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1スレ目:37-39 17-19 の続き。 放課後の個人授業が1ヶ月になった頃、笠原の様子がおかしくなった。 業務後書庫で待っているくせに、引き寄せようとすると顔を背け、嫌々をする。 理由を聞いても答えないし、嫌なのかと聞いても首を振る。無理に顔を上げさせる と目を潤ませるから無理やり奪う。逃げ腰な舌を捕らえ、絡め、追い詰める。 空いている指で耳を攻め、首を撫ぜ、髪に指を差し入れる。 授業の成果は笠原だけに生まれたものではなくて、この一ヶ月で、堂上は笠原が 後頭部を撫ぜられることに極端に弱いことを知った。 笠原が「教えてください」と言って始まったこの授業は、まるで部活動かなにかの ようだった今までの方が異常で。 ────だから、むしろ、今の方が興奮する。 不毛な関係に、さらに堂上の胃が痛んだ。 「久しぶりに外に呑みに行かない?友人として相談に乗るよー」 週に数度、業務後小牧か堂上どちらかの部屋に集まっては何杯か引っ掛けることが 日課となっていたが、最近は「調子が悪い」と遠慮気味だった。それに、今日は昨 晩の夢見が悪かった所為で一日中気分が悪く早く引きこもりたい気持ちでいっぱい だ。 しかし、おもむろに使われた「相談」という言葉が気になった。 「なんかさ、最近調子悪そうじゃない?」 そんなつもりはなかったのだが、付き合いの長いこの友人には分かるほどには考え 込むことが多かったらしい。 「なんかおかしかったか」 「やー、なんとなく。最近付き合いも悪いしさ。それに、」 笠原さんとなんかあった? 相変わらず、目敏い友人である。 素面では語れないから駆けつけ三杯ならぬ熱燗三合を空け、すきっ腹に染み渡り、 ああこれは酔うな、あまりよくない酒になるな、と他人事のように感じた。 「なんだ、酔ってないと話せないこと?」 軽口も無視して本題に入る。もう限界なのかもしれない。 「キスの練習台にされてる」 「誰が?誰の?」 「俺が、王子様のキスの練習台にされてると言ってるんだ」 誰とは言わなかったものの、王子様という単語で合点が言っただろう。 馬鹿げていると分かっているが、これを言わないと話がすすまないからとりあえず 言ってみる。さて友人はどんな反応を返すのか。また、横隔膜が痙攣するまで笑う のか。 「笠原が言ったんだ、王子様に会いにいくから練習台になってくれ、と。何でキス なのかは俺にはわからんがな」 「…あっきれた。それ、素直に受けたわけ」 こちらの予想を裏切り、小牧は少しも笑わず、心底あきれた顔をしてため息をついた。 こちらはその正論に詰まる。 「しょうがないだろう! 俺は上官だし、」 今となっては何でそんなことを引き受けたか分からないから言い返す先が続かない。 「どう考えても全然筋が通ってないんだけど。普通キスなんて教えないし。 っていうか、分かった。一回断って、その後俺の名前とか引き合いに出されて逆上 したんでしょ、あんた」 付き合いの長さは伊達ではない。そこまで読むかお前は。 がっくりと項垂れる堂上に小牧は優しい追い討ちを掛けた。 「あのね、二人とも意地っ張りなんだからどっちかが折れないとどうにもならないよ? どっちかが折れるっていうなら、堂上が折れてやんなよ。大人なんだから」 「あとさ、普段だったら堂上が一番分かってると思うんだけど、なんか視野狭窄み たいだから言っとく。彼女 好きじゃない人にキス許せる子じゃないと思うんだけど、 違う?」 もし俺の名前出したとしたらさ、それって売り言葉に買い言葉みたいなもんだと思う んだよね。それに…、と続けた言葉は途中で消えたが、改めて問うことはしなかった。 正論好きのこの友人は、言うべき時には言うだろう。 正直一々もっともな友人の言が突き刺さる。しかしいつでも正論が吐けるこの友人 には本当に世話になった。そして今も。 ───よーく考えてみなよ、堂上教官。 酔った頭で考えれば考えるほど、昨夜の夢を思い出す。夢の中で肢体を投げ出す笠原の 身体を頭から追い払うように首を振り、堂上は杯を重ねた。 了
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クリムゾン・エンピレ ロゴ、E"N"PIRE→E"M"PIREにひっそり変化 初出 2007年3月(雑誌)CRIMSON ENPIREクリムゾン・エンパイア その後CRIMSON EMPIREクリムゾン・エンパイア (C)QuinRose 関連:【エンピレ再び】 乙女@【帽子屋の】QuinRose(クインロゼ)総合 9【呪い】 →スレタイの意味【帽子屋の呪い】 532 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2007/03/15(木) 20 34 17 ID ??? ところでロゴの綴り間違ってない? エンパイアはempireだと思うけど empireになってる empireという単語はない(はず) 534 名前:532[sage] 投稿日:2007/03/15(木) 20 44 01 ID ??? ごめん間違えた。 ロゴ→enpire 推定→empire ちなみにempireは帝国とか帝政という意味 536 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2007/03/15(木) 22 01 23 ID ??? そもそもどこでロゴが確認できるのか分からんという 541 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2007/03/16(金) 11 35 54 ID ??? ビズと冷微の最新号に記事載ってたね。 549 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2007/03/16(金) 13 10 41 ID ??? ≫532 たしかにNだね。 