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――――――――――――――――――――――――――――― 優しいところが好きですとか、君の眼が好きだとか。 そんなことを恥ずかしげもなく世間の方々は口にするが、まったく、笑止千万である。 「唯はそういうのに興味なさそうだよねえ」 髪を茶色に染めた貴方。 貴方は素敵な方だと思うけれども、そうやって私のことを子供扱いするたびに、私は吹き出しそうになる。 「姫子ちゃんと違って子供だから」 私がそう言ったときに見せる、母親のような笑顔が私は好きだけれども、貴方の思想はいただけない。 その後も、実のない会話が続いた。 私、平沢唯は、世間に馬鹿だと思われている。 しかし、自分ではそうでもないのではないかと思う。 何故って、私は性欲に駆られて行動するようなことはない。 なんだかんだ御託を並べても、相手が異性である以上、そこには生物的な本能が含まれているわけで、 私はどうにもそれが好きになれない。 「あ、ほら唯、お母さんが来ましたよ」 長い茶髪の姫子ちゃんが、くつくつと笑って教室の扉を指差す。 眼鏡をかけた、短髪の、凛々しい顔をした、私の幼馴染が居た。 「私、和ちゃんの子供じゃないよ」 むきになって私がそう答えると、姫子ちゃんは楽しそうに笑った。 和ちゃんを手招きして、明るい声で言った。 「真鍋さん、唯のこと宥めてよ」 それからすぐに、慣れた感覚が頭を覆った。 和ちゃんの、手。 「はいはい。唯も、あまり立花さんを困らせないのよ?」 「和ちゃんまで私のこと子供扱いして」 私がぼやくと、和ちゃんは笑った。 姫子ちゃんとは違う、落ち着いた笑い方。 「そんなことないわ」 なんとなく、そうかな、と思わせるような声だった。 どうにも気恥ずかしくなって、私は和ちゃんの頭を撫で返した。 「このこの、和ちゃんの癖に!」 「え、ちょっと、何よ」 朝から騒々しい私たちを見て、姫子ちゃんは大きな声を上げて笑った。 「では、何故Kは自殺したのでしょうか」 現代文の授業は嫌いだ。 特に、今読んでいる"こころ"、これはあまり好きじゃない。 なんだって、対して同じ時間を共有したわけでもない人達の間で起きたことを、こんな仰々しく書き立てているのか。 そんなわけで、私は授業中はもっぱら外の真っ青な空を眺めているわけだが、姫子ちゃんは案外真面目である。 今日も授業が終わった後に説教を食らった。 「あのね、唯、もう夏でしょう。もう少し授業を真面目に受けたほうがいいと思う」 外見とは裏腹に真面目な姫子ちゃん。 真面目な人は個人的に好意が持てる。 だから、彼女の意見は尊重したいが、授業がつまらないのだから仕方がない。 「いやあ、授業が始まると、そらも飛べるはずって気持ちになりまして」 そんなとぼけたことを言うと、毎度、姫子ちゃんは笑い、和ちゃんは眉をひそめる。 「ねえ、唯、もう少し真剣になりなさいな。私や憂だって、いつまでも唯の世話をしてはいられないのよ」 いつになく真剣な和ちゃんの言葉に、一瞬空気が変わったが、姫子ちゃんがあっけらかんとした声で言った。 「真鍋さん、私、私も入れてよ。私も今年一年しか唯の世話出来ないよ」 「ねえ、和ちゃん、一緒に帰らない?」 つまらない授業が終わって、私は和ちゃんに言った。 幼馴染からのお誘いを無下にしたりはしないよね。 そう思っていた。 「なに言ってるのよ、あなたは部活があるでしょうが」 適当なことを言ってサボろうと思ったが、間が悪いことに我らが軽音楽部の部長が会話に加わった。 「そうだぞ唯。梓もそろそろ寂しがってる時期だからな」 可愛い後輩の名を出されては私も折れざるを得ない。 それでも私は最後の悪あがきをした。 「でもでも、じゃあ、部活が終わってから一緒に帰ろ」 「ごめんなさい、今日は私生徒会無いのよ」 思わず肩を落とした。 本来なら、よかったねと言うべきだろうが。 「へえ、いつも忙しそうにしてるのに、珍しいね。良かったね」 姫子ちゃんが言った。 悔しいことに、こういうとき姫子ちゃんは素直だ。 「ええ、ありがとう。それじゃあ、お先に失礼するわね」 「ばいば~い」 姫子ちゃんが気だるそうにひらひらと手を振った、 姫子ちゃんに手を振り返して、和ちゃんは教室から出て行った。 