約 1,924,223 件
https://w.atwiki.jp/homuhomu_tabetai/pages/2285.html
作者:iStR0rsIO 419 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2012/06/04(月) 04 37 16.16 ID iStR0rsIO 小 中 大 あ 隔 お腹が空いたなぁ。もうどれくらい歩いてきたんだろう。みんなは元気にしてるかな。 あ、流れ星。 そう言えば小さい頃…… グスン 早くお家に帰ってみんなに会いたいよ。 クンクン なんだか向こうからいい匂いがする。行ってみよう。 ワイワイガヤガヤ うわぁ、とっても賑やかで楽しそう。声を掛けてみようかな。 でも、大きい馬?が嘶いていてなんだか怖いよ。 うーん、これだけ騒がしいんだからこっそり近付けばバレないよね。うん、そうしよう。 それにしてもいい匂い。あの人達が持ってるお香かな。 そーっと、そーっと。えへへ、もーらい。 ふふ、美味しそう。 グーキュルル あ、お腹が/// どうしよう、今ので気付かれちゃった! ご、ごめんなさい!お腹が減って、それで、すごく楽しそうで、あの。本当にごめんなさい! え?混ぜてくれるの?ありがとうございます! こんなにいいんですか!うわぁ、美味しい!すっごく美味しいです! ずっと何も食べてなくて、それにこんなに美味しい物を食べるのなんて初めてです! みんなにも食べさせてあげたいなぁ。 みなさん、本当にありがとうございました。お土産まで頂いてしまって。 このご恩はいつか必ずお返します。 みんな、ただいま! うん、大丈夫だよ。待たせてごめんね。 ほら、見てよ。こんなの見た事ないでしょ?すっごく美味しいんだよ! うふふ、こんなに一杯あるんだから取り合わなくて大丈夫だよ。 そうだ、いい匂いのお香も貰ったんだよ。 幸せだね。 大丈夫。みんなとてもいい笑顔をしてるでしょ。 神様は見てくれているんだって、頑張ればいい事があるんだって、胸を張ってそう言える。 だからこれからもよろしくね。 大好きだよ。 怪しげな薬品が転がる廃工場の中、ほむほむはとても幸せでした 目を開けて見る夢の中でいつまでも いつまでも ジャンル:残酷物語 野良ほむほむ 感想 すべてのコメントを見る マッチ売りの少女みたいだね
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/33094.html
【登録タグ B 初音ミク 曲 松傘】 作詞:松傘 作曲:松傘 編曲:松傘 唄:初音ミク 曲紹介 松傘氏の7曲目。 歌詞 (SOUNDCLOUDより転載) 子供たちは知らない 甘い甘いハチミツ 不真面目な口づけで クスクス笑うの カーテン 閉めた部屋で 薄目で見つめ合って ほかのもの 捨てちゃった もう思い出せない 雨音 これは夢かしら してもいい しなくてもいい お祭り 終わってたみたい 食べ過ぎたの 甘いケーキ デタラメな暗号 意味のないテレパシー 通じてないの でも いつまでも幸せだわ いつも同じ手順で 繰り返されるダンス ガラクタの宝石 大切に磨くわ カーテン 閉めた部屋で 薄目で見つめ合って ほかのもの 捨てちゃった もう思い出せない コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/mioazu/pages/239.html
「もう来てるかな……あっ」 学校が終わり家の近くにある公園までやってくると、その一角にあるベンチで私の先輩にして……私の恋人が既に待っていた。 まるで黒曜石でも溶かし込んだような艶やかで綺麗な黒い髪をたゆたわせ、暇を潰すかのように携帯を適当に操作していたが、私がやって来たことに気付くと携帯を懐にしまいこちらに顔を向け、柔らかく微笑んでくれた。 「おかえり、梓」 「す、すいません澪先輩、待たせちゃいましたか?」 「ううん、今来たところさ」 以前よりも心なしか華麗さを感じるようになった澪先輩の瞳に見つめられ、何だか意味もなくどきどきしてしまう。 「じゃ、行こっか?」 「はいっ」 澪先輩はベンチから立ち上がると、そっと私の手を取ってくれて。 そのまま私達は一緒に歩きだした。 ――今日は2月14日、今年もまたバレンタインデーを迎えて。 当初は先輩達が大学に行ってしまい、それに加えて今年のバレンタインは平日にあるのでチョコを渡すのは難しいかなと思ったけれど。 澪先輩が事前に講義を多く受け、今日この日は午前中いっぱいで講義を終えるようにしたことでこうして私の元にやって来てくれて、少し申し訳なく思いつつも……やっぱり嬉しかった。 「おじゃましまーす」 「そこのソファに座って下さい澪先輩。コーヒーと紅茶、どっちにします?」 「じゃあ紅茶で……あ、手伝おうか?」 「大丈夫です、澪先輩はお客なんですからくつろいでいて下さい」 家に帰ってくると、先輩を居間にあるソファに座らせて、自分は台所の方でチョコを皿に移す。 チョコは既に出来上がっているので、後は程よい大きさに切って皿に移すだけだ。 「どうぞ、澪先輩。食べてくれるとその……嬉しいです」 「おおっ」 ――澪先輩のために私が作ったチョコは、澪先輩が好きなガトーショコラ。 表面はさっくり、中はしっとりと出来上がっている……とは思うんだけど澪先輩の口に合うか、それがちょっと不安。 「ありがとう、梓! 今年も手作りで?」 「は、はい。頑張って作ったんですけど、先輩の口に合うかどうか……」 「ふふっ、私は味音痴じゃないから大丈夫だよ。 