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58巻 > 第188話 第188話 「"傲慢(ごうまん)"の代償!!」 掲載期間:2016年11月21日~2016年11月27日 AAを貼る場合上段のメニュー→「編集」→「このページを編集」。 AAの前に #aa{{ を、AAの後ろに }} をつけてください。 コラを載せる場合上段のメニュー→「編集」→「このページにファイルをアップロード」。 アップロード後に「編集」→「このページを編集」し、 #ref(添付ファイル名) または #ref(ファイルのURL) を記入してください。 闘将(たたかえ)!貞治!
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2020年8月8日 出題者;ウルリク タイトル:「嘘の代償」 【問題】 コシミは嘘を付いたせいで死にかけた。 状況を説明して下さい。 【解説】 + ... コシミは彼氏のタカフミとバンジージャンプに来ていた。 バンジージャンプはロープの伸びを体重と計算するので係員から体重を聞かれたコシミは50キロと言った。 しかし本当は60キロあったコシミはそのまま落ちて川に頭から突っ込んでしまい、危うく石に頭を打ち付けるところだった。 頭だけびしょ濡れのコシミを見て大笑いしたタカフミだった ※某ぽっちゃりアイドルのエピソードが元ネタ 《実話》 配信日に戻る 前の問題 次の問題
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← 戦いが始まったと分かれば杉元のスイッチが即座に切り替わる。 全方位から常に死が迫る日露戦争を、骨の髄まで味わって来た男だ。 動くべき時に動けない愚行を今更犯す筈も無く、右手を跳ね上げ引き金を引く。 コルト・パイソンが火を吹き、肉の壁と見紛う脚を食い千切った。 更には内部で爆発した弾丸が神経を破壊する。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』 残念ながら巨人への効果的なダメージにはならない。 対未確認生命体用の特殊弾も、規格外のサイズを誇る巨人相手では豆鉄砲に等しい。 的が大きい故、自他共に認める射撃下手の杉元でも当てられるのはほんのちっぽけな慰めか。 大した傷で無くとも攻撃は攻撃、小癪な真似に出た一匹の虫が最初の標的に選ばれた。 地上の蟲に鉄槌を下す神の如く、上空より襲来する足底。 大質量の急接近に空気が悲鳴を上げ、危機感をこれでもかと高めさせた。 道で蠢く目障りな蟻を潰すように、人間一人の命が容易く奪われる。 だが自らの終わりを黙って受け入れるかは別。 纏わり付く死を幾度となく跳ね退けたからこそ、只の人間でありながら不死身の異名を手に入れた男なら尚更だ。 迫る脅威を火薬に、自らを弾丸に変え疾走。 蓬莱人の身体能力でも十分な距離を取らねば無事では済まない。 「うおおおっ!?」 回避成功を喜ぶ暇もなく、振り下ろしたばかりの足が襲って来た。 たっぷり蓄えた猪のような親指が視界いっぱいに映り込む。 骨が折れる程度では済まない、半身が粉砕されるのは確実。 「甜花!」 「う、うん……!」 死を遠ざけ、巨人に立ち向かうのは杉元一人の役目に非ず。 金塊争奪戦でアイヌの少女や脱獄王がそうだったように、此度も彼の仲間が黙っていない。 ビルドと斬月、合図へ頷き二人の戦士が銃撃を開始。 ライドブッカー、ドリルクラッシャー、無双セイバー。 三つの銃口から放たれたエネルギー弾が巨人の足を狙い撃つ。 爪が割れ肉が弾け飛び、病院前の地面を赤く彩る雨が降り注ぐ。 「痛っ!爪!爪が当たった!」 杉元の額へ爪の欠片が突き刺さったが事故である。 ともかく蹴りの勢いが僅かに弱まり、反対に杉元は両脚の筋肉を総動員。 数秒前までの位置を巨人の足が通過、背中へ嫌な風圧を感じながら跳び退いた。 仲間への援護が上手くいった代償として、怒りの矛先が二人のライダーに変更。 同じ銃撃でも威力で言えば彼らの方が上、しかしうなじ以外の攻撃は決定打になり得ない。 再生が始まっている足で地面を踏みしめる姿から、エネルギー弾が堪えた様子は微塵も無し。 殲滅を促す脳からの指令と、絶えず湧き出る憎悪に突き動かされ拳を振り下ろす。 拳一発蹴り一撃が災害級の威力だ、直撃すれば仮面ライダーの装甲があっても無事では済まない。 「ま、やっぱりそう来るよな…!」 敵意が今度は自分達に向けられるのも承知の上だ。 巨人の蹴りを杉元が躱した時点で、ビルドはとっくに次の行動に出ている。 ライズホッパーに跨り、後ろに斬月を乗せ準備完了。 拳が地面に叩きつけられたのは猛発進した直後のこと。 「ひぃん……!は、速い……!」 「キツいだろうけど振り落とされるなよ!」 猛スピードで駆けるライズホッパーに、斬月は目が回りそうだった。 変身せずにいたら確実に地面を転がっていただろう。 とはいえ相手が相手だ、ビルドだけならまだしも斬月が一緒ならばこれくらいの機動力は必須。 巨人が大股で一歩踏み出せば、たったそれだけで呆気なく追い付かれる。 加えて巨人は肉体の密度が薄い、巨体に反して俊敏な動きも可能という厄介さ。 巨人討伐に慣れた調査兵団であっても、基本は『遭遇しない』のを大前提とする理由の一つ。 しかしライズホッパーは、飛電インテリジェンスが開発を行ったスーパーマシンだ。 全速力の巨人であっても簡単には追い付けない。 これが殺し合い開始直後のような暴走だったら、巨人はビルド達から引き離されたままだろう。 されど忘れるなかれ、今の巨人は洗脳と憎悪の影響で対象の殲滅に最適解を弾き出す殺戮マシーン。 速度で勝る相手だろうと決して逃げられない。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』 大地を陥没させん程に踏みしめ跳躍。 ただそれだけで暴風が巻き起こり、装甲越しから容赦なく叩きつける。 上空から眼下の標的へ狙いを定め拳を突き出す。 落下の勢いも上乗せした一撃の急接近は、走行中のビルド達へ更なる警鐘を鳴らす。 ライズホッパーの速度を上げるも猛烈な悪寒は消えてくれない。 ビルドの脳がフル回転し次の行動を決定、走っているだけでは拳を避けるのは不可能。 だが手はある。 「ちょっとだけ無茶やるから耐えてくれ!」 「えっ?ひゃっ、きゃああああああっ……!?」 拳が振り下ろされた先に哀れな死体は無い、潰された地面が見えるだけだ。 直撃の寸前にハンドルを操作し、何とライズホッパーは前方へと大きく飛び跳ねた。 地面を離れ宙へと逃げ込んだ安心は長続きせず、再び脅威が急接近。 どこへ行こうと関係ない、降り立つ前に捕えるべく巨人は反対の手を伸ばす。 巨大な掌に掴まれ、後は握り潰されるか腹の底へ真っ逆様の二択。 尤も、それを予測できないビルドではない。 斬月の手を取り、ライズホッパーを乗り捨てる形で跳ぶ。 落下するバイクには目もくれず、伸びたままの腕へ着地。 じっとしていれば摘ままれるか潰されるかだ。 ラビットフルボトルの成分でハイジャンプを行い、巨人から遠ざかる。 無論、巨人がそのまま見逃すのは有り得ない。 「ピ~カ~!!」 相手の動きに注意を払い続けるのはこちらも同じ、でんこうせっかで追いかけて来た善逸が妨害に動く。 鬼との戦い、特に上弦や無惨との死闘では1秒たりとも集中力を切らせなかった。 僅か一瞬の気の緩みが即座に死へ繋がるのを、嫌と言う程に知っている。 気絶しそうな恐怖の中でも巨人から決して意識を逸らさず、ピカチュウのわざを発動。 天空より降り注ぐ一筋の光。 神が下す裁きの如く、眩い雷光が巨人を――貫かない。 「ピカ?ピカアアアアアアア!?(あれ?ええええええええ!?何で!?今雷落ちたよね!?)」 まさかの大外れに、たちまち頭はパニック状態。 巨人目掛けて雷を落とした、自分の攻撃なんだからそれは間違いない。 なのに当たらなかったのは一体どういう訳か。 幾ら何でもあんな巨大な相手に外す、なんてことはないだろうに。 DIOや姉畑相手には綺麗に命中したのが、何故今に限って外れるのだろうか。 かみなりはでんきタイプのポケモンが使う中でも高火力のわざだ。 しかし10まんボルト等と違い、常に必中する訳ではない。 天候によって命中率が左右され、晴天時には半分の確率でしか当たらない。 現在は日がほとんど沈んだ為、晴天時程低くはないがそれでも確実に命中するかと言えば否。 雨天時に起きたPK学園での戦いの時とは異なり、こういったかみなりが外れる事態も出てくるのである。 そういったポケモントレーナーの常識を善逸が知る訳が無く。 まして対峙中の巨人にはもっと関係無い。 『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』 また一人滅ぼすべき者が目の前に現れた。 それだけ分かれば十分であり、それ以外を考えなどしない。 完全に再生を終えた足が地面を蹴り上げる。 拳の餌食に選ばれたのは、人間よりも小さな生物。 なれど巨人が止まる理由には断じてならず、振り下ろす鉄拳はさながら巨岩の投擲。 青褪め甲高い悲鳴が耳を劈こうとも知ったことではない、黄色い体躯が拳の真下に消え失せる。 手をどかせばそこには赤い染みが、見当たらなかった。 「ピ、ピカ~~~~~~!!!!!」 汚い高音の叫びは標的がまだ無事な証拠。 音の発生源を即座に探し当て、我武者羅に駆け回る黄色い体躯を睨み付ける。 但し巨人が見たのは、複数体のピカチュウが逃げる姿だった。 「ピカピ!?ピッピカチュウ!?(ってあれ!?なんか俺増えてる!?)」 自分のことながら善逸も困惑を隠せない。 これもまたピカチュウが使えるわざの一つ、かげぶんしんだ。 名前の通り分身を作り出し、攻撃の回避率を上げる効果を持つ。 今さっき潰されたのは分身の一体であり、本体はこうして逃げ延びた。 増えたなら纏めて潰せば良い。 巨人が足を振るえば、たったそれだけで分身全てが薙ぎ払われて消滅。 あっという間に本体一匹へ逆戻り。 再度かげぶんしんを行う余裕は与えず、掌が善逸の逃走を阻む。 「どおおっせええええいっ!!!」 なれば巨人を阻む者もまた、当然の如く現れる。 颯爽と駆け付けた不死身の杉元、抜き放つ得物は和泉守兼定。 鬼の副長と恐れられ、英霊にまで至った剣豪の愛刀。 杉元が知る老剣士程使い慣れてはおらずとも、蓬莱人の身体能力と自らの技能で補う。 気合一閃を絵に描いた刃は、巨人の指を数本纏めて斬り落とす。 「ついでにこれもだ!」 善逸を掴む筈の指が無くなり、黄色い獣はすり抜けるように逃げた。 憎悪の矛先は最初と同じく杉元へ変更。 だが杉元は動じない、殺気だなんだを向けられるのは最早日常茶飯事。 刀を納め両手を自由に、翳した掌から火球を連続で発射。 弾幕ごっこと違って見栄えを全く考えない、威力優先の火炎地獄。 たちまち肉が焼ける臭いが立ち込めた。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 それがどうしたと言わんばかりの咆哮。 体中が焼かれようとも知ったことか、火球諸共薙ぎ払う。 