「私も帰るね。それじゃあ」 余談だが、姫子ちゃんの所属するソフトボール部はもう公式戦が終わり、三年生は引退しているらしい。 私は観念して音楽室へと向かった。 私は別に部活が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。 しかし、私が和ちゃんと過ごした十年近い歳月は、それだけで全てを凌駕する力を私の中で確立している。 結局、部活の仲間も、クラスメイトも、"今のところ"いい人そうな人、なのだ。 十年経ってもいい人のままである和ちゃんとは比べようもない。 「先輩達は文化祭まで部活をなさるんですか」 軽音楽部全員で帰宅していると、たった一人の後輩が遠慮がちに聞いてきた。きっと寂しいのだろう。 みんなも同じことを感じたようで、部長が笑って言った。 「大丈夫だって、流石に今回ぐらい、さわちゃんも真面目にやるよ。私たちだって真面目にやってんだろ?」 後輩は、微妙な表情をして、くすりと笑った。 「あんまり上手くないですけどね」 そういえば、最近顧問のさわ子先生が音楽室に来ていない。 三年生の担任ともなると、流石に大変なのだろうか。 「あっ、あれ、和じゃないか」 黒髪のベースが声を上げた。 私は素早く彼女が指差すほうを向いた。 和ちゃんだった。色気のない短髪と、飾り気の無い服装は、遠くからでもそれと分かる。 「ん、じゃあな、唯」 部長が言った。 「お前、和と帰りたがってただろ。いいよ、いっておいで」 なんともいい奴だ。 今度アイスクリームでも奢る、と言って、手を振って私はみんなと別れた。 「和ちゃん、一緒に帰ろ!」 和ちゃんは、彼女には似合わない楽器店の前にいた。 手には薄いビニル袋がぶら下がっている。 「あら、唯、奇遇ね」 私は大きく頷いて、彼女が持つビニル袋に目をやった。 「CDでも買ったの?」 私が訊くと、彼女はこくりと頷いた。 「勉強の息抜きにね」 「何聞くの、和ちゃんのことだから、クラシックとか?」 和ちゃんが溜息をつく。 「どんなイメージ持ってんのよ。ほら、これよ」 和ちゃんがビニル袋から出してみせたのは、真っ赤なジャケットとピンクのジャケットの、よく分からないCDだった。 「なにこれ知らない」 「軽音楽部なのに?」 「軽音楽部なのに」 私がオウム返しをすると、前と後ろから同時にため息が聞こえた。 「赤いのはsonic youthで、ピンクのはmy bloody valentineですよね、和先輩」 ツインテールの後輩だった。 背中に小さなギターを背負って、店の前で立ち止まる。 「流石に軽音楽部ね。メジャーなバンドは大体わかるのかしら」 「ええ、シューゲイザー、オルタナティブなら、JMCとか、Dinosaur Jrとかも有名ですよね」 なんだか話が盛り上がりそうだが、私は入っていけない。 私の非難がましい視線に気づいたのか、後輩は、 「あっ、私は替え弦を買いに来ただけですので。あしからず」 と言って、店内に駆けていった。 「あら、残念ね。それじゃあ、唯、帰りましょうか」 そう言って、和ちゃんは歩き出した。私がそれに続く。 しばらく沈黙が続くが、それが苦にならないのは、ひとえに私たちが共有してきた年月のお陰だ。 「ねえ、私って子どもっぽいと思う?」 私がおもむろに話を切りだすと、和ちゃんは特に気にする様子もなく、 「どうしてそんなことを訊くのかしら」 と答えた。 「なんか姫子ちゃんが恋愛がどうのって朝、話してたんだけど、よく分かんなくてさ。私、興味もないし。 それに、恋愛ってなんだろうね。出会って数ヶ月の人を好きだのなんだの、すごく馬鹿らしく思えるよ」 私が空を見上げながらそう言うと、和ちゃんは立ち止まった。 いつになく真剣な表情で私の顔を見つめながら言った。 「全然子供っぽくないわ。そうやって、自分なりの考えを持って、それに沿って物事を見るって言うのはね、唯。 全然子どもっぽいことなんかじゃないわよ。大人になったのね、唯。」 そして、優しく微笑んだ。 テストでいい点を取るだとか、ライブが上手く行くだとか、そんなことよりも、和ちゃんに誉められることの方が、ずっと。 ずっと私を喜ばせた。 「そうだよ、アダルト唯ちゃんなのです!」 私が手でVサインを作って和ちゃんに掲げると、和ちゃんは一層優しい笑顔を見せた。 