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「……あんた、馬鹿ですか」 かろうじて口から出たのはそんな言葉だけで。 「言われぬでも、承知しておる」 むっと眉をしかめて言い返す顔は、薄い光の中いやに晴れ晴れと輝いていて、さっきとは別の意味でまっすぐ見られない。 ちょっと、ねえ、なんでそんなに笑ってんの。本当に馬鹿みたいだよあんた。 馬鹿だよ。それじゃあんた丸損でしょ。 いったいそれで、あんたはなにを得られるんだ。 「……俺は、忘れちゃってたよ」 それでも往生際悪く、そんなことを呟く俺に、旦那は不思議そうに瞬きして顔を寄せてきた。 ああほら、さっき俺に何されたか、もう忘れたの。本当に馬鹿なんだから。 「俺はあんな口約束なんか、とっくの昔に忘れちゃってたんだよ」 だってあんなの、叶うはずもない、本当にただの、口からのでまかせだったんだから。 少しだけ目を見開き、そうか、と呟いた顔は、それでもやっぱり一点の曇りもない笑顔だった。 「だが、あのころ佐助が居なかったら、某は多分今でも、あの木から降りられなかったぞ」 今は、お館様も家中の皆様も、真田の家臣も居てくれるが、と嬉しそうに笑って、また少し顔が近づく。 「あのころ、どんなにぐずろうが無茶をしようが、それでもそばにいるといってくれたのは佐助だけだった」 でまかせだろうと、何の効力もない口約束だろうと。今は忘れてしまっていても。 「あの時あの場で、佐助がああ言ってくれたから、某は今、ここにおるのだ」 思いっきり、ため息が出た。 いやはや常々、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、俺のお育て申し上げた姫様は正真正銘、 本当の馬鹿だったらしい。 槍バカでお館様バカで武田バカで真田バカで、木には登るし池には落ちるし、廊下は 走るし、人の日本一のお姫様育成計画も早々に頓挫させてくれるし。 人の話は聞かないし、そのくせ変なことばっかり覚えてるし、俺の馬鹿げた矜持も愚かな恐怖も、むちゃくちゃにぶっ飛ばしてぶっ壊して気にもしない。 俺様一体どうしていいやら。 ああまったく、なんでこんなに馬鹿なんだろ。 なんかもう、情けなくて涙でそう。 両手伸ばして、すぐ目の前で座り込んだ体を、ぐるぐる巻きの打ち掛けごと引っつかんで引き寄せる。 花模様の小袖も、ぼさぼさの髪も、さっき床に押し付けた腕も、全部一緒くたに抱きしめて、俺は打ち掛けのずり落ちかけた肩に顔をうずめた。 ぎくりと震えたのは一瞬で、すぐ女にしては強すぎる力が、俺の背中を抱き返してきた。 まるで柿の木の上の小さな姫様に戻っちゃったみたいに、必死の勢いでしがみついてくる。 ぎゅうぎゅう締め付ける腕の力は痛いほどで、実のところ背骨が折れるんじゃないかと 心配になるくらいなんだけど、今はその苦しさが心地いい。 そのくらいしてもらわないと、本当に最後のぎりぎりの矜持も吹っ飛んじゃいそうだったから。 顔の下で、目がくらむほど眩しい打ち掛けの肩が、ようやくほっとしたように揺れて、沈んだ。 ねえ旦那、あんたこそ忘れてるみたいだけど。 あの時あんたも俺に言ったんだよ。秋の夕暮れ、あの柿の木の上で。 (だいたいねー、姫様だけじゃないよ。俺にだって家族なんかいないんだから) (佐助も?佐助も姫と同じなのか?) (いないよ。俺は忍びだもん。ね、姫様、俺とおそろいだよ。よかったねー) (……さようか) こんなアホな言葉に、言いくるめられるようで大丈夫かとちょっと心配になったころ。 (では、佐助には姫がいてやろう) (はい?) (佐助が姫のそばにいてくれるなら、姫も佐助とずっといっしょにいてやるゆえな) 大口開けて柿の実をかじりながら、ニコニコ笑った幼い笑顔。 ガキのころの、それはただの、何の効力もない口約束。 笑いながら、他のいろんなものと一緒に胸の奥で押しつぶした。いつもどおり。 でもね旦那。俺は、忘れたことなんかなかったよ。 あんたがくれた、俺が生まれて初めて言われたあの言葉を。 押しつぶしても押し隠しても、どうしても消えなかったあの言葉を。 俺も一瞬だって、忘れたことなかったんだよ。 佐助×幸村(♀)24
