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Ⅴ 「‥‥‥誰、ってどういう意味かしら」 「そのまんまの意味だ。お前は誰だ。本物のハルヒはどこやった?」 そのハルヒはこちらにニヤリと笑った口下だけが見えるよう少しだけ振り返り、またもハルヒとおんなじ声色で俺へと返事をした。 「なあに、キョン。本物のハルヒ、なんて意味ありげな言葉言って。まるであたしが偽物みたいじゃない」 その通りだよ偽ハルヒめ。 「だって忘れちゃったんだから仕方ないじゃない。それとも何、そんなに大事な思い出だったのかしら?」 白々しいことを。どういう過程でこいつが全くハルヒと同じ容姿と声と性格を得たかは不明だが、本当のハルヒではないということが確かになった。となると、こいつが閉鎖空間を発生させたということか。畜生、よりによってハルヒの姿になりやがって。 「じゃあ教えてよ。もしかしたら思い出すかもしれないわ。どうやってあたし達はここから出たんだっけ? キョン、言いなさい」 誰が言うか。 「じゃああたしが本物か偽物かは分からないわね」 ウフフ、と小悪魔みたいな笑い方をした後、また偽ハルヒは窓へと視線を向け直した。後ろ姿からでも俺には分かる。きっとこいつは今、笑っているに違いない。 もうバレているのに、まだハルヒの真似をするのか。じゃあいい、とっておきの質問をしてやるよ。 「3年前の七夕、お前は何をした」 「何、って‥‥‥そう、東中のグラウンドに絵を描いたわ」 「ほう、一人でか」 「あたし一人じゃないわよ。女の人を背負った北高のお兄さんも手伝ってくれたわ」 「そいつの名前は?」 「ジョンよ。ジョン・スミス」 妙なとこまで知ってやがるな。となれば‥‥‥。 「ね? あたしは涼宮ハルヒよ」 「いやまだだ。お前、グラウンドで北高生に絵を描かせたのは覚えてるんだよな」 「絵の模様までは覚えてないわよ」 「それは別にいい。だがそこまで覚えてるんだったら分かるよな? その絵の意味を」 「‥‥‥‥意味?」 ここで偽ハルヒの言葉がとうとう詰まった。しめた。 「ハルヒが描いた絵はとある宇宙語なんだよ。お前が本物のハルヒなら、その日本語訳を絶対に知ってるはずだぞ!!」 後半怒鳴るような声でそう問いただすと、さっきまで余裕で答えていた偽ハルヒからはわたしのわの字も出なかった。ざまあみろ。これでこいつが本物のハルヒではないことが完全に証明されたぜ。 「‥‥‥フフ、そうね。確かにあたしはその言葉の意味を知らないわ。どういう形なのかもね」 そこまで言って、ようやく偽ハルヒはこちらへと振り返った。 「でもね、キョン」 「それでも、あたしが本物のハルヒよ」 「いい加減にしろ。お前がハルヒじゃないとはもう分かりきってるんだよ」 そう言う俺の言葉にも段々覇気がなくなっていた。振り返った偽ハルヒは、朝倉の顔をしていた! なんてこともなく、誰がどう見ようと涼宮ハルヒだったのだ。今の表情は俺にとってはいやぁな計画を思いついたハルヒのそれだった。 「キョン、あんたにとって‘涼宮ハルヒ’って何かしら?」 「‥‥どういう意味だ」 「あんたの言う‘涼宮ハルヒ’は、この顔をしていること? それとも声かしら? 自分勝手な性格? 身長、体重、趣味が完全一致している人物を指すの?」 偽ハルヒはそこで一旦言葉を区切り、団長と書かれた三角錐の乗った机の引き出しから腕章を取り出して 「それかこの‘団長’の腕章を身につけてる人のことを言うのかしら?」 と口にしながら腕章を右腕にはめた。 「違う」 「どう違うのかしら」 「お前はハルヒじゃない! だからいくらハルヒの真似をしたところでハルヒじゃない!!」 「ウフ、いいわよ。あたしはハルヒじゃない。あんただけにはそう認めてもいいわ」 だが偽ハルヒは勝ち誇った顔を浮かべ 「だけど他の人にはどうかしら?」 「何‥‥?」 「谷口や国木田、担任の岡部や鶴屋さんの目にはいつもどおりの‘涼宮ハルヒ’が写っているんじゃない? あんたがそうだったようにね」 「‥‥‥‥」 確かに反論は出来ない。 「だとしたら俺がお前が涼宮ハルヒじゃないと言いふらしてやるよ」 「どうやってかしら。あんたと‘涼宮ハルヒ’‥‥‥あと宇宙人の有希しか知らない事実でなんとかしようっていうの。笑えるわよ、キョン。頭おかしいと疑われるのがオチよ」 長門を宇宙人だと知ってるのか? いや、そもそも長門に攻撃不許可にしたのがこの偽ハルヒだったんだから、何もおかしくはないか。しかしあの見た目がハルヒの口から「宇宙人の有希」なんて言葉が出てくると妙な気分になるぜ。 「どうして長門が宇宙人だと知ってる」 「有希だけじゃないわよ。みくるちゃんは未来人で、古泉君は超能力者でしょ」 まさかこいつが新たな異世界人なのか? と一瞬疑問がよぎったが、その考えはものの見事に粉砕された。 「何故知ってるのか? って顔をしてるわね。ウフ、キョンは忘れちゃったのかしら?」 俺が忘れてる? 「そうよ。だって、長門有希が宇宙人っていうのも、朝比奈みくるが未来人というのも、古泉一樹が超能力者であることも‥‥‥あんたが教えてくれたんじゃない」 なんだと。 「俺はお前なんかに教えたつもりは‥‥‥」 「5月29日、日曜日」 偽ハルヒは俺の顔を見ず天井見上げてそう声を上げ、団長席の回りをゆっくりとした足取りで歩み始めた。なんだなんだ。 「今日はSOS団の活動の日。みくるちゃんと有希と古泉君は用事があるみたいで、よりによってキョンと二人きりだったけど仕方ないから同行してあげた。喫茶店でキョンにどうやって奢らせようか考えていたら、あいつ、妙なことを話し始めたわ。有希が宇宙人でみくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者なんて言い始めたの。一生懸命考えたジョークなんだろうけど、全然面白くなかったわ。選んできた人材が偶然みんな宇宙人未来人超能力者なわけないじゃない。全く、聞いてて呆れたわ」 床の上に落ちた壊れたパソコンの液晶画面をさらにバリバリと砕くように足を乗せて、ハルヒは机の回りを一周し終えた。また横目だけで俺の顔を伺う。 「それに、」 「もし有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人で、古泉君が超能力者なら、あんたは何なのよ」 「‥‥‥‥」 それは逆に俺が聞きたいぐらいだ。まさか俺が異世界人でした、とかないよな。 「‥‥‥キョンは、何なのかしら?」 「さあな」 だんだんと麻酔銃を向けている腕も疲れてきたが、まだ下ろすわけにはいかない。聞かなきゃいけないことがまだ山ほどあるからな。とりあえず一つずつ疑問を解消させよう。 「今のはハルヒの日記か」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒは黙っていたが、間違いない。 黒魔術の練習か、小さい頃から親に強いられてきたのか、あるいは日々の出来事に不思議が紛れこんでいるかもしれないと思ったのかどうかは知らないが、ハルヒはこまめにも日記を書いているようだ。どうりで妙に深いところまで知っているわけだ。ジョン・スミスとかさ。だがさすがのハルヒも、運動上に描いた絵のイラストや例の閉鎖空間での出来事を書かなかった。そりゃそうだ。俺が日記をつけていたとしても、あの出来事だけは絶対に書かない。 しかし日記を自由自在に見れるということは、本物のハルヒと完全に入れ替わったということだ。となるとハルヒはどこへ? 「‥‥お前は一体何者なんだ。何故ハルヒの姿をしている?」 「あたしが‘涼宮ハルヒ’だからよ」 くそ、話が進まん。多少の強引さが必要か。 「いい加減にしろ。正直に全てを話せ。じゃないと撃つぞ」 人を脅したことのない俺が声にたっぷりと威厳をこめてそう言ったものの、何せ腕がプルプルして重心が定まらない上に、何故か人差し指に力が入らないせいで様になっていない。人に向けてエアーガンの類のものを撃ったことがないのも関係があるが、姿がハルヒということが何より大きいだろう。 「ウフフ、言葉が足りなかったかもね」 麻酔銃を五百円くらいで売っているおもちゃを見るような目でハルヒは見つめた。もうちょっと怖がれよ。 「あたしは‘涼宮ハルヒ’。でもただの‘涼宮ハルヒ’じゃないわ」 「‘涼宮ハルヒ’のみが持っている全宇宙の中で一つだけ存在する能力。それを自在に使えるのがあたしよ」 ハルヒがゆっくりと右手を上げ人差し指を立てた後、勢いよくそれを振りおろした。 一体何やって――――――ぬわっ!? ダイナマイト爆弾が爆発したような音を立て、校舎が破壊されるのと俺が体制を崩したのはほぼ同時だった。窓の外を見れば、神人が元コンピ研があった部室を上から下まで腕を振り下ろし二分割にしていた。散々だなコンピ研も。 「無様な格好してるわね、キョン」 俺を見下ろしながら一人笑う偽ハルヒの笑顔は、やはりハルヒの笑顔とシンクロ率400%だった。 なんとか立ち上がり、また麻酔銃を向ける。 「‥‥‥何をした」 「命令しただけよ」 命令? 「神人にか?」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはそれぐらいの答えは言わなくても分かるでしょう? と教師がよくするような笑みをした。窓の外では相変わらず古泉が頑張っているのがチラリと見える。 しかしどういうことだ。神人ってのは、いわばハルヒのストレスの塊なんだろ。それを自由自在に操るとは一体‥‥‥。 「‘涼宮ハルヒ’本人から生まれた存在」 パソコンが踏み潰されているのをお構いなしに偽ハルヒはこちらに向き直し、ニヤッとグレたハルヒのような笑い方をした。 「だからあたしは本物の‘涼宮ハルヒ’なのよ」 涼宮ハルヒから生まれた存在? 何ワケの分からな――――― ‥‥ 「‥‥‥‥‥!」 その時、俺の中の記憶が走馬灯のごとくフラッシュバックした。ハルヒが楽しそうにしおりを作っているところから俺が告白しようとした時までの期間がわずか二秒で頭を駆け巡る感覚。その中に、ハルヒが妙なことを言っていたことがあったはずだ。そう、あれはハルヒが睡眠不足で苦しみながらも寝ずに放課後まで過ごしたあの日だ。俺が朝登校し、珍しくも心配してやった後、あいつは何て言った? ハルヒは俺に何を伝えようとしていた? 『ねぇ‥‥‥キョン。‥‥前に、自分がいかにちっぽけな存在かを話したじゃない?人ってさ、自分の中にさらに他の自分がいるとしたら、人の数なんていうのは、本当はもっと多いのよね‥‥‥そのたくさんある中の1つがさ‥‥‥その人物の人柄と見なされて表に出てくるのよね‥‥‥。でも、せっかく出てこれたその1人も‥‥本当は世界と比べたらちっぽけな存在で‥‥‥』 ‥‥‥‥。 「お前、」 ハルヒは眉だけをクイッと器用上げ、俺の反応を伺った。表情は相変わらずのダークハルヒ。 「もう一つの、ハルヒの人格か」 そう言った途端だ。ハルヒは、いや偽ハルヒは、ようやくにしてニヒルな表情を取っ払い300ワットの笑みを浮かべた。SOS団を立ち上げた時のような、身体全身から表現する喜びの感覚。今、目の前にいる偽ハルヒは完全に本物のハルヒだった。 「その通りよ!」 ‥‥にしてもなんてこった。俺はてっきり、名も知らぬ異能力者が完璧にハルヒに化けたものばかりだと思っていたのに、そのハルヒ本人から生まれたとは。オリジナルでありながらも、オリジナルよりタチが悪いハルヒ。 だがそんなのは関係ない。今この世界を閉鎖空間で丸呑みしようとしているのがこいつには違いないのだから、なんとかして危機を回避しなければならん。それにいくらハルヒ自身とは言え俺にとってのフル迷惑なハルヒはあのハルヒ一人だけで、こっちは偽ハルヒに変わりない。 「あたし自身、最初は気づかなかったわ。どうしてここに生まれてきたのか。何のために存在するのか。後から分かったの。何のために、という意味は無かったけど、いつ生まれたかはね」 ‥‥‥そう。そうよ。あたしのハッピーバースデーは‘涼宮ハルヒ’が夕食を食べながらテレビを見ていたあの時間帯。自由どころか感覚も無かったけれど、意識だけはあった。そんな意識も最初の内はぼんやりにしか働いていなくて、あたしはただただ真っ暗な空間の中で‘涼宮ハルヒ’の声が反響するのを聞いているだけだった。 反響する声の中で一番多かったキーワードが「キョン」。でもこの言葉が出る度にあたし自身も口では表せない楽しさが浮きあがっていた気がするわ。結果論だけどね。 ほの暗い場所で、あたしはただただ膝を抱えて‘涼宮ハルヒ’の会話というラジオを聞くしかなかった。何もしないで一日中ぼけーっとしてるだけ。本当に意味のない存在だったわ。 「でも、ある日を境にあたし自身が変わってきた」 反響する声の中で、‘涼宮ハルヒ’がこう叫んだわ。 『SOS団主催、読者大会を開きます!』 まさにこの日の夜、あたしという存在は確立された。『人格と精神』という本に‘涼宮ハルヒ’が読み始め、あたしの意識が段々と強くなっていったのよ‥‥。 「ってことはなんだ。医学の本をハルヒが読み始めたのは、本当に偶然だったのか?」 「‘涼宮ハルヒ’は多重人格には興味を持っていたけど、特段医学関連の本を読もうとは思っていなかったようね。テレビ番組のような難しい内容を、キョンに読ましたら面白そうだなとは思っていたけどね」 ‘涼宮ハルヒ’自身はくじ引きでどの本に当たろうと良かった。偶然医学の本を引き、たまたま多重人格に関心があったから『人格と精神』を手にした。 ‘涼宮ハルヒ’が『人格と精神』を読めば読むほど、あたしには力が湧いてきた。暗闇から立ち上がって歩くことも出来たし、さらには‘涼宮ハルヒ’が寝ている時に限り身体を借りることが出来たの。その時思ったわ。 ああ、 「この本を読み続ければ、乗っ取ることが出来る」 ってね。 「‥‥‥ハルヒを睡眠不足に追い込んだのはお前か」 「さすがに本人もおかしいと思い始めたわ。起きれば机の前に座って本を読んでるんだし、疲れも全く取れてないんだから」 次第に本を読むのを止めようとした。さすがに不思議事が好きでも、これは不気味だったようね。 でもあたしはそうはさせなかった。ここまで来て、中途半端な意識だけを持って終わりたくはなかった。だから、無理に読ましたわ。キョンならもう分かるんじゃない? 「‥‥‥深層心理を利用したのか」 よく出来ました。あれだけ哲学の本を読んでれば、いくらキョンでも分かるわよね。 ‘涼宮ハルヒ’の意識が及ばないところであたしはひたすら本を読むように命令していた。拒否も出来ずもがきながら本を読む‘涼宮ハルヒ’を見て、さすがにあたしも罰が悪かったわ。でも仕方ないわよね? あたしが生まれた以上、あたしだって身体を動かしたいわよ。 そんなことを無理矢理させていた日の夜、口では言い表せない何かがあたしの中に流れこんできたわ。あたしは戸惑ったし、対処の仕方も分からなかったからなすがままにそれを蓄えたわ。後から分かったけど、これが‘涼宮ハルヒ’の持つ情報爆発能力だったのよね。ありったけのストレスで作られたパワーは、あたしをより確実なものへと成長させた‥‥‥。 「閉鎖空間が発生しなかったのはお前が内側で貯めてからか」 「そうよ」 寝てようが起きてようが本を読まされる。あたしにとって、‘涼宮ハルヒ’を乗っ取るのも時間の問題だったわけよ。 でも、思いもよらない行動を彼女はとったわ。 寝ずに読み始めたのよ。本を自らね。読破する気だったのかしら。読み終わればなんとかなるとでも思っていたのかも。 でもあたし自身、‘涼宮ハルヒ’がこれを読み終わった後どうなるか分からなかった。彼女の多重人格の興味は消えて、別の本に手をつけるかも。そしたらあたしの力はきっと消えていく。あともう少しで身体があたしのものになるのに。 「焦ったわよ。でも、あたしはギリギリ逃げ切った」 「‥‥‥‥‥」 「さすがの‘涼宮ハルヒ’も仲間の前で安心しちゃったのかしら。とうとう疲れに疲れを溜めて、寝たのよ。そしてそんな弱り切った‘涼宮ハルヒ’を多大なるストレスで力を得ていたあたしが乗っ取るのはいとも容易かった‥‥‥‥」 「‥‥‥つまり、お前は、」 ‥‥ハルヒの奴、一人でそんな悩みを抱えてたのか。古泉の野郎、一体何してんだ。いつも通りなわけないじゃないか。朝比奈さんも長門も、どうしてあのハルヒに異常があると察しなかったんだ。なんですぐに集まって対策を練らなかった。 ‥‥‥‥‥、分かってる。一番悪いのは古泉でも、、朝比奈さんでも、長門でもない。一番身近にいながら、様子がおかしいと思いながらも何も出来なかった無力な俺だ。俺の知らないところで皆手を尽くしていたのかもしれない。でも俺は何も出来なかった。しなかった。せいぜい声をかけたぐらいだ。過去の俺を殴り倒してやりたいぜ。最悪だ、本当に。 なんたって、 こいつは、 「俺たちの目の前でハルヒと入れ替わった、ってことか‥‥‥‥!!!」 肯定の返事はなかったが、顔見れば分かる。朝比奈さんが感じた時空震とやらはおそらくこいつが入れ替わった時起こったものだろう。そういやあの日は長門の様子もほんの少しだけ違ったし、何よりもハルヒの様子がおかしかった。あいつの機嫌が良くて俺に礼まで言ったのは、テンションが最高にハイってやつになっていたからか。ハルヒじゃなく、こいつの。 「あたしはいつも‘涼宮ハルヒ’の目と声を通していたからね‥‥誰にどう接して、どういう仕草を取ればいいかも分かっていたわ」 そうかい。完全に騙されてた。お前の演技も主演女優並だな 。 「ということは、今度はハルヒが内側にいるのか?」 「そのことなんだけどねー」 偽ハルヒは喋りすぎて肩でもこったのか、首をゆっくりと回した。右回り、左回りとした後に俺を見て、その後掃除箱の方へ見やる。 「あたし家に帰ったあと、思ったのよ。もしかしたら‘涼宮ハルヒ’が身体を取り返してくるかも、って」 「だから思ったわ。あたしだけの身体があればいいのに、って。そしたら‥‥‥」 偽ハルヒは高々と右手を上げ、指をパチンと鳴らした。一体何をしたのか。俺の左側にある掃除箱がガタンッと音を立てた。中のほうきが倒れたにしては音がでかすぎる。ビクッと身体を仰け反らすと、掃除箱のドアがひとりでに開き‥‥ 「‥‥‥‥‥ハ、」 見知った人物が重力に導かれるまま倒れこんできた。 「ハルヒ!!!」 何故掃除箱から、などという疑問をよそにハルヒは前のめりに床に激突しようとしていた。危ない! 麻酔銃を投げ捨てハルヒをギリギリで抱きかかえる。だが顔から打たなくて良かったと安堵する前に、俺はハルヒの軽さに驚いた。いくら女とはいえ軽すぎだろ。 急いでハルヒを仰向けにし、顔色を確かめる。思っていたほど頬がガリガリと言うわけではなく、少しだけ俺は安堵した。 「ハルヒ。おいハルヒ! 起きろ!」 「‥‥‥‥‥」 肌は健康色。だがその割には反応に生気を感じられない。冗談は止めろマジで。 「‥‥あたしがあたし自身の身体を手に入れた時、不意に分かったの」 「ああ、あたしには‘願望を実現させるチカラ’があるんだ‥‥ってね」 「それで結果ハルヒは二人になったわけか。まるで分身の術だな」 もちろん分身はお前の方だがな、という皮肉を言ってやろうと思ったが、偽ハルヒが手も触れずに俺の麻酔銃を手にした瞬間にそれは喉の奥へと引っ込んだ。強力なサイクロン掃除機を使ったみたいに手の平に吸い込まれやがった。