約 42,572 件
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/400.html
裏準決勝戦SS・神社その1 *** 銀の衣が私を護る。 これにくるまって眠っているときは、悪夢にうなされることはなかった。 まるで、あの人がそばで見守ってくれてるみたい。 って、それはちょっとヤかも、なあんて。 咎を忘れたわけじゃない。 ただ、戦う理由を、もういちど確かめられただけだ。 私は私を貫く。 ……私が、殺してきた人たちのぶんまで。 *** 《1》 夕暮れの茜空が宵闇に染まる頃。 篝火が桜を赫々と照らしていた。 ここは京が神域の一、平野神社。 時は明治の中頃、今日は神幸祭。 文明開化の足音は、一方で神妖を白日の下に晒すには未だ至っていなかった。 ほぼ真四角の境内はおよそ二町四方と狭く、南側は桜が所狭しと咲き誇っている。 北側にある本殿の中では神事が執り行われている最中であり、参道にいる人はふたりだけだった。 黄昏刻は逢魔が刻。 没前の陽が、残光を彼女たちに儚く届ける。 ひとりはセーラー服の上に銀色のマントを羽織っており、顔は狐面で隠されている。 もうひとりは大剣を携えた背の高い女。機能的な服装に身を包んだ彼女の、表情は長い黒髪に隠されている。 対峙するふたり。 すると突然、背の高い女の姿が消えた。 次の瞬間、狐面の少女の背後に現れる。 少女の背中に剣が突き立てられる! しかし。 剣先は砕けて地に落ちた。 一瞬狼狽した女は、すぐに気を取り直すと、剣を捨てて少女の腕を取った。 再び女の姿が消える。 剣から少女を守ったのは、彼女が温泉旅館で菊池一文字に託された『シールドマント』。 時空間研究者である潜衣花恋の、50年以上にわたる研究の成果であるそれは、無機物の攻撃を無効にする。 もちろん襲撃者はそれを知る由もない。 大鳥居の向こう、神社へと続く道の上に登場する。 そこは戦闘領域の外。 剣がダメなら場外に追い出してしまえばいい。 どうやって殺すかは後で決めよう。女はそう考えた。 けれども少女の姿は女の目論見に反してそこには無く。 彼女の手首から先は、赤が滴り落ちるのみだった。 「偽名使いは場外狙いと。またさあ、しゃらくさい真似してくれるじゃん」 止血を施した後にもう一度戻ってきた女に向けて、刻訪結は紅に染まった瞳を向けて嗤う。 右腕には小さな紅く麗しい華が咲いており、その先の手には女の掌が握られていた。 彼女の操る『操絶糸術』が、剣を破られた後に場外勝ちに切り替えようと手を取った女の手首を瞬断し。 手首から流れ落ちる鮮血が特殊能力『赫い絲』の発動条件を満たしていた。 彼女の『赫い絲』は認識すなわちココロを結わえる能力である。 得られる情報は能力のみに限定されず、それにまつわるバックボーンも赤は教えてくれるのだ。 「テレポートなんて厄介な能力ねぇ。『仔猫の道(キティ・ウォーカー)』の読小路麗華さん?」 真名を告げられた麗華はいささかも動揺する素振りを見せず、地面に突き立てた剣を引き抜いた。 包帯で縛られた腕の先からは血が零れているが、額に汗も浮かべず平然とした様子である。 冷ややかに結を見つめて言い放つ。 「私は刻の辻斬り。その名は捨てた」 「だあれ、刻の辻斬りさんって? 血はね、嘘をつけないの」 対する結は掌を地面に投げ捨てると、狐面をくるくると弄びながら楽しげに返した。 麗華の眉が不快そうに顰められる。 「得体のしれないお前に言われたくないな。そのマントは何なんだ」 指をさして問う。 彼女の目には、ただただ殺意しかない。 菊池一文字とは正反対だと結は思った。 彼の目には一片の殺意もなく、あるのはひたすら闘志のみだった。 上毛早百合は半々ぐらいだったかな、などと思い出しつつ……。 「ふっふっふ、これはね、己の道をまっすぐ突き進んで行くためのもの」 マントの裾をつまむと、くるりと一回転して。 「てめーの曲がった刃じゃ貫けないのだ!」 高らかに宣言した。 自信満々の表情だ。 ため息をついた麗華は剣の柄の宝石に向けて一言語りかける。 すると。 剣は液体金属よろしくドロドロに溶け、やがて人の形をとった。 現れたのは、金髪碧眼巨乳の美女だった。 体が数箇所抉れて出血しており、地面の剣の欠片を見れば、いつのまにやらそれらは肉片と化していた。 「さすが、『刻訪』はやり口がえげつないでありましたの」 金髪女は蔑むような視線で吐き捨てる。 結は腰に手を当てて、足を踏みならし言った。 「はん、二対一なんてありえないことしてるやつらに言われたくない。てゆーかこの血、スズハラ臭いんですけど……薬漬けな訳? あなたたち」 お返しとばかりに二人を睨みつける。 しかし、金髪女……シェルロッタ・ロマルティナはまるで意に介す様子もない。 「2戦目ぐらいに時計を『渡して』くれたでしたトキトウさんも、ふざけたヤツでありましたね。右手が手刀で、左手が火器? まったく、バカにしてるんですか」 特殊能力『メタコムメルモル』で剣に変身していた彼女が他人と会話するのは、能力で自身の原型を保つ必要がなくなった5年前からは一度も無かった。 知らず知らずのうちに、彼女は高揚していたのだ。 「会話が成立してないし、だいたいその話はなに? 詳しく訊きたいな」 腕を組んで問いただす結。 シェルロッタは無視した。 麗華がにべもなく告げる。 「お前に語る言葉は無い」 シェルロッタとは対照的に、麗華の表情はどこまでも氷のように冷え切っている。 一切の感情を捨ててしまったかのようだ。 「あっそう。私だって別に、お兄ちゃんを殺した奴に復讐したい訳じゃない。私たちの両手は赤で塗り固められてるんだから……」 淡々と結が話す。 彼女の表情も麗華と同じように移ろっていった。 「でもね、最期の死に方ぐらいは選ばせてくれてもいいんじゃないかなって思うの……私のお兄ちゃんは、どんな終わりだった?」 「バラバラの、グッチャグチャでしたの!」 シェルロッタが大げさな身振りで伝えた。 死者への敬意は基準世界に置いてきたようだ。 「ふーん。だったら、あなたたちも無惨に殺してあげよう……魔女はね、樹に磔にされて、釘で躰を留められて、地獄の業火に焼かれる……今日は“コロシアイ”じゃない。涙を流して死の刻を訪え」 結の瞳の紅が強くなる。 緊迫感は臨界点に迫っている。 互いにまさに飛び込んで行かんと、一歩足を踏み込んだところで……。 破顔する結。 「なぁんちゃって♡ あなたたちの瞳、好きだよ!」 怪訝な顔をするふたり。 続ける結。 「たとえ元が碧でも一緒。私やお兄ちゃんと同じ、孤独に圧し潰された、夜の闇より真っ黒な……『人殺し』の瞳だ」 「「黙れ!!」」 ついに麗華も感情を露わにして叫んだ。 臨戦態勢に入った次の瞬間、神事が終わったのか、本殿の扉が開いた。 中からどっと人があふれてくる。 着物の人に紛れて洋装の人もちらほら見受けられる。 「あはははは!! ――さあ、宴を始めましょう」 結は狐面をかぶり直すと、人ごみへと姿を消した。 太陽は完全に沈み、夜の帳が下りている。 篝火が闇を照らす。 桜が、舞い散る。 *** ふたりは、私と遊んでくれた。 ふたりは、私と友達になってくれた。 ふたりは、もういない。 プール。 映画館。 遊園地。 キャンプ。 ピクニック。 コンサート。 謎の無人島。 どこに行くにも一緒だった。 どんなときでも一緒だった。 ふたりは、もういない。 私たちが助けに行くから。 邪魔する奴は、皆殺しだ。 『迷宮時計』も、皆殺しだ。 だからもう少しだけ、待ってて。 殺して。 殺して殺して殺して。 殺して殺して殺して殺して殺して。 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。 ――また、4人で遊ぼう。 *** 《2》 境内の桜苑の始原は寛和の頃に遡るという。 木々はどれも花満開で、まさに狂い咲きの様相だ。 夜店も多く出ており、小道は花見客でごった返している。 そこかしこに広げられた敷物の上で、思い思いに食べて飲んで大騒ぎだ。 子どもも多くいる。 ひとつ目を引くのは……彼や彼女たちが、みな狐の面を被っているのだ。 「狐面の子、いっぱい……」 「探すの、徹底的に。銀色マントが目印」 前回の戦いで戦闘空間に他人がいるかもしれないことを知った結は、狐面をたくさん作って持ち込んでいた。 意味があるかどうかは微妙だと思ったが、後攻め型の彼女にとって時間稼ぎの駒は多いに越したことはない。 そして結果的にこの作戦は功を奏していたといえるだろう。 苛立ちを隠せないふたり。 こんなところで子どもと遊んでいる場合ではなかった。 『迷宮時計』の戦いの結果、友人である撫津美弥子を失った彼女たちはその後、下手人である馴染おさなからもうひとりの親友、森久保眞雪の死についての仮説を聞かされた。 その内容は俄かには信じがたいものだったが、美弥子はそれに絶望して死んだという。ならば信じるほかはない。 そうして敵と『迷宮時計』の対戦相手を全て殺すことを決意したふたりは、しかして『スズハラ機関』に加入した。 理由はふたつ。 ……力を手に入れるため。 ……敵を知るため。 しばし物思いに耽っていた視界の端に銀が映った。 この時代でもよく目を引く。 手持ちの武器ではあの不思議マントは破れないかもしれない。 騒ぎになったら人が集まってきて面倒だ。 ならば。 さっさと場外に放り出すべく首根っこを捕まえる。 「みーつけた」 シェルロッタが可愛く言う。 ちょっと彼女のテンションがおかしい。久しぶりに人間に戻ったんだからわからないこともないけど。 それにしたって敵に話しかけてどうするんだ。 しかし、彼女の思考は狐面の少女が叫び声を上げたことで中断される。 「きゃ! なにすんの!」 声がさっきまでとは全然違う。 慌てて面を外したら顔も違う。 小賢しいことしやがって……。 とりあえず、話を訊いてみる。 「これなー、ハイカラなカッコしたねえさんがウチに貸してくれはったんよ」 「お駄賃やって銀貨も、ホラ!」 「これ着てふらっとしとけってゆーてはったけど」 事情は分かった。 しかし喫緊の手がかりは無い。 頭を抱える麗華の服の裾を、別の狐面の女の子がそっとつまんだ。 「あーもう、ちょっとあっちに行っててくださいの!」 大きな声を出してしまった。 女の子の肩がビクッと震える。 呆れたようにシェルロッタが麗華の頭をこずく。 「こら。れいタンは相変わらず怖いのでした」 「うるさいの」 シェルロッタを黙らせる麗華。 ふたりでいると、昔の喋り方に戻ってしまう。 あの時の名前や生き方は捨てたはずだったのに。 無意識が4人でいた頃に戻ることを望んでいるのかもしれない。 「ちょっとイライラしてましたの。ごめんなさい」 膝を折って女の子に謝る。 女の子は頷くと、そっと狐面を外した。 そうして麗華を見上げる。 面の下の顔は。 「み、美弥子……? 美弥子なの……!?」 気の強そうな目。 儚く揺れるツインテール。 あの日から一秒だって忘れたことはない。 記憶の中の撫津美弥子がそのままそこにはいた。 「嘘、でしょ……。みやこぉ……」 10年間叶わなかった再会がまさか果たせるなんて、と、麗華の瞳に涙が浮かぶ。 ぎゅっと抱き合う二人は心の底から幸せそうだ。 マントの少女もよくわからないままに拍手している。 対してシェルロッタは不審そうに美弥子によく似た女の子を見やる。 『迷宮時計』が起こした奇跡? こんなところで、こんなに都合よく、あの忌々しい『迷宮時計』が? そう考えてもう一度女の子を見てみると、ああ、なんということだろう。 麗華やマントの少女からは影になって見えていないが、女の子の右腕が刃に変化しているではないか! 「だめです、れいタン!」 叫ぶシェルロッタ。 けれど時すでに遅く、非情の刃が麗華を貫いていた。 「ああ゛っ」 刃はさらに形を変えて彼女を切り刻もうとするが、シェルロッタが飛びかかると女の子は距離をとった。 開放された麗華の傷口から血が噴き出す。 あわてて駆け寄るシェルロッタ。 女の子はぐねぐねと形を変えると、セーラー服の少女――刻訪結へとその姿を、戻した。 「あはっ。 あなたたちの認識(ココロ)、この子でいっぱいなんだもん」 その右眼は変わらず紅く染まっていたが、左眼は……蒼に染まっていた。 左腕には波線模様が刺繍されている。 先程能力を解除したシェルロッタの肉片を回収し、糸をその血で染めたのだ。 『赫い絲』で取得できる特殊能力の数はひとつには限定されていない。 ただし制限時間は最初のものが適用され、同時に全ての能力が解除されるという。 また、刺繍を重ねればそれだけ狂気へと近づいていく。 「サイズ縮めるの疲れる……よく剣なんかになれるね、『メタコムメルモル』のシェルロッタ・ロマルティナさん」 呟くと、腰が抜けて地べたに座り込んでいるマントの少女に近寄った。 歯をガチガチと鳴らして怯えている。 「ありがと。おかげで刺繍する時間が稼げたよ。さあ、それ返して?」 銀の衣を再び身に纏う。 一方、シェルロッタは必死で麗華に応急措置を施している。 「れいタン……」 「あなたは飲まなくていいの? スズハラGX」 「えぇ?」 「1錠飲めばだいたい戦闘訓練を積んだ魔人と同程度の身体能力に。 2錠一度に服用した場合で格闘魔人並の筋力、反射能力を得られるが、3分程度で筋肉の損傷と激しい頭痛、粘膜からの出血により行動不能に。 3錠以上だとほぼ確実に飲み込んだ瞬間即死することとなる。スズハラの秘薬だよ」 結は知らなかったが、スズハラGXは事前に設定した対象以外が服用しても効果も副作用も得られない。 10年にわたって闇市場売上ナンバーワンを誇る逸品である。 「れいタンがクスリを飲んでいたなんて知らざりましてです。でも……。そんなもの飲まなくたって、剣がお前を貫けなくたって! この体が、爪が、牙が! お前を切り裂きます!!」 シェルロッタは立ち上がると、自身の体を変化させた。 『メタコムメルモル』はひとつのものであるなら、質量のみを保存して何にでも形を変えることができる。 美弥子に再会するために、10年の間に強化された能力だ。 「うわああああああああアアアアアアアア!!!!!!」 絶叫は咆哮へと変わる。 サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビ。 見るもおぞましい化物が佇んでいた。 「ふうん、鵺か」 舌舐めずりをして糸が伸びる指を動かす。 やはり慣れ親しんだ武器が一番だ。 どの技でバラバラにしてやろうか。 鵺が体勢を深く沈め、今にも飛びかかろうとしている。 すると麗華が体を僅かに起こして、鵺に触れたように見えた。 次の瞬間、轟と春の風が吹く。 桜の花弁が桃色の奔流となる。 ふたりの姿が隠れる。 枝の打ち合う音がする。 そうしてすべての花弁が地に落ちたときにはもう、ふたりは忽然と消えていた。 「は?」 ひとり残された結。 月は激しい死闘がまるで春の夜の夢だったかのようにやわらかく境内を照らしている。 戦いは、終わった。 *** 明るいブラウンのロングヘアに、ぱっちりした栗色の瞳の女、馴染おさなは、ふと腕時計に目を遣った。 シンプルだけど可愛いデザインのアナログ腕時計で、ずっと前から愛用しているものだ。 文字盤が虫のように動きまわっている。彼女の『迷宮時計』はそうしてこの戦争の情報を伝えるのだ。 残り6人、か。 胸騒ぎがして、時計を見たときはだいたいこうして何かが更新されたときだ。 またひとつ命が失われた。もしくは、永劫の彼方に放逐された。 胸がきゅうっと縮みあがった気がした。 思えばずいぶん遠くまで来たように感じる。 この間は和歌山で大雪になり、今日は青森で真夏日だ。 度重なる時空跳躍は世界に歪みを生じさせているようだ。 終わりが近づいている。 もっとも、私には世界のことなんてわからないし、どうでもいい。 私の心の中は幼馴染の『俺君』だけなんだからっ。 そう叫ぶ胸の中の私は泣いていた。 ごめんね。 *** 《3》 結はまだ茫然と立ち尽くしていた。 ケータイの着信音が鳴り響く。 3回勝ったからか、アラームがメロディーを奏でていた。 これは『時の旅人』だ。学校の合唱コンクールで真実の指揮のもとで歌うはずだった曲だ。 でも、そんなことは今はどうでもいい。 「嘘でしょ……?」 戦場から逃げられてしまった。 殺すべき相手はもういない。 ああ、この想いはどこに届ければいいんだろう! 「まだ磔も火あぶりもまだだよ」 「お兄ちゃんの話も聞いてない」 「二対一のひとりだけしか倒してないのに」 「操絶糸術も今日はまだ技を出してないし」 ぶつぶつぶつぶつ呟いている。 それを聞く人はもういない。 ああ、滾る感情をどこにぶつければいいんだろう! 「ねえ」 その瞳は紅く怒りに震えている。 「ねえ」 その瞳は蒼く嘆きに震えている。 「逃げてんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 慟哭が境内に響き渡る。 花弁が撒き上がり、結を中心に吹き飛んだ。 遠巻きに見ていた花見客たちが恐怖に慄いている。 ――明治二十二年、京都に鵺が出たという。 それは桜の舞う夜に神事の隙間をぬって現れたかと思うと、女をひとりかふたり食って帰って行ったそうな。 後の語り草になるとは露知らず、ひとしきり叫んで満足したところで制限時間が到来し、結の瞳から彩が引いた。 途端に正気に還る彼女。 もっとも、これも菊池一文字が彼女の心を癒し、平時の精神の均衡が保たれているからなのだが。 「……帰ろっ」 これ以上ここにいてもどうしようもない。 あっけらかんと帰途につくことを宣言して、ケータイに触れる。 すると次の瞬間にはもう、彼女の姿も消えていた。 あとに残されたのは桜のみ。 900年間変わらず在り続けた風景が、静かに夜を呑み込んでいる。 ◇ ◇ ◇ 殺風景な部屋のベッド。 麗華とシェルロッタが横たわっていた。 『仔猫の道』は一度行ったことがある同時空間軸の場所はもちろん、『鍵』があれば時空間の超越すら可能である。 『鍵』のひとつは麗華の部屋にあり、もうひとつはシェルロッタが持っている。 「どうして帰りましたでした? まだ戦えるですよ!」 起き上がったシェルロッタが麗華を詰問する。 麗華はまだ起き上がれないようだが、言葉ははっきりしていた。 「タロマルの能力じゃあいつには勝てないの。剣だって砕けたんだもん。獣になっても私の右手と同じ運命なの……」 タロマルというのはシェルロッタ・ロマルティナのあだ名である。 ……美弥子の姿を目にして、固く保ってきた心が脆くも揺らいでしまった。 10年ぶりにその顔を見ることができたとはいえ、まったくもって情けない。 あそこでスズハラGXの2錠目を飲んでも、テレポートでまた逃げられたら活動限界の3分に間に合わないかもしれない。 そうなったら犬死にだ。それだけは避けたかった。 強すぎる能力は時に自らの首を絞める……それは、彼女たちがここまで強くならなければ分からないことだった。 なおも食い下がろうとしているシェルロッタに、麗華はぴしゃりと言う。 「私たちはなんのために戦ってるの?」 「……4人で、また遊ぶため……」 人指し指を突き合わせてしゅんとするシェルロッタ。 そんな彼女をやさしく抱きしめる。 「でしょ? また機会は来るの……生きてさえいれば」 「ほんと?」 「10年待って私たちは力を手に入れた。体が治ったら、また私たちの戦場へ行くの……そうねえ、あいつのいない『第1回』なんてどうかしら」 シェルロッタの顔がパッと輝くと、麗華から離れて三つ指をついた。 「私、れいタンの腕になります」 無くなってしまった右手を見て、麗華は困ったようにくすりと笑う。 「ありがとう。でもいまはまだ、『ふたり』でいさせて……?」 5年ぶりの逢瀬を、もう少し味わっていたかったのだ。 ずっとずっと、片時も休まず走り続けてきた。 少しぐらい、傷を舐めあう時間があってもいいじゃないか。 どちらからともなく唇が触れあう。 ふたりの夜は、まだ始まったばかりだった。 [了] ※スズハラGXの効果については、天樹ソラのキャラクター説明ページを参照しました。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/305.html
