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「この酒になら、酔ってしまってもよさそうだな」 「明日に残すなよ。結構きついぜ?」 「なぁに、わしなら大丈夫だ。酒に負けたことはねぇ」 「へぇ」 く、と一息に酒を飲み干す。 ふ、と体の中から何かがせり上がってくるような感覚に襲われた。 落ち着くために深く息を吐き出す。じっとりと湿った息は家康を驚かせた。 じわじわと体が侵食されていく。まずい、と思うが、このまま「それ」に身を任せると 気持ちいいだろう、という予感があった。 体が熱い。むずむずする。 「おい」 「ん……」 杯を置いて家康に寄りかかる。着物越しでも人の温もりが気持ちいい。 腕を背中に回した。ぎゅうっと抱きしめる。あわわわ、と家康が手足をじたばたさせる。 「お前、酔うの早すぎるぞ!」 「……ちょっと、速すぎたか……」 立て続けに飲みすぎた。大して酒に強いわけでもないくせにかぱかぱ明ければ、 酔うのは当たり前だ。 「大丈夫か。水貰ってこようか?」 「だいじょーぶだって」 舌が回りにくい。とろんと酒精に潤んだ目で家康を見上げる。家康の顔が赤い。酔いが 回った訳ではなさそうだ。 「ま、政宗。わしは……だな」 「んー?」 にんまり笑うと、腕を回す場所を背中から首に変えて体をより密着させる。 ――このまま、家康のものになるのもいいかもしれない。 家康はいい奴だ。頭もいいし腕も悪くない。機械が好きすぎる辺りが少々難だが、 国を傾ける程ではないので我慢できる範囲だろう。 背は低いが、顔は悪くない。意外と女好きなところがあるが、政宗を泣かせることはないだろう。 何より、傍にいて落ち着ける。苛々することがない。 苛々するのは、誰だっただろう。 考えるのが面倒だ。 見つめあって、唇を寄せる。酒の匂いごと飲み込み、舌を探り当てて絡めとる。 生温く粘ついた感覚に頭が痺れる。 家康の手が頭に回った。機械を潤滑に動かすための油の臭いがする指先。唇を離し、 家康の指を手に取った。 そっと、齧ってみる。油で黒ずんでいるせいだろう、油の嫌な臭いがした。 土臭くて泥臭い、実り豊かな匂いとは違う。 大きくて無骨で、指も節くれ立っていて、齧るとごぼうのような匂いと味がする指を知っている。 政宗を撫でたり叱ったりと忙しい手。 最近は叱られない。家督を継いで主君となってからは特に減った。 それが寂しい。わざと怒られるような真似をしても、小十郎は渋い顔をするだけだ。 ――また、あの顔をさせるな。 急に体が冷えた。 家康の手が、政宗の肩に回った。 視界が揺らぐ。丁寧に押し倒されているせいだけではない。 「……阿呆」 家康が困ったように笑ってる。政宗は呆然とした表情を家康に向けた。 目の辺りを手の甲で擦る。いつの間にか泣いていた。 起き上がって着物を直す。家康に背を向け、顔を擦った。 「恥ずかしい真似するんじゃねぇ。俺はおめぇとは、そういう風になりたくねぇ」 「……ごめん」 「謝るくらいなら最初から誘うな、阿呆」 「悪い。ちょっと、どうかしてた」 「一晩付き合ってもらうぞ」 「OK」 家康に顔を向けた。杯を持ち上げた家康は笑っている。笑顔の裏には様々な感情が 渦巻いているはずなのに、それを見せようとしない。 多大な罪悪感とほんの少しの優越感を覚えながら、政宗は家康の杯に酒を注いだ。 三年目の浮気7
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「なぁ。……俺を手に入れるってことは、奥州を手に入れるってことか?」 奥州にはいくつもの金鉱がある。他にも強力な軍隊、豊かな農地、漁場が揃っており、 軍事的にも政治的にも、実に魅力的な土地である。 政宗と婚姻を結ぶということは、それらを手に入れるという意味合いもある。そのため、 政宗は結婚に慎重である。 それ以上に、肌と目のこともあるのだが。それを家康に話すことは躊躇われた。 「そんなことはねぇ――と、いいたいところだが、そういうこと抜きにして、わしら 大名の婚姻はねぇだろ」 「それもそうだな」 あっさり答えられたため、政宗もまたあっさりと頷いた。 「けど、そういうのも全部含めて、俺はおめぇを正室として三河に迎えてぇんだ」 政宗は目を閉じて家康の胸に顔を寄せた。体を絡め、心臓の音を聞く。 「いいかもしれねぇな」 家康はぺちっと政宗の頭を叩く。顔を上げると、家康は笑っていた。 「簡単に答えるんじゃねぇ。ことは一生の問題なんだぞ」 「直感って奴も大事にしろよ、家康」 家康は困った顔をすると、政宗の髪を乱して嘆息した。 「だから少しは慎みを持てって」 「ぐぅ」 「寝るな!」 書の海の中で笑い合いながら体を絡ませている政宗と家康を見て、小十郎は雷で打たれた ような衝撃を覚えた。 着衣のまま、ただ子供がじゃれるようにしているだけ。二人はゆっくりと離れ、 寝転んだまま地図を指差して何か言葉を交わしている。 一歩を、踏み出せない。踏み出せば足音がするだろう。そうすれば気づかれてしまう。 そのとき、二人はどんな顔をするだろう。