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2スレ 479-484 こういう場所に来るのは、一体何度目だろうか。 郁は、目の前の大きな嵌め殺しの硝子窓から見える広大な夜景をぼんやりと眺めながら考える。 しかし、両手を越えた辺りから数えるのが面倒になり、郁は早々に思考を放り投げた。 そして、その代わりのように唇からは溜息が漏れ、郁の眉間に大きな皺が刻まれる。 もう少し恋愛に手慣れていれば、こういう場所に来ても緊張しないのだろうか。 郁の脳裏に、ルームメイトで友人の柴崎の顔が浮かぶ。 おそらく彼女ならこのような場所に来ても右往左往することなどなく、 部屋にあるソファにでも座って、ルームサービスのドリンクを優雅に飲んでいることだろう。 しかし、残念ながら郁にはそんな余裕など全くない。 この部屋に足を踏み入れた瞬間から、 郁の心臓は今にも口から飛び出してしまいそうになる程暴れており、早鐘のように鳴っている。 随分長いこと早い鼓動を刻んでいるせいか、頭がクラクラし始めた。 このままこの状態を続けていれば、その内意識を手放す羽目になるだろう。 郁は、今にも飛びそうな意識を繋ぎ止めるべく、 乱れた心拍を落ち着かせるように、ゆっくりと深い呼吸を繰り返した。 良化隊と戦う時も常に緊張しているが、このように意識が飛びそうになることなどない。 やはり緊張の種類が違うのだろうか。 それなりに回数を重ねているのだから、 いい加減慣れるべきだ、と自分でも思うが、こればかりは仕方がない。 二十数年間掛けて母親から培われた純潔思考は、なかなか払拭出来ないもので、 今もなお、こういう場所に異性と泊まることに、どこか後ろめたさを感じてしまう。 毎回初めての時のように緊張してしまうのは、間違いなくこのことが原因だろう。 思っていた以上に、母親の呪縛は強いようだ。 諦めに似た溜息を小さく零し、ゆっくりと焦点を目の前に広がる夜景に合わせる。 堂上は、乙女思考の郁に合わせてくれているのか、 必ず夜景が綺麗なシティホテルに連れてくる。 それがたまにならそれほど気にならないが、 毎回なものだから、いくら階級が違うと言っても堂上に全て負担させるのは気が引けて、 郁もお金を出すと申し出るのだが、堂上は頑なにその申し出を拒絶する。 こういう場所の金を女に払わせる程無粋な男じゃない、の一点張りなのだ。 正直、郁の給料はお世辞にも多いとは決して言えないので、 堂上の気遣いはすごく有り難いのだが、やはり申し訳なさが立ってしまう。 しかし、あまり言い張ると喧嘩になりかねないので、 ここは素直に甘えるのが正解なのだろう。 いくら恋愛経験のない郁でもそれぐらいのことは分かる。 「……きれーい」 紺碧のキャンパスの中に散りばめられた色とりどりの光を眺めながら、 自然と郁の唇から感嘆の溜息が零れた。 煌く光を眺めていると、自然と思考が停止してしまう。 この景色の前で、あれこれと悩むのは無粋でしかないように思えてしまう。 美しいものには、どこかそういう不思議な力がある。 郁が夜景を眺めていると、窓硝子にぼんやりと人影が映った。 「そんなに顔を寄せて、ガラスを頭で割るつもりか?」 不意に背後から声がして、郁の体が大きく跳ねてしまう。 ついでに、「ぎゃあっ!」とお世辞にも色っぽいとは言い難い悲鳴まで上げてしまった。 その悲鳴が余程耳にきたのだろう。 堂上は、不機嫌そうに眉根を寄せて、人差し指を耳に当てた。 「ぎゃあ、とはなんだ! ぎゃあとは! 人を化け物みたいにっ!」 堂上から上がる怒声に、郁は思わず肩を竦める。 しかし、ここで怒鳴られたままで終わらないのが、郁だ。 「だ、だってっ! 教官が悪いんじゃないですか! 背後から突然現れて!」 「背後からって人聞きの悪い! 普通に風呂から出てきただけだ! お前がボーッとしてるのが悪いんだろうがっ!」 「ひ、ひどい……っ!」 結局、言い返す言葉が見当たらず、郁は不満そうに唇を尖らせた。 堂上は、そんな郁など見慣れたものなのだろう。 さして気にした様子も見せず、バスタオルで頭を拭きながら、郁の横に立つ。 「気に入ったのか?」 「え?」 「随分と夢中で見ていたからな」 郁を見遣り、堂上は小さく笑う。 髪の毛を拭うバスタオルの合間から見えた瞳の優しさに、ドキリと心が一つ跳ねた。 夜景を見て忘れかけていた緊張が、また郁の中で存在を主張し始める。 隣に立つ堂上の浴衣姿が、また一層この緊張に拍車を掛けた。 合わせ目が僅かに肌蹴ており、日に焼けていない肌がそこから覗いてる。 これからこの胸に抱かれるのか、と思うだけで、 羞恥で思考が焼き切れてしまいそうになった。 郁は、罰が悪くなり、慌てて瞳を堂上から剥がし、目の前の夜景に向ける。 「い……一応あたしも女ですから、こういうのは好きです」 緊張しているせいで、上手く舌が回らない。 思わずどもってしまった。恥ずかしい。 「一応って、お前は充分女だろうが」 「……え?」 不意に隣から伸びてきた腕が、郁の肩を強く引き寄せた。 そのせいで、郁の体が半ば強制的に堂上の方に傾く。 そして、すぐさまそんな郁の身体を心地良い拘束が襲った。 堂上に抱き締められた、ということに気付いたのは、 郁の首筋に熱い吐息が触れてからだ。 「きょ、教官……っ」 「俺にとっては、ずっと女だ」 普段の歯切れの良い話し方をする堂上からは、 想像もつかない程、その声は熱く、そして甘い。 僅かに掠れたその声に、ゾクリと郁の背が粟立つ。 そんな甘美な感触に意識を囚われていると、 突然、背後から伸びてきた腕が郁の顎を掴み、そのまま振り向かせた。 先程までガラス越しだった堂上の端正な顔立ちが目の前に迫る。 「きょ……」 言葉は最後まで言わせて貰えない。 郁の唇から零れるよりも前に、焦熱が唇を覆い、堂上の舌がその言葉を攫っていった。 追い求めてくる舌の熱さに、クラクラする。 息苦しくなって堂上の舌から逃れようとすれば、 そうはさせまいと、更に深く郁の舌を絡めとった。 「ん……ふぅ……んっ」 唇の合わせ目から漏れる声が、次第に甘く濡れ始める。 恥ずかしくて止めたいのに、足りない酸素を補おうとすると、 自然とそれと共に甘い声が漏れてしまう。 この声を堂上に聞かれているかと思うと、羞恥で倒れそうだ。 もう何度となく聞かれている声だし、今更なのは充分分かっているが、 恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 舌が絡み合う度に、口内で水音が跳ねるように踊り、 それらが粘膜を通して脳髄に直接響いて、徐々に羞恥が曖昧になっていく。 郁の唇を貪っていた堂上の唇が、ゆっくりと離れる。 漸く息吐くことを許され、郁の唇から小さく吐息が漏れようとした、その瞬間、 彼女の唇から漏れたのは吐息ではなく、小さな悲鳴だった。 郁の唇を解放した堂上の唇が、今度は郁の項へ落とされたのだ。 郁の肌の弾力を楽しむように、 時折肌を押しながら、堂上の舌がゆっくりと首を辿っていく。 ざらついた舌の感触の気持ち良さに、 舌の動きに合わせて郁の体がビクリと大きく跳ねた。 舌で撫でていたかと思えば、思い出したかのように唇で吸う。 それが酷く気持ちが良くて、込み上げる快感に耐えるように郁が瞳を固く閉じていると、 浴衣の合わせ目から何かが入ってきた。 弾かれたように瞳を開ければ、 窓硝子に浴衣の合わせ目から手を差し入れられている郁の姿が映っていた。 堂上のもう一つの腕が裾を捲り上げて、郁の太腿を撫で上げており、その姿は酷く卑猥だ。 あられもない自分の姿に、郁の羞恥が煽られる。 「や……っ」 慌てて堂上の腕を払おうとするが、堂上の腕はそんなことで簡単に払われたりはしない。 悔しいけれども、一度だって郁が堂上に勝てたことなどないのだ。 抗う郁を無視し、堂上は更に手の動きを大胆にしていく。 申し訳ない程度にある胸を揉みしだいていた手が、下着を上へずらした。 そのせいで乳房が下着から零れ落ちる。 すぐさま堂上の指が、乳房を擦り上げた。 「や……んんっ」 強い快感に思わず声が漏れてしまい、自分の声の甘さに、郁は酷く驚く。 郁は、慌てて下唇を噛締め、声が零れないように込み上げる快感を奥へ押し遣った。 しかし、そんな郁を嘲笑うかのように、更に堂上の指は郁を駆り立てていく。 裾から差し込まれた手が、下着の上から割れ目に触れてきた。 身体は随分と待ち望んでいたのだろう。 それだけで、体の奥から熱いものが染み出てくるのが分かる。 「このままだと下着が汚れるな」 堂上の低い声が耳朶に触れた、次の瞬間、下着を下ろされた。 太腿を過ぎた下着は、呆気ない程無力に、重力に従い床に落ちる。 濡れそぼっているせいか、ヒヤリとした空気が、そこに触れた。 露になった割れ目を、堂上の指が擦り上げる。 それだけでグチュグチュと卑猥な水音がそこからし、羞恥から郁の瞳に涙が滲んだ。 「郁」 低く甘い声が、郁の名前を象る。 自分の名前が、こんなにも甘美な響きをすることを、 郁は堂上に呼ばれて初めて知った。 「きょう……か……」 堂上の指が、蜜壺の中へとゆっくりと沈んでいく。 完全に濡れているそこは、何の抵抗もなく、堂上の指を飲み込んだ。 待ち望んでいた感触に、郁の体がブルリと震える。 指の根元まで沈んだ指は、そのまま第二関節で折られた。 そのせいで、堂上の指が膣壁に当たり、更に郁の体が大きく跳ねる。 そして、その場所を堂上の指が引っ掻くように何度も擦り上げた。 突然訪れた巨大な快感に、下唇を噛締めていた力が緩みそうになる。 しかし、ここで緩めてしまえば、恥ずかしい声を上げてしまうだろう。 郁は懸命に緩みそうになる歯に力を込め、唇を噛む。 そんな郁に気付いたのか、乳房を擦り上げていた堂上の指が、郁の唇に触れた。 「郁、唇を噛むな」 噛締める歯から逃がすように、ゆっくりと下唇を撫でる。 「で、でも……声が……」 「声ぐらい聞かせろ」 「い、いやです」 郁は、懸命に首を横に振って、堂上の申し出を拒絶した。 しかし、許さないと告げるように、堂上の親指が下唇を撫で続ける。 「聞かせろ」 「だ、だめです」 「上官命令だ」 きっぱりと言うと、堂上は郁の唇を強く押した。 