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魔法少女リリカルなのはレビュー (ジャンル:戦闘、人間ドラマ) 評価 点数の判定基準の意味はこちら ストーリー キャラクター 声優 グラフィック 14点 20点 21点 20点 合計75/100点 感想 まあ、オタク向けアニメですね。 魔法少女系が好き(+ロリ好き(笑))な人は見ておくと良いんじゃないでしょうか。 説明ばかり。2クールでやってくれれば、もっと良かったかも。 何だかんだいって、私は好きなタイプのアニメなので、結構楽しめました(笑) 魔法少女リリカルなのは公式サイト
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ゆりかごの機動ポイント 到達まであとわずか 最終決戦の行く先は、 星の光のその先に 本当の気持ちに 集長の一言 地上のナンバーズを確保し 後一人と言う頃、 ヴィータは、ゆりかごの機関部にいた。 みんなの為に船を止めるために そして、ゼストは、最後にやるべきことをする 彼は、こう語る 「本当に守りたいものを守る。ただそれだけの事が、これほど難しい事か」っと ゆりかご内でなのはとヴィヴィオの対決も続く 本当の娘と本当の親になるために 最後のリバインバスターが、炸裂する 映像は、こちら(消失の場合は、連絡の事 魔法少女リリカルなのはStrikerS ep 25 part 1 魔法少女リリカルなのはStrikerSサブタイトルへ戻る
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魔法少女リリカルなのはStrikerS 第26話【約束の空へ】 スバル「探してたのは勇気の意味」 ティアナ「今を見つめられなくて、夢と未来に逃げてたこと」 エリオ「傷つけてばかりで、何もできなかった頃」 キャロ「うつむいて、震えてただけだった自分」 スバル「教えてもらったのは、立ち向かうための、心と力」 ティアナ「今、自分にできること」 エリオ「大切なものを守るために」 キャロ「まっすぐ、前を見つめること」 ティアナ「この事件を、悲しみと後悔で終わらせないように」 スバル「私たちが今、助けに行きます!」 クロノ『なのは、フェイト、はやて。脱出、急いでくれよ』 リイン「駄目です!魔力結合できません!通信も!」 はやて「しゃあない。歩いて脱出や」 リイン「でも、なのはさんが、」 なのは「はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫。歩けるよ!」 ヴィヴィオ「ママ」 ゆりかご『乗員は、所定の位置に移動してください。繰り返します。乗員は所定の位置に移動してください。 これより、破損内壁の応急処置を開始します。破損内壁・および非常隔壁から離れて下さい』 シャッハ「私は、フェイト執務官を助けに」 ヴェロッサ「シャッハ!その負傷じゃ無理だよ。僕が行く」 シャッハ「ですが!」 フェイト「待って下さい!こちらは自力で脱出できます。それより、この崩落を止めないと。ポットの中の人たちが、 まだ生きてるかもしれないんです。道連れにさせるわけにはいかない」 シャッハ「ですが!」 フェイト「止めます!シャーリー!」 シャーリー「はい!フェイトさん!」 シグナム「私はこれから空へ上がる。アギト。おまえはどうする」 アギト「あんたは、旦那を、殺した!だけど!騎士として、誇りある最期をくれた。旦那はあんたに、あたしを託した。 だから、あんたと行く!傍にいて、見極めてやる。あんたがもし、旦那の言葉を裏切るような真似をしたら」 シグナム「その時は、おまえが私を焼き殺せ」 アギト「ユニゾン、イン!」 ヴァイス「いいか!船ん中、奥に進むほど強度のAMF空間だそうだ。ウイングロードが届く距離までくっつける。 そいつでつっこんで、隊長たちを拾ってこい!」 スバル・ティアナ「はい!!」 ヴァイス「行くぜ、ストームレイダー。前に言ったな。俺ぁエースでも達人でもねぇ。身内が巻き込まれた事故にビビって、 取り返しのつかねぇミスショットもした。死にてぇぐらい情けねぇ思いもした。それでもよ! 無鉄砲で馬鹿ったれな、後輩の道を、作ってやるぐれぇのことはできらぁな!」 ルキノ「あれ?シグナム副隊長、そのお姿は」 シグナム「心強い増援がついてくれた。現在位置で迎撃する」 ルキノ「はい!」 アギト「機影48。まだ増える」 シグナム「やれるか?アギト」 アギト「やれるさ。猛れ炎熱!烈火刃!」 シグナム「何故だろうな、アギト。おまえとの融合は、不思議と心が温かい。アギト?」 アギト「ひっく、なんでもねぇ。なんでもねぇよ」 ルキノ「距離450!第二編隊、来ます!」 シグナム「ああ、行くぞ、アギト!」 アギト「おう!シグナム!」 隊員「無茶です!ヴィータ三尉!」 ヴィータ「うるせぇ!」 ティアナ「ヴィータ副隊長!御無事で!」 スバル「なのはさんと八神部隊長の救出!いってきます!」 隊員「あ、あの子たちは」 ヴィータ「あいつら」 ティアナ「本当に、全然魔力が結合しない」 スバル「でもあたしは、戦闘機人モードでなら、撃てるし走れる!」 ティアナ「きっと助けて戻れるわ。私とあんたの二人でなら!」 スバル「うん!」 シャーリー「データ解析。パスコード看破!フェイトさん!」 フェイト「うん!止まった」 シャーリー「はい!」 スバル『あの日のなのはさんに憧れて、選んだこの道』 はやて「この音」 リィン「まさか!」 なのは「うん」 ギンガ『スバル』 スバル『母さん、ギン姉。ちょっとだけ、力を貸して!』 ティアナ「お待たせしました!」 スバル「助けに来ました!」 なのは「うん」 シャーリー「巨大船、撃墜。任務完了です!やったぁ!やりましたぁ!あはは!やったぁ!」 シャマル「シャーリー。でも、ちょっとだけ、しー」 シャーリー「え?」 はやて「みんなぁ、ほんまにお疲れや」 スバル「レリック事件をきっかけに始まった、今回の任務は、こうして無事に終わりを告げました。 いくつもの出来事が絡み合ったこの事件が、ジェイル・スカリエッティ事件。 または、JS事件と呼ばれるようになったのは、事件が終わって随分経ってからのこと」 「逮捕されたスカリエッティと、事件捜査に協力の意思を見せなかった戦闘機人たちは、 それぞれ別世界の移動拘置所」 「罪を認め、捜査に協力的な姿勢を見せた子たちは、ミッド海上の隔離施設。 ライトニング隊が保護した二人、ルーテシアとアギトも、自分たちで決めてそこにいる」 セイン「まぁ、お二人はすぐに出られると思いますけどね」 ウェンディ「精神操作。心神喪失。その他もろもろがあるッスからね~」 ルーテシア「うん」 セイン「アギトさんなんかは、こなくてもよさそうなもんなのに」 アギト「ルールーが心配だったんだよ!それに、これからは、ちゃんと生きなきゃならねぇからな」 ウェンディ「あれ?そういやルーお嬢様。お母さんは?」 ルーテシア「病院で、眠ってる。ちゃんと治療すれば、レリックがなくても、いつか目を覚ますだろうって」 スバル「ミッド地上は平穏を取り戻し、機動六課のオフィスも修理完了。隊員たちも全員、職場復帰。 ヴィヴィオも、一時保護と検査から帰ってきて、ママと一緒に平和な暮らし」 ヴェロッサ「しかし、はやて。事件以降、めっきりおとなしいね」 カリム「疲れが出た?」 はやて「う~。シグナムから聞いた、レジアス中将の話がな。なんや、あたしもな、おんなじような思いがあるから。 失ったものがあるから守りたくて、守りたいから必死になって、無茶もして」 ヴェロッサ「どんな気持ちも、どんな思いも、強くなりすぎれば裏返ってしまうものさ」 クロノ「積み重ねてきた時間や犠牲になったものが多ければ多いほど、よけいにな」 カリム「だけど、急いで求めすぎたら悲しいことばかりが増えていくから」 はやて「うん。しかしなんやな~。このメンバーにやと私は末っ子気分で、どうもあれや」 クロノ「今頃気づいたのか」 ヴェロッサ「君もまだまだチビッ子だ」 はやて「うぅ」 スバル「そう、機動六課の試動運用期間は一年間。春が来たら、私たちは卒業になります」 ゲンヤ「おまえさんが持って帰ってきてくれたデータのおかげで、戦闘機人事件は綺麗にかたがついた。 女房やゼスト隊のみんなも、やっとゆっくり眠れるだろうよ」 はやて「長いようで短かった一年間。本日をもって、機動六課は、任務を終えて解散となります。 皆と一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです。次の部隊でも皆どうか元気に、頑張って」 ティアナ「なんか、わりとあっさり終ったわね」 キャロ「ですね」 エリオ「まぁ、この後お別れ二次会もありますもんね」 スバル「うん」 エリオ『スバルさん、元気ないね』 キャロ『なのはさんとお別れだし、次の配置、ティアさんと進路が別れちゃったから』 なのは「あ、皆、ちょっと」 ティアナ「なのはさん」 スバル「ギン姉も」 なのは「二次会前に、フォワードメンバー。ちょっといいかな?」 はやて「私やなのはちゃんの故郷の花」 フェイト「お別れと、始まりの季節に…つきものの花なんだ」 ヴィータ「おっし、フォワード一同、整列!」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!!」 なのは「さて、まずは四人とも、一年間訓練も任務もよく頑張りました」 ヴィータ「この一年間。あたしはあんまりほめたことなかったが。ふっ、おまえら、まぁ、随分強くなった」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「え?」 なのは「辛い訓練、きつい状況、困難な任務。だけど、一生懸命頑張って、負けずに全部クリアしてくれた」 「皆、本当に強くなった。四人とも、もう立派なストライカーだよ」 ヴィータ「あああ。泣くな馬鹿たれどもが」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!」 なのは「さて。せっかくの卒業。せっかくの桜吹雪。湿っぽいのはなしにしよう」 シグナム「ああ」 ヴィータ「自分の相棒、連れてきてるだろうな」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「え?」 フェイト「え?え?」 シグナム「なんだ?おまえは聞いてなかったのか?」 なのは「全力全開!手加減なし!機動六課で最後の模擬戦!」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!」 フェイト「全力全開って…聞いてませんよ!?」 シグナム「まぁ、やらせてやれ。これも思い出だ」 フェイト「あぁ、もう。ヴィータ、なのは!」 ヴィータ「固いこと言うな。せっかくリミッターもとれたんだしよ」 なのは「心配ないない。皆強いんだから」 フェイト「あぁ」 ヴィヴィオ「フェイトママ、大丈夫」 フェイト「え?」 ヴィヴィオ「皆、楽しそうだもん」 エリオ「フェイトさんも、お願いします!」 キャロ「頑張って勝ちます!」 フェイト「んー、もうー」 ヴィヴィオ「頑張って」 ギンガ「それでは」 はやて「レディ」 はやて・ギンガ「ゴー!!」 八神はやて二佐 特別捜査官に復帰。地上に腰を据え、密輸物・違法魔導師関連の捜査指揮を担当 守護騎士一同とともに、職務を続ける フェイト・T・ハラオウン執務官 副官シャリオ・フィニーノとともに次元航行部隊に複隊 ティアナ・ランスター執務官補佐 フェイトの二人目の補佐官として、執務官になるための実務研修 夢に向かって進行中 ルーテシア・アルピーノ 魔力の大幅封印後、無人世界への隔離による保護観察処分が決定 長い隔離期間を、母や召喚獣たちとともに静かに暮らす アルト・クラエッタ一等陸士 地上本部 ヘリパイロットに正式採用 ヴァイス・グランニック陸曹長 地上本部ヘリパイロット 返納していた武装局員資格を再取得 グリフィス・ロウラン事務官 次元航行部隊に転属 艦船での事務業務に従事する ルキノ・リリエ事務官補兼操舵手補 グリフィスの補佐官を勤めつつ、艦船操舵手としての道を進む キャロ・ル・ルシエ二等陸士 前所属の辺境自然保護隊に復帰 エリオ・モンディアル二等陸士 辺境自然保護隊へ希望転属 竜騎士・竜召喚師コンビとして自然保護・密猟者対策業務において活躍 高町ヴィヴィオ 本人の希望により、聖王教会系列の魔法学校に入学 母親とその友人たちに見守られごく普通の女の子としての人生を歩み始める ギンガ・ナカジマ陸曹 関係者の指導のもと、収容された戦闘機人たちの更正プログラムに参加 プログラムは順調に進行中 スバル・ナカジマ一等陸士 本人の希望転属先に配置 災害対策・人命救助の最先鋒 特別救助隊のフォワードトップとして活躍 災害に見舞われた人々の命を、救い続ける 高町なのは一等空尉 JS事件の功績評価による昇進を辞退 戦技教導官 そして空戦魔導師として現場に残り、後進を守り、育て続ける なのは「本日より三週間。皆さんの空戦教導を担当することになりました、高町なのは一等空尉です。 ちょっとハードな訓練になると思うけど、しっかりついてきてね」 隊員「はい!」 なのは「さぁて、それじゃあ元気に、頑張っていくよ!!」 隊員「はい!」
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オリ主が逝くリリカルなのはsts 調律者は八神家の父 転生者の魔都『海鳴市』 魔法少女リリカルなのは~星に思いを~ 魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-
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▽タグ一覧 アニメ素材 ツインテール パンツ 悪魔 白色 茶髪 音MAD素材 魔法少女 ニコニコで【魔法少女リリカルなのは】タグを検索する 概要 魔法少女リリカルなのはとは、同タイトルのTVアニメをはじめとする、戦闘系魔法少女の礎を築いたメディア作品である。 ニコニコ動画ではでは「・・・少し・・・頭冷やそうか・・・?」いうセリフが有名 パンツめくれぇ
