約 243,586 件
https://w.atwiki.jp/galgerowa2/pages/262.html
少女のおちる朝に ◆HlLdWe.oBM 原因があり、その行動の果てに、結果という答えが待っている。 それについて例外は無い。 何事にも原因がなければ行動は起きず、行動がなければ結果は出ず、結果がなければ新たな原因も生まれる事はない。 原因、行動、結果――この三つの要素はループのように回っている。 それはあたかもこの世の理の如し。 だからこそ、ここで起こった事にも原因があり、行動があり、一つの結果が生まれた。 それは「一人の少女が堕ちた」という結果。 ただそれだけである。 朝の陽射しが教会の中を明るく照らしていく。 人間というものは光を浴びる事によって調子を整えるともいう。 だからこそ朝目覚めたらカーテンを開け、部屋の中に朝日を入れる事が重要なのであろう。 しかしこの場においてはそのような事は何ら効果がない。 本来そのような行為は平和な場所で行うべきである。 ここは平和とは程遠い場所。 そう、この異常な島では平和などという言葉は存在しない。 「……ファルさ――」 「静かに。放送が始まるわ」 今から始まるのはこの島にいる全ての者に等しく降りかかる告知。 それを聞いてどう思うかは個人次第であろう。 例えそこに大切な者の名があったとしても、それにどう対処するかは聞いた者次第であろう。 ◇ ◇ ◇ 「そん、な……朋也、君が……ともや、くん……」 「岡崎朋也」――その名が呼ばれてから古川渚の様子は一向に変わらない。 何度も何度も壊れたレコードのように岡崎朋也の名を呼び続けるだけである。 何が起こったのかは見れば分かる。 おそらく彼女にとって「岡崎朋也」はとても大切な人なんだろう。 もしかしたら恋人だったのかもしれない。 そんな事はファルシータ・フォーセットにとっては些細な事だ。 古川渚は大切なものを失った。 それが分かれば十分だった。 さっきは人形にしようとして、あと一歩のところで堕とせなかった。 だから使えない駒は放送まで待って始末しようとした。 だが今は違う。 先程渚が堕ちなかったのは大切な何かを拠り所にして崖っぷちで踏み止まったからだろう。 しかし大切な人を失って今彼女の心はボロボロのはずだ。 もうさっきみたいに踏み止まる事もないだろう。 それなら今一度彼女を深い奈落の底へと誘えるかもしれない。 おそらくもう彼女に抵抗するだけの気力は残っていないはずだから。 それにやはりNYP式ビームライフルは惜しい。 あれは立派な人殺しの力、使わなければ宝の持ち腐れというものだ。 「渚さん」 「ファル、さん……」 「これで分かったでしょう。ここは結局殺しあいの場でしかない。 渚さんがいくらそれはいけない事だと主張したところで、何の役にも立たないのよ。 聞いたでしょう。もう9人も死んでいるの。 人殺しがいけないだなんて、そんなのただの理想論でしかないの」 「そ、それは……」 ファルは言葉のナイフで渚の心をぐいぐいとえぐっていく。 放送前の渚ならあるいは耐えられたのかもしれない。 だが今は心の支えであった朋也が死んだと告げられ、心の堤防は崩壊しかけている。 渚に抗う術はなかった。 「渚さんは人を殺す力を持っている。 そんな力を持っていながら、今まで何をしていたのかしら。 誰か一人でも殺していたら、もしかしたら朋也君は死ななかったのかもしれないのに」 「で、でも、ひ、人殺し、は――」 「――いけない事だ。まだそんなこと言っているのね。 もう少し現実を見なさい。 そんなこと言って何もしないから、朋也君は死んだんじゃないの」 「そ、そんな、こと……」 「ない事はないのよ。 実際に朋也君は死んだ。渚さんが何もしなかったから――違う?」 「……そ、そんな……」 意外に抵抗している。 それがファルの偽らざる今の心境だった。 だがさっきよりは意志が弱い。 さっきは揺らいでいてもどこか地に足が着いているような感じだった。 心の支えを失ってはどうしようもないという事か。 もう一押しというところだろうか。 「そう、渚さんは朋也君を見殺しにしたのよ。 だから――」 「嘘ですッ!!!」 唐突に静かな教会には似つかわしくない場違いな叫びが木霊する。 堕とそうとしていたファルもそのあまりの声に一瞬怯んでしまった。 それは渚の悲痛の叫びだった。 「……そ、そうです。朋也君が、死んじゃうなんて、そんな、そんな事、う、嘘に決まっています……」 渚は自分に言い聞かせるように言葉を搾り出していく。 しかしファルがその言葉を聞いて思った事は一つだけだった。 (――あきれた) 現実逃避など無駄の一言で切り捨てられる行動だ。 そう実際に殺し合いは既に始まっている。 6時間で9人もの死者が出た。 その中にはファルや渚の知り合いも含まれていた。 これは正真正銘の殺し合い。 殺さなければ殺される。 ここはそういう世界だ。 だが渚はそれを認めようとしなかった。 認めたら……もう岡崎朋也とは会えないとでも言うように。 「はあ、渚さんは全然分かっていないわね。 さっきも言ったけど、人は自分のためだったら何でもするの。 朋也君もそういう人に殺されたのよ」 「……う、嘘です。きっと、何かの間違いに、き、決まって……」 だが現実逃避に走るという事は、つまり現状を信じられないという事だ。 なら堕ちるのは時間の問題。 ファルは最後の仕上げにかかった。 精神面に加えて肉体面でも追い詰めていったほうが人形に堕ちやすい事は放送前に確認済みだ。 「……ねえ……渚さん」 「――やっ、ひぁあっ……ファ、ルさん……」 ファルは最後の仕上げを確実なものとするために渚の精神をより磨耗させる行動に出た。 すなわち愛撫。 渚の上に覆い被さるような位置にきて、両足で渚の下半身の自由を奪う。 服の上……いや、服の上からだからこそ感じる衣と肌が擦れる感触。 その感触を唐突に、そしてゆっくりと渚に味あわせていく。 ファルは渚の身体をゆっくり優しく撫でていく。 そしておもむろに左手を相手の肩に乗せて、右の掌にはなだらかな膨らみを収める。 優しくも妖しい感触が渚の心を磨耗させていく。 「……ふぁあ……やぁ、やめ……はぁあ…… ……ファ、ル……さん、なに、す――」 「もう一度聞くわ。 目の前に私を殺そうとしている殺人者がいたら、渚さんはどうするの? やっぱり『人殺しはいけない』って言うの? さっきも言ったけど、それじゃあ私も渚さんも殺されてしまうわよ」 「……それっ……はぁあ……いけなひっ……こと……」 矢継ぎ早の質問は冷静な判断力を奪うものである。 そして話し続ける合間もファルの手が愛撫を止める事は無い。 暖かな膨らみを時には撫で、時には揉み、時には摘む。 様々な角度からの刺激を渚に送り込む。 それは渚の精神を確実に蝕んでいった。 じわじわと……じわじわと…… 堕ちるのも時間の問題だった。 「まだそんな理想論を言うの、渚さん。 ……じゃあ、もし貴方の目の前で私が朋也君を殺そうとしたら、どうするの?」 「……ふぇっ!?」 まるでそんな事ありえないとでも言いたげな表情を浮かべている。 それを見てファルはますます渚は甘ちゃんだと位置づけた。 みんなに守られてぬくぬくと育った箱入り娘。 やはり死んだリセにそっくりでとことん甘ちゃんだ。 自分とは似ても似つかないような生い立ちなんだろうと密かに思う。 その微かな苛立ちを込めるように、どんどん渚を底無しの奈落に堕としていく。 愛撫も止まる事を知らず、一層動きが妖しくなっていく。 「さあ、どうするの渚さん。 朋也君を助けるために私を殺す? それともただ叫ぶだけで朋也君を見捨てる? 叫ぶだけじゃ私はやめないかもしれないわよ」 「……だ……めっ……で、す……」 「何がだめなのかしら。