約 216,081 件
https://w.atwiki.jp/sinatmaskedrider/pages/77.html
第十三話 前編 長かった夜が明けた。日の光が、新たな惨劇の痕を照らし出す。 強大な力に耐え切れずに捻じ曲がった鉄筋が砂浜に突き刺さり、さまざまな瓦礫が転がり、重なり合い、不可思議な幾何学模様を構成する。 ユニウス沖の海岸は沈没時の高波にさらわれ、大きく様変わりしていた。夏休み、観光客でにぎわっていた時の面影は、もはやない。 不気味な存在感を放っていた人工島、ユニウスセブンも存在しない。何事も無かったかのように静かに揺れる海面、そこが、かつての惨劇の舞台だ。 ユニウスセブンの沈没、後に『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれることとなる出来事の翌朝、ここら一帯の海岸を完全に封鎖した上で本庁とユニウス署による合同捜査が開始された。 それから、既にかなりの時間が経っている。はじめのうちこそ事態の大きさに圧倒された警官達も、次第に緊張感が薄れ、そこかしこで立ち話をしたり携帯電話をいじったりと好き勝手を始めている。 何しろ、一向にめぼしい成果は上がっていないのだ。見つかるものといったらガラクタばかり。これでは、だれるのも無理はないというものだろう。 そんな中、それでもマジメに、愚直に捜索をしていた一人の警官があるものに気付いた。 もとは、おそらくユニウスセブンの大地を構成していただろう、鉄筋の突き出た巨大な瓦礫が目に入る。だが、彼が注目したのはそんなものではなかった。 力なく地面に投げ出された白い手。この辺りは先ほどから何度も調べていたが全く気付かなかった。 慌てた彼はそこへ駆け寄る。 「大丈夫か!」 瓦礫の影に、十代後半くらいの、一人の少女が横たわっていた。少女はうつ伏せに倒れ、顔を半分砂浜に埋もれさせている。 白い顔は土気色に染まり、ピンク色の長い髪は砂と海水でひどく汚れている。 無駄だろうと思いつつも彼女を抱き起こす。身体中冷え切ってはいたが、かすかに胸が上下している。 「……生きてる?」 「う……ぅぅ」 思わず漏れた呟きに応えるかのように、少女が小さく呻いた。警官は通信機を取り出し、上司へと連絡した。 オーブで迎える朝が、随分久しぶりに思える。実際は、たった一晩空けただけのはずなのに。だが、たったそれだけの間に随分といろいろなことがあった。 昨日イザークたちと別れたアレックスは、誰にも会うことなくすぐさまオーブに帰った。シンのことはもちろん気になるし、デュランダルに事の次第も聞いておきたかった。 しかし、休暇がギリギリだった上、フェリーの時間が迫っていた。それを逃したら確実に間に合わなくなってしまう。フェリーの中からレイたちの家に連絡したところ、無事の確認は出来たが。 帰還した彼をモルゲンレーテで待っていたのは、未処理の報告書の山だった。遠まわしな悪意さえ感じるほどの、とんでもない量だ。 これくらい、キラならすぐに終わらせるんだろうが。 現実逃避気味に親友の事を思い出して苦笑するが、これをやるのは自分だ。 必死でモニターに向かい、キーボードを叩き続ける。かろうじて終わらせた時には既に朝日が昇っていた。 一仕事終えたと思うと緊張が解け、どっと疲れが出てくるが申請した休暇は昨日まで。のんきに休んでいる暇などない。今日からはまた通常業務が待っている。 だが、このままでは仕事にならない。そう思ったアレックスは眠気覚ましに社内の喫茶室で熱く濃いコーヒーをすすっていた。 ここが二十四時間営業で助かった。そう思いながらホッと一息ついていると、不意に後ろから声をかけられた。 「前、座るぞ」 この怒っているようなぶっきらぼうな声は、間違いなくカガリのものだ。そういえば、オーブに戻ってから一度も会いに行ってなかった。業を煮やして、自分から会いに来たようだ。 手にはたっぷりと食べ物の載ったトレイを持っており、返事も聞かず、アレックスの目の前の席に陣取る。 席に着いたカガリはあらためてアレックスの顔を見た。よほど、疲れて見えたのだろう。途端に心配そうな顔になる。 「大丈夫か、アスラン?」 「ああ、大丈夫だ」 そう言って微笑み返すが、ひどく引きつった微笑となる。アレックス自身が気付いていないほど、彼は疲弊していたのだ。 それも、無理のないことだ。何しろ、昨日死闘を繰り広げてからずっと、まとまった休息は取っていない。せいぜい、帰りのフェリーの中で軽く仮眠をとっただけ。 いかに彼でも、これでは疲れないほうがどうかしている。 いくらなんでもアレックスが無理をしているらしいことは分かったが、それでも少し安堵したカガリはさっそく目の前の食べ物に集中した。 ここ、モルゲンレーテの喫茶室は、軽食のメニューも充実している。味もなかなかだ。何より、ドネルケバブがおいてあるのが素晴らしい。チリソース、というのもよく分かっている。 彼女は満足気に香ばしいにおいを放つ肉料理にかぶりついた。やはり、旨い。あっという間に一つ平らげ、二つ目に取り掛かる。トレイにはまだ他にも特大ホットドッグまでのっている。 「朝からよくこんなに食えるな。少し、食べすぎなんじゃないか?」 アレックスから呆れ気味の忠告を受けるが、全く応えていない。少し気を悪くしたように、口を尖らせて反論する。 「余計なお世話だ。お前の方こそそんなんで足りるのか?」 アレックスの目の前にはコーヒーカップが一つ置かれているだけだ。 朝食は一日の活力、身体の資本と考えている彼女にとっては、むしろその方が信じられない。 睨みつけ、あらためてアレックスの疲れきった表情を見たカガリは元気になってもらおうと、発破をかけた。 「よし、何ならこれをやる。食え」 彼の前に、大皿にのった特大のホットドッグを置く。 「……いや、いい。それは君が食べてくれ」 胃もたれを起こしそうなほどの、香ばしいにおいが鼻をつく。見ているだけで胸焼けを起こしそうになったアレックスは、カガリの前にそれを押し戻した。 「遠慮をするな。奢りだぞ」 ホットドッグが帰ってくる。徹夜明けには、もう少し胃に優しいものを食べたい。 再度ホットドッグを返しながら、言う。 「疲れていて、食欲がないんだ」 「何でだ? 疲れているんならたくさん食べて力をつけるのが一番だろう」 心底不思議そうな表情で言うカガリに対し、アレックスは目眩を覚えた。 間違いなくカガリは風邪でも何でも食べて治そうとするタイプなのだろう。……そもそも彼女が風邪をひくところなど想像できないが。 ホットドッグが二人の間をさまよい、やっとカガリの前で落ち着いたころ、二人のテーブルに声がかけられた。 「やあ、カガリ。こんなところに何の用だい?」 「……ユウナこそ。社長ともあろう者がこんな所までわざわざ何しに来たんだ?」 笑いかけてきたユウナに対し、カガリはすげなく応える。彼は気を悪くした様子もなく、手に持ったコーヒーカップを誇るように掲げる。 彼ご自慢、外国製の最高級品だが、あいにくカガリもアレックスもその価値は分からなかった。 「いや、僕はコーヒーを飲みに来ただけだよ。愛用のサイフォンが壊れちゃってね」 そう言って、カップに口をつけて顔をしかめる。飲んではいないようだが、香りだけで判断してしまったようだ。 「う~ん、いまいちかな」 やっぱりサイフォンで淹れたのしか口に合わない。うそぶきながら、カガリの隣へと歩み寄る。 「カガリ~、よくそんなものが食べられるね」 「余計なお世話だ」 奇しくもアレックスと同じ事を言われたカガリはさらにむくれ、ホットドッグにかぶりつく。ユウナは呆れたように肩をすくめ、アレックスの方へと目を向けた。 「ところで、もう仕事は終わったのかい?」 「はい。つい先ほど」 「ふ~ん、それならもう増やしてもよかったかな?」 残念そうな顔をみせ、冗談とも本気ともつかないような言葉を吐く。 「まあ、いいや。ご苦労さん。疲れているようだし、今日は午後からでいいよ」 「……はい? いや、しかし」 「部署には僕の方から言っておくよ。それじゃ、僕はこれで」 言うだけいって、ユウナは出口の方へと歩いて言った。すれ違う社員から挨拶されるたびに、如才なく応答する彼の後姿を見て、カガリはポツリと呟いた。 「何しにきたんだ……、あいつ」 「……さあ」 力なく答える。ひょっとして、自慢に来ただけだろうか。 何にしろ、少しでも余裕ができたのは助かる。仮眠くらいなら出来そうだ。仕事と引継ぎは、しっかりと済ませておきたい。後に迷惑をかけないためにも。 アレックスは懐にしまった封筒に、服の上から手を置いた。 「けど、驚いたぞ。いきなりこんなものだけ置いて出て行ったんだからな」 カガリは手紙を取り出し、見せ付けるようにテーブルに置く。先日アレックスが残して言った書置きだ。 「すまなかったな、勝手に」 「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし……、そのことについては心配していなかった」 「そのこと?」 他に、何か心配されるようなことがあっただろうか。不思議に思い、問い返す。 「……お前が、もう帰ってこないんじゃないかと思ってな」 「えっ? あ、その……すまない」 意外な答えにアレックスは動揺して視線を逸らし、口ごもりながらも謝った。 そんな彼をまっすぐに見つめて、カガリが尋ねる。 「もう、戦わなくていいんだろ?」 その言葉に、アレックスは無言のままだ。イザークの言葉が、シンの叫びが思い起こされる。 肯定の言葉をきたしていたカガリは返事がないのを不審に思い、彼の名を呼ぶ。 「アスラン?」 だが、その声も彼には届かない。何かを黙考している様子のアレックスをおもんばかって、カガリはそれ以上声をかけることなく、黙って待った。 やがて、アレックスはゆっくりと口を開いた。それは、カガリにとって思いもかけないような内容だった。 「俺は、もう一度アプリリウスに行く」 唐突な言葉に、カガリは目を丸くした。 カガリの表情に申し訳なさを感じつつも、アレックスは静かな、確かな決意を込めて告げた。 「俺一人、こんなところでのうのうとしているわけにはいかない」 「アスラン……けど、お前はもう……」 カガリはそこで言葉を切るが、言わんとしていることは分かっている。確かに、もう変身することは出来ないし、ZAFTはおろか警官ですらない。 戦うべき義務も理由も、何もないのだ。 「ああ。だけど、今でも戦っている奴がいるんだ」 イザークたちや、シンのように。ある意味では、デュランダル教授も戦いに身を置いているといえるだろう。 「俺が、いや、俺にも何かできることが、手伝えることがあるのかもしれない」 思いつめた表情で言うアレックスに、カガリは喉元まで出ていた反論の言葉を飲み込む。 「だいたい、関係ないといってそのまま放っておいて……もしそれで大勢の人が苦しむようなことになったら、今までしていたことが全て無駄になってしまう!」 意識しないままに激しい口調となってしまうが、それも仕方のないことかもしれない。 あの時墓参りに行って、あらためて思った。何もしないまま、誰かが死んでいく。あんなことは…… 「あんなことは……、もう繰り返してはならないんだ」 『いただきます』 食卓に座った四人は、マユが席に座るのを待って声を揃えて言った。 今朝も五人での朝食だ。マユが食事を作るようになってからは、ほぼ毎日ルナマリアたちは朝食を食べにきている。 シンはたまにぶつくさ文句を言ったりするが、食事は大勢で食べる方がいい。いつも一人で食事をしていたシンもそれは認めているし、別に本気で言ったわけではない。 それにマユも料理をつくるのが楽しくて仕方ないらしく、また料理の腕も上がってきている。おかげでルナマリアたちがさらに出入りするようになり、より食事の時間が美味しく、楽しくなっていく。 この騒がしくも楽しい食卓が、既に日常となっていた。 いち早く朝食を食べ終えたメイリンが、テレビを点ける。そろそろ芸能ニュースの始まる時間であり、メイリンはいつも欠かさずに見ていた。 