約 115,752 件
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/97.html
261 :束縛・1:2005/07/06(水) 03 17 44 ID ??? 「キョーコ」 彼がいつものように名前を呼んで、体重を掛けてくる。 右手は、私の頭の横で手を組み合わせて、躊躇いもなく 降りてきた左手で顔の輪郭を確かめるように触れる。 頬を撫で擦ったかと思うと、親指で唇をなぞり、顎を軽くくすぐって……… じらすような指の動きに、私が身を捩って目をぎゅっと瞑ると、 彼はクスリと微笑って、耳元に唇を寄せた。 「―――キョーコ、可愛い」 私がこうされることに弱いと知っていて、彼はわざと、一層声を低めて、優しく甘く囁く。 最初の頃は、彼に与えられる感覚についていくのが必死で、 何かを考えている余裕なんてなかった。 だけど、次第に慣らされていく内に、彼の要求もどんどんと一段上のものに 変わってきて、気付けば、教えられた通りに反応をしながらも、 彼の次の動きに注意を払う余裕も出て来たりして。 そして、今更ながらに気付いてしまう。 そう、今、私に触れているこの男が、物凄く手慣れているということに。 勿論、彼も一人前の、いえ、それ以上と言っても良い位の男である訳だし、 過去に『何も』なかったなんて幻想を抱いている訳じゃない。 彼自身が、こんな関係になる前に、馬鹿正直に私に告げたんだもの。 この感情は、過去に付き合ってきた彼女『達』となんか比べ物にならない位なのだと。 本当に君を愛しているんだと。 でも………それは確かに彼は『恋愛経験』がないのだという証拠でもあるのだけれど ………そんな事を言われて喜ぶだなんて、本気で思っているのかしら。 彼の言葉の背景に、彼が気にも留めていなかった『彼女達』の影がちらつく。 それなのに、恐らく両手から溢れるであろう程に重ねてきた経験を、 私は、この身で嫌という程味あわされている。 ―――止めて、そんなに手慣れた指で私に触らないで。 言いたいはずの言葉は、いつも、他ならぬ彼自身に覚え込まされた味によって、 口を噤まされてしまう。 「――――何を考えているの?」 瞳を堅く閉じて目を背け、全ての感覚から感情を遮断しようとしているのに、 この男はまたしても、低く声を凄ませて囁きかけてくる。 「………何でもないです……っ」 「じゃあ目を開けて?」 「………………………」 黙ったまま、唇を噛み締める。 私が従おうとしないのを見て取ったのか、軽く吐息を付いた彼は、 今度は声の調子に切なさを混じらせて、私の首に顔を埋めた。 「キョーコ、余計なことを考えないで……俺のことだけ考えていて?」 そんなの、とっくの昔から…………だから、苦しいのに。 そして彼は、またあの言葉を呟く。 「君を誰よりも愛しているよ―――どんな女の子とも比べものにならない位にね ―――こんな気持ちは、今まで誰にも覚えたことはない」 うっすらと瞳を開けると、背後の照明によって影のように見える男が、 私をじっと見ていて、瞳を合わせると、口元だけでにっと笑った。 もう見慣れてしまった………けれど、普段の穏やかな物腰からは想像も付かない程に、 妖しい雰囲気を漂わせる男。…………座った目に、劣情を剥き出しにした男。 「何で………私を選んだんですか………?」 私は、込み上げる衝動を堪えながら、途切れ途切れに呟いた。 「貴方なら、他にいくらでもいるでしょう……?私より美人で、胸もあって………」 「俺を夢中にさせているのはこの胸だよ?こんなに、いつまでも触れていたく なるような感触は………初めてだ」 ほら、また。 貴方にとっての私が、ただ『初めて』を与えた女に過ぎないのならば。 また『私以上』に彼に満足感を与える女の子に巡り会うのかも、しれないでしょう? そうしたら、私も貴方の昔の『彼女達』になるのでしょう? それでも、彼に決定的な否定を与える事が出来ない私は、 とっくの昔に、彼の深みに堕ちてしまっているのだろう。 「―――だから、絶対に逃がさないよ――――」 彼の束縛が、この瞬間の私を縛り付けるのに、 確かな安心感など、私の心には一欠けらも降ってはくれない。 それでも、これまで誰にも束縛されることのなかったこの男を、 この身一つで雁字搦めに出来るならばと願い、夢中に応えようとする私は、 多分、とっくにこの男の毒に冒されてしまっているのだ。 囁かれる言葉はこのうえなく甘いのに。 込み上げる身体の衝動に紛れて、私は一粒、本物の涙を落とした。
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/74.html
696 :蓮キョ?:2005/06/20(月) 07 39 28 ID ??? 「社さん、お久しぶりです」 ぺこりと礼儀正しく挨拶をするキョーコ。DARK MOONの撮影が終わって1ヵ月近く見ていない顔だった。 「ホント久しぶりだね。同じ事務所なのになかなか会わないし。最近どう?美緒に対する周りの反応すごいんじゃない?」 「そうですね。敦賀さんの嘉月と百瀬さんの美月人気にはこれっぽっちも及びませんけど、仕事のオファーが少しずつくるようになりました」 放映中のドラマは初回から他を寄せ付けないほどの高視聴率をマークし、その人気は回を追うごとに高くなっている。 「じゃあ忙しいのかな?」 「そうでもないですよ。ここ一週間はほとんどラブミー部の仕事でした。」 「そっかぁ。あっ!今日はこれから何かある?」 「いえ、特には。」 (新しい役柄について考えないといけないけど) 胸中で付け足す。社はにまーーっと笑って会話を続けた。 「じゃあこれからラブミー部の仕事頼んでもいい?」 ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ (まったくあの人はどこに消えたんだ) 蓮はカツカツと早足で事務所の廊下を歩いていた。今後のスケジュールに目を通しているうちにどこかへと消えてしまったマネージャーを探していたのだ。 (どこかへ行くなら一言言ってほしいなぁ。もう今日は帰れるって喜んでたくせに。放って帰ろうかな…)そんなことを考えていると捜索中のスーツ姿を見つけた。その隣には 「最上さん!?」 片恋を自覚したというのに、どんなに会いたいと思ってもドラマが終わってから一向に会うことができなかった彼女がいた。 社は蓮に気付くと得意げな笑みを浮かべ手招きをしてきた。 (この人がこういう顔してる時はお節介焼きたがってるときなんだよなぁ…) そう危惧しながらも夢にまで見た彼女の近くに行かないわけもなく、蓮は二人に近づいた。 「お久しぶりです、敦賀さん」 そう笑顔で言うピンクのつなぎを着たキョーコは少し髪が伸び、以前より大人びて見える。 「久しぶりだね、最上さん。元気だった?」 思わず優しい笑みがこぼれる。 「はい。でもそれはこっちのセリフですよ!」 (?…) 少しだけ怒ったような口調で話す彼女。隣ではなにか満足気に頷いているマネージャー。 「社さんに聞きました!またお食事ちゃんと取っていないんですね!?いつになったら自己管理してくれるようになるんですか!」 ぷりぷりとまくしたてられ、蓮は面食らってしまい言葉を発することができなかった。 「で、何が食べたいですか?」 「え?」 「社さんに今晩栄養のあるもの作ってくれって頼まれたんです。何がいいですか?」 (またこの人は勝手にそういうことを…) マネージャーを盗み見ると満面の笑みでこちらを見ている。この人の思い通りになるのは癪だが、断ろうとは思わない。軽く息を吐くと 「なんでもいいよ。君の得意なもので」 その言葉を聞き軽く頭を悩ませる素振りを見せる彼女。そこに社が割って入ってきた。 「まぁまぁ、とりあえずここを出ようよ二人とも。」お手柄だろ?という顔をしている社に蓮は呆れた顔を向ける。内心感謝していることは全く表に出さなかった。 ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ 社を家まで送り届けたあと自宅へと二人で向かう。蓮はキョーコの言葉や仕草の一つ一つに高鳴る鼓動を押さえ、平静を装うのに苦労した。 マンションに着くと、キョーコは慣れた手つきで冷蔵庫の中を物色し、調理をはじめた。 数十分後、いい匂いのする相変わらずおいしそうな料理をキョーコが居間に運んできた。お盆で足元が見えなかったのか、ソファの近くに置いていた自分のカバンに足があたり倒してしまった。 「あっ!すみませんっ。自分で直します」 慌てたように言うキョーコ。蓮はお盆を受け取りテーブルに置くと、カバンの中身を拾うのも手伝った。 「これは…?」 キョーコのカバンにはビデオテープが5本ほど入っていた。蓮はその1本を手に取り尋ねた。 「あっ、そ…それは次のお仕事のために見ようと思ってさわらさんから借りてきたんですけど…」 そのビデオの装丁はどうみてもホラー物だった。タイトルをみると数年前にトラウマになるほど怖いと評判になり一世を風靡したドラマである。 「続編を作るらしいんですけど美緒を見たそのドラマの監督がオファーをくれて、人々を呪う怨霊みたいな役をすることになったんです。前作その役をした人は今体調がよくないみたいで…。」 なんだかあまり気が進まない役のようだがDARKMOONの時と同じく色々と魅力のある仕事らしい。 「で、見るの?これ」 「…のつもりなんですけど」 物凄く気が重そうだ。 「一人で?」 「う゛っ…」 完全にキョーコの言葉がつまった。蓮は確信に近いおもいで聞いた。 「怖いの?」 下を向いたまま固まるキョーコ。図星らしい。 「でも見ないわけにもいかないんです…。