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銀河を駆ける歌声 UNIT U-013 緑 発生 赤/緑 3-6-2 M エース(2) 戦闘配備 強襲 高速戦闘 装填(1) 《[3・5]》武装変更〔マクロス・クォーター〕 (戦闘フェイズ):《(1)》このカードは、ステップ終了時まで敵軍ユニットの効果の対象にならない。 特徴 艦艇 LLサイズ [6][2][6] 出典 「マクロスF」 2008 多くの特殊効果に加え、ユニット限定の回避能力を備えた、SMS旗艦の強襲形態。 マクロスクルセイド現環境下では回避対象となるユニットが少なく真価を発揮する事は少ないが、クルセイドシリーズ統合で見れば非常に強力なユニット。 エース値が厄介になれば武装変更で戦艦形態に戻ってしまえば良い等、使い勝手は良い。 今後、厄介な対ユニットテキストを持つユニットが増えれば活躍の機会が増えると思われる。
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クロス 偉大なる勇者 CHARACTER CH-017 黒 発生 緑/黒 1-2-0 C (自動A) このカードがセットされているユニットは、「超合金」を得る。 マジンガー系 男性 大人 [2][0][0] 出典 「マジンガーZ」
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前ページ次ページみつめてナイトクロス なんなんだよ、この場所は? 俺、シン・アスカはすでに何度と無く繰り返した言葉を胸中で反芻する。 辺りを見渡せばそこはいわゆる別世界。中近世風ヨーロッパとでも言えばいいのだろうか。 ところどころには煉瓦を用いた建築物があり、レトロな雰囲気の町並みだ。 それだけじゃない。街にはまばらだが剣を腰にさし、鎧を身にまとっている人間もいる。 街を勢いよく疾走しているのはいわゆる馬車って奴か? まるで映画の世界に紛れ込んだような錯覚を覚える世界。そんな所に俺はいる。 あの裏切り者を追いかけている途中だったというのに、突如雷に打たれて気がついたらこの世界に 飛ばされていた。不条理にも程があるとは思うけど現実は非情だ。 「主様~。」 頭の上から声が聞こえてくる。 「なんだよ、運命。」 俺は顔を上げ、ややげんなりとしながら答える。そこにいるのは俺がこの世界において感じた 不条理の最たるものだ。俺の頭上では手のひらサイズの美少女妖精が赤い羽根を生やして浮遊している。 これがなんと俺の愛機デスティニーのこの世界での姿だという。 「あんまり周りをきょろきょろしながら歩くと変な人に思われてしまいますよ。」 「しょうがないだろ。まだこの世界に慣れないんだから。」 「でも慣れて行きませんと。明日は皆に来るんですから!」 ビシっと一指し指を天にかざしていう運命。やたらと前向きな元MSだと思う。 ちなみに運命の姿は俺以外には見えない。周囲に不審者と思われない為にも会話には細心の注意を 必要とする。最初それを知らずに周囲から冷たい視線を受け取ったのは苦い思い出だ。 「主様はこの世界ではこの国、ドルファンの傭兵なんですから。衣食住はとりあえず保障されてますし。」 「俺もこんな格好をする事になるとは思わなかったよ。」 改めて俺は自分の格好を見直す。着ているのはパイロットスーツではなく、ザフトの赤服でもない。 青の上着と黒のズボン。この国の軍の制服としては標準的なものだ。 「こんな世界に来ても戦争か。正直やってられないな。」 俺がそう呟いて建物の角を曲がったとき 「きゃっ!」 短い悲鳴と共に俺の身体に衝撃が走り、軽く何かが地面に着く音がする。 前を見ると少女が座り込んでいる。どうやら俺とぶつかってしまったらしい。 「ご、ごめん。大丈夫か?あんた。」 俺は慌てて駆け寄る。 黒髪を三つ編みにし、いわゆるセーラー服を身にまとった少女。学生か。 顔はまだ伏せられている。大丈夫か? 「ごめんなさい。周囲に気をとられていて……。」 少女が静かな声で謝罪する。 「立てるか?」 俺は少女に手を差し伸べる。 少女の顔が上げられる。人形のように端正な顔立ち、何かを見通したような静かな眼差し。 場違いながら俺は一瞬見とれていた。すると少女の眼が不意に厳しくなる。 「あなた……傭兵?」 「あ、ああ。一応そうだけど。」 少女の問いに俺は多少どもりながら答える。胸がわずかに早く鼓動を刻んでいる。 「私はライズ・ハイマー。よければあなたの名前を教えて欲しいわ。」 「俺はシン、シン・アスカだ。」 答えた俺が差し伸べていた手を彼女はとる。赤い手袋に包まれた手で。 「そう。シン、っていうの。」 ここに二つの運命が交錯した。 前ページ次ページみつめてナイトクロス
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マクロスなのは 第25話『先遣隊』←この前の話 『マクロスなのは』第26話「メディカル・プライム」 八神はやては部隊長室で、今後の六課の運用について思索をめぐらせていた。 脳内会議の議題に上がっているのはカリムの預言の事だ。 設立から半年。六課はその任務を忠実に果たし、今に至る。現状に不満はない。しかし不安要素はあった。それは『〝事〟が、六課の存続する内に起こるのか』という問題だ。 六課はテスト部隊扱いのため、あと半年足らずで解体される。1年という期間は何もテキトーに決めた期間ではない。聖王教会と本局の対策本部が議論の末導き出したギリギリのラインだ。 今より短い場合の問題は言わずもがなだが、逆に長いとそれはそれで問題がある。今でこそガジェットの出現から出動数が多く、各部隊からの信頼も厚い六課だが、当時は必要性の認識が薄かったため本局でさえ設立には渋ったのだ。それは予算の問題のみならず、当時対立関係にあった地上部隊が黙っていない。という意見もあったからだ。しかしこの問題は『地上部隊のトップであるレジアス中将が賛同した』というイレギュラーな、しかし嬉しい出来事から片づいている。 だがもう1つ問題が上げられていた。それは六課への過剰な戦力集中だ。地上部隊20万人の内、4万人は事務・補給・支援局員である。 そして残る16万人を数える空戦魔導士部隊や陸士部隊である純戦闘局員の内10人ほどしかいないSランク魔導士を八神はやて、高町なのは、ヴィータ、シグナムと4人も六課に出向させている。 このランクの持ち主は『北海道方面隊など6つある地方方面部隊、5個師団(2万7千人)に1人いるかいないか』という希少な戦力であり、本局ですら少ないSランク魔導士のこれほどの集中投入は極めて思い切った人事だった。 そのため『気持ちは分かるが、そう長くは留めて置けない』というのが周囲の本音だった。 仮に1年後に同じような部隊を本局主導で再編する場合を考えても、地上部隊を頼れない分、生み出されるであろう戦力の低下は憂慮すべき問題であった。 そこで『何か妙案がないだろうか?』と思考をめぐらせていたはやてだったが、その思索は打ちきられることになった。 空中に画面が浮かび、電話の呼び出し音が締め切った室内の空気を震わす。画面の開いた場所は左隣の人形が使うような小さなデスクだ。本来なら補佐官であるリインが受けるはずだが、今ここにいないことは承知済み。右の掌を空中にかざして軽く右に滑らせると、その動作を読み取った部屋が汎用ホロディスプレイを出現させる。この部屋だと電灯のスイッチなどの操作を行うものだが、こんな時のために電話もその機能に加えている。おかげで次のコールが鳴る前に通話ボタン触れることができた。 「はい。機動六課の八神二佐です」 サウンドオンリーの回線だったが、 直接外部から電話がかかることはなく、地上部隊のオペレーターを経由したルートが普通だ。しかし聞こえてきた声はオペレーターの声ではなく、レジアスのものだった。 『はやて君か。いきなりで悪いが1330時頃にこちらに来てほしい』 「え? ほんとにいきなりやなぁ・・・・・・もちろん何か買ってくれるんよね?」 はやての冗談にレジアスは電話の向こうで豪快に笑う。 『なるほどな。グレアムのヤツがそうやって「部下がいじめてくる」と嬉しそうに嘆いていた意味がようやくわかったよ』 レジアスのセリフに、はやては「バレてたか」と苦笑いする。 グレアムは以前本局の提督を勤めていた人物で、当時足が悪く両親のいなかったはやての、いわゆるあしながおじさんであった。 またはやて自身、『闇の書事件』の責任を取って自主退職するまでのほんの1年だけ彼の元に嘱託魔導士として配属されており、当時同事件で主犯者扱いされていたはやてが管理局に慣れるよう手を尽くしてくれていた。 彼女を学費面での援助によってミッドチルダ防衛アカデミーに入学させてくれたのも、管理局で風当たりの悪かった当時の身の振り方を教えてくれたのも彼だった。 閑話休題。 『・・・・・・まぁ、実際買ったのだがな。きっと君も驚くだろう』 「え、いったいなんなのや?」 『ああ、─────だ』 レジアスが口にしたその名は、確かにはやてが驚くに十分値するものだった。その後はやては2つ返事で了解し、身支度のために席を後にした。 (*) 同日 1200時 訓練場 午前中に行われた抜き打ちの模擬戦になんとか勝利した六課の新人4人は、一時の休憩に身を任せ、地面に座り込んでいた。そこへなのはにヴィータ、そしてフェイトを加えた教官陣がやってきた。 「はい。今朝の訓練と模擬戦も無事終了。お疲れ様。・・・・・・でね、実は何気に今日の模擬戦がデバイスリミッター1段階クリアの見極めテストだったんだけど・・・・・・どうでした?」 一同の視線が集まるなか、後ろのフェイトとヴィータに振る。 「合格」 「まぁ、そうだな」 2人とも好意的な判断。そしてなのはは───── 「私も、みんないい線行ってると思うし、じゃあこれにて1段目のリミッター解除を認めます」 その知らせを耳にした4人は〝やったぁ!〟とうれしさのあまり座り込んでいた地面から跳ね上がる。 「お、元気そうじゃないか。それじゃこのまま昼飯抜きで訓練すっか」 ヴィータのセリフに4人の子ヒツジは青ざめ、一様に首を横に振った。 彼ら新人にとって唯一の平安といっても過言ではない食事の時間は絶対不可侵の聖域であり、守らねばならぬ最終防衛ラインだった。 「も~、ヴィータちゃんったら」 なのはに言われヴィータは 「冗談だよ」 と、猫を前にしたハムスターのような目をした4人に言ってやる。 しかし彼女の目が〝本気(マジ)〟だったことを書き添えておこう。 落ち着きを取り戻した4人にフェイトが指示を続ける。 「隊舎に戻ったらまず、シャーリーにデバイスを預けてね。昼食が終わる頃にはデバイスも準備出来てると思うから、受け取って各自しっかりマニュアルを読み下しておくこと」 それにヴィータの補足が付く。 「〝明日〟からはセカンドモードを基本にして訓練すっからな」 しかしその補足を聞いた4人は、自分達が間違っていると思ったのか空を仰ぐ。真上に輝く真夏の太陽は、まだ時刻が正午であることを知らせていた。 「〝明日〟ですか?」 「そうだよ。みんなのデバイスの1段目リミッター解除を機会に、私とヴィータ教官のデバイスも全面整備(フルチェック)とアップデートをすることになったの。だから今日の午後の訓練はお休み。町にでも行って、遊んでくるといいよ」 なのはのセリフに、4人は先ほどを数倍する大声で、喜びの雄叫びを上げた。 (*) 同時刻 フロンティア航空基地 第7格納庫 「あと30分で出撃だ。しっかり頼むぞ」 愛機であるVF-25を引っ掻き回している整備員達に檄を飛ばす。 彼らはそれぞれの仕事をこなしながらも 「「ウースッ」」 と、まるで体育会系のような返事を返す。そして点検項目を並べたチェックボードを効率よく埋めて、整備のために開けたパネルやスポイラーを定位置に戻していった。 そんな中、こちらへと1人の整備員がやってきた。しかし他の整備員と違ってそのツナギはあまり機械油に汚れていないように見える。どうやら新人らしい。 「どうした?」 「はい、アルト一尉。恐縮ですが、モード2のバトロイドのモーション・マネージメント比は今までの1.50倍で良いでしょうか?先ほど戦闘のデータを見る機会があったのですが、自分の見立てではあと0.04増やした方が動かしやすいように思います」 幾分か緊張した様子の新人に言われて初めて思い出す。そう言えば確かに前回戦闘の最中、そのような違和感を覚えたような気がする。もっともSMSへの先行配備の段階から乗っているVF-25という機体なので多少の誤差など十分カバーできるが、修正するに越したことはなかった。 「よく気付いたな。そうしてくれ」 答えを聞いた新人は満面の笑みを作って 「はい!」 という返事とともに敬礼し、再びバルキリーに繋がれたコントロールパネルに返り咲いた。そこで航空隊設立当初からVF-25のアビオニクスを任せている担当者が 「やっぱり言ってよかったじゃねぇーか」 と、入力する新人の肩をたたく。 「俺達でもコイツのことは完全には把握してないんだ。だからこれからも新人とか専門外とか関係なしにどんどん聞いてくれよ!」 「はい!・・・・・・じゃ先輩、さっそくひとついいですか?」 「おう、なんだ?」 「明日地元から彼女が来てくれるんです!それでクラナガンでデートしたいと思うんですが、どこかいいスポット無いですか?」 「え・・・・・・彼女とデート?あ・・・・・・いや、俺はそういうのよくわからなくて・・・・・・その・・・・・・だな」 こういう事象に対しては知識がないのか大いに困っているようだ。そこへ彼の同期がデートと言う単語を聞きつけたのか機体越しに呼びかけてきた。 「どうしたんだよシュミット?お前俺たちと違ってモテるだろ?意地悪しないでデートスポットの一つや二つ教えてやれよ!」 「そういうわけじゃねぇんだよ加藤!」 「じゃあなんだよ?」 「だって・・・・・・なぁ?」 困ったように言うシュミットに安全ヘルメットを外してポニーテールの長髪を垂らした新人が 「ふふふ」 と蠱惑的に微笑んだ。 (*) その後彼女は 「キマシタワー!」 と叫びながらやってきた女性局員や、 「なになに?諸橋(その新人)に〝彼女〟がいるって!?」 とVF-25の整備を終えて集まった整備員集団に囲まれていた。しかしその顔触れはアビオニクス担当者であるシュミット、そして新人を含めて全員自分と同年代ぐらいだった。別に特殊な趣向を持った人間がそう、というわけではない。この航空隊に所属する整備員はほとんど同年代なのだ。 これはこのミッドチルダでOT・OTMという新技術に、最も早く順応したのが彼らのような若者であることの証左であった。 もっとも教養としての現代の技術はともかく、OTMはゼロスタートであったおかげで3カ月前まで整備の質はあまり良くなかった。それが第25未確認世界でも最新鋭機であったVF-25なら尚更だ。 しかし最近ではアビオニクスを整備するシュミットのような人材が育ってきてくれたおかげでなんとか乗り手である自分や、たまに技研から出張してくる田所所長などに頼らなくても良いぐらいの水準に到達していた。 しばらく馴れ初め話を語る諸橋とデートスポットの位置について真剣に話し始めた彼らの様子を遠巻きに眺めていたが、整備が終わった彼らとは違い、自分の仕事は目前に差し迫っている。名残惜しいが列機を見回ることにした。 まずはVF-25の対面で整備が急がれている天城のVF-1B『ワルキューレ』だ。 純ミッドチルダ製であるこの機体は、製作委任企業であるミッドチルダのメーカー『三菱ボーイング社』の技術者が、わざわざ整備方法を懇切丁寧に講義していた。そのため比較的整備水準は初期の頃から高かったようだ。 現在パイロットである天城はコックピットに収まり、ラダー等の最終点検に余念がなかった。 まるで魚のヒレのように〝ヒョコ、ヒョコ〟と垂直尾翼や主翼に付けられている動翼であるエルロンが稼動する。 「あ、隊長」 こちらに気づいた天城は立ち上がると、タラップ(はしご)も使わずコックピットから飛び降りる。 コックピットから床まで3メートルほどあり、生身なら体が拒否するところだが、その身に纏ったEXギアが金属の接触音とともに彼の着地をアシストした。 「今日のCAP任務が8時間ってのは本当っすか?」 「そうだ。今日はだましだまし使ってきた機体の総点検らしいからな。六課にいて一番稼働率が少なかった俺たちで時間調整するんだと」 「・・・・・・ああ、そうですか」 気落ちした表情に続いて小声で 「俺は六課でも出撃率100%だったのに・・・・・・」 という天城の嘆きにも似た呟きが聞こえたが、どうしようもないので 「まぁ、頑張れ」 と肩を叩いてその場を離れた。 次にVF-1Bの隣りに駐機するさくらのVF-11G『サンダーホーク』に視線を移す。 こちらは元の世界でも整備性が高い機体なので、性能に比べて整備が容易になっている。そのためかこちらにはもう整備員の姿はなく、さくら自身が最終点検を行っていた。 サーボモーターなどを使い、電子制御で機体の操縦制御を行う形式であるデジタル・フライバイ・ワイヤの両翼の動翼に、順番に軽く体重を乗せて動かない事を確認する。 そして次に『NO STEP(乗るな)』という表示に注意しながら上に昇ると、整備用パネルが開いていたり、スパナなど整備員の忘れ物がないか確認していく。 よほど集中しているのかアルトが見ていることには気づいていないようだった。しばらくその手際眺めていると、後ろから声をかけられた。 相手はVF-25を整備していた整備員だ。どうやらようやく全ての点検・整備が終わったらしい。 