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#blognavi 「思川の流しびな」が2日、小山市の観晃橋下流で行われた。 読売新聞2006/07/03 全文 小山駅西口の大通り(祇園通り)の西端にあるおが観晃橋です。ちなみにもう少し下流に行くと幼い兄弟の投げ捨て事件があった場所になります。 カテゴリ [小山] - trackback- 2006年07月03日 16 24 01 名前 コメント #blognavi
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先ほどまで上ってきた道とは正反対の方向にある、広場の階段を下っていくと、狭い川が流れていた。 ごろごろと大小の岩の上を渡って川を越えると、やがて木々に囲まれてひっそりと小屋が姿を現した。 まるで隠れるように建っている古ぼけた小屋に、蒼魔は不気味な感覚を抱いた。 それは未央や響も同じなのだろう、気味悪そうに小屋を見ている。 「気をつけて」 斑鳩が三人の側で囁いた。 「思念の糸が細くなっている。どうやら正体はラルヴァで間違いなさそうよ」 「じゃあ、ラルヴァがこの噂を流したとか、噂に協力したって事なんですか?」 未央が不思議そうな顔をして言った。 授業では、人間以上の知性を持つラルヴァの存在も習ってはいたが、俄かには信じがたいのだろう。 それは蒼魔も同じだった。 わざわざ生徒達のバカらしい都市伝説に協力して、人を殺すとは思えない。 「勿論、一概にはそうとは言えない。噂の出所を確かめるなんて、雲を掴むような話だし。ただ、都市伝説やオカルトなんかの類には、非常に強い念がやどるわ」 斑鳩は足を止めて、詳しい説明を始める。 「人間の強い念はラルヴァを引き寄せたり、ラルヴァの餌として好かれやすいの。だから、私達が調査した結果ラルヴァが実際に事件を起こしていたケースはかなり多い」 「要するに、合理的に殺人がしたいのさ」 叫が、ラルヴァを馬鹿にするかのように鼻で笑いながら言う。 「自分だけで殺人をすれば、すぐさま醒徒会に消滅させられて終わり。でも、都市伝説になぞらえたり、妖怪だのオカルトっぽく振舞う事で、自分の実体を見つかりにくくできる。現に俺達の部活はそのために存在してる訳だ」 「醒徒会の人達じゃ解決できないから?」 響がそう言うと、叫はまた鼻で笑う。 「そりゃそうさ。噂や都市伝説なんてグレーな事件を解決するには、かなりの時間がかかる。その間にも人間を襲うラルヴァは発生するんだ。醒徒会の方々は見た目に派手で分かりやすいラルヴァを倒してくれるから生徒達の憧れの的だが、俺達の部活の存在なんて知ってる人間がいる事自体珍しい」 彼は一々皮肉を混ぜなければ話せないらしい。 だが確かに、忌憚研究部なんて存在は、蒼魔も高等部に入って、深赤に聞いて初めて知ったわけで……。 「まぁ、醒徒会は中等部から大学部まで広く活動してるけど、僕達は高等部だけだからね」 小金井がさびしそうに言う。 未央が意外そうな顔をした。 「研究部って、高等部にしかないんですか?」 「実際、一番噂や都市伝説の被害が起こってるのが高等部だからね。強烈な殺人が混じった都市伝説に、実際手を出したりしてしまうのはこの時期が多い」 「皆ストレスが溜まってるのさ」 叫がまた皮肉をまじえて鼻で笑う。 「さて、おしゃべりはもういいだろ? さっさと風間を助けるぞ」 そう言って、叫は小屋の数歩手前まで歩き、横に祈が並んで、二人は手をつないだ。 「何をしてるんです?」 蒼魔が若干引きながら斑鳩に質問すると、斑鳩はニヤリと笑った。 「彼達の能力よ。二人の思念波を共鳴させる事で、ラルヴァや人間の存在を探知できるの。私の思念探知は対象が一人だから、詳しい調査はできないけれど、彼達の『共鳴(レゾナンス)』はその場に居る人間が何人か、ラルヴァの種類まで特定できるし、テレパシーまでできる便利機能付きよ」 二人は手をつないだまま目を瞑り、集中すると、やがて淡い紫色の光が輪を描くように彼達の全身を囲み、無数に増え続けて広がっていった。 その輪が蒼魔の体を貫くと、蒼魔はまた、先ほど受けた思念探知と同じ感覚を覚える。 自分の臓器を除かれているような感覚。 決して心地よくはない、胸焼けがするような感覚だ。 「人体をスキャンしているようなものだから」 斑鳩はそれを良く理解しているのだろう、蒼魔に小さくフォローを入れた。 輪が小屋の中を隅々までスキャンしていく。 回転に回転を重ねて、全ての部分に輪が触れた後、やがて輪の広がりは収縮していき、二人の体に収まった。 「ラルヴァ一体、人間一体を感知しました。ラルヴァはカテゴリーエレメント反応、人間に近い場所にいます」 「憑依していると?」 「可能性は高いです」 「ふむ……」 小金井が考えるような表情で眼鏡を上げる。 「とにかく、コンタクトしてみよう。憑依タイプのラルヴァなら、近くに行かない事には退治できないし」 小金井がそう言うと、水川と月白が先頭に立ち、小屋へ入っていく。 「彼達の能力は戦闘向きなの。私や木戸君達は戦闘よりも探知向きだから、ここからは彼達の出番ね」 斑鳩は続いて入っていく小金井、叫と祈の後ろについて蒼魔達に話す。 「俺達、本当についていってもいいんですか?ここからは邪魔でしかないと思うんですけど」 蒼魔がそう言うが、しかし斑鳩はそれに答えなかった。 ただ、意味ありげな笑みを残しただけで。 小屋の中に入ると、数年は人が入っていなかったのだろう、埃が充満しており、床に積もった大量の埃がまるで雪の様に白く光っていた。 壁に面して置かれている大きな籠や鎌、棚にしまわれている工具等も埃をかぶっている。 十畳くらいの広さの物置小屋として使われていたようだ。 その小屋の奥、藁が敷かれている小さな壁際のスペースに、一人の制服女子がうずくまっていた。 「あの子……」 未央がつぶやく。 「戸田さんじゃない? ほら、A組で学級委員やってた」 戸田、という女子に蒼魔は覚えがないが、外見で深赤ではない事は分かった。 黒い髪を響や斑鳩の様に長く伸ばしている。 彼女に近づいて、小金井が優しく声をかけた。 「大丈夫ですか?」 彼女は声をかけられて初めて、ゆっくりと顔を上げる。 その表情は異様な物だった。 まるで、餌に飢えた野犬が放つような、ギラギラした光を携えた瞳。 「……仕方なかったの」 彼女は小金井を見つめてはいるが、何か別の物を見ているような虚ろな瞳のまま、小さく話し始める。 「高等部に入ってから、成績がガクンと落ちて。勉強についていけなくなって、大学部への進学が難しいって言われて。親は私を大学部に入れたいから、学級委員とかでポイント稼げって。死ぬ気で勉強もして、優等生ぶってなんとか推薦で入れって言われてて」 自分の中の、暗い、深い、憎しみを吐き出すように言葉を連ねていく。 蒼魔は非常に不快な気持ちを感じた。 まるで自分の鬱憤をぶつけるように早口で話す彼女は、蒼魔にとって気味が悪い存在だった。 「私だって、一生懸命やってるのよ。本当は皆と帰りに食堂で買い食いしたり、カラオケ行ったり雑貨屋さんめぐりしたりしたいの。でもしょうがないじゃない。予習しないと授業についてけないし、どれだけがんばっても学年五十位にも入れない。それなのに、それなのに……」 彼女はうつむいて、何かを堪えるように膝に置いていた手を強く握り締める。 頭上のあたりから、何か黒いオーラのようなものが発せられていくのが見えた。 「何で私を仲間はずれにするの。何で、私を『お堅い優等生』だとか『点数の為ならパンツも見せる女』とか言うの? 何で、私を無視するのよ! 将来の為にこんなにがんばってるのに、何で私が空気読めない人間だなんていわれないといけないの? 私はただ、皆に助けてほしいだけなのに。ただ、一緒にがんばろとか、励ましてほしいだけだったのに!」 彼女の悲痛な叫びが続くにつれて、オーラはさらに強く、濃い黒を発していく。 「! これは……まずい」 小金井が焦りながらこちらを振り向く。 「離れて、これは強力なラルヴァです!」 言われるまま、蒼魔達は入り口付近まで下がる。 戸田はこちらには聞き取れない声で、何かをつぶやき続けていた。 黒いオーラはいつの間にか小屋全体に充満し、視界を悪くさせる。 「と、東堂君」 未央が顔をこわばらせてこちらを見ている。 「どうした」 蒼魔が聞くと、未央は顔を引きつらせながら、視線を蒼魔の足元に下げる。 それにつられて足元を見ると、黒い髪の毛が蒼魔の足の間を通って伸びていっていた。 「うわっ!」 蒼魔が慌てて飛びのくと、髪はある程度の塊のまま更に伸びていき、丁度蒼魔が居た辺りから天井に向かって伸び始める。 その先端に、小さな鬼のような顔が見える。 「あれ……何? 戸田さんの髪の毛?」 未央が泣きそうな顔で言った。 その声に反応して、鬼がこちらをギョロリと見る。 「ひいっ」 未央が叫び、すくみあがった瞬間。 鬼がゆらりと、奇妙な動きをした。 「危ない!」 響が未央にタックルを仕掛け、二人は床にもつれる。 その刹那、鬼はすさまじい速度で未央が居た床を貫いた。 「きゃあっ!」 木片と埃が舞い上がる。 「周りを見なさい!」 斑鳩が蒼魔を引き寄せ、強い口調で言った。 蒼魔が見渡すと、鬼の顔は無数に存在していた。 いつの間にか壁や天井に張り付いた大量の髪の毛が、小屋全体を覆いつくさんとしている。 戸田の姿はもう見えなくなっていた。 「戦闘開始!」 小金井が叫ぶと、水川と月白が彼女に近づいた。 鬼は彼達を見ると、また先ほどの、突進前に行った奇妙な動きをする。 「来ます!」 後ろで祈が叫んだ。 鬼がすさまじい勢いで、二人に襲い掛かる。 その瞬間。 水川は右手から眩しい程の光を放ち、やがてそれは体の半分程の長さの剣の形に収束されていく。 それを一振りすると、剣の先端から発せられる衝撃波で次々と髪が切断されていった。 鬼達は本体から離され、勢いを失って床にポトリと落ちて消滅する。 「鋭利な剣(ヴォーパルソード)。彼の魔力エネルギーを剣として出現させる能力よ」 斑鳩が鬼を警戒しながら説明してくれた。 また隣の月白は、いつの間にか周囲の鬼を一掃している。 まるでぽかりと空間が空けられたかのように、彼の周囲だけが髪の毛も鬼もごっそりなくなっていた。 「月白君の能力は四鏡(フォーミュラ)といって、異次元を操る能力なんだけど……詳しくはわからないの」 斑鳩がそう説明して、蒼魔の腕を引いて右の壁付近に移動する。 丁度前方に小金井が見えた。 「仕方ないですね……」 小金井は両手を前に出して、ゆるやかな丸を作る。 そして目を瞑ると、やがて手の中で光の塊が発せられる。 「はっ!」 両手を広げると、光の塊は無数の十字架となって宙に浮いた。 「十字の浄化(ジャッジメントクロス)。広範囲攻撃型の能力なんだけど、ラルヴァにしか効かないの」 「ラルヴァ以外に使う必要なんてないでしょう」 蒼魔が小さく突っ込みを入れると、斑鳩は肩をすくめる。 小金井が右手を前に振ると、十字架は天井に、壁に、彼女が居た空間に向かってぶつかっていく。 十字架に触れられた髪の毛はまるで高熱の物体に触れたかのように急激に溶け、無数の鬼が苦しそうに悲鳴を上げた。 「す、すごい……なんか、戦闘漫画みたい」 いつの間にか隣に来ていた未央が、呑気な感想を漏らした。 しかし、消滅した大量の髪の毛は気がついたらまた伸びはじめ、鬼は無数に再生されていく。 「数が多すぎる!」 小金井がそう言って、じりじりと後退させられた。 水川や月白も処理しきれないのか、少しずつ入り口に下がってくる。 「やばいんじゃないの……これ」 未央がそこでようやく状況を把握したのか、顔を強張らせた。 「上よ!」 斑鳩が蒼魔達の体を押し退ける。 天井から突撃してきた鬼が、棚を粉砕して壁を貫いた。 「斑鳩先輩!」 三人を押すだけで精一杯だったのか、鬼と壁の間に斑鳩は取り残されてしまった。 「ちょ、ちょっと、東堂君。助けないと!」 月白達は目の前の鬼を倒すので精一杯のようだった。 蒼魔は粉砕された棚から零れ落ちた鎌を広い、髪の毛を切断しようと振り下ろす。 しかし髪はびくともしなかった。 