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Ⅰ ドカドカドカ、と鈍器で頭でも殴られたんじゃないかと疑問に思ってしまうような擬音と共に分厚い本を目の前に置かれてから2日経った頃、俺は早くも心に土嚢でも負ったかのように挫折しかけていた。1週間でノルマ5冊。これは読書が好きな人でも結構キツいんじゃなかろうか。 「よりによって哲学‥‥」 俺はいよいよブラック企業に務めたかのような感覚に押し入られてしまった。 ハルヒ曰く、 「SOS団たる者、多少の本を読んで常に知的な人材である必要があるのよ!」 「本を読んでいるイコール頭良いなんていう安直な考えは止めた方がいいぞハルヒ」 「皆、異論はある? あるなら読書大会が終わった後原稿用紙10枚分みっちり書いてきたなら、見てやらないことはないわよ」 俺の言葉は遠回しすぎたのか、異論としては認められなかった。いや、仮にボウリング玉がピンと接触するぐらいの近さでの言葉を言ったってハルヒの奴は耳をきっと傾けない。要するに知的云々は置いといて、長門のように本が読みたかったのだろう。ただ自分1人で読むのは嫌だから、SOS団を巻き込んだわけだ。長門はなんとなく嬉しそうに見えた気がするが。 そして、まさかの分野別である。何でもかんでも5冊読めばいいとなると、俺は市立図書館にある絵本やら雑誌やらで済ましてしまうとハルヒは先に睨んだようだ。どうしてそんなことばかりに気がついて宇宙人や超能力者は未来人に気づかないのか。全くもって不服だ。 「さあ、1本引くのよ!」 SOS団の市内探索の時のように、ハルヒはどこからか爪楊枝を取り出し、俺達に1本ずつ引かせた。爪楊枝な先には文字が書いてあったが、‥‥というよりなんて器用な奴だ‥‥はさておき、字を書いたのはご立派だがハルヒ、 「なんて書いてあるんだ、これ」 「おや、僕はエッセイですか」 「あ、‥‥私は小説のようです」 「‥‥‥‥‥」 「何よ、キョン。あんたまさか日本語を読めないわけ?」 いや、というより他の奴らの視力が可笑しいんじゃないか。油性のインクが滲んでて全く読めない。何故に爪楊枝に書いたんだハルヒ。 「貸しなさいよ、もう! 哲学って書いてあるじゃないの」 お前それ適当に言ってないだろうな。 「あたしが医学だから、有希は科学ね。じゃあ各自1週間の内に5冊読むこと。いいわね!ちゃんと感想文書くのよ。凄かった、の一言で終わるものなら、‥‥‥」 「‥‥‥終わるものなら?」 ニヤリ、と笑ったハルヒの顔に俺は初めて背中にゾクゾクとする恐怖を感じた。駄目だこいつ。罰金以上の何かえげつないことをするに違いない。私達が笑うまで一発芸よ、かもしれない。 そして、そんなこんなで現在に至るわけだ。医学に当たらなかっただけマシと言えるが、にしても哲学‥‥。俺はページを捲るも、圧倒的文字数と量、その威圧感に早くも今日の夕飯が口や鼻のような穴という穴から出そうになった。これはまずい‥‥。 異変でもないので長門に頼むわけにはいかず、かといって本をほったらかしにするわけにもいかない。 「勘弁してくれ‥‥‥」 ついつい独り言が出てしまうが、こればっかりは本当に参った。まるで身を隠す草原もなければ助けてくれる仲間もいない、数えきれないライオンに囲まれたシマウマのような心境だ。 俺はトイレ休憩風呂タイム挟む2時間の中で本と向き合ったが、進んだのは5ページほどだった。 ‥‥なんか変だな、と思ったのは朝登校してから数分経った後だ。いつもならハルヒがぎゃあぎゃあと耳もとで叫び、ハイテンションで 「キョン、読書はちゃんと進んでるでしょうね!?」 と聞いてきそうなものだが、今回は何も言ってこない。どうしたもんかと後ろを振り向くと、窓の外をボケーと見つめる、いかにも日向ぼっこをするお爺さんのような光景が見てとれた。いや、ハルヒの場合ならお婆さんか。 「どうした。本を読みすぎて夜更かしでもしたか?」 「‥‥‥うるさいわね」 どうやら虫の居所が悪いらしい。俺はそうですかと曖昧な返事をしておいて、大人しく前を向いておくことにした。久しぶりに機関が働くかもしれない時に、あまり刺激しておかない方がいいと思ったのだ。言っておくが、古泉のことではない。新川さんや森さん、多丸さんに夏にお世話になったから、そう思っただけのことだ。 しかし気になることがある。 目の下にクマを作ってる奴が、どうして今寝ない? ハルヒは授業中お構いなしに昼寝してることなんてしょっちゅうだし、それで教師に起こされて俺にやつ当たりするのだからほとほと迷惑をしている。しかしどうだろうか。そのハルヒが眠いのを我慢して窓の外を見ているのだ。何か面白いものがあるのかと俺も見たが、そこにはいつもと変わらない空と風景があるだけだった。 「‥‥‥変ですね。閉鎖空間は発生しておりませんし、涼宮さんともあろう方が自分の体の健康管理を出来ていないなんて。それなら僕達機関の方に何かしら報告されているはずですが‥」 「あのな、ハルヒだって女子高生なんだろ。夜更かしの1つや2つ、ましてや今は本を読んでるんだ。読んでて時間をつい忘れちゃったーなんてこと、あってもおかしくないんじゃないか」 「涼宮さんが小説を読んでいるのならまだ分かりますが、医学です。体にどのようなことをしたら害が出るかが乗っている本で、それはないと思います。第一イライラしたのなら僕達が真っ先に分かるはずなんです。夢の内容によってでさえ閉鎖空間を出す彼女ですから」 「…つまり、ハルヒは正常なのか?」 「健康そのもの、のはずです」 驚いたことに。 放課後にはきっといないだろうと踏んだのにもかかわらず、笑顔を誰かれ構わず振り撒く詐欺師のような高校生は独りで詰め将棋ならぬ詰めチェスをやっていた。閉鎖空間はどうした、と聞けば 「なんのことでしょう?」 と聞き返してきたのだ。きっとハルヒの鬱憤に付き合わされているに違いないと思ったのに、見当違いにもハルヒは健康そのものだという。しかしどの角度から見たって、ハルヒの目の下にはクマがある。 「真後ろから見たら頭しか見えませんよ」 黙れ古泉。そういう意味で言ったんじゃない。 ともかく、俺はまた何か嫌な予感がしてたまらなくなった。次はなんだ。巨大カマドウマの後なんだから秋らしくコオロギか? 「大丈夫ですよ。前にも言いましたが、此処は力が攻めぎ合いとっくに異空間化していますから。害のある者は立ち入れません」 「‥‥‥異空間の真っ只中にいるとは信じられない光景なんだがな」 肝心のハルヒはどこかへ行っているらしく、朝比奈さんは今日はメイド姿のまま小説に没頭、長門はいつも通り窓際の椅子に腰かけて読書。古泉はチェス盤を片付けはじめ、将棋盤の準備をする。はさみ将棋を俺とするようだ。 「古泉、お前本の方はどうだ?」 古泉はふう、とわざとらしく溜め息をつきながら 「それがまだ2冊目に入ったばかりで」 なんて嫌味を言いやがった。俺と代われ、俺と。 「そうはいきませんよ。涼宮さんは、貴方に哲学を読んで欲しいから貴方は哲学と書いてある爪楊枝を取ったのです。それを僕と代わってしまったら、それこそ閉鎖空間発生の種ですよ」 「サルトル、ソクラテス、カント‥‥キリストの教えなんてなんの役に立つ? なんで俺と一番無縁な哲学を持ってきたんだ、ハルヒは」 「貴方がノーと言えない日本人だからですよ」 イエスだけにか、と突っ込むと思ったら大間違いだぞ古泉。お前はどや顔をしているが、ちっとも上手くない。 「‥‥‥ハルヒは」 「お待たせぇー‥」 俺が古泉に口を開きかけた時、ドアがゆっくりと開いてハルヒが入ってきた。先日までの元気は宇宙の果てでさ迷っているのか、目にしたハルヒはやはりどことなく弱っていた。 古泉の目つきが少しだけ変わる。 「‥‥あっ、お茶を用意しますね」 ハルヒの存在に気付いた朝比奈さんは、可憐な姿のまま急須の元へ。ハルヒは何も言わず、ただ1冊の分厚い本を抱えてパソコンの前に座った。 長門も少し顔を上げて、ハルヒの状態を観察‥‥いや、分析しているようだ。ハルヒはそれに気付かず、パソコンの電源もつけずに本をパラパラと捲った。 「‥‥ハルヒ、朝から元気ないじゃないか。まさか2日間かけて4冊読んだときじゃないだろうな」 「うるさいわね‥‥アンタはちゃんと読んでるの? 感想文出さなかったら、死刑だからね」 感想文を出さなかったら死刑という法律が出来れば、日本人の9割は恐らく日本海に沈められるだろう‥‥‥じゃなくて。 人がせっかく心配したのにこの態度だ。俺がハルヒを心配するなんてまずないことなんだがな。その物珍しい出来事を自ら蹴り飛ばすとはね。わかった、もう心配しねーよ。 「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥」 「涼宮さん、お茶です」 「ありがとう、みくるちゃん」 ズズズとハルヒがお茶をすする音以外何も存在しないかのように思える空間。古泉は何故だかマジな表情でハルヒを見ているし、長門も相変わらずだ。 朝比奈さんは古泉と長門の様子に戸惑っているらしい。そんな朝比奈さんの姿はとっても可愛い。が、いつまでも見ているのも失礼だ。 古泉は何事もなかったかのように盤上をいじりだし、俺もようやく朝比奈さんから目を離してはさみ将棋をし始めた。 後でまた4人で集まるのだろうかと思考しながら古泉を7連敗させた後、長門のパタンと本を閉じる音でSOS団の活動は終わった。これではまるで文芸部だ、っとまだここは文芸部室だったな。 帰り道にそっと古泉に今日集まるのかどうかを聞いたが、 「もう1日様子を見ましょう。長門さんも何も言わないことですし」 と、どうやら何も面倒事なく今日1日は無事終了するようだ。しかし俺は家で積んである哲学書5冊の事を思い出し、平穏な日常などまずこの1週間の内はあり得ないなと頭を悩ませることになったのは言うまでもない。 そして結局本を1ページも読まずに登校した翌日、ハルヒの体調はさらに悪化していた。クマは濃くなり、明らかに一睡もしてないのが目に見えて分かる。 「ハルヒ、本に夢中になるのも良いけどな、それで体壊したらアホみたいだぞ。知的な人材を揃えるためにやってるんじゃなかったのか?」 「‥‥‥‥」 昨日の不機嫌な反応より、 「うっさいわねバカキョン! あんたにそんなことを言われる筋合いないわよこのエロキョン!!」 とでも言ってくるものかと思っていたら、まさかのダンマリだ。これはいよいよ本当に不味いような気がしてきた。 あのハルヒがこんなに萎れてるとは、リアルインディペンデンス・デイが勃発するくらい信じられないことだ。ここには宇宙人もいるし、ハルヒの感情次第で世界が滅びるやら何やら言われているがもちろんそういう意味じゃない。サイコロが10連続1が出るような確率のようなもんだということだ。 「涼宮さんがそう望めば、サイコロで連続1が出ることも可能ですよ」 と古泉なら言いそうだ。 「ねえ、キョン‥‥‥」 返事を返さないもんだからまた無視されたものかと見なしていたら、ハルヒは窓の外を昨日と同じように頬杖つきながら目を向けていた。一体どうしたというんだ。 「なんだ」 「‥‥前に、自分がいかにちっぽけな存在かを話したじゃない?」 あれはお前が勝手に話したんだがな‥‥ってちょっと待て。お前が読んでたのは哲学じゃなくて医学の本だったろ。なんでそんな断食など意味がないと気づいてしまった、悟りの領域を越したムハンマドみたいなことを言いだすんだ。 「人ってさ、自分の中にさらに他の自分がいるとしたら、人の数なんていうのは、本当はもっと多いのよね‥‥‥」 何を言い出すんだハルヒ。 「そのたくさんある中の1つがさ‥‥‥その人物の人柄と見なされて表に出てくるのよね‥‥‥。でも、せっかく出てこれたその1人も‥‥本当は世界と比べたらちっぽけな存在で‥‥‥」 「一体なんの本を読んだのかまるで分からないがな、ハルヒ。今日はもう寝ろ。俺が許す」 「‥‥‥‥‥」 睡眠不足のせいか、しっかりと思考が働いてないようであるハルヒは、またもやせっかくの俺の気配りを無下にした。確かに俺に昼寝を許可出来るなんていう夢のような権限はないけどな。 そしてこの日もハルヒは、午前午後の授業をボーと過ごした。 「涼宮さんがそうまでして寝ないのは、一体何故なんでしょう‥‥」 朝比奈さんがそう呟いて答える者が誰1人いない部室内で、古泉はお手上げとばかりわざとらしく両手を上げて 「長門さんの方はどうです? 情報統合思念体は、何か言っておられますか?」 と、やはりこいつも最後の頼みの綱にかける他なかったようだ。しかしその長門でさえも 「情報総合思念体からは何も報告を受けていない。でも私から推察するに、涼宮ハルヒは本来年齢約15~18歳までに必要とされている最低睡眠量の内、14時間22分17秒が不足している。原因は彼女が読んでいる医学本‘人格と精神’の熟読。でも、何故彼女が睡眠を一定以上の我慢を強いているかは不明」 と、古泉のようにスタイリッシュアクションで示さないものの、どうやらダメらしい。 「なんでハルヒはそんな本に夢中なんだ?」 「5日前の午後7時02分から放送した‘精神の病’のプログラムの中にあった、多重人格についての内容がさらに詳しく現在彼女が読んでいる本に記載しているというのが、最も考えられる動機。でも彼女が何故異常なまでにそれに固執するのかまでが、不明」 「‥‥そりゃ、なんでだ」 「彼女の記憶をこれ以上読もうとすると、彼女の意思とは関係ないプロテクトが自動的に展開される。根本的な理由というものがその先にある。でも私の今のクッキング能力ではここまでが限界。これ以上は涼宮ハルヒの精神になんらかの異常を脅かす危険性がある。だから私にはこれ以上のことは不明」 つまりだ。2度目だが長門にも無理だということだ。 となれば話は1つだ。 「ハルヒ、なんでそんな本にえらくこだわるんだ?」 「‥‥‥‥‥」 ハルヒ本人が弱々しい状態でなんとかやっと来てから、作戦1として、完璧なおかつ完全、本人に直接聞くという方法が我がSOS団団員その1、2、3、副団長で決定されて実行されたが、あえなく敗退した。どうやらハルヒがこの本‘人格と精神’を読み続ける理由は、応募者100名様限定超プレミアム完全真空パックの切り取り線つき袋閉じ、なくらい秘密らしい。しかしそんなハルヒも、この本と格闘するのが疲れたのか、はたまた単なる睡眠不足なのか、キーボードに突っ伏す形で寝息を立てて寝始めた。また下校時刻まで時間はあるし、暫く寝かせておくのもいいだろう。 その間に 「長門、その本に何が書かれてるのか読んでみてくれないか」 「了解」 ハルヒの顔のすぐ隣にある‘人格と精神’を長門がパッと取ると、世界速読王でさえびっくりするような、新幹線のぞみ級の速さで長門はページを捲っていった。いつも読んでる速度はなんなんだ一体。本を読む速さをさらに鍛えるためにかなりの制限をつけているとしか思えん。 「‥‥‥‥‥」 長門は静かに、元あったように本をハルヒの隣に置いた。結局、ハルヒを虜にするような内容とはなんだったのか。 「この本に、涼宮ハルヒに過度な依存をさせる内容はない」 「なんだと」 「念のため、人体寄生タイプのウイルスが仕組まれているかを確認した。でもそのような物が仕組まれた跡も発動した形跡もない」 そりゃそんな寄生虫みたいなものが図書館の本にあったら大変なことだろう。しかし、どうしようか。これでまた謎が深まってしまった。 「ちょっと失礼します」 古泉がガタリとパイプ椅子から立ち上がり、微笑みフェイスのままハルヒの方へて歩み寄り、その本へと手を差し伸ばした。やめとけ、俺はまだ見てもいないがお前じゃ出来ないと思うぞ。 「もしかしたら、ですけれど‥‥‥」 パラパラと捲り、斜め読みをしていく超能力者は、大体半分辺りまでいった辺りで長門の方へと振り向いた。 「長門さん、この本に暗号が混ざっているという可能性はないでしょうか?」Ⅰ 暗号? 「よくあること、というわけではないのですが、こういった本の作者が茶目っ気を入れ混ぜて、暗号を隠しているということです。つまり、涼宮さんはどうやってかこの本に暗号があることを知り、それを解くために夜更かしをしているわけです。寝たら負ける、というルールのもとで」 なんだその訳の分からん推理は。確かによくサウナとかで、一番最後まで出ないなんていった特に景品がもらえるわけでもない独り我慢大会を起こしている人がいるが、それとこれを結びつけるのはさすがに無理があるぞ古泉。第一今回不思議がっているのは、こんなに睡眠不足でイライラが貯まっているはずなのに閉鎖空間が出ないってとこにあるんじゃないのか。暗号解けなかったら余計イライラが貯まって、大規模な閉鎖空間が発生するんじゃないのか? 「それもそうですね。でしゃばって申し訳ない」 そうだ、古泉。お前はもう出てこなくていいぞ。 「涼宮さん、このままだと風邪ひいちゃいますね‥‥」 そう言いながら、朝比奈さんはコスプレ衣装のとこから上着のようなものを取り出し、ハルヒの背中にかけてやった。朝比奈さんのこんな姿を見たら、マザーテレサ、更には天使でさえ感涙するだろう。 「朝比奈さんは、どう思いますか?」 「‥‥‥涼宮さんの身近に、誰かそういった症状を抱えておられる方がいるんじゃないんでしょうか?」 「ハルヒの周りに、ですか?」 「はい」 朝比奈さんは、今頃ノンレム睡眠に入っているだろうハルヒを見てから、優しく微笑んだ。 「涼宮さん、優しいですから」 そりゃ貴方のことですよ、朝比奈さん。 「確かに、涼宮さんともなると、一度決めたことは意地でもやり通すのもプロ級ですからね。身近にいる生徒‥‥あるいは近所の子供か、涼宮さんがどうしても助けたいと思える人がすぐそばにいるのなら、そして尚且つかかっている病気が精神病ならば、この一連の行動に説明がある程度つきます。しかしですね」 朝比奈さんの言いたいことはもちろんわかる、が癪なことに古泉の言わんとすることも分かる。 「それならば、読書大会なるものを開かずに、自分で勝手に読み始めてしまう可能性の方が高いと言えます」 「涼宮さんが、読書大会を決めた後にそのような人がいたと気づいたとは、考えられませんか?」 「涼宮さんがこの本に興味を持ったのは、5日前に見たテレビが原因でしたよね、長門さん?」 「そう」 「となれば、彼女はテレビで多重人格というものに興味を持ち、そして読書大会を開き、たまたま自分が読みたかった医学の本が回ってきた‥‥‥そしてタイミングを見計らったようにそういった病を持つ人が現れた。これはつまり、涼宮さんがそれを望んだということになります」 ハルヒには願望を実現させる能力があるらしい。だから今古泉が言ったように、自分がその症状を解決、または分析したいがために今の状況を作り出したということになってしまう。偶然、の一言で片づけてしまうならばそれまでだが、それは少し考えにくい。 つまり、ハルヒは私利私欲のために誰かが病気になることを望んだということになる。いくらハルヒが無自覚の能力とはいえ、さすがにそんなことを願ったりはしないだろう。そうだろ。ハルヒ? 「だがな、古泉。ハルヒの能力関係なしに、本当にそういった偶然があるかもしれない。その線を探る必要もあるんじゃないのか?」 「もちろんです。機関の方に、最近涼宮さんと接触した者の中で、そういった心の病を抱えておられる方がいるかどうかを当たってくれるように申請しておきます。それと、どうして閉鎖空間が発生しないのか‥もね」 そこまで話したところでハルヒがうーんと唸りながら寝返りをうったので、この話はお開きとなった。しかし、長門でさえ原員不明とはな‥‥‥。 だがさっきまで信じられないスピードで本を捲っていたのに、今はまたいつものスピードでペラペラと本を読んでいる宇宙人も、冷めてしまったお茶をまた温めている未来人も、珍しくボード盤を開かずに誰かのエッセイを読んでいる超能力者、そしてこの俺も。今までやっていた隠れミーティングが無駄だったんじゃないかと思うのは、ハルヒが下校時刻5分前に起きてからだった。 「あっー!!もうこんな時間じゃないのよ! どうして誰も起こしてくれないのっ!」 起きてから第一声がこれだ。だが、さっきに比べて随分元気そうに見える。それを見計らったかのように長門は本をパタンと閉じ、帰り支度をし始めた。俺は結局、この時間の間、宿題をして時間を過ごした結果となったわけだ。哲学書は家にあるしな。 「もう! 次からはちゃんと起こしなさいよキョン。ふぁあ‥‥‥あー、でもよく寝たわ」 背伸びを存分にしてから、ハルヒも‘人格と精神’を鞄の中にしまい、鍵を持って部屋を出た。どうせその鍵は俺が返すはめになるんだろうがな。 と、思った矢先だ。 「あたし、鍵返してくるから皆先帰ってていいわよ」 信じられない発言がハルヒの口から飛び出したことを俺は確認した。睡眠をし終えたばかりで気分が絶好調なのか、あるいはまだ寝ぼけているのかどうかを疑うような状態じゃないか。ハルヒ、お前家に帰ってからもっかい寝た方がいいぞ。 ‥‥‥と言うわけもなく、俺はハルヒの好意に甘えることにした。自ら面倒くさいことを進んでやるハルヒなんて、珍しいことこの上ないからな。 「では、お先に失礼します」 「あ‥‥あたし待ちますよ」 「いいのみくるちゃん。ちょっと用事もあるしね。先行ってて。すぐ追いつくから」 ハルヒがこう言ってるんだ。朝比奈さん、先に行きましょう。 「で‥‥でも」 朝比奈さんがそう戸惑っている間に、ハルヒは駆けてくように職員室へと向かって行った。ここに置いてある鞄はどうやら俺が運ぶはめになるらしい。 「‥‥‥‥‥」 「どうした長門。科学の本をまだ5冊読み終えてないのか?」 長門の沈黙具合がいつもと違ったように感じたので、そう声かけてみたが 「今25冊目」 と、1日8冊読んでもそんなにも読めないペースで読んでいるらしいということだけが分かった。長門の無機質な声にも最近変化が感じとれるようになってきたと感じた俺だったが、しかし今の返答を見るとまだまだ俺は長門の心情をちゃんと察しているわけではないんだなと改めて分かる。長門は苦労しても顔に出さないから、知らず知らずの内に負担をかけてないといいが‥‥‥。 朝比奈さん、古泉や長門とも別れ、それでもハルヒが来ないので、俺は踏切前で重い鞄を持ちながら待つことにした。ハルヒの奴、いつもこんな重い鞄持ってるのか。ここ最近たまたま‘人格と精神’が入っているせいかもしれないが、にしてもこんな鞄を持ってよくあんな細い腕でいられるな。草野球の時だって、あいつだけは長門の力を借りずにパコンパコンとヒット打ってたしな。どこからそんな力を蓄えているのやら‥‥。 そんなことを暗くなっていく空を眺めながらボーっと考えていると、ようやくにしてハルヒが姿を現した。一体何の用事だったんだ。 「貸しなさいよ」 鞄を俺からひったくり、そのまま何事もなかったようにハルヒは帰っていく。お前、そこはありがとうだろ。 「なーんてね、ウソウソ。」 ハルヒは振り返りながら俺の顔を直視し、 「ありがと、キョン」 と言って走り去って行った。 ‥‥‥‥‥。 「えっ?」 ハルヒの睡眠不足がもうすでに精神を相当脅かしているんじゃないかと疑ったのは、まさにこの瞬間だった。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅱへ
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【注意事項】 このSSは『Fate stay/night』というPCゲームとのクロスになってます。 基本的には設定を借りただけで、ハルヒのキャラ以外は登場しません。 涼宮ハルヒの聖杯~第1章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第2章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第3章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第4章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第5章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第6章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第7章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第8章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第9章~
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「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「なぁ、今日の放課後だけどな、ナンパ行こうぜ!」 「…谷口、朝っぱらからそれかよ、一昨日も行っただろうがよ…もういい加減にしようぜ?大体うまくいった事無いだろうが…。」 「馬鹿!失敗を恐れてどうなるってんだ!挑戦無くして成功は無しだ!」 …朝から拳を握りしめて力説している谷口…はぁ…。 こいつとは入学からの付き合いでちょくちょく放課後や休みの日にナンパに付き合わされている。 結果は…言うまでも無いだろう…。 「悪いが今日はゲーセンに行くと国木田と話がついているんだ。またの機会にしよう。」 「…チッ。」 谷口は不満気に舌打ちした後自分の席に戻った。 …北高に入学してそろそろ一年経とうとしている。 この一年特に大きな出来事も無く、放課後や休日は友人とゲーセンに行ったりナンパに行ったりと平凡な生活を送っている。 「おはよう。キョン君。」 「ああ、おはよう朝倉。」 …朝倉涼子、このクラスの中心的存在で谷口曰わく AAランクプラス の美少女だ。 文化祭や体育祭などでも素晴らしいリーダーシップを発揮し、大いに盛り上げてくれた。 「朝からなんか憂鬱そうね?」 憂鬱?まぁ~毎日妹に乱暴な起こされかたをされてあの坂を毎日登れば憂鬱にもなるさ。 「ふふふっ。」 朝倉は軽く笑った後席へと戻って行った。 「憂鬱ね…」 俺は憂鬱と聞いて後ろの席に座っている人物が頭に浮かんだ。 涼宮ハルヒ 入学後の自己紹介でとてつもなくインパクトのある言葉を吐いた女だ。 容姿、スタイル、そのどちらも極上と言っても良い美少女だが…性格が捻れまくっている。 何度か話し掛けて見たが 「うるさい。」 の一言で切り捨てられている。 俺だけで無く、クラスの誰が話しかけてもその調子だ。 もうみんなこいつとコミュニケーションを取る事を諦めている。 涼宮ハルヒは今も俺の後ろで頬杖を突き憂鬱そうな顔をして窓の外を眺めている。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなで授業が始まった。 ~一限目~ 「…で、この場合はこの公式を使って…」 今日もいつもの通り授業は進んでいる…が…今日はなんか体調がおかしい…。 教師の言葉がまったく耳に入らない 別に夜更かしした訳じゃ無いんだがな。 俺がそんな事を考えていた時…それが来た… ―ー思い出せ!。 「…っ!」 …突如俺を幻聴と頭痛が襲った。 ―ー気づけ!ここは偽物だ! 「…ん!」 …なんだ…これは… 「ううっ…」 ガタッ 俺は突如襲った幻聴と頭痛とめまいの為机から床に転げ落ちた…。 「きゃ!」 「おい!どうしたキョン!」 …意識が…薄れて… …。 …。 …。 ………気がつくと俺は保健室のベットに寝かされていた。 俺は起き上がり、 「…なんだったんだ…あの頭痛…めまい…幻聴は…。」 そう思った時だった。 ――思い出せ! 「…っ!」 またか…何なんだよ…何を思い出せってんだ…。 ――気づけ! 「…ん!」 …俺は保健室を抜け出し…どこかに歩いている? 俺は…どこに向かっているんだ…? …。 …。 …。 俺は気がつくとある部屋の前に来ていた。 「…文芸部?」 文芸部…たしか部員0で来年入部者が居なければ廃部になるって話の? 「…。」 俺は誘われるように文芸部室へと入っていった…。 使われて居ない部屋…その部屋は埃臭く殺風景な物だった。 隅の方に本棚があり、机の上にかなり古いパソコンが置いてある…ただそれだけの部屋だった。 「…なんで俺はここに…んっ!!。」 …今までで一番強烈な奴が来た…ん?…今度は幻覚…か!? 俺の目の前に… 俺 が立っていた… ―いつまで呆けてんだ俺!いい加減目を覚ませ!覚えてるだろあの日々を?絶対忘れられる訳ねぇだろが! 「…あの…日々…?」 その瞬間頭に何かが駆け抜けた…。 「…SOS団…宇宙人…未来人…超能力者…涼宮ハルヒ…。」 …そうだ…。 「俺は…思い出した。」 そう、俺は完全に思い出した…くそっ!どうなってんだ一体…。 まて、落ち着け俺!俺は普通の奴よりもこの様な事態には耐性がある…そうだ、OK。 まずは整理してみよう。 …まず間違い無くここは改変された世界だ。 ハルヒは…居る。SOS団は結成していないが間違い無く居る。 古泉は…居る。この世界でも同じ様に転校してきている。間違い無い。 朝比奈さんは…居る。谷口が騒いでいた。間違い無い。 長門は…居ない!?…この世界での長門を認識した事は無い!…文芸部も部員0だ…間違い無い。 「…ハルヒも居る…朝比奈さんも古泉も…長門だけが…居ない。」 …何故長門だけが居ないのだろうか? それにこの事態を引き起こしたのた誰だ? ハルヒか?それともまた長門か? …そうだ!きっと長門は何かヒントを残しているはずだ! 俺は本棚へ向かい例の本を探した。 「頼むぜ………あ!」 俺は本をめくりそれを見つけた。 【パソコンの電源を2秒押し離す。それを三回】 例の栞にはそう書かれていた。 俺は直ぐにパソコンに向かい書いてある行動をとった。 ピッ パソコンは旧型とは思えないスピードで起動し…それが画面に映し出された…。 YUKI.N …もしもあなたが思い出した時の為にこのメッセージを残す。 「…ああ、思い出したさ。」 YUKI.N ここは改変された世界。でも涼宮ハルヒは同じ様に力を持ち、古泉一樹、朝比奈みくるも同じく力を持っている。 この事態を起こしたのは情報統合思念体。 …長門のメッセージ。 つまり情報統合思念体内部で大きな動きがあり急進派が力を持ってしまった。 ハルヒの起こす情報爆発を効率良く引き起こすのにSOS団は邪魔な存在と認識され、俺たちがSOS団を結成していない世界に改変した。 そして長門は消去され代わりに朝倉涼子が配置された。 …くそったれが! YUKI.N これは仕方の無い事。 それと、涼宮ハルヒに関わらない事を推奨する。 あなたと涼宮ハルヒが接触すると朝倉涼子が同じく行動を起こす確率が高い。 危険。 あなたはこの世界で生きて。 楽しかったありがとう。 「ふざけんなよ!」 YUKI.N …心残りは…もう一度あなたと図書館へ行きたかった。 「いや、行くぞ!一度と言わず何度でもな!」 YUKI.N それと…もう一度あなたに私の肉じゃがを食べさせてあげたかった。」 「…すまん。それだけは勘弁だ。」 YUKI.N …さようなら …。 …。 このメッセージが表示されるのは一度きりである。 エンターキーを押し消去を。 …。 …。 …。 「…ふざけるなよ。こんなので納得できるかよ!これで終わりだなんて!」 末尾でカーソルが点滅している…あの時と同じか…。 違うのは…あの時はこれを押したら改変世界から抜け出せたが今回は…終わりだ。 「くそっ!」 俺は近くの椅子を蹴飛ばした。 「長門…お前はそれで良いのかよ…」 …。 …。 ………!? 待てよ。何故エンターキーを押さないといけないんだ? 別に自動で消去してもかまわないだろ? …もしかして…。 俺はパソコンに戻り画面を再び見た。 「あの時は別のボタンを押したら終わりだった…今回は?」 俺は祈りを込めて…NOの意味でNボタンを押した。 カチ …。 …。 …。 YUKI.N プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・今日。 …。 …。 …。 「…そうだよな…お前だってこのまま消えたくないんだな…任せろ!必ずあの日常を俺が取り戻してやる!」 …。 …。 …鍵か…前回と同じで良いんだよな。 今何時だ?後5分で昼休みか…。 俺はまず古泉の所に向かった。 …。 …。 ~9組~ 「すまない、古泉一樹を呼んでもらえないか?」 俺は適当に教室から出て来た奴にそう言った。 ほどなくして古泉が来た。 「僕に何か様ですか?」 古泉はこの世界でも変わらない0円スマイルでそう言った。 …あの時と同じで行くか。 俺は声を抑え切り出した。 「突然で悪いが…『機関』という組織に思い当たることはないか?」 「キカン…ですか?どういう字をあてるのでしょう」 …おんなじ反応しやがった。 でも俺は長門のメッセージで知っている。 「お前がここに居る目的は涼宮ハルヒの監視。そして閉鎖空間が現れた時お前はそこで暴れる『神人』を狩る超能力者だ。…違うか?」 すると古泉は俺の手を引き人気の無い場所へ連れて行った。 「あなた…何者ですか?」 古泉は笑みを消し俺にそう詰め寄った。 「…そうだな。今のお前からみたら 異世界人 って所だな。」 「…異世界人?」 「…詳しく話をしたい。放課後、文芸部室まで来てくれないか?」 「……分かりました。」 …古泉は戸惑いと警戒の目を向けながらも了承した。 …さて、次は。 …。 …。 ~2年のクラス~ 「すいません。朝比奈みくるさんを呼んでいただけませんか?」 俺は朝比奈さんのクラスから出て来た女子生徒にそう言った。 「…ふ~ん。あの子も人気者ねぇ…わかったわ。玉砕しても泣かないようにね。」 …なにやら勘違いしているみたいだが…まぁ良い。 ほどなくして朝比奈さんがやって来た。 みくる「あの~何でしょうか?」 ああ…この世界でも朝比奈さんの美しさは変わらない…早くまたあのお茶を飲める様にせねば! …おっと!本題本題。 「すいません…ここではちょっと…。」 周りからの好奇の視線が痛い…俺は会話が誰にも聞こえ無い位置まで朝比奈さんを連れて行った。 「突然ですが…あなた未来人ですね?」 単刀直入に俺は言った。 「ななな何をいいい言ってるんですか!そそそんな訳無いじゃないですか!」 …古泉と違い非常にわかりやすい。 「三年前…いや、もうすぐ四年前か。大きな時間振動が検出され、その中心に涼宮ハルヒが居た。 あなたがこの時代に来た目的は涼宮ハルヒを監視する為…違いますか?」 「…あなたは…いったい…。」 「詳しい話をしたいので放課後文芸部室に来ていただけませんか?」 「……はい。」 朝比奈さんもOKだ。 最後はハルヒ…こいつは放課後だな…。 俺は教室に向かった。 ~教室~ 「キョン!?もう平気なの?」 「びっくりしたぜ。急に倒れるからな。」 国木田と谷口だ。 「ああ、大丈夫だ。すまんな心配かけて。」 「キョン君大丈夫?病院行かなくて平気?」 「ああ朝倉、平気だ。単なる寝不足だからな。」 「寝不足?」 「ちょっと夜更かししすぎたみたいだ。そのせいでめまいがな。 今まで保健室で寝てたからもう大丈夫だ。」 俺はニカッっと笑った。 「…呆れた。どうせゲームでもしてたんでしょ?体調管理はちゃんとしないとね!」 「へいへい…」 朝倉は自分の席に戻って行った。 ……怪しまれなかっただろうか。 俺は背中が汗で濡れている事に気づいた。 このまま最後の授業を受け…放課後になった。 さて、朝倉に見つからないようにハルヒを捕まえなければ… 俺はげた箱まで先回りしハルヒを待った。 「キョン、ゲーセンどうするんだ?」 谷口?…そうか、こいつらとゲーセン行く約束してたんだ。 「すまん。今日は帰って寝るわ。まだちょっとめまいがな…。」 「そうか、んなら俺は国木田と二人で行くわ。」 「ああ、すまんな。」 「その代わり明日はナンパ付き合えよ!」 「おう!」 …すまん。元の世界に戻ったら必ずその約束果たすからな。 …。 …来た。 どうしようか…前回と同じで行くか? いや、朝倉に気づかれる恐れがある。時間も無いし…よし。 周りに人気が無くなった所で俺はハルヒに近づいた。 「世界を大いに盛り上げるジョンスミスをよろしく。」 俺はすれ違いざまハルヒにそう呟いた。 「な!?」 ハルヒは俺に振り向き 「…何であんたがその言葉を…」 驚愕の表情で呟き次の瞬間俺のネクタイを掴もうと手を伸ばした。 ヒョイ …予想してたからよけるのは簡単だった。 すまんな、今目立つ訳にはいかないんだ。 「詳しい話をしたい。いまからちょっと付き合ってもらえるか?」 「ちょっと…!」 「今は黙ってろ…着いたら話す。」 ハルヒはしばらくの間の後無言で頷いた。 …。 …。 …。 …朝倉に気づかれなかっただろうか…。 ハルヒと文芸部室に向かう途中俺は考えていた。 例えば朝倉が長門だったとして…長門に悟られる事無く行動できるか? …否。 …気づかれていると考えてよいだろう。 とにかく一刻も早く…。 …。 …。 …着いた。 「ここだ。」 俺はハルヒにそう告げた。 「あんたアタシの前に座っている人よね?…何者?」 「中に入ってからだ。」 俺達は文芸部室に入った。 中ではすでに古泉と朝比奈さんが来ていた。 二人は俺と一緒にハルヒが来た事に驚いているようだ。 …これで揃った。 前回と同じならこれで… …。 ピッ 「…!?」 良し! 俺は直ぐパソコンに向かう。 「ちょっとあんた!何やってんのよ!話てくれるんじゃなかったの!?」 「すまんみんな、少し待っててくれ!」 みんなに謝罪しパソコンの画面を見た。 …。 …。 YUKI.N …あなたは鍵を集めた。 これでプログラムが作動する。 でも私はこれを推奨しない。 あまりにも成功率が低すぎる…危険も大きい。 「…危険?」 YUKI.N …それでもあなたはきっと…。 …このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動せずに消去される。 Ready? …。 …。 答えは分かっているだろ、長門。 俺はお前を、SOS団を取り戻すと決めたんだ。 危険?上等だ! 俺は指を伸ばし、エンターキーを押し込んだ。 …。 …。 すると本棚が…横にスライドした!? 本棚の有った所に… …なるほど。そうか。 弾は三発…良いんだな長門。 「ちょっと!人を呼びつけといてさっきから何やってんのよ!!」 すまない、またせたな。 俺はそれを三人に向けた。 「なっ!?」 「ふぇ!?」 「な…何のつもりよあんた…。」 …俺は三人に銃を向けている。 「悪い。話すよりこれが手っ取り早いんだ。」 短針銃。以前も使った銃だ。 これでみんなの記憶を取り戻す。 …まずは…俺は特に考えもなく朝比奈さんに発射した。 針は朝比奈さんの首筋に命中した。 「はぅ…」 朝比奈さんはその場に倒れこんだ。 …すいません。でもすぐにわかりますから。 等と呑気に考えていた時だった。 ゲシッ! 「…え?」 気づくと腕を蹴り上げられ、銃が弾き飛ばされていた。 次の瞬間強い衝撃が俺の顔を襲った。 …俺…殴られ… 俺は古泉に銃を弾き飛ばされ殴られた後、そのまま古泉に押さえつけられていた。 「涼宮さん!彼女を!」 「わ…分かったわ!」 …俺って本当に馬鹿だ…何やってんだ本当に…。 銃を向けられ撃たれるってなったらそりゃ反撃するわな…俺だってそうするさ…。 「大丈夫!生きてるわ。眠っているみたい。」 「そうですか、良かった…さて。」 古泉は俺に向かって言った。 「あなた何をしているか分かっているのですか!?」 …古泉…お前いつも笑っていて気持ち悪い…って思っていたが…うん、やっぱりお前は笑顔が一番似合うぞ! そんな怖い顔するなよ…。 「待て!話を聞け!」 「あなたが何者で何を企んでいるかはのちに機関の方でゆっくりと聞かせていただきます。」 …ヤベ…絞められている…このままだと落ちる…。 古泉は俺を気絶させようとしている様だ…この力…こいつこんなに強かったのか…。 その時 「…ん。」 「大丈夫!?しっかりして!」 朝比奈さんが目覚めた!? 朝比奈さんは目を開け暫くボーっとした後、ハルヒ、古泉、俺…と見た。 「…朝…比奈…さん…。」 俺は朝比奈さんに手を伸ばした …ヤバい…意識が… 朝比奈さんは立ち上がり、 「古泉くん!ごめんなさい!」 そう言って古泉にタックルを喰らわした。 「えっ!?」 古泉は予想外の攻撃に対応しきれなかったらしく俺を離し朝比奈さんと一緒に転んだ。 「ゲホッ!ゲホッ!…はぁ…はぁ…。」 「キョンくん!今よ!」 ああ…朝比奈さん。 俺の朝比奈さんだ! 俺は直ぐに銃に飛びつく。 しかし古泉も直ぐに立ち直って銃に飛びついた。 …。 …。 …。 すまん。俺が早かったな。 「うっ!」 針は古泉の額に命中した。 そのまま俺の上に倒れ込む…重い。 「キョンくん!」 