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無理やり息を整えて、気を静めて汗を止める。 震えはまだ止まらないけれど、どうにか 顔は上げられた。 俺は随分ひどい顔をしているんだろう。夜目も効かない旦那が、闇の向こうで息を呑んだくらいだ。 ほんの数歩、手を伸ばせば届く場所。 自分にあんなひどいことした男の、そんなそばにそれでもいる真っ青な顔。 怖くて怖くてたまらないそれを、じっと見つめる。 「……旦那。あのね、忍びはね、大事なものを作っちゃいけないんだよ」 錆びついた嫌な声に、茶色の目がぱちくりと瞬いた。 不思議そうに寄せられた眉に、かまわず言葉を続ける。 「大事なものがあるとね、それが弱点になっちゃうでしょ。弱点があるとね、そのせいで仕事に失敗するかもしれないでしょ。だから特別なものとか大事なものとか、作っちゃいけないんだよ」 だから忍びは何も持たない。家族も、友人も、恋人も。名前も家も、感情すら持たない。 全部捨てて押し殺す。命にだって執着しない。 「俺はね、ここに来る前、里でそうやって育てられたよ。だから親の顔も知らないし、 仲間の忍びも同輩ってだけで、全然特別なんて思ってない」 自分のものは何も持たず、求めず、だからこそ確実に任務を果たせる。 主の命ならそれがなんであれ受けてこなす、一流の、完全な忍び。 それが俺の、何もない俺の、唯一もってる矜持なんだよ。 「だから旦那、俺にとってはあんたもお館様も、主っていう、ただそれだけのもんなんだよ」 それ以上でもそれ以下でもない。忍びにとっちゃ、主だってそれだけの存在。 俺に命を下し、俺を一流の忍びと認めて動かす、ただそれだけのもの。 それこそ武田屋敷に仕えはじめたほんのガキのころから、俺はずっとそう思ってきた。 俺にあるのは、自分が一流の忍びであるという矜持だけ。 人から見たらどんなに馬鹿げて愚かでも、俺にはそれが唯一、しがみつけるものだったから。 そのためなら、なんだって押し殺して押しつぶして、知らん振りしてこれた。 だのに今、押しつぶそうにも押しつぶせない、消し去ろうにも消し去れないものが、胸の奥からどんどん湧き出てきて止まらない。 一度は押し殺したはずなのに、それはもう、俺にも手のつけようもないほど膨れ上がって、 俺のばかげた矜持なんか、今にも弾き飛ばしそうだ。 それが俺にとってどんなに怖いことか、あんたにわかるだろうか。 だってそれがなくなったら、俺は俺でなくなってしまう。俺は何もなくなってしまう。 「婿になったって、夫婦になったって、それは変わらないよ。何度でも言うけど、それもこれも俺にとっちゃただの任務なの。だからこの先俺は、別の任務のためにあんたをだますかもしれないし、嘘もつくかもしれない。もっとひどいことだってするかもしれない」 闇に浮かぶ白い顔の中で、茶色の目がゆっくりと瞬きをした。 見つめたまま、吐き捨てる。 「お館様に他の何より優先しろといわれたら、俺は任務のためにあんたを見殺しにだってするかもしれないよ」 じりじりとまた、胸の奥からこみ上げてくる。 今あるものとは違う、どうしようもない苦しさといたたまれなさ。 「かもじゃない。するよ。俺はそういう奴なんだよ。……ねえ、こんなの婿にしてどうすんの。どうかしてるよ。あんたなんでわかんないの。わかってよ」 俺が今、感じてる恐怖が、どれほどのものか。 佐助×幸村(♀)22
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突然身を離した俺を、床の上からぽかんと見上げていた旦那の顔が青くなった。 すごい勢いで跳ね起きざま、はだけた襟と裾を乱雑に掻き合わせる。 同時に打ち掛けを拾い上げると、旦那はそれをぐるぐる巻きに体に巻きつけた。 体をすくめて蚕のように打ち掛けにくるまり、その下で、自分で自分をきつく抱きしめる。 今さらのようにがたがたと震えだした顔は、唇まで真っ青だ。 俺とどっちが青いだろうとふと思ったけど、確かめることはできなかった。 怖くて怖くて、旦那の顔を直視することができない。 本音を言えばこの場から逃げ出したい。でも、体がいうことを聞かなくて、それすらできない。 超情けない。自分でも呆れる。これが、自他共に認める武田一の忍びの姿か。 そう思ってもやっぱり、震える体と心を制することはできなかった。 障子の外でびょうびょうと、吹き荒れる夜の嵐。 相変わらず人が来る気配は微塵もない。 闇の中、数歩離れて向かい合ったまま二人、言葉もなくがたがたと震え続ける。 どれだけ時間が過ぎただろう。無言の緊張を破ったのは、旦那のほうだった。 「……さ、佐助、どうした。具合でも悪いのか」 消えそうにかすれた声にも、返事さえできない。うつむいて震えるので精一杯だ。 勘弁してよ。今はあんたの顔も、声も怖いんだって。見たくないし、聞きたくないんだ。 