そんなこと言っているだけじゃ朋也君はどうなっちゃうのかしらね」 言葉でえぐるたびに、掌で撫でるたびに、渚の身体は未知の刺激を受けて怯えたように震えている。 身体も徐々に弛緩していき、目の光もだんだんと虚ろになりかけていた。 事ここに至って半ばファルは確信していた。 もうすぐ渚は堕ちる、人形になるのは目の前だと。 精神状態は既に疲弊したも同然。 先程は寸でのところで踏み止まられたが、今度はそのような事はないだろう。 精神的な支えである岡崎朋也が死んだのだ。 もう古河渚に拒む力はない。 「苦しいんでしょ。楽にしてあげましょうか。 簡単よ。さっき教えたように頭を空っぽにすればいいのよ。 後の事は、私に任せて――」 そして欺瞞に満ちた救いの手をさしのべる。 それが奈落への誘いだとも知らずに彼女は掴むだろう。 手を掴んだ瞬間、彼女は忠実な操り人形になってくれるだろう。 そして一人の少女が『堕ちる』―――― ◇ ◇ ◇ 分からない。 分からない。 分からない。 分からない。 何が分からない? 私は誰? 古河渚。 ここはどこ? 教会の中。 今何をしている? ファルさんと話している。 何を話している? 人殺しについて……え? 人殺し? それはいけないことで……本当にそうなんだろうか? 人殺しはしてはいけない……でもそうしたら朋也君が…… え、でも朋也君はもう死……違う! 朋也君が死んだなんて、そんなの…… でも私が何もしなかったら朋也君はファルさんに殺さ……へぇっ、ファルさんは私の目の前に…… じゃあ朋也君を殺そうとしているのは誰? ファルさん? それじゃあ私の目の前にいるのは誰? ファルさんじゃない? 分からない。 分からない。 分からない。 分からない。 頭がトロトロに溶けていくみたいで考えがまとまらない。 身体もだんだん火照ってきているみたいで……風邪? 頭がどんどんバカになっていくような感覚に襲われる。 いや、いやです、誰か助けてください! 朋也君! でも朋也君は……え、ファルさんは目の前に……ファルさんは朋也君を殺そうと……目の前のファルさんは…… 怖い。 視界がぼやけて霞んでくる。 目の前にいるファルさんが別のもの――得体の知れない悪意に見えてくる。 目の前にあるものが怖い。 得体の知れない悪意が怖い。 何を話している? 分からない。 今何をしている? 分からない。 ここはどこ? 分からない。 私は誰? 分からな……え、私は古河渚……分からない。 怖い。 私の頭の中が空っぽになって……嫌っ、嫌っ、嫌っ、嫌っ、嫌、嫌、嫌、嫌、いや、いや、いや、いや―――― 「いやぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 渚は過度の負担から恐怖に駆られ、思わず目の前のものを振り払った。 しかし元々の力も弱く、疲労しているところに加えて精神は崩壊寸前。 振るわれた腕にはファルを「突き飛ばす」だけの勢いはなくて当然だった。 その行動が一つの結果を生みだす。 ◇ ◇ ◇ その結果が起こった原因は何だろう。 原因は一つではない。 様々な原因が寄り集まって、行動を誘発し、そして結果を生んだ。 それを責める必要はないだろう。 責める者など、どこにもいないのだから。 振るわれた渚の腕は覆い被さる位置にいたファルの右脇に当たった。 それは些細な力だったが、横軸への力のベクトルが掛かった事に変わりはない。 ファルの左手は一応支えを得ていたが、右手は不安定な格好だった。 加えて渚が急に動いたためにその支えも無意味に等しくなる。 さらにファルには渚はもうすぐ堕ちるという僅かな気の緩みがあった。 「!?」 だからこそファルがバランスを崩すのは十分あり得る事だった。 加えて今ファルがいるのは長椅子の上。 その幅は狭く不安定だと言わざるを得ないものだった。 その上で一度バランスを失えば、元に戻すのは困難な事だった。 バランスを崩した者は長椅子から追放され、そして―――― 「がぁっ!?」 それは不運とでも言うべき事か。 バランスを崩して倒れる先には椅子の角があり、ファルは頭を勢いよく角にぶつける事になった。 その際に頭部から少なからず出血も見受けられる。 だがそこは終着点ではなく―――― 「ごぁっ!?」 さらにその下の地面にも勢いよく頭から倒れこんだ。 しばらく呻いていたが、それっきりファルは動かなくなった。 ファルの意識はそれを最後に深い奈落の底へと堕ちていった。 教会から聞こえるのは渚が発する荒い息づかいの音。 それは時間にすれば一瞬の出来事であった。 様々な原因が重なりあい、そして起こった行動の果てに、結果が生み出された。 一人の少女――ファルシータ・フォーセットが堕ちるという結果を生み出したのだ。 ◇ ◇ ◇ 渚がようやく周りの事に意識を向けられるようになったのは、しばらくしてからだった。 崩壊しかけの精神が動きだすまでには少し時間が必要だったようだ。 「……はあぁぁ……はあぁぁ……私、は……」 渚は今に至るまでの出来事を思い出そうと記憶を探り始めた。 朧気な記憶しか出てこないが、記憶の断片を必死に繋ぎ合せていく。 「えっと……確か、ファルさんと逃げてきて……それで――――ッ!?」 そこで渚は自分が座っている長椅子の傍らに倒れているものに気付いた。 それは頭部から命の証である赤い血を流して倒れ伏しているファルだった。 それを見つけた瞬間に渚の頭の中にはあの時の事が鮮やかにフラッシュバックしていった。 自分に襲いかかる得体の知れない悪意を感じたと思って、それが嫌で振り払おうとして、ファルさんが―――― (……ファルさんが倒れているのは……私の、せい?) 「ファルさん?」 呼びかけてみる。 しかし返事はない。 「ファルさんッ?」 今度はさっきより強く呼びかけてみる。 しかし返事はない。 「ファ、ファルさん?」 三度呼びかけてみる。 今度は体を揺すってみた。 しかし返事はない。 だが返事の代わりに手にはファルの血が絡みつき、まるで咎めるようにその赤を強調している。 「――――ッ!?」 怖かった。 逃げ出したかった。 早くこの空間からいなくなりたかった。 人が死んだ。 死体ならさっきも見た。 だがそれで死体に耐性が付く訳ではない。 ましてや目の前の人を殺したのは……自分自身? ――ワタシガコロシタ?―― (分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。 誰か……私……嫌っ……人殺し……ファルさん……血……まことくん……死体……朋也君―――― 朋也君、助けて……あれっ、朋也君はさっき放送で……いやそれは間違い……間違い……) 渚の心は荒れた海のように千々に乱れていく。 そこへ突如として記憶の底から降りかかる先程のファルの言霊。 ――人は自分のためだったら何でもするの。朋也君もそういう人に殺されたのよ。 (朋也君……私……ファルさんを殺して……私も誰かに……) 渚の精神はもう正常に物事を判断できなくなってきていた。 自分は人を殺してしまった。では自分も誰かに殺されてしまう。早くこの場から離れなければならない。 最早脈略も無いに等しい突発的な思考だった。 だが渚はその思い込みに縋る以外の術を思い浮かべる事が出来なかった。 実際今の渚の精神状態はファルの調教と現状へのショックで限界だった。 「……私……私……わた――」 何かを恐れるように渚は目の前のデイバッグ2つを持って教会から飛び出していった。 荷物が多ければ安全だという考えにでも至ったのだろうか。 まるで何かから逃げるように、何かに怯えるように、その場から遠ざかる。 後に残ったのは、壊れた人形のように身動き一つしないファルシータ・フォーセットだけだった。 ◇ ◇ ◇ 朝日が差し込む教会。 静寂がその場を支配し、来る者がいればその荘厳な光景に感想の一つも述べるであろう。 通常であれば賛美歌の一つでも聴けたのかもしれない。 だが残念ながらここは天国ではなく寧ろ地獄に近い。 教会などおよそ殺し合いの場には似つかわしくない場所である。 いや、それは少しばかり語弊があった。 神聖な教会といえども、完全な静寂ではないようだ。 町を駆け抜ける風のざわめき、微かに聞こえる波の囁き。 そして風に乗って聞こえてくる殺し合いのレクイエム。 そして教会の中にも微かな音が息づいている。 それは注意しないと聞き取れないぐらいの息吹。 床に転がる一人の少女から聞こえてくるようだ。 息吹の正体は呼吸の音――――ファルシータ・フォーセットのものだった。 彼女は堕ちたまま、その意識はまだ戻らない。 【B-1 教会付近 朝】 【古河渚@CLANNAD】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式×2、ビームライフル(残量90%)@リトルバスターズ!、未確認アイテム0~4、ICレコーダー、 イタクァ(5/6)、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)】 【状態:健康、膝下や服に血が付着、極度の精神不安定】 【思考・行動】 基本:……殺し合いなんて、ダメです? 1:私……私…… 【備考】 ※岡崎朋也の死を認めたくないと思っています。 ※ファルが死んだと思っています。 【B-1 教会 朝】 【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:気絶、後頭部出血、スカートが大きく縦に裂けている(ギリギリ下着が見えない程度)】 【思考・行動】 基本:自身の保身を最優先、優勝狙い。出来る限り本性を隠したまま行動する。 1:…………(気絶中)。以下気絶前の思考。 2:渚よりも強く扱いやすい人間が見付かれば、そちらを盾にする。 3:利用価値の薄い人間は、殺し合いを行うように誘導するか、秘密裏に排除する。 4:誠については死んでいても生きていても問題なし。 5:クリスに危害を加える事に対してのみ、迷いあり。 【備考】 ※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。 082 サクラノミカタ 投下順 084 救いの言ノ葉 082 サクラノミカタ 時系列順 084 救いの言ノ葉 060 見上げた虚空に堕ちていく 古河渚 089 影二つ-罪と罰と贖いの少年少女- 060 見上げた虚空に堕ちていく ファルシータ・フォーセット 091 風の名はアムネジア
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2243.html
45 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/05/08(日) 11 37 27.63 ID ttF9/uT/ [1/3] あなたが好き。 だけどその気持ちは絶対に伝えれない。 だけどある日、見てしまった。 あなたが他の女と話している所を。 女があなたに触れるところを!・・・。 憎い!憎い!憎い!あの女が憎い!!!!! 私は女を呼び出した。 そして殺した。 首を刃物で切って。 左手を切って、右足を切った、そして池に投げ捨てた。 そして私は女の首を持って 大好きな人の所に行った。 そして名前を呼んだら。 「うわぁ!人殺しだ!!!!」 と呼ばれた。 ポタンッ 「どうして?・・あなたのためにやったのに・・あなたのために・・・ あなたは私だけを愛していたらいいのに・・それなのに!・・・。」 私は大好きなあなたを殺した。 泣きながら殺してしまった。 そしてバックにあなたの首を入れて。 女の首は紐につらして学校においた。 家の鏡に私が映る。 血だらけの顔、泣いた後でぐちゃぐちゃな顔。 そして大好きな人の首をバックから出して抱きついた。 「これからは私達はずっと一緒だよ、誰にも邪魔されない。 誰にも引き裂かれない、赤い糸で繋がれているんだもん。 もう絶対離さないよ・・・・。」ニコッ
https://w.atwiki.jp/souhei_world/pages/2534.html
僕の贖罪 聖華暦833年 7月1日 21 06 御屋敷に帰るまで、僕とエミリさんは終始無言だった。 帰ってすぐに夕食となり、その時にはエミリさんはいつもの調子で仕事をこなしていた。 かえって僕はというと…… 相変わらず、気分は沈んだままで。 それでも夕食を食べた後、無性に身体を動かしたくなり、木剣を持って帝国式正統剣術の素振りを各種200本づつ行った。 素振りをしている間、無心に……はなれず、結局、同じ事をぐるぐるぐるぐる考えていた。 私も貴女の力になりたいんです。……話して、もらえませんか? エミリさんはそう言った。 彼女には聞いて欲しい、話してしまいたい。 だけど、他人に話す事なんて出来そうに無い。 考えれば考えるほど、振るう木剣の切先は鈍くなり、あぁ、なるほど。 師匠が言うように、こんなではするだけ無駄だと、妙に納得した。 それでも回数だけはこなして、乱れた息を整える。 流れ出る汗は衣服を貼り付かせて気持ちが悪い。 湯浴みをしよう。 そう思い、着替えを持って浴場へと向かった。 脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと入る。 御屋敷だけあって浴場もそれなりに広く、立派な浴槽にはお湯が並々と張ってある。 頭からお湯をかぶり、浴槽に足を入れる。 ゆっくりと身体を沈めて肩まで使った後、息を止めて潜る。 浴槽の底で水面を眺めて20秒を数える。 不思議とゆっくりと時間が流れているように感じる。 でも実際は20秒でしか無いのだけど。 浴槽から顔を出し、大きく深呼吸をした。 身体を洗おうと、浴槽から出た時だった。 「失礼いたします。」 唐突に浴場の扉が開き、エミリさんが入って来た。 「えっ?エミリさんっ⁈」 急に入って来たものだから驚いて、思わず前を隠してしまった。 もっとも、隠せるものは何も持っていなかったので、手で胸と下を遮っただけなのだけど。 女同士とはいえ、何故か気恥ずかしい。 「リコス様、お背中をお流しします。こちらにどうぞ。」 「あ、ぁいや、その……わかりました……」 エミリさんの屈託の無い笑顔を見たら断るに断れず、言われた通りに彼女に背を向けた。 彼女は手ぬぐいで石鹸を泡だてると、僕の背中にそっと手ぬぐいを当てて優しく摩った。 彼女の指が僕の素肌に直に触れると、その部分が熱を帯びる。 ドキドキと鼓動が速くなり、その事を彼女に気取られないか心配になる。 「リコス様、先程は失礼しました。貴女を困らせたかったのではないのです。ただ……」 そこで言葉を切った彼女は、どんな表情をしているのだろう。 振り返る事も出来ず、声をかける事も出来ず…… 「ただ、心配だったんです。」 その言葉に僕の心臓が、ドクンッ、と強く脈打つ。 「エミリさん……判りました。僕の……僕が隠している事を…聞いてください。」 僕の言葉に彼女の手が止まり、僕は彼女に向き直った。 エミリさんは真っ直ぐに僕の目を視ている。 僕は思わず気圧されそうになった、けれど目を逸らさず、精一杯見つめ返す。 「エミリさん、僕は……」 だけど俯く。 真っ直ぐ顔を向けられない。 「僕は、12歳の時に……人を……人を殺しました。」 顔を、上げられない。 今、彼女の顔を見るのが、怖い。 「僕は、その時、殺されそうになって……」 どっと後悔が押し寄せる。 