「無駄よ! もうこれはただの髪じゃなくてラルヴァなんだから」 斑鳩が髪と壁に挟まれて身動きを取れないまま、厳しい口調で叫んだ。 「つったってどうすれば……」 とにかく蒼魔は、鎌を何度も振り下ろして髪を切断しようとする。 助かった事に、鬼は壁を貫いて嵌ってしまったようだった。 「あれは……!」 ふいに後ろから、木戸のどちらかの声がした。 振り向くと叫だった。 彼は驚いたように奥の壁、先ほど戸田が居た方向を見つめている。 視線を移すと、大量の髪の毛に絡まれて別人と化した戸田が姿を現した。 「いやあ!」 響が悲鳴を上げる。 戸田の肌は青く、目には白目しかない。 だらしなく開いた口からは、涎が首筋を通って垂れていた。 「……仕方ないじゃない……」 口から発せられたのか、蒼魔達の脳に直接問いかけているのか、とにかく彼女がそうつぶやくのが聞こえた。 「親の期待が重いの……毎日が退屈で仕方ないの……将来が不安でしょうがないのよ……ちょっとくらい、ハメを外したっていいじゃない。くだらない噂話を実際にやってみたって、いいじゃない。私をいじめてきた奴は、私を苦しめているわ。でも、私は誰も苦しめてなんてない。ただ、いじめてきた奴の名前を薪に書いて川に流しただけじゃない。なのにどうして私が注意されなきゃいけないの! どうして私が、責められなきゃいけないのよ!」 彼女の悲痛な叫びは、蒼魔の脳にガンガンと伝わってくる。 それは全員に聞こえているらしい、響が隣で口を覆い、うっすら涙を浮かべた。 「……かわいそう」 「いけない! 同情してはいけない! 取り込まれるぞ!」 小金井が響を見て、真剣な表情で怒鳴る。 蒼魔の後ろの、壁に食い込んでいた髪から枝毛のような物が飛び出してくる。 それは響の腕に絡まり、やがてどんどんと伸びて響の体を捕らえた。 「いやああああ!」 響は必死で振り払うが、更に絡まるだけだった。 しかし水川達は鬼に牽制され、身動きができない。 「やめてえーーー」 ずるり、と響の体が引きずられていく。 未央も蒼魔も彼女の体を掴むが、人間では適わない力で彼女は引きずられていった。 「助けて、助けて東堂君!」 響が必死に蒼魔の手を掴む。しかし蒼魔と未央共々、響の体は本体のすぐ側まで引きずられた。 漆黒の様な髪から、ガパリと口が開く。 中も暗闇だった。 「いやっ! いやっ!」 必死に叫んで、髪から逃れようとする。 口の中に、うっすらと深赤の姿が見えた。 「あれ! 深赤だ!」 未央が叫ぶ。 「深赤!」 蒼魔も叫ぶが、深赤はぐったりと倒れて反応しない。 「だめ……! もう……」 未央が顔をゆがめ、手の力が弱まっていくのが分かった。 かくいう蒼魔も、これ以上は握力が持ちそうにない。 「いやああ!」 響は今にも発狂しそうに、悲痛な叫びを発した。 ふいに、後方から伸びた手が響きの腕を掴む。 祈だった。 「大丈夫? 兄さんも手伝って!」 叫も軽く舌打ちをしながら、ひらりと鬼の間を潜り抜けて響の体を掴む。 「でも……どうすればいいの! このままじゃ」 未央が精一杯響の体を引っ張りながら、蒼魔に言った。 「風間が起きれば、内側からこいつを攻撃できるんじゃないか」 叫が言う。 確かに、外側からの攻撃は効いていないようなので、考えられる話だった。 「深赤! 起きろ!」 蒼魔がそう叫ぶと、未央達も続いて叫ぶ。 しかし、一向に深赤は起き上がらなかった。 「東堂君!」 ふいに壁側から声がした。 斑鳩が、壁に挟まれたまま叫ぶ。 「貴方が、なんとかするの! 貴方には力があるはず!」 「俺は一般人です!」 蒼魔はすぐさま否定するが、斑鳩はかぶりを振った。 「いつまで一般人ぶってるの? 貴方は異能力者よ! 貴方の『中』を見た時に分かった。貴方には能力がある! この現状を打破できるのは今、貴方だけだわ!」 「……やれよ。水無瀬は三人で何とか堪える」 斑鳩の声を聞いて、叫が小さく言った。 蒼魔は手を離す。 「集中するの! 自分の内側の声に耳を傾けるのよ!」 「……深赤」 自分が能力者だとは思えない。 だが、今は深赤を助けたい。 深赤を見ると、胸が熱くなっていくのが分かった。 瞳の奥まで上り詰めた熱が、頭上へと開放されていく感覚。 自分の中に潜んでいる何かが、逆流して強い衝撃を発している。 衝撃に耐えられずに、蒼魔は倒れこんでしまった。 「東堂君!」 響が叫ぶ。 「おい、もうもたないぞ!」 叫は顔を歪めて、じりじりと引きずられていく体を必死に引き止めた。 蒼魔はゆっくりと起き上がる。 しかし、体には何も変化はない。 やはり、自分は異能力者ではないのだ……。 「あっ、深赤が!」 ふいに未央が叫ぶ。 未央の視線の方向を見ると、深赤が立ち上がっていた。 だが、彼女の瞳は閉じたまま、表情は先程と全く変わっていない。 「深赤?」 未央が声をかけるが、彼女は全く反応しなかった。 蒼魔はとりあえず響の体に近づく。 すると、深赤も同じように、響の体に向かって走った。 「え!?」 未央が驚いて声をあげる。 叫が蒼魔と深赤を見比べた。 蒼魔が右手をあげると、深赤も右手を上げる。 まるで鏡のように、深赤は蒼魔の動きを完全に真似していた。 「同調してるんだ、お前に!」 叫がそう言う。 まさか、自分に本当に能力があったとは……。 「それなら……!」 蒼魔は右足を高く上げて、意識を集中させた。 すると深赤が上げた足に、柔らかな光が発せられていく。 「いける! そのままラルヴァに放って!」 祈の言葉通り、蒼魔は右足を強く振り下ろした。 深赤の右足から発せられた衝撃はラルヴァを貫き、激しい悲鳴と共に深赤が居た空間は引き裂かれた。 「うわあっ!」 唐突に引っ張る力をなくした髪が、響の体を開放し、叫達が床に倒れる。 鬼の顔は消え、髪はしゅるしゅると元の長さに戻っていった。 そして深赤もどさりと床に放り出された。 「深赤!」 未央が深赤の体を抱く。 「よくやったね東堂君。まさか君が異能力者だったとは。風間君のいとこだから、やはり異能も受け継がれていたのかな?」 「最初からあるなら使えよ、勿体ぶりやがって」 小金井が賞賛する隣で、叫が起き上がりながら文句を言う。 蒼魔は何か言おうと思ったが、声がでなかった。 心なしか足元がぐらぐらする。 視界が徐々に暗闇に侵食され、やがてぐらりと歪み……。 「東堂君!」 意識を失う直前、響の声が聞こえた。 気がつくと、保健室に運び込まれていたらしい。 隣に斑鳩が座っている。 「気がついた?」 蒼魔はゆっくり起き上がった。 「ありがとう、君のおかげで事件は無事解決よ」 「なんで……」 蒼魔はまだくらくらする意識のまま、ボソリとつぶやく。 「なんで、俺が異能力者だと?」 斑鳩は小さく微笑む。 「私の能力は、ただ対象物を探すだけじゃないわ。人間の深層意識にダイブして、無数の思念の糸を判別できる。」 「俺の中に入ったんですか。あんた、変態だな」 蒼魔は厳しい言葉を放つが、斑鳩はまるで動じなかった。 「同属嫌悪?」 それだけ言うと、斑鳩は席を立ってカーテンを開く。 カーテンの向こうでは、深赤や響、未央が椅子に座っていた。 「東堂君!」 誰からともなく近づいてくる。 「よかったあ。東堂君が無事で……」 「力を使って倒れただけよ」 ホッと胸をなでおろす響に、斑鳩が宥める。 深赤はなんだか照れくさそうに、蒼魔の前に立つと頭を掻いた。 「蒼魔、悪かったな……。オレ、不意を突かれてさ。あの子に注意したら、いきなり髪の毛がおそいかかってきたから、油断しちゃって」 「いや……お前が無事ならそれでいいよ」 蒼魔は気だるくそう言うと、立ち上がって肩を鳴らす。 「戸田さん、あの後忌憚研究部の部室に運び込まれたんだけど、しばらくしたら意識が戻って、反省してたみたい。……あのラルヴァは人の心の闇をくらう精霊タイプで、実際に人を殺したりはしてなかったの。大事にならなくてよかったね」 響が微笑みながら言った。 万事解決、という事か。 なんだか気が抜けた。 「にしても、東堂君が能力者だったなんてね。おどろきだよ」 未央が明るい口調で言う。 確かに、自分でも驚きだ。 自分はずっと、一般人だと思ってきたから。 「異能力者は生まれた時に決定されるけど、能力自体に目覚めるのは本人次第だから……。東堂君は、あまり目覚めたくなかったみたいね」 斑鳩は挑発するような口調でそう言う。 蒼魔は斑鳩を睨みつけて、否定した。 「別に、そういうんじゃないですよ」 深赤の手前、能力者を否定するような発現はしたくなかった。 「それはそうと」 しかし斑鳩は蒼魔の言葉を無視して話を続ける。 「東堂君、忌憚研究部に入る気はない?貴方なら貴重な戦力になると思うんだけど」 「そうだな、蒼魔が入ったらオレも心強いぜ」 急な勧誘に、深赤も同意する。 しかし蒼魔は、即座に首を横に振った。 「悪いけど、興味ないんで」 そのまま靴を履いて、保健室を出る。 「東堂君」 ドアを閉める直前、斑鳩の声がした。 「君が望まなくても、君の『中』にある深く根付いた糸は、君を決して逃さない。宿命からは逃れられないのよ」 何故かその言葉は、いつまでも蒼魔の脳裏に焼きついて消えなかった。 続く トップに戻る 作品保管庫に戻る
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俺は幽霊だ。 幽霊の中には、生きてる頃の記憶があるやつもいるらしい。 が、俺には生前得たであろう知識以外、何の記憶もなかった。 別にそれで困ったことはないし、特になんの感情も持たない。 記憶がないことは、どうということはない。だが…… 「……っく……ぐすっ……」 目の前で泣いている少女に、何も出来ないことは、少し辛い。 生きていれば、涙を拭くことも出来るし、抱きしめることだって出来る。 でも俺は幽霊だから、ハンカチを持つことも出来ないし、少女に触れることすら出来ない。 さっきから奇跡が起きないかと、少女に触れようとしているが、全部少女を通り抜けてしまう。 それが悲しいのか、少女は余計に泣いてしまう。 何も出来ない自分が、とても悔しい。 俺は、どうして死んでしまったんだろう。 「ユウ?どうしたの?」 名前を呼ばれはっとする。 今のは夢だったんだろうか。幽霊でも夢を見るんだろうか。 そう考えていると、目の前の少女も同じことを思っていたのか、 「夢でも見てたの?幽霊でも夢を見るんだね」 そう言って、少女はにっこりと笑う。 泣いてばかりだった子が、少し変わった『友達』が出来て、人間は嫌いなままだけど、人間とも仲良くできるようになって、笑顔が増えた。 たまに泣くこともあるけれど、昔と違って涙を流しても、体温を感じることが出来るし、涙を拭いてくれる奴もいる。 それでも、たまになんで死んじゃったのか、と思うときはある。 生きていたら、人間を嫌って、人間から離れて暮らすようなこともなかったんじゃないか、と。 「さ、一緒にお散歩いこ!」 『あぁ』 けど、幽霊じゃなかったら、こんな風に笑いかけてくれなかったかもしれない。 幽霊だから笑顔に出来るんだ、と考えると、幽霊も捨てたもんじゃないな、と思う。 作者 銀