『……ユニウスセブンについては警察は発言を控えており……』 テレビの画面で、お馴染みのアナウンサーが海――前方に見える展望台からしてユニウスの辺りらしい――の映像をバックに原稿を読み上げる。 「あれ? 何、このニュース」 朝食を食べ終わり、一息ついたルナマリアはテレビ画面を見て呟く。昨日も同じようなニュースを見たような気がしたのだが、思い出せない。 「お姉ちゃん、何言ってるの。ユニウスセブンが沈没したって昨日からニュースでガンガン言ってるのに あと、ご飯粒ついてるよ」 「え、そう?」 叱るような、呆れるような口調でメイリンが言い、口元を指摘する。ルナマリアは素早くご飯粒を口の中に放り込み、そっぽを向いてとぼけた。 じゃれあう二人をよそに、シンはテレビ画面に釘付けとなっていた。 やっと、報道されるのか。 あれから、既に一週間は経っている。それまでずっと情報操作でもされていたのか、ユニウスセブンと言う単語さえ聞くことはなかったが、どこかの新聞がすっぱ抜いたのが原因らしい。昨晩から急に取りざたされ始めた。 警察は無視を続けていたが、こんな大事、隠し続けられるわけがない。レイが今読んでいる今日の新聞でも一面トップだ。もちろん、MS関連の話など一切出てこない。すぐに、公式発表があることだろう。 それにしても……。 あの時以来、一度もMSが姿を現していないのか、穏やかな日々が続いている。気配すら感じることがない。おかげで、始まったばかりの大学の授業にも心置きなく出席できるし、みんなとバカもできる。 あれで、終わったのか? ついそう思ってしまうが、それがありえないことはシン自身が誰よりよく知っている。少なくとも、あの時戦った三体は逃げ仰せ、シンを手玉に取った赤紫の奴もいる。 普通のMSとはかなり違うようだが、敵であることはまず間違いない。苦汁をなめさせられた、苦い記憶が甦る。 あいつら、今度こそけりをつけてやる。 シンは拳をつくって掌に叩き合わせた。小気味いい音が、居間に響く。 「シン、どうかしたの?」 「あ……いや、何でもないよ」 女の勘という奴だろうか。怪訝そうな顔をしたメイリンが、シンの顔を覗き込むようにして言った。シンは慌てて手を振って否定するが、メイリンは全く納得していない。 「そう? 何か怖い顔してたよ」 突っ込まれて口ごもるが、メイリンはいきなり黄色い叫び声を上げてテレビの前へ猛ダッシュした。画面はいつの間にか芸能ニュースに切り替わっており、 オレンジ色の髪をした青年がマイクに向かって熱唱している映像が映し出されていた。 「きゃ~、格好いい!」 テレビを独占したメイリンは正座し、はしゃいでいる。つい最近売り出したばかりの、メイリン一押しの新人だそうだ。 呆れながらもシンは安堵のため息をついた。これなら、間違いなく忘れてくれるだろう。 こういうときにうるさいルナマリアは、マユと何かを一生懸命に話し合っており、こちらのことなど気にも留めない。 どうも、今日の予定を話しているらしい。今日は土曜日で、休日だ。どこかに遊びにでも行くのだろうか。 マユはあの時以来、ルナマリアの事を『ルナお姉ちゃん』と呼んで慕っている。ルナマリアもそれを喜んで受け入れ、ことあるごとにマユを連れてどこかに出かけている。 それに、メイリンやレイたち、他のみんなとも仲良くなってきており、新しい生活にも馴染んできているようだ。 それが嬉しくないわけがない。けど…… シンはどことなく寂しげな表情で、二人を見つめた。 「今日は休みだし、少し遠出しようか?」 「はい! マユ、バイクに乗るの初めてで、楽しみです!」 本当に待ち遠しそうな様子で、マユが言う。その言葉に気をよくしたルナマリアは顔をほころばせる。 「う~ん、どこがいいかな」 悩むルナマリアはふとレイの読んでいる新聞の紙面に目を止めた。 そういえば、あの辺も観光地だったわね。オーブは島国だし、海のこと嬉しそうに話してたし。 海が好きなのだろうか。 今日は土曜日だし、遠出するのもいいかも。 「それじゃあ、海でも見に行こうか」 それを聞いたマユはぱっと顔を輝かせる。 「え、いいんですか!?」 やはり、マユはすごく乗り気になっている。マユの反応を見ていたルナマリアもまた、嬉しそうに頷いた。 そこへ、やや冷たげな声が投げかけられる。 「海って、ひょっとしてユニウスに行くのか?」 二人の会話を聞いていた、というより聞こえてしまったシンは、眉をひそめてルナマリアに聞く。 「そうだけど、なに?」 ここから日帰りで行けて、しかもきれいな海といったらユニウスの海だ。夏になると、全国から観光客が集まるほど有名なところだ。 まだ寒いこの時期でも、サーファーが練習していたりする。 きれいな海をみせたいと思うのは当然だろう。 だが、ルナマリアの返事を聞いたシンはしかめてしまい、ルナマリアを怒鳴りつけた。 「ユニウスセブンにだけは、あの近くだけは絶対行くなよ!」 「……なんで?」 ルナマリアが確実に温度を下げた目でシンを見やる。ルナマリアだけでなく、マユまでもシンを冷ややかな目で見つめた。 口ごもるシンに対し、ルナマリアはさらに追い討ちをかける。 「まさか、理由もなくダメだ何て言わないわよね?」 MSのことなんて、言えるわけないだろ! シンは心の中で叫ぶが、うまく言葉に繋がらない。 「いやさ、危ないだろ?」 「どこが? もうとっくに沈んでるのよ。それに、本当に危なかったら解放してないわよ」 ニュースでは、解禁されたユニウスセブン沖の海岸に集まる野次馬達を映し出していた。確かにルナマリアの言うとおり、危険はないのかもしれない。 だが、MSはいつ現れるか分からないのだ。そんなところに、マユを行かせるわけにはいかない。 しかし、うまく説得出来るだけの言葉が浮かび上がってこない。仕方なくシンは再度、怒鳴りつけるようにして念を押した。 「と、とにかく……絶対行くなよ! 絶対だからな!」 「別に、行きたくもないわよ。けど、説明くらい……」 口を尖らせたルナマリアの言葉を聞くよりも速く、シンは部屋を出て行った。 「なんなのよ、もう」 開きっぱなしのドアを睨みつけ、ルナマリアはぼやく。それで初めて、今にも泣きそうな顔をしているマユに気付く。慌ててルナマリアはマユを慰めようとする。 「あ、ごめん。マユちゃんが悪いわけじゃないんだから……ね?」 「……でも、お兄ちゃん……」 「気にしないの。シンがああなのは前からなんだから」 「……はい」 返事をして、ドアを見つめる。その眼差しは、やはり寂しさをたたえていた。 「本当にいいの?」 バイクの後ろに座り込んだマユに対し、ルナマリアが聞く。ケンカの原因のところに行くというのはどうにも気が進まない。にもかかわらず、 その問いにマユは頷き、あろうことか提案までした。 「はい。そうだ、いっそユニウスセブンの方まで行っちゃいましょうよ」 「え、いいの? シン、さんざん反対してたけど」 「いいんです。お兄ちゃんの言うことなんて気にしないで下さい」 頑として言い放つ。完全に意固地になっているようだ。やはり兄妹だ。こういうところはよく似ている。 こうなったらてこでも動かないだろう。仕方ない。 経験から、そう判断したルナマリアは嘆息し、タンデム用の白いヘルメットを取り出した。いつもはメイリンが使っている奴だ。 マユはそれを受け取って頭にかぶり、ベルトを締める。 「これ、ぶかぶかです」 ひさしの部分をつまみあげながら言う。まあ、メイリンでも少しゆるいくらいのサイズなのだ。仕方ないと言えば仕方ない。 その仕草に苦笑し、ルナマリアはヘルメットの上からマユの頭をポンと叩いた。 「ま、仕方ないわね。今は我慢して」 「わひゃ!?」 突然目の前が真っ暗になってしまい、驚いたマユは素っ頓狂な悲鳴を上げた。 いきなりで驚いたマユが手を離し、ヘルメットが落ちる。しかも、前の方に偏った落ち方をしてしまったおかげで、マユの顔は完全にヘルメットに埋もれてしまったのだ。 その様子を見ていたルナマリアは耐え切れなくなり、つい噴き出してしまう。 「う~、何で笑うんですかぁ。ひどいです」 ヘルメットを持ち上げ、上目遣いでルナマリアを睨みつけてくる。しかし、どうにも迫力がなく、逆に愛らしく見えてしまい、またも噴き出してしまった。 「も~、そんなに何度も笑わないでください」 「ごめんごめん。さ、行きましょうか」 「はわ!?」 ルナマリアは謝りながら、もう一度マユの頭をぽんぽん叩いてバイクに跨る。またヘルメットが落ちたマユは、再度悲鳴を上げた。 「どう、マユちゃん。二人乗りの感想は?」 信号で止まった機械に後ろを向き、ルナマリアが尋ねる。 マユがバイクに乗ったことがない、と言うのを考えて安全運転を心がけたつもりだったが、大丈夫だろうか。乗り慣れていない者にとっては、たとえ法定速度であってもかなりの負担となる。 マユはしかめっ面で、無言のままだ。さっきのあれで怒っているせいもあるだろうが、顔が変にこわばっている。風圧か何かで筋肉が硬直しているのだろう。 やはり辛いのだろうが、どうしようもない。 「あと、もうちょっとだから、もう少し頑張って」 憮然とした表情で無言のままだが、首をかすかに縦に振るのが見える。ルナマリアは満足気な笑みを浮かべて、前方に向き直った。
https://w.atwiki.jp/pazdra/pages/915.html
旋風機龍・カノープス No.285 レア度 6 レベル 1 最大Lv99 スキル トルネードカノン 究極進化 五機龍合体・ゴッドカノープス コスト 25 HP 1528 4126 ターン(最短) 20(5) タイプ ドラゴン/マシン 攻撃力 739 1552 Lスキル 大地の力 主属性 木 回復力 34 119 進化元 なし 編集 副属性 なし EXP 400万 4,000,000 進化先 究極進化(1種) 覚醒 木ドロップ強化 / スキルブースト
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/3316.html
846 名前: NPCさん 03/12/20 21 59 ID ??? 漏れは「これって某(エロゲー)のネタ?」と聞かれて素で返答に困ったことが。 セクハラかなんかで交番に連行しようかと思ったワイ 856 名前: NPCさん 03/12/20 23 40 ID ??? シナリオ自体がエロネタだったことはあるな。 古文書に従って遺跡から手に入れたアイテムは、ハードなSMプレイの夢を見せるマジックアイテムだった、というシナリオ。 864 名前: NPCさん 03/12/21 00 08 ID ??? 861 中にはそういうことすらできない厨も…多いンだな、これが。 友達の友達ってだけで初対面の女性に 性体験人数を聞いたりしたバカガキを知ってるゾ。 誰も注意しないんか…と訝ってたらソイツが代表だった。 スレ6
https://w.atwiki.jp/yukimi0/pages/219.html