前作のイメージで演じないといけないし…。」 ぶつぶつと自分に言い聞かせるように言葉を発する。 この娘はこれから先こんな役ばかり回ってくるのでは、と軽く心配しながらも蓮は一つ提案してみた。 「一緒に見る?夕食の後で」 「そんな!忙しい敦賀さんに手間をかけさせるような真似はできません」 驚いたように言う彼女。 「でも嘉月の時にはオレの演技に付き合ってもらったし、いまだってご飯を作ってもらってる。オレにもお礼をさせてよ。この作品はすごく人気があったけどオレも見ていないし。あまり見ないジャンルのいい作品を見ることはオレにとっても視野を広げるきっかけにもなるしね。」 そういうと彼女は納得したのか、じゃあお願いしますとつぶやいた。 ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ 夕食後、部屋の電気を間接照明だけの薄暗いものにして(彼女は嫌そうだったが)、二人でソファに座りビデオを見はじめた。近づきすぎるのもおかしいと思い蓮はクッション一つ分の距離を空けて座った。 OPから怪しげな雰囲気が漂うドラマ。既にキョーコはこれから始まる恐怖に耐えかねているように見えた。 始めの10分くらいはまだ何ともないストーリーだったが、突然画面いっぱいに白目をむいた死人の姿が映し出された。 「きゃああああああ!!」 キョーコは反射的に蓮の腕を掴み、顔は蓮の肩とソファの間に埋めて小さくなり震えだした。本当に苦手らしい。 ただでさえ久しぶりの想い人と暗がりのなか二人きりだったのだ。少し脈が早くなる。そこに突然自分の腕にすがられて蓮の心臓は違う意味でドキドキしていた。 「最上さん、大丈夫?」 優しく声をかけると、キョーコはごめんなさいと言いながら必死で恐怖を押さえ、TVの方を見ようとした。 その時、まだTV画面には恐ろしい世界が広がっていた。 「っつ!!」 今度は声もあげられず、両腕で蓮の腕に抱きついてきた。かなりきつく抱きつかれ、蓮の腕にはキョーコのやわらかい胸が押しつけられる形になっていた。 蓮は理性を総動員しながら、もう片方の手でキョーコの頭を撫でる。キョーコは蓮を見上げると 「ごめんなさい…こういうの…慣れてなくて…」と涙目で誤ってきた。その顔は文句なしに可愛かった。目と目が合うと蓮に抱きついているキョーコの腕の力がゆるみ、蓮は両腕をキョーコの背中に回しぎゅっと抱き寄せた。 (え……?) 予想だにしなかった状況に目をぱちくりさせるキョーコ。 「まだ怖い?」 蓮が耳元で優しく問い掛ける。キョーコは抱き締められていることに戸惑いながらもコクンと頷いた。 (確かにまだ怖い…んだけど、なんだか違う意味でもドキドキしてきちゃった)お互いの鎖骨のあたりに顔を置いているため顔は見えないが、首筋にかすかに感じる吐息や身体で感じる体温に二人とも言葉にできない感情を覚えはじめていた。 そのまま二人ともビデオを見ない状態で数分が過ぎた。 このままでは、と思ったのか、キョーコが話しかけた。 「え-と…敦賀さん、こういうの平気なんですか?」 蓮は一瞬、キョーコを抱き締めているこの状態のことかと思ったが、ホラーのことだろうと考え直した。 「まぁ、男だしね。あんまりこういうのは見ないけど現実ではないものだからすごく怖いとかは感じないな」 おもわず男であることを強調してしまう。 「そ…そうなんですか。そういえばショウも」 そこまで言葉にして、しまったと思ったのか固まるキョーコ。蓮には誰の事かなんて容易にわかられていた。彼女は今、勝手の同棲相手・不破尚のことを思い出したのだ。蓮は急速に不機嫌になる自分を自覚した。 今彼女にこれ以上ないほど近づいているのは自分だ。自分のこと以外考えられないようにしたいのに、自分の腕の中ですらあの男の事を思い出すのか…。 (なんでショータローのことなんか思い出さなきゃならないのよ!!…あれっ、敦賀さん、なんかちょっと、痛っ) キョーコは蓮がさっきよりも強く自分の体を引き寄せるのを感じた。 「つ…敦賀さん??」 「最上さん…」 「はいっ??」 「続き…見ようか?」 (え゛っ…) 見ない…というわけにもいかない。それが目的で夕食後もこの部屋にいるのだし、忙しい先輩にわざわざ付き合ってもらっているのだ。なにより身体に感じる蓮のオーラがNOとは言えない威圧感をキョーコに与えていた。 「み…見ます」 少し泣きたい気持ちで返事する。 「OK」 そういうと蓮は腕を解き、ソファの上に小さく固まっていたキョーコを軽々と持ち上げると自分の脚の間にストンと座らせた。キョーコの後ろから両腕を回し、背後から抱きしめる形になった。 (なっ!なっ…!) 頭のてっぺんから爪先まで身体全部で蓮の温度をいやがおうにも感じるキョーコ。 真正面に向かい合わされたTVには、やはり仰け反りたくなるような映像が流れていた。 「ひゃっっ」 ぎゅっと固く目をつむる。 すると首に生暖かい感触と鈍い痛みを感じた。 (なに…?敦賀さん?) 蓮の唇がキョーコの首筋に吸い付き、ちゅっという音を立てて離れると赤い印を一つ残していた。 「な、な、な、なにしたんですかぁ!!?」 思わず大声が出る。自分の肩ごしに後ろを振りかえると、蓮の顔がキョーコの顔に重なるように近づいてきた。 カキンッとまったく動けなくなったキョーコ。お互いの唇の距離は5cmくらいしかなかった。 固まるキョーコに、その位置で蓮が語りかける。 「悲鳴を上げたらキスマーク、後ろを向いたらキス。どう?」 「…は…?」 訳が分からずそれしか言えないキョーコ。 「そういうのがあれば君もビデオ見れるんじゃない?ビデオだけに集中しないだろうし。あぁ、リタイアしたら…」 「りたいあしたら…?」 恐る恐る繰り返すキョーコ。 「想像に任せるよ。」 蓮がエセ紳士な笑顔で答えた。 「な、なんですか!それぇ!!」 顔を真っ赤にして叫ぶキョーコ。 「リタイアする?」 「しません!!」 そういうと向き直り、その後一言も発しないまま蓮の腕の中でビデオを見続けた。 おしまい
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/98.html
270 :好みのタイプ 1:2005/07/06(水) 04 06 59 ID ??? 「ここで一枚、お便りを紹介しまーす! 最近ますます綺麗になったと思う京子ちゃんですが、その秘密を教えてください。 東京都のPN、カムバックさんからのお便りです。どうもありがとうございます~」 「でっ、京子ちゃん。業界でもけっこう評判になってるみたいやけど、 ほんまのところはどうなん?やっぱりこれ?これか?」 「これって(笑)親指立てても、ラジオじゃ伝わらないからね。 で、京子ちゃん。実際どうなん?」 「もう、お二人とも勘弁してくださいよ~!ないです、ないです」 「ほんまかなー?絶対おるよな、これは」 「うんうん、おらへんわけがない」 「いませんって、ほんとに」 「じゃあ、好きな人は?」 「………、え?いませんよー、残念ながら」 「あっ!今つまった」 「ほんまやっ。止まってもうたらあかんわ~。バレバレやん」 「違いますって!」 「ほな、京子ちゃんの好みのタイプの男性は?」 「好みのタイプですか?……んー、そうですね…」 「ええねんで、好きになった人がタイプやいうても」 「ほんまや。そのほうが帰った後、波風たたへんやろうしな(笑)」 「んもう、違いますってば~。そうですねぇ……意外性のある人、かな?」 「意外性?これまた難しいほういきましたで」 「ほんまですねぇ、これはもっと詳しく突っ込んどかんと。リスナーも ぽっかーんとしてますよ、きっと」 「えー?(笑)だからですねぇ、たとえば……機械がすごく得意そうに見えるのに 機械クラッシャーだとか。恋愛百戦錬磨、みたいな顔して実は恋愛音痴、とか」 「おっ、今度は一転して具体例きましたよ!」 「しかもなんかみょ~にリアルですよ」 「もう、だから、たとえばですってば~~!あんまり突っ込まないでくださいっ!」 だから、今この場でコレを聞いている俺達はどうすればいいの、キョーコちゃん……。 蓮の車で次の現場に移動する途中、ラジオから聞こえてきたのはおなじみの女の子の声。 人気アイドル二人組のトーク番組に出演していた彼女は、持ち前のバラエティ感を発揮して テンポよく会話をつなぎ、番組も盛り上がっていた。 ……が。車内の空気はすでに冷え切っている。 「さ、さすが、キョーコちゃん。何言いだすか予想がつかないよね~。あはははは」 心なしか乾いた笑いになってしまうのも仕方がない。 彼女のまわりの機械クラッシャーって、俺くらいなもんなんだよな……。 (というか、こんな特異体質そうはいないし) 隣の運転席の男のまわりが、どんどん不機嫌オーラに満たされていくのを感じながら、 俺はひたすら神に祈っていた。どうかこのまま無事、現場につきますようにと…―――。 「変わった趣味ですよね、機械クラッシャーに恋愛音痴なんて」 だからお前、その皮肉めいた笑みはやめろ!敦賀蓮にはイメージってものがあるんだぞ。 って、今俺が言ったところで、どうにもならんだろうけど……。 「たまたまだろ、たまたま。頭に浮かんだイメージを口にしたってだけで 深い意味なんてないんだよ、うん。お前だって、その手の質問はいつもさらっとかわしてるだろう!」 別に俺があせる必要はないはずなのに、この流れてくる汗はいったいなんなんだ?! 「たしかに、綺麗になりましたよね……彼女」 おっ、めずらしい。お前がキョーコちゃんに対してそんなに素直な感想をのべるなんて! 「そうだよなぁ、ほんと!眩しいっていうか。まさに成長期って感じで、目が離せないっていうか」 その反応が嬉しくて、ついおおげさに話に乗ったのが間違いだった。 「……そうですよね。どこかの馬の骨に持ってかれても困りますもんね。LMEとしても」 車内の体感温度は一気に氷点下まで下がろうとしている……。 馬の骨、って今、ものすごく強調しなかったか、蓮。前々から密かに思ってはいたが、 お前のその裏側には海より深い闇色が……やめよう、考えるのは。それが身のためだ。 「でも、恋愛音痴といえばさぁ……なぁ、蓮」 「なんですか、社さん」 ハンドルを握り、前を向いたままのこの俳優の表情の変化は読み取れない。 「またまたぁ。百戦錬磨に見えて恋愛音痴、なぁんて男もそうそういないと思うんだけどな」 「……何が言いたいんです」 俺のからかい言葉に、ちょっとすねたように顔を赤らめて反応する蓮を見て 俺は確信した。凍死の危機脱出!(ありがとう、キョーコちゃん!) 「いったい、誰が恋愛音痴だっていうんですか」 「ほー、お前がそういうこと言うんだ」 やや回復した車内の気温に気を抜いて、強気に出たのがいけなかった。 「へぇ…―――じゃあ、本気出してもいいんですね」 だから…お前……。 ごめん、キョーコちゃん。お兄さんにはもう、止められません……。 そうこうする内に、車は現場に到着。 蓮、そのトゲトゲしたオーラは現場ではちゃんとしまうんだぞ。 後から、とばっちり受ける覚悟は出来てるから……。 これから先のことを思うと……はぁ~~~~~。がんばろう、俺。
