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http //g-bri.com/modules/news/?p=4774 page=3 (閲覧不可、web魚拓で観覧可能) 編集部主導の質問コーナーは以上。続いて、事前に参加者に配られたQRコードを通じての携帯メール投稿から抜粋し、ゾルゲ氏がファンからの質問に直接答える。司会者が質問を読み上げる。 ――では質問です。「セガマークIIIで一番印象に残っているゲームを教えて下さい」 ゾ 面白くなくてもいいんですか? 印象に残ってるのだと『ナスカ 88』かな。あれはいいゲームだよ。やらないほうがいいけどね(笑)。だって世の中ジャンルってあるでしょ。アクションシューティングとか、リアルタイムシミュレーションとかさ。あれは唯一「中南米動物買収ゲーム」っていう。すごいだろ、この組み合わせ。単語ひとつでもかぶっているゲームってあんまりないよ。わけのわかんないシステムと、それを取り巻く不思議な世界観。あれが海外版になると『Aztec Adventure』っていうんだけど、ナスカって全然アステカじゃないのな。作るほうもどっちでもいいんだろうなってのがよくわかるいいゲームでした。ただ音楽はいいよ。 ――ありがとうございます。では次の質問です。「ゲームミュージックについていろいろお聞きしたいです。好きなタイトル、音源、思い出など。あと、海外バフォメットツアー(海外のゲーム購入旅行記)の続編もお願いします」。 ゾ ゲームミュージックでいうと、PSG3音にノイズ1音という組み合わせが私は一番好きです。もちろんFM音源も好きなんですけれども、あんまり入るとシンセの音になっちゃうんで、ゲームの音っていうとPSG3音とノイズ1音かなあと。何がいいかっていうのはその日の気分によるんですけど、今すごくグッと来てるのがMSX2の『ストラテジックマース』。デービーソフトね。あれはね、いいのよ! デービーソフトって大体手を抜かないでしょ。普段『フラッピー』とか作ってるところなんだけれども、とっても一生懸命シューティング作ったりしてて、デービーらしいちょっとシミュレーションっぽい要素があるんだけども、とにかくね、オープニングの音楽がものすごくいい。あれは泣ける。T&Eソフトの『アシュギーネ』と同じくらい泣ける。T&Eの『アシュギーネ』は浅倉大介さんだから、それとタメ張るぐらいっていうのは結構たいしたもんだと思う。ぜひ買ってみてください。あとおんなじ感じでカシオの『エグゾイドZ エリア5』。あれのオープニングもいいよ。すごくいい。MSX好きだった人はわかると思うけれども、『MIDIサウルス』買うとさ、おまけになぜか『エグゾイドZ エリア5』の曲が入ってるんだよね。『エグゾイドZ』とその続編の『エグゾイドZ エリア5』はとっても出来がいいシューティングなんですよ。カシオにしては珍しくって、あの頃ゲーム音楽を書く人っていうのは本当にアカデミズムから遠いところにいるから、音楽っていっても和声とか結構デタラメなのよね。でもその中ですごく頑張っていて、『エリア5』の音楽はね、サビで拍子が変わるの。3拍子になるんだけどあれがカッコよくってねえ! でもみんなカシオのゲーム嫌いだったみたいだから、全然気が付かなかったみたいだけど、あれは割とオススメ。 ――バフォメットツアーの続編については。 ゾ 旅行自体は相変わらず行ってるんですけれども、最近海外でゲーム関係が元気ないのよ。向こうの人は商売に聡いので、ゲームが商売になると思えば夜店でバーっとゲームが並ぶけど、ちょっと元気がなくなってくるとあっという間に、今は携帯電話とかですね。ですから、昔ほどすっげー怪しいゲーム関係のものは、ちょっと難しくなってます。ネタ自体はまだ書いてないのが幾つかあるんですけど、それだけでまとめるにはどうかなというのがありますね。思うに、昔はすごくゲームに元気があったんだと思う。東南アジアのとんでもない僻地の屋台にもゲームがゾロゾロ売ってるという、それぐらい需要があったんだと思います。 ――では次の質問です。すごいシンプルですね。「ドグマって何ですか?」 編 「横綱大社長」でも出てきたし、「超ゲーム少女ユーゲ」にも出てきた企業の名前ですね。 ゾ そんなに面白い話ではないですけれども、あれはネームの時は「メギド」という名前でした。聖書に出てくるメギドですな。これが当時の編集的に「宗教がらみのはヤバイから変えてくれ」と言われまして「じゃあドグマだろう」ということでドグマにしたのが最初です。 ――では次の質問です。「お料理好きなゾルゲさん、何にもしたくないときに作る一番の手抜き料理は何ですか?」 ゾ これはチャーハンです。専用の中華鍋とかありますから。絶対に失敗しない素晴らしい料理です。しかもチャーハンっていうのは、ご飯を冷凍とか冷蔵してると、それが明らかにおいしさにつながるんですよね。あったかいご飯だとベチャベチャになるんだけれども、冷蔵庫とかに入れといたのだとパラパラに仕上がる。あとは伝家の宝刀で、中華屋さんもよく使ってる「味覇」(ウェイパー)を一さじ入れて、卵を2個入れるだけでプロの味。 編 というか、これ何のトークショーなんでしょう。 ゾ や、わかりませんけど(笑)。あと暇な時はマーボー豆腐。ちなみにマーボー豆腐は花椒(ホアジャオ)をその場ですると絶対失敗しないです。買い置きの花椒だと風味が出ないんだけども、粒のを買ってゴリゴリってやるとそれだけでプロの味っぽくなるので割とオススメ。あと豆鼓(トウチ)を忘れない。何の話か分かんないけど(笑)。 ――では次の質問です。「ゾルゲ先生は非常に執筆期間が長いのですが、編集長がどんどんかわってゆくことについてはどう思われますか?」 編 ちょっと待って、それは僕が豹変してゆくってこと? ゾ 最初は真面目だったんだけど、だんだんドラッグにはまってとか、やがて女遊びに足しげく通うようになるとか(笑)。 編 いやいやいや。 ゾ わかりますよ。単なるライターだった俺が一番古株になっちゃったってことでしょ? それを言うなら単純に一番最初にあった「ユーズド・ゲームズ」(ゲームサイドの前々身)、あれがまさか3号以上続くとは思ってませんでした。「いつこの雑誌は潰れるんだろう」と思いながらやってたんですけれども、かれこれ10年以上潰れなかったので、ありがたいことです。編集長の変遷については、その中でも山本編集長は、ゲームが根っから好きで、しかも真面目なのでよかったかなと。歴代の編集長はね、ゲームは好きなんだけど好きすぎて頭が変な人が多かったので、あんまりもたなかったのね。あるでしょ、100%の力を出し尽くしたフリーザみたいな。(山本編集長が)一番真面目に本を出してくれてると思います。 ――では最後の質問です。「『謎のゲーム魔境』の新刊はまだですか?」 ゾ あれも発狂漫画と一緒で、昔は好き勝手書いてたんですけれども、今は例えば今回のような本を1冊書くのでも、山本編集長が各メーカーに「こんな変な漫画だけど売らせてくれ」って回ってるわけですよ。「魔境」はこの比じゃないので。書くのはいいけど、果たして売らしてくれるのかっていうのが、大きいんじゃないかな。 編 著者が載せたいという形で載るかというところですよね。 ゾ そうですね。これは結構準備をして書く気マンマンだったんですけれども、チャンスがあればという感じかな。 