約 95,911 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3562.html
【上田明也の探偵倶楽部after.act13~上田君はしばらくお休みなようです~】 「ま、待て!話せば解る!離せ、離すんだ茜さん!」 「何を言ってるんです、話も離しもしませんよ?」 「あっ、腕が!腕が逆の方向に……、あ、あ゛あア゛アァァア!」 コキッ 一月一日、新年を迎えた笛吹探偵事務所に高らかに鳴り響く骨の音。 そう、新年早々上田明也の腕が真っ二つになった音である。 「ふぅ……すっきりした。これに懲りたらあんまり節操ない真似はしちゃ駄目ですよぉ?」 普段はPSPより重たい物を持たない筈の茜さんである。 彼との契約でパワーアップしているせいか滅茶苦茶強い。 手加減していたのに必死で逃げる上田を楽にねじ伏せてしまった。 この際だから腕ポキの原因についてはハッキリ言ってしまおう。 彼の浮気が発覚したのである。 流石に身重の妻が居る状態でやらかした以上弁護の余地は無しだそうで彼の父もサンジェルマンも弁護してくれなかった。 しかし上田はあまり反省してない。後悔はしている。 「……ごめんなさい、反省しています。」 上田は関節が死ぬほど痛い筈なのだが、怖いほど冷静な対応である。 恐らく冷静なのはアレだろう。 この状況を危機と認識しているからで…… 「それじゃあ次は下も行きますよアキナリさん、良い声聞かせてくださいね?」 茜さんはガッと上田の首を掴んだ。その体を頭上高く持ち上げていく。 神に生贄を捧げる儀式の始まりのようだった。 茜さんは上田が浮気相手から貰ったらしいベルトをむしりとり握り潰した。 握られている首に激痛が走った。 が、のどが潰れて声が出せない。 「あっ、いけない。これじゃあ悲鳴を聞けませんね。 まあ良いか、離しも話もしませんから。 言葉なんて無くても通じ合えるし側に居られますよね。」 ――おれは誰なんだ? ―― と上田は思った。 これはおれじゃない。こんなおれが、おれであるはずがない。 茜さんがは上田の右足をたたき割った。 もうなんの痛みも感じなかった。 ――これはおれじゃない―― 上田の体温が急に下がり始めた。契約による身体への負荷だった。 常人ならば既に死んでいるレベルのそれ。 上田の膨大な容量はそんな身体への強烈な負担をおさえていたのだ。 しかし今の死にかけた彼に身体への負荷を抑える精神力はない。 そして身体を押さえつけられ、寒さも震えることもできない。 茜さんは、上田をアッパー気味に殴りつけた。 だらっと、赤い血が上田の口から零れる。 上田は急速に子供時代に戻っていく自分を感じた。 悪戯して調子に乗りすぎて父親に殴られていた頃の自分、反省してないくせに泣いて謝っていた自分。 上田はそんな子供の頃に戻っていた。 「ん?」 穀雨彼方は笛吹探偵事務所の副所長である。 しかし彼は所長室には入らないようにと言われて居た。 それでも所長が断末魔を上げたならばとりあえずは様子を見に行くべきであると判断した。 彼は職務に忠実だったと行っても何ら問題無いだろう。 だがそれが常に正しいとは限らない。 「上田さん!大丈夫で……」 ドアを勢いよく開ける彼方。 ドアは勢いよく何かにぶつかる。 ドアにぶつかった何かは勢いよく転がってそのまま目を回して倒れてしまった。 「キャー!あ、明也さん死なないで!貴方にはまだ子供が……!」 「ごふっ……。まさか彼方にトドメを刺されようとは……。」 「わわわわわわ!?何が有ったんですか上田さん!」 彼方が目にしたのは、四肢の関節が全てあらぬ方向に曲がった上田明也だった。 「ああ、彼方……。事務所とレモンはお前に任せた……。 お金は使いすぎるな、あと良かったら茜さんと……多分大丈夫だけど俺の子の面倒を……ガクリ」 「上田さああああああああああああん!?」 上田の視界は真っ黒に染まった。 数日後、笛吹探偵事務所事務室。 「さて、所長の寝正月が確定してしまったので僕たちが頑張らなくてはいけません!」 「おーう……。」 「吉静も頑張るよ!」 「全員私よりも年下だと……。大丈夫かな?」 笛吹探偵事務所は基本的に上田明也が居なくてもなんとかなる。 調査はレモンがやればいい。都市伝説退治は彼方がやれば良い。事務作業は向坂がやれる。 さらに大人に見えるように変装することで依頼人から直接依頼を受けることすらできる。 実は彼女は演劇部所属なのだ。 ただし、上田明也はそれらを全て一人で出来る。 故に居なくてもなんとかなるが、居なければ事務所が忙しくなる。 「でもレモンちゃん、私たち全員子供だよ?大丈夫なの?」 「それなら問題無い、依頼はお前が受け付けるし、荒事には丁度良い奴を呼んでおいた。」 「あけましておめでとう!」 「あっ、恋路ちゃん!?」 「なんで俺までここに……くそっ。」 「明日君まで……?」 「私が呼んだ、二人とも自宅が半壊して修繕費やら新しい家具やら必要なのだそうだ。」 「なにやってんの二人とも!?」 「いや、正月二日目に遅い大掃除を始めてたら……。」 「いきなり人形が動き始めて……。」 「まさか正夢になるとは思わなかったよ。カメンライダーダブルカックイイヨネ。」 「そしてこっちのバイトが組織の仕事より割が良かったからさ……。」 近所に住んでいるという向坂ちゃんが苦笑いで二人を見ていた。 「とりあえず今日の仕事は新年で調子に乗っている野良都市伝説の駆除だ。 近くの神社では初詣の際に被害が多数報告されたそうだな。 見張り役が居るらしくて組織の人間が来るとすぐに逃げてしまうらしいところから私たちが行くことになった。 明日真、恋路、彼方、三人はそれぞれ私が指定するところで待機していてくれ。」 「解りました。」 「了解したよ。」 「く……、ナズェヤツニキョウリョクセニャナランノジャ」 「アスマ、フィギュアの修繕費どうするの? 貯金してた分も使っちゃってたんでしょ? ストーブもないまま冬は越せないよ。」 「さてさて、それじゃあ行ってきますね橙さん。」 「おう、行ってこい。」 「あれ?レイモンは行かないのか?お前強いじゃないか。」 「私は非戦闘員だ、あと無事に終わったら全身複雑骨折してる笛吹をからかわせてやるから頑張れ明日真。」 「解った頑張る!」 「…………。」 「単純だろ?私の恋人。」 「まあそういうのは嫌いじゃない。」 「やらないぜ。」 「明日君ロリコン!?」 「ナズェソウナルンデスカ!」 「明日さん、事と次第によっては許しませんよ。」 「くそっ!ナデナンダダリカゴタエデグダザァイ!」 明日真の悲痛な叫びが事務所に谺した。 一方その頃 上田明也が眼を覚ますとそこは普段の寝室だった。 部屋に茜さんが入ってくる。 茜さんは小さな鏡餅をテーブルに置いた。 あまり飾り付けのない、ほとんど裸の鏡餅だった。 「あけましておめでとうございます。明也さん。」 茜さんは暗がりのベッドに向かって声をかけた。 ベッドの上でもぞもぞと人間の形を保ってるだけの上田明也が動いていた。 「どうしたの、明也さん?なにも心配することはないんですよ?」 茜さんはもがき続ける上田明也の体を抱いた。 「私が守ってあげるから。ずっと……ずっと……」 ひとつだけ飾られた小さな橙が、鏡餅の頂上で光っていた。 「テレビの前の皆さん最後に一つだけ、これからはもげろ、じゃなくて折れろ、で充分だと……。」 「誰と話してるんですか明也さん?もしかして悪夢でも? うなされてましたからね……。 でもそんな弱い事じゃ駄目ですよ、お父さんになるんですから、ねぇ?」 「……(この状況が悪夢とか言っちゃいけないんだよなあ)。」 お腹の子供に向けて語りかける茜さんを見て、流石の上田も自分の行為を反省し始めていた。 【上田明也の探偵倶楽部after.act13~上田君はしばらくお休みなようです~fin】
https://w.atwiki.jp/monosepia/pages/650.html
2ちゃんねる 韓国経済 ■ 【東亜】 韓国「3月危機説」が浮上 日系資金が決算期に合わせて引き上げる★3 [12/3] dat落ち 2008.12.4- 保護ログ ■ 【東亜】 韓国「3月危機説」が浮上 日系資金が決算期に合わせて引き上げる★2[12/3] 過去ログ 2008.12.3-4 ■ 【東亜】 韓国「3月危機説」が浮上 日系資金が決算期に合わせて引き上げる [12/3] 過去ログ 2008.12.3-3 .
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/1836.html
http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370070429/ ―― その日からの私はどうにも現実感のない日々が続いていました。 頭の中が妙にふわふわして、思考をきちんと纏める事が出来ません。 まるでずっと夢の中にいるように頭の中が鈍いのです。 しかし、私の目ははっきりと冴えていて、寧ろ、中々、眠る事が出来ません。 結果、寝不足ではありましたが、私の身体はそれを表に出す事はありませんでした。 ―― いえ…それだけではありません。 そんな覚束ない思考とは裏腹に私の身体は平静でした。 ふわふわとした私の頭にはそぐわないくらいしっかりとしていたのです。 まるで心と身体が切り離され、身体だけが勝手に動き出しているような感覚。 しかし、それは私にとって決して嫌なものではありませんでした。 ―― だって…私には…もう余裕なんてなかったのです。 あの日…須賀君につい「嫌い」と言ってしまった日から…既に一週間ちょっとが経過していました。 その間、私が曲がりなしにも普通に生活してこれたのは、そんな自分の変調のお陰です。 それがなければ、きっと私は部屋に閉じこもったまま外に出る事はなかったでしょう。 私にとってあの日の出来事はそれくらいに衝撃的であり…そして立ち直れていなかったのでした。 ―― 今だって…どうすれば良いのかずっと…考えているんです。 私はあの時…須賀君を傷つけてしまいました。 間違いなく嘘を吐き…要らぬ誤解をさせてしまったのです。 まずはそれを解消しなければ、どうにもなりません。 しかし…一体、あの時の事をどうやって彼に説明すれば良いのか私には分かりませんでした。 ―― いえ…本当は…分かっているんです。 本当に私がするべきなのは、こうしてうじうじとあろうはずのない『答え』を求める事ではありません。 そんな事をするよりも先に私は彼に謝罪し、自分の心を全て彼に伝えなければいけないのです。 そう分かっているのに…実行に移す事が出来ないのはそれが私の醜い部分を須賀君に見せる行為だからでしょう。 須賀君に嫌われたくないという感情が私の中でブレーキとなり、結果的に私に二の足を踏ませていたのです。 ―― それに…須賀君は思いの外、冷静で…。 次の日、須賀君は普通に登校し、普通に部活へと顔を出しました。 その間、私たちの間に一切会話がありませんでしたが、彼が傷ついている様子はありません。 一体、どれが演技なのか、或いは本当に気にしていないのかは私には分かりません。 しかし、そうやって何事もなかったかのように振る舞う須賀君の姿が私にとっては辛く…そして苦しい事だったのです。 ―― 私の事…好きだって言ってくれたのに…。 先日の事をまったく気にしていないかのような彼の姿に…私は胸の痛みを抑える事が出来ませんでした。 だって…私はこんなにも彼の事を気にしているのです。 一体、どんな風に謝れば良いのか…どうやって説明すれば良いのかを考えなかった時間はないくらいなのですから。 しかし、須賀君はそんな私に興味が無いかのように振舞い、視線すら合わせてはくれません。 そんな彼に…私は余計どうしたら良いのか分からなくて…ろくに声を掛ける事すら出来なかったのです。 ―― しかも…問題はそれだけではありません。 以前のストーカー事件から、父は本格的に引越しを考え始めました。 けれど、東京の進学校を勧めてくれる父に対して、私は首を横に振ったのです。 確かにあんな事件こそありましたが…私はゆーきや須賀君のいるこの長野が嫌いではありません。 それに進学校になんて行ってしまったら…麻雀なんてする余裕はなくなるでしょう。 勿論、それが長い目でみれば正しい事なのかもしれませんが、しかし、素直に従えるはずがありません。 ―― だから…私は父に交換条件を出しました。 もし、高校でも全国優勝出来れば…長野に残る事を考える。 頑固者ではありますが、検事らしい真っ直ぐさを持つ父がその約束を違えるはずがありません。 そして逆に言えば…私が優勝出来なければ、引越しによって私は東京に行かされる事になるでしょう。 それは…それは決して我慢なりません。 幾ら子どもっぽい感傷とは理解していても…私は中学からの親友であるゆーきとも… そして高校から友人になれた須賀君とも別れたくはないのです。 ―― その為に…宮永さんを利用するのは少しだけ…気が引けました。 宮永さんの強さは今まで私が見てきた誰のものよりも異質なものです。 常識が通用しない並外れた運や、牌を見通しているような打ち筋は、天賦のものと言っても良いでしょう。 しかし、今の私には…その力が必要不可欠なのです。 私が全国に行って…父との約束を護る為に…そして須賀君と仲直りする時間を作る為に…麻雀部に入ってくれた彼女の力が必要でした。 「…ふぅ」 アレだけ嫌っていた彼女から力を借りなければいけない情けない自分。 それにため息を漏らしながら、私は強い無力感と自分に対する怒りを感じます。 それに頬が微かに紅潮しますが、さりとてその感情はなくなりません。 今の私にとっては…自分の姿というのはそれくらい惨めで…そして酷いものだったのです。 ―― こんな風に誰かを利用するような人になんてなりたくなかったのに…。 しかし、決して譲れないものを護る為にそうしなければいけません。 どれだけそれにプライドが傷ついても…私はそれ以上に二人の事が大事だったのです。 結果として何の非もない宮永さんには悪い事をしてしまっていますが、私にはコレ以上に冴えたやり方なんて思いつきません。 そんな私に呆れたのか、ここ最近はゆーきもあまり話しかけてはくれなくなり…須賀君の元へと寄る姿を良く見かけました。 ―― 私は…。 そうやってゆーきが失望するのも無理はないでしょう。 それくらい…ここ一週間の私は酷いものだったのです。 しかし、事情全てをゆーきに伝えてしまったら余計に失望されるかもしれません。 そう思うと私はゆーきの事を引き止める事も出来ず…最近は独りでいる事が多くなりました。 ―― …あれ? それに再びため息が漏れそうになった瞬間、私の携帯がカバンの中でブルリと震えました。 ふとそちらに視線を向ければ、そこには着信を伝える画面が表示されています。 既に時刻の昼休みとなり、教室で平然と通話している人もいるので、それは問題ではありません。 ただ、私が気になったのはそこに表示されている名前が…―― ―― …宮永さん…? 少しずつ疎遠になるゆーきとは入れ違いになるように少しずつ仲良くなっていった彼女。 しかし、それは決して本心からのものではなく、宮永さんを利用している後ろ暗さからでした。 私は未だに彼女の打ち方に対して怒っていますし、色々と奪われた事に対しても不満を覚えています。 けれど、それを隠しながら接近すれば、彼女は屈託のない笑顔を見せてくれるようになりました。 そんな彼女に申し訳なさを感じながらも、私は今日、昼食を一緒にする約束をしたのです。 ―― それなのに…どうして今? 昼休みになった今、私たちは後数分も経たない内に顔を合わせる事になるのです。 私と話がしたいなら、その時にすれば良いでしょう。 しかし、それでもこうして電話が掛ってきたという事はきっと彼女にとって急を要する何かのかもしれません。 それが何かは分かりませんが、無視する訳にはいかないでしょう。 「…もしもし」 「あ、原村さん?」 そう思って通話ボタンを押した私に、宮永さんの声が届きました。 ここ最近、私に対する硬さが徐々に失われていくその声に私の胸はまたも痛くなります。 けれど、ここ最近で平静を装う事ばかり上手くなった私はそれを表に出したりはしません。 いつも通りの原村和を演じ、まゆ一つ微動だにさせないのです。 「えっと、そっちに京ちゃんいるかな?」 「須賀君ですか…?」 尋ねる宮永さんの言葉は本来であれば、即答出来るものでした。 ここ最近、彼の姿をさらに目で追うようになった私には、彼が既にゆーきと一緒に教室を出て行った事くらい分かっているのですから。 その手には何も持っていなかった辺り、多分、学食にでも行っているのでしょう。 「いえ…もう教室から出たみたいです」 「そっかぁ…まったく…京ちゃんったら…」 「仕方ないなぁ」と言いたそうな宮永さんの言葉に私は小さく…ほんの小さく自分の歯を噛み締めました。 だって…それはまるで私に須賀君との付き合いの長さを魅せつけるようなものだったのですから。 幼馴染という絶対的なポジションにいるが故に放たれるそれに私の感情は一気に燃え上がります。 怒りや悔しさ、そして不公平感混じりのそれは私の仮面から僅かに漏れだし、そうやって身体を微かに強張らせてしまうのでした。 「えっと…それで一つ聞きたいんだけど…」 「なんでしょう?」 とは言え、それを宮永さんにぶつけてもなんにもなりません。 彼女に悪意はない訳ですし、何より、私は宮永さんに大きな借りを作っている状態なのですから。 ここで彼女の機嫌を損ねるような真似は出来ませんし…何よりそれを心苦しいと思う気持ちは私にもありました。 結果、私は平静そのものの言葉で宮永さんに聞き返し、彼女の答えを待つのです。 「今日のお昼、京ちゃんも一緒で良いかな?」 「え…?」 しかし、そんな私でも…それは平静を装う事が出来ないものでした。 いえ…そんなの私じゃなくたって平静でいつづける事は出来ないでしょう。 だって、宮永さんがそんな事を口にするなんて予想出来る人なんて・・・きっと何処にもいないのですから。 「あの…京ちゃんがご一緒させてくれないかって…」 「ほ、本当ですか!?」 それだけでも頭の中が一杯でどうすれば良いか分からない私。 それが次の瞬間、歓喜へと変わったのは、宮永さんの言葉があまりにも嬉しかったものだからでしょう。 ついつい平静の仮面を投げ捨て、思いっきり食いついてしまった自分に頬が再び朱を混じらせます。 ついさっきまでからは想像もつかない自分の姿が恥ずかしくありますが、私の胸の動悸は収まらず、ドキドキと激しく脈打っていました。 ―― 須賀君も…私と一緒を…望んでくれている…。 その言葉がジィンと私の胸を震わせ、目尻を微かに濡らします。 強い感動にも似たその歓喜は…ここ一週間の私の苦悩を覆すものでした。 アレだけ心を重く沈ませていた感情がぱっと消え、胸が軽くなるのを感じます。 この一週間で一番嬉しいそのニュースに、私は胸を躍りだしそうなくらい喜んでいたのです。 「う、うん…」 「そ、そう…ですか…」 そんな私に気圧されるような宮永さんの声が電話口から聞こえてきます。 それに浮かれっぱなしであった自分への気恥ずかしさが強くなり、ついつい言葉を詰まらせてしまいました。 けれど…それでも私の胸にゆっくりと広がっていくその暖かさは変わりません。 いえ、寧ろ、それが言葉として出てこない分、私はそれを強く実感し…久方ぶりの暖かな感情にゆっくりと浸る事が出来たのです。 ―― でも…それならそうと…はっきり言ってくれれば良かったのに…。 その感情に身を委ねる私の胸から出てきたのは、須賀君に対する微かな不満でした。 そうやって私と一緒に食事をしたいのであれば、彼から言ってくれればそれで良かったのです。 そうすればきっと私は宮永さんから伝えられた今よりもきっと喜ぶ事が出来た事でしょう。 しかし、彼は思った以上にシャイで…そして、きっとその分、傷ついていたのです。 少なくとも…私に対して直接、昼食を誘えないくらいに。 「あ…え、っと…大丈夫だから!」 「…え?」 ならば、今度はこっちの方から近づいて…仲直りをしてあげなければいけない。 そう思って肯定の言葉を返そうとした瞬間、宮永さんはそうやって声を返しました。聞こえてきた声に私は思わず首を傾げてしまいました。 主語のない宮永さんのその言葉は私にとって理解が及ばないものだったのです。 さっきまで歓喜に浸り、ひたすらに沈黙を返していた訳ですし、文脈的にその主語を悟る事は無理でしょう。 「えっと…その…何て言うか…」 しかし、そんな私の疑問に返すのは勿体つけるような宮永さんの言葉でした。 それに微かな苛立ちを感じるのは、私が早く彼と一緒に食事をしたいからでしょう。 一秒でも早く須賀君と仲直りしたい私にとって、彼女のその逡巡は鬱陶しいもの以外の何物でもありません。 それでも、早く結論を出して欲しいと胸中でだけそう急かしながら、私は辛抱強く彼女の言葉を待ったのです。 「私、京ちゃんと付き合ってるから」 ―― 何を…言っているんですか…? それを聞いた瞬間、私は聞き間違いだと思いました。 だって…須賀君は私の事を好きだって…遠回しではあれど好きだってそう言ってくれたのです。 それから少し経って…私は彼のことを嫌いだと…そう言っているところを目撃されてしまいました。 それに彼は傷つき、そして悲しんだ事でしょう。 しかし、だからと言って、彼がそう易々と他の女性に乗り換えるような人だとは思えなかったのです。 「…冗談…ですよね?」 だからこそ、私はそう尋ねました。 その声が狼狽を浮かべるように震えるのも構わず、私は宮永さんにそう聞き返したのです。 そこにはもう自分を取り繕うとする意思はもう殆どありません。 あるのはただ、この理不尽な情報が嘘であって欲しいという祈りにも似た感情だけ。 「ううん。本当だよ」 けれど、そんな私の祈りは何処か照れたような宮永さんの言葉に粉々に砕かれてしまいました。 私の微かな希望すら閉ざすその言葉に頭の処理が追いつきません。 脳裏を埋め尽くすのは信じられないという感情ばかりで、まったくそれを論理的に片付ける事が出来ないのですから。 