約 42,572 件
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/186.html
第18回トーナメント:準決勝② No.5394 【スタンド名】 Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!! 【本体】 仰木 健聡(オオキ ケンソウ) 【能力】 体液に衝撃を込める オリスタ図鑑 No.5394 No.7520 【スタンド名】 ロード・トリッピン 【本体】 デズモンド・ウォーカー 【能力】 触れた箇所を『滑走路』にする オリスタ図鑑 No.7520 Make Some Noizeee…e!!!! vs ロード・トリッピン 【STAGE:廃病院】◆pFj/lgiXE. 第16回トーナメントにおいて、出場者であるネプティス・アヌヴィッシュが引き起こした言語道断の殺傷事件は、警視庁上層部の耳に伝わった。 警視庁は彼女についての詳細を徹底的に調べ上げ、トーナメントの存在と運営者の正体を突き止めた。 上層部の人間達は、秘密裏に行われ、かつ、多くの死傷者を出しているトーナメントの運営側を放っておくわけにはいかないと判断し、トーナメント対策本部を設立。 そして、トーナメントの試合の妨害・立会人の拘束・運営者の捜索を任務とした特殊部隊を結成した。 『Anti Orista Tournament (アンチ・オリスタ・トーナメント)部隊』通称『AOT部隊』の誕生である。 トーナメント二回戦4日前・午後11時半。 F県K山市・旧赤星総合病院。 K山駅西口の大町に建てられたこの病院施設は、2011年に起こった東日本大震災により、建物自体は崩れなかったものの、内部に遭った機材やガラスが破損し、大勢の入院患者が命を落とした。 さらに、病院自体が老朽化していたこともあり、2013年1月1日に新しい赤星総合病院が駅の東側に作られ、西口の総合病院は廃院となった。 そして、旧病院の跡地に6階建てビルを建設する計画が立てられ、2017年には建設工事が開始される予定だった。 しかし、その後に計画の立案者や建設会社の社長やその関係者が不可解な死を遂げたため、市民は「病院で亡くなって成仏できない幽霊達が自分達の居場所を守るために、建設計画の関係者を呪い殺したんだ」と噂し、やがて建設計画は無期限休止を余儀なくされ、今でもその旧病院には成仏できない霊達が住み着いていると、K山市の間では有名な心霊スポットとされている。 その旧病院施設の院長室で、二人の男性が椅子に座っていた。 一人は黒服を着た青年、もう一人は煙草を吸った若い刑事だ。 二人は何やら話し合っている。 「さてもさても、困ったことになりましたよ。まさか16回トーナメントでネプティス・アヌヴィッシュが起こした殺傷事件のせいで、警視庁がトーナメントを妨害する部隊を作るなんて…。確か、AOT部隊といいましたか?」 「警視庁のおえらいさん方はAOT部隊で、非人道的なトーナメント戦を行っている運営側の人間を全員捕まえようと躍起になっているぜ」 「スタンド使いがたくさんいる私達運営委員会を全員逮捕しようだなんて、無謀にもほどがありますよ」 「俺だって上司に言ったさ。『超能力を持っているかもしれない連中を逮捕するのは無理だ。隊員みんな返り討ちに遭うだけだ』って。だが上司は『例え相打ちになろうとも、馬鹿げたトーナメントを開いてる奴らを全員豚箱へブチ込まなくてはならない。怖気づいてるんじゃあねえ!』って聞く耳もたなかったよ」 「むしろその上司を含めた部隊の隊員があの世へ行く羽目になるかもしれないというのに……」 「……で、トーナメント二回戦はここで行われるんだろ? どんな試合内容にするんだ?」 そう訊かれた黒服の青年こと、トーナメントの立会人『山城扶桑(やましろ・ふそう)』は、若い刑事ことAOT部隊の隊員『陸奥開閉(むつ・かいへい)』の言葉に「それはまだ決めていません」と答えた。 「このような事態になってしまい、トーナメントの運営側もどうしようかと考えているところですよ。運営側はこの優勝者トーナメントが終わり次第、トーナメントは無期限休止にする予定なのに、警察側が我々を逮捕しようと血眼になっているせいで、第一回戦の四試合のうちの一試合がなかなか始められずにいたんですから」 「で、トーナメント第二回戦の二試合をどんな試合にするか迷っているってことか」 「そうです。だから、私は運営上層部に『お前の友人であり、かつ、AOT部隊の隊員である陸奥開閉に、AOT部隊の動向を聞いてこい』と言われ、ここであなたと話し合っているわけですよ」 陸奥は深いため息をついて山城に言った。 「AOT部隊は二回戦の試合場所の一つがここ旧赤星総合病院だということを調べ上げ、どういう風に立会人を捕まえるか会議している。この施設の近くにあるK山市警察署の会議室で話し合ってるぜ」 「成程。あなたはその会議をこっそり抜け出し、ここへやってきたと」 「ああ、抜け出すのも大変だったんだからな」と陸奥は言うと、話を続けた。 「で、部隊の総人数は分からないが、俺が所属している部隊は、俺と上司を含めた56人で編成されている。その56人の中にはネプティスとかいうガキに殺された被害者の関係者もいる」 「スタンド使いはいないのですか?」 「さあな。もしスタンドを持っている奴がいたとしても、俺みたいに言わないだろう。とにかく、試合をやるなら部隊が行動を開始する前に、さっさと初めてさっさと終わらせた方が良いぜ」 「そうですね。さて、どういう試合にするか。それが問題ですね……」 山城がそう考えこむと、室内で声が聞こえた。 陸奥の声ではない、大勢の人数の声だ。 「スタンド使いと呼ばれる者同士のトーナメント……」 「あの『なごみの真座利』が言っていたことは本当だったようですね」 「しかし、まだ試合の内容をまだ決めていないとは…」 「こいつらに試合をうまく進められるかどうか、疑問だな」 「どうせそのAOT部隊とかいう連中に妨害されるのがオチだぜ、ヒャハハッ!!」 山城と陸奥は突然聞こえた大勢の声に驚いた。 まさか、この声の主達はこの病院に住み着いている幽霊達なのでは? 二人がそう思っていると、さらに声は二つ増えた。 「のお? この人間二人に試合を任せるのはまずいんじゃあないか?」 「どうせなら我々が立会人として、この試合に介入するというのはどうだ?」 「そうだな。それは実に面白い」 「病院内にいる幽霊達や妖怪達も退屈していますからね」 「なごみの真座利が来た時以上に面白くなりそうです」 「ようし、そうと決まればやろう!!」 「楽しい祭りの始まりだぜ、ヒャッハーーーーッ!!」 勝手に事を進めている七つの声に、山城は声を上げた。 「お、お前達は誰だ!? 姿を現せ!!」 この山城の言葉に七つの声は反応した。 「我々が誰かだと?」 「この状況で判断できないなんて、トーナメントの立会人なのに、愚かですね」 「まあ、K山市の市民はこの病院の中に幽霊達がいるとしか思ってないようですからね」 「そう勘違いされても仕方があるまい」 「ヒャハハ、実際は全然違うってのによぉッ」 「まったくもって人間は愚かな者よのぉ #65374;」 「その愚かさがまた愛おしいのだがな」 七つの声は二人の目の前に一瞬で姿を現した。まるで最初からそこにいたと言うかのように。 二人は言葉を失った。七つの声の主達は、異形の姿をした怪物達だった。 七つの怪物の一人が山城に言った。 「我々は、■■■■■だ」 深夜12時、トーナメント当日。 デズモンド・ウォーカーは、旧赤星総合病院の前に立っていた。 「ここまで来るのは大変だったぜ」と彼は声を出した。 なにせ、家に送られた封筒の中には、F県K山市の地図が入っていて、一緒に入っていた手紙には、なにやら筆のようなもので書かれていた。しかも日本の文字で、である。 ウォーカーは日本に伝わる漢字・平仮名・カタカナが苦手であった。日本語は仕事上日本へ行くことが時折あるので話すことができるが、日本の一般小説やゴシップ誌を読んだりすることがまるっきしダメであった。 特に、手紙に書かれているような筆書きの文章を読むと頭が痛くなってくる。 彼は自分の娘の一人であるフランチェスカに『この手紙はなんて書いてあるんだ?』と訊いた。 フランチェスカは学校で日本語を勉強していて、日本語はほぼマスターしていた。 フランチェスカは澄んだ声でこう答えた。 「パパ、これは『地図を見ながら旧赤星総合病院に向かってください』って書いてあるわ」 「そうか、そう書いてあるのか。日本語は難しいな」 ウォーカーの言葉にフランチェスカは「いや、難しいも何も、この文体は今の日本人は使わないよ」と言った。 「えっ?」 「この手紙に書いてある文は、日本の歴史でいうところの奈良 #65374;平安時代に使われていたものよ。文体はその当時の宮廷の女性、例えば紫式部や清少納言が使ってたようなものだし、文章もペンじゃなくて筆で書かれているわ。今時筆で文字を書く日本人はいないわよ」 「そ、そうなのか……」 ウォーカーはフランチェスカの言ったことを聞いて疑問に思った。 今までの運営側からの手紙は、パソコンのワード機能で書かれた文を印刷したか、もしくはペンで書かれたものだったのに、今回に限って時代遅れな筆書きなのはどういうことだろう? もしかして、送り主は古い考え方をした人物なのだろうか? そう考えていると、フランチェスカが訊いてきた。 「ねえパパ。私に日本語について訊いてきたのって、もしかして日本の病院跡に何か用があるの?」 ウォーカーは「いやな、日本にいる友達が遊びに来いって言うんだよ」と嘘をついた。 自分の子供達にトーナメントのことを話してはならない。 もし話したら、運営側がフランチェスカをはじめとした子達を人質にとり、強制的に試合に参加するよう脅迫するかもしれない。 そんなのは死んでも御免だ。 ウォーカーは子供達に本当の事情を話さず、日本へと発った。 日本に着いた後、彼は地図を見て旧赤星総合病院を探した。 途中、新赤星総合病院を試合場所と間違え、医師や看護師、入院患者から白い目で見られたものの、急いで病院跡へ向かった。果たして、旧赤星総合病院はそこに建っていた。 かつて患者が運び込まれたであろう病院は、外壁が色あせ、窓ガラスが割れ、あの東日本大震災が起こった後のままの状態で廃棄したような外観であった。 「窓ガラスの数から考えて、階は全部で八階ってところか。果たして、どんな試合になるのか……」 ウォーカーは立会人がいるのか周りを見回してみたが、それらしき人物はいない。 おそらくは先に来た対戦相手と共に病院の中で待っているのだろう。 そう思ったウォーカーは病院の中へ入って、立会人と対戦相手を探そうとした。 病院の入口は、鍵がかかっていなかった。 病院の中は、しぃん、と静まり返っていた。 かつては多くの患者が診察を待っていた待合場は、多くの椅子があるだけで人っ子一人いない。 壁には飾られていた油絵がそのまま飾られ、床には震災の時に崩れた天井壁の破片がそこここに落ちている。 ウォーカーは一階をくまなく探索したが、立会人も対戦相手もいない。 (これは一体どういうことだ? もしかして試合自体が急きょ中止になったのか?) ウォーカーがそう考えていると、待合場の椅子の方から「あなたがトーナメントの出場者?」という声が聞こえた。彼はその声の主がいる場所へ目を向けた。 椅子には二人の少女が座っていた。 一人は水色の着物を着た赤髪の少女。もう一人は赤いチャイナドレスを着た藍色の長髪の少女だった。 突然現れた二人の少女にウォーカーは驚きながらも、声をかけた。 「き、君達は誰だ? トーナメントの立会人か? それとも俺の対戦相手か?」 「ふふふ、どちらも違うわよ」 「うちらはあえて言うなら、『立会人の協力者』といった立場の人間や」 「立会人の協力者だって?」 ウォーカーの言葉に二人は「はい」と答えた。 「あたし達は立会人から『今回の試合内容を出場者に言え』という役割を任されたのよ」 「そう。せやからうちらがあんたの前に現れたんよ」 「そ、そうなのか……」 ウォーカーは二人の言葉に疑問を抱くが、二人は話を続ける。 「で、今回の試合内容だけど、ずばり『対戦相手より先に院長室へたどり着いた方が勝ち』ってルールよ」 「院長室に辿り着くためなら、スタンドを使っても全然かまへん。とにかく対戦相手よりも早く院長室に着けば、決勝戦進出っちゅうことや」 「院長室は8階にあるから、そこまで階段を使って行ってね」 「あ、エレベーターは残念やけど電気が止められて稼働せえへんからな」 「分かった。それが試合のルールか。ありがとう」 そう礼を言うと、ウォーカーは二人の少女に訊いた。 「ところで、俺がここへ来る前に、誰かもう一人来なかったか?」 「……さあ。まだ来てないわよ」 「多分新しい方の赤星総合病院と間違えとんのやろ」 「そうか。教えてくれてありがとう」 そう言ってウォーカーは二階へ続く階段へ上ろうとした。が、少女達が「待った」と言った。 「まさかあたし達が試合内容だけ教えて終わりだなんて思ってないわよね?」 「……? どういうことだ?」 「うちらは立会人からこうも言われてるんよ『試合内容を出場者に教えたら、即出場者を院長室へ向かわせないように妨害しろ』ってな♪」 二人の少女は笑顔でそう言うと、異形の姿に変身した。 赤髪の少女の背中から、大きなモウセンゴケが大量に生えた。赤髪の少女の口内と左目の眼窩からも、無数のモウセンゴケが生えてくる。 藍色の髪の少女が逆さの状態で宙に浮くと、チャイナドレスのスリットがめくれて紫色のショーツが丸見えになった下半身がゴキゴキと音を立てて変形し、巨大なラフレシアへと変わる。 ラフレシアからは肉が腐ったような異臭が漂い、藍色の髪の少女の腰から、無数の緑色の長い蔓が生えた。 少女達が異形の姿に変身したのを見て、ウォーカーは驚愕した。 自分に試合内容を教えたと思ったら、邪魔をするためにモンスターへと変貌した。 この少女達はいったい何者なんだ? ウォーカーがそう考えていると、少女達は高らかに笑った。 「あはははは!! 『なごみの真座利』が教えてくれた『実体化の呪文』と『人の姿に戻る呪文』は素晴らしいわ!!」 「化け物の姿の方がやっぱり動きやすくてええなぁ!!」 (なごみの真座利って一体誰だ!?)とウォーカーは心の中で突っ込むと、少女達は自分の名を順番にウォーカーに言った。 「あたしの名前は十例縁杏(とれいべり・あん)!!」 「うちの名前は嬉戸聡子(うれしど・さとこ)!!」 そして「「ここから先は通さない!!」」と同時に言い、ウォーカーに襲いかかって来た。 ウォーカーは襲いかかって来た杏と聡子の攻撃を防御すべく、自身のスタンド「ロード・トリッピン」を発現させた。 ロード・トリッピンは杏の繰り出した拳を右掌で阻止し、聡子が腰を動かして操る無数の蔓のムチを左腕で防御する。 蔓のムチの一本は、ロード・トリッピンの左腕に絡みついた。 「あははは!! 絡みつかせたでぇッ!!」 「チッ」とウォーカーがロード・トリッピンの左腕を見て舌打ちをした。 杏は「よそ見をしてるんじゃあないわよッ」と言い、口から生えた無数のモウセンゴケを、ウォーカーのスタンドの首に絡みつかせた。 モウセンゴケの葉に付いた粘毛から分泌された粘液は、粘毛からぽたぽたと落ち、ロード・トリッピンの首周りを徐々に溶かしていく。 ウォーカーの首周りが牛肉の焼けるような音を立てながら煙を上げる。 「このまま徐々に溶かしてあげるわッ!!」 杏がそう言うと、ウォーカーはフッと鼻で笑った。 「お嬢ちゃん方よ。スタンドを攻撃するのに夢中になっているが、本体である俺を攻撃することを忘れちゃあいないかい?」 ウォーカーは杏の顔に頭突きをかました。杏は彼の石頭を顔面に食らい、鼻血を出してよろめき倒れた。ロード・トリッピンはその隙に首に絡みついたモウセンゴケの束を空いた右手で引きちぎった。 さらに、「杏!」と聡子が叫んだのと同時に、ロード・トリッピンは空いている右手で左腕に絡みついた蔓を引っ張り、そのまま聡子の身体を振り回し、診察受付場の方へ投げ飛ばした。 聡子は悲鳴を上げてそのまま気絶した。 ウォーカーはこれで二人とも倒したと思い、階段へ向かう。が、後ろから「待ちなさい」と声が聞こえた。さっきまで倒れていた杏の声だ。 杏は血の出ている鼻を抑えながら、「よくも杏を…」と言い、ウォーカーに近づいた。 それを見たウォーカーは杏に「これ以上来るな」と言った。 「それ以上来ると、君の身体は病院の外へ吹っ飛ぶことになる」 「はぁ? 何言ってるのよあんたは?」 杏はウォーカーの忠告を聞かずに歩を進めた。それが仇となった。 杏が進んだ床は、ロード・トリッピンの能力で『滑走路』に変わっていた。滑走路は病院の外へと向かって作られており、杏の身体はウォーカーの言う通り、病院の外へと吹っ飛ばされた。 「き、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」 杏は大きな悲鳴を上げて病院の外へと飛んで行った。 「やれやれ。困ったもんだ。女の子が化け物に変身して襲ってくるとは…。今回の試合は色々な謎があるが、院長室へ行けばその謎が解けるかもしれないな。行くしかないか…」 ウォーカーはそう言いながら、階段を一歩ずつ上っていった。 ウォーカーが二階へ行った六分後、仰木健聡が旧赤星総合病院にやって来た。 「いや #65374;試合に遅れちゃったな #65374;」と言い、健聡は老朽化した病院を見上げた。 「ここが二回戦の試合場所か。立会人の姿がいないけど、どこだろ?」 健聡が周りを見渡して立会人を探していると、道路で倒れている少女を見つけた。あれが立会人かと思い、健聡は少女に近づいた。 近くで少女の姿を見た健聡は驚いた。少女の身体から無数のモウセンゴケが生えていたのだ。見たところ、少女は気を失っている。 健聡は、この気絶した少女が立会人ではないと感じた。 では、この少女はなんだ? 対戦相手のスタンド攻撃を受けた、名もなき一般人なのか?(一般人にしてはその姿が怪物めいているが) そもそも、立会人はどこにいるのだ? 病院の中で対戦相手と共に自分を待っているのか? 「……と、色々考えるのは自分らしくないよな。とりあえず、病院の中へ入ってみれば分かるか」 健聡はそう独り言を言うと、入り口に向かって行った。 その数十秒後、廃病院の向かい側にある無人の寺社の中から、黒い戦闘服を着た男が現れた。 健聡は電気の付いていない一階を見回しながら、立会人と対戦相手の姿を探した。しかし、それらしき姿は見当たらない。 見当たったのは、診察受付場で気を失っている、下半身がラフレシアになっている少女だけだ。 「対戦相手も立会人もいないな……。これは俺が試合の日を間違えたのか?」 健聡がそう独り言を言っていると、後ろから「動くな!」と声が聞こえた。 健聡が振り向くと、黒い戦闘服を着た男が拳銃を向けている。 男こと『信濃俊雄(しなの・としお)』は銃を構えながら、健聡に言った。 「俺は『Anti Orista Tournament (アンチ・オリスタ・トーナメント)部隊』通称『AOT部隊』の者だ。トーナメント参加者の一人、仰木健聡だな?」 「ああ、そうだけど?」 「そうか」と信濃が言うと、健聡は信濃に「ねえ、AOT部隊って何?」と訊いた。 信濃は健聡に銃口を向けたまま語った。 「AOTは非合法に行われているトーナメント戦を阻止するべく警視庁が結成した部隊だ。我々の目的はトーナメントの立会人と参加者の拘束である。仰木健聡。お前はかつて出場したトーナメントと今回のトーナメントにおいて、自身の超能力で対戦相手を傷つけた。その罪は絶対に償わなければならない。よって、傷害の罪でお前を拘束する。おとなしく手を上げろ」 話を聞いていた健聡は、信濃に対してこう訊いた。 「……なあ? 俺は拘束された後、どうなるんだ?」 「知れたこと。二度とその能力が外で使えないように、特殊な鑑別所で一生監視する。貴様らのような超能力者は、一般人にどのような迷惑をかけるか分からんからな」 「へえ…、だったら拘束されるわけには、いかないなッ!!」 健聡はそう言うと、信濃の顔に唾を飛ばした。健聡の吐いた唾が信濃の右頬に付着する。 信濃は健聡のやった行いに激昂した。 「貴様ッ! 俺に対してよくもこんな……ッ!!」 その瞬間、信濃の顔面は大きな石が当たったかのように、きれいに凹んだ。信濃はその場で倒れ、絶命した。 健聡は動かなくなった信濃に向けて言った。 「俺のスタンド『Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』の能力は『体液に衝撃を込める能力』だ。さっき俺の吐いた唾に衝撃を込めた。衝撃が込められた唾が付いたお前の頭は簡単に凹む…と言っても死んでるから聞こえないか」 健聡は二階へ続く階段に目を向けた。 「さて、立会人と対戦相手はおそらくこの階段の先にいるな。今回のトーナメントの試合内容はどんなのか聞かないとな」 健聡は階段を上り、二階へと進んだ。 一方、病院の向かい側の寺社では、黒い戦闘服を着たAOT部隊のメンバー54名が、各々の武器を持ちながら立っていた。 副隊長らしき女性が他の隊員に言う。 「信濃隊長からの通信が途絶えました。今後は私が信濃隊長の代わりに指揮を取ります。では、これから我々はトーナメントが行われている病院内に潜入します。我々の任務はトーナメントの立会人と出場者二名、そして、裏切り者の陸奥開閉の拘束です。この四名を見つけ次第、即逮捕に踏み切ります。良いですね」 女性は「突入!」と言うと、他の隊員を連れて、病院内へ潜入した。 院長室では、立会人である山城扶桑、山城の友人であり、かつ、AOT部隊の隊員である陸奥開閉。そして、七体の異形の者達が椅子に座り、巨大なスクリーンを見ていた。 スクリーンには、ウォーカー、健聡、AOT部隊の映像が、画面に映されている。 七体の異形の一人が「ヒャッハー」と声を上げた。 「ついに始まったぜ、血沸き肉踊るトーナメント二回戦がよぉッ!!」 一人に続き、残りの六体も口を開く。 「うむ。早速それぞれの階に配置していた妨害部隊のうちの二人が再起不能になるとはな」 「あの二人、ここに住み着いている幽霊の中では、中の上くらいの実力者であるというのに、ああも簡単に倒してしまうなんて……」 「あの外国人、かなりの強者と見ましたね」 「健聡という男も、体液に衝撃を込めるという能力を持っているが、俺はあいつと是非戦ってみたい!!」 「ぷふぅ #65374;! 強い者と戦いたがる癖がまた出たな #65374;。なごみの真座利が言っていた『迷宮電器店の亡霊集団』の話を聞いた時と変わってないな!」 「だが、そう思うのは十分に分かる!! AOT部隊の連中もどのような力を持っているのか、実に楽しみだ……!」 七体の異形がそう話しているのを、横で扶桑と陸奥が聞いていた。 二人はひそひそ声で話し合う。 「せっかくトーナメントの立会人になったのに、こいつらにトーナメント二回戦を乗っ取られてしまいました。どうしましょう……」 「そんなの俺に訊くなよ。俺だって上司の信濃隊長が、あんなにあっけなく殺されるのを見てショックを受けてるんだぞ」 「そ、そうですよね……。とにかく、この試合……」 「ウォーカー様と、健聡様と、AOT部隊と、この病院に住み着いた怪異達による、『四つ巴の戦い』になってしまいました」と扶桑は小声で言った。 病棟・二階 かつて多くの医者や看護師、入院患者がいた病棟の中は、現在、スタンド使いと怪異の集団が争う戦場となっていた。 怪異の一人である幽霊の少女『佐呂場塔(さろば・とう)』は、ウォーカーに素早い攻撃を繰り出していた。 塔の姿は、両手が鋭い鎌になっていて、背中には大型のハナカマキリを背負ったような姿をしている。 彼女の両手とハナカマキリの鋭利な鎌四本の攻撃を、ウォーカーは自分のスタンドで防御していた。 「あはははははははは!! 私の幽霊蟷螂拳を破れるものなら、破ってみなさい!!」 (くっ、これだけ早いと、反撃に転ずるのは難しいな……!!) ウォーカーがそう思っていると、彼の背後から幽霊の少年「斎門遷都(さいもん・せんと)」が忍び寄っていた。 斎門の姿は人間の姿からかけ離れた、ヤマアラシの獣人だった。 (くくくく、奴が塔の攻撃を防御するのに気を取られている隙をついて、僕ちゃんがタックルをして、奴の身体を穴だらけにしてやる!!) 彼がそう思いながらウォーカーの背後へ近付こうと一歩踏み出したその瞬間、斎門の身体は後ろの方へと飛んで行った。 斎門は気づかなかった。自分が踏んだ床が、ロード・トリッピンの能力で滑走路となっていたことに。 ウォーカーは背後を取られる可能性を考慮し、ロード・トリッピンで自身の背後の床を滑走路にしておいたのだ。 彼が床に気を配っていれば、吹っ飛ぶことはなかったかもしれない。 塔が斎門が吹っ飛ぶのを見て「斎門!!」と声を上げたその瞬間、彼女の攻撃が一瞬だけ止まった。 ウォーカーはそれを見逃さなかった。 「隙あり!!」 塔は「しまった!!」と声を上げるが、もう遅かった。 「ローーーーーーーーーーーーーーーーーード・トリッピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」 ロード・トリッピンは塔の身体に拳の雨を喰らわせた。塔はたまらず悲鳴を上げて、その場に倒れ再起不能となった。 「やれやれ…。次から次へと化け物共が現れてきやがる……」 ウォーカーは額から流れる汗を袖で拭きながら、二階で倒してきた怪物達のことを思い出した。 二階で最初に出会ったのは、下半身がヌタウナギになった女の怪物『第荷野志美(だいにの・しみ)』だった。 志美は口と両掌から粘液を出して、ウォーカーの身動きをとれなくしようとした。 しかし、ウォーカーは志美が粘液を出す前に、ロード・トリッピンを彼女の背後に回り込ませて一撃をくらわせ、彼女を倒した。 次にウォーカーが出会ったのは、大柄のクジラの獣人『ブルース・パーティントン』だった。 ブルースは外国出身なのか、「ヘイ、ココから先は通しまセ #65374;ン!」と、片言の日本語でしゃべりながら、ウォーカーに襲いかかって来た。 ブルースの戦い方は単純な力技であり、ウォーカーにとってブルースは戦いやすい相手であった。 ウォーカーはロード・トリッピンのパワーで、ブルースをねじ伏せ勝利した。 三番目に戦ったのは、腕を六本生やし、六本の刀を両腰に差した、アシダカグモの昆虫人間「唐座又八郎(からざ・またはちろう)」だ。 唐座は六本の刀をそれぞれの腕で持ち、「ハッスルハッスル!! マッスルマッスル!!」と叫びながら、素早い斬撃でウォーカーに切りかかって来た。 全ての斬撃をかわしたり防いだりするのに苦戦したが、ウォーカーは辛くも唐座を倒した。 そして今、佐呂場塔と斎門遷都の二体の怪物を倒した。 ウォーカーは気絶した塔を見ながら思う。 一体ここはなんなのだ? 廃病院には手術の失敗や病気の悪化で亡くなった人間の幽霊が漂っていると聞いたことがあるが、こいつらもその幽霊の類なのか? だが、あの世に行っていない幽霊は、あのような怪物の姿になるのか? ウォーカーがそんなことを考えていると、階段から誰かが上ってくる音が聞こえた。 新たな怪物かと思いウォーカーは身構えるが、階段を上って来たのは普通の人間の男性だった。 男性はウォーカーに訊いた。 「あんた、トーナメントの出場者?」 「あ、ああ。デズモンド・ウォーカーだ」 「そっか。僕は仰木健聡。あんたと同じく、トーナメントの出場者だ」 「そうか。これで出場者二人が揃ったということになるな」 「ああ。でも立会人の姿がまだ見えないな。あんたは知らないか?」 健聡の言葉にウォーカーは「いや、まだ見ていない」と答えた。 「あんたも見ていないのか」 「『あんたも』ということは、お前も立会人と会っていないのか」 「ああ。二階にいるかと思ってたんだけど、いたのはあんたとそこら辺に倒れている得体のしれない化け物たちだったよ」 「そうか。立会人はいないわ、化け物どもが襲ってくるわ、一体今回の試合はどうなっているんだ…?」 ウォーカーがそう言うと、健聡は彼にこう言った。 「なあ。立会人が現れないなら、僕達で勝手に戦って試合を進めないか? どうせこれ以上待っても立会人は来ないよ」 「いや。試合内容は一階にいた怪物から聞いている」 「へえ。どんなの?」 「なんでも『先に院長室に着いた方が勝ち』というのが今回の試合のルールなんだそうだ。そこら辺に倒れている怪物は、俺達が院長室へ向かうのを妨害するために襲ってくるようだ」 ウォーカーの説明を聞いた健聡は「なるほどね」と言うと「じゃあ、尚更今戦おうよ」と言った。 「どっちかが院長室へたどり着けば勝利なんだから、相手を院長室へ行けない身体にすれば、安心して院長室へ行けるじゃあないか」 「確かに、お前の言う通りだな」 「だろ! じゃあ早速戦おうぜ!」 健聡は自身のスタンドを発現させた。ウォーカーは深いため息をついた。 「健聡、と言ったか。確かに今俺とお前のどっちかがどっちかを倒して、院長室に向かえばいいというお前の考え方には同意する」 ウォーカーはそう言いながら、自分のスタンドを出すと、「だが」と付け加えた。 「どうやら病院の中にいる怪物どもは、俺達を戦わせてはくれないらしい」 彼がそう言うと、ロード・トリッピンは健聡の背後に攻撃をした。 健聡は驚いて後ろを振り向くと、そこには、両手がザリガニのような大きいハサミとなっている異形の男が立っていた。 異形の男は両手のハサミでロード・トリッピンの拳を防ぐ。 「ほぉ…、音を立てずにお前らに忍び寄っていたのだが、まさか気づかれるとはな」 そう言う異形の男にウォーカーは「気づいたのはついさっきだ」と答えた。 「『お前が俺達を襲おうとしたら、攻撃をしよう』と、会話をしながら待ってたんだよ。流石に健聡は気づかなかったようだがな」 ウォーカーの言葉を聞いた健聡は「えっ、そうだったの!? そうならそうと教えてくれよ」と文句を言った。 「お前に教えたら、そこの異形の男が慌てて襲ってくるかもしれないだろ。それくらいスタンド使いならわかれ!」 「ああそっか。すまないね、ウォーカーのおっさん」 健聡の言った「おっさん」という言葉に、ウォーカーは複雑な表情をした。 異形の男は二人の会話を聞いて「くっくっく」と笑う。 「俺の姿を見ても怖がらず、会話をする余裕を持ち続けるとは…。杏や聡子、志美にブルース、唐座、塔、斎門が襲っても敵わぬわけだ」 異形の男はそう言うと「だが」と付け加え、話を続ける。 「俺は杏達のような幽霊とは違うぞ。ここから先はこの『妖怪・網切りの恐色錯誤(おそろしき・さくご)』が行かせはしない!!」 恐色は戦闘の構えをとった。二人のスタンドも戦闘態勢に入る。 「幽霊だろうと妖怪だろうと構わん!」 「僕達はお前を倒して先に行く!」 三人が戦おうとしたその時だった。 「そこを動くな!」という声と共に、大勢の男女が三人に向けて武器を構えた。 「我々は『Anti Orista Tournament部隊』通称『AOT部隊』です。トーナメント運営の関係者と、トーナメント参加者二名とお見受けします。これからあなた方を、『非合法のトーナメントを行っていた罪』と『そのトーナメントに参加した罪』、そして『AOT部隊の隊長である信濃俊雄を殺害した罪』で、あなた方を拘束いたします。おとなしくしなさい!」 AOT部隊の隊長代理であるおかっぱ頭の若い女性『出雲丸飛鷹(いずもまる・ひよう)』はそう言うと、腰に下げた日本刀を抜いて、ウォーカー、健聡、恐色の三人に向けた。 ウォーカーは健聡に訊いた。 「…なぁ、一体誰だあいつらは?」 「なんでも、トーナメントを阻止するために、警察のお偉いさんたちが作った部隊なんだってさ。僕はさっき一階でその部隊の隊長をぶっ殺したんだ」 「おいおいちょっと待て! いくらなんでも警察が作った部隊の隊長を殺すことはないだろう!?」 「だってあの信濃っておっさん、僕を拘束したら『二度とその能力が外で使えないように、特殊な鑑別所で一生監視する』って言ってきたんだぜ」 「…何だって、それは本当なのか?」 ウォーカーがそう訊くと、健聡は話を続けながら答えた。 「ああ本当だよ。なんでも『貴様らのような超能力者は、一般人にどのような迷惑をかけるか分からんからな』だってさ。だから、捕まって鑑別所暮らしになりたくないから殺したわけ。