴァリエール。 素直ではなく、ついつい手足が先に出てしまう。 得意な物は乗馬と編み物、しかし編み物だけは恐ろしいほどに駄目。 次に、紅い髪と黒い肌を持つ少女――というより女性はキュルケ。 他国からの留学であるためか入学当初は他の生徒達に嫌われていた。 実力は折り紙付き、実家はルイズとお隣同士。だけどいつもいがみ合っている。 最後に、三人の中でも特に身長が低くこの風竜の主であるタバサ。 まだ子供と見間違えてしまいそうなスタイルのうえ、サファイア色の髪は短めに切られており、それが一層彼女を子供っぽく見せている。 何事に対してもあまり動じず学校内の小さなハプニングには無関心。何を考えているのかよく判らない。 一人の方はというと風竜より少し先行して飛んでいた。 まだ少女とも呼べる小さい体、腰まで届く滑らかな黒髪と同じ色の瞳。 そして腋部分を大胆に露出している紅白の服はこういう年齢が好みの者なら堪らないだろう。 肌は少し黄色が掛かった白だが余程目をこらさなければ石けんのような白い肌に見えてしまう程綺麗だ。 そして背中には丁度彼女の身長と同じくらいある黒一色の筒を背負っていた。 彼女の名は博麗 霊夢 科学と文明により忘れ去られた幻想の世界から遙々魔法文明が闊歩する世界に召喚された博麗の巫女。 実力は恐らく前述の三人より遙か上であろう。多少他人に対して冷たいところもある。 今彼女は自分が本来居るべき場所へと帰る為、ある場所を目指していた。 事の始まりは4時間前に遡る。 キュルケが暇つぶしにと、持ってきた宝の地図をもとに宝を探しへ行こう。というのが発端だった。 そこに記されていた財宝―もといマジックアイテム――の名前とその詳細を聞いた霊夢はそれに大きな興味を持った。 もしかしたらそれを使って自分は元の世界に帰れるかも…。と思いこの宝探しに乗る事となった。 そして霊夢を召喚したルイズも見送りという形で付き添うこととなった。 タバサはというと最初拒否したもののキュルケに色々と頼み込まれ結果、自分の使い魔と共にこれに参加した。 そんな事をしている内にもうすぐ十二時を示すところであった。 どうせなら昼食を食べてから行こう、とキュルケが提案した。 霊夢はいつものように一人で飛んで行きたかったのだが… まぁお腹も空いているので昼食の後、宝探しに行くこととなった。 そんでもって昼食の後、今に至る。 シルフィードの乗り心地は中々良いもので普通に乗っていればまず落ちることはない。 ふとルイズが霊夢に話しかけた。 「ねぇレイム、さっきから気になってたけどその背負ってる物は何なの?」 「え?あぁこれの事、土産として持って帰るのよ。」 「中身はいいとして…それ、何処で拾ったの?」 「学院の端っこにあったゴミ捨て場みたいな所よ。」 「ゴミ捨て場ぁ…?」 ルイズは一瞬ポカンとなるが、すぐに納得したような顔になる。 「あぁ、あの物置ね。」 物置という言葉を聞いて霊夢が怪訝な顔をする。 「あそこって物置なの?どうりで綺麗な物ばかりだと思ったけど、置き方が乱雑だったわね。」 「……まぁあそこは誰も手を出さないからほぼゴミ捨て場よね~。」 ルイズは苦笑しつつそう言った。 その数分後、一行はようやく目的地である小屋を見つけることとなった。 一方、森の中では一台の馬車が小屋を目指して走っていた。 手綱を握っている緑髪の女性は後ろを向き、荷台の方でため息をついている男性教師の方へと顔を向けた。 「ふぅ~…まさかこの私がフーケを捕まえに行くなんて。」 彼、コルベールは不安そうな顔で呟き、自分の足下に置いている杖の方へと目を向ける。 「大丈夫ですよミスタ・コルベール。もしもの時は私がなんとかしますから。」 彼女、学院長の秘書であるミス・ロングビルは男として少し情けない彼を励ましていた。 不運にもくじ引きによって選ばれたコルベールは秘書のロングビルと共にフーケ捕獲に向かっていた。 場所は既に彼女が特定してくれているので後はそこへ行き、盗まれた『破壊の杖』の確保と盗賊「土くれのフーケ」の捕獲を済ますだけだ。 それで済めばいいのだが最悪フーケとの戦闘になる。その為「火」系統のメイジであるコルベールは非常に頼もしい―――筈だった。 しかし、コルベールは客観的に見れば、とてもじゃないが「火」系統のメイジには見えない。 よく皆がイメージする、火の使い手は情熱的だったりやけに前向きだったりただの放火魔だったりetc… つまり今目の前でため息ついて不安がっている彼のような性格の持ち主は少なく、どちらかというと荒々しい性格の奴らばかりである。 彼は決してメイジ、平民など関係なく魔法を使って攻撃することはしない、大抵は話し合いへと持ち込んでいく。 ――彼には一つの夢があった。 ――――それは系統魔法をもっと日用的にすることである。 火や風系統の強力なスペルは学院の生徒達には憧れの目で見られるほど恐ろしい力を持っている一方、その万能性は乏しいのだ。 風系統などは若干日用的なスペルがあるのはあるが火の系統は大半が攻撃スペルで占められている それを嘆いたコルベールはもっと戦闘向きの系統魔法を一般の生活に役立てようと日夜研究している。 オスマンはそれを理解し、わざわざ彼専用の掘っ立て小屋を作ってくれたのだ。 一見変わり者のコルベールだが、生徒達には非常に人気で教師としても非常に優秀な部類に入る。 だからこそ彼は人を自らの魔法で傷つける事などはしない。それが祟って今のような柔らかい性格になってしまった。 なら何故こんな危険な任務についたのかだって? コルベールは臆病に見えるが心は強い、武器なんかで脅されなければ決してその心を曲げない。 だからあの時もし強く反対していたらオスマンもそれを了承してくれただろう。 しかし… ――これ以上、グダグダ話していても埒があきません。 ――――どうです?これからくじ引きをして、赤色のマークが付いた紙を引いた者が行くことに…―― なんせ、あのくじ引きを提案したのがコルベール自身なのだから。 自分でやったことは、自分で責任を持つしかないのだ。 「ミスタ・コルベール、そろそろ準備をしていてください。目的地に到着します。」 「あ、あぁ…。」 時間は午後の一時過ぎ、もうそろそろたどり着く頃合いである。 近づきすぎるのはかえって危険なのでここからは馬車を降り、徒歩で行くことになる。 コルベールは傍らに置いていた杖を手に取り、馬車の荷台から降りる。 あと二メイルくらい進めばひらけた場所へと出る、そこにポツンとたてられた小屋がある。 そこにフーケが潜伏していると…ロングビルは言っているのだが。 (まだここからだとよく見えないな…。) 馬車から降りたコルベールはその場から目をこらしてみるがよくわからない。 大木のせいでまるでその先にも森林が続いているように錯覚する。 「ここからじゃよく見えませんね。」 ふと同じく馬車から降り、いつの間にかコルベールの横にいたロングビルが呟く。 「どうやら少し接近するしかないようですね…。」 コルベールは口の中に溜まっていた唾をゴクリと音を出して飲み込むと杖を突き出し前進し始め、ロングビルもそれに続く。 時に近くの木に身を隠し、亀の歩みにも負けるような足でそれでもゆっくりと目指す。 そしてようやく小屋を見れる位置に来るとコルベールはサッと身を伏せると小屋の近くを見回し、目を丸くする。 小屋の出入り口に蒼い風竜がいるのだ、それもただの風竜ではない。 春の使い魔召喚の儀式。 コルベールどころかハルケギニアでは前例がほぼないハプニングのあった日。 そのとき一番物静かなミス・タバサが召喚した使い魔は彼の視線の先にいる風竜であった。 ロングビルもそれに気づき驚いた。 「あれはミス・タバサの使い魔じゃありませんこと?どうしてこんなところに…。」 「私にもわかりませんよ…多分、あそこで休んでいるのでしょう。」 コルベールはその他に思いついた嫌な考えを拒絶し、そういう事にしておいた。 よもや「生徒達が学院を抜け出して森の中をほっつき歩いている」という事は考えたくもない。 「とりあえずミス・ロングビルはそこで見張っていてください。私が小屋の中に…。」 ロングビルは冷や汗を流しながらもコクリ、と頷き。コルベールは茂みから出た。 ひらけた場所だけ妙に地面の土が乾燥していて、堅い感触が靴を通して足の裏に突き刺さる。 先ほどの森林地帯とは違いここは荒野といってもよく、隠れる場所は何処にも居ない。 やがて小屋まで後二メイルの所で休んでいた風竜がこちらに気づき、キュイ?…とその体からは想像できない可愛らしい鳴き声を上げてコルベールの方に顔を向けた。 とりあえずコルベールは今はその風竜を無視すると気配を殺し、更に近づこうとする。 「あら、アンタも宝探しに来たの?」 右から鈴のような澄んだ少女の暢気な声が聞こえた。コルベールはその声に聞き覚えがあった。 コルベールは足を止め、小屋の右側に付いているガラスが外された窓に視線を向けた。そこには忘れたくても忘れられない姿が在った。 黒いロングヘアーに赤いリボン、紅白の服。ミス・ヴァリエールがあの召喚儀式の日に呼び出した博麗霊夢だ。窓から身を乗り出してこちらを見つめている。 良く見ると背中になにやら長い筒を背負っていたが今はその事は置いておこう。 コルベールは見知った相手であった事に安堵したのか今まで固まっていた顔の筋肉が緩み、なんとも情けない表情になった。 「……はぁ、あなたでしたかぁ。」 コルベールの言葉を聞き、霊夢は少し嫌な顔をする。 「何よその態度は…まぁ別に良いけど。」 少なくとも彼女は小屋の中にいる。これでフーケが小屋の中にいるという可能性はゼロになった。 敵がいないと言うことに余裕が出てきた彼は先ほどの言葉が霊夢の気に障ってしまったと思い、首を横に振った。 「いやいや、安心しただけですよ…。」 そう言いコルベールは小屋の方へと軽い足取りで近づいていく。 小屋まで後5サントという所でふとコルベールは足を止め、霊夢に質問をなげかけた。 「一つだけ聞いて良いですか?あなたは一人でここに…」 言い終える前に、今彼が最も想定したくない事態が起こった。。 「誰かいたのレイム?外から男の声が聞こえたんだけ―――ど?」 そう言いながら霊夢の後ろから姿を現したのは彼女を召喚した生徒、ルイズ・フランソワーズであった。 途端にコルベールの顔がサッと青を通り越して白くなった。そしてルイズの方も教師の姿を見てその場で体が硬直してしまった。 「?……どうしたのよ二人とも。」 何がなんだかよくわからない霊夢は振り返って愕然とした顔で硬直しているルイズを小突いた。 まるで氷の彫像のように固まったルイズからは何の反応も返ってこない。 「あら、あら…。ミスタ・コルベールじゃあ、ありませんこと…。」 続いて小屋の出入り口からキュルケが冷や汗を浮かべながら出てきた。 そしてその後を子猫のようにトテトテと付いてくるタバサもコ少しだけ目が丸くなっている。 その後、馬車の近くに待機していたミス・ロングビルが突然小屋の方から聞こえてきた怒声にビクッと体を震わていた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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完全無欠の無重力ダイブ 日向美ビタースイーツ♪ ADVANCED Level 5 BPM 122 Notes 397 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 3 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 4 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 5 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 6 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 7 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 8 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 9 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 10 口③口口 |①--②| ①口③② |--③-| ①口口② |----| 口口口口 |----| 11 口口③口 |①--②| ②③口① |--③-| ②口口① |----| 口口口口 |----| 12 口③口口 |①--②| ①口③② |--③-| ①口口② |----| 口口口口 |----| 13 口口③口 |①--②| ②③口① |--③-| ②口口① |----| 口口口口 |----| 14 口口①① |----| 口口口⑤ |①---| ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 15 口口③口 |--①-| ①④口口 |--②-| ①口⑤口 |--③-| 口②②口 |④-⑤-| 16 口②口口 |--①-| ①③口① |----| 口④口口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 17 ③口①口 |--①-| ④口②口 |②-③-| 口口口口 |④---| 口口口口 |----| 18 ①①口口 |----| ⑤口口口 |①---| ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 19 口口口④ |--①-| 口②②① |--②-| 口口口① |③---| 口③③口 |--④-| 20 ①口口口 |--①-| 口③②口 |----| 口口④口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 21 口口口口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 口③④口 |④---| 口①②口 |----| 22 ①口口口 |①-②-| ②口口口 |③-④-| ③口⑦口 |⑤-⑥-| ④⑤⑥口 |--⑦-| 23 口口口口 |①-②-| 口③②⑥ |③-④-| ⑤①口④ |⑤-⑥-| 口口口口 |----| 24 ①②③④ |①-②-| 口口口⑤ |③-④-| 口⑦口⑥ |⑤-⑥-| 口口口口 |--⑦-| 25 口口口口 |①-②-| ⑥①②⑥ |③-④-| ⑤口③⑤ |⑤---| 口口④口 |⑥---| 26 口④⑤口 |①-②-| 口③⑥口 |③-④-| 口②口口 |⑤-⑥-| 口①口⑦ |--⑦-| 27 口口口口 |①-②-| 口口口口 |③-④-| ④⑤⑥口 |⑤-⑥-| ③②①口 |----| 28 ②口口① |①-②-| ④口⑦③ |③-④-| ⑥口口⑤ |⑤-⑥-| 口口口口 |--⑦-| 29 ④④④④ |①---| ③③③口 |②---| ②②口口 |③---| ①口口口 |④---| 30 口口口口 |①---| ④④口② |----| 口口③口 |--②-| ①①①① |③-④-| 31 口口口口 |----| ①口③③ |----| 口②口口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 32 ⑦①口⑦ |①-②-| ⑥②口⑥ |③-④-| ⑤口③⑤ |⑤--⑥| 口口④口 |--⑦-| 33 口①①口 |----| 口②③口 |--①-| 口④口口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 34 ⑥口口⑥ |①---| ②口⑤② |②---| 口④①口 |③-④-| 口口③口 |⑤-⑥-| 35 口口口口 |--①-| 口①口口 |②-③-| 口口②口 |----| 口③③口 |----| 36 ①口口① |①--②| ⑧②③⑧ |③-④-| 口⑦④口 |⑤-⑥-| 口⑥⑤口 |⑦-⑧-| 37 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②-③-| ④④③③ |④---| ②②①① |⑤-⑥-| 38 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 口口口⑤ ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 39 口①口口 |--①-| 口口②口 |②-③-| 口③口口 |④-⑤-| 口⑤④口 |----| 40 ③口口⑥ |①-②-| ②⑦⑦⑤ |③---| ①口口④ |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 41 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②---| ②口口④ |③-④-| ①口口③ |⑤-⑥-| 42 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 ⑤口口口 ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 43 口口①口 |--①-| 口②口口 |②-③-| 口口③口 |④-⑤-| 口④⑤口 |----| 44 ⑥口口③ |①-②-| ⑤⑦⑦② |③---| ④口口① |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 45 口④⑤口 |--①-| 口⑤④口 |②---| 口②①口 |③---| 口③③口 |④-⑤-| 46 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 口口口⑤ ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 47 口①口口 |--①-| 口口②口 |②-③-| 口③口口 |④-⑤-| 口⑤④口 |----| 48 ③口口口 |①-②-| ②⑥⑥⑤ |③---| ①口口④ |④-⑤-| 口口口口 |--⑥-| 49 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②---| ②口口④ |③-④-| ①口口③ |⑤-⑥-| 50 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 ⑤口口口 ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 51 口口①口 |--①-| 口②口口 |②-③-| 口口③口 |④-⑤-| 口④⑤口 |----| 52 口口口③ |①-②-| ⑤⑥⑥② |③---| ④口口① |④-⑤-| 口口口口 |--⑥-| 53 口口口口 |--①-| ⑥⑤④③ |②---| 口②①口 |③-④-| 口口口口 |⑤-⑥-| 54 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①②③口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 55 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 56 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 57 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 58 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 59 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 60 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 61 口口口口 |①--②| 口①①口 |--③-| 口②②口 |----| 口③③口 |----| 62 口口口口 |①②-③| 口①②口 |④-⑤⑥| 口③④口 |----| 口⑤⑥口 |----|
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ――何ぼーっとしてるのよ。さっさと逃げてくれない?じゃないとアンタも巻き込むわよ?」 霊夢のその言葉を聞き、逃げようとしたルイズはふと顔を上げ、思わず目を見開いて叫んだ。 「え?…あ…レイム!う、上、上!?」 「だからさっさと逃げろって―――わぁ…。」 一体何事かと思い頭上を見上げた霊夢も思わず唖然とした。 何故ならゴーレムの足裏がゆっくりとした速度でルイズと霊夢を踏みつぶそうと迫っていた。 霊夢は本日二度目になるルイズの腕を掴むと『破壊の杖』をその場に放置し、ゴーレムが足を振り下ろす前に素早く後ろへと下がった。 振り下ろされた足は砂塵を巻き上げながら地面をえぐるだけで終わった。 攻撃を避けた霊夢はコルベールの所まで下がるとルイズを掴んでいた手を離し、コルベールの方へ顔を向けた。 「あんた教師でしょ?自分の生徒にはちゃんと目をやりなさいよ。」 相変わらずの主人を守る者とは思えない冷たい台詞にコルベールは顔を顰める。 が、今はそんな事で言い争っている状況ではないためあえて何も言わないことにした。 「じゃ、そいつのことは任せたわよ。」 霊夢はそう言うと返事を待たず、懐から一枚のカードを取り出し、再度ゴーレムの方へと飛んでいった。 そしてある程度の距離に近づいた時、スペルカードを発動させた。 「神霊「夢想封印 瞬」!」 霊夢がそう宣言した直後、ゴーレムが彼女ごとその空間を薙ぎ払うかのように腕を勢いよく横へ薙いだ。 だが、それよりも速く彼女は素早く飛び、素早くゴーレムの背後へと回った。 がら空きになっている背後にお札の弾幕をばらまいたのを皮切りに、霊夢の攻撃が始まった。 札だけではなく左手に持っている御幣からも四角形の弾幕を大量にばらまきゴーレムを攻撃する。 ゴーレムは霊夢を目で追いかけようとするがそうしている間にも弾幕の嵐に晒され朽ちていく。 遠くから見ていたタバサとキュルケは霊夢の高速移動と突然ゴーレムの目の前に現れた大量の弾幕に驚いていた。 キュルケは先程の光弾より凄い!と興奮し、捲し立てながらその弾幕に見とれていた。 「………凄い。」 そして、いつもは無口なタバサも顔こそはいつものままだが心の中では色々と考えていた。 訳あって今までありとあらゆる「敵」と戦ってきたタバサにとって霊夢の様な攻撃を見たのは初めてだった。 あの攻撃も、やはり今までタバサが見たことのないモノだ。一体どうやって出しているのだろうか? そんな事を考えていると、ふとシルフィードが主人のタバサに呼びかけてきた。 「後にして。」 タバサはシルフィードの顔を見てそう言った。 主人が自分の方へ顔を向けたことを知ったシルフィードはきゅいきゅいと鳴き、鼻先を地面の方へと向けた。 タバサも続いて下の方を見てみた。すると離れたところから戦いを観戦しているルイズとミスタ・コルベールの後ろから誰かがやってきた。 タバサ自身は数回しか顔を見て事はないが、記憶が正しければあの姿は学院長の秘書だ。 その秘書はゆっくりと二人の背中へと近づいていく。その足の動きを、タバサは知っていた。 まるで狩人が自分に背中を見せている獲物に気づかれないような歩き方。正にソレであった。 それは暗殺者が後ろからナイフで突き刺そうと忍び足で近づいているとも解釈が出来る。 どうして普通に歩かない?何かワケでもあるのだろうか? そんな事をタバサが考えていたとき。 杖を持っていないルイズの背後へと近づいたロングビルがもの凄い勢いで彼女の肩に掴み掛かかった。 「どういう事なのかしら…?」 霊夢はそうぼやき、地面の方へと視線を向けた。 そこにはあのゴーレムの姿はなく、ただ大量の土くれがあるだけだった。 つい先程まで丁度良く巡ってきた良い手掛かりをつぶしてくれた巨体と戦っていた最中だった。 しかし突然ゴーレムの右腕がポロポロとただの土くれになったのだ。 それを皮切りにゴーレムの体のあちこちが高く積み上げられた積み木を一気に崩すかの様にボロボロと土になって崩れていった。 霊夢はその事に疑問を感じたが、 あのデカ物が消え、少しスッキリしたので今となってはどうでも良かった。 「さてと、小屋は無くなったけど…どうしようかしら。」 手に持った御幣を肩に担ぎ、そう呟くと地面の方へと視線を向けた。 ゴーレムによって壊された小屋は跡形も残っておらず、周囲には木片しか転がっていない。 ルイズの部屋にいたときキュルケに見せて貰った地図では小屋があった場所に×マークが記されていたのを覚えている。 (あんなんじゃあ探しても意味無さそうね………ん?) そんな事を考えていると、ふと下からコルベールの声が聞こえてきた。 ルイズは突然の出来事に何がなんだかわからず自分を羽交い締めにしている学院長の秘書に声を掛けた。 「み…ミス・ロングビル?これはいったい何の真似で…!」 絞り出すように出された彼女の声は酷く小さく、それはロングビルにしか聞こえていなかった。 声を聞いたロングビルは眼光を鋭く光らせ、冷たい口調で言った。 「ミス・ヴァリエール。静かにしていてください…。すれば命までは奪いませんわ。」 ゴーレムと戦っている霊夢を遠くから見ていたルイズは後ろから近づいてきたロングビルに羽交い締めにされてしまった。 それを間近で見ているコルベールはてっきり死んだと思っていた秘書の思いがけない行動に顔が青くなっていた。 「ミス・ロングビル…?一体これは…!」 「どうもこうも…今は私が今から言う質問を聞いてくださればいいんですの。わかる?」 慌てた風に言ったコルベールの言葉にロングビルは嘲笑と共にそう言った。 「じゃあ最初に―――ミスタ・コルベールは『破壊の杖』の使い方をご存じで? んぅー…でも、ゴーレムが踏んでしまったから使い物にならなくなってるかも知れないけど。。」 ロングビルの口から発せられた『破壊の杖』という言葉を聞き、コルベールはハッとした顔になる。 「破壊の……?…まさか!まさか君が…『土くれのフーケ』か!?」 コルベールの言葉を聞き、ロングビル――もとい土くれのフーケはフフフ…と笑った。 それを見たコルベールは今まで地面を向いていた杖を上げ、慣れた手つきでフーケの顔へと向けた。 「およしなさいな…まさか自分の生徒まで焼くことは無いでしょう?」 待っていましたと言わんばかりにフーケはルイズを前に出した。 