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【Dwelfare1368164224273569】1966.11.02 20 10 ×1瘤2自称40才w大阪BBA。 5+3,13+5 毎週のように現れ、占者に粘着エターナル(ry&ジプ。 「結婚制度に執着はない」が「パートナー」棒は欲しいといいつつ元彼(1965.9.21)に超絶粘着中。 =【Dmanagement1317062186971001】? ■恋愛・結婚占断専門■Part22 http //maguro.2ch.net/test/read.cgi/uranai/1363440975/ 425 名前:名無しさん@占い修業中 投稿日:2014/03/12(水) 14 17 00.88 ID +9z6nrO8 【生年月日】1966.11.2 【出生時刻】20 10 【出生地】大阪 【性別】女 【姓名画数】5+3 13+3 【依頼内容】離婚して13年になります。子供を引き取り大切に育ててきました。 婚姻などの制度にこだわっていませんが(結婚が嫌ということではありません)、共に支え合っていけるご縁が生まれることはありますか? またパートナーシップについて気をつけるべき自分の性質など教えて頂ければありがたいです。 ■資質・才能診断専門■part23 80 名無しさん@占い修業中 2014/02/18(火) 23 16 35.04 ID T879AkSv 【生年月日】 1966.11.2 【出生時刻】 20 10 【出生地】 大阪 【性別】 女性 【依頼内容】 この年齢ですが、福祉系の学校に通いながら資格を取るための勉強中です。 勉強は楽しいのですが体力的にきつさを感じはじめ、月日の経過とともに自分に向いているのか自信を持てなくなりつつあります。 この業種が好きで思い入れもあるのですが、今更ながらそもそも自分に向いている職種は何なのだろうと気になりはじめました。 どうぞよろしくお願いします。 ◇35歳以上の方【限定!】占います◇ 212 マドモアゼル名無しさん 2012/11/01(木) 17 39 09.53 ID EH73hkaS ①アンブレラ ②1966、11、2 女性 ③相談内容 先月別れた彼との復縁についてお願いします。現在お互いフリーで近況を話す程度の距離感です。その状況ゆえに、逆に彼からの壁を感じてしまう有様です。 私はどんなふうに振る舞えばよいか、彼の私への気持ちなど、おわかりになる範囲で見ていただければ幸いです。 * 126 マドモアゼル名無しさん 2013/05/23(木) 00 44 39.66 ID QsBLzIGM 81さま。 お疲れ様です。 まだ受け付けは可能でしょうか? 私は81さまさえ大丈夫でしたら時間がかかってもかまいませんので待たせていただきたいしたいのですが。 恋愛結婚についてお尋ねしたいと思っています 130 マドモアゼル名無しさん 2013/05/23(木) 13 03 59.16 ID QsBLzIGM 126です。 81さま、ありがとうございます! 私は1966年11月2日うまれの12年前に離婚、子供二人を養育中の女です。小さかった子供達はとても良い子に育ってくれました。 シングルマザーということで紆余曲折ありましたがくじけずに前を向いてやってきてどうにか生活は安泰し、昼の仕事と資格を取るための勉強を両立してます。 幸いモテないわけではなかったのですが、これまで私の考え方や性格のせいか、男性と恋愛が生まれてもぎくしゃくしてしまいがちで…。 最近では「やっと巡り会えた!この人なら」と感じた人と破局しました。 去っていった彼を引きずっている感を自覚していますが、子育てや仕事も一段階している今、自分を振り返る機会になったかなと思っています。 良い恋愛の先に結婚があればいいなと思うのですが、その最近の破局があったためにポジティブにも成り切れずにいます。 結婚制度に執着はありませんが、パートナーにはいてほしいと思いつつ……81さまの占いで私のこれからの恋愛と結婚運を見ていただければとてもありがたいです。 気まぐれに占います 173 マドモアゼル名無しさん 2013/05/05(日) 23 20 18.95 ID wTLAnrdp カニージャさまへ。 ハンドルネーム みみ 生年月日 1966、11、2 別れた彼と改めてまた交際したいと思いぼちぼちやり取りしていますが、今後どんな感じになるでしょうか。 結局は友人留まりなのか、それとも復縁できるのか気になっています。 よろしくお願いいたします 占うよ 144 マドモアゼル名無しさん 2013/04/04(木) 21 59 02.09 ID 6HGQ3Zh/ よろしくお願いいたします。1966.11.2 20 10生まれ女性です。 元カレは私をどう思っているでしょう。復縁の可能性はありますでしょうか。 ■恋愛・結婚占断専門■Part21 759 名無しさん@占い修業中 2013/03/10(日) 04 33 22.96 ID rLm4eP+2 よろしくお願いいたします。文が長いらしいので二回にわけます。 自分 【生年月日】1966.11.2 【出生時刻】20 10 【出生地】大阪 【性別】女性 【姓名画数】姓5+3 名13+5 彼 【生年月日】1965.9.21 【出生時刻】不明 【出生地】大阪 【性別】男性 【姓名画数】姓3+14 名11+10 760 名無しさん@占い修業中 2013/03/10(日) 04 38 17.96 ID rLm4eP+2 759です。続きます。 【依頼内容】遠距離を経て交際半年ほどになります。先月彼がこちらに転居したのでもう遠距離ではありませんが、家庭の事情(既婚者ではありません)や仕事の諸々があって、彼自身の気分が不安定です。 そのために私を不安にさせる言動が多く、彼には私への愛情があるのか、本当に私とこれから先も恋人らしく付き合っていく気があるのか見えなくなることがあります。 会えばとりあえず仲良くは過ごせますが、この扱いが女友達程度ならば寂しく感じます。 この彼の気持ちと、彼との今後を見ていただければ嬉しいです。 1966.11.02 20 10 ×1瘤2自称40才w大阪BBA【Dwelfare1368164224273569】5+3,13+5 毎週のように現れ、占者に粘着エターナル(ry&ジプ 「結婚制度に執着はない」が「パートナー」棒は欲しい。元彼1965.9.21に粘着 =【Dmanagement1317062186971001】? あなたの人生 占います 378 マドモアゼル名無しさん 2012/07/06(金) 00 36 58.53 ID +pTmoLo5 よろしくお願いします 女 1966年2月11日 A型です 96 マドモアゼル名無しさん 2012/06/04(月) 23 41 15.33 ID lV3BzB+F 95です。不備がありましたので訂正します。 1966年11月2日B型女性です。 すみませんでした。どうぞよろしくお願いします。 95 マドモアゼル名無しさん 2012/06/04(月) 23 39 18.06 ID lV3BzB+F 1966年11月2日です。 どうぞよろしくお願いします。 西洋占星術で相性占いします 32 マドモアゼル名無しさん 2012/01/23(月) 05 20 12.66 ID IVHVhhCy 時間がかかってもお待ちします。 【HN】鶴 【性別】♀ 【生年月日】1966.11.2 【出生時刻】 20 10 【出生地 】大阪府 【占ってほしいこと】 そこそこ仲良いメル友がいます。メル友でありながら魅力的に感じて仕方がないくらいです。 気持ちが入ってしまいどうもぎくしゃくとしてしまうため、まだ会っていないにもかかわらず諦めモードになりがちな自分に困っています。ですが、進展させたいとも強く思っています。 攻略法がわかればありがたいです。 相手データは、 【性別】♂ 【生年月日】1965.9.21 【出生時刻】不明 【出生地】大阪府 よろしくお願いいたします。 ■恋愛・結婚占断専門■part19 527 名無しさん@占い修業中 2011/12/10(土) 03 32 37.06 ID cHX27chB はじめまして。よろしくお願いいたします。 自分 【生年月日】1966年11月2日 【出生時刻】 20時10分 【出生地】大阪 【性別】女 【姓名画数】5、3、13、3相手 【生年月日】1965年9月21日 【出生地】 大阪 【性別】男 【姓名画数】3、14、11、10 【依頼内容】 ビジネス系のコミュニティーサイトで春頃に知り合った相手です。お互い独身ですが、私は離婚し子供を養育中です。 和気藹々としたコミュニティーで他のメンバーと会ったことは何度かありますが、この人とだけはまだ会ったことがなく、文字のみのやり取りです。 一方的かもしれないと思いつつとても気が合うし、今一番気になる男性で、まだ会ったことはないけれど、恋のような感覚があることは否めません。 この男性との相性や今後の流れを占って頂けませんか。 どうぞよろしくお願いいたします。
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属性 水属性 最大Lv 99 初期HP 4079 最大HP 6118 レアリティ ★6 タイプ ウォーリア 初期攻撃力 1059 最大攻撃力 1589 初期防御力 1465 最大防御力 2198 初期スピード 1732 最大スピード 2598 +HP上限 3600 最大HP上限 9718 +攻撃力上限 600 最大攻撃力上限 2189 +防御力上限 900 最大防御力上限 3098 +スピード上限 675 最大スピード上限 3273 リーダースキル ずっと壊し合わせて [水属性かつウォーリア]のユニットのスキル攻撃力を55%アップ フォーススキル1 ケイオススター HP15%消費し、水属性のn%全体攻撃。スキル後、味方全体をスピード30%アップ。 Lv1 Lv2 Lv3 Lv4 Lv5 Lv6 Lv7 Lv8 Lv9 Lv10 117 120 124 127 131 134 138 - - 152 ディレイターン 4 効果持続ターン - フォーススキル2 偏愛の鉄星 自身の防御力2ターン30%ダウンし、水属性のn%単体防御無視攻撃。クエスト開始時、CTが7。 Lv1 Lv2 Lv3 Lv4 Lv5 Lv6 Lv7 Lv8 Lv9 Lv10 進化前 [妄執の鎖]エヌヴィア 496 510 525 540 555 570 585 - - 644 通常進化 [殲滅の鉄球]エヌヴィア ディレイターン 7 効果持続ターン - 幻獣契約 なし 特殊能力 2回行動[強] / ボルテージ[滅殺]ドラゴンキラー 契約素材 - 契約使用先 - 入手方法 幻獣契約 備考 CV ?・期間限定イベント『戦神の殿堂-紫氷の凍原-』開催!_http //crw.lionsfilm.co.jp/gesoten/news/detail.php?id=1527 k=2 資料 *公式最大ステータス。 コメント 名前
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質問 Q,レイゲンブレードの「主への執着」は対象にパンチとキック(ドライブギア)などは含まれるか? A,装備せず使える武器(体の一部)は対象外です。 参照項目 クラスデータ/亜人 レイゲンブレード(サプリ1“バンザイアズマ”)不利特異点「主への執着」有料サプリ掲載のため省略。 クラスデータ/人間 ドライブギア「パンチとキック(ドライブギア)」 クラスデータ/亜人 リザード「尻尾格闘」 シルヴァテイル「パンチとキック(シルヴァテイル)」 マイティハウンド「パンチとキック(マイティハウンド)」 デモニカ「エレメンタルファング」(【エレメンタルファング】効果) アルテミス「体当たり」 クラスデータ/魔族 ゴーレム「パンチとキック(ゴーレム)」 参照リンク https //twitter.com/marsh52/status/750193967401054208 関連メモ 特異点関連 レイゲンブレード ドライブギア リザード シルヴァテイル マイティハウンド デモニカ アルテミス ゴーレム
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284 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 38 08.78 ID uW+JIUnM0 あ、流れ変えるなら ものすごく長くなっちゃった報告を添削してくれないかね… 285 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 42 43.35 ID +9xAsLc9O 284 長くても日本語がちゃんとしていれば大丈夫だ 288 名前:1/3[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 48 17.66 ID uW+JIUnM0 お言葉に甘えて。文章下手だから読みにくかったらすまん もう全然まとまらなくて申し訳ないけど書いてしまう。 百合ジャームを見て思い出していらいらしたので良くある困かつ10年スパンで昔の話だけど報告させて。 オンセで、システムはガープスだった。 崩壊した王国の王位継承者(偽)を担ぎ上げた都市国家が乱立して群雄割拠してるところで 次代の王朝に俺の国はなる!っていうロングキャンペーンの確か6話ぐらい。 PC1が姫様を助けた少年系で PC2が冒頭で死ぬ辺境で隠棲する軍師キャラの弟子(女) PC3が爺将軍で自分、PC4が凄腕の暗殺者(女)だったと思った PC4は四回目でPLが一人都合が付かなくなったから交代したんだけど、それをしなければと今でも思い出す PC1が「最終的に姫様と二人で失踪して辺境で土を耕して生きていくエンドをやりたい」と相談 GMが許可して、シナリオの展開の帳尻合わせあるよ、と告知アリで 丁度まだメイン回がなかったPC2メインのシナリオ回をプレイしたのよ PC2が倒れてた男性を助けたらそれが同盟を結べたら一気に有利になる近隣帝国の偉い人だったって展開 同時に本物の先王の遺児がどっかにいるっぽいのでPCの各陣営それぞれ探したりしつつ どうもPC2がそれなんじゃないかという帳尻合わせらしい展開で、卓の空気も協力的プレイをしようって感じだった 困だったのはPL4。 PC4は姫様を推し立てたい派閥に遺児を見つけて殺せと命令されていたが、前半では情報が全然出てないのに PC2とNPCがいい雰囲気になりかけると場に登場して邪魔するだけ PC2とPC4はほとんどそれまで絡みはなくて、あと各人にメイン回とヒロインが出る回し方で PC4には既にPC4をおねえちゃんと慕う盲目の豪商の娘っていうヒロインが出てる。 だから、一応シナリオ行動的に意味があるのかとみんな警戒してなかったんだけど NPCと一対一で会うと宣言したシーンで、シーン冒頭でGMがNPCしか部屋にいないと描写した途端に 「立ち上がれないぐらいの怪我だし避けられないでしょ」といきなりガチで殺しに掛かった GMが止めたら 「キャラらしいロールをしてるだけだけど?PC4は独裁者とか憎んでるんで」とか言って悪びれない お前みたいな奴がいるから戦争がおこるんだ!!とか叫んでたけど展開上NPCの正体もPC4は知らないはずで それにどちらかと言うとPC一同のほうが戦争を起こそうとしているような流れです 当然だけどGMが判定無しでイベント裁定で流そうとしたんだが 「は?こっちは達成値出したんだけど。ちゃんと裁定しろよ」と言い出して卓の空気が凍りついた 自分達は踏んじゃいけない特大地雷を踏み込んでるんじゃないかっていう空気がやばかった。 仕方ないから用事があって出向いたことにして、リソース払って割り込んでかばって止める。ガチでダメージ出してきやがった。 289 名前:2/3[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 50 39.60 ID uW+JIUnM0 で、将軍とゲストにいきなり闇討ちを仕掛けたってことでこのまま戦ったらPC4は追われる身になるんじゃね?と シナリオ内の展開に盛り込む感じでPC4の動きを制限しようとしたのね で、こいつは元々言葉は荒いし些細なことで不機嫌になってごねるしで、あまり長引かせたくなかったんだろう PC2がキャラロールで懐柔にかかったんだ。 「あ、PC4の所に行って話したいです。PC4さん、どうしてこんなことを?あなたとは親友になれるって思ってたのに…」みたいな感じで。 そしたら 「PC3があなたを殺そうと狙ってるの、二人で逃げましょう!」とか言い出した 確かに俺の爺将軍は姫の家臣だけどPC4の上司と関係ないし先王に忠誠を誓ってたキャラだしとんだ濡れ衣だよ なによりPC2=先帝の遺児情報にはPC4は辿り着いてないだろ!と自分はそっといらいらしてた で、PC2が「きっと勘違いだから自分からPC3さんに執り成すから…」と流れを正常化しようとした途端 PC4「あなたを危険に晒せない…」眠り薬を使います、と勝手に達成値だしてPC2を誘拐しようとする PL2が固まる。GMが止めようとする。 そこでPC1が乱入。多分もう普通に終われないと覚悟を決めていたんだろうな PC2を奪い返して、一緒にいた姫にPC4を曲者として上申するって形で兵士を呼び寄せる GMもPC4排除しつつシナリオを続ける諦めがついたみたいで大量の兵士を出し 付き添いつきで登場させたNPCにがんがん魔法を使わせてPC4を追い詰めた。 それでPL4がムギャった。 曰く、PC2の身体を狙うキャラをシナリオで正当化するとか信じられない 曰く、そんな吟遊展開に全員をつき合わせる気か 全員ぽかーん。 …ちなみに、そのNPCの細部の造形はPL2の希望を聞いてGMが作ってたし 全員に相手キャラ作るって売りだったんだからGMによこしまな狙いとか無いと思うし 全員にヒロインが出てるから交代したPL含めて四回あったストロベリ展開…PC4の百合エロロールにすら こういうコンセプトだしね、とみんな和やかに付き合ってきたんだが それでGMが卓を叩き切って 熱くなってる人がいるので今日は続けられません。みんな落ち着いてから続きをプレイすることにします、と宣言した 290 名前:3/3[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 51 51.39 ID uW+JIUnM0 …それからPL4が来なくなった…ならまだ良かったんだけど 連日キャンペ外のメンバーにGMが吟遊だと愚痴ったり、GMが来たら当てこすりっぽく文句をつけたり 場の雰囲気が最悪な日々が続き、続きをやる雰囲気でもなくなったし そのころ出た別のシステムとかサイトに面子が散っていって結局キャンペーンは立ち消えた。 あれがなければなーと今でも思い出す。 百合怖い。…じゃないな。これは何怖いっていうのか。 なんか思い出したら堪らなくなった。スレ汚しすまん。 291 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 54 09.60 ID 52XmMz1n0 288-290 報告乙です。それは百合怖いではなく思い込み突撃困娘怖いではないかと思うのですよ 293 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 58 47.29 ID An2tf0qG0 288-290 報告乙 百合が悪いんじゃない、場の空気も他人の都合も全く尊重できない 自分のことしか考えない困が悪いんや 294 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 59 12.56 ID tsn9EWLY0 288-290 何て言うか、乙…キャンペーンでそれはきついわな 百合自体は悪くないんだよな、百合ってジャンル自体は。 そう言う訳判らんのがいるからっていうかなんて言うか……出くわしちまったら狂犬に噛まれたとでも思って耐えるしかないんかねー…… 295 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/09(水) 23 59 22.09 ID 7CST8eaqP それは百合関係ねーよ! 