嬉しくなって、もう片方の手で同じことをしようとした。 その時、和ちゃんが急に真面目な顔になって言った。 「でもね、唯、独善的にならないように気をつけて」 それから和ちゃんは、人差し指で私の額を弾いた。 「行きましょ、唯。アイス奢ってあげるわ」 また優しい笑顔。 和ちゃんは前を向き直し、またずんずんと歩いていった。 甘えたい時には甘えさせてくれる。 私が頑張ったときには、認めてくれる。 ただそれだけのことを、十年間の歳月が私たちの間に生み出した、非言語的な領域の中で、和ちゃんはしてくれる。 頭を撫でてくれるだとか、微笑んでくれるだとか。 子供扱いもしないし、必要以上に大人として扱いもしない。 ただの、平沢唯として扱ってくれる。 そういうところが好きで、私は和ちゃんが好きだ。 やっと自分の気持に気づいて、私は顔を赤らめた。 気付かれないように、和ちゃんの後ろから抱きつく。 「こら、外でなにしてるの」 「ふふ、いいじゃん」 和ちゃんの髪の毛から、首筋から、なんとも言えない良い匂いが。 多分、恋だとか、青春だとか、そういうものの匂いがした。 「私、さわ子先生のことが好き」 4
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Top 創発発のキャラクター総合 白亜記 授業中の学校と目覚めし魔術師 授業中の学校と目覚めし魔術師 分け入っても分け入っても緑の森。時折止まって耳を澄ますが風に揺れる草木の音しかしない。 もう少し入ろうかと思ったがどうやら得物の伸ばせる距離限界が近いようだ。仕方ないので帰る事にする。 細く伸ばした得物を右手に巻きつけながら歩いた道を戻る。冬を向かえ草木は枯れているものが多いが それでも腰ぐらいまで伸びているものがあったりと道はよくはない。ぬかるみがないのは幸いだ。 しばらく歩いていると自分以外の物音がした。動きを止めて、耳を澄ます。何かが同じように分け入ってる。 やがて物音の正体を見つける。野生の猪だ。相手もこちらに気づいたのか立ち止まっている。 腰の剣を一本手に取り、ゆっくりと近づく。牙が生えているし雄だろうか。ちょっと大きい気がする。 逃げるなと念じながら一歩ずつ歩いていると好都合なことに突っ込んできた。 遠慮なく額の剣を刺し、それを支えにして後ろに飛んで回り込む。もう一本の剣を一応抜いておく。 とは言っても魔物ではない普通の動物だ。すぐにその場で倒れて動かなくなった。 剣を抜かず、持ち手に得物を巻きつけ引っ張っていく。持ち上げるには重そうだし臭そうだし仕方ない。 猪は豚の先祖だということを知った私は農作の暇を見ては狩りをしていた。 だがこの森にどのくらいの猪がいまだに生息しているかなどはわからない。下手したら魔物に食い尽くされている かもしれない。それでもあの時食べた角煮が食べたくて私は根気よく探し続けた。 そして今日のこれである。 今から夕飯が楽しみで仕方ない。私は上機嫌になりながら家へと急いだ。 「で、どうだったんだ」 「なんか焼いた肉の塊が出された……」 「まずかったのか」 「いや、うまい。うまいのだが私が食べたいのはあれじゃないんだ」 夕飯に出された肉の塊を見て、思わず私はコユキに文句を言った。 だが彼女は冷たい目で私を見て、こう言った。 「豚と猪は違います」 有無を言わさぬその言葉に私は返せず、おとなしく肉の塊をかじった。とてもおいしかった。 今回の舞台は学校だ。対象は無限桃花。性質上こういう場所で戦闘することは多い、はずだ。 歩きながら教室を覗くと同じような生徒が席に座って授業を受けている。 私の村でもこういうことはやったが年齢は結構ばらばらだった。ここでは大体同じ年齢の生徒が 三十人集められひとつの教室に詰め込まれている。ここではそれが五クラスほどあるようだ。 人というのはいるとこにはいるのだなと感心しながら対象を探していると通り過ぎた教室の ドアが勢いよく開いた。振り向くと頭がちょっとハゲかかっている中年の男性がこっちを見ていた。 「ちょっとあなた。どこから入ったんですか」 そう言いながら近づいてくる。やはりこういった施設に勝手に入るのはまずいことなのだろう。 「無限桃花という生徒を探しているんですけど」 「保護者の方ですか? 来訪者バッチはお持ちで?」 