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「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声でずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(中編)へ~~
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声で ずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に 呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、 あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、 この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。 まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。 失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。 幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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112 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 13 52 42 未練断ち切る人スレにちょっと書いてたんだけど こっちで吐き出してもいいかな? 116 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 15 19 04 113 114 ありがと いま仕事中なんだけど、少し書き溜めて今夜にも投下するよ。 何かもやもやを吐き出したい気持ちなんだ。 122 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 30 36 そろそろ投下しようと思う。 去年の1月に嫁の浮気が発覚 再構築を図ったけど、最終的に俺がヘタレで今年のGW前に離婚になりました。 元嫁は復縁希望。 毎日のようにメールと電話がかかってきます。 未練も情もありありだけど、 信用しきることができない相手と復縁はできないと感じています。 再構築が失敗した最大の原因が正にそれだったからです。 でも最近心が揺らぎそうになることもあります。 書いているうちに結構な長文になってしまいましたが吐き出させてください。 なお特定できない様に一部事実と変えていますが 基本的に俺の体験した俺にとっての現実です。 124 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 36 26 発覚時点で 俺36会社員 元嫁32会社員 交際3年 結婚4年目/子梨 間男34~5位?嫁同僚/既婚子蟻 半年前くらいから嫁のHが消極的になってきた(こちらからいって拒むことはなかったが) 倦怠期かなともおもったんでそっちは程ほどにして それ以外のお出かけをしたり、家での会話やスキンシップを心がけるようにしてた。 しかし1ヶ月くらい前から、こちらからのHも拒むようになってきて明らかに態度もおかしい 問い詰めるとあさっさり自供、半年前から交際を始めて3ヶ月前から肉体関係あり。 離婚してほしいとさ。 翌日、署名入りの離婚届を持ってきた。 数日後に相手と元嫁とその上司(X1女性)を呼び出して4者面談。 俺が仕事でつかってたマイクロカセットで録音はした。 元嫁は 俺と離婚→間男も離婚→X1ラブラブ夫婦誕生♪ってな考えだったらしい。 4人で話し始めたときにもそういった事を前提に話ていた。 でも間男は現在の家庭を固守希望で土下座して俺に詫びてきた。 軽率でした。遊びでした。何卒家族と会社にはご内密に下さいって。 126 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 41 02 俺も離婚したくはないけど もしもこっちが離婚になったら当然にあなたに慰謝料の請求をするし 社内不倫による家庭崩壊なんだから 会社の道義的責任について、金銭云々はどうでもいいけど きちんと企業としての謝罪を求める旨を話した。 上司の女性は俺の言うことは当然だろうと言っていた。 まあ会社が公式に謝罪するかどうかは難しいだろうけど 本人たちには何がしかの責任は取ってもらうことになると。 それに人の口に戸は立てられないから どっちにしても会社にはいずらくなるだろうとも。 そしたらもう大笑い。 間男必死になって元嫁に離婚撤回の説得を始めやがった。 元嫁は事の流れに呆然としてた。 間男の説得にもさんざんごねてたけど 自分が離婚しないことが間男の為になるならしょうがないって 離婚回避と夫婦関係の再構築に納得した・・・ように見えた。 128 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 45 22 んでもって元嫁と間男に今までの顛末と今後の接触の制限(仕事以外の一切の交際の禁止)等と 俺からの現時点での制裁は保留、今後再犯があった場合はしかるべき代理人を立てたのち 本件に対しての慰謝も含めて請求する事に異論は無いとの旨の念書を作成して元嫁と間男署名。 俺と上司の方が証人の副署をした。 法的にみたら結構怪しいものだとは思ったけどね。 上司の方はできるだけ早く、どちらかの部署を移動をさせる事と 自分の管理責任にもなるから不適切な接触の防止に協力すると約束してくれた。 帰宅後、元嫁の顔を見るとまるで鬼のようだった。 よくも間男さんを脅して、私の幸せを奪って、会社での立場も台無しにして この人でなし!的な言い方でさんざん罵倒された。 間男の有無は関係なくてもこんな人でなしと一緒にいられないから離婚してくれとも言われた。 俺は手を付いて謝った。謝ってお願いして再構築をしたいって言った。 お前以外にこれからの人生を一緒に歩みたい人はいないからって。 それから今考えてみると精神的には地獄のような3ヶ月あまりだった。 自宅では殆ど無視。たまに口を開いてもいやみか罵声か泣いて離婚してくれって。 足りなかったとは思うけど俺は自分でできる限りの事はしたと思う。 必死になって今何ができるか考えた。何をしちゃいけないのかを考えた。 129 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 20 45 54 ピロートーク真に受けちゃったのね 132 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 48 04 間男の悪口は一切言わないようにした。 出来る限り今までと同じような生活をおくれるように努力した。 元嫁は俺の分の食事の用意も洗濯もしてくれなくなったけど 俺が当番の日(金土日)はきちんと食事の用意もした。 外に食べに行くって言われりゃ、半日かけて用意したとしても 一緒についていった。くんなと言われてもね。 それ以外の細々としたことにも気配り続けた。 そうこうするうちに3ヶ月で8Kgやせたよw 133 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 49 59 3ヶ月を過ぎた頃から少しづつ会話が戻ってきた。 ちょっとした日常会話もこのあたりから。 時々いやみや無視はあったけど我慢した。 出来るだけ笑顔でいるように心がけた。 間男は5月に他支社に転勤になったと元嫁上司が教えてくれた。 本人の希望でもあったそうだ。 半年ほどでもとの生活に近いところまで戻った。 お互いにあのときの件には触れようとはしなかった。 向こうはわからないけど、こっちとしては寝た子を起こすような事はしたくなかった。 キスやハグもするようになってきた。 不思議と性欲はなかった。そんな余裕はなかったんだと思う。 夏過ぎにようやく夫婦生活復活。 年末前くらいまでは週3~4日のペースでいたした。 それまではせいぜい週1くらいだったのに 付き合い始めの頃でもここまではしなかったと思う。 136 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 53 00 いろいろ研究したよw 隠れて女性用のAVだとか観て、自分本位にならないセックスはどうしたら良いかとかね 当然間男を含めて他の男に取られたくないって気持ちが強くあった。 オスとして負けたくないって気持ちもあった。 多分むこうもそれには気がついていたと思う。 こんなにイイのは初めてだとかなんだとか何度も言ってたもの。 こっちに気をつかってくれてたんだろうな。 でもそれを聞くと誰と比べてんだとか きっと間男にもそんなふうに言ってたんだろうとか考えちゃって してる最中の興奮は高まったけど、今にして思うと鬱喚起ってやつだったのかもしれない。 年も明けて今年ぐらいからはそのハイペースも治まってきて 週1~2回くらいになってきた。 2月~3月と過ぎ春になった。 あれから1年、そろそろ子作りでも考えようかなんて思っていた4月の晩に破局はやってきた。 ほんの小さな事なんだと思う。 それまでの再構築の苦労を水の泡にするほどの事だったか 第三者的な目で見れば疑問だとも思う。 でも我慢の糸がそこでぷつりと切れてしまった。 138 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 20 54 08 自分で再構築を選んでおいて、8キロ痩せたとか自業自得だろ。 吹っ切るならちゃんと制裁加えてからにしろよな。 141 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 20 56 52 138 116は8キロ痩せた事を、別に他人のせいにしてないだろ。 143 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 58 01 138 そのとおりだと思う。ヘタレの自業自得だよな。 ダイエットできたのは幸いだったよ。 今も体重はそのままだから。 144 :116 [sage] :2007/07/07(土) 20 59 47 その晩、前夜遅くて疲れていた俺は11時前には就寝してしまった。 夜中の2時ごろだったと思う。 ふと目が覚めると元嫁がメールをしていた。 顔は見えなかったけど泣いてるような気配がしていた。 そのとき何故そんなことをしたのか自分自身未だにわからないが 俺はふっと起き上がると嫁の携帯を横から奪い取った。 俺のと機種は同じだから(色違い)操作方法は携帯に疎い俺でもわかる。 その日のメールは1時ころから20件ほどだった。 元嫁は当然奪い返そうとしてきたけど 交際開始以来初めて手をあげ、それまでした事のない怒号を返したら 身を硬くして震えて何も手出ししてこなくなった。 146 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 04 20 相手は予想通りといおうか直感どおりと言おうか間男だった。 メールの内容は近況についてのやり取りと お互いの配偶者についての不満やら感謝?やら。 色っぽいことは全然なかった。 でも元嫁から送った最後のメールに ”旦那の事を愛しているかどうかまだよくわからないけど、 あなたの事を好きな気持ちはいまだに心の中にあります” ってあった(正確な文面はうろ覚えスマソ)。 なんかもうどうでもよくなってしまったよ。 今でもこれを書きながらも次第に頭の中が混乱し始めている。 元嫁が違うの違うのって言ってたことは覚えているけど その後のその日の夜の事はあまりよく覚えていない。 口を開くのもおっくうになっていた。 あいまいに元妻の言葉に返事して 寝室から毛布を持ってきてリビングのソファで寝た。 翌朝起きると元妻がダイニングのイスに座っていた。 どうやら一睡もしてなかったようだけど良くわからない。 151 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 09 25 俺が起きると近寄ってきて何か言おうとしたので 先を制して俺が 「今まですまなかった。自分のわがままでここまで引っ張ってきたけど結局ダメでした。 あなたの希望どおり離婚する事にします」 と正座して頭を下げた。 嫁はしばらく黙っていた後 「そう、しかたないね・・・ いままで本当にごめんなさい」と 初めて謝罪の言葉を口にした。その後しばらく泣いて、ごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。 なんだか白々しく感じられて、俺も泣くかと思ったけど全く涙は出なかった。 1週間後に1年3ヶ月前に預かった離婚届に友人に証人の署名を頼み 区役所に出しに行き、5年間あまりの結婚生活は終了した。 154 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 15 35 財産分与は、お互いの個々の現預金はそのままで 俺の名義で夫婦共有の貯蓄していた口座は2等分。 若干あった俺名義の株式等の金融商品はそのまま俺が保有することで解決。 ・・・というか元嫁側からは一切の財産分与についての要求はなかった。 慰謝料については結局請求しなかった。 ただ離婚後10日ほどして、俺の口座に150万円が振り込まれ、 間男(もう元間男ですね)から謝罪の電話があった。 口座番号等は元嫁に確認したとの事だった。 一般財形を取り崩したそうだ。 慰謝料は不要なので返金すると申し出たけど お詫びの気持ちなので受け取ってほしいと懇願された。 もはや間男をどうこうする気持ちは全くなかったんだけど それで安心するのならと受け取りを了承。 住所を聞いて翌日念書を郵送した。 157 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 21 17 16 154 おいおい、それでいいのかよ… それで、気持ちに決着が付くならいいけど、そんなんじゃ無理だろ 158 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 18 47 お互いの両親には全部ぶちまけた・・・とは行かなかった。 相手のご両親には前もって元嫁が説明した後、俺1人でご対面。 事実のみを淡々と説明し念書のコピーを渡した上 自分がヘタレで元嫁の全てをで受け止めてあげられませんでしたとお詫びした。 再構築を懇願されたけど、努力した上で破局に至ったと説明し、最終的にはご理解いただいた。 帰り際には玄関で両手をついて詫びておられてたのが、とても悲しかったのを覚えてる。 それまでとても良くしていただいていたので、本当に申し訳なかった。 俺の両親には元嫁の浮気や念書の存在を知らせず お互いの気持ちが離れていったからとだけ話した。 さすがに面変わりした顔つきを見て、両親も感じるところがあったのか あまり詮索らしいことは言ってこなかった。 160 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 21 22 09 最後にかっこつけようなんて思ったんじゃないよな? ちょっと男前に纏めすぎだろ・・・ 161 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 21 22 10 本人が納得してるなら良いけど なんか、もやもやする話だな。 162 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 22 58 4月の末に俺がマンションを出て(もともと元嫁の借上げ社宅扱いだった) 同じ沿線の2つほど離れた駅の近くに引っ越した。 元嫁も単身者に認められる額に会社補助が減額になったので 8月早々に引っ越すそうだ。 離婚して1週間くらいして(転居して3日後くらい)元嫁から連絡があった。 謝罪がしたいとの事だった。 俺としては、夫婦としては既にピリオドを打ったんだから話すことは何もないと拒否したんだが 連日のメールと電話、それも今までにない様子に根負けして 翌週会って話を聞くことにした。 それから2ヶ月 頭の中が煮え煮えになっている。 164 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 21 25 38 なんかここまでの話では 信用しきることができない相手と復縁はできないと感じています。 再構築が失敗した最大の原因が正にそれだったからです。 ではないように思えるのだが。。。 もうちょっと様子を見てみよう的支援 165 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/07(土) 21 25 58 結局 116はイイヒトなんだよ。 不倫をはたらいた嫁を持ち上げすぎ。 だから 破綻した。 横暴になってもよかったんじゃないか?嫁にとっても。 178 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 36 09 164 そうですね。 正確に言えば信じ切れない自分自身が原因なんだと思います。 165 元嫁にも同じような事を言われました。 責めてくれないと自分の謝罪の場所がなくなってしまうとか何とか・・・ 当事者から言われると、何言ってやがんだこのやろうですが 第三者から言われるとそうなのかもしれないと思うのは不思議ですね。 必要以上にかっこつけようとした挙句、結局は耐え切れず自爆w ホントに俺かっこ悪すぎます。 196 :116 [sage] :2007/07/07(土) 21 57 55 169-172 スマンカッタ。 離婚直後で未練断ち切る人限定スレで書いてたんでこっちでも書いたつもりになっていた。 そこで元嫁とほとんど同じことを言ってる方がいましたんで コピペしておきます。無断転載スマソ 208 :離婚さんいらっしゃい :2007/07/02(月) 18 56 22 さびしいよ・・ 会いたいよ・・ お互い愛し合っていたのに なんで・・別れちゃったんだろう・・ 本当は・・本当は別れたく無かったよ・・ 戻れるものなら戻りたいよ・・ 戻りたくて戻りたくて・・ でも、戻れなくて。。 苦しくて・・ こんなに苦しいのなら・・ 死んだほうがマシかな・・ これ読んだとき元嫁も2chやってるのかと思ってぞっとした。 まあ実際にはこの文章+不倫の件の謝罪とその後の態度についての謝罪 メールしていたことの謝罪+謝罪+謝罪+謝罪のオンパレードでした。 確かに一時的に溜飲は下がったのですが くりかえし辛そうにしてる元嫁の謝罪をきいてると 良かった時代のことを思い出してしまうんですよ。 でも復縁はしませんよ。 来週、職場の後輩から合コンのお誘いもあるんで行ってみようかと思います。 とか書いてたらまた元嫁から着信アリ・・・ 携帯の電源切って、家電は留守番に変えておこうと思います。 。 211 :116 [sage] :2007/07/07(土) 22 14 00 ごめんスレの流れが速すぎて個別にレスを返せない。 でも励ましてくれてありがと。 こんな自分語り他人にはできないから、吐き出させてもらってかなりすっきりした。 叩いてくれてる人もありがと。 何糞って気持ちなれます。 周りをみれば同年代で独身男はうじゃうじゃいますし その中に戻っただけですもんね。 合コンに誘ってくれた後輩も2歳下の独身ですし。 199 201 がんがっていい女捕まえてきますw 200 番号とメアドはそろそろ変えようと思います。 いつまでもダラダラやってても仕方ないですもんね。 216 :116 [sage] :2007/07/07(土) 22 32 02 210 212 さすがにそれは・・・w 214 逃げることにします。 213 ありがとう。 これから駅前に飯食いに行ってそのまま飲みにいってきます。 =================================================== この間、制裁なくして再構築はない、116はヘタレとする住民から煽りがあり 116がトリップをつけて再登場、煽りに煽り返しで応える。 しかもその正体は・・・ =================================================== 242 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/08(日) 10 38 19 あらあら叩かれまくりですなw 確かにヘタレなんでしょうな俺。 更にトリップなんかつけてかまってちゃんぽくしてみました。 制裁ってことは考えなかったと言えば嘘になりますが 実際の選択肢の中にはありませんでしたしね。 夫婦関係の再構築を希望したのはこっちで 当初元嫁は慰謝料払っても離婚希望でしたから。 逆にこっちは、慰謝料なんかいらねーよってなってたというところはあります。 まあ好きで好きで惚れまくっていたというのも大きかったんですけど。 それと正直なところ見栄もありましたw 浮気されて慰謝料とって離婚するというのがデファクトスタンダードになっているのは理解してますし それをなさっている方々を否定するつもりは毛頭ありませんが ここまでかっこつけたんだから最後まで・・・という気分はありました。 実際には分与しなかった有価証券の元嫁の放棄分で通常の慰謝料相当額程度にはなってるんですけどね。 若干ですが元嫁の方が年収額多かったしorz 1年ちょっとの間の再構築を進めていく中では不貞行為そのものについては相当フラバりましたし、 なんで俺こんなに頑張ってんだろ?と自問自答する事も多々ありました。 でも不貞は元嫁の100%過失でしょうが、された側が離婚せずに再構築を選んだ場合 その失敗の過失割合は1:1とはいかずともそれ相応に選んだ側にもある様な気がします。 元間男については正直どうでもいいです。 元嫁とまたくっつくなら、それならそれでしかたないと思いますが 元嫁は"元"嫁で、もう他人ですからね。 それにしてもX1どころか結婚したこともないと思われる方々のご意見は面白いですね。 焼畑農業人生で生きていければどんなにか楽なことか・・・ 得失を考えながら、いい人っぽく生きていくのも人生戦略では重要なんですよ。 とりあえずスルー検定失格確定の俺に一言言わせてください。 1 度 く ら い 結 婚 で き て か ら 煽 っ て き や が れ ありがとうございましたw 243 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 10 40 13 最高! 244 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 10 43 48 結局何しにきたの? トリップつけたって事はこれからも出没するって事? 246 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/08(日) 11 01 43 244 いいやトリップ付きの数字コテハンて一回やってみたかったんだw また出没するかもしれんけどねw ココに書き込んで正直な気持ちは 211です。 書いて、励まされて、叩かれて、思った以上にスッキリしました。 それではしばらくヤジに戻ります。 251 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 12 13 09 自分が制裁しないのは勝手だが、間男の嫁には連絡してたこといえよ。 カッコつけてるんなら、間男の嫁のことも考えてやれ。 252 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 12 29 00 242 吠える対象が違うだろw お前が吠える相手は元嫁&元間男だ。 それも出来ないなら、さっさと自殺しなよww 253 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/08(日) 13 03 40 252 ごめん サレ夫だけど犬男じゃないんで吠え先は自分で決めますw 現在進行形の嫁と間男に吠えなかったら叩かれ当然かもだけど 強制終了後の"元"嫁&"元"間男にまで吠え続けてたら 252に支持されても世間じゃ・・・ねぇ? それと併せてごめんなさい。ヘタレなんで自殺はできませんwww 251 それについては当初からかなり悩みました。 結局、自分のところの再構築が優先で 相手の奥様の事より自分の利己性の方が勝っちゃったという これはこれでかなり情けない話です。 250 ちがいます。 ローズは偉大な方です。 249 属性がヤジなので・・・ 248 頭をバットで殴られて、ここ10年の記憶を失った後で出会ったら絶対に口説きまくる。 俺的にド真ん中な外見と性格でした。葉月里緒奈系?と言ったらいいすぎかw 255 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 13 09 03 葉月里緒奈系ってだけでも魔女決定じゃないか・・・ 260 :257 [sage] :2007/07/08(日) 14 00 08 116はヘタレではないと思うぞ。正直よく頑張ったと言いたい。 未来が分かれば誰も苦労はしない。 問題が起きる→方針を決める→そのためにどうするか考え・行動し・頑張る→結果が出る 何事もこの繰り返しだと思う。 有責者に頭を下げ、制裁もしないということをヘタレと言ってるのか? 有責者に頭を下げ=方針を決め、頑張るという相当な決意だ。 制裁もしない=権利はあるが、行使は自由だ。ある意味マスターベーションの域だ。 後は本人が結果を消化する。116なら大丈夫だ。 256 つらいことがあったら素直に吐き出せえぇぇぇぇぇ! 292 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/08(日) 19 21 30 ドゲザーマン 293 :116改めドゲ・ザ・マン ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/08(日) 20 09 20 292 ちょっと直していただきます セル そりはないだろ 289 中の人は同じです 昨日の投下分は仕事中に書いてたんで、ちとお仕事モードに入ってました 読点も付いてるしw 携帯を解約して新しいのにしてきました 元嫁の離婚後ラリにも2ヶ月以上付き合ったんだからもういいでしょう? 家電は今週末にも番号を変える予定です なんか憑き物がおちたような気がします まあ気がするだけなんでしょうけどね =================================================== この間、煽り返されたと怒った住民と、共感する住民の間で口論 その後、116を諭す声と慰めのレスが・・・ しかし綾波まで現れ混迷は深まる =================================================== 312 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 11 13 43 116 なあ、あおりにあおり返すのはやめとけよ それとトリップはともかく変なコテハンはふざけ過ぎてて好かん ただ 1 度 く ら い 結 婚 で き て か ら 煽 っ て き や が れ これは同意www 結婚生活の素晴らしさも離婚の苦しみの想像もできん奴らが やれへたれだの制裁制裁だのそんなのは別の板でやりやがれと思うぞ 俺もスルー検定失格w 317 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 12 23 32 叩いてる方にちょっと疑問 116さんの再構築失敗の過程を男女の立場を入れ替えたとしても 同じ様にへたれとかサレラリとか叩かれるのでしょうか? サレ妻の場合は再構築すると決めたらもっと情けない状況になってますよ。 男性側が努力するのは情けないというのが本音なのなら 女性に努力を求めるのもやめてほしいと思う。 116さんは頑張られたと思います。 ただ頑張り過ぎていたのではないでしょうか。 奥様も反省なさっておられるのでしたら 復縁とかは白紙になさった上でゆっくりお話なさってみたらいかがでしょう? 319 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 12 39 40 316 ここはX一板 別れた女房に未練のあるやつだっているだろう 制裁してる奴を見てすっきりしたいなら 怪しい嫁スレか発覚スレに行ってくれ 今ならシャクレが旬だよw 320 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 13 00 24 男女どちらが有責であっても 離婚したくないほうが余分に努力を強いられるのは同じ 努力する理由は愛情とか生活だとか子供だとかいろいろあるだろうけど 少なくとも 116はそれなり以上にへたれずに頑張ったんだと思う 精神的苦痛も少なからずあった筈だ サレ側が努力することをヘタレの一言で切り捨てるのは簡単だけど 自分から飛び込んだとしても実際に煉獄を味わってきた 116に ヘタレは来るなと言って排除するのはどうかと思うよ 116も住人を煽るようなことを言うのはよせ 331 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 15 36 24 結局、2chなんてどのスレでも煽られるだろ。 ましてやヘタレっぷりを書いてる訳だから、容易く同情なんて引けないよ。 それをわかってて書くべきなのに、煽り返した馬鹿が悪いと思うが。 それにコテつけてからの116に同情できる奴は、ちょっと考え直した方が よくないか? 332 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 15 41 29 トリップな 333 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/09(月) 16 19 51 あれは同情引こうと言うよりも単に吐き出したかっただけじゃね? まあ酉を付けてからはかなり確信犯ぽく煽り返してるけど 結局、2chなんだから煽る馬鹿に煽られる馬鹿、 馬鹿をかばう馬鹿にそれ見てしたり顔の馬鹿・・・でいいんじゃね あ、つられた俺も同じ馬鹿 あんまりキツキツにするとネタ師以外の報告者来なくなるぞ 338 :ヤジセルリアン [sage] :2007/07/09(月) 21 11 29 多く愛した方の負けというのは やはり厳然たる事実なのだなぁ 345 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 13 49 22 116 当事者になると難しいんだろうな。 だが、嫁の不倫発覚以降の苦しみについては、全く同情の価値もない。 自分から傷口を深めて広げて、正直バカなんじゃないかと思った。 発覚時に、嫁と間男の二人に怒りをぶつけて、徹底的に制裁して、 その後、自分の人生を再構築するのが、やっぱり正しいよ。 今からでも遅くない。 嫁と間男に慰謝料と制裁をしろ。 人間らしく生きていくには必要なことだし、今のままでは嫁の人生のためにも良くない。 346 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 14 41 04 慰謝料の請求は別に制裁でも何でもなくて 離婚に際して有責側に対して請求できる当然の権利の一つに過ぎません。 116さんは慰謝料を知らなかったわけじゃなくて 自ら能動的に放棄しておられるんだから 慰謝料そのものを必要としていなかったんじゃないでしょうか。 奥様が許せなくて三行半を下したわけではなく 心が疲弊して自ら退場したような意識になっているのでは? でも当初は離婚を熱望してた元奥様が 離婚後に復縁希望になってるのは皮肉なことですね。 多分116さんは発覚前からも再構築の間も 誠実で愛情深い旦那様だったんでしょう。 それだけに発覚からしばらくの間の奥様の態度は許せないものがあります。 347 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 15 40 04 116は発覚時にキッチリ慰謝料を取って間男を叩きのめしておけば 再構築できたかもな 少なくとも今回のような終わり方では絶対なかったはず ヘタレは身を滅ぼす 348 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 16 46 23 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < 慰謝料とらないヒトはみなヘタレなの? . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 349 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 16 50 42 一物に熱湯+バットでボコボコでもヘタレとは言われませんよ 350 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 16 53 59 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < 制裁しないヒトはヘタレなの? . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 351 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 16 59 28 ヘタレには定義なんてありません 352 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 17 03 29 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < それならどうしてヘタレだとわかるの? . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 353 :はじめまして名無しさん [sage] :2007/07/10(火) 17 07 54 352 聞いていてわかる。 匂いをかいでわかる。 へを たれる。 354 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 17 12 24 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < あなたはたれないの? ・・・屁を・・・? . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 355 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 17 16 30 屁をたれる奴なんて都市伝説だろ 356 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 17 19 48 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < そう・・・ よかったわね・・・ . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 357 :はじめまして名無しさん [sage] :2007/07/10(火) 17 50 17 上の子 かわいい。抱きしめたい。 358 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 17 56 41 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < ダメ・・・ 碇君が呼んでる・・・ . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 359 :離婚さんいらっしゃい :2007/07/10(火) 18 30 29 綾波なのか? 360 :ヤジセルリアン [sage] :2007/07/10(火) 18 53 51 慰謝料はあくまで制裁の一手段さ 361 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 19 07 12 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < わからない・・・ 私は3人目だと思うから・・・ . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 362 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 19 56 53 制裁しないヒトはヘタレか ケジメをつけられない奴がヘタレなんだ 浮気されて再構築する場合、ケジメとして 二度と同じ行動ができないようにする必要がある 出来るのにやらない それがヘタレ 臭いものに蓋をしただけ 処理しなかったら発酵して醜くなっただけ 363 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 08 02 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < 虚しさは人々を包み込んでいく・・・ 孤独が人の心をむいていくのね・・・ . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 364 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 15 59 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < 制裁が必要・・・ ならば制裁なしの再構築は全て偽者なの? . (| |∀| |) \__________ /___ゝ (_)___) 365 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 18 14 そうだよ ヒトは制裁ナシではその先にいけない。 366 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 21 37 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < 何を願うの? . (| |∀| |) \______ /___ゝ (_)___) 367 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 22 36 もういいよ。しつこい。 368 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 20 23 48 . ⌒⌒丶 ′从 从) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽゝ゚ ‐゚ν < ・・・都合のいい作り事で、現実の復讐をしていたのね・・・ . (| |∀| |) \虚構に逃げて真実をごまかしていたのね・・・ それは夢じゃない・・・現実の埋め合わせよ・・・ /___ゝ \__________ (_)___) おしまい 369 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/10(火) 22 12 59 ( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \ / \ / \ (| |∀| |) /___ゝ (_)___) =================================================== そして制裁と再構築について会話は深まっていく =================================================== 375 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/11(水) 01 03 45 362 愛情と信頼と努力だけではダメってことか 裏切りの代償として慰謝料を求めたり 親族友人仕事関係の破壊や相手の生活基盤を奪う事をけして否定はしないけど 相手が心から反省してやり直そうと仕向ける事と 自分自身が相手を許して信じるようとする事が そういう制裁を必ず伴わないと絶対に不可なのだとしたら 再構築なんて始めから無理な場合が多いんじゃないかな? まあ相手次第・状況次第・ケースバイケースって事もあるからさ 過激な方針のほうがスッキリするけどそんなに原理主義的にならんでもいいと思うよ 377 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/11(水) 01 34 58 375 俺は制裁制裁と言ってる書き込みの理屈の方が納得できるけどな。 一度致命的に裏切られた人間を信じるために、不安要素を徹底的に排除するのは理に適ってるし。 116のケースでも時期をみて間男に出来るかぎりの制裁か釘刺し(嫁と接触を持ったら間嫁に全てを打ち明けるぞ、とか)をやっておけば、 間男絡みで再構築が失敗する可能性は減らせた。 >相手が心から反省してやり直そうと仕向ける事と自分自身が相手を許して信じるようとする事が こんな事が実現できるのはごく少数だけだろうし、これができるほど心の通い合う相手ならそもそも不倫なんか起きないよ。 378 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/11(水) 01 50 06 375 再構築がそんな簡単にできるものならみんなやってるわな 再構築するのにどれだけのプロセスと時間と体力消耗するか しかもいつ決着つくかもわからん勝負しないといけないものやる奴はいないだろ 379 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/11(水) 02 08 07 378 ということは再構築ははじめっからやっても無駄 嫁浮気=離婚確定って事? まあここは離婚者の板だけどさw 381 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/11(水) 03 58 21 377 上段については同意 116の詰めが甘かったと思う でも制裁の有無は別として >相手が心から反省してやり直そうと仕向ける事と自分自身が相手を許して信じるようとする事が この過程って再構築そのものじゃね? それを否定しちゃったらやり直すこと自体無駄じゃん 391 :ヤジセルリアン [sage] :2007/07/11(水) 23 39 57 再構築とはサレは死ぬまで一生の苦しみを背負う事 否定はせぬが、やめときなされと思う =================================================== そうこうしている間に116出現 =================================================== 393 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/12(木) 01 21 07 先日は随分と住民の方々に失礼な物言いをしてしまいました 叩かれるのを承知の上で書き込んでおいたくせに 耳の痛い言葉に逆切れしたかのような挑発的な言返しは 先ほど読み返してみましたが誠に不細工で 調子に乗りすぎていたと反省しています 多くの方々を不快なお気持ちにさせた事をお詫びします 申し訳ありませんでした 397 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/12(木) 02 07 58 ありがとう 合コンは昨夜行って来ましたw 連れの男性陣の話のタネにされてしまいましたが 二人ほどとメアド交換してうち一人とは今度メシを食いにいく約束をしてきましたw まあメシだけの付き合いで終わるでしょうけど・・・ でも元嫁以外の女性と仕事以外のプライベートで食事をするなんて 何年かぶりなので結構楽しみにしていたんですが問題発生 というか問題発生していた事に気が付きました 以前共有の貯蓄をしていた口座に分与したはずの金額が すっかりそのまま振り込まれていました しかも先月の上旬に当然連絡もなしで 正直困惑しています そのまままた振込み返せばいいのは判っていますが またまた振り込まれても困ってしまいます 侘び金としてとっとけばと言う友人もいますが 正直少なくない金額なのでそういう訳にもいきません 気が進みませんが明日元嫁に会うことにしました 会ってきちんと話をした上で返金しようと思います 399 :116 ◆/iwKVsDct6 [sage] :2007/07/12(木) 02 19 17 そうですね 愚痴と相談をしたかったんですが さすがにスレ違いでした 相談スレを探してみます すいませんでした =================================================== 116の元嫁と会うと言うレスに住民紛糾、意見は四分五裂 罵る声がある反面、強固論者に食傷気味な意見も多数。 そして・・・ =================================================== 459 :離婚さんいらっしゃい [sage] :2007/07/15(日) 00 55 38 だれもいなそうだからマジレス失礼 116よ、そのうち気が向いたらまた話を聞かせてくれ 人の心は信じていたものをそんなに簡単に許したり憎みきったりできない だからみんなgdgdになるんだろうけど、それがあたりまえだ 一生一緒に生きていこうと思って誠実に向き合っていこうとしていた相手が 実は同じようには思っていてくれなくて、結果離れて行く事になったとき 心が磨り減らない奴はきっといないと思うぞ 無くしたくないと思った宝物が実は汚れてて泥玉だったとしても 大切にしたい、失いたくないというお前さんの気持ちと態度は 不倫離婚してない奴でも本当に心から大事な何かを無くした事のある奴だったら ちょっと位は判るんじゃないかと思う やり直そうと糞溜めの中に入っていく覚悟で進んでいったお前さんは けして自分やこのスレの幾人かが言ってるようなヘタレでも馬鹿でもないし非常識な人間でもない お前さんは何かを吐き出したくてこのスレにきたんだろ? 吐き出して少しは気が楽になってくれたんだったらいいけど・・・ 共感をもってROMしたり、レスした奴も少しはいるって事はわかって欲しい =================================================== その後、1年経っても元嫁は粘着、116は合コンも行かなくなり、 gdgdし続けているらしい。 (再構築にせよ別れるにせよ、これじゃお互いに人生の無駄使いだぜお二人さん) =================================================== http //life9.2ch.net/test/read.cgi/x1/1203011815/ 295 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/06(日) 23 22 35 昨日の夜、別れた嫁に会社の帰りに待ち伏せされて食事をして来た ここんところ2週に一回くらいのペースで待ち伏せ?されてる 最寄り駅も同じだからたまに道端で会って話す事もある こんな状況が半年以上続いている 当初はひょっとしたら復縁しちゃうかもなんて考えることもあったが 自分の中で元嫁に対して動くものがないんだよな 現時点では元嫁に好意は持ってるのかもしれないけど 会えなくなれば、それはそれで仕様がないって思ってるところがある 怒りや悔しさや絶望や未練とかがいっぱいあった筈なのに 再構築しようと頑張ってたころで燃え尽きたのかなあとかw なんか元嫁に対しての感情が枯れてた感じになってるなあって感じてる まあそれでも一緒に食事はするし、 そのときには楽しく会話もするし、その後のことも・・・ 先月の頭に復縁するつもりにはなれないと思うから こういう関係はもう止めようとはっきり話したんだけど 復縁しなくてもいいから、俺の都合のいいときでいいから 一緒に居させて欲しいって泣きながら言われた あんたいつの時代の女だよw 以前とキャラ変わりすぎw 会ってないときに誰と会って何してんのかもわからないし 都合のいい男にされてんのは俺のほうじゃないかって話したら それ以来、日に2、3回画像付きでメールが送られてくるようになった たわいもない内容だし、こちらから返信するのは2,3日に一度くらいなんだが 何だかちょっと楽しい 再構築失敗して離婚してもうすぐ一年の現状でした 296 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/06(日) 23 29 35 おまえに女が出来るか、元嫁に男が出来るまでだろ 後者になりそうだが 297 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/06(日) 23 38 26 296 そうですね それならそれで仕方ないと思います 多少辛い気持ちにはなるでしょうけどね 298 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 00 08 だれ? 299 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 09 21 295 再構築失敗ってのは元汚嫁がまた裏切ったってこと? 300 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 18 05 299 こちらがギブアップしたって事です 上手くいけるかなと思った矢先に 元間男とメール(近況報告+α)をしていたのを知って 自分の中で何かがぷっつり切れてしまいました 301 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 20 45 300 前にどこかで書いてたかな? 302 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 22 28 もしかして、116? まだgdgdやってたのか? 303 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 29 51 302 そうですよw まあ今はgdgdと云うより淡々と、 という感じですけどね 304 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 33 32 303 今がきつくなければそれでいい。 大分つらい思いもしただろうし。 今のところ彼女みたいな相手はできないの? 305 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 37 35 304 ありがとう 彼女はまだ出来ませんねw というか気になる存在の女性ができたら 元嫁にもその女性にも失礼ですから こんな関係は続けていませんよw 306 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 40 07 300 元間男とメール(近況報告+α)をしていたのを知って kwsk 最悪な女だね 308 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 00 44 58 305 それもそうかw 彼女ができるにしろ、 元嫁とやり直すことになるにしろ、 いい方向に向かうといいな。 まぁその内いいこともあるさ。 309 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 01 04 34 308 基本的には独身生活を謳歌させてもらってますw この先、元嫁とどうなるか判りませんし、 彼女ができるかどうかも不確定ですが 人の気持ちを裏切ることだけはしないで生きていけば まあきっとなるようになるさと思って、 楽天的に過ごしていこうと思っています 310 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 01 09 31 おお、あの116か。元気そうで何よりだ。 んで、もう合コン行ってないのか? 311 :離婚さんいらっしゃい:2008/04/07(月) 01 15 08 310 何時ぞやはお騒がせいたしましたw 合コンは去年の9月頃までは後輩に誘われて良く行ってたんですが 元嫁と今みたいな状況になってからは 後輩に事情を説明して基本的にはご遠慮させてもらってます 後輩には思いっきり苦笑されましたがねw 312 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2008/04/07(月) 01 23 33 311 行って来いよ。 今、人生何度目かのモテ期かも知れんぞw 313 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2008/04/07(月) 01 34 23 312 実は合コン行ってったときに 何人かとそういうふうになっちゃったんですが 口説いているときはフリーだって言ってたくせに 後で聞いてみると皆彼氏持ちorz 女っていったい何なんだろなあーって気持ちになったのもあって どうしても人数足りないときや 後輩の顔を立てなきゃいけない時を除いて こちらから積極的に参加する気にはあんまりならないんですよ 314 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2008/04/07(月) 01 39 45 307 ありがと 306読んで思ったのは 116の元嫁は間男から完全にふられたから粘着してるんじゃないの? 何はともあれ、新しい出会いを得て幸せになってほしいです 再構築する場合は煮え切らないところもあるので報告はしないでほしいなw 近況報告乙でした 315 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2008/04/07(月) 01 47 55 311 ようへタレ! 316 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2008/04/07(月) 02 16 09 314 ありがとうございます まあどうなるかは神のみぞ・・・と言うところでしょうかw 素晴らしい新しい出会いがあれば それが一番いいということなんでしょうけどね 315 どうも、ヘタレですw さて明日は土曜日の代休をとったので 随分夜更かししてしまいましたがそろそろ寝ます またそのうちお目汚しするかもしれませんが 幸せになりましたと報告したいものだと思ってます それでは ---------------------------------------------------------------- 【され夫】妻がシャアシャアと不倫しおった!17【破局】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/x1/1271068904/ ---------------------------------------------------------------- 437 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/03(火) 01 17 04.29 久しぶりに覗いたらご心配のお言葉w しかも無茶苦茶過疎ってるしwww 何とか生きてます。 ってゆーか一昨年の夏に元嫁と再婚しまして 去年の暮れに父親になっちゃいましたw 多分、今までの人生で今こそが最高に幸せなときなんだと思ってます。 再婚までは、まあそれは色々ありましたが 決断したことに後悔はまったくしていません。 取り敢えずご報告まで。 438 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/03(火) 01 35 36.48 あれ?久しぶりだからTrip-Monaでトリップテストしたのに酉が違ってる? まあいいやw ヘタレの116でしたが父親業ばかりはヘタレるわけにもいかないので 嫁と二人三脚で何とか頑張ってやってきます。 それじゃノシ 439 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/03(火) 01 58 55.47 再婚の道を選んだのなら頑張るべし とにかく116が幸せならいいんだよ 440 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/03(火) 06 57 42.00 437 乙 できれば再婚に至った経過なんかを語ってはもらえまいか。 441 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/03(火) 09 30 46.30 116 お疲れ様やっぱ再婚しちゃったかw 父親業もそうだが旦那業も二度とヘタレするんじゃねーぞおい! うちは今月出産なんだわwお互い父親業がんばろーぜ! また暇見つけたら近況報告ヨロ トリップは仕様が変わったよ 442 名前:離婚さんいらっしゃい[] 投稿日:2011/05/04(水) 00 13 46.51 437 一度折れた心から、「二人三脚」という心境に至った経緯を聞きたい。 443 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 01 29 00.84 438 こりゃまた懐かしい人だw できれば再婚までの経緯を書いてくれないか? 444 名前:離婚さんいらっしゃい[] 投稿日:2011/05/04(水) 01 31 15.32 437 再婚再構築されましたかw 誰の種でも愛する奥さんの子供には代わりないのですしね 実の親(生みの親)より育ての親とも言いますしーお幸せに 445 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/04(水) 01 36 20.38 ALL Thx まあ色々っていうのは本当に色々あって 嫁との以前の結婚→離婚までの流れも 相当に漫画か昼ドラみたいな話だと 今になると思えるのですが 離婚→再婚までの道程も悪い冗談みたいな話があったりします。 簡単にまとめますと 1.やっぱり離婚後ぐだぐだやるのは不自然だから逢うのやめるでござる。 2.死ぬかもしれない病気にかかったでござる。 3.元嫁が死に水取る決意でキャリア捨ててきたでござる。 4.死ななくてもよくなったでござる。 5.吊橋効果もあって信頼と愛情戻ったでござる。 6.再婚して嫁は前職に復職したと思ったら妊娠出産でござる。 7.自分視点でしあわせな現在に至るでござる。 "ござる"口調がウゼーwww 446 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 01 48 17.32 445 なんと!そうだったのか。。 何というか、5.に対しては嫁さんの覚悟を鑑みればむしろ自然なのかなと思う。 体調はもう万全なのかい? いずれにしても、その後の話では珍しく心から祝福できるわ。 おめでとう。 447 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 04 28 47.33 つり橋効果で愛情は戻っても信頼は戻らないんじゃね 448 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 10 35 39.14 そんな暮らしは綱渡り 449 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 17 19 22.68 まあ、一回いろんな意味でどん底まで堕ちたうえでの再構築ってわけか。 これからずっと幸せであるために頑張ってくれ。 452 名前:離婚さんいらっしゃい[] 投稿日:2011/05/04(水) 20 38 51.32 116生きてたのか。よかった。よかった。 いろんな奴が116をヘタレ扱いしてたけど 116は慰謝料をしてないってだけで ヘタレとは真逆な奴だったからな。 死にかけたらしいが今は大丈夫なのか? 子供も出来たそうだし頑張って生きてってくれよ。 456 名前:ヤジセルリアン[sage] 投稿日:2011/05/04(水) 23 58 23.41 うむ。はらわた煮えて、グダグダから淡々になっても今、 「今までの人生で今こそが最高に幸せなときなんだ」とまで言えるなら これ以上の決着はなかろう 458 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/06(金) 09 26 06.49 116死にかけたって、病気か?事故か? 464 名前:ヤジセルリアン[sage] 投稿日:2011/05/07(土) 22 10 00.93 うむ 465 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 20 03 52.40 446 449 452 456セル ありがと。 ほんとにありがと。 447 448 まあ別れた女房とか、不倫した汚嫁とかの属性に関係なく、 ここまでされたら心が動かないわけないよな的な事をしてくれたもんで… それと、 離婚→あやふやな関係→別離→入院療養→復活までの彼女の言動が 一貫して贖罪と愛情をもった再構築を願うものだったんで 今は裏切るとか裏切られるとかすら考えていません。 以前の彼女にされた事を忘れられる訳もないのですが 現在の彼女に対しては全幅の信頼を置いています。 じゃなきゃ再婚して子供作りませんよ。 458 病気です。 頭の中に何か悪いもんができてて 悪性で長くてあと3年、早けりゃ半年とか言われたんですけどねw 別の病院でセカンドオピニオンもらったら良性で、 手術で取っちゃえば死ぬことも後遺症もないだろうって事で生還しました。 今でもたまに検査には行きますが、完全に復調しています。 子供も作れましたしねwww ありがとう●恵●科大病院! 464 御許しも出たのでここで報告します。 まあほかの場所は怖いんでここに居させて下さいw と言っても今は家族持ちですので 息子の御機嫌次第ですけどね。 467 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 21 10 10.29 465 良かったじゃないか。 もう完治したのか?水頭症は出てないか? 俺の知り合い、完治した後で水頭症が出てた。 これ自体は自然治癒するもんなんだけど、本人はそれを自覚しておらず、 職場復帰後、本人にしてみると原因不明の頭痛から 周囲に当り散らすは投げやりになるわで、一時随分手を焼いた。 俺の先輩で、恩のある人だったんで、随分フォローした結果、無事に直ったけどね。 調子が悪いときは、すぐ医者に行くんだよ。 468 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 21 48 04.21 467 心配してくれてありがとう。 グレード1の腫瘍で手術で全摘できたので再発は無いみたいです。 ただ、なぜ初診の病院がグレード4と誤診したのかは今でも謎なのですw 水頭症は、 入院前に腫瘍と閉塞性水頭症の合併症が起きていたみたいなので 体験済みです。 (表現が医学的に正確かどうかはごめんして下さいw) あの頭痛となんとも言えない嫌ーな気分とイライラ感はもう御免ですね。 あれが続いていたら気分が荒れていくのも理解できます。 それに正直なところ完治したと言われても 目には見えないところに出来たものなので ちょっとでも兆候らしきもの(この場合頭痛や不快感)があると 後遺症にすぎないものなのに「やっぱ再発?」とか 実際の病状以上に悪く考えて不安になってしまうんですよ。 自分も風邪とか胃腸の調子とかで ちょっとでも頭痛がしたり気持ち悪かったりすると、 ひょっとしたら・・・って考えちゃう事はありますから。 あれ?何かこれって再構築中のサレ夫心理と同じじゃね?www 469 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 21 59 18.58 467 ありがとう。 家族で幸せになります。 子供も嫁も幸せにしていきます。 ・・・過疎スレだから全レス返ししてもいいよねw 470 名前:離婚さんいらっしゃい[] 投稿日:2011/05/08(日) 22 48 43.37 おりゃ? 随分また珍しい人がw いろいろあったみたいだけど 今幸せならば、ずっとその幸せを手放すなよ。 頑張れ! 471 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 22 51 22.49 116 458だけどレスありがとう。 頭ですか・・・いや死ななくて良かった。 そこで、もしあなたが良ければだが 445のまとめを詳しく書いてはもらえないでしょうか? 理由としては ① 元嫁が死に水取る決意でキャリア捨ててきたでござる。 というのもすごく気になるし ②こういう再構築があるという例として是非覚えておきたいし ③昔、嫁不倫、離婚で頑張って親権を確保し子供のためにこれからという時に、 余命宣告出されて南無阿弥陀仏になった人の話を2ちゃんで見たので、 その反対もあるということでよけいに詳しく知りたくなったのです。 472 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 23 06 04.85 470 がんがるよ! 471 ほんとに死ななくてよかったです。 今般の震災で、友人知人やそのご家族が何人か亡くなられているので 死と言うものを改めて直視する事になりました。 今は息子と嫁の為にも死ぬわけにはいきません。 詳しく・・・ですか。 一寸時間はかかりますが近日中にでもw 間違いメールの方の事は最初の余命宣告wの時に真っ先に思い浮かびました。 そしてこんな時に思い浮かぶのが2chかよ!って かなり鬱になったのは内緒です。 477 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/09(月) 21 25 11.07 465の真中があらわしてるなあ。 やっぱり、再構築なんて難しいよ。 116と嫁さんは新しく創りあげたんだろうな。 478 名前:116 ◆ffhaSD17Sz4R [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 22 36 42.13 2chだし、再婚したって事で 正直もっと叩かれるかと思ったんだが こんなに頑張れよって言葉を 顔も知らないみんなからかけてもらえるとは・・・ ありがとう。 嫁がもうすぐ風呂からあがってくるので1レスにだけ返します。 477 そのとおりかもしれません。 少なくとも夫婦の今の関係は 以前のそれとは全然違っています。 離婚前の、いや元の嫁が不倫をする前とも全く違う感じです。 もちろん子供ができて大きくなって 生まれて互いが父母になってというのも ものすごく大きな要因なのでしょうけど。 相手が自分自身を心から信頼してくれていると信じられるのは もうサレてから何年も経ってるので 決してサレラリではないと思いますよ。 ・・・多分www 479 名前:離婚さんいらっしゃい[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 00 34 50.73 478 うん。 元の環境に戻すことって不可能だと思う。 結局は一から新しく創り上げる事でしか自然な形にはならないと思うのね。 それを116と嫁さんは二人で成し得たからこそ、今の幸せがあるんだろうなと 想像できるし、だからこそ心から祝福できる。 全く、もっとどんどんと幸せになりやがれ、この野郎w 480 ヤジセルリアン sage 2011/05/15(日) 01 18 41.34 では 166の詳しく街 481 ヤジセルリアン sage 2011/05/15(日) 01 19 05.96 うむ。間違えた 482 116 ◆ffhaSD17Sz4R sage 2011/05/15(日) 22 54 46.15 480 ごめん諸事多忙の為、今暫しお待ち下され 483 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/16(月) 23 01 03.67 482 了解。 焦らずにじっくりと書いてください。 484 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/17(火) 02 34 06.37 のんびりまってるぜ 490 ヤジレッド 2011/05/24(火) 06 49 54.23 報告まだ~?w 491 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/27(金) 04 52 41.79 116の初出っていつだったっけ? あんたいつの時代の女だよw これにははっきりと記憶があるんだが・・ 492 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/29(日) 03 59 52.31 116みたいな末路ってホントみじめだよな。 信頼出来ない相手と復縁は出来ない!とか言ってたものの、他に相手してくれる 女も居ず、浮気したような●にしがみついて再婚、子供まで。 みんな腹の底では嘲笑ってんのに気付かず、ありがとう、だって。 こんなだから浮気されんだよ。 493 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/29(日) 09 28 49.37 今日の釣り大会の会場はこちらですか? 494 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/29(日) 15 01 56.08 普通に祝福してる人の方が多いだろ 何でも制裁、慰謝料、離婚の強行論者には飽き飽きだ 116は一般的な再構築家庭よりも時間がかかっただけでしょ だが道中がヘタレだったのは間違いないwwアレは面白かったw 495 離婚さんいらっしゃい sage 2011/05/30(月) 08 16 45.03 122 名前:116 [sage] 投稿日: 2007/07/07(土) 20 30 36 そろそろ投下しようと思う。 去年の1月に嫁の浮気が発覚 再構築を図ったけど、最終的に俺がヘタレで今年のGW前に離婚になりました。 元嫁は復縁希望。 毎日のようにメールと電話がかかってきます。 未練も情もありありだけど、 信用しきることができない相手と復縁はできないと感じています。 再構築が失敗した最大の原因が正にそれだったからです。 でも最近心が揺らぎそうになることもあります。 書いているうちに結構な長文になってしまいましたが吐き出させてください。 なお特定できない様に一部事実と変えていますが 基本的に俺の体験した俺にとっての現実です。 496 ヤジレッド 2011/05/31(火) 22 33 50.15 まだ~?w と、待ちながらあげwww 497 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/01(水) 01 07 48.88 丁度3年前か。