――デストロイの系譜を継ぐ者“オラクル”がここ、スカンジナビア王国首都オスロを目指している。それは、聖誕祭に集まった要人達を色めき立たせるには十分すぎる事態だった。 「一体、アスハ代表はどうされるおつもりなのだ?」 「いっそ、聖誕祭を延期してだな……いや、私はテロなどには屈服しない。だが、世界中の要人が集まるこの場所が、万が一にでも攻撃されれば世界はどうなるか。そうならない為にも……」 “色めき立っている”というより、“浮き足立っている”という方が適切か。鉄火場経験者は極端に少なく、落ち着いているのはごく少数の招待客のみだ。カガリ=ユラ=アスハはいっそ怒鳴りつけたい衝動に駆られながらも、懸命に冷静に努める。 (ここにアイツが居てくれたらな……) 自分は不安すら覚えないだろうに――そこまで考えて、顔に血が上る。慌てて手に持っていたワイングラスを一息に煽り、何とか平静を整える。顔に出してはならないという涙ぐましい努力である。 列席してから、カガリは直ぐにキサカの意図に気が付いた。まるでボウフラの様に沸いてくる美辞麗句、そしてカガリと同世代でそれなりに名の知れた家柄でルックスも良い青年達。またか、とカガリは何度目かの溜息を付いた。 (キサカの奴、よりにもよってこんな時に“見合い”なんかセッティングするか……) カガリ腹心の部下、レドニル=キサカ大将。通称、“爺”――実際の彼は老人と言うには若すぎるのだが、近年カガリに対する過保護ぶりが急激に加速してきた姿からそう揶揄される――はカガリに対して頭から意見を言える貴重な幕僚である。それはカガリへの信頼があり、カガリもキサカを良く信頼する故のことであり、それはカガリとて有り難いと思っているのだが、流石にこれは辟易していた。 ちなみに今日のカガリはドレス姿である。今回の式典はカガリが主役ではない、あくまでも招待客。それ故にいつもの礼服では不味いとレドニル=キサカに散々に言われたためだ。 (似合わないし、動き辛いから嫌いなんだけど) と思わず愚痴をこぼす。が、ドレス姿は本人が思っているよりも彼女の健康的な魅力を引き出すことに貢献している。それは彼女を取り巻く男達の目に、純粋な好意も浮かんでいたことからもわかるだろう。 このところ、カガリはキサカから毎日の様に言われている事がある。 『カガリ様、一体何時になったら身を固める御積もりなのですか!? 宜しいですか、カガリ様。為政者というものは……!』 と、暇さえあれば“お叱り”を敢行するのが最近のキサカであった。キサカの言う事も解らないではない。実際もう二十歳も超えた女が、浮いた話一つも無いのでは色々問題があるものだ。否、正確には一つだけ浮いた話はある。それはカガリ自身も気が付いているし、周囲も知っている。 (けどな、それ以上踏み込む訳にいかないだろ……) 友人だから、大事な、大事な人だから――悲しむ顔を見たくない。自分の地位であれば、それは叶えられるのかもしれない。だが、それをすればカガリにとって大事にしているものが、壊れてしまうだろう。それは、したくないのだ。 そんな事を思い悩んでいる内に、この歳まで来てしまった――それが、カガリの偽らざる本心である。そして、そんな胸の内をキサカはおそらく気付いているのだろう。だからこそ、カガリに対して見合い話をひたすら持ってくるのだ。せめても、女の幸せを知って欲しいと思うからこそ。だが、時々『お世継ぎを!』と言ってしまう辺りがキサカという男の根回しの下手さがわかるというものだ。 (犬や猫じゃあるまいし、そうそうポンポン産めるかっ!……というかお前が先に子供を作れ、一体いくつになったと思ってるんだ!) 思いだしたら腹が立ってきた。何気なく拳を握り、青筋が立ってくる。その時、カガリに影が差す。側に誰かが立ったのだ。また男だったら、それとなく八つ当たりして追い払ってやる――そう決め、振り向いたその先に居たのは予想外の人物だった。 「天下のアスハ代表ともあろうお方が、お一人で百面相などするものではないな。私で良ければ、話し相手位は努めようが……どうかな?」 男装の麗人――ロンド=ミナ=サハク。気を抜かれたカガリは何となくミナと会話する事になった。 立ったまま話すのも何だろう、という事で二人は廊下に出る事にした。廊下には休憩用のソファがあるからだ。――廊下だけでも広間の一つは作れそうな位の広さと豪華さがある――ソファに率先してハンカチを敷き、カガリを促すミナ。こうしてみると、そこらの男よりも紳士的な振る舞いが板に付いているのである。 「……どうも」 複雑な気分で勧められるまま、カガリは座る。その隣に、少し距離を置いて座るミナ。 「遠慮する事はない。この私と居て、話しかける事の出来る剛の者などそうは居らんよ」 女傑、ロンド=ミナ=サハク――長身かつ整った容姿。そこいらの男では力でも知恵でも束になっても敵わない位の実力と魅力に溢れている。男性より女性に人気があるというのも、無理のない話だろう。自分も男っぽいと言われる事があるが、彼女には遠く及ばないとカガリは思った。 「助かるよ。……どうも、こういう雰囲気は性に合わないんだ」 「何、大した事はしていない。何とも情けない男達だとは、先程から思っていたがね」 「ハハハ……確かに」 先程までカガリに言い寄っていた男達は、オラクル進撃の報を受けた瞬間から右往左往し始めてしまった。幾ら見てくれを取り繕っても、人間的に何ら成長していないというか、失望するほど期待もしていなかったが幻滅したのは確かである。 「それにしても、アスハ代表は落ち着いていらっしゃる。私も、その秘訣は教わりたいものだ」 言葉とは裏腹に動揺するそぶりを欠片も見せず、からかうようにミナが言う。ウェイターからグラスを受け取りながら、苦笑いして返すカガリ。 「そういう訳じゃ無い。先に慌てられたら、こっちが冷静にならなきゃならないと思っただけさ」 違いない、とお互いに笑うと、グラスを傾けた。 不意に、ミナが窓の方を見た。大きな廊下に合う、大きな窓。その先に北海があり、遠くを見ながらミナは世間話をするように切り出した。 「先程、“正義の騎士”殿が動き出した様だな」 胸がどきり、とする。愛しい人が戦いに行く――その事と、何故ミナがそれを、と疑問を口にする前、立ち上がったミナは大仰な身振りで先回りする様に言う。 「ヨーロッパ方面軍の皆が合唱しているのさ。“正義の騎士、来たれり”とな。『その者、紅き騎士と呼ばれし勇者、天より飛来して魔竜を討つ』、か。吟遊詩人にでも詠って貰いたい内容だな」 本職の詩人顔負けの艶のある美声で楽しげに謡うミナ。不謹慎な話だがカガリは同意した。グラスをウェイターに返すと立ち上がり、ミナの隣に立つ。少しでも窓の外を見ようと。見えるはずのない、戦場を。 まさに恋人を案じる乙女といったカガリの様子を見ながら、ミナは思った。 (その様に顔に全て出てしまう様では、まだまだ為政者として未熟だな。だが、そういう所がお前を護りたいと皆に思わせるのだろうな、“オーブの獅子姫”殿) 不思議な事にカガリだけでなくミナもこの場所が戦火に晒されるとは思っていない。よく知っているのだ――有事の際に見せる“紅の騎士”の強さを。かつて二度に渡り世界を救った勇者の、真の実力を。 真紅の装甲が、空気の壁とぶつかりと震える。鍛え抜かれたコーディネイターであるアスランをして歯を食いしばって耐えねばならない程の、並みのパイロットなら意識を保つこともままならない程の超加速でトゥルージャスティスは飛んでいた。 (間に合うか……いや、間に合わせてみせる!) スロットルを更に加速させていくアスラン。トゥルージャスティスの限界ギリギリとなる超加速――何としてもオラクルを止める為に。 これ以上の悲しみを広げない為にも。これ以上の悲しみを、食い止める為にも。そして――今も苦しんでいるセシルを止める為にも。 ただ、ひたすらにアスランは走る。悲しみを背負い、そこで食い止める為に。 「全隊、撃てぇぇぇっ!!」 号令も待ちきれず、ひたすらに撃ち込む。砲身も焼き切れよ、と云った具合か。 だが――その中を、悠然と歩を進めてくる者が居る。黄金の巨人、オラクル。 「化け者めっ!」 それは悲鳴にも似たものだったかも知れない。かつてベルリンを蹂躙された者達が味わった絶望――それが再び蘇る。 だが、ただ怯え竦む様な無様は見せられない。自分達の背中には護るべき人達が居る。それが、ハノーバー機動部隊総司令官エンリコ=マリーニを支えていた。 「弾幕薄いぞ! 火点集中せよっ! ゲルズゲー部隊は前面に展開、砲撃部隊を守れ!」 号令一過、ゲルズゲー部隊が陽電子リフレクターを展開しつつ機動防御に回る。それだけで守りきれるものでもないが、確かに前よりは被害が防げていた。“網”を越えたビームが若干の被害を出していたが、それは仕方が無い。 (よし、良いぞ……こっちに引き付けろ!) エンリコには、策があった。ここまではやられっぱなしだったが、おかげで戦力をある程度整えることはできた。相手は一機、そこに付けいる隙がある。 存分に相手を引き付け、火砲の存在を相手に嫌らしく押しつけ、その隙に、辺りに潜ませていたモビルスーツ部隊を一気に突撃させる。 その数およそ五十。いかなる人間だろうと、この多数の数には反応出来ない。そして、何とかダメージさえ与えられれば、それが突破口となる――それは、決死の策であったが、パイロット達は何も言わなかった。何としてもここで奴を倒さなければ明日はないとの思いは全員同じだったからだ。 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」 誰もが、雄叫びを上げて突っ込んで行く。ビームサーベルのものも居れば、不慣れな対鑑刀を保持しているものも居た。ルタンド、ダガーL、その他諸々――動ける機体をかき集めてきた、という感じだ。 それらは連携も何も考えず、ただ一息に斬り掛かることのみを考え肉薄。火線を潜り抜けた――そう思った瞬間、先頭の機体が爆発した。 『――そんなことぐらい、予想してないとでも思ったのかよ!』 その時、マリーニは見た。オラクルが変形したのだ。いや、それは変形ではなかった。背部に背負った円形の場所――そこから蜘蛛の足を思わせる巨大なクローアームが出現したのだ。その数およそ八。そして、その足の至る所からビーム刃が発振され、それらは巨大なビームサーベルとなって襲い掛かった。 ――おぞましい程の速度と、小回りを持って周囲のモビルスーツを蹴散らした。オラクルは元々大仏をモチーフとして作られているというが、これはさしずめ“千手観音”だろうか。全く予期しなかった場所からの攻撃に、突撃隊が動揺から立ち直った頃には接近していた機体の大半が撃墜されてしまっていた。運良く回避に成功し、反撃に移ろうとするものも居たがセシルの反応速度の方が勝った。 次々にモビルスーツ達は切り裂かれていく。それは、防衛という名の蜘蛛の巣に絡めとられた昆虫の末路。天敵に立ち向かわざるを得ない者達の、悲しい最後であった。 (アレが、奴の“切り札”か!) スウェン=カル=バヤンはようやく納得が云った。彼のパイロットとしての本能が、これまで彼を踏み止まらせていたその理由が。 (確かにこれならデストロイが持っていた死角は殆ど無くなる。そして、ここまでそれを使わなかったのは……) これは考えなくても解る。確かに強力な戦法だ。だが、所詮は一発技。それを最大限活用する為に、ここまで温存していたのだ。 スウェンは歯噛みしていた。考えてみれば、彼が命を捨てた突撃を敢行していれば、既にこの特性は表に出ていたかも知れない。そうすれば、あたら今の連中は命を散らすことも無かったはずだと。――だが、それは今更悔やんでも仕方のないことだ。 (せめてもう一人。あの火砲を潜り抜けられる者が居れば……!だが、状況は悪化し続けている。どうする?) そうすれば、確実に奴を屠れる。スウェンの経験が、そう言っている。だが、それを待っていては、更に事態は悪化するかも知れない。 スウェンは自問していた。だが、オラクルが残存部隊に襲いかかるのを見て、いよいよ我慢出来ずに出て行こうとした時、スウェンは見た。 ――天空より飛来する者を。 それは、“真紅の騎士”と呼ばれた者。それは、かつて世界を二度に渡り救った者。 その者の名は、アスラン=ザラ。“トゥルージャスティス”を駆る統一連合最強の男。 アスランは、手にしたビームサーベルをゆるりと持ち直し剣先を突きつけると厳かに言った。 「……お前を、止めに来た」 その真紅の姿が、燃え上がる様に。その双眸は、正しく正義を見据えて。 トゥルージャスティス――世界の守護者“三振り剣”の一つが遂に降り立った。 ソラは俯いていた。辺りには誰も、何も居なかった。暗闇の底で、ただ俯いていた。 不意に、ぼんやりとした光が浮かぶ。タチアナ=アルタニャン――ターニャだと直ぐに解った。 『何をしてるのさ、ソラ? 落ち込んでいたって何にもならないだろ?』 それは、怒っていると言うよりも諭す様な、慰める様な優しいものだった。 「……解ってる。解ってるけど……!」 ――では、どうすれば良かったのだろうか。 救えなかった。助けられなかった。どうしようもなかった。なら、どうすれば良いのか。 「私は、こんな思いをするために、こんな思いをする為に……!」 ――貴女に救われたんじゃない。そう叫び逃げだしたかった。しかし、それは言わずとも伝わったらしい。ターニャは続ける 。 『アンタを苦しめる為に、アンタを助けた訳じゃない。アンタだって苦しむ為に、生きている訳じゃないでしょ。でも……苦しむのを怖がって、進まないのは“生きている”って言えるの?』 核心を突く言葉に思わず、ソラは顔を上げた。そこにあるのは、ターニャの優しい笑顔。 『何故助けるのか? それは、その人それぞれの考えがあるんだろうけれど……結局は、“その人に生きていて欲しい”って思うからなんじゃないかな。形はどうあれ、その人に幸せになって欲しいんだろうね。……結果として、自分が犠牲になっちゃっただけで、さ』 それは、何処か悲しそうだった。けれど、誇らしそうな――悔いの無い笑顔。 「ターニャ……」 不意に、ターニャの姿が変わった。次に現れたのは――あの人。朴念仁で、不器用で、けれど、優しかった人――シン=アスカ。 『ソラ、あんたはそのままで居てくれ。そのままで……』 今でも覚えているその一言。鮮明に、心に刻まれた言葉。 今なら、何となく解る――どんな思いが、どんな心が込められていたのか。 また、姿が変わった。次に現れたのは、ロマ=ギリアム。 『僕達は、“みんなで”幸せになるんだよ』 「リーダー……」 ソラは圧倒されている、と思った。命を賭けて、一命を賭して一生を生きる――その意志に。その、想いに。 また、姿が切り替わった。懐かしい人――センセイに。 『ソラちゃん、貴女は俯いていては駄目。辛くても、見上げなさい。人は、前を見ないと周りを見る事の出来ない生き物なのだから……』 そうだ。ソラの恩師も、そう言った筈だ。『何時だって、空を見上げなさい』と。 俯いている訳にはいかない。命懸けで生きている人達の為にも。そして、懸命に教えてくれた人達の為にも。――命を賭して、自分を救ってくれた人の為にも。 ――最後に、誰かの声がした。それは、誰だったろう。 『……お強いのですね、貴女は。でも、無理はいけませんよ。人は、人に出来ることしかできない。けれど……生きているから、人は何かを出来るのですから』 それは、聞いたことの無い言葉だったかもしれない。けれど、あの人なら――あの人なら、そう言うだろう。そんな言葉だった。 いつの間にか寝てしまってしまったらしい。直ぐ側に居たジェスが彼女を起こさなかったのは、せめて少しでも休んで欲しいという親切心からだろう。こちらに気付いたジェスは暫く迷った様子だったが、意を決してソラに声をかけた。黙っていても、仕方のないことだからだ。 「カシムが逝ったよ」 淡々と、努めて冷静に。ソラに、負担を与えない為に結論だけを伝える。 「そうですか……」 ソラには、実感が無かった。ただ、のろのろと「何処ですか?」とだけ聞いた。 ジェスに案内され、ソラは霊安室に運び込まれたカシムに会った。 「安らいだ、顔ですね……」 「――ああ。それが、せめてもの救いだ」 せめて、苦しんで欲しくなかった。死ぬとき位、安らかであって欲しかった。もう一度、ソラはカシムの頭を撫でてあげた――偉かったね、と優しく語りかけながら。 走馬燈の様に、思い出が脳裏に広がっていく。たった数日だったのに――なんと激動の日々だったことか。その中で懸命に笑っていたのはこの子だった。周囲を明るくする為、周囲を幸せにする、ただ、その為に。 ジェスは、ソラが泣き出すものだと思っていた。だが、ソラはほんの少し瞳に涙を湛えただけで、直ぐにジェスの方を向き直った。 「ジェスさん、お願いがあります。――力を貸して下さい。“真実を伝える”貴方の力を」 それは、ソラの意地だった。最後に残された小さな、しかし譲れない意地だった。 ――生き残った者が、犠牲になった者達へ、しなければならないことがある。それを、ソラは理解していたのだ。 暫く迷った後、ジェスは頷いた。ソラの瞳――この旅が始まって以来ずっと見てきたこの小さな少女が、今は大きく見える。ジェスも見たいと思ったのだ。“奇蹟の少女”と呼ばれ、ただ翻弄されていた只の女の子が何を思い、何を決意したのかを。 それは、スウェン=カル=バヤンをして“驚異的な戦闘能力”と言わしめるものだった。それ程、両者の戦闘は壮絶なものだった。 飛び交うビーム、迸る火花――それが、ただ二機の機体の応酬に寄るものだと誰が信じられるだろうか。それは、軍隊同士の激突に匹敵する凄まじさだったのだ。 特にアスランの動きは同じパイロットとして信じられないものであった。オラクルのビーム網を重力を感じさせない最小限の動きで回避し、あまつさえビームをサーベルで弾いてみせる。オラクルもまたフレキシブルアームを駆使し間合いに入り込ませない。 (これが、最強と呼ばれる者の力か!) オラクル――世界最強のモビルアーマー。 トゥルージャスティス――世界最強のモビルスーツ。 両者の戦いが始まって暫く経つが、僅かの衰えもない。それどころかますます攻防は激しくなるばかりだ。 展開していた部隊も、スウェンでさえも――その遣り取りに口を挟む余地がない。援護しようにも、足手纏いになってしまいかねず、巻き添えにならないようゲルズゲーの影に隠れることしかできなかった。 「うおおおおおおおおおっ!」 『ウアアアアアアアアアッ!』 それは、精神力の戦いと言えた。少しでも心を弛ませれば負ける。だが、アスランは見切っていた。通信機越しに聞こえるセシルの声が、微細な動きが教えている。セシルの体力はもはや限界であると。故に長丁場の戦いに持たないという事が。 (その機体を長時間操る――それが君の体にどれ程の負担を強いているのかは想像に難くない。もう長くは保たないだろう。……だから、せめて君は俺が止めてやる) のらりくらりといなしつつ、セシルの疲労を蓄積させ、倒せば楽に終わる。戦闘者として、アスランが傑出しているのは単純な戦闘力だけではなく、そうした冷静な判断力によるものだろう。 だが、アスランはあえて援護を排し、短期決着を望んだ。そうした優しさはアスランの長所であり、短所である。 何度目かの競り合いの後、背部のフレキシブルアームをいくつかかまとめて切り落とす。セシルの叫び声が聞こえた様な気がして、アスランの心に嫌なものが広がる。 『邪魔をするなアァァァァッ!』 セシルの慟哭が、咆哮が聞こえる。その度にアスランは呻く――あれ程誓っても、あれ程願っても。それでも優しさが捨てられないのが、アスランという人間だ。たとえ組織を裏切っても、たとえ信頼を裏切っても――それでも、全ての人々を幸せにしたいから。それが出来ると思ってしまう所に、アスランのアスランたる由縁がある。 だから、そこに隙が生まれてしまう。『セシルも救いたい』という甘さが焦りを呼び、それを生んでしまった。 胸部三連装スプラッシュスキュラを紙一重で避け、一気に胸元に切りつけようとして――アスランは己の油断を知った。フレキシブルアームが新たに出現したのだ。 「まだ、こんな隠し技を……ッ!」 背部のものより小さなそれは、アスランですら全てを避けるのは困難だった。とっさに薙ぎ払うものの、全てを落としきることはできず、その内の一つがコクピットごとアスランを貫こうとした瞬間―― ――何もない筈の空間から伸びたビームが、胸部フレキシブルアームを切断した。 一瞬の隙を逃さず、その突然の乱入者は素早くジャスティスを支え、離脱する。その正体は、スウェン=カル=バヤンの機体“ハガクレ”であった。 『余計な世話かもしれないが、助けさせて貰った』 感情を感じさせない声色の仕官に救われアスランは戦士として後れを取った事が悔しいらしい、渋い声で礼を言う。 スウェンは今回の騒動でずっとオラクルを観察していた人間だ。危険な位置は、熟知していると言って良い。だからこそ、ああも良いタイミングでアスランを助けに入れたのだ。これまでの動きを見ていた、スウェンはアスランに言った。 『オラクルへの突撃は俺がやる。支援をしてくれるだけで良い』 「……馬鹿な、死ぬ気か!?」 『別に自殺願望などない。確かに貴方は優れた腕の持ち主だ。だが、その甘さを消せない限り同じことの繰り返しになる。だから、俺が前衛に回ったほうが確率は遥かに高くなる。ただ、それだけだ』 スウェンにとって、今回のミッションは気に入らないものだった。自分は手を出せず、目の前で同胞が次々と死んでいくのを見せ付けられるのだから。冷血と揶揄されようと、彼には彼なりの仲間意識があった。だから、幕引きをするのは全てを見続けていた自分がやりたかったのだ。 『奴を殺す。それで、ミッションは完了だ』 あくまで冷徹なスウェン。その言葉に秘められた怒りに、アスランは自分の甘さを痛感させられる。 (済まない、セシル。結局偉そうな事を言いながら、俺は……お前を倒す事でしか助けられない) その時――誰にとっても予想外の声がトゥルー=ジャスティス内に響いた。 『……アスランさん、大丈夫ですか?』 「ソラ!?」 “真実を伝える者”というのは往々にして手段を選ばないという条項があるだろうのだろうか。ソラは頼んだ事を少しだけ後悔していた。 「このテの病院には大概、量子通信機が備え付けてある。軍事施設だと真っ先に狙われるし、病院にも無いと色々不便だ。とはいえそうそう貸してくれる訳無いから……」 「……強引にお借りするって訳ですね」 たった今“お休み頂いた”警備員を見ると、さすがに気が咎める。こんな事態なので、警備員もごく少数だった。 早速見つけた量子通信機に嬉しそうに駆け寄るジェス。どんな事態であれ、通信するのが本分の人間である。 「で、何処の誰に何を伝えるんだ?」 《……俺がお前のことを凄いと思うのは、そこまで考え無しに動ける所だ、ジェス》 早速ハチの突っ込みにソラも思わず苦笑する。 「アスランさんの所へ。そして――セシルへ。大事なことを伝える為に……」 胸が高鳴る。これからすることは、ソラ=ヒダカが自分の意思で初めてする大冒険だ。けれど、伝えたい――伝えなければならない。 自分が、生き残ったから。生き残ってしまったから。だから、どんな理由であれシノとカシムの分まで伝えなければならない。 《ソラー、頑張レ! 応援スルゾー!》 「ありがとう、ハロ」 ソラは、微笑んだ。その笑みは何処か、“彼女”を思わせる安らぎを感じさせるものだった。 『セシル、聞こえますか? 私は貴方が大事に思っていた女性、シノ=タカヤの友人、ソラ=ヒダカです』 トゥルージャスティスの外部音声――そこから流れ出した声は、戦場という場所においてあまりに場違いなものだった。スウェンは怪訝な顔をしたし、アスランも正直、納得はしていなかった。だが、『通信させて貰えるだけで良い』ということで、許可したのだ。 だが――オラクルも外部音声を入れた事で、アスランもスウェンも、事態の推移を見守ろうという気になった。 『シノ……? 何故、こんな時に!? ソラって、シノを連れ戻しに来た……!』 『ええ、そうです。……私は誰よりも、シノが幸せになることを願っていました』 ここで、ソラは一息入れた。 『シノは、貴方の事を信頼していました。そして、私は貴方とシノが幸せになれるのなら――そう考えたこともありました。……でも、貴方は今、何をしているの?』 強い意志を感じさせる声に、これが本当にあのソラの声なのだろうか。あの泣いてばかり居た女の子なのだろうか、とアスランは内心驚いていた。 『……何って、俺は……!』 セシルが何かを言うよりも、ソラがずばりと言った。 『シノは……死にました。貴方がその機体に乗った時に』 『……なんだって?』 震える声――それは、セシル本来の声だ。機械に寄らない、本心からの声。 『カシムも、つい先程亡くなりました。……もう一度聞きます。貴方は、何をして居るんですか?』 立て続けの爆弾発言――セシルのトラウマは、その身を包む憤怒の炎はその程度で消えはしなかった。