アルトはもう一度点検を続けるさくらを流し見ると、自らの愛機の元へ歩き出した。 (*) 1330時 機動六課 正門 そこにはヴァイスのものだという、このご時世には珍しい内燃機関の一種である、ロータリーエンジン式のバイクに跨がって六課を後にしようとしているティアナ達と、見送るなのはがいた。 「気をつけて行ってきてね」 「は~い、いってきま~す!」 なのはの見送りに後部座席に座るスバルが返事を返すと、ティアナは右手に握るアクセルをひねった。 石油ではなく水素を燃料とするそれは電気自動車や燃料電池車の擬似エンジン音だけでは再現できない振動やエンジン音を轟かせて出発する。そして狼の遠吠えのようなエキゾーストノートを振り撒きながら海岸に続く連絡橋を爆走していった。 なのはは背後の扉が開く気配に振り返る。するとそこには地上部隊の礼服に袖を通したはやての姿があった。 「あれ? はやてちゃんもお出かけ?」 「そうや。ちょっとレジアス中将に呼ばれてな。ウチがおらん間、六課をよろしく」 「は!お任せください!八神部隊長」 わざと仰々(ぎょうぎょう)しく敬礼するなのはに、 「似合えへんなぁ」 とはやてが吹き出すと、なのはもつられて笑った。 その後はやてはヴァイスのヘリに乗って北の空に消えていった。 (*) その後ライトニングの2人を見送ったフェイトと合流したなのはは、 「(フェイトの)車の鍵を貸してくれ」 というシグナムに出くわしていた。 「シグナムも外出ですか?」 フェイトがポケットから鍵を取り出し、シグナムの手に置きながら聞く。 「ああ。主はやての前任地だった第108陸士部隊のナカジマ三佐が、こちらの合同捜査の要請を受けてくれてな。その打ち合わせだ」 「あ、捜査周りの事なら私も行った方が─────」 しかしフェイトの申し出は 「準備はこちらの仕事だ」 とやんわり断られた。 「お前は指揮官で、私はお前の副官なんだぞ」 そう言われてはフェイトに反論の余地はない。 「うん・・・・・・ありがとうございます─────でいいんでしょうか?」 「ふ、好きにしろ」 そう言ってシグナムは駐車場の方へ歩いていった。 なのははそんな2人を見て、『知らない人が見たらどっちが上官なのかわかるのかな?』と思ったという。 (*) その後デスクワークをしなければならないというフェイトと別れ、なのはは六課隊舎内にあるデバイス用の整備施設に到着した。 「あ、なのはさん」 画面に向かっていたシャーリーが振り返って迎え、その隣にいたヴィータも 「遅かったじゃねーか」 といつかのように婉曲語法で自分を迎えた。 「ごめん、ごめん。それでどう?上手く行ってる?」 なのはは言いながらシャーリーの取り組んでいる画面を後ろから覗き見る。 自らのデバイス『レイジングハート(・エクセリオン)』は昼飯前からシャーリーに預けられており、アップデートは開始されているはずだった。 「はい、あと2時間ぐらいでアップデートは終わる予定です」 プログラムを構築したシャーリーの見立てにミスはない。ディスプレイに表示された終了予定時間は1時間以下だったが、こういう終了時間は信用できないのが世の常。それを証明するように次の瞬間には3時間になったり30分となった。 ヴィータの方も似たり寄ったりで、プログラムのアップデート率をみる限り、自分の1時間後ぐらいに終わるだろう。 しかしなのはは画面を眺めるうちにあることに気づいた。 自分とヴィータだけでなく、まだもう1つデバイスのアップデート作業が進行しており、もう間もなく終わりそうなことに。 検査兼整備用の容器に入った待機状態のそのデバイスは〝ブレスレット型〟だった。 「ねぇシャーリー、あのデバ─────」 デバイスは誰の?とは問えなかった。その前に持ち主がドアの向こうから現れたからだ。 「あ、なのはさん、お久しぶりです!」 地上部隊の茶色い制服に身を包み、ニコリと嬉しそうに挨拶する緑の髪した少女、ランカ・リーがそこにいた。 (*) ランカは本局の要請で無期限の長期出張に出ていた。 行き先は〝戦場〟だ。 第6管理外世界と呼ばれる次元世界で行われていた戦争は、人対人の戦争ではなく、対異星人との戦争だった。 本来管理局は非魔法文明である管理外の世界には干渉しないのが基本方針だったが、その世界の住人は管理局のもう1つの任務に抵触した。 それは〝次元宇宙の秩序の維持〟だ。 彼らは70年程前に次元航行を独自に成功させ、巡回中だった時空管理局と遭遇したのだ。 運の良いことに極めて友好的で技術も優秀な人種であったことから、1年経たないうちに管理局の理念に賛同した彼らと同盟を結ぶに至った。 以後管理局は次元航行船の建造の約8割をその世界に依存しており、管理局の重要な拠点だった。 しかし2ヶ月前、その世界で戦争が勃発した。 その異星人は我々人間と同じく〝炭素〟ベースの知性体(以下「オリオン」)であったが、彼らは突然太陽系に入ると先制攻撃を仕掛けてきたのだ。 当然管理局に友好的だったその惑星(以下「ブリリアント」)の住人は必死に応戦する。 管理局との規定により魔導兵器縛りだったが兵器の技術レベルではなんとか拮抗。戦力は圧倒的に劣っていた。しかしブリリアント側にはある〝技術〟があった。 次元航行技術だ。 この技術は実は超空間航法『フォールド』と全く同じ技術で、第25未確認世界(マクロス世界)とオリオンの住人達は知らなかったが、空間移動より次元移動に使う方が簡単だった。 この技術によってオリオン側の先制攻撃と戦力のメリットを塗り潰し、比較的戦いを有利にすすめた。 しかし所詮防衛戦でしかなく、オリオン側の恒星系の位置がわからないため、戦いは長期化の様相を呈していた。 だが捕虜などからオリオンの情報がわかるにつれて、戦争の必要がないことがブリリアント側にはわかってきた。 彼らの戦争目的は侵略ではなく〝自己防衛〟だという。 何でも彼らの住む惑星オリオンからたった数百光年という近距離にあったため、 「ベリリアン星の住人が攻めてくる!」 という集団妄想に駆られたらしい。 それというのもブリリアント側が全く気にしていなかった、それどころか最近までまったく観測すらしていなかったものが原因であった。それは次元航行に突入する際に発生してしまう短く超微弱なフォールド波だ。 これを次元航行発明から70年間完全に垂れ流しつつけ、これを受信したオリオンが盛大に勘違いした。 彼らにはまだフォールド技術は理論段階で、空間跳躍以外の使用法を全く思いつかなかった。そのため管理局に造船を任されてどんどん新鋭艦を次元宇宙に進宙させていったブリリアントの行為は、オリオン側にとって奇怪に映った。船を造ってどんどんフォールドするのはわかる。宇宙開発というものだとわかるからだ。しかし恒星外にフォールドアウトするでもなく、ただため込んでいるようにしか見えないその行為は、オリオンの住人にとって艦隊戦力の備蓄と思われてしまったのだ。 そう勘違いしてしまったオリオンは半世紀の月日をかけてフォールド航法を理論から実用に昇華させて、のべ一万隻もの宇宙艦隊を整備。そして今、万全の準備をして先制攻撃に臨んだようだった。 しかし実のところ彼らのことはまったく知らなかったし、『協調と平和』を旨とするブリリアントは知ったところで侵略するような野心もない。 そこで和平交渉のためにまず戦闘を止めようと考えたブリリアントは、次元宇宙で〝超時空シンデレラ〟とも〝戦争ブレイカー〟とも呼ばれるランカ・リーの貸出しを要請したのだ。 管理局としても戦争による新鋭次元航行船建造の大幅な停滞は困るし、70年来の大切な盟友を助けたいという思いがあった。 こうして1ヶ月前、六課に対し最優先でランカの出張を要請したのだ。 六課やアルトは危険地帯へのランカの出張に渋ったが、ランカの強い思いから根負けしていた。 こうして第6管理外世界に出張したランカは、本局の次元航行船10隻からなる特務艦隊と航宙艦約100隻から成るブリリアント旗艦艦隊に守られながら局地戦をほぼ全て歌で〝制〟して行ったという。 確かなのはが最後に見た関連ニュースは「全オリオン艦隊の内、50%がブリリアント側に着いた」というものだった。 そのランカがここにいるということは───── 「戦争は終わったの!?」 ランカは頷くと続ける。 「みんないい人達なんだよ。ただ誤解があっただけなんだ」 そう笑顔で語る少女は、とても恒星間戦争を止めた人物には思えぬほど無邪気であった。 (*) 1424時 クラナガン地下 そこは戦前は半径10キロメートルに渡って巨大な地下都市があり、戦時中は避難民が入った巨大な地下シェルターだった。 一時は全区画にわたって放棄されていたが、今では歴代のミッドチルダ政府の尽力によって大規模な地下街が再建されている。 しかしその全てに手が届いたわけではない。一部の老朽化や破壊の激しい区画は完全に放棄され、そうでなくともただのトンネルとして利用されていた。 そこを1台の大型トラックが下って(クラナガンから出る方向)いた。 そのトラックのコンテナには『クロネコムサシの特急便』のロゴとイメージキャラクターがペイントされ、暗いトンネル内をヘッドライトを頼りに走って行く。 運転手はミッドチルダ国際空港近くの輸送業者の新人で、この道は彼の先輩から教わったものだ。 地上のクラナガンに繋がる道はどこも渋滞であり、拙速を旨とする彼ら輸送業者はこの廃棄区画を開拓したのだった。 しかし残念ながら路面状態はよくない。 その運転手はトラックの優秀なサスペンションでも吸収できなかった予想以上の縦揺れに驚く。 「いかんな・・・積み荷が揺れちまうじゃねぇか」 彼はシフトレバーについたつまみを操作すると、ヘッドライトをハイビームにする。 すると少しは視認範囲が広かった。しかし───── (しっかし、いつ来ても廃棄区画は気味悪りぃな・・・・・・) 右も左も後ろにも他の車は見えない。それが彼に昨日見た映画を思い出させた。 それはベルカ(位置は第97管理外世界でアメリカ合衆国)の〝ハリーウッド〟で撮影された映画で、タイトルは「エイリアン」だ。 ストーリーは時空管理局の次元航行船が、新らたに発見された世界の調査のために調査隊を派遣する所から始まる。 そこには現代の技術レベルを持った町があったが、人の姿がない。調査が進むにつれてこの惑星の住人が、ある惑星外生命体の餌食になっていたことがわかった。 しかしその時には遅かった。 魔法の使用を妨害するフィールドを展開する敵に対し、調査隊には腕利きの武装隊が随伴していたが、また1人、ま1人と漆黒のエイリアンの餌食になっていく。 また、次元航行技術があったらしいこの世界は、厳重に隔離されていたが次元空間へのゲートが開きっぱなしだった。 このままではエイリアン達がこちらの世界に来てしまう。 何とか現地の質量兵器を駆使して次元航行船に逃げ延びたオーバーSランクの女性執務官リプリーと、1人の調査隊所属の科学者の2人は、艦船搭載型の大量破壊魔導兵器であるアルカンシェルによるエイリアンの殲滅を進言。そのエイリアンの危険性は認められ、それは決行される。 大気圏内で炸裂したアルカンシェルは汚染された町をクレーターに変え、船は次元空間に戻った。 しかしリプリー達が乗ってきた小型挺には小さな繭が─────! という身の毛もよだつ結末だ。 さて、問題のシーンは物語の終盤。先の生き残った2人と、3人の武装隊員が現地調達した軽トラで、小型挺への脱出を試みた時だった。 その名も無き(劇中ではあったと思うがいちいち覚えていない)武装隊員はこのようなだれもいない地下の道を走っていた。 しかし賢しいエイリアン達は天井に潜んでいた! ノコノコやってきた軽トラに飛び乗った〝奴ら〟は2人の武装隊員の断末魔の悲鳴とともに運転席を制圧。危険を感じ取ったリプリー達3人は荷台から飛び降りた─────というシーンだった。 (・・・・・あれ、俺って名も無き犠牲者その1じゃね─────) 彼の背筋に冷たいものが走る。 「ま、まさかな。そうだよ、杉田先輩だって10年以上この道を使ってたんだし、前にも先輩と1回通ったじゃないか」 わざと声を出して自らを勇気づける。 そして彼はラジオを点けると局を選ぶ。すると特徴的なBGMと共にCMが聞こえてきた。 『─────毎日アクセルを踏み、毎日ブレーキを踏み、毎日荷物を積み降ろす。・・・あなたのためのフルモデルチェンジ。新型〝ERUF(エルフ)〟登場─────!』 彼はそれを聞きながらそのBGMを歌い出す。 「いぃつ~までも、いぃつぅ~までも~、走れ走れ!ふふふ~のトラックぅ~」 それを歌うと何故か恐怖も飛んでいった。 (やっぱこの曲はいいねぇ~。でも─────) 彼はこのトラックのフロントにあるシンボルマークを思って少し申し訳なく思った。 そこには『ISUDU』ではなく、『NITINO』のマークがあったりする。 (どっちが悪いってわけでもないんだが・・・・・・) 彼はそう思いながらも歌い続けた。 「ど~こぅ~までも、どこぅまでも~、走れ走れ! ISUDUのトラック─────」 (*) 5分後 『そろそろクラナガン外辺部かな』と思った彼は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム。全地球無線測定システム)で位置を確認する。その時、一瞬サイドミラーが光を捉えた。 「?」 再び確認するがなにもない。 (勘弁してくれよ・・・・・・映画のせいで敏感になってるんだな・・・・・・) 彼はそう結論を出すと運転に意識を集中する。しかし今度はコンテナの方から無理に引き裂かれているのか、それを構成する金属が悲鳴のような悲鳴を上げる。 「ちょ・・・・・・マジで・・・・・・」 積み荷は食料品や医療品などで勝手に動くものは積んでいないはずだ。 (ということは・・・・・・!) 彼の頭に映画のシーンがフラッシュバック!あの武装隊員の断末魔の悲鳴が頭に響く。 (落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け─────!!) 彼はもはやパニック寸前だ。しかし無慈悲にもその時は訪れた。 一瞬静かになり、彼が振り返えろうと決意した瞬間───── 耳をつんざく轟音と眩いまでの黄色い閃光が閃光手榴弾のように彼の視界を奪った。 すでに冷静さを欠いていた彼は驚きのあまりハンドル操作を誤り、トラックを横転させてしまった。 (*) 横転事故より15分後、トラックに搭載されていた緊急救難信号を受信した救急隊が現場に急行していた。 「・・・・・・おい、あれか?」 救急車を運転する救急隊員が助手席に座ってGPSを操作する同僚に聞く。 「ああ、そうらしい。しかし、こんな薄気味悪い場所で事故らんでも・・・・・・」 「こんな場所だからだろ。・・・・・・運転席に付けるぞ」 救急車は横転したトラックの本体─────牽引車近くに横づけする。 「大丈夫ですか!?」 ドアを開けて助手席の同僚がトラックに呼びかけるが返事はない。車を離れているのだろうか? 後ろではもう1人の同僚が救急車の後部ハッチを開けて、懐中電灯でトラックを照らす。 どういう訳かコンテナだけがひどく損傷していたが、運転席付近は無傷だ。シートベルトさえしていれば助かりそうだが───── いた! エアバックで気絶しているらしい。トラックの左側を下に横転しているため、宙吊りになったまま項垂れている。 外に出た同僚2人はデバイスで超音波を発生させてフロントガラスを1秒足らずで割ると、センサーで彼の状態を調べる。 「・・・・・・大丈夫だ。バイタル安定、骨も折れてない」 2人は運転手を事故車両から引き離していく。 その間に運転席に残っていた彼は、どうも妙な事故なため、無線で1番近い治安隊に事故調査隊の派遣の旨を伝えた。 (*) 20分後 「通報を受け派遣されました第108陸士部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」 『地上部隊 第108陸士部隊』と書かれたメガ・クルーザーのHMV(ハイ・モビリティ・ヴィークル。高機動車)に乗ってきたのは3人で、内2人は白衣を着、もう1人は挨拶をした地上部隊の茶色い制服を着た1人の女性隊員だった。整備されていないこの地下空間は世間では犯罪者の温床にもなっていると言われていることから、治安隊の代わりに陸士部隊の調査隊として派遣されたとのことだった。 「この事故はただの横転事故と聞きましたが・・・・・・」 「はい。それが事故状況がどうも奇妙でして、それほど大きな衝撃でもないはずなのにコンテナだけが吹き飛んでいて・・・・・・」 確かに救急車のヘッドライトに照らされたコンテナは、原型を止めないほどにひどく損傷していた。 「運転手の方(かた)は?」 ギンガの質問に救急隊員は困った顔をする。 「・・・・・・それが運転手も混乱していまして・・・・・・お会いになりますか?」 「できるならお願いします」 ギンガは同乗者の2人に現場検証を頼むと、運転手が手当てを受けているという救急車に入った。 「本当なんだよ!あの〝エイリアン〟が出たんだ!!」 そう手当てしながら困った顔をする救急隊員に喚く運転手に、ギンガは〝ギョッ〟とする。 (そうかぁ、あの映画を見た人かぁ・・・・・・) 彼女は彼に、一気に親近感を覚えた。 彼女も実は1年ほど前にその映画を劇場でみていた。人には言えないが、その後1ヶ月ぐらい1人で真っ暗な部屋に入る時には、デバイスをその腕に待機させねば安心できなかった。 「すみません、そのエイリアンのお話をお聞かせ下さい。私はそのために管理局から派遣されました」 「なんだって!・・・・・・それじゃあの映画は!?」 思わせぶりに頷いてやると運転手の口はようやく軽くなり、やっと事故の状況が判明した。 (*) 「コンテナが勝手に爆発ねぇ・・・・・・」 救急車から出たギンガが腕組みして考える。 地面に散らばる積み荷は食料品などで爆発するような物はないし、クロネコムサシの本社から預かったそのトラックの輸送物リストもほとんどが医療品や食料品と書いてある。 しかし本当にエイリアンが来たなどということはあるまい。 鑑みるにこれはテロで郵便爆弾の誤爆という可能性があるが、どこかの政府系機関に届ける予定の荷物は───── 「・・・・・・あれ?」 ギンガの目がリストの一項目で止まる。 (これがベルカのボストンで?) 内容物は、輸入品としては珍しくないとうもろこし。しかしベルカの比較的北にあるボストンでは寒すぎて生産していない。 ビニールハウスという手もあるが、最近赤道付近の地価は安く、補助金も出るためそんなところで作るメリットはない。 それどころかボストンでは10年前からあるベンチャー企業の進出が進んでおり、農業をやるような場所はもう残っていないはずだった。 (確かその企業がやっているのは医療用のクローン技術─────) そこまで考えた時、一緒に来た調査隊員の自分を呼ぶ声が耳に入った。 「はーい。今行きます!」 ギンガはリストを小脇に添えると声の主の元へ走る。 「どう─────」 どうしました?と問うまでもなかった。 彼は顔を上げると〝それ〟をライトで照して見せる。 そこには他の積み荷と違って無粋な金属の塊『ガジェットⅠ型』の大破した姿があった。 「他にもこんな物が」 少し離れていたもう1人が、床に転がっているそれを指先でトントンと叩いて見せる。 「それは・・・・・・生体ポット!?」 ギンガは目を疑うことしかできなかった。 (*) 『君はいったい何をやっているのかね!?管理局に感づかれたらどうする!』 画面の中で怒鳴る背広を着た中年男にスカリエッティは涼しい顔をして答える。 「〝あれ〟が本物かどうか試しただけですよ。それに、管理局など恐るるに足らない」 その軽い態度に更に熱が入ったのかまた怒鳴ろうとした中年男だが、画面の奥の人物に制される。 『しかし社長!』 中年男は社長と呼ぶ30代ぐらいの若い人物に異議を唱えようとするが、彼の鋭い視線だけで黙らされてしまった。 社長は中年男が席に座るのを確認すると、今度は彼自ら詰問し始めた。 『スカリエッティ君、我々はもうかれこれ7年間君の研究のために優秀な魔導士達の遺伝子データを提供してきた。だが我々が君に嘘をついた事があるか?』 「いいえ。おかげさまで研究は順調に進んでますよ」 『なら今後、このような事は無いようにしてくれたまえ。・・・・・・それと〝あの子〟の確保は後回しでも構わないが、一緒に送った3つのレリックの内〝12番〟は必ず回収したまえ。あれがなければこの計画は失敗だ』 「仰せのままに」 スカリエッティの同意に社長は通信リンクを切った。 画面に『LAN』という通信会社の社名が浮かぶ。この回線はミッドチルダから太平洋を横断し、ベルカの大地まで繋がった長大な有線回線だ。 現在ミッドチルダ電信電話株式会社(M T T)に市場で敗れたこの会社はもうなく、海底ケーブルは表向き放棄されている。しかし海底ケーブルというローテクさ故に注目されず、盗聴も困難なため、水面下で動く者達の機密回線にはもってこいだった。 「またスポンサーを怒らせたの?」 いつものように気配なく彼女はスカリエッティの背後に現れた。 「まぁね。しかし必要なことさ。それに、彼らには〝あれ〟の重要さがわかっていない」 スカリエッティは肩を大仰に竦めると首を振った。 「そう・・・・・・。まぁ、私はあなたの副業には干渉しないけど、せいぜい頑張ってね」 グレイスは微笑むと退室していった。 「・・・・・・ウーノ」 スカリエッティの呼びかけに、彼の背後に通信ディスプレイが立ち上がり、彼の秘書を映し出す。 「はい」 「あれは本物だったか?」 「確定はできませんが、恐らく本物でしょう。」 スカリエッティはその答えに陶酔したように 「すばらしい・・・・・・」 とコメントすると、〝それ〟の追跡を依頼した。 (*) 『ベルカ自治領 マサチューセッ〝チュ〟州 ボストン』 その地域は最近発展してきた医療科学系企業『メディカル・プライム』が席巻していた。 この企業はミッドチルダでは禁止されている「クローン技術」を用いて、要請を受けた本人のクローンの臓器を作っている。無論これは移植のためだ。 この『クローン臓器移植法』は、移植時の拒絶反応が全くないことから定評があった。 しかし従来の全身のクローン体から、移植のため一部を取り出すという行為はクローン体を殺す事を意味し、倫理上の問題があった。 そこでこのベンチャー企業は必要な臓器を必要なだけ、ある程度〝瞬時に〟クローン化する技術を開発し、これを武器に発展してきていた。 社名の「メディカル・プライム」も「最上級の医療を!」という熱い思いを込めて付けられたもので、お金さえあれば〝パーツ〟の交換で脳を含めた若返りすら可能だった。 現在、その企業内では深夜に関わらず、上級幹部達が緊急会議の名目で集っていた。 ある幹部が通信終了と同時に口を開く。 「全く、あの男の腹の内は読めん」 それに対し、スカリエッティに怒鳴っていた中年男が彼に怒鳴る。 「なにを言っている!やつなど野心丸見えじゃないか!だから犯罪者と手を組むことには反対だったのだ!」 「・・・しかしあいつにしかこの計画は遂行できないだろうな」 5,6人の幹部達が思い思いに意見をぶつける。今までこの議論が何度重ねられたことか。しかしやっぱり最後の結論は決まっている。 「諸君、すでに賽(さい)は投げられたのだ。この計画にスカリエッティを巻き込んだことを議論しても仕方がない。それに管理局には非常用の鈴が着いている。〝不本意だが〟もしもの時は彼女に揉み消してもらおう。我々はスカリエッティを監視しつつ、ベルカの誇りである〝あの船〟の浮上を待てばよいのだ。あの船さえあれば、ミッドの言いなりになってしまったこの国の国民達も、目が覚めるはずだ!」 社長の熱を含んだスピーチに幹部は静かに聞き入る。そして社長は立ち上がると、会議室に飾られた今は無きベルカ国の国旗に向き直り、掛け声を上げる。 「偉大なるベルカに、栄光あれ!」 「「栄光あれ!!」」 幹部達も立ち上がり、彼に続いた。 ―――――――――― 次回予告 地下より現れた謎の少女 同時に始まったガジェット・ゴースト連合の一大攻勢 彼らは無事クラナガンを守りきることができるのか? 次回、マクロスなのは第27話「大防空戦」 「サジタリウス小隊、交戦!」 ―――――――――― シレンヤ氏 次
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バンプレスト(現バンダイナムコエンターテインメント)より発売された、 アクションRPG『カスタムビートバトル ドラグレイド2』に登場するキャラクター。 操作キャラとして実装されたのは『2』だが、前作で主人公ヒビトを助けたグラッパーとして登場していた。 武器はソードで属性は光。「ライトソードβ+」というテーマ曲を持つ。 世界的に有名なメジャーグラッパーの青年であり、事故が原因で引退したかつてのライバルであるキングの招待で、 G-1メジャーグランプリに参戦するが、試合を進めるうちに、大会の裏で何らかの暗躍が行われている事に勘付き……。 攻撃範囲が優秀なキャラで、特にビートドライヴでは自動で敵を追い通常攻撃を行う分身を出現させ、自分と一緒に挟撃できる。 一方、他のキャラより喰らい判定が大きめで、シンプルな技ばかりなので、単騎では立ち回りが読まれやすい。 ビートドライヴをどう活用するかがカギとなる。 MUGENにおけるクロス Ryon氏による新MUGEN専用のキャラが公開中。 ドットは原作のものが使用されているが、性能は格ゲー風にアレンジされており、 エフェクトも2015年の更新で別ゲーのものへ差し替えられている。 遠近共に優秀な攻撃範囲を持つが、特に炎や十字架状のエネルギーを落とすなど、遠距離攻撃が充実している。 ただしその分ゲージの燃費が悪く、いかにゲージを稼ぐかが重要となる。 AIもデフォルトで搭載されている。 DLは下記の動画から 出場大会 「[大会] [クロス]」をタグに含むページは1つもありません。
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マクロスなのは 第15話『バルキリーと魔導士』←この前の話 『マクロスなのは』第16話「大宴会 前編」 総合火力演習は結局、ガジェット・ゴースト連合の介入によって中止となってしまった。 しかしこの演習によって魔導士、バルキリー両方の長所と短所が世間一般に露呈した。 万能に思えるVFシリーズだが、低空時の機動性は魔導士と互角。小回りにおいては技量の関係で劣っている。それに転送魔法や様々なスキルの存在する魔導士に分があった。 また、地上部隊として多い地上での治安維持活動はその大きさが枷となるため不向きだ。 だが高空での高機動性と、バリアジャケットより圧倒的に強靭な装甲。そして無限大の航続能力と高い生存性。ガウォーク形態による制空権の確保、維持の信頼性。高性能かつ大規模な各種センサー、強力なECM(電子攻撃)及び対AMF能力。 そして災害時、マニピュレーターによるレスキュー能力など魔導士では望んでも得難い物が多数あった。 しかし空戦魔導士部隊全てをバルキリーに転換するのは予算はともかく、訓練時間がないためAランク以上の慣れていない者が乗っても逆に戦力低下を招くだけだった。 また両者の合同作戦の有効性も証明されたこともあって世論も各隊員も共存を望んだ。そして保守派の者も最低限の利権の確保のために 「共存なら・・・・・・」 と譲歩した。 (*) 演習から3日後 クラナガンの中央に位置する本部ビルからそうはなれていない所に、巨大なドーム型の建物『クラナガンドーム』があった。 そこは普段ミッドチルダ及び隣国のベルカなどの公式野球チームが平和的に試合をする場だった。 しかし今日は予定された試合がないにも関わらずドーム内の照明は明々と灯っている。 そして野球で本来ライトのポジションの者が立つであろう人工芝の上には仮設のステージが据えられていた。そこには横断幕が掲げられていて〝地上の平和は任せとけ!〟と書かれている。 センターには大人数用の長机がズラリと並べられ、300を超える人が腰掛けていていた。 またレフト付近には第一管理世界だけでなく各次元世界の報道陣が詰めかけており、時折シャッターが焚かれる。 彼らのカメラは全てステージに向けられており、今まさにあの記者会見に次ぐ歴史的な事が行われようとしていることを示唆していた。 ステージ上には地上部隊と本局の旗が掲げられ、地上部隊の礼服姿のレジアス中将、そして〝本局の礼服〟姿の八神はやての姿があった。 レジアスは壇上のマイクの前に立つと演説を始める。 『ミッドチルダ、及び各次元世界の皆さん。私は時空管理局、地上部隊最高司令官のレジアス・ゲイズ中将です。 現在ミッドチルダはガジェットと呼ばれる魔導兵器によって、時空管理局始まって以来の危機に直面しております。彼らは管理局の戦闘員のみならず、非戦闘員である民間人にすら躊躇わず攻撃してきます。現在の死者は40人にも及び、負傷者は民間人を含めると600人を超えます。彼らの正体は未だに不明ですが、平和を脅かす〝敵〟である事は間違いありません!そして我々は決して彼らに屈伏する訳には行かないのです!』 力強く訴えかける俗に言うレジアス調が始まり、センターに座る人々もそれに同調して 「「そうだ、そうだ!!」」 と囃し立てる。 『なおも禍々しい力を使おうとする者達には正義の鉄拳が振り下ろされるだろう!我々の鉄の意志と団結によって!!』 民族大虐殺を実行した第97管理外世界のヨーロッパ辺りに出現した〝ちょび髭〟独裁者のようなその力強い演説に、フラッシュが数多く瞬いた。 だが彼がその独裁者と違うのは、持ちうる大きいが有限な権力を〝少数(ゲルマン民族)の幸福と多数(ユダヤ民族に代表される他民族)の非幸福〟に使うか、〝最大多数の幸福〟に全力を注ぐか。の違いであった。 『テレビの前の皆さん。今日我々時空管理局は、長きに渡る海(本局)と陸(地上部隊)の反目。そして魔導士部隊とバルキリー隊の対立乗り越えて一致団結する事をここに宣言します。 その礎として空戦魔導士部隊及び時空管理局本局代表の八神はやて二佐と─────』 はやてがコクリと頭を下げる。 『─────バルキリー隊及び時空管理局地上部隊代表である私とが、肩を並べ、手を取り合う姿をご覧いただきたい』 実は2人とも地上部隊所属だが、そこはご愛嬌。 地上部隊と本局の最高司令である両文民大臣は、これに類する法案整備が忙しく出席を辞退。元々バルキリーと魔導士部隊の連携を誓うつもりだった2人に代理を押しつけたのが真実だったりする。 ともかく、親子ほどの歳の差がある2人が固い握手を交わした。 その光景にセンターにいた人々─────空戦演習に参加した空戦魔導士部隊全員、フロンティア基地航空隊の参加者、そしてクロノ提督やリンディ統括官など本局からのゲストも大きな歓声をあげた。 またマスコミも待ってましたとばかりに一斉にフラッシュを焚き、ドームを真っ白に照らした。 この時、本局と地上部隊、そしてバルキリー隊と魔導士達は真にお互いを受け入れたのだった。 (*) その歴史的瞬間からすぐ、天井の屋根がスルスルと動き出した。 開いていく屋根からは青い空が望む。そこを横切るは6つの航跡。 桜色、金色、赤色の魔力光を放つ光跡は、機動六課のなのは、フェイト、ヴィータのものだ。残る青、緑、白の航跡は、スモークディスチャージャー(煙幕発生機)を起動したVF-11SGとS、そしてVF-25だ。それぞれミシェルとライアン、そしてアルトが乗り込んでいる。 6人は中央でパッと六方に散ると、3人ずつ時間差でUターンして再び中央に戻って来る。 六課の3人は対になるように3方向からアプローチし、ドーム中央を軸に回転しながら急上昇する。それによって3色の光跡は綺麗に螺旋模様を描いた。 バルキリー隊の3機も、さっきと同様に螺旋模様を描きつつ上昇する。 その時会場に音楽が流れ始めた。その歌声は紛れもなく超時空シンデレラのものだった。 <ここより先は『私の彼はパイロット ミスマクロス2059』をBGMにするとより楽しめます> その歌声に合わせて6人が舞う。 キラリと光ったかどうかはそれぞれの主観によるが、6人は綺麗な編隊を組んだまま歌に合わせて会場にかすめるほど急降下。そして急上昇しながら六課とバルキリーとで二手に別れた。 上昇を続けるバルキリー編隊と六課編隊はそれぞれが特徴的な円を描きつつ合流する。その軌跡は大きなハートを描き出していた。 続いて六課編隊からフェイトが抜け、高速移動魔法によってバルキリー編隊を掠めるようにニアミスして反転、離脱しようとする。しかし3機はガウォークを使った鋭いターンでそれを追うと、マイクロハイマニューバミサイルを放つ。 ロックされたフェイトを追尾してミサイルが直線に並びながらハートの真ん中へとさしかかる。 『ディバイン・・・・・・バスタァーーー!』 フェイトの目前で放たれたなのはの砲撃がハートを貫く。その桜色の光跡は瞬時に消えてしまうが、ミサイルの誘爆によってその爆煙が綺麗な矢を形成。ハートを貫く矢というラブサインを描き出した。 そしてなのはにはミシェル、フェイトにはアルト、ヴィータにはライアンとそれぞれ別れて2機編隊で宙返りなどアクロバットする。 〝だけど彼ったら 私より 自分の飛行機に お熱なの〟 組同士仲良く編隊を組んでいたが一転、六課側が砲撃などの攻撃を敢行。攻撃はそれぞれの相方の機体に直撃し、機体は煙を上げながらキリモミ落下した。 会場はその行為と、ほんとにヤバそうなバルキリーのキリモミ落下に息を呑む。 しかし落下する3機はほぼ同時に機位を立て直すと六課側と合流。そのまま仲良く編隊を組んで会場をかすめ飛ぶ。 他5人がそのまま横切って行く中、VF-25のみがガウォーク形態に可変し減速。ステージ前に降り立った。そしてキャノピーを開けると、後部座席の少女をステージ上に降ろした。 〝きゅーん、きゅーん きゅーん、きゅーん 私の彼はパイロット〟 ランカはステージ上で歌を完結させると、声援とフラッシュに応えた。 (*) 30分後 ドームはまるで優勝の決まった野球チームのようなどんちゃん騒ぎになっていた。 「今日は無礼講、階級は忘れて大いに飲んでくれ!」 というレジアスの言の下、空戦魔導士、フロンティア基地航空隊員入り乱れての酒盛りやシャンパンファイトという光景も見られた。 しかし今は比較的沈静化し、楽しく談笑しながら出されている料理を食べる事が主流になりつつある。 アルトもそんな主流派の1人だ。彼も適当に見繕ってきた食材を皿に並べ、それらをつついている。 彼の周りにはすでに機動六課の面々(隊長陣とフォワード4人組)やサジタリウス小隊のさくら。そしてミシェルと机を囲んでいる。ちなみにランカとはやて達はマスコミに連行されたっきりだ。 (大変だなぁ・・・・・・) アルトは他人事のように考えながらよく煮えたポークを口に頬張った。 「しかし、まさか両方の戦勝パーティーに出られるとは思わなかったな」 周りを見ながら呟く。 比較的オープンな六課では感じなかったが、地上部隊では魔導士ランクですべて決まり、ほとんどの場合で同じランクの者としか付き合わなかった。 また、魔導士とバルキリーパイロットも異質なものとして原隊でもなければ互いに接点を持たなかった。 しかし今はどうだろう。 