これ以上あんたのそばにいたら俺、本当にどうかなっちゃいそうなんだよ。 こっちの気も知らないで、震える声はなおも言葉をつむぐ。 「や、やはり婿は嫌なのか。すまぬ。だが、他に手段が思い浮かばなんだのだ。そもそも佐助を婿にするのは、いくらなんでも無理かも知れぬと、お館様にも言われておった。……そうかもしれぬと、某も思ってはいた。おそらく駄目かもしれぬと」 それが、思いがけず叶ってしまったから。 「一人で浮かれてしまった。本当にすまぬ。お前にはひどいことをした。こんな我侭を言う某に、腹を立てるのも無理はない。だが」 泣きそうな響きを含んでおろおろ続く言葉が、耳に痛い。 「……お前がいなくなるのは、某どうしても嫌だったのだ。許してくれ」 なに、バカなこと言ってんだろう。 ひどいことしたのは俺のほうでしょうが。なんであんたが謝るの。 ない頭振り絞って こんなおバカなこと考えて、それ全部俺をそばに置きたかったからって、どういうことよ。 他に手段がないって、これでもし駄目だったら、あんたいったいどうするつもりだったの。 多分、どうもしなかったんだろう。 旦那はお館様の言葉には逆らわない。俺の言葉にも逆らわない。 何より、自分がなにを課せられているか、わかりすぎるほどわかっている。 もしお館様が無理だといえば、でなけりゃ俺が嫌だといえば、すぐにわかり申したと 引き下がって、家のために誰でもいい男を婿にしただろう。 それで俺が真田隊を離れたとしても、そばにいてやれなくなったとしても。 本音はどうあれ、きっと文句一ついわずに。 何もかもを一人で呑み込んで、なんでもない顔をして生きていったんだろう。 最初からそうしなかったのは、俺と離れるのが嫌だっていう、文字通りただの我侭で。 家名や身分を考えたら、本当にくだらない、小さなことで。 どうしてそれがあんたにとっては、崇めるほど尊敬してるお館様に無理させてでも、俺の意思を蹴飛ばしてでも、駄目かもしれないと思っても、我侭だと悔いても、叶えたいことになるんだろう。 あんなガキのころの、何の効力もない口約束を、あんたはなんでそんなに大事にするんだろう。 押しつぶしも押し殺しもせず、ごまかしもせず、なんでそんなにまっすぐでいられるんだろう。 俺ときたら、この期に及んでさえどうしようもないほど、こんなにも馬鹿で愚かだってのに。 佐助×幸村(♀)21
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小さく息を呑んで、ぎゅっと閉じた唇が、唇の下でわなないだ。 狭くなった視界の隅で、寝巻きの右肩にぐっと力がこもるのが見えた。 すごい勢いで振りあがった右腕を、ぎりぎりのところでつかんで止める。 続いて振りあがった左腕も、何とかつかんで押しとどめる。 いや、押しとどめようと思うんだけど、力が強すぎて止めようにも止めらんない。 こっちも腕に全力注いでるのに、がっちり握られた両の拳はそれでもじりじりと、俺の顔めがけて迫ってくる。すごいぞ、さすが日の本一の兵だ。 これが限界ってとこまで頑張って、俺はすばやく身を離した。 「殴んないんでしょ!?もう殴んないっていったよね!?」 逃げても追ってくる拳を、何とかかわして小声で叫ぶ。 俺の声に、とめてた息をぜいぜいつきながら、真っ赤な顔の旦那がはっとしたように瞬きした。 「某、今なにを!?」 「いや、しっかりしてよ」 「す、すまぬ!なにやら頭の中が真っ白に!」 幸村、一生の不覚であった!と両手を布団についてもだえる肩を、はいはいもういいからとぽんぽん叩いて引っ張り上げる。 旦那の一生、いっぱいありそうだよねと思いながら、引っ張り上げた体をよいしょと 膝に抱き上げれば、今度は抵抗もなくしがみついてきた。 恥ずかしいのか悔しいのか、抱きつく力もすごすぎて、あばらがなんだかみしみしいってる。 それでも薄ら寒い夜半の部屋で、腕の中だけはほっかりあったかい。 「こういうのって、やっぱ破廉恥?」 肩に顎を乗せて、背中を叩きながら問いかけると、腕の中の体がピクリと動いた。 返答はなく、変なうなり声だけが聞こえてくる。 ここまで真っ赤な首筋を、頬ずりのついでに軽く吸うと、抱いた背中が居心地悪そうに震えた。 薄い寝巻き越しに、小さいけど柔らかいものが胸の辺りに当たる。 なるべくそれから意識をそらして、俺は茶色い頭を撫でた。 「……あのねー、旦那ねー、さっきも言ったけど、どうしてもいやなら嫌って言ってね。あんたがいやなら、もうこういうことはしないから」 俺とあんたの立場を考えたら、実際はそういうわけにはいかないけど。 