乙女@QuinRose(クインロゼ) アンチスレ69 828 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/07/22(火) 19 43 41 ID ??? ちょっと栗ロゴで気になってたこと ロゴ比較 ttp //www.uploader.jp/dl/antiqr/antiqr_uljp00049.jpg.html 総合9より (引用略) まさか本当に前のロゴは綴りを間違えてたのか。 830 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/07/22(火) 19 54 18 ID ??? ≫828 ぶww 英語が苦手な自分でも分かるぞその間違いwww クリムゾン・エンピレ…誰かの名前か?w 乙女@QuinRose(クインロゼ) アンチスレ69 234 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 17 32 07 ID ??? マジでウンコウ直したの? 前のenpire保存してる人いない? 235 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 17 40 56 ID ??? ≫234 栗無損が最初に載った時はen ↓ ←総合9で指摘 栗無損より黒蟻を先に作ることに ↓ その後、栗無損がHP上で発表とかそのあたりはem 236 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 17 45 37 ID ??? ≫234 最初に載ったってのは雑誌 ttp //www.imgup.org/iup668061.jpg 237 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 17 53 16 ID ??? 雑誌に載っちゃってるとかマジ恥ずかしいんだがwww クソ噴いたw 238 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 17 53 47 ID ??? ≫235≫236 ㌧ マジだwwwこんな簡単な英単語も分からないなんてwww というか普通商品として出すものなら確認の意味も兼ねて調べたりしないのか… 248 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 18 37 29 ID ??? バwwwカwwwスwww ウンコウって業界で有名なお方なんだよね? どこの業界か知らないけど そんなお方が簡単な英単語も書けないとか どんだけ底辺の業界にいるの?ww 249 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 18 45 24 ID ??? タイトルのスペル間違えるなんて…しかもこんな簡単な英単語をだよ? しかも誌面でやっちゃうとか普通にあり得ない 他人事だけどすごい恥ずかしい偏差値幾つなのこのひとw 256 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/08/14(木) 19 00 23 ID ??? こんな英単語ひとつまともに書けない人が社長やってるんじゃ そりゃまともなソフトなんて出せないわなww だからってバグ放置していいってわけじゃねーけど
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※この話は黒猫「娘に中学時代に撮った写真見られた・・・」:3の前日談となっています。 288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 22 23 00.04 ID oRGhkYgbI [1/7] 黒猫「ねえ京介、最近何だかあの子が私によそよそしい気がするんだけど...」 京介「ん、そうか?俺は特に何も感じないが」 黒猫「で、でも、何でか私とあまり目を合わそうとしないし、避けられてるような気がするの...」 京介「反抗期か?」 黒猫「いや、そんなんじゃ無いと思うけど......何か心当たり無いかしら?」 京介「あ、そういえば何日か前にこんな話しをしたな」 289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 22 24 20.42 ID oRGhkYgbI [2/7] 娘猫「ねえ、お父さん、お母さんって昔はどんな人だったの?」 京介「ん?んーそうだなー。お前そっくりで可愛かったぞ」 娘猫「そういうのじゃないって。例えば、部活とか趣味とかなにかやってたの?」 京介「そうだな、色々やってたけど、特に小説を書くのが大好きだったな」 娘猫「へー、そうなんだ。どんなの書いてたの?」 京介「あー、あれは何て言ったらいいかな。取り合えず、現物あるから見てみるか?」 290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 22 25 15.10 ID oRGhkYgbI [3/7] 娘猫「......こ、これ全部お母さんが書いたの?」 京介「ああ、面白いか?」 娘猫「よ、よくわかんない...」 京介「ふむ、そうか...」 娘猫「............お母さんって幽霊見えてたの?」 京介「いや、そんなことは無いと思うが...」 娘猫「だ、だよね...」 292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 22 26 43.88 ID oRGhkYgbI [4/7] 黒猫「......そ、それで全部見せちゃったって訳...?」 京介「ああ、そうだが、ってどうした?そんな青い顔して」 黒猫「..................な、何してくれてるのよ、馬鹿ー!!!」 京介「ど、どうしたんだよ急に?」 黒猫「どうしたもこうしたも無いわよ!人の黒歴史を実の娘の晒し上げるなんて!」 黒猫「わ、私だってあの時の事なんて思い出したくもないのに...!」 京介「い、いや、だって、子供が親のことを知りたがるなんて当然のことだろ?」 