唯一の武器が‥‥‥。 「あたしはこの能力が、一体どこまで出来るのか知りたくなったわ。で、思いついたワケ。キョン、分かるかしら?」 そんなもん俺が知るわけないだろ。 「じゃあ教えてあげるわね! あんたがあたしに告白してくるかどうかを試したのよ!」 ‥‥‥‥なっ‥、 「なんでだ‥‥?」 何故あえてそれにしたんだ。 「んー、なんでかしら。強いて言うならあんたに興味があったから」 俺に興味? 「だって、あんただけ何もないじゃない。宇宙人でも、未来人でも、超能力者でもないし、あたしみたいな万物の創造みたいな能力もない。だけどあんたはSOS団にいて、‘涼宮ハルヒ’と仲が良いわ。日記見てたら分かるもの。‘涼宮ハルヒ’があんたにどれだけ信頼を置いてるのかが」 映画の時にも古泉に言われたな。ハルヒは俺だけは絶対に味方だと信じてる、ってことを。 「だがそれと、お前に俺が告白するのになんの関係がある?」 「‘涼宮ハルヒ’が気に入ってたものは、あたしも欲しくなるに決まってるじゃない」 物扱いかよ。俺は非売品だぞ。 「自分から言うんじゃ、‘涼宮ハルヒ’らしくないからね。だからあんたから言うように、状況を作ったの!」 わざわざご苦労なこった。だから哲学書十冊も読ませようとしたのか。 「放課後あたしみたいな子と二人きり。あとはあたしが願ってさえいればすぐに告白してくるだろうと思ったの」 でもしなかった、と。 「そうよ。あんたがチキンだから告白をしてこなかったわ。まだまだムードが足りないからかしらとその時は思うことにしといたわ」 悪かったなチキンで。 「だから、あたしはあたしとキョンの間に噂が広がればいいのにと願ったの。そしたらキョンもその気になるかなってね」 ‥‥‥残念だったな、俺がチキンの上に超がつくような人間で。 「そうよ! それでもあんたはあたしに告白しなかった。さすがに少しは意識してたみたいだけど」 フフン、と得意気に笑う偽ハルヒの顔を見ていると、俺が抱えているハルヒが偽物であそこで立ってる偽ハルヒが本物に思えてくる。姿が似てるってのも厄介だな。 「あともう一押しって感じだった。だから、あたしは古泉君達に賭けたの」 「それは長門や朝比奈さんを含めてという意味か?」 「そうよ。あんたがあたしに告白せざるをえない状況をあの三人なら作れると思ったの」 『真相が違ったのです』 ‥‥‥‥。 なるほどね。 「だがお前の考えも当てが外れたな。朝比奈さんは途中で気づいたぞ。お前が能力を使えるようになったことをな」 「みくるちゃんがあんたに手紙を渡したのを見た時、まさかとは思ったわ」 見てたのかお前。 「あんたとみくるちゃんが話してた内容まで聞いたわ。みくるちゃんがそのことに気づいちゃうとは思わなかったけれど、それをキョンに話そうとまでするなんてね‥‥‥ひたすら祈ったわ。誰かが邪魔するようにって」 「誰かって、誰‥‥‥」 ‥‥! 谷口か。 「あたしが作り出した‘谷口’だけどね。あんたとみくるちゃんの会話を邪魔するためだけに生まれた」 ‥‥‥こいつの話で大体の真相が見えてきた。つまりこいつは色々なことに能力を使いまくってたというわけか。 見事に遮ることに成功した偽ハルヒは、これ以上邪魔が出ない内に強行手段に出た。それが今日の放課後だ。俺が偽ハルヒに告白までしそうになったことは全て偽ハルヒの計算通りであり、まんまと俺は餌に釣られて釣針を口に含んでしまった魚よろしく、事を進めてしまった。俺が偽ハルヒの肩を掴み、耳を真っ赤にしながら口を開いた瞬間、偽ハルヒを勝利を確信したのだろう。俺は見ず知らずの相手に愛を伝えてしまうところだった。そう、あと少し、ゼロコンマ2秒遅かったら。遅かったらって何が? それはわかるだろう? 「長門に感謝しなくちゃな‥‥‥」 今度集まりで奢る時は、食べきれないほどのパフェを奢ってやるよ。おかわり自由だ。 「本当に‥‥本当にあと少しだった。でもあの宇宙人が邪魔をした」 「長門はSOS団の影のトップなんだよ。途中でお前が別人だと気づいたんだろう」 これまで多くのことで長門に助けられてきた。それなのにあいつは、不平不満言わずにちゃーんと見守っていてくれていたんだ。夏休みの時なんざ、人間ならとっくに死んでてもおかしくないくらいの年月を過ごしてきたんだぜ。 「でもそんなあんたたちの唯一の頼りである有希には制限をかけておいたわ。あたしに害のある行動は行わないようにね。だからこの状況は、もうどうにもならないわよ!!!」 再び耳をつんざくような破壊音が鳴り響き、校舎が振動で震えた。無意識にもハルヒに覆い被さり守ろうとしたのは、男としての性ってやつか? 「ウフフ、キョン。ゲームオーバーよ」 そうニヤリと笑いながら口にし、こちらに歩み寄ってくる。来るなよ。 「あんたがどうやってあたしだけの世界に来たかは知らないけど、あんたにこうして全部話したのも、結果が決まってるからよ」 「一つ聞きたい。この空間はお前が意図的に起こしたものか?」 麻酔銃をこちらに向け、ニコニコという笑みに変えた後 「そうよ」 とだけ偽ハルヒが言った。そんなことまで出来るとはね。 「‘涼宮ハルヒ’の内側にいた頃、自分の中に流れ込んでくるパワーを爆発させてみたくなったのよ。そしたらこんな面白い空間が出来ていたなんてね。古泉君はその処理担当かしら? 日に日にやつれていくのを見てて、とっても面白かった」 姿形はハルヒでも、やはりお前は根本からハルヒと異なるな。カマドウマ以下だ。 「そんな口、聞いていいのかしら?」 「‥‥‥‥っ」 偽ハルヒは俺の眉間に麻酔銃を向け、引き金に指をかけていた。麻酔銃なのだから死ぬことはないだろうが、それでもやはり怖いという感情は隠せない。やばい、冷や汗出てきた。 「キョンなんて、何も出来ない無力な人間じゃない。どう? いっそのこと、あたしと同じような能力を持って一緒にここの空間で生きていく? 半分は上げるわよ」 まるで魔王みたいな取引をしてきやがった。なんだっけ。昔したゲームでは、確かここで『はい』の選択肢を選ぶとゲームオーバーになるんだっけか。 「もし、俺がうなずいたならどうする?」 虚を突かれた表情に一瞬変わったが、すぐに聖母マリアのような微笑みに戻し、 「あんたとなら、二人で生きていくのも悪くないわね」 とだけ言った。 お前、今もの凄く恥ずかしいセリフ吐いたんだぞ。そのこと分かってるのか。 しかし偽ハルヒは恥ずかしがる様子をちっとも見せず、相変わらず麻酔銃を向けたままだった。 「本当に、うなずいたら俺のことを助けてくれるんだな?」 「ちゃんと肯定したらの話よ?」 そうかい。助けてくれるんだな。 本物のハルヒを静かに床に寝かせた後、言ってやった。 「だが断る」 思いっきり偽ハルヒの右手を叩きつけ、麻酔銃を弾け飛ばした。偽ハルヒが不意を突かれている内に、西部劇のワンシーンのように掃除箱の側に落ちた麻酔銃をすぐに拾い上げる。俺が銃口を向ければ、はたかれた右手を見つめる偽ハルヒがそこにいた。なんだこれ。半端ない罪悪感がこみ上げてくる。 「‥‥‥‥悪いな」 本当にそう思ってるから言葉にした。 「だが、俺はまだ本当の世界に未練があるんだ」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはただただ右手だけを見ていた。俺が叩いたその手の甲は赤くなっている。 「‥‥‥‥お前に恨みはない。だが、ハルヒのためにもここで眠ってもらう」 俺が引き金を引こうとした時だ。偽ハルヒはボソボソと何か言った。 「‥‥‥‥‥‥」 「え、なん‥‥‥」 俺が言い終わらない内に偽ハルヒはこちらに飛び込み、あろうことか今度は俺の右手を思いっきり蹴飛ばした。よくそんなに足が上がるな、と感心する前に鋭い痛みが右手に走る。 「いっ‥‥‥!!」 たい、という前にまたもや高速で蹴りが腹に入れられる。言葉より先に嗚咽が出た。 「あぐぁっ!!!」 スレンダーな足のくせして破壊力満点の蹴りだ。サッカー選手だってもう少し躊躇するぞ。 俺は偽ハルヒにキックで吹っ飛ばされ、壁に背中を強打した。またその反動でひざを床につけてしまい、腹を抱えながら恐る恐る上を見上げれば、無情にも俺を見下ろす偽ハルヒがそこにはいた。視線の先が俺から、横たわっている本物ハルヒへと移る。 「そんなにこっちの‘ハルヒ’が大事かしら?」 いかん。矛先がハルヒの方に向いている。 おそらく注意をこちらに向けないと、この偽ハルヒはハルヒに攻撃するだろう。女の子を攻撃するなんて男のすることするじゃねえ! っ叫ぼうとしたが、困ったね、こいつ女だった。 というより論点はそこじゃない。こいつがハルヒに攻撃して、本物が起きちまったらどう説明しても後々とりつかない事態になることは明確だ。なんとかしなければ。 「‥‥ふ、はは。なんだよ今の蹴り。それがお前のマックスか?」 腹を猛烈に庇っている男の吐くセリフじゃないな。 「何よ、キョン。もっと蹴られたいのかしら? マゾ?」 でもこっちの偽ハルヒも単純で良かった。 俺はずりずりと壁伝いになんとか立ち上がり、一方で腹を押さえながらもう一方の片手は偽ハルヒへと差し出した。 「‘本物’のハルヒならこんなもんじゃないぞ。一度だけ思いっきり蹴られたことがあるが、あの時はホント、この世に医者がいなかったら死んでたかもしれん痛みだった。にしてお前の蹴りはどうだ。不慣れな格好で蹴ったにしては威力は高かったが、‘本物’なら同じ格好で俺をまた瀕死状態まで追い込むぞ。背丈姿形性格一致で黄色いカチューシャと腕章つければ‘本物’のハルヒになったつもりか? だとしたらお笑いだぜ」 もちろんデタラメだ。だがそこまで言ったところで、偽ハルヒが強烈な回し蹴りを繰り出して、俺はなんとか右手でガードした。相変わらず超ド級クラスの痛みが右手から体全体へと響き渡り、音だけ聞いていれば折れたかもしれんと思えるようなものだった。蹴りの達人かお前は。 「ぐぅっ!!」 「‥‥‥‥どうかしら?」 どうって何がだよ。気持ちいいです、って言えばいいのか? 悪いが言えない。マジで痛い。 だがやめてくださいとは言えん。俺が実はマゾで、本当は気持ちいいのを体験しているからではない。 「‥‥‥むちゃくちゃ痛いさ。でも所詮はそんなもん。痛い程度だ。入院までしない」 逆に蹴りで入院した奴を見てみたい気もするが。 「‥‥‥‘涼宮ハルヒ’はあんたに随分手荒だったようね。日記にも書いてないというのは反省の色も見られないわ。なんでそこまでして‘涼宮ハルヒ’を守るの?」 守る、か。嘘がバレてるなこりゃ。じゃなきゃこんな言葉出ねーよ。そりゃバレるだろう。うん。一応こいつも偽ハルヒだしな。 「‥‥‥お前の知らない世界での話さ。日記にも綴られていないとある空間の出来事で、俺はハルヒと共にそこを脱出した。その時気づいたのさ。出会って二ヶ月だったがな、人間いつどこでそんな感情が芽生えるか分からん。たまたま俺はそれが早かっただけさ」 ハルヒが起きてないことをひたすら祈る。 「その脱出以来、決めた。例えどんなことがあっても、それこそ重傷ものの蹴りを喰らっても、ハルヒと共にまたここに来た時には、絶対に二人で元の世界に戻るってな」 「‥‥‥‥‥」 神人の青光が強くなってきている。とうとう校舎全破壊する気か? だが、その前に。 「‥‥返せよ」 俺は精一杯怒気を効かせて、偽ハルヒに言ってやった。 「その腕章は、」 蹴りを喰らっていない左手を偽ハルヒへと差し出す。 「ハルヒのものだ」 偽ハルヒは右腕にはめてある腕章を見つめた後、不意にニヤッと笑った。 「まだ分からないの?」 顔に集中している間に右足に痛みが走る。ローキックがかまされていた。 痛みに耐えかねて俺は床へと倒れ、ひたすら歯を食いしばりながら右足に手をやった。そして偽ハルヒはゆっくりと上履きのつま先を俺の顎へとくっつけ、蹴ろうと思えば蹴れるのよと言ったような顔をした。 「あたしが本物の涼宮ハルヒよ」 顎にあった足を引き、まるで顎下にサッカーボールがあるかのように思いっきり蹴りを俺に喰らわせようとする。さすがにこれ受けたら脳震盪を起こすに違いない。北高初の蹴りで入院した高校生第一号になってしまう! 偽ハルヒの足が消えるような速さでこちらに向かってきた時、俺は現実逃避するがごとく目を閉じた。 痛みを覚悟した瞬間、また何かが壊れる音を聞いた。とうとう俺の顎が砕けたか? だがそんなことはなかった。物理的破壊の音は確かに聞こえたが、それでも俺に痛みはなかった。何がどうなってるのか。まぶたが暗闇しか写さないので、おそるおそる開けてみると‥‥‥‥ 「‥‥また邪魔するのね」 「‥‥‥‥‥」 いつぞやの光景がフラッシュバックする。あの時もそう。もう駄目だ、と思った時に突然俺の前に現れた。そして必死に守ってくれた。そんな彼女はSOS団の最後の切り札と言ってもいい。 長門は偽ハルヒのつま先を片手で受け止めていた。 「‥‥‥‥‥‥」 ふと隣を見れば壁に穴が開いている。隣のコンピ研の部屋から力ずくで入ってきたらしい。しかしよくここに渡ってこれたな。コンピ研の部屋はもう床も天井もないんだぜ。 「あんたはあたしに攻撃にできないはずよ」 「攻撃は許可が下りていない。しかし彼を守る許可は取り消されていない」 偽ハルヒの足の筋肉はどうなっているのか、ひとっ飛びし一瞬にして団長机前まで下がる。あいつ本当は朝倉の親戚かなんかじゃないのか。 「涼宮ハルヒを連れて遠くへ」 「いや、しかし、」 「大丈夫」 大丈夫、か。今日で二度目だなその言葉。 長門の登場と言葉に安堵する刹那、文芸部の天井が砕け散り、瓦礫が俺たちを襲った。 「あぶねっ!」 我が身を横たわっているハルヒの上に被せ、瓦礫による痛みを覚悟する。‥‥、二秒経過。痛くない。 「早く‥‥」 長門がバリアみたいなものを作り上げ、瓦礫から俺たちの身を守っていた。何から何まですまない。 「やるわね有希。じゃあこれはどうかしら」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒがまた何かする気だ。これ以上俺たちがいれば長門に今以上の負担をかけることになる。ハルヒを抱き上げて俺はドアノブを握った。よもや映画以外でハルヒをお姫様だっこすることになるとはな‥‥‥。 「‥‥‥って、」 ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりを試みる。だがドアはまるで意志を持ったかのように開かない。どういうことだよ‥‥カギはかかってないぞ! 「‥‥‥‥!」 人間には聞き取れない速さの言葉で長門が何かを呟くのが聞こえた。嫌な予感しかしない。 「吹っ飛びなさい!」 長門の半球の形をしているバリアがなければ死んでいた。それぐらい強烈な死が空から降ってきたのだ。 荒々しい轟音を鳴り響かせコンピ研を完膚なきまでに粉砕した、見覚えのある拳が今まさに俺たちを叩きつけようとしていたのだ。障壁がなんとかそれを喰い止め、俺たち三人は事なきを得た。しかしバリアを通じて伝わる衝撃は並々ならぬもので、それは長門の膝がガクンと一段階下がるほどのものでもあった。 「早く‥‥‥‥」 無機質な声なんだが、俺にはわかる。かなり切迫詰まっている長門の声だ。神人のパンチは朝倉の比ではないらしい。 急がなければ。しかしドアは相変わらずボンドを隙間に流し込んだみたいには開かなかった。 舌打ちをしながら一度思い切り蹴ってみる。音だけは威勢がいいが、破れる気配が全くない。 神人は圧力をかけ続けており、またさらに長門の膝がガクンと下がった。それに順じてバリアも小さくなる。長門は何も言わなかったが、相当やばそうだ。なんとかここを突破しなければ長門がもたない。だがドアが以前として開く様子がゼロだ。 焦りだけが心内で広がっていく。 「くそ‥‥‥開けよ!!」 中段蹴りを何度も何度も喰らわせるが、それがどうしたと言わんばかりにドアは立ちふさがる。長門の膝がとうとう床についた。 「キョンったら、無様ね」 偽ハルヒの余裕綽々な声が聞こえた。今どんな格好しているかは分からないが、おそらく団長机の上に座って事の成り行きでもせせら笑いながら傍観しているんだろう。悪趣味め。 「‥‥‥‥‥っ」 まさか長門が来てからよりピンチになろうだなんて誰が思った? 誰も思いやしなかったさ。少なくとも俺は、長門がやられかけてるとこなんて信じられなかったからな。タイマンなら絶対に負けないだろう。だが俺たちを守りながらほとんどの技術が規制されれば話が別だ。条件は長門側がずっと悪くなる。 それでも長門は何とかしようとしている。俺は‥‥俺は、無力だ。‥‥‥ ‥‥ ‥‥‥嘆いている暇はない。ドアが無理なら一つだけ方法がある。バリアを抜け、長門がぶち破ってきた穴から出るのだ。出ても一階の床に落ちるだけだ。ちゃんと足からつけば死なないだろう。 覚悟を決め、ハルヒを抱えたままバリアの外へと飛び出そうとした。 バリアを抜けたまさにその時だ。意固地に開かなかったそのドアが爆発音と吹き飛ばされた。一体なんだと戸惑っている内に、小さな赤い球体が長門の首横を電光石火のスピードで通り偽ハルヒへと飛んでいく。偽ハルヒはそれを目を見張るような瞬発力で避け、床へと突っ伏した。やっぱり団長机に座ってたか。 「こっちです!」 グワシャーンと窓ガラスを盛大に粉々にする音が聞こえたが、それでも奴の声は聞こえた。ナイスタイミングだな。 バリアをくぐり抜けてドアへと走り寄る。案の定そこにはSOS団副団長こと、超能力者古泉がいた。 「朝比奈みくるから事情を聞きました。急いで逃げてください」 「朝比奈さんからだと?」 「詳しい話は彼女から。‥‥長門さん!」 古泉は長門そばまで詰め寄り、対神人に躍り出た。赤い球体を何個か神人の拳にぶつけ、ダメージを与える。宇宙人のバリアにはびくともしなかった神人の手は、まるで腫れ物に触ったかのように手を引っ込めていった。やっぱり古泉の能力は閉鎖空間内では強いんだな。 「キョン君、こっちです!」 ドアの向こう側に朝比奈さんが待機していた。俺は長門と古泉を後にして、ようやく廊下へと出た。 「ハルヒのことを?」 「はい。長門さんが、情報規制が一部緩和されたと言われて話を聞きました」 緩和ね‥‥。偽ハルヒが俺に正体を打ち明けたからか? 「キョン君、行きましょう」 ボロボロに崩れてきている校舎の中を、俺はハルヒを抱えて朝比奈さんの後についていった。 ハルヒがいくら軽いと言っても、お米十キログラム四個分くらいはあるだろう。おまけに体のあちこちが偽ハルヒのせいで痛む。そんなだから、俺は朝比奈さんの同じペースで逃げることが出来るというものだ。むしろ朝比奈さんより遅い。 だがハルヒを出来る限りあの偽ハルヒから遠ざけなければ。もはや朝倉同様、こちらを殺す気にかかってきているのだ。そんな奴のそばにハルヒを置いておけるか。 「キョン君、こっちです」 いたるところが崩れボロボロの校舎の中で朝比奈さんの柔らかいボイスは見事なまでに対になっていた。ちょこちょこと道を先回りして朝比奈さんはナビゲートをしてくれる。何を根拠に道を選んでいるのかは不明だが、とりあえず偽ハルヒからは離れているだろう。それでいい。 「ハルヒを安全な場所に置いた後、俺はもう一度あいつのところへ戻ります。朝比奈さんはハルヒと一緒に‥‥‥」 「ダメです! ケガがひどいんですから、無理をしちゃいけません」 無理というより無謀に近い。行ったところで何の役にも立たないだろう。というより邪魔だろうな。 