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/12.html
21 :1:2005/05/11(水) 02 15 31 ID ??? で、できた!討ち死に覚悟で、一番乗りー!各々方、お目汚し御免! ―― 僕は世界一乙葉を愛しています! 夜のニュース番組の1コーナーでは、某タレント同士の婚約会見が行われていた。 「プロポーズはひざまずいて、指輪を手渡しながらだそうですよ~。 ロマンティックですよねー」 女性リポーターの口から、みょうにはしゃいだコメントとそれにまつわる 幸せエピソードが次々と語られ、画面からはピンク色のオーラがただよっている。 「どうしたの?ぼけっとして」 急に声をかけられて、思わずびくっと反応しながら振り向くと、 水差しとコップを手にした敦賀さんが、不思議そうにこちらを見ていた。 「い、いえ。なんでもないです」 あせりながらも、止まっていた手を動かし、食事の支度をすませる。 社さんからのSOSを受け、敦賀さん宅で夕食を作ることになった私は 買い物をすまし、敦賀さんの仕事帰宅時間にあわせておじゃますることにした。 敦賀さんのお家のキッチンも、もう何度か使わせてもらっているので だいたいの使い勝手も分かって、支度も手早くすませる事が出来るようになっている。 とはいえ、その支度の最中にTVに見入ってしまうなんて……。 思わず、はぁ、と自責のため息が出てしまう。 「何かあった?」 なにやら嬉しそうな顔で(なぜ?)敦賀さんが問いかけてくる。 「ほ、ほんとになんでもないです。さ、食べましょう!今日のしょうが焼き、自信作なんです」 いただきまーす、と無理やりに上げたテンションでおはしを手にする。 どこか納得いかない風にこちらを見ていた敦賀さんも、いただきます、と手をあわせて 食事にとりかかる。普段は食事に関しては無頓着だという敦賀さんだけど、 毎回残さず食べてくれる。 それがちょっと嬉しい、なんて、恥ずかしくて本人には言えないけど。 「あこがれる?こういうの?」 唐突な問いかけに、食事の手を止め、声のほうを向くと そこには神々しいまでのスマイルをたたえた敦賀さんがいる。 「(うっ、心臓に悪いわ…)何がですか?」 たぶんバレバレなのだろうと思いつつも最後の抵抗を試みる。 「何がって、こういうプロポーズ。ひざまずいて指輪と一緒に、なんて 女の子ならあこがれるんじゃないの?」 「そりゃ、まぁ。そうなんじゃないですか。世間一般のお嬢さん方には」 何を言っても心の内を見透かされているようで、つい顔が赤くなる。 「その、いわゆる世間一般のお嬢さんに、キミは入らないの?」 キュラキュラ笑顔でこちらに問いかけてくる敦賀さん。からかってますね……完全に。 「私には無縁のことですから。決めてるんです。無駄な期待はしないって」 TVから流れてくる、関係者のお祝いコメントを聞き流しながら、 口の中にサラダを詰め込む。うっ、ほおばりすぎた。 少し苦しげな私を見て、敦賀さんが水の入ったコップを差し出す。 お礼を言って受け取り、ごくごくと飲み干す。 あきれられてるだろうな、そう思って視線を移すと思いもかけず、 真剣な目でこちらを見ている敦賀さんがいた。 その視線の強さに思わずフリーズ。 え、なに、なんなの??何かしちゃいました?私……。 「最上さん……」 そう言って、真剣な顔のまま私の正面を向いた敦賀さんは 突然私の右手をとって自分のほうに引き寄せた。 「??!!」 見つめられてるだけで、プチパニックだった私はさらにパニック状態。 そんな私の手の甲に軽く口付け、彼はこう言った。 「Will you marry me ?」 ど、どうして英語なんですか?じゃなくて、なんで??? 混乱して頭は真っ白。真っ赤になって固まる私を見て ブッ、と噴出したまま敦賀さんは手を顔にあてて笑いをこらえている。 「あ、悪趣味です!こんなからかい方するなんて!!」 真っ赤になって怒る私がますますツボに入ったらしく、 なんと涙まで浮かべて笑っている敦賀さん。 「もう知りません!」 そう言ってそっぽを向くと、さすがに申し訳なく思ったのか、 「ごめんごめん。ちょっと予行演習してみたくなってね」 そんなことをぬけぬけとささやいてくる敦賀さん。 いいかげんキレますよ、私? 「そんなことは私なんかでなく、意中の人にやってください!」 「だから、やってみたのになぁ」 そう言って楽しげに笑う、あなたの言葉のどこを信じろというんですか。 もう決めたんです。期待はしない。あこがれない。 でも、でも、どうしてこんなにドキドキするの!! ああっもうくやしいっ。横でまだこらえきれずに笑い続ける敦賀さん。 いつか、いつか、ギャフンと言わせて見せるんだから!
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/92.html
148 :帰り道:2005/07/03(日) 01 38 24 ID ??? 思い付いたので書かせてください。スルー推奨。 嘉月の役作りは終わり、キョーコを下宿先まで 送り届けるため、蓮は車を走らせていた。 蓮は心の中で思いをめぐらせる。 …バレたかな?… 助けるためとはいえ、キョーコを抱き締めてしまった蓮。 一瞬、蓮の気持が出てしまった。 それが伝わったのか、キョーコ君は黙り込んでしまった。 だから、今も無言だった。 信号が赤に変わったので、車を止める。 俺は彼女を見る。 彼女の向こうに“アイツ”がいた。 女が運転する車の助手席に“アイツ”は座っていた。 信号待ちで、偶然車が隣同士になってしまった。 ちっっ。 心の中で舌打ちする。 車のドア越しだが彼女と“アイツ”が隣同士。 向こうは、こちらに気付いたらしく、 “アイツ”は女に向かって何か言っている。 …バカか!!ドアが閉まっているのに聞こえるわけがないだろう!!… 俺が見ている方が気になったのか、彼女はそちらを見ようとした。 やばい!! そう思った時には、俺は彼女の唇を強引にうばっていた。 “アイツ”を見せないために。 「つっ敦賀さん、なな何をするんですか!」 「これが、君に対する俺の気持」 信号をが青になったので、車を走らせた。 彼女は真っ赤になって、うつむいている。 …自分の気持を伝え、キスもした。 “アイツ”も役に立つことあるんだな…
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/10.html
蓮×キョ 1071251451711832-1582-162-2122-2232-252-2612-2702-270-2752-2952-326-ハンター204212142252372582682882983233683863984242443246848750250955861062650676696-704788028198248328691292924
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/94.html
