約 2,981,600 件
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/149.html
春樹889~890 891 ③修二君に話しかける 「あの、あのね修二くん」 私は何か言わなくちゃいけない気がして声を掛けた。 大きな声で呼ばれた修二くんは、困った顔のままで向き直る。 「私にとって修二くんも同じ。代わりなんていないよ」 「愛菜ちゃん?」 「修二くんは修二くんだから。一郎くんとも冬馬先輩とも違う。 さっきは怖いことされたからつい大嫌いって言ったけど、意地悪だって思ったけど、 それでもやっぱり私の大切な友達だもん」 まくしたてる様な早口になる。 強引にされた事は許せないけど、かといって嫌いになれない。 「だからね、修二くんの代わりは誰にも出来ない。いくら一郎くんの……」 「二度振るだけじゃ足りず、わざわざ友達宣言まで。愛菜ちゃんは手厳しいなぁ」 私の言葉に被せるように、修二くんは言った。 苦笑を漏らし、壁に頭を預けている。 「わ、私はそういう意味で言ったんじゃなくて……」 「言わなくてもいいよ。愛菜ちゃんもようやく気付いたんでしょ?俺が兄貴のコピーだって事にさ」 私は何も言えずに黙り込む。どんな言葉を掛けていいのか分からない。 「俺は俺。兄貴は兄貴。そう言いたいんだよね」 私は黙ったまま頷く。 これだけはどうしても伝えて、分かってもらいたかった。 「ずっと前から薄々気付いていたよ。だからこそ、俺は兄貴とは別の方法を選びたかったんだ。 運命に従う窮屈な生き方より自由を選びたかったし、支えていくより一緒に並んでいたかった。 だから兄貴には黙っているように言われていたけど、愛菜ちゃんに力の話をしたんだからね」 修二くんは壁に預けた頭をあげて、私を見る。 「けど愛菜ちゃんはそのせいで色々大変だったみたいだね。やっぱり迷惑だった?」 ①迷惑だった ②迷惑じゃない ③何も言わない 892 ②迷惑じゃない (最初はすごく途惑ったけど……) もし知らないままだったら、私は何も出来なかったはずだ。 意味も分からず状況に巻き込まれ、組織の道具として利用されていたかもしれない。 修二くんが本当のことを言ってくれたから、今、私はここに居る。 「迷惑じゃなかったよ」 「本当に?」 修二くんは確認するように言った。 私は大きく頷いて、壁に体を預けたままの修二くんを見る。 「修二くんが力の存在を教えてくれたから、私が私で居られたんだよ。 だからね、ちっとも迷惑じゃなかったよ」 修二くんに対して、不信感が全くなくなった訳じゃない。 けど話してくれたことにはとても感謝している。 だから私は修二くんに胸を張って笑顔で答える。 「むしろすごく感謝しているんだ。言ってくれてありがとう」 私の顔を見て、修二くんは顔を少し微笑むと静かに目を伏せる。 「どうかした? 目を閉じて考え事?」 「愛菜ちゃんには敵わないなと思って」 「どういうこと?」 「やっぱり好きな子の笑顔はいいね。こっちまでつられて笑顔になっちゃうもん」 「えっと……あの……」 「そんな困った顔しなくてもいいよ」 「私そんな顔してないよ……」 「してる。すごく迷惑そうな顔だ」 「ち、違うよ。私の顔はもともとこんなだし……」 恥ずかしくて、両手で顔を覆う。 そんな私の行動が可笑しかったのか、楽しそうに声を立てて笑った。 「ホントからかうと面白いよね」 「からかってたの?」 「だってすぐ真に受けるんだもん」 「もう!」 「許してよ、愛菜ちゃん」 「そんな風だから冗談か本気か判断に困るんだよ」 「あーあ。かわいいのに眉間にしわを寄せちゃ駄目だよ」 私は…… ①考える ②修二君を見る ③修二くんに話しかける 893 ③修二くんに話しかける (もう仕方ないなぁ……) 「修二くんは悪ふざけばっかりなんだから」 「愛菜ちゃん相手だとついね」 「なぜか許せちゃうから、これは修二くんの長所なんだよね」 「褒めてくれるんだ?」 「私には真似出来ない。だから羨ましいよ」 「愛菜ちゃんはやっぱり優しいなぁ。そういう所がたまんなく好き」 いつものスキンシップのように軽口をたたきながら、スッと手を伸ばしてきた。 (……っ!!) さっきの事が頭をよぎり、反射的に身をすくめた。 以前のように話す事はできても、触れられる事に関しては恐ろしさが先立つ。 そんな私の様子に修二くんは伸ばした手を止めた。 「……悪かったよ」 「な、何が?」 「……さっきはどうかしてたんだ、俺」 「修二くん?」 「色んなことが重なって頭グチャグチャで。強引だったよね。ホントごめん」 「……………」 触れようとした手を力なく落とし、修二くんは私を見る。 「お詫びになるか分かんないけど、愛菜ちゃんが望むように契約してあげる」 「………えっ!?」 「そんなに驚かないでよ。愛菜ちゃんが望んでたことでしょ」 「で、でも……本当に契約してくれるの?」 「もちろん」 「また冗談でしたってのは無しだからね」 「まさか。ホントのホント。本気だよ」 「もう怖いこと抜きで……契約してくれる?」 「わかってるよ。反省してるんだ、これでもね」 (やっと契約してくれる気になってくれた) 修二くんがようやく契約してくれる。これは大きな前進だ。 「ありがとうね。……修二くん」 「ただし条件つきで」 「条件……?」 「振られ損だけは勘弁してほしいからさ」 「ど、どういう事?」 「鈍いなぁ、愛菜ちゃんは相変わらず」 そう言うと、修二くんは私の胸元を指差した。 私は…… ①考える ②修二君を見る ③修二くんに話しかける 894 ②修二君を見る 私は修二くんを見上げる。 修二くんはそんな私を見つめてから「ここだよ」と改めて指差した。 「な、なに?」 「俺には愛菜ちゃんの戸惑いや怯えが見えるよ」 「そっか。修二くんには感情みたいなものも見えるんだもんね」 「微かにって程度だけどね。まったく厄介だよ」 「厄介なんだ」 「そりゃそうさ。そのくせ不完全だし」 「二人で一つの神器だからだよね……」 「こんな不完全で厄介な力でもさ。使わなくちゃいけない時くらいは見極めないと」 「うん……」 「愛菜ちゃんが寝たきりなんて、俺の寝覚めも悪いし」 「今は動けているけど一時的なものだと思う。だからやっぱり修二くんの協力がほしいよ」 「ならそこにある気持ち、全部弟くんに伝えてみれば?」 「春樹に伝える……」 「そう。その素直な想いをさ」 私自身まだこの気持ちに戸惑っている。 気持ちを突き詰めていくと、戻れなくなりそうで怖くなる。 「…………」 「愛菜ちゃん自身がとにかく素直になること。それが条件」 (契約の条件……) 「約束だよ。俺のココも愛菜ちゃんから卒業できないんじゃ困るからさ」 修二くんは拳で胸を軽く叩きながら言った。 ①「うん。約束する」 ②「ちょっと考えさせて」 ③「無理だよ」 895 ①「うん。約束する」 「声が震えてるみたいだけど?」 「や、約束は守るよ!」 「ホントにできる?」 「たぶん……」 「ふーん。そんなに気持ちの整理がついていないんだ」 「だって家族だから」 「でも弟君は高村だから血は繋がってない訳でしょ」 「五年間も弟だったんだよ。私も姉らしくしなくちゃっていつも思っていたし」 「急に気持ちは変えられないって事?」 「うん」 「くだらないな。もっとシンプルに考えればいいのに」 (シンプルって言われても) 自分でもウジウジとしている自覚はあった。 とはいっても今までの事を急に変えてしまうことなんてできない。 自分の心にブレーキがかかったみたいに動けなくなる。 「なるほど。諦めるのはまだちょっと早いかもね」 「なにが早いの?」 「気にしないで独り言だから」 「そう?」 「失敗したら一番に俺を選んでね。めげずに立候補しようと思ってるからさ」 冗談とも本気とれる眼差しを私に向けてきながら、修二くんは人懐こく微笑んだ。 ①「立候補ってなんのこと?」 ②「修二くんってば……」 ③「そろそろ契約しようよ」 896 ③「そろそろ契約しようよ」 目覚めてからかなり時間がたっている。 窓の外はすっかり真っ暗になっていた。 「あんまり待たせるのも可哀想だし、そうしようか」 「可哀想? 何のことかな」 「下にね、弟くんと湯野宮と精霊を待たせてるんだよ」 「そうなんだ……」 「契約するんでしょ。俺の気が変わらないうちに済ませたほうがいいんじゃない?」 修二くんの気まぐれには何度も振り回されてきた。 言うとおり、すぐにでも契約を済ませたほうが良さそうだ。 「じゃあ……お願いできるかな」 「うん。いいよ」 「………………」 「………………」 「………………」 私は緊張しながらその時を待つ。 だけど修二くんはなかなか動こうとしない。 「あのさ、愛菜ちゃん」 「なに?」 「待ってるだけじゃ、どこに契約していいのか分からないんだけど」 「どういうこと?」 「愛菜ちゃんは自分が望む場所に契約してほしいんだよね」 「うん」 「じゃあちゃんと場所を示してくれなくちゃ」 「あっ、そうだね。ごめん」 (どこにしようかな) 私の右手の甲に契約の印が刻まれている。 これは三種の神器の鏡、修二くんの対である一郎くんのものだ。 左手の甲は冬馬先輩。額には香織ちゃんの印がそれぞれ刻まれている。 ①右足の裏 ②左足の甲 ③右手の平 897 ③右手の平 「右の手の平にお願いしようかな」 「了解。それじゃ、手を出して」 促されるまま、私はためらいがちに右手を出す。 すると修二くんがその手首をゆっくり掴んできた。 私は反射的に手をサッと引っ込めてしまう。 「愛菜ちゃん……契約する気ある?」 「も、もちろん」 「まぁ怖がらせたのは俺なんだけどさ」 「大丈夫。もう平気だからお願い」 「わかった。じゃあ始めるよ」 修二くんは私の前に跪くと大きく息を吸った。 「過去の契約を破棄し、わが主を大堂愛菜と定める」 (いよいよ始まったんだ。これで体の自由が戻る) 「八咫鏡の半身として、尊き願いの為に、この身を捧げる。 そして、知恵と力を貴女のために振るうことを誓う」 懐かしいような、暖かいような不思議な感覚に包まれる。 「主たる君の望みのままに……」 右の手の平、一郎くんが契約した反対側に修二くんの唇が当たる。 新たな強い力が入り込んでくるのを感じた。 私は…… ①目を開ける ②気を失う ③話しかける 898 ②気を失う いつものように夢の中に落ちていく感覚で目を覚ます。今度はどこへ誰と会うのだろう。 (主たる君の望みのままに……か) 気を失う寸前に聞いた言葉。神器が契約の際に使う文句だ。 私の望みのために神器のみんなは力を貸すと言ってくれている。 (けどその望みが何なのか分からないよ) ただ体の自由を取り戻したいとばかりを考えていた。 本来の目的は巫女として力を使うことにある。 薄暗い靄の中に一つの影が見えた。 影は次第に大きくいき、目の前に光り輝くほど美しい女性が現れた。 私はこの人物をよく知っている。 「壱与! 壱与だよね!?」 「はい。はじめまして」 「そっか。一応……はじめましてになるんだっけ」 「そうですね」 「けど始めましてとはとても思えないよ」 「私たちは身も心も、最も近い存在ですから」 「生まれ変わりだしね。でも本人に会うと変な感じだよ」 「ふふふ。本当に奇妙に思えますね」 私たちは顔を見合わせて笑う。 壱与は私よりも年上みたいだけど、背がとても低くて少女のようにも感じる。 実際目の前にしてみると、印象がずいぶん違うようにも思えた。 「あなたのことはいつも心の中で感じていました」 「そうなの?」 「ええ。ずっと父が私の事を見守ってくれていると思ってました。けれど……」 壱与はそっと私の手をとった。その手は冷たかったけれど、柔らかくてすごく安心する。 「その正体は……愛菜。あなただったのですね」 ①「私の名前、知っていたんだ」 ②「壱与はなんのために現れたの?」 ③「ところでここはどこ?」 899 ①「私の名前、知っていたんだ」 「あなたは私に最も近い存在であり、恩人でもあるのですから」 「恩人って……壱与が人喰い鬼になった事かな」 「はい。帝を殺めようとした出来事です」 壱与は少し遠い目をしていた。 私には最近の出来事でも壱与にとっては、もう昔の記憶なのだろう。 「あの時はなんとかしなくちゃと必死で。ついしゃしゃり出ちゃったんだよね」 「やはり……愛菜は私の中で追体験をしていたのですね」 「うん。壱与が何をしたか、考えていたかが手に取るように分かったよ」 「だから私を救ってくださったのですね」 「救ったなんて。ただ助言できればと思っただけだよ」 「いいえ。父に成り代わって私を救い導いてくれださった事、感謝の言葉もありません」 「……導いてなんて大げさだよ。それにあの言葉はお母さんんからの受け売りなんだし」 「愛菜のお母様ですか?」 「うん。この愛菜って名前の由来を聞いてね。その時すごくいい言葉だなって思ったから」 「ですから私に?」 「うん。だから私が考えた訳じゃないんだよ」 「そうですか。素敵な言霊を紡ぐお母様なのですね」 お母さんの事を壱与が褒めてくれる。それが自分の事以上に嬉しく思えた。 「でも私ってこんな事ばっかりしてるから……よくお節介だって言われちゃうんだ」 「そうなのですか?」 「うん。そのせいで馬鹿だって言われたりもするし」 「では……私もその馬鹿の仲間入りですね」 壱与は微笑みながら、澄んだ目で私を見る。それはすべてを包み込むような優しい眼差しだった。 「私がここに来たのは、あなたの迷いを感じたからなのですよ」 「私の迷い……?」 「ええ。私もお節介に来たのですよ、愛菜」 (きっと私の相談にのってくれるって意味だよね) 私の迷いは…… ①春樹のこと ②巫女としてのこと ③望みが見つからないこと 900 ②巫女としてのこと 「壱与。すべての神器と契約したんだけど、これからどうなるの?」 「きっとあなたが強く念じれば……世はあなたの望むように変わっていくはずです」 (また同じ……) 神器との契約でも、壱与も『私が望むまま』という。私は何を望めばいいのだろう。 「壱与は私が何を望むべきだと思う?」 「それは……私には答えられません」 「どうして?」 「神器と契約したのは愛菜自身ですから」 (そう言われても。うーん) 私は思わず考え込んでしまう。 「望みが浮かばないのですか?」 「みんなから望みを託されているのに、こんな事じゃ駄目なんだけどね」 「そうですね……愛菜の今の力をもってすれば世の理を捻じ曲げる事すら可能でしょう」 「そ、そんなにすごい力が私に備わっているの?」 「はい」 (そんな大きな力、私に扱えるのかな) 「なんだか分不相応な気がするよ」 「愛菜は身に宿した力を持て余しているのですね」 「そうだね。この力って、あまり好きじゃないんだ」 「……では何も望まない、というのはどうでしょう」 (えっ?) 壱与の口から予想外の言葉が飛び出す。 「……何も望まないって、今そう言ったよね」 「ええ。言いました」 「巫女の壱与がそんな事言うなんて意外だよ」 「望みが浮かばないのであれば、現状こそが望ましいという事ですから」 「そんなものかな」 「あなたがその力を信じ強く望まなければ、力そのものも発揮されません」 「じゃあ、私が迷っている限り変わらないってことだね」 「……仮に世の理をも捻じ曲げるほどの力を発現させた時は、その負荷で無事ではいられないでしょう」 「それは……命懸けってこと?」 「はい」 (命懸けで叶えるべき望み……か) 私は…… ①それでも何もしないなんて出来ない ②やっぱり現状がいい ①考える ②修二君を見る ③望みが見つかったらまた考える
https://w.atwiki.jp/pam-iwate/
観光施設や旅館・ホテル、特産品、ショップなどのパンフレットが 無料でダウンロードできるサイトです。掲載も無料です。 (このサイトはお店を紹介する私設サイトです) 県名を選んで下さい ■青森県 ■岩手県 ■宮城県 ■秋田県 ■山形県 ■福島県 東北絆まつり仙台 画像をクリックするとリンクします。 東北 夢の桜街道〈桜の札所・八十八ヵ所巡り〉 画像をクリックするとリンクします。 ☆東北の観光情報ポータルサイト 画像をクリックするとリンクします。 ☆東北物語 画像をクリックするとリンクします。 パンフレットの掲載をご希望の方はメールでご連絡下さい tirasi-net@amail.plala.or.jp(担当:岩渕) パンフで観光・東北が携帯・スマートフォンからもご覧頂けます。 〈ブログ:東北〉 #blogsearch #blogsearch /
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/88.html
671~680 681 ①冬馬先輩に駆け寄る 「冬馬先輩、血が出てるよ……ちょっと待って」 血が滴っていることを除けばいつもの通りの冬馬先輩の前で、私は慌ててポケットに手を突っ込んでハンカチを取り出す。 冬馬先輩は傷口に当てようとしたハンカチを私の手ごと遮って、言った。 「ハンカチが汚れます、愛菜」 「ハンカチって……そんなことより今は冬馬先輩の怪我の方が大事でしょう!」 思わず声を荒らげた私にも冬馬先輩は顔色ひとつ変えず、空いている方の手の甲で無造作に額の傷を拭った。 「この程度の怪我なら放っておいても何ら問題はありません」 絶句する私の後ろで修二君がこれ見よがしに大きなため息をついた。 「はー、やれやれ。お人形さんに間違って血が通っても、お人形さんはお人形さんだね。所詮まがいものだから、心配されたってわからない」 「……修二」 戒めるようにそう声をかける一郎君に、修二君は「だってホントの事でしょ」と付け加えた。 (修二君、どうして、そんな言い方……) 修二君の悪態にも相変わらず無表情の冬馬先輩の額から、新たな赤い雫が伝い落ちた。見るに見かねて再びハンカチを傷口へ向けようとする私の手はまたしても冬馬先輩に阻まれた。 「お願い冬馬先輩、手をどけて」 「愛菜こそ、手を下ろしてください」 努めて冷静に話し掛けたのに、少しも聞き入れてくれる様子のない冬馬先輩に次第に苛立ちが募る。 「ねえ冬馬先輩、私先輩の怪我が心配なの」 「先ほども言いました。この程度の怪我は僕にとってなんでもありません」 「……」 「ただ、流血が不快なのでしたら謝ります」 「……冬馬先輩の、ばかっ!」 冬馬先輩の言葉に、気がついたらそう叫んでいた。目の前の冬馬先輩の目がいつもよりほんの少し見開かれているような気もしたけれど、血が上った私にはどうでも良いことだった。 「そんな事、言ってないじゃない! 冬馬先輩、怪我して血が出てるんだよ? 問題ないなんて、そんな訳ないじゃない!」 「まあまあ愛菜ちゃん、落ち着きなよ」 私の剣幕に驚きながらも、すかさず修二君が間に割って入るとなだめるように私の手をとった。 「センパイがヘーキって言うんだからヘーキなんでしょ。愛菜ちゃんがそんなに気にすることないって、ね?」 「……№711の言うとおりです、愛菜。今ここで流れているのは、あなたの血ではないのですから」 あんまりな物言いの修二君の手を見もしないで振り払って、私は冬馬先輩に詰め寄った。 「どうして、どうしてわからないの? たいしたことないって言ったって血を流したら、怪我をしたら痛いでしょう? 冬馬先輩が私の目の前で痛い思いをしてるのに、なんでもないとか、平気とか……そんな訳、ないよ」 思いつくままに冬馬先輩に言葉をぶつけながら、次第に視界がにじんでゆくのを感じた。ぼんやり見える冬馬先輩はなぜか悲しげに私を見ている。 「愛菜」 「先輩のばか。……どうしてもっと先輩自身のこと、大事にしないの」 「愛菜。……どうか、泣かないで」 「…冬馬せんぱいの……ばか」 「……すみません」 泣きじゃくりながら子供みたいに何度も何度も繰り返し責める私に、冬馬先輩は腹を立てるでもなくその度丁寧に謝った。 そんな意味のない問答を繰り返す私たちの横で、修二君が小さくつぶやくのが聞こえた。 「愛菜ちゃんの言うとおり、ほんとセンパイって馬鹿だよねー。