だがもう一度だけあのハルヒの方に合わなきゃならない気がした。長門と古泉相手に、あの偽ハルヒが大人しく座談会開いて平和解決しようなんて言うとは思えないのだ。 どうにかこうにか、俺と朝比奈さんは東館の端っこまでやってこれた。とりあえず一安心だ。ここならば偽ハルヒも何も出来ない。 「では、朝比奈さん‥‥」 「‥‥‥‥‥」 朝比奈さんは目をショボショボさせてうつむいた。そんな顔されたら行きたくなくなる。ここらで一言 「必ず戻ってきます」 と言うのもいいんだが、なにやらそれが良くない方向へと事を運びそうなので控えておいた。 「無理しちゃ‥‥駄目ですからね」 俺は黙ってうなずき、身体に鞭打って部屋を出た。もう一頑張りしなきゃな。 ‥‥‥‥しかし部屋を出た直後、急遽朝比奈さんの下へ身を翻した。お別れのキスを忘れてたよ、とかそんな御伽噺チックじゃない。窓から差し込む光に、嫌と言うほど見覚えがあるからだ。 「あれ、キョン君‥‥‥?」 「部屋を出てください!!」 ハルヒの両脇を乱暴に掴み、ズルズルと引き摺るようにして部屋の外へと運ぶ。朝比奈さんも続いて部屋を出て、窓の外と俺の態度を見てようやく事態を理解したらしい。池に落とされる時の朝比奈さんでさえ、こんな青ざめた顔色してなかったぞ。色的な意味で。 グワシャッ、と3階と粉砕される音が耳に届いた。まずいまずいまずい。 朝比奈さんは 「きゃああああああ」 といかにもお化け屋敷を駆け巡る少女のような悲鳴を上げ走って行ったが、俺はハルヒを運ばなければならない。もう腕の上に任せる時間はない。悪いがこのまま引き摺るぞ。 一階の天井にとうとうヒビが行き渡り、そして瓦礫の山と共に神人の手の平が降ってきた。懸命に引き摺ったおかげか神人の手とは距離のある位置には俺たちは来ることが出来ていた。だが一度どこか崩れると、連鎖反応のように崩れてしまう天井の破片が俺たちを襲ってくる。ひたすらハルヒに当たらないことを祈りながら全力で逃げる。 なんとか逃げ切り瓦礫の山の一部とならずに済んだ俺は、ハルヒを抱え上げ次はどこに行こうかと思惑した。まさか神人がもう一体出てくるとはな。西館に逃げるのが良いのだが、しかしそれではあっちの方の神人に‥‥。 「キョン君っ!!」 先に行ってしまわれていた朝比奈さんが小走りでこちらで戻ってきていた。無事で良かった。 だが朝比奈さんの背後を見る限り、無事とはほど通そうな状況になっていることに俺は気づいてしまった。 なんと、瓦礫が崩れこちらにまで被害を及ぼそうとしているではないか。ハルヒを抱えて、ちょうど今俺のいる位置と朝比奈さんのいる位置の中間地点にある階段の方へ走り、朝比奈さんにもこちらへ来るよう呼びかけた。岩なだれのように降ってくる天井を見ながら早く早くと俺は心の中で朝比奈さんを急かした。遅いなりにも―――あれが朝比奈さんの全速なんだろう―――ギリギリのとこで角を曲がり切ることに成功し、三者ともなんとか今は無事だということが確認出来た。階段だってもうほとんど瓦礫に成り代わっていたおかげで足元が不安定極まりないのだが、ここにいればひとまず瓦礫に怯えなくても済むというのがありがたい。上を見上げれば見えるは夜空のムコウ。 「‥‥う、運動場に‥‥‥」 もうどこにいようと危険地帯だと思いますよ。 「そ‥ぅ、ですよね‥‥‥」 息は荒いし涙は出るしで、おそらく未来にいた頃よりもよっぽど恐ろしい体験をしているのだろう。周りを見れば神人だらけだしな。 「‥‥‥あのハルヒの方へ戻りましょう」 「でも‥‥‥」 その先の言葉が朝比奈さんの口からは出なかった。俺が同じ立場でも出ない。 こうなったらもう偽ハルヒを羽交い締めしてでも動きを拘束して、偽ハルヒから能力を取り返すしかない。二人より三人。三人より四人だ。 神人に気づかれないよう‥‥‥というよりあいつら目が無いのだが、俺たちの位置分かって攻撃しているのか‥‥‥? まあさておき、再び旧館に戻ることにした。長門と古泉の二人が相手ならば、いくら反則みたいな能力でも多少は苦戦を強いられるだろう。というよりやられておいてくれないと困る。 瓦礫の道はやはり進みにくく、俺はハルヒをおんぶに変更し先を行き始めたのだが、‥‥‥やめときゃ良かった。背負ってから後悔したものだ。集中出来ん。 神人はと言えば東館の校舎をミニチュアハウスをいじる三歳児のごとく乱暴に壊しており、しばらくはこちらに来る様子がない。それはいいことだ。俺たちは無事に旧館へと着いた。 長門達はおそらく二階にいるはずだ。だからハルヒは文芸部の部室真下の部屋に置いておこう。俺としても、これ以上背負っていると罪悪感が膨れ上がりそうだったしな。 「朝比奈さんはここにいてもらえますか?」 「‥‥‥はい」 不安そうな返事をした。ただでさえ落ち着かない心境なのに、ハルヒのことを守らなければならない立場となってしまったからな。俺としても本当は二人で行きたい。しかしハルヒをここに置いてきぼりとなると‥‥‥‥にしても、さっきまで耳をつんざくような音を体験したせいか、こちらがえらい静かに思える。荒々しい戦闘を繰り広げているのではないのか? 背中に冷たいものを感じた。これは何か始まる予兆にしか思えない。 俺は朝比奈さんに背を向け、開けっ放しにしておいたドアへと進んでいった。がすぐに足を止めた。 さっきは行く途中で取り止めとなったが、今度は行く前に取り止めとなった。何故かって? ご丁寧にもあちらから来てくれたからな。 ドアがひとりでに閉まったかと思えば、誰かが暗闇の中からこちらに歩いてくる。長門なら忍者のように音もなく歩くはずだし、古泉ならばまず声をかけてくるだろう。となれば一人しかいない。 「お前か」 背後の窓からまた盛大に青い閃光が広がり、そいつの姿を映し出した。やっぱりね。 「長門や古泉をどうした」 「さあ? 帰ったんじゃない?」 まるで放課後の会話みたいな口調で偽ハルヒは答えた。朝比奈さんは 「あわわわわわ」 と小声だが、驚いているようだった。偽ハルヒとしてこのハルヒを見るのは初めてのようだ。 「有希が言ってたわ。そっちの涼宮ハルヒがいれば、あたしから能力を奪ってこの閉鎖空間を消すことが出来るって」 「そうかい。そりゃ良かった」 でも偽ハルヒから能力を取って本物のハルヒにかえすなんてこと、長門以外出来ないぞ。そもそも長門もそんなこと出来るのかどうか知らないんだが、今は信じるしかない。でもハルヒの能力を一時的にしろ場所移動が出来るということは、長門ならその力を応用して自分の思い通りに世界を造り変え‥‥‥何を馬鹿なこと言ってんだ。長門がそんなことするわけないだろ。 ともかく、長門達が来るまで時間稼ぎをしなければ。神人をそばで待機させているだけなのを見ると、すぐに攻撃をしてくるなんてのはなさそうだ。 ハルヒとその傍に寄り添っている朝比奈さんを庇うように、一歩前に進み出る。ということは偽ハルヒに少し近づいたことになるのだが、そのハルヒにはこっちのハルヒみたいに服に汚れやほこりが被さっているなんてことはなく、本当に長門と古泉を相手にしていたのか疑問せざるをえないほどいつも通りのハルヒの格好だった。髪に手を絡め、なびかせるように手を払う。ああ、ハルヒもよくそんな仕草してたな。 「‥‥‥あんた達に希望はないわよ」 そして第一声にこれだ。そんなのまだ分からないだろ。 「分かるわよ。あと数分もすれば、完全に世界は入れ替わる。こっちが本物になってあっちが偽物になるのよ。そしたら神人はこちらから消え、あちらの世界で破壊し尽くすからよ。古泉君も能力を失うし、有希もあたしを見守ることになるわ」 「どうしてこっちの世界にこだわる。お前は本当の世界を壊して、それで何になるっていうんだ。これ以上思い通りになる世界が欲しいっていうのかよ」 「‥‥‥‥」 買ってもらったばかりのおもちゃを壊されてしまったかのような顔をした後、偽ハルヒはボソッと、朝比奈さんまでには届かない声量で何かを言った。 「‥‥本物がいいの」 「‥‥‥‥」 そんな切なげに言われたら、どう返せばいいんだ。というよりもお前、自分で「本物」を連呼してたじゃねーか。 「あたしは本物だったわ。あんたに正体がばれる前まではね」 「‥‥‥俺が否定したからか?」 「そうよ」 そうなのかよ。 「だからあたしは本物となる。現実と閉鎖空間が入れ替われば、あたしが確実な本物となるはずよ。‘涼宮ハルヒ’はあたしとなって、’涼宮ハルヒ`が涼宮ハルヒとなるの」 「ワケ分からないこと言うな。ハルヒはハルヒでお前はお前だ。違うか?」 「違うわ。キョンは何も分かってないわよ」 さっぱり理解出来ない俺をよそに、朝比奈さんの方は 「涼宮さん‥‥」 とポツリと呟いていた。何が何だか‥‥‥。 「どっちにしろ、もう時間がない。お前にはハルヒに能力を返してもらうぞ」 「‥‥‥フン。キョンに何が出来るって言うのよ。有希がいなくちゃ何も出来ないじゃない。頼りきりのあんたがあたしに勝てるの?」 ‥‥‥‥。 「ほら、反論出来ないでしょ? 大人しくあたし側についたら?」 偽ハルヒの言うとおり、俺は反論出来なかった。長門がいなければ朝倉にナイフでメッタ刺しに殺されていただろう。古泉がいなければ閉鎖空間なんぞ知らないで焦りまくった挙げ句神人に踏み潰されてたかもしれん。朝比奈さんがいなければ、ハルヒの能力が目覚めるきっかけとなったあの時代までワープすることも出来ず、今居るSOS団の面子とも顔を合わせることすらなかったに違いない。三者三様、俺に協力をしてくれていたのだ。長門のおかげで面白い小説が読める。古泉のおかげで心置きなくゲームに勝つことが出来る。朝比奈さんのおかげでお茶の旨さを知った。 他の皆が俺を支援している理由なんて探せば山ほどある。どの一部がかけても俺は一人で道を進めないだろう。破天荒な団長にツッコミが出来ないというもんだ。 お前の言うとおり、俺はたいした能力を持たない無力な弱っちい人間だよ。 ‥‥‥でも俺は無敵だ。 窓ガラスが割れる音がして、二人分の着地音が聞こえた。朝比奈さんは「ひっ」と驚いたようだが、俺は振り向かずとも誰かは分かっていたから特段びびることもなかった。ゲームが弱い超能力者と万能宇宙人以外誰がいる? 「解析に時間がかかった」 長門の無機質な声が淡々とそう告げた。振り向いてやると二人とも埃まみれだ。切り傷や刺し傷がなさそうで良かったぜ。 「何が無敵よ」 偽ハルヒが嘲笑交えてそう言った。 「結局誰かの頼りになるんじゃない」 「そうだよ」 おくびれもせず開きなおる。俺もタチが悪くなったもんだ。 「俺には残念だが、宇宙人と互角に渡り合うほどの力はない。巨人と戦うダビデのような勇気も、タイムトラベル出来るほどの知恵もない。だがどうだ。そんな何も持たない俺の周りに、そんなすげー奴らが集まってるんだぜ。一人いりゃ充分なくらいなのに、三人揃っているんだぞ? そんな皆に支えられて、そして何よりも、」 一呼吸おき、目を閉じて寝そべっているハルヒの方を見る。 「ハルヒまでいるんだ。これが無敵とは言えずにいられるか?」 言えないだろう? 「‥‥‥なによ、皆そっちの涼宮ハルヒばかり気にして‥‥‥」 頼んでおいた仕事に失敗した部下を怒鳴りつける前のような上司ばりの不愉快さを露わにして、偽ハルヒは叫んだ。 「一体そっちの何がいいのよ!」 「有希、あんたにとって観察対象は涼宮ハルヒではなく、進化の可能性を秘めている能力を持った者じゃないの? 古泉君。神と崇める対象は一般の女子高生ではなく、世界を創造する能力を持ったものでしょ? みくるちゃん。時空のズレを発生させたそもそもの原因は、涼宮ハルヒの持つ情報爆発の能力じゃないの?」 三人とも押し黙り、何も答えれずにいた。宇宙人の派や機関、未来人の組織の中には、こっちの涼宮ハルヒを観察対象とするよう言っている奴もいるかもしれない。 「そっちのハルヒは忘れて、あたしの世界に来なさいよ。何もかも望み通りにしてあげる。有希が望むなら人間に、古泉君が望むなら超能力を消してもいいわ。みくるちゃんも、この時代に留まらせてあげる。だからあたしの世界に来なさい」 ‥‥三人は相変わらず沈黙をし、ただただ偽ハルヒを見つめていた。そりゃそうだ。あっち側に行く奴がいたら殴ってたところだ。 「何でよ‥‥‥」 歯車が歪み、思い通りに動かないおもちゃにイラつく子供のように叫んだ。 「どうしてなのよ!」 崩れ散る校舎でさえ響く偽ハルヒの声。外にいる神人も段々と透明になり始めてきていた。 ‥‥‥どうして、か。 そりゃな、お前。勘違いしてるぜ。 長門も古泉も朝比奈さんも、宇宙人、超能力者、未来人であってのSOS団じゃない。SOS団内の宇宙人、超能力者、未来人なんだ。そこの順序が大事なんだよ。 「そっちのハルヒにはもう何も残ってないじゃない‥‥‥」 偽ハルヒの目は、少しだけだが潤んでいた。 「どうしてあんた達は、そのハルヒを守るのよ!?」 ‥‥‥‥‥‥、いつだってそうだ。 ハルヒが何か思いつけば、誰もがそれに従ってしまう。古泉はただニコニコと笑ってるだけだし、長門は本を読んで我関せずだ。朝比奈さんはオロオロして、賛成が二で棄権が二だ。ここで誰が何と言おうとハルヒの催しは通ってしまい、いらぬ苦労を俺たちが抱え込んでしまう。そんな未来が待っているのを分かっていながらも、このまま好き勝手させては今後ハルヒはもっとトンでもないことをしでかすかもしれない危険性があるので、一応反論しておくのだ。そう、主に俺が。 今もそうだ。偽物とはいえハルヒはハルヒ。そんなハルヒの言葉に反応出来るのは、この三人ではないのだ。だから、言ってやった。 「団長を守るのに、理由がいるか?」 ハルヒ。目を開けて、周りをよく見てみな。 お前があんなに会いたがっていた宇宙人と未来人、超能力者がお前のために集まってきてくれたぜ。どうしてか分かるか? みんなお前のことが好きだからだよ。 「‥‥‥ふ、フフフ‥‥‥キョンったら‥‥」 偽ハルヒは人を小馬鹿にするような笑い、そして天井を見上げた。真上はSOS団の部屋だ。 「あんた達がどうしてもそっちのハルヒにつくって言うのなら、もう構わないわ。でも世界が入れ変わるまで一分弱‥‥‥今更何しても無駄よ」 な、残り一分弱だと。もうそんだけしかないのかよ!? 偽ハルヒがこちらに背を向け、教室から出ていこうとする。逃すものか。 だが俺が追いかけようとした瞬間に、真上の天井が亀裂が入った。まさか、と思う寸前で誰かに襟首を捕まれ引っ張られた。尻からこけ、 「いってーな!」 と思わず条件反射で文句を言ってしまったが、崩れさる天井の騒音でその声はかき消された。襟首を引っぱったのは長門か。じゃあ理不尽な文句が聞こえてるなこりゃ。Ⅴ 安全だと思われていたSOS団の床はとうとう抜け、俺たちと偽ハルヒの間に瓦礫の山を作ってしまった。上では神人が完全に校舎を破壊しており、その瓦礫の破片も容赦なく降り注いでくる。どうすんだおい。 「古泉!」 古泉の赤い球に期待するしかない。あれで急いでこの瓦礫の山をぶっ飛ばし道を作らないと、時間が! 「ダメです‥‥!」 右手を見てみれば、ピンポン球のよあな小さな赤い球しか浮いていない。もっとでかいの作れないのか。 「能力が‥‥失われつつあります。こちらが現実に変わろうとしているんです!」 そんな‥‥じゃあマジでヤバいじゃないか。どうすんだよ!? そんな非力な三人をよそに、長門は瓦礫にかけより、なんと瓦礫の破片を一つずつどかし始めた。まるでマシュマロでも掴んでるように素早く脇へと捨てていくが、しかしいくら長門とはいえこのスピードでは遅すぎる。もう30秒もないはずだ。その間にここをくぐり抜けて偽ハルヒを捕まえ、能力をハルヒに返すなんて無茶だ。不可能としか言いようがない。 「‥‥‥‥‥‥」 ‥‥‥何、諦めてんだ俺。 ザクザクとモグラのように瓦礫の山を掘り進んでいく長門を見て、そう思った。俺たちが守らなきゃならない世界を、どうして俺たちがこうも簡単に諦めて、代わりに宇宙人が頑張って守ろうとしているんだ。本当に頑張らなきゃならないのは俺たちの方じゃないか。 ‥‥‥諦めるものか。まだ、時間がある。もしないとしても、そう、時間を作ればいいのだ。 「朝比奈さん!!」 ハルヒのそばで涙目でオロオロしている朝比奈さんのもとへ駆け寄った。長門が時間内に掘り進めることを今は信じるしかない。 「五分前です!!」 「え、あ、ちょっと待っ‥‥」 待てない。時間がないんだ。 朝比奈さんの右手首をギュッと握った。まずい。窓から見える神人の姿が消えようとしている。 「朝比奈さん!!」 「申請がと、通りました。キョン君、目を閉じてくださ――――」 言われる前に目を閉じた。そしてすぐさまジェットコースターに乗ったかのような重力無視の感覚が四方八方から襲う。耐えろ、俺。耐えるんだ。 ‥‥‥キョンなら分かってくれると思ってた。有希や古泉くん、みくるちゃんが分かってくれなくてもキョンだけは分かってくれると思っていた。何故? これは私自身が‘涼宮ハルヒ’だから? それとも、私は私という、‘涼宮ハルヒ’に見目姿似ただけの別個体だからかしら? 分からない。‥‥分からない。 分かるのはもう彼らにはなすすべがなく、あたしは創造し終わった世界をどうしていくかを考えなければならないということだけ。やることは膨大にあるわ。とりあえずはコンビニね。コンビニ創ってご飯買って腹ごしらえしないと。そしてそのあとに校舎の創り直し。こんな校舎じゃ皆びっくりするわ。あ、あっちの世界にいるみんなをこっちに創らなきゃ。そして違和感ないようにいつも通りの日常を過ごしていた記憶を創りあげないと。そして、そして‥‥‥‥。 ‥‥‥‥‥‥、 考えれば考えるほど空しくなってきた。あたしは何がしたかったの。どうしてあたしは生まれたの。あたしは‥‥私は‥‥‥ この世界で何を望むの‥‥? ‥‥‥何発式なのかは分からない。だが撃つチャンスは一度しかない。時間的にも、相手がハルヒということも含めてだ。だから俺は、教室の扉を偽ハルヒが閉めた瞬間、すぐさま目の前に踊り出た。 「っ‥‥‥キ、キョン!?」 『ためらわずに』 カチッと、引き金を引いた音がした。銃弾が出たわけでも、針が出たわけでもなかった。本当に出たかどうかさえも分からない。だが目の前のハルヒの様子を見る限り何かは当たったようだ。 「‥‥‥っ!」 おでこを抑え、扉にもたれかかり、どんどん力が抜けていくかのように膝が床についた。ガクリと左手の手のひらを床につき、苦しそうに俺を見上げた。ズキンと胸が痛くなる。 偽ハルヒは‥‥‥ハルヒは、泣いていた。 「‥‥‥悪いな、ハルヒ」 朝比奈さんは急いでもう一人のハルヒの方に近づき、うなだれるハルヒを揺さぶっていた。死にそうな目に合わされた相手だと言うのに、朝比奈さんは一緒に泣いていた。ハルヒはわずかに頬に涙が流れる程度だったが、朝比奈さんはわんわんと泣いている。ハルヒのこんな表情見てしまったら、もし一人だったなら俺だって朝比奈さんのように泣いていたかもしれない。目頭が熱い。 「‥‥‥やっと、」 最後の力を振り絞ったかのような声だった。ハルヒのまぶたはもう閉じようとされている。‥‥まるで、‥‥永遠の眠りにつくかのように。 「‥‥‥ハルヒって、呼んでくれた‥‥」 ‥‥‥物理的な力を失い、廊下に完全にハルヒは倒れた。麻酔銃の効果だ。眠ったらしい。 眠っただけなのだ。何も死んだわけじゃない。死んだんじゃないんだ。 ‥‥‥なのに。 こんなにも涙が出るのはなんでなんだ。 ハルヒと呼んでやっただけで、どうしてそんなに満足そうな顔出来るんだ。お前は‥‥これから、いなくなってしまうのに。 ハルヒ、どうしてお前は‥‥‥‥‥‥。 バンッと誰かが教室のドアを押し倒してくる。とっさにハルヒを引きずり、下敷きになるのだけは免れさせた。誰だ一体‥‥‥と、そんなことするのは、今この状況には一人しかいないか。 長門だ。 「涼宮ハルヒに能力を返す時間はない。したがって一度私が世界を改変する」 「ま、待て長門。急にそんなこ‥‥」 そんな俺の言葉を全く聞きもせず長門はハルヒに手をかざした。能力なんてそう簡単に取ったり取られたりするもんなのか? 俺がハルヒの持つ能力とやらをどういう形をしているのか確認しようとした途端、朝比奈さんの切迫詰まった声が聞こえた。 「強力な時空震がきます。キョン君、目を閉じて!」 ほんの少しだけでいい。あのハルヒが保持していたものが見たい。 だが長門の手の周りがぼんやりとした瞬間、とてもじゃないが目を開けてはいられなかった。頭がグラリグラリと重力を完全に無視し引っ張られ、鋭い痛みがあちこちに走る。気持ち悪くなってきた。頭を両手で押さえ、今自分がどんな体制でどこにいるのかさえも見当もつかないまま俺はひたすら歯を食いしばった。 まずい‥‥‥ 意識が‥‥ ‥‥‥‥。 『‥‥‥キョン』 →涼宮ハルヒの分身 エピローグへ