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燃えている。 それまでそこにあった光景が、全て紅蓮に染まる世界。 はるか太古より火は偉大な力の一つであり、人はその力に支えられて生きてきた。しかし、力は時として恐れを抱かせる―――。 ミッド臨海空港を襲った大規模な火災。多くの人々の行き交う場所を襲った最悪の出来事。 燃え盛る獄炎の中、次々と救助を成功させていくレスキュー隊の獅子奮迅の活躍を嘲笑うかの如く、それまでの奇跡のツケを払うように一人の少女の命が呑まれようとしていた。 「おとうさん……おねえちゃん……」 真紅に染まった空港内のエントランスを、スバルはひとりぼっちで彷徨っていた。 弱弱しい少女の助けを呼ぶ声は、燃え盛る炎の唸りにかき消されていく。 無力な少女を弄ぶように、崩壊した建物の爆風が巻き起こり、スバルを地面に叩き付けた。 痛い。熱い。恐怖と孤独感が襲い掛かり、弱い心を容易くへし折る。立ち上がることも出来ず、無力なスバルにはただ泣くことしか許されてはいなかった。 「こんなの……いやだよぉ……。帰りたいよぉ……」 か細く漏れる願いは、しかし非情な現実によって潰えようとしていた。 中央に建てられた女神像が長く晒された高熱によって基盤を崩壊させ、倒れようとしている。その先にはもはや動けないスバルがいた。 「だれか……助けて……っ!」 平和を象徴する女神像は、しかしやはりただの無機物でしかなく、無慈悲なままに少女を押しつぶそうと倒潰を始めた。 迫り来る影に、スバルは目を瞑る。 しかし―――。 「―――っ、よかった。間に合った……!」 願いの果てに助けは来た。 この広大な空港の中、火炎地獄を物ともせずに駆けつけ、巨大な女神像をバインドによって固定した魔導師の少女によって。 「もう、大丈夫だからね」 スバルを間一髪のところで救出した高町なのはとその相棒レイジングハートは、安心するよりも呆然としたスバルをシールドで包み、砲撃の準備を開始した。 そして次の瞬間、寸断された通路の代わりに、脱出路を確保する為の一撃が炎と夜空を切り裂く。 スバルは轟音と共に開かれる天井を見上げた。 赤一色しかなかった世界に、夜空の黒が覗いている。自分を閉じ込め、二度と解放しないだろうと感じた地獄の中に一筋の道が生まれていた。 「さあ、早くここから出よう」 「あ……」 衰弱したスバルの体を、優しい腕が持ち上げる。 見上げる先には力強い笑顔があり、スバルはまた泣きそうになった。今度は恐怖などではなく、ただ心からの安堵で。 そして、なのはが飛行魔法を使おうとした―――その時、二人の視界で炎が『動いた』 「え……っ」 「何!?」 スバルを庇うように抱き締め、なのはがレイジングハートを目の前の異様な光景に向ける。 それは、錯覚なのだろうか―――二人は自問する事となった。 視界を埋め尽くすように揺らめく炎の中で、赤い背景に溶け込むようにして蠢く奇怪なものの姿があった。 それもやはり炎には間違いない。だが、周囲で燃える炎の中で、その一点の炎だけが違う不規則な動きを見せ、同じ真紅の世界の中で浮き彫りに見える。 それは『燃え盛る体を持つ牛の化け物』に見えた―――。 肥大化した筋肉に覆われた上半身。捻じ曲がった巨大な二本角。目や鼻に位置する穴から炎を噴き出す牛の頭。そして、その手に持つ奇怪な形の大鎚。 この世の者ならざる異様な姿を持ちながら、全身が比喩ではなく『燃え盛っている』せいで、炎の中にその全貌が溶け込んでしまう。 「まさか、この火災を起こしたのは……?」 思わぬ真相に遭遇してしまったなのはは、腕の中で震えるスバルを抱く力を強め、敵意を持って炎の中を睨み付けた。 アレが炎の見せる幻影でないのなら、戦わなければならない。 火の肉体を持つ怪物が、眼球とおぼしき熱の塊をなのは達に向けたような気がした。 果たしてその<眼>は自分達を見ているのか? しかし、怪物がその疑問に答えることはなかった。 二人の目の前で、怪物は唐突に消滅し始める。周囲の炎に怪物の体が溶け込むようにして見えなくなっていった。 つい先ほどまでハッキリとその異形を認識出来たのに、見る間にただの炎と怪物の体の境が曖昧になり、気が付いた時には目の前でただ炎が燃えていた。 あの怪物を見た強烈な衝撃は現実感と共に薄れていき、あれが本当は炎の動きが生み出した錯覚に過ぎないのではないかとすら思えてくる。 「……今の、見えた?」 なのはが自分と同じように呆然とするスバルに尋ねた。 自分の見たものが何だったのか? ありのままに受け入れることも出来ず、スバルはなのはの胸にしがみ付いて、かろじて頷くだけだった。 「そう……。忘れた方がいいよ。さ、行こう」 全てが幻であったと言い聞かせるように囁き、なのははスバルを抱えて飛び上がった。この小さな少女がこれ以上悪夢を見ないよう、覆い隠すように抱き締める。 かくて、二人は燃え盛る火災現場からの脱出を果たした。 この日、炎の中で起こった一瞬の幻のような邂逅を、覚えている者は一人、忘れた者は一人。 少女は、この時助けられた記憶から自らの弱さを嘆き、憧れを追い始める。 魔導師は、この時見たモノの記憶が薄れぬよう心に刻み、闇に潜む存在を疑い始める。 <力>は時として人に恐れを抱かせる。しかし、また同時に人を魅せて止まない。 故に、魔に魅入られし人は絶えず……。 自らの背後から伸びる影に埋没する者達の存在を、多くの人々はまだ知らない―――。 魔法少女リリカルなのはStylish 第二話『Gun Fist』 0072年6月。時空管理局武装隊ミッドチルダ北部第四陸士訓練校にて。 『―――試験をクリアし、志を持って本校に入校した諸君らであるからして』 亡き兄の夢と仇を追って、大空への第一歩を踏み出そうとする少女<ティアナ=ランスター>と。 『管理局員、武装隊員としての心構えを胸に』 あの日憧れた姿を胸に、その人の待つ高みへと最初の一歩を歩みだした少女<スバル=ナカジマ>と。 『平和と市民の安全の為の力となる決意を』 そして、多くの夢と栄光を目指して同志達が今、ここに集結していた。 『しかと持って訓練に励んで欲しい!』 「「「はいっ!!」」」 『以上! 解散! ―――1時間後より訓練に入る!』 目指すべき先は長く険しく……しかし、彼らの瞳は一様にして輝いていた。 若きストライカー達の挑戦が、此処から始まる。 スバルは感じた。この人、何か猫みたい。 ティアナは思った。こいつ、何か犬っぽい。 32号室で相部屋となったルームメイト兼コンビパートナーへの、お互いの第一印象である。 「スバルだっけ。デバイスは?」 「あ、わたしベルカ式で、ちょっと変則だから……」 初の訓練前で騒然とする倉庫内で、各々が規格の訓練用デバイスを選ぶ中、スバルとティアナのコンビだけが自前のデバイスを調整していた。 「<ローラーブーツ>と<リボルバーナックル>! インテリシステムとかはないタイプだけど、去年からずっとこれで練習してるの」 手馴れた様子でいち早くデバイスを装備したスバルが誇らしげに2タイプのデバイスをティアナに紹介した。 素人とはいえ、独特のデバイスを自作出来る程の知識を持つティアナはそれらを冷静に解析する。 ローラーブーツは自分で組んだというだけあって、特色のない魔力駆動の規格品である。陸戦魔導師ならば、妥当な機動力の確保方法だと言えるだろう。 しかし、右腕に装着したナックルの方はかなりの高級品だと見抜いた。近代ベルカ式は次世代魔法だし、搭載されたカートリッジシステムもコンパクトで新しい。 「格闘型……前衛なんだ」 「うん!」 さて、この逸品を使いこなす猛者なのか、玩具にするバカのボンボンなのか。そんな意味合いを含んだティアナの呟きを、能天気なスバルはもちろん気付かなかった。 「ランスターさんは?」 「あたしも自前。ミッド式だけどカートリッジシステム使うから」 ツインバレルのショットガンに酷似した形状のアンカーガンにカートリッジを詰めながら、素っ気無く応える。 特色といえば、銃身の下部に備えられたショットアンカー程度の汎用デバイスを二つ。ティアナの本来のスタイルは二挺拳銃(トゥーハンド)である。 一般魔導師からすれば変則ではあるが、特に目立ちもしなければ誇れもしない装備だった。 「わ、銃型! 珍しいね。かっこいー!」 しかし、スバルは銃型という点に眼を輝かせた。 質量兵器が廃止されて久しいミッドチルダでは、銃は映画などのフィクションで活躍する代物なのだ。 実用性と機能美を重んじるティアナはそんな子供っぽい反応に冷めた視線を返す。無言の釘を刺されたスバルがビクッと震えた。 必要以上馴れ合うつもりもなければ、相手にわざわざ合わせる気もない。 元来冷めた性格であるティアナは、やはり素っ気無く視線を外すと、デバイスのチェックを終了した。 そして、ティアナの手の中で二挺のガン・デバイスが華麗に踊る。 トリガーガードに指を掛けてコマのように数回転させると、銃身が小気味よく風を切った。その動作のまま流れるように、腰の後ろのガンホルダーへ突っ込む。 ―――と、そこまでの流れを無意識に行って、ハッと我に返った。 ティアナは自分の失態に気付くと、ギシギシと軋む首で視線を移動させる。 先ほどよりも激しくキラキラと瞳を輝かせたスバルの顔があった。どうやら、このパフォーマンスがウケにウケたらしい。 「すっごーい! 今のメチャクチャかっこいーよ、ランスターさん!」 「だああっ、もううっさい! 今のはついやっちゃったの。あんな頭の悪い芸、普段はしないんだからねっ」 「悪くないよ、すごくいいよ! ね、ね、もう一回やってみせて!」 「やらない! 訓練始まるわよ、さっさと並ぶ!」 はしゃぐスバルを置いて、ティアナは足早にその場を立ち去った。この3年間、銃の扱いを参考にしていた男から知らずに受けた悪影響に頭を悩ませながら。 ティアナは感じた。この娘、バカだがやりづらい。 スバルは思った。この人、こわいと思ったけど実はかっこいい。 初のコンビプレイを目前に控えた二人の、ちょっと変化した互いの印象である。 「ふえー、広い訓練場ですね」 「うん、陸戦訓練場だからね」 木々と岩場で構成される自然の訓練場を一望出来る場所で、エリオを連れ立ったシャリオが陸士の訓練を見学していた。 エリオ=モンディアル。今はまだ芽さえ出ない才能を眠らせたこの幼い少年が、この場を訪れたのは、あるいは運命だったのかもしれない。 「あ、朝の訓練始まるねー」 談笑する二人の眼下で、ティアナとスバルを含む訓練生達が記念すべき最初の訓練を開始しようとしていた。 最初の訓練はコンビによる機動と陣形の即時展開。訓練場の設備を利用した基本的なプログラムだった。 「障害突破して、フラッグの位置で陣形展開。わかってるわよね?」 「うんっ!」 二人組(コンビ)での行動の仕方はすでに把握している。しかし、それはあくまで知識としてでしかない。 冷静なティアナとは反対に、スバルは若干緊張していた。 『次、32のコンビ!』 「前衛なんでしょ? フォローするから先行して」 「うん!」 力強いが単調なスバルの返事からその心境を伺えるほど付き合いの深くないことが、ティアナにとって不運だった。 スバルとティアナに番が回って位置についた時。スバルの魔力が過剰なまでにローラーブーツに注ぎ込まれるのをティアナが気付いた時には、全てが手遅れだった。 『セット……ゴーッ!』 号令と同時にスバルが飛び出した。トップスピードで。 「えっ!? ちょ……ぷあっ!」 爆音と共にローラーブーツの瞬発力が炸裂し、地面と背後のティアナを吹き飛ばす。相棒を置き去りにして、スバルは誰よりも速くフラッグポイントを確保してみせた。 そして、当然ながら不合格だった。 ティアナはスタート地点で尻餅を着いたまま咳き込み、完全にスバルの独断専行になってしまっている。 「馬鹿者、なにをやっている!? 安全確認違反! コンビネーション不良! 視野狭窄! 腕立て20回だ!」 教官の叱責を受けて、二人はいきなり意気消沈した。 「足があるのは分かったから、緊張しないで落ち着いてやんなさい」 「ご……ごめん……」 「いいわよ。とりあえず、いずれ舐めることになる訓練場の砂の味を予習することは出来たわ」 兄貴分譲りのジョークも、スバルには完全な皮肉としか聞こえなかったらしい。 余計落ち込んだパートナーと自分自身のバカさ加減に内心頭を抱えながら、ティアナは前途多難なため息を吐いた。 次の訓練は垂直飛越。壁などの遮蔽物を一人が足場となって飛び越える、やはり基礎的な訓練だ。 足場役が両手を組んで相手の足がかりとなり、跳ぶ力と押し上げる力で高い壁を飛び越える。多少息を合わせる必要はあるが、それほど困難な事ではない。 何より、これならば緊張で力んでもプラスにはなれど、マイナスにはならないだろう、と。ティアナは名誉挽回しようと意気込むパートナーを一瞥した。 「しっかり上まで飛ばせてよ」 「うんっ!」 気合い十分、スバルは頷いた。 そしてやはり、気負い気味なのは見越していたが、それに伴うスバルのパワーを予想出来るほど付き合いの深くないことが、ティアナにとっての不運だった。 「いち、にーの……」 「あれ? ちょっと待って、なんであんた魔力で身体強化して―――」 「さんっ!!」 次の瞬間、ティアナは星になった。 『跳ぶ』というより『吹っ飛ぶ』という表現が相応しい勢いで、ティアナの体が空高く舞い上がる。木の葉のように舞う相棒を見上げ、スバルは昇っていた血の気が一気に引いた。 「あああ、しまったぁ!」 格闘型ゆえ、魔力による肉体強化は基礎中の基礎。この滑らかな発動を褒めるべきか諌めるべきか……。 いや、とりあえず一発殴ろう。空中で錐揉みしつつ、口から漏れる悲鳴を噛み殺しながらティアナは黒い決意を固めた。 墜落死が確実な高度で勢いが衰え、落下が始まる。対処を考えるティアナの視界が地上を捉え、自分をキャッチしようと走り出すスバルの姿が見えた。 「動くな! 訓練のうちよ!!」 咄嗟に一喝したティアナの迫力にスバルが硬直する。 ここでスバルが持ち場を離れれば、コンビとしてのミスが決定する。それは許容出来なかった。片方のミスはもう片方が補う。だからこそ<コンビ>なのだ。 「……Slow down babe?」 『慌てんなよ?』 いつだって余裕をなくさず格好を付けたがるあの男の口癖が無意識に洩れた。 自分を見上げる不安そうな表情を不敵に笑い飛ばす。 ―――この程度で失敗などと判断されては困るのだ。パワー馬鹿に振り回されるのは慣れている。 「<エア・ハイク>!」 手に魔力を集中させ、その先に瞬間的な足場を作る。 赤い魔法陣が空中に出現し、それを蹴る反動で頭から落下する形の状態を変える。一蹴りでティアナは瞬時に姿勢を立て直した。 空中での機動確保の為に習得した魔法だが、まだまだ無駄が多い。こんなもの、あのいつも余裕綽々な兄貴分なら鼻歌交じりでやってのける。 それでも、彼から学び取った技術が今この瞬間を救ってくれたことにティアナは密かに感謝した。 一連の流れを見守っていたスバルを含む訓練生達が感嘆の声を漏らす中、やや派手な音を立てながらもティアナは無事自力で地面に着地した。 「ご、ごめんなさい! ランスターさん、大丈夫!?」 