気まずそうにするだろうか。それとも。 何も、変化が起きなければ。 「っ…………」 遠目にも、政宗が笑っていることが分かる。計算ずくの笑みとは違う、心からの笑み。 自分にしか向けられないと思っていたのは、驕りだったというのか。 盆を持つ手が震えた。かたかたと湯飲みが鳴る。まさかその音を聞きつけたわけでは ないだろうが、政宗の顔が上げられた。目が合った、と思った瞬間、小十郎は背を向けた。 足早に立ち去る。 だらしないと一喝すればいいだけだが、できそうになかった。 そんなことをすれば、政宗は小十郎に平手を打って詰るだろう。いつものことだが、 それを家康に見せたくない。 家康は、政宗が手を上げる相手が小十郎しかいないことを知らない。 家康に哀れまれるなど、屈辱以外の何ものでもない。 女中が小十郎の横を通り過ぎようと頭を下げる。小十郎は反射的に盆を女中に押し付けた。 「小十郎様?」 女中が不思議そうに見上げてくる。 「政宗様と客人に出せ」 「ですが、これは」 「いいから出せ!」 敵に向けるような小十郎の声を、女中は聞いたことがないのだろう。恐怖に竦んだ顔をすると、 女中は頭を下げて足早に書房に向かう。 小十郎は深く息を吐き出した。 ――分かっていたつもりだった。 政宗は主君なのだ。政宗がどれほど我がままを通そうが奔放に振舞おうが、嫁ぐか婿を 取るか、いずれはどちらかを選択する。 嫁ぐ相手に、自分が選ばれることなどない。また、婿としても不適任だ。家同士密接に 結びついたところで、伊達に利点がない。 快楽を与え女としての悦びを教え込んだところで、政宗は小十郎を選ばない。 身分を、呪った。 乳飲み子だった頃から知っている。守り役に任ぜられたのは十八のときだったが、 それ以前から遊び相手や剣の稽古役を務めたし、馬となって背に乗せたこともある。 何度かおしめも変えた。十かそこらの少年におしめの替え方など分かるはずもなく、 とんでもないことになって乳母役の異父姉に怒られた。 赤ん坊は娘になり、女になった。ずっと見守って、いつしか自分のもののように思えてきた。 誰かの手に渡したくない。 (自惚れか) 生涯傍に侍りたいと思ったところで、小十郎の意思が通るとは限らない。 拳をきつく握り、自室へと急ぐ。木刀を手に取り、庭へ向かった。 三年目の浮気5
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香を焚き染めた夜着を纏い、小十郎の居室に向かう。 まだ明かりの灯った部屋で小十郎は書類の検分をしている。ぴしりと背筋を伸ばして 書類を読んでいる背中は、政宗を拒んでいるように見えた。 「小十郎」 名を呼ぶ。 「小十郎」 もう一度。ぱたん、と書を閉じる音がした。小十郎が静かに動き、型どおり頭を下げた。 「いい、顔を上げろ」 「御用でございますか」 「……別に」 普段なら、小十郎の前に座って小十郎の胸に顔を寄せる。小十郎は政宗の背を撫で、 無言を貫く。己の意思などないように振舞うが、手が温かくて気持ちいいのだ。 そうすればいい。 小十郎に遠慮する必要などない。 けれど、今日は遠慮する理由があった。 「俺が……」 言葉が引っかかって出てこない。 小十郎を傷つけるだろうか。 いや、もしかすると、小十郎は喜ぶかもしれない。 閨ではいつもひどいことをする。呆れているかもしれない。 唇を引き結び、小十郎を見下ろす。小十郎は静かな目をしている。どこか空虚な目だ。 「俺は――」 小十郎は静かな目を政宗に向ける。 疲れてるな、と思った。もう少しでこの忙しさは終わるが、無茶をさせすぎたかもしれない。 「疲れてるだろ」 「大丈夫です」 「嘘つけ」 膝を折って小十郎と視線を合わせる。手を伸ばして目元を擦る。荒れた肌。寝てないことが丸わかりだ。 「田植えが終われば、少し休めますし。大丈夫ですよ」 「……ん」 小十郎の手は動かない。いつもなら、政宗の腕を受け入れるように動く。 「政宗様こそ、昨夜はお休みになられてないでしょう」 今日の様子を見てたら分かるか、と政宗は小十郎の腕をつかむ。顔を伏せた。 静かな目は、咎められるより恐ろしい。 「俺は」 顔を上げると、小十郎の目に自分の顔が映っている。情けない顔だ。 「この小十郎に、言えないことでもあるのですか?」 小十郎は政宗が何をやっても受け入れる。 好き放題暴れても背中を守り、無謀な政策を出しても実現しようと苦心する。 苦言はすべて伊達家の、政宗のため。分かっているから聞く耳を持つ。 きっと、昨日のことも受け入れてしまう。そうやって小十郎の心をすり減らしてしまう。 なんてことを、しようとしたのだろう。 こんなに大切な存在を傷つけようとした。 「……俺は、ひどいことをした」 「撫で斬りでもなさいましたか」 「そういう事じゃねぇ。……三河に、行こうって……」 それ以上言葉を繋げる前に、小十郎は政宗の頬を叩いた。 手を上げられるのは初めてではない。ただあまりにも久しぶりで、何が起こったのか 分からなかった。 「小十郎」 「……俺に、どうして欲しいんですか」 小十郎の声に怒気が満ちている。 