むしろ人としての心が音を立てて崩れていくのをセシルは感じていた。 『……なら、復讐だ! 今度こそ、俺の大事な者を、大事なモノを奪った奴等を全て滅ぼしてやるッ……!』 それは、紛れもないセシルの本心。だが、だからこそ次の言葉に動揺した。 『いい加減にしなさい! 貴方は、自分が何をしているのか、何を繰り返そうとしているのか――本当に理解して居るんですか! セシル、貴方がしていることは、もう一度貴方とカシムを作るだけなんだって、本当に理解してるんですか!?』 『……それは……!』 『貴方の戦いは、貴方の意志は、シノとカシムに伝えられるものなんですか!? 誇りを持って、あの二人に伝えられるものなんですか!?』 もはやソラは涙声だった。だが、それは悲しみの涙ではない――ソラの激情の涙だった。 『お願いだから――あの子達が願った未来を!あの子達が貴方に託した“命の証”を……無駄にしないでよ……』 それは、ソラの心からの言葉だった。今までの人達が、ソラに伝えたもの――それが結んだ一つの結晶だった。 『――俺は』 いつしかセシルの声から狂気は消えていた。 『……もう引き返せない……だから……』 その言葉の意味――それは、アスランは正しく理解した。だから、言葉少なく答える。 「……ああ、終わらせよう」 スウェンは一歩引いた。この場の幕引きをする人間に誰が相応しいか悟ったのだ。 「全力で来い! 後悔の無い様に!」 『ああ……行くぞ!』 ――もはや、死ぬ事以外に救いがないのなら。その人の人生を間違ったのだろうか。無意味だったのだろうか。 間違っていたのかもしれない。だが、決して無意味ではないはずだ。それは、懸命に生きた証拠。誰にも否定されない、その人だけの宝――それだけは誰にも否定することはできないのだから。 迷いは、もはや無い。 それは、正に神速だった。迷いがあったからこそ、セシルにも捉えることが出来たのだ。だが――今のアスランの動きは、真のトゥルージャスティスの動きは、誰にも止められなかった。 ビームは空しく空を切り、フレキシブルアームから発振されるビームソードは次々と切り落とされ、消えた。 起死回生のスプラッシュスキュラを放とうとしてついに姿を見失ってしまう。セシルは目を離した覚えはない。にもかかわらずトゥルージャスティスが居なくなった。リフターを分離し、その反動でセシルの目で追えない程の速度で視界から消えたのだ。セシルが再びその影を見つけたのは、トゥルージャスティスの刃は正確にオラクルのコクピットに突き立てる瞬間だった。ビームで形成された光の刃は苦痛も恐怖も感じさせることもなく一瞬でセシルを消滅させた。
https://w.atwiki.jp/pazdra/pages/14752.html
木 光 スタージャスティス 木 光 鉄機王・スタージャスティス +碧の機神将・ヴィズアースガル 碧の機神将・ヴィズアースガル 木 木の機神兵・アースガル 木 光 碧の機神将・ヴィズアースガル +五機龍合体・ゴッドカノープス 五機龍合体・ゴッドカノープス 木 旋風機龍・カノープス 木 光 五機龍合体・ゴッドカノープス
https://w.atwiki.jp/revival/pages/503.html
アスラン=ザラの遍歴(暫定) 彼の性格を一言でまとめると「生真面目で悩みがち」となる。 前々大戦で彼はナチュラルの大量虐殺に走った父のパトリック=ザラを命がけで止めた。 ユニウス7への核攻撃で母を失った怒りを胸にZAFTに入った彼だが、復讐のために相手と同じく虐殺に手を染める父親に対して、疑問を抱いた末の行動だった。 (パトリックは結局、その狂気を目の当たりにした部下によって殺されたのだが)。 しかし、アスランはその経験を経て、精神的な強さを得るにはいたらない。 十代半ばの少年としては無理のないことかもしれないが、いったんは父に反旗を翻したものの、最愛の女性(=母)を失った父の思いを汲んであげるべきだったのではないかと悔やむ日々。親友のキラ、カリスマたるラクス、恋人のカガリと異なる点はそれである。彼は己の正義に対して常に懐疑を抱いているのだ。そんな彼が「正義」の名を関するMSに乗るとは何たる皮肉であっただろうか。 彼はそのまま後悔し迷い続ける。 彼がデュランダル議長に従ったのは、その迷いの表れである。二年前に裏切ったプラントに身をささげることで、贖罪意識を満たすとともに、今度こそはプラントを正しい道に歩ませようとした。 しかし、結局はそこに己の信念はなく、単なる代償行為であったがゆえに、彼は再度プラントを裏切ることになる。 デュランダル議長には確かに疑念を抱かれても仕方のない、矛盾した部分はあった。アスランが議長に不信感を抱いたのもある意味では当然だった。 だが、為政者が理想と現実の狭間で一切の矛盾した行動を取らずにいられることはない。多かれ少なかれ、そこには政治家が忌避される原因となる妥協や嘘といった要素が生まれてくるのだ。 生真面目なアスランはそれを許容することはできなかった。そんな議長を否定し、キラやラクスやカガリの庇護下に走ることで、自分を正当化したのだった。 そしてRevival世界において、彼はある程度の成長を見せる。彼はもはや迷っていない。 ラクスたちがおこなう正義のもとで、理不尽ともいえる扱いを受けている人間がいることを知ってもなお、その正義が目指す平和な世界の価値を信じて、剣を振るい続ける。 しかしそれは正確には、「キラやラクスやカガリのために戦うことを迷っていない」だけなのである。信念に基づき我が道を見出したわけではない。単純に、付き従う対象を固めたというだけなのである。彼が揺らいでいないように見えるのは、単にラクスやキラやカガリという不動の大樹に寄り添っているためであるに過ぎない。 そう、彼はいまだに自分の「真実の正義」を見出してはいないだ。 彼はその信念の欠落ゆえに、今でも多くの悲劇を生んでいる。カガリを拒絶しきれず、愛して結婚したはずのメイリンを幸せにできないのはその最たるものだろう。 彼はメイリンを愛しているのかもしれないが、メイリンにその愛を信じさせることはできていない。 彼の現在の地位はカガリ=ユラ=アスハ永世首長直属のオーブ近衛軍司令官。 名前だけは仰々しいが、実際のところは名誉職に過ぎない。 統一連合での五年間、彼は数多の戦場を駆け巡った。エターナル・フリーダムとともに統一連合の象徴であるトゥルー・ジャスティスを駆る。時にはキラとともに、ないしは単独で反乱勢力の鎮圧に出向き、レジスタンスの軍勢を一蹴し、数々の輝かしい戦果を挙げた。すべてはラクスの平和のためである。 しかし言い方は悪いが、所詮は優秀なMS乗りとしての役目しか果たしていない。それが彼、アスラン=ザラの限界である。 今、彼は愛する妻のメイリンを失った。その悲しみを胸に、レジスタンスへの復讐に燃えるアスランは、その姿がかつてのシンに重なることを自覚しているだろうか? さらに、統一連合の正義を守るために、あえて修羅の道を進もうとする自分が、議長の信じる正義に殉じようとしたシンと同じであることに気付くだろうか。 アスラン=ザラはかつて、そのようなシンに対し高みから見下ろすかのような態度で臨んだ。そして今、同じ立場に自分が立たされようとは…皮肉としか言いようが無い。 注意点1・この文ではメイリンが死亡してからアスランとシンの直接対決があることになっていますが、その点はまだ未定です。 アスランの役職が単なる名誉職ということになっていますが、それも未定です。 関連SSアスラン幕間
https://w.atwiki.jp/revival/pages/286.html
742 通常の名無しさんの3倍 sage 2005/10/02(日) 20 36 15 ID ??? 帰れない私
https://w.atwiki.jp/ggenewars/pages/889.html
パイロットアビリティ 人々を統率する事ができる才能。 マスターの場合はマスター範囲+1。 艦長の場合はグループ範囲+1。 リーダーの場合はチーム範囲+1。 レベルを上げる事で効果が上昇する。 Lv Lv1 Lv2 Lv3 Lv4 Lv5 Lv6 Lv7 Lv8 Lv9 LvMAX 上昇値 +1 +1 +2 +2 +3 +3 +4 +4 +5 +6 必要AP - 70 70 70 80 80 90 90 100 100 習得キャラ 習得Lv ブライト・ノア(1st) Lv30 ドレン ギレン・ザビ 初期 ドズル・ザビ ハーディ・シュタイナー サウス・バニング Lv19 エイパー・シナプス 初期 クワトロ・バジーナ Lv5 ブライト・ノア(Z) 初期 ヘンケン・ベッケナー Lv17 ブレックス・フォーラ 初期 ジャミトフ・ハイマン ガディ・キンゼー ブラン・ブルターク ベン・ウッダー ハマーン・カーン(Z) Lv16 ビーチャ・オーレグ Lv39 ハマーン・カーン(ZZ) Lv16 マシュマー・セロ Lv45 グレミー・トト Lv50 ゴットン・ゴー ブライト・ノア(CCA) 初期 シャア・アズナブル(CCA) 初期 ナナイ・ミゲル Lv55 マフティー・ナビーユ・エリン Lv50 レアリー・エドベリ Lv32 カロッゾ・ロナ Lv40 オリファー・イノエ Lv15 ジュンコ・ジェンコ 初期 オイ・ニュング 初期 ロベルト・ゴメス Lv19 クロノクル・アシャー Lv35 ファラ・グリフォン Lv50 ドゥカー・イク カトル・ラバーバ・ウィナー Lv34 リリーナ・ピースクラフト Lv30 ミリアルド・ピースクラフト Lv16 カーンズ デキム・バートン リリーナ・ドーリアン Lv30 大統領 ジャミル・ニート 初期 サラ・タイレル Lv50 ザイデル・ラッソ 初期 フィクス・ブラッドマン 初期 キエル・ハイム Lv7 ミハエル・ゲルン リリ・ボルジャーノ マリガン ギャバン・グーニー Lv16 ディアナ・ソレル 初期 ハリー・オード 初期 フィル・アッカマン ダイスケ ギム・ギンガナム Lv32 マリュー・ラミアス(C.E.71) 初期 ナタル・バジルール 初期 ラウ・ル・クルーゼ 初期 フレドリック・アデス アンドリュー・バルドフェルド(C.E.71) Lv12 マーチン・ダコスタ パトリック・ザラ カガリ・ユラ・アスハ(C.E.71) Lv35 ウズミ・ナラ・ナスハ 初期 ラクス・クライン(C.E.71) Lv30 ドゥエイン・ハルバートン 初期 アスラン・ザラ(C.E.73ザフト) Lv30 タリア・グラディス 初期 タリア・グラディス(FAITH) 初期 アーサー・トライン Lv34 イザーク・ジュール(C.E.73) ネオ・ロアノーク 初期 スティング・オークレー Lv34 イアン・リー 初期 ラクス・クライン(C.E.73) 初期 マリュー・ラミアス(C.E.73) Lv7 アンドリュー・バルトフェルド(C.E.73) 初期 カガリ・ユラ・アスハ(C.E.73) Lv35 トダカ 初期 アマギ スメラギ・李・ノリエガ 初期 カティ・マネキン ヨハン・トリニティ Lv50 マーク・ギルダー Lv6 ゼノン・ティーゲル 初期 ニキ・テイラー Lv5 備考 艦長やリーダー、マスターにするには必須の能力。勇将や闘将、カリスマ等とセットで覚えるキャラもいる。 同じ統率系アビリティでも、統率力やローラ・ローラのように効果上昇がMAX時+6で終わる代わりに同アビリティ内の全効果が上昇するものと、 FAITHやカリスマのように範囲補正値は上昇しないタイプの2種類がある。
https://w.atwiki.jp/perotanfenix/pages/80.html
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。 名前 ガリガリノリアキ 分類 リアル 説明 ガリガリ 配信での扱われ方 ガリガリノリアキガリガリノリアキ 関連動画 【ノリアキ PV】 「unstoppable」 ‐ ニコニコ動画(原宿) 関連リンク ノリアキ