「……理由は、どうであれ、僕は……人を、殺したんです……」 彼女から浴びせられる視線が、恐い。 今すぐ、ここから逃げ出してしまいたい。 何か……なにか言って欲しい…… 嫌だ……何も聞きたくない…… ぎゅっ、と抱き締められた。 暖かく、柔らかく、良い香りがする。 なんだかわからない。 「???エミリさん?」 「リコス様は、その事を悔やんでいるんですね。」 「……はい。人殺しは罪です。でも…どうやって贖えば良いか、判らないんです。」 僕を抱き締めるエミリさんは、ぼくの頭に手を置いて、優しく撫でてくれた。 「苦しんでいらしたのですね。でも、そんな事を、いつまでも気にしていてはいけませんよ。何故なら、貴女は『暗黒騎士』を目指しているのですから。」 彼女は『暗黒騎士』という言葉に力を込めた。 僕は彼女の言葉にハッとした。 「『暗黒騎士』になれば、どうしても、人殺しとは無関係にはなれません。なんならご主人様だって、どれだけ人を殺しているか、判ったものじゃありませんよ。」 彼女の言葉はひどく物騒なのに、どこかコミカルでさえあった。 「ですからリコス様……貴女が一人殺したのなら、この先10人の人を助けて護ってください。10人殺したのなら、200人を護ってください。 100人殺したのなら、5000人護ってください。 1000人殺したのなら、帝国全部を護ってください。」 「エミリさん、そんな無茶な……」 明らかに桁がおかしい。 「それが、貴女に与えられた贖罪です。」 その言葉に、僕は顔を上げて、エミリさんの顔を真っ直ぐに視た。 彼女の顔は、優しく微笑んで、僕の視界はぐちゃぐちゃになって、声を押し殺して、泣いた。 ボロボロと涙をこぼし、彼女の胸に顔を埋めて、恥ずかしいくらいにぐちゃぐちゃになって、泣いた。 僕が泣いている数分の間、エミリさんは僕の頭を優しく撫でてくれた。 一通り落ち着いて、エミリさんにしがみ付くようにしていたのに気がついて、慌てて離れて、さらにまだ裸のままだった事に気がついた。 「このままだと冷えてしまいますよ。浴槽へ浸かってください。」 この上に気を遣われて、もうなんとも言えないくらい恥ずかしさでいっぱいだった。 言われるままに浴槽に浸かって、脱力した。 「では、私はこれで失礼しますね。」 「エミリさん。」 浴場を出ようとしたエミリさんに声をかけた。 「ありがとうございます。」 エミリさんはニッコリと微笑んで、浴場を後にした。 僕は、彼女の言葉を守ろうと思う。 人を殺したのなら、その分、人を護ろう。 それが僕に与えられた贖罪であるならば。 もう一度、僕は浴槽に潜った。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1702.html
甘い物には、中毒性というものが存在していると思う こればかり食べていては駄目だ、と頭でわかっていても、体はどうしようもなくその甘味を求めてしまう 一度、甘い物断ちをしたとしても、ちょっとしたキッカケで口にしてしまえば、台無しだ 体は再び甘味を求めて、止まらなくなる それは、スウィート・ポイズンも同じだ あの優しさは、優しさに慣れない人間にとって、高い高い中毒性を持っていると言って過言ではない かく言う俺も、あの優しさにほんの一度触れただけで、中毒になりかかっているのだから あれ以来顔を合わせたことはなく、遠くから何度か姿を見かけただけであるが為、重度の中毒には陥っていない だが、多分、何度か姿を見た時傍にいたあの男は、きっとどうしようもなくスウィート・ポイズン中毒に陥っているのだろう 遠くから見ても、それはハッキリとわかるくらいだったから とまれ、今回の話は甘い物の話なのだ その癖して、甘い物本体はカケラも出てきやしない ただ出てくるのは、どうしようもなく苦いビター・ポイズンだけ 名前だけを聞けば甘そうだと言うのに、そいつは間違いなくビター・ポイズンだった 何人もの命を奪い続け、その癖して自分はどこまでも平気な顔をして、貪欲に幸福をむさぼる存在 しかも、きっと通常ならば、そいつが人殺しであることなど全く気づかれる事なく…いや、きっと人間の法律で言えば、そいつは人殺しとして罰する事すらできないだろう 実際、あいつは自分の手で人を殺したわけではないのだから しかし、あいつは間違いなく人殺しだった あいつの能力でもって、死んだ人間はどれだけいたのだろうか? それは、俺にはわからない 多分、あいつ自身、そんなもの数えた事もないだろう あそこまで人殺しに躊躇しない人間が、そんな事を覚えているとは思えない あのお人好しのスウィート・ポイズンだったら、あのビター・ポイズン相手にどんな対処をしただろうか もしかしたら、説得でもしようとしたのかもしれない 何せ、あいつはどこまでもどこまでも、未成年相手に慈悲深いものだから 説得でどうにかなるかもしれない、と甘っちょろい考えを抱いた可能性は高い だが、あのビター・ポイズン相手に、そんな甘い戯言が通用するとは思えない スウィート・ポイズンのあの優しさも慈悲深さも、きっとあのビター・ポイズンには一生届かなかっただろう だから、あのビター・ポイズンと遭遇したのが俺で良かったと、そう心から思うのだ 「---っはぁ」 痛い 痛い、痛い、痛い 肩の痛みに、彼はうめいた 少年、と言うには少し大人っぽく、青年、と言うにはやや幼い風貌の彼 彼は、今、逃げている最中だった みっともなくも、敵の攻撃から逃げている最中だ …いや、これは敵の攻撃なのか? 厳密にそう言えるかどうかは、彼にはまったくわからない ただ、今、彼が負傷しているのは、間違いなく敵の契約している都市伝説によるものだった 「あぁ、くそ…どんな能力なんだ」 考えろ、考えろ 都市伝説契約者同士の戦いは、相手の能力を把握している方が、圧倒的に有利なのだ 逆に、相手の能力がわからなければ…それは、絶望的に不利な状況と言える いや、どちらにせよ…俺のように意思ある都市伝説と契約し、それと共に行動する人間は、そのパートナーたる都市伝説がいない、今の俺のような状況では…どちらにせよ、絶望的に不利である事に変わりは内のだが 人気のない路地裏を、一人で走る 相手に追いつかれる前に、相手の能力を把握しようと焦る彼の…その、頭上から 何かが…彼の頭目掛けて、落下してきた 「っうわ!?」 がしゃぁん!! すんでのところで避けたそれは、植木蜂 しかも、当然と言うか何と言うか、中身有りの植木蜂だ こんな、ものが頭を直撃したら、普通の人間は死ねる 「くそ、車に轢かれかけるわ、散歩中の犬に突然飛び掛られるわ、鉄パイプが一斉に倒れてくるわ…どうなってんだ」 なんと言う、不幸のオンパレード ………うん? 不幸?? 彼は、そのキーワードが引っかかった 「不幸系の都市伝説か?不幸の手紙…いや、住所不定の俺にそんな物届いていない…黒猫が前を横切ると…霊柩車の前では親指を隠して…くそ、どれも心当たりねぇぞ」 知っている限りの、対象に不幸を呼び寄せる都市伝説を想像する だが、それらのどの攻撃も受けた覚えがない 契約によって、なんらかの拡大解釈能力が備わっているなら別だが… 「----っと、うわっ!?」 直後 足元を、野良猫が駆け抜けた 黒猫でもなんでもない、ただのブチ猫 それが足元を駆け抜けた拍子に、彼はバランスを崩して……ぐきり 足を、くじいてしまった これでは、まともに走れそうにない…! 「…あぁ、やっと、動きが止まったかな?」 聞こえて来たのは、無邪気な声 声の方向に彼が視線をやれば、そこにいたのは少年 恐らく、彼よりも年下だろう 中学生くらいじゃないだろうか? ニコニコと、彼を見詰めている 「てめぇの仕業か、この不幸のバーゲンセール状態は」 「ピンポ~ン」 悪びれなく答えられ、彼はやや不機嫌になる 他人を不幸にして、こうやって痛い目にあわせてきているのだ ちょっとは、罪悪感を感じろと言うのだ ニコニコニコ 少年はどこまでも、無邪気に笑いながら彼を見詰めている 「お兄さんも、都市伝説契約者だよね?」 