コルベールは何がなんだかわからず未だに困惑した表情を浮かべているルイズの顔を見て動揺しかける。 しかしフーケは動揺させる暇など与えぬかのように再び最初の質問を彼に投げかけた。 「さて、まだ最初の質問ですよミスタ・コルベール。――貴方は『破壊の杖』の使い方をご存じで?」 繰り返し言ったフーケの言葉を聞き、コルベールは置きっぱなしにされていた『破壊の杖』がある場所へと視線を向けた。 黒光りする『破壊の杖』はゴーレムに踏みつぶされているにもかかわらず、何処にもキズは見受けられない。きっと『固定化』の呪文をかけられているのだろう。 しかし、その前に彼は正確な使い方を未だに把握していない。 「もし私が使い方を知っているのなら、それを使って生徒達を守っていただろうな…。」 コルベールがフーケの質問にそう答えたとき、彼女は数瞬だけ目を丸くしたがすぐに目を細くさせ、笑った。 「ハハハハハ!学院の腑抜け達と比べたらあなたの方がよっぽど教師の鏡だわ!」 そう言うとフーケは数秒間笑い続けた後、ルイズの首を絞めている方の腕の力を少し強めた。 ただただその光景を苦しそうに見ているコルベールにはどうすることも出来ない。 「さて、少し笑ったところで次の質問よ?――あの紅白服の少女は一体何者なの? あのミスタ・グラモンの決闘の時と同じ、見たこともない魔法で私のゴーレムを壊してくれたわ。お陰で計画はオジ―――― 「なるほど、アンタが土くれのフーケなのね?」 言い終わる前にふと頭上から声が聞こえ、フーケは空を見上げる。 そこには人影どころか小鳥や雲もなく、青い空と清々しい太陽があるだけであった。 「おーい、こっちよ、こっち。」 「えっ?…ってうわぁ!」 ふと横から誰かに肩を叩かれ、そちらの方を向いてみると御幣を肩に担いだ霊夢がすました顔でフーケの隣に立っていた。 何時の間に、とフーケは思ったがすぐに彼女は素早くルイズを掴んだまま距離を空け、霊夢に杖を向ける。 「二人とも武器を下ろしなさい!じゃないとミス・ヴァリエールは死ぬことになるわよ?」 そう叫ぶとフーケはルイズの首を絞めている腕の力をより一層強める。 「うぅ…ぐぅっ!…あぅ…!」 首を絞められているルイズは段々と呼吸がし難くなるのを感じ、苦しそうな呻き声を漏らす。 それを見たコルベールは杖を仕方なく杖を地面にそっと置いた。 しかし、そんな状況になっても武器を下ろさない者が一人だけいた。 「目の前に人質、ねぇ…こんな体験は初めてだわ。」 霊夢は御幣はおろか、何もせずにまるで他人事のように突っ立っていた。 しかし目からは若干の怒りと鋭い光を放っており、まるで「殺れるものなら殺ってみろ!」と言っているようだ。 「くぅ…!早く武器を捨てないとご主人様の命は無くなるよ!?」 そんな霊夢を見てフーケは語尾を荒げながらも叫ぶ。 これを言えばどんな存在であろうとも『使い魔』ならば主人を守るためおとなしくなってしまう。 今までの経験上、フーケはそれを痛いほど知っている。 「ご主人様?…ご主人様って誰の事よ?」 「え?」 「ふぇ?」 「何?」 その言葉に霊夢以外の3人が間抜けな声を上げる。 「まさかルイズの事じゃないでしょうね?冗談じゃないわ。」 霊夢はそう言うと右手で札を取り出しフーケとルイズの方へ向けた。 それ見てフーケは杖を強く握りしめた。あの威力はグラモンとの決闘や、先程のゴーレム戦で充分に知っている。 「ただコイツの部屋に同居させて貰ってるだけよ?洗濯とか掃除とかしてあげてるけど…。 それよりも、よくもあの小屋を滅茶苦茶にしてくれたわね…お陰で折角の手がかりが台無しだわ。」 それを言い終えたと同時に霊夢から何やらもの凄い気配が漂ってきた。 顔には多少の怒りが混じっており、喋りながらも手に持った札に力を込めている。 「アンタがあの小屋を吹っ飛ばしてくれたせいで折角の手がかりも無くなったし…。」 喋りながらも雰囲気的に次に何をしてくるのかわかった3人は慌て始める。特にルイズが。 「ちょっ…ちょっとレイム!!アンタ私を巻き添えに…!」 「ちょっ!ちょっ!アンタ、まさかこのままこのお嬢ちゃん共々…」 「ま、待てレイム!フーケが狙っている物は…!」 コルベールはそう叫ぶと霊夢に駆け寄ろうとするが、遅かった。 霊夢の手から放たれた一枚の札は流れるようにルイズとフーケの方へと飛んでいく。 それは風や重力にとらわれず、ある一転を目指していく。 札はルイズの頬を切ることなく横を通り過ぎ――フーケの額へと飛んでいき…。 ポン! 軽い爆発音と共にフーケの額に当たったお札が小さく爆ぜた。 小さな爆発とはいえ――大の大人一人分を気絶させるのには十分な威力だった。 額から煙を上げながら倒れたフーケはルイズを離し、地面へと倒れた。 「はぁっ…はぁっ……!!死ぬかと思ったわ…。」 当たらなかった物の、一瞬走馬燈が頭の中で駆けめぐったルイズの呼吸は荒かった。 それから数秒遅れてコルベールがルイズの傍へと走りよってきた。 「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか!?」 「ハァ…一瞬頭の中で子供の頃の思い出が駆けめぐっていきました。」 コルベールからそんな言葉を貰い、ルイズはそう言った。 一方の霊夢は今まで肩に担いでいた御幣の柄を地面に刺すと目を回して気を失っているフーケへと恨めしい視線を向けていた。 「もっと痛めつけてやりたいけど…まぁすっきりしたし、これでいいか。」 「なにが…まぁこれでいいか。ですか!」 霊夢の言葉を聞いたコルベールがすかさず突っ込んだ。 それを聞いた霊夢は「何か文句あるの?」と言いたいような顔をコルベールに向けた。 「下手したらミス・ヴァリエールが死んでたのですぞ!?」 「大丈夫よ、さっき投げたお札には殺傷力なんて全然無い―――」 「だからそれじゃなくて!!追いつめられたフーケがあの時に…」 霊夢はうんざりした様子でコルベールの言葉を聞き流しながらも大きく欠伸をし、地面に刺していた御幣を引っこ抜いた。 そんなやりとりをボンヤリと見ていたルイズは顔を伏せ、プルプルと体を震わせた。 地面にへたり込んでいたルイズはヨロヨロと立ち上がると背中を向けてコルベールに叱られている霊夢に視線を向ける。 「…聞いてますか!ちゃんと人の話を聞きなさい!!」 「はぁ…少し静かにしなさいよ。」 叱られている霊夢はうんざりとしており、背後のルイズへと一切注意を向けない。 そして獣のように低いうなり声を上げているルイズは思いっきり霊夢の右太ももを蹴ろうとする。 「ん?」 が、霊夢はぎりぎりで右足を横にずらし、ルイズの攻撃をかわすと顔だけを後ろに向ける。 そこには、綺麗なピンクのブロンドヘアーを若干逆立たせ全身から恐ろしい量の魔力を放出しているルイズがいた。 目を鋭く光らせていて、さながら怒りに我を忘れた吸血鬼や妖怪のそれであった。 「…この、この、こっこの…。」 怒りのせいでかキョドりながらもルイズはブツブツと呟き、 「この…バカ巫女ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」 そう叫ぶともの凄い勢いで霊夢に飛びかかった。 霊夢はスッと横に移動して避けたが一息つかせる暇もなくルイズはもう一度飛びかかってくる。 「どうしたのよいきなり。何か不味い毒キノコでも喰った?」 「うっさい!今度という今度は堪忍袋の緒が切れたわ!!おかげで死にかけたじゃないの!?」 そう言いながらもルイズは素早く避ける霊夢を捕まえようとするが一向に捕まらない。 「ミス・ヴァリエール、貴族の子弟がそんな事をしてはいけませんぞ!」 一方のコルベールは野獣のように駆け回っているルイズに叫んだ。 その横で気絶していたフーケは頭を霊夢に踏まれたが気にすることなく気を失っていた。 「ホラ、案外平気だったじゃないの?」 「…。」 そんな様子を上空からタバサとキュルケ、それにシルフィードが見ていた。 最初羽交い締めにされたルイズを助けに行こうかと思ったがそんな矢先にあの霊夢がフーケを倒してしまったのだ。 フーケが倒れた後、ルイズ達の方へと行こうとしたがあの様子だとどうやら余計な心配だったようだ。 「で、どうするタバサ?このまま戻る?」 「もう戻る。」 キュルケの問いに即答で答えたタバサはシルフィードに命令しようとした時、下の森の中からキラッと何かが光るのが見えた。 それだけなら何もしないが少し気になったタバサは高度を下げろとシルフィードに命令した。 段々と高度を下げていき、やがて光の正体が何なのかハッキリとしてきた。 小屋の破片と一緒に森の中にまで吹き飛ばされたソレは所々に固定化の魔法が施された銀の装飾を施された小箱であった。 シルフィードをとりあえず近くに着地させるとタバサは降り、箱を持って再びシルフィードに跨った。 「あら、いったい何だと思ったら…綺麗な箱ね。」 綺麗物が好きなキュルケはそれを見てうっとりとした目を輝かせている。 一方のタバサは年相応らしくない無表情で手に持ったソレを凝視していたがポツリと、 「これはきっとあの地図に載ってたマジックアイテムが入ってる。」 そう、呟いた。 「…え?」 予想外の言葉にキュルケは思わず間抜けな声を上げ目を丸くする。 タバサの言うことが正しければこの中身は地図に書かれていた『境界繋ぎの縄』という物が入っているというのだ。 実際の所、キュルケはそれをあんまり信じていなかった。所詮はお遊びなのだと思っていた。 しかしまさかただのお遊びがフーケ逮捕、その上宝の地図が本物。彼女が唖然するのは仕方がない。 「勿論、これは推測。開けてみないと分からない。」 呆然としていた微熱を消し飛ばすかのように呟かれた雪風の言葉にキュルケはハッとした顔になる。 「じゃ、じゃあ…今此所で開けてみない!?」 我に返り、急に興奮しだしたキュルケに物怖じ一つさせずタバサは小さく頷き、フタに手を掛ける。 『境界繋ぎの縄』。 地図に書かれているとおりなら自分が願う場所へ行ける夢のようなマジックアイテム。 一体どんな形なのかとキュルケは期待を膨らまし、 それほど期待していないタバサは勢いよくフタを持ち上げた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 「はっ…!…はっ!」 陽の光が届かぬ薄暗い森の中に、鳥の囀りと共に規則正しい息づかいが響く。 それについで小さな足でトンットンッと地面を蹴る音も続く。 その二つの音を出していたのは、まだ十代そこそこに見える黒髪の少女であった。 まるで軽業師のように地面を蹴って森の中を走り回る少女の顔は全く苦しそうに見えない。 それどころか辺りに目を配るほどの余裕をもっており、ついで背負っている一人の女の子に目をやる。 そこには、少女の背中にしがみついたまま気を失っているニナがいた。 あの時山小屋から逃げた後もずっと気絶したままで、かといって山中に放置することも出来ずこうして数十分も背負い続けて走っている。 少女は、この子を背負ってなければもう少し足を速められるかなと一時は思ったが、すぐに首を横に振った。 仮に連れて行かず、小屋に放置していたら間違いなくあの怪物の餌食になっていたであろう。 (何処かに村か何かあれば…そこに預ければいいわね) 少女はいまの状況を前向きに考えつつ、更に足を速めようとした。 その時…ふと近くから誰かの気配を感じ、動かしていた足を止めた。 走るのを止めた少女はスー…と頭を動かして辺りを見回し、木々に覆われてハッキリと見えない森の中を見透かすかのように目をこらす。 気配からして人間だとわかったが、その人間が放っている雰囲気は少し異質であった。 それは例えれば外は冷たく内が熱い、どうも曖昧な感じが否めない気配なのである。 一体誰なのかと訝しんだ少女は更に目をこらし、気配の主を捜そうとする。 だがその行為は、少女の゛命゛を狙わんとする暗殺者にとって絶好のチャンスであった。 ―――ビュウッ…ドッ! まるで風を切るかのような音が響いた後、少女の体に風系統の魔法『ウインド・ブレイク』が襲いかかった。 「ウァッ…!?」 風の塊を直接ぶつけるシンプルな魔法は辺りに注意を向けていた彼女の体にぶつかり、勢いよく吹き飛んだ。 気を失っていたニナは吹き飛ばされる直前に『ウインド・ブレイク』の衝撃で少女の背中からはじき飛ばされ、地面に転がった。 何本かの枝が折れる音が響くと共に、吹き飛ばされた少女が数秒間の時を置いて上から落ちてくる。 「ク…!」 しかし地面に激突するまであと五メイルというところでネコのようにうまく体勢を変え、なんとか着地する。 着地した少女は自分が連れてきたニナがすぐ近くにいることを確認すると、鋭い目つきでキッと頭上を睨み付ける。 その視線の先には、少女の着地した場所から数十メイルほど離れたところに生えた大木の枝の上に立つ青髪の少女がいた。 彼女の着ている白いブラウスと白のニーソックス、そしてグレーのプリーツスカートはこの森の中では酷いくらいに目立っている。 高価なアンティークドールを思わせる顔は無表情であり、掛けている眼鏡がその色のない顔に言いようのない冷たさを醸し出している。 そして背中には自分が何者であるのか証明する黒いマントを羽織り、右手には自身の背丈よりも大きい杖を持っていた。 杖とマント。その二つはこの世界に置いて゛貴族゛と呼ばれる者達のシルエットだ。 そしてこの青髪の少女は、今この山中にいる貴族の中でも特に戦いに長けた者であった。 青髪の少女―タバサは左手の人差し指でクイッと眼鏡を持ち上げる。 その眼には、目の前にいる少女を゛標的゛として見つめる冷酷な感情が見えた。 ◆ 人は誰でも間違い犯す。 しかし時と場合によっては、それが命取りになる事を忘れてはいけない。 「やっべ…八卦路はルイズが持ったままだったの忘れてたぜ!」 魔理沙が素っ頓狂な声を上げて叫んだ瞬間、目の前にいた怪物が飛びかかってきた。 指先に爪の生えた両手を前に突きだし両足もピンと張って飛ぶ姿は、正に白昼の悪魔である。 目の前の異形が攻撃を仕掛けてきた事に気づいた魔理沙は驚いた表情を浮かべたまま左手の箒をその場に放り投げると、勢いよく前転した。 自慢の洋服が土にまみれ被っていた帽子も吹っ飛んでいったが、飛びかかってきた怪物の攻撃を避けることには成功した。 「おらっ!」 すぐに立ち上がった魔理沙はこちらに背中を見せている怪物に、素早い回し蹴りをお見舞いした。 比較的運動神経が良い魔理沙の蹴りが若干効いたのか、背中に一撃を喰らった怪物は呻き声を上げて数歩よろめいた。 「ヴヴヴ…ギィ!」 しかし自分の後ろに敵がいる事を知った怪物は振り向きざまに引っ掻いてきた。 反撃を予想していた魔理沙はスッと後ろに下がると、足下に転がっていた自分の箒を手に取る。 そして、次こそはと勢いよく振り下ろしてきた怪物の爪を箒の柄で見事受け止めた。 だが箒で敵の攻撃を防いだのはいいものの、予想以上に怪物の力は強かった。 箒を持つ魔理沙の手が小刻みに震えているのに対し怪物は振り下ろした爪に力を入れて、確実に魔理沙の方へ近づけていく。 「く…頭が悪いかわりに力がヤケに強いんだよな…――こういう奴って!」 このままではやられると感じた魔理沙は苦しそうに呟くと、二撃目となる蹴りを怪物の腹に入れる。 蹴りをまともに喰らった怪物は紙を勢いよく破った時の音みたいな叫び声を上げて後ろに下がった。 敵を下がらせる事に成功した魔理沙も後ろに下がると懐に手を伸ばし、小さな小瓶を取り出した。 小瓶の中にはサイコロを小さくしたような物体が一個入っているだけであった。 「下手に力勝負しても勝ち目がないし…こいつで片づけるか」 そう言うと魔理沙は小瓶を持った右手に力を込めたかと思うと、それを勢いよく放り投げた。 投げられた小瓶はクルクルと回転しながら、腹を押さえて呻いている怪物の頭上目がけて落ちていく。 そして後二メイルという所で怪物が気づいてしまい右手の爪ではじき飛ばそうとしたが、魔理沙にとってそれはどうでも良かった。 あの投げた小瓶の゛中身゛は、かなり強い衝撃さえ与えれば…華やかで盛大な゛花火゛へと昇華するのだ。 パキィ! 横に振った怪物の爪は見事落ちてきた小瓶を砕き、その゛中身゛も粉々に砕いた。 サイコロの形から無数の欠片へと変化した゛中身゛は粉々になった際の衝撃をモロに受けて…爆発した。 瓶を割った怪物をも巻き込んだその爆発はまるで、祝祭の時に打ち上げられる花火の様に色鮮やかであった。 流石に本物の花火みたいに大きくは無いが、色鮮やかな星の形をした花火が爆発と共に打ち上がる。 爆発音もドド、ドドン、パン!…とまるで花火のような何処かおめでたい雰囲気が漂うものだ。 そんな綺麗な爆発は僅か十秒ほどで終わり、後に残ったのは薄い灰色の煙だけであった。 ※ 瓶の中に入っていた物体…それは魔理沙が作りだした゛魔法゛の一つであった。 魔法の森などに生えている化け物茸などを独自の調理法でスープを数種類作り、それをブレンドする。 そして数日掛けて乾燥させて固形物にした後、その固形物を投げつけたり加熱したりと色々実験をする。 そうすることでごく稀に魔法らしい魔法が発動することがある。 成功しても失敗しても本に纏め、また茸狩りからスタート…といったループが続く。 先程怪物に投げつけた固形物は威力が強すぎた成功例の一つを、ある程度弱めたものであった。 ※ 煙はその場に数秒ほど留まったが、初夏の香りが漂う突風に乗って空へと消えていく。 本当ならば煙の留まっていた場所にいる筈の怪物の姿は無く、代わりに小さなクレーターができていた。 魔理沙は用心しつつもそこへ近づき、クレーターを調べた。 「ふぅむ…まさか木っ端微塵になるとは予想外だったぜ。まだまだ威力が強すぎるな」 一通り調べ終えた魔理沙はすぐ傍に落ちている帽子を拾い、パパッと土を払い落とす。 そしてある程度綺麗になったソレを頭に被ると、苦笑いのような表情を浮かべて先程の爆発の事を思い出した。 「それにしても…思ってたより衝撃に対しては弱かったな。砕けた直後に反応してたし…完成までもうちょっとのところか」 彼女はひとり呟きながら、腰に付けた革袋から一冊のメモ帳を取り出した。 もう何年も使い続けているのか、そのメモ帳からは大分くたびれた雰囲気が漂っている。 魔理沙はメモ帳を開くとパラパラとページをめくろうとしたが、その前にピタリと手の動きが止まった。 苦虫を踏んだよう表情を浮かべる彼女の視線の先には、半開きのドアから山小屋の中が少しだけ見えていた。 そしてそこから、ツン鼻にくる鉄のソレと似た臭いが漂ってきている。 「まぁでも…その前にする事があるか…」 魔理沙は軽い溜め息をつくとメモ帳をしまい、小屋の中へと入ろうとしたとき… 「何処かで見た事ある花火が上がったと思ったら、やっぱりアンタだったわね」 ふと背後から着地する音共に聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に後ろを振り返る。 振り返った彼女の視線にいたのは紅白の服と別離した白い袖を付けた腕を組み、いつもと変わらぬ姿と態度で佇む゛彼女゛がいた。 いつもは神社の縁側でお茶を飲んでいて、暇さえあれば話の相手や弾幕ごっこもしてくれる友人みたいな゛彼女゛。 異変が起これば、どちらが先に解決出来るかを競い合うライバルになる゛彼女゛。 そして―――゛彼女゛にとって自分が、『最初に出会った気の許せる人間』だということ。 魔理沙にとって゛彼女゛は―――博麗霊夢はそんな人間であった。 いつもはグータラとお茶を飲んでいるような彼女がどのような用事でここに来たのか、魔理沙はわかっていた。 そしてそれを知ったうえで、自らの勝利を誇る戦士のような晴れ晴れとした笑顔で霊夢の顔を見た。 「よっ、遅かったな。何処かで昼寝でもしてたのか?」 「その昼寝を邪魔する輩がいたからここまで来たんだけど。とんだ無駄足だったようね」 霊夢はそんな魔理沙とは正反対の、何処か陰のある苦笑いの表情を浮かべていた。 ◆ …一方、山小屋から大分離れた所にある街道。 首都トリスタニアと魔法学院を繋ぐ道の上を、一台の馬車がゆっくりとした速度で走っていた。 二頭の馬が引く台車の中には、学院にとって必要な食料や物資がこれでもかと詰め込まれている。 そしてその中に混じるかのように、その荷物を責任持って運ぶ業者の姿も見受けられた。 「っと…もうそろそろ学院かな?」 ガタゴトと揺れる荷台の上に座っていた一人の男が、前方にある塔を見てポツリと呟く。 その後ろでは仕事仲間の四人が、持参したチーズやライ麦パンを食べていた。 いつもは首都の出入り口にある駅で食べるのだが、今日は生憎仕事の量が多かった。 しかもその中にはいつも自分たちに依頼してくれている魔法学院への運送もあったので、いつも以上に張り切っていた。 仕事柄、何かトラブルがあって運送が遅れればそれだけで築き上げた顧客への信用が吹き飛んでしまう。 無論信用を上げるということがどれ程大変なことなのか、彼らは皆知っていた。 「よしっお前ら。昼飯中断運ぶ準備に入れ。モタモタするなよ!」 リーダーである男の一言に、後ろで食事をとっていた男達は「うーっす!」や「へ~い…」など…気合いの入っていないような返事をする。 それでも動きはテキパキとしており、食べかけであった食事を急いで口の中に入れ込み、ゆっくりと腰を上げる。 四人は足下に置いていた使い古しのカーキ色のベレー帽を被ると、思いっきり深呼吸をした。 「ん~…。それにしても、さっきの変な音やら爆発音は何だったんですかねぇ」 ふと仲間の一人が、帽子を被りながらポツリと呟いた。 彼の言う゛変な音゛に覚えのあった他の者達は顔を見合わせた後、仲間の誰かがからかうように言った。 「なんだよお前?さっきのアレにびびってるのか?」 「ちょっ…別にそんなんじゃねぇよ!」 彼の言葉に男は慌てた風に言い返すと、今度はリーダーが口を開く。 「ま、例え山の中で異変が起きようとも俺たちのする事に変わりはないさ。だろ?」 リーダーの頼りがいのあるその言葉に四人全員が彼の方へと視線を向き、頷いた。 タッタッタッタッ… その時であった、蹄と台車が軋む音と一緒に右側の森林から足音が聞こえてきたのは。 「ん?なんだ、また音が聞こえてきたぞ…これは足音か?」 リーダーは周りから聞こえてくる他の音と一緒くたにしないよう気をつけつつ、耳を澄ます。 足音は規則正しいがとても速く、どうやら森の中を全力疾走しているらしい。 「あ、兄貴…一体何なんですかこの足音」 「走っているようだが…おかしい。これは人間の足音なのか?」 うろたえている仲間の言葉に、リーダーは怪訝な表情を浮かべて足音を聞いていた。 ここら一帯の森林は走ることはおろか歩くことすら困難な程地形が複雑ではない。 やろうと思えば走ることだって出来る。しかし今聞こえてくる足音は何処かおかしかった。 聞いた感じではとても人が走っているとは思えぬほど速く、狼か野犬の足音だと思えばカンタンだった。 しかしそれよりも先に山の中から聞こえてきた甲高い声のような奇妙な音の所為で、彼らの頭の中に不気味な想像が蠢いていた。 ◆ ツン、と鼻にくる血の匂いが鬱陶しい… 山小屋に入った霊夢がまず最初に思ったことはそれであった。 僅かに開いていたドアから中に入りまず最初に感じたのは、血の匂いであった。 レミリアやフランの様な吸血鬼とか悪魔なら少しは気分を良くするかも知れないが、博麗霊夢はれっきとした人間である。 血の臭いを嗅いで気分を良くする人間など滅多にいないし、いるとすればかなりの変わり者だ。 残念ながら、変わり者は変わり者でもそれとは別のベクトルを行く霊夢にとって血の臭いは不快な代物である。 ましてや、血なまぐさい事なら霊夢より遠い存在である魔理沙にとっては尚更であった。 「ま、こんな死体を見て目の前で吐かれるよりマシ。…か」 霊夢は小屋の外で待っている魔理沙を思い出しながら呟き、足下の゛死体゛へと目を向ける。 大きな暖炉とテーブルが置かれたその部屋に、血の匂いを発する元凶である一人の死体が転がっていた。 麓に住む村人であろうかその服装は質素ではあるが丈夫な作りをしている。 逞しい体つきと手に持っている大鉈を見ればすぐに男だと判別できるが、どんな顔をしているかまでは分からなかった。 何故ならその死体は、丁度下顎から上が『切断されたように無くなっている』のだから。 まるで専用の器具スライスされたように断面がハッキリと見え、下手な人体模型よりもリアルであった。 血はもう流れてはいないが、その代わり頭を中心にして赤い水たまりが出来ている。 「アタシも何回か幻想郷で惨い死体を見たことはあるけど…こんなのは初めてね」 霊夢は一度に大量の毛虫を踏みつぶしてしまったような表情を浮かべ、死体を見つめていた。 妖怪退治と異変解決のプロである博麗の巫女である霊夢にとっても、こんな死体をお目に掛けるのは初めてであった。 頭の上半分が切断されていたところ以外の外傷はなく、無論囓られた後もない。 恐らくこの男は、『食べられるために殺された』のではなくただ『殺されるために殺された』のだろう。 魔法学院で感じたあの気配の持ち主が、魔理沙と戦った怪物であるならば…。 最初こそは上の部分だけ食べられたのだと思っていたが、すぐに前言撤回をすることとなった。 何故なら部屋の中央に置かれた大きなテーブルの真下に、もう半分が転がっていたのだから。 「全く、どうせ置くならもっと目立つところに置きなさいよ」 一人愚痴をもらした霊夢は、これからの事をもう考え始めた。 この死体の男性の事を思えば少し可哀想ではあるが、仇(だと思う)怪物は魔理沙が倒したと(思うから)問題はない。 「まぁとりあえず近くの村の人にでも教えて、埋めてもらった方が良いわね」 流石にこういう事に慣れてはいるのか、余りにも早く考えるのを終えた。 そんでもっていざ魔理沙の待つ外へ出ようとしたとき… 「 見 っ つ け た わ よ ぉ ぉ ぉ ぉ ! 」 …聞き慣れた少女の声が霊夢の耳に突き刺さった。 ただその聞き慣れた声は魔理沙の物ではなく、時間にしてみればつい一月前に知り合った者の声であった。 しかし、その声の持ち主が本物であれば幾つか疑問が浮かび上がってきた。 どうしてその持ち主がここにいるのか、どのような手段でここまで来たのか。 そんな疑問が次から次へと湧いてきたが、それを一つ一つ時間を掛けて解決するほど霊夢は暇でなかった。 「ホント、厄介事は向こうからやってくるモノね」 霊夢は頭を掻きむしりながらどう対応したら良いか考えつつ、ドアの方へと向かってゆっくりと歩き出す。 半開きになったドアの向こうから、魔理沙の慌てた声と少女―ルイズの怒鳴り声が聞こえてきた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 「誰も名乗り上げないのなら、私が動かしてみても良いんだろ?」 コルベールの失言(?)によって沈黙しようとしていた教室に、魔理沙の声が響いた。 物怖じせずハッキリとしたその言い方には、好奇心という名の香辛料が多目に入っている。 その香辛料は困ったことに一部の人間に対しては非常に厄介な代物で、一度嗅げば虜になってしまう。 