だからこれも、何の効力もない口約束でしかないんだけど。 それでもあんたがそういうなら、忍びの矜持にかけて耐え抜いて見せましょうってのも、本音なんだよね。 うーん、確かに俺って不器用なのかも。 まあ十年くらい頑張れば、この人ももうちょっと大人になるだろうしさ。 なるといいなあと俺が悲壮な決意を固めていると、腕の中のあったかい体が、もぞもぞと身じろいだ。 「い、いきなりだと、心の準備ができんのだ」 精進するつもりだが、某まだまだ未熟者ゆえ、とぼそぼそ呟き、もう一度しがみついてくる。 「だから、別に、いやではないのだ」 消えそうな声が、ぽつりと胸に落ちた。 「……いやでは、ないのだ」 胸の奥から、すっかり慣れたいたたまれなさと、奇妙な苦しさが湧き上がってくる。 もう押しとどめることはせず、こみ上げるままに溢れさせた。 またものすごい力でぎゅうぎゅう締め上げられて、内臓まで口から出そうになったけど、出たっていいやと思いながら、俺も抱きしめる手に力をこめた。 武田屋敷に仕えなければ、主がお館様でなければ。 旦那の父上が死ななければ。旦那のお守りを仰せ使わなければ。 あの日あの場でこの人を慰めなければ。 俺は、こんなものに捕らわれることもなく、そうなれと育てられた忍びのままでいられたんだろうか。 こんな面倒くさい感情や、あんなくだらない約束や、恐怖やおかしな矜持に、振り回されることなく苦しむこともなく、生きていけたんだろうか。 いやそもそも、何もかもを捨ててでも貫きたいような矜持さえ、持つことはなかったんだろう。 時がたてば、どんなものでも変わっていく。変わらないものなんかなにひとつない。 でも、変わったようでいて、決して変わらないものも確かにある。 それがいいことなのか悪いことなのか、正直今の時点じゃよくわかんないけど。 俺には貫きたいものがあるから、やっぱりこれからもそれを貫いていこうと思う。 同じくらい無茶なもん抱えて、一緒に行ってくれるって人もいるしね。 人から見たら馬鹿げてて、下らないことかもしれないけど。 ま、それもまた、一つの生き方ってもんですから。 佐助×幸村(♀)28
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「お館様は、よい機会だと。佐助を、もっとおそば近くで使いたいと、以前より思うておられた、と。大出世だと、某も思う。お前には、いいことなのだろう。だが」 ふっと目がそらされた。 明るい茶色の目が、闇の中を落ち着かなくさまよう。 そらされたまま、瞼がきつく閉じた。 「某はいやだ」 体の震えが大きくなった。 「……婿など、誰でもよい。誰でも、どうでもよい」 血の気のうせた唇が、小さく動く。 「だが、佐助がいなくなるのはいやだ」 どこにも行ってはいやだ、と、幼子のように首が振られる。 閉じていた目がうっすら開いた。怯えた光を浮かべ、震えながら俺を見上げる。 「……だから、誰でもいいなら佐助がいいと、お館様にお頼み申したのだ」 唐突に、夕焼け空が目の前に広がった。 あれは何年前だったか、確か真田の先代が亡くなって、すぐのころ。 父も兄も亡くなって一人ぼっちになったのに、小さな姫様はそれが信じられなくて、いつか迎えに来てくれるのではないかと、ずっと思い込んでいた。 迎えにきたらすぐわかるようにと、夕暮れのたびに館の庭で一番高い柿の木に登って、侍女や世話役を困らせていた。 勢いよすぎて天辺まで上って、降りられなくなって泣くのもいつものことで。 (だからね姫様ー、姫様の父上も兄上も迎えにはこれないんだよ。何回言ったらわかんの) (何故だ?どうして来てくださらぬのだ!こんなに待っておるのに!) (どうにもおバカだねこの姫様は……だから、死んじゃったからでしょ) 俺もあの頃はガキだったんで、うまい言い方なんか思いつかなくて、迎えに行くたび、よけいに泣かせていた。 「……なんで」 自分の声とも思えない、しゃがれた声が喉から漏れた。 笑顔の仮面なんかとっくに剥げ落ちて、今自分がどんな顔をしているのかもわからない。 「なんで俺なの」 見上げる目が、驚いたように見開かれた。 ぼんやりと俺を見つめ、またくしゃっと泣き顔になる。 「……佐助が」 すがるような目の色と、途切れ途切れに漏れる息。 「佐助が、いったのだ。ずっと、某のそばにいると」 泣き虫で、無茶ばかりして、回りを困らせていたむずかりやの小さな姫様。 それでもいつの頃からか、あまり泣かなくなって。 そのうち木にも上らなくなって。 