ティアナに対する尊敬の念を更に深めたスバルが、それでも心配そうに駆け寄ってきた。 それをジロリと一瞥しながらも、同じく歩み寄ってきた教官に向き合う。 「32番―――」 「特に問題はありません。『多少』パートナーに力みがあったようです」 睨み付けるような教官の視線を平然と受け流して、いけしゃあしゃあとティアナは言ってのけた。 自分が原因であると理解出来ているスバルはハラハラと二人の様子を見守っている。 しばしの沈黙の後、教官は『訓練を続行しろ』とだけ短く告げて、去って行った。 「……あのぉ、ランスターさん」 「……」 「ホント、ごめんなさい……失敗を取り返そうと思って……」 「……色々言いたいし、かましてやりたいんだけど、とりあえず一つだけ言うわ」 「な、何?」 「足が痺れて動けないから運んで」 着地の反動で動かない両足で棒立ちしたまま、ティアナは青筋を浮かべてこの先に待ち受ける多大なる苦労の元凶となるであろうパートナーに告げた。 「あれ、楽しそうです!」 「エリオは真似しちゃだめだよー」 そんな平和な一角からは、律儀にスバルに拳骨を落としながらも素直に運ばれるティアナの姿が見えるのだった。 結局、その日は一貫してそんな調子だった。 一通りの訓練が終了したその日の終わり。訓練の果てに得られたものは、スバルに課せられた反省清掃だ。 「あ、あの……ホントごめん……」 「謝んないで、うっとうしい」 一方的に迷惑をかける形になったスバルはすっかり落ち込んでいた。 数々の場面でスバルの暴走が目立ち、その度にティアナがフォローに回って訓練そのものは継続出来たが、それまでの減点で罰則が下されたのだ。 失敗の度、被害を被るティアナに申し訳なく思い、それを取り返そうとして気負う悪循環。理解出来ないほどスバルはバカではなく、それゆえに尚の事落ち込む。 反省清掃がスバルにのみ課せられたのが、せめてもの幸いだった。 これ以上パートナーに迷惑をかけるのは申し訳ないし、何よりどうしようもなく格好悪いと思えた。 「わたし、もっとちゃんとやるから……ランスターさんに迷惑かけないように!」 「―――あのさぁ、気持ちひとつでちゃんとやれるんなら、なんではじめからやんないわけ?」 意気込んで告げるも、限りなく冷めた視線が返される。 まったくその通りだ。自分を鼓舞するつもりが、スバルは逆に撃沈した。 「……ねえ、あんた真剣? 遊びで訓練やってない?」 「あ、遊びじゃないよ!」 しかし、どれだけ相手に申し訳なくても、その言葉にだけはスバルはハッキリと反論した。 「真剣だし……本気で……っ!」 真っ直ぐに自分の瞳を覗き込むティアナの視線を、精一杯見つめ返して、スバルは必死で言葉を紡ぐ。 それでも無言のティアナの様子に、自分のこれまでを省みて徐々に小さくなっていく声。そこでやっとティアナは口を開いた。 「ならいいわ」 「……へっ? い、いいって……」 「でも、だからって同じ失敗するようなら一発ぶち込んで鼻の穴一つにしてやるからね」 「え゛っ!? は、はい……!」 「よろしい」 あっさりと許しを貰って拍子抜けするやら、実はスゴイ怒ってるのかと背筋が凍るやら。混乱するスバルを尻目に、ティアナは掃除用具を片手に清掃を始めた。 「あ、あの、ランスターさんは掃除しなくても……!」 「二人でやった方が早く終わるでしょ? これ終わったら自主訓練するわよ。あんたには基礎訓練だけじゃ足りないわ」 「でも、これはわたしの罰なんだし……」 「仮とはいえ、あたしとあんたはコンビでしょ」 指で銃の形を作り、ティアナはスバルの眼前に突きつける。 「―――だったら、互いの罰は二人で被る。 あたしの銃は、あんたの背後の敵を撃つ。代わりにあんたの拳は、あたしの背中を守るのよ。いい? 肝に銘じておきなさい」 指をずらしてスバルの背後を撃つ真似をしながら、ティアナは不敵に笑ってみせた。 その危険な魅力と迫力を秘めた笑みにスバルは見入る。 それはスバルに、ティアナに対する第一印象の静かな雰囲気を一変させる烈火の如き印象を与えた。そして次に力強さと、頼もしさと―――何より憧れを感じる。 もしこの場に、ティアナとダンテの二人を知る者が居たのなら、こう言っただろう。 ―――本当に血が繋がってないのか? 笑った顔なんてソックリだぜ。 甲斐性なしで、常に余裕で、どんな時もくだらないジョーク交じりのおしゃべりが大好きなあの男の背中を見続けた時間の中で、少女は確かに変わっていたのだった。 「う、うん!」 怒られると思っていただけに、ティアナのパートナーとしての言葉と信頼に感動の涙すら見せるスバル。 ティアナは普段の冷めた仕草でため息を吐いた。 「返事だけはいいわね。言葉じゃなくて行動で応えなさいよ」 「わかった! わたし、頑張るよ!!」 「それじゃあ、まずはこの掃除をさっさと終わらす」 「了解! ……ねっ、『ティアナさん』って呼んでもいい?」 「分かりやすい馴れ合い方ね。こっちは『スバル』なんて呼ばないわよ、ナカジマ訓練生」 「ええ~っ、コンビでしょー?」 「あたしが頼れるくらいになれば、考えるわ。今日のミスの回数聞く? 数えてるわよ。いちいち言わないけど、恨みは募ってるから」 「う……っ、がんばります……」 少しだけ距離を縮めた二人の喧騒は、これからの生活を暗示するように訓練場の片隅で流れ続けた。 前途多難ではあるが―――とりあえず一歩。 いつかの未来で伝説になるかもしれないデコボコ魔導師コンビが、此処から始まったのだ―――。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> ヘル=プライド(DMC3に登場) 七つの大罪って知ってるかい? 人間が地獄に落ちるに値する罪だそうだ。 そのうちの<傲慢>を犯した人間を地獄で責め立てる魔界の住人が、コイツだ。 黒いボロ布を纏って大鎌を持ったミイラみたいな姿はまさににじり寄る死神だが、ちょいと腕の立つハンターからすれば雑魚同然だ。 もちろん、この俺にとっては言うまでもないよな。 死人を痛ぶることしか出来ないだけあって動きは緩慢で、砂を媒介に実体化してるせいかひどく脆い。 ビビらずに一発かましてやるのが、この雑魚どもに対する一番の攻略法さ。 どちらかというと、後に残る砂の始末の方が厄介で面倒極まりないくらいだね。 前へ 目次へ 次へ
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「いらっしゃいませ。ようこそ―――っ!?」 ホテル<アグスタ>の受付に差し出された招待状代わりの身分証明書を眼にした瞬間、男の営業スマイルは崩れ去った。 今日、このホテルで行われるオークションには各界の著名な資産家達が参加しているが、それらとはまた別の方面に名高い人物が目の前に現れたのだ。 畏怖すら含む視線を持ち上げれば、見た目麗しい三人の美少女が佇んでいる。 「こんにちわ、機動六課です」 なのは、フェイトと共に煌びやかなパーティードレスで完全武装。 プライベートでは女を捨てている我らが部隊長は、清楚な令嬢へと変身を遂げて、完璧な笑顔を作って見せたのだった。 機動六課。今回の任務は、このオークションの護衛である―――。 受付から少し離れたロビーの一角で、はやて達三人の隊長陣は一般参加者を装いながら会話を交わしていた。 「それじゃあ、オークションが始まるまでの間に営業済ませとこか」 「うん? 建物の下調べのことだよね」 はやての妙な物言いに、少々戸惑いながらもなのはが合わせた。 しかし、その返答にはやてはチッチッチッと指を振る。 「それもあるけど、メインは文字通りの<営業>やな」 「え、他に何かあるの?」 「この場にはあらゆる界隈の資産家が集まっとるんやで? しっかり愛想振り撒いて、各々のアイドル性をアピールして来ぃ! 接待営業や!」 「「ぇえ゛っ!?」」 サムズアップして衝撃の事実を告げた部隊長に対し、二人の隊長は顔を引き攣らせた。 なんという無茶な命令。なのはとフェイトの心境は、不落の要塞の攻略命令を下された少数部隊の指揮官に等しい。 「は、はやてちゃん……それ本気?」 「機動六課が実験部隊なのは十分理解しとるやろ? 色々目ぇ付けられとるし、まだまだ立場も安定せん。こういった場所で、有力な権力者に覚えを良くとしといて損はないよ」 「でも、そんなのどうすればいいか……」 「深く考えんでええよ、フェイトちゃん。普段通り、無自覚なセックスアピールで成金中年の視線を惹き付ければええんや」 「ナニいい笑顔で酷いこと言っちゃってるのはやてちゃん!?」 「無自覚……アピール……」 予想もしない親友の発言を受けて、ショックで放心するフェイトの代わりになのはが食って掛かる。 「確かにフェイトちゃんは子供の頃から露出癖があったけど、最近はソニックフォームも自重してるし、バリアジャケットのデザインも落ちついてるんだよ!? もう弾けてはいられない歳なんだよ!」 「露出癖……弾け……」 「いや、でももう染み付いたM属性は変えられんやろ? 実は局員の極秘アンケートで、人気ナンバー1なんやで。性的な意味で」 「えむ……性的……」 二人の親友が抱いていた自分へのイメージが次々と明かされ、どんどん精神的なドツボに落ちていくフェイト。 なのはが我に返って自分の発言を省みる頃には、仲良し三人組の中でも何かとワリを食うことが多い彼女はかつての暗黒時代を髣髴とさせる虚ろな表情を浮かべて何かブツブツ呟いていた。 慌ててフォローするなのはを無視して、はやてはあくまで世知辛い会話を進めていく。 「まず第一にスマイル。適当な相手見つけたら、軽く挨拶だけでもしとくんやで? ターゲットは夫婦連れ以外がええな。私らの顔はメディアで割れとるんやから、機動六課やってことを隠す必要はない。むしろガンガンアピールしとくんや!」 「まるでキャバクラだよ、はやてちゃん……」 「まあ、それに近いな。折角こんな肩丸出しの派手なドレス用意したんやから、有効に使うように」 「<何>を?」 「胸とか尻を。少しくらいセクハラされても騒いだらあかんで?」 「……ううっ、これも隊長の務めなんだね。スバルやティアナ達に、こんな辛い役割押し付けるわけにはいかないもんね」 涙を呑んで耐え忍びながら、なのはは大人の厳しさを受け入れていた。 華やかな魔法少女の活躍の裏側で展開されるドラマ。それがここにはある。 葛藤するなのはの肩を、虚ろな眼をしたフェイトが励ますように叩いた。 「なのは、耐えよう? 私も結構セクハラはされてきたけど、我慢出来たよ」 「って、フェイトちゃん本当にセクハラされてたの!?」 「二度目の執務官試験に落ちた時、試験官の人にホテルに誘われた時は本気でヤバイと思ったよ……フフッ」 「クソ! なんて時代だ……っ!」 「ごめん、フェイトちゃん。さっきの発言は迂闊やった。そんな管理局の裏話があったとは思わんかったわ」 そして、フェイトのダークサイドは意外と深かった。 なのははもちろん、はやてすらも大人としての汚れた階段を昇って成長した瞬間だった。 ―――やがてフェイトも普段の調子を取り戻し、ホテルに配置した副隊長達や新人達への指示を話し合う真面目な会話が続き、そして終わる頃。 「い、いらっしゃいませっ!!」 明らかに音量と緊張感を増した受付の声が、異様なほど広くロビーに響き渡った。 その声にはやて達が視線を移せば、受付の男はもとより、周囲の従業員が総立ちで整列して頭を下げている。 そして、そんな彼らの奇行に対しても、周囲のオークション参加客達は騒ぐこともせず、ただ息を呑んで沈黙するだけだった。 萎縮するような静寂と緊張の中心に立つ一人の男を、はやて達三人は捉える。 「本日は、当ホテルにお越しいただき、まことに……」 震えを隠せぬ声を必死に搾り出す従業員を、いっそ憐れに思えるほど全く気にも留めず、その男は受付を素通りした。 その後に付き従うように、二人の護衛が続く。いずれも女だった。 「あれは……」 「参加者の中でも一番の大物やね。今回のオークションでは、高価な私物も幾つか出品してるとか」 身に纏った純白のスーツと肩に引っ掛けるようにした羽織ったコート。いずれも惜しみなく金をかけた高級品だったが、それらはあくまで男を飾る物でしかない。 周囲の人間を萎縮させているものは彼の持つ権威であり、スーツを押し上げる屈強な肉体とその全身から立ち昇る圧倒的な<強者の威厳>であった。 「<アリウス>―――大企業ウロボロス社の経営者であり、管理局認可の単独魔導師でもある男や」 あらゆる意味での<力>を備えた、凶相とも言えるアリウスの顔を見据え、自然と強張った表情ではやては呟いた。 紛れも無い重要人物であり、このホテルの人間全ての護衛を任とする機動六課にとっても留意すべき人物である。 しかしその雰囲気や、周囲の人間を気にも留めていない不遜な態度も含めて、三人の彼への印象は共通して厳しいものとなっていた。 ロビーを横切るように歩みを進めるアリウスは、自然と三人の横をすれ違う形になる。 そこでようやく、前を見据えていた彼の視線が動いた。 「―――ほう」 アリウスの視線が捉えたのはフェイトだった。 しかし、それは決して友好的なものではない。 浮かべたのは文字通りの冷笑。向ける視線の意味は僅かな興味であり、同時にそれは人間に向けるようなものではなく、まるで珍しい動物に向けるそれであった。 「……何か?」 警戒と共に身構えたくなるような気分で、フェイトは硬い声を絞り出した。 「貴様は、<テスタロッサ>か」 「そう、ですが」 アリウスが何故<フェイト>でも<ハラオウン>でもなく、<テスタロッサ>というミドルネームを呼んだのか、三人にはその真意が分からなかった。 ただ、嘲るような口調は確実に悪意を孕んでいる。 「そうか、お前『も』か。初めて見たな。興味深い」 「……何の話でしょうか?」 「なぁに、少々気になったのだよ」 訝しげなフェイトの表情を楽しむように鑑賞しながら、アリウスは懐から葉巻を取り出した。 風紀の類が徹底管理されているミッドチルダではあまり見ない嗜好品の類だ。 それらの仕草が一連の流れであるように、背後に就いた護衛の一人が動いて、淀み無く火を付ける。ライターではなく指先から生み出した火種によって。 魔法だ。 三人の眼には、その何でもない魔法がやけに印象強く残った。 その服装から背格好まで全く同じで、顔の半分をやはり同じデザインの奇怪な仮面で隠した二人の護衛の異様さと共に。 「―――君と私の部下、どちらの<性能>が上なのかと思ってね」 背後の護衛二人からフェイトへ、意味ありげに視線を往復させてアリウスは愉快そうに呟いた。 結局、その真意を問い質す前に、物言いに不快感を露わにする三人を無視してアリウスはオークションの会場へと歩き去っていった。 「なんというか……あの人、わたしは少し苦手かな」 「素直に腹立つって言ってええよ。フェイトちゃん、大丈夫?」 