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涼宮ハルヒの編曲 すすみやはるひのへんきよく【登録タグ:shorter アニメ メドレー 曲 曲す 曲すす 涼宮ハルヒの憂鬱】 曲情報 作詞:?? 作曲:?? 編曲:shorter? 唄:?? ジャンル・作品:メドレー アニメ 涼宮ハルヒの憂鬱? カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり コメント 名前 コメント
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ハルヒ「なっなによこれ!」 ハルヒが目を覚ますと目の前は真っ暗だった 目隠しの黒布がハルヒの視界を妨げていたからだ それだけではない 手は後手に、足はM字開脚の形で縛られている おまけにハルヒは気付いていないが服装は体操服にブルマ姿だ 「誰よっ外しなさいよ!!」 叫んでも人が来る気配はない 疲れた。お腹もすいた。そして膀胱の方にも水分が… ハルヒはだんだん声を出さなくなった こんな姿を誰かに、とくにSOS団の仲間に見られたら… でもずっとこのままなのはいや… 古泉「変ですね…」 キョン「どうしたんだ、いきなり」 古泉「閉鎖空間が発生しました…しかし、どうやらいつものものとは様子が違うようだ」 キョン「それは…この世界の危機ってことなのか?」 古泉「いえ…はっきりとは分かりませんが、そういうわけではないようです」 キョン「どういうことだ。わかりやすく説明しろ」 古泉「すみません、僕にもよく分からないんですよ。とにかく、僕は今からアルバイトです」 キョン「おい、…俺も、連れて行け」 俺は舌打ちをした 肝心な時、頼りになる長門はいない そもそも古泉がその違和感を感じたのは俺と二人になった帰りの電車の中だ 「やはり変です…」 「だから何がだ。主語を先に言え」 俺の苛立った声に古泉はまたすみませんと言って少し微笑んだ 場を和ませるつもりで笑ったのか、癖なのかは知らんが俺はそれにまた苛立ちを覚えた 「閉鎖空間の入口が確認できません」 「なんだって?」 「…今までこのようなことは経験したことがありません。……異常事態とでも言いましょうか。」 古泉もその小綺麗な顔から笑顔を消した その顔は俺には必死に言葉を探してるように見えた 「……涼宮さんの精神が不安定な状態にあるのは確かです。ただ、この世界に直接影響があるわけではない……です、だから、僕には閉鎖空間の入口が確認できません」 ラッシュ時間でもない、電車が通り過ぎたあとの閑散とした駅のホームで俺たちは夏でもないのにやたらと汗をかいていた 今日はSOS団の活動はなかった ハルヒの姿も見ていない。ハルヒは欠席だったから めずらしいなと思ったが大して気にとめなかった しかしハルヒの家に連絡すると今朝確かに家を出たという 俺は古泉を連れて学校に戻った 俺はもうすぐ下校時間になろうかという校舎内を古泉と探し回った ハルヒの携帯はまったく応答がない もう時間がない 校舎のはずれの普段は使われていない第二実験室、鍵がかかっていないことを不審がる暇もなく俺は扉を開けた そこには、縛られた体操服姿のハルヒが、 「だっ、誰よ、誰なのっ」 ほこり臭い部屋の机の上、がくがく震えているそいつをやっと見つけ 俺がまさに声をかけようとしたときだ 「やだっ、いやぁ…いやあああ見ないでえええ!!」 ハルヒの盛大な放尿ショーだった びくびくしながら尿は音を立てて板張りの床を打つ うっすらほこりの積もった床の色を変えてゆく 思わず、俺はその場に立ち尽くしていた 「ハルヒ!」 我に返って駆け寄ったときにはハルヒは失神していた とにかく腕やらを縛る紐を解いてやる 扉の音と足音に振り向くと反対側を探していた古泉、そして長門も一緒だ 「…閉鎖空間は解除されました。……おそらく、これが彼女の望んだ…」 古泉が手で口元を押さえてうつむく 「……長門」 俺の言葉に長門は無言で頷いた 「…涼宮ハルヒ」 ぽつりと呟いた長門の言葉は俺にも古泉にも、もちろんハルヒにも届かなかった 終わり ハルヒ「キョン、……しないと死刑よ!」 みくる「私も死刑でお願いします!」 古泉「僕も!僕も!」 鶴屋「私もにょろ~!」 長門「私も」 ハルヒ「じゃ、じゃあ……私も」 キョン「よし、お前死刑な」 ハルヒ「二班に分かれるからクジ引いて頂戴!」 …… ハルヒ「あ、私は印入り」 キョン「無印だな」 古泉「無印のようです」 長門「無印」 みくる「無印です」 ハルヒ「……え?……あれ?」 キ・古・長・み「では、そういうことで」 ガタッ ハルヒ「ちょ……何よこの展開……あれ……涙が……」 「ねえ、みんな最近不思議な事件とか見つけた?」 「………無い。」 「残念ながら僕も見つけられていません、努力はしているはずなんですがね。」 「ホントにぃ?ちゃんと探せばきっとそこら辺に転がってるはずよ。」 「謎がそこらへんに転がってりゃ今まで苦労はしてないぞ、ハルヒ」 「うっさいわね、雑用の癖にー。」 「あ、そういえば私今日こんなこと聞きましたぁ」 「え?なになにみくるちゃん?」 ハルヒ「………」 ハルヒ「なに一人でやってんだろ私」 ハルヒ「みんながこなくなってから約一ヶ月か……」 ハルヒ「………寂しいよみんな。」 ハルヒ「今日は私の誕生日よっ!!さぁ、祝いなさいっ!」 キョン「はあ、結構期待してたのにな…お前にはガッカリだよ。じゃあな」 ハルヒ「へ?」 古泉「どうやら僕は涼宮さんを買い被っていたようですね。では行きましょう朝比奈さん」 みくる「う、うん」 ハルヒ「ちょ、ちょっと…」 長門「私は…」 ハルヒ「有希…」 長門「今日という日を楽しみにしていた。期待外れ。帰る」 ハルヒ「あ…」 ハルヒ「なによなによなによみんなしてっ!エイプリルフールが誕生日じゃ悪いって言うのっ!? バカー!」 ウワァァン ハ「ポケモンするわよ~」 キ「古っ」 み「今時でですか!?」 有「今はムシキングの時代」 ハ「みんなっひどい・・・」 ハルヒはそういい残すと涙を隠しながら部室から逃げるように出て行った キ「いやぁポケモンしてるの気づかれなくてよかったよ」 み「本当です」 有「・・・」 キ「ばれたら俺のパーティ全体マダツボミにされちまうぜ」 み「涼宮さんが持っていたの赤っぽかったですけどね~」 キ「ええ」 キ「え?」 「この中に、宇宙人、未来人、異世界人、 超能力者などがいたら私のところに来なさい 以上」 何を言ってるんだこいつは 「宇宙人なんていない」 長門・・・ 「未来人なんていません そんなのただの妄想にすぎません」 朝比奈さん・・・ 「超能力者?寝言は寝てから言ってください」 古泉・・・ 「う・・・みんな・・・信じてないわけ?・・・いいよもう・・・うぅ・・・」 古泉「過疎ですね…ここは一つ、スレを盛り上げるという名目でSSでも書きませんか?」 キョン「俺はハルヒが拉致られて無理矢理獣姦させられる物語を所望する」 みくる「わ、私は涼宮さんが大学生グループに輪姦される話がいいと思いまーしゅっ!」 長門「変態にダルマにされ、調教される涼宮ハルヒの物語が読みたい」 ハルヒ「あんたら私になんか恨みでもあるの?」 そりゃあ、もう ハ「野球するわよ~」 キ「嫌だ」 み「嫌です」 長「嫌」 古「それはちょっと断らせて・・・」 ハ「古泉君だけ賛成ね みんなSOS団員という自覚が足りないんじゃないの?」 ハ「今日は私の誕生日よ 祝いなさい」 キ「嫌だな」 み「それはちょっと・・・」 長「嫌」 古「僕の意見としても個人を祝うのは・・・」 ハ「古泉君だけしか祝ってくれないわけ?」 ハ「はぁ・・・やっぱり古泉くんだけしか頼りに出来ないわ」 古「ははは 僕はメス豚には興味ありませんよ」 ピルピルピルピピルピー♪ キョン「お、ハルヒからメールか」 From ハルヒ Sub 無題 本文 助けて殺されちゃ( _ ) キョン「うぜっ、『迷惑メールすんなっ!』と…送信」 続く デーデーデーディードードーディードー♪ みくる「チッ、誰だよこんな時間に…げっ、涼宮じゃん!」 From ハルヒ Sub 無題 本文 SOS! みくる「うぜぇっ!!はいはい『団』とでも答えればいんだろうがよぉ!意味わかんねぇよ糞ビッチが!死ねっ!…送信」 続く ブルルルルル♪ 長門「メール」 From ハルヒ Sub 無題 本文 ナニちけτぇー(uдu) 長門「涼宮ハルヒ…」 長門「涼子ぉ、メールきたー」 朝倉「はいはい、あんたもメールくらい自分で打てるようにならなきゃダメよ?」 長門「うん」 朝倉「……『ヤッポー(^∀^)ノシ ユッキーナニ゙よ。メールありがとね(はぁと×7)よくわからなL1けどくU゙けナニらナニ゙よ(*^v^*)b』…送信。」 続く ハルヒ「なんで誰も助けに来てくれないのよぉ!」 古泉「もう理解出来たでしょう?誰もあなたを必要としていないのですよ。もちろん、僕達も…」 ハルヒ「そ、そんなことないっ!そうだ、鶴屋さんなら…」 古泉「アドレス知っているのですか?」 ハルヒ「う……じゃ、じゃあ阪中さんに…」 古泉「アドレス知っているのですか?」 ハルヒ「………」 古泉「誰もあなたを助けに来ませんよ。皆、あなたの被害者なのですから…」 ハルヒ「なによそれ……全然意味分かんないっ!」 古泉「あなたも…変な力を持たなければ…普通に生きて行けたでしょうに……残念ですがこれが《機関》の総意ですので、さようなら涼宮さん」 ハルヒ「待って行かないで!出してよ!ここから出してっ!」 古泉「………やれ」 新川「………はい」 ハルヒ「いやあああぁぁぁぁ!!!!」 私はSOS団恒例の不思議探索の待ち合わせ場所でみんなを待っていたら 「ちょっとみんな遅れるからそこで待ってて」 「みんなってなによ?みんなキョンと一緒にいるの?」 「詳しくは後で話すからとりあえずそこで待っててくれ」 「あっ!ちょっと待ちな…………切れた」 キョンからこんな電話がきた。みんなで私を待たせるなんてどういう気かしら? ……もしかしてサプライズパーティ?みんな今日が私の誕生日なの覚えててくれたのかしら? と、ワクテカしながらみんなを待ってた。 翌日 「30分待っても来ないから先に帰っちゃったわよ」 と、私が言うとみんなは口を揃えて 「なんだよ。あと5分も待っててくれれば着いたのに」 …オカシイよね。三時間も待ってたのに。 ハルヒ「誰……? 正直に言いなさい……今ならまだ許してあげるわ……」 キョン「……」 長門「……」 みくる「……」 古泉「……」 ハルヒ「……誰かがやらなきゃこんなのここにあるわけないじゃない……往生際が悪いわね……」 キョン「……」 長門「……」 みくる「……」 古泉「……」 ハルヒ「……もういいわ!! みんな見損なったわ!! ……こんな子供みたいなことして……」 キョン「……」 長門「……」 みくる「……」 古泉「……」 ハルヒ「……部活の邪魔ね! 片付けなきゃ……!」 そう言ってハルヒは団長机に盛られた特大の糞を片づけ始めた。 ガチャ ハルヒ「やっほ……って誰もいないわね…… ……? ……このお茶は……?」 ハルヒ「みくるちゃん一回来たのかしら……? まあいっか、頂いちゃお」 ゴクゴク ガチャ! ダダッ キョン「ハルヒ! お前そのお茶を飲んだのか!?」 ハルヒ「え……ええ……なに……? なにかしたの?」 長門「そのお茶には……何者かが入れた猛毒が……」 ハルヒ「え……ええっ……!!? ちょっとちょっと……嘘よ! 嘘でしょ!?」 キョン「ハルヒ、腹を出せ!! まだ間に合うかもしれない……オラァァァ!」 ボグッ ハルヒ「ウァ…アガァ……キ……キョン……!? なに……を……?」 キョン「いいから腹を出せ!! 今なら殴れば逆流して吐かせられる!」 みくる「涼宮さん! このままじゃ死んじゃいますよ! 早くお腹を出して下さい……!!」 ボグッボグッ ハルヒ「ウグッ!! オエッ!!」 ゲロゲロ キョン「あっ……よかった、吐いたな危なかった……! ハルヒ大丈夫か……!?」 ハルヒ「うっ……ううううっ……お腹痛いよ……キョン……」 キョン「ソファで安静にして待ってろハルヒ! 俺達はお茶に毒を入れたやつを探してくる!」 ガチャ バタン! ハルヒ「ううっ……痛いけど……キョン……ありがと……」 キョン「いやぁ、流石長門だな。こんなストラト解消法なんて考えもしなかったぞ」 みくる「慌てたりお腹痛そうにしてたのがもう、すっとしましたねぇ!」 長門「……これぞ最強のいじめ……」 祇園精舎の鐘の声、諸行無常のハルヒあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。 おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。 たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。 キョン「ということで、おまえは塵だ、ハルヒ」 みくる「ばいばいき~ん」 古泉「去ね去ね!」 長門「・・・やれやれ」 ハルヒ(´・ω・`) キョン「だいたい、ハルヒに気に入られたからといって、罰金だの死刑だの、 知ったことではないんだが・・・」 長門「私の任務は観察であって、世界が崩壊したとしても不都合はない」 古泉「そういえばそうですね。僕もキャラ作りに疲れました。 あなたとゲームをする以外に楽しみもありませんでしたし」 キョン「俺はSOS団なんてわけのわからん組織はやめて、普通に生きていくことにする。」 古泉や長門と遊ぶのは学校帰りでもいいんだし」 みくる「そんな~,わたしが困りましゅ~」 長門「黙れ、雌犬・・・」 古泉「乳揉ませろや、このポンコツ」 キョン「確かに、朝比奈さんはおかず以外には役に立たないな」 みくる ( ´・ω・) ハルヒ「やっほー、全員そろってるわね」 キ・古・長・み「お前は引っ込んでろ」 ハルヒ (´;ω;`) 鶴屋「めがっさにょろーん!!」 キョン「うるさい」 ハルヒ「そうよ!そうよ!あんたうるさいのよ!」 鶴屋「にょろ~ん…」 キョン「うるさい黙れ」 ハルヒ「そうよ!お黙りなさいよ!!」 キョン「お前に言ってんだよバカ!鶴屋さんの声が聞こえないだろ!!」 ハルヒ「( ´・ω・`)アレ~?」 ガチャッ キョン「うぃっす」 ハルヒ「遅いじゃない」 中に居たのはハルヒだけだった、そうかじゃあ帰るか ハルヒ「ぐおしゅ!!ま、待て!待ちなさい!」 キョン「なんだよ!俺になんか用か?」 ハルヒ「いやだってさ…その…部活していきなさいよ!SOS団でしょ!」 キョン「そんな言葉で俺が買えるとでも?」 ハルヒ「いや買うって…じゃあ値段は体で払うわ♪」 キョン「お疲れ様でしたー、鍵は閉めて帰れよ」 ハルヒ「……」 「うう、寒い。今日はまた一段と寒いなぁ。今日の最高気温10度だってよ。風邪ひいちまうぜ。」 バサッ 「?...毛布?」 「別にあんたのためにかけてあげたんじゃないんだからねっ!」 「ハルヒ、ツンデレはもう時代遅れだ。さっさと消えろ。」 「うっ...。」 「泣くんじゃねえよ。キモい。」 ハルヒ「ちょっとキョン大変よ!」 キョン「なんだ、うるさいな」 ハルヒ「っ!…うるさいですって!……まあ、いいわ。それより部室がなくなっちゃったのよ! きっと生徒会のやつらよ!」 キョン「それがどうしたんだ?」 ハルヒ「え?」 キョン「要件はそれだけか?じゃあ、俺は長門たちと遊ぶ約束があるから行くぞ」 ハルヒ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!SOS団の危機なのよ。どうにかしようと思わないわけ?」 キョン「思わないね。元々、俺たちはお前が勝手に始めたことに無理やり付き合わされてきただけだからな」 ハルヒ「な」 キョン「部室が没収されたのだって長門が文芸部を退部して廃部になったからだ。終わりだな?俺は行くからな」 ハルヒ「ちょ……キョン… 行っちゃった……なんでよ…… キョン「あ、そうそう」 ハルヒ「キョン!?(戻ってきてくれた!)」 キョン「お前、後からついてくるんじゃないぞ。さめるからな」 ハルヒ「………」 キョン「朝比奈さんがハルヒと接触したということは、既定事項が成り立っていないんじゃないですか」 みくる「!! そうでしゅね。キ、キョン君、私と付き合ってください」 キョン「もちろんですよ」 キョン「ということで、朝比奈さんと付き合うことになった」 ハルヒ「団内で恋愛なんて認められないわ」 キョン「じゃあ、やめさせてもらう」 古泉「僕と長門さんもやめなくてはなりませんね」 長門「・・・そう」 キョン「じゃあ、帰るか」 古泉「そうしましょう」 ハルヒ「ちょっとみんな、待ちなさい」 みくる「もてない人は悲しいですね~」 長門「いつまでも電波ばかり発しているからもてないことに気付くべき」 ハルヒ (´・ω・`)
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「おい、ハルヒ」 その時、いきなりキョンに声を掛けられて、あたしは背中をぴきぴきっと引きつらせてしまった。な、ななな、何よ!? あんたまさか、ヘンな勘違いしてるんじゃないでしょうね! あ、あたしは別にそんなつもりで、こんな所にあんたを連れてきたわけじゃ…。 「実は今、朝見たテレビの占いコーナーを思い出したんだけどな。今日の風水じゃ、こっちの方角は俺にとって猛烈に運勢が悪いらしいんだ、これが」 「え、そ、そうなの?」 「できれば別方向に探索に行きたいんだが。ダメか?」 「そういう事なら、し、仕方ないわね。じゃあ…」 表面上は不服そうな顔をしてたけど、本音を言えばキョンの言葉は渡りに船で、あたしはそそくさとこの場を離れ―― ――ようとして、はた、と疑問の壁にぶち当たった。ちょっと。ちょっと待ちなさいよ、キョン。あんた、今朝はあんなやつれた顔で遅刻してきたんじゃない。朝の占いなんか見てる余裕あったわけ? そもそも、あんたってば占いとかそういう類は否定はしないけど肯定もしないってタイプだったでしょうが。まさか、あんた…。 気が付けば、あたしは奥歯を軋むくらいに噛みしめていた。くやしい、くやしいくやしい! 今は、あたしがキョンの事を気遣ってやらなきゃならないはずなのに…! それなのに、どうしてあたしがキョンに気遣われてるのよ!? 北高に入学したばかりの頃、つまらないつまらないと窓の外ばかり眺めてたあたしに、キョンは何やかやと話しかけてくれた。頬杖をついてふてくされた表情のままだったけど、あたしは内心、それがとても嬉しかった。 だから、だから今日は、あたしの番だと思ったのに…あたしはすごく張り切ってたのに! 実際にはあたしには何の手立ても無くて、逆にキョンに気遣われてる。あたしの尊厳を傷つけないように、自分の都合を押し付けるようなフリまでしちゃって…なに格好つけてるのよ、キョンのくせに! 後になって冷静に思い返すなら、あの時のあたしは、ちょっと普通じゃなかったと思う。小さな子供が親の前で格好良い所を見せようと背伸びするように、ただひたすら、キョンに自分の優位性を誇示したかったのだ。あいつの優しさに甘えてばかりの自分に我慢がならなかったのだ、と思う。 あとまあ本当に本音の事を言えば、この状況で「逃げ」を選択したキョンに、“女”として依怙地になっていたのかもしれない、けど。 ともかく、あたしが求めたのはキョンに対する逆襲手段であり…現在のこの状況、そして今朝からの出来事を鑑みた結果、あたしの頭の中で、ぺかっと何かが閃いたのだった。 そのアイデアに手段、結果推測などがパズルのようにカチカチとはまっていき、たちまちひとつの仮法案になる。あたしの脳内では『涼宮ハルヒ百人委員会』が召集されて、すぐさま“それ”が提議された。 議事堂の半円状の議席にずらりと居並ぶ、スーツ姿のあたし達。その中で、立ち上がったあたしAが腕を振り、口から泡を飛ばす。 「本当に“これ”を採択して良いのですか? あとで後悔する事にはなりませんか!?」 「正直、その可能性は否定できません。ですがもしも採択しなければ、それはそれで後悔する事になるかとわたしは思います!」 あたしAの質疑に、敢然と答えるあたしB。周囲の大多数のあたしの中からは、やんややんやと歓声と拍手。一部では天を仰ぎ失望の息を洩らすあたしや、口をアヒルみたいにしてケッとか呟いてるあたしも。 「静粛に! それではこれより決議に移ります。賛成の方は挙手を」 議長服のあたしがコンコン!と木槌を叩き、採決が始まる。その結果、賛成87票、反対5票、棄権8票で、“それ”は可決されたのだった。 「うん、決めた!」 満足できる結論に達して、あたしは大きく頷いた。自問自答の時間は、正味1分も無かったかもしれない。 ともかく、一度こうと決めたらただちにスタートするのが涼宮ハルヒ流だ。くるりと踵を返したあたしは、キョンの奴が 「ハルヒ? どうかしたのか?」 と小首を傾げた、そのシャツの胸倉を引っ掴んで、真正面からあいつを見据えてやった。制服のブレザーだったら、ネクタイを捻り上げている所ね。 「いい、キョン? 自分じゃ気付いてないんでしょうけど、あんたは今、ちょっとした心のビョーキなの。分かる?」 「はぁ? 何をいきな」 「黙って聞きなさい! だからこれから、あたしがあんたを治療してあげるって言ってんの! いい? 分かったら四の五の言うんじゃないわよ!」 「お、おい待てハルヒ、そこは…」 四の五の言うなと釘を刺したにも関わらず、ゴニョゴニョ言いかけるキョンの呟きを全く無視して、あたしは標的と定めた建物に突撃した。ほとんど拉致みたいな形だけど、仕方がない。正直、あたしは顔から火が出そうでとてもじっとしてはいられなかったし、それに、ありえないと思いつつも万が一、億が一、キョンに拒否られたらとか思ったら、その…。 えーいもう、仕方がなかったって言ってるでしょ!? キョンの奴には主体性って物がまるで無いんだし! あいつの方からあたしをリードできるだけの甲斐性があれば、あたしだってこんな強硬手段を採ったりはしないのよ、うん! そういうワケで仕方なく、キョンを引っさげたあたしは道場破りみたいな面持ちと勢いで、その建物に乗り込んだのだった。通りには他に何組かカップルがいたけど、こういう時に人目を気にしたら負けよね。じゃあなんでお前の耳や頬はこんなにも火照ってるのかって、そんな事はいちいち訊くもんじゃないわ。 結局の所、そこはあたしがこの界隈に来て最初に看板を発見した白い建物で。外壁に提げられたその看板には、 【デイタイムサービス ご休憩3時間 3200円】 といった記述がなされていたのだった。 「ふうん…これがラブホって所なんだ…」 ちょっとした感慨を込めて、あたしは呟いた。てっきりピンク色の照明なんかがギラギラ光ったりしてるのかと思ってたら、何というか普通のホテルにカラオケボックスを合体させたような感じだ。部屋の広さに比べるとベッドが結構大きくって、あとティッシュやら何やらが脇に置いてあるのが、なんだか生々しい。 「…正確にはファッションホテルだかブティックホテルだかと呼ぶべきらしいぞ」 あたしの手で部屋に放り込まれたキョンが、カーペットに膝をついた格好でげほげほ咳き込みながらそんな事を言う。まったく、役にも立たない知識だけは豊富な奴ね。 などと思ってたら、キョンの奴は下から、じろりといった感じであたしを見上げた。 「やれやれ。俺もいいかげん、団長様の行動の突飛さにも慣れてきたかと思ってたんだが。とんだ思い過ごしだったみたいだぜ。 なんだ? まさか今日の不思議パトロールは女体の神秘を探検よ!とか言うんじゃないだろうな」 困惑ぎみのキョンの表情に、あたしは少しだけ、胸がスッとするのを覚えた。もっともっと、キョンの奴を困らせてやりた…あ、いや、違う違う。今日ばかりはあたしの都合は二の次なんだったわ。 決意も新たに、あたしは両の拳を腰に当てて前に身を屈め、キョンの顔を上から覗き込んでやった。どうにかして、こいつを励ましてあげなけりゃね! 「もし『そのまさかよ!』って言ったら、あんたはどうするわけ」 「なんだって?」 「本当の事を言うと、あたし、前々からあんたの恩着せがましい所にちょっとムカついてたのよね。あたしが何か命令するたびにさ、あんた、諦め顔で『あーもー好きなようにしてくれ』とか言うじゃない。あたし、アレがいっつも気に喰わなかったのよ。 えーと、だから、その…今日はその意趣返しっていうか」 少し言葉を詰まらせながら、あたしはそう喋っていた。う~む、論理展開に若干のムリがあるかも? いやいや、ここは強気で押し通すべきよ。 「つまり! 今は、この場所でだけはいつもの逆で…あたしの事をあんたの好きなようにさせてやろう、って話なのよ。分かった!?」 そう言い切るとあたしはベッドに歩み寄って、キョンに相対するように、ぽすんと腰を下ろした。ミニスカートから伸びる足を組んで、腕組みをして…キョンをまっすぐ見るのはさすがに気恥ずかしいので、フンと顔を横に向ける。 「あんたが、女の子の秘密を知りたいって言うんなら…別に構わないって、あたしはそう言ってるのよ…」 ともかく伝えるだけの事は伝えたので、あたしはそっぽを向いたまま、キョンの出方を待っていた。 ううう、なんともこうムズ痒い気分だわ! 普段のあたしは 「キョン! そこの荷物持ってついてらっしゃい!」 「キョン! ここはあんたのオゴリだからね!」 とか命令形で話してるものだから、こういう雰囲気はどうも落ち着かない。だからって、まさか 「キョン! あたしにエッチな事してスッキリしなさい!」 なんて言えるはずも無いし。 う~、でもあたしが憂鬱だった時にキョンが話しかけてきてくれたように、あたしもキョンの奴を刺激してやる事には成功したはずだわ。ちょっと方法が過激だったかもしんないけど。でもこういうのって、いつかは誰かと経験する事で――。じゃあ、その最初の相手がキョンでも別に悪くはないかなって、あたしは思ったの。少なくとも今の所は、他の誰かとする事なんて想像できないし。 ついひねくれた物言いになっちゃったけど、さっきのセリフだって、決してウソじゃない。いつもはこき使うばっかりで、「お疲れさま」とか面と向かって言う事もなかなか出来ないから…だから今日くらい、こういう形でキョンの労をねぎらってあげたって、バチは当たらないわよ、ね? とにかく、あたしは賽を投げつけてやったわ! あんたはどう出るのよ、キョン!? …と、振ってはみたものの。正直あたしの予想では、キョンが手を出してくる可能性は30%って所かな。「もっと自分を大事にしろ」だとか、当たり障りのない逃げ口上を使ってくるのが一番確率が高い。仕方ないわね。なにしろ、キョンだし。 まあ、あたしとしては別にどっちでも構わないのよ。キョンの奴に、あたしを抱こうとするだけの覚悟があるんなら、それは嬉しい誤算だし。必死になってどうにかあたしを説得しようとするんなら、それはいつも通りのあたしとあいつの関係に戻る、っていう事だもの。 どっちにせよ、あたしがあんたの事を気に掛けてる、その気持ちだけは伝わるはずだとあたしは思っていた。だから、悪いように事が転がったりするはずがないとあたしは信じていた。でも実際には――キョンの反応は、あたしが想像し得なかったものだったのだ。 「…なあ、ハルヒ。『好奇心、猫をも殺す』って言葉、知ってるか?」 「えっ?」 「今のお前のためにあるような、外国のことわざだよ」 むくり、と身を起こしたキョンは、そうしてゆっくりあたしの方へ歩み寄ってくる。部屋の照明は薄暗くて、その表情はハッキリとは見て取れなかったけど、ただなんとなくキョンの体の周りに、うすどんよりとした空気が漂っている、ような気がした。 「キョ、キョン?」 あたしの呼びかけにも応じず、キョンは黙ったままこちらに向かって片手を差し出してきた。あたしの左頬に、キョンの右の手の平が添えられる。 いつものあたしだったら、ここはドキドキしまくりな場面だろう。心臓の鼓動をなだめるのに必死なはずだ。でも今は何か、何かが違う。ちっとも心がときめかない。どうしちゃったの、キョン? 今のあんた、何か、こわいよ…? 「先に謝っとくぞ、ハルヒ。すまん」 少し右手を引きながら、キョンがそう呟く。それからすぐに、ぱしん、という乾いた音があたしの顔のすぐ傍で起こった。 頬をはたかれたのだ、という事を理解するのに、あたしの脳は、それから数十秒の時間を要した。 痛くはない。多分、トランプやら何やらの罰ゲームでしっぺやウメボシを喰らった方が痛い。ただ、キョンに叩かれた、という事実に頭の中が真っ白になってしまっているあたしに向かって、キョンはうめくような声を絞り出していた。 「でもな? 俺にだって許しがたい事ってのはあるんだよ。いいか、これだけは言っとくぞ。俺は間違っても、お前の身体が目当てでSOS団の活動に参加してたわけじゃない!」 