約 128,332 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/140.html
見たこともない景色!した事も無い体験!わたしは夢を見ている! また、あの使い魔の記憶だろう・・・はっきりと判る! 無駄な事しやがって!ブチャラティーーーッ! 落ちて行けェェーーッ!! ま・・・まさか・・・ツイてないのはオレの方か!? おかしい事だったんだッ! バカなッ! ブチャラティィイッ! 「ゴバッ!!」 わたしはベットから身を起こした・・・なんだっけ?・・・ ・・・また、凄まじくひどい夢を見た気がする、夢なのに死ぬほど痛かったような・・・ ・・・何かの拍子で思い出したりするんだろうか・・・やだなあ 「おきたか、随分うなされていたみたいだが怖い夢を見たのか?」 先に起きてたのであろうプロシュートが声を掛けてくる わたしはプロシュートの記憶を夢としてみるが、彼はどうなんだろう? 「ええ、悪夢だったわ。あ、あなたは此処にきて夢とかみないの?」 うん、自然に聞けたわ 「そうだな、見たと思うが起きた瞬間に忘れちまうな」 それをきいてほっとする・・・まて何でほっとする べつに、わたしは見られて恥ずかしい記憶なんてない、断じてない! 「それより起きなくていいのか?」 もう、こんな時間! 「ちょ、早くいいなさいよね」 「俺のせいか?」 朝食を食べに食堂に行く。ここの料理長マルトーさんにプロシュートは 大変気に入られ「我らの勇者」などと呼ばれ食事をご馳走になっていた。 あのメイドが中庭の出来事を厨房の人達に話したのだろう。 朝食の後、教室に向かい授業を受けに行く。 プロシュートもわたしの隣に座り黙って授業を受ける。 彼は魔法を使えないのに授業を熱心に聴いていた そういえば、彼は魔法とは違う別の何かを使ってた、アレは一体何なのか? アレは誰も見えていなかった様だ、自分だけに見えてた。 彼は別の世界からきたと言っていた、召喚魔法はこの世界からモンスターを 使い魔とする儀式。だが、夢で見た建物、風景、まったく見覚えが無かった。 彼の能力は別世界の魔法? 「授業はここまでです。各自、予習を忘れないように、以上」 先生の声にはっと我に返る、いつの間にか授業が終わったようだ 「今日の授業の内容、覚えてる?」 部屋に戻りプロシュートに質問してみた 「たしか、魔法の四大系統。火、水、土、風の四つ。失われた魔法、虚無を合わせ 五つつの系統。また、それらの扱える数により、ドット、ライン、トライアングル、 スクウェアといった名称でで呼ばれる」 淀みなく答えが返ってくる。この男、結構頭が良いのかもしれない 「それで、ルイズお前はどのレベルだ?」 話の流れから来る質問に嫌な汗が流れる 「ドットよ、それよりもこれ解る?」 誤魔化すように、わたしは教科書をプロシュートに見せる 「いや、悪いが字が読めねえ」 意外な答えが返ってきた 「読み書きできないの?」 「いや、そう言う事じゃねえ。俺は今イタリア語を話しているんだ」 「イタリア語?」 いきなり知らない単語が出てきたのでオウム返しに聞いてみる 「俺の祖国の言葉だ、にも拘らず会話ができている。ここにいる全員が イタリア語を話しているワケじゃねーよなー」 わたしはコクリと頷く。そんな言葉は喋ってない。 それに関しては心当たりがあるので言ってみる 「使い魔としての能力じゃないかしら、犬や猫を使い魔にすると話せるように なるって聞いたことがあるわ」 「なるほど・・・どうせなら字も解る様にしてくれても良いのによー」 「ま、別にいいんじゃないの、今は特に困らないし」 「そうだな。それより寝なくて良いのか、明日も早いんだろ?」 そうね・・・今日も夢のせいで寝不足だし 「プロシュートは良いわね、ぐっすり眠れて」 途端にプロシュートの顔が険しくなる 「テメー嫌味か?こんな固え椅子と薄っぺらい毛布でグッスリ寝れるワケネーだろ」 彼は彼で我慢していた様だ 「今度の虚無の曜日にソファーを買いに行くわ、それまで我慢して頂戴」 「いいだろう」 今夜は悪夢を見ませんように、わたしは静かに眠りについた
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1534.html
プロシュートが戻ってきた。 「ヤツ等は貴族に雇われたとゲロしたぜ」 ゲロって何? 「喋ったって事だぜ、ルイズ」 わたしの方を向きプロシュートが言い直した。 そんなにも不思議そうな顔をしてたかしら。 「それなら、最初からそう言いなさいよね」 「よく、あっさりと聞き出したものだな」 ワルドさまが不思議そうに言った、なんとなく分かっているわたしにとって そこには気づいてほしくなかった。 「まず、1人ブッ殺した」 まず・・・か、プロシュートの返答を聞いたワルドさまの顔が強張った 「残った連中は知っていることを、俺が質問する前に話してくれたぜ」 いきなり殺されたんじゃ、交渉の余地なし。男たちは話すしかなかったのね。 「その後に全員ブッ殺した」 「何で殺すのよ!」 わたしはプロシュートに怒鳴った、なにも殺す事は無いと思ったからだ。 「お前を守るためだ、ルイズ。貴族を襲ったんだ、殺されたって文句を言えねえ、そうだろ?」 たしかに、そのとおり・・・わたしが黙って聞いている事を肯定と 受け止めたのか、プロシュートは後を続ける。 「ルイズ、お前がフーケを捕まえに行くと言った時や、戦争中の国に行くと言った時も、 危険だからヤメロとか自殺行為だとか俺は止めたりしねえ。俺は保護者じゃねえ、 お前の使い魔だからなあ。唯、お前を敵から守るだけだ!」 プロシュートはわたしの身を守る為に敵を殺した。 ・・・でも、わたしは納得出来なかった 「だから、殺す必要は無かったと思うの。縛ってたし、気になるんだったら 動けなくなる様に傷つければ良いじゃない」 プロシュートが大きなため息をついた。 「甘いんじゃねーか!ルイズ。もし、今ここでヤツ等を放置すれば再び襲って 来るだろう。こんどは単純な奇襲じゃなく罠も張り巡らせてなあ」 プロシュート・・・なんという用心深さなの。 わたしの身を守る、わたしの使い魔。 わたしが甘いというの? いや、いけない。使い魔に振り回されるな! 確かにプロシュートはわたしの身を守っている。 しかし、わたしの言うことを全て聞いてない。 まるで手綱を受け付けない馬の様ね。 馬は、わたしを乗せているが思い通りに走ってくれない。 馬が乗り手を認めていない・・・つまり、わたしの力不足ってことね。 ・・・上等じゃない。今まで驚かされ続けてきたけど、使い魔に振り回される メイジなんて恥もいいとこだわ。わたしは、この任務を通じて少しでも プロシュートに相応しい立派なメイジに成ってみせるわ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1800.html