魔理沙もまたその香辛料の魅惑に夢中な種の人間であり、コルベールもまたその種の人間であった。 一方の生徒達は、重く冷たい沈黙を薄い紙切れのように容易く千切った突然の干渉者に呆然としていた。 ある者は声の主に目を丸くし、またある者はその姿を見て頬を赤らめている。 ◆ 魔理沙が食堂で゛ルイズの命を助けた恩人゛として学院長に紹介されてから、五日が経つ。 それからというものの、魔理沙は給士や魔法学院の生徒達に話し掛けられた。 娯楽の塊とも言える街から遠く離れ、限られた娯楽しかない此所では彼女のような人間が非常に珍しいのだ。 魔理沙の方も満更でもなかったようで、色んな人間と話を交えてきた。 故郷の話やどうやってルイズと出会ったか、どんな所を旅してきたのかと色々と聞かれていた。 その様な質問に対して魔理沙は面白可笑しく、幻想郷での実体験を巧妙に混ぜた嘘九割と事実一割の体験談を話していた。 時折違和感を感じてしまう話もあったが、話を聞いている方はまぁ気のせいかと思いつつも聞いていた。 無論誰もが好意を持って接して来たわけではなく、一部の者たちからは嫌悪の目で見られている。 それでも何人かは魔理沙にちょっとした興味を持ち、この教室に来る前も女子生徒の何人かが彼女に挨拶をしていた。 紅白とは全く違い、人を好み人に好かれる白黒はルイズを中心にしていつの間にか、人の輪を広げていたのである。 ◆ 「……何だ?もしかして今は喋っちゃダメだったのか?」 「あっ…いえ、別にそういうワケでは…というより、先程の言葉は…」 自分が口を開いても沈黙を保っている事に魔理沙は気まずそうで、どこか笑っているような表情を浮かべながら言った。 その言葉にコルベールがハッとした表情を浮かべると魔理沙が言っていた言葉を思い出し、僅かながら微笑む。 魔理沙もそれに答えるかのように満面の笑みを浮かべると、今まで頭に被っていた黒い帽子をとった。 「あぁ、ちょいと先生の作ったソレが気になるからな。誰も動かす気が無いのなら私が動かしたいなーと思ってね」 まるで陽の光とも呼べる程に輝く麦畑の如き金髪がサラサラと揺れ、窓から漏れる光に反射して煌びやかに輝く。 それと魔理沙本人のニヒルな雰囲気が若干僅かに漂う笑顔が、とても似合っている。 頭を後ろに向けてそれを見ていた生徒達の一部が、ほぅ…と溜め息をついた。 その時、教室の一角からガタンッ!と激しい物音が教室にいる者達の耳に聞こえた。 一体何かと思い、魔理沙やコルベールを含めた何人かがそちらの方へ視線を移すと… そこにいたのは、ムッとした表情を浮かべたルイズか席を立っていた。 鳶色の瞳はキッと、笑みを浮かべた魔理沙の方を睨み付けている。 「おぉルイズか。どうした、トイレにでも行きたいのか?」 相手がルイズだということもあってか、魔理沙はそんなルイズの態度に臆することなく手を軽く振って言った。 その言葉を聞いて何が面白かったのだろうか、生徒達の間からクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。 しかしその瞬間、魔理沙の方に向いていたルイズの視線が笑い声の聞こえた方へ素早く向くと、それが一気に止んだ。 笑い声が聞こえなくなった事を確認し、席を立ったルイズはズカズカと魔理沙の方へ向かって歩き出した。 「おいおいなんだよ…私に何か話でもあるのか」 「えぇそうよ。アンタが忘れてる大事なことを思い出させるために一度教室を出ましょう」 はっきりと怒気を含ませながらも、それでいて穏やかな喋り方に魔理沙は嫌な気配を感じた。 それは教師でもあるコルベールも感じ取ったのか、「教室を出る」と言ったルイズを制止しようとする。 「ま、待ちなさいミス・ヴァリエール。今はまだ授業の途中ですし、それにミス・マリサが私の装置を…」 「そうだぜ?あんな面白そうなものが目の前にあるのに動かさないというのは……って、イタタタタタァッ!」 「いいからっ!…さっさとついて来なさい!」 何か言おうとした魔理沙の耳を引っ掴み、ルイズは彼女を連れてズカズカと教室を出て行った。 バタン!とかなり強い音を立ててドアが閉まった後、教室にいた者達は何も言えずにいた。 「…霧雨のち落雷」 今まで目を離さず教科書を読むのに没頭していたタバサがポツリ、と呟いた。 ◆ ヴェストリの広場に、緩く冷たい風が吹いている。 その風は芝生を揺らして小さな大地の波打ちを作り、それに続いてサラサラと小さな音が聞こえてくる。 さながらそれは、緩やかな波打ち際で行われる小さなコンサートである。 楽器はないが姿無き奏者達は音を作り、その音に相応しい小さな波は生命の青ではなく大地の緑。 そして何よりも、このコンサートのメインは゛一人の少女゛であった。 少女といっても名のある家が出身の、貴族令嬢ではない。 その少女は周囲の風景とは相性の悪い白と黒を基調としたドレスを着ていた。 しかもそれは淑女が着るような華やかなモノではなく、それ等の人種を奉仕するための者達が着るドレスだ。 黒髪の頭につけた白いヘッドドレスも質素だが、通常の市場などでは割と高めのものである。 履いているロングブーツも踊りに適したそれではなく、作業用のものだ。 こうして一見すれば、踊り場で仕事をする踊り子ではなく、観客席でトレイを持って仕事をする給士だ。 しかし彼女は美少女として相応しい゛体゛を持っていた。 傷一つ無いとは言えないが、白い肌は珠のように輝きツヤを持っていた。 僅か笑みを浮かべている村娘特有の素朴な顔つきは、名家出身の貴族令嬢とはまた違う素晴らしさがある。 そして長めのボブカットにした黒髪と同じ色の瞳の奥に映るのは、自身の両手で掲げた大事な大事な゛思い出゛だ。 自分たちと一緒に暮らし― 喜怒哀楽を分かち合って食卓を共にし―――― 横に並んで畑を耕し、井戸から湧く冷たい水をのんで―― 自分たちの知らない不思議なことを沢山教えてくれて――死んでいった家族がくれた、大事なプレゼント。 「……お爺ちゃん」 少女――シエスタはポツリと呟いた後、その顔からフッと笑みが消えた。 代わりに浮かんできたのはにわか雨のような、悲しみの表情。 まるでもう存在しない故郷を思うかのような、抗いようがない不可視の感情。 そんな時、ここにいないと思っていた者の何気無い一声が、その悲しみを打ち消した。 「…初めて見るわね。アンタのそんな表情」 「えっ?」 まるで人の心境など全く理解していないような感情の篭もっていない声。 その声に酷く聞き覚えのあるシエスタは、声のした方へと振り向いた。 案の定そこにいたのは、少し離れたところで横になっていたルイズの使い魔、霊夢であった。 「……あ、レイムさん」 まさかまさかの予期せぬ人物の登場に、シエスタは呆気にとられた表情を浮かべてしまう。 霊夢はそれに左手を軽く振って答え、よっこらしょと立ち上がるとシエスタの方へと近寄った。 一方のシエスタは、何でここに彼女がいるのかイマイチわからず、その疑問を口に出す。 「なんでレイムさんがこんなところに?ミス・ヴァリエールと一緒に授業では…」 「あぁ、それなら黒白の居候さんがついていったわ。私はああいうのに興味ないしね」 シエスタの傍にやってきた霊夢はそう言うとふぁ~と大きな欠伸をかまし、空を見上げた。 霊夢の動きにつられたのか、シエスタも空を見上げてしまう。 二人して青空を眺めて数秒、ふと霊夢が口を開いた。 「布…」 「え?布がどうしたんですか」 「あんたの手に持ってるその布…随分と素敵な思い出らしいわね」 そこまで言われたシエスタは先程の様子が見られた事に気づき、顔を赤くした。 未だ手に持っているその布をさっとポケットにしまうと、モゴモゴと何か言い始める。 「あ…あの、これは…」 「いいわよいいわよ。別に私はアンタの素性は知りたくもないし知ろうとすることもないから」 霊夢が軽い感じでそう言った時、ふと誰かが声を掛けてきた。 「シエスター!何してるのよそんなところで。戻らないと学院のお坊っちゃま達にイヤミを言われるわよー!」 若い、瑞々しい少女の声に霊夢が振り返ると、そこには洗濯籠を抱えた一人の給士がいた。 彼女の持っている籠にはズボンがこんもりと入っている。恐らく男子生徒達の服なのであろう。 「ご、ごめんメアリー!すぐ行くから待ってて!!」 ハッとした表情を浮かべたシエスタはメアリーと呼ばれた給士の言葉に返事をすると急いで足下の洗濯籠を抱えた。 流石給士とも言うべきか、その動きにはあまり無駄が無く、少し洗練された感じが伺える。 洗濯籠を抱えたシエスタは霊夢の方に向き直るとペコリと小さくお辞儀した後、仲間のいる方へと走っていった。 その様子を黙って眺めていた霊夢は小さく溜め息をついた。 「やれやれ…仕事の合間にするほど、大切な事だったのね…」 もはや霊夢の言葉を聞く者はおらず、それは一陣の風に乗って空へと消えていく。 初夏の訪れを感じさせる青空は、いつにも増して綺麗な青色であった。 ◆ ガリア王国宮殿 グラン・トロワ 執務室 カーテンが音を立てて全て下ろされ、明かりの消えた執務室。 その部屋にある大きな回転椅子に一人の男が腰掛け、その横にお供の女が佇み、デスクの上に小さなモノクルを置いた。 一見すれば新品とも思えるモノクルは数秒おいた後、レンズの部分からパッと光が灯った。 光はビーム状から歪に動き始めて形を成して行き、やがて一人の少女と一匹の異形とで別れた。 異形の外見は人の体を基に、昆虫の各部位を繋げたかのようなおぞましい姿をしていた。 対する少女は紅白を基調とした異国情緒漂う服を着こなし、頭には大きな赤いリボンを着けている。 左手には杖と思われる長い棒を持っており、右手には何かの文字が書かれた紙を数枚握っていた。 「よし、再生しろ」 貫禄のある、男の声をスタートにして小さな少女と異形の戦いが始まった。 異形が爪を振り回し、少女は華麗に避けながら右手に持って紙と針で巧みに攻撃している。 一人と一匹を写した立体映像はヌルヌルと動いてはいるものの音声などは一切無く、まるで音楽とセリフが無い演劇のようだ。 お供である女はジッと厳しい眼でその戦いを眺めてはいるが、男はそれとは真逆に喜びで満ちあふれた表情を浮かべている。 まるで楽しみにしていた週末の人形活劇を観に行くかのような、何処か子供らしさが含まれたものがあった。 数分後… 少女と異形の戦いは、体を粉砕されても尚抵抗しようとした異形が少女に残った頭を破壊されたことで終了した。 そこでこのモノクルに収められた映像は終わりなのか、小さな少女の体が不自然に止まる。 やがて一人の少女と粉々になった異形は再び歪に動き始め、やがて一つの光となってモノクルのレンズに戻っていった。 お供の女がモノクルを素早く回収するとパチン、と勢いよく指を鳴らし、カーテンを上げさせた。 「アレを難なく倒すとは…やはり余が目を付けただけのことはある!」 カーテンが上げられ陽の光が部屋に入ってくると、男――ジョゼフは゛戦いの記録゛を映した映像の感想を述べた。 お供の女性――シェフィールドは男の言葉を聞いてその顔にうっすらと笑みを浮かべた。 「お褒めのお言葉を頂き、誠に感謝致しますわ。ジョゼフ様」 「よいよい!余とて長い長いゲームの合間にこのようなミニゲームが欲しかったところだしな」 ジョゼフは手を振ってそう答えるとおもむろにデスクの引き出しを開き、中から一体の人形を取り出した。 それは木から作られた精巧な人形で、人間の形を模している。 間接も人間と同じような作りをしており、ある程度難しいポーズを取らせることも可能だ。 最近ではこのような人形をリュティスの市民達はモデルドールと呼び、時折絵のモデル代わりに使っているらしい。 だがこの人形はモデルドールの形をしているものの本物のモデルドールではなく、どの人形よりも厄介な人形であった。 ジョゼフが手に取った人形は古の時代に作られ、今も尚作り続けられている代物。 人の血を元にしてその人へと姿を変え、あまつさえ性格や能力さえも寸分違わず写す人形。 その人形は人々からこう呼ばれ続けている。「スキルニル」と――― 「一つ聞くぞ、余のミューズよ。サン・マロンで行われている゛複製実験゛――どの段階にまで達している?」 スキルニルを手に持ったジョゼフの笑顔は、先程とは打って変わって不敵なものとなった。 その言葉を聞いたシェフィールドの顔から瞬時に笑みが消え、真剣なものへと変貌する。 「はい。今現在は索敵能力を備えつけているとの事ですが…そこで問題が発生しているようです」 シェフィールドは喋りながらもデスクに置かれていた一枚の書類を手に取り、それをジョゼフに手渡した。 ジョゼフはそれを流し読みしつつ、シェフィールドの言葉にしっかりと耳を傾けている。 「学者達によれば元の人格による影響とも言われており。各個体の感情抑制に着手しているとのこと。 このまま研究が進んで次のステップである試験的な実戦投入は…恐らく来年の春頃になるかと」 シェフィールドの報告を聞いたジョゼフは髪と同じ色をした顎髭をさすりながら口を開く。 「下級貴族共に配る給付金を下げて…各地域の税を上げて予算と人員を今の二倍上げてやろう。「降臨祭」までに完成させる為にもな」 ジョゼフの口から出た言葉は、聞く者が聞いたら口から泡を吹き出すものであった。 幸いにも、シェフィールドはその手の人種ではなく、むしろそんな事など気にもしていないと言いたげな表情を浮かべている。 何も言ってこないシェフィールドを見て、ジョゼフの口元が緩んだ。 「そうですか。…では、私はこれからアルビオンの方へと戻って゛親善訪問゛の準備に入ります」 「頼んだぞ余のミューズよ。