長かったのか身近かったのか・・・ 500 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/01(水) 06 05 59.48 まとめ読んできた。116の汚嫁の悪魔っぷりは酷かったんで驚いた。人間本当に変われるのかね。 夜中のメール事件で書いていた116へ愛情が無い件から執着への変化が今ひとつ分からない。 間男へはまだ、未練がたっぷりだった様だし。離婚になったら目が醒めたのか? その辺については汚嫁はどう言ってるんだ? 116 503 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/04(土) 12 45 41.42 萌えコピで116の話見たけど、結局は再構築には制裁(犠牲ともいえる)が必要なのが明示されたね 元嫁の自分のキャリア棒に振るぐらいの献身が116の不信感を拭ったんだから 504 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/04(土) 17 56 36.21 116が相当お人好しなんだろ 505 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/05(日) 08 53 10.32 んだな 116がATMとして優秀だったら自分のキャリア捨てたとて問題ないし むしろ空いた時間で間男と継続とか新しいツバメとかもありだし 506 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/05(日) 10 40 36.42 116の嫁もわかりやすいよな 離婚成立した直後に元間男に思いっきり振られたってのがよくわかる。 それまで頭の中で夢物語描いてたんだろうね。 なんか恋愛ろくにしたことのないがきんちょみたい。 507 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/05(日) 10 48 50.13 お前らを見ていると、人としてどうかと思うぞ 508 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/06(月) 21 30 05.90 そうかな?116には悪いけど 最初にばれた時に間男も再婚を望んで一緒になれたら 嫁は116の事など思い出しもしないと思うぞ メール事件のあと間男に振られたから粘着の対象が116になっただけとしか思えない 間男に向けていた愛情の深さを116に振り替えただけって感じるのは自分だけ? 509 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/06(月) 21 53 40.07 508 「気持ち」をロジカルに説明できるなら誰も苦労はしない。 ばれた最初の頃の嫁の気持ちは、説明があったとは書いていたけど、 その内容は書かれていない。 おそらく116的には理解できない内容だったんだろうけど。 510 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/06(月) 23 42 38.16 508 そうだよな、そんな感じがしたよ。でも、116氏が元サヤに 応えた結果は尊重したい。 511 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/07(火) 05 11 25.25 不貞した有責の分際で116に全部の責任をおっかぶせて罵倒した糞嫁と良く再婚できると 正直感心する。正直気持ち悪すぎる。間男が好きだが116はわからんと言い切った事は 撤回してもらったんだろうか?最低でもそこを撤回なり心底反省と謝罪を受けても難しいが それでも撤回と間男への未練は断ち切ったのか聞いて欲しいね。 まああれだけのお人好しは操作し易いだろうから捨て難いのは分かる。 512 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/07(火) 05 23 17.30 俺も応援はするがちょっと憂慮する。嫁を信用しすぎ。信頼関係は大事だが 不貞行為や再構築後でも連絡取ってた女だという事実は消えない。 現在の彼女に対しては全幅の信頼を置いています。 全幅の信頼を置いた過去に何をされた?最悪の事は覚悟はしておいた 方が良いと思う。一割か二割は疑っておくべき。 じゃなきゃ再婚して子供作りませんよ。 もちろんそうだろうが、性欲に負けた部分もあるんだろ。元々NTR属性もあるみたいだし。 一度目の再構築時に鬱勃起でハメまくった様だしな。少々綺麗事言い過ぎだろうと。 まあ、完全に安心しきるなと言いたい。 513 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/07(火) 13 03 59.52 いいじゃん、本人がいいって言うんだから。 514 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/09(木) 14 57 29.14 浮気に対するハードルが低くて思い込みの激しい嫁のようだから 機会があればまた同じ事を繰り返す素質を持ってそうだね 最初の結婚のときも信頼してたはず なのに裏切ることのできる嫁だって事を忘れるなよ 515 116 ◆ffhaSD17Sz4R sage 2011/06/10(金) 00 50 45.04 え~すいません 震災関係のごたごたもあって、まだまとめておりませんでしたw 流石に色々と言われておりますねw 2ch的には当然といえば当然ですがwww まとめを投下する前に ちょっとだけ反論と説明の補足を少々w 516 116 ◆ffhaSD17Sz4R sage 2011/06/10(金) 00 51 26.48 505 仕事ってしたことあります? 職業人としてのキャリア形成って今の世の中 特に専門性の高い分野の場合、男女あんまり関係ないですよ ひょっとして女の仕事はいつでも替えがあるっていう考え方かな? 506 間男とは上司面談の時点で終わってました あの夜のメールからも その後連絡を取っていないってのは明らかでしたし 508 >最初にばれた時に間男も再婚を望んで一緒になれたら >嫁は116の事など思い出しもしないと思うぞ これはその通りかもしれません ・・・と言うより、その通りなので 気持ちをこっちに取り返すために 必死に再構築を頑張っていた訳でしてw 511 不貞の責任については別におっ被せられませんでした 当初の離婚する気で満々でいた時点では それなりに謝罪と世間相場以上の慰謝について申し出てましたから まあこちらの一方的な再構築開始後からしばらくは 確かに糞嫁でしたねw >間男が好きだが116はわからんと言い切った事は これは下記参照で ちなみに言い切ったという強い表現があったとは 書いてなかったと思うんですが・・・ 517 116 ◆ffhaSD17Sz4R sage 2011/06/10(金) 00 51 53.27 離婚してからの接触については少し説明不足もあったようです 元嫁(当時)のスタンスは復縁希望というより 謝罪と贖罪&積極的に俺に責めて欲しい(性的な意味でなく)というところであった様です 再構築中は俺から彼女を責めるような事は何も言わずにいたので 生活を共にする中で徐々に距離が近づいていっても 自分から愛情表現をしてもいいものなのか それ以前に自分が夫(俺)にもっている感情が本当に愛情なのか はっきり判らなくなっていたと後日申しておりました 本人曰く、離婚という判断を俺が下した事により ようやく罰をあたえてもらえて 自分が”今”愛しているのが誰なのか 愛してくれていたのが誰なのか 自分の中で明確になったとの事です。 518 116 ◆ffhaSD17Sz4R sage 2011/06/10(金) 00 52 12.40 書いていませんでしたが 離婚後に再接触してまた別離するまでの間には それこそ >間男に振られたから粘着の対象が116になっただけとしか思えない とか >お人好しは操作し易いだろう とか >浮気に対するハードルが低くて思い込みの激しい嫁のようだから >機会があればまた同じ事を繰り返す素質を持ってそうだ とかは、 何かスイッチが入っちゃうみたいに言ってましたねw 512 514 心配してくれてありがと でも疑って生活していくのってかなりしんどいyo! それに嫁がそこまで馬鹿だったら 自分の見る目の無さにいい加減に諦めも付くってもんだと思ってます まあよその男が好きになったら 股を開く前に、今度はいつでも離婚してやるから 正直に話せとは言ってありますけどね ちょっとと言いつつ長文になってしまったw 明日は嫁の実家に孫の顔見せに行くんで 本日はこの辺で書き逃げます ではノシ 519 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 01 23 35.61 116には悪いんだけど まとめを読んで改めてこの嫁は危ないと思った 520 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 02 34 57.69 愛してくれていたのが誰なのか なんとか小説のヒロインのようですな 521 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 04 36 27.34 518 乙!大体分かった。だけど責めてくれないと明確に気持ちが分からないって、もう病気だぞ? でも疑って生活していくのってかなりしんどいyo! そりゃそうだろ。じゃあ言い方を変えて、突然足元掬われる覚悟だけはしておけよ。そいつは青天の霹靂 では無いってことだ。常に隣にあるかもしれない落とし穴だってな。 それと、罰を与えた事によって116への気持ちが分かったのは良かったが、間男への好きという 気持ちはあります。と言い切っていただろ?言い切ってないのは116への気持ちだけで。 その間男への好きという気持ちはどうなってんだ、ちゃんと聞いたのかい?気持ちを残しつつ 116を愛してると言うなら、再構築は勧められないわなあ。 522 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 10 41 02.02 責めてくれないと・・・か けっきょく刺激を求めてるってことだよな 平々凡々平和で穏やかな家庭では満足できない、ってことじゃね? 523 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 10 56 40.22 116は昔と違って今はドンとかまえて余裕があるからな いい意味で開き直ったから、大丈夫だろうね その境地に辿り着くまでが人より遅かっただけの話 再度浮気されてもさっさと切り捨てるだけさ。嫁もそこはわかってる 524 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 11 52 27.46 嫁と間男が同じ会社っていうのがな。異動したとはいえ今ひとつ納得できんだろ。 525 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 14 49 35.36 ナイチンゲール症候群かな キャリアを捨てての看病を素晴らしいことのように感じてるみたいだけど 発覚したとき間男が再婚して専業主婦になってと言ったら喜んでキャリア捨てただろうに 習い事やPTAやパート先でちやほやする男が現れないことを祈ってやるしかないね 526 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 23 20 36.36 もう116の幸せを祈るしかないだろ 心配しているふりして下種な書き込みしてんじゃねえよ 527 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/10(金) 23 24 29.94 あと、116は再構築しようかどうか悩んでいる人間じゃなくて、 再構築を決断して(しかも、一度きっちり離婚している)、 籍いれて子どももできていることを忘れてんのか? 義理堅く報告してくれる人に望まれてもいないゲスパーかまして楽しんでんじゃねえよ。 528 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/11(土) 08 28 03.99 526 527 そのとおりだぜ 529 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/11(土) 11 29 01.85 116 ◆ffhaSD17Sz4R氏、お久しぶりです。 お元気そうで何よりです。 書いてくださるまとめについては、じっくりでかまいませんので書ける余裕のあるときに書いてください。 現在の116氏は復縁をしお子さんも居られ、再構築を迷うんではなく成し遂げられたのです。 あとは突っ走るだけです・・・・と俺は思います。 あと2ちゃんは基本的に頑張る奴には優しいと他でも評判です。 不倫関係でいえば、 ・不倫されて親権は渡さないと頑張るという奴 ・嫁と間にはきっちり社会制裁を受けさせるために頑張る奴 そして ・嫁との再構築を決意し頑張る奴 迷う奴には厳しいかもしれませんが・・・・・。 530 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/11(土) 18 03 24.17 2ちゃんがどうこうじゃなくて、基本的にみんな勧善懲悪が好きなだけじゃない? 罪を憎んで人を憎まず、と言っても積みに対する罰はしっかりと! じゃないと納得できない!ってのがあるんじゃないかと 小説の主人公に感情移入し過ぎちゃって自分が主人公だと思いこんで なんで思うとおりにやらないんだってむしゃくしゃしてるカンジ ま、116には幸有れ! 531 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/11(土) 21 38 58.53 俺も、もし嫁が、よりどりみどりの状況で果たして俺を選んでくれるかは不安だな。 そういうわけで、嫁さんが、間違いなく他の男と比べて116を積極的に選んだってのは むしろうらやましいくらいだがな。 532 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/12(日) 04 00 07.39 116を応援する事と、酷い暴言や不貞実績のある汚嫁に足元を掬われない様に注意しろと言う事は ちっとも矛盾していないだろ。むしろ当然。人間の本性はそうは変わらない。 533 ヤジセルリアン sage 2011/06/12(日) 14 31 04.20 当事者の気持ちが勧善懲悪を妨げるのはやむをえまい もちろん熱湯バットも肯定する 534 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/16(木) 03 12 47.17 116はきっちり「離婚」という決断を下してから、病気して、それでもう一度 やり直すことを決断してるんだし、これでもう一度裏切られたら「見る目がない」 とまで言ってるんだから、他人がどうこういうレベルにないんだろう。 元嫁の執着の理由は全くわからんが、きっと116にもわかんねえだろうww 535 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/16(木) 10 07 51.68 534 116の人が良すぎるのが分かるだけに、手練手管に長ける汚嫁に取り込まれるのが心配なんんだろ。 俺もそうだな。116がまた辛い目に合うのだけは避けて欲しい。まあ、そうならない事を祈るよ。 536 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/16(木) 19 13 16.83 浮気するような嫁を選んでる時点で最初から見る目はないんだけど・・ 537 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/16(木) 21 11 42.10 この世はすべて自己責任。 538 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/17(金) 01 44 05.05 534 不倫するやつらは肉食系狩猟系だからじゃね? 安定した生活は大事だけどその上で狩にも出たい 浮気ばれしたとたんに愛してるのはあなただけってテンプレの言動も 安定した生活も浮気と同じくらい大事だからだよ 離婚したとたんに粘着をはじめるのも同じで 間男との安定した生活(再婚)があれば粘着しないが 離婚して安定した生活がなくなったという事実に気づいたとたんに 狩に向けていた情熱で前の旦那にまとわりつく まずは安定した生活をゲットするために 浮気するタイプの人間の本能だろうね 539 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/17(金) 06 11 35.26 538 一理も二理もある。 540 離婚さんいらっしゃい sage 2011/06/17(金) 09 00 54.53 それって肉食系っていうより自分勝手っていうんじゃないのw 554 離婚さんいらっしゃい sage 2011/08/07(日) 15 42 12.05 久々に来たら116が。 幸せになってくれればいいが。 子供が成長するにつけ、不倫の切っ掛けも増えるから 安心は出来なかったりするんだよな。 PTA、習い事・スポクラ、パート先… 「運命的な出会い」はいつだって起こり得る。 日常にほんの少しの隙間が出来ると… 555 ヤジセルリアン sage 2011/08/13(土) 18 41 28.01 ほう。 心の隙間か 556 離婚さんいらっしゃい sage 2011/08/13(土) 20 43 28.22 116の嫁って典型的な不倫脳の持ち主なのにねえ 557 ヤジグリーン sage 2011/08/15(月) 15 50 55.43 ほう 558 離婚さんいらっしゃい 2011/08/20(土) 09 35 44.87 116 ◆ffhaSD17Sz4Rさん、お盆休みはいかがお過ごしでしたか? 嫁さんとお子さんとの良い休暇になられたら良いなぁと思っています。 445の詳しめのまとめもまたよろしくお願いします。 559 離婚さんいらっしゃい sage 2011/08/20(土) 21 43 05.71 556みたいな煽りがいる限りでてきてくれないんじゃないか まじで報告者潰しをするやつがむかつく 560 離婚さんいらっしゃい sage 2011/08/21(日) 23 27 34.01 え? 559は116の嫁がまともだと思えるの? 561 離婚さんいらっしゃい sage 2011/08/22(月) 00 36 02.50 報告していただいてる立場を忘れんなってことだよ
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まぁ別スカウトで出すよりは、このやり方の方が助かるのはたしか。いまURBと蒼天以外に石割く余裕ないしな。 - 名無しさん (2023-02-18 13 50 07)
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 ◇◇◇◇ 土曜日、明日になれば自動車事故から一週間になろうとしている。 幸いなことに月曜日以降、誰も死ぬどころか危険な目にあっていなかった。 今日、俺はハルヒと一緒に、先週の事故発生現場を廻っていた。歩くと時間がかかるので、タクシーを使って移動している。 いろいろ確認したいこともあるらしい。 まず看板に潰された男子生徒の現場に立っていた。 倒れてきた速度規制の看板はすでに新しい頑丈なものに直されていた。商店の上にあった看板は撤去されたままである。 あの事件を思い出す要因を残しておきたくないかもしれない。 「すっかり現場が変わっちゃっててこれじゃ調べようがないわね」 何も見つからずにその場を去り、続いて野球ボールのせいで死んだ女子部員の現場、火事が原因で死んだ女子部員と顧問の現場と 廻っていったが、やはり何も見つからなかった。まあ、目で見つけられる問題があるならとっくに警察が回収しているだろうが、 ハルヒもただじっとしている気にはならないのだろう。何か手がかりがないかともがいているに違いない。 俺たちは黙ったまま、当てもなくタクシーを走らせていた。 深刻そうな顔のままのハルヒに対して、実のところ俺は少々楽観的になりつあったりする。 この一週間何も起きていないからな。本当にただの考えすぎで、【偶然】の事故だったのかもしれない。 死が追っかけてきているなら、三人立て続けに始末してからそれ以降何もしないってのは、おかしな話だからな。 と、ここで急にタクシーが止まる。何でも急に催してしまったらしい。そこで一旦近くの公園のトイレに寄りたいとのこと。 まあ、朝から乗りっぱなしだからな。メーターの金額は目を飛び出す状態だ。ハルヒがどっからちょろまかしたのか知らないが 沢山のタクシーチケットを持っていなければ、俺は即刻破産するところだ。 タクシーは程なくして二車線道路に隣接している公園脇に一時駐車して、運転手がエンジンを止め鍵を掛けて出ていった。 と、タイミングを狙ったかのように俺たちの目の前にゴミ回収車が止まって、作業員たちが 公園脇にあったゴミ集積場のゴミを回収車に投げ入れ始める。 邪魔者がいなくなったということで、俺はハルヒとの会話を始める。 「なあ、俺たちの考え過ぎだったんじゃないか? 実際この一週間何も起きていないんだ」 「……だといいんだけどね」 ハルヒは表情を固めたまま崩そうとしない。何を心配しているのだろうか。まあこいつの勘は恐ろしいレベルだからな。 きっとまだ何か嫌な予感が続いているのだろう。 俺はふと先にトイレを誰かが占拠していたらしく必死に我慢しながら順番を待っているタクシーの運転手を横目に、 「そんなに心配ならお前の力で何か調べられないのか? 情報統合思念体の目もあるだろうから難しいだろうが、 何もできないって事はないだろ。少なくてもこの時間平面を支配しているのはお前なんだから」 「あのね、キョン。言っておくけど、あたしはやり方はわかるけどその膨大な情報量を処理する能力まで持っていないの。 時間平面に存在している情報量がどれだけのものか考えたことある?」 ここでハルヒは懐からメモ帳を取り出し、空白の一ページをこっちに見せつけると、 「これがある時間平面をさしているとして、このページに存在している全てを調べるとなると、構成している原子を 一個一個見ていくような作業になるのよ? しかもページも無限にあるときているんだから。 最初にあったときに言ったけど、別の時間平面とは言えあんたの存在を見つけたのは偶然中の偶然。奇跡って言って良いわ。 同じようなことをしろって言っても無理よ」 「だが、時間と場所はある程度絞れるんだろ?」 「無理。この手帳のどこがどの時間・場所か調べるのには結構時間がかかる。それに長時間調べると 奴らの目に確実に引っかかるわ。時間平面の狭間みたいに奴らの監視の届かない隔絶された場所ならまだ可能だけどね」 ――ふと、ゴミ回収の作業員が何事か怒鳴っているのに気が付く。見れば、回収車の前面に自転車をぶつけられたらしい。 しかもぶつけたって言うのが柄の悪そうな高校生の集団で、気の荒そうな作業者と一触即発寸前でにらみ合っている。 一方のトイレに並んでいたタクシーの運転手はようやく順番が回ってきたのかすでに姿は見えない。 「ってことは結局後手に回るしかないのかよ。予知能力と同じようにあらかじめ予兆とかそんなものを 感じ取れれば良いんだけどな……」 俺の言葉にハルヒはそれができれば苦労してないと肩をすくめて首を振った。 ――背後から一台の大きなトラックが迫ってきていることに気が付く。 「ちょっと待った」 ハルヒが俺の話にタンマをかけると携帯電話を取り出して通話を始めた。書道部部長(女子)からよ、と言って お互いの無事を確認するような話を始めた。ハルヒは全員の無事を確認できるように定期的に関係者との 連絡を絶やしていなかった。これも予防措置の一環なんだろう。 やがて短い会話を終えると、携帯を閉じ、 「ちょうどすぐ近くを親と一緒に車で走っているらしいわ。とりあえずは無事みたい」 ハルヒがそうほっと胸をなで下ろした瞬間だった―― 突然背後で大きな衝突音が炸裂する。何事かと振り返ってみると、さっき背後から迫っていたトラックが一台の軽乗用車を はねとばし俺たちのタクシーに向かって突進してきていた。運転手は何をやっているんだと思いきや、 うつらうつらと居眠りを扱いてやがる。 「おいおいおい! このままだと俺たち追突されるぞ!」 「早く出ないと――あ、あれ!?」 俺たちはタクシーのドアを開けて外に出ようとするが、どういうわけだか鍵もかかっていないのに扉が開かない。 どうなってやがんだ。なんで開かない!? この瞬間直感的に俺は悟った。背後から迫るトラック、前には作業者不在のまま動作を続ける回収車…… この感じ、あの無駄に続く不幸な【偶然】だ。今俺たちは…… 「ハルヒ! 俺たち狙われているぞ!」 「言われなくてもわかっているわよ――きゃあ!」 その言葉を言い終える前に、トラックがタクシーの後部に追突した。その衝撃でタクシーが強制的に 前進させられ前の回収車にぶつかる。その衝撃でフロントガラスが崩れ落ち、俺たちの眼前に回収車の後部の ゴミ投入口が眼前に迫った。 しかし、事態はこれでは終わらない。背後のトラック運転手はまだ意識を失っているのか一向にブレーキを踏む気配が無く 延々と押し続けてくる。それがうまい具合にタクシーの車体を後ろから持ち上げて来る。次第にタクシーは 逆立ちするような状態になっていった。 つまりこのままだと滑り台の要領でタクシー前面に落下することになり、その先にはゴミを押しつぶしている機械に 二人とも巻き込まれるって事だ。 事故が起こっているんだから、作業員はとっとと戻って回収を止めさせろと怒鳴りたくなるが、あっちは 結局乱闘騒ぎになったらしく、多勢に無勢だったせいか作業員が地面に倒れていた。 一方の柄の悪い高校生たちはこの事故を見て、俺たちを助けるどころか一目散に逃げ出していく。根性なしめ! ゴミ回収車は完全に主を失い、ゴミを求めて空回りを続けている状態だ。で、そこに次なるゴミとして投げ込まれそうに なっているのが俺とハルヒである。 ハルヒは何とかタクシーの座席にしがみついて、前面に落ちないようにしている。俺もそれのマネをしていたが―― 「うわっ!?」 「――ハルヒ!」 普段あり得ない力がかかったのか、それともこれも【偶然】故障していたのか、突然ハルヒのしがみついていた 運転席が前のめりに倒れ危うくそれに沿って、ゴミ回収車の方に滑り落ちそうになる。 間一髪で俺がその腕をつかんで落ちるのを阻止するが、背後のトラックは一向に止まる気配が無く、 どんどんタクシーの車体を逆立ち状態に追いやっていった。角度が急になり、ほとんど垂直に近い状態に近づく。 地面にはゴミ回収車の投入口が待ち受けているのは変わらない。このままではハルヒが巻き込まれる。 俺は限界の限界まで力を引き出しハルヒの腕を引き上げようとした。だが、今度は俺のつかんでいた助手席が 前のめりに倒れる。 不意打ちを食らった俺はなすすべもなくハルヒともどもゴミ投入口に落下して―― 俺の頭の中に今までの人生が走馬燈のごとく蘇った。ああこれが死ぬ間際に見るっていう 記憶のフラッシュバックなんだろうな。 しかし、脳裏に蘇ってきたのはあの自動車衝突事故のシーンばかりだった。ガスボンベに体当たりされる顧問、 追突してきた乗用車に轢かれる鶴屋さん、火炎に巻き込まれる女子部員と部長、爆風で飛んできた 割れたガラスの破片に串刺しにされる谷口・国木田……そして、俺の真上から迫るトレーラーの一部が 結局俺には当たらず俺の数センチ横に落下する光景――あれ? 何かおかしいぞ? 走馬燈が停止したのは、回収口に落下した時だった。生臭い香りで胃液が逆流しそうになる。 しかし、回収口のゴミを押しつぶす動作は停止していた。俺が恐怖のあまり震える顔を横に向けると、 そこにはふらふら状態になりながら、停止ボタンを押している作業者の姿が。見上げるとようやく起きたのか、 唖然とするトラックの運転手の姿も見えた。隣では背中を打ったショックかハルヒが悶えている。 ――助かった。本当に寸前のところで俺たちは死から回避できたんだ…… 俺とハルヒは興奮状態を押さえつつ身体に付いた生ゴミの破片を払っていた。事故を起こした運転手が 涙ながらに警察に連絡しているのが聞こえてくる。 ハルヒは眉をひそめて、 「これでわかったでしょ! まだ終わっていないのよ! 今のは運が良かっただけ! また狙われるわ!」 そう怒鳴ってきた。しかし、俺は額に手を当てて、あの死を覚悟した瞬間のフラッシュバックを 再度思い出していた。 次々と死んでいく人たちの光景――思い出すべきは最後の瞬間だ。俺は落下してきたトレーラーの破片に 潰されたと思っていた。だがそれは違う。 今のショックのせいか、記憶が鮮明に蘇ってきた。 俺が戻れと念じる間、俺の身体の数センチ横に落下するトレーラーの破片、そして横でやけどぐらいは負っている かもしれないが、生きているハルヒの姿…… 「違う」 「何よ?」 「違うんだ!」 俺は無我夢中でハルヒの身体をつかみ、 「今のショックで全部完全に思い出したんだよ! 俺とお前はあの事故で死んでいない! 少なくても俺はそこまでは 見ていなかったんだ! だから俺たちは狙われていないはずだ!」 「じゃあ今のは何よ! どうみても偶然があたしたちを襲ってきたわよ!」 ハルヒの反論に俺はうっとうなる。あの事故で俺たちが死んでいないのなら、今の粘着的【偶然】は起きないはずだ。 いやまて。 ちょっと待てよ? 「あのトラック、タクシーに突っ込む前に軽自動車をはねなかったか……?」 「それが何か――」 俺の言いたいことに気が付き、ハルヒの顔色がみるみる変わっていった。そして、すぐに走り出す。 トラックにはねとばされた軽自動車はスピンして、最後には電柱に衝突していた。エンジンの部分から煙を 立ち上らせている。 運転手はエアバッグが作動して無事らしい。衝撃で意識が朦朧としているのか、額に手を当てて呻いていた。 俺たちはエアバッグで見えない助手席の方に回り込む。 「そ……んな……」 その光景を見てハルヒが地面にへたりと座り込んだ。 助手席には書道部部長(女子)がいたからだ。どういう訳だかシートベルトが外れ、エアバッグも作動せず フロントガラスに顔を突っ込んでいる。ぴくりとも動かないところを見ると、もう助かる見込みはない。 今の偶然は本当にただの偶然で、本当の狙いは書道部部長(女子)だったんだ。いや、あるいは俺たちに 彼女の救助をさせないために一時的な窮地に追い込んだのか? 考えればきりがない。 俺はハルヒの手を引き、離れた場所に移動させる。 ここでハルヒは我を取り戻し、 「さっき言ったことを説明して! あたしたちは死なない。少なくてもあんたはそこまでは見ていない。 それで良いのよね?」 「ああ、完全に思い出したぞ。すまねぇ、今の今まで記憶の片隅にもなかったんだ」 「そんなことより! 他には? 他に何か思い出せない? もっと違和感がある部分とか不自然なところとか。 あと実は巻き込まれていなかった人が他にいたとか!」 ハルヒの追求に、俺は額に指を当てて記憶を探り始める。 一つ、気が付いた。 「朝比奈さんがいない」 「みくるちゃんが?」 俺は頷き、 「そうだ。記憶を探っても朝比奈さんが事故現場のどこにもいないんだ。いや、単純に俺の視界に 入っていなかっただけかもしれないが……」 その言葉に、ハルヒはきっと表情を引き締めた。 俺はすぐに止めるようにハルヒの前に立ちふさがり、 「待て待て! 朝比奈さんが犯人と限った訳じゃない。確かに未来人で可能性はゼロじゃないが、 事故に巻き込まれたことに俺が気が付かなかっただけかもしれないんだ!」 「……それはわかるけど、他に怪しい人がいるって言うわけ!?」 「だからといって決めつけられねぇよ! 朝比奈さんがそんなことを平然とできるわけがないってのは 短い間とはいえ触れあったお前にだってわかるはずだ――」 言ったとたんに重要なことを思い出すのはなぜだろうか。英語で言うところで、シット!とかサノバビッチ!とか 叫びたくなる瞬間である。 朝比奈さん(大)からの指令書を朝比奈さん(小)が見たときに、こう言っていた。 特殊なコードを一度見ると、指示通りに動くしかなくなると。 つまり朝比奈さんは自分の意思でなくても、こういった残虐な行為をやってのけることができる。 未来からの指示に従うしかないのだ。 「……全く今更な情報をこんな時に出してこないでよ! 出し惜しみしてんじゃないでしょうね!」 「スマンとしか言いようがない! だが、それでもできるからと言ってやったことにはならないぞ。 証拠が欲しいんだ。それに例え朝比奈さんが犯人だとしても証拠がわかれば次の手に先回りできるかもしれない」 俺の言葉に、ハルヒは決意を込めた声で応えた。 「……時間平面の検索をしてみるわ」 俺たちはさっきの事故現場の処理に追われるのを横目に、隣接した公園で時間平面の検索とやらをやっていた。 とは言ってもやっているのはハルヒだけで、俺は念のために谷口・国木田・朝比奈さん・鶴屋さんに連絡を取ろうと している。しかし、こんな時に限って誰ともつながらない。コールしても反応なしか、コールすらしないか どちらかである。 「ああもうダメだわ! 探す先が多すぎてとてもじゃないけど無理!」 ハルヒはいらだって髪の毛をかきむしった。俺も誰とも連絡の取れない状況に苛立ちをぶつけるように 携帯を閉じる。 「時間平面って言っても、それこそ天文学的数値をそれでかけたよりも多い情報量なのよ。 ピンポイントに特定の情報を探しだせって言われても無理だわ!」 誰に言っているのかわからないように怒鳴るハルヒ。こいつの力でも無理なのか。 どうすりゃいいんだ……どうすりゃ…… ふと、ハルヒが持っていた手帳を時間平面に例えているシーンが脳裏に過ぎる。 このページのどこにどの情報があるのかすぐにはわからない。それは一つ一つ調べて行く場合膨大な時間が 費やされるからだ。情報統合思念体の目の届くうちでは不可能。 俺は思案しながら周囲をうろつく。かりに朝比奈さんが犯人だったとしよう。そうなると手段は TPDDという時間を超える装置のようなものを使って行っているはずになる。 そうならば、時間平面は朝比奈さんによって改竄されているはずだ。探せばいいのはその改竄されている場所。 ではそこはどこだ? しかもそれが一発でわかる方法がなければならない。 ん? 何か聞いた憶えのある話だ。改竄……手を加える……わかる…… ……… …… … 事故が発生する前、まだみんな普通に書道部活動をしていたときの話だ。 俺は谷口の書いた習字を見ていた。 「お前の字も俺とは違う意味で下手だよな」 「うるせーな。人のこと言える立場かよぉ」 口をとがらせる谷口。ふと、俺は何を思い立ったのか、谷口の習字の上からおかしいと思う箇所に ちょこちょこと修正していってみた。 ほどなくして、きれいに整形された字が完成する。 谷口はこれを見て、 「おおっ。結構きれいな字になったじゃねーか。これなら結構いけた評価がもらえるかも知れないぜ」 「習字の合作なんて聞いたこともないがな」 そんな感じで話しているところに、書道部部長(女子)がやって来て谷口が俺の貢献を無視して どうです俺の美麗な字は!とかアピールを始める。 が、あっさりと誰か跡から弄ったでしょと指摘して、驚愕の表情で谷口を唖然とさせた。 「何でそんなに簡単にわかるんだ?」 そう俺が聞いてみたら、書道部部長(女子)はこう答えた。 最初に書いてあったものに、別の人が手を加えればすぐにわかる。一人一人やり方が違うから、 書いた部分には必ず個人の癖が出るから。一部だとわからないけど、全体を見回せばすぐに気が付く。 