教室の一角。マントを羽織った少年少女達の間に、大男が倒れていた。 気を失っているようだが、それでもその雰囲気にはなにか語るべくないものがあった。 「へ、へいみん?」 「そもそも人間?」 「ゴーレムとかじゃない・・・よな?」 「ざわ……ざわ……」 筋肉質であり、マントや宝石などの小奇麗なものはつけていないことから、貴族ではないことはわかる。 しかし、彼の頭には角。彼の両肩にも角。人間ではないのか、人間、あるいは亜人だとしても平和的な人間でない可能性が 非常に高そうだとメガネの少女は冷静に分析した。 「ゼロのルイズ!なにを呼び出したんだ!」 「何度も失敗して、成功したと思ったらこれかよ!」 「まともに使える魔法はないのか!」 教室から少女に向けて野次が飛ぶ。 桃色の髪の少女が叫ぶ。 「こ、コルベール先生、やっぱりこの大男とも『契約』しなければいけませんか?」 「ミス・ヴァリエール、例外はありませんよ。」 少女は少し唸った後、諦めたように気絶しているであろう大男に近づく。 「き、貴族にこんなことされるなんて……普通は一生ないんだからね!」と気絶している大男に話し掛ける。 そして、彼の顔に顔を近づけ、唇をあわせた。 左手の甲が光る。 「ROOOOAHHHHHHH!!」 それとほぼ同時に大男が叫び声と同時に目を覚ました。 (な、なんだこの痛みはァーーッ!このような痛みは……例えるなら、そう『波紋』ッ! それに…なぜ俺はこんなところにいるッ!?) 叫び声をあげた大男の迫力から、本能的に命の危険を感じて逃げるようにして 教室の出口へ向かうものが現れる。 「女ァーーッ!俺になにをしたーーッ!」 少女はその叫び声に怯み、数歩下がりつつ答えた。その前にさりげなく髪の薄い男性が立つ。 「つ、使い魔のルーンを刻んでいるのよ。すぐ終わるから、あ、安心しなさいよ…」 左手の甲の光が収まり、痛みが治まった大男は状況を確かめようとする。 (俺は、『エイジャの赤石』を賭けて、ピッツベルリナ山神殿遺跡で、古代ローマの戦車戦を行い… ジョセフと戦った末……奴に敗れて死んだはず…… しかし、無い筈の両腕!両足!胴体!全て元通りだ……どうなっているんだ?俺は死んだのではないのか? 死んだことに悔いはない。一人のジョセフを戦士に成長させ、その戦士に全力を持って戦い、 敗れて死んだということは誇りでもあるし、名誉でもある。 が、しかし……生きている……死ぬ前の走馬灯という奴でもなさそうだ……) 彼は少女に向き直って強く問い詰める。 「女、ここはどこだ……俺に何をした。」 「さ、さっき言った通りよ。あんたを私が『サモン・サーヴァント』で召還して使い魔の契約をしたの。 つまりあんたは私の使い魔。わかった?平民だからわからない?」 「『サモン・サーヴァント』だと?確か人間どもの言葉で『召使』だったか……俺に召使をやれと?」 「だからさっきから使い魔だって言ってるでしょ。主人である私の望むものを見つけてきたり、守ったりするのよ。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずなんだけど……まだ契約して時間が短いからかしら、 なにも見えないし聞こえないけど……そうそう、もちろん主人である私には絶対服従ね。」 「先ほど召還などといったか……よくわからんが何か普通の人間どもとは違う能力を持っているようだな? 死の淵に居た俺を五体満足までに回復させるのだからたいしたものだ。場所もどうやらピッツベルリナ山神殿遺跡でもなさそうだ……」 「あ、あんた?魔法も知らないの?どこのド田舎のド平民よ!?ピッツベルリナ山なんて聞いたことないわよ! だいたいあんた、人の話聞いてないでしょ!あんたは私の使い魔になるの!わかってるの?」 少女はルーンを結べたこともあって面食らいつつも少し強気に出ていた。 が、使い魔に素直になる気を微塵も感じられないためにただでさえ常日頃バカにされている少女は 焦り、いらついていた。 が、やはり大男の返答は少女の望むものではなかった。 「体のいい召使い兼ボディーガードなどをなぜ俺がしなければならない?俺が従うのは強者だけだ。断る。」 「は、はぁ?あんた、人の話わかってるの?大体強者って……平民だか亜人だかしらないけど、 仮にもここは魔法学校。これだけの貴族に囲まれて勝てると思ってるの?」 「そう思うなら……試してみるか?力づくでここを出ても構わなんしな。」 大男はなめ回すようにクラス見る。その迫力に短く声をあげるもの、後ろに倒れるものなどがいたが、各自同じようなものであった。 「……が、この部屋には俺の相手をできるような者はいないようだな……そこの男は見込みがありそうだが、生憎リングがないものでな。さ、どけ」 「だ、誰がどくっていうのよ!私がどくのは道にマリコルヌが落ちてるときだけよ!」 少女は数歩後ろに飛びのき、杖を向ける。 「ミス・ヴァリエール!貴女は下がっていなさい!」 男が叫び大男に杖を向ける。ぶつぶつと何事か唱えた後に杖の先から炎の玉が大男へ向かう! しかし彼は、片手だけで、その巨大な炎の玉を払いのけた。 まるで、ハエを払うかのように。 普通の相手であればかわすのも難しいタイミング、威力も普通の相手であれば手で払いのけることなど選択肢にすら 入らなかったであろう威力。まさに絶妙な攻撃であった。 惜しむらくは、放った相手が普通の相手ではなかったことだ。 「ここの人間どもは波紋の一族とは違う……なにか不思議な能力を持っているようだな……魔法学校などといっていたが… これらを『魔法』と呼んでいるのか?だが、威力も工夫も足りなかったな。貴様でこの程度ならば……たかが知れるな」 彼は致命傷どころか火傷すらしていない。 怯む様子もなく、彼は起き上がった。そして、光、前の世界であれば忌むべきものであった光の差す 窓の方向へ走り出し、その方向にいた先ほど攻撃してきた杖を持った男に蹴りを放とうとするッ! 起き上がった勢いによる攻撃と脱出を同時に行う。彼の戦闘のセンスは失われていなかった。 1対1ならば確実に仕留めていただろう。1対多でも彼の神経が研ぎ澄まされた、彼が言えば激昂するであろうが 油断していない状況であればその蹴りは入っていたであろう。しかし、彼はその男以外を敵としてみなしていなかった。 伏兵は男の後ろの少女だった。 少女が叫ぶ。 「コルベール先生……下がるなんてできません……敵に……敵に背中を向けないやつを貴族と呼ぶんです! 『ファイアー・ボール』!」 先ほどの少女が大男に杖を向け、なにかを飛ばす。 大男は先ほどと同じタイプの攻撃であると断定し、同じ対処を試みた。 片手をなにかが飛んでくる方向に出し少女を見据える。 「馬鹿の一つ覚えかッ!MOOOOOO!!」 片手でそれを払いのけようとした…が!それが腕に着弾した途端!爆発をおこしたッ! 彼女の唯一の『得意技』である爆発が大男を包む! 轟音が部屋を包む。教卓の上の備品が少々吹っ飛ぶ。教卓も吹っ飛ぶ。しかし、それでも大男は立っている…はずだった。 その大男の類まれなる身体能力をもってすれば、この程度の規模の爆発では驚きすらしなかっただろう。 しかし、大男は立てなかったッ!爆発による煙が舞っている中、彼はひざまずいていた。 その爆発は『普通』の爆発ではなかった。 (か、体が痺れるッ!う、動けんぞッ!幸い体は無事のようだが……これはまるで『波紋』ではないかッ……MOOOOOO……! しかし、この少女…波紋戦士には見えん……シーザーのシャボン玉のような攻撃のように攻撃してきたなにかに波紋を含めているなら、 俺の体の神経は破壊されるはずッ!しかし、動けないだけでそれはない……さらに、無意識下の波紋戦士でもしているはずの 波紋の呼吸をしていない。そして、なによりもッ!戦いについて場数を踏んでいる雰囲気、こういった命の危険に大して無防備すぎる…… つまり、この程度の能力を持った人間はこのあたりにはいくらでもいるということか? ということは、俺に適うだけの戦士がまだどこかにいるのではないだろうか? 我が柱の男たちの敵は波紋戦士たちだけだと思っていたが……少し…興味がでてきた…この魔法とやらに) 強者と戦いこそ全てである大男は心境の変化とともに立ち上がった。 そして、煙がはれたのち、少女は立ち上がった大男に話し掛けた。 「これで貴族と平民の格の違いがわかったでしょう!おとなしく使い魔になりなさい!」 「……いいだろう……少しの間、その使い魔とやらになってやろう……」 「少しの間って…ま、今のところはまあいいってことにしておいてあげる。 じゃあ、使い魔には名前が必要ね。あんた、名前ある?」 風の戦士が、二度目の二〇〇〇年ぶりの目覚めを果たした。 「俺の名はワムウ。風の戦士ワムウだ。」 風と虚無と使い魔 召還潮流
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/886.html