その弊害は足元にも現れ、私の身体がクラリと揺れてしまいます。 恐らく椅子に座っていなければその場に倒れ込んでいたであろうと思うほどのそれに私はひとつの結論を出しました。 ―― あぁ…そう…これは…夢なんですね。 だって…だって、こんなのあり得るはずがありません。 須賀君は私の事が好きだったのに、宮永さんと付き合うだなんてそんな事はないのですから。 本当の彼はきっと今も傷ついたまま…私と仲直りする事を望んでくれているのです。 これはきっと須賀君を信じきれなかった弱い私が見ている夢で…だから…早く冷めないと… ―― 「でも…どうして?」 「…え?」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「どうして、そんな事聞くの?」 そう思う私の思考に冷水を掛けたのは…宮永さんの冷たい言葉でした。 さっきまでのはにかんだような温かい言葉とはかけ離れたそれに私の背筋がゾクリとしたものを感じます。 まるでひとつ選択肢を間違えれば、自分の命がないようなその恐ろしさに私の口は怯えたように動きません。 「原村さんは…京ちゃんの事なんて嫌いなんだから…誰かと付き合ってくれた方が都合が良いんだよね?」 「っ…!」 その言葉は私の胸の弱い部分を貫くました。 まるで狙ってその部分を抉るようなそれに私は歯を噛み締めました。 本当は…私だって色々と反論したいものがあったのです。 あれは誤解だったのだと…本心ではなかったのだと…そう弁解したい気持ちで一杯でした。 しかし、私にそんな事を言う資格はないのだと突き放すような宮永さんの言葉にどうしても言葉が出てこないのです。 「それについこの前までストーカーに付きまとわれてたんでしょ?だったら、京ちゃんもそうなるかもしれないって怖くて仕方がないよね」 「そ…んな…」 そんな事はありません。 私が心配していたのは須賀君を傷つけてしまった事だけで、彼がストーカーになるだなんてまったく考慮していなかったのですから。 入学してからこれまで色々あったお陰で私は彼の良さを知っているのですから。 優しくて暖かくて…時々、お調子者だけど憎めない…須賀君の良さを。 そんな私にとって、彼がストーカーになる姿なんて想像も出来ず、必死に否定の意を返そうとしました。 ・ ・ ・ ・ 「だから、安心して。京ちゃんはもう原村さんに興味がないみたいだから」 しかし、そんな私の言葉が聞こえていないのか、或いは聞こえていて無視しているのか。 私の言葉を遮るように放たれた宮永さんの言葉は心を抉ります。 アレだけ一緒に居て…可愛いって…好きだって言ってくれたのに…興味が無いだなんて信じられません。 しかし…それを否定するだけの明確な証拠は…私にはありませんでした。 須賀君の幼馴染であり、今現在、再び恋人という地位に復権した彼女の言葉を覆すような何かなんて私にはないのです。 「でも、京ちゃんも麻雀部で原村さんとギクシャクするのは嫌みたい。だからコレを期に仲直りしたいってそう思ってるみたいだよ」 「そっそうですか!」 それに項垂れそうになる私に届いた宮永さんの言葉。 それに私は声を上擦らせ、俯きがちになっていた顔をそっとあげました。 だって、それは須賀君が私の事を、ちゃんと考えてくれているっていう証なのですから。 興味が無いなんて宮永さんの口からでまかせで…本当は私の事を気にかけてくれているのです。 いえ、もしかしたらさっきの恋人云々だって、宮永さんが嘘を吐いていたのかもしれません。 ううん…きっとそうに違いないのです。 ―― 須賀君は…須賀君はそんな風に軽い人じゃありません。 確かに金髪で表情がコロコロと変わる彼は決して硬派には見えないでしょう。 しかし、その実、麻雀という難しい競技対する姿勢は、決して軟派なものではありません。 寧ろ、とても真摯で真正面から向き合い、私達からも色々なものを吸収しようとしているのが伝わってくるのです。 そんな彼が…そうホイホイと好きな相手を変えるはずがありません。 きっとそれらは全て宮永さんの冗談だったのでしょう。 ・ ・ ・ 「うん。だから…お友達として仲良くする為に皆で一緒に食べないかな?勿論、原村さんさえ良ければ…だけど…」 「い、行きます!」 その瞬間の私にとって宮永さんの奇妙なアクセントはまるで気にならないものでした。 それよりも私と仲直りしたいと思ってくれている須賀君に早く会いたくて仕方がなかったのです。 今の私にとって多少の違和感よりも優先するべきは私が傷つけた須賀君の事だったのでした。 「じゃあ、学食前で待ってるから…またそこで落ち合おうね」 「分かりました」 宮永さんの言葉に頷きながら、私はそっと携帯の通話を切りました。 そのまま携帯を握りしめながら、私はカバンから自分のお弁当を取り出すのです。 宮永さんと昼食を一緒にする約束をしていたので大目に作ったそれはあまり気合を入れて作った訳ではありません。 それを内心、強く後悔するのは、もしかしたらそれを須賀君も食べてくれるかもしれないからです。 こんな事になるのならば、以前みたいにちゃんと数日掛けて準備しておくのだったと胸中で言葉を漏らしながら、私は椅子を立ち上がり食堂へと向かいました。 ―― まずは…どういうべきでしょう…?やっぱり…ごめんなさい…でしょうか…? その道中で胸中に浮かぶ言葉は悩ましいものでした。 仲直りのキッカケこそ出来たものの、私はどうやって彼に謝罪すれば良いのかまったく考えていなかったのですから。 勿論、この一週間近くずっと考え続けていたその答えが簡単に出てくるはずがありません。 しかし、今までと大きく違うのはそうやって悩む感覚もまた嬉しく、足取りも軽いという事でしょう。 ―― そう…須賀君も仲直りするのを望んでくれているなら…何も恐れる事はないんです。 私から謝罪する必要はあるでしょう。 誰がどう見たって、例の一件は私が悪いのですから。 しかし、須賀君も仲直りする為の姿勢を求めてくれているのであれば、何も恐れる事はありません。 きっと彼もそれを受け入れ、またいつも通りの関係に戻る事が出来るでしょう。 そうなったら…もう須賀君にとって、宮永さんなんて用済みです。 本当に好きな私が手元に戻ってきてくれたのですから、無理をして宮永さんの冗談に付き合う必要なんてなくなるのですから。 「あ…」 そんな私の視界に映ったのは学食の入り口に立つ須賀君の姿でした。 スラリとした長身を見せびらかすように立ちながら、その手に袋入りのお弁当を持っています。 恐らく何処かのコンビニで買ったのであろうそれはあまり健康に良くありません。 そういったお弁当は保存料や着色料が一杯で発ガン物質だって入っている事があるのですから。 そんなものよりも私のお弁当を食べて欲しい。 そう思いながら、私は駆け出すようにして須賀君に近づきました。 「ばーか。心配すんなって」 「ふにゅぅ…」 「…え?」 そこで私はようやく彼の傍にいる宮永さんの存在に気づきました。 須賀君の手で頬を伸ばされるその目は不満そうです。 しかし、それが何処か嬉しそうでもあるのは、それだけ彼女が彼に心を許している証なのでしょう。 そう思った瞬間、近づく私の足は鈍り、その場にそっと立ち尽くしてしまうのです。 「別に…和とは何でもねぇよ。だから、心配すんなって」 「れも…」 そんな私の存在に二人はまだ気づいていないようでした。 まだお昼休みも始まったばかりで学食前は人通りが少なくないということもあるのでしょう。 二人の視線はお互いにだけ向けられ、そう言葉を交わしていました。 まるで世界が自分たちだけのような二人の姿に私の胸が痛みますが、さりとて、私はそこに近づく事は出来ません。 何せ…須賀君の口から漏れる言葉の中には私の名前があったのですから。 盗み聞きになるような形になるのが心苦しくはありますが、必要以上に気まずくならない為にも今は顔を出せません。 「アレだけてひどく拒絶されたら未練なんか残せないっての」 「っ…!」 瞬間、聞こえてきた声に私の胸が張り裂けそうになりました。 だって…それは私の言葉が彼をそれだけ傷つけていたという証なのですから。 いえ…それだけであれば…それだけであれば、まだ私はその痛みを受け入れる事が出来たでしょう。 しかし…実際には…彼はもう…私に『未練なんか残せない』って…私の事を好きじゃないって…そう言ったのです。 ―― 嘘…でしょう? それを信じられる人が…一体、どれだけいるでしょうか。 喜びから一転、絶望へと突き落とされる感覚に私は目の前がグラリと揺れました。 視界も急激に胡乱になり、足元がまるでこんにゃくでも踏みしめたかのようにグニャリとします。 しかし、それでもはっきりと須賀君たちの姿だけは私に認識され…ぼやけた世界の中で浮かび上がっているのです。 まるでそこだけは別格なのだとそう言うような自分の反応に、私はどうしたら良いのか分からず、立ち尽くしてしまいました。 「本当…?」 「本当だ。嘘じゃねえよ」 「……」 そんな私の前で宮永さんは小さな沈黙を続けました。 まるで次に何を言うのか迷っているようなそれが…私が介入する最大のチャンスなのでしょう。 またここで二人が会話を始めれば何とも話しかけづらくなってしまうのですから。 しかし、そう分かっていても、須賀君がもう私の事なんて好きではないと言った言葉は…あまりにもショックだったのです。 どれだけ自分を叱咤してもその足は動かず、まるで縫い付けられたかのように床から離れませんでした。 「じゃあ…手を…握ってくれる?」 「ん?それくらいお安いご用だけど…」 「…ちゃんと恋人繋ぎで」 「いきなりハードルあがったなおい」 そんな私の前で宮永さんがそっと手を出しました。 手のひらを下にして須賀君へと伸ばしたそれはまるで何かを要求しているようです。 いえ…実際…彼女は要求しているのでしょう。 恋人かそれに近しいくらい仲の良い関係ではないと出来ない恋人繋ぎを…彼女は要求しているのです。 「ま、それくらいで信じてもらえるなら安いもんだけどさ」 「あ…」 そう言いながら須賀君は宮永さんの手を掴みました。 その指と指と絡ませあいお互いの手の甲をガッチリと掴むのです。 二人が尋常ではない仲だと伝えるそれに…私の胸はもう限界でした。 許容値を超えた痛みを酸素で誤魔化そうとするように、はぁはぁと荒く息をつき始めるのです。 しかし、それでも私の痛みは消えず、胸の奥をかきむしりたいほどの辛さが私の全身を揺さぶるのでした。 「えへへ…」 「んだよ。そんなに嬉しいもんか?」 「そりゃ…女の子の憧れだもん。当然でしょ?」 「そういうもんかなぁ…」 そんな私の十数メートル先にいる宮永さんはとても幸せそうでした。 さっきまでの心配そうな表情を何処へやったのかと言いたくなるほどに…その表情は蕩けていたのです。 それはきっと…今、手を繋いでいる須賀君が、好きで好きで堪らないからなのでしょう。 病室で話を聞いていた限り…宮永さんは恐らく別れてからもずっと須賀君の事が好きだったのです。 ―― そこは…そこは私のものだったのに…っ! そうやって須賀君を恋人繋ぎをするのは私のはずでした。 彼が好きだと言ってくれた…私のはずだったのです。 しかし…現実、彼がそうやって手を許しているのは私ではありません。 一度、彼を捨て、別れた宮永さんなのです。 ―― どうして…どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…!? 勿論、その理由は私にも分かっていました。 宮永さんに付け入る隙を作ってしまったのは私の方なのです。 しかし…それでも私は目の前の現実を信じる事が出来ません。 何処か夢見がちなふわふわとした落ち着かなさから、これが夢であるとさえ思っていたのです。 「あれ…和?」 「あ…」 そんな私の思考が現実へと戻ってきたのは須賀君が私に気づき、近寄ってくれたからでした。 それに顔をあげれば、二人の手はもう繋がれてはいません。 いえ…きっと最初から二人は恋人繋ぎなんてしていなかったのでしょう。 アレは私が見た幻覚であり、さっきの会話も幻聴でしかありません。 そう思ったら痛みで荒れた呼吸も落ち着いていきました。 勿論、さっきのショックが大きすぎてまだ平静とは言えませんが、平静を装うくらいは出来るようにはなっていたのです。 「すみません。遅くなりました」 「ううん。気にしないで」 そう謝罪をする私に答えたのは宮永さんの方でした。 にこやかなその笑みは微かに紅潮しています。 もしかしたら宮永さんは体調が悪いのかもしれません。 或いは昼の陽気にあてられたのかのどちらかでしょう。 少なくとも、さっき須賀くんと恋人繋ぎをしていたのを見られていたのが恥ずかしいなんて事はないはずです。 さっきのそれはあくまで私が見た幻覚であり、現実とは程遠いフィクションなのですから。 「んじゃ三人揃ったし、そろそろ行こっか」 「そうだな」 「はい」 そう言って歩き出す須賀君の横に私は並ぼうとしました。 しかし、それよりも先に宮永さんはすっと左隣に並んでいた宮永さんがそっと左へと寄っていくのです。 結果、須賀君はそれに押されるようにして左端へと追い詰められ、彼の隣が塞がれてしまいました。 お陰で私は宮永さんの隣に立つしかなく…須賀君との距離にやきもきするしかなかったのです。 ―― その上…会話も宮永さんと須賀君ばっかりで…。 これが間に入っているのがゆーきであれば私にも会話を振ってくれたのでしょう。 しかし、今、私達の間にいるのは、気心の知れた親友ではなく、利用する為に友人のふりをしている宮永さんなのです。 そんな彼女が私に気を遣ってくれるはずもなく、会話の殆どは二人の間で始終していました。 それに疎外感を感じる私に、須賀君は何度か視線をくれますが、何も言ってはくれません。 まるでどうすれば良いのか逡巡を浮かべている間に、宮永さんの話題に答えなければいけなくなるのです。 ―― 別に…それくらい構いません。 その程度で拗ねるほど私は子どもではないのですから。 こうして仲直りを求めてくれたのが須賀君である以上、幾らでも仲直りするチャンスはあるのです。 そうなったら…宮永さんの独壇場にはなりません。 私だって以前のように須賀君と仲良く会話を楽しむ事が出来るのですから。 もう目前に迫っているであろうそれを前にして、一々、目くじらを立てるほど、私は愚かしくないのです。 「おっそーい!もうはらぺこだじょっ」 「なんだ、タコス娘もいるのかよ」 「なんだとはなんだ」 そうやって中庭の集合場所に着いた私達を迎えてくれたのはゆーきでした。 昼休みになってすぐに教室を飛び出していったのは、恐らく場所をとる為なのでしょう。 日差しの良い芝生の真ん中を青地のシートが占領しています。 そんな彼女に私たちは謝罪しながら腰を降ろし、各々のお弁当を広げるのでした。 「咲は学食のおにぎりだけか?」 「作るの忘れちゃって…」 須賀君の言葉に恥ずかしそうに返す宮永さんの昼食はお世辞にも多いとは言えませんでした。 金欠なのか学食のおにぎり一個しかないのは女の子もでも満たされません。 きっと放課後になった頃にはお腹が空いて、麻雀にもちゃんと集中出来なくなるでしょう。 ―― 仕方ない…ですね。 「よろしければいかがですか?多めに作ってきました」 そう言って、私が宮永さんにお弁当を差し出すのは、また不甲斐ない打ち方をされると困るからです。 もう県予選までそれほど時間がある訳でもないのに、時間を無駄にされたくはありません。 他力本願のようで自分に苛立ちを感じますが、もし、全国で宮永さんのような打ち手と出会ったら…勝てる自信がないのです。 もし、そんな相手と出会ってしまった時の為にも…宮永さんには出来るだけ実力をつけて貰わなければいけません。 ―― それに…。 そう思いながらチラリと須賀君に目を向ければ、彼は私のお弁当を羨ましそうに見ていました。 ストーカー事件の際、私の料理を何度か食べている須賀君にとって、それは美味しそうに思えるのでしょう。 そんな彼に小さく笑みを浮かべる私が…彼を無下には扱うはずがありません。 寧ろ、宮永さんにそれを薦めたのは、須賀君にそれを薦める下地を作る為でもあるのですから。 「おいしい!原村さんは料理上手だね!」 「ぅ…」 しかし、その瞬間、宮永さんは私に屈託のない笑顔を向けてくれました。 一点の曇もないその笑みは、計算ずくで彼女に薦めた私の後ろ暗さをジリジリと刺激します。 自然、自分と対比してしまう彼女の笑みに私はズキンと鋭い痛みを感じました。 それと共に沸き上がってくる自己嫌悪や羞恥の感情が私の頬を紅潮させるのです。 「く…空腹のせいで部活で負けられても困りますから…」 「のどちゃんは私の嫁だからな!」 そんな私が言葉を紡いだ瞬間、ゆーきがかぶせるようにそう言いました。 ぐっと握り拳を作りながらのそれに私は思わず笑みを浮かべてしまいます。 冗談めかしたゆーきの言葉に私の中のもやもやとした感情は大分、薄れていきました。 勿論、それを狙った訳ではないでしょうが、それでも素直にありがたいと、そう思えるのです。 「よ、嫁…?」 そんなゆーきの言葉に反応したのは須賀君でした。 にへらと頬を緩ませるその顔はまた何かいやらしい事でも考えているのかもしれません。 けれど…それが嫌ではないのはきっと相手が須賀君だからでしょう。 他の誰かであれば気持ち悪さに逃げ出したくなりますが…気心も知れた彼ならばそれでもいいかな、と…そんな風に思えるのです。 「残念ながら、のどちゃんは男より麻雀だじょ」 「…ぅ」 そう言いながら、ゆーきはチラリと私に視線を向けました。 まるで私に発破を掛けるようなそれに私はつい言葉を詰まらせてしまいます。 本来であれば…別にそんな事はないと否定するべきなのでしょう。 ですが…須賀君がいる前で…お、男の人に興味津々だなんて思われたくはありません。 私が興味を持つほどに気を許しているのは父を除けば須賀君だけなのですから。 「…」スッ そう逡巡している間に、昼食の場に気まずい沈黙が流れました。 その隙を狙うようにしてゆーきがそっと須賀君の袋に手を入れ、肉まんを取り出します。 あまりに自然なその動作に須賀君は最初、気付けなかったのでしょう。 彼が気づいたのはゆーきがその口元に肉まんを運ぼうとしているその瞬間だったのです。 「ってそれ俺の肉まんじゃねぇか」 「チッ」 ―― …ゆーき…。 普段の彼女は人様のお弁当に無断で手を付けるような真似はしません。 明るく、人との距離を詰めるのが得意な子ではありますが、最低限の礼儀くらいは心得ているのです。 そうでなければ、私がゆーきと親友になるような事なんてありえません。 だからこそ、そんな彼女が須賀君の肉まんに手を出したのは気まずい沈黙を何とか打ち破る為だったのでしょう。 それに感謝と…そして強い申し訳なさを感じるのはゆーきが作ってくれた仲直りのチャンスを私が活かす事が出来なかったからでしょう。 それに私がそっと顔を俯かせた瞬間、須賀君がゆーきの手をぐっと掴むのを視界の端で捉えました。 ―― それから何が起こったのか私には見えませんでした。 視点を下へと向けた私に見えたのは、ゆーきが後ろに倒れ、その上に須賀君がのしかかっている様だったのです。 手首を掴んでから一体、どんな事をすればそんな風になるのかまったく理解出来ません。 しかし、理解出来なくても目の前の現実は決して変わらず…私は呆然と二人の様子を見つめていました。 「い…今はダメ…っ」 そんな私に聞こえてきたのはか細いゆーきの声でした。 普段の快活な様子からは想像も出来ないその小さな声に須賀君がとても気まずそうな顔をします。 それはきっと彼女の目尻に微かではありますが、涙のようなものが浮かんでいる所為なのでしょう。 それに須賀君は冷や汗を浮かべ、顔全体でやってしまったと言わんばかりの気まずさをアピールしていました ―― でも…面白くありません…。 勿論、二人に他意なんてない事くらい私には分かっているのです。 あくまでもアレは不幸な事故でどちらもそうしようと思っていた訳ではないのでしょう。 しかし、そうと分かっていても…そうやって見つめ合う二人の姿は私にとって面白いものではありませんでした。 ましてや…気まずそうに須賀君がどいた後も、まるで意識するようにお互いの事をチラチラと見るのでうから。 それについつい食事のペースもあがり…気づいた頃にはオカズが空になってしまいました。 「あ…」 それに気づいて私が声をあげた頃にはもう遅いです。 須賀君に食べてもらいたかったものは全て自分の口へと放り込まれてしまったのですから。 後はもう朝に炊いたご飯しかありませんが…そんなものを渡されても須賀君が困るだけでしょう。 結果…私はまた彼に料理を振る舞う事が出来ず…失敗してしまったのです。 「の、のどちゃん…?」 「…大丈夫ですよ、ゆーき」 そんな私を心配してくれたのでしょう。 伺うように言うゆーきに私はそう返しました。 それは微かに強がり混じりのものでしたが、けれど、決して嘘ではありません。 だって、この後には須賀君を仲直りする機会が待っているのですから、下手に落ち込んでばかりいられません。 それよりはここから先、どうやって須賀君に話を切り出すかを考える方が重要でしょう。 「……」 「……」 しかし、どれだけ考えても私の中で彼に謝罪する言葉は出て来ません。 謝罪しなければいけないと分かっているはずなのに、私はモジモジと指を絡ませ、彼をチラチラと見るだけでした。 まるで彼から言ってくれるのを待つような自分の姿に自己嫌悪を感じますが、しかし、頭の中で考えはちゃんと纏まりません。 この期に及んでも私は「ごめんなさい」の次の言葉を、決める事が出来ていなかったのです。 「あー…その…和。急に俺も入れてくれ…なんて言ってごめんな」 「いえ…そ、そんな事…」 結局、先に口火を切ったのは須賀君の方でした。 シートに腰を落としながらそっと頭を下げる彼に私は首を振りました。 確かに驚きはしましたが、そうやって仲直りする事は私も望んでいたのですから。 寧ろ、そのキッカケを作ってくれた事に私は感謝していたくらいなのです。 