223 :胸板注意報!:2005/07/05(火) 21 53 52 ID ??? 「ねぇ、お姉様。蓮様って素敵な胸板してらっしゃると思わない?」 「え?・・・む・胸板?」 突然飛び出したマリアちゃんの衝撃発言に私は言葉を詰まらせてしまった。 マリアちゃんってば敦賀さんの上半身の裸でも見たのかしら・・・? 「蓮様、鍛えてるだけあって引き締まった体してらっしゃるのv」 「そ・そう・・・(汗)」そういえば敦賀さんの自宅にトレーニングマシーンがあったわね。 それで体を鍛えてるんだわ、きっと。・・・って何?この話題・・・。 「うふふふふ。将来、あのたくましい身体に抱かれる日が来るかと思うと・・・。 想像するだけで胸が高鳴るわ~vすっごく、た・の・し・み~♪」 ・・・ブフォっ!(←キョーコ、飲みかけのジュースを吐き出した音) ―――――なに・・・?今の発言は。現代の子供ってこんな言葉を当たり前の様に使うものなの? 「・・・マ・マリアちゃん。意味、理解して言ってるの・・・?」と、私は恐る恐る尋ねてみた。 で、返ってきた言葉は「もちろんよ、お姉様♪」という想定外のものであった。 ・・・う・・嘘でしょう? 私の小さかった頃といえば『将来の夢はショーちゃんのお嫁さんv』という程度のものだったわよ・・・。 決して『抱かれてみたい』なんて思わなかったわ。 ・・・って何であんな奴の事を思い出さなきゃならないのよーーー!!! バン!バン!バン!バン!バン!(←キョーコ、地面を踏みたたく音) 「どうなさったの、お姉様?」 キョーコは脳内妄想でゴキブリな松太郎を踏み潰す事に必死になっていた。 「・・・ふぅ。さっきのマリアちゃんの『あの』発言には参ったわ」 今時の子供って皆あんな事を考えるのかしら。教育者は一体何をしているの・・・? と、そんな事を考えながら事務所内を歩いていると見覚えのある人物を発見してしまった。 向こうも私の存在に気付いた様子。 「やぁ、キョーコちゃん。久しぶりだね!」 声を掛けてきたのは社さんみたいだったけれど(←眼中に無かったらしい)私の目は 敦賀さんの姿に釘付け状態。正確に言えば、敦賀さんの・・・鎖骨と胸板になんだけど・・・////// ああ~もぉぉ!マリアちゃんのせいで敦賀さんの変な所?に目が行っちゃうじゃないの~///// 今日の敦賀氏の衣装は露出度が高かった。・・・やっぱ夏だからね♪(←?) どうしてこんな時に限ってそんな露出度の高い服を着ているの?もしかして・・罠だったりする? 敦賀さんの綺麗な鎖骨とたくましい胸板が私の目にはとても眩しすぎると判っているのに 何故だか目が離せない。ああ、そんな自分がとっても嫌だわ・・・。 しかも脳内でマリアちゃんの言葉がグルグル廻っている。ちょっと?言葉は違うかもしれないけれど 私の脳内、今こんな感じ・・・・。 『敦賀さんに抱かれたい・・・抱かれたい・・・抱かれたい・・・抱かれたい・・・』 ――――――非常にヤバイ状態だわ・・・どうしよう?(大汗) 「・・・っさん。最上さん!・・・どうした?大丈夫?」 いつの間にか敦賀さんが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。 恥ずかしい・・・。考え事に夢中で気付かなかったわ・・・//////// 「すみません。考え事をしていただけですから・・・・大丈夫です!」と答えた瞬間・・・・!! カァーーーーッと顔が火照っていくのが自分でも判った。 だって敦賀さん、私に蕩けるような笑顔を向けていたんだもの。 ・・・で、目が合った瞬間恥ずかしくて、つい敦賀さんからサッと目を逸らしてしまった。 「本当に大丈夫?顔が赤いから熱でもあるんじゃないか・・・?」 敦賀さんは本当に心配そうにしている。自分が今、敦賀さんに対して邪まな心を持っていると知ったら この人はどうするんだろう?・・・って絶対に知られたくないけどね。 「・・・って最上さん、聞いてる?」 はっ!!また考え事に夢中になって話を聞いてなかったわ。「すみませ・・・」と敦賀さんに 謝っている最中、私は彼に抱き上げられていた。いわゆるお姫様抱っこというもの。 「具合が悪そうだから医務室に連れて行くよ。・・・いいね?」 「・・・はい・・・/////」 敦賀さんがあまりにも真剣な眼差しを向けて言うものだから、私はそう答える事しか出来なかった。 ・・・どうしよう。すっごくドキドキしてる、私。 だって今、敦賀さんの顔が物凄く近くにある。それに・・・・む・胸板が私の目の前に・・・///// 今まで敦賀さんと至近距離で接した事はあるけれど、というか覆いかぶさられた事が何度か あるけれど『男』としてこんなに意識した事は無かった気がする。きっとマリアちゃんの『胸板』と 『抱かれたい』発言のせいだわ・・・。胸板マジック!恐るべし!!(←かなり動揺中w) 医務室のベッドに下ろされた私は、やっと敦賀さんの胸板から解放された。 良かった。あのままの状態が続いていたら私、頭がおかしくなるところだったわ・・・。あっ!お礼、言ってない。 敦賀さんに運んで貰ったお礼を言おうと顔を上げた瞬間―――・・・ 「・・・・んっ・・・」 私は敦賀さんにキスされていた。・・・何?もしかして私の心の中、見透かされてた? 唇が離れた瞬間に見た彼の表情は・・・妖艶そのものであった。 「仕事を終えたら迎えに来るから、それまで大人しく寝てるんだよ。いいね?」 敦賀さんはそう言い残して医務室から出て行った。 やっと敦賀さんから解放された・・・。『胸板&鎖骨&キス』思い出すだけでも恥ずかしいぃぃ。 マリアちゃんがあんな変な事言い出すから悪いのよ。それに敦賀さんも変な色気漂わせちゃって・・・。 ・・・って、何だか眠くなってきたわ・・・。疲れたのね、きっと・・・。 キョーコは深い眠りに落ちていった。 ―――3ヶ月後――― ごめんね、マリアちゃん。敦賀さんに抱かれる事を夢見てたのに、私なんかが彼の恋人になって ×××するような関係になっちゃって・・・。 (コミック4巻表紙・蓮&キョーコが初めて×××するような関係になった朝、参照) 今の私、敦賀さんにメロメロ状態です・・・////。彼だけは絶対、誰にも譲れません!! 本当に、本当にゴメンね? 終わりですよ(・・・変なの書いてゴメンねw)
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/99.html
275 :束縛・蓮サイド1:2005/07/06(水) 06 18 48 ID ??? 「キョーコ」 彼女の名を、舌の上で転がすように、味わうように、口にする。 決して逃さないように、細く白い手首までもを捉えるように重ねた手を絡ませて。 そうしながら、空いている方の手で、彼女の感触を確かめていく。 微かに強張っている身体を解けさせたくて、顎の下を軽く掬うようにして持ち上げると、 一瞬力が抜けたように身を震わせた彼女は、すぐに瞳をぎゅっと瞑った。 「―――キョーコ、可愛い」 いつまで経っても羞恥を捨てない彼女が、可愛くて仕方がない。 この行為を重ねてきた過去は、捨ててきたはずだった。 だけど今の俺には、彼女に与えるものが何もないから、 彼女を縛る術すら思い付かずに、彼女を染め上げてしまいたくて。 ただ、ひたすら彼女を求める。貪る。自分の知る限りの欲望を曝け出して、 思い付く限りの甘い言葉を囁く俺は、きっと必死で滑稽に見えるだろうけれど。 それでも、決して彼女は、最後の用心深さを捨てはしないから。 どうすれば心を独占できるのか分からないまま、彼女の身体に唇を落とす。 俺が初めて開かせた身体は、日毎に艶を増し、鮮やかに咲き誇り始めている。 潤んだ瞳が、熱い吐息を吐く唇が、益々俺を煽っていく。 形は同じような行為や動作でありながら、ただなぞるように通り過ぎていった 愚かな過去の経験とは、比べ物にならない位の激しい衝動。 彼女に対して感じる愛しさは、俺にとって唯一の真実なのに。 少しずつではあっても、俺の衝動に馴染んできた、柔らかい身体を 今更他の男共に取られたりでもしたなら、きっと俺は気が狂う。 だから彼女が俺から離れられなくなるようにと、一層深く、彼女を求める。 例えこのまま、心を許してくれなかったとしても、今更手放すわけにはいかないから。 俺の身体を求めるだけの繋がりだとしても………構わない。 ――――俺はとっくに、身も心も君に囚われてしまっているのだから。 彼女を縛ることが出来る術を知る事が出来るのならば、 俺はどんなことでもするのに――― 「―――何を考えているの?」 どれだけ攻め立てても、決して瞳を開けまいと……俺の存在を認めまいとするかのような 彼女に苛立ちを覚えて、耳元で囁きかけた。 「………何でもないです………っ」 「じゃあ目を開けて?」 「………………………」 ふっくらとした唇を噛み締めて、彼女は黙る。 どうしたら俺を見てくれる?せめて身体の快楽を与える男の存在を認めてもくれないの? 俺は軽い絶望感の中、彼女の甘い香りに惹かれて、首筋に顔を埋める。 「キョーコ、余計なことを考えないで……俺のことだけ考えていて?」 それが、心からの信頼でなくともいいから。 君にとって代えの効かない存在だと、今だけでも俺に信じさせて。 「君を誰よりも愛しているよ―――どんな女の子とも比べものにならない位にね ―――こんな気持ちは、今まで誰にも覚えたことはない」 心のありったけの思いを篭めて、また耳元で囁くと、彼女が薄っすらと瞳を開けた。 やっと黒く濡れる瞳を見せてくれたことが嬉しくて、微笑んでみせる。 こんなにも快楽に身体を熱くさせることができる男は、俺だけだろう? だから、もっと求めて………その瞳に俺以外の存在を映さなくなるまで。 「何で………私を選んだんですか………?」 それなのに……彼女は睫毛を震わせながら、残酷な言葉を吐く。 「貴方なら、他にいくらでもいるでしょう……?私より美人で、胸もあって………」 「俺を夢中にさせているのはこの胸だよ?こんなに、いつまでも触れていたく なるような感触は………初めてだ」 いつまでも、受け入れて貰えない想い。 君の身体が目当てで抱いているんじゃないんだ。 だけど、心を支配してしまいたいから、心も身体も全て俺で満たしてしまいたいから。 その柔らかい胸が包んでいる心臓の鼓動を、もっともっと上げさせてしまいたいんだ。 俺の、底なしに深い独占欲に恐れをなしたのか、何を言っても無駄だと思ったのか、 彼女は再び息を吐いて、また瞳を隠してしまう。 「―――だから、絶対に逃がさないよ―――」 そう、そろそろ諦めてくれるかな。 俺は君を引き止めるためならばどんな手段も選ばないんだから。 俺がこれ程必死に、君を繋ぎとめようとしているのに、 彼女は、次の瞬間、俺の首に回した細い腕一つだけで、 俺を雁字搦めにして、絡め取ってしまう。 それは、どんな言葉にも勝る、甘い束縛。 だけど、俺が何よりも、求めていたもの―――