黒猫「だからって何でよりにもよって一番痛いあれを見せるのよ?!」 298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 23 20 46.11 ID oRGhkYgbI [5/7] 京介「別に子供の時のことだろ?可愛いじゃないか」 京介「それに、今だってコスプレとかならたまにしてたりするじゃないか」 黒猫「それは貴方がしつこく頼んで来るからでしょう...」 京介「いいじゃないか、今でも十分可愛いぞ」 黒猫「///ま、全く貴方は...」 黒猫「って違う!」 301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 23 31 12.09 ID oRGhkYgbI [6/7] 黒猫「とにかく貴方も誤解を解くのに協力して」 京介「誤解もなにも事実だろ。いっそ全部カミングアウトした方がいいんじゃないか?」 黒猫「他人事だと思って...」 黒猫「もういいわ、貴方のコスプレ写真も見せてやるんだから...」 京介「それ、お前も写ってるじゃん」 黒猫「......」 306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/13(月) 23 47 26.03 ID oRGhkYgbI [7/7] 黒猫「............グスッ」 京介「!お、おい、泣くなよ。分かった、俺が悪かったって。俺が何とかするから」 黒猫「......なんとかって、どうするつもりよ?」 京介「桐乃に相談する」 黒猫「......貴方も随分情けなくなってしまったものね...」 オワリ
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平河 千秋(ひらかわ ちあき)は、国立魔法大学付属第一高校の女子生徒である。 平河小春という姉がいる。 姉の小春が2095年度九校戦で、エンジニアとして担当した小早川選手のCADに不正工作されたことを見抜けず、小早川選手が魔法師としてドロップアウトしてしまったことに責任を感じ引きこもり状態に陥った事を、達也ならその不正工作を見抜けたはずなのに、他人事だから無視したと考え達也を逆恨みする。 その実、姉の件は自分に対する言い訳であり、自分と同じ二科生でありながら魔法理論でも実績においても自分を凌ぐ達也に対する嫉妬から敵愾心を燃やしている。 横浜事変でピンチのとこを助けてくれた十三束に好意を寄せている(厳密には、十三束がその後もいろいろ優しくしてくれたことも込みで好きになったのではないかと思われる)。 2096年度九校戦には、エンジニアとして参加し、十三束が「爆風」を取得し使いこなせるように起動式を工夫してCADを最適化している(*1) 現在は 国立魔法大学の学生。 略歴 2095年4月 - 国立魔法大学付属第一高校へ二科生として入学。1年G組(*2)。 2095年10月18日(火) - 司波達也を監視するがバレてスクーターで逃げる。 2095年10月20日(木) - パスワードブレイカーを持って歩き回っているところを取り押さえられる。国立魔法大学付属立川病院へ入院する 2095年10月30日(日) - 安宿怜美と共に全国高校生魔法学論文コンペティションへ発表を見に行く 2096年4月6日(金) - 国立魔法大学付属第一高校の2年生に二科生から新設の魔工科に転科し進級。2年E組 2096年4月25日(水) - この日一高で行われた常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の公開実験に十三束と共に関わる。 2096年8月 - 全国魔法科高校親善魔法競技大会に技術スタッフとして参加。 2097年2月4日(月) - 師族会議当日の2年E組の教室で、司波達也に聞こえるように「結局、無力な雑魚魔法師は、自分たちの決めたことに従えってこと? 十師族らしいお言葉ね」と発言、千葉エリカと言い争いになる(*3) 登場巻数 6巻、7巻、11巻、12巻、13巻、17巻、21巻 コメント ぶん殴ればいい声出しそう (2020-03-24 09 18 05) 千秋ちゃんは相変わらず粘着系に好かれるなぁw (2020-03-27 02 15 49) 生意気合法ロリ (2020-04-11 20 00 07) かわいい (2020-12-24 09 17 20) 四肢を引き千切って出血死するまで放置させたい (2020-12-25 22 30 16) 平河さん (2020-12-28 14 28 42) このコメ欄でもわかるけど千秋っちめちゃ嫌われてて草。 (2021-08-26 19 29 16) 今のところ好かれる要素皆無だろ 退学になってないのが不思議でならない (2021-09-19 16 45 30) ちゃんと読んでないのか読んでも理解できなかったのか。粘着キモい。 (2021-09-19 17 35 21) 小物すぎて警察からも学校からも型通りの対処しかされてないんじゃないの。実際は黒幕と接触していたわけだが。 (2021-09-19 19 27 40) 達也を敵視してるのに全く相手にされてないの恥ずかしいね。達也のヤバさが世界中に知れ渡ったあともまだ噛み付いてるのかな。 (2022-03-30 17 36 30) 相手して欲しいがために何かはしてるかも。ただ、裏でコソコソしてるか誰かを巻き込むか。堂々とタイマンでメンチ切る度胸のない卑怯者のままだと思う。個人的には十三束と組んでいらんことして返り討ちにあってほしい。 (2022-03-31 21 40 03) 特殊な才能皆無の平均的一般魔法師代表キャラ。ブチキレて欲しくて精一杯噛みつくもあしらってさえ貰えず無視される可哀想な子。こんなんでも学校成績は上位クラス (2022-10-21 22 10 37) 人物 女性 学生