「うん、気にしてないよ」 案じるはやてに対してフェイトは笑って答えて見せたが、好色な視線とは違うアリウスの瞳を思い出して、僅かに背筋が震えた。 あの男は、自分を―――。 「大物には違いないんやけどな、黒い噂も絶えん人物や。管理局でも、一度違法魔導師として逮捕命令が下ったことがあるそうやし……結局、誤認やったらしいけど」 「そんな地位の相手に逮捕段階まで行っておいて、誤認で終わったの?」 「少なくとも事件の記録は、証拠不十分と実際に動いた部隊の先走りで終結しとる」 「……変に勘繰りたくはないけど」 「やっぱり、裏で色々動いとるやろうなぁ」 金とか権力とか―――。 はやては言葉の後半を自重して飲み込んだ。どれほど黒に近くとも、実際に口にしていい相手ではない。 「まあ、いずれにせよ私らには色んな意味で遠い人物や。注意だけ払って、下手に近づかん方がええよ」 「そうだね」 資産家には色々な種類の人間がいる。それを理解する程度には、なのはもはやても社会での経験は積んできた。 不快感を義務感で押し留め、はやてとなのはは振り切るようにアリウスが去って行った方向から背を向けた。 ただ一人、フェイトだけがもう見えなくなったアリウスと二人の護衛の後ろ姿を見据え続けていた。 「気のせい、かな?」 なのはとはやてにも聞こえない小さな呟きは、僅かな疑念を含み。 本当に気のせいだったのだろうか。 あの時、アリウスと二人の護衛が自分の前を横切った時―――右手の傷が疼いたような気がした。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十二話『Black Magic』 ホテル<アグスタ>の地下駐車場の奥には、参加者の車両からは離れてオークション用の商品を積んだ輸送車が並んでいた。 大小様々なサイズのコンテナを搬入口から運び込んでいく。 その中でも成人男性でも入れそうなほど一際巨大なコンテナを、作業員が開いていた。 ウロボロス社のロゴが刻印されたコンテナから引き出された物を見て、作業員の一人が思わず小さな悲鳴を上げた。 「何ビビってんだよ」 「だ、だってよ……」 「仕方ないさ。こんな薄気味悪い物までオークションにかけようなんてよ」 コンテナの中に納まっていた物―――それは人形だった。 小さく折り畳まれてコンテナに入っていたものの、両肩を吊って持ち上げれば、力なく垂れ下がった両脚を含めて2メートル以上の全長を持つ巨大な操り人形だ。 風化した枯れ木のような骨組みで構成され、その上にボロボロの衣装を纏った姿は確かに年代を感じさせるが、それ以上に生々しい気配を放っている。 まるで人骨で作られているかのように錯覚する全容は、薄暗い地下で見るにはあまりに不気味だった。 「ウロボロス社の会長の私物だろ? いい趣味してるよな」 「コイツはサンプルとして会場に持ってくらしいけどよ、実際には同じようなのを30体くらい出展するらしいぜ」 そう言ってトレーラーの中を指差した仲間に促されて覗き込めば、同じサイズのコンテナが10以上積み込まれていた。 それら全ての中に、この不気味な人形と同じ物が折り畳まれて入っていることを想像すると、全身が総毛立つ。 「こんな不気味な物、欲しがる変態がいるのかよ?」 「金持ちの考えることは庶民にゃ分からんね」 「おい、さっき別のトレーラーで同じウロボロス社のコンテナの搬入手伝ったけどよ、そっちも錆びた処刑刀だの染みだらけのボロ布だのがギッシリ詰まってたぜ」 「ホラー映画でも作ってるのかよ、あの会社は」 物が物だけに談笑といえるほど明るい雰囲気にもなれず、ぼやくように会話をしながら彼らは出展用のハンガーへ人形を固定していく。 言葉を絶やさないのは、彼らの無意識に巣食う不安と恐怖を表しているようだった。 馬鹿げたことだと冗談のように内心の思いを笑っても、考えずにはいられない。 雑談を止め、辺りに沈黙が戻れば、その懸念が現実のものとなりそうな不安を、彼らは消すことが出来なかった。 ふと、その人形の精巧に彫られた虚ろな顔を見てしまった瞬間に子供のような恐れが湧き上がる。 まるで、本当に今にも動き出しそうに思えて―――。 「オークション開始まで、あとどのくらい?」 《Three hours and twenty-seven minutes.(3時間27分です)》 バッグのアクセサリとして待機モードでぶら下がっていたバルディッシュの答えを聞き、フェイトはロビーの吹き抜けを見下ろした。 事前の構造図も含め、既に現場の下見はほとんど終わっている。 オークションの会場となるホールから始め、出入り口や裏口などへ続くルートを歩いて確認しながら、フェイトははやての言う<営業>もなんとかこなしていた。 すれ違う客に社交辞令のスマイルと挨拶を無料で振り撒いていく。 時折向けられる男性の好色を含んだ視線も慣れたものだった。 しかし、そういった視線を自覚する度にロビーで向けられた全く種類の違う好奇の視線を思い出す。 アリウスがフェイトに向けた視線の意味。 あの冷たくも粘度を持った視線の意味を察すれば、背筋に寒気が走り抜ける。 アレは、人を見る眼ではない。まるで芸術家の作品を鑑定するかのような瞳だった。 あの時あの男は、自分を人間として見ていなかった。 「ひょっとしたら、私の事を―――」 知っているのだろうか? この身が、純血の人間では無いと。 10年前に決着を着けたはずの『自分に対する不安』が思い出したように頭をもたげてくる。 それを不屈の精神で抑えようとして、故に気付かなかった。自身の根幹に根差すこの不安を消すことなど出来ないのだということを。 生まれた瞬間に定められた運命は、死ぬ瞬間まで消えはしない。 友情や決意の中で薄れていったその重みを、ふとした時に思い出すのは決して避けられないことなのだと、フェイトは認めることが出来なかった。 そうして、己の思考に没頭して歩くうちに人気の無いホテルの裏口まで着いてしまう。 我に返ったフェイトは慌てて意味もなく辺りを見回した。 「迷子かい、お嬢さん?」 まるで自分の動揺を見透かしたかのように唐突に声を掛けられて、フェイトは思わず背筋をピンと伸ばした。 何も後ろめたいことなど無い筈なのに無意識に恐る恐る振り返れば、男が一人立っている。 貴族然とした紫色のスーツとコートを来た姿は警備員などではない。表情も微笑を浮かべ、リラックスしている。 それらを確認して、フェイトは内心で安堵のため息を吐いていた。 「はい。オークションの会場に行きたいんですけど、迷ってしまって」 「それでこんな所まで? 方向音痴なお嬢さんだな」 淀みなく言い訳を口にして、男もまた嫌味の無い笑い方で答える。 好感の持てる穏やかな物腰に、フェイトも思わず微笑みを浮かべていた。 男の口調は若さを感じさせる軽快なものだったが、どこぞの貴公子とも思える秀麗な姿はギャップがあって、奇妙なユーモアを感じさせた。 見事な銀髪を後ろに撫で付け、左目に嵌めた片眼鏡(モノクル)は黙っていれば随分と年上の印象を与える。 あのアリウスとは全く違う意味で人の目を惹き付ける男だった。もちろん良い意味でだ。 「だが、こんな見た目麗しいお姫様を放ってはおけないな。アンタには、こんな人気の無い場所よりダンスホールの真ん中を陣取ってた方が似合ってる」 大げさなようでいて決してお世辞の意味など含んでいない台詞を吐き、男はダンスに誘うように手を差し出した。 「壁の花にするには勿体無いぜ。よければ、俺にエスコートさせてもらえないか? お嬢さん(レディ)」 そう言ってウィンクする男の仕草は芝居染みたものなのに、ビックリするほど様になっていた。 妖艶な色気すら感じる仕草と言葉を前に、フェイトは頬が熱くなるのを感じながらも、これまで出会ったことの無いタイプの相手に対して魅力を感じてしまう。 「―――宜しいですか、紳士さん(ジェントル)」 そしてこちらも全ての男を虜にしてしまいそうな蟲惑的な笑みを無自覚に浮かべると、そっと手を差し出した。 手と手が触れた瞬間、フェイトの持つ傷が一瞬疼いた。 しかし、そこに伴う痛みは苦痛などではなく、何処か甘美なものだと錯覚すらしてしまう。それを痛みだと気付かせないほどに。 そうして歩いていく浮世離れした美男美女の二人を、すれ違う者達全てが羨むように見ていた。 オークション会場となるホールを見渡していたはやてとなのはの下へ男連れで戻ってきたフェイトに対する二人の驚きは、もちろん大きかった。 「……え? 何コレ? え、職務中に男引っ掛けて来よったよこの娘。え、ナニソレ? それは出会いの無い私への当てつけ?」 「はやてちゃん、さりげなく錯乱しないで」 何故か予想以上のショックを受けるはやてをなのはが正気に戻し、改めて苦笑を浮かべるフェイトと傍らの男に向き合った。 「ええと、フェイトちゃん。こちらの方は?」 「『迷って』裏口まで行っちゃってたところを助けてもらったんだよ」 なのはに目配せして、フェイトは口裏を合わせる意図を伝えた。 別に<機動六課>であることを隠す必要はないが、客の中に溶け込んで護衛をする以上、必要以上に身分を明かすこともない。 何より、彼の自然と心を許してしまう気安い物腰が、何となく『仕事を挟んだ付き合いでいたくない』という気分にさせていた。 まるでリズムを感じるような男とのやりとりが、名前すら交わしていないことを気付かせないほど心地良いと思えるからかもしれない。 会釈するはやてとなのはを見つめ、男は感嘆のため息を漏らして頷いた。 「驚いたね、美人の友達はやっぱり美人ってワケだ」 「お上手ですね」 「生憎とお世辞は苦手でね。綺麗な女を褒める時は、本音で語るのが一番さ」 「そこまでストレートに言われたのは初めて、かな」 「オークションなんて辛気臭いもの止めて、ダンスパーティーにするべきだな。是非踊ってみたいね」 「場所さえ改めれば、わたしも喜んで」 男となのはの間でリズミカルに言葉が投げ交わされる。 なのはにとっては慣れた社交辞令なのに、何処か小気味のよい会話だった。 話す事が上手いのだろう。気障な台詞や比喩を嫌味無く言えて、しかもそれが似合ってしまう。ある種の才能を持った男なのだと思った。 フェイトが感じたものと同じ新鮮さを、なのはもまた感じている。 その一方で、こういった会話を一番テンション高く楽しみそうなはやては、出会った時からずっと沈黙を保ったまま男の顔を見つめていた。 「そちらのお嬢さん。俺があんまりいい男だからって、そんなに見つめるなよ。穴が空きそうだ」 「―――あのぉ、何処かで会ったことありませんか?」 「おっと、まさか女性の方から口説かれるとは思わなかったぜ」 ナンパの常套手段とも言える台詞に対して男は苦笑して見せたが、はやては真剣な眼差しのまま答えを待っていた。 それに気付いた男は肩を竦めると、首を横に振って返す。 「いいや。残念だが、アンタと会ったことは『無い』な」 「そうですか……いや、でも確かにこんなええ男と会ったんなら例え10年前でもしっかり覚えてるはずやしな」 「ハハッ、なかなか正直に言ってくれるじゃねえか」 「そしてもちろん、私みたいな美少女を見て、忘れるはずもないですしね?」 「ああ、全く同感だね」 神妙に頷く男とはやては再び視線を合わせ、やがて堪えられなくなったように二人して笑い出した。 やはり、二人のテンションの高さは奇妙なシンパシーを得るに至ったらしい。 酷く自然なこの組み合わせを、なのはとフェイトは苦笑しながら傍で見守っていた。 放っておけば、このまま四人で飲みにも行けそうな和気藹々とした雰囲気だったが、生憎とはやて達三人には職務がある。 「―――さて、このまま潤いのある会話を続けたいところだが、ちょいと野暮用があるんでね。オークションもそろそろ始まる時間だ」 それをまるで察しているかのように、男がキリのいい所で談笑を切り上げた。 「貴方もオークションに参加するんですか?」 「いや、付き人みたいなもんだな。会場にはいるつもりだが」 「うーん、贅沢な付き人やなぁ。その雇い主さんは、ええ趣味してますね」 「俺もこういうのは苦手なんだがね。オークションが終わったら、今度は私的な再会を是非望みたいな」 「私もです―――それじゃあ」 「ああ、またな」 今度は社交辞令などではない、僅かな名残惜しささえ見せて、フェイト達はその男と別れた。 気が付けばお互いの名前さえ知らなかった。 それを後悔しながらも、切欠を思い出せば別段不思議ではないささやかな出会い。 しかし、それは三人にとってやけに印象に残る出会いだった。 知らぬうちに、三人が同じ再会を願う程に。 そしてそれは、すぐに現実の事となる。 三人の美女と別れたダンテは、この不本意な依頼に対して少しだけやる気を取り戻していた。 ホテルを徘徊する人間は、やはりダンテにとってあまり好かないタイプの成金ばかりだったが、幾つか気に入ったこともある。 まず第一に、レナードの用意した<仕事着>だった。 紫を貴重とした貴族のような服は彼の好むロックなデザインとは程遠かったが、黒だの白だののタキシードなどよりはるかにマシだ。コートのデザインも悪くない。 レナードに言わせれば、これでも仮装パーティーさながらの派手な格好らしいが、それを着こなすセンスと自負がダンテにはあった。 第二に、なかなか魅力的な出会いがあったことだ。 間違っても深窓の令嬢が訪れるはずもない俗物の集いだと思っていただけに、裏口で美麗な女性と遭遇した時は一瞬何かの罠かと錯覚するほどの衝撃を受けた。 思わず声を掛けて、建物の下見をしてこんな人気の無い場所を徘徊していた自分は随分怪しいのではないかと我に返った時にはもう遅い。 迷子のふりでもするか? と悩む傍で相手が似たような返答を返す。 自分のことを棚に上げて、そんな彼女がまともな令嬢などではないのだろうと疑ったが、しかしそれこそダンテにとってはどうでもいいことだった。 若い女。しかもそれが類稀なる美人となったら、無条件で味方をするのが男というものだ。 女性としては高い身長に、プロポーションもバッチリ。何より、あの長い髪がいい。金髪(ブロンド)は好みだ。 そんな彼女と連れ立って向かった先でも更に二人の美女と出会えた。 今回は珍しくワリの良い仕事ではないか? あのケチな情報屋の手引きを柄にもなく感謝してしまいそうになる。 そして何より、第三に―――。 「退屈な時間になるかと思ったが、なかなかどうして……胸糞悪い空気が漂ってるぜ」 ダンテの持つ第六感が、慣れ親しんだ警鐘を鳴らしていた。 ロビーのシャンデリアと窓からの太陽光が明るく照らし、穏やかな静寂が満ちるこのホテルで、おおよそ想像もつかないような悪夢が生まれることを予見できる。 この場にいる人間達の中でただ一人、ダンテだけがそれを感じていた。 このホテルに潜む、複数の<悪魔>が放つ微細な気配を。 「観客が多すぎるな。