準決勝戦SS・孤島その1 馴染おさなの感情のスイッチは今、冷酷に振りきれていた。 なんて無力なのだろうか。馴染おさなはそう思った。 あとはこの対戦相手、撫津美弥子が殺されるのを待てばいい。 もしかしたら後で良心が咎めるかもしれない。だが今はそんな感情は一切湧かない。 勝つんだ。俺君の為に。 「……ごめんね、こんなこと頼んじゃって……でも……こうするしかないの、お願い―――」 銃声が鳴り響く。心地よい曲が聞こえてきた。 ――――― 「次の対戦相手、決まったでしたか?」 「うん……馴染、おさな……女の人かな?……場所は……孤島」 「孤島……大丈夫なの?」 撫津美弥子は二人の友人、読小路麗華とシェルロッタ・ロマルティナと共に時計を眺める。 ちょっと窮屈になりながらも二人の温かさが少し心地いい。 孤島、ということはまたサバンナの時のように気候で大変な目に遭うかもしれないと美弥子は考えた。 寒かった時の為にカイロや、逆に暑かった時の為に氷嚢が必要かもしれない。 「孤島で生活する事になりもうした時の為に釣竿が必要ですのか?」 シェルロッタが問うが、あいにくと釣竿など美弥子の家には存在しない。 「美弥子が負けるのなんてありえないから釣りなんて必要ないの」 麗華にもこのようにたしなめられ、釣竿は必要ないという結論に落ち着いた。 結局、この程度の場数で本来の戦闘に何が必要なのかという答えが彼女達に出せるはずもなく、幸い明日は日曜ということでまた集まって相談をするという事になった。 明日の12時00分、再び戦いへと身を投じる事になる。美弥子はそう思っていた。 しかし、美弥子達は……やはりまだ知らなかったのだ。 戦いというものが、そんな生易しいものではなかったのだということを。 ――――― 「あぁ……が、ふァ……ッ!!」 「……シェルロッタ!!」 シェルロッタは壁に激突し、呻きながら倒れる。 男は恍惚とした表情を浮かべ自らの光り輝く拳をさする。 「いい……小学生女児の悲鳴!もっといい声で鳴けよォッ!!」 その男は簡素なシャツとジーンズ、そこから細身でありながらもそれなりの筋肉が見え隠れしている。 そして体からは、さらに一回り大きな人型の光り輝くオーラを身に纏っている。 「……なに光り輝いてんのよッ!光が当たっただけで吹っ飛ぶなんておかしいでしょうがッ!!」 美弥子が男の拳を眺めてびしりとツッコミをする。 男は何を馬鹿な事を、と言いながら下卑た笑いを浮かべる。 「これは俺の魔人能力、『オールライトオーラ』!光り輝く俺のオーラは自由自在に……あれ?」 男は違和感を感じ、掌を握っては開く。先程まで出ていた眩いばかりに輝いていたオーラがまるで出てこない。 直後、男の体に強い衝撃が走る。体が吹き飛ぶ。痛みを感じる。 彼は扉と共に男が大きく回転しながら向かいの家の壁にぶつかった。 ――――― 「……だからなめるなって言ったのに」 家の扉と共に吹き飛ぶ男を少し離れた位置から眺め舌打ちをする一人の女……馴染おさな。 彼女は次の戦場が孤島であると知り、再び対戦相手を転送前に黙らせるという手段に出ていた。 まず彼女が行った事は撫津美弥子について調べる事。 夜通し調べる、といきたいところであったが寝不足は美容の大敵だ。ここで怠るわけにはいかない。 調査の為に幼馴染みにした盗撮能力所有者である薩摩藤(さつま とう)は、俺はロリコンじゃないんだけどなあ、とのたまっておきながらいざ情報を得る段階になると調査を忘れて勝手にデレデレする役立たずでしかなく、あまりにもキモかったので思わず殺してしまった。 結果としてわかったことはせいぜい他にも魔人らしき友人が二人存在しているという事だけ。 しかし、おさなにとってこの二人の友人は非常に面倒な存在であった。 能力によって幼馴染みにする事が出来るのは同一世界上に一人のみ。 ただでさえやや幼く、幼馴染み感の初期値が低くなりがちな相手だというのに、さらに近くに本来の幼馴染みがいる状況では例え幼馴染みにしてもボロが出るのが早くなってしまう。 誰かが一人でいるところを狙って一気に幼馴染み感を高め奇襲を仕掛けさせる事も考えたが、彼女達は一度も家に出ることなくいつのまにか全員が美弥子の家に集合していた。 これは読小路麗華が『貴女の元へ(好きな場所へワープ出来る能力)』によってシェルロッタの家、そして美弥子の家へと直接移動してしまった為である。 目論見を外したおさなは一人の男と連絡を取る。 それが先程の男、兵戸南世李(へいど なより)。おさなは彼に素早く来るように頼みこんだ。 おさなが彼にこだわったのには理由がある。 いくら彼女の能力が強力とはいえ、小学生を襲えなどと言う幼馴染みを人はどう思うだろうか。 幼馴染み自身が疑問に思わなかったとしてそれの取り巻き等が少しでも戸惑ってしまえばそこから面倒なことに陥る可能性も存在する。 時間がないとはいえ、いや時間がないからこそ、後々の事を考えて無用な不信感を持たれる事態は避けておきたかった。 故に殆ど友人が存在せず、多少の事では敗北しないだけの強さを持ち、小学生を襲う事に躊躇せず、そしてこの場で捨てても問題ないであろう幼馴染みを求めた。 南世李はその条件にぴったりだったというわけだ。 しかし彼は旅行に出ているから等とのたまい、ここまで連れてくるのに決して短くない時間を労してしまった。 その結果、現在の時刻は11時30分。戦闘開始まであと30分しかない。 もう時間がない。確実に排除してほしい。そう言ったにも関わらずこの体たらく。 南世李は美弥子のツッコミによって無傷の状態へと戻ったシェルロッタのバネ突進(彼女の能力は自らの体の形を作りかえる『Metamorphose(メタモルフォーゼ)』である)による反撃を喰らったのだ。 おさなは携帯で南世李に連絡をとる。 「南世李君!大丈夫?」 「ち、ちくしょう……しかし、小学生からの頭突きは悪くねえ……」 思わずぶん殴りにいきたくなったがそれはおくびにも出さない。 この程度の幼馴染みに出すような反吐はもはやおさなには存在しない。 「ちょうどいい小学生教えてあげたんだから、感謝してよね……南世李君にぴったりな、嬲り甲斐のある女子小学生を、さ」 「あぁ……ありゃ三人ともぴったりだ……ドアを開けた時、用心のかけらもなかったぜ……ああいう子がいい……たっぷり殴ってから悦ばせてやる……」 「……時々は、私の相手もしてくれたらいいのに……」 「……え……」 「う、ううん、なんでもない!さあ、あの小学生達をなんとかして!南世李君!」 「お、おう!」 再び撫津美弥子の家の中に入っていく南世李を冷めた目で見送りながらおさなは時計を眺めた。残り時間は既に25分を切っている。 例えこの場で殺しきれずとも、少しだけでも弱らせてさえくれれば勝率はグンと上がる。 そして戦いが終わった後ここで起こった事件の全ての責任は南世李が被ってくれる。その為に今、積極的に関わる事はしない。 おさなはこの場から離れて戦闘開始時間まで待つことにした。 ――――― 「……ドア、さらに壊しちゃってごめんなしてです……」 「う、うん……まあ、もう、仕方ないよね……」 美弥子の家のドアは、南世李が侵入した際に既に破壊されてしまっていた。 その音に驚いた三人が二階から玄関へと降りた所、南世李とはちあわせる形となり、ドアの事にツッコミをする余裕などなかった。 もし仮にドアが壊れた原因が今のシェルロッタの攻撃だけだったとしても、ツッコミをすればドアが直ると同時にあの男に与えたダメージもなかった事になってしまうだろう。 両親はちょうど外出中。出来る事なら心配はかけたくなかった。だが、もうどうしようもない。 「今のうちに外に逃げましたるな」 「……任せて、裏から逃げるの」 三人は再び二階へと戻る、麗華が窓から外を眺め二人と手を繋ぐ。 彼女のワープはしっかりと飛ぶ場所を思い浮かねば機能しない。 逆に言えば自分が今、眺めている場所であれば簡単に飛べるということだ。 「れ、麗華、三人で飛んで大丈夫なの?」 「ちょっと心配だけど……これくらいの距離なら、大丈夫のはずなの……」 麗華の魔人としての力はあまり強くない。 自分を含め二人程度ならば、近所程度の距離は殆ど苦は無く移動する事が出来る。だが三人同時となると一気に消費する体力が多くなってしまう。 「……みやタン、れいタン、あたしはここで食い止めるでしてす」 「シェルロッタ!?何言ってるの!?」 「その方がみやタンもれいタンも安全であったので」 「シェルロッタが危険だよ!!」 「みやタンはこれからもっと危険であるでしたもの」 美弥子は言葉に詰まる。 これが今回の対戦相手である馴染おさなの妨害である事ぐらいは、流石に美弥子達にもすぐに理解出来た。 今回の対戦相手はこれくらいの事を平気でするような人間なのだ。 美弥子が勝利する為には、ここで彼女が怪我を負ってはいけない。だから。でも。 「みやタンは荷物も持ってかないといけないですな?れいタンの負担は少ない方がいいでして……」 「タロマルのくせにれいかの心配なんて……」 『どこだァ幼女達ィ……フヘヘ、たっぷりかわいがってやるぜェ……!』 「もう時間がないのでありまして!あたしはいくでしたか!」 「シェルロッタ!!」 二人の制止を振り切り、シェルロッタは美弥子の部屋を飛び出した。 追おうとする美弥子の腕を麗華は強く握る。 そしてそのまま能力を発動――― 二人は麗華の部屋の大きなベッドの上に飛んでいた。 「れ、麗華……!」 「ごめん、美弥子……咄嗟だったから、ランドセル、忘れてきちゃったの……」 「そ、それより……シェルロッタが……!」 「美弥子、タロマルは強い子だから、大丈夫なの……」 麗華がぜえぜえと息を切らしながらも美弥子に言う。 美弥子を無理矢理に連れてきた事、そして移動場所を考えている余裕がなかった為に咄嗟に思いついた自分の部屋に飛んだ事が負荷になったのかもしれないと麗華は思ったが口には出さなかった。 そして今度は腕の代わりに両肩を掴み、彼女の目を見る。 「美弥子、今、れいかが……ランドセル、ちゃんと取ってくるから」 「……麗華……」 「タロマルも、無事だったら、ちゃんと連れてくるの……心配、いらないの……だから、少し、待ってて」 「…………」 「……ごめん、美弥子」 何かを言いたげな美弥子の唇に麗華は一瞬だけ口付ける。そして手を離した。 「えっ、ちょ……っ!?」 「……ふふ、れいかだけ仲間はずれは、いやだった、だけだから……ごめん、ね」 慌てる美弥子に麗華は少しだけ微笑むと、再び能力を発動する。 麗華の部屋には一人、美弥子だけが残った。 美弥子は麗華の言う通りに大人しく隠れて待つことにした。 11時40分。二人は戻ってこなかった。美弥子は不安な気持ちを抑えた。 11時50分。二人は戻ってこなかった。美弥子は今すぐ探しに行きたい気持ちを押し殺した。 11時55分。二人は戻ってこなかった。美弥子はこの部屋にあった物を少しだけでも持っていくことにした。 そして二人が現れる事がないまま……迷宮時計は12時00分を知らせた――― ――――― 「……全く、使えない奴ばっかり」 目の前に広がる木々を眺めながら、おさなは呟いた。 結局南世李は美弥子を殺せなかった。 あの二人に長々と妨害され続けた挙句、あれほど美弥子を狙えと言ったにも関わらず残りの二人で十分に満足してしまっていたらしい。 流石に頼んだ仕事すらろくに出来ないような無能だとは思わなかった。今回の幼馴染み選びは失敗続きだ。 幼馴染み選び、か。 こんな風に彼らを消耗品のように扱う事に抵抗を覚えなくなったのは一体いつの頃からだっただろう。 幼馴染み(秘密基地夫)を殺した時からだっただろうか。幼馴染み(種人光)を使い捨てた時や幼馴染み(子作太陽)を殺した時にはもう抵抗はなかったはずだ。 幼馴染み(身体強化百姉妹)を利用する事にもはやためらいはなく、幼馴染み(LOVE彩の国☆埼黒ンの頭領)と出会った時も便利な存在だとしか思わなかった。 ……今更引き返せはしない、全ては幼馴染み(久坂俺)の為に。 まずは次の手をどうするか。撫津美弥子を幼馴染みとするか。しかし流石に南世李が自分の差し金であるということはバレているだろう。既に彼女の幼馴染みとなるには幼馴染み感が下がりすぎてしまっている。 やはり最初から自分が手を下しておくべきだったか、いや、今更考えても仕方のない事だ。 彼女が戦闘に強いタイプの魔人でなければ、力押しで容易く勝てるはず。ここまで来てしまったらそうであることを願うしかない。 がさり、不意に背後から音がした。 何かが間違いなくこちらに向かってきている。撫津美弥子か、それとももしかしたら、猛獣か何かかもしれない。 おさなは懐の銃をさすり、いつでも取れるように準備をした。撫津美弥子や猛獣であれば即座に撃つ。 だが、おさなにはもうひとつ取れる戦術がある。 「あー、くっそ……はぐれちまったな……どうしたもんか」 人、しかも、撫津美弥子ではない。 馴染おさなは、心の中でにこりと微笑んだ。 「……ん?人……?」 年齢は、二十歳くらいか。カウボーイハットを目深に被りワイシャツの上から皮のジャケットを身につけている。この孤島にやってきた冒険家、といった風体だ。 「あ、あの……」 「ん?君は……?」 「助けてください!私……今、追われてるんです!!」 「おおっ!?」 話の通じる相手と判断した瞬間、おさなは助けを求める。 「あの、私、その……あの」 「お、おう、オーケーオーケー、まずは話を聞こうじゃないか」 「は、はい、その……あの、私……えと、でも……あなたは……?」 「俺?俺はトレジャーハンターさ」 「……えと、そうじゃなくって……名前……聞いても……?」 「あ、ああ、名前ね、俺は―――」 ――――― 「……」 この空間に現れた美弥子の目に飛び込んだのは鬱蒼とした木々、無造作に生えた雑草、辺りからは鳥の鳴き声らしき異音が響き渡り、じめじめとした不快な空気がある。 それはまるで以前に四人で迷い込んだ樹海のようであった。 勝たなくては、この場に取り残される。おそらくその際の死亡率はサバンナ以上だろう。 「……麗華、シェルロッタ。」 何より美弥子は、麗華とシェルロッタが心配で仕方がなかった。 ここに来るまでは、きっと戻ってきてくれるだろうという気持ちでずっと待っていた。 しかし、結局二人は戻ってくることはなかった。 二人は……無事なのだろうか、それすらわからない。 「……どうして、こんなことになっちゃうのさ……」 美弥子は思わずその場にしゃがみこんでしまった。 今までは最悪でも、苦労するのは自分だけだと思っていたのに。 麗華も、シェルロッタも、きっと今回の事でお父さんとお母さんにも心配をかけてしまうだろう。 「私はただ……眞雪に帰ってきてほしいだけなのに……」 ……しばらくしゃがみこんでいた美弥子だったが、やがて両頬をぱしんと叩いて自分を奮いあがらせ、立ちあがった。 「大丈夫、二人は、きっと無事だから……だから……すぐ、戻って助けに行くから」 ――――― 「で、だ、これが『クロックワークブランダーバス』って言ってな。一見オルゴールだけど本当に弾が撃てるんだよ」 「へえ!すごいすごい!そんな武器があるんだぁ!!」 おさなはその銃型のオルゴールを興味深げに眺める。これは当たりかもしれない。おさなはそう思った。 腕はまだわからないが、少なくともなかなかの数の武器を所持している。もしこいつ自身が役立たずでもいざとなれば自分が扱ってしまえばいいのだ。 「……それでね、私はその子と戦わなくちゃいけないの……見た目は小学生だから、私も、その、出来れば戦いたくないんだけど……」 「ふぅーむ、なるほどね」 本来の世界と違ってここでは先の事は考えなくてもいい。ある程度無理にでも言いくるめて疑問に思われる前に相手を殺してしまえばいい。 もちろんその為に細やかな幼馴染み感を増やす努力も忘れない。 「助けてほしい……なんて、あはは……そんなこと急に言われても困るよね」 「……いや、俺も戦うよ、やってみるさ」 「……本当に?へへ、そういう優しいとこ、変わらないね」 「よせって、昔の話はさ!」 さて、撫津美弥子は一体どこにいるのだろうか。 勝手に野たれ死んでくれるなら結構な事だがそういうわけにもいかないだろう。 探しに行くべきか、それともあちらから来るのを待つべきか。 「よし、じゃあ行くか!その子はこっちにいそうな気がするぜ!」 「え、ちょ、ちょっと……」 「大丈夫だ!俺のトレジャーハンターとしての勘がそう言ってる!」 なんて無茶苦茶な。トレジャーハンターの勘って。 これで見つからなかったらどうしてくれようか。おさなはそんな事を考えながらも無駄に抵抗したりせず、手を引かれて走り出す事にした。 ――――― 「まさか……本当にいるなんてね」 「い、言った通りだったろ」 「なんで動揺してるのよ」 思わず変なツッコミをしてしまったが、そこにいるのは間違いなく撫津美弥子。 偶然でも何でもいい、今からなら奇襲を仕掛けられるだろう。 「よし、どうする!とりあえず撃つか!」 「いやいや待って待って、もうちょっとこう、ちゃんとした作戦をさ」 「しかしこういうのって先手必勝じゃないか?」 「それは確かにそうだけど……」 「さっそく『クロックワークブランダーバス』の威力を見せようか!それともナイフ投げるか!?そっちも得意だぞ俺は!!」 「いや、どっちでもいいってかそんな大きな声出したら気付かれる……!」 撫津美弥子が明らかにこちらを睨みつけている。どうみても完全に気付かれている。 「気付かれたか……敵もなかなかやるな……」 「あんたのせいだ馬鹿!!」 い、いけない、思わず口をついて出てしまった。 しっかり幼馴染み感を高めておかないといけないというのに……変なボロが出る前に片付けるしかない。 おさなはそう考えつつ懐の銃を確認する。 「……『クロックワークブランダーバス』……?」 「……?」 美弥子はその名前……『クロックワークブランダーバス』という武器の名前に聞き覚えがあった。 そして目の前にいる二人のうち一人のその特徴的な姿……それは彼女が迷宮時計を手に入れてから初めて戦った対戦相手……希保志遊世によく似ていた。 しかし、違う。希保志遊世ではない。決定的に違っている。 「よっし!どうする!とりあえず撃つか!」 「ちょ、ちょっと落ち付いてくれないかな、とりあえず」 その時、美弥子、おさなの両名は経緯やそこに含めた意味はやや違うものの、文章にしてしまえば概ね同じことを考えていた。 ……一体なんなのだろうか、この女は。と。 ――――― 「どうする?二対一だけど、降参する気はある?」 「……」 「まあ、そうよね」 当然おさなも本気で相手が降参するだろうなどとは思っていない。その方が楽でいいなとは思っていたが。 そもそも美弥子にとってはおさなは大切な親友にまで危害を加えた人間である。迷宮時計のルールがなかったとしても降参する気など起きるはずもない。 「うん、わかった。じゃあそろそろ撃ってもいいよ」 「任せとけ!」 待ってましたと言わんばかりに女が素早く『クロックワークブランダーバス』を取り出し構える。 しかし、そう、この銃は美弥子には効かないのである。 「いやそんなのが本当に銃として使えるわけないじゃんってッ!」 「いやいや、確かに俺もその辺は不思議だが実際にちゃんと……って、あれ?」 女は『クロックワークブランダーバス』の様子がおかしいことに素早く気付く。 それはただ『主よ人の望みの喜びよ』が優雅に流れるだけで銃としては一切使えない、何の変哲もないオルゴールへと変わっていた。 これが美弥子の能力応用の一つ、『先読みツッコミ』である。その先にどういう結果が待っているかという事がわかっていれば、事前にツッコミをしても効果が表れる場合があるのだ。 「ちょ、ちょっとどういうこと?本当に撃てるんじゃなかったの?」 「……」 女は信じられないと言った顔で『クロックワークブランダーバス』をただ眺めている。 よほどそのガラクタの事が気になるのだろうか、おさなは訝しんだが迷っている暇はない。 その銃が役立たずであるならば自前の銃で決着をつけるだけだ。 おさなは銃を美弥子に向ける。美弥子はわずかな悲鳴を上げてその場から逃げようとする。 先程と違って無効化しようとしない、彼女の能力には制限があるということがすぐにわかった。 最も、おさなにとっては普通の銃が効くという事実がわかりさえすればその先の事を考える理由はなかったが。 「ごめんね、でも降参してくれないならこうするしかないの」 おさなはそう言って銃の引き金を引いた。銃弾が美弥子の頬をかすめる。外したか。 すぐさまもう一発、次は髪の毛にかすりツインテールの片方がほどけた。 「……(ちょこまかと)」 この状況はおさなにとって少し想定外であった。『身体強化百姉妹』に強化された射撃の腕で二回も的を外すなんて。 ……おさなは知る由もない事だが、このことについては美弥子のかつての日常が関係している。 美弥子は親友である森久保眞雪の能力『兵器へっちゃら(どんな武器でも作り出せる能力)』によって度々銃やその他武器で狙われるという日々を繰り返してきていた。 それに対してツッコミで対処していくということは当然の事なのだが、いくら無効化させているといっても命中すれば一時的には間違いなく痛い。 彼女はその痛みを最小限に抑える為、無意識のうちに銃弾を上手く避けるスキルを習得していたのだ。 「ねえ、大丈夫?ちょっとぼんやりしてるみたいだけど……」 「……お、おう!びっくりしただけだ!要するに普通の武器ならいいんだろ!」 思っていたより状況判断はしっかり出来ているようだ。 女は皮のジャケットの裏から投げナイフを数本取り出し、それを一度に素早く投擲した。 ナイフは美弥子の足元を掠め、一本が美弥子の足首部分を切り裂いた。 「ぁあッ……!!」 「こうやって移動を制限してやればワナに当たる可能性も少なくなるって訳で……まあ、あの様子じゃあ多分何も仕掛けてないんだろうけどな」 「なるほどね……じゃあ、このまま……!」 事実、美弥子には何一つ案はなかった。今この場で逃げなければ反撃することもできずに殺されてしまうだけだろうという直感に近い判断から逃げただけである。 しかし、足に怪我を負った彼女はもはや素早く逃げる事は出来ない。まず、もう一度美弥子を撃ってみる。銃弾は再び美弥子の頬を掠めた。おさなは心の中で舌打ちをする。 おさなはクラウチングスタートの姿勢から一気に駆け出した。身体強化はここでも有効だ。足場の悪さもまるで関係なく、高い跳躍で木の枝や蔓を利用して一気に追いつく。 あとはこのまま組みふせて一発撃ち込んでしまえば、そう考えながら、おさなは美弥子へ距離を詰め…… 「……な、なんでそんなに足速いのよ!?そ、そんな細い体で……そんな動きおかしいでしょ……ッ!!」 「!?」 がくん。 体の動きが突然鈍くなる。体から力が抜けていく。 まるで突然背中に鉛を乗せられたかのように、動きが鈍くなる、足がもつれる。 「う、そ……ッ」 油断した。銃を構えてみる。狙いが定まらない。『身体強化百姉妹』によって強化された身体能力が全て消えうせた。 馴染おさなの素の身体能力は決して低いわけではない。