約 592,768 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1089.html
近年野良ゆっくりの勢力が拡大してきた。 畑を荒らし食料を貪る野良ゆっくりは もはや山賊と呼ばれていた。 そんな幻想郷のある時代のできごと・・・ ・・・・・・野生のゆっくりが里の畑に忍び込んできた。 地上から、うーぱっくを経て空中から、 数十・・・いや、数百・・・。 繁殖期の後だからなのか、数は限りなく多かった。 「山賊が来たぞー!」 畑の持ち主と思われる男の声を合図に、畑の横の小屋から 十数匹のゆっくりが飛び出した。 小屋から出たゆっくりは、 リボンをつけたれいむ種でも、 金髪帽子のまりさ種でも、 その他のどのゆっくりでもない風貌をしていた。 上部に布をターバンのように巻き、目だけあけて下は また別の布で覆われている。 その風貌はまるで、人間の暗殺者のようだった。 「ゆっ!?」 「むーしゃ!えっ!?」 最も小屋に近かった野良ゆっくりが、 それらの接近を一番早く感じた。 スパッ しかしその瞬間、野良ゆっくりは上半分が宙を舞った。 「ゆ!ゆっくりがなかまをころしたよ!」 「ゆ!どうぞくごろしはわるいゆっくりだよ!」 「むきゅ!わるいゆっくりにはせいさいをくわえないとね!」 仲間がやられたことに気づいたのか野良ゆっくりたちは畑を荒らすのをやめた。 そして布に身を包んだゆっくりたちを攻撃し始めた。 「「「「ゆっくりしね!」」」」 まるで雪崩のように布ゆっくりに殺到する野良ゆっくり。 しかし、布ゆっくりはやられなかった。 むしろ野良ゆっくりが次々と餡子になっていく。 「ゆぎゃああああああああああああああああ」 「なんでええええええええええええええええええ」 野良ゆっくりたちはパニックになった。 大勢で責めれば勝てるはず そういう計画だったのかもしれない。 畑がだんだん餡子のじゅうたんに包まれていく。 「いだいいいいいいいいいいいいいいいいい!ぐぎゅ!」 運良くかすり傷で済んだ者も、痛がってる間に攻撃を食らってしんでいった。 布ゆっくりが強いのにはわけがあった。 ゆっくりとは思えない俊敏な動き。 躊躇せずに攻撃をする集中力。 そして何より、布ゆっくりはナイフを持っていた。 「これが・・・研究の成果ですか・・・。」 「長い研究が実を結び、ようやく夢を果たせた。」 眼下に布ゆっくりによる野良ゆっくりの虐殺を見下ろしながら、 小屋の屋根に立つ人間の男女が話している。 「それにしても、どうやって武器を口にくわえずに 持っているんでしょうか?」 女が言う。 「ゆっくりの餡子に手の役割を持たせたのさ」 「餡子に?」 「そう、研究の結果、ゆっくりの中の餡子は 同じように見えて、実は役割ごとに分かれていた。 人間でいう胃の役割をする餡子。 肝臓の役割の餡子。 脳の役割の餡子。 その中に人工的に作ったゆっくり自身が自由に操れる餡子を注入する。 その餡子は、ゆっくりの意思で形や硬度を変えることが出来る。 それを体から出すことによって、餡子を手のようにして使うゆっくり・・・ 目の前の布づくめのゆっくりが完成したんだ・・・。 お、終わったようだな。」 男がそういったとき、畑に侵入した野良ゆっくりは全滅していた。 「あれ?一人足りないな・・・」 男が言う。 「はっ!にげたさんぞくのいきのこりをおっていきました。 まもなくかえってくるかと・・・。」 布ゆっくりのリーダー格と思われるゆっくりが男に答える。 「すごいですね。 ゆっくり独特のゆったりした口調じゃなく 人間のようにはきはきと喋ってますね。」 「脳の役割の餡子を改造して教育したんだ。 もうこいつらの中でゆっくりな部分は体だけだろう。」 その後、畑の持ち主からお礼の食料を貰い、 畑中の餡子を取り除く薬品を渡して、 男は布ゆっくりと共に畑を後にした。 戦闘用のゆっくりを開発する。 それがこの男のしていた研究だった。 男はかつてゆっくり研究所で 研究のネタを探していた。 そんなある日、ゆっくりを観察するために 森に入った時に男は見た。 ゆっくり界で最強と謳われているドスを 口に刃物をくわえ、俊敏な動きで 一方的に攻撃し、仕留めたゆっくりを。 気づくとそのゆっくりは既に去っていった。 しかしその光景は男の研究意欲をそそるのには十分だった。 それから男による戦闘用ゆっくりの研究が始まった。 初めは武器を持たせたり、 教育を重ねていく方法を取ったが 最後は本能に負けゆっくりしたあげく 教えたことを忘れたりして中々上手くいかなかった。 そんな中、ゆっくりの餡子の秘密が解明された。 男はすぐさまゆっくりの餡子の改造に着手した。 まずは脳となる餡子に手を加えた。 仮死状態にしたゆっくりの頭部をくりぬき、 脳の部分の餡子だけを摘出した後 砂糖をかけたりシロップを混ぜたりして手を加え 餡子を戻してくりぬいた部分を治療し、 蘇生させて様子を見るという作業を何百回も重ねた。 そうして狂っているゆっくりや植物状態の脳死ゆっくりが出来たりしたが 苦心の末、ゆっくりするという本能を無くしたゆっくりを作ることに成功した。 これによって、教育しだいで無限の可能性を秘めたゆっくりが完成した。 男はゆっくり学会で表彰を受けたが まだ研究は終わっていなかった。 脳改造で戦闘意欲のあるゆっくりは出来るが 攻撃手段が乏しかった。 ゆっくりは手が無いので口で物をくわえる事しかできない。 それでは扱える武器などたかが知れている。 義手をつけるという案もあったが 重さゆえ耐え切れるゆっくりはおらず、 義手の重みで皆潰れていった。 悩んだ末、男は餡子に着目した。 内臓となり脳となるゆっくりの餡子。 それならば手の役割の餡子を加えれば、と。 餡子の開発は容易なことではない。 加える物質の分量が1mg違うだけで 大きく変化するのだ。 男は一年かけてゆっくりが自由に操ることの出来る餡子を開発した。 使い方はこうだ。 その餡子を注入した後、 注入に使った穴は閉じずにあけえておく。 こうすれば普段は餡子の手で穴を塞ぎ漏れることは無い。 武器を持つときは穴から餡子の手を出し、武器を包み固める。 後は餡子の手をぐりぐりと回せば武器を振れる。 その研究が完成した頃には、もう研究所は潰れ、 野良ゆっくりの襲撃でいくつかの里が消え、 多くの犠牲者が出ていた。 男は研究の成果である十数匹のゆっくりアサシンをつれ、 各地でゆっくりの襲撃を抑え、その報酬で生計を立てた。 「そろそろ、野良を殲滅するかな・・・。」 男がつぶやく。 「さとのちかくにすをかまえているさんぞくのみにしましょう ぜんぶころすとせいたいけいにえいきょうがあるかと・・・」 隊長ゆっくりが言う。 そんな会話をしながら、野良ゆっくりの巣のある方向へ足を進めていた。 ---------------------- 続く・・・かも ---------------------- 後書き 虐待ですらない研究日誌だこれ 初めて書いたのがこれでは先が思いやられますね ゆっくりアサシン~お兄さん遊び編 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/439.html
※美鈴によるゆっくり虐待……ってか虐待っぽいエロ。非常に下品。 ※ゆっくりまりさと美鈴の絡みと言うか性的描写が含まれています。当然の如くアナル。 ※本番してないから18禁じゃないと思いたいですが、たぶん18禁です。 ※直接の描写は避けましたが、スカトロ要素を含んでおります。 ※また、虐待とあまり関係ない場面も、いつものようにやたらございます。 ※前後編か前中後編の前編です。 ※例の如く、ある意味では美鈴虐め。キャラ性格の俺改変ひどいし。かなり変態だし。 ※また、ある意味ではレミリア虐めかも知れません。キャラ性格の俺改変ひどいので。 ※「美鈴と森のゆっくり」の後日談的な感じとなっておりますが、これ単独でも普通に読 めるようにしたつもりです……一応。 ※当然のように俺設定満載な感じです。 ※特に、ゆっくりの設定は思い切り俺設定です。イメージと違う場合もございますので、 ご注意ください。 「レミリアと森のゆっくり 前編」 悪魔の住む館、紅魔館── 「見なさい咲夜。今夜も良い月よ」 この館の主人であるレミリア・スカーレットは、自室からテラスへと通ずるガラス戸を 開け放ちながら、傍らに控える従者に言った。 「曇っていますよ。お嬢様」 瀟洒なメイド、十六夜咲夜の反応はまことにクールだった。 この従者は絶対的な忠誠をレミリアに捧げているが、完全であるが故に、あからさまな 阿諛追従はしないのである。 主君は暴君であっても、暗君であってはならないと思っているようだ。 もっとも、だからこそレミリアも信頼しているのだが。 「……こう言うのは気分の問題よ。それじゃ行ってくるから、後は頼むわね」 興が削がれた、と言いたげな表情を浮かべ、レミリアはテラスに出た。 やや湿度は高いが、それでもまだ夜風は心地良い。 もう一月も時が経つと、この夜風は蒸し暑い熱風となるであろう。 「かしこまりました。時に、今宵はどちらへ?」 また神社かしら? と思いながら、咲夜は聞いた。 レミリアはここからも見える近郊の森を指さし、 「森へ行ってみるわ。たまには森林浴も悪く無さそうだから」 意外な返答を行った。 それに対し咲夜は、理由を詳しく聞くような真似はせず、 「行ってらっしゃいませ、お嬢様」 と言って、主に深々と頭を垂れる。 特に異変が起きているわけでも無いのだから、無理に意図を聞いたり、同行を申し出る 必要は無いと判断したのであった。 どんよりとした曇天の夜空をレミリアは独り飛ぶ。 「……ムードが出ないわね」 瞬く星や月の輝きが無いと、夜空を飛ぶ爽快感が今ひとつである。 「降りて……歩こう……」 レミリアは眼下に広がる木々の群れの中へ降下を開始した。 やや開けた場所を見つけ、そこに着陸する。 体重が無いかのように、ふわりと軽やかに。 そして彼女は二本の足で歩き始めた──森の奥へ。 「ふふっ、夜の森をこうして独り歩くのも、たまにはいいわね」 後ろに腕を組み、ぶらぶらと歩く。 魔法の森と違って普通の森であるこの森は、変にじめじめしたいたり、気色悪いキノコ がわさわさ生えていたり、わけのわからない触手生命体が蠢いていたり、白黒の魔法使い と七色の人形遣いが逢い引きしていたり、などの意外性にはあまり恵まれていないが、別 にレミリアはそんな意外性を求めていない。 白黒と七色の逢い引きは、ちょっと見てみたいが。後日からかうために。 曇った夜の森の中、木々の間からこぼれる弱々しい月星の光すらない、濃い闇の中を臆 することなくレミリアは歩き続ける。 「咲夜と一緒もいいけど、こうやって独り気ままに散歩も悪くないわ」 元々が夜の生き物である吸血鬼なのだから、夜目が利くどころか、自然の闇の中ならば 充分に見えるため、レミリアは足下の障害物に引っかかり、顔から転んでおでこを擦りむ いて「うぇぇぇんっ! さくやぁーっ!」などと泣く事もなく、危なげない足取りでぽく ぽくと歩いている。 ふと、遠くに人影が見え、レミリアは足を止めた。 こんな暗い夜の森で人影とは、尋常ではない。 注意深く、レミリアは木々に身を隠しながら人影に近寄ってゆく。 別に恐れているわけではなく、状況を確認せずどんどこ進んで敵性と遭遇し、奇襲を受 けたりするような事態を招くのは、あまり美しくないからである。 「……あら? あれは……美鈴じゃない……」 良く知った人物が人影の正体だった。 自らの館の門番を勤める紅美鈴。 勤務態度は真面目なのか怠惰なのか、いまひとつ微妙だが、穏和で人当たりの良い、あ まり妖怪らしくない彼女が、何故こんな所にいるのであろうか。 「……なにを、してるのかしら……!?」 顔が判別でき、向こうの声が聞こえる程度にまで近寄ったレミリアは、身を隠したまま 小声で呟いた。 こんな夜に、こんなところで、なにをしているのか興味があったのである。 ずかずかと歩んで姿を現し、尋問するのは簡単で手っ取り早いが、それでは興がなさ過 ぎるので、夜の王は窃視を行う事に決めた。 自分が物陰から覗かれている事に、美鈴は全く気付かなかった。 これがレミリアではない別の誰かならば、またレミリアが相手でも別の時であったのな らば、気の乱れを察したであろうが、うきうきわくわくしている今の美鈴は色々と足りて いない。 「さぁ、はじめるわよ」 美鈴は足下を見渡して言った。 「ゆっ! やめて、おねえさん! れいむになにするのっ!」 生首のような生命体──ゆっくりれいむは、持ち上げる美鈴の手を振り解こうと、もが いている。 その直径はだいたい40センチほどで、人の頭部よりも大きく、形もまた人の頭が卵形な ら、これは下ぶくれで鏡餅を連想させる形であった。 「なっ……! なにあれ?」 見知った顔と良く似た生首を見て、レミリアは驚きの声を漏らした。 驚いてはいても、自分の今の状況はしっかりと把握しているため小声で。 「…………そうだ! あれが、ゆっくりね……へー、本当に霊夢に似てるわね」 幻想郷の有名人に似た妙な生き物について、話には聞いていたが、実物を見るのは初め てであった。 それで、どうする気なんだろう? 思いながらレミリアは展開を静かに見守った。 「ふふっ、あんたは友達をいじめたんでしょ? だから罰を受けるのよ。そうよね、まり さ?」 再び美鈴は足下に視線を向けた。 それに答え、黒い帽子を被った生首──ゆっくりまりさが口を開く。 「……ゆっ! そ、そうなんだぜ……れいむはまりさをくさいっていって……いっ、いじ めたんだぜ!」 虐められた相手を告発するにしては、やけに態度がおかしかった。 許しを乞うような目で、美鈴の手に捕らわれたれいむを見ている。 「ゆっ! そ、そんな! だ……だって、まりさほんとにくさいんだもんっ! それに、 おかおもきたないしっ!」 その告発は誣告だ! と言わんばかりの態度で、れいむは自らの正当性を主張する。 かつて友達であったまりさを、その言葉がどれだけ傷つけているかも知らず。 「臭くて汚い、か……まぁ、確かにこいつは臭くて汚いけど、お友達なんでしょ?」 ニヤニヤとまりさを見ながら、美鈴は「臭い」「汚い」を強調して言った。 「ちがうよっ! れいむのおともだちなんかじゃないいよっ! まりさはもっといいにお いがして、おかおもしろくてきれいで、きんいろのかみのけもながかったのに、こんなぶ さいくになったまりさは、もうおともだちじゃないよっ!」 まりさの心中を全く慮ることなく、れいむは友人関係を否定した。 その言葉の一言一言が、まりさの心を刺し抉る。 「ゆ゛っ、ゆ゛ぐぅっ……ひ、ひどいんだぜ……れいむぅぅぅぅっ……ぐずゅんっ……」 滂沱の涙を流し、まりさは泣いた。 悲しく、苦しく、悔しくて、とても辛い。 お散歩につれて行ってあげる、と言ってくれた時は、自分はやっとお姉さんに認められ た、良い子になれたと思って、あんなに嬉しかったのに。 今はもう辛かった。こんな思いをするのなら、喜ぶんじゃなかったと後悔していた。 「それじゃ百歩譲って、お友達じゃ無いってのは認めてあげるわ。こんな汚臭いのを友達 だなんて言って、すまなかったわね」 手中に収めたれいむへと顔を向け、美鈴は微笑んだ。 「もうっ、おねえさんやっとわかったの? あたまわるいねっ! わかったなら、ゆっく りしないで、はやくれいむをはなしてねっ!」 相手が自らの非を認めたようなので、れいむはすこぶる強気である。 状態は全く変化せず、捕らわれているままだと言うのに。 それに対して美鈴は、 「それはダメよ。だってあんた、まりさいじめたんでしょ? あんたのお友達じゃなくて も、こいつは私の可愛いペットなのよ」 と言いながら、細い麻縄でれいむを縛りはじめ、 「だから、飼い主が黙ってないってわけよ。ゆっくり理解してね」 器用に縦横しっかりと十文字に縄を掛けた。 「ゆぎゅっ! やべでぇぇぇぇっ! いだいっっっっ! なわ゛きづいぃぃぃぃっ!」 縛られたれいむは悲鳴を上げ抗議するが、美鈴が耳を貸すはずもなく、木の枝につるし 上げた。 そんな様子を絶賛ピーピング中のレミリアは、 「うーん……聞いた通りね。似てるのは外見だけで、性格はだいぶ違うって」 と感想の声を漏らしていた。 「それに見た目が似てると言っても、おおまかな特徴だけね……霊夢は、あんな下ぶくれ のぶさいくじゃないし」 似てると言われれば似ているし、そっくりといえばそっくりではあるが、瓜二つとか生 き写しではなく、喩えて言うなら写実的肖像画ではなく漫画的似顔絵としての話だと、レ ミリアは思った。 「……と言うか、美鈴ったらゆっくりをペットにしてたのね……ふむ、ペットを散歩させ に来て、そのペットが野良に虐められた、ってとこかしらね……」 それにしては美鈴がやけに楽しそうなのが気になったが、この会話からではそれ以上の 推察が難しい。 「なーんか……引っかかるのよねぇ……ま、見てればわかるか」 レミリアは引き続き経過を見守ることに決めた。 「ふふっ、私の可愛い可愛いゴミクズのまりさを虐めた罰、たっぷりと味わって貰うわよ」 心地良い悲鳴に恍惚とした笑みを浮かべ、美鈴はぽきぽきと指の関節を鳴らした。 「……ゅぅ……」 沈痛な面持ちで、まりさは悲しそうに喉を鳴らす。 