あたしはただ、唖然としていた。あたしを睨み据えるキョンの瞳には、確かに憎しみと哀しみの色が入り混じっていた。 「ご褒美に身体を自由にさせてやるだと? 馬の目の前にニンジンでもぶら下げたつもりかよ。そうすれば男なんか、みんな大喜びだとか思ってたのかよ!? 俺も、そんな野郎の一人だと思ってたのかよ――。ふざけんな、人を馬鹿にするのも大概にしろ!!」 いつの間にか、キョンの感情のボルテージは急上昇していた。その怒声が、あたし達のかりそめの宿の中いっぱいに響き渡る。 その後、急速に静寂が訪れて…あたしの耳には備え付けの冷蔵庫の低いブーンという駆動音だけが、ただ虚ろに届いていた。 どうして――どうしてこんな事になってしまったのか。 キョンに頬をはたかれたショックに引きずられながら、それでもあたしは、ひたすらに考え続けていた。 躁鬱病だか何だか知らないが、たかだか心の病気くらいで女の子に手を上げるような、キョンは決してそんな人間では無い。何か、何か理由があるはずなのだ。こいつがここまで激昂するワケが。その証拠に、あたしを見下ろしているキョンの表情は、ひどく悲しく、悔しそうに見える。まるで自分の尊厳を、根こそぎ踏みにじられたような…。 そこまで考えた時、あたしはさっきのキョンのセリフをもう一度思い返してみた。キョンの立場になって、もう一度その意味を考え直して――そして、やっと自分のあやまちに気が付いた。 ああ。ああ、そうか。そうだったんだ。キョンの奴は…口ではなんだかんだ言いながら、こいつはこいつなりに、SOS団の活動に誇りを抱いていたんだ…。 そうよ、あたし自身が何度もキョンに言ってたんじゃない。この不思議探索はデートじゃないのよ、真面目にやんなさい!って。 キョンの奴が大した成果を上げた事はなかったけど、それでもちゃんとSOS団の一員としての自覚は持ってたんだ。こいつはその誇りを、胸に秘めていたんだ。 なのに団長たるこのあたし自らが、午後のパトロール任務を放り出して相方をラブホに連れ込むようなマネをしたら、それは「ひどい冒涜」だと受け取られても、仕方がなかったかもしれない。ごめんね、キョン。あたしにも反省すべき点はあったわ。でも、でもね? すっくとベッドから立ち上がったあたしは、真正面から、毅然とキョンを睨み返してやった。 「『ふざけるな』ですって? 『馬鹿にするな』ですって――? それはこっちのセリフよ、キョン!!」 啖呵と共に、左手でキョンの右腕を掴み、右手をキョンの左脇の下に差し込む。そのままくるりと回転して、あいつの体を腰の上に担いだあたしは、渾身の力でキョンを前方に投げ飛ばしてやったのだった。 女子柔道部に仮入部した際に憶えた技だ。確か『大腰』だっけ? まあ技の名前なんてどうでもいいけど。とにかく、ごろんごろんと面白いくらいの勢いで投げられ、転がっていったキョンは、部屋の出入り口扉の横の壁にぶつかって、ようやく止まった。 一瞬の事で何が起きたのかまだ分かっていないのか、尻餅をついた格好で茫然自失といった顔をしてる。ふふん、いい表情ね。 「人を馬鹿にしてるのは、キョン、あんたの方でしょうが!」 「…なんだって?」 「あたしは、涼宮ハルヒはね! 明日後悔しないように、今を生きてるの! こうしたら得するだろう、こうしたら損するだろうとかじゃなくて、いま自分がどうしたいかを第一に、ひたすら前進してるの! その決断の早さに凡人のあんたがついてこられなくて、戸惑わせちゃった事は一応謝っとくわ。だけど、だけどね!」 心の中の憤りを包み隠さず、あたしはキョンの奴を大喝してやった。 「『好奇心、猫をも殺す』ですって――? そっちこそふざけないでよ! あたしが本当に、ただの好奇心であんたをホテルにまで連れ込んだと思ってんの!? 見損なうな、このバカっ!!」 さっき、キョンは『俺にも許しがたい事はある』と言った。なら、あたしの許しがたい事はまさにこれだわ。キョンの奴が、あたしの決意と覚悟をまるでないがしろにしてるって事よ! 「確かにね!? あんたとここに入って、そーゆー事しようってのは、ついさっき思いついたわよ! 後先考えてないって言われたら、否定できない部分はあるわよ! でもね! あたしだってちゃんと考えたのよ! あんたとそーゆー関係になっちゃってもいいのかって! 初めての相手が本当にあんたでいいのかって…。百万回も! それ以上も! 頭の回路がぐるぐるぐるぐる回って、しまいにはバターになるんじゃないかってくらい真剣に考え詰めたのよ! その上で、あたしはあんたと今、ここに居るのに…それなのにッ!」 さっきのお返しとばかりに、あたしは出来うる限りの鬼の形相で、キョンの奴を見下ろしてやった。もうこうなったら徹底的に糾弾よ糾弾、アストロ糾弾よ! 「あたしだって、こんな事するのはすごく恥ずかしかったのよ! でも、ちょっとしたショック療法っていうか――つまんない悩み事なんて忘れちゃうくらいの刺激を与えたら、あんたが少しは元気を取り戻すんじゃないかと思って…。他にあんたを元気づけてあげられる手段を思いつけなくって、それに、それにそもそもは、あんたがあんな事を…言ったから、だから――」 あれ? おかしいな? キョンの奴を、これでもかってくらい締め上げてやるはずだったのに。気が付くとあたしの言葉は途切れ途切れに、言ってる内容もなんだか支離滅裂になっていた。 そして、頬の上をはらはらと伝わっていく冷たい物…。これは…悔し涙? ちょっと、ダメよ! 何やってんのよ、あたし!? ここは団長としての威厳を見せつけて、キョンの誤解をねじ伏せてやるべき場面でしょ! 何を普通の女の子みたいに泣き崩れそうになってんの!? しゃんとしなさい、しゃんと! ああ、でも無理だ。元々あたしは、感情をセーブするというのが苦手なのだ。ダムが決壊したみたいに、溢れはじめた想いはもう、止められなかった。 「だからあたしは、思い切って一歩踏み出したのに! それをあんたは…男なら誰でもみたいな…言い方をして…。 あんたはただの下っ端だけど…栄えあるSOS団の、団員第1号なのに…。あたしの最初の仲間だったのに…そのあんたに、そんな…風に、思わ…てた、なんて…」 心のどこかで、あたしは、自分が勇気を出したらキョンはきっと応えてくれると信じていた。そう期待していたのだ。でも、その期待はあっけなく裏切られてしまったから、だから――。 「もう…知らない。知らないわよ、あんたの事なんて! このバカ! バカキョン! あんたなんか、一生ぐじぐじ腐ってればいいのよ!」 自分があんまりみじめで、この場にはどうしても居たたまれなくて。あたしは小走りに駆け出した。キョンの横の扉を通り抜けて、表へ飛び出した。 ううん、違う――そうしようとしたのだ、だけど。 ドアノブを回そうとしたあたしの手に、あいつの手が重なっていた。消え入りそうな微かな声で、でも確かに、あいつはこう言った。 「悪い…。すまなかった、ハルヒ…」 次のページへ
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……と、いかん。回想にかまけているうちにすっかり日が暮れちまった。 ハルヒは雨が降ってるからという理由で朝比奈さんを連れてとっくに帰っている。俺と長門はポエム作成を仰せつかり部室に残っていて、古泉は……こいつもまだ居残りながら、前回の小説誌をなにやら思わしげな表情で読みふけっていた。時々長門に話しかけていたりしたので、長門の不思議小説の解読でもやっていたんだろう。あれの内容では古泉のような登場人物が意味深な発言をしているので、俺よりも更に気にかかるんだろうね。しかし、何故今頃になって。 それはともかくポエムの方なのだが、明日が金曜日であるにも関わらず長門も俺も未だにテキストエディタを活用することなく、パソコンにはまっさらな画面が広がっているのみだった。ホントにどうすりゃいいんだよ。これ。 しかし、今はそれも隅においておこう。朝からずっと言いつぐんでいたのだが、俺はまた朝比奈さん(大)から下駄箱を介して手紙を受け取らされている。今の俺にとってはめっきり嬉しいものではなくなっているが、この手紙は読めば百日寿命が縮むものではなくむしろ伸ばす目的のものなので、俺は例え憮然とした面を浮かべながらも読むしかないのだ。 内容は放課後に元・一年五組の教室で待っているというものだった。以前にどこぞの朝倉さんからもらった手紙の文面と似ていて非常にお断りしたいのであるが、無視できるはずもない。それにこっちとしても会って話を聞きたかったしな。 だが、今回はこれまでとは違う。いつものようにトイレの個室で手紙の封を切りはしたが、それは骨をもらった犬が安全圏に赴いてそれを楽しむといったものではなく、単に散歩コースでお決まりの電柱程度の意味しかない。 それに、もう俺は言われたとおりの芸をする気もさらさらないんだ。朝比奈さん、俺は「お手」といわれて右前脚を差し出せばご褒美が貰えるといった行動に、今度はwhatを挟ませてもらうぜ。あの藤原の言葉をまるっきり信じているわけじゃないが、それでもあなたの行動は怪しすぎる。あそこで俺の朝比奈さんも藤原の話を聞いていたんだから、あの朝比奈さんより未来のあなたは全て知っていたはずなんだ。 それに、藤原は朝比奈さんたちは過去には最初から遡っていないと言っていた。この言葉を信じた上で過去に行くことが目的じゃないのなら、本当の目的は何なんだ? やっぱり、自分の未来へ導くためなのか? それが特殊な未来なら、彼女の指示通りに動く俺たちの未来には、これから何が待ち構えているんだろうか――――。 まあ、それも今から朝比奈さん(大)に会って問いただせばある程度の見当は付くだろう。今度ばかりはそれを聞かないと動きようもないし、時期的にもそろそろ話してくれたって良い。 ……丁度古泉と長門が残っててよかったというべきだな。こいつらには俺がこれから聞く話を帰宅の道中で伝えておこうと思い、 「古泉、長門。今から俺は少し席を外すが、またここに戻ってくるまで待っててくれないか? これからもっと未来の朝比奈さんと会ってくる。いい機会だ。色々聞いてみるよ」 「待って」 おや、という眼差しで長門を見る俺と古泉。長門は「話がある」と俺にうったえ、俺は席を立ってパイプ椅子を机に押し込もうとしていた姿のまま固まり、 「なんだ?」 「情報統合思念体のこと。そして、わたしたちとこれからの世界について」 ジッとこちらを見つつ、 「我々が四年前に観測した正体不明の情報フレアは、涼宮ハルヒが発生させた次元の変容によるものだったと判断された。そして今、情報統合思念体と存在レベルを等しくする天蓋領域の出現によって、思念体は今までにない変化を迎えている。これは、彼らとコミュニケートする方法を画策していく上で内部の情報が次々と展開され、我々が抱えていた自身の進化の閉塞状況が発展の兆しをみせているということ。それによって現在の思念体は、もしかすると進化の可能性は既に自律的なものにはなく、異なる存在との関わりによって変化をみせるといった世界人仮説の中にあるかもしれないと感じている。わたしの役目はそれの解析に当てられるかも知れない」 「なんでわざわざお前がやる必要があるんだ?」 長門は少し考えるような間を置き、 「思念体には、不確実でまれに裏腹な意味を持つ人間の言葉を理解することが出来ない。が、わたしなら……なんとなく、解りそうな気がするから」 そっか。それはな長門。お前がどんどん人間らしくなってきてるから、感情を含めた人の言葉の意味が分かりだしているって意味なんだと思うぜ。 長門はボーっとしたように、 「そして情報統合思念体は、観測対象を涼宮ハルヒという個体から全人類へと広げ、本来の人間の性質を知るためにこの世界を正しい次元体系に戻し、全ての矛盾を消し去った上で人類の経緯を見守りたいと考えている」 「それ、SOS団や……朝比奈さんはどうなるんだ」 「……主流派の意見では、四年前、世界改変以前の状態から開始する案が濃厚だが、朝比奈みくるやわたしたちの関係性を残存させて現在を改変することも可能。しかし、それはわたしたちの状態が一般的な高校生としての観念に基づいたものへと修正されるのが前提」 ……淡々と話す長門を見て、俺の心はズキリと痛んだ。お前、それじゃ…… ――あの時と、一緒じゃないか。 もちろんそれは拒否する。本来の歴史とやらに後ろめたさがないわけじゃないが、今、この世界が俺たちの現実なんだ。やたらにいじくりまわす方がよほど勝手だと思うね。 それに佐々木と二人で喫茶店に残って話をしてからというもの、俺も過去やらを変えようだなんて思いはしないんだ。あの時の佐々木の言葉は俺たちに指標を与えてくれている。それにな、長門にとっても非常に大切なことも話してたんだぜ。 そう思って拒否の意向を示そうとしたときだった。 「長門さんはこの世界と思念体の提案した世界の……どちらを望むのです?」 古泉に視線を配る長門。考え込むように、 「……わたしには、どちらも選べない」 そうだろうよ。だからあのときこいつは俺に選択権を委ねたんだ。古泉、無粋な質問はするもんじゃないぜ。 俺の視線に古泉は気付かず、 「そう……ですか、そうですね。ですが、思念体が強硬にその変革を推し進めたりしないのでしょうか?」 「多分、ないと思う」 「ほう」と、俺と古泉。長門は俺たちを見回して、 「そう急ぐものでもないから。暫くは現状維持で十分。それに何故か現在彼らは、あなたたちの意見に重要性を見い出している。他の存在に意見を求めるなんて、今までの思念体にはない概念だった。これについては情報統合思念体自身も不思議に思っている」 それは俺たちの行動が結果に直結しているからだろうか? 確かに、俺は以前よりも体裁を構わず行動するようになってきてる。あちらも胡乱なことは言えないんだろうかね。 「なるほど、承知しました。僕の機関側としてはある意味一安心です。それと、現在長門さんの思念体との関係は良好な状態に回復しているんですか?」 一瞬ハッとしたような表情を見せた長門はすぐさま無表情に戻り、 「……わたしはあなたたちに伝えるように命令されただけ。依然としてわたしと思念体との接続は最小限のものになっている。こちらから彼らの情報をダウンロードすることは出来ない」 「それってさ、お前が人間味を帯びてきてるからなのか? それとも、なんか悩みでもあるのか?」 「後者については違うと断言できる」 「そうか。それならいいんだ。とにかく俺はその案には反対だ。こっちの選択肢にはないものとして考えとくように伝えておいてくれ」 長門はゆっくりとした瞬きで返事をし、 「でも、現在の時間連続体による世界構成は非常に不安定。長期の見通しだと、いつ、どんなキッカケで崩壊するか解らない。人間や思念体問わず全世界の未来を紡げなくなる不測の事態が発生した場合のために、宇宙をあるべき姿に戻すという思念体の提案も覚えておいて欲しい」 「ああ。だが、絶対に崩壊させやしない。それも俺たちの役割なんだしさ。自分の選んだ道にしっかり責任は持つよ」 そう言うと、微笑を浮かべた古泉は俺を見ながら、 「ええ。それは僕も同様です。ですが、いずれ次元の状態は元通りにしなければならないでしょうね」 そうだな。だが、それはまだ今じゃないと思う。まだまだカタをつけなきゃならんものが残っているしな。まだ俺たちには考える時間が必要だ。とりあえずそれは保留……って、なんだかどっかで聞いたような会話だな? と思いつつ俺は部室を後にし、朝比奈さん(大)の待つ教室へと向かった。 そして元・一年五組であり俺の一年次の教室の前に着き、俺は扉を開いて中に入る。 瞬間だった。 「――ぐっ」 いきなり腹部に重い衝撃を受け、俺は思わず声を漏らした。前方では教卓の前で大人の朝比奈さんがにこやかな表情をこちらに向け、俺の腹部には――、 「……誰だお前」 「グスッ、先輩……助けてくださぁい……」 かなりの確率で人違いをしているらしいこの少女は、俺に突如として飛びついて助けを求めてきた。 ――なんだ? このクラスの生徒か? しかし、ここは朝比奈さん(大)が指定した場所で間違いないはずだ。現に室内にはグラマラスビューティーな女性がおいでである。 もしかしてこの女の子には彼女の姿が見えていないのだろうか。だったらうかつに朝比奈さん(大)に話しかけられんが……。 「ひぅ、先輩が……みんなが、オカシクなくなっちゃったんですぅ……うう……」 「ちょ、ちょっと待った! 人違いだ!」 顔を俺の胸に埋めつつギュウっと抱きしめてくる少女を振りほどき、俺は驚き顔の少女と顔を見合わせる。 …………この少女、どこかで見覚えが――? なかった。 だが、なんとなく意識の片隅に引っかかるような雰囲気を持っている。風体を見回してみると、この女の子の背丈は長門くらい、体重は長門より軽いだろう。髪質はパーマの後ブローしなかったような癖毛気味、スマイルマークみたいな髪留めを斜めにつけているのが特徴といえば特徴的な記号で、制服のサイズが合っていないのか、どことなくブカブカした着こなしをしている。ちっともこなれていないが。 ……見れば見るほど会ったことはないと感じる。校内で不意に見かけた新入生だろうか。 「もう、先輩だけが頼りなんです……オカシクない先輩たちなんて、オカシイもん……」 いやもう困るしかない。 この少女は明らかに俺を認知した上で話掛けてきているが、俺には先輩という言葉が誰を指しているのか、また、オカシイのかオカシクないのかどっちなのか全く分からない。まあとりあえず身元を聞いてみようと、 「誰だ。まず名を名乗ってくれないか」 「あっ」少女は涙で濡れた顔をグシグシと袖で拭き、「ご挨拶がまだでした。フフ、この世界では始めましてですね。失礼しちゃった。ゴメンナサイです」 「……ん、」 ――なるほど。まだ名前もなにも言われちゃいないが、俺が受ける自己紹介としては非常に解りやすい。 このファーストコンタクトはひどく懐かしく感じられるな。一年程前に宇宙人や未来人や超能力者たちと出会ったときと一緒だ。この世界では始めまして、ってことはつまり……。 ――ついに来たか、異世界人。 藤原の世界人仮説を信じるならば、この世界も異世界と関連性があるんじゃないかというのが以前に話した古泉による異世界人の考察に繋がっている。この少女がどんな世界から来たのか不明だが、そこにも俺はいるらしい。多分SOS団もいるんじゃなかろうかと思うが、一体どんな世界なんだろう。 まあ、まずは俺も一応自己紹介をしておくかと考え、 「つまりキミは異世界人なのか。俺は」 「あ、多分あたしの知ってるキョン先輩と変わらないと思います。フフ。あたしは朝比奈みゆきです。これからよろしくです。しばらくお世話になると思います」 「へ?」 もう驚くこともないだろうと余裕ぶっこいてたら、すぐさま軽いジャブを喰らっちまった。 こいつ、さっき名前なんてった? 朝比奈だって? じゃあ、この少女は俺の朝比奈さんの妹ってところだろうか? 確かに、口調に似通った部分があるが……。 と、俺の脳内で数々の疑問が浮かんでいるときに大人の朝比奈さんがこちらへと近づき、 「キョンくん、驚かせてごめんなさいね。みゆきもいきなり抱きついたりしちゃダメでしょ? あなたは女の子なんだから」 「はぁい」 舌っ足らずな返事をする自称朝比奈みゆき。 てゆーか、どうしたものだろう。出来れば、俺は大人の朝比奈さんと二人っきりで話をしたいのだが。 「あー……」俺は言葉を考えながら美人教師風の女性に「この女の子はどうしたんですか? 何だか誰かがオカシクなったとか言ってますが」 すると少女のほうが頭を振りながら、 「ちがいますよう。SOS団のみんながオカシクなくなっちゃったんです」 まるでSOS団の初期設定が変態であるかのような言い草だ……って、確かに全員デフォルトで変態要素が付属してたっけ。最近唯一まともであった俺までもが怪しくなってきている次第であるが、 「どういうことなんだ?」 つまり、SOS団が普通人の集まりになっちまってると言うのだろうか。 で、俺たちに助けて欲しいと。 うーん、イマイチ話が掴めない。なにをもって助けることになるのだろう。それにSOS団が普通になったってのは……。 ――って、ちょっと待て。それって長門がついさっき話していた現象じゃないか? その異世界の思念体がSOS団、いや、世界をそのように変えちまったのか? いや、だがその世界がどんなものなのかが解らん限りは何も言えんな。 俺が異世界人らしき少女からもう少し詳しく話を聞いてみようかと思っていたら、 「キョンくん、現在とても大変な事態が発生しているの。詳しくはわたしが説明します」 と大人バージョンの朝比奈さんが言い、その後に少女へと笑顔を向け、 「みゆきちゃん、これからお母さんはキョンくんと二人でお話があるから、あなたは先に帰って待っててちょうだいね。もう勝手に遠くに出て行っちゃダメよ?」 「行かないもん」プイッと顔を俺に向け、「じゃああたしは失礼します。それと、あっちの世界の長門おねえちゃんが、解決の鍵は先輩だって言ってました。どうぞよろしくです。またすぐに会いにきますね。フフ」 カラリと笑ってちょろちょろと教室の外に出ていく朝比奈みゆき。 「もう」 それを見送る朝比奈さん(大)が溜息をつき、 「やっぱり子育てって大変ですね。小さい頃はとても素直な子だったのに、あの年頃になってからはわたしの話をロクに聞いてくれないの。この間もね、あの子ったら……あ、」 俺の顔を見て何かに気付いた。そりゃそうだろう。なんせ俺の目と口は点になり、まるで牛飼い座と乙女座と獅子座が織り成す春の大三角形を写しているんだから。当たり前だ。朝比奈さん(大)は普通に話を進めているが、明らかに説明不足だ。 俺は持ってきた質問を投げかける前に、それについて聞いてみた。 「……結婚されてたんですか?」 まさか子供がいるとは。しかもその子が異世界人だとは予想だにしなかった。だが、既婚であったというのは考えてみれば予想出来たはずだよな。不思議と俺のイメージの中にゃ微塵も存在しなかったゆえにモロに面食らっちまった。大体、本当の年齢も知らないんだから結婚がどうとかの話までは回らなかったわけで……。 「うふ。わたしはまだまだ独身ですよ? これ以上のプライベートは……禁則事項です」 口元にひとさし指をつけてウインクを飛ばしてきたが、俺には彼女の言っていることがまったくわからない。 もう呆然とマヌケ面を浮かべるしかなくなっていると、 「あの子の紹介がまだでしたね。うっかりしちゃった。あの子は、長門さんの子供なんです」 パードゥン? 「あ、長門さんから預かった子供って言ったほうがいいかな」 「……は?」 朝比奈さん(大)の話があまりにもぶっ飛んでいたような気がしたのでもう一回言って欲しいとは言ったが、正直二回も聞きたくはなかった。何故かって? 決まってる。 「な、長門の子供!?」 聞き間違いであって欲しかった。 「そうです」 肯定までされちまった。 「あの子は自分では気がついていないかも知れないけど……長門さんたちと同じインターフェイスなんです。あ、それでもわたしはあの子を本当の自分の子供みたいに思っているんですよ? 実際にあの子は、普通にしていれば同年代の女の子と全く変わらないんです」 「……すみません。最初から話して貰えませんか? 俺には、まったく話が読めないんですが」 危うく本題を忘れちまいそうな程にこの教室に来てから色々あった。 まず異世界人との邂逅を果たしたかと思いきや実は朝比奈さんの子供で、しかして本当は長門の子供であり、またさらにその子から異常事態が発生しているSOS団の存在を告げられては、こうして俺の耳から白煙が昇るのも無理はない。このまま話が進めばポンッという小気味良い音と共に思考回路がクラッシュだ。 「じゃあ、まずはあの子の話からしますね。覚えてます? この時間平面からの少し前、長門さんが最初に学校を病気で休んじゃった日のこと」 忘れるわけがない。あれは衝撃だった。実際は風邪でもなかったし、現在進行形で気にかかっている事柄だしな。 「あの日、わたしが家に帰ったら……部屋に赤ちゃんがいたんです。最初に見たときはホントにビックリしたんだから」 「……それは驚くでしょうね」 俺が風呂の蓋をあけたら妹が潜んでたってときですら肝を潰されたってのに、家に見知らぬ赤子が居たらそれこそパニックだ。 「でも、このわたしから見たらそれは必然でした。その赤ちゃんは長門さんがわたしに託した子で、こちらの未来で引き取ってわたしが育てるようになっていたの。そしてさっきの年齢になったら北校に入学させて、SOS団に加わる予定だったんだけど……」 「どうしたんです?」 朝比奈さんは少し困ったような顔を浮かべて、 「ちょっと最近あの子とケンカしちゃって……、みゆきは、わたしが涼宮さんから貰った制服を持って家を飛びだしていっちゃったんです。暫くしても一向に帰って来なかったから必死に探したんだけど、みゆきはどの時間平面にも居なくなってしまってて、もうわたしたちは大騒ぎしました。そうしたら先日ひょっこり帰ってきて、あの子は異世界に飛んでいたっていうのが分かったんです」 「そりゃまた、えらくスケールのでかい家出ですね。って、なんでハルヒから制服を貰ったんですか?」 「詳しくは禁則にあたるので話せませんが、わたしが北校を卒業してしばらくした後、涼宮さんがこれからは北校の制服がコスプレになるからって言って自分のをくれたの。制服ならわたしも当然持ってたんだけど、多分、涼宮さんはわたしともう会えなくなるっていうのを感じてたんじゃないかしら。だから、わたしも自分の制服を彼女にあげて二人で交換したんです。……ふふ、あの日は今でも思い出しちゃう。懐かしいなあ」 ……つまり、それが朝比奈さんとハルヒにとって二人が顔を合わせられる最後の日だったんだろう。俺は朝比奈さんにあげられるものなど無いように思うが、俺もなにか貰えたのかな? 「……へ? き、禁則事項ですっ」 あたふたと顔を真っ赤にしてそう言う大人の朝比奈さん。一体俺と朝比奈さんの別れに何があったんだろうか? とは言いつつも、もしかしたらお別れのキスが待っているのかもしれんなと感じている。俺だって彼女の反応をみてそれくらいの希望的観測は立てられるのさ。 「と、とにかく……ここからが重要なんです」 すぐさま真剣な表情になった彼女は、 「あの子が行ってた異世界というのが……涼宮さんが創造した、この世界を複写した世界だったみたいなの。……わたしも最初は信じられませんでした。だけどあの子の話を聞く限りでは、そうとしか思えません」 息をほんの少し吸い込むと、 「多分、その世界が発生したのは……新学期が始まって最初に行った不思議探索の日のうちだと思います。あの日キョンくんは佐々木さんから電話を貰っていますよね?」 ん、たしか……風呂に入っているときに電話があった気がするな。 そっか。佐々木が他三名を交えて俺と会合したいと申し入れてきたときだ。ええ、ありましたね。 「それはこちらにとっての規定事項だったの。あなたに佐々木さんの能力について知ってもらって、そして、未来人の彼が佐々木さんに話を持ちかけるための」 ……この話を聞いて、くっと俺の眉間にしわが刻まれた。 が、まだ朝比奈さん(大)には話がありそうなので黙って聞くことにしていると、 「ですが、その電話からこちらの世界とその異世界とが違ってきています。あちらの世界では、佐々木さんからの電話がみゆきからの電話に変わってしまっていて、日曜の佐々木さんたちとの話し合いがなくなってしまったんです。そして休み明けの登校日にはSOS団に入団希望の新入生が沢山入ってきたらしくって、みゆきはそこに紛れて涼宮さんの入団テストを受けて最後まで合格して……その世界のSOS団に加わってしまったんです」 ……もしかして、こっちじゃ団員募集の張り紙を貼ったのはいいものの、その意味に誰一人として気付かずに結局秘密のまま幻となったハルヒのあの入団試験のことだろうか? そう。そういうこともあったのだ。ハルヒは新団員を採るためにと頑張って入団試験を作ってたが、その試験をするまでもなく誰一人SOS団の門を叩く輩はなかったんだ。なんせチラシをぱっと見ただけじゃSOS団の入部試験だとは気付けないので、ある意味一次審査で全員が落っこちたってことだ。だから、俺は未開催だった入団試験の内容をよくは知らない。どんな試験があったんだろうか。それに一つ気になるのが、 「ハルヒが作ったあのめちゃくちゃな試験の問題に、よくあの子は合格したもんですね」 そう。ハルヒは試験問題を寝不足にまでなって考えてたとか言っていたが、完成稿にはたった一つの問題しかなく、それを見た俺たちは、ああこいつも本気で新団員を入れる気はなかったんだなと感じたような内容だった。それは何だったかと言えば…… 『SOS団入団試験:我がSOS団に足りないもので、それが加わったらもっと世界が盛り上がると思うものを書きなさい』 という無茶で無理無体な質問だった。