……でもさっきのオレはそんなセンパイよりさらに馬鹿、かな」 (……? 修二君…?) さて、どうしよう? ①冬馬先輩に自分を大事にするよう約束してもらう ②意味深な修二君の発言が気になる ③とりあえず一郎君に剣が誰なのか尋ねる 682 ①冬馬先輩に自分を大事にするよう約束してもらう 「冬馬先輩、約束して? 自分を大切にするって」 「はい。あなたの命令ならば善処します」 (命令って……) 「どうしてわかってくれないの? 命令とかじゃなくて、ただ冬馬先輩が心配なんだよ。 冬馬先輩が傷つけば、私だって痛いんだよ。平気じゃないから、涙が出たんだよ!」 「痛い? なぜ……どこが痛むんですか?」 冬馬先輩は、心配そうな顔で私を覗き込む。 私は涙を拭って、自分の胸元をギッと押さえた。 「ここが痛くなるよ。すごく」 冬馬先輩の指先が導かれるように、私の胸に触れる。 一瞬、身体がビクッと強張ったけれど、私は自分の心臓にその手をおいた。 「なっ、アイツ……」 何か言いかけている修二君の前に、一郎君が割り込んでくる。 そして、修二君に向って黙ったまま首を振った。 「……兄貴、わかってるって」 修二君はそう言うと、諦めたような溜息を吐きながら長椅子に乱暴に座った。 「愛菜の鼓動が伝わってきます……」 冬馬先輩は確認するように、小さく呟く。 「冬馬先輩が自分自身を粗末にするたびに、私の心臓がズキッズキッて痛くなる。まるで自分が傷ついてしまったようにね」 「……今も痛みますか?」 「うん。先輩の額が痛むように、私のここもまだ痛いよ」 裂かれた額の皮膚から赤い血が滲み出ている。 痛々しくて思わず目を逸らしたくなるけれど、私はハンカチで溢れる血を拭っていく。 「大堂。その傷口に直接触れてみろ。今なら出来るだろう」 さっきまで黙ったままの一郎君が、突然話しかけてきた。 「自分自身を信じてみるんだ。君こそ、自分を粗末にするな」 どうしよう…… ①「一体、何が出来るの?」 ②触れてみる ③ためらう 683 ②触れてみる 私は言われるままに、そっと冬馬先輩の傷口に触れる。 (あ……、そうか) そして次に何をすればいいのか、悟った。 癒しの力を指先に集めて傷が治るようにと念じる。 すると触れた場所から、みるみるうちに薄皮が再生され傷口がふさがっていく。 同時に流れていた血も止まった。 「よかった……」 「ありがとうございます」 いいながら無表情のまま右手を私の頭の上に乗せると、不器用に撫でる。 「おい、なにやってるんだよ」 途端、修二くんが冬馬先輩につっかかる。 「修二……」 それをあきれたように一郎くんがたしなめている。 「どうして修二くんはそんなに冬馬先輩につっかかるの?」 たしかに修二くんは他人を見下すような所があるし、結構自分勝手に行動することも多い。 けれど、ここまであからさまな行動をするのは冬馬先輩にだけのような気がする。 「どうしてって……、うーん。なんか分からないけど無性にムカつくんだよね」 「理由が分からないの……?」 「そうそう、相性なんじゃない?」 「そういうもの……?それじゃあ一郎くんも?」 「いや、俺は……理由はわかっている」 「?」 「……大堂はすべてを思い出していないようだが、遠からずすべての記憶が戻るだろう。 今言っても大差は無い」 「う、うん?」 「その剣」 そういいながら、一郎くんは冬馬先輩を見た。 「先輩が剣……」 そういえば、部屋の前まで来ていると言っていた。 「剣は過去、大堂の……いや壱与の一族を滅ぼすために使われた」 「え?」 「神器である剣の力は強大だ。鬼の一族であろうと抵抗することは難しい。 鏡はすべてを見ていた。剣の力が振るわれるのも、それを悲しむ壱与のことも。 だから鏡である俺たちは、壱与を泣かせた剣を快くは思っていない」 「なるほどー、兄貴って何か隠してるとおもってたけど……前世の記憶が残ってるのか」 「……」 冬馬先輩は一郎くんの言葉に反論することもなく、立っている。 不意に訪れた沈黙に、耐え切れなくなる。 なにか話さないと…… ①「先輩は剣の記憶があるんですか?」 ②「でも、私は壱与じゃないですから……」 ③「えっと…、鏡と剣は揃ったけど、勾玉は?」 684 ①「先輩は剣の記憶があるんですか?」 冬馬先輩は頷くと、私を見る。 「はい。……はっきりと思い出せるものは少ないですが、他の転生の記憶もあります」 「てか、理由なんて今更どーでもいいよ。この人がムカつくのに変わりは無いしさ。 それよりも……兄貴が俺にまで隠し事をするから、話がややこしくなるんだよ」 一郎君を非難する姿を見て、私はふと疑問になった事を口に出してみた。 「修二君。前世のこと、全然記憶に無いの?」 「全然ないよ。組織の一部が俺たちを鏡、この人を剣だと呼んでるって話は知ってたけどね。 ヘンな通称つけられてんなぁって思ってたけどさ」 「あれっ…だけど、剣だと組織に教えたのは二人じゃないの?」 「よく知っているな、大堂。それは、俺が言った事だ。記憶を持たない修二には知らされていないし、憶えてもいないだろう」 間を置かず、一郎君が答える。 そして、修二君をジロッと睨みながら、言葉を続けた。 「文句を言っているようだが、修二。お前、俺が説明しようとしても逃げていたじゃないか」 「そうだっけ?」 「組織の事だって、俺だけが動いて、ほとんど何もしていなかっただろう」 「でもさぁ」 「だいたい、お前が大堂に力の事を勝手に話してしまったせいで……」 「あぁ。もう、わかったよ」 一郎君と修二君のやり取りがすべてを語っているような気がする。 「じゃあ、修二君は神器のことも知らないんだね」 「神器? そういえば、さっきも愛菜ちゃんが言ってたっけ」 「うん。壱与って私の過去世が奉ってたのが三種の神器、つまり剣と鏡と勾玉なんだ。 それで、壱与が鏡を壊しちゃったから、神器の力が開放されてしまったんだよ。 元を辿れば、この能力は神様の力なんだよね」 「そうだ。俺たちはその力を最も強く受け継いだ魂だということだ」 一郎君は補足するように、言葉を付け加えた。 (壱与がしたことだけど、私のせいみたいで罪悪感あるなぁ) ふと、冬馬先輩を見ると、黙って話しを聞いていた。 ①勾玉のことを一郎君に聞いてみる ②冬馬先輩に他の転生の事について尋ねる ③時計を見る 685 ①勾玉のことを一郎君に聞いてみる 「一郎くん、そういえば勾玉の力は見つかってるの?」 「いや……残念ながら勾玉には会っていない」 「そっか……」 「だが、剣のように力の制御を覚え隠していれば、近くにいたり会っていても気付かない可能性もある」 「あ、そうだよね……」 「勾玉が見つかれば……」 ふと、一郎くんが口を噤む。 「どうしたの?」 「……壱与は三種の神器と最後に契約を交わした者だ」 「そうだね」 鏡が割れその力が失われてしまったため、私の後の巫女は儀式を行っても抜け殻の神器を使った形式的なものだった。 つまり一郎くんが言うように、正式な儀式を行い神器の力を使うことを許されている巫女は壱与ということ。 「だから、壱与……いや大堂との契約は切れていない」 「え……?」 「だが神器の力は強大で、3つ揃わなければ過去の契約は履行されない」 「えっと……、つまり勾玉がみつかれば、私は3種の神器の力を使うことができるっていうこと、だよね?」 「あぁ、そうだ。まだその辺の記憶は戻っていないか?」 「う、うん……」 (あれ?でも……冬馬先輩とまた契約したんだよね……) 私が内心首を傾げると、修二くんが顔を顰めていった。 「てことはセンパイは抜け駆けして、過去の契約とは別に愛菜ちゃんと契約したってことだよね?」 「……」 修二くんの言葉に、冬馬先輩は無言のままだ。 「まただんまりか……」 修二くんは肩をすくめると、私に向き直った。 「じゃあさ、愛菜ちゃん。俺とも契約しない?」 「え!?」 「修二何を言っている」 「あ、兄貴にもしろっていってるわけじゃないよ。俺が個人的にしたいだけ。 まあ、そこの剣みたいに力を分け与えるっていう契約は出来ないけど……」 すっと手を取られ、距離が近くなる。 「愛菜ちゃんを守る契約だよ。一生ね」 にっこり笑ってさらりと言われたけれど、すごいことを聞いた気がする……。 ①「えっと、それって……」 ②「遠慮しとくよ」 ③「じゃ、お願いしようかな?」 686 ①「えっと、それって……」 「そ。愛菜ちゃんをお嫁さんにして、ずーっと守ってあげる」 腰に手がまわされ、更に修二君の顔が近づく。 身をよじってみても、逃げ出すことが出来なかった。 (じょ、冗談よね……) 「あ、あの……まだ早いよ。お互い高校生だし」 「別に早くてもいいじゃん。俺が一生守ってあげるって言ってるんだから」 「今はそういうの、考えられないっていうか…」 「じゃあ、今から考えてみて」 (困ったな。どうしよう……) 「修二。大堂が嫌がっているだろう」 半ば呆れたように、一郎君が呟く。 その言葉が耳に入らなかったのか、修二君の左腕に力がこもった。 「なんで逃げようとするのさ? 愛菜ちゃんは俺のこと、嫌い?」 「嫌いじゃないけど……」 「けど、何? 俺のことが嫌いなら、はっきり言ってよ。諦めるから」 「修二君のことは、本当に嫌いじゃないよ。でも、冗談もほどほどに……ね」 「俺はいつも本気なんだけどな。最初から付き合いたいって言ってたじゃん」 「そういうの、本当に困るっていうか……」 「困るってどういう事? この剣の方がいいの? それとも兄貴がいいの?」 「どっちがいいとかじゃなくてね」 「神器や過去じゃなく、俺は愛菜ちゃんがいいんだよ? どうしていつもはぐらかすのさ」 「……もう少し修二君も真面目に考えようよ」 「俺はいつでも真面目だよ」 困り果てて、私は修二君から視線を逸らす。 度を越した冗談に、笑えなくなってしまったからだ。 いつもの過剰なスキンシップにしては、強引すぎる。 一郎君もさすがにやり過ぎだろうと判断したのか、修二君の肩に手をかけた。 「おい、修二。いいかげんにしろ!」 「兄貴は黙っててくれよ。俺は今、愛菜ちゃんとしゃべってるんだから。 この前、俺の事を信じてるって言ってくれたよね。なら、逃げないで俺を見てよ」 強引に顎を鷲掴みにされる。 向き合った修二君の眼差しに、思わず息を飲んだ。 「し、修二君っ離して……!」 怖い、と私が感じた瞬間、身体にまわされていた手がパッと離れた。 「ごめん、愛菜ちゃん。どうかしてた、俺……」 修二君は素直に謝ると、ドアまで歩いていった。 「センパイ、そんな怖い顔しないでさ。俺たち仲間らしいし、許してよ。あと兄貴、部室のカギ返しておいて」 一方的に言うと、修二君は部室を出て行ってしまった。 (修二君の目……氷みたいに冷たかった) 力尽きるように、私は長椅子に座った。 ①考える ②一郎君を見る ③冬馬先輩を見る 687 ①考える (修二くん、ほんとうにどうしちゃったんだろう……) 修二くんは冬馬先輩のこととなると、普段の飄々としたところがなくなって不可解なくらいに敵意を剥き出しにしているような気がする。 冬馬先輩に向けられる悪意の塊みたいな言葉の数々は、横で聞いている私も胸が痛くなるほどだ。 ふとあることを思いついて、修二くんが去っていったドアに目をやったままの一郎くんに呼び掛けた。 「…ねえ、一郎くん」 声をかけられた一郎くんもまた何か考え事をしていたのか、弾かれたように私を見た。 「! ああ、大堂。…すまない。修二のやつがまた、君に迷惑をかけた」 「ううん、大丈夫だよ。それに、一郎くんのせいじゃないんだから」 「だが…」 なおも言い募る一郎くんに、なんとか笑顔をむける。もしかしたら、うまく笑えていないかもしれないけれど、少しでも一郎くんの気が楽になればと、そう思った。 「本当に気にしないで、ね? それより一郎くんにちょっと確認したいことがあるんだ。一郎くんと修二くんはもともとは、その、ひとつの鏡……だったんだよね?」 「ああ。それが、どうかしたのか?」 次の言葉を続けようとして、無意識のうちに冬馬先輩に目を向けていた。本人を目の前にして口にするのは少しためらわれる内容だったものの、聞かなければいけないような気がして、思い切って続ける。 「一郎くんは冬馬先輩のこと、快く思ってないって言ってたけど、理由もちゃんと説明してくれたしそれはそういうものなのかなってなんとなくはわかったよ」 「それなら、良かった」 「ただね、修二くんは前世の記憶がないって言ってたでしょう? それなのに冬馬先輩に対するあの対応ってちょっと不自然だと思うんだ。さすがに相性ってこともないだろうし……」 「……それは…」 珍しく言いよどむ一郎くんが何かを言おうとしたその時、冬馬先輩が静かに言った。 「彼の無意識が、そうさせるのでしょう。彼と僕は非常に近い存在ですから」 「修二くんと、冬馬先輩が…近い?」 冬馬先輩の言葉の意味が分からずに反復する私に、先輩は小さく頷いた。 「そうです。彼はよく僕のことをこう呼んでいます、『お人形』と。すなわち、それはそのまま」 「待て」 一郎くんの鋭い声が言いかけた冬馬先輩の声を遮った。 「剣よ、大堂に何を言う気だ。憶測でものをいうのはやめてもらおうか」 「…憶測ではないのは君が一番よく知っているはずだろう、コードno.702。僕の話がただの憶測にすぎないのなら双子のはずの君たちはなぜコード番号が続きの数ではないのか、なぜ片方だけ転生の記憶が一切抜け落ちているのか」 淡々とそう話す冬馬先輩を正面から見据える一郎くんは、何故か顔面が蒼白だ。 どうしよう? ①冬馬先輩にそのまま続きを話してもらう ②一郎くんの様子が心配、話は中断して声をかける ③直接修二くんに聞いてみたい 688 ②一郎くんの様子が心配、話は中断して声をかける 「顔が真っ青だよ。大丈夫?」 私は一郎くんに駆け寄り、声をかけた。 「ああ、心配ない」と私に一言呟き、また冬馬先輩に向き直った。 「剣……いや、冬馬先輩。このことは二度と言わないで欲しい。 もし万一、修二の前で言ったのなら、俺は全力であなたを倒すつもりだ」 「…………わかった」 (何、なんなの……) 「一郎くん、何がどうなって……」 「大堂。言葉にした瞬間、すべてが壊れてしまう事もある。 修二に残酷な真実を背負わせ、苦しめる必要は無い。たとえ、薄々気づいていたとしてもだ。 君にしても、力や組織の事を知ってしまったから、こんなにも辛い思いをしているのだろう。 俺のやり方が逃げだと思うのなら、それでも構わない。 だが頼む……これ以上、何も聞かないでくれ」 (一郎くん……) 一郎君の言いたいことは、正直わからない。 だけど、真剣に、誠実に言っていることだけは伝わる。 「うん。よく分からないけど、この話はおしまいにしよう。冬馬先輩もいいよね」 冬馬先輩は黙って頷く。 一郎くんは私たちの様子を見て、安心したように大きく息を吐いた。 「勝手を言って、すまない」 その時、長椅子に置いてあった私の鞄がモゾモゾと動いて地面に落ちた。 冬馬先輩は無表情のまま鞄を拾い上げ、私に手渡してくれる。 「愛菜の覚醒で、精霊が目覚めたようです」 「精霊って……チハル!」 私は鞄を受け取り、急いで開けた。 すると、ぬいぐるみのチハルがピョンと飛び出してきた。 私は…… ①チハルを抱きしめる ②チハルを撫でる ③チハルに話しかける 689 ①チハルを抱きしめる 「よかった、チハル。もう動かなくなるかと思ったよ……」 ポンッと音がしたので慌てて手を離すと、大きな姿のチハルが目の間にいた。 「愛菜ちゃん、ごめんなさい」 悲しそうな顔でチハルがぎゅっと私を抱きしめる。 「どうしてチハルが謝るの?」 「ボク愛菜ちゃんをまもれなかった……。 力がなくて、ずっとうごけなかったけど知ってるよ、愛菜ちゃんの声が出なくなったこと」 「謝るのは私のほうだよ。チハルに無理させちゃったもの、ごめんね」 「愛菜ちゃんはわるくないよ! ボクのちからがたりなかったから……。 でも、ボクもっと強くなったよ。今度はぜったいにまもってあげる」 「ありがとうチハル。でも無理はしないで。 私も力を使えるようになったし、チハルがまた動かなくなったら嫌だよ」 首を捻ってチハルを見上げると、黒目がちな瞳がくるりと動いた。 「でも愛菜ちゃんのお願いはなんでもきいてあげたいよ?」 「ありがとう、でも、無理だと思ったらそう言ってね? もし無理なら、別の方法を考えよう?」 「そのほうがいいの?」 「うん、チハルが動かなくなると寂しいよ」 「わかった!」 ぎゅーっと抱きつかれる。 「チ、チハル苦し……」 あまり力の加減がうまく出来ていないチハルの腕を慌てて軽く叩いて、離すように促す。 「あ、ごめんなさい……」 とたん、しゅんとうなだれるチハルの頭を撫でてあげる。 「大堂」 ひと段落着いたところで一郎くんが声をかけてきた。 「今日はもう帰ったほうが良い」 「え? どうして?」 「おそらく徐々に過去世の記憶が戻ってくると思うが、場合によっては放心状態に陥ることがある。 そんな状態で授業を受けても、まわりが心配するだけだろう」 確かに急にぼーっとしてたら皆心配するかもしれない…… ①でも、授業に出る ②家に帰る ③しばらくここにいる 690 ①でも、授業に出る 「やっぱり授業に出るよ。せっかく学校まで来たしね」 私は鞄を閉めて、一郎君を見た。 みんなに心配されるかもしれないけど、授業についていけなくなるのはもっと困る。 ただ、今は文化祭の準備期間で宿題がないのだけマシなのだけど。 「駄目だ。前世後退でやはり無理をさせすぎたようだな」 「でも……」 「君だけではない。その周りの学友にも迷惑がかかると言っているんだ」 「うーん。それも、わかるんだけど」 「ボクも今日は帰ったほうがいいと思うよ。急に大きくなったもやもやがグニャってなってるもん。 それのせいで胸のところがフラフラだし」 その言葉に、一郎君はチハルをジッと見つめた。 チハルは目をパチパチさせて、首をかしげている。 「君は……大堂の魂が不安定な事まで見えるのか」 「少し見えるし、触ってもわかるよ。けどね、ボクはキミじゃないよ。チハルって名前だもん。愛菜ちゃんにつけてもらったんだ」 「そうか。では精霊よ、頼みがある。大堂を家まで連れてってくれないか。俺は委員会の雑務が残っていて、どうしても抜けることが出来ないんだ」 「いいよ。でもね、ボクは精霊よりも、チハルって名前で呼ばれたいな」 「助かる。頼んだぞ」 「たのんだぞじゃないよー。チハルだよ」 チハルは頬を膨らませながら訴えている。 けれど一郎君は何も言わず、うろたえながら咳払いをしていた。 (結局、強制なのね。それにしても……) 私が考えている間にも、チハルはめげることなく、今度は冬馬先輩の制服を掴んで「ねぇねぇ」と話しかけている。 「ボクはチハルだよ。ボクのことチハルって呼んでみて」 「……チハル」 冬馬先輩はボソッと頼まれるままに呟いた。 「うん。ありがとう」 チハルはお礼を言って、また私のところまで戻ってきた。 「あのね、愛菜ちゃん。なんであの人だけボクの名前を呼んでくれないの?」 なんて答えよう ①「照れてるんじゃないかな」 ②「チハルが大人の姿だと、気安く名前が言えないのかも」 ③「一郎君に聞いてみたら?」
https://w.atwiki.jp/minsyuto/pages/26.html