ああそうだ、あれは確か。 (はいはい悪かったって!佐助が悪かったですよ!ごめんねって!) (ほら、もう泣かないでよ。代わりに俺が迎えに来てあげたでしょ) (これからは俺がそばにいてあげるから) (……佐助は、いなくならぬか?ずっといるか?) (はいはい大丈夫だよ。俺はずっと姫様のそばにいるから。はい、柿の実あげるから泣きやみなよ) (本当か?本当に?どこにも行かぬか?) (本当だっての) (……そうか) ようやくほっとしたように笑った、涙でびしょびしょの顔。 覚えていたのか、まさか。あんなガキのころの、くだらない口約束、ただの慰めを。 胸の奥からじわじわこぼれていた黒いものが、瞬時に消えた。 代わりにあの、どうしようもないいたたまれなさがこみ上げてくる。 ぎりぎりと、痛みさえ伴って。 それは押さえる間もなく、押し殺すこともできず、腹の中で渦巻き、胸を突き破り、俺の中からあふれ出した。 全身に鳥肌が立った。 組み敷いた体以上に、とめようもない震えがこみ上げる。 手足が冷たくなっていくのがわかる。 ぐるぐると、視界まで回りだした。 見上げる茶色の目から目を逸らし、貫いていた指を抜き、逃げるように体を離した。 数歩下がったのが限界で、俺はそのままずるずると、その場に座り込んだ。 情けないほど手が震えている。 来る冷や汗で、忍び装束がぐっしょり濡れていくのがわかる。 腕に爪を立て、口元に手を当てて、叫びだしそうになるのを必死に押さえる。 胸の底、一瞬で湧き上がったそれは、これまで感じたこともないほどの、押し殺すことも押しつぶすこともできない、純粋なまでの。 恐怖だった。 佐助×幸村(♀)20
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「そっちこそ嫌そうじゃない?あ、それはないのかー。ま、心配しないで。俺様うまいからねー」 「なに、なにが」 「はいはい大人しくねー。やってみりゃ簡単だから」 小さな乳房には、闇の中でもわかるほどくっきりと手形が付いていた。 これは相当痛かっただろう。 潰れてこれ以上小さくなったら目も当てられない。 次からは加減しようと思いながら、後ろ手に裾をさばいて中に手をつっこむ。 暴れ方がいよいよ 激しくなったけど、かまわずそのまま、すべすべした腿を撫でながら奥まで手を進める。 ぴたりと閉じたそこに指が触れた瞬間、組み敷いた体が跳ね上がった。 「い、いや、だ!なに、やめ……!」 涙混じりになってきた声とは裏腹に、濡れてもいないそこは、堅く閉じているのに、これまで抱いたどの女よりも柔らかくて、子供みたいに毛も薄い。 指先に触れたほのかな温かさにまた、何かが浮かんだけど、今度も簡単に押し殺して押しつぶせる。 膝で押さえた袂が、嫌な音を立てた。 旦那の馬鹿力のおかげで今にも破けそうだ。 もったいない、高級品なのに。 ゆっくり嬲っている暇はなさそうなんで、黙らせる意味もこめて、俺は狭いそこに無理やり指をこじ入れた。 息を呑んで体が硬直した。 喉が反り返る。 その白さがいやに目に付いた。 女にとっちゃ、喉元に刃を立てられる以上の苦痛と恐怖だろう。 わかってやってるから、なんとも思わない。 女を黙らせるには、これが一番手っ取り早い。 「はいじっとしてて。これも任務任務。あんた、俺と夫婦になんなきゃいけないんでしょ?」 すくみあがって震えながら、それでも弱弱しく抵抗を続ける体を見下ろして、にっこり微笑んでやる。 「これが済んだら、俺たちりっぱに夫婦よ」 床の上から見上げる濡れた目が、限界まで見開かれた。 そのまま押さえつけた体から、すうっと力が抜けた。 俺を押しのけようと、必死に動いていた腕が、足が、力なく弛緩する。 絶え間なく震えながら、それでも抵抗はぴたりと止めて、そらされた青い顔に、俺も思わず 動きを止めた。 「……どしたの?」 真っ暗闇の床の上、返答はない。 夜目にも白い頬が震えているだけだ。 予想していなかった反応に、俺の中にちょっとだけ戸惑いが浮かんだ。 「……まさか、何されそうになってるか、わかんないわけじゃないよね」 「……そこまで、阿呆ではない」 そりゃよかった。 「じゃあなんで?」 やっぱり答えは返らない。 床に広がった髪と、打ち掛けと、膝の下で震える体と、指先を締め上げるほのかな熱。 また何かが、胸の奥でじわりと広がった。 「なに、いやなの?」 「……」 「いやなら逃げれば?」 「……」 「逃げなよ。……あんたは、逃げてよ」 あれ、俺今なんていった? 自分の口から出た言葉の意味がわからなくて、一瞬ぽかんと旦那を見下ろす。 