俺たち団員なら迷わず異世界人と答えるが、はたして他の人がそう答えたところでハルヒが合格点を出すとは思わない。こんなヘンテコな問題を作った本人の理由としては、「問題を解くだけなら簡単でしょ。あたしが求めてるのは意気込みなの。そのレベルを問うには、自分で答えを作らせるのが最良で、これが出来なきゃダメなのよ。もちろん、採点はあたしの基準に照らしあわせてするけどね。面白かったら合格、そうでないなら残念無念、また来年ってこと」 つまり、あいつが計画していた入団試験は単なる気まぐれで、最終的にこの試験で落っことすつもりだったんだろう。 ……だがしかし、この問題に異世界人・朝比奈みゆきはなんて答えたんだろうか。 そんなことを考えていると、朝比奈さん(大)はなにやらあたりを見回し、誰も居ないことを確認すると、 「あの子は、多分何も知らずに書いたんだと思うけど……」 そう言って、あの少女の答えを教えてくれた。それは……、 『(A)未来からやってきた、魔法を使う宇宙人』 ……なるほどと思ったね。宇宙人と未来人と超能力者を一緒の鍋で煮込んだような答えだ。しかもそれを作ったのは普通人の振りをした異世界人だってんだから、合わせて一人SOS団の出来上がりだな。って、それじゃ団になってないか。とにかく、ハルヒが気に入りそうな回答としては模範に近いだろう。などと頷いていると、 「これ……ズバリあの子のことなんです。本人は気がついていないと思いますが……」 「じゃあ、あの子にも長門たちみたいな力があるんですか?」 「いえ、自分の意思で情報操作を行うまでには至っていません。だけど、インターフェイスとしての本能が無意識のうちに存在している……そうじゃないと考えられない行動をあの子は出来てしまうんです」 「それ、一体どんなことなんですか?」 朝比奈さん(大)は、「それは――」と言葉を溜めて…… 「――TPDDによって、異なる世界を渡ることです」 「……TPDDで、異世界を渡れるんですか?」 朝比奈さん(大)の言葉をそのまま疑問形にした俺の問いに、 「いえ、普通の時間平面破壊装置では不可能です。だって、それによる移動のベクトルは三次元方向にしか向いていないから。そうね……二つの世界を並走する列車で考えてみてください。わたしたち乗客は列車内しか移動出来ないけど、隣の列車に飛び移ることが出来たらもう一つの列車に乗ることが出来るってこと。他にも様々な問題があるんだけど、大体そんな感じ」 それでね、と続けて、 「あの子は時間平面を破壊するデバイスを再構築して、ベクトルの方向を自在に操れるように改造しているみたいなの。これは海洋船を宇宙船に作り変える位とんでもないことなんだけど、完成された理論を有するインターフェイスになら可能だったということです。情報統合思念体はTPDDを使用しないから考えもしなかったんだけど、みゆきによってそれは証明されましたから。これは多分、わたしたちの人間的な教育が彼女になんらかの影響を及ぼしているんだと思うわ」 そのTPDDは宇宙の彼方まで行きそうだなと思いつつ、 「……なんとなく、異世界を渡る能力についてはわかりました。それで、その異世界では何が起こっているんですか?」 俺が聞きたいのはこちらの世界についてだが、流れ上これを聞かないわけにはいかないだろうなという気持ちから出た質問に、 「一言で表すなら……涼宮さんが能力を暴走させているんです。もしかしたら、そうさせるために世界を創造したのかも……」 「それ、勝手に能力が暴走しているのとは違って、ハルヒがそうさせているって話ですか?」 「ええ、恐らくは」 ……俺の中で、雪山で遭難したときの心境がフラッシュバックされた。 あんまりな話だ。それじゃ、その世界の俺たちが浮かばれない。コピーがどうのという話じゃなく、あまりにも利己的で、自分勝手な行動じゃないか。 ハルヒがそれをやっただって? ……正直に言おう、俺には信じられないな。あいつはいつだって自由奔放だが、そんな人の心を弄ぶよう真似をやるわけがない。だから、つまり――、 「お決まりの無意識ってやつでしょう。それなら解る。そりゃ誰にだって抑えようにも抑えられない不可抗力なんだから」 いつだって問題を起こすのはハルヒだが、あいつが悪いわけじゃないんだ。悪いのはあいつに宿っちまった変哲な能力で、言っちまえばハルヒだって被害者みたいなものなのだ。 俺の目の前にいるスレンダーな朝比奈さんは、 「ええ。きっかけはそうだったんだと思います。それでね、その世界でみゆきがSOS団に入った後、こちらの世界でも行われたSOS団と佐々木さんたちとの話し合いがありました。こちらでは長門さんの代わりに喜緑さんが参加していたけど、あちらではみゆき以外の純団員で会合があったみたいです。どんな話だったのか詳細は不明ですが、結果からするとこちらの内容とほぼ同じだったと思われます。そしてその後、橘さんの組織はこちらと同じ事件を起こしたの。でも、その結末もこちらと相違ありませんでした」 意見が平行線のまま終わった、最初のSOS団とあいつらでの話し合いのことか。あの後の橘京子側の策略には俺が一人で疲弊するハメになったが、別に思い返すこともないだろう。その次の日に俺は周防九曜に拉致られて…… 「それが終わって、世界に徐々に変化が現れてきました。えっと、この変化はこちらとの違いとかじゃなくって、そのままの意味で世界がおかしくなっていってるんです。未確認生物や超常現象、それらが世界各地でひっきりなしに発生したんです。その世界のわたしたちには伝聞した情報しか伝わってなくて涼宮さんは信じていなかったけど、実際にそれらは存在していました」 「……ん? 俺が周防九曜にさらわれる事件はなかったんですか?」 朝比奈さん(大)は沈鬱な表情を作り、 「キョンくんが九曜さんにさらわれることはなかったわ。多分、そちらの世界のわたしはひどく慌てたと思います。規定事項が、二つも消えてしまったんだから」 「……規定事項? 二つとは?」 「一つはさっき話した佐々木さんからの電話で、もう一つは、九曜さんの空間に閉じ込められたあなたを未来人の彼が助け出すという行動です」 ……なんか、オカシイぞ。藤原はあれは予定外だったって言ってたじゃないか。だが、あれはこの朝比奈さん側にとって規定事項だったってのか? 「……なんで藤原に俺を助け出させる必要があったんです?」 朝比奈さん(大)は少しもじもじした様子で、 「詳しくは禁則事項ですが……あれがないと、彼らは『あの事件』を起こさないからです。わたしたちにとって、それが起きることこそが大切な規定事項でしたから」 ………俺は言葉を作れなかった。 いま口を開いたら、俺はこの人を糾弾せずにはいられないだろうからだ。 ――あの事件。それは佐々木を巻き込んで、あいつの閉鎖空間に《神獣》を生み出しちまったSOS団と藤原との抗争だ。落ち着いた結果こそ得られたが、それが全部……藤原の行動も含めて、俺の目の前にいるこの女性の未来の、掌の上の出来事だったってのか。気に喰わない。あんたらは俺たちの釈迦であるつもりなのか? 言っとくが、俺たちはいいようにされてばっかりの猿じゃない。それを俺は言いにきたんだぜ、朝比奈さん(大)。 「話を戻しますね」 俺の心が惨憺としてきていることに気付いていないかのような声で、 「ここからは、時間的にこの世界では未来の出来事になります。この世界での今度の日曜日……三日後ですね。あちらの異世界で行われた市内の不思議探索で、SOS団は佐々木さんたちと鉢合わせをします。そして結果だけ言えば、九曜さんを初めとして、彼らとSOS団の正体が涼宮さんにばれてしまうんです」 「ハルヒに……俺たち、いや、古泉や長門、朝比奈さんの正体が……?」 「いえ、わたしたちだけではありません。それに、彼女が一番動揺したのは――」 ……次の言葉に、俺は目を見開いて驚愕の色を表さざるを得なかった。 「――キョンくんが、ジョン・スミスだったこと。それを聞いた涼宮さんは、時空改変能力を発動させて宇宙の姿を変え、情報創造能力によって世界を作り変えてしまったんです」 「……まさか、俺がもしジョン・スミスだとハルヒに名乗っちまえば……世界はそうなるってことなんですか?」 「……恐らくは。これはわたしたち未来人がずっと懸念していたことなんです。涼宮さんが不思議と出会って、それを認めてしまうこと。それが前から話していた強力な分岐点なの。我々はそうなった場合を予測も出来なかったんだけど、みゆきのおかげで今ここに一つの可能性が示されました。この事態はなんとしても回避しなければなりません」 「確かに、その世界は助けなきゃならない。ですが、それがこっちの世界でも起きることはあるんですか?」 「こちらの世界でそれが起きるとは思いません。ですが三日後、この世界がその異世界と同じ時間軸になったとき、こちらの世界はその世界から強力な干渉を受けると推測されます。何故なら、その世界が『立方時間体』によって作られているから」 また妙なワードが出てきた。お願いだからもう勘弁してほしいと言いたいね。 「『立方時間体』による世界を平たく言えば、空間ではなく、世界全体が閉鎖されてしまった世界なんです。今までの閉鎖空間は『紙』単位で閉鎖されていたんだけど、今回は『本』として閉じられたってこと」 「……それが、なんでこっちの世界に影響を?」 「閉鎖されてしまった世界には、それ以後の未来が存在しません。なのであちら側の世界はこちらの世界と同期を図り、歴史をこちら側の世界の未来で進行させようとすると予測されています。こちらの世界の体系が『平方時間体』から『立方時間体』に変化することはありませんが、STCデータ……つまり世界の内容は同じものになってしまうの」 「じゃあ……こっちの世界の俺たちも記憶をなくしちまうんですね」 「はい。ですが、それどころの騒ぎではありません。そのまま未来を放っておけば、近い将来に地球がなくなってしまうんです」 地球壊滅の危機らしいので厳粛に話を聞いていると、 「こちらの世界は『平方時間体』で出来ていますから、涼宮さんの情報創造能力は消えません。そして、異世界での出来事を思い出してみてください。新しい団員、超常現象の発生、そして……宇宙人や未来人、超能力者や異世界人と涼宮さんの邂逅を」 ……つまり、その世界ではハルヒの願望がことごとく叶っているってことか。 「でも、なんで地球がなくなるですか? ハルヒはそんなことを願いはしない」 「いいえ。本人にその気はなかったとしても、彼女は願ってしまっています。そして、地球が壊滅してしまうのは……早くて約十六年後、長くて約二十五年後です。涼宮さんが織姫と彦星のどちらに願いを唱えたかによって変わりますね」 「………………………」 やたら長い三点リーダは、俺が過去の記憶を検索しているためだ。 「……ハルヒ。やっぱり、アホな願いはするもんじゃないぜ……」 これは検索結果への俺の感想だ。なにが導き出されたかというと――――、 『世界があたしを中心にまわるようにせよ』 『地球の自転を逆回転にして欲しい』 ハルヒが去年の七夕で笹に吊るした願い事の、後者の方だ。フライングですでに一つ願いが叶ってるじゃねえか。もう自重してもいいだろう。とは誰に言えばいいんだろうね? だが、もとよりそんなことを言ってる場合じゃない。 「根本的な質問なんですが、その世界を助けるにはどうすれば良いんですか?」 朝比奈さんは少し沈み込んだように、 「それは……長門さんに聞いてみないといけません」 「長門に? ……ですが、さっきまでのあいつはそんなこと微塵も言ってませんでしたよ? そんな重大な事態が起こっているんなら、あいつがそれを俺に言わない筈がない」 「うん。だって現在の彼女はこの事態を知りませんから。だけど、情報統合思念体は知っているはずなんです。世界が二つに分かれてしまった瞬間から、私よりも詳細に全ての出来事を。世界がアニメや漫画だとするなら、思念体はそれを別の所で認識する視聴者のようなものですから」 確かに長門と思念体には不仲説が流れてるし、あいつも思念体の情報をダウンロード出来ないって言ってたな。 「じゃあ、喜緑さんに聞いてみましょうか? 今なら教えてくれそうだし」 「いえ、それは望めません。彼女は最初からこの現象を把握していましたし、第一、観察が目的の思念体としては現状のままで困ることはないんです。地球が滅んだとしても、もとより彼らにとっては些細な出来事でしかありませんから」 ぬ……。思念体にとっても、なんやかんやする俺たちより大人しい俺たちのほうが良いだろうしな。人間の観察も、ハルヒの能力がありゃどうとでもなる。 じゃあ、俺たちが黙ってても世界は思念体の望みどおりになっちまうところだったってことじゃねえか。……くそ、思念体もこの朝比奈さんも、親玉クラスのやつらは信用できやしない。今じゃ、よっぽど藤原のヤツの方が好印象のように感じるね。どっちにしろ不愉快だ。 「それにあちらの世界は閉鎖されているので、こちらの思念体は観察こそすれ干渉は出来ないんです。今のみゆきも、TPDDであちらに向かうことは出来ません。あの世界には、無限のエネルギーがありませんから」 どうしようもないじゃないか。……でも、 「だったら、その異世界がそうなっちまう前の時間に遡行して、それを防げばいいんじゃ?」 「今となってはもう不可能です。それに、今日わたしがここにみゆきを連れてくるのは元々規定事項として存在していたの。だから、もしかしたらその異世界の発生も必然だったのかも。わたしが何も聞かされていなかっただけで」 「へ? それを教えるために来たんじゃないんですか? じゃあ、ここに来た本来の目的は?」 「長門さんに関わる規定事項を実行してもらうためです。えっと、既に今、古泉くんも長門さんもあなたに協力的ですよね?」 ああ。あいつらの上がどうであれ、俺たちはちゃんと信頼し合っている。ここにくるまで長かったような短かったような気がするが、石炭がダイヤに変化する程の時間はかからなかったし、SOS団はそれ以上のモンに成形されていると自負するね。 「ふふ、良かった」 大人の朝比奈さんは不意打ち気味に秀麗な笑顔を作り、 「この規定事項が上手くいけば、多分その異世界の異常も正しく修正できるようになると思います。今こそSOS団の皆が力を合わせて行動するときなの。みゆきも含めてね」 ……ってことは、ある程度のオチがここでつくってわけか。ようやくだ。 「わかりました。その規定事項ってのは何なんですか」 「実行するのは明日なんだけど、内容はキョンくんが過去の空白を埋めること。それがなければ、現在のわたしたちが存在していませんから」 「は?」 ……過去の空白、そんなんあったか? 「あります。とても重要な……《あの日》の中に。明日キョンくんには、長門さんが世界を改変した瞬間に再度飛んで貰うことになります。今度は、前回と違う結末で終わらせなければなりません」 ……意気込むまでもなかったな。これにはwhatと言わざるを得ない。 「――なんで……」思った以上にうろたえていたことに気付きながら、「あの日は……既に、終わってるじゃないか。だから今があるんだ。その過去を変えちまったら、この現在は……」 ――ちょっと待てよ。 そうだ、今が変わっちまう。現在の俺たちがいなくなってしまうんだ。何故、この人はそんなことを俺にさせようとする? まさか俺が……古泉だってそうだが、大人の朝比奈さんに懐疑的だからか? だから歴史をやり直そうってんじゃないだろうな。自分の存在が脅かされる前に先手を打っておこうってハラなのか? 「いえ、あれは繰り返された時間を作るために……」 「ちょっと待ってください」 このまま朝比奈さん(大)の話を聞くのは危険だ。丸め込まれちまう可能性がある。 「その前に聞いておきたいことがあるんだ。俺があの山で拾った棒のことです。なんであれの存在を俺たちに黙ってたんですか?」 「あれは過去のわたしが知るにはまだ早かったの。知らなければ、こちらがウソをつかないで済みますから」 ニコヤカにUFOの存在を大統領に教える秘書のような台詞を吐き、 「それに、あなたが後でそれを拾うのも規定事項として出ていましたので」 「…………」湧き上がる黒い情動を抑えつつ、「もう一つ。藤原のことなんですが、あいつから聞いた話は本当なんですか?」 「ええ。彼の話した理論は偽りのない真実です。ですが……」 ――もう、わかった。 「え?」 目を丸くする朝比奈さん(大)に、 「あなたの話については間違いがあるってことでしょう?」 「……そうですけど、これはちゃんと説明しないと……」 「もう聞きたくないですね」俺は続けざまに「俺が今日聞きたかったのは、俺があなたの未来からやらされている行動は正しいのかどうかってことだった。そして、藤原はあなたたちを虚像の未来だと言った。それを丸々信じ込んじゃいなかったが、あんたがこれから俺にやらそうとしていることはおかしいじゃないか。もともと、過去を変えるってのはタブーなはずだ。けど、そうさせる理由は説明が付く。あんたは、今の俺たちが邪魔なんだ。だから歴史を変えて、俺たちがもっと未来に従順な犬の場合の現在をつくろうとでもしているんだろ。俺が今一番聞きたいのは……あなたたちは、一体何者なんだ?」 「……わたしたちはこの歴史の先の未来です。そして藤原さんの未来は、実はわたしの未来より少し先の地続きの未来なんです。まだ詳しくは禁則なので言えませんが……。それでね、彼らには今までの行動をして貰うために、彼の過去であるわたしの時間平面で組織内の情報を調整していたんです。実は規定事項は記述統計学に基づいて立てられるものではなくて、世界の遺伝子と呼べるものを分析したものなの。その遺伝子の中からわたしたちの行動が影響しているものを見つけ出して、その通りに時間を調整するのが未来人の仕事」 「そんなことはどうだっていいんだ。あなたは佐々木を巻き込んだ事件も、長門の事件のときだって規定事項だって言ってましたよね。それはつまり、そっちの未来を導くためにあんたらが仕組んだことなんじゃないのか。正しい未来ってのは、一体なんなんですか?」 「……未来に、正しいも間違いもありません。向かってくるものを受け入れながら、進んでいった結果が未来に繋がるんです。これは藤原さんの話を聞いていたときに、キョンくんがわたしに言ってくれたことでしょう?」 ……ああ。そうだった。だから、俺がこれからやることに文句はなしにしてもらいますよ? 「ええ。俺たちは自分で未来を作っていく。だから、俺はもうあの時間には行きません。これでいいんですよね?」 「……それでは、これを受け取ってください」 と言いながら、さして慌てた風でもない朝比奈さん(大)は俺に封筒を差し出してきたが、俺はそんな彼女を見て……、 「……もういい加減にしてくれ。その手紙は何なんだ? 俺の答えがわかってたとでも言うんですか?」 「そ、それは……」 ――もう、我慢の限界だ。 「俺は、あんたらのあやつり人形じゃないんだよ! ……もう踊らされるのはごめんだ。大体、あんたらは人の気持ちをなんだと思ってやがる。あの小さな朝比奈さんだってそうだ。長門も、佐々木もだ。そのに、あの日に戻れだって? もう長門にあんな光景は見せたくないし、俺も二度と見たくはない。そっちの未来にいいように振り回されてちゃあ迷惑だ。だからこれからは、俺たちは自分で未来を切り開いて行く。あんたの命令なんか聞かずに、俺たちが信じた未来をね。その異世界だって俺たちが自力で救ってみせるさ。なんせ、どのみち動くのは俺たちなんだから」 「待って! またあの過去に行くのは……長門さんのためなの! 今は行きたくないのなら、お願いだから、この手紙だけは――」 「……要らないって言ってるじゃないですか。俺も、もうあなたと話すことはないんです。色んな意味でね。じゃあ、俺はこれで失礼します」 戸惑いながら必死に俺へとうったえ続ける彼女を尻目に、俺は踵を返して教室の外へと向かった。 「――あの場所で、待っていますから……!」 待ちたいなら好きなだけ待っていればいいさ。だが……。 もし俺がそこに行くとしても、俺の朝比奈さんも一緒に連れて行く。いや、SOS団の全員で。だ。 第五章
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「ただの人間には興味ありません。 この中に宇宙人・未来人・異世界人・超能力者がいたら あたしのところへ来なさい。 以上!」 【巨大ハルヒ】 谷川流のライトノベル『涼宮ハルヒシリーズ』のヒロイン。「すずみや-」。 容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰、文武両道と、見た目や能力だけなら欠点の付けようがない女子高生だが、 その人格は唯我独尊、傍若無人でとてつもなく破天荒。 普通と退屈を極度に嫌い、とにかく既存の枠組みに縛られない行動を起こす。 そんな突拍子もない性格だが、実は非常に理知的であり、理解した上で敢えて理不尽な振る舞いをしている。 こういう非常にハタ迷惑な内面のおかげで、周囲からは近寄りがたい存在と思われ孤立していた。 ちなみに冒頭の「 宇宙人 ・ 未来人 ・異世界人・ 超能力者 が~」は高校入学初日の自己紹介での台詞。 実際、ハルヒのお眼鏡に適う相手以外はまったく相手にしようとしないが、 興味を抱いたり、馬が合う相手は大事にするという面倒見の良い面もある。 また、見ず知らずの他人に同情して代役になる事を提案した事もある。 時と場合によってはちゃんと礼儀正しい態度を取る事もあり、常識と非常識を併せ持つキャラと言える。 つまらない世界を変えるために高校でサークル「SOS団(世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団)」を立ち上げて団長に君臨し、 ヒロインであるにも拘らず主人公(キョン)達を振り回すトラブルメーカー的存在。 彼女の起こした問題を他のSOS団メンバー達が解決するのが常となっている。 初期の頃は朝比奈みくるを利用して、 ヤクザ顔負けの自作自演の罠で恐喝する事でSOS団に欲しいものを強奪する(パソコン部の最新のパソコンをタダで強奪した)など、 ギャグにしてもクスリとも笑えない事もしていたが、後の作品では上記のように破天荒ではあるものの、 最低限の礼節とTPOはある程度弁えられるキャラになっていった。 破天荒な行動の原因は昔の思い出にあり、その時感じた不満が作中では「憂鬱」と表現されている。 性格の変化はこの時感じた不満が解消され始めてきているため。 + その正体、といっても彼女自身は知らない事 その正体は「涼宮ハルヒの憂鬱」世界の神(かそれに近い存在)。 原作ではまだ正しい正体は明らかになってはいないのだが、世界は彼女が三年前に創造したという見解があり、有力な説の一つ。 本来は一巻完結で続編予定の無かった作品なので、当初はこれが真実だったのだと思われる。 + だって一巻は…… 『涼宮ハルヒの憂鬱』というタイトルから分かるように、 思春期の女の子(ハルヒ)の憂鬱(葛藤ややり切れない気持ち)を描いた作品だったのである。 特別な事を諦めてしまってそれでもそれなりに楽しくやっている少年(キョン)が、 特別な事を本当は諦めているのにそれを追い求めずにはいられない少女を、 その突飛な行動に振り回されながらどこかその気持ちに共感しつつ、 周りに呆れられる事も厭わずに大胆に行動する様子を羨ましく思いつつ見つめるという筋書きに、 その実、何か特別な存在になりたいと願っていた少女はこの世の神だったというとんでもない真実が明かされ、 その精神世界を垣間見る事で彼女の苦しみを知り、特別な事など何もない世界を崩壊させようとするハルヒに、 キョンが元の世界(特別でない日常)も面白いんだと教えてやる事で結末を迎えるのである。 自分が作った団体に無意識の内にSOS(救援信号)の名前を付けるなど作品のテーマを表す仕掛けも多く見られる。 特別とは大勢の中のたった一人に与えれられるものではなく、個人一人一人に存在しているものだというメッセージが伝わる名作である。 現在は続編が語られる事でSFの要素が強くなっているが、仄かに垣間見られる恋心も合わせ優れた作品に仕上がっていると言えるだろう。 ……が、現在は様々な説が作中で提起されている。 自分が心の底から望んだ事をあらゆる法則をねじ曲げ実現する世界改変の能力を持つ。 だが実際の所この能力の正体は不明であり、「ハルヒが望んだ事が実現する」のではなく「ハルヒは望んだ事を無意識の内に叶えている」が正しい。 上記の説が正しいとするならば世界はハルヒの見ている夢のようなものという事になるので、その夢を自覚されると世界が崩壊しかねない。 現実を改変するというより「現実」はハルヒが作るものなのである。 この説を(当初は)裏付けるように彼女には世界を破壊し創造する能力がある。 ハルヒが世界を失敗作だと思えば神人と呼ばれる青い巨人が現れて世界を破壊し尽くしてしまう。 この巨人はハルヒの精神状態を反映したもので主にイライラが具現化したものだとされる。 様々な法則の範囲内でしか行えない長門有希の情報操作能力と違い、 法則・ルール自体を書き換えてしまうという正に反則的な能力と言える。 ただし、たまたまそういう能力を持っているだけであって、ハルヒ自身の身体能力等は常人よりは優れている程度である。 宇宙人・未来人・超能力者が彼女の側にいるのは、彼女がそう望んだため。 そんな状況下にあっても世界がおおむね現実的で平穏なのは、 彼女の芯である理知的で常識人の部分が「世の中に非現実なものはない」と理解している(思い込んでいる)ためである。 もっとも、彼女自身はこの事を知らず、もちろん全くコントロールできない。 そのため、また、それでなくとも普段の言動にインパクトがあり十分に個性的という事もあり、 二次創作などにおいては、「ハルヒ自身の能力」と認識されていない事も多い。 また、本人が自覚していない事に加えて、SOS団メンバー達はそれを自覚させないように秘密裏に行動している事もあって、 作中では異変が起こっても解決の場から遠ざけられてしまう事が多く、ハルヒだけが蚊帳の外状態になる事がとても多い。 中心人物なのだが、ハルヒだけが平穏で周囲は大騒動という正に台風みたいな扱いをされている。 おかげで事件解決の直接的な功労者である長門に人気を食われていたりするが、それでもヒロイン(笑)扱いされる事が無いのは流石と言える。 むしろラスボス兼主人公と認識されている節さえある。 知らず知らずの内に世界を改変してしまったりするため、どこまでがハルヒの能力なのかという事でしばしば議論が起こったりする。 異変が無い日常的な回でも出番が全く無かった事もあったが 後述するMUGENのハルヒ達もその能力を積極的に生かす事は無いようだ。 もっともこの能力、再現しても不利な時に相手をMUGENごと終了できるレベルなので、 ある意味しょうがない、とも言える。神の能力だし。 というか、元々彼女が創造した世界でないMUGEN界でそれが適用されるのかがそもそも疑問である。 が、別作品を含めるとこの手の願望を実現化する能力や現実改変能力を持つ人は結構いたりする (この人とかこの人とか。この界隈だと中堅上位程度のキャラは標準装備)。 人気作のヒロインであるため支持するファンも多いのだが、一方で、上述した賛否両論が分かれる性格(特に初期の)故に、 彼女に難色を示す人も多く、ニコニコニュースが行った悪役以外で嫌いなアニメキャラのアンケートでは二位に輝いている。 ちなみに他のトップ3だが、一位はハルヒと大体同じ理由だがソレに加えて主人公や他のヒロインへの暴力など猟奇性が目立ち、 三位は人の話を聞かずに突っ走る割に好きな人の前ではうじうじし過ぎ等の意見があり、ハルヒと似通った要素とヤバさを持っている。 ハルヒはその独特の作風やキャラ性から高い人気を博し「現実改変能力者の代名詞」のように言われる事もあるが、 実の所こういった「全能の力を有しながら、モラルのセンスの全く欠如した“子供”のような“神”の支配する世界」 というプロットはずっと古くから存在する。 古典SF・ホラー・ファンタジーの世界ではお馴染みの『トワイライト・ゾーン(TWILIGHT ZONE)』では、 「It's a Good Life(邦題:日々是好日)」というエピソードにおいて、 ハルヒ同様の能力を持つが自制心と倫理観の欠如した「アンソニー」という名の少年を描いている。 何でも思い通りにできる能力を持ち、それを好き勝手に行使できる存在がいたとしたら、全宇宙が迷惑するのは至極当たり前の事だろう。 現実の宗教において神が人から崇められているのは神様が人前に姿を現わさないからである事をよく考えるべきである。 ある意味では創作物の主人公を考えるに当たって最も参考になる反面教師であるので、 これからヒーローやヒロインを考え出そうとしている作家の方々は、ハルヒというキャラクターを今一度見直してみてはいかがだろうか。 