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「あのね、涼宮さんに聞きたいことがあるのね」 「何?」 放課後の教室で、文芸部室に向かおうとしていた俺とハルヒに話しかけてきたのは阪中だ。もちろん返事をしたのはハルヒだ。俺はこんなにそっけない返事はしない、だろう。 「キョンくんにも聞いてほしいのね。相談何だけど…」 阪中の話によると、阪中は面識のあまりない隣のクラスの男子生徒から告白されたらしい。しかし阪中はその男子生徒の事を良く思ってなく断りたいのだが、どう断ったら良いのかわからない。 そこで、中学時代に数々の男をフッてきたハルヒに聞いてみようと考えたらしい。俺は完全にオマケだ。 「でね、明日の放課後にもう一度気持ちを伝えるから、そのときに返事を聞かせてくれって言われたのね」 「そんなの興味ない、の一言で終わりじゃない! 何でそんな簡単なこと言えないのかしら」 「おいおいハルヒ、阪中は普通の女子生徒だぞ? もう少し阪中らしい断り方考えたらどうなんだ?」 「何よ、あたしが普通じゃないみたいな言い方はやめてくれる? それにあたしに相談してきたって事はあたしの流儀を聞きにきたって事よ! あたしのやりかたを言って文句あるの?」 「そうか。それはお前が正しい。だけどそれを押し付けるのはやめろ」 「喧嘩しないでほしいのね」 坂中の言葉で言い争いをやめた俺たちは真剣に協議をし始めた。 ハルヒの席を囲むように座っている。ハルヒと俺はいつもの席で阪中はハルヒの隣にイスを引き寄せて座っている。人が少なくなったので段々と声が大きくなってくる。 「じゃあキョン連れてって『コイツ私の彼氏なの~彼氏いるからむりなのね~』とか言わせて見ようかしら。」 「断じて断る。もっと普通なのはないのか?」 恋愛経験に乏しい俺にはアドバイスができるはずが無く、ハルヒの言った案を通すか通さないか役人的な仕事に専念していた。 ハルヒは非常に非現実的なアイディアばかりだすので俺は却下をくりかえした。阪中は自分の事なのに困った感じはなく、むしろ楽しげだった。 俺は今さらだが阪中は何故ハルヒに相談したんだろうと考えた。坂中の話しぶり、と言うか聞きぶりはハルヒに相談している形を取ってハルヒの過去の恋愛の体験談を聞きだしている感じだった。 不穏なことが起きなければいいのだが、と考えたが阪中なら平気だろうとスルーした。 そういえばルソーの一件以来阪中はハルヒに懐いてる。俺としてはハルヒが学校に溶け込んでる証拠のような気がして少し嬉しく思ってたりもする。 そんな事もあって俺はハルヒのためにも真剣に考えてやろうと思っていた。 「あーもう! 何で却下するのよ!」 「もう少し阪中の事を考えてやれ」 「これ以上はムリよ!!」 「じゃあ涼宮さんが言ってたようにキョンくん連れて行って恋人って言って見ようかななのね」 「こいつの言った意見ではそれが一番マトモなようだが、それは今後に関わるぞ?」 そう、俺の事を恋人と言い切ってしまえば翌日から男子生徒から始まり、少なくともこのクラスと隣のクラスの大半に知られてしまうだろう。 しかも、相手の男子生徒の事を考えると『あれは告白を断るため』とは言えない。 「わたしはいいのね。キョンくんがよければ」 俺が今後の事を考えていると、 「やっぱりキョンくんはわたしじゃ嫌なのね」 とか言われたので咄嗟に、 「嫌じゃあないし噂になるのはこいつのせいで不覚にもなれてしまっているんだ。」 何て口走ってしまう俺はどれだけお調子者なんだろう。ハルヒに助けを求める視線を出すとハルヒは少し不機嫌そうな表情で言った。 「噂になるのは恋愛禁止を掲げているSOS団としては困る事態だわ! 故に却下ね!!」 「じゃあどうするのね」 阪中は困ったように言った。でも俺には多少楽しそうに見える。これだけ考えた挙句振り出しなのだから俺もハルヒもどうしようもなくなっている。 「なぁ、理由なんて言わないで『ごめんなさい』とかだけじゃあダメなのか?何か聞かれても『ごめんなさい』で通ると思うぞ?」 恋愛経験ない俺が口出すのもどうかと思ったが素人の意見も取り入れた方がいいかも知れないと思った俺はそういった。 以外にもこれはシンプルでいいと言う事になってその方針で話を進めていた。ハルヒも阪中も良く考えれば簡単なことなのに思いつかなかったのはきっと2人が生まれつき変わった人間だからだろう。 「じゃあキョンくんと涼宮さんにちょっと実演してほしいのね」 まあ俺はそんな事を言われるとは思わなかったんで驚愕の表情をしていたと思うね。ハルヒほどじゃあないが。 ハルヒは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。お前は金魚か? 「いいわ、やりましょう!」 何を言っているハルヒ! ここにはすでに阪中とハルヒしか居ないとはいえ恥ずかしすぎる! 「あたしはフラれるのは嫌いだからあんたフラれる役ね!」 こうなったらハルヒはとまらない。ムダに逆らうと後が恐いし実演が困難になる。覚悟を決めるしかない。 「しょうがない。じゃあ言うぞ?」と俺は恥ずかしいので視線を落とす。 「ハルヒ、好きだ。付き合って欲しい」 ああ、何でこんなに恥ずかしいんだろう。思ったより全然恥ずかしかったな。それより返事はまだなのか? 視線を上げてハルヒを見ると顔を真っ赤にしている。俺は余計に恥ずかしくなってきた。 「涼宮さん、返事しないとダメなのね。返事が聞きたいのね」 ハルヒはハッと我に返って、 「いいわ! 付き合いましょう!」 とか言いやがった。俺が断らなければダメだろ、と言うと咄嗟にでちゃったなんて言い訳してる。 「涼宮さんにキョンくんをフるのはムリそうなのね。ウソでもフれないのね」 「そんなことないわよ! 中学時代にふった事ないから咄嗟に……」 やめろハルヒ! ごまかしてると思われるぞ、と言おうとしたが言えなかった。阪中の言葉に遮られたからだ。 「じゃあ今度は涼宮さんがキョンくんに告白してみてほしいのね」 ハルヒは俺の顔を見て、少し考えてから言った。 「いいわ! よく聞きなさいキョン! あたしはアンタが好きよ! 付き合いなさい!!」 俺はハルヒの勢いに少し焦って思わず、『廊下に響くぞ、他の人に聞かれたらどうする!』と思って廊下の方に目をやると、廊下側に座っている阪中という女の子の期待に満ちた表情で我に返った。 とりあえず任務を完了しなければ、と一呼吸置いた。そしてやはり視線を落として言った。 「すまんがハルヒ、俺はお前とは付き合えない」 「何でよ!」 「すまん…」 「団長命令よ!!」 「すまん…」 「あたしの事嫌いなの?」 俺は一瞬狼狽した。ハルヒの声が少し悲しそうで、演技には思えなく視線をあげた。そこには悲しい顔をしたハルヒがいた。だけど、阪中に目をやると未だに期待に満ちた表情をしていたのでハルヒは気にしないことにした。 「嫌いじゃあない。だけど、すまん。」 「じゃあ、なんでよ…」 ハルヒの声は消え入りそうだった。見ればほんのり涙目だ。ハルヒの表情は呆然としている。なんだか演技とはいえ、心が痛んだ。 「もういいだろう阪中。こんな感じでいいのか? というよりはこんな感じでいいんじゃないか?」 「ありがとうなのね。でも、涼宮さんの悲しそうな顔を見てたら何だか断れる自信なくなったのね。だから明日の朝手紙で断る事にするのね」 たしかに阪中の期待の表情が無ければ俺は断り切れなかっただろう。それほどハルヒの悲しそうな表情は切なげで、守ってやりたくなってしまった。 未だに呆然としているハルヒに目をやった。俺は、もう演技は終わったんだぞ、と言った。 「涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて、割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね」 そういい残して阪中はさっさと帰ってしまった。俺は、最初から手紙にすればいいのにとか、こんな状態のハルヒをおいて返るなんて、とかいろいろ阪中の批判を思い浮かべたが阪中は本当に困ってたんだろうという結論に着いた。 きっと阪中は手紙じゃあ失礼だと思ったのだろう。そして、今のハルヒには阪中はいないほうがいいと判断したんだろう。そう思うことにする それからハルヒは呆然として、俺はハルヒを置いていくわけにもいかずにハルヒの前の席に座ったまま過ごした。 そうしてハルヒが回復するまで待とうと思ったが、夕日が落ちてきた頃にはとりあえず家まで送ってやろうと決心した。 「ハルヒ、かえるぞ」 コクリとうなずき立ち上がるが、動こうとしない。俺はいつもと立場が逆だとは思いながらもハルヒの手を取って引っ張った。 俺はハルヒに何て言えばいいんだろうとか、そういえば今日のSOS団はどうなってるんだろうとか考えながらハルヒの家の近くまで送った。長門並みの無言が続いた。 ハルヒの家の近くまで来て、こんな状態でハルヒを家に帰していいのか考えた。頭の中で阪中のセリフが蘇る。 『涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね』 どうしたらいいのか分からなかったのでとりあえずハルヒの家の近くの公園に連れて行く。ベンチに座らせ、俺も隣に座る。とりあえずあれは演技であることを強調しようと思う。うまく言えるかな。 「ハルヒ、そろそろちゃんと目を覚ませ!」 ハルヒは多少意識が回復したように見えた。今度はハルヒは悲しそうな表情を浮かべている。俺を見て、視線を落として、もう一度俺を見てから消えるような声で言った。 「キョンはわたしが嫌いなの?」 俺は戸惑った。そんな事を言われるとは想像もしていなかった。あれは演技だから気にするな、と言おうとしていたのに言えなかった。 いや、会話の流れを考えるなら十分普通のセリフだし、言わなければならないのだが何故か口にできない。 「ハルヒ、俺がハルヒの事の事を嫌いなわけがないじゃないか。いつも一緒にいて、そんな事もわからないのか?」 「でも、好きじゃないんでしょ? あたしはキョンにとってはその他大勢。あの球場の5万人の観衆と一緒。同じ場所にいるけど深く関わることはない。」 小学生の時の話か。どうしようか迷ってあることを決心した。告白だ。 「ハルヒ、一度しか言わないから良く聞け。俺はお前の事が好きなんだ。さっきの演技とは違って今度は俺の本心だ。」 「ウソよ!」 ハルヒは急に叫んだ。 「だってあたしはあんたに好きって言われたときは演技だってわかってても断れなかった。そのときに気付いた。あたしはアンタが好きって。 でもあんたはアッサリあたしをふったじゃない。気付いたのよ。キョンはあたしの事を好きではないって。本当に好きだったら言えないハズだって。」 返す言葉もない。古泉なら何て言うだろう。いや、変な言葉でも俺は自分の言葉で言わなければいけないんだろうなと考えた。 「もう一度だけ言うぞ? 俺はハルヒが好きなんだ。」 と言ってからさらに続けた。 「俺も心が痛んださ。でも、演技だってわかってたから堪えることができた。きっと俺はハルヒの事を好きだと自覚していた分だけ心の準備ができていたんだろう。 でも、それでも心が痛んだ。ハルヒの気持ちも痛いほどわかる。ハルヒが俺の事をどれだけ好きかも伝わった。… …だからハルヒ、お前がそれだけ好きになった人の言う事を信じてくれないか?」 ハルヒは無言でこっちを見た。でも何故だかさっきまでの焦燥感や不安感はなかった。気がつけばハルヒは俺の手を握っている。 「ありがと。キョンのいう事だから信じる。」 「そうかい。」 俺はやっとの事でぎこちない微笑みをハルヒに向けた。そっとハルヒの両頬に手のひらを当て、ハルヒの顔に近づいて目をつぶり、キスをした。 ゆっくりと、甘いキスをしながら両手をハルヒの背中において抱きしめた。 そしてゆっくりとハルヒを放してから見たハルヒの顔は学校帰りの顔とは違って嬉しそうな表情をしていた。その中には安堵の表情も読み取れた。 「帰ろう。ハルヒと過ごす時間はいっぱいあるんだからゆっくり楽しんでいこう。」 そういってハルヒを家の前まで送っていった。 翌日の朝になって阪中の事を思い出しうまくやったか気にもなったが俺にはハルヒの方が気になったので阪中には悪いが気にしない事にした。 そして、教室でハルヒを確認して軽い挨拶をして、じゃあ、あらためて今日からよろしく伝えた。 俺とハルヒの関係は誰にも言わない事にした。 しかし言わなくても誰もが気付いている。 そして、交際を始めてからもハルヒと俺はいつでもどこでも変わらない事に気付いた俺は、谷口とかの言う俺とハルヒの関係は昔から付き合っているようなものなんだなと気付いた。 俺はあれから毎日部活の後にハルヒを送っていき、あの公園で話して、最後にキスをして帰るという日課が追加された。 そのことに幸せを感じながら日々を送っていく。
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涼宮ハルヒの憂鬱とは著者「谷川 流」による非日常学園コエディという認識が一般的である。 角川スニーカー文庫より、2003年6月から刊行された。イラスト担当はいとうのいぢ。 涼宮ハルヒが設立した学校非公式クラブSOS団のメンバーを中心に展開する、「ビミョーに非日常系学園ストーリー」であり、物語は、主人公である男子高校生キョンの視点から一人称形式で進行。 『涼宮ハルヒの憂鬱』は第8回スニーカー大賞を受賞している。その後、一部加筆訂正され、書店に並んだ。 2005年9月にはツガノガクによる漫画版が『月刊少年エース』にて連載開始。2006年4月よりテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が独立UHF局をはじめとする各局で放送された。2009年4月よりテレビアニメが2006年版の回に新作を加えて放送された。劇場版アニメーション映画『涼宮ハルヒの消失』は2010年2月6日より公開された。 全9巻におよび、刊行されており、1巻 憂鬱、2巻 溜息、3巻 退屈、4巻 消失、5巻 暴走、6巻 動揺、7巻 陰謀、8巻 憤慨、9巻 分裂、10巻 驚愕(前)11巻 驚愕(後)の順でタイトルが微妙に異なる。 長らく、発売延期(未定)となっていた驚愕は、2011年5月25日に2冊同時発売される。・・・予定である。