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NG.男の性 「やれやれ、これは困ったことになりました」 まるで他人事の様に呟くのは♂セージ。しかし、彼は言葉とは裏腹に目の前の強敵に対して身構えている。目の前の強敵――― ♂クルセイダー ―――に向ける殺気には微塵の揺らぎもない。目の前のマーダーともども殺る気満々である。 ++++++ ことの起こりはこうだ。 軒下で雨宿りをしていた♂セージ、♂シーフ、♀商人の三人は先行している♂プリースト、♀ウィザードの二人の帰りをやきもきとしながら待っていた。争いの音が聞こえなくなってどれくらいたっただろうか、♂シーフがいても立ってもいられなくなり、立ち上がったときだった。 雨上がりの集落の向こうから傷だらけの男が泥にまみれてこちらへとやってきたのだ。 大丈夫ですか!?と駆け寄ろうとする♂シーフと、恐々と立ち上がった♀商人を制止して♂セージは問う。 「貴方、ゲームに乗っていますね?」 問い、というよりはもはや断定の域にある言葉に満身創痍の♂クルセイダーは眉一つ動かさずに問い返す。 「なぜ?」 ♂セージは一つ頷くと、手の内は明かしたくないのですが、といいつつもいつもどおりに推理を展開する。 「貴方のその傷です。 顔の傷も腹の傷も真正面から戦って付けられたものでしょう。 傷の大きさからすると剣に寄る切り傷といったところでしょう」 推理を披露する間にも♂セージはじりじりと少年少女をかばえる位置へと移動する。その移動を知ってか知らずか♂クルセイダーも三人に向けてにじり寄る。 「しかし、貴方は腹だけでなく背中も庇っています。 いえ、そのつもりはないでしょうが、わかるんですよ。貴方は背中にも傷を負っています」 ぴたりと♂クルセイダーの動きが止まった。 「これは逃げ出す時に付けられた傷だ、といったなら?」 「そうですよ、マーダーから逃げ出す時に付けられた傷かもしれません」 身につまされる話だけに♂クルセイダーの言い分に賛同する♂シーフをちらりとも見ずに♂セージは言う。 「だったら後ろを向いてもらいましょう。 貴方がマーダーでなくて本当に被害者なら背中を見せるくらい何でもありませんよね?」 ♂クルセイダーは何も答えない。 ♂シーフは何も言えない。 ♂セージは何も言わない。 ♀商人はともすれば誰かにすがりつきたくなる自分の手を握り締める。 全員の吐息だけが痛いほどに耳を打つ静寂。 静寂を破ったのは♂クルセイダーだった。 「少年少女のお守りも大変だな。大人数では意思を統一せねば動けんか。 ならば、手伝ってやろう。全くその通りだよ」 露骨ないやみをこめて♂セージに♂クルセイダーは言った。その表情には不意を打てなかった悔しさなど微塵もない。どちらかといえば、群れねば戦えぬ弱者を嘲笑うものだった。とはいえ腑に落ちない点もある。 「しかし、なぜわかった?おまえは傷だけで断定したわけではないだろう」 ♂クルセイダーの疑問に答えたのは意外にも♀商人だった。 「わたしたちはそんな抜いたままの剣持ってうろつかないもん!」 怖気づきそうになる自分自身を鼓舞するかのように♀商人は精一杯の声で答える。軽く頷いて♂セージはもう一つの理由を付け加えた。 「なにより、その傷でゲームに乗っていなければマーダーだと断定されたら動じます」 「くくく、全くその通りだ…。とんだ失態だったな。次から気をつけることとしよう」 次からは。 その言葉に♂シーフは寒気を覚えた。 この男は三対一という圧倒的な不利な状況でも僕たち全員を殺して生き残るつもりなのだ。 「やれやれ、これは困ったことになりました」 まるで他人事の様に呟くのは♂セージ。しかし、彼は言葉とは裏腹に目の前の強敵に対して身構えている。目の前の強敵――― ♂クルセイダー ―――に向ける殺気には微塵の揺らぎもない。目の前のマーダーともども殺る気満々である。 「万全の状態でない以上お引取り願いたいのですが、そちらその気はありませんよねぇ」 「一片たりとも」 暗に見逃してやる、という♂セージの言葉にも♂クルセイダーは頷かない。三人を相手にして勝てるという自信の現われなのか傷の痛みで判断力が鈍っているのか。どちらにしても♂セージとしてはありがたくないことであった。 三対一で勝てるという自信の表れならばこちらが逃げ出してしまいたいくらいだし、判断力が鈍っているのならば手負いの獣ということでしかない。どちらにしてもまっとうな方法で相手にはしたくないのだ。だから、手の内を明かす危険も冒して推理を披露したのだが、時間稼ぎにもならなかったようだ。♂プリーストも♀ウィザードも未だに帰ってくる気配がない。 「神に祈りは捧げ終わったかね?来ないならばこちらから行くぞ」 一向に襲い掛かってこない三人に業を煮やしたように♂クルセイダーは呟くと一気に距離を詰めた。狙うは一番戦いなれていないだろう♀商人。素人だけに激昂されては面倒であるし、初撃で屠るならばこの娘だと相対した時から決めていた。 故に迷いなど一切ない。電光のような一撃が♀商人を襲う。 「っひ!!!」 喉にかかったような悲鳴が上がる。 しかし、多くの人間の血を吸ってきたシミターは♀商人の柔らかい肉を引き裂くことはなかった。 その動きを予想していただろう♂セージのソードブレイカーに阻まれたからであり、何より標的自身がその場にいなかったのだから。 泥が跳ねる。 ♂クルセイダーの強襲に一番素早く反応したのは♂シーフだった。標的が♀商人と見るや全力で突き飛ばしたのだ。ぬかるんだ地面に頭から突っ込んで泥まみれになった♀商人にとってはいい迷惑であるかもしれない。 少年の予想外のいい動きに♂クルセイダーは自身の戦力計算を書き換える。 「やれやれ、私が止めなければどうするつもりだったのですか。君の自殺癖は早急に治さなきゃいけませんね」 「聡い♂セージさんのことだから、きっと受け止めてくれると思っていました!」 短いソードブレイカーの刀身でたくみにシミターの薄い刃と鍔迫り合いしながら、苦笑交じりに言う♂セージに対して♂シーフは元気に返す。パーティを危険に晒したことで落ち込んでいた彼だが、♀商人を庇ったことで吹っ切ったのかもしれない。 一方の♂クルセイダーは面白くない。頭数を減らせなかったばかりでなく、少年まで戦力であることに気づいたからだ。それよりなにより、目の前の男。魔術師の様に推理を披露しながら、巧みに短剣を扱う。予想外だ。