また、ラノベ界三大ツンデレの一人とも呼ばれ(他二人は『灼眼のシャナ』のシャナ、『ゼロの使い魔』のルイズ)、 ツンデレキャラとして認識されている事が多いが、実際の比率はツン9:デレ1くらい、 しかもデレと言うほどデレていないというツンデレを安売りしないヒロインだったりする。 と言うか、本当にツンデレなのか怪しい所もあるが、この手のカテゴライズによくある事なので深く追求してはいけない。 + 『ハルヒちゃん』版のハルヒについて スピンオフ作品『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』では原作以上に皆(特にキョンとみくる)を振り回しているが、 その様子から原作者である谷川流氏に「ハルヒよりもハルヒっぽい」とまで言われている。 一方で、キョン不在時に長門やみくるが暴走しているときは止め役やツッコミ役に回っており、「根は常識人」という設定も上手く活かされている。 また、ある話においてはキョンはおろか、原作では口答えしない長門、みくる、古泉にまでマジギレされて心を折られた。 キョンに対してはやはりそれなりの想いがあるらしく、キョンがとある理由から古泉に「好きだ」と言った際は倒れてしまった。 その際に「特大」の閉鎖空間ができた模様、しかも長門曰く「かろうじて涼宮ハルヒの理性が勝ったが世界の終わりも十分ありえた」との事。 因みに後々キョンがバニーになった時にはこれ以上の「過去最大」の閉鎖空間ができたらしい。 またこの作品では閉鎖空間ができる頻度がかなり多く、酷い時は一日で三回 (蝋燭の火を不可思議な力で消すのに挑戦して500回失敗、その行動が無駄な事に気付いた、プリンが買えなかった)と機関(主に古泉)を疲労させている。 また神人も個性豊かであり、ヒーロー物の悪役のように喋りだす奴や、 スピンオフ短編「古泉一樹の過去」では神人の撃破にやってきた超能力者を狙う神人というのも登場している。 無意識に現実改変を行う頻度も高く、月に超科学力を持った兎が出現したり、 谷口が鬼や狼男になってしまったり、格闘ゲームが音声入力可能になったりしている。 また、キョンが冗談で「母さん」と呼んだ時、酷く動揺した上に「だったらお前は父さんだ!」と叫んでいるなど、原作よりもデレの割合が強い。 そしてある回では古泉の陰謀でキョンと1日デートする羽目になり、お互いに精神的に深いダメージを受ける事になった。 …その次の回では、キョンと一緒にいた所を「カップルですか?」と言われて「「違います」」と2人して即答する。 もう夫婦の領域じゃないのかとか言わない。 同作アニメ版のOPテーマ「いままでのあらすじ」ではキョンに対してテンプレなツンデレとなったハルヒを見る事が出来る。 + 『長門有希ちゃん』版のハルヒについて ハルヒちゃんのスピンオフ作品『長門有希ちゃんの消失』では第一巻の終盤回想シーンから登場。 文芸部廃部の危機に動揺する長門の前に現れ、初対面の彼女に「サンタへのメッセージ」を描かせる傍若無人ぶりを見せる。 しかし、長門はその貪欲な姿勢に背中を押されており、結果的に文芸部存続の立役者となった。 その後、クリスマス深夜に公園で野宿を敢行。凍死しかけていた所を長門とキョンに救助され、彼らと交流を始める。 以降は他校生にも拘らず「北高文芸部ミステリー部門本部長」を名乗って、文芸部に入り浸っている。 超常現象の存在しない本作ではハルヒも神ならぬ「普通の人間」に過ぎないため、部内での扱いは割とぞんざい。 他校生なので登場しない話も多く、最重要エピソードの『長門有希ちゃんの消失』編でも殆ど登場しなかった。 キョンに対する好意を持っていたようだが片思いに終わり、長門とキョンの恋の成就を苦笑いしながら見守っている。 結果、スピンオフとはいえサブヒロインに先を越された稀有なメインヒロインとなってしまった ただし、ハルヒ自身は原作よりも空気が読める性格になっており、要所で他人への気遣いを見せるイイ女となっている。 また、原作ではあまり絡まなかった朝倉涼子と仲が良く、朝倉が暴走した時はハルヒがツッコミ役に回る珍しい姿が見れる。 ちなみに中国語圏内では「涼宮春日」と書かれる。間違っても「ハルヒ」を「かすが」とは言わない。 また、北京オリンピックのパンフレットに彼女を真似たと思われるあまりにも出来の悪いパチモンが描かれた事があり、 そちらはネット界隈では涼宮哈爾濱、もしくはハルビン等と呼ばれている。 また、第一話で彼女が提示した宇宙人・未来人・異世界人・超能力者の内、 異世界人だけが登場してないため、谷口や鶴屋さんなどの脇役が実は異世界人だったというIFストーリーが書かれたり、 他の作品のキャラクターを異世界人として登場させたり、幻想入りをはじめ自ら異世界へ旅立つ等の方法で、 同人誌やSSやニコニコ動画のMAD等で二次創作が多く作られている。 前期に述べた非現実的なものは信じない設定があまり知られてないのか投げ捨てられているのか、 妖怪や英霊(サーヴァント)を召喚したり、吸血鬼や魔法少女と戦う作品もある。 有名なものでは『ゾイド』の漫画版で知られる上山道郎氏がドラえもんを題材とした漫画『のび太の終わらない夏休み』を描いている。 公式でもDMM GAMESにて配信中のエロソシャゲ『神姫PROJECT』ともコラボ(ただしエロNG)。 2018年のゴールデンウィーク期間中、ニコニコ動画では『涼宮ハルヒの憂鬱』の無料配信があったのだが、 その際、「団長」繋がりかハルヒが何かやらかす度に「何やってんだよ団長!」のコメが飛び交う事態となった。 MUGENにおける涼宮ハルヒ MUGENでの彼女の技も、上記の設定や劇中のネタを生かしたものになっている。 チョイヤー氏と汚レ猫(現・にゃんちゃ)の2種類が確認されており、どちらも手描き改変ドット。 一時期両者共に入手不可能となっていたが、にゃんちゃ氏のものは2018年5月に再公開された。 また、2017年12月26日よりゆ~とはる氏がチョイヤー氏のものの改変版を公開していたのだが、現在は公開を停止している。 + チョイヤー氏製作 チョイヤー氏製作 氏のホームページが閉鎖したため現在入手不可。 また、このハルヒを基にした改変版も存在する(後述)。 立ち絵や通常技などは『MELTY BLOOD』に登場する複数の女性キャラのドットをベースにしている (立ちニュートラルがアルクェイド、ダッシュがシオン、遠立ち強攻撃がシエル、ジャンプ強攻撃が秋葉、しゃがみ弱攻撃がさつき…など)。 AIは程良い強さ。対人用か対AI用の2タイプに設定可能。ストライカーとして長門、みくるの他に、 こなた( 声優繋がり )や他社のラノベキャラ( 絵師繋がり )を呼び出してたり、 桜高軽音部のみんな(京アニ繋がり)と「God knows...」を演奏したり、どこぞの元傭兵みたいな必殺技を披露したりする。 ちなみに元傭兵風の技は更新でブリス技に。つまり部室内で相手に無理やりコスプレさせている事が判明した(要するに原作でみくるにしたアレである)。 どこぞの元傭兵とは違うのだよ! また上記の涼宮ハルビンをバイトとして雇ってもいる。なお、ハルビンの声は『はぴねす!』の神坂春姫(演 榊原ゆい)である。 イントロや勝利ポーズで様々なコスプレを披露してくれるので、視聴者の目を楽しませてくれる。 ブリス技をはじめとした、特殊やられにも対応している。 脱衣KOをオンにしていると下着も脱げてしまう(靴下は残る)ため動画作成の際は必ずオフにしておくように。 また、おもらしKOなんてのもあり黄色い液体も出る。当然、動画作成では必ずオフにしておくように。 また、かつてはsff切り替えで勝利時の変身やミッドナイトブリスを全裸にする事もできたが、2010年7月24日の更新で廃止された。 2011年6月30日の更新で新MUGENの勝利デモに対応、ライブ アライブに専用ゲージがついた。潰されるとそれまで溜めていたゲージを全て消費する仕様に。 2013年1月31日の更新でゆ~とはる氏のマミヤの「さようなら」、同氏の縁寿のメタ返しに対応。新MUGENでの勝利セリフも増えた。 そして、通常投げからの追加入力やショウリュウメガホンからの追加入力で額に肉の人のフェイバリットホールドも習得。 2月24日の更新ではSOSアタックでブリスやられを表示するようになった。 新MUGENでは『haruhi.def』、WinMugenでは『haruhi_win.def』と登録すれば両方のバージョンで使用できる。 間違って新MUGEN用のdefをWinMugenで使うとブリスやられが表示されず、キャラが点滅したり消えてしまう。 3月10日の更新ではジェダ・ドーマのサングェ・パッサーレに対応したが、ぽろりしているため動画に使うのは厳禁なので注意。 ちなみにチョイヤー氏はハルヒより他社のラノベキャラの方が好きらしい。 是非とも製作して頂きたかったがキャラ愛のあまり製作に至れなかったのだとか。 そのあおりを受けてか、更新でフレイムヘイズ召喚の性能が大幅にアッパー調整され、召喚中はハルヒが無敵状態になるように変更された。 以前のバージョンでは召喚してからシャナが登場するまでにかなりのタイムラグがあったため潰されやすい技だったのだが、 現在は先述の通り無敵時間がついたためほぼ潰される事は無く、さらにシャナは相手の位置をサーチして突っ込んでくるため回避は困難。 しかもガード不能でダウン追い打ち属性まで付いている。これを1ゲージ消費で呼べるのだから、フレイムヘイズの面目躍如である。 遠距離戦主体のキャラと戦わせると、ひたすらゲージを溜めてシャナを呼びまくるというどっちがメインのキャラだか分からない事態に陥る事も。 これじゃ「あたしに力を貸して!」じゃなくて「あたしの代わりに戦って!」だよ。 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな 召喚の際にメロンパンを掲げるのだが、畳やコートと違ってメロンパンの錬金術師と呼ばれる事はなかった。 カラーパレットも豊富で声優ネタやラノベ繋がり、中にはハルヒをパロディしたゲーム(R-18)のキャラクターになり、 デフォルトのカラーも下着の色違いが3種類(白・橙・ミント)入っている拘りよう。 黒or金一色になるカラーもあるが性能面に違いはない。 余談だがアニメ版の『らき☆すた』では飲料水のCMでハルヒがゲスト出演してたり、 アルバイトでこなたがハルヒのモノマネを披露したり自室にみくるのフィギュアが飾られている等ハルヒ絡みのネタが多く、 それを意識してかハルヒ達が『らき☆すた』のキャラクターっぽくなるカラーもある。 長門は声繋がりで岩埼みなみ、みくるは作中で彼女のコスプレをしていたパティ、 ハルヒは黄色いリボンという共通点から柊つかさの配色になる。ちなみに、こなたは髪の色が原作寄りになっている。 T's氏と柊竹梅氏もいくつか製作している。 ストーリー動画にも多く登場ているが、何故かそれ以上におっぱい関連の大会への出場が多い。 上記のけしからん要素のせいであろうか 一応、健全な大会では人間弾幕チームとして春日舞織やキャプテンコマンドーと組んだり、 薫やこなたとCV平野チームを組んだり、SOS団として大将を務める事が多い。 ちなみにタクアン和尚との専用イントロもある。 + 汚レ猫(現・にゃんちゃ)氏製作 汚レ猫(現・にゃんちゃ)氏製作 一時期公開終了していたが、2018年5月に再公開された。 やはり『MELTY BLOOD』の女性キャラのドットをベースにしている。 システムも『MB』に近付けてあり、アークドライブとアナザーアークドライブも実装されているが、ラストアークは未搭載のまま製作終了。 同氏の製作した他のキャラにもストライカーとして搭載されている。 + ゆ~とはる氏製作 ゆ~とはる氏製作 2017年12月26日公開。 チョイヤー氏製作のハルヒを氏の了承で改変したもので、正式名称は「超改変版・涼宮ハルヒ」。 試合開始前に「A」or「B」のどちらかのモードを選択可能で、 「Aモード」がオリジナル版のチョイヤー氏準拠、「Bモード」がゆ~とはる氏独自のアレンジ版となっている。ちなみにデフォルト状態は「Bモード」。 残念ながら、現在は公開を停止している。 超改変版というだけあって、とてつもない量の追加要素がある。 長門、みくる、こなた、シャナ等の各ストライカーにクライマックスアーツが搭載、ライブアライブのアンコール発動(追加入力)、 放課後ティータイムの楽曲追加等のオリジナルからある技のほとんどが何等かの追加・変更がある。 他に、閉鎖空間(ハルヒと佐々木の2種類)の搭載、古泉の超能力、キョンや朝比奈みくる(大)によるアシスト、 宇宙人・未来人・超能力者を次々と呼び出す技「ただの人間には興味ありません」、 条件が揃うと発動可能になる自爆技「涼宮ハルヒの消失」等ハルヒならではの追加要素も充実。 さらに原作小説の最新刊である『涼宮ハルヒの驚愕(後)』までの要素が搭載されており、 ヤスミや佐々木、藤原、周防九曜、橘京子等の対極者達の演出も搭載されている。 システムは電撃文庫 FIGHTING CLIMAX仕様となっており、メタ世界(閉鎖空間)、援軍(古泉召喚)、 北斗七星ゲージ(一撃必殺技)等他ゲームの要素も多い。 特筆すべき点は何と言っても、莫大な数の特殊やられ対応技を搭載している事であろうか。 謎ジャム、王家の裁き、メタ返し他、既存の特殊やられが各種ボタンで次々と表示できる技もある。 簡易的な特殊やられチェッカーにも使えるという氏の宣言通り、大体の特殊やられ対応が手軽に確認できる。 既存の特殊やられの他、バットでホームランされ画面奥に吹っ飛んで星になったり、ライブのアンコール演出で好きな楽曲を演奏する技、 スーパーロボット大戦風の戦闘演出他多数のハルヒ独自の特殊やられ対応も充実している。 イントロ開始時に相手によってSOS団の面々が反応?する「遭遇システム」というものが搭載されており、 これが表示されると特殊なメッセージと共にパワーゲージがほんの少し増える。 その種類はざっと確認しても非常に多く、宇宙人、未来人、超能力者はもちろん、スタンド、気や念使用者、ネスツの改造・クローン人間、 警察、プリキュアやペルソナ使い、はたまた「ジャンプ力ぅ…」等のネタもあり、とても探しきれない程。 AIは「Aモード」のみ対応で改変元の仕様そのままであり、「Bモード」は未搭載となっている。 なお外部AIに関しては「Bモード」のみ受け付けており「Aモード」については不可となっていたが、 後にチョイヤー氏御本人からOKが出たので両モードで可能となった。 特殊やられや演出が豪華になった事でデータ容量も倍以上に重くなっている点に注意。 余談だが、涼宮ハルヒの消失が発生した日と同じ12月18日頃からハルヒの公開日までゆ~とはる氏のサイトがその名の通り消失していた模様。 出場大会 + 一覧 シングル 第4回トーナメント AI付きシングル戦 ドキッ!女だらけのMUGEN大会 クィーンオブファイターズFINAL ( ^ω^)-ニコ動史上最低トーナメントVI- 最強のおっぱい決定戦 エミヤ主催トーナメント 夢幻界統一トーナメント【実況】 ゲージMAXシングルトーナメント【Finalゲジマユ】 早擊勝負!!LIFE只有1的死鬥大會 狭い部屋で人間弾幕!トーナメント ラノベシングルトーナメント オールスターゲージ増々トーナメント 画質良くないけど、夏だから女64名あちゅまれ☆トーナメント MUGEN祭 大盛りシングルトーナメント 版権オリジナルキャラクタートーナメント ミニ☆ミニ☆大作戦 総勢256名☆燃えて萌えるヒロインズトーナメント MUGEN祭 並盛りシングルトーナメント 【MUGEN大祭】特盛りシングルトーナメント タッグ 高校生キャラ大会 自分でもタッグトーナメント組んでみた 同じ中の人タッグトーナメント (多分)初心者が作ってみたトーナメント2 第2回ベストカップル決定戦 仲良し杯 男女ペアタッグバトル大会V2 タッグトーナメントRS Anime&Comic VS. タッグトーナメント ゲージMAXタッグトーナメント【ゲジマユ2】 夏休みだよ!大MUGEN学生杯 ペット大好き!?名トレーナー決定トーナメント 源流斎マキタッグトーナメント アンノーン主催FINALバトルロワイアル 新生男女タッグトーナメント【ロリ】 MUGEN FANTASY タッグトーナメント 沒主題比武小會 オリキャラ&版権キャラでタッグトーナメント タタリフェスティバルッ!! 皆が見たいと思った男女タッグで大会 萌属性別女子二人杯 ラノベっぽい何かでタッグトーナメント 同級生という名のタッグリーグ戦 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 ゲージ増々タッグトーナメント mugenオールスター?タッグファイト 勇次郎さんとタッグ組むことになってみすずちん、ぴんち! 友情の属性タッグトーナメント MUGEN祭 並盛りタッグトーナメント 友情の属性タッグサバイバル チーム 第2回ニコニコチームトーナメント はい、三人組作ってトーナメント 4人チームトーナメント オロチフルボッコ杯 作品別Ultimateトーナメント MUGENカテゴリトーナメント うp主処女作杯 in MUGEN ネタかリアルか?シッショートーナメント Anime VS. トーナメント 好きなキャラだけでトーナメント トゥエルヴと互角以上 チームバトル ACG主題作品別MUGEN大會 作品別グランプリ 無茶?無謀?第5弾 『成長+大貧民』 24チーム・96人・ランセレ・特殊能力・サバイバルな大会 初心者による試作の為のトーナメント Mametang式、特に変わり映えしないチームバトル 神無の陣 種族別3VS3チームバトル【ポンコツ杯】 陣取り合戦TAG 無縁塚トーナメント ベル主催!栄光のぽっこーん3VS3チームバトル【ポンコツ杯2】 影慶主催愾慄流良調整大武会 新春テーマ別チームバトル2013 新春テーマ別チームバトルF その他 最弱女王決定戦 はい、10人組作って運動会 セルハラ訴訟勝訴争奪男女対抗団体戦 はい、X人組作って運動会 はい、○人組作って運動会 【新機軸】空気読めない奴は汚ねえ花火だぜリーグ【作品別】 秋のおっぱい祭り【貧乳VS豊乳】 大体ランセレ 博麗霊夢争奪戦 全員集合ランセレパーティバトル 霊夢争奪戦第二幕 ストーリー動画対抗ッ!体育祭 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 仲間がいると死ぬトーナメント コミュニティー争奪祭~番長格付Festival~【番格FES】 ランセレパーティバトル デビルサマナー決定戦 手書きキャラonlyトーナメント 版権VSオリジナル 交代制作品別トーナメント 閣下主催!クロス×フェスティバル ニコニコRPGMUGEN杯 ランダムカラー シングル&タッグ戦 打倒剣帝!無差別級大会 ほこ×たて杯 最強の男たちVS最強の女たち 特大合コン再び!! パラ×ハル杯裏 新生男性軍VS新生女性軍 史上最大級 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍 【おっぱい】ちょっとエッチな涼宮ハルヒの格闘大会【パンツ】 ニコニコオールスター・タッグトーナメント 更新停止中 究極のMUGENタッグ編 男女ペア頂上対決!バトルシティトーナメント クィーンオブファイターズ2009 適当に共通項男女タッグトーナメント 【最強から】主人公番付バトル【最弱まで】 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遅刻ぎりぎりで門をくぐった俺は、玄関で靴を履き替え駆け出した。 しかし、靴箱に例の朝比奈さん(大)からの指示文書が入ってなくてよかったなと思う。 読む時間など、今の俺には皆無だからだ。いや、もしかしたら時間など忘れて読んでしまうかもしれんが。 人影も無く、教室からの談笑が聞こえるのみの物寂しい廊下を駆け抜け、一路教室を目指す。 なんてことはない。すぐに到着してしまった。 戸をガラガラーっと開けると、岡部教諭が来たのかと勘違いした奴の目線がこちらに向かってきたが、すぐに元に戻った。 こういうのって気まずいよなー・・・となんとなく思いつつ、ぽっかり空いている俺の定位置に腰掛けた。 と同時に、後ろから奴の声がする。そいつは頬杖をつきながら外を見つめ、横目でこちらを見ながら、 「遅かったわね。あんたが遅刻なんて珍しいじゃない」 と話かけてきた。まぁ分かるとは思うが、涼宮ハルヒだ。 態度でも分かるが、声のトーンが少し低いからして、あまり機嫌は良くないらしい。 「寝坊しちまったんだよ。高校入学以来初だ」 わざわざ振り向いて言葉を返してやったというのに、ハルヒはちっともこちらを向こうとしない。 「どうした、ハルヒ。窓の外に怪しい人物でも発見したのか?」 「別に。ただ、あのあたりであんたがニヤケ面のまま歩いてきてたな・・・って思っただけ」 ・・・ちょっとまて。俺はそんな顔してたのか?全く自覚が無いが。 「自覚してないわけ?ま、みくるちゃんの新コスプレを考えてたときほどじゃないけどね」 バニー、メイドと来たら・・・っていろいろと考えてたんだよな。 結局その後初めて着たコスプレは何だったかな・・・凄く似合ってたんだが・・・えーと・・・、 「・・・・ニヤケ面」 「お前が朝比奈さんの話を出すからだろうが」 朝比奈さんの姿を思い浮かべて微笑むことのない男子など、この世にはいないと思うぞ。ホモ以外でな。 「まぁいいわ。それより、あんたと一緒にいたのって昨日部室に来てた子じゃないの?」 あぁ。お前の話を(唯一)熱心に聞いてた子だよ。 「やる気があるのは結構なことだけど、なんとなく不思議さが足りない気がするのよね・・・」 「俺は不思議でもなんでもないだろうが」 不思議的存在でないのは俺だけだ。SOS団の構成員の中で唯一の普遍的存在が俺なんだよ。 「あんたは雑用係なんだから関係ないのよ。不思議を見つける手助けをする役目なの。それよりね」 それより? 「・・・あんまり団と関係の無い子とそーゆー誤解されるような行動をするのは慎みなさい」 いきなり何だよ。恋愛感情やらその辺のことにはことさら無関心なのがお前じゃないか。 「別に、あんたが誰と付き合おうとあたしの知ったことじゃないけどね」 「そういう行動ばっかりしてると、SOS団がただのお遊びサークルだっていう風に誤解されるのよ」 実際、そのとおりだと思うんだがな。SOS団もお遊びサークルのようなものだ。 いまだにSOS団の活動で不思議を(ハルヒが)目の当たりにしたことなんて皆無だし、 夏休みに孤島に合宿に出かけたり、夏祭りに行ったり、プール行ったり、 冬休みに雪山で遭難しかけたり(これは事故のようなものだが)、春に花見したりっていうのはそういうサークルのやることだ。 イベント好きという点ではSOS団団長も、お遊びサークルの長も一緒らしいな。 目的がそもそも違うが。 「ま、そういうことだから。あんまりいろんなところでニヤケ面晒すんじゃないわよ」 「ニヤケ面は余計だ。第一、俺にそんな下心はだな・・・」 俺が不機嫌そうな声で言った時にやっとハルヒはこちらを見据え、 「いいから。とりあえずそういうのは無しよ。いいわね?」 反論などできん。したらハルヒの怒号が教室中に響きわたることだろう。このエロキョン!!とかな。 そんなことを言われたら、この教室に居づらくなる。 しかし、ハルヒがこのような反応を見せたのは意外としか言いようがなかった。 いままで、男女関係に対する興味など皆無だったあいつが、団がどうのと言いながらも口を挟んできたことがだ。 俺と渡が特別何かをしたわけでもないのに。 . . . . . 疑念の尽きないまま授業を受け、そうするうちにお昼時となった。 いつもどおり、国木田と谷口と一緒に食べる。 始めはいつもどおりのたわいも無い雑談だったのだが、途中でアホの谷口が余計なことを口走った。 「ところでよー、キョン。朝のあれは何だったんだ?」 箸の先をやや俺側に向けながらそう言いやがった。 「さぁな。(モグモグ)・・・俺にもわからん。いつもは『恋愛感情なんて精神病の一種よ』とかいうやつなんだが」 やけに塩辛い焼き鮭を頬張りながら答える。 「あいつらしいな、その言葉は。んで、キョン」 気持ち悪いくらいにニヤケた面をした谷口は、 「俺にはなんとなく読めるぜぇ、あいつの考えてることがな」 自分でニヤケている時には自覚がないが、他人のニヤケ面というのはここまで不快なものなのであろうか。 「もっとも、あいつの思考回路が一般的な女子高校生と同じものだったらの話だけどな」 ハルヒの精神分析は古泉の得意分野だ。 その古泉曰く、あいつの思考回路は実のところまともらしい。 真実はプロである古泉の口から聞くことにして、冗談半分で谷口の仮説も聞いておくことにするか。 ハルヒが教室内にいないことを確認し(今日は学食だな)、谷口に命令する。 「言ってみろ」 焼き鮭を全て飲み込んだ後で本当に良かった。 そうでなければ噴き出していだろうからな。 ・・・谷口の出した回答は、それだけの意外性と破壊力を持っていた。 「簡単なことだ、涼宮はお前が他の女とイチャついてたら面白くないんだ。要するに・・・キョン。あいつは、」 ―――あいつは? 「お前のことが好きなんだよ」