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なぜだ? いや、理由は分かるが予想外だ。 なぜだ? あれ?だって古泉も朝比奈さんも、さらに長門も大丈夫だって・・・ あれ? 今、俺の目線の先には、夕日に照らされ、だんだんと背中が小さくなっていくハルヒの姿が映っている。 先ほども述べたように予想外なことがおきた。 いや、ちょっと前の俺ならこれは予想できるレベルなんだ。 ただ、古泉や朝比奈さんや長門にも予想外なことが起きてしまったから俺は今困惑している。 多分、谷口や国木田に聞いても、その3人と同じ言葉をかえしてきたと思う。 なのに、なぜだ? 俺は今、北校の校門前で棒立ちになっている。 ハルヒは今、俺からかなり離れた坂の下で走っている。 えっと、俺が今考えなければいけないことは多分、明日からどうやってハルヒと接していくかということだ。 まあ、ハルヒにはさっき、今までと変わらずに・・・とか言われたんだが・・・ どちらにしろだ。俺がさっきやったことは、失敗に終わったわけで・・・ ああもういい、何があったかさっさと言っておこう。 俺は、俺は先ほど、 ハルヒに告白して振れらた。 次の日の上り坂はいつもよりかなりきつかった。 ちょっと誰かに前からつつかれたら、俺は下まで真っ逆さまで転がり落ちる自信がある。 とりあえず、俺が今考えなくちゃいけないのは、これからハルヒとどのように接していくかだ。 いや、今までと同じように、告白なんてなかったかのように接していくのがやはり一番いいような気はする。 しかしだ、悪いが俺にはそういうことができる自信がない。 現在の俺の心境は、けっこう辛いのだ。 心にポッカリ穴が開いたというのはこういう時に使うんだなというのがよく分かる。 もしかしたら、谷口あたりに聞けばいい答えがもらえるかもしれないな。 あいつなら、こういう経験何度もしてそうだし。 と思ったのだが、谷口よりも、ハルヒのほうが顔をあわすのは当たり前だ。 なんたって、俺の席の後ろの席なんだからな。 何か言うべきなのだろうか?それとも、何も言わずにするべきだろうか? 普段の俺はどうしてた? そうだ、いつもハルヒに話しかけてたじゃないか。 だが残念、今日の俺にはそういうことできそうにない。 と思っていたのだが、 「おはよっ!キョン!」 ハルヒのほうが俺に、挨拶をしてきた。 どことなく、無理して作った笑顔という感じで・・・ こいつも、もしかしたら俺と同じ心境なのかもな・・・ 今までよく一緒に行動していた相手に告白されて、そしてそれを振った相手とどう接していけばいいか・・・ 「ああ、おはよう」 とりあえず、俺も返事を返しておく。 自分でも分かるぐらい、元気のない声でな。 「今日も部活に来なさいよ!」 「ああ」 そういや、昔谷口が言ってただろうか? ハルヒは、告白されても、その場で振ることを知らないと。 っていうことは、俺が最初に告白してその場で振られた第1号というわけだ。 そうとうのショックだぞこれは。 そんなこんなで、俺とハルヒはまともに話さずに、どことなく気まずい一日を送った。 時は放課後。 俺は今、文芸部室のドアの前にいる。 ノックをする。朝比奈さんの「はぁい」という声が聞こえる。ドアを開ける。3人の顔を確認する。 ハルヒは掃除当番なため、まだ教室にいるはずだ。 ところで昼休みに、谷口に昨日のことを話したら、ざまあみろと言いたげな顔になっていた。 少しはいいアドバイスをくれると思った俺がアホだったか。 国木田はいろいろ、励ましてくれたようだが、 もう一度告白できるわけがねーだろうが! 古泉と目が合う。テーブルにはチェス盤。 どうせヒマなので、俺は古泉の向かいの席に座り、朝比奈さんからもらったお茶を受け取り、飲んだ。 「おや?思ったより元気がないですね。今日は笑顔で入ってくると思ったのですが・・・」 目の前の古泉が言う。 そういや、こいつらには話してなかったな。昨日のことを。 いろいろ、アドバイスしてくれたんだ。 言っておいたほうがいいだろう。 「ハルヒには振られたよ」 そう言ったとたん、ポーンを持っている古泉の手の動きが止まった。 いや、古泉だけではない、長門も朝比奈さんもだ。 しかも、3人とも目線は俺の顔。 まあ、こいつらも多分、俺と同じことを思ってるんだろうな。 なぜだ?・・・と。 「本当に、振られたのですか?」 「ああ」 「何かの間違いでは?」 「間違ってたのはお前らのほうだ」 そう言うと、古泉は何も言い返すことがなかった。 しばしの沈黙。 長門からの目線が痛い。 朝比奈さんはどこか、オドオドとしている感じだ。 俺は、先ほど朝比奈さんから受け取ったお茶を口につける。 いつもよりおいしく感じないのは俺の気のせいか? 沈黙を破ったのは古泉だ。 「できるなら、昨日のことを詳しく聞かせていただけませんか?」 まあしかたがない。 一応、昨日の告白は3人に協力してもらってやった行動なんだ。 あまり乗り気ではないが、喋ってやろう。 昨日の放課後、古泉はバイトと偽って先に帰り、朝比奈さんも用事があると偽って先に帰り、長門も(以下略) そんなわけで、部活終了時には俺とハルヒだけになった。 「なんか、あの3人って用事があるときかぶるわよねー」 とかハルヒが言っていたような気がする。 いや、はっきり言って、いまいち曖昧だ。 なんたって、その時の俺は、その後に取る行動のことで頭がいっぱいだったんだからな。 「じゃあ、あたし達も帰りましょうか」 「そうだな」 ちなみに、この時間、他の部活も終了時間であるにもかかわらず、校門にはほとんど人がいなかった。 それもそのはず、機関の協力があったからだ。 あまり、あいつに貸しを作りたくないんだが・・・。 まあいい、感謝しておこう。 時は夕方、日は傾きだし、坂の上から見下ろした町はオレンジ色に照らされていた。 こういう景色を見れる時だけ思う。 北校が、こんな坂の上でよかったなと。 その時のハルヒは、 「明後日の市内探索は遅れずに来なさいよ!」とか言ってたような気がする。 気がするというのは、先ほども言ったように次に取る行動のことを考えていたのと、ハルヒの後ろにいたということの二つの理由がある。 そして俺はさらに、ハルヒから少し距離をとり、 「ハルヒ!」 ハルヒの背中に向かって叫んだ。 ハルヒがこちらを振り向く。 夕日に照らされたそいつの顔は、この世にある言葉じゃ形容できないほど、キレイだったのを覚えている。 「お前と初めてであったとき、変な女だ、できるだけ近づかないほうがいい・・・俺はそう思っていた」 ハルヒは、何言いだすんだ急に?というような顔をしている。そりゃそうだろうな。 「でもな、今気づいたんだ、俺はそのときからハルヒを見ていた。モノクロ世界からカラーの世界になったような・・・」 ああもう、何が言いたいんだろうな俺は? しかも、心を落ち着かせるためにいろいろ台詞考えてきたが、逆に恥ずかしい。 ああ、もういい。 俺は、考えていた台詞を捨てて、ハルヒに言った。 「単刀直入に言わせてもらう」 その時、俺には回りの音なんて聞こえてなかった。 いや、実際なにも音はしてなかったのかもしれないけどな。 で、だ。俺は一度深呼吸して言ったわけよ。 「俺はお前が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」・・・ってな。 このときの俺は、別に、OKされると思っていたわけじゃない。 だからといって、振られるとも思っていなかった。 いや、どちらかというと、OKしてもらえるという気持ちのほうが強かった。 そんな時に、 「ごめん」 ハルヒの声が聞こえてきた。 その時のハルヒの顔を俺は見ていない。 頭をさげて告白してしまったからな。 いや、それよりもだ。なんだったんだろうな? 心臓にグサッと何かが刺さったような感覚は。 おい、今なら朝倉出てきてもいいぞ!とか一瞬だけ思ったような気がする。 そういや、その時にカラスがとんでいるのを見たような気がする。 まあ、これがアニメなら、 「アホーアホー」とか言って鳴いてたかもしれないな。 そこまで説明して、俺はもう一度、朝比奈さんのお茶を飲んだ。 やっぱり、さっきよりぬるくなってるな。 にしても、ハルヒはまだやって来ない。 まあ、普通に掃除をやってたら、これぐらいの時間、別に遅くはないのだが、 それが、ハルヒだと別だ。 この時間になっても来ないのは遅い。 あいつも、俺と顔を合わすのが気まずいような気がしてるのかもな。 それから、俺がポーンを動かすと、 「それだけですか?」 古泉が訊ねてきた。 それまでもなにも、振られるまでの仮定を聞きたかったんだろうが。 俺の話は以上だ。 「その後の話を聞きたいのですが・・・そうですね、たとえばなぜ涼宮さんはあなたを振ったとか言ってませんでしたか?」 ん?そうだな・・・ そういや言ってたな・・・ とりあえず、もう一度俺は、昨日のことをを回想しながら、話し出した。 俺はハルヒに振られ、呆然と立ち尽くしていた。 一応、俺は聞いた。 「何で?」 そこから、2拍ほどの空きがあって、 「あたし、キョンよりも好きな人がいるの」 ハルヒはそう言った。 「あんたが、いきなりこんなこと言い出してビックリしたけど、その・・・今の、なかったことにしよ!明日からも普段どおりに」 そんな無茶なことができるかよ・・・ 長門に頼めば、記憶が消せるかもしれないが。 「あっ!そうだ、あたしも用事があるんだった。じゃあ、先に帰るね!」 そう言って、ハルヒは走り出した。 俺は、呆然と立ち尽くしていた。 そこからは、冒頭通りだ。 にしても、あいつの好きな人ってどんな人だろうな? そういや、前に言ってたか? 付き合うなら宇宙人、もしくはそれに準ずる何か・・・ってね。 まだ、あいつはそんな人間だったか。 あいつをはじめてみたときからと、今のあいつはかなり変わってると思ったんだがな。 「おかしい」 これを言ったのは、先ほどから電池を充電中のロボットのように止まっている長門だ。 何がおかしいって? 「涼宮ハルヒの恋愛感情と呼ばれるものはいつもあなたにむいている・・・」 それは、お前にアドバイスしてもらってるときにも聞いた。 だけど、違うんだよ。 あいつはやっぱり、宇宙人とかそんなのがいいんだ。 俺はあいつとはつりあわないほど、普通すぎだ。 「もしかしたら、涼宮さんの言ってることは嘘だったのかもしれませんよ」 古泉が言う。 「何のために、嘘をつくんだ?」 「たとえば・・・」 そして、一瞬古泉は視線を長門のほうにむけ、もう一度俺の顔を見て、 「あなたは、僕と付き合ったほうがあっていると考えたとかね」 何だそれは気色悪い。 それはお前の願望だろうがバカやろう。 「冗談です」 そうだとは思ったさ。 でもまあ、少しは気分がマシになったかな? 「悪いがみんな、ハルヒの前では今までどおり普通にいてくれ。俺から何も聞いてないフリを貫き通してくれ」 「それが一番いいでしょう。涼宮さん自身も、今までどおりがいいと考えてそうですし」 それから数分後、いつものようにドアが勢いよく開き、 「やっほー!」 とか言いながら、ハルヒが登場した。 それからはいつもどおりだ。 俺と古泉はいつもどおりチェスをやって、俺の圧勝。 朝比奈さんは、パソコンに慣れてきたらしく、お茶に関するサイトを見ていた。 ハルヒはいつものようにネットサーフィン。 ただ、長門は時折、こちらを見ていたように思われる。 長門が本を閉じる音が聞こえた 「よーし、じゃあ今日はこれにて解散!明日は市内探索だからね!みんな遅れないように。特にキョン!遅刻したら罰金よ」 遅刻しなくても罰金だけどな。 と思いながら、俺は帰路についた。 ところで、普段なってほしいと思っていて、たまたまなってほしくないと思ったときにかぎってなってしまうことがある。 どういうことだ、なんて別にいい。 いや、ただたんにあれだ。 市内探索の午前の相手がハルヒになってしまっただけだ。 ハルヒと二人だけのペアは久々かもしれないな。 さて、俺はどうすればいいのだろう? まあ、別に考えていない。 ハルヒについていくだけだ。 「………」 「………」 「………」 「………」 ハルヒと二人っきりの状況でこんなに無言がつづくのは久々・・・いや、初めてかもしれないな。 ちなみに、俺たちが今歩いているのは、いろいろな衣料品店がある街だ。 先ほどから、いろんなショーウインドーが俺たちの左右に存在する。 にしても、最近マネキンの顔がなくなってきている。 理由は簡単、金がかかるからだ。 まあ、俺にとっちゃあどうでもいいんだがな。 と思っていると、ハルヒが何か呟き、幽霊のように歩いて、そのままショーウインドーにぶつかった。 おいおい、大丈夫か?ハルヒ。 「ごめん、ちょっとボーっとしてた。さあ、不思議を探しに行くわよ!もしかしたら近くにあたしを操った超能力者がいるかもしれないわ!」 そう言って、ハルヒは俺を置いて歩き出した。 俺は、ハルヒがぶつかったショーウインドーを見た。 そこには、俺が映っていた。 皮肉なことだ。長門の言ってたことは間違っていなかったらしい。 ハルヒは先ほどこう呟いた。 「ジョン?」 午後のメンバーは幸いなことに、ハルヒと一緒になることはなかった。 ハルヒは朝比奈さんを連れてどこかへ行く。 つまり俺は、古泉と長門と一緒だ。 俺と古泉はとくに行きたいところはないので、長門を先頭にして、どこかへ向かっている。 まあ、図書館だろうな。 「ところで、午前中は何をしていたのですか?」 横にいる古泉がそんなことを言い出した。 「ああ、いや、多分だけどな・・・ハルヒが好きな人が分かった」 古泉は笑顔の中にどこか驚いた顔をしている。 長門は先ほどと変わらない歩調で歩いている。聞こえているとは思うんだがな。 「興味がありますね、それは。是非教えてくださいませんか?」 「それは機関の一員だから言ってるのか?それとも、一人の人間として言ってるのか?」 「もちろん、後者ですよ。僕が機関に所属して無くても同じことを言っていたでしょう。まあ、機関には報告するかもしれませんが・・・」 こいつは聞きたいのか聞きたくないのかどっちなんだ・・・ 無駄な言葉が多いとは思っていたが、お前が損するようなことを言ったぞ。 まあいい、 「ハルヒが好きなのは、ジョン・スミスだ」 古泉は少し、普段と比べてだが、ポカーンとした顔になった。 まあ、誰か知らないからあたりまえだ。 長門はジョンが俺だということを知ってるのか、少し歩調が短くなった。 「あなたは、それが誰か知ってるのですか?」 「ああ」 古泉はそれ以上、何か言うことはなかった。 まあ、いざとなったら機関がてっていして調べることぐらい簡単だと考えたのか、それともこれ以上聞いても無駄だと思ったのか。どちらでもないのか。 俺にしてみりゃどれでもいい。 とか考えていると、急に止まった長門とぶつかった。 おいおいどうした長門? と聞こうと思っていたら、長門は古泉のほうこうを向き、 「あなたの服を借りたい」 と、古泉に向かって言った。 長門が、古泉に何か言うなんて珍しい。 ってか、なぜに古泉の服? なぜだろう? よく女の子の一人暮らしであるのが、部屋に男物の服をぶらさげて、同棲している男がいると誰かに思わせるというのがありきたりだが。 それなら、なぜ古泉?俺でもいいだろ。 いや、確かに古泉のほうがオシャレをしているような印象は受けるが・・・ って、長門にかぎってそんなことはないか。 で、長門がそんなことを言ってしまったせいで、俺たちは今、古泉の家にいる。 家には誰もいない。 こいつも一人暮らしなのか、それともただたんに親は外出中なのか。 それも、俺にとっちゃあどれでもいい。 そして、長門は古泉がだしてきた服の中からカジュアルなもの選びだし、それから俺のほうを見る。 「あなたには明日、これを着てもらう」 おいおい、古泉の服なんて着たくねーよ。 「大丈夫、情報操作は得意。あなたの身長は高くする」 そっちかよ! ってか、何で俺にそんなことを・・・ と言おうとしてやめた。 「ジョンになれとでも言うのか?」 「そう」 ・・・・・ 「俺が、ジョンになってどうするんだ?」 「それからはあなた次第」 古泉の顔は、最初ハテナという感じだったのだが、だんだん状況が理解できてきたという感じの表情になる。 ったく、今の話だけで状況が分かるってのに、なぜチェスの先読みができないんだろうね? 「どうする?」 長門が聞いてくる。 そんな、急に言われてもな・・・ よさそうな台詞なら、古泉に頼んだら嫌と言うほど教えてくれるだろうが・・・ でもまあ、 「やってみる」 っていうのもいいかもしれないな。 次の日の午後8時。 俺は長門の家に来た。 そこには、古泉もいる。 まずは、古泉の服に着替えだ。 すこし袖が長いのがどこかシャクに触る。 「準備はいい?」 ちょっと待ってくれ。服装はともかく、心の準備はまだだ。 それから、一度俺は深呼吸し、古泉が書いた台本を心の中で読み。 