ウォーカーのおっさんもここで捕まったら、きっと一生鑑別所暮らしだぜ。そうなるのは嫌だろ?」 ウォーカーは健聡の言葉を聞いて、バラク・オバマ大統領が自分に与えた任務と、母国にいる家族のことを思い出した。 ここで自分がAOT部隊に拘束されて、健聡共々鑑別所送りとなったら、任務自体が失敗したこととなるし、 もし11月の大統領選挙でドナルド・トランプが次の大統領となり、自分が拘束された事実を知った場合、トランプは激怒して日米同盟を即刻破棄するだろう。 そうなれば、日本とアメリカの外交に悪影響を及ぼすことは必至だ。 それに、自分には愛する妻と子供達がいる。妻と子供達はトーナメントのことについては何も知らない。 そんな家族がトーナメントの事実を知り、なおかつ、自分が日本で拘束されたなんてことを聞いたら、涙を流して悲しむだろう。 大統領からの任務は絶対に果たさなくてはならないし、家族を悲しませるようなことはしたくない。 ウォーカーは健聡に「そうだな」と答えた。 「俺だってこの試合を勝ち進んで、自分がなすべきことを果たさなくてはならないからな。ここで日本の警察に捕まるのはごめんだな」 ウォーカーの言葉を聞いて健聡は「でっしょー♪」と言った。 「じゃあさっさと次の階へ進もうよ。まだ試合は終わってないんだしさ」 「ああ。だが、試合に勝つのは俺だぜ」 「どうかな」 二人が会話していると、「俺の存在を忘れるな!!」と恐色が叫んだ。 「次の階へはそう簡単には進ませんぞ。やすやすと次の階へ進ませてしまったら、面白くはないだろう。簡単にクリアできるゲームほど、つまらんものはないからな」 恐色がそう言うと同時に、様々な姿の妖怪達が壁や天井、診察室から現れた。 「わはー♪ ここは絶対に通さないのだー♪」 「もっと俺達と戦おうぜ #65374;」 「せっかくの客人なんだ、ゆっくりしていけや!!」 妖怪達が現れたと同時に、ウォーカーが倒した五人の幽霊達も復活した。 「恐色の言う通りよ…」 「ここを簡単に通してしまっては、幽霊の名折れデース!」 「ハッスルハッスル!! マッスルマッスル!!」 「ここでやられたんじゃ、なごみの真座利に笑われちゃうわ…」 「僕ちゃんもまだ全然活躍してないよーー!!」 突然異形の者達が現れて、AOT部隊の隊員達はどよめきたつ。 「な、なんなんだこいつらは!!」 「突然現れやがったぞ!?」 「しかも、一部を除いて気味の悪い化け物がいっぱいいやがる!!」 「こ、こっちへ近付いてくるんじゃねえ、おっかない!!」 どよめきたつ隊員達を落ち着かせるために、飛鷹は「落ち着きなさい!」と声を上げた。 「いくら姿形が変わっていても、しょせんはトーナメント運営の関係者達です。こちら側は部隊専用に配備された武器を持ってるんです。負けるはずがありません!!」 飛鷹の声を聞いて、隊員の一人である赤髪の女性「炎上鬼怒(えんじょう・きぬ)」は、火炎放射器の射出口を、五体の幽霊達に向けた。 「そ、そうさ。こっちは最新武器を持ってるんだ!! こんな化け物どもなんざ、一瞬で消し炭にしてやらァッ!!」 鬼怒の持っている火炎放射器が幽霊達に向かって火を吹いた。 幽霊の一人である第荷野志美は鼻で笑った。 「フン、幽霊を舐めないでよね、人間!!」 志美は口から大量の粘液を鬼怒に向かって吐きだした。 粘液をまともに浴びた鬼怒と、彼女の側にいた隊員3名は、身動きが取れなくなった。 鬼怒がもっていた火炎放射器も数秒で使い物にならなくなった。 「おのれ!! よくも鬼怒を!!」 「ぶっ殺してやる!!」 怒った隊員数名が、志美に襲いかかった。しかし、それをブルース・パーティントンが自慢の大きな腹で弾き飛ばした。 弾き飛ばされた隊員達は、病院の壁にめり込んだ。 「ヘイ! ここから先は通しまセンよ!!」と、ブルースは腹鼓を打ちながら言った。 「畜生! 舐めやがって!!」 「公務執行妨害で逮捕する!!」 隊員二名は銃の引き金を引こうとした。が、引き金を引こうとしたその腕は、唐座又八郎と佐呂場塔によって切断された。 「ひ、ひえをおおお!!」 「俺の、俺の腕がアアア!!」 腕を失くして悲鳴を上げる二名の隊員を見て、唐座と塔はフッと笑う。 「引き金を引く動きが遅すぎるね」 「銃を撃つなら、もっと早く撃ちなさい!」 斎門遷都も突進し、AOT部隊の隊員を身体の針で次々と串刺しにしていく。 「ひゃっほーーーーい!! これが僕ちゃんの実力だーーーーい!!」 恐色錯誤は両手のハサミで隊員の首を刎ねながら、妖怪達に命令する。 「お前らも遅れをとるな!! トーナメントの出場者二名をこれ以上、上の階に行かせるな!! AOT部隊とかいう輩共も恐怖を味あわせながら殺せ!!」 妖怪達は奇声を上げながら、ウォーカー、健聡、AOT部隊に向かって行った。 飛鷹は刀を振るいながら隊員達に命令する。 「ひるんではなりません!! 我々の任務を邪魔するトーナメント運営の関係者達を、殺傷及び公務執行妨害の罪で逮捕するのです!!」 隊員達は自分の持った武器を使い、幽霊・妖怪・ウォーカー、健聡に襲いかかった。 怪物の群れと警察部隊に挟まれた状態になりながら、ウォーカーは健聡に言った。 「おい、健聡。ここを突破していける自信はあるか?」 「むしろ、なければおかしいでしょ!!」 「そうか…、なら行くぞ!!」 「ああ!!」 二人は自分のスタンドを発現させた。 ロード・トリッピンは、自分の本体に襲いかかって来る者達を、拳の雨を浴びせて蹴散らしていく。 『ローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーード・トリッピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!』 Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!は、掌に本体から口から出した唾液をつけ、それを敵になすりつけていく。 そのたびに敵の身体に衝撃が走り、「あべし!」「ひでぶ!」「たわば!」などの悲鳴が上がる。 スタンドの持続力が限界に達しそうになると、健聡はスタンドをしまい、喧嘩で磨いた戦い方で敵をなぎ倒して行った。 そして数分後、ウォーカーと健聡は敵の軍勢を突破し、三階へと続く階段を上っていった。 その光景を見た恐色は、「まずい! 奴らを三階へと行かせるな!!」と妖怪達に命令した。恐色の声を聞き、妖怪二体が三階へと向かった。 飛鷹は刀を振るいながら、隊員達に言う。 「出場者二名が三階へ上りました! 誰か二人を追いなさい!!」 飛鷹の声を聞いて、隊員二名が三階へ続く階段を上った。飛鷹は額から流れる汗をぬぐい、自分の目の前に立っている恐色を見た。 恐色は「くくく」と笑いながら、飛鷹の目を見つめて言った。 「お前、俺が怖くないのか?」 「ええ、怖くありませんよ。私はあなたよりも恐ろしい目にあいましたから」 飛鷹はそう言いながら、一年前に自分を襲った恐ろしい出来事を思い出した。 自分が働いている警察署を襲撃した一人の少女。 その一人の少女に上司・先輩・同僚・後輩が、物を言わぬ肉の塊とされていく。 自分も少女に左目を抉られた。 一年前の出来事を思い出した瞬間、義眼を埋め込んだ左眼窩がムズムズと痒くなった。 飛鷹は眉をひそめながら、恐色に言う。 「私はあの事件を引き起こした元凶である、あなた達トーナメント運営側の人間達が許せないんですよ。だから私はあなた達を拘束し、このトーナメントを終わらせる!!」 飛鷹の言葉を聞いて、恐色は心で笑った。 この小娘は自分達のことをトーナメントの運営側の人間だと思い込んでいる。 だが、違う。 自分達はそのトーナメント運営とは何も関係が無い。 今回の試合は『あの方達』が愚かな立会人からトーナメント進行の役目を奪っただけのことだ。 その事実を言ったところで、この小娘は信じはしないだろう。 いや、それは小娘だけでなく、AOT部隊の隊員も同じか。 ならば、最後の最後まで思い込ませてやろう。 この小娘共に『自分達はトーナメントの関係者と戦っている』という壮大な勘違いをさせ続けてやろう。 恐色は飛鷹に言う。 「……ならば、終わらせてみせろ!!」 「終わらせてみせます!! 今日ここで!!」 恐色と飛鷹は、目の前にいる敵に向かっていった。 「ど、どうしよう…」 「この病院の中で、AOT部隊と化け物共が激突してやがる…」 扶桑と陸奥はスクリーンに映る映像を見ながら、怯えていた。 AOT部隊が結成され、しかも七体の異形の者達に試合を進める権利を奪われた時点でこうなることは予想していたが、まさかここまでの大乱戦になるとは思っていなかった。 果たして、二名の出場者は命を落とさずに、無事に院長室へたどり着けるのだろうか。 扶桑と陸奥が不安に思っている中、スクリーンを見つめている七体の異形のうちの二体は、警察の部隊と怪物達とトーナメント出場者二人が争っている映像を見て、興奮していた。 「ヒャッハー!! エクストラゲームプレイヤーがあれだけ乱入してきやがるとは、楽しくなってきやがったぜ!! あそこへ行って暴れたいぜ!!」 「ゲームは大勢の者が参加するほど面白い…。俺もあの場へ行きたくなってきたぞ!!」 二体の異形は、異形の者のリーダーらしき男に言った。 「なぁ、俺達もあっちへ行って来ていいか? あの映像を見て、出場者のスタンド使いやAOT部隊の連中と戦いたくなってきた!! もう我慢できねぇ!!」 「俺も久しぶりに心が熱くなってきた…。この熱はあいつらと戦わなければ冷えることはできない…」 リーダーは二体の異形に「…好きにしろ」と答えた。 「ただし、あまりやりすぎるなよ。住処にしているこの病院が崩れかねない」 「へへへっ、分かってるって!」 「我々が本気を出したら、それこそこの試合がつまらなくなってしまうからな」 二体の異形はそう言うと、院長室から出ていった。 リーダーの右隣に立っている異形の女は「あの二人を行かせてよかったんですか?」とリーダーに訊いた。 「いいんだ。立会人は出場者により過酷な試練を与える権利がある。その試練を突破できないようでは、出場者はその程度の実力しかもっていなかったということだ」 リーダーはそう言うと、フフフと笑った。それに続き、他の三体の異形も口を開いた。 「まさにその通りですね。まぁ、あの出場者二人があの馬鹿どもに負けるとは思いませんが」 「ぶふぅ #65374;、わしも同感だ! だが、奴らを倒して院長室へ向かったとしても『ただ院長室へ向かって行く』なら、あいつらはとんだ大馬鹿者よ」 「そうだな。何せこの病院には、『簡単に院長室へ行ける仕掛け』を立会人の友人と共に作っておいたんだからな。そうだろ、陸奥よ?」 陸奥は自分の名前を呼ばれて、びくっと反応した。リーダーと女も三体の異形の会話に続いた。 「その仕掛けに気付いた者が、この試合の勝利者……」 「はたして、あの二人のどちらがその仕掛けに気づくかな? それとも、気づかずにそのまま向かうかな?」 異形達の会話を聞いていた扶桑は、ウォーカーと健聡の無事を祈った。一方の陸奥は同僚である飛鷹の生存を願いながらも、AOT部隊が今日で壊滅する可能性を脳裏に浮かべた。 ウォーカーと健聡は三階へ着いた。三階は小児病棟となっていて、プレイルームにはそのまま放置されたおもちゃや絵本、アナログ型のテレビとDVD再生プレーヤー、幼児向けのDVDソフトが無造作に置かれていた。病室は301 #65374;309号室まである。 ウォーカーと健聡は、また幽霊と妖怪の類が現れないかと、三階を見回した。 「さて、今度はどんな妨害者が現れるか…」 「現れないことを願うばかりだけどね」 二人がそう言ってあたりを見回していると、階段の方から、二体の妖怪が現れた。 一人は、見た目は10歳と思われる幼女で、笑顔で空中にふわふわと浮いていた。 もう一人は五本の角を生やした猫の獣人だった。 ウォーカーと健聡はその二体の妖怪が、二階から自分達を追って来た妖怪だと判断した。 妖怪の一人である幼女『影女の物倉魅遊(ものくら・みゅう)』は、笑顔でウォーカーと健聡に言った。 「わはー! 恐色タイチョーの命令なのだー! 三階から先へは行かせないのだー!!」 魅遊に続いて、五本角の猫獣人『五徳猫の灰神楽(はいがみ・らく)』も、火吹き筒を持って言った。 「お前らなんざ、俺の火吹き筒で黒焦げにしてやるぜ!!」 二体の妖怪の言葉を聞いて、健聡はウォーカーに「どうやら、追手が来たようだね」と言った。 「どうやらそのようだな」とウォーカーは返事をした。 「なら、どうするかはもう分かってるよね、ウォーカーのおっさん?」 「ああ、無論だ」 二人は自分のスタンドを発現させ、戦闘態勢に入った。魅遊は二人のスタンドを見て、「覚悟するのだー!!」と叫んだ。 その時、灰神の腹から、銀色の刃が突出した。 「な……!?」 灰神は手に持っていた火吹き筒を落とした。魅遊、ウォーカー、健聡もその光景に驚愕した。 灰神はこれはなんだと思いながら、自分を突き刺している刃の所持者がいる後方へと目を向けた。 彼の後ろには、黒い戦闘服を着た水色の長髪の少女がいた。刃の正体は、長髪の少女が持っていた長巻の刃だった。 長髪の少女は長巻の刃を灰神から引き抜いた。灰神はそのままうつぶせに倒れた。 「灰神!!」 魅遊は灰神の名前を叫んだ。が、その瞬間、魅遊の頭部と胴体が離れた。魅遊の頭部はくるくると宙を舞い、彼女の首を切断した男の足下に転がった。 その男は、手にチェーンソーを持っていた。そのチェーンソーの刃は赤い血が付着していた。 男は下卑た笑顔で魅遊の頭部を踏みつぶし、「ギッシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラ!!」と笑った。 「やっぱり犯罪者は『即斬殺』が一番だぜェーーーーーーー!!」 チェーンソーを持った男ことAOT部隊隊員『夕立断斬(ゆうだち・たちきる)』は、そう言ってさらに笑った。 そんな夕立を放っておいて、長巻を持った長髪の少女こと、同じくAOT部隊の隊員『叢雲華邑(むらくも・かむら)』は、ウォーカーと健聡にゆったりとした口調で言った。 「ど #65374; #65374;も #65374; #65374;。私は #65374; #65374;『魔法少女むらくもちゃん』です #65374; #65374;。こっちは『ばかのゆうだち』です #65374; #65374;。あなた達と #65374; #65374;と #65374; #65374;なめんと運営の関係者の皆さんを #65374; #65374;つかまえるか #65374; #65374;ぶっころしちゃいます #65374; #65374;」 「そういうことだ!! はやくてめえらを切り刻ませろォッ!! ギッシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラ!!」 自分達の目の前で妖怪二体を惨殺したAOT部隊隊員を見て、ウォーカーと健聡は話し合った。 「おい健聡。目の前であんなものを見せられて、お前はどう思う?」 「正直良い気がしないね。いくら警察でも、越えてはいけないラインがあると思うよ」 「なら、どうするか、分かってるな!!」 「ああ、分かってるよ!!」 二人のスタンドは、AOT部隊の隊員達をスタンドで攻撃しようとした。と、その時である。 ウォーカーと健聡の間を、長い竹槍が通過した。 竹槍の先は叢雲の左腕を貫通した。 叢雲が「あっ」と声を出すと、竹槍はそのまま叢雲ごと遠くの壁に突き刺さった。 ウォーカーと健聡は突然の出来事に、目を見開いて驚いた。 「むっ、叢雲!?」 夕立が叢雲の名を呼び振り向くと、そこには、無数の岩が集まったような姿をした異形の大男がいた。 岩の大男は夕立に言う。 「ほほお…。なかなか面白い武器を持っているな…」 「誰だてめえはあッ!! てめえも切り刻まれたいのかッ!?」 夕立はチェーンソーを振るい、大男に切りつけた。しかし大男の身体には傷一つ付かなかった。 「げェッ!! 傷が付いてねぇ!!」 「フン。所詮文明の武器では、俺を傷つけることは出来ぬか…」 大男はそう言いながら、夕立の持ってるチェーンソーを奪い取ると、そのまま握りつぶした。 「お、俺の武器が!!」 夕立が驚愕すると、ウォーカーと健聡のいる方から「ヒャッハーーーー!!」という奇声が聞こえた。 ウォーカーと健聡が振り向くと、そこには歌舞伎役者のような派手な衣装を着た青年が立っていた。 「ダメじゃあねえかよ、AOT!! エクストラゲームプレイヤーの分際で、トーナメントの出場者をぶっ殺すようなことをしちゃあよおッ!!」 青年は床から二本の竹を生やし、その竹二本を圧し折り竹槍にすると、その二本の竹槍を夕立に向けて投げつけた。 二本の竹槍は夕立の両肩を貫き、そのまま夕立の身体ごと、遠くの壁に突き刺さる。 遠くの壁は叢雲と夕立が、昆虫の標本のように張りつけられた。 AOT隊員が倒される様を見て、二人は愕然としていた。 こいつらは一体何だ? いきなり現れ、得体のしれない能力であの二人を倒してしまった。 こいつらは幽霊なのか? 妖怪なのか? それとも自分達と同じスタンド使いなのか? 「お、お前らは一体誰だ…!?」 ウォーカーがそう言うと、二人は自分の名前を言った。 「俺の名前は牛縊金剛坊(うしくびり・こんごうぼう)」 「ヒャッハー!! 俺の名は藪ノ竹彦(やぶの・たけひこ)だ!!」 「俺達はお前達を院長室へ通さないため、そして、お前達と戦うためにここへ来た」 「お前らの戦いっぷりを院長室で見て、俺達も戦いたいと思ったのさ!!」 「だから、お前ら……」 「俺達を楽しませてくれよ!! ヒャッハーーーーーーーーーーーーー!!!!」 金剛坊と竹彦はそう言うと、ウォーカーと健聡に向かって来た。 ウォーカーは健聡に話した。 「おい、俺はあの派手男を相手する。お前はあの岩の男を相手しろ」 「分かった。僕も今それをおっさんに言おうとしてたんだ!」 かくして、二人はそれぞれの敵を相手にすることにした。ウォーカーは竹彦と、健聡は金剛坊と対峙する。 二人のスタンド使いと、得体のしれない者達との戦いが始まった。 一方、二階の病棟では、恐色錯誤率いる妖怪軍団と、飛鷹率いるAOT部隊の戦いの決着がついた。 多くの妖怪とAOT部隊隊員が床に伏している中、飛鷹の刀が恐色の首を刎ねた。 戦いは、AOT部隊の辛勝に終わった。 飛鷹は息を切らしながら、刀を鞘におさめた。 首だけの状態となりながら、恐色は彼女に向かって言った。 「こ、この俺を倒すとは、やるな小娘……」 「当たり前です。私はあんた達トーナメントの運営側の者達を逮捕するために、剣術を学んだのですから」 飛鷹はそう言うと、恐色の首を持ち「さあ。あなた達の上司である立会人がいる場所を教えなさい」と訊いた。 恐色は飛鷹の目を見ながら言った。 「……立会人はこの病院八階の院長室にいる。だが、お前達は任務を達成することは出来ないだろう」 「…………」 「なにせ、あれだけ大勢いた部隊の人数も、動けるのはお前を含めて残り八名しかいない。例え院長室へ行ったとしても、返り討ちに遭うだけだ」 恐色の言葉を聞いて飛鷹は「それはどうですかね」と言った。 「私達は非合法のトーナメントを行っている者達を捕まえるために結成された部隊です。甘く見ない方がいいですよ」 そう言って飛鷹は恐色の首を床に捨てると、残り八名の隊員に命令した。 「これから私達はトーナメントの運営側の人間がいる院長室へ向かいます。三階には先に夕立と叢雲が三階へ行っていますので、江風、楠、長月は、夕立と叢雲の救援をしてください。能代、鈴谷、若葉、巻雲は私と一緒に院長室へ向かいます」 七人の隊員は同時に「了解」と言った。 「ヒャッハーーーーーーーーーー!!!!」 竹彦はウォーカーに竹槍の連続突きを繰り出していた。 鋭い槍先がウォーカーを襲うが、ウォーカーは自分のスタンドであるロード・トリッピンで防御した。 竹槍の先端がロード・トリッピンの両腕に当たるたびに、ウォーカーの両腕にもダメージが入る。 竹彦は「ヒャハハハ!!」と笑う。 「どうしたどうした!? 防御ばっかりじゃあ、俺を倒すことは出来ないぜ!?」 「そうだな。じゃあ、攻撃するとするか!」 ウォーカーがそう言うと、ロード・トリッピンは防御から攻撃に転じた。 ロード・トリッピンは向かってくる竹槍の先端を右手で掴んだ。そして、竹彦から無理やり竹槍を奪うと、竹槍をボキリと折った。 そのままロード・トリッピンは間合いを詰め、竹彦の身体に拳の乱打をくらわせた。 竹彦は2m後方へ吹っ飛んだ。が、まだ倒れない。 「ヒャハハハ、やるじゃあねえか!! 戦いってのはこうでなくっちゃあ面白くねえ。さあ、もっとお前のスタンドの技を見せてくれよ!!」 竹彦のその挑発めいた言葉に、ウォーカーは「なら見せてやろう」と言った。 「ロード・トリッピン。床を殴って滑走路を作れ」 ロード・トリッピンは本体の命令通り、床を殴った。床には滑走路が作られ、その滑走路の先には竹彦が立っている。 竹彦はロード・トリッピンの能力を見て、さらに笑った。 「ヒャハハハ!! 院長室のスクリーンで見た通りの能力だなぁ!! それが一階で杏を外へ吹っ飛ばした滑走路か!!」 竹彦は掌から竹を生やして、その竹で槍を作った。 「その滑走路に乗ったら、俺はそのまま後ろへ吹っ飛ぶわけなんだろ?」 「ああ、そうだ。出来るならそのまま動かない方が良いぞ」 ウォーカーはそう忠告するが、竹彦は笑いながら言った。 「動かない方が良いだって? それは無理な相談だぜ。だってよ……」 竹彦は手に持った竹槍を右手に持ち、そのまま滑走路に突き刺した。 滑走路に突き刺さった竹槍を、竹彦の右手はそのまま握っている。 ウォーカーは竹彦のその行動を見て驚愕した。 「こうやって竹槍を滑走路に突き刺して、竹槍を掴んでおけば、俺の身体は吹っ飛ぶことは無いんだからな!!」 竹彦はそう言うと、左手から竹を生やし、その竹を槍に変えてウォーカーに突き刺した。 竹槍の先端は、ウォーカーの左肩を捉えた。 ウォーカーが「ぐぅッ!!」と呻くと、「ヒャハハハ!! 命中命中!!」と竹彦は笑った。 「さあて、俺はこの距離から、てめえをドンドン攻撃していくぜ!!」 竹彦がそう言うと、彼がいる滑走路の周りから、無数の竹が生えた。 「なぜって、槍にする竹は、まだこんなにたくさんあるんだからよぉッ!!」 ウォーカーは左肩を抑えながら、竹彦を鋭い眼差しで見つめていた。 一方、健聡も金剛坊に苦戦していた。 健聡は自身の唾を金剛坊の身体に付着させた。唾が付いた金剛坊の身体に衝撃が入った。が、金剛坊の身体に小さなヒビが入っただけで、大したダメージとなっていない。 金剛坊はクククと笑う。 「これが一階でAOT部隊の隊長を殺した能力か。だが、少しヒビが入っただけのようだな」 「チッ、こいつには僕のスタンドの能力が通じないってのかッ!?」 健聡の言葉に金剛坊はこう答えた。 「通じていないわけではない。ただ、俺の皮膚が硬すぎるだけだ」 「皮膚が硬すぎるだって…? まぁ外見からして普通の人間じゃあないってことは分かってたが」 健聡はそう言うと、「じゃあ、あんたは幽霊なのか? 妖怪なのか?」と訊いた。金剛坊は「いや。そのどちらでもない」と答えた。 「どっちでもないだって? なら一体なんなんだよあんたは!!」 健聡はMake some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!に命令する。 「Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!! こいつを思いっきりぶん殴れ!!」 Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!は右の拳に力を込めて、金剛坊の顔を殴った。しかし、金剛坊のその岩のような皮膚に小さいヒビが入っただけで、大きなダメージは受けていなかった。 Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!の拳から血が流れ出た。健聡の右手からも赤い血が流れてる。 金剛坊はため息をついて言った。 「幽霊や妖怪ではないと聞いたら、大体予想が出来るだろうに……。まぁいいだろう。教えてやる」 金剛坊はそう言うと、右手でMake some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!の片足を掴んで、そのまま持ち上げた。Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!が持ち上げられると、健聡の身体も宙に浮いた。 健聡は驚いた。まさか、こいつも幽霊や妖怪と同じく、スタンドに直接触れることができるというのか! 金剛坊はMake some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!を右手で掴んだまま振り回して語った。 「我らはこの世を統べる存在。幽霊や妖怪を従える者……」 金剛坊はMake some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!を天井へ投げつけた。Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!が当たった衝撃で天井に穴が空き、 Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!は四階へ到達した。同時に健聡の身体も四階へと飛ばされた。 四階はリハビリテーションフロアとなっていた。 かつてリハビリテーションフロアだったその場所には、幽霊や妖怪の群れがいた。 金剛坊は天井の穴から四階のリハビリテーションセンターに入り、話を続けた。 「科学の叡智では敵うことができぬ、お前達が畏れ敬うべき存在――■だ」 と、金剛坊はそう言った。 それを聞いた健聡は「……あんたみたいなのが■だって?」と言い、狂ったような笑い声を発すると、「……クソッタレ!!」と声を上げた。 さて、飛鷹達五名と別れたAOT部隊隊員の江風、楠、長月の三人は、三階の廊下の壁に磔の状態となっている叢雲華邑と夕立断斬の救出をしていた。 三人は三階に着いた際、廊下で磔になって気絶している二人を見て驚き、すぐに二人を助けようと、突き刺さっている竹槍を引き抜こうとした。が、なかなか抜くことができない。 ピンク色の髪をした青年『江風長江(かわかぜ・ちょうこう)』は、「こりゃあダメだ」と言った。 「この竹槍、深く刺さっていて、簡単に抜くことができないぞ。一体どうやって突き刺したんだ?」 江風に続いて、水色の短髪である童顔の青年『楠葛湯(くすのき・くずゆ)』も言った。 「多分刺した人は力一杯に突き刺したんだろうけど、ここまで刺すのは人間じゃあできない。とにかく、このままじゃあ抜くのに一日かかるね。」 二人の言葉を聞いていたポニーテールの若い女性「長月眺女(ながつき・ながめ)」は、「え #65374;!?」と弱音を吐いた。 「それじゃあいつまで経っても飛鷹さんと合流できないじゃあないですか! 一体どうするんですか!?」 「どうするって、飛鷹が院長室にいる立会人をとっ捕まえて帰って来るまで、ここで待機するしかないだろうよ」 「そうそう、僕達三人では、二人の身体を貫いて壁に刺さっている竹槍を抜くことは出来ないし、所持してる拳銃も、壁を破壊できるほどの威力は無いしね」 江風と楠がそう言うと、長月は「そ、そんな #65374;」とその場に座り込んだ。 「せっかく見たいドラマも我慢して、初任務に参加したのに、怪物達に部隊の大半はやられちゃうわ、信濃隊長も殺されちゃうし、もうイヤ!! 家に帰りたい #65374;!!」 「そんなこと言うなよ。トーナメントの立会人をとっ捕まえないと、俺達は上層部の奴らから大目玉食らうんだぞ」 「それに、家に帰ったとしても、トーナメントの運営が僕達を生かしておくわけがないだろうしね」 「じゃあどうすればいいのよ #65374;!!」 三人がそう会話をしていると、左腕を磔にされた叢雲が目を覚ました。彼女の右手は、まだ長巻を握っていた。 三人は目を覚ました叢雲を見て、声を上げた。 「叢雲!」 「やっと目を覚ましましたか!」 「大丈夫? 痛くない?」 「ん #65374; #65374; #65374;? あ、わたしさっきかべにはりつけにされちゃったんだ #65374; #65374;」 叢雲は間延びした口調で、自分の状況を確認した。 「こんな状況になってもマイペースだな、お前は」 「左腕が張り付けられているというのに……」 「まぁ叢雲ちゃんらしいといえばらしいけど」 三人がそう言ってる中、叢雲は右手に握られている長巻を器用に振り回した。三人は驚きながら数歩下がった。 江風が「危ないな! 何やってるんだお前!?」と怒鳴ると、「え #65374; #65374;? いまからきろうとしてるんだけど」と叢雲は答えた。 「斬るって、左腕を張り付けているその竹槍をですか!?」 「無理無理無理! 絶対無理だって!! 私達もさっき抜こうとしたけど抜けなかったんだよ。きっと斬ろうとしても斬れないよ!」 楠と長月の言葉を聞いた叢雲は「え #65374; #65374;、ぜんぜんちがうよ #65374; #65374;?」と言った。 「…? 違うって?」 「だから #65374; #65374;、わたしがきろうとしてるのは #65374; #65374;『ひだりうで』だよ!」 そう言って叢雲は、竹槍によって磔にされている左腕を、右手に持った長巻で切断した。 切断した左腕から、大量の血液が流れる。 それを見た三人は悲鳴を上げた。 「な、何をやってるんだお前は!?」 「まさか、自分の左腕を切り落とすなんて…」 「し、信じられない……!!」 そう言う三人に叢雲は「だいじょうぶだよ #65374; #65374;。まだみぎうでがあるし #65374; #65374;」と、平然と言った。江風は「いや、そういう問題じゃあないだろ!!」とツッコミを入れた。 しかし、叢雲はそのツッコミに反応せず、 「じゃあ #65374; #65374;そろそろとーなめんとのしゅつじょうしゃと #65374; #65374;わたしにたけをつきさしたやつを #65374; #65374;ぶっころしにいこうかな #65374; #65374;」 と言って、病室のある廊下へ向かおうとした。 江風、楠、長月は、そんな叢雲を制止する。 「ん #65374; #65374;? なんでじゃまするの #65374; #65374;?」 「いや、邪魔とかそういうことじゃあなくてだな」 「行くなら行くで、止血をしておかないと…」 「そうだよ、出血を止めないと、出血多量で死んじゃうよ」 「そっか #65374; #65374;。なら、しけつしてからいく #65374; #65374;」 叢雲は三人の応急処置を受けることにした。 竹彦はウォーカーに無数の竹槍を投げつけて攻撃をしていた ウォーカーはロード・トリッピンで向かってくる竹槍を掴んで防ぐ。 「ヒャハハハ!! また防戦一方になっちまったなぁッ!! お前の実力はそんなもんかよ!!」 竹彦はそう言って笑い声を上げるが、ウォーカーは未だに竹彦を鋭い眼差しで見つめている。 竹彦はそんなウォーカーを見て、戦う意思を捨てていないと感じた。 ウォーカーはその目つきを維持したまま、竹彦に向かって走りだした。 竹彦はウォーカーが攻撃に転じたと思った。 「ヒャハハハ!! そうだ!! 精いっぱい戦って、もっと俺を楽しませてくれ!!!!」 竹彦は無数の竹槍を作り、それをウォーカーめがけて投げつけた。 ウォーカーの前にいるロード・トリッピンは、それを全て両腕で弾いた。 「いいぞいいぞ!! もっともっと戦え!!」 竹彦は太い竹槍をウォーカーに向かって投げつけた。今までの竹槍とは違う極太の竹槍がウォーカーに向かってくる。 ウォーカーは走りながら身をかがめ、その竹槍を回避した。と、同時に、竹彦に向かった伸びた滑走路に、その身を滑らせた。 「何!? 自分を滑走路に滑らせただとッ!?」 竹彦がそう言った時には、滑走路を勢いよく滑ったウォーカーの身体が迫っていた。 竹彦は滑走路に無数の竹を生やし、ウォーカーが迫るのを防ごうとした。