編 今は「8bit年代記」も連載中ですし、ゾルゲ市蔵とは別名義で「メギ曜日のハルカ」というWeb小説も連載されてますし、そちらで御注力いただいているという感じですね。 ゾ 良かったら読んでね(笑)。 「メギ曜日のハルカ」はこちら 質問コーナーも終わり、これで約1時間のトークショーが終了。この後、サイン会に移行する。 一人ひとりにサインしつつ、その間に気さくにトークに応じるゾルゲ氏。 これがデフォのサインだが、のちにリクエストが多くなるにつれ、次第に一人ひとりまったく別のサインを描いていくゾルゲ氏。トークと、希望者への握手を含め、ひとりのファンに接する時間は、かなりの長時間。 そのため最後のほうの方々には、かなり待っていただくことになってしまった模様。 「ゾルゲ先生もサインには大変力が入りましたため、皆様に長時間お待ちいただくことになりまして、誠に申し訳ございませんでした」(ゲームサイド編集部) それでは、本当はサイン会以降前にあったゾルゲ市蔵氏からの会場の皆さんへのひと言なのだが、その言葉をここに記し、この記事を締めくくろうと思う。 ゾ 今日は本当にありがとうございます。私は漫画家としても、ゲーム屋さんとしても、文章書きとしても、大したことのない、端っこにいる人間なんですけれども、わざわざこんなに集まっていただけるのはちょっと嬉しい反面、もう少しギャルとか来ないのかなと思うのもありますが(笑)、本当にありがとうございます。今回はこういう本を描いてみて、皆さんにちょっと読んでもらおうかなと思ったのですが、私は別にゲームの語り部の代表でもなんでもないです。たまたま今ここにいるからやってるだけで、どっちかというとこれを見て「こんなもんじゃねえ。俺のほうがもっとすごいのを描ける」という人が出てくることをすごく願ってやみません。キャラの演出的にちょっとふんぞり返ってる部分があるかもしれませんが、ずっとゲームが好きだったところだけはブレずにやってきたつもりでおりますので、そのへんはわかってくれると嬉しいかなと思う次第です。この連載がどのくらい続くのかわかりませんけれども、とりあえず自分が見てきたゲームの歴史みたいなものを、自分の力の及ぶ限りで出せないかなとか思ってますので、引き続きお付き合いいただければちょっと嬉しいかな。とそんなところかな。でも今日は本当に集まってくれてどうもありがとうです。 ゾルゲ市蔵氏の想い、「あの頃の感動を、もう一度みんなと感じたい、共有したい」。そんな気持ちがわかるような、そんなイベントだった。会場でも、そのことを感じたファンは多かったのではないだろうか。 氏は、当然ながら、当時のシーンの、自身の周りで起こった一部分の出来事しか体験していない。われわれ一人ひとりもまたそうである。氏の創作物や、これからの連載が、一人ひとりの体験を大きくつなぐきっかけになれば、またその中から別の誰かの優れた作品が出てきてくれれば、そんな嬉しいことはない。氏のそんな心が、伝わってきた。 温かく迎えられ、無事終了した今回のイベントは、ゲーム文化の今後につながるものだったかもしれない。ゾルゲ市蔵氏の今後の作品と動向に、これからも注目していきたい。 (編集部)
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第11回 「病院」にて 画質の悪い、ニュース映像の録画だった。 まるで台風の通過した跡のように、無残に破壊されたサンライズカマタの映像をハルカは見ていた。 気がつくとハルカは、「病院」にいた。 ぼんやりと病室の壁にもたれかかって、「先生」と一緒にそれを見ていたように思う。 何という「先生」だったか、名前は思い出せない。 いや、それを言うなら、「先生」の声も、顔も、年齢も、一体どこのどんな「病院」だったかすら、ハルカは思い出せなかった。 思い出すのが恐ろしかった。 ハルカは「先生」とずいぶん長いこと話をしていたような気がする。 「思春期の不安定な精神状態」とか、「受験のプレッシャー」とか、「集団ヒステリー」とか、「手製の爆発物」とか、そうした断片的な言葉を、ハルカは覚えていた。 そう、覚えていた。 「先生」によれば、ハルカは、患者だった。 その言葉は決して使わないが、だが、 優しい言葉で、わかりやすい理屈で、 ハルカが、異常だと、 ハルカが見たものが、ただの錯覚、幻でしかないと。 思い出したくないが、覚えていた。 忘れることはできなかった。 「それが日曜日の夜だけに起こるのはなぜたと思う? 科学的な現象なら、そんな人間の都合にあわせたタイミングで発生するのは奇妙じゃないかな?」 「君は月曜日に学校に行きたくなかったことはないかな?」 「脳の処理の問題で、動きを動きとして捉えられなくなる症状があって、風景が、まるで静止した映像の連続や、残像のように見えるようなんだ」 「君はひょっとして、夢遊病患者のように、本当に夜の街に出てしまったんじゃないかな?」 「君が触れて怪我をしたという車の残像も、おそらく深夜の物流トラックに、実際に何度かはねられかかったのじゃないかな?」 「君はまず最初に後藤伸吉の絵を見たそうだね。その強烈な印象が頭に残っていたのじゃないかな?」 「そして君は心のどこかで、この『メギ曜日』に来るのはいけない事で、見つかったりすれば怒られる、罰せられるのではないかと思っていたのじゃないかな?」 「追跡妄想という言葉がある。人にもよるが、誰かが自分のことを監視していたり、尾行していたりするように感じるものだ」 「君が『ゼロ犬』を見たのは、だいたい道路の上、横断歩道の陰などの場所だよね。 ところで、ちょっとこれを見てくれるかな」 「これは警察が主要道路に設置している『Nシステム』というものだ。一種の監視装置で、通行中の車のナンバーをチェックするために、ちょうど道路上に配置されている」 「ほら、多摩川大橋にも、こんな風に、ちょうど四台並んで設置されている」 「高性能のカメラを内蔵してるから、並んで配置されているこれを、暗い深夜に見れば、まるで向こうから見られているように感じるかもしれない」 「それが、君の印象に強く残っていた『ゼロイヌ』の姿に結びついたとしても不思議じゃない。もちろん断定はできないけど、これが『ゼロイヌ』の正体じゃないのかな?」 「多摩川の上を自転車で走った、というのはうまく説明ができないんだけれど、この時君は、たしか一瞬、自分の意思を失って、カナタ君になぐられて、それで我に返ったと言っているよね」 「言いにくいんだが、君があの時・・・彼と一緒に、河川敷に降りた時に起こったのは、本当は何かぜんぜん別の出来事だったんじゃないかな?」 「君の言う『アオウオ』は、かならず彼に関係して登場してくるよね」 「水に潜んでいる、砲弾のような形をして、追いかけてくる。巨大で、先が尖っている」 「こういうのは、まあ最近はちょっと眉唾だけど、精神分析で言うところの、いかにも性的なイメージではあるんだ」 「つらいかもしれないが、よく思い出して欲しい」 「ひょっとして、あのときの彼には、君に対して何かそういう、…目的があったんじゃないかな」 「君の傷の多くは、実は、そこから逃げ帰ってきた時の怪我なんじゃないかな。」 「人間は、あまり辛いことがあると、その記憶を覆い隠すために、別の記憶を頭の中で作り出してしまうことがある。