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/83.html
832 :電○女 1:2005/06/26(日) 20 35 59 ID ??? 【ACT.1 そして箱は開けられた】 カタカタカタカタカタカタカタカタ 「キョーコちゃん、まだ起きてるのかい?」 ドアの向こうから声がかかった。 慌てて、ドアを開ける 「おかみさん・・ごめんなさい、うるさかったですか?」 ここは現在、私がお世話になっている【だるまや】の2階。 住む所がない私にバイト先である【だるまや】のご夫婦が、 好意で部屋を貸してくれている。 「いや、うるさくはないけど大丈夫かい?明日も、早いんだろう?」 時計を見れば、1時を過ぎようとしていた。 「いけない!もうこんな時間でした?つい熱中しちゃって・・」 そういって、パソコンのほうに目を移した。 ネットをやっていると、時間がたつのが早い。 あっという間に、もうこんな時間だ。 「凄いねぇ、私には扱えない代物だよ。じゃあ、早めにおやすみね」 そう言って、おかみさんは自室へ戻っていった。 「おやすみなさい」 明日の朝も、新聞配達。 いい加減に寝ないとな・・・。 『もまいら おやすみノシ』 送信、と。 ネットの向こうにいる住人に挨拶し、パソコンの電源を落とす。 このパソコンは、私が生まれて初めて買った一番高価な物。 中学卒業と同時に、幼馴染と上京して、つい最近まで その幼馴染と一緒に暮らしてた。 私にとっては、一番大事な人だったんだけど ヤツには違ったみたいで・・・私はただの都合の良い女だったみたいだ。 ヤツは今、歌手として芸能界にいる。 私には、まったくもって縁遠い世界だ。 元々、芸能界などには興味なかったしテレビもあまり見ないので ヤツが今、どうしてるのかはわからない。 きっと、巨乳で派手な女をはべらせていることだろう。 そんなヤツと決別し、ネット喫茶に通い詰め、 ネットオークションで自分が今まで集めた ヤツに関するレアグッズやらCDやらを売りさばいた。 ヤツがそこそこ売れてる歌手なおかげで、かなりの高値がついて、 その点は感謝している。 ネット喫茶でパソコンに目覚めた私は、売りさばいたお金でパソコンを購入した。 そうして私は新しい生活を始めた。 そう、新しい生活を始めたんだ。 けれど、パソコンを手に入れただけで 他は何も変わらない。 私は、色気のない地味な女のまま。 外見も・・・中身も変わっていない。 家出同然で上京してきたものだから、自分で働かないと食べていけない。 ヤツの世話をしてきた時よりは、暮らしも楽になったほうだけど・・・。 今は外見を飾るより、行けなかった高校へ行くために貯金をしようと思ってる。 おかみさんは、年頃の娘なんだから もう少し身なりを気にしたり 遊びに行ったらどうだい?って言うけれど 私は幼馴染のヤツのおかげで、昔から女友達が出来なくて 上京してからも、バイトバイトで高校も行ってないし友達なんて居ない。 だから、友達づきあいってものがわからない。 それに今は外に出て遊んだりするよりも、こうしてネットに向かって 顔も見たことない人と、話してるほうが楽しい。 幼馴染のヤツの事もあって、ちょっと人間不信ぎみの私にとっては リハビリみたいなものだって、思ってる。 それでもやっぱり、一人は寂しくて。 白馬に乗った王子様・・・・とはいかないけれど 自分の事をわかってくれる人がそばに居てくれたら、 きっと幸せなんだろうな、って思う。 「でも、出会いがないんだよな~・・・・・・・・」 そう呟いて、パソコンを閉じた。 【電●女 ACT.1 そして箱は開けられた 】おわり 【ACT.2 憑かれたら最後】 「参ったな~遅くなっちゃった・・・この時間電車混むから嫌なのよね・・」 夕方からのバイト先、【だるまや】が休みと言うことで、 今日は昼のバイト先を探しついでに、秋葉原まで買い物に。 【だるまや】のホームページを作るため、ソフトを買いにきたのだ。 秋葉原から【だるまや】はたいして遠いわけではないから歩こうかとも思ったのだけど 時間的にあまり遅くなると大将やおかみさんが心配するので __自転車でくればよかったなぁ__と思いつつ電車に乗ることにした。 電車に乗って、少したった頃だった。 いつも電車を使うわけではないから、気づかなかったけど どうやらこの車両は女性専用車両らしい。 見事に女の人ばっかりだった。 ・・・と、一人だけ男性がいる。 どうやら、間違って乗ったらしい。本人は気づいてるのか気づいてないのか 私の隣で車内に背を向けて、電車のドアのほうに顔をむけて立っていた。 __あまり混んでなくてよかった・・・__ そう思っていた時だった、途中駅で電車が停車し一人の酔っ払いの女性が乗ってきた。 __うっわ、お酒くさーーーーーーー__ 扉が閉まると、一気に車内中にお酒の臭いが充満した。 相当、飲んでいるのだろう。 はっきり言ってベロベロだ。 しばらくは、扉のところでうずくまっていたけど、 突然立ちあがり、「何、見てんだよ」と、近くにいた女の人に絡み始めた。 __みっともないなぁ・・・__ 私は黙って見てるだけ。 車内の全員が、見て見ぬフリをしていた。 次の停車駅で、絡まれた女の人は酔っ払いの女に一喝して降りていった。 扉が閉まり、電車が動き出すと女は自分の近くまで来た。 __はぁ、ついてないなぁ・・やっぱり電車なんて乗らなきゃ良かった__ すると、突然女は「携帯使ったらただじゃおかねーぞ!」と言って、怒り始めた。 周りは皆、関わらないほうがいいという感じで俯いている。 なんだか、私は無性に腹が立ってきた。 このまま何も起こらずに、無事駅についてくれれば問題はなかったのに 今日は本当についてないみたいで・・・ 女は私の隣に座っていたおばさんに手を出してきた。 「ゃ・・ゃめなさぃょ・・」 元々こういう理不尽な事が大嫌いな私は、怒りで我慢できなくなり 勇気を振り絞ってみたけどうまく声がでず・・。 相手の女にも聞こえなかったみたいで反応がない。 もう一度、声を出そうとしたその時だった。 「地味な女とばばぁは黙って家に篭ってりゃいいんだよ!」 ・・・・・。 ・・・・ナンデスッテ・・・? イマ、ナニカ イッテハ イケナイコト アナタ イイマシタネ・・・? プッ、チーーン 「ちょーーーーっと待ちなさい!そこの酔っ払い!」 女は、ようやく自分に気づき、目を向けた。 「ンだよ・・さっきからジロジロ見て・・・」そういいながら、千鳥足で私の目の前に来た。 「やめなさいって言ってるのよ!みっともない!」 「おまえ、いくつだよガキが!」 「16よ。」 「フン!ガキが・・私は3じゅ・・・・・」 「確かに!あなたよりずっと年下でしょうよ。でも、あなたより常識は身につけてるわよ!」 「なっ!!!!何よ!あんた喧嘩うってんの?」 今にも掴みかかってきそうな勢いだった。 「はぁ?喧嘩?そんな低脳な事してる暇はないわ。警察にでも行ってもらいましょうか?」 「警察でもなんでも呼び・・・・・」 そういいながら、女は平手をかざしてきた。 しかし電車の揺れで酔っ払って足元が覚束ない女の手は、私ではなく隣の男性に・・。 その時だった。 「ちょっと!」 そう言葉を発し、ドアの前で窓を向いて立っていた男性は酔っ払い女の腕を掴んだ。 いままで、黙っていた男性だったが酔っ払い女の腕を掴んで少し低めの声で 「いい加減にしないと、周りの迷惑ですよ?」 ‘笑顔で優しく’女を叱った。 その男の振る舞いで、車内が一気に騒がしくなった。 今まで顔をこっちに向けることがなくて気がつかなかったけれど 端正な顔立ちで、背も高く、世に言う【イケメン】ってやつだった。 みんな、その男の容姿を目にして騒いでるようで 酔っ払い女まで、彼に対しては態度を変えていた。 男の顔は確かに笑顔だった。 ・・・だけど、その笑顔には何だかわからないけど、強烈な凄みがあって 冷房は入ってないはずの車内なのに、なんだか急に車内の温度が下がった感じ。 女の意識が男に向かってる隙をついて、おばさんの一人が車掌さんを呼びに行くのが見えた。 私は、何だかわからないが急に態度を変え、男にベタベタと絡み付いている酔っ払い女から 男を救うべく、女を引き剥がそうとして3人で揉みくちゃになっていた。 すると、騒ぎに気がついたのか隣の車両から20代後半くらいのスーツを着た メガネの男性が慌てて飛び込んできて私と女の腕を掴み男から引き離した。 「ああ~~君達!困るよ!車内だから、ね?」 なぜか、自分が男に絡んでるように勘違いされる。 「もう、探したよ!居ないと思えばこんな所で・・ハァ・・」 「社さんが先にトイレ行くって俺から離れたんじゃないですか。」 「だからって、女性車両に来ることないだろう。お前、立場わかってんのか? 一番危険な所だぞ? あ~~~~もう、俺が押さえてるから、お前は隣へ移って。」 そのやり取りを、車内中の女性がうっとりと見つめている。 おとなしくなった私を見て、私の無罪を感じ取ったメガネの男性は 掴んでた手をやっと放してくれた。 しばし呆然とし、目の前でメガネの男性と酔っ払い女のやり取りを見ていると、 「迷惑な人ですね」 と、男が声をかけてきた。 「本当、迷惑です!」 男は、困ったように苦笑いしていた。 どれくらい経っただろう車掌さんが現れ、次の駅で私と男性陣と酔っ払い女は降ろされた。 さっきから何度こう思っただろう・・・? 『ほんと、ついてない・・・』 【ACT.3 戦慄の宴①】 「この女性?」 車掌さんの連絡で駆け付けたお巡りさんが、私に問う。 はい、と答えるとお巡りさん達は女を駅員詰所に連行した。 私と、男性陣もそのあとを付いて行く。 