可愛いと言われても、後にゴミクズと付けられるのは嬉しくなく、散々に「汚い」「臭 い」と美鈴にも言われているのだから、素直には受け取れない。 ──そもそも、まりさが「臭い」「汚い」と言われる原因を作ったのは、美鈴なのだか ら。 このまりさは、数日前までこの森に住んでいた。 可愛い二匹の子供と、性欲処理相手とその二匹の子供と、二匹の奴隷の計八匹の家族で、 何不自由なくゆっくり暮らしていた。 その暮らしぶりは、自分のゆっくりのために奴隷二匹を虐げるなど、あまり褒められた ものではなく、そのために因果が応報し全てを失ってしまったのだが。 そして、その際まりさは美鈴によって、全身の皮肌を餡子が漏れない程度に切り剥がさ れながら、激辛調味料を垂らされると言う仕置きをされ、治療はされたものの醜い顔とな ってしまったのである。 まりさはあまりの苦しみに死を望んだが、美鈴はその希望は叶えず、あえて生かして己 の支配下に置いたのであった。 ──このあたりの詳細に関しては、合計150kbほどのクソ長ぇ物語となっているが、そ れはまた別の話である。 「ゆぎゅぅぅぅっ! ばつってな゛にっ! れい゛むなにもわるいごとしでないよ゛っ!」 痛い目に遭うか、怖い目を見ない限り、そうそう謝らないのがゆっくりと言う生き物の 習性である。 目端の利く狡猾な個体は危ないと思った際に、心にもない謝罪を口にする事も度々ある が、たいがいのゆっくりは言い逃れできない状況でも、自分は悪くないと主張する事が良 くある。 ゆっくりが「自分は悪くない」と主張するのは、他に言い逃れの言葉が見つからず頑な に現実を否定しようとしている時と、本当に悪いことだと思っていない時の、どちらかで ある場合が多い。 今まさに痛い目に遭わされようとしている、このれいむに関しては後者であった。 自分がまりさに対して行ったことを、全く悪い事だったと思っていないのである。 約30分ほど前──れいむは自分の巣で、ゆっくり眠っていた。 数日前、このあたりのゆっくりたちの中で、人間社会で言うならば「顔役」として通っ ていた、まりさとその家族たちが突然姿を消すと言う事件が起きた。 親しかった者は、その親しく仲良かった度合いに応じて、まりさたちの失踪を嘆いた。 れいむは友達であり、過去に何度か一緒に「すっきり」した経験もあったので、丸一日 嘆き悲しみ、ゆっくり出来ない日を過ごした。 だが、そこは常に外敵の危険がある野生のゆっくりである。次の日には、もう「過去の 辛い思い出」のひとつとして、再びゆっくり出来るようになっていた。 今日もまた、いつも通りエサを探して食べたり、友達のゆっくりと遊んだりして、何ら 普段と変わらないゆっくりした一日を終えて、眠っていたのである。 そこに失踪していたまりさが現れ、寝ているれいむを起こした。 「ゆっくりしていってね!」 再会の喜びとともにお決まりの挨拶をしながら、れいむは違和感に気付いた。 臭いのである。まりさが、すごく。 友達だったまりさの匂いもするが、それ以上に臭い。腐ったような臭いがする。 れいむは不快感に顔をしかめた。 「ゆっくりしていくぜ!」 まりさは笑顔で挨拶を返したが、れいむはその顔を見て驚いた。 汚いのである。まりさの顔が、とても。 白くきれいだった皮肌が、ところどころ黒い染みのあるでこぼこ肌になっていた。 れいむは、もう耐えられなかった。 「ゆっくりしないで、でていってね!」 渾身の力を込めて体当たりして、臭くて汚いまりさを巣から追い出した。 そのとき、髪の毛も短く切られている事に気付いた。 自分が好きだった、親しかったまりさが、醜くなったのが許せなかった。 だから、もう一刻も早く目の前から去って欲しくて、体当たりで攻撃した。 ケンカの強さに物を言わせ、かつて顔役として通っていただけあって、れいむの激しい 攻撃もまりさにはさほど効いていない。 「ゆぐっ! れ、れいむっ! な、なにするんだぜ! いたいんだぜっ! ゆっくりしよ うぜ!」 ──いっしょにすっきりしたなかなのに、ひどいんだぜ……。 臭いにおいを発していて、顔が汚くなっている事を、まりさは自覚しているが、それで も仲の良かったこのれいむなら、話せばわかると思っていた。 「ゆっ! れいむは、くさくてきたないまりさなんかと、ゆっくりできないよっ! はや くどっかいってね!」 じりじりと後ずさってはいるが、まだ話しかけてくる、近寄ってくるまりさを、れいむ は体当たりで攻撃し続ける。 そんな事をせず巣の中に陣取って、巣に入ってきたら撃退するようにしていたら、もし かしたら運命は変わったのかも知れない。 ──攻撃に熱中するれいむが、美鈴によって捕らえたのはこの直後である。 「ふんっ、悪くないですって? 良いか悪いかは私が決める。そして、あんたは悪いと私 が決めた。だから罰するのよ!」 これが裁判であるならば、まさしく茶番であろう。最初から筋書きが出来ているのだか ら。 「いやぁぁぁぁぁっ! れ、れいむわるくないよぉ! なんでぇぇぇぇっ!」 悪くないと思っていたとしても、とりあえず詫びを入れていたら、もう少しは会話が続 き、多少長生きは出来たかも知れない。 美鈴は最早れいむの言葉に応えることなく、速やかに罰の執行へと移行する。 「豚のような悲鳴を上げ、許しを乞い、助けを求め、泣き叫ぶがいい……いくわよっ! 紅家奥義! 虎納魅拳っ!」 どうかと思うネーミングセンスな技名を叫び、美鈴はれいむへの懲罰を開始した。 「上! 上!」 言葉の通りれいむの上から美鈴は頭突きを二度行い、 「ゆ゛ぎゅっ!」 「下! 下!」 次に下から突き上げるようなアッパーカットを二回、 「ゆ゛べっ!」 「左! 右! 左! 右!」 続いて左フックと右フックを交互に二発、 「びゅぶっ! お゛ぶっ!」 「B!」 そして膝蹴りを顎に見舞い、 「ごじゅっ!」 「A!」 最後は顔面の中心へのエルボー。 「べぶっ!」 「あははっ! どう? これが虎納魅拳よ! 虎のように動き、型に納めるように敵を圧 倒する、魅力的な拳よ!」 誇らしげに豊かな胸を張り、美鈴は技名を解説した。編み出してから初めて使用した技 に有頂天になっている。 「……いや、Bって膝蹴りだからニーじゃないの。それに……エルボーの綴りはAじゃな くてEからよ……突っ込みどころ多い技ね……」 美鈴に聞こえない程度の声で、隠れているレミリアは呟いた。 「ゆぶっ……ゆっ、ゆぅ……ゅ……」 すでにもうれいむは虫の息である。 打撃もさることながら、縛られている縄が身体に食い込み皮肌を切り裂き、そこから中 身を溢れ出しつつあった。 「ふふっ、どうかしら? これをもっと速いスピードで、573回連続で行うのよ。あんた は何回目まで耐えられるかしらね」 初使用がゆっくり相手と言うのは気分的に微妙なものもあるが、サンドバッグなどの無 生物とは異なり、ちゃんと悲鳴が聞こえるので威力を実感出来るのは楽しい。 「……あー、573回ねぇ……んー……なんて言うのかしらね……」 上機嫌で有頂天な美鈴とは対照的に、木陰で窃視中のレミリアはとてもだるだるな気分 である。 「……にしても、美鈴が霊夢の顔を殴ってるみたいで、ちょっと微妙ね……んー、そう言 えば私やパチェ、魔理沙たちのゆっくりも居るのよね……うーん……」 自分や友人知人と似た顔が、知らないところで殴られたり虐められたりしている可能性 を考え、レミリアは少し不快な気分になった。 「なんかねぇー……微妙な気分。なんて言うのかしら、出来の悪い似顔絵を描かれて、そ れを破かれたり踏まれたりしてるみたいな、そんな気分……んーむ」 美鈴の行動を盗み見る好奇心よりも、徐々に不快感が上回りつつある。 だが、レミリアは立ち去らず、もうしばらく見守ることにした。ひょっとしたら、気分 が良くなるような展開になるかも知れないと思ったのである。 「さぁっ! 二発目行くわよ! 上上下下左右左右BA!」 「ゆ゛べぶじゃぐゆ゛う゛ぉばぁっ!」 二回目の衝撃に、れいむの身体は耐えきれなかった。 「ちょ、ちょっとぉっ! なんでたった二回で死んじゃのよっ! もうっ!」 食い込みすぎた縄によって四分割に解体され、地面に落ちたれいむの残骸に向かって、 美鈴は怒りの声を上げた。 「あ゛ぁっ……れ、れ゛いむ゛ぅぅぅっ……うぅっ……」 親愛を裏切られたとは言え、交尾まで行ったことのある友達の死に、まりさは涙を流し た。 「あら? なに泣いてるのよ? まりさ、あんたが殺したのよ、このれいむは」 れいむへの懲罰が中途半端なところで強制終了した不満をぶつけるかのように、美鈴は まりさを言葉の鞭で叩いた。 「ゆ゛っ! ゆぐっ……お、お゛ねえざん゛っ……ぞ、そぶな゛ぁ……」 「だって、そうでしょ? あなたが『まりさはいじめられたりしなかったぜ!』って言っ てれば、これは死ななかったのよ。だから、まりさ、あんたが殺したのよ」 非常に強引な理屈で、美鈴はまりさをなじる。 「……うわぁ、えげつないわね……美鈴ってこんな一面があったんだ……ふふっ、ちょっ と見直しちゃった」 とても悪魔的な感想をレミリアは述べた。 「んー……最近、でもないか……ずっと美鈴が腑抜けになったって思ってたけど、これは 評価を改めないとね……いいわぁ、私が見込んだ美鈴は、これぐらい暴力的で野蛮で、意 地悪な妖怪だったんだから……」 初めて美鈴と出会い、そして戦った当時のことを思い出し、レミリアは恍惚とした表情 を浮かべた。 「うん、今の美鈴もそれはそれで好きよ。でも、私の館の門を任せているんだからね…… 単なる良い子じゃ相応しくないの……ふふっ、やっぱ見てて良かったわ」 先ほどまでとは打って変わって、レミリアは上機嫌である。 普通の主従であれば、部下の残酷で理不尽な一面を見た場合、悪い方に評価を改めると ころだが、彼女たちは吸血鬼であり妖怪である。 人間に恐れられるべき存在なのだから、このように「本当は怖い、恐ろしい」一面を持 っていなければ、鼎の軽重が問われるのだ。 そんな風にレミリアが自分の行動を見ていて、気分を悪くしたり機嫌を良くしたりして いる事に全く気付いていない美鈴は、まりさへの言葉責めを続けている。 「いい? あんた、わかってんの? あんたがウソつきで最低な奴だったから、ありすも ゆっちゅりーも未だに許してくれないのよ!」 かつてまりさが奴隷として虐待していた、今この場にいない二匹のことにも言及する。 ちなみに、その二匹もまりさともに美鈴のペットとなっている。 「ゆ゛っ、ゆ゛ぐっ……ご、ごべんなざいっ……おねえざんっ……」 「はぁ? なんで謝るのよ? 私に謝ったって仕方ないでしょ? そんなんだから、あん たの子供も死んだのよ! このれいむと同じように、あんたのせいであんたと親しいゆっ くりはみんな死んじゃうのよ!」 美鈴自身も、我ながら無茶苦茶言っているという自覚はあるが、まりさの泣き顔を見て いるとどうにも止まらない。 「ぞっ、ぞぶな……ぐじゅっ、う゛ぁぁぁぁん゛っ!」 とうとうまりさは大声で泣き出した。 もう何を言っていいのか、誰に何を謝れば良いのか、わからない。 「な、泣けば許して貰えると思ってんの? どうなのよ? あ、あんたは、どうして欲し いのよっ?」 大声で泣くまりさを見て、美鈴は自分の胸が高鳴っている事に気付いた。 もっと泣かせたい、無様に許しを乞わせたい、過去を延々と反省させたい──どんどん、 美鈴の中に欲望が膨らんでゆく。 「ゆぐっ……う゛ぅっ……ま、まじざはぁっ、ゆ……ゆるじで、ぼじいですっ!」 「誰によ? あんたのせいで死んだ、あんたの子供? さっきのれいむ? ありす? ゆ っちゅりー? 誰に許して欲しいのよ?」 泣きながら強い調子で意志を述べたまりさに対して、美鈴は厳しく、意地悪く追求した。 どんな答えが返ってこようと、またそれに対して追求するつもりである。 「ぞっ、それ゛う゛ぁ……み、み゛んな゛にっ! みん゛なに、ゆ゛っゆる゛じで……」 「はぁ? なにムシのいい事言ってんのぉ? 欲張り過ぎよっ! だいたい、どうやって 許して貰うのよ? もう死んじゃってる相手もいんのよ? ほらっ、どうすんのよ? 言 ってみなさいよ!」 どうせゆっくりの知能では答えられないと思いながら、美鈴は問い詰めた。 「う゛っ……ゆ゛ぐっ、ぞ……ぞれ゛はぁっ……」 「なによ? 答えらんないのっ? そんなんで、みんなに許して貰いたいなんて、よく言 えたものねっ! ほらっ、考えてみなさいよ! どうすればいいかっ!」 美鈴は、黙り込んでしまったまりさに対して、容赦なく答えを求める。 一方、隠れて見ているレミリアは、 「意外ねぇ……美鈴ってこんなねちっこい性格だったかしら? 意地悪なのはいいけど、 ちょっとねちっこ過ぎるわねぇ……でも、これはこれで……ふふふ」 まりさがどう言うか、美鈴がどう反応するかを楽しんでいる。 「それにしても、あれって魔理沙のゆっくりよねぇ……んー、美鈴ったら弾幕ごっこで負 け越してる鬱憤を、似ているゆっくり虐めて晴らしてんのかしら……?」 ひょっとしたら自分や咲夜のゆっくりも美鈴は虐めているんじゃないか、とレミリアは 想像し、また少し機嫌を悪くした。 「……ま、まぁ、別にいいわ、それぐらい……ガス抜き、ストレス解消も必要でしょうか らね……」 あまり嬉しくない想像で壊れた気分を、自分は器が大きい"カリスマ"だから気にしない、 と思い込む事でレミリアは修復した。 「で、どうなの? 答えらんないの? ほら、さぁ、ぐじゅぐじゅ泣いてないで、なんと か言いなさいよっ!」 「ゆ゛っ! ぐ……ゆ゛ぐっ……わ、わ゛がじまぜん゛……ぐじゅっ……」 絞り出すように、わからない、とまりさは言った。 「ふんっ、だからあんたはゴミクズなのよっ! 望むばっかりで、どうすりゃいいかもわ からない、最低ね! 牛のクソ以下ねっ! 肥料にすらならないから、ゴミクズなのよ!」 普段口にしないような汚い言葉を使うことによって、美鈴は己をどんどん昂ぶらせてゆく。 「ゆ゛……ぐっ……ん゛、ひっく……ゆ゛っ……」 「泣いたってどうにもなんないのよっ! 全く、なんであんたみたいのが生きてるのよ? あんたはなんのために生きてんのよ? ほらっ、ゴミクズ! 答えてみなさいよっ!」 まりさの泣き顔を見ていると、ある程度での切り上げが難しい。 普段はふてぶてしく見える顔が、泣くと無様に可愛らしくなるからだ。 「ぐじゅ……ぐずっ、ゆ゛……わ゛……わ゛、がり゛、ません゛……」 「あら、自分がなんで生きてるのかもわかんないの? じゃ、死ぬ? なんで生きてんの かわかんないんなら、とっとと死んじゃえば? ほら、どうなのよっ! 死ねよ!」 死ねと言ったものの、美鈴にはまりさを殺す気は全くない。 むしろ、死んで貰ったら困るのである。 全てを奪い、痛めつけ、泣かせ、いじめ抜き、時には飴を与え、自分好みに矯正してき たのだから、簡単に死なせる気は全くない。 さほど長い時間をかけて矯正を行った訳ではないが、その代わりに工夫をし、手間を掛 けたのだから。 「ぐゆ゛っ……じ、じに゛だい゛ですっ……う゛ぁぁぁぁんっ!」 「そう、死にたいのね? でもあんたは自分で死ぬ事も出来ないじゃないっ! また出来 もしない望みを言ってるのよ! あんたは、生きるのも死ぬのも、私にお願いしないとま まならない、何も出来ないゴミクズなのよっ!」 事実まりさの生殺与奪は、完全に美鈴によって握られているのであった。 自由に活動できる野生のゆっくりならば、崖から飛び降りたり、入水するなどの方法で 自殺する事も可能だが、美鈴に飼われているまりさには行動の自由が無い。 そもそも飼われている場所が、紅魔館中庭の物置小屋──美鈴ハウスの、鍵のかかった 地下室なのだから、行動の自由以前に太陽の光すら見る事が出来ない。 飼われている部屋で、美鈴が勤務中など不在の時を見計らって、角のある物や壁などに 渾身の力で体当たりしたとしても、死ねるかどうかは微妙なところであった。 何故ならば、一緒に飼われている他のゆっくり、ありすとゆっちゅりーの二匹がいるた め、自殺を図る前に阻止される、または図って後に助けられてしまう。 ありすとゆっちゅりーの二匹は、まりさを嫌い憎んでいるが、死なせてしまった場合、 美鈴から厳しく責任を追及される事も良く判っているから、全力でまりさが死なないよう に力を尽くすであろう。 すなわち、まりさは自らの意志で死ぬ事が出来ないのである。 そして、命を繋ぐエサは、飼い主である美鈴によって与えられている。 生きるも死ぬも、飼い主次第の存在──それがペットと言う身分なのだ。 「ゆ゛っ……ひぐっ……ぐじゅっ……う゛ぅっ……」 「ふんっ、泣いてばっかりいないで、ちっとは私の役に立ってみたら? その気が無いん なら何もしなくて良いけど、何もしないんだったら、また殺さない程度に皮剥いだりして、 私が勝手に役立てるわよ? どうなの?」 たっぷりと自分の立場をわからせた上で、美鈴は助け船を出してやった。 それに乗らないのならば、言葉通りにいたぶるつもりである。 「ゆ゛ゆ゛っ! ご、ごべん゛なざいっ! ま、まじざ、おね゛えざんのっ、や、や゛ぐ に、だっだぢたい゛でずぅぅぅぅっ!」 殺さない程度に皮を剥ぐ、それはまりさが最も恐れる懲罰である。 死ぬほどの苦痛、事実もう死にたいと思ったほどの苦痛を、再び味わうのは何よりも怖 く嫌であった。 「あら、そうなの? 私の役に立ってくれるの? ふふっ、いい子ねぇ……そうよ、そう やって、あんたは私に媚びて、私に心から服従しないといけないのよ。わかった?」 「ばっ、は、はい゛ぃっ! わ、わ゛がり゛まじだっ! ま、ま゛りざ、お、お゛ねえ゛ ざんの゛や、や゛くにだちまずぅっ! だっ、だだぜて、ぐだざいぃぃぃっ!」 役立たねば苦痛が訪れる、そう思っているまりさは必死であった。 必死に美鈴に、役立ちたい、役立たせてくださいと懇願する。 「……んー……これって、ペットのしつけ、なのかしら……?」 事の成り行きを、飽きもせず見続けているレミリアは呟いた。 「なんか、しつけって言うよりも……んー、特殊なプレイみたいね、これ……まぁ、 でも相手がゆっくりとは言え、美鈴も案外カリスマあるのね……いや、カリスマじゃない か、これは……うーん」 何となくだが、レミリアはこのまま見続けていると、精神衛生上あまり良くない事にな りそうな予感がした。 だが、なんだかんだ思いながらも、ここまでずっと窃視し続けていたのだから、せっか くだからもうちょっと見ていようと考え、その場に留まった。 ──この後レミリアは、やっぱり立ち去るべきだった、と後悔する事になる。 18禁部分に続く 18禁飛ばして中編に続く? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/3084.html