「でも…一応、ちゃんと俺から伝えるべきだと思ったんだ」 「…え?」 須賀君はそう言いながら、その佇まいを治りました。 さっきまであぐらを掻いていた姿勢から、正座をし、背筋をピンと伸ばしたのです。 その表情も引き締まり、まるでこれから重要な話をすると訴えているようでした。 それに私の胸はトクンと跳ね、頭の中がカァァと熱くなっていくのです。 ―― まさか…こ、こんなところで…? 須賀君が言う大事な話だなんて…私には一つしか思いつきません。 きっと彼は私のことをまだ好きなんだって…そう言おうとしてくれているのです。 その横に宮永さんやゆーきがいるのは恐らく、宮永さんへの牽制なのでしょう。 彼と付き合っているって言う悪質な冗談を繰り返す彼女に現実をしらしめる為に…わざわざこんな場を設けてくれたのです。 ―― ど、どうしましょう…ま、まだ…心の準備が…。 ついさっきまでどうやって彼に謝罪するかを考えていた私が、そんなもの出来ているはずがありません。 私は胸中で強い狼狽を浮かべ、どうして良いか分からなくなりました。 しかし、それも二回目ともなればいい加減、自己分析だって進みます。 私が何をしたいのか、そして…須賀君に何を求めているのか。 彼が遠ざかってほんの少しずつ見えてきたそれを…彼の返事とすれば良いだけ。 そう思えば…仲直りするよりも幾らか気が楽になり、私は彼の言葉を待つのです。 「これまで和の気持ち考えずに付き纏っていてごめんな。でも、これからは…その…大丈夫だからさ」 「…何が…ですか?」 ポツリポツリと漏らすその言葉に合わせて私の鼓動は高鳴ります。 一体、須賀君がそこからどんな告白をしてくれるのか分からない私にとって、それは緊張を広げるものでした。 しかし、それだけではないのは…私がその言葉を心待ちにしているからでしょう。 今度こそ…ちゃんと須賀君に返事を返したい。 そう思いながら私もまた佇まいを直し、須賀君へと向き直るのです。 「俺は…少し前から咲と付き合い始めたから。だから…もう下手に付き纏ったり、ストーカーになったりしないし安心してくれ」 「えっ…?」 それに驚きの声をあげたのは私ではなく、ゆーきの方でした。 まるで信じられないものを見たように、その目を見開いています。 そのままギュっと手を握り締める彼女の心境は私には分かりません。 けれど…私は須賀君の気持ちだけは良く分かっていたのです。 「えぇ。それは分かりました。で…本題はなんですか?」 「え…?」 私の言葉に今度は須賀君が驚いた顔を見せました。 微かに強張ったその表情は、もしかしたらそんな風に言われると思ってはいなかったのかもしれません。 きっと須賀君は私は驚きに固まり、そして拗ねる様を見せるのだと思っていたのでしょう。 けれど、そんなドッキリはもう私には通用しません。 ・ ・ 「まさか、そんな冗談を言う為に私に会いに来てくれた訳じゃないでしょう?」 だって、その冗談は既に宮永さんから聞いているのです。 そんな今更、同じ冗談を聞いて驚いてあげるほど今の私は余裕がありません。 だって、私のドキドキは…今も収まってはいないのですから。 今ここで須賀くんから告白されるっていう期待が…いえ、確信は今も高まり続けて、決して収まってはいないのです。 「他に私に言う事があるのではないですか?」 「え、えっと…お、俺も麻雀楽しくなって来たから麻雀部抜けたくないけど…和が俺の事を気にするなら退部する事も…」 「問題ありません。他には?」 「え、えっと……あんまり気にせずに今まで通り接してくれると嬉しいって…」 「勿論です。…それで?」 私の言葉に須賀君はしどろもどろになって応えてくれました。 けれど、彼はシャイなのか中々、私が欲しい言葉をくれません。 以前、一度、私に聞かせてくれた言葉を、もう一度言ってくれればいいのに…彼は私を焦らしてばかりなのです。 そんな意地悪な彼に少しだけ視線が鋭くなりましたが…それもまぁ、仕方のない事でしょう。 何時までも…私を好きだって…宮永さんじゃなくって私を選んだんだって…そう言ってくれない須賀君が悪いのですから。 ―― キーンコーン 「あ、チャイムだ」 「そ…そっか」 その音に須賀君はそっと胸を撫で下ろしました。 まるでここから逃げる事が嬉しくて堪らないと言うようなそれはきっと緊張していたからなのでしょう。 幾ら須賀君とは言え、こうして二人がいる前で私に告白する事が気恥ずかしくてもおかしくはありません。 なら、この後、須賀君と二人っきりになれば、彼だってきっと勇気を出してくれるに… ―― 「京ちゃん、そろそろ…」 「あぁ、そうだな」 「…え?」 そう言って、二人は立ち上がり、二人でシートを片づけ始めました。 お互いに手を触れる事をまるで厭わず、仲良く片付けるそれには淀みがありません。 まるで相手が次にしたい事が分かっているかのように言葉を交わす事もなく、さくさくと進んでいくのです。 結果、数秒後にはそれはもう須賀君の脇にすっぽりと収まり、二人は各々の荷物を持ち上げました。 「じゃ…悪いけど、咲の奴、図書室に本を返さないといけないみたいだから、心配だし先に戻るわ」 「もう…流石に学校じゃ迷子になんてならないよっ!」 「そんなのはお前の迷子遍歴思い返してから言えよ」 そう言って去っていく二人は自然とその手を繋ぎました。 まるでそうする事が自然のようなその仕草に私の理解は追いつきません。 だって…そうやって須賀君と一緒に戻るべきは私のはずだったのです。 まだ重要な話は何一つとして終わっていないのですから…私が隣にいるべきでしょう。 しかし、現実、彼の隣にいるのは宮永さんで…しかも、手まで繋いでいるだなんて…理解出来るはずがありません。 「のど…ちゃん…?」 そんな私に聞こえてきた声に視線をそちらに向ければ、そこには瞳を怯えさせるゆーきの姿がありました。 まるで私のことが怖くて仕方がないと言うようなそれに私は申し訳なくなりました。 結局、ネタばらしもする事なく、大事な話もしてくれないまま、去っていった二人に怒っているのが、彼女には分かったのでしょう。 「まったく…悪質な冗談ですよね」 「のどちゃん…」 だからこそ、私は彼女に務めて明るい笑顔を見せました。 多少、無理して浮かべたそれにゆーきが気遣うように私の名前を呼びます。 けれど、私はそれに構わず、須賀君たちと同じようにそっと立ち上がりました。 中庭のここから教室までは結構な距離がありますし、あんまりのんびりはしていられません。 「さ…帰りましょう」 「う…うん…」 けれど、そうやって明るく笑ってもゆーきが緊張や怯えが消える事はありませんでした。 いえ、寧ろ、そうやって私がいつも通りに振舞おうとすればするほど、彼女のそれは大きくなっていくのです。 それに私は申し訳なくなりながらも…どうして良いか分かりませんでした。 ―― だって…気を抜いたら…全部、認めてしまいそうだったのですから。 一体、それが何なのか私にはもう分かりません。 いえ、それさえも分かりたくないのです。 だって…それこそが、私が私を維持する唯一の方法だったのですから。 あらゆるものから目を背け、耳を塞ぎ、ただただ逃げ続ける事だけが…私に許された唯一の防護策だったのです。 ―― だからこそ…私はその日の部活を無事に終わらせる事が出来たのでしょう。 染谷先輩の手伝いと称して部長に送られた雀荘で私たちは惨敗しました。 宮永さんでさえ手も足も出なかったそれは…以前の私であれば打ちのめされていた事でしょう。 けれど、その日の私はあらゆる現実を遮断し、ただ平静を装うだけの機械だったのです。
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/1833.html
http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370070429/ それからの私の日常は大きな変化を迎えました。 朝、事情を話して泊まってくれているゆーきを起こし、朝ごはんの準備を。 寝ぼけ眼な彼女をの世話をしながら、学校の準備をした頃には須賀君が迎えに来てくれます。 そのまま三人で登校をする際には色々とからかわれますが、既に夫婦扱いにも慣れ始めていたので特に気にはなりません。 ―― それからは須賀君とはまた別々ですけれど…。 しかし、授業が終わり、部活も終わった後はまた一緒に下校するのです。 その際、スーパーへと立ち寄って買い物をするのも忘れません。 ゆーきが傍に居てくれているとは言え、あまり頻繁に外へ出たくはありませんし、須賀君が居てくれる間に色々と済ませておきたいのです。 ―― だって…例の視線は今も続いているのですから。 いえ、ここ最近は寧ろより激しくなっていると言っても良いくらいでしょう。 何せ、それは私だけではなく傍にいるゆーきや須賀君にもはっきりと感じられるものなのですから。 勿論、それだけではなく、ここ最近は例の脅迫状も頻繁に投函されるようになっていました。 「またか」 「えぇ…またみたいです」 「凝りない奴だじぇ」 三者三様にそう言いながら、私たちはその手紙を厳重に保管していました。 けれど、そこに書いてあるのは大抵、須賀君への悪意が込められたものです。 最近では警告めいたものでさえなくなり、須賀君への罵詈雑言や殺意が滲み出るような文章に変わっていました。 ここまで来ると脅迫罪になるのではと思いましたが、やっぱり警察はまだ動いてはくれません。 お陰でゆーきは今も尚、私の家へと泊まる生活を繰り返し、須賀君もまた私の家へと送り届けるのが続いているのです。 ―― いえ…より正確に言うならば、送り届けるだけでは済んでいません。 「んじゃ…これは何処に置けば良い?」 「いつも通りリビングに運んでおいて下さい」 「あいよ」 ここ最近、須賀君は少しずつ家に気兼ねなくあがってくれるようになりました。 最初は荷物を玄関に置くだけでしたが、私とゆーきが根気よくお茶へと誘ったからでしょう。 最近は抵抗心が薄れたのか、或いは諦めたのか、誘わなくても普通にあがってくれるようになったのです。 そんな彼の変化に自分が順調に須賀くんと仲良くなれている気がして、嬉しく思っているのは私だけの秘密でした。 「それよりのどちゃん、お腹空いたじぇ!」 「もう…さっきタコス食べたばかりじゃないですか」 「タコスは別腹!」 「もう。ゆーきったら」 そんなゆーきの姿にクスリと笑いながら、私はリビングへと足を進めます。 そのままエプロンをそっと着込んだ私は二人に出すお茶の準備を始めました。 電子ケトルにスイッチを入れ、玉露の用意をするそれは自分でも最近、手馴れてきたとおもいます。 「しかし…相変わらず、和のエプロン姿は似合うな」 「も、もう…いきなり何を言うんですか…」 私の前でスーパーの袋から荷物を出しながら、須賀君は冗談めかしてそう言います。 それに顔を赤く染めてしまうのは自分でも恥ずかしいからか嬉しいからか分かりませんでした。 将来の夢が好きな人のお嫁さんである私にとって、エプロン姿を褒められるのは間違いなく嬉しいものです。 しかし、それがゆーきではなく、異性である須賀君に言われたと思うと妙にこそばゆくムズムズとしてしまうのでした。 「おっと、のどちゃんは私の嫁だから手出しは厳禁だじぇ」 「じゃあ、俺、間男で良いや」 「うわ、コイツ最低だ…」 「そこで素に戻るなよ!」 「ふふ…♪」 そんな私のむず痒さもゆーきと須賀君のやり取りを見ていると収まります。 まるでコントか何かのように打てば響くそのやり取りはとても面白いものだったのですから。 思わず赤くなっていた頬を緩ませて、笑みを零してしまうほどに。 ―― こうやって三人で過ごすのにも…最近は随分と慣れて来ました。 二人が会話をしてると一人が阻害されるという奇数での関係。 けれど、それが嫌ではないのは二人があまり口が上手ではない私の事を気遣ってくれるからでしょう。 須賀君と会ったばかりの頃とは違い、仲間ハズレにされたようにも嫉妬も感じません。 寧ろ、そうやって掛け合いを繰り返す二人を微笑ましそうに見つめる事が出来るのです。 ―― 本当…今は楽しくて…。 両親が殆ど家にいない私にとって、こうして賑やかな家というのは珍しいものでした。 勿論、まったくなかった訳ではありませんが、両親ともに賑やかなタイプではないので、あまり記憶には残っていないのです。 だからこそ、私にとってこうして賑やかな家の中は新鮮で、だからこそ… ―― ―― これがずっと続けば良い…なんて思っちゃダメですよね。 私にだってこれがあくまでも緊急避難の一種である事は理解しているのです。 二人が私のことを心配してくれているからこそ、こうして家にいてくれているのは分かっているのでした。 しかし、それでも…こうして楽しい雰囲気がずっと続けば良いと思うのはどうしても否定出来ません。 今まで一人で不安に震えていた反動か、今の私はとても人恋しい状態に陥っていたのです。 「ほら、二人共。お茶が出来ましたよ」 「わーい」 「何時も悪いな」 そんな自分を誤魔化すように湯気立ちのぼるお茶を二人へと出します。 すると、二人は喧嘩のようなやり取りをピタリと止めて、仲良くテーブルへと座りました。 ついさっきのコントのようなやり取りからは想像も出来ないそれは多分、二人が『須賀京太郎』と『片岡優希』であるが故の距離感なのでしょう。 それを微かに羨ましく思いながら、私もまた席へと着きました。 「うん…和のお茶は何時も最高だな」 「そんな…あんまりおだてないで下さい」 「いや、のどちゃんのお茶は本当、美味しいじぇ。京太郎には勿体無いくらいだ」 「サルサソースで舌が麻痺してる奴に言われたくねぇよ」 「何だと!?タコスを馬鹿にするのか!?」 「いえ、ゆーき。怒るところはそっちじゃないと思いますよ」 そんな会話をしながら流れていく穏やかな時間。 買ってきたお茶菓子を適当に摘みながらのそれはとても賑やかでした。 時折、私も混ざりながらのそれはまだ知り合って一ヶ月も経っていない三人組だとは思えません。 三人でいるという関係を長い間掛けて確立した…まるで幼馴染のような掛け合い。 だからこそ…私はそれを手放したくなくなってしまうのです。 「須賀君、今日もご飯、食べて行きませんか?」 「あー…でもなぁ…」 お茶菓子もなくなった頃、私がそう切り出したのは須賀君を帰さない為です。 勿論、ゆーきと二人っきりになっても気まずくも寂しくもありません。 三人でいる事に慣れたと言っても、ゆーきとの仲が悪くなった訳ではないのですから。 寧ろ、二人で同じ部屋に寝るようになって関係そのものは良くなったように思えるのです。 それでも、こうして須賀君を引きとめようとしていたのは、もうちょっとこの関係を楽しんでいたかったのでした。 「こう毎回、夕飯の世話になってると流石に大丈夫かって気もするんだが…」 「須賀君が送り届けてくれてるお陰で、こうして私たちは普通に生活出来ているんですから、夕飯くらい幾らでもご馳走しますよ」 その言葉に嘘はありません。 実際、須賀君が毎日、私たちの送迎をやってくれているからこそ、私たちは安心出来ているのですから。 その御礼として一人分ほど多く食事を作ったところで特に苦ではありません。 寧ろ、二人分より三人分の方がレシピの都合上、作りやすいくらいなのですから。 「のどちゃんがそう言ってるんだし、甘えれば良いじぇ」 「ん…分かった。それじゃ…ちょっと親にメール打つからさ」 ゆーきの言葉に自分の中での折り合いがついたのでしょう。 逡巡を浮かべながらも、携帯をズボンから取り出す須賀君に私は心の中でガッツポーズを取りました。 これで夕飯が終わるまで三人で一緒に居られるのです。 恐らく須賀君の夕飯を用意していた彼のお母さんには悪い気もしますが、私の嬉しさは揺らぐ事はありませんでした。 「それ終わったら一緒に宿題やろうじぇ」 「お前…それが目的かよ」 「だってーのどちゃん写させてくれないんだもん…」 「ゆーきの為になりませんから」 勿論、私だってそれがゆーきの為になるのであれば、幾らでも宿題を写させてあげます。 しかし、彼女はお世辞にも成績が良いとは言えず、麻雀も感覚頼りの打ち方をするのでした。 そんなゆーきに宿題を写させてあげても、まったく彼女の為にはなりません。 アドバイス程度は幾らでもしますが、答えを教えるような真似はこれまで一度もしませんでした。 「須賀君もあんまりゆーきの事を甘やかしちゃダメですよ」 けれど、須賀君はゆーきに対して何だかんだ言って甘い部分があるのです。 時折、喧嘩腰にも近いやり取りをするとは言っても、二人はとても仲良しなのですから。 そして根が優しくて困ってる人を放っておけない彼は、ついついゆーきに乞われるまま答えを教えたりしている姿を良く見せていました。 「はは。今の言葉、まるでお母さんみたいだな」 「おかっ!?」 そんな須賀君の冗談めかした言葉に私は変な声をあげてしまいました。 頬に朱を混じらせてのそれに合わせて羞恥心が胸の中から湧き上がり、困惑が心の中で根を張ります。 誰だっていきなりお母さん呼ばわりされたら、恥ずかしくってどうすれば良いか分からなくなってしまうでしょう。 ましてや…同い年の男の子から同い年の女の子のお母さんと呼ばれたのですから尚更です。 「んで、俺が和の夫…」 「そ、そそそそんなオカルトあり得ません!!」 瞬間、須賀君の言葉に私は強い語気を篭った声を返してしまいました。 声を張り上げるようなそれは、しかし、須賀君の冗談っぽい表情を歪ませるのには足りません。 恐らく私がこうやって反応する事を彼は見越していたのでしょう。 そう思うとちょっと悔しくもありますが、それ以上に胸の中が恥ずかしさで一杯になっていました。 ―― わ、私が…す、須賀君と結婚するなんて…。 勿論、私は須賀君がとても優しくて正義感が強く、また人のために動く事を苦に思わない人であると分かっています。 今だって、そんな彼にとても助けられているが故に、こうして普段と変わらない日常生活を送れているのですから。 で、でも、だからと言って、結婚なんてあまりにも飛躍しすぎです。 そ、そういうのはもうちょっと順序を踏まないといけません。 ま、まずは告白からしてくれないと…でも…そ、それっぽいのは既に言われていて…でも…私… ―― 「いや、京太郎は私の家庭教師枠が精々だろ」 「おま…夢が壊れるような事言うなよ…」 そうやって私が思考停止をしている間にゆーきがツッコミを入れていました。 それにそっと肩を落とす須賀君は全身で残念そうなものをアピールしています。 しかし、そんな風に感情をアピールするからこそ、それが嘘っぽく思えました。 きっと彼にとって、それはあくまで冗談の一種であり、本気でなんてなかったのでしょう。 「ま、和お母さんの言う通り、ゆーきは甘やかさないからさ。その代わり美味しいご飯頼むぜ」 「し、知りません!」 そう思うと何故か悔しくて、私はそんな可愛げのない言葉を返してしまいます。 そんな自分に内心で、自嘲を向けますが、かと言って面白くない気持ちは変わりません。 怒りほどではなくても…拗ねるような、そんな訳の分からない感情が胸を埋め尽くし、私の身体を振り回していたのです。 ―― 私…何をしているんでしょうか…。 そもそもそれが冗談であった事くらい私にだって分かっていた事なのです。 それが的中したくらいでこんなに怒るだなんて大人気がなさ過ぎます。 寧ろ、そういった事に対して免疫がない私は『冗談で良かった』と思うべきなのでしょう。 しかし、私は今、からかわれていた事よりも、完全に意識されていないような彼の反応が気に触って… ―― ―― …ま、まさか。そんなはずありません。 その瞬間、ふと浮かんだ自分の思考を私は頭を振るようにして振り払いました。 それこそオカルトめいた考えであり、そんなのあり得るはずないのです。 しかし、言葉にする事さえも馬鹿らしいその考えは私の心に確実に根を張り、消える事はありませんでした。 ―― と、とにかく…美味しい料理を作りましょう。 そんな自分から目を背けるように私はそう思考を切り替えました。 丁度、須賀君が美味しいごはんをリクエストしてくれたのもありますし、まずはそちらに全力を尽くすべきです。 その程度でさっきの可愛げのない言葉の償いになるとは思いませんし、そもそも、須賀君は気にしていないでしょう。 しかし、それでも今の私がうちこめるものと言えば、料理しかなかったのです。 ―― まぁ…レシピ通りに作るだけなんですけれど。 もう長年、作ってきたが故に頭に染み付いたレシピ。 それを引き出しながら、私の身体は自然と動いていくのです。 家事に長年、携わってきたからこそのそれはどうしても私に思考の余地をもたらすものでした。 結果、私はもう少しのところでお鍋を焦がしてしまいそうになってしまいます。 それに落ち込む私を二人はフォローしながら夕飯を褒めてくれ…そうしてその日も平穏に、一日が過ぎていったのでした。 ―― そんな風に楽しい日々はずっと続く訳ではありません。 どれだけ楽しくて和やかでも、それは本来のものとは違う歪なものなのです。 勿論、数日程度であれば問題はなくとも、一週間も経てば歪みも生まれ始めるのでした。 そして、それは当事者である私の身にではなく、協力者であるゆーきの身に真っ先に起こったのです。 「…ごめん…」 「いえ…ゆーきは何も悪くありませんよ」 そう謝罪するゆーきに私が返す言葉は本心からのものでした。 そもそも年頃の娘が幾ら理由があると言っても一週間も外泊して親が心配しないはずがないのです。 ゆーきのご両親とは私も面識がありますし、多少の融通もきかせてもらったとは言え、やっぱり心配になるのが当然でしょう。 特に今回はストーカー被害という解決策の見えない事件に協力してもらっているのですから尚更です。 「すぐに親を説得して戻ってくるじぇ。でも…今日は…」 「一人…ですね…」 俯くゆーきにそう返した瞬間、私の胸が薄暗い寒気を湧きあがらせました。 ここ一週間、夜もゆーきが傍に居てくれていたのであまり意識していませんでしたが…やっぱり私は恐れているのでしょう。 顔も名前も知らない相手が、何時、自分に牙を剥くかと思うと怯えが身体に走るのが分かりました。 