「…そうだと言ったら?」 「「組織」に入らない?」 …「組織」の関係者、か 彼は小さく舌打ちした 彼の「組織」との関係は正直最悪そのものである 初めて「組織」に誘われた時、「組織」に入らないならば始末すると言わんばかりの勧誘が嫌で、返り討ちにした それから何人か、「組織」関係者を返り討ちにしてきて…ある時出会ったあの優しい黒服に見逃されるまで、彼は何人もの「組織」関係者を殺してきた あの黒服に見逃された後でさえ、数人、自分を見つけて襲い掛かってくるなり勧誘してくるなりした「組織」関係者を殺している 「組織」にとって、彼は憎むべき対象しかないはずである 「何度も断ってるんだがな」 「うん、そうらしいね。でも、ね、「組織」はしつこいんだよ。「首塚」って相手を何度も管理下に入れようとして失敗して、何度呪われても懲りない人達が上にいるらしいから」 少年は、無邪気にそう言ってきた …ようやく 彼は、この少年の顔に、見覚えがある事を思い出す 昼間、街中を歩いてきて、自分にぶつかってきた少年 ぶつかった瞬間、何かを口走っていたような… 「---「ハッピーアイスクリーム、タッチ」……?」 「「ハッピーアイスクリーム」。それがボクの契約している都市伝説だよ」 無邪気に、そしてどこか自慢げに、誇らしげに、少年は笑ってくる 「本当は、相手と同じ事をほぼ同時に言った瞬間に、そう言って触らなきゃ駄目なんだけどね。契約のお陰で、そう言って触るだけでよくなったんだ」 「……ハッピー・アイ・スクリーム。『私は幸せを呪います』ってか?…駄洒落ってか、そんな都市伝説聞いたことねぇぞ」 「地域限定なマイナー都市伝説らしいからね。知らなくても無理ないと思うよ」 幸運を吸い取る この少年は、彼の幸運を吸い取って…そして、それ事態が「攻撃」になっていた、そう言う事なのだ 幸運を吸い取られる事で、極限の不運を手に入れた彼は、数々の不幸に見舞われた 一歩間違えば命を失いかねないほどの不幸を背負わされたのだ 攻撃されたせいだ、と気づかなければ、不幸な死にしかならない攻撃 なんと恐ろしい攻撃だろうか 「でも、お陰で便利な能力だよ?幸運を吸い取るから、ボクはとってもハッピーだし。気づかれずに殺せるから、暗殺向きなんだって」 「…つまり、お前はこの能力で、既に人を殺している訳だ」 「うん、そうだよ」 悪びれもなく 無邪気に無邪気に笑って、少年は答えてきた まだ、中学生くらいにしか見えないと言うのに その存在は、既に無数の命を奪っているとでも言うのか 「ボクの担当の黒服がね、「組織」の敵は皆殺しにしなさい、って言うんだ。だから、ボクは「組織」のためにお仕事してるんだよ」 「サイッテーな仕事だな。餓鬼に人殺しをさせるなんて」 …あのスウィート・ポイズンが嫌がりそうな事だ 間違いなく、この少年の担当黒服はスウィート・ポイズンでは、ない 「そう?楽しい仕事だよ。ボクが触っただけで、相手は面白いくらい不幸になって、面白いくらい簡単に死んじゃうんだから」 まるで、蟻の巣にお湯を注いだり、蛙の尻に爆竹を入れるのは楽しい、というのと同じ感覚でも抱いているかのように、少年は言い切った …人殺しに、一切の罪悪感も、躊躇も感じていない 他人の不幸を嘲笑い、他人の幸福を奪って自分だけが幸福になろうと言う、どこまでも自分勝手な存在 「…ハッピーアイスクリーム、なんて甘ったるい名前の癖に…とんだビター・ポイズンだな」 「びたー………?何??」 彼の言葉に、少年は首を傾げた が、すぐに、また笑ってくる 「まぁ、どうでもいいや。お兄さん、早く決めてよ。「組織」に入るのか、それとも、このままボクの能力で不幸に死んでいくのか」 どっち?と 突きつけられる、最後勧告 無邪気に笑ったままの少年を、彼は睨みつけた 「どっちもお断りだ」 「えぇ、お兄さんワガママだなぁ。選択肢はどっちかしかないのに」 「まだまだ選択肢はあるぞ。お前が俺を「組織」に誘うのを諦めたり、お前が死んだり」 彼の言葉に…少年は、ケタケタと笑った 嘲笑うかのようなその笑いが、彼を苛立たせる 「前半は、ボクが黒服に褒めてもらえないから駄目ー。後半は、無理無理。お兄さん、今、とってもとっても不幸なんだから。ボクを殺そうとしても、不幸にもお兄さんが死んじゃうだけだよ」 …一歩 少年は、彼に近づいてくる 「ナイフでも持ってて、ボクを刺し殺す?それとも、ボクの首を絞めて殺しちゃう?…お兄さんがボクをどう殺そうとも、お兄さんは不幸にも、逆に死んじゃうだけさ」 「…俺がお前を殺そうとしたら、か」 「そうそう」 一歩 また、近づいてくる 少年は、彼を恐れてなどいない ただ、嘲笑っているだけだ 「……そうか」 深々と、彼はため息をつく 相手が、自分の能力に無駄に自信を持ったバカで良かった そう、思いながら 「悪い、任せた。ククージィ」 と……誰かに、告げた 少年が、ハっとして辺りを見回す ばさり 聞こえてきた、何かがはばたく音 一匹の、小さな蝙蝠が…何時の間にか、少年に近づいてきていて 「まったく、仕方ないな」 そう、蝙蝠が呟いた、瞬間 蝙蝠の姿は、一人の西洋人の老人の姿へと変わって 「っい、いつの間に……っ」 逃げ出そうとした、少年の両肩を、老人は、がしりと掴んで ガブリ……その首筋に、噛み付いた びくりっ!と少年の体は痙攣したように震えて …ほんの、一分ほどの時間がたった頃には その体は、体中、全ての血液を失った死体へと、変わり果てていたのだった 「降ろせ」 「足をくじいた奴が何を言う」 「おーろーせ」 「誰も見ておらんからいいだろうに」 何が悲しくて、18歳にもなって爺におんぶされなければならないのか 彼は不満を訴えるのだが、足をくじいたせいでまともに歩けないのは事実 おぶられたままでいるしかないのだ、現実には 「わしがおらんと、お前はまったく病気をしなくて少し常人より体が丈夫なくらいのただの人間。もっと用心しろと言っているだろうに」 「…わかってるよ」 あの少年にぶつかられた時点で、気づくべきだったのだ 不審な行動や言動の奴に接触されたら、もっと用心するべきなのだから …まったく、何年都市伝説と付き合ってきたと思っているのだ、自分は その癖に、こんな不覚を取るとは 「だが、良かったのか?」 「…何がだよ、爺ちゃん」 「子供を殺してしまって。お前のスウィート・ポイズンは、子供が死ぬのを嫌がる男じゃろ?」 「……それは、そうなんだがな」 それは、間違いない だが、あれは殺すべき相手だったのだ 「あの餓鬼は、ビター・ポイズンだった。殺すべき対象だったよ」 「なら、いいんじゃがな」 苦い苦い、他者を平気で殺すビター・ポイズン 自分は、それを狩って行かなければならない スウィート・ポイズンの身の安全や願いをかなえるためにも この世に、ビター・ポイズンが存在していてはいけないのだ 「…爺ちゃん」 「なんじゃ?」 「そろそろ、学校町に戻らないか?」 彼の言葉に、老人吸血鬼はおや、と笑う 「おや…故郷が恋しくなったのか?」 「そうじゃねぇ…ただ、最近学校町で、事件が多すぎるから」 あの街に、異様に都市伝説が多いあの街に 今、どれだけのビター・ポイズンが集まってしまっているだろう それを、狩り立てにいかなければ 日本中、いや、世界中回って、たくさんのビター・ポイズンを狩ってきたのだ そろそろ、あの街に戻ってもいいだろう 「…まぁ、良いじゃろ。あの街に戻って、少し腰を落ち着けるのも悪くない」 彼と契約している老人吸血鬼は、深く追求はしてこずに ただ、己の契約者の要求を、飲んでくれたのだった 俺は、アイスクリームがあまり好きじゃない どうにも甘ったるすぎて、胸焼けがしてしまうのだ その癖して、一度口にするとまた食べたくなってしまって、何度も何度も、無性に口にしたくなる そうして、何度も胸焼けを起こしてしまうのだ だから、あまり好きじゃない 今回のこの事件のせいで、余計に嫌いになってしまった いや、アイスクリームに何の罪もない事は、百も承知なのだが アイスクリーム中毒になるつもりはない 俺は、スウィート・ポイズンの中毒になりかけなのだ これ以上、中毒物を増やす気にはなれないのだ fin 前ページ次ページ連載 - ビター・スウィート・ビターポイズン