しかし例えば、普段眼鏡を付けないような軽い近視の人間が視力ぴったりの眼鏡をつけ生活した後、急にその眼鏡を外されたらどうなるか。眼鏡をかける前よりも急激に目が悪くなったように感じるだろう。 今の彼女は目だけではなく、ほぼ身体全体がそれに近い状態になっていた。強化が体に馴染んでいた分、反動も馬鹿にならず、すぐに起き上がる事が出来ないほどであった。 「おい、大丈夫か!」 「……あはは……あの子の能力って……思ったより、強力だったみたい……ごめんね、結局、あなたに頼ることになっちゃいそうで……」 「そんな事気にしなくていいって!」 一方で撫津美弥子も足の痛みに耐えられず、すぐ近くに倒れ込んでいた。先程の無効化も悪あがきに近いものだったのだろう。 なんて無力なのだろうか。馴染おさなはそう思った。 足の痛みで倒れた美弥子も、そんな彼女に対して今すぐにとどめをさせない自分も。 でも問題はない。この女がいる。後はこいつに殺してもらえばいいだけだ。幼馴染みは、自分の力だ。 「……お願い、私の代わりに……ごめん」 「……わかった、大丈夫だ」 「……ううっ……」 あとはこの対戦相手、撫津美弥子が殺されるのを待てばいい。 もしかしたら後で良心が咎めるかもしれない。だが今はそんな感情は一切湧かない。 「……ごめんね、こんなこと頼んじゃって……でも……」 「私は……ッ……私は……」 撫津美弥子が泣きじゃくる。感情を抱いてはいけない。この場から二度と立ち上がれなくなってしまう。勝つんだ。俺君の為に。 「……ごめんね……助け、たかったよ……ッ……麗華、シェルロッタ―――」 「こうするしかないの、お願い―――」 「「眞雪」」 銃声が鳴り響く。心地よい曲が聞こえてきた。『主よ人の望みの喜びよ』……『クロックワークブランダーバス』? ……撃たれたのは……私だった。その銃弾は、私の腹部を貫いていた。 素早く振りかえった反動で女のカウボーイハットが外れる。彼女の顔はどこか寂しそうだった。 「……え……?……なん、で……?……なんで、私……?」 「……ごめん、おさな。私にとって幼馴染みってさ、こんな感じだったんだよ。……嫌な幼馴染みだろ?ははは……」 「……!!」 心の中のスイッチが壊れる音がした。 私にとって、幼馴染みを裏切る事はあっても、幼馴染みに裏切られるのは初めてのことだった。 薄れる意識の中、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、幼馴染みが、頭に浮かぶ。 ああ、死ぬんだ。幼馴染みに会えないまま。死ぬんだ。なんだったんだろう。今までやってきたことは。巡る幼馴染みの顔を思い浮かべながら。私は絶望の闇へと堕ちていく。 幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、幼馴染みに、謝った。 秘密基地夫に、種人光に、子作太陽に、子沢山力乃に、子沢山感奈に、子沢山瞬佳に、子沢山シノに、台漠走に、彩国台風に、薩摩藤に、兵戸南世李に、メリー・ジョエルに、山禅寺ショウ子に、 ―――俺君に謝った。 「……いや……!!そんなおもちゃみたいな武器で……人が死ぬわけないじゃない!!大体、どこから出したのよそれ!!」 「……!」 撫津美弥子が泣きながら叫んだのが聞こえた。『クロックワークブランダーバス』が消える。腹部の痛みも消える。薄れていた意識が瞬時にはっきりとする、命が繋がれる。しかし、何故。何の為に。 「あ……その……降参、して、ください……!……私は……私は、友達を、生き返らせたいだけで……!……その為に、誰かが死んだり、そんなの、嫌で……!……だって、そんなの、嫌、だから……」 「……ッ」 「お願い、します」 「馬鹿じゃ、ないの……」 なんて、なんて甘いのだろう。 このまま放っておけば撫津美弥子は間違いなく、そのまま勝利出来たのに。 それに、私は、彼女だけでなく、彼女の友人まで殺そうとして、それを、それなのに。 「……それに、私は……私は、眞雪が、人を殺すとこ、見たくない」 「……」 「ねえ、眞雪でしょ?眞雪、なんでしょ?いろいろ言いたい(ツッコミたい)事はあるけど……眞雪、なんだよね?」 彼女は、私に銃口を向けたままカウボーイハットを拾い上げ、再び被る。 「俺はただのトレジャーハンターだよ、大体、君の幼馴染みはこんな汚れた女じゃない。もっとかわいいはずだろう」 「えっ」 「えっ」 「いや、かわいくは、ないよ……」 「そんなことは……じゃなくて、その、つまり俺は君の幼馴染みとは違って……」 「見た目大人っぽいのに嘘下手なとこ全然変わってないし」 「下手じゃないし!あ、いや違う嘘じゃないし!」 「てか眞雪って呼ばれてたじゃん!!」 「あっ、いや、それは、こ、コードネームだし……!」 二人がやりとりをしていくうちに、撫津美弥子の涙が少しずつ消えていく。 ああ、そうか。そりゃ勝てないや。私は思わず笑ってしまっていた。 スイッチが壊れてしまった私には、もう撫津美弥子を殺す気力も湧かなかった。 何よりこの女はこんなやりとりをしながらもこちらに対する警戒を一切怠っていない。身体強化も消えた私にもう勝ち目はないな。 「……ねえ、一つだけ聞かせて」 「……?」 「迷宮時計を全部手に入れたら、どうするつもり?」 「……」 撫津美弥子はその問いに対して、まっすぐに答えてくる。 「……みんなを、助けたいです」 「みんな?」 「眞雪だけじゃない。迷宮時計で大変な事になってる人の事、みんな、助けたい、です」 「……私の事も?」 「はい」 「……私、たくさん人を殺してきたよ?そんな私を助けたら、執念深い探偵とかに恨まれるかもよ?」 少しいじわるをする。しかし、撫津美弥子の答えが変わる様子はない。 「……だったら、その人たちも、過去に戻ってみんな助けます」 「……そんなこと、出来るの?」 「……わ、わかんないです、けど、やります」 「あんたを盗撮してた男とか、あんたたちをぶん殴った男とかも?助ける?」 「う……え、えと……た、多分……」 口ごもってるじゃない。私は再び少し笑ってしまった。 「……私の幼馴染みの事も、助けてくれる?」 「……はい」 「……あはは……出来るわけないじゃない」 そんな甘い事、出来るわけがない。 それはかつて私自身がそう結論付けて、諦めた道だ。 撫津美弥子は、未だにそれをしようとしているのだ。甘いにも程がある。 だから私は、撫津美弥子にもっといじわるをする事にした。 「もういいよ、降参」 「え……」 「納得したわけじゃないよ。ただこのまま死ぬ気もないの」 私の迷宮時計の欠片が、美弥子の時計へと吸い込まれる。そして撫津美弥子の体が少しずつ消え始める。 いい気味。私がまだ果たせていない幼馴染みとの再会を、じっくり味わわせてなどやるものか。 「あ……眞雪……!」 「……俺は……君の幼馴染みの眞雪ちゃんじゃない……違うんだ」 「……眞雪……」 「……きっとさ。君なら、君の知ってる眞雪ちゃんを助けられる。そんな気がする。だから」 「眞雪!!嫌な幼馴染みだなんて、そんな……そんなわけ」 "またね、会えてうれしかったよ。みやちゃん。" その言葉が、撫津美弥子に聞こえていたのか聞こえていなかったのか。聞かせたかったのか聞かれたくなかったのか。 幼馴染みではない私にはわかるはずもなかった。 ――――― 「ないじゃない!!……」 美弥子は麗華の部屋のベッドで目が覚める形となっていた。 起き上がる。ほどけたツインテールも元通り、足の怪我も治っている。 「おお……みやタン……戻って、これたでしたな……」 「……当然、なの……」 美弥子が振り向く。 傷だらけでボロボロな麗華とシェルロッタがそこにいた。 「ごめん……戻ってくるの、間に合わなかったの……」 「でも、こっちも……なんとか、なりたです」 「……麗華……シェルロッタ……私……私、眞雪が……うわぁぁあん……ッ……!!」 12時00分。三人は、戻ってきた。 美弥子は、麗華とシェルロッタを抱きしめた。 麗華とシェルロッタも、美弥子を抱きしめた。 ――――― ●第三回戦第三試合 結果 『木瓜殺手刀の美弥子』撫津美弥子 勝利(勝因:幼馴染み) 『俺君、久しぶり!へへへ、なんだか懐かしいね。元気にしてた?』馴染おさな 降参(敗因:幼馴染み) ――――― 「……さてと、おさな」 「……」 「諦める気、ないんだろ?」 「……え」 「俺もさ」 そう言うと彼女は『クロックワークブランダーバス』を消して、私を助け起こしてきた。 「俺も、まだ迷宮時計の事、諦めてないんだ」 「……あなたも、誰かに負けてたの……そりゃそうよね、じゃなきゃなんであなた"過去"にいるんだって話になるし」 「ま、俺みたいな優しいトレジャーハンターに昔な」 私は体についた土を掃う。 こういう時にこそ身だしなみを大事にしないといけない、というのが私の持論だ。 「あんたは、迷宮時計で何をしたかったわけ?」 「あの子と同じだよ、人を救い、世界を救い、そして未来へ……」 「本当に嘘が下手なのね」 「嘘じゃないって!……だからまあ、トレジャーハンターとして、この孤島にあるって言われてた迷宮時計を探しに来てたわけだよ、ハズレだったっぽいけど!」 がさり、草が揺れて何かが近付いてくる音がする。私は思わず身構えた。 「ああ、大丈夫……きっと俺の相棒達だよ……なあ、おさな。俺達と一緒に迷宮時計を探さないか?」 「……殺そうとしてきたくせに」 「死んでないじゃないか」 本当に嘘が下手な奴。殺す気はなかった、って言えばいいのに。 本気で私を殺したいのであれば、一度彼女に無効化された『クロックワークブランダーバス』を使う必要はない。もっと確実に殺せる武器を使えばいい。彼女ならその方法もすぐに思いついたはずだ。 わかってたんでしょ?これで撃てば撫津美弥子が無効化してくれるはずだってさ。 「このまま死ぬ気はないんだろ?」 「……見つけたら、あなた達を殺してでも奪うかもよ?」 「やれるもんならやればいいさ、迷宮時計を手に入れた時は恨みっこなしだ」 私はふわりと髪をかきあげた。まだ少しでもチャンスがあるのなら、それを逃すわけにはいかない。 さて、どう動こうか。向こうからやってくる筆を持った男と黒いドレスの女を眺めながら私は考える。 「……待っててね、俺君」 薄笑みを浮かべて、私は木々の向こうから漏れる光へと進んだ。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/iwakifc/pages/139.html
OFFICIAL RELEASE公式リリース 公式サイトNEWS 福島民報杯・NHK杯第21回福島県サッカー選手権大会 兼 第96回天皇杯全日本サッカー選手権福島県代表決定戦 準決勝 【結果】 いわきFC 5 - 0 福島大学サッカー部 【スターティングメンバー】 GK 大野(1) DF 佐藤(28),高野(3),古山(4),新田(29) MF 山崎(20),久永(25),新井(8) FW 平岡(26),菊池(9),片山(7) 【得点】 54分 いわきFC No.7 片山 56分 いわきFC No.9 菊池 77分 いわきFC No.11 宮崎 81分 いわきFC No.26 平岡 89分 いわきFC No.11 宮崎 【交代】 MF:山崎 大成(20) →FW:吉田 知樹(23) DF:新田 己裕(29) →DF:住石 加寿己(22) MF:片山 紳(7) →FW:宮崎 崚平(11) 【選手コメント】 いわきFC No.4 古山瑛翔 天皇杯県予選準決勝ということで、決勝に進むためにしっかり勝利することが最重要だったので、今日勝利することができホッとしています。 内容は前半の早い時間帯に得点し、試合を楽に進められれば良かったのですが、いくつかのチャンスを決めきれなかったことと、チームとして積極的に試合のペースをつかめなかったことが、前半の0-0という苦しい結果に繋がってしまいました。 後半は選手間で焦らずいつも通りに続けようと、コミュニケーションを取れていたので得点を重ねることができました。 まだまだ天皇杯決勝、そして週末から行われる東北予選に向けて、修正すべき部分がチームとしても私個人としてもあるので、しっかりクリアにして大会に臨んでいけたらなと思います。 天皇杯も東北予選も全国大会に繋がるとても重要な大会なので、万全の準備をし、しっかり勝利できるよう日々取り組んでいきたいと思います。 いわきFC No.11 宮崎崚平 暑い中、チームとして2連戦を無失点で勝ち、次につなげたことが1番の収穫です。 個人的には悔しい思いの方が強いですが、直向きにやり続けることが個人としての成長、そしてチームの勝利に結ぶと信じています。 来週から東北大会が始まります。 自分達はJFLに上がるという1つの目標があり、勝ち続けることが絶対です。謙虚に戦って必ず全国大会に繋げます。 ◆決勝のお知らせ 8月21日(日) 福島ユナイテッドFC あいづ陸上競技場 キックオフ:13 00 14 00 住所:会津若松市門田町大字御山字村上地内 http //aizu-sportspark.jp/facilities/a_rikujyou.html 公式Facebookアカウントより 本日行われました、県選手権・天皇杯代表決定戦準決勝 vs福島大学サッカー部は5-0で勝利しました。 決勝戦は、8月21日(日)vs福島ユナイテッドFCと対戦となります。 【結果】 いわきFC 5 - 0 福島大学サッカー部 【スターティングメンバー】 GK 大野 DF 佐藤/高野/古山/新田 MF 山崎/久永/新井 FW 平岡/菊池/片山 【得点】 54分 いわきFC No.7 片山 56分 いわきFC No.9 菊池 77分 いわきFC No.11 宮崎 81分 いわきFC No.26 平岡 89分 いわきFC No.11 宮崎 【交代】 20山崎OUT ⇒ 23吉田IN 29新田OUT ⇒ 22住石IN 7片山OUT ⇒ 11宮崎IN 【選手コメント】 いわきFC No.4 古山瑛翔 天皇杯県予選準決勝ということで、決勝に進むためにしっかり勝利することが最重要だったので、今日勝利することができホッとしています。 内容は前半の早い時間帯に得点し、試合を楽に進められれば良かったのですが、いくつかのチャンスを決めきれなかったことと、チームとして積極的に試合のペースをつかめなかったことが、前半の0-0という苦しい結果に繋がってしまいました。 後半は選手間で焦らずいつも通りに続けようと、コミュニケーションを取れていたので得点を重ねることができました。 まだまだ天皇杯決勝、そして週末から行われる東北予選に向けて、修正すべき部分がチームとしても私個人としてもあるので、しっかりクリアにして大会に臨んでいけたらなと思います。 天皇杯も東北予選も全国大会に繋がるとても重要な大会なので、万全の準備をし、しっかり勝利できるよう日々取り組んでいきたいと思います。 いわきFC No.11 宮崎崚平 暑い中、チームとして2連戦を無失点で勝ち、次につなげたことが1番の収穫です。 個人的には悔しい思いの方が強いですが、直向きにやり続けることが個人としての成長、そしてチームの勝利に結ぶと信じています。 来週から東北大会が始まります。 自分達はJFLに上がるという1つの目標があり、勝ち続けることが絶対です。謙虚に戦って必ず全国大会に繋げます。 公式Twitterアカウントより (Tweet *1) 公式Twitterアカウントより (Tweet *2) 公式Twitterアカウントより (Tweet *3) 公式Twitterアカウントより (Tweet *4) 公式Twitterアカウントより (Tweet *5) 公式Twitterアカウントより (Tweet *6) ※Tweet *1 《県選手権・天皇杯代表決定戦準決勝 vs福島大学サッカー部 スターティングメンバー》 GK 大野 DF 佐藤/高野/古山/新田 MF 山崎/久永/新井 FW 平岡/菊池/片山 11 00キックオフ ※Tweet *2 前半終了 幾度となくゴールに迫るも決めきれず スコアレスで折り返す いわきFC 0-0 福島大学サッカー部 ※Tweet *3 【メンバーチェンジ】 20山崎OUT ⇒ 23吉田IN ※Tweet *4 【メンバーチェンジ】 29新田OUT ⇒ 22住石IN ※Tweet *5 【メンバーチェンジ】 7片山OUT ⇒ 11宮崎IN ※Tweet *6 試合終了 後半は5得点を追加し、5-0で勝利 決勝は8/21 vs福島ユナイテッドFC いわきFC 5-0 福島大学サッカー部
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/304.html
準決勝戦SS・開拓地その2 雪が降っている。 その日、僕は高熱を出して寝込んでいた。エゾ風邪だ。 全身がだるい。大分こじらせてしまった。 母さんが葛湯を飲ませてくれる。葛湯は北海道では目が飛び出るほどの高級品で、そして唯一のエゾ風邪特効薬でもあった。 この年になって「あーん」されるのは恥ずかしかったが、手を動かすのも叶わないほどに全身がだるく、僕は素直に葛湯を飲み込む。 寡黙な父さんまでも心配そうに僕を見つめている。 デコボコしたその手で頭をぽん、ぽんとされた。 これもかなり恥ずかしかったが、やめてと言う気にはなれなかった。 ありがとう、少し寝るから一人にして。そう言ったつもりだったが、うまく声にならない。 だけど、母さんも父さんも察してくれたようで、そっと退室してくれた。 我が家は他の家よりもかなり広く、特に天井が高かった。 だから、ふと窓の方に目を向けると、一面が雪の降る情景となる。 ボンヤリと雪が降るのを眺め続けていた。 今日は、一段と強い雪だ。 そのままずっと降雪を見つめていると、今度はまるで自分が上へ上へと飛んでいくような錯覚に襲われる。 それはまるで、天国に向かっていくような。 でも僕は天国にたどり着くことはなく、気づくと夢の中に落ちていた。 ◆ 向かい合わせの人デナシ ◆ 「しかし、やっぱり納得がいかない‥‥」 そうボヤくのは山口祥勝である。 潜衣花恋との戦いに敗れ、時ヶ峰健一と共に『新世界』に取り残された彼は、お金を稼ぐために思い切ってワク生の放送の路線を変えたのだ。 それが『魔人ヒーロー・ブラストシュートと希望崎最強が行く!新世界創世記!!』であった。 「迷宮時計の戦いに巻き込まれ、対戦相手の少女を基準世界とかえし、自分はこの世界で時ヶ峰と共に世界を創りながら子供たちを救う」という体である。 実際に、時ヶ峰が創世しているシーンは非常にインパクトがあり、ヒーロー活動時よりも人気が出るようになってしまっていた。 『まぁ、小さな子たちを地道に助けるのもヒーローっぽいしいいじゃん』『子供たちへのw炊き出しもw好感度がってるってw』『ロリコンヒーローww』『前と違って嘘つく必要ないしなww』『最近私、時ヶ峰の後光を薄めるぐらいしかしてない』 黙れA子、誰のために路線変更してまでPVと金を稼いでると思ってるんだ。山口はそう思ったが言葉にはしなかった。 『実験終わった』『あ、デンデラ』『クソババア!』『おいおい、このやり取り毎回やる気かよ!』『クソアマ』『ちょっと、A子さん!?』 「ほら、お前ら黙れ。で、どうだったんだ潜衣?」 今は潜衣のための作戦会議中である。 『結論から言うと、今の私の「欠片の時計」は[再生型]だな。壊しても壊しても元に戻ったよ』 「なるほど。俺の時計は元の持ち主の奴を壊したらヒーロースーツの方に憑依したんだが、お前の方の元の性質が残ったって感じかね」 『だろうな。基本は集めるほど性能が増えていって、矛盾する性能は元のが残るって感じかな。』 潜衣の迷宮時計は菊池徹子や山口の迷宮時計の性質も手に入れて、ルールや戦闘領域の情報を細かく教えてくれるようになっている。 (時ヶ峰の迷宮時計は、特別な性質のないシンプルなものだった) 『あ』 「どうした?」 『ちょうど、次の対戦が決まった。相手は「蛎崎裕輔」。誰か知ってるか?』 誰からも有用なコメントは流れず、山口も知らないな、と呟く。 『有名人、って訳じゃなさそうだな。戦闘地帯は、過去の開拓地、【オレゴン・ヴォルテクス】だ』 † やあみんな、また会ったね!ミスター解説だ! 今回の戦闘空間となる【オレゴン・ヴォルテクス】について解説させてもらおう!! 【オレゴン・ヴォルテクス】というのはアメリカのオレゴン州にある重力異常地域のことだ! 場所によって通常の重力の数分の一倍から数倍までばらつきのあるとても不思議な地域だ。 その特殊性からなかなか地元の人々も踏み入れていなかったんだが、勇気ある人々によって開拓された――それが今回の戦闘領域というわけだね! 潜衣花恋くんは、この地域の特性をうまく使って北海道有する蛎崎裕輔くんを倒すことはできるのかな? それともこれまでの挑戦者のように蹂躙されてしまうのかな? ドキドキだね! それでは、本編再開だ。 † 良く晴れた日だ。 空には雲一つない。 私は落とし穴の中で死んでいたシカ(筆者注:普通の方のシカ)を気を付けながら引き上げる。 ここ、【オレゴン・ヴォルテクス】は危険な土地だ。 慣れないうちはしょっちゅう体調を崩していたし、不慮の事故で亡くなった仲間たちもいた。 それでも、今の私たちにはここにしか居場所はない。 幸いにも私たちはここでの生きる術を学び、生活も大分安定してきたように思う。 戦利品であるシカを引きずりながら集落に戻ると、何やら騒動が起こっていた。 「どうしたの?」 「こんなところにお客さんが来てね。おまけにここは危険だから逃げろっていうんだよ」 「ふぅん?」 