俺は古泉の下から抜け出し最後の一人に銃を向ける。 「これは一体どういう事なんですか?」 「朝比奈さん、話は後で。」 「…何よ…一体なんなのよ…」 ハルヒは床にへたり込んで怯えている…白か…。 「キョンくん…どこ見てるの…」 すいません。男の習性なんです。 「ハルヒ…すまない。すぐにお前にも分かるから。」 俺は引き金を引いた。 針はハルヒの太ももに命中…ハルヒも床に倒れ込んだ。 …やれやれ、やっと全員か…。 しかし油断した…危なかった。 最初に古泉を撃っとくべきだったな。 俺が反省している所で朝比奈さんの声が… 「…キョンくん、古泉くんが。」 「…ん。」 「起きたか古泉。」 古泉がノロノロと起き上がった。 「こ…これは…一体…。」 記憶が混乱しているようだ。 そりゃそうだ、記憶が戻ったとは言えしっかりこの世界の記憶もあるからな。 「まずは落ち着け。……それじゃ説明するぞ。」 俺は長門がメッセージで残した事を全て二人に伝えた。 …。 …。 …。 「なるほど、そういう事ですか…。」 「まさか…また世界が改変されていたなんて…。」 …とりあえず俺は仲間を取り戻した。 そしてこれからは…。 「そして、これからあなたは何をしようとしているのですか?」 「ああ…ハルヒに全てを伝えハルヒの力で全てを元に戻すつもりだ。」 俺は二人に伝えた。 …暫く沈黙が続く。 …まぁ、そうだろうな。古泉にしても朝比奈さんにしてもハルヒが自分の力に気づく事を望んでいない。 古泉が口を開いた。 「……分かりました。それしか長門さんを取り戻す方法は無い様ですしね。」 「…いいのか?」 正直驚いた。朝比奈さんはともかく古泉だけは絶対反対すると思っていたからだ。 「…雪山の約束もありますしね…それにあなたを殴ってしまった。いくら記憶が無かったとは言え…申し訳ない事を。」 「気にするな。当然の行動だ。」 「そう言っていただくとホッとします。 …それにですね。この世界での僕は予定通り直接涼宮さんに接触する事無く、ただ監視しているだけなんですよ…実につまらない日々です。」 「私も同じです。」 朝比奈さん? 「…無くなって初めて気づく物なんですね…。」 「そうです。僕は今回は機関としてでは無く、SOS団副団長としてSOS団を取り戻すために動かせていただきます。 もちろん長門も含めてです。」 古泉はいつもの笑顔を浮かべて言った。 「…古泉。」 「そうです!五人揃ってSOS団ですからね!」 「…朝比奈さん。」 最高だ。俺は一人じゃない! 「…ん。」 「涼宮さん!」 「起きたかハルヒ。」 「…キョン…あれ…何…これ…」 「落ち着け…これから全てを話してやる。」 …。 …。 そして俺達は今の状況、正体、力、全てをハルヒに教えた。 最初は信じなかったハルヒも俺がジョンスミスだったという所で俺達が冗談を言っているのでは無いと気づいたようだ。 ハルヒ「…まさに灯台下暗しってやつねね…。」 そうだろう、そうだろう。 ハルヒの待ち望んでいた宇宙人、未来人、超能力者がこんな近くに居たのだからな。 「…それで、どうやったら有希を取り戻せる訳?」 古泉が言った。 「現状では…涼宮さん。あなたの力に頼るしかありません。先ほど話した通り、あなたには神の如き力があります。」 しかしハルヒの反応は… 「…ん~、そこの所がイマイチ実感湧かないのよねぇ~。」 実感湧かないって…俺達がお前の力にどれだけ振り回されたと思っているんだ? 「ハルヒ!間違いなくお前にはとんでもない力があるんだ!だから…。」 …ここで俺の言葉を遮り女の声が響いた…。 「そこまでよ!」 俺達は一斉に振り向いた…そこには…。 「朝倉…涼子…。」 部室の入り口に朝倉涼子が立っていた。 「…長門さんにも困ったものね。こんな小細工をしていたなんて…。」 朝倉は「フン」と笑った後部屋に入って来た。 …。 …。 やはり気づかれていたか…。 「朝倉…長門はどうなっているんだ!」 朝倉は笑顔で言った。 「長門さん?ああ、とっくに消去されているわよ。」 なんだと…。 「何ふざけた事言っているのよ!有希を返しなさい!」 「…笑えない冗談ですね。」 「…なんて…事を…。」 「朝倉ぁ!」 みんな怒りに震えている。 「…なぁ~んちゃって。」 「…え!?」 「嘘よ嘘。そんなに怖い顔しないで。長門さんはちゃんと居るわよ…ほら。」 朝倉はそう言って首にぶら下げたペンダントを見せた。 ………あ!? 朝倉の首に掛けられているペンダントにたしかに長門が…居た。 「長門!」 「有希!」 「長門さん!」 「長門さん!」 長門はペンダントの中で悲しそうな目を俺達に向けていた。 「消去する訳無いでしょ?だって長門さん一度私を消したのよ?…そんな簡単に楽にしてあげる訳無いじゃない。」 「…長門を返せ!朝倉!」 「嫌よ。長門さんは今から罰を受けないといけないの…大事なお友達が目の前で殺されるのを見る…って罰をね。」 …やっぱりこいつの目的は… 「…記憶戻らなかったら良かったのにね。こうなった以上前回出来なかった事をやらせてもらうわ。」 …やばい…やばすぎる…。 「キョン君を殺して涼宮ハルヒの情報爆発を観測する…いや、あなた達三人を殺して。」 「!?」 俺達三人…俺と朝比奈さんと古泉か! 「朝倉!…お前の目的は俺だけだろ!この二人は関係無いはずだ!」 朝倉は笑いながら言った。 「状況が前と変わったのよ。あの時はそれほどその二人と涼宮ハルヒは近い関係に無かった。でも今は強い信頼で結ばれている…そう言う事よ。」 なおも朝倉は続ける。 「これから一人一人別の場所にご招待するわ…そして最後に涼宮さんを…切り刻まれたあなた達を見た涼宮さんはどんな情報爆発を見せてくれるかしら…フフフ。」 こ…こいつ… 「朝倉!お前!」 朝倉はナイフを構え。 「知ってた?神様って非情なのよ。…神様って言っても情報統合思念体なんだけどね。 …やっぱり最初はキョン君からね。さあ行きましょうか。」 朝倉はゆっくりと俺に手を伸ばした。 「――!?」 その時誰かが俺の前に出た…古泉!? 古泉は俺に笑顔を向けたまま…その場から消えた…。 …。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間~ …。 …。 …みんなが消えた!? …いや、僕が消えたと言った方が良いのでしょうね…。 僕と… 「順番は守らないとダメよ。そんなに死に急ぎたいの?」 …この朝倉涼子と。…。 「…長門さんが居ない今、あなたに対抗できるのは僕だけなものでしてね…。」 「へぇ~、もしかして勝てる気でいるの?」 「僕に…いや、俺に出来ないとでも思ったか!」 …ここではかしこまる必要は無いだろう。 俺は両手に力を込めた…大丈夫…力は使える。 「フフフ…怖い顔ね…あなたニヤケ顔してるよりもこっちの方が素敵よ。」 …しかし半分以下か…自分を光の玉に変える事はやはり出来ないみたいだ。 「でも残念ね…すぐお別れだなんてね。」 朝倉涼子はナイフを構えた。 「ああ、すぐにお別れだ。お前が俺に殺されてな。」 …勝率は…一割以下だ…絶望的な数字だな…だがやるしか無い。 俺の死〓みんなの死だ。 「口だけは達者ね…じゃあ…死んで!」 朝倉涼子は突進して来た。 俺も両手から光を出し死神へと向かった。 「おおおおおお!!」 …。 …。 …。 …。 ~部室~ 「古泉君と朝倉涼子はどこに消えたの!?」 「おそらく古泉は俺の代わりに朝倉と閉鎖空間に行ったんだろう。 …長門が居ない今、朝倉に対抗出来るのは自分だけだと思ってな…。」 …くっ…古泉… 「…古泉くん…帰って来ますよね…?」 …朝比奈さんは目に涙を溜めて言った。 「当然よ!なんてったって彼はうちの副団長よ!…絶対帰ってくる。」 …古泉…絶対帰ってこいよ!! …。 …。 …。 …。 ~再び閉鎖空間~ …。 …。 …。 「ぐっ!」 俺は壁に叩きつけられた。 「結構頑張るわね。でも後がつかえているのよ。そろそろ死んでくれない?」 どれくらい時間がたっただろうか。 …おそらく20分ぐらいだろうが俺には1時間にも2時間にも感じられていた。 「…化け物が。」 全身血だらけだ。体のあちこちに裂傷を負っている。 …背中の傷が一番深いか…。 朝倉は強い。何よりも素早く攻撃が当たらない。 いや、当たりはする。当たればその部分が消し飛ぶ。 だがすぐに再生しやがる。くそっ! それに…首に掛けられたネックレス…あの中には長門さんがいる… 下手に攻撃したら長門さんまで…。 「ほ~ら!」 朝倉はナイフを振るって…!? 朝倉のナイフは俺の首筋を掠めた。 「あら、惜しかったわ~。」 後数ミリで頸動脈が斬り裂かれていた…。 俺は右手の光を朝倉に投げる。 しかし朝倉は素早くよけ…足に命中した。 しかしすぐに再生される。 「…結構痛いのよ。これ…そろそろ本気で終わらせるわ。」朝倉は突進してきた…刺突か!? 「ぐっ!」 俺はわずかに身を交わし心臓への攻撃は避けたが朝倉のナイフは俺の左肩を貫いていた。 …激痛が走る中俺は目の前のペンダントに右手を伸ばした。 ブチッ 良し!取った! しかしその瞬間さらなる激痛が俺を襲った。 朝倉はナイフを俺の太ももに突き刺さしていた。 「ぐおっ!」 朝倉は俺から飛び退き言った。 「馬鹿ね。ペンダントを奪うのでは無くそのままその光で攻撃したら勝てたのに…長門さんが気になったのかしら?」 …ペンダントは奪い取ったが左手と足を封じられた…絶望的だ…。 「これで終わりね。」 朝倉は俺にとどめを刺す為突進してきた。 …駄目だ…動けない…みんなごめん。 朝倉のナイフが迫る。 …朝倉の動きがゆっくりに見える…これがドーパミン効果ってやつか…。 この軌道…右目から入ってそのまま脳にか…即死だな…。 そしてナイフが俺を貫いた。 …。 …。 …。 「…往生際が悪いわね。」 朝倉のナイフは俺の右の手の平を貫いていた。 俺は…まだ死ねない…。 俺はそのまま右手で朝倉の腕を掴み… 朝倉は俺が何をしようとしたのか分かったのか必死に飛び退こうとしたが… 「遅い!!」 左手から放たれた0距離攻撃…朝倉の体は赤い光に包まれ…消滅した。 …。 …。 …。 手の平に刺さったままのナイフが静かに崩れて行く。 俺は静かに言った。 「俺の勝ちだ…。」…。 …。 …。 閉鎖空間が崩れ始める。 俺は…僕は長門さんの入ったペンダントを見た。 長門さんが僕を心配そうな顔で見つめている。 「…さぁ…一緒に帰りましょう。」 そして空間が割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 突如俺達の前に血だらけになった古泉が現れた。 「古泉!」 「古泉君!」 「古泉くん!」 古泉は俺たちの顔をしばらく眺めた後こう告げた。 「……朝倉涼子は倒しました。」 古泉は静かに言ったがけして楽な闘いでは無かったのを全身に刻まれた傷が物語っていた。 「…酷い怪我…」 「…ふぇ…こ、古泉くん…だ、大丈夫ですか…?」 ハルヒと朝比奈さんは古泉を介抱している。 しかし大丈夫な訳が無い…今もかなりの出血が確認できる。 「古泉…よく頑張った…。」 「はは…これであなたを殴ったのは帳消しになりましたかね?」 笑みを浮かべ奴はそう言う。 「…馬鹿野郎。」 帳消しどころでは無い。 俺はいくらお前に釣りを渡せばよいんだ? 「…これを。」 古泉はそう言って俺にペンダントを差し出した。 「これは…長門!?」 ペンダントの中で長門は俺に何かを訴えているようだ…何?…開ければ良いのか? よく見るとペンダントの上部に小さいキャップが付いている。 俺は迷わずキャップを開けた。 するとペンダントから光が飛び出し、その粒子が俺達の前に人間の形を作り出した。 「有希!」 「長門さん!」 「…長門…さん」 ……長門。 俺達の目の前に長門が立っていた。 「……。」 長門はしばらく俺達の顔を見た後 「…古泉…一樹…。」 そう呟き古泉の所へと駆けて行った。 「…ごめんなさい…ごめんなさい…。」 何度も古泉に謝罪の言葉を呟いていた。 古泉は頭を振り 「長門さん、良かった…。」 と呟いた。 「長門、古泉の傷を治せないか?」 俺は長門にそう言ったが長門の答えは 「…無理。」 頭を振ってそう答えた。 「…情報統合思念体との接続が切れている…今の私には何の力も無い…。」 …よく考えたらそうだ。今回の敵こそ情報統合思念体だったんだ…。 くそ!まだ出血が続いている…このままだと命に関わるぞ…。 「…救急車を。」 朝比奈さん!? …そうだよ。救急車だよ。頭が回らなかった。 「俺が呼んでくる!」 俺はそう言って部室の出口に向かおうとした…が! …。 …。 …。 「な…。」 俺は絶句した…なぜならそこに 朝倉涼子が立っていたからだ。 「もう良いかしら?」 「お…お前…。」 朝倉はそのまま部室に入って来た。 「…不死身か…?」 古泉が驚愕の表情で呟いた。 そりゃそうだろう。 必死になって倒した敵が無傷で現れたのだから…。 朝倉は笑顔で言った。 「あら、古泉君、勘違いしないで。さっきのはあなたの勝ちよ。 さっきの私は完全に消滅したわ。」 「…どういう事ですか…。」 「こういう事よ。」 「……!?」 …悪夢としか言いようが無いだろう。 さらにもう一人朝倉が俺達の前に現れた…。 「たとえ今の私達を倒しても無駄よ。」 「また新しい私が現れるからね。」 …。 …。 …情報統合思念体の力でたとえ何回倒されようとも復活し続ける…朝倉はそう告げた。 「最後に長門さんに会えたから悔いはないわよね?」 「じゃ、そろそろ死んで。」 2人の朝倉がナイフを持ち近づいて来る。 …その時1人の少女が動いた。 「させない。」 …長門…。 長門が両手を広げ俺達を守るように朝倉の前に立ちふさがった。 「あら、長門さん。今やただのひ弱な女の子に成り下がったあなたが何をするつもり?」 朝倉が見下した目でそう言った。 「やらせない。」 しかし長門は一歩も退かず同じ言葉を口にした。 …俺は普通の人間。 朝比奈さんは未来人だが戦う力は持ってない。 古泉はすでに瀕死の状態。 長門はいまや何の力も無い少女になっている。 ハルヒはうつむいて何か呟いている …無理もない。いくらハルヒとはいえ実質は普通の世界で生きてきた女子高生だ。 いきなりこの様な場面に叩き出されたら壊れるのも無理は無い…。 すなわち…絶体絶命って事だ。 その時だった。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ ーー!? なんだ!? 俺はその奇妙な音の鳴る方を見た。 …。 …。 ……なんだ。鳩時計か…。 部室に掛けられている鳩時計が六時を知らせていた。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ …こっちは絶体絶命だってのに呑気に鳴いてやがる………って…え!? …鳩時計? んな馬鹿な…少なくとも俺の記憶の中でこの部室に鳩時計が飾られた事は無い。 なぜだ? 俺がそう考えていた時 …。 …。 「…なるほどね。」 …。 …。 その声の主は不敵な笑みを浮かべてそう呟いた。 「さて、今度はみんな一緒に招待してあげるわ。広い所にね。」 朝倉はそう言って指を鳴らした。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間校庭~ 周りの風景が変わり俺達はいつの間にか校庭に立っていた。 「みんなまとめて殺してあげる。」 朝倉かそう言いながら再び指を鳴らすと……うわぁ……。 俺達の目の前に百人近い朝倉涼子が現れた。 「痛みを感じる暇も無いかもね…じゃ、行くわよ。」 百人の朝倉がナイフを構え俺達に飛びかかろうとしたその時。 「待ちなさい!」 その声の主、先程 「なるほど」 と呟いたハルヒが不敵な笑みを浮かべたまま朝倉にそう言った。 「何…涼宮さん?大丈夫よ、あなたは殺さないから。 あなたの役割は切り刻まれたお友達を見て情報爆発を起こす事よ。安心して。」 …何が安心だ。 「アタシはただ待てと言ってるの。」 ハルヒ? 「…そうね。お別れの時間くらい与えてあげても良いわ…。10分よ。」 「それだけあれば十分よ。」 ハルヒはそう言って俺達の方を向いた。 …なんだハルヒ、本当に別れの挨拶をする訳じゃないだろうな? 「古泉君」 「はい?」 「あなた超能力者だったわね? だったら手から炎を出したり傷を癒せたり瞬間移動できたりするわよね?」 古泉は表情を落とし。 「いえ…残念ながら…。」 そう呟いた。 残念ながら古泉にその様な力は無い。 こいつの力は限定された空間でしか使えない。 たしか最初に説明したはずだが? 「いいえ、使えるの!」 「え?」 何を言ってるんだ? 「アタシがそう決めたんだから使えるの。そういう事なんでしょ?」 ー!? そうか…そういう事か! 古泉はしばらくポカーンとした後…。 「…そうです…そうなんです!今、涼宮さんの言った能力、全部使えます!」 にっこりと笑いそう答えた。 「そう、ならちゃっちゃと自分の傷を直しちゃいなさい!」 「はい!」 …さっきの鳩時計もハルヒの仕業か。 それで自分の力に… 「みくるちゃん!」 「は…はい!」 「あなた未来人だったわよね?」 「はい…一応…。」 「ならあなたのポケットは四次元ポケットね。隠したって無駄よ!アタシには分かってるんだから! 早く未来の凄い武器でも出しなさい。」 朝比奈さんはド○えもんか! 「え!?…え!?…」 「朝比奈さん!」 …。 …。 …。 「……あ…そういう事…そう、そうです! 凄い武器出しちゃいますよ!!」 朝比奈さんはようやく気づき元気にそう答えた。 「有希!」 「……。」 長門は振り返りわずかに首を傾けた。 「あなた宇宙人だったわよね?」 「…正確に言うと対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。」 「そんなのどっちでも良いのよ!んで今はその能力が使えないと?」 「そう。」 長門は顔を落とし答えた。しかしハルヒは笑顔で言った。 「残念だけどそれは勘違いよ。あなたは自分の能力を全部使えるの、自分の意志で! アタシが今決めた!」 長門はその言葉にしばらく目を見開いた後 「コクン。」 大きく頷いた。 「キョン!」 俺?…俺はハルヒを見た。 「あんたは普通の人間なんだからみくるちゃんからなんか武器を貸してもらいなさい。」 「ああ。」 良かった。変な能力者にされないで本当に良かった。 「朝比奈さん。」 俺は朝比奈さんに話しかける。 「は、はい!……ふ、ふぇ…す、凄いの出ちゃった…。」 巨大なライフルらしき物を持ちそう言った。 それ本当にその小さなポケットから出たんですか…。 「これはどんな武器なんですか?」 「これは…その…禁則事項です。」 …分かりません! 俺と朝比奈さんが困っていると…。 「禁則事項禁止!」 ハルヒ? 朝比奈さんはしばらく沈黙した後頷き 「対ヒューマノイド・インターフェース用ライフル。 これは命中した相手の情報連結を解除出来る特殊武器です。 あ!ちなみに長門さんに当たっても大丈夫な用に作られてますから…。」 俺はライフルを受け取り 「…またずいぶん都合の良い武器が有りましたね。」 「ええ…まぁ涼宮さんですから…。」 なるほど、何でも有りか。 …ん?…古泉!? 瀕死状態だった古泉がいつの間にかいつもの笑顔で立っている。 「お前大丈夫なのか?」 「ええ、傷は癒やしました。涼宮さんに新たに頂いた力で。 …この戦い、いけますよ。」 ああ、いける。 俺は頷き次は長門に声をかけた。 「長門、どうだ?」 「涼宮ハルヒの力により私は全機能が復帰した。 今の私は全ての機能を情報統合思念体の許可無く使用する事が出来る。」 長門完全復活だ。 「私はこれよりジェノサイドモードを発動する。 これは戦闘モードの中の最終モード。 本来なら絶対許可は下りない。しかし今の私は情報統合思念体の許可は必要ない…様するに…」 長門の全身から凄まじいプレッシャーがにじみ出ていた。 「私は非常に怒っている。」 頼もしいぜ。 次に朝比奈さんに話しかけた。 「朝比奈さん、大丈夫ですか?」 「はい!オートターゲット機能がついていますから下手くそな私でも大丈夫です!」 朝比奈さんは銃を持ちそう答えた。 「キョンくんは大丈夫ですか?」 「俺ですか?…ええ。」 俺は笑顔で言った。 「この世界での連日のゲーセン通いは伊達では無いですから!」 …。 …。 「みんな、準備は良いわね!」 「ええ。」 「ジェノサイドモード発動完了。」 「は、はい!」 「おう。」 