腕を振るう単純な動作が、まるで大木を叩きつけたかの強力無比な一撃と化す。 跳んで避け切れるかは微妙なところ、自ら地面に倒れ込みやり過ごすのを選択。 頭の上を大質量が横切る感覚、思わずヒヤリと寒気が走った。 「杉元!」 自身を呼ぶ声に何だと聞き返さず、意図を察知し急ぎ後退。 入れ替わりに前へ出たビルドがカードを取り出す。 巨人と目が合い、こちら何をする気か察したかは不明だが腕が伸ばされた。 次の手に出る前に叩きのめすつもりか。 『メロンスカッシュ!』 突如横合いより投擲された物体が腕に命中、肉を削ぎ骨を砕く。 ロックシードのエネルギーで強化されたメロンディフェンダーだ。 敵の意識が外れたなら大技をぶつけるチャンス、ゲーム内でのお約束である。 これは画面の向こうの世界では無く現実で、実行に移した斬月は緊張感に襲われているが。 『FAINAL ATTACK RIDE BUI・BUI・BUI BUILD!』 斬月が標的にされる前にビルドも動かねばならない。 ディケイドライバーにカードを装填、解放されたエネルギーがグラフ型の滑走路を作り出す。 スマッシュを撃破した蹴り技はここでも健在、グラフを滑り急加速し巨人へ足底を叩きつけた。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!??!』 咄嗟に両腕が伸ばされるも、瞬間的なスピードはビルドに軍配が上がる。 脚部へ当たった足底のキャタピラが高速回転、蹴りの勢いに加えて皮膚を削り取っていく。 時間を置かずに再生こそされるだろうが、巨体を支える箇所の損傷だ。 巨人の体勢が崩れ膝を付く。 痛覚が薄い巨人が痛みへ叫ぶことはない、代わりに悉く小賢しい真似に出た者達への憎悪を一層滾らせる。 そしてこの瞬間に5人目の戦士が動く。 「変身!」 『蒼き野獣の鬣が空になびく!ファンタスティックライオン!流水三冊!紺碧の剣が牙を剥き銀河を制す!』 物語の語り手を思わせる電子音声が剣士の降臨を知らしめる。 青い装甲と胸部のライオンはそのままに、より重厚さを増した姿。 右肩には神獣が、左腕にはおとぎ話の力をそれぞれ纏う。 神楽も一度は見たが、自身が変身を行うのはこれが初めて。 仮面ライダーブレイズ・ファンタスティックライオン。 三冊のワンダーライドブックで変身するブレイズの強化形態。 「おっしゃ!やってやるアル!」 巨人は膝を付き、意識は完全にビルドら4人へ向けられている。 少し離れた位置でブレイズになったブレイズは完全にノーマーク。 康一を助け出すには正に絶好のタイミングだ。 飛行能力を持つブレイズならばうなじへ近付くのも難しくない。 そう考え飛び出そうとした所へ戦兎が待ったを掛け、自分達が隙を作るから待つよう言われた。 反論する前に各々動き出し、悩んだが勝手な行動が大きな過ちを引き起こすのは自分が一番分かっている。 逸る気持ちを抱え続け、とうとうその時は来た。 右肩のペガサスボールドが天を翔ける力をブレイズに与える。 翼を広げ地から足を離した際の機動力は、タケコプターとは比べ物にならない。 (これならいけるネ…!) 自由に空を飛び回る解放感に、こんな状況でなければ喜んだかもしれない。 僅かに浮かんだどうでもいい感想を追いやり、意識全てを巨人へ集中。 自分の罪を知っても責めず、仲間として受け入れてくれた者達が作ったチャンスだ。 つまらないミスでふいにするのは許されない。 村で康一に何が起きたか考えるのも、助け出してから聞けば良い。 銀時を失って錯乱した自分を立ち直らせてくれた康一を、託された聖剣で取り戻す。 決意の固さはそのまま柄を握る力の強さに変わる。 (もう少し…!) うなじまで後もう僅かの距離。 背後からの気配に気付いたのか、巨人の首が揺れ動いた。 それでも速いのは自分の方だと勝利を確信、ブレイズの聖剣が寒風諸共うなじを切り裂く。 「これで…!」 取ったと、その場にいる全員が思った。 康一を閉じ込める肉の檻をこじ開け、無事救出。 そんな都合の良い展開は、キンッという音と共に否定される。 「なっ!?」 流水は巨人のうなじを正確に狙った。 本来の巨人討伐に用いる装備で無くとも、ブレイズの能力と無数のメギドを斬って来た流水があれば、康一本体を引き摺り出すのも不可能ではない。 だが現実の光景は無情だ。 流水はうなじを斬れず皮膚に弾かれた。 皆が作ったチャンスは脆く呆気なく失われ、巨人の瞳がブレイズをハッキリ捉えて離さない。 巨人となったエレン・イェーガーの能力は、単に巨体を利用し暴れ回るだけではない。 ロッド・レイスが所持していた薬により手に入れた硬質化。 正史において、ライナー・ブラウンを始め巨人化能力者との戦闘で幾度も発揮された力だ。 当然精神が別人になっても硬質化能力は健在。 東エリアの街で起きた戦闘時でも使われ、雨宮蓮達を大いに苦戦させた。 硬質化に関しての情報を戦兎達に教えなかった件で、神楽を責めるのは酷だろう。 何せ神楽が覚えている暴走した時の康一は、このような能力を一度も使わなかった。 こんな力が巨人にあったなど、神楽にだって予想外。 といった事情も巨人の知ったことではない。 またもや滅ぼすべき蟲が現れた。 不意を打つつもりだったようだが硬質化を破れず、結果間抜けにも凍り付いたまま。 殺さない理由がどこにあると言う。 「っ!!あっぶね…!!」 小蝿を仕留める気安さで平手打ちがブレイズを襲う。 硬直から咄嗟に動けたのは、やはり万事屋銀ちゃんの従業員として数々の大事件を解決して来た経験からか。 ファンタスティックライオンの固有能力の一つ、肉体のゲル化を使用。 液体を叩いたところで無意味。 しかしこれも制限の対象になっているのか、ブレイズの意思とは無関係に短時間で実体化。 尤も既に地面へ着地を終えており、ビルド達に並ぶ。 「な、何で急にカッチカチになったネ?新八みたいに一人でシコシコやってるアルか?」 「シ……!?あ、あの、それって……あうう……」 「んなハッキリ言ってやるなよ。男ならまぁ…」 「ピカ!?(なななななんで俺を見るの!?)」 「急に下ネタぶち込むんじゃないよ。ってかそんな場合じゃないでしょーが」 ほんのちょっぴり流れたギャグ漫画の住人ならではの空気は、巨人が発するプレッシャーで消し飛ぶ。 おふざけが通用する時間は完全に終わりだ。 二本足でどっしりと大地に立ち、地蟲を睥睨する憎悪の化身。 姿形はこれまでと何ら変わっていない。 しかし纏う存在感が否応なしに理解させる。 ここからが地獄の始まりだと。 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』 天地を揺るがす雄叫びが開戦の合図。 体を支える左足はそのままに、右足を大きく振り上げ指先が空を睨む。 踵部分が硬質化、断頭台の如く降ろされた鉄塊に全員の肌が総毛立つ。 避けろと言ったのは誰か、短い言葉を聞き届けるより早く跳び退く。 巨体を利用し、硬質化で威力を高めた踵落とし。 直撃せずとも発生する衝撃波が吹き飛ばす。 己の意思とは無関係に体が宙を舞い、地面への激突は時間の問題。 「俺は…不死身の杉元だ!!」 「ピカ~~~!?」 異名を名乗り上げ己を鼓舞、足場のない状態でありながら踏み止まる。 幻想郷の住人だから可能な飛行能力だ。 偶然傍を横切った黄色い獣を掴み、直後眼前へ迫る拳。 慌てて急降下し回避、頭上を通過する鉄拳を見ないままに善逸を降ろす。 巨人の二撃目を一々待つつもりはない、再度飛び上がり火球を連射。 場所を空中に移しての第二戦だ。 「ホアチャアアアアアアアッ!!!」 杉元とは別方向から飛翔する青い剣士。 ブレイズも飛行能力を駆使して落下を防ぎ、攻撃を再開。 海賊の船長のようなフックを振り回し、ライドブックの力を引き出す。 ブレイズの動きに呼応し空中に水が生み出される。 真下に流れ落ちる筈の水はなんとリング状へ変化。 更には妖精やライオンがリングを通って現れ、巨人に攻撃を仕掛ける。 おとぎ話の住人達を味方に付ける、これこそ変身に使った二冊目のライドブックの力だ。 炎の弾幕と妖精が狙うのは巨人の両腕。 腕を一時的にでも使用不能にさせれば、再びうなじを狙いに行ける。 だが巨人の腕に二人の猛攻はまるで効果が無い。 うなじを守ったのと同じ硬質化を、今度は両腕に使用。 僅かな焦げ目と掠り傷が精一杯の悪足掻きなど、脅威には程遠い。 しゃらくさいとばかりに左右へ拳を突き出した。 「チッ…!」 巨体からは考えられない程に速い。 攻撃を中断し回避へ集中。 掠めるだけでもまず致命傷は免れず、おまけに避けても発生する暴風で体勢を崩される。 死線を何度も潜り抜けて来た杉元と言えど、ここまで巨大な敵との戦闘は未知の領域。 気付かぬ内に緊張の汗を流す。 拳の通過位置を大きく移動し背後を取る。 ブレイズも同じ考えだったのか、反対方向から巨人の背を狙うのが見えた。 腕の破壊が難しいなら、多少無理してでもうなじを攻撃。 名刀と聖剣を抜き、囚われの少年が埋まっている箇所へ急接近。 硬質化はさせぬとばかりに振るわれた二刀はしかし、切っ先すらも届かない。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 腰を大きく捻り、伸ばした腕が半円を描く。 ストレッチにも似た動きを巨人が行えば、それは災害と変わらない。 全身を叩きつける暴風に揉みくちゃにされ、強制的にうなじから引き離される。 武器を落とさず握り締めれただけでも奇跡に近い。 装甲を纏うブレイズでもノーダメージは恐らく不可能、生身の杉元は言わずもがな。 ロクな受け身も取れないまま、あわや地面の染みと化す。 『KAMEN RIDE GHOST!』 『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!』 『メロンアームズ!天・下・御・免!』 『ジンバーメロン!ハハッー!』 待ち受ける末路は二人の仲間の手で変えられた。 仮面ライダーゴーストとジンバーメロンアームズの斬月が、それぞれ杉元とブレイズの元へ急行。 前者は幽霊のように浮遊が可能であり、後者はメロンディフェンダーを使った飛行能力を有する。 杉元達を空中で受け止め事なきを得た。 「助かった!」 礼もそこそこに、またもや放たれた拳を避ける。 善逸以外は空中戦が可能であれど、状況は何も良くなっていない。 さりとて文句を言っても始まらない。 手持ちの武器をガンモードに変形し、ゴーストは二丁の銃からエネルギー弾を発射。 斬月もゴーストに倣い、ソニックアローで矢を射る。 二人が狙うのは巨人の顔面、怯ませ隙を作り出す。 硬質化させた腕で防ぐも、巨人を相手取るのはゴースト達のみではない。 うなじ部分を目指し杉元と神楽が再度接近。 エネルギー弾の掃射に気を取られ、今度は一手反応が遅れる。 しかし、正気を失っても脅威の察知能力までは失くしていない。 刃の到達を待たずに跳躍、後方へ轟音を立てて着地。 巨人が大きく動けばその分空気は揺れ、余波が周囲に被害を齎す。 咄嗟に距離を取ったお陰で巨人に衝突こそされなかったが、吹き飛ばされるのは避けられなかった。 そこを助けたのはゴースト。 