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涼宮ハルヒの誤解 第一章 涼宮ハルヒの誤解 第二章 涼宮ハルヒの誤解 終章
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真夏のある日のこと。 SOS団の活動もない休日の午後、エアコンの不調により、うだるような暑さに耐えかねた涼宮ハルヒは、涼を求めて酷暑日の街を彷徨っていた。 「涼み処の定番、図書館はやっぱり人でいっぱいだったか……」 街中で配られていた、どこかのマンションの広告が入った団扇で扇ぎながら、街中を歩く。 「そもそもSOS団団長たるあたしが、人と同じ発想で涼を求めててどうすんのよ……」 さすがのハルヒも、この暑さに思考が常人並みに変化していた。 「あぢぃ……」 コンビニエンスストアでは、ごく短時間しか留まれない。北口駅前のショッピングセンターでは、時間は潰せるが座る場所がない。 「あ゛~……もうこうなったら、環状線にでも乗りに行くか!?」 その路線は最寄りの駅からさほど遠くはないにしても、別に鉄ちゃんではないハルヒにとって、ただ列車に乗っているだけという行為は、到底耐えられる代物ではない。 「雪でも降って涼しくならないかな……雪……ゆき……ユキ……有希……?」 「呼んだ?」 「うひゃあぁぁっ!?」 唐突に背後から掛けられた、見知った人の声に、ハルヒは飛び上がった。 「有希!? いきなり声掛けるからびっくりしたじゃない!」 振り返った先に居た文芸部部長、そしてSOS団員の長門有希は、珍しいことに私服だった。あまりの暑さに、制服ではもたないと判断したらしい。 「……いや、あの、有希……? 私服なのはいいことだし、今日は凄く暑いってことも分かるわよ? だけど……」 確かに、有希の服装は、理に適っていた。実に夏らしい。 「その格好じゃ、どう見ても男の子よ――――――――――――!!」 Tシャツ、短パン、サンダルに麦藁帽子。体格と相まって、可愛らしい小学生の男の子にしか見えなかった。知り合い以外に、この姿を見て「女子高生」と思う者は居ないだろう。 「この服装は、知り合いに『似合うし、機能的だから』と薦められた」 「確かに、これ以上ないくらいに似合ってるけど、似合う方向性が違うというか、何というか……」 「……?」 「……ま、いっか。それにしても、あんたと街中でばったり会うなんて、珍しいこともあるものね。てっきり図書館か本屋に入り浸ってるかと思ったのに」 とはいえ、海で遊んできた、という格好でもないわね、とハルヒは有希の姿を観察しながら言った。 「朝から図書館に居たが、人が多くなってきたので帰るところ」 「ああ、そういうこと。あたしもさっき涼みに行ってきたんだけど、人だらけで、あれじゃ落ち着いて読書なんてできないわね」 「涼みに?」 「うちのエアコンがぶっ壊れちゃってさ~、涼しい場所を求めて、このクソ暑い中を彷徨ってんのよ」 「……そう」 有希はハルヒに真っ直ぐな瞳を向け、 「それなら、うちに来るといい」 「え、マジ!?」 こくりと、無言でうなずいた。 ………… ……… …… … 「お邪魔しま~す!」 高級マンションだけあって、断熱がきちんとされている有希の部屋は、朝から無人で空調を効かせていなかったにもかかわらず、ひんやりとしていた。 「いや~~生き返るぅ~~~~」 「……飲んで」 有希はエアコンのスイッチを入れた後、冷蔵庫からキンキンに冷えた杜仲茶を出してきた。 「……ぷっは~! くぅ~~~~~~っ!!」 グラス一杯分を一気に飲み干したハルヒは、珍しく定時で上がったサラリーマンがビアガーデンで生中を飲み干したがごとき喜びの雄叫びを挙げると、そのままお替りを要求した。 「うまい! もう一杯!!」 「どうぞ」 こうして何杯か同じやり取りを繰り返した頃には、エアコンも効いてきた。 ハルヒは寝転んで全身からフローリングの冷たさを享受し、有希は借りてきた本の世界に旅立っていた。 エアコンの音をBGMに、ページをめくる音と、時折グラスの中で溶けた氷が立てる音だけが響く。 (暑い時には、何もない部屋っていうのも、いいものね……) やがてすっかり体力を回復したハルヒは、何となく、読書する有希を観察していた。 「……そっか。座椅子、買ったんだ」 孤島で合宿したときは、彼女は船の中で正座して読書していた。しかし今は、コタツの向かい側で、回転できる座椅子に座って読書している。 「……通販生活」 「買い過ぎには注意しなさいよ?」 「…………………………………………………………………………………………善処する」 「今の間は何よ、今の間は!?」 「気にしないで」 「気になるわよ!」 「…………」 「微妙な表情で見詰めるんじゃありません!」 「…………」 「しょぼーんってしてもだめ!」 「…………」 「こらー! 本で顔を隠すなー!!」 第三者がこのやり取りを目撃しても、有希の表情が変化しているとは思えないだろう。それだけ微細な表情の変化でも、ハルヒはきちんと見分けていた。 そんなやり取りもあった後、また落ち着きを取り戻した空間。ハルヒが一つ伸びをしたとき、それは起こった。 「ん? どうしたの、有希?」 有希の体が、不意にピクリと動いた。 「……足」 「足? ……ああ、当たっちゃったか」 ハルヒが伸びをしたとき、ちょうど前方に投げ出されていた有希の足の裏に、ハルヒのつま先が触れていた。 「を? ひょっとして有希は、足が弱いのかな?」 ちょんちょん、とハルヒがつま先で有希の足の裏をつつくと、その度に有希の体がピクリピクリと反応した。 「うりうり~」 ちょっと面白くなってきたハルヒは、次第に有希への攻めを強くした。 「……っ、うっ!」 「あ……」 一際大きく有希の体が跳ねた拍子に、彼女は膝をコタツにしたたかに打ち付けた。 「……………………………………………………………………………………………………」 「ごめん、ごめんってば! そんな涙目で、訴えかける視線を向けないでよ……」 ハルヒが必死に弁解するが、有希はハルヒにだけ分かる微妙な視線を送り続けていた。 やがてハルヒがいっぱいいっぱいになったところで、不意に有希は視線を逸らし、明後日の方向に視線を向けた。 「え……!?」 それで勝負はついていた。 ハルヒが自分の置かれた状況を把握したときには、背後に回った有希に床に倒され、脚を極められていた。 逸らした視線の先をハルヒが釣られて追いかけている間に、有希は超高速で移動していた。 「くっ、やるわね、有希! 今の技は、完全にやられたわ。でも、まだ負けないわよ!」 極められた技を外そうともがくハルヒに、有希は冷静に宣言した。 「あなたはもう、昇天している」 握り締め、中指の第二関節を突き出した有希の拳に、打撃が来るものとガードを固めたハルヒは、 「ひぎいっ!?」 悶絶していた。 「ちょ、ちょっと、有希! やめ……」 有希は構わず、固めた拳をハルヒの足の裏に突き立てて抉った。 「んのおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!?」 「ここは胃」 さらに有希は、拳を捻じりながら滑らせた。 「あおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」 「ここは子宮」 有希の責め苦は続く。 「これは足の裏にある各臓器の反射区を刺激するマッサージ」 「足裏マッサージでしょ! 知ってるわよ! すんごく痛いんだから!」 「特に痛い所が、何らかのダメージを受けている部位」 「分かったから、離してよ!」 有希は無言でうなずき、掴んでいたハルヒの足を離すと、反対側の足を掴んだ。 「ちょっと、離してって言ってるでしょ!?」 「人体はバランス。片方だけの施術ではバランスを崩し、かえって悪影響を及ぼす」 有希はハルヒの足の指を強くしごいた。 「んぎひぃっ!?」 「じっくり丹念に凝りをほぐす」 「い、いやあっ! 痛いのいやぁっ!!」 ハルヒは涙目で、首を左右にフルフルと振りながら、イヤイヤをしている。 「にょああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」 有希の拳が、無慈悲にハルヒの足裏に突き立てられた。 ………… ……… …… … 「ひゅーっ、ひゅーっ……」 じっくり丹念に足裏の凝りをほぐされたハルヒは、もはや虫の息だった。瞳孔が開いている。 「全体をほぐし終わった」 「も、もう勘弁して……お願いだからあっ……」 普段のハルヒからは信じられないような、情けない声で有希に懇願する。 有希は静かに、ハルヒの足を開放した。 「た、助かった…………」 有希はそのまま台所に消えると、湯気の立つタオルを持って帰ってきた。 「仕上げ」 「あー……蒸しタオル、気持ちいい……」 地獄から一転、今度は極楽を味わうハルヒ。恍惚とした表情で有希に身を任せる。 ハルヒの足を蒸しタオルでくるんだまま、有希は静かに告げた。 「あなたが特に弱っているところは分かった」 有希の言葉に、ハルヒは最も痛かった部分を思い出して、赤面した。 「恥ずかしがることはない。女性にはありがちなこと」 「やだ、そんなこと言わないで……」 ハルヒは両手で顔を隠している。 「最後に、そこを……集中的に施術する」 有希の言葉に、ハルヒは今度は顔を青くした。 「ちょ、有希、やめて! 後生だから!」 「あなたが特に弱っているところは……」 有希は親指を立てた。 「いやぁぁぁぁ!! ソコだけは! ソコだけはー!」 ハルヒは両手で顔を隠したままイヤイヤしている。 「肛門」 有希の指が、ハルヒの足裏に深々と突き立てられた。 「アッ――――――――――――――――――――!!」 ハルヒの悲鳴が部屋中に響き渡った。しかし、悲鳴はすぐにかき消された。 「このマンションの防音は完璧」 「……どうしたの?」 有希はハルヒに声を掛けた。 返事がない。ただのしかばねのようだ。
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季節はもう秋。 空模様は冬支度を始めるように首を垂れ、 風はキンモクセイの香りと共に頬をそっと撫でていく。 彼女は夏に入る前に切った髪がその風に乱れて 思いの外、伸びているのに時の流れを感じている。 夏休みから学園祭まで一気に進んでいた時計の針は 息切れをしたかのように歩を緩め、 学校全体が熱を冷ますようにこれまでと変わらない日常という空気を 堅く静かに進めていく―――― 「腹減ってんのか?」 腑抜けた声と間抜け面。 「何言ってんのよ?」 「いや、随分沈んでるからひょっとしてダイエット中で 朝飯でも抜いてんのかと思ってな。飴食うか?」 「うっさいわね!大体、私みたいな若くて可愛い女の子にはそんなもの全っ然必要ないの。 飴は一応、貰っとくけど。」 「はいはい、自分で言いますか。まぁ、お前は人一倍食い意地張ってるしな。」 「あんた、馬鹿なだけならまだしも的外れでデリカシーも無いなんて駄目にも程があるわ。」 「お前だけには言われたくないという突っ込みどころ満載だな、おい。」 「あぁ!!もう、うっさいわね!」 こんなんじゃ頬杖つく腕も痺れてくる。 「私にだって考え事の一つや二つくらいあるのよ。 秋はパーッとしたイベントが少なくて嫌になるわ。」 「考え事ね…まぁ、学園祭からここまでずっと勉強ばっかりだからな。 俺もパーッとやりたい気持ちはあるが、遊んでばかりもいられないだろ? 俺達は学生で学生の本分は勉強だからな。」 「そのくせしてろくな成績も取れないあんたは何なのよ?」 なかなか痛い所を突いてくるね、ハルヒ。 「なんか面白い大事件でも起きないかしら。」 おいおい、勘弁してくれ。そうそう大事件が起きてたら繊細な俺の身が持たん。 この1年半、こんな他愛無いやり取りをこの2人は 何回繰り返してきただろう? 彼も彼女も気付いてないのかもしれない。 いや、気付いていても今の2人は口に出しはしないだろう。 この言葉の交換が、この時間の共有が何よりも特別なものである事を。 何も変わらない、宇宙人も未来人も超能力者も現れない事に 辟易し、言葉さえも忘れたような彼女の灰色の日常に 彼が優しく彩りを添えてくれた事を。 まぁ、付け合わせの人参くらいにはなってるかもね、 等と彼女はまた素直じゃない答えを返すだろう―――― 必殺!ペンで背中を串刺しの刑!! 「いって!!!!」 凍り付いた。 クラス中の奴らが見つめてくる中、黒板で世界史を解説中だった教師は 「どうした?」と切り出し、俺はうやむやに誤魔化し何とか切り抜ける。 そして、次は後ろに座っているこの馬鹿を訊問しようとした時、 「ねぇ、キョン!昼休みに一回部室に行ってから学校抜け出すわよ。 あんたもついてきなさい。これは団長命令よ。」 相変わらずだが、唐突過ぎて意味がわからん。 「何言ってんだ。大体…」 「黙りなさい。」 前の教師と後ろの団長様から同時に最終宣告。 4限目が終わるとすぐハルヒは俺のネクタイを掴みペットの如く、 部室まで引きずっていった。痛い、苦しい、離せ。 「あら?有希。昼休みもここで本を読んでるなんてもうお昼食べたの?」 「俺も昼飯の時間なんだけど…」 「……読書週間。」 「ん?」 「本日より2週間、読書の力によって平和な文化国家を形成するという目的の元、 出版社、図書館、マスメディア等の公的機関より本を読む事を推奨されている。」 何となく聞いた事はあるが、意識した事も実行した事もほとんどないあれだな。 大体それ、普段の長門と変わらんじゃないか。 それになんかお前が言うと宇宙国家建設の標語みたいだぞ。 「有希は読書って訳ね。まぁ、良いわ。でもね、秋は読書だけじゃないわ。 閃きというか、さすが私はSOS団団長として目の付け所が違うと思うのよね。」 というか、ここは本来文芸部の部室だから長門の意見に従うべきだ。 だが、ハルヒはパソコンの電源を入れながらいつもの太陽のような笑顔になっていた。 「次は何を思い付いたんだ?お前は。」 「ふっふっふっ…ハロウィンよ!!小さい頃、読んだ絵本には 魔人、ドラキュラ、フランケンシュタイン、魔女、 黒猫、コウモリ、ゾンビ、黒魔術なんかが出てきて 事件と謎の匂いがプンプンする話だったわ。 という訳で今週はハロウィン調査を開始するの。 ハロウィンってまずはコスプレから始まるのよね。 だからまずは全員どんなコスプレにするかパソコンで調べないと!!」 おいおい…今週はSOS団全員でコスプレかよ。 「へぇ~、ハロウィンではお菓子を配るのね。ついでに秋の味覚も集めちゃおうかしら?」 それはもう美味いもん食いたいって方がメインになってないか。 頼むからとめてくれ、長門…駄目だ、こりゃ…興味を持っちまった。 そういえばお前もヒューマノイドなんちゃらの割には食欲は凄いタイプだったな。 「ハロウィンパーティーですか、面白いアイデアですね。」 いつからいたんだよ、古泉。 そして顔が近いんだよ。あまりニヤケてるとカボチャにしてくりぬくぞ。 「じゃあ、決定ね。古泉君、みくるちゃんと あとせっかくのパーティーだから鶴屋さんにも伝えといてくれる? 受験勉強の邪魔でなければって。」 邪魔に決まってんだろ。 それに案の定、パーティーメインになってるじゃないか。 「わかりました。」 「じゃあ行くわよ、キョン」 やれやれ。 ケルト民族のハロウィン祭ではひとつの大きな篝(かがり)火から 村の家々に火を分け合う事でお互いを共通の絆を持つ一つに繋がった輪としている。 SOS団にとってその絆は涼宮ハルヒという大きな篝火を中心にして出来たものだろう。 しかし1人だけ、彼だけは言わば彼女という篝火にとって種火とも言える存在。 どちらがどちらを照らしているのだろうか? 優しく暖め合う事もあれば、全てを燃やし尽くしてしまう事もある。 彼女にとって本気で喧嘩をしたのは彼だけなのかもしれない。 彼女にとって本気で誰かを愛したのも彼だけなのかもしれない。 坂道をボールのように転がる。 街はパステルカラーに染まり上がり、何だか切な~い秋の午後。 女の子と2人で授業をサボって昼休みに学校を抜け出す。 そんな甘酸っぱい青春の背徳感。 ただ相手は… 「ちょっとキョン!!聞いてんの!?」 …こいつだ。 「有希はやっぱりキャラ的に魔女よね。 みくるちゃんは猫耳とタイツで黒猫ね。 小泉君はドラキュラなんてどうかしら?」 「あぁ…良いんじゃないか」 「あんたは…」 「俺もやんのか!?」 「あったり前でしょ!!あんたはそうね…カボチャで良いわ。」 なんで俺だけ野菜なんだよ…。 「鶴屋さんはいたずら好きの幽霊って感じね。 私は何にしようかしら…」 ……魔人 「誰が魔人よ?誰が!!」 …口に出ちまったか。 「私は、うん、まずは私の家に行きましょう!!」 お~い、一人で納得すんな。 はい現在、場面は飛びまして、 ハルヒの家のリビングで待機中です、どうぞ。 ご両親は仕事かなんかかね?誰もいない。 魔人が一人でドタバタ暴れる音だけが響く。 「キョン!!」 やれやれ、今度はなんだ… 「ちょっとこっち来て。」 「どうした?」 「棚の上にあるカボチャを取って欲しいのよ。」 「棚にカボチャ?」 「仮装用のカボチャよ。」 なんでそんなもんが家にあるんだよ…ほれ。 手持ち無沙汰だからとりあえずハルヒについてくか。 「次は私の…ちょっとここで待ってなさい。」 「ん?どうした?」 「いいから!!」 ハッハ~ン、この扉がハルヒの部屋だな。 「お邪魔しま~す。」 「ちょっと!!やめなさい!!」 あら?意外と綺麗で可愛い部屋。 もうちょっとエイリアンのポスター的なもんとかあるのかと思ってたが… おいおい、熊のぬいぐるみって柄じゃないだろ。 「何、人の部屋をジロジロ見てんのよ!?」 「いや、意外と可愛い部屋だな。」 「バッカじゃないの!!座ってなさいよ!大人しくしてなかったら死刑だからね!!」 「ハルヒはこの熊に名前とか付けてるのか?」 