君は無意識に、あの時の記憶を歪ませているんじゃないかな?」 ハルカは今も覚えている。 あまりのことに血の気が引いた。 この男は、自分の正気を疑うだけでなく、カナタをも侮辱しようというのか。 しかし、心のどこかでは、明らかにこの話の続きを、これまでの出来事に、何か納得のいく別の答えを聞きたがっていた。 「彼は、君の『メギ曜日』を理解してくれるかもしれない唯一の人間だった。 彼の目的や行動は、そんな君の期待を裏切るようなものだったかもしれない。 でも、君が心を開くことができるのは、やはり彼しかいない。 会ってはいけない。しかし、会いたい。 君は、彼の行為を自分の中で正当化させ、再び彼と会うために、『アオウオ』というまったく別の口実を用意したんじゃないかな?」 ハルカは今も覚えている。 いや、その先はよく覚えていない。 部屋が何十倍にも大きく広がるような気がした。壁も天井も、やけに白くぎらぎらとして、自分に敵意のある何かの意思を隠しているように思えた。 葛藤 いくつかの錠剤を、食後に飲むよう渡された。 淡いピンクと滑らかな白。 聞きなれないカタカナの名前と、「心を落ち着かせる」とか何か、いかにも簡単で曖昧にぼかされた説明があった。今のハルカにはそんなことはどうでもよかった。 機械的にのろのろと、まずい病院食と一緒に錠剤を喉に流し込むたび、ハルカは自分が「病人」であることが自覚されるのだった。 飲むと急に眠くなる薬だった。 「病院」の個室で、ぼんやりと寝たり起きたりをしながら「先生」の話は続いた。 小中学生の間で、深夜に家を抜け出す遊びが流行っていたこと。 カナタが、そのリーダー的な存在であり、毒物や爆弾などの違法な品を大量に持っていたらしいこと。 あの日、サンライズカマタでカナタが手製したと思われる爆弾が破裂し、集まった小学生に多くの怪我人が出たこと。 ハルカもその現場で発見されたこと。 ハルカが伸吉のカンバスを傷つけた件がすでに家に連絡されており、あの事件がなくとも、ハルカがいずれこの「病院」に連れてこられる予定だったこと。 ハルカは、おそろしい葛藤の中にいた。 すべては幻であったという「先生」の説明を信じたくてたまらない自分と、あの体験をあくまで信じたい自分がいた。 これまでのことが全て幻だったとは、どうしても思えなかった。 (だが、だとすれば「先生」の言葉をどう理解したらいい) 「先生」が、0犬や青青魚魚の、それを操る者のスパイではないかと疑う自分がいた。 (メギ曜日の、大曜日世界の秘密に近づくものは、ここできっと「治療」されてしまうのだ。伸吉もこうやって消されたのに違いない) 狂っている、と自分で思った。 「病院」の廊下で、何度かフトシとすれ違った。 ハルカと同じように入院させられていたのだろう。あの明るい表情が嘘のように、空ろな表情のフトシは、ハルカを見ても何の感情も顔に表さず。無言のまま通り過ぎていくのだった。 事情もわかってきた。 「先生」はいつものようにはっきりと口には出さないが、今ならまだ間に合うのだ。 今は夏休みで、ハルカは受験期の中学生だった。事件との関わりも薄い。うまく新学期に間に合わせれば、今ならすべてを「なかったこと」にできるんだよ、と先生は言外に、ハルカにそう告げているように見えた。それが両親の望みであることも、ハルカには痛いほどよくわかっていた。 簡単な審査のようなものがあるとの話だった。それをパスすれば、つまりメギ曜日も後藤伸吉も、0犬も青青魚魚もすべて幻だったと認めれば、退院して家に帰れるのだという。 だが、ハルカは思った。 (カナタは) (カナタはどうなってしまうのだ) 来るかどうか判らないハルカを、フトシとともに校門の前で五日間待ったカナタ。 ハルカを守るために戦ったカナタ ハルカとフトシを逃がすために、「物語爆弾」を炸裂させたカナタ。 (あのカナタが、卑劣な犯罪者として、異常者として裁かれるのか) あの紅潮した頬が、賢そうで少し悲しそうな、あの目が浮かんだ。 ハルカは病院のベッドの上で、二晩眠らず、泣いた。 ようやく両親との面会も許されたが、そこでも泣いた。 両親はきっとハルカの涙を悔悟のものだと思ったろう。 それでいい、と思った。父も母も大好きだ。これ以上心配をかけたくはない。 二日後、ハルカは審査(本当は何というのか知らない)にパスした。 審査の内容はまったく思い出せない。だがハルカは、これまで自分が見たものがすべて幻であったとはっきり認め、自分が一時的に異常であったと認めた。それでうまく「先生」を出し抜いたように思った。 そのとき、一瞬風景のすべてが真っ白くなったような感覚とともに、自分の心の中で何か大きな変化が起こったような気がした。 周囲のすべての音が消え、うまく説明できないのだが川崎方向に(ハルカは建物の中にいて、方角などわからなかったのに)何かの作動音とともに、小さく声が聞こえたような気がした。 人間のものではない声が。 「おまえは、調整された」 それが何なのか、そのときハルカはまだよくわかっていなかった。 ハルカは服を着替え、両親とともに退院の支度をした。 両親の、安堵しつつも、明らかに以前よりやつれた顔が見ていて痛ましかった。 玄関近くの廊下で、フトシとすれ違った。 ちょっとトイレだと告げて、廊下を引き返した。 ハルカはフトシのかたわらに、足早に駆け寄ると、相変わらずうつろな表情のフトシを抱きしめ、耳元で小さくささやいた。 「『とおくのまち』へ行こう。私は待ってる」 フトシは一瞬、大きく目を見開き、そして泣いた。 滝のように泣いた。 みんなウソだったとおもった だまされていたとおもってた じぶんのあたまがおかしいんじゃないかとおもってた でもそうじゃないんだね。 泣きじゃくりながら、そのような意味のことをフトシは言った。 「そうだよ」 ハルカは答えた。 答えながら、泣きじゃくるフトシには見えていない自分の顔が、おそろしい表情になっているのがわかった。 (わからない。本当は) (そうじゃないかもしれない) 自分たちはただ、同じ狂気を共有しているだけなのかもしれない。 だが、もはやそんなことはどうでもよかった。 (私はカナタを助けなければならない) (カナタは私を助けてくれた。だから今度は、私がカナタを助けなければならない) (これがたとえ幻想だとしても。狂気だとしても) (どんなことをしてでも) 『とおくのまち』へ 9月になった。 ハルカは何事もなかったように学校に戻った。 あの事件は、周囲の誰にも知られずに済んだようだった。 結構な大事件だったはずなのに、ハルカは安堵した反面、そのことがかえって奇妙に感じられてならなかった。 両親は娘を思って黙っているのか、あるいは本当に忘れてしまっているのか、入院の事実は一切、家族の間で語られることはなかった。 しばらく飲み続けるようにと渡された、例の錠剤だけが残った。 「先生」の言うとおり、薬を飲めば、もはやメギ曜日に目覚めることはなかった。 しかし、ハルカはやがて気づいた。 何もかもが、本当に「なかったこと」になってしまっていることを。 事件後しばらくして、ようやく訪れたサンライズカマタは、いつもと変わらぬ賑わいを見せ、破壊されたアーケードは、すでにほとんど修理が終わっていた。一ヶ月もすれば事件の跡形は一切なくなってしまうよう思われた。 さらに、ハルカは新聞にも、あの日の事件がほとんど載っていないことに気づいた。 唯一見つけた夕刊紙の短い記事には「ガス爆発?」