https://w.atwiki.jp/sinatmaskedrider/pages/66.html
第十話 ユニウスセブン。ユニウス市の沖合いを埋め立てて作られた人工島で、数々の実験、研究が行われる場として、名をはせていた。 しかし、今は何の研究も行われてはいないばかりか、人の住めない土地となっていて、生きている者は存在しない。それでも、この土地の名を知らぬ者はいない。 血のバレンタインの悲劇の舞台として。 MA、MSが頻繁に出現するようになる半年ほど前のこと、突然の地殻変動がこの人工島を襲った。 あまりに不自然で、突然の大地の咆哮。その暴力的な力の前に、人間はあまりに無力だった。行方不明者多数、生存者は確認されていない。 もちろん、すぐに数多くの救助隊が組織されユニウスセブンへと派遣されたが、その全てが消息を絶った。当時は原因不明だったが、すぐに解明されることとなる。 MSの出現、そして襲撃。 はじめうち、MSがユニウスセブン付近で確認されたことから、突然の地殻変動にも救助隊の行方不明にも関わっていると推測されているが、詳細は判明していない。 度重なる調査隊の派遣にもかかわらず、生存者の発見はおろか救助隊自体の消息不明が続いた上、MSの大群と警察隊の衝突という大事件があり、ユニウスセブンへの調査は完全に打ち切られてしまったためだ。 それ以来、ユニウスセブン周辺は完全に封鎖され、いくつかの観測所での監視がなされるだけの土地となり、MSが姿を消した後も、調査が再開されることはなかった。 だから、監視任務も何でもない、ただの退屈なだけの仕事のはずだった。 観測対象であるユニウスセブンの異変。二人の観測員がそれを報告、さらに詳しく情報を集めているときのことだった。 彼らの観測所へと黒い影が歩み寄っていく。 その直後、観測所に惨劇の嵐が吹き荒れた。 「結構血が出てますけど、ちょっと額を切っただけですから大したことはないですよ」 手当てを済ませ、包帯を巻き終えたメイリンがカガリに言った。 「色々迷惑をかけたみたいだな。本当にすまないと思う」 「いえ。代表こそ大したお怪我がなくて何よりです」 謝辞を述べるカガリに対し、レイは笑顔で応えた。いささか胡散臭い作り笑いではあったが。 なぜか突然機嫌の悪くなったシンがアレックスを連れ帰ってきた直後辺りにカガリも目を覚ました。 玄関で治療するわけにもいかないので、空いている一室を使い、メイリンがカガリの治療を行なった。今この部屋にはカガリとメイリンのほか、レイとアレックスが居る。 カガリの頭には白い包帯が巻かれているが、幸いその他に怪我はないようだ。次にメイリンはアレックスの方を向いた。 「今度はアレックスさんの番ですよ」 「いや、俺はいい」 「遠慮しないで。早くここに座ってください」 目の前の椅子を勧めるが、アレックスはそれを頑ななほどに拒んだ。 多少の傷はあるが、既にそれらはほぼ回復している。今も、常人ではありえないような速さで治癒していることだろう。そんなものを、見られたくはなかった。 「それより、大した手並みだな。とても素人とは思えない」 「え?」 「君の手当てのことだよ。随分、手馴れているな」 いきなり褒められ、メイリンは困惑しつつも嬉しそうだった。 「その、昔からこういうことはよくやっていて……」 これなら、うまくごまかしきれそうだ。アレックスは誰にも分からないよう、小さな安堵のため息をついた。 その部屋から壁一枚を隔てた廊下では、ルナマリアたちが揃って噂をしていた。 話の種はもちろん、オーブのアスハ代表のことだ。みんな好き勝手な事を言い合っている。ただ、シンだけはこの場に居なかったが。 ヨウランとヴィーノにいたっては、ドアや壁に必死に耳を密着させて中の様子を探ろうとしていた。 「やっぱり、何も聞こえないよ」 「防音が随分しっかりしてんな」 「盗み聞きなんてするなってことかぁ?」 聞き耳を立てながら喋りあう二人を、ルナマリアが一喝した。 「ヨウラン、ヴィーノ。静かにしなさいよ!レイに聞かれたらどうするの」 「あの……ルナマリアさんの声が一番大きいです」 「マユちゃん、口は災いの元って言葉知ってる?」 ルナマリアが含みのありそうな恐ろしげな笑顔でマユを見つめた。その迫力にマユは思わず謝ってしまった。 「は、はい! ごめんなさい」 「分かればいいのよ。分かれば」 突然、ヨウランたちがドアから離れた。ドアがかすかに開き、その隙間から顔を覗かせたレイが四人にささやくように言った。 「もうすぐ代表達が出てくる。お前達は先に部屋に行っていてくれ」 盗み聞きをしていたことはレイには百も承知のことだったようだ。形のいい眉がひそめられ、それが彼の不機嫌さをあらわしている こうやって前もって教えてくれたのも、ルナマリアたちのためというより、代表達の前で余計な恥を書きたくないためだろう。 「あ、そう? じゃ、後でね」 ルナマリアたちは蜘蛛の子を散らすように、その場から駆け出した。レイは呆れ顔で彼らを見送り、音を立てないようにゆっくりと戸を閉めた。 多少大きいとはいえ、ここも所詮はただの家だ。すぐに、シンが一人で待っている居間に辿り着く。ドアを開けて入って来たルナマリアたちを、頬杖をついたシンが不機嫌そうに、馬鹿にするような目つきで睨みつけてきた。 「盗み聞きはどうした?」 言葉にも明らかな棘がある。ルナマリアたちだけならともかく、マユがいるのにこのような口ぶりをするのは明らかにおかしい。シンの逆鱗に触れないように、ルナマリアは務めて明るく答えた。 「別にどうもしないわよ。アスハ代表、治療終わったって」 シンは何も反応しなかった。無関心を装っているのか本当に関心が無いのか、どうにも判断がつかない。 席に座ったルナマリアは、そんなシンを無視して隣の席のマユと話し始めた。 マユのほうも、カガリには興味があった。自分の生まれ故郷の偉い人がここに居るのだ。むしろ、気にならないという方がおかしいだろう。 ルナマリアはさっきから全く口を開かないシンが気になり、あえて話題を振った。 「ねえ、アスハ代表のこと、シンはどう思う?」 「そんなこと、知ったことかよ!」 怒鳴りつけられたルナマリアは怯み、当のシンも、ばつが悪そうに口をつぐむ。ちょうどその間に居たマユまでも怯えて縮こまった。非常に重苦しい空気がこの場を支配した。 この空気は、レイたちがこの部屋に入ってくるまで続いた。 戸が開き、レイとメイリンが部屋に入ってくる。重苦しい空気を吹き飛ばそうと、ルナマリアが無理に明るく聞いた。 「あ、レイ。終わったの?」 「ああ。代表達の怪我は大したことはない」 「それは何より。ならさっさと帰ってもらえば?」 「シン!何言ってるのよ!」 失礼極まりない事をのたまったシンを、ルナマリアがたしなめる。レイは何も言わなかったが、非難の目つきでシンを睨みつけた。 「今日はもう遅い。彼らにもご馳走したいのだが、いいか?」 その直後、レイがドアの外のカガリたちを部屋に入れた。誰も不満は言わなかった。 パーティーだというので料理は多めに買っておいたうえ、ヨウランとヴィーノがピザやフライドチキンを手土産にしてきたので、むしろ食べきれないくらいのご馳走がテーブルの上に並んでいる。 それに、オーブの代表といえば、かつてはワイドショーのトップを独占したほどの時の人だ。興味があるのは当然だろう。 特に、つい最近までオーブに居たマユは好奇心に目を輝かせる。シンはさらに不機嫌そうな目つきになったが、隣の席のマユを横目に見て、結局何も言わなかった。 「お前が、助けてくれたらしいな。」 パーティーが始まってすぐに、カガリはシンの方に近寄り、声をかけた。 シンに助けられた事をアレックスに聞いたのだ。一応礼を言おうとしたのだが、普段の調子でつい偉そうな口ぶりとなってしまった。 それがさらに、ただでさえイラついていたシンの神経を逆なでした。 「おかげで……」 「おかげで、何です? 礼でもしようってんですか?」 突っかかるような口調でシンは言った。アスハに対する反発が、さらに言葉をつむがせる。 「それならいりませんよ! アスハから礼を言われる筋合いなんかありませんからね!」 「なっ!?」 シンの意外な言葉に詰まる。そしてカガリは憤り、シンに掴みかかろうとしたが、アレックスに腕を掴まれた。 「カガリ!」 「す、すまない」 カガリは振り上げた腕を下ろし、謝った。いくら無礼な事を言われたとはいえ、命の恩人に手を上げるわけにはいかない。もっとも、昔はそれをやってしまったこともあったが、昔と今では立場が違う。そんな好き勝手できる立場ではないのだ。 シンはカガリの謝罪を一瞥だけして、それを無視した。今度は行動にこそ移さなかったものの、カガリが気分を害したことは明白だった。 最悪のスタートではあったものの、パーティールナマリアたちが頑張って盛り上げたおかげでそれなりに楽しめる雰囲気にはなった。ただ、シンに対してはまるで腫れ物を扱うかのように、誰も声をかけない。 はじめのうちはシンに気を使ってそばに居たマユも次第に離れていった。今はカガリと話している。 シンはやはり面白くなさそうな顔をしていたが、マユを拘束するわけにもいかない。二人の会話に聞き耳を立てたまま、ただ黙々と料理を口の中に放り込んだ。 味など、まったく分からなかった。 「そうなんですか。ウズミ様の後を継いで」 「ああ。私など、まだまだお父様の足元にも及ばない」 お父様、という単語を聞き、マユの表情が曇る。だがカガリは気付かずに話を続け、シンの神経を逆撫でした。 テーブルに激しく拳が叩きつけられる。食器が踊り、大きな不協和音を奏でる。驚いたマユの視線の先では、シンが肩を震わせていた。 激しい怒りをこらえつつ、シンは息も荒く、怒鳴った。 「マユ、もうそんな奴と話すな!」 「……え?」 「そんな奴と話すなって言ってるんだ!」 一瞬で場が凍りつく。状況が理解できていなかったマユが、やや間抜けな声を出した。 「え……あの……」 「何だと!」 「シン、いい加減にしろ」 「あー、そうでしたね。この人、エライんでしたね」 「おまえっ!」 レイの言葉にも、シンはいかにも白々しい口調で答えた。恩人だと思って黙っていたカガリも遂に我慢の限界を超え、前に出ようとするが、アレックスに押しとどめられる。 「落ち着け、カガリ! それに君も、いい加減にしてもらおうか」 カガリに変わってアレックスが、冷静な中にも苛立ちを込めた声でシンに言った。 「さっきからの君の態度は何だ? 代表を馬鹿にするようなことはしないでもらいたい。もし、くだらない理由でこれ以上代表を侮辱するというのなら、たとえ命の恩人でもただではおかないぞ」 アレックスの「くだらない」という単語に、シンは逆上した。頭がかっと熱くなり、アスハに対する恨み、怒り、憤りをぶつけたくなった。 だが、涙眼でおろおろしているマユの姿を視界に捉え、我に帰った。 マユには、両親は事故死した、と言うことにしてある。本当の事を話すわけにはいかない。 シンは感情を押し殺すようにして、声を絞り出した。 「……別に。ただ、アスハのキレイごとがなんとなく気に食わないだけだ」 そのシンの言葉に、アレックスでもカガリでもなく、マユが声を荒げた。 「何それ! そんなつまらないことでアスハ代表に突っかかったの!? 最低!」 パーティーの空気が、完膚なきまでにぶち壊しになっている。マユはそれをも責めていた。涙眼のまま激情を吐き出すマユの姿は痛々しい。 その姿を見たルナマリアたちもシンをどこか冷めた、白けた目で見つめた。 そんな視線に耐えられなくなったシンは無言で部屋を出て行った。 「あ、あの……、ごめんなさい!」 シンの姿が消え、少し落ち着いたマユは、シンを追って部屋を出て行こうとしたが、一旦振り返ってカガリたちに謝った。 「ホントごめんなさい! マユたち、お父さんもお母さんもずっと昔に事故で死んじゃって……。アスハ代表がお父さんのことを言ったのが気に入らなかったと思うんです。