その3より こんな感じで、れいむの虐待は毎日のように行われていった。 過ぎてしまえば、長いようで短かった一か月。 れいむは何度心が折れてしまいそうになったか分からない。実際、折れた方がどれだけ楽だっただろうか。 しかし、その度にれいむの心を救ってくれたのは、同じく男に虐待を受けるまりさとありすの存在であった。 男は初日の説明通り、一日一時間の虐待を済ませると、きっちりと虐待を止めて、れいむを元の部屋に帰してくれた。 本当に虐待以外に興味がないのか、虐待時間以外は決してれいむたちに干渉してこなかった。 そのため、残りの23時間は、部屋から出れないことを除けば、自由に過ごすことが出来た。 れいむは一日の大半を、寝て過ごす。 虐待時間は一時間とは言え、あまりに過密な内容に、十分な休息を取らなければ、それこそいつ死んでもおかしくないからだ。 まりさやありすも同様に、大半を休息で過ごしているそうだ。 その後、起きたら食事の時間である。 部屋にはドッグフードと水が毎日欠かさず用意されており、その点に関してだけ言えば、森での生活より遥かにゴージャスであった。 とは言え、初日のように体が受け付けないことも多く、楽しい食事とはそうそういかない。 それでも、体力回復には食事を取らなければならないこともあり、れいむはどんなに苦しくても、毎日食事を取り続けた。 その後はまりさ・ありすを交えての意見交換会。 三匹で集まれる時間はあまり長いものではないが、これがれいむの一日の中で最大の楽しみであった。 内容は、今日はどんな虐待をされたのかとか、これこれこうすればあんまり痛くないだとか、明日はきっとこんなことをされるに違いないといった虐待に関することが半分。 そしてもう半分は、ただただ無駄話の駄弁りである。 大抵は男の悪口であったり、自分はどこどこの森で暮らしていただとか、昔こんなことをしたことがあるとかいった世間話だ。 もしこの時間がなくなれば、それこそれいむの心は早々に折れていたことだろう。 まりさとありすが居るからこそ、れいむは心を保ち続けることが出来、未だ信じるに足らないが、「飽きたら森に帰す」という男の言葉を微かな希望として生き続けている。 どれか一つ欠けても、先はないのだ。 まりさとありすと言えば、この一か月の間に二匹に対する感情も変化していった。 まずはまりさ。 出会ったときから美ゆっくりであったまりさへの親愛度は高かったが、今では以前に輪をかけて大きなものになっている。 最初は単なる一目惚れであったが、今では間違いなく、れいむはまりさに惚れ込んでいた。 会話を交わしていて分かったのだが、まずまりさは頭がいいのだ。 無論、所詮はゆっくりの中でのことであり、人間や妖怪とは比べられないが、それでも母ぱちゅりーに匹敵するのではというほどの知識を溜めこんでいる。 聞けば、まりさの片親もぱちゅりーであり、幼い頃から様々なことを教え込まれてきたらしい。 今後使う機会があればよいが、丈夫な家の作り方や安全なキノコの見分け方など生活の知恵からちょっとした雑学まで、れいむとありすに懇切丁寧に教えてくれる。 また、リーダーシップにも長けていた。 まりさは三匹の中で一番年長であり、自然とまとめ役をこなすことが多い。まりさ種特有の気質も無関係ではないだろう。 れいむとありすが喧嘩した時もうまく収めてくれたし、三匹の意見が食い違うことがあっても、常に一歩引いて二匹を立ててくれる。 こういうさり気なさがまりさの魅力を引き出しており、結果、れいむのまりさへの好意は急上昇していったのである。 続いてありすであるが、最初はれいむにとって、あまりいい印象を持つゆっくりではなかった。 しかし、今ではれいむの親友であると、はっきりと断言できる存在となっていた。 ありすについて真っ先にいうなら、とても優しいゆっくりだということである。 自身も辛い目に遭わされているにも関わらず、常にれいむとまりさの心配を優先し、自分は二の次に置いていた。 以前、れいむが寝れなかった時など、ありす自身も辛いはずなのに、一晩中、れいむの話し相手をしてくれたことがあった。 都会派を気取るところは最初から変わりないが、それはありす特有の照れ隠しの場合が多く、付き合いが続けば自然とそれが理解出来るようになっていた。 そんなありすであるが、小さい頃から親まりさ一匹に育てられたらしい。 れいむがうっかりと「おとうさんはどうしたの?」と聞いてしまったことがあって、すぐに失敗したと思った。 こういう場合、大抵れみりゃや野生動物に食べられたか、人間に捕まったかのどちらかであるからだ。 しかし、ありすから返ってきたのはそのどちらでもなかった。 ありすの親ありすは、なんとレイパーだというのだ!! これには、れいむばかりかまりさも驚愕した。 レイパーありすは、無理やり親まりさをすっきりさせると、親まりさを置いてどこかに行ってしまったらしい。 その後、ありすは親まりさ一匹で育てられたそうだ。 レイパーから生まれたありすは、高確率でレイパーになることが多い。 先天的にレイパーの因子を持つことと、望まれないで生まれてきたことによる親からの愛情不足、生活環境の乱れが、レイパーへと成長させる主な原因である。 しかし、このありすはレイパーの子供でありながら、とてもレイパーを憎んでいた。 望まれて生まれて来たわけではなく、周りのゆっくりたちはそんなありすをレイパーの子と蔑んだが、親まりさはありすを憎むどころか、自分の子供としてしっかりと育ててくれた。 その過程を見て育ったありすは、親まりさを心の底から尊敬し、愛し、レイパーを憎んだ。 自分は決してレイパーなどという下品で下等なゆっくりにはならないと心に誓い、常に他者を思いやる心を持ち続けようと、今日まで頑張ってきたのだという。 それが、この慈愛に満ちたありすなのだろう。 れいむは、見もせず伝聞だけでありす種すべてを嫌っていたことを恥じ、ありすに謝罪した。 ありすは、そんなれいむに怒ることはなく、「仕方がないわ」と笑って許してくれた。 それ以来、二匹は親友と呼べるようになった。 二匹の年齢がほぼ同じくらいなのも、それに輪をかける結果となったのだろう。 これが現在のれいむの二匹に対する感情である。 男の虐待がなければ、三匹仲良くいつまでもゆっくり出来たことだろう。 男に連れてこられなければ出会うこともなかったのだが、例えそうだとしてもれいむはそれが悔しくて仕方がなかった。 しかし、男の虐待は、ここにきてようやくターニングポイントを通過したことを、この時のれいむは知る由もなかったのである。 翌日、今日も一日が始まる。 男が三匹に虐待する時間はほぼ決まっており、今日もその時間がやってきた。 虐待の順番は、まりさ→ありす→れいむ→まりさ→ありす→れいむ→まりさ→……とサイクルが決められており、昨日はありすが一番だったので、今日はれいむが最初である。 ところが、男はれいむの部屋になかなか入って来ることはなかった。 いつもなら入ってくるや、れいむを木箱に詰めて虐待部屋に連れていくのだが、いったいどうしたのだろう。 男が居ないわけではない。 現にここまでの足音はしっかりと聞こえているので、扉のすぐ前に男は居るはずなのだ。 順番を忘れたのだろうか? もしかしたら今日は虐待されないんじゃ…… れいむがそんなあり得ないことを考えていると、男がようやくリアクションを見せた。 れいむの部屋を開けることなく、壁越しに大きな声で言葉をかけてくる。 れいむだけでなく、まりさとありすにも聞こえるように、そこから話しているのだろう。 「お前たち、よく聞け。今日から虐待の一部を変更する」 「ゆっ!?」 虐待の一部変更? 一体今さら何を変更するというのだ? まさか時間を延ばすのだろうか? それとも更なる痛みに耐えなければならないとか? まさか、虐待に飽きたから殺されるんじゃ!! れいむは焦った。 何しろ今日の虐待はれいむが最初なのだ。 全く心構えが出来ていない。 しかし、男はそんなれいむの心情を知ってか、「怯えているようだな」と前置きをして、説明を続けた。 「心配することはない。虐待方法は、前と変わりはない。時間はきっちり一時間だし、決して殺すまで傷めつけたりはしない。 他の時間は何をしても構わない。寝るのも食べるのも三匹で語り合うのも、お前たちの自由だ」 「ゆっ……それじゃあ……」 「変えることはただ一つ。今日から、お前たちの中の一匹だけを虐待することにする」 「ゆゆっ!!」 一匹だけ? ってことは、残された二匹は虐待されずに済むってこと? でもそんな都合のいい話があるだろうか? かつては疑うことを知らなかったれいむも、今ではすっかり俗世の垢にまみれ、あらゆることに考えを向けるようになっていた。 あれだけ虐待の好きな男が、一匹だけを虐待し、他の二匹を虐待しないなんてそんな甘いことをするだろうか? れいむがその旨を男にそれを問いただす。 男も予め予想が付いていたのだろう。れいむの質問に、淀みなく返事を返してくれた。 「その通り。今日からは一匹だけを虐待し、他の二匹は虐待しない」 「ゆゆっ!!」 れいむはその言葉に、あんぐりと口を開けた。 あり得ない。あり得るわけがなかった。 余りにも自分達に都合がよすぎる。なぜ今頃になって、男がそんなことを言ってくるのか、全く理解が出来なかった。 何か裏があることは間違いないだろう。 男はまたしてもれいむの心を悟ったように、続けてくる。 「どうやら、何か裏があるんじゃないかって疑っているようだな? まあ、今までの経緯を見れば、お前らが俺を疑うのは当たり前だな。 だが、この話に裏はない。一日の虐待は一匹のみ、他の二匹は今日から虐待をされなくなる。この話は真実だ。ただし、裏ではないが一つだけ条件がある」 れいむはほら来たと思いつつも、言葉に出さずに男のいう条件に耳を傾けた。 「虐待されるゆっくりは、俺が決めるのではなく、お前らが選出する。これが条件だ」 「ゆっ!! れいむたちがえらぶの?」 「その通り。相談して誰が虐待されるかを選び、選ばれたゆっくりだけが虐待され、他の二匹はその日は解放される。次の日は誰、次の日は誰と、毎日決めるんだ。 自分で立候補してもいいし、多数決で決めても構わない。毎日、同じ奴が虐待されても構わないし、三匹仲良く順番に虐待されてもいい。決めるのはお前らだ。 ただ、お前らが虐待される一匹を選出できなかった場合、その日は今まで通り三匹全員を虐待する。無論、それでも俺は構わないが」 「ゆぅぅぅ……」 男の言葉に、れいむは悩んだ。 未だ完全に男の話を鵜呑みには出来ないものの、もし話が本当だとするなら、自分たちにとってこれほど都合のいいことはない。 しかし、自分たちが選ばなくてはならないというのが一番の問題だ。 誰か一匹を選ぶということは、その日の生贄を選ぶということである。 れいむは二匹を親友だと思っている。 向こうもれいむを親友であると思ってくれているという自負がある。 たかが一か月の付き合いだが、今や二匹は自身の一生をかけても惜しくない存在になっている。 本心である。 嘘ではない、嘘ではない、が…… あの虐待と友情を天秤にかけると、それが揺らいでしまう自分がいることに、れいむは気付き愕然とした。 それだけ男の提案は魅力的なのだ。 もし生贄に選ばれさえしなければ、森に解放されるその日まで、ずっと虐待されなくなる可能性があるのだ。 あの地獄の苦しみにも匹敵するほどの暴力を、その身に受ける必要がなくなるかもしれないのだ。 忘れかけていたゆっくりした日々を、再びおくることが出来るかもしれないのだ。 どうして簡単に結論を出せるだろう。 虐待される者を選ばないという選択肢は、初めから却下だ。 せっかくのチャンスを不意にするような馬鹿者はここにはいない。 これをするくらいなら、三匹でサイクルで回すほうが効率的だ、というかサイクル回しこそが、この場合最もベストな案であろう。 これなら全員等しく虐待されるので、友情面は何ら変わらない。 しかし、虐待時間は三日に一度、今までの1/3で済むことになるのだ。 もし、今日虐待されるのが誰かで揉めるようなことがあれば、そこはれいむが立候補すればいい。 元々今日最初に虐待されるはずだったのはれいむなのだ。 それに今日虐待されてしまえば、明日明後日は平穏に過ごすことが出来る。 早いか遅いかの違いである。 と、ここまで考えたが、れいむはそれをまりさとありすに言い出しきれなかった。 確かに三匹を平等に考えれば、これがベストな案なのは間違いない。 しかしながら、自身だけに重きを置けば、永遠にゆっくりすることすら可能な選択がある。 二匹との友情は壊したくない。 けれども、相談次第では虐待されないかもしれないチャンスがあるのを、みすみす逃したくはない。 虐待は怖い、痛い、辛い。二度と受けたくはない。 でもまりさとありすに、れいむの代わりに虐待されろとは言えるはずがない。 このジレンマが、れいむの心に重くのしかかる。 そんなれいむの葛藤を余所に、男は言葉をドア越しに言葉をかけてくる。 「まあ、いきなり決めろって言ったって、すぐには思いつかんだろう。一時間後また来る。その時まで、今日誰が虐待されるか考えておけ。決まらなかったら、全員を虐待するからな」 そう言って、男の足音は遠ざかっていく。 が、次の瞬間、沈黙を続けていたまりさが、いきなり声を上げた。 「おにいさん、ちょっとまってね!!」 「ん? なんだ、まりさ?」 男の足音が止まり、再びこちらに近づいてくる。 れいむは、まりさが何を言うのか分からなかった。 まだ三匹で相談はしていない。誰が生贄になるか決まっていない。 何か聞き洩らしたことでもあったのだろうか? すると、まりさはれいむの予想に反して、とんでもないことを言い出してきた。 「おにいさん!! まりさがぎゃくたいされるよ!! だから、れいむとありすにはぜったいになにもしないでね!!」 これにはれいむも唖然とさせられた。 隣にいるであろうありすもそう思ったのだろう。 黙っていられなかったのか、声を出してくる。 「ま、まりさ!! まだそうだんしていないのよ!! それなのに、じぶんからすすんでいじめられるなんて!!」 「わかってるよ、ありす!!」 「ほんとうにわかってるの!! いじめられるのよ!! いたいのよ!! それをじぶんからうけるなんて!!」 ありすは、信じられないといった声色で、まりさに問いかける。 そんなありすの言葉に続いて、男も質問を返してくる。 男にとっても、予想外の展開だったのだろう。 しかし、まりさの返答は変わりはしなかった。 「……本当にいいのか、まりさ?」 「いいんだよ!! まりさがぎゃくたいされるよ!!」 「本当に分かっているのか? ありすのセリフではないが、虐待されるんだぞ。あの痛みを忘れたのか? あの苦しさを再び味わいたいのか? それを自分から進んで買って出るなんて正気か?」 全くもってありすと男の言う通りである。二人はれいむのセリフをすべて代弁してくれた。 賢いまりさのことだ。 れいむと同じ考えに行きついていないはずはないだろう。 それなのに、自分から進んで地獄に飛び込むなんて、まりさはいったい如何してしまったのだ!! 「……ぎゃくたいはまりさもこわいよ」 「だろうな」 「できるなられいむとありすといっしょにいつまでもゆっくりしていたいよ!!」 「ならなぜ自分から進んで虐待されようとする?」 まりさは、男の問いに少し間を置いた後、おもむろに語りだした。 「ぎゃくたいはされたくないよ!! でも、れいむとありすがぎゃくたいされるのは、もっといやだよ!!」 この言葉には、男ばかりかれいむも言葉を失った。 まりさが、自分から進んで志願した理由。 それは、れいむとありすを守るためだというのだ!! れいむは心を叩きつけられるような衝撃を受けた。 れいむにとって、まりさとありすは大切な存在だ。しかし、一方で虐待は受けたくない。 