とあるだけで、事件の詳細は、何か意図的にぼかされているようにすら感じられた。 あるいは、関係者がほとんど未成年者ということで、報道に配慮がされたのかもしれない。そう信じたかった。 (そうでなければ) (カナタや、メギの組はいったいどこに行ってしまったというのだ) さらに恐ろしいことがあった。なんと説明したらいいのだろう、新聞の文字のいくつかが、ハルカには読めなくなってしまっていた。漢字であることはわかる。部首やへん、つくりなどの各部は理解できる。漢和辞典で引くこともできる。だが、その全体や、意味が、今のハルカにはどうしても理解できないのだ。あの「圓團圖門」のように。 だいたい200字に一つの割合で、そういう字があり、特にそれは人の名前や、地方版に多かった。新聞に折り込まれていた、求人情報や不動産屋のチラシもほとんど読めない。 ハルカはおそろしい考えにとらわれて、以前に利用した蒲田近辺の地図を広げてみた。 どういうことかが判った。蒲田駅から西側にかけての地名が、ほとんど読めなくなっていた。 それどころか、無理に意味を思い出そうとすると気分が悪くなり、字そのものを長時間見ていることができないのだった。 地名だけでなく、地図そのものにも何か違和感があった。以前から持っていた同じ地図のはずなのに、細工の跡など一切見えないのに、描かれた地形のあちこちに、「そこにあった何かが省かれてしまった」という、説明のつかない強烈な確信のようなものが感じられた。 戦慄した。 どういう方法かはわからない。だがハルカは、あのとき「調整」されてしまっていたのだ。 口先で言い逃れたつもりだった。だがそんな生易しいものではなかったのだ。 あの先生は! 病院は! (いや、そんなはずはない。そんな考え方はおかしい。間違っている。狂っている) (私はおかしいのだ) (もっと薬を飲まなければ) (しかし、もしかして、これは逆にあの薬のせいではないのか) (あの二種類の薬が私を調整しているのではないのか) (私の記憶を蝕み続けているのではないのか) (あの事件の核心に関係した、何か特別な文字を私から奪い続けているのではないのか) (あの薬を止めなければ) (いや、そんなはずはない。そんな考え方は狂っている) (狂ってしまう) ケリをつけるしかない。ハルカはそう思った。 読めなくなったその地点に何が関係しているのか、おそろしい予感が、いや確信があった。 それを確かめれば、これまでのすべてが妄想や幻覚だったということが明らかになるはずだった。 あるいは、そうでないことの。 9月4日 退院以来、はじめて薬を飲むことを止め、ハルカは一人でこっそり釣具屋に行った。 3ブロックのオキアミを買い、そのまま公衆トイレでむさぼり食った。 (またやるのか) (まだやるのか) (こんなことは狂っている) (もうダメだ) (おまえは) (おまえは異常だ) (狂っているんだ) 絶え間ない心の葛藤が、まるで誰かの声のように聞こえた。 それを確かめるためだと自分に言い聞かせ、ハルカは必死にオキアミに齧り付いた。 凍ったオキアミの生臭さ、便所の臭気が交じり合い、たまらなく惨めな気分だった。 そしてハルカは、運命の2時23分を待った。 正直に言うと、心のどこかで、目覚めなければいいと思っていた。やはり全部幻ならと。 だが、目覚めたとき、そこはやはりメギ曜日だった。 菫色の世界の中に、9月4・5日があった。 これが自分の現実だ。あるいは、そういう狂気の中に、自分はまだいるのだ。 0犬を避けるため、100円ショップでレインコートを買っていた。この安っぽい代物が、いい感じに黄色かったからだ。青青魚魚がいれば、そのときはもうどうしようもない。 だがハルカは、その危険はもうないと思っていた。 ハルカは、サンライズカマタに向かい、そこでおそろしいものを見た。 すっかり元通りになりつつある菫色のアーケードに重なるようにして、メギ曜日のサンライズカマタは、巨大な青黒いクレーターになっていた。 「圓團圖門」と重なっていた多摩川大橋を思い出した。 クレーターの表面は高熱で溶けたガラスか石のように滑らかで、本来見えてしかるべき土砂や、配管や、ビルの基礎などといったものは一切見当たらない。まるで磨き上げた巨大な椀の中にいるようだった。底に近づくにつれ、はっきりとはわからなかったが、何か気体というか、気配のようなものが沈殿しているように感じられた。 青青魚魚は、その王を含めてすべて蒸発してしまったのだろう。レインコートの効果か、あるいは物語爆弾による何かの影響を恐れたのか、0犬の姿も見えない。 周囲はメギ曜日特有の、深い静寂の中にあった。 クレーターの内側、おそらくアーケードがそこに存在していたと思われる空中のあちこちに、残像に紛れ、ぼんやりとした影のように固まった人影をハルカはいくつも見た。 カナタと35人のメギの組に違いなかった。 物語爆弾が炸裂したとき、彼らに関係したあらゆる「物語」が、姿形や名前、住んでいた家や場所、それをあらわす文字までが、すべて破壊され、実質的にこの世から消え去ってしまったのだ。 それは物理的な破壊とは全く違う、おそろしい現象だった。 数えてみると、影は全部で34あった。影も残さず蒸発してしまったのか、あるいはひょっとして、誰か生き延びていてくれればと思った。 カナタも。 だがクレーターの底で、ハルカはカナタを見つけた。 あの日、物語爆弾を手に掲げたその姿のまま、空間に漂うあいまいな黒い塊になってしまったカナタが、そこにいた。 ただ存在だけを残して、全ての物語を破壊されたカナタが。 顔がなかった。 目も鼻も口も耳も指も、なかった。 思い出そうとしても、思い出せなかった。 ハルカは彼を抱いた。接吻しさえした。 「キクコ」 振り返るとフトシがいた。 フトシはパジャマを着たままだった、顔に大きなあざがあった。よほど苦労をして、ここまでやって来たことがうかがわれた。 見ると、フトシは自転車を持ってきていた。フトシには大きすぎる、ここまで押してきたようだ。 様々な装備品が装着された、黄色いマウンテンバイク。カナタのあの自転車だった。 少し涙が出た。 「キクコのものだ。キクコは28ダイだから」 フトシは言った 差し出されるように、ハルカの方に預けられたハンドルを握りながら、ハルカは答えた。 「違うよ、フトシ。私はハルカ。 カナタにかわって、メギの組の28代を継ぐ」 フトシは復唱した。 歌うように、祈るように。自分の記憶に新たな一節を刻み込むように。 「ハルカはカナタにかわって、メギの組の28ダイを継ぐ。メギ曜日のハルカ。 ハルカはフトシと『とおくのまち』に行く。カナタと35人のメギの組を助けるために。 そこに行けば、『すべてのすくい』はもたらされるなり」 第12回へ続く(8月7日公開予定)