296 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 04 58.47 ID 29Ui/QdO0 288-290 報告乙 と言うわけで、勝手にまとめてみる ・途中参加したPLがガチ百合キャラ作ってきた ・各員にヒロインが用意されている(百合PC用のヒロインは登場済み)のに、 PC2(女)にちょっかいを出してくる ・PC2用のヒロインNPC(男?)を、PCの知らない情報を盾に殺しにかかった ・GMがイベントで流そうとしたら、勝手に判定を強要 ・それを防ぐためにPC3が乱入したら、「PC3がPC2を殺そうとしている」と濡れ衣 ・取り成そうとしたPC2に眠り薬を使って拉致を目論む ・GMがPC4を排除する決心をしてイベント起こしたらムギャオー ・PC2用NPCやGMのマスタリングにイチャモンを付け始める ・卓終了後も連日各所で愚痴ったりして雰囲気は最悪に ・続きをやる雰囲気ではなくなり、卓崩壊 297 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 08 33.38 ID zdJvUqMe0 ・途中参加したPLがガチ百合キャラ作ってきた →元々いた ・GMがPC4を排除する決心をしてイベント起こしたらムギャオー →PC1とGMがPC4を排除する決心をしてイベント起こしたらムギャオー 298 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 10 20.57 ID r0MfUdf80 GMや他PLの対処はベストだった思うけど、困の愚痴当てこすりを止められなかったのは失敗、 困を叩き出すなら徹底的にやれ、周囲への根回しは怠るなってことですかね 299 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 10 25.06 ID mlKjbYuV0 前スレのMKPみたいに百合好きだとよく「男なんて滅びろ!」とか「男女カプ厨氏ね!」とか言うのがいるけど、 288-290の困もその類なんかな PC2の反応見てないところとか、NPCの詳細見ずに(勝手な)イメージで判断してるとことろか、毎回そう言うロールをGMに要求してたみたいなところとか見ると、結構重傷だな… 300 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 10 53.38 ID gcnrkpRs0 297 下は確かにそっちの方が正しいが、↓を読んだ感じ、「このPC4」は途中参加じゃないか? PC4は四回目でPLが一人都合が付かなくなったから交代したんだけど、それをしなければと 301 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 15 40.30 ID b+pABR210 ま、コンセンサスの取れてないやつを途中参加させた結果なのだから、 ある意味途中参加を認めた全員の自業自得ではあるんだが。 まぁ得難い経験と貴重な教訓を得たと思うしか。 288-290報告乙 302 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 17 08.31 ID zdJvUqMe0 300 ああ、そうなのかも。かわったのPLだけでPCは続投と勝手に思ってた、申し訳ない 303 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 18 20.60 ID IfE6SXrfO この場合コンセサス云々以前の問題でしょう… なんにせよお疲れさま 304 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 00 18 28.95 ID jBeCjvgL0 わかりづらくてすまん。 PC4は途中参加。 PLが一人都合付かなくなった後にならぜひ参加したいって 都合が付かなくなったキャラの妹で参加してきた形だった ですよねー…やばそうだと思ったのが参加してきてからだったんだよなー… 306 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 01 10 02.85 ID CvZMQZT90 288-290 報告乙 キャンペーンがそういう形で終わっちまうのは辛いよな、わかるぜ。 308 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 01 43 24.43 ID 0AhVX6wt0 報告読んだ限り面白そうなキャンペーンなのが なおさら残念さに拍車をかける 317 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 09 01 18.53 ID IA/0f9kE0 288 NPCと一対一で会うと宣言したシーンで、シーン冒頭でGMがNPCしか部屋にいないと描写した途端に 「立ち上がれないぐらいの怪我だし避けられないでしょ」といきなりガチで殺しに掛かった PC4がガチ殺しにかかったNPCって誰? 323 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 09 48 12.19 ID jBeCjvgL0 310 いや、こいつ http //www6.atwiki.jp/kt108stars/pages/5839.html 今見直したら、なんか行動が似てるかと思ったんだけどこっちは名のある困っぽいし年齢も違うかー 317 すみませんネームドNPC一人しか出てないので説明省いちゃった。ヒロインです 324 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 10 22 59.51 ID fy5Vugfe0 323 えっ!? 自分は「PC2が助けた、倒れてた男性(実は近隣帝国の偉い人)」のことだと勝手に脳内変換してたんだが、違うのか… っていうか各PCにヒロインがいるらしいし、キャラクターの名前は誰のも出てないから ネームドNPCのヒロインと言われても誰かわからん 325 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 10 27 31.74 ID jBeCjvgL0 すみませんそいつですorz それが公称PC2ヒロインで、報告だとそいつのことしかNPCについて記述してないのでわかるかなと安易に説明を省きました! 328 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2013/01/10(木) 10 49 27.49 ID fy5Vugfe0 325 それで合ってたのか ヒロイン=女だと勝手に脳内変換してて、「近隣帝国の偉い人」は男だから違うのか、と勘違いしちゃったよ スレ344
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幸を一部に持つ漢字は、あまり明るい感じがしません。 (ちなみに圉は牢屋って意味です) それもそのはず。幸という漢字は甲骨文字にもあるほど古い文字ですが、もともとの意味は手枷。罪人が手を縛られている手錠の昔バージョンのやつ。 添付図は上が書道家ろふゆさんのサイトから http //zavomya.seesaa.net/archives/200508.html 下が漢字質問箱のサイトから http //ww81.tiki.ne.jp/~nothing/kanji/q/q_015.html の無断引用。 幸(コウ)って、成り立ちからして不幸と隣り合わせなんですね。 一方、しあわせ、という日本語は、為合わす、仕合わす、から転じたとか。 言葉自体は、めぐり合わせ、事の成り行きという、ニュートラルな意味。 公立の小中学校って、積極的な選択で行くところじゃなくて、地域の同級生がとりあえず集まるところだから、同じ頃、近所に居るかどうかという偶然だけで出会って、すごして、卒業するんだよね。 ♪ 同じ時代を今生きてる奇跡が すごくうれしいからね という、とあるアニメのエンディングを聞いて、まぁそのアニメはその時代に生きていないはずの登場人物の存在が重要だったわけなんだけど、年寄りが中学時代を思い返すにはぐっと来るようにできてるなぁ、と。 めぐり合わせが、しあわせに通じるということは、まぁ、たしかにそうだと、しみじみ。
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ep.396 カルト教団の恐ろしさ、執着されて全て壊された。「一家全滅した話」をご紹介 2ちゃんねる レジェンドシリーズ 放送内容 参加メンバー Tomo Kimura K-suke その他 名前 コメント すべてのコメントを見る
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◇◇◇◇ 【一週間前に事故を回避した少年。また事故に巻き込まれ死亡】 惨劇を目撃した翌日の放課後。俺は谷口が床に引くために持ってきていた新聞に昨日の惨劇の記事が載っていたので、それをかっぱらって読んでいた。他にニュースがなかったのかそれとも珍しい事件だったためなのか新聞社がどう判断したのかわからないが、見事に一面トップを飾っていた。上空から落下した看板を写している写真も掲載されている。 もちろんその下に広がる血もだ。生々しい報道写真である。 昨日その事故に巻き込まれた男子生徒は、やはり先日に俺が助けた奴だった。事故現場にいた目撃者や警察発表によれば、事件性はなく偶然に偶然が重なったために起きたらしい。折れた標識は老朽化が酷く、近く交換される予定だったし、看板も隣接する道路の度重なる大型トラックの通過で激しく揺さぶられ続け、留め金の部分が壊れてしまっていたようだ。 実際に目撃していた俺はそんな偶然が続くものなのか?と思いつつも、そんなまるでシナリオのような筋書きで謀殺を図る意味なんてあるとは思えないと結論づける。誰かが仕組んでいた形跡もないと報道されているからな。 とはいえ偶然の事故でもそんな惨劇を目撃した俺が平気なわけがない。遠目だったとはいえ、一部始終がたまにフラッシュバックして蘇りダウナー状態が続いている。 ハルヒも同じようで特に昨日事件について何も言ってはいないが、ぼーっと憂鬱な目で何もしていないことが多かった。一応書道部に参加はしているが、いつもの熱血練習もどこへやら何もせずにただ外を眺めているだけである。 あと、昨日あまり反応を見せなかった朝比奈さんは、今日学校を休んでいる。やっぱりショックだったのだろう。あの後一言も言葉を発することもなく別れ際もただお辞儀するだけだったしな。元々気の弱いお方だ。学校を休むのも無理もない。 そんな憂鬱真っ盛りで新聞を読んでいると、横から谷口と国木田が顔を突っ込んできて、 「キョンよー、この事故にあった生徒ってお前がこないだ助けた奴なんだろ? まっ、あまり気にするなって。こいつがツいていなかったとしか言いようがねーんだから」 「そうだね。再度目撃しちゃったんだから、キョンのショックも大きいのはわかるけどさ」 「しっかし、運命ってのは残酷だぜ。せっかく命からがら助かったのに、また追い打ちをかける必要はねーだろ。そういうのを操る神様がいるって言うならそいつはかなり陰険な野郎だな」 「神様かぁ……この場合死神だろうね。一度首に掛けた鎌をキョンに邪魔されたから、リベンジでもしたのかな?」 最後の国木田の死神という言葉に俺は少し心臓が高鳴った。 考えて見りゃ元々ハルヒからもらった予知能力がなければ、あの男子生徒はすでに死んでいたはずだった。それを俺があり得ない力で、あり得ない救出劇を実行してしまった。つまりあの男子生徒の運命を変えてしまったって事だ。 しかし、本当に死神なるものが存在するならそんな茶々入れを見逃すだろうか? 死の予定表に書かれている人物が生きている事自体を許さないに違いない。だからこそ、再度偶然という事象を利用してあの男子生徒を殺害した。 そういやそんな映画があったね。同じように予知能力を発揮して災害から逃れたのは良いけど、結局死からは逃れれず、各々死んでいくって言う展開が。それと同じ事が起きているってことか。 ………… ……なーんてね。考えすぎにもほどがある。宇宙人やら未来人でいっぱいいっぱいだというのに、レイスやゴーストどころか死神なんていう得体の知れないものの登場なんて勘弁願いたい。 と、ここで書道部顧問がやってきた。部員、仮部員一同が挨拶を交わす――ぼーっとしたままのハルヒは除くが。 挨拶後、顧問は手に持っていたチラシっぽい紙を俺たちに配布し始め、内容についての説明を始める。 簡単に言えば、三日後の今週末に展覧会があるらしい。しかも鶴屋さん系列のものらしく、特別に入場料はタダにしてくれる。せっかくだから都合の悪いが悪くない人は言ってみないか?と。 「うちの方で主催するんだけど、せっかく書道部なんだからこう言うのに行ってみるのも悪くないと思ってさっ! 家の方で掛け合ってみたところ、これが快くOK! みんな気兼ねなく参加してほしいっさ」 鶴屋さんのフォローに部員の方は一同参加を表明した。さて、問題の仮入部群団の方だが…… 「俺は参加しますよ。せっかくだから芸術に触れて大いなる未知の世界に触れてみるのも悪くありませんからね」 谷口は参加を表明。何が芸術だ。お前のことだから、谷口的美的ランクの高い書道部女子部員の私服姿でも拝みたいんだろ。ついでに帰りがけにナンパを始めそうだ。 「僕も予定はないから行くよ。せっかくだからね」 そう国木田も賛同。こいつも女っぽい顔つきながら意外と女好きなのは、付き合いの長い俺はよく知っている。谷口のように露骨ではないが、内心は谷口と大して変わらないたくらみを持っていそうだ。 とりあえず俺も頷いておくことにした。朝比奈さんがいないとあまり意味はないんだが、どうせ休日やることもなく、ハルヒの呼び出しを受けない限りは家でごろごろしているだけになるだろうしな。 で、今日欠席している朝比奈さんについては、 「あたしの方で今日のうちにみくるに確認しておくよっ。あんな事があった後だから……あんまり無理強いはできないけどね」 そう鶴屋さんは悲しげな表情で言った。 となると残りはハルヒになるわけだが…… 「で、ハルにゃんはどうするにょろ?」 「……ん? ああ、みくるちゃんが行くなら」 どこか上の空でそう答えた。全くストレートに朝比奈さん目的を言えるのもこいつの性格ならでは、か。 結局、朝比奈さんの参加次第ということもあるので、最終参加確認は明日にすることにして、今日の書道部活動はこれにて終わりになった。 翌日、健気に復活した朝比奈さんは快くOKを出した。すっかりダウナーモードを脱して元気よく練習+朝比奈さんいじりに精を出しているハルヒも参加を即答。 そんなわけで参加者は顧問+書道部部員(部長、部員二人、鶴屋さん、朝比奈さん)+仮入部員全員の参加は決定した。ま、全員参加って訳だ。 とりあえず退屈そうにして芸術なんていうものに興味のないことを悟られないように、週末は朝比奈さんの私服姿の鑑賞に務めることにするかね。ってそれじゃ谷口とあまり変わらないか。 ――思えば、この時点で俺ももう少し死神の存在について考えてみれば良かった。 ◇◇◇◇ てなわけで週末だ。俺たちは市内の展覧会場に集合していた。てっきりもっと大規模なテーマパーク的な建物で行われるのかと思いきや、商店街の中にあった空き店舗を一つ改造してイベント会場にした小規模のものだった。どうやら個人展覧会ぐらいのノリのようだな。その会場はちょうど通行量の多い十字路の角に位置している。たまにトラックがガタゴトと通り過ぎて、路面を激しく振動させる。 現在会場前にいるのは俺とハルヒだけだった。なんせ予定時刻の30分前で、まだ会場すらオープンしていない状態だからな。SOS団の時の早出がすっかり癖になっているおかげで、一般人予定時刻よりも行動がすっかり早くなってしまったよ。まあ、ハルヒはSOS団団長の時と同じように一番手で来ているが。 「で、みくるちゃんから未来人であるって言われたの?」 唐突にハルヒから声を掛けられ、俺はしばらくあたふたとしてしまったが、 「……いや、まだだよ。タイミングを考えれば恐らくもうちょっと後になると思うが」 「そ」 素っ気ない返事を返すハルヒ。 そういや、俺の世界でカミングアウトをされたことを思い出すと、長門は俺の身に危険が迫ることを考えた上で告白、古泉はどっちかというと俺の方からきっかけを作ったようなものだったが、朝比奈さんは何であのタイミングで告白したんだろうか? あの状況を考えて、別にその必要性はあったとは思えないが。 ここで俺は問題が発生していることを認識されられた。このまま朝比奈さんが黙ったままだった場合はどうすればいいのか。まさかあなたは未来人ですか?なんて聞くわけにも行かない。だが、このまま隠された状態を続けられても…… ふと俺はハルヒに、 「そういや、お前朝比奈さんのことはどう思っているんだ? ぱっと見た目は気に入っているように見えるが」 「どうもこうも可愛くって仕方ないわよ。冗談抜きで持って帰りたいくらいにね」 ――話し始めは楽しそうだったが、すぐに憂鬱の篭もったため息を吐くと、 「でも古泉くんの時のことを考えるとね……例え個人と仲良くしても後ろにいる連中があんな感じじゃどうにもならないわ。みくるちゃんも未来人らしいけど、その後ろには特定の思惑を持った勢力がいる。そいつらが何を考えているのかわからない以上、素直に今の楽しさを受け入れにくいってものよ」 やはり前回の古泉――機関の件が少々トラウマ気味になっているようだ。せっかく古泉と仲良くしていたってのに、オチが核でドカンじゃ俺だってショックは大きかったさ。 だが、未来人の思惑か……。俺の世界じゃ朝比奈さん(大)は既定事項をこなそうとしていた。自分たちの未来を確保するためだそうだ。ならこの世界でも同じ事に務めるだろう。それだけなら別に機関のように突拍子もないことをやらかしたりはしないと思うが、どうだろうか。なにぶん禁則事項を連発されているからな。俺に知らされていないこともかなりあるはずだ。 そんなことをつらつら考えているうちに、俺の前には黒塗りでいかにもお金持ちが乗りそうなベンツが止まる。その後部座席からカジュアルな和服調私服姿の鶴屋さんと可愛らしいワンピース姿の朝比奈さんが現れた。 「やあやあっ。もうご到着だったんだねっ! 予定より早く動くのがハルにゃん行動原則かいっ? それともキョンくんと二人っきりになるのが目的だったりしてっ。そこんところどうなんだいっ?」 「こんにちわ、鶴屋さん。言っておくけどこのバカキョンが勝手に来ただけよ。あたしは一番乗りが原則ってだけ」 ぶっきらぼうに答えるハルヒだったが、その予定時刻よりも早く集合場所に来る癖を作ったのは他ならぬお前なんだが。 おっと、そういやなんで朝比奈さんも一緒に乗っているんですか? 「あー、途中でみくるを見かけてねっ。せっかくだから途中で拾ってきたんだよ。一人で歩いていると、ふらふらと迷子になっちゃいそうだしねっ」 「……実は本当に迷っていたんです。困って鶴屋さんに電話しようとしていたらちょうどばったり出会えて助かっちゃいました」 てへっと思わず俺もお持ち帰りしたくなるようなかわいさを爆裂される朝比奈さん。なんて事だ。俺に言ってくだされば、例え自宅でも駆けつけて場所案内をしましたよ。 朝比奈さんは俺の前に立つと、ぺこりと頭を下げて、 「お待たせしちゃってすいません。今日はどうぞよろしくお願いします」 「いいえいいえ、俺とハルヒが早く来すぎただけですから。こっちこそ、仮入部の新米なのでよろしくご指導お願いします」 礼儀正しいには、それ相応で返さないとな。腕組んでふんぞり返っているハルヒも俺を見習ったらどうだ―― って、何かすごい睨みジト目でこっちを見てやがる。なんだなんだ、朝比奈さんを取られたとでも思ったのか? お前みたいにどうこうしたりしないから大丈夫だよ。 そんなことをしている間に、顧問に引きつられた書道部部員一同・谷口・国木田がやって来た。