パーカーゴーストを複数召喚し杉元達を支える。 『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』 巨人はうなじへの攻撃を避ける為だけに跳んだのではない。 降り立った場所は丁度、聖都大学附属病院のすぐ傍。 着地の振動だけでガラスが大量に割れるのもお構いなし、白亜の宮殿をガッチリと掴む。 「おい、まさか……」 嫌な予感は見事に的中。 壁に亀裂が走ったかと思えば、力任せに引き剥がす。 一階部分と既に禁止エリアへ面した病棟こそ無事だが、残りは巨人の得物と化す。 標的は無論、空を飛び回る目障りな連中。 存分に怪力を駆使し投擲、命を救うための施設が無骨な凶器へと変わった瞬間だった。 「っ!神楽!」 「わ、分かったネ!」 名前を呼ばれただけで瞬時に意図を察したのは、命懸けの戦いに慣れているからか。 ゴーストがカードを取り出し、ブレイズは聖剣の柄に手を置く。 一刻の猶予も無い、焦りを隠さず各々迎撃に移る。 『FAINAL ATTACK RIDE GHO・GHO・GHO GHOST!』 『流水抜刀!ペガサス!ライオン!ピーターファン!三冊斬り!ウォ・ウォ・ウォ・ウォーター!』 6体のパーカーゴーストと一体化し、それぞれの紋章エネルギーが右脚に力を宿す。 英雄たちの力を借り技の威力を更に強化した横で、ブレイズも剣を引き抜いた。 流水の力の源である水がエンブレムから湧き出し、渦潮へと変え鉄塊目掛けて射出。 飛来する病院の勢いを一時的に押し留め、流水片手に突撃。 ゴーストもまた蹴りを放ち、高威力の打撃と斬撃が病院を粉砕する。 パラパラと地面へ小雨のように破片が落ちる中、巨人は既に次の手に出ていた。 「おいまたかよ!?」 悲鳴染みた声が出るのも無理はない。 今投げたのは二階から上の箇所、ということは一階部分はまだ使える。 吹き抜けと化したロビーに手を突っ込み、さっきと同じく引き剥がした。 もう一度投げるつもりだろうが、技を放ったばかりのゴーストとブレイズが動くにはほんのちょっぴり遅い。 となれば、残る二人がどうにかするのみだ。 「仕方ねえ!気合入れろ大崎!」 「う、うん……!」 『ロックオン!メロンオーレ!ジンバーメロンオーレ!』 プレッシャーと恐怖で縮こまりそうになるも、ソニックアローを強く握って震えを誤魔化す。 二つのロックシードから流れ込んだエネルギーが、アークリムに充填され緑に輝く。 杉元もまた炎の翼を展開し、両腕に霊力を集中。 具体的なイメージは出来ていない、ただ目の前の障害を叩きのめす殺意を糧に技を形作る。 「今だ!」 巨人が投擲の構えを取ったタイミングでそれぞれ撃ち込む。 病院が目の前まで飛んでくるのを、わざわざ待つ意味はない。 ソニックアローを振るい、アークリムより緑の光刃が巨人を切り裂く。 タイミングを合わせた杉元の掌からはこれまでの火球ではなく、一筋のレーザーが放たれた。 妹紅のスペルカード、『原罪【正直者の死】』を思わせる攻撃だ。 手から離れかけた病院の残骸諸共、斬撃と光線が薙ぎ払う。 巨人が手にした凶器は木っ端微塵に砕け、煙が巨体を覆い隠す。 二撃目も凌いだ、だが終わりはまだやって来ない。 自身を包む煙を払い除け、巨人は地を蹴り跳ぶ。 追い打ちを掛けられ更に破壊された病院には見向きもしない。 一蹴りでこちらを見下ろす羽虫達の元へと辿り着く、否、彼らをも見下ろす位置まで跳んだ。 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』 鼓膜を破りかねない咆哮を発し、右手を振り下ろす。 硬質化で一点を強化した拳を食らえば、人間など途端にひき肉だ。 巨人が自分達の頭上を取ったその時点で、全員回避へ動き出している。 されど此度は落下の勢いをも味方に付けた、悪夢の如き一撃。 直撃を避けても、地面を叩いた衝撃波は空にいようと関係なしに襲い掛かった。 「んなくそ…!」 何とか宙で踏み止まろうとしても上手くいかない。 というか飛行能力自体が発動されない。 不死以外で妹紅の肉体に課せられた、もう一つの制限がここで影響し出す。 支給品で飛行可能となったジューダス等と違い、杉元は肉体の能力で最初から空を飛べる。 但し永久的に飛ぶ事は不可能であり、一定時間経過で杉元の意思に関係無く地へ落とされるのだ。 これまで飛ぶ機会は度々あったものの、長時間の飛行は今回が初めて。 制限へ気付くには遅過ぎた。 為す術なく砲丸のように吹き飛んだ挙句、病院とは名ばかりの瓦礫の山へ突っ込む。 「うおおおおおおおおおおおおっ!?」 「きゃあああああああああっ!?」 ライダーに変身し重量が増していようと最早関係無い。 浮遊能力でさえまともに機能しない中、ゴーストの視線が捉えたのは自分同様吹き飛ばされる白武者。 彼女が空を飛ぶ為の盾は、足元を離れ何処かへ姿を晦ましている。 それを見た時、既に自分が受け身を取るなどは二の次となった。 パーカーゴーストをどうにか呼び出し、彼女の元へと向かわせる。 英雄達が彼女を受け止めるのが見えると同時に、全身へ衝撃と痛みが来た。 「がはっ……」 ゴーストが纏う防護スーツとパーカーの恩恵で、これでもダメージは抑えられた方。 とはいえ流石に無傷とはいかず、吹き飛んだ時の勢いも殺せていない。 ドライバーが外れて変身解除、佐藤太郎の肉体を戦場に晒す。 処置を受けた箇所と新たに負った傷へ、冷たい夜風が酷く沁みる。 「戦兎さん……!」 パーカーゴースト達のお陰で斬月は無傷で着地できた。 駆け寄る白武者へ安堵の笑みを浮かべるも、向こうからしたら全然笑えない。 自分を守るために、彼はまた傷付いた。 頑張ろうと、彼の力になろうと決意したのに結局はこうだ。 仮面の下で顔がくしゃりと歪む。 『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』 甚大な被害、されど全滅には未だ至らず。 それを、怒れる巨人は断じて認めない。 求めるのは自分以外の死。 生存者が一人でもいる限り巨人は止まらない、憎悪は掻き消えない。 絶望感と死を予感させる大地の震動。 圧倒的な暴力の化身を前に、ちっぽけな存在が立ち塞がった。 「ピ、ピカアアアアアアアアアアアア!!!!」 巨人を相手取るには余りに小さい体躯。 黄色い体は怯えで蒼白に変色し、放って置けば倒れそうなくらいに震えている。 溢れる涙は両目がふやけんばかりの量。 今すぐにでも逃げ出したい、考え付く限りの名前を口にし助けてくれと叫びたい。 骨の髄まで蝕む恐怖に蝕まれ、己が情けないと自覚しながらも善逸が選んだのは戦闘の続行。 赤丸の頬がバチバチと放電、溜め込んだ電気を解き放つ合図だ。 邪悪なスタンド使いにも絶叫を上げさせた10まんボルト、だが今回ばかりは大きな効果を望める自信が無い。 「一人でカッコ付けてんじゃねーヨ……」 小さな体に抱え込んだ不安を笑い飛ばし、隣へ女が並び立つ。 オレンジ髪の海賊は額から垂れる血を拭い、恐れを微塵も宿らせない視線で巨人を射抜く。 既にブレイズの変身は解除された、再生能力もない生身のまま堂々と現れるのは自殺行為。 だが神楽の目は死んでいない、勝負を投げ出し自暴自棄になったつもりはない。 「男が馬鹿やったら、止めるのは女の役目ってマミーがしょっちゅう言ってたネ。姉御や家賃家賃うるせーババアも同じこと言う筈アル」 得物は聖剣ではなく細い棒。 うなじを斬るのはおろか殴れば逆にへし折れそうな、巨人相手には頼りなさを覚える武器。 だけど神楽には分かった。 理由は上手く言えないけれど、今の自分ならこの棒の力を引き出せる気がする。 「だからお前がこれ以上馬鹿やる前に、二日酔いの銀ちゃんみたく大人しくさせてやるネ」 雲が現れる。 空を覆い隠し星の輝きを遮る無粋な帳に非ず。 神楽の背後へ黒々とした雲が出現し、時折電気を迸らせる。 本来、この技を神楽が使う事は不可能。 魔法の天候棒が手元にあっても、技を使うのに必要な知識が神楽にはない。 気象学を熟知し、天才的なセンスの持ち主であるナミだからこそ使えたのだから。 しかし、PK学園でDIOを吹き飛ばしたように此度もまた、神楽自身にも説明は付かないがやれると分かった。 善逸が幾度も放った電撃が、肉体に宿る記憶を呼び起こしたのか。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 具体的な理由は分からない。 ただ今は、目の前で望まぬ暴力を強いられる仲間を取り戻す。 「雷光槍(サンダーランス)=テンポ!!!」 「ピ~カ~チュウウウウウウウウウウウウウ!!!」 光が巨人を貫く。 呪いを祓い、憎悪を焼き潰し、閉ざされた魂を照らす輝き。 黒雲から放たれる一筋の光と、ピカチュウが最も得意とするわざ。 重なり合った二つの電撃が雷の槍となり、巨人の進行を押し留めた。 『!!!!!??!!』 巨人にとっても予想外の威力だったのか、猛烈な痺れに動きが止まる。 強靭な生命力を誇る動物系古代種の能力者にも、絶大なダメージを与えた技だ。 そこへ10まんボルトの威力も加算されれば、巨人と言えども無視できない。 堪らず片膝を付く間にも痺れが襲い、鬱陶しくて仕方ない。 『ッ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』 なれど、巨人は己の沈黙を受け入れない。 少しばかり動きが鈍くなったから何だと言う、この程度で滅びから逃れられるなど有り得ない。 自らの憎悪を燃料に立ち上がる。 握り締めた拳を硬質化、狙うは大技を放った直後の一人と一匹。 「ピカ~~!?(ぎゃああああ!また立った!お姉さん早く逃げないと…!)」 「うぐ…康一…!」 変身解除される程の勢いで地面に叩きつけられ、悲鳴を上げる体に鞭打って巨人を止めたのだ。 技が命中したとはいえ、神楽の方も息切れを起こし座り込む。 隣で善逸が何と言ってるのか不明だが、焦り自分を急かしてるのは間違いない。 言われなくてもじっといしているつもりはない、しかし巨人が黙って逃走を許してはくれない。 怒りの鉄拳がまた一つ罪を重ねる、それを防ぐは手首を射抜く緑の矢。 再生し掛けた箇所がまたもや焼かれ、焦げた臭いが漂う。 ギロリと、擬音が聞こえそうな射殺さんばかりの視線。 睨み付けられた白武者はビクリと震え、心臓が五月蠅いくらいに鳴る。 「うぅ……」 神楽達を助ける為咄嗟に矢を放った。 絞り出した勇気に巨人が返すのは感心の拍手ではなく、絶対的な暴力。 自身を苛む痺れを振り払おうと、大股で一歩進む。 たったそれだけで足底が斬月のカメラアイを覆い隠し、終わりまでの時間を短縮。 怪獣に踏み潰される映画のモブキャラはこういう心境なんだろうか。 一瞬浮かんだ場違いな感想諸共、蟻のように潰される。 『KAMEN RIDE DRIVE!』 守ると約束した少女の死へ異を唱えるは、高らかに名を上げた電子音声。 視界の端に赤い影が映り込み、次いで感じる浮遊感。 体が地面から離れてる、まさか死んであの世に昇る真っ最中なのか。 悪い想像に思わず顔を上げ、見えたのは赤い仮面の戦士。 初めて見るけど自分の知るヒーローだと分かり、そこでようやく彼に抱き上げられていると気付いた。 