地上部隊の茶色い制服を着た(魔導士ランクが)高ランクの局員と、フロンティア航空基地のフライトジャケットを着た低ランクのバルキリーパイロットが仲良く談笑していた。 演習前にこの光景を誰が予想しただろうか。 少なくともアルトは現状に満足していた。『どちらかが路頭に迷うことなど、ない方がいい』と考えていたからだった。 そしてアルトの呟きに、いつもの和食ではなくパーティ料理をつついていたなのはが応える。 「そうだよねぇ。でもこっちはほとんど必勝のつもりだったんだけどなぁ~」 そう言うなのははちょっと悔しそうだ。確かにあのAランク魔導士を全力投入した物量作戦では勝ちを確信してもおかしくなかっただろう。バルキリー隊の生存率が高いのはその装甲によるものだけではない。大量に搭載された撃ちっぱなし式ミサイルが抑止力として魔導士達の接近を拒んだからだ。あのまま長引いていれば弾薬切れで確実に負けていた。 「確かに。はやて部隊長、なんかすっごい張り切ってましたもんね~」 こちらは何故か甘いもので埋め尽くされているスバルが言った。今彼女の目の前には20cm程に高くそびえ立つアイスクリームボールを積んで作ったタワーがあった。 (あんなのどうやって食べるんだよ・・・・・・) 「こっちだって六課対策で猛特訓したんだぜ。なぁ、アルト」 「・・・・・・うわっ!」 ミシェルが突然肩を叩いたため、アイスクリームに意識が集中していたアルトは前につんのめる。その拍子に机を揺らしてしまった。それによってギリギリの均衡を保っていたアイスクリームタワーはグラリと揺れ、最上部の1個が落ちた。 「あ?」 それに気づいたスバルの対応は早かった。 彼女はコンマ数秒の間に小型のウィングロードを落ちる先に展開すると、アイスの地面への落下を防ぐ。そして更に驚嘆すべきことに直径4センチを超えていたであろうアイスクリームボールをそのまま口に滑り込ませてしまったのである。 「・・・・・・」 彼女は口を閉じたきり動かない。 人の口の大きさを超えるようなものを一呑みしてさらに動かないとなると、さすがにヤバイかと思い始めて駆け寄ろうと腰を浮かせる。 「おい、スバル? だい─────」 大丈夫か?と、最後までいえなかった。なぜなら彼女はブルリと震えたかと思えば、目を輝かせて一言。 「美味しい!」 出鼻を挫かれたアルトはその場に転んでしまった。 「あぁ、アルト隊長、大丈夫ですか?」 さくらがズッコケたこちらへと手を差し出し、助け起こしてくれる。 「・・・・・・あぁ。っておい、お前ら!あれを見てどうも思わないのか!?」 しかし、六課メンバーは一様にいつもの事だ。という顔をした。 ティアナが唯一 「あんた、食べ過ぎるとお腹壊すわよ」 と注意していた。 (いや、そんなレベルじゃないだろ・・・・・・) アルトはやはり胸の内で呟いた。 (*) 「お代わり行きますんで、皆さん欲しいものありませんかぁ?」 スバルはまたアイスクリームを食べるつもりらしい。手にはさっきのアイスが入っていた大皿が乗っている。 彼女はなのは達からお茶等の注文を受けると、注文が多かったため運び係を志願したエリオを伴って人混みに消えていった。 「それでアルト、さっき聞いてたか?」 ミシェルの問いに今度は落ち着いて答える。 「ああ、あん時あと1週間しかなかったからな。陣形の選定とかしなきゃいけなかったし、参戦してくるであろう機動六課戦力への対策に1番時間を費やしたな」 アルトはあの日々を思い出しながら言う。まさにそれは〝月月火水木金金〟と呼べるほどのハードスケジュールだった。 「そういえば演習1週間前に、突然アルト隊長が私達の小隊を集めて『お前達がフロンティア基地航空隊の切り札だ!』なーんて言い出すんですよ。びっくりしちゃった」 さくらがアルトの声色を真似て言う。 そう、サジタリウス小隊のさくらと天城の両名とも珍しくクラスオーバーAのリンカーコアを保有していた。そのため訓練次第では超音速可能なハイマニューバ誘導弾の使用が、そしてMMリアクターの補助でSクラスの出力を持った魔力砲撃ができたのだ。 ─────しかしなぜ2人はこれほどの出力を持ちながらバルキリー隊に配属されたのだろうか? 実は天城の方はこのクラスのリンカーコアを持ちながら飛行魔法が大の苦手であった。しかし空戦に必要な空間把握能力などのセンスが高く、実績も十分評価できる立派なもの(なんでも部隊の数人でテロを計画する次元海賊の本拠に突入。そこで暴れまくり、対応の遅れた本隊の到着までの時間稼ぎをしたらしい)だったため、原隊の部隊長が陸で果てるには惜しい人材と判断し推薦したという。 またさくらもヘッドハンティング(引き抜き)でなく推薦だ。しかし推薦主は〝特秘事項に該当〟するとかで判明しなかった。 話は戻るが魔力砲撃のSクラス出力は戦闘の上では必須条件であり、音速を軽く突破してくるオーバーSランク魔導士に追随できるハイマニューバ誘導弾もまた必須であった。 そのため彼らには対六課戦力用の特訓が施された。結果的に2人は格段に進歩し、それぞれに小隊を与えてもよい程の技量に到達していた。 「─────でも負けてしまいました。すいません・・・・・・」 シュンとするさくらに対戦したフェイトがフォローする。 「さくら、もしあれが演習用の模擬弾じゃなくて、実体の徹甲弾だったら私のシールドは全部破られていたよ」 「そうだ気にするな。お前の砲撃を受けきるなんて誰も予想してなかったんだ。おまえ達は十分やったよ」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは2人にペコリと頭を下げた。この素直な所が彼女の持ち味だ。きっとどんな困難にぶち当たっても挫けないだろう。 「やっぱりお前達を選んでよかった。・・・・・・しかし俺は教官だからな。またすぐ他の奴を教えなきゃいけないのが、なんだか寂しいもんだな」 2人の頑張る姿がフラッシュバックする。 総火演までの7日間、シミュレーターによるAIF-7F『ゴースト』とのタイマン勝負を朝飯前の日課とし、VF-25を仮想六課戦力に見立てた2機一組による連携訓練。そして戦術について深夜まで話し合ったあの日々が。 さくらにもこちらの思いが伝わったのか 「そこまで私達の事を・・・・・・!」 と感極まった様子だ。 「アルトくんの気持ち、よくわかるなぁ~」 なのはは続ける。 「私も教導隊だからね。同じ子は大体1ヶ月ぐらいしか見てあげられないの。だから『まだ教え足りない!』、『もう少し時間があれば・・・・・・!』って何度も思ったな。だからいつも教える時は全力をかけて、後悔しないように。だからアルトくんも後悔しないように頑張ってね!」 「ああ。サンキュー」 なのはの激励を授かったちょうどその時、今まで沈黙を守っていたステージに光が戻った。 『これより新春隠し芸大会を開催いたします!』 壇上でマイクを握っているのは天城だ。姿が見えないと思ったら裏企画に参加していたらしい。 周囲からはブーイングの嵐だ。 曰く、 「テレビが来てるんだぞ!」 や 「新春って今7月末だぞ!」 等々。 天城は地声で 「こういうのは新春って決まってんだよ!」 などと怒鳴り返すと、マイクを握りなおす。 『こういう展開になると予想していた俺は、すでにエントリーナンバー1番を予約しておいたのだ!それでは先生、ガツンと一発お願いします!』 天城と立ち代わりにやってきたのはランカだった。 『1番、ランカ・リー、歌います!』 ランカが〝ニコッ〟と、笑顔の矢を放つと場が一斉に盛り上がった。 冷静に 「これって隠し芸?本業じゃね?」 とつっこむ者もいたが、大半が肯定側に寝返った。 ランカの衣装がバリアジャケットであるステージ衣装に変わる。 そして彼女はお決まりのマイク型デバイスをその手に握ると、力いっぱい叫んだ。 「みんな、抱きしめて!銀河の果てまでぇー!」 大音量のイントロと共にランカのライブが始まった。 客席が水面のように揺れて、大気振るわす歓声が輪になって広がっていく。 恋する少女のときめく心を綴ったファンシーな歌詞を、ノリのいいビートと快活なメロディに乗せたランカ最大の必殺歌(?)『星間飛行』。 そして遂に幾多の戦闘を止めたこの曲最大のポイントに突入する! 「「「キラッ!☆」」」 ドームに唱和する全員の声。 続くサビに場は完璧にランカの生み出す世界に呑まれ、誰もが興奮のるつぼへと飛び込んだ。 (*) そうして長いようで短いライブは終わった。 『ありがとうございました!』 ランカがペコリと頭を下げ、舞台袖に引っ込んだ。既に会場は最高潮の盛り上がりをみせている。 そして再び舞台袖から天城が姿を現した。 『ランカちゃんありがとうございました。では2番をどなたかお願いします!』 天城がマイクを客席に向かって突き出す。 レベルの高かったランカの後だ。なかなか名乗りを挙げるのは難しいだろう。アルトはそう思ったが、案外早く見つかった。 「はーい、わたしやるですぅ!」 聞こえたのは遥か後ろ、ちょうどマスコミのど真ん中あたりからだった。 そして彼女は自分達を飛び越えてステージに一直線に向かっていき、天城は彼女のためにマイクの台を残すと舞台から退いた。 『2番、リインフォースⅡ(ツヴァイ)、歌います!』 彼女はマイクの前で宣言すると、歌いはじめた。 〝トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ─────〟 さっきとはうって変わってなんだか荘厳な雰囲気だだよう曲だ。それにア・カペラであるはずなのになぜかパイプオルガン伴奏が聞こえてくるようだ。 また、彼女の足下にミッドチルダ式でもベルカ式でもない魔法陣が展開されている。あれは一体? しかしその時、後ろから来た疾風が自分の横を駆け抜けていった。ちょうど歌が終わる。 「こぅら、リィィィン!!」 満場の拍手に混じって八神はやての怒声が会場に響き渡った。そして次の瞬間には舞台に現れ、リィンにハリセンの一撃を加える。 「ひたい(痛い)!」 「〝中の人ネタ〟やったらいかんってあれほど言ったのに!」 「だって、隠し芸って─────」 「中の人ネタは隠し芸って言わんのや!」 はやてはそう言って彼女を叱りつけると 「すいませんでした!」 とこちらに一礼。舞台袖にリィンを連行していった。 「ええっと・・・・・・それでは3番行ってみようか!!」 はやての乱入によくわからなかった一同だが、天城の強引な司会進行によってなんとか盛り上がりを取り戻した。 周囲に祭り上げられて名乗りを上げた3番手が上がる舞台を眺めながらアルトは気づいた。フェイトの舞台に投げる熱い視線に。 「そういやフェイト、歌完成したんだって?いい機会だし歌ってきたらどうだ?」 しかし彼女は笑顔見せると、 「私の歌なんて、こんなところで披露するような大層なものじゃないよ」 否定する彼女の面影はどこか見たことがあるような哀愁を漂わせている。 (この表情、どこかで・・・・・・?) 見た覚えは強烈にするのにどうしても思い出せない。しかしそれは少なくともフェイトではなかった。 「・・・・・・ん、そうか」 とりあえずそう応答するが、それがどこか気にかかってアルトの心をかき乱した。 (*) 10分後 舞台はすっかり通常の隠し芸大会の様相を呈していた。さっきまで酔った管理局の一佐がカラオケを披露していた。 今は空戦魔導士と基地航空隊の男女十数人ほどが動く死人、いわゆるゾンビに扮装し、どこかで聞いたような英語の曲に合わせ 「スリラー!」 などと叫びながら踊っている。 また、ホロディスプレイのテロップには〝M.J.追悼慰霊祭〟と書かれていた。 (ゾンビの意味あるのか?) 元を知らないアルトはそう思ったが、他人の芸に口出しするのもはばかられたので気にしない事にした。 さてアルト達はというと、変装したランカやはやて達を加えてあるゲームをしていた。 机の中心には人数分のカレーパンが積んである。 持ってきたスバルによれば、この中に1つだけ『爆裂・ゴッドカレーパン』というどこかの必殺技のようなカレーパンがあり、ものすごい辛いらしい。 それを食べた幸運(?)の持ち主を残りの人が当てるという単純明快なゲームだ。 「そうねぇ・・・・・・これにしよっと!」 ティアナが早速と、ひとつのパンを掴み上げた。そこにスバルが茶々を入れる。 「あぁ!ティアそれでいいの!?」 「なに?まさかこれ!?」 「ヒヒヒ、わたしも分かんな~い」 「む~!」 膨らむティアナにスバルはしてやったりとクスクス笑う。 「じゃあぼくはこれ」 2人に続いてパンに手を伸ばしたのはエリオだ。 「あ、エリオくん、わたしのも取って」 席が遠くて手が届かないキャロがこれ幸いと頼む。 「いいよ。うーん・・・・・・これでいい?」 「うん。ありがとう」 キャロはパンを受け取ると、笑顔を返した。 字面だけみていると仲のいいカップルのように聞こえる。しかし本人達に自覚はないし、周囲からみても仲のいい〝兄妹〟にしか見えなかった。 いろいろありながらも、パンは1人1人に渡っていった。 アルトもあと5つ程になった時に 「ままよ!」 と3つとり、1つをさくらに渡した。 「え?ああ、ありがとうございます」 どうやら扱い慣れていないナイフとフォークで、ビフテキと格闘していたようだ。 「・・・・・・えっとだな、さくら」 「はい?」 「利き手がナイフだぞ」 さくらは顔を真っ赤にして持ち変える。そんな彼女を横目に、ランカにもう1つを渡した。 「ありがとう、アルトくん」 ニコッと微笑むランカ。今彼女の髪は黒になっている。 それだけでアルトも最初彼女がランカとは分からぬほど印象が変わっていた。なんでもデバイスの簡易ホログラム機能を使って髪を黒に見せているという。 「みんな取ったね?」 スバルが最後に残ったパンを手に確認する。 ちなみにミシェルはさっきウィラン達とどこかへ行っていた。 (チッ、運のいい奴め) スバルが周囲を見渡して確認を終えると、開始の合図を放つ。 「それでは始めぇ!」 パクッ そんな擬音が聞こえてきそうなほど全員一斉にパンを口に頬張った。 モグモグ なんてことはない。確かに辛いが普通のカレーパンだ。 ランカやさくらも普通に食べていく。どうやら3人とも〝当たり〟ではないらしい。 周りを見渡すと他も普通に食べて・・・・・・いや、キャロは先にフリードリヒに食べさせて〝毒味〟させているようだ。 (うーん、見かけによらず計算高いヤツなんだな・・・・・・) 彼女はフリードリヒが問題なく食べるのを確認したのか今度こそその愛らしい小さな口でパンをほうばった。 「からーい!!」 ・・・・・・どうやら普通のカレーパンでも十分辛かったらしい。 苦笑しながら見回していると、今度はなのはと視線があった。 「どうした?」 「うん、ちょっとみんなの反応を見てただけ。アルトくんは?」 「俺も同じだ」 そう言うと2口目を口に運んだ。 しかしアルトは既に気づいていた。彼女の額にうっすらと浮かび上がっていた汗。そして声に混ざる小さな緊張のスパイス。これによってなのはがホシに違いないと。 しかしそこまで考えなくとも彼女はすぐにシッポを出し始めた。 食べていくうちになのはの顔色が赤にそして青に変わっていく。 ルールでは水が飲めないことになっているため相当きつそうだ。 全員が食べ終わった時、なのはは必死に笑顔を作っていた。しかしそれはひきつり、顔は真っ青だった。 (まったく、無理するのが好きなやっちゃ・・・・・・) 頑張りは認めるがあれでは誰の目にも明らかだろう。 投票が行われ、アルトは用紙になのは以外の名を書いた。 (お前の頑張りに乾杯!) 心の中で呟いた。 しかし正直者が多かったようだ。投票は、なのは 5。他バラバラ 5で、なのはが圧勝した。残り4票はなのは自身とアルトのような同情票だろう。 「はい!わたしです!だから・・・・・・早くお水を・・・・・・!」 負けたなのはがもはや息も絶え絶えに言う。 スバルは即座に席を立って飲み物の調達に走る。そして水を取ってくると、なのはに渡した。 ゴク、ゴク・・・・・・ その豪快な飲みっぷりに透明な液体はすぐになくなった。 しかし様子がおかしい。今度はフラフラし始めた。その目の焦点は定まっておらず、トロンとしている。 「ちょっとなのは、大丈夫?」 彼女の隣に座るフェイトがなのはを揺する。 「あぁ・・・・・・フェイトひゃん、らんか、ろれつが、まわららないの・・・・・・」 なのはがえらく色っぽく言う。そしてそのままフェイトに倒れ込んで抱きついてしまった。 「ちょっと、スバル? なにを飲ましたんや?」 はやてが席を立って、現場に急行しようとする。こうして席の者たちが騒然とする中、外部から介入が入った。 「おい君、アレ、飲んじゃったのかい?」 魔導士部隊と基地航空隊の隊員数人がスバルに問い詰める。 「は、はい・・・・・・ダメでしたか?」 「いやあれは罰ゲームに使うつもりだったアルコール度数が60%の酒のスポーツ飲料割りだぞ!」 「「「え~!」」」 どうやら急いでいたスバルが、水と間違えて酒をなのはに渡したらしい。 それも悪いことにスポーツ飲料割りと来た。スポーツ飲料は水分などの体内への吸収を良くするため、同時に摂取してしまうとアルコールの回りがものすごく速くなる。 つまりあれは急性アルコール中毒者製造飲料とも呼べる兵器と化していたのだ! なのはも急いでいたし、カレーパンに味覚、嗅覚をマヒさせられていたので気づかずに飲み干してしまったようだ。 現在当のなのははフェイトの腕の中でイノセントな寝息をたてている。 さすが一杯で物凄い即効性だった。しかしこの程度で済んでいるのは実は酒に強いのだろうか? ともかくこのままでは風邪をひいてしまう。