ハルヒは朝倉に向き直り。 「待たせたわね。」 「もう良いのかしら?」 ハルヒは不敵な笑みを浮かべ言った。 「さあ!どっからでもかかって来なさい!!」 こうして戦いが始まった。 …。 …。 …。 あそこで一度に3人の朝倉を焼き払ったのは、今やどこに出しても恥ずかしくないサイキックソルジャーになった古泉だ。 瞬間移動をしながら手から炎を出し戦っている。 …お前は草○京か! そして戦闘開始から凄まじい勢いで朝倉を倒し続けているのは、 ジェノサイドモード とか言う物騒な名前のを発動した長門だ。 よほど鬱憤が溜まっていたのか 「俺達必要ないんじゃないか?」 ってくらいの勢いで凄まじい勢いだ。 この2人が前衛部隊として戦っている後ろで俺と朝比奈さんは2人が討ちもらした朝倉を射撃している。 朝比奈さんは 「ふぇ…ふぇ…」 と言いながらもオートターゲット機能のおかげか確実に射撃を命中させている。 俺は連日のゲーセン通いで培った腕で射撃を続けている。 …谷口、国木田、ありがとう。 そして我らが団長、涼宮ハルヒは 「アタシが戦うまでも無いわ。」 とでも言いたげな感じで腕組みをし、笑みを浮かべ俺の後ろに立っていた。 …。 …。 そんなこんなでいつしか敵は朝倉1人残すだけとなった。 …。 …。 「朝倉、もうお前だけだぞ。」 俺は朝倉にそう言った。 …まぁ全部朝倉だった訳だが。 しかし朝倉は余裕の笑みを崩さない。 「あら、もう勝った気でいるの?」 朝倉は再び指を鳴らした。 …。 …。 --な!? 突如俺達の前に巨大な影が現れた。 …なんだこいつは。 その影は手にした棍棒らしき物でなぎ払いをしてきた… 「な!?」 「ひゃ!?」 その軌道上に居るのは俺と朝比奈さん! 俺達に棍棒が迫る。 避けられるタイミングじゃ無い…。 俺は朝比奈さんを庇うようにして抱きついた。 …。 …。 クラッ… …。 …。 俺を襲ったのは衝撃では無く、強烈な立ちくらみだった……あれ?この感覚は…。 俺が目を開けると… まるで棍棒が俺達をすり抜けたかのように通りすぎていた。 「2秒だけ…。」 「え?」 朝比奈さん? 「2秒だけ飛べました。」 そうか、時間移動。 朝比奈さんは俺達に棍棒が当たる瞬間2秒未来へ時間移動をしたのか。 朝倉、やっぱりお前は長門よりも下だ。 長門は完璧に時間移動を封じたぞ! …しかし…この巨大な奴は一体…。 --!? さらに4体の巨大な影が現れやがった…合計5体…。 「長門、あれは一体何なんだ?」 長門は静かに答えた。 「…ミノタウロス…。」 ミノタウロス!? 「…あれが?」 確かに良く見るとそれの顔は牛の形をしていた…神話で有名なあのミノタウロスだ。 「ミノタウロス…××星に生息する巨大生物。性格は凶暴。 …その肉は美味。」 …最後の一文が気になったが…まぁ良い。 とにかく倒せば良いんだろ! 俺はミノタウロスに射撃した……効かない? 次に古泉が炎を、光の玉を連続して放ったが…同じく効果が無い。 「無駄。」 長門? 「ミノタウロスに特殊な攻撃は通用しない。倒すには単純な力による攻撃しかない。」 「…長門。お前なら何とかできるよな?」 思い出したく無いがかつて長門はミノタウロスを調理し肉じゃがにした事がある。 しかし…。 「無理。」 …え? 「あの時倒したのは幼体。あれは成体…しかも5体…今の私でも無理。」 …。 …。 なんてこったい。 「形勢逆転ね。」 いつの間にかミノタウロスの肩に座っている朝倉がそう言った。 「くそっ!」 どうすれば良い…見ると古泉や朝比奈さんの顔にも焦りの表情が見える。 「おい!ハル…」 俺はハルヒに振り向き……え? ハルヒの顔には焦りの表情は無く、先ほどまでと同じ笑みが浮かんだままだった。 ハルヒの視線…ハルヒは朝倉やミノタウロスを見ておらず、もっと後ろ……あ!? 「あ!?」 「ふぇ!?」 「……あ。」 ゆっくりとそれは現れた。 …なるほどな。 「…くっ…くっ…くっ…。」 思わず笑いがこみ上げる。 「…ふっ…ふっ…ふっ…。」 見ると古泉も笑っている。 「…何?恐怖で狂ったの?」 朝倉が怪訝な表情で俺達に言った。 「ははははははは」 俺と古泉の笑いがこだました。 「あなた達状況がわかっているの?私の命令一つであなた達死ぬのよ?」 状況がわかっているのかって? 命令一つ? これ以上笑わせるなよ。 「これが笑わずにいられるかよ? なぁ、古泉?」 「くっくっくっ…まぁ、僕としては複雑な気分でもあるんですけどね。」 そりゃそうだろうな。 「……。」 朝比奈さんは呆然としている。 そうか、朝比奈さんは見た事なかったな。 「長門、面白いだろ?」 長門は静かに言った。 「ええ。とてもユニーク。」 状況が1人分かっていない朝倉はイラついたような顔で 「なによ!なんなのよ!!」 と繰り返している。 「キョン。」 ハルヒ? 「教えてあげなさい。」 OK。 「朝倉。」 「何よ!」 「後ろを見てみろよ。」 「後ろ? …………!?」 朝倉は後ろを振り向き…絶句した。 そりゃそうだろう。 後ろでさらに巨大な巨人が今にも自分を叩きつぶそうと拳を振り上げているんだからな。 「……な…な…な…。」 「…神人。」 古泉が静かに呟いた。 神人…ハルヒが自ら生み出した閉鎖空間で暴れさせていた巨人だ。 しかし今はハルヒの命令を待つかの様に拳を振り上げてたまま待機している。 「やりなさい。」 ハルヒの声が響く。 それと同時神人の拳が振り下ろされた。 「ひっ!」 朝倉は小さく言葉を発し、ミノタウロスの肩から飛び退いた。 次の瞬間5体のミノタウロスは完全に叩き潰された。 「…すげえ。」 俺は思わず呟いていた。 そして静かに神人は消えていった。 「…で、形勢逆転がどうしたって?朝倉涼子?」 ハルヒの言葉を聞いた朝倉は怒りの表情を浮かべ立ち上がった。 「調子にのってるんじゃないわよ!殺してやる!!」 朝倉は絶叫しナイフを俺達の頭上に投げた。 ………!? ナイフが何千いや、何万という数に分裂し俺達を囲んだ。 これが俺達に降り注いだらひとたまりもないだろう。 しかし俺は落ち着いていた。 何故かって? ハルヒが笑顔のままだったからだ。 「ナイフの全方位攻撃よ! 手加減してあげてたのに図に乗って!……死になさい!」 朝倉の一言により何万ものナイフが俺達に降り注ぐ……事は無かった。 …。 …。 「な…なんで…。」 「馬鹿ねぇ。」 ハルヒは今日見せる最大級の笑顔で言った。 「そんなのアタシが許すとでも思ってるの!」 全てのナイフが音も無く消滅していく。 …ハルヒは…。 「すごい…涼宮さん…。」 「ええ、彼女は完全に…。」 そう、ハルヒは完全に自分の力を使いこなしていた。 「…覚醒。」 …長門? 「涼宮ハルヒは覚醒した。今の涼宮ハルヒに勝てる者はもはや存在しない。」 朝倉は狼狽していた…いや、恐慌していると言った方が良いだろう。 朝倉は一瞬逃げるような素振りを見せた後、石像の様に動かなくなった。 「あなたが動く事も許さない。」 「…あ…あ…。」 ハルヒはゆっくりと朝倉に近づく。 「…よくも…よくも好き勝手してくれたわね。」 笑顔だったハルヒの表情が徐々に怒りの表情に変わっていく。 「有希を閉じ込めたり…アタシ達の…SOS団の記憶を消したり…キョンを…みんなを殺そうとしたり…古泉君をあんな酷い目にあわせたり…。」 ハルヒを見ると…………泣いていた。 怒りの表情で体を震わせ涙を流していた。 「…アタシはあんたの存在を許さない。未来永劫ね。」 ハルヒの言葉に朝倉は…。 「…やめて…お願い…それだけは…それを言われたら…私は…。」 今さら何を言っているんだこいつは…。 「古泉、言ってやれ!」 古泉は頷き穏やかに言った。 「朝倉さん、知ってますか? 神様って非情なんですよ。 まぁ、神様とは言っても僕らの団長の事なんですけどね。」 古泉は朝倉に言われた事をそっくりそのまま返していた。 さらに古泉は続ける。 「あなた方は涼宮ハルヒを舐めていた。その結果彼女の逆鱗に触れる事となった。 残念ですが我らが団長は敵にはどこまでも非情になれる方なんですよ。」 古泉はニッコリと微笑んだ。 「アタシはあんたを絶対許さない!あんたが再び生まれる事も許さない。 消えなさい!朝倉涼子!永久に!!」 ハルヒがそれを言ったと同時に…朝倉涼子は…消滅した。 もう二度と朝倉が現れることは無いだろう。 ハルヒが言った以上絶対だ。 触らぬ神に祟り無し この言葉をちゃんと理解していたら良かったのにな…朝倉。 そして空間が歪み…割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 「終わりましたね。」 古泉が言った。 ああ、終わった。 後は世界を元に戻すだけだ。 「……ごめんなさい。」 ん?長門? 長門は続ける。 「今回の件は全て私の責任。ごめんなさい。」 お前の責任なんかじゃない。 それに今言う事はそれじゃない…。 「長門、違うだろ?今お前が言わないといけない事は一つだけだ。」 長門は目を見開きしばしの沈黙の後言った。 「……ただいま。」 「お帰り、長門。」 「お帰り、有希。」 「お帰りなさい。長門さん。」 俺、ハルヒ、朝比奈さん、古泉が同時に言った。 …本当にお帰り。長門。 「さて、んでどうすれば良いのかしら?」 ハルヒが俺に言った。 「そうだな、お前の力で元の世界に戻すんだ…いや、二度とふざけた真似できないように情報統合思念体存在を消した世界をな。」 「分かったわ。」 その時だ。 「待って。」 ん!? …。 …。 その声の主は部室の入り口に立っていた。 「喜緑さん…。」 喜緑江美里…生徒会書記、その実体は長門や朝倉と同じ対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース…彼女が何故? ハルヒが呟く。 「なるほど、朝倉涼子の次はあなたって訳ね。」 その言葉に喜緑さんは首を振り 「いいえ、あなた方と争うつもりはありません。 あなた方に今の情報統合思念体の事を伝えに来たの。」 …。 …。 喜緑さんの話しによると、今回の件は急進派によるクーデターみたいなものであったらしい。 そして現在は元の通りになった。 二度と急進派が表に出る事は無い。 つまり、情報統合思念体を消すのを止めてくれ…って言いたいらしい。 「それを信じる理由は無いな。」 俺はそう言った。 当然だ。また奴らが同じ事をしないという保証は無い。 「私も情報統合思念体を消さない事を推奨する。」 長門!? 長門は続ける。 「喜緑江美里の言っている事は事実。 情報統合思念体の消去による影響は甚大。」 長門の話しによると情報統合思念体が消えるとこの世に大きな不具合が発生し、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいと…。 しかしなぁ…。 「もしもまた同じ事があったらどうするんだ?」 俺の問いに長門は 「それは無い。涼宮ハルヒが許さないと言った以上絶対。だから心配ない。」 俺はハルヒを見た。 「…まぁ、有希が言うなら仕方ないわね。 喜緑さん、分かったわ。」 ハルヒがそう言うなら仕方ない。 「ありがとうございます。 …それじゃ長門さん、後はお願い。」 喜緑さんは去っていった。 …。 …。 「私が涼宮ハルヒの力を使い元の世界に戻す。」 長門? 「今日の事が無かった事になりあなた達が今日経験した記憶は消える。」 「記憶が…消える?」 「そう、私以外の記憶は消え、当たり前の1日が始まる。」 ハルヒが声をあげる。 「ちょっと待って!それってアタシはまた何も知らない状態に戻るって事? 自分の力、有希が宇宙人、みくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者って事も全部?」 「そう。でもそれがあなたの望み。」 ……なるほどな。 何でも自分の思い通りになる世界をハルヒが望むか? …否。 そんな世界をハルヒが望む訳が無い。 ハルヒが望んでいるのはいつもの日々だ。 ハルヒが無茶な事を言い出して俺達が振り回される。 みんなで馬鹿な事をやり笑いあえる…いつもの日々。 「帰ろうぜ、あの日々に。」 俺はハルヒに言った。 「…そうね。帰りましょう。」 古泉と朝比奈さんも笑顔で頷いた。 「改変を開始する。」 長門がそう言うと周りの景色が歪み…真っ白な世界になった。 それと同時に俺達の体が光に包まれる。 「ところで、僕の力はどうなるんでしょうか?」 「古泉一樹、あなたの力は一時的に涼宮ハルヒにより与えられた力。記憶の消失と共に消える。」 「それは残念ですねぇ。」 古泉は残念そうな顔で呟いた。 「ああ、あと涼宮さん、なるべく閉鎖空間を生まないようにしてください。」 気持ちはわかるが今言っても忘れているから意味ないぞ。 「ふっ、それならあなた達アタシを退屈させないように頑張りなさい。」 ハルヒは笑顔でそう言った。 俺と古泉は肩をすくめ呟いた。 「やれやれ…。」 …。 …。 そして長門が口を開いた。 「みんな…ありがとう。」 そして全てが光に包まれる…。 …。 …。 …。 ~キョンの部屋~ ガタン 「痛ってえええ。」 …どうやらまたベッドから落ちたらしい。 今何時だ?……2時か…。 ……何か夢を見ていたみたいだが……思い出せない。 物凄く苦労した夢だったみたいだが…まぁ、そのうち思い出すだろう。 寝よう…。 …。 …。 …。 ~教室~ 「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「ちょっと!キョン!聞いて!」 なんだハルヒ?朝っぱらからテンション高いな。 「昨日凄く面白い夢を見たのよ!」 夢? 「もしかしてまた俺と古泉がお前に飯おごらせようとして、お前が財布を忘れて古泉がロリコンからホモになったあれか?」 「違うわよ!」 「違うわよ!」 違うのか…古泉には悪いがあれは正直面白かった。 「どんな夢だ?」 「それがね!覚えて無いの!」 ……は? ハルヒは覚えて無いけど物凄く面白い夢だったと言っている。 なんだそりゃ…そう言えば俺もなんか夢を見たな…覚えて無いけど…かなり苦労した夢…まぁ良い。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなでいつもの1日が始まった。 …。 …。 …。 ~放課後の部室~ いつも通りみんな集まり、それぞれ思い思いの事をやっていた。 ハルヒは団長席でふんぞり返り、朝比奈さんはメイド服でみんなにお茶を配り、俺と古泉はカードゲームをし、長門はいつもの席でいつもの様に自動読者マシーンと化している。 途中でまたハルヒが夢の話しをしだした。 それぞれ昨日どんな夢を見たか? ハルヒ「凄く楽しい夢だった。でも内容は覚えていない。」 俺「凄く苦労した夢だった。でも内容は覚えていない。」 古泉「凄く痛い夢だった。でも内容は覚えていない。」 朝比奈さん「凄くオロオロする夢だった。でも内容は覚えていない。」 みんなバラバラだ。 共通点は覚えていないって所か。 「有希?あなたは何か夢見た?」 長門は本から顔を上げコクンと頷いた。 長門も夢を見るのか? 「んでどんな夢?」 長門はしばらく考えた後 「凄く幸せな…嬉しい夢。」 と答えた。 「で、内容は?やっぱり覚えてないの?」 長門は首を振り言った。 「覚えている。」 「教えて。」 「……内緒。」 内緒か…まぁ幸せな夢だったら良いか …っと思っていた時長門が急に立ち上がった。 そして… 「みんな……ありがとう。」 …。 …。 …なんで俺達は長門にお礼を言われているのだろうか? 皆を見てみるが皆困惑の表情を浮かべている。 でもそんな事はどうでも良い。 皆もそう思っているだろう。 だって… 長門が今、最高の笑顔で微笑んでいるのだからな…。 …。 …。 …。 …おしまい。
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涼宮ハルヒの憂鬱II(2006年放送版第03話、構成第02話・DVD版第03話/2009年放送版・時系列第02話) スタッフ 脚本:山本寛 絵コンテ:北之原孝将 演出:北之原孝将 作画監督:米田光良 原作収録巻 第1巻:『涼宮ハルヒの憂鬱』より第2章のP66からP96まで、第3章P108~P119まで。計39ページ分をアニメ化。原作から再構成・時系列改変が行われた。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第1巻』に収録 紹介・解説など 原作の時系列が組みかえられているので、原作から入ってきた人は新鮮かも。ちなみにまだ古泉は未登場。TV版で見ていた人は、次回で混乱すること請け合い。 この回以降、2009年春までの作品において、Ani Villageなど会社単位で原画をグロス出しすることはなくなる。 (CLANNADなどでは、個人単位では発注している) 2006年放送順の提供バックのねこマンは『ツッパリねこマン』。(DVD第02巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの憂鬱』第1巻に収録): ハルヒ:次回!涼宮ハルヒの憂鬱第7話! キョン:違う!!次回、涼宮ハルヒの憂鬱第4話『涼宮ハルヒの退屈』。んえっ!?次野球?父ちゃん、俺はやるのか? DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 III』。見て。 放送版とDVD版との違い みくるがハルヒによってコンピ研につれられてきた後にTV版では、いないといけない場所にみくるがいない場面があったがDVD版では修正されている。 DVD版では、鞄の追加や、カーテンが閉まっているかの有無、ドアの上部の修正などの修正箇所が多数。 パロディ・小ネタ 展開がいきなり翌日になるところで『付いて来い』と言っている。 ピー音は原作では『りんかん』と言っている。 コンピ研の部員が見ているのは、『2ちゃんねる』。ちなみにIEで閲覧。