「いえ、持ってないですけど……」 「困るねぇ。最近物騒なの知ってるでしょう? キミみたいのがいるから学校もいろいろ言われるんだよ」 近づいて自分よりも年下でなおかつ不審人物だとわかったからか敬語じゃなくなり怒り始めた。 ここの世界では最近学校に不審人物がよく入り、誰かにいろいろ言われるらしい。大変な話だ。 「それで無限桃花って生徒知りませんか。たぶん二年でこの近くにいると思うんですけど」 「いや、何言ってんの。ちょっとこっち来なさい」 このぐらいになると他の教室から先生が顔を覗かせ始めた。 どうしましたと言いながら比較的体格のいい男性が寄ってくる。 中年の男が手首を掴もうとしたので咄嗟に避ける。 「あ、ちょっと、若林君。捕まえて。誰か職員室に連絡してぇ!」 だんだんと騒ぎが大きくなってくる。人を探して殺したいだけなのに。 若林君と呼ばれた若い男性が抱きつくように襲い掛かってくる。 あいにく素手での対人武術というのは知らない。仕方ないので得物を手に纏わせて腹をぶん殴る。 額に剣が刺さった猪のような声を出しながら少し後ろに飛び、ひっくり返る。思ったより効果的だ。 中年の男を見る。目が合ったので同じようにしかし先ほどより軽めに腹をぶん殴って地面に倒す。 それを見ていた生徒が悲鳴を上げて、他の教室の生徒に伝播していく。 若い女性が一生懸命統率を取ろうとしているので対象のことを聞き出そうと思ったら 「ぎゃあ」と女性とは思えぬひどい悲鳴を上げて生徒と逃げ出した。 多くの人間が我先にと逃げ出していくが対象の動きがどうも鈍い。 最初は逃げていたが立ち止まり、そしてこっちへ歩いてきている。相手もこちらの存在に気づいたのだろう。 やがて悲鳴が聞こえなくなり、先ほどまでの状況が嘘かのように静かになる。 遠くから聞こえる話し声と近くで呻く声が二つ。そして物陰に隠れて震えながらこちらを見ている生徒のひそひそ話。 無言で私の目の前に立つ彼女は一度大きく深呼吸する。 「屋上へ行こう。みんなを傷つけたくはない」 私はそれに頷き、彼女の後に従う。生徒は避難したせいで誰もいない。 階段に差し掛かると階下から階段を上る複数の足音が聞こえた。まもなく何人かの大人が現れる。 「お、おい、おまえ! うちの生徒から離れろ!」 「いや、むしろあなたたちのほうが近いんだが」 「無限! こっちに来なさい!」 一人の男性が彼女の手を掴んで無理やり引っ張る。 しかし彼女はそれを振りほどき離れると深呼吸をした。 「せ、先生、じゃない……。わが師よ! 聖戦の時は来たのだ! 我が力を持ってこの白騎士を仕留めねばならぬ!」 ピンと私に人差し指を指す。とても満足げな表情だ。 しかし先生に頭を殴られた。 「あたぁ!」 「お前は馬鹿か! こんな緊急時だというのに意味のわからんことを! 殺されるかもしれないんだぞ!」 いい機会なので会話に割り込む。 「その通りで私はそこの無限桃花を殺しに来たんだけど」 先生方の表情に衝撃は走る。というか無限の表情にも衝撃が走っている。 「ふ、ふははははは! き、聞いたか! あいつは我との戦いを所望している! や、やらなければいけにゃいのだ!」 一生懸命虚勢を張っているのがわかる震え声。そして最後に噛んだ。 しばし間が開いた後、さらに二股の槍を持った先生が加勢に来た。 「退いてください! うおおおおおお!!」 槍を持った先生は私を見るや否やそれを前に出して突撃してきた。 どうやらあの槍は刺すと言うよりも二股の開いている部分で相手の体を押さえ込むものらしい。 こうなっては仕方ない。得物を動かして槍の先端を切り落し、持っていた先生の首も切り落す。 体が倒れ、廊下が血で濡れる。相手が反応するよりも早く片っ端から首を撥ねていく。 返り血を浴びて、放心状態の彼女に近づく。 「屋上へ行こうか。この階段を上ればいいのか?」 ふるふると震え、言葉にならない言葉を口から漏らすだけで答えがもらえない。 屋上というくらいだし一番上に行けば問題はないだろう。私は彼女に立つように促す。 しかしいつまでたっても立たない。 彼女の座り込んでいる部分を見て納得した。なるほど、腰でも抜かしているのだろう。 腕が汚れるが我慢することにして彼女の足と背中を持って抱き上げる。 とても軽い。このぐらいの年齢の子というのはこのぐらいなのだろうか。 