「あばずれと蔑みましょうか。尻でも叩きましょうか。明日の評定でなじりましょうか」 「違う、俺は抱かれてない」 「それでも徳川に心が傾いた。違いますか」 目をつぶって俯いた。三河に嫁いでもいいと思ったのは事実だ。 小十郎が傍にいると腹が立つから、という子供じみた理由だった。 「……政宗様。俺は、あなたがどのように振舞われようと、どのような戦を行おうと、 あなたについていくと決めた。あなたのために命を失ってもいいと思っている」 「知ってる」 「あなたは俺の主です。俺の都合など考える必要はない。不要なら捨て置けばいい」 「違う!」 首を振って額を押し付ける。腕に縋る力を強くする。 「俺にはお前が必要だ。片倉小十郎が、俺の傍にいないなんてありえねぇんだ!」 「恐悦至極に存じます」 「……なんだよそれ」 顔を上げる。小十郎は無表情で遠いところを見ている。 感情を押し殺そうとしている。先ほど手を上げたことを悔やんでいる。 「なじれよ。怒鳴れよ。俺は、お前以外の男を選ぼうとしたんだぞ。嫁ごうとしたんだぞ!」 「ならば、どのように蔑まれることをお望みですか」 「――――!!」 三年目の浮気9
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/1603.html
徳川家康と本多忠勝が奥州を訪れる頃には、奥州の遅い桜はすっかり散ってあちこちに 吹き溜まり、代わりに若い色の葉が日差しを柔らかく遮るようになった。 「奥州はこれから若葉の季節だな。一献どうだ?」 「いらん」 不機嫌な調子を隠そうともせずに、政宗はすたすたと城の中に入っていく。忠勝の肩から 降りた家康は慌てて彼女の背中を追いかけるが、いかんせん足の幅が違いすぎて追いつけない。 「そういえばおめぇ、いつものやつはどうした」 「いつもの?」 足を止めて振り返る。家康はぜーはーと肩で息をしながら政宗の小袖の裾をつかんだ。 「ほらあいつだ。片倉こ」 「知るか!!」 家康が名前を全部言う前に遮る。片倉の「か」の字すら聞きたくない。家康は丸い目を 何度もしばたたかせ、政宗を見上げた。 政宗はむすっとした顔をして、家康から袖を振り払う。そして足音を立てて奥へと歩く。 家康は数瞬遅れて後を追いかけた。 「どうしたんだ? ケンカでもしたのか?」 「No。主君ほったらかしてるあいつが悪いんだよ」 「……何かあったか?」 「何にもねぇっつってるだろが!」 家康がきょとんと目を見開くのを見て、政宗は顔をしかめた。 家康にあたったところでどうにかなるものではない。 小十郎は政宗に一番近いところにいる家臣だ。様々な仕事を任し、彼を多忙にさせる。 そうなればいつも傍に侍ることはできない。 自分で作り出した状況が嫌になる。 体に溜まった息を吐き出し、髪に手を差し込んだ。 「……悪い。お前に当たったってしょうがねぇのに」 「何かあっただろ? 話してみろ」 「なんにもねぇよ。ちょっと……いらついてただけだ」 家康は目を細めて政宗を見上げるが、すぐににっと笑った。明るいけれど騒がしくない、 ほっとするような笑みに政宗もつられて笑う。 「話くらいなら聞くぞ?」 「いいよ。どうせただの愚痴だ」 「ただの愚痴だからこそ聞くんじゃねぇか。おめぇ、頭いいけど莫迦だなぁ」 家康はどんな愚痴でも聞くだろう。そして笑って受け止める。そういう度量の広さがある ことを知っている。 (いいなぁ) 素直な感想だった。目の前でべそべそ泣いても、次の日にはそれを忘れてくれるだろう。 政宗だったら、そんなことをした奴を向こう二ヵ月半は笑ってしまう。 「ほんとに、ただの愚痴だぜ?」 「どんな愚痴でも、溜めたら体に毒になるからな。わしにでも吐き出せ」 「……thank you」 政宗は笑った。家康の顔がほんのり赤く染まる。初々しい色が可愛くて、政宗は思わず 手を伸ばして家康を抱きしめた。わわわわっ、という声が胸の辺りから聞こえた。 二人の体の間に腕が入り、家康は政宗から離れた。家康の顔が、赤を通り越して青く なったような、変な色になっている。 「おめぇ、もっと慎みを持て!」 「んだよ。いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」 「お、お、女がそんな科白吐くんじゃねぇ! いいか、俺は男でお前は女だ。それで、 そんなことをしたらどうなるかくれぇ、分かるだろが」 「……俺を襲うのか?」 政宗は笑った。髪をかき上げ、書房に入る。あらゆる書籍や地図類が散らばった床に、 二人は適当に腰を下ろす。 「わしは、そんな卑劣な真似はせん。だがなぁ、わしも男だ。理性を保てる保障はねぇぞ」 政宗は笑って城の付近を記した地図を広げた。 「お前だったら、別に構わねぇぜ」 「政宗!」 「jokeだよ、joke。本気にするな」 政宗は地図に描かれた川の線をなぞって笑う。家康はむむぅ、と唸って政宗を上目遣いに見る。 「そういえば、お前、俺に求婚してたよな」 今更な話題を政宗は口にした。家康は腕を組んで神妙に頷く。難しい顔をしているなぁ、と ごろりと寝転がりながら家康を見た。 「隙あらば攫おうって魂胆か?」 「そのようなことはせん。ちゃんと手順を踏まえてお前を手に入れるぞ」 政宗は体を伸ばした。ふっくりとした頬に手を伸ばす。思ったとおりの柔らかい頬をしている。 「まさ」 そっと、指で唇に触れてみる。小十郎とはずいぶん違うんだな、というのが率直な感想だった。 家康は目を見張ったまま固まっている。瞬きすら忘れた家康が面白くて、書の海にゆっくりと 押し倒してみた。 三年目の浮気4