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 2段目 谷口:白石稔 国木田:松元恵 朝倉涼子:桑谷夏子 キョンの妹:あおきさやか コンピ研部長:小伏伸之 部員A:石上祐一 部員B:ヤスヒロ 部員C フルヤミツアキ スタッフ 脚本:山本寛 絵コンテ:北之原孝将 演出:北之原孝将 作画監督:米田光良 動画検査:栗田智代 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:下浦亜弓 制作マネージャー:富井涼子 原画 高橋博行 紫藤晃由 大藤佐恵子 松尾祐輔 端 由美子 松尾恵里 Ani Village 動画 佐藤綾 紅林誉子 多田夏美 細田はな Ani Village 仕上げ 永安真由美 嶋智子 山森愛弓 北岡なな子 Ani Village 背景 Ani Village李天馥 林貞女我 柳丙慮 申允美 李美眞 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年4月16日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年4月16日25時30分-26時00分 tvk:2006年4月17日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年4月17日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年4月17日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年4月18日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年4月18日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年4月19日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年4月19日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年4月22日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年4月22日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月9日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月9日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月9日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年4月10日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月10日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月11日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月12日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月13日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月14日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月14日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月14日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月14日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月14日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月14日27時55分-28時25分(1、2話連続放送:2話目) Youtube:2009年4月17日22時00分-2009年4月22日21時59分(1話とともに配信停止) RKK熊本放送:2009年10月25日25時50分-26時20分 DVDチャプター 使用サントラ 0 00~0 44『やれやれおいおい』サントラ05収録 0 45~1 50 SE 1 51~3 21 OP 3 22~3 53 SE 3 54~4 58『ザ・強引』サントラ05収録 4 59~5 26 SE 5 27~6 43『コミカルハッスル』サントラ06収録 6 44~7 25 SE 7 26~9 09 『何かがおかしい』サントラ02収録 9 10~11 17 SE 11 18~12 10『激烈で華麗なる日々』サントラ05収録 12 11~12 27 SE 12 28~14 04『おいおい』サントラ02収録 14 05~14 48 SE 14 49~15 24『悲しみあふれる』サントラ08収録 15 25~16 12 SE 16 13~17 47『うんざりだ』サントラ03収録 17 48~18 21 SE 18 22~18 41『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 18 42~20 45 SE 20 46~22 20『長門の告白』サントラ03収録 22 21~23 24 ED 23 25~23 39『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの覚醒 「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「なぁ、今日の放課後だけどな、ナンパ行こうぜ!」 「…谷口、朝っぱらからそれかよ、一昨日も行っただろうがよ…もういい加減にしようぜ?大体うまくいった事無いだろうが…。」 「馬鹿!失敗を恐れてどうなるってんだ!挑戦無くして成功は無しだ!」 …朝から拳を握りしめて力説している谷口…はぁ…。 こいつとは入学からの付き合いでちょくちょく放課後や休みの日にナンパに付き合わされている。 結果は…言うまでも無いだろう…。 「悪いが今日はゲーセンに行くと国木田と話がついているんだ。またの機会にしよう。」 「…チッ。」 谷口は不満気に舌打ちした後自分の席に戻った。 …北高に入学してそろそろ一年経とうとしている。 この一年特に大きな出来事も無く、放課後や休日は友人とゲーセンに行ったりナンパに行ったりと平凡な生活を送っている。 「おはよう。キョン君。」 「ああ、おはよう朝倉。」 …朝倉涼子、このクラスの中心的存在で谷口曰わく AAランクプラス の美少女だ。 文化祭や体育祭などでも素晴らしいリーダーシップを発揮し、大いに盛り上げてくれた。 「朝からなんか憂鬱そうね?」 憂鬱?まぁ~毎日妹に乱暴な起こされかたをされてあの坂を毎日登れば憂鬱にもなるさ。 「ふふふっ。」 朝倉は軽く笑った後席へと戻って行った。 「憂鬱ね…」 俺は憂鬱と聞いて後ろの席に座っている人物が頭に浮かんだ。 涼宮ハルヒ 入学後の自己紹介でとてつもなくインパクトのある言葉を吐いた女だ。 容姿、スタイル、そのどちらも極上と言っても良い美少女だが…性格が捻れまくっている。 何度か話し掛けて見たが 「うるさい。」 の一言で切り捨てられている。 俺だけで無く、クラスの誰が話しかけてもその調子だ。 もうみんなこいつとコミュニケーションを取る事を諦めている。 涼宮ハルヒは今も俺の後ろで頬杖を突き憂鬱そうな顔をして窓の外を眺めている。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなで授業が始まった。 ~一限目~ 「…で、この場合はこの公式を使って…」 今日もいつもの通り授業は進んでいる…が…今日はなんか体調がおかしい…。 教師の言葉がまったく耳に入らない 別に夜更かしした訳じゃ無いんだがな。 俺がそんな事を考えていた時…それが来た… ―ー思い出せ!。 「…っ!」 …突如俺を幻聴と頭痛が襲った。 ―ー気づけ!ここは偽物だ! 「…ん!」 …なんだ…これは… 「ううっ…」 ガタッ 俺は突如襲った幻聴と頭痛とめまいの為机から床に転げ落ちた…。 「きゃ!」 「おい!どうしたキョン!」 …意識が…薄れて… …。 …。 …。 ………気がつくと俺は保健室のベットに寝かされていた。 俺は起き上がり、 「…なんだったんだ…あの頭痛…めまい…幻聴は…。」 そう思った時だった。 ――思い出せ! 「…っ!」 またか…何なんだよ…何を思い出せってんだ…。 ――気づけ! 「…ん!」 …俺は保健室を抜け出し…どこかに歩いている? 俺は…どこに向かっているんだ…? …。 …。 …。 俺は気がつくとある部屋の前に来ていた。 「…文芸部?」 文芸部…たしか部員0で来年入部者が居なければ廃部になるって話の? 「…。」 俺は誘われるように文芸部室へと入っていった…。 使われて居ない部屋…その部屋は埃臭く殺風景な物だった。 隅の方に本棚があり、机の上にかなり古いパソコンが置いてある…ただそれだけの部屋だった。 「…なんで俺はここに…んっ!!。」 …今までで一番強烈な奴が来た…ん?…今度は幻覚…か!? 俺の目の前に… 俺 が立っていた… ―いつまで呆けてんだ俺!いい加減目を覚ませ!覚えてるだろあの日々を?絶対忘れられる訳ねぇだろが! 「…あの…日々…?」 その瞬間頭に何かが駆け抜けた…。 「…SOS団…宇宙人…未来人…超能力者…涼宮ハルヒ…。」 …そうだ…。 「俺は…思い出した。」 そう、俺は完全に思い出した…くそっ!どうなってんだ一体…。 まて、落ち着け俺!俺は普通の奴よりもこの様な事態には耐性がある…そうだ、OK。 まずは整理してみよう。 …まず間違い無くここは改変された世界だ。 ハルヒは…居る。SOS団は結成していないが間違い無く居る。 古泉は…居る。この世界でも同じ様に転校してきている。間違い無い。 朝比奈さんは…居る。谷口が騒いでいた。間違い無い。 長門は…居ない!?…この世界での長門を認識した事は無い!…文芸部も部員0だ…間違い無い。 「…ハルヒも居る…朝比奈さんも古泉も…長門だけが…居ない。」 …何故長門だけが居ないのだろうか? それにこの事態を引き起こしたのた誰だ? ハルヒか?それともまた長門か? …そうだ!きっと長門は何かヒントを残しているはずだ! 俺は本棚へ向かい例の本を探した。 「頼むぜ………あ!」 俺は本をめくりそれを見つけた。 【パソコンの電源を2秒押し離す。それを三回】 例の栞にはそう書かれていた。 俺は直ぐにパソコンに向かい書いてある行動をとった。 ピッ パソコンは旧型とは思えないスピードで起動し…それが画面に映し出された…。 YUKI.N …もしもあなたが思い出した時の為にこのメッセージを残す。 「…ああ、思い出したさ。」 YUKI.N ここは改変された世界。でも涼宮ハルヒは同じ様に力を持ち、古泉一樹、朝比奈みくるも同じく力を持っている。 この事態を起こしたのは情報統合思念体。 …長門のメッセージ。 つまり情報統合思念体内部で大きな動きがあり急進派が力を持ってしまった。 ハルヒの起こす情報爆発を効率良く引き起こすのにSOS団は邪魔な存在と認識され、俺たちがSOS団を結成していない世界に改変した。 そして長門は消去され代わりに朝倉涼子が配置された。 …くそったれが! YUKI.N これは仕方の無い事。 それと、涼宮ハルヒに関わらない事を推奨する。 あなたと涼宮ハルヒが接触すると朝倉涼子が同じく行動を起こす確率が高い。 危険。 あなたはこの世界で生きて。 楽しかったありがとう。 「ふざけんなよ!」 YUKI.N …心残りは…もう一度あなたと図書館へ行きたかった。 「いや、行くぞ!一度と言わず何度でもな!」 YUKI.N それと…もう一度あなたに私の肉じゃがを食べさせてあげたかった。」 「…すまん。それだけは勘弁だ。」 YUKI.N …さようなら …。 …。 このメッセージが表示されるのは一度きりである。 エンターキーを押し消去を。 …。 …。 …。 「…ふざけるなよ。こんなので納得できるかよ!これで終わりだなんて!」 末尾でカーソルが点滅している…あの時と同じか…。 違うのは…あの時はこれを押したら改変世界から抜け出せたが今回は…終わりだ。 「くそっ!」 俺は近くの椅子を蹴飛ばした。 「長門…お前はそれで良いのかよ…」 …。 …。 ………!? 待てよ。何故エンターキーを押さないといけないんだ? 別に自動で消去してもかまわないだろ? …もしかして…。 俺はパソコンに戻り画面を再び見た。 「あの時は別のボタンを押したら終わりだった…今回は?」 俺は祈りを込めて…NOの意味でNボタンを押した。 カチ …。 …。 …。 YUKI.N プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・今日。 …。 …。 …。 「…そうだよな…お前だってこのまま消えたくないんだな…任せろ!必ずあの日常を俺が取り戻してやる!」 …。 …。 …鍵か…前回と同じで良いんだよな。 今何時だ?後5分で昼休みか…。 俺はまず古泉の所に向かった。 …。 …。 ~9組~ 「すまない、古泉一樹を呼んでもらえないか?」 俺は適当に教室から出て来た奴にそう言った。 ほどなくして古泉が来た。 「僕に何か様ですか?」 古泉はこの世界でも変わらない0円スマイルでそう言った。 …あの時と同じで行くか。 俺は声を抑え切り出した。 「突然で悪いが…『機関』という組織に思い当たることはないか?」 「キカン…ですか?どういう字をあてるのでしょう」 …おんなじ反応しやがった。 でも俺は長門のメッセージで知っている。 「お前がここに居る目的は涼宮ハルヒの監視。そして閉鎖空間が現れた時お前はそこで暴れる『神人』を狩る超能力者だ。…違うか?」 すると古泉は俺の手を引き人気の無い場所へ連れて行った。 「あなた…何者ですか?」 古泉は笑みを消し俺にそう詰め寄った。 「…そうだな。今のお前からみたら 異世界人 って所だな。」 「…異世界人?」 「…詳しく話をしたい。放課後、文芸部室まで来てくれないか?」 「……分かりました。」 …古泉は戸惑いと警戒の目を向けながらも了承した。 …さて、次は。 …。 …。 ~2年のクラス~ 「すいません。朝比奈みくるさんを呼んでいただけませんか?」 俺は朝比奈さんのクラスから出て来た女子生徒にそう言った。 「…ふ~ん。あの子も人気者ねぇ…わかったわ。玉砕しても泣かないようにね。」 …なにやら勘違いしているみたいだが…まぁ良い。 ほどなくして朝比奈さんがやって来た。 みくる「あの~何でしょうか?」 ああ…この世界でも朝比奈さんの美しさは変わらない…早くまたあのお茶を飲める様にせねば! …おっと!本題本題。 「すいません…ここではちょっと…。」 周りからの好奇の視線が痛い…俺は会話が誰にも聞こえ無い位置まで朝比奈さんを連れて行った。 「突然ですが…あなた未来人ですね?」 単刀直入に俺は言った。 「ななな何をいいい言ってるんですか!そそそんな訳無いじゃないですか!」 …古泉と違い非常にわかりやすい。 「三年前…いや、もうすぐ四年前か。大きな時間振動が検出され、その中心に涼宮ハルヒが居た。 あなたがこの時代に来た目的は涼宮ハルヒを監視する為…違いますか?」 「…あなたは…いったい…。」 「詳しい話をしたいので放課後文芸部室に来ていただけませんか?」 「……はい。」 朝比奈さんもOKだ。 最後はハルヒ…こいつは放課後だな…。 俺は教室に向かった。 ~教室~ 「キョン!?もう平気なの?」 「びっくりしたぜ。急に倒れるからな。」 国木田と谷口だ。 「ああ、大丈夫だ。すまんな心配かけて。」 「キョン君大丈夫?病院行かなくて平気?」 「ああ朝倉、平気だ。単なる寝不足だからな。」 「寝不足?」 「ちょっと夜更かししすぎたみたいだ。そのせいでめまいがな。 今まで保健室で寝てたからもう大丈夫だ。」 俺はニカッっと笑った。 「…呆れた。どうせゲームでもしてたんでしょ?体調管理はちゃんとしないとね!」 「へいへい…」 朝倉は自分の席に戻って行った。 ……怪しまれなかっただろうか。 俺は背中が汗で濡れている事に気づいた。 このまま最後の授業を受け…放課後になった。 さて、朝倉に見つからないようにハルヒを捕まえなければ… 俺はげた箱まで先回りしハルヒを待った。 「キョン、ゲーセンどうするんだ?」 谷口?…そうか、こいつらとゲーセン行く約束してたんだ。 「すまん。今日は帰って寝るわ。まだちょっとめまいがな…。」 「そうか、んなら俺は国木田と二人で行くわ。」 「ああ、すまんな。」 「その代わり明日はナンパ付き合えよ!」 「おう!」 …すまん。元の世界に戻ったら必ずその約束果たすからな。 …。 …来た。 どうしようか…前回と同じで行くか? いや、朝倉に気づかれる恐れがある。時間も無いし…よし。 周りに人気が無くなった所で俺はハルヒに近づいた。 「世界を大いに盛り上げるジョンスミスをよろしく。」 俺はすれ違いざまハルヒにそう呟いた。 「な!?」 ハルヒは俺に振り向き 「…何であんたがその言葉を…」 驚愕の表情で呟き次の瞬間俺のネクタイを掴もうと手を伸ばした。 ヒョイ …予想してたからよけるのは簡単だった。 すまんな、今目立つ訳にはいかないんだ。 「詳しい話をしたい。いまからちょっと付き合ってもらえるか?」 「ちょっと…!」 「今は黙ってろ…着いたら話す。」 ハルヒはしばらくの間の後無言で頷いた。 …。 …。 …。 …朝倉に気づかれなかっただろうか…。 ハルヒと文芸部室に向かう途中俺は考えていた。 例えば朝倉が長門だったとして…長門に悟られる事無く行動できるか? …否。 …気づかれていると考えてよいだろう。 とにかく一刻も早く…。 …。 …。 …着いた。 「ここだ。」 俺はハルヒにそう告げた。 「あんたアタシの前に座っている人よね?…何者?」 「中に入ってからだ。」 俺達は文芸部室に入った。 中ではすでに古泉と朝比奈さんが来ていた。 二人は俺と一緒にハルヒが来た事に驚いているようだ。 …これで揃った。 前回と同じならこれで… …。 ピッ 「…!?」 良し! 俺は直ぐパソコンに向かう。 「ちょっとあんた!何やってんのよ!話てくれるんじゃなかったの!?」 「すまんみんな、少し待っててくれ!」 みんなに謝罪しパソコンの画面を見た。 …。 …。 YUKI.N …あなたは鍵を集めた。 これでプログラムが作動する。 でも私はこれを推奨しない。 あまりにも成功率が低すぎる…危険も大きい。 「…危険?」 YUKI.N …それでもあなたはきっと…。 …このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動せずに消去される。 Ready? …。 …。 答えは分かっているだろ、長門。 俺はお前を、SOS団を取り戻すと決めたんだ。 危険?上等だ! 俺は指を伸ばし、エンターキーを押し込んだ。 …。 …。 すると本棚が…横にスライドした!? 本棚の有った所に… …なるほど。そうか。 弾は三発…良いんだな長門。 「ちょっと!人を呼びつけといてさっきから何やってんのよ!!」 すまない、またせたな。 俺はそれを三人に向けた。 「なっ!?」 「ふぇ!?」 「な…何のつもりよあんた…。」 …俺は三人に銃を向けている。 「悪い。話すよりこれが手っ取り早いんだ。」 短針銃。以前も使った銃だ。 これでみんなの記憶を取り戻す。 …まずは…俺は特に考えもなく朝比奈さんに発射した。 針は朝比奈さんの首筋に命中した。 「はぅ…」 朝比奈さんはその場に倒れこんだ。 …すいません。でもすぐにわかりますから。 等と呑気に考えていた時だった。 ゲシッ! 「…え?」 気づくと腕を蹴り上げられ、銃が弾き飛ばされていた。 次の瞬間強い衝撃が俺の顔を襲った。 …俺…殴られ… 俺は古泉に銃を弾き飛ばされ殴られた後、そのまま古泉に押さえつけられていた。 「涼宮さん!彼女を!」 「わ…分かったわ!」 …俺って本当に馬鹿だ…何やってんだ本当に…。 銃を向けられ撃たれるってなったらそりゃ反撃するわな…俺だってそうするさ…。 「大丈夫!生きてるわ。眠っているみたい。」 「そうですか、良かった…さて。」 古泉は俺に向かって言った。 「あなた何をしているか分かっているのですか!?」 …古泉…お前いつも笑っていて気持ち悪い…って思っていたが…うん、やっぱりお前は笑顔が一番似合うぞ! そんな怖い顔するなよ…。 「待て!話を聞け!」 「あなたが何者で何を企んでいるかはのちに機関の方でゆっくりと聞かせていただきます。」 …ヤベ…絞められている…このままだと落ちる…。 古泉は俺を気絶させようとしている様だ…この力…こいつこんなに強かったのか…。 その時 「…ん。」 「大丈夫!?しっかりして!」 朝比奈さんが目覚めた!? 朝比奈さんは目を開け暫くボーっとした後、ハルヒ、古泉、俺…と見た。 「…朝…比奈…さん…。」 俺は朝比奈さんに手を伸ばした …ヤバい…意識が… 朝比奈さんは立ち上がり、 「古泉くん!ごめんなさい!」 そう言って古泉にタックルを喰らわした。 「えっ!?」 古泉は予想外の攻撃に対応しきれなかったらしく俺を離し朝比奈さんと一緒に転んだ。 「ゲホッ!ゲホッ!…はぁ…はぁ…。」 「キョンくん!今よ!」 ああ…朝比奈さん。 俺の朝比奈さんだ! 俺は直ぐに銃に飛びつく。 しかし古泉も直ぐに立ち直って銃に飛びついた。 …。 …。 …。 すまん。俺が早かったな。 「うっ!」 針は古泉の額に命中した。 そのまま俺の上に倒れ込む…重い。 「キョンくん!」 俺は古泉の下から抜け出し最後の一人に銃を向ける。 「これは一体どういう事なんですか?」 「朝比奈さん、話は後で。」 「…何よ…一体なんなのよ…」 ハルヒは床にへたり込んで怯えている…白か…。 「キョンくん…どこ見てるの…」 すいません。男の習性なんです。 「ハルヒ…すまない。すぐにお前にも分かるから。」 俺は引き金を引いた。 針はハルヒの太ももに命中…ハルヒも床に倒れ込んだ。 …やれやれ、やっと全員か…。 しかし油断した…危なかった。 最初に古泉を撃っとくべきだったな。 俺が反省している所で朝比奈さんの声が… 「…キョンくん、古泉くんが。」 「…ん。」 「起きたか古泉。」 古泉がノロノロと起き上がった。 「こ…これは…一体…。」 記憶が混乱しているようだ。 そりゃそうだ、記憶が戻ったとは言えしっかりこの世界の記憶もあるからな。 