それに大切なのは、どれだけ想いを込めて作ったか……だろ?」 そうは言われても、やっぱり美味しく出来ることにこしたことはないし……やっぱり心から澪先輩に美味しいって言ってもらいたい。 上手く出来てればいいんだけど……。 「じゃ、食べてもいいかな?」 「はっ、はい、どうぞ」 「いただきます、あー……んっ」 「ど、どうです?」 ――期待と不安が半分ずつ、私の胸の内を支配する。 普段なかなか会えないだけに、やっぱり自分でその……愛情込めて作って澪先輩にあげたほうが伝わると思ったのでこうして今年も自分で作ったわけだけど……もし美味しくなかったら……。 ――と、 「うん、美味しい! すごく美味しいよ、梓!」 「えっ、あっ……ありがとうございます!」 心から嬉しそうに美味しいと言う澪先輩の言葉で安堵した後、すごく嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。 澪先輩のために作ったチョコを、澪先輩から心から美味しいと言ってもらえて、私も本当に嬉しい……! 「澪先輩っ!」 「うおっ、梓!?」 堪らず私は澪先輩の胸に飛び込み、まるで子供が甘えるかのように思いっきり抱き着く。 「もう、甘えんぼうだな梓は……」 「バレンタインぐらい、思いっきり甘えたいんです」 「そっか……それもそうだな、ふふっ」 「えへへ」 澪先輩からも私を抱きしめてくれて、そのままそっと頭を撫でてくれて。 「キス、しよっか」 「はい」 静かに見つめ合い、そっと唇を重ねると、柔らかくってあったかくって、そして……とっても甘い味がして。 「愛してる、梓」 「はい、私も……」 互いに想いを交わし伝え合い、何度も唇を重ね、その後は肌を重ね合わせ……。 今年のバレンタインは澪先輩と一緒に、何よりも甘くて幸せな時間を過ごすことが出来たのだった。 (FIN)
https://w.atwiki.jp/catchandchange/pages/335.html
あwwなんか90×90にしてしまったwwwすいません;; -- さり~ (2009-08-13 22 53 41) おぉお~!!!ミニ絵もかわいくていいですなぁwww -- (`・ω・) (2009-08-13 22 59 11) ぎょほwww(`・ω・)様からお言葉をもらえるなんて・・・!!!とっても幸せものです!!!(貧乏人ww -- さり~ (2009-08-15 10 06 03) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gensounoutage/pages/865.html
作品13 作者不明 背中合わせのぬくもりが心地よくて 絡めた指先の温かさが伝わってきて 君の静かな寝息の音で過ごすこの夜がとても幸せだと そう思えた この時間がいつまでも続けばいいのにと 願うなんて無粋なのだろうか そっと手に力が籠めて 君が瞳を閉じた日に 誓った言葉を思い出して口にする 心からの想い 嘘偽りのない想い もう二度と離さないから もう見失わないから
https://w.atwiki.jp/seigeki/pages/91.html
春は眠い 作者:変態 ◆9lpMgcDCvw BGM 春っぽい物 春、窓際、心地よい陽の光、少々肌寒い風といえば、昼寝である 昼下がり 雲が少し出ているものの快晴と呼べる天気だ 太陽の光がとても心地よい日 俗に言う、洗濯日和だ そんな天気の中、二人の子供が縁側で眠っていた いつも喧嘩しながらも、手を繋いで眠る二人の姿は見ていて微笑ましくなるような光景である 二人はいったいどんな夢を見ているのだろうか? とても幸せそうな顔をしている 起きている時はあんなにも仲が悪いというのに 心の底ではいつでも仲良く居たいのだろう ……まったく正直でない子達だ しかし、腹を出して眠るのはいただけない いくら天気が良いとは言え、未だ風は冷たい このままでは風邪を引いてしまう ……さて、どうしたものか 布団を掛けても蹴り飛ばしてしまうだろうし お腹だけを暖める方法……うーん ――困ったなぁ…… ふう、と溜め息を吐く と二人が目覚めた。風を引かなくて良かったと思いつつその場を離れようとすると、目覚めて早々、喧嘩をし始めた。 喧嘩するほど仲がいいと言うが、まさしくその通りだと思う。 そういえば、昔は自分たちも喧嘩したなぁと懐かしい思い出に浸りかけ―― 「あ、お昼作らないと……」 ――用事を思い出し、喧嘩をしている子供二人を放置して足早にその場を去った。 【あとがき】 元々HPに置いてあった物から子供達の会話を削って、親の描写だけにしたもの。友人曰く、作った綺麗さ
https://w.atwiki.jp/mh_rifujin/pages/338.html
Q: 67 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/26(木) 21 00 05 ID 2LXCLT8Y いつも着てる服洗わなくて大丈夫なの? A: 70 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/26(木) 21 09 22 ID bUHSXEEr あなたがログアウトしている時のそっと召使いの猫が手もみ洗いをし、陰干ししてくれてるのです 73 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/26(木) 21 21 06 ID K3Ck7mAE インナーはログアウトしている間に洗います 廃人が臭うのはそのためです 鎧は現実世界と同じように洗いません 126 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/27(金) 22 21 51 ID u3nFSPRe 70 ネコ・・・毎日ありがとう なるべく汚さないようにします ハンター 洗濯