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…… とりあえずだ、現実逃避してる場合じゃないぞ。いや、だって、今のってどう見ても告白だったろう?? いつから告白ってのは…こんな日常会話に混じる親近感あふれる代物になったんだ?? …待て待て!とりあえず落ち着け!今は告白の定義などどうでもいいだろう…!? それよりも佐々木にどう返答するか、それを考えねばならない。改めて佐々木を見る。…かわいい。 いや、第一声がそれってのもどうかと思うが…しかし事実なのだからどうしようもない。フィルターをのけたって、 余裕で平均は超えてるだろう。顔以外にも目を向けてみるが…そのプロポーションの良さだって言うに及ばず。 認識した途端、この状況が物凄く不思議に思えてきた。なぜ俺みたいな平凡野郎がこんな美少女と 談笑できているのかと…慣れってのは恐ろしいもんだな。そう考えるとハルヒもそうか。 あいつにも佐々木同様のことが言えるかもしれない。朝比奈さんや長門にしてもそうだが、 どうしてこう俺の周りにいる女の子はレベル高いコばかりなのか。つくづくそう思った。 「…キョン?さっきからどうしたんだい…?僕の顔や足に何かついてるのかな。」 佐々木が顔を伏せ気味にして、何やら恥ずかしそうに声を発してる。って、え?顔や足? …… 「!す、すまん!」 つい声を張り上げてしまう。そんな俺に、佐々木はキョトンとしていた。 おそらく俺は佐々木の体を…舐めまわすかのごとく見てた…んだと思う。何やってんだ俺…!? 「いや、まあ、別にいいんだけどさ。僕も一応女の子だから、殿方に理由もなしに ジロジロ見られるのは恥ずかしいんだ。そこはわかってほしいな。」 「あ、ああ…すまん。次からは気をつける。」 「というか…何をそんなに動揺してるんだい?まさかとは思うが…『好き』をそういう意味でとった?」 え…?どういうことだ??『そういう意味』って何??【好き】は【好き】でしかないんじゃないのか…!? 「あ、あのねえキョン。さっき言った好きってのは友達としての好き、つまりlikeだよ。 愛してるのloveじゃないんだ。状況的に後者じゃないってことは言わなくてもわかると思ってたけど…」 「……」 あまりの脱力で死にそうになった。何この茶番は?そして、俺のあのドキドキも一体何だったのか。 いろんな意味で涙が出そうになった。とりあえず、心の中だけでいいから一言叫ばせてください。 まぎらわしすぎる…っ!! 「ああぁ…悲しい顔をしないでキョン。こっちも悪かったよ…安易に好きって言ったりしてゴメンね。」 「いや、いいんだ。もうそれについては…」 疲れた。以上。 「ただ、涼宮さんがlikeかどうかはわからないけどね。案外loveだったりするかもしれない。」 「佐々木…この局面でからかうのはやめてくれ…俺をオーバーキルしたって良いこと何もねえぜ…?」 「別に冗談で言ったんじゃないけどなぁ今のは。で、実際のところどうなんだい?彼女は。」 「どうなんだって…俺にそれを聞くか!?どうしたもこうも、相変わらず涼宮ハルヒその人よ。 今日の昼会ったときだって、団長様以外の何者でもなかったさ。」 「今日…ああ、そういえば日曜はSOS団の不思議探索だったか。何にせよ、彼女は元気そうだね。」 「元気すぎて困るくらいだ。」 「くっくっくっ、そのバイタリティー、僕にも分けてほしいものだ。しかし…ふむ、 その様子だと何もかもうまくいったようだね。本屋で会った時点でなんとなくわかってはいたけど。」 「?何の話だ?」 「隠さなくていいよ。昨日何があったかは…橘さんや周防さんから聞いたからね。」 っ! 一瞬びっくりした俺だったが…よく考えれば、佐々木が知っていても別段不自然というわけではない。 昨日の事件に橘や周防たちが介入してきた時点でな。 「…どこまで知ってるんだ?」 「大方の事情は知ってるかな。涼宮さんが何者なのか…いや、何者だったのかという点も含めてね。」 「……」 一昨日ハルヒが卒倒した際、長門が観測した未特定情報の大規模拡散。 もし長門がいなければ俺は…そして古泉や朝比奈さんも今回の事件の核心に迫ることは決してなかったろう。 それほど長門のはたらきは必要不可欠だったわけだが…長門が観測できたということはつまり、 天蓋領域の周防だってそれは可能だったんだろう。ということは、真実を知った奴らが 別世界の朝比奈さん殺害を決定したのも…このときか。時を同じくして俺らは大混乱だったわけだな。 「聞けば、じきに世界が崩壊するらしいとのことじゃないか?それを知った僕は自分も何かできないかと 橘さんたちに打診してみたんだが…ことごとく断られてしまった。そのため彼女たちが何をしたのかも 結局は教えてくれなかったが…まあ、僕は関わるべきではなかったってことなんだろうね。 僕にはキョンたちの無事を祈ることくらいしかできなかった。」 「…そうだったか。」 その一点においてだけは連中に感謝してやろう。佐々木を巻き込んでくれなくて本当によかった… まあ、連中からすりゃ佐々木は重要な保護対象なんだから当たり前っちゃ当たり前なのかもしれないが。 それと、『僕は関わるべきではなかったってことなんだろうね。』だが…俺からすりゃ、 関わるべきじゃなかったってよりは、知る必要のなかったって表現のがシックリくる。 なんせ、結果として奴らは朝比奈さん殺害を断行したのである。結局未遂に終わりはしたものの… そんな物騒なこと佐々木に教えられるわけがない。知る必要のないこととは、まさにこのことだ。 「…それにしても涼宮さんの過去には驚かされたよ。 僕が彼女の立場だったら…とてもではないが耐えられないね。おそらく発狂して終わりだ。 そうならなかっただけでも彼女の、その強靭な精神力には目を見張るものがある。 ただ、そんな彼女も…昨日でようやく終わったのだろう?君が…彼女を【解放】した。違うかい?」 「…そうだな。何もかも…全て終わったと思う。」 あくまで『思う』としか言えない。ハルヒの一連の能力も…消えた可能性こそ高いが、まだ断定できた というわけじゃないからな。とりあえず、古泉曰く閉鎖空間自体は一切見えなくなったとのことらしいが。 そしてここで気付く。ハルヒの能力の、それに至る過程を知っているということはつまり… 「…なあ佐々木。もしかして、お前のそれも消えちまったのか?」 つい代名詞を使ってしまい、しまったと思ったが… 今の話の流れならおそらく『それ』でも佐々木には十分伝わったはずだ。 「察しがいいね。そうだね…消えてしまった。気付いたのは今日の朝かな。 目眩がしたり、どこかが痛かったわけでもないんだが…何かこれまでとは違う強烈な違和感をを覚えたんだ。 具体的に説明できないとこが歯痒いけれど。それで気になって橘さんに電話してみたら… 案の定というわけだよ。」 …… 本人がここまで言うということは佐々木の…能力は消滅したとみてもいいんだろう。 となると、逆算的に…ハルヒの能力もなくなってるってことになる。まさかの古泉説当たりか? 『やれやれ』とか言って気だるそうに話聞いて悪かったな古泉。 「…そうか。消えて何か思ったりしたか?」 「いや、特別には。今までが大した能力じゃなかったからね。 そもそも、閉鎖空間が存在してるだけのそれを能力と言えたかどうかも怪しい。 大体そんなところではあるけど。敢えて言うならば、なくなって少し不安だったかな。」 不安? …… 一瞬意味がわからなかった。逆ならすんなり通るんだが… 「…すまない。涼宮さんの気持ちを考えるなら、なくなって不安だとか そういうことを言うべきじゃなかった。僕ときたら…本当自分勝手な人間だ。」 「いや、別に俺はそんなこと思っちゃいないが…」 逆に俺はその理由が気になっていた。確かに…ハルヒならばありえないだろう。なくなった今、 あいつは幸せなはずだからな。だからこそ、なぜ佐々木がそんな正反対のことを言ったのかが気になるのだ。 「…佐々木。よければその理由教えてくれないか?なに、それで怒るほど俺は卑小な人間じゃない。」 「……」 言うのを躊躇ってたようだが、やがて彼女は決心したのか、静かに口を開く。 「…怖かった。」 「え?」 「怖かった。君との接点がなくなるのが、怖かったんだ。」 「……」 一体何を言い出すのか?と思ったが、なんとなくその意図は伝わった。いや、確かに伝わった。 決して特別なことを佐々木は言ってるわけじゃない。彼女もまた、古泉・長門・朝比奈さんたちと 同じだった、ただそれだけだ。今日の不思議探索時、俺は古泉・朝比奈さんと…ハルヒの能力がなくなっても SOS団であり続けることを確かめ合った。元々の存在意義を失ってまでも2人は、俺たちと一緒にいてくれることを 選んでくれた。最初はなかったかもしれない繋がり…だが、今ではちょっとやそっとの理由じゃ決して離れない、 そんな強固な絆が確かに俺たちにはあった。だからこその『SOS団であり続ける』という答え。そしてそれは、 後で確認した長門も同様の答えだった。しかし…一方の佐々木はどうだろうか? 俺には、佐々木に対してそこまで露骨な役割意識はもってなかった。が、それでもだ。 SOS団と敵対してたはずの藤原・橘・周防が佐々木に接近、ないしは取り込もうとしていた客観的事実。 それを前にして俺たちと佐々木の能力に、果たして接点がないと言えただろうか?中学の卒業以来、 俺と佐々木が塾という学習環境以外で会うことが多くなったのも、これらの要素が無関係だと果たして 言えただろうか?残念ながら答えはNoだ。一部においては、俺はそれを認めなくてはならない。 佐々木本人も俺たちの関係がそれを前提として成り立ってたことを知っていた。 それは先程の彼女の言葉から明らかである。ならば、ここからが問題だ。 その接点が消えてしまったとき、俺と佐々木は一体どうなるのか?それを考えなくてはならない。 さて、どうなるのだろう。まず古泉や長門、朝比奈さんにはSOS団という明確な繋がりがあった。 だからこそ、ハルヒの能力が消えても俺たちは『俺たち』であり続けられた。しかし、佐々木はどうだ…? 彼女には…SOS団のようなわかりやすい繋がりというのがない。…繋がりがない。 つまり、接点無き今、佐々木とは元の白紙の関係に戻るというわけだ。 …… …ちょっと待て、それはおかしくないか?第一、この論法には俺個人の感情が全く反映されていない。 佐々木の感情だってそう。機械的概念で割り切れるほど、人との付き合いってのは無機質なものだったか?? そんな単純なものだったか??…何か違う気がする。 そこでふと、佐々木との会話を思い出す。今日俺に投げかけてくれた、その一連の数々を。 ------------------------------------------------------------------------------ 「とはいえ、いきなり話しかけたりしてすまなかったね。久々に君を見てしまったんで、つい…ね。 衝動が抑えきれなかったんだよ。旧友との素晴らしき再会、それに免じて許してはくれないかな?」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「僕はキョンが食べるのと同じものにするよ。」」 「それまたどうして?」 「気分さ。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「その意見は至極妥当だと言える。そしてサイズだって、自分に不釣り合いなのはわかってたよ。 それでも今日だけは君と同じ…あ、いや、何でもない。とりあえずさ、食べるの手伝ってくれないかな?」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「僕はねキョン、君に行動原理をしっかりと把握されてる、そんな涼宮さんが羨ましいと言ったんだよ。そして、 そんな彼女も君のことを把握してるからこそ、理不尽な要求が通せるんだ。互いが互いのことをわかってる… なんとも理想的な、仲睦ましい男女じゃないか。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「あ、あのねえキョン。さっき言った好きってのは友達としての好き、つまりlikeだよ。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「…そうか。消えて何か思ったりしたか?」 「いや、特別には。今までが大した能力じゃなかったからね。 そもそも、閉鎖空間が存在してるだけのそれを能力と言えたかどうかも怪しい。 大体そんなところではあるけど。敢えて言うならば、なくなって少し不安だったかな。」 ------------------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------------------ 「怖かった。君との接点がなくなるのが…怖かったんだ。」 ------------------------------------------------------------------------------ …なるほど。冷静に回想してみて、なんとなくわかった。佐々木が…俺のことをどう考えていてくれたか。 そして、これから俺とどういう関係でいたいのかってのがな。接点が切れてしまった今どうするのか? その解決法はあまりに単純だった。 「…佐々木。」 俺は思ったことを素直に口に出す。 「なければ…作ればいいんじゃないか?」 「え?」 「接点をだ。」 佐々木はわけがわからないといった顔をしている。まあ、それも当然だろう。俺がお前の立場だったとしても、 そりゃ頭を抱え込むさ。昔、誰かさんとそういうやり取りがあったから尚更そう確信できる。 「接点って…どういうことだい??」 「どういうことって…お前が今日、俺に散々言ってたことだろう?…まあ、わからんようならストレートに言ってやる。」 一息つき、俺は言い放った。 「たった今から俺とお前は正式に『親友』とする。一方的なもんじゃなく、互いがそれを認め合う仲だ。 それは…これからもずっとだ。どうだ?これで接点ができただろう?お前が不安がる心配なんか、 どこにもなかったんだよ。」 …… 「くっくっ…アッハッハッハ!!」 それまでの重い空気を吹き飛ばすかのごとく、緊張の糸でも切れてしまったのか…佐々木は笑い出した。 「おいおい、何も笑うことはないだろう?」 「いや、この状況で笑うなってほうが無理だよ…!くっくっく…というか、 まさか君が真顔でそんなセリフ言うなんてね…!夢にも思わなかったよ…!」 「……」 俺の真顔というのは、それはそれはシリアスとは程遠いらしい。…地味に傷つきましたよ佐々木さん。 「…で、面白かったのはわかったから、結局お前はどうなんだ?『親友』になるのかならないのか?」 「おお、怖い怖い。まるで『イエスかノーか』で英軍司令官アーサー・パーシバル中将相手に 降伏勧告を迫ったマレーの虎、山下奉文大将そのものだね。いや、マレー作戦時においては 彼の階級はまだ中将だったから、山下中将と呼んだ方が適切なのかな?」 「…ぶっとんだ例えで俺を幻惑するのはやめてください…。」 「くっくっく、ゴメンゴメン、ついノリで。」 ノリであんな例えを即座に思いついたのか!? 「もちろん、答えはYesだよ。正直、キョンに面と向かって言われたのにはびっくりしたけど… でも、僕はそれを聞けて本当に嬉しかった。冗談じゃなくね。だからキョン、ありがとう。」 「…お、おう。」 こっちこそ、面と向かって礼を言われるとは思わんかったぞ?いかんな…こういう場面は恥ずかしくなる。 などと思ってた矢先 …? 佐々木はいつもと変わらないニコやかな表情をしていた。…気のせいか? 一瞬表情に陰りが生じたように見えたんだが… 「あれ?あんなところに涼宮さんが。」 現実に引き戻された。 「ハ、ハルヒだと!!?」 俺はパニックになった。いや、決して佐々木とやましいことをしてるわけじゃないが、このタイミングで 鉢合わせはいろいろとマズすぎる…!?というか、なぜここにハルヒが!?どうして!?Why!? 佐々木が向けていた視線の先…もはや何も考える気は起きなかった。俺はただただ一目散に振り返った。 …… 「なあ、佐々木…」 「何だい?キョン。」 「ハルヒなんてどこにもいないんだが…」 「軽いジョークさ。」 「……」 俺は考えることをやめた。 「ゴメンねキョン。つい魔が差しちゃった。」 「魔が差したってお前…いや、もういい。」 俺はテーブルにうつ伏せた。もはや語ることなど何もない。 というか佐々木よ、まさかこの局面でからかってくるとは、よもや思わなかったぞ…?? 俺の心臓はというと、いまだバクバク波を打っていた。お前のその『魔が差した』とかいう 刑事史上最低最悪の動機で、俺がショック死という最低最悪の死を遂げそうだったというこの客観的事実ッ!! 原因と結果のあまりの落差に目眩がしてきた。…マジで、いきなりハルヒの名前を出すような真似は やめてほしい。切実に、本当に切実にそう思った。寿命が10年は縮まったのは言うまでもない。 ということは、これを後6回くらいやられたら、俺は死ぬのだろうか? 佐々木の顔色が一瞬だが悪かったような…とかいう昔のことは、今となってはもはや忘却の彼方だった。 「ところでキョン、話は戻るけど…」 戻るも何もお前がとばしたんだがな…それも1歩どころか別次元へ。 「戻るって…どこまでだ??」 「さっきのお礼の続きからだよ。」 ああ、マジメな話をしてたあの頃か。ひどく懐かしく感じる。 「『ありがとう。』と言ったのはもちろん本心だったんだけど…君にはもう1つ言うべきことがあったんだ。」 「…何だ?言っとくけどな、さっきみたいな不意打ちはもうナシだぜ??」 「大丈夫。もう変なことは言わないよ。」 一息つき、覚悟を決めたかのごとく俺に視線を合わせ、そしてヤツはこう言い放った。 「キョンは…涼宮さんとくっつくべきだ。」 「……」 …… さっき変なことは言わないって言いませんでしたっけ?人間不信に陥りそうなんですが… 「…とりあえず聞いていいか?くっつくってどういうこと?」 「付き合うってことさ。」 さらりと言ってのけた。 …… これが…さっきの話の続き?ちょっと待て。一体どこがどこに繋がってんの??互いを親友だと 確認したまでは覚えてる。それに対し、佐々木が俺に伝えたかったこと…それが『ありがとう。』のお礼、 そしてさっきの『キョンは…涼宮さんとくっつくべきだ。』の台詞。なるほど、よく考えたら繋がってるように… ダメだどう考えたって見えない 「あのなぁ…前後関係が全く見えないんだが!?どうしてそこでハルヒが出てくる!?」 「…なるほど、君はやっぱり気付いてなかったんだね。キョンが…あの場面で強く『親友』という ワードを強調したこと。とっさに出てきた言葉が『親友』だったこと…それが全てというわけさ。」 「??」 「親友というのはね、辞書には載ってないだけでもう1つ意味があるんだよ。 まあ、わからないならわからないでいい。君は…知らなくてもいいことさ。」 やはりというか、やはり意味がわからなかった。ちょっと気になるところではあるが…まあ、本人が知らなくても いいって言ってるなら別段気にする必要もないか、といった具合で俺の中で、それは完結したのである。 …… どこか遠くに視線をずらしたかと思うと、再びこちらに向き直る佐々木。 「…君だって満更じゃないはずだ。涼宮さんのことが…好きなんだろう?」 「……」 …… 「…ああ。」 気付けばそう答えてしまっていた。肯定するのは少し恥ずかしかったが…しかし後悔はしてない。 そもそもの自覚は…第三世界終焉の地だったか。その思いを昨日、俺は確かに【ハルヒ】に伝えた。 その思いに偽りはなかった。 「…なるほどね。君の口からそれを聞けてよかった…ともなれば、後はタイミングだ。 涼宮さんも、キョンのことは好きに違いないからね。付き合う前からすでに相思相愛だなんて… もはや幸せな未来しか見えないな!いやー、実に羨ましい限りだね?キョン。」 「…勝手に決めつけられても困るんだが?なぜそう根拠もなしに ハルヒが俺のこと好きだって断定できるのか…その自信の在りかを知りたいもんだね。」 「じゃあキョン、君と涼宮さん以外のSOS団のメンバーにそれを聞いてみてごらん? きっと僕と同じ回答をするだろうからさ。」 「いや、そんなバカな話が…」 あった。 「くっくっくっ、これで当事者を除いて満場一致だね。 そういうわけで、つまりは君たちの仲をみんな応援してるんだよ。 …僕も含めて。だから、後は君が一歩踏み出せばそれでフィナーレということさ。頑張ってねキョン!」 「そんなお前、他人事みたいに…」 …… しかし、応援されてるってのは、少なくとも悪い気分ではない。 みんなが俺たちのことを祝福してくれてる…実感こそなかったが、実はこれって凄く幸せなことなんじゃ…? と心地よい感傷に浸ってたところに佐々木が一言。 「あ、キョン。後5分で9時だよ。」 …佐々木よ。お前、本当なりふり構わずだな?こんなときまで俺をからかおうってか? さすがにその手はもう喰わんわ…俺にも一応学習能力はある。で、俺はもう少しこの感傷に浸っていたい。 「信じてないって顔だね…くっくっくっ、まあ、それならそれでいい。 ただ、僕が現代に生きるイソップ物語の体現者になるというだけさ。」 「……」 凄まじく嫌な予感がした俺は、自分の携帯で時刻を確認した。 「8時…56分!?」 「あちゃー、どうやらこうやって話してるうちに1分経っちゃったみたいだね。どうするのキョン?」 「どうするって…帰るに決まってるだろう!?」 そういうわけで、急いで勘定を済ませた俺たちは直ちに店外へ出たというわけさ。 …12月の夜ということもあって肌寒かったのは言うまでもない。こっちの意味でも早く帰る必要がありそうだ。 「で、後3分で9時だけど。」 「あのな…常識的に考えて間に合うわけがないだろ…!?死のカウントダウンのごとく 時を宣告すんのはやめてくれ…それより、お前だって門限は9時なはずじゃなかったか??」 「確かに。けど言ったよね?今日は両親がいないって。だから、今日に限ってはそれは通用しないのさ。」 ああ、そうですか。だからお前は余裕もって笑顔でカウントしてたんだな。納得したよ。 しかし…どうせ間に合わないのなら焦るのもバカらしくなってきた。もちろん、早く帰るに越したことはないが… 「佐々木、帰りは送っていかなくていいか?」 かなり暗くなってたんで、一応気になった。 「いや、心配は無用だよ。明るいところを通って帰るからね。 その好意だけ受け取っておくよ。…それに、今日は1人で帰りたい気分なんだ。」 「…そうか。ま、それならいいんだけどな。」 「ところで…キョン。体のほうは大丈夫なのかい?明日学校行ける?」 「ん?ああ…そうだな。」 いつからだろうか。体の倦怠感はすっかり取れてしまっていた。死に体になってた食事前が 嘘みたいなこの感覚。人間の体はうまい具合にできてると聞いたことあるが、それがまさにこれってやつか。 「いつのまにか回復してたらしい。学校にも行けそうだ。」 「そうか…それはよかった。確かに、今は元気そのものと言っていいくらい生き生きとしてる感はあるよ。」 「これも全てはオクラ牛丼特盛りのおかげだな。食べもんの力は偉大だ。」 「おいおい…ここはお世辞でも『佐々木が一緒にいてくれたおかげだ』って言う場面じゃないかな?」 「ははは、そう呆れなさんなって。今のは冗談だ冗談!もちろん、お前にだって感謝してるんだぜ?」 「…別の意味でまた呆れたよ。随分とまあ、してやったり顔だね。よもや君が僕にそんなことを言うとは…。」 「『親友』…だからな。これくらいの言葉のキャッチボール、お前からすりゃまだ全然遊び足りねーだろ? これからもいろんな種類、試していけたらいいよな?」 「…キョン。まったくもう、君ってやつは。仕方のない人だ。」 そう言いながらも、そんな佐々木の顔は…とても笑顔に富んでいたように思えた。 俺の他愛ない言葉一つで楽しんでくれるなら…俺はそれで満足だ。 「ちなみに、それはデッドボールも可なのかな?」 そして、笑顔で何を言い出すんだ?このお方は。 「お前の言うデッドボールって、一体…?」 「うーん、暴言とかその類かな。」 「全力で断る!!そんなのハルヒだけで十分だッ!!」 佐々木に『バカ』とか『死ね』とか言われた日にゃ全力で泣く。いや、マジで。 「ほう…なるほどね。デッドボールは恋人だけの特権というわけだ? まったく、そこまで涼宮さんを特別視するなんて、君の熱の入れようにはあっぱれだよ。」 ヤツはこれを本気で言ってるのか… それとも、すでに俺の反応を伺う変化球タイムに突入してしまってるのか… 今の俺には判断のしようもなかった。これからも親友を続けていればいつかは… こういった差異も見抜けられるようになるのだろうか?ふと、そんなことを思った。 …… 「…羨ましいな。」 「?何か言ったか?」 「くっくっく。なぁに、ただの独り言だよ。キョン。」 Fin
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谷口こと、コードネーム『ジャッカル』がハルヒに瞬殺されたその日の夜、 4人の男女が一同に会していた。 世界のカップルを撲滅させることを目的とした「しっと団」の緊急会合である。 「たにぐ……もとい、『ジャッカル』がやられたというのは本当か?『スネーク』。」 「『ジャッカル』は、涼宮ハルヒにやられたようですな。」 『スネーク』と呼ばれる男は、淡々と説明をする。 「チッ……役立たずが。」 「そう言わないの『フォックス』君。彼がダメってことぐらい、分かってたことじゃないの。」 「しかしだな『キラー』、まさかここまでの役立たずだとは……。」 「彼はちゃんと役に立ってくれましたよ。」 『トゥモロー』は穏やかにそう言った。 言い合っていた『フォックス』と『キラー』、そして『スネーク』が『トゥモロー』を見る。 「彼に涼宮ハルヒを倒すことなんて期待していません。 彼の役割は涼宮ハルヒをセントラルタワーにおびき出すこと。 この計画を伝えれば彼女のことです、きっと首をつっこむはずです。」 「しかし『トゥモロー』。彼女を呼び出す必要はどこに?」 『スネーク』が疑問を呈した。それに『トゥモロー』は、不敵な笑みを浮かべながら答えた。 「彼女がいないと意味ないんですよ……」 谷口が電波なことを言った翌日、俺とハルヒは部室で古泉、長門、朝比奈さんに昨日あったことを伝えた。 「ふぇ~、まさかそんなことがあるんですかぁ~?」 「もし本当なら、これは問題ですね……」 「……。」 古泉の言う通りだ。冗談にしちゃタチが悪すぎるぜ。 「というわけでみんな!当日はそこに乗り込んで、計画を阻止するわよ!!」 「ひぇ~、で、でも危なくないですかぁ?」 「何言ってるのみくるちゃん!私達がやらないで誰がやるのよ!!」 警察の人とかに任せればいいんじゃないか? 「何言ってるの!警察に言ったって信じてもらえるわけないでしょ! 私達がやらなきゃ!」 「あのなあハルヒ。最近ではネットにウソの爆破予告があったって警察は動くんだぞ。 事情を説明すればきっと……」 「私も彼女と同意見。」 「……長門?」 長門の意外な発言に驚く俺。 長門なら、警察も動いてくれることぐらい知っているはずだが…… 「ほらね!有希もこう言ってるのよ!当日はいつもの場所に集合! その後みんなでセントラルタワーに乗りこむわ!」 やれやれ……どうやら俺達がやることに決定しちまったらしい。 まあいざとなったら長門がいるし、大丈夫だとは思うが……。 帰り道、俺は長門と古泉と一緒に歩いていた。ハルヒと朝比奈さんは別の方向だから道は別だ。 さて……ハルヒもいなくなったことだし、ハルヒの前じゃ聞けないことを聞くとするか。 「古泉、今回の件についてどう思う?」 「さて、僕はなんとも……ただ、『機関』でそういう動きが無いことだけははっきり言えます。」 「なるほど。つまり今回は『機関』は関係無いということか。」 「いえ、そうとも言い切れません。」 ん?どういうことだ。機関では動きが無いんじゃなかったのか? 「それはあくまで『機関』全体としての動きです。個人の行動までについては把握できていません。」 「つまり『機関』の人間もその……「しっと団」とやらのメンバーの可能性があるってワケか。」 「ええ。もちろん、あくまで可能性としての話ですけどね。」 可能性であってほしいね。『機関』の連中はなんというか、べらぼーに強そうだからな。 「長門は、どう考えてる?」 少し気になることがあった。先程の長門の態度だ。 警察に相談することを止めたのには何か理由があるのだろうか? 「……先程から「しっと団」という組織に関して情報探索を行っている。」 「マジか。それで何か分かったか?」 「無理。何物かによって情報プロテクトがかけられている。」 「つまり長門さんの力による介入を、何物かがブロックしているということですか?」 「そう。そしてそのようなことが出来る存在は限られている。 私と同じように、情報統合思念体と繋がりのある存在……」 「ってことは、長門と同じ対有機なんちゃらが「しっと団」にいるってことか?」 「そう。」 おいおい……冗談じゃねぇぞ。 さっきは長門がいるから大丈夫だと思ったが……こりゃそう安心も出来ないんじゃないのか? 「大丈夫。私が守る。」 頼もしいぜ長門。 「ふふ、それは無理というものだよ。」 ん?誰の声だ。聞き覚えがあるよな無いような…… とそこで、前方から歩いてくる男の存在を確認した。お前は……! 「生徒会長!」 「これは奇遇ですね。こんなところで会うとは。」 古泉があいさつをする。しかし会長は鼻で笑い流した 「とぼけるのはよしてもらおうか。貴様らが計画を阻止しようとしていることは知っている。 そして今の俺は生徒会長ではない。「しっと団」メンバー、コードネーム『フォックス』だ。」 ……またコードネームか。頭が痛くなる。 「『トゥモロー』は涼宮ハルヒがセントラルタワーに来ることを望んでいる。 だから今は始末することは出来ない。忌々しいことだがね。 だが貴様らは別だ。この場で始末してやろう!」 おいおい、まさかこんな街中でバトルするつもりじゃないだろうな! 通行人だっているんだぜ!? 「大丈夫。情報操作は得意。」 そうかい。そりゃ安心だね。別の意味で不安だがなっ! 「まずは貴様からだ!古泉一樹! 知ってるぞ!貴様最近、そこのヒューマノイドインターフェイスといちゃいちゃしてるらしいな!」 「おや、ご存知でしたか。」 「忌々しい!喜緑君は私がいくらアピールしてもまったくなびいてくれないというのに! 何故貴様だけ……!!」 うっわあ……流石は「しっと団」。全身から負け組のオーラがこれでもかと言うくらい出ている…… 「それはあなたの魅力が足りないのでは?」 「黙れ!そもそも身分をわきまえろ!宇宙人なんかと付き合ってどうする!」 言いたい放題だな……って長門さん?何をしているのですか? 長門「…@@@@@@」 とその時であった!会長が古泉に攻撃をしかける! 古泉はとっさに右手で防御し……防御したら 「うわあああああ!!!」 会長が遥か彼方へ飛んでった。……なんだこれ。 「………」 古泉も口をあけたまま呆然としている。珍しい表情だな。 長門「……古泉一樹の右腕をブースト変換、ホーミングモードにした。」 つまりアレか。野球大会の時のバットと同じようになったってわけか。古泉の右腕が。 しかしそこまでせんでもよかったような気もするが…… 「問題無い。それに、私と古泉一樹の関係をとやかく言われたくは無かった。」 なるほど、宇宙人と付き合ってどうするとか言われたのに腹が立ったってワケか。お熱いことで。 長門を怒らせるのはマズいってことがよーく分かった。 「と、とにかく、これで「しっと団」は残り3名ということですね。」 ようやく落ち付きを取り戻した古泉がそう言った。顔が若干赤いのは見逃してやる。 さて、クリスマスイブは2日後だ。いよいよ「しっと団」との決戦が始まる! ……って煽り文句をつけてみても、なーんかカッコつかないな。やれやれ…… 続く!