真っ赤な装甲、胴体部分へ装着されたタイヤ。 まるで車をモチーフにしたかの姿は、仮面ライダードライブ。 相棒のベルトと共に機械生命体との戦いに挑んだ、とある刑事が変身した戦士。 最上との戦いの際には見なかった仮面ライダー、能力は未知数だがこの場においては変身して大正解だ。 ドライブの基本形態であり、高速戦闘に特化したタイプスピード。 一時的に高速移動を可能にし、斬月の救出も間に合った。 視覚センサーが巨人の動きを細かく把握、集約された情報がメット内部に表示。 神楽達が放った電撃は残留しているらしく、一挙一動がこれまでよりも幾らか遅い。 となれば今しかない、戦況を一気に変えるにはここ以外になかった。 勝利への法則が組み立てられ、道筋が完成。 後はその通りに動けるか否か。 「ひゃっ……!せ、戦兎さん……!?」 「甜花。このまま動くからあいつの足を狙えるか?」 「え、そ、それって……抱っこしたまま……わ、分かった……!」 上擦った声で承諾。 巨人への恐怖はある、戦うことへの緊張感だって全然無くなってない。 でも彼が、助けになりたいと思ったヒーローが自分を頼ってくれた。 プレッシャーと、同じくらいの嬉しさと、勇気をくれる。 頷き合い、ドライブの全身を反重加速フィールドが覆う。 用いるのは二本の足だけであるにも関わらず、スーパーカーをも追い越すトップスピードを発揮。 上空より振り落とされる拳に方向転換、ブーツ部分のグリップパーツが急激な移動にも振り回されないようアシスト。 余裕の回避をやってのけた。 『ロックオン!ソイヤッ!メロンスカッシュ!』 生きたモンスターマシンへ乗りながらにも関わらず、斬月の狙いは正確無比。 生身の人間を遥かに上回る視覚センサーと、射撃精度の低下を防ぐソニックアローのレーザーポインダ。 戦極凌馬が開発した高機能システムにアシストされ、エネルギー矢を発射。 足首部分の肉が弾け飛ぶ。 ただでさえ痺れが抜けていないのに加え、ドライブのスピードに翻弄された結果だ。 硬質化が間に合わず被弾を許すこととなった。 『FAINAL ATTACK RIDE D・D・D DRIVE!』 斬月の攻撃は始まりに過ぎない。 矢が放たれたのと同じタイミングでカードを装填、タイヤ型のエネルギー体が複数出現。 本来は敵を包囲し蹴り技に繋げるが、今回は使い方が違う。 エネルギー体はドライブ自身を背後から弾き飛ばし更に加速、地面を削りながら装甲ブーツが巨人の足へ追い打ちを掛ける。 骨をも砕き、皮数枚で繋がった足がどうなるかは言うまでもない。 『!!!!!!??!!』 巨体を支える二本の内、片方損傷の影響は少なくない。 巨人の憎悪を嘲笑うように足首が引き千切れ、途端にバランスを崩す。 踏み潰されるだけのちっぽけな蟲にしてやれた、二度目の屈辱。 再生が完了するまでを敵は待ってくれない。 『KAMEN RIDE SABER!』 『勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』 斬月を降ろし、新たなライダーの力を解放した 勇ましい名乗りと共に火柱が立ち昇る。 火炎を切り裂き現れたのは、ドライブとはまた違う赤のライダー。 ゼロワン同様令和の時代で物語を紡いだ、とある小説家のもう一つの姿。 仮面ライダーセイバー。 全知全能の書を巡る争いを終わらせ、二つの世界を守った剣士。 そして、もう一つの炎が迸る。 「ぐうるおごあああああああああああああああああああ!!!!!」 瓦礫が四方八方へ弾け飛ぶ。 戦線復帰を妨げる無粋な檻は必要無いとばかりに堂々と参戦。 最早言語としてまともに機能しないナニカを叫ぶそいつへ、誰もが意識を向けざるを得ない。 夥しい量の赤を全身に塗りたくった少女。 老いて色を失ったのとは違う、一種の美しさが宿った白髪すらも赤に染めて。 だというのに生命力へ満ち溢れている。 最も死へ近い有様でありながら、誰よりも激しく己の死を否定する。 何度死に誘われようと抗い跳ね退け、冥府の遣いすらも戦慄させるその姿やまさしく―― 「俺は……不死身の杉元だ!!!」 不死鳥の如き翼を広げ、両手が放つもまた火炎。 大地を、空気を、人を焼き潰す灼熱の塊。 『不滅【フェニックスの尾】』。 そこに美麗さはない、殺意を収束させた砲弾が憎悪を撒き散らした巨体を焼く。 「相変わらずメチャクチャだな…」 『FAINAL ATTACK RIDE SA・SA・SA SABER!』 杉元に驚かされっぱなしな自分へ、呆れ笑いを浮かべる。 ああしかし、仲間の奮闘をこうも見せられたなら柄にもなく滾ってしまうじゃあないか。 こういうのはアイツのが似合うだろと、どこぞの筋肉馬鹿を思い出しカードを装填。 セイバーへの変身後、手元に現れた剣が炎を纏う。 火炎剣烈火のエンブレムが生み出した炎はやがて、燃え盛る竜へと変化。 不死身の兵士に負けじと剣を振るう。 竜と不死鳥、二体の伝説が同じく伝説上の怪物を喰らう。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』 右腕が消し炭と化し、全身は焼け爛れた。 なれど憎悪と言う名の炎は、自身を苦しめるどんな火よりも激しく燃えている。 立てないからどうした、片腕が使えないから何だという。 腕はまだもう一本残ってる、自分は死んでない。 何より、滅ぼすべき者達が滅んでいない。 憎悪の理由も分からず、何故滅ぼすのかも考えられず。 止まる事の出来ない己への嘆きなど抱く訳もなく。 硬質化させた左拳を振り下ろす。 『流水抜刀!ワンダーライダー!』 『この動物!この動物の力が、剣に宿る!』 だが巨人が止まらないように、彼女は仲間を決して諦めない。 傷の痛み、重しと化して体中へ纏わりつく疲労。 その全てを知ったことかと捻じ伏せ、聖剣を抜き放つ。 泥棒猫の肉体に再度装着される装甲。 水流を断ち切り現れた姿は先程と一変。 百獣の王の意匠はそのままに紫のフードを纏う。 スペクター激昂戦記。 流水の本来の使い手が出会った戦士の力を秘めた、ブレイズの派生形態。 姿形が今更変わろうと巨人が特別な反応を見せはしない。 そうだ、相手が誰でも関係無い。 たとえ打倒主催者の志を共にして、再会を約束した仲間であっても。 葛藤も迷いも一切宿らせない、無慈悲な拳が振り下ろされた。 大地を叩き、周囲一帯を覆い隠す土煙。 仲間であった筈の少年の手で、余りに呆気なく少女の物語が幕を閉じる。 『必殺読破!流水抜刀!この動物一冊斬り!ウォーター!』 なら、今聞こえたこれは何だ。 拳の下に少女はいない。 どこに行ったとの答えは、遥か頭上から電子音声が告げる。 纏う炎は己が身を滅ぼす為に非ず、自由を手にした鳥のように羽ばたく為だ。 見上げる者と見下ろす者、人と巨人の視線が入れ替わればそれは終わりの始まり。 憎悪を断ち切る剣が煌めく。 「康一…今助けるアル!」 宣言を聞いても巨人がブレイズを見る目は同じ。 憎悪以外何もない、忌々しい害虫へ向ける目だ。 今更そんなもので怯みはしない。 自分がしくじり、巨人が猛威を振るい続けた先に待つのはきっとロクなもんじゃあない結末。 康一にとっての悲劇が約束されている。 地球に来て、万事屋銀ちゃんの従業員としてかぶき町に住んで随分経つ。 色んな依頼を受けて、それを解決したのだって一度や二度じゃない。 珍騒動に巻き込まれるのだってすっかり慣れたけど、全部が笑い飛ばせるバカ話で終わった訳じゃない。 時には人が死ぬような事件だってあった。 殺した奴、殺された奴、そいつらと関りの深い人々。 誰もが幸せなんかじゃ無かった、細かい違いはあっても良いことなんて無かったのだ。 友を、そして家族を失う悲しみ。 誰かの命を奪ってしまう絶望。 どちらも知ったからこそ、康一に自分と同じ苦しみを与えるなどあってはならない。 『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』 咆える、怒りを籠めて咆える。 それでも間に合わない、残った腕の迎撃も、うなじの硬質化も遅過ぎる。 特大の電撃に始まった総攻撃と、放送前に起こった戦闘での消耗。 疲労が足枷となったのは巨人も同じだった。 まるで、彼をこれ以上進ませまいとするように。 「康一ィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」 彼女の剣を届かせるように。 阻む全てが遅い、誰にも止められないし止まってやらない。 正しいことに使えるはずと、そう託してくれた流水でやり遂げるのだ。 水と炎、対となる力を纏った聖剣が走る。 切り裂く、彼を閉じ込める檻を。 本当の彼を踏み躙る、憎悪の鎧を。 「―――――――――――――――――――」 それは何と言ったのか。 変わらぬ憎悪か、或いは少女へ向けた感謝の念か。 拾い上げた者は一人もおらず、彼自身にも分からない。 巨人はもうここにいない。 解放された少年を迎える風が吹き、今度こそ幕が下りた。 →
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← 朽ち果てた大樹か、役目を終えた砦か。 これまでの死闘が嘘のように、巨人は身動ぎ一つしない。 本体であるエレンが解放された以上、残ったのは単なる抜け殻。 見上げる杉元の目には依然変わらぬ警戒心が浮かぶが、小指の爪程の敵意も感じられない。 ややあって、これは本当に脅威にならないと判断。 両手に集めた霊力を引っ込める。 「取り敢えず一安心、にはまだ早いか…」 脅威が去って全て解決とはならない。 予期せぬ襲撃への対処に追われたが現在も自分達は禁止エリアに留まったまま。 脱出までの時間はまだ残されている、しかしこれ以上の問題が起きれば流石に危機感を抱かざるを得ない。 捜索予定の人物が向こうからやって来たのは、別行動を取る必要が無くなって良いのだろうが。 「康一!しっかりするヨロシ!」 件の人物は巨人から解放されたのに目を覚まさない。 うなじに埋まっていたのを引き千切ったせいか、本来あるべき四肢は喪失。 だが少しずつ元の形を取り戻してるのがこちらからも見えた。 蓬莱人とは別に、再生能力と思しき力の持ち主らしい。 「康一…!何で起きないネ……」 ブレイズの変身が解除されたのも意に介さず、神楽は何度も仲間の名を呼び掛けた。 元々体力の消耗が激しいライドブック三冊に加え、スペクター激昂戦記を使ったのだ。 頭頂部に設置された剣型の調整装置、ソードクラウンが変身解除を実行。 ナミの姿で康一の肩を揺さぶる。 不安から目尻に涙が溜まる神楽の元へ、仲間の顔色も曇り始める。 あれだけ死力を尽くしたのに結局無駄。 そのような結末を否定するべく、比較的冷静な戦兎と杉元が様子を見る。 一見死体と勘違いしてもおかしくない、瞼が固く閉ざされた顔。 しかし虫の呼吸のように小さくも、確かに発せられる呼吸。 康一がまだ生きていることを知らせる音だ。 「あんだけ暴れ回って気を失ってるだけか?傷も…こりゃ治ってんな」 「これなら動かしても問題無い、よな…?詰めれば車の後ろに乗せて――」 パチリと。 眠た気に擦るでなく、夢と現の狭間を彷徨うでもなく。 