「……ず、ずるい……。こんな時に上官命令なんて……」 上官命令と言われれば、部下である郁に抵抗など出来る筈がない。 「こういう時にこんなものは使いたくはないが、 こうでもしないとお前は唇を噛むのを止めないだろ」 「だ、だって……」 「そんなに強く噛締めたら、唇が切れる」 不意に郁の唇を熱い吐息が撫ぜ、そのまま唇を塞がれた。 再び、郁の中に沈められていた指が、ゆっくりと動き出す。 今度は指を二本に増やされ、更に郁の中で暴れた。 二本の指が別の動きをし、様々な場所を刺激していく。 その指の動きに合わせて、激しい卑猥な水音が響き、部屋の中で踊った。 先程まで唇に触れていた指もまた、再び乳房へと戻り、郁の快感を更に煽る。 その上、唇の中では堂上の舌に絡み取られてしまい、呼吸すらままならない。 体中に落とされる快感に、郁の思考は完全に甘く蕩けてしまった。 ゆっくり唇が離れ、お互いの視線が絡み合っていく。 郁の中から抜かれた堂上の手は、掌まで愛液でぐっしょりと濡れていた。 まるで郁に見せ付けるように大きく舌を出し、その手をゆっくり舐めていく。 淫猥な光景は酷く扇情的で、郁は背徳感と興奮で眩暈を覚えた。 「ガラスに手を突いてろ」 堂上にそう言われ、郁は言われるがままに硝子に手を突く。 郁が硝子に身体を預けるや否や、浴衣の裾が捲り上げられた。 「え……?」 何をしようとしてるのか、確認しようと郁が振り返るより先に、 蜜壺に硬いものが宛がわれ、一気に郁の身体に突き立てられた。 「あぁ……っ」 快感が身体を駆け抜ける。 せめてベッドで……と言おうとするものの、 それすら許されない程性急に攻め立てられた。 堂上の腰の動きに合わせて、郁の視界が大きく揺れる。 「やっ……あっ……んっ……ふっ……」 声を抑えたくても、唇を噛締めてはいけない、と言われてしまった以上、 郁に声を止める術は残っていない。 ベッドならば、枕やシーツで声を抑えることが出来るが、窓際では噛めるものはない。 初めての時のように、堂上の肩に噛み付くという手もあるが、 後ろから突かれている以上、それも無理だ。 その前に、そんなことをすれば、 また事後に膝詰めで説教されるという間抜けな展開になってしまうので、 流石にそれは勘弁願いたい。 堂上は、更に郁を追い詰めるように、郁の膣壁を抉るように、肉棒を突き立てる。 堂上が擦り上げる度に、郁の快感は更に膨らみ、上り詰めていった。 「郁、ガラス見てみろ」 耳元で囁かれた甘い声に、郁はゆるゆると瞼を開ける。 そこには、浴衣の合わせ目から胸を零して、 後ろから突かれて欲望に身を任せる浅ましい自分の姿があった。 あまりの恥ずかしい姿に、郁の瞳から完全に瞬きが消える。 「や、やだ……っ。見ないで下さい……っ」 慌てて瞳を閉じると、硝子から目を背けた。 目を閉じても、堂上が見えてしまっているので大した意味はないのだが、 自分が見えないだけまだいい。 「なんでだ」 「は……恥ずかしいからに、決まってるじゃないですか……っ」 「せっかくエロいのに、見ないはずないだろ」 再び、堂上の腰が激しく動き始める。 「あぁっ」 もう声が抑えられない。 堂上の腰の動きに合わせて、だらしなく開いた唇から、淫猥な声が零れた。 「や……あぁ……あんっ」 恥ずかしくて堪らないのに、気にする余裕すら完全に堂上に奪われてしまった。 もう郁に残されているのは、目の前にある快楽を貪るという淫欲だけだ。 ふと、後ろから伸びてきた手が、興奮して剥き出しになった愛芽を擦り上げた。 郁の中の快感が更に膨らみ、郁は一際高い声で啼いた。 「あぁぁぁぁぁっ」 「郁……っ」 腰の動きも更に早くなり、容赦なく堂上の手が愛芽を嬲る。 強大な快感に、もう立っているのもままならない。 郁は、縋るように窓硝子に頬を寄せた。 興奮して熱を孕んだ頬には、窓硝子の無機質な冷たさが酷く心地が良かった。 熱と快感が溶け合い、もう繋ぎ目すら曖昧だ。 窓硝子の顔を寄せたまま、郁は快楽を貪る獣のように声を上げる。 瞼の裏で閃光がちらめき始めた。 思考が真っ赤に染まってもう何も考えられない。 「郁……っ」 堂上が更に強く腰を打ちつけた、その時だ。 郁の中の快感が一気に弾け、郁はそのまま快楽に身を任せるように、意識を手放した。 ゆるゆると瞼を開けると、堂上が寝かせてくれたのか、郁はベッドに横たわっていた。 「あ……れ……? あたし……」 郁は、まだ朦朧としている頭を振って、頭の中の白い影を追い遣りながら、半身を起こす。 「気がついたか」 不意に声がして、郁は弾かれたように声がした方へ顔を向けた。 そこには、少し不貞腐れたような表情を浮かべて、ソファに腰を下ろしている堂上の姿があった。 「は、はい……。あの……あたし、もしかして寝てました?」 「あぁ。高鼾でな」 「……え?」 「かなりすごかったぞ。あんな鼾、初めて聞いた。玄田隊長に勝てるんじゃないか?」 「えぇっ!?」 堂上から告げられた言葉に、思わず卒倒しそうになる。 好きな人と肌を重ねた直後、高鼾で眠り込んでしまうとは、彼女としては失格だろう。 郁は、ガクリと肩を落として項垂れると、クスンと小さく鼻を鳴らした。 「元はといえば、俺が無理をさせたせいだから、気にするな」 堂上は、ソファから立ち上がりベッドに近付くと、ゆっくりと郁の頭を撫でる。 その手は、高校生の時、助けてくれた王子様の手だ。 その時と同様、相変わらずその手は優しくて温かい。 「でも……彼女として……いえ、女として終わってますよね」 堂上に頭を撫でられても、やはりショックは拭えず、郁の頭は項垂れたままだ。 「まあ、お前にそういうのは求めていないから安心しろ」 「はあ!?」 堂上は慰めようとしたのだろうが、郁にとっては聞き捨てならない言葉だ。 郁の頭が勢いよく上がる。 普通恋人ならば、ここは「どんなお前でも好きだよ」と言うところではないだろうか。 正直、堂上の言葉は全くその通りなのだが、 やはり女としてはこのまま流すことなど出来ない。 「求めてないってなんですか、求めてないって! それってあまりに失礼じゃありませんか!?」 「アホか、貴様っ! そういう言葉は、それなりの言動をするようになってから言えっ!」 「ひ、ひどい……っ! 大体、教官が見境もなく盛るから悪いんですよっ! もう少し落ち着いて下さいっ!」 「落ち着いてって……お前が言うなっ!」 部屋に二人の口論という名の漫才が響く。 不毛な戦いは、二人の息が切れるまで続くのであった。 【おわり】
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1スレ目:17-19 堂上は笠原とキスをしていることを盛大に後悔していた。 業務時間外の書庫だから人が来る可能性は限りなく低い。念のため内から鍵をか けているから、万が一鍵を開けられても見られることは無いだろう。 笠原を書棚に押し付ける形なのは、初めての時笠原の腰がくだけて立っていられな くなったからだが、両手では足りないほどキスを繰り返した今、もう慣れたのか足 は少し震えるものの堂上の支えもあって何とか自立している。 本の匂いに仕事を思い出す(というかここは仕事場だ)場所に、空調と舌を絡める音 だけが響く。湧き上がる欲望を押さえ込みつつ身体を離すと、笠原は少し潤んだ目 で「今日もありがとうございました」と言った。 「うまくなったな」 正直溺れてしまってあまり記憶に無いが、そんなことはおくびにも出さずキスの評 価をする。なんと馬鹿げた関係。 キスを教えて欲しいと請われた時になんで断らなかったのか。普段なら絶対に了承 しないような願いに応えたことについて、今更考えても詮無いことであった。 はじまりは2週間前に遡る。 「聞いてください!王子様の居所掴めそうなんです!」 堂上は含んでいた茶を盛大に噴出し、かつ気管に入れてむせた。 「何やってるんですか汚いー」 っていうか何を言っているんだキサマは、と言いたいところをさらにむせる。正直 事務室にいるのが自分だけでよかったとか思えたのは、咳が落ち着いてからだった。 笠原の王子様話は、堂上から叱られる度に堂上との比較という形で俎上に上ってい たため、笠原にとって堂上に対しては持ちネタ並に露出している。 今回の話も事務室に堂上以外の誰もいなかったから始めたのだろう。 内心の動揺を気取られぬように落ち着いた声で先を促してみる。 「…それで、何処の奴だったんだ」 「なんか、北海道にそれらしき人がいるらしくて~」 堂上は椅子から転げ落ちそうになり、やっぱり自分ひとりでよかったと思った。小 牧あたりが聞いていたらもう大爆笑であっただろう。 「柴崎情報ですよ。次の連休に観光がてら二人で行ってみようって話になってるん です」 何のつもりだろう。柴崎は堂上が笠原の『王子様』であることを知っているはずだ。 「からかわれているんだ!」 「何言ってるんですか、酷い。柴崎の情報網の凄さは教官だって知ってるじゃない ですか!っていうか柴崎のことを信じられないんですか?!」 知らぬは彼女ばかりなり。心底心配したのに、この扱いはどうだ。っていうか何を 考えている柴崎。どうにも返事が思いつかず黙っていたが、本当の爆弾はこの後に 来た。 今までの勢いが全て無かったかのように沈黙した後、 「キスを教えてもらえませんか?」 「…は?」 「だから、キスの仕方を教えてくださいって言ってるんです!」 顔を赤らめてはいるが何故か喧嘩腰で言われたその言葉の意味が飲み込めない。 どんな飛躍だ。 『あなたを追いかけてここにきました』と言うということは耳にタコが出来るぐら い聞いているが、なぜそれがこんなことに。 笠原のもったいぶった言い回しを要約すると、『キスが拙いとカッコ悪い』らしい。 意味が分からない。柴崎の入れ知恵か?遊ばれているのか? ─────というか、何故俺が、俺にキスをするための練習台に? 怒っていいのか喜んでいいのか何なのか分からなくなり、とにかく怒鳴りつける。 「アホか!俺はそんなことを教えるためにお前の上官をやってるんじゃない!」 「でも頼めそうな人堂上教官しか…」 「でも とか言うな常識で考えろ!こういうことは好きな人とやるもんだろう!」 あ、これは。 泣き顔と泣きそうな顔はいくらでも見てる。これは、泣きそうな顔だ。 「堂上教官のご迷惑も考えず すいませんでしたッ。小牧教官に頼んでみます!」 くるりと踵を返し、事務室を出て行こうとする。 何でだ。何故そこで小牧。あっちにはれっきとした彼女がいるからそれこそ迷惑 じゃないのか。しかし一途な笠原のこと、頼んでみると言うのだからきっと頼むに 違いない。そう思った瞬間堂上は笠原の腕を掴んで引き止めていた。 冷静に考えれば小牧が引き受けるわけもなかったはずだが、その時は混乱していた という言い訳ももう遅い。 こんなに馬鹿だとは思わなかった。誰がだ?俺もだ。 笠原の去った書庫で、堂上は一人ため息をついた。 了