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ゾルゲール哲、セガガガサントラCD/赤を語る ■出会い [赤セガガガ/01] このゲームのヒロインは、かしましく媚を売らない颯爽とした美少女、それに似合ったさわやかな音楽。・・・なのだが、怒らせると鉄拳制裁、機関銃にバズーカぶっぱなす凶暴な女でもある。あの武器どこにしまってるんだ。 ■D研地下の秘密 [赤セガガガ/02] 物語中盤、驚愕のストーリー急転直下のシーン。荘厳なコーラスで・・・と、お願いしたら狙い通りのものが上がってきた。作中では聞けない後半の展開がいいのよ。 ■クールの罠 [赤セガガガ/03] 実はこのシーン、まるごと宮崎アニメのパロディなのだが、金さん、何も聞かずにそういう曲を書いてくれた。ムービーと完全同期した見事な曲である。特に回想シーンで転調していくヒロインの主題がグー。クールという人間は、一応「世界制服」という野望があるのだけれど、実は征服してどうこう、という明確な目的があるわけでなく、こういう陰謀を張り巡らしては、「わははは」とか高笑いしたりするのが楽しくてやっているという、ある意味愛すべき人間なので、(声の置鮎さんの演技も含め)実にうれしそうなのである。 ■捕らわれた弥生 [赤セガガガ/04] 「これでセガは私のものだ!」絵コンテを描いている内はそうでもなかったのだが、ムービーが仕上がる頃になると「もらってどうするんだ」とツッコみたくなるシーンとなった。クールが実にうれしそうである。 ■誰にも... [赤セガガガ/05] 最初に上がってきたムービー用の曲。このゲームは先にムービーの映像が上がってきたので、音楽はいちいち映像に合わせてもらっているのだ。豪華!ついでに弥生ちゃんナイスバディ! ■病室にて [赤セガガガ/06] 冒頭の曲は、最初ヒロインのテーマでローファイ系の曲を入れてもらったのだが「宇宙でローファイってのもなあ・・・」という私の言いがかりで、効果音風のものになった。続くは本編中ほぼ唯一(?)のロマンティックなシーンの曲、実は予算の都合で、このシーン1分30秒ずーっと止め絵なのである。二人の会話と、金さんの曲だけで間を持たせているのだ。オルゴールの静かな音色を味わって欲しい。 ■ニュース速報 [赤セガガガ/07 映像は私が悪ノリして作ったが、音楽はもっと悪ノリ。最初のジングルは聴いてて爆笑。テクノな後半もお気に入りの曲。最初はニュース映像に曲を入れるのもヘンかなあと思ったのだが、曲があまりにカッコいいのでやっぱり入れたのである。 ■ドグマ社新ハードCM曲 [赤セガガガ/08] いったいどこを持って遊ぶのかナゾの「ドグマピラミッド」。最後にようやく間に合わせたムービーなので、映像はかなりショボいが、音楽は実にカッコいい。「ドグマ社はいつもアナタを見ています」 ■ゲームショップBUG [赤セガガガ/09] ゲーム中一回しか聴けないのがもったいない曲。気だるいスチールドラムがいいのだ。 ■侵入!! [赤セガガガ/10] ついに明らかになるクールの陰謀!のシーン。 ここらへんは一番スケジュール的に辛い部分で、かなり画面の表現をはしょって、金さんの音楽に頼ってる部分である。それにしても相変わらずクールがうれしそうである。 ■熱い友と進め! [赤セガガガ/11] 全てを捨ててヒロインを救出に向かう主人公とその仲間たち。 この展開はマカロニウェスタンだろう!とは思ったものの、今時マカロニって言ってもわからんだろうということで、個人的趣味で「ジョニー・ユマ」という渋いチョイスのサンプル曲を金さんに渡したら、どっこい金さんの方が1枚上手で、ちゃんと「夕日のガンマン」みたいなモリコーネ節で返してきた。これには脱帽! ■クールVS弥生 [赤セガガガ/12] 前述の「旧ドグマのテーマ」が唯一聴ける部分。関係ないが、「逃げて!」って言われてもあれじゃ逃げようがないだろう。 ■ソニック登場!! [赤セガガガ/13] やっぱりソニックにはこのテーマじゃないと!このシーン、ソニックの顔はアニメ会社の方に何度も描きなおしてもらってます。 ■SEGA-MIX [赤セガガガ/14] クライマックス!全編の白眉!キミは何曲聞き分けられる?効果音や歴代BGMを散りばめた、セガキャラ全出動を盛り上げる、最高に燃える一曲。カッコいい~! ■別れ、新たな旅立ち... [赤セガガガ/15] 真のエンディングに到達した人だけが見られるラストシーン。最後の最後、荘重に展開されるセガガガ・マーチのアレンジにはホント感服しました。真夏の試写室で金さんと二人並んで「おお~!」とか言ってたなあ。 ■いつか会えたら(Full Version) [赤セガガガ/16] ゲーム中では聴けなかった全曲版です。金さんが自分から言い出して、作詞作曲、編曲、ボーカルの手配まで全部やってくれました。このおかげで、真のエンディングの価値がグググッと上がって大感謝!私個人としては、あの二人はあれでもう二度と会わないのだと思っていますが、ゲームのエンディング曲としては、これでまったく正しいのです。 ■R-720のテーマ [赤セガガガ/17] 一般的なシューティング曲のようで、微妙にちょっと売れセンは外しているクールな意欲作。カッチョいいです。あくまでミニゲーム扱いだったのであんまり詰められなかったけど、タイトーの「ズンタタもの」みたいに、こういった音楽の方向性に沿ってシューティングを作るのもやってみたかったんだよな。 ■スペシャルステージメドレー [赤セガガガ/18] 金さん最後の大暴走。実はこのころ開発はすでに終了していて、最終チェックの段階だったんだけど、「これは入れるだろ!」ということで、こっそりデータを追加して品質保証部から怒られました。でも、やっぱこれは入れるだろ! ■モゲタンとお姉さんのゲームなぜなに講座 [赤セガガガ/19] ポンペケペケペケ~どっかで聴いたことのあるような、ないような悪意満点の名曲。これも聴いたとき爆笑しました。ここまでやるかね。 ■DTTTメドレー [赤セガガガ/20] 開発中の通称「ペン庫番」のテーマ曲。これまたどっかで聴いたことのあるような、ないような名曲。やっぱこのシステムならこの曲しかないだろ! ■GKKKメドレー [赤セガガガ/21] これ、筐体拭きのミニゲームですが、音楽が実に凝ってます。特にハイスコアの曲がお気に入り。金さんはこういう小技みたいなところがものすごいのね ■コミケッテルダム [赤セガガガ/22] コミケのテーマ。なぜにロッテルダム?と思いきや、これが妙にマッチするんだ。狂騒って感じで。「にょ」とか言ってるし。コミケの人も大喜びしてたな。 ■いつか会えたら(Remix) [赤セガガガ/23] これも今回のCDの特典、豪華リミックス版です。何度聴いてもいい曲だなあ・・。まだクリアしてない人は、はやく真のエンディングに到達してからこの曲を聴くように! ■真・.com子ちゃんのテーマ [赤セガガガ/24] また金さん暴走してくれました、ムチャクチャな詞ですが、書いたのオレじゃないからね。ボーカルのMIYAKOさんがどういう顔をして歌ったんだか実に興味あります。なんでしょか、「あなたのもとへ、ゾルゲール」って・・・・。 ■セガガガ信者布教歌(セガガガ・フォーエバー) [赤セガガガ/25] 「セガガガ」ホームページで、以前に行っていた「信者募集コーナー」で、私がテキトーに書き飛ばした歌詞に金さんが曲をつけてくれたもの。ホントにやるとは思わなかった。しかも「今だ!複数購入だ!三本買え!買え!買え(エコー)」って・・・。 ■歌う警告音 [赤セガガガ/26] これまた開発終了後に金さんが持ってきたので、こっそりデータを突っ込んだいわくつきの曲。やっぱり品質保証部に怒られたが、やっぱ入れるだろ!二番なんて警告音とは何の関係もないが、もうここまでくると好きにしてくれという感じである。金さん、あんたサイコーだよ!