…これから先の展開でこのゲーム、最高の余興となるであろう」 ジョゼフの顔に浮かんだ笑みはとても子供らしく、大国の王とはとても思えぬほど無垢なものだ。 だがその笑顔は、彼の前にいるシェフィールドを含めた女達には人気があった。 「我が主の為ならこのシェフィールド。此度の余興を最高の物に仕上げましょう」 恭しく頭を下げたシェフィールドを見てニコニコとしながら、ジョゼフは再読地を開く。 「…それと、我が姪に伝えておけ。「これからも目標の監視を続行せよ」…とな」 「了解致しました。ではこれにて…」 シェフィールドは最後にもう一度頭を下げた後、執務室を後にした。 それを見届けたジョゼフは、片手に持っていた書類をパッと天井に放った。 彼の手から離れた書類は見えない空気の波に乗るかのようにヒラヒラと空中でゆれ、やがて接客用のソファの上に着地した。 だが書類にはもう目もくれていないのか、ジョゼフは「さてと」と呟いてドカッと音を立てて椅子に座った。 後に残ったのはジョゼフただ一人、今の執務室にはその他に誰もいない。 だが彼…ジョゼフにとっては゛他人゛という存在はあまり好ましい存在ではなかった。 幼い頃から途方もない疎外感に苛まれた彼は、孤独という物に慣れすぎていたのである。 ゛孤独゛という概念に慣れすぎた人間は、取り返しの付かないくらいに他人という存在に過剰な反応を見せてしまう。 ある者は長年の孤独に耐えきれず、寄ってきた他人に依存し、またある者はすれ違っただけで睨まれた!…と錯覚する。 そしてある者は、他人という存在を゛自分が生きていくうえで必要な駒゛と見下す。正にこの男がそうであった。 「余にとって…他人とは暇つぶしの相手に過ぎん」 ジョゼフは手に持ったスキルニルの間接の節々を弄くりながら、呟く。 弄くられるたびに間接がカチャカチャと小刻みに音を立てる。 「子供の頃に遊んだ着せ替え人形や積み木、絵本と同じだ。何の感情も湧かん」 スキルニルを弄くっていた手がピタリと動きを止め、スキルニルがデスクの上に置かれる。 そして背後の大きな観音開きの窓から見える青空を見上げた。 「しかし…そんな存在である゛他人゛の貴様が、何故オレと同じ眼の色をしているんだ?――ハクレイの巫女よ」 そう呟いたジョゼフの瞳には、喜びの色が垣間見えた。 まるで見たこと聞いたこともない玩具を手に取ったかのような、そんな色をしていた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん トリステイン魔法学院の女子寮塔にあるルイズの部屋―― 今日は珍しくも、午前から来客者がいた。部屋の主が不在にもかかわらず。 「…久しぶりに顔を合わせた、って言ったほうがいいのかしら?」 部屋の主の使い魔である霊夢の言葉に、来客者であるタバサはコクリとうなずく。 それを見た霊夢は、相変わらず口数の少ないやつだと心の中で呟いた。 以前春のフーケ騒ぎで助けてもらったこともあるが、それを差し置いて少しだけ不気味に感じていた。 まるで人形のように色を浮かべぬ表情に、ボー…っと宙でもみているかのような虚ろな瞳。 普通の人間ならばまず、彼女に対して距離を置こうとするだろう。 それほどまでにタバサの体から出ている雰囲気は異様なほど不気味なものであった。 しかし、霊夢だけはまた違った気配をタバサの体から感じ取っていた。 (何かしらこれ…他人が距離を置こうとするから自分もそうしようって感じがするわ…) 霊夢が何も言わずまたタバサも無言のままでいると、インテリジェンスソードのデルフが二人の傍にいる魔理沙に話しかけてきた。 『マリサ、あの二人何であんなに黙りこくってるんだ?』 「さぁ?私には見当つかないぜ」 デルフの言葉に、魔理沙はただ肩をすくめる事しかできなかった。 タバサが部屋に入ってきてからすでに一分近くたっており、お互い睨み合ったままだ。 もっとも。『睨み合っている』というより『見つめ合っている』という表現がお似合いだろう。 まるで蛇と蛙が広い原っぱで偶然にも顔を合わせてしまったときのように、両者動けずにいた。 しかしその『見つめ合い』は、魔理沙という第三者の視線が入ることによって終わった。 ふと横からの視線と声に、霊夢はハッとした表情を浮かべると魔理沙の方へ顔を向けた。 「…ん、どうしたのよ魔理沙?私の顔に何かついてるの」 「え?いや、別に…ただ、ちょっとお前の様子がおかしかったからな…」 突然霊夢に声をかけられた魔理沙は若干驚きながらも、そう言葉を返した。 霊夢はそれに対してふ~んとだけ呟いて肩をすくめると、魔理沙に話しかけた。 「で、話の続きに戻るけど…タバサがアタシ達を学院に帰してくれたのよね?」 霊夢が何を知りたがっているのかわかっている魔理沙は「そうだぜ」と返し、事の詳細を話し始めた。 ◆ 時間は遡り、魔理沙の一撃でキメラを葬ってから数十分後の出来事―――― あの後、近くの草むらから自分の杖を見つけたルイズは眠っている霊夢の傍に腰を下ろしている。 魔理沙の方はというとようやく一段落ついたのかルイズ達から少し離れたところで地べたに座り、空を見つめていた。 幾つもの星が見えつつある空と共に暗くなっていく森の中。 辺りに注意しながらも、毒で倒れた霊夢の様子を見ていたルイズが、魔理沙に話しかけてきた。 「ねぇ、魔理沙…」 「お?……どうしたんだよルイズ、なんか顔色がわるいぜ?」 ミニ八卦炉を持って地べたに座っていた魔理沙はルイズの方へ顔を向ける。 魔理沙の言葉どおり、ルイズの顔は真っ青に染まっていた。 まるで家の戸締まりを忘れたまま外へ出て、後になってからそれに気づいたときのような表情であった。 一体何事かと思いすぐさま魔理沙が傍に寄ると、ルイズかこんな質問をしてきた。 「私、ちょっと思ったんだけどね?…ここから学院まで、どうやって帰れば良いのかしら?」 「はぁ?」 予想もしていなかった質問の内容に、魔理沙は目を丸くする。 「何言ってんだよルイズ。心配しなくても、私の箒はこの上にあるからそれに跨って帰ればいいだろう」 そう言って魔理沙は、自分たちが滑り落ちてきた傾斜面を指さした。 斜面を上った先には山道があり、そこにキメラの不意打ちで落とした魔理沙の箒とデルフがある。 幸い斜面自体も緩やかだし、多少服が汚れるかもしれないが登れないこともない。 一体何を心配する必要があるんだ?そう言おうとしたとき、魔理沙の言葉を予知したかのようにルイズが言った。 「そりゃ私はあんたと一緒に箒を使えばいいけど……―霊夢はどうするのよ」 「――――あ」 その言葉を聞き、魔理沙はハッとした表情を浮かべた倒れている霊夢の方へ目を向ける。 数時間前、倒したと思っていたキメラからの不意打ちを受けた霊夢の体には毒が残っていた。 今は大分マシになったのか呼吸はそれ程荒くもなく、スースーと眠っている。 そんな彼女を起こして飛ばそうとするのは、危険かもしれないとルイズは判断していた。 「参ったな…霊夢の事だから大丈夫かと思っていたんだが」 「大丈夫じゃないでしょう!大丈夫じゃ!」 霊夢の事をよく知っているであろう魔理沙の発言に、ルイズはすかさず突っ込みを入れた。 その後、二人はどうしようかと暗くなっていく森の中で考えたが一向に良い案は思い浮かばない。 太陽は時間の経過とともにどんどん沈み、刻一刻と夜が迫ってきていた。 遠くの山からは狼のものであろう遠吠えも聞こえ始めてきた頃―――予期せぬ助け舟がやって来た。 「ねぇ…何か聞こえない?」 最初に気づいたのは、魔理沙よりも緊張していたルイズであった。 彼女の言葉に何かと思った魔理沙が耳を傾けてみると、それは確かに聞こえてきた。 ―――ッサ… ―……ッサ 「…何だ?…確かに聞こえてくるな」 それは最初、小さすぎて何の音なのかルイズと魔理沙にはまったくわからなかった。 しかし音の正体はこちらに近づいてくるのか、だんだんと大きくなっていく。 ――バッサ…バッサ… 音を聞くことに集中していた二人は、その音が何の音なのかわかってきた。 「ん、こりゃアレか?何かが羽ばたく音だぜ。コウモリみたいにこう…バッサバッサって」 魔理沙はそういって両手を横に広げてパタパタと軽く振り、羽ばたく動作をしてみせた。 それを見たルイズはこんな危機的状況の中で何をしてるのかと思いつつ、言葉を返そうとした。 「羽ばたく音ですって?それだと大きすぎるんじゃ――あ!」 しかし、言い終える前に気がついた。この「羽ばたく音」の正体か何なのか。 それに気がついたルイズは思わず大声を上げてしまい、近くにいる魔理沙が驚いた。 「うわっ!びっくりした…何だよいきなり」 体を小さくのけぞらした魔理沙がそうい言うと、ルイズは体を震わせながらしゃべり始める。 こころなしかその声も大きく震えており、先ほどよりも不安感が募っていた。 「やばいわ…」 「?…やばいって…何がやばいんだよ」 「私、この音が何なのか知ってるわ」 「マジで?じゃあ何の音なのか教えてくれよ」 魔理沙の促しにルイズは冷や汗を流しながら、それに答えた。 「ドラゴンの羽音よ…」 「どらごん?」 ルイズの口から出た思わぬ答えに、魔理沙はキョトンとした。 「ドラゴン…っていうと、あの羽が生えた馬鹿でかいトカゲの事だろ?」 魔理沙は、ここハルケギニアに来てから図鑑(文字は読めない)や学院いる生徒たちの使い魔としてドラゴンを何度か見ているのである。 最初見たときは驚いていたがすぐにおとなしいとわかり、今ではそれを良いことに近くまで寄って観察なんかをしていた。 「えぇそうよ…こんなに大きい羽音を出すのはそれくらいしかいないもの」 まず最初にそう言ってから、ルイズはこんな事を話し出した。 「ドラゴンは基本肉食よ。普段獲物を襲うときは勢いをつけながらも高度を下げて、獲物を鋭い口の牙を咥え込むの…」 こうグワッと!と言いつつルイズは左手を空から襲い掛かってくる竜の頭に、右手を地上にいる獲物として見立てた。 魔理沙はそれに適当な相槌を打ちつつも、時折暗くなっていく空を見つめて警戒している。 「で、今から話すのは森林地帯を餌場にしているドラゴンなんかが行う飛び方の一つについてなんだけどね…」 ルイズはそこでいったん区切ると、一呼吸置いて説明を再開した。 「空から獲物を見つけてもすぐには突っ込まないのよ。突っ込んだら大木ひしめく森林に突っ込むわけだから」 「なぁルイズ、ちょっと…いいかな?」 ふと何かに気づいた魔理沙が呼びかけるも、説明するのに夢中なルイズは尚も続ける。 先ほど聞こえてきた羽音は、かなり大きくなっていた。 「だからね、獲物を見つけたらゆっくりと高度を下げていくのよ…丁度船に積んだ風石の量を減らしていくように」 「おーい、ちょっと…聞こえてる?」 魔理沙は尚も呼びかけるのだが、完全にスイッチが入った彼女を止めることは出来ない。 やがて羽音は当たり一帯に響き始めるとともに、上のほうからバキボキと枝が折れる音も聞こえてきた。 「そして獲物が動きを止めた瞬間、すぐ近くに着地して―「うわっ!!出たぁ!」―――え?」 言い終える前に突如耳に入ってきた魔理沙の叫び声で我に返ったルイズは、後ろを振り返る。 その瞬間、木々の間を縫うようにして何かがこちらにやってきた。 そこにいたのは――青い皮膚を持つ大きなトカゲ…かと一瞬だけ思った。 しかしトカゲにしてはどこかおかしいとすぐに感じる。 何故なら、あれほど大きく成長するトカゲなどトリステインには生息しないし、第一手足が長すぎるのだ。 ほかの動物で例えれば、犬くらいの長さだと思ってくれればいいだろう。 これは、高山や渓谷で巣作りと繁殖を行う一部の幻獣に見られる身体的特徴だ。 そして何よりも特徴的なのは、背中に生えた一対の大きな羽。 コウモリのように薄い皮膜で覆われたそれは、森の中ではコンパクトに折りたたまれている。 頭部事態はトカゲと似ており、頭には一対の小さな角が生えている。 そして口の隙間から―――ありとあらゆるものを噛み、裂き、砕くことが出来るであろう鋭利な歯が見えていた。 そして、これらの特徴がすべて当てはまる幻獣は一種だけであろう。 この世界では天災の一つとして恐れられ、戦争となれば歩兵千人分もの力となる幻獣――風竜だ。 「――――………………ッキャアァアァアァァァァアアアァァ!!」 魔理沙より数秒送れて何が現れたのか理解したルイズは、大きな悲鳴を上げた。 それと同時に青い風竜も長い手足を器用に動かして前進し、ルイズたちに詰め寄ってくる。 ドスンドスンと足音を立てて進むその姿は、まさに怪獣そのものだ。 「くそっ、霊夢を連れて下がってろ!」 魔理沙は急いでニ八卦炉を目の前の風竜に向けると、ルイズ指示をとばして魔力を八卦炉に込め始める。 先ほどのキメラとは違い殺す気がないので、威嚇射撃として放とうとした。 風竜も何かくると感じたのか、その場でぴたりと足を止めた。 まさにこの状況は一触即発。どちらが先に動いても、戦いは免れないかもしれない。 だがそんな時、風竜の背中から少女の声が聞こえてきた。 「どうしたの。こんな森の中で…」 抑揚はないがしっかりとした発言ができる少女の声に、二人は目を丸くした。 「えっうそ…人…ということは」 魔理沙の驚いた声に、ルイズは今になって気がついた―この風竜に見覚えがあることに。 「あんた…まさか…シルフィード?」 その言葉に風竜――シルフィードが「きゅい」っと鳴くと、声の主が誰なのかもわかった。 ルイズより低い身長に、身の丈より大きい端くれだった杖。 赤縁メガネに蒼い瞳にそと同じ色のショートヘアー。 ルイズと魔理沙…そしてその時は眠っていた霊夢も知っていた。