「あの・・・大丈夫ですか?」 片方はスーツを着ているし、もしかしたら仕事中かもしれない、 そう思い男性陣に聞いてみた。 すると、メガネの男性のほうが 「大丈夫だよ。気にしないで。 今日はこれで仕事終わりだったから。 ちょっとした事情で電車に乗ることになったんだけど まさかこんなことになるとはね・・・・」 といって、苦笑しながらもう一人の男性のほうを見た。 「君こそ大丈夫?女の子があまり、遅くまでだと家の人心配しない?」 ともう一人の男性も気遣ってくれた。 __やっぱり、さっき車内で見た笑顔は気のせいだったのだろうか・・?__ 「私は大丈夫です。今日はこのまま帰るだけだったし 降りる駅も、あと一駅でしたから・・・。 お二人は、まだまだ先なんですよね?」 「ああ、あとはもうタクシーで帰るから大丈夫だよ。」 詰所につくと、警官から事件にするか?と問われた。 私は怪我させられたわけでもないし、何もされてませんから・・・と答え 男性陣は「騒ぎになると困るのでいいです」と答えていた。 その答えに警官は何故か納得していた。 しかし、事件にせずとも書類は書かなければいけないらしく 交番まで行くことになる。 「私のせいで、大変なことに巻きこんですいません」 あの時 我慢してたらこんな大事にはならなかったのかも・・と 冷静になってからそう考える余裕ができ、 男性陣ふたりには本当に申し訳がたたず いつのまにかまた謝っていた。 「いいんだよ、気にしないで・・・」 そう言った男性の顔は、さっきの車内で見た笑顔と全然違う。 仏もマッサオ、アクマも怯むような軟らかく優しい笑顔だった。 交番に着き、調書を書きすすめている男性陣を見て 再び、謝らずにはいられなくなった。 「いまどき、君みたいな子 なかなか居ないよ。 最初、勘違いしちゃってホントごめんねぇ」 メガネの男の人の言葉で、少し救われた気がする。 「あの・・私はもう帰ってもいいんですか?」 ふと、だるまや夫妻の事が気にかかり、警官に聞いてみた。 「はい、もういいですよ。本当にありがとうございました」 別にたいした事はしてないのに、お巡りさんに褒められた感じがして ちょっと照れる。 「あ、帰っちゃう?良かったら連絡先教えてくれるかなぁ?」 とメガネの男性が手帳を出してきた。 事件にはしないと言ってたけど、もしかしたら何か大事になったときのためだろう。 一応、自分は【証人】って感じになるのかしら? そんなことを妄想しながら、差し出された手帳に名前と住所を書きだす。 「すいません・・俺も・・いいですか?」 と、もう一人の男性もメモを出してきた。 男性のメモに、住所を書いていると 「君・・時計、壊れてるよ・・」 その言葉で腕時計に目をやると、確かにデジタルの時計の表示が ・・・イカれていた・・・。_| ̄|○タカカッタノニ どこかにぶつけたとか、濡らした覚えもないし、まず外傷がない。 何でだろうと不思議に思っていると 「あ!」っとメガネの男が小さく叫び 「もしかして、もしかして、さっき俺が君の腕掴んだ・・・からかもしれない ・・・うん、きっとそうだ~~~~~ごめんねぇほんと、ゴメン!」 と青くなっていた。 腕を掴まれただけで、なぜ時計が壊れるんだろう? この人、何気に握力あるのかしら? 細くて・・・・なのに・・・。 それに、握力で潰されたとしたらまず、私の腕がヤバイはずだけど・・・。 「弁償するよ!」 とメガネの男性は言ってくれたけど、これは自分のせいでもあるし・・と 自分的に高い時計だったけど、申し出は断り 「いいです。そんなめっそうもない! 本当にすみませんでした!では、失礼します!!!!」 と逃げるようにして、私はその場を去った__________ 『おわりです。 あとで気が付いたんだが なんで自分、そこで相手の連絡先聞かなかったんだ…_| ̄|○ 自分、男の人に感謝されたこと無かったから 焦っちゃったよぉぉぉぉーーー 』 送信、っと。 帰り道、さっきの出来事+男性の事を思い出し 男性の笑顔が頭に焼き付いて離れない私は、 「ついてないっていうより、コレってもしかして運命の出会い?」 なーんて勘違いな妄想に走っていた。 そして、いつもロムってる毒●@スキビ板という※掲示板を思い出した。 毒●@スキビ板というのは、私みたいな女が集まる※掲示板。 ※つがいの男を得られず寂しさを昇華させてレスを奉仕する人と、 無料でレスを収集することで金を儲け男を手にする人とに分断する。 BY,毒●辞典より抜粋 つい最近も、彼氏が出来た報告があったばかりだ。 【だるまや】に戻ってきた私は、早速 パソコンを開き 今日起こった出来事を、ネットの掲示板に投稿してみた。 ネットの向こうの住人の反応はさまざまで・・・ こんな出会いといっていいのかわからない私の今日の出来事に 真剣?なのかはわからないけど、相談にのってくれたり応援してくれたりで。 友達がいれば、きっと こういう事があったら電話とかで 相談しあったりするんだろうな~なんて妄想したりして・・・。 こうして誰かに話を聞いてもらうだけで何かホっとするな・・・。 ネットって不思議 実際、人生の苦渋をなめたことのある私は、あんなこと(電車での出会い)ぐらいで 人生うまくいくとは思っていないんだけど、ここで皆と話をしていると なんだかうまくいっちゃうような・・・そんな気になってくる。 『______ではまた何かあったら報告しますノシ 』送信、と。 ・・・・あとは運まかせよ。 連絡とかあるわけないって、期待せず明日を待とう。 たとえこの後、何もなくても 「いい夢みた」って思えばいいじゃない? とりあえず、今日はもう寝ることにしよう 『 も ま い ら! お や す み ノシ 』 【ACT.3 戦慄の宴① 】おわり。 【ACT.4 戦慄の宴②】 その日は朝から、いつものように新聞配達を終え、 昼間はバイト探し、夕方からは【だるまや】の仕事をしていた。 18時ぐらいだったろうか、宅配の車が店の前に止まった。 「ちわ~ニワトリ便で~す。 最上 キョーコ様宛てのお荷物 お届けにまいりました~。」 え?自分に宅配便?何か頼んだっけ? 「ご苦労様です。」 そういって、サインをし荷物を受け取り 特に気にせずに そのまま店の奥に置き、再びお店の仕事に戻った。 今日は、大雨ということもあってか客足が少なく おかみさんから、「今日はもう上がっていいよ」と言われ、 2階の自室に戻ろうとしたところで先ほど届いた荷物の事を不意に思い出した。 「あ・・っといっけない。荷物!下に置きっぱなしだ・・」 再び、下に戻ろうとすると ちょうど階段のほうからおかみさんが 荷物を手にしてやってきた。 「キョーコちゃん、忘れもんだよ。珍しいね。あんた宛に荷物なんて・・」 「ありがとうございます。私も驚いてるんですよ・・何か頼んだ覚えもないし・・」 「懸賞とかに当たったんじゃないのかい?」 「さぁ、でも応募した覚えもないし・・・」 荷物をおかみさんから受け取り、自室に入りパソコンを立ち上げながら 荷物のラベルを見てみた。 ラベルには、しっかりと私の名前と【だるまや】の住所が書かれている。 発送元は、どこか知らない会社名。機械の刻印だ。 担当者らしき名前と携帯の番号だけ人の字で書かれていた。 東京都台東区●●1-8-2 最上 キョーコ様 090-****-*774 東京都港区●●11-20-4 LORY S MAJESTIC ENTERTAINMENT Inc. 敦賀 090-****-*210 ろーりーずまじぇ・・・・何の会社かしら・・? とりあえず、中身を見てみることにして封をといてみた。 中から出てきたのは、シンプルだけどセンスのいい封筒と 綺麗にラッピングされた長方形の箱が入っていた。 ラッピングを解き、箱の中身を確認すると なんだか高価そうな腕時計。 855 :電○女 18:2005/06/27(月) 08 08 26 ID ??? ~私、誕生日でもないわよね・・?~ 誕生日だとしても、こんなものを送ってよこすような知り合いは居ない。 発送元が会社名ってことは、やっぱり何か当たったのかしら? それとも、頼んでもいないのに勝手に買わされたとか・・・・ ~まさか、この封筒・・請求書じゃ・・・~ 慌てて封筒をあけ、中の紙を出して開いてみる。 ~・・・手・・紙・・・ホッ~ 最上 キョーコ様 先日は、電車にてありがとうございました。 あの時、助けていただいた者です。 覚えていてくれてるかな? 助けてもらったお礼というか、 時計を壊したお詫びに、代わりの時計を贈ります。 良かったら、使ってください。 あの騒ぎの時、事情があって すぐに君を助けることができなくてごめんね。 逆に、君から助けてもらうことになるなんて 男として、ちょっと情けないか。 でも、君の勇気にはとても感動させられたよ。 なかなか、ああいうことは出来ないと思う。 でも、もう少し自分を大事にしてください。 君に助けてもらった俺が言うのもなんだけど 君は女の子なんだから。 そう、聞くのを忘れていたけど 怪我はなかった? 何かあったら、連絡をください。 敦賀 蓮 き、き、きキタ━━━━━(゚ ∀゚ )━━━━━!!!!! うっそ!まさか!冗談でしょう? ねぇ、これってドッキリとかじゃないわよね? 一般人騙すにしては手が込みすぎよね? 私は震える手で、掲示板を開いた。 コレは、夢? 夢なわけないわよね、こんな2日がかりの壮大な夢なんて聞いたことないわよ。 それに、夢ならいい加減覚めてるはず。 完全に舞い上がってる自分に掲示板から声がかかる。 とにかく「お礼の電話を!」とのアドバイスをかけられるが この16年間、若い男の人に電話なんてかけた事がない。 