その指摘に俺はなるほどと感心して―― … …… ……… 「ハルヒ!」 俺は思わず叫びながらハルヒの元に駆け寄り、肩をつかむ。 「……何よ?」 頭を抱えていたのままのハルヒの顔を無理やり上げさせると、手に持っていた手帳を奪い取り、 「いいか、気が付いたんだ。良く聞いてくれ」 俺はそういいながら空白の両開き二ページを開く。片方は空白のまま、もう片方には手帳に付けられていたペンで 一つだけ黒い点を打っておいた。 「この二つのページの違いはわかるよな? 違いはこの点だけだ」 「そんなの見ればわかるわよ」 「そう見ればわかるんだ。だが、二つのページの一つ一つを解析していったら膨大な時間がかかるはずだろ? でも、今これをどこが違うのかすぐに答えられる。この違いがわかるか?」 俺の言葉にハルヒははっと気が付いた。さすがに察しが良い。 「このページに詰まっている情報を1個ずつ見るからダメなんだ。ページ全体で見てみろ。 どこが違うのか一目瞭然。そして、考えたくはないが朝比奈さんが犯人なら時間平面を弄っているはずだ。 なら時間平面を全体から見てみれば、どこが弄られたのかすぐにわかる。弄ったところは確実に違和感が出るからな。 それがどれだけ巧妙に仕掛けてあったとしても、改竄したことには変わりない。それがこの黒い点となる。 お前が探せばいいのはページ全体から見たときのこの黒い点だけだ。これなら探せないか!?」 俺の指摘にハルヒはしばらくあごに手を当てて思案していたが、徐々に表情が明るくなっていき、 「……できるかも。いやいけるわ! 大手柄よキョン!」 ハルヒはまた目を瞑って、時間平面の検索とやらを始める。 頼むぞ、情報統合思念体。少しの間だけはハルヒが無自覚にやったこととして見逃してくれ…… しばらくしてハルヒがはっと目を開いた。何かを見つけたらしい。 「手を出して。あんたの視覚回路に得られた情報を渡すから」 「お、おう……」 俺はかなり嫌な予感が頭の中を駆けめぐったせいで、一瞬ハルヒの手を取ることを躊躇してしまう。 だが、すぐに意を決してその手をつかんだ―― 唐突に俺の脳裏に多数のフラッシュバックが起きる。 火災の起きた女子部員の部屋の中。 誰もない。 いや違う。キッチンに北高のセーラー服を着た人物がいる。 朝比奈さんだ。まるで完全犯罪をたくらむ犯人のように手には手袋が着けられている。 電子レンジに何か細工している光景。 天井に据え付けられている戸棚の包丁の位置を細工する光景。 冷蔵庫を微妙な角度で傾ける光景。 ガス管に切れ込みを入れる光景。 どこかに電話をかける光景――電話機のディスプレイには書道部顧問の名前が浮かんでいる。 ああそうか、女子部員じゃなく朝比奈さんに呼ばれていたのか…… 爆発する電子レンジで首を切り、ふらふらとよろめく女子部員の姿をじっと隠れて見ている朝比奈さんの姿。 ふと何かに気が付き、あわててリビングから出ていき、開きかけていた玄関の扉を閉める。 ――ここで一旦間をおき、またフラッシュバックが続く。 俺が助けた男子生徒が蹴った交通標識の根元に細工する朝比奈さん。 看板に何か細工している朝比奈さん。 トラックの運転手に手を当てて眠らせる朝比奈さん。 ジェットコースターのレールみたいな場所で何かの細工をする朝比奈さん。 ………… ………… ほどなくしてハルヒの手が俺から離れる。戻ってきた視界には、ハルヒの悲しげな表情が浮かび上がってきた。 これで俺ももう言い訳できない。 ――犯人は朝比奈さんだ。時間遡行を繰り返して、【偶然】が起きるように細工している。 だが、俺の頭はまだ拒否反応を示していた。いくらあらかじめ仕掛けを施していても人を殺害できるほどまでの【偶然】を 起こせるようにできるのか? これに対してハルヒは、失望の色に染まった顔を見せつつ、 「できるわよ。時間を戻せるって事は難解もやり直せるって事だから。うまくいくまで数百回でもやればいい。 あたしたちが女子部員の部屋にいったときも、実は時間平面の書き換えがかなり行われていたんだわ。 その過程でドアの鍵が開いていることにみくるちゃんが気が付いて、あわててそれを閉めるパターンへと書き直した。 へんなところでドジッ子ぶりをみせてくれちゃって……」 そう肩を落とした。 そう言えば交差点での事故の直前、一瞬朝比奈さんがいなくなっていた。あの時も書き換えまくって、 一瞬だけ書き換え途中でその場からいなくなることがあったのだろう。 つまり結論を言えば、時間を自由に移動できればそういった【偶然】を装った殺人もできると言うこと――だ。 「もう……言い訳できないわね。あんたも……あたしも……」 「そうだな……」 俺たちはここでようやく観念した。今まで二人ともやはり朝比奈さんが犯人じゃないと信じたかったのだろう。 だが、現実は違った。もうこれは受け入れるしかない。 と、ここでハルヒが立ち上がり、 「落ち込んでいる場合じゃないわ! やることはまだあるのよ!」 そう気合いを込めて言う。 その通りだ。まだ狙われる予定の人がいる。谷口・国木田・鶴屋さん――みんなの命を助けなければならない。 そして、朝比奈さんにこんなばかげた行為を止めさせる。例えそれが未来からの指令だとしてもだ。 ハルヒはすぐに鶴屋さんに何とか連絡を取ろうと携帯電話をかけ始めた。だが、つながらないらしい。何度もかけ直す。 俺も国木田に再度連絡してみる。だがやはりつながらない。 続いて谷口につなげてみたところ――つながった。 『よー、キョンか? なんかあったのか?』 「おい今どこにいるんだ!?」 『おいおい、そんなに焦ってどうしたんだよ。お、そうか、ようやく知ったのか。 ならば聞いて驚け! 今朝比奈さんと一緒に遊園地に来ているのさ! ただ残念ながら国木田もいるけどな』 キョンからの電話かい?という国木田の声が流れてきた。二人ともそんなところにのこのこと出かけているじゃねえよ…… 俺ははっと思い出した。さっきの朝比奈さんの仕掛けフラッシュバック集の中にジェットコースターに仕掛けを しているものがあったことを思い出す。まずい、やばい! 俺はできるだけ事情を複雑化させないよう端的に説明する。 「いいか良く聞けよ! お前らに危険が迫っているんだ。今すぐ安全そうな場所――できるだけ何もない場所に 移動しろ。ああそうだ、特にジェットコースターには絶対に乗るな!」 『今更言ってもおせーよ。今乗っている最中だ。もう出発しちまったしな』 ……遅かった。しかも隣には国木田も乗っている。このままでは二人とも死んでしまう。 いやまだ間に合うはずだ。そうに決まっている。 「何でも良いから降りろ! 頭がおかしくなったフリでもしろ! このままだとお前と国木田が死んじまう!」 『ああん? あの涼宮のヨタ話を信じているのか? あいつが言ってから数日間何にもおきてねーだろうが。 偶然だったんだよ偶然。今更そんなくらい話を引きずっていてたまるかってんだ』 くっそ。話を聞きやしねぇ。そうだ朝比奈さんはどうしたんだ? 一緒に乗っているのか? 『いやー、一緒に並んでいたんだけどよぉ。途中で怖くなっちまったみたいでな。乗らずに下で待っているってさ』 俺が格好良く乗りこなして見せてやる。そうすりゃ、朝比奈さんも俺に対して小さな好意を抱き――』 もうこれはビンゴだろう。朝比奈さんが抱いているのは好意じゃなくて殺意なんだよ。 だが、もう遅かった。ほどなくして、谷口の少々緊張気味の声が聞こえてくる。 『さてもうすぐ絶叫タイムの始まりだ。おお、せっかくだからキョンも臨場感が味わえるように このまま携帯をつなぎっぱなしにしておいてやるよ。俺と一緒に楽しんでくれ』 楽しめるか。死の瞬間なんて! だが、俺の言葉も届かず、ジェットコースターが加速を開始したらしい。激しくぶつかる風の音と 多数の悲鳴が聞こえてくる。谷口と国木田も喜びの入り交じった悲鳴も聞こえてきた。 だが、すぐに別の悲鳴になる。 助けてくれ! おいなんだこれ! 突然浮き上がって! た、谷口助けて――うあっ! 国木田! おい――うおああああああああ! ………… ………… ………… がちゃん。 携帯電話が何かがぶつかった音が聞こえる。それでも通話は切れることなく続く。 ――大変だ! ジェットコースターから誰かが落ちたぞ! ――救急車を呼べ! ――なんなのよこれ! ――ダメだもう! 俺は聞くに堪えられなくなり、こっちから通話を終えた。俺の会話を聞いていたハルヒも絶望に染まった顔で こっちを見つめている。 「谷口と国木田はもうダメだ……だが、まだ鶴屋さんがいる」 何でも良いから俺は気持ちを切り替えたかった。まだ助けられる人がいると、二人の死をごまかしたかったのかも知れない。 俺はすぐに携帯で鶴屋さんにかけてみる。最初は電波すら届かなかったが、ほどなくしてようやくつながった。 『やあキョンくんっ。なんかあったのかいっ?』 「落ち着いて聞いてください。いいですか落ち着いて――」 『落ち着くのはキョンくんの方じゃないのかいっ? 声が震えてしまっているよっ。一回深呼吸してみるっさ』 鶴屋さんの指摘に、俺は一旦冷静さを取り戻す時間を与えてもらえた。そうだ、落ち着いて話さなければ、 相手に伝わるものも伝わらない。 俺はまず確定した事実を伝える。 「部長が亡くなりました。交通事故で俺たちの目の前で。あと谷口と国木田も多分ダメだと思います……」 『そう……』 鶴屋さんの声はどこか悲しげで、その一方寂しげに聞こえた。一緒にガタンガタンと列車の走る音も聞こえる。 振動音から見て鶴屋さんは今列車に乗っているのか? 「次は鶴屋さんの可能性が高いんです。今電車の中ですか? すぐに安全な場所に移動してください。 俺たちもすぐに向かいますから」 『今は電車の中だよ。誰もいない最後尾の車輌に座っている。あはっ、これは狙うなら絶好の機会だねっ』 その口調に俺はぎょっとした。鶴屋さん、あなたまさか…… 『そうさ。もうすぐあたしの前にも現れるんだよね? その死神――みくるがさ』 「……気が付いていたんですか?」 『はっきりとじゃないよ。でもあの子は嘘が凄く下手だからねっ。会ってすぐにどこか普通の人とは違うって事は わかったのさ。でも、みくるがあたしに言わないならこっちから聞くようなことはしなかった。そんな必要もないから』 ゴーッと対向列車が通り過ぎたんだろうか、携帯電話から大きな風キリ音が聞こえてくる。 鶴屋さんは続ける。 『でもこの一週間はさらにみくるの様子は変わった。本当に心のそこから悩んでいるみたいだったよっ。 同時にいっぱい人が死んだ。直感的にわかったね、みくるがこの事件に関与しているって事が。 でもさすがにあたしもこれ以上黙ってはおけなくなったよ。だから、みくるに直接あってケリを付けるつもりっさ』 鶴屋さん……あなたって人は……! だが、今の朝比奈さんの行動は自分の意思関係ない可能性が高い。鶴屋さんの説得に耳を貸すとは思えない。 『……おっと、来たようだよ。お出迎えが』 「鶴屋さん待ってください! せめて居場所を――」 『じゃあ、また学校でね――』 ツーツーツーツー…… 電話がとぎれる。俺は即座にリダイヤルしたが、電源を落としてしまったのかもう通じない。 俺はしばらく呆然と立ちつくしていた。鶴屋さんは理解はしていないが、朝比奈さんが犯人だと気づいていた。 そして、今直接会ってこれ以上の惨劇を食い止めようとしている…… 「……あたしのせいよ」 その会話を聞き取っていたのだろう、ハルヒが地面に座り込んだ。呆然と真っ青な顔を浮かべている。 ハルヒは続ける。 「あたしがあんたに予知能力なんか与えたからこんな事態になったのよ。そんなことをしなければこんな事態には……」 「それは違うぞハルヒ」 俺はハルヒの肩をぐっと持って立ち上がらせた。 そして次に顔を持って、 「いいか? お前が予知能力をくれたおかげで、あの事故を免れることができたんだ。確かに、結局死んだ人ばかりだが、 それでも鶴屋さんはまだ生きている。お前は鶴屋さんに生き延びるチャンスを与えたんだよ! だから、絶対に悪いことなんてしていない! まだ助けられる! 意味の無かったことにしないために 鶴屋さんを助けるんだよ!」 「……でもどうすればいいのよっ!」 ハルヒのヒステリックな声。俺は頭をフル回転させ、 「とりあえず鶴屋さんの場所を確認してくれ。そして、そこに俺とお前を移動させるんだ。SFとかであるワープみたいにな。 それくらいできるんだろ?」 「場所を探せるけど、移動は――可能だけど確実に情報統合思念体に気づかれるわ! 長距離だったら 時間平面上の痕跡は凄く大きくなるから……」 「そんなことはもうどうでもいいんだよ! ばれてリセット上等だ!」 俺の言葉に、ハルヒははっと息を呑んだ。俺はまくし立てるように続ける。 「俺はもうキレたぞ。鶴屋さんをを助ける。今はそれ以外は考えねえ。例えその結果情報統合思念体が 世界を滅ぼしても、朝比奈さんを説得する方を最優先にしたい。そうすれば例えリセットになっても、 次にやり直すときに対応策がわかるってもんだ。ただ待っているだけじゃ何にも変わらないんだよ! この世界がダメなら、せめて次にいかせる結果が欲しいんだ!」 「…………」 ハルヒは俺の言葉をしばらく黙って聞いていたが、やがてふんっと鼻を鳴らしいつも表情に戻ると、 「わかった。あんたの決意にかけてみるわ。でもみくるちゃんをどうやってつもりなのよ?」 「……それは会ってからときに感じたままを言うだけさ」 ◇◇◇◇ 「朝比奈さんっ!」 「――――っ!」 予想外にかけられた言葉に、見慣れた北高のセーラ服に身を包んだ朝比奈さんは声にならない悲鳴を上げた。 俺とハルヒがワープした先は、俺たちのいた場所からかなり離れた線路だった。ちょうど駅と駅の中間に位置し、 辺りには田んぼと点在する民家しかない。人工的な雑音は何も聞こえず、ただ風が草をなでる音だけが耳に広がる。 状況は最悪に近かった。列車に乗っていたはずの鶴屋さんはなぜか線路の横で横たわり、すぐそばには 大きなナイフを持った朝比奈さんがまさにとどめを刺そうとしている。 「ど……どうして……!?」 突然ここに現れた俺とハルヒに、朝比奈さんは理解できないと困惑の表所を浮かべながら後ずさる。 そばには鶴屋さんがいるが、胸が上下しているところを見るとまだ生きているみたいだ。 ただ和服調の服装がぼろぼろになり、全身土まみれになっていることとさっきまで列車に乗っていたはずなのに 停車駅でもないこんな場所で横たわっていることから判断して、列車から朝比奈さんが突き落としたのか? いや、実際に手は加えず、【偶然】転落するように細工が仕掛けられていたんだろう。 俺とハルヒは叫ぶ。 「朝比奈さん、もうやめてください! これ以上人を殺めるあなたの姿は見たくありません」 「そうよみくるちゃん! もうやめて!」 「できません!」 朝比奈さんは即答した。あまりに歯切れのいい回答に俺は驚く。 逆らえないようになっているのか、それともそれほどまでに固い決意で望んでいることなのか。 どっちにしたって構わない。今は朝比奈さんと止めて鶴屋さんを救えりゃなんでもいい。 俺はやぶれかぶれで知っている情報を出しまくる。 「俺は知っています。朝比奈さんが未来からやって来たエージェントであることも、たまに送られてくる指令には 絶対に逆らえないものがあるって事も。それをふまえた上でお願いしているんです! もうこんなことは!」 俺の言葉に、朝比奈さんは仰天し、 「ど、どうしてそんなこと知っているんですか!? それに突然ここに現れたり、以前も死ぬはずだった人を 助けたりして、キョンくんはいったい何なんですか!?」 「俺のことはいいんです! 説明して止めてくれるなら、後でいくらでも説明します!」 「でも、キョンくんが何者でもあたしは自分の任務からは逃れられません! やるしかないんです!」 「理由は何ですか!? 一体どうしてこんな事をするひつようがあるんですか!」 俺の問いかけに、朝比奈さんはうつむいて、 「鶴屋さんはあの事故で死ぬはずだったからです。いえ、鶴屋さんだけではなく書道部の部員やキョンくんの お友達たちも。それが既定事項なんです。絶対に変えることのできない事。これを変更してしまえば あたしたちの未来はなくなってしまう。他に選択肢はありません」 「なぜですか!? 鶴屋さんたちが一体何をするって言うんですか!?」 朝比奈さんはちらりと息も絶え絶えの鶴屋さんの方に視線を向けると、 「鶴屋さんは鶴屋家という大きな勢力の次期当主です。そして、やがて機関と呼ばれる涼宮さんを監視する 組織を作ります。その存在はあたしたちと大きく敵対することになるんです。車にはねられるはずだった人も そうでした。彼も機関で大きな役割を果たすことになります」 機関――まさか超能力者がいないこの世界でその名を聞くことになるとは思わなかった。 鶴屋さんが機関を作る? 確かに俺の世界の古泉は鶴屋家は機関に関わりがあると言っていた。 しかし、なぜ機関を潰す必要があるんだ? 俺の世界では仲良くとはいかないが、共存はしていたはずだ。 いや待て。朝比奈さんの言う機関と俺の知っているそれでは決定的な違いがある。それは超能力者の存在、 つまり神人を倒すという役割。未来人にはそれができないから、機関にやってもらうしかなく、潰すことはできなかった。 だがここでは違う。消すべき閉鎖空間も倒すべき神人もその役割を持つ超能力者もいない。 「機関は情報統合思念体と結託して涼宮さんが能力を自覚した場合、涼宮さんを排除する取り決めを持っていました。 でも、あたしたち未来には涼宮さんは絶対に必要だったんです。細かい点ではあたしも知らされていません。 ですが、涼宮さんは絶えずあたしたちの未来への道を引き続けました。だから、排除されては困るんです。 そう言った思想を持つ組織もあってはならないんです、あたしたちにとっては」 朝比奈さんの言葉に、俺は三者竦みという言葉を思い出していた。完全ではないが、情報統合思念体・機関・未来…… これらは大きな力のバランスを取りつつ成り立っていたのが俺の世界だった。どれか一つでもかければ バランスが崩壊し、どこかが暴走する。前回は機関で、今回は未来――そういうことか。 「ですが、不幸な事故――あのトレーラーと軽トラックの接触事故で鶴屋さんは亡くなるはずでした。 実はこれも未来の別の人が起こしたものなんです。あそこで絶対に鶴屋さんに死んでもらわないとダメだったんです。 その結果、機関の誕生は大幅に遅れ勢力の小さいものになり、あたしたち未来は機関に対して常に優位性を保持できたんです。 なのに……キョンくんがそれを阻止しました。あの時TPDD何度もやり直したんです。でもキョンくんは絶対に止めました。 やむえずあたしたちは方針を変えて、つじつま合わせをすることにしたんです。別の理由で死んでも同じ事でしたから。 それが今回のあたしが未来から受けた指令。偶然に見せかけて、既定事項で死ぬはずだった人を全て抹殺すること。 訳がわかりません。どうして起こることが事前に予想できたんですか? TPDDも持っていないはずなのに!」 「……あたしが予知能力を与えていたからよ。二回限りだけどね」 ここに来てハルヒが口を開いた。この言葉に朝比奈さんは唖然と口を開け、 「涼宮さん……自分の能力を自覚して……」 「そうよ。あたしはあたしがどういう存在なのか知っているわ。全部は知らないけど、それが原因で 情報統合思念体から疎ましく思われていることも理解している。キョンはあたしが予防措置のとして持たせた 二回の予知能力を使ってその既定事項とやらを回避させたのよ。最初は自動車にはねられるはずだった男子生徒。 次にあのトレーラーとの大きな事故をね」 「……そんな……そんな事って……じゃあもう……」 ふるふると朝比奈さんは首を振った。さっきまでの話だと朝比奈さんもハルヒの力の自覚は 情報統合思念体が地球を滅亡させるきっかけとなると理解しているようだ。 ハルヒはきっと朝比奈さんに鋭い視線を向けると、 「みくるちゃん。あたしは本音が聞きたいの。こんなことしたいのかどうかって。安心して。 みくるちゃんにかけられていた言葉の制限はさっきあたしが全部解除したわ。好きにしゃべれるはずよ」 「えっ……あ、ああ……」 こいつ禁則事項を解除していたのか。さすがだよ。 ハルヒは一歩前に踏み出し言う。 「宣言するわ。あたしは絶対に諦めない。情報統合思念体だろうがなんだろうが、あたしは決して屈しない。 試行錯誤も模索でも何でもやって絶対に進むべき道を作り出してやるつもりよ! 未来の都合なんて知ったこっちゃないわ。 あたしはあたしが思うように生きていく。その時みくるちゃんもそばにいて欲しいのよ!」 俺もハルヒの横に立ち、 「朝比奈さん! あなたは書道部での活動は楽しかったって言いましたよね! あれは嘘じゃなかったはずです! それに鶴屋さんに対しての感謝の言葉もです! だから拒否してください。無理ならハルヒが何とかしてくれます!」 俺の言葉につられたのか、鶴屋さんはすっと手を朝比奈さんに伸ばし、 「みくる……一緒に行こう……みんな待っていてくれているんだよっ……」 三人の言葉に朝比奈さんは半分涙目になっていた。 ――しかし、それでも首を縦には振らなかった。 「あたしは99%今回の任務は嫌でした。あたしは鶴屋さんに心の底から感謝していたし、 書道部での活動も凄く楽しくてそのまま何も起こらずに続いていけばいいとも思っていました。 でも残り1%の自分は違うんです。やらなければあたしとあたしの未来が消えてしまう。そんなのはイヤです。 嫌なんです! だからこうするんですっ!」 朝比奈さんはナイフを振り上げる。ダメだ朝比奈さん! やめてくれ―― 飛び散る鮮血。俺はその現実に激しいめまいを覚えた。 胸にねじ込まれたナイフが北高のセーラー服を汚し、ふらふらと鶴屋さんのそばに倒れ込む。 ――そう朝比奈さんは自分の胸をナイフで突き刺したのだ。なんでだ!? 「朝比奈さん!」 「みくるちゃん!」 俺とハルヒは倒れ込んだ朝比奈さんの元に駆け寄る。胸からは多量の出血が始まり、口からも漏れ始めていた。 「みくるっ……みくるっ……!」 鶴屋さんも酷い重傷の身体を引きずりながら、朝比奈さんにすがりつく。 何でこんな事をしたんですか!? 朝比奈さんは俺たち三人にニコリと力なく微笑み、 「これで……残りの1%の自分の消せ――ました。これでいいんです……やっと99%の自分が100%になれたから……」 「こんなの違う! こんなの間違っている! あたしは認めない! 絶対に死なせない!」 そう言ってハルヒは朝比奈さんを治癒させるべく手をかざして…… それと同時だった。突然激しい地鳴りが始まり、地面どころか空間も歪み始める。 これってまさか!? ハルヒはがっくりと肩を落としていった。その目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。 「情報統合思念体の……排除行動が始まったわ……」 「そうか……ちくしょうここに来て……!」 俺は地面を拳で殴りつけた。覚悟の上だったはずだ。でも、こんなところで終わりなんてあんまりじゃねえか…… ハルヒは袖で涙を振り払うと、すっと立ち上がり、 「リセットするわ。キョン、みくるちゃんと鶴屋さんをお願い……」 そう言って目を閉じて情報操作を開始する。 朝比奈さんと鶴屋さんは予期せぬ状況に不安げな表情を浮かべ、 「なんなんですか……どうか……したんですか……?」 「キョンくん……これは……」 俺はそんな二人を抱き寄せると、 「大丈夫ですよ。もうすぐ何もかも無くなります。そして、次に目を覚ましたときはきっとみんな平穏無事に 学校ライフを満喫しています。俺が保証しますよ」 朝比奈さんは俺の言葉に目に涙を浮かべて、 「そっかぁ……次に目を覚ましたら、あたしみんなとずっと友達でいられるんですね……ふふっ……」 そうですよ。あなたはSOS団のマスコットキャラであり、俺の癒しの存在です。他のステータスなんて入りません。 未来人であることを押しつけてくる奴がいたら、そいつは窓から投げ捨ててやります。 と、ここで鶴屋さんがすっと頬に手を当ててきて、 「キョンくんは……ちょっとハルにゃんやみくるとも違うね……見ている方向が違う……っさ。 キミの瞳の中には……もっとずっと先の明るい未来が見えている気がするよっ……。でもハルにゃんはまだ迷っている…… キョンくん、きちんと面倒……見てあげないと駄目にょろよ……」 ええわかっています。あなたはSOS団名誉顧問。あとハルヒのことは任せてください。 あいつは俺がきっちりと導きますから。 やがて地面の振動を飲み込むように、世界が暗転し始める。 その時、ふと気が付いた。数百メートル離れた先に立っている北高のセーラー服を着た一人の少女。 長門有希だ。 きっとパトロンの命令でここに駆けつけたのだろう。 待ってろ長門、次はお前をこっち側に引き入れてやるからな―― ……… …… … ◇◇◇◇ 次に気が付いたときにはあの灰色の教室――時間平面の狭間にいた。 俺はだらんと力なく壁に寄りかかっている。 すぐ隣ではハルヒが同じように呆然と俺に頭を寄せていた。そして、つぶやくように言う。 「……疲れた」 「そうだな……」 「……みくるちゃんとはあんまり遊べなかったな……」 「次はきっとできるさ……」 俺たちはそのまま一眠りすることにした。さすがに色々あり過ぎて今回もくたびれちまったからな。 意識が闇に落ちていく中、俺はふと考える。 機関と未来人の均衡関係。やはりこの二つは並立して存在してこそ成り立つものなんだ。 そうなるとあと残りは一つ。全ての頂点に位置し、ハルヒの力の自覚を決して認めない最大の敵。 奴らを何とかすれば、きっとバランスの取れた世界が切り開けるはずだ―― 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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◇◇◇◇ 土曜日、明日になれば自動車事故から一週間になろうとしている。 幸いなことに月曜日以降、誰も死ぬどころか危険な目にあっていなかった。 今日、俺はハルヒと一緒に、先週の事故発生現場を廻っていた。歩くと時間がかかるので、タクシーを使って移動している。 いろいろ確認したいこともあるらしい。 まず看板に潰された男子生徒の現場に立っていた。 倒れてきた速度規制の看板はすでに新しい頑丈なものに直されていた。商店の上にあった看板は撤去されたままである。 あの事件を思い出す要因を残しておきたくないかもしれない。 「すっかり現場が変わっちゃっててこれじゃ調べようがないわね」 何も見つからずにその場を去り、続いて野球ボールのせいで死んだ女子部員の現場、火事が原因で死んだ女子部員と顧問の現場と 廻っていったが、やはり何も見つからなかった。まあ、目で見つけられる問題があるならとっくに警察が回収しているだろうが、 ハルヒもただじっとしている気にはならないのだろう。何か手がかりがないかともがいているに違いない。 俺たちは黙ったまま、当てもなくタクシーを走らせていた。 深刻そうな顔のままのハルヒに対して、実のところ俺は少々楽観的になりつあったりする。 この一週間何も起きていないからな。本当にただの考えすぎで、【偶然】の事故だったのかもしれない。 死が追っかけてきているなら、三人立て続けに始末してからそれ以降何もしないってのは、おかしな話だからな。 と、ここで急にタクシーが止まる。何でも急に催してしまったらしい。そこで一旦近くの公園のトイレに寄りたいとのこと。 まあ、朝から乗りっぱなしだからな。メーターの金額は目を飛び出す状態だ。ハルヒがどっからちょろまかしたのか知らないが 沢山のタクシーチケットを持っていなければ、俺は即刻破産するところだ。 タクシーは程なくして二車線道路に隣接している公園脇に一時駐車して、運転手がエンジンを止め鍵を掛けて出ていった。 と、タイミングを狙ったかのように俺たちの目の前にゴミ回収車が止まって、作業員たちが 公園脇にあったゴミ集積場のゴミを回収車に投げ入れ始める。 邪魔者がいなくなったということで、俺はハルヒとの会話を始める。 「なあ、俺たちの考え過ぎだったんじゃないか? 実際この一週間何も起きていないんだ」 「……だといいんだけどね」 ハルヒは表情を固めたまま崩そうとしない。何を心配しているのだろうか。まあこいつの勘は恐ろしいレベルだからな。 きっとまだ何か嫌な予感が続いているのだろう。 俺はふと先にトイレを誰かが占拠していたらしく必死に我慢しながら順番を待っているタクシーの運転手を横目に、 「そんなに心配ならお前の力で何か調べられないのか? 情報統合思念体の目もあるだろうから難しいだろうが、 何もできないって事はないだろ。少なくてもこの時間平面を支配しているのはお前なんだから」 「あのね、キョン。言っておくけど、あたしはやり方はわかるけどその膨大な情報量を処理する能力まで持っていないの。 時間平面に存在している情報量がどれだけのものか考えたことある?」 ここでハルヒは懐からメモ帳を取り出し、空白の一ページをこっちに見せつけると、 「これがある時間平面をさしているとして、このページに存在している全てを調べるとなると、構成している原子を 一個一個見ていくような作業になるのよ? しかもページも無限にあるときているんだから。 最初にあったときに言ったけど、別の時間平面とは言えあんたの存在を見つけたのは偶然中の偶然。奇跡って言って良いわ。 同じようなことをしろって言っても無理よ」 「だが、時間と場所はある程度絞れるんだろ?」 「無理。この手帳のどこがどの時間・場所か調べるのには結構時間がかかる。それに長時間調べると 奴らの目に確実に引っかかるわ。時間平面の狭間みたいに奴らの監視の届かない隔絶された場所ならまだ可能だけどね」 ――ふと、ゴミ回収の作業員が何事か怒鳴っているのに気が付く。見れば、回収車の前面に自転車をぶつけられたらしい。 しかもぶつけたって言うのが柄の悪そうな高校生の集団で、気の荒そうな作業者と一触即発寸前でにらみ合っている。 一方のトイレに並んでいたタクシーの運転手はようやく順番が回ってきたのかすでに姿は見えない。 「ってことは結局後手に回るしかないのかよ。予知能力と同じようにあらかじめ予兆とかそんなものを 感じ取れれば良いんだけどな……」 俺の言葉にハルヒはそれができれば苦労してないと肩をすくめて首を振った。 ――背後から一台の大きなトラックが迫ってきていることに気が付く。 「ちょっと待った」 ハルヒが俺の話にタンマをかけると携帯電話を取り出して通話を始めた。書道部部長(女子)からよ、と言って お互いの無事を確認するような話を始めた。ハルヒは全員の無事を確認できるように定期的に関係者との 連絡を絶やしていなかった。これも予防措置の一環なんだろう。 やがて短い会話を終えると、携帯を閉じ、 「ちょうどすぐ近くを親と一緒に車で走っているらしいわ。とりあえずは無事みたい」 ハルヒがそうほっと胸をなで下ろした瞬間だった―― 突然背後で大きな衝突音が炸裂する。何事かと振り返ってみると、さっき背後から迫っていたトラックが一台の軽乗用車を はねとばし俺たちのタクシーに向かって突進してきていた。運転手は何をやっているんだと思いきや、 うつらうつらと居眠りを扱いてやがる。 「おいおいおい! このままだと俺たち追突されるぞ!」 「早く出ないと――あ、あれ!?」 俺たちはタクシーのドアを開けて外に出ようとするが、どういうわけだか鍵もかかっていないのに扉が開かない。 どうなってやがんだ。なんで開かない!? この瞬間直感的に俺は悟った。背後から迫るトラック、前には作業者不在のまま動作を続ける回収車…… この感じ、あの無駄に続く不幸な【偶然】だ。今俺たちは…… 「ハルヒ! 俺たち狙われているぞ!」 「言われなくてもわかっているわよ――きゃあ!」 その言葉を言い終える前に、トラックがタクシーの後部に追突した。その衝撃でタクシーが強制的に 前進させられ前の回収車にぶつかる。その衝撃でフロントガラスが崩れ落ち、俺たちの眼前に回収車の後部の ゴミ投入口が眼前に迫った。 しかし、事態はこれでは終わらない。背後のトラック運転手はまだ意識を失っているのか一向にブレーキを踏む気配が無く 延々と押し続けてくる。それがうまい具合にタクシーの車体を後ろから持ち上げて来る。次第にタクシーは 逆立ちするような状態になっていった。 つまりこのままだと滑り台の要領でタクシー前面に落下することになり、その先にはゴミを押しつぶしている機械に 二人とも巻き込まれるって事だ。 事故が起こっているんだから、作業員はとっとと戻って回収を止めさせろと怒鳴りたくなるが、あっちは 結局乱闘騒ぎになったらしく、多勢に無勢だったせいか作業員が地面に倒れていた。 一方の柄の悪い高校生たちはこの事故を見て、俺たちを助けるどころか一目散に逃げ出していく。根性なしめ! ゴミ回収車は完全に主を失い、ゴミを求めて空回りを続けている状態だ。で、そこに次なるゴミとして投げ込まれそうに なっているのが俺とハルヒである。 ハルヒは何とかタクシーの座席にしがみついて、前面に落ちないようにしている。俺もそれのマネをしていたが―― 「うわっ!?」 「――ハルヒ!」 普段あり得ない力がかかったのか、それともこれも【偶然】故障していたのか、突然ハルヒのしがみついていた 運転席が前のめりに倒れ危うくそれに沿って、ゴミ回収車の方に滑り落ちそうになる。 間一髪で俺がその腕をつかんで落ちるのを阻止するが、背後のトラックは一向に止まる気配が無く、 どんどんタクシーの車体を逆立ち状態に追いやっていった。角度が急になり、ほとんど垂直に近い状態に近づく。 地面にはゴミ回収車の投入口が待ち受けているのは変わらない。このままではハルヒが巻き込まれる。 俺は限界の限界まで力を引き出しハルヒの腕を引き上げようとした。だが、今度は俺のつかんでいた助手席が 前のめりに倒れる。 不意打ちを食らった俺はなすすべもなくハルヒともどもゴミ投入口に落下して―― 俺の頭の中に今までの人生が走馬燈のごとく蘇った。ああこれが死ぬ間際に見るっていう 記憶のフラッシュバックなんだろうな。 しかし、脳裏に蘇ってきたのはあの自動車衝突事故のシーンばかりだった。ガスボンベに体当たりされる顧問、 追突してきた乗用車に轢かれる鶴屋さん、火炎に巻き込まれる女子部員と部長、爆風で飛んできた 割れたガラスの破片に串刺しにされる谷口・国木田……そして、俺の真上から迫るトレーラーの一部が 結局俺には当たらず俺の数センチ横に落下する光景――あれ? 何かおかしいぞ? 走馬燈が停止したのは、回収口に落下した時だった。生臭い香りで胃液が逆流しそうになる。 しかし、回収口のゴミを押しつぶす動作は停止していた。俺が恐怖のあまり震える顔を横に向けると、 そこにはふらふら状態になりながら、停止ボタンを押している作業者の姿が。見上げるとようやく起きたのか、 唖然とするトラックの運転手の姿も見えた。隣では背中を打ったショックかハルヒが悶えている。 ――助かった。本当に寸前のところで俺たちは死から回避できたんだ…… 俺とハルヒは興奮状態を押さえつつ身体に付いた生ゴミの破片を払っていた。事故を起こした運転手が 涙ながらに警察に連絡しているのが聞こえてくる。 ハルヒは眉をひそめて、 「これでわかったでしょ! まだ終わっていないのよ! 今のは運が良かっただけ! また狙われるわ!」 そう怒鳴ってきた。しかし、俺は額に手を当てて、あの死を覚悟した瞬間のフラッシュバックを 再度思い出していた。 次々と死んでいく人たちの光景――思い出すべきは最後の瞬間だ。俺は落下してきたトレーラーの破片に 潰されたと思っていた。だがそれは違う。 今のショックのせいか、記憶が鮮明に蘇ってきた。 俺が戻れと念じる間、俺の身体の数センチ横に落下するトレーラーの破片、そして横でやけどぐらいは負っている かもしれないが、生きているハルヒの姿…… 「違う」 「何よ?」 「違うんだ!」 俺は無我夢中でハルヒの身体をつかみ、 「今のショックで全部完全に思い出したんだよ! 俺とお前はあの事故で死んでいない! 少なくても俺はそこまでは 見ていなかったんだ! だから俺たちは狙われていないはずだ!」 「じゃあ今のは何よ! どうみても偶然があたしたちを襲ってきたわよ!」 ハルヒの反論に俺はうっとうなる。あの事故で俺たちが死んでいないのなら、今の粘着的【偶然】は起きないはずだ。 いやまて。 ちょっと待てよ? 「あのトラック、タクシーに突っ込む前に軽自動車をはねなかったか……?」 「それが何か――」 俺の言いたいことに気が付き、ハルヒの顔色がみるみる変わっていった。そして、すぐに走り出す。 