同時に旦那もおずおずと、背けていた顔を戻して俺を見上げた。 関節一本分とはいえ、体に刺さったまんまの指がやっぱり怖いのか、眉をしかめて子供みたいな泣き顔だ。 相変わらず震えながら、それでも気丈に俺を見上げると、子犬のような茶色の目がゆっくりと瞬きをした。 「に、逃げずに大人しく、しておれば、佐助は某の婿になるか?」 「は?」 「嫌でも、が、我慢して、いてくれるか?これからも、どこにも行かぬか?」 「……なにいってんの?」 訳のわかんないことを言う口元を覗き込もうと、身じろぎしたせいで指がちょっと深く入ったらしく、ひ、とまた小さな悲鳴が上がった。 つま先が床板を掻いてがりり、と耳障りな音を立てる。 短い息を何回か吐いて俺を見上げ、迷うように目を逸らし、また見上げて、ようやく震える声が途切れ途切れの言葉をつむいだ。 「お、おやかた、様が」 「お館様?」 「お館様が、む、婿を取ったら、佐助を世話役から解任する、と、仰ったのだ」 婿取りの打診をされて、誰でもいいと言い切ったその夜に。 当主となるものにもう、お守りは必要ない。 だから、婿を取れば世話役はお役御免。 ついでに真田の忍び頭の任も解いて、武田の本陣の忍び頭として召抱える、と。 佐助×幸村(♀)19
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かすがが離れていった。ぐったりしたかすがの身を起こしてやっている佐助の姿が 視界の隅に入った。 幸村の脳は、なんだかぬるま湯に浸かっているような心地だった。ついさっきまで体中から 湯気が出そうなほど熱かったのに、出すものを出してしまうと大部分の熱が引いていった。 虚脱感と倦怠感によって体が支配されている。だのに、ふと己の下腹部に視線をやると まだいくらか硬さをもった男根があった。急激に羞恥が込み上げて、見つからないうちに 褌を締めなおそうと慌てたが、佐助に「旦那」と声をかけられた。 「まだ旦那は挿れてないだろ」 見遣った幸村の目に飛び込んできたのは、佐助の胸に凭れかかるかすがであった。 ただ凭れかかっているだけならば問題はない。だが、彼女は片脚を佐助に 持ち上げられていたため、秘所が丸見えだったのだ。かすがも抗うことなく、 熱っぽい視線を幸村に向けている。汗で首筋にはりついた髪の毛が幸村を魅惑的だった。 「かすがも物足りないみたいだし」 ひらいた花が物欲しそうにひくついている。先ほど佐助に出された精液が垂れてきて、 真っ赤に色づいた花弁と似つかわしかった。幸村の陰茎は、その様子を見て なぜかまた元気を取り戻しつつある。 「し、しかし……俺はこういったことは初めてだ……俺はこういったことは初めてだ……」 大事なことなので二回言った。 「知ってるよ、そんなこと。見てたら分かるって。真田の旦那もいつまでも 未経験のままじゃ困るっしょ。だったらさぁ、今のうちに経験しててもいいと思うぜ? あきらめたらそこで合戦終了、ってなァ」 「真田幸村……私だと不満か?」 そう言って、かすがは秘所に自身の指を挿し込んだ。白濁にまじって肉に呑まれていく指。 事後の余韻のためか潤んだ瞳。いまだ立っている乳首。それにしてもこの二人、ノリノリである。 「不満など、ありはしないが……」 彼女の体を見て不満がある男などいないだろう。幸村はかすがの汗ばんだ肌を 見ているうちに、脳が浸かっていたぬるま湯がふつふつと滾りはじめた心地がした。 これ以上はいけない。そう思っている自分もいるのに、もっと薪をくべて、 さらに熱くさせようとしている自分もいる。幸村は膝の上でもじもじと手を 動かしながら逡巡した。 「で、では、かすが殿っ」 頭のなかでは『これ以上はいけない』という思いが勝っているというのに、 口をひらいた幸村はかすがの腕を引っぱっていた。急に近づいて、自分のものとは違う、 どこか甘さを含んだ汗のにおいが漂う。胸が高鳴ったのをごまかすように、かすがを抱きしめた。 「最初は、ほ、抱擁からであろう!」 力任せに抱きしめる、相手の息苦しさなど気にも留めない、稚拙な抱擁だった。 だが、それでも幸村の熱情は十二分に伝わってくるので、かすがは何も言わなかった。 というより、言えなかった。幸村のかたい胸板に顔を押し付けられていたので。 佐助×かすが×幸村 8