https://w.atwiki.jp/sing-sh/pages/210.html
Elysion ~楽園幻想物語組曲~ < > Sound HorizonのMajor 2nd Albumにして4th Story CD。 ベルウッドレコードより2005.4.13に発売。 メジャー初のコンセプトアルバムである。 Arkはこれで最多の4回収録となった。 SHの中では最も人がたくさん亡くなっていると思われる。 Revo氏が人殺しソング界の貴公子として君臨。(同作ライブDVDより) なお、第一期の作品としてはこれが最後である。 通称:エリ組、テーマは「楽園と奈落」 収録曲 エルの楽園 [→ side:E →] Ark エルの絵本 【魔女とラフレンツェ】 Baroque エルの肖像 Yield エルの天秤 Sacrifice エルの絵本 【笛吹き男とパレード】 StarDust エルの楽園 [→ side:A →] ボーナストラック トラック12〜43(Silent Track) トラック44 トラック45(Silent Track) Bonus Extra TrackElysionシステムサウンド集起動音 終了音 ゴミ箱空音 メール受信音 エラー音 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/poke_ss/pages/1260.html
『12.最後の前』 43ページ目 「どこにどの部隊が配置されていて、更に本当に一時撤退から配置に戻されたのか、誰がどんな決定権を持っているのか、全く持ってわからない混乱した状況です。今埼玉はどうなっているのですか」 アメリカ大使館の中でえらいひとがえらいひとに愚痴る。 「愚痴るって何か他に表現あるだろ。まぁ、今のところわかっているのは南から再配置が進んでいるため北は撤退命令の出なかったスナイパーばかりということ。兵の配置に関しては多少の混乱はあれどきちんと機能するはずだ。問題は……」 愚痴られた人が言葉を切って窓の外の空を眺める。 「監視の目として使うはずのヘリコプターが2機も落とされたことによる目標捕捉の遅れだ。お陰で監視カメラも併用しているにも関わらず佐藤光聖、水素、入間向陽高校から逃げ出した生徒の3人を見失った。平行の死亡報告は受けたが……それでもまだ1/4だ。 どこにいるんだ……人殺しのガキ共は」 次へ トップへ
https://w.atwiki.jp/rayvateinn/pages/110.html
炬燵外伝 囲炉裏と腹黒店員はルパンをおいて逃げていた 凄く……凄くかなしい…… ルパンは人殺しなんてしない……いや、出来ない気がする…… だからもしかすれば………。 頼むよルパン 生きててくれよ…… 「ガッハッハー!お前達ぃ!殺し合いは順調に進んでるかっー?」 「うわあああっ」 突然聞こえてきた声にびっくりする囲炉裏 「……囲炉裏さん うるさいです」 「あ、ごめんなさい……」 画面よりも驚く時の声のがびっくりする囲炉裏の叫びは、うるさかった ぐろてんはそんなことがここで本当に感じられた 「というか、放送らしいですよー!」 そういえば放送が流れているってことを囲炉裏さんは忘れてそうな気がします 「あ、そうだった………」 囲炉裏はやはり聞き逃していた ぐろてんも囲炉裏の声で聞けなかった 第一回放送は知らぬ間にどのくらい進んだのか? 「んじゃ次は死亡者の発表だー。」 丁度……なのか? 次のテーマに移り変わったみたいだった ちょっと安心……? 静かに死亡者の名前を聞く二人 二人は同じことを思う 何故人が殺されたんだ……と 殺し合いだからと言えばそれで終わるが たとえそれでも殺し合いはおかしい!ということが二人の中で改めて感じられた そして最後の死亡者の名前を聞いた時…… 「――るぱん3rd――」 「!!」 「!!」 二人は同時にドクッとした るぱんという名前といえばさっき…… 「以上の13名だー(ry」 放送が終わった頃には二人は口が閉ざされていた 言葉にできない さっき別れたルパンがしんだ……と勘違いしている だが、そんなこときづかない 先に我に返ったのはぐろてんだった 「あ、あの……囲炉裏さん……」 「わっ!!」 ぐろてんの声で我に返った囲炉裏 「え、えっと……るぱんって……」 ぐろてんがそう言うと囲炉裏は黙りこくる この場に沈黙が流れる 「ま、まてまて!!」 囲炉裏が突然口をあける ぐろてんは少しびっくりしたが、静かに聞く 「落ち着け落ち着けもちつけ!とりあえずさ 隠れないか!?そのだな…… ルパンが殺された………のはかなしいけどさ………殺したヤツに追われてるかもしれないでしょ?」 囲炉裏がいうことは大体合っている リンクはルパンを殺した しかしるぱんは殺してないが…… 「で、ですね……だったらあの建物がいいかもしれませんよ!」 ぐろてんが指した所にはデパートがあった 何故こんなところに……って思ったが囲炉裏は気にせず―― 「うんうん、そこいこう!」 「はい!」 二人はデパートへ歩きだす……いや、走り出す 一刻もはやく、行きたかったんだったと思う…… ルパンの死へのかなしみは解けない だが、しかし二人はさらに重大なことをわすれていた ―――禁止エリア情報であった…… I-5 腹黒店員(ぐろてん・ぐろこ)@ゲーム実況者 状態:健康 ぐろこ化(ロリ化) 悲しみ 装備:ゴスロリセット(黒)@現実? 道具:基本支給品 毒薬@現実? オレサマニンニク@スーパーマリオスタジアムミラクルベースボール 1、囲炉裏さん達 実況者に姿を見られたくない(正体を知られたくない) 2、守られる姫の立場・・・いいね! 3、ルパンさん……… ※不思議な箱は使用済なので消滅しました ※禁止エリア情報を聞き逃しました I-5 囲炉裏@ゲーム実況者 状態:健康 悲しみ 装備:なし 道具:基本支給品 ポテトサラダ@現実 ファイアの本(5回)@チョコボのダンジョン他 レッドスター@マリオギャラクシー 1、人殺しはしない 2、幼女は俺が守る!(現在:ぐろこを守ってる) 3、ルパン…………… 4、とりあえず落ち付いて隠れよう! ※ぐろこが腹黒店員ということは知りませんが、少し疑ってます ※禁止エリア情報を聞き逃しました sm071 一万年と二千年前からアイシクルフォール 投下順 sm073 月時計 ルナ・ロワイアル『Ⅰ』 sm050 三国市の伝説 囲炉裏 sm088 幼女をください sm050 三国市の伝説 腹黒店員 sm088 幼女をください
https://w.atwiki.jp/nrks/pages/889.html