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—カランカラン…コロロン…—— 「いらっしゃい」 イスカンダールから見て左側の扉が軽快に開き、それと同時にドアベルが賑やかに響き渡る。 扉の外から吹きつける寒気を含んだ風と共に店内にするりと入ってきたのは、身のこなしから見ても随分に腕が立ちそうな、勝気な雰囲気の女だった。 女は薔薇を思わせる赤い色調の衣服を身に纏い、色素薄めな金髪を赤のバンダナでまとめ上げたラフな出立ちだ。そしてその女と共に吹き込んできた風が含む懐かしい世界の香りに、イスカンダールは思わず目を細め、うっすらと笑みを浮かべる。 地元世界と繋がるのは、中々久しぶりだ。 「へぇ・・・ニバコリナにこんなところがあったなんてね。知らなかったよ」 そう言いながら後ろ手に扉を閉めた女は、衣服にうっすらとついた雪を入り口で払い、物珍しそうに店内を眺めながらカウンター席へ腰掛けた。 「ニバコリナは案外入り組んだ作りの街だからな・・・目立たないところに店を構えていると、案外分からないもんさ」 「そんなんで商売やっていけんのかいってツッコミは、やめておくよ」 「そうしてくれると助かる」 そう言いながらイスカンダールはニヤリと笑い、カウンター下から取り出した温かいおしぼりを女に手渡してやる。 女はそれを受け取るとその暖かさでしばし悴みかけていた手を解し、次いでカウンター内のボトル棚に並ぶ酒瓶たちへと視線を向けた。 「こりゃあ、かなりの品揃えだね。見たことのないものも多い。あたしもそこそこ酒は飲んできた方だけど、こんなに知らないのがあるところは初めてだよ」 「ふふ、品揃えにはちょっとした自信があってな。好みの味があれば、幾つかおすすめも出せるが」 イスカンダールの言葉を流しながらボトルたちを順々に眺めていた女の目に、見慣れぬ絵柄のラベルが貼り付けられた瓶が飛び込んでくる。 そのボトルには、一角獣と薔薇を模したと思われる紋章のようなものが貼り付けられていた。 「そいつは、どんなやつなんだい?」 女が指差したボトルを見たイスカンダールは、ほう、と物珍しげに声を上げながら、棚からボトルを取り上げる。 「月並みな物言いだが、中々にお目が高い。こいつは、ローザリアという国で作られる林檎を原料としたブランデーでな。毎年ローザリア独立の記念日に合わせて献上される、本数限定の逸品だ」 「へぇ、林檎のブランデー。じゃあそいつを貰おうか。そのまま飲んでも良いんだろうけど・・・せっかく腕の良さそうなバーに来たんだ。それで何か一杯、カクテルでも頼むよ」 「お安いご用だ」 オーダーを受けたイスカンダールは、早速カクテル作りに取り掛かろうと、まず材料となるボトルを幾つか取り出し、女の前でカウンター越しに並べていく。 次いでシェイカーを手に取って目の前に設置すると、滑らかな手つきでメジャーカップを手元から掬い上げ、順々にカクテルの材料を計量しながらシェイカーの中へと注いでいった。 —カラン…コロン…—— ちょうどイスカンダールがこれからシェイカーに氷を入れようかとしているところで、彼から見て右側の扉がゆっくりと開く。 そこから中に入ってきたのは、凛々しくも何処かあどけなさが残る印象の青年だった。その服装は明らかに高貴な身分の出身であることがわかる、美しい刺繍の施されたものを身に纏っている。 「・・・ここは・・・もしかしてシフが言っていた・・・」 「いらっしゃい」 青年が何やら呟きながら店内を見渡している中、イスカンダールが声をかけると、青年はそれに気がついてぺこりと軽く頭を下げ、カウンター席へと近づき、腰掛けた。 イスカンダールは青年にもおしぼりを出すと、メニューも一緒に手渡しながら、シェイカーへ氷を入れる作業に戻る。 その間も青年は、物珍しげに店内を見渡していた。 そして、何故だか随分と驚いたような様子で自分のことを見ている先客らしき女と視線がかち合い、何事かというかのように軽く首を傾げる。 「あの・・・私に何か?」 「あ、あぁ・・・すまないね。ちょっと、あんたの雰囲気が知り合いに似ていたもんだからさ」 「そうでしたか。私は、イスマス侯ルドルフの息子、アルベルトと申します。お名前をお伺いしても?」 アルベルトと名乗った青年がカウンターのイスから半身だけ女に向けて胸に手を当てながら応えると、女はそんな様子にも一々目を丸くしながら、次にはふっと懐かしげに微笑んでアルベルトに向き直った。 「あたしはローラ。ここの町外れで、子供らに読み書きを教えているんだ」 ローラと名乗る女のその微笑みに、何故だかアルベルトも何かを感じ取ったかのように目を瞬かせ、そして優しげに微笑み返した。 「ローラさん・・・ですか。偶然ですね、貴女の雰囲気も、どこか私の知り合いに似ています」 「そうなのかい。それは何だか、出来すぎた偶然だね」 そう言いながらはにかみ笑いし合う二人の前でシェイカーを振っていたイスカンダールは、ローラの前にすっとショートグラスを差し出した。 その美しい色合いに思わずローラがへぇと呟くと、つられてアルベルトもそのグラスを見て目を見張る。 「・・・見事なヴェルニーグラスですね」 「おや、あんたはこれを知っているのかい」 アルベルトが呟くと、ローラはグラスとアルベルトを交互に見た。 「はい。ローザリアの特産であるヴェルニー合金を用いたグラスはどれも美しい光沢を放ちますから、分かり易いのです。それにしても、ここまで薄く均一な形のものは珍しいですね」 「ローザリアっていうと、確かこのお酒の作られている国だっけか。あんた、詳しいんだねぇ」 ローラの前に差し出されたグラスへ、シェイカーの中身を注いでいく。 美しいルビーレッドのカクテルがグラスに満たされると、カシャリと音を鳴らしてシェイカーを引き戻したイスカンダールがお待たせしましたとばかりに一礼をして見せる。 「やはりこのボトルで作るカクテルと言えば、こいつだろう。ジャックローズという。どうぞ召し上がれ」 イスカンダールの紹介を耳にしながら、ローラはグラスの脚を手に取り、口に含む。 キリッとした柑橘系の酸味と林檎由来の奥深いブランデーの風味に、舌鼓を打つ。 「・・・こいつは美味いね。気に入ったよ」 「それはよかった」 その様子を見ていたアルベルトの視線が、今度はローラの前に並べられていたボトルに注がれる。 「それは・・・オーダージュですか。ローザリアブランデーの中でも最上級のものですね」 「ふふ、流石にお詳しいな」 アルベルトがボトルを見ながら熟成年数を言い当てると、イスカンダールはニヤリと笑みを浮かべながら返す。 するとアルベルトは、少し照れ臭そうに笑みを浮かべながら頭を軽く掻いた。 「イスマス領でも果樹園は多かったものですから、知識は一応。それに・・・散々酒にも付き合わされたので、少しは味も分かるようになりました」 「へぇ、若そうに見えるのに、随分と舌が肥えてるんだね」 アルベルトの話を耳に挟みながらローラが茶化すと、アルベルトはどこか親しみのある笑顔でローラを見返す。 「えぇ。丁度先ほど申した、貴女に似た雰囲気の方に付き合わされたもので」 「ふふ、それじゃあ、さぞ強いんだろうね」 「その人には全く敵いませんけれど、嗜む程度には。では私には・・・ウォッカをいただけますか」 アルベルトのオーダーを聞いたイスカンダールは、中々意外なチョイスだなと感じながらも快く引き受け、どのボトルを出そうかと暫し思考の海に浸る。 マルディアス世界のウォッカといえばバルハラント産だが、それでは芸もない。ここはやはり、こちらの世界のもので何か用意するべきだろう。 「ウォッカかい。この辺りじゃ見慣れたもんだけど、あんたの年頃とその身なりで呑むには、随分と渋いチョイスだねぇ」 「あはは・・・実は、これが初めて教えてもらったお酒なんです。シフというバルハル族の女性なのですが、彼女が好んで呑むのがウォッカだったもので」 そう言いながら笑みを浮かべるアルベルトの前にイスカンダールは早速、ショットグラスに注がれた透明の液体を差し出す。 「こいつは、彼女の住むニバコリナで作られるウォッカでな。バルハラントに負けず劣らずの寒冷地域さ」 「へぇ、ローラさんはそこに住んでいるんですね。益々シフとの共通点が増えますね」 そう言いながらアルベルトは、グラスの中身を舐めるように口に含む。確かに、強くはないが自分のペースで飲むタイプのようだ。 「・・・美味しい。味そのものはクリアですが、仄かな甘みを感じますね」 「あぁ、ニバコリナのウォッカは色々とフレーバーも多くてな。そいつは特に混ぜ物をしていないスタンダードボトルだが、その仄かな甘さは特徴的なものさ」 流石に味の違いを的確に突いてくるアルベルトに、イスカンダールはやたら満足げに頷きながらウンチクを添えた。 しかしそうして酒を飲む様にもなんだか外見のあどけなさとアンバランスさを感じ、ローラはそれを微笑ましく思ってしまう。 「あんたは、あたしの知り合いがもう少し成長したらそんな感じになりそう、って雰囲気だね・・・もしエスカータに寄ることがあれば、是非アンリって子を尋ねてみてほしいよ」 「アンリさん、ですか。分かりました。そのエスカータという国のことは存じませんが、いつか訪れることがあれば、是非お会いしてみたいと思います」 二人は、それぞれの知る親しい知人の話を交えながら、暫しの歓談を楽しむ。 ニバコリナやエスカータ等の地元ネタならばついつい口を挟みたくなるところだが、ここでのイスカンダールはあくまでバーテンダーである。 二人の会話に時折合いの手を入れるに留め、二人の談笑する様を、そのゆっくりとした時間を守護することこそが己の役目であると心得ている。 そうして一歩引いたところから穏やかにイスカンダールの見守る先で、二人の男女は初対面であるにも関わらず、どこか気の置けない雰囲気である相手に思いのほか饒舌になり、数杯のグラスを空にしながら話に花を咲かせていくのであった。 登場したお酒(一部架空物) ジャックローズ 標準的な配分としては、アップルブランデー2:ライムジュース1:グレナデンシロップ1の割合でシェイクするショートカクテルです。元は「アップルジャック」という名前のブランデーで作られ、グレナデンの赤さが薔薇を思わせることから命名されたそうで。個人的には、フランスのカルヴァドスという林檎ブランデーで作る方が好みです。今回登場したのは、マルディアス世界はローザリア産の六年以上熟成された林檎のブランデーを材料と妄想しています。 ニバコリナ産ウォッカ アンリミテッドたるイスカンダールの出身世界にある、豪雪の街ニバコリナで作られるウォッカです。現実世界でウォッカといえばロシアのイメージですが、今回のウォッカは北欧産のアブソルートウォッカをイメージしています。色々なフレーバーのウォッカがあるので、飲める方であればお好きな味がきっとあるはず。 BAR「イスカンダリア」一覧に戻る TOPに戻る
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1 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 20 53 49.87 ID BhBdRBTE 1日、巨人小笠原(残機6)が豚インフルエンザに感染してることがわかった。 この件を受け超正義銀河巨人軍は巨人小笠原の遠方隔離を発表、即日島流しを執行。 東京湾には多くのファンが巨人小笠原を見送りにくるも、あいにくの酸性雨で溶解死。 これには超正義銀河巨人軍を率いる原監督も溶け残されたキンタマに舌鼓を打ち、 「季節の味だね、口の中に春が広がる」と笑顔を輝かせた。 なお、無人島に流れついた巨人小笠原は「毎日サバイバル」とコメント、 新天地での生活に夢と股間を膨らませていた。 2009年5月2日(土)10時30分 読売新聞 15 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 21 04 02.00 ID z0Pm/ov1 BE 1760616768-2BP(876) 次世代に君臨出来るカッス職人を生み出すという使命を持つ我々は つまらないカッススレには断固とした態度で望まねばならない 僕はもっと、流れるような射精を見たい。 30 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 21 30 54.28 ID 8AWNiqQx 1 旧応援歌を彷彿とさせるのは○ 38 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 21 43 19.84 ID 2HOOR5ZD また“カッスミラクル”!巨人小笠原初16強 ◆金球 世界選手権第4日(1日・東京ドーム) 男子シングルスタマタマ3回戦で、世界ランク99位の 巨人小笠原(35)=タマハウス=が同2位の桑原外野手(26)=湘南電力=との日本人対決を4-1で制し、初の16強入りを決めた。 鋭いバック(四つんばい)のドライブショットで試合を決めると、巨人小笠原は「タマーッ!!」という叫び声を響かせた。 前日の2回戦で世界10位の那須野巧(横浜)を破った勢いに乗り、日本代表の桑原外野手も撃破。 「打ったのは内角のストレート。気持ちで打った。打ったタマは覚えてない」と笑顔でタマを張った。 4回戦の相手は3回戦で世界ランキング一位の二岡を破った世界33位の小谷野。 格上だが「(世界を驚かしちゃ)いかんのか?」と気合は十分だ。メダルに向かって、巨人小笠原が奇跡を起こす。 http //news.www.infoseek.co.jp/topics/sports/n_kasumi_isikawa__20090502_3/story/20090502hochi302/ 43 名前:どうですか解説の名無しさん [2009/05/02(土) 21 51 50.50 ID Zx/sLbZw] 俺としては十分笑えるんだがなあ… あんまり厳しくしすぎてもカッスラーは育たんぞ 48 名前:どうですか解説の名無しさん [2009/05/02(土) 21 56 33.50 ID HqjwRBNi] 43 同意 この中に無理やり玄人ぶってる奴は必ず一人はいるだろう ちょっと前ならなかなかの評価はもらえてただろう 53 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 22 09 36.85 ID 1OBQ2azK 1 なかなか良いと思うが昨晩から今朝に掛けて良作が出過ぎた分、物足りなさはあるな 及第点 59 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 22 17 25.21 ID E7ffjR8X ν速に小笠原スレ立てたのお前らか 63 名前:どうですか解説の名無しさん[] 投稿日:2009/05/02(土) 22 22 11.67 ID pOLg9z0v ほんとカッスはぐうの音も出ないほどの畜生だな http //live24.2ch.net/test/read.cgi/livebase/1241265229/