仕方ないのでなのはは同じように酔いつぶれた人が集う休憩所で寝かせてもらうこととなった。 (*) 「でもそんなに辛かったのかなぁ?」 ランカの素朴な疑問に、なのはを〝持って〟行って不在のフェイトとはやてを除く全員が同調する。 『エース・オブ・エースをノックアウトしてしまう神なるパンはいかほどのものだろう』と。 その疑問に最初に耐えられなくなったのはやはり好奇心旺盛なスバルだった。 「じゃあ人数分持ってきますね!エリオも行こ!」 「はい!」 「あ、2人とも私の分はいいからね」 まるで解き放たれた矢のように飛び出して行きそうな2人にランカがマイクを片手に喉を示しながら言う。 『商売道具である喉に負担をかけたくない』ということなのだろう。 「「はーい!」」 スバルたちは頷くと、人混みに紛れていった。それと入れ違いに次元航行部隊の上級将校の制服を着た女性1人と護衛艦隊(次元航行艦隊)の制服を着た男性がこちらにやって来た。 男の方はこの世界に来てばかりの時に会ったクロノ・ハラオウン提督で、女性の方は聖王教会で見た写真に写っていたリンディ・ハラオウン統括官だ。 「こんにちは。あなたが早乙女アルト君?」 「そうだ」 「クロノは知ってるわね」 一礼するクロノを横目に頷く。 「私はフェイトの母のリンディ・ハラオウンです。あなたの噂は息子と娘から聞いています」 「・・・・・・そりぁ、ご贔屓にどうも」 しかしリンディは周囲をキョロキョロしはじめた。 「ところでなのはちゃんとはやてちゃん、それとうちの娘を見ませんでしたか?」 今までマスコミの取材攻勢にさらされていて・・・・・・と続ける。 アルトを含め席の者達は口ごもった。 まさか泥酔したなのはを休憩所に持っていったと言うわけにもいかない。忘れてしまいそうになるが、まだ彼女らは未成年だ。 「・・・・・・さぁ、さっきまでいたんだがなぁ・・・・・・そうだろ、ランカ?」 「えっ、う、うん。そうだね。どこいっちゃったのかなぁ~」 アルトにならってランカもとぼけ、周囲も追随した。 「そう? 仕方ない子達ねぇ・・・・・・」 リンディにとってみれば3人はまだ子供らしい。そこにスバル達が戻ってきた。 「持ってきましたよ~カレーパン」 その皿の上には都合のいいことにリンディ達の分もある人数分のカレーパンと、それであることをダブルチェックしたというお茶があった。 (*) 試食した神のカレーパンはそれはもう激烈な辛さだった。 水があっても半分がやっとだ。アルトは改めて水なしで頑張ったなのはに感服した。 周囲では犠牲者が多発しているらしい。 「グワァァァ!」 などと叫びながら青白い火を吹いている者もいる。 ・・・・・・いや?あれは隠し芸大会か。よくみるとオールドムービーで見たことあるあの怪獣の着ぐるみを着て舞台上に作られた町を破壊していた。 それにしてもあの船首にドリルのついた船はなんだ?なぜビームを撃っている?俺の知ってる轟○号は冷線砲だったはずだ! 「なにこのパン、罰ゲーム・・・・・・?」 舞台から視線を戻してみると、パンを食べたリンディが鼻を摘まんで目に涙をためている。そうなのだ、このパンには少なくともわさびが入っている。 (しかしいったい何を入れればこんなに辛くできるんだよ。下手すりゃ死人が出そうだな・・・・・・ってかまずカレーの味がしねぇよ!ただひたすら辛い・・・・・・いや激痛がするだけじゃねぇか!) しかし更に驚くべき事態が発生した。 リンディがどこかから砂糖を取り出したかと思えば、湯飲みに次々入れていくのだ。確か熱い抹茶が入っていたはずだ。 驚愕していると、念話が入る。クロノからだ。 『(すまん、かーさん大甘党なんだ。見なかった事にしてくれ)』 『(・・・・・・あ、あぁ)』 アルトは頷く事しかできなかった。 (まったくどうなってんだ!リンディといい、このカレーパンといい、常軌を逸してやがる!) しかし「どんな奴がこのカレーパンを作ったのだろうか?」と、気になったアルトはスバルに問う。 「おいスバル、これをどこから持ってきた?」 舌を出して痛がっているスバルは、ある一角を指差した。 そこはバイキング形式で料理の並んでいる普通のエリアではなく、民間の店舗が宣伝のために展開しているエリアで、『古河パン』という店らしい。 少し興味のわいたアルトは、食べれなくて指をくわえるランカを伴い行ってみることにした。 (*) 「いらっしゃい」 『古河パン』の仮設の店舗は屋台形式だが、なかなか品揃え豊富でどれも美味しそうだった。 屋台をやっている店主はまだ30代ぐらいのたばこをくわえた男だ。しかし彼の目からは子供のような元気さ、溌剌さが漂ってくる。 つまりいい意味で『心は子供のまま』というやつだ。 それに古河パンは結構有名店らしい。たくさんの人がパンを買っていく。買いにきた大口の魔導士達。どうやら常連らしい。仲良く話し込んでいた。 「わぁ~、見て見てアルトくん!光ってるよ!」 ランカの指差した先には『レインボーパン』とある。確かにそれはどういう理屈か七色に光輝き、非常に美味しそうだ。 しかし───── 「そいつは止めたほうがいいぜ、少年」 店主が突然後ろから声をかけ、驚くアルトを無視して名札の一角を指差した。 そこは〝早苗パン〟と書かれている。 よく見るとゴッドなカレーパンにも同じ表示があり、値段は他が7割オフなのに対し、その名がついた物は定価となっていた。 「早苗パンってなんなんだよ?」 アルトの素朴な質問に店主は驚く。 「おまえ、早苗パンを知らないのか!?」 頷くアルトとランカ。 「そうか初めてなのか・・・・・・仕方がねぇ、教えといてやる・・・・・・このパンはなぁ─────!」 店主は神のカレーパンを1つ掴みあげると無造作に頬張る。そして比喩でなく本当に火を吹いた。 「きゃあ!」 その圧倒的な熱量に、ランカはサッとアルトの後ろに逃げ込んだ。 アルトもアルトで驚き戦(おのの)くことしかできない。 店主は火炎放射をやめると、得意気な顔で言い放つ。 「ガッハッハッハ!このパンはこうして、サーカスで火を吹くためにあるのさ!」 豪快に高笑いする店主の背後でトレーを落とす音がした。そのトレーにはパンが載せられていたようで、大量に転がっている。 落とした本人は、二十歳前ぐらいに若く〝見える〟女性だ。どうやらバイト・・・・・・なのかな?目に涙をためている。 しかし、彼女の口から出た言葉は落としてしまったパンの謝罪ではなかった。 「わたしのパンは、わたしのパンは・・・・・・サーカスで使う・・・・・・燃料だったんですねぇ!!」 彼女は言いっぱなしで泣きながら走り去った。店主はかじった残りのパンをくわえたかと思うと 「俺は大好きだぁぁぁ!早苗ぇ~!」 と叫びながら屋台を飛び出していった。 「なんだったんだ・・・・・・?」 そこには呆然としたアルトとランカだけが残された。 (*) 帰りの駄賃にと、あんパンとメロンパンをせしめた(無論、代金は置いていった)2人は元の席に戻って来た。 しかし、まだフェイト達3人は戻っていないようだった。 だがすぐに彼女達の声を聞くこととなる。それも最悪の形で。 TO BE COUNTINUE・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 暗躍するミシェル。 ベールを脱ぐなのは。 そしてフェイトとアルトの決断とは・・・・・・! 次回マクロスなのは、第17話「大宴会 後編」 本当の宴が始まる・・・・・・ ―――――――――― シレンヤ氏 第17話へ
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マクロスなのは 第27話『大防空戦』←この前の話 『マクロスなのは』第28話 『撃墜』 「あら、来たのね」 スカリエッティにすら知らせていない隠れ家で潜伏していたグレイスが呟く。 彼女はその美貌に似合う凄みある笑みで微笑むと、隠れ家の回線から民間の回線をハック。刹那のうちに地球の衛星軌道上を回る通信衛星の一つを自らの支配下に置くと、その更に高みに存在する静止衛星軌道上の、ある座標へとそのアンテナを向けさせた。 (*) 第1管理世界(時空管理局本部の置かれている世界) 太陽系第3惑星「地球」 静止衛星軌道上 かつてアルト達の乗ったVF-25がフォールドアウトした宙域に、再びフォールドゲートが開いた。 ゲートは向こう側から砲撃でもされたのか、爆風がゲートから吹き出す。そして静かになったかと思えば、おもむろに何かが出てきた。 赤いノーズコーンが確認できてから極めてゆっくり出てくる。しかし機首部分であるはずのそこは、次の瞬間には赤い咆哮をあげて逆噴射を行った。どうやら強力な逆推進スラスターを括り付けていたようだった。 そして4秒近くかけてようやく緑色のキャノピーをもつコックピットが、その姿を表し始めた。 (スラスター燃焼完了。廃棄(パージ)。減速率は94%で予定値をクリア。ISC大容量エネルギーコンデンサより電力を出力、該当の転換装甲に集中。現在は機体構造維持率62%。なお低下中・・・・・・) ようやくこちら側に来たVF-27のパイロット、ブレラ・スターンは、フレームから悲鳴をあげる己の機体に起きている事態に対処するために、全力で対応する。 あちら側でフォールドゲートに突入した時間は機体全体で2秒に満たぬが、こちら側ではその時間は十数倍に引き伸ばされ、その時差が機体を、ゲート部分を断面として引き裂かんとしているのだ。 これに対処するために開発したディストーション・シールドを、艦全体に張り巡らす改良を施さんとしているマクロスクォーターと違って、コックピットとエンジンだけと最低限のそれしか装備しなかったVF-27はそのツケを払っていた。 機体の構造維持はその大部分を内部フレームと外装の転換装甲が担っているが、どちらも主機である反応エンジンの電力を供給してその強度を高めている。しかしエンジン部との時差が十数倍となった機首には、通常の15分の1程度の出力しか到達しなかった。そのため機首にあるISCのコンデンサから電力を出力し、無理やり構造維持を図っていたのだった。 もっとも当初から予想されていた事態だったこともあり、その対応は難しいものではなく、最初の対応から20秒ほど経った頃には主翼がその姿の6割ほどをのぞかせていた。 すでに機体のこちら側の慣性は吸収し尽くし、両翼の反応エンジンとも通常コネクトを果たしてISCを全力運転。ゲート断面部から新たに現れる慣性を打ち消し続けている。予定ではあと10秒ほどで機体全体が通常空間に復帰できるはずだった。 (アイツがここにいるかはともかく、ランカがいるのは間違いないな) 電子の目を通して近くにあった地球型惑星を見ると、惑星フロンティアのようにバジュラクイーンクラスのフォールドネットが惑星全体を覆い尽くしている。どうやらフォールドクォーツの資源に恵まれているようだ。それと同時にランカがそこで歌っていたのであろう期間の長さが窺える。 しかしなにより今、惑星上の弓状列島から放たれる超強力なフォールド波に、機内のフォールドスピーカーが共振して伝わる生の歌こそが、彼女の生存を声高にさえずっていた。 その歌声に安心していると、機体の受信機がいくつかのフォールド式トランスポンダ(IFF)を拾う。 どれもフロンティア船団籍。どうやら探し物以外にも思わぬ拾いものをしたらしい。 それら反応が集まる弓状列島へと電子の目を収束していると、彼女はやってきた。 『(久しぶりだな。ブレラ少佐)』 「オコナー大佐!?」 突然の声に思わずリアル(生身)の口がその叫びを放つ。 そして死んだはずの女が何時の間にか自らの電脳空間に侵入を果たしていることを認識するのに、25ミリ秒ほどの時間を要してしまう。その一瞬でローテクな通信衛星からのハッキングという大きなハンデを背負っていた彼女は、情勢をひっくり返した。 電磁妨害などの機構を使う間もなく彼のシステムは瞬時に乗っ取られ、その自意識には何十ものシステムロックがかけられた。 その数秒後にはVF-27は通常空間に復帰したが、メインシステムであるパイロットはシステムの牢獄にとらわれたままだった。 人間らしさを失い無機質となってしまったかの翼は、アップデートされていたLAI製の最新アクティブ・ステルス・システムを駆使して、誰に観測される事なく現域から離脱した。 それから10分ほど経つと、残されていたフォールドゲートから赤く、長い針の様なものが生える。しかし針は時と共にその全長を伸ばして行き、最終的には10メートルを超えた。 そして本体部分まで出現が始まると、本能からかフォールド波をばらまいて擬似的なディストーション・シールドを展開。時空差を捻じ曲げて赤い物体が高速でゲートから飛び出した。 その赤い物体─────個体名称「アイくん」は、フォールドアウトと同時に不思議な感覚を味わっていた。 クイーンからのリンクが切れたから・・・・・・ではないようだ。しかし自分達(バジュラ)にとってとても懐かしい気のする感覚だった。 アイくんはそれを『〝彼女(リトルクイーン)〟が歌っているからだ』と結論づけると、発信源である弓状列島の中心に進路をとった。 ちなみにこの時巡回任務についていた管理局のパトロール挺は、VF-27ではデフォルトのアクティブ・ステルス・システムでゲートごと観測データを書き換えられて気づかず、アイくんでは彼の発する生体電気シャミングによってシステムダウン。どちらにせよ、あまりに無力だった。 (*) 同時刻 空きビルの屋上には2人の人影があった。 「ディエチちゃん、ちゃんと見えてる?」 そうもう1人に問いかけたのは、メガネを掛けた少女だった。 しかし彼女こそ、海上のガジェット・ゴースト連合を幻術で強化している張本人だった。 彼女の魔法、IS(インフューレントスキル)「シルバーカーテン」は従来の幻術とは違って魔力素の結合に頼らぬため、ランカの超AMFも効果がなかった。 そしてディエチと呼ばれたもう1人の少女は、ある一点を見据えていた。 「うん、遮蔽物もないし空気も澄んでる。よく見えるよ」 彼女の瞳に内蔵されたスコープが、目標である管理局の大型輸送ヘリを捉える。 「でもいいのかクワットロ?撃っちゃって?あの子はただ〝歌ってる〟だけだよ」 ディエチの問いに、クワットロと呼ばれた幻術使いは微笑むと答える。 「ふふふ、ドクターとウーノ姉様曰く、あの子の歌がこのAMFの発生源なんですって。だから今後の計画のじゃまになるし、〝殺しちゃって〟だって」 まるで「今夜のおかずはハンバーグよ~」というような軽い口調で物騒なセリフを吐くクワットロに、ディエチは 「ふーん」 と無感情に返した。 (*) 次々に出現する敵の増援に、サジタリウス小隊はランカが参入してからも20分以上付き合わされた。 そして今でも空域では空戦が続いている。 しかし弾薬の欠乏と疲労の蓄積したサジタリウス小隊は、フロンティア基地から緊急出動した部隊が到着した頃には、帰投せざるをえなくなっていた。 さくらのVF-11Gは今回狙撃任務オンリーだったため、最初に陸戦型ガジェットと格闘戦をやった時に作ったダメージ以外は無傷だ。しかし魔力砲撃の度大出力を使うため、機載の小型魔力炉(MMリアクター)が悲鳴をあげていた。 その横を飛ぶ天城のVF-1Bはひどい有り様だった。さくらと違って直接戦闘の場面が多かった彼の機体は、エネルギー転換装甲なのに所々貫通孔が残り、ガンポッドも紛失していた。また、左右のエンジン出力が安定しないのか何度か編隊を離脱しそうになっていた。 そして2機の前を飛ぶVF-25は飛行を続ける機動こそしっかりしているが、その純白の翼はVF-1Bに劣らぬほどの損傷を抱えていた。 それは最新鋭機に最高レベルのパイロットと言う、理想的な組み合わせでも、敵がしかるべき装備さえ配備すれば大打撃を被るという証明であった。 だがそれより、トルネードパックである両翼のブースターと上部の旋回レーザー砲がなくなっているのに、戦闘空域外ではデッドウエイトになる追加装甲がそのまま残っている。 実はVF-25は度重なる被弾により、反応エンジンと機体本体のエネルギー転換装甲を繋ぐ配電システムが全て断絶し、その機能を完全に失っていた。 通常このまま飛行を続けると構造維持すら困難になり、最悪の場合空中分解という事すらある。 そのためアルトは機体を覆う追加装甲に電力を回し、無理やり構造維持を図っていた。 アルトは細心の注意を払いながら機体を操作する。 転換装甲のないバルキリーなど旧式のジェット戦闘機と同じだ。ミサイル1発、機関砲弾数発で大破する。 アルトは『昔の人は偉かったんだなぁ』としみじみ思った。 60年ほど前、彼らはこの状態で戦い合ったのだ。ほとんど場合で〝たった一撃で墜ちる〟ような戦闘機に乗って。 アルトは感慨に耽けりながら、そして機体を労わりながら、戦闘空域から離れていった。 (*) ユダ・システムである〝彼〟はこの戦いにはゴーストとして参加していた。 彼は満足だった。ガジェットⅡ型改のような急ごしらえの改修機でなく、元から限界ギリギリの高機動に耐えるよう設計されているこのQF2200『ゴースト』という機体に乗り換えられたことに。 しかし前回とは致命的に違う事がある。実は前回の戦闘で被った被害は、ユダ自身にまで及んでおり、記憶喪失に近い状況にあった。 ほとんどはレストアして無事だったが、それでも忘れてしまった内容は、実戦経験を数値化して蓄えられたデータだ。このデータは彼自身の経験だけではなく、第25未確認世界の新・統合軍が統合戦争より脈々と練り上げてきた戦闘アルゴリズムが主である。 それを忘れたとあっては、人間に例えるなら戦場に出たばかりで知識しかない新兵のようなものだ。