https://w.atwiki.jp/pixiv100/pages/241.html
踊り出したくなるほど嬉しい時ってありますよね? 実際にダンスは出来なくても、そんな幸せな気持ちをイラストにして皆に伝えよう!という陽気な企画。 ついでに幸せ自慢などをしても良い。 R-18、中傷的な絵は不可。HAPPYに! 企画主 ひさゆき子 企画告知イラスト 【企画】pixiv幸せダンス 開催期間 2009.2.11〜無期限 代表タグ pixiv幸せダンス 企画目録 関連タグ ダンス 踊り ダンサー 踊り子 ♪ 笑顔 幸せ (→タグ/表情・ポーズ・動作) 関連企画 pixivスマイル 東方ダンシングナイト
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1211.html
517 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 33 21 ID c6XKT+pu お兄ちゃんと私は、母さんに私達の思いを伝えるって約束をした。 だからといって何かが変わったわけではないと思う。 お兄ちゃんのご飯を作って、居間の掃除や洗濯物を干す。 夜になると私はお兄ちゃんに抱っこされながらテレビを見ている。 最近はライオン(ぬいぐるみ)のトラも一緒だ。 そんな私達を姉さんがにこにこと見守る。 その、偶に姉さんに隠れてこっそりキスとかもするけど……。 ほとんど変わっていない、でも私の心は今までとは別。 今まで私は家事や食事を作るのはお兄ちゃんに必要とされたいからという思いがあった。 だから、お兄ちゃんに見放されるような事をしないようにしないと、という恐さと焦りがあった。 でも今は違う、お兄ちゃんはそんな事を望んでいないんだって信じられる。 そして、私は大好きなお兄ちゃんを喜ばせられる事をしようって考えられるようになった。 今こうやって夕飯を作っている時だってそうだ。 もう私は昔みたいにお兄ちゃんが突然帰ってこなかったらなんて不安に思ってはいない。 お兄ちゃんが早く帰ってきてくれて、私のご飯を褒めてくれないかなって思っている。 好きな人のために何かを出来る、それが私にはたまらなく嬉しい。 518 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 33 44 ID c6XKT+pu ただ、一つだけ気になるとすれば姉さんにまだ私たちの約束を教えていない事。 その事を言ったら、じっと考え込んだ後にお兄ちゃんから話すのでまだ黙っていて欲しいと私に告げた。 いつものお兄ちゃんと姉さんの事を考えるとちょっと変な気がする。 でも、お兄ちゃんがそう言うのだから、きっと理由があるのだと思う。 そういえば、姉さんは今の私達の関係をどう思っているのだろう? 姉さんは、私がお兄ちゃんの事をどう思っているのかな。 私がお兄ちゃんを取っちゃって怒ったりしてないよね? 怒って私からお兄ちゃんを取り上げたりなんて、昔みたいに……。 馬鹿馬鹿しい、姉さんがそんな事する訳がないじゃない。 だって家族なんだもの。 何考えているんだろう、私? 優しい姉さんがいて、大好きな兄さんと一緒。 これよりも私の望む事なんて無いはずなのに。 こうやって一人で居ると、ちょっとだけ不安になった。 うん、お兄ちゃんが帰ってきたらいっぱい抱き締めて貰おう。 そうすれば、きっとこんな気持ち直ぐに忘れられるから。 519 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 34 10 ID c6XKT+pu ************************************** 「はい、じゃあ最後にこれね」 雪風が楽しそうに手提げの紙袋を渡す。 「おい、もうそろそろ限界なんだが」 「あはは、兄さんならあと4袋ぐらいはいけるよ~?」 楽しそうに雪風が答える。 毎年夏の終わり頃になると母さんから妹手当てという謎のお小遣いがシルフと雪風には振り込まれる。 何でも、女の子は良い物を着て何ぼなんだから、しっかり着飾りなさいという趣旨だそうだ。 で、これを使って秋冬物を調達するのが御空路姉妹の伝統行事だ。 過保護すぎる気もしないではないけど、まあ不在中の家のあれそれを全部やらせてる負い目もあるのかもな。 (……ところで、毎年この季節になると「サービス料(妹)*2」という名目で俺の貯金が引き落とされているのは何故だ?) ただシルフは雪風に色々と服を試着させられるのを嫌がっていつも来ない。 代わりに雪風がシルフの分も選んでおいてくれる、その服がちゃんとシルフに似合うのだから目利きは大したものだ。 けど、シルフの服を選びながらサイズ表記を見て悔しそうに歯軋りするのは家族として止めて欲しいとも思っている、うん、怖くて言えないけど。 まあそんな訳で、この時はいつも雪風と荷物持ちの俺の二人きりになっている。 520 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 34 31 ID c6XKT+pu 買い物を終えて、二人並んで道を歩いていると雪風が俺に尋ねた。 「ねえ兄さん、周りから見ると私達は何に見えるかしら?」 