トラックにはねとばされた軽自動車はスピンして、最後には電柱に衝突していた。エンジンの部分から煙を 立ち上らせている。 運転手はエアバッグが作動して無事らしい。衝撃で意識が朦朧としているのか、額に手を当てて呻いていた。 俺たちはエアバッグで見えない助手席の方に回り込む。 「そ……んな……」 その光景を見てハルヒが地面にへたりと座り込んだ。 助手席には書道部部長(女子)がいたからだ。どういう訳だかシートベルトが外れ、エアバッグも作動せず フロントガラスに顔を突っ込んでいる。ぴくりとも動かないところを見ると、もう助かる見込みはない。 今の偶然は本当にただの偶然で、本当の狙いは書道部部長(女子)だったんだ。いや、あるいは俺たちに 彼女の救助をさせないために一時的な窮地に追い込んだのか? 考えればきりがない。 俺はハルヒの手を引き、離れた場所に移動させる。 ここでハルヒは我を取り戻し、 「さっき言ったことを説明して! あたしたちは死なない。少なくてもあんたはそこまでは見ていない。 それで良いのよね?」 「ああ、完全に思い出したぞ。すまねぇ、今の今まで記憶の片隅にもなかったんだ」 「そんなことより! 他には? 他に何か思い出せない? もっと違和感がある部分とか不自然なところとか。 あと実は巻き込まれていなかった人が他にいたとか!」 ハルヒの追求に、俺は額に指を当てて記憶を探り始める。 一つ、気が付いた。 「朝比奈さんがいない」 「みくるちゃんが?」 俺は頷き、 「そうだ。記憶を探っても朝比奈さんが事故現場のどこにもいないんだ。いや、単純に俺の視界に 入っていなかっただけかもしれないが……」 その言葉に、ハルヒはきっと表情を引き締めた。 俺はすぐに止めるようにハルヒの前に立ちふさがり、 「待て待て! 朝比奈さんが犯人と限った訳じゃない。確かに未来人で可能性はゼロじゃないが、 事故に巻き込まれたことに俺が気が付かなかっただけかもしれないんだ!」 「……それはわかるけど、他に怪しい人がいるって言うわけ!?」 「だからといって決めつけられねぇよ! 朝比奈さんがそんなことを平然とできるわけがないってのは 短い間とはいえ触れあったお前にだってわかるはずだ――」 言ったとたんに重要なことを思い出すのはなぜだろうか。英語で言うところで、シット!とかサノバビッチ!とか 叫びたくなる瞬間である。 朝比奈さん(大)からの指令書を朝比奈さん(小)が見たときに、こう言っていた。 特殊なコードを一度見ると、指示通りに動くしかなくなると。 つまり朝比奈さんは自分の意思でなくても、こういった残虐な行為をやってのけることができる。 未来からの指示に従うしかないのだ。 「……全く今更な情報をこんな時に出してこないでよ! 出し惜しみしてんじゃないでしょうね!」 「スマンとしか言いようがない! だが、それでもできるからと言ってやったことにはならないぞ。 証拠が欲しいんだ。それに例え朝比奈さんが犯人だとしても証拠がわかれば次の手に先回りできるかもしれない」 俺の言葉に、ハルヒは決意を込めた声で応えた。 「……時間平面の検索をしてみるわ」 俺たちはさっきの事故現場の処理に追われるのを横目に、隣接した公園で時間平面の検索とやらをやっていた。 とは言ってもやっているのはハルヒだけで、俺は念のために谷口・国木田・朝比奈さん・鶴屋さんに連絡を取ろうと している。しかし、こんな時に限って誰ともつながらない。コールしても反応なしか、コールすらしないか どちらかである。 「ああもうダメだわ! 探す先が多すぎてとてもじゃないけど無理!」 ハルヒはいらだって髪の毛をかきむしった。俺も誰とも連絡の取れない状況に苛立ちをぶつけるように 携帯を閉じる。 「時間平面って言っても、それこそ天文学的数値をそれでかけたよりも多い情報量なのよ。 ピンポイントに特定の情報を探しだせって言われても無理だわ!」 誰に言っているのかわからないように怒鳴るハルヒ。こいつの力でも無理なのか。 どうすりゃいいんだ……どうすりゃ…… ふと、ハルヒが持っていた手帳を時間平面に例えているシーンが脳裏に過ぎる。 このページのどこにどの情報があるのかすぐにはわからない。それは一つ一つ調べて行く場合膨大な時間が 費やされるからだ。情報統合思念体の目の届くうちでは不可能。 俺は思案しながら周囲をうろつく。かりに朝比奈さんが犯人だったとしよう。そうなると手段は TPDDという時間を超える装置のようなものを使って行っているはずになる。 そうならば、時間平面は朝比奈さんによって改竄されているはずだ。探せばいいのはその改竄されている場所。 ではそこはどこだ? しかもそれが一発でわかる方法がなければならない。 ん? 何か聞いた憶えのある話だ。改竄……手を加える……わかる…… ……… …… … 事故が発生する前、まだみんな普通に書道部活動をしていたときの話だ。 俺は谷口の書いた習字を見ていた。 「お前の字も俺とは違う意味で下手だよな」 「うるせーな。人のこと言える立場かよぉ」 口をとがらせる谷口。ふと、俺は何を思い立ったのか、谷口の習字の上からおかしいと思う箇所に ちょこちょこと修正していってみた。 ほどなくして、きれいに整形された字が完成する。 谷口はこれを見て、 「おおっ。結構きれいな字になったじゃねーか。これなら結構いけた評価がもらえるかも知れないぜ」 「習字の合作なんて聞いたこともないがな」 そんな感じで話しているところに、書道部部長(女子)がやって来て谷口が俺の貢献を無視して どうです俺の美麗な字は!とかアピールを始める。 が、あっさりと誰か跡から弄ったでしょと指摘して、驚愕の表情で谷口を唖然とさせた。 「何でそんなに簡単にわかるんだ?」 そう俺が聞いてみたら、書道部部長(女子)はこう答えた。 最初に書いてあったものに、別の人が手を加えればすぐにわかる。一人一人やり方が違うから、 書いた部分には必ず個人の癖が出るから。一部だとわからないけど、全体を見回せばすぐに気が付く。 その指摘に俺はなるほどと感心して―― … …… ……… 「ハルヒ!」 俺は思わず叫びながらハルヒの元に駆け寄り、肩をつかむ。 「……何よ?」 頭を抱えていたのままのハルヒの顔を無理やり上げさせると、手に持っていた手帳を奪い取り、 「いいか、気が付いたんだ。良く聞いてくれ」 俺はそういいながら空白の両開き二ページを開く。片方は空白のまま、もう片方には手帳に付けられていたペンで 一つだけ黒い点を打っておいた。 「この二つのページの違いはわかるよな? 違いはこの点だけだ」 「そんなの見ればわかるわよ」 「そう見ればわかるんだ。だが、二つのページの一つ一つを解析していったら膨大な時間がかかるはずだろ? でも、今これをどこが違うのかすぐに答えられる。この違いがわかるか?」 俺の言葉にハルヒははっと気が付いた。さすがに察しが良い。 「このページに詰まっている情報を1個ずつ見るからダメなんだ。ページ全体で見てみろ。 どこが違うのか一目瞭然。そして、考えたくはないが朝比奈さんが犯人なら時間平面を弄っているはずだ。 なら時間平面を全体から見てみれば、どこが弄られたのかすぐにわかる。弄ったところは確実に違和感が出るからな。 それがどれだけ巧妙に仕掛けてあったとしても、改竄したことには変わりない。それがこの黒い点となる。 お前が探せばいいのはページ全体から見たときのこの黒い点だけだ。これなら探せないか!?」 俺の指摘にハルヒはしばらくあごに手を当てて思案していたが、徐々に表情が明るくなっていき、 「……できるかも。いやいけるわ! 大手柄よキョン!」 ハルヒはまた目を瞑って、時間平面の検索とやらを始める。 頼むぞ、情報統合思念体。少しの間だけはハルヒが無自覚にやったこととして見逃してくれ…… しばらくしてハルヒがはっと目を開いた。何かを見つけたらしい。 「手を出して。あんたの視覚回路に得られた情報を渡すから」 「お、おう……」 俺はかなり嫌な予感が頭の中を駆けめぐったせいで、一瞬ハルヒの手を取ることを躊躇してしまう。 だが、すぐに意を決してその手をつかんだ―― 唐突に俺の脳裏に多数のフラッシュバックが起きる。 火災の起きた女子部員の部屋の中。 誰もない。 いや違う。キッチンに北高のセーラー服を着た人物がいる。 朝比奈さんだ。まるで完全犯罪をたくらむ犯人のように手には手袋が着けられている。 電子レンジに何か細工している光景。 天井に据え付けられている戸棚の包丁の位置を細工する光景。 冷蔵庫を微妙な角度で傾ける光景。 ガス管に切れ込みを入れる光景。 どこかに電話をかける光景――電話機のディスプレイには書道部顧問の名前が浮かんでいる。 ああそうか、女子部員じゃなく朝比奈さんに呼ばれていたのか…… 爆発する電子レンジで首を切り、ふらふらとよろめく女子部員の姿をじっと隠れて見ている朝比奈さんの姿。 ふと何かに気が付き、あわててリビングから出ていき、開きかけていた玄関の扉を閉める。 ――ここで一旦間をおき、またフラッシュバックが続く。 俺が助けた男子生徒が蹴った交通標識の根元に細工する朝比奈さん。 看板に何か細工している朝比奈さん。 トラックの運転手に手を当てて眠らせる朝比奈さん。 ジェットコースターのレールみたいな場所で何かの細工をする朝比奈さん。 ………… ………… ほどなくしてハルヒの手が俺から離れる。戻ってきた視界には、ハルヒの悲しげな表情が浮かび上がってきた。 これで俺ももう言い訳できない。 ――犯人は朝比奈さんだ。時間遡行を繰り返して、【偶然】が起きるように細工している。 だが、俺の頭はまだ拒否反応を示していた。いくらあらかじめ仕掛けを施していても人を殺害できるほどまでの【偶然】を 起こせるようにできるのか? これに対してハルヒは、失望の色に染まった顔を見せつつ、 「できるわよ。時間を戻せるって事は難解もやり直せるって事だから。うまくいくまで数百回でもやればいい。 あたしたちが女子部員の部屋にいったときも、実は時間平面の書き換えがかなり行われていたんだわ。 その過程でドアの鍵が開いていることにみくるちゃんが気が付いて、あわててそれを閉めるパターンへと書き直した。 へんなところでドジッ子ぶりをみせてくれちゃって……」 そう肩を落とした。 そう言えば交差点での事故の直前、一瞬朝比奈さんがいなくなっていた。あの時も書き換えまくって、 一瞬だけ書き換え途中でその場からいなくなることがあったのだろう。 つまり結論を言えば、時間を自由に移動できればそういった【偶然】を装った殺人もできると言うこと――だ。 「もう……言い訳できないわね。あんたも……あたしも……」 「そうだな……」 俺たちはここでようやく観念した。今まで二人ともやはり朝比奈さんが犯人じゃないと信じたかったのだろう。 だが、現実は違った。もうこれは受け入れるしかない。 と、ここでハルヒが立ち上がり、 「落ち込んでいる場合じゃないわ! やることはまだあるのよ!」 そう気合いを込めて言う。 その通りだ。まだ狙われる予定の人がいる。谷口・国木田・鶴屋さん――みんなの命を助けなければならない。 そして、朝比奈さんにこんなばかげた行為を止めさせる。例えそれが未来からの指令だとしてもだ。 ハルヒはすぐに鶴屋さんに何とか連絡を取ろうと携帯電話をかけ始めた。だが、つながらないらしい。何度もかけ直す。 俺も国木田に再度連絡してみる。だがやはりつながらない。 続いて谷口につなげてみたところ――つながった。 『よー、キョンか? なんかあったのか?』 「おい今どこにいるんだ!?」 『おいおい、そんなに焦ってどうしたんだよ。お、そうか、ようやく知ったのか。 ならば聞いて驚け! 今朝比奈さんと一緒に遊園地に来ているのさ! ただ残念ながら国木田もいるけどな』 キョンからの電話かい?という国木田の声が流れてきた。二人ともそんなところにのこのこと出かけているじゃねえよ…… 俺ははっと思い出した。さっきの朝比奈さんの仕掛けフラッシュバック集の中にジェットコースターに仕掛けを しているものがあったことを思い出す。まずい、やばい! 俺はできるだけ事情を複雑化させないよう端的に説明する。 「いいか良く聞けよ! お前らに危険が迫っているんだ。今すぐ安全そうな場所――できるだけ何もない場所に 移動しろ。ああそうだ、特にジェットコースターには絶対に乗るな!」 『今更言ってもおせーよ。今乗っている最中だ。もう出発しちまったしな』 ……遅かった。しかも隣には国木田も乗っている。このままでは二人とも死んでしまう。 いやまだ間に合うはずだ。そうに決まっている。 「何でも良いから降りろ! 頭がおかしくなったフリでもしろ! このままだとお前と国木田が死んじまう!」 『ああん? あの涼宮のヨタ話を信じているのか? あいつが言ってから数日間何にもおきてねーだろうが。 偶然だったんだよ偶然。今更そんなくらい話を引きずっていてたまるかってんだ』 くっそ。話を聞きやしねぇ。そうだ朝比奈さんはどうしたんだ? 一緒に乗っているのか? 『いやー、一緒に並んでいたんだけどよぉ。途中で怖くなっちまったみたいでな。乗らずに下で待っているってさ』 俺が格好良く乗りこなして見せてやる。そうすりゃ、朝比奈さんも俺に対して小さな好意を抱き――』 もうこれはビンゴだろう。朝比奈さんが抱いているのは好意じゃなくて殺意なんだよ。 だが、もう遅かった。ほどなくして、谷口の少々緊張気味の声が聞こえてくる。 『さてもうすぐ絶叫タイムの始まりだ。おお、せっかくだからキョンも臨場感が味わえるように このまま携帯をつなぎっぱなしにしておいてやるよ。俺と一緒に楽しんでくれ』 楽しめるか。死の瞬間なんて! だが、俺の言葉も届かず、ジェットコースターが加速を開始したらしい。激しくぶつかる風の音と 多数の悲鳴が聞こえてくる。谷口と国木田も喜びの入り交じった悲鳴も聞こえてきた。 だが、すぐに別の悲鳴になる。 助けてくれ! おいなんだこれ! 突然浮き上がって! た、谷口助けて――うあっ! 国木田! おい――うおああああああああ! ………… ………… ………… がちゃん。 携帯電話が何かがぶつかった音が聞こえる。それでも通話は切れることなく続く。 ――大変だ! ジェットコースターから誰かが落ちたぞ! ――救急車を呼べ! ――なんなのよこれ! ――ダメだもう! 俺は聞くに堪えられなくなり、こっちから通話を終えた。俺の会話を聞いていたハルヒも絶望に染まった顔で こっちを見つめている。 「谷口と国木田はもうダメだ……だが、まだ鶴屋さんがいる」 何でも良いから俺は気持ちを切り替えたかった。まだ助けられる人がいると、二人の死をごまかしたかったのかも知れない。 俺はすぐに携帯で鶴屋さんにかけてみる。最初は電波すら届かなかったが、ほどなくしてようやくつながった。 『やあキョンくんっ。なんかあったのかいっ?』 「落ち着いて聞いてください。いいですか落ち着いて――」 『落ち着くのはキョンくんの方じゃないのかいっ? 声が震えてしまっているよっ。一回深呼吸してみるっさ』 鶴屋さんの指摘に、俺は一旦冷静さを取り戻す時間を与えてもらえた。そうだ、落ち着いて話さなければ、 相手に伝わるものも伝わらない。 俺はまず確定した事実を伝える。 「部長が亡くなりました。交通事故で俺たちの目の前で。あと谷口と国木田も多分ダメだと思います……」 『そう……』 鶴屋さんの声はどこか悲しげで、その一方寂しげに聞こえた。一緒にガタンガタンと列車の走る音も聞こえる。 振動音から見て鶴屋さんは今列車に乗っているのか? 「次は鶴屋さんの可能性が高いんです。今電車の中ですか? すぐに安全な場所に移動してください。 俺たちもすぐに向かいますから」 『今は電車の中だよ。誰もいない最後尾の車輌に座っている。あはっ、これは狙うなら絶好の機会だねっ』 その口調に俺はぎょっとした。鶴屋さん、あなたまさか…… 『そうさ。もうすぐあたしの前にも現れるんだよね? その死神――みくるがさ』 「……気が付いていたんですか?」 『はっきりとじゃないよ。でもあの子は嘘が凄く下手だからねっ。会ってすぐにどこか普通の人とは違うって事は わかったのさ。でも、みくるがあたしに言わないならこっちから聞くようなことはしなかった。そんな必要もないから』 ゴーッと対向列車が通り過ぎたんだろうか、携帯電話から大きな風キリ音が聞こえてくる。 鶴屋さんは続ける。 『でもこの一週間はさらにみくるの様子は変わった。本当に心のそこから悩んでいるみたいだったよっ。 同時にいっぱい人が死んだ。直感的にわかったね、みくるがこの事件に関与しているって事が。 でもさすがにあたしもこれ以上黙ってはおけなくなったよ。だから、みくるに直接あってケリを付けるつもりっさ』 鶴屋さん……あなたって人は……! だが、今の朝比奈さんの行動は自分の意思関係ない可能性が高い。鶴屋さんの説得に耳を貸すとは思えない。 『……おっと、来たようだよ。お出迎えが』 「鶴屋さん待ってください! せめて居場所を――」 『じゃあ、また学校でね――』 ツーツーツーツー…… 電話がとぎれる。俺は即座にリダイヤルしたが、電源を落としてしまったのかもう通じない。 俺はしばらく呆然と立ちつくしていた。鶴屋さんは理解はしていないが、朝比奈さんが犯人だと気づいていた。 そして、今直接会ってこれ以上の惨劇を食い止めようとしている…… 「……あたしのせいよ」 その会話を聞き取っていたのだろう、ハルヒが地面に座り込んだ。呆然と真っ青な顔を浮かべている。 ハルヒは続ける。 「あたしがあんたに予知能力なんか与えたからこんな事態になったのよ。そんなことをしなければこんな事態には……」 「それは違うぞハルヒ」 俺はハルヒの肩をぐっと持って立ち上がらせた。 そして次に顔を持って、 「いいか? お前が予知能力をくれたおかげで、あの事故を免れることができたんだ。確かに、結局死んだ人ばかりだが、 それでも鶴屋さんはまだ生きている。お前は鶴屋さんに生き延びるチャンスを与えたんだよ! だから、絶対に悪いことなんてしていない! まだ助けられる! 意味の無かったことにしないために 鶴屋さんを助けるんだよ!」 「……でもどうすればいいのよっ!」 ハルヒのヒステリックな声。俺は頭をフル回転させ、 「とりあえず鶴屋さんの場所を確認してくれ。そして、そこに俺とお前を移動させるんだ。SFとかであるワープみたいにな。 それくらいできるんだろ?」 「場所を探せるけど、移動は――可能だけど確実に情報統合思念体に気づかれるわ! 長距離だったら 時間平面上の痕跡は凄く大きくなるから……」 「そんなことはもうどうでもいいんだよ! ばれてリセット上等だ!」 俺の言葉に、ハルヒははっと息を呑んだ。俺はまくし立てるように続ける。 「俺はもうキレたぞ。鶴屋さんをを助ける。今はそれ以外は考えねえ。例えその結果情報統合思念体が 世界を滅ぼしても、朝比奈さんを説得する方を最優先にしたい。そうすれば例えリセットになっても、 次にやり直すときに対応策がわかるってもんだ。ただ待っているだけじゃ何にも変わらないんだよ! この世界がダメなら、せめて次にいかせる結果が欲しいんだ!」 「…………」 ハルヒは俺の言葉をしばらく黙って聞いていたが、やがてふんっと鼻を鳴らしいつも表情に戻ると、 「わかった。あんたの決意にかけてみるわ。でもみくるちゃんをどうやってつもりなのよ?」 「……それは会ってからときに感じたままを言うだけさ」 ◇◇◇◇ 「朝比奈さんっ!」 「――――っ!」 予想外にかけられた言葉に、見慣れた北高のセーラ服に身を包んだ朝比奈さんは声にならない悲鳴を上げた。 俺とハルヒがワープした先は、俺たちのいた場所からかなり離れた線路だった。ちょうど駅と駅の中間に位置し、 辺りには田んぼと点在する民家しかない。人工的な雑音は何も聞こえず、ただ風が草をなでる音だけが耳に広がる。 状況は最悪に近かった。列車に乗っていたはずの鶴屋さんはなぜか線路の横で横たわり、すぐそばには 大きなナイフを持った朝比奈さんがまさにとどめを刺そうとしている。 「ど……どうして……!?」 突然ここに現れた俺とハルヒに、朝比奈さんは理解できないと困惑の表所を浮かべながら後ずさる。 そばには鶴屋さんがいるが、胸が上下しているところを見るとまだ生きているみたいだ。 ただ和服調の服装がぼろぼろになり、全身土まみれになっていることとさっきまで列車に乗っていたはずなのに 停車駅でもないこんな場所で横たわっていることから判断して、列車から朝比奈さんが突き落としたのか? いや、実際に手は加えず、【偶然】転落するように細工が仕掛けられていたんだろう。 俺とハルヒは叫ぶ。 「朝比奈さん、もうやめてください! これ以上人を殺めるあなたの姿は見たくありません」 「そうよみくるちゃん! もうやめて!」 「できません!」 朝比奈さんは即答した。あまりに歯切れのいい回答に俺は驚く。 逆らえないようになっているのか、それともそれほどまでに固い決意で望んでいることなのか。 どっちにしたって構わない。今は朝比奈さんと止めて鶴屋さんを救えりゃなんでもいい。 俺はやぶれかぶれで知っている情報を出しまくる。 「俺は知っています。朝比奈さんが未来からやって来たエージェントであることも、たまに送られてくる指令には 絶対に逆らえないものがあるって事も。それをふまえた上でお願いしているんです! もうこんなことは!」 俺の言葉に、朝比奈さんは仰天し、 「ど、どうしてそんなこと知っているんですか!? それに突然ここに現れたり、以前も死ぬはずだった人を 助けたりして、キョンくんはいったい何なんですか!?」 「俺のことはいいんです! 説明して止めてくれるなら、後でいくらでも説明します!」 「でも、キョンくんが何者でもあたしは自分の任務からは逃れられません! やるしかないんです!」 「理由は何ですか!? 一体どうしてこんな事をするひつようがあるんですか!」 俺の問いかけに、朝比奈さんはうつむいて、 「鶴屋さんはあの事故で死ぬはずだったからです。いえ、鶴屋さんだけではなく書道部の部員やキョンくんの お友達たちも。それが既定事項なんです。絶対に変えることのできない事。これを変更してしまえば あたしたちの未来はなくなってしまう。他に選択肢はありません」 「なぜですか!? 鶴屋さんたちが一体何をするって言うんですか!?」 朝比奈さんはちらりと息も絶え絶えの鶴屋さんの方に視線を向けると、 「鶴屋さんは鶴屋家という大きな勢力の次期当主です。そして、やがて機関と呼ばれる涼宮さんを監視する 組織を作ります。その存在はあたしたちと大きく敵対することになるんです。車にはねられるはずだった人も そうでした。彼も機関で大きな役割を果たすことになります」 機関――まさか超能力者がいないこの世界でその名を聞くことになるとは思わなかった。 鶴屋さんが機関を作る? 確かに俺の世界の古泉は鶴屋家は機関に関わりがあると言っていた。 しかし、なぜ機関を潰す必要があるんだ? 俺の世界では仲良くとはいかないが、共存はしていたはずだ。 いや待て。朝比奈さんの言う機関と俺の知っているそれでは決定的な違いがある。それは超能力者の存在、 つまり神人を倒すという役割。未来人にはそれができないから、機関にやってもらうしかなく、潰すことはできなかった。 だがここでは違う。消すべき閉鎖空間も倒すべき神人もその役割を持つ超能力者もいない。 「機関は情報統合思念体と結託して涼宮さんが能力を自覚した場合、涼宮さんを排除する取り決めを持っていました。 でも、あたしたち未来には涼宮さんは絶対に必要だったんです。細かい点ではあたしも知らされていません。 ですが、涼宮さんは絶えずあたしたちの未来への道を引き続けました。だから、排除されては困るんです。 そう言った思想を持つ組織もあってはならないんです、あたしたちにとっては」 朝比奈さんの言葉に、俺は三者竦みという言葉を思い出していた。完全ではないが、情報統合思念体・機関・未来…… これらは大きな力のバランスを取りつつ成り立っていたのが俺の世界だった。どれか一つでもかければ バランスが崩壊し、どこかが暴走する。前回は機関で、今回は未来――そういうことか。 「ですが、不幸な事故――あのトレーラーと軽トラックの接触事故で鶴屋さんは亡くなるはずでした。 実はこれも未来の別の人が起こしたものなんです。あそこで絶対に鶴屋さんに死んでもらわないとダメだったんです。 その結果、機関の誕生は大幅に遅れ勢力の小さいものになり、あたしたち未来は機関に対して常に優位性を保持できたんです。 なのに……キョンくんがそれを阻止しました。あの時TPDD何度もやり直したんです。でもキョンくんは絶対に止めました。 やむえずあたしたちは方針を変えて、つじつま合わせをすることにしたんです。別の理由で死んでも同じ事でしたから。 それが今回のあたしが未来から受けた指令。偶然に見せかけて、既定事項で死ぬはずだった人を全て抹殺すること。 訳がわかりません。どうして起こることが事前に予想できたんですか? TPDDも持っていないはずなのに!」 「……あたしが予知能力を与えていたからよ。二回限りだけどね」 ここに来てハルヒが口を開いた。この言葉に朝比奈さんは唖然と口を開け、 「涼宮さん……自分の能力を自覚して……」 「そうよ。あたしはあたしがどういう存在なのか知っているわ。全部は知らないけど、それが原因で 情報統合思念体から疎ましく思われていることも理解している。キョンはあたしが予防措置のとして持たせた 二回の予知能力を使ってその既定事項とやらを回避させたのよ。最初は自動車にはねられるはずだった男子生徒。 次にあのトレーラーとの大きな事故をね」 「……そんな……そんな事って……じゃあもう……」 ふるふると朝比奈さんは首を振った。さっきまでの話だと朝比奈さんもハルヒの力の自覚は 情報統合思念体が地球を滅亡させるきっかけとなると理解しているようだ。 ハルヒはきっと朝比奈さんに鋭い視線を向けると、 「みくるちゃん。あたしは本音が聞きたいの。こんなことしたいのかどうかって。安心して。 みくるちゃんにかけられていた言葉の制限はさっきあたしが全部解除したわ。好きにしゃべれるはずよ」 「えっ……あ、ああ……」 こいつ禁則事項を解除していたのか。さすがだよ。 ハルヒは一歩前に踏み出し言う。 「宣言するわ。あたしは絶対に諦めない。情報統合思念体だろうがなんだろうが、あたしは決して屈しない。 試行錯誤も模索でも何でもやって絶対に進むべき道を作り出してやるつもりよ! 未来の都合なんて知ったこっちゃないわ。 あたしはあたしが思うように生きていく。その時みくるちゃんもそばにいて欲しいのよ!」 俺もハルヒの横に立ち、 「朝比奈さん! あなたは書道部での活動は楽しかったって言いましたよね! あれは嘘じゃなかったはずです! それに鶴屋さんに対しての感謝の言葉もです! だから拒否してください。無理ならハルヒが何とかしてくれます!」 俺の言葉につられたのか、鶴屋さんはすっと手を朝比奈さんに伸ばし、 「みくる……一緒に行こう……みんな待っていてくれているんだよっ……」 三人の言葉に朝比奈さんは半分涙目になっていた。 ――しかし、それでも首を縦には振らなかった。 「あたしは99%今回の任務は嫌でした。あたしは鶴屋さんに心の底から感謝していたし、 書道部での活動も凄く楽しくてそのまま何も起こらずに続いていけばいいとも思っていました。 でも残り1%の自分は違うんです。やらなければあたしとあたしの未来が消えてしまう。そんなのはイヤです。 嫌なんです! だからこうするんですっ!」 朝比奈さんはナイフを振り上げる。ダメだ朝比奈さん! やめてくれ―― 飛び散る鮮血。俺はその現実に激しいめまいを覚えた。 胸にねじ込まれたナイフが北高のセーラー服を汚し、ふらふらと鶴屋さんのそばに倒れ込む。 ――そう朝比奈さんは自分の胸をナイフで突き刺したのだ。なんでだ!? 「朝比奈さん!」 「みくるちゃん!」 俺とハルヒは倒れ込んだ朝比奈さんの元に駆け寄る。胸からは多量の出血が始まり、口からも漏れ始めていた。 「みくるっ……みくるっ……!」 鶴屋さんも酷い重傷の身体を引きずりながら、朝比奈さんにすがりつく。 何でこんな事をしたんですか!? 朝比奈さんは俺たち三人にニコリと力なく微笑み、 「これで……残りの1%の自分の消せ――ました。これでいいんです……やっと99%の自分が100%になれたから……」 「こんなの違う! こんなの間違っている! あたしは認めない! 絶対に死なせない!」 そう言ってハルヒは朝比奈さんを治癒させるべく手をかざして…… それと同時だった。突然激しい地鳴りが始まり、地面どころか空間も歪み始める。 これってまさか!? ハルヒはがっくりと肩を落としていった。その目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。 「情報統合思念体の……排除行動が始まったわ……」 「そうか……ちくしょうここに来て……!」 俺は地面を拳で殴りつけた。覚悟の上だったはずだ。でも、こんなところで終わりなんてあんまりじゃねえか…… ハルヒは袖で涙を振り払うと、すっと立ち上がり、 「リセットするわ。キョン、みくるちゃんと鶴屋さんをお願い……」 そう言って目を閉じて情報操作を開始する。 朝比奈さんと鶴屋さんは予期せぬ状況に不安げな表情を浮かべ、 「なんなんですか……どうか……したんですか……?」 「キョンくん……これは……」 俺はそんな二人を抱き寄せると、 「大丈夫ですよ。もうすぐ何もかも無くなります。そして、次に目を覚ましたときはきっとみんな平穏無事に 学校ライフを満喫しています。俺が保証しますよ」 朝比奈さんは俺の言葉に目に涙を浮かべて、 「そっかぁ……次に目を覚ましたら、あたしみんなとずっと友達でいられるんですね……ふふっ……」 そうですよ。あなたはSOS団のマスコットキャラであり、俺の癒しの存在です。他のステータスなんて入りません。 未来人であることを押しつけてくる奴がいたら、そいつは窓から投げ捨ててやります。 と、ここで鶴屋さんがすっと頬に手を当ててきて、 「キョンくんは……ちょっとハルにゃんやみくるとも違うね……見ている方向が違う……っさ。 キミの瞳の中には……もっとずっと先の明るい未来が見えている気がするよっ……。でもハルにゃんはまだ迷っている…… キョンくん、きちんと面倒……見てあげないと駄目にょろよ……」 ええわかっています。あなたはSOS団名誉顧問。あとハルヒのことは任せてください。 あいつは俺がきっちりと導きますから。 やがて地面の振動を飲み込むように、世界が暗転し始める。 その時、ふと気が付いた。数百メートル離れた先に立っている北高のセーラー服を着た一人の少女。 長門有希だ。 きっとパトロンの命令でここに駆けつけたのだろう。 待ってろ長門、次はお前をこっち側に引き入れてやるからな―― ……… …… … ◇◇◇◇ 次に気が付いたときにはあの灰色の教室――時間平面の狭間にいた。 俺はだらんと力なく壁に寄りかかっている。 すぐ隣ではハルヒが同じように呆然と俺に頭を寄せていた。そして、つぶやくように言う。 「……疲れた」 「そうだな……」 「……みくるちゃんとはあんまり遊べなかったな……」 「次はきっとできるさ……」 俺たちはそのまま一眠りすることにした。さすがに色々あり過ぎて今回もくたびれちまったからな。 意識が闇に落ちていく中、俺はふと考える。 機関と未来人の均衡関係。やはりこの二つは並立して存在してこそ成り立つものなんだ。 そうなるとあと残りは一つ。全ての頂点に位置し、ハルヒの力の自覚を決して認めない最大の敵。 奴らを何とかすれば、きっとバランスの取れた世界が切り開けるはずだ―― ~涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(前編)へ~