しかし、その竹の壁は、ロード・トリッピンによって全てへし折られた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」 ウォーカーの飛び蹴りが竹彦の顔面にヒットした。竹彦は鼻血を出しながら、その場に倒れた。竹彦に向かって伸びていた滑走路は、もう無くなっていた。 ウォーカーは見事床に着地すると、激しく息切れをした。 「はあ、はあ。まさか『滑走路に竹槍を突き刺して、それを握って滑らないようにする』という発想をする奴が現れるとはな。かなり手こずったぜ…」 ウォーカーはそう言いながら、倒れている竹彦を一瞥した。 「しかし、お前のその竹を生やす能力はなんなんだ? どうやらスタンドの能力ではなさそうだが……」 竹彦は「ヒャハハ」と笑った。 「お前の言う通り、確かに俺の能力はスタンドの能力じゃあねえ」 「じゃあ一体なんだ?」 「聞きたいか? じゃあ教えてやるよ。俺の能力は……」 竹彦が言おうとした瞬間、遠くから「うごかないでくださ #65374; #65374;い」と、間延びした声が聞こえた。 ウォーカーは声の聞こえた方へ顔を向けると、そこには、自分のことを「魔法少女」と名乗っていたAOT部隊の隊員である叢雲華邑という女と、三名のAOT部隊隊員がいた。 二人を見つめる叢雲には、左腕が無く、彼女が着る戦闘服は赤黒い血で汚れていた。 「ヒャハハ。竹が刺さった片腕を自分で切り落としやがったな」と竹彦は笑いながら言った。 ウォーカーは自分で腕を切り落とす叢雲のその異常な精神に、わずかながら恐怖を覚えた。 叢雲はウォーカーと竹彦に言う。 「あなたたちはこれからわたしたちによって #65374; #65374;、こうそくされるかぶっころされちゃいま #65374; #65374;す。かくごしてくださ #65374; #65374;い」 叢雲の持つ長巻が、窓から見える月光に照らされて、妖しく光った。 四階のリハビリテーションフロアでは、健聡と金剛坊が戦いをくりひろげていた。 状況は、金剛坊が優勢に戦闘を進めていた。 「ハァッ!!」 金剛坊のその岩石のような拳が、健聡の腹部に当たった。健聡は口から血反吐を吐いた。 「どうした。俺の力に臆したか? つまらないぞ…もっと本気を出せッ!!」 金剛坊は健聡に強い蹴りを入れた。その丸太のような太い足で蹴られ、健聡は数メートル吹っ飛んで倒れた。 金剛坊に一方的にサンドバッグにされた健聡の身体は、健聡自身の血でまみれていた。 健聡が息を切らしながら立ちあがると、リハビリテーションフロアにいた幽霊や妖怪達が声援をしているのが見えた。 声援している怪物達の中には、三階でAOT部隊の隊員に殺されたはずの灰神と魅遊がいた。 灰神は腹部から血を出したままで、魅遊は頭部だけの状態となったままで応援している。 「金剛坊様 #65374;、頑張れ #65374;!!」 「人間の方も底力を見せるのだ #65374;!!」 他の幽霊・妖怪達も声を上げる。 「かっこいいぞ #65374;金剛坊様 #65374;!!」 「そのままフィニッシュを決めて下さい!!」 「人間ももっと頑張れや!!」 「お前の力はそんなもんじゃあないだろうッ!?」 健聡は自分や金剛坊に声援を送る怪物達を見ながら「ハハッ」と笑った。 (成程。どうやらここにいる幽霊や妖怪達にとって、この試合は『楽しいゲーム』ってことか。妨害者として参加するにしろ、観客として見物するにしろ、この試合は『極上の娯楽』ってわけね) 健聡はフラフラの状態で立ちあがった。 「いいぜ…そんなに楽しい娯楽がほしいってのなら、最上級の娯楽って奴を見せてやる!!」 そう言って健聡は金剛坊に向かって走り出した。金剛坊は自分に向かってくる健聡の目を見つめた。 健聡の目は戦おうとする意志を秘めた目だ。まだ勝とうとするのを諦めていない目だ。 「血が流れようと、戦うのを止めないか…、面白い!!」 金剛坊は右腕の拳を振り上げた。 「ならかかってこい!! 相手になってやる!!」 金剛坊は振り上げた右腕を健聡に向かって振り下ろした。 健聡はそれを回避し、金剛坊の後ろに回り込んだ。 「何!? 後ろを取っただと!?」 「うおああああああああああああああッ!!!!」 健聡は叫びながら、金剛坊の背中にしがみつくと、血まみれになった自分の上着を脱いで丸めると、それを金剛坊の口の中に入れた。 金剛坊は健聡を振り落とし、口の中に入った健聡の上着を吐きだした。 健聡は金剛坊の背中から振り落とされ、床に座り込んだ。 「俺の背後を取り、血まみれの上着を口の中に入れて窒息させようとは考えたな。だが、残念だったな。俺はその程度では倒れんぞ!!」 金剛坊がそう言うと、床に座った健聡は「ハハハ」と笑った。 「何がおかしい?」 「いや。僕が上着をあんたの口に入れたのは、窒息させるためじゃあないんだよ」 健聡はそう言って、指をパチンと鳴らした。瞬間、金剛坊の体内に衝撃が走り、金剛坊の硬皮に無数の大きなヒビが入った。 「なっ、何!? これは一体!?」 金剛坊が驚く中、健聡は冷静に説明した。 「僕の目的は、血が染み込んだ上着をあんたの口の中に入れて、『僕の血液をあんたの身体の中に入れる』ことだったのさ。上着に染み込んだ血液は数ミリリットルでもあんたの身体の中に入るだろうし、体内に入った血液は、取り出すことも、拭うことも出来ないからね」 金剛坊の全身にヒビが入るのを見ながら、健聡はさらに語った。 「僕のスタンド能力は『体液に衝撃を込める』能力。硬い皮膚に衝撃を与えても壊すことができないなら、身体の中に体液を入れて衝撃を与えればいい。いくら外側が硬くても、内側までは硬くないよね!!」 健聡がそう言った瞬間、金剛坊の身体は木っ端微塵に砕け散った。 金剛坊の頭部が健聡の右隣に転がった。 「まぁ、木っ端微塵になっても生きてるなら、もうお手上げだけどね」 健聡はそう言って倒れた。 金剛坊は頭部だけになりながら、フフフと笑った。 「外側が無理なら内側を…か。実に面白い勝負だった」 金剛坊はそう言って健聡を褒めた。 声援を送っていた幽霊と妖怪達も、二人の健闘を讃えた。 叢雲の持つ長巻が、窓から見える月光に照らされ妖しく光ると、長巻の刃がウォーカーに襲いかかった。 ロード・トリッピンは叢雲の長巻の刃を素早く回避した。 叢雲は長巻の斬撃がで回避され「むむむむむ #65374; #65374; #65374;」と呻いた。 叢雲とウォーカーが硬直状態となっている隙をついて、江風、楠、長月の三人は、倒れている竹彦を拘束しようとした。 しかし、竹彦はすぐに起き上がった。 「なっ、起き上がった!?」 「さっきまで倒れていたのに!!」 「信じられない!!」 三人はそう言って驚いた。竹彦は「ヒャハハハ!!」と笑いながら三人に言う。 「この俺を捕まえるだと? 礼儀作法がなってないぜてめえら!!」 「非合法なトーナメントを行っているお前らには言われたくない!」 「そうだそうだ!」 「犯罪者に礼儀作法を言われる筋合いはありません!!」 三人の言葉を聞いて、竹彦はさらに笑った。 「ヒャハハハ!! 犯罪者じゃあないんだよ、俺は!!」 竹彦は床から竹を生やすと、それをもぎ取って竹槍に変え、三人に襲いかかった。 江風は両手に鉤爪を装着し、楠は多節棍を出し、長月は拳銃を構えて、襲いかかる竹彦に対抗した。 一方、ウォーカーは叢雲の繰り出す長巻の斬撃をかわしながら、一体どうするかを考えていた。 竹彦はAOT部隊の隊員三人と戦っていて、こちらの援護が出来ない。 自分が今戦っている女の攻撃をかわして、階段へ行こうとしても、階段のところには、後から来たAOT部隊か、隠れていた幽霊か妖怪がいるかもしれない。 そうなれば、後から追って来たこの女と、待ち構えているであろう誰かに挟み撃ちにされる可能性が高い。 だったら、一時的にでも、この階の病室のどれかに入って隠れるしかない。 ウォーカーはそう思い、叢雲の長巻の斬撃を紙一重でかわし、急いでどれかの病室に隠れようと、病棟の中を駆けた。 「あっ、まて #65374; #65374;」 攻撃をかわされた叢雲は、ウォーカーの後を追った。 ウォーカーは走りながら、どの病室に隠れるかを考えていた。 後ろからは叢雲が追いかけてくる。迷っている時間は無い。 「ええい、やぶれかぶれだッ!!」 ウォーカーは309号室の病室の扉を開け、病室の中へ入った。 中へ入ると、急いで病室の扉の鍵をかけた。 ウォーカーは息を切らしながら、その場にへたりこんだ。 「はあ、はあ、とりあえずこれでひとまず安心だ…」 ウォーカーはそう思い、病室の中を見回した。が、そこは病室ではない。 室内には高価な机と椅子が置かれ、その椅子には青い髪に白い肌をした青年が座っていた。 青年の隣には、下半身が樹木になっている若い女性と、背中からイカの触手が十本生えた男性が立っている。 机の周りには、米俵を背負った恰幅の良い体型の大男と、手に三叉槍を持ち、魚の鱗のような鎧を着た武者、 そして、若い刑事姿の男と、自分が今まで探していた立会人らしき青年がいた。 七人は大きなスクリーンに映った映像を見ている。 そのスクリーンには、室内に入った自分が映っていた。 「ウ、ウォーカーさん!!」 立会人らしき青年こと山城扶桑はウォーカーの名を呼んだ。 ウォーカーは自分の名を呼ばれ、「俺の名前を知っているってことは…、お前が今回の試合の立会人か!?」と訊いた。 「は、はい。そうだったんですけど……」 「ですけど? どういうことだ?」 ウォーカーが再び訊くと、隣にいた刑事姿の男こと陸奥開閉は扶桑の代わりに答えた。 「実は、AOT部隊が結成されたことで、試合が妨害されるかもしれないということで、試合内容をどうするか、AOT部隊の隊員である俺と相談していたんですが、ここにいる五人と、残り二人の怪物達に、試合進行を乗っ取られてしまって……」 「の、乗っ取られただぁ #65374;?」 ウォーカーは驚きの声を上げた。 まさかトーナメントの試合を仕切る立会人が、試合を仕切る権利を奪われてしまうなんて。 では、立会人から試合を仕切る権利を奪ったと思われるこいつらは何者なんだ? ウォーカーがそう思っていると、青髪の青年が口を開いた。 「トーナメントの出場者であるデズモンド・ウォーカーだな? よくぞ、院長室へたどり着いた。今回の試合の勝者はお前だ」 「い、いや。ここが院長室であるのは見ればわかるが、お前達はいったい何者なんだ?」 ウォーカーがそう訊くと、青髪の青年をはじめとした五人は自己紹介をした。 青髪の青年は「私の名前は『薄氷ノ長門(うすらいの・ながと)』だ」と言った。 下半身が樹木の女は「わたしの名前は木目沢睦月姫(このめざわ・むつきひめ)といいます」 「わたくしは『十手ノ妙高(じゅっての・みょうこう)』です。以後、お見知り置きを」と言ったのは、十本のイカの触手を生やした男。 恰幅の体系の男は「ぶふぅ #65374;! わしは『曙満福(あけぼの・まんぷく)』だ!!」と名乗った。 魚の鱗の鎧武者は「俺の名前は『黒潮ノ銛彦(くろしおの・もりひこ)』だ」と言った。 「三階の病棟で現れた藪ノ竹彦と牛縊金剛坊は、我らの仲間だ」 長門はそう言うと、最後に自分達のことをこう名乗った。 「我々七人は、この病院に住む幽霊達や妖怪達と暮らす、『八百万の神』だ」 「ふ #65374;ん。八百万の神ねえ。どおりでスタンドの攻撃がなかなか通じなかったわけだ」 健聡は首だけとなった金剛坊が「自分は八百万の神だ」という話を聞き、納得した。 健聡と金剛坊の周りには、声援していた幽霊達と妖怪達が座っていた。 健聡は動物や植物と合体したような異形の姿をした幽霊達を見て、こう訊いた。 「それにしてもさ、君達は所謂、五年前の大震災で命を落とした入院患者なわけだろ。なんで成仏しないのさ?」 健聡の言葉を聞いて、幽霊達はこう答えた。 「だって、あの世に行くの面倒くさいし」 「あの世に行ったところで、極楽浄土へ行けるのか分からないし」 「もしかしたら地獄行きになるかもしれないしな #65374;」 「地獄行きになって文句を言っても、閻魔大王の第一補佐官にボコボコにされてお終いだからな #65374;」 「だったらここで幽霊として、楽しく暮らす方がいいさ」 幽霊達の答えに、健聡は複雑な思いを抱いた。 こいつらが成仏しない理由はもっと切実な理由があるのかと思っていたが、まさかそんな下らないものだったとは。 というよりも、幽霊達にも読まれていたのか、あの漫画は。 あの漫画の閻魔大王だったら、こんな異形の姿の幽霊達に裁きを下すのは、絶対に願い下げするだろう。(第一補佐官はどうかは知らないが) そう思いながら健聡は、「なるほど、要は『あの世で幸せになれる保証が無いから、ここで暮らしている』ってわけね」と言うと、今度は妖怪達に訊いた。 「で、君達はどうしてこの病院に住み着いているんだい? 他にも住みつけるところがいっぱいあるじゃあないか」 妖怪達は、健聡の質問にこう答えた。 「いやいや。住み着くのに良い物件はあったんだけどさ」 「そこは他の妖怪が住み着いてて、追い出されちゃったんだよ」 「誰も住み着いてない廃墟を見つけてそこに暮らそうとしても、廃墟マニアや心霊番組の撮影スタッフがやって来るから、渋々引っ越さなきゃならないんだ」 「そうそう。廃墟マニアは廃墟の情報をネットに流すし、TVスタッフがその手の心霊番組で紹介するしで、馬鹿な奴らがぞろぞろやってくるから、迷惑しちゃうぜ」 「馬鹿な連中を脅かすのも疲れるんだよな #65374;」 「だから、廃墟マニアや心霊番組のスタッフが来ないこの病院で暮らすことにしたのだー」 「ここに前から住んでる幽霊たちとも仲良くなれたし、この病院こそ天国だぜ」 妖怪達の答えを聞いた健聡は「ふ #65374;ん、妖怪も大変なんだね」と言うと、今度は金剛坊に訊いた。 「で、あんたをはじめとした八百万の神々も、妖怪達と同じ理由でここに住み着いてるのかい?」 金剛坊は「……少し違う」と言い、語り始めた。 「この病院に住んでいる、俺をはじめとした七柱の神は、居場所を失った神なんだ」 「民から忘れ去られたり、祀られていた神社が老朽化で寂れたり、災害で潰れたりなどで、俺達は住むべき場所を失くした」 「十手ノ妙高と黒潮ノ銛彦は、この県のI市の神社に祀られていた神だったのに、五年前の東日本大震災による津波で神社は流され、祀られる社のない神となってしまった」 「長門も神社が震災のせいで修復不可能なほどに潰れてしまい、俺や竹彦や睦月姫や満福は、祀られていた村の過疎化によって、村人達から忘れられていった」 「住む場所を失った俺達は、どこでもいいから安住の地を探すべく、県内を彷徨った。彷徨って、彷徨って、彷徨い続けた」 「そうした果てに見つけたのが、この廃病院だった」 「神社ではないが、住めないよりはましだと考え、病院の中へ入った。そこには成仏できない幽霊や、病院に住み着いた妖怪がいるときたもんだ」 「最初は幽霊達や妖怪達と住む権利をめぐって対立したが、やがて打ち解けていき、俺達は幽霊や妖怪達とこの廃病院で暮らしていくことを決めたのだ」 金剛坊が話を終えると、健聡は「なるほどね」と納得した。 「でもさ、そんなあんたらが、どうしてトーナメントの試合を進行しようとしたわけ? 一応あんたらは幽霊であって、妖怪であって、八百万の神々なわけだろ? なにも人間世界の一イベントに首突っ込まなくてもいいじゃんよ」 健聡がまた質問すると、金剛坊は「それはだな…」と言って、再び説明した。 「なるほど。あんたらが民衆から忘れられたり、神社が壊れたりの理由で、この病院に辿り着いて、幽霊や妖怪達と仲良く暮らしているのは分かった。送られてきた手紙が筆書きだったのも、あんたらが昔から存在している神だから、筆書きで文字を書いたからということで納得した。だが、なんであんたらはスタンド使い同士のトーナメントの試合進行を奪うようなことをしたんだ? わざわざトーナメントの立会人から試合を進行する権利を奪わなくても、俺達が試合をやっている時に乱入してくれば良かったじゃあないか」 ウォーカーの問いに、長門は「我々も幽霊達も妖怪達も、退屈していたからだ」と答えた。 ウォーカーが「はぁ?」と声を上げると、五柱の神々は順に説明した。 「我々はこの廃病院で幽霊達や妖怪達と共同生活を送ることを決めた。だが、ある問題が浮かび上がった。それは『病院内には、娯楽が少ない』ということだ」 「私達も幽霊達や妖怪達も、祭りや遊戯が大好きです。なのにこの病院には遊ぶための施設が全然ない。あるとすれば、小児病棟にあるオセロか将棋かスゴロクのみ。放置されたDVDは、電気が止められているため見ることができない始末。これでは暇で暇でしょうがない」 「わたくし達はどうにかして遊べやしないかと、ありとあらゆることを試してみました。この病院を取り壊そうとしている輩を呪い殺したり、付近のマンションに住んでいる人間達を脅かしたり…。ですが、大した暇つぶしにもならなかった」 「どうすればいいかとわし達が考えているところへ、『蘇亜橋真座利』という幽霊の女が病院にやって来た。わし達は侵入者かと思い、幽霊達や妖怪達と協力して真座利を追っ払おうとしたが、真座利は祓い屋の使う呪文を使って、幽霊達や妖怪達を蹴散らし、わし達を強引に話し合いの場へ持ってきおった。あれほどの力と勇気を持った幽霊は、わし達は見たことが無いわい」 「真座利が言うには、『迷宮電器店をテーマパークに改装するために人手が足りないので、この病院に住んでいる幽霊や妖怪達の一部を貸してほしい』とのことだった。俺達は最初は断ったが、あやつの熱意に負けて、俺達はここに住んでいる幽霊や妖怪達の一部を貸すことにしたのだ」 「その後は、飲めや歌えの宴会だった。真座利は幽霊達に、祓い屋の一族である教師から学んだ『幽霊を五分間だけ実体化させる呪文』と、真座利自身が最近考案したという『人間の姿に戻る呪文』を教えてくれた。あいつの他者を引きつける魅力と、周りを和ませる能力から、幽霊達はあやつを『なごみの真座利』と呼ぶようになった」 「そして、その時に真座利は私達に『スタンド使い同士によるトーナメント』のことを聞きました。今まで数々のトーナメント戦が行われ、多くのスタンド使い達が己の願いを叶えるために出場し、戦っていったということを。私達はそれを聞いて興奮しました。これこそまさに私達が求めていた娯楽、究極のエンターテイメント!」 「わたくし達はそのトーナメントに一度でもいいから見たいと思いました。究極の娯楽に参加して、己の願いを叶えようとするスタンド使いとはいかなる者かを見てみたい!」 「だが、真座利は『トーナメントは優勝者トーナメントを以て、無期限休止となることになった』と言った。なんでも、16回トーナメントにおいて、出場者の一人が殺傷事件を起こしたことにより、警察の奴らがトーナメントの運営の存在に気づき、トーナメントの試合を阻止しようとしているからだ、とのことらしく、運営側もなかなか試合を進行しにくくなっているとも言っていた」 「さらに、今回の試合が始まる前、そこにいる立会人がAOT部隊の裏切り者と、試合内容をどうするかと、今ごろになって話し合う始末。こんな連中に試合進行は任せていられないだろう? 」 「だから、我々は今回の試合の立会人である山城扶桑から試合進行の権利を奪い、代わりに我々が立会人となって、今回の試合を作りあげたというわけだ。正直な話、立会人となることで、究極のエンターテイメントを、みんなで楽しみたかったということだ」 神々が話し終わると、ウォーカーは心の中で「なんて奴らだ」と思った。 トーナメントを娯楽と考えていて、その娯楽を皆で味わうために、立会人から試合を進行する権利を奪ったというのか。 こいつらは本当に神なのか? ウォーカーはそう考えて、過去にフランチェスカの本棚にあった、日本の神々の本を読んだことを思い出した。 あの本に書かれてあったことを要約すると、「日本の神々はキリスト教やイスラム教といった唯一神ではなく、木や石、川や海などといった自然のものに魂が宿った、所謂精霊的な存在であるため、お世辞にも神とはいえない性格をした者達が多い」とのことだった。 その本に書かれてあったことは正解だった。日本の神々は人間と同じように、自分達にとって楽しいことや嬉しいことを愛する存在であった。 そう思うとウォーカーは、五柱の神々にまた訊いた。 「……あんたら神々がトーナメントの試合を楽しむために、試合進行の権利を奪ったのは分かった。だが、一つだけ分からないことがある」 「分からないこととは?」 「ああ。俺はさっき病室の扉を開けて、病室の中に入ったと思った。だが、中に入ったらそこは院長室だった。なんで病室の中が院長室になっているんだ? もしかしてこれはあんたらがスタンドではない不思議な力を使ってやったことなのか?」 ウォーカーがそう訊くと、睦月姫は「半分当たっていますけど、半分外れていますね」と言った。 「半分外れ?」 「はい。私達が病室の扉と院長室の空間をつなげたのは事実ですが、病室の扉を作ったのは私達ではないんですよ」 「じゃあ、あの扉を作ったのは誰なんだ?」 「あそこにいる立会人のお友達である、陸奥開閉さんです」 睦月姫は陸奥の方を指差すと「後は陸奥さんに訊いてみれば分かります」と、笑顔で言った。 陸奥は深いため息をついて、ウォーカーに言った。 「あの病室の扉は、俺のスタンド『プロミス・オブ・ザ・サン』が作り出したもんだ」 「お前のスタンドが作っただと!?」 「ああ。プロミス・オブ・ザ・サンの能力は『手で触れた場所に扉を作る能力』で、壁だったら出入口として作ることができる。あの扉のカラクリは、俺が各階の病棟に病室の扉を複数作って、そこにいる神様達はその病室の扉の内部空間と、院長室の空間を連結させたっていうトリックさ。俺の能力に目を付けた神様達の考えそうなことさ」 陸奥がそう言うと、長門が続くように語った。 「この試合で重要なのは『院長室につながっている病室の扉の存在に気づくこと』だ。院長室へと繋がる扉の番号は、病院では忌み数として使われることのない『4』と『9』の番号が使われている病室だ。忌み数の病室に気づいて、その病室の扉を開けて院長室へ入った者が、今回の試合の勝利者となるわけだ」 長門はそう言うと、睦月姫が「もっとも、ウォーカーさんはほぼやぶれかぶれで入ったために、忌み数には気付きませんでしたが」と言った。 ウォーカーはそういうことだったのかと感じた。 まさか院長室に簡単に行くための裏技があったとは予想だにしていなかった。 病院では忌み数として使わない数字の書かれている病室。そこに気づいて入れば、簡単に試合に勝つことができたのか。 自分は全くに気づかず入り、15回トーナメントの決勝のように、偶然で勝ってしまった。 こんなことで本当に勝ったといえるのだろうか? ウォーカーがそう考えていると、長門は「どうした? 浮かない顔をしているな?」と言ってきた。 「いや、俺はまさか『4』と『9』の数字が、日本では忌み数として嫌われていることを知らないで、309号室の扉を開けて、院長室に辿り着き、決勝進出となった。だが、それは偶然で勝利したことに他ならない。俺がかつて出場した15回トーナメントの決勝も、偶然に助けられて優勝した。二度も偶然に助けられて、果たしてそれが本当の勝利といえるのだろうか、と、そう言うことを考えていたのさ」 ウォーカーのその疑問に、長門はこう答えた。 「そんなことで悩んでいたのか。別に良いではないか」 「別に良い?」 「偶然に助けられても勝利は勝利だ。お前がこの試合に勝ったのは、お前が勝利の女神、もしくは偶然の女神に愛されたからに他ならない。逆に、もう一人の出場者は二人の女神に嫌われて負けた。ただそれだけの話だ。偶然や運の良さで勝負事に勝つことは恥ではない。胸を張れ、人間。我々は勝者であるお前を祝福するぞ」 長門にそう言われたウォーカーは、フッと笑った。 「なるほどな。この国には八百万の神々がいるんだから、その中に勝利の女神や偶然の女神がいて、そいつらが俺に一目惚れしたとしてもおかしくないな。分かった。この試合で俺は勝利した。そして俺は決勝で勝つ」 ウォーカーが決意の言葉を言うと、長門は優しく微笑んだ。 その時、二人の会話を聞いていた本来の立会人である山城が長門に言った。 「ところで、三階でAOT部隊と戦っている竹彦様と、四階にいる健聡様と金剛坊様はどうなったんでしょうか? そろそろ試合が終わったことを知らせなければと思うのですが」 「そうだったな。では、スクリーンの映像で様子を見るとしよう」 院長室にいる者達が大型のスクリーンを見ようとすると、「その必要はありません」と言う声と共に、院長室の扉が開いた。 院長室の扉からは、出雲丸飛鷹率いるAOT部隊隊員が現れた。 「はははは。まさか暇つぶしのためにトーナメントの試合を乗っ取っちゃうなんてね。その乗っ取るという発想が凄いよ!!」 健聡は金剛坊が語った話を聞いて笑った。 「それにしても、トーナメントのことを教えた『なごみの真座利』って子も凄いね。神様相手に『力を貸して』って交渉しちゃうんだからさ。とても根性あるよその子」 「ああ。病院内の幽霊や妖怪達を蹴散らし、俺達を交渉の場に座らせたんだからな。並みの幽霊ではそんなことは出来んからな」 「いえてる。あっはははははは!!」 健聡は大声で笑うと、冷静な顔になり「でも、多分僕は試合に負けちゃったろうな。せっかく優勝したら『あの人と戦える』と思ってたのに…」と言った。 金剛坊はそんな健聡にこう言った。 「落ち込むな、人間。今回の試合ではお前は勝利の女神に嫌われただけだ。勝利の女神が愛したのは、もう一人の出場者だった。ただそれだけのことだ」 金剛坊に続いて、幽霊達や妖怪達も健聡を励ました。 「金剛坊様の言う通りです!」 「落ち込まないでくださいよ #65374;」 「今回は運が無かっただけだって」 「あんたが言う『あの人』って誰のことか知らんけど、トーナメントで優勝しなくても、その人とはどこかで戦えるよ」 「だから元気だしなよ!!」 神・幽霊・妖怪に励まされた健聡は、あはは、と笑った 「そうだね。あの人とはまたどこかで戦える。それを楽しみにしてるよ」 健聡がそう言ったその時、どこからか「いや。お前にその時はやってこない」という声が聞こえた。 幽霊や妖怪達は「今の声は一体誰だ!?」と突如聞こえた声に騒ぎたてた。 金剛坊が「一体何者だ、出てこい!」と声を上げると、健聡は「僕は誰なのかは予想がついてるけど」と言った。 声の主は、リハビリテーションフロアの入口から現れた。 「またお前らかよ。本当にしつこい奴だな、お前らは」 「ほぉ、まさかお前達も院長室へたどり着くとはな」 ウォーカーと長門がこう言うと、飛鷹は「今辿り着きました」と言った。 「出場者の一人がここへたどり着いていて、かつ、立会人であろう者達がいるとなると、すでに試合は終わったようですね」 「そういうことだ。お前達にとっては残念なことだが、試合を妨害するという任務は失敗したというわけだ」 「つまり、今のあなた達は大義名分を失ったということです」 「さあ、試合は終わったのだから、早く警視庁へ帰りなさい」 ウォーカー、長門、睦月姫、妙高はそう飛鷹達に言うが、飛鷹は「そうはいきません!」と、声を上げた。 「あなた達はトーナメントの試合をまたどこかで行うつもりなのでしょう? なら、ここで出場者と立会人全員を拘束します!」 飛鷹はそう言いながら、陸奥のいる方向へと目を向ける。陸奥はびくっと反応した。 「特に、陸奥は立会人と通じている容疑で、あとで拷問を含めた尋問をします。いいですね?」 「…………」 陸奥は何も言うことができなかった。部隊から抜け出して、立会人である山城と相談していた結果、八百万の神々に捕まり、部隊に戻ることができなかった。 飛鷹が疑うのも無理はない。陸奥はそう思った。 ウォーカーはそんな飛鷹に言った。 「だが、お前が率いる部隊は数が少なくなっているぞ。立会人側は大勢いるのに、拘束するのは不可能だぜ」 彼の言葉を聞いて、飛鷹はくすっと笑った。 「何を言ってるんです? ここに来たAOT部隊は、我々だけではありませんよ」 飛鷹がそう言うと、ウォーカーがさっき開けた309号室の扉が、強い力で破壊された。 三階の病棟と繋がっている扉の穴からは、今まで藪ノ竹彦と戦っていた叢雲達四人と、その竹彦を担いだ女と、長髪を後ろに束ね、片手に薙刀を持った青年が現れた。 竹彦は全身が傷だらけで、白目を剥いて気絶している。 その気絶した竹彦を担いだ女は、ライオンの鬣のような髪型をし、右目に眼帯を付け、鉤爪や鎧を装着している。 院長室の扉の外からは、黒い戦闘服を着たAOT部隊の隊員達がどかどかと入って来た。 鎧を着た隻眼の女と、薙刀を持った青年は、ウォーカー達に聞かせるように、自分の名前を言った。 「AOT部隊の一人、『獅子王伊良湖(ししおう・いらこ)』だ」 「同じく、AOT部隊の一人、葛城義家(かつらぎ・よしいえ)だ」 伊良湖は竹彦を下ろすと、鉤爪を付けた右手を長門に向けた。 「お前がトーナメントの立会人のリーダーだな? 非合法のトーナメントを開催した罪で、お前を拘束する!」 ウォーカーは院長室に入った伊良湖達を見て、「お前ら、一体どこに隠れていた!?」と言った。 葛城はウォーカーに目を向けると、「病院の後ろにある非常階段から入って来た」と答えた。 ウォーカーは葛城の言葉を聞いて、「成程、別働隊か」と呟いた。 「俺達が戦っている間に、お前達別働隊はその非常階段から病院の中へ潜入し、三階の病棟で戦っていたそいつを大勢で攻めて倒した、ということか」 ウォーカーは竹彦を指差して言うと、伊良湖は「その通りだ」と答えた。 「床に竹を生やす妙な技を使って来たが、大勢で囲んでしまえば大したことは無いな」 そう言って鼻で笑う伊良湖と、倒れている竹彦を見て、(流石の神も、多勢に無勢では人間には敵わないか)とウォーカーは思った。 「残るは院長室にいるお前達と、四階にいる連中だけ。俺達が来たからには、お前達の命運は尽きたと思え」 葛城は薙刀の刃を長門に向けた。長門は薙刀の先を見ながら、ふっと笑った。 「まさか竹彦が倒されるとは……、人間もまだ進化はするのだな」 そう言って長門は、「だが」と言って話を続けた。 「我々を舐めるなよ、人間。竹彦のように大勢で攻めれば簡単に倒せるなどと、甘い考えをしないことだ」 長門は椅子から立ち上がると、ウォーカー、山城、陸奥の三人に言った。 「三人とも。ここは我ら七柱と病院の住人がこいつらを引き付ける。お前達はもう一人の出場者を連れて、早くここから脱出しろ」 「脱出だって? だが、どうやって?」 「陸奥のスタンド能力を使えば簡単だろう。もっとも、我々は戦うことに力を費やすから、試合の時のように、空間を連結させることは出来ぬがな」 長門の言葉を聞いたウォーカーは、陸奥に言った。 「おい、お前。床に俺達が通れるくらいの扉を作ることができるか?」 「え? まあ一応できるが……」 「なら、頼む。その扉を作ってくれ!」 「……分かった」 陸奥はそう言うと、自身のスタンドであるプロミス・オブ・ザ・サンを発現させた。 彼のスタンドはAOT部隊の隊員達の目には見えない。 「プロミス・オブ・ザ・サン。俺達三人が通れる扉を床に作れ!!」 プロミス・オブ・ザ・サンは、ウォーカーの足下の床に触れた。瞬間、人三人が通れるくらいの大きさの扉が出来る。 ウォーカーはその扉を開けて、七階へと脱出した。 陸奥と山城も、ウォーカーの後に続いた。 床の扉から逃げたウォーカー達を見て、飛鷹は「逃がさない!」と言って、自分も床の扉に入り、ウォーカー達を追った。 江風、楠、長月、能代、鈴谷、若葉、巻雲も彼女の後に続き、床の扉に入る。 一方の別働隊である伊良湖、葛城をはじめとした隊員達は、ウォーカー達を追おうとはしない。 長門は伊良湖と葛城、叢雲に訊いた。 「お前達は追わなくていいのか?」 「私達はいいのさ。飛鷹達が奴らを捕まえに行ったことだしね。」 「それに、別働隊は今ここにいる我々だけではない。こういう時のために各階に他の隊員を配置しておいたからな。そいつらが飛鷹達と一緒に逃げた奴らを捕まえることだろう」 「そういうこと、そういうこと #65374;」 長門は二人の言葉に「そうか」と言うと、院長室に浮かんでいた巨大スクリーンを消滅させると、椅子から下りた。 睦月姫達も戦闘態勢に入る。 伊良湖と葛城はそんな長門達を見ると、隊員達に命令する。 