おかげで今回も無人機部隊を指揮していると言うのに、その指揮と機動には以前と違って稚拙さが目立ってしまっていた。 彼は以前の最後の記憶でこちらを落としかけたVF-25を今度こそ落とすことを目標としていた。しかしVF-25には、こちらの単純な物量戦術や罠がまったく通用しなかった。 また、そうこうするうちに友軍であるガジェットは〝謎の音波兵器〟で弱体化され、他の敵に集中するうちに手負い程度には追い詰めたVF-25も撤退してしまった。 ここに至りあの機体はほんとに最精鋭であり、自分は新兵であると認識した彼は、奴を落とすため経験を積むことを最優先とした。 幸い敵には事欠かなそうだ。フロンティア基地からスクランブルしてきたバルキリーが数多く飛翔している。 そこで彼は手始めに一番動きの鈍い〝VF-1A〟という機種に狙いを絞ることにした。 VF-1Aはまだまだ経験の浅い2期生の乗る機体であり、比較的弱く映るのは当然の結論だった。もし本当に狙われたら航空隊にとって堪ったものではない。 しかし弱点とは言え後進の指導は必須なのだから、航空隊の先輩たちは全力でそれらのフォローを行っている。そのためVF-1Aが全体に占める割合は30%程度のもので、常に連携を維持していた。それに2期生達は「(先輩達の)ケツの匂いが嗅げる位置から離れるんじゃない」と教え込まれている事から、その隙を突くことは中々に困難な事だった。 しかし万事がそうであるとは一概には言えなかった。 彼は不如意にも頭出した1機に狙いを着ける。 傍受した彼らの無線によると、ほぼ無力化されたガジェットをゴースト部隊から離して迂回侵攻させていたのだが、それを発見したらしいその機は英雄的にも立ち塞ごうとしているようだ。 2期生と言えど毎度のスクランブル、そして数ヶ月前の演習空域での大規模空襲ですら持ちこたえて来たという自負を持っている。その事から多少の慢心が生まれるのは必然だった。 しかし今回はその多少が命取りとなる。敵は今までと違って、曲がりなりにも戦術を持った敵なのだから。 彼は管制として高空を飛行していたが、近衛として周囲に展開するゴースト一個編隊におっとり刀でVF-1Aを追ってきた編隊機を押さえ込むよう厳命すると、その1機にドックファイトを挑んだ。 それは高空から急降下した彼に〝上昇〟して迎撃してきた。 彼の持つ知識によれば、それは全く持ってナンセンスな機動だった。 速度の乗ったこちら(ゴースト)に比べてエンジン出力とせっかく稼いだ運動エネルギーを持っていかれるあの機体(VF-1A)。勝敗は明らかなはずだ。 果たしてこちらの放つ新型弾頭『超高初速20mm対(アンチ)エネルギー転換装甲(ESA)弾』が面白いように命中するのに比べ、敵の弾丸はかすりもしない。 そして遂に転換装甲のキャパシティを超えたのか主翼やエンジンナセルがもげる。 数瞬の後、キャノピーが吹き飛び爆散した。 しかし操縦者はキャノピーが吹き飛ぶと同時に脱出し、EXギアで飛翔していた。どうやら判断力は一人前なようだ。 ユダ・システムである彼にとってこれはまだ撃墜とは認定せず、その砲口は当然のようにEXギアに向いた。 伸び行く曳光弾。しかしそれはかわされた。 (ほう、なかなかやるな・・・・・・) 彼は初めてその敵を評価した。 元々フロンティア基地航空隊のパイロットは、全員空戦魔導士の出であり、2期生レベルだとまだ魔導士時代の戦闘スタイルを引きずっている者が多数いた。 さきほどの機動もバルキリーではナンセンスな機動だが、魔導士としてなら実は問題ない機動だった。なぜなら彼らは浮遊魔法で重力を打ち消し、水平飛行と同様の速度で、ある程度の高度までなら上昇できるからだ。 そして本来の身軽な体に戻った彼はなかなか善戦した。しかし、どんなに優秀でも所詮はBランクレベルのリンカーコア。リミッター付きとはいえ、なのはやフェイトといった強者がてこずるゴーストにユダ・システムという彼には敵(かな)いようもなかった。 戦闘から十数秒、事態は動き出した。 突然敵の音波兵器が〝止まった〟のだ。 それによりガジェットが勢力を盛り返し、再び空域をAMFで満たした。 AMFによってその魔導士の飛行速度が遅くなる。 彼はガンポッドを照準すると、一斉射した。たった1発の20mm弾に被弾した彼は、一瞬にして全身バラバラになると、血飛沫を上げて落ちていった。 この時、初めて彼の中で撃墜数1がスコアボードに記録された。 (行ける!これなら行けるぞ!) 敵は音波兵器が止まって浮き足立っている。彼は勢力を盛り返した友軍と共に侵攻を再開した。 (*) 時系列は少し戻る。 ようやく横浜上空に到達したアルトは、懸案事項を思い出していた。 『敵の大軍に突入していったフォワードの4人は大丈夫だろうか?』と。 そこで通信機を操作し、六課のロングアーチに繋いだ。 『お疲れ様です。〝早乙女〟一尉。』 画面に映る〝アルト〟。偶然自分と同じ名を持つ彼女とは、ファーストネームで呼び会う取り決めだった。 また、彼女とはある過去の境遇が同じで、なかなか馬があった。 その境遇とは、自身の性別の誤認だ。 上にも下にも男の兄弟しかいなかった彼女は、最近まで自らが男だと思い込んでいたという。 お笑い草にしかならないこの話題も両アルトにとっては切実なものであり、お互いのシンパシーは強かった。 「サンキュー、クラエッタ。・・・・・・ところでフォワードの4人は大丈夫か?」 『はい。レリックを1つガジェットに確保されたらしいですが、もう1つは確保。途中、アグスタ攻防戦時にガジェットを操作したらしい召喚士一味と戦闘になりましたが、ヴィータ副隊長とリイン曹長の援護で逮捕に成功しました』 それを聞いたアルトは六課の底力に素直に感心した。 援護があったとは言え、入局から半年の新人がこの活躍。全く持って目を見張るものがあった。 『・・・・・・なんなら通信を繋ぎますが、どうしますか?』 そう聞くという事は向こうも暇なのだろう。アルトは 「そうしてくれ」 と頼んだ。 待っている間にも機外から歌声が聞こえてくる。 外部マイクは損傷で断絶しており、気密の高い機内には通常聞こえないはずだった。しかし破損が酷かった事と、ヘリがたった10メートル先を飛んでいる事は無関係ではないだろう。 ヘリの窓からは歌い続けるランカの姿が確認できた。 ランカの方もこちらに気づいたらしく、曲の見せ場である〝キラッ☆〟をこちらに向かってやってくれた。 頷きと共にすれ違い、目前の多目的ディスプレイに向き直ると、すでに通話状態だった。 『─────お、アルトか。私が居ない間に新人達が世話になったな』 ヴィータがグラーフアイゼンを肩に担ぎながら礼を言った。 「なんて事はない。・・・・・・ところで、召喚士は?」 アルトの問いにカメラの位置が横に移動し、リインと4人、そして見慣れぬ青い色の長い髪をした女性を映す。彼女が陸士部隊から来た増援らしい。 しかしアルトの目はその召喚士に釘付けになっていた。 「子供?」 アルトは 10代(ティーンエージャー)にすら達していないであろう、その紫の髪をした少女に意表を突かれた。 『ああ。だが魔力光も魔力周波数もアグスタ攻防戦当時の記録に相違ない。・・・・・・なんだか子供をいじめてるみたいでいい気はしねぇが─────』 (お前が子供って言うな) 『─────少なくとも公務執行妨害、市街地での危険魔法使用についての現行犯逮捕だから間違いねぇ』 ヴィータは言うと、詰問している6人に呼びかける。 『どうだ? なんか喋ったか?』 ヴィータの問いにスバルが否定の仕草を返した。 しかし不意に、少女が口を開いた。 『・・・・・・逮捕もいいけど、大事なヘリは放って置いていいの?』 そのセリフに一同は凍りつく。 『なんだよ!爆弾でも仕掛けてあるのか!?』 ヴィータが詰め寄る。 しかし少女はその問いには答えず、無感情な目でヴィータを見やると言い放った。 『・・・・・・あなたはまた、守れないかもね』 そのセリフはアルトにはピンと来なかったが、ヴィータには効いたようだ。 彼女の顔が蒼白になる。 しかしアルトはこれ以上この通信を見る事ができなかった。 ロングアーチがこの通信をオーバーライドする最優先通信を繋いだからだ。 『こちらロングアーチ!そこから8時の方向、距離3キロの位置にオーバーSランククラスの魔力反応!砲撃です!』 「バカな!ここはランカの超AMF下だぞ!」 アルトは信じられない事態に、まず相手を確認する。 操縦者のその方向への振り返りに機体のセンサーが呼応して、発生地点がホロディスプレイを介して拡大される。そこには全長が2メートルほどの〝大筒〟を構えた人間の姿が映っていた。 大筒の先端では光の粒子が集束されており、何かはわからないが発砲体勢に入っていることは間違いない。 そしてその照準は間違いなく、ランカの乗ったヘリに向けられていた。物体を狙う場合は破壊設定であることは言うまでもないだろう。 また、オーバーSランククラスの砲撃ではヴァイスのヘリのPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)では紙くず同然である。 「メサイア!発砲までの予想時間は!?」 「6 seconds.(6秒)」 聞くと同時にアルトは機体を急旋回、スラストレバーを全開にまで上げてヘリまで戻る。 「ジャマだぁ!」 重い追加装甲がパージされ、多目的ディスプレイに『非常用構造維持エネルギー、限界まで60秒』という文字が躍る。 VF-25が〝ガタガタ〟と軋みを上げ、自機の限界を主張する。 しかし機体だけでなく無線も悲鳴をあげた。 『アルト隊長!無理です!やめてください!』 さくらの叫び。しかし修羅となった彼は止まらなかった。 そして無慈悲にも発砲された(魔力)素粒子ビームに、その機体を曝した。 バトロイドに可変したVF-25は防弾シールドを両腕で保持してPPBSをフルドライブ!着弾したビームが四方に分散する。 しかしビームは減衰するが、止めるには至らなかった。 コックピット内で最後に彼が認識したのは、分子レベルにまで分解されてゆく己の体だった。 (*) ランカにはそれは極めてスローモーに映った。 ヴァイスのいるコックピットからロックオンアラートが聞こえた。 そちらを向こうとしたとき、視界の端につい先ほどすれ違ったはずのアルトのVF-25が映り、そちらに意識が向く。 「ビーム拡散弾、散布。PPBS最大出力!全速回避!!」 ヴァイスの叫びが聞こえると同時に、三半規管が床の傾きを感じ取る。 その刹那、正面に捉えていたVF-25から強烈な閃光が発せられ、視界が白く覆われた。 普段ならば、眩しさに思わず目を細めるはずのその光景。 しかしこの時だけはなぜか目を離さず、凝視し続けていた。 光から視界が開く。 最初に目に入ったのは、炎に包まれ四散する物体。 10秒にも満たないこの時間に凝縮された圧倒的な情報量。 それにより思考は完全に停止し、〝ボーッ〟っとその現場を眺める。 管理局の国籍表示マークをつけた魚のヒレのような主翼や、透明なキャノピー。その他白や赤に塗装された大量の部品が力なく落ちていく。 その光景に自身の脳は一つの結論を導いた。 アルトが、死んだ そんな。 少なくとも緊急脱出(イジェクト)はなかった。 あり得ない。 着弾時に背中に移ってキャノピーを包むファイター形態後部ユニットはそのままだったのだから間違いない。 信じられない。 また、そこから魔力反応は感じられず、転送魔法を使った形跡はない。 嘘だ。 つまり。 そんなはずがない。 結論に。 なにかの。 間違いが、ない。 「い、や・・・いやああぁぁぁぁぁぁぁ!」 (*) 「畜生・・・・・・」 ビームの余波によってPPBSがオーバーヒート。コックピットから小さな火の手が上がって、自動消化装置の液剤まみれになったヴァイスは、よく伸びるソプラニーノの悲鳴を、つぶやきと共に聞いていた。 幸いにして敵はアルトの忘れ形見たる編隊機によって追走。もう攻撃される事はないはずだ。 しかし少女に植え付けたであろう精神的ショックは大きい。 「まだ何も言ってないよアルトくん!もう一度、もう一度『好きです』ってちゃんと言おうって思ってたのに!・・・・・・さっきの念話だって、私の事、本当に大切に思ってくれてるって感じたもん!だからここまで頑張ったんだよ!さっきの歌だって、アルトくんのために歌ってたんだよ!?ねぇ、お願いだから応えて!・・・・・・大丈夫だって言ってよ・・・・・・」 耐圧ガラスを叩いているのであろう鈍い音と共に、その悲痛な叫びが後頭部に届く。それは慟哭にとって変わられ、悲しみを振りまく。 このパイロットという畑に来てそれなりに長いヴァイスから見ても、アルトの生存は絶望的だった。緊急脱出も、転送魔法も、シールド魔法の類も魔力反応の残留すら感じない。 例えこの魔導世界であろうと、それらがなければ大破した機体から操縦者を守る術はない。 彼女を励ませるように何か声をかけてやりたかったが、何もその材料は存在しなかった。 しかし声をかける材料は意外と簡単に見つかった。それが良い事か悪い事かに関わらず。 無線から入荷したその材料に歯噛みし、彼女に唯一してあげられることは自ら直接伝えに行くことだけだと席を立った。 (*) 気づくとコックピットから出てきたのか、目の前にヴァイスの姿があった。どうやら自分はヘリの床に座り込み、膝を抱えて小さくなっていたようだ。 「・・・・・・すまん、こんな時にこんなこと頼みたくないんだが・・・・・・歌ってくれ。AMFが消えて勢力をぶり返したガジェットが押して来てる。もう戦闘空域は三浦半島上空になっちまったらしい。頼む、これ以上〝犠牲者〟を出さないためにも・・・・・・」 ヴァイスが頭を下げて頼んでくる。そんな彼の眼には、涙があった。 (・・・・・・あぁ、悲しいのは自分だけじゃないんだ) 〝自分にはやることがある。〟と自らにムチ打ったランカは立ち上がり、歌い始めた。 〝─────あなたの言葉をひとつください 「さよなら」じゃなくて・・・・・・〟 その歌声は聞く者に、知らず知らずのうちに涙を出させる旋律であった。 私はずっとそばにいた。微笑めば繋がっていたはずだった。六課のみんなと、全ての人がひとつに調和していたあの日々。 ずっとそばにいたかった。でも、どんなに声に託しても、もうあなたまで届かない・・・・・・ 〝蒼い 蒼い 蒼い旅路・・・・・・〟 ―――――――――― 次回予告 姫の悲しみを見たアイくんの逆襲 そしてランカの歌が消え、窮地に残されたフロンティア基地航空隊 次回マクロスなのは第29話『アイくん』 「・・・あら、あなたがアイくん?」 ―――――――――― シレンヤ氏 第29話へ
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その他参考画 名前:クロス 読み:くろす Cross 性別:男 歳:15歳 一人称:俺 説明:新作に出るかもしれない。一応王子。正確は割と温和だが、感情に流されやすく、一度怒るとなかなか静まらない。
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マクロスなのは 第22話『ティアナの疑心』←この前の話 『マクロスなのは』第23話『ガジェットⅡ型改』 第1管理世界 ミッドチルダ首都クラナガン 某所 「今日の晩、ちゃんと来られるんだね?」 MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)の音声回線を前に女が確認するように問う。 それに回線の向こう側にいる誰かが応える。 『へい、アマネのやつがようやく管理局のレーダーのセキュリティホールを見つけやして』 「でかした!」 『でへへへ、姉(あね)さんに褒められるとうれしいですわ~』 「バカ!あんたを褒めたわけじゃないよ!それで、こっちには何で来るつもりだい?」 『え~と、輸送船で「キリヤ」って船です』 「「キリヤ」って・・・・・・ありゃ先代が30年も前に盗んだダサいポンコツ船じゃないか!もっとましな船はないんかい!?それともうちの次元海賊は首領の私がいないと運営が傾くほど資金難なの!?」 『いえいえ、そんなことないです!あっしにはよくわかりませんが、アマネによればセキュリティホールを抜けるのにあのヒョロっとした形とタイアツコウゾウだったかが重要みたいで―――――』 「あ~もう!わかったわかった!とにかく来なさいよ!そうじゃないとせっかく手に入れたこいつが無駄になるんだからね!!」 『それはもう。アマネもそのカワイコちゃんを思う様に犯してやりたいって張り切ってますわ』 「あの子の期待に応えられそうだよ。この機体は」 次元海賊の首領である女はそう言うと、ブルーシートにかけられた管理局の最新鋭戦闘機を撫でた。 (*) 同時刻 機動六課 訓練所 そこでは模擬戦が最終局面を迎えようとしていた。 魔力を前面に押し出して攻撃を放ってきたスバルの攻撃と、自らの魔力障壁がぶつかり合ってスパーク。放電現象によって周囲の空気の一部がオゾンへと変わったのか、鼻の粘膜に刺すような痛みが一瞬襲う。しかしその痛みはバリアジャケットのフィルター機能が瞬時に遮断した。 それでも自らの嗅覚は上方を推移し始めた動体の動きを見逃さなかった。 ティアナがどんなに頑張ろうと空は自分のフィールド(領域)であり、シロートの接近に気づかぬ訳がないのだ。 「・・・・・・レイジングハート、シールドパージ」 『Alright.』 なのはの指示にスバルを受け止めていたシールドがリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲。被弾した場所の装甲が自爆し、弾道を反らしたり減衰して無力化する機構)のように自爆。