枕が飛んできた。 あ、ちょっと良い匂い。 あれ?メールが来てる。 From:朝比奈さん タイトル:ハロウィンパーティーの件 本文:了解で~すヽ(=^゚ω゚)^/ 楽しみにしてますO(≧▽≦)O あと、鶴屋さんと私もお菓子と秋の味覚を用意しますね♪ダキ♪(●´Д`人´Д`●)ギュッ♪ ところで今回はどんな衣装になるんでしょうか~?・・・( ̄. ̄;)エット( ̄。 ̄;)アノォ( ̄- ̄;)ンー 楽しみですか朝比奈さん、いつもよりもっと際どいコスプレさせられるんですよ… From:古泉 タイトル:無題 本文:今朝まで発生していた閉鎖空間も消えてくれて、 機関も僕もあなたにはいつも感謝しきりです。 お礼といっては何ですが、僕と機関から 今回のハロウィンパーティーに幾分かの差し入れを出します。 涼宮さんの事はあなたにお任せします。 では、頑張って下さいねp|  ̄∀ ̄ |q ファイトッ!! 古泉、お前は絵文字なんか使うな、気持ち悪い。 「お~い、ハルヒ。朝比奈さんと古泉からメール来てるぞ~。 鶴屋さんと3人、お菓子とか用意してくれるってよ。」 「さすがSOS団の役員だわ、あんたみたいな雑用係とは違うわね。」 「そりゃ悪うございました。」 「人の枕で雑魚寝するな!!」 良い匂いだったぞ、ハルヒd( ̄◇ ̄)b グッ♪ 秋の空というものはどうにもうつろいやすいもので それを人の心に例えたりもしますが、雨には気持ちもしょげるもの。 夕方になり降り出した雨は雨脚を強め、街をオレンジ色から灰色に変えていく。 やたらスモークチーズの香り漂うSOS団の部室では 3人が三者三様の時間を過ごしています。 朝比奈みくるは妙な沈黙に耐えられなかったのであろう… お茶を2人に差し出しながら話し掛けてきました。 彼らがいない時にこうやって会話を交わすのは慣れないものです。 「涼宮さんとキョンくんのいない部室って静かですね。」 「そうですね。こういう部室も嫌いではありませんが、やはり物足りないですね。 ところで鶴屋さんはどこへ?」 「チーズに合う飲み物が必要とかでどこかへ行ってしまいました。」 「それは危険な香りがしますね。」 その時、大きな足音が聞こえたと思うと勢いを付けて扉が開きました。 「お待った~!!」 鶴屋さんでしたか。 「おっや~、あの2人はまっだ帰ってきてないっかな~? ま~たどっかでイチャついてんのかね~?」 「鶴屋さん、それ…」 「あぁ、ワインっさ!」 「だ、大丈夫なんですか~?受験前に。」 「めがっさ美味しいにょろ!まっ息抜き♪息抜き♪まずは軽く一杯。」 息抜きの範疇を超えてますね。 「遅いですね~涼宮さんとキョンくん…」 と、音も立てずに静かに扉が開くと雨でずぶ濡れの彼が1人で立っていました。 非常に嫌な予感がしますね。 「あれ?涼宮さんは?」 「分からん…」 「ハルヒ…重い…」 「あんたは雑用係なんだから文句言わずに歩く!」 やれやれ…どんな衣装が入ってるんだ、この鞄。 「次はどうするんだ?」 「次はお菓子ね。鶴屋さんやみくるちゃんや古泉君が 用意するって言っててもそこは私達も負けられないわ。」 そこは負けとけ。向こうは組織ぐるみだ。 「おいおい、そんなに派手にやる訳にはいかんだろ。 特に朝比奈さんや鶴屋さんは受験生にも関わらず付き合ってくれてんだ。 邪魔になったら迷惑掛かるだろ?」 「分かってるわよ。あんた、相変わらずノリ悪いわね~。 大変なのはみくるちゃんの様子見てれば分かるわよ。 だから今日だけでも派手にパーッとやって鬱憤を晴らすのよ。」 それはお前の鬱憤じゃないのか、ハルヒ。 「大体だな、お前は計画性が無さ過ぎるぞ。 期末テストもあるのに授業サボるなんて俺にとっちゃ死活問題だしな。 それに最近はこの前の中間テストもプラスして 親からのプレッシャーも日毎に増す今日この頃だ。 今日も帰って補習しなきゃ間に合わん。 それをお前はいきなりハロウィンパーティーだとか訳が…」 っておい、いきなり立ち止まるな! かのイギリスの文豪シェイクスピアは戯曲「リア王」においてこのような話を残しています。 リア王は隠居する為に国を分割し、彼の3人の娘に分け与えようとします。 彼は3人の娘の自分に対する想いを確かめる為に「言葉」を求めました。 長女と次女は甘く優しい言葉を投げかけ、国の割譲を約束されますが、 三女だけは「何もない」と答え、王の逆鱗に触れ、 婚約者と共に国を追い出されてしまいます。 しかし、女王となった長女と次女は永遠に愛すという誓いを立て 国を与えて隠居した父を邪魔者として追放します。 言葉というものはなんと脆いものなのでしょうか? 三女は父の苦難を耳にし、涙を流し、行方不明の王を探すために四方八方、手を尽くします。 「行動は時に言葉よりも雄弁である。」 彼女の言葉は想いとは裏腹で素直さに欠ける時もありますが、 いつも彼と共にいるというその行動そのものが彼女の想いを何よりも雄弁に語っています。 彼は今、目の前にいるおてんばなお姫様の心の奥底にある真の想いに 気付いているのでしょうか? 「そんなにやりたくないの?」 ん? 「キョンはそんなに皆と一緒にいるのが嫌?」 嫌とは言ってないが… 「分かった……じゃあ、止める。」 は? 「皆には私から連絡しとくからキョンも帰っていいわよ。」 出たよ…なんちゅう我が儘だ、おい。 「おい!ハルヒちょっと…」 「離して…」 「いや、お前なぁ…」 「帰りたければ帰ればいいでしょ!!」 ……頬に落ちた一滴の水は雨だったのだろうか、ハルヒの涙だったのだろうか――― 「私は付き合いだけで無理して皆とここにいる訳じゃありません!!」 朝比奈さんの怒号が響く。 「ごめんなさい…」 「なんでキョンくん、そんな事言ったんですか!? いい加減、涼宮さんの気持ちに気付いてあげて下さい!! 涼宮さんは私達の為というよりもキョンくんの為に きっとこのハロウィンパーティーをやろうって言ったんですよ!」 …俺の為? 「涼宮さん、キョンくんが最近、成績の事とかで悩んでるってずっと気にしてたんです。 だから涼宮さん、部室にいる時に一人でキョンくんの為に解説用のノートや 一緒に期末テストの勉強する為のスケジュール作ったりして、 来週からはスパルタで行くから今週くらいはキョンくんと 何か息抜き出来る事して気持ちを晴らして 羽を伸ばしておこうって言ってたんです!」 「あ~ぁ、今回はやっちゃったね~!キョンくん。」 鶴屋さんまで… 「ふぅ~…すみません、どうやら急なバイトが入ってしまったようです。」 古泉が椅子から立ち上がりながら俺を睨む。 「まぁ正確には涼宮さんらしく、団長の責務として団員の世話まで しっかりやらないといけないから大変だ、とおっしゃってましたが。 あなたの悩みは彼女の悩みでもあるんですよ。」 どういう事だ? 「まだ分からないんですか? 彼女からすれば何故、自分に相談してくれないのか? 悩みがあるなら共有してくれないのか?とね。 あなたに涼宮さんをお任せしたのは失敗でしたかね…。 では、失礼。」 すまん…古泉。 「今回はあなたの落ち度。謝罪すべき。」 ………。 妖精はいたずら好き。 かくれんぼなんかはお手の物。 彼は傘も差さずに雨の中を走り回って探してる。 でも、彼女は見つからない――― 「くそっ…あいつ一体どこにいやがるんだ…」 携帯に電話を掛けてもメールをしてもハルヒからの返事は一向に来ない。 あいつの家にも公園にも駅にも喫茶店にもハルヒが行きそうな所は 全て当たってみたが影も形も見当たらない。 街中を走り回ったせいか、足がもつれてこけてしまった。 街を行き交う人達の視線が痛い。 「はぁ…何やってんだ、俺は…。」 泥だらけになった服を払いながら涙が出てきた。 今日ほど自分が情けなくなった日はない…。 ハルヒの想いや悩みにいつも鈍感で一緒に騒いで楽しければ それで良いという距離感が崩れるのが怖かったのかもしれない。 ただそれは滑稽な道化に収まって楽をしていただけだ。 俺はあいつを傷つけて黙って見ていただけの 卑怯な臆病者だ。 もう一度学校に戻ろうと歩いていたその時、 目の前に一台の車が止まった。 「お久しぶりです」 「あ…森さん?」 「時間がありませんので説明は車の中で致します。 一刻の猶予もありません。お乗り下さい。」 え?という暇もなく、車に押し込まれた。 「これで体をお拭き下さい。」 今日はスーツ姿だが、時にメイドだったり、 森さんの本職は一体何なんだろうか? 手渡されたタオルで体を拭きながら諸々の事情を聞こうとしたのだが、 それは先に森さんの言葉に遮られた。 「事情を説明する前に一言。これは機関からの言伝ではなく、 私個人としての意見です。」 と、バックミラー越しに鋭い視線を投げかけられた。 「話は古泉から伺っております。 涼宮ハルヒを監視している機関として必然的にあなたの事も知る事になるのですが、 率直に申し上げますと、あなたは男として失格です。」 厳しっ! 「あなたは女性の言動の裏にある本当の想いに鈍感過ぎます。 それは意識してのものなのか、無意識なのかは分かりませんが 結果的に女性を傷つけるものとして私は断じて許せません。 彼女は、涼宮ハルヒは常にあなたの傍にいて、 あなたを心の底から慕っています。 あなたの想いもありますので必ずしも彼女の想いに応えろとは言いません。 しかし、のらりくらりと逃げるような真似をして 彼女を裏切り傷つけるような行為は同じ女として 怒りを禁じ得ません。」 突き刺さる…。というか森さん、キャラ変わってない? こんなにドSキャラだったっけ? 「では、ここから本題に入らせて頂きます。」 …とことん凹まされた…また涙出てきそ。 「涼宮ハルヒは今、この世界には存在していません。」 は? 「簡単に申し上げますと現在、涼宮ハルヒは 閉鎖空間の中に閉じ篭っているという言い方が出来ます。 私達、機関の活動は涼宮ハルヒの精神的な動揺から発生する 閉鎖空間の平定にあり、その閉鎖空間内において あなたもご覧になった事がある神人の討伐を行っていたのですが、 つい先刻よりその閉鎖空間内に機関の人間が 誰一人入る事が出来なくなっています。 閉鎖空間内にいた人間もことごとく追い出されています。 現在、発生している閉鎖空間はこれまでのものとは全く異質で 形も歪な空間です。」 「それは以前、俺とハルヒの2人だけで行ったのと同じものですか?」 「似てはいますが、それともまた違うものです。 ただ自らの存在以外を全て拒絶している空間のようです。」 「それだと今の俺は一番拒絶されそうな…」 と言いかけた所で再び森さんの鋭い視線が突き刺さる。 「良いですか?今、機関の人間を総動員して解決に当たっていますが、 このままだと世界中の人間だけが消えてしまう危険性があります。 申し訳ありませんが、あなたにはまた協力を要請する事になった次第です。 目的地につきましたので詳しくはそこで。 傘をどうぞ。」 その場所はさっき俺とハルヒが喧嘩をした駅前の広場だった。 そして、そこには真顔の古泉に長門と朝比奈さんも来ていた。 「お待ちしていましたよ。」 すまんな、古泉。 「情報統合思念体は混乱している。 現在の涼宮ハルヒは有機生命体の持つ全ての感情を 強い力で衝突させ、爆発を起こしかけている。 本来、情報統合思念体にとって感情とはエラーと認識されるもの。 それが処理出来ないほどの量と質で埋め尽くされている。 情報統合思念体にとって自らの存在を消去し得る 触れる事は危険且つ、不可能な領域として認識した。 だから、あなたに任せる。」 そんなでっかい事になってるのかよ…。 「キョンくん…さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい… でも、キョンくんにしか涼宮さんを助ける事は出来ないと思うの。 キョンくんの素直な気持ちをちゃんと伝えて、お願い。」 くぅ~…とうとう覚悟を決めるしかないのか、こりゃ。 「では、ここからが閉鎖空間の入り口です。 僕らはこれより先には進めません。 ですが、あなたならきっと大丈夫です。 いえ、あなたにしか出来ません。」 わかりました…いってきます…。 彼女は魔法の国に迷い込んだお姫様。 お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。 普段はおてんば、はねっかえりでも 一人でいるのは怖くなる。 昔、絵本で読んだお話を決して忘れちゃいけないよ。 いつも助けてくれるのは白馬に乗った王子様――― 一瞬、雷に打たれたような衝撃が身体中を突き抜けると そこは幾度か見た灰色の空間だった。 ただ、土砂降りの雨が降っていた。 雷鳴も轟くその空間はこれまで知っていたものとは まるで違うものだった。 「なんだ、こりゃ?ハルヒはどこだ?」 叫んでみた。 「来たは良いもののどこに行って何をすれば良いかさっぱり分からんぞ。」 もう一度叫ぼうとした時だった。 「馬鹿!!!」 ハルヒ!? 「どこだ!?ハルヒ!!」 「馬鹿!うっさい!黙れ!このすっとこどっこい!! なんで追いかけて来ないのよ!?このアホ!間抜け面!唐変木!」 ありとあらゆる罵声が雷鳴と共に鳴り響いている。 助けに来てどやされるとはな…。 声の方角からすると喧嘩して離ればなれになった方角だな。 声を頼りに走ると近くの公園に辿り着いた。 しばらく走ってみてわかったのだが、ところどころ街が破壊されている。 しかし、どうやらあの神人というのはいないようだ。 いや…その代わり屋根付きベンチの上で魔人が仁王立ちしていた。 「遅刻!罰金!」 やれやれ… 「これでも結構、急いで走ったんだぞ。」 「全くこんなに暗くなって雨が降ってきたんじゃ 身動きも取れやしないわ。携帯も通じないし。」 こいつ、ひょっとしてここが閉鎖空間って事に気が付いてないのか? 「お前ずっとここにいたのか?」 「別に私がどこにいようと関係ないでしょ!?」 「ハルヒ…」 俺はハルヒの肩に手を置いた。 細い肩だ。 「何よ?何すんのよ?」 「そんなびしょびしょに濡れてたら風邪引くだろ? タオルで拭くんだよ。」 ハルヒの柔らかい髪の毛はくしゃくしゃに 顔は真っ赤になっている。 「ふん…まぁ、タオルを持ってくるなんて あんたにしちゃ上出来ね。」 ありがと、森さん。 その時ふと、ハルヒの肩が震えてるのを感じた。 あぁ~…そうか…そうだよな。 「ハルヒ……ごめんな。」 ぼつりと口をついて出た言葉がハルヒの顔を曇らせた。 そこからハルヒは俺の服にしがみついて 堰を切ったように大声で泣き出した。 そうだ…こいつだってこんな所にひとりぼっちにされたら 寂しいし、怖いだろう。 喧嘩して怒ったのと同じ分だけ悲しかっただろう。 俺の為に色んな事考えて色んな事してくれた分だけ 突き放された時はショックだったろう。 俺はハルヒをありったけの力を込めて抱き締めた。 俺は本当に大馬鹿者だ…。 もうこいつを離しちゃ駄目だ。 ごめんな、ハルヒ…。 そして…ありがとう、ハルヒ……。 その時、耳元で雷鳴のような大きな音が響いた。 「……プッ……クックッ……ハッ…ハッハッ!!」 そうだ、俺達は昼休みに学校を抜け出してから何も食べてなかった。 「ハッハッ!!ハルヒ、お前、腹の音!」 「あんたもでしょうが!キョン!」 お互い、赤面しながら笑い合った。 「腹減ってんのか?」 笑い過ぎて涙が出てきた。 「飴食うか?」 2人で飴を舐めながら俺は次の問題を考えていた。 閉鎖空間から抜け出さないといけない、 ハルヒにどう説明しようか等々。 とりあえず2人で歩いて閉鎖空間の入り口に戻ろうと 傘を差して屋根の下から出ると さっきまでの大雨と雷が嘘のように晴れ上がっていた。 「秋雨ってやつね。秋の天気は変わりやすいから。」 あれ?閉鎖空間から抜け出してる?なんでだ? 灰色じゃない。オレンジ色の夕陽が眩しい。 とりあえず足は自然と学校へと向かっていた。 「あぁ~…ハルヒ。その…なんだ… 今週はさ…思いっきりハロウィンパーティーやろうぜ。」 飴のようなキラキラした瞳でこっちを見つめている。 「あ、あとな…ちょっと頼み事があるんだが、 勉強を…教えてくれ。 今度の期末テストはお前の力を借りんとヤバそうだ。」 ハルヒは夕陽よりも眩しい笑顔で笑っている。 「しょうがないわね!その代わり! 今回はいつもより更にスパルタで行くわよ!」 「おう、ありがと!」 「な、何がありがとうよ! SOS団の団長として団員の世話は当然の仕事よ!」 嵐来りて大暴れ。 上へ下への大騒ぎ。 嵐は去りて一番星。 誓いを立てて手を繋ぎ、 夢か現か幻か。 「ではこれより!SOS団ハロウィンパーティーを始めます!!」 結局、部室では時間が遅いと言う事で急遽、鶴屋さん宅で お菓子と秋の味覚を取り揃えたあまりにも 豪華なパーティーを催す事になった。 長門はひたすら食ってるな。 なんか高そうなワイン付き。 だけど良いんですか、鶴屋さんのご両親。 娘さん、ワインで酔っ払って暴れてますよ。 朝比奈さんの胸揉みまくってるし。 コスプレはと言うと 長門は魔女、朝比奈さんは黒猫、古泉はドラキュラ、鶴屋さんは幽霊、俺はカボチャ…。 団長様はというと、超が付くほどのミニスカートを履いた妖精らしい。 おいハルヒ、パンツ見えてるぞ。 「今回もあなたに助けられましたね。」 「まぁ、今回は俺が原因でもあるからな。 色々すまんかったな、古泉。」 「いえ。初めに話を聞いた時は機関で拘束して 拷問にでも掛けようかと思いましたがね。」 お前が言うと冗談に聞こえないんだよ…。 「で、涼宮さんとは付き合う事になったんですか?」 せっかくの美味い飯が喉に詰まっちまうじゃねぇか! 「ば、馬鹿言うなよ!」 「おや?今回もキスしたんじゃないんですか?」 「しとらん!」 「それは……また森さんが怒りますよ。」 ギクッ! 「キョ~ン!」 「なんだ?」 「あんた、美味しそうなもん食べてんじゃないのよ。」 「やらんぞ。自分で取れ。」 「ケチ!うりゃ!」 「おい、取るなよ。」 「だって私、この付け合わせの甘い人参、好きなんだも~ん。」 やれやれ…。 「じゃあ、お世話になりました~!」 「良いって事さ~!今度はクリスマスだね!」 「おやすみなさ~い!」 宴もたけなわ、か。 来週からはしばらく勉強漬けの日々だな。 「では、僕もこのへんで。」 「…同じく。」 武士? 「わたひもおうひにかえりまひゅ~。」 酔い過ぎです、朝比奈さん。 「では、涼宮さんを家まで送り届けて下さいね。」 ニヤケ顔がいつもの倍になってんぞ。 「キョン!」 「はいはい。」 「はい、は一回。」 「はぁ~い。」 彼は一つ決めました。 はっきりさせておかなきゃいけない事がある。 試験が終わったクリスマス、 ちゃんと彼女に素直な想いを伝えよう、と。 冬も間近な秋の夜。 空に浮かぶ星達は遠い遠い所から 歩く2人を照らします。 彼女はくしゃみをしています。 彼はそっと服を着せ、彼女の手を取り歩きます。 照れて言葉も交わさずに。 まだまだ臆病な2人には ただただ優しく光を照らしましょう。 The End 涼宮ハルヒの教科書へ