これで全員勢揃いか。ただ開場まで少し時間があるので、適当に入り口前で時間を潰すことになる。 それぞれ和気藹々と雑談に興じるなか、俺たちの前にガスか何かを積んだトレーラーが信号待ちに入った。ゴゴゴゴとけたたましいエンジン音と一緒に、ディーゼル車特有の黒い煙をマフラーから吐きだしていた。全く信号待ちの間はエンジンを止めておけよ。こんな真っ黒い煙を朝比奈さんに浴びせたら体調を崩しかねないじゃないか。 俺はディーゼルの煙を浴びない位置に朝比奈さんを移動させようと、彼女の方に振り返って、 「あれ?」 さっきまで朝比奈さんが経っていたはずの場所にその姿が無くなっている。どこいったんだ? 俺は朝比奈さんの姿を探して辺りをきょろきょろと見回していると、 「キョンくん、どうかしたんですか? ――けほけほっ、排気ガスが凄いですね。口の中が真っ黒になりそう」 朝比奈さんの声。気が付けばさっきいなかったはずの場所に、朝比奈さんが立っていた。俺が心配したとおり、排ガスを避けようと手で口元を仰いでいる。 俺は首をかしげながら、彼女を俺の背後当たりに移動させた。ちょうど俺の位置は風の流れにより、排ガスの餌食にはならない。 ――さっきいなかったのは見間違えか? そろそろ時間だと顧問の声が聞こえる。俺は首をかしげながらも、開場の方へ移動しようとして―― ………… きっと気が付いたのは偶然だったのだろう。交差点を渡る必要なんてないから、信号機がどう変わったなんて普通は確認しないからな。 だが、俺ははっきりと見てしまった。交差点の片方の信号の青のまま、トレーラーの方の信号も青に変わった瞬間を。 俺は今から始まることに、一声すら上げることができなかった。 まず俺のすぐ横に止まっていたトレーラーが青信号になったため走り始めた。だが、もう一方の信号も青なのだ。当然の事ながら、止まることなく乗用車は交差点を通過しようとする。ちょうどトレーラーが交差点に入りかけた瞬間、交差側の道路から大量のガスボンベを積んだ小型トラックがかなり速い速度で突っ込んできた。言うまでもなく、トレーラーと小型トラックは接触し派手な音を立てた。しかも、両方とも積んでいるものが可燃物だったため、すぐに爆発を伴った炎上が始まる。その時の爆風で俺の身体は吹っ飛び近くの商店の壁に激突した。 そのすぐ隣に同じように書道部顧問も叩きつけられる。あまりの痛みに俺はしばらく言葉を失ったが、すぐにはっと気が付いた。俺たちに向けて爆発の衝撃でガスボンベが数本飛んできていることに。 俺は目をつむることもできずに、そのうちの一本を追っていた。俺のすぐ横数十センチの所に突き刺さった。だが、それとは逆側でグギャという気色の悪い音が聞こえる。見れば書道部顧問の腹にガスボンベが突き刺さり、だらだらと口から多量の血を吹き上げていた。 目の前で起きたスプラッタ劇。こないだの男子生徒の事故死のショックを遙かに上回る状況に、俺は戦慄を憶えた。 だが、それで終わりではない。今度は別の方角へ飛んでいったガスボンベの一本が近くのショーウィンドウに飛び込んだ。 程なくして何かの拍子で引火したのだろう、店舗の内側で大爆発が起きる。その時、ウィンドウガラスが一斉に飛び散り 周囲にまき散らされ、その無数の凶器が俺から数メートルの位置に立っていた谷口と国木田の全身に突き刺さった。 まるで狙いすましたように的確に首や胸など急所に突き刺さっていく。 「――キョンくん、ハルにゃん逃げ――っ!」 鶴屋さんの叫びは途中でとぎれた。玉突き事故状態になっていたため、別の乗用車が事故現場に突っ込みそうになり、 あわててハンドルを切ってその乗用車がスピンを始め、それが鶴屋さんを巻き込んだのだ。 はねとばされた彼女は―― ――次の瞬間、俺は鶴屋さんの行く末を確認する前に再度吹っ飛んだ。すぐ近くに落ちていたガスボンベの一つが爆発したのだ。 鶴屋さんが逃げ……と言っていたのはこれのことだったに違いない。 数メートル飛び、背中から落下して全身が酷いしびれを起こす。だが、どういう訳かこんな時に限って視覚だけは しっかりしていて、別の乗用車がまた一台トレーラに突っ込み、すぐに大爆発が起きた。その燃えさかる火炎に 書道部部員二人が巻き込まれていく。 「キョ……ン……」 聞き慣れた声が耳に届く。何とか首をそちらに向けると、俺と同じように道路に倒れているハルヒの姿が目に止まった。 同じようにさっきのガスボンベの爆発に巻き込まれたのだろう。身体のあちこちから焦げた煙が上がっていた。 辺り一面は地獄絵図のようになっていた。トレーラーの可燃物質が大量に漏れ、それから発生した炎が周囲の民家に 燃え移っていく。 その中、一人火だるまになって悲鳴を上げていた人間の存在に気が付いた。書道部部長だ。彼女が泣き叫びながら 身体中の炎を払おうと手をばたつかせていた。しかし、すぐに肺の中にも火が入ったのか、意識を失って倒れてしまった。 「もど……もど……っ」 ハルヒは動かない口で何かを訴えていた。 ああそうだ。朝比奈さんは? 朝比奈さんはどこに行った? 無事なのか…… 俺は彼女の姿を探すべく、身体を空に向けて見た――広がる空に馬鹿でかいトレーラーの一部。爆発の衝撃で 遙か上空まで飛び上がっていたのが、今まさに俺たちめがけて落ちてきているのだ。 戻れ――! そう叫んだのは、きっと軌跡だったに違いない。俺はそんな言葉なんて頭の中に全く浮かんでいなかったし、 この惨劇の中では自分の予知能力なんてすっかり忘れていたんだから―― ……… …… … 「うわっ!」 俺は唐突に大声を上げていた。 そして、辺りを見回す。展覧会の会場前。突然俺の上げた奇声に、顧問一同が俺を奇異の目で見つめている。 目の前にはディーゼルの煙を吐くトレーラが停止中――次に目に入れたのは信号機。さっき見たのと同じように、 交差する両車線ともの信号が青になっている。トレーラーは今まさに発進しようとしていた。 「――逃げろっ!」 俺は無我夢中で近くにいた書道部員一同を引き連れて、まだ未開場の展覧会場に押し入った。 何秒だ? あの惨劇を何秒間俺は見続けていた? 例えばあれが100秒間だったら、今逃げ切れるのは20秒しかない。 惨劇を止めるすべはもうないのだ。とにかく手近な人間を逃がすだけで精一杯だった。 会場の入り口にいた係員から、困ります!と止めに入ったか、そんなことお構いなしに会場内に侵入――いや逃げ込む。 「おいキョン! 何なんだよ!」 「どうしたのさ! キョン聞いているのかい!?」 「ちょっとちょっとキョンくんってばっ!」 「キョン! あんたまた――!」 「キョンくん、なんでまた――!」 みんなの声が交錯する。だが一つ一ついちいち答えられている余裕なんてない。俺はできるだけ展覧会の会場の奥に―― ――背後で耳を貫く接触音と爆発が発生した。俺たちはその衝撃に身を飛ばされた。 衝撃で会場内が激しく揺さぶられ展示物が落ちるどころか、壁もばらばらと崩れ落ちていく。 背後――交差点では次々と玉突き事故が起こり、さらにトレーラーの可燃物質と小型トラックのガスボンベが次々と 引火してさらに大きな爆発を続けていた。 しばらく俺は唖然としていたが、あわてて周りを確認し、全員の姿を見渡した。周囲には書道部関係者全員が腰を抜かして 座っている。その顔は皆恐怖に引きつっていた――いや、違う。 二人だけは異なる反応を見せていた。まずハルヒだ。じっと俺の方を見つめていた。理由はわかる。また予知能力を使っただろう ということについて何か言いたいのだろう。 そしてもう一人は俺に背を向けて事故現場の方を見つめてため、表情を確認できなかった……朝比奈さんの表情だけは。 ◇◇◇◇ 消防や警察が大騒ぎしてやっとこさ事故の状況が落ち着いた辺りで、俺たちは全員警察署に連れて行かれた。 いや別に連行された訳じゃない。事故の状況を知りたいために目撃情報を知りたいんだと。 ただし、事故を予知していた俺を除いて。家には事故に巻き込まれたが、無事だから安心してくれとだけ電話で伝えておいた。 警察からはいろいろ聞かれた。特にどうして事故を予見することができたのかについてである。 これに関しては素直に言うわけにもいかない――言ったらかえって怪しくなるだけだからな。 だからこう答えておいた。 信号が両方とも青になるのに気が付いた。そのままだとトレーラーとガスボンベを積んだ小型トラックが衝突するのは 確実だったのであわてて逃げた。トレーラーの運転手を止めようとも思ったが、気が付いたときにはもう発進していたし、 声が届くのは無理だと考えた。 「よう……」 「……長かったわね、キョン」 警察署の待合室で長々と聴取を受けていた俺を待っていてくれたのはハルヒだけだった。 顧問を含め全員が酷く動揺しているらしい。もちろん鶴屋さんや朝比奈さんもだ。かなり精神的に衰弱しているらしく 早く家に帰って休ませないと精神レベルで長期間の傷を残しかねないという医師の判断もあったとのこと。 俺とハルヒは警察署から出て、すっかり暗くなった外に出る。まばらに浮かぶ雲の間にきれいな半月が浮かんでいた。 二人はしばらくどこに行くまでもなく、暗い歩道を歩き始めた。時折、警察署脇を通る道路を走る車のテールランプが 俺たちを照らしていく。 ハルヒはすっと俺の方に振り返り、 「……警察はきちんとごまかせたんでしょうね?」 「ああ、そっちは問題ない。少なくても犯人扱いはされていなさそうだったよ」 「そう……」 ――それ立ちのそばをトラックが通っていく。その振動に俺は思わずあの大惨事を思い出し身を震わせる。 ハルヒも目の前の惨劇には相当堪えたらしい。かなり意気消沈した様子だった。 続ける。 「使った……のよね? 予知能力」 「……そうだ。あの事故が起きることがわかっていたんだ」 それを聞いてハルヒは、ふうっとため息を吐くと、 「何があったのか教えて」 俺は端的にどんな惨劇だったのか伝えた。完全に怒濤の状況だったため記憶が曖昧な点もあったが、 ひょっとしたら俺とハルヒも死んでいたかも知れないということも。 そのあまりの凄惨さにハルヒはしばらく閉口していたが、 「それじゃ仕方ないわね……ありがと、あんたのおかげで命拾いしたわ」 「俺の予知能力はこれでもう終わりなのか?」 「そうよ。これ以上は面倒事になりかねないし……それにあまり意味がないことに気が付いたから。 これから事故が起こるたびにこんな事を繰り返していても無限ループにはまりこむだけよ」 「意味がない? それは違うだろ。危うくお前まで死にそうになったんだ。お前が死んだら何もかも終わりさ。 リセットもできなくなる」 「ポジティブで良いわね、全く……」 ハルヒはやれやれと肩をすくめた。超ポジティブ思考はお前の専売特許だぞ。お前らしくもない。 ふと俺はリセットのことを思い出し、 「リセットはするのか? 俺は予定されてた二回の予知能力を使っちまったが」 「しないわ。今回のは情報統合思念体は全く関係のないただの事故だったし、リセットを連発するとその分奴らにばれる可能性も 増す一方だから。でも予知能力はなし。前回、今回と短い間に二回続けてだったから情報統合思念体があんたに興味を 持ち始めているみたいよ。変な能力を持っているんじゃないかってね」 「マジかよ」 ハルヒの代わりに俺が変態パワーの持ち主に認定されてはたまらん。とっつかまえられてキャトルミューティレーションは 勘弁願いたいからな。 「とにかく、明日からは今日の事故のことも忘れて、いつも通りの日常を続けるわよ。 今のところ、問題なく推移しているんだから」 「そうだな……とっとと忘れちまうのが一番か」 「じゃ、また明日、学校でね」 そう言ってハルヒは自宅へと帰っていった。 ……俺も帰るか。いい加減くたびれたからな。 ◇◇◇◇ 翌日。北高は昨日の玉突き事故の話題で持ちきりだった。校内を歩いていてもその話しか聞こえてこない。 耳に届く内容では相当尾ひれの付いたうわさ話になっていて、やれ陰謀説とかUFOとかの話まで混じっていた。 事故を目撃した谷口と国木田は学校を休んでいた。無理もない。あれを見た後で平然としている俺の方が貴重だろう。 ハルヒはダウナーモードながら来ていたが。 そんなこんなで放課後、俺とハルヒは書道部の様子確認もかねて部室を訪ねてみることにした。 予想通り誰もいない――と思いきや一人だけいた。鶴屋さんである。 「やあ、キョンくん、ハルにゃん。元気――ではなさそうだけど、学校に来れるくらいにはなったみたいだね。よかった」 そう言う鶴屋さんもショックは大きかったらしく、いつのものように口調にキレがない。 彼女に聞くところによると、やはり朝比奈さんは今日学校に来ていないとのこと。顧問も休み。部員に関しては、 一人の女子部員だけが学校に来ていたらしいが、やはり部活に参加する気力はないらしく、 ついさっき帰宅の途に付いたとのことだった。 「ま、部活する気分でもないしね。今日は解散にしましょうか」 「そうっさね……」 ハルヒと鶴屋さんはそう頷くと帰り支度を始める。 ふと、鶴屋さんが部室の窓の外に顔を出し、笑顔で手を振り始めた。俺もそれに続いて外を見ると、 校舎の出口近くで書道部の女子部員が手を振り替えしている。どうやら、俺たち以外で唯一登校して部員のようだ。 「また明日ねーっ! 気を落とすんじゃないっさ!」 窓を開けて鶴屋さんが元気よく――少々無理やり気味だったが――声を掛けていた。女子部員の方も何事か言い返してきたが 声が届かずにその意味までは聞き取れなかった。 ……ただ、俺の耳には別の音が飛び込んできた。野球部のバットとボールがぶつかるカキーンという音だ。 女子部員は特に不自然な動作もなく校門から出て行こうとする。 その時だった。 確率にすればどのくらいのものなのだろう。野球部の練習から放たれた大飛球が彼女の後頭部に直撃するなんて。 「あっ!」 「うそっ!?」 その様子を見ていたハルヒと鶴屋さんは唖然とした声を上げた。俺に至っては声すら上げられない。 昨日あんな事があったのに、今日は天文学的確率で野球ボールをぶつけられるなんて、この世に神っていうものはいないのか? だが、事態はそれで終わっていなかった。想像もしなかった後頭部のショックに女子部員は脳しんとうか何か起こしたのか、 ふらふらと校門から車道に向かってよろめき始める。 「ダメだよっ! そっちは危ないっ!」 鶴屋さんが必死に声を飛ばすが、恐らく頭痛で聞こえていないだろう。どんどん車道に向かって移動していく。 学校校門前の道路は信号がしばらくなくスピードを上げて通り過ぎる自動車も多い。突然、車道に入り込めば ブレーキの暇もなく轢かれるかも知れない。 ――だが、危機一髪のところで偶然近くにいた別の北高女子生徒がよろめくその身をキャッチした。 これに鶴屋さんがふーっと大きなため息を吐いた。昨日の今日でまた惨劇が発生するなんて最悪だからな。 悪いことは早々続かないってことの現れだ。 女子部員は助けた女子生徒としばらく話をしていたが、ほどなくして痛みも治まったのかその手を離し、 自力で歩き始める。ぶつかったショックは大したことはなかったらしい。しかし、大丈夫なのか? 一旦学校に戻って―― 次の瞬間、その女子生徒の身体が路上に突っ込み、ジャストタイミングで通りかかったバスにぶつかって吹っ飛んだ。 ここからでもドカッという嫌な音が聞こえ、彼女の身体が路面を転がっていく。 最初あまりの一瞬のため何が起こったのかわからなかったが、しばらくして理解できた。彼女が歩いていた先の地面に 転がる一つの物体。あの後頭部にぶつけられた野球ボールだ。ぶつかった後、できすぎたタイミングで彼女の進行方向に 落ちていたのだ。そして、まだ痛みが残る女子部員はそのボールの存在に気が付かず、それを踏みつけバランスを崩し、 車道に飛び出してしまった。当然、一瞬の出来事だったためバスの運転手が対応できるわけがない。 そのままブレーキすら掛ける暇なく、彼女の身体をはねとばしてしまった。 ………… ………… 俺たち3人はその光景を見ていたが、言葉一つ吐くことができない。 やがて鶴屋さんが腰を抜かすように床に座り込んでしまう。 ハルヒは机を思いっきり殴りつけ、どうなってんのよ!と叫んでいた。 俺もハルヒに同意だ。 一体何がどうなってやがる……!? ◇◇◇◇ 俺たちは書道部女子部員が駆けつけた救急車に載せられていくのを間近で見守っていた。 全身からの多量の出血がアスファルトの道路を汚している様子に、救急隊員も絶望的だと首を振るばかりだった。 あの様子では助かる見込みはないだろう。 事故現場は封鎖され、警察による実況見分が行われている。 俺たちは目撃者として何点か話を聞かれただけで、すぐに解放された。今回も確実に事故として処理されるだろう。 だがしかしだ。 偶然飛んできた野球の大飛球にぶつかり、あまつさえそのボールを踏んで車道に突っ込んで事故。 これは事故と言っていいのか? 滅多にあり得ない偶然が二つ重なるなんて現実起こりえるんだろうか? しかし、何者かによる故意が確認されなければ事故として判断するしかないだろう。それが現実だ。 昨日――俺とハルヒは先週も目撃したが――に引き続いての事故遭遇に鶴屋さんも完全に普段の元気がそぎ落とされ、 意気消沈しながら自宅からの迎えの車で帰っていった。 正直な話、俺も相当堪えているはずなんだがそれでもまだ正気を保っているのは今までのトンデモ経験と 前回の機関による無差別砲撃戦+核テロを間近に見たせいからだろうか。 一方のハルヒは、気力を削がれるのとは逆に苛立ちを見せていた。男子生徒の偶然が重なりまくった事故死・ 信号機異常による玉突き事故・女子生徒の偶然の事故死……これだけ続けば、ハルヒでなくても不信感を感じるはずだ。 俺だってどうみても何かがおかしいことぐらいは気が付いている。 「これからどうするんだ?」 俺は難しい顔をしたままのハルヒに尋ねてみる。ハルヒはすぐに手帳を鞄から取り出し、何やら確認を始めた。 そして、歩き出して、 「嫌な予感がする。とりあえず他の書道部部員を訪ねてみるわ」 「おい、まさか同じことが他の部員にも起きるかも知れないってことなのか?」 俺の問いかけに、ハルヒは首を振ってから肩をすくめて、 「わかんない。ただ嫌な感じがするのよ。さっきの事故だって故意にしか見えないような事故よ。でも、その事故が起きたのは 全部偶然が重なったからだから、誰かの故意によるもののはずがない。訳わかんないわ。だから、ただ考えてもやもや しているよりかはマシだと思っただけ」 そうかい。ま、確かにぼーっとしているだけってのも嫌な感じが募るだけだしな。 で、どこに向かうんだ? ◇◇◇◇ ハルヒが言った目的地は、もう一人の書道部女子部員の家だった。場所は鶴屋さんから以前聞いていたらしい。 その辺りはしっかりしている奴である。 もう一人の女子部員の家は10階建てのマンションの最上階にあった。長門の住んでいるような高級そうなところである。 俺たちはエレベータで最上階まで上り、その部屋の前に立った。 ハルヒは部屋番号を確認してから数回チャイムを押してみた。団長様の方は問答無用に開けようとしたが、 こっちのハルヒはあっちよりも意外と常識的かもな、とか思ったりしてしまうが、今はそんなことはどうでも良い。 チャイムを鳴らしても一向に返事がないため、もう数回ならしてみた。ついでにノックを含めて、女子部員の名前を呼んでみる。 ――やはり返事がない。 「留守じゃないのか? 買い物にでも出かけているんだろ」 「昨日あんな事があったのに、ほいほい出歩けるようなタイプには見えないけど……」 ハルヒはあごに手を当てて思案顔を見せる。確かにこの女子部員はどっちかというと小心者的な臭いを漂わせていた。 昨日の事故でもかなり怖がっていたしな。 さて――どうしてものか。 と、ここでハルヒは念のためという感じで、扉のノブに手を掛けてる。すると、かちゃっという音とともにあっさりと開いた。 何だ鍵掛けていないのか? 不用心な―― ――と思ったら、突然扉が内側から引っ張られたように閉じた。ほどなくして鍵のかかる音まで聞こえてくる。 「えっ!?」 突然のことにハルヒは目を白黒させた。今のはどう見ても誰かが内側から開いていた扉を閉めたとしか思えない。 しかも鍵も掛けた。 「すいません! 書道部の涼宮ですけど!」 ハルヒはノックとチャイムを繰り返して叫んだが何も返事は返ってこない。さっき内側から鍵を閉められた以上、 誰かがいるのは確実なんだが何で返事が返ってこない? 何かおかしいぞ。 ふと、ハルヒは扉に耳を付けて内部の音を聞き取ろうと試み始めた。