爆発の罰として教室を一人で片付けたルイズは昼食を取る為、食堂に居た (最初は全部ディアボロにやらせようとしたが、探しても見つからないので断念した 爆発で吹っ飛んだと気付いたのは掃除が終わった後だ) 隣にはディアボロが居る ある事の為に食堂に来る前に召喚しておいたのだ 「小娘、何だこれは」 「アンタの食事よ」 ディアボロの目の前にはパンにシチューが並んでいる まあ、人並みな食事といってよいだろう、周りに目を向けなければの話だが 周りには比べるのが愚かしくなる程、豪華な料理が所狭しと配されている この差にはあからさまな区別の意図が見て取れた そう、ルイズは食事に託けて、教室を一人で片付けさせられた憂さ晴らしを兼ねて上下関係を教育しようとしているのだ 「このアルヴィーズ食堂で食事出来るだけでも結構大変なことなのよ、他の使い魔たちは全部外で食べてるんだから 感謝しなさいよね、もしどうしてももう少しいいものが食べたいって言うんなら食べさせたあげないことも無いわよ 貴族の使い魔にふさわしい態度を取るって言うんならね、まず呼び方ね、小娘じゃなくって御主人様………」 ルイズの使い魔の在るべき態度についての演説が続く 一方、ディアボロはルイズの話を無視して食べ始めている (もちろん周りの料理にも手を出している) 唐突に隣から聞こえた何かがぶつかる様な音にルイズは振り向いた ディアボロが白目を剥いて泡を吹きながらテーブルに突っ伏している はて、何が起きたのだろうか? ルイズが疑問に思っていると厨房の方から一人のメイドが小走りに此方にやって来た 表情から察するにかなり焦っている様だ 「失礼致します、ミス・ヴァリエール」 「どうしたの?」 「ミス・ヴァリエールが此方に運ぶように仰られましたシチューなのですが、 あれは鼠退治用の毒餌でございまして…」 ああ、そういうことだったのかと納得の表情を浮かべる そして、笑みを浮かべながらメイドに皿を下げる様に告げ、こうも言う 「大丈夫よ、何も問題はないわ」 ■今回のボスの死因 殺鼠剤の入ったシチューを口にして中毒死
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/364.html
トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。 「うっそォ……」 並大抵の出来事には動じないだけの経験をしてきたつもりの徐倫だったが、同じ広大な食堂でも刑務所の物とは全く違う内容に思わず呆気に取られていた。 幾人もの囚人がひしめき合う狭苦しさなど、ダンスホールのようなこの食堂には影も無く、態度のデカイ看守の代わりにメイド服姿の給仕が慎ましく貴族の食事を用意している。 ピカピカに磨かれた長テーブルの上には、徐倫のように粗末な穴倉飯を経験した事のない一般庶民でも十分感動出来てしまうほど豪勢な『朝食』が並んでいた。 "Oh, my GOD!!" 徐倫は思わずこの世界の不条理を嘆いた。 現代社会には有り得ない、分かりやすい身分制度の上下がこの食事一つに表されている。 「なんつー露骨な社会的格差ッ! あのメイドとあんたらが同じもの食ってるワケないわよね?」 「当然でしょ。ここの奉公人は皆平民よ。貴族と同じ物が食べられるわけないじゃない」 本当に微塵の疑いも無く言い切るルイズの言葉に、徐倫は眩暈がした。薄々感じていたが、この世界の社会は元の世界の中世時代に匹敵する。 もう自分の常識が通じる世界ではないのだと痛感した徐倫は、頭を抱えながらもルイズの促すまま彼女の席を引いて座らせた。 「……しかし、スゴイ料理ね」 ルイズに倣うように隣へ座る。 この世界の社会形態に当初は驚きもしたが、いざ食卓に着くと、別の感動が徐倫の中に湧き上がってきた。 言うまでも無く、一般的な庶民層出身の徐倫が食べた事はもちろん、見た事も無い豪勢な料理が視界一杯に並んでいる様はまさに圧巻だった。 「いや、ホントにスゴイわァ……」 呆けながら、無意識に顔はにやけてしまう。 目の前のでかい鳥のローストが徐倫を威圧し、同時に昨日から何も入れていない胃袋が強烈な空腹を訴えてきた。 空腹はもちろん、刑務所の粗末な食事に慣れていたこの体は、きっとテーブルの上のどの料理を受け入れても大いに満足する事だろう。 久方ぶりに『美味しいものを食べられる』という年相応の喜びが徐倫を子供のようにはしゃがせる。 「食べ物で釣られるなんて気に入らないけどさァ、朝からこんな豪勢な物食べられるんなら、あんたの使い魔も悪くないかもねェ~! ええおい! お嬢様ッ!」 既にナイフとフォークを握ってうずうずしている徐倫の肩を、ルイズがぽんぽんと叩く。不機嫌そうな視線が睨んでいた。 「え、何? ああ、はしゃぎすぎた? そうね、貴族の飯なんだから貴族らしくしないとねェ~!」 ルイズは無言で床を指差した。そこに皿が一枚置いてある。 「……皿ね」 「そうね」 「なんか貧しいものが入ってるみたいだけど」 「あのね、ホントは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」 徐倫は理解した。理解して、キレた。 「テメェー、ふざけんなァァーッ!! あたしは犬かいッ!? そーいう扱いはすんなって言ったでしょーがッ!」 「じゃあ、他の使い魔と一緒に馬小屋みたいな場所で食べる? ここに呼んだだけ、わたしはあんたを人間扱いしてんのよ!」 「奴隷扱いの間違いじゃないのォ!? せめて、そこのテーブルに着くくらいは許しないさいよ!」 「このテーブルは貴族専用よ! いい? あんたには自分の立場を理解してもらいたいの、あんたはわたしの『使い魔』としてここにいるのよっ」 「~~~……ッ!」 これ以上の言い合いが不毛であると察した徐倫は、歯を食い縛って口から出かかった罵詈雑言を飲み込んだ。 足元の皿には申し訳程度に小さな肉が浮いたスープと、その端っこに硬そうなパンが二個置いてある。直にではなく、ナプキンを敷いた上に、ちゃんとスプーンが置いてある辺り、確かに最低限人間扱いはされているようだった。 もちろん、それで気が収まるわけではないが、とりあえず徐倫は怒りの矛先を治めて床に腰を降ろした。 これが、本当に犬のようにただ皿が置かれているだけだったのなら、例えこの場にいる貴族(メイジ)全員を相手にする事になったとしてもルイズをぶん殴って大暴れした事だろう。 だが……ここは堪えた。まあいい。まだ、許容範囲内だ。ルイズへの負の感情は殺意にまで上昇したが。 自暴自棄になってはいけない。自分には『やるべき目的』があるッ! それは、この『魔法に関わる場所』に居付き、『元の世界に戻る方法を探す』という目的だッ!! 『不可能』と断言された現実を覆せる『道理を超えた方法』をッ!! 並大抵の事ではないのは理解している。だからこそ、この場所であってはならないのは―――『精神力』の消耗だ。 くだらないストレス、それに伴う『体力』へのダメージ! くだらない『消耗』があってはならない! かつて、徐倫は自分が果たすべき目的の為に地獄のような『厳正懲罰隔離房』の生活を耐え忍んだ時があった。汚物の臭いが漂う中で、虫の混じったパンを食った。 それに比べれば、こんな状況など『どうという事』無い。 『偉大なる始祖ブリミルの女王陸下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします―――』 テーブルに整然と座り並んだ貴族達が厳かに祈りを捧げる中、徐倫は意に介さずスープを啜った。 何が『ささやかな糧』だ。お前らの食事が『ささやか』ならば、こっちの食事は塵か豆粒みたいなモンだろう。 徐倫はこの国の名前などもう忘れたが、いずれここは革命で没落して歴史の教科書に載るだろう、と硬いパンを齧りながら思った。 質素ながらも、スープの味は刑務所で味わった文字通り臭い飯より何倍も美味しかった。 ただそれだけが、徐倫の中の苛立ちを僅かに解消してくれていた。 『ささやかな』朝食が終わり、次はいよいよ授業の時間らしかった。 