「…あの…須賀君は…?」 「いや、俺が和の家に泊まるのは流石にまずいだろ」 「ぅ…そう…ですよね…」 私の言葉に今日も荷物運びをしてくれていた須賀君はきっぱりと断りました。 須賀君が私に対して何かをするとは思ってはいませんが、それは彼にとって超えちゃいけないラインなのでしょう。 実際、私もそれは流石に色々とまずい気がして、その提案をすぐさま引っ込めました。 「でも…のどちゃん一人で眠れるか?」 「い、一日くらいなら大丈夫ですよ」 それでもゆーきに対してそう強がってしまうのは、彼女を必要以上に心配させない為です。 ただでさえ、親の要請で家に帰らなければいけなくなったゆーきは自分を責めているのですから。 ここ最近、ゆーきには情けないところを見せっぱなしなのもあって、このままでは彼女が安心して帰れません。 勿論、私の強がり一つでゆーきが心から安心してくれるとは思いませんが、それでも彼女を不安にさせる要素は作りたくありませんでした。 「ぅー…でも…今までが今までだし…心配だ」 「わ、私は大丈夫ですよ!」 「そうじゃなくて…ストーカーの方」 私の言葉に訂正の言葉をくれるゆーきの目はリビングに座る私達ではなく、その後ろの窓に向いていました。 恐らく今の彼女が考えているのは私たちの事ではなく、遮光カーテンの向こうにいるかもしれない『誰か』の事なのでしょう。 今日もまた懲りずに手紙を投函してきた悪意の主は、一週間経って尚、ストーカーを続けているのでした。 「今までのどちゃんの傍に誰かが居たから手出し出来なかったかもしれないとすれば…」 「…ゆーきがいない今日の間に強行手段に出るかもしれないって?」 「うん…」 ゆーきの言葉を補足する須賀君の言葉に私は何も言えませんでした。 そんな事まったく考えていませんでしたが、確かにあり得ない話ではありません。 実際、ここ最近の手紙のエスカレートっぷりを見れば、その可能性は高いとさえ思えるのです。 「…あの…須賀君…」 「分かってる。俺も…確かにそれは心配だ」 その恐ろしい可能性に再び私が須賀君を呼んだ瞬間、彼は力強く頷いてくれました。 瞬間、その顔を思案気に俯かせて、思考に耽るのが分かります。 何とか今の状況を打破する為に色々と考え事をしてくれているのでしょう。 その姿に微かな安堵を感じた瞬間、須賀君はそっとその唇を開きました。 「中学の頃の後輩とかはどうなんだ?一日くらい何とか都合つけて貰えないか?」 「あ…その手があったか!」 確かに中学の頃の後輩たちであれば、何とかなるかもしれません。 勿論、急な話であるので難しいかもしれませんが、ゆーきよりも可能性はあるでしょう。 追い詰められていた所為か、まったく思いつかなかったそのアイデアにゆーきは一つ手を打ちました。 それに私も小さく頷いて、制服から携帯を取り出し、メールを打ち始めます。 「あの…事件の事は…?」 「和さえ良ければ、伝えておいた方が良いかもな。情報があるのとないのとでは本気度も違ってくるし」 尋ねる私の言葉に須賀君は気遣うようにそう言ってくれました。 それは私の世間体などの色々な事を心配しての事なのでしょう。 ストーカー被害を受けているだなんて、人に伝えるのは勇気がいる事なのですから。 しかし、ここまでゆーきや須賀君が手助けしてくれているのに、私だけ日和る訳にはいきません。 恥ずかしいし情けない事ですが、後輩二人にそれを伝える覚悟はもう私の中で固まっていました。 「何より、これからも協力して貰う事になるかもしれないからな」 「ごめん…」 「優希は悪くないって」 「そうですよ。仕方のない事なんですから」 明るく振舞っているとは言え、やっぱりゆーきは自分の事をかなり責めているのでしょう。 須賀君の言葉に再びうつむきながら、謝罪の言葉を放ちました。 普段、快活な彼女からは想像も出来ないその姿に名も顔も知らない誰かに対する憤りが沸き上がってきます。 しかし、それでも私達に今の状況を打開する術はなく、対処療法的なものを繰り返すしかありませんでした。 「とりあえず…具体的なアレコレを決めるのはメールが帰ってきてからだ。その後、方針を決めたら俺は優希を送ってくよ」 「でも…私はターゲットになってないからきっと大丈夫だじぇ」 「良いから甘えとけ。どの道、俺は一回は帰らなきゃいけないんだからそのついでだ」 須賀君がそう言ってゆーきの頭をポンと優しく叩いた瞬間、私は後輩へと送るメールを作り終えます。 それをすぐさま送信してから、私は大きく息を吐きました。 最初は他人を巻き込みたくないと言いながら…ドンドンと人を巻き込みつつある自分に微かな自己嫌悪を感じるのです。 「それより和、お茶のおかわり貰えるか?」 「図々しい奴め…」 「仕方ないだろ。和のお茶は美味しいんだから」 けれど、そんな後ろ暗い感情も目の前で繰り広げられるいつも通りのやり取りにかき消されてしまいます。 恐らく、二人は私の自己嫌悪を読み取ったからこそ、意図してそんな会話をしてくれているのでしょう。 それを思うとほんのすこしだけ申し訳なくなりますが、それ以上に笑みが零れて仕方ありません。 「仕方ないですね。でも、あんまり飲み過ぎてご飯の分が入らないなんて事にならないように気をつけて下さいね」 「大丈夫。和の料理なら幾らでも食えるからさ」 「も、もう…あんまり煽てても何も出ませんよ?」 キリッと顔を引き締める須賀君の言葉に私の頬は熱くなってしまいます。 手料理を美味しいと須賀君に褒められたのは何度もありますが、そうやって言われるのは初めての経験でした。 それだけであっさりと免疫が働かなくなってしまう私は嬉しさとも気恥ずかしさとも言えない感情で胸を埋めてしまうのです。 「調子の良い奴め…」 「ふふふ…どこぞのタコス娘が和の料理が食べられないからと悔しがっておるわ」 「ぬぐぐ…!」 その感情に髪を落ち着かなく弄る私の前で、須賀君が勝ち誇り、ゆーきが悔しそうに頬を膨らませます。 多少、誇張して表現しているのでしょうが、そんな会話をするくらい美味しく思ってくれるのは嬉しいものでした。 かと言って、二人のストッパーである私がそれを止めない訳にもいかず、私は未だウズウズとした感情が収まらぬまま口を開くのです。 「喧嘩すると今日のご飯は抜きですよ」 「ほら…ゆーきの所為で和お母さんに怒られただろ」 「京太郎兄ちゃんが人のこと挑発するからだ」 「ふーたーりーとーもー?」 「「はい。すみませんでした!!」」 言い寄るような私の言葉に二人は声を合わせて謝罪の言葉を紡ぎます。 異口同音に同じ言葉を返すそれはまるで本当に兄妹のようでとてもほほえましいものでした。 それに思わず頬を緩ませながら、私は須賀君の分のお茶を淹れ始めるのです。 ―― って…私がお母さんですか…。 確かに二人のストッパーやツッコミ役になる事が多い私は『お母さん』らしい立ち位置にいるのかもしれません。 しかし、二人の兄妹という関係に対して、それはほんの少し疎外感を感じるものでした。 何より年齢だって同い年なのですから、『お母さん』というのはあまりに失礼です。 それよりは… ―― 「お姉ちゃんが良いなぁ…」 「え…?」 「い、いや!何でもないですよ!!」 瞬間、私の口から漏れた言葉に、二人の視線がこちらへと向きました。 まるで信じられないものを見るようなそれに私は顔を赤く染めながら、そう答えます。 それに二人が首を傾げながらも、心配そうな目を向けてくれました。 そうやって心配してくれる二人の姿は嬉しいですが、しかし、さっきの思考をそのまま口にするのはあまりにも恥ずかしすぎるのです。 ―― ブルルルルル 「あ、め、メールみたいですね!!」 そんな私にとって救いであったのはその瞬間、机に置いたままであった携帯が震えたからです。 それを手に取って画面を見れば、そこにはメールの着信を伝える文字が浮かんでいました。 わざとらしくそれを伝えながら、私はメールの画面を開き、新着メールを開きます。 「あ…」 そこには私を案ずる言葉と、そして親の許可が降りなかった事に対する謝罪が並び立てられていました。 親に対する怒りさえも滲ませるそのメールに私の胸は申し訳なさで一杯になります。 元々、無用な心配をさせた上に、無茶を言い出したのは私の方なのですから。 その感情をそのままメールの返信へと変えた瞬間、今度はもう一人の子からもメールが帰って来ました。 「何だって?」 「二人共無理みたいです…」 そもそもストーカー被害にあっている家に泊まりに行かせるだなんて、親としては中々、決断出来る事ではありません。 ご両親と多少の付き合いがあるゆーきの家が一週間も外泊許可をくれた事自体が異例の事なのですから。 そう言った家族ぐるみの付き合いをしていない後輩たちに、許可が降りなくても仕方がありません。 ましてや、当日にそんな事を言い出せば、親からすれば怪しく思えてもおかしくはないでしょう。 「って事は…」 「泊まれるのは京太郎しかいないじぇ…」 「そう…ですね」 改めてそう口にされると私の頬が朱を浮かべます。 さっきの気恥ずかしさとはまた違った羞恥の色に私はまた落ち着かなくなってしまいました。 流石にその指で髪の毛をいじり始める程ではありませんが、須賀君の顔が見れなくてついつい視線を背けてしまいます。 まるで彼から逃げ回っていた頃に戻ってしまったかのような自分の反応に私は小さく深呼吸しながら、ゆっくりと口を開きました。 「あ、あの…須賀君…が良ければですけど…一緒に居て…くれませんか?」 勿論、そんな事言うのは恥ずかしくて堪りません。 しかし、そうやって私から意思表示をしなければ、須賀君の方でも覚悟を決める事は出来ないでしょう。 今回は私が完全に助けてもらっている側なのもあって、どれだけ恥ずかしくても私からアプローチしなければいけません。 ですが、それでもやっぱり気恥ずかしいのは否定出来ず、私の顔はゆっくりと俯き、その声はどんどんと尻すぼみになっていくのです。 「俺としてはすげー役得なんだけど…和の方は良いのか?」 「も、勿論です!」 そんな私の視界の端で頬を掻きながら、須賀君はそう確認の言葉をくれました。 それに反射的に頷く私の言葉は思ったより大きなものになってしまいます。 須賀君が変に遠慮しないように力強く答えるつもりだったのですが、どうやら力が入りすぎたようでした。 そんな加減すら出来なくなりつつある自分にさらなる恥ずかしさを感じて、私はあたふたとしてしまいます。 「あ、も、勿論と言っても、別に須賀君がどうというとかじゃなくてですね! す、須賀君がそういう事しない人だって信頼してると言うか、実は私もちょっぴり楽しみと言うか!」 「の、のどちゃん?」 「はっ」 そこまで言ってから私はようやく自分が言わなくても良い事まで言っていた事に気づきました。 けれど、その具体的な内容までは自分でさえも思い返す事が出来ず、何を言っていたのか分からないのです。 恐らくさっきの私はパニックにも近い状態にあったのでしょう。 そんな自分の失態にさらに顔が赤くなるのを感じた瞬間、私は思考を半ば羞恥心に奪われてしまいました。 「はぅぅ…」 「ま、まぁ…ともあれ、嫌がられていないみたいで安心したよ」 そのまま何も言えず俯く私の前で須賀君はフォローするようにそう言ってくれます。 さっきの私の失態を+へと受け止めてくれるそれは正直、かなり有難いものでした。 けれど、今の私にはそんな須賀君に感謝の言葉すら言えません。 そんな事よりも頭の中が気恥ずかしさで一杯でどうにかなってしまいそうだったのです。 「と、とにかく…これからどうするかは決まったし、まずは優希を送って…んで、それから泊まりの準備して戻ってくるわ」 「お、お願いします…」 それでも何とかそれだけは言う私の前で須賀君はぐいっとお茶を呷ります。 まだ淹れたてで湯気が立ち上るそれを一気に嚥下するようなそれに須賀君の顔も引き締まりました。 さっきの冗談めいたものとは違う覚悟を決めるようなそれは少し…ほんのすこしだけ私の目に格好良く映ります。 「あ、そうそう。和、扉を開けるのはちゃんと相手を確認してからじゃないとダメだからな」 「え…?」 そのまま立ち上がった須賀君は私に念押しするようにそう言いました。 それに私が驚きの声をあげるのは、それが当然の事だったからです。 扉の前に立っているのがストーカーかもしれないのに、軽々しく扉を開けたりはしません。 そんなものは念押しされなくても分かっているが故に、何かの隠語か暗号かと思ったのです。 「強引に押し入ってきたら不法侵入になるし、携帯は常に握りしめてすぐに110番出来るようにな」 「え、えぇ」 「後、俺らが行ったらちゃんとチェーンまで掛けて…念のため全部の戸締りをもう一回チェック…」 「ほらほら、心配なのは分かるけど…そろそろ行かないと帰りが遅くなるじぇ」 それが単に私のことを心配してくれているからだと気づいた頃には須賀君はその腕をゆーきに引っ張られていきました。 小柄なゆーきに大柄な須賀君が引っ張られていくその様は、また兄妹のように見えて微笑ましく思えるのです。 しかし、それだけではないのは、二人が心から私の事を心配し、動いてくれているからなのでしょう。 そうやってコントのようなやり取り一つにも私の事を励まそう、元気づけようとする意図が伝わってくるのですから。 「とにかく…出来るだけ早く帰ってくるからさ。だから、料理でもして待っててくれ」 「えぇ。分かりました」 最後にそう言いながら玄関から出て行く二人を見送りながら、私はそっと玄関にチェーンを掛けました。 ここから先は一人の時間が少し続きますが、こうして厳重に鍵を掛けておけば問題ありません。 幾ら一人であっても、窓が割れる音がすれば気づきますし、すぐさま逃げて警察に連絡するには十分な時間があるのですから。 そもそも、まだ日が落ちきっていない事を考えれば、相手としても強引な手段には出にくいでしょう。 ―― でも…この家はこんなに静かだったでしょうか…。 ゆーきと須賀君がいなくなった我が家は家電のブゥンと言う音がなるだけで他に何の音もしないものでした。 無味乾燥と言っても良いそれは私にとって馴染みの深いものであったはずです。 両親が多忙な時期には常にこの沈黙は私の傍にあったのですから。 しかし…この一週間、それをまったく意識する事がなかった所為か、その沈黙がとても重く、また寂しいものに思えるのです。 ―― そして…何より…怖いです…。 あの日…須賀君に手を差し伸べられた日、私の心は完全に折れてしまったのでしょう。 大丈夫だと分かっているのに一人でいるということに身体がびくついて、妙に落ち着きません。 二人が残した湯のみを洗っている最中も、どうしても後ろが気になって、チラチラと後ろを振り返ってしまうのです。 ―― 落ち着いて…大丈夫…大丈夫だから…。 まだ二人が出て行って十分も経っていないのに、私はもう自分にそう言い聞かせなければいけないようになっていました。 そんな自分に自嘲すら感じるものの、しかし、一度、恐怖を知った心はどうにもなりません。 まだ傍に誰か居てくれる時は平静になれるのに、一人になった途端、どうしようもなくなってしまうのです。 ―― 須賀君…早く…早く帰って来て下さい…。 そして、二十分もした頃には私は彼の帰りを心待ちにしていました。 勿論、その間も二人分の夕食を準備し、料理も進めています。 ですが、今の私は料理に集中する事は出来ず、手元もおぼつかない状態でした。 それでも身体に染み込んだ習慣が私に怪我をさせる事はありませんでしたが、味見してもろくに味が分かりません。 ―― こんなんじゃ…美味しくなんて出来ません…。 今もこうして骨を折ってくれている須賀君に報いる第一の方法は彼が好きだと言ってくれた私の手料理を振る舞う事です。 しかし、それすらも一人では満足に出来ない自分に、私は強い失望を感じました。 ついほんの一ヶ月前には簡単に出来たはずのそれが…出来ない情けない自分。 それに目尻が潤み、じわりと涙が零れそうになるほど…私は追い詰められていたのです。 ―― ピンポーン 「っ!」 瞬間、リビングに鳴り響くインターホンの音。 それに私は弾かれたように足に力を込め、そのまま廊下へと飛び出します。 パンパンとスリッパが音を鳴らすのも構わず乱暴に走り抜け、 そのまま玄関の鍵に手をかけようとした瞬間、私は須賀君の忠告を思い出しました。 「す、須賀君…ですか?」 「あぁ。和の愛しい須賀京太郎ですよ」 冗談めかしたその言葉を…私は怒るか呆れるべきだったのでしょう。 しかし、極限状態にも近かった私にとって、彼の帰りは本当に待ち遠しいものでした。 名も知れぬ悪意の主ではなく、須賀君が扉の外にいると思ったらもう我慢出来ません。 嬉しさのままにチェーンを外し、鍵を開いた私は、内側から乱暴に扉を開いてしまうのです。 「うわっ!」 それに驚きの顔を見せる須賀君は大きめのスポーツバックを肩から下げていました。 恐らく着替えなどが入っているであろうそれを揺らしながら引く彼に微かな申し訳なさを感じます。 しかし、それに謝罪を紡ぐよりも先に人恋しさで胸が一杯になった私は、彼の前で涙を浮かべてしまいそうになるのでした。 「和?」 「あ…な、何でもないんです」 けれど、それはそのまま口にするにはあまりにも恥ずかしい事でした。 たった一時間ちょっとの時間でさえ、怖くて堪らなかったなんて小さな子どもみたいなのですから。 勿論、そこまで追い詰められるに足る理由があったとは言え、中々、それを人に話す事など出来ません。 結果、私は心配そうに尋ねてくれる須賀君の前で強がってしまうのでした。 「と、とにかく入って下さい」 「そうだな。お邪魔します」 そう言って招き入れる私に須賀君は一つ断りながら家へと足を踏み入れました。 そのまま後手に鍵を締め、チェーンを掛ける仕草はもう手馴れています。 周囲を警戒する為か、何時も最後に家へと入る彼にとって、それはもう慣れたものなのでしょう。 普段は何とも思わないそれが、しかし、二人っきりの今は妙に気恥ずかしくて、私はまた妙に落ち着かない気分になってしまうのです。 「え、えっと…おかえりなさいませ?」 「はは。ただいま」 そんな私が選んだ言葉に、須賀君は笑いながら、靴を脱ぎ、廊下へと踏み出しました。 数日前とは違い、も来客用のスリッパを履くその様はもう遠慮なんてありません。 まるで仕事から慣れ親しんだ家へと帰ってきたかのようにリラックスしているのです。 恐らくその肩からスポーツバックを下げているのもそうした印象を加速させているのでしょう。 そう冷静に判断しながらも、そんな彼の姿が妙にむず痒く見えてしまい、私はそっと視線を背けてしまうのでした。 「に、荷物はお持ちしますよ」 「いや、そんなに重くないし構わないって」 「いえ…それくらいやらせてください」 そんなむず痒さから逃げる為に私は半ば強引に須賀くんからスポーツバッグを奪います。 その中身は須賀君の言った通りに軽く、私の腕でも軽々と持つ事が出来ました。 恐らく中身は着替えや明日の準備で埋め尽くされているのでしょう。 「やっぱり和は良いお嫁さんになるな」 「えっ…」 瞬間、私の鼓膜を打った言葉に私は思わずそう聞き返してしまいました。 そのまま振り返るように彼の顔を見れば、そこには微笑ましそうな彼の表情があるのです。 何処か冗談めかしたものを混じらせるその表情に、私の思考は疑問を浮かべました。 しかし、それよりも唐突に告げられたその言葉の真意に理解が追いつかず、私は首を傾げたのです。 「こうして荷物を持ってくれるなんて奥さんっぽくて…ちょっとドキッとした」 「~~~っ!」 そんな私からほんの少し視線を逸らす須賀君の頬は明らかに紅潮していました。 恐らく彼としてもそういう事を言うのは恥ずかしさを感じるのでしょう。 しかし、それでも告げられるその言葉に私の胸はむず痒さを強め、どうして良いか分からなくなってしまいました。 ―― そ、そんなつもりじゃなかったのに…。 私が強引に須賀君から荷物を奪ったのは至極、自分勝手な理由からなのです。 妙にむず痒い落ち着かなさから逃げる為に、私はそれを奪ったのですから。 それは決して奥さんらしいとは言えず、また褒められるものでもないでしょう。 しかし、私の真意を知らない彼はそれをポジティブに捉え、私の事を褒めてくれるのでした。 「そ、そんな…褒めないで下さい」 「はは。まぁ…ちょっと馴れ馴れしすぎるセリフだったな。悪い」 私はそんな風に褒められるような人じゃない。 そう伝えようとした私の言葉を、須賀君は照れ隠しの一種だと受け取ったようでした。 軽くそう謝罪しながら、その顔から気恥ずかしさを引っ込めます。 そんな彼に何かを言おうとしますが、私の口からは言葉は出てきません。 未ださっきのむず痒さが残る私は、須賀君に何を言うべきなのか分からないのです。 「そういや今日の夕飯は何なんだ?」 「えっと…里芋の煮物とお魚、後、ほうれん草の胡麻和えと大根のお味噌汁です」 そうこうしている内に私たちはリビングへと足を踏み入れました。 それと同時に何気ない会話をくれる須賀君に答えている内にさっきのむず痒さは少しずつ消えていきます。 さざ波を起こすような心が少しずつ落ち着いていくのを感じながら、私はそっと肩を落としました。 「でも…ごめんなさい。まだ出来てなくって…」 「だったら俺も手伝うよ。何すれば良い?」 もう七時も回って日が落ちているので、育ち盛りな彼としてはお腹がペコペコでしょう。 しかし、一時間以上もあってろくに料理が出来ていない私を須賀君は咎めません。 寧ろ、積極的に私の事を手伝うと言いながら、その腕を捲ります。 まるで今から大仕事でもするようなオーバーなリアクション。 それに私は思わず笑みを浮かべながら、そっと口を開きました。 「では…味見をしてもらって良いですか?」 「それくらいだったら幾らでもするぞ。なんだったら全部食べても良いくらいだ」 「もう…あくまで味見なんですからね」 勿論、須賀君がいる以上、私が不安に襲われる事はありません。 恐らく今の私であれば味付けに失敗する事はないでしょう。 しかし、それでも須賀君に味見をお願いしたのはどうせなら彼に合わせた味付けをしたかったからです。 