れいむは友情と虐待を天秤にかけて選びきれなかった。 精々譲れない妥協点として、三匹でサイクル回しをすることを考え付いただけ。 自分の被る被害をなんとか最小限にしようということばかり考えていた。 このれいむ考えを非難することなど、誰にも出来はしないだろう。 人間や妖怪ですら、心を強く持つことはとても難しいことなのだ。 増してや、幻想郷におけるヒエラルキーの下層に位置するゆっくりだ。 自分のことを第一に考えても、それは決して責められるべきことではない。 しかし、まりさは違った。 弱いゆっくりという身でありながら、自分よりれいむとありすを優先させた。 自分が被る被害など、初めから頭になかったのだ。 「……それじゃあ何か、お前は二匹の為に進んで虐待を受けるというのか?」 「そうだよ!! ゆっくりまりさだけにぎゃくたいしてね!!」 「二匹の為ってことは、今日だけじゃなく、明日も明後日もお前が虐待を受けるのか?」 「そうだよ!! まりさがゆっくりまいにちぎゃくたいされるよ!!」 「やはり正気の沙汰じゃないな……そんなことをして何になる。自分だけが虐待されるなんて、不公平だとは思わないのか? お前が俺に酷い虐待されている時、他の二匹は悠々とゆっくりを満喫しているんだぞ。妬ましいと思わないのか? 毎日三匹交替で虐待されていけば、全員公平なんだぞ。それが分からないのか?」 「おにいさんおいうことはわかるよ!! でもまりさは、このなかでいちばんおねえさんなんだよ!! だから、がんばらなくちゃいけないんだよ!! それに、まりさのおかあさんがむかしいってたよ!! だいすきなゆっくりは、じぶんをぎせいにしても、まもらなくちゃならないって!! まりさもそうおもうよ!! だから、だいすきなれいむとありすのぶんまで、まりさががんばらなくちゃならないんだよ!!」 「……いいだろう。そこまでいうなら、お前の意地を見せてもらおうか。今日の生贄はお前で決まりだが、明日は明日でもう一度決めるチャンスをやろう。 いつでも今の言葉を撤回して構わない。あまり意固地にはならないことだ」 そう言って、男は隣でゴソゴソ物音を立てる。 まりさを連れていこうとしているのだろう。 「まりさっ!!」 れいむは、そんなまりさに言葉をかけた。 何か言いたいことがあったわけではない。 いや、違う。言いたいことはたくさんあったが、いったい何から伝えればいいのか、考えを纏められないでいたのだ。 まりさの自己犠牲をもいとわない尊い精神と、れいむたちへの深い愛情に対し、いったいどんな言葉で返せばいいのか分からなかった。 自分が何か言ったところで、陳腐な言葉しか掛けられないだろう。 それでも、何か言わなければならない。言わずにいられない。 強迫観念にも似た思いで、まりさの名だけ口にする。 そして壁越しに聞こえてくるまりさの声。 「だいじょうぶだよ、れいむ!! ありす!! まりさはへいきだよ!! どうせいつもとおんなじだよ!! すぐにもどってくるから、ゆっくりまっててね!!」 それだけ言って、男の足音は徐々に遠ざかっていった。 「まりさ……」 再度れいむの口から出てくるまりさの名前。 れいむは、ただただまりさが無事に帰ってきますようにと、必死で願い続けた。 「れいむ……まりさ、つれていかれちゃったね」 ありすが壁越しに言葉をかけてくる。 それに対し、れいむは一言、「そうだね……」と返しただけであった。 何を話せばいいのか分からなかったのだ。 まりさのおかげで、自分たちは今日は虐待されないだろう。 それは、れいむの然程長くない人生の中で、最も嬉しい瞬間であった。 それと同時に、れいむの人生の中で、とても悔しい瞬間でもあった。 まりさの無事を願う反面、虐待されなくて良かったなんて思っている自分がいる。 なんて醜いのだろう。 まりさを助けたい。まりさの役に立ちたい。 もし自分から名乗り出れば、明日はまりさは虐待されないだろう。男も続けてまりさを虐待するくらいなら、きっとれいむを選ぶだろう。 まりさに対して胸を張れるだろう。 しかし、れいむには自分を虐待しろなんて男に言えない。言い出せない。言いだす勇気が持てない。 虐待はされたくない。虐待は怖い。 でも、まりさは助けたい。 れいむの葛藤は計り知れなかった。 おそらくありすもれいむと同じ気持ちなのだろう。 最初の言葉以外、れいむに話しかけてこなかった。 ここに来て以来、初めて味わうゆっくりした一日だというのに、何でこんなに気が晴れないのだろう。 モヤモヤした気持ちは一時間後、虐待を終えた男がまりさを連れてくるまで続いた。 「明日の虐待は今日とは比べ物にならないほどキツイ。安易に自分がなんて、言わない方が身のためだ」 まりさを部屋に戻し、男が挑発してくる。 しかし、まりさの意志は変わらなかった。 「ゆぅゆぅ……ゆぅ………あ、あしたも……まりさがぎゃくた…い……されるよ……れいむとあり……すはいじめ………ない……で…ね……」 苦しそうな声で、しかし、きっぱりと男の言葉を否定するまりさ。 男はそんなまりさを苦々しく思ったのか、「ちっ!」と舌打ちをして、去って行った。 男が行った後も、まりさは荒い息を吐いている。 相当きつい虐待を受けたことが、姿を見ずとも容易に感じられた。 「まりさ……だいじょうぶ?」 なんて声をかければよいのか分からず、れいむは在り来たりな言葉を口にする。 対して、まりさは「ゆっ!! へいき…だよ!! ぜんぜん……へっちゃら…だよ!!」と、不安を見せまいと虚勢を張ってきた。 それが一層れいむの心をかき乱す。 とにかくなんか言葉をかけなければ!! 焦るれいむは、思ったことを適当につなげ、言葉を紡ぐ。 「まりさ、ゆっくりありがとう!! まりさはすごいよ!! やっぱりえらいね!! まりさのおかげで、れいむとありすは、ぎゃくたいされなかったよ!! ゆっくりかっこいいね!! きょうはゆっくりやすんでね!!」 「そうだよ、まりさ!! ゆっくりねむってね!!」 れいむに続いて、ありすも言葉を投げかける。 ありすもどうやら何を言えばよいか分からなかったと見える。 他人を特に気遣うありすだ。 れいむ同様、まりさを頼り切った状況に、悔しく思っているに違いない。 「ありが…とう、れいむ、ありす!! まりさ、ゆっく……りおひるねす……るね……」 まりさはそう返すと、その後、何も言ってこなくなった。 おそらく毛布に包まって、寝入ったのだろう。 今までの日課のパターンと同じである。 れいむとありすは、まりさを起こさないように、「しずかにしようね!」と口裏を合わせ、その後一切の会話をしなかった。 れいむは、まりさの心意気を無駄にしないためにも、精一杯ゆっくりさせてもらうことにした。 この日、れいむの体は久しぶりにゆっくりを味わった。 この日、れいむの心は、一日中ゆっくり出来なかった。 その5?へ
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3371.html
注意 自分設定があります。 赤ゆっくりがでてきます。 すっきりできないまま、終わるかもしれません。 「「「ゆっきゅりちていってね!」」」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 ここはとあるゆっくりの群れ。 たった今、生まれたばかりのゆっくりが目をキラキラを輝かせながら親たちに向かって、お決まりの挨拶をする。 親たちもまた、お決まりの挨拶を返し、その後は頬を擦り合わせて親愛の情を示すのだ。 平凡かもしれないが、とてもゆっくりした親子たちであった。 子供たちは初めて見る『おそと』に興味津々であった。 あるもの全てがとても綺麗なものとして感じられる。 木々の緑、風の流れ、太陽の暖かな光、どれもこれも当たり前のものだが、全て素晴らしいものとして感じている。 この時の感情をゆっくり風に言い表すならば、『とってもゆっくりしている』であろう。 大人になってからでは目を向けないものだが、生まれたてのゆっくりだからこそ分かるのだ。 やがて子供たちは自分を生んでくれた親の元へと集まり、家族であることを確認する。 彼らはとても、とてもゆっくりしていた。 「へぇ、いっぱいゆっくりがいるなぁ」 「ゆっ!?」 人間の、どこか呑気そうな声が聞こえてきた。 ゆっくりは慌てて周囲を確認する。ゆっくりにとって、人間とは『ゆっくりできないもの』として分類されているからだ。 すぐさま、一匹のゆっくりが茂みから顔だけ覗かせている人間を見つける。 それは若い男であった。大きなリュックを背負って、物珍しそうにゆっくりたちを眺めている。 いきなり襲って来ないことに安堵したのか、ゆっくりたちはその場に留まって人間を威嚇する。 「ゆうぅぅぅ! にんげんさんはあっちにいってね! ここはれいむたちのゆっくりぷれいすだよ!」 ぷくぅ、とゆっくりれいむは頬を膨らませて、身体を大きく見せる。 この動作は他の動物に対しても威嚇の効果はあまり持たないが、ゆっくり的には真剣である。 本気で相手を驚かせられると思っているのだ。 勿論、人間相手ではまったく威嚇の効果は見込めないが。 「いやいや、ごめんごめん。ゆっくりできないことはしないから、安心してくれよ」 笑顔のまま、男は両手を挙げて敵意の無いことを示す。 それでも、ゆっくりたちの威嚇の構えが解けないので、背中のリュックからあるものを取り出した。 「それじゃ、お近づきのしるしということで、これをあげるね」 それは山の中で採っていたキノコであった。 ここで、ゆっくりに人間の食べ物を渡すほど、男は知識不足なわけでもない。 人間の食べ物に舌が慣れてしまったら、大抵はろくなことにならないからだ。 「ゆゆゆ!? きのこさんだね! みんなはちょっとまってね!」 集団の中心ゆっくりと思しきゆっくりれいむが、まずは毒見をしてみる。先ほどの頬を膨らませたゆっくりれいむである。 むーしゃむーしゃ、と食べてみても、おいしいだけで毒はないようだ。 「きのこさん、おいしいよ! もっとちょうだいね!」 「はい、どうぞ」 ゆっくりにも食べやすいように、ある程度ばらばらにして地面にばらまく。 親ゆっくりたちはわっ、とそのキノコに群がって食べ始める。 出産直後であったために、とてもお腹が空いていたのだ。 「うめぇ! まじうめぇ!」「まじぱねぇ!」 「むーしゃ、むーしゃ! しあわせー!」 凄まじい勢いでキノコを食べていくゆっくりたち。その様子を男は笑顔で眺めている。 一方、子供のゆっくりらはまだキノコのような固形物を食べることはできないため、食べ終わるまで待たされている。 子供であるため、食べ物という概念を完全には理解できていないが、おいしそうであることはなんとなく分かる。 いいなー、というような視線で親達を眺めている。 男はそれを不憫に思ったのか、そちらへと話しかけた。 「君たちは可愛い赤ゆっくりだね。お持ち帰りをしたいくらいだよ!」 突然、人間に話しかけられた子供たちは「ゆゆ!?」と驚いて親たちの背中に隠れる 親れいむの方もぶくーっと膨らんで、再度の威嚇行動を取る。 「れいむのかわいいあかちゃんをもっていかないでね! ぷんぷん!」 「おかーしゃーん、がんばれー!」 「本当に持って行くつもりはないよ? そのぐらい、赤ゆっくりが可愛いってことさ!」 男の言葉に少しは気を許したのか、親れいむはぷひゅるる~、と頬から空気を抜く。 勿論、それにつけこんだ催促も忘れない。 「ゆっ! いくられいむのあかちゃんにめろめろになったからって、へんなこといわないでね! あと、きのこさんをもっとちょうだいね!」 随分と偉そうではあるが、親れいむは他の者を相手にする時、『下手に出たら負け』と思っている。 常に堂々としていることで、相手を圧倒しようというわけだ。これは同じゆっくり相手には通じる場合もある方法である。 場合によっては野生動物にも効くかもしれない。声に驚くこともあるからだ。 勿論、人間にはまったく効果はないが、男には人語を解してる、と感じられてむしろ好意的にすら思っていた。 男は普通の『良い人』であり、極端な嗜好の持ち主ではない。 ゆっくりによってもたらされた被害に眉をひそめることはあっても、潰そうとは思わない性格であった。 はいはい、と頷くと、男は再びきのこをばらまく。 ゆっくりたちもこの人間は敵ではない、と判断したのか、きのこを食べながら思い思いにゆっくりし始めた。 しばらくの間、男は触れるでもなく、ただひたすらに子供のゆっくりを眺めているだけであった 「いや、ホントに可愛いな~赤ゆっくりは」 ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、何度目かになるその台詞を言う。 そこで、ようやくゆっくりたちは疑問を持った。 「ゆ? あかゆっくりってなに? れいむのあかちゃんはれいむだよ!」 親れいむがややこしいことを言う。 ちなみに、ゆっくりに個体名というのは存在しない。あるのは『れいむ』や『まりさ』などといった種族名のみである。 それでは相手のことを呼び合えずに不便に思われるかもしれないが、ゆっくりは飾りによって相手を識別している。 どんなに美しいとされるゆっくりでも飾りがなければ、ゆっくりできないゆっくりと思われる。 家族であっても、飾りのないゆっくりは排斥しようとするのだ。 飾りは取れやすい、という欠点はあるが、相手を識別するのに最も必要なものである。 加えて、ゆっくりは親しい相手のことは微妙なニュアンスで呼び分けてもいるらしい。 余談ではあるが、人間がそれぞれ違う名前を持っている、というのはゆっくりにはよく理解できないことなのだ。 だから、人間を『にんげんさん』や『おにいさん』などといって一括りにしようとする。 もしかすると、人間には飾りがないのでゆっくりしていないと思っている可能性もある。 飾りがないゆっくりとは、人間で言えば名前のない人間と例えれば、少しは理解できるかもしれない。 「ああ、赤ゆっくりっていうのはね、赤ちゃんのゆっくりのことだよ。 可愛い赤ちゃんの赤を取って、赤ゆっくり」 男は親れいむを見ながら、丁寧に説明する。 その説明に親れいむも納得の表情を浮かべて頷く。 「ゆ! あかちゃんのことだったんだね! そうだよ! れいむのあかちゃんはかわいいもんね!」 元々、大きかった声をさらに張り上げて親れいむは胸、もとい顎を張る。 男は頬を綻ばせながら、ゆっくりの様子を見ている。 「皆が『れいむ』じゃ、ちょっと呼びにくいもんね。赤ちゃんのことぐらいはそう呼んでみたいんだよ」 男は人間なので、ゆっくりの区別は大きさの大小などでしか区別ができないため、一つそんな提案をしてみる。 親れいむはというと、その提案に乗り気であった。 「ゆゆゆ! おにいさん、あたまいいね! ゆっくりよんでいいよ!」 男は褒められはしたが、流石に苦笑いで返す。 しかし、許可は出たので思う存分、呼ぶこととした。 「それじゃ、赤ゆっくり可愛いな~。ウチでも飼いたいなぁ。でもなぁ……」 わずかに陰鬱な表情になりながらも、触れずに愛でる男。 猫好きなのに猫アレルギー持ちのような可愛がり方である。 親れいむはそんな男の様子を見ていて、なんとなくうずうずし始めていた。 先ほどから男の言葉が気になって仕方ないのだ。 赤ゆっくり。赤ちゃんを指し示す言葉である上に、ゆっくりという言葉が入っていれば気にならないわけがない。 つまるところ、自分も言ってみたいのだ。 「ゆっ、ゆっ! おにいさんだけにはあかちゃんをまかせておけないよ! れいむもよぶよ!」 すぐに我慢の限界が訪れ、よく分からない論理を展開しながらも親れいむが自分の子供に近寄る。 「ゆ~♪ れいむのあかゆっくり~♪ とってもかわいいんだよ~♪」 「「「ゆ~」」」 赤ちゃんゆっくりとは親れいむなりのアレンジだろうか。 子守唄のようなものを歌いながら、己の子供を頬ずりをする親れいむ。 頬ずりをされている赤ゆっくりはなんだか妙な表情をしている。親が重いのかもしれない。 そして、周囲にいたゆっくりもその光景を見て、ゆっくりしたくなってきた。 「ゆっ、ゆっ! まりさのあかゆっくりもゆっくりするよ!」 「あかゆっくりちゃんって、とってもとかいてきなかんじね!」 「ゆ! あかちゃんゆっくりかわいいな~♪」 などと、自分の子供とゆっくりし始めた。 各々がゆっくりしている状況を見て、男はゆっくりしているのを邪魔していけない、と感じた。 人間がゆっくりと関わっても、ゆっくり側に良いことはあまり起きないからだ。 そういう意味で男は少し関わりすぎた。 「それじゃ、僕はここで失礼するよ。後は皆でゆっくりしていってね!」 「「「「ゆっくりしていってね!」」」」 こうして、男とゆっくりたちは別れた。 できればもう一度会いたいな、などと考えながら、男は家路に着いたのであった。 男と出会ってから一週間程が過ぎた。 その間、親れいむたちは酷い目に会うこともなく、毎日を過ごしていた。 食べ物がちょっと少なかったり、木にぶつかったりなど、些細な不幸はある。 しかし、それを補って余りあるほど自分の赤ゆっくりは可愛いし、皆と一緒にいられるのもとても幸せである。 みんなゆっくりしている、はずであった。 なんだかあかちゃんゆっくりのようすがへんだ、と何となく親れいむは思っていた。 