何の前触れも無しに瞼が開かれた。 口が止まった戦兎の傍で、神楽が驚きと安堵を表情に出す。 瑞々しい果実と同じ色の髪を揺らして、少年の肩に手が置かれた。 大丈夫カ、平気アルか?もう心配ないネ。 思い付く言葉を矢継ぎ早に発し、仲間の帰還を心から喜ぶ顔が少年の瞳に映る。 「――っ!」 瞬間、杉元の背を獣のように駆け抜ける悪寒。 これは違う、これは仲間に向ける顔じゃない。 信頼し合える者に向けて良い目ではない。 この目には見覚えがあった。 自軍の兵士を殺された露助ども。 片割れを殺した自分を付け狙う第七師団の一人。 それから、そう。 鏡に映った、忌々しい狙撃手への殺意に燃える自分自身。 憎悪を宿らせた目に、神楽を少年から引き離すべく手を伸ばし、 「っ゛あ…!!」 猛烈な熱さに遮られ、指先すら届かずに引き飛ばされた。 杉元以外の4人も被害は避けられない。 目覚めた少年を中心に爆発が発生、高温の爆風が襲う。 ライダーの変身を解かずにいた戦兎と甜花はまだマシ。 善逸も、何より最も距離の近かった神楽はモロに爆発の被害を受けた。 激しい蒸気を伴った爆風が、惜しげも無く晒したナミの素肌を容赦なく焼く。 「あああああああああ!!」 皮膚が焼き潰れ、耐え切れずに上がる悲鳴。 康一に異変が起きたという理解を拒むかのような、猛烈な痛み。 喉が枯れる程に声を張り上げるだけでは到底誤魔化せない。 堪らず瞳を瞑り、さっきまでとは違う理由で涙が流れる。 (急になにアルか……あっ、こ、康一…!) 悶え苦しみながらも仲間の存在で我に返った。 常人ならば、とうに頭から抜け落ちてもおかしくない。 潜り抜けて来た修羅場の数と、これ以上仲間を失う恐怖が神楽を引き戻した。 尤も、既に手遅れだが。 「ごぶっ」 口から何かが吐き出されたと気付くのに数秒。 重たいものを二つぶら下げた胸の、片方が妙に痛いと感じるのに数秒。 目の前に、見たことのない化け物がいると分かり、全てがようやく繋がった。 「え、が……あ…」 黒い化け物だった。 顔も、四肢も、見える範囲のほとんどが黒。 肩と頭部の装飾は鳥の羽のよう。 人と同じ二本の足で立ち、二本の腕を持つ。 人に近い形であっても、人とはかけ離れた異形。 そいつが自分の胸に腕を伸ばし、真っ直ぐ貫いている。 「あ……」 よく見れば手には青いエンブレムの剣。 吹き飛ばされた際に落ちたのを拾い、それで刺した。 仲間が託してくれた武器を凶器に使うなど、本来なら許せない。 けれど怒りは湧かない。 だって、分かってしまったから。 爆発が起きた直後にいきなり現れた化け物が、一体誰なのか。 そんな筈ないと否定したいのに、現実を突き付けるのは化け物の恰好。 黒い肉体を包む茶色の衣服。 確かこれは、彼の体が元々来ていた『調査兵団』とやらの制服で―― 「康一…?」 問い掛けへの返事に化け物の口が開く。 言葉は一つとして出ず、神楽の喉へ噛み付いた。 既存の生物に当て嵌まらない牙に噛み千切られ、噴き出る鮮やかな赤。 顔が血で汚れても構うことなく食事を続ける化け物だが、ふいに神楽を放り捨て跳び退く。 ご馳走を捨てた理由は肩を掠めた光弾。 セイバーに変身したままの戦兎が放った、ドリルクラッシャーの銃撃だ。 「神楽…!」 「んの野郎…!!」 吹き飛ばされこそしたが装甲でダメージを軽減。 横では火傷を負いながらも、肉体の生命力で死を逃れた杉元が歩兵銃を構える。 詳しい事態は把握出来ていない。 分かるのは仲間が襲われた、その一点があれば動く理由には十分過ぎる。 それぞれの武器を片手に化け物へと駆け出す。 「エコーズ!!!」 「なっ!?」 接近の妨害に出たのは新たな異形。 人型をしたソイツの出現に気を取られた戦兎を狙う、小柄ながら鋭い拳。 咄嗟に片腕で防御を行うも、異形の正体を知る者が見れば失敗だと口を揃えるだろう。 前方にいた杉元を巻き込み前のめりに倒れる。 「うおっ!?おい早くどけって!」 「そうしたくても体が…どうなってんだ…!?」 体が異様に重い。 見た目に変化は無いが。明らかに異常だ。 重りを付けられようと軽やかな動きが可能なセイバーの身体能力でさえ、まともに指一本動かせない。 原因はいきなり目の前に出て来た、小柄な異形。 そいつの攻撃を受けたからだと推測したところで、動けなくては意味が無い。 「ピカアアアアアアアアアアアアアア!!!」 故に動ける者がどうにかする。 爆風を完全に避けれはしていないが、非常に高いすばやさを誇るポケモンの体だ。 咄嗟にでんこうせっかで距離を取り、ある程度は負傷を抑えられた。 得意の10まんボルトを放ち、電撃が化け物の全身に流れる。 巨人とは違う等身大の相手なら、十分なダメージとなった筈。 善逸の予想を裏切り化け物は電撃に無反応。 呻き声一つ上げず、鬱陶し気に軽く首を振っただけ。 しかし直後に突き刺さった矢は無視出来なかった。 緑に輝く光に貫かれ、羽に覆われた肩から血が滴り落ちる。 戦兎同様、変身を解かなかった為に重傷を免れた甜花だ。 訳も分からぬ内に吹き飛び、置き上がったら神楽が血まみれで倒れている。 脳内が混乱に支配されながらも攻撃を行えたのは、十数時間の間で殺し合いの空気を散々味わった影響か。 命中を喜ぶ余裕は持てない、慌ててもう一度弦を引いた所を睨まれた。 「ひっ……」 黄色に輝く瞳に射抜かれ、凍り付いたみたいに体が動かない。 相手は巨人よりもずっと小さい、なのに今の方が恐ろしく感じる。 どす黒い憎悪が瞳のずっと奥まで渦巻き、甜花の精神へコールタールのようにへばり付く。 尊大にこちらを見下すDIOや、理解不能の狂気を秘めた姉畑とはまた別種の恐ろしさ。 「っあああああああ!!」 なれど甜花の放った矢は役目を果たした。 痛みに意識が逸れ、戦兎の動きを封じた異形が消滅。 自由を取り戻せたと分かるや否や、杉元と共に化け物へ斬りかかる。 烈火が肉を切り裂き、歩兵銃の殴打が叩き込まれるのは化け物も御免だ。 憎悪に燃える瞳は変わらないまま、踵を返し疾走。 怒声や困惑が背中にぶつかっても僅かな視線すら寄越さない。 「エコーズ!」 ダメ押しとばかりに叫び、先程とは違う姿の異形が出現。 長い尻尾が文字に変化し自分の足に貼り付ける。 「ビュゥーン」との擬音が正に聞こえそうな速度で逃走。 自分が喰った女への罪悪感に、後ろ髪は引かれない。 自分が齎した破壊と惨劇に、残された者がどうなるかを考えやしない。 伸ばし続けた仲間の手を振り払い、見る見る内に戦場から遠ざかった。 ○○○ 体が妙に軽い。 胸と、首と、色んなところが熱かったのに、今では何も感じない。 ぼやけ始める景色に見知った顔が映り込む。 ハッキリ見えはしないけど、良い雰囲気じゃあないとは何となく分かる。 「――!?」 「――、――」 「っ――。――……」 困ったことに声もちゃんと聞こえない。 だけど、何の話をしてるのか分からない程鈍感になった覚えは神楽に無い。 きっと自分を生かそうとしてるんだろう。 どうにか助けられないか必死になってるのを、嫌には思わない。 でも無理なことは、他ならぬ神楽自身が一番理解している。 何度も戦って、何度も傷付いて、最後には三人で生きて万事屋に帰って来れた。 出会った時からずっと変わらない三人だから、きっと最後は何だかんだで上手くいった。 だから多分、もういつもの三人じゃなくなった時。 万事屋銀ちゃんが万事屋銀ちゃんじゃなくなってしまった時点で、こうなると決まっていたのかもしれない。 なんて、最期が近いせいか自分らしからぬ考えを抱く。 そんな自分が何だかおかしくて浮かべたヘタクソな笑みは、果たして仲間達の目にどう映ったのだろうか。 (康一……) 残されたほんのちょっぴりの時間で考える、自分を殺した少年のこと。 康一に何があったのかを神楽は知らない。 どうして康一が自分を殺したのか、理由だって分かる筈がない。 (ごめんなぁ康一…私馬鹿だから、康一が大変な目に遭ってるの全然知らなくて……本当にごめんなぁ……) 自分が別の選択を取っていれば、こんなことにはならなかったのではという後悔。 グレーテが現れた時、もっと落ち着いていられたら。 康一が一人で村の方へ向かわずに済んだんじゃあないか。 或いは、グレーテの追跡は自分に任せて欲しいともっと強く言ってれば。 巨人になって暴走するような、康一が追い詰められる事態も起きなかったのではないか。 どれだけ後悔を重ねても、過去の選択は覆らない。 カイジとの出会いに始まり、ボンドルドを倒すと意気込んだ自分達の結末はもう決まった。 (康一…私は怒ってないネ…他の奴が何言っても、怨むなんてみみっちい真似しねーヨ……だから、もう終わりにするアル……) 死にたいと考えたんじゃない。 かぶき町に帰れないこと、定春を残してしまうこと、銀時と新八の死を皆にちゃんと伝えられないこと。 全部が叶わないのは当然悔しい。 それでも康一へ怒りを向ける気にはなれなかった。 望まぬ殺しに手を染める絶望がどれ程苦しいか、誰かの大切な人を奪う罪の重さを神楽は知っているから。 康一もきっと心の底、自分を支えてくれた本当の彼は犯した間違いに深く傷付いているから。 そんな彼をこれ以上苦しめたくない。 だからもう、殺すのは自分が最後であってくれと願う。 後悔と、未練と、知ってる顔が次々に浮かんで来る。 どいつもこいつも一度見たら二度と忘れられない、非常に濃い連中ばっかりだ。 ――ババア、家賃は払えねーけど定春を頼むネ。 ――姉御、新八のこと教えられなくて本当にごめんアル。 ――ヅラ、私と銀ちゃんの為にんまい棒はちゃんとお供えしとけヨ。 ――サド野郎、最後だから神楽様がお前のことも少しは考えてやるネ。 そうして最後に出て来たのは、ムカつく笑みを浮かべたアイツ。 ぶん殴ってやりたいスカした顔は、今だけいつもと違って見えた。 全く、よりにもよってこいつが一番最後に顔を出すなんて (女々しいんだヨ……馬鹿兄貴……) ◆ 冷たくなった彼女が何を意味するのか。 分からない者が一人もいないからこそ、余計に現実が重く圧し掛かる。 治療に必要な道具は全て瓦礫に埋まった。 姉畑の支給品にあったポーションを飲ませようにも、もう助かる段階は通り過ぎていた。 結局のところ、戦兎達が神楽にしてやれたことは何も残っていない。 「…桐生、あんまり時間ねえぞ」 「……分かってる」 冷静に移動を促す杉元は正しい。 禁止エリアが機能する前に移動しなければ、それこそ本当に全滅だ。 康一を追いかけたくとも、追跡に時間を掛けたせいで脱出が間に合わなくなるかもしれない。 これ以上留まってはいたずらに自分達の命を死に近付けるだけ。 早急な禁止エリア外への移動は、何も間違ってない。 故に、戦兎の口から反論の言葉が出ることはなかった。 「……っ!」 だからといって、何も感じない筈がない。 仲間がまた目の前で死んだ。 助けられる力が、正義のヒーローの力が自分の手にはあったのに。 無力感を喚き散らしたとて解決にはならない。 一度零れ落ちた命を拾い上げるチャンスは、二度と巡って来ない。 そうやって冷静を装い激情を抑えつけても、痛いくらいに握り締めた拳が戦兎の心情を物語っている。 「神楽、さん……」 「ピカ……」 力無く名前を呼んでも、変な語尾で返事はない。 