派手なダンスパーティーになりそうだ……」 確信にも近い、地獄の幕開けを予感しながら、それをただぼんやりと幻視するだけで留める。 自分は預言者ではない。勘だけで危険を予感し、それをあらかじめ警告したところで執りあう者などいるだろうか? <悪魔>などと騒ぐだけで狂人を見るような眼を向けるのだ。 人間は自分の理解の及ばないものを受け入れようとしない。見ることすら耐えられず、知ることにも恐怖する。 ならば、彼らが<悪魔>の存在を認める時は現実にそれが降り立った時だけなのだ。 ダンテは自分か、あるいはそれ以外かを嘲笑するように鼻を鳴らし、静かにオークション開始直前となった会場へと足を踏み入れて行った。 最後の参加者の入室を確認し、静かにホールへのドアが閉まっていく。 やがて、最後の扉が閉まり―――舞台開始の合図が鳴った。 人口の密集する喧騒を避け、豊かな自然の中に建てられたホテル<アグスタ>は周辺を森林に囲まれている。 車の通りが少ない車道を越えて、ホテルの一角を僅かに見上げられる程離れた場所に、その三人は佇んでいた。 「あそこか……」 「本当に、手を貸すの?」 一際大柄で服の上からでもその屈強な肉体が分かる男と、その男ほどではないにしろ長身で美しく若い女。そして、額に刻印を刻まれた少女。 親子とも連れ合いとも思えない奇妙な三人組が、人気の無い森の中で息を潜めるようにフードを被ってホテルの様子を伺う姿もまた奇妙極まりない。 「アナタの探し物は、ここには無いんでしょう?」 男と同じ鋭い視線を目的の場所へ向けていた女は、自分の左手を掴む小さな少女へ柔らかく問い掛ける。 少女はフードを取り、女を見上げて小さく頷いた。 悲しいことに、無垢なその顔にはおおよそ表情と呼べるものが浮かばない。 少女が年相応の反応を失って長い。少なくとも、その女の知る限りは。 「ゼスト」 気を取り直すように、女は傍らの男の名を呼んだ。 心得たようにゼストは頷く。 「ルーテシアは、何か気になるらしい。この子の感性は独特だ。無視は出来ない」 不満げな女を宥めるように説明すれば、合わせて少女―――ルーテシアもまたもう一度頷いて見せる。 目元をフードで、口元を襟で隠した女は、小さなため息で自身の納得と諦めを表現した。 「―――ルーテシアが自発的に動きたいなら、構わない。いくらでも付き合う。 でも、今回の事にあのマッドサイエンティストの余計な入れ知恵や小ズルイ催促はなかったの?」 「それは……」 自然と剣呑になる女の問いに答えようとゼストが口を開いた時、丁度話題の中心となる人物から通信が繋がった。 三人の眼前にホログラムのモニターが出現し、そこに映った人物を見て、少なくとも二人が不快感と警戒を露わにする。 一方は厳つい顔を更に引き締め、もう一方は柳眉を鋭く吊り上げることで。 『ごきげんよう。騎士ゼスト、ルーテシア、そして―――』 通信先の人間―――スカリエッティが自分の名前を呼ぶ前に、女は無言で顔を背け、背まで向けた。 拒絶を超えた敵意故にであった。 取り付くしまもない仕草に、スカリエッティは愉快そうに忍び笑いを漏らす。 「ごきげんよう」 「何の用だ?」 相手にもしない一人に代わって、残りの二人が抑揚の無い声と素っ気の無い声で応える。 『彼女も君も冷たいねぇ。随分と嫌われてしまったものだ』 「さっさと用件を言え。その彼女の機嫌はお前の話が長引く度に悪くなっていく。モニター越しに斬られたくはないだろう」 『ははっ、本当に在り得そうで恐ろしいなぁ』 この不穏な会話を、スカリエッティだけが純粋に楽しんでいた。 苛立ちも悪態も見せず、全くの無反応を貫く女の背中を一瞥して、彼はようやく観念したかのように本題を切り出した。 『事前の打ち合わせ通り―――そろそろ行動開始の時間だ』 意味深げなスカリエッティの台詞を聞き、ゼストはもう一度ホテルに視線を向けた。 変わらぬ姿で、そこは静寂を保っている。 「もうホテルの襲撃は始まっているのか?」 『確認は出来ないが<彼>はもう内部に入っているし、今は丁度オークション開始予定時間だ』 「協力する相手と連絡すらまともに出来ていないのか」 『<あの男>とはあくまで利害関係による繋がりだからねぇ。申し訳ないが、今回我々は受身だ。 内部で動きがあると同時に、こちらもガジェットを向かわせる。後は―――分かるね? ルーテシア』 「うん、分かった」 『良い子だ』 自分ではなく、あくまでルーテシアに話を振って了承を得ようとするスカリエッティの小賢しさに、ゼストは不快感を隠せなかった。 この男は、ルーテシアの意見を自分と彼女が無碍に出来ないことを理解して、そこに漬け込んでくる。 何よりも厄介なのは、このどれほど疑っても足りない胡散臭さを形にしたような狂人を、ルーテシアが意外と好ましく思っているという事だった。 今のゼストが抱く感情は、娘が軽薄な男と付き合いながらもそれを説得して止める術を知らない親が持つ苛立ちに酷似している。 そして、そこに殺意を加えたものが、背後の彼女がスカリエッティに抱く感情だ。 「……今回は特別だ。現場にも近づかない。 我々とは、レリックが絡まぬかぎり互いに不可侵を守ると決めたことを忘れるな」 せめてもの抵抗として、ゼストはモニターの先の薄ら笑いを睨みつけながら釘を刺した。 『ああ、もちろんだとも。それを踏まえて、ルーテシアの優しさには深く感謝しよう。 ありがとう。今度是非、お茶とお菓子でも奢らせてくれ。もちろん、他の二人も―――』 「話は終わりだ。消えろ」 高速の一閃が、文字通りスカリエッティの台詞を途中で寸断した。 空中に照射されていたホログラムを、電子的な手順を踏まずに鋼の一撃によって真っ二つに切り裂く。モニターを形成していた粒子が霧散し、通信は『消滅』した。 ルーテシアでなければゼストの仕業でもない。 思わず二人が振り返れば、そこには変わらず背を向けたまま佇む女の姿がある。 一体、何をどうやったのかは分からない。しかし、会話を切り上げた冷たい声は間違いなく彼女のものだった。 「……<ルシア>」 僅かに咎めるような感情を含み、ルーテシアは彼女の名前を呼んだ。 ルシアは苛立ちに任せるように、フードを取り払う。 そして美しい肉体に吊り合った美貌が姿を現した。 燃えるような赤い髪を一房の三つ編みにして肩から前へ垂らし、褐色の肌を持つしなやかな女戦士は、少女の抗議に対して小さく鼻を鳴らして見せる。 「いつまでも長々と話してるからよ。あの男の会話の7割は無駄話なんだから」 「だからって斬らないで。<アスクレピオス>の通信機能が壊れる」 「ゴメンなさい。でも、アナタの為でもあるのよ」 「わたしは、ドクターとお話しするの、そんなに嫌いじゃないから」 「ああ、ルーテシア。アナタの男の趣味だけが将来の不安だわ」 「どういうこと?」 決して穏やかではないが、ルシアのルーテシアに対する態度は先ほどのスカリエッティに対するそれと比べて全然柔らかい。 まるで妹に接する世話焼きの姉のようだ。 事実、ゼストの知る限り二人の関係は<姉妹>が一番近い表現であった。 普段は女である前に戦士であろうとするルシアの物腰の変化も、これでは苦笑を浮かべずにはいられない。 険悪なやりとりの後で、束の間穏やかな空気が三人の間に流れていた。 「……それじゃあ、そろそろ始める」 しかし穏やかな時間はすぐに終わり、憂鬱な時間が始まる。 少なくともゼストとルシアにとって、この少女が自らが行おうとしている所業に何の感慨も感じないまま闇に手を染めるのは憂鬱以外のなにものでもない。 コートを脱いだルーテシアは両腕のグローブ型デバイス<アスクレピオス>を起動させる。 「吾は乞う、小さき者―――<群れる者>」 ルーテシアの囁く詠唱に呼応して、足元に闇が生まれた。 それは比喩などではなく、滲むように広がる虚ろな黒い染みだった。 ベルカ式でもミッドチルダ式でもない。はっきりとした術式すらなく、故に魔方陣さえ発生しない。魔法の<行使>というより<現象>のような出来事。 文字通りの<黒い魔法>は、人におぞましさを与える光景を、少女を中心にして繰り広げる。 「言の葉に応え、我が命を果たせ。召喚―――」 ルーテシアを中心に広がった、暗黒の湖畔から湧き出るように奇妙な煙が立ち昇った。 目を凝らせば、それらが微細な黒い粒の集合によって形成された煙だった。 「<スケアクロウ>」 そして、その粒の一つ一つが肉眼ではハッキリと確認出来ないほど小さな未知の甲虫であった。 無数の虫が群れ、煙や霧としか認識できない黒い塊となって甲虫は動き始める。 地を這い、空を舞い、何かが擦れるような無数の奇怪な音を波立ててソレは移動していった。 真っ直ぐに、ルーテシアの視線の先―――ホテル<アグスタ>へと向けて。 「……ゼスト。ルーテシアをお願い」 人が扱ってはならない禁忌の魔法を目にしていた二人のうち、おもむろにルシアが告げた。 口元を隠し、再びフードを被り直して、トランス状態で魔法を行使するルーテシアの横顔を一瞥する。 その視線には、先ほどまでの純粋な暖かさは無い。複雑な迷いを含んだ感情が渦巻いていた。 「行くのか」 「戦闘の混乱の中で目標物を奪うのが目的なら、戦いは見せかけだけでいい。人死には極力避けたい」 「そうだな……会場内部には手を出すな。そこから先は、警備と運に任せておけ」 「私もそこまで善人じゃない」 ルシアは剣呑な視線と冷笑を浮かべて見せた。 しかし、彼女の心に冷酷な犯罪者とは無縁な正義の心と見知らぬ他人であってもその死を悼む優しさがあることを、ゼストは知っている。 そして何よりルシアとゼストの二人には、幼いルーテシアが無自覚に人を傷つけ、殺すことを防ぎたいという意思があった。 彼女が呼び出し、使役する存在は嬉々として人の命を飲み込むのだ。 奴らが生み出す闇に、何も知らぬ少女まで引き摺り込ませるわけにはいかない。 いずれ彼女が本当の人生を取り戻し、自らの罪を自覚した時に、その重みが少しでも軽くなるように。 「それに―――」 言い淀み、ルシアはルーテシアの足元に広がる闇の世界へと繋がる扉を見下ろした。 「私にとって、やっぱり<悪魔>は敵だ」 完全な敵意を吐き出して、ルシアは走り去っていった。 戦場となる場所へ駆けつける戦士の背中をゼストはいつまでも見送り続ける。 ルシアとは別に、彼の中にも複雑な想いが宿っていた。 ルーテシアとルシアも含む、娘同然に想う二人の少女が歩む不遇の人生とその将来を案ずる気持ちだった。 <悪魔>と縁を結んでしまった少女と、その<悪魔>を憎む少女。いずれも闇に関わりを持ってしまった故に平穏な日々から抜け落ちてしまった。 若い彼女達には未来がある。 しかし、その輝かしい未来に、もはや既に黒い染みは付きつつあるのだ。 全てをリセットして普通の人生をやり直すなんてもう出来ない。今後の人生で引き摺っていかねばならない経験を、二人の少女はしてしまった。 それが痛ましくてならない。かつて、そんな人の未来を守る為に自分は戦っていたというのに―――。 「所詮、私は悪魔に魂を売った死人か」 無力な己を嘲りながらも、ゼストは祈らずにはいられなかった。 「……神よ。願わくば、地獄に落とすのは私だけにしてくれ」 全ての罰は魂を抜かれたこの身に。 彼女達にせめて未来を返してくれたのなら、この生ける屍は喜んで地獄に落ちよう。 彼女達の人生を狂わせた闇の住人達を共に引きずり込み、本来在るべき場所へ再び封じてやる。 戦士の悲壮な覚悟を嘲笑うように、視線の先にあるホテルからは黒煙が上がり始めていた。 地獄が始まる。 『お待たせいたしました。それでは、オークションを開催いたします』 開始を告げるアナウンスは予定していた時間通りに流れていた。 客席から起こる拍手の中、二階からホールを一望しているなのはとフェイトは思わず安堵のため息を吐き出す。 警備はオークションが終了するまで続くが、とりあえず事前に問題が起こることはなかったのだ。 警戒していた何らかの襲撃の可能性が一つ減ったことは彼女達の緊張の糸を一本解してくれた。 「とりあえず、出だしは順調だね」 「このまま、何事も無く終わればいいけど」 なのはの安堵にフェイトが水を差すように告げたが、その声に張り詰めたものはない。 元より確定した襲撃の可能性や、列車襲撃時のような現在進行形の緊迫感はない任務なのだ。 油断は無くとも、二人には余裕があった。 『―――ではここで、品物の鑑定と解説をしてくださる若き考古学者を紹介したいと思います』 なのはとフェイトが見守る中、会場に設けられたステージに一人の青年が登場する。 その青年の姿を見て、二人は思わず目を白黒させた。 『ミッドチルダ考古学士会の学士であり、かの無限書庫の司書長―――ユーノ=スクライア先生です!』 万雷の拍手を浴びてステージに現れたのは、二人にとって幼馴染であり親友でもある人物だった。 意外な場所での再会に、なのはもフェイトも言葉を失う。 停止した思考の代わりに感情がまず何よりも純粋な喜びを湧かせてくれた。 「ユーノ君……」 「なのは、この事聞いてた?」 「ううん、初めて知ったよ」 なのはの声には隠せない喜びと高揚がある。 お互い、昔のように簡単に会えるほど自分の立場は軽くはない。 結んだ絆は切れはしないが、それでも少しずつ距離は開いていくような気がして、そのことに諦めも感じ始めていた。 六課の発足で忙しくもなり、そんな寂しささえ忘れかけていた時に、このサプライズだ。 もちろん仕事のことは忘れない。でも仕事が終わったら? 別にちょっと話したり、食事の約束をつけるくらいはいいんじゃない? 珍しく興奮する親友を見て、フェイトは苦笑した。 「今日は久しぶりに四人で話せそうだね」 「うんっ。はやてちゃんも、早く戻ってくればいいのに」 「配置の指示、遅れてるのかな?」 ホールの外で、現場のシャマルやオペレーター達と情報を確認し合っているはずのはやてを思い出す。 出入り口を一瞥すれば、そこはまだ閉ざされたまま誰も訪れることはなかった。 そうしているうちに、ユーノらしい堅実で当たり障りのないスピーチは終わり、いよいよオークションが始まる。 『まずは出展ナンバー1とナンバー2の商品。かの有名なウロボロス社のアリウス氏から提供された由緒ある逸品です』 司会の言葉と共にステージの奥から防護ガラスのケースに納められた品物が運び込まれ、ホールに客のどよめきが低く流れた。 それは感嘆と―――畏怖によるものだった。 「なんだか……少し気味の悪い品だね」 「うん」 なのはの呟きは、客のほとんどが感じている感想の一部を端的に言い表していた。 ステージに運び込まれた品物は、いずれも歴史と風格を感じる、古い一本の剣と一体の人形だった。 絡み合う蛇の装飾が施された異常に長い剣も人を殺める武器としての不気味な迫力を放っていたが、何より人形の方が一際異様だった。 実際は木製のようだが、表面に滲んだ得体の知れない染みと着せられた血のように赤い衣服。