こんなうまくいくはずがないだろ!と思いながら、 「いいぞ」 長門にそう言った。 とたん、長門はいつもの高速呪文を唱え、俺は一瞬頭がクラッとした。 まあ、あの時間遡行と比べればマシだけどな。 「完了した」 どうやらもう終わったようだ。 確かに、袖の長さはぴったしになっている。 「ありがとう」 おっと!声も変わってるじゃないか! 一応、鏡で顔も確認。 ああ、こりゃ別人・・・だけれどまあ、少しは俺に似てるな。 少しかっこよくなってるような気もする。 「それが、涼宮ハルヒが現在イメージしているジョン・スミス」 そうか。ハルヒはこんなふうにイメージしてるのか。 ところで、実は言うと先ほど、ハルヒの家のポストに、 『今日の午後9時半頃、東中校門まで来てくれ』 という紙を機関の人間が置いておいたようだ。 ちなみにこれを書いたのは俺ではなく、20代前半の機関に所属している人間だ。 どこの誰かは知らんが、一応感謝しておこう。 ところで、あんな手紙でハルヒがちゃんと来てくれるのかどうかが不安だ。 だいたい、ジョン・スミスがハルヒの家を知ってるわけがないだろ! 俺さえ、どこにあるか知らねーよ。 というわけで、俺は東中に行くことにした。 時間は9時ごろ。 まあ、9時半まで後30分もあるんだから、まだ来てないだろう・・・ と思っていたのだが、ハルヒはもう来ていた。 いつぞやの七夕のときと同じように、Tシャツに短パンなラフな格好。 これは間違いなく、意識しているような気がする。 どうせなら、俺も古泉の制服を借りて着たらよかったかもしれん。 ハルヒと目が合った。 「ジョン?」 ハルヒが訊ねてくる。 「ああ、久しぶりだな」 どこからか吹いたか知らんが、風が俺とハルヒの間を駆け抜ける。 「どうして?」 何がだ? 「どうしてまた、あたしに会おうとしたの?」 確か、この質問をされたときになんと答えればいいか先ほどの古泉の紙に書いてあったはずだ。 なんだった? そうだ、確か、 「お前の話を、後輩から聞いたんだよ。黄色いカチューシャをつけた女が高校で暴れてるってな」 「そんなことはどうでもいいのよ!」 どっちだよ・・・ 「何で今頃になってあたしの前に現れたか聞きたいの。1年前でも2年前でもなくて」 やばい、この回答は持ち合わせていないぞ・・・ 「だから、その、お前の話を聞いたのがつい最近で・・・」 「あたしはあんたに会いたかった!」 ハルヒは叫ぶように言う。 それから、いつぞやのようにハルヒは校門によじ登って、中に入っていった。 「あんたも早く来なさいよ」 ったく、ハルヒらしいぜ。 そして、グラウンドの真ん中で俺とハルヒは突っ立った。 「あんたに話したいことがたくさんあるのよ」 空を見上げながらハルヒが言う。 やっぱ、この季節はほとんど星が見えねーな。 「何だよ?」 「あたしね、北校に入って部活作ったの・・・それから・・・」 それから、ハルヒは延々と話し出した。 ほとんどが俺の知ってる話だ。 俺は、それをずっと黙って聞いていた。 悪いが、俺自身が懐かしさに浸ってしまう。 この話を初めて聞いたような素振りを俺はできそうにない。 「それでね、キョンっていうヤツがいて、そいつの雰囲気がどこかジョンと似ていて・・・」 それから何分ぐらいたったかな? 10分はたっていると思う。 やっと、ハルヒは喋り終えた。 そして俺はというと、 「そうか」 これしかいえなかった。 情けない・・・ 「あんたは?何か話したいことがあって呼んだんじゃないの?」 まあな、何も話すことがなくて呼び出したなんて不自然すぎる。 えっと・・・確か・・・ そうだそうだ、古泉に言われたことは。 「お前と前に会ったとき、北校にお前みたいなやついるって言ったこと覚えてるか?」 「ええ、覚えてるわ」 「実はな、俺そいつと付き合ってたんだが、こないだ振られちゃったんだよ」 一瞬、空気が凍りついたような気がしたが、気にせず話を続ける。 「ちょうどジョン・スミスっていう役名が出てる映画の後振られたんで、あの七夕のことを思い出してな」 話を続ける。 「それでだな、ある程度のことは後輩から聞いてたから、それでお前に会おうと」 しばし沈黙。 「あたしに何を言いたいの?」 いつもより小さい声でハルヒが訊ねる。 「いや、だからそいつと似ているお前なら、何かよりを戻すいい案が思いつくんじゃないかと思ってな」 「分かるわけないじゃない!」 だよな・・・普通に考えてそうだよな。 くそ、何を言ってるんだ俺は、ってか古泉は、バカか。 「バカ!」 ハルヒに直接言われた。 「バカバカバカ」 そう連呼するな。 と思っていたら、ハルヒが俺の胸にもたれかかった。 「バカ」 いつまで言ってるんだよ・・・ と思ったその時、何か冷たい感触が俺の腕に感じた。 泣いてるのか?こいつ。 ここからはハルヒの頭しか見えないから、どっちなのかは分からん。 ただ、シャンプーのにおいがするのだけは分かった。 おいおい、後で外出するって分かってたのに、風呂入ってから来たのかよ。 とか思っていると、ハルヒがなにか呟いた。 「あたしじゃダメなの?」 俺にはそう聞こえた。 そして、ハルヒはゆっくりと顔をあげ、 「あたしじゃダメなの?」 もう一度言った。 ハルヒの顔が近い。 泣いているのかどうか、 はっきり言って暗いからよく分からん。 にしてもなんだろう?このデジャヴは。 そうだ。あの閉鎖空間のときだ。 あの時も、こんな暗闇で運動場に二人きりだったか。 「あたしはずっとあんたを探してた。あの七夕の後、北校に潜入してまであんたを探した、それぐらいあたしはジョンのことが好きなの!」 ジョンは・・・告白されたんだな・・・ ったく、幸せ者だ。うらやましいぜ。 俺は、ハルヒの頬に手をやった。 やっぱり泣いているようだ。 「ずっと、ジョンのことが忘れられずにいた」 ゆっくりとハルヒの顔が近づいてくる。 俺も一瞬目を閉じ、 それから、ハルヒの行動を拒否した。 ハルヒの肩を押す。 「俺とお前は付き合ってはいけないんだ」 「何で?もしかして年齢のこと気にしてるの?そんなの離れていたとしても5歳ぐらいでしょ」 「違うんだよ」 ここから言う言葉は古泉に渡された台本に載ってない言葉だ。 今分かったが、あいつはあてにならん。 俺が今そう決めた。 だが、俺が次にやる行動が正しいのかどうかも分からん。 「俺はこの世に存在しないんだよ!」 ハルヒは近くにいるというのに、俺は50メートル先でも聞こえそうな声で叫んだ。 「どういう意味?」 ハルヒの疑問形。 「さっき俺が言ったことは全部嘘だ」 「何で嘘なんか言うのよ?」 「いいから、俺の話を聞いてくれ」 さて、どうする俺。 どうしようか・・・ジョン=キョンと言うのか。 いや、ダメだ。それじゃあダメなんだ。 「実はな、あの七夕の日の後、交通事故で俺、死んだんだよ」 ハルヒの表情が変わっていく。 「まあ、今の俺は幽霊ってわけだ。いや、でも幽霊っていうのは形がないんでな。この体の人物に乗り移ったんだよ。俺に似てるけど、背が高くてちょっとかっこいいしな」 一呼吸。 「だから、俺はお前と付き合うことができない」 そういいながら、俺は一歩後ろに下がった。 「だから、俺の外見と、俺に対する気もちは忘れてくれ」 もう一歩後ろに下がる俺。ハルヒはずっと俺の顔を凝視している。 「そろそろお別れの時間だ」 それっぽく言ってみた。 今から俺が行くところは天国でも地獄でもなく、長門の家だけどな。 俺はハルヒから離れ、校門に向かって走りだした。 と、俺が20メートル走ったところで、 「最後に一つだけ聞かせて!」 ハルヒは叫ぶように言った。 「あんた名前なんて言うの?」 俺はハルヒのほうに振り向いた。 別に、人差し指を唇に当てて、「禁則事項です」なんて言うつもりはこれっぽっちもない。 「ジョン・スミスだ!」 まあ、意味は似たようなもんかもしれねーけどな。 だけど、心に響くものは大きく違うぜ。 「この名前だけは忘れないでくれよ!また、別の人間に乗り移ってお前の前に現れるかもしれねーからさ!」 「忘れないから!死んでも忘れないから!」 「今度お前にジョン・スミスとしてお前にあったときは、宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやるよ!」 「楽しみにしてるわ!」 「姿形が違っても、お前のことを見てるからな!」 それから俺は走り出した。 これで、よかったんだろうか? 空を見上げ、一つだけ光っている星にむかって、 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!」 そう言った。 次の日の朝、扉を開けるとハルヒはいつものように空を見上げていた。 どこか悲しげなのは気のせいではないだろう。 「よっ!」 軽い挨拶をしておく。 鞄を置き、ハルヒのほうを見る。ハルヒもこちらをむく。 「あたしね、恋愛感情っていうのは精神病の一種だと思ってるの」 急にハルヒがそんなことを言い出した。前にもそんなこと言ってたな。 まあ、そう思いたきゃ思えばいいじゃないか。 宇宙人や未来人がいると思われるよりよっぽどかマシだろうしな。 「でもね、その病を治すには一つ方法があると思ってる」 おっ!そんなところまで考えていたのか。 聞いといてやろう。 どうせ、恋愛感情なんて忘れるとかだろ。 「それはね、恋愛感情をむけている相手と結ばれることよ」 ・・・・・・ 予想外に反してマジメな意見が返ってきたから、俺はしょうしょう驚きを隠せないでいる。 さて、ここで俺はどうするべきだろうか? と、考えてると、ハルヒが言葉を続けた。 「だから、あんたの病を治せるのはあたししかいないわけ」 おいおい、その話はなかったことにするんじゃなかったのか? 俺もそのつもりで接していこうと思ったのだが・・・ ってか、それはどういう意味だ? やっぱり、告白にたいしてOKと言ってると思っていいのか? 「バカ。そんな簡単に了承するわけがないでしょ。そうね、もっとあたしにふさわしい男になるといいわ。そうね、宇宙人や未来人を見つけてきたらいいわよ」 もう見つけてるんだがな。 ん?それより今の言葉の意味ってあきらめるなってことか? 「まさかあたしをあきらめたつもりじゃないでしょうね?別にあたしはそれでもいいけどね。勘違いしないでよ、別にあんたが好きなわけじゃないんだから」 それからハルヒは空を見上げた。 「ねえキョン」 「何だ?」 「あんたが幽霊に乗り移られたらすぐに言いなさいよ」 俺はハルヒと同じ方向を見る。 青いな。どこまでも続く青さがそこに広がっている。 「その時は宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやる」
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涼宮ハルヒの入学 version H 涼宮ハルヒの入学 version K
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涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 涼宮ハルヒの終焉 第一章 涼宮ハルヒの終焉 第二章 涼宮ハルヒの終焉 第三章 涼宮ハルヒの終焉 第四章 涼宮ハルヒの終焉 第五章 涼宮ハルヒの終焉 第六章 涼宮ハルヒの終焉 第七章 涼宮ハルヒの終焉 第八章 涼宮ハルヒの終焉 最終章
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今俺はハルヒを膝枕している。なんでかって?そりゃあ子供の我侭を 聞けないようじゃ大人とはいえないだろう?まあ俺はまだ自分を大人だとは 思っていないし、周りもそうは思っていないだろう。ただ、3歳児から見れば 俺だって十分すぎるほど大人なのさ。ああ、説明が足りなすぎるか。つまり こういうことだ。 ハルヒは3歳児になっていた。 ことの発端は10時間程前のことだ。休日の朝8時と言えば大半の人間が 「いつ起きてもいい」という人生でもトップクラスであろう幸せを感じつつ睡眠 という行為に励んでいると思う。俺ももちろんそうである。しかし、俺の幸せは 一人の女によってアインシュタインが四則演算を解くことよりもあっさりと瓦解 された。携帯電話がけたたましい音をあげる。携帯よ、今は朝なんだ。頼むから もう少し静かにしてくれ、という俺の願いは不幸にも全く叶えられることはなく、 俺は諦めて携帯に手を伸ばした。溜息をつきながら液晶を見ると思ってたとお りの名前がそこに映し出されていた。言うまでもなくハルヒである。 「キョン!出るのが遅いわよ!」 さすがハルヒだ。休日の朝だというのにこのテンションである。しかも怒っている。 「ああ、すまない。寝てたんだ」 謝る必要性は全くないが、一応謝っておく。こうした方がこいつも大人しくなるだろう。 俺も大人になったもんだ、などと考えているとハルヒが言葉を続けていた。 「まあいいわ、それよりキョン。今日寒いと思わない?」 比較的早く怒りがおさまった--もともと怒ってなどいなかったのかもしれないが--ハルヒが そんなことを言う。 「ああ、そりゃもう12月だからな」 寒くもなるってもんさ。と言ってからもう12月なのかと考える。あと4ヶ月で朝比奈さんが 卒業か・・・あの天使に会えなくなると思うと心を通り越して心臓が直接張り裂けそうだ。 ていうか先月の初めもこんなこと考えてたよな。いや、先々月も考えていた気がする。 「・・・ということで、皆でコタツを買うことになったから・・って聞いてんの!キョン!」 ああ、まずい聞いてなかった。また怒っていらっしゃる。ここは適当に流しておいた方がいいだろう。 「いや、ちゃんと聞いてたぞ。皆でコタツを買いに行くんだろ?で?それをどこに置くんだ?」 「だから有希の家に持ってって皆でぬくぬくするって言ったじゃない。やっぱり聞いてなかったようね。 団員としての自覚が足りないわよ。キョン」 いや、もう十分すぎるくらい自覚はあるわけなんだが・・・。まあハルヒから見ればまだまだ足りないの だろう。そんなことより、今回のハルヒの提案が大して迷惑なものではなかったことに俺は安心して いた。皆でコタツを買って長門の家で暖まろうというだけである。素敵とも思える提案だ。 「すまん。これから精進する。で?何時集合だ?」 「駅前に9時よ。即行で準備しなさい。じゃあね」 と言いこちらの返事も待たずにハルヒは電話を切った。相変わらずである。結局行くんだけどな。 俺に選択肢なんて始めからないのだ。 集合場所に着くと俺以外の面々は当然のように揃っていた。やれやれ、休日だというのに ご苦労なこった。 「おはようございます。キョン君」 おはようございます。朝比奈さん。相変わらず反則的に可愛らしいですね。あなたに会えた だけでも今日ここに来た意味があるというものです。などと俺が至福を味わっていると、 「遅いわよキョン!罰として買ったコタツはあんたが運びなさい!」 俺に指をさしながらそう言うと、ハルヒは近くの電気店の方にスタスタと歩き始めた。ハルヒよ、 お前は遅れなくてもどうせ俺に運ばせる気だったろうが。 「僕も手伝いますよ」 と、いつのまにか隣に来ていた古泉が相変わらずのさわやかな笑顔で話しかけてくる。 「ああ、すまんがそうしてもらえると助かる」 いえいえ、と言う古泉に、 「そういや最近閉鎖空間はどうなってんだ?」 ふと思ったことを聞いてみる。 「閉鎖空間ですか?全くと言っていいほど現れていませんよ。一番近いので3ヶ月前です。 これは今までの最長記録です」 なるほど、あいつもかなり落ち着いてきたんだな。