彼らは悪事を働くための機械だ 【概要】 スクラップズと協力関係にある犯罪者一家であり、先祖代々の人殺し稼業の一族。 廃の国に何らかの因縁があるらしく、それに纏わる目的のために『スクラップズ』と手を組んでいる。 『スクラップズ』が属するカノッサ機関とは直接の関わりはなく、外部協力者の立場にある。 一家で唯一の堅気であるギア・ボックスが所属するUNITED TRIGGERとは敵対しており、『スクラップズ』による宣戦布告の際にも同行していた。 婿養子である現当主ヴォルドゥを除いて、全員が『身体をゲートとして異空間に何かを収納する能力』を有する。 収納できるものはそれぞれ違う。 【家族構成】 父 現当主 〝ブルータル・サイボーグ〟ヴォルドゥ・ボックス 母 〝喪主〟ナティア・ボックス 長男 〝冷血鬼〟レバーズ・ボックス 次男 〝嘲る悪魔〟スピードル・ボックス 三男 〝玩具屋義士〟ギア・ボックス 長女 〝無垢なる狂気〟ベティー・ザ・ブラインド(ベアトリング・ボックス) 【関わった事件】 ヴェンドゥラー奪還戦
https://w.atwiki.jp/okitaworld/pages/141.html
▽登場作品 アステールクライ エルフ ケツァルコアトルの末端 名前【ナハト・カルテーロ(Nacht・cartero)】 性別【女】 身長と体重【136cm36kg】 国籍【ベスティアメール】 種族【エルフ】 通称【黒カギの運び屋さん、ナトさん】 ICV【小澤亜李】 「次の宛先は危険地区?ま、なんとかなるっしょ」 アホ毛のある揉み上げが長いショートヘアに草色の瞳を持ち、年齢に似合わない数の修羅場を潜り抜けた運び屋のエルフの少女。 方言交じりに話し、「なんとかなる」が口癖。 そのボーイッシュな出で立ちから男に間違われることもあるが本人は気にしてない。 面倒見が良くフレンドリーで世話焼き。 夜空と歯応えのある食べ物が好きで、見晴らしが良いという理由で屋根に飛び乗る等やや高所を好む傾向がある。 自作ミサンガやシャツのボタンをつけ直したり、裁縫や編み物は得意な様子。 他者の死を人一倍恐れており、人殺しが大嫌い。 「新入りの世話焼くのは先輩の特権だべ」 「これ位舐めときゃ治るじゃん、気にすんな」
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3048.html
【上田明也の探偵倶楽部35~君の願いを僕の祈りを~】 COAと呼ばれるネットゲームをやったプレイヤーの中で行方不明者が続出している。 そのような噂が出始めてからすでにいくらかの時間が経っていた。 俺はその噂を調査する依頼を受けてCOAの世界に都市伝説「赤い部屋」の力で入り込んでいた。 今回の舞台は冬の国である。 その中でも北の果て、最北の村に俺達は足を運んでいた。 「おお、そこの旅の方、今我々の村では巨大な竜と狼の群れに悩まされているのです。 どうかお助けください!」 「ニア『はい』」 「……ニアってなんでしょう?」 「勘違いだ、俺は『はい』としか言っていない。 ゲーム世界なんだし細かいことは気にするな!」 「……そうですか。」 「おお、ありがとうございます旅のお方! 竜はこの先の洞窟に隠れ住んでおります!」 「いえいえ構うことはありませんよ、私は世の為人の為に旅しているのですから。 さ、行きましょうか茜さん。」 「あ、待ってください旅の方この先は!」 「いざ行かん、無限の彼方へ!」 「あーあ、行っちまった……。」 この世界で俺はいかにも徳の高そうなお坊さんのふりをしている。 特に理由はないが西遊記を気取りたくなったのだ。 丁度俺の契約した都市伝説の「赤い部屋」が使うPCの鎧の下は獣人っぽい姿なので今の俺はまさに三蔵法師のような雰囲気だった。 「明也さん、このクエストが終われば聖杯までは残りわずかです。 途中で邪魔が入らなければすぐにでも目的の物は手に入るでしょう。 でも…………。」 「でも?」 「最初、ここに来た目的って行方不明者の捜索じゃなかったですかね?」 「ああ、そういやそうだったね。 でも誰々を助けてこいとは言われていない。 むしろ聖杯を見つけてくることの方が優先だぜ?」 「どうせ本物の聖杯じゃない、玩具なのにですか? 現実に持ち出せても大した意味が有るとは思えないんですけど……。」 「うーん、俺の予想だけどね。 確かにあれは偽物の聖杯だろう。 何の魔力も奇跡も帯びていないかもしれない。 でもあれを聖杯と見なしてサンジェルマンが何か細工をすれば、 聖杯を呼び出す道具にはなるんじゃないかな?」 「そんな滅茶苦茶な話が有りますか?」 「ああ、無いね。 もしそうなったとしても土壇場で俺がそれを奪う。 まあ本当の理由なんて結局暇潰しなんだよ。 俺も暇、奴も暇、黙って暇するくらいならそんな妙な物の探求にかけた方が生産的だよ。」 「堕落してますねえ……。」 「高みに登った人間にしか堕落は許されないんだ。 堕落は高等な人間の特権だよ。」 下らないことを喋り続けながら旅は続く。 村を出るとそこは一面の銀世界。 氷と雪とでがちがちに固められていた。 この前まで居た砂漠とは打って変わって今度の旅は極寒の大地。 この先はあまりの暴風雪で移動もままならないようだ。 「犬ぞりとか……必要じゃないですか?」 「くっ、駱駝一号を乗り捨てたのが失敗だったか。」 「だから連れて行こうと言ったじゃないですか!」 「おおい旅の方! ここから先は犬ぞりがないと進めないよ! ソリなら家にあるから買っていくかい?」 「っくそ!ドンピシャじゃないか! どうせこの村で手に入るんだろう犬ぞり!?」 「いいえ、少し戻った森林地帯でわんこを買わないと……。」 「なんでそういうこと言わないのかな茜さん?」 「言いましたよ、明也さんが聞いてないだけです! クリア経験者の話はちゃんと聞いてください!」 「くそっ、こうなったら……!」 「あっ、危ない!」 俺は足が凍るように冷たくなるのにも構わずに雪の嵐の中に踏み出した。 白い嵐の中に黒い影が舞う。 一匹、二匹、三匹、その影は時と共に増えていく。 雪原―――彼等の狩猟域――の中に一人迷い込んだ哀れな獲物を確実に仕留めるという意志の下でその個体共は群体になる。 黒い影、ここら一帯を縄張りにする狼たちはその時、紛れもなく飯にありついたと思い込んでいた。 そしてついに功を焦った一匹が獲物に飛びかかり、 それに続いて二匹目三匹目が飛びかかり、 大量の狼たちが雪原に迷い込んだ男に襲いかかった。 だが、群れのボスだけは違った。 彼は気付いていたのだ。 ガチャリ 弾丸が装填される音 まあ気付いていたところでどうしようもない。 背後で起こった爆音に振り返る狼たち。 音の中心には哀れな姿で転がる彼等のリーダーと、この俺上田明也。 「はっはっは、この俺様がこれからは群れのリーダーだ!」 バリバリ日本語なのだがどうやら狼には通じているようだ。 何匹かの狼は俺大して戦意むき出しである。 「文句のある奴は全員かかってこーい!」 そう言う前に何匹かの狼は俺に飛びかかってきた。 さて十分後 俺は先ほどの村に無事帰ってきていた。 「……ただいまー。」 「おお旅の人、お連れさんが心配していたよ……ってうわ!?」 村のおじさんが凝視しているのは俺についてくる狼の群れだ。 普段襲撃に悩まされている村人はさぞ肝が冷えたに違いない。 「おっさん、犬ぞり売ってくれ。」 「あと俺の連れも呼んでおいてくれ、今からこいつらにソリ引っ張らせるから。 村には入らない方が良いだろう?」 「あ、ああ急いで呼んでくるよ。」 さて、これであとはドラゴンを倒すだけだ。 俺はそう思って煙草を一服することにした。 気付くと俺の後ろに子供が一人立っていた。 男の子だ。 ヤケに暗い眼をしている。 「あの、お兄さん?」 「ん、どうした坊主。」 「お兄さんって…………、ハーメルンの笛吹き男?」 「いいえ、僧ですよ。」 俺の正体を知っている? 妙なガキだ、幸い穀雨も居ないし……殺そう。 俺は迷うことなく冬の大気に冷えたモーゼルの引き金を引いた。 冬の澄んだ空気に殺伐とした銃撃の音が響く。 