俺もそれのマネを始める。 「おい何か聞こえるか――」 「うるさい! ちょっと黙ってなさい!」 ――……っ…… 今なんか聞こえたような…… ――助け――て――! 今のは完全に聞き取れたぞ。中で誰かが助けを求めている! 「ハルヒ! 聞こえたよな!」 「わかっている!」 そうハルヒは叫ぶとドアに体当たりして、何とかこじ開けようとするが、防犯用に作られでもしているのかびくともしない。 俺も体当たりに加勢するがそれでもダメだ。こじ開けるのは無理だぞ、これは。 「なら一階に下りて管理人室から鍵を借りてくるか!?」 「そんな時間ないわよ! ああもうどうしよう!」 「ならドアごとお前の力で吹っ飛ばせよ! それくらいできるんだろ!」 「無茶言わないで! あとで警察になんて説明する気よ!? そこから奴らにかぎつけられたら台無しよ!」 んなこといっても、人命がかかってんだぞ……ってハルヒの能力バレは人類滅亡の鍵か。くそっ、情報統合思念体め、 邪魔ばっかりしやがって。 ハルヒはしばらく爪をかんで考えていたが、やがてドアのすぐ横の窓に気が付く。女子部員の部屋の窓だ。 ここから入れれば、入り口を通らずに部屋の中に入れるが、あいにく頑丈そうな格子が付けられている。 「このくらいなら……」 そうハルヒはつぶやくと両手を格子にかけて、そして、思いっきり力を込め始める。おい、いくらなんでも素手でそれを 壊すのは無理だろ……と思いきや、ガキンと留め金が折れたような音が鳴り、格子があっさりと取り外されてしまった。 馬鹿力にもほどがあるぞ、こいつ。 俺はハルヒが格子を片づけている間にその窓を開けようとしてみるが、鍵がかかっていて開きそうにない。 割れないかと数回拳でぶん殴ってみたが、防犯用のものなのかびくともしやしねえ。 「どいてっ!」 背後から聞こえたハルヒの声に振り返ったときには、すでにこいつは空中一メートルぐらいのところに飛び上がっていた。 そして、ジャンプの勢いを利用してそのまま窓ガラス、しかもちょうど鍵のある近くを的確に蹴る。 見事にがしゃんという音とともに、窓の一部が割れた。変な能力なしでも超人過ぎるぞ、こいつは。 俺はすぐにその割れた箇所から手を突っ込み、窓の鍵を解除した。ハルヒが窓を開け、 「行くわよ、キョン!」 そう言って部屋の中に入っていく。俺もそれに続いた。 部屋の中は女子部員の部屋なのか、普通の女子の香りのするものだった。しかし、一方で鼻につく嫌な臭いも感じる。 その正体は部屋の扉から廊下に出てわかった。猛烈な何かの焼ける臭い。しかもビニールとかそういう加工製品が燃えたあとに 発生する意識を狂わすようなものだ。 見れば、玄関から続く廊下の終着地点にはリビングへと通じるガラス張りの扉があった。そこから見えたリビングの中では めらめらと炎が立ち上がっている。 しかし、どういう訳だか火災報知器もスプリンクラーも作動していない。高級そうなマンションなのに 備え付けられていないとでも言うのか? 「火事が起きているじゃねえか! 早く消防に連絡しねえと!」 「その前に部員を助ける方が先よ! 助けを呼ぶ声が聞こえたんだからまだ生きているはず!」 俺とハルヒは急いでリビング内に入ろうと、扉を開けようとするが、 「あ、あれ? こいつ開かないぞ!?」 何度か俺がノブをひねってみるが、一向に扉は開く気配がない。ノブの軽さから言って、壊れちまっているみたいだ。 このタイミングで壊れるか、普通? 「キョン! あたしがぶち破るからどいて!」 ハルヒは数歩下がって助走距離を取り始める。俺はハルヒの邪魔にならないように廊下の壁に張り付いた。 その時だった。ちらりとガラス扉越しにリビングに人影が見えた気がした。炎があちこちから上がっているため 光の加減でシェルエット状態だったが、それがやや髪の長い小柄の人間であることはすぐにわかった。 女子部員か? まだ中で火から逃げ回っているのかも知れない。 ハルヒの体当たりが始まる。ラグビーのショルダータックルのように、勢いよくガラス扉をぶち破ってリビングの中に入った。 俺も残ったガラスの破片に注意しながらリビング内に入る。 リビング内はあちこちに火が燃え広がり、小火の状態を越えていた。このままでは他の部屋にも次々と引火してしまうだろう。 だが、消化器ぐらいでは押さえ込めそうにない。 ――助け――て―― 息苦しそうでか細い声。俺とハルヒはそれを聞きつけて、辺りを見回す。ふとリビングに隣接しているキッチンの床に 仰向けになっている片足が見えた。 俺はそこに駆けつけると―― 「うっ……」 「きゃあっ!」 俺は思わずうめき声を上げ、ハルヒは小さな悲鳴を出し口を押さえた。 そこには首からダクダク血を流した女子部員が仰向けに倒れていた。必死にタオルを押しつけてそれを止めようと しているようだが、致命的なところを損傷しているらしくタオルが完全に真っ赤になっても止まっていない。 次第にタオルで吸いきれなくなった血が床に広がり始めている。 助けないと――そう俺がキッチン内に入ろうとした時だった。突然、ガスコンロの近くで小さな爆発が起き、 周囲をがたがた揺らす。 その衝撃でキッチンの天井に据え付けられていた戸棚の一つが開いた。そこから数本の包丁が舞うように飛び出し、 女子部員の胸と腹に一本ずつ突き刺さる。 あまりのできすぎた偶然に俺は戦慄を憶えた。だが、一方のハルヒはそうなるよりも助ける方に頭が行っているようで、 「まだ息がある! 早く助けないと!」 そう彼女に近づき始めた。が、またも小規模な爆発と火炎が巻き起こり、うかつに近づくこともできない。 だが、女子部員は包丁が二つも突き刺さりながら、まだ苦しそうな息をしている。まだ生きている。助けなければ。 ――また起きる小さな爆発。俺は炎から起きた閃光に一瞬目を瞑ってしまった。そのタイミングでドカっ!と 何かが床に打ち付けられる音がした。 その音は俺に理由もなく嫌な予感を与えてきた。恐る恐る目を開けてみると―― 「……なんだってんだ」 あまりに酷い状況に俺は地団駄を踏みたくなる。さっきの爆発で女子部員の頭の方におかれていた冷蔵庫が、 事もあろうに彼女の身体の上に倒れたのだ。包丁が垂直に突き刺さっている場所に、あんな重いものが倒れればどうなるか。 釘を打つ金槌と同じ事になる。包丁はさらに深く彼女の身体にめり込んだだろう。 もう微かな叫びも吐息も聞こえなくなった。完全に意識をなくしたのかもしれない。 俺は必死にどうすりゃいいんだと思考回路を早める。隣のハルヒも焦りの表情を浮かべて動けない状態だ。 だが、【偶然】は俺に冷静さを取り戻す暇も与えない。今度はどこかでポンッという小さな破裂音が聞こえ、 続いてシューッという何かが吹き出す音、さらに今までとは違う何とも言えない嫌な臭いが辺り一面に充満し始めた。 これに気が付いたハルヒが、あわてて俺の手をつかみ、玄関に向かって走り出す。 「おい! 助けなくていいのかよ! まだ生きているかも――」 「それどころじゃないっ!」 ハルヒの声は焦りに満ちていた。何が起きようとしているんだ…… 玄関の扉の鍵を開けて、ハルヒと俺が外に飛び出すとそこには予想外の人物がいた。書道部顧問だ。 今日は学校を休んでいたはずなのに、何でここにいるんだ? ――そのとたん、女子部員の部屋でひときわ大きな爆発が起きて、その衝撃が通路を伝って出入り口から吹きだした。 熱波を含んだそれは通路の壁にぶつかり、そのままで上昇気流へと変わる。 俺はあぜんと目を見開くハルヒの顔を、高い位置から見ていた――すぐに気が付く。さっきの爆風で俺の身体は 思いっきり吹っ飛ばされ壁を越えてマンション十階から転落しようとしていた。 ここからは俺に目に入ってきた光景が全てスローモーションに見えた。まずハルヒが壁から身を乗り出し、 ぎりぎりのところで俺の腕を左手でキャッチする。そして、すぐにこっちへ引き寄せようとするが…… すぐにハルヒの顔色が一変した。同時に右手を伸ばしてくる。その方へ俺が首を向かせると、そこには同じように 空中を舞っている書道部顧問の姿があった。その顔は完全に白目をむいている。衝撃で気を失っているに違いない。 ハルヒはさらに壁から身を乗り出し、一番近いところにあった顧問の足をつかもうとした。だが、あと数センチのところで その手が届くことはなく、やがて顧問の身体はマンションの下に向かって落ち始めた。 何かをハルヒは叫んでいた。絶叫していたが、爆風で耳をやられているのか俺には聞こえない。 やがて、顧問を助けることを諦めたハルヒは俺の救出に力を入れ始めた。振り回すように左手でつかんだ俺の腕を 引っ張り、その勢いのまま十階通路に投げ入れる。 「ぐはっ!」 背中から通路に落下したため、俺の口から胃液が飛び出した。背中もじんじんと痛み、やけどを負ったのか 手のひらもジンジンとしびれるような痛みを発していた。 「キョン! キョン! 大丈夫なの!?」 「あ、ああ――何とか……」 とぎれとぎれにハルヒの呼びかけに答えるが、すぐにまた女子部員の部屋で大爆発がおきて、マンション全体を 激しく揺さぶった。 危うく死にそうになった。それも本当に危機一髪だった。ハルヒがいなければ、もう死んでいただろう。 一方のハルヒはすぐに携帯電話を取り出すと、消防への通報をしていた。なんて手際と判断の速い奴だ。 一体今までどれだけの修羅場を踏んできたんだ、こいつは。 ふと、俺は書道部顧問の存在を思い出す。恐る恐るマンション下を見ると、そこには仰向けに倒れぴくりとも動かない 顧問の姿があった。通行人が集まり、悲鳴がわき起こった…… ◇◇◇◇ その後、またもや警察の事情聴取を受けた俺たち。さすがにこうも最近の事故に立ち会ってばかりの俺に不信感を 持ち始めたらしく、いろいろなことを聞かれ夜中まで警察署に拘束されるはめになった。一方のハルヒも事情説明が続き、 なかなか帰らせてくれなかったらしく、二人が無罪放免で解放されたのは夜中の十二時を過ぎた頃だった。 待合室では心配して駆けつけてくれた家族がいた。疑惑はさっさと晴れたことを言うと、ほっとした様子で、 とっとと家に帰りましょうということになった。 ハルヒも家族の迎えがあったので、一足先に帰ったらしい。ただし、伝言があった。 明日話したいことがあるから、どんなことがあっても学校に来るようにと―― ◇◇◇◇ 翌日の朝、俺は通学途中の自転車の駐輪場で眉をひそめてしかめっ面のハルヒと落ち合った。 この様子じゃ昨日のことは堪えるというよりも疑惑を深めたという心情なのだろう。 俺たちはゆっくりと登校ハイキングコースに入りながら話を始める。切り出したのはハルヒからだ。 「どう思う?」 「いい加減、うさんくさいとは思っている。だが、俺の頭じゃ何が起こっているのかさっぱりなのが現状だ」 「おかしいわよ、絶対。いい? 一昨日の自動車事故で助かった十人のうち、三人が昨日立て続けに死んだのよ? しかも、全部事故。それもあり得ないような偶然がつながってね」 「昨日の事故は結局あの女子部員の火の不始末が原因だったというのが警察の調査結果だからな……」 「事情聴取の時に警察から聞き出したんだけどね……」 ハルヒは昨日得た女子部員の身に起こったらしい警察情報を話し始めた。ただしこれはハルヒと警察の推測も混じっている。 元々あの女子部員は料理する趣味があったらしい。ところが電子レンジに入れた料理材料の中に何かの異物が混じっていたのか、 突然それが爆発、その時にレンジの破片が首に刺さって出血となった。止血のためにタオルを探している間に、 火を書けっぱなしにしていたフライパンが引火して炎上、恐らくそれを消そうしたのだろうが、何らかの不手際で リビング中に引火してしまった。そして、やむえず消防局に電話しようとしたが、電話線が火に焼かれて不通に。 そんなことをしている間に出血が酷くなり意識が朦朧となってキッチンに倒れてしまった。そこに俺たちが駆けつけたが、 これまた運悪く爆発の衝撃で飛んできた包丁が身体に刺さり、さらにその上に冷蔵庫が倒れてとどめとなった。 おまけにどういう訳だか、火災報知器などの予防装置は全て故障してたらしい。これはマンション管理の責任問題に なるかも知れない話だが。 話を聞くだけでも人生嫌になりそうな運の悪さの連続だ。はっきり言って【偶然】なんて言える代物ではない。 だがよく考えてみればそうでもなかったりする。たまにあるだろう、運にめぐまれないなぁと思う瞬間が。 身近な例を挙げれば、家で居間を歩いていたら落ちていた画鋲を踏んづけあわててしゃがんでそれを足から取りだしたら、 屈んだはずみで胸ポケットに入れていた携帯電話を落としてしまい、むかつきモードで携帯を拾って歩き出したら テーブルの柄に足の指をぶつけて悶絶する。俺もこのコンボに遭遇したことはあるが、誰かの陰謀だろと叫ばずには いられなかった。 俺の助けた男子生徒、昨日の野球ボールがきっかけとなった書道部女子部員、刺殺・爆死した書道部女子部員の死因を 陰謀云々言うのはその感覚に似ている。【偶然】とは思えないが、【偶然】でしかないのだ。ややこしい。 そういや顧問がどうしてあそこにいたのか理由を俺は知らないんだが。 「あの女子部員の家に呼ばれていたそうよ。相談したいことがあるって言う内容でね。電話の記録も残っていたらしいわ」 意外と警察もしっかりと調べているな。そこまでちゃっかり聞き出すハルヒもさすがだが。 だが、呼ばれて巻き込まれたのも【偶然】か。誰かが故意に起こした事故ではない以上、巻き込まれたに過ぎない。 実際俺たちも危うく巻き込まれるところだったんだ。 と、ここで俺は女子部員の家の中に入る際に、内側から鍵を掛けられたことを思い出し、 「そういや、あの一回締め出しを食らったことは警察に伝えたのか? あれは明らかに誰か別の人間がいたとしか 思えないんだが」 「確かにそうなのよね。でも、その前に警察から言われたわ。女子部員以外が部屋の中にいた形跡はないって。 逃げ道は存在しなかったから、あの場にいたら死体がもう一つ増えていたはずよ」 「わかんねぇぞ。どこぞの怪盗のように小型のハングライダーで窓から脱出したのかも知れん。限りなく低いが、 絶対ってことはないはずだ」 俺の反論に、ハルヒは首を振って、 「それもないわね。だって隣の部屋の住人が焦げた臭いをかぎつけて、ずっとベランダから女子部員の部屋のベランダを 覗こうとしていたらしいわよ。火事になっているんじゃないかと確認しようとしていたらしいわね。 結局爆発の瞬間まで中の様子はうかがえなかったみたいだけど。万一、ベランダから誰かが脱出したらその時点で 気が付いているわよ。あと実はその証言をしている隣人が犯人ってのもなし。ベランダの窓は内側から二重に 鍵が掛けられていて完全な密室状態」 「だが、内側から鍵が閉められたのは事実だ」 「一応言ったけど、相手にされなかったわ。あのマンションオートロックになっているらしくて、最初はなんかのはずみで 旨く扉が閉じていなかった。あと中で火災が起きていたから気圧とかなんかが変わって、ドアを開けた瞬間に 部屋内に空気が殺到し、それに乗って扉が内側から引っ張られたように感じただけじゃないかって一蹴されたわ」 何かいやに的確な反論をする警察だな。ただ、たしかに扉を開けたら風の力で引っ張り返されるというのは 俺も自宅で何度か遭遇したことがある。中で火災が起きていたんじゃ、部屋の空気の状態はめちゃくちゃだろう。 首はひねりたくなるが、否定できる材料もないといったところか。 ――ん? ちょっと待て。今の今まで完全に忘れていたことを思い出したぞ。 「今更なんだが――ついでに警察に言うのも忘れていたんだが、リビングにお前が侵入する直前に、 確か人影を見たような気がするんだが。もちろんリビング内にだぞ」 「……なんでそんな重要なことを忘れているのよ」 ハルヒは口をとがらして抗議の声を上げるが、 「今言っても記憶違いで一蹴されるだけだわ。時間が経って記憶の方が改竄されているし、ぼうぼう火が燃えている中で、 はっきりと模写までできるぐらい鮮明に覚えているとは思えない。実際のところ、どうなのよ」 「いや……」 確かに警察がそこまでしっかり調べて、中にだれもいませんでしたよと言われてしまうと、俺の見た人影も ただの見間違えじゃないかと思えてくる。事実、記憶上残っている見えたものは女性のような人影だけだからな。 しかし、現代技術ではいないように見せられる存在もこの世界にはいるはずだ。 「情報統合思念体が何か関与している形跡はないのか? 連中なら偶然に見せかけた殺人や誰もいないところに 沸いて出てくることだってできるだろ?」 俺の指摘に対し、ハルヒは首をひねって、 「確かに絶対とは言えないんだけど、奴らが動いた形跡はないわ。そもそもこんな事やって何の意味があるのか さっぱりわからないしね。可能性は捨るつもりはないけど」 とのこと。確かに朝倉や長門――あいつにこんな事はして欲しくないが――がこんなことをしでかしても何の意味があるのか。 そうなると―― 俺ははっと気が付いた。もう一ついないはずの場所に現れることができる人間が。未来人である。 しかし、まず断言したい。朝比奈さんがこんなことをできるわけがない。あの気が弱くって愛らしいあの方は 目の前に死体――多丸さんの偽死体だったが――を見ただけで卒倒するほどだぞ。自分の手で実行できてたまるか。 あと他の未来人の仕業は十分にあり得るが、俺は何度もありえない【偶然】を目撃している。いくら未来人がTPDDとやらで 時間を超えられる装置か何かを持っていたとしても、【偶然】の発生まで制御できるとは思えない。 そんなマネができるなら、俺の世界の時でも何度か目にする機会はあったはずだ。これでも朝比奈さん(大)と行動をともにした 機会は多かったからな。 そんなわけで今のところは、未来人関与の可能性について俺の中で速攻却下だからハルヒにも言わないでおく。 こいつに言ってへたに疑いだしたら面倒事になるかもしれないから、胸の内に仕舞っておこう。 と、ここでハルヒは思い出したように。 「あと今日の放課後、関係者全員書道部の部室に集まるように連絡したから。あんたもちゃんと来なさいよ」 「……何でまた」 俺が疑問を投げると、ハルヒはにらみを返してきて、 「いい? 一昨日の事故を免れた十人のうち三人が昨日のうちにみんな死んだのよ? 全部事故で死因自体に共通点はない。 ただ唯一の共通点は生存者であるということ。しかも、ただ生き延びたんじゃなくて、あんたの予知能力のおかげで 生き延びた人ばかり。一回目の予知能力を使った男子生徒も同じだった」 十人……俺・ハルヒ・谷口・国木田・鶴屋さん・朝比奈さん・書道部女子部員三名と顧問か。 まさかこれと同じ事が起こり続けるかも知れないって言うのか? ハルヒは真剣かつ深刻な顔で、 「そうよ。偶然がつながりすぎている。今のところ他者の思惑は見えないけど、何かが起きていると考えるべきだわ。 あらかじめ各自話し合って意識しておくことは重要だと思うから。あ、もちろん予知能力の話はしないけどね」 確かにハルヒの言うとおりだろう。例え【偶然】であってもその【偶然】にはまって死なないように、気をつけておくことは 重要かも知れない。自動車事故と同じで、少し気をつければ回避できるレベルのものかも知れないからな。 ――そんなことを話しているうちに北高まで俺たちは到着していた。 ◇◇◇◇ そんなわけで放課後。 三名が欠けた書道部部室で対策会議が始まった。 「事情を知っている人、知らない人多分様々だろうから、今までの経緯を話しておくわ」 ハルヒが今日の朝俺と話した内容を掻い摘んで説明し始める。すっかり立場は部長の位置になっているが、 やっぱりこういうリーダー的立場がこいつにはしっくり来る。 俺は説明を聞きながら参加メンバーを確認した。 朝比奈さん。かなり意気消沈気味だが、参加してくれている。あの調子じゃ何があったのかもう知っているのだろう。 鶴屋さん。こっちも立て続けに起きる惨劇にすっかりいつものさっぱりぶりは消え失せ、どこか憂鬱な表情を浮かべていた。 谷口。こいつは状況をほとんど知らなかったらしく、ハルヒの説明に仰天の声を上げていた。いつものそれほど変わっていない。 国木田。谷口同様だったので、ハルヒの話を興味深そうに聞いている。さして落ち込んだ様子は見えない。 書道部部長(女子)。一昨日の事故のショックも冷めないうちに、部員全員と顧問が昨日一日で事故死した事に憔悴しきっている。 あと俺とハルヒ。計七名全員そろっていた。 ハルヒは練習もしていないのに、弁論大会の演説のごとくきっちりわかりやすく説明していく。