そのまま持ち上げて上まで行き、屋上の扉を蹴りあけた。 暖かな日差しとキンとした冷たい空気。とても冬らしくていい。 持っていた彼女を地面に下ろし、ハルトシュラーを呼ぶ。 「なんだ?」 「むしろそれはこっちが聞きたい。この少女はなんだ。 寄生もされていなければあの程度で失禁するほどの軟弱者だぞ」 「普通の人間なら横にいた人の首が飛んだらそのくらいはすると思う」 「私は普通の人間なんてどうでもいいんだよ。 寄生対象ならまだしもこんな普通の人間と私を戦わせてどうするんだ。戦いにもならんぞ」 「落ち着きたまえ。彼女が怯えているだろう」 言われてみると涙目になって震えている。さっきとほとんど変わりは無い。 もう一回じっと見つめるが寄生の影は見えない。 「今の彼女の戦闘力は無いに等しい。ただ彼女には恐ろしいまでの潜在能力が秘められている」 「潜在能力?」 ハルトシュラーがふよふよと彼女に近づいていく。見えているらしく彼女の目線がハルトシュラーを追う。 彼女の目の前まで来るとハルトシュラーは黒いノートをどこからともなく取り出した。 「えーっと、天界の大天使が他の天使と愛する者を守るための戦いをして、敗北。片方の翼を失って天使は 堕天使となって地上に堕ちた。そこへ愛する者にそっくりな人間の娘に出会う。やがて二人が愛し合い 生まれた子供がキミと」 何の話だろうか。天使というから神話というやつか? しかし最後にキミと言ったし実はこの娘が 天使と人間の子供だとでも言うのだろうか。 先ほどまで血の気もなかった彼女の顔が徐々に赤みを帯び始めていることに気づいた。 「しかし戦争に巻き込まれキミは生みの両親と離れ、異次元へと飛ばされてしまった。 肉体も失い魂だけの存在となっていたキミは丁度そのころ生まれた今のキミの体に付着し現在に至る。 本来の人格とは二重人格のような関係でお互いに支えあいながら生きてきたが自分に異界の力があることに 気づいた本来の人格がそのことについて問いただして」 「ぎゃあああ!! わかった! わかったからやめて!」 突然叫びだしてハルトシュラーの手元のノートを奪い取る。 「なんで持ってるの!」 「私に掛かれば造作もないことだ」 そう言うと再びノートを取り出した。 無限はハルトシュラーに襲い掛かりそのノートも奪取する。 「高校一年生だっけ? うん、まぁ……」 「哀れみの目で私を見るな! 見ないで!!」 「さっきまでの威勢はどこいったのやら」 「だって……」 ノートを抱きながら彼女がちらりと私を見る。 一方の私はなにがどうやらさっぱりで傍観しているだけだ。 「こんな本物だなんて思わなかったから……」 先ほどの光景を思い出したのか再びしゃくりあげながら泣き始めた。 どんな本物かはわからないが先ほどまでの威勢が演技だったのは私でもわかる。 「確かにキミは天使と人間の子供ではない。それは確かだ」 「言われなくてもわかってる!」 「だけど違うのはおそらくそこくらいだろう」 浮いていたハルトシュラーが地面に降り、座り込んでいる彼女の前に立つ。 「キミの潜在能力を考えれば将来的には別次元へと自由に行き来出来るほどの魔術師にはなれる。 その力を覚醒させることが出来るかどうかはキミ次第だ」 「魔術師……? 私が……?」 「別に信じなくてもいい。信じなければここでそこの白いのに殺されるだけだ。 もしもここから生き延びたければ己のうちにある力を信じてみるんだな」 そう言うと彼女の頭にぽんと手を乗せ、子供をあやすように撫でた。 言いたいことを言い終わったのかふよふよと浮いて、私に近づいてくる。 「後は任せた」 「任されるようなことはなさそうだが……」 さっさと殺すだけだ。獲物を剣に変え近づく。 すると座っていた彼女が立ち上がり、深呼吸して私を見る。 「私は何も偽らない。ありのままの私を受け入れ、信じる!」 「そうか。死ね」 地面を蹴り、剣を振るう。何も持たず構えてもいない彼女には避けられまい。左から首を切り落して終わり。 当たる寸前、彼女の姿がゆがんだ。もやのようになった彼女を斬る。手応えがない。 もやは風に吹かれ消えていった。本体はさらに何歩か置くに立っている。 瞬間的に幻影を出して本体は後ろに下がったのか? 何にしろもう一度斬ればいい。 再び間合いを詰めて斬りかかる。