3ヶ月前は何で発生したんだ?何かあった のか? 「いえ、時間帯的に単なる悪夢でしょう。ふふ・・・心配ですか?涼宮さんが」 ニヤニヤしながらこちらを見る。うるせえな、ただ気になっただけだ。そんなくだらない嘘をついた 小学生を見るような目でこっちを見るな。 「やれやれ、あなたもそろそろ素直になった方がいいですよ?」 うるせえよ。そんなことより、 「長門」 俺に呼ばれて長門はいつもの無表情をこちらに向けた。 「お前コタツなんか部屋にあったら邪魔なんじゃねえのか?なんなら俺が持って帰ろうか?」 俺も部屋にコタツなんてあったら邪魔で仕方ないが、長門にだけ迷惑をかけるわけにも いかんだろう。 「・・・大丈夫」 そこで一拍置き、 「どうにでもなる」 と、長門は続けた。そうか、まあ長門のことだ。使わないときはコタツをコンパクトにするだとか、 そういう反則的なことも出来るのだろう。だったら、長門のマンションに置いておいた方がよさそうだ。 「そうか、悪いな」 「・・・いい」 そんなことを話しているうちに俺たちは電気店に着いていた。ハルヒにいたってはもう中に入って いるようで、入り口からでは姿が見えない。 「どうする?探すか?」 「いえ、その必要はないでしょう。なぜなら・・・」 「みんなー!集合よ!いいのを見つけたわ!」 見ればハルヒが電気家具売り場の方からこちらを呼んでいる。 「なるほどね」 「そういうことです」 結果的に言えば、ハルヒの選んだそれは当たりだった。値段の割にはデザインも可愛らしいし --朝比奈さんも満足気だったしな--、大きさも5人が入っても問題のなさそうなものだ った。もともとハルヒは物を選ぶセンスなどは抜群なのだ。 問題はこれを俺と古泉だけでどう運ぶのかということだったが、これは長門の力によって あっさりと解決された。長門が買ったコタツに目を向けながらなにやらぼそぼそと言うと コタツの重みが一切なくなったのである。このような光景--というか、現象というか--を 見ると、俺の周りは非現実的なもんで溢れかえっているんだなと改めて実感する。いや、 もちろんそれが嫌ってわけじゃない。むしろ楽しいと思っているほどだ。 さて、こうなってしまうと朝比奈さんでも片手で運べてしまうのだが、ハルヒの手前まさかそんな ことをするわけにもいかず、俺と古泉はわざわざ「重いものを持っています」といった表情で コタツを運ぶことになった。途中何度か、 「大丈夫?あたしも手伝ってあげようか?」 などと普段見せない優しさを見せんでもいい時に見せるハルヒの提案を、俺と古泉が笑顔で かわすという行為を繰り返しているうちに俺たちは長門のマンションに到着した。 「さあキョン!組み立てなさい!」 「へいへい」 と溜息をつきながら俺はダンボールを開け始めた。こんな扱いを受けているというのに なんでだろうね?全くいらつかないのだ。これが慣れというやつだろうか。だとしたら、 この習性は治したほうがいいのではないだろうか。などと思案している間に古泉の 手伝いもあってか、あっさりとコタツは完成した。まあ、元々組み立てるのが難しいもの でもないしな。 「よし!じゃあ有希!あれ出して」 「わかった」 と、言いながら長門は台所に向かってスタスタと歩いていった。そして数十秒で戻ってくる。 両手には大量のみかんとスナックが抱えられていた。 「おいおい、随分準備がいいな」 「まあね皆には昨日のうちに言っておいたから」 だったら俺にも言っといてくれ。その方が心の準備が出来るってもんだ。 「だって、あんたどうせ暇でしょ?だったら当日に言えば済む話じゃない」 クソ、反論できないのが歯がゆい。ハルヒの言うとおり俺の休日にSOS団がらみ以外 の予定が入ることはほとんどないからだ。谷口や国木田も、 「キョンは休日も涼宮さんと一緒なんでしょ?」 と、誤解を招きそうなことを言ってきたりで、休日に俺を誘うということもない。つまりだ、 俺の休日に予定がないのはハルヒのせいでもあるわけだ。そんなことを知ってか知らずか、 ハルヒはもぞもぞとコタツに体を押し込めながら長門がテーブルに置いたみかんに手を伸ば している。見れば俺以外はもうコタツに入っている。朝比奈さんに至っては、 「暖かいです~」 と、幸せに浸っている。となるとだ、まあここはハルヒの隣に座るのが自然だろう。いや、別に 他意はないぜ?一番近いからそこに座るだけだ。それにハルヒの隣ということを考えなければ ベストポジションだ。なんたって真正面を見れば女神が居るからな。ちなみに長門は俺から見て 右、古泉は左の位置に居る。 「ちょっと!なんであんたがあたしの隣に座るのよ!」 近かったからだ。わざわざ遠回りするのも面倒だろ。 「まあいいわ・・・。結構大きいしね、このコタツ。それにしても暖かいわね」 そうだな。たまにはこういうのもいいよな。 「幸せです~」 と朝比奈さん。本当に幸せそうだ。あなたを見てるとこっちも幸せになってきますよ。 「そうですね。たまにはこんな日があってもいいでしょう」 古泉は俺と全く同じことを考えていたようだ。やめてくれ、微妙に気持ち悪い。 「・・・ぬくぬく」 見れば長門も上機嫌そうである。もうみかんの皮が6枚ほど長門の前に転がっている。 相変わらず素晴らしい食欲だ。 「むう・・・。でもこのまま何もしないのもつまんないわね」 そうか?俺は今日はこのままぼんやりしていたいがね。 「そんなじじくさいこと言ってると早く老けちゃうわよ?」 縁起でもないことを言うな。それにお前も子供じゃないんだから、落ち着けよ。 「ふん。童心をいつまでも持つことは大事なのよ。ね?古泉君」 「ええ、僕もそう思います」 お前は黙っていろ。このイエスマンめ。 「ああ、子供といえば。あんた子供に人気あるわよね?」 ハルヒはあっさりと話を変えた。割とどうでも良かったらしい。しかし、そうは思わんがね。 人気があるといっても。すぐに思い浮かぶのは妹とミヨキチくらいなもんだ。 「ええ~、でもあたしもキョン君は子供に好かれるイメージがありますよ?」 と、朝比奈さんが言う。朝比奈さんがそう言うならそうなのかもしれんと、俺のy=xのグラフ よりも単純にできている脳は勝手に結論を出そうとしていた。 「ね?やっぱりそうよね。じゃあさ、キョン。あんたも子供が好きなの?」 なぜそうなる。 「だってやっぱり好きなものには好かれるじゃない」 「そういうもんか?」 「そういうもんよ」 「まあ、少なくとも嫌いではないな。妹も、特に3歳ぐらいのころはホントに可愛かったな」 言いながら、その時の情景を思い出す。 「ふふ」 「どうかしましたか?朝比奈さん」 「いえ・・・。きっといいお兄さんだったんだろうなあと思いまして。目に浮かびます」 もちろん今もいいお兄さんですけどね。と、朝比奈さんは付け加えた。 「あたしもそれに関しては同感ね」 おお、ハルヒに褒められるとは。これ以上光栄なことはないね。 「もうすこし感情を込めなさい。感情を」 「ばれたか」 「当たり前でしょ?ふわぁ~。なんか喋ってたら眠くなっちゃった」 「あたしもです~」 と、朝比奈さんもハルヒのあくびがうつったのか小さなあくびをした。 「眠っちゃいましょう。もう二人寝てるし、あたし達だけ起きてても仕方ないわ」 言われてからそういえば長門と古泉が全く話に参加していなかったことに気づいた -いや長門に関してはいつものことだし、古泉も一度適当な相槌を打っていた気はするが-、 半立ちになりながらコタツの左右を覗き込むと本当に二人とも寝ているようだ。二人の 寝顔を見ながら、俺はなんだか安心してしまった。この二人はSOS団のことを信頼しきっている のだ。だからこんなにぐっすり眠れるのだろう。そう思うと嬉しいというか喜ばしいというか、そんな 気分になる。 「あんたは寝ないの?」 「いや、俺はいいや」 大体二人で横になったらどっちみち俺は寝れねえよ。などという俺の思考はハルヒには届かないだろう。 「ふ~ん、じゃあみくるちゃんも寝ちゃったみたいだし。あたしも寝るわね」 正面を見ると、女神の姿が見当たらない。おそらくハルヒの言うとおり、お眠りになってしまわれたの だろう。 「お菓子、一人で全部食べちゃダメよ?」 食べねえよ。ていうか無理だ。俺はお前や長門のような何回拡張パックをダウンロードしたかわからない ような胃は持ち合わせちゃいない。 「じゃあ、おやすみ」 ハルヒはそう言いながら寝転がる。 「ああ、おやすみ」 俺はその後、何十分かはわからないが。結構長い時間ぼんやりとしていた。ただ、俺も眠かったのだろう。 頭をコタツのテーブルに突っ伏すとそのまま眠りについてしまった。今日は本当にいい日だ。おそらく面倒事も 起こらない。さっきも言ったが、こんな日があってもいい。 だが、俺のそんな思いは目覚めとともにあっさりと否定された。 「・・・起きて」 静かな、しかしどこか強制力のある声が耳元からする。 「・・・起きて」 二度目のその言葉で俺は目を覚ました。目の前に見慣れた無表情がある。長門だ。 「ああ、長門か今何時だ」 「13時」 そうか、まだ1時間しか経ってないじゃないか。だったらもう少し寝させて・・・、 「キョン!起きたのね!キョンもトランプしましょ!」 いつもの11倍ぐらい目を輝かせながらハルヒはコタツの向こう側からこちらを見ている。 しかもなぜか朝比奈さんの背中に抱きつきながら-いわゆる強制おんぶ状態だ-だ。 「おいおいなんだ?とんでもないテンションだな」 「聞いて」 長門が話しかけてくる。長門がこんなにも自ら口を開くことははっきり言って珍しいことだった。 だから、俺はなんとなく嫌な予感はしていたんだ。 「なんだ、どんな厄介ごとだ?」 「・・・おそらく涼宮ハルヒの精神は14年ほど退行している」 見ればハルヒがターゲットを朝比奈さんから、長門に変えている。長門はハルヒに背中から抱きつかれながら 無表情でそんなことを言っている。なんてシュールな絵なんだ。そしていつもながらとんでもない話だ。 「あ~、精神だけか?」 「・・・そう」 そりゃあ厄介だ。 「そう。厄介です」 と、古泉がそれに反応した。 「見た目も退行してくれていれば、もう少しやりやすかったのですが」 「ふふ・・・さっき古泉さん、涼宮さんに抱きつかれて慌ててましたもんね?」 朝比奈さんがそんなことを言う。 「いえいえ、そんなに睨まないでください。不可抗力ですよ」 古泉はパタパタと両手を振る。別に睨んでなどいない、まあ不可抗力なんだしな。 仕方のないことだ。若干もやもやするがそれは気のせいだ。 「長門よ、そのこうなった・・・」 原因は?と尋ねようとして俺はやめた。なんとなく推測出来るし、多分俺のせいだろう。 だったらそんなことをわざわざ聞く必要はない。 「いや、これは何時ごろ治るんだ?」 ハルヒは長門に抱きつきながらびょんびょん跳ねているため、長門の顔は無表情のままがくがく 揺れている。ハルヒ、やめなさい。長門の頭が取れかねん。 「確定は不可能。ただ長い時間はかからない」 そうなのか? 「・・・そんな気がする」 なるほど、それが長門の意見か。今は長門が意見を言うということもそこまで珍しいということでもない。 「僕もそう思いますよ。これは一時的なものでしょう。まあ、多少厄介ですが。みんなで遊んであげれば、 自然と元に戻るはずです」 「ああ、俺もそんな気がする」 「ただ、トリガーというかキーというか。そういうものがある可能性は否めませんが、それもおそらくは簡単に 見つかるでしょう」 言いながら、こちらを見る。期待していますよと言わんばかりだ。やれやれ、また俺が握っているのか? そのキーとやらを。 「じゃあ、今日は皆で涼宮さんと遊びましょう!ね、涼宮さん」 「うん!」 と、ハルヒが朝比奈さんの問いかけに対して明るく可愛く答えている。今のハルヒに母性本能がくすぐら れているのだろうか。朝比奈さんもまんざらでもなさそうだ。 「じゃあ、キョン!トランプ!」 太陽の笑顔をこちらに向けてトランプを手渡してくるハルヒに対して俺は、 「へいへい」 と、命令に従いトランプをシャカシャカと切り始めた。結局ハルヒの精神が幼児化したところで、俺の ポジションが変わることはないのだ。 「あ!でもトイレ行きたい。キョン!ハルヒが帰ってくるまでに配っててね!」 そう言いながらトイレの方に歩いていった。どうやら記憶はあるらしい。そりゃそうか、俺の名前も覚えてる しな。あとこの頃のハルヒは自分のことを名前で呼んでたんだな、可愛らしいこった。 「みなさん、提案があります」 と、古泉がなにやら喋りだした。 「これから多分数多くのゲームをすることになると思うのですが・・・」 そりゃそうだ、なんたって身体はそのままだからな。体力はものすごいだろう。 「ええ、ですが。そのゲームにおいてですね、涼宮さんを最下位にさせるということは出来るだけ 避けたいんです」 ああ、なるほどね。俺は古泉の言いたいことを瞬時に理解した。ほかの二人もそうだろう。 「確かにな、そんなことになったらもっと厄介なことになりそうだ」 「ええ、ただ彼女は勘がいいですからね。手加減しているのを聡られないようにしなければ いけません」 そうだな、しかしまあ骨の折れる作業だ。 「仕方ありません。それに、こういうのも楽しいでしょう。僕は嫌いじゃないですよ」 確かに退屈はしなそうだな。その時、とたとたと足音が聞こえた。どうやらハルヒが帰ってきた ようだ。 「あ!配っててくれたんだ!ありがとうキョン!」 と、俺にいつもより数割増しの笑顔を向ける。おいおい、勘弁してくれ。素直なハルヒなんて 俺の想像の範囲内には居ないんだ。俺が混乱しつつある頭を何とか正常に戻そうとしている と、あろうことかハルヒはその混乱を増幅させる行為をとりやがった。すなわち、俺の脚の間に ドスンと座ったのである。そりゃあもう堂々と、それが当たり前のように。 「おい、何をしている」 「キョン!イス代わりになって~」 ああ、うんそういうことか。でもな、朝比奈さんでもいいじゃないか。 「う~んそれでもいいんだけどさ、みくるちゃんちっちゃいんだもん」 と、言いながらこちらを見上げる。顔が近いよ、顔が。それと髪からものすごくいい匂いがする。 これはまずい、どう考えてもまずい。 「いや、でもな・・・その・・人をイス代わりにするのはあまりいいことじゃないぞ?」 俺は何とか平静を保ちながら-これは奇跡的なことだ、自分の精神力に感服するね-、 ハルヒに言い聞かす。だが、 「うう・・・キョンはいや?」 と、ハルヒに潤んだ瞳で見上げられれば「嫌だ」などと言えるわけがない。 「ええとだな・・・その・・・」 「わかった・・・。じゃあ古泉くんのところに・」 「ハルヒ!」 「ふぇ?」 「嫌じゃないぞ、全然嫌じゃない。だからここに居なさい」 もちろんこれは古泉の為だ。さっきも大分困ってたみたいだからな、そうだお前の為なんだ。 だから古泉よ、そんなニヤニヤ顔でこっちを見るな。朝比奈さんもそんなに優しい目でこちら を見ないでください。 「え・・・?うん!ありがとう、キョン!」 そう言いながら思いっきり抱きついてくる。いや、だからそういうのはまずいと言ってるだろうに。 「あ~、ハルヒよ。前を向いた方がいいぞ。トランプがしづらいからな」 「あ、うん。ごめんね」 と、素直に前を向く。かくしてようやくトランプまでこぎつけた。これからおそらく何時間も遊ぶのだ。 それが終わる頃には俺はもしかしたら、死ぬんじゃないだろうか?そんなことを俺は本気で考えて いた。 結論から言うと俺は何とか死なずにすんだ。勝因はなんといっても、 「キョンの身体かたーい」 と、言いながら朝比奈さんの方にハルヒが途中で移動してくれたことだ。