「これから戦闘態勢に入る。全員武器を構えろ!」 「敵は全員で五名。油断はするなよ」 葛城がそう言った瞬間、竹彦が起き上がった。竹彦は「ヒャハハハ!!」と笑うと、床から竹を一本生やして竹槍を作り、葛城に襲いかかった。 葛城は薙刀で竹槍の刺突を防御する。 「ヒャッハーーーーーーーーーーーー!! 敵は五人だって? 六人の間違いだろうが!!」 「気絶していたと思っていたが、目を覚ましたか……」 「かつらぎ!」 叢雲は葛城を援護しようとするが、銛彦にそれを阻まれた。 「お前の相手は俺だろう!!」 銛彦は三叉槍を振るい、叢雲を攻撃する。叢雲は右手に持った長巻で応戦した。 それに続くかのように、妙高は背中から生えた十本の触手を女性隊員の身体に絡ませた。睦月姫は右掌から無数のドングリをマシンガンのように発射した。 満福は強烈な張り手を連続で繰り出し、隊員達を張り倒していく。 院長室は、八百万の神と人間の戦場となっていた。 長門は大気中の水分を掌に集めて作った氷の刀を持ち、伊良湖と対峙していた。 伊良湖は鉤爪を装着した右手を前に突き出し、武道の構えを取ると、長門にこう訊いた。 「なぁ、お前達はなんでこのトーナメントを開いてるんだ?」 長門は、伊良湖が自分達のことをトーナメントの運営側の関係者と勘違いしているなと思った。 おそらく「自分達はトーナメントの運営とは無関係だ」と言っても、聞く耳を持たないだろう。 なら、こう言えばいいか。 長門は伊良湖の問いに対し「決まっているだろう。トーナメントを娯楽として楽しむためだ」と、ウォーカーに話した答えを彼女にも言った。 伊良湖は数秒無表情でいたが、やがて額に血管を浮かばせた。 「そうか…、ただの娯楽か。お前達の娯楽のために大勢の人間が命を落としたということだな…! なら、容赦はしない!! お前達の腐った根性は、私が叩きなおしてやる!!」 伊良湖は獣のような呻り声を上げ、長門に鉤爪のついた右拳を喰らわせようとした 長門はため息をつきながら、伊良湖の右拳を受け止め、彼女に言った。 「我々をそう簡単に倒せると思うなよ、人間」 四階病棟・リハビリテーションフロア。 黒いコートを羽織り、不精髭を生やした男は、健聡と金剛坊、幽霊や妖怪達に向かってこう言った。 「俺はAOT部隊隊員、矢矧暗鬼(やはぎ・あんき)だ。俺は貴様らトーナメント運営の関係者を逮捕するためにここへ来た。おとなしく観念しろ」 「やっぱりね。そうだと思ったよ」 「院長室のスクリーンで見た二階の映像にこいつは映っていなかったから、おそらく後から来た別働隊だな」 健聡と金剛坊は矢矧を無視して会話をしていた。 幽霊や妖怪達も「何言ってんだこいつは?」と言いたげな表情で、彼を見ている。 しかし、矢矧は動じなかった。 自分を無視するようなら、こいつらが自分の方に顔を向かせるようなことをすればいいだけだ。 矢矧はコートから一本のナイフを取り出すと、それを青白い顔をした少女の額に目掛けて投げた。 ナイフは少女の額に突き刺さった。 「俺は暗器使いの達人だが、俺を無視したり抵抗したりすれば、この少女のようになる」 矢矧はリハビリテーションフロアにいる者達に言ったが、健聡はクククと笑った。 「何がおかしい」と矢矧は怒りを抑えながら健聡に言った。 「いやさ。そんな脅しでここにいる人達をビビらせるとでも思ったの? 現に、さっきの女の子は『まだ生きている』し」 「何!?」 矢矧は自分がナイフを命中させた少女の方を向くと、少女はまだ生きていた。 彼は流石に驚きを隠せなかった。なぜナイフが額に刺さったのに、まだ生きていられるのだ!? 少女は額に刺さったナイフを手で押し込むと、矢矧に言った。 「この程度の攻撃で、この『つらら女の丁子似子(ちょうじ・にこ)』を殺せるとでも思ったの? そんなんじゃあ誰もビビらないわよ」 似子は両手の指先に大気中の水分を集め、鋭く尖ったつららを作る。 「殺すなら、こんな風に殺しなさい!!」 似子は両手のつらら十本を、矢矧に向けて発射した。矢矧はコートの中に隠し持っていた戦輪、飛針、手裏剣などを飛ばし、向かってくるつららを相殺した。 矢矧は似子が飛ばしたつららを相殺すると、リハビリテーションフロアにいる者達が殺気立っているのを感じた。 常に冷静であることを心がけている彼であるが、この状況は流石にまずいと感じた。 矢矧はヒュウーっと口笛を吹いた。口笛がフロアに鳴り響いたと同時に、入り口から黒い戦闘服を着た隊員達が入り込んだ。 「どうやら、伏兵がいたらしいな」と金剛坊が言った。 矢矧は隊員達に命令する。 「全員戦闘態勢を取れ! ここにいる者達を全員拘束しろ!!」 隊員達は各々の武器を出し、幽霊・妖怪達に襲いかかった。 幽霊・妖怪達も負けじと隊員達に向かっていった。 フロアが人間と怪異の戦争状態となっている中、健聡も戦おうと起き上がった。その時、金剛坊が健聡に言った。 「なあ、人間。お前はここから脱出しろ」 「な、何言ってるんだよ、おっさん。僕も戦えるって」 「何を言っている。お前は俺との戦いで疲れているだろう。ここで戦えば、間違いなくお前は死ぬ」 そう言われて健聡は数秒黙ると、「でも」と言った。 「おっさんは今首だけじゃあないか。幽霊達や妖怪達だって戦っているけど、おっさんは首だけでどうやって戦うっていうんだよ」 健聡の言葉に、金剛坊はこう答えた。 「心配するな。俺が首だけのままで戦えないとでも思っているのか? 首だけでも戦えるんだよ!」 金剛坊がそう言うと、砕け散って床に転がり落ちていた金剛坊の身体のパーツが、空中に浮かんだ。 身体のパーツが空中に浮かぶと、そのままAOT部隊の隊員達めがけて突進していった。 隊員達は金剛坊の身体のパーツが命中すると、口から血を吐いて倒れた。 金剛坊の首も、空中に浮かんでいた。 健聡はバラバラの状態で戦う金剛坊を見て、「凄い…」と呟いた。 そんな健聡の下へ、金剛坊の右掌のパーツがやってきた。 「お前はこれに乗れ。俺が病院の外まで出してやろう」 「そんな! それじゃあおっさん達が…!」 「言っただろう。ここで戦えばお前は死ぬ。それに、あんな人間に負けるほど、俺達はやわではない」 金剛坊はそう言ってほほ笑んだ。健聡は金剛坊の笑顔を見て「分かった」と言った。 「ただし、絶対に負けるんじゃあねえぞ!! あんたは僕達が畏れ、敬うべき存在なんだからな! そんな奴が負けたら、神様失格なんだからな!!」 「分かっている」と金剛坊は言うと、魅遊と灰神の名前を呼んだ。 「金剛坊様、なんなのかー?」 「何の御用で?」 「お前達二人は、俺の右掌に乗って、この人間をサポートしろ。もしかしたらフロアの外にAOT部隊の隊員がいるかも知れんからな」 金剛坊の頼みを聞いて、二人は首を縦に振ると、健聡よりも先に金剛坊の右掌に乗った。 「さあ、お前も早く乗るのだー」 「急がないと、あんたもこの戦いに巻き込まれちまうぜ」 「ああ、分かった」 そう言って健聡が乗ると、金剛坊の右掌のパーツは、三人を乗せて、フロア外へと抜けだした。 「無事に脱出しろよ、健聡」 金剛坊はフロア外に出た健聡に言うと、自分の首を暗器で撃ち落とそうとする矢矧に向かって声を上げた。 「さあ、かかってこい人間!! お前達如きの力で、この俺達を倒せると思うなよ!!」 ウォーカー、山城、陸奥の三人は、七階病棟の廊下を走っていた。後ろからは、飛鷹達八人のAOT部隊隊員が追ってきている。 山城は走りながら、ウォーカーに訊いた。 「ウォーカーさん、一つ思ったんですが、あなたのスタンドで滑走路を作って、それに乗って飛行機のようにかっ飛んでいけば、後ろから来る連中をうまく撒けるんじゃあないんですか?」 「馬鹿言えッ! もしかしたらAOT部隊の別働隊がどこかに潜んでいるかもしれないし、もし滑走路を作ったとしても、後ろから来る連中も滑走路を踏むことになるんだぞ? そうなったら逆に追いつかれることになるッ!! むやみにロード・トリッピンの能力は使えないッ!」 「じゃあ、俺のプロミス・オブ・ザ・サンでまた床に扉を作って…、ああ、それももダメか。またあいつらが扉を開けて下の階に行って、俺達を追いかけるだけか」 陸奥は「良いアイデアだと思ったんだけどなぁ…」と走りながら言った。ウォーカーは山城と陸奥に言った。 「スタンド能力は一見、スタンド使いに有利な能力だと思いがちだが、逆に相手側が有利になることもある諸刃の剣のようなもんだ。使いどころってのを考えなきゃあならないんだよ」 ウォーカーはそう言いながら、廊下の先を見つめていた。 廊下の先には、黒い戦闘服を着て、何やら黒い球を持った男がいた。間違いない。AOTの隊員だ。 「そうら。前方から敵のお出ましだ」と、ウォーカーは言った。 AOT部隊隊員「柿田伸広(かきた・のぶひろ)」は、手に持った黒い鉄球を持ちながら、自分の方へ向かってくる三人の男達を見つめていた。 間違いない。トーナメントの出場者と立会人。そして、裏切り者の陸奥だ。 こいつらはAOT部隊の名にかけて、絶対に捕まえなければならない。 柿田はそう思いながら、投球の構えを取った。 彼は学生時代、高校野球のピッチャーとして活躍していた。 彼の前に立ったバッターは、ことごとく三振。柿田は一躍高校野球のエースとして名を馳せた。 そんな彼は卒業後、警察学校へ進学し、警視庁の刑事となった。 彼は拳銃の代わりに黒い鉄球を持ち、逃走する犯人に向かって投げる。 鉄球が当たった犯人はその場に倒れ、即確保される。 彼はこのやり方で犯罪者達を捕まえてきたのだ。 今回もそのやり方で、トーナメント関係者を捕まえようとしていた。 「くらえ!! 俺の必殺魔球!!」 柿田は強い力で鉄球を投げた。 強い力で投げられた鉄球は、分身したかのように無数の残像を作り出した。 これが柿田が高校時代に多くのバッターをグラウンドに沈めた魔球「分身魔球」である。 分身した魔球は男達の目を撹乱し、やがて前方にいる外国人の頭部に命中する……はずだった。 しかし、黒い球は外国人の頭に当たらず、空中に停止した。 柿田は驚愕した。 何故だ、何故自分の必殺の魔球が突然空中に止まるのだ!? 柿田はスタンド使いではないために分からない。 外国人ことウォーカーがスタンド使いであることに。 ウォーカーのスタンドである「ロード・トリッピン」によって、球がキャッチされたことに。 ウォーカーは、廊下の先にいる柿田に向かって言った。 「こんな遅い球では、俺を捉えることは出来ないぞ」 ロード・トリッピンは投球の構えを取った。狙いは廊下の先にいる柿田だ。 「投球ってのは、こうやるんだ……よッ!!」 ロード・トリッピンが振りかぶって、球を投げ返した。 142キロの速さで投げられた球は、柿田の顔に命中した。 柿田は「げたッ!!」という断末魔の悲鳴を上げて、その場に倒れた。 「投手を気取りたいなら、松坂大輔くらいの投球でかかってくるんだな」 ウォーカーは気絶した柿田を一瞥しながら言うと、山城、陸奥と共に、階段を駆け下りた。 飛鷹達八人はウォーカー達三人を追っている途中、柿田が倒れているのを発見した。 江風は飛鷹に「おい。柿田さんが鼻血を出して倒れているぜ。どうする?」と訊いた。 飛鷹は柿田を一瞥せずに「放っておきなさい」と、冷たく答えた。 「私達はあの三人を追っているんです。捕まえるべき人間を捕まえられない馬鹿なんて、AOTにいりません」 飛鷹はそう言うと、階段を素早く駆け下りた。 江風達七人は、自分の先輩である柿谷言い放った冷たい言葉に恐怖を感じるも、今はそれどころじゃないと感じ、飛鷹の後に続いた。 三階・病棟。 健聡、魅遊、灰神の三人を乗せた金剛坊の右掌のパーツは、病院の外へと向かっていた。 右掌のパーツは三人を振り落とさず、かつ、外へ早く出られるスピードで走っていた。 「いやあ、これは乗りごこちがいいね #65374;!」 「とっても早いのだ #65374;!」 「このまま病院の外へ出られるかな #65374;?」 灰神がそう言うと、健聡は廊下の先を見て「いや、AOTはそう簡単には外へと出してくれないみたいだ」と言った。 AOT部隊隊員「木座見大鳳(きざみ・たいほう)」は、自分に向かってくる物体を見て、トーナメントの出場者と、トーナメントの運営の関係者だと認識した。 大鳳は顔を紅潮させながら、トーナメントの関係者達が来るのを待っていた。 「嗚呼…、早く私の所へ来て…。早く来て…、私に切り刻まれてェ……」 大鳳はそう言いながら、妖しく光る鎖鎌を両手に持った。 そもそも、彼女は警察組織の人間ではない。彼女は元々、死刑囚だった。 彼女の罪状は大量殺人。2009年・東京都の中学校に侵入して、教師生徒を含めた男女40名を殺害した罪である。 理由は単純「自分に殺される人間の恐怖の顔が見たかったから」だった。 そのような身勝手な理由を語る彼女は恍惚の表情であったと、当時取り調べをした警官は上司にそう語ったという。 彼女にはもちろん死刑判決が下され、ただ死刑を待つばかりの日々が続いた。 そんな時である。彼女にAOT部隊配属の命令が下ったのは。 彼女は警察上層部の人間から、トーナメントの運営者及び出場者の拘束の任務を命じられた彼女は歓喜した。 相手が誰なのかは知らないが、また自分によって殺される人間の恐怖の顔が見られるのだ。 こんなにうれしいことはない。 彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、AOT部隊へと入隊した。 それにしても、なぜ警察上層部は死刑囚である彼女を、AOT部隊に入隊させたのか。 それは、「死刑執行の手間を省かせる」のが主な理由である。 死刑を執行するには色々と手続きを取らなければならないし、死刑囚を死刑にしようとすると、人権団体が何かとうるさい。 そこで上層部は、殺人犯をAOTに入隊させることにより、トーナメントの関係者に彼女を殺させようと考えた。 トーナメントの関係者に彼女が殺されれば、人権団体からも文句は言われないし、死刑執行の手間が省ける。 要するに彼女は、警察上層部の思惑に利用されてしまったのである。 そんな警察上層部の思惑に気づかないまま、彼女はかつて自分が犯した殺人の時のように、両手に持った鎖鎌を振り回した。 「あははははははははははははははッ!! さあ、私に切り刻まれる恐怖の顔を見せて頂戴ッ!!!!」 彼女が振り回す鎖鎌は、病棟の床や廊下を斬り裂いていく。 その二振りの鎖鎌が生み出す圧倒的な斬撃空間は、まさに虐殺的暴風の小宇宙。 自分に向かってくる者達は、恐怖におびえる顔を見せながら、切り刻まれて引き肉になる……彼女はそう思っていた。 が、そう思った瞬間、日本の鎖鎌はパキンと砕け散った。 「え……なんで?」 大鳳は真顔になった。 どうして突然鎖鎌が砕け散ったのか。そして、なんであの男は恐怖に怯えた顔をしていないのか。 大鳳に分かるわけがない。 男こと仰木健聡がスタンド使いであることに。 自分が振り回していた鎖鎌は、健聡のスタンド「Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!」が砕いたことに。 そして、快楽殺人犯の狂喜など、健聡は恐れないということに。 「まったく、この程度の技で僕達を仕留めようなんて、馬鹿にもほどがあるよ、あんたは」 健聡がそう言うと、Make some noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!は彼の身体からいまだに流れる血を両手全体に塗り付け、大鳳に拳の三連打をくらわせた。 大鳳の身体に三回衝撃が走ると、彼女は「えびっ!? えぶっ!? えべれすとッ!!」と悲鳴を上げて倒れ、そのまま動かなくなった。 「僕達を足止めするなら、もっと実力を付けてからすべきだったね」 健聡達は大鳳に目を向けず、下の階へ向かった。 警察上層部の思惑通り、健聡の手によって、大鳳の死刑は執行された。 ウォーカー達三人は階段を勢いよく駆け降りていた 階段を下りる途中、AOT部隊の隊員が大勢現れて行く手を阻んだが、ロード・トリッピンが全て蹴散らしていった。 襲いかかるAOT部隊隊員の中に、両腕が電気系統のスパークを発する義手となっている男がいて、三人を黒焦げにしようとしたが、ロード・トリッピンの敵ではなかった。 この調子なら病院の外へ出られる。山城と陸奥はそう思っていた。 しかし、下へと続く階段にはAOT部隊の隊員が待ち構えていた。 ウォーカーは待ち構えている隊員を見ると、上の方を見た。 上の階段には、飛鷹達八人がいて、ウォーカー達に追い付こうとしていた。 ウォーカーはチッと舌打ちをした。 「ついに追い付かれたか、まずいな……」 ウォーカーがそう呟くと、ウォーカー達に立ちはだかっている長髪の女は、両手に持った拳銃をくるくると回しながら自己紹介をした。 「AOT部隊隊員、磯風沙亜羅(いそかぜ・さあら)だ。お前達も年貢の納め時だ。大人しく拘束されるか、ここで死ぬか。どちらかを選べ」 そう言って磯風が二丁拳銃の銃口をウォーカー達に向けると、飛鷹達がついに追い付いた。 飛鷹は磯風に「ちょうどいいところで現れましたね。磯風さん、一緒にこの三人を捕まえましょう」と言った。 磯風は「言われなくてもそのつもりだ」と答えた。 前門の磯風、後門の飛鷹。まさに挟み撃ちの状態となった。この状態を突破する方法は、これしかない。 ウォーカーは山城と扶桑に小声で言った。 「二人とも、俺の方にしっかり掴まってろ」 「え? 今なんて?」 「小声で聞こえなかったんだが…」 「俺の方に掴まれって言ってるんだ」 ウォーカーがそう言うと、山城と陸奥はウォーカーの方を掴んだ。 ウォーカーは自身のスタンド、ロード・トリッピンを発現させ、階段の壁に滑走路を作らせた。 磯風は突然現れた滑走路を見て首を傾げた。 「なんだこの滑走路は? こんなもの階段に飾ってあったか?」 磯風は滑走路を触ろうとしたが、やめた。もしかしたら何かの仕掛けかもしれない。うかつに触っては危険だ。 そう思い、磯風はウォーカー達の方を再び見た。が、ウォーカー達三人は目の前にいない。 ウォーカー達は壁にある滑走路の上に立っていた。磯風は壁の滑走路に立つ三人を見て驚愕した。 「なっ!?」 「ありがとうよ。滑走路に気を取られてくれて!!」 ウォーカーがそう言った瞬間、ウォーカー達は壁の滑走路に沿って、一気に下へと向かって行った。 磯風は舌打ちをした。 もし自分が滑走路に目を奪われていなければ、あの三人を下へ行かせることはなかった。 あの滑走路に、気を取られていなかったら!! 「ええい、何たる失態であることかッ!!」 磯風は下へ向かうウォーカー達に両手に持った拳銃を向けて発砲するが、全て外した。 勢い良く滑走路を滑る三人に命中させることは、不可能であった。 飛鷹は磯風に声を上げて言った。 「磯風さん、私達もこの滑走路であの三人を追いましょう!!」 「ああ、分かった!!」 飛鷹達は磯風と共に壁の滑走路に立つと、滑走路の上を勢い良く滑った。 「あなた達は絶対に逃がしませんよッ!!」 飛鷹は下にいるウォーカー達に向けて言った。 健聡達は病棟の一階に辿り着いた。 一階にはまだ気絶しているラフレシアの異形・嬉戸聡子と、AOT部隊の隊員らしき長身の男がいた。 男は大型の盾が付属した籠手を両手に付けていた。 「どうやらお前が最後の砦ってわけだな」 健聡がそう言うと、男は自分の名を名乗った。 「AOT部隊隊員、赤城防人(あかぎ・さきもり)…。ここ、通さない…」 赤城は拳を構え、戦闘態勢に入る。 その拳の構えは、まるで固く閉ざされた門のようだ。 赤城の身長と、両籠手に付いた大型の盾で、余計にそう感じさせる。 魅遊と灰神は赤城を見て、体が震えた。 「ぶ、ブキミなのだ……」 「こんなやつに勝てるのか……?」 二人がそう言うと、健聡は「な #65374;に、大丈夫だって」と笑顔で言った。 「俺は金剛坊のおっさんと、あの鎖鎌女を倒したんだぜ。あんな盾野郎もぶっ倒してやるよ」 健聡は金剛坊の右掌のパーツから下りると、自身のスタンドを発現させた。 「さて、最後の戦いといくか」 健聡がそう言ったその時、階段から何かが飛んできた。 その何かは赤城のいる方に飛んでいくと、そのまま赤城の両籠手の盾にぶつかり、床に倒れた。 「いててて…、15回トーナメントの決勝以来だな、これは……」 「ウォーカーさん、15回トーナメントの決勝戦で何があったんですか?」 「ジェットコースターよりも迫力あるぜ……」 階段から飛んできた何かは、ウォーカー、山城、陸奥の三人だった。 健聡は「おお、ウォーカーのおっさん」と言い、魅遊と灰神は「あ、三階の外国人!」と同時に反応した。 ウォーカーは健聡、魅遊、灰神の顔を見て「おお、お前ら無事だったのか!」と言った。 「当たり前だろ、おっさん」 「私達があんな攻撃で死ぬわけがないのだー」 「妖怪は死なないからな」 魅遊と灰神がウォーカーに言うと、健聡は山城と陸奥を見て「その二人は今回の試合の本当の立会人?」と訊いた。 「ああ、片方が本来の立会人で、もう片方がAOTの裏切り者だ」 ウォーカーが健聡に言うと、陸奥は健聡に「陸奥開閉だ」と自己紹介をすると、「俺の上司や同僚が試合の邪魔をして申し訳なかった」と頭を下げて謝った。 「いやいや、いいって。こういうアクシデントも面白くてよかったからさ」 健聡が陸奥に笑いながら言った瞬間、階段からまた何かが飛んできた。 その何かはウォーカー達と違い、ちゃんと床に着地した。 飛んできた何かは、飛鷹達九人のAOT部隊隊員だった。 飛鷹は赤城を見て、「赤城さん、食い止めてくれましたか」と言った。 「俺…、トーナメントの関係者、食い止めた…」 そう言う赤城に飛鷹は「ありがとうございます」と礼を言うと、ウォーカー達と健聡達に目を向けた。 「さあ、もう逃げ場はありませんよ。大人しく拘束されなさい!」 飛鷹は刀の切っ先をウォーカー達に向けた。磯風達も戦闘態勢を取る。 赤城も一歩一歩と、ウォーカー達に近づいてくる。 ウォーカーと健聡は、ここは意地でも突破しようと思い、自分達のスタンドを発動させた。 と、その時、どこからともなく、異形の幽霊や妖怪達が現れた。 幽霊と妖怪達は口々に言う。 「俺達を楽しまれてくれた二人を捕まえるなんてことはさせない!!」 「二人は俺達が責任を持って脱出させる!!」 「覚悟しろよてめえら!!」 突然現れた異形の怪物達に、飛鷹、磯風、赤城以外の隊員達は動揺した。 隊員の一人、「能代能次(のしろ・のうじ)」が声を上げる。 「ど、どこから現れた、てめえら!!」 能代は手に持ったトマホークを幽霊の一人に投げつけた。が、そのトマホークは幽霊達に受け止められた。 能代に続き、「鈴谷五十鈴(すずや・いすず)」「若葉景子(わかば・けいこ)」も手裏剣を飛ばす。 しかし、それも幽霊達に受け止められる。 「飛び道具がダメなら、接近戦で勝負だ!」と、「巻雲旋風(まきぐも・つむじ)」はドリルランスで妖怪達を貫こうとするが、その槍先は金剛坊の右掌のパーツで防がれた。 「そ、そんな馬鹿な…」 「飛び道具も接近戦も通じない…」 「こいつらは一体…」 「何者なんだ…?」 四人が戦意喪失し、江風達三人も勝ち目がないと悟った。飛鷹と磯風は「ひるむな!」と七人を一喝する。 「諦めてはいけません!! ここで諦めたら、トーナメントの関係者を捕まえることができませんよ!」 「我々が諦めたら、誰がトーナメントを阻止するというのだ!!」 二人はそう言うが、飛鷹・磯風の二人と七人には、使命感と一般的思考という、決定的な考え方の違いがあった。 二人の言葉は、戦意を喪失した七人には届かなかった。 長月が涙を流しながら声を上げた。 「もういや! ドラマを見るのを我慢して任務に参加したのに、トーナメントの参加者がこんな化け物みたいな連中だったなんて! もううんざり、私は帰る!!」 長月は銃を捨てて外へ逃げようと玄関へ向かった。他の五人も長月の後に続いて、玄関へ向かう。 「待って!! 逃げないで!!」と飛鷹は長月達を止めようとするが、江風は飛鷹に冷たい目線を向けて、こう言った。 「悪いが、飛鷹。俺達はお前みたいに使命感を持って、AOTに入ったわけじゃあねえんだよ。普通に仕事して、普通に家に帰って、普通に寝る。俺達はそんな生活を一番大事にしてるんだ。トーナメントを阻止したければ、あんたら二人と伊良湖さん達で勝手にやってくれ」 江風はそう言って、玄関へ向かった。 一階にいるAOT部隊は、飛鷹、磯風、赤城の三人だけになった。 ウォーカーは突然の事態に唖然としている。 「なんだなんだ、ここにきて仲間割れか?」 「どうやらAOTも一枚岩じゃあなかったってことだね」 健聡がそう言うと、赤城は「黙れ!!」と怒鳴った。 「例え一人になっても、ここは通さない……!!」 赤城はウォーカー達に近づいて来るが、健聡はフンと鼻で笑った。 「そんな盾で防御したとでも思ってるのか? 僕を舐めるなよ」 健聡は自分の唾を赤城の両籠手に吐きかけた。瞬間、赤城の両籠手に衝撃が入り、両籠手は木っ端微塵に砕けた。 「ああ、籠手が!!」 赤城が動揺しているのを、ウォーカーは見逃さなかった。 ロード・トリッピンは赤城に拳の雨をくらわした。 『ローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーード・トリッピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!』 赤城は涙を流しながら、仰向けに倒れた。 飛鷹と磯風は赤城の名を呼ぶが、彼は立ち上がらなかった。 「そ、そんな、まさか赤城さんまで……」 「……だが、我々はまだ負けてはいない!!」 磯風は自分を鼓舞するようにそう言ったが、ウォーカーと健聡、山城と陸奥は、もうすでに玄関の方へ向かっていた。 飛鷹は「待ちなさい!」と叫ぶが、ウォーカーは飛鷹の方を向いて言った。 「お嬢ちゃん。あんたがなんでトーナメントを必死になって阻止しようとしてるのか俺には分からない。だが、これだけは言える」 ウォーカーはため息をついて言った。 「もうあんた等は負けたんだ」 ウォーカーはそう言うと、三人と共に玄関を出た。 飛鷹は二人を追いかけようとしたが、魅遊、灰神、そして、目を覚ました嬉戸が立ちはだかる。 「ここから先は通さないのだー!」 「あんたらはこれから、俺達と遊ぶんだからな」 「覚悟しいや #65374;!」 飛鷹は思いきって歯を食いしばりながら泣き、磯風は「おのれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」と叫んだ。 四人は病院の外へと出た。 外には未だに気絶している十例縁杏がいるだけで、先に外に出たAOT部隊の隊員七名はいない。 おそらく、さっさと自分の家に帰ったのだろう。 それにしても、あの杏という少女は、まだ気を失っているのか。そろそろ目覚めてもいいと思うんだが。 ウォーカーはそう思いながら、山城に訊いた。 「なあ、今回の試合の勝者は、俺でいいんだよな」 「はい。今回の試合は八百万の神々に乗っ取られたとはいえ、試合は試合なので。今回の勝者はウォーカーさんで間違いありません」 「そうか……」 ウォーカーはそう言うと、今回の試合のことを思い出した。 幽霊・妖怪・八百万の神。 この試合でウォーカーは、多くのオカルトや心霊的存在と会った。 このことを妻と子供達に言っても、信じてはくれないだろう。 ウォーカーがそう思って苦笑していると、健聡が「あ #65374;あ」と声を上げた。 「やっぱり僕の負けか #65374;。ところで、トーナメントを阻止しようとしていたAOTだけど、最後は仲間割れを起こしちゃったよね。金剛坊のおっさん達と幽霊や妖怪達は、残りの隊員達と戦っているけど、AOTはどうなっちゃうんだろ?」 この健聡の問いには、陸奥が答えた。 「さあな。江風達は逃亡しちまったからな。飛鷹や伊良湖さん達がいくら強いからと言っても、神様や幽霊や妖怪達に敵うわけがないしな #65374;」 陸奥がそう言うと、八階のガラス窓を破って、何者かが落下してきた。四人は落下した人物に近寄った。八階から落ちた人物は、葛城義家だった。 葛城は道路に落ちた衝撃のためか、頭部からは血が流れていた。四人は院長室にやって来た別働隊及び院内にいたAOT隊員は、間違いなく全滅したと悟った。 「これでAOTはお終いですね」と山城が言うと、「いや、まだ分からないぞ」と陸奥は山城の言葉を否定した。 「警視庁は絶対にトーナメントを阻止するために、次の部隊を編成するはずだ。そうなった場合、新しいAOT部隊が、決勝で邪魔しに来るかもしれないぜ」 「そうですか……。では、運営に一応報告しなければなりませんね」 山城がそう言うと、ウォーカーは「八百万の神々に試合を乗っ取られたこともか?」と言ってきた。 山城は複雑な表情をしながら「…それも報告します」と言った。 「あ #65374;あ。それにしても、僕は敗退か。まあしょうがないけどね」 健聡はそう言って背伸びをすると、ウォーカーは彼に訊いた。 「お前はこれからどうするんだ?」 「もちろん、家に帰って、病院に行く準備をするよ。あちこち怪我したからね」 「病院って、新しい赤星総合病院にか」 「もちろん!」 健聡は笑いながら答えると、真面目な顔でウォーカーに言った。 「決勝戦、絶対に優勝しなよ」 健聡の言葉にウォーカーは「…もちろんだ」と答えた。 早朝6時半。 生き残ったAOTの隊員達は、病院の外にいた。 飛鷹、磯風、叢雲、伊良湖の四人は目を覚ますと、葛城が頭から血を流して死んでいるのを発見した。 飛鷹は葛城の死体を見て、自分達はトーナメントの関係者達を逮捕することができなかったと痛感した。 叢雲は葛城の死体にすがりついて泣いた。 無理も無いと三人は思った。 叢雲と葛城は腹違いの兄妹という関係だった。 葛城が自分の兄と知って、叢雲は喜んだ。 今回の任務に葛城が参加すると聞いて、叢雲は葛城にいいところを見せようと張り切っていた。 だが、その兄である葛城は死んでしまった。 叢雲は大声で泣いた。 磯風と伊良湖は、ギリッと歯を食いしばった。 「我々の同胞を大勢殺したトーナメントの関係者達……、絶対に許さない……!!」 「ああ、今度の決勝戦で、絶対に全員とっ捕まえてやる!!」 伊良湖は「そうだろ、飛鷹!!」と声をかけた。 飛鷹は虚ろな目をしながら「当たり前ですよ」と答えた。 「私達は絶対に非合法のトーナメントを行っているトーナメント関係者を全員捕まえて鑑別所に全員ぶちこんで一生日の目を見れなくしてやるいやむしろ全員ぶっ殺して晒し首にしてやるついでに裏切り者の陸奥と敵前逃亡をしたあいつらも切り刻んで肉の塊にしてやる絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対……」 刀を握る飛鷹の手は震えていた。 磯風と伊良湖はそんな飛鷹を見て、恐怖を覚えた。だが、そうなるのも仕方ないと思った。 飛鷹も一年前の殺傷事件で大切な人を奪われ、左目を失った。 彼女は大切な人を奪ったトーナメントの関係者を全員捕まえるために、AOTに志願した。 そして、今回の任務に参加したが、結果はご覧の有様だ。 AOT部隊の隊員はそのほとんどが死亡。生き残ったのも自分達や矢矧、柿田などを含めた十名しかいない。 飛鷹は任務の失敗という後悔と無念と、叢雲というもう一人の自分を生み出してしまったという責任感で、負の感情が溜まっている。 磯風と伊良湖は、飛鷹が「目的のためならなんでも行う修羅になった」と、直感で悟った。 「私は諦めない!! 絶対にお前達を追い詰めて、滅ぼしてやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 飛鷹は早朝の廃病院の外で、張り裂けるような大声を上げた。 張り裂けるような大声を上げる飛鷹を、七柱の神々は屋上で見ていた。 神々は屋上で話し合っている。 「やれやれ。まだトーナメントを阻止しようとしているのか、あいつは」 「どうします? 決勝戦に進出したウォーカーさんのためにも、あの者達を抹殺しましょうか?」 「むしろ、抹殺しておいた方が禍根も綺麗さっぱり無くなっていいと思いますけどね」 「俺は抹殺しなくても良いと思う。あんな連中にトーナメントの関係者達が負けるとは思えん」 「ヒャハハハ!! 同感だな!!」 「果たして決勝戦はどうなることかの……」 「とにかく、なごみの真座利にも言っておくとするかな」 他の六柱の神々の言葉を聞きながら、長門はフッと微笑んだ。 「さて。トーナメント決勝戦は、一体どうなるかな」 長く続いたトーナメントに、終わりが近づいている。 ★★★ 勝者 ★★★ No.7520 【スタンド名】 ロード・トリッピン 【本体】 デズモンド・ウォーカー 【能力】 触れた箇所を『滑走路』にする オリスタ図鑑 No.7520 < 第18回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/dangerousss2/pages/107.html