徐倫にとっては待ち望んでいた時間だ。何はなくとも、まずはこの世界で主流となる『魔法』について知識を蓄えなければならない。 ルイズの『召喚の魔法』によってこの世界に呼ばれた以上、戻る為には同じ魔法の力が必要不可欠な筈なのだ。 徐倫を伴ったルイズが教室に入ると、先に来ていた生徒達がクスクスと笑い始めた。 徐倫に向けられた、完全な嘲笑である。 ルイズはその笑い声に顔を顰めて反応したが、もちろん徐倫は無視した。 ただ、他の生徒が連れる使い魔にだけ注意を払っていた。いずれも見た事の無い生物ばかりだが、それぞれをスタンドとして対応するぐらいの配慮は感じていた。どんな力があるのか全く未知数なのだ。 徐倫が適当な席に座ると、ルイズが睨んだ。 「……ここも貴族専用なワケ?」 「そう」 徐倫は何も言わず、ルイズの席の隣の床に腰を降ろした。 ルイズは文句を言わない徐倫の様子に首を傾げていたが、やがて教師のシュヴルーズが入室すると、そちらに集中した。 「皆さん、春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 やましい事はないのに後ろめたさを感じている表情だ。使い魔でありながら人間である自分が原因だと、徐倫は察したが、唇を噛み締めたルイズの横顔を一瞥する以外特にリアクションは取らなかった。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが、徐倫を見てとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 誰かの嘲る声が聞こえる。徐倫はもちろん気にしない。特に、これはルイズに向けられた嘲笑だ。 しかし、別段ルイズの事を想ってではないが……徐倫は苛立っていた。教壇の善人そうなババアは、悪意の有無はともかく、明確な意図を持ってルイズの失敗を話題に持ち上げた。 授業の流れを和やかにする為か何なのか知らないが、しかしこちらを『餌』として扱ったのは確かだ。 人の良さそうな顔をしているだけに、それが余計に気に入らない。 徐倫はいきり立つルイズの肩を抑えると、彼女の代わりに立ち上がり、シュヴルーズに向けて右腕を掲げ、中指を立てて微笑んだ。 「はじめまして、よろしくお願いします」 「え……ええ。よろしくね、使い魔さん。マリコルヌ、貴方もお止めなさい」 徐倫の出した右手のサインが一体どういう意味を持つのか分からないシュヴルーズは曖昧に笑って返していた。 場が治まったところで、怒りの矛先を見失ったルイズが憮然とした表情で尋ねてくる。 「ねえ、今の右手の形って、一体どういう意味なの?」 「あたしの世界の挨拶」 徐倫は何食わぬ顔で答えた。 ルイズは自分の右手の中指を立てた『Fuck You』のサインを見ながら首を傾げている。 もし、この『異世界の挨拶』がマヌケにも流行るような事があったら、その時は大笑いしながら本当の意味を教えてやろう、と徐倫は密かに笑いを堪えていた。 僅かなトラブルの後、授業は何事も無く進んだ。 この学院でも授業は春から始まるものらしく、授業内容は魔法に関する基礎的なものから始まっており、魔法初心者の徐倫にも辛うじて理解出来るものだった。 傍らのルイズからも補足を聞き出しつつ、魔法における基礎的な『四大系統』を理解していく。 『土』『火』『水』『風』の四種類ある魔法系統。ついでに失われた系統である『虚無』 更に、その系統を足す事によってメイジとしてのレベルは変わってくるらしい。並行使用可能な系統数に応じて 『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』と上位に階級が付けられる。 そのレベルでの可能な戦闘力や能力の範疇までは分からなかったが、少なくとも『トライアングル』のシュヴルーズは単なる石ころを真鍮に変えて見せた。 ……やはりレベルを計る材料としては、曖昧すぎて足りない。 分かるような分からないような、実感の無い異世界の知識に頭を掻いていると、徐倫はふと疑問を抱いた。 「……ルイズ、あんたは幾つ系統を足せるの?」 徐倫にとって最も身近で協力も仰ぎやすいルイズのメイジとしての実力を把握しておこうという考えで口にした疑問だったが、ルイズはその問いに黙り込んでしまった。 ひょっとして、成績は悪い方なのか―――? 少しばかり失望する徐倫は、しかしすぐにその考えを改める事になる。更に悪い方向へ。 「ミス・ヴァリエール! 授業を聞いていましたか? お喋りするほど余裕があるのなら、この『錬金』は貴方にやってもらいましょう」 徐倫との会話を見咎めたシュヴルーズが、そう促した。 何故かルイズ自身や周囲がその行為に対して、ひどく気の進まない反応を見せる中、徐倫は不審に思いながらも状況を見守っていた。手っ取り早くルイズの実力を見る事が出来るのだから、止める理由など無い。 「ご指名でしょ。行ってくれば? それとも何、『失敗する自信』があるワケ?」 小声で挑発染みた言葉を呟く徐倫をキッと睨むと、ルイズは意を決したように教壇へ向かった。 途端、周囲で劇的な変化が起こる。 まるで何か災害が発生する前触れを感知でもしたかのように、生徒達が一斉に各々の机や椅子の下に隠れ始めた。 その反応に徐倫もようやく危機感を感じ始める。沈没する船の中で、自分だけが救命ボートに乗り遅れてしまったかのような焦燥。 シュヴルーズだけがニコニコと見守る中、ルイズは一心に集中して呪文を唱え、杖を振り上げて、一呼吸後に振り下ろした。 その瞬間、石ころは机ごと爆発した。 「なんだそりゃァアアアアーーッ!!?」 予想の斜め上を行く、文字通りぶっ飛んだ結果に徐倫は絶叫しながらも、爆風の中『ストーン・フリー』を発動させる。 この世界で二度目のスタンド能力使用となるが、完全に使えるかどうか考える暇も無く無意識に使用していた。自分を守る為ではない、爆風で吹き飛ぶルイズに対してだ。 自分自身も爆風に煽られながら、『ストーン・フリー』の糸を伸ばして、飛んでいくルイズの背後に『ネット』を編み込む。それは丁度ボールをキャッチする網、体を支えるハンモックのように! 壁に激突する寸前でルイズの体はネットにキャッチされたが、その勢いで何本か糸が千切れ、フィードバックとなって徐倫の指先が裂けた。 距離があって『糸』の強度が落ちた事も原因だが、何より十分にネットを編み込む事が出来なかったのだ。放出できる糸の数や長さ、そして強度も想定よりずっと足りない。 「クソッ、スタンドパワーが落ちてるのか……ッ?」 血の滴る指を押さえながら悪態を吐く。 その周囲では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。室内での爆発は凄まじい影響を周囲に与える。使い魔達は混乱し、統制を失って暴れ狂っていた。 爆心地に近く、庇えなかったシュヴルーズは黒板に激突して、倒れたまま動かない。時折痙攣しているから生きてはいるようだ。 大惨事の犯人は、煤で黒くなったボロボロの姿でむくりと立ち上がった。 爆発そのものの影響は衣服以外に及んでいないらしく、怪我は無い。壁に激突する事もなかったので痛みすらなかった。もちろん、彼女は徐倫が助けた事に気付いていないだろう。 「……ちょっと失敗したみたいね」 ハンカチで顔を拭きながら、ルイズは淡々と呟いた。しかし、努めて冷静に教室内の惨状を流そうとしている事は明白だった。 当然のように他の生徒達から反論を受けるルイズを呆然と眺めながら、徐倫は混乱する頭で『ゼロのルイズ』という呼び名の意味を正確に理解していた。 『成功率ゼロのメイジ・ルイズ』 「……やれやれだわ」 なるほど、自分のご主人様の実力は理解した。 飛びたい気分だった。まず一歩、目的達成から『遠ざかった』のだ。 自分にとって最も身近な協力者が無能という現実を知り、徐倫は元の世界へ戻る道が長く険しいものだと改めて実感したのだった―――。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/255.html