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ぴたりと閉じた障子の向こう、暮れ落ちた庭を、夜の風がびょうびょうと吹き抜けていく。 障子の内側、部屋の中も、外と同じ、床板の木目も見えないほどの暗闇だ。 その闇の底に、風よりも激しい息遣いが響く。 片膝で袖を押さえたまま、堅く合わさった襟元に両手をかけると、押さえた袖とは反対の手が、慌てたように俺の手をつかんだ。 そのままぎりぎりと力任せに押し上げられて、腕が襟から引き離される。 すごいね。女の抵抗力じゃないよこれ。 こっちは上から体重かけてんのに、なんでこんなことできるんだろ。 本当にあんたって馬鹿力。 でも残念。 俺の手は二本あるんだよね。 のしかかった俺の体を跳ね飛ばそうと、じたばた暴れる体を押さえつけ、空いてるもう片方の手を襟元にこじ入れ、押し開く。 緋色の着物の中から、びっくりするほど白い肌が闇に浮き上がった。 見上げる目の色が、驚愕から怯えに変わった。 かまわず崩れた襟をさらに押し開く。 あの日、夕暮れに染まっていた白い白い小さな膨らみが、今度は完全に俺の目の前に現れた。 無造作につかむと、体の下から、ひ、と押し殺した悲鳴があがった。 同時に白かった肌が、一瞬で薄紅に染まる。 「さ、さす、な、なに、なにを」 「いやいやいや、ごめんね旦那ぁ。俺、旦那のこと舐めてたかもぉ」 揉むほどもないんだけど、確かに柔らかいそれを手のひらでゆっくりこね回す。 肌の感触は若い娘らしく滑らかで、ああやっぱり女なんだなとぼんやり思ったけど、それ以上は何も感じなかった。 ただ黒いものだけが、じわじわと絶え間なく、胸の底からこぼれ落ちていく。 何かが壊れちまったように。 「まさか旦那がそんな風に考えてたなんてさあ、俺様想像もしてなかったよ」 乳房をつかむ俺の手を、押しのけようと暴れる手を、今度はこっちがつかんで床に押し付ける。 がつっと鈍い音がして、痛かったのか、また小さな悲鳴が上がった。 「いやはや天晴れ、さすがは真田の後継者。それでこそ戦国の女だよねえ?俺様大感激ぃ」 「なにいって……や、は、離せ!」 「なんで?どうでもいい、んでしょ?」 旦那の前でいつも浮かべてる呑気な笑顔のまま、柔肌をまさぐる手に思いっきり力をこめる。 喉の奥で、引きつった悲鳴が上がった。 「誰でもいい、んでしょ?」 真っ赤だった顔が、さあっと青くなった。 一瞬だけ胸の奥から、じわりと何かが浮かび上がった。 けれどそれも、何かと考える間もなくすぐ沈んだ。 いつもどおりニコニコ笑って、その顔を覗き込む。髪も打ち掛けも床の上にひろがって、よじれて乱れてめちゃくちゃだ。 ああ、汚れるかな。 皺になっちゃうかな。 心配なのはそれだけ。 「ほーんと、ご立派な覚悟だねえ。……もっと見せてよ」 帯はそのまま、襟だけ無理やり押し開いて、白い腹までさらけ出す。 暴れたせいで裾も割れて、片足が膝まで覗いた。 こうなれば簡単なもんで、ちょっとめくっただけで両足が腿まであらわになる。 引き締まってるのに妙に柔らかい内腿を撫で上げれば、びくりと体を震わせて羞恥の悲鳴が上がった。 女の子みたいな声だなあと、浮かんだその考えが妙におかしくて、思わず吹き出す。 どんな戦場でも見せたことないほどの怯えを浮かべて、茶色の目が俺を見つめた。 逃げ場を探すように、視線が空をさまよう。 やがてまたおずおずと俺に戻ると、旦那は叱られた子供みたいな顔をして、小さく佐助、と呟いた。 「なあ、な、なにをそんなに怒っている?」 「えー?やだな怒ってませんよ。言ったでしょ、俺は感心してんの」 「う、嘘を申せ……やっぱり、そ、某の婿になるのが嫌で、だからそんなに怒っているのか?」 「もー、何回言わすの。だからそれは俺の任務でしょ?俺はお仕事するだけ。旦那と同じようにね」 そう、ただの任務。 俺が、偵察のために城に忍び込んだり、戦場を駆けたり、時には誰かを暗殺したり、それ以上の口にも出せないような薄汚いことをするのと同じように。 あんたは家のために婿をとる。 そうしなきゃならないのはわかってる。 あんたは跡継ぎだから、家を継いで、またそれを継ぐ子を産まなきゃならない。 大事なのは真田の家。 婿取りもそのため。 相手は誰でもかまわない。 それが誰だろうと、こんな名もない下郎だろうと、家のためなら。 あんたは黙って足を開くんだ。 ちがうよ、俺は怒ってなんかいない。 悔しくもなければ、悲しくもない。 そういう感情はないんだよ。 だって俺様忍びだから。 ただ腹ん中が、どうにも黒くて重くて、それがやりきれないだけだよ。 佐助×幸村(♀)18