それでも移動するまでは トランプのババ抜きをしている時にハルヒが最初にあがると嬉しさのあまり俺に抱きついたり、先ほども 述べたのだがハルヒからやたらいい匂いがしたりと、俺のHPはもはや限界まですり減らされていた。 途中で朝比奈さんの方に行ってくれなかったら、間違いなく命はなかっただろう。その時に若干喪失感 みたいなものを味わったが、まあそれも気のせいに違いない。 それと、古泉の言っていた懸案事項も全く問題にならなかった。なぜって?そりゃあハルヒが 何をやらしても強かったからさ。元々3歳の割には語彙が多いなとかは思っていたが、頭の 回転の良さも昔からだったらしい。結局手加減どころか本気をだしても俺達がハルヒにかなうこと はなく、終始1位と2位をハルヒと長門が取り合うという形でゲームは行われていった。ただ、途中 人生ゲームをする時は朝比奈さんに漢字や意味を聞きながらうんうんうなづいてプレイしていたから 4位になっちまったけどな。ちなみに最下位は古泉だ。もちろん、手加減などしていなかったが。 そうして楽しかった時間はあっという間に過ぎ、ハルヒの、 「ねむ~い」 の一言で4時間にも及んだゲーム大会は終わりを告げ、俺以外の4人はあっさりと眠りについて しまった。ちなみにハルヒはといえばコタツには入らず、俺に膝枕をさせながら毛布をかけて眠りこけ ている。 ここでようやく冒頭に戻る。俺はなんとなくハルヒの頭をなでていた。なあハルヒよ?楽しかったか? 今度起きたら元に戻っていてくれよ?子供のお前も好きだけど、俺はやっぱり・・・。俺がありえない 程恥ずかしいことを考えているとパチッとハルヒが目を開けた。ばっちり俺と目が合う。 「ハ・・・ハルヒ・・・?」 「ねえキョン・・・」 「うん?」 「キョンはハルヒのこと好き?」 え~とだな、このハルヒは子供の方のハルヒだよな?ああ、間違いないだろう。自分のこと「ハルヒ」 って言ってるしな。じゃあ、大丈夫だ。嘘をつく必要もない。ハルヒの頭をなでつけながら俺は出来る だけ優しい声で言った。 「ああ・・・好きだよ」 「ホント?」 「本当だ」 「元に戻っても?」 おいおい、こいつわかってやってんのか?いや、まあ大丈夫だろう。ハルヒはこれを夢と処理するはずだ。 「ああ・・・元に戻ってもだ」 「ふふ、ありがとうキョン」 と、ハルヒは更に言葉を続けた。 「あたしも・・・好きよ」 !!驚いてハルヒの方を見るが、ハルヒはもう眠ってしまっていた。いや、さすがにこの早さで寝るのは ガリレオ・ガリレイが天動説を唱えるくらいありえない。俺はおそるおそるハルヒの頬をつねってみるが、 何の反応もない。本当に眠ってしまったようだ。 「ふう」 俺はしばらく考えてから寝てしまうことにした。考え事なんてもともと俺の性分じゃないんだ。そんなもの は古泉あたりにまかせておけばいい。俺はそう決めてかかると、眠りの世界に身を委ねた。 起きると、周りにはもう朝比奈さんと古泉の姿はなかった。右の方を見ると長門がみかんをパクついて いる。お前、それ何個目だよ。 「長門、みんなは?」 「もう帰った。あなたたちもそろそろ帰った方がいい」 そうか、言われて時計を見れば確かにもう結構な時間である。これは帰った方がよさそうだ。 「ハルヒ、帰るぞ」 「ん・・・ううん」 そういいながらもそもそと起き上がる。 「え!うそ!もうこんな時間?どうして起こしてくれなかったのよ!」 どうやらもとのハルヒに戻っているようだ。なんとなくわかってたけどな、だからみんなも帰ったんだろう。 それよりお前はばっちり起きてたし、誰よりもはしゃいでいたぞ。 「いや、俺たちは全力でお前を起こそうとしたがどうしてもお前が起きなかったんだ」 「ホント?有希?」 「本当」 と、長門はゆっくり頷いた。 「そっか・・・」 なんだか少し寂しそうだ。 「すまん・・・無理矢理にでも起こせばよかったか?」 「ううん、いいのよ。ありがとね」 おいおい、元に戻っても素直なまんまか。勘弁してくれ。 「なあに変な顔してんのよ」 「いや、なんでもない」 そう言いながら、帰る準備を進める。さて、 「じゃあ、帰るか」 「そうね」 「じゃあな、長門。いろいろありがとな」 「いい」 「バイバイ有希、また来るからね」 「・・・わかった」 長門がゆっくり頷くのを確認してから俺たちはマンションのドアを閉めた。 帰り道、ハルヒがこんなことを言い出した。 「ねえキョン」 「なんだ」 「あたしね・・・変な夢を見たの」 やっぱりきたか、でもなハルヒそれは夢じゃないんだぜ。 「どんな夢だったんだ?」 なんとなく聞いてみたが、おおよそハルヒの回答は予想がついた。なんたってみんなに 甘えたおした挙句、最後には俺にあんなことを言われたんだ。ハルヒにとっては悪夢 以外の何物でもないはずだ。 「それがね」 と、ハルヒはこちらに顔を向けながら続ける。そして笑顔で顔を輝かせ、 「すっごくいい夢だったのよ!」 と、言ってのけた。おいおい、待ってくれその反応は反則だ。クソ、顔が熱い。ハルヒの 方を見れん。 「ちょっと、何で顔をそらすのよ。ていうか顔赤いわよ?キョン」 夜でもわかるくらい俺の顔は赤いのか、恥ずかしい話だ。仕方ない、喋ってごまかそう。 「あ~、ハルヒよ。俺も変な夢を見たんだ」 「へ~、どんな夢よ?」 「それがな」 俺は言葉を続ける。 「ものすごくいい夢だったんだ」 なぜか、ハルヒの顔が朱に染まった。 fin
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涼宮ハルヒの夢幻 涼宮ハルヒの夢幻 プロローグ 涼宮ハルヒの夢幻 第一章 涼宮ハルヒの夢幻 第二章 涼宮ハルヒの夢幻 第三章 涼宮ハルヒの夢幻 第四章 涼宮ハルヒの夢幻 第五章 涼宮ハルヒの夢幻 第六章 涼宮ハルヒの夢幻 第七章 涼宮ハルヒの夢幻 終章 涼宮ハルヒの夢幻 エピローグ
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涼宮ハルヒの不覚 分割版 涼宮ハルヒの不覚1 涼宮ハルヒの不覚2 涼宮ハルヒの不覚3 涼宮ハルヒの不覚4 涼宮ハルヒの不覚5 涼宮ハルヒの不覚6
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いつものように朝比奈さんの炒れたお茶を飲みつつ、古泉とオセロを楽しむ 今じゃアナログなゲームかもしれないが、これはこれで中々おもしろいもので… と言っても、相手は古泉 無駄にボードゲームを持ってくる割りにはほとんど手ごたえはなく…というか弱い まぁ家に帰って勉学に励むわけでもないし、こんな風にまったりとすごすのもいいものだと思うようになってきた というより、涼宮ハルヒの存在で、ゆったりした時間がどれだけ希少に感じられることか… しかし、こういう時間は一瞬にして砕かれる こいつのせいで… バンッ!!! 毎度の事だが、物凄い音とともにドアが開かれる もしドアの近くに居たりなんかしたら、よくて骨折だぞ 「ドアくらいゆっくり開けろよ」 「いつものことでしょ」 さらりと言い放つと、団長の机に飛び乗った 「なんだ、演説でもするのか?」 「ちょっと違うわ。まぁ聞きなさい」 とハルヒは言い、スカートの後ろにさしていた雑誌のような物を取り出した その雑誌はこの前俺達、鶴屋さん他etc…で作成した会誌だった 出来栄えはよく、評判も結構良いとのことだった ハルヒは会誌を広げ、 「今回の会誌は大成功!もういろんなとこから太鼓判押されまくりよ!この調子だったら月一くらいで販売するのも良さそうね」 とまたもやあの不敵な笑みを浮かべた が、俺は即反対する 「そんなもん売ったりしてたら生徒会にまたなんか言われるぞ」 と言うが、 「んじゃ売らなかったらいいの?無料配布なら生徒会の連中も文句いわないでしょ?」 と一向に自分の思考を曲げようとしない よくて有料から無料になったくらい… 作るのは俺達だぞ それに配るたびにいつかのバニー姿みたいなことしたら、それこそ生徒会だけでなくいろんなところから目をつけられる 下手すりゃ謹慎だってありうるぞ 「まぁ作るのはいいだろうが、バニー姿とかで配るのは止めろよ」 と言うと、 「あんた、鋭いわね。なんで私の考え分かるのよ。超能力者?」 いや、少なくとも俺は普通の人間だ というか超能力者なら俺の目の前にいるぞ とか言ってやりたかったが、そんなこと言ってもどうせ信用されないだろ ハルヒにとって古泉は『謎の転校生』だったくらいのもんだ 今となっちゃ転校生なんて全く関係なく、ただの男子生徒 趣味は赤い玉になって空を飛ぶことか? 「とにかく止めとけ。するんならもっとマシな衣装にしとけよ」 と言うと 「団長に指図しないの!…でも、新しいコスチュームもいいかもねぇ…」 と言い、椅子に座り考え始めた 俺はそのまま古泉とオセロを楽しみ、今日の活動は終わった 次の日、いつもと同じ登校だったが、今日は金曜日だ 明日は休みと思うだけで、どれだけ嬉しいものか 午後、いつもの様に部室に行くと、あのハルヒが満面の笑みを浮かべていた そして、俺が入るやいなや 「キョン!あんた小説書くのよ!」 と、やたらでかい声を張り上げた 「あー。パスだパス。お前が全部作っていいぞ」 と親切にも譲ってやると 「あんたは絶対書かないとダメ!今回は私も小説を書くわよ!」 と良い、パソコンで何かをしている 正直、前回の会誌作りは本当に疲れた あんまり良い話でもない吉村の話をほりあげられたんだからな… それに、もう恋愛小説なんて無理だ 「何よ、恋愛小説を書いてなんて頼んでないわよ。今回は…」 と言い、ハルヒは黙った あらかた俺に書かせたいジャンルを決めているようだが… ハルヒは自分の髪をぐしぐしと掻き 「キョン!あんたなんか書きたいジャンルある?」 と聞いてきた いや、別に無理に書かなくても… というか本当に書きたくないんだが… 「それじゃあ駄目でしょ。なんか書きたいジャンル、考えとくのよ」 「じゃあハルヒは決まってるのか?」 と聞くと、口を尖らせて 「決まってないから考えてるのよ!」 俺はふと 「だったらSFでも書けばいいんじゃないか?前回の会誌はSFは無かったし」 「そうねぇ…SFは有希に書いてもらおうと思ってたけど、私も書いてみよっかな」 と言い、カチカチとまたパソコンをいじりだした お前がSFなんて書いたらどんな作品が出来るかも分からん ハルヒの想像力は半端じゃなさそうだからな 俺は朝比奈さんが炒れてくれたお茶をすすり、古泉の用意したオセロを始めた 「あなたの書く恋愛小説は少し楽しみだったのですが…」 と言い、おきまりの笑顔で 残念 のジェスチャーをした 「一応聞いとくが、それは嫌味か?」 「まさか、本当に興味があるんですよ」 全く、こいつの考えは全然分からん… それになんでも笑って誤魔化そうとするな 少なくとも男の俺には効かんぞ そのままオセロをしながら、部室のお茶を浪費していると バンッ!!! と、物凄い音が響いた 俺と朝比奈さんは軽くびくッと振るえ、団長の机の方を見た ハルヒが不敵な笑みを震わせている 「そうよ!私SFを書けばいいのよ!」 と大声をあげ、うん、うんと一人頷いていた 流石に訳の分からない行動にも程があるぞ 「どうしたんだ?そんなに良い案が浮かんだか?」 「浮くもなにも、浮きまくりよ!今私の中の創作意欲がすごいことになってんのよ!」 そうか、そうか 「そう!ホント!これはいいわ!かなり書きやすいわ!早速書かないと…」 「どんな案なんだよ」 と聞くと、 「ほら、私たちって宇宙人とか未来人とか超能力者とか探してるじゃない?」 それはお前だけだろ というかもう宇宙人も未来人も超能力者も揃ってるぞ 「だからね!小説の中だけど私たちを主人公にして、宇宙人や未来人とか超能力者とか…もうなんでもいいわ!とにかく会わせるのよ!」 まぁハルヒの願いらしいからな… 小説の中で収まるんならそれでいいだろ 実際にそこのドアから足が二十本もある緑色のクラゲみたいな生き物なんぞ出てきた日には… SOS団壊滅の危機だな それとも長門が倒してくれるか? 延々と一人創作意欲と欲望をごちゃまぜにして、演説をしているハルヒを放って、俺はオセロの続きを始めた が、古泉が何故かハルヒの方を見つめ、眉間にしわを寄せている こんな顔をする小古泉は珍しい 写真でも撮るか やっと長い演説を終えると 「んじゃ、資料を調達して土日中にでも書いてくるわ!月曜には見せてあげるから楽しみにしててね!」 と言い、ハルヒはカバンを持ちドアまで走って行こうとする すると、 「涼宮さん!」 と古泉が大声を上げた これには朝比奈さんと俺と長門、そしてハルヒも思わずびくッと震えた なんせ古泉が声を張り上げるようなところなんて一度も見たことがなかったからな しかし、古泉も冗談とは思えないほど顔に力が入っている おいおい、お前こんな顔になるのかよ 「な、なに?」 ハルヒは足踏みをしながら古泉の方に向いた 「涼宮さん、やっぱりSFは長門さんに書いてもらった方がいいんじゃないですか?よろしかったら僕でもいいです」 かなり必死に言っている いつものクールに気取った感じは吹き飛び、どう見ても別に人格が入ったように見える 「でも、もういい案浮かんじゃったからね!早くしないと図書館閉まっちゃうし…」 と言いつつ、ドアから飛び出して行った それを追うように、古泉がドアから出て「涼宮さん!」と叫んでいたが、ハルヒはそのまま行ってしまったようだ それから十分ほどして古泉が戻って来た さっきほど動きは荒々しくはないが、表情がどことなく落ち着いていない 「大変です。これは極めてよくない状況…かもしれません」 その言葉を聞くと同時に長門が分厚い本とパタンと閉じた 長門も古泉もただならぬ雰囲気を出している 「どうしたんだ?何かあったのか?」 「何かあったなんてもんじゃありません!」 と思いっきり机を叩いた 俺は今日あまりにもいつもと違いすぎる古泉に驚いた 古泉は俺の表情を読み取ったのか 「す、すいません…つい…」 古泉がこれだけ動揺しているとは… どんな事件なんだ… 「一体何があったんだ?詳しく聞かせてくれないか?」 と聞くと、俺の前に座った 「今から話すことは正しいとは言いきれません…ですが、確実にそうなりつつあるのです。ですから心して聞いてください」 古泉はまずそう言い、話し始めた 「今、涼宮さんのいる近辺で小さな閉鎖空間が大量に発生してきています。しかし、 これは涼宮さんのストレスなどの影響ではありません」 「それじゃあ、ハルヒとは別の人間か?」 「いえ、今発生している閉鎖空間は間違いなく、涼宮さんによるものです。しかし、その中には私たちが入ることはできません」 入れない? 「つまりですね…閉鎖空間は存在するのですが、なんというか…」 そこで古泉は押し黙ってしまった すると突然長門がこちらを向き喋りだした 「その閉鎖空間は今までのものとは全く違うもの」 全く違うもの? 「そう。今の世界とは別の世界を、涼宮ハルヒは創造しようとしている」 よく分からん… それを聞いた瞬間、古泉がハッと気づいたように俺を見た 「その例えが一番簡単ですね」 何がだよ、ちゃんと教えてくれ 「今の長門さんの話を簡単にまとめると、今、涼宮さんは小説のため『宇宙人に会う自分たち』を創造しています これによって閉鎖空間が発生したものと思われます」 つまり、どういうことだ? 「ですから、今僕たちの居る世界とは違う世界…涼宮さんの創造する世界が出来上がりつつあるんです…」 ハルヒの創造した世界? …ちょっと待て…ハルヒはたしか 『小説の中だけど私たちを主人公にして、宇宙人や未来人とか超能力者とか…もうなんでもいいわ!