魔術師ならば距離を詰めてしまえば打つ手がないはずだったというのに。 少年が使い物になる以上、目の前の男といつまでも鍔迫り合いをしているわけにはいかない。 「ハァッ!」 気合一発、全力でシミターに力を込める。 押し負けると悟った♂セージはその力に逆らわず後ろに跳び退って距離をとった。 仕切り直しである。 「さて、仕切りなおしのついでです。♀商人さん、貴女はここにいても邪魔です」 ♂クルセイダーの動向に気を配りながら♂セージはなんでもないことの様に言う。 ♀商人は一瞬何を言われたのか理解できなかった。頭の中が真っ白になる。だというのに泥にまみれた身体は動いてよろよろと立ち上がる。そんな、今更足手まといだなんて、酷い。けれど、次の言葉、精一杯彼女を邪険に扱った一言で現実に引き戻された。 「動きが鈍い貴女を庇っていては戦いにならないと言っています」 この馬鹿はきっと逃げろっていっているんだ。わたしが、戦えないことを見越して誰か呼んで来いっていってるんだ。この馬鹿がそういうのならここにいても邪魔なんだろう。だったらわたしが逃げるのが最善の一手、だと思う。 なのにさっきは逃げ出そうとして立ち上がった身体がうまく動かない。 それは、きっと、このまま別れたら、♂セージの顔を二度と見れなくなるような気がするから。 カチカチに凍りついた身体を動かしたのはやはり♂セージの声だった。 「あの夜の話ね、本当なんですよ」 少女以外には絶対に意味のわからない言葉。 けれど少女には絶対にわかる暗号のような言葉。 それは絶対の自信と絶対の生還を約束する魔法の言葉。 その意味を深く理解する前に身体は弾かれたように動き出していた。後ろから♂クルセイダーに切りかかられることなんて考えない。今出せる最大の力で彼女は♀ウィザードと♂プリーストが消えた方向へと駆け出していた。 「女を逃がしたか、余裕のようだな」 無数の傷を負ってなお巌の様にそびえる男は言う。彼にとっての障害はもはや♂セージであり♂シーフである。だから♀商人は見逃した。あの程度の素人ならば、自身で手を下さずともいずれ殺されるだろう。 「ええ、肉盾にでもしようとつれてきたんですけど役に立たないこと役に立たないこと」 「それって建前でしょ?女の子を守りたくなるのは男の性ですからねー」 本人がもはやいないことをいいことに言いたい放題言う♂セージの言葉を受け取って♂シーフがまぜっかえす。♀商人とのらぶらぶっぷりを見せ付けられた腹いせだったのだが。 「おやまぁ、わかってしまいましたか。私はこう見えてもフェミニストなのですよ」 そんな揶揄など何処吹く風。しれっとした調子でいう♂セージには一片の油断もない。とはいえ、言ってしまった以上、約束は守らなくてはならない。あの少女のためにも。 向かい合う三人の男たち、ただ緊張した空気だけが流れていく。 関連話:179.薔薇の花 戻る
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とある組織の構成員の憂鬱 04より 今日は散散な日だった 学校では新人の教師が気に食わなかったので校長と教頭を使って地方に飛ばし 下級生を苛めていた男子が目に付いたので死なない程度に締め上げ 給食は大嫌いなレーズンパンと来た 干し葡萄とか人間の食べ物じゃないわよ、うん その上・・・ 「厄日かしらね・・・」 都市伝説にまで遭遇するなんてね・・・ 「はじめまして」 目の前に居るのは黒いスーツにサングラスの男 間違いない 「『組織の黒服』・・・」 半歩下がり小銭を握る 能力が不明な上に単独で来てる以上、『はないちもんめ』が効くか判らないけど・・・ 「組織が私に何か用?」 「えぇ」 こっちに近づいてくる 「っ!!」 黒服に小銭を投げつけようとして 「お茶しませんか?」 「は?」 お茶に誘われた 某喫茶店にて 私の向いには黒服が座り 私の目の前にはパフェが置いてある・・・何、この状況? 「アイスが溶けてしまいますよ」 「…何を企んでるの?」 『組織』は私に能力を与えておきながら、私が言う事を聞かないと判ると消しにかかって来た連中だ その組織の一員の黒服が敵である私にパフェを奢ると言う 何の冗談? 「…詫びですよ。あなたを危険な目にあわせた」 詫び・・・ねぇ? 「おじさんの組織がした事でしょ?」 「それは、そうですが」 すっかり困った顔をする黒服・・・ 今まで私が見てきた黒服とは何かが違う・・・? 「…こちらで、あなたに能力を与えておきながら。 こちらであなたを御しきれないとわかれば、消そうとする …勝手すぎるでしょう?大人のエゴですよ」 大人のエゴ・・・それは同感だ 大人なんて碌な物じゃない 成る程・・・この黒服は他のに比べれば『良識ある大人』と言う奴らしい そう感じながら、溶けるともったいないのでアイスに手をつける 「でも、命を狙われたお詫びが、こんなパフェだけじゃ、足りないよ?」 「…お望みでしたら、夢の国にでもご招待しますよ。幸い、入り込むくらいならタダでできますから」 夢の国関係の都市伝説と契約してるのかな? だと、したら厄介な奴なのかもしれない・・・ 「…あぁ。そうだ。夢の国といえば…それに関連した都市伝説で、危険とされている者がいますよ」 「………?」 「その都市伝説は、子供を攫い…都市伝説の一部として、使役できるそうです」 子供を攫い使役するか・・・私と似たような能力なのかはわからないけど、敵にすると厄介ね・・・ 「ふ~ん」 「他人事ではないでしょう。あなたとて、取り込まれかねない対象年齢なのですよ」 「警告のつもり?」 「…一応は?」 お優しい事だ 敵にまで警告とはね・・・ 「子供を獲物とする都市伝説は多いのです。お気をつけください」 うん、この口うるささと言うかお節介加減 まるで・・・ 「知らない人に付いて行っちゃいけません、って言う先生みたいね」 少し顔をしかめられた 他の黒服に比べると随分感情豊かだ どうりで黒服らしくないと感じたわけね 「…それと。他人からお金を奪い取るくらいなら、私に連絡してください。 子供一人の生活費くらいなら出せますから」 これが本題? 「その代わりに仕事しろ、って?」 