騒動の中心に目を向けると、見たことのない風貌、服装をした少女が片言で『ここは戦場になる』『危険だから逃げて』と叫んでいる。 冗談を言っているようには見えない。 「私たちはここ以外に行く場所はない。そんな簡単にこの地は捨てられない。事情があるならきちんと説明しろ」 彼女は意を決したようにコクリ、とうなずくと、とうとうと説明を始める。 こことは違う世界の住人同士の戦いであること。敵によってはその地にいる人間も巻き込みかねないこと。自分もどんな敵かまでは分かっていないこと。 一通りの説明のあとに、少女は『だから逃げてくれ』と締めくくった。 「なるほど、俄かには信じがたいが、ここはお前を信じることにしよう。 ――つまり、今お前が死ねば、私たちが巻き込まれることもないんだな?」 私がそう言うのと同時に、仲間たちがそれぞれの得物を構える。 勿論、私たちは既に彼女を取り囲んでいる。 わざわざ危険を教えてくれた彼女にこのような仕打ちは酷いかもしれない。 それでも、リスクは極力減らす、それが私たち開拓民に染みついた思考回路である。 仲間たちと見知らぬ少女、天秤の結果は明らかだ。 私たちの敵意に対し、彼女はふぅとため息をついた。 残念だけど、仕方がない、という表情だ。 なるほど、この状況も想定したうえで、わざわざ私たちに危険を知らせに来たのか。 甘すぎる考えだが、嫌いではない。 「――危険を知らせてくれたこと自体は感謝する。 さっきのお前の話なら、お前が降参してもこの戦いは終わるのだろう。 今ここで、降参するのであれば、命を取ったりはしない。 行く当てがないのなら、ここに住んでもいい」 彼女は苦々しげに、『それはできない』と答えた。 そうか。では死ね。 その時、私たちに影が落ちる。 思わず見上げると、さっきまで雲一つなかった空に、巨大な何かが浮かんでいた。 「Hokkaido‥‥」 少女が聞きなれない単語を発していた。 私はこの瞬間に少女を殺すべきだった。 空を飛ぶ魚が降りてきた。仲間が食い破られた。 聞きなれない言葉を発する武人が降りてきた。仲間が槍に貫かれた。 巨大な怪獣が降りてきた。仲間が放射熱線で蒸発した。 『無』が降りてきた。私は何もなくなって、そして死んだ。 † 場所によって重力が変わるこの戦闘空間、最初は戸惑った。 それでも僕がやることは変わらない。 北海道を召喚して、敵が死ぬのを待つ。 開拓地というぐらいだから、対戦相手以外に人がいる可能性は高い。 それでも、この前の動物園での戦いほどは被害が出ないはずだ。 そう思ってしまった自分のことが、さらに嫌いになる。 浅ましい。 自分は浅ましい。 早く終わって欲しい。 今回はエリモもすぐに降りてきた。 あれに勝てる人など存在しない。 早く降参して欲しい。 そうすれば、すぐに終わる。 君だって死なずに済むだろう。 まだ会ってもいない潜衣花恋という子に、そう願う。 能力を発動してから、10分が経過した。 まだ終わらない。 ということは、彼女もウィッキーさん並みに善戦しているのだろうか。 どんどんと、エリモは大きくなっている。 ふわり、と白いものが空へと登る。 それはどんどんと増えていき、エリモの動きが鈍くなっていく。 ああ、こんな時にか。 逝き祀り(ゆきまつり)が始まった。 † やあ、ミスター解説だ。 再び解説させてくれたまえ。 逝き祀り(ゆきまつり)についてだ。 北海道という場所は死の多い場所だ。 エリモなんかが最たるものだね。 前回の動物園戦では、「エリモは何で北海道を食い尽くさないんだよ!」と思った人も多いんじゃないかな。 その答えとなるのが逝き祀り(ゆきまつり)という現象だ。 逝き祀り(ゆきまつり)は「死」を世界へと還元する現象だ。 残留している魂や呪いを強制的に輪廻の輪に戻してやるわけだね。 だから北海道では幽霊やゾンビの類は長いこと存在できないんだ。 「死」の塊ともいえるエリモも例外ではなくて、 逝き祀り(ゆきまつり)が始まるとエリモにより『無』となったものすら世界へ還元されていくんだ。 毎年、あらゆるものを喰らって成長したエリモは逝き祀り(ゆきまつり)により元の大きさに戻っていたんだね。 北海道には珍しく、基本的に生きているものには影響しない。 けど微生物の死なんかも還元されるから、そこら中で逝き祀り(ゆきまつり)現象が起きるんだ。 死が世界へと還元される様は「逆さに降る雪」などと呼ばれて観光客にも親しまれているよ。 絶景だね! † 雪が逆さに降っている。 「‥‥やっと見つけたぜ。お前が蛎崎裕輔だな」 潜衣花恋はボロボロの姿でそう言った。 いや、正確に言えばボロボロの服装を纏ってそう言った。 「シチナンハックー!」 エゾジカの槍が彼女の腹を貫く。 その槍を彼女は無理やり引っこ抜く。 次の瞬間にはその傷は癒えていた。 「ぐぇ、い、痛ェ‥‥」 「‥‥なるほど、貴方も再生能力を持っているんですね」 「答える義理は‥‥ねぇな‥‥」 実際のところ、潜衣花恋の能力は「奪う」能力である。 ではどのように再生能力を得たか。その答えは身近にあった。 そう、欠片の時計である。 形見の時計などが欠片の時計化することなどからも分かるように、欠片の時計は時を刻むものに宿るものと言える。 『腹時計っていう前例もあるし、お前の能力なら「欠片の時計」っていう性質でも奪えるんじゃないか?』 この能力応用を考えてくれたのは掃き溜めコミュニティのなかでも能力考察に長けた内の一人、”大泥棒”だ。 「お前は、これまでもこういう戦い方をしてきたのか‥‥?これからも、こういう風に戦うつもりなのか‥‥?」 潜衣が、蛎崎を問いただす。 「僕の質問には答えてくれないのに、僕には質問するんですね。まぁいいですけど。答えはイエスです」 「そうか。じゃぁお前はもう、死ぬしかないな」 そういって、潜衣は蛎崎に近づく。潜衣花恋は、怒っていた。 その間にもエゾシャケに抉られ、エゾババアに射抜かれ、エリモに飲み込まれる。 それでも潜衣は顔を歪ませながら蛎崎に向かって走る。 欠片の時計そのものとなった潜衣花恋は、戦闘空間の情報を非常に鮮明に認識していた。 重力異常を利用し、敵の動きを減じながら、自分はできるだけ駆ける。 一瞬でいい。蛎崎に触れられさえすれば、勝利は決まる。 あと1m。これで終わり。 そのタイミングで、蛎崎は、放射熱線を吐いた。 † 厳しい環境である北海道では、異種間で子をなすことは珍しくない。 が、さすがにヒトとエゾヒグマの組み合わせは史上初だったらしい。 僕はヒトを母に、エゾヒグマを父に持つハーフだ。 父さんは人語を理解できなかったけれど、母さんや僕とはうまくやっていたと思う。 人と結婚するだけあって、父さんもエゾヒグマの中ではかなり変わり者だったのだろう。 母さんからもらったプレゼントの腕時計もひどく気に入っていた。 父さんの指に母さんが腕時計を巻くのが毎朝の日課だった。 そんな蛎崎家を、町は暖かく見守ってくれていた。 いや、今思えば、暖かく見守ってくれる町を探して住んでいたのかもしれない。 北海道猟友会をはじめとして、父さんと母さんの関係を快く思わない道民は多かった。 「エゾヒグマがマタギなんて、安心できない」 そんな心無い声も聞こえてきた。 そして、「あの日」が起こった。 北海道では毎年必ずエゾヒグマによる災害が発生する。 それがたまたま僕たちのところにきてしまったんだ、と僕は考えている。 でも、父さんが仲間を呼んだんだという人や、父さん自身が町を滅ぼしたんだという人もいた。 今、僕は北海道のブラックリストに入ってしまっていて、北海道に帰ることは叶わない。 叔母さんと叔父さんには僕がエゾヒグマ(父さん)の血を引いていることを伝えていない。 裏切りかもしれないけれど、本当のことを言った時の反応が怖かった。 それに僕は、姿かたちはヒトとして成長してきた。 放射熱線が出せるようになったのも、つい最近のことだ。 もしかすると、これからどんどんとエゾヒグマになっていくのかもしれない。 それはそれで悪い気分ではなかったが、北海道でないところでエゾヒグマになってしまったらおそらく僕は居場所を失うだろう。 叔母さんと叔父さんも、僕に隠し事をされていたと知ったら悲しむに違いない。 やはり僕は帰りたい。北海道に帰りたい。父さんと母さんと、あの町でもう一度暮らしたい。 北海道の摂理に反しているかもしれない。 世界を捻じ曲げる願いかもしれない。 それでも、僕は、父さんと母さんの子供だ。 僕が僕であるためならば、なんだってしてみせる。 そう、決めたんだ。 † 雪が、逆さに降っている。 蛎崎と潜衣の戦いは泥試合の様相を呈していた。 蛎崎や北海道の攻撃は、欠片の時計と化した潜衣には無効化されてしまう。 一方で、持ってきた飛び道具をとっくにエリモに飲み込まれた潜衣には接触してからの能力発動か、分の悪い賭けしか手立てがない。 しかし、接触を試みれば蛎崎の放射熱線で吹き飛ばされる。 当たり所が悪ければ場外にすら飛ばされそうな勢いだ。 潜衣は、蛎崎に近づこうとしては放射熱線を受けて距離を取られることを繰り返していた。 しかし、この展開はいつまでもは続かない。 「潜衣さん、あなたの再生力には限界がありますね?」 潜衣の顔がかすかにゆがむ。 「無制限に再生できるにしては焦りが見えます。」 「仮にそうだとしたらなんなんだ?その時が来る前に、お前を倒すだけだ」 「いえ、無理ですよ。あなたもうすうす分かっているでしょう。だから降参してください。信じてもらえるかはわかりませんが、別に僕も殺したくて殺してるわけじゃないんです」 「――降参だけは絶対にない」 そう言うと、潜衣は再び接触を試み始めた。 潜衣の再生には限界があるという見立ては正しいが、正確ではない。 潜衣の能力『シャックスの囁き』は間をおかずに使用可能である。 「欠片の時計」としての性質を元の時計を返した瞬間に、「欠片時計」を奪いなおすことでほぼ連続して「再生力」を手に入れることができる。 が、もちろんこの瞬間に死んでいたら、その時点でお終いである。 何度も繰り返しているうちに、蛎崎はその「隙」に気付いていた。 潜衣は愚直に蛎崎にトライしているように見えて、蛎崎から距離を取ることがある。 おそらくこの時に「切り替え」をしているのだろう。 (殺し続けないといけないとなると、北海道任せにはできない。 僕の放射熱線も無限に撃てるわけじゃない。) 試合の展開が変わる。 これまでは潜衣が追い、蛎崎が逃げていた。 しかし今は、相変わらず潜衣が蛎崎にトライしているように見えて、その実、近づいてくる蛎崎から距離を保つように逃げていた。 彼らの戦っている場所は、いつの間にか周囲一帯が高重力の窪地となっている。 「潜衣さん、いくらなんでもバレバレです。僕を戦闘領域の境界付近に誘導しています」 「おいおいおい。万策尽きたかなぁ。‥‥あきらめないけどな」 そう言うと、潜衣は蛎崎から逃げるかのように走り出すと、突然大きくジャンプをする。 彼女の踏み込んだあたりは低重力となっていたのだろう。 突然の動きに、北海道勢もすぐには対処ができない。 潜衣は弧を描き、蛎崎の元へと向かう。 (いくらなんでも破れかぶれすぎる。けど、これで終わらせよう) 蛎崎の放射熱線を撃てる回数も残りわずかだ。それほどまでに、体力を消耗している。 だから、蛎崎は多少のリスクを覚悟の上で、潜衣に最後の一撃を繰り出した。 † 雪が、逆さに降っている。 潜衣は、仰向けとなった蛎崎に覆いかぶさるような体勢だ。 そして、その胸には蛎崎の腕が突き刺さっている。 エゾヒグマの血を引く蛎崎の腕は、少女一人を貫くほどの強度を誇る。 「潜衣さん、僕の勝ちです」 「‥‥ま、まだ、おわって‥‥ない」 「あなたの再生力は時間制なんでしょう。さっき『その時が来る前に』とか言ってましたよね。『その時』まで僕はあなたの心臓を貫き続けます。」 潜衣は、蛎崎の腕を掴むがびくともする気配はない。 「‥‥そうだな、その時がきたら‥わたしの‥‥まけだ」 「降参してください、そうしたらこの腕は抜きます」 「‥‥それはできない」 「‥‥なぜ、ですか」 「こうさんするなら‥‥、私はもっとはやく‥するべきだった‥。私は、ここの人たちを‥、お前に降参せずに殺したんだ‥‥」 「‥‥」 潜衣の言っていることが、蛎崎には理解できない。 ここの人たちを殺したのは北海道で、僕だ。 何故、彼女が罪を感じ、死の道を選ぼうとしているのか。 「「ネガワクバー!」」「「アタエタマエー!」」「「シチナンハックー!」」 エゾジカの槍が次々と潜衣を貫く。 再生能力が続いている間は、それでも問題なく生きていられるのだろう。 だが、能力が解除された瞬間のことは、あまり考えたくない。 「‥‥あなたの能力、痛みは消えないんですよね?」 「めちゃくちゃ‥‥いてーよ‥‥クソヤロウ‥‥」 「‥‥そうですか」 雪が、逆さに降っている。 仰向けになっている蛎崎の視界には、すぐ近くにはいくつもの槍を生やした潜衣が、遠くには自分が召喚した北海道が入っている。 潜衣は既に意識を手放していた。 ああ、酷い光景だ。 めまいがしてくる。 いつかのエゾ風邪をひいて寝込んだ日を思い出す。 あの時は、 雪が降っているのではなくて、 自分が上へと登っているかのような錯覚に襲われた。 今は、 雪は逆さに降っている。 自分が、 下へ下へと沈んでいく。 やめてくれ、 北海道が、 遠くなっていく。 吐き気がする。 僕は、僕が悪人なことを知っています。 僕は、僕が浅ましいことも知っています。 だから、ねぇ、お願いだから、もう死んでくださいよ。 僕は、 北海道に、 帰るんだ。 あれ、 おかしいな。 何でこんなに眠いんだ。 流石に放射熱線を出しすぎたかな。 でもお父さん、お母さん、見てよ、 綺麗な放射熱線出せるようになったよ。 動悸が激しくなる。 雪が、 逆さに降っている。 意識が遠くなっていく。 ああ。 北海道も、 遠くへ。 嫌だ。 あそこへ 帰りたい。 † 二酸化炭素と呼ばれるそのありふれた気体は、高濃度となると無味無臭の毒ガスとして働く。 ヒトであれば、20%を超えると数秒で死に至る。 空気より重く、通常重力化でも窪地などに貯まり死亡事故を起こすことがある。 高重力下ではそこで暮らす人々が狩猟に用いるほどありふれた自然の罠である。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/306.html
準決勝戦SS・孤島その2 ◆目次 ・時系列3.やさしい幼馴染みのお姉さんだよ ・時系列2.蛇が滑り進むように ・時系列4.逡巡の五秒先へ ・時系列5.神の島 ・時系列1.眞雪 ・時系列6.その顔が見たかった ・時系列7.夕暮れ ◆時系列3.やさしい幼馴染みのお姉さんだよ 美弥子の匂いのするベッド。美弥子の服でいっぱいのタンス。美弥子を照らす光が差し込む窓。 細部の細部まで思い出せるくらいに見慣れた美弥子の部屋に、しかし見慣れぬ女がいた。 「美弥子……その女(ヒト)……誰なの……?」 そう口にした麗華の事を、女は驚きの目で見ている。少女二人が突然ワープして来たから当然だろう。 でもそんな事は関係ない。なんだこの女は。誰の許可を得て美弥子の部屋に足を踏み入れている。 「ああもう……」 思わずこめかみを押さえる美弥子に、女は尋ねた。 「……この子たちは?」 「友達。麗華とシェルロッタって言うの。ええと、どこから説明すれば良いか……」 「みやタン、そのお姉さんはどんな方で?」 シェルロッタがいつも通りのマイペースで問いかけると、美弥子は困り顔で答える。 「この人は、おさなお姉ちゃん。私の幼馴染みで……次の対戦相手だよ」 「びっくりしちゃった。まさか美弥子ちゃんがこの戦いに参加してるなんて」 改めて互いに自己紹介を終えると、おさなはリラックスした様子でクッションに座り込んだ。 いつも眞雪が使っていたクッションだ。麗華は不服だった。 「つまりはー」 シェルロッタが状況をまとめる。 「このおさなおねいさんがみやタンの幼馴染みで対戦相手なのですので?」 「うん。えと、二人と仲良くなったのは、小学校三年の時だよね」 「れいかは……もっと前から美弥子の事を見てたの……」 「眞雪と一緒じゃイヤでも目立つもんね……ともかく二人は、お姉ちゃんの事知らないのは当然だよ」 「私が進学で転校する事になったのは五年も前だしね。美弥子ちゃんも眞雪ちゃんもこーんなちっちゃくて」 「そんなに小さくないよ! 小人じゃないんだからッ!」 水平にした手で30センチくらいの高さを作るおさなに、ツッコミを入れる美弥子。麗華の頬が膨らむ。 「まあ、色々あって私も迷宮時計を手に入れちゃって……美弥子ちゃんの名前が時計に出てきたからね。 電車乗り継いて、急いでここまで来たの。学校とかあったから、対戦時間ギリギリになっちゃったけど」 二人の時計に対戦相手の名前が表示されたのは前日17時半。対戦開始時間まで既に三十分を切っていた。 麗華とシェルロッタがここまで遅れたのは、二人とも美弥子の使えそうな武器を探していたからであり、 事実二人は何やら重量感のあるリュックを用意していた。 シェルロッタを持ち物として持ち込む方法は、今回は却下だった。一度使ってしまった以上美弥子が 意識する可能性はきわめて高いし、もしそうなれば美弥子は丸腰である。 「ほー。それはお疲れ様でありまするした」 「ありがとう。えっと……なんて呼べば良いかしら。あだ名とか、ない?」 「……タロマル」 「タロマル?」 「シェルロッタ・ロマル……だからタロマルなんだって」 美弥子が解説すると、おさなはくすりと笑う。 「なんだか可愛いね。じゃあ、私もそう呼んで良いかな。タロマルちゃん?」 「良いのですかも」 「れいちゃんも、教えてくれてありがとう」 「つーん」 「それ口で言う事じゃないから! ……ともかく、さ。どうすれば良いかを二人で話してたんだ」 「そう。……二人からも話してくれないかな。美弥子ちゃんが戦いを止めるように」 おさながそう言うと、麗華とシェルロッタはぱちりと瞬き、美弥子は困ったような表情を浮かべる。 「戦いを、とめる……?」 「止めたくても止められない物ではないのでしたが?」 迷宮時計の機能・法則については、三人でとっぷりと話し合った事もある。飯田カオルという女議員が 打ち上げた救済策も、彼女が爆散して謎のデブと化すという悲劇により立ち消えだ。おさなも頷く。 「確かに、普通はそう。私だって逃げられない。私も、生き残るためにこれまで何人も……」 「おさなお姉ちゃん……」 目を伏せるおさなを見て気遣わしげに手を握る美弥子。ありがとう、と微笑しておさなは手を握り返す。 麗華の眉根にシワが寄った。 「……それでも、美弥子ちゃんだけは違うの。 美弥子ちゃんなら、戦闘空間にワープした瞬間、その事に対してツッコミをすれば、きっと」 「ワープした事をなかった事にして、帰れるかもしれない、って言うんだけど」 麗華は顔を上げた。シェルロッタも、ほう、と分かったような分からなかったような声を上げた。 そう。撫津美弥子は迷宮時計を手にしながら迷宮時計の戦いから自ら脱し得る、数少ない存在なのだ。 少なくともおさなはそう説いた。美弥子の願いは引き継ぐから、転移打ち消しによる元の世界への帰還で 『戦闘領域からの離脱』という敗北条件を満たし、敗北して欲しいと。 そうすれば彼女は傷ひとつなく、迷宮時計を手放して元の世界に帰還できる。 名案だ。麗華はそう感じた。だが、こうも感じた。 (……気に入らないの) この感覚は言わば、いちゃもん付けのようなものだ。美弥子をガサツな眞雪のみならずポッと出てきた 昔の幼馴染みの女子高生ババアなぞに取られているという事実が気に入らなかった。だから、何かケチを 付ける所がないかという粗捜し思考に至ったのだ。 「どうでしょうかな、れいタン。あたしはよくわかんないのですが、みやタンが無事ならそれはそれで。 今まで戦ったヒトやまゆタンを助けるのもこの人にお任せするというのを考えても」 「……気に入らないの」 「え」 今度は口に出して言った。きっと鋭い視線を、おさなへと向ける。 「大体、信用できないの……そんな事言って、人のよい美弥子を騙そうとしてるんじゃないの……?」 「ちょ、ちょっと麗華! 何よいきなり。おさなお姉ちゃんは私の」 「それだって初めて聞いたの……! れいかの美弥子に、そんな、綺麗な幼馴染みさんがいるなんて、今まで 全然聞いた事もなかったの……」 「あ、それはあたしも同じですが」 「それは、そうだけど」 話している内に、麗華の思考は加速する。そうだ。おかしい。おかしい! 「れいかたちは……四人でたくさん、いろんな事をおしゃべりしたの……本当にいろいろなお話をしたの…… 一年の時、美弥子が男子につきまとわれて……眞雪がそいつのズボンを脱がした時に見た、おっ、オシリの ホクロの数だって知ってるの……」 哀れな男子だ。 「それなのに……今までちっともあなたの話、聞いた事ないの……何か変なの……!」 「それ、は」 麗華の言葉を聞いて、美弥子は当惑した表情をしていた。確かにそうだ。魔人という共通点を持つ者同士、 四人は様々な事を話してきた。麗華がよくせがむので、美弥子の事は特に眞雪の口から語られた。それなのに 眞雪と美弥子の共通の幼馴染みであるお姉ちゃんの事を、話していないというのは? おさなの様子を盗み見る美弥子。険しい表情を浮かべている。麗華は続ける。 「そもそもっ……もし本当に幼馴染みなら……昨日の時点でれいか達にその事を、話してるはずなの…… だけど昨日は結局、お電話で、次がきまったって言って、それだけで……」 最初はいちゃもん付けだった。だが今、麗華の中には確信があった。この女はおかしい。何かある。 