財源のあてにする「埋蔵金」の多くは「外貨準備」 民主党議員が財務省で埋蔵金探し 「かなりある」 2008.10.2 20 45 産経 ↓クリックで表示 +... 菅直人代表代行ら民主党議員は2日、財務省で政策財源として活用を主張する特別会計の積立金など“埋蔵金”の実態調査を行った。 菅代表代行らは埋蔵金の一つとされる外国為替資金特別会計の実態を把握するため、同会計の資産を運用する財務省の資金管理室に実際に入って調査し、同省幹部とも外為特会について意見交換した。 菅代表代行は視察終了後、記者団に対し「(埋蔵金は)かなりあります」と述べ、財源として活用できるとの認識を改めて示した。 また同日記者会見した大塚議員は、外為特会が抱える100兆円規模の外貨準備の国内総生産(GDP)比を現在の約20%から「少なくとも半減ぐらいを目指すべき」と主張した。同GDP比を10年間で10%に低下させることは可能とし、財源に活用できるとの考えを示した。 “埋蔵金”は与野党が活用を主張しているが、財務省幹部は「すべての特会に使用目的がある」としており、どこまで財源として活用できるかは不透明だ。 http //sankei.jp.msn.com/economy/finance/081002/fnc0810022047015-n1.htm 外貨準備とは? ・日本企業が海外で儲けたお金を日本に還流する際、円が買われ基軸通貨のドルが売られるが、そのまま放置すると円高が進行してしまう ・それを防ぐため、通貨当局が米国債などの外貨建て資産を購入し、バランスを調整する ・結果として外貨建て資産が増え、外貨準備高が大きくなる (為替を安定させるためには必要不可欠な資産ということになる) ・財務省のデータによれば、日本の外貨準備高は9762億5000万ドル(08年8月) ・あまり多すぎるのも考え物だが、下記のように安易な運用は難しい 外貨準備を財源として大量に使用すると? ・もちろんドル建ての資産のため、そのままでは日本国内では使えない ・民主案で大量の米国債を売りドルを手に入れ、ドルを売り円を買えば、猛烈な円高ドル安に。 ・円高で大手企業の多くは破たんの危機、 ・日米間だけでなく世界的な為替の混乱、世界恐慌加速 ・しかも外貨準備売りを先に宣言するだけで、投資家が先回りし相場が乱れる (既に相場に影響) ちなみに今や中国が世界一の米国債を保有しており、これがアメリカへのプレッシャーになり、米中接近の背景の一つになっています そもそも仮に埋蔵金が円だったとしても、財源としては一過性で経年運用は不可能 以上が民主党はマクロ経済が理解できないと批判される由縁です。 外準規模は大きすぎ、GDP比10%まで削減を=大塚・民主金融チーム座長 2008年 10月 2日 ロイター http //s04.megalodon.jp/2008-1003-1313-36/jp.reuters.com/article/forexNews/idJPnTK019426420081002 しかし日本円と人民元が連携した新しい通貨機軸(アジア圏共通貨幣)を提唱した民主金融チーム座長中川正春議員はWikipediaで活動その他をみると確信犯でこうした財源を提言している節もあります。 では現政権はどう運用したの? 世界不況対策にIMFに1,000億米ドル(約10兆円相当)融資 「加盟国による資金提供としては過去最大で、ストロスカーン専務理事は「人類の歴史上、最大の貢献だ」と謝意を表明。財務相は「有効活用を期待したい」と述べた。」 http //s04.megalodon.jp/2009-0224-0913-16/www.imf.org/external/japanese/index.htm IMF・国際通貨基金とは IMFは世界最強の「世界規模の金貸し」 国を相手に金融業を行うだけに貸付、取り立ては非常にシビア IMFへの拠出のメリット ・手持ち無沙汰な米ドル資産の有効活用 ドルで融資なので円相場を乱さない ・「世界最強の金貸しIMF」への拠出で 1.貸し倒れリスク低下 2.特定国への貸し出しによる「不公平感」の是正 3.効果的な国際貢献 4.世界経済を助け、結果的に国内景気にも良い影響 しかし報道はこれを繰り返し「10兆円」の「バラマキ」と報道 TVではほとんどこの融資の意味にはふれずに朦朧会見だけを取り上げ、これを実行した中川昭一財務大臣は辞任に追い込まれました。 10兆円と米国債からの1,000億米ドルでは全く意味が異なるのは上記の通りです。 民主党はIMFを通さず「特定国」を直接支援せよと政府に反発 民主党のいう「特定国」がどこかは、目次「どこの国の為の政策か」以下を参考にすれば見当がつきますが、 10年前のアジア通貨危機の際、外貨準備金が不足したため経済危機に陥った韓国へ支援した資金は回収できていません。 今回の世界不況のリーマンショックの引き金を引いた韓国は、10年前の教訓を生か さず、再び経済危機に陥り日本に支援を求めています。 民主党金融チームが金融危機対応の追加策、日銀による地銀出資など盛り込む 2008年 11月 25日 ロイター IMF(国際通貨基金)への資金支援だけでなく、特定国への個別支援 http //jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK019753520081125 報道 政権交代「円高に働く」 民主党の脱・ドル偏重発言を受け 2009.8.7 産経 http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090807-00000532-san-bus_all 米国債中心の外貨準備、政権奪取後慎重に判断すること=民主党代表 8月4日 ロイター 民主党の鳩山由紀夫代表は4日午後の会見で、米国債中心の外貨準備政策の見直しを求める声が同党内にあることに関し「米国債に関しては発言を慎重にしなくてはならない影響力のある話。当然のことながら政権を取った後、慎重に判断すべきことで、今ここで見直すべきとか発言すべきではない」と語り、具体的な言及を控える姿勢を示した。 http //s03.megalodon.jp/2009-0804-2149-40/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090804-00000834-reu-bus_all 関連サイト 三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」第十一回 国債とは結局何なのか http //www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2009/08/04/006332.php 報道監視まとめWIKI 中川大臣とIMF「人類最大の功績」の国内報道 http //www15.atwiki.jp/houdou/pages/72.html ↓自動検索による外部リンクリストです。参考にしてください。 #bf #bf #bf ※以下広告
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/96.html
751~760 761 ①さらに続きを見る 「私は……あなたは……」 壱与は混乱している。 なぜ帝がこんなことを言っているのか分かっていない。 (壱与……帝はあなたを畏れていないのよ。ただあなたを求めてるだけなの) 「私は、あなたに……あの姿を知られたくなかった……知ったらすべてが壊れてしまう」 「なぜ?」 「私は鬼だから……人ではないから……」 「鬼でも人でも魔でも壱与は壱与だ、関係ない。いったい何が壊れるというんだ」 「……私が、怖くないの?」 「壱与が? なぜ僕が壱与を怖がるんだ?」 帝は心底分からないというように、首をかしげ壱与を覗き込む。 「僕が壱与を怖がることはない。こんなに愛しいのに」 そういって帝はさらに強く壱与を抱きしめる。 それを聞いた壱与の頬を新たな涙が伝う。 「本当に?」 「今まで君にはたくさんの嘘をついたけれど、これだけは本当だ。壱与、君が好きだよ」 「…………」 「だから、この国が平和になったら、君にこの命をあげるよ」 「いらない」 「壱与……そこまで僕は嫌われてしまったのか……」 「命はいらない……おねがいずっとそばに居て。もう一人にしないで……」 「壱与……本当に? 僕の都合のいいように解釈してしまうよ?」 (……もうこの二人は大丈夫ね) 私は壱与の体から抜け出す。 最後にふれた壱与の想いは、帝と同じもののはずだ。 さて…… ①そろそろ夢から覚める ②別の夢へ行く ③考える 762 ③考える 帝も私の時代で生まれ変わっているのだろうか……。 壱与と帝を目の前にして私はふと思った。 神宝や神器が私のすぐ近くで蘇っている。 だとしたら帝ももしかしたらいるのかもしれない。 そう思うと私はなぜか春樹と秋人さんの顔が脳裏を横切った。 帝の目的の為なら非情になれる所は秋人さんに 帝の壱与の為に献身的に尽くす所は春樹に 一郎君や修二君じゃあるまいし一つのものがそう簡単に二つに分かれるなんてそうそうあるものじゃない。 それに彼らは神宝なのだから帝のはずがない……。 秋人が帝だったら鬼の国を再建なんて考えるはずがないだろうし、 春樹だって帝の壱与に対する恋愛感情と違って私に対するのは家族愛。 頭ではわかってるのに私は帝の中に2人を重ねてみていた。 なんだか2人のこと考えてると彼らのことが気になってきた。 ①秋人のことを考える ②春樹のことを考える ③他に候補者を考えてみる ④考えても仕方ないので夢から覚める 763 ①秋人のことを考える (そういえば、秋人さんあの後どうしたんだろう……) 最後に私を抱きとめてくれた秋人さん。 きっと神宝の力で、心がゆがめられてしまっていたのだ。 (本当はもっと優しい人だったんじゃないかな……?) 最後に見た秋人さんの目は、とても澄んでいて穏やかだった。 そう思ったとき、視界が急激に変わった。 (ここは……) どうやらどこか部屋の中らしい。 部屋の中は薄暗く、片隅に置かれた電気スタンドがその辺りだけ淡く照らしている。 ふと、人の気配を感じて私は振り返った。 「なぜここへ来た?」 (え?) 私は驚いて、声の主を見る。部屋の隅に置かれたソファに秋人さんが座っている。 「アンタの内から力が消えているのを確認しにね」 私が何か答える前に、部屋の入り口から人影が現れる。 (周防さん……?) 「ふん、悪趣味だな」 「何とでも言えばいいさ。で、気分は?」 「悪くはない」 「自分の内から力がなくなるって言うのはどういう気分なんだろうね?」 「さあ? お前もあの鬼の姫に頼んだらどうだ?」 「それはおいおい頼むとして、今はそれどころじゃないからね」 「まあ、そうだろうな」 秋人さんは意味ありげに笑う。 「お前も気をつけることだ。闇は俺の中から消えた。だが、鬼の姫の内へ移ったわけでもないらしい」 「へぇ?アンタが俺に忠告とはね。明日は雪かな」 「ふん……、まあせいぜい気をつけることだな、従兄殿」 「はいはい、忠告ありがとさん」 周防さんはいつもの調子でヒラヒラとてをふると、部屋を出て行った。 (闇? 闇ってなに……?) その闇というのが、鬼の国を再建させようとしていたのだろうか。 高村も鬼の一族だったと言っていた。けれど、本来の鬼の力は失って久しい。 (あ……) 考え込んでいると、ふと体が引っ張られるような感じがした。 目が覚める前兆。誰かが呼んでいるようだ。 その声は…… ①春樹 ②隆 ③チハル ④お義母さん 764 ②隆 「おい! 愛菜起きろ!! ホントだなビクともしない」 「じゃあ、チハルはどうですか」 「うーん。こりゃ、チハルが復活するのに、二、三日かかりそうだぞ」 「そうですか。困ったな」 (隆と……もう一人は春樹の声だ) 覚醒したはずなのに、相変わらず目も開かないし体も動かなかった。 (はぁ……まだ駄目なんだ) がっかりしていると、また隆の声が聞こえる。 「しかしなぁ、俺が授業を受けてる間に、そんな事があったなんて驚いたぜ」 「無事に帰ってこれて、本当によかったですよ……」 「俺が加勢してたら、もっと楽だったのかもな。呼んでくれりゃよかったのに」 「呼ぶ暇なんてありませんよ。突然、力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入って。 すごく嫌な予感がしたんで、兄さんを追ったら……冬馬先輩が倒されてたんです」 「で、秋人って奴との兄弟喧嘩が始まったわけだな」 「まぁ、そうですね。後はさっき言った通りですよ」 隆が「うーん」と唸っている。 まるで、納得できないという感じだ。 「ていうかお前……ホントに力使えるのか? 何も感じないんだけどな」 (使えてたよ。すごかったんだから) そんな私の声も届かず、話は進んでいく。 「一応は……。高村家の血筋の者だけが使える、十種の神宝って力なんですけど……」 「で、具体的にどんな力なんだ?」 「八握剣って赤い剣が出るんです」 「そんだけか? あんまり使えない力だな」 「そうですね。でも、能力者は訓練しだいで別の力も使えるようになるみたいですよ」 「訓練って面倒そうだよな。ていうかさ、ここでその剣を出してみてくれないか」 「嫌ですよ。物騒じゃないですか……」 「もったいぶらずに、いいだろ?」 私は…… ①(疑われてるなら、剣を出してみたらいいのに) ②(春樹の言うとおり、物騒だよ) ③(隆って、好奇心旺盛よね) 765 ③(隆って、好奇心旺盛よね) 結構何にでも興味を示して追求するのは子供の頃から変わらない。 (でも、飽きやいんだよね……) よっぽど気に入ったことでもなければ、隆が飽きるのはやい。 逆に気に入ったことならとことんのめりこむのだ。 「にしても、このままじゃヤバイだろ? おばさんだって心配するし」 「そうなんですよね……でもどうしたらいいのか……」 (そうよね……お義母さんだって心配するよ。もし入院とかさせられたら困るし……) 隆や春樹の様子からして、夕食が終わった後らしい。 「うーん、美波さんに連絡が取れれば……」 「美波さん?」 「あー、お前が出て言った後にいろいろ世話になった人だよ。組織の反主流派で、医者でもある能力者だ」 「組織の……?」 「ああ、でも信用できる人だと思うぜ。 治癒能力が高くて、もしかしたら愛菜を元に戻してくれるかもしれない」 「そうなんですか……?」 「ああ、以前愛菜が電話してたな……リダイヤルで繋がるんじゃないか? あ、いや……最初にかけてたのは別の奴にだったかな……たしか、春樹の従兄ってやつだ。 でも、ま、そいつにかければ美波って奴にも連絡取れるだろ」 (ああ、待ってどこかに不調があるわけじゃないのよ!) 美波さんが来ても何も解決しないだろう。 おそらくこれは神宝を内に宿しているために起こったことだ。 (隆や春樹ともはなせればいいのに……) 周防さんや冬馬先輩、それに秋人さんは、きっと力の使い方を訓練したからお互い念じれば話せるのだろう。 力の使い方の応用もできる一郎くんと修二くんともきっと話せる。。 過去の記憶がある香織ちゃんももしかしたら声が届くかもしれない。 一番いいのはここにいる二人に声が届くことだけれど…… (でも、冬馬先輩と香織ちゃんはケガしたりしてたし、無理させちゃだめだよね) 誰に話しかけよう ①隆か春樹 ②一郎か修二 ③周防さんか秋人さん 766 ②一郎か修二 (一郎くんとは契約しているし、繋がるかも) 私は一郎くんに念じてみる。 何度も名前を呼んだり、その姿を思い浮かべてみたり、色々試してみた。 けれど、何も返ってこない。 (一郎くんじゃ駄目なのかな。よし、次は修二くん) 修二くんにも繋がらない。今度は周防さんを試してみる。 私が念じている間に、隆と春樹の会話は続いていく。 「愛菜の携帯か。制服の中かな……」 ゴソゴソと物色する音がして、「あった」と声がした。 「あったぞ。さてと……」 「でも、いいんですか? 姉さんの携帯を勝手に触ってしまって」 「緊急事態だよ。うわ、俺の知らない男の名前を発見……。おい、春樹。この名前知ってるか?」 「……知りませんよ」 「お前、保護者だろ。ちゃんと知っとけよ」 「保護者じゃなくて、弟です。ていうか……、なんでアドレス見てるんですか」 「ちょっと気になるじゃないか」 「後から姉さんに怒られても知りませんよ」 「寝てるんだし、平気だって」 「起きてるかもしれないのに……」 (起きてるし! 全部聞こえてるし!) 隆と春樹に叫んでみても、やっぱり声は届かなかった。 結局、一郎くんも修二くんも隆も春樹も周防さんも香織ちゃんや冬馬先輩まで、 知っている能力者に全員に試してみたけど駄目だった。 (困ったな。神宝に問題があるのかな……) そうしている間に、隆は周防さんを見つけ出して電話を掛けていた。 電話が終わり、春樹が隆に声を掛けている。 「どうでした?」 「ああ。今日は無理だけど、明日の午前中に来てくれるってさ」 「明日……。そうですか」 「まぁ、疲れてるだけかもしれないしさ。今夜は様子をみようぜ」 私は…… ①(なぜ誰とも繋がらないのだろう) ②(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから) ③(そういえば、春樹は隆に殴られたのかな) ④諦めてまた夢に入る 767 ②(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから) いくら緊急事態だと言っても、勝手にアドレスを見るなんて許せない。 周防さんに連絡してくれたのはいいけれど、だからと言って他の人のアドレスまで見る必要なないはずだ。 「にしても、俺も春樹も知らない奴の登録があるなんて思わなかったな」 「……姉さんにだって付き合いくらいあるでしょう」 「そうだけどさ、俺とは同じクラスだし、春樹は家で毎日一緒だろ? それらしい男の影なんてなかったじゃないか」 (ちょっと、いいたい放題言ってくれるじゃないの!) それらしい男の影というなら、そりゃ無かったかもしれないけど……。 きっと隆も春樹も知らない名前と言うのなら、委員会関係の人か香織ちゃんつながりの人だろう。 「もうちょっと見てみようぜ」 (ちょっと! 隆、いい加減にしなさいっ!!!!) 心の中で、絶叫した時。 パァンと空気のはじける音がした。 「うあっ!?」 「っ!?」 (!?) 突然の音に、一瞬の静寂。 「……な、なんだ?」 「……もしかして姉さんじゃないですか? 勝手に見たから怒ってるんですよ」 「てことは、起きてるのか?」 (起きてるわよっ) 自分がやった自覚は無いけれど、とりあえずこれ以上携帯を見られることはなくなったらしい。 「なんだ、起きてるなら起きてるって言えよな」 「そんな無茶なこと言わないでください。話せたらとっく話してますよ」 ため息をつきながら春樹が近づいてくる気配がする。 「姉さん、とりあえず母さんにはうまくごまかしておきました。明日から土曜日までは仕事で夜も遅くなるそうですから、その点は心配しなくても大丈夫です。明日もこのままなら土曜日までに何とか解決策を見つけます」 (そっか、お義母さん仕事忙しいんだ。 まぁそのおかげで、こうして寝てても余計な心配させなくてすむんだけど) とりあえず、ホッとしていると隆が話しかけてきた。 「ところで愛菜、おまえチハルと話せるってことは、精霊となら意思疎通が出来るってことか?」 (?) 隆の言葉に首を傾げていると、隆が言葉を続けた。 「ったく、反応が無いってやりにくいな……精霊と話せるなら、お前に好意を持ってそうな道具にお願いして、そいつを通じて会話が出来ないかと思ってな」 「なるほど……でも、チハルと同じ位姉さんと一緒にいて、姉さんに大事にされてるものなんて、あるかな……それにチハルだってすぐに人の姿になれなかったんだ、その精霊が人の姿になれるかなんて分からないよ」 「確かにそうだけどさ、やらないよりはマシだろ?」 「それはそうかもしれませんが……」 私が返事を出来ないために、二人は勝手に話を進めていく。 今の話し私は…… ①やってみる価値はある ②気が進まない ③考える 768 ③考える (何か引っかかる……) 私は何かを忘れているような気がする。 チハルと同じ位ものを探すより、もっと手っ取り早い……何か。 『愛菜ちゃんに新しいリボンもらったから、こっちのリボンをあげる』 『ボクがずっと身につけてたから、御守!』 『愛菜ちゃんがいままでだいじにしてくれたぶんもおかえしするよ』 『とりかえっこだね』 そして、夢の中でチハルと指きりした。 (そうだ。チハルの古いリボン……もしかしたら……) けど、どこに置いたか思い出せない。 チハルに新しいリボンを結んであげた。 そして昔の水色のリボンを……。 (あっ!……思い出した。でも、二人にどうやって……。よし、決めた!) さっきの要領で怒れば、同じことが起きるはず。 (隆のバカ!乙女のメアドを勝手にみるなんて、絶対に許せない!!!!) (春樹のアホ!少しは私のこと頼りにしろ!!!!) (普通の生活を送らせろ!ボケェ!!!) (冷蔵庫に残しておいた私のプリン食べたの誰よ!!!!) 思いつく限りの腹を立てた出来事を心の中で叫びまくる。 パァンと空気のはじける音がした。 「うあっ!? またかよ!!」 「っ!? 白い羽毛が……たくさん……」 (イタタッ! でも、成功!!) 私の枕が弾け、部屋中に真っ白の羽毛が舞っている……はず。 あとは、古いリボンを見つけてくれれば。 「これ……この水色のリボン」 「ん? なんだ?」 「チハルのリボンですよ。このリボンをまたチハルにつけてみれば……」 「そっか……ナイスだ春樹! チハルが目を覚ますかもしれないぞ」 隆の力の波動が伝わってくる。 明るい隆らしい感じだ。 ①隆の願いも聞こえてきた ②様子を見守る ③チハルに話しかける 769 ③チハルに話しかける (チハル、チハル? ねえ聞こえる?) 何度か呼びかけると、眠そうなチハルの声が響いた。 (愛菜、ちゃん? どーしたの?) (疲れてるところごめんね、私の声がチハルにしか聞こえないみたいだから) (うん、ボクは愛菜ちゃんとずーっと一緒に居たから、愛菜ちゃんの思ってることが分かるんだ。 愛菜ちゃん、ボクには色々な気持ちを話してくれたし) (そうなんだ?) 確かに子供のころからチハルには楽しかったことや、悲しかったこと、怖かったことなど色々話していた。 それが、今とても助かることになるとは思いもしなかったけれど。 (それで、何を伝えればいいの?) (あ、あのね、春樹に伝えて、前にも言ったけど私は体調が悪いわけじゃないって。 力の乱れから動けなくなったわけじゃないから、美波さんじゃ治せないとおもうって) (うん、わかったよ) チハルが頷くのと同時に、耳元でポンという音が聞こえた。 どうやら人の姿になったらしい。 「お、チハル起きたか」 「うん、愛菜ちゃんがね、体調が悪いわけじゃないって、チカラの乱れから動けなくなったわけじゃないから、みなみさんじゃなおせないとおもうって言ってるよ」 「姉さんがそう言ってるの?」 「うん」 (神宝が原因だと思う) 「シンポウが原因だとおもうって」 「神宝って……結局、姉さんがこうなったのは高村の俺達のせいなのか……」 苦しそうな春樹の声が聞こえた。 私は慌てる。 (は、春樹のせいじゃないよ……!) 「ばかだなあ、春樹のせいじゃないだろ? それにお前はもう高村じゃない、大堂春樹だって自分でも言ってたじゃないか」 私が否定するのと同時に、隆が否定する。 「愛菜ちゃんも春樹のせいじゃないって言ってるよ」 「……でも」 「いいからお前、それ以上なにも言うな。 で、愛菜原因は神宝って分かってるんだろ?解決方法に心当たりは無いのか?」 隆は強引に春樹を黙らせると私に話しかけてくる。 (心当たり……) いわれて考える。 解決方法…… ①神器との契約を完成させる ②残りの二つの神宝を取り込む ③内にある力を別のものに移す ④やっぱりわからない 770 ①神器との契約を完成させる (神器と契約すれば、この体の不調も収まるはず) まったく体が動かない理由は、まだ神宝と神器が馴染んでいないからだと思う。 神宝と神器が馴染んで体が動くようになったとしても、神器と契約しないことには不調は続くだろう。 私がもっと鬼に近づかないことには、神宝の力を体に留めておくことは難しい。 儀式ではなく、契約をしなければ鬼には近づけない。 だから、最後の神器と契約する以外に解決方法はないのだ。 私はチハルに頼んで、そのことを二人に伝えた。 「最後の神器が宗像弟かよ。やっかいだな」 「修二先輩は姉さんに対して協力的だったし、大丈夫じゃないですか?」 (でも、修二くんに嫌われちゃったんだよね……) 「あのね。『道具として扱われるのが嫌だ』ってシュウジが言ったんだって。 それでね、『協力しない』って断られたんだって」 「契約は神器と巫女の合意で初めて成立する……そうだったよね、姉さん……」 (うん) 「なんだそりゃ!? 宗像弟以外、愛菜を治せないってことか」 「そうですね」 「それじゃあ、愛菜はずっとこのままだっていうのかよ……」 「そんなこと絶対にさせません」 「春樹。なにか良い手があるのか?」 春樹の気配が黒く変わっていく。 「最後まで協力しないと言い張るのなら……修二先輩の心を壊してでも……」 (駄目ぇ!! 春樹戻ってきて!!) 私はチハルを介して、黒くなりかけていた春樹を急いで止める。 「冗談だって。なに真に受けてんのさ」 (びっくりさせないでよ。もう!) 「けど……修二先輩が協力しないのは本当に困りましたね」 「だな。宗像兄と仲が良いって訳でもなさそうだし、他の誰かの説得も……聞くはず無いよな」 私は…… ①私からもう一度頼んでみる ②二人に頼む ③考える
https://w.atwiki.jp/kodomoteate/pages/1458.html
控除廃止で義務教育の子持ちの人以外は全て大増税。しかも日本に来たこともない外国人のために。どう考えても世紀の愚法! -- (名無しさん) 2010-04-28 23 52 43
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/147.html
冬馬611~620 621 ①二人を止める 「止めてよ二人共! どうして?」 二人の間に入り、首を大きく左右に振る。 「冬馬先輩も一郎くんも、研究所に居る主流派の人たちが悪いと思っているんだよね? だったら、なぜ協力しないの? ここで仲違いしている意味なんて無いよ」 目的が同じなら、手を取り合うべきなのに。 それなのに、一郎くんと修二くんは冬馬先輩に対して異常なまでに厳しい。 冬馬先輩もそんな二人に対して、歩み寄ろうとはしない。 すごく悲しくなるし、もどかしく感じてしまう。 「狙われて怖がる私を、二人とも心配してくれていたのは知ってたよ? こんな何も出来ない中途半端な私にも優しく接してくれる二人なのに、どうして? どうして協力できないの?」 冬馬先輩は何も言わず、黙って私を見ている。 一郎くんは少しだけ俯き、ため息を吐いた。 「君は№673の正体を見ていない。だからそんな甘い事が言えるんだ」 「№673って冬馬先輩の事……だよね」 「ああ、そうだ。この男は過去に――いや、よそう」 「一郎くん?」 「知らなければ知らない方が良い。ただ№673は信用に足る人物ではない、とだけは言っておく」 小さな頃に出会っている、そんな話を以前一郎くんから聞いていたのを思い出す。 もしかしたらその時に何かあったのかもしれない。 何かあったとしても、昔のことを引きずっているより今を変えていくほうがずっと良い。 「一郎くんは知らないだけで、冬馬先輩は信用できるよ」 「君がそう思うのは勝手だ。だが、同調はしかねる」 「過去は知らないけど、今の冬馬先輩は悪い人じゃないと思う」 「あの頃から見れば変わったのかもしれない。しかし、本質はたやすく変えられるものではないんだ」 「どういう事?」 「どれだけ時代が移り変わっても、剣の本分は破壊しかない」 「破壊……」 「そうだ。だから俺も修二も№673とは協力出来ない」 (どうして……) 私は黙ったままの冬馬先輩に視線を向ける。 冬馬先輩も一郎くんの話を聞いていたはずだ。 なのに無表情のままで、言い返すわけでもなく否定もしない。 ただ私と視線が合うと無言できびすを返し、一歩、二歩と私たちから静かに遠ざかってしまった。 私は…… ①一郎くんに話しかける ②冬馬先輩を追いかける ③考える 622 ②冬馬先輩を追いかける 「冬馬先輩、待って!」 「行くな、大堂!!」 一郎くんの鋭い声に、前に出た足が止まる。 「一郎くん……」 「あの男を追って、君はどうするつもりだ」 「春樹が居るはずの……研究所の場所を教えてもらうんだよ」 「研究所か。現在の高村研究所を№673は知っているんだな」 「そうだよ」 「………………」 「ごめん一郎くん。私、冬馬先輩と話さなくちゃいけないから」 話を切り上げるように、一郎くんに背を向けた。 その時。 「高村……春樹……」 (えっ?) 不意の一郎くんの呟きに、私は動けなくなる。 「君の弟、大堂春樹は高村博信の息子だったんだな」 「どうしてそれを……」 私はゆっくり一郎くんに視線を移す。 一郎くんは強張った顔をしたまま私を見ている。 「君の弟の素性を調べれば、容易に分ることだ」 「……………」 「正直驚いた。まさか高村の血筋だったとは」 一郎くんにとって高村は聞きたくも無いほど不吉な名前のはず。 一郎くんだけじゃない。 関わった人はみんな同じだろう。 「さっき君は弟を連れ戻したいと言っていたな」 「うん」 「だが軽率な行動は止めておくんだ。これは罠だ」 「罠……」 「そう、君を手に入れるために仕組んだ罠だ。 さっき君は弟を連れ戻すためなら何でもすると言っていたが、それこそが奴らの目的。 君の弟を盾にしてでも、高村博信は君の力を利用するだろう」 私は…… ①「そんな事わかってるよ」 ②「じゃあどうすれば……」 ③黙って冬馬先輩を追いかける 623 ①「そんな事わかってるよ」 一郎くんの言葉に、考える間も無くそう答えていた。一郎くんは驚いたようにこちらを見ている。 「大堂。君は何を言っているのか、自分でわかっているのか?」 「わかってるよ、もちろん。このタイミングで春樹がいなくなったっていうのはきっと一郎くんの いうとおり、そういうことだと思う」 そうだ。春樹が仮に自分の意思で出て行ったのだとしても、そこに主流派の意図が隠されていて 何ら不思議は無い。春樹の生い立ちや性格を知る人物なら、そうしむけることなどきっといともたやすくやってのけるのだろう。 「それでも、私は行きたい。こうしている間にも、春樹の身に危険が迫っているかもしれない。 私のせいで誰かがそんな目に会うなんて、そんなこと絶対に許しちゃいけない」 一郎くんはふっとため息をついて床に視線を落とした。興奮気味の私に対し、抑揚のない声で低く告げる。 「それは単なる感情論にすぎない。実際問題、君が今組織に乗り込んでいったとして一体何ができる?」 「それは…」 「一時の勢いに任せて思いつくまま行動したところで、それこそあちらの思う壺だ。仲良く姉弟で組織の手に落ちて万事休す、といったところだろう」 一郎くんの正論を前にしぼんでしまった勇気を奮い立たせるように、まっすぐに一郎くんを見据えて言葉を紡ぐ。 「そんなこと、やってみなければわからない。それに、今春樹を助けられるのは私だけでしょう? 一郎くんはもし修二くんが組織に捕まったら助けに行かないの?」 「……!」 「ごめんね。私、行ってくる」 小さく頭を下げて、なおも何か言おうとしている一郎くんをなるべく見ないように冬馬先輩の去っていった方向に駆け出した。 廊下をまがった所で前方に冬馬先輩の後姿を捉えた。 どうしよう? ①大きな声で冬馬先輩に呼びかける ②そのまま黙って走り寄る ③途中で修二くんに声をかけられる 624 ①大きな声で冬馬先輩に呼びかける 「冬馬先輩!」 先輩の背中に向かって大声で叫ぶ。 冬馬先輩は私の声に気づき、足を止めた。 「………愛菜」 「冬馬先輩、待ってください。一緒に行きます」 「……いいのですか?」 どういう意味で『いいのですか』と尋ねているのだろう。 ついて行くことへの覚悟を尋ねているのだろうか。 それとも一郎くんを振り切った事に後悔は無いのか、問いかけているのだろうか。 「いいんです」 「……そうですか。分りました」 私は春樹に会わなくてはなけない。 そして家に帰ってきてもらう。 一郎くんの言うように、私も春樹も研究所の手に落ちてしまうかもしれない。 だからといってただ待っているだけなんて出来ない。 協力してくれるという冬馬先輩を信じて、一緒に進むと決めたのだ。 冬馬先輩と私は人目の無い屋上にあがってきた。 屋上にある給水塔の下につくと、お互いが自然と向き合った。 「先輩。春樹の居場所がわかったって、朝に言ってましたよね」 「……はい」 「春樹は一体どこ? 研究所ってどこにあるんですか?」 冬馬先輩は無言でうなずく。 そしてゆっくりと指をさした。 眼下には、夕日に染まったジオラマみたいな街が広がっている。 私はその指の方向へ目で追っていく。 その指は、住み慣れた街を流れる大きな川を示していた。 「……川?」 「……はい」 「まさか川の中!?……じゃないよね」 「違います。この街を流れる川の遥か上流。そこに研究所はあります」 「遥か上流って、水源地に近いって事かな」 「はい。人里離れた山中に今の研究所はあるようです」 私は…… ①いつ助け出すのか聞く ②周防さん達について聞く ③冬馬先輩はいいのか聞く 625 ①いつ助け出すのか聞く (冬馬先輩のおかげで場所は特定できた。あとは……) 「それであの、春樹をいつ助け出すつもりなんですか?」 今日は無理にしても、明日だろうか明後日だろうか。 春樹の状態がわからない以上、できるだけ早いほうがいい。 「決行日は周防たちと相談します。ですから今お答えする事は出来ません」 「そうなんだ……」 「おそらく今週中には決行を考えていると思います」 (今週中か……) 今すぐにでも研究所へ飛んで行き、無事を確認したい。 気持ちばかりが焦るけれど、力の無い私は冬馬先輩たちを頼るほか無い。 「冬馬先輩、勝手なお願いだと思うんだけど……なるべく早くして欲しいんだ」 「周防たちに愛菜の希望は伝えておきます」 「うん、お願いします」 (今朝無理させたばかりなのに、また私は冬馬先輩に無理をさせようとしてる) 危険に巻き込みたくないと思いながら、冬馬先輩を頼らざるを得ない自分が歯がゆい。 一郎くんには助けると言い張ったけど、実際に助けるのは冬馬先輩たちなのだ。 口ばっかり達者なことを言っても、冬馬先輩に危険な事を押し付けている。 「私……ずるい。 本当は冬馬先輩に守ってもらう価値なんて無い……」 思わず、心の声が口から漏れる。 「ご、ごめん。今のは聞かなかったことにして!」 口をついて出た愚痴を取り消すように、あたふたと取り繕う。 こんな時に弱音なんて吐いてる場合じゃない。 今更になってまだ迷ってるなんて、冬馬先輩を困らせるだけだ。 「愛菜」 無機質な声に私は顔を上げる。 目の前の冬馬先輩が無表情な顔で私を見ていた。 「冬馬先輩……何?」 「今朝から顔色が優れないままです」 「色々考えちゃってるからかな。前に周防さんにも言われたけどね」 「周防にですか」 「うん。悪い癖なんだよね。疲れた顔の私を見かねて、ショッピングモールに誘ってくれたんだよ」 重い口調にならないように、なるべく明るい声で答える。 冬馬先輩は相変わらずの無表情で、何を考えているのか読み取りにくい。 分らないけど、心配してくれているのはなんとなく伝わってくる。 「わかりました。愛菜は気晴らしを必要としているという事ですね」 ①「もしかして冬馬先輩、私を誘ってくれるの?」 ②「えっ!」 ③「そんな暇ないよ」 626 ③「そんな暇ないよ」 文化祭の準備もあるし、何より春樹が居ないままだ。 そんな状態なのに、この前の日曜日のように遊んではいられない。 「文化祭の準備が忙しいのですか?」 「忙しいってほどでは無いかな」 クラスの方は仕上げの段階に入っていて、特に急ぐ必要は無いはずだ。 放送委員は一郎くんが居るから行き辛い。 「では、他に何か都合があるのですか?」 「それも無いよ。ただ……春樹のことがあるし」 「弟さんですか」 「うん」 「さきほど言ったように、すぐに弟さんを救出する事は不可能です」 「わかってるよ。ただこの前みたいなショッピングをしても楽しめる自信はないかな」 「それはなぜですか?」 「気持ちの問題なんだ。こんな時に遊んでいられないって思ってしまうよ」 私の言葉を聞いて、冬馬先輩は目を伏せた。 そしてピクリとも動かなくなる。 (もしかして悩んでるのかな……) 「気晴らしとは鬱屈した気持ちを発散させるものだと周防に聞きました。 有効な手段としては体を動かしたり、日常の生活圏から抜け出すことです」 突然始まった説明に私は頷くことしか出来ない。 「そして愛菜はショッピングのような手段は望んではいません」 「そ、そうだね」 「真面目なあなたが納得し、かつ体を動かしながら愛菜の生活圏から抜け出す方法……。 一番有効な手段は、三年生有志で行っている出店の手伝いだと思うのです」 「………え?」 「僕もこの間から少しずつ手伝っています。 愛菜が以前提案してくれたように楽しめているのかは分りません」 顔をあげた冬馬先輩は無表情だったけど、少しだけはにかんでいる様にも見える。 「ですが、それなりに有益な時間を過ごせています。 もしよければ明日の放課後、三年の教室へ来て欲しいのです」 (冬馬先輩……) ①「ごめん、無理だよ」 ②「うん。じゃあ手伝おうかな」 ③「なら先輩が私のクラスを手伝って」 627 ②「うん。じゃあ手伝おうかな」 (せっかくの先輩が気を使ってくれてるんだし… ちょっとくらいなら、いいよね) 私がそう答えると、冬馬先輩は かすかに微笑んでくれた…気がした。 「…ありがとうございます。 では、明日も同じように迎えにいきます」 そんな冬馬先輩の様子を見ていると、 申し出を受けてよかった…と改めて思った。 (でも、クラスの皆にはちゃんと言っておかなきゃ…) 準備のためには貴重といえる一日を 自分の都合で抜け出すのだ。 しかも、用事といった用事があるわけではなく、 自分に関係のない場所の手伝いをするんだし。 (まだ、皆残ってるかな…? 残ってるなら言ってきたほうがいいよね?) ①冬馬先輩と一緒に教室に戻る ②冬馬先輩には待っていてもらって教室へ行く ③明日言うことにして今日のところは帰る 628 ①冬馬先輩と一緒に教室に戻る 朝、体調があまり良くなかった冬馬先輩を一人にしておくのは不安だ。 それでなくても冬馬先輩はつらい事や苦しい事を我慢しているように思える。 今は顔色も良いけれど、いつまた不調になるかわからない。 (私と契約してることで、何かしらの負担になってることは間違いないし……) 私は冬馬先輩と一緒に教室に戻った。 「あ、愛菜!」 すると目ざとく香織ちゃんが私を見つけてやってくる。 「委員長の用事は終わったの……って」 香織ちゃんは私の後ろに立っていた冬馬先輩を見つけて目を丸くした。 そして有無を言わさず私の首に腕を回して引き寄せると、興奮気味にささやいてきた。 「ちょっとちょっと、あの人誰よ?見たところ先輩みたいだけど」 「あ、うん、御門冬馬先輩っていうの。あの、明日先輩の手伝いをしたいんだ。だから準備休んでもいいかな?」 「御門……先輩? あの人が?」 香織ちゃんは、ちょっとだけ顔を上げて冬馬先輩を見た。 「この人があの御門先輩、ね」 「香織ちゃん知ってるの?」 「知ってるというか、ちょっとした有名人だよ。半端な時期に転校してきた上に、編入試験もすごい点数良かったみたいよ」 「へぇ……」 「でも、あんまり良いうわさは聞かないのよね……」 「え……?」 「でもあくまでもうわさだから、愛菜はそんな顔しないの。で、えっとなんだっけ?明日先輩の手伝いするとか言った?」 私の顔を見て、香織ちゃんは軽く私のほっぺをつねると、気を取り直したように聞いてきた。 「う、うん、こっちも準備で忙しいと思うんだけど……」 「こっちはもうほとんど終わってるし気にしなくて良いよ。先輩の手伝いしてきな」 「ありがとう、香織ちゃん」 プロデューサーの香織ちゃんのOKがでてほっとしていると、再度声をひそめた香織ちゃんが意味ありげに笑った。 