ナイフの深く潜り込んだ腹の傷は酷かった。 大量の出血と共に、体の中の『熱』が、『力』が、『命』が、冷たい海水に消えていく。そのまま『意識』も……。 これが『死』だ……。 しかしッ、『空条徐倫』は恐怖していなかった。死など恐れていなかったッ! それは既にッ、『覚悟』が出来ていたからだッ!! 「ここは、あたしが食い止める!」 加速する時の中で、恐るべき速さで追撃してくるプッチ神父に対し、徐倫はあえて振り返った。立ち止まり、迎え撃つ為に。 背後で遠ざかっていくエンポリオの声が聞こえる。目の前からは鮫よりも速く恐ろしいプッチ神父が迫り来る。 仲間も父親も殺され、悔いも未練も残して、自分はこれから死のうとしている……しかしッ!! 徐倫は恐怖など微塵も抱いていなかった。 それは既に『覚悟』していたからだッ! 生きる事を諦めるのではなく、ここで死ぬ事を覚悟していたからだッ!! 奇しくも、徐倫は自らの意思でプッチの理論を証明していた! 『覚悟』は『絶望』を、吹き飛ばすッ!! 「来いッ! プッチ神父!!」 霞んでしか見えない死神の姿を捉え、使えるだけの力を搾り出して拳を繰り出し、徐倫は最後の咆哮を上げた。 「『ストーン・フリィィィーーーッ!!!』」 繰り出す拳が敵を捉えるより早く、加速した時の中で死が訪れる。 徐倫の決死の攻撃より何手も速く、『メイド・イン・ヘヴン』の攻撃が徐倫の魂ごと肉体をバラバラに切り裂いた。 首を斬り飛ばされたのか、宙を舞う視界の中、徐倫は最後に加速する世界の空を見た。 ロケットのように流れて消えてく雲。夜明けと夜更けは明滅するように繰り返され、太陽の軌道は線にしか見えない。 そんな加速する世界の中で一つだけ、不思議なものがあった。 きらきらと光る奇妙な『鏡』 それが一体何なのか、理解するより先に徐倫は途中で途切れた右手を伸ばし、そして……。 「あんた誰?」 抜けるような青空をバックに、徐倫の顔をまじまじと覗きこんでいる女の子が言った。 二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た。一人は星を見た。 そして、空条徐倫が見たものは―――。 ―星を見た使い魔― 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 「間違いって、ルイズはいつもそうじゃん!」 「さすがはゼロのルイズだ!」 (……ちょ、ちょっと待てェー! 何? 何なの、いきなりこの状況ッ!?) 何やら好き勝手騒いでいる周囲のギャラリーの中心で腰を抜かした徐倫もまた混乱の極みにいた。 黒マントなどという見慣れないファッションを共通して身につけた、元学生の自分とそう変わりない年頃の少年少女達が暢気に笑っている。 加速した時の中で全ての物質が風化し続ける混乱など、その平和な光景には影も形も見えなかった。 何より、空は青く、雲はゆるゆると流れ、太陽は輝いている。 (どうなってるんだ? あたしはまた、幻覚でも見せられているのか? それとも、ここは『天国』と呼ばれる場所なのか?) 完全に正常な『時の流れ』の中にあるこの空間で、バラバラになった筈の自分の手足が全くの無傷である事を確認して、徐倫は奇跡を感じるより先に疑惑を感じた。 これは、あるいは何かの『スタンド』の攻撃ではないのかッ!? ……もっとも、既に死に掛けていた自分に攻撃を仕掛ける利点と理由があればの話だが。 そう考えて、徐倫はちょっぴり冷静になった。 「あのォー、お取り込み中のところ悪いんだけど、ちょっと尋ねてもいいかしら?」 とりあえず状況を把握する為、徐倫は目を覚ました時最初に視界に居たピンク色の小柄な少女『ルイズ』に控え目に声を掛けた。 「うるさいわね! その通り今まさに取り込み中なのだから、あんたは黙ってなさい!」 「……そう、ごめんね」 (このガキャーッ! そんなの言葉のアヤでしょうが、質問にはしっかり答えろォー! 張り倒すぞッ!!) これまた時代錯誤なローブを着た中年のおっさんと話し込んでいるルイズに跳ね除けられ、表面は平静を装いながらも、久しく柄の悪いチンピラ根性を丸出しにする徐倫。 徐倫がギリギリ歯軋りしながら、何やら憤慨しているらしいピンクの頭を睨みつけていると、唐突に会話は終わり、ルイズが振り向いた。 「何? 話が終わったんなら、今度はこっちの質問に……」 「あんた、感謝しなさいよね。 貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」 「話を聞けーッ! ここは何処でッ、何故ここに私がいるのかッ、さっさと答え……ッ!?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 いよいよプッツンしそうになる徐倫を無視して、ルイズは杖を一振りすると呪文を唱えた。 敵意も殺意もない、かといって理解しがたいルイズの行動に一瞬呆気に取られた徐倫は当然のように、次の行動を遮る事も警戒する事も出来なかった。 「え?」 「ん……」 乙女の柔らかな唇が、同じ乙女の柔らかな唇によって奪われた。 何処からかズギューンッという音が聞こえた気がした。 「な、何するのよ!?」 我に返った徐倫は、狼狽しながら後退る。 元は一般人でありながら、数々の怪異に巻き込まれ精神的なタフさを身につけた徐倫だったが、この時感じた衝撃は全く未体験のものだった。 いきなりワケの分からない世界に放り込まれたと思ったら、最初にされた事が同性からのキスなのだ。普通は混乱する。誰だってそーなる、徐倫だってそーなった。 「何って、契約のキスよ」 「契約? 言ってる事が分からない。イカレてるのか、この状況で……?」 「イカレて……っ! 主人に向かってなんて口のききかたすんのよ!?」 「主人んんー? いつ、あたしがあんたの召使いになったって……!」 互いに喧嘩腰になり始めた時、唐突に沸騰するような熱さが体の中から湧き上がり、徐倫は言葉を途切らせた。 「ぐあっ!? ぐぁあああああっ、熱いッ!!」 灼熱の塊が血管の中を駆け巡るような感覚を味わい、徐倫はその場でのた打ち回った。 それを見下ろすルイズが苛立たしそうな声で言った。 「『召使い』じゃない、『使い魔』よ。今、『使い魔のルーン』が刻まれているところだから、待ってなさい」 「刻むなァーッ!! あたしの体に何をしやがった! くそっ、『ストーンフリー』!!」 この熱をルイズの攻撃であると判断した徐倫が自らのスタンドを具現化させる。 しかし、左手に集中し始めた熱のせいか、それとも神父にバラバラにされたせいか、彼女のスタンドは形を成さなかった。ただ、初めてスタンド能力を発動させた時のように指先が僅かに糸に変化しただけだった。 舌打ちした徐倫は、後はただひたすらこの熱が引くのを待った。 一方、喚き散らす使い魔の様子を眺めていたルイズは、彼女の指先がほつれた毛糸のように糸となって蠢く一瞬を捉え、困惑したが、すぐに目の錯覚であると納得した。 「ハァハァ……一体、なんなんだお前らは? 何が、したいんだ……?」 ようやく体の熱が冷め、平静を取り戻した徐倫は随分疲弊した声で呟いた。 何もかもが想定できる範疇を超えている。ただ一つ確かな事は、先ほどの激しい熱さの中で確信した『これは夢ではなく現実』という一点のみだった。 「何がしたいって、使い魔が欲しいのよ」 目の前の少女が、今ようやくまともに答えた気がした。その内容はやはり常軌を逸していたが。 「『使い魔』? あたしは人間よ」 「分かってるわよ。わたしだって平民を召喚する気なんてなかったわ」 「つまり、あんたがあたしをここに呼んだって事?」 「そうよ。不本意ながらね」 そうして、短い会話の中で徐倫はようやく少ないながらも貴重な情報を手に入れた。 これは現実で、自分はとりあえずちゃんと生きているという事。