言葉ではうまく説明できないが、妙な違和感を親れいむは持っていた。 赤れいむに元気がないわけではない。むしろ、普通に甘えてきたりもする。 呼べば返事もちゃんとする。多少の偏食はあっても、さして重要視すべきことでもない。 だが、何か変だった。 「ゆ~? よくわからないよ? でも、ゆっくりできないからいいや!」 親れいむは考えることを放棄した。元来、ゆっくりとは考えることを常とするモノではない。 刹那的に日々を過ごしていく奇怪な動く饅頭である。 ともあれ、親れいむは先ほどまでの考えをすっかり忘れて、我が子に頬ずりをする。 「す~り、す~り♪ れいむのあかゆっくり、ゆっくりしていってね~♪」 「ゆっきゅり~♪」 赤ゆっくりもそれに応じて、頬ずりをする。とても仲が良い関係であった。 さらに幾日か過ぎた。 何度かの不幸はあったが、親れいむたちはゆっくりしている。 しかし、なんとなく違和感が残ったままであった。 「「ゆっくりしていってね!」」 仲間同士で言い合う中でも、何か釈然としないものがあった。 誰もがなんとはなしに分かっているはずなのに、分からない。 そんな状態が長く続き、親たちはどこかゆっくりできなかった。 そんな中でも赤ゆっくりたちはいつもどおりにゆっくりしていたが。 ある日、親れいむは仲の良いゆっくりまりさに思い切って相談してみることにした。 自分の考えすぎかもしれないが、ずっと心の底からゆっくりできていないのだ。 これではストレスが溜まって仕方ない。 親れいむは親まりさを人気ならぬゆっくり気のない場所に呼び出して、問いかけた 「ゆぅ……まりさはゆっくりできてる?」 「ゆっくり、できてるよ! どうしてそんなこときくの?」 「ゆっ……!」 まりさの言葉の間、『ゆっくり』の部分にわずかな躊躇いがあることを親れいむは見逃さなかった。 もしかするとまりさもゆっくりできていないのではないか、と親れいむは感じたのだ。 「まりさ、ほんとうにゆっくりできてる?」 「ゆ……ゆっくりできてるよ?」 「ほんとうに?」 「ゆ、ゆぅ……」 親れいむに何度も問いかけられることによって、まりさも徐々にゆっくりできなくなっていく。 心の中にあったわずかな疑念が段々と大きくなっていくのが分かる。 「……まりさも、すこしゆっくりできてないよ……」 注意して見れば、まりさの身体は葉っぱなどによってできた擦り傷がいくつかある。 親れいむにもあるが、自分の赤ゆっくりのために食べ物を取って来る時にできた傷である。 子育てとは大変なものである。 だが、ゆっくりできない問題とはまさしくそこにあった。 「まりさのあかゆっくりが、へんなんだよ……」 まりさが沈痛な面持ちで語りだす。 そこには隠し切れない苛立ちも含まれていた。 「もうずっと、ごはんをあげてるのにぜんぜんゆっくりしてないんだよ…… まりさががんばってるのに、ぜんぜんてつだってくれないし、もっと、ちゃんとしてほしいよ……」 まりさが愚痴を言うように呟き続ける。 親れいむにはまりさの辛い気持ちはよく伝わったが、何が起こっているのかはよく分かっていなかった。 出した結論は、 「やっぱり、まりさもゆっくりできてないんだね!」 だった。原因は未だ不明だが、その推測は当たっていた。 そして、このゆっくりできない状態は群れ全体へと波及していくのであった。 さらに数日。そこで繰り広げられている光景は酷いものであった。 「ゆっくりできないあかゆっくりは、どっかいってね!」 「「まま~! どおぢでそんにゃこどいうの~!?」」 「こんなあかゆっくりちゃんはとかいはじゃないわ!」 「「ときゃいはってな~に?」」 「あかちゃんゆっくりなんて、もういらないよ!」 「「おかーしゃーん!?」」 親であったはずのゆっくりたちが己の子を罵っている姿がそこにはあった。 その中には、あの親れいむの姿もある。 「どおして、れいむのあかゆっくりはおおきくならないのぉぉぉおお!?」 「「「おか~しゃん、おこらないでね!? おこらないでね!?」」」 親から受ける圧力に、赤ゆっくりはとてもゆっくりできていなかった。 どうして親たちが怒っているのかも理解できない。 しかし、言われも無い迫害を受けているとは言いがたい状態でもあった。 親れいむの言葉は真実である。 赤ゆっくりたちは男と会った時と比べても、ほとんど成長していないのだ。 いや、全く成長していないと言い切ってしまってもいいかもしれない。 「ほんとうに、れいむのあかゆっくりはじゃまだよ! ゆっくりできないよ!」 「「「どうちてしょんなこというのぉぉぉぉぉ!!??」」」 親れいむは可愛がっていたことも忘れて、赤ゆっくりを罵る。 赤ゆっくりが生まれてから、ずっと食べ物を与え続けているにも関わらず、まったく大きくならない。 それが、親れいむには不気味に映り、またゆっくりできないように思えたのだ。 赤ゆっくりは赤ん坊であるために食べ物を自力で食べられず、親が噛み砕いたものなどを食べる。 一般に言われている限りでは数週間もあれば、赤ゆっくりから子ゆっくりへと成長する。 子ゆっくりともなれば、親が噛み砕いたものを食べる必要はなく、それなりに固形物を食べられるようにもなる。 また、身体にも弾力性が出てきて、赤ゆっくりと比べてはるかに死ににくくなる。 赤ゆっくりを育てるというのは神経を使うものなのだ。 それが一向に成長しないともなれば、余計にイラつくのも無理はない。 「もうへんなあかゆっくりなんてそだてないよ! さっさときえてね!」 「「「おか~しゃ~~ん!!!」」」 親れいむの最後通牒によって、親子間に決定的な溝ができた。 かえってきて、と泣く子を無視して、れいむは自分の食べ物を探しに行く。 見れば、周囲の親ゆっくりたちも一様に我が子を見捨てて、思い思いに行動し始めている。 「ゆ~♪ これでようやくゆっくりできるよ! ゆ~♪ ゆ~♪」 れいむは意気揚々と跳ねていく。 その頭の中は己の願望で一杯であった。 「まずはあたらしいおうちをみつけないとね! れいむのかわいいかわいいあかゆっくりがいっぱいほしいよ! ちゃんとおおきくなるあかゆっくりがほしいね!」 この家族は何か特別なゆっくりではなかった。そこらに存在している一般的なゆっくりでしかない。 それは群れのゆっくりも同じである。では、何故今回のようなことが起こったのか。 それは、『あかゆっくり』という言葉によるものであった。 群れの子供たちは己の名前ではなく、明らかに『あかゆっくり』などと呼ばれることが多かった。 本来、ゆっくりは人間が気づき得ない微妙なニュアンスの差異で他の個体を呼び分けている。 それによって、己の自我を確立し、他の個体とはわずかに違った精神構造を持つ。 それが『あかゆっくり』と一括りにされることで乱れてしまったのだ。 最初に自我を確立させるべき相手から、名前を呼ばれないことで奇妙な変化が起こっていた。 子供たちは自分のことを『あかゆっくり』であると思い込み、そうであろうとする意思が働いていた。 『あかゆっくり』であるから、大きくならない 『あかゆっくり』であるから、固形物を食べられない。 『あかゆっくり』であるから、身体が柔らかい。 『あかゆっくり』であるから、うまく喋れない。 『あかゆっくり』であるから、ものが良く分からない。 『あかゆっくり』であるから、『あかゆっくり』でなくてはいけないのだ。 つまり、『あかゆっくり』と呼ばれ続けることで精神と身体が赤ゆっくりの状態で固定されているのだ。 餡子の遺伝によって、親が思う『あかゆっくりとはこうあるべき』という形が子にまで伝わっていたのだ。 この状態は自分の子供を『あかゆっくり』と呼び続ける限り、変わらないのだろう けれども、れいむたちは今後もそう呼び続ける。 「れいむのあかゆっくり」と括ることで、通常よりも「この子供は自分のモノである」と印象付けることが可能だからだ。 何に印象付けるのか。勿論、自分と周囲に対してである。 いわば、自分が如何にゆっくりしているのかを証明するアイテムが『あかゆっくり』となっているのだ。 恐らく、ゆっくりたちは何故自分たちが子供のことを『あかゆっくり』と呼びたいのかは理解してはいないだろう。 そう呼んだらゆっくりできる気がする、そんな程度の理由しか思っていないのかもしれない。 ゆっくりたちは、どの個体も皆ゆっくりしていたい。 自分がどれくらいゆっくりできているかの指標として、『あかゆっくり』が必要とされたのだ。 『自分はこんなにもゆっくりしているものを持っている。だから、自分はとてもゆっくりしているのだ』 要約すれば、こういう理屈になるはずであった。 しかし、現実に赤ゆっくりは生きている。 れいむはその弱々しい個体を生かし続けるのが苦痛となったために捨ててしまったのだ。 赤ゆっくりがいる家族は、見た目とは裏腹にゆっくりできることが少ないからだ。 れいむはこれからもさらなるゆっくりを得るために、『あかゆっくり』を産んでは捨てていくのだろう。 多分、死ぬまで。 「ゆっくりしていってね! れいむのあかゆっくり!」 「ゆっきゅりしていってね!」 書いた人 ゆっくりまんじゅうの人
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1233.html
人造ゆっくり ゴーレムの技術を使いゆっくりの肉体と安価な素材で合成された人造生命。 中身は天然ゆっくりと殆ど変わらないままで 魔術餡子情報サーキットにより知能は改善され、自発的に思考しながらオリジナル同様の感情表現も再現 使用者の望むように調整すれば個体の持つオリジナリティも自由に変更できる 更に人造ゆっくりは天然ゆっくり一体とよくある素材を簡単な術式で合成する事で2体作る事が出来る 合成せずともオリジナル同様に繁殖させることも可能だ 天然のゆっくりは瞬く間に姿を消し、それに変わって人造ゆっくりが人の社会に溶け込んだ 加工所は質がバラバラな天然のゆっくりの飼育の殆どを縮小し、均質な人造ゆっくりを大量に導入した 人畜無害な用にセットされた人造ゆっくりはペットとして飼われるのが普通になり町中でゆっくりを見ても 誰も嫌な顔を一つすらせず愛でている姿すら見受けられる オリジナルのゆっくりがゆっくりたる所以は下級生物にあるまじきコミュニュケーション能力にある 彼らは寝て起きてエサを食って殖えるだけの存在ではない。 ゆっくりは人にゆっくりさせると称してちょっかいを働きその反応を見て自分らの存在を示していた どんな形であれ他社と関わる事で初めてゆっくりと言う存在と言えるのである だが人造ゆっくりはどうだろう? 決して人の家に無断で侵入する事もなく、腹の立つ言動もせず、人に媚びる様に行動する 望めば反抗的なゆっくりにしたてる事も出来るが帰ってくるのは形だけのきまりきった反応 人造ゆっくりの行動はプログラムの範囲内で思考し、人の都合の良い様に最適な反応を返してるに過ぎぬ 昨今ではゆっくりを見ても誰も驚きもしなければ路傍に転がる石の如く気にも留めない 人とのやり取りに血は通っていない、もはやこれは人畜無害のただの動く饅頭である。 今や誰もゆっくりを苛める者は居ない、人形を甚振っても面白くないと気づいてしまったからだ
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4009.html
(まりさの優しさ) せっかく昼休みにゆっくりをして幸せな気分になったのに、午後の出来事はそんな気持ちを吹き飛ばしてしまった。 あの後まりさは、Aがまりさの見ている前で窓の外に投げ捨てた鉛筆を探し、校庭を二時間も歩き回った。 やっと見つけた時にはすでに日も暮れ始め、体には生垣で引っかけてできた傷跡が。 ぴょこ、ぴょこ、と足取りも重く家路に就く。一跳ね毎に進む距離が登校時とは明らかに違う。 今朝は初めて通う学校が楽しみで楽しみで、人間ならスキップしている様な感覚で元気に跳ねていたのに。 今は俯きながらぴょんと一歩踏み出す毎にため息を吐く。 たった数百メートルの距離を歩くのに、こんなに時間がかかったのは初めてだ。 家に着いた時には既に日はすっかり暮れていた。社長の家から家政婦のおばさんが出てきた。 「あら、まりさちゃんお帰り。どうしたの、随分遅かったじゃない。」 「ゆ。おばさん、ただいま。」 「あんまり帰ってくるのが遅いからねえ、探しに行こうとしてたとこだったんだよ。」 「ありがとう。しんぱいかけてごめんね。」 「友達と遊ぶのが楽しいのはわかるけど、あんまり遅くなっちゃ駄目だよ。お母さん達が心配するからね。 あら、あんた怪我してるじゃないの。こっちおいで、手当してあげるから。」 おばさんに連れられて台所へ。おばさんはまりさの傷をタオルで拭ってきれいにし、水で溶いた小麦粉を付け 傷を覆ってくれる。水仕事で荒れたおばさんの手から優しさが伝わってくる。 おばさんの手の温もりがまりさの体の傷を癒す。傷はみるみるうちに塞がっていく。 しかしまりさの心の傷は容易には消えなかった。 おばさんが用意してくれた晩ごはんを食べ終え、庭の犬小屋で今夜も帰りの遅い両親を待つ。 まりさが一日の中で一番嫌いな時間。真っ暗なおうちの中で、心細い思いをしながら両親の帰りを待ち続ける。 普段なら歌を歌って気を紛らわしたり、その日あった楽しかった事を思い出して過ごすのだが 生憎と今日はそんな気分にはなれなかった。 しばらくして、家の前に一台の車が止まる。聞こえてきた声。大好きなお母さん達の声。 「今日も一日ご苦労さん。遅くまで仕事させて悪かったなあ。」 「ゆ!おつかれさまでした!」 「おにいさんこそ、おつかれさま!おうちまでおくってくれて、ありがとうね!」 「いいっていいって、気にすんな。どうせ帰り道の途中だしな。 明日の朝も今日と同じ時間に迎えに来るから。明日も頼むぜ。」 「わかったよ!ゆっくりきをつけてかえってね!」 「おやすみなさい、おにいさん!」 「おう。」 両親がおうちの中に入ってきた。一生懸命働いて溜まった一日の疲れも、可愛いまりさの顔を見ればすぐに吹き飛ぶ。 だからまりさは精一杯の笑顔で両親を迎える。たとえそれがカラ元気でも。 「まりさおかあさん、れいむおかあさん、おかえりなさい!」 「ただいま!ゆっくりかえったよ!」 「おそくなってごめんね。ゆっくりしすぎたね。さみしかったでしょ。」 「ううん。へいきだよ!」 両親が遅い晩ごはんを食べ終わると、三匹はお互いにぺーろぺーろと舐めあって一日の体の汚れを落とす。 それが終わったら後は寝る時間。本当は両親に遊んでもらいたいのだが、まりさは我慢する。 お母さん達は疲れているし、明日の朝も早いのだ。 親子三匹一塊りになってタオルに包まる。右の頬と左の頬に感じる両親の温もり。 両親はいつもの様にまりさに今日あった事を聞く。 「がっこうはどうだった?たのしかった?おともだちはできた?」 「おかあさんたちはしんぱいだったよ。まりさがみんなとうまくやっていけるのかなって。」 「たのしかったよ!おともだちもたーーーっくさんできたの!」 嘘。まりさがうまれて初めて吐いた嘘。両親を心配させまいとする健気なまりさの優しさ。 両親の安堵と喜びが頬を通して伝わってくる様だ。痛い。とても痛い。 「あしたもはやいからもうねようね。」 「ゆっくりおやすみなさい。あしたもゆっくりとしたいちにちでありますように。」 「おやすみなさい・・・」 (出口の無い悪夢の様な日々) 朝の眩しい日差しがまりさを現実の世界へ引き戻す。楽しかった夢の時間の終わり。憂鬱な月曜の朝。 本当ならばゆっくり達のゆっくりとした一日を祝福してくれる太陽の恵みの筈なのに、 今のまりさには現実世界の象徴である無慈悲な太陽の光が恨めしかった。 永遠に朝が来なければいいのに・・・永遠に夢から覚めなければいいのに・・・ まりさが学校に通いだして一週間が経っていた。状況は相変わらず。 まりさに対するイジメは終わらない。理由無き理不尽な仕打ちにまりさはひたすら耐え続けていた。 火曜日。まりさは皆に笑い物にされた。 なぜか自分の後ろからクスクスと笑う声が聞こえる。 なんだろう。振り返って見ると笑っていた人達は一斉にそっぽを向く。 誰もまりさと目をあわせようとはしない。 また歩き始めると、再び笑い声が。自分が笑われているのは何となく判った。 でも何で笑われているんだろう。廊下に掛けられた全身鏡で自分の姿を見てみるがどこもおかしな所は無い。 一人の男子生徒がまりさの背後に近付く。そして手に持った鏡をまりさの後頭部に近づけた。 その鏡に映ったまりさの後姿。いつの間にか紙が貼られていた。何か文字が書いてある。 まりさも平仮名なら一応読む事ができる。そこに書かれていたのは三文字の卑猥な言葉。 「ゆーっ!ゆーーっ!ゆーーーーーーーーーっ!!!!!!」 まりさは真っ赤になって貼り紙を取ろうとする。しかし手を持たぬゆっくりである。 後ろに貼られた貼り紙を取る術など無い。それでも懸命に舌を伸ばして紙を取ろうとする。 まるで自分のしっぽを追いかける犬の様に、その場でくるくる回り続けるまりさ。 「とってね!だれかうしろのかみをとってね!!!」 それを聞いて助けてくれる者など誰もいない。皆、まりさの困っている姿を見てニヤニヤ笑っている。 紙は取れない。走ってみても、跳ねてみても、壁に後頭部をごしごし擦りつけてみても取れなかった。 