多分、それで……」 シンは部屋に入り、電灯もつけずにベッドに倒れこんだ。 少し冷静になった頭で、先ほどの事を思い出す。 本当にバカな事をした。 今になってみれば、そう思える。だが、頭に血の上っていたさっきは、そんな事を考える余裕も無いままに、かっと熱くなってしまった。 許せなかったのだ。アスハが、自慢げに父親の事を口にするのが。 四年前のあの時、ウズミ・ナラ・アスハによるオーブの中立政策の弊害で各地の救助隊は連携が取れず、避難民の救助が遅れた。 もしあの時もっと早くに助けが来ていれば、父親も母親も死なずにすんだ。マユも苦しまずにすんだはずだ。俺だって……。 たとえウズミの中立政策がなかったとしても、シンの家族が助かっていたとは限らない。だが、シンはそう思い込み、オーブ、そしてアスハを憎悪した。 そのとき、薄壁一枚隔てた先、廊下の方から小さな足音が聞こえ、シンの思考は中断された。その気配は、部屋の前で停止した。 「ん?」 「お兄ちゃん、いる?」 シンの部屋の前まで来たマユは、ドアをノックして声をかけた。返事はない。しかし、他の場所にいるとも思えない。マユはそのままドア、正確には戸一枚隔てた先にいるはずの兄へと向かって話しかけた。 「アスハ代表だって悪気があってあんなこと言ったわけがないよ? マユたちに親がいないなんて知らないんだもん。それに、アスハ代表だってお父さんが死んじゃってるんだよ。それなのにあんな言い方……」 上半身を起こして、ベッドに腰掛けたシンはマユの言葉を黙って聞いていた。 マユの言うとおり、確かにカガリ・ユラ・アスハの父親、ウズミ・ナラ・アスハはオノゴロ島事件の時になくなっている。オーブと運命を共にしたのだ。しかし、同情する気にもなれない。 ウズミは死を賭して信念を貫いた代表として英雄扱いもされている。だが、シンにとっては国民に犠牲を強い、国を滅ぼしたただの無能な理想主義者だ。 それは父親だけでなく、娘も同じだ。理想だけで現実を全く見ようともしない。少なくとも、シンにはそのようにしか見えない。 自分たちから両親と幸せを奪ったアスハが、自慢げに自分の父親の事を語り、無神経にもマユの心の傷を押し広げた。 それがシンには許せず、あんな行動に出た。馬鹿な事をしたとは思っているが、かと言って自分のした事を否定するつもりもない。だが、マユたちにはそれが分からない。 「ね、お兄ちゃん。アスハ代表に謝ろ?」 シンは黙ったまま、何も答えない。しばらく待っていたマユだったが、その無言から拒絶の意を汲んでとったマユは、激昂した。 「もう知らない! お兄ちゃんなんてだいっキライ!」 けたたましい足音が、シンの部屋から離れていく。 マユにだけは分かって欲しかったが、説明するわけにもいかない。だが、だからといって、こっちから謝るなどもってのほかだ。その結果がこれだ。自分が我慢しきれなかったのが悪いとは言え、やはり、辛い。 「くそっ!」 シンは苛立ちを押さえきれず、壁に拳を叩きつけた。 「申し訳ありません。まさかあいつがあんな事を言い出すとは……」 「いや……そんなに気にしないでくれ」 玄関でレイがカガリたちに頭を下げた。あんな騒ぎが起こった以上、この家にはいられないと出て行く二人の見送りだ。それには、シンを除いた全員が来ている。さすがに玄関先は混雑で飽和状態だった。 こういったゴタゴタにもカガリは慣れているのか、やんわりとレイの謝罪を受け止める。どちらにしろ、今日は予約しておいたホテルに泊まる予定だった。デュランダルがいない以上、ここに長居する必要もない。 「それより、本当に世話になった。感謝している。あと、デュランダル教授には……」 「はい、ギルバートから連絡がありましたら、代表のことも伝えておきますので」 「感謝する」 そこでカガリはマユのほうに向き直った。今にも泣き出しそうな顔をしている、この少女に。 「お前も、気にしなくていいんだぞ」 「でも、ごめんなさい。お兄ちゃんも、本当はとっても優しいんです。お父さん達が仕事でいないときもずっと一緒にいてくれて……ずっとマユのこと守ってくれて……」 「マユの大事な人だもんな。分かってる」 そう言ってカガリはマユの頭を優しく撫でた。カガリの優しさが身にしみたマユは目に涙をあふれさせ、何とか一言だけ口に出すことができた。 「あ、ありがとうございます……」 レイの呼んだタクシーにカガリが乗り込む。タラップに足をかけたアレックスは、視線を感じて振り向いた。 憎悪の込められた赤い瞳が、ガラス越しに向けられている。 「どうした?」 「……いや、なんでもない」 カガリは気付いていない。あえて言う必要もないだろう。 アレックスはその視線をまっすぐに受け止め、タクシーの後部座席へと入った。無視するのは簡単だったが、それはしなかった。なぜか、避けてはいけないような気がした。 何台ものパトカーが集まり、多くの警官が粗末な小屋、ユニウスセブン観測所を取り囲んでいる。 その場へ、一台のパトカーがサイレンを鳴らしながら到着した。ドアが開き、中から二人の青年と一人の女性が出てくる。 「まさかこんなところまで来るとはな」 「仕方ないですね。MSが現れたそうですから」 「確かってワケじゃねえだろ?」 「疑いがあるのなら、調査するべきです。少なくとも、二人の犠牲者がでていることは確かなのですから」 「へいへい。マジメなことで」 「警察官、ひいてはZAFTの一員として当然のことです」 近くで見張りをしていた警官がイザーク、ディアッカ、シホの三人へと敬礼し、彼らへと声をかけた。 「ご苦労様です」 「現場は?」 「こちらです」 そのまま案内役の警官は、彼らZAFTの面々を事件現場へと連れて行った。 MS関連の事件は広域指定されており、その専任捜査本部といえるZAFTは区域を越えて捜査を行うことが許されている。 イザークたちがここまで呼ばれたのも、この殺人事件がMS絡みの可能性がある、という話だからだ。 「何だ、あれは?」 「随分、具合が悪そうだな」 現場である観測所に向かう途中、道路わきに何人もの警官がかがんでいるのを見かけたイザークが、案内役の警官に訊いた。 すると、警官は血の気の引いた顔で、口ごもりながらも答えた。 「現場はかなり酷いことになっているそうなので……覚悟しておいてください」 観測所のドアを開けると、酷い血の匂いがイザークたちの鼻についた。 「だ、大丈夫ですか?」 「あ、ああ。これくらい……うっ」 真っ青になって口を押さえているイザークをシホが気遣う。だが、彼女にしても負けず劣らず顔は青ざめ、肩は震えている。 「職業柄むごい死体は結構見てきたけど……、ありゃひでえよ。当分肉は食えねえな」 ディアッカは冗談めかして言うが、乾いた笑いさえも出てこない。 それほどまでに、惨い現場だった。通報を聞いて真っ先に駆けつけた警官はドアを開けた瞬間に卒倒したと言う話だが、それも仕方ない。 狭い室内は血の匂いで充満し、天井にまで血しぶきが飛んでいる。肝心の死体だが、情けない話だが、ほとんど直視できなかった。 「後で詳しい報告書をまとめておきますので、読んでおいてください」 ベテランと思しきこの鑑識は、顔色一つ変えずに言った。心なしか、馬鹿にされているような気分だ。 「ああ」 鑑識という仕事はまともな神経では務まらない。そう思いながら、イザークは生返事で応えた。 今朝の朝食は、非常に重苦しいものだった。 結局、シンは降りてこなかった。今日も、朝から姿を見ていない。マユもずっとふさぎこんだままだ。 そんなマユに料理をさせるわけにもいかず、食パンが並ぶだけの食卓は非常にわびしいものだった。 今朝はメイリンは食べに来なかった。シンも降りてこないままなので、三人だけの朝食だ。 「な、何か……きまずい?」 ルナマリアは場を和まそうとしてわざと間の抜けた事を言ったが、口を開いた事を後悔した。恐ろしく空気が重い。おかげで食も進まない。 「……ごちそうさまでした」 マユがゆっくりと席を立った。食器の上のパンは、全く手を付けられていないままだ。 「ごちそうさまって、全然食べてないじゃないの」 「食欲……ないんです。失礼します」 心配したルナマリアが声をかけるが、マユはお辞儀をして、そのまま部屋を出て行った。 マユの後姿を見送ったルナマリアは、声を潜めてレイに言った。 「大丈夫かな、マユちゃん。シン呼んでこようか」 「こじれるだけだ、やめておけ」 「でも……」 「大丈夫だろう。お前達と同じだ」 「私たち?」 言われて、ルナマリアは思い当たる。メイリンとの事だ。どんなけんかをしても、すぐに仲直りできる。少しくらい仲違いをしても、そう簡単に絆は断ち切れるものではない。シンたちも同様だと言いたいのだろう。 「そっか。けど、時間がかかるかも」 「それでも、仲直りできるはずだ」 レイの言葉をかみしめながらも、ルナマリアは思う。いつも一緒に居た自分たちとは違い、シンたちはずっと離れ離れだったのだ。きっと、その手助けくらいは必要だと。 ルナマリアはドアの前で一度深呼吸をして、息を整えた。緊張をほぐした彼女は意を決し、ドアを叩く。 「誰ですか?」 すぐに返事が来る。かわいらしい女の子の声、マユのものだ。 「私よ、私。ちょっといい?」 しばらくしてから、ドアが開く。泣いていたのか少し目が赤い。 「……はい?」 「今、時間ある?」 「別に、用事はないですけど。何ですか?」 怪訝そうな表情で、ルナマリアを見上げる。 「それなら、デートでもしよっか?」 「ごめんなさい。今、そんな気分じゃないです」 マユはそう言ってドアを閉じようとするが、ルナマリアはそれをさせなかった。 「ダ~メ。何としても来てもらうわよ」 部屋に閉じこもったままでは、ストレスが溜まるだけでろくなことにならない。無理にでも外に引っ張り出し、少しでも発散させるべきだ。 そんなルナマリアの考えが伝わったわけでもないが、マユはため息をついて言った。 「……分かりました。どこにでも連れて行ってください」 「ん、ちょっと待って。せっかくのデートなんだし、待ち合わせしましょ」 「はい?」 「そうねぇ。一時間後に駅前に集合、って事でいい?」 「……行けばいいんですね、行けば」 マユはため息をつき、呆れ顔でルナマリアの言うことに従った。 ルナマリアはドアの前で一度深呼吸をして、息を整えた。緊張をほぐした彼女は意を決し、ドアを叩く。 「誰だ?」 すぐに返事が来る。いかにも不機嫌そうな声、シンのものだ。 「朝ごはんには来なかったけど、起きてたのね。ちょっと開けてくれる?」 しばらくしてから、ドアが開く。赤い瞳が、不機嫌そうにルナマリアを睨みつける。その眼光の鋭さにわずかにひるみながらも、ルナマリアは務めて軽い調子でシンに言った。 「今、時間ある?」 「別に、用事はないけど。何か用?」 「それなら、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」 「やめとく。荷物もちでもやらせるつもりだろ?」 「何よ。どうせ暇なんでしょう?付き合ってよ」 「いやだ」 「来てってば!」 こうなると、初期の目的を忘れて意地になる。無理にでも引っ張り出そうと、ルナマリアはシンの腕を掴んだ。だが、それはすぐに振りほどかれた。 「イヤだって言ってるだろ!何でそうむきになるんだよ!」 「そ、それは……」 言われてルナマリアは口ごもった。ここで真意を話してしまっては、元も子もない。 「とにかく、俺は行かないからな!」 シンは叩きつけるように、ドアを閉めた。 当ての外れたルナマリアは、閉じたドアを睨みつけて臍をかんだ。 せっかく、仲直りさせようと思ったのに。 ルナマリアを叩き出してから、シンはまたも後悔した。ルナマリアはきっと、自分に気を遣ってくれたに違いない。それをああも邪険にしてしまい、さぞ気を悪くしてしまったことだろう。 しばらく悩んでからシンは、彼女に謝ろうと思い立った。ルナマリアがいるであろう、 居間へと向かう。 だが、そこにいたのはレイだけだった。椅子に座って、何か読んでいるようだ。シンは気まずさを感じつつも、彼の背中へと声をかける。 