それに、かけて何を話せと! いろんなアドバイス(ほとんどが電話汁だったけど)が住人からあがるが はっきりいって頭に入ってこない。 パソコンと携帯を交互に見るがどうする事もなく、時間とスレだけが流れていく。 貰った時計を再び眺めてみる・・。 時計の針は、もうすぐ22時を指そうとしていた。 何度、かけようか~・やめようか~と思ったかしれない。 ふと、住人から時計について問われた。 『ちなみにどんな時計?』 どんな時計って・・・見るからに高い・・。 『高い、だけじゃわからん。ブランド名キボン』 ブランドなんてわかんないよぉ・・・ 私は、箱をひっくり返し、箱の底にあった紙を取り出す。 ~FREDERIQUE CONSTANT~ どんなブランドなのか、はたまたそれがブランド名なのかも わからないが、とりあえず書き込んでみる。 すると、すぐに住人から反応があった。 『フレデリック コンスタント。 30万とかする・・・・・・・・・・・ (((((((;´д`)))))))ガタガタ』 さ、三拾万? ハァ?なんで腕時計ひとつに30万もすんのよ! あまりにも信じられない話に、いまいちピンと来ない。 しかし、住人が調べてくれたサイトと、今この手の中にあるブツを見比べて 瞬間、震えが止まらなくなった・・・。 や、やっぱり今日・・・かけなきゃ・・。 こんな高価なものもらえない。 確かに、私の壊れた時計も高かったわよ、それなりに。 だけど、これはケタが違うわ。 それに何より、一度会っただけの人からこんな・・・・ 30万の時計が、私の背中を後押しした。 というより、30万の重みが 私に圧し掛かったと言ったほうがしっくりくるか。 もう、何のためらもなく私の指は 携帯のボタンをプッシュしていた。 きっといま、自分は顔面蒼白だろう。 心なしか、指が震える。 今から話さなきゃいけないというのに、ノドがカラカラだ。 しかし、番号を押し終わったところで、緊張の糸を解くような 「留守番電話サービスセンターに・・・」 というメッセージが流れる。 それを聞くと同時に一気に、背中から汗が流れるのを感じた。 留守電・・・。 頭の中が真っ白になっていた私は、そのメッセージを聞くと 終話ボタンを無意識に押していた。 そして、先ほど携帯のボタンをプッシュしていた指は、 再びパソコンのキーボードを叩いていた。 『携帯にかけましたが、留守電ですた… 明日出直します… 』送信。 【ACT.4 戦慄の宴②】おわり 【ACT.5 欠けてる気持ち】 まだ少し興奮ぎみの私は、住人達のレスで次第に落ち着きを取り戻していた。 明日は・・・明日はきっと・・・・ 『みんな、今日は本当にありがとう 明日にそなえ休みますノシ 』送信 ちょっと一人で考えてみたくなった私は、 住人の皆にそう伝え、しばらく掲示板を開いたまま 贈られてきた腕時計を見ていた。 ~綺麗~ これをくれた彼・・・「敦賀さん」は、こういう時計が似合う人だったなぁ 彼を思い出しながら、時計を見る。 私なんかが身に着けるにはもったいないし、不似合いだ。 時計もそうだけど、彼と私も不釣合い・・。 その前に、「敦賀さん」と私なんかが どうこうなるわけがない。 きっと、「敦賀さん」の隣には素敵な女性がいるだろうし・・。 それに例え、どうこうなっても・・・ 私は彼を愛せるのだろうか? 人に愛された事がない私が、「誰か」を愛する事なんて出来るのだろうか? ・・・愛って何・・? なんだかやるせない気持ちになって、涙があふれてきた・・。 ~もう!泣かないって決めたのに・・~ 私は立ち上がり、押入れからバッグを引っ張り出し 中から、小さな包みを取り出した。 「あった・・コーン・・・」 包みの中身は、青い石。 小さい頃から、一人で抱えきれない悲しみややるせなさを吸い取ってくれた 不思議な石。 気休めだと思う。でも、こうして手にしていると何故か心が癒される。 これをくれた少年「コーン」との思い出がそうさせるのかもしれない。 そういえば、この石の色と時計の文字盤の石の色、似てる気がする。 そして、再び、開きっぱなしだった掲示板に目をやると、 『コーン』の文字。 今まで、落ち着いてレスをしっかり見ていなかった というか、『電話』『お礼』しか頭に入ってなかったから 見落としていたのだろう。 急いで、過去ログに目を通してみる。 私がてんぱってた間に 住人の間では、 『コーン=男。 フレデリック コンスタントのコンから取ったw フレディよりいいでしょ?』 彼・・「敦賀さん」の愛称が、『コーン』に確定していた。 ビックリした。 住人が、私の幼い頃の話なんて知るわけないし本当に偶然だろう。 まぁ確かに、「敦賀さん」が『フレディ』っていうのはいやだけど・・。 よりによって、『コーン』なんて・・・。複雑・・・。 でも、嫌ではなかった。 私にとっては、大事な思い出の『コーン』だけど、しばらくの間は 「敦賀さん」の愛称として使うのもいいかもしれない。 きっと、しばらくの間だけの事だから・・・。 夢が醒めるまでの事だから・・。 キョーコは2つの「コーン」を握りしめ、眠りについた。 【ACT.5 欠けてる気持ち】おわり。 蓮SIDE【ACT.65 サイレント・サイレン】 遠くでサイレンが聞こえる━━━ 微かに聞こえた‘それ’が何故か耳について離れない。 昨日、新しい映画の台本を渡された。 一通り目を通した所で、ひとつ気になる所があった。 電車で恋人同士が‘別れる’シーン。 別れるといっても、付き合いをやめるというのではなく 普通に、一日の終わりの別れ。 まだ、一緒に居たいのに彼女の降りる駅についてしまい 名残惜しいが無常にも扉が閉まるというシーン。 けして難しいシーンではない。 ただ、俺は滅多に電車に乗った事がない・・。 ~イメージを掴んだほうがいいかもな・・・~ ‘世間の注目を浴びている俳優’・・・自分の立場はわかっている。 街を歩いていてファンに見つかりそうになり大変な目にあった事は数え切れない。 今までは、何とか切り抜けてきたものの今度はさすがに電車という公共機関。 ファンに見つからずに上手く事を運べるという保障もない。 テレビをつければ電車や駅の映像なんて、腐るほど見れるだろう。 だけど、何故だろう・・・ 「電車に乗れ」と何かが俺に命令している。 その命令は、先ほどから耳について離れないサイレンのように 俺の頭の奥で鳴り響いている。 「本当にやるのか?お前、自分の立場・・」 「わかってますよ。自分の立場は承知の上です。 だから、あなたにサポートをお願いしたいって言ってるんです」 「電車だぞ?駅構内でだって見つかって囲まれたらヤバイのに 車内にファンが詰めかけたらどうするんだ? パニックになったら、駅員さんや他の客に迷惑だろう?」 「だから、見つからないように努力しますって・・ 社さん、役作りの為なんです、ね?」 いつも俺のサポートをしてくれるマネージャーの社さん。 少し天然な所もあるけれど、機械以外の事だったら本当に頼りになる。 今まで、我侭を言う事なんてなかったけれど、今日だけは別。 「役作りって、そこまでしなくてもさぁ、電車とか駅構内の事 知りたかったら、資料あるんだから、それでいいだろう?」 「改札を抜けるシーン、電車に乗るシーン・・俺の身長だと、 きっと慣れてないとぎこちない動きになってしまうと思うんです」 「あーーーー言われてみれば、そうだけどさ・・・ でも、ロケ当日に何度かリハーサルするだろう?」 「リハーサルに時間をかけたくないんですよ。」 なんとか説き伏せて社さんと共に、先ほど仕事をしていたスタジオ近くの駅に着く。 なるべく目立たないように、大きめの駅を選んだ。 改札を抜ける。やはりちょっと切符を入れる部分が低く感じる。 「とりあえず・・・・上野方面乗ってみるか?で、折り返して・・。 それぐらいでいいだろう?あ、なるべく下を向いてろよ。猫背になれ。 あと・・人と目を合わせるなよ~」 少しだけ、前髪を顔が隠れるように無造作に掻き乱してみる。 いかにもな変装はしなかった。逆に目だってしまう恐れがあるからだ。 目立たないようにして、人の波に紛れる。 大抵の人は、他人に気をつけるなんて事もない。 まさかこんな所でテレビで良く見る俳優が電車に乗ってるなんて事も思わないだろう。 特に、ファンともなると、自分の交通手段=車というのを知っている。 「あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってきていい?トイレ車両どこだっけ?」 電車に乗り、少ししてからだった。 ここまでわりとスムーズに誰に気づかれることもなく進んでいたからか さっきまで緊張していた社さんが、トイレに行きたいといいだした。 トイレ車両はすぐ隣にあって、「すぐ戻るから」と言い残し、 いそいそと隣の車両に社さんは歩いていってしまった。 これが、不運の始まりだった。 社さんが行ってしまうと、今まで盾になっていたモノがなくなり 急に周りの視線が俺に絡みついてきた。 途中の停車駅に着き、俺は視線から逃れるように一旦、ホームに降りた。 このまま電車を降りても良かったのだが、社さんを電車に残したままになってしまう。 出発寸前に、社さんが向かった車両とは反対隣の車両に飛びのった。 飛び乗った隣の車両はなぜか女性ばかりで、マズイかとも思えたが 車内に背を向ける形でなるべく顔がわからないようにしていた。 とりあえず、社さんがトイレから戻ってきて探しているといけないので、 メールを打とうとした時だった、次の停車駅に着き 酔っ払いの女性が乗車してきた。 酒の臭いが車内に充満する。 ベロベロに酔っ払った女性を目にするのは初めてではないが こんな場面に遭遇するのは初めてだ。 酔っ払いの女性は、だれかれ構わず絡んでいる。 