自分を生かし、ここに呼び込んだのが目の前の自分より随分小柄な少女である事。そして、その少女がかなりムカつくという事だ。 (どうやら、あたしはプッチ神父に殺される直前とはまた違ったヘヴィな状況に追い込まれたみたいね。久しぶりに飛びたい気分……) 「やれやれだわ」 父親の口癖だった呟きが意図せず徐倫から飛び出す。 なるべく直視したくない現実が彼女の目の前にあった。周囲を取り囲んでいた魔法使いみたいなマントを付けた学生達が、まさしく魔法使いのように次々と宙に浮いていた。 呆れるほどファンタジーな光景だった。 「本当に飛ばれると、言葉も無いわね……」 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 口々にそう言って笑いながら飛び去って行く。 残された二人の少女は互いに顔を見合わせた。種類は違えど、お互いに相手に対する不審を持って。 「……名前」 「え?」 睨み合いの中、先に口を開いたのは徐倫だった。あの熱が原因か、奇妙な文字の浮かび上がった左手の甲を擦りながら呟く。 「あたしの名前は『空条徐倫』よ。まず、あんたの名前は? そこから初めましょ」 「『クージョー・ジョリーン』 ……『ジョジョ』?」 「そう呼ぶのはママだけだ」 「……わかった。あたしはルイズよ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」 「ルイズ……」 『ジョリーン』と『ルイズ』 二人は互いの名前を心の中で反芻した。それはまったく深い意味のない行為だったが、これから長い付き合いとなるこの二人がした、記念すべき最初の歩み寄りだった。 「いろいろと質問があるわ」 「そうね。あんたがなんなのか、わたしもちょっと気になるわ。とりあえず、行きましょ」 「何処へ?」 「トリステイン魔法学院」 言って、ルイズは『魔法使いのような奴ら』が飛んでいった方向を指差した。 自分達が佇む草原の向こうに巨大な建物が見える。石で出来たアーチの門、同じく石造りの中世の造形に似た『学院』だという建物。よく見れば、今いる草原はあの建物の敷地の延長だった。 徐倫がかつて収監されていた、島全体が敷地である『グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所』にも匹敵する広大さだ。 「トリステイン『魔法』学院ね……」 いろいろと思うところのある徐倫だが、とりあえずそれは口には出さない。 自分に付いて来るのが当たり前、とでも言うように彼女を無視して歩き始めたルイズの背中を見つめ、ため息を一つ吐くと、徐倫もまた歩き出した。 最初の一歩を踏み出す瞬間に、奇妙な確信があった。 こんな場所に放り出される前の、多くの心残りを置いてきた状況がもう終わった事なのだと感じ、今この瞬間自分にとって新しい何かが始まりだしたのだと……そんな奇妙な確信が。 向かう先には、ルイズ曰く『トリステイン魔法学院』 石作りの世界。 かつての刑務所と同じように、徐倫が意図せず入り込む事になった、新たな『石の海(ストーンオーシャン)』であった―――。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/673.html
煙の晴れた中庭を前にしてルイズは天に向かって祈りをささげた (我等が始祖にして偉大なるブリミル、私何か悪いことを致しましたでしょうか? 今まで生きてきた中で嘘をついたことはあります、隠し事をしたこともあります ですが魔法が使えぬゼロという嘲笑に耐え、懸命に努力してきたつもりです たしかに神聖で美しく強い使い魔というのは高望みし過ぎたかもしれません、自分でもそう思います でもこれはあんまりじゃないでしょうか) 何度かの失敗の後でやっと呼び出すことに成功した自分の使い魔に視線を移す 髪の色は自分と同じピンク‐でも斑模様、服装はほぼ半裸‐三十過ぎがする格好ではない 平民という時点で問題外、外見でも不合格を宣告するには十分、駄目押しなのはその態度だ 私を、可憐でひ弱な百合の花の様な貴族の美少女を見て、怯えているとはどういうことだ 平民が突然こんな所に来れば混乱するのは無理も無いが、これはありえない 結論:これは使えない 「ミスタ・コルベール、もう一度召喚の儀式をやらせて下さい」 「ミス・ヴァリエール、それはダメだ」 あっさりと却下される 人事だと思って…、薄いの髪の毛だけではないらしい 神聖な儀式だの、伝統だの、ルールは絶対だの、再召喚が行えるのは使い魔が死んだ時だけだの、 どうでもいいことをまくし立てた挙句の果てに、時間が押しているからさっさと契約を済ませろと来た まあ確かに何時までもこうしている訳にはいかない、極めて不本意ではあるが契約を行うことにする 決してU字禿の言葉に押された訳ではない 口の中で呪文を唱えた後、怯える男に口付けをした 唇が離れた後、左手を抱えて男はのた打ち回りながら倒れた 私の唇に触れたのだから感激して涙するのが筋だろうに失礼な奴だ 刻まれたルーンを興味深そうに見ていたU字禿や私を馬鹿にしていた同輩が室内に戻ってなお、男は倒れたままだった その様を見て一人残ったルイズは声を上げる 「ほら、いつまでも寝てないでさっさと起きなさいよ」 反応がない いぶかしみながら、爪先でつついてみる ピクリとも動かない 「えっ!」 口に手をかざしてみる 息がない 「あれっ!?」 首に手を当ててみる 脈がない 「これって、つまり」 ■今回のディアボロの死因 ×ルイズにキスされたショックで死亡 ○ルーンを刻まれたショックで死亡
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/714.html
マリコルヌ・ド・グランドプレ――現在17歳、彼女なし、童貞 この物語は彼の熱き恋のHistoryである! 「ルイズの奴、平民なんか召喚してるぜ!」 「うるさいわね!この風邪っぴきッ!」 「誰が風邪っぴきだ!僕は『風上』のマリコルヌだぞ!」 「マリコルヌ君。時間がないですからちゃっちゃと済まして下さい」 落ちこぼれの同級生を茶化していた一人の生徒が教師に促される。 トリステイン魔法学院と呼ばれるこの場所は貴族の子息たちが集う学び舎である。 ただし、この学院で教えることは魔法学院の名の通り、この世界で絶対的権力を持つ 貴族たちのその立場を支える魔法と言う技術を教える場所であるのだ! 今日はその生徒たちの使い魔となり、そして彼らの今後を左右する重要な儀式 『サモン・サーヴァント』が行われていた。 「さて、『ゼロ』のルイズにこの『風上』のマリコルヌが 本当のサモン・サーヴァントを見せてあげよう」 「うるさいわね!失敗するところを見ててあげるわ!!」 「『ゼロ』の君と一緒にしないでもらいたいなぁ」 嫌味にニヤつきながら呪文を唱え、彼の前にゲートが現れる。 しかし一向に使い魔となる生物が現れない。 「あれあれ?風邪っぴきの使い魔さんが出ていらっしゃらないわ? ひょっとして使い魔になりたい生き物がいないのかしら?」 「う、うるさいな今に出てくるさ!それから僕は『風上』だ!」 それからしばらく待つも一向にゲートを通ってくる気配がない。 周りの同級生たちと教師の視線が突き刺さり、マリコルヌの心に 不安と言う名の雲が広がっていくその時であった。 ゲートの表面に変化が訪れ、一体の生物が姿を現した。 「きッ来たあー!ほら見ろ来たじゃないか!……あれ?」 「ひょっとしてコレって平民じゃないの?」 「君まで平民を呼ぶなんて……どうしたんだいマリコルヌ?変な顔をして」 マリコルヌは自分が呼んだ平民の少女に釘付けとなった 一目惚れというヤツである。 「マリコルヌ君まで平民を呼ぶとは……」 「なによ、自信タップリに言ってこの有様?なっさけないわね」 「本当にどうしたんだいマリコルヌ?