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http //g-bri.com/modules/news/?p=4774 (閲覧不可、web魚拓で観覧可能) 9月19日開催「『8bit年代記』発売記念 ゾルゲ市蔵先生トークショー&サイン会」取材レポート ゲーム専門誌「ゲームサイド」で連載中、ゾルゲ市蔵の描く、ゲーム黎明期を振り返るコミック「8bit年代記」の単行本が9月19日に発売された。これを受け、同日、秋葉原・書泉ブックタワーにて氏のトークショー&サイン会が開催された。 ほぼ満席となった会場には、同著もしくは同氏の熱心なファンがつめかけ、なごやかかつ温かいムードのもと、1時間のトークと、かなりの長時間に及ぶファン一人ひとりへのサイン会が行われた。 当日のイベントは、気温も高すぎず低すぎず、ほどよい気候に恵まれて行われた。約3年前、「ゲームサイド」誌のリニューアル創刊に合わせて行われた同会場でのゾルゲ市蔵氏のサイン会は、あいにくの悪天候(雷雨!)となってしまっていたのだが、今回はそんなこともなく、定刻の10分前には、お客さんが順調に会場入り。14時ちょうど、トークショーはスタートした。 まずは司会から、会場への挨拶。おそらくは全国から集まってくれたお客さんに感謝の言葉を述べた後、イベントに関する注意事項が読み上げられる。 ゾルゲ市蔵氏はサングラス姿で登場。入場と同時に大きな拍手が起こった。本当に客が来るのか本人も不安だったようで、ほぼ満員の客席に、安堵した表情を見せる。 そしてトークショー開始。まずは山本編集長から、「ここにいらっしゃる皆様やファンの方々も気になってるんじゃないかというところから話してゆきたいと思います。まず僕の個人的な疑問ですが……」として、「ペンネームの由来は?」との質問からスタート。 ゾ ご存知の方もいらっしゃると思うんですけれども、25、26の時かな、突然コミケに行ってエロ本買いたくなったんですよ。そこに未知のエロがあるということで、ちょっとこれはエロ本買いに行かなければならないと。 横着なので並ぶのが嫌、並ばずに買うとなれば、自分で作らないと(出展者にならないと)いけない――というのが、最初にペンネームというものを使用する動機だったとか。 ゾ その時に作ったのがバーチャルボーイの本で、その後いろいろあって今につながるんですけれど、「ゾルゲ」という名前の由来は、知り合いに付けてたあだ名です。勝手にもらってきました。すいません。市蔵っていうのは、ゾルゲだけだとあれなんで、宮沢賢治の「よだかの星」のよだかが「名前変えろ」って言われて市蔵にしたというのからです。でも「よだか」から「市蔵」はないだろうというそのギャップがね、面白かったんでもらいました。 「ゾルゲ」と「市蔵」それぞれに実はそれなりに由来があった。 続いての質問。 編 今まで、発狂系といいますか、なかなかほかの方では描けないような作品を発表されてきた中で、今回の「8bit年代記」は相当真剣に取り組んでらっしゃる印象がありますが、執筆に取り組まれようと思ったきっかけなどをお聞かせください。 ゾ 端的に言うと、連載切られるんじゃないかなと(笑)。こんな妙な漫画ばっかり描いていたら、連載切られるんじゃないかなと思ったのが、大きな理由のような気がします。編集長が替わるたびに「あの漫画何とかしろ」って言われて、そのたびに多少心を入れ替えて真面目に描いてみるんだけど3号もたなくて、というのが多かったんですけど、今回は徹底して真面目に描いてみたら割と手ごたえがあったので続けてみた、というのがあります。ちょっと真面目な話をすると、これを描き始めた頃がゲームがちょっと元気なくなってきていた時期だったんですよ。そういった時代になると、ゲーム全体を俯瞰して語っておく作品がないといけないかな、と思ったのもあります。先に言っとくけれども、俺は別にそういうタマじゃないよな。器でもないし。でも描き始めた時は、それを描く人が特にいなかったみたいなんで、これ幸いとかじゃなくて、一応歳だけは食ってるから、描くとそれなりに出るものもあるかなと思ってはじめたというのもあります。でも実際始めてみたらすぐに「ピコピコ少年」っていうすげえ面白いマンガが始まってね。読んでみたら「俺のはいらねえ」とか思うようになっちゃって(笑)。まあ(作中の時代背景が)10年ぐらい先行してるから、こっちもあっていいかなと。 「俺の本の半額ぐらいの定価だから買ってもいいかもしれない」と、他作家のPRも始めたゾルゲ氏。「ピコピコ少年」は確かに名著。オススメです。 編 そういった経緯で始まった「8bit年代記」ですが、今までと作風が違いますので苦労したり、苦悩された部分というのはあるんじゃないでしょうか。 ゾ 一番大きかったのは、ギャグを入れずに10ページ以上描いたことがないという素朴なのがありましてね。ひたすら絵を発狂させたくてしょうがないんだけども、ここで狂ったらみんな怒るだろうなというのをずっと続けて描いてました。 編 でも途中でコピー&ペーストが炸裂してますよね。(第六回「ゼビウスの衝撃」) ゾ そうですね。あの時はみんなが「つまんねえ。もっと狂え」っていうから「分かったよ、やってやろう」と思ってやったら、みんなもっと怒ったという。 「発狂した原稿をメーカー校正に出す編集部の心境もなかなか……」と、やや愚痴が入る編集長。 編 大体メーカーさんに「こんなふうに写真使いました」って言ったら絶句されるという。 ゾ あれが一番の醍醐味っていうかね。よくあれ通るよなといつも思うんですけれどもね。『ゼビウス』を紹介しますって言って、あんな気が狂ったもの描かないよな。 編 まず水木しげる風の絵にはなりませんよね。 ゾ 一応きれいに落とすとさ、今どきネットがいくらでもやってるから、みんな知ってるでしょ、ググれば出てくるし。だから何とかググっても出てこないような、出てくるわけないんだけど、あんなのは(笑)。あれ本当によく遠藤雅伸さん帯書いてくれたよな、と思います。 まだまだ続くトークショー! ゾルゲ先生の思い出のゲームとは……
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あんまりにも罵詈雑言や暴言が多すぎて載っけるのはむりです。
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動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