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寝不足でいまいちすっきりしない頭を振り、政宗は忠勝が土手を作る様子を眺めた。 山から土を持ち出し、固め、土手の一部になる様子は壮観だ。戦国最強の武人、 忠勝が治水を行う様子を一目見ようと見学ツアーのようなものが組まれているらしく、 人だかりができている。 「信玄堤もかくや、ってところか」 油断をすれば閉じようとする瞼を一度きつく閉じてから、甲斐の国において信玄が築いた 堤の名前を持ち出した。小十郎は地図を見て辺りを見回す。 「左様でございますな」 妙に固い返事に、政宗は小十郎を振り返る。緩むことの少ない顔が、今日は一層引き締まっている。 じっくり見てから色々問い詰めたいところだが、どうも眠たい。春と夏の狭間の陽気が、 政宗に午睡を勧めてくる。 「……だめだ、眠い」 「昨日は、何故早くお休みになられなかったのですか。今日は堤防を作ると、政宗様が 仰ったのですよ」 「……色々事情があるんだよ」 小十郎から地図を奪い、地図を睨む。年単位で補修を考えていた工事が、一日で終わりそうだ。 さすが戦国最強。 「あとどれくらいでconstruction(工事)は終わりそうだ?」 「俺に聞かれても困ります。徳川殿に伺えばよろしいでしょう」 投げやりな答えが気に食わず、振り返りざま平手を打つ。寝不足で加減が聞かないが、 あんな返答をする小十郎が悪いのだ。 「答えろ」 睨むと目をそらされる。それがまた政宗の神経を逆撫でする。 もう一度平手を打つ。小十郎は眉を僅かに動かしただけだった。 「推測でいい。本多のabilityは見ての通りだ。constructionの予定はお前も 知っているだろう。――あと何日で、この堤防は出来上がる。答えろ」 「……俺が答える義務などありません」 「!」 いつもと比べ物にならない派手な平手の音。忠勝の槍が立てる大きな破壊音の中でも やけにはっきりと聞こえた。槍の音がやむ。立派な堤が半分ほど出来上がっている。 「……何を怒ってるんだ、てめぇ」 「俺に怒られるようなことでもなさったのですか?」 せせら笑うような表情に、政宗はまた平手を食らわせた。いい加減手の感覚がなくなって いるが、体の奥底からこみ上げる衝動を抑える方が面倒だった。 「Damn you!」 政宗は捨て台詞を吐くと、小十郎に背を向け忠勝の元に走った。地図を持って忠勝に指示を 与えていた家康が政宗に気づく。 「どうした、政宗」 「……なんでもねぇ」 家康はそれ以上問い詰めるようなことはしない。忠勝に地図を見せて指示を与える。 忠勝は頷き、空を飛んで土を削りに行った。 「工事ならあと一日ってところだな。悪いが、それ以上は国を空けられん」 「……分かってる。それまでやれるだけやってくれるか。礼は、砂金でいいよな」 「おうよ」 家康は地図を懐にしまうと政宗を見上げた。 「わしは、お主を三河に迎えたい。そのためだったら、何年でも、何十年でも待つぞ。 お主が安心して奥州を任せられる奴が出てきたら、わしは遠慮なくお前を迎えるぞ」 「悪い。何年待ってもらっても、俺は……三河には、いけねぇ」 家康は目元を綻ばせた。 その答えを待っていたのだろうか。 だとしたら、悪いことをした。 思わせぶりな態度をとって。誘っておいて、寸前で泣き出したりして、もてあそんだ。 「そう言うと思った」 「……奥州を、離れたくねぇ。離れたら」 小十郎を傍に置けない。 最後の一言を飲み込み、政宗は家康の頭を撫でた。 「Thank you、家康。もうちょっと、頼むな」 「任せろ。忠勝は戦国の世では何をやらせても最強だからな」 「そりゃ、心強い」 忠勝が土を背負って戻ってくる。山が崩れないよう補強しないとな、と思いながら政宗は 忠勝が堤防を作り上げる様子を眺めた。 三年目の浮気8