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◆Tsun.uKDs2 今はカオスの作成に夢中? 新カオスに期待。アニソンにも期待。 Janne Da Arcの垂れ流しもしている。 ここから本人です。どうも Janneの方もやってます。ポルノの方が回数多いですが。 基本的に朝~7時くらいまで垂れ流してます。 楽しくがモットー。だから途中で変な曲入ったりするけどキニスルナ! 安価ミスは仕様です。なんと言っても仕様です。指摘されると傷つきます>< 人間×10も自分のせいでしたすんませn 【再生可】 シングル(カップリング含め全曲) アルバム全曲 インディーズ(大体の曲はおk) ロード88 Buzy 限界ポルノラジオ(ストリーミング分) LIVE音源結構あります。。。 他にもPOISONとかLASAKURAとか弾き語りとか。 多分スレでリクされる曲はいけるかな? 他にはJanneとかこなあああああああゆきいいいいいいいとか慎吾ママとか日英アクエリ(サントラ)とかハルヒ関連とかVIPSTARとかヒューザージとかアネハ蝶とk(ry リクあればどんどん流すんで。 【カオス曲】 デッサンシリーズMix デッサン#1Mix 黄昏Mix(普通とカオス)←これオヌヌメwwwwww ぽっぽっぽMix ぽっぽっぽ~これはひどいwwwwwMix~ 冷たいサーベス 渦Mix 他作成中・・・とかなんとか。垂れ流しをながら作ってるから いろんなものが流れてきます^^ 以上。イバァァァァァラキィィィィィィ。補正追加よろ
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【魔法の分類】 魔法は 属性 と 階級 で分類され、人によって得意とする属性は異なります 《属性》 属性は大きく火、水、雷、土、風、自然、闇、光の8種類に分かれます。※まれに分類不能な魔法使いもいるようです。例えばサイコキネシスとか瞬間移動とか。そういうのは特殊系って呼ばれたりします 一般に、同じ威力の同じような魔法をぶつけた場合の力関係は 火 水 雷 土 風 自然 火、闇=光と言われています。 《階級》 階級は初等魔法、中等魔法、高等魔法の3つです。 初等魔法は火や風を起こす、水を操る、といった基本的な魔法です。 中等魔法はそれを各属性ごとに発展させた魔法です。例えば風属性なら空を飛んだり、火属性なら魔力を爆発させたり、水属性なら氷を扱ったりします。 高等魔法はそれをさらに専門的に細分化したもの。雷属性ひとつ取ってみても、発生する雷の威力を極める者、微細な電気信号を流して身体を操る者、強力な磁場を発生させる者など様々です。 【魔法学校】 若い魔法使いは魔法学校に通って魔法を習得します。 魔法学校は3年制ですが、非常に難関なのでストレートに卒業できる者は殆どいません。 魔法学校で扱われる内容は、先に述べた8属性から光と闇を除いた6属性です。 一年生は初等魔法を学びます。エレメント(各属性の基本要素)を生成し、それをコントロールする能力を身に付けます。 二年生は中等魔法を学びます。一年生の内に魔法の適性を見極め、二年生になると属性でクラス分けされます。ちなみにアリスは二年生で、火属性のクラスに所属しています。 三年生になると、皆が自由に魔法を研究します。研究の成果が最後の試験で認められれば無事卒業。晴れて一流の魔法使いになれます。 アリスの適性は本当は 闇 です。ぶっちゃけ火属性は彼女に合ってません 一年生で落ちこぼれてたけど、色々あって本気出したら二年生になれました 二年生はもっと厳しいですが、猛勉強のお陰で成績は平均くらいをキープしてます。努力家です
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たどり着いた先は、かつて魔王と聖王だけが踏破したであろう、巨大な回廊であった。半永久機関でもって鳴動するように不気味に赤く点滅する床や壁。見たこともない奇怪な装置。細かに施された彫像の数々。 そして、アビスの瘴気をダイレクトに浴びた醜悪な魔物たち。 その中においてカタリナは次々と道を塞ぐ魔物を切り捨てながら、何かに取り付かれたかのようにひたすらにその回廊の最深部を目指していた。 先ほど癒えたはずの体力は、もうとうに限界を迎えた。だが、彼女の精神は今この瞬間、何者にも勝ると確信できるほどの屈強さでもって、肉体を凌駕していた。 (勝てる・・・。この程度の魔物に遅れを取るほど、今の私は無力ではない・・・) 三メートルをゆうに越す巨体とその背に見合う長大な剣を構えた巨人の右腕を、飛水すら断つかのような高速の払いで切り捨て、そのまま剣を巨人の左目に突き刺す。 「ガギャッ!?」 怯む巨人を尻目に地面に着地したカタリナは、地面に刺してあった大剣を引き抜き、勢いをつけて跳躍し、巨人の心臓部に向かって爆発にも近い衝撃音と共に大剣を叩きつけた。 声にならぬ叫びを残して絶命する巨人をちらりと確認すると、巨人の目から剣を引き抜いて穢れをはらい、カタリナは再び奥へと進みだした。 (私の頭に・・・体に・・・流れ込んでくる・・・戦いの記憶・・・。まだ・・・もっと私はこの記憶を使いこなせる・・・) 研ぎ澄まされた神経は彼女に、彼女すら知らない数多の戦の法をもたらしていた。 背中には大剣を、右手にはロングソードを、左手にはレイピアを。そして持ってこそいないものの、今ならば槍だろうが弓だろうが斧だろうが、彼女に操れない武器はなかった。 幾十もの魔物を葬り、カタリナは程なくして回廊の最深部、この中に渦巻く瘴気の生まれ出でる場所まで辿り着いた。 「・・・この先に・・・魔戦士公アラケスがいる・・・」 硬く閉ざされたその扉を前に、カタリナは確信を持って呟いた。 思えばカタリナはこの広大に入り組んだ回廊のなかを、ただの一度でも迷うことはなかった。彼女には、ここに至るまでの道筋が「分かっていた」のだ。だが、何故自分が奥を目指しているのかは、全く分かっていなかった。 しかし、もう自らの足を止める術は彼女にはなかった。今はもう伝説の中にしか語られぬ四魔貴族の巣食うアビスへと繋がるゲートが、この扉一枚先にあるのだ。それが分かった時には、カタリナはもう扉を両手で押し開いていた。 思いのほか軽快に開く扉。勢いをつければ簡単に最後まで開き、カタリナはその中へと一歩踏み出した。 「・・・・・・!!!?」 途端に、目の前の景色が変わる。そこは部屋の一室であるはずだというのに、奥が何処まで続いているのかも視認出来ず、天井すらも見えない。 目の前にはただただ禍々しい紋章が渦巻き、その中央に漏れ出でる光は、純白であるというのに未だかつて感じることのなかったほどの瘴気を生み続けている。 そして、彼女はこの空気を知っていた。 「・・・死蝕・・・」 やっとの思いでそれだけを呟く。幼い日にみた史上最悪の大災害、死蝕。あの時に体感した空気が、この場には満ち溢れているのだ。 何かに急かされるようにカタリナは部屋の奥へと進む。体は危険を訴えている。頭のどこかで先ほどまでの自分が引き返せと警告を出している。だというのに、彼女の両足は前に進むことしかしない。 そして紋章へと近づく彼女に、その声は放たれた。 『・・・久しぶりの来客だ・・・。三百年ぶりにもなるか・・・』 瞬間、恐怖に肌が震えるのを感じ、カタリナはその場で立ち尽くした。 『今度の宿命の子はどのような者かと待っていたが・・・お前は宿命に弄ばれし者ではないのだな。まさかこの場に宿命を背負いし者以外の人間が訪れることがあろうとは・・・』 部屋に響く言葉の一言一言が、気がふれそうなくらいの瘴気を纏ってカタリナの耳に届く。 『人間よ・・・己の力でここまで来た事は褒めてやる。なかなか出来ることではない。だがその勇敢さ故に、我の戯れにより死ぬことを悔やめ』 その言葉が終わると同時、カタリナの前にはあまりにも巨大な双頭の獣を鎖で従えた、真紅の槍を手にした魔神が立っていた。 「・・・・・・」 カタリナは、言葉を発することが出来なかった。 見た瞬間に分かってしまったのだ。この魔神に自分は殺される、と。何の抵抗も出来ることなく、この魔神の槍の一振りで自分の体はそれこそ跡形もなく消し飛んでしまうだろう。 『女よ、そう悲嘆するな。我は魔戦士公アラケス。戦士の身として我と合間見えた幸運、しかと感じるがよい』 アラケスが手にした槍を振りかざす。カタリナには、その槍の切っ先を見つめることしか出来なかった。 『血を流せ』 そして、槍が穿たれる。 「ぁ・・・ぁぁああああああああっ!!!!」 気がついたときには、カタリナは背中から引き抜いた大剣をその槍の切っ先にあてがい、甲高い金属音と共に一歩も怯むことなく弾き返していた。 『・・・・・・?』 槍を弾き返されたアラケスがさも不思議そうな顔をし、そして次にとても不満そうに顔を引きつらせる。 『貴様・・・我は血を流せといった。何故抵抗をする』 アラケスの言葉と同時に、鎖につながれた巨獣が地の底から響き渡るような唸り声を上げる。だがカタリナは全くそれに怯むこともなく、大剣を構えてアラケスを見据えた。 「・・・生憎・・・私はまだ死ぬわけには行かないわ。少なくともこの手にマスカレイドを取り戻し、ミカエル様にご返上するまでは・・・」 汗でにじむ柄を握りなおし、カタリナは少しずつ間合いを広げる。 最初に合間見えた時点で、実力の差が歴然としているのは分かった。カタリナの得物も相手の槍に大きくは引けを取らぬリーチのある大剣であるが、お互いの必殺の間合い同士で闘えば、彼女の死は明白だった。 だが、あの時はここに至るまでのカタリナであるからこそ死ぬと思ったまで。今の彼女はそれまでの彼女ではない。恐怖に一瞬全てを忘れてしまったが、今の彼女ならばどうにかする方法を思いつくかもしれない。 『・・・この我を目の前に、口を開けるのか。面白い・・・。問おう。何のためにここに訪れたのだ?人間よ』 驚嘆したようにアラケスがかぶりを振る。それが何の冗談かは知らないが、カタリナにはそんな言葉に真面目に付き合っている余裕はなかった。この場をいかに潜り抜けるかが先決である。カタリナはアラケスのその言葉に上面だけ応えながら、必死にそれを頭の中で模索し続けた。 「生憎とね、私だって来たくてきたわけじゃないわ。気がついたら、ここに案内されていたのよ」 それこそアラケスには意味の分からないことだろうが、カタリナとしてもそのくらいしか説明がつかないので仕方が無い。 