だがそれも歪み、消えていく。 周りを見渡すと何人もの彼女がこちらを見ている。 「無駄だよ。あなたは本体にたどり着けない」 そのうちのひとつが喋っていたので斬る。当然手応えはない。 「ふふふ、私にこんな力があったなんて」 「ずっと夢物語、空想の中の話が」 「こんな身近にあったなんて」 声を出す個体から斬っていくが全て消えていくだけだ。 先ほどまで顔を赤くして悶えていた人間と同じとは思えない。 私は斬るのをやめて昇降口の上へと飛び乗る。 数は二十には満たない程度。ただ私のほうを見上げているだけで先ほどから攻撃はしてこない。 この中に本物がいるか、あるいは既に別の場所へ移動しているのかはわからない。 「私の想像した魔術とは少し違うけどこういうのも悪くない」 喋っている個体を他のと見比べてもおかしいところは無い。 「風の囁き。太陽の煌き。世界の瞬き。全てが私に語りかけてくれる」 別の個体が喋りだす。しかし何か不自然に感じる。 コンクリートを得物で砕き、射出する弾を作る。 「創造する。発現する魔術を。想像する。水の揺らめきを」 喋っていた個体を撃とうとして違和感の正体に気付く。 声が出ているのにも係わらず口が動いていない。 そしてその個体には影がない。慌てて他の個体を見る。 どれも影が見当たらない。いや、一体だけ影がある個体がいる。 「満ちる。水が。その身をもって世界に満たす。全ての生命が生まれた水が」 影あり個体に弾を撃ち込む。だが、影がなくなりあたったものの霧のように消えていった。 足元が断続的に揺れる。目線を移すと校舎が水に浸かり始めていた。 他の場所を見る限り、おそらく魔術の範囲は学校内のみ。問題はあの水がここまで来たときだ。 仮にここが水で満たされた場合、私はそのまま溺れるとしたら。 影ありを探し出し構える。しかし今度は撃つよりも早く影がなくなる。 「どうやら私の幻には弱点があるようだけどもうすぐそれもなくなる」 音も無く静かに水が屋上の床に満ちていく。既に校舎は水の中。 影は水に埋もれ、消えてしまった。目を凝らせば見えるかもしれないがもうそんな時間は無い。 片っ端から撃つが本物には当たらない。そもそも二十近く個体がいるのだ。相手が個体同士を 瞬間移動出来る以上は一体一体相手にしている限り当たることはない。 長い得物を振り回したとしても全員をいっぺんに仕留めるのは不可能だ。 水は既に私の膝まで達し、止まることなく増水していく。冬だと言うのに水の中はほんのり暖かく軽く感じる。 覚悟を決めるしかない。私は水が胸元がまで来たとき自分からその中へ飛び込んだ。 体がゆっくりと沈んでいく。浮かないところから考えると普通の水ではないようだ。 水面を通して水中を照らす光は弱く、影を作るほどにはならない。 数は先ほどと変わらない。さてどうしたものか。 「走れ! 水の刃よ!」 水中に響く声と共に何かが水を切って飛んできた。得物を盾にして防御する。 違う個体が手を振り上げる。するとその軌跡を模った何かが飛んできた。 先ほどの台詞から考えると水中に刃を作り飛ばすと言った攻撃のようだ。 飛ばした刃は速度も早くはなく、水が歪んで見えるので防御するのは容易い。 そう思っていたら今度は二つの個体が手を振り上げた。 盾で身を隠しながら前に進む。水中なのに地上とさほど変わらない早さで動けた。 衝撃がひとつ盾にぶつかる。もうひとつは私の後ろを通っていた。 素早く剣に変えて、手近にいた個体に攻撃を加える。振るう剣も軽い。 手応えはなかったが地上と同じように動けるようだ。ただ宙に浮くとゆっくりと下降する。 口に含んだ空気を少し吐き出す。息を吸いに一度上へ行こうかと水面までの距離を確認して愕然とした。 辺りを照らす光は変わらないというのに水面は遥か上にある。とてもじゃないが戻れる距離ではない。 「もっと強い攻撃が出来ればいいんですけどうまく創造できませんね」 飛んでくる刃を防御する。確かに相手の攻撃は弱い。しかしこのままではなぶり殺しにされる。 考えなければいけない。全ての個体を同時に攻撃する方法。 得物をひも状にして振り回すのも考えたが瞬時に移動出来るのでこれでは倒せない。 またひとつ息を吐き出す。体が酸素を欲している。出来るだけ動かないようにしなければいけない。 得物を細く伸ばして、近くの個体まで向かわせる。