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小十郎が動くたびに政宗は体を捩って快楽を訴えてくる。 あばたの散った体が艶かしく動く様は蛇に似ていると思った。妖しく蠢き男を誘い、 快楽を、男の精を貪る。 手足の自由を奪い、目から光を奪ってさえも政宗は小十郎を従える。滅茶苦茶に抱いても、 支配したような気分にはなれない。 どこまでも、自分は政宗の家来なのだ。 絶頂に達した政宗が長く引く声を上げた。体が内側から赤く染まる様子は扇情的で、 小十郎は思わず腹から胸に手を滑らせた。 「あああ――」 甘い声。高く叫ぶわけではない。ただ長く引く、いつまでも耳に残る甘い声を上げる。 びくびくと体が跳ね、その動きと同調して胎内が締まる。極まった体は、何もかもが 小十郎を頂点へと導いていく。 白い頬が桜色に染まり、赤く染まった唇が荒い呼吸を繰り返している。吐き出される息すら 艶を帯びていて、政宗が呼吸をするたびに空間が艶を帯びていくようだった。 まだ精を放っていない小十郎がもどかしいのか、政宗が体を動かす。その動きに合わせて 胸がゆらりと動き、艶かしい。 妖しく蠢き快楽を得る姿は、普段の立ち振る舞いからは想像もできないほど淫靡で艶かしい。 この姿は、小十郎しか見ることがない。 小十郎は薄く笑った。政宗に対してではなく家康に対して優越感を覚え、笑みを止められなかった。 「政宗様……」 政宗は緩く首を振り、せわしなく胸を上下させて呼吸を繰り返す。 脚を撫でると、政宗は体を捩る。 快楽に我を忘れている。 本当に、愛しい主だ。 年がずっと下であるとか、女であるとか、奔放で気難しいところがあるとか、 そんなものは関係ない。 強く、気高く、頼もしいけれどふとした瞬間に折れそうになる。 これ以上に素晴らしい主君など、政宗以外にいるとは思えない。 小十郎は律動を再開した。一度深い快楽を得た政宗の体はとろとろに溶けているくせに まだ満足していないらしく、深いところを突く度にきつくしまって小十郎を昇らせていく。 激しい動きを繰り返すうちに、込み上げてくるものがあった。 政宗の胎内に精を放つ。 躊躇いはなかった。 息が落ち着くのを待ってから男根を引き抜き、政宗を縛っていた布を一つずつ外していく。 目隠しを外すと、夢を見るようにとろんとした瞳があった。 ぼんやりとしていた目はすぐに光を取り戻す。小十郎の顔をつかんで引き寄せ、 触れるだけの口付けを交わす。畳の上に寝転がり、快楽に蕩け疲れた体を 興奮させないよう気遣いながら抱き締める。 「俺の、ものだ」 「はい」 「何、素直に返事してるんだ? 女に所有物扱いされて嬉しいのかよ」 尊大な態度に苦笑する。 それでこそ、我が主君。 体が果てるまで仕える甲斐があるというものだ。 三年目の浮気15
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「……ん……ぁ……」 直接的ではない、じわじわとした昂ぶりを覚える。体がどうにももどかしく、腰をくねらせ、 首を捻った。 「や、だ……」 何が嫌なんだろう、と自分で言っておきながら首を傾げた。手が腰の辺りを滑ったと思うと、 腰を持ち上げられて指が濡れそぼった花弁に触れる。 「あっ……」 待ち望んだ刺激に体がひくつく。 足を開かされ、小十郎の顔の前に秘所を晒す体勢を取らされる。顔を畳に押し付け、 目をきつく閉じた。 「ああんっ!」 音を立てて舐められ、がくがくと膝が揺れた。 慣れた愛撫だった。いつもさせていることだし、どういう刺激が来るのかも分かっている。 目を隠し、ぴちゃぴちゃと舐める音と舌の感触だけの世界では、いつも以上の快感を覚え、 政宗は簡単に軽い頂点を覚えた。 溢れる蜜の量が変わり、小十郎が笑うように息を吹きかけてくる。 「お好きなようで」 「…………も、やだ! 外せ!」 羞恥と頂点を覚えた体は、汗を滲ませるほど熱くなる。 「そのような勿体ない真似はいたしません」 言い終えると政宗の返答を聞かずに愛撫を再開する。 大きな音を立てて舐め、舌先が秘所を軽く撫でたかと思えば蜜を肉芽に擦り付け、 音を立てて吸い付き、集中的に攻めてくる。 目を隠されているせいだろう、濡れた音が政宗の意識を浸食していく。 音に犯されているような気分だった。 「やっ……んん……ぁ……」 体が揺れる。乱暴な愛撫に慣れていない体は、汗を噴きながら快楽を必死に訴える。 甘い声はただ喘ぎを漏らすだけで、ねだることも甘えることもできない。 ふいに足を閉じられた。ぐるりと体を回し、仰向けにされる。 腿に布の感触を覚えたかと思うと、足を閉じたまま強く結ばれた。 まったくといっていいほど身動きが取れなくなる。手も足も使えない。目も見えない。 脚を持ち上げられ、折り曲げた小十郎の腿に体が置かれる。腰を手で支えられたかと思うと、 かなり強引に男根が侵入してきた。快楽よりも痛みが勝り、体を強張らせる。痛くても 小十郎に慣れた体は、小十郎を受け入れるために蠢く。 小十郎の全部が政宗の内部に納まる。それだけで息が上がり、快感が全身を駆け巡る。 このまま動かれたら、気が触れてしまうかもしれない。 それもいいだろう。小十郎が許してくれたら、どんなに酷い仕打ちをされても構わない。 「……どんなに」 手が、頬に触れてくる。苛ついているのに優しいような、妙な手つきだった。 「どんなに、自分のものにしたくても、あんたは俺のものにはならない」 手が手首に触れ、歯が当たった。ちくりとした痛みを感じる。 「なんで、だ?」 「政宗様」 「お前は俺のものだ。伊達政宗の一番近いところに侍るのはお前だけだ。……それの 何が不満だ」 手が止まった。言葉を待っている気配がする。 「俺は、お前の、主だ。俺はお前のものにならない。お前が、俺の、ものだ。you see?」 間が空いた。 小十郎は動かない。政宗の胎内に男根を埋めたまま、緩く縛った手の甲に口付けを落とされる。 「……恐悦至極に存じます」 いつもの小十郎の声。政宗は笑った。 やっぱり小十郎は政宗の家来だ。 三年目の浮気14