自分のせいで人が死んだと罪悪感に苦しんだ時、お前のせいじゃないと言い切った彼女はもういない。 一緒にあの人の死へ想いを馳せた彼女はどこにもいない。 過ごした時間は短くても、仲間だった少女の喪失が彼らの胸に痛みを与える。 見上げた空には星々が、地上の死など知らぬとばかりに顔を出す。 いっそ憎たらしいくらいの輝きを、杉元は言葉無く睨み付けた。 ◆◆◆ 走り続けてどれくらい経ったか黒い化け物…カラスアマゾンには分からない。 背後を見ても追って来る気配は無く、自身の疲労もピークに達している。 以上二つにより足を止め、どっと息を吐いた時にはもう異形の姿はなかった。 元々カラスアマゾンはある少女の遺体にアマゾン細胞を移植し生まれた、シグマタイプのアマゾン。 だが康一は溶原性細胞の感染が原因で変化を遂げた。 それ故、実験で生まれたカラスアマゾンとは細部に違いが見られる。 尤も本来のカラスアマゾンである『彼女』を知る精神側の参加者はおらず、気付けるとすれば感染源の肉体の記憶を得た錬金術師くらいだろう。 「っ!!うああああああああああ!!!」 アマゾンから人の姿、エレンに戻った康一は突然叫び出す。 逃走時に持ったままの聖剣、流水を地面に何度も突き刺した。 癇癪を起こした幼子のようだと笑う者は、皆一様に彼の顔を見れば口を噤むこと間違いなし。 地獄の悪鬼すらも裸足で逃げかねない程の、修羅の形相。 「憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」 殺し合いの阻止を誓った正しき心のスタンド使いが、一体どこにいるという。 安全圏を離れる覚悟をカイジに問われた時に切った啖呵は、なんだったのか。 神楽を気遣い聖剣を託した優しさなど、最初から虚構に過ぎなかったのでは。 広瀬康一という少年を形作った軌跡の全てを否定する憎悪が、口から垂れ流される。 確かに、神楽達は康一の巨人化を解除した。 暴走する康一を解放し、巨人の猛威を食い止めた。 だが根本的な解決には至らない。 そもそも康一が巨人になり暴れ回った原因は、両面宿儺がやったケロボールの洗脳電波。 巨人になったのは「滅ぼせ」と繰り返し囁かれ、肉体の記憶に宿る憎悪が急激な覚醒を促された為。 幾ら巨人化が解除されても洗脳は解かれず、ましてエレンの奥深くに眠っていた憎悪と康一自身が向き合わない限り、本当の意味で助けたことにはならない。 洗脳、憎悪、そしてアマゾン化の影響で新たに植え付けられた食人衝動。 康一を支配する三つの感情。 もしここに康一本来の精神も加われば、きっと異なる展開を見せただろう。 欲しい物を出す杖を振った小さな生物達や、数時間前のギニューのように、複数の心へ振り回されたのかもしれない。 しかし康一に宿った心は反発せず、重なり合ってより強固な意志となった。 「憎悪のままに」「喰らって殺して腹を満たし」「全部滅ぼす」 それこそが今の康一にとっての全て、絶対的に正しい一つの道。 この地に巨人は彼以外にいない。 エルディアとマーレの両方とも関係無い。 杜王町を恐怖に陥れた連続殺人鬼は一足先に退場。 本来の憎しみを、怒りを向けるべき者はいない。 康一自身も具体的に何を憎んでいるのか分からない。 だから憎悪の矛先は、生きている残りの参加者全てに向けられるだろう。 「駆逐してやる…一人残らず滅ぼしてやる…!」 一人の少女の物語は終わった。 だが呪いの物語はまだ続く。 少年の憎悪が新たな物語を始めたのを歓迎し、呪いは嗤う。 進撃の魔王が再び君臨する時を楽しみにしながら、ゲラゲラゲラと嗤い続ける。 【神楽@銀魂(身体:ナミ@ONE PIECE) 死亡】 【D-3 聖都大学附属病院跡/夜】 【桐生戦兎@仮面ライダービルド】 [身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド [状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み) [装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド [道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、しのぶの首輪、工具箱 [思考・状況] 基本方針:殺し合いを打破する。 1:神楽……。 2:フリーザの宇宙船に向かい柊達と合流する。 3:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。 4:広瀬康一はどうなってる?巨人以外にも何らかの力があったのか? 5:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが… 6:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか? 7:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。 8:首輪も外さないとな。工具は手に入ったしそろそろ調べたい。 9:エボルトの動向には要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。 10:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。 11:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。 [備考] ※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。 ※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。 ※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。 ※令和ライダーのカードはゼロワンとセイバーが入っています。 ※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。 ※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。 【杉元佐一@ゴールデンカムイ】 [身体]:藤原妹紅@東方project [状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(中)、霊力消費(大)、再生中、一回死亡 [装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(5/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ [道具]:基本支給品×5、神経断裂弾×27@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、ランダム支給品×0~1(確認済) [思考・状況] 基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。 1:……。 2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。 3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。というか本当にないんじゃねえか? 4:なんで先生いるの!? 死んじまったか……。 5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。 6:DIOには要警戒。 7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。 8:何で網走監獄があんだよ…。 9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。 10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ! 11:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。 [備考] ※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。 ※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。 ※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。 ※飛翔は短時間なら可能です ※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノ、正直者の死、フェニックスの尾に類似した攻撃を覚えました ※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。 【我妻善逸@鬼滅の刃】 [身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ [状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、全身に火傷、精神的疲労(極大) [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ 1:あの人(神楽)まで…… 2:お姉さん(杉元)達と行動 3:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな…… 4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか…… 5:無惨が死んだのは良かったんだろうけど…… 6:炭治郎の体が…まさか精神まで死んでないよな……? 7:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ… [備考] ※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。 ※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」「かげぶんしん」の4つです。 ※他に使える技は後の書き手におまかせします。 ※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。 ※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。 【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ [状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、決意 [装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難 [道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着 [思考・状況] 基本方針:殺し合いには乗らない 1:神楽さん……。 