準決勝焦熱地獄 戸次右近大夫統常 名前 性別 魔人能力 戸次右近大夫統常 男性 母より受け継ぎし覚悟 月読茎五 男性 倍にして返してやるぜ…! 採用する幕間SS なし 本文 ───月読茎五は迷い人である 子供の頃から落ち着きの無い性分で幼稚園から喧嘩や脱走(本人いわく冒険)などで大人を困らせた 遊びでも諍いでも冒険でも、猪のように全力疾走しては自爆したりする“元気すぎる子供”だった だが、茎五は子供特有のペース配分が無く突っ切る腕白とは違っていた 茎五は自分の中に自分ではない、もう一つの何かが在るのを子供の頃から感じていた 生物ではないし、名前も無い・・・たぶん、自分の一部だけど自分ではコントロールできない何かだ 仮にそれを“衝動”と呼ぶ事とする─── それは茎五が激情を発露した時や喧嘩、危機的状況の時・・・・心が躍り、溢れ出る感じがした たまに夢を見た───それが心の中に溜まると必ずみる夢 穴に落ちたり、空が降って来たり、自分が燃えて灰になったり・・・・そして最後に自分が消える悪夢である 叱られるのも喧嘩も怖くない茎五だったが、夢を見るのだけは眠れなくなるくらいに怖かった きっと自分はいつか衝動に心を食べられて消えてしまうんだ・・・・ そうならない為にも、喧嘩でも冒険でも良いから心を躍らせないといけない。───それだけを求めた 喧嘩には自分の求めているモノが全てあった。緊張感やプレッシャー、相対する敵・・・・ これらは持て余していた衝動を発散するのに最適でだったのである 才能、努力、熱意・・・・あらゆるモノが茎五を飛躍的に強くし、 10歳の時には同年代では相手がおらず、中学生や高校生を相手にしていた程であった だが、喧嘩に打ち込むにつれて周囲との差異に疑問が湧き上がる 漫画、テレビ、ゲーム・・・・学校でよく接する同級生達の会話は大抵が遊興であったり、 嫌われている教師や悪目立ちする者の陰口だったり・・・・ 殆どが共感できない、つまらないものばかりだったのだ 生来、社交性があったおかげでボッチだったわけではない 共感できなくても調子を合わすくらいは出来たし、スポーツは遊びとして好きだったからよく加わった 愛想も悪くなかった事もあり、つるむ程度の友人には困らなかったが、真に理解し合える友人は無かった 学校に居る間は独りによる孤独は無かったが代わりに大多数に囲まれてもなお、孤独感を拭えずにいた 「自分は、異常なのかもしれない」───決して口にはしなかったが、そんな想いがずっと心に残り続けていた どうして自分は皆と違うのだろうか・・・? 皆は深刻な悩みは無く、危機感に欠けている・・だけ・・? 周りに居る人達は、同じような悩みを抱えているようには見えなかった 自分の存在に対する疑問が尽きることがなかった 周囲の人間が正常であり、自分は異常者なのかと思うと酷く不安に駆られた そんなある日・・・学校からの帰り道だった。近道で通っていた公園で喧嘩を目にした 年が少し上くらいの少年が二人。大柄でガキ大将然とした少年と、線が細いメガネの少年 圧倒的にメガネが不利で決着は付いている 抵抗する力も無いメガネにガキ大将が馬乗りになって殴打していた もはや一方的な展開である 喧嘩ですらない、ただのイジメだった ───見てたらなんだかムカついて来たから乱入してやった ガキ大将は年上で体も大きかったが、力と技で圧倒する 最後は捨て台詞を吐いてガキ大将は逃亡した その後の事である───とっくに逃げたと思っていたメガネはまだ残っていた 殴られていた時と同じように泥と傷だらけの顔でベソを掻いている だけど、その少年は笑っていた ボロボロと涙を流している癖に、破顔して、しきりに感謝の言葉を口にする少年 涙は止まらないはずなのに、茎五には先程までとは全く違う顔に見えた ああ、よかった・・・と、温かい達成感が胸に広がる。自分は正しいことをしたのだと確信できた その日の夜は、嬉しくて眠れなかった 自分の存在に疑問を感じ、周囲から切り離されたような意識が拭えなかった日々だが、 あの少年を助けることで初めて他人と一緒になれたような気がして寂しくなかった 誰かの役に立つこと───自分は正義の味方になることで、存在意義があるのかもしれない・・と それからの茎五はイジメの現場を目撃したのならば躊躇無くそれを止めたし、 同級生から不良にカツアゲされたと泣き付かれたら、必ず取り返しに行った 説き伏せるのが無理ならば力尽くで解決し、繰り返すのならば何度でも叩き潰し、報復して来たのならば迎撃する 見返りは求めない。感謝して貰えれば、それだけで十分である それだけで自分を誇る事が出来るし、普通と違う自分に対する答えに近づけた気がした しかし、暴力とは連鎖するものであり年齢を重ねるごとに子供達の世界は広がっていく 地域内だけで留まっていた茎五の敵はドンドン増え、暴走族やチーマー・・・・ ストリートファイターが集まる場所にも、茎五は足を運ぶようになり、存分に実戦を積むようになって行く 茎五の中で目的と手段がごっちゃになっていったのはこの頃だ・・中学を卒業する頃には逆転していた 暴力を振るうために正義を振りかざす 鍛えて、戦って、あとはたっぷりと食って寝る・・・・ 次の日も戦って、また次の日も戦って、戦う相手が見つからなかったら探して・・・ 充実した毎日だった 憎むべき相手だと思っていたヤンキーどもも、自分を満足させてくれる存在だと思えば好意的に思えるくらいである 力と求め、闘争を渇望しながらその中で真理を見出そうとしていた それでも・・・ぬるま湯のような時間が少しでも続くと、やはり自分が消える夢を見る。 まだだ、まだ足りない・・・もっと戦わなくては・・・・ あのメガネを助けた時の気持ちを忘れてしまっていることにも気付かぬまま、茎五は戦い続けた この時、茎五は16歳─── 自分の存在に疑問を持ち続け、正義の味方になる事でその答えを見つけられると思っていた少年は・・・・ “別の正常”と化していた─── 準決勝第一戦場「焦熱地獄」 夜魔口工鬼と断頭、そして、安全院綾鷹が戦慄の泉を覗き込む どちらかが、この試合のどちらかと戦うのだ 時折、工鬼が威嚇するが、綾鷹に気にする素振りはない 「見落とす・な」 やれやれ・・まったく必死だねぇ 「おいグレムリン、どっちが勝つと思う?」 「んー、そうっスね。先輩当てたらおっぱい揉んでいいスか?」 断頭は工鬼を“キッ”っと睨む 幽体では蹴りも頭突きも当たらない 「まぁ、順当にベッキーじゃないスかね?今までの戦績から言っても・・。」 「・・・そうだな。」 戸次が勝ち上がってくるなら、対策は立てられる 1回戦、2回戦を見れば分かる、ヤツが出来ること、そして出来ないことが・・・ 確かに簡単に勝てる相手ではない・・・が、実力が分かっている分対処しやすいと言える だが・・・ 断頭は茎五が今まで本気を出していないように思えた いや、落下しただけの2回戦目はともかく、1回戦は全力で戦ってはいただろう 「死の淵まで追い詰められてはいない・・・。」 昔、ネットで配信されていたホーリーランドの動画を思い出す あの・・狂気に満ちていた茎五を・・・映し出された強豪たちとの死闘を・・ 工鬼の予想通り、茎五は苦戦を強いられていた 出合った瞬間からの戸次の猛攻・・ 槍を掻い潜ることも出来ず、次第に後退していく 防御に徹しているにも関わらず、身体には無数の刺し傷ができていた そして、逃げ場が限定されていく 左手にはマグマの池が・・後ろには溶岩の壁 絶体絶命のピンチである 「・・・・・・・・・ふはっ」 ───あ?なんだ、今? ───どうして俺、笑ったんだ? なんだろう? 俺の中で、今まで使われなかったような蝋燭があって・・・ この危機的状況に・・・・プレッシャーで、火が点けられたような感覚 10年以上、喧嘩をやっているのに・・・・ この緊張感は知っている、生前の喧嘩でも味わったことはある・・けど、 こいつは“比”じゃない・・・ 「ふは・・・ふははは・・・、楽しくなってきたぜ!」 いいな、これ・・・ 全身が研ぎ澄まされていく感じがする・・・ 普通に生きているだけじゃ味わえないプレッシャーだ この男から受けるプレッシャーで脳味噌の腐りかけていたところが活き始めてきている きっと、こいつともっと戦えば掴めるはずだ ───“衝動”、こいつの正体が・・ 一歩前にでる どうやら笑みを隠すことはできないようだ 「おい、てめぇ・・・・、ちょっと付き合えよ?」 拳を握りこみ、真正面から正拳を叩き込む ──ミス あっさり、戸次に避けられる 同時に叩き込まれる穂先 右に飛びつつ防御と回避を同時に行う・・左腕から出血 「チッ・・・」 防御しても、何度も耐えられないな まぁいい・・・動かなくなる前に掴む・・・ 戸次の連撃・・石突が頭部めがけて飛んでくる 回避も防御も間に合わない 「ぐぅ・・」 頭がグラグラする 両足に力を込め、踏みとどまる まだだ・・・まだ俺の身体は大丈夫だ もっと、もっと・・動け!! ───ふと、今までの思い出が頭の中を流れる ガキの頃から喧嘩ばっかりしていた 単純に身体を動かすことが好きだったし、良くも悪くも男の子だった 俺は単純に腕力を背景にした強さと言うのにも憧れた 性分に合っていたし、才気にも恵まれた 逆に刺激や緊張感の無い日々は脳を腐らせるような感じがした どうして皆、そんな暮らしが出来るのか理解が出来なかった 家族も友達も好きだったが、変わらない日常とは俺を鈍くさせる“錆”で、喧嘩こそが“研磨”だった 喧嘩は・・・・いや、戦うってことは俺にとって生き甲斐だ これが無いと俺は途端に鈍らになっちまう 楽しい・・今の状況について心からそう思える 生涯最高の喧嘩だ 今まで追い求めていた絶対的強者がここにいた 俺はもっと強くなれる・・・この喧嘩でもっと鋭い刃になれる そんな確信がした 目で見ようとするな・・・自分に言い聞かせる 全身の神経が鋭さを増していく 槍の躱し方を体で覚えるんだ ────カッ!! 滑らかとは言えない動き・・だが、戸次の突きを避けた 特に驚く様子もなく、戸次はそのまま薙ぎ払う 茎五は必死で逃げようと試みた “ザシュ・・・” ぐほ・・・! ふふ・・・・ふはははは・・・・ 腹の皮が切れただけだ・・急所は外した ただ避けただけ、それだけで体中が歓喜する 「次は、お前にぶち込む!!倍返しにしてやるからよー!!」 斜め上から振り下ろされる槍を左腕で跳ね返す そのまま渾身の右ストレートを顔面に “サッ・・・” 掠っただけ・・ 真横から穂先が迫る 間合いを詰め、柄の部分で受ける。脇腹が痛い それでも、この間合いは渡せない 手数で攻めるのだ、戸次に攻撃の隙を与えてはいけない 槍で受けた多くの傷口から血が噴出した・・今にも倒れそうだが気力で踏ん張る 何発かクリーンヒットさせた こっちも相応のダメージを負っているが・・徐々に成長していく自分が分かる ────楽しい、とても楽しい喧嘩だ しかし、戸次はあまりダメージを負った様子はない 正真正銘の化け物だ 自分の細胞、その一つひとつが喜んでいるのが分かる 「ふん、青いな・・」 戸次は茎五を蹴り上げた 溶岩に叩きつけられる へへ・・・まったく・・・ご機嫌じゃねーか・・・・ けど、上手くいかねぇもんだよな・・・ 続きをやりたくても、もう身体が動きそうにないなんて ───心臓に狙いを定め、槍を突き立てる あと、もうちょっとなんだ・・本当にちょっとだけ もう少しでアレを掴めるんだ 死にたくない・・終わらせたくない ───左腕を差し出し、槍の軌道を逸らせる い、いやだ・・これで、終わりなんて嫌だ _____________ / 覚醒チェック | | ̄ ̄ ≫≫≫≫≫≫≫≫≫ ̄.|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ───槍は右肺を抉る 死にたくない死にたくない死にたくない 俺 は も っ と ・ ・ こ い つ と 戦 っ て い た い ん だ ! ! __________________ / 覚醒チェック | | ̄ ̄≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫転校生 ̄ ̄| . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ─── 一瞬の静寂 戸次の動きが止まっていた 茎五の雰囲気があきらかに変わっている 槍が抜けない・・いや、動かすことが出来ない 茎五は軽く柄をつかむ 天地、神無月、獄卒たち、奪衣婆、そして、肉皮・・・ 彼らの命を奪っていった大身槍は簡単にポッキリと折れた そのまま右腕を伸ばす 中指を親指で押さえたかたち、つまりデコピンだ それを腹にくらわしてやる ピンポン玉のように飛んでいく戸次 いくつもの岩を破壊しながらすっ飛んでいった 茎五はゆっくり立ち上がると、刺さっている槍を引き抜いた 血は既に止まっている・・肺も正常だ 短くなった槍を戸次が飛んでいった方向へ振るう 音速をさらに何百倍も超えた穂先の速度は、真空波を発生させた と、同時に限界を超えた穂先は脆くも崩れ去る 戸次は気絶したままである 内臓の多くは損傷し、骨もかなり折れていた 心臓が止まっていないのが奇跡とも言えるかもしれない そして、茎五が生み出した真空波は戸次の左腕を切断し、彼方へ飛んでいった うぉおおおおおおおおおおお・・・!!!!!!!!!!! 転校生、月読茎五は絶叫した 力が・・・ホーリーランド2でも味わえなかった力が溢れてくる 当時の不完全な状態の転校生ではない その圧倒的な力で地を踏みしめる・・・ 地面が割れ、マグマが噴出す さらに、有り余る力を焦熱地獄そのものにぶつけた 溶岩を砕き、崩す・・地形が消滅していく ものの数分で、地獄の様相は一変していた わずかな足場・・それ以外はマグマの海である 自身の力の程を確かめた茎五は戸次にとどめをさすべく歩を進める 茎五の絶叫で戸次は目を覚ました 失われた左腕、変わり果てた地獄の様子、 そして、目の前に立つ茎五を見て、状況を理解する 「おぅ・・ベッキー、てめぇには感謝しているぜ!やっと、やっと衝動をモノにできた。」 右足をゆっくり上昇させる 「だから、ひと思いに殺してやんよ。」 「母上・・・」 右足が頂点に達する。踵落としのような態勢だ 茎五は勝利を確信している このまま踏み潰して終わりだ 「我が武ご覧じ候え・・」 自らの心臓を抉り取り、茎五の顔に投げつけた 大量の血が視界を奪う そのまま軸となっている左足を右腕1本で持ち上げ、マグマの中へダイブした 「チッ・・てめぇが先に落ちるんだよ!!死ね!!」 空中で戸次をつかむと、そのまま下方向へ強引に投げつける 一瞬早く戸次が、そして茎五がマグマに落ちた 両者の身体は、あっという間に蒸発する ───否 まだ、蠢く肉体はあった ルール上、戸次はまだ生存している 茎五に切り落とされた左腕は、10秒間溶岩の上で彷徨ったあと 溶岩の欠片をつかみ、そして力尽きた・・・。 勝者:戸次右近大夫統常 カツン・・カツン・・ 誰かが歩いている ここは、あの御方が存在する場所・・気軽に足を踏み入れられるところではない 「あれー?俺、負けたはずなんだけどなぁ?マグマで溶けなかったっけ?」 ───お、お前は・・・ 「ん?その声聞いたことあるぜ。ふーん、てめぇだったのかよ。」 ───何故、ここに? 「知るかよ?気付いたらここにいたんだ。つーか、ここどこだ?」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ あー、僕のプレゼント気に入ってくれたかな? 決勝戦、君はプレイヤーとして楽しめばいいよ 代わりに僕がGMやっといてあげるから お礼なんていらないよ、気にしないで ボランティアがしたい気分だったんだ・・ただの気まぐれ だから、君にはここで死んでくれると有難いなぁ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「とにかく、てめぇは強いんだよなぁ?今もの凄く喧嘩してーんだ。ちょっと付き合えよ?・・な?」 次回・・・・ <Final match> 戸次右近大夫統常 vs ????? 決戦場「??????」 ──完全なる負け死合、まことに無様である。この屈辱晴らすべし <Extra match> 転校生・月読茎五 vs 謎の声 決戦場「??????」 ──へへ・・・ラッキー!! ──まぁでも正直、消化不良だからよー、強いヤツとやりたいのよ。俺が全力で暴れても大丈夫だよな? へ続く
https://w.atwiki.jp/liargame-umg/pages/170.html
準決勝 「フォーポケットルーレット」 ルール ゲームスタート前に、500ポイント(1ポイント100万円、つまり5億円)を貸し出す。これを使って勝負をする。ただし、ゲーム終了時に500ポイントを回収。差し引き分が賞金、減額金となる。 4つのアルファベットのどこに当たりがあるかを的中させるゲーム。(ただし、当たりは4つのうち1つ) A〜Dの4つのアルファベットの中で、好きなアルファベットを1つ、もしくは2つ選び、投票。投票と一緒に、BETするポイントも書く。一回にかけられるポイントは、1つのアルファベットにつき、最高500ポイントまで。2つ投票した場合には、それぞれのアルファベットにいくら掛けるかを書く。 子は、前回のルーレットで最も儲けが少なかったプレイヤーから順にBETする(1人につき1分)。(親が最初にBET→その後、子) なお、初回のルーレット時または親が居ないときは、エントリーナンバーが大きい順(27→23→22→・・・・・→2→1)にBETして頂きます。 また、儲けが同数のプレイヤーが複数いた場合は、その中でエントリーナンバーが大きいほうから順にBETしていく。 開票。次のように賞金が決まる。 1.選んだアルファベットが1つだった場合、ディーラーがランダムに選んだアルファベットと投票したアルファベットが一致していれば、掛け金の4倍の賞金を受け取る事ができる。例えば、20ポイント掛けたのなら、80ポイントになって帰ってくる。なお、ハズレにかけていたポイントは全て回収し、当たりアルファベットに最も多く賭けていたプレイヤーに全額支払われる。 2.選んだアルファベットが2つだった場合、当たれば、そこに掛けていたポイントの2倍を賞金として受け取る事ができる。なお、もう一方にかけていたポイントは全て回収し、当たりアルファベットに最も多く賭けていたプレイヤーに全額支払われる。たとえば、Aに20ポイント、Cに30ポイントを掛け、Cが当たりならば、Cに掛けていた金額の2倍(60ポイント)を受け取り、Aに掛けていた20ポイントはCに最も多く賭けていたプレイヤーに支払われる。つまり、この人の儲けは40ポイント(つまり4000万円)となる。 これを10回繰り返す。一回の投票時間は10分。2日間。 なお、10回中7回以上のルーレットに参加しなければならない。参加回数が6回以下の場合、罰金5億円となる。 •ここで、当たりアルファベットの動きを読むために気をつけなければならないルールが2つある。 1.当たりのアルファベットは、連続して同じアルファベットになることは無い。 2.当たりのアルファベットは、掛けている「人数」が最も多いところになる事はない。 たとえば、Aに4人、Bに2人、Cに1人、Dに2人(延べ)掛けていた場合、当たりのアルファベットはA以外のどれかとなる。 前回の投票で、最も多く賞金(儲け)を得たプレイヤーを親、その他のプレイヤーを子とする。子は合計で、親が賭けたポイントと同額、もしくはそれ以上を賭けなければならない。 BETは親が3分以内、子は7分以内にしなければならない。 また、ポイントは0以下になることはない。 ゲーム終了時、最も多く賞金(儲け)を得たプレイヤーには、2億円のボーナスが与えられる。 最終的に合計マネーが最も少ないプレイヤーが1名敗退。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/227.html
準決勝戦【豪華客船】SSその2 「……造花」 花瓶の花に触れて呟いた言葉に、肯定の微笑みが返る。 「あの人が作ってくれたんです。もう、指も落ちてしまいましたけれど―― それでも、少しでも触れて楽しめる花のほうがいいだろうって」 「丁寧な造り。……器用な方なのですね」 庭師である満子には、それがクローバーの花である事が分かった。 しかしベッドに横たわる女性の両眼は、綺麗な白い包帯で覆われている。 花は彼女――白詰智広の名に因んだものか。 「――そして、優しいかた」 「そんな」 智広は、恥ずかしそうに笑う。 ……そうではないことを知っていた。 造花の造り主は“ケルベロス”ミツコの次の対戦相手、赤羽ハル。 白詰智広の後見人。 彼女にとって唯一の救いである赤羽ハルが、魔人暗殺者であると。 そして今まさに、公衆の慰みのために殺戮を繰り返していると―― そのような真実を告げる事など、探偵である末弟の『光吾』が許さないだろう。 「また、見舞いにお伺いしますわ。次は姉や弟とも一緒に」 「ありがとうございます。あの人の他に見舞いの人が来るなんて、本当に久しぶりで。 ……それだけで、嬉しくて」 白詰智広が“ケルベロス”の姿を見ることはない。 この距離で話す彼女の――満子の姿が実は、弟の光吾のそれだったとしても。 「……また伺います。また」 病室の扉を後ろ手に閉めて、『彼ら』は黙考した。 AD2019年に東京から広まった、未知の殺人ウィルス拡散――『パンデミック』。 生きながら光を失い、四肢すらも腐り落ちる白詰智広の症状は…… この形を持たない『世界の敵』が引き起こした悪夢の結末のひとつだ。 「殺さないのか」 待合室に差し掛かった時に響いた鋭い声が、彼らの思考を中断する。 顔を見ずとも、廊下脇のソファに座る男が何者であるかは、すぐに理解できた。 「……なあ。人質に取っておかなくていいのかよ? 二回戦みたいにさぁー……黒田武志を使って、あんたがやったんだろ? やれよ」 蛍光灯に伸びる影が、気怠げにソファから立ち上がる。 挑発に答えず、探偵として末弟が問う。 「――君こそ。敢えて『狙わせる』ために、会場に近い病院に彼女を移したんじゃないのか?」 「へぇ? 根拠は……なんだい」 視界の端でチャリ、と硬貨が鳴る。 「君の能力の調べはついている。負債を踏み倒すことができない制約。 白詰智広が『負債』そのものであるとすれば。自ら始末すれば、踏み倒す行為に当たる。 けれど例えば、あなたの故意ではなく。対戦相手に『始末してもらえば』……」 肩越しに振り向いた光吾の憎悪の瞳が、背後の赤羽ハルを射抜く。 距離8m。射程内だ――お互いに。 「なら……そうしろ。所詮殺人鬼なら、殺人鬼らしく。 善人ぶってンじゃあ、ねぇぞ」 「――お前こそ」 ミツコの眼の色が変わる。この距離ならば、長女。 「今ここで。殺る度胸はあんのかァー!? 『暗殺者』さんよォーッ!!」 蜜子は上体を低く構え、リュック内の各種調理兵装を意識する。 赤羽は、気怠げに片手をポケットに入れたままだ。それが臨戦態勢。 長い沈黙を経て、両者が武器を下ろす。 ミツコは、白詰智広を――この病院の患者の存在を思ったが故だ。 だが、相手はどうだったか? 「……僕の能力は、『世界の敵の敵』」 蜜子の現出で昂った感情を、抑えつけるように顔に手を当てて、光吾が呟く。 「主人公の魂の力を使って、悲劇を……理不尽を、改変することの出来る力」 「そうかい」 赤羽は既に歩き出していた。彼女の病室へと。 「――赤羽ハル。仮に君が望むのならば……」 「……」 彼は説得の途中で口を噤んだ。 くだらない――光吾自身がそう感じたからだ。 こんな言葉で止まる相手ではないと、探偵として十分に理解していたはずだ。 戦闘に及ぶ前に事を収めようとした今の行為は……自分自身の心の弱さの現れだ。 なぜなら、仮に戦えば。準決勝第二試合――豪華客船において、 “ケルベロス”ミツコと、赤羽ハルが、戦力を比較するのならば。 ミツコが勝利することは、決してない。 赤羽ハルの魔人能力は、『ミダス最後配当』。 魂を持たない……そして『価値のある』物体であるならば、接触のみで換金する。 光吾の探偵としてのスペックは既に、その制約までもを看破している。 ならば、能力を作用させる条件についてはどうか。 ――例えばその能力は、豪華客船そのものを換金できるだろうか? “ケルベロス”ミツコが多重人格魔人である事の、最大の利点。 無論ミツコ達自身は、それを自覚している。……自分達が何者であるのかを。 それは三重の人生を送った事による、異なる戦闘技能の蓄積ではない。 器は末弟『光吾』一人の肉体に過ぎず、その点では他の魔人と条件は同じだ。 経験の密度では赤羽ハルに、純粋な時間とノウハウでは偽原光義に、劣る程度のものだ。 彼らは自覚している。『3人いる』、まさにそれ自体が他の参加者に長ずる利点。 長女が直感し、次女が分析し、末弟が推理する……思考の量そのものであると。 地震のような重低音が、甲板に立つ光吾の靴裏を揺らした。 暗い海は水平線の輪郭すら夜に溶けて、客船の光の他に星の一つすら見えない。 戦場は、広大かつ入り組んだ豪華客船。 ありとあらゆる屋内環境においてトラップによる防衛を可能とする技術を備えながら、 “ケルベロス”ミツコが敢えてこの場で待つ理由があった。 (……赤羽ハルの『ミダス最後配当』は) 目を閉じ、両手に静かに垂らした糸から破壊振動を感知しながら―― 3人の中に潜む光吾は、静かに思考を巡らせる。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 (地球を換金できるだろうか?) ――否。それが可能な魔人能力など存在し得ないし、存在したとしても、それを可能とする魔人能力者を生かす世界ではないだろう。 猪狩誠の異質極まる魔人能力も、『味方』を代償とする能力制約の変種に過ぎなかった。 ならば『ミダス最後配当』にも当然、他の物質変換能力同様、ひとつの条件が存在する。 (それは能力対象を、『ひとつの存在』として認識すること) 自分の立つ大地が地球であると知識で理解し……そう思い込もうとしても。 通常、人間は巨大すぎるオブジェクトをひとつの単位として『認識』できない。 それが認識を核とする魔人能力にとっての、壁となる。 ――この豪華客船も同様。全容を把握できるこの甲板からでなければ、換金はできない。 しかし“ケルベロス”ミツコの勝利を不可能とする理由の一つが、この戦術にある。 大会規定によるこのフィールドの戦闘領域は、『客船から周囲100メートル以内』。 ……だが。客船自体が消失したとすれば、ルール上何が起こるのだろうか? そこに戦場を規定するフラッグは、もはや何もない。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 戦場消失によるノーゲーム。 いくら絶命寸前まで追い詰めたとしても、赤羽ハルが甲板に触れれば、それで終わり。 仮にミツコが船内で戦闘準備を進めていたとしても、話は同じだ。 赤羽の望むタイミングで、全てはすぐさま終了する。 故にミツコは、それをさせないために……甲板を見張る必要がある。 (すべてにおいて圧倒的なまでに、敵に有利な戦場。 ここまでは強いられた悪手。今この瞬間にも、赤羽ハルは『準備』している。 戦場を破壊して、僕の逃げ道を塞ぎ、客船内の装飾品をかき集め――そして) これまでとは性質を異にする振動と風が空気を吹き抜け、ミツコの髪を揺らした。 前方で爆発が起こっていた。 (そして、来る。……犯行の手口は、可燃物によるバックドラフト。紙幣は、燃えるか) 目を静かに開く。床に垂らされた幾条もの糸が、意識の力で張り詰める。 炎に長く照らされる影が、ミツコの正面で揺らめく。 赤羽ハル。 戦闘開始時から続いていた鈍い破壊音。船の沈没を狙ったものではないだろう。 この豪華客船はバラストを含めた各部が高度にユニット化されている。 たとえ真っ二つになったとしても、しばらくは沈没しない構造だ。 ……ならば、消火装置と隔壁の破壊。この火災と爆発を行き渡らせる事が狙いか。 何のために燃やした。何かがある。この至近距離に姿を現した事を含めて。 「……理不尽な事実ってさぁー、どこからどこまでが……理不尽なんだろうな?」 戦闘距離内に踏み込んでいる。にも関わらず、赤羽は語り続ける。 「俺は所属組織が潰れて、組織の借金を負った。6000億だ。 ……それが理不尽か? なら、その事実を消したとしたら…… 暗殺組織は潰れずに、今の瞬間も、人が殺されてるわけか?」 「皮肉のつもりか? それが」 「――あの猪狩には『家族』がいたらしいが……その事実を消したな? それもよりによって、第二回戦の試合中に。 ……ハハ! 随分面白い『世界の味方』だよ、お前」 「…………」 光吾の人格は、指先の糸を弾いた。“リリアン編み”の手芸者技能。 糸の先に接続された係留ワイヤーは一瞬にして解けて、 甲板に吊られていた全ての救命ボートを切り離す。 「主人公の力で世界を救う能力。いい能力だな? その力を、あのタイミングで? 恵まれない子供の運命だけを変えるために?」 、 、 、 、 、 、 、 、 、 「結局お前、自分が勝ちたかったんだろ? 世界のためだもんな?」 「幼稚な屁理屈」 既に変わっている。ゼロ距離。包丁。 「ご苦労、さんだなァ――!!」 首(ネック)。肩(トンビ)。胸(カルビ)。 最凶の好戦性と接近戦適性を持つ、長女蜜子の解体連撃。 人外の速度を誇るそれすらも、赤羽の鋭利な一万円札に全て切り払われる。 中華包丁と肉裂き鋏、右靴に仕込んだピックすらも。 日本銀行券――想定内。 機先を制し、一瞬相手の思考を近接戦に傾かせた事が、ミツコの狙いだ。 そしてミツコの風下に飛び退いた事が、赤羽の失策。 「よろしいのかしら? そんなところに立って」 「!」 殺虫ガスの噴霧。次女満子の殺意が、赤羽の足を止める。 如何に鍛え上げた魔人であろうとも、生命体としての化学反応は同様。 「――“手芸技”」 その怯みのうちに、仕留める。距離10m。光吾の切断糸の射程―― 「『巻き篝』」 光吾が地に手を突く。同時、甲板上に張り巡らせた斬糸罠が発動。 全周囲から赤羽ハルに絡み、巻き取るように寸断。 敵の動きを制限した一連の流れの中でのみ成立する……即死手芸技! (殺っ……) (――てない! まだ!!) 指先の糸を通じて違和感を触覚したその時には、遅い。 ミツコの眼前に、煌めく小さな何かが迫っていた。 バチチチチッと、肉が弾ける音がひどく近くで響いた。 莫大に膨れ上がった無数の硬貨散弾が、ミツコの肉体を撃ち抜いたのだ。 飛来物の視認すらままならなかったが、恐らくは指弾の要領で何らかの宝石類を撃ち出し、時間差で換金したのであろう。 ダメージに耐えて立つ僅かな時間で、既に光吾はそれを看破している。 「糸を武器に使うのは、まあ、悪い発想じゃない。 ……だが、肉と金属。切断部位の硬度を場所によって変えてやれば」 次の宝石を装填する赤羽ハルのジャケット内側から、ジャラジャラと硬貨が落ちる。 二回戦の経験を経て……紙幣だけでなく、硬貨をも仕込んだのか。 「一撃での切断が最も困難な得物でもある。……当然知ってるよな?」 「くすっ……まだまだ。勝ち誇る時間には早くはありませんこと?」 3つの精神容量を持つミツコに、揺さぶりによる動揺はあり得ない。 常に、最も精神的に安定した人格が制御権を行使する――次女、園芸部の満子。 奥歯に仕込んだ違法植物の種を砕き、傷口から伝わる痛みを一瞬にして消去。 「――無傷。」 「ハハッ、強がっちゃって。カワイーなぁー……」 撃ち込まれる銀の射線を避け、舞うように曲線的な走りで距離を詰める。 その一瞬は、他の2人の判断力を回復するに十分な時間だ。 (姉さん。毒ガスの効果は薄い。あいつがまず火災を起こした理由がわかった。 熱気による上昇気流……毒を吹き流す風だ) (――てェ事は、こいつが一番イヤがるのもミツコちゃんの戦法ってことだよなァー? 私に代われば、囮は上手くやれる) (分かりましたわ。けれどその前に、少し) そしてミツコの動きが、急激に変転する。曲線の回避から、回転しつつ跳躍! 野生(ワイルド)! 人格の切り替えによる思考方向の変化! 「ヒャッハァー! 取ったァ――ッ!」 交差した蜜子の両手には、無数の殺人武器! フォーク! ナイフ! 箸! スプーン! サーバー! マドラー! スポーク! 「頭上がお留守だぜッ! 満! 貫! 膳席!!」 「……くだらねぇことを」 飛来するカトラリーによるチェックメイトを見やり、赤羽は皮肉げに唇を釣り上げる。 その手には、札束。 「――『1,000,000』。」 投げ上げられた一万円札は、吹雪のように舞った。 空中の一枚を掴み、不可視の速度でナイフを叩き落とす。 返す手で次の一枚を掴み、フォークをも。 振り切ったその先の空間にも、紙幣が。 箸。スプーン。サーバー…… まるで、一撃で鈍った刃を次々と切り替え戦う剣士のように。 ミツコが飛び込むそこは、紙幣による斬撃の嵐が待ち構えていた。 「らッあああああああああ―――――ッ!!」 絶叫とともに蜜子の暗黒殺人料理、その技術のすべてが炸裂する。 無論、敵は本職の魔人暗殺者。札束舞うこの超至近距離では、尋常の技量の持ち主ならば互する事すら臨めない、が。 (『薬効』第二段階。神経加速がはじまりますわ、お姉さま)(神経の損傷部分はもう『編んで』ある。これで全力は出せるよ)(敵はプロ。無心でよろしくてよ。少しでもお姉さまが思考に手間取れば、終わります)(次は下から救い上げるように右手首へ。ガードが緩い場所は僕が見抜く)(麻薬効果の第三段階は3秒後。それまではお姉さまの体力で持ちこたえなさって)(リリアン斬糸は最初から甲板を取り囲んでいる。今の一瞬で発動した。手数は僕達が多い!) 連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。 札束と調理器具、そして隠し糸によるラッシュの応酬。 甲板には折れた包丁が、切断されたフライパンが、そして無数の紙幣が千切れて落ち…… 永遠とも思える数十秒の果て、赤羽の笑みも消える。 何故なら、その時。 (落ちきった)(……100枚の札束が落ちた)(残弾が切れる)(勝てる!) (お待ちになって、確か――)(そうだこの男、二回戦で……!) 一瞬の隙。蜜子の刺身包丁が赤羽ハルの鎖骨下動脈を精確に貫いた、その時。 ( 内蔵を) 負傷覚悟で動いた赤羽ハルは、その傷口から深く…… 深く、赤い肉塊を引きずり出していた。 不吉なそれが肉体から長く伸びて千切れて、紙幣に変わった。 ミツコの内臓が。 「――――ッ!!」 、 、 、 、 (内蔵を!)(盗まれた!!) 声もなく苦悶の叫びを上げる蜜子に代わり、光吾が判断を担う。 再び札束が宙を舞い、全てが終わったと……誰もがそう直感しただろう。 新たなる、致死の斬撃が迫り。 「死ねよ。主人公」 「……君がそうしろ」 それを振りぬく直前、赤羽ハルの立つ地が落ち窪んだ。 板が……彼の周囲だけ、狙ったかのように抜けた。 この瞬間だ。噴霧器はまだ生きている。至近距離からの殺人ガス散布。 「――ッ、ゴ、ハァァッ!」 「“造園術(ガーデニングアーツ)”! ……宿木による『腐食』。 お姉さまのカトラリーに……すべて、『種』を仕込んでましたわ!」 血を吐きながら叫ぶ満子。……早く。 「わ、悪ィ、が……こーいうところで、終わっちゃ、られねぇんだよ!」 赤羽が何かを、腐食の裂け目から落とした。 光沢から見て純金製。何らかの船内装飾に用いられた像か――そう、判断した瞬間。 重複するかのような、ゴバ、という金属音が船を満たした。 ミツコは赤羽の方向へとよろめき、無数の紙幣を握りこんだ斬撃に腹を貫かれた。 「っ……ぐぅぅ!!」 「ハハ……ハハハハハハ!」 、 、 、 、 、 、 、 、 一瞬、船そのものが傾いた。 裂け目を通って落ちた階下で、少なくとも数百万グラム以上の質量が、突如として出現したに違いなかった。 ……早く。 「……そちらは、風下!」 「甘ェ……よ」 殺人ガスが再び噴霧されると同時。 噴射口を狙って、赤羽の両指から硬貨が。 硬貨同士が宙で衝突し、火花が両者を爆発に巻き込む。 一瞬の煙が晴れた時には、既に2つのシルエットは打ち合っている。 鮮血と凶気を撒き散らしながら、両者のラッシュは絡みあうように続く。 連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。 連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。 連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃。連撃――――。 恐るべき拮抗を演ずる2人の思考は、そのとき奇しくも同調していた。 ……早く。早く。 、 、 、 、 、 、 、 早く、終わりが来てくれと。 「……かハッ、」 よろめいた赤羽ハルが、ついに甲板に手を突いた。 その、魔人能力――。 (……終わった) 既に生命力を絞り尽くしたミツコは…… 誰の思考とも言えぬ交じり合った認識で。虚ろに思った。 足元で豪華客船そのものが形を失って、崩れてゆくのを感じていた。 (僕らは全ての手札を見せてしまった。 ……勝負は、ついてしまった) (これで) 、 、 、 、 、 ( 僕らが勝つ。 ) ――『客船から周囲100メートル以内』。 大会規定によるその戦場範囲の指定は、果たして如何なる意味を持つルールなのか。 例えば戦闘の最中、客船が破壊されたとして…… その過程で客船の機能が失われたならば、それは『戦場』とは見做されないだろうか? そうではないはずだ。『どこまで破壊されれば客船ではないか』など、 運営本部を含めて、誰も判断できるものなどいないだろう。 フィールドを構成する部材は、最後の木材の一片まで、客船のままのはずだ。 常識的に考えるのならば、戦場がいくら破壊されようとも、 その時点で最も大きい体積の『破片』こそが……基準となるのだろう。 ミツコはこのルーリングについて、既に本部に確認を取っている。 この一点だけが、赤羽ハルの能力に対抗し得る『抜け穴』だからだ。 赤羽ハルは、この試合そのものをノーゲームにする事ができる。 そして、ある意味では『ノーリスク』であるこの戦闘において…… 赤羽はミツコの能力を、限界まで見極めようとするだろう。 勝てればそれで良し。仮に『引き分け』に持ち込まれたとしても…… この次の再試合において、ミツコの全ての能力に対策し、確実に殺害できる。 、 、 、 、 次がある。 相手がそう思い込んでいることが、唯一彼らが、付け込める隙――。 「……ひとつ」 「赤羽ハル。き、君の『ミダス最後配当』にも、明らかに分かる能力制約が、ひとつ、ある」 無数の紙幣が沈んでゆく海面に、ミツコは一人立っていた。 ……そう。立っている。 その足元には、海面に浮かぶ一枚の板。それは甲板を切り取った――巨大な、一枚の。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 「触れていないものを換金することはできない。 元は、一つの……物品でも。切り離されたものは、ケホッ、すでに……別の物体」 ミツコは自身の腹の傷口を押さえて言った。 ――そう。魂持つ生物から、『内臓』を切り離すことができるように。 「最初から、甲板の一部を切り取って。僕の糸で、巻き取れるようにしていた」 「……君が客船を換金した時。それが終わりになるように」 「……」 見下ろす先には、赤羽が今にも沈みそうに、海面に浮かんでいた。 ……戦闘終了のアナウンスはない。『豪華客船』の構成部材は―― もはや板一枚とはいえ――確かに、ここに存在するからだ。 「……もう波に逆らう余力もないだろう。 海流はこの板から離れるように流れている。……これで、君の、負け。 そして」 ミツコは、一人の女性の顔を思った。冷酷な暗殺者、赤羽ハル。 それでも、彼女のことを思わずにここまで戦い抜けたはずがないのだから。 ……けれど、これで報われる。 勝たなければいけない。 僕は、世界の敵の、敵だ。 「……白詰智広もきっと、」 『参加選手の戦闘領域離脱を確認しました』 アナウンスが告げた。 『“ケルベロス”ミツコ選手は失格となります。 準決勝第二試合、勝者は――』 『赤羽ハル選手』 治療を終えて医務室を出ると、待合室のソファに座りこむ小さな影が見えた。 表面上は軽さを装ったまま、いつもの調子で声をかける。 「――よお。納得行かねえって顔だな?」 「……何が」 “ケルベロス”ミツコ。直接の戦闘でここまで食い下がった相手は、いつ以来だろうか。 だが、探偵にも殺人鬼にも、当事者でなければ分からないトリックというものはある。 「なにが、起こったんですか。あの時」 「なあ……ミツコ。お前の能力さ」 ソファの隣へと座る。 「世界が救えるなんて事が、どうして分かるんだ? 何の自信があってそんな事を言える? 主役の可能性。世界の敵。 ……どこかに根拠でもあるのか?」 「……」 「……だよな。戦って分かった。『自分が世界の理不尽を救ってやれる』なんて…… お前はそういう傲慢な人格じゃない。戦い方も分を弁えていた。 身の回りの奴らを。誰かを助けてやりたいとかさ…… そーいう、よくいるタイプの、良い奴だよ」 例えば、目の前の猪狩誠の存在で苦しむ、子供達の存在を。 あるいは――何も知らず赤羽ハルの身を案じる女性に、少しでも生きていて欲しいと。 ……ただ、そんなささやかな理不尽を。 ミツコは唇を噛んだ。 「それはお前の人格から出た魔人能力じゃあない……。 どうして、その本質も見えない能力に頼る気になった? 見えないものに頼っちゃあ、いけないわけだ」 「見えない――もの」 そうだ。あの戦場で。自分は何かが『見えていなかった』。だから、負けた。 領域のルール。あの板は、確かに豪華客船の甲板。 領域が破壊された時は、最も体積の大きな残骸が基準となる。 ……闇に包まれた海。火災。破壊音。風下。……客船は…… 「客船は――!」 ミツコは立ち上がった。あの戦闘のすべてが繋がった。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 「赤羽……ハル……! 切り離していたんだな……! 遭遇より先に……客船、そのものを!!」 豪華客船はバラストを含めた各部が高度にユニット化されていた。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 たとえ真っ二つになったとしても、しばらくは沈没しない構造だ。 甲板での遭遇より先に、やはり赤羽ハルは『準備』を終えていたのだ。 破壊のための貨幣の種は、客船内にいくらでも存在した。 まさにあの時、豪華客船は『真っ二つ』になっていた――! 「なぜ……戦術的に不利な風下に立ち続けたのか。 どうして、火災を起こしたのか……」 ミツコは一人呟き続ける。 「明るい炎と煙で覆い隠して、白兵距離の自分自身に注意を向けて……! 暗い夜の海で、切り離されて流れていく船を見せないために。 風向きはそのまま、海流の流れる向き……」 「船を換金する時。 切り離されて流れた船が戦場の『基準』となったその時―― 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 風上に立つ者の方が、先に領域を離脱する……!!」 そのために。そのためだけに、あんなにまで……限界まで戦い続けたというのか。 試合の最初に何かを仕込んだと、意識を向けないため、だけに。 残骸が100m流れる……その時間を稼ぐためだけに。 「そーいうこと。……自慢しちまって悪いな? 俺は、どうしても勝ちたいもんでね……こういう時でも、『勝ち誇りたい』のさ」 「……あんたは!」 そこから先は声にならなかった。そんな事のために。 ……そんな事のために、白詰智広の命を。 「言っただろ? ……俺は、見えないものは信じない。 忘れたか? 俺は殺し屋なんだよ……目的のために人を殺して当たり前の職業だ。 お前の言う『理不尽』とやらで何億人が死のうが、知ったことじゃない。 俺が信じるのは、金と」 ソファを立ち去る赤羽ハルの手から、ひらひらと一枚の紙が滑り落ちた。 何らかの文書の複写だった。 「……契約だけだ」 ミツコはその文面を読んだ。 ……読んでしまった。 「……以上、WL社との契約内容に基づき。 ザ・キングオブトワイライトにて……“ケルベロス”ミツコの勝利を阻止し。 ――魔人能力による、通称パンデミック事件の改変を阻止すること。 ほ……報酬は――」 「白詰智広の、治療――」 ミツコは、膝を突く自分を自覚した。 『約束』。『私を思って』。 クローバー――白詰草の花言葉を、彼らは知っているはずだった。 「赤……羽……!!」 「クッ……ハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 「赤羽……ハル……! お前……ッッ!! 赤羽! ……赤、羽ェェェェェェェッ!!!!」 遠ざかる高笑いに届かぬと分かっていても、ミツコは何度も叫んだ。 それが絶望なのか。悲しみなのか、自分ですら分からなかった。 ただ、全てが悔しかった。 ――赤羽ハルは、死ぬ気だ。 準決勝第二試合――勝者 赤羽ハル。 (了) このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/sendai_mtg/pages/147.html
冨士耕平(エスパービートダウン)vs 岩澤文也(白青ビートダウン) 準決勝でマッチアップされたのは、どちらも《エイヴンの擬態術士/Aven Mimeomancer》をこよなく愛する「擬態術士の会」の2人。お互いに自分で調整してきたデッキでのTOP8入りを果たしている。 Game 1 先攻は冨士。2人とも仲良くマリガン。 岩澤が《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》を召喚したところで、生憎と筆者はサイドイベントの進行のため席を離れなければならなくなった。 帰ってきてみると、冨士はクリーチャーをコントロールしておらず、岩澤は《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》《白騎士/White Knight》《白蘭の騎士/Knight of the White Orchid》を追加している。冨士のライフは2。冨士は《悪斬の天使/Baneslayer Angel》を召喚するも、万事休す。 岩澤 1-0 冨士 Game 2 岩澤のスタートは《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》。返す冨士は《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》。《氷河の城砦/Glacial Fortress》《翻弄する魔道士/Meddling Mage》《流刑への道/Path to Exile》《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》《精霊への挑戦/Brave the Elements》《白蘭の騎士/Knight of the White Orchid》の中から《白蘭の騎士/Knight of the White Orchid》を抜く。 岩澤は《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》で攻撃して《翻弄する魔道士/Meddling Mage》を追加。《審判の日/Day of Judgment》を禁止する。 冨士も《翻弄する魔道士/Meddling Mage》を召喚。今後の戦闘で癌となる《精霊への挑戦/Brave the Elements》を禁止する。 岩澤は《清浄の名誉/Honor of the Pure》を貼って2体で攻撃。冨士は《流刑への道/Path to Exile》を《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》へ。 何とか戦線を維持したい冨士だが、土地を引けず、ノーリアクションでエンド。 岩澤は3/3の《翻弄する魔道士/Meddling Mage》でアタック。冨士も《翻弄する魔道士/Meddling Mage》でブロックしつつ《妄信的迫害/Zealous Persecution》。これには苦い顔の岩澤。《流刑への道/Path to Exile》を打つか迷うが、《翻弄する魔道士/Meddling Mage》が討ち取られることを選ぶ。代わりに《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》を着地させ、兵士・トークンを場に出す。 冨士は4枚目の土地にアクセスできず、苦しい展開。兵士・トークンは《翻弄する魔道士/Meddling Mage》と相打つ。岩澤は兵士・トークンの増産に加えて《天界の列柱/Celestial Colonnade》でも攻撃開始。冨士は堪らず《流刑への道/Path to Exile》を打つが、これは《精霊への挑戦/Brave the Elements》でカウンター。岩澤がそのまま押し切った。 岩澤 2-0 冨士
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/222.html
裏準決勝戦【温泉旅館】SSその1 試合会場に着くとそこは温泉旅館だった 「なかなか雰囲気のいい温泉旅館ね」 「試合じゃなくて観光で着たかったな」 すると光素 「今回は特別に試合の前に温泉に入ってもいいよ」 エリとスミとコマネとシュウカは女湯デンキは一人男湯 すると悲鳴が聞こえあがるとデンキが死んでいた。 「誰がこんなこと」 光素のアナウンス 「それがペナルティー」 「くっだまされたわ」 「ゆるせない」 「半人は他の客」 四人の容疑者がいるが大海のルールは変わらないので 犯人は見つけてもいいが見つけなくてもいい 「探偵達に推理され領域をはられるから私達も推理しましょう」 「私達は探偵ではないけど興信者、意地をみせなきゃ」 興信者のジョブは探偵によく似ているが 探偵に比べて推理力が低くその分調査力が高い 死体を調べようとしたがシュウカが妨害 「死体は説が調べる。他は邪魔」 推理光線で妨害するが範囲が1メートルしか ないので近付かなければ大丈夫 「でも近づかないと死体が調べれないわ」 部屋が狭いため銃撃もできない 「先に容疑者の証言を気功」 しかし容疑者は口から声が出ずシャボン玉 「はっこれはコマネの音玉」 「ハハハその通り私の音玉です~」 シャボン玉を壊せば音が聞こえるが 同時にコマネが襲ってくるため難しく 皿に半分の厚さのシュウカも襲ってくる 「半分を調査に使いもう半分で妨害してるのね」 「やっかいだわ」 「証言を聞くのはやめて証拠品を探しましょう」 「シュウカとコマネが戦ってる今のうちに二手に分かれよう」 そしてエリは厨房へ、スミは遊戯城へ 途中でエリはコマネと遭遇しスミはシュウカと遭遇するが ナントカ逃げる事ができたそしてエリとスミは合流 「血のついた凶器を見つけることができたけどシュウカにも見られた」 「見て、シュウカが妨害をやめて逃げようとしてる」 「もしかしたら調査をおえて一度本体に情報を伝えるのかも」 「合流されるとや角界ですね~ここは一度強力しません~?」 「仕方ないわね」 コマネが仲間になりシュウカを追うが 暑さが半分なだけ素早さが二倍になってこちらの攻撃をかわす 「ついに追いつめたぞ」 「待って、ちょっと様子が変ですよ~」 そこは旅館の玄関、そしていつのまにか容疑者達が集められ 「みなさんついに犯人がわかりました」 そこにはもう一人のシュウカもいた 「しまったこれはカイケツヘン」 「くっ騙された」 「犯人はトリックを使いアリバイを作ったが凶器を遊技場に捨てた」 シュウカは推理を発揮、カイケツヘンの力により他が迂闊に動くとかえって危険 「そして………」 シュウカは容疑者を指さし口を動かすが 声が出ずにシャボン玉 そして領域が解除されコマネが銃を構える コマネを見てスミも銃を構えるが 二人のシュウカはコマネとスミに飛びかかり 推理光線を撃ちコマネとスミは倒される 同時にシャボン玉が割れてシュウカの声が聞こえる 「あなたのその咲くは推理済みです」 「そして犯人はあなたです」 こんどは直接シュウカが喋る 「くっ二人が倒されるなんてなんて事」 「エリ、お願い逃げて」 「わかったわ」 スミの言葉を聞きエリはシュウカから逃げ再び厨房 「しまったここは行き止まり」 「追いつめました」 「騙されたわねコンパイル開始!」 すると厨房の鍋が突然爆発 「これは料理能力?騙された」 料理人であるエリは料理魔人としてのアビリティを持っていた 厨房に来た時に予め簡単な鍋料理を作りトラップにした これは実戦経験の不足を補う為のハッキング技術の合成技で 範囲は狭いが厨房の敵には炎属性の耐性が無ければ4000以上のダメージ 二人のシュウカは燃える 「くっ・・・説の負けだ」 そして旅館は崩壊した・・・ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「一夜兄ちゃん、何これ?」 「いや、上位次元の人間からなんやSSのプロット渡されて 時間が無いから時空の超越者である俺に代わりにSS書いてくれって 言ってきたから書いたんやけどどう?」 「どうもなんもFFSモドキみたいな文体で、都合良く敵が罠にかかって突然の 後出し能力で無理矢理勝って更に最後にオリキャラを使った言い訳楽屋オチって… 一夜兄ちゃん、いつも私の書く小説に駄目出ししようとする癖に結局自分が書くのはこんなんか!」 「そ、そんなに駄目かな…?まあ、でも遅刻するよりは とにかく時間だけでも間に合わせた方がええんちゃう?とかそう言う感じらしいし そもそもこっちにだって都合はあるってのに無理矢理頼む『上の人』がわりーんだよ」 「まあ何言われようと結局一番悪いのはその一夜兄ちゃんの言う 『遅刻しそうになった上の人』って事やね…ところでオチはどうすんの?」 「それがさ、ないねんなー」 「このパート必要あったん?」 「『上の人』がヤケクソになって無理矢理千夜を出したかったらしいねんなー」 「いつまで続けるん?」 「じゃあもう終わろっかー」 ごめんなさい このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/218.html
準決勝戦【廃村】SSその2 2013年の『関東』、とある映画館の上映会場―――― (うん、0巻は前にジャンプでも読んだけど、こうしてあらためて読んでも面白いな。特にラストのこの1ページが良い) 一人の青年が、一冊のやや薄い漫画の単行本を読みながら椅子に腰かけている。 漫画を鞄の中へしまい、スクリーンへと目を向ける。 (さて、そろそろ始まるな) (架神さんはこの時点でチケットを破り捨てて、家に帰るべし、とか言ってたけど、やっぱりこんな面白い漫画がそんなどうしようもない出来になるなんて考え難いよな) (まあ、駄目だったら駄目だったで、それはそれで楽しめるものにはなるんじゃないか? 皆ハンターだからって期待しすぎてるんだよ 会場の電気が消えていく。 スクリーンの幕が開く。 (……始まった) ――上映一分後 (おっ、冒頭の雰囲気は中々良いじゃないか。これは思ったより、楽しめるんじゃないか? やはり皆、期待のしすぎで……) ――上映十分後 (いや……あの、なんで、ゴンとキルアが頭の悪い馬鹿なガキになってるの? 彼らはプロハンターで、それぞれ常人とは異なる子供達だって、原作中で……) ――上映二十分後 (あの0巻の内容がこんな淡泊に!? あの、スタッフの方たち、ハンターを読んで何を感じたの? ま、まあ、あまり0巻の内容に尺は避けないってことなのかな?) ――上映40分後 (ビッグバンインパクトが放出系!!? そして圧倒的強者のウボォーに何も考えずに立ち向かうゴンとキルアの二人!!? スタッフはハンターを本当に読んだの?? 読ん……だの……) ――上映1時間後 (線路で自殺しようとするキルア……、なんだ? これはなんだ? ハンターの映画ではない。俺の知るハンターは、こんなものではない。でも、あれはハンターなんだ。目に映るのはハンターのキャラクターなんだ。あれはハンターの映画、なのだ……) ――上映80分後 (アハハ、イルミが腕を振り回すだけの淡泊な攻撃してるぅー……、ダブルマシンガンがじぇんじぇん威力が無ーい。やる気が無ーい。ハンターの映画じゃなーい。まともな人間の作る作品じゃなーい) ――上映90分後。 いるよ、そばに一番近く~~♪ 今はただそれだけでいいから~~♪ エンディングの歌が、流れ始める。 少女の声が、響く。 「ありがとう、ゴン、キルア……これでやっと私は本当を生きられる」 「本当を生きるか」 「本当ってなんだろう」 「自分らしく生きるってことじゃねえか?」 (ああ、うん。良かったね。ヨカッ……タネ??) そして、スクリーンの幕が閉じ、会場が明るくなった。 周囲がややざわつく、しかしそれらの喧騒は、青年の耳には一切届かない。 そして、青年は酷い頭痛を抱えたまま、ふらふらとした足取りで映画館の会場の外へ出て行ったのだった……。 (なんで……なんでハンターの映画がこんなことになるんだろう) (人間って、あんな凄い作品を、こんなくだらないものにできるんだ。人間ってある意味ですごいな) (こんな映画が生み出されるんなら、世界なんて滅びてもいいかも、な) それから約二カ月後。 絶望に沈んだ一人の青年は、ある一人のキャラクターをあるゲームのキャンペーンへと投稿したのだった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 2020年、ザ・キングオブトワイライト準決勝。 戦場は、日本のとある寂れた廃村。 道路の周りには畑が広がり、とこどころには、オンボロ……とも形容されそうな木造式の民家が立ち並ぶ。 2020年、それも核やバンデミックで退廃しているという時代にそぐわない、日本のやや懐かしい田舎風景を残すこの村。 その中を、やはりこの風景には似つかわしくない、一人のキラキラとしたアクセサリーで装飾した、金髪のチャラ男が歩いている。 男の名は黄樺地(きかばじ) セニオ。今回の準決勝における出場選手の片割れである。 「ウェイ、ウェーイ、古臭い村だっぜwww 人とか住んでんのココ?ww あっ、廃村だって言ってたし、そもそも今試合中かwww」 「あ~、こういう泥臭い場所とかマジ勘弁!! とっとと終わらせて帰りテーww ウェイwwウェイww」 生粋のチャラ男であるセニオは、この土と草の香り漂う田舎風景があまり肌に合わないようである。 チャラ男とは、やはりネオンの光眩しい都会でこそ輝くもの。農耕器具を持って、白いシャツと半ズボンのルックで農作業に従事するチャラ男という図は想像し辛いだろう。 「あ~~もう、偽原シャン、どこにいるんだよ~~。さっきからあちこち転送して回ってんだけどな~~」 セニオは、今回の戦いは素早く決着をつけようと、開始直後からコピーした能力、大会運営であるディプロマット&アンバサダーの転送術を使って、偽原の開始地点と思われる場所へ転送を繰り返していた。 今回の戦いは互いの開始地点が知らされていない。しかし、村の入り口のどこかであろうと、当たりをつけて飛んでいたのだが、偽原の姿は見当たらなかった。 「長期戦とか勘弁ww おーい、おまわりさーんww、出てこいよーwwウェーイww」 「オ……ww」 そんな時。 セニオの目に、民家の前にポツンと佇む人影が写った。 「めっけwwめっけww おーい、偽原シャーーーンww」 警戒心も無く、素早く駆け寄るセニオ。流石はチャラ男である。 だが、近づいた時、目に映った顔は偽原ではなかった。 やや禿げ上がった頭に、皺の寄った顔、痩せこけた体型、それは70過ぎぐらいの老人だった。 「おーい、お爺ちゃ――ん、こんなところで何やってんの?www」 何故老人がこんなところにいるのか? という疑問を、普通の大会参加者ならば思うだろうが、チャラ男、セニオはそんな疑問はどこ吹く風か。フレンドリーに老人に話しかける。 老人は、そんなセニオに視線を向けると、カッ!!と目を見開いて、口を大きく開けた。 「ファントムルージュじゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!」 老人から大きな唸り声が発せられた。 ザワッ……ザワッ……、その老人の裂帛により、周囲の木々が強風にでも煽られたかのように揺れる……、実際には揺れていないが、見る人が見ればそんなイメージを抱くだろう。 「ウェイウェイww、おじーちゃん、どしたの??」 そんな老人の尋常ならざる様子もどこ吹く風か、セニオが持ち前のチャラさで気楽に声をかける。 「おおおお……、お前はぁーーー、ここから先へ進んではならん。進めば……地獄が、ファントムルージュが待ち受け取るゥゥーーーー」 「ウェイ、ファントムル―ジュってアレっショ?? あのクソ酷い映画デショ? ダイジョブ、ダイジョブ、俺あれを見たけど、何とか耐えれたから、怖くなーいww怖くなーいww」 セニオは1回戦、美術館での戦いで、ファントム雨弓と対峙した時に彼の能力で、既にファントムルージュを視聴している。 もっとも、それはオリジナルの劣化の劣化の劣化を、光学的に再現しただけのもの、であるが。 吐瀉物を撒き散らし、全身がズタボロに傷ついたものの、何とか彼にかけられた呪い、『シリアスを理解できない』という特性によって耐え抜き、勝利した。 「お前は……、お前は、真のファントムルージュを知らん」 「ウェイ、怯えすぎだっておじぃーちゃーんww」 「あれは……あれは、この世に非ざるもの」 老人は、元々白い顔を更に蒼白く変色させ、悲壮極まる表情で、セニオに告げる。 「そう、例えるならば、パンドラの箱の最後に残された災厄」 「黙示録の最終章に刻まれた……、神々の怒り」 「地獄の奥底よりも、奈落の淵の淵よりもなお深い絶望……、お前はそれを知る」 「ウェイウェイww、何言っちゃってんの、じいちゃんww」 老人の必死の訴えも、『シリアスを理解できない』セニオには届かない。 老人は、「おお……」とかぶりを振り、そんなセニオに答えた。 「恐れを知らぬ若者よ……。今なら、まだ引き返せる。だがお前が真の悪夢を知りたいならば、もう、止めはせん」 老人は自分の横にある民家の扉を指さして、いった。 「その扉を開けるが良い。だが、そこを開けたならば最後……お主の苦難が始まる」 「決してもう、振り向くことは許されない。ああ……、それでも行くのか」 老人は、気づけば涙を流していた。 セニオはそれに、こう返す。 「おじぃーちゃん、だからダイジョブだってーー。俺、世界平和、目指してるしww それにはこの大会で軽くユーショーwwするのww」 「そしたらおじーちゃんももっと楽しく生きられるってww まあ多分、あのおまわりさん?ww 偽原さんに、そんな事言わされてんだろうけど、体大切にしろって、さっきから そんなゼーゼー叫んで、疲れたッショ?ww」 セニオは老人の肩をバンバンと叩き、明るく声をかける。 彼はチャラ男だが、心根は優しい、明るい、楽しいチャラ男である。 「んじゃww、行ってくるyoww 道案内ありがとー、じっちゃんww」 セニオは老人に手を振り、彼が指さす民家へとかけていく。 老人はそんな彼の背中を涙をながしながら、見送った。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ――ふむ、寂れた廃村と言えば、怪しげなお告げをする老人は付き物。中々の演出だな。 (……お前は、少し黙っていろ) ――そう言うな、これからチャラ男が味わう大難。恐ろしくも楽しみなのだよ。