「麗華……でも、おさなお姉ちゃんは確かに」 「これからいくつか……質問をするの。美弥子の幼馴染みだって言うなら……簡単な質問なの」 「……いいわよ。それで信用してもらえるならね」 こうして、美弥子に関するカルトクイズが始まった――とはいえ、麗華は加減が分からない。簡単なクイズは さらりと答えられ、難しいクイズ(たとえば美弥子のお気に入りのパンツの色とか)は、美弥子に『そんなの 答えられる訳ないでしょっていうか何でそんな事知ってるのよッ!』となかったことにされてしまう。 だが、質問が進むにつれ、美弥子の中に違和感が生じ始める。 「美弥子の好きな果物は……」 「ブドウ。でしょ?」 「まゆタンは皮むくのがめどいと言ってみやタンに給食のブドウをよく押し付けていました」 なんだか 「……好きな色」 「青」 「れいタンのぱんつが青系ばっかりなのはその辺りに理由がありそうであるですか」 これは 「す……すっ、す、好きなお、おぉ、お男のタイプ……」 「質問しながら勝手に泣きそうにならないでよ……一緒にいると落ち着けるタイプの人。年上趣味よね」 「われわれにないものです」 最近の情報ばっかりなような……? 「う、う……ん?」 万策尽きたという様相の麗華は、縋るように美弥子を見る。だが、当の美弥子は何やら考えこんでいるよう だった。おさなもそれに気付き、慌てて声をかけた。 「ねえ、美弥子ちゃん。間違ってなかったでしょ? 実は弥生さんともちょっとお話して」 「お母さん?」 「うん、そう」 「なら、その時にいろいろ聞き出したに違いないの……!」 「そりゃ、話はしたけど、でも別に、聞き出したって訳じゃあ」 「それならさ、お姉ちゃん」 美弥子が口を開く。疑ってごめんなさい、と心の中で言いながらも、疑いを確かに胸にして。 「私が子供の頃好きだった物とか……分かる、よね?」 「子供の頃」 「うん、そう。果物の、だよ。子供の頃ものすごく好きな物があって、今もまあ、嫌いじゃないんだけど、 どんな状態でもそれ食べるとすぐ機嫌直してたから昔は常備してたって、お母さんが」 「まったく単純なお子様でしたなのですな」 「そんな美弥子も……可愛いの……」 当然、分かるはずだ。美弥子とおさなは五歳差。美弥子が幼稚園児ならおさなは小学生。それくらい ちゃんと覚えているはず。子供の頃の美弥子を知っている人なら、必ず答えられるはず。 だが、おさなは押し黙る。推移を見守る二人の前で、美弥子は 「……もう良いよ」 目を伏せって首を振った。おさなは慌てて取り繕う。 「ちょ、っと待って! 今思い出してる所だから。どの果物だったかなって」 「違うよ」 その言葉を強い口調で遮った。美弥子は答えを口にする。 「私、子供の頃は繊維が苦手で果物全部キライだった。好きだったのは果物のグミ。知らないはず、ないよ!」 ――馴染おさなの能力は破局し、全ての記憶が枯れてゆく。 ◆時系列2.蛇が滑り進むように 撫津美弥子、及びその周辺の人間関係を調べさせ終えたおさなは――ある理由により、今回の情報収集は本当に 迅速に終了したのだ――すぐに彼女の住む町へと向かった。少し大人っぽいワンピースにカーディガンを羽織り 薄めだが化粧もする。若々しい三十代くらいには見えるかな? 「……あれ? もしかして弥生じゃない?」 「え?」 最初に標的にしたのは美弥子の母、撫津弥生。買い物帰りの彼女を幼馴染みとしてから、調べておいた情報に 基づいて距離を詰めて、信頼を得る。学校に登校せず引きこもっている娘の事が心配だ、可哀想だし無理は させたくないが、このままでは今後が心配だ――そんな愚痴を引き出せれば儲けもの。 「私、実は小学生向けのカウンセラーとかやってるの。実はさっきも美弥子ちゃんの学校に寄ってたんだ。 もしかしたら力になれるかも。本当はやっちゃいけないんだけど……弥生の事、放って置けないし」 「私のこと?」 「気付いてないの? 弥生、すごく疲れた顔してる。……そんなんじゃ美弥子ちゃんにも気づかれちゃうかも」 これが決め手だった。ひとまず話を聞くためという名目で撫津家に入り込んだ後は、今後美弥子と幼馴染みに なるための情報を引き出した後、飲み物にこっそり睡眠薬を仕込んで、弥生を眠らせる。 洗面台を拝借して化粧を落とし、顔だけでも美弥子の年齢に近付き、 「美弥子ちゃん!」 名前を呼ぶ。これで美弥子が幼馴染みだ。これで行程の九割は完了した。 馴染おさなは悪人ではあるが狂人ではない。迷宮時計を巡る戦いの中で使い捨てる幼馴染みの数も増えて きた現状、いらぬ波風は立てるのは避けたかった。戦闘空間への転移現象を美弥子にツッコませ、それを 打ち消せば、美弥子は敗北し、おさなは勝利する。その後は適当に誰か幼馴染みにしてしまえば、美弥子や 弥生の中でおさなの存在は白昼夢となり、禍根なく去る事ができる。 ――シェルロッタと麗華が乱入してきた時も、おさなは冷静に立ちまわった。彼女らの事も把握済みだ。 二人の名前を呼ばないようにしつつ、美弥子を盾にこの場をやり過ごせるように。時間まで美弥子の信用を 維持すれば勝ち。こちらに有利な勝負。 そのはずだったのだが。 ◆時系列4.逡巡の五秒先へ 本当に、あっという間だった。麗華が美弥子の腕を掴んでどこかへワープしてしまうのは。 二人がいた空間を見つめて目を閉じ、長い溜息をつくおさな。シェルロッタはぼんやりと言う。 「置いて行かれてしまいましたですが」 「急いでたんじゃないかしら。あの子、美弥子ちゃんスキスキだったし」 「困りますなー」 危機感のないシェルロッタをわざわざどうするつもりもない。おさなはベッドに頬杖をつく。 「……きっと」 「はい」 「一生後悔するわよ」 「それはまゆタンがおなくなりした時すませましたので」 「ヤな子供」 おさなは少し笑って、そのままふいと消えた。 「麗、んぐむっ」 赤い夕陽が差し込む麗華の部屋。その中心に位置する天蓋付きベッドに、麗華は美弥子を押し倒した。 美弥子の唇は塞がれている。ツッコミによる巻き戻しを防ぐためだ。 静かな時間が数秒続き、美弥子の唇が解放される。 「ぷはっ……ちょっと麗華!」 「だって、あんな危ない所に美弥子をいさせられないし……突っ込まれたくなかったの」 「シェルロッタ! シェルロッタ忘れてる!」 「ほら、やっぱり。……タロマルなら自分でどうにかするの。それより、こっちの方が大事なの」 そう言ってよいしょとベッドに持ち上げたのは、重量感のあるリュックだ。シェルロッタと麗華はそもそも、 これを渡すために美弥子の部屋へ飛んできたのだ。 「ありがとう。中身は……何これ。ビン?」 「割れると火が点くのとか……すごく眩しく光るのとか……パソコンで調べて、学校の理科室で作ったの」 「ああ、だから昨日の授業の時理科室の中ジロジロ見てたんだ……あんまり危ない事しないでよ。 で、この下に入ってるのは……ネット? これは――」 ……荷物を検分する美弥子の横顔を、麗華はじっと見つめる。 『危ない事しないでよ』 多分、美弥子は素で言ったんだろう。でも、これからもっと危ない目に遭いに行くのは美弥子だ。自分は それを見送るしかできない。 あの、馬脚を現した性悪幼馴染み詐欺女子高生ババアの言葉が思い出される。 『二人からも話してくれないかな。美弥子ちゃんが戦いを止めるように』 美弥子は、戦いを放棄して生還する事ができる。その可能性があるのだという。先程はおさなの存在が あまりにも許せなかったので聞く耳持たずだったが、冷静に考えればそれは、とんでもなく魅力的な提案では ないのだろうか。 「……美弥子」 「何?」 リュックの中身を確かめる美弥子の返事は空返事だった。当然の事なのに、麗華にはそれがひどく冷酷で、 強固な壁のように感じた。 美弥子はもう、戦う事しか考えていない。いや、戦って、勝つ事をだ。 勝って眞雪を取り戻す事を。そのために全力を出している。 (なら、れいかは……) それを応援すると決めた。 支えると決めた。 覚悟もした。 ……それでも。 「やっぱり、やめられ、ないの……?」 口にして、しまた。美弥子がきょとんとした顔をこちらへ向ける。 麗華は美弥子が好きだ。特に好きなのは眞雪の隣で忙しそうでも楽しそうにしている美弥子だ。 だからと言って、眞雪を生き返らせる事を目指して、美弥子を失ってしまったら。 「麗華」 「っ」 美弥子はリュックを背負うと、両腕を麗華へと伸ばす。こわばる彼女の身体を、そっと抱きしめる。 「大丈夫」 「……」 「必ず勝って、戻ってくるよ」 「美弥、子」 「だから待ってて」 その囁きを最後に 「美弥子……っ!」 一人の少女が消えた。 次の瞬間、美弥子は土の上にぺたんと座り込んでいた。空は青く、周りは緑、気温も高い。 『やっぱり、やめられ、ない……?』 悲しげな麗華の言葉が耳に残っている。 『戦闘空間にワープした瞬間、その事に対してツッコミをすれば、きっと』 おさなの言葉が脳裏をよぎる。 ――逃げる事は、もうさんざんに考えた。何度も何度も考えた。そして、今なら逃げ出せるのかもしれない。 こんな異常事態に渾身のツッコミを入れれば、すぐさま元の世界へと帰還できる可能性はある。 でも。 「やるって決めたんでしょ!!」 大きな声で自分へ喝を入れ、逡巡への答えとした。たとえ馴染おさなが本物の幼馴染みだったとしても、 美弥子はきっと戦う事を選んだだろう。 「……あっ」 少しして大声を出した事を後悔し、慌てて口を塞ぐ美弥子。そんな彼女に 「おい、誰だ!?」 かけられる言葉があった。 ◆時系列5.神の島 「その恰好。未来からの来たのか」 索敵の最中に海岸で出くわした全裸の少女に流暢な日本語でそんな事を言われ、おさなの身体が強張る。 「み、未来? 何の事だかさっぱり……」 「現在は1946年。ここは大西洋の無人島だ。住民は私以外いない」 「…………」 確固な口調と傲然たる態度に、おさなは改めて少女を観察した。年齢は13歳くらい。美弥子より少し年上か。 日本人風で凛とした顔立ちに、長い黒髪。全裸である事を除けば普通の少女に見える、が。 「まあ、出自など関係ない。ただの人間を見つけたのは久しぶりだ。しかもお前、処女だな」 「なっ」 思わぬ指摘を受けて顔を赤くするおさな。落ち着け、平常心だ。拳銃を構える。平常心だ。 「なんだ、そんな粗末なモノを出して」 「冗談はよして。私には目的がある。命が惜しければ」 「ハン」 向けられた銃口を見て、少女はせせら笑う。そんな物で何ができるのかと。 (……こんな訳の分からない所で足止めなんて) 簡単に済ませる事こそできなかったものの、美弥子を仕留める事が容易いのは変わらない。近づいて、撃つ。 それで終わりだ。その前にまずこの少女を排除すれば良いだけ。 引き金に指がかかる。少女は股間へ手を伸ばし、言った。 「プレローマ」 その手が淫らに、蠢く。 「で、次の戦場がここになったって訳か」 「は、はい……」 ひと通り状況説明を終えても、美弥子はまだ事態を飲み込めていなかった。腕組みをして頷く彼は、巨大な 毛筆と万年筆を背負った中年男性――美弥子の第二回戦の対戦相手、門司秀次その人である。ただし筋骨は 更に逞しくなり、ダンディな髭が蓄えられている。 彼の話によれば、ここはどうやら美弥子の第二回戦の世界と地続きの世界であるらしい。あれから30年が 経過した世界に、迷宮時計は美弥子とおさなをいざなったのだ。 「……元気そうで何よりです」 何を言ったものか考え込んだ末に出てきた無難な一言に、秀次は「おう」と軽く返した。 「魔人だしな。その気になりゃどこでだって生きていける。それより、これからどうするかだ。 正直、美弥子ちゃんにとってはかなりマズい場所だぞ、ここは」 「えっ……?」 美弥子の疑問符は、ここが美弥子にとってマズい場所である、という言葉から来た物、ではない。 「……協力してくれるんですか?」 「うん? あー……」 その問いかけに、頭を掻いて少しバツが悪そうにする秀次。美弥子は続ける。 「だって、私は二人を」 「待て! 確かにそうだ。俺もナマ子もあの後この世界に取り残された。ああ、大変だったさ。 でもま……もう随分昔の話だし、今更美弥子ちゃんをどうこうしようなんて思わねえ。少なくとも、俺は」 「そう、なんですか」 「ただし! 手助けはしない! ……っていうか、その余裕はないと思う」 「余裕、ないんですか?」 「ああ。実はこの島にさ、ナマ子のヤツもいるんだが……」 「んぎっひいいいいいい!!」 銃声が響くと同時に、黒髪の少女は青空へと飛び上がった。自身への激烈な愛撫によって生まれる快楽痙攣を 利用して天高く舞い上がる、ビッチ回避術・トビウオの型である! 「はぁ!?」 刹那の間に眼前で繰り広げられた無数の非常識現象に愕然としかけるおさなだが、撃つべき相手が健在である 事に変わりはない。青空の少女へ銃を連射。だが当たらない。そもそも動く物を銃撃するという事は非常に 難しく、おさなはちゃんとした訓練を受けている訳ではないのだ。 「フン……」 愛撫痙攣で己の肉体を巧みに操り空中で態勢を整えた少女。軽く手を振るうと、辺りの空気がどよめいた。 「まずは少し……」 手だけを覆うように展開されていた濃密気体状オナホールが新たな形を作り出す。長く、硬く、太く。 「大人しくしてもらおうかッ!」 ナマ子の手中に生み出されたのは濃密気体状オナホールによって形成された不可視の槍―― ――否、ディルドーである! 槍投げの要領で投擲されたソレは一直線におさなへ迫り、 「ングゲブハシャァァアッ!?」 的中! 濃密気体オナホ整形投擲槍形態ディルドーに貫かれたおさなは全身からありとあらゆる体液を 噴き出しながら20メートルほど吹き飛び、海へと落ちた。もし陸に落ちていよう物なら、脱水症状により 即死していただろう。 「……生きているだろう? 加減したからな……」 悠々とおさなの落下地点へ歩み寄り、彼女の襟首を掴んで引き揚げる。息を荒げながらビクビクと痙攣する 彼女だが、しかしその手には未だ拳銃が強く握られていた。少女は鼻で笑い、手を伸ばす。 「そんなモノに頼った所で私には勝てん」 その艶めかしい指使いで、拳銃をつつと擦る。バンバンバンバン! 無軌道な銃声が辺りに響き渡った。 少女の愛撫によって拳銃は達し、装填されていた銃弾を全て吐き尽くしたのだ。無機物性交学に少しでも 触れた事のある方ならご存知だろうが、拳銃は概念的には男性器とほぼ同位の存在であり、ビッチとして 確かな実力を持つ者であれば、触れるだけで無力化する事ができる。 ――もはや隠す必要もなかろう。 この少女は二回戦で撫津美弥子や門司秀次と対戦したビッチ魔人、猟奇温泉ナマ子の30年後の姿である。 戦いの終わり、美弥子とセックスがしたいという強固にして愛を伴う性衝動を得たナマ子。 彼女が難破船から救われ、意識を取り戻した時抱いた感情は怒りだった。 最もセックスしたい相手がもはやこの世界にいないという、忌むべき宿命への怒りだ。 陸地に到着したナマ子は憂さ晴らしに秀次の童貞を奪い逃亡。ヤケクソ通り魔セックスにより多くの男を 絶頂死に追い込んだ。 三ヶ月ほど経ち秀次にその凶行を止められ、地下牢に囚えられたナマ子は、ここに至って真面目に美弥子と セックスする方法を考え始めた。考え抜いた末に得た結論は一つ。 『永劫のセックス概念となり、時空を超えるチャンスを待つ』 ――その後、様々な試行錯誤を繰り返した末、ナマ子は大西洋に浮かぶこの無人島、セックス島に篭った。 己を純粋なるのセックス存在とするために敢えてセックスを、否、人間性そのものを放棄したのだ。もちろん セックス島というのはナマ子の命名である。 最初の十年は苦痛ばかりであった。時折様子を見に来る秀次には忌々しいながらも少しだけ感謝した。 次の十年は変化の年だった。肉体の老化が止まり、飲食や排泄を必要としない身体になりつつあった。 魔人能力、プレローマも、範囲が下がる代わりに応用性が利くようになった。無差別性を放棄する事で、 セックスへの汎用性を高めていったのだ。 苦難の日々を越えたナマ子は、徐々に若返り始めた。セックス――もちろん美弥子とのセックスに適した 年齢を肉体が自ずと目指し始めたのだ。 こうしてナマ子はセックス概念となり、人類が性行為を忘れない限り不滅の存在となったのだ。 そしてそのナマ子が、『その可能性』に気付かぬ訳がない。おさなの腕時計を確かめ、口角を釣り上げる。 「……撫津美弥子!」 迷宮時計の機能の一つ、対戦相手の表示。これによりナマ子は、美弥子がこの島へ訪れている事を悟った。 何より望んで止まなかった美弥子とセックスする千載一遇のチャンス! 「待っていろ……撫津美弥子! これからお前をセックスしてやる……!」 おさなを投げ捨て駆けていくナマ子。その背中を、おさなはぼんやりと見送っていた。 「……ともかく色々あって、ナマ子のヤツは美弥子ちゃんを狙うだろう」 「やっぱり、私を恨んで」 「いや、まあ」 否定しようにも、ナマ子に関するアレコレを美弥子へ説明するのはさすがに憚られる。秀次は説明を打ち切り 美弥子へ背を向けた。 「ナマ子は俺が止める。美弥子ちゃんの対戦相手には何もしない。まあ俺は、美弥子ちゃんみたいな良い子に 勝って欲しいと思ってるぜ。俺を負かした相手でもあるんだしなっ!」 「……はい」 「だから頑張ってくれ! 俺も頑張ってナマ子のヤツを足止めするから」 「ありがとうございますっ!」 走り去っていく秀次の背中へ、美弥子は大きく頭を下げる。自分を恨まないばかりか、対戦に関して直接的に ではないにせよ、自分を助けてくれるなんて思ってもみなかった。 「……勝とう」 改めて決意した美弥子は、秀次とは反対側へと駆け出す。 『おっと、もう来てたかよナマ子! 悪いが止めさせてもらうぜ!』 『消えろ門司秀次! 童貞を卒業させてやったくらいでカン違いするなッ!』 リュックの中に入っていた麗華の作戦メモの内容は、こうだ。まず狭くて、できるだけ高低差のある地形を 見つける。小柄で運動神経の良い美弥子なら、多少なりとも有利に動けるような場所だ。 そういう場所を見つけたら、罠を張る。用意してくれた黒ネットは暗闇の中で溶け込み、敵を絡めとる。 これが要だが、死なない程度の高低差を活かして相手を落下させるのもアリかもしれない。化学薬品を使って 作った各種ビンはそのための誘導用であり、直接攻撃用ではない。そうして相手が行動不能になった所で、 降伏を呼びかける。 『がんばるのです!』 リュックの一番奥に入っていたお菓子とそれに付いていたシェルロッタの付箋を見て、思わず頬が緩んだ。 前はシェルロッタと一緒に戦えた。だが今回は無理だ。一度でも二人での戦いを経験した美弥子にとって、 それは少し心細い事実だったのだが。 (大丈夫。一人じゃない。私は一人なんかじゃない) 自分に言い聞かせながら、美弥子は走る。できるだけ高い所へ。 夜。 「美弥子ちゃーん!」 作戦通りの陣の奥、岩場の隙間に敷いたマットの上でリュックの中に入っていたランタンをつけ、 シェルロッタのお菓子を齧っていた美弥子を呼ぶ声があった。緊張で身体を強ばらせる。 あの声は、間違いない。馴染おさなだ。 「明かり、漏れてるよ。美弥子ちゃんでしょ」 「……あっ」 迂闊である。美弥子は大人しくランタンを掲げ、岩場の隙間から這い出た。空に輝く星と月は眩いばかりの 光を放ち、夜の二人を照らしていた。おさなはなだらかな崖の下。美弥子は崖の上からおさなを見下ろす。 美弥子は身構える。何をしてくるんだろうか。近づこうとしてくれれば楽なんだけど。 「ねえ、美弥子ちゃん」 「……何ですか」 「ごめんね」 しかしおさなの口から出てきたのは、思わぬ謝罪の言葉だった。キョトンとする美弥子。 「私の能力、相手を洗脳する……みたいな能力なんだ。それで、私が美弥子ちゃんの幼馴染みだと思い込ませて 戦いをやめるように言ったの」 「そうなんですか」 「私も、この戦いには勝ちたいの。この迷宮時計でしか叶えられない願いがあるから」 「それは!」 「美弥子ちゃんも、だよね」 私も、という言葉を先回りされ、美弥子は押し黙る。おさなは夜の光の下で、微笑した。 「いいよ」 「え?」 「美弥子ちゃんの勝ちで良い」 思わぬ言葉だ。耳を疑う美弥子に、おさなは続ける。 「さっき、秀次さんとナマ子って人に会った。二人とも、美弥子ちゃんと戦った人なんだって? それなのに 二人とも、美弥子ちゃんを恨んだりせず――まあ、ナマ子の方はかなり頭おかしかったけど――美弥子ちゃんが 勝つって信じてた。私はさ」 視線を伏せるおさな。寂しげに。 「……今までの対戦相手は、ほとんど殺してきた。私はそうするしかできないから。でも、美弥子ちゃんは 違うんだ。そういうの、良いなって」 「……だから、私の勝ちで良いんですか?」 「そう。でも、その前に私の話を聞いて欲しい」 「あなたの話、ですか」 おさなの願いに関する話だろうか? 耳を澄ませる美弥子。だが、続く言葉は思わぬ物だった。 「眞雪ちゃんの事について」 「え」 どうしてそこで、眞雪が出てくるのか。動揺する美弥子を見て、おさなは笑う。 暗い笑み。 「ねえ、確かに私には魔人能力があるよ。けど、情報収集の方は他人任せでね。あんまり得意じゃない。 それでも、美弥子ちゃんの家や、美弥子ちゃんの友達の事はね、ものすごく簡単に調べられたの。 どんな武器でも作り出せる魔人能力『"絶対火力権"の眞雪』を持つ、森久保眞雪ちゃん。 体の形を作り替える魔人能力『メタコムメルモル』を持つ、シェルロッタ・ロマルティナちゃん。 限定的な転移を行う魔人能力『仔猫の道(キティ・ウォーカー)』を持つ、読小路麗華ちゃん。 そして……限定的な能力解除を行える魔人能力『"木瓜殺手刀"の美弥子』を持つ、撫津美弥子ちゃん」 次々言い当てられる魔人能力と、その名称。