そして虚ろな空洞を瞳にした顔が、無機物に生気を宿らせている。 ハンガーに固定されたその姿は、磔にされた罪人の遺体を連想させた。 薄ら寒い不安を感じさせる様は、確かに見る者によっては骨董品としての意趣を感じさせるかもしれない。 しかし、少なくともなのはとフェイトにとって、その人形は悪趣味を超えた怖気を感じるものだった。 『……これは、かなり見事な品物ですね。少なくとも、経過している年月はかなり古い物です』 ユーノもまたその違和感を感じたらしい。 しかしもちろん、アリウス本人が何処かにいるはずのこの場で下手な発言はせず、鑑定に集中している。 『こちらの剣は柄に銘が掘られています。名前は<マーシレス> 材質はほとんどが鉄のはずですが、不思議なことに刀身などに劣化が見られません。 しかし、魔力反応もほとんど無く、武器としては極めて原始的な―――』 ガシャン。唐突に、ユーノの言葉を遮る音が響いた。 その音の発生源を、誰もが正確に見つけることが出来た―――人形の入ったケースだ。 小狭いケースの中で、文字通り崩れ落ちるように人形がハンガーから外れ、関節を奇怪な方向へ曲げて蹲るように倒れていた。 「お、おい! 何してるんだ、早く元に戻せ!」 オークションの流れを寸断するに足る思わぬ失態に、ステージの脇に控えていた作業員は顔を青くして動き出した。 自分達にミスはない。しっかりと固定したはずだ。そんな不可解な思いを分かりやすく表情にしながら、数人が慌ててステージの中心へ駆け込んでくる。 誰もがユーノの解説に聞き入って視線を剣の方へ集中させていた為に、誰もが気づくことはなかった。 枯れ木のような見た目通りの軽い重量では決して起こり得ない、その人形がハンガーの固定から外れて倒れた原因に。 「痛っ」 フェイトの手に痛みが走る。一瞬だけ。右手に。 広げた手のひらに視線を落としたフェイトは目を見開いた。 古傷を覆い隠す白い手袋から、ゆっくりと広がるよう赤い染み。滲み出るそれが血ではなく、黒い闇のように錯覚する。 慣れ親しんだ痛みが、フェイトの脳裏に激しく警鐘をかき鳴らした。 これが意味するものは―――。 「……っ! 全員その人形から離れろォ!!」 全力で不吉を告げる勘のまま、フェイトが絶叫した。 惨劇の始まりを目にしたかのような切迫した叫びに、誰もが驚き、身を竦ませ、声の方向へ視線を走らせて―――皆が本来注意を向けるべき存在を理解していなかった。 《GYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――!!》 甲高い悲鳴が、その場にいる人間全ての鼓膜と精神を揺るがした。 それは確かに<悲鳴>に違いなかった。 生きた人間が上げるようなものではない。この世の生きる者全てを妬み、恨む、あるいは<悪霊>と呼べるような者達なら上げられるような呪われた叫びだった。 その声の発生源を囲ったガラスケースは激しく振動し、やがて耐え切れずに内部から破裂して無数の破片を客席にぶち撒ける。 客が降り注ぐガラス片に悲鳴を上げる中、自由になったソイツはゆっくりと起き上がった。 ―――糸の無い操り人形(マリオネット)が、見えない生命の糸に吊り上げられるように。 「こ、これは……?」 「ユーノ、ソレから離れてっ!!」 誰もが逃げることすら出来ずに硬直する中、全力で自身に働きかける危機回避本能に従って後退るユーノと、それ以上の意志の強さでフェイトが動いた。 二階の客席から一階まで飛び出し、持ち前の運動神経で無理なく着地を決めると、ステージに向かって一直線に駆けつける。 デバイスの補佐なくしては追随出来ない彼女の動きを、なのはは一瞬見送ることしか出来なかった。 ドレスの裾を振り乱すのも構わずフェイトは駆ける。 少なくとも人間以外の生命と意思が宿った人形は、自力ではない何者かに操られるような不自然な動きで歩みを開始した。 その不幸な行き先には、ユーノがいる。 フェイト以外の誰もが、ホラー映画の中の人物のように目の前で惨劇が起ころうとしながらも凍りついたように動けなかった。 画面越しの演出された恐怖とは違う現実の恐怖が、彼らの心を鷲掴んで動くことを許さないのだ。 「フェイトちゃん! ユーノ君ッ!!」 なのはには身を乗り出し、何かに祈ることしか出来なかった。 ユーノの眼前で人形は懐から錆びた短剣を取り出し、虚ろな殺意を持ってそれを振り上げた。 怨嗟の雄叫びも、狂気を含んだ哄笑も無く、ただ無機質に殺人が行われようとしている。 それを止められる者はいなかった。 ただ一人、フェイトを除いて。 「ユーノォ!」 美しいだけではない力を秘めた俊足で、フェイトはその致命的な瞬間に間に合った。 ステージに駆け上がり、短剣が振り下ろされる瞬間にユーノを押し倒すようにしてその場から離す。間一髪、その空間を錆びた刀身が空しく切り裂いた。 「フェイト!? どうしてここに……っ!」 「話は後! 奥に下がって、すぐに逃げて!!」 唐突な再会を驚く暇すら与えず、フェイトは立ち上がって再びこちらへ視線を向ける人形を睨み付けた。 先ほどと異なる点は、その人形がユーノではなくフェイトに狙いを変えたことだった。 「バルディッシュ、セット……ッ!?」 すぐさま戦闘体勢を整えようとデバイスに呼びかけるフェイトの声を、またもやあの呪われた声が遮った。 人間を模した人形の口が開き、その奥からおぞましい音が響き渡る。それは口というよりも蓋や扉が開くようなイメージを抱かせた。 耳を覆いたくなるような奇声がフェイトの鼓膜を震わせ、脳が揺れ、背筋に悪寒が走り抜けて気分が悪くなり―――そしてようやく気付いた。 「か、体が……動かないっ!?」 見えない糸のようなものが全身に絡みつき、体の自由を奪っているのが感じられた。 強張る筋肉とは裏腹に激しい脱力感が襲い、フェイトは空中へ吊り上げられる。 まるで自分が操り人形になってしまったかのように錯覚する。自分の意思では全く体が動かせない。 バインドとも違う未知の金縛りに陥ったフェイトは、短剣を振り上げる人形を睨みつけることしか出来なかった。 人形の顔の空洞に宿った、血のように赤い眼光を必死で睨み返す。 親友の危機に、ユーノが硬直した体の戒めを破壊して、なのはがデバイスを発動させながら飛び出す。 しかし、そのどれもが間に合わない。 無慈悲な刀身は振り下ろされ、白い肌が鮮血に染まる未来が確定しかかった時―――その男は間に合った。 「ィィイヤッッハァァァーーーッ!!」 景気付けるような雄叫びと共に人間ロケットが飛来した。 ユーノの防御魔法よりも、なのはの攻撃魔法よりも速く、彗星の如く飛び込んできた第三者の両脚がフェイトを襲う人形を吹き飛ばす。 硬いブーツの靴底を顔面に直撃させ、ステージの壁に激突した人形は、関節を滅茶苦茶な方向へ曲げて崩れ落ちた。 すぐ傍で呆然としていた司会者がようやく我に返り、奇声を上げて後退る。 誰もが息を呑んだ惨劇の中へ乱入した―――プロのリングでも通用するような華麗なドロップキックを決めた男は、その場の視線を全て受けながら立ち上がる。 「ア、アナタは……」 人形が倒れると同時に金縛りから解放されたフェイトは、酷く覚えのあるその長身を見上げた。 紫色のコートが翻る。 振り返った男の顔には、悪夢に迷い込んだのではなく自ら飛び込んでみせた自信と戦意が滾っていた。 男は笑った。初めてフェイトに会った時、彼女に見せたように。 「―――よお、ベイビー。また会ったな。これだけ短い時間で再会出来たんだ、こいつは運命だと思っても構わないだろ?」 冗談交じりにそう言って、ダンテは不敵に笑った。 「綺麗なだけじゃなくガッツもある。いいね、ますます好みだ」 「……っ! 逃げて!」 「そういう無粋な台詞は釣れないぜ」 再び緊迫感に満ちた視線を自分の背後に向けるフェイトを苦笑して、ダンテは振り返りもせず、背後に向けて魔力弾を撃ち放った。 コートの裏から滑るように抜き放たれたデバイスは、立ち上がろうとする人形の顔面を正確無比に捉えて、一撃で顔面を吹き飛ばす。 頭を失った人形は支えを失ったかのように文字通り崩れ落ちてバラバラになった。 「銃型の、デバイス……」 「怪我は無いみたいだな。そっちの先生も大丈夫かい?」 「え? ええ、大丈夫です」 余裕すら持って、呆気にとられるフェイトとユーノをダンテは気遣っていた。背後で消滅する人形の残骸になど目もくれない。 バリアジャケットを纏って援護しようとしたなのはも、ただ呆然としていた客も、誰もがこの突然現れた謎の男を見ることしか出来なかった。 奇妙な静寂に包まれるホールを、ダンテはステージから一通り見回す。 何かを探るようなその視線を訝しげに思いながら、フェイトは意を決して話しかけた。 「あの……」 「助けた礼なら後でいいぜ。半分は仕事で、半分は俺のポリシーさ」 女性には優しくな。 悪戯っぽくウィンクしてみせる仕草に性的な魅力を感じて、フェイトは思わず頬を赤らめた。感情とは関係ない、若い女ゆえの反応だ。 しかし、管理局員としてこの疑問を蔑ろにするわけにはいかない。 「アナタは、何者なんですか?」 「そう、いい男にはそういう質問をするのがいいぜ。だが、自己紹介は後回しだ」 ダンテは軽口を叩きながらも、もう片方の手で二挺目のデバイスを取り出した。 既に、その眼光は穏やかさを失い、鋭い戦士のそれへと変貌している。 その意味を理解したフェイトが、同じく警戒を露わにして周囲を睨み付けた。 いつの間にか再び感じる右手の痛み。 「―――来るぞ」 ダンテの呟きがまるで予言であったかのように、異変は起こった。 誰もが予兆を感じることが出来た。 全身に覚える未知の悪寒。人間の持つ本能的な恐怖は彼らに警告し、そしてそれが全くの無駄であるかのように退路は塞がれる。 ホールから外部に繋がる全ての扉を覆うように、真紅の結界が発生した。 表面に幾つもの苦悶の表情を浮かび上がらせたその壁は、呪いのように扉が開くことを封じる。 もはや誰一人としてこの場から逃げ出すことが出来ないという現実を人々が理解するのは少し後の話。 ダンテ以外の誰もが閉じ込められたことすら気付かない閉鎖空間の中で、次々と悪夢が具現化し始めた。 ホールの各所で悲鳴が上がる。 そこへ視線を走らせれば、見たことも無い魔方陣が発生し、それを<穴>として先ほどの操り人形と同種の存在が次々と現れ出始めていた。 「これは召喚!? それとも、違うの……!?」 未知の現象に戸惑うなのはは、それでも事態の把握だけは正確に行っていた。 あの人形は全てが間違いなく敵だ。 標的はユーノ? フェイト? それともこの場にいる人間全て? いずれにせよ最悪の事態が始まりつつあった。混乱し始める多くの客を一望し、それら全てを守りきることへの絶望感が湧き上がる。 やらなければ。だが、出来るのか―――? 「そこの勇ましいお嬢さんは、このホテルの護衛に来てるっていう時空管理局の人間か?」 戦う意思を固めたなのはを、この場では不釣合いなほど気安い声が呼んだ。 視線を走らせれば、既視感を感じさせる珍しい二挺拳銃のデバイスを持ったあの男が不敵な笑みを浮かべたまま悪夢の発現を見据えていた。 「そ、そうですけど」 「なら客の護衛を頼むぜ。避難誘導はやめとけ、あの人形どもを倒さない限り、もうここからは誰も出られない」 「アナタは一体……」 「質問には、このバカ騒ぎが終わったらプライベートなことも含めて答えてやるよ」 彼は昂然と<敵>を睨み付けた。 その両手が華麗な舞を見せ、二挺の銃が優雅に、優美に宙を踊り狂う。 悪魔が取り憑いたかのような人形の群れと人々の阿鼻叫喚。その狂ったステージで、彼のパフォーマンスは驚くほど冴え渡っていた。 なのはが、フェイトが、ユーノが―――その場で冷静な者全てが、場違いな光景に釘付けになった。 回転する銃身が上質なタップダンスのように彼の周囲を跳ね回る様。 なのはの脳裏に連想して浮かぶものがあった。 「……ティアナ?」 信じ難い呟きは誰にも聞こえず消えていく。 壮絶な銃の舞はクロスしたダンテの腕の中で終了した。 「子供の頃から古臭い人形劇ってのは嫌いでね。どうせ見るなら爽快なアクション映画だ。そうだろ?」 誰にとも無く軽口を叩くダンテの元へ、ステージの裏からも複数の人形がにじり寄って来た。 最初の人形と同じように、搬入されたコンテナの中に居たモノが自ら動き出したのだ。 なのは達が四方八方に警戒を走らせる中、悪夢の出現は止まり、悲鳴を上げる人々を囲い込むように悪夢の出演者が入場を終える。 地獄の舞台は整った。 その中心に立つ男が告げる。 「さあ、始めるとしようぜ」 「……アナタは、魔法が使えるんですね?」 その男の正体を後回しにして、今はこの事態を共に切り抜ける為に戦いの意思を確認するフェイトへ、ダンテは鼻で笑って見せる。 「―――魔法だって? ハッハァ、銃(こいつ)を喰らいな!!」 周囲の<悪魔>どもに向けて、ダンテはいつものように銃をぶっ放した。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> マリオネット(DMC1に登場) 綺麗な人形に悪霊が宿って動き出したなんて話は良くあるよな? 殺人鬼の魂が宿った人形のホラー映画まであるくらいだ、人の形をした物に何かの自我が乗り移るという概念は珍しくはない。 だからこそ、人は分かりやすく恐怖する。そんな負の感情を利用しようと人形を媒介にして現れたのがこの悪魔だ。 悪魔狩人としちゃ、相手にする弾丸も勿体無い雑魚中の雑魚だ。誰もが考えるからこそありふれた悪魔だと言える。 その名のとおり外部からの力で操る仕組みのせいか、人形自体の耐久力も媒介になった物そのままだ。ちょいと手荒に扱えばすぐにぶっ壊れちまう。 ただし、その非力を補う為か短剣や銃まで使って戦い方を工夫する賢い奴も中にはいやがる。ありふれているからこそ、時代に合わせる柔軟性もあるってワケか。 そして、中でも<ブラッディマリー>と呼ばれる、自分の服を襲った人間の血で染めた赤い人形は曲者だ。 黒魔術などでも用いられる通り、血液ってのは魔力や呪いを秘めている。 その忌まわしい力が、人形に宿った悪魔まで強化しちまうんだ。人間の負の部分を力にする悪魔ってのは、やはり胸糞の悪い存在だぜ。 殺された人間も、勝手に乗っ取られた人形も、これじゃあ浮かばれない。 徹底的に破壊してこの世から消滅させてやるのが、そいつらにくれてやれる手向けって奴だろう。 [[前へ なのはStylish11話]] [[目次へ 魔法少女リリカルなのはStylish氏]] [[次へ なのはStylish13話]]