こうして自らの意見を執筆させるぐらいは許してくれ。こんな機会も滅多に無いのでね。 (ここから先も、書き上げるのは、お前では?) ――そうだが、準備をしたのは君だ。これを実行できるのも君というキャラクターがあってのことだ。いやいや、怖い怖い。 (いいから、早く続きを書け) ――そうしよう。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * セニオが家の扉を開け、玄関を上がると、そこは畳作りの和室であった。 真ん中には木造りの大きなテーブルかあり、横には大きな戸棚がある。典型的な部屋作り。 セニオは和室の中を進んでいく。 ブツッ。 突然、近くで音が鳴った。 見れば、和室の机の上には1台のノートPCが置かれていた。 誰かが近づくことで反応する仕掛けだったのだろうか、セニオはモニターにその目を向け……なかった。 「ウェ……ww、これ、ヤバいんでしょww オレ、知ってるしww」 セニオはチャラ男ではあるが、まったくの馬鹿、というわけではない。 偽原の一回戦、二回戦の戦いはちゃんと見て知っている。彼が他人に『映像』を見せることで、精神的な攻撃を仕掛ける能力者であることは明白だ。 ファントムルージュを知っている、と先ほどの老人に語ったものの、そう何度も味わいたい体験ではない。まして、オリジナルはアレより恐ろしいというのだ。 今回の戦いでは、できれば敵の能力は食らわず、偽原を見つけたら、速攻でケリをつけるつもりでいた。 2回戦、鍾乳洞の戦いで見せた偽原の悪辣さ……、それをセニオも目にしている。どんな映像が流れるのか。どうせ、ろくな映像ではないだろう。シリアスを理解せぬセニオでもそれは何となく分かる。 心の中で身構えるセニオ。だが、モニターから目を背ける彼の耳に届いた声は、彼のまったく予期せぬものであった。 「えー、マジィーー? チャラ男ォーー!?」 「チャラ男が許されるのは、せいぜい二十歳(ハタチ)ぐらいまでだよねー、四葉ちゃん」 「キモ―イwww」 「キャハハハハ」 「……ウェ??」 PCから発せられたのは、おおよそ小学生ぐらいの子供達の声であった。 セニオはその映像に目を向けていないが、その声には聞き覚えがある。 チャラ男を嘲け笑うその小学生達の声は、この大会の一回戦で敗退した、高島平四葉と弓島由一の二人である!! 「しってるー? 四葉ちゃん。あのセニオとかいう奴、5年前に大学生以上で、その頃からずっとチャラ男なんだってー」 「えっ……、てことは最低でも2○歳以上?? それでチャラ男?あの恰好?? うっわぁーーーww」 「最っ低だよねーー。ああいう大人にはなりたくないっていうか―。ウェーイとか、ガヂテーとか言いながら、もうほとんどオッサンだよ。うわぁーー」 「ちょっと、由一君。2○歳なら、オッサンとか言うのはまだ失礼よ。私達、いずれ人の上に立つ人間としては、あーいうー人の気持ちも扱えるようにならないと」 「でもさー、四葉ちゃん。あんなの自分の部下になんか絶対できないじゃん。しかもアレ絶対、童貞だよ、ドーテーww。2○歳でww ププッ」 「だから決めつけは失礼よ。あーいうチャラ男に引っかかる女の子だって、世の中広いからいるんじゃない? まっ、絶対○○○○(注:検閲により自主規制)みたいな女でしょうけ どー」 「マジでーー? それ、童貞みたいなもんじゃーんww 俺もう可愛い彼女いるけどーー。やーい、羨ましいか? オッサン」 「キャハハハハ。 由一君、あんまり真実を言っちゃ駄目よww」 「ウェ、ウェイウェイウェイ……」 人の真剣さというものを理解できないセニオだが、その一方で真剣みの無いもの、とりわけ人の茶化しには割と敏感である。 いたいけな少年たちの無邪気な心無い言葉の数々が、彼の心へ突き刺さっていく。 「それでさー、あのチャラオッサン(注:チャライおっさんの略。由一の造語)夢は世界平和だってよ? 」 「なにそれ……私の一番吐き気のする言葉だけど、それをあんなチャラ男が? 反吐を出す気も起きないわね」 「でしょ? 大体、そもそもチャラ男っていう生き物自体が、社会の公害(ゴミ)だっての。存在自体が平和を乱してる奴が、どのツラ下げて言うんだろーねー?」 「私の世界征服プランでも、チャラ男は最優先の粛清対象に入ってるわね」 「俺は、征服とかは興味ないけど、それには協力するよ」 「うん、一緒に世界を綺麗にしましょう」 「オーケー。それにしてもチャラ男ってさー……」 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ――この後も小学生二人のチャラ男茶化しは延々と続くが……、エスカレートしすぎてこれ以上はとても文章化できない。 ――各自、脳内で補完して欲しい。 (正直、聞くに耐えなかったな) ――そうそう、終わりの方には君にも波及していったな。 ――いわく、40近くで延々と嘆いている暗い、キモイ、中年オッサン。あんな汚い手で勝って恥ずかしくないのーー。全国放送で下半身丸出しwwうわーww とか。まあ、概ね事実だな。 (……あれは、思った以上のものだった。充分だ。ここから、奴を精神的に追い詰めていく) ――ふむ、しかしよく彼らに最後、能力を使用することを我慢したな。私としては使ってほしかったところだが。 (善意で協力してくれたものに、そんな真似をするような非合理はしない。最後はお菓子を振る舞って、上機嫌で帰ってもらったさ) ――まあ、彼らも表トーナメントに加え、裏トーナメントでも一回戦敗退だったからねえ。相当腹に据えかねるものがあったんだろう。 ――チャラ男をひたすら罵倒するだけで、優勝賞金の一割が手に入ると言われれば、あれだけの気合を入れる気にもなるか。 ――君が書いた台本以上の演技だったからね……まあ、アレが本当に演技かどうかは、私の一存では決めかねるところだが。 (これは序の口だ。所詮、茶番にすぎん) ――そうだね。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「ウェッ、ウェッ、ウェッーイww。ウェッ、ウェッ、ウェッーイww」 その後、高島平四葉と弓島由一の壮烈なチャラ男罵倒は10分以上にも及んだ。 セニオは思わず血管を浮き上がらせかけるが、持ち前の軽薄さと、静かにチャラ呼吸を繰り返すことによって息を整え、どうにかチャラさを保った。 「あー、すっきりした。じゃあそろそろ行こうか、由一君」 「うん、四葉ちゃん。この後パフェ食べない? パフェ。あのオッサンが奢ってくれるらしいぜ」 「あら、殊勝な心がけじゃないの。じゃあ、ご馳走になろうかなー」 ようやく終了を告げる、小学生二人のチャラ男への罵リ合い。 終わりは、実に平和なものであった。 ほっと一息をつくセニオの耳へ、やはりPCの側から、今度は大人の男の声が聞こえてくる。 「こんにちわ。セニオ君」 次の声にもセニオは聞き覚えがある。 一回戦、二回戦の映像で聞いた今回の対戦相手の声、偽原光義のものである。 「さて、俺からの君へのプレゼント第一弾の映像、見て頂けたかな? おっと、もし見ていたら、この映像を今の君が見ている余裕はないか」 「既に感づいているだろうがね。俺の能力は、君が映像を見ることで発動する。気を付けた方がいいぞ」 「ウェーイ、オメ、ナニアレ、ナニアレww チョット趣味悪くねww あのガキども」 「無邪気な子供の悪口ぐらい笑って聞き流したらどうかね。チャラ男のゴッドなのだろう。君は」 「ウェ―イウェーイww 良く分かってんじゃん、まったくさっきまでのは冗談きつかったゼwwオッチャンww」 偽原は、挑発的な口調でセニオを煽る。 しかし、セニオも歴戦のチャラ男である、このレベルの挑発ならば、彼のチャラさを崩すには至らない。 「あの子供たちの頑張りはなかなかだったが、このレベルでは、君を崩すには至らないだろう」 「まあ、アレは単なる挨拶代わりだ。この民家の前のお爺さんが言っていただろう。君をここから待つのは、真の悪夢、苦難だと」 「……本番は、ここからだ」 ザザッ…… 偽原の言葉が終わると、突如ノイズ音が響いた。 最新鋭のノートPCには似つかわしくない音だが、あるいは、それが偽原の『演出』なのか。 そして、セニオの耳に、またしても、彼にとって思わぬ声が聞こえてきた。 「セニオ……久しぶりだな、俺だ。ダイキだ。覚えてっか?」 「ウェ……?」 その声は、セニオにとって懐かしい声であった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * チャラ男1「ウェーイw」 チャラ男2→野良魔人A「ハ? お前何? まだそのノリなの? うっぜ。死ねよ」 チャラ男1「…………」 (黄樺地セニオ、プロローグSSより) * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * そう、関西と関東の滅亡、そしてバンデミックなどの度重なる災害を生き延びたものの、世界の荒廃によって、チャラ魂を失った、セニオのかつての同志の一人。 かつてのチャラ男2、今は野良魔人となった男、ダイキであった。 「では、ダイキさん。今のセニオ君にメッセージをどうぞ」 「ああ。セニオ……、そのすまなかった。前、お前に会った時、俺酷いこと言っちゃったけど、お前今戦ってるんだってな。なんでも世界平和のためにって」 「俺、世界がこんなになっちまって……、昔みてーに、あんな馬鹿なことはできねーけど、でもお前は今も戦ってるんだな。あの頃を取り戻すために。すげーよ、お前は。昔から、生粋のチャラ男だったからな……」 「ウェ、ウェウェーイ……」 今は懐かしい友の声。彼が自分の戦いを遠くで見守っていた。 だが、セニオは彼の姿を見れない。どこで偽原が見張っているかも分からない。その映像に、目を向けてはいけない。 「では、ダイキさん。もう一度、セニオ君が戦っている映像を見てあげてくれ」 「ああ、セニオ……」 ザザッ…… 「あ、ああああああぁぁぁぁーーーーーー!! なんだ、これはぁーーーーーーー!!」 「セ、セニオォ――――――――!! ウェッ、ウェ――――――イ!!」 突如、絶叫が鳴り響く。 画面が切り替わった。それまでセニオへ励ましの声を送っていたダイキの声は、耳をつんざくばかりの悲鳴に変わった。 「ウェ、ウェウェウェウェ……ウェッウェッウェッウェッ……」 あまりの事態の変化に、思わず振り向こうとするセニオ。 しかし、すんででそれを踏みとどまる。駄目だ、映像を見てはダメなのだ。 ザザッ…… 更に、場面の切り替わる音。 「さて、セニオ君。見ての通り、先ほどの男は君のかつての仲間、チャラ男同盟の一人だ。ん、チャラ男連合だったかな?」 「ウェ……ウェーイ? ナニ言ってんだ?? オッチャ――ン??」 「ああ、これは我々魔人公安の君たちの呼称でね。チャラ男というのは群れを為す生き物なのだろう。単体では大きな害をなすこともないが、それが集団をなして活動することで、凶悪な悪行魔人にも匹敵する災害を起こす可能性もある。だから、我々は昔から君たちをマークしていた」 「ウェイ?」 「君の名前もその中にリストアップされていた、というわけだ。その後ろの戸棚を見たまえ」 セニオが目を向けると、戸棚の中に一冊の本がかけられていた。 本の背表紙には、『魔人公安、極秘ファイルC文書』と書かれている 「さあ、手に取ってみたまえ、セニオ君」 セニオがそのファイルをめくると、そこにはセニオの見知った名前がずらり、と並べられていた。 ダイキ、シンタロー、セイジュ―ロー、ユーシ、ガクト、ジロー、レンジ、ヒロシ、ブンタ……いずれも懐かしい名前たち。 そこに記されていたのは、彼らの名前だけではない。その住所、経歴、交友関係、家族関係、様々な事実が列挙されている。 そして……彼らの名前には、3分の1近くに赤ペンでバッテンマークがつけられていた。 残った名前にも、横に『※死亡』と書かれている。 これは……まさか……、セニオの胸に到来する悪寒。 「どうかね。それが魔人公安がかつて洗い出した君たち、チャラ男の調査結果だ」 「社会からはみだし、世の中に迷惑をかける、軽薄不純な君たちチャラ男どもの交遊録」 「通称、チャラリスト――、俺はかつてのつてでそれを入手した」 「さて、もうわかるだろう。そのバッテンマークは、度重なる災害をどうにか生き延びた者達、君のかつての大切な仲間」 「今は全てがチャラ男ではなくなっていたがね……俺は、この数日間、そのチャラリストからしらみつぶしに彼らを探し回った、というわけだ」 「そして……そこから先は君の目で確かめたまえ」 「ウェ、ウェ、冗談キツイッショww マジでww」 「彼らの映像は、今回の試合範囲内にある各民家の中にこうした形で私が事前にばらまいてある」 「全ての映像を見て回った時、君がまだそのチャラさを維持できているかどうか……、もしそれができたならば、俺は君の前へ姿を現そう」 「俺は、『俺がいるべき場所で』君の姿を眺めさせてもらう」 「たっぷりと再会を楽しんでくれたまえ、では」 プツンッ 電源が切れる音と共に、音声が消える。 セニオは一人ポツンと、民家の中に取り残された。 「ナ、ナーニ言ってんだろうなww あのオッチャンww は、ハハハハ、ウェイウェ--イww」 黄樺地セニオは、シリアスを理解できない。 偽原の言っていることの深刻さをまだ心のどこかで捉えきれない。 「ウェーイ、と、とりあえず全部の映像、見てまわりゃいいんでしょww いや、見ないけどww 楽勝ジャンww ウェーイww」 そう言って、転送術を使用し、別の民家へとテレポートした。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ――ちなみに、最近私の周りでは、絆を結んだ親しい仲間や家族同然の人の事をリソースと呼ぶそうだよ。 (リソース? なんだ、それは?) ――ああ、そうか。君にとっては、今やこの大会で敗れた男の一人にすぎんからな。あまり印象に残ってないのも仕方ないか。私から流れ込んだ方の記憶を探ってくれ。 (……理解した。成程、最低だな、こいつは) ――今や君もそれと肩を並べる最低の男なのだよ。私としても承服しがたいことではあるがね。 ――我々は全て勝利の為にやっているだけだ、そうだろう? (…………) ――ふむ、さしずめ今回の君の戦術は「黄樺地セニオ、リソース消費作戦」か。中々のものじゃないか。 (最低なのは、お前だ) * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「セ、セニォォ――!! ファ、ファントムルージュゥゥゥ!! うわぁああああああーーーーー!!」 「セニオ……やっぱり、チャラ男が生きれる世界なんて、ねえよ……こいつは、こいつは酷え……酷すぎる」 「ウェーーーイwwウェ―――イwwウェウェ――――イww オウェウェ……オウェオウェエ……」 セニオは既に7つほどの民家をまわっただろうか。 そこに映し出されるのは、いずれも最初のダイキと同じ、セニオのかつての同志達。彼らは次々とセニオに励ましの言葉を送り、そしてファントムルージュの前に果てていった。 あるものはセニオに助けを求め、あるものは、世の中をひたすら嘆き、あるものは、自分の原点であるチャラ男へと回帰していった。 そして、セニオの耳に聞こえてきた『声』はかつての同志、だけではなかった。 「セニオ……私ね、結婚して、今赤ちゃんができたの」 「こんな世界だけど、この子と一緒に家族皆で生きていければ……いいなって」 「セニオは……まだチャラ男だけど、平和の為に戦ってるんだってね。凄いな」 「私、昔、セニオと遊んだこと、忘れない。頑張ってね……セニオ」 ザザッ…… 「ひぃぃぃ――、いやぁぁーーーーー!!な、何これ、この映画ぁーーーーーー!!」 「こんなの、こんなの子供に見せられないぃぃーーー。いやあーーー!! こんな世界は嫌ぁーーーーーーー!!」 そこには、セニオがかつて大学時代に仲間と共にナンパした女性たちも含まれていた。 懐かしき人々、セニオが取り戻したかったもの、この荒廃な世界においても今を懸命に生きていた彼らの、恐るべき悲鳴が、セニオの胸に刺さる。 「ウェーイwwウェーイww ウェーイww」 しかし、セニオからは軽薄さが消えない。 シリアスを理解できない呪い、それはこれほどまでに深いのか? 「はっはっは、セニオ君。どうかね。これ程までに君を想う、罪のない人たちが倒れて行っても、君はチャラ男のままか」 そんなセニオに、相も変わらず挑発的な偽原の言葉が響く。 「かつての仲間や恋人が傷ついても知らんぷりか。酷い男だなあ。でも仕方ないか、チャラ男だもんな、君は」 「ウェ……イ……」 繰り返される仲間たちの悲劇。それに対して本当にセニオは傷つかないのか? まったく理解ができないのか? 否、そんなはずはない、彼はシリアスを理解できない。しかし他人の心の痛みが理解できない男などでは決してない。 そうであれば、彼が世界平和などどいう他人のための目的を持ったりするだろうか。 そう、彼は他人の為に戦える男。だからこそ、世界を歪に変えるシリアスが許せない。 セニオの中に、世界をひたすらシリアスに染めようとする男、偽原への苛立ちは、着実に蓄積されていた。 「いい加減にしろって……の。ウェイww」 どうにかまだ軽薄な言葉を吐くセニオ。 「ふふ……、少しは限界が近づいているようだね。セニオ……、む……??」 「ほう、これはこれは。面白いなあ。セニオ君」 「スペシャルゲスト、第2弾だ。リアルタイム中継だよ」 「ウェイ?」 ザザッ…… 「セニオ殿っ!!負けてはいけませんっ!!」 突如、凛凛しい女の声が響いた。 その声は、セニオには良く聞き覚えがある。それも、ごく最近のものだ。 「あなたは……、あなたは、私と約束したではないですか。勝って、私の願いを叶えると」 「それを……このような下郎の、卑劣な策の前に、怯むなどなりません!」 「ハレルちゃーんww ウェーイww」 そう、それはセニオが一回戦で戦った姫将軍ハレルであった。 共に疑似とはいえ、ファントムルージュの苦痛を分かち合った仲。 そして……、セニオは約束した、この戦いに勝った時、彼女の願いも叶えると。自分の願いは、世界平和。そこに彼女の国も救う道があると。 そして、約束はもう一つ。 「あなたは……連れて行ってくれるのでしょう。この戦いが終わったら、私を遊びに。嫌なことが全部忘れられる……」 「ウェイwwウェーーイww 言ったその通りww 俺、勝ったらハレルちゃんと遊ぶってww」 「あなたは約束を破ったことが無い、そう言いましたね。ならばここで負けることは許されません」 「勝って、勝つんです。セニオ殿」 「ハレルちゃーんww 俺、ダイジョーブww スッゲww 力湧いてきたってゆーかww」 「はい、ファントムルゥージュ」 PCから、突如軽い、男の声が流れる。 一瞬の沈黙。そして、 「あっ……何……これ……違う、前のとはぜんぜん……」 「嫌だ……嫌だ……、こんなの、私は認めたくない……、でも、でも、これは酷すぎる」 「世界が、世界が、黒く染まる。何かもが澱んで見え……、ああ、故郷が……私の故郷が……あう、あああ……」 「セ、セニオ、セニオ殿ぉーーー!!」 勝気な、凛とした姫将軍の面影は、次の瞬間どこにもなかった。 深く深く、絶望に沈んでゆく姫将軍の声。それは、まるで無理やり処女を奪われた乙女のように泣き濡れ、か細く弱弱しい声へと変わっていった。 「ハ、ハレルちゃーん??」 「ははは、どうだね。セニオ君。俺の能力は」 「例えモニター越しであってもね、そこに相手がいると知覚できれば、そしてその相手が何かの映像を見ていれば、それをファントムルージュに切り替えることができるんだ」 「ウェイ??」 「この戦いを見てる観客の様子もちょっとモニターしていてね。その中に健気に君を応援する姿があったからね。折角だから犠牲になってもらったよ」 「いかがかな。 君のために、また一人、仲間の心が砕かれてしまったな」 「オ、オメッ……オメッ……オメェー……」 セニオの肩がついに、震えだす。 だがセニオは、はっ、とあることに気づく。 「ウェイ、てかあれ、反則ジャネ?ww 」 「運営さーん、光素チャーンww、あいつ、観客に手を出したっショ?ww 今ww」 「アリャ、完全にルール違反ww これ、俺の勝ちジャネww ウェーイww」 セニオは両手を大きく振って、この試合を見ているだろう、大会運営に向かって、偽原の反則をアピールする。 しかし、反応は無い。 「ウェイww チョットww どーしたの?ww ルールだよねww ルールww」 なおも、身振り手振りをしながら、騒ぐセニオ。 やがて、空から、この大会の実況役、佐倉光素の声がした。 「……解説をいたします。偽原選手は反則を犯していません」 「ハ? ウェイww チョットww ナンデww」 「理由の説明は私からはできかねます。偽原選手は反則はしていない。それだけです」 「ウェーww ナニソレ―ww あいつに金貰ってんの??w おかしくね? 観客に手を出しちゃダメだってー」 「……私たちは公正です。言えることは以上です」 「ちょっと、ちょっとー。ナンデww」 セニオは、なおも虚空へ向けて抗議するが、それ以降一切光素からの反応は無かった。 代わりに、やがて再び偽原からの声がした。 「運営に反則のアピールか。せこい。せこい男だね、セニオ君。いや、チャラ男なんだから仕方ないか。せこくて当たり前か」 「どういう事だよ、オッチャ―ン……、審判買収してんの」 「そんなことができるわけないだろう? 運営の非難まで始めるとは。君のせいで、君にかかわった人々が次々不幸になっているというに、つれない男だね、君は」 「お、おい……いい加減にしろってww」 「さて、俺が用意した君の知り合いの、君への励ましの映像はまだ三分の一ほど残っている。頑張って探してくれたまえ」 「最後に、もう一度愛しのハレルちゃんの声でも聴いてくれ」 ザザッ…… 最後に映像が切り替わり、再び「ああ……」「うぐ……」「私は、もう、嫌だ……」というハレルの声にならないような悲鳴が聞こえた。 セニオは、その映像からは目を背けたまま、ただその場に取り残された。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「うん、やっぱり最悪だよね~。あのオッサン……」 本試合会場の一室。 この準決勝の戦いを、モニターで鑑賞する一人の少女の姿がある。 銀髪のウェーブに、制服+パーカーの恰好。 偽原光義が一回戦で戦った相手、偽名探偵こまねである。 「依頼だから、しょうがないけど、やっぱり物凄い犯罪の片棒担いじゃった気分だよ~~~」 「何より、やっぱりアレ、恥ずかしいし~」 こまねは、頭を抱えて「あう~~」と苦悩している。 無理もないだろう。 先ほどまで、『ファントムルージュに苦悩する演技をする自分の映像』が、流れていたのだから。 「あのチャラ男さん、可哀そうだよね~~。まんまと罠にはめられちゃって」 「でも、これも仕事なので。ごめんなさい~!!」 モニターの前でセニオへと詫びる。こまねであった。 そう、セニオは実際にハレルが悪夢に染まる映像を、見ていない。 実際映像に映っていたのは彼女、偽名探偵こまねの方である。 彼女は、その魔人級の声真似の能力によって、ハレルの物真似を演じた。 1回戦で偽原のファントムルージュ・オンデマンドを受け、筆舌に尽くしがたい汚辱を受けた彼女であったが、その後色々あって回復し、現在は裏トーナメントにも参加中である。 偽原に対しては実に複雑な心境の彼女ではあるが、前に出てきた高島平四葉と弓島由一らと同じように、軽く協力してくれたら、自分が優勝した場合の大会賞金の一割を渡す、という甘言に乗って、ほいほいと依頼の形式で、彼に協力してしまったのであった。 女子高生だが、彼女もプロの名探偵である。正式な依頼、それも破格の報酬があるとなっては、完遂しないことには信用に関わる。 「という、こっちの事情を利用して、またも言いように使われた気がする~」 「あっ、裏トーナメントの準決勝がそろそろだ。じゃあね、チャラ男さん。あなたが、この後ファントムされても、私が裏で優勝すればなんとかなるかもだから~」 そして、こまねは会場を後にした。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ――ふむ、こまねちゃんは一回戦に続いて、また何とも言い難い演技をさせてしまったね。申し訳ないことだ。 (ルールは破れんだろう。流石にあの姫将軍と一戦までして、事前に映像を用意する程の余裕もなかった) (代替としては、これがベストな方法だ) ――うん、私としてもあまりにも展開に無理筋のあることは書けんしな。 ――だがまあ、安心だよ。私も心苦しいのだ。彼らは私ではなく、別の方が大切に書いたキャラクターなんだ。 ――やむを得ない戦闘行為ならともかく、無暗にあんな映画を見せることはしたくない。 (……出鱈目を記すな。お前は、書ける状況であれば、嬉々として書くだろう) (本当はゲラゲラと笑いながら、もっと直接姫将軍が苦しむ様を書きたかった。違うか?) ――………… ――ノーコメント、だと書いておこう。 (さて、セニオの奴も相当追い詰められていると見ていいか) ――そうだね。仕上げの時は近い。 ――せいぜい、気を引き締めてくれたまえ。私は応援しているぞ。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「ヒャッハ―!!ファントムルージュゥゥゥーー!!ヒャハ――――!!」 まわりまわって十数件目、最後の男、今はモヒカン雑魚となっていたかつてのチャラ男3、ケイゴの絶叫が部屋に響いた。 「ウェーイww アイツww、モヒカンになっても声変わってねえなあww ウェーイww」 セニオは、未だ平然とした様子でチャラさを保っている……ように見える。 だが、その心は実際には擦り切れてボロボロなのだ。ただ、彼にかけられた呪いが彼を支えているのか。 それとも、何か別の希望でもあるのか。 パンパカパーン セニオの近くにあるノートPCから、緊張感の無い効果音が流れた。 そして、今やセニオにとってはただ忌々しい声、偽原の声が流れる。 「コングラチュレーション、セニオ君。今ので最後だ」 「今のモヒカンチャラ男で、私がこの数日で探せたチャラ男は全部だ」 「いかがかな、久々の再開、楽しめたかな」 「ウェイ、もう……オッチャンの声は、聞きたくねーな……」 「ふっ、流石に限界が近いか? まあそれもすぐに分かる」 「では決着をつけようか、セニオ君。俺がいる場所を明かそう」 「俺がいる場所は『お巡りさんがいるところだ』」 「少し考えれば、君にも分かる。では、来たまえ。待っているぞ」 「ウェイ? オーイ?」 そして、偽原の声は消えた。 それきり何の音もしない。セニオは途方にくれた。 「お、おーい、チョっww あのオッチャンww ナニイッテンダww」 「ヤッベ、もう時間無くなる……ww 何だよーおまりさんの居る所ってwwん、おまわりさん?」 セニオの動きが止まる。 「そっか、こんな古臭い場所でも、一つはあるよな」 そして、セニオの姿はその場所から消えた。 セニオの姿が転送される。 今日何度目の転送か、良くも一度も失敗せずここまで来たものである。 そしてセニオが前を向くと、そこには一つの看板があった。 『××村、駐在所』 そこはこの廃村の駐在所。 過疎地に対して、警察官が常駐する場所である。 「ウェーイww こんな簡単なこと、なーんで気づかなかったんだww」 セニオは、駐在所の門をくぐる。 中には、警察官が使用する、様々な備品が置かれていた。 だが、探していた偽原の姿はない。 セニオは中に入り、辺りを見回すと、すぐに奥の方に地下へと降りる階段があることに気づいた。 セニオは進み、ゆっくりと、階段を降りていく。 そこは、周囲の全てがTVモニターで覆われた地下室だった。 その中心に、椅子の上に腰かけて、探していた男。偽原光義が、いた。 偽原は、おそらくここにあるモニターで、この廃村内全てをカメラを通して監視し、これまでセニオを煽っていだのだろう。 「ウェイッ……」 セニオはすぐに、後ろを振り向いた。 気づいたからだ、偽原の周囲のTVモニターが、これまでセニオが見てきた……正確にはその音声を聞いただけだが、彼のかつての友人たちが、あの映画……偽原の能力、ファントムルージュ・オンデマンドによって苦しめられる映像を写しているのを。 「どうした? 何故振り向く、セニオ君。せっかく君の前に姿を現してあげたというのに」 「ウェーイ。オッチャン。ワリーけど、調子に乗るもの、ここまでだぜww ウェイwwウェイww」 セニオは、ここにきて妙にチャラさを取り戻し、笑いに勢いが戻っている。 偽原は、カチャリ、とライフルを構える音を立てた。 「俺を見ずに、どうやって戦うつもりだ? 悪いがこちらも準備はきっちりと整えている」 「後は君を撃ちぬき、映像を見せるだけだ。簡単なことだよ」 「ウェッウェッウェッww、ウェッウェッウェッww」 セニオは高らかにチャラ笑いを繰り返す。 「悪いな、オッチャンww ここまでこれたらもういいのww もうダイジョブ」 「後はあんたを倒せば、全部元通りだから、ガチデww」 「何……?」 怪訝な声を上げる、偽原。 セニオは高らかに声を上げるーー!! 「時間、ギリギリだったわww でもまだ2時間以内」 「だから、俺の勝ちィーww」 セニオは目を閉じたまま振り向く。 そして偽原を指差し、叫んだ! 「『セット』! 『世界の敵の敵』ィ!」 偽原光義がこの数日間、セニオのかつての仲間達を虱潰しに探して準備を進めていたように、セニオも座して今日までの戦いを過ごていたわけではない、 偽原に対抗できる、コピー可能な魔人能力が無いか、大会運営と大会参加者の中から探っていたのである。 そして行き着いたのが、偽原やセニオとは別の2回戦を勝利した魔人、"ケルベロス"・ミツコの能力、『世界の敵の敵』であった。 『世界の敵の敵』は、常時発動型の魔人能力である。 "ケルベロス"・ミツコは他の魔人を倒すことで、その主人公力を奪い、自動的に自らの力のリソース(この場合は正しく『消費する源』という意味である)とすること。 そして、その後ミツコ達が『世界の敵』となる存在を『認識』することで、その世界の敵がもたらした災いを打ち消すことができる。 ミツコは2回戦で、猪狩誠という自分の家族をリソース(ここでは正しく(以下略))として力を得てきた魔人を倒す時に、この力を使い、彼をきっかけにこれまで起こされてきた災いを打ち消した。 猪狩誠は『家族の犠牲』という災いを世界にもたらしてきた。猪狩誠は『世界の敵』となる存在と『認識』されたのだろう。 そして、2回戦を見たセニオもミツコ達が世界の災いを消した事実を認識することで、その能力内容を把握した。 (セニオの能力は通常、情報媒体越しには効果が無いが、ミツコの能力は「世界」そのものに影響を与えるため、彼は認識することができた) 彼はその能力こそが、世界に『ファントムルージュ』という災いをもたらす偽原光義の能力、ファントムルージュ・オンデマンドに対抗しうると思ったのである。 セニオは試合の直前、もう一つの準決勝へと赴く前の"ケルベロス"ミツコに接触し、その能力をラーニングしていた。 (常時発動型の魔人能力なので、セニオが元から知識さえあれば、接触するだけでラーニングが可能である) セニオも、ここまでの戦いで4人もの主人公の可能性を持った魔人達に勝利している。 彼らの力があれば、ある程度の大きな災いを打ち消す力を得るには十分。 この男、自分の目の前にいる偽原光義の能力、ファントムルージュ・オンデマンドは確実に世界に滅びをもたらす側の力だ。 それはこれまでの、そして今回の戦いのおけるこの男の行動が何より証明している。 ならば、この能力によって、偽原がここまで起こした災いは、確実に打ち消すことができる。 その希望が、ここまで偽原の姦計に一方的に追い詰められいたセニオを支えていた、答え。 これで、偽原を打倒する力を得ることができる。 今、セニオは、『世界の敵の敵』となるーー!! 「…………」 「…………」 「………………………」 「………………………ウェイ?」 何も起こらない。 『世界の敵の敵』が発動した様子はない。 あの能力が発動すれば、世界にノイズが走り、目の前の敵によって世界に引き起こされた災いは修正される。 