「……ルナは?」 「出かけた」 それだけで、レイは何も言わなかった。昨日の一幕のことで何か言われるに違いないと身構えていたシンは拍子抜けし、思わずその背中を凝視した。 「なんだ?」 「い……いや、別に」 その視線を感じ取ったレイが、背を向けたまま声をかける。シンはうろたえて口を濁した。 「昨日のことなら気にするな。俺は気にしない」 無造作に言われたその言葉に、シンは虚を突かれて呆然となる。 「お前には俺よりも謝るべき相手がいるだろう」 淡白な口調ながらも、心配してくれていることが分かる。レイの気遣いに、思わずシンの顔が緩んだ。 意地になってルナマリアの誘いを断ったとはいえ、シンには別段用事はなかった。手持ち無沙汰になったシンは作業着に着替え、バイクの整備をした。最近、やけに調子が悪いのだ。理由は大体想像がつくが。 だが、マユやルナマリアとのこともあってなかなか集中できなかった。全くはかどらず、時間だけが過ぎていく。シンはイラつき、汚れるのもかまわずに、乱暴に頭をかきむしった。 ふとその時、シンは後ろから唐突に声をかけられた。 「レイは、いるかな」 驚いたシンが振り向いた先にいたのは背の高い、長い黒髪の男だった。三十歳くらいだろうか。気品を感じさせる優雅な物腰が印象的だった。知性をたたえた切れ長の目が、シンをまっすぐに見据えている。 機嫌の悪かったシンだが、何とかそのイラつきを押さえて質問に答えた。散々世話になっているレイに迷惑をかけるわけにはいかない。 「はい。いますよ」 「ありがとう。君は、レイの友人かな?」 「誰なんですか?あなた」 男の質問に答えないまま、シンは疑問を口にした。この様子からすると、レイとかなり親しそうだ。 シンの不躾とも言える疑問に対し、男は気を悪くした様子も見せずに、柔和な表情をたたえたままに、あらためて口を開いた。 「これは失礼した。まだ、名前を言ってなかったね。私は……」 「ギル!」 突然に男の話を遮った声。嬉しさが満ち溢れているこの声を聞いたシンは、自分の耳を疑った。 「元気そうだね、レイ。久しぶりに会えて、私も嬉しいよ」 暖かな声で、男が言う。とたんにレイは、友人の誰にも見せたことのないほど、頬を紅潮させている。 日ごろ見たことのない友人の姿に面食らっていたシンだが、まるで親子のようなこの二人の姿に、やっと男の正体に思い当たった。 よくレイが話していた、そんな時にはいつも落ち着いていてクールな彼が嬉しそうな顔になっていた、アカデミーの教授で彼の保護者。ギルバート・デュランダルだ。 レイがデュランダルと共に家に入って行った後も、シンはバイクの整備を続けていた。だが、気がかりを残したままで、丁寧に整備できるはずもない。ほとんど何も出来ないまま、シンは作業を中断して家に戻った。 油まみれの作業服から普段着に着替えたシンは、あらためてデュランダルに挨拶しようと居間へと入った。 ほかならぬレイの保護者だ。ちゃんと挨拶しておかなければならない。そう考えていたが、そこにいた顔ぶれを見て、シンの態度は一転した。 「何で、あんたらがいるんだよ!」 居間にいたのはレイとデュランダルだけではなかった。カガリ・ユラ・アスハとアレックス・ディノの二人を加えた計四人が、いつも食事に使っているテーブルを挟んで、何かを話し合っていた。 「口を慎め。彼らはギルが呼んだお客様だ」 レイがたしなめる、と言うよりも咎めるような強い口調で言った。シンは押し黙り、居間を出て行こうとしたが、デュランダルに引き止められた。 「ああ、待ってくれ。君にも、ここにいてもらいたい」 「教授!この話は!」 「レイの話によれば、彼にも目撃経験があります。その意見も、是非聞いておきたいのですよ、姫」 カガリが怒鳴るように言うが、デュランダルは意に介さなかった。丁寧な口調だったが、有無を言わさない口調だ。それに、見事な正論。カガリは反論できなかったが、せめてもの抵抗として、ぶっきらぼうな口調で言い返す。 「その、姫というのはやめていただけないか?」 デュランダルは少し驚いたように目を見開き、笑いをかみ締めるような表情で頭を下げた。 「これは失礼しました。アスハ代表」 政治家のはずのカガリが完全にやり込められている。憤然とした表情で睨みつけるが、当の相手は穏やかな笑みをたたえた表情を崩さない。カガリは引き下がるしかなく、デュランダルは立ったままのシンに席に座るように促した。 入れ替わるように、レイが部屋の外へと出て行く。彼の場合は、別に用事があるようだ。 レイの後姿を見送り、勧められて席に着いた直後、デュランダルはシンに向かって話しかけてきた。 「まず聞きたいのだが、君は、MSについてどう思うかね」 「MSについて……ですか?」 質問の意図が測りきれずに、シンは聞き返す。 「ああ。レイにも聞いていたが、君は何度も接触しているそうだね。簡単なものでいい。印象を聞かせてくれないか?」 そんなこと、考えたことがなかった。 「……ただの怪物……としか」 「そうか。やはり、そうだろうね」 デュランダルは嘆息するように言った。何かまずい事を言ったか、とシンはデュランダルの顔色を窺う。 「あ、あの?」 「いや、すまない。別に、君の答えが不満なわけじゃないんだ。ただ、彼らの目的が分からないものかと思っていたのだが、やはりそううまくはいかないようだ」 自嘲するようなデュランダルの言葉を、シンが問いかける。 「目的、ですか?」 「ああ。知っての通り、MSの事を、我々はほとんど知らない。何故人を襲うのか、それだけでも分かれば、被害を大幅に減らせるだろう」 そんな考え方などした事がなかった。この人は、俺なんか思いもよらないような大きな考え方をしている。 シンは尊敬のまなざしで、デュランダルを見上げた。 「何だって!?」 部屋へと再び戻ってきたレイの携えてきた報せに、カガリはしばし絶句した。彼女だけではない。アレックスの顔色も蒼白になっている。 「ユニウスセブンが、動いている!?」 「はい。このままいけば、最悪……完全に沈みます」 「ユニウスセブンが……」 デュランダルが両手を組み、深刻な表情で何かを思案して板が、やがて口を開いた。 「ひょっとしたら、MSが現れ始めたことと何か関連があるのかもしれません」 「教授!?それはどういう……?」 カガリの言葉に、デュランダルはよどみのない口調で答えた。顔色こそ青ざめていたものの、声色からは動揺を感じさせない。 「代表も知っての通り、MSは血のバレンタインの後、ユニウスセブンの付近で目撃され始めました。そこが、異常を起こしているのです。MSの仕業か、自然現象かは分かりませんが、おそらく、何らかの因果関係があるでしょう」 「……ユニウスセブンはあいつらの巣、なんですか?」 「それは不明だが、可能性はありえる。何でそんな事を聞くんだ?」 「いえ……、別に」 シンはごまかすように言った。デュランダルはそれ以上追求せずに、カガリたちのほうへと向き直った。 「……フム、そうか。そこで代表、今度の件についてですが……」 「……少し、外の空気を吸ってきます」 デュランダルが再び、カガリに話しかけ始める。シンは目立たないように静かに告げて、部屋を出て行った ガラス越しに、シンがバイクにまたがるのを見たアレックスは、小さく口の中で呟いた。 「……あいつ、まさか」 アレックスの疑念を証明するかのように、窓の外からバイクの爆音が響いた。 「あれだ!」 青いインパルスへと姿を変え、一直線にバイクを走らせたシンは、遂に目標をその視界に捉えた。 ユニウス市の郊外、全てのMS事件の始まりとなった地、ユニウスセブン。 オーブの奴らの手なんか借りない。俺が、奴らを叩き潰す!この手で、すべてを終わらせてやる! シンはさらにアクセルを踏み込み、マシンスプレンダーを加速させる。が、すぐさまバイクを横倒しにするようにして急激な方向転換をかけた。 一瞬前までインパルスのいた空間を、エネルギーの波動が通過、空気のイオン化する、焦げ臭い匂いがシンの鼻をついた。 シンはエネルギーの放たれた方向を睨みつけた。緑色のMS、ザクが長大なエネルギー砲、オルトロスを構えた姿が目に入る。そのザクの左肩の盾はなく、代わりに醜くえぐれた傷跡が刻まれている。間違いなく、先日シンが戦った相手だ。 「あいつ、なんでこんなところに!」 その呟きに答えるように、再度オルトロスがインパルスへと襲い掛かる。シンはバイクを急発進させるエネルギーの奔流がインパルスの右肩をかすめる。 直撃でないにもかかわらず、青い肩を黒く焦がすほどの膨大な熱量にシンは呻き声をあげた。 「ぐぅっ!」 肉を焼かれる苦痛に耐えながらも、シンはバランスを崩さない。もしバイクから手を離したら、それこそオルトロスの餌食になってしまう。 そんなシンの苦痛にもかまわず、エネルギーの波動が続けて襲い掛かる。シンはそれから逃れるため、巧みにバイクを操った。しかも、あまりに近くては余波で焼かれてしまう。 大きく距離をあけながらかわしているおかげでダメージこそないが、近づくこともできない。時間をかければ、さらに多くの敵が現れるかもしれない。 シンは意を決し、マシンスプレンダーをザク、いやユニウスセブンへと向けた。全速力で、まっすぐに突っ込ませる。 ザクが、照準をインパルスの胸部へと定める。あんな無謀な突撃では、完全にかわすことなどできるわけがない。 距離を詰め、最大出力でオルトロスが放たれる。膨大なエネルギーの奔流が、インパルスへと襲い掛かる。 「今だ!」 シンはマシンスプレンダーの車上で跳躍、エネルギーの奔流の上へと踊り出ながら緑へと変化する。左腕にはケルベロスを携えていた。 少し遅れてザクがインパルスの動きに気付き、銃口を向けるがもう遅い。最大出力で放ったせいで、充填に時間がかかる。 その間,既にケルベロスにはエネルギーが流れ込んでいる。跳躍の最高点でシンは引き金を引いた。 「いけぇっ!」 銃口から膨大なエネルギーの波動が解き放たれ、ザクを貫いた。盾を失っているために受け止めることもできない。シンが身をかがめて衝撃を和らげ着地する、と同時に、胸部を撃ち抜かれたザクは爆散、インパルスの緑色のボディをオレンジ色に染め上げた。 「やったあ!」 シンは快哉をあげるが、歓喜の声はすぐに引っ込められる。まだ炎の立ち昇る道路の向こう側に、何体もの黒い影を見つけたからだ。 シンは影の一つへと向けるが、引き金を引くことはできなかった。左腕に巨大な両刃の剣、重斬刀が振り下ろされ、ケルベロスが叩き落される。 「なんだ!?」 いつの間にやら、インパルスの左側に黒い影が忍び寄っていた。 「貴様ごときに、邪魔はさせん!」 左側の黒い影、顔に傷のあるジンハイマニューバ2型が言い放ち、強烈な斬撃を浴びせる。 両腕を掲げて防ごうとするものの、気迫のこもった一撃は防御をこじ開け、シンへとダメージを与えていく。 さらに、複数のジンHM2が現れ、シンを取り囲む。そのうちの三体が、シンへと飛び掛り、彼の自由を奪った。 薄暗い部屋に、光が差し込む。部屋のなかにいた専任スタッフたちは一斉に開いたドアの方を向き、慣れない目を細めながらも敬礼する。 顔の上半分を無機質な黒いマスクで覆った男、ネオはそれらを無視しつつもスタッフの一人に尋ねた。 「どうだ、様子は?」 「調整は完了しています」 「使えるのか?」 「日常生活においては何の問題もありません。ただ、戦闘で使えるかどうかは……まだ何ともいえませんね」 「実戦か……。それなら、一つ面白い話があるぜ」 そう言って、ネオは一つのファイルをコンソールの上に投げ出した。 『ユニウスセブン突入作戦』 スタッフは興味深げにタイトルのついたファイルの中身を覗き込む。ネオはそれを横目に見ながら、コンソールごしに部屋の奥へと顔を向けた。 そこには円形のベッドが三つ並んでおり、ベッドを覆うガラスカバーの下にはベッドの数と同じ人数の少年達、スティング、ステラ、アウルが思い思いの格好で横たわっている。 その寝顔はまるで何の悩みも心配もないような、あどけないものだった。