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カメラマンには三種類の人間がいる。 食い扶持をカメラで稼ぐ奴。 趣味でカメラを扱う奴。 カメラで食って行けない奴。 この三つだ。 そして困難を前にして人間は大体二つの行動を取る。 逃げるか、立ち向かうか。 カメラマンとしては三番目のロベルト・フリードマンは、人間としての生き方はどちらかという後者である。そして立ち向かうというより、飛び込む――と表現した方が近いかもしれない。 近代のカメラマンは名を売るために戦場へと行く事が多い。その写真を売りながら金を稼ぎながらいつか報道賞やカメラグランプリでチャンスを掴むと信じており、一発狙いの側面が大きい。 ロベルトも多分に漏れず、その気質を持っていた。 ある日、ロベルトはロンドンに妻子を残してゲートを飛び越えた。行き先を決めてないどころか、異世界がいかなる場所であるかも理解しないままに。 もちろん下調べはしてあったが、それは通り一遍の知識を仕入れただけに過ぎない。 だからというわけではないが、写真は思うように撮れていた。 思うが侭に飛び出し、気の向くまま異世界を歩き、ファインダーから覗く異世界をフィルムに収める。 愛器のミコンSとカンタックスは、我が侭な主人と違って従順に異世界を撮り、時にはちょっとピンボケの味のある写真をロベルトに与えてくれる。相棒というより右目と左目と言っても過言ではない。 異世界を訪れ早くも半年。ロベルトはドニードニーの海の上にいた。 パーントゥ商船の船内で、彼は写真を撮る。 ドニー・ドニーで一番は俺だと言わんばかりのオークやオーガが甲板や船倉で働く姿は実に絵になる。何しろ現代地球には無い木造船だ。時代遅れの操船術が新鮮な映像としてフィルムに収まる。 ドニー・ドニーを支えてるのは俺だと言わんばかりのゴブリンたちの、せわしなくも正確な算術と航海術を操る彼らの不器用な笑顔はフィルムによく馴染む。 彼らのしわくちゃの笑顔は地球の老人のそれとは違う。ゴブリンたちの横顔はエネルギーが溢れ、それでいて老人と同じような愛嬌と老練さが滲みでて見たこともない作品となる。 ロベルトは意外にも、自分がこの世界に馴染める人間ではないかと思い始めてきたころ、 「へい、ロブ。海の上なら浮気じゃないんだぜ」 オークの甲板長クラントオルクが、ロベルトを愛称で呼びながら諭すように語る。 「海の男は空よりも自由で、陸に残る女は海より広い心をもっているんだ。もちろん、陸に上がった男は誰よりも妻を愛し、海に出た女は誰よりも夫を愛さねばならん」 クラントオルクはそういいながら、前方に浮かぶ数隻の船を指差す。その船は聊か異質で、地球でいう輸送船を放射状に繋ぎ止めたような姿をしていた。 何より不可思議なのは、張られた帆が実用的な形をしておらず、描かれた絵は豊満なバストを放りだすオーガだ。肉感的というより筋肉的という印象だ。さらに帆の張り具合がこれまた筋肉を想像させる。 「地球に残したカミさんのことなんて気にすんなって。海の上じゃ他の女を抱いても浮気にはならん」 クラントオルクはドニー・ドニーでは一般的で独特な文化を盾に、ロベルトを娼館へと誘おうとする。しかし、ロベルトは妻に気後れして女を買う事を避けているのではない。 いや、彼の貞操観念をフォローするならばそれもあるのだが、そもそも オークやオーガの娼婦を抱くと言うのは無理なのである。 これは差別とか宗教上とかそういう問題ではない。無理なのだ。 ロベルトの女性の趣味はうるさい訳ではないが、完全な異種族というのは感覚的にタブーの範疇に近く、そもそも彼女たちに性的興奮を覚えることがない。 これが容姿の近いエルフなどであっても、どこか根底にはそういう意識がブレーキとなるのだろう。 困難に飛び込む性質のロベルトでも、そちらの面では些か尻込みするらしい。 「じゃ、じゃあ取材って事で」 ロベルトはクランオルクの誘いを断りきれず、ミコンSを抱えた。それを見てクランオルクは意外に乗り気なんだろうと解釈して、船上娼館のおすすめ女性を得々と語り始めた。 船上娼館『スキュラ』は文字通り、船の上で営業する売春宿である。いや宿ではないのだろうが……。 ドニーではどうやら船旅での逢瀬は浮気や常事と取られず、妻も恋人も黙認する事が女の度量らしい。なんともうらや……けしからん事なのだろうが、港ごとに恋人や妻を作らせない苦肉の文化なのだろう。 「ランバラーナとフルハンって新人の子がバーンってな感じでたまらなくてな。これまたランバラーナって子の胸は……」 何やら興奮し始めてるせいで、鼻息荒く意味不明瞭なクラントオルクの娼婦紹介が空回りし始めた頃、船がスキュラへ接舷された。ロベルトはどうやって接舷するのかと思っていたが、放射状につなぎとめられた船の間に差し込むように行われた。 