「……子供に、組織の汚い仕事を押し付けるなど…そんな卑怯で卑劣な事、私はやりたくありませんがね」 ・・・へぇ? 何か企みでもあるのかと思ったら・・・本物の底抜けのお人好しだったらしい そんな事を考えながら観察していると黒服が連絡先を書いたメモを渡してくる ・・・罠、かな? 「私には、この紙切れを渡した程度であなたをどうこうできる特殊な力などありませんよ」 「………」 メモを受け取る・・・確かに罠じゃなかったらしい・・・ そうだ 鞄からメモを取り出し連絡先を書いて差し出す 「…はい、私の携帯の番号」 「…見て覚えますので、申し訳ありませんが、その紙は受け取れません」 「………」 っち、読まれてたか・・・ 組織の黒服なら強力な契約者の支配権を持ってると思ったんだけどなぁ・・・ 「…それでは、私はこれで。子供を狙う都市伝説に、お気をつけください」 「は~い」 目論みが外れた落胆は余り表に出さずに気の無い返事を返し席を立つ 本当に代金は全て黒服が払ってくれたらしい 「じゃあ」 「はい、気をつけて」 挨拶を交わし、別れると再び家に向う 感知を発動してもあの黒服以外には都市伝説や契約者の気配は無い どうやら、本当に私に詫びをしたかっただけらしい・・・ 「・・・面白い奴」 この頃の私はまだ、あの黒服が私にとって無くてはならない存在になるなんて考えてもいなかったんだ
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雛祭りから三日。 「そろそろお雛様を片付けるか。」 「片付けなくていいよぉ、あたし、お嫁さんになんか行かないから。キョンくんの側にいるしー。」 お前ら、妹にこんな事言って欲しくないよな? たまたま不思議探索に佐々木一派がついてきて、昼食の時に皆に相談してみたのだが…… 「ふむ。それはいけない。今からすぐに片付けよう。」 「同意する。」 「さっさと片付けさせなさい、バカキョン!」 佐々木、長門が静かに、ハルヒはテーブルを叩かんばかりに叫んだ。 「可愛い妹さんですねぇ~」 「妹さん、可愛いのです。」 「――愛――らし――――い――」 朝比奈さん、橘はニコニコしている。周防は無表情だが。ひ、他人事だと思いやがって……! 「んっふ。片付けるに越した事はないでしょうが、可愛らしいですねぇ。あなたがお困りなら、僕もお手伝いしますよ。」 顔が近いんだよ、気持ち悪い。 「いかん!今すぐに片付けさせるんだ!これは幾多にわたる禁則事項になる!」 お前、何でそんな必死なんだ?藤原。 「当たり前だ!妹ちゃんは僕の」 妹、いや、幼女について大演説を抜かす藤原を見た皆が引く。俺もだ。さすがにない。 「排除する。」 「――排除――――」 長門と周防が立ち上がり、藤原に迫った。よし、やっちまえ! 「ぬわーッ!」 俺達は、請求書を藤原の胸ポケットに入れると自宅に向かった。 自宅には妹が、お雛様の周りにバリケードらしきものを設置していた。……お前は幾つだ、全く……。 「お茶が入りましたよー。」 朝比奈さん、周防、橘は、心底どうでもいいといった表情だ。手伝ってくれよ、ほとほと困り果ててるんだ……。 一方、妹相手に本気で揉めているのが、ハルヒ。子ども相手にしても変わらない女帝気質は流石だ。 淡々と説明し、妹が眠ってしまったのが長門。……困り果てた表情の長門なんて初めて見たような気がするな。 「直したくないなら、それで結構ですが……んっふ。兄妹丼というのも乙な…………な、なにをするんですか!」 森さんお久し振りです。そして橘、何故お前まで機関に協力を?!簀巻きにされた古泉が、森さん、橘と退場してゆく……。 「朝比奈さん、兄妹丼ってどんな食べ物ですか?」 俺の問いに朝比奈さんは赤くなり…… 「禁則事項です!えっちなのはいけません!」 とだけ答えた。 臍を曲げた妹に、佐々木は微笑む。 「妹さん。」 「なぁに?」 佐々木は御内裏様を持つと、言った。 「私達は、まだお雛様でないのよ?」 「……え?」 妹の関心を引いたらしい。妹は、佐々木の話を聞き入る。 「女の子は、お雛様に憧れるけどね、お雛様になる前に皆で五人囃子をするのよ。こうして笛太鼓を鳴らしながら。 妹さんはお雛様だけど、私達は五人囃子。御内裏様もお雛様が大好きだから、心配しちゃうのよ。」 「……むー……」 佐々木は穏やかに微笑み、妹の頭を撫でる。 「少し休ませてあげましょ?御内裏様を。……ね、お雛様。」 妹は、納得いかない表情ながらもお雛様を片付ける事に同意した。 お雛様を片付ける途中、ハルヒと長門が佐々木に 「御内裏様は渡さない」 と言っていたが、一体何なのかね? 朝比奈さんはニコニコしながら、少し染みのあるお雛様を感慨深そうに片付けているし。 「アンティーク大好きなんですよ。この時代のものが一番好きです。」 へぇ。因みに朝比奈さんのお雛様って……? 朝比奈さんは、ニコリと笑うと…… 「禁則事項です。」 とだけ言った。……未来にいい人がいるんだろうか……。朝比奈さんは俺を満面の笑みで見ている。 「さて、これで最後だね。」 ハルヒ、長門との争奪戦を制した佐々木が御内裏様に封をした。こうして騒動は終わりを告げたのだが…… 次の日、包帯だらけで精魂尽き果てミイラになっていた古泉……。森さんがツヤってたが、突っ込むと負けだろう。 俺みたいな非リアからだと羨ましい限りだ。リア充タヒねばいいのに。 一週間後、空腹で行き倒れていた藤原について、語るべきかは俺には分からん。 今はこうして皆で五人囃子しているのが、お似合いかも知れんな。 「「「「フラクラ(だね。)(ですぅ!)(……!)(だわ!)」」」」 END