今までも美味しいと言ってくれていましたが、どうせですし彼好みの味付けも覚えるのも悪くはないでしょう。 ―― これからも…お世話になる事ですしね。 言い訳のように胸中でそんな言葉を浮かべながら、私は須賀君と共に料理の仕上げを始めます。 けれど、私はよっぽど慌てていたのか、途中まで出来上がった料理の味付けはそれはもう酷いものでした。 薄かったり濃かったりと無茶苦茶なそれは不味いと言われても仕方のないものでしょう。 けれど、須賀君はそんな料理に文句ひとつ言わず、味見を繰り返し、ちゃんとした味付けへと近づけてくれます。 そうやって一緒に作業するのはとても楽しく…また私にとってとても有意義な時間でした。 ―― そうやって二人で作った食事を一緒に食べるのは楽しい事でした。 普段、一緒に居てくれるゆーきがいないので、話題の数が足りるのか心配ではありましたが、杞憂だったようです。 須賀君が持つ話題の引き出しは多く、私たちの間に気まずい沈黙が降りる事はありませんでした。 それが全て須賀君のお陰であり、私からまったく話題を捻出出来ていないのが少しだけ情けないです。 けれど、それ以上に今の私は楽しくて仕方がなくて、笑みを零しながら須賀君の話に耳を傾けていました。 ―― でも…ずっとこのままじゃまずいですよね…。 確かに須賀君の話題に相槌を打ち、適当に返事を返すそれは楽でした。 ですが、そうやって受け身なままで居ては、彼に負担を掛けてしまう事になるのです。 幾ら須賀君の話題が豊富とは言っても、無尽蔵という訳ではありません。 それを思えば、彼の話題が尽きないように、こちらからも話題を振るべきでしょう。 ―― な、何より…今日は須賀君も泊まる訳ですし…。 この先、須賀君がどうするのかはまだ決まってはいません。 泊まるという事だけを先に決めただけであり、寝る場所すら考えていないのですから。 勿論、急いでそれを決める必要なんて何処にもありませんが、話題の一つにはなるでしょう。 そう考えた私は須賀君の話が途切れた隙を伺って、口を開くのです。 「そ、そう言えば…須賀君?」 「ん?」 「これから先って…ど、どうしますか?」 「どうって…」 けれど、そうやって私が紡いだ言葉に須賀君は首を傾げました。 焦りすぎた所為か、主語があんまりにも曖昧で、その意味が広く取れすぎるのです。 彼がそうやって不思議そうにするのも無理はなく、私の頬は羞恥で赤くなりました。 勿論、普段はこんな風にわかりにくい言い方なんてしませんが…どうやら今の私はかなりテンパっているようです。 「あ、あの…寝る場所とか決めないと…い、いけないじゃないですか」 「あぁ。そういう事か。すまん」 「い、いえ!私の言い方が悪かったんです!」 私の補足に須賀君は小さく頷きながら、謝罪してくれました。 けれど、さっきのそれは彼が分かりにくかったというよりは私の伝え方が悪かったのです。 それを思えば須賀君を責める気には到底、なれず、寧ろ謝罪してくれた事に申し訳なさを覚えました。 「まぁ、俺は掛け布団さえ貸してくれれば、このリビングで寝るよ」 「でも…」 そんな私の前であっけらかんと言う須賀君に私はそう返しました。 確かにここはソファもあり、人一人程度であれば眠れるようになっています。 でも、ソファはもともと人が座ることを想定したものであり、眠る事などまったく考えられては居ないのです。 その身体を休める事には使えるでしょうが、ベッドよりも遥かに疲れが残る事は目に見えていました。 ―― でも、うちには来客用のお部屋なんてなくって…。 転勤を伴う引越しの多い仕事をしている両親にとって、この長野もまた腰掛けに過ぎないのです。 自然、私が住んでいるこの家も借家の一種であり、来客用の部屋もありません。 二階にあるのは父と母の書斎と寝室、そして私の部屋だけなのですから。 ごく普通で一般的なその間取りを考えれば、須賀君の言う通り、ここで寝てもらうのが一番なのかもしれません。 ―― でも…それじゃ…あんまりにも悪いです。 勿論、来客用の布団は何組かありますし、それを使ってもらえれば でも、わざわざ泊まりに来てくれた彼をリビングに一つポツンと残すのは気が引けました。 このリビングは一人で寝るのはあまりにも広すぎて…一人でいるだけで妙な寂しさを覚えるくらいなのですから。 「あの…私の部屋で…」 「流石にそれは却下な」 「あぅ…」 そう思って告げた言葉が最後に届く前に、須賀君はそれを一刀両断にしました。 まったく取り付く島すらないその言葉に、私の肩がそっと落ちるのは分かります。 そんな私の姿を彼はクスリと笑いながら、その唇を開きました。 「俺は男なんだから、優希と同じ感覚でいちゃまずいって」 「それは…そうかもしれませんけど…」 でも、須賀君が私に何か邪な気持ちを抱いてる人とは到底、思えません。 本当に彼が私に邪な気持ちを向けているのだとすれば、その機会は今までに何度もあったのですから。 けれど、彼はその機会を活かすどころか、何度も私を護ってくれる人でした。 そんな彼が同室で寝たからと言って、何かされる事はない。 そう思ったからこそ私は彼を自室に招こうとしたのです。 「ま、寂しいなら夜中までメールでも何でも付き合うからさ」 「べ、別にそんな事はないです!」 からかうように言う須賀君の言葉に私は反射的にそう返しました。 けれど…そう言いながらも、私の心はそれが事実であるという事を半ば認めていたのです。 ついさっき一人っきりになった時に感じた寂しさを私は未だ覚えているのでしょう。 意識せずとも私の背筋を撫でるようなその焦燥感に、突き動かされたのは否定出来ないものでした。 「和はもうちょっと警戒心持ったほうが良いと思うぞ」 「も、持ってます!」 それでもクスリと笑いながら告げる須賀君の言葉には納得がいきませんでした。 そもそも私は見知らぬ誰かにストーカーされてるからこそ、こうして警戒して須賀君に泊まってもらっているのです。 今だって戸締りは完璧で、普通の手段では入る事なんて出来ません。 それに何より…私は須賀君と初めてであった時、警戒心全開だったのです。 それこそ今思い返せば恥ずかしくなるような身構えっぷりを浮かべて警戒心がないとは到底言えないでしょう。 「いや…なんつーか…ある程度、親しくなった相手への警戒心って言うかな」 「え…?」 そんな私にポツリと呟く彼の言葉に私はそう疑問の声を返しました。 それは勿論、須賀君が何を言っているかが分からなかったからではなく、その意味を理解出来なかったからです。 勿論、親しき仲にも礼儀ありという言葉があるように、親しい相手にも分別のある付き合い方をしなければいけないのは私にも分かっています。 でも、それと警戒心というのはどうしても繋がらず、今度は私の方が首を傾げる事になるのでした。 「心のハードル下がり過ぎ。俺以外の男にあんな事言ったら期待させるぞ」 「ぅ…」 須賀君の言葉は、私に言い聞かせるような暖かなものでした。 その指摘は彼が真摯に私のことを思ってくれているが故のものなのが伝わって来ます。 ですが、その言葉そのものはまるで独占欲を滲ませるようなもので…私の頬がそっと朱を指すのでした。 嬉しさと気恥ずかしさが半分半分で混ざるようなその感情に私の顔は俯き、視線を彼の顔から逸らしてしまいます。 「俺だってこんな状況なのにドキッとしたくらいなんだからさ」 「ドキドキ…したんですか?」 「当たり前だろ。和みたいに可愛い子に言われたら、男だったら誰だってそうなるって」 何時も通りの軽くて冗談めかしたその言葉は、お世辞混じりのものなのでしょう。 私はあまり可愛げのある女ではなく、そう言った言葉はゆーきの方が相応しいのですから。 けれど、須賀君にそう言われるだけで私の胸は熱くなり、心臓がドクドクとなり始めるのです。 冗談だと分かっているのに、可愛いという言葉そのものに反応してしまうような自分に私は… ―― 「…和?」 「え…?」 「箸が止まってるけど…体調でも悪いのか?」 そんな事を考えている間に、私の身体は完全に止まっていたのでしょう。 適当に解した焼き魚にも、一緒に味付けしなおした煮物にも箸がついていない状況に、彼は心配そうな表情を見せました。 須賀君の器に入った料理を見れば、それらはもう完食されて、残っていません。 焼き魚のモツが残った苦い部分までしっかりと食べきるそれは、私が呆けている時間がかなりのものであった事を感じさせました。 「だ、だだ…大丈夫です!」 「そうか?でも…無理はすんなよ」 焦り混じりの私の言葉に須賀君は素直に頷きながら、一人席を立ちました。 そのままお皿を流し台へと運んだ彼は、自分の分だけでも水につけてくれているのでしょう。 後で洗いやすいようにというその気遣いを感じながら、私は自分の指を動かし、食事を進めました。 しかし、妙な気恥ずかしさと、嬉しさが私の胸へと張り付いて離れず、その速度は何時もよりも若干、遅いものになっていたのです。 「…」 「…な、何ですか?」 そんな私の姿を正面に座り直した須賀君がじっと見つめます。 何処か微笑ましそうな視線はくすぐったく、落ち着きません。 居心地が悪いというほどではないのですが、なんとなく胸の中がムズムズとしてしまうのです。 その感情に押されるがままに須賀君へと尋ねた私に、彼が綻ぶような笑顔を向けました。 「いや、今までもずっと思ってたけど…和の食べ方は上品だなって思ってさ」 「こ、これくらい普通です」 元々、うちの両親も育ちの良い人であり、食事の躾も厳しいものでした。 流石にマナーがどうのこうのでガチガチに硬かった訳ではありませんが、何度も咎められたのを覚えています。 そうやって形成された自分の食べ方をこうして上品と言われるのは今までにも何度かありました。 でも、そうやって食べ方を褒められるのは妙な壁を感じるものであり、あまり好きではなかったのです。 「優希の奴も和くらい落ち着いて食べたら、食品も報われると思うんだけどなぁ…」 「…クスッ」 けれど、それに壁を感じるよりも先に、ポソリと告げられた須賀君の言葉。 その妙なおかしさに私はつい笑みを浮かべてしまいました。 勿論、そうやって食べ物になったものに対する気持ちを忘れないのは美徳でしょう。 でも、それが全体的に軽い雰囲気を纏う須賀くんから放たれたとは到底、思えず、おかしさを感じてしまうのでした。 「な、なんだよ」 「いえ…ごめんなさい」 そんな私に唇を尖らせる須賀君の反応は当然でしょう。 誰だっていきなり笑われたら、あまりイイ気はしないのですから。 しかし、そうと分かっていても、さっきの須賀君の姿は面白く…そして可愛らしいものだったのです。 ―― もしかしたら…須賀君も結構、躾の厳しい家だったのかもしれませんね。 さっき魚をほぼ骨しか残していない食べ方をしていた事からもそれを伺う事が出来るでしょう。 勿論、好き嫌いもあるので一概には言い切れませんが、さっきの言葉を聞いた後だとなんとなくその可能性が高い気がしました。 それに…なんとなく共感を覚えてしまうのは、思い込みもいい所なのでしょう。 しかし、それでも私の勝手な共感は消える事はなく…ついついそれを確かめたくなってしまうのでした。 「そういえば…須賀君のお家って厳しい方なんですか?」 「もし、そうだったら俺は幾ら何でもここには居れないと思うぞ」 「あ…」 そんな私の言葉にクスリと笑いながら告げられる言葉は、まさにその通りでした。 あまりにも自然に須賀君がここに居てくれたので忘れてしまっていましたが、彼は今、ご両親の許可を得手ここに来てくれているのです。 一体、須賀君がどれだけの事情を説明してるかは分かりませんが、 それでも躾の厳しい家が高校生で外泊を認めるケースというのは少ないでしょう。 それを彼の言葉で理解した私は自分勝手な思い込みに羞恥心を感じて、再びその頬を赤く染めてしまいました。 「まぁ、食事のことについてなら結構、色々言われたけどな」 「そ…そうですか」 そんな私にフォローするように言う須賀君の言葉に、心が慰撫されるのを感じます。 自分の思い込みがそれほど的外れでもなかったのだというそれに少しだけ心が落ち着きました。 けれど、それで完全に平静に戻れるような切り替えの速さを私が持っているはずがありません。 未だ妙な落ち着きの無さを残す私は逃げるように食事へと没頭し、口に食べ物を突っ込んでいくのです。 「今度うちに挨拶しに来るか?」 「んぐっっ!?」 それは冗談にすぎないという事くらい私にも分かっていました。 けれど、羞恥心がなくなった訳ではない私にとって、それをいなすほどの余裕はなかったのです。 自然、嚥下している最中の食べ物が驚きによって止まり、強い閉塞感を感じました。 息苦しささえ伴うそれを反射的に飲み込んだお茶で流しこんでから、私はその元凶にジト目を向けるのです。 「す、須賀君…っ!」 「はは。悪い。ちょっとからかい過ぎたな」 じっとりと睨めつけるような視線に須賀君はまったく動揺する事はありませんでした。 その口から笑い声すら漏らしながら、飄々とした態度を崩さないのです。 しかし、それでも悪いとは思ってくれているのか、その口からは謝罪の言葉が飛び出しました。 それに拗ねるような気持ちがほんの少しだけ緩んでいくのを感じる私の前で、彼はそっと椅子から立ち上がります。 「んじゃ、俺はあっちで宿題でもしてるからさ。寂しくなったら呼べよ」 「呼びません!」 最後の最後までからかいながら、去っていく須賀君の背中に私は大きくため息を吐きました。 まるで仕方ないなと言うようなそれに…けれど、私の頬は緩んでいたのです。 何だかんだ言って、こうやって須賀君とするやりとりを私は決して嫌なものとしては受け取っていないのでした。 ―― 何より…須賀君が私のことを気遣ってくれるのが伝わってくるのですから。 その言葉は冗談めかしたものでありましたが、多分…須賀君はもう気づいているのです。 私がさっきから寂しくて…何とか彼に傍にいてもらおうとしている事を。 元々、彼は人付き合いが上手いだけあって、そういった心の機微には敏感です。 須賀君が帰ってきてくれた時から様子が変だった私の変調を、なんとなくではあれど察してくれているのでしょう。 ―― まぁ…だからと言ってからかわれるのは納得がいきませんが。 基本的に私も負けず嫌いな方なのです。 それなのにやられっぱなしなのは、私のことを思ってくれているが故でも受け入れがたいものでした。 けれど、それ以上に嬉しいのは…私が須賀君に心を許し始めているからなのでしょう。 流石にその距離はゆーきほど近くはありませんが、でも、今の私にとって父以外で一番身近な異性は彼以外にはありえません。 ―― 男友達って言うのは…こういうものなのでしょうか。 ふと思い浮かんだその言葉に、食事を進める私の頬が緩むのを感じます。 友達へと至るまでのハードルが高いとゆーきに何度も言われた私にとって、それは今までにない感覚でした。 仕事の都合で転校も多く、男性とろくに仲良くなる機会なんてなかったのですから当然でしょう。 ですが、それでも心の中に浮かんだその言葉は決して違和感があるものではなくて、すっきりと受け入れる事が出来るのでした。 ―― ま、まぁ…ここまで手伝ってもらっているのに部活仲間…というのも味気ないですし。 一体、誰に言い訳しているのか、胸中でそんな言葉を浮かべた瞬間、私は食事を食べ終わりました。 須賀君の分よりもかなり少なかったはずなのに、ようやく食べ終わった自分に私は一つため息を吐きます。 まるで一息吐くようなその後、残ったお茶を口へと流し込めば、須賀君がソファから私へと振り返っているのが見えました。 「ん…終わったのか?」 「えぇ…ご馳走様でした」 そう手を合わせて感謝の言葉を告げながら、私は須賀君と同じように食器を流し台へと持っていきます。 そのまま須賀君の分まで洗おうとした瞬間、彼がそっと私の横に立ちました。 二人揃って並び立つようなそれに、しかし、私はその理由が分かりません。 使ったフライパンなんかはその都度、須賀君が洗ってくれたので、洗わなければいけないのは実質、二人分の食器だけ。 その程度ならば、誰かの手を借りる事はありませんし、何より何時もは私がやっている事なのです。 「俺が洗い物やるよ」 「え…でも…」 「その代わり、お風呂沸かしてきてくれないか?」 交換条件として須賀君が口にするそれは、確かに私でなければ出来ない事でしょう。 脱衣所と隣接するそこにはあまり見られたくないものもあるのですから。 ゆーきが出しっぱなしで放置している下着なんかがないかをチェックするのは私にしか出来ない事なのです。 「須賀君は宿題をしていてください」 でも、それはあくまで私と須賀君が対等な立場である場合の事。 今の私は須賀君にお願いして、わざわざ泊まりに来てもらっている立場なのです。 それなのにそういった雑事に手をわずらわせたりさせたくありません。 折角、宿題を始めたのですから、まずはそっちに集中してほしいと思うのです。 「ダーメ。作ったのは和なんだから、片付けるのは俺でないとな」 「ぅ…」 けれど、須賀君は冗談めかして言いながらもその言葉を曲げるつもりはないようです。 それに小さく声をあげるのは、私に選択肢が殆どないからでしょう。 そうやって彼に任せるのは心苦しいですが、かと言って意固地になるようなものでもないのです。 須賀君がそう言ってくれている以上、ここは彼に任せるのが一番。 感情は納得していなくても理性はそう理解しているのでした。 「…じゃあ、申し訳ないですけど、お願いしますね」 「あいよ。それじゃ和にいい所見せますか」 そう言って腕まくりする須賀君に私はクスリと笑いながら脱衣所へと向かいます。 その後ろで鼻歌を歌いながら食器を洗い始める須賀君の上機嫌さが移ったのか、その足取りは妙に軽いものでした。 意外と影響されやすい自分に一つ笑みを浮かべながら、私はスポンジを手にとって、お風呂掃除を始めるのです。 ―― とにかく…念入りにしないといけません…っ! 勿論、ゆーきが泊まってくれていた今までも掃除に手抜きをしていた訳ではありません。 しかし、こうして事件が起こる前から何度も家に泊まってくれた彼女には良くも悪くも身構えるものがないのです。 いつも通りの私の姿を知ってくれているゆーきに今更、無理をする必要はありません。 ―― で、でも…す、須賀君はそういう訳にはいかないですし…。 だ、だって、彼は今日、初めてこの家にお泊りしてくれるのですから。 幻滅されない程度にはしっかりとしたところを見せたいというのが偽りのない本音でした。 だからこそ、私は普段よりも念入りに浴槽を擦り、そして水垢一つない壁をさらに磨いていくのです。 それは中々に重労働ではありましたが、けれど、それほど苦ではありませんでした。 ―― こ、ここに…須賀君が入るんですよね…? 初めて家に泊まる異性の友人。 そんな彼がここに身体を預けたり、触れたりするかと思うと妙な恥ずかしさが胸を埋め尽くすのです。 それから逃避するように掃除を続けるのは、それほど難しい作業ではありません。 結果、数十分後にはいつも以上にお風呂を綺麗にし終えた私は、微かに額に浮かんだ汗をそっと拭うのでした。 ―― 大丈夫?…うん。大丈夫。 自分で尋ねる言葉に小さく胸中で小さく頷くのは、私の目の前に汚れ一つなかったからです。 ほんの小さな水垢一つさえも許さないそれに達成感すら感じるくらいでした。 それに足取りをさらに軽くしながら、私は浴槽に栓をし、給湯器のボタンを操作して、給水を始めます。 後、数十分もした頃にはお風呂も湧き上がり、リビングに軽快な音がなる事でしょう。 「よし…っと…」 それを確認してから、私は脱衣所へと戻り、床に敷いたマットで足の水気を拭き取ります。 しっかりと洗った所為で制服にも飛び散った水気もまたハンドタオルで拭い去りながら、私はスリッパを履き直しました。 そのままパタパタという音を鳴らしながらリビングへと戻れば、そこにはソファに座りながら携帯を弄る須賀君の姿があったのです。 「あれ…?もう宿題は終わったんですか?」 「あぁ。今日はそれほど数が多い訳じゃなかったしな」 確かに言われてみれば今日は一つ二つ程度で、それほど宿題があった訳ではありません。 集中してやればきっと誰でも一時間もかからないようなものでしょう。 だからこそ、私は須賀君の言葉に納得しながら、けれど、言わなければいけない一言を口にするのでした。 「英語の予習は終わったんですか?」 「ぅ…」 須賀君がそう唸り声をあげるのは彼が英語という教科が人並み以上に苦手だからです。 この一ヶ月近くクラスメイトである彼のことをそれなりに見て来ましたが、英語だけはまるでからっきしでした。 他の教科は人並み程度にはこなすのに、誤訳も発音もおぼつかない須賀君。 そんな彼がこの短期間で英語の予習まで終えられたとは到底、思えないのです。 「あ、後で和に教えてもらおうかなって…」 「まったく…そんなんじゃゆーきの事笑えませんよ」 「ち、ちゃんと他の教科はやってるし…」 拗ねるように口にする須賀君の中ではゆーきと自分では大差あるものなのかもしれません。 でも、苦手分野を人に頼ろうとしてしまうのは、それほどゆーきと変わらないでしょう。 ただ違うのは須賀君が勉強そのものを不得手としていないのに対して、ゆーきがそうであるというだけ。 勿論、その差は決して少ないものではありませんが、二人に頼られている私からすればそう大差ないように思えるのでした。 ―― まぁ…頼られて悪い気はしませんけれど。 何だかんだ言いながらも、私はそうやって人に頼られるのが好きなのでしょう。 ましてや、相手は私が基本的におんぶ抱っこになっているゆーきや須賀君なのです。 普段の恩義を少しでも返す為にも、教えるのも吝かではありません。 特に今日は無理を言って、泊まってもらっているので、今日くらいは…という気持ちがない訳ではありませんでした。 「…まったく。仕方ないですね。…それで何処が分からないんです?」 「全部!」 「…本当、英語に関してはゆーきを笑えませんよ、須賀君」 「い、言うなよ…」 自信満々に全てと応える須賀君にジト目を向けながらも、内心、それは予想していたものでした。 