とにかく会わせるのよ!』と言った それが今ハルヒの創っている世界? だとしたらその世界では俺たちが宇宙人や未来人や超能力者…いや、もっと違うものに出会わなければならない事になる つまり、ハルヒの創造によっては俺たちは未知の生物とご対面してしまうかもしれない? ってことか? 「だいたい合ってますね。でもよくないのはその世界が出来てしまってからです」 「なんでだ?創造の世界と行っても他に何か恐ろしいことでもあるのか?」 古泉は俺の発言に呆れたようにため息をついた 「あなたが一番分かっているはずです。まずですね、その涼宮さんの創造した世界が完成してしまうと、現実の世界… つまり僕たちのいる世界に上書きされてしまう可能性があるんです。そうなってしまえば…」 古泉は額に手を当てつつ、言った 「僕たちは未知の生物と強制的に遭遇してしまいます…違いますか?長門さん」 と、いきなり長門に質問を投げ掛けた 「ちがわない」 「ということは…僕たち…涼宮さんが未知の生物に会ってしまえば…自分の力に気づいてしまうかもしれません…」 ハルヒが自分の力に気づく… それはどれだけ危険なことか…俺たちSOS団と呼ばれる団に所属するものなら分かる あの以上なまでの想像力のせいで、ありえない季節に桜が咲き、猫が喋りだし、未来人が目から光線を出してしまう… そんなことが強く願うだけで実現してしまう人間が…自分の力に気づいたら よく進んでも悪く進んでも、今の平凡な日常はいとも簡単に崩れてしまうだろう… 朝比奈さんのいれるお茶を飲みながら、つまらないボードゲームを楽しむことも… 5人で街を探索することも… まだ出来て1年も経っていないSOS団が潰れてしまうかもしれない… それも団長の手によってだ… 俺はまだゆったりと過ごすこの世界で生きていたい 俺は拳を握り締め 「古泉…何か方法はないのか…」 古泉は押し黙っている 「古泉!!」 と声を張り上げると 「わからないんです!今どうすればいいのか!何が世界を救うのか…」 と最後の方は力なく呟いていた… 俺達を見ていた朝比奈さんが心配そうに震えている こんな時は冗談の一つでも言うのがいいのか…いや、俺は今そんなこと言える状態じゃない… でもどうしたら… 「方法はある」 と、突然長門が言った 俺はすぐに 「何か方法があるのか?」 長門は頷く 「何をするんだ?何かしてくれるのか?」 と聞くと首を横に振り 「私たち情報統合思念体は涼宮ハルヒの行動の観測が主である。故に今の涼宮ハルヒの行動を私たちが制止させることは出来ない。」 「それじゃあ…」 「でも、今から言う方法はあなたにしか出来ない。もちろん必ず成功するとも限らない。それでも行動することを推奨する」 俺にしか出来ないこと? 「そう。あなたにしか出来ない」 俺にしか出来ないと言っても… 俺は宇宙人でも未来人でも、ましてや超能力者でも何でもない ただの人間だ 「あなたに特別な能力は備わっていない。だが、あなたは涼宮ハルヒに一番信頼されている存在。 今の彼女の変化もあなたのせいでもある」 俺のせい? 「あなたがSFというジャンルで書くことを彼女に推奨した。それによって涼宮ハルヒは今のように世界を創造している」 訳が分からんぞ 「つまりですね…あなたが『SFでも書けばいいんじゃないか』と言わなければ、現状のようにならなかったのかもしれません」 そうか…でも、なんで俺は攻められてるんだ? 「別に攻めている訳ではありません。事実なんです。あなたがもしあの時…」 「わかった、わかった!それで?俺はどうすればいいんだ?」 多分、俺の顔は不機嫌丸出しだったんだろうな… 遊園地にでも居れば、周りの人が即気分を害すような感じの表情なんだろうな… 「あなたが涼宮ハルヒに創造を止めさせる方法は、彼女に今の世界を必要とさせることが必要」 つまり、どういうことをすればいいんだ? 「涼宮ハルヒはあなたを信頼し、あなたに対し不完全ながら恋愛感情を抱いている。そしてあなたが出来る一番確実な方法が、恋愛の成熟」 と、いう…ことは? 「そうか!そうです!その方法がありましたか!」 と喚き、古泉は拳を震わせている 今日はよく叫ぶな 古泉 「訳が分からん…ちゃんと説明してくれよ」 古泉は笑顔で 「つまりですね!あなたが涼宮さんと結ばれればいいんですよ!恋愛の成熟です。そうです。それで世界が救われるかもしれません」 「えっと…俺とハルヒが付き合うようになればいいってことか?」 「そうです!涼宮さんが前々からあなたに好意的な態度や行動をとっているのはご存知でしょう?」 「…どういうことだ?」 俺の発言を聞いた途端、古泉の笑顔が消え、苦笑いをしている 後ろの長門も、何かいいたげな表情だ そして朝比奈さんを見ると、明らかに呆れ顔になっている…というより少し怒っているようだが… 「ちょっと待ってください…あなた、僕の言った意味が分かりますか?」 いや、何のことを言って… 「キョンくん…もしかしてふざけてるんですか?」 と朝比奈さんが少しすごんでいるような感じで話しかけてきた 「いや、本当に何のことだか…」 朝比奈さんはその言葉を聞いて、そっぽをむいてしまった やや、おおげさなため息が聞こえ 「いいですか?涼宮さんはあなたのことを気にしています。長門さんによれば不完全ながら恋愛感情をあなた抱いている… つまり、あなたの一押しでうまくいくことだってありえるかもしれないんです」 そんなことをいきなり言われてもな… 「でも、なんで付き合わなくちゃいけないんだ?」 またもため息… そんなに俺の発言が気に食わないのか? 「ですから、『この世界が必要だ』と涼宮さんが心から願ってくれればいいんです。あなたという大切な存在が必要だと思えば、 無意識に創造を止めるかもしれません…」 「そう…か?」 「ですが、必ず成功するとは言いきれませんよ。何せ人間関係というものは私達には想定できないものです。ましてやあの涼宮さん。 はっきり言うと悪いんですが、かなり変わった思考ですよね?」 それは…たしかだな… 学校全体でアンケートをとったら確実に『変わった人』との結果が出るだろう 「ですから、何をどう考えているかなんて分からないんです…ですから…」 「その場その場で対処の仕方がない…と?」 「そうです。ですから確実に成功するなんてことは言い切れません。ですが、あなたの気持ち次第で決まることです」 俺の気持ち次第で…か… 世界って本当に安くなったな… 俺の気持ちくらいで世界が救えるなんて… その後俺たちはどうするかを考えた 朝比奈さんに何か出来そうなことを聞いてみたが、過去への干渉はできないらしい。 というか未来の野郎どもは朝比奈さんの要求を全く受け付けないらしい つまり、俺のSF発言を消すことすら出来ない… まぁ出来るのなら、未来の俺が止めに来ていたはずだが… 結局、他に具体的方法がなく、俺とハルヒを結ばせる計画で世界を救うことになった もう、こんなことじゃ驚かなくなってきた自分を褒めてやりたい… だが、重大な問題がある ハルヒが小説を見せると言ったのは月曜 つまり、あと二日のうちに、ハルヒの創造を止めなければ、俺たちの世界が上書きされてしまうことになる 俺はとにかく今日は休んで、明日、明後日をどう過ごすかを考えていた いや、過ごすなんてもんじゃない どうやってハルヒと付き合えばいいのかを考えていた 次の日、見事なまでの晴れ このままいけば、世界が明後日には変わってしまうなどと、どのくらいの人が知っているのだろうか… 俺はまず昨日まとめた行動をとる 単純にデートだ まずは、電話で約束を取り付けないといけない 俺は携帯からハルヒの番号を選択した 3回のコール音の後、ハルヒが出た 「どうしたの?あんたがこんな早くに起きてるなんて珍しいわね」 俺は昨日考えておいた話をそのまま喋る こういうのはあんまり好きじゃないんだが… 「実はだな、妹と親が映画に行く予定だったんだが…熱がでてな」 「どうしたの?もしかしてデートのお誘い?」 すごいなハルヒ お前、本当は超能力者じゃないのか? 「まぁそんなところだ。どうだ一緒に行かないか?」 と言うと、数秒あいてから 「ほ、本当に?それじゃいくわ!何時に何処集合?」 向こう側のハルヒはかなりご機嫌のようだ というかハルヒってこんなに素直だったか? もっとこう…俺に対しては嫌味っぽいというか… これがみんなの言っていた俺に対しての好意なんだろうか… ここまで明確なら、俺でも分かるんだけどなぁ… まだ自覚が無さ過ぎる… 「そうだなぁ…じゃあいつもの駅前に10時くらいでいいか?」 「10時くらいじゃなくて10時よ!遅刻したら死刑じゃ済まないわよ!」 そう言って会話は終わった 俺はため息を吐き出しつつ、受話器を置いた この会話は嘘が多いい… まず、妹は熱なんてでていない 今も雄の三毛猫とじゃれている それに映画のチケットも古泉が用意してくれた しかも現金で2万も渡してくれるとは… 古泉いわく「男性は女性をエスコートして当然ですからね。お金が足りないなんてもってのほかです」 また、足りなくなったらすぐ言って欲しいとのことだった というかお前、この現金の入手経路とかって大丈夫なんだろうな… それにな古泉、もしかしたら俺の私欲で使い切ってしまうかもしれんぞ 今回の作戦は朝比奈さんも長門も古泉も来ないらしい 古泉か長門くらいは見張りに来ると思ってたが… なんでも相手が人間…ハルヒだからな 俺が困ってたって対処なんかできやしない… というか手助けはしない方がいいらしい… あくまで、自然な結びつきがベストだとのことだ つまり、今回は俺の意思を尊重するらしい… 下手をすれば世界は…というか俺のせいで『世界が変わっちゃいました』なんて絶対に嫌だからな そんなことになったら古泉がぐちぐちと文句をたらしてくるだろうし、謎の生物に遭遇して遊ばなくちゃいけなくなる 俺はそんなこと断固拒否だ 拒否出来んのなら是非、誰かに譲ってあげたいね 俺は適当に朝食を済ませ、時計を見た 今丁度9時… ゆっくり着替えて家を出ても十分間に合う時間だ 俺は身支度を済ませ、昨日古泉が用意してくれたチケット2枚を持って家を出ようとした 「キョンくん、もう起きてるの~?」 パジャマ姿の妹が出てきた そうだよ 俺は今から出かけるんだ それもデートだ いつかのみたいに小学生じゃないから まぁデートに行くなんて行ったら、後ろから着けて来そうだからな ここは適当に誤魔化さないとな 「ちょっと買い物だ。欲しい本があるからな」 と言うと 「それじゃあおみやげ買ってきてねぇ~」 とシャミセンで腹話術まがいをやってみせた 俺は適当に「はいはい」と流し、自転車に乗った 駅につくと、我らがSOS団 団長の涼宮ハルヒが仁王立ちでこっちを睨んでいた 俺が自転車を置いて、ゆっくり歩いて行くと 「遅いッ!なんでレディーを待たせんのよ!」 とハルヒが詰め寄ってきた 「いや…まぁこんなに早く来るとは思ってなかったんでな」 と言いつつ、笑って誤魔化したが 「私より遅かったんだから罰金よ!罰金!」 結局罰金かよ… その後、映画の始まる時間まで2時間近くあったため、いつものファミレスに入った もちろん俺のおごりらしい… まぁ金は大丈夫なんだがな ハルヒはパフェとカフェオレを頼み、俺はチーズケーキとコーヒーを頼んだ 「あんた、コーヒーなんか飲めたの?」 いや、コーヒーくらいは飲めるぞ 「そう、まぁ高校生にもなって苦いなんて言ってたら味覚がおかしいわよねぇ」 あー、俺はまだブラックなんぞ苦くて飲めないんだが… デザート類はすぐ運ばれてくる 注文して5分も経っていないのに、ドリンクとデザートが揃った 「うん、まぁまぁじゃないこのパフェ」 ハルヒは感想を述べている 安いパフェではあるが結構なボリュームだ 「結構な量だが、食べきれるのか?」 「大丈夫よ。それよりあんたのちょっと貰うわね」 と言い、俺のチーズケーキをかなりカットして口に運んでいった おいおい、俺まだ食ってないんだぞ というかちょっとじゃないだろ と細かく突っ込もうとしたが、なんとなくそんな気にならなかった なんでだろう…今日のハルヒはいつもよりご機嫌に見える いや、いつも元気はいいんだが… にこにこ顔でチーズケーキを頬張っている なんだか、見ているこっちも微笑ましくなってきた 「何?人の顔見て笑うなんて変な趣味ね」 どうやら顔が少し緩んでいたようだ 「あー。お前の食べっぷりがあまりにいいんでな。少し関心してたところだ」 「そんなとろこに関心しなくていいのよ」 と言い自分のパフェを楽しみだした 結局2時間もだらだらと会話を楽しみ、ファミレスを出た もちろん俺のおごりだ しかしそのくらいじゃ俺の財布はびくともせん 今の財布は豚の如く肥えてるからな 俺たちは今日のメインである映画館にやって来た まだ上映まで15分ほどあるが、丁度いい時間だろ 俺は二人分のチケットを受付に私入場した 適当にポップコーンでも買おうかと思ったが、ハルヒはいらないらしい 俺はハルヒの分と自分のコーラを買い、席についた 位置は丁度真ん中の真ん中 つまり映画を観る位置じゃ首も疲れなく、観れる位置だ 一度だけ一番前で観た自分なら分かる あの2時間たった後の耐え難い肩と首のこりは1500円も払ってまでして食らいたいものではない 「映画なんて久しぶりよ。中学生以来かな?」 なんだ SF映画ばっか観てると思ってたのに 「何言ってんの?映画なんてただの作り物でしょ?なんのリアリティーもない映画なんて観る時間が勿体無いくらいよ」 とスパッと言い放った だったらなんで俺の誘いにのったんだ 「だって…映画の券が勿体無いでしょ?キョンの親だって妹だって、無駄に捨てちゃうくらいなら使ってもらった方が嬉しいに 決まってるじゃない」 まぁそれはもっともだな と言ってもこれは親が買ったわけでも妹が買ったわけでもない 超能力者古泉がどこからか引っ張り出してきたチケットだ ちなみに入手経路は本当に分からん 偽造チケットなんかじゃないだろうな… ブーッという音はもう鳴らず、いきなり映画のCMが始まった もう上映の合図の音が鳴る映画館というのはないのだろうか… 延々続きそうな映画紹介が終わり、本編が始まった 内容はものすごく単純 簡単にまとめると… 強い男がいて、その近くにヒロイン的女性がいる んで、二人がSFチックな紛いごとに巻き込まれて… 女性大ピンチ!男が必死になって救出! 最後は結局ハッピーエンド… まるでこの手の映画を探したら何本出てくるのやら… 内容はまるっきり… というかアクション映画の王道過ぎて、どこまで真似物なのか分からん 最近のCGとかの技術はすごいもんだ…という感想くらいしか思いつかず、頭の中では『B級の上』程度に収まった ハルヒは映画が終わるなり 「あんた…こんな映画…妹が観たいって言ってたの?」 いや、妹は… 「あー。親父が観たいらしくてな。それでついでに妹も…ってことで2枚買ったらしい」 「ふ~ん…でも何かあれね。どっかで観た感じ。もうアクション映画なんて見飽きるからね。 でも最近の技術ってすごいわね。爆発とかかなりリアルだったじゃない」 まぁそれなりの評価らしい 少し安心だ 「でも…評価するなら…『B級の上』くらいじゃない?」 と俺の目の前で人差し指を立てて、言った 全くもってその通り というか俺の考えを読むな 本当に超能力者かお前… 無事映画も終わり、時間は午後2時 丁度腹も空いていたので、どこかによることになった と言っても中々良い場所がない ハルヒも 「もうどこでもいいわ。私お腹空いてきちゃったし」 と言うので、近くのファミレスに入った いつも集まっているファミレスとは違うファミレスだ まぁ大して変わらないのだが、ここは大きなドリンクバーがあって、最初にドリンクを頼めば飲み放題らしい 「飲み放題っていいわね!