「進展したらちゃんと私に報告するのよ?」 「え?」 ①「……なんのこと?」 ②「誤解だよ!」 ③「う、うん……わかったよ」 ①「……なんのこと?」 「自覚なしか。まあ、当然だわね」 香織ちゃんはあっけらかんと答えた。 「自覚とか進展とか……香織ちゃん何言っているの?」 「いいのいいの、こっちの話だから。それより御門先輩って愛菜から見てどんな人なの?」 (どんな人って言われれば……) 「とってもいい人かな」 「それだけ?」 「あと頼りになるとか……」 「私にはあんまりいい人には見えないけど」 愛想無く廊下で待つ冬馬先輩をチラッと見ながら、香織ちゃんは呟く。 香織ちゃんらしいハッキリした意見だ。 「表情が乏しいんだよ。でも少しは笑ったり怒ったりもするんだよ」 「笑う……想像できないわね」 「それでも冬馬先輩にとっての精一杯の表現なんだと思うんだ」 「相変わらずなのか。もう少しにこやかにすればいいのにねぇ」 まるで御門先輩のことを昔から知っているような口ぶりだ。 「香織ちゃん、冬馬先輩と知り合いなの?」 「ううん。全くの初対面よ」 「まるで昔からの知ってるみたいな言い方だったよね」 「今回のあの人はね」 「??」 「と、とにかく良い噂を聞かないけど、愛菜の力になってくれる人に違いないわ」 香織ちゃんは誤魔化すように私の肩を叩いた。 「冬馬先輩には何度も助けてもらったんだ」 冬馬先輩は学校でも浮いた存在みたいだし、一郎くんも修二くんも嫌っている。 でも香織ちゃんは違うみたいで、ホッと胸をなでおろす。 「やっぱり良くない噂がたつくらいだし、誤解されやすいんでしょうね」 「うん……」 「誤解を訂正しようとも改善しようともしない感じだし」 「どうにかしてあげたいんだけどね」 「でもね、あんたが最後まで信じてあげていれば大丈夫なんじゃないかしら」 「……そうかな」 まるで香織ちゃんは全部知っているような言い方をした。 不思議ではあるけれど、今は冬馬先輩のことを肯定しくれる人が居ることが嬉しい。 「……って、全部私の勘だけどさ」 「香織ちゃん、ものすごく鋭い勘だね」 「ま、まぁね。それより早く行かなくて良いの? 御門先輩が待ってるんでしょ?」 「うん。クラスの出し物手伝えなくてゴメンね」 「いいのよ。じゃあ明日」 香織ちゃんが手を振ってくれるので、私も振り返す。 「先輩、お待たせしました」 廊下で待っていた冬馬先輩に話しかけた。 先輩は香織ちゃんをのドアの覗き窓から見ている。 もしかしたら私と話していたのが気になったのかもしれない。 「話し声、聞こえてましたか?」 「いいえ。ここまで届いてきませんでした」 「そっか。よかった」 冬馬先輩の事を話していたし、何より聞かれていたらなんだか恥ずかしい。 「あのね、さっきの子は親友の香織ちゃんっていうんです」 「…………」 「先輩?」 「カオリ……と言うのですか」 「小学校からの付き合いで、ずっと私を支えてくれてるんです」 「…………」 「あの……」 香織ちゃんの事を眺めるというより凝視している。 あまり他人に興味のない先輩にしては珍しい反応だ。 「…………」 「冬馬先輩」 「…………」 「あの冬馬先輩」 私が何度か声をかけるとようやく反応が返ってくる。 「……なんでもありません。愛菜を家まで送ります」 「あ、ありがとうございます」 (こういう所が誤解を生むのかも) 冬馬先輩との帰り道、なかなか話しかけることが出来なかった。 私の力の事、組織の事、冬馬先輩自身のことも。色々と謎だらけだ。 どこまで質問していいか分からないし、また無理だとはね付けられてしまうかもしれない。 冬馬先輩から会話を振ってくる事も無く、ひたすら無言で歩く。 長く伸びていく影だけ追っているうちに、家の前まで来ていた。 「わざわざ送ってもらって、ありがとうございました」 「…………」 「また明日学校で。気をつけて帰ってくださいね」 「……では」 隙の無い動きで踵を返すと私から離れていく。 遠ざかる背中を見ていると、何か言わなくちゃという気になってくる。 とにかく分からない事が多すぎる。知りたくない真実だとして何か一つでも知りたい。 それが解決の糸口になるかもしれないから。 (お母さんの事だって何も教えてもらっていないから) 「……先輩!」 私の声に反応して、冬馬先輩が振り向く。 「……どうしましたか」 「私を守ってくれているのは、お母さんとの約束だからでしたよね」 「……はい」 「お母さんはどこに住んでいるの? 生きているんですよね」 お母さんを語るとき冬馬先輩はすべて過去を振り返るように言っていた。 まるで故人を偲ぶように。 「…………」 「昨日、美波さんもお母さんの所在について何も語らなかったよ」 「そうですか」 「それは言えなかったからじゃないの」 「…………」 「黙っているという事はやっぱり死んでしまっているんですね」 先輩の表情は変わらない。 少しうつむいて、目を伏せただけ。 その小さな仕草だけで見当がついてしまう。 「なんとなく気付いてた。もうこの世に居ないんじゃないかって」 「…………」 「もしかしてお母さんは組織に……」 冬馬先輩は顔を上げ、左右に首を振った。 「それは違います。あなたのお母様は五年前、交通事故で亡くなったのです」 「……交通事故」 「道路に飛び出した子供を助けようとしたのです。当時の新聞にも載っているはずです」 「……全然知らなかった」 「子供は助かりましたが、お母様はその犠牲に」 「うん……」 「僕が傍にいながらあなたのお母様を死なせてしまいました」 冬馬先輩は拳を握り締めていた。 こんなに悔しさを表に出すのは珍しい。 「冬馬先輩のせいじゃないよ。人を助けて亡くなるなんて……お母さんらしいな」 私の覚えているお母さんは少し厳しくて、思いついたら一途だった。 (大らかで……厳しくて……でも優しい……) 死んでしまっていた事実は辛いけど、悲しいだけじゃないものが心に広がっていく。 「教えてくれて、ありがとう。冬馬先輩にとっても辛い出来事だったのに」 「愛菜……」 「でもお母さんなら、きっと後悔してないと思う。子供を助けられて満足じゃないかな」 「僕もそう思います」 「でも……ひと目会いたかったよ」 少し離れた所にいたはずの冬馬先輩が私のすぐ傍まで近寄ってきていた。 そして私に手を伸ばし、頬にそっと触れてきた。 「と、冬馬先輩……」 「涙が出ています」 「ご、ごめんなさい」 私は慌ててハンカチを取り出そうした。 次の瞬間、冬馬先輩にその手を引かれた。 制服の感触が頬に当たって、ようやく冬馬先輩に抱き寄せられたと気付く。 「せ、先輩」 「……また愛菜を泣かせてしまいました」 「冬馬先輩のせいじゃないよ」 「今の僕には胸を貸すことくらいしかできない」 驚きと恥ずかしさで私は身をよじる。 けれどぎゅっと抱きしめられて、動くことが出来なかった。 「わ、私……」 「嫌かもしれませんが、しばらくこのままで居させてください」 (……嫌じゃない) 暖かくて安心する。 それに少しドキドキする。 抵抗するのを止めて冬馬先輩に体を預ける。 「嫌じゃ……ないよ」 「よかったです」 「どうしてだろう。冬馬先輩と居るとすごく安心するんだ」 「……はい」 「会って間もないのにね。まるで昔から知っているみたい」 「……それは……」 「何?」 「いいえ、何でもありません」 口数は少ないけどいつもより話し方が穏やかな気がする。 淡々としていても言葉の端々に優しさを感じる。 「先輩は親切だよね」 「僕は親切ではありません」 「ううん。みんな気付かないだけだよ」 冬馬先輩を嫌っている人は多い。 私の知っている理解者といえば周防さんくらいじゃないだろうか。 お母さんも生きていた頃は数少ない理解者の一人だったに違いない。 「お母さんはきっと冬馬先輩のことが放って置けなかったんだね」 「僕はよくお母様に叱られていました」 「怒るとすごく怖いんだよ」 「それでもあの方と共に居られた日々は僕にとって特別なものでした」 冬馬先輩は一呼吸置いて、空を見上げていた。 オレンジに染まった夕焼けの中に欠け始めた月が薄く浮かんでいた。 「あなたのお母様は今でも……僕にとってかけがえの無い人です」 (かけがえの無い人……) 一瞬、じゃあ私は?という疑問が胸の中に湧き出る。 「愛菜はお母様によく似ています」 「お父さんにも何度も言われたよ」 「あなたも弱そうに見えるが芯は強い人だ」 「私はダメだよ。お母さんに比べてずっと弱虫だから」 「そんな事はありません」 「買いかぶりすぎたよ。いつも春樹や隆……冬馬先輩を頼ってしまうもん」 (そう。私はお母さんみたいに強くなれない) 「お母さんとは違うよ。違うから……」 冬馬先輩を両手で押しながら離れた。 「……愛菜?」 「せ、先輩のおかげで落ち着いたよ。ありがとう」 取り繕ってお礼を言った。 冬馬先輩もいつも通りの無表情に戻っている。 一線引いて接してきた今までのように。 「申し訳ありません。主に対して失礼でした」 「ううん。違うの」 冬馬先輩にとってお母さんは色々教えてくれた大切な人。 私にとってもお母さんは尊敬できる誇らしい人。 お母さんと似ていると言われてすごく嬉しいはずなのに。 私とお母さんをダブらせせるような冬馬先輩の発言に抵抗を覚える。 (少し胸が苦しい) 「では僕はこれで失礼します」 「さようなら先輩」 先輩の背中を見ることなく、真っ直ぐ玄関へ向かった。 心の中がズキンと痛む。 冬馬先輩はお母さんの最期のお願いを忠実に守ってくれている。 でももしその約束が無かったら……。 私も無関心なその他大勢の一人に過ぎないのかもしれない。 こんなに優しくも親切にもしてくれない。 これ以上甘えていると、もっと嫌な自分になりそうだった。 気を取り直し、鍵を開けて家の中に入る。 「ただいま」 家の中に人の気配は無い。 まだ隆は学校から帰ってきていないようだ。 「隆のために何か夕食作ってあげよう」 キッチンに向かおうとリビングで一枚の紙を見つける。 白紙だったチラシの裏に乱暴な字で伝言が書かれている。 『おばさんは今日は仕事で帰ってこられないらしい。 春樹が出て行ったのにお前と二人だけというのもマズイ気がする。 一応、愛菜も女だしな。 それで今日からは自分の家に帰ろうと思う。 何かあったら電話をくれ。 すぐ飛んでくるからな。 隆』 (隆……家に帰っちゃったんだ) チハルも動かないままで久しぶりの一人ぼっちだ。 エプロンを着けたばかりだったけど、腰紐を解いてテーブルに置く。 「一人ぼっちの食事じゃ、張り切ってもしょうがないよ」 着替えるためにとりあえず自室に戻った。 「チハル、ただいま」 呼びかけてもただのくまのぬいぐるみのように微動だにしない。 昨日ぬいぐるみに戻ったきり、動かなくなってしまった。 急に力が抜けて、ベッドにドサッと座り込む。 色々なことがあって気を張り通しだった。 (私、意外と疲れていたのかも) 春樹の事はすごく心配だ。 でも冬馬先輩はまだ行動しない方がいいと言っていた。 私単独では何も出来ない。 お義母さんに今帰ってきたとメールを入れて携帯を閉じる。 一人ぼっちだと食欲もわいてこない。 このままじゃ何もせず寝てしまいそうだ。 「溜まった宿題しなくちゃ」 久しぶりに机に向かって教科書を開く。 でも気がかりが多すぎて、字を追うだけで精一杯だった。 (頭に入ってこない。ダメだ) 特に苦手な数学では苦戦してしまう。 定規を取ろうと机の中を開けると、小さな紙袋を見つけた。 (この包み……周防さんにあげようとしていたサンストーンだっけ) (結局、あの日は渡せないままだったな) ショッピングモールに行った日。 色々あったけど、冬馬先輩や周防さんの事を知ることが出来た。 (楽しかったな。冬馬先輩の服も買ったんだっけ) ご飯を食べたり、ショッピングしたり。 あの時だけは普段と変わらない日常が戻ってきたみたいだった。 私は小さな紙袋を開けて、そのサンストーンを出してみる。 赤茶けている小さな石。 勾玉の形をしていて、ピカピカに磨かれている。 (綺麗……) 夕日にかざすと真紅のようにも見える。 指先におさまる、太陽のように輝く宝石。 その美しさにしばし魅入られる。 (忘レルナ……我……汝ノ中二……) 心臓が高鳴ると同時に、今朝見た夢の断片を思い出す。 黒くてドロッとしたものが私に放った言葉。 思い出そうとすると、頭がぼうっとしてくる。 指を動かすのも億劫なほど気だるく瞼も重くなってきた。 『愛菜』 頭の中で突然呼びかけられる。 さっきまで話していた、綺麗な知った声。 「冬馬先輩」 呼びかけに応えて、ようやく我に返る。 このやり取りは何度やっても慣れない。 (頭の中に声が響くって耳からよりずっと直接的なんだよね) 『答えてくれたということは、僕の声が届いているようですね』 「はい、一応。まだぼーっとしてますけど」 『では伝えます。それ以上鬼と同調してはいけません』 「おに……?」 『石を媒介にしてあなたの意識を乗っ取るつもりです』 「乗っ取るって。何?」 『お母様の暗示がもう解けかかっています』 「お母さんの暗示?」 『暗示に便乗して勾玉が掛けたであろう力の封印までも失う可能性があります』 (一体、何を言っているの?) まだ意識がはっきりせず、先輩の説明がよく理解できない。 『すぐにその石を放してください』 「……うん」 私は手に持っていた石を机に落とす。 小さな石はコロンと転がった。 「これでいいのかな」 『はい』 「さっき言っていたお母さんの暗示って何?」 (まただんまりなんだろうな) 「教えて欲しい。このままじゃ私、不安でたまらないよ」 『…………』 「春樹が出てってしまっても、結局私には何も出来なかった……」 『…………』 「私のせいでみんなが不幸になっていってる気がする」 『あなたのせいではありません』 「気休めは止めて。予知の能力のせいだって事くらい今の私でも分かるよ」 (もどかしくて、悔しい) 『わかりました』 「え?」 『僕の知り得ている事ならば教えます』 「本当に?」 『今からあなたの家へ伺います。しばらく待っていてください』 「は、はい。お願いします」 どういった心境の変化か分からない。 今まで何があっても余計な事を話さなかった先輩が教えてくれるという。 (よかった。これで少しは私でも出来る事が見つかるかもしれない) 私は一階に降りて、来客用の戸棚を開ける。 せっかく来てくれるのならお茶の準備くらいしておこう。 (そういえば冬馬先輩はコーヒー派なのかな。それとも紅茶派……やっぱり緑茶?) 今さらだけど冬馬先輩の事を私は何も知らない。 好みのお茶の種類一つだって分からない。 食器棚に並ぶ茶器の前で困惑する。 (できれば好きな飲み物出してあげたいよね) (他にももっと知りたいな、先輩のこと) 力のことや組織のこと、また今話した暗示のこと。 知りたい事は沢山ある。 そういう事ももちろんだけど冬馬先輩についても色々知りたい。 以前みたいな興味本位じゃない。 何かしてあげたいから知りたいという衝動にかられる。 最初に見かけたときから、なぜか怖いとは思わなかった。 だから突然持ちかけられた契約だってすんなり受け入れることが出来た。 (どうしてかな) 冬馬先輩といえば前は変な人という印象が強かった。 突然人前で脱ぎだしたりした時はどうしようかと思ったほどだ。 そのせいか一挙一動に引き付けられる所はあった。 どこか儚い雰囲気もなんだか気がかりだった。 (だけど今は……それだけじゃない気がする) ピンポーン 玄関まで小走りで向かう。 ドアを開けると制服姿のままの冬馬先輩が立っていた。 「いらっしゃい先輩」 「入ってもよろしいでしょうか」 「もちろん。どうぞ」 「……おじゃまします」 私は冬馬先輩を連れてリビングまで案内する。 先輩は黙ったまま私に従った。 「ソファーに座っていてください」 「失礼します」 冬馬先輩は一礼して座る。 なんだか面接を受けに来た人みたいに丁寧だ。 「ところで先輩は何を飲まれます?」 「僕にお気遣い無く」 「私も飲みたいから言っているんだよ」 「では愛菜と一緒のものでお願いします」 「紅茶でいいかな」 「はい」 「でもコーヒーもありますよ。緑茶も用意できますけど」 「……コーヒーでお願いします」 (冬馬先輩はコーヒー派なのね) キッチンに向かってコーヒーと紅茶をそれぞれ用意する。 しばらくして戻ると、冬馬先輩は姿勢を正したまま座っていた。 「もっと楽にしていいよ。この家には私しか居ないし」 「そのようです。他の気配は感じられません」 「さっそく本題に入りたいんだけどいいかな」 「はい」 飲み物を置いて私も座る。 私から尋ねなければきっと会話も成立しないだろう。 (何から聞こうかな……) 知りたい事が多すぎて整理がつかない。 「まず私の力は予知能力で……組織という所が狙っている。それで間違いありませんよね?」 「概ね合っています」 「概ねっていうことは全部正しい訳じゃないの?」 「はい」 「どこが違うの?」 「あなたの能力は予知能力だけではありません」 「えっ? そうなの?」 冬馬先輩の答えがはやくも予想外だった。 「じゃあ私の能力って何?」 「予知能力を超えた……未来実現能力と言い換えればいいでしょうか」 「未来実現能力?」 「あなたがすべての力を使い切れば、世界すらも一変してしまうでしょう」 「ど、どういうこと?」 開始早々、話が壮大すぎて頭がこんがらがっている。 「予知は知ることしか出来ません。しかしあなたの場合、それをはるかに超えた能力なのです。 世の理から外れた力、それを組織は狙っています」 「よ、よく分からないんだけど」 「予知だと思っているのはあなたが夢で見たことが実現したからです。 しかし見方を変えれば夢で見たことをあなたが実現させたともいえるのです」 「私が未来を変えたという事?」 「そうです。あなたが変えたのです」 (私が変えた……) 「そんな事、信じられない」 「今まで何度と無く信じられない力を目撃しているはずです」 「それはそうだけど」 「あなたにはその力が備わっています」 「本当に私にそんな力が……」 「力が封印されている限り、そこまでの力を発揮することは出来ません。 現状はごく弱い予知能力と変わりない程度しか使えないでしょう」 (力の封印……それも聞かなくちゃ) 「今のところ私の力は封印されているんですよね」 「その通りです。詳しく説明すればあなたの力は二重に鍵が掛かっている状態です」 「二重って?」 「一つ目は元々封印されているもの、二つ目はあなたが幼少の頃に封じられたものです」 「な、何?」 「前者の封印は神器が契約をして順次開放していきます。後者は何者かが愛菜に施したものです」 「何者かって一体、誰に?」 「暗示をかけたのはお母様、力を封じたのは恐らく勾玉です」 「ご、ごめん。一つずつ説明してもらっていいかな」 次々と新しい情報が出てくるから訳が分からない。 「では幼少の頃に力を封じた者のことからお話します」 「お、お願いします」 「残念ながらあなたの力を封じた者の事は僕には分かりません」 「どういう事?」 「特定できていないからです。ですがあなたの力を抑え込めるのは勾玉の他居ないと考えます」 (まがたま?) 「まがたまって……何?」 「巫女が使役していた神の力を持つ道具の一つです。その道具を総称して神器と呼びます。 過去僕は剣と呼ばれていたものでした。勾玉の他にも鏡が居ます。鏡はあなたの良く知っている宗像兄弟です」 「その道具が冬馬先輩達なの?」 「正確にはそれぞれの神器の力に支配され束縛されている魂を指します。 ですから何度器を替え転生しても僕はまた剣としての力を持って生まれてくるのです」 一郎くんと修二くんに能力があるのを何度も見ている。 冬馬先輩と同じような力があっても不思議ではない。 (あっ……) 今日、一郎くんに合わせ鏡について説明された。 (それはこの事を言っていたのね) 「その道具が冬馬先輩達なら使役していた巫女って……もしかして」 「遠い過去のあなたです」 「私が巫女なの?」 