他の教科は基礎からしっかり出来ている彼が、英語だけはからっきしなのですから。 きっと根本の部分から懇切丁寧に教えなければいけないのは目に見えていました。 それでも彼に言葉を向けるのは、さっきからかわれた事を忘れていなからです。 確かに嬉しかったのは嬉しかったですが、それでもやっぱり悔しいのは否定出来ません。 そんな私に訪れた数少ない仕返しの機会を活用しようと思うのはごく普通の事でしょう。 「まぁ、あんまり手を煩わせたりしないように和先生の授業で頑張って理解するよ」 「そっ、そう言うんなら普段の授業でちゃんと理解してください」 瞬間、微かに声が上ずったのはまさかそんな風に言われるとは思っていなかったからです。 小さい頃の夢に先生という項目があった私にとって、その呼び方は一種の憧れでもあったのですから。 それを同年代の男性に言われるというのはむず痒く、そして妙に嬉しいものだったのです。 そんな単純な自分に一つ苦笑めいたものを向けながら、私たちは英語のレッスンを始めました。 「ぐはぁ…」 けれど、その結果は悲しいかな散々なものでした。 自分が理解している事を分かりやすく人に教えるというのはやっぱり難しい事なのでしょう。 中学時代、後輩に教えた経験を出来るだけ活かすようにしたつもりですが、その進みは順調とは言えません。 結果、1ページの訳を作るのに一時間近く掛かった須賀君はそう声をあげながら、ソファに持たれかかるのです。 「ごめんなさい…私がもっと分かりやすく教えられれば…」 「いや、和の所為じゃねぇよ。俺の英語力がダメ過ぎるんだって」 謝罪する私の言葉に須賀君は自嘲混じりにそう答えました。 実際、思った以上に基礎の基礎から教え直さなければいけなかった彼の英語力は高いとは言えません。 ですが、こんなに時間が掛かってしまったのは私の教え方があまり良くなかった所為でしょう。 きっと中学時代の先輩 ―― 花田さんならこんな事にはならなかったはずです。 それを思うと申し訳なさが胸を突き、小さくため息を吐いてしまいました。 「これでも昔は幼馴染が教えてくれてたから今よりはマシだったんだけどな…」 「幼馴染…ですか?」 そんな私の前でポツリと呟く須賀君の言葉に、私はついついそう問い返してしまいました。 独り言にも近いそれに突っ込むのは野暮なのだと…頭の何処かでは理解していたのです。 ですが、それでも…内心、ずっと気になっていた相手の情報だからでしょうか。 止めたほうが良いと理解しながらも、私はそう聞いてしまったのです。 「あぁ。宮永咲って言って…何処でもすぐ迷子になるのが特技みたいな奴なんだけどさ。 でも、普段、洋書とか読んでる所為か、国語力と英語力だけは抜群でな」 「…そうですか」 それに律儀に応える須賀君の声には微かに自慢気なものが混じっていました。 きっと彼にとってその幼馴染 ―― 宮永咲という少女はとても大事な人なのでしょう。 たった一言で思い知らされるその感情に、私は自分でも思った以上のショックを受けていました。 そんな自分に驚きを隠せないながら、返した言葉はとても冷たく乾燥したものになっていたのです。 自分の方から尋ねたというのに、あんまりにもあんまりなその態度に自己嫌悪が湧き上がって来ました。 「でも…昔って事は…?」 「あー…まぁ、中学とかだとさ、仲の良い男女をはやし立てる奴とかいるだろ?」 その自己嫌悪を振り払いながら口にした言葉に、須賀君は自嘲混じりにそう答えました。 その言葉の響きに、私は以前、感じた自分の感想が決して間違いではなかった事に気づいたのです。 以前…私が周囲の反応を恥ずかしいと口にした時…彼が口にした「振り回されて生き方を変える方が窮屈だ」という言葉。 それに実感がこもっていたのはやっぱり… ―― 「夫婦とか何だとか言われて…まぁ…気まずくなってちょっと疎遠になってる」 気まずそうにそう視線をそらす須賀君は、やっぱり私の感じたものと同じものを抱いていたのでしょう。 そして、その所為で大事な人と疎遠になっているが故に…彼の言葉には実感がこもっていたのです。 そう思った瞬間…私の胸に強い鈍痛がのしかかるのを感じました。 けれど、それが須賀君へと共感した所為か、或いは、再び滲み出る宮永咲という彼女への大事さなのかは私にも分かりません。 ただただ重苦しい感情が私の胸を支配し、どすれば良いのか分からなくなっていたのです。 「はは。悪いな。重い話しちまって」 「そんな事…ないです」 それでも明るく振る舞うのがはっきりと分かる須賀君の言葉を否定したのは本心からです。 確かに今の渡しは決して本調子とは言えないほどにショックを受けているのは事実でした。 ですが、それを知らないままで居たかったとはこの鈍痛の中でも思えません。 寧ろ、そうやって須賀君の心にまた一歩近づけたのが嬉しく思う気持ちは私の中にもあったのです。 「…有難うな、和」 「お礼を言うのは…私の方です」 だって、そんな状況でも、須賀君は私に手を貸してくれているのですから。 本当ならもっと早く仲直りがしたいでしょうに、私を護ってくれているのです。 そんな彼にお礼を言わなければいけないのは間違いなく私の方でしょう。 ―― いえ…本来なら御礼の言葉では全然、足りないんです。 それどころか食事や勉強でさえ、彼の優しさに報いる事にはなりません。 私が彼に報いる為には疎遠になっている幼馴染との橋渡しにならなければいけないでしょう。 しかし、須賀君とは仲良くなって居ても、宮永咲さんの姿も何も分からない私には何も出来ません。 それに…何より…私自身があまりそうしたいとは… ―― 「っと、もうこんな時間か」 「そ、そうですね!」 瞬間、浮かんだ言葉を否定するように、私はそう上ずった声で答えました。 それに須賀君は心配そうな視線を向けますが、私はそれに応える事は出来ません。 何せ、さっきの感情は自分自身でも中々、説明がつかない事だったのです。 いえ、より正確に言えば…それは説明をつけてはいけない言葉であり、永遠に胸の底に沈めておくべきものだったのでした。 「あー…それで…言いそびれてたんだが…悪い。忘れ物したみたいだ」 「え…?」 そんな私の前で後頭部を掻くようにして言葉を紡ぐ須賀君に私は驚きの声を返しました。 けれど、彼は私に構う事はなく、そのまま椅子から立ち上がり、出かける準備を始めます。 そんな姿を呆然と見つめながら、でも、私は何と言って良いのか分かりませんでした。 だって、それは私がまたこの誰もいない家で一人ぼっちになってしまうという事だったのです。 正直に言えば…引き止めたいのが本音でした。 「ちょっと取ってくるから先に宿題か風呂でも入っててくれ」 「そ、それは構いませんけれど…」 ですが、理性はそんな事は出来ないという事を理解していました。 忘れ物が何なのかは分かりませんが、こうして言う以上、大事なものなのでしょう。 夜も更け始め、人通りが激減した時間帯に取りにいかなければいけないものをこの家にあるもので代替出来るとは思えません。 結果、私はどれだけ寂しくても須賀君を見送るしかなかったのです。 「何度でも言うけど…相手が俺だって確認出来るまで開けちゃダメだからな」 「もう…子どもじゃないんですから」 準備を終え、玄関で再びそう念押しする須賀君に私は頬をふくらませるようにしてそう返しました。 そう言いながらも…私は内心、子どもでありたいという気持ちを否定する事が出来ません。 だって、もし、私が自分に素直になれるような子どもであれば、彼を引き止める事が出来るのですから。 ですが、現実の私は須賀くんと同い年で…最低限の分別や体面というものを気にする程度には大人なのでした。 「でも、和は変なところで抜けてるからなぁ」 「う…そ、それは…」 靴を履きながらクスリと笑う須賀君の言葉に私は明確な反論をする事が出来ません。 出会った頃ならいざしらず、彼にはもう恥ずかしいところを沢山見られてしまっているのです。 ついさっきだって失敗した料理の味付けに付きあわせた私が「そんな事ない」と言っても説得力はないでしょう。 それに一つ肩を落とした瞬間、私の目の前で須賀君がそっと振り返りました。 「それと…もし、俺が帰ってくるのが遅かったら…」 「え…?」 瞬間、私がそう問い返したのは、彼の顔がとても真剣なものだったからです。 さっきまでの冗談めいたものは欠片もないその引き締まった表情に、私の胸がトクンと跳ねました。 ですが、それ以上に私にとって驚きであったのは、彼の言葉が最悪を想定しているようなものだったからです。 まるでもうこの家には戻ってこれないようなその言葉に私は… ―― 「いや…良いや。不安になるような事言ってごめんな」 「あ…」 それに思わず胸を抑えた瞬間、須賀君は気まずそうに笑いながら、扉のドアノブに手を掛けました。 その仕草は微かに強張り、全身から緊張めいたものを感じます。 勿論、この辺りは治安も良いので、この時間に外に出る程度でこんなに緊張する必要はありません。 夜も更け始めたと言っても、まだまだ民家から漏れる光は強く、人通りも決してない訳ではないのですから。 「じゃ、行ってくる。くれぐれも気をつけるんだぞ」 「す、須賀君!」 それでも滲み出る彼の緊張に、私は猛烈に嫌な予感を感じました。 それに背を押されるようにして思わず彼に呼びかけましたが、須賀君は立ち止まる事はありません。 スルリとドアを開いて私の視界から消えていくのです。 そんな彼を見送って数秒、ようやく自分がしなければいけない事を思い出した私は扉の鍵を閉めたのでした。 「…須賀君…」 しかし、それでも嫌な予感が収まる事はありません。 さっきのような寂しさとは違ったその落ち着かなさに、私は数分ほど玄関で立ち尽くしていました。 けれど…そんな私に出来る事なんて哀しいかな何もありません。 今から彼を追いかける訳にもいかない私は言われた通り待つ事しか出来ないのでした。 ―― 何も出来ないのが…こんなに悔しいなんて…。 その悔しさを握り締めるようにして拳に力を込めましたが、感情の波はまったく収まる事がありませんでした。 寧ろ、そうやって感情を自分へとぶつけるしか出来ない状況により惨めさを感じてしまうのです。 普段よりも遥かにネガティブな方向へ敏感になった自分の思考に一つため息を吐きながら、私はそっと踵を返し、リビングへと戻りました。 ―― ゆーきも…こんな気分だったのでしょうか。 勿論、今の私とつい数時間前のゆーきの状況は細かい部分で違います。 ですが、何かしてあげたいのに、自分ではどうにも出来ない壁に阻まれて何も出来ない無力感という意味では一致するでしょう。 今、私の胸に抱いているそれを彼女にも味合わせてしまったと思うと申し訳なさが胸の底から湧き上がって来ました。 しかし、それよりも私の中では、焦燥感にも似た心配が遥かに強かったのです。 ―― 須賀君…大丈夫でしょうか…。 あれほど警告されてきたとは言え、須賀君の周辺に何か変化があったとは聞いていません。 手紙の内容こそ苛烈なものになっているとは言え、手を出す度胸はないのでしょう。 これまでも色々な用事で須賀君を返すのが日が落ちてからになった事は幾度かあるのです。 それでも手を出さなかった犯人が、今日この時だけ手を出すとは考えづらいでしょう。 ―― でも…嫌な予感が止まりません…。 それはきっとさっきの須賀君の表情が覚悟を決めたものだったからでしょう。 今までに見たどんな表情よりも真剣で力強いその顔に彼が無茶をするのではないかという心配が止みません。 勿論…そんな事をしないと最初に約束しているのですから私は彼を信じるべきなのでしょう。 ですが…それでもやっぱり去り際の表情が私の胸を埋め尽くし、閉塞感に似た息苦しさを呼び起こすのでした。 ―― 早く…早く帰ってきてください…。 そう思う気持ちはつい数時間前とはまったく違うものでした。 勿論、こうして一人でいる状況が寂しいのは変わりません。 ですが、思わず涙を浮かべてしまうそれよりも…私は須賀君の事が心配で仕方がなかったのです。 まるでもう二度と元気な彼に出会えなくなってしまいそうなほどの嫌な予感に私は… ―― ―― ブルルルルル 「っ!?」 瞬間、リビングへと響き渡った振動音に私はビクンと身体を跳ねさせました。 そのまま周囲を見渡せば、テーブルの上に置きっぱなしになっていた携帯が震えているのに気づきます。 それに安堵の溜息を漏らしながら、私はそっとそちらに近づいて行きました。 そのまま携帯をパカリと開けば、そこにはメールの着信を知らせる文章があったのです。 ―― メール…?ゆーきでしょうか? 普段から元気いっぱいな彼女は、その半面、とても気遣いの出来る子なのです。 一人実家に帰っている今の状況を心苦しく思っていてもおかしくはありません。 そう思いながら携帯を操作すれば、そこには須賀君の名前がありました。 「…良かった…」 思わずそう呟いてしまうのは今この時間、彼が無事であるという事がメールの存在そのものから伝わってきたかったです。 少なくともメールすら打てないような危機的状況ではない。 それに一つ安堵の溜息を吐いてから、私はそっと携帯を操作し、メールを開きました。 ―― 手が塞がっていてチャイムが押せない。鍵を開けてくれ。 簡潔で短いその文章に、私の頬は思わず緩んでしまいました。 だって、彼は私の心配をよそに無事に帰ってきてくれたのですから。 あんな思わせぶりな事をしての結果に拗ねるような感情が湧き上がらない訳ではありません。 しかし、それ以上に今の私は嬉しく、そして居ても立ってもいられなくなるのでした。 ―― 早く開けてあげないと…! そうして…私は彼に怒るのです。 忘れ物をした事もそうですし…私をこんなに心配させた事にも一言言わなければいけません。 勿論、それをストレートに伝えるのは恥ずかしいですが、今回ばかりはそんな事を言う余裕はないでしょう。 意地とかそういうものがちっぽけに思えるくらいに、私は彼のことを心配したのですから。 少しはその気持ちを受け止めてくれなくてはフェアじゃないでしょう。 ―― そして…おかえりなさいを言ってあげるんです。 帰ってきてくれて有難うって…無事で嬉しいって…そう伝えるんです。 そうすれば彼はきっとはにかみながらも、笑ってくれるでしょう。 申し訳なさと気恥ずかしさを混ぜたその表情は、今の私の心を慰撫してくれるはず。 ―― 仕方がありませんし…それでチャラにしてあげます。 私も終わった事をゴチャゴチャと言い続けるような面倒くさいタイプではありません。 それに彼が決してこんな時間に出たくて出た訳ではない事くらい私にだって察する事が出来るのです。 ちゃんと反省の色が見えるんなら…それで終わりにして、お菓子の一つでも作ってあげましょう。 そう思いながら、私は玄関の鍵を開け、勢い良く扉を開けば… ―― 「や、やぁ。の、和」 「…えっ?」 扉の前にいたのは須賀君ではありませんでした。 彼の鮮やかな金髪はくすんだ黒毛へと変わり、その身長も10cm近く縮んでいるのですから。 その分、肩幅は広く、また…その…一見して分かるくらいに恰幅の良い体型をしていました。 荒れた肌にはニキビが浮かび、引きつった笑みを浮かべるその唇の間から黄ばんだ歯が見えます。 須賀君とは似ても似つかないその姿に、私は困惑と驚きに身体を固めてしまいました。 「だ、誰ですか…?」 その身体に纏っている制服は、須賀君が着ているものとまったく同じです。 恐らくは目の前の男性も私達と同じ清澄高校に通っている生徒なのでしょう。 しかし、私は彼にまったく見覚えがありませんでした。 少なくとも同じクラスには彼のような人はいなかったはずです。 「ひ、酷いな。の、和の恋人に向かって」 「ひっ…」 そう言ってその男性は私へとずいっと迫って来ました。 汗でベタついた制服のまま近寄るその姿に生理的嫌悪を感じた私は一歩後ろへと後ずさってしまいます。 そして…結果から言えば、それがいけなかったのでしょう。 その隙に…私の恋人を名乗るその男性は、家の中へと踏み込んできたのですから。 「ず、ずっと護ってたんだ。和の事…」 「い…何時から…ですか?」 そんな事はありえません。 だって、私のことを護ってくれていたのは須賀君とゆーきなのですから。 こんな見知らぬ誰かに助けを求めた事はなく、また助けられた記憶もありません。 少なくとも、今、こうしてズケズケと家の中に入り込む彼が私を守ろうとしてくれているとは欠片も思えませんでした。 「それなのにあんな不良に媚を売って…の、和は悪い子だ」 「っ!…須賀君の事を悪く言わないでください!!」 だからこそ、後退りながら紡いだ言葉に、けれど、男性はろくに返事をしません。 その代わりに彼がよこしたのは須賀君を不良とレッテル張りする酷い言葉でした。 確かにあの髪の毛や軽い態度で彼がそう見えるのは否定しがたい事実です。 しかし、だからと言って何も知らない人にそう言われて怒らないほど、今の私は冷静ではないのでしょう。 内心の怯えを怒りへと変えて、きっと無法な侵入者を睨めつけました。 「…和は…あ、アイツに騙されてるんだ。アイツは悪い奴なんだから。だ、だって、アイツは俺の和に近寄ったじゃないか」 「っ…!」 それでもまだその言葉が理路整然としたものであれば、私はまだ冷静さを取り戻す事が出来たでしょう。 しかし、それは妄想と言う事さえ憚られるような思い込みによるものだったのです。 やっぱり…相手は普通の精神状態ではない。 もう既に分かりきっていたはずのそれを再確認しながら、私は再び後退を始めます。 「何回も警告したよね?なのに…和はアイツとドンドン仲良くなって…そんなに俺を嫉妬させたいんだな?」 「…勝手な思い込みは止めてください」 「…思い込み?」 にやついた笑みに相応しいねっとりとした言葉。 それに怖気混じりの不快感を感じた私は思わず突き放すような言葉を放ってしまいました。 本来であれば冷静に相手との距離を取らなければいけないところでの…挑発的な言葉に、理性が失敗を悟ります。 けれど、激情を抱いた心はそれではまったく収まる事がありません。 怒りのままに色々と言ってやりたい気持ちで一杯だったのです。 「俺は…和の記事は全部集めてるんだ!あんな奴よりもずっとずっと和の事を知ってる!」 「ひっ…!」 けれど、それが再び恐怖へと転落したのは、いきなり男性が大声をあげはじめたからです。 部屋中に響き渡るようなそれに私は小さく悲鳴をあげてしまいました。 本当は逃げなければいけないはずなのに…竦んでしまった足に私はさっきの自分が張り子の虎もいい所であった事を悟ります。 けれど、それを理解したところで全ては遅く、激昂した男性は私に向かって荒々しい勢いで近づいてくるのでした。 「そんな俺が一緒に清澄に入学出来たのは運命だろ!!それなのに思い込み!?思い込みだと!!?」 「きゃ…!」 そんな彼から逃げようと強引に足を動かそうとしたのがいけなかったのでしょう。 その勢いに気圧されるようにして私はバランスを崩し、腰を強く打ち付けてしまいました。 その痛さに思わず声をあげる私の前で憎しみさえ、その瞳に浮かばせる男性。 けれど、その視線が私の一部へと向けられた瞬間、その感情がゆっくりと変わっていきました。 「ゴクッ…」 「っ…!」 男性が見ていたのはスカートから覗いた私のショーツなのでしょう。 そう思った瞬間に私の胸を気持ち悪さと羞恥心が埋め尽くし、両腕でスカートを直し、露出した下着を隠しました。 けれど、それでも男性の瞳に浮かんだ…気持ち悪い感情は消える事はありません。 どす黒い…けれど興奮に満ちたそれは、恐らく… ―― 「お、お仕置きだ…悪い和には…お仕置きしないと…」 「い、嫌ぁっ!」 瞬間、その感情 ―― 欲情に我慢出来なくなったように男性が私へと近づいてきます。 その手を私の胸に一直線へと伸ばすその姿は生理的嫌悪を超えて恐怖すら感じるものでした。 それに拒絶の言葉を放っても、男性は止まる事はありません。 寧ろ、その言葉に興奮を覚えるようにして、唇の端を吊り上げ、気持ちの悪い笑みを浮かべるのです。 ―― 誰か…っ!誰か助けてください…っ!! 今から自分が何をされるかという事は恐怖で強張る思考でもなんとなく理解する事が出来ました。 しかし、だからこそ…私はそれに強い恐怖を感じて、強張らせてしまうのです。 本当は逃げなければいけないのに、助けを呼ばなければいけないのに、気持ちだけが空回りして何も出来ません。 普段であれば簡単に出来るはずの事さえも出来なくなった私に出来るのは心の中で助けを呼び… そして、現実から逃避するように目を閉じる事だけでした。 「和から離れろ!クソヤロオオオオオオッ!!!!」 「え…っ」 「がっ!」 瞬間、聞こえてきた強い声に私がそう声をあげて目を見開けば、私の視界に金色の何かが横切りました。 それに今にも私に触れそうだった男性がバランスを崩し、後ろへと倒れていきます。 私と同じように尻餅をついたその男性に、似た服を来た誰かが馬乗りになるのが分かりました。 「あ…あぁぁ…っ」 その瞬間、私はそれが誰であるかをようやく理解しました。 いえ…見間違えるはずなんて最初からなかったのです。 だって、それは自分も辛い状況なのに…私を護ってくれている人なのですから。 私をあんなに心配させて…けれど、今、私のピンチに駆けつけてくれたその人の名前は… ―― 「須賀…君…」 その人の名前を呼んだ瞬間、私はもう我慢する事が出来ませんでした。 さっきまでの身の毛がよだつような恐怖を一気に安堵へと変える私の目は潤み…涙をこぼすのです。 ポロポロと際限なく漏れだすそれに私は何度も目尻を拭いました。 けれど、誰よりも心強いその彼の姿に…私の涙は止まらず、その視界が歪んでいくのです。 「和!警察だ!警察を呼べ!」 「離っせええええ!!!」 それでも、馬乗りになった須賀君がぐっと男性を抑えこみ、その下で男性が暴れるのが分かります。 その度に須賀君の身体がガクガクと揺れますが、彼は決して男性を離そうとはしません。 その全身でしがみつくようにしながら、私へと必死に叫ぶのです。 それにようやく自分がしなければいけない事を理解した私がポケットから携帯を取り出しました。 