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ノイズ交じりの念話からは、もう悲痛な同僚の悲鳴しか返っては来なかった。 出来ることなら、出せる限りの悪態を吐いてしまいたい気分だ。『畜生』『くそったれ』『ファック』……汚らしいスラングは山と湧いてくる。酷い状況の時こそ人間は負の感情を吐き散らしたくなるのだ。 しかし、それさえも過ぎれば―――もうあとは誰も彼もこう言うしかなくなる。 ああ、『神よ』―――と。 「神よ……」 ティーダもまたそうだった。 右手に握る銃型のデバイス。数々の修羅場を共に潜ってきた長年の友を、手のひらから噴き出す汗で取り落としそうになる。 銃身は小刻みに震え、あたかもティーダ自身の今の心境が相棒にまで伝わっているようだった。 今、ティーダが感じているのは、紛れもない『恐怖』だった。 「畜生! 化け物、化け物めっ!!」 「来るなぁ、来るなよぉおおーーー!」 「助けて、たすけ……!」 空戦魔導師の舞台である空は、今や血染めのダンスホールと化していた。 飛行魔法で高速移動するティーダの耳に届く、文字通り四方八方からの悲鳴。 それらが全て同じ部隊の戦友が生きながら喰われる声だと理解して尚正気でいられるのが、彼自身にも不思議でならなかった。 違法魔導師を追跡、捕縛する任務を受けた数時間前に、こんな地獄の光景を部隊の誰一人として予測し得なかっただろう。 出来るはずがない。 こんな光景が、この世に実現するはずがないのだ。 夜空一体を覆うように浮遊する、おびただしいまでの『人間の頭蓋骨』―――それが、自分の武装隊を襲った者の正体だった。 淡く光る亡霊のような虚ろな輪郭と、頭だけの存在でありながら人間を一飲みに出来るサイズが、それを尋常ではない存在であると証明している。 仲間達は、突如出現したこのおぞましい存在達に次々と喰われていった。 「化け物め……!」 恐怖を悪態で噛み殺し、襲い掛かってくる頭蓋骨の眉間に向かって引き金を引く。 この亡霊としか表現出来ない怪物が人間を襲う瞬間だけ実体化するパターンを、魔力の浪費を経てようやく理解できていた。 「この……っ」 人の頭が弾けるようにソイツは消滅する。 しかし、眩暈のするような数の同種の存在が、今やティーダとわずかな生き残りを完全に包囲していた。 「―――<悪魔>めぇぇ!!」 今度は数体、同時の襲撃を決死の射撃で迎え撃つ。魔力弾は悪夢を吹き飛ばし、消える傍から新しい悪夢がティーダに襲い掛かった。 回避というより逃走に等しい動きで飛行し、この悪夢の原因へ視線を走らせる。 誰もが錯乱し、発狂しそうになる中、彼は最も冷静だった。 まだ視認できる距離にいる、逃走中の違法魔導師。 (奴だ! 『あの男』がこの化け物どもを……!) それが分かりながら、決して追跡不可能ではない距離をその間に浮遊する無数の人骨の化け物が絶望的に遠くしている。 しかし、あの魔導師をどうにかしなければ、自分達はこの悪夢に食い尽くされるしかない。 「うぉおおおおおおおーーーっ!!」 ティーダは残された魔力を全て結集し、最大速力で死の道筋に乗り出した。 群がるように動き始める無数の悪夢。 回避などという余分な行動を取る事は出来ない。あまりに絶望的な前進を、彼は選択した。 「ティアナァアアアアアアアアーーーッ!!!」 断末魔の如き叫びが夜空にこだまする。 それがこの世に遺すことになってしまうであろう、愛しい妹の名であることを、彼に襲い掛かる悪魔どもが知る由などもちろんありはしなかった。 ティーダ=ランスター一等空尉―――逃走違法魔導師追跡任務中に殉職。その死因はもちろん他殺だが、原因だけは依然として判明していない。 ティーダの殉職の知らせを聞き、駆けつけた男の名は<トニー>と言った。 同じ空戦部隊に所属していたわけではなく、むしろ魔導師ですらない。お互いにごく私的な付き合いのある友人だった。 当然、親類や部隊の同僚が出席するティーダの葬儀に招待されるワケもなく、トニーがようやく目的地の墓地に辿り着いた時には、すでに棺が地中へ収められた後だった。 最後の死に顔も拝めなかったことを残念に思い、大きくため息を吐くと、乱れたコートの裾を直して静かに参列者の傍へ歩み寄った。 整然と並ぶ喪服や軍服姿の参列者達の中で、黒いコートで申し訳程度に正装した彼は酷く浮いていたが、厳かな空気の中それを指摘する者はいなかった。 長身のトニーは参列者の最後尾から、祈りの言葉を捧げる神父と棺の収まった穴を見下ろす。 そして、一人の少女を見つけた。 最後に死者へ捧げる為の花と、オモチャの銃を胸に抱いた小さな少女。今年で10歳になったはずだ。 ティーダの、この世に遺された唯一の肉親である妹<ティアナ>だった。 天涯孤独となったティアナは、兄の亡骸の納まった棺を前に、泣くこともなく決然とした表情で前を見据えていた。 トニーの瞳が痛ましいものを見るように細まる。 親しい部隊の仲間は共に殉職し、両親もとうの昔に他界して、この葬儀に立ち会っているのはティアナにとって他人のような遠い血縁と、他人同然の軍人や職員だけ―――。 ティーダ=ランスターの死を、本当に悲しんでいるのは彼女しかいないというのに、その少女自身が涙を流さぬ姿が、トニーには酷く悲しいものに映るのだった。 出直すべきか……。 トニーが気まずげに踵を返した、その時。 「―――名誉の殉職には程遠いな」 囁くような声が、トニーの耳に障った。 参列者の内、軍服を着た者達の間から漏れた言葉だった。小声のつもりだろうが、静寂の中でそれは酷く耳障りに響く。 「航空隊の魔導師として、あるまじき失態だ」 「無駄死にだな。最後の通信を聞いたか? 『悪魔に襲われている』だそうだ」 「状況に混乱し、あまつさえ目標すら取り逃がすとは」 「部隊の面汚しめ」 誰がどれを言っているのかは、もはやどうでもよかった。 ただ、彼らの心無い侮蔑の囁きが、死者とその家族を限りなく傷つけていることだけは確かだった。 彼らの言葉に反応するように、小さな肩を震わせるティアナを見つめ、トニーは返した踵を再び反転させた。その歩みに怒りを宿して。 「おい」 「ん? なんだ君は? ここは関係者以外……」 全て言い切る前に、男の顔には鉄拳がめり込んでいた。 男が意識を手放し、鼻血を噴出して昏倒すると同時に、トニーの周囲を敵意が取り囲む。 「な、なんだ貴様!? 我々は時空管理局の―――」 「さっきのふざけた言葉を言ったのが誰か、別に探し出すつもりはないぜ」 怒りで脳の煮え滾ったトニーは全てを無視して、ターゲットを軍服を着たその場の全員に決めた。 「あの毎朝トイレで聞くような腐った言葉を聞き流した、テメエら全員が同罪だ。一人残らず顔面整形して帰んな」 「取り押さえろ!」 周囲が騒然とする中、トニーは厳かに告げる。その場の管理局員全てを敵に回し、彼は拳を振り上げた。 数分をかけて、トニーは自分が言ったとおりの事をやった。 「な、何のつもりですか……! この静粛な場で、アナタはなんという……っ」 死屍累々と横たわる管理局員達。彼らの顔面を一つ残らず陥没せしめた元凶の男を震える指で指し、神父は恐怖と怒りを向けていた。それ以外の参列者はほとんどその場から逃げ出してしまっている。 トニーは神の使いに中指を立てて応えた。 「死者を罵るのが静粛かい? とっとと失せな。ここはティーダが眠る場所だ」 言って、周囲を睨みつけるトニーの凄みに、残った者達も慌ててその場から逃げ出した。 静寂を取り戻した墓地に残されたのは、トニーと、彼の友人の眠りを妨げた愚か者の末路、そしてただ黙って事の成り行きを見守っていたティアナだけだった。 「悪いな、余計に騒いじまって」 「いい……ありがとう」 バツの悪そうなトニーに、再び棺に視線を落としたまま、ティアナは小さく礼を言った。 ティーダの眠る棺の前。トニーとティアナは肩を並べて佇む。 「……あなた、お兄ちゃんの知り合い?」 「個人的な友達さ。趣味が合ってね、コイツには『こっち』に来てから世話にもなった」 答える声に哀愁の色は無かったが、この男が兄の死を悼んでいることが幼いティアナにはなんとなく理解出来た。 トニーが持参した酒瓶を棺の横に添える。それに倣うように、ティアナが花を放る。 そして、沈黙が流れた。 沈痛なそれではなく、ただ穏やかな静けさが。 周囲が兄を『無能』『役立たず』と評する中、ただ静かに悲しんでくれる目の前の男の存在が、初めて救いのように思えた。 「……ねえ、お兄ちゃんは『役立たず』でも『嘘吐き』でもないわ。お兄ちゃんは頑張った。そして、頑張ったお兄ちゃんを殺したのは、<悪魔>なのよ」 「ああ、そうだ」 独白のようなティアナの言葉を、当然のようにトニーは肯定した。 それは、彼女への慰めでも相槌でもなく、歴然とした事実だったからだ。 「<悪魔>は実在する。 そして、ティーダはそいつらを命と引き換えに倒したのさ。さっきのクソどもが呑気にバカを言えるのも、全部そのおかげなんだ」 断言するトニーの決然とした横顔を、ティアナは見上げた。 妄言を吐く狂人を見るような眼ではなく、ただ真摯に見据える少女の瞳がそこにあった。 「―――俺は、ここに誓いに来た。ティーダ、お前を殺った奴は、この俺が必ず切り裂いてやるってな」 「なら、それはあたしに誓わせて」 今度はトニーがティアナを見る番だった。 「ティーダ=ランスターの仇は、妹のティアナ=ランスターが取る。そして、お兄ちゃんの果たせなかった『執務官』の夢を引き継ぐ!」 少女の誓いの叫びが、静寂の中に響き渡った。 激情と共に湧き上がる涙を拭い、しかしもう二度と泣かぬと決める。 その少女の尊く痛ましい姿を、トニーはかつての自分を見るような瞳で捉えていた。 胸中に去来する感情は酷く複雑で、しかし唯一つ言えることは―――自分が亡き友人の為に出来ることは、この少女の行く末を見守り、支えることだけだということだった。 諦めと安堵の中間のような苦笑を漏らし、トニーはそっとティアナの頭に手を添えた。 「OK。聞いたぜ、お前の誓い。それが良い事なのかは分からんがね」 「後悔はしないわ」 涙を止めたティアナは、トニーの手をそっと取り払った。 「……ねえ、ところであなたの名前はなんていうの?」 そして、兄よりも高い位置にある顔を見上げ、改めて尋ねた。 トニーがニヤリと笑う。それは彼の生来持つ、お得意の不敵な笑みだった。 「トニー。トニー=レッドグレイヴだ、お嬢さん(レディ)―――だけど、お前には特別に『本当の名前』を教えておいてやるよ」 不思議そうな顔をするティアナに、彼は悪戯っぽくウィンクしてから答えた。 「俺の名は<ダンテ>だ―――」 魔法少女リリカルなのはStylish 第一話『Devil May Cry』 『<ダンテ>について何か教えろって? あんた、奴の何が知りたいんだ? 生憎、俺はあいつが何を考えてるのかすら分かりゃしねえよ。 この間だってそうさ。 いきなり事務所をおっ建てるとか言い出して、いい物件を探しといてくれ、ときた。 しかもできるだけ物騒な場所にしてくれとかぬかしやがる。商売する気があるんだかないんだか……。 ま、俺も仕事だからちゃんと物件は探してやったがね。 廃棄都市街の一角さ。無断居住者がゴミみてえに集まる無法地帯。ミッドチルダに点在する黒染みみたいな場所だな。まあ、その住人の一人である俺の言えたことじゃねえが。 管理社会のミッドチルダで物騒な場所と言えばこれくらいしかねえ。時空管理局の管理から零れた肥溜めだ。 お気に召したらしく大層喜んでたよ。 ミッドチルダじゃ見たこと無いタイプの人間だ。社会に適応できないはぐれ者の溜まり場の中で、アイツだけがギラギラとやけに光って見える。 笑うとガキみたいな顔をしやがるくせに、仕事となりゃ魔導師でもねえのに魔力弾の雨の中を妙な剣一本で駆け抜けていく―――そういう奴さ、ダンテってのは。 ―――家族? ああ、最近小さなお嬢ちゃんを連れて回るようになったみてえだが。 死んだダチの妹らしいが、しかし引き取ったとは聞いてねェな。さっきも言ったが、奴が何を考えてるかなんて俺には分からねえのさ。 まあ、奴の家族らしいものなんてそれくらいしか思いつかねェ。何も分からねェんだ。 1年前、フラッと現れていつの間にか居座っていた。誰も気付かなかったのに、今は誰もが奴に目を向ける。 付き合いの長い俺から見ても謎の多い奴さ。 そんなに気になるなら、直接会ってみな。とびっきり物騒な場所に、奴の<店>はある。 どんな店かって? そりゃ行ってみれば分かるさ。 暗闇の中でバカみたいに派手なネオンの看板を見つけたら、それがそうだ。 店の名前は奴が考えた。ダンテにピッタリさ、何せ奴が相手ならきっと『悪魔だって泣き出す』だろうからな。 ―――その店の名前は<Devil May Cry> この世からあの世に渡りをつけられる、唯一の場所だ』 とある情報屋の証言より。 シャワーの音に紛れて事務所の方から電話のベルが聞こえた。 念願の仕事の到来に、ダンテは口笛を鳴らす。 ポンコツボイラーの湯の温度は常に熱すぎるか冷たすぎるかで、毎度の事ながらお世辞にも快適なバスタイムとは言い難かったが、自分を呼びつけるベルの音に機嫌はよくなっていた。 未だに事務所の借金を抱える身としては、金になる仕事はありがたい。 何より、怠惰な日常は度を過ぎれば苦痛だ。人生を楽しくするには刺激が必要なのだ。 汚れ物のバスケットの中から最もマシと思えるタオルを選んで体を拭き、半裸の肩から湯気を上げながらダンテは扉一枚隔てた事務所へと顔を出した。 途端、電話のベルが止む。 「デビル・メイ・クライよ」 店主以外の少女が、電話を取っていた。 電話の対応をする不法侵入者に対するリアクションを軽く肩を竦めるだけに留める。店に鍵など掛けた試しはなかったし、シャワーやトイレを貸してやるくらいの度量はある。 何より、その少女はダンテの数少ない知人だった。 「―――いえ、悪いけどウチはもう閉店時間よ」 受話器越しに数言聞いただけで、少女は素っ気無く電話を切ってしまった。 「ヘイヘイ、お嬢さん。店主の俺の意見も聞かずに切るなよ」 「『合言葉』がなかったわ」 「余裕があれば、そういう選り好みもするんだがな。このままじゃ干上がっちまう」 「それで、また前みたいに小銭で女の子の猫探しを引き受けちゃうんでしょ?」 「いい男は女に優しいからな。第一、あれはお前が受けたんだぜ―――ティア」 じゃれ合うような軽口の応酬の後、ダンテと月日を経て13歳になったティアナは笑い合った。 「今日は一体どうしたんだ? しばらく試験とかがあるから、こっちには寄り付かないって言ってなかったか?」 「うん、その事で結果を報告に来たんだけど……」 「おっと、その前にこっちの用事を済ませてくれ。いい知らせは後で聞いた方がいい」 ティアナの顔に浮かぶ喜色の笑みから、それが朗報であることを悟ると、ダンテは苦笑しながら台詞を遮った。 乱雑な調度品の中で唯一事務所らしい備品である机の上に無造作に放られた銃型のデバイスを手に取る。 弾丸こそ入っていないが、頑強なフレームで構成されたそれは武器としての凶悪さを表していた。 