なんともベタな質問をしてくれるな、と内心呆れ返りながら答える。 「デート帰りの恋人」 その答えが気に入らなかったらしく雪風が拗ねた様子で抗議する。 「むぅ、兄さんは女心を分かってるけど、全然分かってないよ。 そこはわざと鈍感を気取って兄妹じゃないかな~って言うところだよ?」 「それじゃ、そのまんまだろうが!!」 「だから、そこで私がただの兄妹はこんな事出来ないよって言いながら、 兄さんにキスをするんじゃない、分かってないな~」 「いや、分かってないのはお前のTPOだからな!? ここは公道だからな、市区町村道だからな、パブリック・ストリート・イン・ジャパンだからな!?」 本当に大事な事なので3回言った。 「話は変わるけど、その櫛は止めておいた方が良いわ」 俺の絡み辛いボケを無視し、雪風がごちゃごちゃとした手提げ袋の中から小さな紙袋をすっと取り出す。 「ん、見られてたのか?」 紙袋の中身はさっきの買い物の時、便所(大)と元気よく言い残して抜けた後に全力疾走で買ってきた和櫛だ。 因みに食事中だったので、その後、笑顔の雪風からデート時のマナーについて2時間近いお説教を頂戴した。 521 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 34 54 ID c6XKT+pu いいえ、でも大体分かるわ。 普段の兄さんが私におおっぴらにお手洗いへ、なんて言わないでしょ? そういう所の気配りは忘れない人だわ。 なのに、そんな事を言うのは絶対に私について来て欲しくないって事。 じゃあ、兄さんが見られたくないものって言えば、秘密のプレゼント位だよね。 そしてプレゼントの中身は買い物中に自分が使わないのにやけに見ていた櫛に違いないわ」 「大当たりだよ、大した名推理だ」 「ふふ、ありがとう。 でも残念だけどその櫛をシルフちゃんにあげても困らせるだけだよ。 あの子は髪を梳いたりしないもの、自分の姿を鏡で見るのが嫌いだから。 それで、いつも手櫛で誤魔化してるの」 「へぇ、そうだったのか。 その割にはいつも整ってないか、あいつの髪?」 「ええ、あの子のってすごくしなやかだからね。 同じ女の子としては羨ましいわ」 「雪風の髪だって、全くシルフに見劣りなんてしてないぞ。 凄く綺麗だ、見慣れてる俺だって、思わずこうやって見ていると見惚れちまう」 そう褒めると雪風は顔を俺から逸らして、嬉しそうに髪を摘んだ。 「ふふ、それでも私にはブラシッシングが少なくとも必要ね」 「知ってるよ、ついでに今使ってるブラシだと毛が引っ掛かるし、纏りがいまいちだっていつもぼやいてるのもな。 つげの和櫛ってのは良いもんだ、ブラシなんかよりも遥かに目が細かい。 だから、ちょっと試してみてくれないか?」 「あれ?」 俺は雪風の前に櫛を差し出す。 一方の雪風は間が抜けた顔をする。 「え~と、じゃあこれは私への?」 暫らくの間きょとんとしていた雪風が、はっと思いついたように言った。 「そうだよ、ま、粗品みたいなもんだと思ってくれ」 「あらあら、豪華な粗品だね……」 雪風が髪を優しく持って、櫛をニ三度梳く。 それから満足そうに頷いた。 「うん、良い感じだよ。 綺麗に梳けるし、髪も引っかからない。 ふふ、うれしいわ、兄さんは私の欲しいものをちゃんと分かってくれるんだね」 「でも一番大切なものはくれないのに、か?」 「くす、この前の事をまだ根に持っているのかしら? ふふ、兄さんは怖いな~」 「別に根に持ってたりなんていないよ。 俺が間違ってたのが分かったから。 その、この前はごめん、俺が間違っていたよ。 なのにあんなに酷い事を雪風に言っちゃって、それを謝りたいと思っていたんだ」 雪風は俺の謝罪を聞いて、手元に視線を落とした。 そして、くるくると指で櫛を玩ぶ。 522 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 35 19 ID c6XKT+pu 「じゃあ、これはお詫びの粗品かしら? だったら私は要らないよ、こんなの。 こんな物じゃ誤魔化されてあげないわ」 さっきまでの上機嫌が嘘のように表情の無い顔をして、ぽいっと俺に向かって櫛を紙くずのように放り投げる。 俺はそれを慌ててキャッチする。 「やめてくれ、落ちたら割れるところだったじゃないか。 結構高かったんだぞ、これ。 安心しろって、これはそんな下心のある品じゃないよ」 「だったら、それは何なのかな?」 雪風が警戒心を露にしながら聞き返す。 「プレゼントだよ、別に特別な意味なんて無い。 大切な人には贈り物をするっていうのが相場だろ? まあ、いらないって言うなら」 そう言って手提げに戻そうとする俺の手を雪風がさっと掴む。 そして、俺の手元から櫛を奪い取ると大切そうに両手で持った。 「だ~め。 兄さんからのプレゼントだって言うならちゃ~んと頂くわ。 ありがとう、兄さん、嬉しいよ。 くす、誰からの入れ知恵かしら、圭さんかな?」 「……それは内緒だ」 昼に学食のテレビで見た倦怠期の中年夫婦特集とは流石に言えない。 ありがとう、み○さん。 「ねぇ、それならこの前のお詫びには何をしてくれるのかな? この櫛よりももっと良いものだよね、ひょっとして兄さんを貰えるのかしら?」 雪風がこの前のような物欲しそうな目で俺を見つめる。 「え?」 「あはは、冗談だよ。 本当に、兄さんって本当に一緒に居ると心地良いわ。 だめだよ~、も~、そういう顔をされると余計に兄さんが欲しくなっちゃうじゃない」 「"欲しい"か?」 「そう"欲しい"だよ」 雪風は当たり前のように言った。 