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◇◇◇◇ 土曜日、明日になれば自動車事故から一週間になろうとしている。 幸いなことに月曜日以降、誰も死ぬどころか危険な目にあっていなかった。 今日、俺はハルヒと一緒に、先週の事故発生現場を廻っていた。歩くと時間がかかるので、タクシーを使って移動している。 いろいろ確認したいこともあるらしい。 まず看板に潰された男子生徒の現場に立っていた。 倒れてきた速度規制の看板はすでに新しい頑丈なものに直されていた。商店の上にあった看板は撤去されたままである。 あの事件を思い出す要因を残しておきたくないかもしれない。 「すっかり現場が変わっちゃっててこれじゃ調べようがないわね」 何も見つからずにその場を去り、続いて野球ボールのせいで死んだ女子部員の現場、火事が原因で死んだ女子部員と顧問の現場と 廻っていったが、やはり何も見つからなかった。まあ、目で見つけられる問題があるならとっくに警察が回収しているだろうが、 ハルヒもただじっとしている気にはならないのだろう。何か手がかりがないかともがいているに違いない。 俺たちは黙ったまま、当てもなくタクシーを走らせていた。 深刻そうな顔のままのハルヒに対して、実のところ俺は少々楽観的になりつあったりする。 この一週間何も起きていないからな。本当にただの考えすぎで、【偶然】の事故だったのかもしれない。 死が追っかけてきているなら、三人立て続けに始末してからそれ以降何もしないってのは、おかしな話だからな。 と、ここで急にタクシーが止まる。何でも急に催してしまったらしい。そこで一旦近くの公園のトイレに寄りたいとのこと。 まあ、朝から乗りっぱなしだからな。メーターの金額は目を飛び出す状態だ。ハルヒがどっからちょろまかしたのか知らないが 沢山のタクシーチケットを持っていなければ、俺は即刻破産するところだ。 タクシーは程なくして二車線道路に隣接している公園脇に一時駐車して、運転手がエンジンを止め鍵を掛けて出ていった。 と、タイミングを狙ったかのように俺たちの目の前にゴミ回収車が止まって、作業員たちが 公園脇にあったゴミ集積場のゴミを回収車に投げ入れ始める。 邪魔者がいなくなったということで、俺はハルヒとの会話を始める。 「なあ、俺たちの考え過ぎだったんじゃないか? 実際この一週間何も起きていないんだ」 「……だといいんだけどね」 ハルヒは表情を固めたまま崩そうとしない。何を心配しているのだろうか。まあこいつの勘は恐ろしいレベルだからな。 きっとまだ何か嫌な予感が続いているのだろう。 俺はふと先にトイレを誰かが占拠していたらしく必死に我慢しながら順番を待っているタクシーの運転手を横目に、 「そんなに心配ならお前の力で何か調べられないのか? 情報統合思念体の目もあるだろうから難しいだろうが、 何もできないって事はないだろ。少なくてもこの時間平面を支配しているのはお前なんだから」 「あのね、キョン。言っておくけど、あたしはやり方はわかるけどその膨大な情報量を処理する能力まで持っていないの。 時間平面に存在している情報量がどれだけのものか考えたことある?」 ここでハルヒは懐からメモ帳を取り出し、空白の一ページをこっちに見せつけると、 「これがある時間平面をさしているとして、このページに存在している全てを調べるとなると、構成している原子を 一個一個見ていくような作業になるのよ? しかもページも無限にあるときているんだから。 最初にあったときに言ったけど、別の時間平面とは言えあんたの存在を見つけたのは偶然中の偶然。奇跡って言って良いわ。 同じようなことをしろって言っても無理よ」 「だが、時間と場所はある程度絞れるんだろ?」 「無理。この手帳のどこがどの時間・場所か調べるのには結構時間がかかる。それに長時間調べると 奴らの目に確実に引っかかるわ。時間平面の狭間みたいに奴らの監視の届かない隔絶された場所ならまだ可能だけどね」 ――ふと、ゴミ回収の作業員が何事か怒鳴っているのに気が付く。見れば、回収車の前面に自転車をぶつけられたらしい。 しかもぶつけたって言うのが柄の悪そうな高校生の集団で、気の荒そうな作業者と一触即発寸前でにらみ合っている。 一方のトイレに並んでいたタクシーの運転手はようやく順番が回ってきたのかすでに姿は見えない。 「ってことは結局後手に回るしかないのかよ。予知能力と同じようにあらかじめ予兆とかそんなものを 感じ取れれば良いんだけどな……」 俺の言葉にハルヒはそれができれば苦労してないと肩をすくめて首を振った。 ――背後から一台の大きなトラックが迫ってきていることに気が付く。 「ちょっと待った」 ハルヒが俺の話にタンマをかけると携帯電話を取り出して通話を始めた。書道部部長(女子)からよ、と言って お互いの無事を確認するような話を始めた。ハルヒは全員の無事を確認できるように定期的に関係者との 連絡を絶やしていなかった。これも予防措置の一環なんだろう。 やがて短い会話を終えると、携帯を閉じ、 「ちょうどすぐ近くを親と一緒に車で走っているらしいわ。とりあえずは無事みたい」 ハルヒがそうほっと胸をなで下ろした瞬間だった―― 突然背後で大きな衝突音が炸裂する。何事かと振り返ってみると、さっき背後から迫っていたトラックが一台の軽乗用車を はねとばし俺たちのタクシーに向かって突進してきていた。運転手は何をやっているんだと思いきや、 うつらうつらと居眠りを扱いてやがる。 「おいおいおい! このままだと俺たち追突されるぞ!」 「早く出ないと――あ、あれ!?」 俺たちはタクシーのドアを開けて外に出ようとするが、どういうわけだか鍵もかかっていないのに扉が開かない。 どうなってやがんだ。なんで開かない!? この瞬間直感的に俺は悟った。背後から迫るトラック、前には作業者不在のまま動作を続ける回収車…… この感じ、あの無駄に続く不幸な【偶然】だ。今俺たちは…… 「ハルヒ! 俺たち狙われているぞ!」 「言われなくてもわかっているわよ――きゃあ!」 その言葉を言い終える前に、トラックがタクシーの後部に追突した。その衝撃でタクシーが強制的に 前進させられ前の回収車にぶつかる。その衝撃でフロントガラスが崩れ落ち、俺たちの眼前に回収車の後部の ゴミ投入口が眼前に迫った。 しかし、事態はこれでは終わらない。背後のトラック運転手はまだ意識を失っているのか一向にブレーキを踏む気配が無く 延々と押し続けてくる。それがうまい具合にタクシーの車体を後ろから持ち上げて来る。次第にタクシーは 逆立ちするような状態になっていった。 つまりこのままだと滑り台の要領でタクシー前面に落下することになり、その先にはゴミを押しつぶしている機械に 二人とも巻き込まれるって事だ。 事故が起こっているんだから、作業員はとっとと戻って回収を止めさせろと怒鳴りたくなるが、あっちは 結局乱闘騒ぎになったらしく、多勢に無勢だったせいか作業員が地面に倒れていた。 一方の柄の悪い高校生たちはこの事故を見て、俺たちを助けるどころか一目散に逃げ出していく。根性なしめ! ゴミ回収車は完全に主を失い、ゴミを求めて空回りを続けている状態だ。で、そこに次なるゴミとして投げ込まれそうに なっているのが俺とハルヒである。 ハルヒは何とかタクシーの座席にしがみついて、前面に落ちないようにしている。俺もそれのマネをしていたが―― 「うわっ!?」 「――ハルヒ!」 普段あり得ない力がかかったのか、それともこれも【偶然】故障していたのか、突然ハルヒのしがみついていた 運転席が前のめりに倒れ危うくそれに沿って、ゴミ回収車の方に滑り落ちそうになる。 間一髪で俺がその腕をつかんで落ちるのを阻止するが、背後のトラックは一向に止まる気配が無く、 どんどんタクシーの車体を逆立ち状態に追いやっていった。角度が急になり、ほとんど垂直に近い状態に近づく。 地面にはゴミ回収車の投入口が待ち受けているのは変わらない。このままではハルヒが巻き込まれる。 俺は限界の限界まで力を引き出しハルヒの腕を引き上げようとした。だが、今度は俺のつかんでいた助手席が 前のめりに倒れる。 不意打ちを食らった俺はなすすべもなくハルヒともどもゴミ投入口に落下して―― 俺の頭の中に今までの人生が走馬燈のごとく蘇った。ああこれが死ぬ間際に見るっていう 記憶のフラッシュバックなんだろうな。 しかし、脳裏に蘇ってきたのはあの自動車衝突事故のシーンばかりだった。ガスボンベに体当たりされる顧問、 追突してきた乗用車に轢かれる鶴屋さん、火炎に巻き込まれる女子部員と部長、爆風で飛んできた 割れたガラスの破片に串刺しにされる谷口・国木田……そして、俺の真上から迫るトレーラーの一部が 結局俺には当たらず俺の数センチ横に落下する光景――あれ? 何かおかしいぞ? 走馬燈が停止したのは、回収口に落下した時だった。生臭い香りで胃液が逆流しそうになる。 しかし、回収口のゴミを押しつぶす動作は停止していた。俺が恐怖のあまり震える顔を横に向けると、 そこにはふらふら状態になりながら、停止ボタンを押している作業者の姿が。見上げるとようやく起きたのか、 唖然とするトラックの運転手の姿も見えた。隣では背中を打ったショックかハルヒが悶えている。 ――助かった。本当に寸前のところで俺たちは死から回避できたんだ…… 俺とハルヒは興奮状態を押さえつつ身体に付いた生ゴミの破片を払っていた。事故を起こした運転手が 涙ながらに警察に連絡しているのが聞こえてくる。 ハルヒは眉をひそめて、 「これでわかったでしょ! まだ終わっていないのよ! 今のは運が良かっただけ! また狙われるわ!」 そう怒鳴ってきた。しかし、俺は額に手を当てて、あの死を覚悟した瞬間のフラッシュバックを 再度思い出していた。 次々と死んでいく人たちの光景――思い出すべきは最後の瞬間だ。俺は落下してきたトレーラーの破片に 潰されたと思っていた。だがそれは違う。 今のショックのせいか、記憶が鮮明に蘇ってきた。 俺が戻れと念じる間、俺の身体の数センチ横に落下するトレーラーの破片、そして横でやけどぐらいは負っている かもしれないが、生きているハルヒの姿…… 「違う」 「何よ?」 「違うんだ!」 俺は無我夢中でハルヒの身体をつかみ、 「今のショックで全部完全に思い出したんだよ! 俺とお前はあの事故で死んでいない! 少なくても俺はそこまでは 見ていなかったんだ! だから俺たちは狙われていないはずだ!」 「じゃあ今のは何よ! どうみても偶然があたしたちを襲ってきたわよ!」 ハルヒの反論に俺はうっとうなる。あの事故で俺たちが死んでいないのなら、今の粘着的【偶然】は起きないはずだ。 いやまて。 ちょっと待てよ? 「あのトラック、タクシーに突っ込む前に軽自動車をはねなかったか……?」 「それが何か――」 俺の言いたいことに気が付き、ハルヒの顔色がみるみる変わっていった。そして、すぐに走り出す。 トラックにはねとばされた軽自動車はスピンして、最後には電柱に衝突していた。エンジンの部分から煙を 立ち上らせている。 運転手はエアバッグが作動して無事らしい。衝撃で意識が朦朧としているのか、額に手を当てて呻いていた。 俺たちはエアバッグで見えない助手席の方に回り込む。 「そ……んな……」 その光景を見てハルヒが地面にへたりと座り込んだ。 助手席には書道部部長(女子)がいたからだ。どういう訳だかシートベルトが外れ、エアバッグも作動せず フロントガラスに顔を突っ込んでいる。ぴくりとも動かないところを見ると、もう助かる見込みはない。 今の偶然は本当にただの偶然で、本当の狙いは書道部部長(女子)だったんだ。いや、あるいは俺たちに 彼女の救助をさせないために一時的な窮地に追い込んだのか? 考えればきりがない。 俺はハルヒの手を引き、離れた場所に移動させる。 ここでハルヒは我を取り戻し、 「さっき言ったことを説明して! あたしたちは死なない。少なくてもあんたはそこまでは見ていない。 それで良いのよね?」 「ああ、完全に思い出したぞ。すまねぇ、今の今まで記憶の片隅にもなかったんだ」 「そんなことより! 他には? 他に何か思い出せない? もっと違和感がある部分とか不自然なところとか。 あと実は巻き込まれていなかった人が他にいたとか!」 ハルヒの追求に、俺は額に指を当てて記憶を探り始める。 一つ、気が付いた。 「朝比奈さんがいない」 「みくるちゃんが?」 俺は頷き、 「そうだ。記憶を探っても朝比奈さんが事故現場のどこにもいないんだ。いや、単純に俺の視界に 入っていなかっただけかもしれないが……」 その言葉に、ハルヒはきっと表情を引き締めた。 俺はすぐに止めるようにハルヒの前に立ちふさがり、 「待て待て! 朝比奈さんが犯人と限った訳じゃない。確かに未来人で可能性はゼロじゃないが、 事故に巻き込まれたことに俺が気が付かなかっただけかもしれないんだ!」 「……それはわかるけど、他に怪しい人がいるって言うわけ!?」 「だからといって決めつけられねぇよ! 朝比奈さんがそんなことを平然とできるわけがないってのは 短い間とはいえ触れあったお前にだってわかるはずだ――」 言ったとたんに重要なことを思い出すのはなぜだろうか。英語で言うところで、シット!とかサノバビッチ!とか 叫びたくなる瞬間である。 朝比奈さん(大)からの指令書を朝比奈さん(小)が見たときに、こう言っていた。 特殊なコードを一度見ると、指示通りに動くしかなくなると。 つまり朝比奈さんは自分の意思でなくても、こういった残虐な行為をやってのけることができる。 未来からの指示に従うしかないのだ。 「……全く今更な情報をこんな時に出してこないでよ! 出し惜しみしてんじゃないでしょうね!」 「スマンとしか言いようがない! だが、それでもできるからと言ってやったことにはならないぞ。 証拠が欲しいんだ。それに例え朝比奈さんが犯人だとしても証拠がわかれば次の手に先回りできるかもしれない」 俺の言葉に、ハルヒは決意を込めた声で応えた。 「……時間平面の検索をしてみるわ」 俺たちはさっきの事故現場の処理に追われるのを横目に、隣接した公園で時間平面の検索とやらをやっていた。 とは言ってもやっているのはハルヒだけで、俺は念のために谷口・国木田・朝比奈さん・鶴屋さんに連絡を取ろうと している。しかし、こんな時に限って誰ともつながらない。コールしても反応なしか、コールすらしないか どちらかである。 「ああもうダメだわ! 探す先が多すぎてとてもじゃないけど無理!」 ハルヒはいらだって髪の毛をかきむしった。俺も誰とも連絡の取れない状況に苛立ちをぶつけるように 携帯を閉じる。 「時間平面って言っても、それこそ天文学的数値をそれでかけたよりも多い情報量なのよ。 ピンポイントに特定の情報を探しだせって言われても無理だわ!」 誰に言っているのかわからないように怒鳴るハルヒ。こいつの力でも無理なのか。 どうすりゃいいんだ……どうすりゃ…… ふと、ハルヒが持っていた手帳を時間平面に例えているシーンが脳裏に過ぎる。 このページのどこにどの情報があるのかすぐにはわからない。それは一つ一つ調べて行く場合膨大な時間が 費やされるからだ。情報統合思念体の目の届くうちでは不可能。 俺は思案しながら周囲をうろつく。かりに朝比奈さんが犯人だったとしよう。そうなると手段は TPDDという時間を超える装置のようなものを使って行っているはずになる。 そうならば、時間平面は朝比奈さんによって改竄されているはずだ。探せばいいのはその改竄されている場所。 ではそこはどこだ? しかもそれが一発でわかる方法がなければならない。 ん? 何か聞いた憶えのある話だ。改竄……手を加える……わかる…… ……… …… … 事故が発生する前、まだみんな普通に書道部活動をしていたときの話だ。 俺は谷口の書いた習字を見ていた。 「お前の字も俺とは違う意味で下手だよな」 「うるせーな。人のこと言える立場かよぉ」 口をとがらせる谷口。ふと、俺は何を思い立ったのか、谷口の習字の上からおかしいと思う箇所に ちょこちょこと修正していってみた。 ほどなくして、きれいに整形された字が完成する。 谷口はこれを見て、 「おおっ。結構きれいな字になったじゃねーか。これなら結構いけた評価がもらえるかも知れないぜ」 「習字の合作なんて聞いたこともないがな」 そんな感じで話しているところに、書道部部長(女子)がやって来て谷口が俺の貢献を無視して どうです俺の美麗な字は!とかアピールを始める。 が、あっさりと誰か跡から弄ったでしょと指摘して、驚愕の表情で谷口を唖然とさせた。 「何でそんなに簡単にわかるんだ?」 そう俺が聞いてみたら、書道部部長(女子)はこう答えた。 最初に書いてあったものに、別の人が手を加えればすぐにわかる。一人一人やり方が違うから、 書いた部分には必ず個人の癖が出るから。一部だとわからないけど、全体を見回せばすぐに気が付く。 その指摘に俺はなるほどと感心して―― … …… ……… 「ハルヒ!」 俺は思わず叫びながらハルヒの元に駆け寄り、肩をつかむ。 「……何よ?」 頭を抱えていたのままのハルヒの顔を無理やり上げさせると、手に持っていた手帳を奪い取り、 「いいか、気が付いたんだ。良く聞いてくれ」 俺はそういいながら空白の両開き二ページを開く。片方は空白のまま、もう片方には手帳に付けられていたペンで 一つだけ黒い点を打っておいた。 「この二つのページの違いはわかるよな? 違いはこの点だけだ」 「そんなの見ればわかるわよ」 「そう見ればわかるんだ。だが、二つのページの一つ一つを解析していったら膨大な時間がかかるはずだろ? でも、今これをどこが違うのかすぐに答えられる。この違いがわかるか?」 俺の言葉にハルヒははっと気が付いた。さすがに察しが良い。 「このページに詰まっている情報を1個ずつ見るからダメなんだ。ページ全体で見てみろ。 どこが違うのか一目瞭然。そして、考えたくはないが朝比奈さんが犯人なら時間平面を弄っているはずだ。 なら時間平面を全体から見てみれば、どこが弄られたのかすぐにわかる。弄ったところは確実に違和感が出るからな。 それがどれだけ巧妙に仕掛けてあったとしても、改竄したことには変わりない。それがこの黒い点となる。 お前が探せばいいのはページ全体から見たときのこの黒い点だけだ。これなら探せないか!?」 俺の指摘にハルヒはしばらくあごに手を当てて思案していたが、徐々に表情が明るくなっていき、 「……できるかも。いやいけるわ! 大手柄よキョン!」 ハルヒはまた目を瞑って、時間平面の検索とやらを始める。 頼むぞ、情報統合思念体。少しの間だけはハルヒが無自覚にやったこととして見逃してくれ…… しばらくしてハルヒがはっと目を開いた。何かを見つけたらしい。 「手を出して。あんたの視覚回路に得られた情報を渡すから」 「お、おう……」 俺はかなり嫌な予感が頭の中を駆けめぐったせいで、一瞬ハルヒの手を取ることを躊躇してしまう。 だが、すぐに意を決してその手をつかんだ―― 唐突に俺の脳裏に多数のフラッシュバックが起きる。 火災の起きた女子部員の部屋の中。 誰もない。 いや違う。キッチンに北高のセーラー服を着た人物がいる。 朝比奈さんだ。まるで完全犯罪をたくらむ犯人のように手には手袋が着けられている。 電子レンジに何か細工している光景。 天井に据え付けられている戸棚の包丁の位置を細工する光景。 冷蔵庫を微妙な角度で傾ける光景。 ガス管に切れ込みを入れる光景。 どこかに電話をかける光景――電話機のディスプレイには書道部顧問の名前が浮かんでいる。 ああそうか、女子部員じゃなく朝比奈さんに呼ばれていたのか…… 爆発する電子レンジで首を切り、ふらふらとよろめく女子部員の姿をじっと隠れて見ている朝比奈さんの姿。 ふと何かに気が付き、あわててリビングから出ていき、開きかけていた玄関の扉を閉める。 ――ここで一旦間をおき、またフラッシュバックが続く。 俺が助けた男子生徒が蹴った交通標識の根元に細工する朝比奈さん。 看板に何か細工している朝比奈さん。 トラックの運転手に手を当てて眠らせる朝比奈さん。 ジェットコースターのレールみたいな場所で何かの細工をする朝比奈さん。 ………… ………… ほどなくしてハルヒの手が俺から離れる。戻ってきた視界には、ハルヒの悲しげな表情が浮かび上がってきた。 これで俺ももう言い訳できない。 ――犯人は朝比奈さんだ。時間遡行を繰り返して、【偶然】が起きるように細工している。 だが、俺の頭はまだ拒否反応を示していた。いくらあらかじめ仕掛けを施していても人を殺害できるほどまでの【偶然】を 起こせるようにできるのか? これに対してハルヒは、失望の色に染まった顔を見せつつ、 「できるわよ。時間を戻せるって事は難解もやり直せるって事だから。うまくいくまで数百回でもやればいい。 あたしたちが女子部員の部屋にいったときも、実は時間平面の書き換えがかなり行われていたんだわ。 その過程でドアの鍵が開いていることにみくるちゃんが気が付いて、あわててそれを閉めるパターンへと書き直した。 へんなところでドジッ子ぶりをみせてくれちゃって……」 そう肩を落とした。 そう言えば交差点での事故の直前、一瞬朝比奈さんがいなくなっていた。あの時も書き換えまくって、 一瞬だけ書き換え途中でその場からいなくなることがあったのだろう。 つまり結論を言えば、時間を自由に移動できればそういった【偶然】を装った殺人もできると言うこと――だ。 「もう……言い訳できないわね。あんたも……あたしも……」 「そうだな……」 俺たちはここでようやく観念した。今まで二人ともやはり朝比奈さんが犯人じゃないと信じたかったのだろう。 だが、現実は違った。もうこれは受け入れるしかない。 と、ここでハルヒが立ち上がり、 「落ち込んでいる場合じゃないわ! やることはまだあるのよ!」 そう気合いを込めて言う。 その通りだ。まだ狙われる予定の人がいる。谷口・国木田・鶴屋さん――みんなの命を助けなければならない。 そして、朝比奈さんにこんなばかげた行為を止めさせる。例えそれが未来からの指令だとしてもだ。 ハルヒはすぐに鶴屋さんに何とか連絡を取ろうと携帯電話をかけ始めた。だが、つながらないらしい。何度もかけ直す。 俺も国木田に再度連絡してみる。だがやはりつながらない。 続いて谷口につなげてみたところ――つながった。 『よー、キョンか? なんかあったのか?』 「おい今どこにいるんだ!?」 『おいおい、そんなに焦ってどうしたんだよ。お、そうか、ようやく知ったのか。 ならば聞いて驚け! 今朝比奈さんと一緒に遊園地に来ているのさ! ただ残念ながら国木田もいるけどな』 キョンからの電話かい?という国木田の声が流れてきた。二人ともそんなところにのこのこと出かけているじゃねえよ…… 俺ははっと思い出した。さっきの朝比奈さんの仕掛けフラッシュバック集の中にジェットコースターに仕掛けを しているものがあったことを思い出す。まずい、やばい! 俺はできるだけ事情を複雑化させないよう端的に説明する。 「いいか良く聞けよ! お前らに危険が迫っているんだ。今すぐ安全そうな場所――できるだけ何もない場所に 移動しろ。ああそうだ、特にジェットコースターには絶対に乗るな!」 『今更言ってもおせーよ。今乗っている最中だ。もう出発しちまったしな』 ……遅かった。しかも隣には国木田も乗っている。このままでは二人とも死んでしまう。 いやまだ間に合うはずだ。そうに決まっている。 「何でも良いから降りろ! 頭がおかしくなったフリでもしろ! このままだとお前と国木田が死んじまう!」 『ああん? あの涼宮のヨタ話を信じているのか? あいつが言ってから数日間何にもおきてねーだろうが。 偶然だったんだよ偶然。今更そんなくらい話を引きずっていてたまるかってんだ』 くっそ。話を聞きやしねぇ。そうだ朝比奈さんはどうしたんだ? 一緒に乗っているのか? 『いやー、一緒に並んでいたんだけどよぉ。途中で怖くなっちまったみたいでな。乗らずに下で待っているってさ』 俺が格好良く乗りこなして見せてやる。そうすりゃ、朝比奈さんも俺に対して小さな好意を抱き――』 もうこれはビンゴだろう。朝比奈さんが抱いているのは好意じゃなくて殺意なんだよ。 だが、もう遅かった。ほどなくして、谷口の少々緊張気味の声が聞こえてくる。 『さてもうすぐ絶叫タイムの始まりだ。おお、せっかくだからキョンも臨場感が味わえるように このまま携帯をつなぎっぱなしにしておいてやるよ。俺と一緒に楽しんでくれ』 楽しめるか。死の瞬間なんて! だが、俺の言葉も届かず、ジェットコースターが加速を開始したらしい。激しくぶつかる風の音と 多数の悲鳴が聞こえてくる。谷口と国木田も喜びの入り交じった悲鳴も聞こえてきた。 だが、すぐに別の悲鳴になる。 助けてくれ! おいなんだこれ! 突然浮き上がって! た、谷口助けて――うあっ! 国木田! おい――うおああああああああ! ………… ………… ………… がちゃん。 携帯電話が何かがぶつかった音が聞こえる。それでも通話は切れることなく続く。 ――大変だ! ジェットコースターから誰かが落ちたぞ! ――救急車を呼べ! ――なんなのよこれ! ――ダメだもう! 俺は聞くに堪えられなくなり、こっちから通話を終えた。俺の会話を聞いていたハルヒも絶望に染まった顔で こっちを見つめている。 「谷口と国木田はもうダメだ……だが、まだ鶴屋さんがいる」 何でも良いから俺は気持ちを切り替えたかった。まだ助けられる人がいると、二人の死をごまかしたかったのかも知れない。 俺はすぐに携帯で鶴屋さんにかけてみる。最初は電波すら届かなかったが、ほどなくしてようやくつながった。 『やあキョンくんっ。なんかあったのかいっ?』 「落ち着いて聞いてください。いいですか落ち着いて――」 『落ち着くのはキョンくんの方じゃないのかいっ? 声が震えてしまっているよっ。一回深呼吸してみるっさ』 鶴屋さんの指摘に、俺は一旦冷静さを取り戻す時間を与えてもらえた。そうだ、落ち着いて話さなければ、 相手に伝わるものも伝わらない。 俺はまず確定した事実を伝える。 「部長が亡くなりました。交通事故で俺たちの目の前で。あと谷口と国木田も多分ダメだと思います……」 『そう……』 鶴屋さんの声はどこか悲しげで、その一方寂しげに聞こえた。一緒にガタンガタンと列車の走る音も聞こえる。 振動音から見て鶴屋さんは今列車に乗っているのか? 「次は鶴屋さんの可能性が高いんです。今電車の中ですか? すぐに安全な場所に移動してください。 俺たちもすぐに向かいますから」 『今は電車の中だよ。誰もいない最後尾の車輌に座っている。あはっ、これは狙うなら絶好の機会だねっ』 その口調に俺はぎょっとした。鶴屋さん、あなたまさか…… 『そうさ。もうすぐあたしの前にも現れるんだよね? その死神――みくるがさ』 「……気が付いていたんですか?」 『はっきりとじゃないよ。でもあの子は嘘が凄く下手だからねっ。会ってすぐにどこか普通の人とは違うって事は わかったのさ。でも、みくるがあたしに言わないならこっちから聞くようなことはしなかった。そんな必要もないから』 ゴーッと対向列車が通り過ぎたんだろうか、携帯電話から大きな風キリ音が聞こえてくる。 鶴屋さんは続ける。 『でもこの一週間はさらにみくるの様子は変わった。本当に心のそこから悩んでいるみたいだったよっ。 同時にいっぱい人が死んだ。直感的にわかったね、みくるがこの事件に関与しているって事が。 でもさすがにあたしもこれ以上黙ってはおけなくなったよ。だから、みくるに直接あってケリを付けるつもりっさ』 鶴屋さん……あなたって人は……! だが、今の朝比奈さんの行動は自分の意思関係ない可能性が高い。鶴屋さんの説得に耳を貸すとは思えない。 『……おっと、来たようだよ。お出迎えが』 「鶴屋さん待ってください! せめて居場所を――」 『じゃあ、また学校でね――』 ツーツーツーツー…… 電話がとぎれる。俺は即座にリダイヤルしたが、電源を落としてしまったのかもう通じない。 俺はしばらく呆然と立ちつくしていた。鶴屋さんは理解はしていないが、朝比奈さんが犯人だと気づいていた。 そして、今直接会ってこれ以上の惨劇を食い止めようとしている…… 「……あたしのせいよ」 その会話を聞き取っていたのだろう、ハルヒが地面に座り込んだ。呆然と真っ青な顔を浮かべている。 ハルヒは続ける。 「あたしがあんたに予知能力なんか与えたからこんな事態になったのよ。そんなことをしなければこんな事態には……」 「それは違うぞハルヒ」 俺はハルヒの肩をぐっと持って立ち上がらせた。 そして次に顔を持って、 「いいか? お前が予知能力をくれたおかげで、あの事故を免れることができたんだ。確かに、結局死んだ人ばかりだが、 それでも鶴屋さんはまだ生きている。お前は鶴屋さんに生き延びるチャンスを与えたんだよ! だから、絶対に悪いことなんてしていない! まだ助けられる! 意味の無かったことにしないために 鶴屋さんを助けるんだよ!」 「……でもどうすればいいのよっ!」 ハルヒのヒステリックな声。俺は頭をフル回転させ、 「とりあえず鶴屋さんの場所を確認してくれ。そして、そこに俺とお前を移動させるんだ。SFとかであるワープみたいにな。 それくらいできるんだろ?」 「場所を探せるけど、移動は――可能だけど確実に情報統合思念体に気づかれるわ! 長距離だったら 時間平面上の痕跡は凄く大きくなるから……」 「そんなことはもうどうでもいいんだよ! ばれてリセット上等だ!」 俺の言葉に、ハルヒははっと息を呑んだ。俺はまくし立てるように続ける。 「俺はもうキレたぞ。鶴屋さんをを助ける。今はそれ以外は考えねえ。例えその結果情報統合思念体が 世界を滅ぼしても、朝比奈さんを説得する方を最優先にしたい。そうすれば例えリセットになっても、 次にやり直すときに対応策がわかるってもんだ。ただ待っているだけじゃ何にも変わらないんだよ! この世界がダメなら、せめて次にいかせる結果が欲しいんだ!」 「…………」 ハルヒは俺の言葉をしばらく黙って聞いていたが、やがてふんっと鼻を鳴らしいつも表情に戻ると、 「わかった。あんたの決意にかけてみるわ。でもみくるちゃんをどうやってつもりなのよ?」 「……それは会ってからときに感じたままを言うだけさ」 ◇◇◇◇ 「朝比奈さんっ!」 「――――っ!」 予想外にかけられた言葉に、見慣れた北高のセーラ服に身を包んだ朝比奈さんは声にならない悲鳴を上げた。 俺とハルヒがワープした先は、俺たちのいた場所からかなり離れた線路だった。ちょうど駅と駅の中間に位置し、 辺りには田んぼと点在する民家しかない。人工的な雑音は何も聞こえず、ただ風が草をなでる音だけが耳に広がる。 状況は最悪に近かった。列車に乗っていたはずの鶴屋さんはなぜか線路の横で横たわり、すぐそばには 大きなナイフを持った朝比奈さんがまさにとどめを刺そうとしている。 「ど……どうして……!?」 突然ここに現れた俺とハルヒに、朝比奈さんは理解できないと困惑の表所を浮かべながら後ずさる。 そばには鶴屋さんがいるが、胸が上下しているところを見るとまだ生きているみたいだ。 ただ和服調の服装がぼろぼろになり、全身土まみれになっていることとさっきまで列車に乗っていたはずなのに 停車駅でもないこんな場所で横たわっていることから判断して、列車から朝比奈さんが突き落としたのか? いや、実際に手は加えず、【偶然】転落するように細工が仕掛けられていたんだろう。 俺とハルヒは叫ぶ。 「朝比奈さん、もうやめてください! これ以上人を殺めるあなたの姿は見たくありません」 「そうよみくるちゃん! もうやめて!」 「できません!」 朝比奈さんは即答した。あまりに歯切れのいい回答に俺は驚く。 逆らえないようになっているのか、それともそれほどまでに固い決意で望んでいることなのか。 どっちにしたって構わない。今は朝比奈さんと止めて鶴屋さんを救えりゃなんでもいい。 俺はやぶれかぶれで知っている情報を出しまくる。 「俺は知っています。朝比奈さんが未来からやって来たエージェントであることも、たまに送られてくる指令には 絶対に逆らえないものがあるって事も。それをふまえた上でお願いしているんです! もうこんなことは!」 俺の言葉に、朝比奈さんは仰天し、 「ど、どうしてそんなこと知っているんですか!? それに突然ここに現れたり、以前も死ぬはずだった人を 助けたりして、キョンくんはいったい何なんですか!?」 「俺のことはいいんです! 説明して止めてくれるなら、後でいくらでも説明します!」 「でも、キョンくんが何者でもあたしは自分の任務からは逃れられません! やるしかないんです!」 「理由は何ですか!? 一体どうしてこんな事をするひつようがあるんですか!」 俺の問いかけに、朝比奈さんはうつむいて、 「鶴屋さんはあの事故で死ぬはずだったからです。いえ、鶴屋さんだけではなく書道部の部員やキョンくんの お友達たちも。それが既定事項なんです。絶対に変えることのできない事。これを変更してしまえば あたしたちの未来はなくなってしまう。他に選択肢はありません」 「なぜですか!? 鶴屋さんたちが一体何をするって言うんですか!?」 朝比奈さんはちらりと息も絶え絶えの鶴屋さんの方に視線を向けると、 「鶴屋さんは鶴屋家という大きな勢力の次期当主です。そして、やがて機関と呼ばれる涼宮さんを監視する 組織を作ります。その存在はあたしたちと大きく敵対することになるんです。車にはねられるはずだった人も そうでした。彼も機関で大きな役割を果たすことになります」 機関――まさか超能力者がいないこの世界でその名を聞くことになるとは思わなかった。 鶴屋さんが機関を作る? 確かに俺の世界の古泉は鶴屋家は機関に関わりがあると言っていた。 しかし、なぜ機関を潰す必要があるんだ? 俺の世界では仲良くとはいかないが、共存はしていたはずだ。 いや待て。朝比奈さんの言う機関と俺の知っているそれでは決定的な違いがある。それは超能力者の存在、 つまり神人を倒すという役割。未来人にはそれができないから、機関にやってもらうしかなく、潰すことはできなかった。 だがここでは違う。消すべき閉鎖空間も倒すべき神人もその役割を持つ超能力者もいない。 「機関は情報統合思念体と結託して涼宮さんが能力を自覚した場合、涼宮さんを排除する取り決めを持っていました。 でも、あたしたち未来には涼宮さんは絶対に必要だったんです。細かい点ではあたしも知らされていません。 ですが、涼宮さんは絶えずあたしたちの未来への道を引き続けました。だから、排除されては困るんです。 そう言った思想を持つ組織もあってはならないんです、あたしたちにとっては」 朝比奈さんの言葉に、俺は三者竦みという言葉を思い出していた。完全ではないが、情報統合思念体・機関・未来…… これらは大きな力のバランスを取りつつ成り立っていたのが俺の世界だった。どれか一つでもかければ バランスが崩壊し、どこかが暴走する。前回は機関で、今回は未来――そういうことか。 「ですが、不幸な事故――あのトレーラーと軽トラックの接触事故で鶴屋さんは亡くなるはずでした。 実はこれも未来の別の人が起こしたものなんです。あそこで絶対に鶴屋さんに死んでもらわないとダメだったんです。 その結果、機関の誕生は大幅に遅れ勢力の小さいものになり、あたしたち未来は機関に対して常に優位性を保持できたんです。 なのに……キョンくんがそれを阻止しました。あの時TPDD何度もやり直したんです。でもキョンくんは絶対に止めました。 やむえずあたしたちは方針を変えて、つじつま合わせをすることにしたんです。別の理由で死んでも同じ事でしたから。 それが今回のあたしが未来から受けた指令。偶然に見せかけて、既定事項で死ぬはずだった人を全て抹殺すること。 訳がわかりません。どうして起こることが事前に予想できたんですか? TPDDも持っていないはずなのに!」 「……あたしが予知能力を与えていたからよ。二回限りだけどね」 ここに来てハルヒが口を開いた。この言葉に朝比奈さんは唖然と口を開け、 「涼宮さん……自分の能力を自覚して……」 「そうよ。あたしはあたしがどういう存在なのか知っているわ。全部は知らないけど、それが原因で 情報統合思念体から疎ましく思われていることも理解している。キョンはあたしが予防措置のとして持たせた 二回の予知能力を使ってその既定事項とやらを回避させたのよ。最初は自動車にはねられるはずだった男子生徒。 次にあのトレーラーとの大きな事故をね」 「……そんな……そんな事って……じゃあもう……」 ふるふると朝比奈さんは首を振った。さっきまでの話だと朝比奈さんもハルヒの力の自覚は 情報統合思念体が地球を滅亡させるきっかけとなると理解しているようだ。 ハルヒはきっと朝比奈さんに鋭い視線を向けると、 「みくるちゃん。あたしは本音が聞きたいの。こんなことしたいのかどうかって。安心して。 みくるちゃんにかけられていた言葉の制限はさっきあたしが全部解除したわ。好きにしゃべれるはずよ」 「えっ……あ、ああ……」 こいつ禁則事項を解除していたのか。さすがだよ。 ハルヒは一歩前に踏み出し言う。 「宣言するわ。あたしは絶対に諦めない。情報統合思念体だろうがなんだろうが、あたしは決して屈しない。 試行錯誤も模索でも何でもやって絶対に進むべき道を作り出してやるつもりよ! 未来の都合なんて知ったこっちゃないわ。 あたしはあたしが思うように生きていく。その時みくるちゃんもそばにいて欲しいのよ!」 俺もハルヒの横に立ち、 「朝比奈さん! あなたは書道部での活動は楽しかったって言いましたよね! あれは嘘じゃなかったはずです! それに鶴屋さんに対しての感謝の言葉もです! だから拒否してください。無理ならハルヒが何とかしてくれます!」 俺の言葉につられたのか、鶴屋さんはすっと手を朝比奈さんに伸ばし、 「みくる……一緒に行こう……みんな待っていてくれているんだよっ……」 三人の言葉に朝比奈さんは半分涙目になっていた。 ――しかし、それでも首を縦には振らなかった。 「あたしは99%今回の任務は嫌でした。あたしは鶴屋さんに心の底から感謝していたし、 書道部での活動も凄く楽しくてそのまま何も起こらずに続いていけばいいとも思っていました。 でも残り1%の自分は違うんです。やらなければあたしとあたしの未来が消えてしまう。そんなのはイヤです。 嫌なんです! だからこうするんですっ!」 朝比奈さんはナイフを振り上げる。ダメだ朝比奈さん! やめてくれ―― 飛び散る鮮血。俺はその現実に激しいめまいを覚えた。 胸にねじ込まれたナイフが北高のセーラー服を汚し、ふらふらと鶴屋さんのそばに倒れ込む。 ――そう朝比奈さんは自分の胸をナイフで突き刺したのだ。なんでだ!? 「朝比奈さん!」 「みくるちゃん!」 俺とハルヒは倒れ込んだ朝比奈さんの元に駆け寄る。胸からは多量の出血が始まり、口からも漏れ始めていた。 「みくるっ……みくるっ……!」 鶴屋さんも酷い重傷の身体を引きずりながら、朝比奈さんにすがりつく。 何でこんな事をしたんですか!? 朝比奈さんは俺たち三人にニコリと力なく微笑み、 「これで……残りの1%の自分の消せ――ました。これでいいんです……やっと99%の自分が100%になれたから……」 「こんなの違う! こんなの間違っている! あたしは認めない! 絶対に死なせない!」 そう言ってハルヒは朝比奈さんを治癒させるべく手をかざして…… それと同時だった。突然激しい地鳴りが始まり、地面どころか空間も歪み始める。 これってまさか!? ハルヒはがっくりと肩を落としていった。その目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。 「情報統合思念体の……排除行動が始まったわ……」 「そうか……ちくしょうここに来て……!」 俺は地面を拳で殴りつけた。覚悟の上だったはずだ。でも、こんなところで終わりなんてあんまりじゃねえか…… ハルヒは袖で涙を振り払うと、すっと立ち上がり、 「リセットするわ。キョン、みくるちゃんと鶴屋さんをお願い……」 そう言って目を閉じて情報操作を開始する。 朝比奈さんと鶴屋さんは予期せぬ状況に不安げな表情を浮かべ、 「なんなんですか……どうか……したんですか……?」 「キョンくん……これは……」 俺はそんな二人を抱き寄せると、 「大丈夫ですよ。もうすぐ何もかも無くなります。そして、次に目を覚ましたときはきっとみんな平穏無事に 学校ライフを満喫しています。俺が保証しますよ」 朝比奈さんは俺の言葉に目に涙を浮かべて、 「そっかぁ……次に目を覚ましたら、あたしみんなとずっと友達でいられるんですね……ふふっ……」 そうですよ。あなたはSOS団のマスコットキャラであり、俺の癒しの存在です。他のステータスなんて入りません。 未来人であることを押しつけてくる奴がいたら、そいつは窓から投げ捨ててやります。 と、ここで鶴屋さんがすっと頬に手を当ててきて、 「キョンくんは……ちょっとハルにゃんやみくるとも違うね……見ている方向が違う……っさ。 キミの瞳の中には……もっとずっと先の明るい未来が見えている気がするよっ……。でもハルにゃんはまだ迷っている…… キョンくん、きちんと面倒……見てあげないと駄目にょろよ……」 ええわかっています。あなたはSOS団名誉顧問。あとハルヒのことは任せてください。 あいつは俺がきっちりと導きますから。 やがて地面の振動を飲み込むように、世界が暗転し始める。 その時、ふと気が付いた。数百メートル離れた先に立っている北高のセーラー服を着た一人の少女。 長門有希だ。 きっとパトロンの命令でここに駆けつけたのだろう。 待ってろ長門、次はお前をこっち側に引き入れてやるからな―― ……… …… … ◇◇◇◇ 次に気が付いたときにはあの灰色の教室――時間平面の狭間にいた。 俺はだらんと力なく壁に寄りかかっている。 すぐ隣ではハルヒが同じように呆然と俺に頭を寄せていた。そして、つぶやくように言う。 「……疲れた」 「そうだな……」 「……みくるちゃんとはあんまり遊べなかったな……」 「次はきっとできるさ……」 俺たちはそのまま一眠りすることにした。さすがに色々あり過ぎて今回もくたびれちまったからな。 意識が闇に落ちていく中、俺はふと考える。 機関と未来人の均衡関係。やはりこの二つは並立して存在してこそ成り立つものなんだ。 そうなるとあと残りは一つ。全ての頂点に位置し、ハルヒの力の自覚を決して認めない最大の敵。 奴らを何とかすれば、きっとバランスの取れた世界が切り開けるはずだ―― ~涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(前編)へ~