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1スレ目 749-750 ホテルのレストランでディナーを楽しんだ二人は、部屋に戻るためエレベーターに乗り込んだ。 恋人としてのこの後の行動を必死に考えないようにする。もう幾度か体験したことでも、まだまだ恥ずかしさは拭えない。 特に会話もないエレベーター内は緊張を煽るような沈黙で満たされている。自分の心臓の音が相手に伝わってしまいそうな静けさなのに、会話で誤魔化すこともできない。 そんな雰囲気の中、突然エレベーターが停止した。同時に視界が暗闇に閉ざされ、郁はまともに動揺する。 「な、なに?」 「狼狽えるな」 何も見えない状況でも堂上の声は落ち着いていた。手探りで見つけたボタンを操作し、何やら話している。 どうやら停電のようだ。原因究明と復旧を急いでいるという。 「すぐ直る、心配するな」 そう言われても不安はなかなか拭えない。暗く狭い箱の中は圧迫感と恐怖心を煽るには十分過ぎるシチュエーションだ。 元々閉所恐怖症の気がある郁にとっては尚更悪い条件だらけ。 「俺がついてる」 不意に、手を握られた。 見えてるんじゃないかと疑いたくなるような適格さで、力強く、存在を主張するように。 さらに指まで絡められた。郁にも同じことを求めるみたいに、手のひらが密着する。 驚いて反射的に力が入り、堂上の手を握る。必然的に互いに指を絡めた、所謂「恋人繋ぎ」という形だ。 あたかもあのコンテナ内を再現するような場面に、彼女の体温が一気に上がった。見えないのに羞恥から顔を伏せる。 でも、酷く安心する。 堂上の手は大きくて暖かくて、不安を包み込んで隠してくれるような包容力があった。 心に広がるその感情に、郁は嬉しそうに笑った。 「なんだ、意外と余裕だな」 それを気配で察知したのか、拍子抜けした声が聞こえた。 「堂上教官がそばにいてくれるからですよ」 相手の姿が見えないというのは、時に人を大胆にさせる。 でなければこんなこと、直接口に出して言えないから。 「堂上教官の手、凄く安心するんです。握ってもらえるだけで、怖いとか、苦しいとか、全部消えてくみたいで。 あたし、堂上教官の手、大好きです」 返事はすぐにあると思っていたのに、待っていたのは沈黙だった。 あれ? なんかおかしいこと言ったかな? 不安になる郁が握る手に力を込める。それで悟ったのか、堂上は渋々と言った。 「……あまり可愛いことを言うな」 なんですかそれ、人がせっかく素直になったっていうのに! 郁が反論しようとした勢いは、後頭部に回された手に殺された。 「我慢できなくなるだろうが」 ぐっと押さえられ、唇が合わさる。そして舌を深く入れられた。 密室とはいえエレベーター内。しかもいつ動くか、扉が開くかもわからない状態なのに。 郁は少しだけ抵抗したが、堂上がしてくれるキスに抗えるはずもなく、程無くして彼の背中にすがりつくように手を回すことになる。 堂上に教えられたことを思い出しながら必死に応える。 息継ぎのために離れた唇が、問いを囁いた。 「好きなのは手だけか?」 明らかにからかうのが目的だ。鈍感な郁ですらそう思う質問に答えが詰まる。 しかし堂上のそれは、からかいとは少し違っていた。 「俺は手だけじゃなく、お前が好きだよ」 本当に、暗闇は人を大胆にする。 意外と照れ屋な堂上に、素面でこんなことを言わせるのだから。 「あたしも……っ!?」 この勢いで言ってしまおうとした郁の言葉が途切れたのは、急にエレベーターが動き出したせいだ。 同時に眩しいくらい明るくなり、ほぼゼロ距離で堂上の顔を見ることになる。 突然のことに驚き、反射で身体を離してしまった。 「直ったのか」 事も無げに言う堂上のすぐ後に、ホテル内全域に流れているのであろう放送が、停電の原因と迷惑を詫びた内容を流す。 「いくぞ」 それが終わらぬうちに目的の階にたどり着いたエレベーターから、デートに似つかわしくない速さで堂上が降りる。 繋ぎっ放しの手を引かれる形で、郁も続いた。 その手は、ベッドで合わせた肌のように熱かった。
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1スレ目 127-129 なんだ、この山は。 そのあまりに高い頂に、堂上は思い切り顔を顰めた。 その日、堂上は残業だった。 暗がりの中、寮の玄関が見えると、そこにはよく知る人物が誰かと親しげに立ち話をしていた。 よく見れば玄関の中では二人のやりとりを興味津々といった様子で見ている女性達の姿も見えた。 思わず足を止めている自分に、相手の方が先に気づいた。 「堂上教官!」 よく通る声は、頭の痛い、だが気になって仕方がない部下の笠原郁のものだった。 ここて突っ立ている訳にもいかず、ごく自然に足を進める。 そしてごく自然に彼女の前で立ち止まり、 「外で話していないで、中に入ってもらったらどうだ」 親しげに話しているところを見る限り彼女の関係であることは間違いない。 ならば、こんな目立つところたで立ち話というのもなんだろう。 あくまでも、一般論としてだ。 やはりというか、予想していた通り、郁と話してのは大柄の男だった。 郁の170cmを遙かに越える大男を前にすると、堂上は見上げなくてはならない。 すると、相手の男は挑発的とも思えるように、しげしげとこちらを見下ろしてきた。 どうして自分がこんなにも居心地が悪く感じなければならないのだと、内心憤慨していると、 男は堂上が来たことが丁度いいとばかりに去っていってしまった。 ちらりと横目で郁の様子を伺うと、心底嬉しそうだった。 その表情を見てしまい、堂上は自分の運の無さを呪った。 もっと残業をしてくるんだった、そうすれば、こんな場面に出会わなくともすんだというのに──。 その理由はあえて考えたくもなくて、腹に溜まったもやもやとしたものは寝酒で誤魔化した。 とはいえ、そんなもので解決できれば、最初から気にするはずもないのだ。 自分の知らない男と親しげに、しかも全開に心を開いているような笑顔にわだかまりを覚えるなんて、間違っている。 そう頭では理解しているのに。 それを堂上は一番手っ取り早く、一番最低な方法で解決してしまった。 「今度の休みは同じでいいか。」 そう郁の耳元で尋ねると、相手は顔を真っ赤にして身体を硬直させてしまった。 こうなることは予想済みだったので、今、事務室には堂上と郁の二人だけだ。 そしてその問い掛けは初めてではない。 それは二人だけの暗号のようなもので、暗黙の了解でもあった。 後ろ暗い感情も、こうなってしまっては沸き起こる欲情の糧にしかならない。 自慢のすらりとした脚も、流れるような身体のラインも、申し訳なさそうに揺れる乳房も、その全てが堂上を興奮させる。 どうしてこんな女が良いんだと自問しても、上手く答えが見つからない。 良いと思ってしまうのだから仕方ない、 だから、あんな些細なことで苛立ちを覚えるのだ。 「きょ、教官っ、もう、私、だめっ……!」 嫌々と首を横に振る郁を背後から抱きしめて、耳元で意地悪く囁く。 「一緒がいいんだろう?もう少し我慢しろ」 「やっ、あっ、ああんっ!」 更に深く郁の芯を焚きつけるように押し上げ、堂上はその中で果てた。 とはいえ、残るものといえば罪悪感だから居た堪れない。 またやってしまったと──頭を抱えたくなる堂上に、郁は不思議そうに首を傾げた。 そして思い出したように、 「そうだ。中兄が、堂上教官によろしくって言ってました」 「チュウニイ?何だ、その怪しげな暗号は。」 そう尋ねると、郁は少し前にあったあの寮での玄関のやり取りを話し始めた。 「多分、お父さんから聞いていたんだと思います。教官がどんな人か興味があったみたいで会えて良かったって」 訳の分からないまま、いきなり「お父さん」などというワードも出てきてしまい、堂上はますます理解できない。 すると郁はバックの中から一枚の写真を見せた。 「家族です。これが両親で、こっちが兄貴達。三人いるから、大中小」 そう説明されて、ようやく堂上は理解した。 真ん中の兄だから、中兄なのか。 納得がいくと今度はそんな相手に苛立ちを覚えてしまった自分に自己嫌悪を覚えた。 よりにもよって、兄だとは。 郁のいる手前、ここで落ち込む訳にもいかなくて(気付かれればここぞとばかりに攻撃してくるに違いない) とりあえずその件は棚上げにして、改めて写真を見た。 ……しかし、何だ。 見事に長身の兄達に、女性としては長身の部類に入るであろう郁が並ぶ姿は、もはや圧巻といっても過言ではない。 「……日本四大山脈か、これは」 うっかり自分がその輪に入った光景を想像し、堂上は慌ててその不毛な想像をかき消した。
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1スレ目100 おねがい いつものように友人の部屋で呑んでいたときだ。 お互いにかなり飲んだ後、若い子だとイロイロと大変じゃないか?という話を切り出された。 「うーん……多分堂上が考えているよりは大変じゃないと思うよ」 「そうか?でも、ほら、なぁ、イロイロあるだろう?知らないこととか多いし…」 旧知の友人が遠回しにどんなことを言いたいかは、わかった。 「笠原さんは知識乏しそうだしねぇ、もう率直に言ったほうが早いんじゃない?」 「………言えるか、ばか」 なんだかんだいって、五つ年の離れた彼女にベタぼれなのが周りに駄々漏れの友人の相談には乗ってやらないと友達甲斐がないってものだろう。 酒の肴にもなるしねぇ。 「でもさ、堂上が教えてあげないと誰が笠原さんに教えるの?」 「おまえ、誰って…」 「具体名とかじゃなくね。結局あんたしかいないんだから、がんばってね。教官」 結局、背中を押してあげることしかできないんだけどね。