駅前のファミレスもここと同じことすればもっと売り上げが上がるのに」 いや、そんなことしたらあそこが俺たちの部室に変わってしまう 毎日毎日5人が来て3,4時間も…だらだらと飲み物を消費されたんじゃあ、店側の利益も下がったりだろう ハルヒと俺は和食セットとドリンクを頼んだが 「私と同じの頼まないの。あんたは違うのにしなさい」 と言われ、ドリアセットに変えた 飯くらい好きな物食わせろよ… 俺がドリンクバーに飲み物を取りに行こうとすると 「私お茶でいいわ」 お前俺に行かせる気かよ 「当たり前でしょ。団長だもん」 今は部活中じゃないぞ お前の団長命令は無効化だ と言わず、俺はお茶の入ったカップを2つ持ってきた 「ありがと」 と言ってハルヒはお茶をごくごくと飲む 数分経ってから、和食セットとドリアセットが運ばれてきた ここは注文してからも結構早く運ばれてくるな 案外ここの方が駅前のファミレスよりいいかもしれん ドリンクも飲み放題だし さっそくドリアを食べようとすると 「私もちょっと食べたいわ」 と言い、俺のスプーンを取り上げ、ドリアを一口食べた だから、勝手に食うなって…俺まだ一口も食べてないんだぞ 「熱ッ!」 と言い、はふはふと口を動かしつつ、スプーンを返してきた 「うん、結構おいしいじゃない」 感想を述べ、自分の料理に手をつけ始めた まったく…と言い、俺はドリアを食べ始めた …たしかに熱い…少し冷まさないと火傷するな… 一口だけ食べてスプーンを置くと、ハルヒがこちらを見ている どことなく頬のあたりがほんのりと赤い 「どうした?」 「い、いや…なんでも…それより食べないの?」 少し動揺気味のハルヒ なんだ 俺何かしたのか? 「いや、熱くてな。もう少し冷めてから食べる」 「そ、そう」 ハルヒはそう言うと、顔を下に向け和食セットを食べていった 結局俺とハルヒは食事が終わるまで全く会話がなく、俺が話しかけても 「そう…」「うん…」 程度に、あいづちくらいしかうってくれなかった なんだよこの空気 俺何かしたのか? 食事を済ませ、ファミレスから出る まだ、うつむいてるっぽいハルヒに 「どうした?大丈夫か?」 と話しかけると 「何が?別に何もないわよ。それよりどっかに行きましょ!」 と言い、ズンズンと歩いていく なんだあれは…訳が分からん その後、近くにあったゲームセンターにより、適当に暇を潰した 格闘ゲームやレースゲームでハルヒから挑戦を受けたが、見事に惨敗 こいつ、勉強だけじゃなくなんでも出来るのか… 俺にも何か一つくらい才能とやらを分けてもらいたいね 一通りゲームをすると、ハルヒがUFOキャッチャーがやりたいと言いだした さっそくハルヒがコインを投入し、挑戦してみるが…あっけなく失敗 その後5回も挑戦するものの全て失敗 というか一度も人形をつかめていない どうもさっきからやたら大きい人形を狙っているよだ だが普通に考えてあんな大きい獲物は無理だ だが6回目もハルヒはそれを狙っていた 見るにみかねた俺が「一回やらせてくれ」といいコインを投入 ハルヒが 「そこのおっきいのよ!それよそれ!絶対それよ!」 耳元でがなり声を上げるな 俺はハルヒの指示通りでかい熊の人形を狙う が、これは確実に無理だ アームだってさっきから見てたが弱すぎるだろ が、アームが上に上がってくると、うまく熊の手を絡めとっていた こんだけでかい人形がこうもうまく引っ掛かるとは思っていなかったのでびっくりしていたが見後ににキャッチ しかもそのまま落ちず難なく手に入った 「やるじゃないキョン!さすがね!何か新しい階級を与えないといけないわね!」 と大喜びしながら熊を抱えるハルヒ ああ、是非とも新しい階級が欲しいね もう雑用係はごめんだからな 俺の取った熊に大満足で笑みを浮かべるハルヒ なぜだろう…いつもは見慣れないからか、ハルヒの笑顔を見るとドキッとしてしまう 今日の俺は変だな… やはり昨日の古泉や長門の発言のせいだろう… ハルヒは熊の人形を両手で抱えながら俺の隣を歩いている 時間は5時… もうすることもなくなったし適当に散歩だ 俺たちは何気なくあの通りに来ていた 初めて朝比奈さんが自分の正体を明かしたあの場所だ 俺は近くのベンチに座り、昨日のまとめた考えを浮かべていった デートが終わった後、俺はハルヒに告白をする これだけだった… でも不安だった… 俺はノリで人を好きになんてなる方じゃない むしろ好きになったとしても告白なんてな… そんな度胸は持ち合わせてはいない それに俺の中では、ハルヒへの想いがまだ決まっていなかった だが、ここで俺がハルヒと付き合わなければ… 世界は必ずと言っていい 変わってしまうのだ 平穏な生活が砕かれ、未知の世界へと変貌を遂げてしまう… 俺はそのことを肝に命じ、どう告白をしようかと考えていた すると突然 「何か来たわよ…」 とハルヒが言う 俺が顔を上げると、にたにたと笑う谷口と国木田がこっちに歩いて来ていた やばい、やばい… こんな状況を見られたら…いやそれは別にかまわん… いや…そうじゃなく…あいつらが来たら告白なんて不可能だ…絶対無理だ… 頼むからどっかに消えてくれ…と願ったが、その願いも虚しく二人が目の前まで来た 「キョン…お前コイツと付き合ってたのか…?」 唐突に谷口が言う お前、あからさまに楽しんでるな 内心かなりムッとした まぁ今から告白するところだったんだが だいたいなんでこっちに来るんだよ 「あんたには関係ないでしょ。どっか行ってよ」 いきなりハルヒが谷口に向かって言った 少し怒っているようだが… 「おいおい、涼宮がマジになるってことは…」 谷口は手を口の前に持っていき不敵な笑みを浮かべている お前は中学生か あからさまに俺とハルヒが一緒に居ることを楽しんでいる その笑みは微笑ましいというより、変わったものを見て楽しんでいるような感じだ …お前はそんなにハルヒが嫌いなのか? 俺は思わず 「お前は関係ないだろ」 と言うと 「おやおや、キョンまで怒るのか?…あ、それとも今から告白するところだったか?」 こいつ…なんでこんな時に鋭いんだよ… いっつも馬鹿みたいな考えしか持たんくせに… 「まぁまぁ、そうだったら僕達はお邪魔みたいだし、そろそろ帰ろうよ」 と国木田が谷口を静止させよとする 「キョン、言っとくが涼宮は変わり者だぞ。前も言っただろ?」 谷口がそう言った瞬間、俺の中で何かが弾けた なんでお前が変わり者なんていうんだ? 変わり者? ああ、そうだ ハルヒは確かに変わった女子高生だろう 自己紹介で『宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさい』と言うくらいの筋金入りの変人だ そう変わり者…だから? だからどうした? そんな発想があるだけいいじゃないか 少なくとも谷口 お前はそんな夢のある考えを持っているのか? いつもいつもハルヒの行動にケチをつける割りにはお前は何かしているのか? そりゃ周りから見ればただの奇行かもしれん… でもな、お前のようにへらへらしてるだけの女好きにそんなこと言う資格なんてないだろ? それにな、俺はハルヒと一緒にいる今が一番楽しいんだよ! それを何もしていないお前に言われるのは腹が立つんだよ なんで自分のやりたいことをやってる人を馬鹿にするようなことを言うんだ 何もしない人間が何かをしている人に対して愚痴をたれるのはいかなる場合であってもいいはずがない それを本人の前で言うなんてもってのほかだ お前のようなやつがハルヒのことを悪く言うのは許せんぞ 俺がそう考えているうちに、勝手に体が動いていた 今、考えていたことが声にでていたのかは分からない… だが、今俺の目の前には顔をゆがめている谷口の顔があった 俺は今谷口の首元を掴み、目の前に引き寄せている そして右手が拳を作り、今にも殴りかかろうとしていた 「ちょ、キョン落ち着いて」 国木田が静止させようと俺の左腕を掴んでいる 俺は…谷口を殴ろうとしていた? 「ッ……」 谷口が俺の手を振り払うと、国木田に引っ張られ、去って行った その後ろ姿を呆然と眺めていると、 「えっと…その…」 ハルヒが何かを言おうとしている… 「ごめん…帰る!」 と言い、ハルヒがベンチから離れ駆け出した 「おい!ハルヒ!!」 と叫んだが、ハルヒは振り向いてもくれずそのまま去って行った 一人自宅へ帰り、部屋に戻った… あれはよくなかったかもしれない… だがあまり後悔はしていない というか殴ってやるべきだったろうか… 谷口がハルヒを馬鹿にした それが俺の勘に触っただけだ そしてさっきの考えと行動をまとめ…俺は自分の思いに気がついた 『ハルヒのことを好きになりつつある』 いつもいつも周りのことを考えず、半場やけ気味になっても突っ込んでいく 俺も朝比奈さんも長門も古泉も… 全員がハルヒの思いつくがままに動いてきた たまには、本気で嫌になったり、こんなことも楽しいじゃないか、とも思ったり… 俺もハルヒに会って色々と変わったのかもしれない 俺がもし『曜日で髪型変えるのは宇宙人対策か?』とあの日話しかけなかったら… 今頃、谷口と国木田で馬鹿三人組みになっていただろう それに朝比奈さんにも、長門にも、古泉にも会わなかっただろう だから今、俺がSOS団に所属しているのは本望なのかもしれない だらだらと過ごす毎日 ただそれが、4人といるだけの生活が当たり前の様になってから気づいた この非日常的な『当たり前』こそが俺の望んでいた高校生活なんじゃないか? 巨大カマドウマに襲われたり、クラスメイトに殺されそうになったり…未来に飛ばされたり… こんな非日常が楽しい…そんな気持ちがどこかにあったんじゃないか? そして、昨日の長門と古泉の発言で、俺はまた変わってしまった 『涼宮ハルヒはあなたに恋愛感情を芽生えさせている』 『涼宮さんはあなたのことを気にしています』 この二言で十分だった 俺は今日一日、ハルヒの見方が変わった あいつの何気ない笑顔、褒めるとそっけなくする態度 そんな仕草が愛らしく感じれるようになっていた… いや、今気づけばずっとそんな感じだったのだろう… ハルヒが俺に向ける笑顔… 今思い出せば、俺はハルヒの思いに気づいていたのかもしれない… だが、気づいてしまえば日常が変わってしまうかもしれない… そんな思いがどことなくあった気がする… でも、そんな思いでは終わらせない 俺は世界を救うためではなく、自分のためにハルヒに告白をする 勝手かもしれんが、これは譲れんぞ 文句があるんなら出て来い 俺は何がなんでも自分の意思でハルヒに告白するからな 俺は一旦風呂に入り、自分の考えをまとめていった まず、俺はハルヒに連絡を取らなければいけない… 風呂から上がった俺は、すぐさまハルヒに電話を掛けた 何回かコール音がなって『留守番電話サービス』が流れ出した 一度切り、もう一度掛け直す …だが、ハルヒは出てこない… なんでだよ 俺は古泉に電話を掛けた コール音が一度鳴る前に古泉の声が聞こえてきた 「どうしたんですか?何かあったんですか?」 俺は古泉に分かる限りのことを説明した 「そうですか…」 と力なく声が返ってきた 「実は組織の者が涼宮さんを目撃しているんです。少し元気の無さそうな顔で家へと帰って行ったようですが…」 「そうか…」 でも何故俺の電話に出てくれないんだ? 「分かりません…でも、電話に出てくれない以上会うしかないでしょうね」 「会うって…今すぐか?」 俺は窓の外を見る とっくに日は沈んで空を黒い雲が包んでいる 「今日はもう遅いですからね…明日にした方が懸命でしょう…」 俺はその言葉を聞き、ため息をついた 俺は何をしてしまったんだ… ただハルヒのことを思って… 「あなたは今自分の気持ちに気づいているんでしょう?」 ああ、お前らのおかげでな 「だったら簡単な話です。あなたがちゃんと自分なりに想いを伝えればいいだけのことです」 こいつ、そんなことさらっと言うなよ… 「今から涼宮さんの自宅の住所を言います。明日必ず涼宮さんに想いを伝えてください」 お前…いつハルヒの家なんか調べたんだよ 「そんなこと、転校してくる以前から知ってますよ」 「それで、直接会うのか?」 「当たり前でしょう。電話に出てする告白なんて意味を成しません」 そりゃ…電話で言う気はなかったが… 「明日の行動はおまかせします。ですが、間違ってもいつものように嫌味っぽく言ってはいけませんよ」 俺はそんなに嫌味っぽく喋ってるのか? 「いえ…明日くらいは涼宮さんを女性として見てあげてください」 そんなこと言われなくても分かってる 「そうですか…それじゃあ住所を言います」 そう言って古泉はハルヒの家の住所を言っていった 俺は机の近くにあった紙に住所を書いていく ハルヒの家は案外遠くなく、自転車で30分も掛からない場所だった 「私から言うことはもう何もありません。あとはあなた次第ですよ」 俺は「ああ」とだけ答えを返した ベッドに仰向けに倒れ込み、俺は考える もしかしたら俺の告白で今までの日常が全くの別物になってしまうかもしれない… 告白とはこんなに自分を追い詰めてしまうものなのか…と思ったが、あいつに想いを伝えることができればいいんだ 駄目なら駄目 新しい世界を満喫してやろうじゃないか どっちにしたって俺はお前の近くにいてやるぞ 次の日、目が覚めたのは午後3時だった 空は異様なまでに分厚い雲に覆われている 夜中まで色々と考えていたからだろうか…頭が重い… だが、今日は必ずしないといけないことがある 世界のためでもあるが、俺のためでもある 『ハルヒへの告白』 俺は身支度を済ませ、ハルヒの家へと向かった 色々な考えが頭に浮かび上がってくる 告白した後はどうなるんだ… ハルヒはどう答えてくれるんだ… もし駄目だったら… そうこう考えているうちに着いてしまった 2階建ての家 なんとなく俺の家の形に似ているような… 俺は深く深呼吸をし、扉の前へと向かった 大丈夫…落ち着こう、俺 そう言い聞かせ、俺はチャイムを押した 誰か出てくるまでが異常に長い… 早く誰か出てくれ… 俺は掌に汗を握りつつ、ひたすら待った まるで何十分も経ったのかと思うほど長い間 尋常じゃないくらいの心音が体中に響いていく すると、突然扉が開いた 出てきたのはハルヒだった 俺の顔を見て、一瞬驚いていたがすぐ目を逸らし 「何よ。ってかなんで私の家知ってんのよ」 と小声で喋っている 「少し、大事な話があるんだが…いいか?」 と聞いてみる ハルヒは下を向いたまま… 少しくらい目を合わせてくれよ… 本当に大事な話なんだ… ハルヒはそのまま数十秒黙ってから… 「今忙しいから…」 と言い、勢いよく扉を閉めた 「ハルヒッ!!」 大声で呼んだが、もう遅かった… ガチャッという音とともに扉の鍵も閉められた… 悪態をつくしかなかった 自分の自転車を蹴り、自分の不甲斐なさに腹が立った… 俺がハルヒに何かをしてしまったのかは分からない… でもあいつを悩ませるようなことを俺はしてしまった そんな自分にどうしようもなく腹がたち、それすら覚えていないという自分に自己嫌悪の念がのし掛かってきた でも、悩んでいてもしょうがない 俺はハルヒに電話を掛けた だが、何度コールしてみてもハルヒは一向にでようとしない 仕方なく古泉に連絡を入れると 「分かりました。僕からも掛けてみましょう」 と言い、一旦切られた と同時に雨が降り始めた このくそったれが… 思いっきり追い討ちじゃないか っていうか雨なんか降らないでくれ…振られたみたいで…やりきれなくなる… 数分後、古泉から着信がきた 「駄目でした。僕からの連絡に出てもらえません。