523 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 35 41 ID c6XKT+pu 俺にはその雪風の言う欲しいっていう感覚が良く分からない。 今の俺にはシルフが居るし、あいつの事を考えるとそれだけでも幸せになれる気がする。 けれど、その感覚は雪風の言う、欲しいという思いとは何かズレがあるように感じる。 「欲しいって言うのは、愛してるっていう事とどう違うんだ? 「くす、それを私が教えると思うの? そんな事をしたら、唯でさえ不利なのにもっと不利になっちゃうわ」 「……そうだった、俺達は賭けをしているんだったな。 じゃあ答えないままで別に良いんだ、悪かった」 「ああもう、兄さんったら素直なんだから、少しは食い下がってくれないと面白くないじゃない。 ふふふ、でも良いよ、プレゼントのお返しに特別に教えてあげるわ。 そうねぇ、どういう風に言えば良いのかな~?」 人差し指を顎に当てて、意地悪っぽく俺を見つめながら雪風が悩む。 「そうね、例えば兄さん。 シルフちゃんに兄さん以外に好きな人が出来たら、兄さんならどうする?」 おい、いきなり何を言いやがりますか、この妹は。 「いきなり最高に嫌な事を言ってくれるな?」 「あはは、そんな予想通りの嫌そうな顔をしないでよ。 だから例えばの話だよ、例えばの。 そういう時、兄さんならどうするの?」 「そうだな、もしもそいつがシルフで遊ぶ積りだったら、×す。 何処で誰と何をしてようと引きずり出して、バラバラにしてやる」 俺の答えを聞いて雪風の笑顔がぎこちなくなっていた。 というよりも若干引き気味だった。 「兄さん、真顔でそんな事を言われると流石に物騒すぎるよ……。 はぁ、兄さんってば本気なんだから、頭が痛いわ」 「大丈夫だ、むしろシルフは喜ぶ」 「ええ、良く分かってるわ。 兄さんがそういう事を言えば、絶対シルフちゃんは嬉しそうに顔を真っ赤にするわ。 ええ、ええ、お似合いね、……このバカップル。 そうね、じゃあ、本当にその人がシルフちゃんを大切に思う人だったら?」 「そうだな……、まあ、またシルフのお兄ちゃんに戻るって所かな? 多分、3回くらいはそいつを全力で殴らせて頂くが」 因みにその3回は…… 「顔面に一つ、みぞおちに一つ、最後に股間に蹴りを一つ、だね?」 雪風がびしっ、と人差し指を上にあげながら言い当てる。 524 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 36 09 ID c6XKT+pu 「だから何で言わなくても分かるんだよ」 「ふふ、秘密だよ~。 じゃあ、それはどうしてかな? 兄さんの言うとおりにしたら大好きなシルフちゃんと別れちゃうんだよ?」 「シルフの悲しい顔なんて見たくないからだよ。 例えそれが俺に向けられていなくても、シルフには笑っていて欲しいんだ」 「ふふ、正解、模範的な解答ね」 「悪かったな、俺は優等生なんだよ、通信簿見りゃ分かるだろ。 で、この不愉快な問題がさっきの違いとどう関係あるんだ?」 「それが愛しているって事じゃないかな? 今兄さんが言ったみたいにその人の事が大好きで、 自分の幸せよりもその人の幸せを優先したいって本気で思える事、私はそう思うよ」 「じゃあ、お前の欲しいって言うのは何なんだ?」 「愛してる、の逆かな? 多分。 好きな人を不幸にしてでも、自分の物にしたいって事だよ。 兄さんがどんなにシルフちゃんのことが好きでも、何かしたい事があっても、 それでも、私から離れるのならそんなのは許さないっていう気持ちが私には有るの」 「許さないか、まるで物か動物扱いだな」 「ふふ、本当に兄さんったら酷い扱われ方だよね。 でも仕方ないかな、本当にそう思っているんだもの。 兄さんが私の手元に残ればそれで良いわ。 大事な事は最後にどんな形でも兄さんが私の物になっている事、 その時に兄さんが私を憎んでいても構わない。 私以外の何かや誰かを愛していても気にしない。 例え、私の隣で兄さんが絶望していても泣いていても、私は兄さんが居る事だけで満たされる」 人差し指の先を唇に軽く触れさせながら、雪風は蠱惑的な笑みを浮かべる。 「ふふ、むしろ私はそういう兄さんを力ずくで捻じ伏せたいのかも。 捻じ伏せて抜け殻になった兄さんなら私から離れたりなんて絶対に出来ないんだもの」 「それは、好きな人に想いが二度と届かなくなるって事だぞ。 そんな事をしたら雪風が一番辛くなるんじゃないのか?」 「うん、兄さんみたいな優しい人にはそうだよ。 私はそうじゃないっていうだけの事、多分だけどね」 多分、ともう一度雪風が繰り返す、優しい顔だった。 それから少し困ったような顔をして暫らくの間、俺を見つめた。 「……でも、私は兄さんが好きでもあるから、 兄さんが自分から私の物になってくれるのが最高なんだけどな~」 雪風が甘え声を出して、右腕に体ごと抱きつく。 そして、俺の顔を見上げる。 525 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 36 35 ID c6XKT+pu 「だからねぇ、兄さん。 雪風の物になってよ~? そしたら、私は兄さんの為に何でもしてあげられるよ。 兄さんの事だってシルフちゃんよりも私の方が分かるし、気持ち良いよ。 初めは物足りないかもしれないけどすぐに私以外何も要らないって分かるようになるわ。 だから、ね、雪風の物になろ?」 そう言って楽しそうに誘う雪風は期待に溢れていた。 「ごめんな、雪風。 