けれど、未だ恐怖が残る指先はしっかりとボタンを押す事が出来ず、110という簡単な番号に掛けるだけでも手間取ってしまうのです。 「誰が離すかよ…!さんざん和を怖がらせやがって…!」 「お前が!お前が居たからだ!全部、お前が悪いんだ!」 「ぐ…っ!確かに俺は悪いよ!でも…元凶のテメェには言われたくねぇ!」 その間に男性がのしかかった須賀君を殴りつけ、蹴りつけていました。 それを受け止める度に須賀君の身体が揺れ、口から苦悶の声が漏れるのです。 しかし、それでも彼は強い意思のこもった言葉で男性に言い返していました。 まるで言い返さなければ気が済まないと言うようなそれは男性に日を注ぐ結果になったのでしょう。 その四肢は滅茶苦茶に暴れ、激しい物音を立てるようになりました。 「何でだよ!何で俺が悪いんだよ!俺は和と愛し合ってるんだぞ!!邪魔なのはお前の方だろ!!」 「そういうのは…誰よりも傍にいて護れるようになってから言えよ!!」 「くそおおおおおお!!!!」 須賀君の言葉にさらに激昂した男性がさらに暴れ始めます。 その四肢が床や壁にぶつかるのもお構いなしに暴れるその姿は人と言うよりはいっそケダモノのようでした。 それに怯えを残す身体がびくついてしまいますが、ようやく私も通報が終わる事が出来たのです。 けれど、まるで大きな駄々っ子のように暴れる男性の近くへと近づく勇気は私にはなく、心の中で須賀君を応援する事しか出来ませんでした。 ―― 数分後、付近をパトロールしてくれていた警官が男性を取り押さえ、その手に手錠を掛けてくれました。 それでも尚、暴れようとする男性に、しかし、屈強な警官たちは手慣れた様子で連行していきます。 その頃にはうちの前にパトカーが止まり、周りから野次馬めいた人たちが集まってくるのが分かりました。 まったくこちらの事情も知らない無遠慮なその視線に、けれど、私は怒る気力さえもありませんでした。 それよりも私と須賀君が大事であった事の方が嬉しく…そして涙を漏らしてしまうのです。 「え…?」 けれど、そんな私の視界に映ったのは赤色に染まった金色でした。 床に倒れてぐったりとしたまま動かない彼の顔は…まるで血糊でもかぶってしまったように真っ赤だったのです。 滲んだ視界でもはっきりと分かるその色に私は中々、理解が追いつきません。 私がそれを理解したのは…彼が頭を動かさないように担架に載せられて、運ばれていった後でした。 「あ…あぁぁ…!」 冷静に考えれば…どうして須賀君の携帯が、あの男性の手にあったのか考えれば分かる事だったのです。 途中で彼は襲われ…携帯を奪われてしまったのでしょう。 けれど、須賀君は私の危機を感じて…倒れそうな身体を強引に動かしてくれたのです。 結果、警官が男性を取り押さえた瞬間、彼の緊張の糸が途切れてしまったのでしょう。 「須賀君!須賀君!!」 「落ち着いて!大丈夫!大丈夫だから!」 そんな彼に私が何か出来るとは思えません。 けれど、こうして蹲ったままではいけない事だけが良く分かり、彼へと近づきました。 そんな私を宥めてくれていた婦人警官の人が抑えますが、今の私には邪魔でしかありません。 私が本当に辛い時に何もしてくれなかった警察よりも…私の所為で大怪我をしてしまった彼の方が大事なのは極当然の話でしょう。 「頭からの出血は激しいけれど、命に別状は…」 「そんなの…どうして分かるんですか!!」 勿論、こういった荒事のエキスパートである警察の言葉はきっと正しいのでしょう。 ですが、須賀君のあの傷は明らかに頭部に攻撃を受けたが故のものなのです。 レントゲンには映らないような細かいキズでも脳に残れば、後日、脳梗塞が発症して死んでしまうケースも報告されていました。 そうでなくても後遺症が残るかもしれないのに、この場で大丈夫だなんて言い切る事は出来ないでしょう。 「それより事情聴取に協力してくれた方があの子の為にもなるのよ」 「…っ…!」 言い聞かせるような彼女の言葉に感情は強い反発を覚えていました。 こんな土壇場になるまで協力してくれなかった警察の為に、どうして私の所為で傷ついた須賀君から離されなければいけないのか。 八つ当たりにも近いその感情は私の胸から消える事はなく、強い苛立ちを覚えるのです。 「…はい…」 けれど、その一方で彼女の言葉が正しいと理性は理解していました。 ココで私が須賀くんの傍についていても何の訳にも立てません。 それよりは少しでも事件を立件出来るように警察に協力した方が傷ついた彼も報われるでしょう。 そう言い聞かせながら、私はぐっと歯の根に力を込め、救急車で運ばれていく須賀君を見送りました。 「それじゃ…私達も警察に向かいましょう。ここじゃ少し目立ってしまうから」 「…分かりました」 そう促す婦人警官の後に着いて行く頃には私の涙は収まっていました。 もう感情の波が収まったのか、警察に対する不快感がそれを上回ったのか私自身にさえも分かりません。 けれど、今の私は何処か冷えた気持ちで…詰襟の制服を見つめていました。 一体、それが何なのか自分でも分からないまま、私はパトカーへと乗り込み、警察署へと運ばれていったのです。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/20748.html
登録日:2011/02/13(日) 13 59 53 更新日:2021/06/15 Tue 18 28 01 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 White Princess~一途にイっても浮気してもOKなご都合主義学園恋愛アドベンチャー!!~ feng エロゲー ゲーム ハーレム バグゲー ホワプリ 地雷 夏の面影が微かに残る二学期始業式。 夏休み、皆で海辺のコテージへ小旅行に行った時、 俺とそいつの関係は、少し進んだ。 幼なじみでいつもよくじゃれついてくる「望月真心」 同じく幼なじみで才色兼備なのに引っ込み思案の「新川透子」 アメリカ人のハーフでボーイッシュなちびっ子「華岡柚那」 薙刀部のエースで一寸生真面目な「武内花織」 そいつとそんな関係を保ったまんま現在に至るわけだけど他の皆も今までどおりに付き合ってくる。 そういえば、俺は十月の学園祭「彩華大祭」の実行委員会にも選ばれているんだった……。 そう考えると……明日からまた忙しくなりそうだ。 2003年11月7日にfeng第二作目となるエロゲー。 シナリオは、一途に一人のヒロインを追うごく普通のADV「純愛一辺倒ルート」、 他のヒロインと絡みながら進める「絡みルート」、 難易度は高いが、特殊な条件を満たすと様々なエロに特化したシナリオの「パラレルルート」の三つに分かれている。 インパクトの強過ぎるタイトル、 タイトル通りエロゲーでも珍しい、浮気し放題のハーレム学園ラブコメ、 前回がバグ全開・延期しまくりというので流石に懲りたのか、製作発表時に「絶対にバグ・延期無しにして見せます」と宣言。 等から、fengの本気が垣間見える作品。 ……に見えたが、実際は二回の延期にバグ満載とアッサリユーザーを裏切った。 因みに、その後、上様は罰ゲームがあったとか。それで許されると思ってんのか? 更に、シナリオもハーレム・ご都合主義とは思えない程の糞ぶりからユーザーからは大不評。 その地雷ぶりは、代表的な地雷・バグゲーの一つとして確実に挙げられる程。 しかし、商業的に成功したのか、KIDよりPS2版の続編、 「White Princess The second ~やっぱり一途にいってもそうじゃなくてもOKなご都合主義学園恋愛アドベンチャー!!~」が2005年8月25日に発売。 キャラクター説明 CV.PC/PS2 芝原圭介 主人公。 愛称は「ケイ」「けーくん」「けーちゃん」 望月真心 CV.日下千鶴/新谷良子 身長.164cm 3サイズ.B85(C)W58H83 愛称は「ココ」「真心」「真心ちゃん」 圭介の幼なじみの一人。 生粋の日本人だが、金髪碧眼で白い肌のアルビノ。 それが理由でイジメられていたが、その頃からいつもいた圭介に淡い想いを寄せている。 過去の経験をバネに、今は明るく人懐っこいムードメーカーになった。 ピアノを習っており、その腕はかなりのもの。 新川透子 CV.胡桃沢琴美/佐藤利奈 身長.174cm 3サイズ.B90(D)W61H88 愛称は「透子」「透子ちゃん」「トーコ」 圭介の幼なじみの一人。 子供の頃から内気な性格だが、 色々な所が成長するとよく男子に声がかかるため更に内気になった。 それを変えるために現在は薙刀部に入部する。 庇護欲の強い体質から誰からも可愛がられている。 華岡・アレクサンド・柚那 CV.AYA/清水愛 身長.151cm 3サイズ.B77(A)W54H79 愛称は「柚那」「柚那ちゃん」 日米ハーフだが、日本人の血が濃い。 さばさばしたボーイッシュな性格で姉御肌。 妹の恋奈を溺愛する重度のシスコン。 武内花織 CV.川本絢音/清水香里 身長.162cm 3サイズ.B82(B)W59H82 愛称は「花織」「花織ちゃん」「カオリン」 町内にある神社の娘で、よく巫女服で手伝う。 しつけと環境により、真面目で折り目正しくなるが、それ故に気苦労が絶えない。 少女漫画が大好きで、そのシチュエーションにトリップする事もしばしば。 藤沢姫菜 CV.日向裕羅/小清水亜美 身長.147cm 3サイズ.B79(A)W56H80 教育実習生としてやってきた元卒業生。 PS2版では圭介のクラス副担任に。 少し天然が入り、よくミスを繰り返し、 童顔な事から生徒達に親しまれている。 白瀬鳴海 CV.豪徳寺愛子/小林恵美 愛称は「鳴海」「鳴海君」「ナル」 圭介の友人でショタ担当。 見た目と名前が女っぽいのを気にしている。 実はかなりの大食い。 圭介といつもいるため、ガチホモ疑惑が浮上中。 まさかの圭介とのBL絡み……は無い。 ただ、ヒロイン勢に襲われる(性的な意味で)シーンはある。 ……誰得なんだ。 華岡恋奈 CV.乃田あす実/斎藤千和 愛称は「恋奈」「恋奈ちゃん」 柚那の一つ下の妹。 追記・修正お願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] うん。 -- 名無しさん (2014-01-15 22 22 53) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/95.html
Tears of the clover:episode.5 とうとうあたし、祈里を抱いてしまった。 祈里の部屋から帰りながら、さっきの行為を振り返る。 濃密な時間、祈里の喘ぎ声、涙…。 めまいがするくらい強い後悔に襲われるが、それと同じくらい甘美な記憶が身体の中で吹き荒れる。 祈里は何も言わず、あたしを受け入れてくれた。 あたしに応えてくれる祈里は、なんて綺麗だったのだろう。 それに比べてあたしは… せつなという恋人がいながら祈里を抱いた自分に、我ながら情けなくなった。 でも、どうしても欲しかった。 祈里に美希が好きだと聞かされてから、あたしは焦っていた。 彼女をどうしても失いたくない。その思いに支配されてしまった。 くちづけたら満足できると思ったのに、もっと欲しくなって、心も身体も、祈里の全部が欲しくなった。 ふと、小さい頃のかくれんぼを思い出した。 美希が鬼で、あたし達ふたりは一緒に押し入れに隠れた。 『ラブちゃん、私たち見つかっちゃうかな?』 ワクワクしながら大きな瞳を輝かせる祈里。 あの時、あんまり祈里が可愛くて、思わずキスしてしまいそうになる衝動を必死で堪えたっけ。 あたしは今まで、祈里に嫌われたくなくて、あの時の気持ちを何処かに閉じ込めていたのかもしれない。 籠の中の鳥のように、解放させた思いは自由を得て、跳びたい方向へどんどん羽ばたいていった。 それがどんな結末を迎えるのかなんて、まるで考えもせずに。 祈里の家から少し離れた通りの角に、制服姿の長い髪の少女が立ちすくみ、こちらを見ていた。 見慣れたもうひとりの幼なじみだ。 「美希たん…」 「話があるの。ちょっといい?」 こくん。あたしは頷いて、黙って美希の後についていく。 美希が先頭に立って導いたそこは、クローバータウンを見渡せる丘。 せつなのお気に入りの場所…。 せつなを思い出し、胸がズキンと痛んだ。 「なんか、ラブとゆっくり話すのって、ずいぶん久しぶりね」 「ん…そうだね」 美希はあたしに何を話すつもりなのだろう。 彼女の醸し出すただならぬ空気に、少し不安を覚える。 「あーもう!アタシ、遠回しに話すの苦手だから単刀直入に言うわ。アタシこの前ここで、せつなにキスしちゃった」 「えっ」 せつながあたし以外の人とキス… しかも相手が美希だなんて。 にわかには信じられなかった。 だけどあたしには、美希を、ましてやせつなを責める資格なんてない。 そう思うと、美希を責める言葉などまるで浮かばなかった。 「あんまり哀しそうで、つい、ね…。あ、言っとくけど謝らないわよ。 でもキスって、すればするほどその先に行きたくなっちゃうもんなのね…」 さっきまでの自分の心を読まれたかのような美希の言葉にドキっとする。 「安心して。まだキスだけよ。でも…」 そう言いながら、あたしの目を強い光で見つめる。 「これからもせつなを泣かせるつもりなら、アタシにせつなをちょうだい」 美希の瞳は凜とした何かをたたえていた。 彼女はせつなに本気だ。 そして、あたしの過ちを知っている。 じゃあ、せつなも…? 「な、なんのこと?わかんないよ」 「とぼけないで!アタシこの前見たの。ラブが祈里と…キスしてるとこ」 「…そっか、見られちゃったか」 あたしは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。 「全く、浮気するならもっと上手にやんなさいよ」 「せつな…何か言ってた?」 「何も。だけど、せつなもきっと気づいてる。相手が誰かは知らないと思うけど。少なくともアタシは言わないつもり」 美希の言葉に、急に怒りがカッと燃え上がる。 自分はせつなを好きなくせに、あたしに遠慮?それともお情けをかけてくれてるの?馬鹿にしてる? 遠慮のない言葉が次々と浮かび、思わず口をついて出た。 「どうして言わないの?あたしと祈里が浮気してるって、せつなにはっきり言えばいいじゃん!そうすれば、せつなだってあたしに愛想尽かして、美希たんとこに来るかもしれな」 バシーン! 話し終わらないうちに頬を打たれ、強い痛みに襲われる。 美希は唇を震わせ、目には大粒の涙が今にもこぼれ落ちようとしていた。 「ラブのバカ!本気で言ってるの!?もしそうなら…そうなら本当にアタシ、せつなを…貰っちゃうんだからね!」 …ああ。あたし、美希まで傷つけている。 自分が欲張ったせいで、せつなを、美希を、そして祈里を。皆を哀しませている。 熱い涙があふれ、頬を濡らしていく。 ごめんね、祈里。かくれんぼの続きは出来そうにないよ。 あたし見つかっちゃった… 『もしこのまま誰にも見つからなかったらどうする?』 『そしたら嬉しい!』 『え?どうして?』 『だってラブちゃんとずっとずっと一緒にいられるもん!』 【花火のあと】へ
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5026.html
私の名前は若王子いちご。 最近、私はある悩み事を抱えている。その影響なのか、仕事に集中できずにいる。同僚によれば、ぼーっとしているらしい。どうしてこんな思いをしなければならないのだろうか。私の胸の内にはいつも深い霧が立ち込めていた。 ある日、チラシを読み漁っていると、あるチラシが目に留まった。 『秋山探偵事務所』 浮気調査、尾行、ペット捜索、ストーカー被害など、どんな相談も受け付けます! 私は特に“浮気調査”に目を惹かれた。この事務所なら私の胸の霧を晴らしてくれるかもしれない。私は何と無しに服を着替えて寒空の下に飛び出した。 そして、いつの間にか私は事務所の扉の前に立っていた。どうして、ここまでするのか自分でもわからない。中からは何やら声が聞こえてくる。インターフォンは無いようなのでノックするしかない。 コンコン 事務所から聞こえてくる声がピタリと止んだ。そして、磨りガラスの向こうからシルエットが近づいて来る。私は一歩後退した。 ガチャッ 「はい?」 突然、ブロンドヘアーの女性が現れたので私は驚いた。彼女を通して事務所の中を窺うと、紅茶の香りがしてきた。肩にギターをぶら下げている女性までいた。本当にここは秋山探偵事務所なのだろうか? いちご「ここって秋山探偵事務所ですよね……?」 私は眉を顰めながら尋ねた。すると、黒髪の長髪の女性が立ち上がった。この女性も肩にベースをぶら下げている。 「はい! 秋山探偵事務所です!」 よかった、私は間違っていない。 しかし、楽器をぶら下げながら言われてもどこか滑稽に見える。まるで、バンド教室のようだ。 「中へどうぞ~」 金髪の女性がにこにこしながら私を招き入れた。何がそんなに嬉しいのだろうか。まだ、入って三十秒も経っていないのに早くも帰りたくなってきた。 「それじゃあ、帰りましょうか」 ツインテールの小柄な少女が立ち上がると、一同が立ち上がった。 「え~? 私まだ殆ど飲んで無いんだけど?」 眼鏡をかけた長髪の女性がぶつぶつと文句を言っている。ふくれっ面じゃなければ綺麗な人なのだろう。 「また今度飲めるよ、さわちゃん!」 「そうだぞ、さわちゃん」 「ぶー!」 「それじゃあ、失礼します」 小柄な少女が申し訳無さそうに小さくなって私の側を通り抜けた。その際、一瞬私と目が合った。少女はぺこりと頭を下げて事務所を後にした。続いて、他のメンバーがぞろぞろと退出した。最後尾にいたカチューシャを着けた女性は私をまじまじと見ていた。 「こちらへどうぞ」 黒髪の女性が私をソファーへと誘導した。この人が秋山探偵なのだろうか。同じ女性なら話しやすいのかもしれない。 「お茶どうぞ~」 いちご「どうも……」 目の前に紅茶が差し出された。ありがたい、この事務所は暖房機が稼働していないのか、異常に冷え込んでいた。 もっとも、私は紅茶よりもコーヒーが好きなのだが。 澪「初めまして、探偵の秋山澪です」 唯「その助手の平沢唯と!」 紬「琴吹紬です!」 いちご「はぁ……」 いつもこんな方法で自己紹介しているのだろうか。何だかこちらまで恥ずかしくなってくる。 澪「お名前をお聞かせいただけますか?」 いちご「若王子いちごです」 唯「いちご!?」 いちご「…………」 名前を聞き返されるのは慣れていた。確かに苗字も名前も珍しい。しかし、いちいち構っていては限がない。 澪「今日はどういったご用件で?」 やっと本題に入れる。ここまで随分と時間が掛かった気がした。私は予め考えていた言葉を述べることにした。 いちご「最近、付き合っている彼氏の様子がおかしいんです」 澪「えーっと……それはいつ頃からでしょうか?」 いちご「一ヶ月ぐらい前からです」 澪「一ヶ月前ですか……」 澪は考え込むように顎に手を当てた。その様子が少し探偵のように見えた。 いちご「そこで、尾行を依頼したいんですけど……」 澪「なるほど……」 私の悩み事は彼氏の不審な行動だった。ここ一ヶ月は一緒に出かけていない。私から話を持ち掛けても、何らかの理由でそれを断る。そうして、断られる毎に私は不信感を募らせていた。 澪「わかりました」 いちご「調査期間はどれくらいになりますか?」 澪「そうですね……確実な証拠を得るなら一週間ぐらいは必要だと思います」 いちご「そうですか……」 澪「これが調査費用の目安です」 私は紙を受け取って読んでみた。調査費用はそこらの探偵事務所より少々安い程度だった。少し不安ではあるが、依頼する事にしよう。 いちご「わかりました……」 いちご「浮気調査を依頼します」 澪「ありがとうございます」 澪は丁寧にお辞儀した。 なるほど、この探偵は常識があるようだ。私の中の不安が少し取り除かれた。私は紅茶を一口飲んだ。 澪「それでは、こちらの紙に若王子さんの氏名、生年月日、住所、連絡先を」 澪「それから、こちらの紙に彼氏の氏名、生年月日、住所、特徴などをお書きください」 いちご「はい」 これで悩み事が解決するかもしれない。そう思うと少し気が楽になった。私はボールペンを手に取って、二枚の紙を手元に引き寄せた。 ~~~~~ いちご「書きました」 澪「ありがとうございます」 澪「では、一週間後にまた連絡させてもらいます」 いちご「お願いします」 ガチャン 私は事務所を後にした。日は沈み、空は真っ暗になっていた。冬の厳しさを象徴するような冷たい風が吹いている。私は寒さに身を震わせた。 いちご「一週間……」 一週間後、私は何を聞かされるのだろうか。考えれば考えるほど、悪い方へと流されてしまう。 私は間違っているのだろうか、いや間違っていない。 私は自身に強く言い聞かせた。 四日後 いちご自宅 私は休日を一人で過ごしていた。彼氏は今日も用事があるのだろうか。探偵事務所に依頼してからは一度も連絡をとっていない。 私は小説を読んでいた。しかし、どうも文章が頭に入っていない。フィルターが作動していないようだった。 いちご「はぁ……」 思わずため息をついてしまった。今頃、彼はどこで何をしているのだろうか。あの気の弱そうな彼が浮気をするのだろうか。想像もつかない。 ヴーン ヴーン 携帯電話が着信して、バイブレーションが作動した。サブディスプレイには“探偵事務所”と表示されている。確か、依頼期間は一週間だったはずだ。報告にはまだ早い。不審に思いながらも、私は着信ボタンを押した。 いちご「もしもし」 澪『あ、秋山探偵事務所の秋山ですけど』 いちご「どうかしましたか?」 澪『今、仕事中ですか?』 いちご「……いえ、今日は休みですけど」 澪『そうですか。それならお尋ねしたい事があるのですが……』 いちご「…………」 尋ねたい事……? 私には思い当たる節が見当たらない。 いちご「……わかりました」 いちご「今から、そちらに向かいます」 澪『ありがとうございます!』 