こいつの能力の高さは天井知らずだ。 ただし、当然予知能力は伏せておく。ついでに一回目の予知能力で救った少年がその後死んだことも触れないでおいている。 これは話の焦点を一昨日の自動車事故にしておきたいというハルヒの意向からだった。いたずらに広げるとややこしくなるだけだから。 やれやれ、本当に予定外の行動で死を回避した生存者をひたすらストーキングしてくる死神の映画みたいになってきたな。 ………… 「――現況は以上よ。あたしの推測も結構入っているわ。何か質問があれば、じゃんじゃんしてちょうだい。 数十分に渡るハルヒの説明の終了後、質問タイムに入った。 説明後の一同の様子を見てみる。 谷口はいまいち信用していなさそうな顔をしている。 国木田、鶴屋さん、書道部部長(女子)はハルヒの言葉を大体受け入れているようだ。 朝比奈さんはうつむいたままなので、表情が読み取れない。 質問タイムでまず最初に手を挙げたのは谷口だ。 「涼宮の言うことをまとめると、事故を回避した俺たち全員は近日中に偶然死ぬかも知れないってことでいいのかよぉ?」 「そうよ。あくまでもあたしの推測だけど、昨日の三人の死を間近に目撃した身としては、事故死なのに故意としか思えない 不自然な死に方が連続している。そして、死んだ三人の共通点は全員生存者。ならあたしたちにも危険が迫っている可能性があるって事」 「確かにそうかもねっ。昨日あたしもあの子の事故死した瞬間を見ていたけど、偶然にしてはできすぎていたよっ。 その根本原因が一昨日の交差点の事故にあるっていうなら、あたしたちも危険が迫っていると考えるべきだねっ」 鶴屋さんの発言――少々無理しているしゃべり方だったが。 書道部部長(女子)がここで手を挙げて、今後どうするべきなのか、今日亡くなった三人の通夜に行くつもりだが言ってもいいのかと 質問してきた。 ハルヒは腕を組んで、 「対応策ははっきり言ってわからないわ。ただし三人の死因が偶然による事故から来ているものなら、そう言ったものに遭遇しないように 心がける事ね。例えば、料理をするときは一人でしない、道を歩くときは必ず車道から離れたところから歩く、 危険な場所には近づかない……あとすぐに誰かに助けを求められる状態にしておくってのもあるわ。常に携帯を所持しておくとか、 身近な人の電話番号にすぐ通じるようにするとか。ま、普段以上に慎重に行動するって事よ。 その程度で回避できるかも知れないんだから。あと通夜の参加は各自の判断に任せるわ。 家に閉じこもっていろとは言えないし、参加も強制しない。繰り返すけど、さっき話したのはあたしの推測であって、 確定した情報じゃない。ただ状況から考えて危険が迫っている可能性が高いって事を知らせておきたいのよ」 熱弁を振うハルヒに、書道部部長(女子)は力なく頷く。聞けば、部員は昔からの友達だったらしく、 その死は相当ショックだったらしい。通夜や告別式に参加するなと言うのはあまりに酷だろう。 顧問もそれなりに長い付き合いだっただろうし。 一旦全員がしんと静まりかえる。ハルヒも腕を組んで質問がないのか見回していたが、やがてもうないのだろうと判断し、 「今日はこのくらいにしておきましょ。今日は亡くなった人たちの通夜もある。ただし慎重な行動を心がける。いいわね?」 その言葉に全員がうなずいた。 そうして今日の部活動――もう書道部の活動なんてしていないが――も終わりぞろぞろと解散していく。 その途中で俺は谷口に教室脇に引っ張り込まれ、 「おいキョン。おまえ、あの超強力電波女の言うことを信じているのか? はっきり言って死神が追っかけてくるような話なんて 俺はとてもじゃねーが信じられねーぞ」 「俺だって100%信じている訳じゃないが、昨日一日で三人も死んでいるんだ。しかも、俺たちと共通点のある 立場の人間だったら注意するのは当然だろうが。別に不都合なんてないだろ。ただいつも以上に安全に 気をつけるってだけなんだから」 「それはわかっているんだがよー」 谷口は細めでウザったらしくハルヒを見る。どうやらこいつの問題は、ハルヒからの指示という点に 固まっているらしいな。外見とその妙な行動で変わり者に見えるだろうが、あいつはなかなか常識的な奴だ。 勘も良い。味方にすればこれ以上ないくらいに頼もしい奴だよ。俺も何度も助けられたしな。 「ハルヒの言い方や過去の行動についてはこの際頭の中から排除しておけ。実際に面倒なことが起きているってのは 事実なんだからな。ハルヒの言ったことは決して間違いじゃない」 「へいへい。気をつけることにするよ」 わかっているのいないのか、微妙な返事をすると谷口は国木田と一緒に帰路へと付いた。あと、念のためハルヒの判断で 国木田と家の近い書道部部長(女子)も一緒に帰らせることにした。複数人行動は確かに危険回避の第一歩だからな。 鶴屋さんは迎えの車が来ていたので、それに乗って帰って行った。 「じゃあ、ハルにゃん、みくる、キョンくん、気をつけて帰るんだよっ!」 そうハイヤーの窓から手を振って、学校から去っていく。とは言っても亡くなった三人の通夜には参加するって事だから、 あとで顔を合わせることになるだろうけど。 残ったハルヒ、俺、朝比奈さんは校門前に立っていた。 と、ここでハルヒは、 「悪いけど、あたしはちょっと用事があるから先に帰らせてもらうわ。キョン、みくるちゃんをしっかり守って帰るのよ」 「おい、一人で行動していいのかよ?」 と一応言っておいたが、大丈夫よと言ってハルヒは小走りに返っていった。まああいつなら最悪偶然ですら 操作できる力を持っているからな。 あと帰る前に俺の胸にぽんと一発叩いてきたことで、ハルヒが俺に何をさせようとしているのか気が付いた。 つまりは朝比奈さんと二人で帰り、その間に情報を聞き出せって言うことなのだろう。そうなると、ハルヒは今回の一件について 俺と同様に口には出さないが、未来人の関与も疑っているのかも知れない。 「……帰りましょうか」 「はい……」 朝比奈さんは力なく答え、俺に続いて歩き出す。 放課後、日が徐々に傾き始める時間帯になり、一歩一歩踏み出すたびに街の色が赤くなっていく気がする。 二人はしばらく黙ったままだったが、次第に俺はその空気に耐えられなくなり――ついでに黙りでは意味がないこともあるので、 「朝比奈さんはどう思っているんですか? ハルヒの言っていること、信じていますか?」 「わかりません……」 ぽつりと朝比奈さんが答える。 実のところ、朝比奈さんは未来人である以上、上の方の許可さえ取れれば何でも知ることができるはずだ。 知らないと言うことはない。 しかし、どうするか。あなたは未来人ですか?なんて聞けるわけがない。朝比奈さんが自分から言ってくれるまで 待つしかないんだが、とてもそんな空気には見えなかった。 仕方なく他の話をすることにする。全く朝比奈さんと二人っきりで一緒に帰るって言う悶絶寸前シチュエーションなのに 全然楽しくない。 「朝比奈さんは書道部に一年の時から入っていたんですよね」 「はい。鶴屋さんに誘われて入りました。あたし、入学してからしばらくあまり友達もできなくて……。 そんなときに初めて仲良くなったのが鶴屋さんだったんです。それから一緒に書道部に入って、他の部員の人たちとも すぐ仲良くなれました。全部鶴屋さんのおかげです。だからあたし凄く感謝しているんです」 朝比奈さんは柔らかな笑みを浮かべる。やっぱり鶴屋さんはこの人にとって特別な存在なんだな。 ま、一人にしておくと放っておけないっていう鶴屋さんの気持ちもよくわかる。朝比奈さんを見ていると 守ってあげたいという感情が生まれてくるし。 この時点で俺はますます今回の事に朝比奈さんが関与しているという考えが薄らいだ。 万一、あの自動車事故から逃れた人を再度全員抹殺しようとしているなら、その対象には鶴屋さんも含まれてしまう。 この朝比奈さんにそんなことができるか? できてたまるか――できるわけがない。 俺は話を続ける。 「でも最近は大変だったでしょう? あのハルヒが入部してからいろいろ騒がしくなりましたから」 「ええ、涼宮さん凄く強引ですから……ああっ、涼宮さんのことが嫌いって訳じゃないですよぉ? ただもうちょっとあの――その――」 「良いんですよ。あいつはもうちょっと自分の行動を抑制すべきですからね。全く今度しっかり言っておきます」 「いえいえ、良いんです。それにあたしちょっと涼宮さんがうらやましい」 「え?」 「凄いじゃないですか。行動力も実行力も。あたしなんかとは違って、何でも完璧にこなせて凄くうらやましい……」 いや、あいつは確かに能力的には完璧ですが人格に少々問題がありますよ? 確かにそれなりに常識は持っていますが。 行動は思いつきの突発ばかりだし、わがままだし、自己中で…… 「良いコンビですね。涼宮さんとキョンくんって。それだけはっきりと相手のことを言えるんだから」 唐突にとんでもないことを言い出す朝比奈さん。良いコンビというよりも腐れ縁というか向こうがかみついてきて話さないというか。 俺が憮然と考えていると、朝比奈さんは横でクスクスと微笑んでいた。やれやれ、勘違いをされるのは嫌だが、 朝比奈さんがこの笑顔を見せてくれるなら、悪い気分ではないな。 ――ここでしばらく二人の間に沈黙が流れる。俺は横目でちらりと朝比奈さんの表情を浮かべると、先ほどまでとは違って 少しだけ真剣な表情になっていた。落ち込んでいるのとは別の方向で。 ほどなくして、ここで朝比奈さんの方から口を開く。 「……キョンくんは運命って言うものを信じますか?」 唐突な質問だったため、俺はしばらく言葉を失ってしまったが、 「……ええ。たぶんあるんじゃないですかね。決められた出来事って言うのはあるような気がしますし」 「じゃあ、亡くなった三人は運命で決められていたといったらどう思います?」 運命。きっと俺の世界の朝比奈さんなら【既定事項】という言葉を使うだろう。つまり、あの三人が死ぬのは 決まっていた事なのだろうか。いや待て、勘ぐりすぎだ。この朝比奈さんは俺にまだ自分が未来人であることを カミングアウトしていないんだから。焦るな俺。 「そんな運命なら受け入れたくないですね。俺が万一事前にそれを知ることができたら全力でそれを回避しようとしますよ。 運命だからって死にたくはないですから」 「そうですよね……やっぱり……」 そう言って朝比奈さんは視線を下げた。何だ? 何を言いたいんだ? 「涼宮さんは言っていましたよね。あの自動車事故を回避したから、そのつじつま合わせのために あたしたちがまた死の危険にさらされているって。なら、きっと自動車事故で死ぬのがみんなの運命だったんです。 でも、それを回避してしまったからこんな事になっている」 と、ここまで言って朝比奈さんは自分の言っている意味に気が付き、 「あっ、えっと、キョンくんを非難しているんじゃないんです。あの時みんなを助けてくれたことは その……感謝……しています。ただ、涼宮さんの言葉をそのまま受け取ると、結局そうなってしまうって事なので……」 「そうですね……朝比奈さんの言うとおりです。だけど、俺はそれは決して無駄だったとは思いませんよ?」 「え?」 俺の言葉に、朝比奈さんが不思議そうな顔を見せる。 死を乗り越えても、また死が追ってくる。確かにそれだと最初に乗り越えた意味はないように感じるかも知れないが、 それは違う。なぜなら―― 「あの自動車事故を乗り越えられたから、俺たちは今こうやって立っていられるんです。そして、危機が迫っていることも 知ることができました。おかげで死ななくても済むかも知れない。これだけでも大きな意味があると思うんです」 朝比奈さんははっと顔を上げて、俺を見つめた。その目にはうっすらと涙が浮かび、何かを訴えようとしている。 だが口だけがぱくぱく動いて一向に言葉が出てこない。 すぐに朝比奈さんは口を押さえて、またうつむいてしまい、 「何でも……ない……です……」 そうつぶやく。だが、朝比奈さんの今の一瞬を俺は見逃さなかった。言おうとしているのに言えない。 このポーズは何度も見たことがある。あの禁則事項ってやつだ。つまり朝比奈さんは俺の知っている未来人と 同様の状態である証拠となる。 朝比奈さんは未来人。本人からカミングアウトされなくても、この確認だけはようやくできた。 ならどうにかして今の惨劇を食い止めるための協力を取り付けたい。 「朝比奈さん。俺は何とかして他のみんなを守りたいんです。手を貸してもらえませんか?」 「え、ふえ? でも、あたしにできることなんてほとんど……」 「できることは必ずあるはずです。一緒に考えましょう。どんな些細なことでもやってみる価値はあると思うんです」 俺なりに必死に説得したつもりだったが、朝比奈さんは目を合わせようとしなかった。 ダメか。いきなり言ってもそりゃ混乱するだけだよな。 俺は嘆息すると、 「すいません。何か迫るようなことしちまって。でもこの最悪の状況は何とか抜け出したいと思っているんです。 それは忘れないでください」 その言葉に、朝比奈さんはこくりとうなずいた。今日はここまでだな。これ以上せまると逆効果だ。 ちょうど駅前までついたし。 俺はすっと朝比奈さんから離れ、 「今日はいろいろすいませんでした。また明日――ああ後の通夜でもお会いしそうですね。じゃあ、その時まで」 「はい。キョンくん、さようなら」 そう言って俺たちは別れようとする――が、俺は一つだけ聞いておきたいことを思い出し、すぐに彼女を呼び止め、 「朝比奈さん! 一つだけ良いですか?」 「あ、はい。何でしょうか?」 「できるならあの事故が起きる前に戻りたいと思いますか?」 ――俺の言葉とともに、少し強い風が周囲を通過した。朝比奈さんの長い髪の毛がなびく。 そして、柔らかな微笑みを浮かべて言った。 「はい。キョンくんや涼宮さん、鶴屋さんたちと一緒にいたかったです」 俺はその言葉にほっと胸をなで下ろし、手を振りながら朝比奈さんと別れる。 よかった。朝比奈さんは今の生活を維持したいと考えている。贅沢は言えない。今はそれだけで十分さ。 ――俺はこの時どうして朝比奈さんは『一緒にいたかった』という過去形を使っていたのか、 もっと深く考えるべきだったのかも知れない。 ◇◇◇◇ 俺は通夜に何か起こるのではと警戒していたが、結局何も起きずに平穏に終了した。 さらに意外なことにそれから数日は何も変化の無い日常が続いた。 事態が急変したのは、週末になってからである。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(後編)へ~~
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◇◇◇◇ 【一週間前に事故を回避した少年。また事故に巻き込まれ死亡】 惨劇を目撃した翌日の放課後。俺は谷口が床に引くために持ってきていた新聞に昨日の惨劇の記事が載っていたので、それをかっぱらって読んでいた。他にニュースがなかったのかそれとも珍しい事件だったためなのか新聞社がどう判断したのかわからないが、見事に一面トップを飾っていた。上空から落下した看板を写している写真も掲載されている。 もちろんその下に広がる血もだ。生々しい報道写真である。 昨日その事故に巻き込まれた男子生徒は、やはり先日に俺が助けた奴だった。事故現場にいた目撃者や警察発表によれば、事件性はなく偶然に偶然が重なったために起きたらしい。折れた標識は老朽化が酷く、近く交換される予定だったし、看板も隣接する道路の度重なる大型トラックの通過で激しく揺さぶられ続け、留め金の部分が壊れてしまっていたようだ。 実際に目撃していた俺はそんな偶然が続くものなのか?と思いつつも、そんなまるでシナリオのような筋書きで謀殺を図る意味なんてあるとは思えないと結論づける。誰かが仕組んでいた形跡もないと報道されているからな。 とはいえ偶然の事故でもそんな惨劇を目撃した俺が平気なわけがない。遠目だったとはいえ、一部始終がたまにフラッシュバックして蘇りダウナー状態が続いている。 ハルヒも同じようで特に昨日事件について何も言ってはいないが、ぼーっと憂鬱な目で何もしていないことが多かった。一応書道部に参加はしているが、いつもの熱血練習もどこへやら何もせずにただ外を眺めているだけである。 あと、昨日あまり反応を見せなかった朝比奈さんは、今日学校を休んでいる。やっぱりショックだったのだろう。あの後一言も言葉を発することもなく別れ際もただお辞儀するだけだったしな。元々気の弱いお方だ。学校を休むのも無理もない。 そんな憂鬱真っ盛りで新聞を読んでいると、横から谷口と国木田が顔を突っ込んできて、 「キョンよー、この事故にあった生徒ってお前がこないだ助けた奴なんだろ? まっ、あまり気にするなって。こいつがツいていなかったとしか言いようがねーんだから」 「そうだね。再度目撃しちゃったんだから、キョンのショックも大きいのはわかるけどさ」 「しっかし、運命ってのは残酷だぜ。せっかく命からがら助かったのに、また追い打ちをかける必要はねーだろ。そういうのを操る神様がいるって言うならそいつはかなり陰険な野郎だな」 「神様かぁ……この場合死神だろうね。一度首に掛けた鎌をキョンに邪魔されたから、リベンジでもしたのかな?」 最後の国木田の死神という言葉に俺は少し心臓が高鳴った。 考えて見りゃ元々ハルヒからもらった予知能力がなければ、あの男子生徒はすでに死んでいたはずだった。それを俺があり得ない力で、あり得ない救出劇を実行してしまった。つまりあの男子生徒の運命を変えてしまったって事だ。 しかし、本当に死神なるものが存在するならそんな茶々入れを見逃すだろうか? 死の予定表に書かれている人物が生きている事自体を許さないに違いない。だからこそ、再度偶然という事象を利用してあの男子生徒を殺害した。 そういやそんな映画があったね。同じように予知能力を発揮して災害から逃れたのは良いけど、結局死からは逃れれず、各々死んでいくって言う展開が。それと同じ事が起きているってことか。 ………… ……なーんてね。考えすぎにもほどがある。宇宙人やら未来人でいっぱいいっぱいだというのに、レイスやゴーストどころか死神なんていう得体の知れないものの登場なんて勘弁願いたい。 と、ここで書道部顧問がやってきた。部員、仮部員一同が挨拶を交わす――ぼーっとしたままのハルヒは除くが。 挨拶後、顧問は手に持っていたチラシっぽい紙を俺たちに配布し始め、内容についての説明を始める。 簡単に言えば、三日後の今週末に展覧会があるらしい。しかも鶴屋さん系列のものらしく、特別に入場料はタダにしてくれる。せっかくだから都合の悪いが悪くない人は言ってみないか?と。 「うちの方で主催するんだけど、せっかく書道部なんだからこう言うのに行ってみるのも悪くないと思ってさっ! 家の方で掛け合ってみたところ、これが快くOK! みんな気兼ねなく参加してほしいっさ」 鶴屋さんのフォローに部員の方は一同参加を表明した。さて、問題の仮入部群団の方だが…… 「俺は参加しますよ。せっかくだから芸術に触れて大いなる未知の世界に触れてみるのも悪くありませんからね」 谷口は参加を表明。何が芸術だ。お前のことだから、谷口的美的ランクの高い書道部女子部員の私服姿でも拝みたいんだろ。ついでに帰りがけにナンパを始めそうだ。 「僕も予定はないから行くよ。せっかくだからね」 そう国木田も賛同。こいつも女っぽい顔つきながら意外と女好きなのは、付き合いの長い俺はよく知っている。谷口のように露骨ではないが、内心は谷口と大して変わらないたくらみを持っていそうだ。 とりあえず俺も頷いておくことにした。朝比奈さんがいないとあまり意味はないんだが、どうせ休日やることもなく、ハルヒの呼び出しを受けない限りは家でごろごろしているだけになるだろうしな。 で、今日欠席している朝比奈さんについては、 「あたしの方で今日のうちにみくるに確認しておくよっ。あんな事があった後だから……あんまり無理強いはできないけどね」 そう鶴屋さんは悲しげな表情で言った。 となると残りはハルヒになるわけだが…… 「で、ハルにゃんはどうするにょろ?」 「……ん? ああ、みくるちゃんが行くなら」 どこか上の空でそう答えた。全くストレートに朝比奈さん目的を言えるのもこいつの性格ならでは、か。 結局、朝比奈さんの参加次第ということもあるので、最終参加確認は明日にすることにして、今日の書道部活動はこれにて終わりになった。 翌日、健気に復活した朝比奈さんは快くOKを出した。