2:戦兎さんの…力になりたい……。 3:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。 4:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。 5:なーちゃん達…大丈夫かな……。 6:千雪さんと、真乃ちゃんのこと…戦兎さんならきっと……。 [備考] ※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。 ※参戦時期は後続の書き手にお任せします。 ※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。 ※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。 ※神楽の死体の傍にデイパック(基本支給品)、魔法の天候棒@ONE PIECEが落ちています。 ※仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット(水勢剣流水無し)@仮面ライダーセイバーとスペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバーは神楽が装備したままです。 【D-3(戦兎達から離れた場所)/夜】 【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】 [身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人 [状態]:疲労(絶大)、ケロボールの洗脳電波により洗脳中、謎の憎悪、溶原性細胞感染、食人衝動 [装備]:水勢剣流水@仮面ライダーセイバー [道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ [思考・状況]基本方針:全て滅ぼす [備考] ※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。 ※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。 ※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました ※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。 ※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。 ※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りましたが、現在はその状態にないことを知りません。 ※アナザーウオッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。 ※ケロボールによる洗脳は、時間経過により解ける可能性はあるものとします。具体的に何時解けるかは後続の書き手にお任せします。 ※エレンの肉体の参戦時期は、初めて海にたどり着いた頃のものとします。 ※オリジナル態の体液が傷口から入り込んだ為、溶原性細胞に感染しました。カラスアマゾンに変身が可能です。 140 Aたちのバラッド/何も殺さず生きられない 投下順に読む 142 LOST COLORS -桃源郷エイリアン- 時系列順に読む 130 残された傷跡は(前編) 桐生戦兎 142 LOST COLORS -桃源郷エイリアン- 杉元佐一 我妻善逸 大崎甜花 神楽 GAME OVER 134 悔いなき選択 -傷痕- 広瀬康一
https://w.atwiki.jp/daisenryaku_portable/pages/24.html
大戦略ポータブル・シナリオモード シナリオ1 暴発の代償 GREEN N人民軍への奇襲を支援 RED N民国第一師団の暴走を阻止
https://w.atwiki.jp/proforce/pages/263.html
ぷ
https://w.atwiki.jp/changerowa/pages/358.html
声がする。 滅ぼせ、全てを滅ぼせ、目に映る何もかもを滅ぼせ。 滅び尽くすまで決して止まるな。 声の主が誰なのか、何故滅ぼさねばならないのか。 至極当然の疑問は露程も生まれず、彼は前に進み続ける。 明確な目的地など決めていない。 そもそも今の彼はそのように思考を働かせること自体が不可能。 繰り返される声に逆らわず、何より己の内から泉のように湧き出る憎悪が彼を突き動かす。 誰を、何を憎んでいるのか彼は分かっていない。 果たしてそれが、本当に自分自身の憎悪なのかすら判断が付かなかった。 それでも彼は決して歩みを止めない。 破壊と憎悪だけが今の彼にとっての全て。 垂らした呪いに蝕まれた精神は、最早黄金とは程遠い腐臭を放つ呪物と成り果てた。 守るのではなく壊す、救うのではなく殺す。 正義を歩む光り輝く道は最早どこにも存在しない。 屍を転がし、夥しい血で彩られた冥府魔道。 一歩、また一歩と歩を進めれば足元が沈んで行く。 二度と戻れない泥の底へ自ら落ちつつあると気付きもせず、やがて彼は辿り着いた。 聳え立つ白亜の宮殿。 命と心、両方を救うドクター達の戦場。 侵してはならない聖域を前に、憎悪が沸き立ち声が濁流の如く流れ込む。 ――滅ぼす。 ――全部、駆逐してやる。 ◆ 横たわった少女を前に、善逸は言葉に表せぬ奇妙な感覚を覚えた。 正面玄関から見えない位置、ずっと奥へ設置された霊安室。 簡素な作りの寝台に身を横たえた赤毛の少女。 死体を見るのには慣れている。 鬼の被害に遭った中には、原型を留めず食い散らかされた犠牲者だって珍しくなかった。 シーツを捲り顔の部分のみを覗かせた彼女こそ、善逸が再会を望んだ仲間の器。 元々色白の肌は今や完全に色を失い、結んだ口から沈黙が破られることは永遠にない。 どれだけ彼女の顔を見つめたとて、決して視線を返しはしてくれない。 瞼が閉じられる前、彼女の瞳は最後に何を映し出したのだろうか。 思い浮かべるのはやはりもういない男の顔。 寡黙で涙脆い、無念の最期をこの目でしかと見た仲間。 前の死とこの場での死、どちらがマシかは分からない。 「ピカ……」 少女の肉体は腐りゆくだけの肉袋。 本来あるべき少女自身の魂はおろか、胡蝶しのぶの意識は欠片も残っていない。 蝶の髪飾りを付け微笑むあの人がここにいた、そう己の目で実感できるものはやはりどこにもなくて。 以前蝶屋敷で世話になった頃の記憶が浮かんでは消え、名前も知らない赤毛の少女の顔が変えられない現実として今を映す。 結局自分はもう一度言葉を交わすことも、顔を見ることすら出来なかったのだと分かり。 涙を流さずとも改めて悲しみに胸を突き刺された。 「……」 覚めない眠りについた少女を見下ろす神楽に言葉は無い。 普段の彼女らしからぬ重苦しい空気。 目の前に横たわるのは神楽が犯した罪の証。 彼女が仲間と共に生還を果たす、有り得た未来を自身が粉々に打ち砕いた。 忘れられないし忘れるつもりもないけれど、こうしてしのぶを前に悲しみに暮れる善逸の存在を感じ取れば、罪悪感に息が止まる思いだ。 (でも…私はまだ死ねないアル。恨み言なら私がババアになって、最後に卵かけご飯食べて死んでから思いっきりぶつけるヨロシ) 生きてるのが辛くとも、生きて帰らなければならない理由があるから。 糖尿病持ちの天パ、ツッコミ属性のメガネ、ずっと変わらないと思っていた神楽の居場所。 彼らの死を伝えねばならない人々がいる、だから自分は生きる事を投げ出せない。 亡き人へ想いを馳せる、ある意味では恵まれた時間。 それも長くは続かない。 感傷に浸り続けるのを認めぬとばかりに鳴り響く、新たな章の幕開け。 ハッと顔を上げ部屋を飛び出した一人と一匹は見た、天高くに姿を現した少女を。 ◆◆◆ 死者を悼む者がいれば、現状打破への一歩を踏み出そうとする者もいる。 食堂での語らいを終えた戦兎と甜花は病院内を探索していた。 目的は首輪解除に使う工具の入手。 これまではナナと斉木の接触や悲鳴嶼達の来訪などが立て続けに起きたが、今ならば探索の時間的余裕も幾らかある。 探すのは自分がやるから甜花は休んでいて良いと伝えたところ、手伝いたいと言われた。 無理をして欲しいとは全く思わないが、好意を無下にする気もない。 やる気を出す彼女へ水を差すのも却って悪いと考え承諾。 用務員のロッカールーム等を訪れ数十分、ようやく目当ての物が見付かった。 「せ、戦兎さ~ん……!」 どこか苦しそうな声に駆け寄ると、納得の光景があった。 金属製の箱を両手で持つ彼女はふらつき、今にも転倒しそうだ。 余程重いのか、必死に運ぼうとしている割にほんのちょっぴりずつしか進んでいない。 よいしょ、よいしょと口に出すのは微笑ましいと言えるのかもしれないが、本人からしたら笑えないだろう。 ふらつく甜花へ咄嗟に手が伸び支える。 「おっと。大丈夫か?甜花」 「あっ、う、うん……。あっちで見付けたんだけど、凄く重くて……あう、ごめんなさい……」 彼女が運んで来たケースを開けてみれば、成程これは重いだろうなと内心で独り言ちる。 箱いっぱいにギッチリ詰まった工具一式が金属特有のにおいを発し、鼻孔を突く。 多少の錆こそ見られるも、使う分には問題無い。 ざっと取り出しても首輪を解体するのに必要な物は揃っており、あれがないこれがないと頭を抱える事態にはならない筈。 「謝らなくて良いし、むしろ見つけてくれて大助かりだ」 「そ、そうかな……?にへへ……甜花、お手柄……」 しゅんと肩を落とした姿はどこへやら。 褒められた嬉しさはストレートに表情へ出すらしく、たちまち破顔。 大崎姉妹の妹の庇護欲を刺激する独自の雰囲気は、体がその妹になっても健在。 工具箱を受け取り、戦兎自身のデイパックに仕舞う。 サイズに関係無く収納可能で、しかも重さは一切変わらない性能はこういう場面で役に立つ。 改めてどんな仕組みか調べたい欲求が生まれるが、それは殺し合いを止め生きて帰ってからだ。 まずは自分達の命を縛る枷を取り外すのが優先。 と意気込んだは良いものの、着手するのはまだ先。 二人の耳にもハッキリ届いたのだ。 忌々しいチャイム音、定時放送を告げる合図が。 「こ、これって……」 強張った顔で震える甜花の横で、戦兎も表情に険しさが生まれる。 これより伝えられるのは全て必要な情報だ、耳を塞ぐ愚行に出る気は皆無。 しかしどうやったって緊張は抑えられない。 『よ、よぉー…。初めましてだな、みんな』 引き攣り笑いを浮かべた少女のしどろもどろな挨拶。 斉木空助、ハワード・クリフォードに続く新たな主催者側の協力者登場に始まり伝達事項が語られる。 最後は少女にとっても予想外だったのか、動揺を露わに放送を終わらせた。 