「まずは落ち着け。……それじゃ説明するぞ。」 俺は長門がメッセージで残した事を全て二人に伝えた。 …。 …。 …。 「なるほど、そういう事ですか…。」 「まさか…また世界が改変されていたなんて…。」 …とりあえず俺は仲間を取り戻した。 そしてこれからは…。 「そして、これからあなたは何をしようとしているのですか?」 「ああ…ハルヒに全てを伝えハルヒの力で全てを元に戻すつもりだ。」 俺は二人に伝えた。 …暫く沈黙が続く。 …まぁ、そうだろうな。古泉にしても朝比奈さんにしてもハルヒが自分の力に気づく事を望んでいない。 古泉が口を開いた。 「……分かりました。それしか長門さんを取り戻す方法は無い様ですしね。」 「…いいのか?」 正直驚いた。朝比奈さんはともかく古泉だけは絶対反対すると思っていたからだ。 「…雪山の約束もありますしね…それにあなたを殴ってしまった。いくら記憶が無かったとは言え…申し訳ない事を。」 「気にするな。当然の行動だ。」 「そう言っていただくとホッとします。 …それにですね。この世界での僕は予定通り直接涼宮さんに接触する事無く、ただ監視しているだけなんですよ…実につまらない日々です。」 「私も同じです。」 朝比奈さん? 「…無くなって初めて気づく物なんですね…。」 「そうです。僕は今回は機関としてでは無く、SOS団副団長としてSOS団を取り戻すために動かせていただきます。 もちろん長門も含めてです。」 古泉はいつもの笑顔を浮かべて言った。 「…古泉。」 「そうです!五人揃ってSOS団ですからね!」 「…朝比奈さん。」 最高だ。俺は一人じゃない! 「…ん。」 「涼宮さん!」 「起きたかハルヒ。」 「…キョン…あれ…何…これ…」 「落ち着け…これから全てを話してやる。」 …。 …。 そして俺達は今の状況、正体、力、全てをハルヒに教えた。 最初は信じなかったハルヒも俺がジョンスミスだったという所で俺達が冗談を言っているのでは無いと気づいたようだ。 ハルヒ「…まさに灯台下暗しってやつねね…。」 そうだろう、そうだろう。 ハルヒの待ち望んでいた宇宙人、未来人、超能力者がこんな近くに居たのだからな。 「…それで、どうやったら有希を取り戻せる訳?」 古泉が言った。 「現状では…涼宮さん。あなたの力に頼るしかありません。先ほど話した通り、あなたには神の如き力があります。」 しかしハルヒの反応は… 「…ん~、そこの所がイマイチ実感湧かないのよねぇ~。」 実感湧かないって…俺達がお前の力にどれだけ振り回されたと思っているんだ? 「ハルヒ!間違いなくお前にはとんでもない力があるんだ!だから…。」 …ここで俺の言葉を遮り女の声が響いた…。 「そこまでよ!」 俺達は一斉に振り向いた…そこには…。 「朝倉…涼子…。」 部室の入り口に朝倉涼子が立っていた。 「…長門さんにも困ったものね。こんな小細工をしていたなんて…。」 朝倉は「フン」と笑った後部屋に入って来た。 …。 …。 やはり気づかれていたか…。 「朝倉…長門はどうなっているんだ!」 朝倉は笑顔で言った。 「長門さん?ああ、とっくに消去されているわよ。」 なんだと…。 「何ふざけた事言っているのよ!有希を返しなさい!」 「…笑えない冗談ですね。」 「…なんて…事を…。」 「朝倉ぁ!」 みんな怒りに震えている。 「…なぁ~んちゃって。」 「…え!?」 「嘘よ嘘。そんなに怖い顔しないで。長門さんはちゃんと居るわよ…ほら。」 朝倉はそう言って首にぶら下げたペンダントを見せた。 ………あ!? 朝倉の首に掛けられているペンダントにたしかに長門が…居た。 「長門!」 「有希!」 「長門さん!」 「長門さん!」 長門はペンダントの中で悲しそうな目を俺達に向けていた。 「消去する訳無いでしょ?だって長門さん一度私を消したのよ?…そんな簡単に楽にしてあげる訳無いじゃない。」 「…長門を返せ!朝倉!」 「嫌よ。長門さんは今から罰を受けないといけないの…大事なお友達が目の前で殺されるのを見る…って罰をね。」 …やっぱりこいつの目的は… 「…記憶戻らなかったら良かったのにね。こうなった以上前回出来なかった事をやらせてもらうわ。」 …やばい…やばすぎる…。 「キョン君を殺して涼宮ハルヒの情報爆発を観測する…いや、あなた達三人を殺して。」 「!?」 俺達三人…俺と朝比奈さんと古泉か! 「朝倉!…お前の目的は俺だけだろ!この二人は関係無いはずだ!」 朝倉は笑いながら言った。 「状況が前と変わったのよ。あの時はそれほどその二人と涼宮ハルヒは近い関係に無かった。でも今は強い信頼で結ばれている…そう言う事よ。」 なおも朝倉は続ける。 「これから一人一人別の場所にご招待するわ…そして最後に涼宮さんを…切り刻まれたあなた達を見た涼宮さんはどんな情報爆発を見せてくれるかしら…フフフ。」 こ…こいつ… 「朝倉!お前!」 朝倉はナイフを構え。 「知ってた?神様って非情なのよ。…神様って言っても情報統合思念体なんだけどね。 …やっぱり最初はキョン君からね。さあ行きましょうか。」 朝倉はゆっくりと俺に手を伸ばした。 「――!?」 その時誰かが俺の前に出た…古泉!? 古泉は俺に笑顔を向けたまま…その場から消えた…。 …。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間~ …。 …。 …みんなが消えた!? …いや、僕が消えたと言った方が良いのでしょうね…。 僕と… 「順番は守らないとダメよ。そんなに死に急ぎたいの?」 …この朝倉涼子と。…。 「…長門さんが居ない今、あなたに対抗できるのは僕だけなものでしてね…。」 「へぇ~、もしかして勝てる気でいるの?」 「僕に…いや、俺に出来ないとでも思ったか!」 …ここではかしこまる必要は無いだろう。 俺は両手に力を込めた…大丈夫…力は使える。 「フフフ…怖い顔ね…あなたニヤケ顔してるよりもこっちの方が素敵よ。」 …しかし半分以下か…自分を光の玉に変える事はやはり出来ないみたいだ。 「でも残念ね…すぐお別れだなんてね。」 朝倉涼子はナイフを構えた。 「ああ、すぐにお別れだ。お前が俺に殺されてな。」 …勝率は…一割以下だ…絶望的な数字だな…だがやるしか無い。 俺の死〓みんなの死だ。 「口だけは達者ね…じゃあ…死んで!」 朝倉涼子は突進して来た。 俺も両手から光を出し死神へと向かった。 「おおおおおお!!」 …。 …。 …。 …。 ~部室~ 「古泉君と朝倉涼子はどこに消えたの!?」 「おそらく古泉は俺の代わりに朝倉と閉鎖空間に行ったんだろう。 …長門が居ない今、朝倉に対抗出来るのは自分だけだと思ってな…。」 …くっ…古泉… 「…古泉くん…帰って来ますよね…?」 …朝比奈さんは目に涙を溜めて言った。 「当然よ!なんてったって彼はうちの副団長よ!…絶対帰ってくる。」 …古泉…絶対帰ってこいよ!! …。 …。 …。 …。 ~再び閉鎖空間~ …。 …。 …。 「ぐっ!」 俺は壁に叩きつけられた。 「結構頑張るわね。でも後がつかえているのよ。そろそろ死んでくれない?」 どれくらい時間がたっただろうか。 …おそらく20分ぐらいだろうが俺には1時間にも2時間にも感じられていた。 「…化け物が。」 全身血だらけだ。体のあちこちに裂傷を負っている。 …背中の傷が一番深いか…。 朝倉は強い。何よりも素早く攻撃が当たらない。 いや、当たりはする。当たればその部分が消し飛ぶ。 だがすぐに再生しやがる。くそっ! それに…首に掛けられたネックレス…あの中には長門さんがいる… 下手に攻撃したら長門さんまで…。 「ほ~ら!」 朝倉はナイフを振るって…!? 朝倉のナイフは俺の首筋を掠めた。 「あら、惜しかったわ~。」 後数ミリで頸動脈が斬り裂かれていた…。 俺は右手の光を朝倉に投げる。 しかし朝倉は素早くよけ…足に命中した。 しかしすぐに再生される。 「…結構痛いのよ。これ…そろそろ本気で終わらせるわ。」朝倉は突進してきた…刺突か!? 「ぐっ!」 俺はわずかに身を交わし心臓への攻撃は避けたが朝倉のナイフは俺の左肩を貫いていた。 …激痛が走る中俺は目の前のペンダントに右手を伸ばした。 ブチッ 良し!取った! しかしその瞬間さらなる激痛が俺を襲った。 朝倉はナイフを俺の太ももに突き刺さしていた。 「ぐおっ!」 朝倉は俺から飛び退き言った。 「馬鹿ね。ペンダントを奪うのでは無くそのままその光で攻撃したら勝てたのに…長門さんが気になったのかしら?」 …ペンダントは奪い取ったが左手と足を封じられた…絶望的だ…。 「これで終わりね。」 朝倉は俺にとどめを刺す為突進してきた。 …駄目だ…動けない…みんなごめん。 朝倉のナイフが迫る。 …朝倉の動きがゆっくりに見える…これがドーパミン効果ってやつか…。 この軌道…右目から入ってそのまま脳にか…即死だな…。 そしてナイフが俺を貫いた。 …。 …。 …。 「…往生際が悪いわね。」 朝倉のナイフは俺の右の手の平を貫いていた。 俺は…まだ死ねない…。 俺はそのまま右手で朝倉の腕を掴み… 朝倉は俺が何をしようとしたのか分かったのか必死に飛び退こうとしたが… 「遅い!!」 左手から放たれた0距離攻撃…朝倉の体は赤い光に包まれ…消滅した。 …。 …。 …。 手の平に刺さったままのナイフが静かに崩れて行く。 俺は静かに言った。 「俺の勝ちだ…。」…。 …。 …。 閉鎖空間が崩れ始める。 俺は…僕は長門さんの入ったペンダントを見た。 長門さんが僕を心配そうな顔で見つめている。 「…さぁ…一緒に帰りましょう。」 そして空間が割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 突如俺達の前に血だらけになった古泉が現れた。 「古泉!」 「古泉君!」 「古泉くん!」 古泉は俺たちの顔をしばらく眺めた後こう告げた。 「……朝倉涼子は倒しました。」 古泉は静かに言ったがけして楽な闘いでは無かったのを全身に刻まれた傷が物語っていた。 「…酷い怪我…」 「…ふぇ…こ、古泉くん…だ、大丈夫ですか…?」 ハルヒと朝比奈さんは古泉を介抱している。 しかし大丈夫な訳が無い…今もかなりの出血が確認できる。 「古泉…よく頑張った…。」 「はは…これであなたを殴ったのは帳消しになりましたかね?」 笑みを浮かべ奴はそう言う。 「…馬鹿野郎。」 帳消しどころでは無い。 俺はいくらお前に釣りを渡せばよいんだ? 「…これを。」 古泉はそう言って俺にペンダントを差し出した。 「これは…長門!?」 ペンダントの中で長門は俺に何かを訴えているようだ…何?…開ければ良いのか? よく見るとペンダントの上部に小さいキャップが付いている。 俺は迷わずキャップを開けた。 するとペンダントから光が飛び出し、その粒子が俺達の前に人間の形を作り出した。 「有希!」 「長門さん!」 「…長門…さん」 ……長門。 俺達の目の前に長門が立っていた。 「……。」 長門はしばらく俺達の顔を見た後 「…古泉…一樹…。」 そう呟き古泉の所へと駆けて行った。 「…ごめんなさい…ごめんなさい…。」 何度も古泉に謝罪の言葉を呟いていた。 古泉は頭を振り 「長門さん、良かった…。」 と呟いた。 「長門、古泉の傷を治せないか?」 俺は長門にそう言ったが長門の答えは 「…無理。」 頭を振ってそう答えた。 「…情報統合思念体との接続が切れている…今の私には何の力も無い…。」 …よく考えたらそうだ。今回の敵こそ情報統合思念体だったんだ…。 くそ!まだ出血が続いている…このままだと命に関わるぞ…。 「…救急車を。」 朝比奈さん!? …そうだよ。救急車だよ。頭が回らなかった。 「俺が呼んでくる!」 俺はそう言って部室の出口に向かおうとした…が! …。 …。 …。 「な…。」 俺は絶句した…なぜならそこに 朝倉涼子が立っていたからだ。 「もう良いかしら?」 「お…お前…。」 朝倉はそのまま部室に入って来た。 「…不死身か…?」 古泉が驚愕の表情で呟いた。 そりゃそうだろう。 必死になって倒した敵が無傷で現れたのだから…。 朝倉は笑顔で言った。 「あら、古泉君、勘違いしないで。さっきのはあなたの勝ちよ。 さっきの私は完全に消滅したわ。」 「…どういう事ですか…。」 「こういう事よ。」 「……!?」 …悪夢としか言いようが無いだろう。 さらにもう一人朝倉が俺達の前に現れた…。 「たとえ今の私達を倒しても無駄よ。」 「また新しい私が現れるからね。」 …。 …。 …情報統合思念体の力でたとえ何回倒されようとも復活し続ける…朝倉はそう告げた。 「最後に長門さんに会えたから悔いはないわよね?」 「じゃ、そろそろ死んで。」 2人の朝倉がナイフを持ち近づいて来る。 …その時1人の少女が動いた。 「させない。」 …長門…。 長門が両手を広げ俺達を守るように朝倉の前に立ちふさがった。 「あら、長門さん。今やただのひ弱な女の子に成り下がったあなたが何をするつもり?」 朝倉が見下した目でそう言った。 「やらせない。」 しかし長門は一歩も退かず同じ言葉を口にした。 …俺は普通の人間。 朝比奈さんは未来人だが戦う力は持ってない。 古泉はすでに瀕死の状態。 長門はいまや何の力も無い少女になっている。 ハルヒはうつむいて何か呟いている …無理もない。いくらハルヒとはいえ実質は普通の世界で生きてきた女子高生だ。 いきなりこの様な場面に叩き出されたら壊れるのも無理は無い…。 すなわち…絶体絶命って事だ。 その時だった。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ ーー!? なんだ!? 俺はその奇妙な音の鳴る方を見た。 …。 …。 ……なんだ。鳩時計か…。 部室に掛けられている鳩時計が六時を知らせていた。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ …こっちは絶体絶命だってのに呑気に鳴いてやがる………って…え!? …鳩時計? んな馬鹿な…少なくとも俺の記憶の中でこの部室に鳩時計が飾られた事は無い。 なぜだ? 俺がそう考えていた時 …。 …。 「…なるほどね。」 …。 …。 その声の主は不敵な笑みを浮かべてそう呟いた。 「さて、今度はみんな一緒に招待してあげるわ。広い所にね。」 朝倉はそう言って指を鳴らした。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間校庭~ 周りの風景が変わり俺達はいつの間にか校庭に立っていた。 「みんなまとめて殺してあげる。」 朝倉かそう言いながら再び指を鳴らすと……うわぁ……。 俺達の目の前に百人近い朝倉涼子が現れた。 「痛みを感じる暇も無いかもね…じゃ、行くわよ。」 百人の朝倉がナイフを構え俺達に飛びかかろうとしたその時。 「待ちなさい!」 その声の主、先程 「なるほど」 と呟いたハルヒが不敵な笑みを浮かべたまま朝倉にそう言った。 「何…涼宮さん?大丈夫よ、あなたは殺さないから。 あなたの役割は切り刻まれたお友達を見て情報爆発を起こす事よ。安心して。」 …何が安心だ。 「アタシはただ待てと言ってるの。」 ハルヒ? 「…そうね。お別れの時間くらい与えてあげても良いわ…。10分よ。」 「それだけあれば十分よ。」 ハルヒはそう言って俺達の方を向いた。 …なんだハルヒ、本当に別れの挨拶をする訳じゃないだろうな? 「古泉君」 「はい?」 「あなた超能力者だったわね? だったら手から炎を出したり傷を癒せたり瞬間移動できたりするわよね?」 古泉は表情を落とし。 「いえ…残念ながら…。」 そう呟いた。 残念ながら古泉にその様な力は無い。 こいつの力は限定された空間でしか使えない。 たしか最初に説明したはずだが? 「いいえ、使えるの!」 「え?」 何を言ってるんだ? 「アタシがそう決めたんだから使えるの。そういう事なんでしょ?」 ー!? そうか…そういう事か! 古泉はしばらくポカーンとした後…。 「…そうです…そうなんです!今、涼宮さんの言った能力、全部使えます!」 にっこりと笑いそう答えた。 「そう、ならちゃっちゃと自分の傷を直しちゃいなさい!」 「はい!」 …さっきの鳩時計もハルヒの仕業か。 それで自分の力に… 「みくるちゃん!」 「は…はい!」 「あなた未来人だったわよね?」 「はい…一応…。」 「ならあなたのポケットは四次元ポケットね。隠したって無駄よ!アタシには分かってるんだから! 早く未来の凄い武器でも出しなさい。」 朝比奈さんはド○えもんか! 「え!?…え!?…」 「朝比奈さん!」 …。 …。 …。 「……あ…そういう事…そう、そうです! 凄い武器出しちゃいますよ!!」 朝比奈さんはようやく気づき元気にそう答えた。 「有希!」 「……。」 長門は振り返りわずかに首を傾けた。 「あなた宇宙人だったわよね?」 「…正確に言うと対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。」 「そんなのどっちでも良いのよ!んで今はその能力が使えないと?」 「そう。」 長門は顔を落とし答えた。しかしハルヒは笑顔で言った。 「残念だけどそれは勘違いよ。あなたは自分の能力を全部使えるの、自分の意志で! アタシが今決めた!」 長門はその言葉にしばらく目を見開いた後 「コクン。」 大きく頷いた。 「キョン!」 俺?…俺はハルヒを見た。 「あんたは普通の人間なんだからみくるちゃんからなんか武器を貸してもらいなさい。」 「ああ。」 良かった。変な能力者にされないで本当に良かった。 「朝比奈さん。」 俺は朝比奈さんに話しかける。 「は、はい!……ふ、ふぇ…す、凄いの出ちゃった…。」 巨大なライフルらしき物を持ちそう言った。 それ本当にその小さなポケットから出たんですか…。 「これはどんな武器なんですか?」 「これは…その…禁則事項です。」 …分かりません! 俺と朝比奈さんが困っていると…。 「禁則事項禁止!」 ハルヒ? 朝比奈さんはしばらく沈黙した後頷き 「対ヒューマノイド・インターフェース用ライフル。 これは命中した相手の情報連結を解除出来る特殊武器です。 あ!ちなみに長門さんに当たっても大丈夫な用に作られてますから…。」 俺はライフルを受け取り 「…またずいぶん都合の良い武器が有りましたね。」 「ええ…まぁ涼宮さんですから…。」 なるほど、何でも有りか。 …ん?…古泉!? 瀕死状態だった古泉がいつの間にかいつもの笑顔で立っている。 「お前大丈夫なのか?」 「ええ、傷は癒やしました。涼宮さんに新たに頂いた力で。 …この戦い、いけますよ。」 ああ、いける。 俺は頷き次は長門に声をかけた。 「長門、どうだ?」 「涼宮ハルヒの力により私は全機能が復帰した。 今の私は全ての機能を情報統合思念体の許可無く使用する事が出来る。」 長門完全復活だ。 「私はこれよりジェノサイドモードを発動する。 これは戦闘モードの中の最終モード。 本来なら絶対許可は下りない。しかし今の私は情報統合思念体の許可は必要ない…様するに…」 長門の全身から凄まじいプレッシャーがにじみ出ていた。 「私は非常に怒っている。」 頼もしいぜ。 次に朝比奈さんに話しかけた。 「朝比奈さん、大丈夫ですか?」 「はい!オートターゲット機能がついていますから下手くそな私でも大丈夫です!」 朝比奈さんは銃を持ちそう答えた。 「キョンくんは大丈夫ですか?」 「俺ですか?…ええ。」 俺は笑顔で言った。 「この世界での連日のゲーセン通いは伊達では無いですから!」 …。 …。 「みんな、準備は良いわね!」 「ええ。」 「ジェノサイドモード発動完了。」 「は、はい!」 「おう。」 ハルヒは朝倉に向き直り。 「待たせたわね。」 「もう良いのかしら?」 ハルヒは不敵な笑みを浮かべ言った。 「さあ!どっからでもかかって来なさい!!」 こうして戦いが始まった。 …。 …。 …。 あそこで一度に3人の朝倉を焼き払ったのは、今やどこに出しても恥ずかしくないサイキックソルジャーになった古泉だ。 瞬間移動をしながら手から炎を出し戦っている。 …お前は草○京か! そして戦闘開始から凄まじい勢いで朝倉を倒し続けているのは、 ジェノサイドモード とか言う物騒な名前のを発動した長門だ。 よほど鬱憤が溜まっていたのか 「俺達必要ないんじゃないか?」 ってくらいの勢いで凄まじい勢いだ。 この2人が前衛部隊として戦っている後ろで俺と朝比奈さんは2人が討ちもらした朝倉を射撃している。 朝比奈さんは 「ふぇ…ふぇ…」 と言いながらもオートターゲット機能のおかげか確実に射撃を命中させている。 