すっかりダウナーモードを脱して元気よく練習+朝比奈さんいじりに精を出しているハルヒも参加を即答。 そんなわけで参加者は顧問+書道部部員(部長、部員二人、鶴屋さん、朝比奈さん)+仮入部員全員の参加は決定した。ま、全員参加って訳だ。 とりあえず退屈そうにして芸術なんていうものに興味のないことを悟られないように、週末は朝比奈さんの私服姿の鑑賞に務めることにするかね。ってそれじゃ谷口とあまり変わらないか。 ――思えば、この時点で俺ももう少し死神の存在について考えてみれば良かった。 ◇◇◇◇ てなわけで週末だ。俺たちは市内の展覧会場に集合していた。てっきりもっと大規模なテーマパーク的な建物で行われるのかと思いきや、商店街の中にあった空き店舗を一つ改造してイベント会場にした小規模のものだった。どうやら個人展覧会ぐらいのノリのようだな。その会場はちょうど通行量の多い十字路の角に位置している。たまにトラックがガタゴトと通り過ぎて、路面を激しく振動させる。 現在会場前にいるのは俺とハルヒだけだった。なんせ予定時刻の30分前で、まだ会場すらオープンしていない状態だからな。SOS団の時の早出がすっかり癖になっているおかげで、一般人予定時刻よりも行動がすっかり早くなってしまったよ。まあ、ハルヒはSOS団団長の時と同じように一番手で来ているが。 「で、みくるちゃんから未来人であるって言われたの?」 唐突にハルヒから声を掛けられ、俺はしばらくあたふたとしてしまったが、 「……いや、まだだよ。タイミングを考えれば恐らくもうちょっと後になると思うが」 「そ」 素っ気ない返事を返すハルヒ。 そういや、俺の世界でカミングアウトをされたことを思い出すと、長門は俺の身に危険が迫ることを考えた上で告白、古泉はどっちかというと俺の方からきっかけを作ったようなものだったが、朝比奈さんは何であのタイミングで告白したんだろうか? あの状況を考えて、別にその必要性はあったとは思えないが。 ここで俺は問題が発生していることを認識されられた。このまま朝比奈さんが黙ったままだった場合はどうすればいいのか。まさかあなたは未来人ですか?なんて聞くわけにも行かない。だが、このまま隠された状態を続けられても…… ふと俺はハルヒに、 「そういや、お前朝比奈さんのことはどう思っているんだ? ぱっと見た目は気に入っているように見えるが」 「どうもこうも可愛くって仕方ないわよ。冗談抜きで持って帰りたいくらいにね」 ――話し始めは楽しそうだったが、すぐに憂鬱の篭もったため息を吐くと、 「でも古泉くんの時のことを考えるとね……例え個人と仲良くしても後ろにいる連中があんな感じじゃどうにもならないわ。みくるちゃんも未来人らしいけど、その後ろには特定の思惑を持った勢力がいる。そいつらが何を考えているのかわからない以上、素直に今の楽しさを受け入れにくいってものよ」 やはり前回の古泉――機関の件が少々トラウマ気味になっているようだ。せっかく古泉と仲良くしていたってのに、オチが核でドカンじゃ俺だってショックは大きかったさ。 だが、未来人の思惑か……。俺の世界じゃ朝比奈さん(大)は既定事項をこなそうとしていた。自分たちの未来を確保するためだそうだ。ならこの世界でも同じ事に務めるだろう。それだけなら別に機関のように突拍子もないことをやらかしたりはしないと思うが、どうだろうか。なにぶん禁則事項を連発されているからな。俺に知らされていないこともかなりあるはずだ。 そんなことをつらつら考えているうちに、俺の前には黒塗りでいかにもお金持ちが乗りそうなベンツが止まる。その後部座席からカジュアルな和服調私服姿の鶴屋さんと可愛らしいワンピース姿の朝比奈さんが現れた。 「やあやあっ。もうご到着だったんだねっ! 予定より早く動くのがハルにゃん行動原則かいっ? それともキョンくんと二人っきりになるのが目的だったりしてっ。そこんところどうなんだいっ?」 「こんにちわ、鶴屋さん。言っておくけどこのバカキョンが勝手に来ただけよ。あたしは一番乗りが原則ってだけ」 ぶっきらぼうに答えるハルヒだったが、その予定時刻よりも早く集合場所に来る癖を作ったのは他ならぬお前なんだが。 おっと、そういやなんで朝比奈さんも一緒に乗っているんですか? 「あー、途中でみくるを見かけてねっ。せっかくだから途中で拾ってきたんだよ。一人で歩いていると、ふらふらと迷子になっちゃいそうだしねっ」 「……実は本当に迷っていたんです。困って鶴屋さんに電話しようとしていたらちょうどばったり出会えて助かっちゃいました」 てへっと思わず俺もお持ち帰りしたくなるようなかわいさを爆裂される朝比奈さん。なんて事だ。俺に言ってくだされば、例え自宅でも駆けつけて場所案内をしましたよ。 朝比奈さんは俺の前に立つと、ぺこりと頭を下げて、 「お待たせしちゃってすいません。今日はどうぞよろしくお願いします」 「いいえいいえ、俺とハルヒが早く来すぎただけですから。こっちこそ、仮入部の新米なのでよろしくご指導お願いします」 礼儀正しいには、それ相応で返さないとな。腕組んでふんぞり返っているハルヒも俺を見習ったらどうだ―― って、何かすごい睨みジト目でこっちを見てやがる。なんだなんだ、朝比奈さんを取られたとでも思ったのか? お前みたいにどうこうしたりしないから大丈夫だよ。 そんなことをしている間に、顧問に引きつられた書道部部員一同・谷口・国木田がやって来た。これで全員勢揃いか。ただ開場まで少し時間があるので、適当に入り口前で時間を潰すことになる。 それぞれ和気藹々と雑談に興じるなか、俺たちの前にガスか何かを積んだトレーラーが信号待ちに入った。ゴゴゴゴとけたたましいエンジン音と一緒に、ディーゼル車特有の黒い煙をマフラーから吐きだしていた。全く信号待ちの間はエンジンを止めておけよ。こんな真っ黒い煙を朝比奈さんに浴びせたら体調を崩しかねないじゃないか。 俺はディーゼルの煙を浴びない位置に朝比奈さんを移動させようと、彼女の方に振り返って、 「あれ?」 さっきまで朝比奈さんが経っていたはずの場所にその姿が無くなっている。どこいったんだ? 俺は朝比奈さんの姿を探して辺りをきょろきょろと見回していると、 「キョンくん、どうかしたんですか? ――けほけほっ、排気ガスが凄いですね。口の中が真っ黒になりそう」 朝比奈さんの声。気が付けばさっきいなかったはずの場所に、朝比奈さんが立っていた。俺が心配したとおり、排ガスを避けようと手で口元を仰いでいる。 俺は首をかしげながら、彼女を俺の背後当たりに移動させた。ちょうど俺の位置は風の流れにより、排ガスの餌食にはならない。 ――さっきいなかったのは見間違えか? そろそろ時間だと顧問の声が聞こえる。俺は首をかしげながらも、開場の方へ移動しようとして―― ………… きっと気が付いたのは偶然だったのだろう。交差点を渡る必要なんてないから、信号機がどう変わったなんて普通は確認しないからな。 だが、俺ははっきりと見てしまった。交差点の片方の信号の青のまま、トレーラーの方の信号も青に変わった瞬間を。 俺は今から始まることに、一声すら上げることができなかった。 まず俺のすぐ横に止まっていたトレーラーが青信号になったため走り始めた。だが、もう一方の信号も青なのだ。当然の事ながら、止まることなく乗用車は交差点を通過しようとする。ちょうどトレーラーが交差点に入りかけた瞬間、交差側の道路から大量のガスボンベを積んだ小型トラックがかなり速い速度で突っ込んできた。言うまでもなく、トレーラーと小型トラックは接触し派手な音を立てた。しかも、両方とも積んでいるものが可燃物だったため、すぐに爆発を伴った炎上が始まる。その時の爆風で俺の身体は吹っ飛び近くの商店の壁に激突した。 そのすぐ隣に同じように書道部顧問も叩きつけられる。あまりの痛みに俺はしばらく言葉を失ったが、すぐにはっと気が付いた。俺たちに向けて爆発の衝撃でガスボンベが数本飛んできていることに。 俺は目をつむることもできずに、そのうちの一本を追っていた。俺のすぐ横数十センチの所に突き刺さった。だが、それとは逆側でグギャという気色の悪い音が聞こえる。見れば書道部顧問の腹にガスボンベが突き刺さり、だらだらと口から多量の血を吹き上げていた。 目の前で起きたスプラッタ劇。こないだの男子生徒の事故死のショックを遙かに上回る状況に、俺は戦慄を憶えた。 だが、それで終わりではない。今度は別の方角へ飛んでいったガスボンベの一本が近くのショーウィンドウに飛び込んだ。 程なくして何かの拍子で引火したのだろう、店舗の内側で大爆発が起きる。その時、ウィンドウガラスが一斉に飛び散り 周囲にまき散らされ、その無数の凶器が俺から数メートルの位置に立っていた谷口と国木田の全身に突き刺さった。 まるで狙いすましたように的確に首や胸など急所に突き刺さっていく。 「――キョンくん、ハルにゃん逃げ――っ!」 鶴屋さんの叫びは途中でとぎれた。玉突き事故状態になっていたため、別の乗用車が事故現場に突っ込みそうになり、 あわててハンドルを切ってその乗用車がスピンを始め、それが鶴屋さんを巻き込んだのだ。 はねとばされた彼女は―― ――次の瞬間、俺は鶴屋さんの行く末を確認する前に再度吹っ飛んだ。すぐ近くに落ちていたガスボンベの一つが爆発したのだ。 鶴屋さんが逃げ……と言っていたのはこれのことだったに違いない。 数メートル飛び、背中から落下して全身が酷いしびれを起こす。だが、どういう訳かこんな時に限って視覚だけは しっかりしていて、別の乗用車がまた一台トレーラに突っ込み、すぐに大爆発が起きた。その燃えさかる火炎に 書道部部員二人が巻き込まれていく。 「キョ……ン……」 聞き慣れた声が耳に届く。何とか首をそちらに向けると、俺と同じように道路に倒れているハルヒの姿が目に止まった。 同じようにさっきのガスボンベの爆発に巻き込まれたのだろう。身体のあちこちから焦げた煙が上がっていた。 辺り一面は地獄絵図のようになっていた。トレーラーの可燃物質が大量に漏れ、それから発生した炎が周囲の民家に 燃え移っていく。 その中、一人火だるまになって悲鳴を上げていた人間の存在に気が付いた。書道部部長だ。彼女が泣き叫びながら 身体中の炎を払おうと手をばたつかせていた。しかし、すぐに肺の中にも火が入ったのか、意識を失って倒れてしまった。 「もど……もど……っ」 ハルヒは動かない口で何かを訴えていた。 ああそうだ。朝比奈さんは? 朝比奈さんはどこに行った? 無事なのか…… 俺は彼女の姿を探すべく、身体を空に向けて見た――広がる空に馬鹿でかいトレーラーの一部。爆発の衝撃で 遙か上空まで飛び上がっていたのが、今まさに俺たちめがけて落ちてきているのだ。 戻れ――! そう叫んだのは、きっと軌跡だったに違いない。俺はそんな言葉なんて頭の中に全く浮かんでいなかったし、 この惨劇の中では自分の予知能力なんてすっかり忘れていたんだから―― ……… …… … 「うわっ!」 俺は唐突に大声を上げていた。 そして、辺りを見回す。展覧会の会場前。突然俺の上げた奇声に、顧問一同が俺を奇異の目で見つめている。 目の前にはディーゼルの煙を吐くトレーラが停止中――次に目に入れたのは信号機。さっき見たのと同じように、 交差する両車線ともの信号が青になっている。トレーラーは今まさに発進しようとしていた。 「――逃げろっ!」 俺は無我夢中で近くにいた書道部員一同を引き連れて、まだ未開場の展覧会場に押し入った。 何秒だ? あの惨劇を何秒間俺は見続けていた? 例えばあれが100秒間だったら、今逃げ切れるのは20秒しかない。 惨劇を止めるすべはもうないのだ。とにかく手近な人間を逃がすだけで精一杯だった。 会場の入り口にいた係員から、困ります!と止めに入ったか、そんなことお構いなしに会場内に侵入――いや逃げ込む。 「おいキョン! 何なんだよ!」 「どうしたのさ! キョン聞いているのかい!?」 「ちょっとちょっとキョンくんってばっ!」 「キョン! あんたまた――!」 「キョンくん、なんでまた――!」 みんなの声が交錯する。だが一つ一ついちいち答えられている余裕なんてない。俺はできるだけ展覧会の会場の奥に―― ――背後で耳を貫く接触音と爆発が発生した。俺たちはその衝撃に身を飛ばされた。 衝撃で会場内が激しく揺さぶられ展示物が落ちるどころか、壁もばらばらと崩れ落ちていく。 背後――交差点では次々と玉突き事故が起こり、さらにトレーラーの可燃物質と小型トラックのガスボンベが次々と 引火してさらに大きな爆発を続けていた。 しばらく俺は唖然としていたが、あわてて周りを確認し、全員の姿を見渡した。周囲には書道部関係者全員が腰を抜かして 座っている。その顔は皆恐怖に引きつっていた――いや、違う。 二人だけは異なる反応を見せていた。まずハルヒだ。じっと俺の方を見つめていた。理由はわかる。また予知能力を使っただろう ということについて何か言いたいのだろう。 そしてもう一人は俺に背を向けて事故現場の方を見つめてため、表情を確認できなかった……朝比奈さんの表情だけは。 ◇◇◇◇ 消防や警察が大騒ぎしてやっとこさ事故の状況が落ち着いた辺りで、俺たちは全員警察署に連れて行かれた。 いや別に連行された訳じゃない。事故の状況を知りたいために目撃情報を知りたいんだと。 ただし、事故を予知していた俺を除いて。家には事故に巻き込まれたが、無事だから安心してくれとだけ電話で伝えておいた。 警察からはいろいろ聞かれた。特にどうして事故を予見することができたのかについてである。 これに関しては素直に言うわけにもいかない――言ったらかえって怪しくなるだけだからな。 だからこう答えておいた。 信号が両方とも青になるのに気が付いた。そのままだとトレーラーとガスボンベを積んだ小型トラックが衝突するのは 確実だったのであわてて逃げた。トレーラーの運転手を止めようとも思ったが、気が付いたときにはもう発進していたし、 声が届くのは無理だと考えた。 「よう……」 「……長かったわね、キョン」 警察署の待合室で長々と聴取を受けていた俺を待っていてくれたのはハルヒだけだった。 顧問を含め全員が酷く動揺しているらしい。もちろん鶴屋さんや朝比奈さんもだ。かなり精神的に衰弱しているらしく 早く家に帰って休ませないと精神レベルで長期間の傷を残しかねないという医師の判断もあったとのこと。 俺とハルヒは警察署から出て、すっかり暗くなった外に出る。まばらに浮かぶ雲の間にきれいな半月が浮かんでいた。 二人はしばらくどこに行くまでもなく、暗い歩道を歩き始めた。時折、警察署脇を通る道路を走る車のテールランプが 俺たちを照らしていく。 ハルヒはすっと俺の方に振り返り、 「……警察はきちんとごまかせたんでしょうね?」 「ああ、そっちは問題ない。少なくても犯人扱いはされていなさそうだったよ」 「そう……」 ――それ立ちのそばをトラックが通っていく。その振動に俺は思わずあの大惨事を思い出し身を震わせる。 ハルヒも目の前の惨劇には相当堪えたらしい。かなり意気消沈した様子だった。 続ける。 「使った……のよね? 予知能力」 「……そうだ。あの事故が起きることがわかっていたんだ」 それを聞いてハルヒは、ふうっとため息を吐くと、 「何があったのか教えて」 俺は端的にどんな惨劇だったのか伝えた。完全に怒濤の状況だったため記憶が曖昧な点もあったが、 ひょっとしたら俺とハルヒも死んでいたかも知れないということも。 そのあまりの凄惨さにハルヒはしばらく閉口していたが、 「それじゃ仕方ないわね……ありがと、あんたのおかげで命拾いしたわ」 「俺の予知能力はこれでもう終わりなのか?」 「そうよ。これ以上は面倒事になりかねないし……それにあまり意味がないことに気が付いたから。 これから事故が起こるたびにこんな事を繰り返していても無限ループにはまりこむだけよ」 「意味がない? それは違うだろ。危うくお前まで死にそうになったんだ。お前が死んだら何もかも終わりさ。 リセットもできなくなる」 「ポジティブで良いわね、全く……」 ハルヒはやれやれと肩をすくめた。超ポジティブ思考はお前の専売特許だぞ。お前らしくもない。 ふと俺はリセットのことを思い出し、 「リセットはするのか? 俺は予定されてた二回の予知能力を使っちまったが」 「しないわ。今回のは情報統合思念体は全く関係のないただの事故だったし、リセットを連発するとその分奴らにばれる可能性も 増す一方だから。でも予知能力はなし。前回、今回と短い間に二回続けてだったから情報統合思念体があんたに興味を 持ち始めているみたいよ。変な能力を持っているんじゃないかってね」 「マジかよ」 ハルヒの代わりに俺が変態パワーの持ち主に認定されてはたまらん。とっつかまえられてキャトルミューティレーションは 勘弁願いたいからな。 「とにかく、明日からは今日の事故のことも忘れて、いつも通りの日常を続けるわよ。 今のところ、問題なく推移しているんだから」 「そうだな……とっとと忘れちまうのが一番か」 「じゃ、また明日、学校でね」 そう言ってハルヒは自宅へと帰っていった。 ……俺も帰るか。いい加減くたびれたからな。 ◇◇◇◇ 翌日。北高は昨日の玉突き事故の話題で持ちきりだった。校内を歩いていてもその話しか聞こえてこない。 耳に届く内容では相当尾ひれの付いたうわさ話になっていて、やれ陰謀説とかUFOとかの話まで混じっていた。 事故を目撃した谷口と国木田は学校を休んでいた。無理もない。あれを見た後で平然としている俺の方が貴重だろう。 ハルヒはダウナーモードながら来ていたが。 そんなこんなで放課後、俺とハルヒは書道部の様子確認もかねて部室を訪ねてみることにした。 予想通り誰もいない――と思いきや一人だけいた。鶴屋さんである。 「やあ、キョンくん、ハルにゃん。元気――ではなさそうだけど、学校に来れるくらいにはなったみたいだね。よかった」 そう言う鶴屋さんもショックは大きかったらしく、いつのものように口調にキレがない。 彼女に聞くところによると、やはり朝比奈さんは今日学校に来ていないとのこと。顧問も休み。部員に関しては、 一人の女子部員だけが学校に来ていたらしいが、やはり部活に参加する気力はないらしく、 ついさっき帰宅の途に付いたとのことだった。 「ま、部活する気分でもないしね。今日は解散にしましょうか」 「そうっさね……」 ハルヒと鶴屋さんはそう頷くと帰り支度を始める。 ふと、鶴屋さんが部室の窓の外に顔を出し、笑顔で手を振り始めた。俺もそれに続いて外を見ると、 校舎の出口近くで書道部の女子部員が手を振り替えしている。どうやら、俺たち以外で唯一登校して部員のようだ。 「また明日ねーっ! 気を落とすんじゃないっさ!」 窓を開けて鶴屋さんが元気よく――少々無理やり気味だったが――声を掛けていた。女子部員の方も何事か言い返してきたが 声が届かずにその意味までは聞き取れなかった。 ……ただ、俺の耳には別の音が飛び込んできた。野球部のバットとボールがぶつかるカキーンという音だ。 女子部員は特に不自然な動作もなく校門から出て行こうとする。 その時だった。 確率にすればどのくらいのものなのだろう。野球部の練習から放たれた大飛球が彼女の後頭部に直撃するなんて。 「あっ!」 「うそっ!?」 その様子を見ていたハルヒと鶴屋さんは唖然とした声を上げた。俺に至っては声すら上げられない。 昨日あんな事があったのに、今日は天文学的確率で野球ボールをぶつけられるなんて、この世に神っていうものはいないのか? だが、事態はそれで終わっていなかった。想像もしなかった後頭部のショックに女子部員は脳しんとうか何か起こしたのか、 ふらふらと校門から車道に向かってよろめき始める。 「ダメだよっ! そっちは危ないっ!」 鶴屋さんが必死に声を飛ばすが、恐らく頭痛で聞こえていないだろう。どんどん車道に向かって移動していく。 学校校門前の道路は信号がしばらくなくスピードを上げて通り過ぎる自動車も多い。突然、車道に入り込めば ブレーキの暇もなく轢かれるかも知れない。 ――だが、危機一髪のところで偶然近くにいた別の北高女子生徒がよろめくその身をキャッチした。 これに鶴屋さんがふーっと大きなため息を吐いた。昨日の今日でまた惨劇が発生するなんて最悪だからな。 悪いことは早々続かないってことの現れだ。 女子部員は助けた女子生徒としばらく話をしていたが、ほどなくして痛みも治まったのかその手を離し、 自力で歩き始める。ぶつかったショックは大したことはなかったらしい。しかし、大丈夫なのか? 