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そして話は冒頭にもどる。 佐助とかすがは相変わらず幸村の前で肌を寄せあっていて、お互いの名を切ない声で呼ぶ声や 女の嬌声が聞こえてきている。 佐助は今、かすがの秘部に指を突き立てて、激しく抜き差しをくり返していた。先ほど二人が くちびるを重ねて舌を絡ませていたときの比ではないほどの淫らな音が立てられている。 骨張った指が粘液で濡れていて、それが音を奏でているのだと幸村は思った。 その指で彼女が悦んでいるのだ、とも。 「やっ、ぁあっ、ぅ、ん……っ」 軍神以外に対してこんなに甘い声と顔を見せるかすがを初めて見た。 「や、じゃないだろ。かすがはここも好きなんだよな?」 佐助は言って、指を挿しこんでいるところより上にある突起を親指で押した。その瞬間、 かすがは悲鳴にちかい嬌声をあげた。あまりにも突然のことだったので、幸村は 飛び上がりそうになるほど吃驚する。しかし佐助はそのかすがの嬌声に気を良くしたらしく、 指の抜き差しをつづけながら親指を突起に押しつけている。なんと器用な、と幸村は 妙なところで感心した。 「あっあっ、あっ、だめ、そんなとこ、ん……っ! い、イッちゃ、う……!」 「ん? かすが、もうイキそう?」 たずねられて、かすがは喘ぎながら肯定した。 「で、でもっ……イくなら、ん、ふ、佐助ので、イっ、イキたい……っ! や、ぁんッ!」 男女が乳繰り合うときは、ふだん言わないような言葉を発するものらしい。 耳にしただけで、言ったわけでも言われたわけでもない幸村が、その場で一番恥ずかしい 気持ちになった。どうしていいものか分からず視線をさまよわせるも、結局ふたりに 視線を向けてしまう。 「そんじゃ、かすがのお望みどおりに」 秘部から指を抜いて、佐助は自分の陰茎を取り出した。赤黒いそれは一見すると 不気味で毒々しい形をしているが、それがかすがの胎内におさまっていくにつれ、 彼女の顔は恍惚さを増していった。根元まで入りきったときには、長い脚を佐助の腰にまわして、 もう離さない、とでも言っているようだった。散らばった光沢のある髪の毛が そこにあるだけで卑猥に見える。 「は、ぁあ」 息を吐く口の動きさえ淫猥だった。だが決して下品さなどは感じられず、不思議な艶っぽさで 幸村の目を引いていた。 佐助×かすが×幸村 4
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「次は、く、くくくくっ、口吸いでござるっ」 パッと腕の力をゆるめてかすがを解放したかと思えば、やっとまともに息が 出来るようになった状態のかすがのくちびるに、自分のそれを勢いよく重ねる。 性急すぎる――かすがが思っていると、「旦那、それはちょっと慌てすぎ」と、 似たようなことを考えていたらしい佐助の声が聞こえた。けれども自分自身のことだけで 手一杯な幸村は、部下の声が耳に入っていない。真一文字に結んだ口を、 ひたすら肉厚なくちびるに押し付けていた。 「つ、次はッ!!」 顔をはなした幸村は、鼻息荒くかすがの腰を両手でつかんだ。彼がなにをしようと しているのか、瞬く間に見当がついた佐助が「ちょ、旦那!」と声を荒げたが、 やはり耳に入っていない幸村は、そのままかすがを持ち上げる。それから自身の 立ち上がった男根に狙いを定めて、かすがの腰を落とした。 「あああああッ!」 かすがが目を白黒させた。自身の愛液と佐助の精液、両方のおかげで 滑りはよくなっていたものの、突如として胎内に入り込んできたものに驚きを隠せない。 一方、結合部を見遣った幸村は頬を染めつつ満ち足りた表情をしていた。 「だ、旦那ァ、いきなり挿れちゃダメだって」 「む……そ、そうなのか?」 挿入したことでほんの少し落ち着いた幸村は、ようやく佐助の声が頭の中に入ってきた。 そういえば、佐助も挿れる前に体の至るところに触れていたような気がする。 虎の若子は熱で満ちた頭で思い返した。 挿入の衝撃に体をふるわせるかすがに、大丈夫かと佐助が声をかける。 「大丈夫だ……動いていいぞ」 腕を幸村の首にまわして応える。言葉とともに顔にかすかにかかった息が熱くて甘かった。 「う、動く、とは……?」 「挿れただけで満足するつもりか? お前は。よく分からないなら私が動くから、 このまま仰向けになれ」 「そ、それは駄目でござる!」 首にまわしていた腕をほどき、幸村の胸をおして上半身を倒そうとしたかすがに、 幸村は焦って首を横にふった。胸に置かれた細腕を、首にもどす。 「それがし、初めてのときは対面座位と決めておる!」 彼には彼のこだわりがあった。 佐助×かすが×幸村 9