注意したいところだが、きっと自分がこの場で出て行けば 今以上の酷い状況が待っている。 それを避けるためには、不本意だが黙ってこの場を見過ごすしかない。 俺は心を鬼にして、知らぬフリをし社さんにメールを打つのを再開しようとした。 「携帯使ったらただじゃおかねーぞ!」 ギク! 目の前のガラス越しに酔っ払いの女性を見る。 どうやら俺の事ではないらしい。しかし、絡まれたら敵わないのでメールは諦める。 すると俺の隣、ドア脇のシートに座っていた女の子が毅然とした態度で 酔っ払いの女性に注意をしだした。 まだ、高校生ぐらいだろうに、しっかりしている。 なかなか今時珍しい子だな・・と感心したときだった。 酔っ払いの女性が、彼女に手を上げようとした。 とっさに俺は、酔っ払い女性の腕を掴む。 もう立場がどうの・・という考えは頭からふっとんでいた。 「いい加減にしないと、周りの迷惑ですよ?」 相手は女性。丁寧に言ってはみたものの、少し声に現れたのだろうか 目の前の女の子は、怯えた顔をしている。 瞬間、 「蓮!!!!!蓮!!!!!!!!」 と酔っ払い女性が、飛び掛ってきた。 しまった!ばれたか? 酔っ払いということもあり、行動が大胆だ。 その酔っ払いの声で、車内中の女性が俺を見る。 中には、俺が「敦賀 蓮」という事に気づいていないお婆さんもいるが ほとんどの女性は、俺に気づき 騒ぎはじめた。 「ちょ、ちょっと何やって・・・放しなさいよ! 男の人迷惑がってるじゃないの!」 先ほどのしっかりした女の子が酔っ払いを俺から引き剥がそうと 酔っ払いの女性に掴みかかり、3人で揉みくちゃになる。 女の子のほうはどうやら、俺が「敦賀 蓮」ということには気づいてないようだ。 いや、気づいてないというか・・・・・俺の事を知らない? 周囲の女性達は、酔っ払い女性と彼女の凄まじい揉め方が恐ろしいのか 俺に近づこうとはしない。 「ああ~~君達!困るよ!車内だから、ね?」 隣の車両から騒ぎに気づいた社さんが飛び込んできた。 ひとまず助かった。 が、酔っ払い女性だけでなく俺を助けようとした彼女の事まで 俺に飛びついてきたファンと勘違いして押さえている。 「もう、探したよ!居ないと思えばこんな所で・・ハァ・・」 「社さんが先にトイレ行くって俺から離れたんじゃないですか。」 「だからって、女性車両に来ることないだろう。お前、立場わかってんのか? 一番危険な所だぞ? あ~~~~もう、俺が押さえてるから、お前は隣へ移って。」 「それよりも、女の子のほうは放してやってください。 彼女は俺を助けようとしてくれてたんです。」 そういって、俺は社さんからおとなしくなった彼女を引き離す。 しばらく、社さんが暴れる酔っ払い女性をなだめるのを見ていたが ふと隣に佇む彼女に目をやる。 彼女も呆然と社さんと酔っ払い女性のやり取りを見ていた。 「迷惑な人ですね。」 大丈夫かな?と思い声をかけてみる。 「本当、迷惑です!」 こんなことになって、少しは動揺してるかと思ったが 毅然とした態度で、彼女は答えた。 しっかりした子だな・・・芯も強そうだ。 障害沙汰になったわけでもなく、ただ絡まれて車内で迷惑をかけたという以外、 別に何もなかったので事件として届ける事はしなかった。 しかし、調書を書くため俺達は次の駅で降り、助けてくれた女の子と 酔っ払いの女性と共に降車駅近くの交番に向かった。 道すがら、何度も女の子は俺達に謝ってきた。 電車から降りて、冷静になったのか 少し落ち込んでるようだ。 髪型のせいか幼く感じる。15~16歳ぐらいだろうか? 今時珍しく何も手を加えていない黒髪を、左右二つに結っている。 悲しげに、涙で瞳を潤ませ俯いて・・・ その姿が、『誰か』を思い起こさせる。 そのせいだろうか・・俺は無意識に微笑んでいた。 「いいんだよ、気にしないで・・・」 交番が近い━━━━━━パトカーのサイレンが、すぐ近くで鳴り響いていた。 蓮SIDE【ACT.65 サイレント・サイレン】おわり 蓮SIDE【ACT.66 アンバランス・ロック】 交番についてからも、彼女は謝り通しだった。 もうすこしで調書も書き終わるところで、彼女が帰る事になった。 「あ、帰っちゃう?良かったら、連絡先教えてくれるかな?」 社さんが、彼女に連絡先を聞いている。 俺も、このまま帰すのは何だか気がひける。 出来れば何かお礼がしたい。 きっと、俺がしなくても社さんがやってくれるとは思うが それでは、なぜか俺の気がすまなかった。 「ごめん・・・俺も・・・いいかな?」 そういって、彼女にメモを渡した。 自分の連絡先を書いて渡そうかとも思ったが、自分の立場を思い出した。 社さんの手帳に書き終わると、彼女は俺のメモに書き出す。 メモに添えられた華奢な左腕に目をやると、腕時計のデジタル表示が 何かおかしい・・・。 「君・・・時計、壊れてるよ・・・?」 その言葉に、ペンを走らせる手を止め彼女が時計に目を移す。 不思議そうに、時計を眺める表情がまたかわいくて・・・。 『誰か』をまた思い出し、思わず笑みがこぼれる。 「あ!」 社さん・・・やっぱり貴方ですか。 「もしかして、もしかして、さっき俺が君の腕掴んだ・・・からかもしれない ・・・うん、きっとそうだ~~~~~ごめんねぇほんと、ゴメン!」 素手で持つと10秒で携帯をクラッシュする事が出来る社さんの手。 不運にもその手が彼女のデジタルウォッチを掴んだらしい。 見事に、デジタル表示がいかれている。 「弁償するよ!」 そう社さんが申し出たが、彼女はそれを断り、 メモを書き終えあっという間に帰ってしまった。 「も・・がみ・・・きょーこちゃんかぁ・・・」 交番をでてタクシーを拾い、事務所に戻る途中で 社さんの口から懐かしい名前がでてきた。 思わず、「え?」と聞き返す。 「さっきの彼女の名前。何かお礼でも送らなきゃな~。」 俺は慌てて、さっきのメモを見直す。 東京都台東区●●1-8-2 最上 キョーコ 090-****-*774 偶然・・・か? さっきから、彼女を見て思い出していた『誰か』と同じ名前。 「どした?」 「・・・・・いえ、・・・あ、お礼は俺がしますよ。 俺が助けられたわけですし・・・。」 「そう?時計の弁償とか考えてたんだけど・・・」 「時計・・・そうですね・・・時計・・・・」 社さんと事務所で別れ、マンションに帰ると クローゼットの奥から、小さな箱を取り出した。 「・・・・あった・・・。」 箱の中から手に取った‘それ’は、自分の右腕にある時計と同じデザイン。 FREDERIQUE CONSTANT のレディースウォッチ。 FREDERIQUE CONSTANTとは、LME社長の友人の会社で ”Live Your passion”(情熱をもって)という理念のもと、 優れた腕時計を製造するスイス高級腕時計メーカーだ。 社長の友人だと聞いたときは驚いたが、この理念を聞いて納得した。 この時計は、そのFREDERIQUE CONSTANTの特注品。 俺がLMEに所属すると決まった日、 「蓮、お前に時計をプレゼントしようと思うのだが・・ 好みや希望はないか?」 と社長から事前に俺の好みと希望を問われ、 俺は文字盤を『菫青石』に・・という希望だけ出していた。 そうして出来上がった時計は、俺がLMEで仕事を始めた日に 「これから新しい‘お前の時’を刻むんだ」 と社長から手渡された。 時計は、俺の希望通りで素晴らしいものだった。 しかし、ひとつだけおかしいな所があった。 「社長・・・これ・・・2つあるんですけど・・・・?」 「ああ、ペアにしたんだ。お前に大切な人が出来たとき渡しなさい。」 「は?」 「蓮、この時計はな、俺の友人のピーターの所で作ったもんだ。 FREDERIQUE CONSTANTっつってな、スイスの時計メーカーで ”Live Your passion”を理念に作ってるんだ。」 「・・・・はぁ・・・」 「そんなピーターの‘情熱’と、LMEの‘愛’という理念を あわせてだな・・・・」 と熱く説明されたのは、思い出したくもない記憶の一つである。 あれは確か2時間の演説だった・・・。 今、手にしているレディースウォッチは、その時のもの。 LMEに所属して初めて仕事をしたあの日から俺の右手に常に 輝いている時計の片割れ。 社長は「大切な人が出来たとき渡せ」と言っていたが 俺は・・・今は・・・大切な人を作らないと決めている。 だから、この時計は日の目を見ることはないと思っていた。 だけど━━━━━ 幼い頃に出会った、『キョーコちゃん』 泣いていた彼女にあげた石は、今この手にしている時計の文字盤と同じ『菫青石』。 彼女の悲しみが少しでも和らぐなら・・と別れ際に手渡した。 あれが俺の初恋だったかは、わからない。 わからないけれど、何故だろう・・・ 過去の自分を捨てた俺が彼女との思い出だけは、唯一切り捨てることが出来なかった。 その『キョーコちゃん』と偶然にも同じ名前の少女・・・ 初めて出会ったはずの その彼女に、この時計を贈りたいと思った。 文字盤に‘悲しみを吸い取る力を持つ石’が使われた、この時計を。 面影が似ているからだろうか・・・・ それとも彼女が『キョーコちゃん』と同じように 瞳の奥に悲しさを秘めていたからだろうか・・・ 今の俺では傍に居てやることもできないし、もう会うこともないだろうと、 日本に来てからも考えようともしなかった。 『キョーコちゃん』・・・彼女は今、どうしているだろう? そう思いを巡らせながら俺は、時計を包み箱に入れ、思い出と共に封を閉じた。 蓮SIDE【ACT.66 アンバランス・ロック】おわり
https://w.atwiki.jp/skipbeat617/pages/39.html
マリア 306