俺は連日のゲーセン通いで培った腕で射撃を続けている。 …谷口、国木田、ありがとう。 そして我らが団長、涼宮ハルヒは 「アタシが戦うまでも無いわ。」 とでも言いたげな感じで腕組みをし、笑みを浮かべ俺の後ろに立っていた。 …。 …。 そんなこんなでいつしか敵は朝倉1人残すだけとなった。 …。 …。 「朝倉、もうお前だけだぞ。」 俺は朝倉にそう言った。 …まぁ全部朝倉だった訳だが。 しかし朝倉は余裕の笑みを崩さない。 「あら、もう勝った気でいるの?」 朝倉は再び指を鳴らした。 …。 …。 --な!? 突如俺達の前に巨大な影が現れた。 …なんだこいつは。 その影は手にした棍棒らしき物でなぎ払いをしてきた… 「な!?」 「ひゃ!?」 その軌道上に居るのは俺と朝比奈さん! 俺達に棍棒が迫る。 避けられるタイミングじゃ無い…。 俺は朝比奈さんを庇うようにして抱きついた。 …。 …。 クラッ… …。 …。 俺を襲ったのは衝撃では無く、強烈な立ちくらみだった……あれ?この感覚は…。 俺が目を開けると… まるで棍棒が俺達をすり抜けたかのように通りすぎていた。 「2秒だけ…。」 「え?」 朝比奈さん? 「2秒だけ飛べました。」 そうか、時間移動。 朝比奈さんは俺達に棍棒が当たる瞬間2秒未来へ時間移動をしたのか。 朝倉、やっぱりお前は長門よりも下だ。 長門は完璧に時間移動を封じたぞ! …しかし…この巨大な奴は一体…。 --!? さらに4体の巨大な影が現れやがった…合計5体…。 「長門、あれは一体何なんだ?」 長門は静かに答えた。 「…ミノタウロス…。」 ミノタウロス!? 「…あれが?」 確かに良く見るとそれの顔は牛の形をしていた…神話で有名なあのミノタウロスだ。 「ミノタウロス…××星に生息する巨大生物。性格は凶暴。 …その肉は美味。」 …最後の一文が気になったが…まぁ良い。 とにかく倒せば良いんだろ! 俺はミノタウロスに射撃した……効かない? 次に古泉が炎を、光の玉を連続して放ったが…同じく効果が無い。 「無駄。」 長門? 「ミノタウロスに特殊な攻撃は通用しない。倒すには単純な力による攻撃しかない。」 「…長門。お前なら何とかできるよな?」 思い出したく無いがかつて長門はミノタウロスを調理し肉じゃがにした事がある。 しかし…。 「無理。」 …え? 「あの時倒したのは幼体。あれは成体…しかも5体…今の私でも無理。」 …。 …。 なんてこったい。 「形勢逆転ね。」 いつの間にかミノタウロスの肩に座っている朝倉がそう言った。 「くそっ!」 どうすれば良い…見ると古泉や朝比奈さんの顔にも焦りの表情が見える。 「おい!ハル…」 俺はハルヒに振り向き……え? ハルヒの顔には焦りの表情は無く、先ほどまでと同じ笑みが浮かんだままだった。 ハルヒの視線…ハルヒは朝倉やミノタウロスを見ておらず、もっと後ろ……あ!? 「あ!?」 「ふぇ!?」 「……あ。」 ゆっくりとそれは現れた。 …なるほどな。 「…くっ…くっ…くっ…。」 思わず笑いがこみ上げる。 「…ふっ…ふっ…ふっ…。」 見ると古泉も笑っている。 「…何?恐怖で狂ったの?」 朝倉が怪訝な表情で俺達に言った。 「ははははははは」 俺と古泉の笑いがこだました。 「あなた達状況がわかっているの?私の命令一つであなた達死ぬのよ?」 状況がわかっているのかって? 命令一つ? これ以上笑わせるなよ。 「これが笑わずにいられるかよ? なぁ、古泉?」 「くっくっくっ…まぁ、僕としては複雑な気分でもあるんですけどね。」 そりゃそうだろうな。 「……。」 朝比奈さんは呆然としている。 そうか、朝比奈さんは見た事なかったな。 「長門、面白いだろ?」 長門は静かに言った。 「ええ。とてもユニーク。」 状況が1人分かっていない朝倉はイラついたような顔で 「なによ!なんなのよ!!」 と繰り返している。 「キョン。」 ハルヒ? 「教えてあげなさい。」 OK。 「朝倉。」 「何よ!」 「後ろを見てみろよ。」 「後ろ? …………!?」 朝倉は後ろを振り向き…絶句した。 そりゃそうだろう。 後ろでさらに巨大な巨人が今にも自分を叩きつぶそうと拳を振り上げているんだからな。 「……な…な…な…。」 「…神人。」 古泉が静かに呟いた。 神人…ハルヒが自ら生み出した閉鎖空間で暴れさせていた巨人だ。 しかし今はハルヒの命令を待つかの様に拳を振り上げてたまま待機している。 「やりなさい。」 ハルヒの声が響く。 それと同時神人の拳が振り下ろされた。 「ひっ!」 朝倉は小さく言葉を発し、ミノタウロスの肩から飛び退いた。 次の瞬間5体のミノタウロスは完全に叩き潰された。 「…すげえ。」 俺は思わず呟いていた。 そして静かに神人は消えていった。 「…で、形勢逆転がどうしたって?朝倉涼子?」 ハルヒの言葉を聞いた朝倉は怒りの表情を浮かべ立ち上がった。 「調子にのってるんじゃないわよ!殺してやる!!」 朝倉は絶叫しナイフを俺達の頭上に投げた。 ………!? ナイフが何千いや、何万という数に分裂し俺達を囲んだ。 これが俺達に降り注いだらひとたまりもないだろう。 しかし俺は落ち着いていた。 何故かって? ハルヒが笑顔のままだったからだ。 「ナイフの全方位攻撃よ! 手加減してあげてたのに図に乗って!……死になさい!」 朝倉の一言により何万ものナイフが俺達に降り注ぐ……事は無かった。 …。 …。 「な…なんで…。」 「馬鹿ねぇ。」 ハルヒは今日見せる最大級の笑顔で言った。 「そんなのアタシが許すとでも思ってるの!」 全てのナイフが音も無く消滅していく。 …ハルヒは…。 「すごい…涼宮さん…。」 「ええ、彼女は完全に…。」 そう、ハルヒは完全に自分の力を使いこなしていた。 「…覚醒。」 …長門? 「涼宮ハルヒは覚醒した。今の涼宮ハルヒに勝てる者はもはや存在しない。」 朝倉は狼狽していた…いや、恐慌していると言った方が良いだろう。 朝倉は一瞬逃げるような素振りを見せた後、石像の様に動かなくなった。 「あなたが動く事も許さない。」 「…あ…あ…。」 ハルヒはゆっくりと朝倉に近づく。 「…よくも…よくも好き勝手してくれたわね。」 笑顔だったハルヒの表情が徐々に怒りの表情に変わっていく。 「有希を閉じ込めたり…アタシ達の…SOS団の記憶を消したり…キョンを…みんなを殺そうとしたり…古泉君をあんな酷い目にあわせたり…。」 ハルヒを見ると…………泣いていた。 怒りの表情で体を震わせ涙を流していた。 「…アタシはあんたの存在を許さない。未来永劫ね。」 ハルヒの言葉に朝倉は…。 「…やめて…お願い…それだけは…それを言われたら…私は…。」 今さら何を言っているんだこいつは…。 「古泉、言ってやれ!」 古泉は頷き穏やかに言った。 「朝倉さん、知ってますか? 神様って非情なんですよ。 まぁ、神様とは言っても僕らの団長の事なんですけどね。」 古泉は朝倉に言われた事をそっくりそのまま返していた。 さらに古泉は続ける。 「あなた方は涼宮ハルヒを舐めていた。その結果彼女の逆鱗に触れる事となった。 残念ですが我らが団長は敵にはどこまでも非情になれる方なんですよ。」 古泉はニッコリと微笑んだ。 「アタシはあんたを絶対許さない!あんたが再び生まれる事も許さない。 消えなさい!朝倉涼子!永久に!!」 ハルヒがそれを言ったと同時に…朝倉涼子は…消滅した。 もう二度と朝倉が現れることは無いだろう。 ハルヒが言った以上絶対だ。 触らぬ神に祟り無し この言葉をちゃんと理解していたら良かったのにな…朝倉。 そして空間が歪み…割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 「終わりましたね。」 古泉が言った。 ああ、終わった。 後は世界を元に戻すだけだ。 「……ごめんなさい。」 ん?長門? 長門は続ける。 「今回の件は全て私の責任。ごめんなさい。」 お前の責任なんかじゃない。 それに今言う事はそれじゃない…。 「長門、違うだろ?今お前が言わないといけない事は一つだけだ。」 長門は目を見開きしばしの沈黙の後言った。 「……ただいま。」 「お帰り、長門。」 「お帰り、有希。」 「お帰りなさい。長門さん。」 俺、ハルヒ、朝比奈さん、古泉が同時に言った。 …本当にお帰り。長門。 「さて、んでどうすれば良いのかしら?」 ハルヒが俺に言った。 「そうだな、お前の力で元の世界に戻すんだ…いや、二度とふざけた真似できないように情報統合思念体存在を消した世界をな。」 「分かったわ。」 その時だ。 「待って。」 ん!? …。 …。 その声の主は部室の入り口に立っていた。 「喜緑さん…。」 喜緑江美里…生徒会書記、その実体は長門や朝倉と同じ対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース…彼女が何故? ハルヒが呟く。 「なるほど、朝倉涼子の次はあなたって訳ね。」 その言葉に喜緑さんは首を振り 「いいえ、あなた方と争うつもりはありません。 あなた方に今の情報統合思念体の事を伝えに来たの。」 …。 …。 喜緑さんの話しによると、今回の件は急進派によるクーデターみたいなものであったらしい。 そして現在は元の通りになった。 二度と急進派が表に出る事は無い。 つまり、情報統合思念体を消すのを止めてくれ…って言いたいらしい。 「それを信じる理由は無いな。」 俺はそう言った。 当然だ。また奴らが同じ事をしないという保証は無い。 「私も情報統合思念体を消さない事を推奨する。」 長門!? 長門は続ける。 「喜緑江美里の言っている事は事実。 情報統合思念体の消去による影響は甚大。」 長門の話しによると情報統合思念体が消えるとこの世に大きな不具合が発生し、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいと…。 しかしなぁ…。 「もしもまた同じ事があったらどうするんだ?」 俺の問いに長門は 「それは無い。涼宮ハルヒが許さないと言った以上絶対。だから心配ない。」 俺はハルヒを見た。 「…まぁ、有希が言うなら仕方ないわね。 喜緑さん、分かったわ。」 ハルヒがそう言うなら仕方ない。 「ありがとうございます。 …それじゃ長門さん、後はお願い。」 喜緑さんは去っていった。 …。 …。 「私が涼宮ハルヒの力を使い元の世界に戻す。」 長門? 「今日の事が無かった事になりあなた達が今日経験した記憶は消える。」 「記憶が…消える?」 「そう、私以外の記憶は消え、当たり前の1日が始まる。」 ハルヒが声をあげる。 「ちょっと待って!それってアタシはまた何も知らない状態に戻るって事? 自分の力、有希が宇宙人、みくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者って事も全部?」 「そう。でもそれがあなたの望み。」 ……なるほどな。 何でも自分の思い通りになる世界をハルヒが望むか? …否。 そんな世界をハルヒが望む訳が無い。 ハルヒが望んでいるのはいつもの日々だ。 ハルヒが無茶な事を言い出して俺達が振り回される。 みんなで馬鹿な事をやり笑いあえる…いつもの日々。 「帰ろうぜ、あの日々に。」 俺はハルヒに言った。 「…そうね。帰りましょう。」 古泉と朝比奈さんも笑顔で頷いた。 「改変を開始する。」 長門がそう言うと周りの景色が歪み…真っ白な世界になった。 それと同時に俺達の体が光に包まれる。 「ところで、僕の力はどうなるんでしょうか?」 「古泉一樹、あなたの力は一時的に涼宮ハルヒにより与えられた力。記憶の消失と共に消える。」 「それは残念ですねぇ。」 古泉は残念そうな顔で呟いた。 「ああ、あと涼宮さん、なるべく閉鎖空間を生まないようにしてください。」 気持ちはわかるが今言っても忘れているから意味ないぞ。 「ふっ、それならあなた達アタシを退屈させないように頑張りなさい。」 ハルヒは笑顔でそう言った。 俺と古泉は肩をすくめ呟いた。 「やれやれ…。」 …。 …。 そして長門が口を開いた。 「みんな…ありがとう。」 そして全てが光に包まれる…。 …。 …。 …。 ~キョンの部屋~ ガタン 「痛ってえええ。」 …どうやらまたベッドから落ちたらしい。 今何時だ?……2時か…。 ……何か夢を見ていたみたいだが……思い出せない。 物凄く苦労した夢だったみたいだが…まぁ、そのうち思い出すだろう。 寝よう…。 …。 …。 …。 ~教室~ 「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「ちょっと!キョン!聞いて!」 なんだハルヒ?朝っぱらからテンション高いな。 「昨日凄く面白い夢を見たのよ!」 夢? 「もしかしてまた俺と古泉がお前に飯おごらせようとして、お前が財布を忘れて古泉がロリコンからホモになったあれか?」 「違うわよ!」 「違うわよ!」 違うのか…古泉には悪いがあれは正直面白かった。 「どんな夢だ?」 「それがね!覚えて無いの!」 ……は? ハルヒは覚えて無いけど物凄く面白い夢だったと言っている。 なんだそりゃ…そう言えば俺もなんか夢を見たな…覚えて無いけど…かなり苦労した夢…まぁ良い。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなでいつもの1日が始まった。 …。 …。 …。 ~放課後の部室~ いつも通りみんな集まり、それぞれ思い思いの事をやっていた。 ハルヒは団長席でふんぞり返り、朝比奈さんはメイド服でみんなにお茶を配り、俺と古泉はカードゲームをし、長門はいつもの席でいつもの様に自動読者マシーンと化している。 途中でまたハルヒが夢の話しをしだした。 それぞれ昨日どんな夢を見たか? ハルヒ「凄く楽しい夢だった。でも内容は覚えていない。」 俺「凄く苦労した夢だった。でも内容は覚えていない。」 古泉「凄く痛い夢だった。でも内容は覚えていない。」 朝比奈さん「凄くオロオロする夢だった。でも内容は覚えていない。」 みんなバラバラだ。 共通点は覚えていないって所か。 「有希?あなたは何か夢見た?」 長門は本から顔を上げコクンと頷いた。 長門も夢を見るのか? 「んでどんな夢?」 長門はしばらく考えた後 「凄く幸せな…嬉しい夢。」 と答えた。 「で、内容は?やっぱり覚えてないの?」 長門は首を振り言った。 「覚えている。」 「教えて。」 「……内緒。」 内緒か…まぁ幸せな夢だったら良いか …っと思っていた時長門が急に立ち上がった。 そして… 「みんな……ありがとう。」 …。 …。 …なんで俺達は長門にお礼を言われているのだろうか? 皆を見てみるが皆困惑の表情を浮かべている。 でもそんな事はどうでも良い。 皆もそう思っているだろう。 だって… 長門が今、最高の笑顔で微笑んでいるのだからな…。 …。 …。 …。 …おしまい。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの覚醒
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涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 涼宮ハルヒの終焉 第一章 涼宮ハルヒの終焉 第二章 涼宮ハルヒの終焉 第三章 涼宮ハルヒの終焉 第四章 涼宮ハルヒの終焉 第五章 涼宮ハルヒの終焉 第六章 涼宮ハルヒの終焉 第七章 涼宮ハルヒの終焉 第八章 涼宮ハルヒの終焉 最終章
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身体中の脂肪が自然発火して人体蝋燭化現象が起きそうな太陽を受けつつ俺は緩やかに急勾配を登っている 俺とはもちろんキョン(本名不明)の事であり何故登っているかと言うとそれはもちろん学校へ行く為だ 多量の汗を吸収し最早不快感しか与えない制服を上だけでも思いっきり脱ぎ捨てたい所だが、生憎他にも生徒が居る中でそんな事をする度胸は無い 大体何故こんなにも暑い。地球温暖化の影響ですかコノヤロー 「よお、キョン………」 今の俺には肩に置かれた手にすら殺意を覚えるな 谷口、その手を離せ。触られるだけで俺の体温が上がる 俺はチャック魔神のお前とは違って股間から熱を放出する事ができないんだ 「大変そうだねぇ?キョン」 くそっ、国木田、何故お前は汗一つかかないんだ。笑顔キャラは殆どが完璧な設定か 「まぁ、聞いてくれたまえキョン。」 知るか。俺にはお前のナンパが失敗した話など外国で誰かが転んだという報告よりどうでもいい それよりはその身体中を汗に塗れた姿を俺の眼中から消せ 谷口による『海に出会いを求めに来る奴は大抵モテない』説を聞きたくも無いのに聞いている途中で校舎へ着く事が出来た BGMが有ると多少は疲れが軽減できるのかもな。今度調べて見よう それはそうと谷口、その節はピッタリお前に当てはまるんじゃないのか? 所変わって一年五組 人は目標物だけを視界に入れることは出来ず少なくとも周囲の景色は多少なりとも入る訳で つまり自分の席に行くためには前後の席も目に入る訳だ 俺の後ろの席の奴は頬杖をして窓の外を睨んでいる それで微笑み、少なくとも無表情でも浮かべていれば絵画と見紛うほどの美しさがあるが、いかんせんその顔は眉間に皺を寄せるほど不機嫌オーラを振りまいている そう、その後ろの席の奴こそ我等が『世界を大いに盛り上げる為の涼宮ハルヒの団』通称SOS団団長にして涼宮ハルヒ 不機嫌な理由は暑さゆえだろう。時折鬱陶しそうに顔につく髪をはらっている 俺としてはポニーテール萌えなんだがな 「あたしも扇いでよ」 俺が下敷きで扇ぎだした途端それか。もうちょっと人に物を頼む態度ってもんを考えて貰いたいもんだな 「断る。今は人に尽くしてやるほどのエネルギーも惜しいんでな」 「ふん」 また不機嫌そうに頬杖をつき、時折髪を払っている 担任の岡部が入ってきた所で下敷き団扇はしばし中断を余儀なくされる 大体この暑いのに何もするなってのは拷問だよな こうして見ているだけでも暑苦しい岡部による暑さに負けるなという意味の主張は5分の刻に渡った 眼を覚ませば夕方だった 服が汗を吸って濡れている まぁ、あれだ。暑さで体力を殺がれている所に世界史だぞ?眠くならない訳が無いよな? 「…………」 誰に対するか分からない言い訳を打ち切って下校の準備をする 「やっと起きたのね」 思わずゾっとしたね 感情を憎悪だけ含めたような声だ。しかも偉く不機嫌な 声だけで人を殺せそうな者はコイツの他有るまい 涼宮ハルヒ 我等が(以下略)は俺の目の前で腕組みをしながら俺を見下ろしてる 感情で人を殺せたら俺は既に死んでいるだろうな。そんな感じだ 「SOS団の活動にも来ないと思ったらのんきに寝てるとはね……」 静かに言いはなつ うん、怒られるよりはるかに怖いな、コレは 「………同じクラスなんだから起こせばよかったじゃないくぅあ!?」 無言で脛に蹴りを入れられた お前、それは反則だろう 「………!」 抗議の声を上げようとした所を、思わず飲み込んだ だってそうだろ?普通怒っているだろう状況で今にも泣き出しそうな表情をされていたら呆気にとられるよな? まぁ、そんな一瞬の躊躇が不味かったのかハルヒは既に走り去っていた 抗議の為上げようとしていた手が虚しく宙を掴んでいる 「ヤレヤレ……貴方にも困った物ですねぇ」 教壇からいつもの如くニヤケ面を携えた古泉が現れる ―――――――いつから其処に居たんだよ、お前は 「大規模な閉鎖空間が発生していましてね。それも今日はコレで4回目です。流石に疲れてきました」 そうかい、それはご苦労なこった。で、俺に何の様だ 「何の様だ、は無いでしょう?原因は貴方にあるんですよ?」 何でだ 「前にも言ったでしょう?涼宮ハルヒさんが不機嫌になると閉鎖空間が発生すると」 そういや言ってたな。あの灰色の空間には良い思い出が無い。思い出したくも無かったよ で、何で原因が俺にあるんだ 「心当たりは無いんですか?」 全くな 「……SOS団の活動に来なかったり、乙女心を理解しない発言をしたりと色々と思いつくんですけどねぇ」 乙女心って何の話だ 「物の例えです。とりあえず、今すぐ涼宮さんに謝って来て下さい」 何故俺が謝るんだ むしろ危害を加えられた俺が謝って貰いたいんだが 「………鈍感ですねぇ。いいから行って下さい。それが無理なら実力行使しかありませんが…………」 実力行使ね。