『そうか。では、我がさらにこの地の先、冥府への案内を買って出てやろう。光栄に思え』 カタリナの態度が気に入ったのか、アラケスは先ほどよりもずっと上機嫌な声音でそういった。そして次の瞬間には、アラケスの手から解き放たれた巨獣がカタリナに襲い掛かる。 「く・・・・ぉぉおおおお!!」 巨獣を真っ向から睨みつけ、気合の一声と共にカタリナは地面に大剣を突き立てた。途端に、目前まで迫っていた巨獣の体が地を這う幾重もの衝撃波に切り刻まれる。 「ガグァァァァァァッ!!」 断ち切るほどのものではなかったが、外装を切り刻まれて悶え、巨獣が足を止めた。それを好機とみたカタリナが突き立てた大剣をそのままに素早くレイピアを抜き、目にも止まらぬほどの勢いで以て強力な突きを繰り出す。 電光石火の突きは寸分の違いなく巨獣の片方の頭の片目を貫き、巨獣はさらに絶叫する。 レイピアを巨獣から引き抜いたカタリナは加速しながらさらに突きを数度見舞い、巨獣が怯むのを確認すると地面に突きたててあった大剣を引き抜き、口元から一気に胴体ごと払いぬける。 ガキンッ しかし鈍い金属音と共に、その大剣の軌道は獣の牙によって止められていた。 「なっ・・・!?」 瞬間的に蹴りを繰り出したカタリナは、それを巨獣の顔面にあてて大剣を離させ、同時に距離をとる。 手負いの巨獣は痛みにもがき苦しみながらも、さらに猛威を増すかのように大地すら震えるような狂気の雄たけびを上げ、再びカタリナに襲い掛かった。 耳に劈くような叫びをなんとかやり過ごして再び地面に大剣を突きたてるが、地を這う衝撃波も二度は通じない。巨獣はその身に似合わず軽やかな跳躍をし、上空からカタリナに向かってその凶悪なかぎ爪を突き立てにきた。 だが、カタリナはそれを先読みしていたかのように既に上空に視線を向け、抜き放ったロングソードを手に巨獣を睨み付けた。 「甘いわよイヌっころ・・・!」 巨獣の前足をかいくぐるように態勢を低くしたカタリナは、下段から遠心力を利用した強力な跳ね上げの一撃を見舞い、さらに勢いを殺さずに腕を捻ってさらに一撃を放つ。その様まるで荒れ狂う龍の尾の如き二段の強力な切り上げは、今度こそ巨獣の二つの首を切断していた。 『・・・ほぅ。やるではないか、人間よ』 その戦いを後方から何もせずに眺めていたアラケスは、場に似合わない感心したような声をあげてみせた。 巨獣の返り血を拭いながらその姿をみたカタリナは、まるで自分がこの魔神の手の平で踊っているに過ぎないような錯覚に襲われた。 (・・・いや、錯覚じゃない・・・。今の攻防だって・・・あいつが加わっていたら私は確実に死んでいた・・・。こっちの必死な姿をみて楽しんでいるんだ・・・) 巨獣の亡骸を乗り越えてアラケスに対峙する。彼女の中には今も次々と戦いの記憶が流れ込んできているが、残念なことに、それでも今のところは到底この魔神に勝てる要素は見当たらなかった。 『単なる人の身においてその戦ぶり、賞賛に値するぞ。我が直々に手を下してやろう・・・人間の女よ、名を名乗れ』 真紅の槍を構えながら、アラケスがカタリナを見据える。瞬間、アビスから流れ込む瘴気が何倍にも膨れ上がったかのようにカタリナには感じられた。 「・・・ロアーヌの騎士、カタリナ=ラウラン」 名乗りながら、大剣を構えてカタリナもアラケスに正面から向き合う。全身が冷や汗をかき、四肢は震え、瞳はアラケスの持つ真紅の槍を見つめ続けていた。 ゆっくりと大剣を下段に構えたカタリナは瘴気を振り切り、五感全てを使ってその槍の軌道を見極めようと徹する。 『・・・その名、覚えておこう』 次の瞬間には、アラケスの姿はカタリナの目の前まで迫っていた。 「・・・!!!」 真紅の槍が再び穿たれた。必殺の軌道を持って放たれたその切っ先は、吸い込まれるようにカタリナの心臓へと差し込まれる。 キンッ しかし必殺のはずのその槍は小さな金属音と共にカタリナの心臓からそれ、斜め後方の壁を貫いていた。 大きく跳躍したアラケスは再び先ほどまでの立ち位置に戻る。見れば、カタリナは先ほどまでの場所から一歩も動いてすらいない。 『・・・』 アラケスの見つめる先では、カタリナはやはり大剣を下段に構えたままの姿で冷や汗を流しながらこちらを見つめている。それは先ほどまでの光景となんら変わらぬものだ。 『・・・無行の位、といったか。研ぎ澄ます五感の全てを回避にのみ集中させ、最小限の動きで全てをいなす』 槍を再び構えながらアラケスが呟いた。 しかしカタリナはその言葉にも答えない。一瞬たりとて彼女にはほかの事に意識を向けている余裕はなかった。この構えがそんな名前であることすら彼女は知らなかったが、最早そんなことはどうだってよかった。次の一撃を避けることだけを今は考えていればいい。 『過去にあの若造が使っていたな・・・面白い。我の槍、何処まで避けられるか試すのもよかろう』 アラケスは大きく身を捻らせ、ただでさえ強大なその力をさらに溜め込むように震動を湛えながら動かなくなる。 そして次の瞬間には、手にしたその槍を投擲していた。 槍はアラケスの斜め上方に弧を描くように投げられ、その槍は高速回転をしながら軌道を変え、カタリナに向かって信じられぬほどのスピードで襲い掛かる。それは単なる槍の一撃ではない。それは真紅に燃え盛り、アビスの瘴気を纏い、そしてアラケスの持つ白虎の力を凝縮させた一撃。まともに喰らえばそれこそこの肉体など消し飛んでしまうような威力をもった一撃だろう。 だから、ここしかないのだ。 「ッ!!!!」 全身のバネをフルに使った可能な限りの最大スピードで、カタリナはただの一歩だけアラケスに向かって飛び出した。 そして襲い掛かる槍に大剣の切っ先をあてがい、その強大な波動を大剣に乗せ、渦巻きうねる力の暴風に身を任せるように、アラケスに向かって跳躍する。 『・・・!!』 その瞳には、アラケスがこの場ではじめてみせる驚嘆の表情が映し出された。力の奔流を利用して瞬間的に超加速されたカタリナの身体は瞬く間にアラケスの目前に迫り、彼女は両手で握り締めた大剣に己の全てを賭けた。 「ォォォオオオオオッ!!」 空気を切り裂くような甲高い音が、空間に響き渡る。先ほどのロングソードで放たれたものとは比べ物にならぬ、大気を切り裂くほどの神憑り的な破壊力を持った刹那の二段斬り。それは確実にアラケスを捉えていた。 ドンッ!!! 勢いを殺しきれずにそのまま壁に激突したカタリナが全身の痛みを堪えて振り向くと、そこには右腕を切り飛ばされてこちらを振り返るアラケスが見えた。 (・・・な・・・!確実に首を捉えたと思ったのに・・・!) 立ち上がることも出来ぬまま、カタリナは絶望に彩られた表情でアラケスがこちらに完全に向き直るのを見ていた。 アラケスは己の槍をその左手に持ち替え、静かにカタリナを凝視している。 『・・・我が必殺の一撃を逆に利用してこの身に傷をつけたか。無行の位はそのための囮だったのだな・・・人間よ、実に美しい剣戟であった』 左手に槍を構えたアラケスは、身動きのとれぬカタリナの目前までゆっくりと歩み寄った。 『さりとて我がアビスの波動、人間の身には堪えるであろう。最早立ち上がるもままならぬようだな』 そして槍は振りかぶられた。カタリナはその切っ先を、最早持ち上げることすら叶わぬ大剣を握り締めて見つめる。 『先の死蝕は、我に更なる力を与えた。この槍、最早あの男ですら避けられぬはずであっただろう。それを貴様は避けたばかりでなく、我に対する刃と成した』 アラケスは過去を思い出すようにどこか遠くを見つめ、そしてカタリナに向き直った。その表情は歓喜に満ち溢れている。 『強き人間よ。我に至福の時間を与えたこと、褒めて遣わす』 その言葉と共に自らに向かって振り下ろされた槍の切っ先を見つめたのを最後に、カタリナの意識はそこで途切れた。 蔓延る魔物を飛び越え、吹き抜けを貫通する階段を駆け上がる。その先にある祭壇を必死の思いで走りぬけ、トーマスとシャールは魔王殿の入り口を這い出すように飛び出した。 長い下り階段の手前まで辿り着いた二人は、同時に魔王殿にむかって振り返る。見上げるその巨大な城は、うねるように周囲の空気を豹変させながら鳴動していた。 「馬鹿な・・・こんな瘴気の渦などありえない・・・何が起こったというのだ・・・」 息を切らせながらシャールが呟く。同じように息を切らせたトーマスもその異様の光景を見て愕然としている。 「・・・まさか、アビスゲートが開くとでもいうのか・・・」 普段の丁寧な口調すら忘れ、トーマスもそう呟いた。 未だ鳴動を続ける魔王殿は、最早その存在自体が生き物であるかのように脈打っているようにも見える。 最下層を目指していたシャールとトーマスは、丁度玉座の間に辿り着くかつかないかの頃にこの鳴動の始まりを察知し、恐怖に駆られるままにやっとの思いでここまで逃げ出してきたのだった。 「・・・とにかくこのままではいつピドナ全体がこの馬鹿げた瘴気に包まれてもおかしくは無い・・・。一刻も早くミューズ様の元に戻り、この地を離れなければ・・・」 この状況では、既にカタリナの捜索どころではなかった。あのまま魔王殿の中にいれば、二人の命などそれこそこの瘴気の渦にいとも簡単に押しつぶされて消えていただろう。 それはトーマスも十分に理解していたのだろう。階段を急いで駆け下り始めるシャールを、無言で追いかけた。 長い階段を駆け下り、無駄に広い庭園を突き抜けてピドナの旧市街に辿り着いた時、背後に渦巻くその瘴気はもはや最高潮に達していた。 旧市街の住民もその魔王殿の光景に恐怖し、既に騒然とした雰囲気に包まれている。魔王殿の入り口付近に集まった住民をかき分けてミューズの待つ家へと二人が急ぐと、そこには不安そうな表情で家の前に立っているミューズとミッチ、そしてゴンの姿があった。 「ミューズ様っ!ここは危険です、一刻も早く離れましょう!」 出会い頭にシャールはミューズに駆け寄りながら言った。ミューズは恐がって自分に抱きつくミッチとゴンを護るようにして立ち尽くし、二人を出迎える。 「何が・・・何が起こったのシャール・・・。こんな禍々しい空気は、死蝕以来はじめてだわ・・・」 彼女自身も不安なのだろう。子供二人を抱える手は細かく震え、青白い顔で魔王殿の方向を見つめながらシャールに問いかける。 「・・・わかりません。カタリナ殿を探していたら、突然瘴気が暴走を始めてしまったとしか・・・」 恐がるミッチとゴンを撫でながらシャールが答える。それにあわせてトーマスも二人に歩み寄り、魔王殿に視線を向けながら口を開いた。 「我々よりも奥には、おそらくカタリナ様しか行っていません・・・。何かがあったとすれば、あるいはそれはカタリナ様が関係しているのではないでしょうか・・・」 何かの間違いで、カタリナが魔王殿最深部に眠るアビスゲートを開いてしまったのではないか。トーマスはそう言いたいのだろう。この状況を見る限りでは、実際可能性としてはそれが一番濃厚ではあった。 「・・・とにかくこのままでは瘴気がこの町を覆い尽くすのは時間の問題でしょう。ミューズ様、シャール様の仰るとおり一刻も早くここを離れたほうがいいです。取り急ぎ用意できる家となると限られてしまいますが、私がご用意します」 心配そうな表情でこちらを見つめるミューズに向かい、なるべく安心させるよう勤めて抑えた声色でトーマスが喋る。 「シャール様も、今はそれでいいですね?」 「・・・すまない。ここはお言葉に甘えるしかないようだ」 そういってシャールが立ち上がった、その時であった。 魔王殿から発せられる瘴気の一部がまるで殻を破ったかのように弾け飛び、それは巨大な獣の姿をとって空に飛び出したのだ。 「な・・・!?」 その波動を感じ取ったトーマスとシャールが上空を見上げた時には、その巨大な獣らしきものは空中に大きく瘴気の弧を描いて飛翔し、幾度かの瞬きの間にトーマスたちの居る家の前の小さな広場に音もなく降り立った。 雄雄しく、そしてあまりにも禍々しい瘴気を身に纏ったその双頭の獣は、ゆっくりとトーマスたちに振り返る。だがその瞳は何も映してはおらず、頭の一方の片目は何か刃物に貫かれたように抉り取られていた。 慌ててシャールとトーマスが、ミューズと子供たちを守るようにその獣と対峙する。