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涼宮ハルヒハルヒが上に乗ってきて強奪 ★イベント画像あり★ ハルヒの熱はかり ★イベント画像あり★ ハルヒのバーチャルバトル ★イベント画像あり★ ハルヒのポーズ指導 ★イベント画像あり★ ハルヒのどこかで見た夢 ハルヒと剣のデザイン ハルヒの告白練習 ハルヒの寝顔 ハルヒの弁当 ハルヒと消しゴム飛ばし ハルヒのものまね ハルヒと地震 ハルヒとゲームで勝負 ハルヒと実験 ハルヒと登校 ハルヒとジュース ハルヒの餌付け ハルヒから餌付け ハルヒとにらめっこ ハルヒのモーニングコール ハルヒの膝枕★イベント画像あり★ ハルヒと恋の始まり ハルヒに羽交い締めにされて強奪★イベント画像あり★ ハルヒと宿題と手伝い ハルヒとヘッドフォン ★イベント画像あり★ ハルヒの呼び名 ハルヒと呼び名の変更 ハルヒと公園カップル ハルヒの着替え中 ★イベント画像あり★ ハルヒと掃除 ハルヒのポニーテール ★イベント画像あり★ ハルヒのお見舞い ハルヒに肩揉み ★イベント画像あり★ ハルヒの変な踊り ★イベント画像あり★ ハルヒと勉強会 ハルヒのデバッグ ★イベント画像あり★ ハルヒの後6分 夕日のハルヒ ★イベント画像あり★ ハルヒとストローと1本 ★イベント画像あり★ ハルヒとお姫様抱っこ ★イベント画像あり★ ハルヒと意見の違い ハルヒと夜の並木道 ハルヒと夢の続き ハルヒのウェディング ★イベント画像あり★ [#q0d250ee] [#xccf1967] [#id157d81] [#r158d3cf] 涼宮ハルヒ ハルヒが上に乗ってきて強奪 ★イベント画像あり★ (※土曜でも可) 古泉・平日:シルエットシーン(グラフィック) ハルヒ・連続:キス音SE(サウンド) (変な踊りが不可に) ハルヒの熱はかり ★イベント画像あり★ ハルヒ・平日:画像表示調整(スクリプト) ハルヒ・連続:画像のズレを直す(スクリプト) (意見の違いが不可に) ハルヒ・連続:音のタイミング調整(スクリプト) ハルヒ・連続:難易度調整(スクリプト) (意見の違いが不可に) ハルヒ・連続:プレイ時間調整(スクリプト) (意見の違いが不可に) ハルヒのバーチャルバトル ★イベント画像あり★ ハルヒ・連続:敵パラメータ(スクリプト) (にらめっこが不可に) ハルヒ・連続:思考ルーチンフロー(スクリプト) 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ハルヒと実験 ハルヒ・木曜:選択肢考案(シナリオ) ハルヒ・連続:メインシナリオ構想(シナリオ) (登校、夢の続きが不可に) ハルヒ・連続:サブシナリオ構想(シナリオ) ハルヒ・連続:キャラシナリオ構想(シナリオ) (登校、地震、掃除が不可に) ハルヒ・日曜:時間外 (他の日曜イベントと併用可 ウエディングと一緒に出来るのを確認) ハルヒと登校 ハルヒ・平日:メインシナリオ構想(シナリオ) (実験、夢の続きが不可に) ハルヒ・平日:キャラシナリオ構想(シナリオ) (実験、地震、掃除が不可に) ハルヒ:作業時間外 ハルヒとジュース ※書き込み・シナリオ強化週が入手出来る ハルヒ・平日・2週目:シナリオテーマ考案(シナリオ) ハルヒ・連続:世界設定考案(シナリオ) (ハルヒの餌付けが不可に) ハルヒ・連続:世界年表考案(シナリオ) ハルヒ・連続:キャラ性格設定(シナリオ) (にらめっこが不可に) ハルヒ・連続:メインシナリオ設定(シナリオ) ハルヒ・日曜:作業時間外 ハルヒの餌付け ハルヒ・平日:世界設定考案(シナリオ) (ジュースが不可に) ハルヒ・連続:アイテム画像(グラフィック) (ハルヒから餌付けが不可に) ハルヒ・連続:選択肢考案(シナリオ) (実験が不可に) ハルヒ:作業時間外 ハルヒから餌付け ハルヒ・平日・午後:アイテムパラメータ(スクリプト) ハルヒ・連続・午後:アイテム画像 (ハルヒの餌付けが不可に) ハルヒとにらめっこ ハルヒ・平日:キャラ性格設定(シナリオ) (ジュースが不可に) ハルヒ・連続:敵パラメータ(スクリプト) (バーチャルバトルが不可に) ハルヒ・連続:キャララフ(グラフィック) ハルヒのモーニングコール ハルヒ・平日:特殊攻撃ボイス(サウンド) ハルヒ・連続・午前:ボイスデータ化(サウンド) ハルヒ・連続・午後:実機ボイスチェック(サウンド) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒの膝枕★イベント画像あり★ ハルヒ・平日:音楽鑑賞(サウンド) ハルヒ・連続:背景探し(グラフィック) (ポーズ指導、夕日、公園カップルが不可に) ハルヒ・連続:シナリオネタ探し(シナリオ) (恋の始まり、ゲームで勝負、地震が不可に) ハルヒ・連続:説明書を読む(スクリプト) (ゲームで勝負が不可に) ハルヒ・連続・日曜:作業時間外 ハルヒと恋の始まり ハルヒ・平日:映像鑑賞(サウンド) ハルヒ・連続:シナリオネタ探し(シナリオ) (膝枕、ゲームで勝負、地震が不可に) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒに羽交い締めにされて強奪★イベント画像あり★ (※土曜でも可) ハルヒ・平日:教本探し(グラフィック) (勉強会が不可に) ハルヒ・連続:デートシナリオ作成(シナリオ) (ストロー、夕日、弁当が不可に) ハルヒと宿題と手伝い ハルヒ・平日:画像チェック(デバッグ) (後6分が不可に) ハルヒ・連続:サウンドチェック(デバッグ) (ハルヒのデバッグ、あと6分が不可に) ハルヒ・連続:スクリプトチェック(デバッグ) (ハルヒのデバッグ、あと6分が不可に) ハルヒ・連続:シナリオチェック(デバッグ) (後6分が不可に) ハルヒ・連続:誤字脱字チェック(デバッグ) (ハルヒのデバッグが不可に) ハルヒとヘッドフォン ★イベント画像あり★ ハルヒ・平日:音量チェック(デバッグ) ハルヒ・連続:ボイスチェック(デバッグ) ハルヒの呼び名 みくる・平日:サブシナリオ構想(シナリオ) (実験、公園カップルが不可に) ハルヒ・連続:サブシナリオ作成(シナリオ) (夜の並木道が不可に) ハルヒ・連続:呼称表リスト(シナリオ) (呼び名の変更が不可に) ハルヒと呼び名の変更 ハルヒ・平日・4週間目・なぜか・午前:呼称表リスト(シナリオ) (呼び名が不可に) ハルヒ・連続・4週間目:作業時間外 ハルヒと公園カップル ハルヒ・平日・なぜか:背景探し(グラフィック) (ポーズ指導、夕日、膝枕が不可に) ハルヒ・連続:サブシナリオ構想(シナリオ) (呼び名、実験が不可に) ハルヒ・日曜:作業時間外 ハルヒの着替え中 ★イベント画像あり★ ※かなりではポニーテールが優先される ハルヒ・平日・全体作業・なぜか:コスプレ撮影(グラフィック) (ポニーテールが不可に) ハルヒ・連続・別作業(衣装探し(服の資料探し)(グラフィック))+みくると外出作業 ※実際には「みくると外出作業中」に「ハルヒは別で衣装探し」 矢印はみくる側に繋げること ハルヒと掃除 ハルヒ・平日・3週間目:キャラシナリオ構想(シナリオ) (登校、実験、地震が不可に) ハルヒ・連続:キャラシナリオ作成(シナリオ) (消しゴム飛ばし、地震、ものまねが不可に) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒのポニーテール ★イベント画像あり★ ※かなりでこちらが優先される ハルヒ・平日・かなり:コスプレ撮影(グラフィック) (着替え中が不可に) ハルヒ・連続:恥じらい表情(グラフィック) ハルヒのお見舞い 長門・平日・ハルヒなぜか:エフェクト割り当て(スクリプト) ※午前かつ長門少しだと、長門と相合傘が発生 ハルヒ・連続:シナリオコンバート(スクリプト) ハルヒ・連続・土曜・午前:イベントスクリプト(スクリプト) (弁当、ウエディングが不可に) ハルヒ・連続・土曜・午後:外出作業 ハルヒ・日曜:作業時間外 ハルヒに肩揉み ★イベント画像あり★ ハルヒ・平日・少し・憂鬱・疲労:デバッグ作業ならなんでも ハルヒ・連続:デバッグ作業 ハルヒ・連続:デバッグ作業 ハルヒ・連続:デバッグ作業 ハルヒの変な踊り ★イベント画像あり★ みくる・平日・別作業:特殊攻撃説明文(シナリオ) 古泉・連続:キス音SE(サウンド) (上に乗ってきて強奪が不可に) 古泉・連続:ラブリィなもの考案(シナリオ) (ストローが不可に) ハルヒ・連続:特殊攻撃の設定(スクリプト) ハルヒと勉強会 ハルヒ・平日・リラックス:教本探し(グラフィック) (羽交い絞めが不可に) ハルヒ・連続:教本で勉強(サウンド) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒのデバッグ ★イベント画像あり★ 長門・平日:誤字脱字チェック(デバッグ) (宿題と手伝いが不可に) 長門・連続:サウンドチェック(デバッグ) (宿題と手伝い、後6分が不可に) 長門・連続:スクリプトチェック(デバッグ) (宿題と手伝い、後6分が不可に) 長門・連続:表示物チェック(デバッグ) 長門・連続:作業時間外 ハルヒの後6分 ハルヒ・平日:サウンドチェック(デバッグ) (宿題と手伝い、ハルヒのデバッグが不可に) ハルヒ・連続:シナリオチェック(デバッグ) (宿題と手伝いが不可に) ハルヒ・連続:スクリプトチェック(デバッグ) (宿題と手伝い、ハルヒのデバッグが不可に) ハルヒ・連続・午前:画像チェック(デバッグ) (宿題と手伝いが不可に) ハルヒ・連続:作業時間外 夕日のハルヒ ★イベント画像あり★ ハルヒ・平日・憂鬱:背景探し(グラフィック) (ポーズ指導、膝枕、公園カップルが不可に) ハルヒ・連続:デートシナリオ作成(シナリオ) (羽交い絞め、ストロー、弁当が不可に) ハルヒ・連続・午後:現実世界ラフ背景(グラフィック) (どこかで見た夢が不可に) ハルヒとストローと1本 ★イベント画像あり★ みくる・平日・ハルヒかなり:ラブリィなもの考案(シナリオ) (変な踊りが不可に) ハルヒ・連続:デートシナリオ作成(シナリオ) (羽交い絞め、夕日、弁当が不可に) ハルヒとお姫様抱っこ ★イベント画像あり★ 古泉・平日・午後:マップ設定(スクリプト) (バーチャルバトルが不可に) +ハルヒ・↑と同時に別作業:SE楽器音(サウンド) ハルヒ:作業時間外 ハルヒと意見の違い ハルヒ・平日・なぜか・憤慨:画像のズレを直す(スクリプト) (熱はかりが不可に) ハルヒ・連続:プレイ時間調整(スクリプト) (熱はかりが不可に) ハルヒ・連続:難易度調整(スクリプト) (熱はかりが不可に) ハルヒと夜の並木道 みくる・平日・ハルヒなぜか:背景ラフの清書(グラフィック) ハルヒ・連続:サブシナリオ作成(シナリオ) (呼び名が不可に) ハルヒ・連続:環境音(サウンド) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒと夢の続き (※土曜でも可) ハルヒ・平日・なぜか:メインシナリオ構想(シナリオ) (登校、実験が不可に) ※ハルヒ・なぜかでも午前は登校が優先 午後だとこちら優先に ※みくる・なぜかだと「みくると夜の校舎」が優先。ただし、土曜に起こした場合はこのイベントが優先。 ハルヒ・連続:メインシナリオ作成(シナリオ) (消しゴム飛ばしが不可に) ハルヒ・連続:作業時間外 ハルヒのウェディング ★イベント画像あり★ みくる・平日・ハルヒかなり:エンディング曲(サウンド) ハルヒ・連続:イベントスクリプト(スクリプト) (弁当、お見舞い、バーチャルバトルが不可に) みくる・連続:衣装設定(グラフィック) (剣のデザインが不可に) ハルヒ・連続:イベントキャララフ(グラフィック) 作業時間外・日曜 [#q0d250ee] 平日: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: [#xccf1967] 平日: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: [#id157d81] 平日: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: [#r158d3cf] 平日: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続: 連続:
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「あんた・・・誰?」 俺に向かってそう言ったのは涼宮ハルヒだ。 あんた?誰?ふざけてるのか?嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をついてくれよ! だがハルヒのこの言葉は嘘でも冗談でもなかった。 この状況を説明するには昨日の夕刻まで遡らなければならない。 その日も俺はいつものように部室で古泉とチェスで遊んでいた。 朝比奈さんはメイド服姿で部屋の掃除をし、長門はいつものように椅子に座って膝の上で分厚いハードカバーを広げている。 ハルヒは団長机のパソコンとにらめっこしている。 いつものSOS団の日常だった。 「チェックメイト。俺の勝ちだな古泉!」 俺はいつものように勝利する。 「また負けてしまいましたか。・・・相変わらずお強いですね。」 微笑みながらこっちをみる古泉。 俺が強い?言っておくが俺は特別強くなんかないぞ!おまえが弱すぎるんだよ古泉! まぁこの微笑野郎が本気でやっているかどうかは疑わしいもんだが。 そうだったら腹がたつな! 「今日はここらでやめとくか。」 「そうですね。続きはまた明日とゆうことで。」 ニコニコしながらチェスを片付け始める古泉。 すると長門がハードカバーを閉じる。 同時に下校の予鈴が鳴った。 ハルヒが立ち上がって鞄を肩にかける。 「さぁ、あたしたちも帰りましょ!」 ハルヒの号令に俺たちは帰宅の準備を始める。 「たまにはみんなで一緒に帰りましょ!」 ニコニコしながら腕を組んでいるハルヒ。 「そうだな、たまにはいいかもしれないな。」 今思えばこのときが運命の分かれ道だったのかもしれない。 帰りの支度を終えた俺たち5人はいつもの坂道を下り始めた。 先頭に俺、隣にハルヒ、俺の後ろに朝比奈さんと古泉がいて最後尾に長門がいる。 「ねぇ、キョン。あんた土曜日ヒマ?」 ハルヒが歩きながらこちらを向く。 土曜日か…ヒマと言えばヒマなんだが俺には睡眠という名の立派な業務がある。 「まぁどうせヒマでしょ?あたし叔父さんから映画のチケット2枚もらったのよ!特別にあんたを招待してあげるわ!」 正直俺は映画館のあのかったるい感じが嫌なのだがハルヒにしちゃまともな誘いだ。特に断る理由もないだろう。 「映画ねぇ。別にいくのはいいんだがどんな映画を見に行くんだ?」 こいつのことだからSF物かもしくはホラーか?まぁそれなりに楽しめる内容だといいんだが。 「あ、あたしもまだどんな映画だか知らないの。」 「チケット貰ったならタイトルくらいわかるだろ?」 そう返すと何故かハルヒは顔を赤くする。 「べ、別にいいじゃない!どんな映画でも!」 嫌な予感がするな。こいつがタイトルを言えない映画ってなんだ? まさか恋愛ラブストーリーだったりしてな。 「と、とにかく土曜日空けときなさいよ!」 まぁいいか。 ハルヒがどんな顔して恋愛ものを観るか楽しみでもある。 そんな会話を俺とハルヒがしていると聞いていた古泉が微笑声をもらしながら近づいてきた。 「お二人方、週末は映画館でデートですか。お熱いですねぇ。」 うるさい古泉。おまえはいつも一言多いんだよ。 「デ、デートじゃないわよ!キョンはただのオマケなのよ!勘違いしないで頂戴古泉君!」 そこまでむきになって否定しなくてもいいと思うが… 「そうゆうことにしておきましょう。」 ハンサム野郎は再び微笑して頷いた。 ここまでは普段どおり何ら変わりはなかったが事件はこの後起きる。 坂道を下ると大きな交差点にぶつかった。 信号は青だ。 俺はハルヒの誘ってきた映画のことを考えながら渡り始めた。 このとき俺がよくまわりを見て渡っておけばあんなことにはならなかったかもしれない。 突然、大きなブレーキ音とともに俺の横に一台のバイクが突っ込んできた。 「危ないキョン!」 ハルヒは俺に飛びついて俺を転ばせた。 俺とハルヒはそのまま転がる。 危機一発。俺は寸前のところでハルヒに助けられたようだ。 「・・・っ・・・なんて乱暴な運転しやがる・・・」 俺は体を起こしながら辺りを見る。 「大丈夫ですか!?」 古泉たちが駆け寄ってきた。 「・・・なんとかな。ハルヒ助かったぜ!」 俺はそう言いながら隣に倒れこむハルヒを見た。 ハルヒは道路に倒れこんだまま目を瞑っている。 「おい!ハルヒ?」 ハルヒは応答しない。 その場にいた全員が言葉を失った。 ハルヒはぐったりして目を瞑ったままだ。 「お、おいハルヒ!しっかりしろ!」 ハルヒの体を抱き寄せ問いかけるが返事はない。 「動かしてはいけません!」 そう言って古泉は電話を取り出し救急車を呼ぶ。 なんでこんなことに… 「頭を強く打ってます!もう少しで救急車が到着します!あまり動かさないで下さい。」 真剣な顔で古泉は俺を見つめる。 すると長門が俺とハルヒの前に来るとハルヒの頭に手をかざした。 なにやら呪文を唱えているようだ。 そして俺を見ると一言だけ発した。 「心配いらない。傷は塞いだ。」 長門がそう言ってくれたおかげで俺は平静を取り戻した。 長門が大丈夫だと言うんだ。すぐにハルヒは目を覚ますだろう。 俺が安心すると大きなサイレンと共に救急車が到着した。 救急隊員がハルヒを担架に乗せると救急車の中に運んでいった。 「僕たちも付き添いましょう!」 古泉の言葉で俺たちもハルヒに付き添い病院に向かう。 救急車の中では救急隊員がハルヒの口に人工呼吸器をあてている。 俺は先ほどの長門の言葉を頭の中で何度も自分に言い聞かせながら平静を保っていた。 病院に着くとハルヒは緊急治療室に運ばれていった。 俺たちはロビーで待つことにする。 「ぅ・・・ぅぇ・・・涼宮さぁん・・」 朝比奈さんはさっきからずっと泣いており古泉がそれをなだめている。 「長門さんがあの場で治療してくれたおかげで涼宮さんはほとんど無傷です。心配いりませんよ。」 そう言ってる古泉だがいつもの笑顔はない。 「とりあえず今は待ちましょう。僕たちにできることはそれしかありません。」 どれくらいの時がたっただろうか。気がつくと辺りはすっかり暗くなってる。 すると治療室から医者がでてきた。 真っ先に古泉が医者に駆け寄る。 「彼女のお友達の方々ですか?」 「えぇ、先生。彼女の容態はいかほどでしょうか?」 古泉はいつになく真剣な顔だ。 「心配いりませんよ。頭を強く打っていますが奇跡的に無傷です!すぐに目を覚ましますよ!」 「そうですか。ありがとうございました。」 古泉は医者に会釈すると俺たちにやっと笑顔を見せた。 「よかったです。長門さんのおかげですね。」 ようやく朝比奈さんも泣き止んだ。 俺は長門に顔を向けると長門は相変わらずの無表情だった。 「長門。ありがとう。」 長門は淡々と答えた。 「涼宮ハルヒは大事な観察対象。万が一のことがあっては困る。」 ありがとな長門。