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 ◇◇◇◇ それから一週間、俺たちはせこせこと文芸部の活動を行った。 長門はひたすら本を読み、読み終えた時点であらすじと感想を書く。そして、俺は基盤となるHPを作成しつつ、 そのあらすじ・感想をパソコン上で打ち直し、さらに案の定長門の簡潔すぎるor意味不明文字の羅列になっている感想を 現代人類が読めるようにする要約作業を行った。時間がなかったため、昼休みに集合――もともと長門は昼休みには 文芸部室にいるようになっていたが――し作業を続け、俺にいたっては、もらったHP作成フリーウェアが ある程度HTMLなる言語をかけないと思うように作れないことが発覚したため、とてもじゃないが学校内だけでは 作業が終わりそうになく、コンピ研から借りてきた電話帳50%増量みたいな分厚いHTML・CSS大全という参考書を片手に 自宅のパソコンでも延々と作成作業を続けていた。 今日も俺は昼休みに弁当箱を片手に、文芸部室へ向かおうとしていたんだが、背後から声をかけられて立ち止まる。 見れば、朝倉がいつものクラス委員スマイルで俺を手招きしていた。 俺は急ぐ足をそわそわさせながら、 「何だ? はっきり言っておくと、今めちゃくちゃ忙しいから世間話なら後にしてほしいんだが。 弁当ならさっき長門に渡しただろ?」 「そうじゃなくて一応確認しておきたくて。最近二人ともずっと旧館に閉じこもりっきりだけど、 何かやましいこととかしていないわよね?」 何だ、やましいことって。仮に相手が朝比奈さんなら何かの拍子に俺がケダモノと化ける可能性は0%ではなく、 それを必死に理性で年末ジャンボの一等当選確率よりも低いレベルまで下げることになるだろうが、 相手はあの色気ゼロの長門だぞ。言われるまでそんな考えすらなかったよ。俺が長門にいかがわしいことを する確率なんてインパール作戦が日本軍圧勝で大成功を収めるのより低い。 俺はパタパタと誤解もはなはだしいと手を振りながら、 「そんなんじゃねえよ。ただ文芸部の活動が忙しいだけだ。ちょっとまずいことになっていて、 ひょっとしたら廃部になるかもしれなくてな。すべては一週間後の職員会議で決定されるが、 それまでの間に文芸部らしい活動を見える形でアピールしないとならないんでね」 「ふーん、それでずっと授業中もずっと難しい顔して考え込んでいたのね」 朝倉はふうとため息をつく。何だ、こっそりこっちのことを監視でもしていたのか。それとも相変わらず背後で 爆睡を続けるハルヒの監視のついでに、そんな俺の姿が目に入ったのか。 ふと、俺は長門もまた授業を放棄して文芸部の活動をしているのかと不安になり、 「まさか何か不都合でも起きているのか? 長門がまた授業中もずっと読書していたりとか」 「ううん、それは大丈夫。長門さんは生徒指導以来まじめに授業を受けているわ。休み時間はずっと読書しているみたいだけど」 朝倉の回答に俺はほっと胸をなでおろした。またしても読書狂ぶりが授業放棄という行為を引き起こせば それこそ文芸部の活動に大きくマイナスとなることだろう。岡部の言っていた不良の溜まり場と化している 活動と同じ扱いをされるかも知れん。 「長門さん、文芸部だけじゃなくてちょっとしたわたしとの約束もあるのよ。でも最近そっちのほうは すっかりやる気をなくしちゃったみたいで、ぜんぜんダメ。はあ、どうしようかしら……」 よくわからんことを言い始める朝倉。約束? インターフェース同士の取り決めでもあるのか? それなら、長門が本来の役割を無視して、文芸部の活動に没頭していることになるが、あいつが数週間程度でそこまで 人間らしくなっているとは思えないな。もっとも、俺としては情報統合思念体の手先・長門有希なんかより 文芸部部長・長門有希の方がずっとしっくりくるんで、それはそれで喜ばしいことなんだが。 いつまでも親玉の操り人形のままっていうのもかわいそうだ。 続けて朝倉は、 「あと涼宮さんのことなんだけど、さすがにそろそろまずいと思うのよ。あなたの方からも何か言ってくれない? 聞いた話だと生徒指導も完全に無視して取り付く島もないらしいわ」 何とかしろといわれても困る。俺が言えることはひとつだけで、それがハルヒってやつだということぐらいだ。 放っておいても生活態度以外――特にテストについては全く問題ないだろうし。 しかし、本当になにやっているんだあいつは。そういや今日は珍しく腹をすかしているようで学食に足を運んでいるが。 そんな突き放した態度に、朝倉はほうっと疲れたようなため息をついて、 「わたしも何度か涼宮さんに言ってみたんだけど、なーんにも答えてくれないのよね。あの調子じゃ クラスのなかで完全に浮いちゃっているし、周りの人たちへの悪影響も出るから何とかしたいと思っているんだけど……」 うつむいたままの朝倉。ハルヒが朝倉を極端に警戒しているのは、情報統合思念体のインターフェースだからだろう。 うかつにしゃべってボロを出せば、冗談抜きでただでは済まない。そういうわけで朝倉がいくら言っても ハルヒがまともに相手にすることは絶対にないと断言できる。 ……そういやハルヒが朝倉を無視するのは俺の世界でも同じだったが、理由はなんだったんだろうな? 元々宇宙人~以外は話しかけるな、無駄だからとか言っていたからか? とにかくだ。 「俺が言ったって無駄だろうよ。あいつは超を何重に付けても足りないほどのマイペース主義者だ。 きっと今は学校以上に大切な何かがあるんだろうが、その内飽きてまた学校に来るようになるだろうよ」 俺がやれやれと首を振りながら言うと、 「だといいんだけど……」 困り顔のままの朝倉。おっとこれ以上議論している暇はないな。 俺は後ずさりするように朝倉から離れつつ、 「悪い。朝倉の気持ちもわからんでもないが、俺は俺でいっぱいいっぱいなんだ。すまんができることはない」 「うん。わかったわ。相談に乗ってくれてありがとう」 朝倉の返事を聞きつつ、俺は文芸部室へと走った。 「わりい、遅くなった」 俺が文芸部室に駆け込むと、すでに弁当を食べ終えて読書モードに突入していた長門がいた。 相変わらずの凄いペースで本のページをめくりまくっている。 この一週間で長門はすでに70冊目を読破していた。このペースならば、後一週間で100冊に到達できるだろう。 しかし、一日五冊以上のペースぐらいで読んでいて、なおかつ内容を全て把握しているんだから恐ろしい。 宇宙人印の記憶の書き込み性能・保持時間はとんでもないレベルだな。 俺はすでに机の上に置かれていた長門のあらすじ・感想メモを片手に持ってきていた弁当を食べつつ、 その内容をチェックしていく。以前とは違い、長門も努力してくれているのか、かなり読みやすいものを 書いてくれるようになってきていた。おかげで俺はそれをパソコンのメモ帳に書き起こす程度の作業しか発生せず、 本筋のHP作成に時間が割けるようになった。 俺は飲み込むように弁当を平らげ――すまんオフクロ――すぐにコンピ研寄贈のパソコンの前に座り、 テキストファイルに作業進捗状況を記した。そして、続いて長門のあらすじ・感想メモをだだだっと ブラインドタッチで打ち込みまくる。やれやれ、すっかりキーボード見なくても文字が打てるようになってしまったな。 ちょうど昨日自宅で作成した部分がそれなりに見栄えのあるものになってきたので、 「おい、ちょっと見てくれないか? 評価を聞いておきたいんだ」 そう言って長門にできあがった部分を見せてみた。 長門はディスプレイをのぞき込んでしばらくトップページとメインである本の紹介部分――ただし実際の感想は まだ載せてなく空っぽの状態だが――を確認していく。 やがて確認し終えたのか、ディスプレイから目を離し、 「問題なと思う。ただ微調整が必要な箇所が見受けられる――」 そう言って長門は人間的視点の癖のような話を交えながら、俺の作成したHPの微調整指示を出してきた。 俺は長門のアドバイスになるほどと頷きつつ、その通りに修正していく。 それを終えてできあがったものは、パーツは何も変わっていないのに、何倍にも見やすくわかりやすいものに 化けていた。何と言うことだ。あれだけの修正でここまで外観が変わるとは。トップページの文芸部という文字や メインコンテンツである『長門有希の100冊』へのリンクも思わず押したくなるような感じがしてくる。 とはいえ完成にはまだほど遠い状態だ。肝心の北高文芸部についての説明もないし、部員や活動内容の紹介もない。 これでは文芸部のHPじゃなくて、長門が立ち上げた個人のHP状態だ。 アドバイスを終えた長門はまた自分の席に戻って読書の再開を――と思いきやこちらに顔を向け、 「問題が発生したことを思い出した」 「ん、なんだ?」 長門が自分から問題発生というなんて珍しい。というかもの凄い問題じゃないかと身震いまでしてくる。 すっと長門は本棚の方を指差し、 「ここに置いてある本で、HPに載せることに対し適切なものは全て読み終えてしまった。図書室も大体同じ状況。 このままでは目標である100冊に到達する前に、枯渇状態に陥ってしまうのは確実」 そう淡々と言う。何と、ついにあるものを読み尽くしてしまったか。いや、実際にはまだまだ本はあるんだが、 変な専門書や参考書ばかりでこんなものの感想・あらすじを載せるのは何か違うだろう。 今までずっとフィクションで固めてきたしな。 さてさて、なら新たな供給源を探さなければならないが…… ――って他にないか。ちょうど明日は土曜日だしな。 俺は長門の方に寄って、 「なら明日市内の図書館に行ってみないか? それなりに大きいところだから、部室や図書室とは比べものにならない量の本があるぞ」 その提案に長門は珍しく即答するように大きく頷いた。そして、その目が期待にてかてか光っているように 見えたのは決して俺の錯覚ではないだろう。 ◇◇◇◇ 翌日。土曜日の午前中に俺たちはいつもの――SOS団の集合場所になっている駅前にやって来ていた。 長門のマンションまで出迎えるかとも思ったが、こっちでの集合の方が効率が良いと長門に言われてここに集合となっている。 俺が予定時刻の15分前に到着してみれば、すでに長門がいつものセーラ服姿で直立不動のまま立っていた。 「すまん、またせちまったか?」 「…………」 俺の問いかけに長門は何も答えない。むしろ、早く図書館とやらに連れて行けというオーラをむんむんと発揮していた。 そんなわけで挨拶や雑談はすっ飛ばしてとっとと目的地に向かうことにする。ここからなら、歩いてそう遠くはない。 十分程度でたどり着けるだろう。 しかし、二人で黙ったまま歩くというのもなんつーか背中がむずむずしてくる気分になるので、 歩きつつ適当な話題を振ってみることにする。 「お前、私服持っていないのか?」 「持っているが、着てくる必要性を感じなかった」 「休みの日に出かけたりしないのか?」 「その必要はない。今日のように必要性が発生した場合以外は外を出歩く意味がないと判断している」 「今、楽しいか?」 「楽しいという意味がわからないが、自らが遂行すべき事項については自分の能力の大半を費やすものを持ち合わせている」 意外と会話が成立してしまったことに驚いてしまった。そういや、俺の世界でもハルヒの不思議探索で 長門と一緒だったときに同じようなことを聞いた憶えがあったが全部無言だったっけな。 そこでふと気がつく。HP作成に夢中で長門の内面的変化までいちいち考察している暇はなかったが、 改めて見てみると、文芸部に入って以降長門は急激に変化を見せているようだ。相変わらずの無口・無表情だが 俺の長門感情探知レーダはばっちりその自己主張や感情表現の激しい変化を捉えていた。 まさか完全に人形状態だったこいつが、この数週間でここまでの変化を遂げるとは。 俺の世界の冬バージョン長門と同じレベルにまで達しているんじゃないか? それはそれでいきなり世界を 改変されてしまいそうで怖いが。 そんなやり取りをしている間に、俺たちは図書館へとたどり着く。この世界でも同じように 駅前再開発で立てられた新築の図書館だ。入ったのはSOS団の活動をさぼったときぐらいだが。 俺たちはそのまま図書館に入っていく。休日ということもあるだろうが、結構多くの人でごった返していた。 机はほとんど埋まり、ソファーも大半が占拠されている状態だ。 その様子を見回しながら、 「さて、じゃあ目的の本探しと行きますか。おもしろそうなやつを片っ端から探して来てくれ。 その間に俺が貸し出しカードを作って持って帰れるように――おい長門?」 俺が今後の予定を説明しているのを全く無視している長門に気がつく。見れば、直立不動のまま 表情こそないがもの凄い今までに感じたことのないすさまじい恍惚としたオーラを噴出させていた。 こんな長門は俺の世界でも見たことないぞ。もしかして本の山に囲まれて酔ってしまったのか? とりあえず二、三度長門の顔の前で手を振ってみるが全く反応なし。ダメだこりゃ。 今、紙パックジュースに突き刺したストローを鼻に突っ込んでも、きっとそのまま飲み干すまでこの状態を続けるぞ。 「おい長門。楽しいのは十分にわかったから、とりあえず今は目的を果たそうぜ。このまま突っ立っていたって仕方がないだろ?」 そう肩を揺さぶってみると、ようやく本世界からご帰還した様子で、辺りをきょろきょろと見回し、 「……内部エラーが多発していた。謝罪する」 そう独り言のようなことを良いながら、ふらふらと本棚の方に向かって歩き出した。あんな状態で大丈夫なのか? とにかく本選びは長門に任せておくしかないから、俺は今の内に貸し出しカードの申請をすませることにする。 近くの受付所に行き、最近読書ブームでも起きているのか数人ならんでいたためその最後尾にならんでいたんだが…… 「……ん?」 思わず驚愕の声を上げた。フロアの少し離れたところをハルヒがづかづかと歩いていくのが目にとまったからだ。 こんなところで何やっているんだあいつ? 受付の方は何やらトラブっているらしく俺の順番が回ってくるのにしばらく時間がかかりそうなため 一旦列から離脱しハルヒの姿を追いかけることにした。いい加減、ここ最近何をやっているのか確認したかったし、 文芸部員という肩書きがすっかりお似合いになってしまった長門だったので忘れかけていたが 仮にも情報統合思念体のインターフェースと一緒に図書館に来ているのだ。注意ぐらいはしておいた方がいい。 俺はハルヒの歩いていった方に向かったが、残念ながらすぐに見失ってしまった。来館している人間も多いし、 こりゃ探すのには一苦労しそうだな。 だが、意外にハルヒの再発見は早かった。本棚の隙間を縫うようにフロアの隅へと移動している。 俺はすぐにその姿を追った。やがて辞典が大量にならび、まるでここだけ閉鎖空間といわんばかりに 人一人いない過疎地域へと入る。明かりもちょうど本棚の陰に隠れてしまい、不気味な雰囲気に包まれていた。 しかし、ここに来てまたしてもハルヒの姿を見失ってしまう。 俺は本棚の間を縫うように歩いて、ハルヒの姿を探したが、 「――ぶっ!」 突然、口を抑えられ本棚の脇に引き込まれてしまった。一瞬、恐怖感で身が岩のように硬直してしまうが、 恐る恐る引き込んだ奴の姿を確認しようと振り返ってみれば、 「……静かにしてなさい」 そこにはハルヒがいた。俺の口を抑え、さらに胸元を腕でがっしりつかんで俺の身体を固定している。 口がふさがっているせいで文句も言えない状態だったが、とにかく黙っているようにと、かなり切羽詰った声を あげてくるのを聞いて抵抗するのを止めた。どうやらハルヒが抱えているという問題が今発生している真っ最中のようだ。 その状態が数分続いたが、やがてハルヒは俺の拘束状態は維持しつつ、本棚の陰から顔を出し周囲の様子を伺い始めた。 すぐに問題なしが確認できたらしくふうっとため息をつくと、ハルヒは俺を解放し、 「全く読書なんてこれっぽっちも興味のなさそうなあんたが、こんなところで何やっているのよ。 こっちもいろいろ大変なんだから図書館にくるならそう言いなさい」 無茶苦茶を言ってきやがった。大体、お前の最近の行動はさっぱり伝えられていないから、 いちいちそんなことを考えていられるか。 「で、いったい何事なんだ。いい加減そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 今みたいに 一歩間違えば――何があったのか知らんが、そういう事態を回避するためにも情報共有は必要だろ?」 俺の指摘にハルヒはしばらく黙ったまま考え込んでいたが、 「ダメよ。言えないわ。言ったらあんただけじゃなくて学校まで巻き込んじゃう可能性があるから」 「……なんだそりゃ」 ハルヒの言葉に、俺は驚く。うかつに口外すれば、また機関を作った世界のように学校が攻撃に さらされる可能性でもあるというのか。一体、俺の知らないところで何が起こっているんだよ。 おっとだったら今ここに長門をつれてきているのは余計にまずいことになるな。 万一、ハルヒが能力を使わなければならない事態に陥れば、真っ先に情報統合思念体に伝わる可能性がある。 「先に言っておくが、今日は長門――インターフェースといっしょにここにきているんだ。 だから、あまり派手なことは起こさないほうがいいぞ。すぐにばれるだろうからな」 「……あんた、休日にインターフェースと一緒にのこのこデート中ってわけ? 全くいいご身分ね」 むかつく言い方だが、これがハルヒだ。そういやここ一ヶ月近くろくに話もしていなかったから、 ハルヒ節が懐かしく感じてしまうよ。 「でも確かにまずいわね……ここで連中と事を構えるわけには行かないってことか……。場所移動が必要ね」 そうあごに手を当てて思案顔になるハルヒ。 だが、すぐにぴんと指を立てると、 「とにかく! 今あんたとしゃべっていること事態が危ないのよ。とりあえず、あたしは自分の目的に集中したい。 あと、今あたしとここで会ったことは忘れなさい。絶対に誰にも言わないこと。いいわね!」 そう一方的に告げると、ハルヒは図書館の出口へ小走りで向かっていった。何なんだ、一体。 だが、学校が巻き込まれる可能性がある――この言葉だけで、あの機関による大量虐殺の現場が 脳内にフラッシュして思わず俺は目頭を抑えた。ハルヒの抱えている問題が他者――俺にでさえも漏れると 同様の事態が起きるというなら、俺は静観しておいたほうがいい。あんな地獄絵図はもう二度と見たくないからな。 「……どうかしたの?」 突如かけられた声に、俺はうわあと叫びそうになるが、のど元で無理やりそいつを飲み込んだ。 見れば、どこから生えてきたのか、すぐそばに長門の姿がある。その手にはすでに数冊の本が載せられていた。 俺は何とか平静さを保ちつつ、 「ちょっとカードを作るのに時間がかかるみたいなんでな。何か掘り出し物でもないかうろついていたんだよ。 そっちはどうなんだ? 大体選び終わったのか?」 「まだ探索を継続している」 長門はそういうと本を抱えたまま、また本棚の森に入っていった。やれやれ、どうやらハルヒといっしょのところは 見られなかったみたいだな。特にやましいことがあるわけじゃないが、ハルヒが臨戦体制である以上、 その姿を見られないことに越したことはない。 その後、長門は20冊ぐらい集め、俺が作った貸し出しカードでそれらを持ち帰った。 ◇◇◇◇ 運命の職員会議まであと二日と迫った日の放課後。俺たちは最後の追い込み作業に没頭していた。 長門はすでに95冊読破し、俺のHP作成もほとんど完成している。残っているのは、長門が書いたあらすじ・感想を HPのコンテンツにアップしていくだけだ。まだネット上での公開まではしていないが。この調子なら明日には完成となるだろう。 予定よりもせっぱ詰まった状況になってしまい、世間へのアピールはほとんどできなかったが、 岡部経由でこれを教師たちへ示すことはできる。そうすれば、文芸部はきちんとした活動をしているという証明になり、 廃部の話もおじゃんになってくれるはずだ。たった二週間という短い期間だったが、それだけの価値のあるものを作れたと自負している。 とはいえ、ここ最近いろいろありすぎた俺でももうへとへとの状態だ。頭の中は授業内容を格納する領域を 破棄してHTMLの知識で埋めたし、何よりキーボードを延々と打ちまくっているおかげで、腕も痛いし肩もこった。 早いところ終わらして、マッサージか温泉にでも行きたい気分だね。 一方の長門は、全く疲労を感じさせていないどころか読めば読むほど生き生きとしてきているのがはっきりとわかる。 特に好みにあった小説に出会ったときと来たら、顔には出さないが恍惚のオーラを全身から大量放出しているのが はっきりと認識できるほどだ。本当に鼻にストローでも突っ込んでやろうか。いや冗談だけど。 そんなことをつらつらと考えつつ、ひたすらキーボードを打ち続ける。 ふと、ここで意味のわからない表現にぶち当たり、 「おい長門。これはどういう意味なんだ?」 「これは……」 そんな感じで細かい意識あわせをやっているときだった。 ……突然、文芸部室の出入り口の扉がまるでサスペンスかホラー映画のように軋んだ音を立てながら開き始める。 あまりに前触れもなく唐突だったので俺は一瞬ぎょっとしてしまうが、次に登場したものにほっと安堵――はできなかった。 そこから部室内をのぞき込むように仏頂面+半目+ジト目+への文字口と器用な顔を作り上げたハルヒが出現したのだ。 背後から不気味な迫力を持ったオーラ――長門の感情表現とはまた別物――をこちらに流れ込ましてくる。なんなんだ一体。 やがてハルヒはその表情を維持したまま、俺の方に手招きを始めた。どうやら話があるから来いということらしい。 今日も学校に来ていなかったはずだが、放課後になってわざわざセーラ服まで着込んで来たとなるとそれなりの用事だと推測できる。 やれやれ、文芸部存続大作戦の追い込み時期にやっかいごとを増やして欲しくはないんだが…… 「すまんがちょっと行ってくる。今の話の続きは後にして、読書を続けておいてくれ」 「わかった」 そう長門と言葉を交わすと、ハルヒの元へと向かった。 連れて行かれたのは、すっかり秘密の話をする場所になってしまった非常階段の踊り場だ。ここには滅多に人も来ないから ひそひそ話をするにはうってつけだしな。 「で、なんだ用って」 俺の言葉に、ハルヒはむすーっとした表情で腕を組み、 「全く人が必死に戦っていたってのに、まさか文芸部なんていう地味な部活で延々と読書していたとは思わなかったわよ。 少しは人も気持ちも考えて欲しいわね」 「無茶苦茶を言うな。大体お前が何をやっているのかさっぱり教えてくれなかったじゃねえか。 これじゃあ気の使いようもねえよ」 そう俺が抗議の声を上げる。 と、ハルヒはふうっと一息つくと、 「ま、ようやくそんな状態も終わったから良いんだけどね」 そう言って安堵の笑みを浮かべた。自己完結するのは結構だが、協力者である俺にも情報開示を求めたいね。 まあ、文芸部活動に没頭していた俺が言うのもなんだが。 俺はハルヒに視線を向け、 「いい加減、そろそろ何をやっていたのか教えて欲しいんだが」 「あたしにちょっかいかけてきた連中を残らずぶっ潰していたのよ」 その俺の問いかけに、ハルヒは一言だけ返してきた。それだと意味がわからんぞ。どういうことだ? ハルヒは理解できない俺に、憶えていないの?と言いたげな表情を見せつつ、 「前にも言ったけどさ、高校時代になるとどこからか――多分情報統合思念体のインターフェースとかからでしょうけど、 あたしの話を聞きつけた連中がちょっかい出してくるようになるのよ。そいつらを片っ端からたたきつぶしてきたってわけ」 その言葉に、俺はああと思い出した。そういや前にそんな話を聞かされた憶えがある。だが、ここの前の二つの世界―― 機関と未来人のいる世界ではそんなことはなかったが……って、ああそうだったな。 「気がついたわね。ひさびさだったからすっかり忘れていたけど、あんたに超能力者や未来人の存在にについて 教えてもらうまではいつもこんな感じだったのよ。小規模組織があっちこっちに乱立しまくって、あたしにちょっかいかけまくる。 全く鬱陶しくてたまらないわ。これだけでも、古泉くんやみくるちゃんたちの存在がありがたくなるわね」 ハルヒは疲れたというポーズなのか、自分の肩をもみほぐし始める。 俺の世界でも古泉がちらりと水面下では機関は他組織と血で血を洗う殲滅戦をやっていたとか言っていたし、 前回の未来人オンリーの世界では、朝比奈さんの属する未来人連中が自分たちに都合の悪い組織を片っ端から潰して廻っていたようだ。 そのことを考えると、超能力者・未来人の存在はこういった混乱を沈め、力の配分を行える存在と言うことになる。 やはりあの二つは、ハルヒという存在を支える上で絶対になくてはならないんだと再認識させられるな。 「俺に黙っていたのは、万一俺とお前のつながりを知られると、俺が巻き込まれたりするかも知れなかったからなのか?」 「そうよ。あんただけじゃなくて、北高生徒も巻き込まれる可能性があったからできるだけ、周囲との接触を断って あくまでもあたし個人だけで敵と戦っていたのよ。おかげで、向こうもあたしを集中的に狙ってきたわ。 前々回の無差別襲撃の二の舞はごめんだったしね」 図書館で俺が思っていたことと同じことを口にするハルヒ。やっぱり沢山の修羅場を乗り越えたハルヒでも ああいうことは慣れていないようだ。まあ、慣れてしまったら人間終わりだと思うが。 ん、そうなるともうハルヒをつけねらう連中は完全にいなくなったと考えて良いのか? その指摘にハルヒは小難しい顔つきで、 「目立って動く連中は残らず潰したし、当分の間は実力行使ができる組織はないと思って良い。でも、ああいう連中は まるでハエか蚊のように湧いてくるから、その度に対処していかないとならないけどね」 てことは、まだまだそう言った抗争は続くかも知れないって事かよ。たまらんな、そりゃ。 と、ここで文芸部活動の佳境について思い出し、 「現状についてはわかったよ。で、すまんがそろそろ部室に戻って良いか? これでもまじめに文芸部活動を やっていたから戻らないとまずいんだ。こっちも色々あって今が最大の修羅場だからな」 「本題はこれからよ」 ハルヒはそう言って俺の足を止めた。まだ何か言うことがあるのか? 続ける。 「文芸部にいた女の子、あれ情報統合思念体のインターフェースよね? あんたあの子を使って何かやった?」 「やったって何をだよ? 