美弥子は寒気を感じた。誓って、四人はそれぞれの能力を いたずらにひけらかすような真似はしないし(眞雪ですら!)、それを人に話す事だってないのに。 「ごめんね、驚かせて。でも、私がここまで詳しい事には理由がある。 そして、美弥子ちゃんはその理由を……眞雪ちゃんの事を知っておかなきゃいけないと思う。 これから、迷宮時計を巡る戦いを勝ち抜くために。美弥子ちゃんの願いのために。」 「眞雪の、こと」 眞雪。森久保眞雪。私の大切な友達。彼女の事で、私が知らない事なんてほとんどないはず――本当に? 手首に着けたデジタル腕時計を握る。眞雪の形見であり、迷宮時計。 ――そう。この存在だって、実際に手にするまで、美弥子は知らなかった。 「そっちに行って良いかな? この距離じゃ、話しづらいし」 おさなの言葉を、美弥子は拒めない。安全に登るルートを説明した。登ってくるおさな。 「じゃあ、これ」 彼女が差し出したのは拳銃だった。銃口はおさなの方を向いている。 「……何ですか、これ」 「これを持って。私に向けた状態でね」 「どうしてそんな……」 「それが私が話をする条件、って言ったら?」 「う……」 美弥子は逆らえない。眞雪の名前を出した瞬間から、この場のペースは完全におさなが握っていた。 美弥子に両手でしっかりと拳銃を握らせ、正面に突き出させる。その銃口を自分の胸に押し付けると、 美弥子の指を取って引き金へと掛けさせた。 「これでよし、と。……大丈夫よ。美弥子ちゃんが引き金を引かなければ良いだけなんだから」 「……どうしてこんな事」 「儀式みたいなものよ。じゃあ、話すわね」 腕を伸ばせば手が届く距離。おさなは美弥子の顔を見下ろす。美弥子も負けじと見返した。 おさなの唇が開く。 「眞雪ちゃんは絶対に助からない」 ◆時系列1.眞雪 深夜零時。 「……随分手際よく情報集まったんだ?」 『ヘヘヘ、おさなちゃんのためだからなぁ』 「ありがと。直接お礼言いに行けなくてごめんね」 次の対戦相手の名前が撫津美弥子と分かってからすぐ、おさなは情報屋に連絡をつけて幼馴染みにし、 情報を収集するよう頼んでいた。携帯端末を肩と耳で挟み、メールで届いた内容をスクロールする。 「しかもこんなに詳しく……すごいわ」 『まあ、美弥子って娘らについて当たるのは全然簡単だったしなァ』 「そうなの?」 『メール見てくれりゃ分かるけどよ、その美弥子って娘の友達が相当ヤベエんだ』 「……この子ね。森久保眞雪」 屈託ない笑顔の写真に、パーソナルデータが連なる。 魔人能力『"絶対火力権"の眞雪』。どんな武器でも作り出せる能力。 「……なんでこんな娘が野放しにされてるの?」 『ま、力に振り回されてる訳でもないしな』 眞雪は力に目覚めた後も、その力を積極的に振るう事はなかった――唯一、撫津美弥子が側にいる時を除き。 ツッコミにより能力を打ち消せる美弥子のそばで、眞雪は冗談めかして己の能力で遊んだ。 『女の子が持つには過ぎた力だ。そうやって遊ぶ事で、精神的な負荷を減らしたんだろ』 だが、そんな日常も長くは続かなかった。 「対魔人組織……スズハラ機関」 『の、下位組織の要請だな。森久保眞雪の確保もしくは殺害』 曰く、どんな武器でも作り出せる能力は、放置するのはあまりにも危険過ぎる。将来的に核兵器や細菌兵器を 生み出しでもしたらどうするのか……そんな正論じみた建前の裏に、彼女を操りその能力で一財産を築いて やろうという思惑が滲んでいる。それが他人の手に渡る事が許せないというニュアンスもだ。 「結果的に確保は失敗。特に、周囲の人間へ手を出そうとすると森久保眞雪は恐ろしい速度でそれを阻止し、 殺害した。暗殺も困難で、彼女は何やら危機に対する鋭い嗅覚を持っている節がある……嗅覚?」 『森森って暗殺者がいてさ。知ってる?』 「いいえ」 『超有名大物暗殺者だぜ。魔人能力は深緑太平洋。対象を太平洋と同様の広さの樹海へ閉じ込める能力。 眞雪はこれに囚われた事もあるんだが、一緒に囚われたシェルロッタに、なんと森森が一目惚れしちまって』 「……何それ」 『森森のヤツ、シェルロッタを殺す事に耐えられず能力を解除して、自分は責任を取って自殺したんだ。 まあそんな感じで、運にも実力にも恵まれた魔人だったんだな、眞雪は』 「の割には、事故死したんじゃない」 『これもスズハラ機関の手によってだ。迷宮時計の戦いが終わった直後を狙われた』 迷宮時計を手にした後も、眞雪は順調に戦いを勝ち抜いた。敵対する者は全て戦闘空間にて殺害した。 だが、眞雪も所詮は11歳の少女に過ぎない。戦いの後は疲弊し、集中力が鈍る。そこを狙われた。 眞雪の対戦を察知したスズハラ機関は、その直後を狙って暗殺者を送り込んだのだ。 「トラックくらい、どうにでもなったんじゃないの?」 『LOVE彩の国☆埼黒ンって知ってる?』 「いえ」 知っているどころではないが、一応知らない事にした。そうか、と情報屋は続ける。 『そこにいるスケルトン春日って奴が、止まってる限り完全に対象を透明化するっていうヤバい能力の魔人でね。 スズハラがソイツを一時的に雇い入れてた。それと、他にも側に美弥子がいた事も大きいと思う。 迂闊にトラックを攻撃して美弥子を巻き込んだら駄目だって判断して、だけど他に打つ手もなく、 気がついたら……って事なんじゃないか』 「ふうん」 その時は、 「悲しい物語ねぇ」 そんな感想で話を終え、美弥子の情報に移ったのだが。 ◆時系列6.その顔が見たかった 「……嘘」 「疑うのは自由だけど、筋は通るでしょ?」 眞雪にまつわる話を終えて、おさなは美弥子に微笑みかける。顔面蒼白の美弥子に向けて。 「嘘。だって、眞雪、そんな事、一言も」 「じゃあ美弥子ちゃんなら話した?」 思い返す。一度目の戦いを終えた直後、麗華とシェルロッタに迷宮時計の話をした時の事を。 ……他ならぬ美弥子が、危険な戦いの事を伏せようとしていたのだ。眞雪が同じように、自分の身に 振りかかる危険を一人で抱え込んで、不思議な事があるか? 「眞雪ちゃんは、能力のせいで身柄を狙われてた」 質量保存の法則を無視する魔人能力なぞいくらでもこの世に存在する。だが、眞雪の能力はその中でも 段違いに危険で、カネになる。眞雪は無制限に武器を生み出し、それらは破壊されない限り存在し続ける。 それを売って得られるカネは如何程か? それを使って殺せる人命は如何程か? 「あなたは眞雪ちゃんを狙う手の者に巻き込まれる事もあった」 ピクニックと言って樹海に放り込まれた事を美弥子は思い出していた。結局その、森森という魔人が自ら 能力を解除した事で事態は終わったが、もしそうでなくとも、麗華がいれば四人は帰還できたのだろう。 もし眞雪だけだったら、そうは行かなかった。美弥子と二人でも。 あの日四人でピクニックをやろうと言い出したのは誰だっただろう? ……考えるまでもない。眞雪だ。私を引っ張り回すのはいつだって。 「でも、結局眞雪ちゃんは殺されてしまった」 あの運命の朝の事を思い出す。思い返せば、あの時唐突に渡された爆弾は何だったのか? おばあちゃんを助けたって、眞雪は何をやったんだ? おさなの話によれば、あの時眞雪は迷宮時計の戦いを終えてすぐ後だったのだという。 『さっきもこの火炎放射機で全てを解決してきたところ』とは、一体何を解決してきたのか? それがいつもの冗談でないとしたら……いや、そもそも『いつもの冗談』は、どこまで冗談だったんだ? 私は眞雪の何を知っていた? 私が気付いていないだけで、眞雪はもしかして、ずっと私のために戦っていたんじゃないか? その結末が、あの死なんじゃないか? 「美弥子ちゃんを庇って、抵抗し損ねた」 ぐるぐると渦巻く美弥子の思考に、一滴の雫が垂らされた。破滅的な雫だ。 おさなは言っている。美弥子のせいで眞雪は死んだと。 「ち、が……」 「違うの?」 反論を試みる美弥子を、おさなは笑顔で見つめる。引き金に引っ掛かった指が震えた。 もしあの場に美弥子がいなければ、眞雪はどうしたのだろう。それこそ、爆弾でも使ってあのトラックを 吹き飛ばしたんだろうか。巨大な銃でトラックを撃ち抜いた? でもそれはできなかった。爆風に美弥子が 巻き込まれるかもしれないから。軌道の逸れたトラックが美弥子を轢いたかもしれないから。 私がいなければ。眞雪は対処、できた? 「……でも、でも!」 美弥子は首を振り、思考を振り払う。そうじゃない。そうじゃない! どうして死んでしまったのかなんて、 もうどうしようもないない事じゃないか。そうじゃない! 「それでも私は! 迷宮時計を手に入れて……眞雪を止める! 眞雪を助けるの!」 「時間を巻き戻して?」 「眞雪を止めて、会って、話して……もう一度! 眞雪と一緒にいたい!」 「その後は?」 「その……え?」 その後、なんて、考えた事もない。美弥子は今、目の前の事を考えるのに必死だ。バトルロイヤルに 巻き込まれてから、ずっとそうだった。 「その後は……元の生活に……」 「そう。元の生活ね」 元の生活。 「元の……生活…………」 元の、眞雪が命を狙われ続ける、生活。 「眞雪ちゃんは絶対に助からない」 最初に言った言葉を、おさなは反復した。愕然とした美弥子の顔を見つめて。 「眞雪ちゃんが『"絶対火力権"の眞雪』という力を持つ限り、眞雪ちゃんは命を狙われ続ける。 時間を巻き戻して事故をなかった事にしても、『あの時死ななかっただけ』になるのよ」 「ぅ、あ」 「眞雪ちゃんだけじゃないの。私が仕入れた情報は、眞雪ちゃんと美弥子ちゃん、麗華ちゃん、 そしてシェルロッタちゃんの四人がセットになっていた……つまり、四人ともが狙われる可能性があるって事」 そして、自分や三人を守るためにも、眞雪は戦うのだろう。死が彼女を終焉させるまで。 「眞雪ちゃんを生き返らせる事は、彼女をもう一度殺し合いの渦中に巻き込む事に過ぎないのよ」 おさなは黙った。美弥子も俯いて、黙った。胸につきつけられている銃口が震えているのを感じる。 「……なら」 「ん?」 長い沈黙の後、小さな声が美弥子の唇から漏れ出た。 銃口の震えが止まった。拳銃を握る手に、確かな力がこめられた。 「なら!」 美弥子は顔を上げた。その目は強く見開かれている。 「私も……戦う! 眞雪と一緒に!」 「戦えるの?」 「戦える! 眞雪一人に背負わせたりしない……!」 そうだ。眞雪が命を狙われて、私たち四人が巻き込まれる可能性があるなら……四人で立ち向かえば良い! 眞雪。どんな武器だって作り出せる最高の戦力だ。彼女が作り出した武器を私たちも持つ。 麗華。彼女が協力してくれれば、どこへだって逃げられる。冷静な彼女なら狙撃銃とかが似合いそう。 シェルロッタ。素でも十分戦える彼女だが、眞雪の武器が使えれば戦闘力は跳ね上がる。爆弾とか? 私! 敵の魔人能力を、なんだって消してみせる! 武器だって、何だって使いこなして見せる! 「やっぱりそうだよ。元の生活に戻る! 眞雪のためなら……戦えるんだから! 麗華だって、シェルロッタだって! 協力してくれる! 四人で一緒に過ごすんだ……!」 「戦うって事は、殺すって事よ? 眞雪ちゃんはもう、何人も殺してるって話したはず。彼女と並ぶって事は、 つまりあなただって……」 「殺せる!!」 言い切った。泣き叫ぶように。なら、とおさなは目を細める。 「今すべき事は何かわかってる?」 「……!」 美弥子は己の手元に視線を注いだ。指にかかった引き金。銃口は対戦相手の心臓の上。 そうだ。 殺すんだ。 馴染おさなを殺して これからの対戦相手も全員殺して 迷宮時計を手に入れて、眞雪を取り戻して、 四人で今までと変わらない元の生活を過ごすために 殺して 殺して殺して殺して 殺して殺して殺して殺して殺して 殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してあああああああああぁぁぁぁ!!」 カチリ。 「…………え?」 叫びながら引き金を引いた拳銃は、その銃口から何も発する事はなかった。くすり、とおさなが笑う。 「ごめんね。それ、さっき弾をナマ子とかいう変態に絞り尽くされちゃって」 「え?」 おさなの顔を見上げると、振り上げられたナイフが夜空の光を反射して銀色に輝いていた。 首から血を噴き出し、倒れこむ美弥子。返り血から顔を庇いつつ、更に心臓を一突き。 「あ゙っ」 濁った声を漏らし、更に血が広がっていく。それをおさなはじっと見つめる。 眞雪の事を話して考えられるパターンは二つあった。 絶望して自ら戦いを放棄するか、それでも戦うと決めるか。 わざわざカラの拳銃を持たせるなんて事をしたのは、今回のように殺意を滾らせて襲ってきた時に 一手遅らせるためだ。その一手で確実に美弥子を殺すためだ。 ――おさなが美弥子を殺す事は容易い。それでもこんなまどろっこしい真似をしたのは、美弥子を 追う最中に遭遇した秀次とナマ子の存在が大きかった。二人とも、美弥子に良い感情を持っていた。 秀次は美弥子を応援し、ナマ子は恋する少女の表情で愛を叫んでいた。 許せなかった。 他人を利用して、全てを奪い尽くしてきたおさなは、許せなかった。メリー・ジョエルを永劫の彷徨へ 放逐し、三禅寺ショウ子を絶望の中で殺し、伊藤日車を徹底的に蹂躙して殺してきた。 迷宮時計を、願いを叶える物を巡る戦いは斯くあるものだと信じていた。 いや、それ以前に、馴染おさなはもう長い間、そういう生き方しかできなかった。 なのに美弥子は、幸運で、敵を生かしながら勝ち抜いてきたという。 羨ましかった。美弥子の幸運が。 妬ましかった。美弥子を語る秀次とナマ子の表情が。 許せなかった。美弥子という存在が。 だから、せめて殺す前に見てやろうと思ったのだ。 善良で小さな女の子の、消えぬ絶望に染まった表情か、殺人という罪を決意した表情を。 その結末を。 血が止まらない。腕を動かそうとする。動かして……どうするんだろう。 滲む視界の端に、何か光る物が見えた。首、は、動かない。目線をそちらへ送る。 ビンだ。 シェルロッタと麗華が、学校の理科室で作ったという、ビンだ。 人を殺さず済むようにと考えて、私に託したビンだ。 血が止まらない。食べていたお菓子が、シェルロッタの『がんばるのです!』が、血に沈んでいく。 「ごめ……ん…………」 撫津美弥子は死んだ。 ◆時系列7.夕暮れ 美弥子の部屋へ戻ってきたおさなを見て、シェルロッタはおよそ全てを悟った。 それを肯定するように、おさなは簡潔にその終わりと教えてやる。 おさなは美弥子の部屋を後にする。シェルロッタはその背をぼんやりと見送る。 階下のリビングでは、撫津弥生が何も知らずに眠り続けていた。 17時40分。 美弥子が戦闘空間へ向かってから十分が経過した天蓋つきのベッドの上へ、夜の光が差し込む。 美弥子が抱きしめてくれた感触は、まだ覚えている。でもその温かみは、もう消えていた。 「……美弥子……遅いの…………」 麗華は丸くなり、ぎゅっと自分の身体を抱きしめて、呟いた。 もう分かっていた。 「れいかをこんなに待たせて……帰ってきたら、許さないの……」 許さない。だから早く帰ってきて欲しい。 それも届かぬ願いであると。 「……うっ……うう…………うえぇ……」 後悔が麗華の目から溢れ出す。 もっと強く言えば良かった。 懇願すれば良かった。 戦いをやめてほしい。 眞雪の事は諦めて。 寂しさも悲しさも、三人で分け合おう。 だから、だからもう、危ない事はしないで。 私のためにいてほしい。 ――何一つ言えず、馬鹿みたいに名前を呼ぶばかりで。 『必ず勝って、戻ってくるよ』 『だから待ってて』 そんな言葉を根拠なく信じて。 「ぐす……ふぇっ…………くしゅ、あ……あっ…………うあ……あああああぁぁぁっ!!」 奇しくもその慟哭は、美弥子が引き金を引いた時に上げた叫びと、ひどく似ていた。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/tsukubanbbc/pages/76.html
試合結果 1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 計 H E バリアーズ 1 0 0 2 1 3 / 7 9 2 ケロッグス 0 0 0 0 2 0 / 2 4 0 バリアーズ:?-? ケロッグス:前田・和田拓・永野ー武田・和田憲 <本塁打>野手 ケロッグス <二塁打>野手 ケロッグス 打撃成績 打順 守備 打数 安打 得点 打点 1回 2回 3回 4回 5回 6回 1 (二) 島田 2 0 0 0 四球 三ゴロ 三振 2 (遊) 野手 3 3 1 2 投安 中2 右本 3 (右投) 和田拓 3 0 0 0 三振 三ゴロ (投) 永野 1 0 0 0 一失 4 (一) 山川 2 0 0 0 三振 三振 (右) 山下 3 0 0 0 三振 5 (三) 渡邉 3 0 0 0 三飛 三ゴロ 左飛 6 (左) 吉岡 2 0 0 0 三振 三振 PH 上田 1 0 0 0 三振 7 (捕) 武田 1 0 0 0 三振 (捕) 和田憲 3 0 0 0 三振 三ゴロ 8 (投一) 前田 1 1 1 0 右安 死球 9 (中) 七辺 2 0 0 0 投ゴロ 三飛 投手成績 名前 投球回 自責点 失点 三振 四球 死球 被安 被本 投球数 暴投 勝敗 前田 3 1 1 0 1 2 1 0 50 0 負 和田拓 1,1/3 3 3 0 0 0 5 0 29 3 永野 1,2/3 1 3 1 1 0 3 0 33 1
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/97.html
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「突然ごめんあそばせえ。実況・アナウンス担当の斎藤窒素よ。 本大会の準決勝第一試合は、白王みずき選手の勝利で幕を閉じたわ。 だから、あなたはここでこのSSを読むのをやめても構わない。 この先の物語は、ある意味で蛇足にあたるわけだものねえ。 もちろん私は読むわ。だって、このままじゃちょっと悲鳴が足りないじゃない? 用意はいい? ……それじゃあ、続けるわよ」 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「……おかしいですねえ」 不動の降参からしばらくが経過した。 黙って女神オブトーナメントによる転送を待っていた二人だったが、待てど暮らせど転送されぬのである。 「もしかして、なにかトラブルでしょうか……」 「ただ単に、お菓子でも食べてるのかもしれませんけどね」 「もう、そんなこと言っちゃダメですよ」 素で心配しだすみずきと、あくまで懐疑的姿勢を崩さぬ不動。 先ほどまで戦っていたとは思えぬほど和やかな空気が流れる両者だったが、とはいえ転送が遅れとしたらそれは実際由々しき事態である。 敗北しつつも無傷な不動とは違い、勝者たるみずきは満身創痍――いくら『転校生』ワン・ターレンがあらゆる怪我を治すチカラを持っていても、それまでが辛いことに変わりはないのだから。 「――あっ」 と言っている間に、上空より降り注いだ淡い光がみずきを包み込む。転送の開始だ。 しかし、そのことを素直に喜べはしなかった。 対戦相手の不動には、何の音沙汰もなかったのだから――。 「ちょ、ちょっと待ってください! タイムです!」 転送の刹那、慌てて中止を要求するみずき。 果たして転送は為されなかったが、しかしどうにも腑に落ちない。どうして自分だけが転送され、不動はここに残されるのか。 事情の説明を求めんと少女が口を開きかけると同時に、二人の脳内に美声が響いた。 (あてんしょん・ぷりぃいず。お邪魔するわあ、斎藤窒素よ) 声の主は、本大会で実況や選手へのアナウンスを担当している希望崎学園報道部三年・斎藤窒素である。 このタイミングでの通信が、単なる勝者宣言で終わるはずがない。 そう考え身構えるみずきと不動に、いつもと変わらぬ声音で窒素は語りだした。 (まずは、白王選手、勝利おめでとう。いい悲鳴だったわあ……決勝も楽しみねえ) ぞわり、と背筋が凍る。 悲鳴に関しては褒められている気は全くしなかったが、みずきは一応「ありがとうございます……」とお辞儀しつつ礼を述べた。 (そして、不動選手……。真に言い難いのだけど、運営本部は貴方をこの空間から出すわけにはいかないわあ) 「「 !? 」」 みずきと不動をかつてない衝撃が襲う! 女神オブトーナメントの能力により創り出されたこの空間から出られないということは、つまり大会本部により軟禁されるということに他ならない。 きっと生半可な理由ではないだろう。二人の無言は、窒素に次の言葉を促していた。 (実は、魔人公安に「『転校生』不動昭良抹殺指令」とやらが出ているらしくてねえ) 「えっ――!」 (私たちにもお達しが来たのよ。「小隊が到着するまでターゲットを逃がすな」って。 そういうわけで、無関係な民間人の白王選手には安全なところへ避難して欲しいというわけなの。……わかってくれた?) 「理解はしました。――でも、納得はできません!」 言いながら、みずきは不動の手をギュっと握る。 驚く不動。その顔には、ほんのりと朱が差していた。 心臓も、さっきまでより明らかに強く、激しく動いている。 「昭良君だけ残して避難するなんて出来ません! 勿論、殺させもしません! 絶対に二人で脱出してみせますっ!」 (うふふ。楽しみに待ってるわあ。じゃあねえ♪) それから美声は聞こえなくなった。辺りに静寂が戻る。 みずきは握りしめた手を離さぬまま、不動に向き直り口を開いた。 「こうなったら、本当に二人で脱出するしかありません……! さあ、力を合わせて頑張りましょうっ!」 