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1スレ目 217-218 すったもんだの末、落ち着くところに落ち着いた郁と堂上の関係はといえば以前とさして変わりはなく、あえて変わったことといえば時々二人で外食をしているぐらいだろうか。 とはいえ出向く店は今時の居酒屋レストランで、小牧や手塚、柴崎など も参加するので二人っきりというのは数えるぐらいしかないのだが、その僅かな一時を堂上を密かに気に入っていた。 酒に弱い郁は進んで飲むことはないが、ビール一杯で頬を赤くし、ほろ酔い気分の郁は滅多に見られるものではなく、それを肴に酒を飲むのが堂上の密かな楽しみだった。 「堂上教官、これ」 居酒屋の個室に通されるなり、郁はいきなり包みを差し出してきた。 受け取る理由が見当たらない堂上は思わず怪訝な顔をすると、郁ははぐらかされたと思ったのか子供のように唇を尖らせ、 「もうすぐ教官の誕生日じゃないですか」 だからと強引に渡されてしまった包みを堂上はまじまじと見てしまった。 ああそうか誕生日か……などと冷静に考えると、途端に顔が熱くなった。 三十路過ぎて誕生日で嬉しいと思ってしまうことが恥かしくて仕方ないのだが、それでも誕生日にプレゼントを貰うという行為自体はやはり嬉しい。 その相手が特別ならば尚更だ。 「……すまん」 本来ならば「ありがとう」と言うべきところをそんな言葉で誤魔化してし まう自分が情けない。 これが小牧ならばしれっとした顔で郁が喜ぶような言葉を口に出せるだろうに。 無意識に苦い顔をしてしまった堂上に、郁は他に思うことがあるのか、ちらちらと様子を伺うように見ている。 どうしたと訊くと、普段の紋切り口調からは想像も出来ないようなしおらしい態度で、 「えっと、その……続きがあって……」 まず包みを開けるようにせがまれ、開けてみると中身は紺色のストライプ柄のネクタイが入っていた。 「男の人にあげるものってそれぐらいしか思い浮かばなくて……って、そうじゃなくて、」 口をつけば言い訳ばかりしてしまうらしく、郁は意を決したように深呼吸をしすると、 「それっ、あたしに締めさせて欲しいんです!」 その言葉で郁が何をしたいのか堂上も分かったが──ちょっと待て、お前、その光景は傍から見たら新婚の朝の一場面──などと堂上が冷静に突っ込めるはずもなく、 「…………ダメですか?」 更に止めとばかりに上目遣いで訊かれてしまえば断れるはずもなかった。 これは別に変な意味合いはないんだ、ただこいつがしたいが為にしているだけであって、決してさっき考えていたような光景を望んでいたつもりはなくて──と一人勝手に言い訳をしている時点で冷静でないことは堂上も理解している。 だが、真向かいに座り真剣な眼差しでこちらを見ている郁を前に冷静でいられるはずもない。 俯き加減で自分を見つめる郁の姿などというものは滅多に見られるものではなく、酒が入っていない状態で良かったと堂上は心の底から思った。 少しでも入っていたら、うっかり抱きしめてしまったに違いない。 いやいやいや何を考えてんだ俺は──堂上は慌ててそんな考えを捨て去 るように頭を振り、 「おい、本当に大丈夫なのか?」 じっとしていると、ろくでもないことばかり思いつきそうで、堂上はそう声をかけてみたのだが、 「大丈夫です!この日の為に柴崎に練習相手になってもらったんですから、教官は黙って見てて下さい」 口調は強気そのものだが、郁の手つきはかなり怪しい。 しかも練習相手が柴崎とは……これでは筒抜けもいいところだ。 これを仕事着に付ければ付けたで柴崎にからかわれ、付けなければ付けなければで郁に詰め寄られる自分の姿が安易に想像できてしまい、堂上は無意識に溜息を吐いてしまった。 次の瞬間、思いっきり、首を圧迫された。 反射的に郁の手元を抑えると、あまりの息苦しさから咳き込んでしまった。 「バッ──何やってんだ、お前っ!!」 「えっ? あ、あれっ、おかしいな」 手元で順番を確認し始める郁は、自分のやからしたことの大きさに全く気付いていないようだ。 「勢いよくネクタイを引っ張る奴が何処にいるんだ!俺を絞め殺すつもりかっ!!」 「で、でも、ちょっときつく締めた方が見た目が格好良くなるって」 「限度を考えろ! 限度を!!」 郁の火事場の馬鹿力っぷりがどれほどかは堂上も身を持って知っている。 このままでは本気で絞め殺されかねないような気がして、もういいと郁の手を制止すると郁は頬を膨らませ、 「ちょっと力が入っちゃっただけじゃないですか。今度は気をつけますから!」 あれのどこがちょっとなんだ、本気で生命の危機を感じたぞ、俺は。 誕生日の贈り物に貰ったネクタイで絞殺事件など──今時、三流のサスペンス小説でもありえない展開だ。 全く反省の色がない郁は取り上げられたネクタイを再び渡すように手を伸ばしてきた。 本質が善意なだけに性質が悪いとは今の郁のようなことを指すのかもしれない。 結局お互いに引かず、堂上が指示し郁はそれに従うことで折り合いをつけたのだが──その光景が傍から見れば実に微笑ましいものになっていたなど、当の本人達が気付くはずもなかった。 居酒屋絞殺未遂事件・完
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1スレ目 849-850 水槽の中にいるみたい。ふと目覚めて郁が最初に思ったのはそんなことだった。 あれ?ここどこ? ぱっと身体を起こす。隣に眠っているのは、堂上教官。 その瞬間、昨夜のことを思い出した。そうだ、初めてお泊りしたんだった。 同時にあんなことやこんなことをしたのも思い出し、一人で顔を赤くする。 水槽の中みたいだと思ったのは、カーテン越しの光のせいだった。朝焼けの色がカーテンを通過して、薄紫っぽい色になっている。 やっと本当に目が覚めた郁は、眠る堂上の顔をまじまじとみつめる。 普段と違う、無防備な顔。この人があたしの大好きな人なんだ。改めてそう思うと、やっぱり頬に血が上ってくる。 意外と睫毛が長い。指先で頬に触れると、すこしザラザラする。ヒゲのせいだ。 と、堂上が「ん…」という声を出し、寝返りを打った。郁の心臓が爆発しそうになる。いや、別に悪いことなんかしてないんだけど。 浴衣がはだけているせいで、昨日自分がつけた歯型が見えた。 うわー。痛いよ、これ。いったい、どれだけの時間噛んでたんだろ。 歯型に、そっと唇を当ててみる。 ごめんなさい。痛かったですよね。舐めたらすこしは治りが早い?でも起きちゃうかな。 また、堂上の身体がぴくりと動き、郁は身を縮める。だから、悪いことなんかしてないってのに! 上掛けの上に出ていた腕を中に押し込むつもりで持ち上げると、お、重い。こんなに腕って重かった?ていうか、あたし、教官の身体肩にかついだことあったよね?あれって、火事場の馬鹿力だった? 無理に肘を曲げるとやっぱり目を覚ますだろうな。あきらめて、腕をそっと下ろす。その代わりみたいに、腕と手を観察する。 腕、硬いなあ。筋肉の質がやっぱり女のあたしとは違う。 二の腕から、手首まで、そっと指先で辿ってみる。どんなに訓練しても力で互角になんかなれない。部下としては悲しむべきことかな。でも、あたしが絶対に敵わないことが嬉しくもある。 軽く曲げられた指を伸ばして、自分の手を重ねてみる。繋いだことは何度もあったのに、こうやって大きさを比べてみたことってなかったな。 背はあたしのほうが高いのに、手は教官のほうがずっと大きい。大きくて、指も太くて、長い。 いつも頭に置いてくれる手。それから、昨夜は…。だめだって!なに考えてるんだ、あたし! いちいちそんなこと想像してたら、これからまともに教官のこと見られないじゃん! はあ、とちいさくため息をつく。寝よう。教官が起きるまでこうやって眺めてるわけにもいかないし。 これでおしまい、のつもりで眠る教官の唇に、自分の唇をそっと重ねた。そして離そうとした、そのとき。 がしっと頭が押さえられ、目と目が合った。 うっそー!!起きてたぁああああ!!! 合わせたままの唇から、舌が入り込んできた。逃げられない。そのまま長く深く激しいキスを続けられる。抵抗なんてできない。 やっと唇が離されたときには、もう息が上がっている。 「い、いつから…気づいて、たん、ですか…」 「寝返り打ったときから」 「それって、ずいぶん前からじゃないですかー!!!」 真っ赤になって抗議する郁をくるんと回して背中をベッドに押し付けながら、堂上は言った。 「観察するのは楽しかったか?…じゃあ、今度は俺の番だ」 「ええええええ!?だだだだめですよっ!!!!」 「だめじゃないだろ。このままじゃ不公平だろうが」 言いながら、堂上の手は郁の浴衣の紐を解いた。そして浴衣の前を開きながら、耳元で囁く。 「今度は噛むなよ」 「か、観察するだけじゃな!…」 郁のセリフは途中で堂上に吸い取られた。 結局チェックアウトは延長してもらうことになったとか。