だが、二人ともこの獣が自分たちでは間違いなく勝てぬほどの力を持っていることを、見た瞬間に理解してしまっていた。 だが不思議なことに、先ほどまで魔王殿から発せられていた瘴気はこの瞬間にはたち消え、町全体を押しつぶすような威圧感はすっかりなくなっていた。だからこそ二人も、即座にこの獣に反応して対峙する態勢をとることができたのだ。 「・・・まって、二人とも。この獣は私達を傷つける意思はないみたい・・・」 何を思ったのか突然、ミューズはシャールとトーマスに声をかけ、獣の前に歩み出た。 「ミューズ様・・・!?」 驚いたシャールがミューズを引き下げようとするが、ミューズは首を振ってそれを拒否すると、ミッチとゴンをシャールに任せて一歩獣の前に歩み出た。 何を喋るでもなくミューズがその場に立つと、獣は頭をたれ、そして口を開いた。 『覚えのある気かと思えば、あの男の従者の子か・・・まぁよい。お前に任せよう』 獣の口を通じて、別の何者かの声が響き渡る。その声は地の底から響き渡るような重苦しい響きで、聞いているだけで気分が悪くなるようだ。 『この者を生かせ。あの男を越えるほどの存在なれば・・・今の我を更に楽しませることもいずれできよう。これは我が現界するまでの戯れに過ぎぬ。我の手により消えるまで、生きるがよい』 一方的にそれだけいうと、獣は途端に色を失った。 そのままミューズが疑問符を浮かべながら見ていると徐々にその巨体は風に吹かれて崩れ始め、最後には塵となって消えてしまったのだ。 そして直前まで獣のいた場には、全身ボロボロの姿で左肩から大量の血を流して倒れているカタリナの姿があった。 「カタリナ様っ!!」 その姿を確認したトーマスがすぐさま駆け寄る。抱き起こしてみるがカタリナに意識はなく、微かに呼吸をしていることがなんとか分かるという程度にまで弱りきっていた。 「・・・いけない、早く治療しないと・・・とにかく家の中に一端運びましょう」 ミューズがその容態をみて自分の家を指差しながら言うと、それに頷いたトーマスは素早くカタリナを抱き上げた。 「・・・瘴気がすっかり消えた・・・。あの獣を城の外に出すためだけにあの渦を作り出したというのか・・・。まさか、今のは魔戦士公だとでも・・・?」 家にカタリナを運び込むトーマスを横目に、魔王殿を見つめながらシャールが呟く。だが今はカタリナの容態を見極めるのが先決である。未だ混乱の冷めやらぬ外の喧騒を背に、シャールもすぐに家の中へと入っていった。 前へ 第一章・目次
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港町特有の潮の香りが北に広がるトリオール海から風に運ばれてきたかと思えば、一方ですぐ南東には来るもの全てを死に至らしめんとするかのような広大なる灼熱のナジュ砂漠が広がる。その間の北東を仰げば雄々しきエルブールの山嶺が天空に向けて連なり、それら三点の分岐となるアクバー峠には世界中から集まる商人達で賑わいを見せることで有名なアクバー市が一年を通して開かれている。 そんな東の賑やかさとは対照的に西を向けば、半島の内陸には世界的に有名な良質の茶葉を育む豊かな土壌を伺うことができる。温海の風を受けてよく育つ穀物、果実、そして森林帯と、恵まれた気候環境につつまれた豊潤な土地が半島全体に広がっているのだ。 トゥイク半島の付け根あたりに位置するリブロフという街は、ぐるりと見渡せばそのような景色の移り変わりに事欠かない、何とも飽きのこなそうな場所だった。 しかし、そのような場所でもせっかくの景色や風土、そして市などを楽しむ余裕などは今の彼女には一切ない。 ピドナから短い船旅にてリブロフの地に降り立ったカタリナは、まずこの地に多く蔓延っているであろう神王教徒から己を隠すために全身を黒いローブで覆った。現地の女性の多くがその服装を好んでいるようで、それに倣ったのだ。 それでもストールの間から覗く白い肌と碧眼は隠しようがないが、それでも問題はなかった。 この地にはナジュの血を色濃く継いでいる者たちと、典型的な西方人と、南方からの出稼ぎの民と。そのような数多の人種が共存している。 その中にあれば、彼女の存在とて一枚の布で容易く市井に紛れるのだ。 そうして難なくこの街に潜んだ彼女は街を巡っていち早くここでやるべきことを成した後、現地宿の一つであるシェヘラザーデへと赴いていた。 ここで一夜を明かしたのち、先ほと話しを取り付けたばかりの商隊に随行して明朝早くに早速神王の塔を目指す予定だった。 夕刻に差し掛かる頃には持ち物まで含めて準備らしい準備がすべて終わってしまったカタリナだったが、かと言って観光気分で街を散策する気にもなれず、蒸し暑い部屋から脱出し涼を求めて一階のパブにいた。 そこで少しぬるめのエールを傾けながら、パブの喧騒に耳を澄ます。 其処彼処から商いの調子がどうとか、ピドナでなにやらあったようだとか、そんな話が届いてきた。 それらの噂話にそれとなく耳を傾けていたカタリナは、そういえば以前もツヴァイクでこの様な頃合いに大変な事を聞いたものだった、などと思い返していた。あのときはポールを待っていたが、今は正真正銘の一人旅である。故に今回はそんな事もなかろうと、カウンターで現地のつまみなのであろう豆の粉にスパイスを混ぜて薄く伸ばし焼かれたおつまみを頬張りながら、カタリナは暫しの涼を得ていた。 グラスを傾けるペースも遅くゆっくりと過ごしていたカタリナだったが、やがて間も無く日が沈まんとした頃になって店内のそれまでの客層とは雰囲気の事なる二人組が随分と陽気な様子で店内に来訪した。 来訪した二人ともが鍛え上げられたがっちりとした体格をしており、麻で作られた肌着の上には、この地独特の通気性に優れる改良を施された鎧。そして腰には、その一つ一つが職人の手彫りと思われる見事な紋様付きの剣。 その装いから察するに彼らは、十中八九リブロフ軍団の人間だった。 だが彼女の目からみれば、明らかに彼らがこんなところにこうしているのはどうにも様子がおかしい。 なにせ普段は彼らも非番となれば鎧を脱いで寛ぐはずだし、逆に警邏の途中であれば、今まさにカウンターに座ってエールをオーダーしている事自体が軍団規則に反するだろうからだ。 となれば、答えは一つ。 彼らの装備は、臨戦体制。いつ何時の招令にも対応できる状態の確保。 つまり今このリブロフは、何処かと交戦中、ないしはそれを強く警戒しているのだ。 カタリナからは少し離れた席に座った彼らは、間も無くカウンタースタッフから突き出されたエールジョッキを掲げて、意気揚々と飲み始めた。 多少興味をそそられたカタリナはカウンターのマスターに声をかけ、すぐさま二人に一杯ずつエールを振舞った。 目の前に現れた突然のお代わりに目を丸くした兵士二人は、マスターのサインでカタリナに顔を向ける。 そこでカタリナがわざとらしくローブで隠した口角を僅かにあげて微笑むように瞳を薄めると、二人はお互いを見合ったのち、我先にとカタリナの両サイドに陣取った。 「おネエさん、他所からきたの?ローブめっちゃ似合うね。色っぽいわー」 「つかキミ今さ、俺らがここの憲兵だってわかってて奢ったでしょー。ほんとはダメなんだよー、それ。まぁ今日は勿論見逃しちゃうし、そんかわり少し付き合ってくれよな?」 「あら・・・ふふ、お二人とも慣れていらっしゃるのね。でも先ずは、ここで私たちが出会えた事に祝杯を。そうでしょ?」 そういってグラスを軽く掲げたカタリナに、兵士二人は満面の笑みで杯を合わせた。二人がその杯を豪快に飲み干す様を見てクスクスと笑いながら自らもグラスを傾けつつ、彼らの視線や仕草の一つ一つにそれとなく注意を払いながら世辞を飛ばし、話題を振る。 (なんだか私もこういうの手慣れてきちゃったなー。なんか複雑・・・) そのような心中はどこ吹く風か、カタリナはすっかり上機嫌な二人の兵士の話し相手をしながら、次に、その次に話す内容とその流れの先を頭の中で精査していった。 「・・・そういえばお二人とも、それ、脱がないのね。今、そういう感じなの?」 自社の取扱品目を頼りに自らを行商人という事にして少し世界各地の事を話して聞かせ、各地でこうして誰かと話をするのが趣味なんだと適度に杯を合わせながら酒を飲み、当然最初は抱かれていた警戒心と緊張感が程よく解れた頃合い。 さも今気づきましたとばかりに、カタリナはいよいよ話題の変換にかかった。 兵士二人はそれまでに気持ちよく飲みながらカタリナの話に相槌を打ち、その脇でちょくちょく身体に触れてこようとしたりするが、そのようなお手つきはそれとなく回避しつつ。 「へぇーおネエさんやっぱわかるんだねー、さすが世界を渡り歩く行商人だ。ま、ファルスとスタンレーの会戦を間近で見てたらそりゃー察しちゃうよね。今はあれさ・・・」 本来はこの様な兵役に関わる話は非常に繊細な扱いをしなくては、直ぐに間者を疑われる。だが今となってはそのような心配もなくなったようだ。 兵士の一人は機嫌良く喋りながらジョッキを掲げ、バーカウンターの後ろに貼り付けられている地図を示した。 生憎とカタリナの位置からは彼がその手で何処を指し示しているのか全くわからなかったが、その次に紡がれた言葉は彼女にとって久しぶりに聞く言葉だった。 「北東の青二才侯爵国家、ロアーヌと交戦中なのさ」 その瞬間、二人は耐え難い急激な寒気を全身に感じて突然身を震わせた。 彼らに挟まれる形で座っている女から発せられた強烈な『何か』に、当てられたのだ。 「ロアーヌと?・・・そうなの。その話・・・できればもう少しだけ詳しく聞かせて頂戴?」 先ほど出会った時と同じく、彼女の瞳は静かに薄っすらと細められた。 だがストールに隠れたその口角は、今は間違いなく笑顔を形作ってはいないだろう。 それが分かってしまっても、最早二人には直様その場を去るという選択肢は持たされてはいなかった。 翌暁、現地の商隊に同行してカタリナは予定通りアクバー峠からナジュ砂漠へと出立した。 昨晩になにやら二人の兵士が宿泊先の宿の裏で昏倒しているのが見つかったという事件があったようだがそんな事には目もくれず、一行は一路、神王の塔を目指す。 行程では駱駝という動物に乗る事となり、初めて見る背中に瘤のある不思議な動物に、カタリナは目を丸くしたものだった。砂漠では馬よりも断然駱駝なのだそうだ。 ちなみに今回旅路を共にする商隊は、元ナジュ王国の地にある珈琲豆栽培を営むエルブールコーヒーというブランド名の農家なのだそうだ。 彼女も出立の際に自慢の一杯を馳走になったが、それは普段飲んでいるものとは全く異なり、たっぶりの砂糖と香辛料を加え小さな専用の鍋で作られる一杯だった。生まれて初めて飲む味だったが、濃厚なコクと風味豊かなスパイスの香りがよく合っていて、これはこれでとても気に入った。他にも別の香辛料を加えた飲み方があると聞かされ、道中にそれも飲ませてもらえるらしいということで、カタリナはそれをとても楽しみにする事にした。 そうしてしばし駱駝に揺られて砂漠を渡っていくと、彼女はとんでもなく奇妙な光景に出くわすこととなった。 迷い込んだものすべてを乾涸びさせてその命を吸いつくさんとする灼熱のこの砂漠の中を、なんと驚くべきことに数人の集団が杖をつきながら今にも倒れてしまいそうな様子で必死に歩いている姿が彼女の視界に飛び込んできたのだ。 それをみて思わず目を疑ったカタリナがたいそう焦り気味に同行していた商人達に声をかけると、彼らはそれをちらりとだけ見てからカタリナに顔を向け、誰もが揃って首を横に振るのだった。 その目はこう語っていた。あれには触れてはならない、と。 だが明らかにあのままでは死人が出てもおかしくなさそうな状況であるというのに放っておくなど如何なものかとカタリナが頻りに集団の様子を見ていると、同行者の中で比較的若い男性が彼女の横に駱駝を寄せ、小声で教えてくれた。 「彼らは、敬虔な神王教徒。彼らは神王の塔に行くため、そこで来たるべき時に現れる神王の祝福を受けるため、死を恐れずにナジュ砂漠をその身一つで渡る。だから、邪魔をしてはいけない」 言われて、改めて徒歩の集団を横目で眺めてみる。確かに彼らはこちらになど見向きもしないし、その瞳は真っ直ぐに地平の向こう、神王の塔へと向けられている。 聖王を信ずるものも極めれば山籠り等をしていたりすることもあるらしいとは確かに文献で見たことこそあるが、しかしそれにしてもこの行為は自殺行為としか彼女には思えなかった。 「彼らは十年前に多くの血を流して戦い、自らあの地をもぎ取った。そしてそこに十年前から、天へと続く塔を建設し続けている。その一部分一部分が、彼らの血肉といっても過言ではない。彼らはああして日夜信仰心を高め、今は神王の到来を静かに待っている」 それは彼女にはとても理解できなかったが、それが彼らの信仰心の表し方なのだというのであれば、そうなのかと頷くまでだ。 カタリナは最後にもう一度神王教徒たちを振り返り、そして前に向き直った。 彼らと同じく、自分にも命を賭して目指さねばならぬものが、この先にあるのだ。 カタリナは今一度気を引きしめて、彼方に垣間見える神王の塔を見据えた。 前へ 次へ 第五章・目次