船の目的が目的だけに、なんとなく女性の股に潜り込むイメージだ。 クラントオルクは目当ての娼婦が待っていた事に大喜びしたのか、ロベルトを置いてさっさとスキュラの甲板へと飛んでいった。男の本能が強いのは分かるが、どうにもクラントオルクはがっつきすぎている。 とはいえ、他の船員たちも似たりよったりであり、下っ端甲板員も落ち着きなく接舷作業の後始末をしている。 ロベルトはカメラを抱え直し、スキュラの甲板でオーガと交渉する女性を見咎めた。 地球人の女性である。 東洋人の若い女性で、幼くも見える。とても娼婦など出来るような体には思えないほどだ。かといって子供というわけでもなく、女性としては成熟している。 なぜそんな所にいるのかと、心配になったロベルトに気がついたのか笑顔で軽くこちらに手を振った。 「はぁい。悪いわね。いまちょっと浮気の最中なの。地球の男たちには内緒にしてね」 妖艶とは言い難いが、人懐こい笑顔はコケティッシュだ。ロベルトは思わずカメラを構えて、娼婦とオーガの後ろ姿を写真に収めた。 地球の男が飽きられたのか、彼女の生き方がロベルトに似て飛び込む性質なのか。それとも両方なのか。いや、多分両方かもしれない。 彼女はドレスをまい上げて、とびきりの浮気を楽しもうと去ってしまう。 ゲートを飛び越え地球全部の男を振って誰にも出来ない、とびっきりの浮気を……。 取材先での触れ合いとドニー海の男らしさというのがこれでもかというくらいすっきりまとまっていて面白い。海が密接に関わっているというのもスキュラ船から伝わってきたが含蓄のある台詞に思わずうなる。最後のオチは全く読めませんでしたね -- (名無しさん) 2013-11-02 17 57 42 やはりどんな種族でも女性は強い。強くて奔放な女性がドニーにやってきたらどうなる? -- (名無しさん) 2015-10-06 22 05 54 名前 コメント すべてのコメントを見る
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何を言っているのか理解できなかった。 政宗が家康の元に嫁ごうと考えた。そのことで一瞬頭が真っ白になった。 分かっていた、ことだというのに。 落ち着くことができなかった。 政宗は小十郎の背中に手を回し、今にも泣き出しそうな目で小十郎を見上げている。 疱瘡によって右目を失った頃の政宗を思い出した。 右目とともに快活さや聡明さを失ったとしか思えないほど、暗く悲観的になっていた。 あの頃の、目だ。 ――見たくない、と思った。そうなると取るべき行動は一つしかない。 今宵は、好きにするよう命じられた。だったらどんなことでもさせてみよう。 それが、命とあらば。 衣擦れの音を立てて政宗の夜着の帯を解くと、帯で政宗の目をきつく縛った。 「何……っ」 「好きにしていいと仰ったのは、政宗様です」 政宗の唇が震えるが、すぐにきゅっと硬く結ばれた。歯を食いしばる様子が可愛らしいので、 指を這わせてみる。 「…………っ!!」 悲鳴を飲み込み、政宗はせわしない呼吸を繰り返す。ぴちゃりと音を立てて唇を舐めると、 政宗は小十郎の頭を両手でつかんで必死に口付けを求めてくる。 けして離すまいと訴えてくる手を無理やり外すと、小十郎はゆっくりと味わうように 政宗の唇を舐め続けた。塩気に似た、人の皮膚の味がする。 「こ……じゅう……ろ……」 「ここに、おりますよ」 ただ目を隠しただけだというのに、政宗はひどく気を弱らせている。 その姿が、震えた声や強く握られた拳が、小十郎を煽る。 政宗の手を取ると指に唇を落とし、わざと音を立てて舐めた。 「ゃあ……」 政宗の体が蠢く。どこか妖しげな動きに、小十郎は眉を寄せた。 大したことではない。感じるような場所ではない。それなのに政宗は、まるで陰部を 舐められたかのように甘く啼いた。 政宗を抱き上げる。邪魔な夜着を腕から落とし、政宗の腕を肩に置いた。 「脱がせてみますか?」 政宗は頷くと、肩から襟元に指が動く。たどたどしい動きに笑みが零れるのを止められない。 普段なら罵倒を浴びせかけられるところだが、今宵の政宗は目を隠している。だからだろうか、 政宗は普段からは想像もつかない従順さを見せる。 小袖を落とすことに成功すると、政宗の口許が僅かに緩む。 次に袴の帯を探すように手が動くが、触れるか触れないかという微妙な動きで腹や腰を 探るのでたまらない。ようやく袴を縛る帯を見つけ、指が動く。結び目を解くと、政宗は 小十郎を見上げる。政宗の目は見えないが、訴えようとしていることは分かる。 「……尻、上げろ」 「……失礼致しました」 腰を浮かすと、袴を引っ張られて適当に放り出された。政宗の手が満足したように膝に 落ちるが、小十郎はその手をつかむと自身の腰に当てさせた。 「まだ、残ってますよ」 「も……いいだろ。見えねぇんだから……下帯なんか、分からない」 「そうはいきません。あなたの都合など考えてはいけないと仰ったのは、他ならぬ政宗様です」 政宗の唇がきゅっと引き締まった。