彼女が誰なのかを。 ◆ 「…つまり、山で秘薬の材料を取っていたタバサと一緒に帰ってきた。というワケね」 そこまで話を聞いた霊夢の言葉に、魔理沙は「そうそう!」と相槌をうちながらタバサの肩を叩いた。 まるで付き合いの長い友人のように肩を叩かれているタバサはというと、相変わらずの無表情である。 「タバサとシルフィードのおかげで暗い森の中を歩かずに済んだし命―ってほどでもない…がまぁ、恩人は恩人だよ」 「うん…まぁ、確かに恩人と言えばそう言えるわ。まぁ有難うと言っておくわ」 一部自分の言葉を訂正しつつ、魔理沙はまるで自分のことのようにタバサを褒め称える。 霊夢はそんな二人の温度差に生ぬるい視線を浴びせつつ、タバサに歯切れの悪い賛辞を呈した。 そして三人(正確には二人)が暫し無言でいると、我慢できないといわんばかりに霊夢が喋った。 「で、話は変わるけど…何の用事でココにきたのかしら?部屋の主は今留守にしてるんだけど…」 やや直球な彼女の質問に、タバサは思い出したかのようにポンと手を叩き、ゴソゴソと懐を探り始める。 そしてすぐに、テーブルに置いてあるティーカップほどの大きさがある濃い緑色の土瓶を霊夢に差し出した。 霊夢はその瓶を見て怪訝な表情を浮かべ、タバサに質問をすることにした。 「…?何よコレ」 「体に良いお茶…どうぞ」 簡潔すぎる問いの答えを聞いて、霊夢は渋々と手のひらを前に差し出す。 タバサはその手に持っていた瓶を霊夢の手のひらに置くと、霊夢と魔理沙に向けてこう言った。 「…どうぞ、お大事に」 あまり感情のこもっていない声でそう言うと、ペコリと頭を下げて踵を返して廊下の方へと出ていった。 カツコツと廊下の床に響くローファーの靴音が聞こえてくると、部屋にいた魔理沙は上半身だけを廊下に出してタバサに手を振った。 「また何かあったらいつでも来ていいぜー!なくても来ていいんだぜー!」 廊下中に響く魔理沙の大声にタバサは振り向くことも手を振ることもなく、ただその背中を向けて踊り場の方へと歩いて行った。 魔理沙には見えない、小さ過ぎる彼女にはあまりにも似合わない゛何か゛がある背中を。 「風のようにやってきて、風のように去ったわね」 タバサに手を振っている魔理沙の背中を見つめながら、霊夢はポツリと呟く。 あまりにも早すぎる珍しい来客者のお帰りに、霊夢は半ば呆然としていた。 もしかして先ほどの事はすべて幻なのかと思ってしまうが、それは無いなと心の中で否定する。 彼女の体から感じた気配は今もハッキリと覚えているし、浮かべていた表情もすぐに思い出すことができる。 そしてこの部屋に先ほどまでいた来客者の背中に手をふる同居人の姿と――掌の上にある茶葉が入った土瓶。 これらの証拠がある限り、タバサという少女がこの部屋訪れたという真実は絶対に揺るぎはしない。 「最初会ったときは気にしてなかったけど、今見るとスゴイ変わってたわね。アイツ…」 霊夢は無表情なタバサの顔を思い出して呟くとその顔に笑みを浮かべ、土瓶をテーブルの上に置いた。 コトン、という…鈍いながらもしっかりとした音が、主の居ない部屋の中に響く。 「さてと…健康になるのはいいことだし、さっそく試してみようかしら?」 これから体験するであろう未知なる味を想像しながら、霊夢は椅子に座った。 彼女は知らなかった。中に入っている茶葉の原料である植物がどんなものなのかを。 それをお茶にして飲むことはおろか、生で食べる人すら少ないといわれるシロモノだということを…。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 太陽が沈み、赤い月と青い月が空高く昇り始める時間帯。 朝と昼は活気で溢れていたブルドンネ街は驚くほど静かになっていた。 明るい時間を好んで外を出歩く人達に向いている店などは戸締まりをし、従業員たちは自宅へと帰っている。 街の住民たちもそれぞれの寝床へと足を進め、大通りから段々と人の姿が消えていく。 まるでこれからやってくる夜に恐れおののくかのように。 一方で、夜と共にやってくる闇を打ち払うかのようにチクトンネ街は活気に溢れている。 チクトンネ街は酒場やカジノ、ダンスクラブなど夜型の人間が客の大多数を含む店が密集しているのだ。 その為か朝や昼よりも夜中の方が活気があり、それは朝が来るまで終わりを見せてくれない。 古き伝統を持つトリステイン王国の首都は、朝の街と夜の街がある。 そして夜の街には、朝の街で決して戸を開きはしない店が無数にあるのだ。 ◆ 今日も今日とて、チクトンネ街には華やかな雰囲気と喧騒が漂っていた。 仕事帰りの男達はその足で通りにある色んな酒場へと入り、今日の疲れを癒す。 またある者は一攫千金を狙おうと小さな賭博場へと赴き、自らの財産をすり減らしている。 その他にも観光者や浮浪者、警邏中の衛士などでチクトンネ街の通りは人で溢れかえっていた。 一方、殆どの建物の裏口などがある路地裏にはあまり人がいないが当然といえば当然であろう。 わざわざ不穏な空気が漂う路地裏など好んで歩くなんて犯罪者か強盗まがいの浮浪者だけである。 そんな連中とは関わりたくない、または出くわしたくない者達は進んでここへ入ろうとはしないであろう。 しかし今夜に限って、路地裏には綺麗ながらも棘のある二人の美女が路地裏を歩いていた。 彼女らは夏向けの薄い生地で出来たフードを被っており、顔もハッキリとはわからない。 しかし近くから見れば、そのフードの下に隠れている顔がとても美しいものだとすぐにわかる。 【貧しき者に数枚の金貨を】という言葉が書かれた看板を首からぶら下げた浮浪者やチンピラらしき男達がその二人を見て溜め息をつく。 その目には下卑た色があからさまに浮かんでおり、頭の中で何を考えているのか一目でわかる。 だが彼女らはそんな視線を無視しつつも体からとてつもない威圧感を放ちながら、ある場所を目指して足を進める。 もう辺りはすっかり暗くなっており、街灯の明かりも何処か頼りない物へと変わっていく。 大通りの喧騒も路地裏ではほんのわずかしか聞こえず、常人ならば既に心が恐怖一色に染まっているであろう。 辺りから漂う臭いも異臭から悪臭へと変化している。 「ここまで来たことはないが、どう見ても良識ある人間の住む場所じゃないな…」 二人いる美女の内一人がそう呟きつつ、フードをゆっくりと引き下ろした。 フードの下に隠れていたのは眩しい金髪を持つアニエスであった。 「確かに。…まるで街に存在する全ての影が光を逃れて寄ってきたかのような所だ」 アニエスの言葉に対しそんな言葉を返しながらも、もう一人もフードを引き下ろす。 その下に隠れていたのはアニエスの同僚で、サファイアのような綺麗な青い髪をもつミシェルであった。 今二人がいる場所はチクトンネ街から少し離れた所にある寂れた地区である。 中心部から大分離れにあるこのゴーストタウンでの明かりは、空から届く月明かりだけだ。 その月明かりも、夕方頃から風に乗ってやってきた黒い雲に遮られている。 よって明かりはなく、流石のアニエスとミシェルもその暗闇に対して多少のとまどいを見せた。 しかしそこは衛士隊の者。闇に紛れて逃げる犯人を正確に見定める程の目を持っている。 ここに来るまである程度目が暗闇に慣れていたので、とまどいはすぐになくなった。 「さてと、来たのは良いが…隊長は何処にいるんだろうな」 辺りを警戒しつつ呟いたアニエスの言葉に、ミシェルはさりげなく返事をする。 「私が知るか。お前なら何か知ってるんじゃないのか?」 「知らんよ。知ってたらカンテラの一つでも持ってきてるさ」 ミシェルの言葉にアニエスはそう返しつつも、つい数時間ほど前の事を思い出した。 ◆ 太陽が昼の二時を示していた時間帯、アニエスは隊長のいる部屋へと訪れた。 同僚に隊長が呼んでいると言われた彼女は何だろうかと思い、ドアを開けて部屋の中へと入る。 しかし、部屋にはいつものようにイスに座って書類や本を読んでいる隊長の姿が、そこにはなかった。 あれ?…と思った矢先。ふと机の上に一枚のメモが置いてあることに気がついた。 何かと思いメモを手に取り、アニエスはメモの内容を素早く頭の中で読み上げた。 ゛ アニエスへ 今日の6時半に、ミシェルと一緒に外へ出ろ そして夜の9時丁度につくよう、この地図の示す場所へ行け ミシェルの以外の者には気づかれるな。もしかしたら良くない事に足を突っ込んでるかもしれん 俺だってお前と同じくらいにこの街を愛している。ただ手段をもっと考えるんだ 相手が公の権力を振るうなら、こっちはそれと正反対の力で対抗するまでのことさ ゛ ◆ そこまで思い出し、アニエスは懐にしまってある懐中時計を取り出す。 取り出した時計を人差し指で軽く突くと、ボゥッ…と時計の針がボンヤリと光った。 「あと五分くらいで…9時丁度だな」 アニエスはミシェルにそう言うと時計をしまい、何気なく辺りを見回した。 人の気配が感じられない此所では、何か不気味なモノを感じてしまいそうで仕方がない。 こんな時、誰かが… ゛見ろ!向こうに見える路地裏から人の形をした四足歩行の黒いナニかが出てくるぞ゛ …と言われたら信じてしまうかも知れない。 それくらいまでに辺りの雰囲気は静まりかえり、逆にその静けさが恐怖を醸し出している。 少し強めの風がビュウビュウと音を鳴らして吹きすさび、その音がまた恐怖を増幅させる役割をつとめている。 二人とも平気を装っているものの、その瞳に僅かながらの緊張の色を滲ませていた。 アニエスは軽く息を吐くとふと空を見上げ、あることに気がついた。 地上ではこんなに風が吹いているというのに… 空を覆う黒い雲は尚も双つの月を覆い隠していた。 まるで雲自体が意志を持っているかのように… ★ 一方、場所は変わり―――トリステイン魔法学院 夕食も終わり、生徒や教師達は少しだけ膨らんだ自身の腹をさすりつつ各々が行くべき場所へと足を進める。 それは行列となり、それはまるで人並みにでかくなった蟻の行進と例えても違和感はないであろう。 大半の者達は自分たちのベッドがある部屋へ向かうが、中には図書館や離れにある掘っ立て小屋へ向かう者もいた。 勿論全体から見ればそれはさしもの少人数、十割の内一割にも満たない。 やがて生徒達は男子と女子に別れてそれぞれの寮塔へと入っていった。 ▼ それから時間が過ぎ、もうすぐ9時半にさしかかろうとしている時間帯。 明日もきっと良いことがありますようにと祈りながら、殆どの生徒達はベッドへと入って目を瞑る。 しかし、中には夜を楽しむ者達もいる。そんな者達は明日のことなどお構いなしにそれぞれの時間を楽しむのだ。 ある者はこっそりと秘蔵のワインを飲み、ある女子生徒は部屋に男子を呼び込んで夜を明かす。 本来規律正しい魔法学院も、夜中になればその規律から解かれる。 それはまるで、物音ひとつ立ててはいけないパーティーだ。 物音立てればすぐにお開き。教師達が鬼の形相でやってきてパーティーを滅茶苦茶にする。 そして生徒たちは長ったらしい説教を聞きながら、反省文を書かなければならないのだ。 夜を楽しむ生徒達はそれを無意識的に自覚しつつも、夜を目一杯楽しんでいた。 一方―――― .ルイズの部屋の明かりは既に消されていた。 元から規律を尊重しているルイズにとって、夜更かしは禁忌に近いものである。 ルイズにとっての夜は、夕食の後に授業で出た課題をこなした後に大浴場で汗を流す。 部屋にもどった後は軽く本を読み、ネグリジェに着替えて消灯。これが彼女の夜の時間なのだ。 そんなルイズの隣で寝ているのは幻想郷からやってきた魔理沙である。 魔理沙は自宅から持ってきたパジャマに着替えており、目を瞑って寝息を立てていた。 一限目の授業からずっとルイズにくっついていた彼女の寝顔は、何処か微笑んでいるような感じがする。 まぁ普通に考えれば『異世界に行ける』なんていうことは、滅多どころか人生を三回ほど繰り返しても無いような出来事である。 きっと魔理沙は一生巡り会えるかどうかわからない異世界への旅行を楽しんでいるのであろう。 そんな風にして二人が大きなベッドが寝ている中、霊夢ひとりだけが寝間着に着替えず起きていた。 明かり一つない暗い部屋の中でイスに座ってボーッと窓の外を眺めている。 いつもなら双つの月と一緒に無数の星が夜空に浮かび、綺麗な光景を見せてくれる。 幻想郷の星空と丁度良い勝負ではないか。霊夢はそう思っている。 しかし今日に限っては曇り空であり、その綺麗な夜空を見せてはくれなかった。 多少残念であるものの、霊夢はそれを表情に出すことなくただ静かに空を見ている。 今彼女の脳内にあるのは今日の空模様についてではなく、もっと別の事であった―― ◆ ――それは、今日の昼前にまで時間は遡る。 「虫退治ってのも、なんだか凄く久々な気がするわね」 後ろで煙を上げて倒れている虫型キメラに背中を向けて、霊夢はひとり呟いた。 数分前、嫌な気配を察知して魔法学院の庭園へと赴いた彼女はこのキメラと戦い、そして勝利した。 一目でクワガタの化け物だとわかるこのキメラは素早く、最初は驚いた霊夢であったがそれは大した障害にならなかった。 結果、戦い始めてものの五分くらいで決着がつき、勝者である紅白巫女はこうして一息ついている。 戦いが終わった直後、キメラに襲われていた男がいつの間にか消えていたが気にすることはなかった。 記憶が正しければ逃げた先は魔法学院の方だったし、運が良ければ警備をしている衛士にでも保護して貰えるだろう。 その男がどんな仕事をしていたのかも知らず、霊夢は大きく深呼吸をした。 