顔が真っ赤だよ」 級友の嫌味や心配の言葉など耳に入らず、マリコルヌは女性に見入っていた 露出過多な服装に包まれた、猫科の動物を思わせるしなやかな肢体 気の強そうな顔立ち、その全てがマリコルヌの心臓を震わせ、 脳髄に走った熱い衝撃は彼を燃え尽きさせた。 「マリコルヌ君、早く契約を済ませなさい」 「……ハッ!?サーイエッサー!マリコルヌ契約を行いますですサー!」 鼻息荒くジワリジワリとにじり寄るマリコルヌ、その姿はハッキリ言って変質者のそのものだ。 そして少女の唇に自分の唇を合わせようとしたその瞬間! 彼の口に『見えない何か』が突き込まれた! 『テメェー!ナニキスシヨウトシテヤガンダァーッ!コノブタ野朗ガァー!!』 「おぶべッ!?」 『シャブレ!ワタシノ拳をシャブレ!コノドグサレガァッ!!!』 「おごごごご?!」 周りにいた者たちは何が起こったのかわからなかった。 契約を行おうとマリコルヌが顔を近づけたら、何故か口を限界まで開けて 地面に横たわったのだ! しかし、すぐにそれは間違いと気付いた。なぜならマリコルヌが何もない空中に 手を掲げて必死になって『何か』を掴もうとしていたからだ! 「マリコルヌ!何をやっているんだね?!」 「なんだか判らんがとにかく彼を助けねば!」 マリコルヌを助けようと教師や生徒が走り出す。 『コッチニクンジャネェー!コノコッパゲガァ!!』 「なんだ?!足が動かんッ!」 「うわわわ!?助けてくれ!僕のモンモランシー!」 『ゴキブリホイホイニ捕マッタミテーニ這イツクバッテロ!』 教師と多数の生徒たちがマリコルヌの手前で突然転んで地面に張り付けられたように 身動きが取れなくなっていた。 それと同時にマリコルヌの口に詰められていた『何か』が僅かに引き戻されるのを 感じ取り、跳ねるようにマリコルヌは飛び起きそして平民の女性に自分の顔を叩きつけた! 「うぶぶ…ぶはッ!な、何よアンタはッー!!」 唇を何かで塞がれた少女はその衝撃で目が覚め、自分が見知らぬ男にキスされている ことを知って二度衝撃を受けた。そして更に――― 「うあっ!熱ッ!」 胸に焼き鏝を押されたような衝撃を受け、三度に渡る衝撃で気を失った。 「お?おお!身体が動くぞ!」 「怖かったよーモンモランシー。君のその胸の中で僕を慰めてくれえー」 少女が気絶すると同時に張り付けられていた教師たちが起き上がる。 それを見て満足したようにマリコルヌは微笑むと、ファーストキスをしたことを思い出し その衝撃で気を失った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/17.html
(…どうしてよ? くやしかっただけなのに 私は、ただッ…) そろそろ気にしてもいいだろう 召喚した張本人は何をやっているのだろうか? ゼロのルイズこと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 彼女はペタリ座って事態を静観していただけだったが 決して頭が空ッポなわけでもなかった ルイズは普段バカにされていた 魔法成功率ゼロ%だから「ゼロのルイズ」 なのにスゴク負けず嫌いな彼女は 今回の使い魔召喚でキュルケのハナをアカしてやろうと決意していた それが「鳥の巣」である まあそこまではよかった よくないがよかった まさか自分がいきなり殴られてブッ飛ばされるとは思ってもみなかったのだから そして今、呼び出したあの使い魔が他の皆の使い魔やキュルケをキズつけている よくはわからないが痛そうだ 骨が折れてるかもしれない ふと自分の胸を見る さっき殴られたばかりだったが今やっと気づいた …ン!? えらいことになっている 胸がナイのは元々だ ムカツクが自分でもわかっている 問題にすべきは、胸元にあったはずのマント留めだ 割れてもいないし砕けてもいないが原型を留めていない グニャルンと曲がりくねっている 保存が悪くて液体が染み出してきた粘土細工のように タマゲたことに一部、シャツとも同化しているッ (コレに殴られたキュルケの手は…どうなってるの? まさか…全ッ然、動いていない 中で骨がグチャグチャにされた? あんなの、私の手に負えるのッ…) おそろしかった あれを呼び出したからこんなことになったのだ 爆発ズドンですむような笑い話ではない マント留めが元通りの形に戻るなんて思えない とりかえしのつかないケガをキュルケや他の使い魔に負わせているのだ ルイズの心は罪悪感と「ああ、やっぱりあたしはダメだ」的な敗北感一色に染まっていた クラスメートにはチョットやソットでは懲りない女と見られていたし ルイズ自身も意地だけを財産にしてきたが それも、これでポッキリ折れてしまいそうだった …グス スンッ… (泣くな、私… 泣いちゃ駄目…) それでもポタポタこぼれ落ちてくるのは止まらなかった (…アー、アー、みっともないこと!!) 男の攻撃でまたも地ベタに転がされたキュルケは 生徒達の中で泣いている宿敵に向かってツバを吐いた 血が混じっているので吐き出さないと気分が悪かった (アンタ、やっぱり「ゼロ」なの…? 空イバりだけのくッだらないヤツだったの? ちょっとは見せてもいいでしょ、甲斐性ってやつ) キュルケの多彩な趣味のひとつが ルイズのイヤがる顔を見ることだった だが彼女は極度のワガママでもある 泣き顔を見せられても不愉快千万ッ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (アンタが私に見せていいのはくやしがってる顔だけよ、ルイズ) だから、あの使い魔を生け捕って目の前で自慢してやる 地団駄踏ませてギャンギャンわめかせてやる これはいい 今から楽しみだッ 「言ったはずですわミスタ・コルベールッ 引っ込んでいろとッ!!」 「…ぬぅッ?」 そんな自分の快楽主義に水を差すタコをキュルケは許さない 再度の突撃で生徒達から離れた男を抹殺すべく コルベールは呪文の詠唱を始めていたのだ 二人、目が合う ギン わずかな睨み合い 平和ボケした貴族にはない眼光 コルベールとてただのハゲチャビンではなかった キュルケも見誤っていたらしい 一瞬気圧されては認めざるをえなかった 「…次で終わりますもの、余計な手をわずらわせることもありませんわ」 「二言はないね、ミス・ツェルプストー」 「くどいですわよ、ミスタ・コルベール」 対等な契約 こんなことになるはずではなかったが 単にそれだけのことだった 次でケリをつければいい、ただそれだけ… ギーシュに目配せをする あれで一応、生徒達の最前列に踏み止まっているのだ 逃げたりはしていなかった だが、言いたいことは山ほどあるらしい 「ミエを張らなくてもそこに立っていられるキミがうらやましいよ、ミス・ツェルプストー 実戦経験が豊富なんだね、よくわかったよ」 「…何が言いたいのかしら、ミスタ・グラモン」 「そんなキミがそれだけこっぴどくやられているんだぞォォーッ あんなパワーにスピードッ 射程距離なんか全然弱点じゃあなかった あの…平民相手に足下を石で固めて何になるっていうんだ すぐに壊して抜けてくるぞッ!!」 ギーシュの言うことは正しい 全身を岩で固めたところで動きを封じられるか怪しい相手だったのだ だがそれでもなお、あの男は「人間」なのだ だから 「あらギーシュ、それがいいんじゃない」 「何がいいもんかっ 早くミスタ・コルベールに任せて…」 「だからサイコーなのよ あのパワーにスピードが…」 ペロッ 自らの上唇を軽くなめるキュルケ 「いいから言われた通りにやりなさい そんなに『あのこと』バラされたい?」 「うぐっ…」 「『足元』よ、しっかり固めてね」 「ち、ちょっと待て、ぬかるみは…」 ハッ!? そのときギーシュは気がついた 『土×2』ッ!! キュルケの背後、数メイルに渡って 広く、きわめて浅いぬかるみに変わっていたのだ 草などはそのままだから、遠くからのパッと見ではわからないッ (いつの間にこんな…まさかッ さっき殴られたとき、スデに詠唱は完了していたのか 火を放ってから殴られるまでツッ立ってたのも これに気づかせないためだったのか 殴られる瞬間に発動することで、あいつはこれを完璧に見逃したッ!!) 