爆風と煙幕によってスバルの攻撃を完全に無力化する。 しかし自分に自由落下程度で挑んで来ようとは・・・・・・ (遅すぎ) なのはは降ってきたそれを物理的に掴んだ。 そして指先の接触回線から、急ごしらえで作ったらしい詰めの甘い対ハッキングプログラムをオーバーライド。友軍以外の他者の魔法を拒絶するオートバリアを無力化する。 続けて彼女は、オートバリアのなくなったティアナに浮遊魔法をかけて勢いを殺した。 シールドパージからここまで100分の1秒未満。落下距離に換算すればたったの10センチにすぎない。 日々相対速度が音速近くなる(対ゴーストや対バルキリーでは軽く2~3倍を超える)空戦に対応出来る・・・・・・いや、しなければいけないなのはにとってそれは亀のごときスピードでしかなかった。 (*) 突然白煙に包まれ、視界ゼロとなったことにティアナは狼狽する。しかしなのはがいると予想される場所から声がした。 「おかしいな・・・・・・2人とも、どうしちゃったのかな?」 決して怒った口調でも非難する口調でもないなのはの言霊。一定方向から聞こえるという事は自分は静止状態にあるらしい。思考する内にも白煙が晴れていく。 最初に目に入ったのは恐怖で引きつる相棒の顔だった。そして、『どうしたのだろう?』と思う間もなく、冷たい風ががそこを洗った。 なのはの素手で受け止められたスバルのデバイスと自身の魔力刃。 そして魔力刃を握る拳から滴る〝血〟。 それは視界とは裏腹に、自身の頭を白煙で満たした。 「頑張ってるのはわかるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ。練習の時だけ言うこと聞いてるフリで、本番でこんな危険な無茶するんなら・・・・・・練習の意味、ないじゃない・・・・・・」 なのはの一言一言が重くのし掛かる。 今まで丁寧に教えてくれた人に、自分は今何をしている? 銃を突きつけている。 これはいい。ここはそういう所だ。 無茶して怪我させている。 これは・・・・・・弁解の余地はなかった。 「ちゃんとさ、練習通りやろうよ。ねぇ?」 「あ、あの・・・・・・」 しかしなのははスバルの弁解を聞こうとせず、こちらを見る。 その瞳のなんと虚ろなことか。 この優しく、時に厳しい彼女が、こんな生気の抜けた顔をするのか。 その瞳と血とは、ティアナを混乱させるに十分な力を持っていた。 「私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」 なのはの問いかけに、ついにティアナの混乱は頂点に達した。 『Ray erase.(魔力刃、解除)』 唯一自らを空中に縛っていた魔力刃が解除。浮遊魔法で軽くなった体を生かして跳び、なのはから離れたウィングロードに着地する。 しかしそれだけでは冷静さを取り戻すには足りなかった。 「私は、ただ、なのはさんに、認めてもらいたくて・・・・・・さくら先輩みたいにちゃんとした教導を受けたくて─────!」 こんがらがったティアナの思考にはもう一貫性がない。 口とは違い、体はカートリッジを2発ロードし、まだなのはに攻撃を放とうとしていた。 「・・・・・・少し、頭、冷やそうか・・・・・・」 向けられる指先。そこに桜色の魔力が集束していく。 「なのはさ─────は!?バインド!?」 止めに入ろうとしたスバルは、己の両腕がいつの間にか封印されていることに驚愕する。 「じっとして。よく見てなさい」 この時、なのはが他にレイジングハートに向かって何か呟いたが、スバル以外の感知するところになかった。 「クロスファイヤ─────」 「うぁぁーーー!ファントムブレイ─────」 「シュート」 なのはの宣言と共に桜色の砲撃が放たれた。 しかしクロスミラージュが砲撃に使おうとした魔力を流用してシールドを緊急展開。なんとか減衰する。その後貫通したそれはティアナの体を炙ったが、重度の魔力火傷は回避した。 本当なら砲撃プログラムに容量を取られてシールド展開用の緊急プログラム作動すら間に合わない間合いであったはずだが、なのはに命令を受けたレイジングハートのハッキングにより、時限作動していた。 これで戦闘意欲は削いだかに思えたが、ティアナはまだ諦めていないようだった。無理やり攻撃態勢に入ろうとしている。もはや魔力を生み出す体力がないのかカートリッジを湯水のように消費して足しにする。 「お願い、私は負けられないの!!」 しかし願いとは裏腹に生成される魔力をなかなか成形させることができず、オレンジ色の魔力が重力井戸から解き放たれた大気のように空中へと拡散してしまう。どうやら実質的な戦闘不能状態であるようだった。 一方なのはは再び魔力を収束し始めていた。 しかし今度のそれに教育的な理由は感じられない。 先ほどのようにティアナの最高状態に合わせて撃とうとしているわけでもなく、実のところリミッター状態の今のなのはが最も撃ちやすいAA出力の砲撃魔法でしかなかった。 しかしそれはフェイトや守護騎士のような親しい人種でもその事実には気づけなかっただろう。なぜなら彼らはなのはが訓練時に魔力の出力を下げて使うとき、本人ですら気づけないような特殊な癖がある事を知らないからだ。だがここにはその乱心に気づけ、かつ対応出来るだけの能力を持った者が2人いた。 (*) まばたきの瞬間、なのはの目前に浮く収束中の魔力球が破裂した。 その瞬間スバルにはそのぐらいにしか認識できなかったが、直後遥か遠方から聞こえてきた重い発砲音をたどると、観戦していたさくらがビルの窓から魔力球を狙撃したのだとわかった。 そしてティアナの所には高空よりやってきた一陣の風が舞い降りていた。 「この大バカ野郎!歯ぁ、食いしばれっ!!」 EXギアの腕のみを外したアルトの一撃がティアナの頬に炸裂した。 顔に一切のダメージを残さぬよう、足場であるウィングロードから足を踏み外さぬよう、芯まで突き通すように掌(てのひら)で張り飛ばす早乙女家の技はまさに芸術的であった。 その一撃によって彼女の意識は完全に飛び、ウィングロードの上に横たわった。 「ティア!」 狙撃以来バインドから解放されていたらしく、スバルは立ち上がると同時にマッハキャリバーを吹かして親友の元へと駆ける。 その後ろからなのはが厳かに告げた。 「・・・・・・模擬戦はここまで。今日は2人とも、撃墜されて終了」 スバルは振り返りなのはを睨みつけるが、何も言えなかった。 (*) その後意識不明になったティアナの搬送作業、その他のゴタゴタで次に行われる予定だったライトニングの模擬戦も中止。 そのまま解散となった。 (*) 2146時 訓練場前 そこではなのはが、ホログラムのプログラムエラーの修理と最終確認をしていた。 どうやらリアリティの追及のし過ぎでそれぞれのマトリクスに過負荷がかかり、オーバーロード気味だったようだ。 彼女は構成情報を減らしたり、多少のコマ抜けを看過するようプログラムを改良していく。 ホログラムの訓練場でこれほど大規模なものはコストの問題で世界初の試みであったため、まだノウハウの成熟には時間が要るようだった。 「待機関数を1ミリ秒のループに繋いで・・・・・・よし、終了!レイジングハート、プログラムのチェックをお願い」 『Yes my master.』 デバックの進行を表すバーがゴールである100%を目指して伸びゆくのを眺めていたが、後ろからやってきた気配に振り返る。 「誰?」 「い、いよぅ」 突然こちらが振り返ったのに驚いたのか、その人物はラフに挙手した。 「ア、アルトくん!?」 直後背後からレイジングハートのデバックの終了と問題なしの報告。そしてご丁寧に作業用のホロディスプレイまで閉じて〝お仕事〟の終了を完璧に演出してくれた。 絶対の信頼を置く己がデバイスの反乱になのはは全面降伏。仕事に逃げるのをあきらめて問題に向き合わざるを得ないと観念した。 (*) 同時刻 ミッドチルダ 千葉半島沖合100キロメートル その場所に一隻の次元航行船がワープアウト(次元空間から出てくること)していた。黒い船体の中央辺りに突き出た艦橋には輸送船「キリヤ」の文字。 作られたのが40年も前の船で、さらに他世界の次元航行最初期の設計であったために勘違いな設計が多数存在する。 例えば次元空間を当時その世界の理論では水中のような高圧の流体の世界だと考えており、船体のデザイン、そしてその強力な耐圧構造はそれに則して施されている。そのため船体の形状は魚雷型で、スクリューが無いことを除くと潜水艦にしか見えないし構造も同じである。 現代では次元空間のワープバブル(次元空間の時空エネルギーに対抗するために張られるバリアのようなもの)の中は宇宙空間のようなもので、我々のよく知る管理局所属の次元航行船、巡察艦「アースラ」などは見ての通り流体内部を航行するような構造ではない。そのため外装の装備などが充実し、船型を制限されず〝ハイセンス〟なデザインとなる。 そのような事情な現代ゆえ、先ほどの次元海賊の面々もこの艦を前時代的なひょろっとした艦としか認識できないのも仕方ないことだった。 だが現代のそのような認識が次元海賊に幸いする。実はこの輸送船「キリヤ」は次元空間から直接深海1000メートルにワープアウトしており、時空管理局の太陽系すべてを網羅するほどのワープアウト検出用防空ネットワークに引っ掛からないのだ。 セキュリティホールとは言えまさに灯台下暗しとはこのこと。さらに一度ワープアウトして入ってしまえば、海上船舶程度の船籍の偽装は次元海賊の組織力をもってすれば比較的容易で、ワープアウト数分後には水中から浮上して堂々とミッドチルダに待つ女首領との合流ポイントへと向かった。 (*) 「さっきティアナとスバルがこっちに謝りに来てたぞ。なんでもお前がオフィスにいないから先に俺のとこに来たらしい。『今日はもう遅ぇからなのはに謝まるのは明日にしとけ』って言っておいたんだが・・・・・・」 なのはと訓練場から宿舎への道を歩きつつ伝える。 「うん、ありがとう。・・・・・・でもごめんね。監督不行き届きで。それに私のせいでアルトくんやさくらちゃんにもにも迷惑かけて・・・・・・」 「確かにあれはお前らしくなかった。特に2発目。1発目はそうだな、ああするのが一番だっただろうよ。殴って殴って徹底的に型を叩き込む・・・・・・オレの知ってる稽古はそういうものだ」 幼少時代、寝ても覚めても歌舞伎の稽古で殴られ続けた記憶がフラッシュバックを起こして一瞬言い淀むが、今自分がその吐き気を催しそうな指導方法を認めようとしている、さらには先ほどティアナに実施したことに気付いて居たたまれなくなった。 それに教えられてもいないのにあの平手打ちをしっかりマスターしていたことにその業を怨まざるを得なかった。かといって歌舞伎で言うこの「うつし」と呼ばれる真似の技術が自身が幾多の戦場を駆け抜けるのに1役も2役も買っていたことも事実であることが、大人の階段を上る青年の心を複雑にかき乱した。 しかし自分のことで精いっぱいでそんな青年の機微を感じ取る余裕のないなのははその2発目について漏らし始めた。 「・・・・・・私、怖かったの」 「怖いってティアナがか?」 「そう。あの時のティアナ、無茶を通して道理を通す。・・・・・・まるで昔の私みたいだった」 「・・・・・・お前の撃墜事件のことか?」 「うん。無茶してた自分のことを思い出したら撃墜された時の痛みとかリハビリの苦痛を思い出して、気付いたら頭真っ白になっちゃって」 「それで怖くなって撃とうとしてしまった、と?」 「そうだよ。いくらティアナでもクラスAのリンカーコア保持者なんだから、攻撃の意思表示をしている以上、〝出力を落とした〟砲撃で昏倒させようとしたあの判断は戦術的に正しかった―――――」 「おい待て。お前、それは本気で言ってるのか?」 「もちろんだよ。でもやっぱり判断力が鈍ってたのかな。さくらちゃんは放出しちゃったティアナの魔力に私の砲撃が引火するのを防いでくれようとしたんだよね。あの時は助かったよ~。そうじゃなかったらティアナを2,3日病院送りにするところだ―――――」 「ほんとうにらしくないな!高町なのは!!」 「え・・・・・・?」 「俺に嘘をつくだけでなく自分を正当化するとはな!・・・・・・お前には失望したぜ」 踵を返して足早に去ろうとすると、納得できないらしいなのははこちらの肩を掴んで 「ま、待って!どういうことかわからないよ!!」 と、呼び止めてきた。 「なら教えてやる。あのときのティアナは誰が見ても脅威にはならなかった。お前がそれを見間違えるはずがない!それに2発目が出力を落とした砲撃だっただと?フェイト達ならわからんが、残念ながらお前の教導をくぐってきた俺やさくらはだませないぞ。その前には怖くて撃ったと言ったか?・・・・・・見くびるなよ。これでもお前とは何百時間も一緒に飛んできたんだ。他にどんな理由があるか俺には皆目見当がつかないが、お前が言った理由だけではないはずだ!違うとは言わせないぞ!」 有無を言わさぬ口調で言い放つ。例え自らに魔法を教えてくれた師であろうと、今の彼女に背中を任せたくなかったからだ。 直後近くにあった街頭の電灯が消え、運悪く通過する厚い雲によって月明かりすら遮断されて辺りは相手の表情すら読み取れないような真っ暗闇になった。 「・・・・・・あ~あ、流石はアルトくんだね。本当のこと言うとね、あの時私が2発目を撃とうとしたのはティアナが怖かったわけじゃないの。実はね、ティアナの無茶を見ていろいろ痛い思いをした撃墜事件のことを思い出したら、あんな痛い目を将来するかも知れないぐらいなら、その前に無茶すれば絶対なんとかなるって言う幻想・・・・・・かな?それを〝潰しちゃおう〟って思って。私なら魔導士生命を終わらせないぐらいの手加減ができるって考えちゃったんだよね~」 先ほどとは打って変わって声色は明るい。しかし彼女が言ってるとは信じられないような内容と表情が読み取れないせいで病的な、はたまた別人が言っているように聞こえて恐怖を誘う。 「お、おい、お前―――――」 ただならぬ雰囲気になのはに近寄ろうとすると、逆に彼女の方から一瞬で間合いを詰められて胸倉をつかまれていた。しかし何か言う前にちょうど差し込んだ月明かりに照らされた真っ赤になった彼女の双瞳(そうとう)で見上げられ、何も言えなくなった。 「私が今どれだけひどいことを言ったか分かる!?アルトくんなら分かるよね!?私は今までそんなことにならないように教導してきたはずなのに!・・・・・・でもあの時はそう思っちゃったんだ。1週間か1カ月ぐらい病院送りにして懲らしめてやろうなんて―――――んっ!?」 気がつくとアルトは護身術の要領で彼女の両肘を横に払い、その姿勢を崩したところで彼女をしっかりと抱き寄せていた。なんの打算もない。しかし彼に眠っていた記憶、すでに他界した母にそうされると落ち着くことを思い出した故の行動だった。 腕の中で震える彼女を感じると、彼女が生身の女の子であることを認識せざるをえなくなる。それはアルトにおのずと何を言えばいいのかを教えてくれた。 「わかってる。大丈夫だ。完璧な人間なんて居やしない。お前が間違ったときには今日みたいに俺たちが止めに来てやる。だからお前も、お前を信じる俺たちを信じてほしい」 「・・・・・・アルトくんは・・・・・・アルトくんはこんな私をまだ信じてくれるの・・・・・・?私、ティアナを傷つけて、それを隠そうってアルトくんを騙そうともしたんだよ!?」 「ああ。確かに褒められたことじゃない。だが俺はお前を、お前の心根(こころね)を信じる。だからお前も俺たちを信じてくれ。できるよな?」 「・・・・・・うん。ごめんね。・・・・・・ううん、ありがとう」 胸の中でなのはは確かに微笑んだ。そして震えは、確かに収まっていた。 (*) 5分後、ようやく落ち着いてお互い離れたのはいいが、まだ解決していない問題も多い。なのはは意を決すると、アルトに尋ねる。 「ティアナとスバル、どんな感じだった?」 「うーん・・・・・・やっぱりちょっと気持ちの整理がつかないみたいだったな」 苦い表情での答えになのはは再び俯いてしまった。 その場を生暖かい潮風が舐める。と、不意にアルトは口を開いた。 「なのは、お前の教導が間違ってないことは、受けてきた俺達が保証する。だが撃墜事件のことを話してくれてないとなかなか伝わらないし、わかりにくいだろうな・・・・・・」 「うん。いつも最後に話してたけど、フォワードのみんなに明日ちゃんと話すよ。私の教導の意味と、さくらちゃんの教導との違いも」 しかしそれは叶わなかった。 静寂に満ちていた海辺に、けたたましいサイレンが鳴り響く。 2人はアイコンタクトすると指揮管制所のある六課の隊舎へ走った。 (*) 「AWACS『ホークアイ』から警報。千葉半島沖合い50キロの地点にガジェットⅡ型が12機出現しました。しかし機体性能が、従来のデータより4割ほど向上しています!」 隊舎の指揮管制所に集まったロングアーチスタッフと各隊長に、夜間勤務だったシャーリーが報告する。 「ガジェットはどこに向かっとるんや!?」 はやての問いにシャーリーは回答に詰まる。 「それが・・・・・・レリック反応もなく、ガジェットもその場から動きません」 映し出されるガジェット達の航跡は、その場をぐるぐる旋回飛行している事を示していた。 「フロンティア航空基地は?」 「現在出撃待機のみで出撃を見合わせています。理由について先方の回答によれば、あれが敵の陽動である可能性があり、主力、もしくは別働隊の出現に備えるとのことです」 「うーん・・・・・・こっちの探知型超長距離砲撃で十分届くけど・・・・・・」 探知型超長距離砲撃とは、レーダー基地又は観測機、この場合AWACSに正確な砲撃座標を送ってもらい、その座標を元にここから砲撃すること。