「正確には巫女の生まれ変わりです」 「はぁ……私が……」 雲を掴むような話だ。 いきなり巫女の生まれ変わりだと言われても困る。 「現在、勾玉は自らの力を完全に封じています。人と同化し特定できないのです。 ですから僕からお教えすることは出来ません」 私は紅茶を一口飲む。 でも冬馬先輩は全くコーヒーに口をつけていない。 「さっきお母さんが暗示、とか言っていたけど」 「次はお母様の暗示について説明します」 「お願いします」 「あなたは幼少の頃、力を自在にあやつることができていました。 それを危惧したお母様が能力そのものを忘れるよう、あなたに暗示をかけたのです」 「暗示で私が力を使っていた記憶を消したの?」 「そうです。その暗示に便乗して勾玉は能力そのものを封じ込めたのです」 「ええっとそれは……お母さんには力の記憶を、勾玉って人には力を封じられたって事?」 「その通りです」 (そういえば……) 以前お父さんがお母さんは心理学を学んでいたと話していた。 心理学の知識がある人なら、子供の記憶の一部だけ操作することも可能かもしれない。 「幼少期のあなたはお母様に僕のことを予言したそうです。 ですからお母様は僕に会う事を決心し、家を出たと言っていました」 「じゃあお母さんが出て行った理由は……」 「愛菜を助けるためです」 (お母さんが出て行ったのは……私が冬馬先輩のことを言ったから) お母さんが黙って出て行ったのは、言いたくても言えなかったから。 周りに私の能力が知られないようにの配慮なら説明がつく。 私を捨てた訳ではなく、私のために出て行った事。 その事実を知ることが出来ただけでも救われた気がする。 (昨日美波さんが言っていたのはやっぱり私の事だったんだ) 「実はこの話をする事はあなたのお母様から止められていました」 「じゃあ、どうして教えてくれたの?」 「わかりません。今までの僕なら絶対にあの人との約束を破ることはなかったのですが」 「ごめんなさい」 「いいのです。これ以上隠していてもあなたが苦しむだけです。お母様もそのような姿は望んでいないでしょう」 「……私、ずっと心のどこかで捨てられたかもしれないと思ってた。お母さんがそんな事するはずないのに」 「亡くなる寸前まであなたの事を気にかけてました。 僕が知る限り、お母様は愛菜のことを誰よりも愛してらっしゃったのではないでしょうか」 「……ありがとう、先輩」 「いいえ。僕は事実を伝えたに過ぎません。感謝すべきはお母様にでしょう」 また一口紅茶を飲んだ。 アールグレイ特有のベルガモットの香りが鼻をくすぐる。 冬馬先輩を見ると、まだコーヒーを飲んだ様子はない。 「先輩、コーヒーが冷めてしまいますよ」 「……では頂きます」 私に言われてようやくコーヒーを飲み始める。 しばらくお互い無言のまま飲み物を頂く。 「先輩、疲れていませんか?」 「大丈夫です」 「なら組織の事……春樹との接点について教えて」 どうして私を狙うのか。 どういった組織なのか。 春樹が出て行った理由もわかるかもしれない。 「どこからお話すればよろしいでしょうか」 「じゃあ、組織は高村という名前だって今朝言ってたよね」 「春樹さんの旧姓はご存知ですか?」 「えっと……もうお義母さんの姓を名乗っていたはずだけど……」 「春樹さんは高村春樹として生まれています。組織のトップ高村博信は春樹さんの実の父親です」 (桐原さんが高村春樹くんって言っていた事だよね) 「でもどうして……春樹の実の父親が」 「高村家は歴史の表舞台ではなく裏で権力を誇示し続けてきました。 その理由が巫女の力にあるようなのです」 「巫女ってさっき言っていた……」 「現在ではあなたの事です」 「じゃあ私の力を利用して何をしようとしているの?」 「……それは僕にも詳しくは分かりません。ただ能力者を非人道的に育成したりしていたのを鑑みると 何か良からぬ事を企てているのは間違いありません」 「具体的には分からないんだ」 「弱まりつつある高村の復権。いえ、それ以上の企てを考えているのかもしれないです」 「なんだか怖いな」 「春樹さんを囮にしてあなたの人知を超えた力を欲しがっているのは間違いないのです。 巫女の力がすべて解放されたという事例は今までありませんので予想すらつきません。 一つの時代に神器が一斉に会する機会などなかったからです」 (神器って……) 「神器ってさっき言っていた……」 「剣の僕や宗像兄弟の鏡、それに勾玉。巫女に使役されていた道具の事です」 「その……剣と鏡と勾玉が私の力を使うのに必要だって事なの?」 (整理しながら聞かないとすぐ分からなくなりそう) 「先日、僕が愛菜に施した契約をすべての神器が行なければ真の力を使うことは出来ません。 現在勾玉が見つかっていない以上、完全な形で力を使うことが出来ないのです」 「じゃあ、安全だね」 「そうとも言い切れません。不完全なままでも巫女の力を発動することは可能だからです」 「ならこれ以上契約しなければいいんじゃない? 私の力は弱いままだし」 「ですがあなたの力を解放できる別の方法、というものが存在しているのです」 「どういう事?」 「僕らの神器と似たようなもの。つまり代替になるもう一対の道具があるのです」 「……え?」 また新しい事柄が増えてくる。 冬馬先輩や一郎くん、修二くん達だけが私の力を発動させられる訳ではないと言う事だろうか。 「僕らは三種の神器と呼ばれています。そして代替になり得る道具を十種の神宝というのです」 「十種の神宝……」 「十種の神宝は三種の神器の対にあたる、陰の力を秘めた道具です」 「そんなものもあるんだ……」 「そして十種の神宝を……高村が手中に収めたというのです」 (だから私を手に入れようとしているの?) 今まで普通に生活できていたのに、ある日突然それが一変した。 それは組織が別の方法を手に入れたから狙われるようになったとすれば……。 確かに筋は通っている。 「どうすればいいんだろう」 「まずあなたを組織から守ることです。だから僕や周防は組織と戦う事にしました」 (でもそれじゃ……) 「私は守られているだけ? 私のすごい力っていうのでどうにか出来ないの?」 「力を解放すれば現状は打破できるでしょう。 けれどそれではあなたがあなたで無くなってしまうかもしれないのです」 「どういう事……?」 「今しがた自分の身に起こったこと、もうお忘れですか?」 自分が自分でなくなる感覚は何度も経験している。 さっきもサンストーンを見ていたら何かに取り込まれる感覚があった。 異質なものが私の中にずっと居る気配は強くなる一方だ。 私の中の誰かに少しずつ侵食されているのかもしれない。 「あれが私でなくなるって事なんだ」 「はい」 「最近、よく気を失ったりしているのもそのせいなのかな」 「間違いありません」 「特に二、三日前から頻繁になっている……」 「冷酷な言い方かも知れませんが、あなたもまた巫女の魂を持つ器でしかないのです」 (そういえば私は器だと言われていたっけ) 「ですから現状を維持し続けながら、組織と戦うことが最善だと考えます」 「一郎くんや修二くんに手伝ってもらえばいいよ。そうすれば少しは冬馬先輩達の負担が軽くなるはずだし」 (きっと同じ目的のはずだもん) 「彼らは彼らのやり方があるようです。相容ない関係なのでしょう」 「でも……」 「特に僕は嫌われてしまっているようですから」 (一郎くんも修二くんもどうにかならないのかな) 「このままじゃ絶対良くないよ」 「良い、良くないの問題ではありません。それよりあなたは自身の心配を一番にするべきです」 「私の心配?」 「お母様がかけた暗示はほぼ解けています」 (まだ小さい頃に使っていた力の事は思い出せないけどな) 「そのために勾玉が施した封印も弱まっています」 冬馬先輩は私を真っ直ぐ見つめる。 大切なことを伝えたいという気持ちが伝わってくる。 「あなたが自我を保つためには取り込まれないという強い意志が必要です」 「……うん」 「これ以上の力を欲してはいけない。これだけは絶対に忘れないでください」 「憶えておくよ」 多分、私に釘を刺すために色々話してくれたに違いない。 一番言いたかったのは、もっとしっかりしろって事だろう。 (力を欲してはいけない、か) 「先輩。最後にあと一つだけ、質問していいですか」 「はい」 ここ最近、急に私の中でくすぶっている疑問。 それを冬馬先輩に投げかける。 「冬馬先輩はどうして命を懸けてまで私を守ってくれるの?」 「それは何度もお話したはずです」 「亡くなったお母さんから頼まれたから……」 「はい、そうです」 「約束だけで……命まで懸けられるものなのかな?」 「はい。獣のような僕を変えてくれた恩はそれくらいでしか返すことはできません」 冬馬先輩は無表情のまま断言した。 いつもと変わりない淡々とした様子なのに、なぜか突き放されたような気持ちになる。 (やっぱりそうだよね……) お母さんから頼まれたからだと言い切った先輩。 心のどこかで期待していたものが崩れていく。 「へ、へんな事を聞いてごめんなさい」 「いいえ」 (私のため……そんな訳ないのに) 私のためだと言ってくれると淡い期待を抱いていた。 でも本当のところは守ってくれるのも親切にしてくれるのもすべて約束したから。 それ以上の感情なんて抱いてくれていない。 主だとかしずかれ、守られているうちに勘違いしてしまったみたいだ。 (馬鹿みたいだな、私) 命懸けで守ってくれているからと自惚れいてた。 ナイトに守られるお姫様気分で舞い上がっていたのだ。 「たくさんお話してくれてありがとうございました」 「愛菜にとって少しでも有益になればいいのですが」 「うん。色々わかったよ」 「それはよかったです。では僕はこれで失礼します」 「あっ……」 (一人だし一緒に夕食を……) そう思ったけれど言葉に出来ない。 「何かまだお話した方がよろしいですか」 「あ、ううん、何でもないよ。もう大丈夫」 「そうですか」 私は冬馬先輩を玄関まで送る。 「ありがとうございました」 「こちらこそお邪魔しました。失礼します」 冬馬先輩は抑揚の無い言葉で締めくくるとドアを閉めて帰っていった。 「行っちゃった……」 静まり返った家に私の声だけが響く。 本当は不安だからもう少し一緒に居て欲しかった。 (一緒に居て欲しいと言えば……居てくれたんだろうな) 冬馬先輩は私のお願いならなるべく叶えてくれようとしてくれる。 それが無茶な事でもだ。 だから面白くて無理なお願いを頼んだこともあった。 前ならもう少し一緒に居て欲しいなんて何のためらいも無く頼んでいただろう。 (なのに今は……言いたい事がどんどん言えなくなってる) 持て余し始めた自分の気持ちを切り替えるために、二階に戻って勉強の続きをする。 さっきの石は引き出しの中に閉まって、シャープペンに持ち替えた。 ゆっくり時間かけて何とか数学の課題をすべて終える。 両手を挙げて伸びをしながら外を見ると真っ暗だった。 「……もうこんな時間」 もう午後10時を過ぎていた。 食欲は無いけ少しでも何かお腹の中に入れておかないといけない。 キッチンに降りて戸棚にあった菓子パンを開ける。 大好きな生クリームが入っているのに、砂でもかんでいるように味気なかった。 「ごちそうさま。さて、次はお風呂に入らなくちゃ」 (少し肌寒いけど、シャワーでいいや) 一人だとものぐさになるのか、何でも簡単に済ませてしまう。 春樹に呆れられるほどの長風呂なのに一人だとお湯を入れるのすら億劫になる。 早々にシャワーを浴びて寝巻きに着替えた。 「昔はよく一人で留守番してたな」 お父さんの帰りが遅いとき、よく一人で留守番した。 両親が再婚してから春樹と一緒だったから一人ぼっちがほとんど無くなった。 久しぶりの留守番だからか、以前よりずっと寂しく感じる。 最後に火の元と戸締りを確認していく。 (もう寝ようかな) 自室に戻って、布団に入る。 「おやすみ、ちはる」 まだチハルはピクリとも動かない。 私はゆっくり瞼を閉じた。 徐々に意識が遠のいて、また闇の中に落ちていく。 ここはどこだろう。 木で出来た大きな神殿の中に私は居る。 (奈良や京都の修学旅行でこんな建物を見たな) すると私の目の前に埴輪のような格好をした男の人が現れた。 「もう旅の準備はできたかな、壱与」 (この髪型、みづらって言うんだけっけ) 長い髪の毛を耳の所でぎゅっと結んだ独特の髪型が目を引く。 でも埴輪みたいにかわいければいいけど、目の前の男の人は髭のおじさんだ。 「壱与はいきたくありません」 鈴を鳴らしたようなかわいらしい声の女の子。 姿は見えないけどすぐ近くに居るようだ。 「そうごねるな」 「ごねてなどいません」 「これはすでに決まっていることなのだ。お前には何度も話しただろう」 「壱与が行かなければ……民が飢え死にしてしまうのでしょう」 「そうだ。先の川の氾濫で田畑は土砂に埋まってしまった。大和の国の援助無しでは大勢の犠牲が出る」 「だからといって、なぜ壱与が大和の国に行かなくてはなりませんの?」 「政とはそういうものなのだ」 ここまでの会話でようやくこの女の子の声が自分自身から発せられていることに気付く。 私の意志とは関係なく話が進んでいく。 意識だけは別にあって、まるで幽霊にでもなったみたいだ。 きっとまた変な夢の中に迷い込んでしまったんだろう。 「お父様ほどの方が人間ごときの言いなりにならないでください」 「壱与!」 「食べるものに困っているのであれば奪ってしまえばよいのでは? わたくしたちにはその力があるのですから」 「止めないか、壱与。安易に力を使えばまた人との軋轢を生むだけだ」 「ですが、お父様」 「我が祖先は人と共に暮らすことを選んだのだ。奪う方が簡単かもしれないがその後に禍根を残す。 遥か昔のように人を食らっていた頃とは違うのだ」 「でも!」 「そのような誤った考えはすぐに捨てなさい」 どうやら父と娘が言い争っている最中らしい。 私には止めることは出来ないようだし、このまま傍観し続ける。 「お父様は壱与が居なくなればいいとお思いなんだわ」 「何を言い出すのだ」 「だったらこのお話は無かったことにしてください」 「それは出来ない。もう決まったことなのだ」 「お父様!」 「まだお前は小さい。だがその肩にはすでに沢山の荷を負っている。それが王女というものだ」 「もういいです。壱与を嫌いになってしまわれたから、遠くに追い出すのですね」 目の前が滲んでいく。 きっと泣いているに違いない。 (お父さんの言いたい事が娘に伝わってないんだ) 話し方はしっかりとして大人びているけど、顔を覆う手のひらはまだ小さい。 私よりずっとずっと小さな子供だと分かる。 こんな小さい子には理解できない難しい話なのかもしれない。 「馬鹿者が。たった一人のかわいい娘を嫌いになどなるものか」 そう言うと、父親は娘をギュッと抱きしめる。 (く、苦しい) 頼りがいのある両腕で抱かれている感覚が女の子越しに伝わる。 そして同時に全身が暖かくなった。 力強い何かが体に流れ込んでくる。 「お父様……これは」 「私の力をお前に託そう」 「それではお父様が……」 「もし身の危険が迫った時はその力を使って生き延びるのだ。わかったな」 「……でも」 「遠くに行っても決してお前は一人ではない。寂しくなったら故郷を思い出すのだ」 「この出雲を……」 「与えられた責務を果たし、またここに帰って来なさい」 「わかりました」 「さぁ、顔を上げて胸を張るのだ。大和から迎えの者が来る前に卑女と旅の支度を済なくてはならないからな」 (もう大丈夫そうだね) 意識が浮上していく。 どうやら目覚めが近づいているようだ。 (よくわからない夢だったけど、女の子には頑張って欲しいな) 私はまばゆい白に包まれた。 自分の存在が掻き消えてしまほどの光の中に入っていく。 「ここは……自分の部屋だよね」 見慣れた天井をぐるっと見回す。 (何か夢を見ていたと思うんだけど) なぜか懐かしさだけが残っている。 でも綺麗さっぱり忘れてしまった。 (前まで夢を覚えていることが多かったのにな) 私はベッドから出て大きく伸びをする。 外からザーザーと音が聞こえる。 カーテンを開けると、重く暗い空が広がっていた。 (今日は雨か。……あれは) 雨の降りしきる中に人影を発見する。 電柱の影に傘もささないで誰かが立っている。 どしゃ降りのせいであまりよく見えない。 以前、組織の人達に襲われた事もあるし私はとっさに身を隠す。 視界の悪い中、窓の端から必死で目を凝らす。 (あの人は……) 見覚えのある制服と髪型。 昨日別れた後ととまったく同じ姿で電柱にもたれ掛ってジッとしいる人物。 (冬馬先輩だ) 私を迎えにきてくれたのだろうか。 先輩は傘もささないで制服のまま大雨の中にいる。 (って……あんな格好してたら濡れて風引いちゃう!) 私はパジャマのまま、階段を駆け下りていく。 傘だけ握り締めてサンダルを履き、外に飛び出す。 「先輩、冬馬先輩ですよね」 さっき見た場所に向かって走ると、私に気付いたのか人影がゆっくり動く。 近づいて確信する。 やっぱり冬馬先輩だ。 慌てている私とは対照的に先輩はいつも通り落ち着いていた。 「おはようございます、愛菜」 「挨拶は後です先輩。傘ささないと濡れちゃいますよ!」 「僕は大丈夫です」 (僕は大丈夫?) 意味が分からないまま、先輩に傘を渡す。 そしてようやく気付いた。 冬馬先輩の髪の毛も制服も全く濡れてない。 受け取った手や腕を見ても、乾いたままだった。 「濡れて……ない」 「僕の力は水を操ることです。雨も例外ではないので」 「そ、そうなんだ」 足元を見ると先輩を避けるように水溜りが歪んでいる。 (そういえば水竜の力だって言ってたっけ) 「それよりもあなたの方が大変な事になっています」 「私……?」 「愛菜がびしょ濡れです」 「……ハ、ハクシュン」 冷静になって急に寒さを覚えた。 焦っていたから自分の傘を忘れて出てきてしまったようだ。 「あはは……私って慌て者だね」 「愛菜、早く着替えないといけません」 「そ、そうだね」 (一人で焦って慌てて……何やってるんだろ、私) 冬馬先輩に連れられて家に戻る。 傘はずっと冬馬先輩が持っていたのに、それ以上濡れることはなかった。 きっと冬馬先輩の力で私も濡れないようにしてくれたんだろう。 玄関の中に入って、私は立ち止まる。 (このままじゃ、廊下が濡れちゃうな) 「先輩、悪いんですけどタオルを持ってきてもらっていいですか?」 「どちらにありますか?」 「あの扉が浴室と脱衣所です。入ってすぐの籠の中に入ってます」 「わかりました」 靴を脱いで上がると、扉の中に入っていく。 しばらくすると扉が開き、先輩が出てきた。 「こちらでよろしいですか?」 「うん、ありがとう」 先輩に数枚のタオルを手渡され体を拭く。 濡れたパジャマを着たままだから、なかなかうまく拭けない。 「僕が上手く力を使えればいいのですが、乾かす事は難しいのですみません」 「そうなの?」 「恐らく吹き飛ばせますが、水分を含んだ服まで粉々になってしまうかもしれません」 「そ、そうなんだ」 「ですから力を使うのは止めておきます」 「気にしなくていいよ。着替えれば済むだけだから」 「ですが愛菜が寒そうです」 「いいよ。私が勝手に濡れただけだもん」 「愛菜、少し震えています」 「これくらい平気だよ」 本当はすごく寒い。 けれど私が一人でドジしただけだから先輩を責めることなんてできない。 「愛菜、一つタオルを貸してもらっていいですか」 「どうぞ」 言われるまま私は持っていたタオルを一枚、先輩に渡した。 すると目の前に白いものがフサッと被さってきた。 タオル越しに優しく触れてくる指の感覚。 先輩が私の髪の毛をいたわるように拭き取ってくれている。 「あ、あの、先輩」 「お手伝いします。痛いようなら言ってください」 「い、痛くないよ」 「よかった。力を使えない僕にはこれくらいしかできないので」 「私、冬馬先輩にまた迷惑をかけちゃったかな」 「愛菜の事を迷惑だと思ったことはありません」 「ありがとう、先輩」 優しすぎる指先が少しくすぐったい。 