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1スレ目 699-700 ベッドの上で向かい合っていたのが、キスに夢中になっている間にいつの間にか押し倒されていた。 浴衣などあってないようなもの。初体験時にいきなり上半身を剥かれた衝撃に比べれば、ゆっくり乱されていく今の状況などなんてことはないと思ってしまう。 エスカレートする舌の動きに翻弄されながら、身体のあちこちを撫でられる心地良さに心すら任せた。 堂上の大きな手が太股に伸びたところで、唇を離される。 「……そういえば、あのとき痴漢にはどこを触られたんだ?」 「ふぁ……?」 何の話かすぐに思い出せなかったのは舌の感触に浸っていたせいもあるだろうが、それ以上に郁にとって痴漢事件は過去の出来事であり、今更悔やむほど重要なことではなかったから。 なのに堂上は、なぜ今掘り起こすようなことをいうのか。 「なんで、今、そんなこと……」 「俺が触る前に触られたんだ。改めてお清めさせろ」 お清めって、そんな。 確かに変態の手など汚らしく耐えられるものではないが、あれからどれほどの時間が経っていると思っているのか。それでなくともあの日は風呂で念入りに洗ったというのに、この期に及んでさらになにを清めると。 そんなことを言い返す前に、堂上は郁の美しい片足を軽々と肩に担ぎ、日に当たらず白く輝く内太股へと唇を当てた。 「きょ、教官、そんな、今更」 「今更でもいいだろう、気分の問題だ」 「でも、パンスト穿いてましたし!」 「あんな薄い生地で何が防げる」 何を言っても止める気はない堂上の舌が柔らかな肌を滑った。郁 の若い肌は唾液を弾きながらも、濡れたそれに敏感に反応する。 「ぁんっ!やっ……」 「足も敏感だな。そんなに感じるのか」 当初は本当に清めるつもりだったのが、郁の素直な身体に堂上のなにかが刺激される。 それは子供染みた悪戯心に似ていたのかもしれない。ゆえに堂上は、その感情に従い足への愛撫を本格的にする。 太股から膝裏、ふくらはぎを焦れるような速さで辿り、震える指先へと到着するころには郁の呼吸はすっかり上がっていた。 「やぁ……きょうかん、そこは……」 僅かな抵抗など意味を成さない。それは郁もわかっているはずなのに、残った理性は抗わずにはいられない。 指の一本一本を丁寧に舐められ、間すら余すところなく愛される。その行為自体から堂上の想いの深さが伝わるようで、嬉しくて堪らない。 それに加え自慢の部位から快楽を与えられることに激しい羞恥を感じた。速く走れればそれでいいはずの部分なのに、彼に触れられただけでこんなにも気持ちいい。 「そんなとこ、舐めないでっ……」 「恥ずかしいからか?それとも気持ちいいからか?」 どちらも言い当てられ、頬に熱が上った。見つめてくる顔を見ていられなくて、きつく瞼を閉じ、両手で顔を隠す。 堂上は舐め尽くした足を下ろし、再び太股を撫で上げる。もう彼が触れていないところなど残っていなかった。 耳元に寄せられた唇が、低く言葉を囁く。 「俺だけのものだ。もう誰にも触らせるな。お前は、俺の手だけ覚えていればいい」 自分が好きな人のものになる。 その幸せを郁に教えたのは、堂上ただ一人だった。
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「……教官……堂上教官……っ、」 ああ、もうすぐ目が覚めると自覚しつつある頃、聞き覚えのある泣き声が聞こえきた。 図体はデカくて、ガサツで短絡的で乱暴者くせに、お前はどうしてそう泣き虫なんだ。 そんな風に泣かれたら、俺が守ってやらなきゃならんと思っちまうだろう が。 ゆっくりと目を開けると、やはりそこには泣きじゃくる郁がいた。 酷い泣き顔を気付かないぐらい動揺しているということなのだろう、そっと頭を撫でてやると郁は驚いたように顔を上げた。 「堂上教官っ!?目が覚めたんですね!!…………よかったぁ」 ほろほろとまた泣き出した郁を抱きしめようと堂上は身体を起こそうとした。 微かにだが全身に打撲のような痛みを感じ、 「笠原。一体、何が起こったんだ?」 思い出そうとしても、何が起こったのか全く思い出せない。 すると郁はばつが悪そうな顔をし、 「ええと、あの……何度呼んでも教官、聞いてくれないから、あたし追いかけようとして……それで、ちょっと弾みがつきすぎたみたいで……」 いつもの紋切り口調からは想像もできない歯切れの悪さで、堂上は訝しげに郁を見つめた。 すると郁は一度言葉を詰まらせた後、 「階段を下りようとした時に踏み外して、そのまま教官に……」 そこまで説明されて、堂上は呆れたように溜息をついた。 ようするに、飛び込んできた郁の重みをかわすことも受け止める余裕もないままに堂上は郁と階段を転げ落ち、案の定、下敷きになったというこ とか。 ふと見渡せば、ここは救護室であるから郁と共に運び込まれたのだろう。 なんたる失態。 皆が笑う顔が目に浮かび、無意識に堂上の表情は険しくなった。 流石の郁も自分のしてしまったことの重大さに気づいているのだろう、先ほどから一言も喋ろうとしなかった。 「お前は怪我をしてないんだな?」 「えっ、はい、無傷です」 「だったら気にしなくていい。元々の原因は俺にある」 己の運の無さを示されたようで面白くないが、郁が無事ならばそれで良かった。 だが郁は違っていたらしく、 「教官のせいじゃありません!あの時だって、あたしが勝手に勘違いして……!」 身を乗り出してきた郁に、思わず堂上は身を引いてしまった。 しかし郁の表情は真剣で、このまま有耶無耶には出来そうにない。 「い、嫌とかじゃなかったんですっ!本当にあたし……!!」 そんな郁の態度に堂上は負けた。 どんなに逃げたところで、この一本気な娘は無かったことになどしてくれるような性格の持ち主ではなかった。 白黒はっきりさせたがるということは自分が傷付く可能性だってあるというのに、それでも郁はそれを望む。 それぐらい長い付き合いで分かっていたつもりなのに、まず逃げてしまう自分に堂上は自嘲するしかない。 「分かった。お前の言葉を信じるから、少し落ち着け」 優しく肩を叩いてやると、郁は安心したように小さく息を吐いた。 そのまま肩に手を置き、郁の頭を胸元に当たるように抱きしめる。 「でも俺も性急すぎた。怖かっただろう?悪かった」 それもまた間違ってはいないはずだ。 そう思う堂上に、郁は思わず顔を上げ、 「ち、違うんです!あの日は勝負下着を付けてこなかったから……!!」 「…………勝負下着?」 郁には不釣合いな言葉に、堂上は思わず反芻してしまった。 郁の表情はみるみる変化し、すぐに口を滑らせたことは分かってしまった。 堂上はそれでも意味を図りかね、無言のまま郁の返事を待っていると、 「だ、だから、そーゆーことをする時は、そーゆー下着じゃないと駄目だって柴崎に言われてて……それで、あの晩、あたし、教官がそーゆーことをしたいのかなと早とちりしちゃって……」 ずるずると芋ずる式に白状する郁を前に、堂上は冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 まさか、そんな風に郁が考えていたとは。 正直、あの時の堂上には、その先など考えもしていなかった。 そう言われてしまうと本当に切羽詰っていたのは自分の方だったのではないかと思えてくる。 顔が真っ赤になっていくのを自覚してしまい、堂上は見られたくないとばかりに返事もせずに、そっぽを向いてしまった。 「……教官?」 「分かった。だから、もういい」 その話には触れないでくれ。 それ以上、触れられたら、そんなことで悩んでいた郁を想像して本気で可愛いと思ってしまう。 それでなくとも、こんな風に傍にいるのは久しぶりで、もっと触れたいという気持ちが騒ぎ出しているというのに。 それを気付かれたくないとばかりに強引に郁を抱きしめると、まだ言い足りなそうではあったが、結局は抱きしめられることを選んだようだ。 良かった。 このまま有耶無耶にしてしまおう。 ──そんなことを考えていたバチなのか、堂上はぐいとシャツと掴まれる感覚に気付いた。 反射的に見下ろしてしまうと、腕の中で郁が不満そうにこちらを見ていた。 いきなり視線が合うとは思ってもいなかった堂上は動揺を隠せなかった。 「だったらここでやり直しませんか?その先だって教官がその気なら……あたし、する覚悟はありますから」 反復するように郁の言葉を堂上は心の中で呟いた。 やり直す?何をだ。何を。何を覚悟してるってんだ──、 「バ、バカなことを軽々しく言うなっ!ここを何処だと思っとるんだっ!!」 郁の言いたいことを理解は出来たものの、到底受け入れられるような話ではない。 動揺する堂上を尻目に何故か郁は冷静で、 「でも定時はとっくに過ぎちゃってるし、寮の門限にも間に合わないし、今夜はここに泊まるつもりでいました」 時計を見ればもうすぐ日付が変わろうとしていた。 寮はどうしたのだと訊くと小牧が上手く取り成してくれたと教えてくれた。 気心の知れた友人が楽しそうに笑っている姿を思い出し、堂上は面白くなさそうに顔を顰めたが、それでも有能な小牧のことだ、そちらの心配は無用だろう。 それに郁の様子を見る限り何を言われても堂上の目が覚めるまで付き添うつもりでいたに違いない。 どうせ只の脳震盪だったろうに──自分も心配性だが、郁も似たようなものではないか。 堂上は呆れたように溜息をつくと、 「…………やっぱり堂上教官はあたしとはしたくないんですか?」 その溜息を郁はそう捉えたようだ。 見るからにしょんぼりと様子に、思っていることが手に取るように分かってしまった。 どうせまた胸が小さいとか腹筋が割れているとか女らしくないとか──そんなことを気にしているのだろう。 堂上から見れば、普段の言動があまりに漢らしく相殺以上に割を食っているだけで郁は十分に女の子だった。 髪からはシャンプーのほのかな香りが鼻をくすぐるし、日に焼けた肌は健康的で触れると驚くほど柔らかい。 そして手を握られるだけで緊張しているのが分かってしまうぐらい初々しい反応は女の子以外の何者でもないだろうに。 「そうじゃない。ただ、こんな風に流されて関係を結びたくないだけだ」 「別に流されてはいないと思うんですけど……ちゃんと覚悟はしてきましたし……」 どうやら郁にとっての覚悟とは勝負下着を付けてきたということらしく、胸元に手を当てる郁の姿は妙に微笑ましい。 思わず緩みかかった堂上の自制心を郁は簡単に真っ二つにした。 「それに……あたし、今夜は教官から離れたくないみたいなんです」 きっと頭の打ち所が悪かったのだと堂上は思った。 そうでなければ、こんな風に簡単に流されてしまうなんて、あるはずがない。 なんて頭の悪い言い訳だと自覚しつつも、そうでもしなければ自我を保つ自信すらなくなってしまいそうだった。 