一応朝比奈さんと長門さんにも頼みましたが、駄目でした」 そんな…俺以外のみんな連絡すら受け付けてくれないのか… 「俺は…何をしたんだろう…」 「それはあなたにしか分からないでしょう…」 古泉はため息をつく… 「今のところ閉鎖空間は消えています。たぶん昨日のあなたが涼宮さんに何らかの影響を与えたのでしょう。 今涼宮さんはSFの小説を書いていませんし、創造も全くしていません」 そうか… 「ですが、このままではいけません…」 「どういうことだ?」 「今、涼宮さんは精神的にかなり不安定な状態で留まっています。このままならまだ大丈夫なのですが、 このままの状態を保つことはできないそうです」 出来ないそうです?って誰が言ってたんだよ 「さっき長門さんに聞きました。長門さんによれば、今涼宮さんは閉鎖空間をすぐにでも作れる状態にまできています。 簡単に言うと、コップにいっぱいの水が入っている状態です」 例えが良く分からんぞ ちゃんと説明してくれ 「ですから、そのコップに入っている水が涼宮さんの…今は何か分かりませんが、 まぁ『憤りや悩みの塊』のようなものだと思ってください。これが今ふちいっぱいまで溜まっています」 だから? 「この中の水が溢れなければ、それでいいんです。ですが、あなたと今度会った時、あなたの行動によっては…その水が溢れ出します。 つまり閉鎖空間が作られることになります」 「でも、閉鎖空間が出来たとしても、お前ら超能力者が処理するんじゃないのか?」 「そうです。ですが、今回は訳が違う。長門さんによると次の閉鎖空間が発生するのは地球全体規模なんです」 地球全体? 「つまり、地球全体に閉鎖空間が出来てしまいます。そして…」 古泉がここまで喋って一旦間をおいた そして 「私たちでも片付けきれない神人が出現する可能性があります。そして対応できなくなった神人が…現実世界に現れるでしょう」 おいおいおい、いくらなんでもそりゃないだろ あんな神人のオンパレードなんかされたら半日で地球は穴だらけだぞ 「どうやったら止めれるんだ?」 「神人の行動は私たちだけでは対応しきれないでしょう…もって一日…いや、二日も経つ前に…」 今俺の近くに神様とやらがいるのなら、これが全て嘘だと言って欲しい 「じゃあ、逆にその水を取り除くことだって可能なんだろ?」 「たしかに出来るかもしれません…ですが、あなたは何故涼宮さんが悩んでいるのかが分かっていないのでしょう?」 そうだ… 俺はハルヒが何故あの日帰ってしまったのが分からなかった… ただ必死に谷口に迫っていって… 「あなたが涼宮さんの『憤りや悩みの塊』の元であるそれを思い出さない限り、難しいかもしれません… とにかく明日は必ず学校へ来てください」 当たり前だ こんな気持ちのまま終わらせるつもりはない 絶対にいつもの日常に戻してやる そして俺の想いを… ハルヒ、お前に伝えてやる 次の日、俺はいつもよりかなり早く学校へ来た 何故か、鍵は開いているのだが教室には俺一人だけ 一人席につく そのまま外を見つめ呆然とする ハルヒが来ないと何もできないからな… しかし、いくら待ってもハルヒは来ない クラス全員の椅子が埋まり、そろそろ担任が来る時間だと言うのにハルヒは来そうにない… 結局ハルヒは来ず、岡部が入ってきた… 一体どうしたんだよ ハルヒ… 俺はふと、自分の机の中にあった紙に気づく 小さくて気づかなかったが、どこかで見たことのある字だった 『今日、午後5時 屋上に』 たったそれだけ… いつも書く字とは違い、少し丁寧な字… あいつの字がノートの切れ端に書かれていた 俺はその紙を見てから何度も今までのことを思い出していた SOS団が出来てから… そして今日までのことを… 気づけば、午後の授業が終わり、皆下校している時間になっていた どれだけの間呆けていたのだろう… 俺はあの切れ端を一度見たあとポケットにしまい、屋上に向かった 屋上の扉を前にして時計を見る ちょうど5時… ふぅっ…と息を吐き、自分に言い聞かせた 『俺はハルヒに想いを告げる』 もちろん自分のためにだ 世界のことなんか俺にはどうでもいい 俺は屋上への扉を開けた 夕焼けをバックに、仁王立ちでこっちを見ていた 「ぎりぎりセーフよ」 と言い、俺の前までやってくる 表情はどことなく寂しげだ 「あんた…怒らないの?」 なんで?俺が怒るんだ? 「だって…私、電話出なかったでしょ?」 「ああ、でも怒るほどのことじゃないだろ?」 「そう…なの?」 とハルヒは少し表情をくずした 「実はね…ずっと悩んでたのよ…あんたの言葉を聞いてから…」 俺の言葉? 「そうよ…正直、びっくりというか…」 そう言ってハルヒは俯いた ちょっと待て? あんたの言葉って…何かいったのか?俺 「何って…谷口に言ってたでしょ?」 「ハルヒ…俺何か言ってたか?」 その言葉を聞いてハルヒは 「あんた自分で言ったことも覚えてないの?私のことを変わり者って言った後、あんたすごい顔で谷口に言ってたじゃない! なんか…その…私のことを…」 ハルヒはかなり本気で怒っているようだが…後半はまた俯いてしまっている 谷口に…言った? あの時の…全部…声に出てたのか? 「ハルヒ…あー…どこらへんまで覚えてるんだ?」 と不安げに聞いてみると 「全部に決まってるじゃない!!あんたがあんなこと言うなんて思ってもみなかったわよ!!」 あんな台詞を全て口に出してたなんて信じられない 俺は熱くなると、そんなに思考が回らなくなる人間だったのだろうか… いや…頭は回ってたんだ… 後悔しつつ、思っていたことを既に言ってしまっていた自分が恥ずかしかった 「でね…私…どうすればいいのかなって…結局答えが見つからないであんたを呼び出しちゃったんだけど…」 ハルヒが今まで見たことのないような表情で俺に言う 「私はね…あんたのことが好きだったのよ」 突然の告白…に俺は驚く 「最初はね、私に空気みたいに一緒についてくれててさ。どんなわがままを言ったときだっていつも一緒に居てくれた。 本当に頼りになるなって…中学校じゃそんなやつは一人もいなかったからね」 「でも、キョンは違った。いっつも文句言いながら私の側に居てくれる。ひどいことをしたって許してくれる。 そんなキョンがあの日…階段から落ちた日…私は本気であんたの心配をしたわ」 「自分でもびっくりするぐらい。何故かキョンを失いたくないって…思ったの…でね、気づいたらキョンのことが好きだったのよ」 あの日俺が階段から落ちた日… 古泉によれば、ハルヒの焦りようは尋常じゃなかったらしい 「でも…キョンはいつも私の行動に文句をつけてたでしょ?だから告白して付き合えるなんて思えなかったの」 それは違う…俺は… 「それに…もし告白したら、今までの日常が壊れちゃうんじゃないかなって…」 …ハルヒは…俺と同じことを悩んでいたのか…? 「キョンが一緒に居てくれるのは嬉しい。でも、今のみんなで街を探索したりする…何気ない活動も楽しくて仕方が無かったの… だから…告白も出来ないくらいなら…そんな気持ちを忘れたいって思うようになったの…」 「でもね、昨日のキョンの一言で私の考えが変わっちゃったの。好きって気持ちを忘れようとしてたのに… あんたのせいで…しかもあんなこと言うなんて思わなかったし…」 「だから勝手に…その、びっくりしちゃって…顔なんか合わせられなかったのよ…」 ハルヒはここまで言い切って、ふぅと息をついた ハルヒがここまで俺のことを想っていてくれた… 驚いていたが、物凄く嬉しかった… それに俺は答えたい…お前の告白に… そして、俺の想いを伝えた 「俺はな、お前のこと好きだとは思ってなかったんだ」 その言葉を聞いてハルヒがこちらを向く お前…もう涙目になってるぞ… 俺は落ち着いて続きを言う 「最初は…変わってるなぁ…としか思わなかったんだ…それにいきなりSOS団だって立てちまうし… あまりにも突然過ぎる行動が多かったんだよ」 さらに不安げな表情になっていくハルヒ 大丈夫だ 安心してくれ 「けどな、俺もお前と同じで非日常的な生活を望んでたんだよ。そしてそれを叶えてくれたのがハルヒ…お前なんだ」 その言葉にキョトンとした顔をこちらに向ける 「お前の行動はいつも突然で、おかしいことばっかりだった。でも、お前と一緒にいるとそれが楽しくて仕方が無かったんだ。 だから俺はいつもSOS団に顔をだしたし、お前がバカなことやってたって味方だったんだ」 そうだ…俺は今の生活が楽しくて仕方が無かった 「でも、俺は自分の気持ちに気づかなかった。いつもお前といることが楽しいと感じているだけだと思ってたんだ… でも違った…俺はいつからかお前の気持ちに気づいていた…気がする…」 「俺はお前の笑った顔にびくついてたんだ…なんでお前の笑顔を見てこんな気持ちになるのか分からない… だから頭の中で必死に言い訳を続けたんだ。『ハルヒが笑っているだけだ』と…俺がお前に恋心とやらを抱いているんじゃないと… そうやって、俺はお前の想いから逃げてたんだ」 「けど、俺はお前の前で無意識にあれだけのことを言ったんだ」 あれだけのこと… 自分で言えば、分かって当然だ 俺はハルヒへの想いを必死になって隠していた 「でも、もう隠すのは嫌なんだ。だから…」 そこまで言って、黙ってしまった… 俺…続き言えよ… ラストだぞ ラスト 『好きだ』って言えばいいんだって… 目の前のハルヒが顔を真っ赤にしている 「えと…その…」 ハルヒも何かを言いたげにしている… あと一言だ あと一言 そして目をつぶり深呼吸をした瞬間あの一言を言った 「俺は… 「私は… その言葉に俺とハルヒは絶句 なんてタイミングなんだよ 俺は狙ってやってないぞ…だいたいそんなに器用なことはできん 二人の言葉が重なるなんて… おいおい…こんなことはドラマの中だけで十分だろ… 俺はハルヒの前で思いっきり深呼吸し 「えっと…ハルヒ聞いてくれ」 唐突に口を開いたが、 「ちょっと待って、私が先よ!私に言わせなさい!」 と、ハルヒに発言の権を取られた ハルヒは俺のネクタイをわしづかみ顔の前まで引き寄せた 顔を真っ赤にした、涙目のハルヒ 思わず『可愛いよ』と言ってやりたいところだが、今はハルヒの一言を聞こうじゃないか さぁ、ハルヒ 思いっきり言ってくれ 「私…あんたのこと好きだから」 言ってしまった… ハルヒはそんな顔をしながら俺の顔を見つめる だが、ネクタイは離してくれない 俺は少し腰をおったままの姿勢で言ってやる 「俺もだ…俺もお前のことが好きだ」 そう言った瞬間、ハルヒは声を上げて泣き出した それも泣き方がすごい… お前、どんな泣き方だよ… ああ…鼻水でちゃってるし… 俺はハルヒを引き寄せて、腕で包み込んだ 俺の胸あたりで、子供がぐずるような声をだしつつハルヒが泣いている 胸元がじんわりと暖かくなっていく そんな姿がとても愛おしく感じられる ああ…なんか最近俺の思考が変になってきたな… おかしいぞ 俺 どのくらい泣いていたのだろう… ハルヒは顔上げて何か言いたげにしている 「どうした?」 と聞くと 「びっくりして…ちょっと…」 照れくさそうに笑うが涙でてるぞ あと鼻水 ティッシュが無いので、制服の袖で鼻を拭いてやる そして、少し落ち着いてから 「あんたがそう言ってくれるなんて…思ってなかったから…」 「でも、そう望んだんじゃないのか?」 ハルヒにはその力がある 願えば、そんなことは簡単に叶ってしまう だから俺はハルヒにちゃんとした答えを出してあげられた… いや、でもこれは俺の想いだ ハルヒが想ったからじゃなくて、俺が勝手にハルヒを好きになっただけ そんだけだ ハルヒはひたすら泣いている なんだが俺が泣かせてしまったようで…たしかに俺が泣かせてしまったんだけど… 俺はハルヒの肩に手を置いた そして、おでこにキスをする ハルヒは…まるでバカを見るような目で俺を見ている あー… やっちゃったよ 俺 これもあれか? ハルヒの想像力ってやつか? っていうかなんでおでこにしたんだよ… 普通口だろ? 「口じゃないの?」 お前、やっぱり超能力者だろ… なんでそうやって俺の考えが読み取れるんだよ… 「普通は口でしょ?」 ハルヒは潤んだ瞳で俺見つつ言った 俺の答えを待っているようだ いきなり指摘される…やはり照れる… 俺がどうしようかと迷っていると 唇に暖かい物が触れた ちょうど人の体温くらいの…たぶん唇だ 確証はないが自身があるぞ というか反則だ…攻撃側は俺だろ? 俺は呆けた顔でハルヒを見た 「仕返しよ。あんたにやられっぱなしじゃ嫌だからね」 と言い、意地悪っぽい笑顔を俺に向け、抱きついてきた 後日談 昨日の告白の後 ハルヒはハルヒじゃなかった 異常な程ハイテンションになるのかと思っていたが… まるで長門のようにおとなしくなってしまい 「あー。嬉しい」 と小声で喋りつつ俺をやたらと叩く その後普通に帰宅しようとしたが、 「キョン。家まで送ってよ」 とのご命令があったので、団長様を家まで送ってやった 自転車に二人乗りをしている途中 「明日からは、私もあんたの家に行くから」 とハルヒが喋りだした 「ん?」 とわざと呆けてやると 「だから!あんたの家まで朝行くから!一緒に登校!」 「はいはい。時間は?」 そんなことでムキにならんでくれ 可愛くないぞ 「そ、そう?」 「嘘だ」 こうやってからかうとすぐムキになる ちょ、痛 お前殴りすぎだ 俺はどさくさに紛れて 「冗談だ、冗談。可愛いぞ」 この一言で我らが団長は顔を真っ赤にして 「バカ…」 の一言 「明日は…7時くらいでいいか?」 「うん…」 やけに素直なハルヒもまた珍しい 俺はそう約束をとりつけ、家へと帰宅した 結局ハルヒは閉鎖空間を生み出さなかったらしい とのメールが古泉から届いていた。 ハルヒに告白してから次の日 俺はいつもより早く目覚めた まぁそれなりの目的があるからな 適当に身支度を済ませ、早々に家を出た 今日はいつもの登校とは違う 家を出るとすぐそこにハルヒがいる 「あんたってホントに女を待たせるのが好きね。その趣味直した方がいいわよ」 告白したって俺への態度はいつもとなんら変わりない というか変わって欲しくないな 「あー。まぁ今後は直すように気をつける」 俺はそう言い、自転車を引っ張り出してきた というか俺にはそんな趣味はないぞ 「だったらさっさと直してよ」 ハルヒは俺に指をさしつつ言った 今日からはハルヒと一緒に登校になる しかし何故か、ハルヒは俺と全く同じ自転車に乗ってきた 「昨日近くに売ってたからね。親に買ってもらったのよ」 って自転車まで一緒にするなよ 「いいじゃない。ペアルック?みたいなもんでしょ」 「だったらキーホルダーとかの方がいいんじゃないか?」 「まぁなんでもいいじゃない」 今日のハルヒはいつものハルヒだ こいつはこの2日間に何があったかなんて知らないんだろうな… 他愛のない会話を女の子と楽しみつつの登校… 男子学生なら一度は夢見る一時だろ 今となっちゃあのハルヒが俺の隣にいるわけだが… 俺はこれはこれで…というかかなり満足している 学校への道がこんなに短く感じたのは、生涯初めてかもしれん… 俺達は自分たちの教室へと入る 少し早く来すぎたらしく、まだ一人もいない 俺とハルヒは教室の端にある席へと座る 「今日から活動再開か?」 という問いに 「もちろんでしょ!」 と満面の笑みを浮かべた やっといつもの日常が戻ってきた でも今日からは少し違うな 俺はハルヒの彼氏になったんだし… 「なぁ、ハルヒ」 「何?」 なぜかハルヒは…俺の問いに嬉しそうに反応する 「俺、ポニーテール萌えだから」 「は?」 と呆けた顔のあと 「それどっかで聞いたことあるわよ」 「そうか?」 「たしか…夢でみた…気がする…」 それは夢じゃない…はずなんだけどな… 「だからさ、髪が伸びたらポニーテールにしろよ」 END