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第4回 多摩川探索(1) 大田区内の多摩川は、川岸の全体が公園となっている。広大な敷地にサッカー場や野球場がいくつも広がっており、堤防をかねた土手の上は、サイクリングロードとなっていた。 今日も大勢の家族連れでにぎわっている。なにしろ夏休みなのだ。 ハルカは母の大きな帽子を借り、いつもの自転車でサイクリングロードを走っていた。 午前の川風は爽快で、気分は悪くない。 目の前に広がる風景は、のどかではあったが、人工の手で整備しつくされ、やはりあの絵の面影はどこにもなかった。 だが、パノラマに描かれた場所を特定するのに、手がかりはいくつかあった。 例の「塔」の見え方からして、それが橋を渡った川崎市側でなく、大田区側であることは間違いない。 となると、カンバス3が多摩川の正面、カンバス1が下流方向、カンバス2が上流方向の景色となる。その地点で多摩川は、ゆるやかに大田区側に蛇行していた。 大田区に住んでいると、社会の授業で嫌でも覚えさせられるのだが、多摩川は、JRと京急の二つの鉄橋のあたりで、大きく湾曲している。 この付近では、「塔」は視界から外れてしまうはずだ。 となると、探すべきは、湾曲部の上流か、下流のどちらかだった。総距離にして8キロほどだろうか。 そしてもちろん、あの「圓團圖門」だ。あの門を見つけ出せれば、まずその場所に間違いない。 ハルカはとりあえず下流、東京湾方向に向かった。 上流のニコタマ(二子玉川)へ至る道は、普段から見慣れており、これまで「圓團圖門」のようなものを見た記憶なかったためだ。 対岸にそびえる大型アンテナを越え、湾曲部に近づくと、視点がダイナミックに変化し、川崎駅ビル群が目に入ってくる。 ただ、二つの鉄橋はそのままでは越えられない。サイクリングロードもここでいったん終わり、いったん堤から河川敷に降りて、鉄橋の下をくぐる形になる。鉄橋の方がそれだけ古くからあったということだろう。 ここからは河口がぐっと広がり、風景も変化する。独特の、泥の混じったような潮のにおいが微かに漂ってくる。海が近いのだ。 ここまでくると、周囲は町工場の密集地帯となる。実はハルカも、あまり「鉄橋のこっち側」に来ることはない。 10分も走ったところで、それはあっさり見つかった。 六郷水門 昭和六年三月成 プレートにはそうあった。伸吉の絵に描かれたものと、まったく同じ、古めかしいコンクリートと鉄製の、まさに水門だ。 今はあまり使われないのだろうか、建物は記念物のようによく手入れされており、水門の奥の濠は、今では小型ヨットや漁船の係留所になっているようだ。 しばらくぐるぐると門の周囲を巡り、ざらざらとしたコンクリートの肌をなでたりしながら、ハルカはしばし感慨にふけった。 ここから伸吉は、あの「塔」を、「メギ曜日」を見たのだろうか。 この場所にどういう意味があったのだろう。 多摩川方向に向き直って、しかしハルカはふと疑問を感じた。 「塔」が見えないのだ。 もちろん、普段は見えるはずのない「塔」なのだが、それにしても、伸吉がガイド線で導いたように水門の対角線上を探すと、それはあきらかに海の方を向いてしまうのだった。 ハルカが以前に「塔」を見た方向とも合わない。 まったく見当違いの方向というわけでもなく、角度からすれば60度ほどのズレではあるのだが、あれだけ偏執的にパノラマ図を作って残した伸吉のこだわりから考えると、どうも納得できなかった。 そう思うと、プレートの銘も気になってくる。 「昭和六年成」と書いてあるからには、伸吉が生きたころからあったに違いないが、だとするとつじつまが合わない。カビで読みづらくなっているにせよ、「圓團圖門」と「六郷水門」では、字面からして、かなり印象が異なる。 あの画数の多い奇妙な漢字を、まさか「六」や「水」とは見間違いないだろう。 思いあぐねてプレートをなでているうちに、どこかの犬と飼い主が、不審げに通り過ぎていった。 ひょっとして、とハルカは思った。 こうした水門は、実は川沿いのあちこちにあるのではないだろうか。 だとすると面倒だな、と思いながら、ハルカはまた自転車にまたがった。 多摩川探索(2) 結論から言うと。他の水門はなかった。下は東京湾まで、上はニコタマ(二子玉川)まで足を伸ばしたが、ないものはない。 汗だくになり、二時間かけてハルカが見つけたものは、この暑いのに川沿いでバーベキューをするバカな家族がどれだけ多いかという事実だけだった。(ハルカは昼も食べていなかったのに) ニコタマから先は世田谷区だ。大田区からの距離からも、絵にある川幅からも、伸吉がそれ以上の上流に遡ったとは思えない。 60年前だ。おそらく以前にはあったものが、「六郷水門」ひとつを残してなくなったのではないか。いやそうに違いない。ヘロヘロになって上流から引き返してきたハルカは、そう結論付けた。 太陽はまさに中天にあってギラギラと輝いている。冷たいクーラーの風が、麦茶が恋しい。ようやく自宅そばの多摩川大橋まで引き返し、堤から降りようとして一瞬後ろを振り向いた。 気付いた。 あの構図だ。 カンバス3。 川幅、ゆるやかに大田区側に蛇行した川の角度。橋を中心にしたその眺めは、「メギ曜日の風景」のそれと、まったく同じだった。 川岸がコンクリで護岸され、雑木林がサッカー場になっているだけだ。 なにより、そこに門でなく、大きな橋と車の流れが、国道一号線があるだけだ。 橋のたもとの青銅のプレートには「TAMAGAWA-OHASHI 昭和24年」とある。 謎が解けたと思った。 「圓團圖門」は、伸吉によって描かれた6年後に、多摩川大橋になっていたのだ。 さすがにここまでの変化があろうとは思わなかった。 体から力が抜け、思わず笑いが出た。だが待てよ、とふと思った。 気付かなかった理由がもうひとつあった。 ここに水門があったとすれば、それらしい形跡がまるでないのだ。 第一、橋をかける場所などいくらでもあるだろうに、わざわざ水門をとり壊し、水路を埋めてまで、同じ場所を選ぶなどということがありえるだろうか。 しかし、周囲の景観からして、まさにここが「メギ曜日の風景」に描かれた場所であることは間違いなかった。 となると、あのパノラマ図は、やはり伸吉がいくつかの場所にあったモチーフを繋ぎ合わせ、思わせぶりに作った架空の風景だったのかもしれない。 (だが) このときハルカは、ある思い付きというか、直感を抱いたのだが、まだ確信に至らなかった。あまりに突拍子のない考えだったこともあるが、何より早いところクーラーの効いた自宅に転がり込み、冷えた麦茶が飲みたかったのだ。 「後藤伸吉文書」(2) 「後藤伸吉文書」に対する興味(と、疑念)をますます膨らませるようになったハルカは、次に難題であるノート類の解読にあたった。 整理されていないボロボロの資料を、苦労して読み進めながら、まず最初に分かってきたのは、伸吉の人となりだった。 ノート1、「日記」によれば、伸吉は、昭和4年の生まれらしい。 例の「メギ曜日の風景」が描かれた昭和18年当時には、14歳だった計算になる。文書内には同年に16歳という記述があって、ハルカを戸惑わせたが、これはいわゆる数え年なのだろう。 日記の日付は、昭和20年の4月13日でぷっつり途絶えている。その唐突な幕切れは、おそらく空襲による死なのだろう。調べてみると、4月15日に大田区の大空襲があった。文書のあちこちが焼け焦げている理由がわかったような気がした。 42ページ分、日数にして230日程度ということもあって、伸吉がいつ「メギ曜日」を発見したのか、この日記からはわからない。 日曜日の部分には当初から、「変化」、「メギ有リ」などと記されている。それ以外は日常を淡々と記録した内容で、特に興味を惹くものはない。あるいは意図的に避けたのかもしれない。 「メギ曜日」に関する具体的な記録は、ノート2~5から散発的に見つかった。まず表紙に「研究」とあるノート4に、昭和16年のものらしい食事の記録がある。 5月17日 イワシ ヒジキ 就寝0200× 5月18日 ヒジキ 就寝0220 × 5月19日 ヒジキ イカ 就寝0220△ 5月20日 イカ 就寝0220△△ 5月21日 イモ 就寝0230× 5月22日 イモ 就寝0230× 伸吉も、ハルカと同じ道をたどったかと思うと、少し微笑ましかった。 