膝の上に跨ぐように座らせ、やんわりと唇を奪うと郁は苦しそうに息を漏らした。 その僅かな吐息すらも勿体ないとばかりに堂上は更に深く口付けを求める。 狭い口内を舌で突付き、歯列をなぞる。 ぶるりと震えた郁の身体をしっかりと抱きかかえ下唇を甘噛みし、もう一度口付けを交わすと、今度は舌を吸い上げた。 その一つ一つに初々しく反応する様は堂上の情欲を煽る。 首筋をなぞるように舌を這わせつつ、シャツのボタンを外すと、反射的になのか郁の手が胸元を隠した。 「あ、あの……教官、笑わないって約束、忘れないで下さいね」 そこまで恥かしがることではないだろうに。 ちらりと見えたキャミソールは白地に草花が施されていて確かに女性の下着という感じはするが、堂上には郁がそこまで気にする必要などないように見えた。 とはいえ、この場では郁を安心させることが先決で、堂上が力強く頷くと、郁もゆっくりと両手をシーツの上に置いた。 郁のシャツも追うようにシーツに落とされると、そこには月明かりに照られた下着姿の郁が見えた。 「よく似合ってる」 そう告げると、郁は安心したように安堵の息を漏らした。 実際、本当に困ったぐらいにその下着は郁に似合っていた。 しかも自分の為に着てきてくれたのだから、嬉しくないはずがない。 ──参った、こんな姿を見せ付けられて、最後まで冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 「…………堂上教官?」 手が止まってしまったことを心配しているのか、郁の表情は不安の色が見て取れて、堂上は違うと首を横に振った。 「お前があんまりもにも女の子だから、少し驚いただけだ」 「お、おんなのこって……!」 堂上の挑発に簡単にひっかかった郁は反射的に噛み付くように口を開いたものの、肝心の言葉が出ないようで、口をパクパクさせるのが精一杯のようだ。 この様子ならば緊張も幾らかは収まっただろう、詫びるように頬に唇を落とすと郁は一瞬驚いたものの、おずおずと手を伸ばし、堂上のシャツの裾を掴んだ。 仲直りということらしい──堂上は小さく笑いつつ、郁の短かな髪をかき分け、うなじに軽く歯を立てて吸い付いた。 郁は喉を振るわせるように息を漏らしたが拒むようなことはせず、耐えるように堂上の行為を受け入れてるようだった。 キャミソールの上から乳房というには物足りない大きさの胸に手の平を置いてみる。 撫でるように触れていると、郁はくすぐったそうに身を捩じらせた。 「脱がすぞ? いいんだな?」 今更何を確かめているのか。 今ならば戻れるなどと、そんな甘い考えを抱いてしまっているからなのだろうか。 そんな堂上の気持ちとは裏腹に、郁は小さく頷き、堂上の動きを手助けした。 キャミソールを脱がし、ブラジャーも外させる。 反射的に隠そうとする郁の手を掴み、堂上はそのささやかな胸の蕾に吸いついた。 舌でころころと転がしてやると、少しずつ硬さが帯びてくるのがはっきりと分かる。 掴んだ郁の手は自分の肩を置くように教え、空いた手の平で胸を鷲掴みにした。 「あっ、やっ……教官……っ」 初めて知る快楽に郁はふるふると頭を横に振っていたが、身体は驚くほど正直に反応している。 ほんのり上気した肌に、まるで自分の所有物だといわんばかりに赤い跡をつけてしまう自分は、これほど独占欲が強かっただろうか。 それとも相手が郁だからか──偶然出会い、その凛とした背中が未だ忘れられなかった特別な相手だからなのか。 想いの強さなら堂上とて負けはしない。 この手で守り、この手で育み、共に歩みたいと願う気持ちは他の誰よりも強いつもりだ。 「笠原、」 戸惑う郁に口付けてやりながら、堂上の手はするすると郁の下腹部に移動する。 括れた腰のラインを滑り落ち、もどかしそうにパンツスーツのパンツとショーツを腿のあたりまで下ろした。 確かめるようにゆっくりと足の付け根に手を入れると、そこはうっすらとだが湿っていた。 ぴたりと閉ざされた割れ目を中指で何度も擦ってやると、徐々にだが湿り気が増してきたような気がする。 初めてにしては感度が良すぎる郁は目をぎゅっと瞑り堪えているようだった。 安心させるようにと啄む口付けをしてやると、郁もまた自分からそれを求めてきた。 たどたどしい口付けを交わしつつ、堂上は愛液に濡れた指先で厚くなった花びらを開かせるように指を這わせてみた。 郁が驚き反射的に身体を退かせる前に畳み掛けるように堂上は無骨な指を割れ目に差し込んだ。 まずは入り口付近をくすぐるように触ると、想像していた通り異性を知らない郁の中はかなり狭く、指が一本でもきついぐらいだった。 それでも慣らすように時間をかけて内部を解すように指を動かす。 指を二本にしても大丈夫になった頃になると、空いていた手を使い、同時に恥毛に隠れる小さな突起を探し当て、同時に刺激し始めた。 「やっ、堂上教官──っ」 鈍い痛みと同時に、鋭い刺激が交じり、郁は慌てるように身体を強張らせた。 視線は戸惑いを強く滲ませているものだというのに、何処か甘みも注していて、それが酷く艶めいて見えた。 強引に内部を刺激するよりは最も敏感な部分を刺激した方が郁も素直に感じることができるはずだ。 愛液で濡らした指先でくすぐるように突起を撫で、郁が十分に感じてることを確認してから、そっと包皮を剥き、新芽を指の腹で摘んでやった。 効果は覿面だったようで、郁は髪を振り乱し、戦慄いた。 腰から手を回している堂上に支えてもらわなければ、立っていることもできない。 それでも堂上は止めようとはせず、更に手の動きを早めた。 少しずつであるが、郁の弱い場所が分かり始めてきた。 「あっ、あっ、あーーーっ!!」 抑えきれない甘い声を上げ、郁は身体を大きく震わせた。 がくがくとまるで人形のように揺れ、堂上の肩に顔を押し付け、荒々しいままに息を吐いている。 愛液でびしょ濡れになった指を引き抜き、堂上は郁の汗ばんだ背中を落ち着かせるように規則的に優しく叩いてやった。 初めてにしては上出来だろう。 そしてベットの上に乱雑に投げ出されていたシャツを郁に羽織らせてやった。 「堂上教官……?」 「今日はこれで終わりだ」 「終わりって……。でも、まだ、」 「このままする訳にはいかん」 それぐらいの良心は堂上にだって残っている。 無責任な行いで傷付くのは郁の方なのだから。 すると郁は思い出したようにパンツのポケットからハンカチを取り出し、 その中から何かを堂上に差し出した。 差し出された堂上はぎょっとした顔で郁を見つめたが、相手はあっけらかんとしていて、堂上はますます混乱した。 それはどう見てもコンドームだった。 一体どうしてそんなものを郁が持っているのか──普通は持っていないものではないのか。 それとも郁のぐらいの歳ならば持つのは常識なのだろうか。 いや、そんな馬鹿な話があるか。 迷いに迷った挙句、堂上は恐る恐る訊くと、 「柴崎が一つぐらいは持っておきなさいって、くれたんです」 してやったりと微笑む柴崎の表情を思い浮かべ、堂上は頭を抱えたくなった。 これでは筒抜けもいいところだ。 恐るべし柴崎。 可愛い顔をして、性格は小悪魔そのものだ。 興味津々といった様子の郁を前に、堂上の顔は一向に晴れそうになかった 。 このまま柴崎の思惑に乗るのも癪ではあるが、離れる気もない郁を前にここからどう拒めばいいのか。 誰か妙案があったら教えて欲しい。 大金はたいてでも買ってやるから。 「…………続き、したいのか?」 一瞬、郁は言葉に詰まったものの、小さく頷いた。 その仕種が可愛いと思ってしまう自分はかなり毒されているに違いない。 その毒がやっかいなぐらいに心地良いものだから始末が悪い。 そもそも、そんなことを改めて訊いている時点で既に遅いのだ。 態のいい言い訳を探している自分を認め、堂上は郁の背中に腕を回し、ベットに仰向けにさせた。 訳の分からない郁に考える余裕を与える前に、膝あたりまで下ろされていたパンツとショーツを脱がし、身体で足を開かせた。 ぐっと内腿を開かせると、流石に何をされるのか分かったのか郁は恥かしいとばかりに両手で顔を覆った。 その初々しい反応に気を良くするように、堂上は既に張り詰めた自身に避妊具を付け、解れつつある秘部に宛がった。 だが郁は触れられるだけでも怖いのか、身動き一つしようとしない。 まるで固まってしまったような郁に堂上はどうしたものかと、その頭を撫でてやった。 「すまん……痛くしないとは言えんのだ」 「わ、分かってます……あたしが丈夫なのは教官も知ってるじゃありませんか」 「ああ、そのくせ泣き虫なのもよく知ってる」 真っ赤になった耳たぶを甘噛みすると、郁はそれだけで感じてしまうのか、小さく声を漏らしてしまった。 思わず反応してしまった自分に更に赤面する郁の姿は世辞抜きに愛らしく、自身をいっそう滾らせる。 ゴム越しにぬるりとした愛液を擦り付けるように腰を動かしていると、それだけでも十分に気持ちが良かった。 痛みを伴う行為に及ぶよりも、このままで果ててしまった方が郁にとっては良いのではないかとそう思い始めた頃、 「……もう平気です……教官だから大丈夫ですから……」 郁は顔を隠していた手を堂上の背中まで伸ばすと、そこでぎゅっとシャツを握り締めた。 縋られるような、それでいて頼られているのだと分かる郁の態度に、心身がそれだけで満たされるような感覚を覚えた。 ああ、こんなにも自分はこいつに心奪われているのか──今更ながらそれを実感する。 そして同時にただ欲しいと思った。 湧き上がってくる純粋な欲求を僅かな理性で押さえつけ、堂上は自身をゆっくりと秘口に捻じ込んだ。 「やっ、あ、あぁっ──!」 頭では分かっていたのだろうが、実際はそれ以上のものだったのだろう。 郁は思わず悲鳴に似た声を上げ、それを必死に堪えるように唇を噛み締めていた。 郁の内部は堂上を向い入れるどころが排除するように侵入者を締め付けてきて、動くのも間々ならない有様だった。 安心させるように頭を撫でてやったり耳たぶや頬にキスをしてみたが、郁 は分かってると言うように、うんうんと頷くので精一杯のようだ。 やはり早すぎたか──ちらりとそんなことも脳裏を掠めたが、今更やめられるはずもない。 