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「そ、そうかしら…」 「普通、大学生だったらお酒と出会うもんだよ。 それでもちゃんと法律を守ってお酒を飲まないなんてむぎちゃんは偉いっ!」 そういうものなのかしら。 私は普通に大学生活を送ってきたつもりだったけどお酒に出会う機会は滅多になかったし そもそも普通の大学生活を送っていたら未成年でもお酒は飲むものなのでしょうか。 「もしかして唯ちゃん、お酒飲んでるの?」 「少し、ね。だいたい飲み会とか、友達に誘われて…っていう感じなんだけど」 私としてもお酒に興味がないわけではありません。 「ね、唯ちゃん。お酒って美味しいの?」 「う~ん…美味しい、といえば美味しいのかな?私もよくわかんない。 でも、みんなで飲むのは楽しいよ!」 私はこのとき、唯ちゃんから魅惑の大人の香りが漂ってきたような気がしました。 「今度機会があったら、その時はお酒飲もう。澪ちゃんもりっちゃんも、あずにゃんも呼んでさ!」 「うん!楽しくなりそうね」 私は唯ちゃんとひとしきり話しこんだ後、帰りの終電に間に合うように駅まで送っていき、別れました。 久しぶりの友達との楽しい一日を過ごし、 私は寝る支度をしながら放課後ティータイムの想い出に浸っていました。 そして、お話は英会話教室に戻ります。 ○ ○ ○ 「雨、また少し降ってきたみたいですね」 英会話教室も何事もなく終わり、出口へ向かう所で琴吹さんに声をかけられた。 外の様子を見ると、暗がりではあったが確かにぽつぽつと雨音がする。 「明日から大雨だと聞いてるからなあ。このまま止みそうにないな」 「せっかく明日はお休みなのに、これじゃあんまり外に出たくありませんね」 琴吹さんは残念そうに笑った。言われるまで気付かなかったが、そうか、明日は大学は休みか。 思い返してみればここ数日多忙をきわめていたような気がしないでもない。紳士にも休息は必要である。 私はなんだか得したような気分になり、上機嫌で琴吹さんと外へ出ようとしたが、はたと気づいた。 愛用の傘がどこにも見当たらない。 奇怪なり。 私は一瞬思考を巡らせ、一呼吸置いた後、傘が盗まれていることを理解した。 愛用とは言ってもまだ数回しか開いていない新品同様の安いビニール傘であったが、 休日の喜びを補って余りある怒りに駆られたのは言うまでもない。 「先輩、どうかしましたか?」 急に動きを止めた私に琴吹さんが不思議そうに声をかけた。 「私の傘がない。きっと心ない者が盗んでいったんだろう」 私の不幸をよそに、外ではいっそう強く雨が降り続けている。 私は途方に暮れた。 「あの……私の傘、使いますか?」 「それでは君が帰れなくなってしまうだろう」 琴吹さんの心遣いはありがたかったが、相合傘でもしない限り2人が安全に帰ることはできないだろう。 むしろ相合傘によって私の精神構造が不安定に揺れ動くことは想像に難くない。 おもむろに妄想の世界へ羽ばたきかけた私であったが、 次の瞬間その妄想が現実になろうとは夢にも思わなかった。 「私の傘大きいので2人くらい入れますし、今度は私が先輩を送って差し上げる番です。 それに、一度先輩の家にも行ってみたいですし」 私は目眩がした。 いくらこの一週間でそれなりに親しくなったといっても、これではあまりに話が急すぎる。 何か大事な過程をすっとばしているのではないか。 私とて一つ傘の下、琴吹さんと仲睦まじく帰宅し、紳士らしく部屋へ招き入れるにやぶさかでない。 しかし私の暗黒面を限りなく凝縮したような四畳半空間へ、 それこそ穢れを知らない深窓の令嬢を誘致するとなれば話は別である。 私のなけなしの人間的尊厳と、四畳半の混沌すら意に介さぬ紳士的態度、 ひいては圧倒的な男性的魅力を思う存分発揮するチャンスだと思ったら、 それは大間違いのこんこんちきである。 そんな結構なものをこれみよがしに携えて琴吹さんを招いても、嘆かわしいほど双方に得るものがない。 しかしながら、私の冷静かつ客観的な分析とは裏腹に、 琴吹さんと2人きりで過ごすという耐えがたい魅力が脳裏をかすめていく。 次第に妄想は体中の欲望という欲望を吸い上げ爆発的に肥大化し、 一大勢力となって脳味噌を支配しようと暴れまわる。 意味不明の葛藤に苛まれることおよそ0.5秒、 スーパーコンピュータもかくやと思われる驚異的な思考速度の末に私が導き出した答えは 抗わないことであった。 全てを受け入れよう。 ありのままの自分をさらけだそう。 「ならばお言葉に甘えるとしよう。私が傘を持つよ」 琴吹さんは嬉しそうに笑った。 桃色遊戯の達人を目指す器でないなら、変に気取るよりも精一杯の誠意を示す他あるまい。 ざあざあと降りしきる雨の中、私は琴吹さんとくっつき、並んで歩いた。 深窓の令嬢の横で紳士らしく傘を携え、優雅にエスコートする映像がありありと思い浮かばれる。 私は全身に鳥肌が立つのを感じた。 決して自分と琴吹さんの間にある絶対的な違和感を感じ取ったわけではない。 灰色がかった人生の、かすかに残された希望の光へ向かっていく覚悟に震えたのだ。 そこでふと、琴吹さんの方へちらっと眼をやる。 彼女は相合傘という一大イベントの渦中にあっても、まったく意に介していないように静かに歩いている。 その横顔は凛としていて、薄暗い路地を背景に整った顔つきが美しく映えている。 気分を曇らせる雨が周りに打ちつけられていても、 その雨粒一つ一つが琴吹さんの艶やかな色気を演出していた。 私はごくりと生唾を飲み込み、その横顔からとっさに目を背けた。 言い知れぬ罪悪感がぞくぞくと込み上げる。私は未だかつて経験したことがないが、 これが美女の魔性なのかと恐怖に怯えた。もしかしたら彼女はその美貌で男を惑わす魔女なのではないか。 取って食われたらどうしようといらん心配をする必要もなく、 むしろ心置きなく取って食べられたい衝動に駆られた。 道中、私と琴吹さんの間には心地よい沈黙があった。 というのは体の良い言い訳であり、実のところ会話の切り口に迷って押し黙っていただけである。 当の琴吹さんも何か話しかけてくる様子もない。 隣に歩く彼女を直視できないせいで私は都合の良い客観的風景を想像した。 そこには紛れもなく繊細微妙で確固たる男女の仲が存在しているように思えた。 一人こそばゆい妄想に身を悶えさせ、紳士の面構えを保ったまま鼻の下だけ異様に伸ばすという 器用な顔芸をしていることに気付き、我に返った。 まあ、そんな具合の帰路だったと思ってもらって問題はない。 私と琴吹さんは湿っぽい下鴨幽水荘に到着した。 「ここが先輩の住んでいるアパートなんですね」 「見ての通り立派な建物ではないが、立地はわりと良い。私の部屋はこっちだ」 そう言ってかの四畳半へ案内した。 私にしてみれば見飽きた廊下の風景だが、 琴吹さんはしきりに辺りをキョロキョロと興味深そうに観察している。 それに、なぜか頬を紅潮させて少し興奮気味である。 私は部屋の前に着くと、琴吹さんに待ってもらうよう言った。 「部屋を片付けるから、少しの間ここで待っててくれ。すぐに終わる」 なるべく中を見られないように彼女の視界を遮りつつ、私は大して物がない四畳半に入った。 ひとまず卑猥図書を暗部に押し込み、散らかっているあれこれを隅っこに放り投げた。 そして私は琴吹さんを招き入れた。 「おじゃまします」 丁寧に靴を脱ぎ揃え、礼儀正しく部屋に上がり込む。 ふわりと浮くように髪をなびかせ、男汁の染み込んだ窮屈な空間に不釣り合いなほど 清楚な匂いを発散させていた。 琴吹さんはみすぼらしい私の部屋を、今にも「わぁ~」とでも言いたげな表情で見渡した。 この「わぁ~」は決して不快に身を引く「わぁ~」ではなく、少年が未知の存在と遭遇し、期待を込めて 感嘆するような「わぁ~」であることを読者諸君には理解していただきたい。 つまり私の部屋は琴吹さんにとって、まさに未知との遭遇だったのだ。 「むさ苦しい所だが、まあゆっくりしてくれたまえ」 「は、はい」 心なしか琴吹さんは緊張した様子でうやうやしく腰を下ろした。 その肩には妙に力が入っている。 改めて考えると、我が四畳半に一端の女子大生が面白みを感じるような変わった所などないように思えた。 しかし口をきゅっと結び、縮こまりながらも身を乗り出し 興味深そうにおわしましている琴吹さんを見る限り、それは杞憂にも感じられた。 琴吹さんは何か言いたげにそわそわとしているが、 私とてコーヒーの一つや二つ用意するくらいの礼節はわきまえている。 コーヒーメーカーを準備しようと流し台に向かおうとした時、 半開きになっている部屋のドアの前に小さな置き手紙を発見した。 私はしゃがみこんで内容を読んだ。 『先日お話した極寒麦酒の件ですが、運よく大量に仕入れることが出来ました。 師匠への貢物として買い溜めしたのですが、小津先輩も同じく大量に手に入れてしまったので 余った分を先輩に差し上げます。よろしければ貰って下さい。 明石』 私はドアを開け、廊下に置いてあった段ボール箱を見つけた。 明石さんが小津と共に師匠と呼ばれる人物の元に出入りしていたとは。 なんだか仲間はずれにされたような気もしたが、正体不明の師匠などについて行ったら これ以上踏み外しようもない人生をさらに逸脱するのは目に見えていたので、特に悔しいとは思わなかった。 私はコーヒー豆を放っておき、その段ボール箱を部屋に持ちこんだ。 「それはなんですか?」 琴吹さんが不思議そうに聞く。 「お酒……のようだな」 大きくない段ボール箱の中を開いてみると、見たこともないラベルの缶麦酒がずらりと揃っていた。 「これがお酒……」 琴吹さんが覗きこむようにして乗り出した。 「例の小津が余った分をこっちに寄こしたらしい。なんでもかなり希少な麦酒なんだとか」 そこで私ははたと思いだした。 極寒麦酒と呼ばれるこの麦酒は飲めばたちまち涼しくなるという魔法のようなお酒だと。 見れば琴吹さんはじわりと汗をかいていた。 それも当然である。ただでさえ湿気と気温で汗ばむほどの暑さであるのに、雨風が入ってこないように 窓を閉め切っていたのだ。残念ながらこの部屋にクーラーなどという便利な装置はない。 この極寒麦酒は彼女に不快な思いをさせないために神が与えたもうた好機であると考えた。 「せっかくだから酒でも飲んでみるかね?」 思ったことをそのまま口にした。 言った瞬間、男女二人が一室に居る状態で酒を勧めるという軽率な発言に自ら焦った。 まさに紳士の皮を被った変態野郎、下心がめくれて現れそうな危機感に襲われたが、 琴吹さんは予想外の反応をした。 「飲みたい!飲んでみたいです!」 目を輝かせて頷く彼女に、逆に私が戸惑った。 琴吹さんは私の顔に驚きの表情を見ると、気付いたように慌てながら目を逸らした。 「その、私お酒を飲んだことがなくて……大学生なら飲むのが普通だと聞いたんです。 それに前々から興味があって……」 照れながら必死に弁解する様子がまたこそばゆい。 私は落ち着いて微笑むと、缶を2本取り出して自分と琴吹さんの目の前に置いた。 「確かに大学生ともなれば酒の一つや二つ知っておかなければならん。 これもいい機会だ。酒との付き合い方も学ぶにしても、飲まないことには始まらん」 私はそう言うと、残りをありったけ冷蔵庫に放り込み、琴吹さんと向かいあって缶を手に取った。 