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「ホント完璧だったわね、ラブ。」 「うん。せつなさんも嬉しかったと思う。」 身を投じてまで、闇の世界から愛する人間を奪い返したラブ。 と、同時に、それはアタシが初めて味わった〝失恋〟 ラブたちと別れてから、アタシはブッキーを誘って、近くの公園へ寄り道した。 今のアタシの状態じゃ、とても一人にはなれなかったし。 勿論泣いたりなんてしないケド。 「あーあ、せつなは今頃、幸せの真っ只中なのよね。」 「うん。」 「それも、お父さんとお母さん公認なのよ?」 「うん。」 「オマケに一緒に暮らすとか!」 「凄いよね。」 「アタシたち、まだ中学生よ!!」 「うん。」 「さらにはプリキュアなのよ!!!」 「凄いよね。」 「ちょっとブッキー。話聞いてる!?」 「わっ!き、き、聞いてるよ…」 ハァ。熱くなっちゃったアタシもカッコ悪いケド、まるで他人事のような 返事をするブッキーが不思議に思えて。 「ブッキーはラブを取られて悔しくないの?」 「取られてって…。表現悪いよ美希ちゃん…。」 確かに。少し冷静になろう。今のアタシ、過去最高に完璧じゃない。 「ちょっと待ってて?飲み物買ってくるね。」 察してくれたのか、ブッキーは自動販売機まで小走りで駆けていく。 ほんの少しまで、横に居てくれたブッキーがいない。 一人ぼっち 急に寂しくなるアタシ。 泣かないって決めたの。負けてたまるか! 「おまたせ。はい、どうぞ。」 ブッキーが差し出したのは、アタシが大好きなロイヤルミルクティ。 「ありがと。アレ?ブッキー、コーラ飲むなんて珍しくない?」 「うん。」 普段はオレンジジュースとかお茶しか飲まない子なのに。 変ね、さっきから。 「美希ちゃん」 「何?」 「わたしだって悔しいし寂しいよ。ずっと3人で一緒にいたんだもん。」 「でしょ?」 「でもね、二人が幸せなら、わたしたちは祝福してあげなきゃいけないと思うの。」 「そりゃ、そうだけど…。」 「ラブちゃんはこうなる事をずっと、信じてたんだと思う。」 「………」 「だからね、わたしたちも二人の幸せゲットを祈ってあげなきゃ!」 「ぷっ。クスクス…」 思わずアタシは噴出して笑ってしまう。ブッキーには申し訳ないんだけど。 「何で笑うの美希ちゃん!」 「だって、言ってる事がラブみたいよ?」 「そう…かなぁ?」 ブッキーは優しい子。アタシも見習わなきゃと思う。 〝プシュ〟 「きゃっ」 小走りで戻ってきたせいで、コーラが溢れてしまった。 「チョット何やってんの!」 「ごめんなさい…」 ちょっと、おっちょこちょいな性格もどこかラブに似てたり。 「ぷっ。」 「もぅ、また笑うー。」 「全部飲めるのブッキー?コーラなんて飲むトコ、見た事ないわよ。」 「うーん…。何で買っちゃったのかなぁ?」 今思えば、ブッキーなりに背伸びしたって感じだったのかしらね。 「チョット飲んじゃったケド。」 そう言ってアタシは飲み物を交換する。ブッキーだけ間接キスだけど。 「失恋なんてするもんじゃないわ。体がいくつあっても耐えられないし。」 「そーだよね。わたしも辛くて、立ってられないと思う。」 「ま、これもキレイになるための勉強だと思って乗り越えてみせるわ!」 「わたしかんぺき!」 「そう言ってくれるとアタシ信じてた!ってコラ!」 無邪気に逃げるブッキーを、アタシは笑顔で追う。 ま、あっとゆー間に捕まえちゃうんだけど。 「美希ちゃん」 「何?」 「わたしじゃだめ……かな?」 「えっ?」 「美希ちゃんの力になりたい。支えになりたいの。ラブちゃんには負けちゃうけど…」 「そんな事ないわよ。ブッキーだって全然ラブに負けてない。アタシだって、せつなみたいに純粋なんだから。」 「くすくす…」 「チョット!そこ、笑うトコじゃないわよ。」 「お返し。」 「もう。この子ったら…」 いつの間にやら、失恋が恋に発展しつつある訳で。 不思議。ほんと一寸先は………、何だっけ? あ、恋。でいっか! 「ラブちゃんとせつなさん、美希ちゃんとわたし。どっちが幸せになれるかな?」 「さぁね。でも、勝負するならアタシたちは負けないわよ!」 「うん!」 壊れかけたアタシのハート。一人だったら壊れてた…かな? 「美希ちゃん、コーラ飲ませて?」 「ブッキーこそミルクティ飲ませてよ」 ~END~
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白いワインは七色のフランス料理に調和するのか 紅魔館の大広間に並ぶ長い机と豪華な椅子。普段はホールとして開放されている一室は、今日 という日に備えて豪華な飾り付けがなされていた。外界でも口にした事が無いオードブルから 始まり、スープ、一風変わって二種類の魚のメインと続いた料理は招待されていた○○の度肝を 抜いていた。パチュリーから何気なく招待されていたこの晩餐会が、こんなにも豪勢な物である のならば、霧雨商店から洋式のスーツ一式を新調するか、せめて香霖堂から外来から流れ着いた 学生服でも、レンタルしておくのだったと後悔にも似た感情を○○は抱いていた。 ○○の目の前には当主の吸血鬼が座り、食後のデザート代わりに赤い貴腐ワインを飲んでいた。 銀色の髪にホワイトブリムを付けたメイドがパチュリーの横に座る○○に次のワインを注ぐ。 白いワインを注いだ彼女は芳醇な香りを漂わせたまま、ジッと待つ。誰かの紹介を待つかのよ うに。 「XXX9年製白ワインよ。」 奇しくも自分と同じ年に作られたワインを、隣のパチュリーが○○に紹介する。コース料理の際 にテーブルマナーに慣れていない○○に、小声で色々教えていた時とは異なり、周囲の人間に聞 こえるように今までよりも大きな声を出す。その言葉が切っ掛けになったかのように、周囲の列 席者がワインの品評を下していく。 「大変澄んでいて良いワインです。」 悪魔の翼を持っている図書館の司書がいの一番に口火を切る。 「まろやかな味で良いですね。」 普段は人民服をきている門番の女性も、小悪魔に続く。 「大変結構で御座います。」 いつの間にかメイドをしていた女性が当主の横の席に付いていた。 「今日の七色の魚料理だけじゃなくって、赤いワインにも良く合うんじゃないのかしら…。あら 冗談よパチュリー。」 当主の妹が冗談を言うが、直ぐに訂正する。 「素晴らしいモノだわ、パチェ。」 最後に目の前に座った当主が言葉を発する。 「それでは、今後の紅魔館の発展に乾杯。」 レミリアの言葉に各自ワイングラスを掲げ、グイと一飲みする。冷たいワインは○○の喉を通る と熱く喉を焼いていった。 「フランスXX地方の赤ワインに○○様が当館にお持ちになられた、オレンジを使用しました 当館オリジナルのになります。」 またいつの間にかメイドの格好に戻った咲夜が○○にカクテルを注ぐ。