お前はそう言っていても俺にはお前に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。 「皆さんこれからどうします?僕は今から涼宮さんのご両親に連絡してきますが。」 どうする?決まってるだろ? ハルヒが目を覚ますまでそばにいるさ!いつだったか俺が入院したときもあいつはずっとそばにいてくれたんだからな。 「俺はしばらく病院に残るよ。」 「わかりました。では僕は電話してきます。」 あとはハルヒが目を覚ますのを待つだけだ。 俺は朝比奈さんと長門を連れてハルヒが運ばれた病室へ入った。 人工呼吸器を口につけたまま眠っているハルヒ。 俺はそんなハルヒに心の中で声をかけた。 おいハルヒ!さっさと起きてくれよ。お前がいないとSOS団はどうなるんだよ。それに映画に一緒に行く約束もしただろ!お前が寝たままじゃチケットが無駄になるだろ! 第一俺を庇ってくれたことの礼も言いたいんだよ。 だからさっさと起きろ! 言いたいことはまだあるんだ。 しばらくすると古泉が戻ってきた。 「涼宮さんのご両親がもうすぐ到着されます。おそらく僕たちは邪魔でしょう。今日のところは帰りましょうか。」 ハルヒが目覚めるまでそばにいたかったがハルヒの両親に迷惑をかけるわけにもいかない。 「仕方ないな。今日は帰ろう。」 俺たちは病院を後にして解散した。 翌日になると俺はいつものように学校に向かった。 坂道を駆け足で登り校舎に入る。 そしてクラスに入る。 だがハルヒの席にハルヒはいない。 やがてHRが始まり担任の岡部が切り出した。 「えぇ、涼宮は昨日交通事故に遭って頭を強く打ったそうだ。怪我はないらしいが今日は大事をとってお休みだ。」 クラスが騒然とした。 だがすぐにいつもの空気に戻る。 その後俺は授業を受けたがやはりハルヒが後ろにいないとなんだか物足りないな。 「ねぇキョン!いいこと思いついたわ!」 そう言ってつついてくるハルヒが途端に恋しくなったな。 結局俺は授業など上の空って感じであっという間に1日が過ぎた。 廊下にでると古泉と朝比奈さんと長門が俺を待っていた。 「先ほど病院から連絡がありました。涼宮さんが目を覚まされたようですよ。」 「本当か古泉?」 「えぇ。僕たちもすぐに病院に向かいましょう。」 やっと目を覚ましてくれたかハルヒ… お前のいない学校はつまらなかったよ。 そんなことを思いながら俺たちは病院に向かった。 ハルヒの病室に着くと俺は昨日のことをどうハルヒに謝ろうかと考えながら扉をノックした。 「どーぞ!」 ハルヒの元気な声を確認して俺は安心した。 ゆっくりと病室の扉を開けるとそこにはベッドの上でしかめっ面をして腕を組むハルヒがいた。 俺たちは病室に入り扉を閉めた。 「ハルヒ。もう大丈夫なのか?」 ハルヒはしかめっ面のままこちらを凝視していた。 「あんた・・・誰?」 俺は耳を疑った。 あんた誰?何言ってんだよこいつは。 ちっとも笑えないぞ! 「は?」 「は?じゃないわよ!勝手に人の病室に入ってこないでよ!」 「せっかく見舞いに来てやったんだ。なんの冗談だよ?」 ハルヒは表情を変えない。 「見舞い?なんであたしの知らない人間が見舞いに来るのよ!」 どうゆうことなんだ?俺を知らない? すると古泉がいつもの笑顔で話かける。 「お元気そうで何よりです。涼宮さん。」 ハルヒは不思議そうな顔で古泉を見る。 「なんであんたもあたしの名前知ってんの?どっかで会ったかしら?ああ、そういえばそれ北高の制服ね。」 全くもってわけがわからん。誰か説明してくれ! 突然古泉が俺の耳元で囁く。 「一旦出ましょう。わけは外で説明します。」 俺たちは古泉の言うとおり一度出ることにした。 ロビーに移動した俺たちに古泉が語り始める。 「先ほどの涼宮さんの奇妙な言動ですが、記憶喪失と考えると全てつじつまが合います。」 「記憶喪失だって?ハルヒはホントに俺たちのこと忘れちまったのか?」 「えぇ、それも僕たちSOS団のことだけをね。」 「俺たちだけ?なんでそんなことがわかる!」 「涼宮さんはご両親とは普通に話してるようですし涼宮さんは北高のことを知っていました。なので消えてる可能性があるとしたら僕たちSOS団に関する記憶でしょう。」 ハルヒの中から俺たちだけの記憶が消えた?なんでそんなややこしいことになっちまったんだ。 「おそらく僕たちとの思い出が涼宮さんにとって一番大事なものだったからでしょう。それが優先的に消されてしまったのです。」 「元には戻らないのか?」 「わかりません。突然思い出すこともあるようですが・・・」 とりあえずもう一度涼宮さんの病室に行きましょう! 俺たちは再びハルヒの病室にやってきた。 古泉がノックをする。 「どーぞ!」 こうなりゃやけだ!意地でも俺たちのことを思い出させてやる! 扉を開けるとしかめっ面のハルヒ。 「またあんたたち?あたしに何の用なのよ!」 俺は手当たり次第ハルヒに質問をぶつけてみることにした。 「なぁ、谷口って知ってるか?」 何故か最初に谷口が浮かんだ。 「谷口?あのバカがどうしたのよ!」 なるほど谷口は覚えてるのか。 「じゃあ国木田って知ってるか?」 「国木田?ああ谷口といつもつるんでるやつね?」 国木田は俺と同じ中学だ。ハルヒは中学の国木田を知らないはずだ。 つまりハルヒには北高の記憶はあるということだ! 俺はハルヒを追い詰める。 「じゃあお前の席の前に座ってるやつは誰だ?」 ハルヒはその場で考えこみ始めた。 「・・・あたしの・・前?・・思い出せないわ。なんで?」 なるほど… やはり俺たちだけの記憶がないらしい。 「・・・なんで思い出せないの?・・・っていうかあんたたちは誰なのよ!」 「お前と同じ学校のもんさ!俺はキョン。こっちが古泉で、こっちが朝比奈さん。こっちが長門だ。」 なぁ思い出せよハルヒ!お前だけが一方的に俺たちを忘れるなんて許さないぜ! 「あまり考えさせるのもよくありません。また出直すことにしましょう。」 ここは古泉言うとおりにしておこう。 「じゃあなハルヒ!明日学校でな!」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」 ハルヒの言葉を無視して俺たちは強引に病室をでた。 全く勝手なやつだ。俺たちだけのことを一方的に忘れやがって。 「まぁいいではありませんか。涼宮さんがご無事だったのですから。焦る必要はありません。」 「だがなぁ」 「涼宮さんは明日から登校してきます。きっと明日思い出してくれますよ。」 今日の古泉の言葉には妙に説得力がある。 「そうだな。今日は帰るか。」 そうして俺たちは解散することにした。 その日の夜、俺は明日ハルヒの記憶を取り戻すための作戦を考えていた。 ハルヒの記憶を戻す方法はある。 それは俺はジョン・スミスだと言うだけでいいんだ。 だがそれを使うと今までのことや俺たちのことを全てハルヒに話さなければならない。 下手するとハルヒの力が暴走する。 だからこの方法だけは避けたい。 そんなことを考えながら翌日になった。 今日はきっとハルヒが来る。 俺は急いで学校に向かった。 駆け足で教室に入るとハルヒの姿があった。 椅子に座り腕を組んでまわりをじっと睨んでいる。 まるで一年前ハルヒと出会ったときのようだ。 「よう!体はもう大丈夫なのか?」 俺は自分の席に座りハルヒに話しかけた。 「あんた昨日の!なんであんたがここにいんのよ?」 「ここは俺の席だ。」 ハルヒは戸惑った顔をしている。 今までいろんなハルヒの顔を見てきたがこんな顔は初めてみたさ。 正直可愛かったね。 「・・・っ・・思い出せないわ。あたしが忘れてるのはあんたなの?」 頭を抱え込んでるハルヒ。 「いずれ思い出すさ。」 俺はそう言って前を向いた。 それからのハルヒはずっと空を見て考えこんでいた。 思い出してくれよハルヒ。俺たちのことを。 それから時間は流れ昼休み。 俺はハルヒを部室に連れていくことにした。 「ハルヒちょっと来てくれ!」 ハルヒの手首を掴み強引に部室まで引っ張っていく。 「ち、ちょっとなによ!」 ハルヒの言葉に俺は耳を貸す余裕はない。 「・・・文芸部?なんでここに連れて来たのよ!」 文芸部。つまりSOS団の部室だ。 「今日からここがあたしたちの部室よ!」 一年前ハルヒがこの部屋でそう言った日からSOS団は始まった。 扉を開けるとそこには朝比奈さん、長門、古泉がいた。 ハルヒを中に入れ俺は問いかけた。 「どうだ?この部屋覚えてないか?」 ハルヒは少し考えこむと 「・・・わからないわ。・・でも・・・なんか懐かしい感じがするの・・」 よかった。連れてきた甲斐があったみたいだ。 毎日通った部室だ、ハルヒの体が覚えているんだろう。 「涼宮さんはこの部屋で団長をやっていたんですよ。」 古泉と朝比奈さんが壁に貼り付けられた写真を指差した。 夏合宿のときに孤島で撮った写真だ。 「これ・・・あたし?なんで?・・・思い出せない。」 まるでおもちゃを無くした子供のような顔で写真を見つめるハルヒ。 「俺たちはここでお前のつくったSOS団として活動してたんだ。その写真が証拠だよ。」 ハルヒはやがて無言になる。 しばらくの沈黙が流れやがてハルヒが切り出す。 「SOS団だとか・・・団長だとか・・・わけわかんない・・」 今にも泣き出しそうな顔でそう言うと走って部室を出ていった。 「・・・ハルヒ」 出ていった瞬間ハルヒが遠くに離れてくような感じがした。 「仕方ありません。いきなり現実として受け入れるのはいくら涼宮さんでも難しいでしょう。」 古泉も珍しく寂しい顔をしている。 すると俺の服を掴むやつがいた。 長門だ! 「長門?」 長門は無表情のままこちらを向く。 「涼宮ハルヒの精神状態が不安定になったことでこの部屋の空間を構成している力のバランスが崩れようとしている。」 よくわからないがそれがまずいことだってことは俺にもわかる。 古泉が神妙な面もちで言う。 「とにかく放課後対策を練るとしましょう。」 結局その日ハルヒは教室に戻って来なかった。 放課後俺は再び部室に向かった。 部室にはすでに3人の姿がある。 古泉が真剣な顔でこちらを見ている。 「涼宮さんは?」 「ハルヒは結局帰って来なかったよ。」 古泉と朝比奈さんは何か深刻な顔をしている。 「困ったことになりました。先ほど機関から連絡があったのですが世界中で大規模な閉鎖空間が発生してるようです。」 「なんだって?」 「おそらく涼宮さんの精神状態が不安定になったことで発生したのでしょう!このままではこちらの世界とあちらの世界が入れ替わってしまいます。そうなる前に涼宮さんを見つけなくてはなりません。」 くそっ!こんなことになるならハルヒをここに連れて来るんじゃなかった! 「悔しんでもなにも変わりません。とりあえず今は一刻も早く涼宮さんを探し出さないといけません。」 「ああ。わかってる」 俺は長門を見た。 「長門。お前の力でハルヒを探せないか?」 長門は答える。 「今はできない。現在私の能力は何らかの影響で弱まっている。」 何らかの影響?それもハルヒの仕業なのか? 「・・・おそらく」 「ここ話していても何も解決しません!今は涼宮さんを見つけだすことが先決です!」 古泉の号令で俺たちは手分けしてハルヒを探すことにした。 くっ!ハルヒ。どこにいるんだ! ハルヒの行きそうなところに俺は走った。 東中か?それともいつもの喫茶店か? とりあえず行ってみるしかない。 俺はいつもの喫茶店に走った。 ハルヒはいないようだ。 じゃあどこだ?東中か?何も考えずに俺は東中に向かう。 走りながらハルヒの携帯に電話をかけるが繋がらない。 俺は東中に着くと無我夢中で探しまわった。 ここにもいないのか?じゃあどこにいるんだハルヒ! 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。 こんなことになっちまったのは全部俺の責任だ!俺が無理やりハルヒに記憶の断片を突きつけたり、いや、その前にあのとき事故に遭わないければハルヒはこんなことにならなかった。 自分自身に腹がたつ!頼むハルヒお前に会いたい! いつの間にか俺は北高に戻ってきていた。 真っ暗な校庭の真ん中にポツリと誰か立っている! ハルヒなのか? 俺は校庭の真ん中に駆け寄った。 「ハルヒ!」 校庭にいたのはハルヒだった。 ハルヒは悲しそうな顔でこちらを見た。 「あんた・・・一体なんなのよ・・」 いつになく力無い声だ。 「・・・わかってるのよあたしだって。何か大切なことを忘れてるのは・・・」 「・・・ハルヒ」 「・・でも・・どうしても思い出せないの!・・・あんたのことだって絶対知ってるはずなのに。」 ハルヒの悲しい顔を見ると俺は胸が苦しくなる。 ハルヒは俺に近づき続ける。 「ねぇ教えて!あんたは誰なの?あんたは私のなにを知ってるの?・・・教えてよ・・」 俺はハルヒの両肩に手を乗せて言う。 「・・・いいんだハルヒ。無理に思い出さなくて・・・お前はお前だ。他の誰でもない。涼宮ハルヒだ!」 ハルヒは目から涙を流しながら俺を見つめている。 「・・・・・なんであんたを見るとドキドキするの?・・・なんで・・」 俺はハルヒを抱きしめた! 俺の胸の中で泣いてるハルヒ… 「なぁハルヒ聞いてくれ。お前が俺のことを思い出せなくても俺はお前が大好きだ!・・・俺だけじゃない!古泉も長門も朝比奈さんもみんなお前が大好きなんだ!」 俺は一年前にハルヒと閉鎖空間に閉じ込めらたときのことを思い出していた。 今はあの時とは違う。今俺がハルヒにキスをしたところであの時のようにうまく行く確証はない。それどころかそんなことをすれば逆にハルヒの精神状態をよけい不安定にしてしまうかもしれない。 だが気がつくと俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねていた。 なぜそんなことをしたかって? 決まっている!俺がしたかっただけだ! 俺はハルヒと世界を天秤にかけてハルヒを選んだ。 もうこのあと世界がどうなろうとかまわなかった。 今はただハルヒと唇を重ねていたかった。 1分ほど経っただろうか。俺はハルヒから唇を離しハルヒの顔を見た。 ハルヒの頬は赤くなっている。 こんなときに不適切な発言かもしれないが言っておく。 世界で一番可愛いと思った。 ハルヒの肩から手を離すとハルヒが小声で言った。 「・・・・・・・・・・・・・ばか」 「すまんハルヒ。つい・・・」 ハルヒは赤い顔のまま顔を横に向けた。 「・・・ばかキョン。・・罰として土曜日奢りなさいよ。」 ん?今なんて言った?土曜日?まさかハルヒ! 「思い出したのか全部!?」 ハルヒは再びこちらに向いて 「大体あんたがあのときよそ見したから悪いのよ!今度からはちゃんと周りをみてから渡りなさい!」 よかった。いつものハルヒだ。 そのあとのハルヒとの会話はよく覚えていない。 そしてその日の夜に古泉から電話があった。 古泉の話によると世界中に発生していた閉鎖空間は消えたらしい。つまり一件落着ってわけだ。 翌日からハルヒはいつものハルヒに戻っていた。 部室ではハルヒが朝比奈さんをいじくり、長門は相変わらず分厚いハードカバーを広げ、俺と古泉はチェスで対戦。 そこにはいつもと変わらない日常があった。 ◆エピローグ◆ 土曜日の話だ。 俺はハルヒと映画を見に行った。 鑑賞した映画は男と女が繰り広げる非日常のラブストーリーだった。 俺の隣のハルヒは終始真剣にスクリーンを見つめていて、映画のワンシーンであるキスシーンが流れると頬を赤く染めていた。 正直俺は映画よりハルヒの顔見てるほうが面白かった。 映画を見終わり俺たちは駅に向かって歩いていた。 「なぁハルヒ。あんなチャラけた映画の何が面白いんだ?」 「あんたにはわかんなくていーの!ばかなんだから!」 俺はハルヒをからかってやった。 「お前キスシーンのとき顔赤くなってたぞ。」 ハルヒはその場で赤くなり俺の胸ぐらを掴む。 「な、なんであたしの顔見てたのよ!?いやらしい!」 「別に。お前も純情なんだなハルヒちゃん!」 「う、うるさいばかキョン!」 ハルヒは尚も俺の胸ぐらを掴みながら小声で言う。 「・・だいたい、あんたからだけなんてずるいじゃない・・」 そのまま俺を引き寄せ唇を重ねてきた。 短いキスが終わりハルヒは赤く染まった頬のまま言った。 「これでおあいこだからねキョン!」
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涼宮ハルヒの異変 上 涼宮ハルヒの異変 下
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涼宮ハルヒの分裂 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成19年(2007年)4月1日 本編290ページ 表紙絵:涼宮ハルヒ(付替えカバーも涼宮ハルヒ) タイトル色:赤色(付替えカバーは紫色、全体色も紫色) 初出:書き下ろし 初出順第26話 裏表紙のあらすじ紹介 桜の花咲く季節を迎え、涼宮ハルヒ率いるSOS団の面々が無事に進級を果たしたのは慶賀に堪えないと言えなくもない。だが爽やかなはずのこの時期に、なんで俺はこんな面子に囲まれてるんだろうな。顔なじみのひとりはいいとして、以前に遭遇した誘拐少女と敵意丸出しの未来野郎、そして正体不明の謎女。そいつらが突きつけてきた無理難題は、まあ要するに俺をのっぴきならない状況に追い込むものだったのさ。大人気シリーズ第9弾! 目次 プロローグ・・・Page5 第一章・・・Page101 第二章・・・Page155 第三章・・・Page219295ページに涼宮ハルヒの驚愕に続くとあり、上巻であることがわかる。 アニメ 全編未アニメ化 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第16巻に収録第76話『涼宮ハルヒの分裂I』(原作P5-原作P70、最初から佐々木と会話するまで) 第77話『涼宮ハルヒの分裂II』(原作P70-原作P100、佐々木と会話している場面はプロローグ終了まで) コミックス第17巻に収録第78話『涼宮ハルヒの分裂III』(原作P101-原作P156、第1章から、第2章の風呂で謎の女性との電話をするところまで(α1)) 第79話『涼宮ハルヒの分裂IV』(原作P156-P169P、172-P173、P175-204、第2章の謎の女性との電話をするところから(α1)佐々木と電話する(β1)を経て古泉に電話をし(β2・3)橘・佐々木・藤原・九曜と会談し佐々木の閉鎖空間に入るまで(β4)) 第80話『涼宮ハルヒの分裂V』(原作P169-P172、P173-P175、P204-P235、P252-253、第2章佐々木の閉鎖空間の橘の会話から九曜VS喜緑さんを経て(β4)、古泉に電話をする・翌日は休日(α2・3・4)を経て月曜日まず長門に天蓋領域のことを聞き、キョンがハルヒから数学の小テストのヤマを教えてもらう場面を経て、SOS団部室に新入部員希望者が殺到している場面まで(α5) 第81話『涼宮ハルヒの分裂V』(原作P235-P251、P254-P295まで、第3章の新入部員希望者にハルヒが演説した場面(α6)を経てキョン中3時代の回想(夢):キョンと佐々木の雑談&目を覚ました後の国木田・谷口の雑談を経て部室に行き長門の不在に気づき長門のマンションへ全員へ向かうまで(β5・6) 第82話『涼宮ハルヒの驚愕I』(P294-P295、長門のマンションに向かう直前の古泉とキョンの会話(β6)) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 谷口 国木田 キョンの妹 コンピュータ研究部部長 生徒会長 喜緑江美里 佐々木 橘京子 藤原 周防九曜 『わたぁし』 あらすじ 後に繋がる伏線 刊行順 ←第8巻『涼宮ハルヒの憤慨』↑第9巻『涼宮ハルヒの分裂』↑第10巻『涼宮ハルヒの驚愕(前)』→