言っておくがやましいことなんて、これっぽっちもないからな」 俺の反応に、ハルヒは心底軽蔑したまなざしを向けてきて、 「なんでいきなりそっちの話になるのよ、このスケベ」 お前の説明不足な言い方だとそう言う意味にしかとれんぞ。もっと詳細かつわかりやすく言ってくれよ。 ハルヒはあごに手を当ててしばし思案してから、 「順を追って話すわ。はっきり言っておくけど、あたしはこの一週間憶えているだけでも三回のミスをやらかしているのよ」 「そりゃいくらお前がいろんな意味でできる人間だからといって、ノーミスで何もかもできるほど万能じゃないのはわかっているぞ」 「そうじゃなくて、致命的なミスってことよ。それこそ情報統合思念体があたしの能力自覚に気が付いても良いようなレベルのね。 でも、見てのとおり情報統合思念体はなんの行動も起こしていない。おかしいと思わない?」 その三回のミスって言うのがどの程度のものなのか具体的に教えてもらえないとわからんが、ハルヒが自分で認識できるほどの ものなら確かに奴らがハルヒが力を自覚しているってことに勘づいてもおかしくなさそうだ。しかし、今俺たちのいる世界は 夕焼けに染まってきている透き通った空が広がっているのを見ればわかるように、通常運行を続けている。確かに妙な話だな。 ハルヒはぐっと顔を俺に近づけてきて、 「でしょ? だから、あんたが一緒にいるインターフェースに何かやらかしてそれを阻止してくれたんじゃないかって思ったのよ。 あの子、どうやらあたしの監視役を負かされているみたいだし。でもその調子じゃ、本当にただ文芸活動をしていただけっぽいわね」 「悪かったな。俺は長門に何か特別なことをやった憶えはねえよ。一緒に本を読んで、文芸部のHP立ち上げに奔走していただけだ」 その俺の返答にハルヒはうーんと首をかしげる。よくわからんが、情報統合思念体が別の何かに没頭して忘れていたんじゃないか? 連中だってずっとハルヒだけを見ている訳じゃないだろ。 「まあその可能性も十分にあるんだけどね……こんなことは今回が初めてだったから、何が違うんだろって考えているのよ。 ひょっとしたら、情報統合思念体を出し抜けるヒントが隠されているかも知れないから」 ハルヒの言うとおりだ。連中の目をごまかせる手段があるなら、利用しない手はない。うまくいけば、この世界でも ずっと平穏無事に生きていけるようになるかも知れないからな。古泉や朝比奈さんがいないのはかなりさびしいが。 ここでもう一度文芸部活動が修羅場なのを思い出した俺は、 「とにかく俺は何もしていない。それは確かだ。で、そろそろ戻らないとならないんだが」 「全くすっかり気分は文芸部員ね。本来の目的を忘れていないでしょうね? まあいいわよ。特に有益な情報はなさそうだし」 腕を組んで呆れるハルヒ。おい、それは前回書道部に没頭しているお前に散々言った言葉だぞ。 そんなことを心の中で愚痴りながら、俺はそそくさと文芸部室へと戻った。 ふと、部室に戻る途中で朝倉に出くわす。見れば旧館から出てきたようだが、こいつなんか部活に入っていたっけ? 朝倉は夕日で赤く染まった顔にいつもの柔らかな笑みを浮かべて、 「あらまだいたんだ。そんなに文芸部って大変なの?」 「もうすぐ廃部かどうかの職員会議があるんでな。それまでに活動を形にして残しておく必要があるんだよ。 今はちょうどその作業の修羅場中って訳だ」 俺の返答に朝倉はふーんとだけ返してくる。 「そういや朝倉は何か部活に入っていたんだっけ? お前こそこんなところで何やっているんだ?」 「ちょっと長門さんに話があったから寄っただけよ。もう帰るわ」 そう言うと、朝倉は早足で昇降口へと向かって言った。長門に用? まさかハルヒが犯したミスってやつの件じゃないだろうな? 一瞬、人類滅亡のスイッチが入ったのではと身震いしたが、そうならとっくに実行に移されているだろうと考え直す。 俺は文芸部室まで戻ると、そこでは相変わらず読書に没頭している長門の姿があった。朝倉との話で何か変わった様子はない。 ただの世間話だったのかも知れないな。明日の弁当のメニュー確認とか。 見れば、ハルヒと話している間に一冊の本を読み終えたらしく、新たなあらすじ・感想メモがパソコンの前に置かれていた。 俺は腕まくりをしつつ、HP作成作業を再開した。 ……後で俺はこの時ハルヒの話に加えて朝倉がなんでわざわざ部室まで足を運んでいたのか、 もっと真剣に考えておけば良かったと散々後悔することになる。 ◇◇◇◇ 「ほーむぺーじ?」 「そうです。俺たち――文芸部が作ってインターネットで公開しているんです」 俺はそういいながら、HPの一部を印刷した紙を岡部に渡す。職員室からインターネットが出来るかどうかわからなかったため、 家でHPを印刷してきたおいたのだ。 文芸部の命運を決める職員会議が明日に迫る中、俺たちはようやくHPの完成にこぎつけていた。 無論、ついさっきインターネット上で公開したばかりなので、カウンターは限りなくゼロに近い状態だが。 あとは岡部経由でこの資料を職員会議で提示し、文芸部の活動実態を示すだけだ。これを見せれば、 どれだけ活動実態があるか、どんなバカが見てもわかるだろう。それを確信できるほどのものを作ったつもりだ。 「なるほど、HPか。考えたな。確かにこれだけのものを公開しているなら文芸部の活動実態は認められるかもしれない」 岡部は俺の渡した資料をぱらぱらとめくりながら言った。 「これだけのものがあれば十分でしょう? もう廃部なんて言わせませんよ」 俺はそう念を押しておく。 岡部はぱんとひざをたたくと、 「よし、お前たちの意欲はよく伝わった。あとは俺が責任を持って職員会議で伝える。ただ、この二週間の間で 先生方の間でもかなり意識が変わっている可能性もあるから、確実なことは言えない。だが、出来る限りの事はするつもりだ」 「よろしくお願いします」 俺が岡部に頭を下げると、長門もそれを真似して小さく数ミリだけ頭を前に倒すしぐさを見せた。 「やれやれ、やっと終わったな。さすがにくたびれたよ」 「…………」 すっかりこった状態が日常化した肩をもみつつ、俺たちは部室へ戻ろうと旧館の階段を歩いていた。 長門も無言・無表情のままだったが、その感情表現オーラは達成感に満ちていた。こいつも何だかんだで、 やり遂げたという実感があるのだろう。 あとは明日の職員会議に賭けるだけだ。きっといい返事が岡部から返ってくる。それだけの苦労はしたつもりだし、 これで結局廃部なんていうオチになったら、教師全員を末代まで恨んでやる。 そんなことを考えながら部室に戻った。机の上に山積みされている本、長門が書き記したメモの束、旧型ながら この二週間フル稼働してくれたパソコン……終わった達成感に身が支配されているためか、それら一つ一つを 見渡していくと思わず目頭が熱くなってしまいそうだった。やれやれ、俺らしくもないな。 その後、俺たちは部室内の片づけを始める。図書室で借りてきたものと、市内の図書館から借りてきたものを 仕分けして返却の準備をしたり、長門が書いたメモをホッチキスで閉じて保存できるようにしたりなどなど。 たまにネット上に上げられている文芸部のHP――特に『長門有希の100冊』のページを見て、ニヤニヤしていたりしたが。 その作業が終わるころにはすっかり日も傾き、部室内は夕日の明かりで真っ赤に染まっていた。 さて、本はぼちぼち返していくとして今日はこれくらいでお開きだな。 「今日はそろそろ帰ろうぜ。すべては明日の朝に決まる。後は腹をくくって待つしかない」 「わかった」 そう長門と言葉を交わすと、俺たちは帰り支度を始めた。 俺は身支度を終えると一足先に部室から出ようとして―― 「待って」 唐突に長門が俺を呼び止めた。振り返れば、帰り支度万全の状態の長門がこちらをじっと見つめている。 そして、こう言った。 「これからわたしの家に来てほしい。話したいことがある」 それを聞いた俺は、いよいよかと覚悟を決めた。おそらく自分が宇宙人であることのカミングアウトだろう。 しかし、なぜこのタイミング? 明日の文芸部の命運が決まった後でもいいと思うが…… ◇◇◇◇ 俺たちは薄暗くなりつつある道をゆっくりと歩いていた。お互いに特に話題を振ることもなく、ただ黙って足を動かしていく。 長門のマンションはすぐ目の前に迫りつつあった。 長門が自らを宇宙人であるということ。 遅かれ早かれ告白される日が来ると思っていた。長門と接触している以上、そう言う流れになるのが自然だからな。 朝比奈さん(大)的に言えば『既定事項です』ってことだ。 だが、どうしてこのタイミングなのだろうか。俺の世界では、長門は俺がハルヒに尋常ならない影響を与えていることを 知らせることと同時に、命を狙われる可能性があるから話したように思える。だが、ここ一ヶ月近く、俺とハルヒは ろくに会話すらしていない。その理由はこないだハルヒから聞いた話で把握済みだが、長門がそんなことを知っているわけもなく。 ただ、ハルヒが一昨日・昨日と普通に学校に来だしてからは、他愛のない会話とかはするようになっているが、 SOS団みたいな強烈極まりないものを作ることに荷担したりはしていない。 とまあ歩きながら考えていたが、やがて思考の袋小路にはまって止めてしまった。どのみちもう少ししたら 長門自身から話されるんだろうから、俺はそれを素直に聞くだけさ。ただし、もちろん俺が長門のトンデモ話を軽々しく 受け入れてしまったら人類滅亡フラグが立ってしまう。古泉・朝倉との同時カミングアウトの時と同じように、 できるだけ一般人かつ初耳で自然な反応をしなければならん。全くクタクタだって言うのに勘弁して欲しいね。 さて、そんなことを考えている間に長門のマンションにたどり着いた。マンション入り口のロックを解除し、 そのまま二人でエレベータに乗る。そうだ、唐突の誘いのはずなのに黙って付いてきているだけなんてであまりに素直すぎるな。 ここらでワンクッション入れておくべきだろう。 「なあ長門。いちいちお前の家まで話さないとならないことってなんだ? 別に部室なら他の誰にも話を聞かれることもないと思うが」 「……不確定要素の発生を避けるため。わたしの家ならば、それが発生する確率は限りなくゼロになる」 長門は淡々と返してきた。ただきっちりと会話が成立していることが、俺の世界、またはこの世界でも初めて長門と 接触したときとは大きな違いだ。当時のあいつなら何も答えることはなかっただろう。 程なくして、目的の階でエレベータが停止し、そこから廊下を伝って長門の部屋708号室にたどり着く。 この世界でも部屋の位置や外観なんかは変わっていないんだな。多分、部屋の中も俺の知っているあの殺風景な―― 「うわっ」 俺は玄関から長門の部屋に上がって、仰天の声を上げてしまった。てっきり何もなくてまるで広めの独房かなにかと間違えそうな 部屋だとすり込まれていたから無理もない。 部屋の中には無造作に床に置かれた本が山々――山脈と言っていい状態になっていた。収納という概念を知らないのか 本棚は一つもなく全てながら読みするベッドの枕元に置かれた漫画の山状態と化している。 これは予想外だった。俺の世界の長門も読書狂だったが、部屋の中にはSOS団結成一周年記念になっても 本がこんな状態で積み上げられてはいなかった。 ふと思う。この長門は文芸部活動ですっかり変わってしまった。もちろん、朝やって来て『ヤッホーエブリバディ?』とか 言い出しているわけではなく、いつもの無表情のままだが感情オーラどころか言葉の出し方も随分変化している。 しかし、それは俺がよく知る長門とはまた別物の文芸少女の姿だった。この一ヶ月ぐらいで長門は、俺の世界の長門を飛び越え 俺の知らない別物になってしまっていたんだ。少々文芸活動に没頭させすぎてしまったか? だが、一方でそれは決して悪いことじゃないはずだ。あの情報統合思念体のインターフェースとしてただ命令通り動く 人形状態ではなくなったと言うことなんだから。ひょっとしたら、朝倉レベルに近づきつつあるのかも知れない。 長門はしばらく俺が座るスペースを確保するべく、てきぱきと本山脈の大移動を行っていたが、やがて部屋の中心部に 平野部を作り出すとそこにちょこんと正座した。俺もそれに倣って、正面にあぐらをかいて座る。 「お茶を出そうと思ったが、この状況ではできなかった」 「ああ、それは別にかまわねえよ」 長門の言葉に、そういや以前の時はひたすらお茶をすすって長門の話を待っていたっけ、と懐かしい気分になる。 さてと。長門の急激な変化は興味深いが、今はこいつの話に集中することにしよう。 おっとただ黙っているのは不自然だな。こっちから話を振るか。 「で、学校ではできない話って言うのはなんなんだ?」 俺の言葉に、長門は色の薄い唇をゆっくりと開いた。 「涼宮ハルヒのこと。それと、わたしのこと。それをあなたに教えておく」 長門のしゃべり方が俺の世界の時と違って滑りが良いのも、文芸部活動の影響だろう。あの時感じたこいつの話し方に対する 不満は今の俺の心に浮かんでこなかった。慣れたって言うのも当然あるだろうが。 長門は続ける。言葉と同時にはき出される感情ははっきりと困ったような、または躊躇しているようなものだと受け取れた、 「うまく言語化出来ない。情報の伝達に齟齬が発生するかも知れない。でも聞いて」 それ以降の話は以前に聞かされたのとほとんど同じだった。 ――涼宮ハルヒと自分は、文字通り純粋な意味で他の大多数の普遍的人間とは異なる存在。 ――この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体。 ――わたしは生み出されてからこの三年間ずっと涼宮ハルヒの監視を行い、入手した情報を情報統合思念体へ報告していた。 ――だが、ここ最近になって無視できないイレギュラー因子が発生した。それがあなた。涼宮ハルヒに多大な影響を与える可能性がある。 正直この話には違和感を憶えた。さっきも言ったが、俺とハルヒはこの一ヶ月ぐらいろくに口も聞いていない。 なのになんでそんな扱いを受けているんだ? だが、途中で話の腰を折るとボロを出しかねないと思った俺は、とりあえず長門のマシンガン説明トークに 耳を傾けて置くことにした。質問は終わってから話が終わってからした方がいい。 情報統合思念体とは。 俺の世界の時と機関を造った世界で朝倉から受けたものと全く変わらない説明が始まる。さすがに三度目となると、 聞き慣れて憶えやすくなっていた。 続いて三年前のハルヒの情報爆発について。そして、ハルヒが情報統合思念体にとって自律進化の可能性を秘めていることについて。 これも以前聞いたものと代わりがない。ただ当時との決定的な差はある。それはこの世界ではその話は ハルヒが仕掛けたディスインフォメーションだったのを知っていることだ。それを話したら長門はどんな顔をするんだろうか。 見てみたい気もするが、そんな個人的願望で世界を滅亡させてしまうわけにも行かない。 ほどなくして話が終わり、長門はビデオの静止ボタンを押したように身じろぎ一つしなくなった。 どうやらこっからは俺のターンのようだな。もちろん、最初に返すのは以前と同じ言葉だ。 「待ってくれ。正直に言おう。さっぱりわからない。SF小説を読みすぎて現実と仮想世界がごっちゃになっていないか?」 せっかくだから+αしておくことにした。そんな回答をする俺に長門は、 「信じて」 そうメガネのレンズを通して真摯なまなざしで言ってきた。その視線には何というか――どうしても 俺に理解させなければならないという意思がひしひしと感じられた。なんなんだろう。どうして俺にそこまで伝えようとする? まあ、はっきり言えば、お前の正体はしっかりと脳内に焼き印のように刻み込まれているから、 わかった信じると答えたくはなるがそうもいかん。全く面倒だな、やれやれ。 「仮にその何とか超生命体……だっけか? それとお前さんがその使い魔みたいな存在であることを信じたとしよう。 何で俺に言うんだ? どうして正体を俺に明かす?」 「あなたは涼宮ハルヒによって選ばれた。無意識・意識的にかかわらず、彼女の情報は周辺環境への 絶対的な情報として環境に及ぼす。あなたが選ばれたのは必ず理由があるはず」 長門の言葉に、俺はせっかくだから確認しておくかと思い、 「念のために――別にお前の話を信じた訳じゃないぞ? 念のためにだ。どうしてハルヒが俺を選んだと判断したんだ? いっちゃなんだが、確かにハルヒとはちょこちょと話をしている。しかし、ここ最近はろくに口もきいていない状態だったんだ。 何しろ、あいつが学校に来ないんだからな。仲良くしようもないさ。その間にこっそり会っていたとかもない。 こっちは文芸部活動でいっぱいいっぱいだったんだし。それなのに、どうしてだ?」 俺の質問に、長門は無色透明のガスでも詰まっているんじゃないかと思いたくなるほど透き通った瞳でこちらを見つめ、 「涼宮ハルヒが中学生の時、あなたとは何の接点もなかった。だが、高校入学後あなたと話しているときの涼宮ハルヒは 全く身体的緊張感、及び警戒感を持たずにいる。これは有機生命体のコミュニケーション発展過程に置いて あり得ない事象と考えられる。ならば、涼宮ハルヒの情報操作・構築・創造能力において、あなたが涼宮ハルヒの影響下に 置かれたと考えるしかない」 ……なるほどな。接点がなかったのに、突然あの気難しいハルヒがぺらぺらとしゃべっている相手、 付き合いがあったわけでもないのにそんなことになるのは不自然だ。だからハルヒが俺を選んで何らかの変態パワーで 俺をどうこうしたって考えているわけだな。接点がないのが逆に際だたせてしまうとは、その辺りをもうちょっと ハルヒとどうするか詰めておくべきだったのかも知れない。 実際には、この世界のハルヒとも結構長い付き合いになっているからだったりするだけなんだが。何だかんだで、 俺の世界のハルヒ以上に苦楽を共にしているような気がするし。苦ばっかりだけど。 ってことは――やっぱり俺は命を狙われる可能性があるってことか? 相手はやっぱり朝倉か? 長門はそんな複雑な心境を悟ることもなく、 「情報統合思念体の意識は統一されていない。インターフェースも各意識によって配置されている。中には、涼宮ハルヒへ 直接・間接的なショックを与えて情報変化を観測しようと考えているものもいる。その事実を考えれば、 涼宮ハルヒによって選ばれたあなたは、その手段として利用される恐れがある。仲間のインターフェースより その予兆ともいえる情報因子をすでに取得している」 やっぱりそうなるよな。文芸部活動だけで疲労困憊なのに、朝倉襲撃にも備えないならんのか。ん、ひょっとして 昨日朝倉が長門に会いにきていたのもそれを伝えるためだったのか? さて。こんな話をされたからと言ってホイホイと信じてしまうわけにもいかん。かといってさっさと帰るのも 長門に悪い気がする。ここはフィクション話として少し付き合ってみるか。 「わかった。信じるかどうかは後でゆっくり考えさせてくれないか? 今は文芸部存続で頭がいっぱいだからな。 それが終わってからでも遅くはないだろ?」 俺の言葉に、長門はコクリを頷いた。これでよし。後は適当に信じていないふりをしつつ、情報を聞き出すか。 「でだ。せっかくだから話だけ聞くと結構おもしろいように感じるわけだ。せっかくだからいろいろ教えてもらいたいんだが」 「何でも聞いて」 俺はオホンとわざとらしく咳払いをすると、 「とりあえずお前の役割って言うのはハルヒの監視なんだろ? でもハルヒは最近すっかり姿が見えない状態だったが、 どうやって情報把握をしていたんだ?」 「さっきも言ったとおりインターフェースはわたしだけではない。協力者もいるため、そこから情報がわたしに集められ、 精査後に情報統合思念体へと報告している」 長門の回答に俺は違和感を憶えた。ハルヒがここ最近潰して廻っていた組織とやらは、ハルヒの正体を知っているはずだ。 そうなると、どこからかそれについての情報を得ていなければならないわけで、機関も未来人もいないこの世界だと 唯一の情報入手先は長門たちインターフェースということになる。これについてはハルヒも指摘していたな。 そして、今長門はそいつらを協力者と表現し、ハルヒの情報収集に使っていたと言った。一方でハルヒは 三度致命的なミスとやらかしたと言っていたが、何でその情報が長門に伝わっていないんだ? どこかで止まってでもいるんだろうか。 俺はしばらく考えていたが、ふと部屋の中にもう一人の人間がいることに気が付く。ぎょっとして振り返れば、 あの朝倉涼子が俺たちのすぐ近くに、いつもの柔らかな笑みを浮かべて立っていた。何でこいつがここにいる? いつの間に入ってきたんだ? 朝倉はゆっくりと長門の周囲を歩き始めると、 「でも、その情報のまとめ役である長門さんが全く機能していないのよね。困っちゃう話だわ。あなたもそう思わない?」 よくわからんことを言ってきた。 だが、長門はそんな朝倉の言葉を完全に無視して、 「この状況を作り出した理由について説明を求める。今のあなたからは敵性反応が感じられる」 「あら、エラーに浸食されているのにそんなことはわかるんだ」 そう言いつつ朝倉は長門の背後に立ち、床に正座したままの長門の肩に手をかけると、 「良く自分が涼宮ハルヒの監視者であるなんて言えるわね。この一ヶ月の間、涼宮ハルヒは2978回もの不審な情報操作を 行っているのに、あなたは実に2654回それを放置した。さらに、上の方に報告した分についても95.6%は エラーとバグだらけで報告として全く成り立っていない状態。とてもじゃないけど正常動作しているとは言えないわ」 朝倉の言葉に、俺は言いしれぬ嫌な予感が全身を駆けめぐる。何か――朝倉の笑顔は変わっていないが、明確な敵意を感じる。 それに長門のさっきの言葉だとこいつは何かをしでかしたみたいだが…… 「回答になっていない。あなたはわたしのバックアップ。こちらの指示に従い、明確な回答を求める。 なぜこの部屋を情報統合思念体から遮断し、外部環境から隔離したのか」 長門の声は少し緊張しているように感じた。ちなみに俺はその数百倍はびびっている。なぜかと言えば、 気が付けば俺のいる部屋の窓・扉が全て消え失せ、完全な密室状態になっているからだ。今の長門の言葉を聞く限り、 やったのは朝倉か? 朝倉は長門から手を離し、少し離れた場所に移動した。そして、両手を広げ、 「その通り。わたしはあなたのバックアップ。でもその意味を知っている? 本体が役に立たなくなったときに 代替の役割を果たすものなのよ。だから――」 朝倉の微笑みは変わっていない。なのに、なぜかその時の笑みだけは凶悪にゆがんでいるように見えた。 ――とっさだった。俺は長門に飛びつくと、そのまま脇に抱えて部屋の隅に飛び込むように逃げ出す。 そして、その一瞬後に長門がいたところを無数の光の刃が通り過ぎた。一歩遅ければ、今頃長門の身体は ずたずたにされていただろう。 「――だからわたしはバックアップとして、役立たずのあなたを排除する。そして、以降の涼宮ハルヒの監視の主導は わたしが行うわ。情報統合思念体には長門さんが内部エラー多発で自己崩壊を起こしたと報告しておいてあげる」 続けられた朝倉の言葉に、俺の額から冷や汗が流れ落ちた。おいおい、これはどういうことだ? 朝倉が俺を殺しにかかるならまだわかるが、今は長門を殺そうとしている。しかも、長門がインターフェースとしての 役割を全く果たしていないだと? そうか、だからハルヒの致命的なミスというものも長門の親玉まで情報が行かなかったんだな。 そんな俺の疑問に朝倉が答えるはずもなく、 「わたしは長門さんと違ってただ見ているだけなんていうことはしない。積極的に動くつもりよ。 そうね、せっかくだからあなたにもこの場で死んでもらっちゃおうか? そうしたらきっと涼宮ハルヒは とんでもない情報爆発を起こすはずだしね」 ええい可愛らしい笑顔で物騒なことを言いまくるな。まさか、長門のカミングアウトと朝倉暴走のイベントが同時発生するとは 考えてもいなかったぜ。せめてハルヒにここに来ることぐらい伝えておけば良かった。 だが、そんなことを後悔している場合ではない。朝倉は両腕から無数の光の刃のようなものを発生させ、 一斉にこちらめがけて投げつけてくる。俺は必死に長門を抱きかかえたまま、じたばたとそれから逃げ出し、 ぎりぎりのところで回避する。 俺はじりじりと迫ってくる朝倉に慄きつつ、悲鳴のような声で、 「おい長門! 何とか朝倉に反撃できないのかよ! 俺が逃げ回るのも限界があるぞ!」 「できない」 「なんでだ!?」 「朝倉涼子はこの空間を情報統合思念体との相互通信を出来ないように封鎖している。これではわたしの情報操作能力は 全く使えない状態。さらにこの空間領域は完全に朝倉涼子が制御している。どうすることもできない」 抑揚のかけらもない口調だったが、そのまなざしは謝罪に満ちあふれていた。ちっ、そんな顔で見られると どうにか守ってやりたくなるじゃねえか。 だがどうする!? 「いい加減諦めてよ。どうせ結果は同じなんだからさ」 あの時と同じようなことを言いやがる朝倉。はっ、死ねといわれて死ぬやつがどこの世界にいる。 俺は必死に飛び跳ね、しゃがみ、ある時はスライディングして朝倉の攻撃をかわし続けた。自分でも良くかわしていると ほめてやりたい。だが、俺の世界で朝倉に殺されそうになったときと同じことをされたらもう終わり―― 「最初からこうしておけば良かった」 まさに噂をすれば影。朝倉はその一声で俺と長門の身体を完全に硬直させた。くっそ、指一つ動かせねえ、やっぱりこれは反則だろ。 朝倉は固定されたマネキン状態の方にゆっくりと近づきながら、右手に何かを構築し始めた。光の粒が次第に収束していき、 やがてあのトラウマになりそうな凶悪コンバットナイフへと形作られていく。 「これで惨殺死体にしてあげる。無惨になったあなたの姿を見た涼宮ハルヒはどんな情報爆発を見せてくれるのかしらね。 今からでも期待で胸がいっぱいよ」 人の死を喜ぶようになったらもう人間失格だな――って、こいつは人間じゃなかったか。ちくしょう、どうすればいい!? 俺は必死に脳の回転限界速度で思考を巡らせて何とか出来ないか考えるが、そんなことを朝倉が待ってくれるわけもない。 高々とナイフを掲げると、 「じゃあ死んで」 そう言って一気に俺に向かって飛びかかってきた―― その時。無数のコンクリートの破片が俺に降りかかってくる。それがぶつかる痛みとナイフが俺の身体に突き立てられたものと 勘違いして思わず声を上げた。 「痛ってえな、この野郎! ――あれ?」 叫びの途中で気が付いた。いつの間にやら俺の身体が動くようになっている。