それはできないよ」 「そう、残念だわ」 「本当にごめんな、こんな中途半端な言い方しか出来なくて」 ぱっ、と俺の腕から体を離して笑う。 「ふふ、良いの、私だって分かってたけど言ってみただけだよ。 けど残念ね、雰囲気に流されてくれないかな~、ってちょっとだけ期待してたんだけど。 ふふ、欲しいな~♪、兄さんが欲しいな~♪、兄さんと失楽園したいな~♪、な~な~な~♪」 雪風があさっての空を見上げながら色々と危ない事を歌う。 ブロック塀の上で寝ていた猫が釣られて、な~♪、と鳴く。 ご近所に聞かれたら明日から外に出られないのは必至だ。 「止めんか、ご近所の噂になっちまったらどうする気だ?」 「ふふ、そうしたら二人だけで愛の逃避行だね」 雪風が悪びれずに答える。 「ったく、何だか今日はやけに機嫌が良いんだな」 「くすくす、そうだね。 今の私は複雑な気分かな、今日も兄さんに振られちゃったもの。 でも、大好きな人から贈り物を貰うと誰だって不機嫌にはなれなくなるわ。 特にそれが自分にぴったりの物だったりするとね」 「そういうものなのか?」 「そういうものなの!! 女心は複雑なんだよ~」 「だろうな、俺みたいな単純馬鹿には難しすぎるよ」 それを聞いて、雪風が笑った。 526 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 36 59 ID c6XKT+pu ふふ、そうそう、ところで兄さん? さっき私が言ったみたいにシルフちゃんが兄さん以外を選ぶなんて有り得ないから心配しないでね?」 「別に本気で信じちゃいないさ」 「くす、あの子は兄さんしか見てないから。 あの子は兄さんの中に居て、兄さんを通してでしか外の世界を受け入れられないわ。 だから、兄さんの居ない世界も兄さん以外が居る世界も初めからあの子には有り得ないの」 「もしそうだとしたら、随分と不健康な世界だな。 でも、あいつはお前の事も間違いなく信頼しているよ」 「それは兄さんが信頼している本当の妹だからだよ。 もし、私がそうじゃなかったらあの子は私の事なんて相手にもしないわ」 「そんな事は無いよ。 雪風はシルフの大切な姉さんだ」 「ふふ、兄さんが言うなら少しだけ信じてみようかな。 それから分かってると思うけど、今日言った事は全部シルフちゃんに言わないで。 特に、二人で失楽園だなんて絶対に言っちゃ駄目だからね。 本気で切れたあの子って容赦が無いのはよく知ってるでしょ?」 雪風が真剣な顔で念を押す。 「バラバラなんて甘いものじゃなくて、 ぐっちゃぐちゃに潰されて中身をずるずる引き出されちゃうわ」 俺はその物騒な言い方に呆れてしまった。 「あのな、お前の中のシルフってエイリアンか何かかよ?」 「くす、内緒だよ~」 「……ま、何にせよ言うべきじゃないのは確かだな。 うん、こんなきな臭い話は俺達、二人だけの秘密だ」 「うん、私達だけの秘密だね」 二人だけの秘密、という言葉に雪風が嬉しそうな反応を見せる。 527 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 38 07 ID c6XKT+pu 「さあ帰りましょう。 今頃はシルフちゃんが玄関でうろうろしながら待ってるわよ? いきなり飛び掛られて頭を打ったりするかもね」 「っぷ、おいおい、何だよそれ? それじゃあ、ご主人様を待ってる飼い犬みたいじゃないか。 ったく、シルフに怒られるぞ、くっくっく」 そう言いって俺は笑う、雪風もつられてあははは、と楽しそうに笑う。 あの日、シルフに告白をしてから全てが楽しい。 何でだろう、義妹で婚約者のシルフの閉じ切った心や血の繋がった雪風との歪んだ関係、物騒で重い話をこんなに引きずっているじゃないか。 なのに、俺はシルフの事が大好きで、雪風とは何も変わらずにこうやって笑い合えている。 「なあ、雪風。 俺達はこれからもこうやって、いつまでも笑っていられるんじゃないか?」 「あははは、兄さんはやっぱり楽天家だね。 兄さんは、色んな事を甘く見過ぎだよ? でも、そんな兄さんと居るのが私には楽しいわ」 「ははは、ありがとよ」 「くす、愛しているわ、兄さん」 雪風が手にした櫛を胸元でぎゅっと握りながら言った。 それはとても自然で何気ない一言だった。 「えっ」 何気無い一言の筈なのに、どきりとした。 528 幸せな2人の話 9 sage 2010/10/30(土) 00 39 18 ID c6XKT+pu 「くす、言い直してあげたりなんてしないわ。 さ、早く帰ろう」 雪風がまた俺の腕を掴んで体を寄せる。 暖かくて柔らかい感触が俺へ伝う、何だか心がそわそわとする。 その時、捨てられた子犬のような悲しい目で俺を見つめるシルフの顔が浮かんだ。 いや、違うぞ、シルフ。 別にこれは浮気とかじゃなくてだな、そう、ただの家族のスキンシップだ。 決して、いやらしい気持ちなんて微塵も無いからな。 いや、そもそも雪風とは兄妹だか。、 って、シルフともただのスキンシップなの、だと? だから、そういう意味じゃ無くって、何ていうかだな。 頭の中で苦しい言訳を繰り返している俺を見つめながら雪風がくすくす笑い、人差し指を口元に持ってくる。 これもナイショだよ、というジェスチャーの積りなんだろう。 そうだよ、完全にお前の想像どおりだよ、ああ、くそ、と心の中で毒づく。 家に帰ってみるとシルフが落ち着き無くうろうろしいた。 そして、扉を開けた途端に嬉しそうに俺へ抱き付く。 その拍子に俺は後ろに盛大にこけて、雪風の予想と寸分違わず頭を打つ。 シルフがおろおろしながら、俺の頭を撫でる。 雪風があははは、と笑いながらそんな俺達を母親のような目で眺めていた。 戻る 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1227.html