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涼宮ハルヒという正体不明の謎にまみれた不思議な存在に出会ってしまった俺はたいてのことでは驚かない。 たとえ、目の前に宇宙人、未来人、超能力者が現れようとも奴らとの接触にあっさり順応できる自信はある。 と言うか、現実に順応してしまっているわけだが。 妙な空間に放り込まれようが終わりが来ない夏休みに突入しようが人の目からレーザーや超振動砲が発射されようが朝、目が覚めたらいきなり世界が変わっていようが気がついたら雪山に遭難していようがもう俺はパニックになることはないだろうぜ。 あとはそうだな。 異世界人と出会ったとしても大丈夫なような気は漠然としてる。 いったいこいつにできないことは何なんだ?と思ってしまう長門が俺に相談を持ちかけて来たとしても応じてやれることだろう。と言うか是が非でも応じてやりたい気分だ。 また、ハルヒが妙にしおらしく内気な女の子になったところで何か悪巧しているか、タチの悪い冗談かのどちらかであることを見破れるであろうことは間違いなしだ。 まあ、とどのつまり、今の俺はちょっとやそっとのことで動じてしまうほど軟じゃないってことさ。 しかしだな。 じゃあその未知との遭遇が三ついっぺんに俺に降りかかってしまったら? さすがにそんなことに対する耐性は持ち合わせてなかったね―― 涼宮ハルヒの遭遇Ⅰ 「ええっと……長門さん、もう一度言ってくれますか……?」 もうすぐ初夏の香りがしてきそうなとある日の昼休み。 午前最後の授業の終業チャイムと同時にいきなり長門からの携帯メールで呼び出されて、後ろにいたハルヒには家から電話がかかってきたと嘘をついて文芸部室にやってきたわけだが、俺はまったく想像していなかった出来事から現実逃避したくなったのか、おどおどしながら俺にくっついているそいつから目を逸らして問いかける。 対する長門は淡々と、 「ここにいる涼宮ハルヒは異次元同位体。我々とはまた別の並行世界から迷い込んでしまった存在。よって、あなたの力を借りたい。なぜならあなたは何度か別世界からこの世界への帰還を果たしている。その時の経験をわたしは望んでいる」 面倒くさがることなく、まったく同じ説明をしてくれました。 と言う訳だ。 異世界人と遭遇しようが長門に相談を持ちかけられようがハルヒが急に内気になろうが一つ一つであれば対応できる自信はあっても三つ同時に起こってしまったんで頭の中が固まってしまったんだ。冒頭のように今一度自分のことを見つめ直してしまうほどな。 で、今、長門が言ったハルヒなんだが…… 最初は長門の腕に縋っていたってのに、俺がこの文芸部室の扉を開けて俺を見止めた途端、去年の五月、俺とハルヒが元の世界に戻ってきたときに再会した朝比奈さんよろしく泣きながら俺にしがみついてきたのである。 んで俺を未だに離そうともしない。 これはいったいどういう冗談なんだ? しかし長門が冗談を言うはずもなく、とすれば間違いなく今、俺にしがみついているのは、いつか来るだろうと思っていた異世界人の登場で並行異世界(パラレルワールド)の涼宮ハルヒってことになる。 何なんだこれは? もうちょっと何つうか…… 長門や朝比奈さんや古泉のように、ハルヒが引き摺りこんだ奴にいきなり呼び出されて正体を告白されて知ることになるってことくらいは予想していたのだが、ハルヒが連れてきたわけでもなく、誰よりも我関せず無関心を貫く長門から紹介されて遭遇するなんて一番想像できないことであるし、正直言ってハルヒと長門が結託して俺をからかっている、と考えるならまだあり得るかも、と思ってしまう展開だぞ。これは。 で、そのパラレルワールドという異世界から来た俺にしがみついて離そうともしないハルヒなんだが…… いやこれはもう俺が目を逸らしたくなったってのも仕方がないことなんだ。 なんたってこのハルヒ。 目鼻立ちやスタイルはまったくこっちのハルヒと同じでおまけに北高の制服のデザインも同じ。性格は正反対っぽいのだがもう一つ、外見上、決定的に違うところが一つある。 もうお分かりだよな? このハルヒの容姿に言及した俺が目を逸らしたくなった理由が分からないとは言わせないぜ。 もし本当に分からないならまず、『涼宮ハルヒの憂鬱』の原作かアニメを見てからこの先に進むことをお勧めする。 って、いったい俺は誰に何を言っているんだ? そう、このハルヒは非の打ちどころがない反則的なまでに無茶苦茶似合っているポニーテール姿なのである―― 仕方ないだろ? 外見的にはハルヒとまったく同じでそんな奴がしおらしく俺にしがみつき、加えてポニーテールなんだ。 もし彼女をまともに直視してしまったら俺がどうにかなってしまいそうだ。 なんせ、このハルヒも間違いなく涼宮ハルヒだ。この世界のじゃないってことを除けば本人なんだ。 俺はハルヒ以上にポニーテールが似合う女子を知らないし、知っている女子や有名なアイドル、女優の誰を脳内モンタージュでポニーテールにさせたところでハルヒ以上になることは決してない。 ポニーテールに目がない俺だ。それもハルヒで俺にしがみついているとなれば当然、その感触も匂いも直に感じることができるわけで、これで理性を保てという方が無理である。 以前、とある事情で現在の俺より一週間先から来た朝比奈さんに抱きつかれたときでさえ危うく自分を見失いかけたってのに、朝比奈さんのような性格のポニーテールハルヒが抱きついてきているとなればそりゃもう現実逃避でもしてなけりゃ人目を憚らず絶対に間違いを犯す。 「ところで長門、このハルヒとはどこで会ったんだ? 誰かに見られたりしなかったのか?」 と言う訳で俺は長門に問いかける。 まずは経緯を知っておこうという訳だ。話を逸らしたと思われても否定はせんぞ。 「この涼宮ハルヒが現れたのはこの文芸部室。わたしは涼宮ハルヒの存在が突然、ここで現れたので確かめに来た。むろん、あなたの所属するクラスからも涼宮ハルヒの存在を感知している。つまり、現在この時空には二人の涼宮ハルヒが存在していることになる。誰にも見られていないと思う。ただし――」 ん? 何だ? どうして言葉を切る必要がある? 「少なくとも僕は気づくことができました、ってことですよ」 なるほどな。 確かにお前は気づくかもしれんな、やれやれ…… 嘆息してややげんなりした視線を肩越しに向ければ、そこにはSOS団副団長、ハルヒの精神鑑定にかけては俺とタメを張るくらい精通している相変わらず無意味に爽やかな笑顔を浮かべる古泉一樹がそこにいた。 「それにしても何と言いましょうか――と言うか、僕はいったいどう言えばいいのでしょうか?」 それは俺が聞きたいことだ。 頭に手を乗せ、一応珍しく困った笑顔を浮かべてかぶりを振る古泉を正面に捉えて俺は思わずツッコミを入れた。 「いや失礼。しかし、この事態は僕も正直言って困惑しております」 さらに珍しく、爽やかなハンサムスマイルはそのままなのだが口調には明らかに苦悩が満ちていた。 今、俺はいつも古泉とボードゲームを勤しんでいるときのように机を挟んでこいつと向き合っている。 もちろん、俺の左腕にはポニーテールハルヒがしがみついているし、なんだかおどおどした表情で古泉を見ては俺に縋るような視線を向けてくるのである。 まあ何を言いたいかは分かるがな。 「心配いらんさ。こいつは俺の友人だ。別にキミに危害を加える真似なんてする訳がない」 「う、うん……」 俺の答えに、ハルヒがそれでもまだ不承不承に戸惑うように首肯する。 んで、それで納得したのかと思えば全然納得はしていないみたいで、さらに俺の腕により強く深くしがみついてくるのだ。 だから待てって。このままじゃ俺がどうにかなってしまいそうで、いやキミが嫌って訳じゃない。むしろこうしていてほしいのだが……って、そうじゃなくて! なんてツッコミを入れるわけにもいかんし、無碍に振り払うこともできんがな。 そりゃそうだろ。捨てられた子猫が雨の中で懇願しているような庇護欲を激しく揺さぶるつぶらな瞳でポニーテールハルヒは俺を見つめているんだ。これをないがしろにできる奴がいるとすればそいつは人間を辞めることを勧めるね。 「とりあえず、どうしてこの世界に出現したのか詳細を教えていただけないでしょうか? そこにあなたを元の世界に戻せるヒントが隠されているかもしれませんからね」 が、古泉はさして気分を害した風もなく、学校の先生が優しく生徒に質問するような穏やかな笑顔で問いかける。 「そ、それは……」 しばし躊躇うような沈黙が訪れて、 それでもポニーテールハルヒは俯いたまま、語り始めようとする。 しかし、その瞬間、古泉が現われてから今の今まで黙りこんでいた長門が動き出す。 と、同時に古泉の表情も変化した。 先ほどの穏やかな笑みが、今は緊張感を漲らせた鋭い視線でドアの方を睨みつけている。 「隠れて」 呟くと同時に長門は俺とポニーテールハルヒの手を取り即座に、部室にある掃除用具入れたるスチールロッカーの中へと、俺たちを押し込める。 ちょっと待て。何が起こったんだ? 見ろよ。ポニーテールハルヒだって情緒不安定を如実に表した困惑の表情を浮かべているじゃないか。 と言うか、長門と古泉がここまでの緊張感を持たなければならない相手とは何なんだ? 新手の急進派か? それとも古泉の機関と対立する刺客か? 「ここはわたしたちでやり過ごす。あなたと涼宮ハルヒは物音を立てず、じっとしていればいい」 む……この無為無表情のはずの長門の瞳が警戒心に染まっていることを俺は見逃さない。 そうだな。長門がここまで言うのであれば従うしあるまい。 俺が真剣な表情でうなずくと、長門は静かにスチール製の扉を閉める。 そして―― 「キョンいるー? って、あれ? 有希と古泉くん? どうしたの二人してこんなところで」 勢いよく扉が開けられると同時に、入ってきたのは急進派でも刺客でもなかった。 つか、こいつが来るならまだ急進派とか刺客の方がマシだと思ったのは俺の気のせいだろうか。 そう―― あろうことか、文芸部室に現れた声の主は、是が非でもここにいる異世界人の存在を知られてはいけない我らがSOS団団長、こっちの世界のセミロングヘア涼宮ハルヒだったのである。 パラレルワールドと聞いて思い出すのは去年の冬、三日ほど季節以上に寒気と絶望を味わいつつも、なんとか事態打開にこぎつけた俺なのだが、その三日の内の一日、俺以外に忘れ去られた十二月二十日に光陽園学院の古泉一樹がこんなことを言っていた。 ――あなたの言葉を信じるならば、聞いた限りにおいてあなたが陥った状況を説明するには二通りの解釈が挙げられます。 一つは、あなたがパラレルワールドに移動してしまった、というものです。元の世界からこの世界へ。 二つ目の解釈は世界があなたを除いてまるごと変化してしまったということですね。しかし、どちらにも謎は残ります。 前者の場合ですと、ではこの世界にいたあなたはどこに行ったのか謎ですし―― まあ、あのときは後者だったわけだが、昔、何かの本で見たような見ないようなという曖昧さ抜群のパラレルワールドの説明の中に、元の世界から別のパラレルワールドに一人の人間が迷い込めば、同時にその世界の当人ははじき出されて別のパラレルワールドへ移動してしまうと書かれていたような気がする。 が、どうやらこの仮説は誤りだったようだ。 確かに『自分』という存在は一人しかいない訳で、世界に『自分』は二人以上存在しないとなれば、別世界から『自分』が迷いこめば、元の世界の『自分』も別世界に行かないと『自分』という定義に辻褄が合わなくなるという理屈なのである。 ところが今、この薄っぺらいスチール製の扉を隔てて向こうにも俺の目の前にも涼宮ハルヒがいるのだ。 この本の著者はいかに想像でもっともらしいことを書いていたかがよく分かる。 「ふうん。機関誌ね」 「そうです。冬に我々が一冊作り上げましたところ学校内でも結構な評判となりましたから季節ごとに出版するのもよろしいかと思い、長門さんと話し合いをしていたんですよ。長門さんはSOS団団員であると同時に文芸部の部長さんでもありますからね。我々が協力して文芸部を盛り立てていけば、あの生徒会長も何も言えなくなるでしょうし、他のクラブに献身的に協力する姿を見ればSOS団を学校公認の同好会にせざる得なくなるやもしれませんから悪い話ではないかと。もちろん、長門さんの承諾が前提でしたのでその後、涼宮さんにお話ししようと考えていたんです」 さすがは古泉だ。 よくもまあ、思いつきでここまで流暢にでたらめを話せるものだと感心してしまったね。それも俺たちのことを少しも表情に出さないんだからなおさらだ。 しかし今はその騙りに縋るしかないからな。 頼むぜ古泉、長門。できるだけ早めにハルヒを追い出してくれよ。でないと絶対にまずい。この状況で俺はいつまで理性を保てるものか分かったもんじゃない。 なんたって、別世界のポニーテールハルヒと俺は、この狭い掃除用具入れロッカーに収まっているんだ。もちろん、このロッカーは人一人入るのさえやっとなのに二人で入るとなれば当然、密着状態にならざるを得ず、事実俺たちは密着しているし、朝比奈さんほどでないにしろ、ハルヒだってスタイルは抜群なんだ。俺の胸辺りは温かく柔らかい丸びを帯びた最高の感触を味わっているし、しかも前回の朝比奈さんの時と違って今は初夏の息吹がもうそこまで迫ってきている季節なんだ。ポニーテールとハルヒのスタイルと中の熱気が相俟って、もはや真田幸村がいない大阪夏の陣よろしく、外堀と内堀を完全に埋められてしまい、なおかつ天井裏にも刺客が侵入してしまっていてもうどうしようもないくらいの状況に陥っているんだ。スチール扉のスリットから向こう側を見て、目の前のハルヒから視線を逸らしておかなければ絶対にやばい。 「まあ別にあたしはあのいけすかない生徒会長のご機嫌取りなんてするつもりは全くないけど、そうね。久しぶりに機関誌を作ってみるのもいいかもしれないわね。あの時の盛況ぶりは今でも覚えてるし、キョンに今度こそまともな小説を書かせるのも悪くないわ」 って、何でそこで俺の名前が出るんだ? だいたいあの話だって、お前、結構満足してたじゃねえか。最後のオチだけは必死に死守したがそれでもアレは一発OKをお前が出したんだぜ。俺にアレ以上の話が書けると本当に思っているのか? と言うか、今度は恋愛小説なんてクジを引かんようにしなければならん。 「有希もそれでいい?」 「いい」 「よし。今日の放課後の活動はそのミーティングで決まりね! キョンとみくるちゃんにも言っておくわ。それじゃ!」 ちょっと待て。これじゃ文字どおり嘘から出た真ってやつじゃないか。 そもそも古泉と長門はなんとかなるかもしれんが俺と朝比奈さんはまた苦しむlこと間違いなしだ。 などと俺は思っていたわけだが、よく考えたら仕方がないことだよな。 否定せず、論議もせず、ただ肯定すればそれでハルヒは満足して立ち去って行くだろうから。現にハルヒはおそらく上機嫌に足に羽根が生えてるんじゃねえかという浮かれっぷりで文芸部室を後にしたはずだ。 文芸部室の扉が閉められる音を聞いて、 「ぷはぁ……」「ふひぃ……」 思いっきり息をついて俺とポニーテールハルヒは掃除用具入れから脱出した。 いや熱かった。それも別の熱気も混ざり合っていたから正直のぼせてしまうギリギリだったぞ。 「助かったぜ古泉、長門」 「どういたしまして」 「いい。わたしも同じ」 俺の素直な感謝に古泉も安堵と脱力を足したような笑みを浮かべ、長門もまたそっけないその返事の中に安心感が現われていたような気がする。 「あの……キョンくん……今のがこっちの世界のあたしなの……?」 「ああそうだ……って、そっちの世界でも俺はキョンなんてあだ名で呼ばれてるのか!?」 「あ……うん……」 俺の詰め寄りにポニーテールハルヒがちょっと困った笑みを浮かべて首肯している。 ん? しかしこの表情は『気まずい』よりもなんか『照れてる』っぽいよな? どういうことだ? 「あ、ごっめ~~~ん、ここに来た本来の目的を忘れちゃってたわ♡」 って、なんですと!? とっても明朗活発な声とともにいきなりドアを開けたのは、先ほど立ち去ったと思われたこっちの涼宮ハルヒその人であった。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅱ
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涼宮ハルヒ無題1 涼宮ハルヒ無題3 涼宮ハルヒの停学 涼宮ハルヒの改竄 涼宮ハルヒの入学 涼宮ハルヒの異変 涼宮ハルヒの悲調 花嫁消失 ハルヒの想い 世界の終わりに 涼宮ハルヒの赤面 ‐ 涼宮ハルヒの羨望 ‐ ハルヒの実験 涼宮ハルヒの秘密 プリンとケーキ 星に願いを 涼宮ハルヒの猛暑 涼宮ハルヒの結婚前夜 涼宮ハルヒの泥酔 長すぎる10分間 涼宮ハルヒの願望 涼宮ハルヒの憂鬱キョンとハルヒの絆 10月8日、曇りのち雨 閃光のハルヒ 涼宮ハルヒの預かり物 涼宮ハルヒのデート騒ぎ? それは誤解で勘違い 何よりも宝物 超能力 涼宮ハルヒの計算 涼宮ハルヒの嫉妬 ミニチュアハルヒ ベル 3点セット 涼宮ハルヒのネコ にわか雨の訪問者 ハルヒの寝言 涼宮ハルヒの独善(シュール・BadEnd?) 涼宮ハルヒの情熱 涼宮ハルヒの出産 あの日からの願い Amemorywithouttheend 涼宮ハルヒの日記 涼宮ハルヒの小説 ただの人間 ヒント キョンの死…そして 悩みの種 続く空 涼宮ハルヒの仮入部 はい、メガネon 【時のパズル~迷いこんだ少女~】 涼宮ハルヒの後悔 (BadEnd) 涼宮ハルヒの恋心 涼宮ハルヒの誤解 涼宮ハルヒの出会い 缶コーヒー、ふたつ LOST 恋の病・恋の熱 ステビア(ステビオシド) お祭りの後で 涼宮ハルヒの場合 彼岸花(微グロ・微鬱・BadEnd注意) loveandmusic もう一つのサムデイ・イン・ザ・レイン 初めてのデート すれ違いの恋 涼宮ハルヒの恋人 最初のデート 涼宮ハルヒのX-FILES 本の虫 サムデイ・イン・ザ・レイン(WhileKyonwassleeping) alongwrongway wishuponastar ~涼宮ハルヒがデスノートを拾ったら~ (Bad End) いじっぱり 甘えん坊モード キョンになっちゃった 眠れない夜とイタズラ電話 敬愛のキス fundamentallove やすらぎ 白い天使 サムナンビュリズム 涼宮ハル○の憂鬱 涼宮ハルヒはしあわせ(BadEnd注意) 浴衣とお祭り 言えないよ 愛のかたち 渋皮やさしく剥いたなら 涼宮ハルヒのライバル クリスマスプレゼント 教科書と嫉妬 涼宮ハルヒの告白 完全ウリジナルストーリー 涼宮ハルヒの労い