いちご「はい」 パタン 私は閉じた携帯を見つめながら考え込んだ。あの探偵は私に何を尋ねたいのだろうか。直接会いたいという事は何か重大な事でも発覚したのだろうか。疑問が膨れ上がり、胸の内をどんどん圧迫して行く。 行くと答えたからにはすぐに向かわなければならない。私は立ち上がってすぐに支度を始めた。 外に出ると、相変わらず身に沁みるような寒さだった。その上、空は雲で覆われていて日光が差していなかった。私はマフラーを巻き直して、事務所へと歩き始めた。 秋山探偵事務所 澪「寒い中、わざわざすいません」 紬「温かいお茶入れました~」 いちご「どうも」 なぜここの助手はいつもにこにこと笑っているのだろう。そんなに仕事が楽しいのだろうか。私は仕事が楽しくない。仕事中も悩んでいるからだ。 いちご「尋ねたい事って……」 澪「はい、その事についてなんですが……」 澪「若王子さん……今日、誕生日ですよね?」 いちご「あ……」 いちご「そういえば……」 自分の誕生日のことなど完全に忘れていた。いや、そんなこと考える暇は無かった。 唯「そこで! 今日は事務所を挙げていちごちゃんをお祝いしたいと思います!」 パチッ 突然、事務所の照明が消えて、蝋燭の明かりが灯った。どうやらバースデーケーキのようだ。 唯紬「ハッピーバースデーいちごちゃん!」 いちご「これは……」 澪「お祝いにケーキを用意しました!」 そう言って、三人は満面の笑顔を浮かべて私を見つめた。私は嬉しいのか嬉しくないのかよくわからなかった。取り敢えず、蝋燭の火を消さなければ。 いちご「ふぅーっ」 一瞬で蝋燭の火は消え去った。そして、事務所は暗闇に包まれた。 パチッ 照明が点いて、私は思わず目を細めた。 唯「おめでとう、いちごちゃん」 紬「今日はいちごちゃんが休みでよかったわ!」 いちご「私が休みじゃなかったらどうするつもりだったんですか?」 唯「あ、本当だね」 いちご「…………」 やはり、この人たちはどこか抜けているようだった。本当に調査は進んでいるのだろうか? 唯「ケーキ食べよっか!」 紬「そうね!」 いちご「私は……」 澪「若王子さんも食べますよね?」 いちご「じゃあ……」 三人の笑顔を見てからでは、とても断れる状況ではなかった。仕方無い、今は素直に祝ってもらうことにした。 ~~~~~ 唯「ふぅーっ! おいしかったー!」 紬「よかった」 いちご「ふぅ……」 バースデーケーキは今まで食べたどのケーキよりも美味しかった。一体、この事務所はどうなっているのだろうか。 いちご「じゃあ、そろそろ失礼します」 いちご「ケーキありがとうございました」 澪「わざわざ来てくれてありがとうございました」 いちご「はい、失礼します」 ガチャン 外に出ると、何とも言えない虚無感が私を襲った。 あぁ、寒い。とにかく家に帰ろう。私は家路を急いだ。 数十分かけて、やっと自宅前に辿り着いた。早く体を休めたい。そう思いながら、鞄から鍵を取り出したその時 「いちご!」 いちご「!!」 私は目を見開いた。なんと、後方に彼が立っていた。彼は両手に紙袋を持っていた。 いちご「どうしたの?」 「今日、誕生日だよね……?」 いちご「そうだけど……」 「よかったぁー……」 彼は安堵したのか大きな息を吐いた。なぜ、こうも喜んでいるのだろう。彼は手に持っていた紙袋を私に向けた。 「はい、誕生日プレゼント!」 いちご「え?」 「いちごの誕生日プレゼントのために一ヶ月前から何を買おうか探し回ってたんだ!」 いちご「あ……」 私は差し出された紙袋を見て、全て理解した。彼はこの一ヶ月間、この瞬間のために駆け回っていたのだ。その事を悟られないために私を避けていたのだろう。 彼の顔を見ると、私の表情を窺っている。まったく、こっちの気も知らないで……。 「どど、どうしたのっ!?」 いちご「!!」 気がつくと私は涙を流していた。急に泣き出した私を見て彼は大きく狼狽えた。私にもこの涙の理由はわからなかった。 いちご「ううん……プレゼントが嬉しくて……」 「そ、そっか! それならよかった!」 彼は達成感を顔に滲ませながら照れ笑いした。顔が紅潮している。 そうだ、こんなに気の弱くて優しい彼が浮気なんてするはずがない。まったくもってあり得ない事だ。 私は間違っていた。 「風邪を引くといけないから家に入ろう」 彼は優しく私の頭を撫でた。私はキョトンとして彼の顔を見つめた。久しぶりに近くで見る彼は以前よりも逞しく見えた。 いちご「うん……」 私たちは肩を寄せ合って家に入った。 翌日 秋山探偵事務所 私は有給を取って、探偵事務所を訪れた。 いちご「浮気じゃないってわかってたんですか?」 澪「はい、依頼を受けた後、彼を尾行していたら、どうもよく買い物に出かけていたんですよ」 澪「不思議に思って色々と調べてみると、あなたの誕生日プレゼントを探している事がわかったんです」 澪「そして、昨日、若王子さんをここに呼んだのは自分の誕生日だって事に気づいてもらうためだったんです」 澪「……とにかく、若王子さんの彼氏は浮気はしていません!」 私はため息をついた。全身から力が抜けて行くのを感じた。 澪「昨日は何かありましたか?」 いちご「彼氏から誕生日プレゼントを貰いました」 澪「それはよかった!」 唯「これにて一件落着、だね!」 澪「そうだな!」 紬「ふふふ!」 目の前の三人が笑い始めた。心の底から、解決したことを喜んでいるようだった。それはとても微笑ましい光景だった。 ~~~~~ いちご「では、そろそろ失礼します」 唯「またねーっ!」 紬「また、お茶を飲みたくなったら、いつでも来てくださいね」 なるほど、この三人が揃っているから、この事務所は成り立っているのか。最後に気づくことができてよかった。 澪「あっ! 最後に渡したい物が!」 いちご「?」 澪「今度、この地域のイベントで演奏する事になったんです!」 澪「よかったら、来てください!」 いちご「……ありがとうございます」 私はチラシを受け取って鞄に収めた。 いちご「どうもありがとうございました」 澪「はい、これからもお幸せに!」 ガチャン 私は事務所を後にした。外に出てみると、どこかで子どもたちがはしゃいでいる声が聞こえた。私は空を見上げた。 いちご「雪……」 外は雪が降っていた。ふと先程受け取ったチラシを取り出した。よく見ると、プログラムナンバーに蛍光ペンで線が引かれていた。 7.秋山探偵事務所 「ティータイムズ」 いちご「ティータイムズ……」 いちご「変な名前……」 私はチラシを見てクスリと笑った。チラシの空白部分には湯気の出ているティーカップが描かれていた。 そうだ、彼氏と一緒に行こうか。家に着いたら電話してみよう。 私は胸に暖かい優しさを感じながら歩き始めた。 ~完~ 戻る
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/298.html
とうとうあたし、祈里を抱いてしまった。 祈里の部屋から帰りながら、さっきの行為を振り返る。 濃密な時間、祈里の喘ぎ声、涙…。 めまいがするくらい強い後悔に襲われるが、それと同じくらい甘美な記憶が身体の中で吹き荒れる。 祈里は何も言わず、あたしを受け入れてくれた。 あたしに応えてくれる祈里は、なんて綺麗だったのだろう。 それに比べてあたしは… せつなという恋人がいながら祈里を抱いた自分に、我ながら情けなくなった。 でも、どうしても欲しかった。 祈里に美希が好きだと聞かされてから、あたしは焦っていた。 彼女をどうしても失いたくない。その思いに支配されてしまった。 くちづけたら満足できると思ったのに、もっと欲しくなって、心も身体も、祈里の全部が欲しくなった。 ふと、小さい頃のかくれんぼを思い出した。 美希が鬼で、あたし達ふたりは一緒に押し入れに隠れた。 『ラブちゃん、私たち見つかっちゃうかな?』 ワクワクしながら大きな瞳を輝かせる祈里。 あの時、あんまり祈里が可愛くて、思わずキスしてしまいそうになる衝動を必死で堪えたっけ。 あたしは今まで、祈里に嫌われたくなくて、あの時の気持ちを何処かに閉じ込めていたのかもしれない。 籠の中の鳥のように、解放させた思いは自由を得て、跳びたい方向へどんどん羽ばたいていった。 それがどんな結末を迎えるのかなんて、まるで考えもせずに。 祈里の家から少し離れた通りの角に、制服姿の長い髪の少女が立ちすくみ、こちらを見ていた。 見慣れたもうひとりの幼なじみだ。 「美希たん…」 「話があるの。ちょっといい?」 こくん。あたしは頷いて、黙って美希の後についていく。 美希が先頭に立って導いたそこは、クローバータウンを見渡せる丘。 せつなのお気に入りの場所…。 せつなを思い出し、胸がズキンと痛んだ。 「なんか、ラブとゆっくり話すのって、ずいぶん久しぶりね」 「ん…そうだね」 美希はあたしに何を話すつもりなのだろう。 彼女の醸し出すただならぬ空気に、少し不安を覚える。 「あーもう!アタシ、遠回しに話すの苦手だから単刀直入に言うわ。アタシこの前ここで、せつなにキスしちゃった」 「えっ」 せつながあたし以外の人とキス… しかも相手が美希だなんて。 にわかには信じられなかった。 だけどあたしには、美希を、ましてやせつなを責める資格なんてない。 そう思うと、美希を責める言葉などまるで浮かばなかった。 「あんまり哀しそうで、つい、ね…。あ、言っとくけど謝らないわよ。 でもキスって、すればするほどその先に行きたくなっちゃうもんなのね…」 さっきまでの自分の心を読まれたかのような美希の言葉にドキっとする。 「安心して。まだキスだけよ。でも…」 そう言いながら、あたしの目を強い光で見つめる。 「これからもせつなを泣かせるつもりなら、アタシにせつなをちょうだい」 美希の瞳は凜とした何かをたたえていた。 彼女はせつなに本気だ。 そして、あたしの過ちを知っている。 じゃあ、せつなも…? 「な、なんのこと?わかんないよ」 「とぼけないで!アタシこの前見たの。ラブが祈里と…キスしてるとこ」 「…そっか、見られちゃったか」 あたしは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。 「全く、浮気するならもっと上手にやんなさいよ」 「せつな…何か言ってた?」 「何も。だけど、せつなもきっと気づいてる。相手が誰かは知らないと思うけど。少なくともアタシは言わないつもり」 美希の言葉に、急に怒りがカッと燃え上がる。 自分はせつなを好きなくせに、あたしに遠慮?それともお情けをかけてくれてるの?馬鹿にしてる? 遠慮のない言葉が次々と浮かび、思わず口をついて出た。 「どうして言わないの?あたしと祈里が浮気してるって、せつなにはっきり言えばいいじゃん!そうすれば、せつなだってあたしに愛想尽かして、美希たんとこに来るかもしれな」 バシーン! 話し終わらないうちに頬を打たれ、強い痛みに襲われる。 美希は唇を震わせ、目には大粒の涙が今にもこぼれ落ちようとしていた。 「ラブのバカ!本気で言ってるの!?もしそうなら…そうなら本当にアタシ、せつなを…貰っちゃうんだからね!」 …ああ。あたし、美希まで傷つけている。 自分が欲張ったせいで、せつなを、美希を、そして祈里を。皆を哀しませている。 熱い涙があふれ、頬を濡らしていく。 ごめんね、祈里。かくれんぼの続きは出来そうにないよ。 あたし見つかっちゃった… 『もしこのまま誰にも見つからなかったらどうする?』 『そしたら嬉しい!』 『え?どうして?』 『だってラブちゃんとずっとずっと一緒にいられるもん!』 5-343へ
https://w.atwiki.jp/jinkou2/pages/113.html
コメント元ページ 前から疑問だったんだが、・・・・ラーメン用語喋った?? - 名無しさん 2014-12-13 00 07 23 ラーメンというよりは二○用語かも…次はむっちり体系で作ってみてはいかがかな? - 名無しさん 2014-12-25 01 05 09 一人称をわたしではなくわたくしにすべきだった - 名無しさん 2015-03-04 00 03 14 だな。一人称が「わたくし」の性格って、そういえばいないんだよね。 - 名無しさん 2015-03-04 06 30 16 台詞の一つ一つが時代がかってて重いから好き - 名無しさん 2015-05-11 09 53 52 孕ませた時の台詞がデフォで心の闇っぽいな - 名無しさん 2015-06-01 20 59 50 ウチの学園では楚子の完全上位互換として君臨してあらせられる。正に完全無欠。 - 名無しさん 2015-10-28 22 47 50 真面目、委員長を付けると正に生徒会長、スケベにして貞操下げると淫乱お嬢様と実に美味しくいただけるw - 名無しさん 2015-12-25 02 27 50 普段淑やかな言葉遣いしてるせいか落とした後の台詞が本当に艶っぽく感じる - 名無しさん 2016-03-14 15 20 30 楚子さんは清楚系、凜子さんはお嬢様系と使い分けしてる - 名無しさん 2016-03-16 01 54 15 キャラメイクの持ち物や宅の台詞に出てくる凜ちゃんグッズの人ではない - 名無しさん 2016-03-24 17 24 29 うちの宅と凛子は付き合ってるんで、違うと分かってても不意に聞こえる「昨日も凛ちゃんグッズを」に思わず吹いた - 名無しさん 2017-11-28 23 33 21 「大食いだけど太らない体質」みたいな設定がお似合いか? 個性は「ハラペコ」で「草食」とか。なんにせよ当然、皮下脂肪は全部胸に蓄積されるwwww - 名無しさん 2016-04-07 07 50 51 侠気持たせると極道の妻みたいになりそう - 名無しさん 2016-06-20 21 24 20 このゲームの「侠気」はちょっと違う気はするけど(あれはいわゆる「クラスの仕切り屋」に近い)、「極道の娘」という設定で使ってました。ご令嬢・・・ではあるんだけど、アニメとかでよくある(?)「ブルジョワ別荘持ちの娘」とはちょっと違う雰囲気があるよね。 - 名無しさん 2018-02-15 07 14 05 マッサージはラッキースケベじゃない方がエロいと思う - 名無しさん 2017-05-17 20 40 35 ゲーセンで何やってるんだろう?最初、ガンシューかと思ったけど「私の動きについてこれますか」とか言ってるし - 名無しさん 2017-09-10 23 02 27 こちらの敵は任せても合わせるとおそらくガンダムゲーのようなタッグバトル形式のゲームかもしれない。 - 名無しさん 2017-11-17 22 26 55 なるほど。是非その様を拝見したいものだ - 名無しさん 2017-11-28 23 35 07 何となくダンレボ的な踊る音ゲー?的なものかと思ってたがそっちもアリか - 名無しさん 2017-11-29 01 07 18 今気づいたけど慎ましいお嬢様っぽいキャラでラーメン好きってこれ完全に四条貴((( - 名無しさん 2017-11-28 23 51 20 ↑4&3 戦場の絆みたいなのとかやってるのかもしれない。 - 名無しさん 2017-12-02 23 15 18 駄目だww想像して吹くwww。しかも上手かったりして - 名無しさん 2018-01-07 00 26 00 当然「負けん気」は必須だなwwww - 「ヤキモチ焼き」にしちゃダメだぞ 2018-02-15 07 18 03 「あなたを当て付けに利用することをお許しください」でイエスorノーの内イエス選択したら、その場で性行為へGOしたんだけど何故? - 名無しさん (2018-03-29 00 28 38) 私(凛子さん)の恋人が浮気したっぽいので、そのお返しに私も浮気することにしました。で、その相手に貴方を選びました(だからエッチしましょう) Yes or No ・・・て事です - 名無しさん (2018-03-29 21 21 06) Oh・・・そう言う事だったのかぁ。 - 名無しさん (2018-03-30 21 34 55) ハーレムプレイしてるとこの子の正妻感すごい - 名無しさん (2018-09-25 05 24 04) 地蔵禁止プレイしてるとNPCの「Hしたことある?」に対して「はい。まだ清い体です」って言うの先越されたのかと毎回焦る。 - 名無しさん (2019-02-01 04 59 47) 普通なら「いいえ、まだ清い体です」って返しそうだけど。なぜ「はい」って答えるのか。 - 名無しさん (2019-04-05 11 09 13) アッハイみたいなものでただの返しでしょ。それでも紛らわしいけど - 名無しさん (2019-06-19 13 37 27) 心の闇の時に「永遠の愛を誓います」からの「どうしましょう…いけない事だと分かっているのに、胸の高鳴りが止まりません」永遠の愛とは何だったのか。 - 名無しさん (2019-09-05 12 39 59)
https://w.atwiki.jp/eiketsu-taisen/pages/1542.html
武将名 りょしゅ 呂嬃 統一名称:呂嬃 生没年:不明~前180「いくじなし! あんたの弱腰で 居場所がなくなるのよ!?」呂雉の妹。姉の子である恵帝が即位すると、一族として絶大な権勢を誇った。しかし、呂雉の死後その力は奪われていき、政変の最中に持っていた宝石を放り投げ「どうせ奪われるのだから大切にしておく必要は無い」と叩き壊したという。 勢力 紫 時代 春秋戦国 レアリティ N コスト 1.0 兵種 槍兵 武力 2 知力 5 特技 防柵 計略 傲慢な反計(ごうまんなはんけい) 【反計】(敵が計略を使用した時のみ発動できる。反計は反計できない)【渾身】(発動時の士気が必要士気に近いほど効果が大きい)敵の計略の発動を無効化し、武力を下げる。一定以上武力を下げると、さらに敵にダメージを与える 必要士気 3 効果時間 知力時間 Illust. たば 声優 小池理子 計略内容 カテゴリ 士気 発動時士気 武力 知力 速度 兵力 効果時間 備考 渾身反計 3 3以上4未満 -99 - - -50% - 敵の計略の発動を無効化する範囲は自身中心で直径3.6部隊の円形 4以上5未満 -10 - - -40% 反計 5以上 -3 - - - (最新Ver.2.1.0A) 調整履歴 修正Ver. 変更点 内容 備考 Ver.2.1.0B 計略範囲 直径4部隊分→3.6部隊分 ↓ - 所感 標準的な武力と知力に防柵を備えた良スペックの1コスト槍兵。 計略は紫勢力初の反計で、敵の計略発動を無効にしたうえで武力を下げる。 さらに渾身の特性を持ち、渾身状態で発動すると武力低下に加え兵力減少が付く。 渾身ではあるが、基本的には士気に関係なく計略打ち消しのために使用することになる。 範囲も反計としては十分にあり、混戦時であれば無理なく反計の射程に捉えやすい。 一方で範囲は自身中心円かつ低武力で足の遅い槍兵なので、敵キーカードに密着してマークするような運用は難しい。 特定のカードを封殺するというよりも、計略の先撃ちを強要するような運用となる。 あえて欠点を挙げるなら、紫勢力に多い渾身計略持ちと、士気を残す必要のある反計の噛み合いがやや悪い点。 味方の渾身計略を先撃ちした場合、必然的に反計するための士気がなくなってしまい抑止力としては機能しなくなる。 かといって反計+渾身計略の士気を確保すると、今度は反計できなかった時にメイン計略の渾身が発動しなくなってしまう。 反計できない場合に使う計略を用意するなど、組み合わせる場合は一工夫すると良い。 なお渾身達成時の武力低下値は非常に高く、兵力減少も相まって計略使用者をほぼ無力化できる。 計略を無効化したうえでキーカードを無力化するため非常に強烈な効果ではあるが、発動条件も相応に厳しい。 「自軍が士気3~5のとき、呂嬃が反計の射程に捉えている状態で、敵が計略を発動する」と極めて限定的かつ敵依存の条件であり、狙って起きるものではない。 渾身はオマケと割り切り、計略を打ち消すために使っていくべきだろう。 解説 樊噲の妻であり、この婚姻関係は樊噲が讒言されるときに根拠として使われたりもしている。 劉邦の死後は姉の主導する王朝の専横にも加担していたが、姉の死後に呂氏討伐の軍勢が上げられ敗北すると、鞭打ちで処刑された。 テキストに書かれる逸話は姉の死後に陳平、周勃らが画策した呂氏討伐計画の一環で趙王・呂禄が酈寄の説得を受けて兵権を返し領国に戻る旨を呂嬃に報告したときのものである。 大戦シリーズにおいて 台詞 \ 台詞 開幕 相手に主導権を握らせちゃダメ!あんたが戦わないならアタシがやるわ! └自軍に紫075_樊噲 樊噲~!もっと目立った活躍してきてよね~! 計略 どどん、ぴしゃぴしゃ!あたしの勝ちねっ! └絆武将 あんたのために、一肌脱ぐわぁ! 兵種アクション どんぴしゃ! 撤退 いったぁ~い! 復活 ふぅ~! 伏兵 ちょっとそこどいてよぉ! 攻城 どけどけぇ~! 落城 なにもしなかったら、あたしたちみんな死んじゃうのよ。わかってんの!? 贈り物① いつもありがとっ。部屋が贈り物でいっぱいになっちゃったわ。 贈り物② ふふ、そうよね。お姉ちゃんはちょっと気が強いから近寄りがたいわよね~ 贈り物(お正月) - 贈り物(バレンタインデー) - 贈り物(ホワイトデー) - 贈り物(ハロウィン) - 友好度上昇 ふぅ〜! 寵臣 あたしは臨光侯・呂嬃。けっこー偉いのよぉ? └特殊 - 贈り物の特殊演出 ① 対象武将:紫078_呂雉 会話武将 台詞 紫078呂雉 呂嬃~♪ 村に買い物でも行かない? 紫077呂嬃 お姉ちゃん、かなりゴキゲンね。なにかあったの? 紫078呂雉 今日は劉邦が浮気せずに帰ってきたのよ♪ 紫077呂嬃 浮気ってなーに?うちの樊噲は毎晩ちゃんと帰って来るけど。 紫078呂雉 やり込めたつもりになってるんじゃないよ!このチビ助っ!! 情報提供・誤った点に気付いた等、何かありましたら気楽にコメントしてください。 名前