そしてまたドキドキしてしまう。 「僕は愛菜の役に立てているのでしょうか」 「もちろんだよ」 先輩の顔をタオルの隙間から覗く。 いつもより穏やかな表情。 そう見えるのが気のせいじゃなければ嬉しいのだけど。 「あなたは自分の身を省みず僕を助けようとしてくれた。とても嬉しかったです」 「私って焦ると周りが見えなくなって。春樹や隆にいつもからかわれてばかりなんだよ」 「からかわれるのはきっと愛菜がかわいいからです」 「え……」 (今、私をかわいいって言ったよね) 「その人柄のせいでしょうか。僕も親しみを覚えたり、かわいいと感じてしまう」 「わ、私なんて平凡なばっかりだよ」 「少なくとも僕には愛らしいと思えます」 「……そ、そうかな」 「一人の女性としてもあなたは十分魅力的です」 「そんな事初めて言われたよ……」 「この濡れた髪一つとっても絹のように艶やかで美しいです」 先輩は私の濡れた髪をそっとすくい上げて呟く。 「僕自身よくわからない。何なのでしょうか、この感情は……」 「あ、あの……」 手を止めて考え込む先輩に私は何も言えなくなる。 体は冷え切っているけれど、顔だけは熱く火照ってきた。 「愛菜は神に選ばれた唯一無二の存在だと承知はしているのですが」 「そんな大げさなものじゃないよ」 「あなたに自覚が無いだけです」 「すごい人って言われても本当によくわからないから」 「僕も全霊をかけあなたを守ります。愛菜は自分らしさを失わないでください」 「は、はいっ」 「もう少しジッとしていてください。暴れられると拭けません」 「ご、ごめんなさい」 (なんだか……恥ずかしい) 消え入りたい気持ちになる。 言葉のまま素直に受け取ってしまうと、また自惚れてしまう。 ドキッとする事を真顔でいうからまた勘違してしまいそうだ。 「も、もう大丈夫です。ありがとうございました」 「わかりました」 「先輩は家の中に入っていてください」 居たたまれなくなって私は逃げるように家の中に入る。 これ以上一緒に居ると顔が赤いのが先輩に分かってしまう。 私は廊下をダッシュして浴室のある部屋のドアを勢いよく閉めて鍵をかける。 (はやくシャワー浴びよ) 水分で重くなったパジャマを脱いで、シャワーを浴びる。 いつもより熱いお湯を頭から被った。 (私、もしかして先輩のことが……) 先輩の事が気になるのも、がっかりしたり嬉しくなったりするのも。 胸が痛くなったり嬉しくなったりするのも。 この答えで全部説明できてしまう。 (でも先輩はお母さんとの約束を守っているだけ) 冬馬先輩ははっきり言った。 それはもう疑いようがない事実だ。 (今はあまり考えないようにしよう) 私はシャワーのコックを捻って止める。 体を拭き、置いてあった部屋着に着替えてドアを開ける。 「愛菜」 後ろから話しかけられて振り向くと、すぐ目の前に先輩が居た。 私は身構え半歩下がる。 「先輩。な、何かな」 「時間がありません」 「時間?」 「はい。このままでは遅刻してしまいます」 私は一番近くにある居間まで行って時計を確認する。 すぐに家を出ないと間に合いそうに無い。 「私、着替えてきます。先輩は一足先に行っててください」 二階に上がって大急ぎで制服に着替える。 携帯と鞄を持ってバタバタと階段を下りると、玄関で先輩が立っていた。 「冬馬先輩どうしてまだ居るの?」 「愛菜を待っていました」 「先に行っててよかったのに。先輩まで遅刻してしまうよ」 「急げば間に合います。行きましょう」 「うん」 先輩は何も持たずそのまま外に出ようとする。 「ちょっと待って、先輩」 「はい」 「振りだけでもいいので、これをさしてください」 お父さんが使っていた予備の傘を先輩に手渡す。 冬馬先輩は傘を暗い空に向かって広げた。 「これでよろしいですか」 「うん、大丈夫。雨の時は傘を差さないと変った人に見られてしまうからね」 「わかりました」 「じゃあ急ごう。猛ダッシュでね」 玄関の鍵を閉めるのを待っていたように、先輩が私の手を握る。 一瞬ドキッとしたのも束の間、冬馬先輩にズルズル引きずられる。 「せ、先輩」 「愛菜が言うように走らないと間に合いません」 「わかったよ」 (冬馬先輩についていかなくちゃ) 先輩のおかげで雨が勝手によけてくれるから大分走りやすい。 けど傘を差したままは晴れのようにはいかない。 すごく疲れるし、道が悪いせいか何度も足がもつれそうになる。 「この速度を維持すれば学校の始業に遅れないで済みます」 「結構、速いね」 段々息も上がってくる。 かなり走ったところで、赤信号に捕まった。 「はあ……はあ……」 「愛菜、苦しそうですが大丈夫ですか」 「うん……へい……き」 「そうですか。あと少しですのでがんばってください」 青になると先輩はまたすごい勢いで走り出す。 私は遅れないように必死で付いて行った。 「ここまで来れば大丈夫でしょう」 学校の少し前で先輩はようやく勢いを緩める。 相当走ったのに、息は全くといっていいほど上がっていない。 「あ……ありがとう。先輩の……おかげだよ」 私はすでにクタクタで学校までに体力を使い果たしてしまった。 「僕は何もしていません。愛菜の頑張りで間に合ったのです」 先輩はそう言うと、手を握ったまま歩き出す。 (あっ、この手……) 「あの先輩」 「何でしょうか」 「手を……」 「手ですか」 「手を離して……ほしい」 冬馬先輩は私とつないだ手をジッと見る。 そしてゆっくと手を離した。 「これでよろしいですか」 「うん」 私達は校門をくぐり校庭までやってきた。 「それじゃ冬馬先輩、ここで」 「はい」 「昨日約束したとおり、放課後は三年生の方へ手伝いに行きますから」 「ではあなたの教室まで迎えに行きます。待っていてください」 「うん。お願いします」 それぞれ別々の下駄箱へ歩き出す。 私は傘を持っていない方の手を見つめる。 (まだ先輩と握っていた感触が残ってる) 冬馬先輩はきっと何とも感じていないのだろう。 私だけが強く意識してしまっている。 (急ごう。ホームルームに間に合わなくなる) 私は急いで教室に向かった。 教室には隆も一郎くんも香織ちゃんもいる。 席についたと同時にチャイムが鳴った。 その後は普段どおりの授業を受けていく。 そして昼休みになった。 昨日から考えていたことを行動に起こす。 「少しいいかな、一郎くん」 皆がご飯を食べ終え、教室で談笑したりしている。 その中で一人本を読みふけっている一郎くんに話しかけた。 「どうした大堂」 「昨日、冬馬先輩から色々聞いたよ」 一郎くんは読みかけの本を机に置く。 ずいぶん難しそうな本だ。 「それで君はあいつと一体何を話した」 冬馬先輩の名前で一郎くんの眉間に皺が寄っている。 やっぱり相当嫌っているみたいだ。 「一郎くんと修二くんが鏡って呼ばれていること。私が巫女の生まれ変わりって事も話したよ」 「そうか」 「あと私の能力や組織の事も少し分かったよ」 「よかったな。ずっと知りたがっていた事だろう」 「私の力の封印を解くには鏡も必要だって教えてくれた」 「それであの男に封印を解いてもらえと促されたのか」 「ううん、逆。力を求めるなと釘を刺されたくらいだよ」 「そうか」 一郎くんの眉間が少し緩む。 「私が私でなくなる可能性があるからだって」 「その通りだ。神器が封印を解いていけば大堂は無事では済まないだろう」 「でもそれって大丈夫な可能性もあるってことだよね」 「確かに可能性はある。だが、俺も神器の封印を解く事は薦めない」 やっぱり冬馬先輩と一郎くん達は目的が一緒なのかもしれない。 「でもこのままじゃ……」 「それで大堂は俺に何を言いに来た。あいつと共闘しろというのか」 「ううん、違うよ。私に協力して欲しい。子供の頃に持っていたっていう力を元に戻したいんだ」 (守られるばかりじゃ嫌だから) 「元の力を戻すだけなら自我を失う可能性は低いが」 「だったらその方法を教えて」 「封じた勾玉の力が必要だ。だが俺も勾玉は誰だか特定できていない」 「そっか。もしかしたら一郎くん達なら知っているかもと思ったんだけど」 (残念だな) 「ただ方法が無いこともない」 「え? 本当に?」 「君の母親が記憶を消したように、大堂の記憶を探り出せば勾玉が特定できるかもしれない」 「それは……」 「子供の大堂は勾玉に会っているはずだ。その記憶を思い出せば誰だか分かるかもしれないな」 「なるほど。でもどうやって?」 「退行催眠、平たく言えば暗示の一つだ。上手くいくかは分からないがな」 (お母さんみたいに暗示をかけられる人か) キーンコーンカーンコーン 話の途中でチャイムが鳴る。 「少し希望が出てきたよ」 「そうか。これは忠告だがあの男に深入りするな」 「うん、ありがとう」 (やっぱり一郎くん達と冬馬先輩の溝は深そうだな) どうにか和解できればいいのだけど、今は無理そうだ。 私が間に入っても昨日のようになるだけだろう。 午後の授業が終わって片づけをする。 文化祭も間近に迫ってきたから、みんな慌しくしている。 「おい、愛菜」 教室のドアに居た隆が私を呼んだ。 「何?」 「お前にお客さんだと」 廊下には冬馬先輩が立っている。 約束どおり迎えに来てくれたようだ。 「ありがとう。今行く」 教科書を入れた鞄を持つと、教室を出る。 そこで腕を掴まれた。 「ちょっと待て、愛菜」 「どうしたの? 隆」 「春樹は戻ってきたのか?」 隆は小声で尋ねてくる。 「ううん、まだ。学校には風邪ってことにしてあるけど」 「アイツ、本当に行っちまったのか」 「わからない。けど昨日も戻ってこなかったよ」 「春樹の奴、昨日の電話からして本気なのかもな」 「心配だし早く帰ってきて欲しいんだけどね」 (隆も心配だよね) 隆はふぅとため息を吐く。 「まぁどうにかなるだろ。あれでしっかりした奴だからさ」 「うん」 「お前がそんなんでどうする。一応姉なんだろ」 私の顔を覗きながら、隆が苦笑する。 きっと今の私は笑ってしまうほど暗い顔をしているのだろう。 「何かあったらすぐに連絡するね」 「ああ、いい連絡待ってるぜ。それより御門先輩待たせてるんだろ」 「これから三年の手伝いに行くんだ」 「そうか。引き止めて悪かったな」 「ううん。ありがとうね、隆」 私は隆に手を振る。 すると冬馬先輩がゆっくり私に近づいてきた。 「隆さんとお話されていたのですね」 「うん、春樹のことを心配していたよ」 「春樹さんは必ず助け出します」 「よろしくお願いします。でも今は三年生のお手伝いでしたよね」 「はい。では行きましょう」 三年の有志による文化祭の出し物を手伝いに行くらしい。 冬馬先輩が気晴らしに提案してくれた。 後輩の私が三年生ばかりの場所に行くのは、正直気晴らしどころではない。 「ここです」 空き教室に先輩は入っていく。 私は小さくなりながら冬馬先輩の影に隠れて後を追う。 中には数人居て、生徒達が書類の整理をしていた。 その中の一人が冬馬先輩を見つけると近づいてきた。 「よう御門。手伝いの後輩を連れてくるって言っていたが、それがこの子か」 三年生の男子生徒が冬馬先輩に尋ねた。 「二年の大堂愛菜さんです」 「よ、よろしくお願いします」 私はお辞儀をして挨拶をする。 きちんと話したつもりだったのに声は蚊が鳴くように小さくなってしまった。 「そんなに緊張しなくていいさ」 「……はい」 「うちは進学校だから集まった三年はたったこれだけしか居ないんだよ」 教室全体を合わせても20人にも満たない。 「三年生の有志が集まったって教えてもらいました」 「推薦で内定もらってる奴や進学を諦めた奴、あとお祭り好きくらいだからな。まぁ暇人たち集まりだ。 まず書類の整理をした後、雨の中で申し訳ないけど御門と買出しに行ってくれるかな」 「わかりました」 プリントを一枚一枚取って冊子を作っている最中のようだ。 印刷には学年と組、そして出店の種類とメニューが書いてある。 「その紙はメニュー表だよ。うちはレストランをやるんだ」 「そうなんですか」 「といっても他所が出店したメニューをただデリバリーするだけなんだけどな」 さっきの男子生徒が教えてくれる。 きっと中心人物の人なのだろう。 「うちの文化祭には子供やお年寄りも来る。そういう人が休憩もできる場所も必要だからと思ってね」 「いい考えだと思います」 「50円頂いて代わりに買ってくるってシステムなんだ。 そして集めたお金は少ないかもしれないが学校の運営に使ってもらうつもりだ。君達後輩のためにね」 (三年生は春には卒業だもんね) 三年生の多くは受験のために冬には自由登校になる。 これから先、先輩達の姿を見ることは少なくなるだろう。 しばらく与えられた作業に没頭する。 そうしている内に中心で指揮をとっていた人が教室を出ていった。 「そういえば御門くん。今朝、連れて来た後輩の子と登校してなかった?」 そのタイミングを見計らっていたのか、ホチキス止めをしている女子生徒が冬馬先輩に話しかけてきた。 「はい。愛菜と登校しましたが何か」 「やっぱり? 手を繋いでたし、下の名前で呼ぶって言うことは……やっぱりそういう事?」 女子生徒は身を乗り出して冬馬先輩に尋ねている。 いかにも興味津々という感じだ。 「そういう事とはどういう事でしょう」 「そんなの彼氏と彼女、恋人同士に決まってるじゃない」 「だよねぇ」 別の女子生徒も加わって何だか盛り上がっている。 (冬馬先輩……大丈夫かな) 私は心配になりながら見守る。 「勘違いされているようですが、僕と愛菜はそのような関係ではありません」 「えーそうなの?」 「じゃあ二人はどんな関係?」 女子生徒からさらに追求されている。 このままでは話がややこしくなりそうだ。 「愛菜は僕の主です」 (と、冬馬先輩……) 嫌な予感が的中する。 どうすればいいのか判らず助け舟を出すことも出来ない。 「あるじ? 何それ」 「まさか執事とかがご主人様~っていうやつ?」 女子生徒達は顔を見合わせる。 そして大笑いする。 「御門くんってやっぱり変だよね」 「ウケる。その返し斬新すぎ」 私はホッと胸をなでおろす。 どうやら冗談だと受け取ったようだ。 「じゃあ後輩ちゃんに聞くだけだし。ええっと大堂さんだっけ」 「は、はい……」 「転校して間もない御門くんとどうやって知り合ったの?」 「二人はやっぱり付き合ってるんだよね」 冬馬先輩では話にならないと判断したのか、今度は私に話を振ってきた。 「ええっと……」 本当のことなど言えるはずもなく、私は口ごもる。 「教えてよ。ねぇねぇ」 「言うの嫌? 別に減るものじゃないしいいでしょ」 「隠すことないじゃん」 (ど、どうしよう) 「愛菜、行きましょう」 冬馬先輩が私の手を掴む。 「と、冬馬先輩」 「僕達は買出しに行ってきます」 そう言って冬馬先輩は教室を出て行こうとする。 「ちょっと待ってよ」 「まだ話が終わってないんだから」 女子生徒達が止めに入ろうとした瞬間、その内の一人が飲んでいた缶ジュースが倒れた。 飲みかけのジュースがみるみる机に広がっていく。 「わっ!」 「何やってんの。せっかくのパンフが濡れるじゃない」 「ごめん、早く雑巾貸して」 「もっと雑巾いるかも。バケツも持ってきて」 教室中がちょっとした騒ぎになってしまった。 「今のうちです」 「うん」 冬馬先輩に手を引かれ、教室を離れる。 しばらく走って、私は立ち止まった。 「ここまで来れば大丈夫かな」 「はい」 「あの騒ぎ……もしかして冬馬先輩の仕業なの?」 「そうです」 「やっぱり……」 倒れたとき、誰も缶には触れていなかった。 窓も閉まっていて風も無いのに勝手に倒れたのを見た。 冬馬先輩が力を使った以外、考えられなかった。 「缶の中に入っていたジュースに少し力を加えました」 「先輩の力って水以外もいいんだ」 「はい。液体なら大体いけると思います」 (私が困っていたのは確かだけど……) 「学校で力は使わないでください」 「周防にも以前同じことを言われました」 「周防さんは冬馬先輩が心配だから言ったんだと思うよ」 「はい」 「私も心配だよ。だから極力使わないって約束してください」 「わかりました」 「でも……助けてくれたのは嬉しかったよ。ありがとう、冬馬先輩」 (私のために使ってくれたんだもんね) 私達は靴を履き替え、校門で待ち合わせる。 お父さんが使っていた傘を差した冬馬先輩がやって来た。 「ここに預かった買出しリストがあります」 冬馬先輩は紙を私に見せる。 「ガムテープとメモ帳、紙コップと割り箸とパーティーモールと折り紙とクリアファイル。 100円ショップでいけそうだね。この道を抜けた大通りの先にあるよ」 店の場所を知っている私の先導で歩いていく。 先輩はすぐ横を歩いている。 「ところで先輩はどうして文化祭に参加しようと思ったんですか?」 あまり他人に興味のなさそうな先輩がわざわざ参加する理由がわからなかった。 三年生には全く参加しない人の方が多い。 性格的にもお祭り好きからはほど遠いのに。 「それは愛菜に言われたからです」 「私?」 (私、何か言ったっけ) 「この前、学校はいい所だから他人とも関わりを持ったほうがいいと教えてくれました」 (あっ、そういえば) 私がクラスの出し物の準備をしている時、冬馬先輩が手伝ってくれた。 その時に言った気がする。 「思い出したよ。それで参加することにしたの?」 「偶然同じクラスの者が参加者を募っていたので始めることにしました」 「さっき説明してくれた人?」 「はい」 「それでどう? 参加して良かった?」 冬馬先輩はしばらく考える。 「正直、参加して良かったのか分かりません」 「そうだよね。まだ準備だけだし」 「先ほどの女子のように文化祭とは関係の無い詮索をしてくる者もいます」 「色々な人がいるのが学校だから」 「ですが悪くないとも思えます」 「どういう風に悪くないのかな?」 私の質問にまた先輩は考える。 「文化祭が近づくにつれ学校全体が活気付いています。皆が成功させようと一つになっている」 「そうだね。私も成功させたいし」 「そういった空気も活動に参加していなければ気付かないままでした」 先輩なりに何か掴みかけているのかもしれない。 「うまくいくといいね、文化祭」 「はい」 「それにはまず買い物しないとね」 話しているうちに100円ショップに着いた。 私達は沢山並ぶ品物の中から必要な物を探していく。 店員さんに尋ねながらなんとか目当てのものを見つけていった。 「これで全部揃ったかな」 「はい」 冬馬先輩の両手のかごには品物が一杯入っている。 「結構な荷物になっちゃったね」 「お金は僕が預かっています。会計を済ませてしまいましょう」 「そうだね」 レジに行く途中、小物売り場で気になる髪留めを見つけた。 月と星の飾りのついたシンプルだけど素敵なヘアピンだ。 「これ、いいかも」 「気に入ったのですか?」 「うん。前髪が目に掛かるし、買っていこうかな」 「ではこれは僕が払います」 「いいよ。私のものだし100円くらい持ってるから」 「手伝って頂いている御礼です」 冬馬先輩は私が持っているヘアピンを取るとレジに向かってしまった。 私はその後を付いて行く。 文化祭に必要な物には領収書を書いてもらった。 私が買おうとしていたヘアピンは結局冬馬先輩が払ってしまった。 「お待たせしました。こちらが愛菜のです」 私は小さな袋を手渡される。 「本当にいいの?」 「贈るならばもっと上等なものでなくてはいけませんが」 「ううん、十分だよ」 誕生日でもない日のプレゼントなんて数えるほどしか貰ったことがない。 特別の日でないからこそ特別な感じがする。 (なんでだろう。すごくうれしいな) 店を出た軒下で、私は買ったばかりのヘアピンを髪につける。 「どうかな」 「少し曲がっています」 先輩の手が静かに伸びてくる。 長い指の綺麗な手がすぐ目の前にある。 「直りました」 「うん、ありがとう」 「愛菜自身が選んだだけあってよく似合っています」 「えへへ」 思わず照れ笑いをしてしまう。 先輩も心なしか満足そうだ。 