133 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 38 13 ID JWSfkzg9 「やだ」 白い髪の少女は手を父の手を離さない。 「ごめんな、シルフだけ仲間外れにしちゃって。 でも、どうしてもお父さんとお母さんは行かないといけないんだ。 シルフは良い子だから、ちゃんとお父さん達を待っていてくれるよな? 切欠は絶縁状態の母の実家からの招待だった。 子供が産まれ、家庭を維持している事を知って、関係の軟化の兆しが見えていた。 これを切欠に母は再び実家と復縁できるかも知れない。 けれど、まだ子供の彼女をその複雑な場所に連れて行くべきではないと二人は考えていた。 「ごめんね、シルフちゃん。 明後日の夜には帰ってくるから、お願い」 「ちゃんとかえってきてくれる?」 「ああ、絶対に一分一秒だって遅れやしないよ」 「それに、いっぱいお土産だって持ってきてあげるわよ」 誰よりも優しい父と母に育てられた少女は、だから素直な子だった。 だから、約束は絶対に守られると信じていた。 「ほんとうにかえってきてくれるの?」 「もちろん、『約束だよ』」 「わかったわ、わたし、まってる」 少女は名残惜しそうにそっと手を離した。 父は優しく彼女の頭を撫でて、そして母と出て行った。 離した手は二度とつながる事は無かった。 少女は何度も何度も後悔をする、手を離したことを。 134 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 38 44 ID JWSfkzg9 「やっぱり、だめ、いかないで」 手を伸ばそうとした所で、目が覚めた。 何の夢だったっけ、何かとても怖い夢だった気がするんだけど。 お兄ちゃんと私は寄り添いあって座っている。 隣からすうすうというお兄ちゃんの静かな寝息が聞こえて、私の耳に心地良い。 今朝、お兄ちゃんが帰ってきたのはもう日が昇るような時間だった。 扉の開く音に反応して、私は気付いたら玄関に走っていた。 多分、今にも泣きそうな顔をしていたと思う。 疲れた顔をしたお兄ちゃんが私を見るなり、頭を下げた。 そして、心配させたお詫びに何でもしてくれるって約束してくれた。 私はお兄ちゃんにお願いした。 今日は私が安心できるまでずっと私の側に居てほしいって。 それからずっと私たちはこうやって二人で寄り添っていた。 だから、今日は私もお兄ちゃんも学校には行っていない。 私もお兄ちゃんも殆ど寝ていなかったから、 いつの間にかそのまま眠ってしまったみたいだった。 135 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 40 40 ID JWSfkzg9 「大丈夫、お兄ちゃんは、私の側に居る」 そっと、お兄ちゃんの額に触ったつもりだった。 「ん、誰? ああ、シルフだよな?」 お兄ちゃんが欠伸をしながら眠そうな眼を開く。 「ごめんなさい、起こしちゃった?」 「いや、ちょうど目が覚めたところだよ。 ええっと、今何時くらいだ?」 横目で時計を見る。 時計の短針は真右を向いていた。 「3時だよ」 「そうか」 それから私たちは隣り合わせのまま静かに座っていた。 深い青空に高く雲が浮かぶ。 そんな窓の外を二人でぼんやりと眺めていた。 「なあ、シルフ」 しばらくしてからお兄ちゃんが私に声を掛ける。 「本当にこれだけで良いのか? ずっとこうしてるだけだと飽きちゃうだろ、 何だったら、今からでも何処かに行かないか?」 私は兄ちゃんの隣から前に動いて、 そのままお兄ちゃんへ背中を預ける。 ぽふ、っと軽い音がした。 「ううん、私はこうしていたいの。 今日はずっとこうしていたいから、そうさせて」 私の体を抱き留めてくれてるお兄ちゃんに言った。 136 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 41 29 ID JWSfkzg9 「やっぱり、昨日の事で怒ってるのか? 本当にごめん。 あの時はどうしても先生が帰してくれなかったんだ」 「うん、分かってる。 怒ってなんていないわ。 でも、今日はずっとこうさせていて、お兄ちゃん」 あの日、お兄ちゃんは先生と一晩中絵筆を握っていたそうだ。 先生の恐ろしい位の気迫に押されて、描き続けてたら終電を逃してしまったらしい。 お兄ちゃんが言っているのだから間違いない。 でも、そういえば、最近お兄ちゃんは前よりも絵を描く事が多くなっている気がする。 時間を潰す程度にしか描いていないって、姉さんが言っていた筈なのに。 「お兄ちゃんは、絵を描くのって楽しい?」 「んー、そうだな、最近になって本当に楽しくなった」 何気ない会話のはずなのに、胸がちくり、と痛んだ。 「最近?」 「そう、つい最近だな、こんなに楽しくなったのは。 前に先生から俺には描きたい物が無いって言われたんだ。 その時には、意味が分からなかったんだけどさ。 今になると分かるよ。 自分が感動したものを自分の手で作り出せるのって、本当に楽しいんだ」 その声が段々と熱っぽくなっているのが分かる。 お兄ちゃんが私以外の事を嬉しそうに話すのが、理由も無いのに嫌だった。 「そうだ、シルフも同好会員なんだから、一緒に描いてみないか? 描き方とか、全部教えるよ」 「私は不器用だから、いい」 お兄ちゃんと絵を描くのは楽しいと思う。 