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 ◇◇◇◇ 【一週間前に事故を回避した少年。また事故に巻き込まれ死亡】 惨劇を目撃した翌日の放課後。俺は谷口が床に引くために持ってきていた新聞に昨日の惨劇の記事が載っていたので、 それをかっぱらって読んでいた。他にニュースがなかったのかそれとも珍しい事件だったためなのか新聞社がどう判断したのか わからないが、見事に一面トップを飾っていた。上空から落下した看板を写している写真も掲載されている。 もちろんその下に広がる血もだ。生々しい報道写真である。 昨日その事故に巻き込まれた男子生徒は、やはり先日に俺が助けた奴だった。事故現場にいた目撃者や警察発表によれば、 事件性はなく偶然に偶然が重なったために起きたらしい。折れた標識は老朽化が酷く、近く交換される予定だったし、 看板も隣接する道路の度重なる大型トラックの通過で激しく揺さぶられ続け、留め金の部分が壊れてしまっていたようだ。 実際に目撃していた俺はそんな偶然が続くものなのか?と思いつつも、そんなまるでシナリオのような筋書きで 謀殺を図る意味なんてあるとは思えないと結論づける。誰かが仕組んでいた形跡もないと報道されているからな。 とはいえ偶然の事故でもそんな惨劇を目撃した俺が平気なわけがない。遠目だったとはいえ、一部始終がたまに フラッシュバックして蘇りダウナー状態が続いている。 ハルヒも同じようで特に昨日事件について何も言ってはいないが、ぼーっと憂鬱な目で何もしていないことが多かった。 一応書道部に参加はしているが、いつもの熱血練習もどこへやら何もせずにただ外を眺めているだけである。 あと、昨日あまり反応を見せなかった朝比奈さんは、今日学校を休んでいる。やっぱりショックだったのだろう。 あの後一言も言葉を発することもなく別れ際もただお辞儀するだけだったしな。元々気の弱いお方だ。学校を休むのも無理もない。 そんな憂鬱真っ盛りで新聞を読んでいると、横から谷口と国木田が顔を突っ込んできて、 「キョンよー、この事故にあった生徒ってお前がこないだ助けた奴なんだろ? まっ、あまり気にするなって。 こいつがツいていなかったとしか言いようがねーんだから」 「そうだね。再度目撃しちゃったんだから、キョンのショックも大きいのはわかるけどさ」 「しっかし、運命ってのは残酷だぜ。せっかく命からがら助かったのに、また追い打ちをかける必要はねーだろ。 そういうのを操る神様がいるって言うならそいつはかなり陰険な野郎だな」 「神様かぁ……この場合死神だろうね。一度首に掛けた鎌をキョンに邪魔されたから、リベンジでもしたのかな?」 最後の国木田の死神という言葉に俺は少し心臓が高鳴った。 考えて見りゃ元々ハルヒからもらった予知能力がなければ、あの男子生徒はすでに死んでいたはずだった。 それを俺があり得ない力で、あり得ない救出劇を実行してしまった。つまりあの男子生徒の運命を変えてしまったって事だ。 しかし、本当に死神なるものが存在するならそんな茶々入れを見逃すだろうか? 死の予定表に書かれている人物が 生きている事自体を許さないに違いない。だからこそ、再度偶然という事象を利用してあの男子生徒を殺害した。 そういやそんな映画があったね。同じように予知能力を発揮して災害から逃れたのは良いけど、結局死からは逃れれず 各々死んでいくって言う展開が。それと同じ事が起きているってことか。 ………… ……なーんてね。考えすぎにもほどがある。宇宙人やら未来人でいっぱいいっぱいだというのに、レイスやゴーストどころか 死神なんていう得体の知れないものの登場なんて勘弁願いたい。 と、ここで書道部顧問がやってきた。部員、仮部員一同が挨拶を交わす――ぼーっとしたままのハルヒは除くが。 挨拶後、顧問は手に持っていたチラシっぽい紙を俺たちに配布し始め、内容についての説明を始める。 簡単に言えば、三日後の今週末に展覧会があるらしい。しかも鶴屋さん系列のものらしく、特別に入場料は タダにしてくれる。せっかくだから都合の悪いが悪くない人は言ってみないか?と。 「うちの方で主催するんだけど、せっかく書道部なんだからこう言うのに行ってみるのも悪くないと思ってさっ! 家の方で掛け合ってみたところ、これが快くOK! みんな気兼ねなく参加してほしいっさ」 鶴屋さんのフォローに部員の方は一同参加を表明した。さて、問題の仮入部群団の方だが…… 「俺は参加しますよ。せっかくだから芸術に触れて大いなる未知の世界に触れてみるのも悪くありませんからね」 谷口は参加を表明。何が芸術だ。お前のことだから、谷口的美的ランクの高い書道部女子部員の私服姿でも拝みたいんだろ。 ついでに帰りがけにナンパを始めそうだ。 「僕も予定はないから行くよ。せっかくだからね」 そう国木田も賛同。こいつも女っぽい顔つきながら意外と女好きなのは、付き合いの長い俺はよく知っている。 谷口のように露骨ではないが、内心は谷口と大して変わらないたくらみを持っていそうだ。 とりあえず俺も頷いておくことにした。朝比奈さんがいないとあまり意味はないんだが、どうせ休日やることもなく ハルヒの呼び出しを受けない限りは家でごろごろしているだけになるだろうしな。 で、今日欠席している朝比奈さんについては、 「あたしの方で今日のうちにみくるに確認しておくよっ。あんな事があった後だから……あんまり無理強いはできないけどね」 そう鶴屋さんは悲しげな表情で言った。 となると残りはハルヒになるわけだが…… 「で、ハルにゃんはどうするにょろ?」 「……ん? ああ、みくるちゃんが行くなら」 どこか上の空でそう答えた。全くストレートに朝比奈さん目的を言えるのもこいつの性格ならでは、か。 結局、朝比奈さんの参加次第ということもあるので、最終参加確認は明日にすることにして、 今日の書道部活動はこれにて終わりになった。 翌日、健気に復活した朝比奈さんは快くOKを出した。すっかりダウナーモードを脱して元気よく練習+朝比奈さんいじりに 精を出しているハルヒも参加を即答。 そんなわけで参加者は顧問+書道部部員(部長、部員二人、鶴屋さん、朝比奈さん)+仮入部員全員の参加は決定した。 ま、全員参加って訳だ。 とりあえず退屈そうにして芸術なんていうものに興味のないことを悟られないように、週末は朝比奈さんの私服姿の鑑賞に 務めることにするかね。ってそれじゃ谷口とあまり変わらないか。 ――思えば、この時点で俺ももう少し死神の存在について考えてみれば良かった。 ◇◇◇◇ てなわけで週末だ。俺たちは市内の展覧会場に集合していた。てっきりもっと大規模なテーマパーク的な建物で 行われるのかと思いきや、商店街の中にあった空き店舗を一つ改造してイベント会場にした小規模のものだった。 どうやら個人展覧会ぐらいのノリのようだな。その会場はちょうど通行量の多い十字路の角に位置している。 たまにトラックがガタゴトと通り過ぎて、路面を激しく振動させる。 現在会場前にいるのは俺とハルヒだけだった。なんせ予定時刻の30分前で、まだ会場すらオープンしていない状態だからな。 SOS団の時の早出がすっかり癖になっているおかげで、一般人予定時刻よりも行動がすっかり早くなってしまったよ。 まあ、ハルヒはSOS団団長の時と同じように一番手で来ているが。 「で、みくるちゃんから未来人であるって言われたの?」 唐突にハルヒから声を掛けられ、俺はしばらくあたふたとしてしまったが、 「……いや、まだだよ。タイミングを考えれば恐らくもうちょっと後になると思うが」 「そ」 素っ気ない返事を返すハルヒ。 そういや、俺の世界でカミングアウトをされたことを思い出すと、長門は俺の身に危険が迫ることを考えた上で告白、 古泉はどっちかというと俺の方からきっかけを作ったようなものだったが、朝比奈さんは何であのタイミングで 告白したんだろうか? あの状況を考えて、別にその必要性はあったとは思えないが。 ここで俺は問題が発生していることを認識されられた。このまま朝比奈さんが黙ったままだった場合はどうすればいいのか。 まさかあなたは未来人ですか?なんて聞くわけにも行かない。だが、このまま隠された状態を続けられても…… ふと俺はハルヒに、 「そういや、お前朝比奈さんのことはどう思っているんだ? ぱっと見た目は気に入っているように見えるが」 「どうもこうも可愛くって仕方ないわよ。冗談抜きで持って帰りたいくらいにね」 ――話し始めは楽しそうだったが、すぐに憂鬱の篭もったため息を吐くと、 「でも古泉くんの時のことを考えるとね……例え個人と仲良くしても後ろにいる連中があんな感じじゃどうにもならないわ。 みくるちゃんも未来人らしいけど、その後ろには特定の思惑を持った勢力がいる。そいつらが何を考えているのかわからない以上、 素直に今の楽しさを受け入れにくいってものよ」 やはり前回の古泉――機関の件が少々トラウマ気味になっているようだ。せっかく古泉と仲良くしていたってのに、 オチが核でドカンじゃ俺だってショックは大きかったさ。 だが、未来人の思惑か……。俺の世界じゃ朝比奈さん(大)は既定事項をこなそうとしていた。自分たちの未来を確保するため だそうだ。ならこの世界でも同じ事に務めるだろう。それだけなら別に機関のように突拍子もないことをやらかしたりは しないと思うが、どうだろうか。なにぶん禁則事項を連発されているからな。俺に知らされていないこともかなりあるはずだ。 そんなことをつらつら考えているうちに、俺の前には黒塗りでいかにもお金持ちが乗りそうなベンツが止まる。 その後部座席からカジュアルな和服調私服姿の鶴屋さんと可愛らしいワンピース姿の朝比奈さんが現れた。 「やあやあっ。もうご到着だったんだねっ! 予定より早く動くのがハルにゃん行動原則かいっ? それともキョンくんと 二人っきりになるのが目的だったりしてっ。そこんところどうなんだいっ?」 「こんにちわ、鶴屋さん。言っておくけどこのバカキョンが勝手に来ただけよ。あたしは一番乗りが原則ってだけ」 ぶっきらぼうに答えるハルヒだったが、その予定時刻よりも早く集合場所に来る癖を作ったのは他ならぬお前なんだが。 おっと、そういやなんで朝比奈さんも一緒に乗っているんですか? 「あー、途中でみくるを見かけてねっ。せっかくだから途中で拾ってきたんだよ。一人で歩いていると、ふらふらと迷子に なっちゃいそうだしねっ」 「……実は本当に迷っていたんです。困って鶴屋さんに電話しようとしていたらちょうどばったり出会えて助かっちゃいました」 てへっと思わず俺もお持ち帰りしたくなるようなかわいさを爆裂される朝比奈さん。なんて事だ。俺に言ってくだされば、 例え自宅でも駆けつけて場所案内をしましたよ。 朝比奈さんは俺の前に立つと、ぺこりと頭を下げて、 「お待たせしちゃってすいません。今日はどうぞよろしくお願いします」 「いいえいいえ、俺とハルヒが早く来すぎただけですから。こっちこそ、仮入部の新米なのでよろしくご指導お願いします」 礼儀正しいには、それ相応で返さないとな。腕組んでふんぞり返っているハルヒも俺を見習ったらどうだ―― って、何かすごい睨みジト目でこっちを見てやがる。なんだなんだ、朝比奈さんを取られたとでも思ったのか? お前みたいにどうこうしたりしないから大丈夫だよ。 そんなことをしている間に、顧問に引きつられた書道部部員一同・谷口・国木田がやって来た。これで全員勢揃いか。 ただ開場まで少し時間があるので、適当に入り口前で時間を潰すことになる。 それぞれ和気藹々と雑談に興じるなか、俺たちの前にガスか何かを積んだトレーラーが信号待ちに入った。 ゴゴゴゴとけたたましいエンジン音と一緒に、ディーゼル車特有の黒い煙をマフラーから吐きだしていた。 全く信号待ちの間はエンジンを止めておけよ。こんな真っ黒い煙を朝比奈さんに浴びせたら体調を崩しかねないじゃないか。 俺はディーゼルの煙を浴びない位置に朝比奈さんを移動させようと、彼女の方に振り返って、 「あれ?」 さっきまで朝比奈さんが経っていたはずの場所にその姿が無くなっている。どこいったんだ? 俺は朝比奈さんの姿を探して辺りをきょろきょろと見回していると、 「キョンくん、どうかしたんですか? ――けほけほっ、排気ガスが凄いですね。口の中が真っ黒になりそう」 朝比奈さんの声。気が付けばさっきいなかったはずの場所に、朝比奈さんが立っていた。俺が心配したとおり、 排ガスを避けようと手で口元を仰いでいる。 俺は首をかしげながら、彼女を俺の背後当たりに移動させた。ちょうど俺の位置は風の流れにより、排ガスの餌食にはならない。 ――さっきいなかったのは見間違えか? そろそろ時間だと顧問の声が聞こえる。俺は首をかしげながらも、開場の方へ移動しようとして―― ………… きっと気が付いたのは偶然だったのだろう。交差点を渡る必要なんてないから、信号機がどう変わったなんて 普通は確認しないからな。 だが、俺ははっきりと見てしまった。交差点の片方の信号の青のまま、トレーラーの方の信号も青に変わった瞬間を。 俺は今から始まることに、一声すら上げることができなかった。 まず俺のすぐ横に止まっていたトレーラーが青信号になったため走り始めた。だが、もう一方の信号も青なのだ。 当然の事ながら、止まることなく乗用車は交差点を通過しようとする。ちょうどトレーラーが交差点に入りかけた瞬間、 交差側の道路から大量のガスボンベを積んだ小型トラックがかなり速い速度で突っ込んできた。言うまでもなく、トレーラーと 小型トラックは接触し派手な音を立てた。しかも、両方とも積んでいるものが可燃物だったため、 すぐに爆発を伴った炎上が始まる。その時の爆風で俺の身体は吹っ飛び近くの商店の壁に激突した。 そのすぐ隣に同じように書道部顧問も叩きつけられる。 あまりの痛みに俺はしばらく言葉を失ったが、すぐにはっと気が付いた。俺たちに向けて爆発の衝撃でガスボンベが 数本飛んできていることに。 俺は目をつむることもできずに、そのうちの一本を追っていた。俺のすぐ横数十センチの所に突き刺さった。 だが、それとは逆側でグギャという気色の悪い音が聞こえる。見れば書道部顧問の腹にガスボンベが突き刺さり、 だらだらと口から多量の血を吹き上げていた。 目の前で起きたスプラッタ劇。こないだの男子生徒の事故死のショックを遙かに上回る状況に、俺は戦慄を憶えた。 だが、それで終わりではない。今度は別の方角へ飛んでいったガスボンベの一本が近くのショーウィンドウに飛び込んだ。 程なくして何かの拍子で引火したのだろう、店舗の内側で大爆発が起きる。その時、ウィンドウガラスが一斉に飛び散り 周囲にまき散らされ、その無数の凶器が俺から数メートルの位置に立っていた谷口と国木田の全身に突き刺さった。 まるで狙いすましたように的確に首や胸など急所に突き刺さっていく。 「――キョンくん、ハルにゃん逃げ――っ!」 鶴屋さんの叫びは途中でとぎれた。玉突き事故状態になっていたため、別の乗用車が事故現場に突っ込みそうになり、 あわててハンドルを切ってその乗用車がスピンを始め、それが鶴屋さんを巻き込んだのだ。 はねとばされた彼女は―― ――次の瞬間、俺は鶴屋さんの行く末を確認する前に再度吹っ飛んだ。すぐ近くに落ちていたガスボンベの一つが爆発したのだ。 鶴屋さんが逃げ……と言っていたのはこれのことだったに違いない。 数メートル飛び、背中から落下して全身が酷いしびれを起こす。だが、どういう訳かこんな時に限って視覚だけは しっかりしていて、別の乗用車がまた一台トレーラに突っ込み、すぐに大爆発が起きた。その燃えさかる火炎に 書道部部員二人が巻き込まれていく。 「キョ……ン……」 聞き慣れた声が耳に届く。何とか首をそちらに向けると、俺と同じように道路に倒れているハルヒの姿が目に止まった。 同じようにさっきのガスボンベの爆発に巻き込まれたのだろう。身体のあちこちから焦げた煙が上がっていた。 辺り一面は地獄絵図のようになっていた。トレーラーの可燃物質が大量に漏れ、それから発生した炎が周囲の民家に 燃え移っていく。 その中、一人火だるまになって悲鳴を上げていた人間の存在に気が付いた。書道部部長だ。彼女が泣き叫びながら 身体中の炎を払おうと手をばたつかせていた。しかし、すぐに肺の中にも火が入ったのか、意識を失って倒れてしまった。 「もど……もど……っ」 ハルヒは動かない口で何かを訴えていた。 ああそうだ。朝比奈さんは? 朝比奈さんはどこに行った? 無事なのか…… 俺は彼女の姿を探すべく、身体を空に向けて見た――広がる空に馬鹿でかいトレーラーの一部。爆発の衝撃で 遙か上空まで飛び上がっていたのが、今まさに俺たちめがけて落ちてきているのだ。 戻れ――! そう叫んだのは、きっと軌跡だったに違いない。俺はそんな言葉なんて頭の中に全く浮かんでいなかったし、 この惨劇の中では自分の予知能力なんてすっかり忘れていたんだから―― ……… …… … 「うわっ!」 俺は唐突に大声を上げていた。 そして、辺りを見回す。展覧会の会場前。突然俺の上げた奇声に、顧問一同が俺を奇異の目で見つめている。 目の前にはディーゼルの煙を吐くトレーラが停止中――次に目に入れたのは信号機。さっき見たのと同じように、 交差する両車線ともの信号が青になっている。トレーラーは今まさに発進しようとしていた。 「――逃げろっ!」 俺は無我夢中で近くにいた書道部員一同を引き連れて、まだ未開場の展覧会場に押し入った。 何秒だ? あの惨劇を何秒間俺は見続けていた? 例えばあれが100秒間だったら、今逃げ切れるのは20秒しかない。 惨劇を止めるすべはもうないのだ。とにかく手近な人間を逃がすだけで精一杯だった。 会場の入り口にいた係員から、困ります!と止めに入ったか、そんなことお構いなしに会場内に侵入――いや逃げ込む。 「おいキョン! 何なんだよ!」 「どうしたのさ! キョン聞いているのかい!?」 「ちょっとちょっとキョンくんってばっ!」 「キョン! あんたまた――!」 「キョンくん、なんでまた――!」 みんなの声が交錯する。だが一つ一ついちいち答えられている余裕なんてない。俺はできるだけ展覧会の会場の奥に―― ――背後で耳を貫く接触音と爆発が発生した。俺たちはその衝撃に身を飛ばされた。 衝撃で会場内が激しく揺さぶられ展示物が落ちるどころか、壁もばらばらと崩れ落ちていく。 背後――交差点では次々と玉突き事故が起こり、さらにトレーラーの可燃物質と小型トラックのガスボンベが次々と 引火してさらに大きな爆発を続けていた。 しばらく俺は唖然としていたが、あわてて周りを確認し、全員の姿を見渡した。周囲には書道部関係者全員が腰を抜かして 座っている。その顔は皆恐怖に引きつっていた――いや、違う。 二人だけは異なる反応を見せていた。まずハルヒだ。じっと俺の方を見つめていた。理由はわかる。また予知能力を使っただろう ということについて何か言いたいのだろう。 そしてもう一人は俺に背を向けて事故現場の方を見つめてため、表情を確認できなかった……朝比奈さんの表情だけは。 ◇◇◇◇ 消防や警察が大騒ぎしてやっとこさ事故の状況が落ち着いた辺りで、俺たちは全員警察署に連れて行かれた。 いや別に連行された訳じゃない。事故の状況を知りたいために目撃情報を知りたいんだと。 ただし、事故を予知していた俺を除いて。家には事故に巻き込まれたが、無事だから安心してくれとだけ電話で伝えておいた。 警察からはいろいろ聞かれた。特にどうして事故を予見することができたのかについてである。 これに関しては素直に言うわけにもいかない――言ったらかえって怪しくなるだけだからな。 だからこう答えておいた。 信号が両方とも青になるのに気が付いた。そのままだとトレーラーとガスボンベを積んだ小型トラックが衝突するのは 確実だったのであわてて逃げた。トレーラーの運転手を止めようとも思ったが、気が付いたときにはもう発進していたし、 声が届くのは無理だと考えた。 「よう……」 「……長かったわね、キョン」 警察署の待合室で長々と聴取を受けていた俺を待っていてくれたのはハルヒだけだった。 顧問を含め全員が酷く動揺しているらしい。もちろん鶴屋さんや朝比奈さんもだ。かなり精神的に衰弱しているらしく 早く家に帰って休ませないと精神レベルで長期間の傷を残しかねないという医師の判断もあったとのこと。 俺とハルヒは警察署から出て、すっかり暗くなった外に出る。まばらに浮かぶ雲の間にきれいな半月が浮かんでいた。 二人はしばらくどこに行くまでもなく、暗い歩道を歩き始めた。時折、警察署脇を通る道路を走る車のテールランプが 俺たちを照らしていく。 ハルヒはすっと俺の方に振り返り、 「……警察はきちんとごまかせたんでしょうね?」 「ああ、そっちは問題ない。少なくても犯人扱いはされていなさそうだったよ」 「そう……」 ――それ立ちのそばをトラックが通っていく。その振動に俺は思わずあの大惨事を思い出し身を震わせる。 ハルヒも目の前の惨劇には相当堪えたらしい。かなり意気消沈した様子だった。 続ける。 「使った……のよね? 予知能力」 「……そうだ。あの事故が起きることがわかっていたんだ」 それを聞いてハルヒは、ふうっとため息を吐くと、 「何があったのか教えて」 俺は端的にどんな惨劇だったのか伝えた。完全に怒濤の状況だったため記憶が曖昧な点もあったが、 ひょっとしたら俺とハルヒも死んでいたかも知れないということも。 そのあまりの凄惨さにハルヒはしばらく閉口していたが、 「それじゃ仕方ないわね……ありがと、あんたのおかげで命拾いしたわ」 「俺の予知能力はこれでもう終わりなのか?」 「そうよ。これ以上は面倒事になりかねないし……それにあまり意味がないことに気が付いたから。 これから事故が起こるたびにこんな事を繰り返していても無限ループにはまりこむだけよ」 「意味がない? それは違うだろ。危うくお前まで死にそうになったんだ。お前が死んだら何もかも終わりさ。 リセットもできなくなる」 「ポジティブで良いわね、全く……」 ハルヒはやれやれと肩をすくめた。超ポジティブ思考はお前の専売特許だぞ。お前らしくもない。 ふと俺はリセットのことを思い出し、 「リセットはするのか? 俺は予定されてた二回の予知能力を使っちまったが」 「しないわ。今回のは情報統合思念体は全く関係のないただの事故だったし、リセットを連発するとその分奴らにばれる可能性も 増す一方だから。でも予知能力はなし。前回、今回と短い間に二回続けてだったから情報統合思念体があんたに興味を 持ち始めているみたいよ。変な能力を持っているんじゃないかってね」 「マジかよ」 ハルヒの代わりに俺が変態パワーの持ち主に認定されてはたまらん。とっつかまえられてキャトルミューティレーションは 勘弁願いたいからな。 「とにかく、明日からは今日の事故のことも忘れて、いつも通りの日常を続けるわよ。 今のところ、問題なく推移しているんだから」 「そうだな……とっとと忘れちまうのが一番か」 「じゃ、また明日、学校でね」 そう言ってハルヒは自宅へと帰っていった。 ……俺も帰るか。いい加減くたびれたからな。 ◇◇◇◇ 翌日。北高は昨日の玉突き事故の話題で持ちきりだった。校内を歩いていてもその話しか聞こえてこない。 耳に届く内容では相当尾ひれの付いたうわさ話になっていて、やれ陰謀説とかUFOとかの話まで混じっていた。 事故を目撃した谷口と国木田は学校を休んでいた。無理もない。あれを見た後で平然としている俺の方が貴重だろう。 ハルヒはダウナーモードながら来ていたが。 そんなこんなで放課後、俺とハルヒは書道部の様子確認もかねて部室を訪ねてみることにした。 予想通り誰もいない――と思いきや一人だけいた。鶴屋さんである。 「やあ、キョンくん、ハルにゃん。元気――ではなさそうだけど、学校に来れるくらいにはなったみたいだね。よかった」 そう言う鶴屋さんもショックは大きかったらしく、いつのものように口調にキレがない。 彼女に聞くところによると、やはり朝比奈さんは今日学校に来ていないとのこと。顧問も休み。部員に関しては、 一人の女子部員だけが学校に来ていたらしいが、やはり部活に参加する気力はないらしく、 ついさっき帰宅の途に付いたとのことだった。 「ま、部活する気分でもないしね。今日は解散にしましょうか」 「そうっさね……」 ハルヒと鶴屋さんはそう頷くと帰り支度を始める。 ふと、鶴屋さんが部室の窓の外に顔を出し、笑顔で手を振り始めた。俺もそれに続いて外を見ると、 校舎の出口近くで書道部の女子部員が手を振り替えしている。どうやら、俺たち以外で唯一登校して部員のようだ。 「また明日ねーっ! 気を落とすんじゃないっさ!」 窓を開けて鶴屋さんが元気よく――少々無理やり気味だったが――声を掛けていた。女子部員の方も何事か言い返してきたが 声が届かずにその意味までは聞き取れなかった。 ……ただ、俺の耳には別の音が飛び込んできた。野球部のバットとボールがぶつかるカキーンという音だ。 女子部員は特に不自然な動作もなく校門から出て行こうとする。 その時だった。 確率にすればどのくらいのものなのだろう。野球部の練習から放たれた大飛球が彼女の後頭部に直撃するなんて。 「あっ!」 「うそっ!?」 その様子を見ていたハルヒと鶴屋さんは唖然とした声を上げた。俺に至っては声すら上げられない。 昨日あんな事があったのに、今日は天文学的確率で野球ボールをぶつけられるなんて、この世に神っていうものはいないのか? だが、事態はそれで終わっていなかった。想像もしなかった後頭部のショックに女子部員は脳しんとうか何か起こしたのか、 ふらふらと校門から車道に向かってよろめき始める。 「ダメだよっ! そっちは危ないっ!」 鶴屋さんが必死に声を飛ばすが、恐らく頭痛で聞こえていないだろう。どんどん車道に向かって移動していく。 学校校門前の道路は信号がしばらくなくスピードを上げて通り過ぎる自動車も多い。突然、車道に入り込めば ブレーキの暇もなく轢かれるかも知れない。 ――だが、危機一髪のところで偶然近くにいた別の北高女子生徒がよろめくその身をキャッチした。 これに鶴屋さんがふーっと大きなため息を吐いた。昨日の今日でまた惨劇が発生するなんて最悪だからな。 悪いことは早々続かないってことの現れだ。 女子部員は助けた女子生徒としばらく話をしていたが、ほどなくして痛みも治まったのかその手を離し、 自力で歩き始める。ぶつかったショックは大したことはなかったらしい。しかし、大丈夫なのか? 一旦学校に戻って―― 次の瞬間、その女子生徒の身体が路上に突っ込み、ジャストタイミングで通りかかったバスにぶつかって吹っ飛んだ。 ここからでもドカッという嫌な音が聞こえ、彼女の身体が路面を転がっていく。 最初あまりの一瞬のため何が起こったのかわからなかったが、しばらくして理解できた。彼女が歩いていた先の地面に 転がる一つの物体。あの後頭部にぶつけられた野球ボールだ。ぶつかった後、できすぎたタイミングで彼女の進行方向に 落ちていたのだ。そして、まだ痛みが残る女子部員はそのボールの存在に気が付かず、それを踏みつけバランスを崩し、 車道に飛び出してしまった。当然、一瞬の出来事だったためバスの運転手が対応できるわけがない。 そのままブレーキすら掛ける暇なく、彼女の身体をはねとばしてしまった。 ………… ………… 俺たち3人はその光景を見ていたが、言葉一つ吐くことができない。 やがて鶴屋さんが腰を抜かすように床に座り込んでしまう。 ハルヒは机を思いっきり殴りつけ、どうなってんのよ!と叫んでいた。 俺もハルヒに同意だ。 一体何がどうなってやがる……!? ◇◇◇◇ 俺たちは書道部女子部員が駆けつけた救急車に載せられていくのを間近で見守っていた。 全身からの多量の出血がアスファルトの道路を汚している様子に、救急隊員も絶望的だと首を振るばかりだった。 あの様子では助かる見込みはないだろう。 事故現場は封鎖され、警察による実況見分が行われている。 俺たちは目撃者として何点か話を聞かれただけで、すぐに解放された。今回も確実に事故として処理されるだろう。 だがしかしだ。 偶然飛んできた野球の大飛球にぶつかり、あまつさえそのボールを踏んで車道に突っ込んで事故。 これは事故と言っていいのか? 滅多にあり得ない偶然が二つ重なるなんて現実起こりえるんだろうか? しかし、何者かによる故意が確認されなければ事故として判断するしかないだろう。それが現実だ。 昨日――俺とハルヒは先週も目撃したが――に引き続いての事故遭遇に鶴屋さんも完全に普段の元気がそぎ落とされ、 意気消沈しながら自宅からの迎えの車で帰っていった。 正直な話、俺も相当堪えているはずなんだがそれでもまだ正気を保っているのは今までのトンデモ経験と 前回の機関による無差別砲撃戦+核テロを間近に見たせいからだろうか。 一方のハルヒは、気力を削がれるのとは逆に苛立ちを見せていた。男子生徒の偶然が重なりまくった事故死・ 信号機異常による玉突き事故・女子生徒の偶然の事故死……これだけ続けば、ハルヒでなくても不信感を感じるはずだ。 俺だってどうみても何かがおかしいことぐらいは気が付いている。 「これからどうするんだ?」 俺は難しい顔をしたままのハルヒに尋ねてみる。ハルヒはすぐに手帳を鞄から取り出し、何やら確認を始めた。 そして、歩き出して、 「嫌な予感がする。とりあえず他の書道部部員を訪ねてみるわ」 「おい、まさか同じことが他の部員にも起きるかも知れないってことなのか?」 俺の問いかけに、ハルヒは首を振ってから肩をすくめて、 「わかんない。ただ嫌な感じがするのよ。さっきの事故だって故意にしか見えないような事故よ。でも、その事故が起きたのは 全部偶然が重なったからだから、誰かの故意によるもののはずがない。訳わかんないわ。だから、ただ考えてもやもや しているよりかはマシだと思っただけ」 そうかい。ま、確かにぼーっとしているだけってのも嫌な感じが募るだけだしな。 で、どこに向かうんだ? ◇◇◇◇ ハルヒが言った目的地は、もう一人の書道部女子部員の家だった。場所は鶴屋さんから以前聞いていたらしい。 その辺りはしっかりしている奴である。 もう一人の女子部員の家は10階建てのマンションの最上階にあった。長門の住んでいるような高級そうなところである。 俺たちはエレベータで最上階まで上り、その部屋の前に立った。 ハルヒは部屋番号を確認してから数回チャイムを押してみた。団長様の方は問答無用に開けようとしたが、 こっちのハルヒはあっちよりも意外と常識的かもな、とか思ったりしてしまうが、今はそんなことはどうでも良い。 チャイムを鳴らしても一向に返事がないため、もう数回ならしてみた。ついでにノックを含めて、女子部員の名前を呼んでみる。 ――やはり返事がない。 「留守じゃないのか? 買い物にでも出かけているんだろ」 「昨日あんな事があったのに、ほいほい出歩けるようなタイプには見えないけど……」 ハルヒはあごに手を当てて思案顔を見せる。確かにこの女子部員はどっちかというと小心者的な臭いを漂わせていた。 昨日の事故でもかなり怖がっていたしな。 さて――どうしてものか。 と、ここでハルヒは念のためという感じで、扉のノブに手を掛けてる。すると、かちゃっという音とともにあっさりと開いた。 何だ鍵掛けていないのか? 不用心な―― ――と思ったら、突然扉が内側から引っ張られたように閉じた。ほどなくして鍵のかかる音まで聞こえてくる。 「えっ!?」 突然のことにハルヒは目を白黒させた。今のはどう見ても誰かが内側から開いていた扉を閉めたとしか思えない。 しかも鍵も掛けた。 「すいません! 書道部の涼宮ですけど!」 ハルヒはノックとチャイムを繰り返して叫んだが何も返事は返ってこない。さっき内側から鍵を閉められた以上、 誰かがいるのは確実なんだが何で返事が返ってこない? 何かおかしいぞ。 ふと、ハルヒは扉に耳を付けて内部の音を聞き取ろうと試み始めた。俺もそれのマネを始める。 「おい何か聞こえるか――」 「うるさい! ちょっと黙ってなさい!」 ――……っ…… 今なんか聞こえたような…… ――助け――て――! 今のは完全に聞き取れたぞ。中で誰かが助けを求めている! 「ハルヒ! 聞こえたよな!」 「わかっている!」 そうハルヒは叫ぶとドアに体当たりして、何とかこじ開けようとするが、防犯用に作られでもしているのかびくともしない。 俺も体当たりに加勢するがそれでもダメだ。こじ開けるのは無理だぞ、これは。 「なら一階に下りて管理人室から鍵を借りてくるか!?」 「そんな時間ないわよ! ああもうどうしよう!」 「ならドアごとお前の力で吹っ飛ばせよ! それくらいできるんだろ!」 「無茶言わないで! あとで警察になんて説明する気よ!? そこから奴らにかぎつけられたら台無しよ!」 んなこといっても、人命がかかってんだぞ……ってハルヒの能力バレは人類滅亡の鍵か。くそっ、情報統合思念体め、 邪魔ばっかりしやがって。 ハルヒはしばらく爪をかんで考えていたが、やがてドアのすぐ横の窓に気が付く。女子部員の部屋の窓だ。 ここから入れれば、入り口を通らずに部屋の中に入れるが、あいにく頑丈そうな格子が付けられている。 「このくらいなら……」 そうハルヒはつぶやくと両手を格子にかけて、そして、思いっきり力を込め始める。おい、いくらなんでも素手でそれを 壊すのは無理だろ……と思いきや、ガキンと留め金が折れたような音が鳴り、格子があっさりと取り外されてしまった。 馬鹿力にもほどがあるぞ、こいつ。 俺はハルヒが格子を片づけている間にその窓を開けようとしてみるが、鍵がかかっていて開きそうにない。 割れないかと数回拳でぶん殴ってみたが、防犯用のものなのかびくともしやしねえ。 「どいてっ!」 背後から聞こえたハルヒの声に振り返ったときには、すでにこいつは空中一メートルぐらいのところに飛び上がっていた。 そして、ジャンプの勢いを利用してそのまま窓ガラス、しかもちょうど鍵のある近くを的確に蹴る。 見事にがしゃんという音とともに、窓の一部が割れた。変な能力なしでも超人過ぎるぞ、こいつは。 俺はすぐにその割れた箇所から手を突っ込み、窓の鍵を解除した。ハルヒが窓を開け、 「行くわよ、キョン!」 そう言って部屋の中に入っていく。俺もそれに続いた。 部屋の中は女子部員の部屋なのか、普通の女子の香りのするものだった。しかし、一方で鼻につく嫌な臭いも感じる。 その正体は部屋の扉から廊下に出てわかった。猛烈な何かの焼ける臭い。しかもビニールとかそういう加工製品が燃えたあとに 発生する意識を狂わすようなものだ。 見れば、玄関から続く廊下の終着地点にはリビングへと通じるガラス張りの扉があった。そこから見えたリビングの中では めらめらと炎が立ち上がっている。 しかし、どういう訳だか火災報知器もスプリンクラーも作動していない。高級そうなマンションなのに 備え付けられていないとでも言うのか? 「火事が起きているじゃねえか! 早く消防に連絡しねえと!」 「その前に部員を助ける方が先よ! 助けを呼ぶ声が聞こえたんだからまだ生きているはず!」 俺とハルヒは急いでリビング内に入ろうと、扉を開けようとするが、 「あ、あれ? こいつ開かないぞ!?」 何度か俺がノブをひねってみるが、一向に扉は開く気配がない。ノブの軽さから言って、壊れちまっているみたいだ。 このタイミングで壊れるか、普通? 「キョン! あたしがぶち破るからどいて!」 ハルヒは数歩下がって助走距離を取り始める。俺はハルヒの邪魔にならないように廊下の壁に張り付いた。 その時だった。ちらりとガラス扉越しにリビングに人影が見えた気がした。炎があちこちから上がっているため 光の加減でシェルエット状態だったが、それがやや髪の長い小柄の人間であることはすぐにわかった。 