小さな庭園の空気は綺麗ではあるが、後ろから肉の焼ける臭いとよく似た異臭が漂ってくる。 霊夢はその臭いに顔を顰めると後ろを振り向き、ゴクリとも動かないキメラをジト目で睨みつつ、舌打ちをする。 その後、虫の化けものを倒したということがあってか霊夢は幻想郷に蟲を操る妖怪がいるのを思い出した。 その妖怪とは以前永夜異変の際に戦った為、容姿や顔、どんな弾幕を放ってきたのかも覚えている。 「アレは蟲を操ってくるうえに弾幕を放ってきたし、コイツよりかは面倒くさかったわね」 生理的に嫌な蟲をこれでもかこれでもかと自慢気な表情でけしかけてきた妖怪に対して、嫌悪感を込めて言った。 無論その妖怪は幻想郷にいるので、霊夢の言葉は独り言となった。 「…さてと、部屋に戻ってお茶でも飲むとしますか」 とりあえず自分がすべき事はした霊夢は、そう言って飛び上がろうとした。その時… ギギ…―――― 「っ!?」 自分の背後から嫌な気配と共にあのキメラの声が耳に入ってきたのだ。 咄嗟にお札を取り出しバッと振り返るが、そこにあるのは物言わぬ死体となったキメラである。 霊夢は辺りを警戒しつつもそのキメラの死体にまで近づき、御幣の先でチョンチョンと頭部を突っついた。 その瞬間、突如シュウシュウと何かが溶けるような音と共に死体から白い煙が上がり始めたのだ。 更に煙と共に嗅いだことのない様な悪臭が出始め、霊夢は鼻と口の辺りを袖で隠して後ろに下がった。 最初の方こそ単に煙と異臭が出ていただけであったが、今度は体の表面から何か白い柔らかそうな物体がブツブツと出てきた。 それを見ていた霊夢は、すぐさまその白い物体が泡だとわかった。 白い泡は体のあちこちから出始め、数十秒経った頃にはキメラの全体を白い泡が包んでいた。 泡の固まりとなってしまったキメラは、ゆっくりとではあるが段々と小さくなっていく。 まるで泡がキメラの体を喰らうかのように… キメラの死体から煙が出てから一分。 たったその一分で、そこに転がっていたキメラの死体はこの地上から姿を消した。 辺りに漂う異臭と地面にへばりついた白い泡だけを残して… 霊夢はそれを最初から最後まで鋭い視線で見届けていた。 きっと今回と似たような事が、近いうち必ず訪れるだろうと思った。 そして、先程感じた嫌な気配があの死体から出ていたのではないと確信しながらも。 その後、夕食の時に何処かの誰かがあの庭園での話をしていた。 何でも、謎の煙が庭園から上がっているのが見えて学院の衛士が何事かと急いで確認しに行ったのだという。 しかしいざ到着してみるとそこには何もなく、霊夢が見た白い泡や異臭などは消えていたらしい。 庭園を調べてみたが被害の形跡は無く、結局は外から来た誰かのイタズラとして処理された………と。 そんな話を偶然にも耳にした霊夢はしかし、それを聞いて安心することは無かった。 ◆ あの時、庭園で感じた気配がどうしても気になってしまった彼女は、こうして今も起きているのだ。 もちろん杞憂に終わればいいのであるが、そうはならないと思っていた。 証拠はない。しかし自分の直感を否定することが出来ないでいる。 「どっちにしろ、何があろうと無かろうと寝不足にはなりそうね…」 霊夢はひとり呟くと、人差し指でトントンとテーブルを叩き始めた。 物音一つしなくなったルイズの部屋に一定のリズムを保つ音が響き始める。 その音を耳に入れつつも、霊夢は何も知らずにベッドで気持ちよさそうに寝ている二人へと視線を向けた。 ルイズと共に授業へ出ていた魔理沙は、早くもこのハルケギニアを楽しんでいるような表情で寝ている。 霊夢自身は、見たことのない魔法や文明相手には大した興味は沸いてこない。 しかし、魔理沙の方は常に自分の力の糧となる知識を求めている事は知っている。 森で新種のキノコが見つかればすぐさま家に帰って研究し、魔法やスペルカードの開発へと入る。 先天的な才能を持っていた霊夢とは違い、彼女は日々の積み重ねと努力で今の自分を作り上げている。 そんな彼女にとって、この世界は生涯に一度だけあるかないかの貴重な体験に違いない。 「人が苦労してるのにあんな気楽そうに寝て…叩き起こしてやろうかしら」 明日への希望が詰まったかのような笑顔を浮かべて寝る普通の魔法使いへ向けて、 紅白の巫女は本気とも取れる感じで呟いた。 その時の霊夢には知ることなど出来なかった。 黒い異形が音もなく、闇に染まった森の中を駆け抜けて魔法学院へやってくることに。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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完全無欠の無重力ダイブ 日向美ビタースイーツ♪ ADVANCED Level 5 BPM 122 Notes 397 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 3 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 4 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 5 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 6 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 7 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 8 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 9 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 10 口③口口 |①--②| ①口③② |--③-| ①口口② |----| 口口口口 |----| 11 口口③口 |①--②| ②③口① |--③-| ②口口① |----| 口口口口 |----| 12 口③口口 |①--②| ①口③② |--③-| ①口口② |----| 口口口口 |----| 13 口口③口 |①--②| ②③口① |--③-| ②口口① |----| 口口口口 |----| 14 口口①① |----| 口口口⑤ |①---| ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 15 口口③口 |--①-| ①④口口 |--②-| ①口⑤口 |--③-| 口②②口 |④-⑤-| 16 口②口口 |--①-| ①③口① |----| 口④口口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 17 ③口①口 |--①-| ④口②口 |②-③-| 口口口口 |④---| 口口口口 |----| 18 ①①口口 |----| ⑤口口口 |①---| ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 19 口口口④ |--①-| 口②②① |--②-| 口口口① |③---| 口③③口 |--④-| 20 ①口口口 |--①-| 口③②口 |----| 口口④口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 21 口口口口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 口③④口 |④---| 口①②口 |----| 22 ①口口口 |①-②-| ②口口口 |③-④-| ③口⑦口 |⑤-⑥-| ④⑤⑥口 |--⑦-| 23 口口口口 |①-②-| 口③②⑥ |③-④-| ⑤①口④ |⑤-⑥-| 口口口口 |----| 24 ①②③④ |①-②-| 口口口⑤ |③-④-| 口⑦口⑥ |⑤-⑥-| 口口口口 |--⑦-| 25 口口口口 |①-②-| ⑥①②⑥ |③-④-| ⑤口③⑤ |⑤---| 口口④口 |⑥---| 26 口④⑤口 |①-②-| 口③⑥口 |③-④-| 口②口口 |⑤-⑥-| 口①口⑦ |--⑦-| 27 口口口口 |①-②-| 口口口口 |③-④-| ④⑤⑥口 |⑤-⑥-| ③②①口 |----| 28 ②口口① |①-②-| ④口⑦③ |③-④-| ⑥口口⑤ |⑤-⑥-| 口口口口 |--⑦-| 29 ④④④④ |①---| ③③③口 |②---| ②②口口 |③---| ①口口口 |④---| 30 口口口口 |①---| ④④口② |----| 口口③口 |--②-| ①①①① |③-④-| 31 口口口口 |----| ①口③③ |----| 口②口口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 32 ⑦①口⑦ |①-②-| ⑥②口⑥ |③-④-| ⑤口③⑤ |⑤--⑥| 口口④口 |--⑦-| 33 口①①口 |----| 口②③口 |--①-| 口④口口 |--②-| 口口口口 |③-④-| 34 ⑥口口⑥ |①---| ②口⑤② |②---| 口④①口 |③-④-| 口口③口 |⑤-⑥-| 35 口口口口 |--①-| 口①口口 |②-③-| 口口②口 |----| 口③③口 |----| 36 ①口口① |①--②| ⑧②③⑧ |③-④-| 口⑦④口 |⑤-⑥-| 口⑥⑤口 |⑦-⑧-| 37 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②-③-| ④④③③ |④---| ②②①① |⑤-⑥-| 38 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 口口口⑤ ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 39 口①口口 |--①-| 口口②口 |②-③-| 口③口口 |④-⑤-| 口⑤④口 |----| 40 ③口口⑥ |①-②-| ②⑦⑦⑤ |③---| ①口口④ |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 41 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②---| ②口口④ |③-④-| ①口口③ |⑤-⑥-| 42 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 ⑤口口口 ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 43 口口①口 |--①-| 口②口口 |②-③-| 口口③口 |④-⑤-| 口④⑤口 |----| 44 ⑥口口③ |①-②-| ⑤⑦⑦② |③---| ④口口① |④-⑤-| 口口口口 |⑥-⑦-| 45 口④⑤口 |--①-| 口⑤④口 |②---| 口②①口 |③---| 口③③口 |④-⑤-| 46 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 口口口⑤ ②③④⑤ |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 47 口①口口 |--①-| 口口②口 |②-③-| 口③口口 |④-⑤-| 口⑤④口 |----| 48 ③口口口 |①-②-| ②⑥⑥⑤ |③---| ①口口④ |④-⑤-| 口口口口 |--⑥-| 49 口⑤⑥口 |--①-| 口⑥⑤口 |②---| ②口口④ |③-④-| ①口口③ |⑤-⑥-| 50 ①口口① |①---| ①口口① |----| 口口口口 口口口口 口口口口 ⑤口口口 ⑤④③② |②-③-| 口口口口 |④-⑤-| 51 口口①口 |--①-| 口②口口 |②-③-| 口口③口 |④-⑤-| 口④⑤口 |----| 52 口口口③ |①-②-| ⑤⑥⑥② |③---| ④口口① |④-⑤-| 口口口口 |--⑥-| 53 口口口口 |--①-| ⑥⑤④③ |②---| 口②①口 |③-④-| 口口口口 |⑤-⑥-| 54 口口口口 |----| 口口口口 |----| ①②③口 |--①-| 口口口口 |②-③-| 55 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 56 口口③口 |①--②| ②口③口 |--③-| ②口口① |----| 口口口① |----| 57 口③口口 |①--②| 口③口② |--③-| ①口口② |----| ①口口口 |----| 58 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 59 口口③③ |①--②| 口口口口 |--③-| ②②口口 |----| 口口①① |----| 60 ③③口口 |①--②| 口口口口 |--③-| 口口②② |----| ①①口口 |----| 61 口口口口 |①--②| 口①①口 |--③-| 口②②口 |----| 口③③口 |----| 62 口口口口 |①②-③| 口①②口 |④-⑤⑥| 口③④口 |----| 口⑤⑥口 |----| 不確定度 0