きっと私が変な絵を描いて困ってて、お兄ちゃんが苦笑いをしながら頑張って無理に誉めてくれる。 それから、姉さんがそんな私達を見てくすくすと笑っている。 それは、すごく楽しい筈。 でも、もしお兄ちゃんが私や姉さんの方へ脇目も振らずに自分のキャンバスを見つめていたら? お兄ちゃんが私と居る時よりも楽しそうに絵を描いていたら……。 そんな訳ないのに、最近はそんな事ばかり考えてしまう。 ちょっとでもお兄ちゃんが私以外の事に興味を持っている素振りを見ると落ち着かなくなる。 どうしたんだろう、私? 何にも怖い事なんて無い筈なのに。 137 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 42 03 ID JWSfkzg9 私は、お兄ちゃんの恋人で、お兄ちゃんは誰よりも私の事を愛してくれている。 私はお兄ちゃんにとって何よりも大切な存在なんだ。 姉さんが言ってくれたのだから間違いない、姉さんが言ったのだから。 でも、それでも不安になる。 「ねえ、お兄ちゃんは私の事、好き?」 何でこんな事を聞くのか自分でも分からない。 でも聞かずにいられなかった。 「ああ、誰よりも好きだよ」 お兄ちゃんが、迷い無くはっきりと答える。 その声には自身が満ちていた。 それが、私には嬉しくて、怖かった。 「それは、……姉さんよりも?」 だから、小さな声でそう尋ねてしまった。 それを聞いたお兄ちゃんは、くすくすって姉さんみたいに笑う。 「どうして笑うの?」 いくらお兄ちゃんだからって少し怒りたくなった。 私はこんなに真剣なのに。 「ははは、いや悪い悪い。 悪気が有る訳じゃないよ。 ただ、シルフがそうやって雪風に対抗意識を持つのが珍しくってな」 「そんな訳ないよ、私じゃ姉さんになんて勝てないもの」 そうだ、私なんかが姉さんに勝てる訳がない。 ううん、違う、勝って良い筈なんてなかったのに。 「シルフはシルフ、雪風は雪風。 どっちが勝っているなんて俺は思ったことなんてないよ」 そこでまたお兄ちゃんはくすりと笑った。 「どうしたの?」 「最近のシルフは変わってくれたよ。 今までと違って自分のしたい事や、気持ちを俺に言ってくれるようになったな」 「え、ご、ごめんなさい!!」 確かに最近の私は我儘だと思う。 今まで我慢できた筈の事をお兄ちゃんに言わないと気が済まなくなっている。 今日だってこんな子供じみた事を言うなんて、冷静に考えるとどうかしている。 なのに、お兄ちゃんにとって迷惑だって分かっているのに、それが抑えられない。 138 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 42 27 ID JWSfkzg9 「いや、それで良いんだって。 昔みたいに、自分の感情を抑え込もうとしていたシルフの方がいけないんだ。 だから、もっとシルフは俺に色んな我儘を言ってくれよ」 どうしてお兄ちゃんがそんな事を言うのか分からなかった。 けれど、お兄ちゃんは私の我儘を望んでいる。 なら、私はちゃんと我儘を言わないといけないんだ。 「分かった、それなら私は我儘な事を言うわ。 だから、お兄ちゃんに真剣に答えて欲しいの。 お兄ちゃんは姉さんより……私の方が、……好きなの?」 「えっと、それは雪風にやきもちを焼いてるのかな?」 お兄ちゃんが少し照れているのが声つきで分かる。 「やきもちなんかじゃないよ……」 私は俯く。 その先を言う勇気が出なかった。 少しの間、お兄ちゃんは何か私の分からない事で悩んでいるのか、じっと黙った。 もうお兄ちゃんは少しも笑っていなかった。 「雪風には絶対に言わないでくれ。 俺は、二人とも大切だって思っている。 シルフも雪風も大事だ、妹としてな。 でもシルフは俺にとって恋人っていう意味でも大事な人だ。 本当にな、だから、雪風よりも好きだ。 いや違うな、愛しているんだって事になる。 俺が愛しているのは絶対にシルフだけだ」 「ありがとう、お兄ちゃん」 胸の中が暖かいのに、ざらつく、そんな今まで感じたことのない感覚に戸惑う。 お兄ちゃんは絶対に私に嘘なんて言わない。 姉さんより私の方が愛されている。 それはお兄ちゃんにとって私が一番大切だっていう意味。 嬉しいけれども、同じぐらい怖い事だった。 だってあんなにお兄ちゃんにとって大切だった筈の姉さんより、 私なんかが大切なのなら、きっと私よりも大切なものだってできてしまう。 そう、姉さんを捨てる事なんかよりずっと簡単だもの。 139 幸せな2人の話 12 sage 2010/11/20(土) 00 44 16 ID JWSfkzg9 怖かった。 怖かったから、私を抱き締めるお兄ちゃんの腕を握った。 頭をお兄ちゃんの胸に強く押し付ける。 「やっぱり、今日はずっとこうしていたい」 「分かったよ、くす、シルフは甘えん坊なんだな」 「うん、とっても甘えん坊だよ」 お兄ちゃんの鼓動が感じれられる。 お兄ちゃんはやっぱり私と居るんだって安心できる。 それはとても幸せな事。 一度失ってしまったら、もう二度と取り戻せない大事な幸せだ。 だから、いつまでもこの幸せが続いてほしい。 お願いだから、誰も邪魔なんてしないで。 そう目をつぶって祈った。 ぎしり。 ほんの僅かに床の軋みを感じた。 咄嗟にその方向に目線を走らせる。 お兄ちゃんは私の方を見ていたから気付いていない。 でも私は見てしまったから、帰宅した姉さんが静かに半開きの扉の前で踵を返すのを。 きっと、姉さんは今の会話を聞いていた。 頭が痛くて、寒気がする。 その感覚がとても懐かしく思えて、嫌だった。 戻る 目次 次へ