これによりSランクのなのはの集束砲『スターライト・ブレイカー』なら理論上、射程は500キロにもなる。 しかし砲撃主のリミッター解除を強要するこの手段は、六課において最後の手段に部類される行動であった。 はやては拙速な判断をやめ、集まった3部隊の隊長に助言を請う。 「つまり、あいつらは『落としてくれ』って言ってるんだよな。だったら直接落としに行ってやろうじゃないか!」 アルトの過激な物言いに 「まぁまぁ」 とフェイトがいさめる。 「アルトくんの理論はどうかと思うけど、直接行って落とすのは賛成だな。スカリエッティならこっちの防空体勢とか、迎撃手段を探る頭もあるし。なのははどう?」 「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに、今までと同じやり方で片付けちゃう、かな」 3人とも通常の迎撃を推奨。ならばはやてに、それを拒否する理由はなかった。 (*) 機動六課第2格納庫 そこは3週間前からサジタリウス小隊が占有しており、今も小隊付きの整備員達が右往左往していた。 しかし道に迷っているわけではない。彼らは自分の仕事に専念しているだけだ。 バルキリーの装備は普段軽々と扱っている印象があるが、人間にとってそれは特大サイズだ。 そのため彼らはせっせと、武器庫からガンポッド、ミサイル類をリフトで往復して運び出し、ジャッキ・クレーンを使って装備していった。 特にさくらのガンポッドが曲者だ。 バルキリーの装備の中でも最大といってよいほど大型で長大なこのライフルは、もはや通常のリフト、クレーンでは運べない。 そのため出撃時のみフロンティア基地から持ってきた特殊なトレーラーで武器庫から出され、離陸前にバルキリー自らトレーラーから取り出して装備してもらう。 もはやこうなると、バルキリーが直接武器庫に取りに行けばいいではないか?と思われるかもしれない。だが、そうは問屋がおろさないのだ。 小隊が借りている武器庫は、六課の自動迎撃システム『近接多目的MFS(ミサイル・ファランクス・システム)』のミサイル保管庫であり、地下にある。 そんなところに10メートルというデカイ図体のバトロイドがノコノコ入って行くとどうなるか。 ミッドチルダ製のミサイルはカートリッジ弾が爆薬に相当するので誤爆や誘爆は故意でない限り〝100%あり得ない〟(これが魔導兵器のもっとも優れた点である。)が、もし操作を誤って施設(特に自動装填装置類)を少しでも壊したらその費用は天文学的な数字になるだろう。となればトレーラーを1台持ってきた方が安上がりだった。 「アルト隊長遅いですね・・・・・・」 さくらが狭いVF-11Gの機内で、腕時計を睨みながら呟く。 アラートが鳴ってから20分、そして自分が機体に収まってから既に10分が経過していた。武装の搭載もほとんど終わっており、普段ならとっくに空の上のはずだった。 『さぁ、どうしてかねぇ・・・・・・んだが、誤報だったらただじゃおかねぇ!』 天城が不機嫌そうにこちらの呟きに応える。 「・・・・・・どうしました?なんか語気が荒いですよ」 『ん、あぁ。今日は俺の毎週楽しみにしてる連続ドラマの放送日でな・・・・・・いいところでアラートメッセージがテレビ画面をオーバーライドしやがったんだ!』 『チキショー!よりにもよって一番いいシーンでよぉ!!』などと嘆いている。 直接VF-1Bのキャノピーを遠望してみると、ヘルメットの上から頭を引っ掻いていた。 そんな天城にあきれていると、やっとアルトが現れた。 キャノピーの開閉弁を開けて、肉声で呼び掛ける。 「出撃しますか?」 「ああ、今すぐ出撃するぞ!準備急げ!」 アルトのよく通る声が格納庫に木霊し、整備員達の動きが更に慌ただしくなった。 (*) 『ロングアーチからサジタリウス小隊へ。滑走路はオールクリア。発進を許可します』 「サンキュー、ロングアーチ。」 アルトは通信に応えると、バックミラーで〝後ろ〟を確認する。 「発進するが大丈夫か? ・・・・・・おーい、フェイトぉ?」 後部座席に座っていたフェイトは驚いたように隊舎の玄関からこちらに向き直ると 「うん、大丈夫だよ」 と頷いた。 今回六課の迎撃戦力であるなのは、フェイト、ヴィータはサジタリウス小隊のバルキリーに分乗していた。 現場が約100キロ以上先であり、彼女らなら音速飛行が可能だが、魔力の消費がもったいないためこのような采配になっていた。 しかし、フェイト達が搭乗する前に玄関でひと悶着あったようだ。 アルトは何が起こったか知らなかったが、ティアナがシグナムに殴られたことだけは遠目でもわかった。 「・・・・・・よし、〝あっち〟の方も気になるだろうが発進するぞ」 アルトは告げると、脚(車輪)のブレーキを解除。スラストレバーを最大に上げて滑走路を滑る。 夜間発着用のライトが後ろに流れていく。 元々VF-25用に六課に増設されたこの滑走路は問題なく離陸をアシストし、鋼鉄の鳥達を無事真っ暗な空に送り届けた。 (*) クラナガン郊外 地下秘密基地 そこではスカリエッティが事態の推移を見守っていた。 「今度は何の実験?」 そういって隣に並んだのは言わずと知れた知才、グレイス・オコナーだ。 「ガジェットⅡ型の改修型の性能評価だよ。ガジェットには今までオーバーテクノロジーは搭載していなかったからねぇ~」 スカリエッティの示す図面にはガジェットの全体図が表示されている。 動力機関こそ変わっていないものの、中身は別物だった。 OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』 OT『アクティブ・空力制御システム』 『新世代型エネルギー転換〝塗装〟』(どうやら既存のガジェットにも搭載できるように新たな合金・・・いや塗料を思いついたらしい。) OT改『高機動スラストクラスター』 『マイクロミサイルシステム』etc・・・etc・・・ エネルギー転換塗装という既存の装甲は〝金属〟という固定観念にとらわれない逆転の発想にも驚いたが、特にグレイスの目を引いたのは『ユダ・システム』の1行だった。 「あら、もう完成させたの?」 グレイスが何を完成させたのか言わずともスカリエッティにはわかったようだ。 「ああ、1機だけだがね。あれには観測機材をたくさん外装したから、できるだけ戦闘を避けるよう言い聞かせてある」 脳のニューロンを真似たマイクロバイオチップは作りにくくてね。 そう言い訳するが、作ってしまうところがこの男のすごいところだろう。 しかしレーダー画面でガジェットⅡ型改部隊が接敵したのは、管理局の部隊ではなく通常の海上船舶だった。 「あら?実験相手は管理局じゃないのね」 「彼らは次元海賊だよ。海底に直接ワープアウトして管理局の防空ネットを抜けてきたようだ。このまま見逃すのも癪だから、実験相手になってもらおうと思っただけさ。それに私は管理局以上に次元海賊が大嫌いでね。ちょうどいい素材に出会えたものだよ」 「そう・・・・・・」 グレイスは戦闘中のガジェット部隊と次元海賊、そして管理局のスクランブルらしい3機のバルキリーに視線を投げ、 「幸運を」 と呟いた。 (*) 千葉半島沖 45キロ海上 そこではサジタリウス小隊の3機がきれいなデルタ編隊を組んで飛んでいた。 しかしその足取りは極めて速い。なぜならAWACS『ホークアイ』を介して5分ほど前からガジェット達が活性化。通りかかった一般船籍の船に攻撃を開始したようだと通信を受けたからだ。 その船は通信機が壊れているのか応答がないが、AWACSからの高解像度写真を見る限り応戦する力はあるらしく魔力砲撃の光跡がいくつか確認できていた。しかしどうも船籍に記された遠洋漁業船には見えなかっため、政府機関その他に確認をとっているという。 暗い海上に鮮やかな青白い光の粒子を曳きながら飛行する3機は、ついにそれを目視した。 月明かりに照らされたその漆黒の船は甲板から煙をあげながらもジグザグに波をかき分け、よってたかるガジェットに対して乗員が魔力砲撃でなんとか応戦していた。 その時、AWACSから続報が入る。 『こちらホークアイ、その船の本当の所属がわかった。どうやらミッドチルダ政府と極秘で会談したどこかの世界の外交官の次元航行船らしい。まだ政府機関に再確認しているが、おそらく間違いない』 「了解した。・・・・・・こちらは時空管理局、フロンティア基地航空隊のサジタリウス小隊と機動六課だ。これより貴艦の離脱を援護する」 デバイス間で使える短距離通信で送ると、その返信はすぐに来た。 『こちら輸送船「キリヤ」、支援に感謝する!しかし我々はここからは動けない。まだ待ってる人が来てないんだ!』 「外交官のことですか?もしそうなら私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの名において必ず時空管理局が責任を持ってそちらの世界に送り届けます。なのであなた達は至急戦闘地帯からの退避を」 次元航行部隊に深いコネがあるフェイトがその外交官らしい人物の送還を確約するが、キリヤ乗員は 『外交官・・・・・・?ああ、そういうことか・・・・・・いや、我々は必ず姉さんを連れて帰る!あと10分でいい、待たせてくれ!』 と譲らなかった。バックミラーを介した目配せにフェイトは頷き、さくらの機体に乗るなのはも「仕方ないね」と頷いて見せる。VF-1Bの後部座席に座るヴィータもため息とともに両手でお手上げのジェスチャーをした。なら、彼らの行動は決まっていた。 「ホークアイとロングアーチへ、これより輸送船「キリヤ」の防空戦闘を開始する」 『こちらロングアーチ、現場の判断を尊重します』 『こちらホークアイ、船舶の退避前でも交戦を許可する。なお、おそらく外交官の機体と思われるアンノウン機が2機、そちらへ向かっている。到着予定は5分後。それまでキリヤを防衛せよ』 「『『了解」』』 6人の声が無線を介して唱和し、戦闘態勢に移る。 『こちらサジタリウス2。これより中距離援護体勢に入ります』 『スターズ1、サジタリウス2に続きます』 編隊が崩れ、VF-11Gが離脱する。 そしてガウォークに可変すると、キャノピーからなのはを出した。 他2機も前進を維持しながらガウォークに可変。キャノピーを開ける。 「じゃあアルトくん、またあとでね」 「ああ、気をつけろよ」 出ていくフェイトを見送ると天城のVF-1Bからもヴィータが出ていく所が見えた。安全確認と共に再びキャノピーを閉めると、敵を見据える。 この時点においてもガジェットはこちらに対しまだ何のアクションも起こさなかった。 (・・・・・・不意打ちになりそうだし、こりゃほとんどミサイルでカタがつくかもな) 今回ガジェットは速くなったといっても所詮音速レベルで、ミサイルにとってそれはちょうど狙いどころだった。 「天城、まずミサイルで半減ぐらいしておこう。目標はこっちで設定する」 『了解』 アルトは天城の機体のFCS(火器管制システム)との接続を確認すると、ヘルメットのバイザーに現場空域を拡大投影し、視線ロックをかけていく。 (・・・・・・こんなもんか) アルトは敵機の約4分の3(5分前に増援が来て現在は全体で25機)をレティクルに収めた。 「ミサイルで撹乱後、ガジェットをキリヤから引き離すぞ。各隊、準備は出来てるか?」 アルトの呼び掛けに各自ゴーサインを出す。 「よし!戦闘開始!」 VF-25とVF-1のランチャーポッドから一斉に発射されていくミサイル。 それらは流れる川のように敵めがけて飛翔し、アルト達も続く。 だがガジェットの対応は予想外のものだった。 いままでミサイルにはレーザーで迎撃していたが一転、フレアとチャフ(レーダー撹乱幕)で回避に走った。 マイクロハイマニューバミサイルの誘導は赤外線とレーダー探知が併用されている。 ガジェットは元々魔力推進のため排熱量が少ない。そこで大気摩擦による熱で誘導するために赤外線感度を最高にまで引き上げている。だがそれすらアクティブ空力制御システムによって極小にまで減らされてしまっていた。 そしてチャフで更にレーダーが効かなくなったミサイルはどこへ行くか。 無論、最大熱源になったフレアだった。 通常このような事がないように、多少はAIが補正する(同一目標に重複したミサイルが、相互リンクによって本物を思索する。結果的に分かれた熱源全てに当たりに行ったり、可能性の最も高いものに向かっていったりする。第25未確認世界において目標1機に対し、複数発のミサイルを割り当 てるのはこのため)ようプログラミングされていたが、管理局はオミットしていた。 なぜならガジェットはいままでミサイル対抗手段(フレアやチャフ、ECM)を装備しておらず、命中精度の低下を看過して、誘導プログラムの簡略化によるコスト削減と効率の向上を優先したためだ。 おかげでミサイルはそのほとんどが散らされ、無益に自爆する。また、たとえ命中しても一発では落ちなかった。 『なんじゃこりゃ!?』 天城の悲鳴が耳朶を打つ。 どうやら装甲も機動力もかなり底上げされているらしい。 ミサイルの命中痕には、転換装甲特有の〝ただ汚れただけ〟に見える被弾痕が残り、多数束ねられたスラスターによる緊急回避もやってのけていた。 しかし驚くべきことは、この介入に対する反応がそれだけで終わったことである。ガジェットは相変わらず海上で回避運動を続けるキリヤに攻撃を続け、こちらに対して迎撃態勢にすら着こうとしていなかった。 「なめやがって!!」 ファイターのVF-25は最寄りのガジェットに推力全開で急接近すると、ガンポッドを放つ。ガンポッドから毎分300発という速度で58mm高初速徹甲弾が放たれ、至近であればバルキリーの転換装甲をも5、6発で貫徹する運動エネルギー弾が敵に向かって飛翔する。 命中直前、ガジェットの要所に付けられたスラスターが瞬いたと思うと機体全体が瞬時に数メートルズレて、それら弾丸は当たることかなわなかった。ガジェットはもともと人間よりも小さいサイズで、それほど質量もない。そのためある程度強力なスラスターであればこのような機動をさせることは難しくないし、数メートル軌道を変えるだけで小さいガジェットには命中を避けることができた。 しかしアルトはあきらめない。 よけられたと見るやスラストレバーを45度起こしてガウォークへと可変すると、その形態だからこそできるヘリのような立体機動で肉薄していく。そして極めて至近になったとみるや、さらにレバーを45度起こしてバトロイドへ。頭部対空魔力レーザーで敵の機動を制限し、その間にPPBをガジェットと同じぐらい大きなその拳に纏わせて抜き放つ。放たれた右ストレートはガジェットに命中し、反対方向へ吹き飛ばした。間髪いれずにガンポッドを構えなおすとスリーショットバースト(3点射)する。殴られた時点で転換装甲を完全に抜かれていたガジェットは、オーバーキルと言う言葉がぴったりなぐらいに3発の砲弾によって紙屑のように引き裂さかれ、その構成部品を大気中にまき散らした。 即座に離脱。索敵を開始する。残りの3人もそれぞれ1機ずつ落としたらしい。レーダーに映っていた機体が25から21に減っていた。 『『中距離火砲支援、いきまーす!』』 なのはとさくらの宣言と同時に一筋の桜色の魔力砲撃と、青白い光をまとった76mm超高初速徹甲弾の弾幕がガジェットの前にばら撒かれ、その攻撃を抑制する。 そこまでしてようやくガジェットも重い腰をあげたようだ。おもむろに5機のガジェットが反転、迎撃態勢に入る。 『たった5機かよ・・・・・・拍子抜けだぜ・・・・・・』 敵にもっとも近かった天城のVF-1Bがミサイル数発とともに先行する。しかし次の瞬間にはその認識を改めることになった。 ガジェット5機は先行してきたミサイルをスラスターをフルに使ったジグザグ機動で無理やり回避すると、ぐうの音も出ないうちにVF-1Bに肉薄。散開したかと思えばリング状に展開して機体を包むと、一斉に中心にいるVF-1Bに向かってミサイルを放った。 この間2秒。天城にできたことと言えばエネルギー転換装甲にフルにエネルギーを回せるバトロイドに可変することと、魔法の全方位バリアを展開することだけだった。 着弾、そして大爆発。 全方位バリアは爆発の衝撃波をコンマ数秒受け止めて崩壊し、VF-1Bを包む。 「天城!大丈夫か!?」 『な、なんとか・・・・・・』 アルトは瞬時に多目的ディスプレイのJTIDS(統合戦術情報分配システム)のステータスを見る。VF-1Bには損傷はないようだったが、魔力炉とエネルギーキャパシタのエネルギーを使い切っているようだった。これでは当分戦えない。 そしてそうしている間にも〝観測機器を外装した〟ガジェット1機の率いる5機は次なる目標、VF-25に向かっていた――――― To be countinue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 ユダシステムと対峙する管理局勢 彼らは果たして次元海賊の脱出を阻止できるのか! そしてすれ違ってしまったなのはとティアナ達の行く末はいかに! マクロスなのは第24話「教導」 ―――――――――― シレンヤ氏
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クロス 作詞/つまだ この手の一つの硝子を大事に 足取りおぼろげこの血を頼りに たどたどしく ゆらゆら目指した 幾度と心は狭間で凍えて 唱(うた)うことさえも罪と感じれど 蝋燭の火 消えずに生きてと あぁ・・・嗚呼! 寄り添って 二つの理(り)は 私を 私を 導いては 残酷な 暖かさで 私を 私を 迷わせるの なぜ?