その間に飛んでくる刃を紙一重で避ける。 個体の足首に巻きつき、強く掴む。個体が消えていく。なんでもいいから攻撃を当てればいいようだ。 その得物をさらに近くの個体へ伸ばし足首を掴む。こちらの作戦に気づいたのか一斉に相手が攻撃してくる。 得物で防御は出来ない。私は刃が少しでも少ないところへ移動し手で防御した。 刃が肌を切り裂く。透明度の高い水に濁りが混じる。痛みでまた少し空気を吐き出してしまった。 幸いにも手首を切り落すほどの威力もない。だが水中で出血するのは確かとてもまずいはずだ。 得物は分裂してどんどん個体を消していく。そのたびに新しい個体が生まれる。 しかし新しい個体が生まれても地面に張り巡らされた得物からは逃れることは出来ない。 新しく生まれた固体が攻撃するよりも早く消し去る。攻撃はこれで未然に防げる。 口に溜まった全ての空気を吐き出す。出血で近くが赤く濁る。一刻も早く本体を掴まなければ。 小さな悲鳴が聞こえた。巻きついているのに消えていない。全ての獲物をその個体に集中させる。 「痛い痛いいたいいたいいたい! はなして!」 どんどんひもが太くなる。締め付けを強めていく。鈍い音がして、悲鳴が響き渡る。 離さないまま本体を引き寄せる。悲鳴と共に気泡が吐かれる音がする。 肺の空気が出て行く。水を飲みそうになる。視界がぼやけてきた。意識が朦朧とする。 彼女の気泡はずっと続く。声も響く。水中なのに。魔術師だから? だめだ。目の前にいるのに。酸素が。足りない。泡が。上っていく。意識が。途切れる。 ふと意識が戻る。危なかった。死ぬとこだった。でもなぜ意識が戻ったのか。 ぼやけた視界がはっきりする。本体の顔が目の前にある。目と鼻の先。 いや、口がくっついている。なるほど。強制人工呼吸ということか。無意識にしてしまったようだ。 吸える酸素なんてわずかだ。だが今はこれだけあれば十分。 顔を真っ赤にした本体を突き飛ばし、距離をとる。そして得物で彼女の心臓を貫いた。 「そんな……ひどい……」 最後にそう呟いて剣を抜くとゆっくりと床へと落ちた。 これで終わった。いや、まだだ。早く帰還しないと。 「バルドズラー!」 「誰だよ」 最後の空気を振り絞って叫ぶ。ハルトシュラーと叫んだつもりだったがこうなってしまった。 状況を察していたのかすぐに来てくれたハルトシュラーは突っ込んだあとすぐに転送してくれた。 あっちとこっちの狭間。私はハルトシュラーに文句を言う。 「お前、あいつに何かしただろう」 彼女は事も無げに 「成長を早めただけだ」 とだけ答えた。おそらくやったとしたら頭を撫でたときだろう。 おかげでなかなか楽しめたのだ。まぁいいかと私はゆっくりと目を閉じた。 夕飯時の住宅とエプロンの女子高生 集落と両道の戦士たち 白亜記まとめに戻る
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《遅延》《公開済》SNM002229 シナリオガイド 公式掲示板 水魔の侵略者…全て我らの物と主張! 担当マスター 按条境一 主たる舞台 ヴァイシャリー ジャンル 学園生活 募集スケジュール 参加者募集開始日 参加者募集締切日 アクション締切日 2013-03-01 2013-03-03 2013-03-07 リアクション公開予定日 募集時公開予定日 アクション締切後 リアクション公開日 2013-03-19 2013-03-22 2013-03-24 サンプルアクション (シナリオ参加者の方にお願い、サンプルアクションの具体的な内容を補完していただけないでしょうか)(サンプルアクション名の下の四角をクリックするとでてくる「部分編集」をクリックすると登録できます)(もしくはサンプルアクション登録用掲示板へお願いします。) カエルにされた町の人を助ける。 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 一人前のエクソシストになるために、実戦に参加する! ▼キャラクターの目的 カエルにされた町の人を助ける。 ▼キャラクターの動機 クリスタロスへ行き、カエルにされた人を探そう。 ▼キャラクターの手段 町の人たちはほとんど、カエルになる呪いをかけられたのか。 先生の情報では、静香もカエルにされちゃったようだ。 