俺に抱きかかえられたままの長門も 身体の自由を取り戻しているみたいだった。 そして、眼前に迫っていた朝倉のナイフは俺から数センチのところで停止させられていた。その刃先を誰かが握りしめて、 俺に突き刺さるのを止めてくれたのだ。その人物は―― 「――ハルヒっ!?」 思わず驚愕の声を上げる俺。見れば、朝倉のナイフをしっかりとした格好で見事に受け止めている。力はほとんど互角なのか、 ナイフをつかむ手は微かに震え、たまにこちらに近づこうとしてくるがすぐに押し返した。だが、刃を直につかんでいるため、 それをつかんでいるハルヒの右手からはだらだらと見ているだけで痛くなりそうなほどの出血が起きていた。 学校帰りに俺をつけてきて着替えていないのか、北高のセーラ服の袖が流れる血で赤く染まっていく。 「全く……インターフェースを二人連れ込んで何をやっているのかと見に来てみれば、まさかこんな事態になっているとはね。 でも、外部から入ってくるやつなんていないと考えていたみたいね。こんな隙だらけの封鎖壁なら突入するのは簡単だったわよ」 「ど、どういうこと……!?」 状況が理解できない朝倉は、明らかに動揺していた。そりゃそうだ。情報統合思念体はハルヒは力を自覚していないと 考えているんだからな。それがばりばりの変態超パワーを使って登場したんだからびっくりもするさ。 だが、ほどなくして朝倉は結論を導き出す。 「……そっか。そうだったんだ。あなた、自分の能力を自覚していたのね」 「その通りよ。あんたたちにばれるわけにはいかなかったからずっと隠してきたけどね」 ハルヒはナイフをつかんだまま、朝倉を睨みつけていた。こいつのバカ力でも朝倉のパワーには対抗するのは 厳しいらしい。じりじりとこちらに向かってくるナイフをフェイントをかけるように少しだけ手を動かして、 再度押し戻すという行為を繰り返していた。 ここでハルヒはぐっと朝倉のほうに顔を近づけガンをつけるようににらみを強めながら、 「で、どうする気? 情報封鎖を解いて、あたしが自覚していることをあんたたちのボスに連絡する? できないわよね。そんなことをしたら独断専行で自分の本体を抹殺しようとしたことがばれるんだから」 この指摘に対して、朝倉は余裕の笑みを浮かべたまま、 「大丈夫よ。あなたが力を自覚している以上、情報統合思念体の意思はすべて一つに統一される。すなわち、あなたの抹消。 これはずっと前からの確定事項よ。今更確認や許可を取る必要もないわ」 やっぱりそうなるか。となると朝倉の目的は長門と俺の殺害から、ハルヒの抹殺に変更されことになる。 もちろんそれが完了した後、今度は地球ごと抹消するだろう。 朝倉はここでクスリと笑うと、 「ずっと隠し通してきたのに、何で出てきちゃったのかな? やっぱり彼のことが心配だった? わたしは有機生命体の死の概念はよくわからないけど、やっぱりこの男が大切なのね」 「そんなんじゃないわ」 ハルヒはナイフの刃を握る手を強めると、きっぱり言い放った。 「あたしがここに来たのはあんたを始末する絶好のチャンスだと考えたからよ!」 その言葉と同時に、ナイフの刃がまるでガラスのように木っ端微塵に砕け落ちた。それを見た朝倉は慌てて 後方数メートルの位置へ大ジャンプする。俺が始めて長門と朝倉が本当の人間ではないと認識させられたあの人間離れしたものだ。 すぐにハルヒは俺のそばに立ち、 「いい? 邪魔になるだけだから余計なことはしないで。あいつの相手はあたしがするから」 「おい、大丈夫なのか? 今まで――勝てる見込みはあるのかよ!?」 俺の問いかけ。ハルヒの顔はいつの間にか顔中に浮かび上がってきていた汗が、髪の毛を乱れさせている。 そして、こう言った。 「勝つなんて……今までだって逃げるだけで精一杯だった相手よ」 それを言い終えるや否や、朝倉のほうへもうダッシュをかける。一気に間合いを詰めて、見事な曲線を描いた蹴りを 見舞おうとするが、朝倉はあっさりとまるで発泡スチロール製の棒を受け止めたように右手のひらでそれを受け止めた。 続いてまるで蚊をはたくようにその手のひらを動かすと、ありえない衝撃が起きてハルヒの身体はあさっての方向へ 吹っ飛ばされる。だが朝倉の攻撃はそれでは終わらない。同時にあいていた左腕をかざすと、あの光沢の鋭い槍のようなものを 発生させ、それをハルヒのほうへ投げつけた。 投げつけられた衝撃そのままにハルヒは部屋の壁に激突し、しばらく痛みにこらえていたが、すぐに攻撃第二波に気がつくと、 大きく右腕を振りかざす。ハルヒの目前まで迫っていた光の槍はその一振りで粉砕されたようにさらさらと消え失せた。 今度は自分の番だと考えたのか、再度ハルヒは朝倉に向かって突進を始める。そして、大きく振り上げた拳で 朝倉を殴りつけようとするが―― 「無駄よ。有機生命体の物理接触はわたしには何の意味もないわ。異常な能力を有していても、所詮ベースは有機生命体。 それでわたしに勝てると思っている?」 朝倉の声は全く違う方向から聞こえてきた。瞬間移動でもしたのか、朝倉の姿はさっきまでいた場所から消え失せ、 ハルヒの背後に立っていた。一度殴りかかる体制に入ってしまっていた以上、ハルヒの拳は途中停止することが出来ず そのまま大きく空を切った。もちろん、それを背後からただ見ているだけの朝倉にとって、まさに隙だらけの瞬間だろう。 すっと朝倉が右腕を振り上げると、まるで床から何かが吹き出たような爆発が起き、アッパーでも食らった姿勢で ハルヒは吹っ飛ばされた。衝撃そのままに床に落下して、さらにダメージを増幅させる。 「あら今のにも耐えちゃうんだ? それならこれでどう?」 朝倉の攻撃が続く―― それ以降も、一方的な展開は続いた。朝倉の超宇宙的パワーの連続攻撃にハルヒはなすすべもなくさらされ続け、 すでにセーラ服がずたずたになり、身体中に出来た傷から出血を起こしている。さらに内臓レベルでもダメージが酷いのか、 時折かはっと口内を切っただけではあり得ないほどの量の血を口から吐きだしていた。 一方的すぎる。戦っているのではなく、これでは一方的に虐待されているようなものだ。しかし、朝倉は 別にハルヒをいたぶって遊んでいるようではないらしく、 「やるじゃない。さっきから全て致命傷を負わせているはずなのに、ぎりぎりのところで全部回避しているなんて。 どこでそんな経験と技量を手に入れたのかしらね」 そう言っていつもの柔らかな笑みを浮かべた。口の周りに付いた血を拭いつつ混濁した目になってきているハルヒとは対照的だ。 だが、それでもハルヒはまだ諦めるつもりはないと言いたげに朝倉を激しく睨みつけている。 それもそうか。朝倉にごめんなさいと言っても助けてくれるわけがないからな。まさに純粋な命をかけたやり取りが 目の前に繰り広げられている。 朝倉は右腕を光る凶器に変形させると、横殴りでハルヒの脇腹をえぐる。踏ん張る力もなくなってきたのか、 それをなすがままに受け入れてしまったハルヒは強烈な勢いで壁に叩きつけられる。そして、がくりと床に 膝を付けてしまった。しかし、気力は落ちていないとアピールしているのか、すぐに顔だけは朝倉へにらみを飛ばしている。 「いい加減諦めたら? わたしにはわからないなぁ、どうしてそこまで抵抗するの?」 「黙って殺される奴なんていないわよ……!」 朝倉ののほほんとした言葉に、殺気の篭もった声を返すハルヒ。だが、明らかにその声は普段に比べて、 しゃがれて弱々しくなってしまっている。 「でも、だんだんあなたの戦い方が解析できてきたわ。次で終わりよ」 そう言って今度は両腕を光る凶器へと変貌させた朝倉は、ゆっくりとハルヒ近づいていく。 それに対して、ハルヒはふらつく足を何とか持ち上げるように立ち上がり、次の攻撃に身構える。 その時だった。 「なーんちゃって♪ フェイントよ」 唐突に朝倉は変貌させていた腕を元に戻した。これにハルヒははっと驚愕の表情を浮かべた。 朝倉はさらに近づきながら、 「わたしの攻撃寸前に情報操作でそれを回避している。それがあなたのやり方。でも、ばれたらそこまでね。 あなたの情報操作をわたしので上書いてあげる」 高速に読み取れない言葉が朝倉の口から流れた。 ――その瞬間、目を開けていられないような閃光が俺の視界を覆った。俺は目が焼かれないぎりぎりのところで 目を強くつむり、まぶたの上からですら発光が感じられるそれが過ぎ去るのを待つ。 ほどなくして、俺の視界が暗闇へ戻った。恐る恐る目を開けると、 「ハルヒっ!」 思わず叫ぶ光景が広がっていた。長く伸びた朝倉の腕がハルヒをまるで絞首台のように首をつかんでつり上げている。 ほとんど息が出来ない状態に追い込まれているのか、ハルヒは朝倉の腕を放そうと手でそれを離そうとしている。 だが、朝倉の腕は石化したようにハルヒの喉に食い込んだまま離れる気配すらない。 「あら、身体を粉々に砕くつもりだったのに、またぎりぎりでわたしの情報操作をさらに書き換えたの? 凄いじゃない。 でもこれでも十分だわ。このままあなたをじっくりと絞め殺してあげる♪」 朝倉は珍しく感嘆の声を上げた。一方のハルヒは徐々に酸欠が酷くなってきているのか、顔は赤く染まってきて、 苦しさを紛らわせるためなのか足を激しくばたつかせていた。 このままではハルヒは確実に死んでしまう。俺は思わず長門を抱きかかえたまま立ち上がり、 「止めろ朝倉! 何でこんなことをするんだ!」 俺の叫びに朝倉はやはり表情はやわらかいまま、 「なぜって? 危険だからに決まっているじゃない。それが情報統合思念体の共通意識よ」 「どうして危険なんだ! ハルヒはお前たちに危害を加える意思なんてないんだぞ! 大体今だって お前の方が圧倒的に強いじゃないか! おかしいだろ!」 無我夢中に俺は叫び続けるが、朝倉はあっけらかんと、 「確かに涼宮ハルヒはただの有機生命体にすぎない。わたしたちのように上手く情報操作なんてできないわ。 これだけ抵抗できること自体が驚きよ。でも、そんなことは関係ないの」 ――もうハルヒの顔は赤を越えて、紫色になってきていた。これ以上は耐えられないぞ。 朝倉は続ける。 「情報統合思念体は危険な情報創造能力を有する涼宮ハルヒ、およびそれの影響下にある人間は 決して見過ごすことは出来ない。でも、それを自覚しない限りは危険でもないし、逆に有意義な観測対象になるわ。 できれば、それは避けて欲しい事態だったんだけど、自覚しちゃっていたんだからしょうがないよね」 そう言いながらさらに腕に力を込めて、 「じゃあ死んで」 さらにハルヒの顔色が――直視できないほどゆがむ。 「やめてくれぇっ!」 情けないほどの叫びをあげる俺。 やめてくれ。ハルヒを殺さないでくれ。頼む……頼むから……! ………… 「こういう光景を背後から見ているのって、結構恥ずかしくなるわね」 唐突だった。見れば、朝倉の背後にハルヒが立っていた。もちろん、今にも絞め殺されそうになっているハルヒは そのままの状態である。 これに気が付いた朝倉の表情が驚きに満ちたものへと変貌した。全く予測していなかった――いやしてやられたと 思っているに違いない。ちなみに俺は何が起きたのかさっぱりだ。 すぐに朝倉は肩の力を抜いて動こうとするが―― 「遅いわよ! 情報連結解除開始!」 朝倉に背後に立ったハルヒがぱちんと指を鳴らす。同時に首を絞められていたハルヒがつかんでいた朝倉の腕から 俺の世界で長門が朝倉を始末したときのように、さらさらと粉末状に分解されていった。 「そんな……!」 驚愕と困惑。そんな感情が入り交じった表情で、朝倉は呆然とつぶやく。 やがて、つり上げ状態だったハルヒは拘束状態を解かれそのまま床へと落下する。 朝倉は消えていく自分の身体を見ながら、 「最初からこうするつもりだったのね。ダミーを仕込んでおいて、わたしがその相手をしている間に、 情報連結の解除の準備を進める。その後に、ダミーを介して実行か。やってくれるじゃない。 有機生命体にここまでしてやれるなんてショックだなぁ。あーあ、しょせんわたしはバックアップでしかなかったか」 困ったような顔を浮かべている割には、声に深刻なものを感じなかった。死の概念について理解していないってのは 本当のことなのだろう。 ふと、俺の方に朝倉は振り返ると、 「よかったね、延命できて。でももう遅いわ。涼宮ハルヒの力の自覚は、最優先報告事項。例えわたしを消せても、 そこにいる長門さんが情報封鎖を解除後に、情報統合思念体へ報告する。それであなたたちは終わりよ。 例え長門さんがエラーで報告できなくても、他の対有機生命体コンタクト用インターフェースが報告するだけ。 どうやってもそれから逃れる方法なんてないわ」 あくまでもあのクラス委員スマイルを崩さなかった。そして、最後に一言だけ。 「涼宮さんと残り少ない時間をお幸せに。じゃあね」 そう言い残すと、完全に消え去っていった。 同時に、朝倉の背後に立っていた方のハルヒが消え失せ、さっきまで絞首刑状態だったハルヒの方が 激しく酸素を求めて咳き込み始める。 「おい大丈夫か!?」 俺は一旦長門を降ろすと、かなりダメージの大きいハルヒの元へ駆け寄った。少しでも楽になればと、背中をさすってやる。 どういうことなんだ? さっきの話だと首を絞められていたのは偽物だと思っていたが…… 「途中までホンモノだったわよ……あ、あいつをごまかすためにはあたしなんかが作る偽物じゃ…… すぐにばれる……だけだったから……!」 息切れしながら答えるハルヒに、俺は無理すんなとさらに背中をさすってやる。 何はともあれ危機は脱出できたみたいだ。一時はどうなることかと思ったが、あの朝倉すら撃退してしまうとは 全くハルヒ様々を越えて、崇め讃えたくなるよ。 ハルヒは自らの傷の手当てをすませたのか、ぼろぼろのセーラ服以外の傷を全て治し、すっと立ち上がると、 「まだよ……始末しないといけないのがもう1人いるわ」 さすがに体力までは回復していないようでだるそうな声を上げるハルヒ――ってちょっと待て! もう1人ってまさか!? ゆっくりと長門に近づいていくハルヒに、俺はあわててその前に手を広げて遮った。長門はいつの間にか 正座の姿勢になってこちらをじっと見つめている。 「待て待て! さっきの話も聞いただろ? お前の失敗が情報統合思念体にばれていないのは長門のおかげだぞ。 それにどうやら文芸部活動の影響でろくに機能できていない――つまり普通の人間と大して変わらない状態ってことで、 始末する必要なんてないはずだ!」 「状況と意味合いが違いすぎるわよ! 朝倉も言っていたじゃない、あたしの自覚についてさ。だから、報告される前に 何とかしないと手遅れになる。まだ朝倉の封鎖壁はそのままだから、ここでどうにかしても奴らには気づかれない。 やるなら今しかないのよ!」 そう言いながらハルヒは俺をどけと振り払おうとするが、必死にそれに抵抗した。冗談じゃねえ。 朝倉抹消なら諸手を挙げて賛成するが、長門にまでそんなことをするなんて論外だ。もう俺の中じゃこいつは インターフェースじゃない。文芸部の大切な一員なんだ。それをむざむざ消されてたまるか。 だが、ハルヒは俺の呼びかけに全く耳を傾けようとしない。文芸少女・長門の姿を見ていない上に、 ついさっきまで同じインターフェースである朝倉に虐殺されそうになったんだから無理もないか。 そうなると説得する先はハルヒではなくて、長門になるということだ。 俺はハルヒの肩をつかみ、 「お前の不安はよくわかっているつもりだ。だが、少しだけ俺に時間をくれないか?」 「……どうするつもりよ?」 ジト目でハルヒが返してきた。俺は長門を指差し、 「俺が長門にお前のことを報告しないよう説得してみる」 「できるわけ?」 「ああ……」 そう言いつつ、正座姿勢へと戻っていた長門の前に俺は立つ。そして、しゃがみこみ話を始める。 「災難だったな。大丈夫か?」 「このインターフェースへの外傷は確認されていない。ただ……」 ――長門は一瞬言葉に詰まりつつも、 「朝倉涼子が指摘したことは紛れもない事実。わたしは情報統合思念体との相互通信が正常に行えない状態に陥っている。 たとえこの情報封鎖状態が解かれても、今回の事実を的確に報告できる可能性は低い」 「そいつはかえって好都合だ」 俺はぐっと長門の肩をつかむと、 「頼みがある。今回の一件でお前もハルヒが自分の力を自覚していることを理解したよな? それをお前の親玉には 報告しないでほしい。できるか?」 「…………」 長門は無言のままだ。しかし、その無表情から俺はしっかりと迷いの感情を読み取っていた。俺はもう一押しだと思い、 長門の前でぐっと頭を下げ、 「すまん、頼む! でなけりゃ俺たちはお前をここでどうにかしなきゃらなくなるんだ。だが、俺は絶対にそんなことはしたくない。 まだあれだけ苦労してやり遂げた文芸部の存続の結果わかっていない状態でお前がいなくなるなんて耐えられねえ。 だからお願いだ。報告しないでくれ。そうすれば、朝倉がいなくなっただけで何もかも元通りなんだ!」 話しているうちにテンションがあがってしまい、俺は長門の両肩をつかんでいた。 長門はそんな俺をただじっと黙って見つめていた。簡単には答えは出せないのだろう。役割を放棄しろと 迫っているんだから無理もない。ある意味自分の存在を否定しろと言われているんだから。 と、ハルヒが背後から近づいてきて、 「キョン、もうすぐ朝倉の封鎖壁が崩壊を始めるわ。これ以上は待てないわよ」 「……わかっているさ!」 いらだちのこもった声で返してしまう俺。頼む長門、イエスと答えてくれ。頼む…… たぶん長門が返事をするまで数十秒程度だっただろう。しかし、その時間は俺にとっては数時間にも感じられた。 よく聞く話だが、緊張で硬直した神経が時間間隔を加速させているんだろうな。 そして、長門は答えた。少し――本当に少しだけ頭を下げるという行動で。 俺は念のために確認を取る。 「それはハルヒのことは秘密にしておくってことでいいんだな。少なくとも俺はそう受け取るし、信じる」 「その認識でかまわない。あなたの言うとおり、朝倉涼子の暴走の件以外、情報統合思念体には報告しない」 今度は言葉ではっきりと長門はイエスと答えた。思わず歓喜の声を上げてしまいそうになるが、一応平静さを保っておく。 すぐにハルヒのほうへ振り返ると、 「どうだ? これで文句ないだろ。お前のことは連中には知られないし、人類滅亡もない」 「ずいぶんあっさりと信じるのね。そんな口先だけの言葉を信じろって言うわけ? それに――」 ハルヒは視線を長門のほうへ向けると、 「いったいどう収拾をつけるつもりなのよ。大体、あたしの抹殺はあんたたちの共通認識なんでしょ? それを簡単に破れるわけ?」 その問いかけに長門はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと語り始める。 「なぜこのような判断を下すのは自分でも理解できない。わたしの内部エラー多発に関連していると推測している。 だがはっきりと言える。わたしは涼宮ハルヒの力の自覚について報告したくない。そして、その結果情報統合思念体が とる行動についても容認できない。これはわたしという個体内のみでの思考。わからない。なぜこんなことができるのか。 こんなことができてしまうのか。以前のわたしなら絶対にありえないこと」 その長門の目はすっきりと透き通ったものだった。これだけでも俺は確信できるね。長門は嘘なんて言っていない。 絶対に報告しないだろう。 長門は続けて、 「今回の話をするのももっと後でするつもりだった。だが、明日の文芸部存続の正否によってわたしの内部エラーは さらに増大するかも知れない。だから、今日しかタイミングがないと判断した」 なるほどな。昨日までは文芸部活動に忙殺され、さらに明日にはその結果が出る。今日はそのちょうど隙間ってことか。 ついでに言っておいてやる。お前がエラーと表現しているのはな、以前にも言ったが感情ってヤツなんだよ。 ほかの誰でもないお前自身が感じたことなんだ。それ自体、何ら恥じることもないし、むしろこの短期間で、 あのただボーっとしている状態からそこまで成長したことに俺は感激してしまうぐらいだ。 ハルヒはさらに続けて、 「朝倉のことはどうするつもり?」 「朝倉涼子の暴走についてはわたしの責任。それの処理をするのは当然。情報統合思念体には内部エラーで暴走し 敵性と判定後情報連結解除を行ったと報告する。あなたの関与については何も言わない」 「…………」 長門の回答にハルヒはしばらく目をつぶって考えていたが、やがて驚きの表情へと変化し、 「驚いたわ。こんなことを平然と言うインターフェースを見たのは初めてよ。あんた、いったいこの子に何をしたわけ?」 そう今度は疑惑の視線を俺にぶつけてきた。 俺は手を振りながら、 「だからこないだも言っただろう。ただ文芸部の活動をしていただけだって」 だが、その活動こそが命令以外何も動くことのできなかった長門の束縛状態を解放し、自由意志を手に入れられるきっかけを 作ったことは間違いない。やっぱり読書だよな、長門は。ああ、あとパソコンについてもそのうち教えてやるか。 俺の世界でのコンピ研との一戦以来、そっち方面にもまんざらでなくなりつつあるみたいだし。 ハルヒはやがて観念したようにため息を吐くと、 「わかったわよ。あんたたちの言うことを信じてあげる。でも言っておくけど嘘ついたりしたら本気で承知しないわよ。 どんな手段を使ってもあんたたちの親玉への報告は阻止するつもりだからね」 「その認識でかまわない。むしろ、わたしはそうしてくれることを願っている」 長門の返事。と、ハルヒはすっと長門に手を差し出すと、 「一応これからは仲間も同然だから、改めて自己紹介しておくわ。あたしは涼宮ハルヒ。あんたの名前は?」 「長門有希」 「長門……有希ね。有希って呼ぶわ。これからよろしくね」 「わかった」 長門はそう答えつつ、ハルヒの手をとった。 ……たぶん、史上初めて情報統合思念体とかかわりを持つものとハルヒがこうして友好的に手を取り合ったんだろうな。 俺はふとその光景にそんなことを考えていた。 ◇◇◇◇ やたらと長くなった長門のカミングアウト+朝倉暴走イベントが終わった後、俺とハルヒは長門のマンションを後にする。 封鎖壁を解除する瞬間、ハルヒはまだ信用し切れていないのかかなり緊張した面持ちだったが、その後長門と別れた後でも 特に世界に異常が発生した形跡はなかった。どうやら長門はしっかりと約束を守ってくれているらしい。 まあ、俺は最初から疑ってもいなかったけどな。 俺たち二人は夜と深夜の境目になりつつある時間帯の道を歩いていた。心なしか、さすがに対朝倉戦のダメージが残っている ハルヒの足取りがいつもより重く感じる。 俺はそんなハルヒを横目で見つつ、 「とりあえず礼を言っておくぞ。長門の言うことを信じてくれてありがとな」 「……別に完全に信用したわけじゃないわよ」 ハルヒは疲労感のこもった言葉を返してくる。何だまだ長門のことを疑っているのか? そんな不満を表情に出したのを読まれたのか、ハルヒは軽く首を振りつつ、 「そういうと語弊招くか。あの子――有希の言っていることは信用するわ。これでも人を見る目は鍛えてきたつもりよ。 あれは絶対に嘘やごまかしをしている目じゃなかった。あの子本心からの言葉なのは間違いないわ。でもね、 だからといって情報統合思念体に絶対に報告されないとは言い切れない。有希の意思を無視して、さっきの一件が 伝えられる可能性は否定できないわ」 「……それは……まあそうだが。でもよ、それを言い始めたらあの事態が起きた以上、長門に関係なく 起こるかもしれないって事だろ」 「そうよ。万一だけど、それに備えておく必要があるってあたしは言いたいの。しばらくはリセットをすぐ行える体制を とっておくつもりだから。いざとなったらあんたの意見なんて聞かずにとっとと実行するからそのつもりで」 ハルヒの言葉に、俺はなるほどと思った。確かに相手は宇宙規模の巨大勢力だ。どんな手段でハルヒの能力自覚を 察知するかわかったもんじゃない。しかも、それから派遣されたインターフェースの前で、はっきりとそれを証明してしまった。 何が起きても不思議じゃないってことか ふと、ハルヒは思いついたように、 「あ、そうだ。あとこれから有希の監視も含めてあたしもあんたと一緒に行動するわよ。今まではごたごた続きでできなかったけど、 しばらくはあたしにちょっかい出してくる連中もおとなしいだろうし――文芸部だっけ? あたしも入部することにするわ」 「それは一向に構わんが、下手をしたら明日廃部になるかも知れんぞ」 「それならそれで、別の部活なり同好会を立ち上げればいいじゃない。できるだけ有希のそばについていたいしね。 なんていうか――いい子だわ。朝倉みたいなインターフェースばかり見てきたから少し偏見が減ったかも」 だんだん、俺の世界の団長様に近づいてきたな。元はほとんど同一人物みたいなものだし、同じ状況になれば、 抱く感情も似通ってくるのだろう。 だが、ハルヒは今良い事を言った。廃部の場合は新たに同好会でも作れば良いということだ。なるほどな、確かに最悪の場合は その手もあるか。あっという間にそこにたどり着けるとは、さすがのポジティブ思考ぶりである。 「ところで最近の文芸部ってなんかあんたたちやたらと熱中していたみたいだけど、何をしていたわけ?」 ハルヒの質問に、俺は端的に入部した経緯・長門の読書狂ぶり・さらに廃部の危機にあることについて話してやる。 それなりに雄弁に語っていたつもりだったが、俺の話が進むに連れてハルヒは眉を次第にひそめてしかめっ面へとなるのは何でだ? 「……ずいぶん有希と仲が良いじゃない」 そりゃ怒涛の文芸部活動に打ち込んでいたからな。それなりに連帯感つーか信頼関係ぐらいは築けて来るさ。 だが、ハルヒはますます口をとんがらせそのまま黙ってしまった。何だよ一体。 結局そのまま俺たちは別れ、別々の帰宅の途についた。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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涼宮ハルヒの組曲 すすみやはるひのくみきよく【登録タグ:sleeping inoopy アニメ メドレー 曲 曲す 曲すす 涼宮ハルヒの憂鬱】 曲情報 作詞:?? 作曲:?? 編曲:sleeping inoopy? 唄:?? ジャンル・作品:メドレー アニメ 涼宮ハルヒの憂鬱? カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり オンボーカルワイプあり コメント 名前 コメント