一旦学校に戻って―― 次の瞬間、その女子生徒の身体が路上に突っ込み、ジャストタイミングで通りかかったバスにぶつかって吹っ飛んだ。 ここからでもドカッという嫌な音が聞こえ、彼女の身体が路面を転がっていく。 最初あまりの一瞬のため何が起こったのかわからなかったが、しばらくして理解できた。彼女が歩いていた先の地面に 転がる一つの物体。あの後頭部にぶつけられた野球ボールだ。ぶつかった後、できすぎたタイミングで彼女の進行方向に 落ちていたのだ。そして、まだ痛みが残る女子部員はそのボールの存在に気が付かず、それを踏みつけバランスを崩し、 車道に飛び出してしまった。当然、一瞬の出来事だったためバスの運転手が対応できるわけがない。 そのままブレーキすら掛ける暇なく、彼女の身体をはねとばしてしまった。 ………… ………… 俺たち3人はその光景を見ていたが、言葉一つ吐くことができない。 やがて鶴屋さんが腰を抜かすように床に座り込んでしまう。 ハルヒは机を思いっきり殴りつけ、どうなってんのよ!と叫んでいた。 俺もハルヒに同意だ。 一体何がどうなってやがる……!? ◇◇◇◇ 俺たちは書道部女子部員が駆けつけた救急車に載せられていくのを間近で見守っていた。 全身からの多量の出血がアスファルトの道路を汚している様子に、救急隊員も絶望的だと首を振るばかりだった。 あの様子では助かる見込みはないだろう。 事故現場は封鎖され、警察による実況見分が行われている。 俺たちは目撃者として何点か話を聞かれただけで、すぐに解放された。今回も確実に事故として処理されるだろう。 だがしかしだ。 偶然飛んできた野球の大飛球にぶつかり、あまつさえそのボールを踏んで車道に突っ込んで事故。 これは事故と言っていいのか? 滅多にあり得ない偶然が二つ重なるなんて現実起こりえるんだろうか? しかし、何者かによる故意が確認されなければ事故として判断するしかないだろう。それが現実だ。 昨日――俺とハルヒは先週も目撃したが――に引き続いての事故遭遇に鶴屋さんも完全に普段の元気がそぎ落とされ、 意気消沈しながら自宅からの迎えの車で帰っていった。 正直な話、俺も相当堪えているはずなんだがそれでもまだ正気を保っているのは今までのトンデモ経験と 前回の機関による無差別砲撃戦+核テロを間近に見たせいからだろうか。 一方のハルヒは、気力を削がれるのとは逆に苛立ちを見せていた。男子生徒の偶然が重なりまくった事故死・ 信号機異常による玉突き事故・女子生徒の偶然の事故死……これだけ続けば、ハルヒでなくても不信感を感じるはずだ。 俺だってどうみても何かがおかしいことぐらいは気が付いている。 「これからどうするんだ?」 俺は難しい顔をしたままのハルヒに尋ねてみる。ハルヒはすぐに手帳を鞄から取り出し、何やら確認を始めた。 そして、歩き出して、 「嫌な予感がする。とりあえず他の書道部部員を訪ねてみるわ」 「おい、まさか同じことが他の部員にも起きるかも知れないってことなのか?」 俺の問いかけに、ハルヒは首を振ってから肩をすくめて、 「わかんない。ただ嫌な感じがするのよ。さっきの事故だって故意にしか見えないような事故よ。でも、その事故が起きたのは 全部偶然が重なったからだから、誰かの故意によるもののはずがない。訳わかんないわ。だから、ただ考えてもやもや しているよりかはマシだと思っただけ」 そうかい。ま、確かにぼーっとしているだけってのも嫌な感じが募るだけだしな。 で、どこに向かうんだ? ◇◇◇◇ ハルヒが言った目的地は、もう一人の書道部女子部員の家だった。場所は鶴屋さんから以前聞いていたらしい。 その辺りはしっかりしている奴である。 もう一人の女子部員の家は10階建てのマンションの最上階にあった。長門の住んでいるような高級そうなところである。 俺たちはエレベータで最上階まで上り、その部屋の前に立った。 ハルヒは部屋番号を確認してから数回チャイムを押してみた。団長様の方は問答無用に開けようとしたが、 こっちのハルヒはあっちよりも意外と常識的かもな、とか思ったりしてしまうが、今はそんなことはどうでも良い。 チャイムを鳴らしても一向に返事がないため、もう数回ならしてみた。ついでにノックを含めて、女子部員の名前を呼んでみる。 ――やはり返事がない。 「留守じゃないのか? 買い物にでも出かけているんだろ」 「昨日あんな事があったのに、ほいほい出歩けるようなタイプには見えないけど……」 ハルヒはあごに手を当てて思案顔を見せる。確かにこの女子部員はどっちかというと小心者的な臭いを漂わせていた。 昨日の事故でもかなり怖がっていたしな。 さて――どうしてものか。 と、ここでハルヒは念のためという感じで、扉のノブに手を掛けてる。すると、かちゃっという音とともにあっさりと開いた。 何だ鍵掛けていないのか? 不用心な―― ――と思ったら、突然扉が内側から引っ張られたように閉じた。ほどなくして鍵のかかる音まで聞こえてくる。 「えっ!?」 突然のことにハルヒは目を白黒させた。今のはどう見ても誰かが内側から開いていた扉を閉めたとしか思えない。 しかも鍵も掛けた。 「すいません! 書道部の涼宮ですけど!」 ハルヒはノックとチャイムを繰り返して叫んだが何も返事は返ってこない。さっき内側から鍵を閉められた以上、 誰かがいるのは確実なんだが何で返事が返ってこない? 何かおかしいぞ。 ふと、ハルヒは扉に耳を付けて内部の音を聞き取ろうと試み始めた。俺もそれのマネを始める。 「おい何か聞こえるか――」 「うるさい! ちょっと黙ってなさい!」 ――……っ…… 今なんか聞こえたような…… ――助け――て――! 今のは完全に聞き取れたぞ。中で誰かが助けを求めている! 「ハルヒ! 聞こえたよな!」 「わかっている!」 そうハルヒは叫ぶとドアに体当たりして、何とかこじ開けようとするが、防犯用に作られでもしているのかびくともしない。 俺も体当たりに加勢するがそれでもダメだ。こじ開けるのは無理だぞ、これは。 「なら一階に下りて管理人室から鍵を借りてくるか!?」 「そんな時間ないわよ! ああもうどうしよう!」 「ならドアごとお前の力で吹っ飛ばせよ! それくらいできるんだろ!」 「無茶言わないで! あとで警察になんて説明する気よ!? そこから奴らにかぎつけられたら台無しよ!」 んなこといっても、人命がかかってんだぞ……ってハルヒの能力バレは人類滅亡の鍵か。くそっ、情報統合思念体め、 邪魔ばっかりしやがって。 ハルヒはしばらく爪をかんで考えていたが、やがてドアのすぐ横の窓に気が付く。女子部員の部屋の窓だ。 ここから入れれば、入り口を通らずに部屋の中に入れるが、あいにく頑丈そうな格子が付けられている。 「このくらいなら……」 そうハルヒはつぶやくと両手を格子にかけて、そして、思いっきり力を込め始める。おい、いくらなんでも素手でそれを 壊すのは無理だろ……と思いきや、ガキンと留め金が折れたような音が鳴り、格子があっさりと取り外されてしまった。 馬鹿力にもほどがあるぞ、こいつ。 俺はハルヒが格子を片づけている間にその窓を開けようとしてみるが、鍵がかかっていて開きそうにない。 割れないかと数回拳でぶん殴ってみたが、防犯用のものなのかびくともしやしねえ。 「どいてっ!」 背後から聞こえたハルヒの声に振り返ったときには、すでにこいつは空中一メートルぐらいのところに飛び上がっていた。 そして、ジャンプの勢いを利用してそのまま窓ガラス、しかもちょうど鍵のある近くを的確に蹴る。 見事にがしゃんという音とともに、窓の一部が割れた。変な能力なしでも超人過ぎるぞ、こいつは。 俺はすぐにその割れた箇所から手を突っ込み、窓の鍵を解除した。ハルヒが窓を開け、 「行くわよ、キョン!」 そう言って部屋の中に入っていく。俺もそれに続いた。 部屋の中は女子部員の部屋なのか、普通の女子の香りのするものだった。しかし、一方で鼻につく嫌な臭いも感じる。 その正体は部屋の扉から廊下に出てわかった。猛烈な何かの焼ける臭い。しかもビニールとかそういう加工製品が燃えたあとに 発生する意識を狂わすようなものだ。 見れば、玄関から続く廊下の終着地点にはリビングへと通じるガラス張りの扉があった。そこから見えたリビングの中では めらめらと炎が立ち上がっている。 しかし、どういう訳だか火災報知器もスプリンクラーも作動していない。高級そうなマンションなのに 備え付けられていないとでも言うのか? 「火事が起きているじゃねえか! 早く消防に連絡しねえと!」 「その前に部員を助ける方が先よ! 助けを呼ぶ声が聞こえたんだからまだ生きているはず!」 俺とハルヒは急いでリビング内に入ろうと、扉を開けようとするが、 「あ、あれ? こいつ開かないぞ!?」 何度か俺がノブをひねってみるが、一向に扉は開く気配がない。ノブの軽さから言って、壊れちまっているみたいだ。 このタイミングで壊れるか、普通? 「キョン! あたしがぶち破るからどいて!」 ハルヒは数歩下がって助走距離を取り始める。俺はハルヒの邪魔にならないように廊下の壁に張り付いた。 その時だった。ちらりとガラス扉越しにリビングに人影が見えた気がした。炎があちこちから上がっているため 光の加減でシェルエット状態だったが、それがやや髪の長い小柄の人間であることはすぐにわかった。 女子部員か? まだ中で火から逃げ回っているのかも知れない。 ハルヒの体当たりが始まる。ラグビーのショルダータックルのように、勢いよくガラス扉をぶち破ってリビングの中に入った。 俺も残ったガラスの破片に注意しながらリビング内に入る。 リビング内はあちこちに火が燃え広がり、小火の状態を越えていた。このままでは他の部屋にも次々と引火してしまうだろう。 だが、消化器ぐらいでは押さえ込めそうにない。 ――助け――て―― 息苦しそうでか細い声。俺とハルヒはそれを聞きつけて、辺りを見回す。ふとリビングに隣接しているキッチンの床に 仰向けになっている片足が見えた。 俺はそこに駆けつけると―― 「うっ……」 「きゃあっ!」 俺は思わずうめき声を上げ、ハルヒは小さな悲鳴を出し口を押さえた。 そこには首からダクダク血を流した女子部員が仰向けに倒れていた。必死にタオルを押しつけてそれを止めようと しているようだが、致命的なところを損傷しているらしくタオルが完全に真っ赤になっても止まっていない。 次第にタオルで吸いきれなくなった血が床に広がり始めている。 助けないと――そう俺がキッチン内に入ろうとした時だった。突然、ガスコンロの近くで小さな爆発が起き、 周囲をがたがた揺らす。 その衝撃でキッチンの天井に据え付けられていた戸棚の一つが開いた。そこから数本の包丁が舞うように飛び出し、 女子部員の胸と腹に一本ずつ突き刺さる。 あまりのできすぎた偶然に俺は戦慄を憶えた。だが、一方のハルヒはそうなるよりも助ける方に頭が行っているようで、 「まだ息がある! 早く助けないと!」 そう彼女に近づき始めた。が、またも小規模な爆発と火炎が巻き起こり、うかつに近づくこともできない。 だが、女子部員は包丁が二つも突き刺さりながら、まだ苦しそうな息をしている。まだ生きている。助けなければ。 ――また起きる小さな爆発。俺は炎から起きた閃光に一瞬目を瞑ってしまった。そのタイミングでドカっ!と 何かが床に打ち付けられる音がした。 その音は俺に理由もなく嫌な予感を与えてきた。恐る恐る目を開けてみると―― 「……なんだってんだ」 あまりに酷い状況に俺は地団駄を踏みたくなる。さっきの爆発で女子部員の頭の方におかれていた冷蔵庫が、 事もあろうに彼女の身体の上に倒れたのだ。包丁が垂直に突き刺さっている場所に、あんな重いものが倒れればどうなるか。 釘を打つ金槌と同じ事になる。包丁はさらに深く彼女の身体にめり込んだだろう。 もう微かな叫びも吐息も聞こえなくなった。完全に意識をなくしたのかもしれない。 俺は必死にどうすりゃいいんだと思考回路を早める。隣のハルヒも焦りの表情を浮かべて動けない状態だ。 だが、【偶然】は俺に冷静さを取り戻す暇も与えない。今度はどこかでポンッという小さな破裂音が聞こえ、 続いてシューッという何かが吹き出す音、さらに今までとは違う何とも言えない嫌な臭いが辺り一面に充満し始めた。 これに気が付いたハルヒが、あわてて俺の手をつかみ、玄関に向かって走り出す。 「おい! 助けなくていいのかよ! まだ生きているかも――」 「それどころじゃないっ!」 ハルヒの声は焦りに満ちていた。何が起きようとしているんだ…… 玄関の扉の鍵を開けて、ハルヒと俺が外に飛び出すとそこには予想外の人物がいた。書道部顧問だ。 今日は学校を休んでいたはずなのに、何でここにいるんだ? ――そのとたん、女子部員の部屋でひときわ大きな爆発が起きて、その衝撃が通路を伝って出入り口から吹きだした。 熱波を含んだそれは通路の壁にぶつかり、そのままで上昇気流へと変わる。 俺はあぜんと目を見開くハルヒの顔を、高い位置から見ていた――すぐに気が付く。さっきの爆風で俺の身体は 思いっきり吹っ飛ばされ壁を越えてマンション十階から転落しようとしていた。 ここからは俺に目に入ってきた光景が全てスローモーションに見えた。まずハルヒが壁から身を乗り出し、 ぎりぎりのところで俺の腕を左手でキャッチする。そして、すぐにこっちへ引き寄せようとするが…… すぐにハルヒの顔色が一変した。同時に右手を伸ばしてくる。その方へ俺が首を向かせると、そこには同じように 空中を舞っている書道部顧問の姿があった。その顔は完全に白目をむいている。衝撃で気を失っているに違いない。 ハルヒはさらに壁から身を乗り出し、一番近いところにあった顧問の足をつかもうとした。だが、あと数センチのところで その手が届くことはなく、やがて顧問の身体はマンションの下に向かって落ち始めた。 何かをハルヒは叫んでいた。絶叫していたが、爆風で耳をやられているのか俺には聞こえない。 やがて、顧問を助けることを諦めたハルヒは俺の救出に力を入れ始めた。振り回すように左手でつかんだ俺の腕を 引っ張り、その勢いのまま十階通路に投げ入れる。 「ぐはっ!」 背中から通路に落下したため、俺の口から胃液が飛び出した。背中もじんじんと痛み、やけどを負ったのか 手のひらもジンジンとしびれるような痛みを発していた。 「キョン! キョン! 大丈夫なの!?」 「あ、ああ――何とか……」 とぎれとぎれにハルヒの呼びかけに答えるが、すぐにまた女子部員の部屋で大爆発がおきて、マンション全体を 激しく揺さぶった。 危うく死にそうになった。それも本当に危機一髪だった。ハルヒがいなければ、もう死んでいただろう。 一方のハルヒはすぐに携帯電話を取り出すと、消防への通報をしていた。なんて手際と判断の速い奴だ。 一体今までどれだけの修羅場を踏んできたんだ、こいつは。 ふと、俺は書道部顧問の存在を思い出す。恐る恐るマンション下を見ると、そこには仰向けに倒れぴくりとも動かない 顧問の姿があった。通行人が集まり、悲鳴がわき起こった…… ◇◇◇◇ その後、またもや警察の事情聴取を受けた俺たち。さすがにこうも最近の事故に立ち会ってばかりの俺に不信感を 持ち始めたらしく、いろいろなことを聞かれ夜中まで警察署に拘束されるはめになった。一方のハルヒも事情説明が続き、 なかなか帰らせてくれなかったらしく、二人が無罪放免で解放されたのは夜中の十二時を過ぎた頃だった。 待合室では心配して駆けつけてくれた家族がいた。疑惑はさっさと晴れたことを言うと、ほっとした様子で、 とっとと家に帰りましょうということになった。 ハルヒも家族の迎えがあったので、一足先に帰ったらしい。ただし、伝言があった。 明日話したいことがあるから、どんなことがあっても学校に来るようにと―― ◇◇◇◇ 翌日の朝、俺は通学途中の自転車の駐輪場で眉をひそめてしかめっ面のハルヒと落ち合った。 この様子じゃ昨日のことは堪えるというよりも疑惑を深めたという心情なのだろう。 俺たちはゆっくりと登校ハイキングコースに入りながら話を始める。切り出したのはハルヒからだ。 「どう思う?」 「いい加減、うさんくさいとは思っている。だが、俺の頭じゃ何が起こっているのかさっぱりなのが現状だ」 「おかしいわよ、絶対。いい? 一昨日の自動車事故で助かった十人のうち、三人が昨日立て続けに死んだのよ? しかも、全部事故。それもあり得ないような偶然がつながってね」 「昨日の事故は結局あの女子部員の火の不始末が原因だったというのが警察の調査結果だからな……」 「事情聴取の時に警察から聞き出したんだけどね……」 ハルヒは昨日得た女子部員の身に起こったらしい警察情報を話し始めた。ただしこれはハルヒと警察の推測も混じっている。 元々あの女子部員は料理する趣味があったらしい。ところが電子レンジに入れた料理材料の中に何かの異物が混じっていたのか、 突然それが爆発、その時にレンジの破片が首に刺さって出血となった。止血のためにタオルを探している間に、 火を書けっぱなしにしていたフライパンが引火して炎上、恐らくそれを消そうしたのだろうが、何らかの不手際で リビング中に引火してしまった。そして、やむえず消防局に電話しようとしたが、電話線が火に焼かれて不通に。 そんなことをしている間に出血が酷くなり意識が朦朧となってキッチンに倒れてしまった。そこに俺たちが駆けつけたが、 これまた運悪く爆発の衝撃で飛んできた包丁が身体に刺さり、さらにその上に冷蔵庫が倒れてとどめとなった。 おまけにどういう訳だか、火災報知器などの予防装置は全て故障してたらしい。これはマンション管理の責任問題に なるかも知れない話だが。 話を聞くだけでも人生嫌になりそうな運の悪さの連続だ。はっきり言って【偶然】なんて言える代物ではない。 だがよく考えてみればそうでもなかったりする。たまにあるだろう、運にめぐまれないなぁと思う瞬間が。 身近な例を挙げれば、家で居間を歩いていたら落ちていた画鋲を踏んづけあわててしゃがんでそれを足から取りだしたら、 屈んだはずみで胸ポケットに入れていた携帯電話を落としてしまい、むかつきモードで携帯を拾って歩き出したら テーブルの柄に足の指をぶつけて悶絶する。俺もこのコンボに遭遇したことはあるが、誰かの陰謀だろと叫ばずには いられなかった。 俺の助けた男子生徒、昨日の野球ボールがきっかけとなった書道部女子部員、刺殺・爆死した書道部女子部員の死因を 陰謀云々言うのはその感覚に似ている。【偶然】とは思えないが、【偶然】でしかないのだ。ややこしい。 そういや顧問がどうしてあそこにいたのか理由を俺は知らないんだが。 「あの女子部員の家に呼ばれていたそうよ。相談したいことがあるって言う内容でね。電話の記録も残っていたらしいわ」 意外と警察もしっかりと調べているな。そこまでちゃっかり聞き出すハルヒもさすがだが。 だが、呼ばれて巻き込まれたのも【偶然】か。誰かが故意に起こした事故ではない以上、巻き込まれたに過ぎない。 実際俺たちも危うく巻き込まれるところだったんだ。 と、ここで俺は女子部員の家の中に入る際に、内側から鍵を掛けられたことを思い出し、 「そういや、あの一回締め出しを食らったことは警察に伝えたのか? あれは明らかに誰か別の人間がいたとしか 思えないんだが」 「確かにそうなのよね。でも、その前に警察から言われたわ。女子部員以外が部屋の中にいた形跡はないって。 逃げ道は存在しなかったから、あの場にいたら死体がもう一つ増えていたはずよ」 「わかんねぇぞ。どこぞの怪盗のように小型のハングライダーで窓から脱出したのかも知れん。限りなく低いが、 絶対ってことはないはずだ」 俺の反論に、ハルヒは首を振って、 「それもないわね。だって隣の部屋の住人が焦げた臭いをかぎつけて、ずっとベランダから女子部員の部屋のベランダを 覗こうとしていたらしいわよ。火事になっているんじゃないかと確認しようとしていたらしいわね。 結局爆発の瞬間まで中の様子はうかがえなかったみたいだけど。万一、ベランダから誰かが脱出したらその時点で 気が付いているわよ。あと実はその証言をしている隣人が犯人ってのもなし。ベランダの窓は内側から二重に 鍵が掛けられていて完全な密室状態」 「だが、内側から鍵が閉められたのは事実だ」 「一応言ったけど、相手にされなかったわ。あのマンションオートロックになっているらしくて、最初はなんかのはずみで 旨く扉が閉じていなかった。あと中で火災が起きていたから気圧とかなんかが変わって、ドアを開けた瞬間に 部屋内に空気が殺到し、それに乗って扉が内側から引っ張られたように感じただけじゃないかって一蹴されたわ」 何かいやに的確な反論をする警察だな。