呪いを解除できるホーリーソウルなら、助けられるはず! ベールゼブフォの侵略を阻止する。 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 一人前のエクソシストになるために、実戦に参加する! ▼キャラクターの目的 ベールゼブフォの侵略を阻止する。 ▼キャラクターの動機 クリスタロスへ行き、ベールゼブフォを止めたい。 ▼キャラクターの手段 確か、先生たちが本体は中級の実力を持つ、水の魔性と言っていたね。 本体にダメージを与えられなかったら、分身の掃除かなー。 とにかく、仲間と協力して侵略を止めなきゃいけない! どうやって説得すればいいかな。 見学しよう。 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 一人前のエクソシストになるために、授業を受ける! ▼キャラクターの目的 見学しよう。 ▼キャラクターの動機 使いたい魔道具が決まってないから、特別訓練教室で見学しようかな。 ▼キャラクターの手段 いろんな魔道具があるみたいだけど、まだどれを使うか決めていない。 モニターの映像で見学しながら選べばいいよね。 持ってきた魔道具を試す。 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 一人前のエクソシストになるために、授業を受ける! ▼キャラクターの目的 持ってきた魔道具を試す。 ▼キャラクターの動機 特別訓練教室の中で、持ってきた魔道具を試す。 ▼キャラクターの手段 使い方が分からなかったら、先生に質問しよう。 その他補足等 [部分編集] 【タグ:SNM ヴァイシャリー 学園生活 按条境一 遅延公開済】
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トップページ 新聞論評 新聞論評 2009 新聞論評 20091221 This Page 2009年12月21日 締 切 新聞論評 学籍番号200814065 氏名 沖野真大 1.新聞情報 見出し 立高、授業料減免10人に1人、文科省調査、不況響き過去最悪。 発行日 2009年12月21日 新聞社 日本経済新聞 面数 34面 2.要約 公立高校に通う全生徒のうち、2008年度に都道府県から授業料減免を受けた割合が過去最高となった。無償化が実現すれば、浮いた金額を無償化財源の一部に転用する案も検討されている(86字) 3.論評 不況の影響は子供たちにも押し寄せてきている。授業料減免を受ける生徒がついに1割に達したと今回の記事にある。今までの別の記事に対する論評でも散々述べてきたことだが、この問題に対しても、鳩山政権の景気対策への意識の薄さから、改善の道はなかなか見えないように思う。高校の完全無償化が成立したならば、この問題は解決といってよかったが、結局成立はしなかったので、鳩山政権中のこの問題の解決は望み薄といえるのではないだろうか。今民主政権には選挙戦だけを考えた達成不可能なマニフェストで支持を集めたツケが確実に回ってきている。自民に戻せば解決するという単純な問題ではないが、現状の口だけ政権状態は何とかしてほしい。(300字) 4.コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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2020年7月4日 出題者:マスクドMAX 【問題】 カメオ先生は授業中に何かが割れるような音が聞こえたので満足そうに笑った、 なぜ? 【解説】 + ... 生物の授業中、ヒトの必須アミノ酸を答えさせている時、 トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、ロイシン、 イソロイシン、スレオニン、ヒスチジンが出て 最後に「バリンっ!!」と答えが聞こえたので満足したのだった 先生「中国の首都は?」 生徒「ペキンっ!」 《知識》 配信日に戻る 前の問題 次の問題
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板倉