堂上はすまんと一言だけ詫びると、一気に郁を貫いた。 「やっ、あっ、はぁっ……どうして、こんなに熱……っ」 うわ言のように呟く郁に堂上は塞ぐように深い口付けをする。 唾液と唾液が交じり合うほど激しいキスをすると、郁はそれに応えたいの か、堂上の行為を真似をするかのように舌を絡ませてくる。 息苦しさから唇を離すと同時に郁の甘い吐息も漏れた。 惚れた相手が全身を赤く染め、潤んだ瞳で一心に見上げて冷静でいられる男などいるなどこの世にいるのだろうか。 ちりちりとした荒々しい熱情のようなものに背中を押されるように、堂上は動き始めた。 こちらを取り込んでしまうかのような圧迫感に自然と息が漏れる。 もう一度、繋がった感覚を確かめたくて、勢いよく腰を引き、もう一度捻じ込むように腰を押し付ける。 狭い内部を満たすように溢れる愛液が僅かな隙間から零れ落ちると、そこにはうっすらと朱色が交じっていた。 それは郁が誰も受け入れていなかった証であり、初めての相手に堂上を受け入れた証でもある。 無性に愛しさが募った。 奥深い場所で円を描くように襞に先端を押し当てると、郁は堂上の腕の中で身体を大きくしならせた。 その表情は痛みから歪んでいたが、繋がっている場所は馴染むようにねっとりと堂上を締め上げている。 その動きに思わず堂上は息を飲んだ。 うっかりすると、このまま簡単に果ててしまいそうだ。 郁のことを考えれば早く終わらせてやりたいのだが、少しでも繋がっていたのも堂上の本音で、何度も味わうように腰を打ちつけていると、徐々にその速さを抑えきれなくなってきた。 今にも吐き出したいという欲望そのままに、絡みつく襞に押し当てるように溜まっていた精を吐き出した。 開放感と共に言葉に出来ない満足感に満たされ、堂上は苗字ではなく郁の名を呼んだ。 「郁……」 もう一度、搾り出すような声でその名を呼ぶと、郁は嬉しそうに堂上を抱きしめた。 強い日の光に郁は目が覚めた。 そして見慣れぬ天上に、思わず跳ね起きる。 「……いたたた」 変な寝相でもしたせいなのか、腰が痛い。 どうしてと思った瞬間、昨晩のことを思い出した。 あ、あれっ、堂上教官はっ!? よく見れば郁が寝ていたベットは昨日堂上が寝てところの隣で、その堂上の姿は見当たらない。 シャツは着ており、毛布もかけられていた。 きっとこれは堂上がしてくれたのだろう。 ご丁寧に下着の類までベットの隅に整理されているのを見つけ、確かに柴崎の言うとおり肌色のスポーツブラとショーツでは興醒めしていたかもしれないと思った。 「って、そんなことよりも教官は──」 郁がベットから降りようとしたのと同時に救護室のドアが開いた。 「起きたのか?」 相手は堂上で、郁は状況が理解できずにきょとんと見上げてしまった。 すると堂上は困ったように視線を逸らし、 「……身体は平気か?立てるか?」 「はい、大丈夫です。立てます。……ちょっと足の間に何か挟まってるみたいで気持ち悪いんですけど」 郁としては正直に答えただけなのだが、堂上はそっぽを向くと口を手の平で覆ってしまった。 よくよく見ると、顔が赤いような……。 「堂上教官?」 「うるさいっ!いつまでそんな格好でいるつもりなんだ、早く服を着ろっ!!」 「えっ? ──や、やだっ!教官のエッチ!!」 「誰のせいだ、誰の!」 売り言葉に買い言葉で郁も無意識に噛み付いてしまったが、それどころではない。 今の自分は裸にシャツ一枚という姿だったのを堂上に指摘されるまで全く気付かなかった。 気まずそうに堂上が後ろを向いてくれたので、郁は急いで下着を付け、シワになってしまった制服に袖を通した。 着替えたのはいいのだが、今度は話すタイミングが見つからない。 とりあえず当たり障りのないところからと、 「そういえば教官、何処に行ってたんですか?」 「洗濯だ」 何を?とご丁寧に訊くと、堂上の表情はみるみるうちに強張った。 うわっ、これは落雷の一歩手前──反射的に目を瞑ってしまった郁だが、どんなに待っても雷は落ちてはこなかった。 逆に深々と溜息をつかれ、 「流石に汚れたシーツをそのままにはできんだろうが」 一瞬意味が分からなかったが、郁もようやく気付くと、しどろもどろになりつつも頷いた。 「す、すみせんっ。……血って落ち難くくありませんでしたか……?」 「別の布を下に敷いてオキシドールで濡らした布で上から叩けば、大抵のもんは落ちる」 「へぇ……そうなんだぁ……」 今度やってみようかなと純粋に感心していると、堂上は眉を顰め、 「あのな、お前……」 しかし続けようとした言葉を飲み込んでしまった。 珍しいとそんな堂上を郁は楽しげに見上げた。 その視線に気付いたのか、 「何がそんなに嬉しいんだ、お前は」 「だって嬉しいに決まってるじゃありませんか。あたしもこれで一人前の女なのかなーって、あ痛っ!もう、いきなり殴らないで下さいって、いつも言ってるじゃありませんかっ!!」 「何が一人前だ。柴崎に唆されただけだろうが」 「いいじゃないですか、昔から「終わり良ければすべて良し」って言うし」 「全然よくないわっ!」 結局、また拳骨を食らった郁だったが、終始堂上が不機嫌だった理由はすぐに分かった。 出勤時間なると、小牧には 「昨日は大変だったねえ」 などと開口一番に言われ、玄田には「仲直りしたのか」とからかわれ、柴崎にはすぐに感づかれた。 手塚だけは周囲のからかいの声にも全く理解できないのか首を傾げているのが唯一の救いか。 でも、これは誰が見ても針のむしろだわ……。 悪いことしたなぁと今更ながら思い至り、今夜にでも柴崎にまた相談してみようかなと本気で考え始めていた。 それが更に堂上の不機嫌さを増すことになるなど、郁が気付くはずもなかった。
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1スレ目:60-75 前日談 小牧が堂上の部屋で飲んでいたときのことだった。 「でね、笠原さんとどうなってるの?」 「どうって、なんだ」 「笠原さんに対して欲情する?」 「はぁぁぁぁぁ」 「いつまで子供扱いしてるのかってことだよ、堂上」 「つい最近まで王子様とか言っていた子供に手なんて出せるか」 「うーん、確かに笠原さんは手を出しにくいタイプではあるよね。なんていうか純粋培養乙女チック?」 「それにお前だってそうだろ」 「当たり前だろ。高校生に手出しはできません。でもね、堂上、笠原さんは一応大人だよ。 きちんと大人の女性として扱ってあげないと失礼だと思うけど」 「あれをどう扱えというんだ」 「あ、メールだ。これで失礼するよ。ま、よく考えてみたら。おやすみ」 「堂上教官、温泉旅行いきませんか?」 笠原にそう提案されたのは小牧と飲んだ日から数日後のことだった。 「あの、残念賞の商品がほしかったのに大当たりで温泉旅行があたって、柴崎を誘ったんですけど都合があわなくて、 その、ええと、教官、温泉嫌いですか?」 たどたどしく目を合わせないまま説明しているさまからは、かなり無理をして誘っていることが伺えた。 同じ班であるメリットのひとつは、休日をあわせやすいことだ。 「嫌いじゃない、どちらかというと好きだな」 かくして温泉旅行に行くことになった。 訪れた温泉はこじんまりとした和風旅館だった。 どことなくきまずいギクシャクした雰囲気のまますごしていたが、 食事が部屋に運ばれてくると笠原は、おいしそう、といって機嫌がよくなった。 ―色気より、食い気か… 流れる空気がよくなったことには変わりはないので、堂上は黙っておいた。 食事の後、露天風呂付大浴場にそれぞれ向い、堂上が先に部屋に戻ってくると、 部屋には布団が2枚並べて敷かれていた。軽く動揺した。 とりあえず窓際の簡易な応接セットにすわり、ビールを飲むことにした。 同じころ旅館の廊下で笠原郁は友人に携帯電話で泣きついていた。 「柴崎ー、どうしたらいいのー」 「どうしたらって、食べられるつもりでいったんだから、おとなしく食べられてきなさい」 そういって電話は速攻切られてしまった。 ―どうしよう、とりあえず部屋に戻らなきゃだめだよね 遅れて戻ってきた笠原は、並んだ布団を見たとたんカチンと音がしそうなくらい固まってしまった。 ―どうしたものかな かけるべき言葉がみつからない。とりあえず、思ったことをそのまま口にだした。 「浴衣着られたんだな」 「浴衣くらい自分で着られます。母に教わりましたから」 緊張が少し解けたのか、荷物を片付けて向かい側に座った。 「教官、ビールっておいしいですか?」 「ああ、笠原は苦手だったな」 「うーん、だって苦いじゃないですか。あ今、子供っぽいって笑いましたね」 「いや、そうじゃない。そうやってむきになるところは子供っぽいと思うがな」 「いつもそうやって子供扱いする」 そういって、むうっと頬をふくらませ横をむいた笠原に聞いてみる。 「子供扱いしなくていいのか」 「…え」 「子供扱いしなくていいんだな、郁」 「…はい」 ―名前を呼ぶなんて、反則… 教官に腕をとられ腰に腕を回され、ソファから立たされた。 と同時に口付けられた。いきなり舌を差し込まれ、絡めとられる。 力が抜けてしまう、そのタイミングで足払いをされて布団のうえに落とされる。 教官の肩越しに天井が見えた。 「明かり消してくださいっ。ものすごく恥ずかしいです。」 教官は、困ったような仕方ないなという表情をして、明かりを消してくれた。 明かりを消した室内を見ると、笠原は布団の上で上体を起こし、浴衣の前を両手でかき合わせていた。 そのくせ、浴衣のすそが乱れているのには無頓着で、すらりと伸びた両足を見せている。 固く閉じられた太腿が、窓から入る青白い光に照らされて艶かしい。 堂上は布団の横に移り、笠原の額からまぶた、頬、鼻、耳、首筋、順に唇を落としていく。 緊張がとけないのか目は堅く閉じられ、両腕は胸で合わされたままだ。 教官に体の上から順にキスをされていった。 鎖骨にキスをされた後、気配が消えた。 「教官?」 目を開けると堂上は足元にいて、郁の足を軽く持ち上げて、郁をみていた。 ああ、痴漢事件のときもこんなことがあったなぁ。 あの時も真っ先に教官が助けに来てくれて、心配してくれたんだよね。 