お前が俺より力が有る様には見えないがな 「お忘れですか?僕には機関の仲間だって居ます。」 含みを聞かせたようだがどうにも演技に見えるな。なんつーか胡散臭い 「そうですね、例えば………」 どうやら実力行使の内容を考えているようだが絶対に謝らんぞ、俺は 「貴方の生爪を一枚一枚剥いで指に一本ずつ針を刺し、じわじわと痛みを強めていきながら精神を弱らせ 発狂寸前の所を僕の言う事を聞く奴隷同然に仕立てあげる事だって出k「キョンッ!いっきまーす!!」 いや、本能がそうしろって伝えていたもんでね 俺は今ならカール・ルイスを越える自信すらある 背後から聞こえてくる物騒な言葉は完全無視だ、無視 でもコレは逃亡じゃないぞ?小泉の意見に耳を貸してやっただけだ。うん、そうだ 誰だって高校生で廃人にはなりたくないんでな 教室から走り出して下駄箱に来るまでに既に汗が吹き出ている。かなり不快だ でもそんな事を言っている場合じゃないな、俺の人生が掛かっているんだ。 まぁ、焦りの所為かね。俺は一つ重大な事を見落としていた 校門まで走ってようやく気付いたよ 俺はハルヒの家を知らないってことにな こんな当たり前の事に今更気付くとは俺もどうかしているな。暑さの所為か ってそんな場合ではない!このままじゃ俺廃人フラグ一直線ktkr!!! ………焦っているな。かなり焦っている 冷静になれ俺。小泉に………じゃない、古泉に聞けばいい話じゃないか! 「涼宮さんの家ならあちらですよ」 「………いつから其処にいた」 「そんな事気にしてて良いんですか? 早くしないと組織の筋肉質の猛者たちが数人やって来て毎夜毎夜の肉欲の宴、 ムッキムキ黒人男性とうh「キョンッ!発進する!」 またこのパターンか と言うか古泉、実力行使がグレードアップして無いか……? 走る、走る、走る 廃人となるのを防ぐ為!平穏な老後を過ごすため!俺は走るぞ!古泉ィィィィ!!! ………うん、暑いね 思考が現実逃避を初めつつ、やっとハルヒに追いつく事が出来た 体に纏わりつく制服は不快指数上昇すること現在進行形なわけだが、そんな事も言ってられない 「おいっ!」 叫びにも近い声で腕を掴んだ所為か、ハルヒは驚愕の二文字を浮かべている。少々罪悪感にかられるな、これは 「!?………な、何よ」 何ってそりゃあ…………うん、何だろうね とりあえず謝れといわれたが………… プライドと貞操………まぁ、天秤にかけるまでも無いよな 「………スマン」 とりあえず深々と頭を下げた 黒人マッチョとうほっ、よりはこっちの方が遙かにマシだ 呆気にとられていたハルヒの顔にいつも通りの表情が戻ってくる あぁ、コレで良かったんだよな とまぁ、今後の心配が一つ無くなった 「はいっ!活動をサボった罰ね!」 途端にコレは無いだろう ハルヒが俺に渡した紙には町内の地図と、巡回経路と書かれていた。俺の目がおかしくなければな 「………なんだ、コレは」 「だぁーかぁーらぁー、サボった罰。其処に書かれている経路を今から三周して来なさい」 マジか 「大マジ」 …………今に至って、この選択肢も間違いだった気がするな そうそう、こーいうやつだったよ、涼宮ハルヒって奴は 「いやぁ、お疲れ様です」 ▼ニヤケ面が現れた!▼ →殴る 蹴る 暴行 うほっ ………とかやってる場合じゃないな。そんな事する気力もない。最後のはやるつもりもない 「どうやら閉鎖空間の拡大も止まったようです」 それは良かったな。所で俺も今非常に不機嫌なんだが、一度殴らせてもらって良いか? 「それは困りますね。今はMPも尽きかけな仲間の援護に行かなければ行けませんから」 そうかそうか、とっとと行け。お前の姿は見たくない 「そうですか。それでは………おっと、くれぐれも涼宮さんの機嫌を損ねないで下さいね?」 言われなくともさ 俺だってマッチョに貞操を捧げたり廃人にはなりたくない。将来やりたい事もあるんでな とりあえず今は、この巡回経路とやらを回るのがベストなんだろうな………… まぁ、思いっきり後悔する羽目になったけどな ただ座っているだけでも汗が吹き出る暑さの中、町内を回っていると少々自殺願望すら出てくる もし体型に困っている人にはお勧めだ。精神を削る代わりにやせる事が出来るぞ …………なんてな すっかり暗くなったが別段涼しくなる訳でもなく昼間と同じく暑い。嫌がらせか 目前にその姿を見せる我が家。中では妹がアイスを貪っている事が容易に想像できるな。殺意を覚える そんな事に気を取られていた所為か、街灯で照らされる我が家の戸の前に人影が有った事には暫く気付かんかったがな どうやら私服に着替えたらしいその人物……… 「………ハルヒ?」 そう、我等が(中略)団長涼宮ハルヒ そういえばハルヒってだけ聞くとホスト部も思い出すな。どうでもいいが それより、そのハルヒが何でうちの前にいるかっ、てのが問題なんだよな 「!?キョ、キョン!?なんでここに!?」 「いや、なんでも何も此処は俺の家なんだが」 「そ、それもそうよね…………」 何だ?夢遊病の症状でも出たのか?……いや、夢遊病ってのは子供とかに発祥するんだっけか 「あ、あたしはアンタがサボらずやってるかと思ってきただけよ」 いや、何もきいて無いですけど 「うるさい!それより、ちゃんと回ったんでしょうね!三回!」 それは俺の状態から察してくれ。後、声を小さくしてくれ。 「フ、フン………!まぁ、いいわ。ちゃんと回ってきたみたいだし」 ご理解いただけて光栄ですな 「とりあえず、あたしはこれで帰るk「あれ?キョンくん、お友達?」 妹よ、いつの間に出てきた ってかハルヒ、見る見るうちに顔色が悪くなっていくんだが……… 「キョン………」 何だ 「こんな小さい子を連れ込むなんて、アンタまさかロリコn「妹だ」 「……何でこうなってんの?」 「さぁな」 今俺はハルヒと向かい合って正座している状態にある。何故かって?ほら、元凶がやってきたぞ 「さ、どうぞ~粗茶ですが~」 あぁそうだ。俺の妹(本名やっぱ不明)が元凶だとも 帰ろうとしたハルヒを引きとめなし崩しに家に上げた妹は好奇の眼差しでハルヒを眺めている ハルヒの方というとこれまた不思議な事に妙にしおらしい いつもの如く城の明かりを一人で補えそうな輝きを放つ太陽の様な歓喜ではなく美しく咲いた花のように見るものを幸せにさせる微笑である う~ん、詩人だねぇ ハルヒのこんな様子を見たのは何時だっけな………そうだ、朝倉の転校の理由を探りに行った時だったな こいつもこんなにしてりゃ可愛いのにな。谷口曰くAランクプラスは伊達じゃない…………か 「………何見てんの?変な事考えてたらブッ飛ばすわよ」 感情が顔に出てたか?ソリャ行かんな、どうやら俺はポーカーフェイスが苦手らしい にしても何時にも増して怪訝な目つきだな。其処まで信用無いのか、俺 「まぁいいわ、あんたに何か出来る度胸があるとはおもわな」 い、と続けようとしたんだろうな。まぁ、どの道聴こえなかったが 唐突に、雷が鳴った 「……嘘」 ハルヒが小さく呟いている。ソリャそうだろう 先程まで快晴―――夜でも快晴って言うのか?―――だった空には台風でも来たかのように雨雲が敷かれ、雨に交えて雷まで降り注いでいる 多分この雨の中帰る事は不可能だろう。俺の目で見ても明らかだ 「ねー、ハルにゃん泊まっていきなよ」 「え、」 何か色んな感情をごちゃ混ぜにしたような声だったな。其処まで嫌か 所で妹よ、いつの間にそんな略称で呼べるほど仲が良くなったんだ? ハルヒが成すがままに引っ張られていくと、俺の携帯が鳴った 液晶画面に表示された文字には嫌な予感を覚えざるを得なかったがな 「………古泉」 『はい、何でしょう』 「また閉鎖空間がどうとか言うんじゃないだろうな」 『いえ、寧ろその逆……でしょうか』 逆? 『ええ、この転校は恐らく涼宮さんの望んだ事でしょう。恐らく彼女は何かこうまでしてしたい事が有るのではないでしょうか』 大雨を呼んでまでしたい事って何だ。結果といえば家に帰れなくなったぐらいだぞ しかもそのお陰で俺の家に泊まる事になってしまってるしな。悪い方にしか転がってないように思えるが 『………ホンット鈍感ですね。貴方は』 知るか。大体溜息混じりにそんな事を言われる筋合いは無いぞ 『まぁいいです。とりあえず涼宮さんの機嫌を損ねないように気をつけて下さい もしそんな事になったら貴方のこれからの人生を黒人6白人4の割合で密着されて過ごしてもらいブツッ!!』 最後に雑音が混ざったのは少々強くボタンを押しすぎた所為だな 風呂場のほうから、妹の楽しそうな声とハルヒの悲鳴が聞こえた 「天空×字拳!!!」 ボスッと言う音と共に俺の体は多少の熱気を帯びたベットへと沈む。なぁに、やってみただけさ それにしても今日は疲れたな、精神的にも肉体的にも。ぐっすりと眠ることができそうだ 「………」 背中に違和感を感じるな。別に霊感の類が俺に有るとは思っちゃいないんだが………… 「ねぇ、キョン………」 扉を少し開けてハルヒが目だけを覗かせている。目目連か、お前は しかし見ようによっちゃ体を隠してるようにも見えるな 「笑ったら死刑だからね」 そう言ってハルヒは扉を開けた。俺はお前の姿を見て笑う要素があるのかが疑問だがな とまぁ、そんな疑問は一瞬で解決された その姿は見慣れてはいるんだが見慣れていないというかソイツが着る事がありえないと言うか 解説が面倒だから今起こったことを有りのままに話すぜ ハルヒがメイド服を着ていた き、気の迷いとか夢オチとかじゃねぇ……もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ……… 「…………」 「…………」 両者、当然の如く絶句。何だこれは?なんか言った方がいいのか? その思案をどう取ったのか、先に口を開いたのはハルヒの方だった 「あんたの妹に服剥かれたから仕方なく来てるのよ。これしか持ってなかったし……」 剥くって。というか常時メイド服を携帯してるのか、お前は 「うるっさいわねー………クリーニングに出そうとしてただけよ」 ああそう。じゃあその格好にはつっこまないでやるよ。これ以上いじったらまたニヤケ面から脅しが入るかもしれんからな 「で、何か用か」 「…………!」 おや。何気ない発言のつもりだったが何かが癪に障ったんだろうか。ハルヒの顔がゆっくりと紅潮していく。謝った方がいいのか? 「わ、私はただあんたが眠れてるかどうか確かめに……団員の健康管理も団長の役目なのよ!」 そうかい、それは初耳だよ。生憎雷で眠れなくなるような精神はして無いし、あんたの無茶な罰ゲームのお陰でぐっすりと眠れそうだとも ピシャァンといった感じに、雷が鳴った 「!」 「うおっ!?」 いやぁ、心臓が止まるかと思いましたね ハルヒが、俺に抱きついていた 「げふぅ!?」 この奇声は俺の物だ。だって仕方ないだろう?運動部で普通にレギュラー取れる奴が腹に思いっきりタックルして来たんだ。 いや、抱きつきなんだけどな 握力×スピード=破壊力らしいしな。後一つ何か有ったっけか まぁとりあえず俺はハルヒから加えられた運動エネルギーで後方のベットへと倒れこんだ訳だ。頭が痛い 「………ハル、ヒ?」 自分の腹部辺りに顔を埋めているハルヒに目を向けてみた。少し肩が震えている こんな女の子らしい面を普段も出せば可愛いもんなのにな それはさておき………どうするかねこの状況 「………悪かったわ」 ハルヒが顔を上げた。いやぁ、俺としてはもうちょっとこうして居たかった………いや、変な意味じゃないぞ。か弱い女の子を慰める為だ、ウン 「………雷、怖いのか?」 どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。俺の顔の横からボスッ、と拳をベットに叩き付ける音がした ハルヒが顔を近づける。このままキスで来てしまいそうなほどに………変態みたいだな、俺 「…………悪い?」 怖いんですが、ハルヒさん なるほど、ハルヒは雷が嫌いなのか。また一つ知識が増えたな。それはそうとやっぱりホスト部を(以下略) それじゃあどの道この天候じゃ帰る事が出来なかった訳ね。GJ、GJだ妹よ ………止めた、現実逃避しても何にもならん。とりあえず俺の目前で今すぐ俺を殺しそうなこの団長様を落ち着かせねばな もし殺気だけで人が殺せるのならば俺は既に死んで………あれ、コレ前にも言ったな 「まぁ、落ち着け、ハルヒ」 と言うわけで説得を試みる。コイツをこのままにしておくとあのニヤケ面から黒人マッチョを召還されかねない 「雷が怖い事なんか気にするな、うん、その方が女の子らしくて可愛いと思うぞ、俺は」 ふっ、こんな事もあろうかと………思っていたわけではないが、谷口の話す『女性のおだて方』を伊達に聞き流してた訳じゃないぜ いや、駄目だよな聞き流してちゃ しかしどうやらハルヒも段々落ち着いてくれてる様子。谷口、お前案外役立つな。チャックさえちゃんと閉めればもてるかもよ 「まぁ、いいわ………」 ミッションコンプリート!トラトラトラ!我奇襲に成功セリ!!!我奇襲に成功セリ!! ・・・・・・・よし、落ち着け俺。素数を数えて落ち着くんだ しかし世の中そんな訳にも行かないんだな 「その代わり………一緒に寝なさい!」 「はぁ?」 いつもの如く、ビシィっと指を刺す 「団長を守るのは団員の役目でしょ!」 いやぁ、それも初耳だわ てか一緒に寝るって添い寝か?健全な女子高生にしては危機感が足りないのではないかね? もしかして人が混乱する状況が続くのにはなんかの因果関係があるのか? 今度長門にでも聞いてみるか。俺が理解できるとも思えないがな などと一般論を組み立ててみた物の ………正直、たまりません まぁそんなこんながあって俺は今ハルヒと添い寝中なわけだ 添い寝といってもハルヒは布団を頭まで被って俺の胸の辺りに顔を埋めているがな 雷の音が何処かでする度に肩が震えるのは愛おしさを感じずには居られない ………………とは言ってみたものの、このままでは俺の理性が持つかどうかが疑わしい 落ち着け俺。素数を数えて落ちつ……ける訳がない 生憎俺は同級生が成り行き上宿泊する事になり挙句の果てに一緒のベットで寝るというそれなんて(ry な展開には免疫が無い 谷口なら何か対策を練れそうだな。まぁプラスに転がる事は十中八九とは言わず十ありえないだろうが 「…う……うぅ………」 ふとハルヒの声が聞こえた。声といっても出来るだけ声を抑えようとした泣き声だってのは俺でも分かる 其処まで怖いのか、雷が 「えーと、ハルヒ、大丈夫だ。俺が付いてるから」 言った後に思ったが何が大丈夫なんだろうな 年頃の少年少女が一緒に寝ているというのは雷よりはるかに危ないと言うのが一般論という物だろうに それはそうと今俺が言ったセリフは思い返してみるとかなり恥ずかしい事を言った気がする。まぁ、仕方が無いよな。状況が状況だ。不可抗力と言う奴だよ 「…………ずるい」 ハルヒが顔を上げると同時に俺の胸ぐらを引っ張った あ、そんな勢い良くすると頭ぶつかr ゴンッ ………ほらな 「ずるい!不公平よ!」 ハルヒの言う事が一回で理解する事ができないのは既に規定事項と言った所か。ハルヒの目に溜まってる涙が痛さの為か怖さの為かは区別できんな で、何が不公平なんだ 「私はっ……!いつも……!あんたの事……!かんがえ…!のに……!」 泣くのを我慢しながら無理矢理声を出している事は俺にだって解る。その前に今驚くべきは内容のはずだ 考えている?ハルヒが?俺の事を? 「…………いつの間にかっ……あたしは………あんたの事ばっか想ってるのに…………なのにっ!」 ハルヒの瞳から涙が一粒、流れる ―――ああ、そういうことか これがどういう事かは馬鹿でも解る。俺が解るくらいだからな 「なんで………あんたはっ、落ち着いていられるのよ……!今だって………私は………!」 声を無理矢理出そうとするハルヒの様子は―――不謹慎かもしれんが―――反則的なまでに可愛い。ポニーテールだったら襲ってたかもしれないな でも今は、この消えてしまいそうに儚げな………折れてしまいそうなほどにか弱い団長様を包んでやる 俺は、ハルヒを抱きしめた 「!?」 「…………平気な訳、無いだろ」 聴こえるかどうかも微妙だったが、精一杯絞り出した声だ。それでも伝わったと思える そう、平気な訳が無かった。コレでもさっきから煩悩を消す為に余計な事を考えるのに集中していたんだからな 「俺だって、ハルヒが好きだ」 我ながら芸の無い告白だとは思ったがな。シンプルイズベストって言葉もあることだ、問題は無いだろうよ 俺の腕の中でハルヒは微動だにもしなかった。 ……………妙に沈黙が怖い しかし、以心伝心と言う奴だろうか。ハルヒのやらんとする事が解り、抱いている腕の力を緩めた ハルヒは横になった状態で器用に上へと登ってくる 俺の唇に、ハルヒの唇が重なった 「……ん…………」 ハルヒの口から小さく声が漏れる 唇を重ねたまま、数秒か、数十秒か、数分か………時間の感覚が無かった 唇を離すと、いつもの様なハルヒの笑顔が其処にはあった その笑顔に惹かれる自分を自覚し、自分がやはりこのお方に惚れている事を自覚する それでも照れ隠しにと、俺は声を発する 「…………これで俺はお前の彼氏、って事か?」 ハルヒの笑顔に合わすように少し笑いを含んだ声で聞いてみた。今はコレでいいはずだ 案の定、ハルヒは笑顔を崩すことなく…… それも何処か嬉しそうな声で答えた 「そう、ね………そう名乗る事を………許可してあげ、る………」 そう言った後、ハルヒがベットへ崩れる 緊張が解けたのやら安心感やらが要因か、直ぐに寝息を立て始めていた。その寝顔が何処か嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないだろう、多分 その寝顔を見ていると何か悪戯をしてやりたくなったが……どうやら俺も限界な様だ 精神的にも肉体的にも疲れたしな。寧ろ今まで良くもったものだ それでも襲ってきた睡魔に軽く抵抗した 「………オヤスミ」 俺は小さくそういって、ハルヒの頬に唇を当てた。何故唇にじゃないかって?俺もそれなりに恥ずかしいのさ その行為が活動限界点だったか、俺は睡魔に身を任せて瞼を閉じた 「ってきまーす」 そういって家を出る。昨日の天候が嘘だったかのように快晴だ しかし降り注ぐ太陽光線は熱気を届け熱気はいまだ残る湿気に熱を蓄えその熱をゆっくりと放出せいでじめじめとした暑さが続いている 回りくどく言ったが兎に角暑い 早くも玉のような汗をかきつつ、俺は太陽への呪いの言葉を呟き続けた。傍から見れば変な奴だな、こりゃ 「キョーンッ!」 制服を取りに帰っていた団長殿がやってくる その表情は湿気も吹き飛ばすように溌溂としたものだった。見る者を安心させる笑顔、と言った所か。性格さえ知らなけりゃな 因みに迎えに来てもらったのは俺の要望ではない。そこん所勘違いしないように そんな事を考えて居ると、ハルヒが俺の腕に抱き着く。オイ待て、何処のバカップルだ、これは 「いいじゃない、恋人になったんだし。問題は無いでしょ」 視線が痛いな。それだけで精神に大ダメージだ と、言おうとしたがハルヒの笑顔を見ているとその気力を削がれる いや、別に無気力になるわけじゃないぞ?何となく認めてしまうといった感じの方だぞ? とりあえず今は暑さに負けない様、胸を張って歩かせてもらうよ なんてたって、この団長様の彼氏な訳だしな――― end
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涼宮ハルヒの夢幻 涼宮ハルヒの夢幻 プロローグ 涼宮ハルヒの夢幻 第一章 涼宮ハルヒの夢幻 第二章 涼宮ハルヒの夢幻 第三章 涼宮ハルヒの夢幻 第四章 涼宮ハルヒの夢幻 第五章 涼宮ハルヒの夢幻 第六章 涼宮ハルヒの夢幻 第七章 涼宮ハルヒの夢幻 終章 涼宮ハルヒの夢幻 エピローグ
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涼宮ハルヒの改竄 version H 涼宮ハルヒの改竄 version K
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涼宮ハルヒの感染 プロローグ? 涼宮ハルヒの感染 1.落下物? 涼宮ハルヒの感染 2.レトロウイルス? 涼宮ハルヒの感染 3.役割 涼宮ハルヒの感染 4.窮地 涼宮ハルヒの感染 5.選択 涼宮ハルヒの感染 6.《神人》 涼宮ハルヒの感染 7.回帰 涼宮ハルヒの感染 エピローグ