「では行きましょう」 そう言った冬馬先輩は片手に傘をさし、もう片方の手にすごい量の買い物袋を持っている。 「ちょっと待って冬馬先輩」 「どうかされましたか」 「荷物たくさんあるし、半分持つよ」 「重いので僕が持ちます」 「二人でお使いに来たのも荷物を持つためだと思うよ」 「僕は平気です」 「でも……」 (持つって言っているのに……) 「あなたに荷物を持たせる訳にはいきません」 「気にしないで。私だってそれくらいなら持てるから」 「いいえ、駄目です」 (頑固だなぁ) 「じゃあ私の傘に冬馬先輩が入ってください。そうすれば両手が使えるから」 「愛菜の傘にですか?」 「うん。どうぞ」 私は先輩に向かって傘を差し出す。 すると先輩は素直に傘を閉じて私の方に入ってきた。 「ちょっと狭いかな」 「いいえ、大丈夫です」 「じゃあ行こうか」 冬馬先輩が力を使っているのか、濡れることはない。 歩幅が違うけれど、冬馬先輩が私に合わせてくれている。 「愛菜、腕が疲れませんか」 「平気だよ。私より冬馬先輩の方が大変だもん」 身長差がある分、私が腕を上げないと冬馬先輩が屈まなくてはいけなくなる。 そうならないよう気を使いながら歩いていく。 「今まで気づきませんでしたが、愛菜は小さいのですね」 「冬馬先輩は普通より背が高いしね」 「愛菜はもっと大きいと思っていました」 「そうかな? 私は平均的な身長だよ」 「神に選ばれた特別な存在だから実際よりも大きく感じていたのだと思います」 「私はごく普通の高校生だよ」 こうやって冬馬先輩がすぐそばに居るだけで緊張する。 すごい人だったらこんな些細な事で鼓動が早くなったりはしない。 「僕もただの高校生でいる事が許されるのでしょうか」 「制服を着て文化祭の準備もして、冬馬先輩はどこから見てもただの高校生だよ」 「見た目はそうですが」 「そうだ。冬馬先輩も普通の高校生になればいいんだよ」 「どういう事でしょう」 「力を使わなければいいんじゃないかな」 「でもそれでは愛菜が濡れてしまいます」 「構わないよ。傘も差してるし」 「本当に大丈夫でしょうか」 「一度頭を空っぽにして挑戦してみて」 「では失礼します」 先輩が言った途端、雨が私と冬馬先輩の肩を濡らし始める。 私が思っていた以上に、強い雨が降っていたようだ。 「つ、冷たい!」 「すべての力を解きました。これで僕はただの高校生です」 「ふふっ。少し冷たいけどこの方がいいよ」 「そうでしょうか」 「これが素の冬馬先輩なんだね。いいんじゃないかな」 「はい」 「冬馬先輩の肩、濡れてるよ。もっと傘に入らないと」 「愛菜も濡れています。僕の方へ寄ってください」 二人で身を寄せ合って、小さな傘に無理やり収まろうとする。 けれどお互い遠慮があるのか上手くいかない。 肩だけじゃなく足元にまで雨が染みてくる。 そんな状況なのに、不思議と不快には感じなかった。 「愛菜、楽しそうです」 「どうしてだろう。すごく楽しいんだ」 「僕も嫌ではないです」 「だよね。雨って案外いいものなのかも」 憂鬱で嫌いだった雨なのに傘を叩く音が心地いい。 お互い触れ合う場所は、その温かさまで伝わってきた。 子供の頃に感じたワクワクと先輩に対してのドキドキが一度にやってくる。 自然と笑いがこみ上げてきた。 「ふふっ。こんな雨だし私達しか歩いてないよ」 「まるで僕達だけの世界のようです」 「本当だね」 「愛菜は特別な力など使わなくても、雨の鬱屈した世界まで一変させてしまうのですね」 「何か言った?」 「いいえ。もう少しで学校です、急ぎましょう」 「うん!」 私達は駆け足で学校へと戻っていった。 次へ冬馬631~640
https://w.atwiki.jp/stprwith/pages/62.html
前編 解放条件 必要なデータ数 報酬 きっと夕日のせいを入手する 299.185KB 無償ベリー×50 後編 解放条件 必要なデータ数 報酬 ストーリーキーを10個使用する前編を読むきっと夕日のせいを入手する 0KB 無償ベリー×150
https://w.atwiki.jp/dynamitemirror/pages/229.html
監督:なしだ 選手会長:げんじ キャプテン:しだ 選手データ(ドリーグでは投手が投手以外の内野守備につくと内野適正が3下がります) 控え投手の野手能力 選手名 長 ヒ 巧 足 肩 内 外 捕 まみ 4 3 3 3 6 4 1 1 かもた 3 3 2 3 5 3 3 3 ミニライオン 3 4 2 2 6 3 1 1 まつりユウ 4 5 3 4 6 5 1 1 実評価 打撃力★★ =守備力との兼ね合いで変わってくる。長距離打者が1、2人しかいないが、打線はそこそこつながる。 機動力★★★ =地雷が2人(実質的に1人)いるが、それ以外は悪くない。 投手力★★★★ =のりたまが強力で、中継のピッチャーも及第点以上。 内野守備★★ =ふぜだの弱体化が痛い。遊撃もびも遊安を許すことがしばしば。 外野守備★★★★ =外9はいないが、外8が3人いて、強肩のもかじまもいるので平均以上。 スタメン考察 スタメン推奨選手 選手名 守備位置 適正 肩力 考察 もかじま 右 7 9 俊足巧打で強肩。攻守で活躍する。 ウィーウィー 一 5 9 東北の大砲。鈍足に注意。 もび 遊 8 7 攻守に無難。外す理由が特にない。 まつりカズ 中or三 8 8 外野守備がいい。外野が飽和になったら、三塁を守ることも。 にじりさら 中or左 8 7 ヒの高さと足9の俊足はリードオフマンにふさわしい。守備範囲も広く、ぜひとも使いたい。 捕手候補 選手名 適正 肩力 考察 しだ 8 7 正捕手。攻守に安定する。 あたち 7 8 基本的には被代打要員。 一塁手候補 選手名 適正 肩力 考察 ウィーウィー 5 9 一塁推奨。強肩が無駄になるが、一塁なら十分な守備力。 げんじ 7 6 守備重視なら。 二塁・遊撃手候補 選手名 適正 肩力 考察 もび 8 7 遊撃推奨。これ以上の選手がいない。 ふぜだ 8 7 二塁候補。基本はこちら。 いまれ 7 7 二塁候補。打撃重視なら。 三塁手候補 選手名 適正 肩力 考察 いまれ 7 7 ヒが高く打ちやすい。守備も及第点。 ごのう 7 7 いまれよりわずかに足が速いが、ヒが低いので、打ちにくいと感じるかもしれない。 ウィーウィー 5 9 一塁にげんじなどを使うなら。いくら強肩でもこの適正では厳しい。 まつりカズ 6 8 中堅オコワで、機動力重視の場合は。守備力はウィーウィー以上いまれ以下。 外野手候補 選手名 適正 肩力 考察 もかじま 7 9 右翼推奨。強肩で走者の進塁を阻む。 まつりカズ 8 8 中堅候補。守備力があり、俊足。 オコワ 8 8 中堅候補。さらに機動力を求めるなら。守備力はまつりカズと同じ。 にじりさら 8 7 左翼推奨。ヒットが打ちやすい。左翼としては、十分の守備力。 しめうち 6 6 左翼候補だが、にじりさらに勝っているのは、長だけである。 ぺペーロ 6 7 左翼候補。長打力重視ならありうる。守備は左翼としたら平均的。 具体的なスタメン例 バランス重視型捕:しだ、一:ウィーウィー、二:ふぎな、三:いまれ、遊:もび、左:にじりさら、中:まつりカズ、右:もかじま コメント欄 これより前のコメントはコメント/東北2016
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/33.html
171~180 181 ②5年前 私が小学6年生、春樹が小学5年生。 あの頃はまだ、私と春樹の身長は同じくらいだった。 私は中学に上がってすぐに身長が伸びなくなって春樹に追い越されたのだ。 (そういえば、春樹は最初再婚に反対してたんだっけ…) 当時のことを思い出す。 春樹に最初に会って言われたのは、『お前らなんか必要ない!』という言葉だった。 そのときはショックで、私は泣いてしまったのだ。 後から知ったことだけれど、義母は前の夫の暴力が原因で離婚していて、そんな義母を見て育った春樹は父親という存在を疎ましく思っていたらしい。 当時のことを春樹は汚点だというけど、義母を守るための言葉だったって父も私もわかっている。 それに、そんなすれ違いも1週間もすれば消えていた。 春樹の心にどんな変化があったのかわからない。 一週間が過ぎた頃、春樹は約束してくれた。『母さんだけでなく姉さんも、父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』恥ずかしそうに、私にそう言った。 すっかり忘れていたけれど、春樹はこうして約束を守ってくれている。 「あれから5年か…」 小さくつぶやく。 そして、連鎖のように本当の母のことが脳裏に浮かぶ。 あれから5年ということは、母が居なくなってから… 1、8年 2.、10年 3、12年 182 2.、10年 もう、10年たつんだ。 実の母がいなくなった日のことは、おぼろげにだけど今でも覚えている。 寂しそうな笑顔。 「愛菜には幸せに生きてほしいから」 ゆっくりと私の頭をなでる手。 囁くような、悲しい別れの言葉。 「だから、ごめんね……愛菜」 私は曖昧な意識の中で、その全てを感じていた。 そして目が覚めたら、母はいなくなっていた。 探した。とにかく探した。 何度も、必死に。その名前を呼んで。 母が辿ったかも分からない道を走って。 涙で前が見えなくなっても、転んでも、とにかく走って。 「もう、やめよう……」 あの日の悲しい気持ちがよみがえった気がして。 ……それを追い払うように私は頭を何度も振った。 そのとき、不意に聞こえる声。 「姉……さん?」 見下ろせば春樹が寝ぼけたような表情のままでこちらを見ていた。 「どうか、したの?」 寝起きの声のまま春樹が問いかけてくる。 ①「何でもないよ」 ②「昔のことを思い出してたの」 ③「これからのことを考えたの」 183 ②「昔のことを思い出してたの」 「……むかし?」 「うん、春樹に初めて会ったときのこと、春樹にあうずっと前のこと……」 あの人は今どうしているだろうか? ふと気になった。 「どうしてるのかな……」 無意識につぶやいていた。 「……?……ぁ」 私のつぶやきに不思議そうな顔をしながら起き上がろうとした春樹が、私の手をつかんでいることに気づいて慌てて手を放した。 「ご、ごめん姉さん。毛布まで……」 「こっちこそごめんね。疲れてるんでしょ?」 「いや、平気だよ」 そういって笑う春樹に、わたしも笑顔を返す。 「ねぇ……俺に合う前のことって、姉さんの本当の母さんのこと?」 少しの沈黙の後に春樹が口を開いた。 「うん……」 「思ったんだけどさ、姉さんの母さんって行方不明になったんだよね?」 「……うん」 「もしかして……姉さんの母さんも何か力を持っていて、それが理由で居なくなったとか考えられない?」 「……え?」 思ってもみなかったことだ。 記憶の中の母を思い出す。 母は…… 1、どこにでも居るような普通の人だった 2、どこか夢見がちでぼんやりした人だった 3、とても活動的だったけれどよく転ぶひとだった 184 1、どこにでも居るような普通の人だった 「普通の人、だったと……思うよ」 10年も前の記憶。 もう写真を見なければ顔すらはっきり思い出せない。 けれど母に何か特別な力があるようには感じなかった。 普段は優しいけれど、怒るときにはすごく怖い。 どこにでもいるような普通の母親だったと思う。 「そうなんだ?力っていうのは遺伝とは関係ないものなのかな?」 「さぁ?少なくとも、父さんは普通だよね?」 「……そうだね。仕事人間だけどね」 春樹はそのまま何か考えているようだった。 「…あ」 ふと、思い出す。 1、「一郎君たちに聞いてみればいいんじゃない?」 2、「さっき隆がファントムを…」 3、「そういえば、一年生に御門君っていた?」 185 2、「さっき隆がファントムを…」 「どうしたの? 姉さん」 「あのね、さっき街で黒い影をまとった隆を見かけたんだ」 「隆さんが黒い影を?」 「うん。隆にはファントムをつくる力があるらしいの」 幼馴染の隆に、そんな恐ろしい力があったなんて事が未だに信じられない。 少し流されやすいところはあるけれど、ごく普通の高校生だと思っていた。 初めて手をつないだ時は、びっくりしたけど嬉しかったのに……。 だけど、それも私を狙う目的だったかもしれないと思うと胸が痛い。 「隆さんとこれからどうするつもり?」 「どうするって……」 「だって、姉さんと隆さんはまだ付き合ってるんだろう?」 そうだった。春樹には水野先生と隆が一緒いるところを見た話しかしていなかった。 「……私が一方的に言っただけだけど、別れたよ」 「そうか……」 「だけど、隆と一度ちゃんと話をしなくちゃいけないとは思ってるんだ」 気まずいかもしれないけど、どういうつもりで付き合ったのかきちんと隆の口から聞きたい。 もし私を狙っているなら、その目的も。 「俺は……危険だと思う。やめておいた方がいい」 ①「危険かもしれないけど、やっぱり話しておきたいよ」 ②「そうだね、春樹のいう通りにするよ」 ③「やっぱり隆と水野先生は同じ組織なのかな?」 186 ③「やっぱり隆と水野先生は同じ組織なのかな?」 「違うんじゃないか?」 「え?どうして?」 「同じ組織の人間なら、一郎先輩が水野先生を隆さんへけしかける理由がないじゃないか」 「あ…そうか」 「別の組織か、もしくは隆さんはどこにも属していないか…」 隆が水野先生の組織とは関係ないと聞いてなんとなくほっとする。 「まあ、推測だよ。でも、姉さん本当に危険なんだから、隆さんには近づかないこと!」 「……どうしても?」 「当たり前だろ!?隆さんと話しがしたいなら、ファントムを退治できるようになってからにしてくれよ?取り付かれたら大変なんだからね」 「あ、そっか、そうだよね…」 見ることはできても、ファントムを退治できないんだから、万が一取り付かれるようなことがあったら大変だ。 (でも、隆はいままで私にファントムを取り付かせようとはしなかったのよね…?) もしその気になれば、今までだって隆はいつでも私にファントムを取り付けることができたはずだ。 そういうと、春樹は首を振った。 「今までは姉さんと隆さんの関係は良好だったじゃいか。ファントムを取り付ける理由なんてなかったよ」 「……そうかな?」 「そうさ。もし水野先生が隆さんへちょっかいをかけなければ、何もしなくても姉さんは隆さんを信用してたろ?」 「そうだね、たぶん……」 「でも、これからは違う。姉さんは隆さんを不信に思ってる」 「うん……」 「自由にならないなら、自由にできるようにファントムを取り付けることだってするかもしれない」 「………」 春樹の言うことはもっともだ。 じゃあ、どうすればいいんだろう… 1.隆に近づかない 2.一郎君か修二君と一緒に行く 3.それでも一人で話しをしに行く 187 3.それでも一人で話しをしに行く 春樹に言うことは、正しい。 でも、裏切られたけれど、私はまだ隆を嫌いになれないでいた。 悔しくて、悲しいけれど他にも隆とはたくさんの思い出があるからだ。 幼い頃の隆は元気な男の子で、暗くなるまでよく遊んだ。 そんな過去からは、何かを企てていたようには思えない。 「わかったよ、春樹」 「絶対に隆さんには近づかないこと」 「……大丈夫だってば」 (ごめんね春樹。どうしても納得できないんだ) 隆が別の組織、または単独で動いているのは間違いなさそうだ。 だけど、ファントムを取り付けなかったことについて理由がはっきりしない。 操れる力があって、当時の私はそれが見えないのだから、取り付かせたほうが早い。 一郎君が水野先生に近づいていたように、もし何らかの理由があって隆も水野先生に近づいていたとしたら……。 そこに私の力を狙っている理由も隠れている気がする。 隆と水野先生を音楽室で見たときは、とにかくショックでただ逃げ出したかった。 そのせいで、ちゃんと話すらもできなかった。 また逃げ出せば、真相はいつまでも分からないままだ。 ファントムが見える今なら、新たな真相が明らかになるかもしれない。 春樹の言うとおり危険を冒すことにもなるけど……。 私は自室に戻り、携帯を手とって ①隆にメールをする ②隆に電話をかける ③やっぱり止める 188 ②隆に電話をかける 直接に会うのは危険だけれど電話なら…? 隆との付き合いは長い。声だけでも嘘をついているかどうかは大体判別できる。 短縮に入っている隆の番号を押す。 (さっきどこかへ向かっているようだったけれど…でるかな) 1コール 2コール 3コール …… 「愛菜!?」 3コール目で慌てたような隆の声。 「………」 「……愛菜から電話もらえるって思わなかった」 とっさに言葉の出なかった私にかまわず、隆が言葉をつむぐ。 「愛菜ごめん。俺、お前を傷つけてばっかりだな」 謝罪の言葉。今回隆は言い訳する気はないようだ。 「……隆、聞きたいことがあるの」 「………なんだ?」 私の真剣な声に、隆の声も真剣なものに変わる。 1、「隆は水野先生に、何がしたかったの?」 2、「隆はいつからファントムを作れるようになったの?」 3、「隆はどうして私を狙っているの?」 189 2、「隆はいつからファントムを作れるようになったの?」 「ファントム…?」 何のことだか分からない、といった感じの隆の声。ウソはついていない。 (あ、そうか、ファントムって呼び方は一郎君たちの呼び方なんだ…) 「えっと、黒い霧みたいなもやもやした…隆の周りにあるのよ」 「愛菜にも見えるのか…?いつから……」 「私は最近よ。で、隆はいつからあれを作れるの?」 私が見えるのは御門君との契約のおかげだ。けれどそれは言わないでおく。 「……いつから、と聞かれるとはっきりとは分からないとしか答えられないな」 少し考えるような間の後隆が話し出す。 「中学二年くらいからか?俺はミストの…俺はアレをミストって呼んでるんだけど…、ミストの存在を知った。それからそれを作ったり操れることに気づいた」 隆の声にウソはない。 「見え始めてしばらくして、俺が作った以外のミストが愛菜を狙ってるってことに気づいたんだ」 「え?」 思いがけない隆の言葉。 「ミストの性質は分かってる。だから必死だったよ。なるべく近くにいて他のミストを愛菜に近づけないようにするのにさ…」 隆の声にウソは感じられない。 それじゃあ、一郎君たちがウソをついているのだろうか? けれど一郎君たちにもウソをついている様子はなかった。 それじゃあ一体…? 1.隆が私を狙ってるって言うのは一郎君たちの勘違い? 2.やっぱり隆がウソをついてる? 3.一郎君たちが本当は敵? 190 1.隆が私を狙ってるって言うのは一郎君たちの勘違い? 隆の影と別の第三者が操る影を間違えているとしたらあり得る話だ。 「ねえ、そのミストは誰が操っているのかは判るの?」 「そこまでは判らない。だけど、他の誰でもなく愛菜だけを狙ってくる」 「私だけを?」 「なのに愛菜は見えてないみたいだし、こっちは大変だったんだからな」 (隆がずっと守ってくれていたって事だよね) 「愛菜にもミストが見えるようになったって事はもう影を操ることも出来るんだよな」 「ううん。私は見えるだけで、操れないんだ」 「えっ! じゃあ今まで通り愛菜のお守りは継続しなくちゃいけないって事か。まぁ、見えるようになったのなら少しはマシか」 「影の事、一度でも相談してくれればよかったのに……」 「愛菜にミストの話しても、テレビの観過ぎって笑うだけだろ」 「確かに、信じなかったかも」 そして、電話の向こう側の隆が不意に黙り込む。 隆が次に話し出すまで、私はじっと待った。 「……ヘンな影が見える事、愛菜に黙っていたせいで…誤解させて、悲しませて……その……」 「うん」 「……悪かったっていうか…」 「ううん、私こそ今までごめんね」 「でさ、電話だけじゃなんだし今から会えないか? あのファミレスで待ってるからさ」 私は…… ①ファミレスに向かう ②断る ③考える