ただこれを読む限り、どうやら彼は「毎週日曜日」「深夜3時28分」と「エビ」という、あの法則の基本となる組み合わせを、なかなか特定できなかったようだ。科学的な分析にこだわったためか、特に「毎週日曜日」という奇妙な要素を、なかなか認めたがらなかったように見えた。この点をまったくいい加減に考えたハルカは、実は幸運だったのだろう。 伸吉が、はじめて意識的な覚醒に成功したのは、なんと2年後のことだ。決して日本が平穏ではなかったろう時期に、たいした粘り強さだといえた。 あるいは、現在受験期にあるはずのハルカが勉強もせず、こんな遊びに熱中しているように、彼にとってそれは、唯一の現実逃避だったのかもしれない。 しかしながら、試行錯誤を重ねた分、徹底した伸吉の分析とその結論は、ハルカのものより数段鋭かった。伸吉による覚醒条件はこれだ。 「毎月曜、午前3時28分40秒 右足ニ一銭銅貨、左足ニ五十銭銀貨 アミ(若シクハ、マダコ)80匁以上摂取」 足に硬貨を貼るというのも驚きだが、何より意外なのは、エビ以外の食材だ。 アミとは何かというと、調べた結果どうやら釣りエサのようだ。エビに似た動物プランクトンの一種らしい。最近では南極で取れるオキアミに、ほとんど取って代わられているらしい。キムチの材料にもするらしいが、ここらへんでは釣具屋にでも行かなければ手に入らない。盲点といえた。 マダコというのもノーマークだったが、いずれもクルマエビよりかなり安価だ。80匁というのは、グラムに直すと200グラム程度らしいから、量あたりの効率も悪くない。ハルカは次の日曜に、さっそくこの新材料で実験を行うことにした。 だが、伸吉の遺した驚嘆すべき研究の成果はこんなものではなかった。 覚醒条件のそばに記されていた、伸吉による「メギ曜日」の定義は次のようなものだ。 「メギ曜日」ハ、日月ノ曜日ノ間ニ存在スル、時空ノ別空間ニテ、オソラク大曜日世界ニオイテ往来ノ最モ容易ナルモノナリ。 特徴、サンムトリ第二曜日ニ似タ、空間全体ニ満チル紫色ノ薄明(電気的?)。 又独特ノ物トシテ動作物軌跡ノ半気体的凝結現象アリ。継続時間、約163分」 163分! ハルカがおそらく30分もしないうちに睡魔に襲われてしまうことからを考えると、これは驚異的だった。伸吉による覚醒条件を満たせば、これが可能になるのだろうか。 「大曜日世界」「サンムトリ第二曜日」などという言葉の意味は、正直見当もつかなかった。 ページ同士がへばりつき、カビに覆い尽くされたノート5とノート8を、読める範囲でなんとか解読した限りでは、おそらくこれらのノート後半部分に、そうした部分についての説明があったようだ。 だが、ノート6、7、9、10と、そのほとんどはそもそも欠落している。 ハルカはあきらめて、最後に残ったノート11に移った。 唯一手帳サイズであり、日付からするとおそらく、最も古くから伸吉が記録に使っていたであろうものだ。 ノート11の秘密 これが最後の手がかりかと思い、意気込んでノート11を調べたハルカは拍子抜けした。 これはどうやら、伸吉の家計簿、というか「こづかい帳」なのだ。 昭和14年からの6年分、きちょうめんな字で、毎月の支出がきちんと記されている。 だがそれで終わりだった。 昭和16年から魚屋、釣具屋の支払いが増え、あのカンバスや画材の購入も、見るときちんと記されている。当時さすがにユザワヤはなかったのか、「月光荘」とかいう店で購入したようだ。 8号カンバス3枚、油絵具、テレピン油一瓶、雲母粉10匁、掌ニ塗ラヌコト 昭和18年1月21日 あとは学校の課題や、勤労動員のためらしい細かいメモ書き。ハルカが一番望んでいた情報は、とうとうどこにも記されていないようだ。 現在のところ、ハルカにとって最大の疑問は、伸吉がどうやってメギ曜日の中を、多摩川のような遠距離まで移動していたか、ということだ。 あの覚醒条件を満たせば、あるいは163分という活動時間を得ることができるかもしれないが、それだけでは不十分だ。特にハルカの場合は、車の残像が越えられないことには行動半径は広げられない。 60年前は、もちろん現在よりはるかに人口も交通量も少なかったろうから、ハルカが突破を断念した車の残像も、あるいは避けて通ることが可能だったかもしれない。 だが現在のハルカの、水の中を歩くような行動の不自由さからすると、残像がすべて避けられたにせよ、三時間で多摩川まで往復できるかは疑わしかった。なにより、まず体力がもたない。 より自由な行動を可能にするための方法が、まだ何かあるに違いなかった。 しかし、これまでの調査で見つからなかったことを考えると、それはまさに、欠落した後半部分にこそ記されていたに違いない。 あとは、カビだらけのノート5と8を、どこまで調べられるかだが、あそこまでボロボロになってしまっては、その望みも薄そうだった。だいたい、触ると手にカビがつくのが気持ち悪い。 気がつけば土曜の夕暮れ。博物館もそろそろ閉館だ。 ハルカは手詰まりを感じていた。 結局この文書に振り回されて、一週間以上が消えていた。中学最後の夏休みなのに。 いまさらながら、すごい時間のムダをしたような気分になって、野村さんの好意で使わせてもらっていた事務机の上に、ハルカは思わず顔を伏せた。 戦争が激しくなる前のものだからか、紙の質がよく、保存状態も一番マシなノート11を、腹立ち紛れにパラパラめくった。顔に風があたって気持ちいい。 伸吉の几帳面な文字が、ページをまたがり踊って見えた。 釣正 16銭 釣正 32銭 雲母粉10匁 65銭 雲母 30銭 雲母粉10匁 65銭 釣正というのは、たぶんアミを買った店なのだろうなあ…などとぼんやり考えるうちにふと気付いた。 雲母粉。 こんなに買ってどうするのだろう。 油絵に必要な画材なのか知らないが、ページをずっと眺めていると、絵の具を買った回数とほぼ同じだ。起き上がって、さっきの、1月21日のページを確認した。 掌ニ塗ラヌコト。 頭の中で突然、何か糸が繋がったような気がした。 そろそろ閉館だと告げに来た野村さんを突き飛ばすようにして、ハルカはその糸の先を確かめるため、蒲田駅まで自転車を飛ばした。謝るのは明日でいい。早くしないと閉まってしまう。 大田区民にはおなじみのユザワヤだ。 →第5回へ続く
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株式会社セガ 企画制作部 ゾルゲール哲(かっこいい) みなさんこんにちは、 宇宙の法の息子ゾルゲール哲です。 『セガガガ』も、いよいよ生誕五周年を迎え、 弥勒菩薩の来迎までにも、また一歩近付いたわけでありますが、 やはり格別の想いありまくってもう大変です。 思い返せば、私がまだ木下藤吉郎と呼ばれていた頃、 琵琶湖の南には金目教という怪しい宗教がはやっており、 それを信じないものは、恐ろしい祟りに見舞われたものですが、 これは本文の内容と特に関係がなく、すべては関係者皆みな様の 尽力ならびに篤い信心のおかげと、日夜神仏に感謝をささげつつ 麻婆豆腐を作る毎日でございます。 本当にありがとうございました。 2006年6月某日
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