そして、その敵を倒す力が湧きあがるはずだが、そんなものが得られる様子はない。 「ウェイ? なんで?」 「残念だったなあ……セニオ君」 偽原は立ち上がり、ゆっくりとセニオに近づいていく。 その視線は、まるでセニオを哀れむように見つめている。 「俺が世界の敵なのかどうか、それは分からん」 「だが、世界が確かに俺を敵とみなせば、お前の能力は発動するのかもしれん。俺もミツコの能力の詳細は、2回戦の映像と、『奴』から聞いた断片的な情報でしかしらんが」 「だが、今は駄目なんだ。世界の敵とは、今この瞬間は、俺のことではない」 「現在の世界の敵とは、『今、俺を書いている男の方だ』」 「…………ハア?」 「俺はな、セニオ君。この戦いの数日前、君が2回戦で戦った相手、紅蓮寺工藤の能力を受けた」 呆気にとられるセニオの前で、偽原は、空を仰ぎ見ながら、解説を続ける。 気づけば、周囲のモニターからの音が消え、偽原の声のみが響くようになっていた。 「そして、俺は奴の能力にかかり、この世界の真実を知った」 「そして、俺の戦うSSを書いている男の存在、それを『認識』した」 「……下らん男だ。奴は自分の味わった絶望を、この世界へ向けて全部ぶちまけようとしている」 「俺も自分の運命が、俺と家族のあの運命が、あんな男によって弄ばれたものだったと知った時は、嘆き悲しんだよ」 (だが、その絶望だけは、まぎれもなく俺と共通していた……)と、偽原は心の中で一人ごちる。 「そして、俺は奴の手の中で、奴の書くがままに今、世界に滅びをもたらす存在になった……『ということになっている』」 「分かるか? つまり今世界に滅びをもたらそうとしている元凶は俺ではない。その男だ」 「ハア……? そ、そんなわけねージャン。アンタがやったことっショ?? 全部、アンタが」 理解できない、とセニオは狼狽する。 チャラ男な彼にも、こんなわけのわからない話を聞かされては、さすがにうろたえざるを得ない。 「まあ、確かにいくらこの世界が物語で、その作者がいると言っても、作者自身とその登場人物は全く別の存在。その人物の行ったことは、すべてその人物の責任になるだろう、普通はな」 「ただ、俺の能力に関しては、特に俺を書いたその男の認識との結びつきが非常に強い。その男の「意思」なくして、俺の能力は、あんな力を持たん」 「だから、世界の敵を示すなら、今は俺ではなく、その男の方を示さねばならんのだ」 「だが、その男は、ここでは無い。まったく別の世界。例えれば、天の上とでもいうべきか。そこで今、俺たちの戦いを書いている最中だ」 偽原はセニオの方を向き直し、指を天へと向けた。 「お前には決して認識できん。お前にかけられた紅蓮寺工藤の能力は、二回戦で既に切れてしまっている」 「自分が認識もできない存在を、『世界の敵』とすることはできないよ。だから、お前がコピーした能力は、『世界の敵の敵』は発動しない」 「だから、お前に力が宿ることも、これまで起きた災いが消えることもない」 「い、意味わかんね? マジデwwガヂデww」 「まあ、確かに意味の分からん話か、いってみれば俺が神を認識したことで、神が生まれ、全ては神のせいになったと言っているようなもの。実に馬鹿馬鹿しい」 「だが、今確かにその神らしき奴は実在する。神をどうやって罰する……?」 「 ……といっても、この展開も全てはその神の書いている通りに起きているだけか。ならば、そもそもこんな議論も不要か。 ふっ、確かに意味の分からん話だな」 偽原は、自嘲気味に首を振った。 「お前は既に紅蓮寺の能力の効果が切れているから、忘れているだろうが、二回戦で遠藤終赤が心の中で言っていたな。 卵が先か鶏が先か。どちらが先なのかなぞ、証明は出来ない、と な」 「とにかく、そういうことだ。お前は『世界の敵』を倒せない」 「ハ、ハハハ、ナンダッテーww ウェーイww ウェーイww」 セニオの中でこれまで自分を支えていたものがガラガラと崩れていく。 もう、ここまで起こった事実を変えることはできないのだ。運命は変えられない。 ダイキ、シンタロー、セイジュ―ロー、ユーシ、ガクト、ジロー、レンジ、ヒロシ、ブンタ、ガクト、それに……サツキ、サクラ、彼の仲間たちの、そしてかつて愛した女たちの顔が浮かぶ。 そして、これまで聞かされてきた彼らの悲鳴へ、そのイメージが変わっていく。 『シリアスを理解できない』セニオの呪い。だが…… 「さて、もういいだろう。セニオ君、これがラストだ」 セニオは気づけば既に目を開けて偽原の方を見ていた。 「最後の映像、見てもらおうか。そして、逢えてこの言葉を送ろう」 「おとなしく、上映(うんめい)を受け入れろーー」 偽原の背後のモニターに、その『映像』が表示がされた。 「セニオ……、お前、立派になったね」 「ウェッ……??」 「お母さんは、嬉しいよ」 それは、セニオが今日聞いた中で、もっとも懐かしい、声。 彼の母親の、映像だった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * チャラ男は皆、生まれた時からチャラ男か? 否、どんなチャラ男にも、その前の段階は存在する。 生まれついての悪人というは、もしかしたら存在するかも知れないが、生まれついてのチャラ男というのは存在しえない。 どんなチャラ男にも、いたいけな子供時代というのは存在するのだ。艶やかなアクセサリーで着飾る前、金色に髪を染める前の時代。 数年前――。 それは、この廃村と良く似た、のどかな田舎の村。 夕日を背に、一人の黒髪の少年が、年老いた女性と会話をしている。 「じゃあ、お母ちゃん。俺、東京に行ってくる」 「セニオ、本当に大丈夫なの?」 「大丈夫だって、東京に行って一旗上げるのが俺の夢なんだ。派手に東京デビューとかしちゃったりして。はは」 「お前にそんなこと、できるのかねえ。お母さんは心配だよ」 「俺には夢があるんだ。東京にいって、それを叶えて来るよ」 「もう、電車が行っちまう。それじゃ、お母ちゃん。夢を叶えたら、俺、必ず帰ってくるから!!」 少年は、電車へと乗り込む。電車が発車する。 女性はそれを走って追いかける。 「セニオーーーーーーーーーーーー!!」 少年は、涙を流しながら、女性に答えることなく、背を向けた。 ……その少年が「ウェーーーイww」という言葉とともに都会に染まり、チャラ男と変化するのはその約一ヵ月後である。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「お、おかあちゃーーーーーーーーーーーん!! ああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!」 2020年の現在。 セニオは、涙を流しながら、目を見開いて絶叫している。 その姿は、一人のチャラ男から、かつての純粋な一人の田舎少年の姿へ、戻っていた。 彼の目に何が写っていたのか。それを克明に描写することはあまりにも残酷で筆者にはできない。許してほしい。 そして。 偽原の能力、ファントムルージュ・オンデマンドが発動する。 フ ァ ン ト ム ル ー ジ ュ (あ、この冒頭。俺あいつの能力にかかっちまったのか) (デモダイジョーブ……俺、これもう見たしww) (同じような内容なら、全然耐えられ……) (ウェ……な。なにこれ……、ツマンネ? ただツマンネ?) (ナニモナイ……空っぽだ? 作ったやつ、ナニカンガエテルノ? ナンニモツタワンナイヨ?) (アレ、コレもとの奴……あんな凄い漫画なんでショ? それが……ナニ?) (あ……さ、サム……サム……) セニオの脳髄は深い深い闇の中。 酷く冷たく、恐ろしく肌触りの悪い水の中に使っているような感覚を受ける。 やがて、全身が痺れていくのを感じる。 体の痛みは、ない。 ただ、心が沈む。 目に移る作品から流れ込む、そのいあまりのどうしようもなさ。 そこにはセニオを傷つけようとする意思など微塵もない。 ただ、彼の意識を闇に沈めるのみである。 (全然違う……前に見たのと全然違う……) (なんだこれ……なんだこれ) * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * その作品には、熱が無い。 意志が無い。工夫が無い。情を感じさせない。人間の持つ叡智、というものを何一つ感じさせない。 元となった作品は、それとは全く真逆の力を持った作品だというのにである。 例え、どれほどの年月をかけ、 例え、どれほどの情熱があり、 例え、どれほどの純粋な思いがこめられたものであっても、 人間は、何の意志も無く、きわめて平坦な感情で、それを一瞬のうちにガラクタに化すことができるのだ。 それが人間なのだ。 セニオが一回戦でファントム雨弓からファントムルージュの劣化コピーとやらを見せられた時、セニオの肉体にもダメージが表れていることを見て、偽原はその劣化コピーを作った人間がファントムルージュを何一つ理解していないことを悟った。 そもそもの前提が違うのだ。ファントムルージュを作ろうとした人間には駄作にしてやろうとか、見る人の精神を破壊しようなどどいう意識は欠片も無かった。 ……失礼。いくらなんでもそんなつもりで作品を作ろうとするなど、よほど特異な例を除いては存在しない。 だが、その作品には、逆に通常の作品には感じられるはずのもの。名作にしよう、お客を楽しませよう、といった正の方向での意志や情熱すら全く感じさせない。 だから、少しでも駄作にしてやろうとか、相手を傷つけよう、などどいうモノがこめられた時点で、その作品はファントムルージュではなくなる。 肉体的なダメージという破壊的なベクトルを込めるなど、ファントムルージュではない。 つまらなさ、ただつまらなさ。 その映画が指し示すのは、言うなれば、圧倒的な人間の可能性の無さ。 それが、この世界におけるファントムルージュの正体である。 「お、オカーちゃん……怖い、トーキョー、怖い……」 「世界平和だって……? ハハ……駄目だわ、こんなのを作る奴がいるんじゃあ……」 「俺、やっと理解できたよ……世界って、人間って、こんなにくだらなかったんだあ……はは」 セニオは……今やチャラ男の原型を留めていなかった。すっかりただの2○才の男である。 こことは別のとある世界。一人の青年の精神を、いやその青年だけではない、数多くの、その漫画のファンの精神を蹂躙した映画。 それは今、この世界において、彼らが抱いた、絶望を、苦悩を、憎しみを、悪夢を体感させる存在として、顕現する。 そんな圧倒的な『人間そのものへの絶望』の量を味合わされては、もはやチャラ男どころではなかった。 ーー幕切れは、あっさりしたものだったね。 偽原の頭の中で声がする。 今回の大会中、ずっと偽原に語りかけていた。うざったい、その声。 「全てはお前の思うとおりの展開を書いただけ、違うか?」 ーーいやいや、ここまでのシナリオを実行できたのは紛れもない君自身の力だよ。 ーーしっかりと準備を整え、かつての仲間(リソース)達を潰していき、セニオから、彼のアイデンティティーであるチャラさを奪いとる。 ーーこの作戦は君でなければ実行できない。 ーーそして、あれを最後までとっておいたのが良かった。 「人間にとって、やはり肉親への情愛こそはもっとも大きいものだ」 「それを完全に断ち切ってしまうことは、できない」 ーーふむ、結局、セニオは真の孤独には立てなかった。神にはなれなかったということか。 ーー芥川龍之介の『杜子春』という小説が、似たような話だったね。言葉を発せずにいれば、仙人になれると言われて艱難辛苦を耐え抜いた若者が、最後に耐え切れず声を発してしまったのが、彼の母親が苦しむ姿だった。 「お前が、それを参考にして、この流れを書いたんだろう」 ーーいやはや、正直そこを書くためだけに字数が伸びすぎた。 ーーどうだね。今もう二万字を超えているよ。タイマン勝負でこれだけ書いたのは多分私がはじめてかな。 「自業自得だな」 ーーそうだね。さて、そろそろ私はお暇(いとま)させてもらうよ。 「何? どういうことだ?」 ーーあまり私がでしゃばっては。読者諸兄にもいい加減うざったいと思われてしまうからね。それに、こんな反則手が使えるのも一回こっきりだ。次からは確実に飽きられる。 ーーああ、君が幕間SSで傷つけた紅蓮寺工藤だが、色々あってファントムルージュから解放され、君に関する記憶も消えたことにしておいた。 ーーというわけで、そろそろ私に関する君の認識も消える。 「そんないい加減なことでいいのか」 ーーそれで読者が納得してくれれば問題ないのだよ。 ーーというわけで君が次に戦うときは私の助勢は無しだ。がんばってくれ。 「お前は、何もしなかったろうが」 ーーまあ、そうだね。私にできたのはせいぜい自分が『世界の敵』となっただけだ。 ー-次にオリジナルの"ケルベロス"ミツコが上がってくる可能性もある。その時は、今度こそ君が世界の敵かな? (……そうなった場合の流れもお前が書くんじゃないのか?) (こいつのわざわざ芝居ががった物言いには、最後まで慣れなかったな) ーーでは、さらばだ。私にこの続きを書く資格が得られるかどうかは、それこそ本当に天のみぞ知るところだが。 ーー私は君というキャラクターを書いたこと、生涯忘れないよ。 「そうか。では最後に一つ言わせてくれ」 ーーん?なんだね。 「地獄に落ちろ」 ーー……では。 そして偽原の頭の中から声が消える。 その瞬間偽原は「ん……俺は誰と会話していたんだ?」とやや混乱したが、近くに倒れているセニオを見て、落ち着きを取り戻す。 自分は勝利したのだ、あの男の心を、その身にかけられた、その呪いごと叩き折ることによって。 偽原は彼に近づいて、語る。 「……さらばだ、チャラの王よ。だが、お前は結局神にはなれなかった」 「しかし、心配することはない。お前の目的。世界平和だったか。それは果たされる」 いまだ虚ろなセニオは「ウェイ……?」と偽原へ目を向ける。 「そう、俺があと一回勝てば果たされるのだ」 「俺の目的……、それはファントムルージュにより……世界に真の滅びをもたらし」 「そして、救済することだ」 準決勝、終了――。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousurass/pages/56.html
準決勝第二試合 バロネス夜渡 名前 性 魔人能力 池松叢雲 男 統一躯 バロネス夜渡 男 ブラディ・シージ 採用する幕間SS なし 試合内容 『Oh comer done think on the coalmine hack a barn』 オカマバー「カーマラ」、閉店後。 「なあ、俺は何でこんな仕事をしてるんだ?」 「アタシに雇われたからでしょ」 机に向かって作業をする二人の男……もとい、一人の男とオカマ。 手元には青と白の二色の布。ミシンで縫い合わせているようだ。 「いや、確かに俺の仕事は便利屋なんだけどさ、もっとさ……こう…… とにかく、こういう内職するような感じじゃあないの」 「えっ」 「えっ」 「……だってアタシ忙しいのよ。仕込みもしなきゃいけないし、お店だって出なきゃなんないんだから。 それともアンタ、池松叢雲の情報でもあるっての?」 「いや……それはないけど」 「じゃあ手、動かしなさいな。 別に女装してお店入れとかじゃないんだから」 「つってもだな、俺別に裁縫とか得意じゃ……」 「魔人だから大丈夫でしょ」 「はあ、そんなものかねえ……」 ――無茶苦茶な理論だ。 便利屋、南瀬弘市は頭を掻いた。 ――さっさと終わらせて、家に帰ろう。 NEW【夜なべマントLv.1】 青白二色刷りの特製マント。 一部に星が散りばめられた爽やかなデザインは、バロネスには似つかわしくない。 池松叢雲。バロネス夜渡。 この二人にとっての対戦相手は、1回戦で自らを下した男を髣髴とさせる。 池松叢雲は、その遠隔操作能力に不動昭良を思い返し。 バロネス夜渡は、その身体性能に裸繰埜闇裂練道をみることだろう。 互いにとっての疑似リベンジマッチ……そのはずだった。 熱気に包まれた空間に、空気も淀む、劣悪な環境。 酸素の欠乏と気温の上昇がバロネスの調子を狂わせ、理性を奪ってゆく。 要するに、頭が湯立っていた。 本能の赴くままに動き始めるほどに。 オカマの本能――行動原理の根底に向けて…… 一方の池松は、涼しげな表情。 もっとも、彼の顔の上半分は鳥仮面に覆われているため、完全に表情を窺い知ることはできないのだが。 環境が苛烈なら、それに適応した英語を繰り出せば済む話だ。 丹田から英語を生み出し、正しき呼吸で接する。 「cool-cool-cool-cool」(「くるくるくるくる」という英語) 高度に高められた英語は、魔人能力と区別がつかない。 既に悪環境には動じない。 あとは一撃の為に、呼吸を整えるのみ。 それからしばらくの時間を経て、邂逅する二人。 出会っての、バロネスの第一声は。 「その……アタシと、体液交換しませんか? 唾だけでも、いいですから……!」 バロネスは、己が欲望に素直に動いていた。動き過ぎていた。 その根本原理は要するに、“愛”。 「I’m-nick(生憎)、そのような趣味はない」 「そ、そんなあ……いけずー」 寂しそうな(不気味な)顔を浮かべていたバロネスだが、不意に、影を帯びたような表情へと変わる。 「……きっとあの転校生や、半裸坊やの方がいいんだ。 ねえ、どうしてアタシだけを見てくれないの? やっぱり、”向こう”で一緒になるしかないのね……」 「――落ち着け、Baroness夜渡」 「キャッ、名前で呼んでくれた! 名前、呼んでくれた……!」 「言葉が通じんようだな……いいだろう、Lessonだ」 言い終わると同時に、強烈な踏み込み(Who-mean-call-me)! バロネスの取った動きは、迎撃ではなく―― 持ちこんだマントを、高々と掲げ上げた。 青地に浮かぶ五十個の白星、白地に引かれし十三条の赤線。 星条旗――合衆国の象徴。 「アナタの為に、用意したの……気に入って貰えるよね? ね?」 主たる国の象徴、今の池松の英語では、傷一つ付ける事は叶わない。 英検士破れたり、いや違う――! 「女王陛下万歳(job-of-acre-buzz-why:「大英帝国に栄光あれ」という意味の英語)」 放たれた英語が、布切れをばらばらに切り裂いた。 布を細切れにするほどに、恐ろしいまでに鋭く英利なる舌剣でしか出来ぬ芸当。 「な、なんで……!」 「Queen’sに切り替えたまでのこと」 バロネスの困惑を攻略理由に解釈し、流暢に答える池松。 「……せっかく作ったのに……お揃いなのに……!」 「……相変わらず話の通じん奴だ」 そう言い放つと、池松は再度呼吸を整えにかかる。 荒々しく力強い所作に終始していた今までとは、いささか呼吸が異なる。 アメリカ式が全力の一撃の為に力を溜め続けるのに対して、イギリス式は平時の力の配分を極力抑え、一撃への力を温存、集中させる。 もっとも、方法論こそ異なれど、本質は同じだ。 一撃に全てを注ぎ込むための、発話(hats-were)。 ふと、自分の身体を見やると、ところどころに返り血。 池松はあの赤色は血で描かれていたのか、と得心する。 切り裂いた国旗に塗られていた血を浴びせかけるのが真の狙いか。 「ふふふ……体液交換体液交換体液交換」 バロネスがその血での操作を試みるも―― 「闘ッ(taught:教えたという意味の英語)」 池松は全身を激しく震わせ、身体の血を篩い落とす。 「ひどい!」 「やっぱり……その邪魔な手足なくしちゃおう」 続いてバロネスの持ち出したのは大量の鶴橋! 既に体液はべったりついている……血の付いた鶴嘴による、波状攻撃! 迎撃も防御もせず、一歩引いてみせる池松。 なんと奥ゆかしい所作! 「……何で逃げちゃうの?やっぱり、足もがなきゃ」 刃の群れが迫る度に後ずさる池松。 じりじりと後退していった彼の背に、何かにぶつかった感触。 行き止まり。 尚も追い縋る鶴嘴。 彼の目が、爛々と光輝く。 ついに一撃の構えに入ったのだ。 反動で吹き飛ばされぬよう、背中を預けるべき壁は既に見つかった―― 「雪月花(set-get-cut)」 一切の無駄の無い、洗練されきった雅(mean-yawn-been)なる一撃。 閉鎖空間で撃ち込まれた全力の英語は、襲いかかる刃物を打ち砕く。 その凶悪な勢いはそれだけには留まらず、池松自身の周囲に存在する、硬く 分厚い岩盤をTofu(柔らかいもの、校舎の外壁、等の意味の英語)の様に叩き割る。 造られた無数の瓦礫同士は勢い良くぶつかり合い、夥しい破片を生む。 破壊が更なる破壊を呼び、炭鉱全体を大きく揺るがす。 その激しい衝撃に、最初に耐えられなくなったのは――他ならぬ炭鉱自身だった。 女神の設えたフィールドは、発生した膨大なオブジェクトに処理落ちたのか。 そもそも岩盤が崩れる程度は想定していても、“フィールド全体が”丸ごと 壊される事態など想定していなかったのか。 眼下に広がる奈落へ、全てが崩落していく――! 戦闘領域は炭鉱内とされていたが、その炭鉱自体が崩れ去った今では、元々炭鉱が あった位置がエリア限界とみていいだろう。 落下すれば、その時点で負け扱いだ。 こうなると俄然有利なのは、浮遊能力を有するバロネス夜渡。 そう思われたが…… 閉鎖された戦闘空間が吹き飛んだことで、新鮮な空気が一気に肺に侵入、脳に酸素を 行き渡らせ、バロネス夜渡は覚醒した。 というより、正気に戻った。 「なーに年甲斐もないことやってんだアタシ……」 彼は自嘲とともに、自らの行いを完全に『おもいだす』。 バロネスの眼に映るは、鳥仮面の男。 その仮面のデザインに反して、飛行能力の無い彼は、為す術の無く落下を―― するわけはなく。 落下していく残骸を、踏みしめた! 「堂ッ(dome)」 舞い散る瓦礫を―― 「烈ッ(let)」 蹴り飛ばしては―― 「魅ィッ(meet)」 次の瓦礫へ移り―― 「風ァッ(far)」 まるで宙を駆けるかの如き―― 「空ッ(solar)」 英語! 目にも止まらぬ速さで、鳥仮面の男がアクロバティックに飛び回る! 英検の級から段への最大の壁と言われる、八艘跳び(hash-auto-beam)の技前だ。 巧みなる動きに、翻弄されるバロネス。 ただ跳び回っているだけでなく、踏み込んだ足場が絶妙に蹴り込まれ、バロネスの逃げ場は狭められているのだ。 そして―― 「死ッ(shit)」 頭上からの強烈な蹴り! 身体を無理繰り紙一重でかわすバロネスと、池松の視線が合う。 蹴りは囮。 狙いは交錯の一瞬――! 拳に乗せた全力の一撃を叩きこむため、池松が発音する! 「オワリダ(all-warn-eater:『これで終わりです』という意味の“不完全な”英語)」 ……“不完全な”英語! 英検40段の人間にはあり得ないことである! 急速に動きの鈍った池松を、バロネス夜渡の拳が捉える。 防御に掲げた腕を圧し折り、重い一撃が叩きこまれた。 池松を襲う、違和感。何処から来るものか、彼は思考する。 殴られた触覚……否(inner)。 自らの英語を聞き取った聴覚……違う(cheek-gown)。 正体は……味覚。 血の味。自らのではない――! 「シタヲ!」(hit-tongue-war!:『舌を操りましたね』という意味の“不完全な”英語) 星条旗を切り裂いた時に、飛び散った血液。 体液交換を目指した“先程までの”バロネス夜渡が、池松の仮面に付いた返り血を 彼の口内向けて滴らせていたのだ。欲望のままに。 池松の身体は、平時のパフォーマンスを発揮できない。 それどころか、全身に火傷のような痕が生まれ始めている。 不完全な英語は、話者を大きく傷つける。 特に有段者ともなれば、その反動は計り知れない―― 英検士とは、そのリスクと引き換えに英語を宿す覚悟を決めた求道者なのだ。 「……ふむ(whom)」 落下していきながらも、瓦礫の一欠片を手に取る池松叢雲。 それを逆手に構えると。 自らの身体に、しめやかに刻み付ける! そこに刻まれた文言、それは。 Come-could-go――『覚悟は出来ています』という意味の、英語。 Speaking、Reading、Listeningと共に、英語の四聖と称されるWritingの技術である。 英語を刻まれた肉体が、再び勢いを取り戻す! 最早足場となる物体が無くなりつつあるものの、池松は数少ない足場を駆使し、バロネスへと飛びかかる―― 「『Bloody-Siege』――英語ってこんな感じだっけ?」 ビリビリに破かれた星条旗の切れ端が、寄り集まり。 形成するは、トリコロールの幾何学模様。 青地に赤と白のラインからなる、王国の象徴、ユニオン=ジャック―― 既にその身に書き込んだQueen’s(えいこくしきえいご)が、本能的に“それ”への攻撃を拒絶する。 空中で急制動をかける池松だが、勢いは止まらず。 池松叢雲の身体が、物理的な壁に当たったのかの如く弾かれる。 虚空に投げ出された彼は、足場を失ったまま、彼方へと落下していく。 「ミゴトだ」(we-got-done:『見事な発音ですね』という意味の、“不完全な”英語) 仮面の奥の瞳が、一瞬柔和な笑みを湛えた、そんな気がした。 終(See-you:「お読み頂きありがとうございました」という意味の英語)
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/959.html
765 :創る名無しに見る名無し:2009/03/24(火) 22 37 15 ID rq5DfhKj GYR(幻想郷ゆっくりリーグ)幻想郷中のゆっくりが集まりあい同種でチームを組んでどちらが ゆっくりしているか競う[[ゲーム]]である。なお判定者は人間 765 準決勝戦前の控え室にて。 さくや 「先鋒・めーりん。次鋒・ちるの。中堅・るーみあ。副将・ぱちぇ様。大将はおぜうさま!!」 ふらん 「わたしは~?」 さくや 「妹様は『かくしだま』です。決勝はたぶん チーム・オブ・ありす(ベーシック・整形・親不孝・ 淫乱・きめえ丸寄生型の5名)。その時まで温存しておく作戦です」 ぱちぇ 「むきゅー。いきなり入れ替えで、めーりんが先鋒?何?捨て駒?」 さくや 「いいえ、今回は圧倒で勝ちに行きますよ!!!」 ぱちぇ 「相手のチーム・オブ・妖々夢---先鋒はいつも通りならレティね!!!」 さくや 「めーりんなら、よりゆっくりできるはずです」 るーみあ「本人はもう寝かけてるのかー。コンディションは絶好調かー」 めーりん「今日の私は、いつでもゆっくりしてますよ!!!」 そうこうしている内に、それぞれの思いを胸に、試合開始!!! -''"´ `' ,'´ ,. -‐ァ'" ̄`ヽー 、 `ヽ ゝ// `ヽ`フ / .,' /! /! ! ハ ! ',ゝ ( ! ノ-!‐ノ ! ノ|/ー!、!ノ ,.ゝ ヘ ,ノレ' rr=-, r=;ァ ir /! ノ ( ノ !/// /// ! ヘ( うふふふ・・・・ ) ,.ハ ''" 'ー=-' " !',ヽ ) ''!トト.、 ,.イ i.ノ、 i=ョ=ョ=ョ=ョi ヾへ/\ ー一 / / ̄`ヾ i=ョ=ョ=ョ=ョi ,. / `ヽァ'´`ヽァ'´/ |l i=ョ=ョ=ョ=ョi / _L.__/__ V- 、 ! i=ョ=ョ=ョ=ョi ,′  ̄ ` ー 、 __ ``'′ \ / i i=ョ=ョ=ョ=ョi l `ヽ、 ,/ | i=ョ=ョ=ョ=ョi ` ー┬─ ァ- 、 、 トJ,ィ l i=ョ=ョ=ョ=ョi /j. / `ヽ_y'^'´ l ヽ / i=ョ=ョ=ョ=ョi / ハ__/ / l '、 ! i=ョ=ョ=ョ=ョi ,' l. l/ `ヽ、_/ l. l'′ i=ョ=ョ=ョ=ョi l |,/ ,イ | l i=ョ=ョ=ョ=ョi l,/{ /! l | / i=ョ=ョ=ョ=ョi / ヽ` ーチニ′ | ,ノ! / i=ョ=ョ=ョ=ョi / `′/-'´ |─- ´ 〃 i=ョ=ョ=ョ=ョi { /ヾ ! / \ _____ ,/ チーム・オブ・紅魔館一同『『『ゆっくりできないいいいいいいいいいいいいいいいい!!!』』』 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/rcmuseum/pages/847.html
[97/03/09 05 19] mim 「[大会]18th(17)決勝戦その4」 決勝戦その4をお送りします。 ////////////////////////////////////////////////////////////////////////// 現在の状況 ////////////////////////////////////////////////////////////////////////// <第2回戦 第1試合> Map DESERT ゆず改 どるかしゅ (YUZU-K; 4,LKN,MIN) vs (DORKASYU; 4,POW,ATM) めかヨリタ くまきち [2’59”] ゆず改、前進し地雷を敷設していく。どるかしゅ、斜め前にゆず改 を見つけ軸をずらす。 [2’41”] ゆず改はマップ下端に達し、マップ右へと進んで行く。どるかしゅ はゆず改との軸をずらしつつ接近してゆき... ---------------------------------------------------- ---------------------------------------------------- 荒地に足を取られ動きの遅いゆず改に隣接したどるかしゅ、先制し パワーアームをゆず改に叩き込む! ゆず改はダメージを受けながらも悠然と直進して行き、どるかしゅ の2度目の攻撃は空振りした。 [2’35”] どるかしゅもそのまま前進し、マップ右端にたどり着いたゆず改 の背後に入る。どるかしゅ!...撃たないっ!ここでアトミックを 撃てばBDできるが、どるかしゅはそれをやり過ごした。 [2’18”] 両機ともマップ上に向かう。ゆず改は地雷を12個まで敷設し終え た。どるかしゅは そのゆず改を再び距離4HEXにて捕捉するが、 今度も回避運動を取り地雷源の方に移動。 ゆず改、最後の地雷を砂の上に落とす。どるかしゅは地雷に隣接し、 そして背後をゆず改が通過。それに反応したどるかしゅ、地雷に 突っ込む! ---------------------------------------------------- ---------------------------------------------------- [1’58”] それから どるかしゅは左に 120°ターンし、ゆず改を追いかける ように移動。だが、ゆず改の方が速度が速いので距離は離れて行く。 [1’00”] どるかしゅに比べ数倍の速さで走るゆず改が、逆に追いかける形 となり、マップ左端にてついに捕捉。背後を取られたどるかしゅは 軸をずらしてから反転。迎え討つ体勢を取る。 だが、ゆず改はそのままどるかしゅの脇をスルー... 。それはあた かも地雷に誘い込もうとしているかのようだ。 [0’36”] マップ下端に来たどるかしゅは ゆず改を追うように反時計回りに 進むかと思いきや反転し、今来たルート、すなわちマップ上方に進ん で行く。 [0’15”] 残り15秒でようやくマップ上端で距離5HEX範囲に入る両機。 現在のダメージを比べると、パワーアームで殴られたゆず改の方が大 きい... ああっ!ゆず改の残エネルギーがあと数ドットとなっている! [0’09”] ゆず改、エネルギー切れで機能停止。ゆず改が勝利するには どるかしゅ が地雷を踏んでくれなければならないが... 。 どるかしゅは ゆず改が止まったことを気にかけず移動を続ける。 そして... [0’00”] どるかしゅ WON! 評 どるかしゅは障害物に ぶつかったときのターン方向 を RANDOMで決定していました。この試合では地雷を 避けるような乱数が良く出たように思えました。 /////////////////////////////////////////////////////////////////// 決勝戦その5へ続く。 mim@18回大会主催者 Nifty18 (19)「決勝戦その5(準決勝②)」へ移動 《第18回 R.C.大会 in Nifty》へ戻る