おーっ! と空いているもう片方の手を空中に突き出し、ひとり気合を入れるみずき。 一方の不動はそっぽを向いて頬をポリポリと掻きながらボソボソと喋る。 「……よかったんですか?」 「ええ。大切な仲間の昭良君を放ってなんておけませんもの!」 薄い胸を張って答えるみずきに、不動の鼓動はますます早鐘を打つ。 「あ、ああ、そう。……あと、手」 「……ああ、ごめんなさい! つい……! あの、離した方がいいですか?」 自分より僅かに小さい年上の少女の無垢なる上目遣い。 何故かは分からぬが不動の心は大きく掻き乱された。 「だって、自分は『転校生』ですし……。もしかしたら、何かの拍子に……」 ――あなたを傷つけてしまうかも。 続く言葉を飲み込んで、不動が堪らず目を逸らした直後――触れていたみずきの手から力が消え、その身体が崩れ落ちる――。 「危ないっ!」 言うが早いか、不動は手を出してみずきを受け止めていた。 己の腕の中におさまった華奢な身体。滑らかな曲線美。眩い肌色。 意味も分からずどぎまぎしていると、腕の中から、優しい笑い声が聞こえてくる。 「ほら、私はなんともないですよ? 制御できない力で私を傷つけてしまうのが、怖かったんですよね? 昭良君、やっぱり優しいです」 心中をズバリ言い当てられ、不動は気恥ずかしさに思わず逃げ出したくなった。 「でも、大丈夫です。昭良君なら、絶対に大丈夫。私、信じてますっ!」 にっこりと微笑みながら、みずきは不動に体重を預ける。 何がどうなっているのか。首から上がやけに熱い。不動には何も分からなかった。 だが、一つだけ分かっていることがある。自分はこの人を絶対に傷つけない――! 「さて、いつまでもここでお喋りしているわけにもいきません。行動を開始しましょう」 「でも、この空間は女神によって支配されています。何か策でも……?」 「はい! そのためには、昭良君にもひと仕事してもらわなければいけません」 ハートが飛ぶようなウィンクと共に言い放つみずき。そして、その言葉に無条件で頷ける程の『絆』を、不動は感じていた。 ゆるゆると緩慢な速度で飛行する不動。その背には、ほぼ全裸に等しかったみずきが、不動の学生服を羽織った出で立ちで乗っていた。 みずきの言う“一発逆転の秘策”を使うには大きな移動が不可欠とのことであるらしく、彼女はあろうことか不動にそこまでの乗り物役を命じたのだった(実際はもっと柔らかくも天然めいて核心を突いた言葉であったが、受け取る方からすれば同じである)。 不動はみずきに学生服の上を掛けてやり、それから少女を負ぶさり飛び立つという涙ぐましい献身さを見せ、何の躓きもなく計画は進行していた。 「昭良君……あの、重かったらごめんなさい。確かこっちだったと思うのですが……」 「……別に、大丈夫ですよ」 ぶっきらぼうに答える不動に対し、「ああ、やっぱり重いんですね……」と勝手に落ち込むみずきだったが、実のところ不動はそれどころではなかったのだ。 己が肉体に絡みつく熱を帯びた肢体。静まれと念じる程に火照る顔。何かがおかしい。 この異常の正体を彼は見つけあぐねていた。不動昭良、齢十四にしてこれが“初めて”だったのである――。 「あっ! ありましたよ、昭良君っ! ほらっ!」 突如としてはしゃぎだしたみずきが左手で指差す先には、大きなプールがあった。 不動の通う中学にあるものよりも深く広いそれは、一般的な高校のプールよりも大きかったかもしれない。女神が思い切り泳ぎたかったんだろうな……と、不動は思った。 プールサイドへとふわりと降り立った不動は、腰を屈めてみずきを下ろす。みずきは不動に礼を述べ、水の張ったプールにじゃぶんと入ると、恥ずかしそうに懇願した。 「あの……。あのですね? これから私、その、“お着替え”しますので……。こっち見ちゃ、嫌ですよ……?」 「わ、分かってますよ!」 ぼっ、と顔から火を噴きながら、大声を張りつつ不動はプールの外、グラウンドの方を向いた。 「まったく、もしかして俺が覗くとでも思ってたのかよ」「それは心外だ」「さっきの“信じてる”って言葉は嘘だったのか」「でも、なんで俺はあのひとに言われた言葉の一つ一つにこんなに振り回されてるんだ……?」「うわああああ、分からねえっ……!」 右往左往を繰り返し、不動昭良の脳内会議は踊る。思春期特有の甘酸っぱさに、不動は全身で浸かっているようだった。 しかし、この堂々巡りは実のところ彼の生命を救ったと言わざるを得ない。 外界の音を一切寄せ付けぬ程己に没頭した不動の背後では、“着替え”に勤しむみずきのあられもない声が漏れていたのだから。 「ひゃあああっ!」「だめえっ、こえ、でちゃぅう!」「ふああっ!」「すぐそこに、あきらくんがいるのにぃ……!」「我慢、できなっ――!」 両者がそれぞれ己のと戦いに打ち勝ったのは、それから実に数分後。 プールから上がったみずきは、不動に「もういいですよっ」と上気した声を掛けた。 早く計画を次の段階に進めんと、振り返った不動はしかしてすぐに硬直する。 「――な、なんで、スクール水着……!?」 「だって、ここは学校のプールですよ?」 さも当然だと言わんばかりに小首を傾げたみずきに、不動はようやく確信した。 ――このひと、天然だっ! しかも、すっっっごく“危うい”タイプだっ! 紺色と肌色のコントラストが映え、肩紐のズレを直すと、ぱちんっと快闊な音が鳴り飛沫が飛ぶ。完璧なるスク水少女・みずきが、次の瞬間にとんでもないことを言い出した。 「さあ、次のステップに進みましょう! 昭良君、服を脱いで下さい!」 「なっ、はあああっ!?」 素っ頓狂な声を上げる不動だったが、みずきはきょとんとして見返す。 二人きりのプールサイド――。少女はスク水――。己に脱衣を要求し――。目指す港は“次のステップ”――。 またもや熱を上げる不動を意にも介さず、みずきは言葉を続けた。 「だって、昭良君もプールに入るんですよ? 服着たままじゃ、なんとなく気持ち悪くないですか?」 そう、次のステップで、不動はみずきと共に入水する必要があったのだ。 みずきの言葉はむしろ不動を慮ってのものだったのだが、彼には逆効果のようだった。 果たして不動はみずきの勧めを断り学生服のままプールに入り、次いでみずきも水の中へと身を投じる。 「では、参りますよ――!」 「……ええ」 懸命な表情で気合を入れるみずき。その背後で、不動はさも居心地が悪そうだ。 というのも今の二人は、両腕を水平に伸ばしたみずきを後ろから不動が支えているというなんともタイタニックめいた体勢であり、それがゆえに不動は腰をぎこちなく屈め、顔も赤くしていたのだった。 落ち着きを取り戻すために頭の中で素数を数える不動は、今この瞬間も漏れるみずきの艶めかしき声が響いていたのだから。つくづく噛み合っているのか分からないコンビだ。 そんな風にしていると、やがて異変が起こりつつあるのが不動にも分かった。 プールの水嵩がどんどんと減ってゆき、みずきの纏う服がどんどんと肥大化し、気付けば自分もその巨大な服の内部に取り込まれていたのだ。とんだ二人羽織り状態である。 どうしたものかと決めあぐねていると、みずきが不動に精一杯の指示を出した。 「あっ……、あきら、くんっ……! いっしょに……飛んでぇ……っ!」 「だああああああああ! わかったよチクショオオオオオオ!!」 いちいちアブナイひとだよなあホントッ! ヤケクソ気味に不動は能力を行使した。 『インフィールドフライ』により、ふわりと飛翔し上昇する二人。 プールの水が底をつく頃には二人は校舎よりも高く舞い上がっており、みずきの服装も年末に現れるという伝説上の生物“コバヤシ・サティコ”のように巨大になっていた。 「お疲れ様です昭良君。あとはお姉さんに任せておけば大丈夫のはずですっ!」 自信満々に断言するみずき。不動は若干以上の不信感を抱いたが、もう彼女に頼るより他はないのだ。呪うべきは己の運命か。 みずきの考えた作戦とは、「女神の空間にも限界があるのではないか?」という仮定に基づいたものであった。 その内容は至ってシンプル。女神のMAPの限界を超える量の水を、みずきが放てば良いというものであった。 「(ほんとに上手くいくのか……?)」 ここまで手伝っておいてなんだが、不動は未だにこの作戦に懐疑的であった。 みずきはフッと表情を引き締めると、凪いだ水面の如く静かになった。 そして、徐々に――だが確実に、彼女の纏う巨大衣装に何らかのチカラが漲っていた。 「これは――!」 驚く不動。これは、みずきの能力『みずのはごろも』の特性によるものだった。 みずきが水を操る際に失う衣服の量は、過去を思い出してみれば分かるが完全な比例関係にはない。例えば夢の中での沢木戦での極度の精神不安定状態での能力行使では、水量や威力に比してあまりにも多くの衣服が失われ、またモヒカンザコ戦での最後の水撃は、絶大な威力・水量ではあったが何とか局部を隠せる程度の衣服を残せたのだ。 ここから分かる『みずのはごろも』の仕様とは、『水弾の威力・水量は放出後の衣服の残量に比例する』ことに加え、『発動時の精神状態により大幅な補正を得る』のである。 「きてます……。私の意識が水に融け合い、最高の状態へと醸成され――」 漲り続けるチカラはやがて、ぼこっ、ぼこっと、滾るマグマの如く気泡を産んでいた。 「昭良君は、確かに『転校生』です……。お国からしたら、少しだけ迷惑な存在なのかもしれません……」 ――――でもっ! 「彼は中学二年生ですっ! 私たちと同じ子どもでっ! あなたたちと同じ心を持っているんですっ! 私は怒っています……! こんな仕打ち、絶対に許しません!!」 無論、みずきに水の温度を操作する能力など備わってはいない。だから、この気泡はあくまで彼女の精神の昂りのイメージに過ぎない。 しかし、不動はこれ以上ない程にアツさを覚えていた。 顔が、胸が、そして何より目頭が、こんなにも熱い――。 「――よし、今ですっ! 昭良君っ!」「はいっ!」 極限まで研ぎ澄まされた集中に怒りが交差し、みずきの水撃は過去最大の規模の――大津波を放った! 「「 いっけええええええええええええ!! 」」 「「 ――――ええええええええええっ!? 」」 気付けば二人は控室のベッドの上にいた。 みずきは全裸で不動に支えられており、ベッドの上という関係上、それは見ようによってはとんでもなくとんでもない誤解を生みかねなかったが、あまりにも急すぎる場面展開に脳が付いていけず、幸いにもその事実にまでは理解が及んでいないようだった。 ややあって、控室の扉が開く。入ってきたのは、四人の少女だった。 「わあーん、わあーん。みずきちゃんの能力に耐えきれず、ついつい二人とも転送してしまいましたあー。わあーん」 恐らく自分では迫真の演技のつもりなのだろうが、誰がどう見ても棒読みなセリフを繰り返す――女神オブトーナメント。 「あらあら困ったわねえ。私が白王選手を焚き付けちゃったせいで、不動選手が出て来ちゃったわあ」 漆黒のヴェールでも隠しきれぬ、セリフとまったく噛み合っていない愉しそうな顔をした――斎藤窒素。 「てえへんだあーっ! 白王選手が全裸だあっ! 不動昭良の行方なんかどうでもいい! おおおおおおお、この命が燃え尽きてでも、私はカメラを回し続けるッ!!」 一人だけ明らかに素な――結昨日映。 「……というわけで、運営本部は『転校生』不動昭良様を拘束すること叶わず、まんまと控室の窓より逃げられてしまいましたとさ、ちゃんちゃん。……というわけです」 締めくくるは、聖母の如き笑みを湛えた――結昨日司。 「皆さん……これって、つまり……!」 「そうそう、魔人小隊の方は、支倉葵様達がなんとか押さえているようですよ。今がチャンスですね――おおっと、これは失言でしたね。うっかりうっかり」 「支倉さんが……みんなが、俺のために……」 「ね? 言ったでしょう、昭良君」 みずきも不動の手を握り、優しく語りかける。 「君は独りじゃなかったんだよ。ほら、こんなにも『絆』がいっぱい――!」 みずきの言葉が不動に沁みてゆく。瞳から、一条の涙が頬を伝った。 「感動的なところ悪いけど、そろそろ発たないと本当に危ないわよ? 私としては魔人公安に捕まって残虐の限りを尽くされる不動選手の悲鳴にそそるものがあるけれど……」 「……また斎藤窒素様は、こんなときまでドSアピールをなさって……!」 「なあに、文句でもあるのかしら。ねえ映さん、少し“御仕置き”が必要なようねえ」 「ぐへへへへ、自分からおねだりするたあ、どうしようもないド淫乱娘だぜえ……!」 「ふええー、皆さん楽しそうですねっ! 私も混ぜて下さいよう!」 かしましく騒ぐ運営陣の声をバックに、不動は窓に足を掛け、今にも飛び立たんとしていた。 一瞬、名残惜しむような表情を見せたが、すぐさま晴れやかな笑顔に変わった。 「じゃあ、みずきさん。お世話になりました。……さようなら」 「違いますよ、昭良君。“さようなら”、じゃなくて、“またね”、ですっ♪」 「――はい。また会いましょう……!」 飛び立つ若人の胸に満ちるは万感の思い。 戦いの日々と、実らなかった初恋が、少年を少しだけ大人にした――。 <終>
https://w.atwiki.jp/tsukubanbbc/pages/64.html
1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回 計 H E 関東学園 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 10 0 筑波 0 0 4 0 0 0 0 0 0 4 6 0 関東学園:頼近・高取ー塚田 筑波:中村ー横川 <三塁打>岩原 関東学園 <二塁打>冨田・塚田 関東学園
https://w.atwiki.jp/iwakifc/pages/31.html
OFFICIAL RELEASE公式リリース 公式サイト NEWS 福島民報カップ第23回全国クラブチームサッカー選手権福島県大会 準決勝 試合結果 ◆準決勝 5月7日(土)11 00キックオフ vs フリーダム ◆試合会場 いわきグリーンフィールド ◆結果 いわきFC 4-0 フリーダム ◆スターティングメンバー GK 久原(21) DF 大出(17),高野(3),古山(4),磯部(13) MF 菅原(5),久永(25),新井(8) FW 宮崎(11),向山(24),片山(7) ◆交代 FW:片山 紳(7) → FW:吉田 知樹(23) DF:磯部 亮太(13) → DF:中野 一希(16) MF:久永 翼(25) → MF:遠藤 嶺(14) DF:大出 圭亮(17) → DF:大阪 郁真(2) MF:菅原 康介(5) → DF:住石 加寿己(2) ◆得点 7分 いわきFC 片山(7) 18分 いわきFC 新井(8) 60+1分 いわきFC 宮崎(11) 60+2分 いわきFC 吉田(23) ◆FW 片山 紳(7) 今日の試合はチームとして全然ダメでした。 ピーターの求めるサッカーができなかったし、シンプルにやることを求められてる中、タッチ数が多くなったり、ドリブルしてしまったり、無駄なプレーが多くそれが結果に出てしまいました。 見てる人もつまらないだろうなというサッカーになってしまいました。明日に向けて修正しないといけないと思います。 個人としてはノルマとしていた1ゴール1アシストできたので、それを続けられるように明日も望みたいと思います。 ◆MF 新井 伶治(8) 立ち上がり相手が引いてくるのはわかったので、サイドからシンプルに攻撃しようと思いました。 ただそこで人の動きやパススピードのテンポが上がらず、もっと簡単に全員がプレーできていればもっと優位に試合を進めれたのかなと思います。 明日は全員で準備して初タイトルを獲りたいと思います。絶対勝ちます。
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/303.html
準決勝戦SS・開拓地その1 登場人物紹介 潜衣花恋(くぐるいかれん):迷宮時計によって北宋末期へと送り込まれた少女。触れたものから何かを奪う『シャックスの囁き』という能力をもつ魔人 宋江(そうこう):梁山泊三代目首領。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 呉用(ごよう):梁山泊軍師。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 公孫勝(こうそんしょう):梁山泊副軍師。道術使い。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 林沖(りんちゅう) 梁山泊林冲騎馬隊総隊長。宋国一の槍の名手。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 馬麟(ばりん):林沖騎馬隊副隊長。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 郁保四(いくほうし) 林沖騎馬隊旗手。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 史進(ししん):梁山泊遊撃隊隊長。棒術の使い手。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 李俊(りしゅん):梁山泊水軍総帥。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 童猛(どうもう):李俊の副官。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 張順(ちょうじゅん):梁山泊潜水部隊隊長。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 凌振(りょうしん):梁山泊大砲部隊隊長。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 童貫(どうかん):禁軍元帥。梁山泊最強の敵。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 高俅(こうきゅう):禁軍大尉。蹴鞠が上手。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 周信(しゅうしん):禁軍上級将校。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 呉秉彝(ごへいい)周信の副官。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 葉春(ようしゅん):金陵水軍の船大工。時ヶ峰健一が最も恐れた男。 *一部登場しない人物もいます 麾下の兵はいつの間にか五千を割っていた。 宋という国は腐っている。しかし、腐っていても国は国であった。 その力はやはり大きく、強い。抗うものを押しつぶす圧力がある。 目の前にいる軍がまさにその象徴だった。 斥候の報告では陸軍だけでも十万はくだらないという。梁山湖に迫っている水軍と合わせれば十五万は優に超えるだろう。 それに対し、梁山泊にいる兵は水陸合わせてようやく五万を超えるかどうか、というところだった。 禁軍。高俅の率いる、脆弱な軍とはまるで違う。本物の宋国の軍。護国の軍だ。 馬腹を蹴り。馬を駆けさせた。 麾下の騎馬隊がそれに続く。隙間なく、密集させる。駆け抜き敵軍を断ち割る。 俺が、鍛えに鍛えぬいた騎馬隊だ。例え童貫の軍が相手でも自分の体の如く動かし、密集された軍を貫くことはできる。 しかし、それから先が続かなかった。 どれだけ騎馬で翻弄しても戦意は下がらず、すぐに体勢を立て直しにかかる。隙が、見えない いつも死に損なってきた。 妻を亡くしたあの日から死に場所を探し続けてきた。 だが、生き続けようともしていた。 戦場では常に厳しい場所に身を置こうとしていた。しかし、そこで死のうとは思わなかった。 死を恐れることはなかったが、生き抜くために全力であがいた。 ──だが、それもここまでかもしれん ずっと待っていたのかもしれない。こうして戦える日を。 戦いて、戦いて抜いて、死ねる日を。 だが、その時ではない。麾下の兵も、自分もまだ戦える。 再び、馬腹を蹴った。後ろで郁保四が旗を掲げている。見えなくてもそれがわかった。 俺たちの、旗だ。 敵が近づいてくる。 目の前で騎馬隊を二つに割った。馬麟にもう一隊を率いさせる。 槍を目の前に構え、ただ真っ直ぐ走った。兵を蹴散らしながら敵陣を進む。 馬麟の隊と交差する。あいつは、笑っていた。きっと、俺も今笑っているのだろう。 敵の陣形は堅かった。一向に崩れる気配が見えない。 だが、構わなかった。崩れる気配がないなら、崩れるまで攻撃を繰り返すだけだ。 一度馬麟と合流したとき、敵兵が吹き飛ぶのが見えた。 史進だ。史進が鉄棒を振るう。その鉄棒に触れた者が弾けたように飛んでいく。 「林沖!」 史進が俺を呼ぶ声が聞こえた。それに応えるようにして叫んだ。 馬を駆けさせた。麾下の兵もそれに続いた。 騎馬隊の叫びは、一匹の獣の咆哮となって戦場に響いた。 金陵水軍の中型船が沈むのが見えた。張順たち潜水部隊がうまくやってくれたらしい。 (しかし) 梁山泊水軍、大型船五十隻、中型船百艘、小型船百五十艙。その数が頼りなく聞こえるほどに金陵水軍の物量は圧倒的だった。 地の利はこちらにある。李俊たち梁山泊水軍は梁山湖の水路、流れを知り尽くしている。平時なら目を瞑っていても自在に船を操ることができるだろう。 