何度でも何度でも、有らん限りの弾を撃ち込む。 俺も流石にこれだけで少年の命を刈り取れるとは思っていなかったが…… 「これは、へこむぞぉ?」 「お兄さんがハーメルンの笛吹き男なら、僕のおじいちゃんの仇だよ。」 俺が撃ち込んだ銃弾を少年は全てつかみ取っていた。 「だから、僧だよって言っているじゃねえか! 何か文句有るのか?」 「わかったよ、そうなんだね。」 「そうじゃねえ!僧なんだ!」 次の瞬間、少年は見た目からは予想も出来ないような動きで殴りかかってきた。 その拳は俺の顔面に触れる直前で見えざる手に弾き飛ばされる。 「……糞餓鬼め、人間のくせにこの俺に都市伝説使わせやがって。 恨みなら買う覚えは幾らでもあるが雑魚らしく素直に近代兵器でくたばりやがれ。」 俺はスカイフィッシュの都市伝説で少年の身体を思い切り弾き飛ばしたのだ。 しかし、本来であればスカイフィッシュの速度で少年の身体は両断される筈だった。 目論見が外れた、か。 異常に丈夫だ。 丈夫ではあるが、都市伝説の気配は感じない。 そもそも都市伝説の気配が無かったからここまで丈夫だとは思わなかったのだ。 「お前のせいでおじいちゃんが死んだんだ!」 「おじいちゃんおじいちゃんうるせえよ! 可愛い女の子でもないくせにおじいちゃん連呼するんじゃねえ! きもいわ!ていうか老若男女殺しまくっているから誰のことかしらねえし!」 「馬鹿にするな!僕にとっておじいちゃんはたった一人だったんだ!」 「あ、でもお前女装させれば結構可愛いなあ。 良いぞ、俺の命をいつも狙う女装っ男。 毎晩悔しさに歯がみしながらも快楽に溺れていく訳だ。 良いぜ良いぜ、お前、かかってこいよ。 返り討ちにして下僕にしてくれる。」 「…………?」 「あ、ごめんね。まだ早かったよね。 大丈夫、君を足腰経たなくしてからゆっくり教え込んであげるから。 無論、身体にな。 さーかかってこい糞餓鬼、お前のおじいちゃんの仇は多分俺だ。」 「やっぱりそうなんじゃないか! あの金髪のおにいちゃんの言うとおりだっ――――――!」 其処まで少年が言いかかったところでスカイフィッシュの一撃が入る。 今度は良いところに直撃したらしく、赤い血が……? 違う。 血の色が違う。 白い、真っ白だ。 「……お前、人間か?」 「知らないよ、僕は金髪のお兄ちゃんにこの力を貰ったんだい!」 成る程、俺の為に面白い趣向を用意してくれたらしい。 俺は中々気の利く友人をもてたようだ。 「そうかー、じゃあ残念ながらそのお兄ちゃんは俺の友達だ。 君はきっと俺に遊ばれる為に力を与えられたかわいそうな子だよ。」 「そんなことないもん! 金髪のお兄ちゃんは人殺しなんて許せないって言っていたもん!」 「そーなのかー、じゃあもっと残念なことに君も人を殺そうとしている訳だ。」 「――――――――――!?」 「もっと気になるんだけどさ、君のおじいさんってそもそも人だったのかな? 人殺しが許せないんだよね? まあそうだよね、その感覚は普通だ。 でも君のおじいさんはじつは邪悪な悪魔で世界征服を狙っていたと言ったら信じるかな?」 「そ、そんな馬鹿なこと……」 「ああ、あり得ないね。だって今の嘘だもの。 君のおじいさんは俺の手にかかってそれは残酷に死んだよ。」 酷い嘘だ。 俺はさっきまでお前の爺さんなんて覚えていないと言ったのだ。 その通り、俺はまったくこの可愛らしい少年の祖父など覚えていない。 「でまあここで質問。 君は人殺しについてどう思っているんだ? 人殺しが許せないんじゃないだろう? おじいちゃんを殺した人間が許せないだけだ。 俺が人間を殺した事なんてどうでも良いと思っている。」 「そ、そんなの、人を殺しちゃ駄目じゃないか!」 「じゃあなんでお前は俺を殺そうとしているんだ! 矛盾しているじゃないか!え? 俺は良いと思ってるね、俺にとって邪魔なんだから人の一人や二人勝手にオッ死ねと思ってるよ。 お前は人を殺せないなら俺を殺すな!俺こそが間違いなく人間だ!」 「ぼ、僕は人だって殺せるもん!お前はじいちゃんを殺したじゃないか!」 「この人でなしが!お前のお父さんお母さんはそんなことさせる為にお前を生んだんじゃねえ! お前に幸せになって貰う為に生まれてきたんだ!」 「お前を殺さなきゃ僕は幸せに……」 「なれないと思うか? 逆に聞くぜ、いくら仇でも人を殺してしまったお前を受け入れてくれる人間は居るのか? お前の両親ですら人殺しのお前を受け入れてくれないだろう。 お前は人を殺さない方が幸せになれる! さぁ殺すな!全力で俺を殺すな!」 そう言って俺は自らの身体に深くナイフを突き立てた。 「ほら、見ろ! 見てみろ!これが人間の身体だ! 血がどくどくと流れている。 このまま放っておけばあと数分保たずに死ぬ! お前の仇はこんなにあっけなく死ぬんだ! そしてこんなあっけないものを殺すだけでお前の人生もあっけなくお了いになる! 嫌だったらさっさと助けでも呼んでこいよ! ほら!急げ! このまま見捨てたらお前は人殺しだぞ?」 「う、う、うわあああああああああああああああ!」 「ほら、やっぱり殺せないんじゃないか糞ガキめ。 だったら人を助けて生きて行きなさい。 その方が君に向いている、さあまずは俺を助けたまえ。」 少年は助けを求める為に村の中に走っていった。 それを確認してから俺は自分の身体に回復薬をかけた。 五分後 俺は村の人と茜さんを連れてきた少年に説教と言う名の洗脳を始めていた。 村の人にはさっさと帰って頂いた。 「そうだよ、『君は人なんて殺せない心優しい男の娘』だ。 良かったね、君の手が赤く染まらなくて俺はとても嬉しいよ。 そのまま『復讐なんてやめるんだ』。 君のおじいさんを殺してしまったことは俺も正直悪かったと思っている。 今からでも謝らせて欲しいくらいだよ。 君の体を弄った男について俺は知っている。 俺の昔なじみの友人でね。 先ほど言った通り彼の娯楽の為に君に何かして俺と戦わせていただけだと思うんだよ。 あいつは俺のことを憎んでいたからなぁ……。 まずは俺と一緒に来い。 そして布団を敷こう、な? そういえば君は俺の名前を知らなかったね。 俺の名前は笛吹、笛吹丁だ。 さあついてきなさい、あと君の名前も教えてくれよ。」 「え、ああ…………。僕の名前は……」 少年が口を開いた瞬間だった。 彼の身体が一瞬で火に包まれる。 彼の命が燃え墜ちる。 「―――――――!?」 「裏切り者め…………、簡単に踊らされやがって!」 今度は俺と同じくらいの年頃の男性が村の入り口に立っていた。 腕に炎を纏っているところから見ると少年を灰に変えたのはどうやらこいつらしい。 「しかもサンジェルマンまで俺たちを騙していたっていうのか!? まあ良いや、ハーメルンの笛吹き、名前は笛吹丁だな……。 覚えたぞ!」 そう言うと男はもの凄い速さで逃げ出した。 俺に勝てないと踏んだのだろうか? 「待て!」 と言って待つ道理はない。 男は一瞬でその場から消えてしまった。 「チッ、おいそこのガキ! 大丈夫、……じゃあねえな。 ゲームの世界だから死んでいるのかどうか解らないが……。 もしかして俺余計なこと言っちゃったかな?」 「明也さん……。」 「ん、この子供はまあどうでも良いよ。 それよりも我が友の実験の邪魔しちゃったかもしれないのが心苦しいなあ……。 さっ、急いでドラゴン狩って現実世界に戻ろうぜ。あいつから今の奴らについて話聞かなきゃ。」 その時茜さんは泣くような脅えるような顔をして俺を見た。 彼女の気持ちは解るのだが、同じ気持ちになれる訳じゃない。 彼女もまた俺の気持ちなんてわからないのだ。 ああ、俺の気持ちを解らない奴なんてみんな居なくなっちゃえば楽だろうに。 【上田明也の探偵倶楽部35~君の願いを僕の祈りを~fin】