女子部員か? まだ中で火から逃げ回っているのかも知れない。 ハルヒの体当たりが始まる。ラグビーのショルダータックルのように、勢いよくガラス扉をぶち破ってリビングの中に入った。 俺も残ったガラスの破片に注意しながらリビング内に入る。 リビング内はあちこちに火が燃え広がり、小火の状態を越えていた。このままでは他の部屋にも次々と引火してしまうだろう。 だが、消化器ぐらいでは押さえ込めそうにない。 ――助け――て―― 息苦しそうでか細い声。俺とハルヒはそれを聞きつけて、辺りを見回す。ふとリビングに隣接しているキッチンの床に 仰向けになっている片足が見えた。 俺はそこに駆けつけると―― 「うっ……」 「きゃあっ!」 俺は思わずうめき声を上げ、ハルヒは小さな悲鳴を出し口を押さえた。 そこには首からダクダク血を流した女子部員が仰向けに倒れていた。必死にタオルを押しつけてそれを止めようと しているようだが、致命的なところを損傷しているらしくタオルが完全に真っ赤になっても止まっていない。 次第にタオルで吸いきれなくなった血が床に広がり始めている。 助けないと――そう俺がキッチン内に入ろうとした時だった。突然、ガスコンロの近くで小さな爆発が起き、 周囲をがたがた揺らす。 その衝撃でキッチンの天井に据え付けられていた戸棚の一つが開いた。そこから数本の包丁が舞うように飛び出し、 女子部員の胸と腹に一本ずつ突き刺さる。 あまりのできすぎた偶然に俺は戦慄を憶えた。だが、一方のハルヒはそうなるよりも助ける方に頭が行っているようで、 「まだ息がある! 早く助けないと!」 そう彼女に近づき始めた。が、またも小規模な爆発と火炎が巻き起こり、うかつに近づくこともできない。 だが、女子部員は包丁が二つも突き刺さりながら、まだ苦しそうな息をしている。まだ生きている。助けなければ。 ――また起きる小さな爆発。俺は炎から起きた閃光に一瞬目を瞑ってしまった。そのタイミングでドカっ!と 何かが床に打ち付けられる音がした。 その音は俺に理由もなく嫌な予感を与えてきた。恐る恐る目を開けてみると―― 「……なんだってんだ」 あまりに酷い状況に俺は地団駄を踏みたくなる。さっきの爆発で女子部員の頭の方におかれていた冷蔵庫が、 事もあろうに彼女の身体の上に倒れたのだ。包丁が垂直に突き刺さっている場所に、あんな重いものが倒れればどうなるか。 釘を打つ金槌と同じ事になる。包丁はさらに深く彼女の身体にめり込んだだろう。 もう微かな叫びも吐息も聞こえなくなった。完全に意識をなくしたのかもしれない。 俺は必死にどうすりゃいいんだと思考回路を早める。隣のハルヒも焦りの表情を浮かべて動けない状態だ。 だが、【偶然】は俺に冷静さを取り戻す暇も与えない。今度はどこかでポンッという小さな破裂音が聞こえ、 続いてシューッという何かが吹き出す音、さらに今までとは違う何とも言えない嫌な臭いが辺り一面に充満し始めた。 これに気が付いたハルヒが、あわてて俺の手をつかみ、玄関に向かって走り出す。 「おい! 助けなくていいのかよ! まだ生きているかも――」 「それどころじゃないっ!」 ハルヒの声は焦りに満ちていた。何が起きようとしているんだ…… 玄関の扉の鍵を開けて、ハルヒと俺が外に飛び出すとそこには予想外の人物がいた。書道部顧問だ。 今日は学校を休んでいたはずなのに、何でここにいるんだ? ――そのとたん、女子部員の部屋でひときわ大きな爆発が起きて、その衝撃が通路を伝って出入り口から吹きだした。 熱波を含んだそれは通路の壁にぶつかり、そのままで上昇気流へと変わる。 俺はあぜんと目を見開くハルヒの顔を、高い位置から見ていた――すぐに気が付く。さっきの爆風で俺の身体は 思いっきり吹っ飛ばされ壁を越えてマンション十階から転落しようとしていた。 ここからは俺に目に入ってきた光景が全てスローモーションに見えた。まずハルヒが壁から身を乗り出し、 ぎりぎりのところで俺の腕を左手でキャッチする。そして、すぐにこっちへ引き寄せようとするが…… すぐにハルヒの顔色が一変した。同時に右手を伸ばしてくる。その方へ俺が首を向かせると、そこには同じように 空中を舞っている書道部顧問の姿があった。その顔は完全に白目をむいている。衝撃で気を失っているに違いない。 ハルヒはさらに壁から身を乗り出し、一番近いところにあった顧問の足をつかもうとした。だが、あと数センチのところで その手が届くことはなく、やがて顧問の身体はマンションの下に向かって落ち始めた。 何かをハルヒは叫んでいた。絶叫していたが、爆風で耳をやられているのか俺には聞こえない。 やがて、顧問を助けることを諦めたハルヒは俺の救出に力を入れ始めた。振り回すように左手でつかんだ俺の腕を 引っ張り、その勢いのまま十階通路に投げ入れる。 「ぐはっ!」 背中から通路に落下したため、俺の口から胃液が飛び出した。背中もじんじんと痛み、やけどを負ったのか 手のひらもジンジンとしびれるような痛みを発していた。 「キョン! キョン! 大丈夫なの!?」 「あ、ああ――何とか……」 とぎれとぎれにハルヒの呼びかけに答えるが、すぐにまた女子部員の部屋で大爆発がおきて、マンション全体を 激しく揺さぶった。 危うく死にそうになった。それも本当に危機一髪だった。ハルヒがいなければ、もう死んでいただろう。 一方のハルヒはすぐに携帯電話を取り出すと、消防への通報をしていた。なんて手際と判断の速い奴だ。 一体今までどれだけの修羅場を踏んできたんだ、こいつは。 ふと、俺は書道部顧問の存在を思い出す。恐る恐るマンション下を見ると、そこには仰向けに倒れぴくりとも動かない 顧問の姿があった。通行人が集まり、悲鳴がわき起こった…… ◇◇◇◇ その後、またもや警察の事情聴取を受けた俺たち。さすがにこうも最近の事故に立ち会ってばかりの俺に不信感を 持ち始めたらしく、いろいろなことを聞かれ夜中まで警察署に拘束されるはめになった。一方のハルヒも事情説明が続き、 なかなか帰らせてくれなかったらしく、二人が無罪放免で解放されたのは夜中の十二時を過ぎた頃だった。 待合室では心配して駆けつけてくれた家族がいた。疑惑はさっさと晴れたことを言うと、ほっとした様子で、 とっとと家に帰りましょうということになった。 ハルヒも家族の迎えがあったので、一足先に帰ったらしい。ただし、伝言があった。 明日話したいことがあるから、どんなことがあっても学校に来るようにと―― ◇◇◇◇ 翌日の朝、俺は通学途中の自転車の駐輪場で眉をひそめてしかめっ面のハルヒと落ち合った。 この様子じゃ昨日のことは堪えるというよりも疑惑を深めたという心情なのだろう。 俺たちはゆっくりと登校ハイキングコースに入りながら話を始める。切り出したのはハルヒからだ。 「どう思う?」 「いい加減、うさんくさいとは思っている。だが、俺の頭じゃ何が起こっているのかさっぱりなのが現状だ」 「おかしいわよ、絶対。いい? 一昨日の自動車事故で助かった十人のうち、三人が昨日立て続けに死んだのよ? しかも、全部事故。それもあり得ないような偶然がつながってね」 「昨日の事故は結局あの女子部員の火の不始末が原因だったというのが警察の調査結果だからな……」 「事情聴取の時に警察から聞き出したんだけどね……」 ハルヒは昨日得た女子部員の身に起こったらしい警察情報を話し始めた。ただしこれはハルヒと警察の推測も混じっている。 元々あの女子部員は料理する趣味があったらしい。ところが電子レンジに入れた料理材料の中に何かの異物が混じっていたのか、 突然それが爆発、その時にレンジの破片が首に刺さって出血となった。止血のためにタオルを探している間に、 火を書けっぱなしにしていたフライパンが引火して炎上、恐らくそれを消そうしたのだろうが、何らかの不手際で リビング中に引火してしまった。そして、やむえず消防局に電話しようとしたが、電話線が火に焼かれて不通に。 そんなことをしている間に出血が酷くなり意識が朦朧となってキッチンに倒れてしまった。そこに俺たちが駆けつけたが、 これまた運悪く爆発の衝撃で飛んできた包丁が身体に刺さり、さらにその上に冷蔵庫が倒れてとどめとなった。 おまけにどういう訳だか、火災報知器などの予防装置は全て故障してたらしい。これはマンション管理の責任問題に なるかも知れない話だが。 話を聞くだけでも人生嫌になりそうな運の悪さの連続だ。はっきり言って【偶然】なんて言える代物ではない。 だがよく考えてみればそうでもなかったりする。たまにあるだろう、運にめぐまれないなぁと思う瞬間が。 身近な例を挙げれば、家で居間を歩いていたら落ちていた画鋲を踏んづけあわててしゃがんでそれを足から取りだしたら、 屈んだはずみで胸ポケットに入れていた携帯電話を落としてしまい、むかつきモードで携帯を拾って歩き出したら テーブルの柄に足の指をぶつけて悶絶する。俺もこのコンボに遭遇したことはあるが、誰かの陰謀だろと叫ばずには いられなかった。 俺の助けた男子生徒、昨日の野球ボールがきっかけとなった書道部女子部員、刺殺・爆死した書道部女子部員の死因を 陰謀云々言うのはその感覚に似ている。【偶然】とは思えないが、【偶然】でしかないのだ。ややこしい。 そういや顧問がどうしてあそこにいたのか理由を俺は知らないんだが。 「あの女子部員の家に呼ばれていたそうよ。相談したいことがあるって言う内容でね。電話の記録も残っていたらしいわ」 意外と警察もしっかりと調べているな。そこまでちゃっかり聞き出すハルヒもさすがだが。 だが、呼ばれて巻き込まれたのも【偶然】か。誰かが故意に起こした事故ではない以上、巻き込まれたに過ぎない。 実際俺たちも危うく巻き込まれるところだったんだ。 と、ここで俺は女子部員の家の中に入る際に、内側から鍵を掛けられたことを思い出し、 「そういや、あの一回締め出しを食らったことは警察に伝えたのか? あれは明らかに誰か別の人間がいたとしか 思えないんだが」 「確かにそうなのよね。でも、その前に警察から言われたわ。女子部員以外が部屋の中にいた形跡はないって。 逃げ道は存在しなかったから、あの場にいたら死体がもう一つ増えていたはずよ」 「わかんねぇぞ。どこぞの怪盗のように小型のハングライダーで窓から脱出したのかも知れん。限りなく低いが、 絶対ってことはないはずだ」 俺の反論に、ハルヒは首を振って、 「それもないわね。だって隣の部屋の住人が焦げた臭いをかぎつけて、ずっとベランダから女子部員の部屋のベランダを 覗こうとしていたらしいわよ。火事になっているんじゃないかと確認しようとしていたらしいわね。 結局爆発の瞬間まで中の様子はうかがえなかったみたいだけど。万一、ベランダから誰かが脱出したらその時点で 気が付いているわよ。あと実はその証言をしている隣人が犯人ってのもなし。ベランダの窓は内側から二重に 鍵が掛けられていて完全な密室状態」 「だが、内側から鍵が閉められたのは事実だ」 「一応言ったけど、相手にされなかったわ。あのマンションオートロックになっているらしくて、最初はなんかのはずみで 旨く扉が閉じていなかった。あと中で火災が起きていたから気圧とかなんかが変わって、ドアを開けた瞬間に 部屋内に空気が殺到し、それに乗って扉が内側から引っ張られたように感じただけじゃないかって一蹴されたわ」 何かいやに的確な反論をする警察だな。ただ、たしかに扉を開けたら風の力で引っ張り返されるというのは 俺も自宅で何度か遭遇したことがある。中で火災が起きていたんじゃ、部屋の空気の状態はめちゃくちゃだろう。 首はひねりたくなるが、否定できる材料もないといったところか。 ――ん? ちょっと待て。今の今まで完全に忘れていたことを思い出したぞ。 「今更なんだが――ついでに警察に言うのも忘れていたんだが、リビングにお前が侵入する直前に、 確か人影を見たような気がするんだが。もちろんリビング内にだぞ」 「……なんでそんな重要なことを忘れているのよ」 ハルヒは口をとがらして抗議の声を上げるが、 「今言っても記憶違いで一蹴されるだけだわ。時間が経って記憶の方が改竄されているし、ぼうぼう火が燃えている中で、 はっきりと模写までできるぐらい鮮明に覚えているとは思えない。実際のところ、どうなのよ」 「いや……」 確かに警察がそこまでしっかり調べて、中にだれもいませんでしたよと言われてしまうと、俺の見た人影も ただの見間違えじゃないかと思えてくる。事実、記憶上残っている見えたものは女性のような人影だけだからな。 しかし、現代技術ではいないように見せられる存在もこの世界にはいるはずだ。 「情報統合思念体が何か関与している形跡はないのか? 連中なら偶然に見せかけた殺人や誰もいないところに 沸いて出てくることだってできるだろ?」 俺の指摘に対し、ハルヒは首をひねって、 「確かに絶対とは言えないんだけど、奴らが動いた形跡はないわ。そもそもこんな事やって何の意味があるのか さっぱりわからないしね。可能性は捨るつもりはないけど」 とのこと。確かに朝倉や長門――あいつにこんな事はして欲しくないが――がこんなことをしでかしても何の意味があるのか。 そうなると―― 俺ははっと気が付いた。もう一ついないはずの場所に現れることができる人間が。未来人である。 しかし、まず断言したい。朝比奈さんがこんなことをできるわけがない。あの気が弱くって愛らしいあの方は 目の前に死体――多丸さんの偽死体だったが――を見ただけで卒倒するほどだぞ。自分の手で実行できてたまるか。 あと他の未来人の仕業は十分にあり得るが、俺は何度もありえない【偶然】を目撃している。いくら未来人がTPDDとやらで 時間を超えられる装置か何かを持っていたとしても、【偶然】の発生まで制御できるとは思えない。 そんなマネができるなら、俺の世界の時でも何度か目にする機会はあったはずだ。これでも朝比奈さん(大)と行動をともにした 機会は多かったからな。 そんなわけで今のところは、未来人関与の可能性について俺の中で速攻却下だからハルヒにも言わないでおく。 こいつに言ってへたに疑いだしたら面倒事になるかもしれないから、胸の内に仕舞っておこう。 と、ここでハルヒは思い出したように。 「あと今日の放課後、関係者全員書道部の部室に集まるように連絡したから。あんたもちゃんと来なさいよ」 「……何でまた」 俺が疑問を投げると、ハルヒはにらみを返してきて、 「いい? 一昨日の事故を免れた十人のうち三人が昨日のうちにみんな死んだのよ? 全部事故で死因自体に共通点はない。 ただ唯一の共通点は生存者であるということ。しかも、ただ生き延びたんじゃなくて、あんたの予知能力のおかげで 生き延びた人ばかり。一回目の予知能力を使った男子生徒も同じだった」 十人……俺・ハルヒ・谷口・国木田・鶴屋さん・朝比奈さん・書道部女子部員三名と顧問か。 まさかこれと同じ事が起こり続けるかも知れないって言うのか? ハルヒは真剣かつ深刻な顔で、 「そうよ。偶然がつながりすぎている。今のところ他者の思惑は見えないけど、何かが起きていると考えるべきだわ。 あらかじめ各自話し合って意識しておくことは重要だと思うから。あ、もちろん予知能力の話はしないけどね」 確かにハルヒの言うとおりだろう。例え【偶然】であってもその【偶然】にはまって死なないように、気をつけておくことは 重要かも知れない。自動車事故と同じで、少し気をつければ回避できるレベルのものかも知れないからな。 ――そんなことを話しているうちに北高まで俺たちは到着していた。 ◇◇◇◇ そんなわけで放課後。 三名が欠けた書道部部室で対策会議が始まった。 「事情を知っている人、知らない人多分様々だろうから、今までの経緯を話しておくわ」 ハルヒが今日の朝俺と話した内容を掻い摘んで説明し始める。すっかり立場は部長の位置になっているが、 やっぱりこういうリーダー的立場がこいつにはしっくり来る。 俺は説明を聞きながら参加メンバーを確認した。 朝比奈さん。かなり意気消沈気味だが、参加してくれている。あの調子じゃ何があったのかもう知っているのだろう。 鶴屋さん。こっちも立て続けに起きる惨劇にすっかりいつものさっぱりぶりは消え失せ、どこか憂鬱な表情を浮かべていた。 谷口。こいつは状況をほとんど知らなかったらしく、ハルヒの説明に仰天の声を上げていた。いつものそれほど変わっていない。 国木田。谷口同様だったので、ハルヒの話を興味深そうに聞いている。さして落ち込んだ様子は見えない。 書道部部長(女子)。一昨日の事故のショックも冷めないうちに、部員全員と顧問が昨日一日で事故死した事に憔悴しきっている。 あと俺とハルヒ。計七名全員そろっていた。 ハルヒは練習もしていないのに、弁論大会の演説のごとくきっちりわかりやすく説明していく。こいつの能力の高さは天井知らずだ。 ただし、当然予知能力は伏せておく。ついでに一回目の予知能力で救った少年がその後死んだことも触れないでおいている。 これは話の焦点を一昨日の自動車事故にしておきたいというハルヒの意向からだった。いたずらに広げるとややこしくなるだけだから。 やれやれ、本当に予定外の行動で死を回避した生存者をひたすらストーキングしてくる死神の映画みたいになってきたな。 ………… 「――現況は以上よ。あたしの推測も結構入っているわ。何か質問があれば、じゃんじゃんしてちょうだい。 数十分に渡るハルヒの説明の終了後、質問タイムに入った。 説明後の一同の様子を見てみる。 谷口はいまいち信用していなさそうな顔をしている。 国木田、鶴屋さん、書道部部長(女子)はハルヒの言葉を大体受け入れているようだ。 朝比奈さんはうつむいたままなので、表情が読み取れない。 質問タイムでまず最初に手を挙げたのは谷口だ。 「涼宮の言うことをまとめると、事故を回避した俺たち全員は近日中に偶然死ぬかも知れないってことでいいのかよぉ?」 「そうよ。あくまでもあたしの推測だけど、昨日の三人の死を間近に目撃した身としては、事故死なのに故意としか思えない 不自然な死に方が連続している。そして、死んだ三人の共通点は全員生存者。ならあたしたちにも危険が迫っている可能性があるって事」 「確かにそうかもねっ。昨日あたしもあの子の事故死した瞬間を見ていたけど、偶然にしてはできすぎていたよっ。 その根本原因が一昨日の交差点の事故にあるっていうなら、あたしたちも危険が迫っていると考えるべきだねっ」 鶴屋さんの発言――少々無理しているしゃべり方だったが。 書道部部長(女子)がここで手を挙げて、今後どうするべきなのか、今日亡くなった三人の通夜に行くつもりだが言ってもいいのかと 質問してきた。 ハルヒは腕を組んで、 「対応策ははっきり言ってわからないわ。ただし三人の死因が偶然による事故から来ているものなら、そう言ったものに遭遇しないように 心がける事ね。例えば、料理をするときは一人でしない、道を歩くときは必ず車道から離れたところから歩く、 危険な場所には近づかない……あとすぐに誰かに助けを求められる状態にしておくってのもあるわ。常に携帯を所持しておくとか、 身近な人の電話番号にすぐ通じるようにするとか。ま、普段以上に慎重に行動するって事よ。 その程度で回避できるかも知れないんだから。あと通夜の参加は各自の判断に任せるわ。 家に閉じこもっていろとは言えないし、参加も強制しない。繰り返すけど、さっき話したのはあたしの推測であって、 確定した情報じゃない。ただ状況から考えて危険が迫っている可能性が高いって事を知らせておきたいのよ」 熱弁を振うハルヒに、書道部部長(女子)は力なく頷く。聞けば、部員は昔からの友達だったらしく、 その死は相当ショックだったらしい。通夜や告別式に参加するなと言うのはあまりに酷だろう。 顧問もそれなりに長い付き合いだっただろうし。 一旦全員がしんと静まりかえる。ハルヒも腕を組んで質問がないのか見回していたが、やがてもうないのだろうと判断し、 「今日はこのくらいにしておきましょ。今日は亡くなった人たちの通夜もある。ただし慎重な行動を心がける。いいわね?」 その言葉に全員がうなずいた。 そうして今日の部活動――もう書道部の活動なんてしていないが――も終わりぞろぞろと解散していく。 その途中で俺は谷口に教室脇に引っ張り込まれ、 「おいキョン。おまえ、あの超強力電波女の言うことを信じているのか? はっきり言って死神が追っかけてくるような話なんて 俺はとてもじゃねーが信じられねーぞ」 「俺だって100%信じている訳じゃないが、昨日一日で三人も死んでいるんだ。しかも、俺たちと共通点のある 立場の人間だったら注意するのは当然だろうが。別に不都合なんてないだろ。ただいつも以上に安全に 気をつけるってだけなんだから」 「それはわかっているんだがよー」 谷口は細めでウザったらしくハルヒを見る。どうやらこいつの問題は、ハルヒからの指示という点に 固まっているらしいな。外見とその妙な行動で変わり者に見えるだろうが、あいつはなかなか常識的な奴だ。 勘も良い。味方にすればこれ以上ないくらいに頼もしい奴だよ。俺も何度も助けられたしな。 「ハルヒの言い方や過去の行動についてはこの際頭の中から排除しておけ。実際に面倒なことが起きているってのは 事実なんだからな。ハルヒの言ったことは決して間違いじゃない」 「へいへい。気をつけることにするよ」 わかっているのいないのか、微妙な返事をすると谷口は国木田と一緒に帰路へと付いた。あと、念のためハルヒの判断で 国木田と家の近い書道部部長(女子)も一緒に帰らせることにした。複数人行動は確かに危険回避の第一歩だからな。 鶴屋さんは迎えの車が来ていたので、それに乗って帰って行った。 「じゃあ、ハルにゃん、みくる、キョンくん、気をつけて帰るんだよっ!」 そうハイヤーの窓から手を振って、学校から去っていく。とは言っても亡くなった三人の通夜には参加するって事だから、 あとで顔を合わせることになるだろうけど。 残ったハルヒ、俺、朝比奈さんは校門前に立っていた。 と、ここでハルヒは、 「悪いけど、あたしはちょっと用事があるから先に帰らせてもらうわ。キョン、みくるちゃんをしっかり守って帰るのよ」 「おい、一人で行動していいのかよ?」 と一応言っておいたが、大丈夫よと言ってハルヒは小走りに返っていった。まああいつなら最悪偶然ですら 操作できる力を持っているからな。 あと帰る前に俺の胸にぽんと一発叩いてきたことで、ハルヒが俺に何をさせようとしているのか気が付いた。 つまりは朝比奈さんと二人で帰り、その間に情報を聞き出せって言うことなのだろう。そうなると、ハルヒは今回の一件について 俺と同様に口には出さないが、未来人の関与も疑っているのかも知れない。 「……帰りましょうか」 「はい……」 朝比奈さんは力なく答え、俺に続いて歩き出す。 放課後、日が徐々に傾き始める時間帯になり、一歩一歩踏み出すたびに街の色が赤くなっていく気がする。 二人はしばらく黙ったままだったが、次第に俺はその空気に耐えられなくなり――ついでに黙りでは意味がないこともあるので、 「朝比奈さんはどう思っているんですか? ハルヒの言っていること、信じていますか?」 「わかりません……」 ぽつりと朝比奈さんが答える。 実のところ、朝比奈さんは未来人である以上、上の方の許可さえ取れれば何でも知ることができるはずだ。 知らないと言うことはない。 しかし、どうするか。あなたは未来人ですか?なんて聞けるわけがない。朝比奈さんが自分から言ってくれるまで 待つしかないんだが、とてもそんな空気には見えなかった。 仕方なく他の話をすることにする。全く朝比奈さんと二人っきりで一緒に帰るって言う悶絶寸前シチュエーションなのに 全然楽しくない。 「朝比奈さんは書道部に一年の時から入っていたんですよね」 「はい。鶴屋さんに誘われて入りました。あたし、入学してからしばらくあまり友達もできなくて……。 そんなときに初めて仲良くなったのが鶴屋さんだったんです。それから一緒に書道部に入って、他の部員の人たちとも すぐ仲良くなれました。全部鶴屋さんのおかげです。だからあたし凄く感謝しているんです」 朝比奈さんは柔らかな笑みを浮かべる。やっぱり鶴屋さんはこの人にとって特別な存在なんだな。 ま、一人にしておくと放っておけないっていう鶴屋さんの気持ちもよくわかる。朝比奈さんを見ていると 守ってあげたいという感情が生まれてくるし。 この時点で俺はますます今回の事に朝比奈さんが関与しているという考えが薄らいだ。 万一、あの自動車事故から逃れた人を再度全員抹殺しようとしているなら、その対象には鶴屋さんも含まれてしまう。 この朝比奈さんにそんなことができるか? できてたまるか――できるわけがない。 俺は話を続ける。 「でも最近は大変だったでしょう? あのハルヒが入部してからいろいろ騒がしくなりましたから」 「ええ、涼宮さん凄く強引ですから……ああっ、涼宮さんのことが嫌いって訳じゃないですよぉ? ただもうちょっとあの――その――」 「良いんですよ。あいつはもうちょっと自分の行動を抑制すべきですからね。全く今度しっかり言っておきます」 「いえいえ、良いんです。それにあたしちょっと涼宮さんがうらやましい」 「え?」 「凄いじゃないですか。行動力も実行力も。あたしなんかとは違って、何でも完璧にこなせて凄くうらやましい……」 いや、あいつは確かに能力的には完璧ですが人格に少々問題がありますよ? 確かにそれなりに常識は持っていますが。 行動は思いつきの突発ばかりだし、わがままだし、自己中で…… 「良いコンビですね。涼宮さんとキョンくんって。それだけはっきりと相手のことを言えるんだから」 唐突にとんでもないことを言い出す朝比奈さん。良いコンビというよりも腐れ縁というか向こうがかみついてきて話さないというか。 俺が憮然と考えていると、朝比奈さんは横でクスクスと微笑んでいた。やれやれ、勘違いをされるのは嫌だが、 朝比奈さんがこの笑顔を見せてくれるなら、悪い気分ではないな。 ――ここでしばらく二人の間に沈黙が流れる。俺は横目でちらりと朝比奈さんの表情を浮かべると、先ほどまでとは違って 少しだけ真剣な表情になっていた。落ち込んでいるのとは別の方向で。 ほどなくして、ここで朝比奈さんの方から口を開く。 「……キョンくんは運命って言うものを信じますか?」 唐突な質問だったため、俺はしばらく言葉を失ってしまったが、 「……ええ。たぶんあるんじゃないですかね。決められた出来事って言うのはあるような気がしますし」 「じゃあ、亡くなった三人は運命で決められていたといったらどう思います?」 運命。きっと俺の世界の朝比奈さんなら【既定事項】という言葉を使うだろう。つまり、あの三人が死ぬのは 決まっていた事なのだろうか。いや待て、勘ぐりすぎだ。この朝比奈さんは俺にまだ自分が未来人であることを カミングアウトしていないんだから。焦るな俺。 「そんな運命なら受け入れたくないですね。俺が万一事前にそれを知ることができたら全力でそれを回避しようとしますよ。 運命だからって死にたくはないですから」 「そうですよね……やっぱり……」 そう言って朝比奈さんは視線を下げた。何だ? 何を言いたいんだ? 「涼宮さんは言っていましたよね。あの自動車事故を回避したから、そのつじつま合わせのために あたしたちがまた死の危険にさらされているって。なら、きっと自動車事故で死ぬのがみんなの運命だったんです。 でも、それを回避してしまったからこんな事になっている」 と、ここまで言って朝比奈さんは自分の言っている意味に気が付き、 「あっ、えっと、キョンくんを非難しているんじゃないんです。あの時みんなを助けてくれたことは その……感謝……しています。ただ、涼宮さんの言葉をそのまま受け取ると、結局そうなってしまうって事なので……」 「そうですね……朝比奈さんの言うとおりです。だけど、俺はそれは決して無駄だったとは思いませんよ?」 「え?」 俺の言葉に、朝比奈さんが不思議そうな顔を見せる。 死を乗り越えても、また死が追ってくる。確かにそれだと最初に乗り越えた意味はないように感じるかも知れないが、 それは違う。なぜなら―― 「あの自動車事故を乗り越えられたから、俺たちは今こうやって立っていられるんです。そして、危機が迫っていることも 知ることができました。おかげで死ななくても済むかも知れない。これだけでも大きな意味があると思うんです」 朝比奈さんははっと顔を上げて、俺を見つめた。その目にはうっすらと涙が浮かび、何かを訴えようとしている。 だが口だけがぱくぱく動いて一向に言葉が出てこない。 すぐに朝比奈さんは口を押さえて、またうつむいてしまい、 「何でも……ない……です……」 そうつぶやく。だが、朝比奈さんの今の一瞬を俺は見逃さなかった。言おうとしているのに言えない。 このポーズは何度も見たことがある。あの禁則事項ってやつだ。つまり朝比奈さんは俺の知っている未来人と 同様の状態である証拠となる。 朝比奈さんは未来人。本人からカミングアウトされなくても、この確認だけはようやくできた。 ならどうにかして今の惨劇を食い止めるための協力を取り付けたい。 「朝比奈さん。俺は何とかして他のみんなを守りたいんです。手を貸してもらえませんか?」 「え、ふえ? でも、あたしにできることなんてほとんど……」 「できることは必ずあるはずです。一緒に考えましょう。どんな些細なことでもやってみる価値はあると思うんです」 俺なりに必死に説得したつもりだったが、朝比奈さんは目を合わせようとしなかった。 ダメか。いきなり言ってもそりゃ混乱するだけだよな。 俺は嘆息すると、 「すいません。何か迫るようなことしちまって。でもこの最悪の状況は何とか抜け出したいと思っているんです。 それは忘れないでください」 その言葉に、朝比奈さんはこくりとうなずいた。今日はここまでだな。これ以上せまると逆効果だ。 ちょうど駅前までついたし。 俺はすっと朝比奈さんから離れ、 「今日はいろいろすいませんでした。また明日――ああ後の通夜でもお会いしそうですね。じゃあ、その時まで」 「はい。キョンくん、さようなら」 そう言って俺たちは別れようとする――が、俺は一つだけ聞いておきたいことを思い出し、すぐに彼女を呼び止め、 「朝比奈さん! 一つだけ良いですか?」 「あ、はい。何でしょうか?」 「できるならあの事故が起きる前に戻りたいと思いますか?」 ――俺の言葉とともに、少し強い風が周囲を通過した。朝比奈さんの長い髪の毛がなびく。 そして、柔らかな微笑みを浮かべて言った。 「はい。キョンくんや涼宮さん、鶴屋さんたちと一緒にいたかったです」 俺はその言葉にほっと胸をなで下ろし、手を振りながら朝比奈さんと別れる。 よかった。朝比奈さんは今の生活を維持したいと考えている。贅沢は言えない。今はそれだけで十分さ。 ――俺はこの時どうして朝比奈さんは『一緒にいたかった』という過去形を使っていたのか、 もっと深く考えるべきだったのかも知れない。 ◇◇◇◇ 俺は通夜に何か起こるのではと警戒していたが、結局何も起きずに平穏に終了した。 さらに意外なことにそれから数日は何も変化の無い日常が続いた。 事態が急変したのは、週末になってからである。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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【りょう】 最近思うんですけど、私「執着」っていうテーマに弱いと思うんですよ~。 対象が物でも人でも良いんですけど、異様に執着してる人か、執着されてる人にはまっちゃうし、その人間ならではの思い込みの怖さみたいなものに、惹かれてしまうんですよね~。 この坂木司さんの前作である「ひきこもり探偵シリーズ」はものすっごい執着っぷりだったので、やはり惹かれてしまい、今回新シリーズの「切れない糸」も読んでみたのです。 引きこもり探偵シリーズよりは、少し執着度合いは弱まってはいますが、やはりこの人の書くものはちょっと変わった「執着さん」が登場します。 今回の主人公は新井クリーニングというクリーニング屋さんの後継ぎの新井くんです。そして、その友達であり、このシリーズの探偵役でもある沢田君が今回の「執着くん」です。 人にも物にも、どんなものにも執着できないとみせかけておいて一人に執着しちゃう人…おおおお!ツボだ(笑)現実にこんな人いたらつきあいたくないけど、小説の中なら、すごいツボです(^^;) 後、この人の書く女の関係ってちょっとなまなましくて怖いです。 坂木さんの性別はわかりませんが、勝手に女性だと思っています。 だって女じゃないのに、あんなに生々しく女の中身を書けないだろう?と思うのです。 書くのが遅くなりましたが、ミステリとしてもこの人はおもしろいです。日常の謎系ですが、広げた風呂敷を最後はきちんとたたんでくれます。ただ、今回は「ちょっと強引かな?」と思われるところもあったかな(^^;) 次も出たら読みたいです。 (2006.10.31)
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耐久系スキルの参考値 ※こちらのデータは全てLhotse様に作成していただきました。大感謝!! ※絶対的な数値を出すことが困難なスキルも多いため、予想値なども含まれます。ご参考までにご活用ください。 ※Lv1略奪がLv1祝福体を上回ることはない ただし、略奪が10割発動できれば並ぶことは可能 各耐久スキルの効果比較【ノーマル】 ⚠️不死は体力+100で計算 チョリソー 不死(765) 祝福体(731)≧略奪(10割発動) スジュク 略奪(3割以上発動) 執着(615) サビロイ 祝福体(731)≧略奪(3割以上発動) 鉄の意志(681) 魚肉 略奪(3割以上発動) 執着(684) ブーダン 不死(765) 祝福体(731)≧略奪(10割発動) メルゲーズ 不死(698) 祝福体(657)≧略奪(10割発動) ウィンナーソーセージ 略奪(3割以上発動) 執着(615) ヨーテボリ 不死(798) 略奪(10割発動) ランド 祝福体(657)≧略奪(3割以上発動) 執着(615) テューリンゲン 不死(765) 祝福体(731)≧略奪(10割発動) アンデューイ 略奪(3割以上発動) 執着(718) 各耐久スキルの効果比較【レア】 ⚠️不死は体力+100で計算 シシカバブ 祝福体(808)≧略奪(10割発動) ジャーキー 不死(730) 祝福体(693) 執着(648) ハム 救済(5回以上) 略奪 ラップチョン 不死(730) 略奪(3割以上発動) 執着(648) ベジ 祝福体(693) 執着(648) グラモーガン 略奪(3割以上発動) 執着(648) ヴァイス 祝福体(693) 執着(648) メット 祝福体(770)≧略奪(3割以上発動) 執着(721) 各耐久スキルの効果比較【SR】 ⚠️不死は体力+100で計算 うなぎの蒲焼 再来(970) 略奪(7割以下発動) フィレ 救済(4回以上) 祝福体(924)≧略奪(10割発動) エビフライ 祝福体(831) 鉄の意志(774) マグロ 救済(5回以上) 略奪(10割発動) 焼きナス 断絶が10割発動時 略奪10割発動(1018) 断絶(1014) 断絶5割発動時 略奪5割発動(949) 断絶(948) 餃子 救済(2回以上) 鉄の意志(774) バナナ 祝福体(970)≧略奪(3割以上発動) 鉄の意志(904) ペパロニピザ 祝福体(1102) 略奪(10割発動1067) フィッシュ 再来(924) 略奪(8割以下発動) 各耐久スキルの効果比較【レジェンド】 ⚠️不死は体力+100で計算 マグマ 再来(876) 鉄の意志(851) ブラスト 執着(1021) 断絶(9割以下発動) メタル 再来(1083) 鉄の意志(1060) クリサビ 救済(5回以上) 不死(919) 救済(3回以上) 再来(876) 鉄の意志(851) アイス 祝福体(1046) 不死(1010) 略奪(2割以上発動) 鉄の意志(946) ライトニング 略奪(8割以上発動) 祝福体(894) 再来(832) ゴースト 不死(1119) 略奪(6割以下発動) スケルトン 執着(964) 略奪(6割以下発動) ウィンド 救済(2回以上) 鉄の意志(1019) マシーン 祝福体(1428) 鉄の意志(1291) ヒール 祝福体(894) 救済(3回以下) ダーク 略奪(2割以上発動) 執着(991) ブラッディー 祝福体(1046) 執着(991) ポイチョリ 再来(1021) 鉄の意志(993) デスグラ 断絶10割発動時 祝福体(1133) 断絶(1114) 断絶5割発動時 祝福体(1059) 断絶(985) お役立ち情報 トップページ