小十郎は笑って政宗の手を下帯に導く。 政宗の手がゆっくりと下帯を探り出す。結び目を解き、丁寧に下帯を取り外す。 「これで、いいか?」 「……では、俺をその気にさせてもらいましょうか」 「その気?」 両手で政宗の顔を包み込む。政宗の頬が僅かに緩んだ。目はきっと和やかに微笑んでいるだろう。 「簡単でしょう? 俺を、あなたが欲しくてたまらないと思うように仕向けるだけです」 「……何、させるんだ。言えよ。何だってしてやるよ」 小十郎は笑った。 戦場で時折見せる嗜虐心に満ちた笑みは、政宗に見せたこともなければ見せるつもりも ない。そもそも政宗に嗜虐心を覚えたことなど一度もない。 だが、今日は違う。どうしようもないくらい政宗を泣かせてみせたかった。 政宗のどこか弱気な態度が、小十郎を煽ってしょうがない。 「……手始めに、舐めていただきましょうか」 三年目の浮気11
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何を、とは聞かれなかった。 政宗は小十郎の腰の辺りを探る。足の付け根にようやく到達すると、のろのろと頭を下げ始めた。 「……どうやったら、いいんだ」 政宗に何かをさせたことなどない。小十郎以外の男も知らない。従って、男に奉仕をする というのも初めて、ということになる。 ぞくり、と背筋が震えた。 「見えねぇし……噛むかも」 「大丈夫ですよ。小十郎が教えて差し上げます」 背を丸め、耳元で囁く。政宗はこくりと小さく頷くと、小十郎の男根に触れた。節くれだった 男のような手をしている。 ゆっくりと、確かめるように舌が触れた。そのまま下がっていく頭を止める。 「いきなり咥える必要はありません。舐めるだけで結構です」 首が傾き、舌が触れた。のろのろとした動きで小十郎を舐めていく。初めてなのだから、 技巧も何もない。政宗が望めば教え込んでもいいかもしれない、と思ったが、まさか 望むとは思えない。 「指を使って……そ、う。ただ舐めるだけじゃなくて、緩急をつけて」 小十郎の教えるまま、政宗は奉仕する。 教えたわけでもないのに政宗はぴちゃぴちゃと音を立て、小十郎の男根を舐める。政宗の 舌の温度と呼吸が、何よりも政宗がこうして舐めているという現実が加わるのだから、 小十郎の限界はすでに近づいていた。 変化に気づいた政宗が顔を上げる。見えていない右の目がじっと見つめる。 もっと、させてみたい。 口の中に吐き出したい。 「最後まで、していただきましょうか」 「――飲めってか?」 「そこまで望みませんよ。歯を当てないようにして、咥えてみてください」 政宗の顔がまた下がった。口内の温度がゆっくりと小十郎を包む。 鼻から漏れる呼吸が小十郎を撫でる。指で撫で上げ、顔をのろのろと上下に動かしながら 政宗は小十郎を昇らせていく。 こみ上げてくるものを抑えきれず、小十郎は政宗の口内に精を吐く。政宗の頭が跳ねる。 肩を震わせながらそれを受け止める。逃げないだけでも大したものだろう。全部口内に納め、 政宗は口を抑えて吐く場所を探す。 目の前に懐紙を差し出すと、政宗は小十郎の精を吐いて咳き込んだ。目元が隠れていても しかめ面をしているのは明らかだ。 「も……いいのか?」 ようやく落ち着いた政宗がぽつりとつぶやいた。 ぺたん、と座ったまま、指が小十郎を探す。腕を取ると、いつものように胸に顔を寄せてくる。 さわさわとした髪が小十郎をくすぐった。 「お前に酷い事をした。……お前が許すまで、俺は、お前の言いなりだぜ」 そういう、ことか。 小十郎は笑みを止められなかった。 家康の下に行こうとしたことを、政宗は悔やんでいるのだ。 三河に嫁げば、小十郎は政宗の側近として仕えることはできない。 だからといって、本人同士がどれほど望んでも、主君と家臣が夫婦となることはない。 ずっと、傍に置くと言ってくれるのだろうか。 「どこにも行かないって、言ってたのにな。ちょっと、考えてしまった」 「政宗様」 「俺の婿は、決まってるのに」 腕が背に回る。 答えを待つように、白い顔が伏せられる。頭を寄せて、一心に甘えてくる。 「伊達の家はどうなさるおつもりか」 「……どうもしねぇよ。俺の代で滅ぼしてみろ、先祖に祟られる」 「俺は、あなたを娶るわけにはいきません」 「わかってるさ。俺は伊達に必要で、お前も必要だ。どっちも、勝手な真似はできねぇ。でも」 顔が動く。甘い息を首筋に吹きかけられる。背筋を何かが駆け抜けた。 ぴちゃ、と濡れた音を立てて首筋に口付けられる。指が背をなぞる。 「ずっと傍にいる男に惹かれて、抱かれたいって思う俺の気持ちを、誰が止められるんだ?」 強く、抱き締めた。 腕の中の温もりが、小十郎に答える。何度も頷く小さな頭を撫でた。 言葉をかければいい。睦言なら慣れている。 けれどどんな言葉も、今の胸のうちを表すのにふさわしくない。もどかしい。 言葉の代わりに唇を落とした。右目のある場所に触れ、背を抱いた。 政宗の手が、小十郎の髪に差し入れられる。白い手がゆっくりと髪を探る。甘い息が 耳をくすぐる。 小十郎の中の欲情が弾けた。 三年目の浮気12