やがてチャイムが鳴り皆教室に戻る。まりさも仕方なくそのまま自分の机へ。 恥ずかしい姿のまま机の上に乗ったまりさ。顔を真っ赤にして俯く。 そんなまりさに手を伸ばす隣の席のA。まりさの後頭部に貼られた紙をはがす。 え、まりさをたすけてくれたの?どうして? Aが紙を自分の机に仕舞うのを見て、彼が紙をはがしてくれた事を知る。 A君がまりさを助けてくれるなんて信じられない、といった表情のまりさ。 勿論助けた訳ではない。何のことはない。教師に見付からぬ様、授業が始まる前に紙を隠しただけだった。 そして授業が終わり教師が退室すると、まりさの後頭部には二枚の紙が貼られた。 水曜日。まりさは粉まみれにされた。 この日まりさは日直をやる事になった。 もう一人の日直は隣の席、まりさをイジメる者達の主犯格A。 先生に「二人で協力して日直の仕事をして下さいね」と言われたまりさとA。 授業が終わると黒板をきれいにするのが日直の仕事の一つ。 手の無いまりさにはできない事。きっとAが一人でやるんだろうと思っていたまりさ。 「咥えろ。」 「え、なんで・・・」 「聞こえねえのか?あ゛?」 「ゆ・・・ぅ」 Aが目の前に黒板消しを差出し、まりさに咥える様命令する。 まりさが黒板消しを咥えると、Aはそのまままりさを持ち上げ黒板を拭き始めた。 「ゆ!いだい!はなして!」 「喋るんじゃねえよ。お前は黙って黒板消しを咥えてればいいんだよ。」 わざと爪を立ててまりさを持ち上げたA。尖った爪がまりさの柔らかい肌に食い込む。 更に過剰な力を掛けて黒板を拭く。黒板に押し付けられたまりさの顔が歪む。 黒板をきれいに拭き終ると、Aは黒板消しを咥えたままのまりさを窓の縁に仰向けに置く。 そしてどこからか持ってきた棒で黒板消しを叩き始めた。 黒板消しから出てきたチョークの粉がまりさに降りかかる。 目が痛い。息が苦しい。まりさは逃げようともがくが、Aの左手がしっかり押さえてそれを許さない。 「けほっ!けほっ!けほっ!」 「動くんじゃねえよ。あんまり暴れると下に突き落とすぞ。三階から落ちて生きていられるとでも思ってんのか?」 やっとAの拘束から放たれた時、まりさは上から下までチョークの粉まみれで真っ白になっていた。 まりさのトレードマーク、命の次に大事な黒い「すてきなおぼうし」も真っ白に。 まりさは泣きながら帽子のつばを咥え、壁に叩きつけて粉を落とす。 体に付いた方は、チョークの粉まみれのまりさに気付いた先生に取ってもらった。 どうしてこんな事になってしまったの、と聞かれても正直に答える訳にはいかない。 Aがこちらを見ている。仕方が無いから嘘を吐く。 「まりさね、ひとりでやろうとしたの。そしたらしっぱいしちゃった。」 「まあ、そうだったんですか。まりささんは頑張り屋さんですね。 でも時には人に頼る事も大事ですよ。人間誰でも完璧なわけではありません。当然できない事もあります。 だから人は一人でなく家族や仲間達と一緒に生活をするんです。」 「人には一人ではどうにもできない欠けたところがあるから、だから皆で助け合い補い合うんです。 お互い支えあうからこそ生きていけるんですよ。まりささんもきっと誰かの支えになれる筈。 だから困った時は人に頼ってもいいんですよ。困った事があったらクラスの皆に何でも相談してくださいね。」 まりさは先生の言葉に何と応えてよいかわからず、ただただ俯くしかなかった。 木曜日。まりさは倒れるまで走らされた。 昼休み、いつもの様にゆっくりぷれいすでゆっくりしようとしたまりさ。 廊下をぴょこぴょこ歩いていると、不意に後ろから伸びてきた腕に掴まれる。 「ゆ!なにするの!はなしてね!」 まりさを持ち上げた生徒は何も言わずに歩き出す。ゆっくりの力ではいくら暴れても逃げられない。 連れてこられたのは体育館。待っていたのはまりさのクラスの男子生徒達。当然Aもその中心にいる。 まりさは帽子を取り上げられ、体育館の床に放り投げられた。 「かえして!まりさのすてきなおぼうしをかえしてね!」 帽子を盗った生徒に詰め寄るまりさ。するとその生徒は数メートル離れた仲間に帽子をパスする。 慌てて帽子を追いかけるまりさ。ぴょんぴょんぴょんぴょん走って行く。 やっと帽子の元まで辿り着き、「すてきなおぼうしかえしてね!」と言おうとした瞬間、帽子はまた次の人へ。 フリスビーの様に帽子を投げ合って遊ぶ生徒たち。まりさはその間を必死に駆け回る。 「やめてね!まりさのすてきなおぼうしであそばないで!」 「かえしてね!まりさのおぼうしかえしてね!」 「おねがい!おぼうしかえして!それがないとゆっくりできないの!」 まりさは必死に頼み続けるが当然聞き入れられない。生徒たちはニヤニヤ笑いながら帽子を投げ合うだけ。 結局まりさは疲れきって動けなくなるまで走り続け、やっと帽子を返してもらった時には既に昼休みは終わっていた。 金曜日。まりさは唯一の楽しみを奪われた。 その日は朝から具合が悪かった。原因は校門の前にできていた水溜り。 ゆっくりは水に弱い。雨が降っていたなら学校を休むのだが、天気は快晴。まりさは普通に登校した。 何の問題も無く学校まで来たが、校門の前でまりさは立ち尽くす。 校門の前に大きな水たまりができていた。どうして・・・あめなんてふってないのに・・・ 原因は明白。まりさをイジメている生徒達がやったのだ。 今から裏門まで回ったのでは遅刻してしまう。ここを通るより他に方法は無い。まりさは意を決めて水に足を入れる。 「ゆっ!」 まりさの肌が水たまりの泥水を吸い上げる。早くしないと、ぐずぐずしてたら皮がふやけて破れてしまう。 まりさは急いで、しかし着地の衝撃で皮が破けぬ様慎重に水たまりを渡る。 なんとか無事に渡りきったが随分水を吸ってしまった。 体が重い。体の中に異物が入り込んでいる様な感覚。気持ち悪い・・・ たぷんたぷんと揺れる体を何とか引きずって教室まで辿り着く。 具合が悪い。頭がぼうっとする。人間で言ったら高熱を出している様な状態。 まりさは体の餡子を吐き出してしまいそうになるのを何とか堪える。 そして昼休み。まりさは急いで校庭のゆっくりぷれいすへ向かう。 体の外側は乾いたが、体の芯にはまだ水分がたっぷり残っている。 これを除くにはゆっくりぷれいすで太陽の光をたっぷり浴びてゆっくりするしか無い。 「ゆゆーーーっ!どうしてえええええええ!!!」 ゆっくりぷれいすの前でまりさは立ち尽くした。ゆっくりぷれいすが荒らされている。 散乱するゴミ。空き缶、紙屑、残飯、お菓子のカラ。これではゆっくりできない。 まりさのゆっくりぷれいす。大事な大事なゆっくりぷれいす。校内で唯一心安らげる場所。今では見る影もない。 まりさは泣きながらゴミを片付ける。残飯の放つ悪臭に耐えながら、ゴミを一つ一つ口で拾って遠くへ捨てる。 ようやく自分ひとりがなんとかくつろげるスペースを確保した頃には、すでに昼休みは半分終わっていた。 まだまだ周りにゴミはあるが仕方ない。まったくゆっくりできないよりはマシだろう。 まりさが目を閉じゆっくりとし始めたその時。 ドッ ゆ?なんだろう。なにかうえからおちてきたよ? ゆっくりと目を開けるとそこにあったのは・・・丸々と太ったネズミの死体。 「ゆーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」 更に頭の上に何かが降ってくる。まりさの帽子にあたって地面に落ちた黒い物の正体はゴキブリ。 まりさは真っ青になって逃げ出す。まりさの聖域、ゆっくりぷれいす。まりさは唯一の居場所も奪われた。 まりさはとぼとぼ歩きだす。この学校にゆっくりできる場所なんて他に無い。 まりさの行き先は一つしかない。教室。まりさをイジメる生徒達のいる教室・・・ 土曜日。まりさは机を舐めさせられた。 平日と違い土曜日は半日授業。午前中さえ耐えきれば、地獄の様な一週間の終わり。 まりさは祈る様な気持で教室に入るが、当然平穏無事に過ごせる訳がない。 自分の机に上ったまりさの目に飛び込んできたのは、机一面にチョークで書かれた落書き。 机に書かれた罵詈雑言。御丁寧にもまりさに理解できる様すべて平仮名で書いてある。 まりさは静かに泣きながら机の落書きを消していく。 人間なら雑巾を使って消すのだろうが、手を持たないゆっくりにそれはできない。 舌でチョークの粉を舐めとって、少しずつきれいにしていく。 いくら雑食のゆっくりとはいえ、チョークなんか食べられる筈もない。 しかしこれしか方法が無い。気持ち悪いのを我慢して黙々とチョークの粉を舐めていく。 「ゆぎゃあああああああああああ!!!!!」 半分ほど終わった頃だろうか。まりさが突然奇声をあげて飛び上がる。 だれかがまりさの机に練りからしを塗っていたのだった。 ゆっくりにとって辛い物は毒。早く舌を水で洗わないと死んでしまう。 急いで水飲み場に向かうまりさ。しかしこんな時に限って誰も水道を使っていない。 当然まりさの力では水道の蛇口を捻ることができない。ひりひりする舌を伸ばして回そうとしてみてもビクともしない。 まりさは必死に走り回って水のある場所をさがす。 プール。駄目。今は水が抜かれている。校庭の池。駄目。周りに柵があって近寄れない。 「どうした?水が欲しいのか?」 頭上からの声。一番聞きたくない奴の声。まりさをイジメるAの声。 「黙ってちゃわかんねえぜ。まあいい。こんな事で死なれてもつまんねえしな。」 そう言うとAは近くに置いてあった花瓶を傾け、中の水を廊下に垂らす。 まりさはその水に飛びつく。何でAがこんな事をするのか解らないが、今はそんな事を考えている余裕は無い。 まりさが廊下に溜まった水をぺーろぺーろと舐めていると、自分のすぐ真後ろで大きな音がした。 ガッシャーーーン! 「ゆゆっ!」 花瓶の割れる音。辺りに響き渡る。飛び散った破片。音を聞き駆け付けた教師。 「こらあ!何やってるんだお前!!!」 大声で怒鳴られるまりさ。当然Aは消えている。まりさは犯人にされてしまった。 割れた花瓶を片付けさせられた後、怖い生徒指導の教師にみっちりと説教された。 日曜日。まりさはひとりぼっちだった。 長い一週間が終わり、やっと訪れた休みの日。学校に行かなくてもいい日。おうちでゆっくりしていていい日。 本当なら両親に遊んで欲しかった。舌で優しく舐めて慰めて欲しかった。 でも両親はいない。隣県に出張中。ダム建設予定地に住むゆっくりへの住民説明会の為、来週の週末まで帰ってこない。 ゆっくりは孤独が苦手な生き物である。だから子供をたくさんうむ。 しかしまりさに姉妹はいない。雇用主にあてがわれたおうちは親子三匹が住むのがやっとの広さ。 だから両親はまりさの妹達をうむのを泣く泣く諦めた。 それでも今までまりさの両親が共働きをできたのは、近所の小さい子供達がまりさと一緒に遊んでくれたからだった。 すぐ近くにある公園に行けば、まりさを仲間に入れて仲良く遊んでくれる人間の子供達がいる。 しかし今のまりさには近くの公園に遊びに行く事すらできなかった。 朝目が覚めて公園に遊びに行こうとしたまりさ。その目に飛び込んできたのは遠くを歩くまりさのクラスメイト達の姿。 すぐにおうちに逃げ戻ったので気付かれる事はなかったが、まりさはおうちから一歩も出られなくなってしまった。 日曜日。みんな休みの日。当然クラスメイト達も。家の外を歩いているかもしれない。 怖い。もし見つかったら。イジメられる。外に出られない。 おにわで遊ぼうか。駄目。誰が見ているかわからない。誰かに見られている気がする。 怖い。怖い。怖い。ゆっくりできない。ゆっくりできない。ゆっくりできない。 おかあさんたすけて!おかあさんたすけて!おかあさんたすけて! でも両親はいない。 夜。ゆっくりは闇を恐れる。暗闇がまりさの孤独を更に煽る。 一日中遊び回ってくたくたになるまで疲れていたならぐっすり寝られるのに。 怖くて家から一歩も出られなかったまりさ。目が冴えてしまって寝られない。 こんな時、いつもなら両親が子守唄を歌ってくれる。おかあさんの歌う優しい子守唄。 とてもゆっくりできる子守唄。おかあさんが隣にいてくれたら安心してゆっくり眠れる。 でも両親はいない。 「ゅ~~~。ゅ~~~。ゅ~~~。」 まりさはか細く鳴く。両親を呼ぶ鳴き声。 「ゅ~~~。ゅ~~~。ゅ~~~。」 ゆっくりの赤ちゃんの鳴き声。これを聞けば親はすぐに駆けつける。 「ゅ~~~。ゅ~~~。ゅ~~~。」 まりさは鳴く。両親を求めて鳴く。届く筈もないのに鳴く。聞える筈もないのに鳴く。 「ゅ~~~。ゅ~~~。ゅ~~~。」 「うるせええええええええええええええええええ!!!!!」 「!!!!!」 突然響いた表を歩く酔っぱらいの怒声。別にまりさの鳴き声を聞いて怒鳴った訳ではない。 何か気に入らない事があって発せられた言葉なのだろうが、それはまりさに向けられたものではない。 しかしまりさは自分が怒鳴られている様に感じた。 酔っぱらいはさらに何やら大声で独り言を発している。呂律が回っていない。意味不明な言葉。 しかしまりさには自分をイジメる相談をしている様に聞こえた。 怖い・・・怖い・・・。まりさは頭からタオルを被り、ぷるぷる震えながら長い夜を過ごす。 いつのまにかまりさは眠っていた。まりさは夢を見る。 楽しい夢。幸せだった頃の夢。たった一週間前の事。今では遠い昔の事のよう。 両親は久しぶりの休みを貰い、家族三匹水入らずの休日。 近所の花畑にお花見に行く。きれいに咲き誇る花々の間を三匹並んでゆっくりおさんぽ。 お昼ごはん。母まりさが帽子の中から取り出したのは、まりさが大好きなクッキー。 口一杯に頬張って「むーしゃむーしゃ、しあわせー♪」と笑う。 お昼を食べ終えたらおひるねの時間。暖かな風がまりさの肌をやさしく撫でる。 太陽の恵みをたっぷり浴び、幸せそうに眠るまりさを見て微笑む両親。 歌を歌い、追いかけっこをし、かくれんぼをし、ゆっくりする。 楽しかった思い出。楽しい夢。しかし、所詮は夢。いつか必ず覚めてしまう。 朝の眩しい日差しがまりさを容赦なく照らす。まりさは現実に引き戻された。 今日は月曜日。新たな一週間の始まり。終わりの無い、地獄の様な一週間。 永遠に朝が来なければいいのに・・・永遠に夢から覚めなければいいのに・・・ 家政婦のおばさんが用意してくれた朝ごはんがおうちの前に置いてある。 食べたくない。食欲が無い。まりさはそのままとぼとぼと学校へ向かう。 しばらくして普段と様子が違う事に気が付く。歩いている人が少ない。登校中の生徒がいない。 学校に着いてやっと状況を理解した。授業がすでに始まっている。まりさは遅刻してしまったのだ。 朝はいつも両親に起こしてもらっていたまりさ。盛大に寝坊していたのだった。 校門は閉まっていた。他の生徒達なら自分で開けて中に入れるのだろうが、まりさにはどうする事もできない。 学校には入れない。それに、どうせ学校に入ってもイジメられるだけだ。 まりさは開き直って学校をサボる事にした。 しかし、学校をサボってしまった後ろめたさからか、そのままおうちに帰る気にもなれない。 まりさは当てもなく町をぴょこぴょこ歩いて行く。 まりさをイジメる人達は今、皆学校の中にいる。夕方まで出てこない。まりさは今自由だ。 久しぶりにゆっくりできる・・・筈だった。イジメる人はいない。ゆっくりできるはずなのに・・・ なぜか落ち着かない。なぜかゆっくりできない。人の視線が気になる。 道行く人達。誰もまりさの事など気にも留めない。なのになぜか彼らに見られている様な気がする。 知らない人達。誰もまりさをイジメるはずなどない。なのになぜか彼らの一挙手一投足にビクビクする。 怖い・・・人間が怖い・・・ まりさは人のいない方へ人のいない方へと歩いて行き、気が付くと町の外れの原っぱにポツンと立っていた。 ここなら誰もいない。怖い人間はいない。ここならゆっくりできる・・・ 「ゆっくり・・・」 まりさはゆっくりしようとした。いつもの様に。そうすれば嫌な事はすべて忘れられる。忘れられる筈なのに・・・ なぜかゆっくりできない。 この一週間まりさが受け続けたイジメ。まりさの小さな心には余りに大きすぎた負荷。 蓄積された心の傷が既に一線を越えてしまっていたのだ。ゆっくりにとって一番大事なところを壊された。 まりさはもう二度とゆっくりできない。 まりさは目から涙を流しながら「アハハハハハハ」とゆっくりらしからぬ乾いた笑い声をあげる。 まりさは泣いた。ひたすら泣いた。 涙が枯れもう何も出なくなると、最後にぽつりと呟いた。 「どうしてまりさがこんなめにあうの。」 「どうしてゆっくりできないの。」 「まりさはなんにもわるいことしてないのに。」 「おかあさん、まりさはゆっくりだよね。ゆっくりするのがゆっくりだよね。」 「まりさ、ゆっくりできなくなっちゃった・・・」 「ゆっくりできないゆっくりなんて・・・ゆっくりできないゆっくりなんて・・・」 「おかあさん、ありがとう。ごめんなさい・・・」 まりさは歩き出した。行く当ても無く。そして二度と戻って来る事は無かった。 この町では特別珍しい事でもないゆっくりの失踪。今日もまた一匹のゆっくりが消えた。 今までに消えていったゆっくり達と同じ言葉を残して・・・ 「もっとゆっくりしたかった・・・」 end 作者名 ツェ 今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」 「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」 「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」 「狂気」 「ヤブ」 「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」 「水夫と学者とゆっくりと」 「泣きゆっくり」 「ふゅーじょんしましょっ♪」 「ゆっくり理髪店」 「ずっと・・・(前)」 「ずっと・・・(後)」 「シャッターチャンス」 「座敷ゆっくり」 「○ぶ」 「夢」 「悪食の姫」