今度は○○だけに注がれ たアルコールを、何気なく口に運ぶ。口当たりの良い飲み物は、直ぐに小さな器から無くなって しまっていた。 「一息で…」 「本気なのね…」 周囲で控える妖精メイドがざわめくが、メイド長の一睨みで直ぐに静まる。 「御客人、もう一杯いかがかしら。」 レミリアの勧めに○○は、自分のグラスを少し上げることで答えた。 再び満たされたグラスを口元に運んだ○○は、先程から周囲の人の視線が自分だけに注がれて いることに気づいた。晩餐会であるのに、誰もグラスを持たず、喋りもしない。ただ無言の視線 が自分に注がれている事に漸く気づいた○○は、アルコールが回ってぼやけた頭でも感じたきま りの悪さを拭い去ろうと、もう一度勢いよくグラスを傾ける。やはり舌が緩む甘さと、喉を通る 時に感じる焼けるような刺激を感じると、急に自分の意識が遠のいていくことを、どこか他人事 のように○○は自覚していた。 ふかふかの絨毯の感触を足に感じ、漸く○○は自分が今パチュリーと並んで紅魔館の廊下を 歩いていることに気づいた。魔法でも都合良く使っているのであろうか、アルコールで制御の効 かない自分の体は、魔法使いの細い腕に従って廊下を進んでいた。自分の意識がはっきりした ことに気づいたパチュリーは、呪文を唱えるように言葉を紡ぐ。 「白いワインは人間を示し、赤いワインは紅魔館を示す。」 「魔女の特製のカクテルは、人間には良く効いたかしら。」 明るい廊下の中、銀色の蝋燭立てを持って二人を先導していた小悪魔が図書館の一室のドアを開 ける。大きなベットの傍らのサイドテーブルには、湯気の立ったカップが二つ置かれていた。 「それでは御主人様、旦那様、ごゆるりと。」 背後でドアが閉まるのを感じながら、○○はどこか予想外のような、納得したような心持ちで あった。
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今度は言えるから…(律1st view) ------------------------------------------------------------------------- どうして…こうなったのだろう? 澪の想いを否定したかった訳じゃない…。 ただ、澪が私から離れていく、それが寂しかっただけなんだ…。 「澪~…って何だこれ?」 澪の部屋の、机の上にあったノートを開こうとした。 「うわ!勝手に覗くな!」 「いたっ!」 ゴツン、と殴られた。 「私が部屋を空けた隙にまた…。」 以前と同じように私に接する澪。 多分…澪にとって、私のしたことは『当然のこと』で…責める理由にすらならないんだろう。 いつも通りの会話。いつも通りの私たち。 大学生になっても高校時代と変わらぬ仲を保っている。 取り返したノートを脇に隠そうとした澪の表情が、ほんの一瞬だけ寂しいときのものになる。 視線の先にあるのは、澪が大事にしている薄い一冊のフォトアルバム。 ああ…まただ。一体アレから何度この表情を見て来ただろう。…胸が苦しい。 「そういや今日珍しく私に梓から電話あったんだ」 「…へぇ。梓、なんだって?」 「ドラムの相談。ドラム担当の新入生が初心者らしい。初期どうやって練習してたか知りたいんだと」 「さすが梓。ちゃんと先輩やってるな。…律とは大違いだ」 「なにおう。私だってなぁ~」 どんなに苦しくても…辛くても…私はそれに気付いてはいけない。 澪に辛い選択をさせたのだから――。 始まりは高1の冬…まだ梓が入学すらしていない時期の話である。 バレンタインが近付いてきて、女子高であっても話題が上っていた。 「バレンタインか…今年はどうなるやら」 文化祭の初ライブが終わって、澪にはファンクラブができた。 男子0の女子校だ。澪にはチョコが殺到するかもしれない。 「………さあな…」 あまり思い出したくないのか、澪は少し遠い目をしていた。 すっかりトラウマだな…文化祭。 加えてファンクラブ…恥ずかしがりやの澪には荷が重いかもしれない。 だけど…まあ何とかなるだろう。澪は応援してくれる人を蔑ろにはしないしな。 「澪は今年は誰にあげるか決めてるのか?」 去年までは私と聡の2人だけだった。…市販のチョコだけど。 「ん……軽音部と和、憂ちゃん…かな?いつもお世話になっているし」 あとはいつもの如く聡…と。今年は随分と多いな。 「あはは。大変だな」 「和に迷惑かけているのは主に律だけどな」 他人事のように言う私を軽く責めるような言い方。 口ぶりと裏腹に喜んでいる。きっと友人が増えたという実感があるからだろう。 喜ばしい話だ。人見知りが激しい澪に、こんなに友人がふえるなんて。 …でも懸念があった。1人だけ…違う態度をとる相手が居る…。 「…本命はいないよな?」 そういった瞬間、澪の表情が強張った。 言わなきゃ良かった…澪の反応を見てそう思った。 女子高だから、そういうことは無いと思っていたのに。 澪に好きな人ができるなんて…想像だにしていなかった…。 「……はは。居る訳無いだろ。女子高だぞ?」 すぐに笑って否定したけれど、嘘だと分かる。 本当…澪は嘘が下手だよな。一体どれだけ傍にいると思っているんだ。 「あはは…そうだよな。すまん変なこと訊いた」 でも認めたくなくて…私はその嘘に気付かなかった振りをした。 後に私は後悔することになる。 この出来事があの2人を苦しめ続けることになったのだから――。 過去はやりなおせない。澪の選択を責めることもできない。 だってあいつは…私の不安に気付いて選んだのだから。 そして…当時の私の心境を考えると間違った選択とは言えなかった。 もしあの頃、澪が自分を優先していたら私はここにいない。 今の放課後ティータイムはきっと出来なかっただろう。 でも…もし、もう一度。 もう一度だけでいいから……やり直せるなら。 今度は送り出そう…澪を。祝福しよう…あの2人を。 どんなに寂しくても…きっと今度は大丈夫だから。 澪じゃないけど…神なんて本気で信じていないけど、祈らずには居られない。 ああ、カミサマ。 もしいるならチャンスを下さい。 大切な親友たちを救うチャンスを――。 そしてそのチャンスは意外な形でやってきたのであった…。 2