「最近コイツの調子が悪いんだ。ちょっと見てくれ」 ダンテは手馴れた仕草でデバイスを振り回すと―――おもむろに銃口をティアナの眉間に突きつけ、ぶっ放した。 炸薬を使用した弾丸とは違う、高密度の魔力弾が空気の炸裂音と共に飛び出す。 それは絶妙のタイミングで首を逸らしたティアナの頬を横切り、いつの間にか背後で大鎌を振り被っていた黒い影に直撃した。 人ならざる影は、見た目どおりの怪物染みた悲鳴を上げて魔力弾に吹き飛ばされる。 「―――本当ね、魔力の集束率が落ちてるみたい」 何の前触れもなく撃たれた事にも得体の知れない敵が出現した事にも関心を示さず、影が再び立ち上がろうとする事だけにティアナは頷いて返した。 ダンテの魔力はカートリッジの使用なしで絶大な威力の攻撃を可能にする。普段なら仕留め損なうなど在り得ないのだ。 「フレームの歪みかしら? 結構気合い入れてチューニングしたのに」 ぼやきながら、ティアナは自分のデバイス<アンカーガン>で立ち上がろうとした影の頭らしき場所を無造作に撃ち抜いた。 致命傷を与えられた影の怪物は、そのまま最初からいなかったかのように消滅していった。 ―――闇が凝固し、人の形を取って人に襲い掛かる。 そのおぞましい光景が現実に起こることを、知る者は少ない。 日常を侵食する異常―――『それら』を知り得るのは、『それら』を駆逐する者達だけである。 ダンテと、この数年間彼の傍にいたティアナの、この二人しか知らない。 それらは<悪魔>と呼ばれることを―――。 「それにしても、相変わらず『こいつら』はダンテに引き寄せられるみたいに現れるわね」 ダンテからデバイスを受け取り、椅子に腰を下ろしながらティアナは先ほどまで影が凝固していた場所を見た。 今はもう跡形も無い。 「熱いアプローチは大歓迎だが、別の場所でお願いしたいね。そうすりゃ仕事になる。ぶっ殺すのには変わりないんだからな」 「でも、出現頻度はなんだか最近上がってるみたい。公にはされてないけど、クラナガンの方でも『出た』らしいわ」 「管理局も忙しくなりそうだ。<悪い魔法使い>の次は、<悪魔>が相手と来た」 「あたしも、もう他人事じゃなくなるけど……」 ダンテのデバイスを弄りながら小さく呟いたのを、相手は聞き逃さなかった。 「へえ。じゃあ、やっぱりいい知らせかい? 陸士訓練校ってヤツの試験に受かったんだろ?」 「うん、まあね」 「ハハッ、やったじゃねえか! 来いよ、キスさせてくれ」 「バカ」 大仰に両手を広げるダンテに対して素っ気無く返しながらも、それが照れ隠しであることはティアナの赤い顔を見ればすぐ分かる。 肉親を失い、兄の夢であった執務官を目標に努力してきた。その孤独な奮迅を、目の前の男だけがずっと見守り続けてきてくれたのだ。 その彼からの祝福の言葉に胸から込み上げるものを、ティアナは何気ない表情の下に押し隠した。 「しかし、そうなると俺の愛銃を整備する人間がしばらくいなくなるな。まいったぜ」 「そう思うなら、もうちょっと丁寧に扱いなさいよ。アマチュアの自作とはいえ、単純な簡易デバイスだからその分頑丈に作ったのに……」 ティアナのアンカーガンもそうであるが、ダンテの銃型デバイスは、同じ変則ミッド式を扱うよしみとしてティアナが自作したものだった。 ただ魔力弾を放つだけのシンプルな機能しかない分、フレームの強度はアームドデバイス並のはずだが、それすらダンテの酷使に耐え切れずにダメージを負ったのだ。 「せいぜい気をつけるさ」 返答とは裏腹に、ダンテは性に合わないとばかりに肩を竦めた。 「いざとなったら、裏に仕舞ってある『本当の銃』を使うしな。相棒はいつでも準備万端さ」 「質量兵器が違法なのは分かってるわよね?」 「おいおい、別にミサイルや爆弾を使わせてくれって言ってるわけじゃないんだぜ?」 「大小は関係ないのよ。あたしも今年からそれを取り締まる側に回るんだからね」 「大丈夫さ、もし取調室で目が合っても他人のふりをしてやるよ」 「そういう問題じゃないっての……はい、終了」 メンテナンスを終え、ティアナがデバイスを手渡す。 ダンテはここ数年で第二の相棒として大分手に馴染んだそれを軽く玩び、クイックドロウのパフォーマンスを決めた。 ティアナに言わるとこの「頭の悪いカッコよさ」にこだわるのが、彼のスタイルだった。 「―――それじゃあ。報告も済ませたし、もう行くわ。またしばらく顔は出せなくなると思う」 「なんだ、随分と急ぐな? 馴染みの店でパーティーしようぜ」 「訓練校も寮制だから、準備とかもあるし……。訓練が始まったら、休みもなかなか取れないと思うから」 急くように立ち上がり、店を出ようとするティアナだったが、その言葉が全て言い訳に過ぎないと自覚していた。 素直になれない少女を数年間見続けてきたダンテは、心得たものだと苦笑する。 「なるほど、長居すると余計恋しくなるってワケか」 「な……っ! ち、違うわよ、バカ!」 反論の説得力は赤面する顔が全て台無しにしていた。 ニヤニヤと笑うダンテに何か言おうとして、それが無駄だと悟ったのか、あるいは図星を突かれたと認めたのか、ティアナは顔を赤くしたまま背を向けた。 そのまま出て行こうとするティアナに、ダンテは笑いながら声を掛ける。 「―――がんばれよ。お前ならやれるさ」 不意打ちだった。 普段の調子のいい口調ではなく、優しい言葉だった。 「……っ」 熱いものが目元まで沸きあがってくる。 それを堪え、ティアナは精一杯の気持ちで素直じゃない自分の口を開いた。 「……あたしの兄弟は、死んだ兄さん以外いないって……そう思ってる。でも……っ」 同情でも哀れみでもなく―――ただ、いつも傍で見守っていてくれた。 「頑張ってくるわ……兄貴」 その言葉を口にした一瞬だけ、ティアナにとって兄は二人になった。 「<兄貴>ねぇ……」 気に入りの椅子に身を預け、ダンテは楽しそうに呟く。 ティアナの立ち去った後の扉を眺めているだけで、ニヤニヤと思い出し笑いが口の端を持ち上げた。 「呼ばれるのは新鮮だな」 悪くない。悪くない気分だ。 あの少女と共にいた数年間。特別意識したことなどなかったが、あれでなかなか可愛げのある妹分ではないか、と思う。 なんとなく他人のように思えなかったのも事実だ。 あれで器用そうに見えて不器用にしか生きられないところなど、自分とよく似ている。 <この世界>に来てから、以前とはまた違った出会いと別れの連続だ―――。 「悪くないね。刺激があるから人生は楽しい……そうだろ?」 応えるように電話のベルが鳴った。 投げ出した足が机を叩き、反動で受話器が宙を舞う。 それをキャッチすると、ダンテは受話器越しに相手が震え上がるようなクールな声色で囁きかけた。 「デビル・メイ・クライだ―――」 その日、多忙な筈の無限書庫司書長は珍しく優雅な午後の紅茶を楽しめていた。 未開の無限書庫のデータベースに手をつけて以降、圧倒的な仕事量とそれに反比例する人手不足に忙殺され続けているが、ふと嵐が過ぎるように休暇が取れる。 その貴重な時間を彼は食堂の片隅で安息と共に噛み締めていた。 「ユーノ君!」 「なのは! 久しぶり」 そして、そんなささやかな時間に二人が顔を合わせられたのは、ちょっとした幸運ですらあった。 ユーノ=スクライアと高町なのは。 互いに働く部署が分かれて以来、再会が数ヶ月越しになる事すらある、未だ友人以上恋人未満のラインに留まる幼馴染の久方ぶりの対面だった。 珍しく誰も同伴していない二人は、向かい合って再会を喜び合う。 「ユーノ君、休み取れたんだ?」 「休憩ってレベルのものだけどね。相変わらず本を相手に大忙しだよ」 「大変だね。でも、その割りに休憩時間まで本と一緒なの?」 苦笑しながらなのははユーノの手元を指差した。 飲みかけのレモンティーと、古ぼけた本が一冊がページを開いて置いてある。 「うん、ちょっと珍しい本を見つけてね。仕事とは関係ないんだ」 ユーノの指がなぞる先には、とても文字とは思えない難解な模様が何行も描かれている。 専門外のなのはにはワケが分からない代物だったが、しかしそれはユーノにも言えることだった。 「見つけたのは偶然だったけどね、これは僕にも読めないよ。読書魔法の解読も効かない。どうやら文字ですらないみたいなんだ」 「ふーん。でも、何の魔力も感じないみたいだけど」 「うん、この本自体はただの記録媒体に過ぎない。魔道書の多い無限書庫では珍しい本なんだ。 だけど、内容は見たことも無いほど複雑に出来てる。文字に見えるのは、実は伝説を主張するレリーフの集まりみたい。だけど比喩が深い。これを読み解くには、純粋に膨大な知識が必要になるだろね」 「へぇ……」 そんな物を休みの時間まで使って解読しようとするあたり、根っからの学者肌であるユーノらしかった。 だが、なのはにも何となくその気持ちが分かった。 ページの破れや染みに長い歴史を刻んだ、いかにも伝説の書物と言った風情のそれが纏う雰囲気は、人を惹きつける魔性のようなものを感じる。 「『されど魔に魅入られし人は絶えず』―――」 「え?」 不意に呟かれた言葉に、なのははドキリとした。 「本にあった一説だよ。この一行を解読するだけでも、すごく時間がかかったけど……どうやらこれは<悪魔>について記した本らしい。よくある神話の本さ」 「<悪魔>……」 <悪魔>という言葉を完全にゴシップとして捉えたユーノとは反対に、なのははその単語が酷く心に残っていた。 管理局内で囁かれる噂を思い出したのだ。 実際に被害が出ているのに、それ自体はまるで与太話のように信憑性を失っている、奇妙な噂。 ―――魔導師たちの中に<悪魔>に襲われた者たちがいる。 被害記録は確固として残りながら、誰もが被害者の報告を信じない。まるで人の無意識が、それから目を逸らそうとしているかのように。 「……続き」 「うん?」 「他に、読める所はないの?」 なのはの中で、その本への興味が大きくなりつつあった。 「そうだな、まだ手をつけたばかりだから……そう言えば、少ないけど共通して使われてるフレーズがあるね」 「それって?」 「<スパーダ>っていう単語だよ」 スパーダ―――。 なのはは自分でも知らぬ内に、その言葉を深く心に刻んでいた。 不意に時計が時刻を告げるアラームを鳴らす。昼の休憩時間が終了したのだ。 なのはは思考を切り替え、ユーノとの別れを惜しみながら立ち上がった。 「―――そう言えば、なのは。この本のタイトルなんだけど……」 立ち去るなのはの背に声を掛け、ユーノはその名を告げた。 その名を<魔剣文書>という―――。 後に、高町なのはにとって重大な事件に発展する、これがその最初の一端に触れた瞬間であった―――。 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> サルガッソー(DMC1に登場) アフリカ大陸の西に広がる広大な海域は、計器や通信技術の発達していない昔に航海の難所として有名だったらしい。 いわゆる船の墓場。その海域の名こそが<サルガッソー>ってワケだ。 それと同じ名を持つこの悪魔は、海と魔界の狭間を行き来する低級な連中で、近くに生命を感じると反射的に実体化して喰らいついてくる。 見た目は捻りの無い『しゃれこうべ』の亡霊だが、必ず集団で現れる脅威と不気味さだけは十分な恐怖だな。 前記した特性の通り、距離を取った状態での攻撃は効果が無い。 だが、その特性を知ってるだけで敵の怖さは大分違ってくる。近づいて、実体化したところを好きに料理してやるといい。 知能も耐久力も並以下だが、唯一数だけが脅威だ。サルガッソーの遭難で帰れなくなった船みたいにならないよう、せいぜい油断はしないことだぜ。 目次へ 次へ
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オープニング 1.「SECRET AMBITION」 (第1~17話) 作詞:水樹奈々 作曲:志倉千代丸 編曲:藤間仁(Elements Garden) 歌:水樹奈々 2chのアニソンランキング 381位(2008年05月版) 月刊アニメージュ年間グランプリ(アニメソング部門) 27位(第30回) VIPPERが選ぶアニソンベスト100+α 41位(第1回) 2.「MASSIVE WONDERS」 (第18~26話) 作詞:水樹奈々 作曲・編曲:矢吹俊郎 歌:水樹奈々 2chのアニソンランキング 447位(2008年05月版) 月刊アニメージュ年間グランプリ(アニメソング部門) 23位(第30回) エンディング 1.「星空のSpica」 (第1~14話) 作詞:椎名可憐 作曲・編曲:太田雅友 歌:田村ゆかり 2chのアニソンランキング 417位(2008年05月版) VIPPERが選ぶアニソンベスト100+α 59位(第1回) 2.「Beautiful Amulet」 (第15~26話) 作詞:椎名可憐 作曲・編曲:太田雅友 歌:田村ゆかり 挿入歌 1.「空色の約束」 (第8話) 作詞:都築真紀 作曲・編曲:佐野広明 歌:斎藤千和 2.「Pray」 (第24話) 作詞:Hibiki 作曲・編曲:上松範康(Elements Garden) 歌:水樹奈々 2chのアニソンランキング 249位(2008年05月版) イメージソング・キャラクターソング 関連作品 魔法少女リリカルなのは (2004) 魔法少女リリカルなのはA s (2005) 魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1st (2010) 投票用テンプレ SECRET AMBITION(魔法少女リリカルなのはStrikerS/OP1/水樹奈々/2007) MASSIVE WONDERS(魔法少女リリカルなのはStrikerS/OP2/水樹奈々/2007) 星空のSpica(魔法少女リリカルなのはStrikerS/ED2/田村ゆかり/2007) Pray(魔法少女リリカルなのはStrikerS/IN/水樹奈々/2007) OP…オープニング曲、ED…エンディング曲、IN…挿入曲、TM…主題曲 IM…イメージソング・キャラクターソング
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スバルの憧れの人とは 時空管理局員魔導師 空のエースオブエースのなのはだった そして、試験は、終了。だが、試験は・・・・ 編集長の一言 スバル。 再会しました。その人の名は、高町なのは そう、このシリーズの主役です。キャラクターも成長していました 大人になってます。そして、目標の実現まであと少しです 映像は、こちら(消失の場合は、連絡の事 魔法少女リリカルなのはStrikerS ep 2 part 1 魔法少女リリカルなのはStrikerSサブタイトルへ戻る