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4552.html
十八日目 連日、ゆっくり共は俺に奉仕しようとして空回りをし、 俺の命令に必死に服従した。 二週間ほどもそんな生活が続いたが、 ゆっくり共はあきらめようとしない。 本気で俺をゆっくりさせようと思っているらしい。 頃合いとみて、俺は言ってやった。 「お前ら、本気で人間に飼われる気か?」 「ゆぁ、あ、おねがいじばず!! にんげんざんにみぢびいでほじいんでずううぅぅ!!」 涙を流して頭を下げてくるゆっくり共。 「まだ自分にそんな資格があると思ってるんだな」 「ゆぐっ!!ゆぐうううぅぅ!!おにっ」 「あんな事をしておいてよく人間の前に出られるよ。 お前たちは罪の清算もなにもできてないんだぞ」 ゆっくり共は泣きじゃくり、這いより、 俺の足元にすがりついて懇願してきた。 「おじおぎ!!おじおぎじでぐだざい!! ばりざだぢにばづをあだえでぐだざいいいいぃぃ!! づみをっ!!づみをづぐないだいんでず!!どうが!!どうがぁ!!!」 「知るかよ。 お前たちに罰なんか与えたって無駄だからな。 今度捨てていくから、人間に関わらないで森でゆっくりしていけ」 「ゆんやあああああああああぁぁぁあ!!!」 「おねがっ!!おにいざっ!!ばづを!! ばづをおあだえぐだざいいいいいいぃぃぃ!!!」 必死に罰を懇願してくるゆっくり共に、さすがに気分が悪くなる。 罰を与えるということは、ルールを履行し、筋を通すチャンスを与え、 仲間として受け入れるということでもある。 人間の赤ちゃんを嬲り殺しておいて、 罰と許しを要求してくるこいつらの厚かましさ。 所詮ゆっくりの餡子脳では、その浅ましさが理解できるはずもなく、 ひたすら反省を表明すれば許されると思っている。 仕方のないことなのだろう。 そういった個人的感情を抑え、俺は台本通りの台詞を投げかけてやる。 「俺は知らん。無駄だからな。 どうしてもというなら自分たちでやったらどうだ? 罪を償う方法はいくらでもあるだろう」 「ゆゆゆっ!!」 ゆっくり共が何事か考える風を見せていた。 俺は無視し、通常通りの生活に戻った。 その夜、ゆっくり共は居間で眠っていたが、 親ありすだけがずっと起きていた。 ゆっくり共が眠っている間も、テレビは映像を流し続けている。 『ゆほおおおおぉぉぉ!!がぢぐのあがぢゃんぎぼじいいいいいいぃぃ!! すべすべでどがいばよおおぉぉぉぉほほほおぉぉぉいぐわいぐわいぐわいぐわああぁぁぁ!!! あでぃずのどがいばなあいをおうげなざあああぁぁいい!! んっほおおおおおおぉぉすっきりいいいぃぃぃーーーーーーーっ!!!』 親ありすはテレビの前から微動だにせず、その映像を見つめ続けていた。 「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい…… ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」 呟き続ける親ありすの頬を、涙が静かにつたって床に落ちた。 十九日目 俺の前にありす共が進み出て言った。 「おにいさん……ありすのおはなしをきいてください」 「なんだ?」 「ありすはいなかものです。 とってもとかいはなおにいさんとおねえさんをばかにしたごみくずです。 おにいさんたちのあかちゃんをころした、みにくくてけがらわしいけだものです」 そう言う親ありすの目には涙が浮かんでいる。 「ありすはけだものです。 すっきりがしたくなると、どうしてもがまんできなくなって、れいぷをします。 ゆっくりにもにんげんさんにもめいわくをかける、せかいのごみです。 ありすは、せかいでいちばんきたならしい、みっともないいきものです。 とかいはでやさしいおにいさんのおかげで、 ありすはそれをおしえてもらって、じぶんのことをしることができました」 目尻から一滴の涙があふれ出る。 間を置いてから親ありすは続けた。 「こんなごみくずをあわれんでしんせつにしてくれたおにいさんを、ありすはばかにしました。 じぶんはごみくずのゆっくりのくせに、 おにいさんとおねえさんをばかにして、かちくあつかいして、 ちょうしにのって、おにいさんたちのあかちゃんをころしました」 「だから?」 俺が聞くと、一瞬口をつぐんでからありすは続けた。 「ありすは、つぐないたいとおもいます」 言うが早いか、親ありすは身体を揺らし始めた。 「ゆふ、ゆふ、ゆ、ゆっゆっゆっゆっ………」 あひる口を突き出し、目がとろんとゆるみ、全身が粘液で湿り始める。 俺は手近にあった棒でその顔面を突いた。 「ゆごぇっ!!」 「汚らしいものを見せるんじゃないよ」 口から少量のカスタードを吐き出し、震えながら必死に起き上がる親ありす。 へこんだ顔面を俺に向けて懇願してきた。 「ずびばぜん!!ずびばぜん!! けがらわじいものをみぜでぼんどうにもうじわげありばぜん!! でぼ、でぼ!!みでぐだざい!!いまだげ、どうが、おでがいじばずうぅ!!」 「……やれよ」 「あじがどうございばずううう!!」 痛む体を引きずり、親ありすは俺の前に這いずると、振動を再開した。 「ゆぐっ、ゆぐぐぐゆゆゆ、ゆほ、ゆほっほっほっ……」 親ありすはついに発情し、ぺにぺにを屹立させた。 快感にゆるんだその顔は、しかし涙を流して歪んでいる。 荒い息をつきながら、親ありすは言い放った。 「あ、あり、ありずは………ぼう、にどど……ずっぎりをじばぜん」 そのまま横を向き、我が子に目配せをした。 子ありすは頷くと、自らの親に飛びつき、 屹立するぺにぺにに噛み付いた。 「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっ」 部屋中にけたたましい悲鳴が満ちる。 「あ、あ、あが、あ、ゆぐ、ゆ、ゆっ……ゆぐううぅぅ…………!!」 かつて、子供よりもカチューシャよりも大事だと言ったもの、 他のすべての五感を破壊されても、それだけは守りとおそうとしたぺにぺに。 涙と涎を滂沱と垂れ流し、親ありすは歯を食いしばって呻きながら、 子ありすが吐き出した自分のぺにぺにのなれの果てを食い入るように見つめていた。 別の子ありすが、小麦粉の溶液を刷毛で親の傷口に塗り込む。 「おにいさん……。 ありすたちも、……ありすたちも………」 四匹の子ありす共が、親にならって振動を始めた。 五本のぺにぺにが床に並んでいた。 かつてはありす種の第一の存在意義であったそれを、 ありす共はしばらくの間放心したように見つめ続けていたが、 やがて顔をあげると、俺に向かってこう言った。 「……これが……ありすのおわびです。 ありすは、……ありずは……これでっ、ぼう………にどと……ずっぎりが、でぎばぜん…… ……っぐ………ゆぐぅっ………ごれがら、は……にんげんざんの、だめに……」 「で?」 ありす共は弾かれたように顔をあげ、絶望を顔に浮かべて俺を見つめた。 「お前たちは俺の子供を殺したんだ。 いいか、俺の子供は死んだ。 すっきりどころか遊ぶことも、食べることも、喋ることさえもうできない。 そんなことで償えると思うな」 「…………ゆ…………ゆあぁ…………」 「まだまだだ。わかったら失せろ。それは捨てとけ」 「………あじがどう、ございばじだ…………」 呻き、泣きながら、ありす共は緩慢な動作でぺにぺにをかき集めた。 他の八匹は、その様子をじっと見つめていた。 その日から、ゆっくり共のショーが俺の前で連日開催されることになった。 二十日目 「ゆぐうううぅぅ!!あゅううううううぎいいい!!」 ぶちぶちぶち、と音をたてて髪が引き抜かれ、床に散らばる。 「まだのこってるよ!!がんばってね!!」 「れいぶがんばるよ!!がんばっでおわびずるよおおぉぉぉ!!」 三匹のれいむが子れいむを取り囲み、 その髪を唇と歯で挟み、よってたかって片端から引き抜いている。 そのうち、親れいむの頭はすでにほとんどの髪が引き抜かれ、 髪飾りのついたもみあげと頭頂部のひと房だけが残って落ち武者のようになっていた。 今また子れいむの頭もほぼ禿げあがり、 床に散らばる自分の髪を見つめて子れいむは泣きじゃくった。 「あが………あ……ゆああぁぁ……… でいぶの……でいぶのぎれいながみざんが…………」 「ゆ!!めったなことをいわないでね!! ごみくずのかみさんなんてきれいじゃないよ!!」 「ゆぐっ!…ごべんなざい……!!」 ゆっくりの髪は、一度抜けると二度と生えそろうことはない。 人間が髪を切るのとは喪失感のレベルが全く違う。 たった今子供を叱咤した親れいむ自身も、ずっと目に涙を浮かべ続けている。 「まだまだだよ!!つぎはれいむのかみをぬくよ!!」 「ゆぐっ……ゆっぐりぬいでね!!」 次の子れいむが選び出され、聞きあきた絶叫がまた部屋に響く。 「ゆぐっ、ゆっぐ……お、おに、おにいざ……でいぶのおわび……」 「捨てとけ」 俺は新聞を読みながら、 髪の束を差し出してきた禿げ饅頭共の方を見もしないで言った。 「ゆぅううぐううううう!!!」 子れいむが歯噛みして叫んでいる。 「おにっ、おにいざん!!みでぐだざいいいい!! でいぶのがみざん!!でいぶはがんばっで!!ゆううあああああ!!」 「あ?」 「れ、れいむ!!やめてね!!しつれいなことをいっちゃだめだよ!!」 親れいむがあわてて叱咤するが、 俺は立ち上がり、その子れいむを恫喝した。 「今何を言った?」 「ゆぁ……あ………あ……!!」 「見ろと言ったのか? 薄汚いゴミクズからむしり取ったカスを、わざわざ見ろと?」 「あ………あ……ごべんなざい!!ごべんなざい!!ゆるじでぐだざびゅうっ」 禿げあがった頭部を踏みつけ、踏みにじる。 「ゆぎゅぶうううぅぅ!!ぎゅうううう!!」 「ゆっくり如きがよくも人間に向かって指図をしてくれたな。 ゴミが髪をむしったから何なんだ、え? それは人間がわざわざ注目しなきゃならないほどの大事件なのか?」 「ぢ!!ぢがいびゃっ!!ぢがいばじゅううう!! うずぎだないごみぐずのがみざんなんで!!なんのがぢぼありばぜえええええんん!!」 「汚いゴミを、人様の家にまき散らしやがって」 言いながら何度も踏みつける。 「ゆぎゅっ!!あびゅ!!ずびっ!!ずびばぜんでじ、だ!!あぎゃば!!びゃあああ!!」 「ゴミを出したら掃除をしろ。さっさとやれ」 「ばいいいいぃぃぃ!!」 「あじがどうごじゃいばじだああああぁ!!」 れいむ共が、床の髪を舌でかき集める。 「ゆぐっ……ゆびっ…………えっぐ、あぐ…………ゆぐぅううああああああ………」 俺にさんざんに踏まれた子れいむが、うつぶせになったままいつまでも泣き続けている。 他のゆっくりはそいつを慰めるでもなく、ただ陰鬱に掃除を進めていた。 二十一日目 どん、どん、というやかましい音がさっきから響いている。 口を引き締めたまりさ共が壁に向かって、顔面から突進していた。 顔面の中でも口や頬を前に突き出して激突し、 その度にうずくまり、苦痛に震える。 それでもまた立ち上がり、突進を再開するのだった。 全身をでこぼこにしたまりさ共が、俺の前に這いずってくる。 そして必死に閉じていた口を開いた。 口の中から、ぼろぼろと歯がこぼれ出す。 壁に激突することで自ら口内の歯をへし折っていたらしい。 口内もさんざんに傷つけたらしく、少なくない量の餡子が飛び散った。 「おひいひゃん、こりぇが……こりぇが、まりふぁほ、おわひのひるひ……へひゅ」 「何を言ってるんだかわからん。意味はわからんが、捨てろ」 「ひがっ!!おわひ、まりふぁふぁ、ほうひわひぇひゃひっひぇ!!」 「おい。まさかそれで償うつもりじゃないだろうな」 「!!」 まりさ共が口をつぐみ、ぶるぶる震えだす。 「まさかそんなわけないよな。 ゴミクズの歯なんか何本抜いたって、 俺の子供の痛みにはぜんぜん釣り合わないもんな?」 「……は………はいいぃぃ………!!」 「なんの遊びだか知らんが、目障りだ。捨てろ」 「あひがひょうごひゃいひゃひひゃ!!」 二十二日目 「だめ………だめ…………でぎないわぁぁ………」 「がんばりなさいよぉ!!ありすのきもちはそのていどなのおぉ!?」 「いや……いや……いやよおおぉ!!」 子ありすが抵抗していた。 何より大切なはずのぺにぺにをすでに差し出した者とは思えないほど恐怖している。 やはり、棒が自分の目に向かって迫ってくる恐怖は堪え難いものがあるようだ。 逃げ出そうとする子ありすを、他のありす共が抑えつける。 「おわびしたくないの!? にんげんさんにめいわくをかけたつみをつぐなわないつもり!? つぐなわないとゆっくりできないでしょぉぉ!!」 「っひ……ゆひいいぃぃ………!!」 抑えつけられた子ありすの眼窩に、親ありすが耳かきを突き入れた。 「ゆぁぎゃああああああああ!!!」 「がんばりなさい!!」 そのまま、口にくわえた耳かきで眼窩をえぐる。 ばたばたと身悶えして叫び続ける我が子の眼球を、 親ありすは両方ともえぐり出し、 糸のような器官をぶら下げた二つの球体が床に転がった。 「ゆがああぁぁ!!ゆぎゃあああ!!」 「つぎはありすよ!!めをだしなさい!!」 「ゆ、ゆ、ゆっくりがんばるわ!!」 四匹の子ありすが目をえぐり出され、八個の眼球が集められる。 最後の親ありすが、盲目となった子ありすに耳かきを手渡して言った。 「ありすのめもとりなさい。 まえにだして。もうちょっとみぎ……うえ……そう、そこよ。 ………ゆぎぃ!!ゆうぐぎぎぎぎぎぎいいいいい!!!」 見えない状態で、手探りで不器用に親の眼窩をえぐる子ありす。 加減がわからず、明らかに眼窩を超えた深さにまで耳かきが出し入れされる。 「あぎゃああああ!!ううあああああああ!!ばやぐ!!ばやぐじでえええぇぇ!!!」 壮絶な苦痛のあと、ついに親ありすの眼球もえぐり出された。 手探り、もとい舌探りで眼球を集め、親ありすが聞いた。 「おにいさん………どこですか……?」 「ここだよ」 「ゆっくり……いきます………」 声のしたほうへずりずりと這ってくる、盲目の五匹のありす。 テーブルの足に頭をぶつけながら、俺のほうに来る。 ついに親ありすが俺の足元に顔を押し付けた。 「汚い顔をつけるんじゃない」 「あぎゃ!!」 顔面を蹴飛ばしてやると親ありすは飛ばされ、 また戻ってくるまでに時間がかかった。 俺の前に並ぶありす共はぶるぶる震えている。 見えない状態では、どこから何が飛んでくるかわからず、恐怖感も倍加するのだろう。 「おにいさん…………。 ありすの、ありすのおわびのきもちです………」 親ありすが、口の中に集めた十個の眼球を俺に向かって吐き出す。 「ありすたちは……もう、なにもみえません。 にどと………にんげんさんも、ゆっくりもみません。 ありすたちがころしたあかちゃんも、もう、みえないから…… ありすたちもにどと………」 「で、二度と人間の役にも立てないってわけだ」 「ゆっ!!?」 はっとして顔を上げるありす共。 「ゴミクズの上に目が見えないゆっくりなんか、 それこそ何の役にも立たないもんな。 役に立たないゆっくりを飼ってくれる人間なんかどこにもいないだろうよ」 「ゆぁ………!!あ………ありずは……!!」 「なかなか感心じゃないか、人間に飼われる望みを自分で断つなんて。 野良にでもなって野垂れ死にするわけだ、その目じゃ生きていけないだろうし」 「ゆ………ゆ………ゆうあああああああ!!! にんげんざん!!おにいざん!!あでぃずを!!ごみぐずを!! どうが!!どうがあわれんでぐだざい!!みずでないでぐだざいいいいいいぃぃ!!」 「知るか。おい、それ片付けとけ」 「おでがいじばず!!おでがいじばずうううぅぅ!!あでぃずをがっでえええええ!!!」 「騒ぐな!!」 すがりついてくるありす共を片端から踏みにじる。 「ぎゃあぎゃあやかましい! さっさと片付けて失せろ!俺の命令が聞けないのか?」 「やりばず!!ごべんだざい!!ごべんだざいいいぃぃ!!」 見えないままで泣きむせび、四散した眼球を必死に集めるありす共。 そのまま立ち去ろうとするが、見えない状態ではどうすることもできなかった。 何度も俺に蹴り転がされて泣きわめき、慈悲を乞う。 結局、それぞれがあらぬ方向へ這いずっていき、 その後、壁沿いにのろのろと這いずる生活を強いられた。 二十三日目 「ゆぉあああああああがああああああああうううううう!!!」 毎日やかましいことだが、今日わめいているのはまりさ共だ。 親まりさが限界まで舌を突き出し、 その舌の根本を子まりさが包丁でぎこぎこと鋸挽きをしている。 