水兵の練度も決して劣っていない。いや、僅かながらこちらが勝っている。 潜水部隊の連中もよくやっていてくれてる。ヤツらがいなければ金陵水軍はとっくにこの場を抜いて梁山泊に迫っていただろう。 しかし、それでもなお、金陵水軍の圧力は一向に衰える様子はなかった。 船団が前に進んでくる。海鰍船が、五隻並んで近づいてくる。 思わず退がりたくなるような圧力を、その船は備えていた。 海鰍船。海の鯨。斥候があれをみてまるで山が動いたようだと言っていた。その気持ちが今わかった。 海鰍船がこちらの大型船にぶつかるのが見えた。大型船に穴が開いた。船体がゆっくりと傾いている。すぐに沈むということはないが、あれでは航行はできないだろう。 敵の船は少しぐらつきはしたが、ほぼ支障はないように見えた。船上から矢を打ちかけてきている。 こちらの船も応戦しようとはしているが、いかんせん高さが違いすぎた。さらに向こうには船員も多い。船に乗り込むのも困難だった。火矢を打ちかけてもすぐに消火されてしまう。 援護をするために前に出ようとした。それは阻もうとするように、敵船が動いた。 思わず。舌打ちをした。敵の小型船がこちらの中型船につっこんできていた。船は、頑強に作ってある。一度や二度の衝突では壊れはしない。 しかし、何度も繰り返されるとどうなるかはわからなかった。 海鰍船にやられた大型船から船員が飛び出している。潜水して進んでいるが、息が続かなくなり水上に顔を出したところに矢を射掛けられていた。 援護をしようにも前に出ることができなかった。無理に出ようとすれば、守りに綻びが生じる。 やつらは見捨てるしかなかった。 「李俊どの」 「わかっている。」 童猛が後ろから声を掛けて来た。普段は口数が少ないが李俊が迷っているときにさりげなく口を出す男だった。 「一度葦原に入り、体勢を立て直す」 梁山湖の葦原は深い。小舟では辺りを見渡せないように作ってある。海鰍船でもそう自由には動けないはずだった。 一時退却の鐘を打たせた。 それに合わせて金陵水軍の船も追ってくる。悔しいが、船の性能は向こうの上だった。 あれほど速く、小回りの効く船は船はみたことがなかった。 海鰍船もある。水路が絞られるとはいえそれが脅威であるという事実は変わらなかった。 (だが、時間を稼ぐ方法はいくらでもある) 轟音が響くと同時に、水柱が上がった。 仕掛けていた機雷に当たってくれたらしい。 機雷は単純な罠だ。ただ目の前に浮いている袋を槍であければそれだけで被害を防ぐことができる。 だが、単純であるだけ処理には時間はかかる。 「やはり、強いな。宋は」 誰に言うでもなく。そうつぶやいた。 だが、相手がどれだけ強くても、この梁山湖の上では負ける気がしなかった。 ここは自分の庭だ。よそ者に好き勝手させてなるものか。 対岸には土煙が上がっていた。鬨の声が聞こえてくる。 南のほうでは船同士がぶつかり合っている。水柱が上がっている。。 戦争だ。 どうやら戦の真っただ中に放り込まれてしまったようだ。 昨日、迷宮時計は対戦相手は蛎崎裕輔、戦場は過去─開拓地─梁山泊、であることを教えてくれた。 水滸伝だった。 ここがどのような場所であれ、まずは蛎崎裕輔を探すことだ。倒すにせよ、説得するにせよ。まずヤツを見つけなければ話にならない。 『掃き溜め』のコミュニティにも蛎崎裕輔という『魔人』について詳しい情報を持っている人間はいなかった。 希望崎にもそんな名前の魔人はいない。軍、警察の関係者、武闘派魔人として名を上げているものの中にも当てはまるものはいなかった。 風天は「なら余裕で勝てるじゃん。だって花恋ちゃんはブラストシュートにも時ヶ峰にも勝ったんだぜ」と言っていた。それに賛同した人間はいなかった。 魔人の勝負に絶対はない。たとえどんな魔人が相手でも油断することは出来ない。 現時点でウィッキーさんや本屋文という高名な魔人が消えている。どちらも単純戦力では時ヶ峰にも劣らないと目されていた魔人だ。 その二人が突然行方不明になったのはつい最近だ。『掃き溜め』にいる警察関係者の話では、二人が消えたのは迷宮時計にかかわることである可能性が高いということだった。 そいつらを倒した魔人が、まだこの戦いに残っている。そしてその魔人が蛎崎裕輔であるという可能性もゼロではないということだ。 一切の油断が許されない、正体不明の魔人。それを相手に勝利を収めるならば、不意をつき、先手をとる必要があった。 先手さえ撃つことができれば潜衣の能力『シャックスの囁き』は、一瞬で相手の命を奪うことができる。 それで終わりだった。 突然、あたりが暗くなった。さっきまでは確かに日が出ていた。上を見上げる。北海道が空に浮かんでいた。 北海道の地面が割れていく。そこから何かが降ってきている。 80年以上生きた直感が、これは危険であると告げていた。 魚が空を飛んでいる。昔、一度北海道に言ったときに見たことがある。 エゾジャケだ。なぜ宋に北海道がいるんだと考えたがそんなことは自問するまでもない。それが蛎崎裕輔の能力だということだろう。 理由はわからないが、確信した。 蛎崎裕輔。こいつがウィッキーさんと本屋文を倒した魔人だ。 80年、死線を潜ってきた生きた女の勘がそう言っていた。 湖が、赤く染まっているのが見えた。私と倒すためならどれだけ犠牲が出ようがかまわないという腹なのか。 ──真っ直ぐじゃあないな と思った。徹子がここにいてもきっと同じことを思うだろう。 エゾジャケがこちらに迫ってきている。まずはヤツらから隠れることだ。 足元にあった石を拾い、『存在感のなさ』を奪った。自分の気配を遮断する。 しかし、エゾジャケは私に向かって、迷いなく、真っ直ぐ向かってきた。 まるで私を敵と確信しているかのように。 ──これも蛎崎の能力の一環か いつの間にかエゾジャケに周囲を囲まれていた。 額に冷や汗が流れた。自分がここで死ぬというのが直感で理解できた。 向こうの世界にいた時にも何度か死を覚悟したことはあった。だが、そんなときはいつも徹子が傍にいてくれた。 だがここに徹子はいない。 ──痛いのはいやなんだけどな 左腕にはめた時計に手を触れる。その瞬間体がガクリと傾いた。 右足が焼けるように熱い。エゾジャケが下から空に飛んでいった。 その口には私の右足が咥えられていた。エゾシャケがそれをかみ砕いた。 体がゆっくりと倒れて行った。北海道の地面が見える。 エゾシャケが空を駆けている。拳を振ったが、それはただかみ砕かれて終わった。 赤い血が私の顔にかかった。 左腕も噛み千切られた。腕がくるくる回りながら飛んで行った。 胴体を喰いちぎられた。腰から下だけがゆっくり倒れて行っているのは少し滑稽だった。 首を噛み千切られた。視界がだんだんと暗くなっていった。 「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」 「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」 「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」 「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」 「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」 「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」 突然、空から歩兵の群れが降ってきた。兵が次々と打ち取られていく。公孫勝というヤツの道術だろうか。 歩兵は、聞いたことのない言葉を一斉に唱えながらこちらに駆けてきた。まるで淫祠邪教の教徒だ。仲間が槍に突かれても、自分の体が剣に刺されても、呪言を唱えながら前に出てくる。 周信は太鼓を打ち鳴らさせた。陣形を変えさせる。武侯八陣図。守りの陣。混乱した兵をまとめるにはまず固く守ることが一番だった。 「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」 「ネガワクバーーー!!!」「ネガワクバーーー!!!」 「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」 「シチナンハックー!!!」「シチナンハックー!!!」 「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」 「アタエタマエーー!!!」「アタエタマエーー!!!」 うるさい。黙れ。 歩兵は空からどんどん降ってきている。討っても討っても、数はますます増えていった。 まさか梁山泊にこれほどの兵力があるとは。臍を噛むような思いが周信の腹を煮えくり返らせた。 いまだに、どこかで梁山泊をただの賊徒とみている自分がいた。禁軍が、宋が本気を出せばいつもつぶすことができると、高をくくっていた。 その油断の結果がこの様だ。 突然の増援に兵は混乱しきっていた。陣形を立て直すこともできないだろう。 この戦線はもう持たせることはできない。ならば。 「呉秉彝。いるか。」 「はい。」 呉秉彝とは禁軍に入ってからずっとともに戦ってきた。戦場でこの男が動揺するところを周信は一度も見たことがなかった。 「ここはもう持たぬ。お前にこの隊の指揮を任せる。できるだけ生かして返してやってくれ」 「周信どのは」 「退却には殿が必要であろう」 増援が来てからの梁山泊軍の圧力は尋常ではなかった。歩兵と騎兵が津波のように押し寄せてくる。 あれ相手にまともに当たれるのはこの隊には周信か呉秉彝しかしなかった。 「それならば殿には私が」 「ならぬ」 呉秉彝が何を言おうとするかはわかっていた。だからその言葉を強く遮った。 「これは命令だ。」 ──お前は生きろ。 と、までいうことはできなかった。呉秉彝はただ黙って拝礼をしていた。 「麾下の兵の兵は俺に続け。我らはこれより死地に入るぞ」 叫んだ。兵の鬨の声が、ネガワクバーとかいう呪言を打ち消した。 退却の鐘の音が辺りに響いた。この戦場は俺の負けだ。 だが、大宋国は負けではない。そうさせないためにこれから戦うのだ。 「ネガワクバーーー!!!」 歩兵が槍を持ってかけてきた。馬上から突き殺した。 手ごたえはあった。穂先には赤い血がついていた。まやかしなどではない。本物の兵だった。 「駆けろ。足を止めるな。」 退いては突撃し、突撃してはひいた。圧力はどんどん増していく。 突破することは考えない。ただ足を止めればいいだけだった。 それでも部下は少しずつ減っていった。呪言が大きくなっていた。 視界の端に黒い塊が移った。 林沖。 見事に騎馬隊を操っていた。黒い一匹の獣のようだった。 獣が駆けてくる。獣が牙をむいた。 馬腹を蹴った。喉元を引き裂いてやる。槍を真っ直ぐ構え、駆けた。 正面から、ぶつかった。向こうの騎兵が馬上から落ちるのが見えた。 だが、それ以上にこちらの数を減らされた。騎馬隊を反転させたとき、林沖騎馬隊は既にこちらに向かって駆けてきていた。 ──見事だ。 血が沸き立つの感じた。俺の武は、ここで戦うためにあったのだということがわかった。 駆けた。ただひたすらに駆けた。林沖の眼が俺を真っ直ぐ見据えている。林沖が槍を捨て、剣に手をかけた。 その後ろに、蒼空が見えた。空はどこまで青く、広かった。 獣が向かってくる。その獣を討つために俺は駆けるのだ。 俺も槍を捨てた。馬上で確実に将を討つには、槍よりも剣だった。 不意に呪言も馬群の足音も何も聞こえなくなった。 獣と正面からぶつかる。林沖が剣を構える。気が充実しているのがわかった。 剣を握る手に力が入る。 すれ違い様、剣を振るった。 渾身の、すべての力を込めた剣だった。 それが林沖の剣に弾き飛ばされた。 林沖の剣が首に触れた。 剣はひたすらに冷たかった。その冷たさが心地よかった。 手を握る。手を開く。 ちゃんと動く。 手で首に触れる。ちゃんとつながっている。 湖が見える。戦の声はまだ聞こえる。 エゾシャケに囲まれたとき迷宮時計の『破壊されても所有権を持っている限り、必ず別の形態で再び出現する。』という性質を奪っておいた。 おかげで体がバラバラになってもなんとか復活することはできた。 エゾシャケも私に気付いたみたいだ。再びこちらに向かってきている。 走る。全力で逃げる。 だがすぐに追いつかれた。エゾジャケに頭蓋をかみ砕かれた。 視界の端に脳みそをぶちまけて倒れている私が映った。あまり気分のいいものじゃあない。 私がヤツなら森に逃げる。まずはそこにいく。 「シチナンハックー!!」 エゾシカの槍。 首が飛んだ。 足元に私の生首が転がっている。 再び走る。死んだ。 死ぬ。何度も死ぬ。 はらわたをぶちまけて転がっているものもあった。 何がどうなっているかも判別できないぐらいにグチャグチャになっているものあった。 もう何度死んだかわからない 死ぬたびに、誰かの顔が見えた。 それが誰なのかはっきりと見えている。 そのはずなのに、生き返ったときにはそれが誰だったかわからくなっていた。 私はそいつをどうしたいのだろう。その手を掴みたいのか、その体を抱きしめたいのか、それともそいつを殺したいのか。 わからなかった。どれもしたいようにも思えたし、どれも違うような気がした。 駆けた。ただ駆けた。 駆けるうちに蛎崎を追っているのか、死に際に見える影を求めているのかわからなくなった。 たった一歩を踏み出すために何度も死んだ。 心臓を貫かれた はらわたを、ぶちまかれた。 首がとんだ。 何故私はこんなことをしているんだろう。 駆けた。 死ぬ。走る。死ぬ。走る。死ぬ。走る。死ぬ。走る。死ぬ。走る。死ぬ。走る。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ 死体が増えていく。 死ぬたびに、何か心が削られていくような気がする。 いつの間にか死ぬたびに見えていた誰かも目に映らなくなっていた。 ただ、駆けた。 心臓を食われた。 足元に眼球が転がっている。 目の前に槍が迫ってきている。 槍に貫かれた死体があった。 それから目をそらし地面を蹴った。 水面からエゾヒグマが顔を出した。 私の体が放射熱線で焼き尽くされた。 それでも私は生きていた。 北海道から落ち葉が舞っていた。 「何がどうなってやがる。」 李俊は目の前で起きている光景が現実のものだとは思えなかった。 完全に理解を超えてしまっていた。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 金陵水軍自慢の海鰍船で暴れいるのは巨大な芋。エゾサツマイモである。 幕末をテーマにした小説を読むと新撰組とかが薩摩藩士のことを薩摩芋とか薩摩の芋侍とかいうのをよく目にすると思う。 この言葉を目にして皆さんはこう思ったのではないだろうか。 「まったく、人のことをイモというなんて失礼な人たちだなあ」「人間をイモ扱いするなんて礼儀知らずにもほどがあるよ」と。 私はここで彼らを弁護したい。彼らは別に悪意を持って薩摩藩士のことを薩摩いもなどと言っていたのではない、と。 彼らはただ見たままのことを言っていただけなのだ。 そう薩摩の侍には本当に芋が混じっていたのだ。 だから彼らは薩摩の侍のことを薩摩イモと呼んだりしていたのだ。本当に芋侍が混じっていたのだ。 それが松前藩と薩摩藩のに密貿易によって輸出されていたエゾサツマイモなのだ。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 エゾサツマイモは強い。どのくらい強いかというと西郷どんがエゾサツモイモだけの軍勢で日本転覆をたくらんでしまうくらい強い。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 エゾサツマイモは強い。どのくらい強いかというと新撰組局長近藤勇がエゾサツマイモの初太刀は絶対にかわせというぐらいに強い。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 エゾサツマイモは強い。なんで強いかというと死んでもそこで根付いて増殖するから強い。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 エゾサツマイモは強い。なんで強いかというと植物だから何も考えずに攻撃するから強い。 「チェエエエエエストオオオオオオッッッ!!!!」 李俊はしばらくの間呆然としていた。 巨大な芋が空から降ってきていきなり金陵水軍と斬り合いを始めたのだから当たり前だ。 李俊だけではない。梁山泊水軍全員がただ立ち尽くしていた。みんな目の前で起こってることを理解することができなかった。 芋と水兵が斬り合っている。芋に返り血がつく。芋が斬られる。斬られた芋はそこに根を張り、新しい芋が誕生する。命の輪廻だ。命は巡っているのだ。 そして新しく芽生えた芋が水兵をまた斬り殺す。 なんだこれ。 永劫とも思える時間の中で一番最初に思考能力を取り戻したのは梁山泊水軍総帥李俊であった。 「何がなんだかさっぱりわからんが、とにかく今が機だ」 李俊の言葉に水軍が我に返る。確かに今が逆転の機だ。金陵水軍は混乱している。こっちも混乱しているけど向こうはもっと混乱している。攻めるならここしかない。 「行くぞ。芋を援護する。全船進め」 梁山泊水軍が前に進んでいく。小型船が船団に向かっていく。小型船は衝角の先を尖らせてある。これで全速で突っ込めば多少装甲が熱くても問題なく穴をあけられる。 「火矢は使うな。芋が焼ける」 あの芋が火をあたったぐらいで動けなくなるとは思えなかったが念には念を入れておく。 「崑崙出ろ。大砲を打ち込むぞ。」 崑崙は船上に大砲を詰め込んだ大型の特殊船である。 この日のために、水軍と大砲屋である凌振が苦心して製作した船だ。 「震天雷は使うなよ。芋が焼けるからな」 震天雷とは着弾した瞬間に爆発するように作った弾、いわゆる炸裂弾である。 うまくいけば一撃で船を沈めることもできるという代物だったが、今は敵船に芋が乗っているので使うことはできない。 大砲は脅しになればそれでいい。 「撃て」 崑崙から轟音が響いた。敵船団の混乱が深まるのが見えた。 「俺たちも斬りこむぞ。芋に後れを取るな」 ──勝てる。 赤く染まっている海鰍船をみて、李俊はそう確信した。 死んだ。何度も死んだ。 数えきれないほど死に、その度に生き返った。 生き返る度に、走った。ただひたすらに走った。 頭の中に声が響いてきた。 ──何故走る。 蛎崎を見つけるためだ。 ──何故だ。 蛎崎を倒すためだ。 ──何故だ。 迷宮時計の戦いに勝つためにだ。 ──何故だ。 徹子の人生を歪めた迷宮時計に、落とし前をつけてやるためだ。 ──何故だ。 それが私が徹子にしてやれる唯一のことだからだ。 エゾシャケが私の足を食らった。その場に倒れこむ。 「アタエタマエーーーー!!!」 エゾシカの槍が私の体を貫いた。 私はその死体を見下ろす。 ──この戦いはこんな骸を晒してまでやらなければならないものなのか。 そうだ。 ──勝てると思うのか。 うるさい ──たったこれだけの距離を進むために貴様は何度死んだと思っているのだ。 それでも進むことはできた。 ──死に続けることになるぞ。 黙れ ──体は修復されても貴様の精神は死に何度も耐えられまい。 黙っていろ!! 頭の中に声が響く。誰の声なのかはわからない。 私の声のような気もする。徹子の声のような気もする。姉さんの声のような気もする。一文字の声のような気もする。誰の声でもないような気もする。 ──お前はもう勝てないよ。勝っても意味がない。 そんなはずはない。勝てば。勝てば ──お前はもう終わりだよ。 黙れ! 声を振り切るように駆けだした。 エゾシカの槍が私の体を両断した。 誰かの笑う声が聞こえる。 黙れ。私は勝つ。勝ってこの戦いを終わらせる。 走った。走って死んで、走り続けた。 笑い声は鳴り止まなかった。 死ぬたびに、笑い声は大きくなった。 洋服を着た少年が見えた。蛎崎だ。 頭が吹き飛んだ。蛎崎はまだ見える。目を見開いてこちらをみていた。 蛎崎に触れて、命を奪う。それで全てが終わる。 あと五歩。 四歩。 胸元からエゾシカの槍が見えた。 三歩。 笑い声はまだやまない 二歩。 首がごろりと転がった。視界が回転する。 一歩。 手が蛎崎に触れた。 『シャックスの囁き』 命を奪う。 蛎崎に触れたはずだった。 そのはずなのに私が触れたものは徹子に変わっていた。 私が徹子の命を奪った。徹子はあの時と同じ顔をして 槍が私の体を貫いた。 エゾジャケが私の右腕を喰らった。 いつの間にか笑い声はやんでいた。 変わりに私の口から笑い声が漏れていた。 徹子がいた。一文字がいた。ウラギール・オン・シラーズがいた。姉さんもそこに立っていた。 北海道から落ち葉が舞っている。 姉さんと徹子が私に手を差し伸べた。私はその手を掴もうと手を伸ばす。 「ネガワクバーーー!!!」 その腕をエゾシカが切り落とした。私は今どちらの手を掴もうとしたのだろう。 「チェエエエエエストオオオオオオ!!!」 エゾサツマイモが両腕を無くした私を袈裟斬りにした。 ゆっくりと血が噴出した。そのまま倒れこんだ。 北海道からの落葉が私の体を包んだ。 エゾアサ。ああ、最後にヤツらの顔が見れたのはこいつのせいか。 無念だ。だけど、こいつらの顔を見ながら逝けるなら、そう悪くはない。 そのまま、目を瞑った。きっと向こうで徹子が待っていてくれる。意識を手放す寸前、私は最後にそう思った。 このページのトップに戻る|トップページに戻る