ただ、たしかに扉を開けたら風の力で引っ張り返されるというのは 俺も自宅で何度か遭遇したことがある。中で火災が起きていたんじゃ、部屋の空気の状態はめちゃくちゃだろう。 首はひねりたくなるが、否定できる材料もないといったところか。 ――ん? ちょっと待て。今の今まで完全に忘れていたことを思い出したぞ。 「今更なんだが――ついでに警察に言うのも忘れていたんだが、リビングにお前が侵入する直前に、 確か人影を見たような気がするんだが。もちろんリビング内にだぞ」 「……なんでそんな重要なことを忘れているのよ」 ハルヒは口をとがらして抗議の声を上げるが、 「今言っても記憶違いで一蹴されるだけだわ。時間が経って記憶の方が改竄されているし、ぼうぼう火が燃えている中で、 はっきりと模写までできるぐらい鮮明に覚えているとは思えない。実際のところ、どうなのよ」 「いや……」 確かに警察がそこまでしっかり調べて、中にだれもいませんでしたよと言われてしまうと、俺の見た人影も ただの見間違えじゃないかと思えてくる。事実、記憶上残っている見えたものは女性のような人影だけだからな。 しかし、現代技術ではいないように見せられる存在もこの世界にはいるはずだ。 「情報統合思念体が何か関与している形跡はないのか? 連中なら偶然に見せかけた殺人や誰もいないところに 沸いて出てくることだってできるだろ?」 俺の指摘に対し、ハルヒは首をひねって、 「確かに絶対とは言えないんだけど、奴らが動いた形跡はないわ。そもそもこんな事やって何の意味があるのか さっぱりわからないしね。可能性は捨るつもりはないけど」 とのこと。確かに朝倉や長門――あいつにこんな事はして欲しくないが――がこんなことをしでかしても何の意味があるのか。 そうなると―― 俺ははっと気が付いた。もう一ついないはずの場所に現れることができる人間が。未来人である。 しかし、まず断言したい。朝比奈さんがこんなことをできるわけがない。あの気が弱くって愛らしいあの方は 目の前に死体――多丸さんの偽死体だったが――を見ただけで卒倒するほどだぞ。自分の手で実行できてたまるか。 あと他の未来人の仕業は十分にあり得るが、俺は何度もありえない【偶然】を目撃している。いくら未来人がTPDDとやらで 時間を超えられる装置か何かを持っていたとしても、【偶然】の発生まで制御できるとは思えない。 そんなマネができるなら、俺の世界の時でも何度か目にする機会はあったはずだ。これでも朝比奈さん(大)と行動をともにした 機会は多かったからな。 そんなわけで今のところは、未来人関与の可能性について俺の中で速攻却下だからハルヒにも言わないでおく。 こいつに言ってへたに疑いだしたら面倒事になるかもしれないから、胸の内に仕舞っておこう。 と、ここでハルヒは思い出したように。 「あと今日の放課後、関係者全員書道部の部室に集まるように連絡したから。あんたもちゃんと来なさいよ」 「……何でまた」 俺が疑問を投げると、ハルヒはにらみを返してきて、 「いい? 一昨日の事故を免れた十人のうち三人が昨日のうちにみんな死んだのよ? 全部事故で死因自体に共通点はない。 ただ唯一の共通点は生存者であるということ。しかも、ただ生き延びたんじゃなくて、あんたの予知能力のおかげで 生き延びた人ばかり。一回目の予知能力を使った男子生徒も同じだった」 十人……俺・ハルヒ・谷口・国木田・鶴屋さん・朝比奈さん・書道部女子部員三名と顧問か。 まさかこれと同じ事が起こり続けるかも知れないって言うのか? ハルヒは真剣かつ深刻な顔で、 「そうよ。偶然がつながりすぎている。今のところ他者の思惑は見えないけど、何かが起きていると考えるべきだわ。 あらかじめ各自話し合って意識しておくことは重要だと思うから。あ、もちろん予知能力の話はしないけどね」 確かにハルヒの言うとおりだろう。例え【偶然】であってもその【偶然】にはまって死なないように、気をつけておくことは 重要かも知れない。自動車事故と同じで、少し気をつければ回避できるレベルのものかも知れないからな。 ――そんなことを話しているうちに北高まで俺たちは到着していた。 ◇◇◇◇ そんなわけで放課後。 三名が欠けた書道部部室で対策会議が始まった。 「事情を知っている人、知らない人多分様々だろうから、今までの経緯を話しておくわ」 ハルヒが今日の朝俺と話した内容を掻い摘んで説明し始める。すっかり立場は部長の位置になっているが、 やっぱりこういうリーダー的立場がこいつにはしっくり来る。 俺は説明を聞きながら参加メンバーを確認した。 朝比奈さん。かなり意気消沈気味だが、参加してくれている。あの調子じゃ何があったのかもう知っているのだろう。 鶴屋さん。こっちも立て続けに起きる惨劇にすっかりいつものさっぱりぶりは消え失せ、どこか憂鬱な表情を浮かべていた。 谷口。こいつは状況をほとんど知らなかったらしく、ハルヒの説明に仰天の声を上げていた。いつものそれほど変わっていない。 国木田。谷口同様だったので、ハルヒの話を興味深そうに聞いている。さして落ち込んだ様子は見えない。 書道部部長(女子)。一昨日の事故のショックも冷めないうちに、部員全員と顧問が昨日一日で事故死した事に憔悴しきっている。 あと俺とハルヒ。計七名全員そろっていた。 ハルヒは練習もしていないのに、弁論大会の演説のごとくきっちりわかりやすく説明していく。こいつの能力の高さは天井知らずだ。 ただし、当然予知能力は伏せておく。ついでに一回目の予知能力で救った少年がその後死んだことも触れないでおいている。 これは話の焦点を一昨日の自動車事故にしておきたいというハルヒの意向からだった。いたずらに広げるとややこしくなるだけだから。 やれやれ、本当に予定外の行動で死を回避した生存者をひたすらストーキングしてくる死神の映画みたいになってきたな。 ………… 「――現況は以上よ。あたしの推測も結構入っているわ。何か質問があれば、じゃんじゃんしてちょうだい。 数十分に渡るハルヒの説明の終了後、質問タイムに入った。 説明後の一同の様子を見てみる。 谷口はいまいち信用していなさそうな顔をしている。 国木田、鶴屋さん、書道部部長(女子)はハルヒの言葉を大体受け入れているようだ。 朝比奈さんはうつむいたままなので、表情が読み取れない。 質問タイムでまず最初に手を挙げたのは谷口だ。 「涼宮の言うことをまとめると、事故を回避した俺たち全員は近日中に偶然死ぬかも知れないってことでいいのかよぉ?」 「そうよ。あくまでもあたしの推測だけど、昨日の三人の死を間近に目撃した身としては、事故死なのに故意としか思えない 不自然な死に方が連続している。そして、死んだ三人の共通点は全員生存者。ならあたしたちにも危険が迫っている可能性があるって事」 「確かにそうかもねっ。昨日あたしもあの子の事故死した瞬間を見ていたけど、偶然にしてはできすぎていたよっ。 その根本原因が一昨日の交差点の事故にあるっていうなら、あたしたちも危険が迫っていると考えるべきだねっ」 鶴屋さんの発言――少々無理しているしゃべり方だったが。 書道部部長(女子)がここで手を挙げて、今後どうするべきなのか、今日亡くなった三人の通夜に行くつもりだが言ってもいいのかと 質問してきた。 ハルヒは腕を組んで、 「対応策ははっきり言ってわからないわ。ただし三人の死因が偶然による事故から来ているものなら、そう言ったものに遭遇しないように 心がける事ね。例えば、料理をするときは一人でしない、道を歩くときは必ず車道から離れたところから歩く、 危険な場所には近づかない……あとすぐに誰かに助けを求められる状態にしておくってのもあるわ。常に携帯を所持しておくとか、 身近な人の電話番号にすぐ通じるようにするとか。ま、普段以上に慎重に行動するって事よ。 その程度で回避できるかも知れないんだから。あと通夜の参加は各自の判断に任せるわ。 家に閉じこもっていろとは言えないし、参加も強制しない。繰り返すけど、さっき話したのはあたしの推測であって、 確定した情報じゃない。ただ状況から考えて危険が迫っている可能性が高いって事を知らせておきたいのよ」 熱弁を振うハルヒに、書道部部長(女子)は力なく頷く。聞けば、部員は昔からの友達だったらしく、 その死は相当ショックだったらしい。通夜や告別式に参加するなと言うのはあまりに酷だろう。 顧問もそれなりに長い付き合いだっただろうし。 一旦全員がしんと静まりかえる。ハルヒも腕を組んで質問がないのか見回していたが、やがてもうないのだろうと判断し、 「今日はこのくらいにしておきましょ。今日は亡くなった人たちの通夜もある。ただし慎重な行動を心がける。いいわね?」 その言葉に全員がうなずいた。 そうして今日の部活動――もう書道部の活動なんてしていないが――も終わりぞろぞろと解散していく。 その途中で俺は谷口に教室脇に引っ張り込まれ、 「おいキョン。おまえ、あの超強力電波女の言うことを信じているのか? はっきり言って死神が追っかけてくるような話なんて 俺はとてもじゃねーが信じられねーぞ」 「俺だって100%信じている訳じゃないが、昨日一日で三人も死んでいるんだ。しかも、俺たちと共通点のある 立場の人間だったら注意するのは当然だろうが。別に不都合なんてないだろ。ただいつも以上に安全に 気をつけるってだけなんだから」 「それはわかっているんだがよー」 谷口は細めでウザったらしくハルヒを見る。どうやらこいつの問題は、ハルヒからの指示という点に 固まっているらしいな。外見とその妙な行動で変わり者に見えるだろうが、あいつはなかなか常識的な奴だ。 勘も良い。味方にすればこれ以上ないくらいに頼もしい奴だよ。俺も何度も助けられたしな。 「ハルヒの言い方や過去の行動についてはこの際頭の中から排除しておけ。実際に面倒なことが起きているってのは 事実なんだからな。ハルヒの言ったことは決して間違いじゃない」 「へいへい。気をつけることにするよ」 わかっているのいないのか、微妙な返事をすると谷口は国木田と一緒に帰路へと付いた。あと、念のためハルヒの判断で 国木田と家の近い書道部部長(女子)も一緒に帰らせることにした。複数人行動は確かに危険回避の第一歩だからな。 鶴屋さんは迎えの車が来ていたので、それに乗って帰って行った。 「じゃあ、ハルにゃん、みくる、キョンくん、気をつけて帰るんだよっ!」 そうハイヤーの窓から手を振って、学校から去っていく。とは言っても亡くなった三人の通夜には参加するって事だから、 あとで顔を合わせることになるだろうけど。 残ったハルヒ、俺、朝比奈さんは校門前に立っていた。 と、ここでハルヒは、 「悪いけど、あたしはちょっと用事があるから先に帰らせてもらうわ。キョン、みくるちゃんをしっかり守って帰るのよ」 「おい、一人で行動していいのかよ?」 と一応言っておいたが、大丈夫よと言ってハルヒは小走りに返っていった。まああいつなら最悪偶然ですら 操作できる力を持っているからな。 あと帰る前に俺の胸にぽんと一発叩いてきたことで、ハルヒが俺に何をさせようとしているのか気が付いた。 つまりは朝比奈さんと二人で帰り、その間に情報を聞き出せって言うことなのだろう。そうなると、ハルヒは今回の一件について 俺と同様に口には出さないが、未来人の関与も疑っているのかも知れない。 「……帰りましょうか」 「はい……」 朝比奈さんは力なく答え、俺に続いて歩き出す。 放課後、日が徐々に傾き始める時間帯になり、一歩一歩踏み出すたびに街の色が赤くなっていく気がする。 二人はしばらく黙ったままだったが、次第に俺はその空気に耐えられなくなり――ついでに黙りでは意味がないこともあるので、 「朝比奈さんはどう思っているんですか? ハルヒの言っていること、信じていますか?」 「わかりません……」 ぽつりと朝比奈さんが答える。 実のところ、朝比奈さんは未来人である以上、上の方の許可さえ取れれば何でも知ることができるはずだ。 知らないと言うことはない。 しかし、どうするか。あなたは未来人ですか?なんて聞けるわけがない。朝比奈さんが自分から言ってくれるまで 待つしかないんだが、とてもそんな空気には見えなかった。 仕方なく他の話をすることにする。全く朝比奈さんと二人っきりで一緒に帰るって言う悶絶寸前シチュエーションなのに 全然楽しくない。 「朝比奈さんは書道部に一年の時から入っていたんですよね」 「はい。鶴屋さんに誘われて入りました。あたし、入学してからしばらくあまり友達もできなくて……。 そんなときに初めて仲良くなったのが鶴屋さんだったんです。それから一緒に書道部に入って、他の部員の人たちとも すぐ仲良くなれました。全部鶴屋さんのおかげです。だからあたし凄く感謝しているんです」 朝比奈さんは柔らかな笑みを浮かべる。やっぱり鶴屋さんはこの人にとって特別な存在なんだな。 ま、一人にしておくと放っておけないっていう鶴屋さんの気持ちもよくわかる。朝比奈さんを見ていると 守ってあげたいという感情が生まれてくるし。 この時点で俺はますます今回の事に朝比奈さんが関与しているという考えが薄らいだ。 万一、あの自動車事故から逃れた人を再度全員抹殺しようとしているなら、その対象には鶴屋さんも含まれてしまう。 この朝比奈さんにそんなことができるか? できてたまるか――できるわけがない。 俺は話を続ける。 「でも最近は大変だったでしょう? あのハルヒが入部してからいろいろ騒がしくなりましたから」 「ええ、涼宮さん凄く強引ですから……ああっ、涼宮さんのことが嫌いって訳じゃないですよぉ? ただもうちょっとあの――その――」 「良いんですよ。あいつはもうちょっと自分の行動を抑制すべきですからね。全く今度しっかり言っておきます」 「いえいえ、良いんです。それにあたしちょっと涼宮さんがうらやましい」 「え?」 「凄いじゃないですか。行動力も実行力も。あたしなんかとは違って、何でも完璧にこなせて凄くうらやましい……」 いや、あいつは確かに能力的には完璧ですが人格に少々問題がありますよ? 確かにそれなりに常識は持っていますが。 行動は思いつきの突発ばかりだし、わがままだし、自己中で…… 「良いコンビですね。涼宮さんとキョンくんって。それだけはっきりと相手のことを言えるんだから」 唐突にとんでもないことを言い出す朝比奈さん。良いコンビというよりも腐れ縁というか向こうがかみついてきて話さないというか。 俺が憮然と考えていると、朝比奈さんは横でクスクスと微笑んでいた。やれやれ、勘違いをされるのは嫌だが、 朝比奈さんがこの笑顔を見せてくれるなら、悪い気分ではないな。 ――ここでしばらく二人の間に沈黙が流れる。俺は横目でちらりと朝比奈さんの表情を浮かべると、先ほどまでとは違って 少しだけ真剣な表情になっていた。落ち込んでいるのとは別の方向で。 ほどなくして、ここで朝比奈さんの方から口を開く。 「……キョンくんは運命って言うものを信じますか?」 唐突な質問だったため、俺はしばらく言葉を失ってしまったが、 「……ええ。たぶんあるんじゃないですかね。決められた出来事って言うのはあるような気がしますし」 「じゃあ、亡くなった三人は運命で決められていたといったらどう思います?」 運命。きっと俺の世界の朝比奈さんなら【既定事項】という言葉を使うだろう。つまり、あの三人が死ぬのは 決まっていた事なのだろうか。いや待て、勘ぐりすぎだ。この朝比奈さんは俺にまだ自分が未来人であることを カミングアウトしていないんだから。焦るな俺。 「そんな運命なら受け入れたくないですね。俺が万一事前にそれを知ることができたら全力でそれを回避しようとしますよ。 運命だからって死にたくはないですから」 「そうですよね……やっぱり……」 そう言って朝比奈さんは視線を下げた。何だ? 何を言いたいんだ? 「涼宮さんは言っていましたよね。あの自動車事故を回避したから、そのつじつま合わせのために あたしたちがまた死の危険にさらされているって。なら、きっと自動車事故で死ぬのがみんなの運命だったんです。 でも、それを回避してしまったからこんな事になっている」 と、ここまで言って朝比奈さんは自分の言っている意味に気が付き、 「あっ、えっと、キョンくんを非難しているんじゃないんです。あの時みんなを助けてくれたことは その……感謝……しています。ただ、涼宮さんの言葉をそのまま受け取ると、結局そうなってしまうって事なので……」 「そうですね……朝比奈さんの言うとおりです。だけど、俺はそれは決して無駄だったとは思いませんよ?」 「え?」 俺の言葉に、朝比奈さんが不思議そうな顔を見せる。 死を乗り越えても、また死が追ってくる。確かにそれだと最初に乗り越えた意味はないように感じるかも知れないが、 それは違う。なぜなら―― 「あの自動車事故を乗り越えられたから、俺たちは今こうやって立っていられるんです。そして、危機が迫っていることも 知ることができました。おかげで死ななくても済むかも知れない。これだけでも大きな意味があると思うんです」 朝比奈さんははっと顔を上げて、俺を見つめた。その目にはうっすらと涙が浮かび、何かを訴えようとしている。 だが口だけがぱくぱく動いて一向に言葉が出てこない。 すぐに朝比奈さんは口を押さえて、またうつむいてしまい、 「何でも……ない……です……」 そうつぶやく。だが、朝比奈さんの今の一瞬を俺は見逃さなかった。言おうとしているのに言えない。 このポーズは何度も見たことがある。あの禁則事項ってやつだ。つまり朝比奈さんは俺の知っている未来人と 同様の状態である証拠となる。 朝比奈さんは未来人。本人からカミングアウトされなくても、この確認だけはようやくできた。 ならどうにかして今の惨劇を食い止めるための協力を取り付けたい。 「朝比奈さん。俺は何とかして他のみんなを守りたいんです。手を貸してもらえませんか?」 「え、ふえ? でも、あたしにできることなんてほとんど……」 「できることは必ずあるはずです。一緒に考えましょう。どんな些細なことでもやってみる価値はあると思うんです」 俺なりに必死に説得したつもりだったが、朝比奈さんは目を合わせようとしなかった。 ダメか。いきなり言ってもそりゃ混乱するだけだよな。 俺は嘆息すると、 「すいません。何か迫るようなことしちまって。でもこの最悪の状況は何とか抜け出したいと思っているんです。 それは忘れないでください」 その言葉に、朝比奈さんはこくりとうなずいた。今日はここまでだな。これ以上せまると逆効果だ。 ちょうど駅前までついたし。 俺はすっと朝比奈さんから離れ、 「今日はいろいろすいませんでした。また明日――ああ後の通夜でもお会いしそうですね。じゃあ、その時まで」 「はい。キョンくん、さようなら」 そう言って俺たちは別れようとする――が、俺は一つだけ聞いておきたいことを思い出し、すぐに彼女を呼び止め、 「朝比奈さん! 一つだけ良いですか?」 「あ、はい。何でしょうか?」 「できるならあの事故が起きる前に戻りたいと思いますか?」 ――俺の言葉とともに、少し強い風が周囲を通過した。朝比奈さんの長い髪の毛がなびく。 そして、柔らかな微笑みを浮かべて言った。 「はい。キョンくんや涼宮さん、鶴屋さんたちと一緒にいたかったです」 俺はその言葉にほっと胸をなで下ろし、手を振りながら朝比奈さんと別れる。 よかった。朝比奈さんは今の生活を維持したいと考えている。贅沢は言えない。今はそれだけで十分さ。 ――俺はこの時どうして朝比奈さんは『一緒にいたかった』という過去形を使っていたのか、 もっと深く考えるべきだったのかも知れない。 ◇◇◇◇ 俺は通夜に何か起こるのではと警戒していたが、結局何も起きずに平穏に終了した。 さらに意外なことにそれから数日は何も変化の無い日常が続いた。 事態が急変したのは、週末になってからである。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(後編)へ~~
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「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声でずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 ~~涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(中編)へ~~