「あがあああああああゆぅおおおおおおおおああああああああ」 歯を失なったまりさ共が、今また舌を失おうとしていた。 すでに半ば切り落とされようとしている舌をびくびくと踊らせながら、 親まりさは泣き、しーしーを垂れ流している。 歯がなく、包丁の柄を掴む力が弱いこともあり、 作業は遅々として進まず、親まりさの苦痛も長引いた。 埒が明かないと見た子まりさは、 鋸挽きからざくざくと包丁を突き立てるやり方に変えた。 「あぎょ!!ごっ!!ごおぉぉ!!ぎゅああぁぁ!!」 真上から包丁を突き立てられるたびに、舌の切り口がずたずたになって切り拡げられた。 ついには舌が切り落とされ、ぼとりと床に落ちた。 餡子まみれの舌は想像以上に長く、1メートルはありそうだった。 例の小麦粉の溶液で傷口を治療された親まりさは、 包丁を口に咥えると、手近な子まりさの口をこじ開けた。 「ゆー………ゆー…………」 歯もなく舌もなくしたまりさ共は、 もはや言葉を喋ることはできず、ゆーゆーと呻くしかなくなった。 あれほど高慢にふんぞり返り、憎まれ口をきいていたまりさ共も、 こうなると少しはしおらしく見える。 「ゆ………ゆゆー………ゆーゆううううゆー………!」 俺の前に四本の舌が差し出される。 「捨てろ」 俺は決まり切った答を返した。 まりさ共の目からぼろぼろと涙が流れ出す。 「全然わかってないんだな、お前らは。 そんなままごと遊びで詫びになると思ってるのか?」 「ゆうううう!!ゆーーーーーーー!!」 身体をぶんぶん横に振るまりさ共。 「ゆーゆー鬱陶しいんだよ。失せろ」 二十四日目 今日のショーはゆっくりにしてはだいぶ手間がかかっているようだ。 台所をかき回し、れいむ共はそれを引きずり出してきた。 説明書を読み、スイッチを入れたそれを前にして、 禿頭のれいむ共はがたがたと震えている。 「ゆぐ…………ゆ…………ゆ…………うううぐうううう……」 眼前に見えるあまりにも絶望的な末路を前にして、親れいむが涙を流す。 ぺにぺにも、髪も、歯も、目も、舌も、 人殺しの罪を償うことはできなかった。 そして今、れいむ共はあんよを選んだ。 親れいむが、意を決して跳び上がった。 「ゆあああああづぁあああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!」 油をひいた高熱のホットプレートの上に乗り、 親れいむは苦痛の絶叫をあげる。 もみあげをぶんぶんと振り、眼球をぐるぐる回転させ、苦痛に身もだえていた。 ゆっくりに限らず、野生に生きる獣は脚を傷つけることを本能的に恐れる。 移動手段を失うことは、狩りをすることもままならず、 天敵から逃げることもできなくなる。 足を傷つけることは自然の中ではほぼ死と同義だ。 いわゆる「足焼き」が、 ゆっくりを苦しめる虐待方法として親しまれているのはそのためだ。 ゆっくりにとって、あんよを焼かれる恐怖はあまりに大きい。 それゆえ、世界広しといえど、 自らあんよを焼くゆっくりはこいつらぐらいのものではないだろうか。 計画を発案し、春奈博士のお膳立てに加担した俺だったが、 ゆっくり相手とはいえ、宗教というものの恐ろしさを実感する思いだった。 「あぎょあああああああああゆぎゃあああああああああああああああああづあづあづあづおおおおおぎょごおおおおあああああああ あああぎゃあああああゆううううぐううううううづううううーーーーーっづおおおおおおおおおゆぎょおあああああああああああ」 今までで一番やかましいショーだった。 あんよが焼かれ焦げ付いてゆく間、親れいむは体中から汗のような体液をだらだら染み出させながら、 あらん限りの声を張り上げて絶叫しつづけた。 「ゆぎょおおおおおあおおおおおぎゃあああああああああおぎいいいぎいおおおぎぎぎぎおぎらっおおぎぎられないいい!!!」 あんよが真っ黒になったころ、れいむが身を震わせて絶叫しはじめた。 ホットプレートに足がはりついて動けないらしい。 結局、子れいむやまりさ共が手助けをして親れいむを引っ張り出した。 床にごろんと転がった親れいむの底面は真っ黒になっており、 黒い消し炭のカスをぼろぼろとこぼしている。 子れいむ共はゆぐゆぐと泣きじゃくりながらしばらくそれを見ていたが、 やがて、新しい油をホットプレートにひき始めた。 もはや動けなくなったれいむ共が、声をはりあげて俺に叫ぶ。 「で、でいぶのおわびでずぅ!! でいぶは!あじをっ!!やいでっ!!うご、うごげばっ」 「お前も役立たずになったなあ」 新聞に目を落としながら俺は言い捨てた。 「人間の役にも立たない、森でも生きていけない。 まあ、処分はしないから、勝手に野垂れ死んでいってくれ」 「ゆううううういいいいいいいいいぃぃ!!」 「つぐなっ!!つぐないだぐで!!でいぶはっ」 「それが償いだと?馬鹿にしてるのか、え?」 「ゆぐぅっ」 「目障りだからさっさと失せろ」 俺はそう言ったが、れいむ共はもはや動けない。 結局、まりさ共に押してもらい、泣き叫びながら視界から消えていった。 饅頭共が、償いようもない殺人を償おうとして、自らの体を痛め続けていた。 その光景は滑稽の一言だった。 まるで人間のように贖罪のために苦しむその様は、失笑しか誘わない。 その罪悪感は、俺たちがわざわざ手間暇かけて植え付けたものだが、 饅頭相手に倫理感を教え込んだところで、 何をしようと道化たコントにしかならないのだった。 そして言うまでもなく、 一番の道化は、その道化に家族を殺され、その道化を教育しているこの俺だろう。 俺は今、こいつらを憎む気も起らなければ楽しくもなかった。 新しい生き甲斐、人類の発展のために、割り当てられた仕事を淡々とこなすだけだ。 続く
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1045.html
とある一室。 ここに、天然のゆっくり霊夢が数匹、連れてこられた。 「おじさん、ここでゆっくりできるの?」 「もちろん! ちょっとここで待っていてくれるかな」 「「うん! ゆっくり待ってるよ!!!」」 男が出て行って、ゆっくり達は改めて部屋を見回した。 いろいろな器具が並んだ小部屋、好奇心旺盛なゆっくり達は、嬉しそうにはしゃいている。 「なんだろうねー」 「これでゆっくりするのかな?」 その時、白衣を着た男が数人、部屋の中に入ってきた。 ゆっくり加工場の職員だ。 「へんなかっこう」 「おじさん達もゆっくりできるひと?」 「いっしょにゆっくりしようよ!」 ものものしい雰囲気の職員達に対して、ゆっくり達はお決まりの文句を言う。 「ゆっくりしていってね!!!」 そう言って近寄ってきた、一匹のゆっくり魔理沙の言葉を無視するように、いきなり捕まえる職員。 そして、ゆっくり達が先ほどから眺めていた装置、ちょうどゆっくり一匹分のスペースが空いている場所に押し込める。 それと同時に、さっきの男が職員二人に拘束されながら、部屋に戻ってきた。 「ゆっくり達、ここはこいつらに乗っ取られてしまったんだ。早く逃げてくれ」 その言葉を合図にして、他の職員達もゆっくりを捕まえていく。 知能の低いゆっくりは、瞬時に何が起こったのか、理解できなかったようだ。 「やめて! ゆっくりしようよ!」 「おじさんも、いっしょににげようよ」 「やめでよ゛ー ゆ゛っぐりじだいよ゛」 「おじざんをだずげであげでー」 さまざまな、怒号が飛びあう中、ものの数分でゆっくり達を捕獲し終える。 そして、ゆっくり全員の視線が集まったところで、一匹のゆっくりが入った機械のスイッチを入れる。 「ゆ? ゆ゛ー!」 瞬間。 幾重もの刃が飛び出し、一分と経たないうちに、餡子と生地の混ざった物体に変化する。 「うわー!」 「はなしてね。はなしてね!」 「おうちかえる!帰らせてー」 その騒がしさを振り払うように、声を張り上げ、男は職員たちに取引を持ちかける。 その装置は、スイッチを入れても殆ど上手く起動しない。 だから、一回スイッチを入れて起動しなかったら、ゆっくりは開放して欲しい。 というもの。 職員はそれに応じた。 ついでに、ゆっくりに目隠しをさせて欲しいとも頼んだ。 これも、直ぐに了承された。 「大丈夫だよ、この機械は殆ど起動しないから」 「おじさん、ありがとう」 「ありがとう」 短い会話をして、直ぐに目隠しをされたゆっくり達。 すでに、最初の一人は機械に入れられたようだ。 「ゆ゛ー!!!」 起動してしまったらしい、ものすごい絶叫が室内に響いた。 「次」 「いだいっ! いだーい!!」 「次」 「おうじがえるー!!!」 「次」 …… 「次、お前で最後だ」 ゆっ、ゆっくり入れてね」 勢いよく入れられた、ゆっくり。 間髪いれずスイッチが入れられる。 しん 「ゆっ?」 助かったのだろうか。 気が付くと、機械から出されて、目隠しも外された。 隣で、あの男が手を振っている。 「おじさん、これでゆっくりできるよ」 と、言おうとしたが言えなかった。 男が、いきなり、ナイフで頭の上を切り取ったからだ。 それだけではなく、ヘラで中の餡子を取っていく。 「いだいー! ゆ゛っぐりざぜでー」 暫く叫び、やはり最後のゆっくりも息絶えた。 残った体は、ゆっくりれみりゃのえさになるのだろう。 場所は変わってアリスとパチェリー。 「これが、虎印の羊羹。すごく濃厚でおいしいわ」 「本当ね、これ、天然モノのゆっくりしか使わないんでしょ?」 羊羹同封のチラシには。 この羊羹は、恐怖心で餡が良く練りこまれるゆっくりの特性を生かし、 極限まで恐怖させ、一瞬安心させる、という手間を加えることで、手を加えずに羊羹化した餡を使用しています。 ホラービデオを強制的に見せた後、同様の方法で作った繁殖物のゆっくりよりストレスが少ない分、より濃厚な味を お楽しみいただけます。 と、記載されていた。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/392.html
現在売り出し中のゆっくりコロリというものを買ってみた。 ゆっくりの被害に困っている農家の人たちが主に使用するそうだ。 別にゆっくり種から被害を受けているわけではないが、試しに買ってみたのだ。 ちなみにゆっくりコロリは、一口サイズの丸い饅頭のようなものである。一セットで20個入り。 ゆっくり種が食うと、中の餡子に毒が回って死んでしまうそうだ。 とりあえず山の中に入るのは面倒だったので、村の中でゆっくりを見なかった聞き回ってみると、それほど時間もかからずに発見した。 「ゆ~、おやさいおいしかったよ!」 「でも、まだたりないね! もっとたべたいよ!」 「ゆっきゅりたべちゃいよ!」 ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙の親子連れだ。 これだ、と思い、親子連れの前方にゆっくりコロリを撒いておく。 少し待っていると、親子連れがそれを発見した。 「ゆっ? なにこれ?」 「たべものかな?」 親ゆっくりは食べ物かどうかも分からず、邪魔だなと言わんばかりに迂回しようとする。 失敗かな、と俺は内心で落胆していると、好奇心旺盛な子ゆっくりが気になったらしく、口の中に入れた。 「ゆっくりー! おいちいよ! これ、おいちいよ!」 一匹が食べて、食べ物だと分かると他のゆっくりもマネして食べ始めた。 「おいしいよ! ゆっくりたべたいね!」「ハフッハフッ! めっちゃうめぇ!」 全員が一つずつ食べ終えると、一匹が提案した。 「これはふゆのたべものにしようね!」「そうだね! おいしいものはとっておこうね!」 ゆっくりたちは毒とも知らず、ゆっくりコロリを持って行く。一匹が一つずつ。 ゆっくりの家は近くにあるらしく、持って行ったゆっくりたちはすぐに戻ってきた。 饅頭が饅頭を持っていく絵は見ていて面白い。 一匹が一匹ずつ、丁寧にせっせと毒の饅頭を運ぶ。 親子で、せっせと、せっせと、せっせと、せっせと。 それを見ている俺の意識にも少し変化があった。 ゆっくりって思っていたよりも働き者なのかもしれない。俺も頑張らなきゃと思う。 どこか爽やかな気分になっている自分にちょっと驚いた。 次の日、ゆっくりがいた場所付近に行ってみると、親子連れのゆっくりの姿がない。 ほんとにいない。家の具体的な場所が分からないため、昨日の辺りにもいない。探してもいない。 俺は落ち着かなくなった。急いで探す。頑張って探す。 そうしていると、夕暮れ時になってようやく親子連れゆっくりの家を見つけた。 思ったよりも近くにあって、俺は見当違いな場所を探していたようだ。 家の中を覗くと、そこにはゆっくりコロリの効果が発揮されたらしく、大量の餡子を吐き出して一家は死んでいた。 苦しかったのだろう。とても絶叫したままの表情が皮に張り付いているようだった。 ああ、良かった。 俺は心底すっきりした。これで明日も頑張れる。 だってそうだろう。タンスの裏に落ちたゴキブリが、死んでいるのどうかを確認できないのは誰だって嫌じゃないか?
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/141.html
長い間手入れを怠っていたため、畑はすっかり雑草で覆われていた。 倉庫から背負い式の散布機を取り出し、除草剤を散布する。 ひとしきり散布を終えたところへ、草の中から小さな影が飛び出した。 「ゆっゆっゆっ!!なんだかむずむずするよ!」 影の正体は、紅白のゆっくりだった。 農薬によって泡を吹いて朽ちている個体はよく見かけたが、生きているものは珍しかった。 爆発的な繁殖力を持つゆっくりは田畑を群れで襲撃することが多い。 時には花壇さえ食い散らかしていくのだから、害虫より余程たちが悪い。 「おじさんたすけて!むずむずするよ!」 「これじゃゆっくりできないよ!」 散々、人の畑に入り浸っておきながらゆっくりしたいとは図々しい奴だ。 良い機会なので直々に懲らしめることにする。 「どれ、おじさんが診てあげよう。口を開けてごらん」 そう言いながら、散布機のエンジンをかけ直す。 「あ~~ん、ゆぐっ!?ぐぃ!?ぐぃぃぃ!!」 大きな口を開けたゆっくりの中に、むずむずの原因をたっぷり吹き付けてやる。 じたばたと暴れるゆっくりを押さえ付け、最後の一滴まで注ぎ込んでやった。 「さあ、おくすりを飲ませてあげたからもう大丈夫だよ」 「ゆ゛っ……ゆ゛っ……?」 弱い除草剤では農薬ほどの毒性がないのは分かっているが むずむずするらしいので何か面白い効き目はあるに違いない。 「ゆっ!?あたまがもっとむずむずするよ!?」 ゆっくりに変化が現れ始めた。 じたばたと飛び跳ねる毎に、はらり、はらりと「頭髪」が抜け落ちていく。 「なにかおちてきたよ!」 自分の髪が抜けていることにも気付かないのか、ゆっくりは地面に落ちた髪を見て不思議そうな顔をする。 しばらくして、ついに赤い髪飾りが黒い尾を引いてぼとりと落ちた。 もはやゆっくりの頭部は色白の表皮が光沢を放つのみとなっていた。 「すっきりー!さっぱりー!」 「そうかい、それはよかったよ。気を付けてお帰り」 「おじさんいいひと!ゆっくりかえるよ!」 すっかり元気になったゆっくりは仲間の所へ帰って行った。 予想外に奇妙で興味深い結果が得られて満足したため、食後の農薬は勘弁してやった。 …… … 禿ゆっくりが森の木々の間を飛び跳ねながら進む。 妙に軽くなった体を嬉しく思いつつ、いつもの調子で大きな声で叫ぶ。 「ゆっくりかえったよ!」 するとどこに隠れていたのだろうか、たちまち10体の紅白や白黒のゆっくり達が現れ、声の主を探し始める。 「まりさー!こっちにいるよ!!」 しかし禿ゆっくりがいくら叫んでも、他のゆっくり達は戸惑うばかりだった。 「おーい!みあたらないよ!」 「れいむー!どこにいるの!」 禿ゆっくりには事態が飲み込めるはずもなかった。 「ゆっ!?れ、れいむだよ?!ここだよ!ゆっくりしようよ!」 「なんだこれ!へんなまんじゅう!」 「ほんとだ!おいしそう!」 髪を失ったゆっくりは――同属の目から見ても饅頭でしかなかった。 「ゆ、ゆっ!?ひどいよ!どうして!」 たちまち他のゆっくりの目の色が変わる。 「おーなかすいた♪」 「おーなかへった♪」 「たーべちゃーうぞー♪」 禿ゆっくりを包囲するように10体のゆっくり達が詰め寄って来た。 「ゆっ!?みんなやめてね!たべものじゃないよ!?」 どんなに叫んでも禿ゆっくりの声は届かなかった。 白黒のゆっくりが木の上からジャンプし、禿ゆっくりの真上に落ちる。 ブチュリ。 「ゆ゛っぐり゛い゛い゛い゛ーー!!?」 「ゆっくり しね!!」 下敷きになった禿ゆっくりから勢いよく飛び出した餡子が地面にぶち撒けられる。 「みんなでたべようね!」 「あまあま♪」「うまうま♪」 薄れていく意識の中で、禿ゆっくりはかつて仲間と一緒に食べたまんじゅうの味を思い出した。 しかし、まんじゅうの形だけはどうしても思い出すことが出来なかった。 選択肢 投票 しあわせー! (24) それなりー (18) つぎにきたいするよ! (156) 名前 コメント すべてのコメントを見る あっ......(察し) -- (名無しさん) 2021-10-01 22 06 28 (^o^) | | -- (*1) 2019-10-27 08 16 11