まぁ、叱られたけど・・・。 などと、一瞬思い出にひたっていると足の甲から順に上へとキスをされていた。 堂上の頭は既に膝上まで来ている。 「きょっ、きょーかん、足フェチだったんですかっ?」 思いもよらない突っ込みに堂上は軽くめまいがした。 「あほか、そんなに固くガードされていたら何もできないだろうが」 「へ?」 「上、というか胸元だっ」 本人は気づいていなかったようで、自分の胸元を見下ろした。 「え、あ、す、すいません」 笠原はあわてて両手を上に上げた。そんな仕草がかわいらしく思える自分に苦笑いがこぼれる。 「脱がせていいか」 と聞くと、真っ赤になりながらこくりとうなずいた。 帯を解き、肩からするりと浴衣を落とす。 おそらく白であろう下着をはずし、覆いかぶさりながらゆっくりと体を横たえた。 笠原の乳房は房というにはいささか足りない気もするが、 日ごろの訓練の賜物か仰向けになっても形は崩れないままだった。 そっと身体に手をそわせると、無駄な脂肪のないその身体は腰でくびれた曲線を描き、 筋肉が薄いのだろうか、そのくせやわらかい。 「そんなあんまり見ないでください。恥ずかしいです。っていうか、何であたしだけ脱がされているんですか?」 「はぁ?なにをいっとるんだ」 「だって、ずるいじゃないですか。教官も脱いでください」 ―これが大人の女の言う台詞か? 堂上は手で目を覆い、一瞬上を向いたあと無言で浴衣を脱いだ。 その様子を郁は黙ってみていた。 ―男の人の体ってこんなにキレイなんだ… 必要な筋肉が、必要なところに必要な分だけついている。 戦うための、守るための体なんだなぁ、と思わず見惚れてしまった。 「これでいいか」 堂上はそういうと、郁を押し倒し、唇を深く重ねた。 これまで教えられた「大人のキス」よりもずっと激しくて、何かを吸い取られてしまうようなキスだった。 教わったように舌を絡めたりしてみるが応えきれていない気がする。 ―どうしたらいいのよー ―なんか頭がぼーっとするぅ… 堂上の唇は郁の唇から場所を移し、耳や首筋、鎖骨を攻め、 片手は胸を包みこんでゆっくりと刺激を与えた。 そして緊張が解けてきたことを確認すると、舌で乳首をなめた。 「ぁ、んんっ」 自分で聞いたこともないような甘い声が出てしまい、郁は思わず口を手でふさいでしまう。 「がまんしなくていいぞ」 「あんな声を教官に聞かれるのは嫌です」 ―だって、はしたなくて恥ずかしいじゃないっ 「誰になら聞かせるつもりだ?」 「え、どういう意味ですか」 郁は両手を堂上に押さえつけられた。 ―え、え、なんか怒ってる?なんで? そのまま耳元でゆっくりとささやかれた。 「そんな声を他の誰にも聞かせるな」 心臓をわしづかみされて、口から引っ張り出されそうなくらい胸がどきどきしてうまく声がでない。 「それって命令ですか?」 自分を押さえつけて見下ろす教官は至極まじめな顔をして答えた。 「いや、お願い、だ」 耳まで赤くなって自分を見上げる部下は、目をうるませて小さく「はい」と返事をしてくれた。 それがたまらなく愛しい。 ―完敗だ やっと自覚ができただけで、もっと前からこの素直でめんどくさくてかわいい部下に負けていたのかもしれない。 拘束していた手を離し、頭をなでるとうれしそうに見つめ返してくれる。 「いい子だ」 もう一度、そのささやかな胸に口づけた。 頂を口内に含み、ゆっくりと転がすようになめる。 張りのある胸を両手で愛撫する。 その一つ一つの行為に呼吸を乱し、とろけた声を上げる笠原に煽られる。 胸への刺激を続けたまま、片手を足へと伸ばす。 なぞるように撫で上げ、まだ脱がせていない下着へと指を這わせると布越しにもぬるりとした感触がわかった。 探るように指を往復させると、笠原の体が震えるのがわかった。 下着の横から指を侵入させ、直接触れようとしたときだった。 いきなり上体を起こし堂上の手を抑えた。 「やっ、そこはだめ、いや」 「笠原」 「だってだって、はずかしいですっ」 「…郁」 「はい」 「本当にいやなら、やめよう」 「ちがいますっ。そうじゃなくて…」 おそらく初めての行為に不安なのだろう。それなのに、泣き出しそうな顔でまっすぐに目を合わせてくる。 その雄弁な瞳に自制心が吹き飛びそうになる。 「大丈夫だ」 そう言って頷くと、するりと首に腕がまわされすがりつくように抱きつかれた。 「はい、教官」 笠原は小さくそう答えた。 ―あああああ、あほかっ、俺が苦労していろいろ抑えているもんを吹っ飛ばすようなことをするなっ 自分自身を抑制するためにも言った言葉が逆効果になるとは思ってもみなかった。 「二度目はないからな」 その堂上の言葉の意味するところを理解したのか、笠原はこくりとうなずいた。 とりあえずそのままの体勢で事をすすめることにした。 「笠原、こっちの膝を立てられるか」 「はい」 そのまま腰を浮かさせて脱がせていなかった一枚を抜き取る。 秘裂に指を沿わせると濡れた感触があるので、そのまま上下させてみた。 「んんっ」 指の動きにあわせて、甘い声が吐息ともに耳元にかけられる。 首に巻きつく腕が次第にきつくなっていく。 「さっきよりも濡れているのがわかるか」 「…は、い」 「いやらしいな」 そう耳元でささやいてみると意外な反応が返ってきた。 「もぅ…なんっで…そんなこと…いうんですか」 荒い呼吸の合間に切れ切れにそう言うのでさえ精一杯で、憎まれ口をたたく余裕もなくなってきたらしい。 ―そろそろ大丈夫だろうか 笠原の体に指をゆっくりと沈めていった。 濡れてはいたがきつく締めつけられて、指は動かしにくかった。 「何が自分の体に入ってるかわかるか?」 「ゆび、かな」 ますます力が入らなくなっていく笠原の体を空いている手で支える。 「これから動かす。何も考えるな」 そういって、指をゆっくりと抜き差しし始めた。 最初は違和感こそあったのだろうが、次第に指は滑らかに動かせるようになった。 単調だった動きの途中に中を探るような動きを加えると、びくりと笠原の背筋がこわばった。 湿った水音は次第に大きくなり、控えめな嬌声が耳元で聞こえる。 「あ…やぁっ……」 「声、我慢するな」 「んんっ、でも…やっぱり…はっ」 「もっと聞かせろ、といっているんだ」 「…ぅ、教官のえっち…」 「…ご期待にそえるようにしよう。指、増やすぞ」 「えぇっ、って。やぁ…ぁ…んっ」 二本の指をいきなり深く差し込むと、体を震わせて首に巻かれた腕の力が抜け、 細身の肢体を預けてきた。 柔らかな体を横たえると、笠原の表情が見えてしまった。 目がとろりと潤み、不安そうに眉を軽く寄せて視点が定まっていない。 頬が上気し、少し開かれた唇は濡れている。劣情をそそられる。 堂上の視線に気づいたのか、笠原は顔を伏せてしまった。 「見ないでください。恥ずかしい…」 「わかった」 そういって堂上は笠原の体をうつぶせにさせ腰を持ち上げた。 そんなあられもない格好をさせられて、抗議の声があがった。 「な、な、なんて格好させるんですかーーー」 「顔を見られたくないんだろう。これなら見えないんだが」 「そうかもしれませんけどっ」 うなじから続く白い背中、小さく引き締まりくっと持ち上がった尻、すらりとした張りのある太腿。 後姿がひどく妖艶で扇情的だった。 「きれいだな」 「………うっ、初めてです。男の人にそんなこと言われたの」 ―くそっ、かわいい…と思うなんて… うなじに唇を落とし、体の中心に沿って下へ舌を這わせると、まだ濡れている秘所へと導かれた。 「…あ…あ…だめです。そんなことしちゃ…」 舌を差し込むと、生温い粘膜に包まれる。わざと音立てるように吸ってみる。 「いやぁぁ」 一際大きな声を上げて、背を弓なりにそらす。 「もう、やっ、だめで…す。堂上教官。な…んかへんです…」 体を仰向けに直してやり、顔を覆っている交差させた腕をほどいた。 「いいか」 「…はい」 ゆっくりと腰を沈めていく。 「つらかったら、我慢せずに言え」 「んっ…は…はぁっい」 痛いのだろう。下から肩に回された手はきりきりと爪を立ててしがみついてくる。 自身を全て収めたあと、笠原を気遣いしばらくは動かずに抱きしめていた。 そうしているうちに体の中に侵入してきた異物に少し慣れてきたのだろうか、話しかけてきた。 「教官?」 「なんだ」 「堂上教官はやっぱりあたしの王子様です」 「いきなり何を言うんだ貴様はっ!」 「あたしは堂上教官に助けられて、憧れて、追いかけて図書隊員になりました。 今、教官とこうしていることができて、すっごい幸せです」 ―ここでそうくるか…、もうだからこいつには…油断ができない 「……俺もだ」 「はいっ」 「笠原、すまん」 「え、なにがですか」 ―もう、堪らない、抑えきれない 「んーーーっ!やあぁぁ…あっ…あっ…ぁん…」 足首を掴み、大きく脚を開かせると、 堰を切ってあふれた情欲をその勢いのままに腰をぶつける。 何度も何度も。何度も。強く。 悲鳴のようにも聞こえる笠原の声は興奮を煽るだけだ。 笠原の何もかもを受けとめたい。 自分の全てを笠原に教えたい。知識も、思いも、身体も、欲望も、全て。 「かさはら」 「ん…あっ、名前…呼んで…くださいっ」 「郁…」 「んんっ、ぁ、教官、もう…だめぇ…いやぁあんっ…」 「笠原っ」 次の日の朝。 自分の腕の中で目を覚ました部下でもある恋人にひとつお願いをした。 「笠原、業務中以外は教官と呼ぶのをやめてくれないか。いたたまれなくなる」 「じゃあ、なんて呼びますか。堂上?」 「呼び捨てはやめろ。って、わかっていっただろう」 「はい、篤さん」 ―不意打ちなんて反則だろう 顔が火照るのを見られたくなくて、思いっきり抱きしめた。 ――後日談 「小牧教官、キラーパスありがとうございます」 「いえいえ、友人とかわいい部下のためでもありますし」 「ほんと、世話がやけますよねぇ」 「見ていておもしろいけどね」 「それは同意します」 「なにかあったのか、柴崎」 「いいのよ、手塚。あんたは知らないほうがきっと幸せだと思うわよ」 「あー、たしかにね。手塚が知っちゃった場合、対応に苦労しそうだね」 「どういうことですか?」 「そのうちわかるわよ。二人とも素直だからね」