爽やかな音を立てて蓋を開け、琴吹さんにもそうするよう促す。 「記念すべき琴吹さんの初麦酒だ。遠慮せず乾杯といこう」 これはあくまで余興であり、酒を飲むなど特別なことではないという調子で言ったつもりだったが、 琴吹さんは真剣に私の振舞いを観察している。 「まあそう固くならずに」と言うと彼女は拍子抜けしたように眼をぱちくりさせ、静かに乾杯の音頭をとった。 私はぐいっと一口目を仰いだ。 刺激的な快感が口元から胃袋まで流れこみ、敏感な喉を荒く震わせる。 その過剰なまでの清涼感が全身を巡り、苦味とアルコールを感知した脳味噌が瞬く間に覚醒する。 自然と缶を持つ手が2口目、3口目を供給し、肉体という肉体に冷たく染み渡っていった。 極楽なり。 「う、旨い」 思わず声を漏らした。 これほどまでに旨い麦酒は飲んだことがない。 私はあっという間に500mlの缶を半分まで減らしていたことに気付き、驚きのあまり目を丸くした。 私は対面している琴吹さんを見た。 彼女はまるで古今未曾有の奇怪事を眼前に捕えたような不思議な顔をして麦酒缶を凝視していた。 その真面目とも驚きとも取れる表情がなんだか微笑ましい。 「初めての酒はどうだ」 「……嫌な味はしませんでした」 琴吹さんは静かに言った。 「でも、美味しい訳でもないんです。なんというか……とにかく不思議な感覚です」 そう呟く彼女は、美味しくないという不快感を表にすることもなく、ただ謎めいた感覚を考えている。 なんとも新鮮な反応だった。 「酒というのは旨さが分かるまで意外と時間がかかるものだ。 特に麦酒なんぞは最初はただ苦いだけの炭酸水だと思うかもしれないが、しばらく飲んでいれば慣れる」 そう言って私はもう一度、今度は豪快に飲んでみせた。 のどを鳴らしながら一気に流し込む。 私は実に気分良く飲みっぷりを披露し、これ見よがしに快感を演出した。 それを見た琴吹さんは姿勢を正し、同じように豪快に飲んだ。 そこから先はあっけないほど自然に会話が弾んだ。 琴吹さんはしきりに私の私生活に興味を持った。 学部の勉強に興味を示し、交友関係に興味を示し、狭い四畳半を大きく占める 本棚に興味を示し、棘だらけの過去に興味を示し、ギー太郎に興味を示した。 「えっ、先輩もバンドをしていらしたんですか?」 「大学のサークルに参加していたが、去年の冬に辞めて以来活動してないなぁ」 「それはなんていうサークルなんですか?」 「『ぴゅあぴゅあ』という、いかにもお花畑なバンドサークルだ」 「ぴゅあぴゅあ……そういえば私の友達もそんな名前の同好会に所属していたような」 その後も矢継ぎ早に質問されたが、その度に私は気前よく答え、饒舌さを増していった。 極寒麦酒のおかげでサウナのような湿気をはらむ部屋の空気でさえ涼しく感じられた。 酒が入っていたこともあって私はどんどん機嫌を良くし、調子に乗って偉そうに雄弁をふるっていった。 下手をすれば説教まがいの戯言を口走ることもあったが、 琴吹さんは実に器が広いようでそんな与太話にも熱心に耳を傾けてくれた。 かたや琴吹さんの具合はというと、私と同じくらい麦酒缶を空けていながらも まるで変わった様子を見せない。ふにゃふにゃと言動が怪しくなる私と違って平然としていた。 「琴吹さんは全然酔ってないみたいだな」 「はい~平気です~」 「酒は楽しいかね?」 「楽しいで~す」 少しずつ頭が回らなくなる中、琴吹さんもいささか酔っていることに気付いた。 今の彼女はいつも以上に言葉が伸びている。 かと言って朦朧とした口調ではなく、あくまでマイペースぶりに拍車がかかったということだろうか。 「あ……」 私は極寒麦酒を取りに冷蔵庫の扉を開けたが、既に切らしてしまっていた。 5、6缶は空けただろうか、もう私の体は十分清涼感に満ち満ちている。 極寒麦酒の役割はとうに終えたのだ。 しかしこれではどうにも中途半端ではないか。 私は冷蔵庫の扉を閉めると、ふらふらと部屋の隅を漁った。 「先輩?」 「……あった」 ごそごそと取りだしたのは、以前小津と一緒に酒盛りをした時に買ったウヰスキーだった。 「まだ酒が足りん」 不明瞭にぶつぶつと呟くと、私は小さなコップになみなみとウヰスキーを注いだ。 琴吹さんの手元にはまだ麦酒が残っていたのでウヰスキーを欲しがったりはせず、 邪気のない笑顔で私をニコニコと見ている。 流石にウヰスキーを一気に飲むことはしなかったが、麦酒を飲むよりも確実に酔いが回る。 私はその後も琴吹さんと大いに楽しく語らい、夢のような至福の一時を過ごしたはずなのだが、 まるで本当に夢を見ているようにふわふわと地に足が付いていない感覚に襲われた。 そう、まるで夢のように。 ……これは夢なのか? 薔薇色のキャンパスライフを思い描くあまり、私の脳がむにゃむにゃした挙句 ありもしない幻覚を見ているのではないか? そう言えば私は琴吹さんと何を話しているのか良く覚えていない。 私の目の前にいる可憐で繊細微妙なクリーム色の髪の乙女は天真爛漫に微笑んでいる。 その姿は次第に揺らめき、形を変えていった。 何かがおかしい。 その琴吹さんの像が消えてなくなったかと思うと、目の前にぬらりひょんが正座していた。 「ぎゃ」と飛び上がりそうになるのをこらえてよく見ると、それは小津であった。 もしかして英会話教室の琴吹さんは仮の姿であり、その皮をめりめりと剥けば 中に小津が入っていたのではないかと想像した。 ひょっとすると私は女性の皮を被った小津と相合傘をし、女性の皮を被った小津に交際の申し込み、 あわよくば合併交渉にまで思いを馳せるところだったのではないか。 「なんでお前がここにいる」 私はようやく言った。 小津は気取ったように頭を撫でた。 「なんでも何も、あなたが持ってる極寒麦酒を返してもらいに来たんですよ。 明石さんが変な気を利かせたみたいですが、あなたはいつも通りむさ苦しいこの部屋で 精神修行していればいいんだ。あの麦酒は師匠の物ですから」 どういうことか分からない。 「琴吹さんは?」 私はそこで初めて四畳半を見渡した。 外は明るい。時計を見ると午前九時とある。 「琴吹?何を寝ぼけたことを言ってるんですか。あの架空のメールアドレスが とうとう人格を持って貴方の目の前にでも現れたんですか?」 小津が辛辣に言い放った。 ますますわけがわからない。 「それで明石さんから貰った極寒麦酒、どこにあるんですか。返して下さい」 「そ、そうだ!私はもう極寒麦酒は全部飲んでしまったぞ!証拠に部屋に空き缶が散らかっているだろう――」 私は喚きながら辺りを見るが、琴吹さんと飲み交わした麦酒の缶など綺麗さっぱり無い。 「な……」 「あれ、どうやら本当になさそうですね」 小津は勝手に冷蔵庫やらを調べ、「ふん」と鼻を鳴らすと 「まあいいでしょう。この近辺に極寒麦酒はまだ出回っているみたいですし。 後で明石さんに確認しときますわ」 小津はそれだけ言うと部屋から立ち去った。 私は一人四畳半の中心で呆然としていた。 本当に琴吹さんは幻覚だったのか? 堂々巡りの思惑にふけっている内、段々と頭が痛くなってきた。 絶望の淵に立たされたように私は頭を抱え、その場にうずくまった。 昨日の出来事を思い出そうと必死に脳をこねくり回すが、かえって何も思い出せない。 そうしているうち、おぼろげな私の意識は「琴吹紬という人物は存在しなかった」という 結論を導き出そうとしていた。 なんという悲劇。 これほど残酷な仕打ちがあろうか。 私はもごもごと意味不明な言葉を口走り、布団にもぐりこんだ。 恐怖のあまり生まれたての小鹿のようにぷるぷると体を震わせ、仮想現実と区別がつかなくなった 人間の末路を想像し、ますます恐怖に打ちのめされていった。 いっそ狂人になってやろうかとも思ったが、その覚悟があるようなら私はもっとまともな人生を 送れるだけの気概があったに違いない。 結局、私は今の境遇に不満を持つだけで何一つ自ら動こうとしなかったのだ。 哀しい人生であった。 枕に顔をうずめながら誰にでもなく罵詈雑言をぶつけていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。 また小津か、と顔をしかめていると、ドアが開かれた。 私は息を呑み、布団から飛び起きた。 琴吹さんであった。 「先輩、大丈夫でしたか?」 汗をかきながら私の方へ近寄ってくる。 私は固まったまま琴吹さんを見ていた。 「起きたら先輩がすごく苦しそうにしていたので、お薬と栄養剤を買ってきました。 あと飲み物も」 琴吹さんはそう言うと私にスポーツドリンクを差し出した。 口をパクパクさせていた私だったが、先程の頭痛が強く響いてきたのを感じると ペットボトルを闇雲に胃に流し込んだ。 飲み終わり、ぜぇぜぇと息を切らす私に琴吹さんは優しく声をかけた。 「二日酔いの時は水分を吸収するのがいいと聞きました」 二日酔い。頭痛。そして今更気付いたが、震えるほどの寒気。 私は琴吹さんが現れたことに安堵しながらも、今度は別の意味で布団に倒れ込んだ。 「こ……琴吹さんは二日酔いは大丈夫だったのか?」 「私は全然平気です。昨日先輩がウヰスキーを飲み始めたかと思ったらそのまま 横に倒れたので心配しました」 そうか。私は昨日アルコールを摂取しすぎたせいで意識が飛んでいたのだ。 「私も眠くなってその時は寝ちゃったんですけど、朝起きたら先輩が震えてるので どうしたのかと思って……。幸い友人が極寒麦酒について色々と知っていたらしくて 二日酔いと冷え性の併発の話を聞いてお薬と栄養剤を用意していたんです」 私は心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 紳士として情けないこと極まりない。 しかし琴吹さんが看病してくれるというこの状況は、これはこれで幸せだとも考えた。 「先輩、顔がニヤけています」 琴吹さんの背後から冷ややかな声が聞こえた。 「あ、明石さん!?」 私は驚きのあまり上半身を勢いよく起こし、目眩に襲われた。 「え?先輩、明石さんとお知り合いだったんですか?」 琴吹さんが私と明石さんを交互に見ながら目を丸くした。 「まったく、紬さんの知り合いが極寒麦酒を飲み過ぎて倒れたと聞いたので訪れたら 先輩だったのですね。阿呆なことです」 入口付近で静かにたたずみ、明石さんは厳しく言った。 横になりながら詳しく話を聞くと、琴吹さんと明石さんは1年生の時に 友達の友達として知り合ってから仲良くなり、以降頻繁に連絡を取り合っているのだという。 意外なところで繋がっているものだ。 「スモールワールドですね」と琴吹さんは言った。 死んだように横たわる私に気を配りながら、うら若き乙女二人は他愛もない世間話をしていた。 「明石さんも小津さんという方を知ってるの?」 「小津さんとはサークルも一緒でしたし、今は師匠の門下として兄弟弟子でもあります」 「そうなんだ。師匠だなんて、きっと立派な方なんでしょうね」 「師匠はそれなりに立派です。あくまでそれなりに。 それはそうと、紬さんは先輩とはどういう関係なのですか?」 「大学外の英会話教室で半年くらい前に知り合って、最近よくお話しするようになったの。 昨日たまたま遊びに来たら素敵なお酒を頂いたらしくて、せっかくだから飲んでみようって……」 「なるほど。それで極寒麦酒を無下に消費してしまったんですね」 「そういえば、明石さんは何故その麦酒に詳しいの?」 「そもそもこの部屋に極寒麦酒を提供したのは私です」 「まあ、そうだったの」 「この麦酒も、元はと言えば師匠の貢物として探し求めていたのですが中々見つけることが出来ず、 業を煮やした小津さんが何らかの手段でもって強引に集めたらしのです」 「何らかの手段?」 「聞いた話では、小津さんは大学中のありとあらゆる組織を動かすことが出来る影の支配者という 大層な噂があるのです。現に小津さんはひと夏どころかあと四回は夏を越せるくらいの極寒麦酒を どこからともなく入手してきました。私はその余りを先輩に分けようと思ったのですが……」 そこで明石さんは私を一瞥した。 予期せず目を合わせてしまった私は一瞬どきりとして慌てて布団に身を隠した。 これではまるで私が怯えているようではないか 4