「ファイヤ…ファイヤッ」 バフッ バウッ わずかな時間差と方向差をかけて火×1を二発 男に向けて逃げ場のないように撃ち込むキュルケ 「ファイヤ、ファイヤ、ファイヤァァァーッ!!」 ドボォオ 次々撃ち込む もちろん魔法とて代償なしには使えないのだ トライアングルメイジとはいえ、たとえドットレベルでも こうまでむやみに乱射しては弾切れなどあっという間ッ キュルケは殺すつもりで狙い撃っていた どのみち、作戦に失敗すればあの男は死ぬことになるのだ コルベールは優しくないようだから 「さっさと来なさいッ このフヌケぇぇぇぇ――ッ!!」 このモーレツな火球の雨あられに 一度は回避を決め込んでいた男も根負けした 反撃せねば焼き殺されてしまうッ ドムゥ 男の足から土煙が上がり、 そしてまたキュルケは殴り飛ばされていった ドボ ズドッ ドッ ズドボッ 地面上を何度もバウンドし、学園全体を覆う城壁まで飛んで―― ギュン ガシッ ブワワッ 先回りした誰かに受け止められた 青髪メガネの仏頂面ッ そいつは鳥の巣男に劣らない速度で飛び出し キュルケを受け止め見事に減速してみせた 「…あら、タバサ」 「……」 タバサと呼ばれたその女は特に何も言わず 黙ってキュルケに肩を貸す 「ホントにカワイイわね、アナタ♪」 スリスリ そのまま頬をすりつけられると、タバサは嫌そうに顔だけ押しのけた 戻れば決着はついていた ギーシュはうまくやってくれたのだ 二回目の攻撃の時点で足からの着地に成功していた男は 三回目でも問題なく「足から」着地し…その足を固められた 着地というのは足全体をクッションに見立てて行うもの 足首から下をいきなりギッチリ固められた男は全力で前につんのめった 「足首は固まったまま」!! 結果どうなるか 「UGUUUUuuuuuuu…」 そこに全てのパワーとスピードを乗せてしまった男の足首は いともあっさり折れてしまった 「これでもうほとんど動けないって寸法…『無力化』だわね」 これ以上逃げ回ったり抵抗しようというのなら 腕や膝で這い回らなければならないということ 今までより格段にノロければ恐れるに足りなかった 近寄らなければ万事解決…魔法で拘束する手段も、こうなればいくらでもあった 「にしてもブッソーな使い魔だこと 冷静に襲いかかられてたらどうなっていたか…」(トチューでヤル気なくしてたみたいだけど) 「……」 タバサは相槌も打たなかった 5へ
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/1948.html
停滞界のNPC ◆都市・名跡 ▲暴走都市ガルガンチュア 支配者:“全智の”グラシャラボラス 解説:大魔王であったグラシャラボラスが統治していた魔都。それ自体が巨大なゴーレムであり、大魔王の意思ひとつで自在に動き回る能力を持っていた。しかし、グラシャラボラスが姿を消してからは制御不能となり、進路にあるものすべてをひき潰して暴走し続ける歩く災厄となっている。大魔王の遺物を求めて侵入する魔族はあとを絶たないが、彼らの話によると、内部は相当に危険な状態らしい。 ▲魔界図書館本館 支配者:“記録者”ニネヴェ 解説:あらゆる魔界の中でも、最大級の大きさを誇る停滞界の魔界図書館。知識の範囲は停滞界だけではなく、他の魔界にまで及び、ありとあらゆる文書がここに収められているとまで言われる。ここが全ての魔界にある魔界図書館の本館であると主張しているが、根拠があるわけではない。 地上6階層、地下9階層で構成されているが、地下7階から9階までは一般に開放されておらず、司書以上の役職を持つ者か、司書長の許可のあった者以外は立ち入りを許されていない。ここの支配者でもある司書長のニネヴェは、全ての蔵書の位置と内容を記憶しているという。 図書館の巨大さに比例して、司書をはじめとする職員の数も多く、書物の探索・奪取・防衛を目的とした専用の戦闘部隊すら存在している。 ◆停滞界のNPC ▲“不変公”マステマ 階級:魔王 領地:無窮都市ペルペトゥム 性別:両性具有 魔族特性:闇の翼、鋭敏感覚、名器、魅惑の声、子供 魔王特性:飛天魔、天魔 解説:「うむ、満足のいく報告であった。ではそのようにせよ」 かつては大魔王であった頃のグラシャラボラスの奴隷だったという古い魔族。その容姿から出自は堕天使であったと囁かれているが、噂・憶測の域を出てはいない。偏執的なまでに警戒心が強く、自らの王宮から出ることは滅多にない。その反面、自分に従う素振りを見せる相手は無条件に信頼してしまう。魔界では非常に珍しいことに、己の魔都を強烈な統制下に置いている(つもりでいる)が、実際は部下による腐敗が横行している。 ▲“水晶伯”フローリン 階級:魔王 領地:氷晶都市アウレウス 性別:女性 魔族特性:メガネ、豊饒の乳房、闇の紋章、傾国の美、人間 魔王特性:大魔道、テクノロジスト 解説:「コインを天秤に乗せれば、魂が天国に飛び上がる……。まあ、天秤に乗ってるのがその魂だけど」 施設の多くが透き通った水晶で作られた荘厳な都市アウレウスを統治――「経営」している魔王。錬金術師としても名高い彼女だが、しかし一般的にはそれよりも商人として知られている。彼女は魔界のありとあらゆるものを売る。それが実体のあるものであろうとなかろうと、相手が誰であろうと、彼女に利益をもたらすと考えたならば躊躇うことはない。その結果、彼女の魔都であるアウレウスは、全体がひとつの巨大な市場の様相を呈している。 時には誤情報を売ることで戦を引き起こすことすらある。戦争は金になるからだ。 ▲“疑心の公女”グレシール 階級:大魔将 領地:呪術都市ナハシュ 性別:両性具有 魔族特性:闇の翼、悪魔の尾、角、支配の魔眼、魅了の魔眼 魔王特性:魔界貴族 解説:「あがく姿は美しい。あなたもそう思うでしょう?」 マステマ傘下の大魔将。真偽の入り混じった情報でマステマの不安を煽って信頼を得、時にソウルをばら撒いてマステマの部下を抱きこみ、ペルペトゥムの腐敗に一枚噛んで甘い汁を吸っている。しかし、利権がグレシールの最終目的というわけではない。最終目的は、力を蓄え、魔界王――停滞王として停滞界に君臨することだ。マステマはそのための踏み台に過ぎない。まだ先のこととはいえ、もしグレシールが計画を実行に移したとしたら、停滞界全体に影響を与える大事件となるだろう。 ▲“雷侯”ラファール 階級:モンスター 領地:絶叫の峡谷 性別:両性具有 魔族特性:なし 解説:「この空は私の空。許可なく立ち入ったなら、問答無用で墜としてやるわ」 絶叫の峡谷に居を構えているサンダードラゴンの姫。モンスターでありながら他の魔族たちと外交上の関係を結び、停滞界の空に絶大な影響力を及ぼしている。性格はドラゴンらしく気まぐれにして苛烈。 ほとんどの魔族は、内心ではモンスターである彼女を格下に認識しているが、彼女とその勢力の戦力を警戒し、その態度を表に出すことはない。 ▲“虚無博士”ヘラルド 階級:モンスター 性別:男性 魔族特性:なし 解説:「やはり人間は耐久性に問題があるな……」 呪術都市ナハシュの“疑心の公女”グレシールに仕えるレイス。かつてはリッチであったが、完全性を求めた結果完全に肉体を失い、精神だけの存在となった。朽ちた肉体を失ったことで、逆に若々しく美しい姿となっている。魔力は強大であるが、物理的な干渉を受けにくい反面与えにくくもある。 日々人間奴隷や魔族奴隷を用いた実験を行い、独自のアイテムを作り出しているが、そのほとんど全てが呪いの品であり、奴隷を責めるための道具として高値で取引される。また、その一部は主であるグレシールに献上されている。なお、彼にとって自分以外の存在はすべて「資金源」か「実験材料」のどちらかに分類される。