「……」 「……」 室内には先程までのほのぼのとした空気は霧散し、痛い沈黙が流れる。 佐倉双葉なる少女の話した内容はどれも、少なからず衝撃を与えるものばかり。 甜花からしたら何から考えていけば良いのかすら難しく、頭の中がしっちゃかめっちゃか。 チラリと横目で戦兎を見ると、真剣な顔付きで考え込む姿が映り込んだ。 話しかけたら迷惑かな、そう思い彼の名を口に出すのに躊躇が生じる。 尤もそこまで悩む必要もない。 考えを整理し終えたのか、真剣さを宿した声が掛けられた。 「一旦全員で集まって話し合った方が良いな。俺は神楽達を呼びに行くから、甜花は杉元の方を頼む」 「わ、分かった……!」 アイドルの仕事をしていれば、現場でスタッフから次々指示が飛ぶのは日常茶飯事。 頷き、すたたっと言われた通りに動き出す。 見張り役を引き受けた仲間の元へ向かう甜花の背を見送り、戦兎も霊安室へと足を速めるのだった。 ◆◆◆ 絶えず地面を濡らし、雨粒が弾ける音を響かせた雨は止んだ。 ガラス一枚隔てた外から聞こえるのは、時折吹き付ける風のみ。 間もなく夕日も消え、殺し合い開始直後と同じ闇が訪れる。 昼夜問わず常に気を張る医療スタッフは影も形もおらず、いるのは病院で身を休めた5人の参加者。 ロビーにて顔を突き合わせる彼らは皆、喜びや楽しさとは正反対の表情。 それぞれ聞いた場所は違えど、全員放送はしかと確認済みだ。 病院へ戻って来た時よりも、纏わりつく空気へ重圧が増すのも無理はない。 「先に俺から良いか?」 痛い沈黙を真っ先に破ったのは白髪の少女。 蓬莱人の肉体を得た兵士、杉元は5人の中で最も死を身近に感じて来た男だ。 仲間の脱落を悼む気持ちはあれど、延々それを引き摺りはしない。 冷静に放送の内容を受け止め、今後必要となる情報を読み解いていく。 「放送が正しいなら脹相は死んじまったってことだけどよ、ありゃおかしいだろ」 「ああ、体が全然違う奴だった」 別行動を取った仲間の一人は先の6時間で命を落としてしまった。 今になって死亡者発表に嘘を交えるとは考えられず、脹相の死は紛れもない事実だろう。 奇妙なのは放送で表示された脹相の肉体について。 デンジなるガラの悪い少年が殺し合いで脹相に与えられた体。 知らない者にとっては気にもしないだろうが、甜花を除いた病院内のメンバーはハッキリとした疑問を抱く。 脹相の体は501部隊所属のウィッチ、ゲルトルート・バルクホルンだ。 病院を出発する前の顔合わせで確認しており間違いない。 だというのに放送で全く別人の体が映し出された理由は、然程時間を置かずに導き出される。 「杉元。最初に善逸と会った時、体を入れ替えたかもしれない奴がいたって言ったよな?」 「ん?おう。変わった耳飾り付けた奴で、ただそいつもさっきの放送で呼ばれて…あ、そういうことか」 一番最初に二足歩行のカエルことケロロ軍曹の体に入っていた参加者。 その何者かが姉畑にウコチャヌプコロされた直後、今は亡き鳥束と体を入れ替えた。 放送で名前を知ったが竈門炭治郎の体となったそいつは、杉元達の知らない所で今度はデンジの体を手に入れたのだろう。 となると、元々デンジの体だったのは放送で脱落者に名を連ねた絵美理という少女と考えられる。 デンジの体になったそいつとナナ達が宇宙船で遭遇。 どうにか撃退できたものの脹相が犠牲となり、バルクホルンの体も奪われてしまった。 ややこしいが体の入れ替えが可能な力の持ち主がいる前提があれば、大まかな経緯は推測できる。 「つまり…あいつはまだ生きてるってことか」 杉元をして強敵だと認識せざるを得ない戦闘技能の持ち主は、未だ死を逃れている。 生存者の数が減り禁止エリアの影響で移動範囲が狭まった以上、再戦の可能性は決して低くない。 若しかすれば、アシリパや白石の体に入れ替えられることだって有り得なくはない。 と言っても現在に至るまで放送でアシリパ達の名が呼ばれていない為、実際には巻き込まれてないのではとも薄々感じ始めている。 ただ確証は持てないので、組み合わせ名簿の確認は変わらず今後の方針に付け加えたまま。 アシリパ達が無事ならその場合、知り合いは本当に姉畑のみが参加という余りに不可解な疑問が残されるのだが。 姉畑で思い出すのは主催者側のボスなる者からの伝言。 亀で、今はカメラ。 何のこっちゃとしか言いようのない内容だが、参加者を煙に巻く戯言と切り捨てられない。 動物が参加者に登録されたのを知っている故に、殺し合いの黒幕もまた動物の可能性は無いと言い切れない。 ちなみに亀という単語からそれぞれタートルフルボトル、竜宮城での騒動、灯織が考えた話を連想したが全て無関係である。 カメラに精神が入っているかもしれないのも、貨物船という存在を知っていれば理解出来なくも無かった。 改めて考えても貨物船に自我が宿る意味が全く分からないが。 もし姉畑が生きていたらどんな反応をしたのだろうかと、非常にどうでもいいことつい考えそうになる。 死して尚も混乱を引き起こす男の存在を頭から追いやり、朗報と言うべき情報に思考を切り替える。 戦兎達にとって目下最大の脅威であるDIO、その部下のヴァニラ・アイスも先の6時間を生き延びられなかった。 地下通路のモノモノマシーンへ向かってから、同じくモノモノマシーン目当ての参加者と衝突。 結果殺されたのかもしれない。 殺害者の正体は不明だが、これでDIOの戦力が削がれたのは悪い情報ではないだろう。 尤も殺害者が殺し合いに乗っているならば、脅威がいつこちらに向かって来るか分からないのが悩みの種。 こちらの与り知らぬ所でDIOも部下と同じく脱落、とは流石に期待し過ぎか。 またDIOとの詳細な関係性は不明だが空条承太郎も死亡。 こちらは神楽曰く、康一から信頼できる男と伝えられたらしい。 終ぞ会えなかった少年に与えられた体はなんと燃堂だった。 本当に高校生かと疑いたくなる凶悪な面構えが、まさかバカとしか言いようのない燃堂の元の体とは驚きである。 殺し合いをまるで正確に理解していない彼と言えども、自分の体が失われたと知れば流石に平気ではいられない筈。 もしそれすら理解出来なければ、同行しているナナが説明に苦心するのは想像に難くない。 そのナナに関してもクラスメイトの犬飼ミチルが死亡しており、精神的に余裕があるかは不明だが。 (千雪さんと、真乃ちゃんは大丈夫みたい……) 自分の知るアイドル達の無事へ、甜花は内心胸を撫で下ろす。 放送の度に彼女達が名前を呼ばれる可能性に怯えて来たが、今度も大丈夫だった。 千雪が無事というのは即ち、戦兎が強く警戒するエボルトの生存に繋がる為決して気は抜けない。 それでも親しい者達の体が失われていない事実には、やはり安堵が勝る。 真乃の体になったダグバがどんな人物かは分からないけど、殺し合いに乗っていない人であって欲しいと願うばかりだ。 親しい者の生存を知る一方で、喪失を嘆く者もまた現れる。 「ピカー…ピカピ……(無惨が死んだけど…でも……)」 全ての悲劇の元凶、鬼殺隊の宿敵であろうと殺し合いでは絶対の存在に非ず。 証明するかのように無惨も死亡。 動物とも違う奇怪な生物の体になっていたことへの驚きはあれど、これ以上犠牲者が生まれないのを考えれば喜ばしい。 残念ながら知ったのが良い情報だけとは限らない。 鬼殺隊の長であった耀哉もまた、無惨と同じ6時間の間に死んでしまった。 しかも与えられ体がよりにもよって、怨敵である無惨なのは最悪の組み合わせと言う他ない。 自分でさえ衝撃を受けているのだから、耀哉を強く慕っていた柱達にとっては到底受け入れ難いだろう。 彼らがこの事実を知らず二度目の死を迎えたのは、果たして幸運だったのか否か。 善逸には答えが出せなかった。 更に悪い情報として、肉体だけだが炭治郎の脱落も発表された。 体を失い、精神はどうなっているか今も不明。 ひょっとすれば二回目の放送で言われた肉体側の精神の復活に、炭治郎が当て嵌まった可能性とて有り得る。 確たる証拠は無いけれど、完全否定だって出来ない。 もしそうなら、炭治郎は本当に善逸の知らない所で死んでしまったことになる。 無惨との決戦を生き延びた仲間であり友である少年が、こんな訳の分からない場所で命を落としたなど信じたくない。 仮に自分が生還出来ても禰豆子や伊之助、カナヲに一体何と説明すれば良いのか。 皆が揃って悲痛な顔をする光景を嫌でも考えてしまい、どうしようもなく心が沈む。 「ゲンガー……」 善逸同様、神楽の表情にも影が差す。 離れの島で出会った仲間はまた一人、無情にも再会叶わず去って行った。 これで残ったのは自分と康一の二人だけ、出会った頃の騒がしさが遠い過去に感じられてならない。 誰に、どのような形で殺されたのかは知る由も無い。 真実が何にせよ、ゲンガーと言葉を交わす機会は二度と訪れない。 決意を貫き、殺し合いに乗った者達へのイジワルとジャマモノをやり遂げたのか。 カイジが別行動を取る原因を作ったメタモンの死亡も喜ぶ気になれず、言いようのない寂しさが胸を突き刺す。 また神楽と直接の面識は無いが、康一の友である東方仗助の体の持ち主も死亡とのこと。 ゲンガーや承太郎の死へ追い打ちを掛ける内容に、康一への心配は募るばかり。 加えて、ロビンの仲間のチョッパーの体も脱落者に加わっていた。 せめて彼女の仲間の体は元に戻してやりたかったものの、チョッパーに関しては不可能となったのも神楽の精神をより曇らせる。 沈痛な面持ちの二人と一匹へ安易に声を掛けるのは憚られる。 しかし時間による解決へ期待する余裕は残されていない。 2時間後にはD-3も禁止エリアとして機能し、聖都大学附属病院は完全に出入り不可能。 猶予はまだあり、少し急げば十分間に合うがのんびりしてもいられない。 悲痛な空気に横槍を入れると承知の上で、戦兎は地図を取り出し広げる。 「予定通り柊達との合流に行こうと思う。急がねえと俺達だけじゃなく、アイツらの方も危険だ」 自分達がいるD-3、参加者が大勢集まるだろうD-6の街、そしてモノモノマシーンが設置されたG-5。 新たな禁止エリアから、主催者が参加者の誘導を行おうとしているのは察せる。 恐らくは北西に設置された網走監獄周辺へ一同に集めるつもりだろう。 そうなれば網走監獄の丁度真下のエリアにいるナナ達が、集まった参加者と接触する可能性は高い。 打倒主催者を掲げる者ならともかく、DIOのような危険人物とぶつかっては最悪の展開となってしまう。 戦闘が可能な脹相がいない現状、ナナと燃堂の二人だけではどうぞ殺してくださいと言っているようなもの。 手遅れになる前に合流を急ぐべきだ。 「……ごめん、私はやっぱり康一を探しに行きたいネ」 そこへ異を唱えるのは神楽。 ナナ達の元へ急いだ方が良いのは分かる。 だが病院での合流を約束した仲間は未だ姿を見せず、不安は募るばかり。 康一が追いかけていた巨大な虫…グレーテの死は放送で確認出来た。 彼女はアルフォンスの言ったように錯乱しているだけだったのか、或いは明確な意思で殺し合いに乗ったのか。 今となってはもう分からない。 ハッキリしているのはグレーテが死に、康一は彼女を追ったまま6時間以上経っても病院に現れないこと。 村で何かあったんじゃないか、アルフォンスから聞いた危険人物に襲われたのでは。 負傷し、身動きが取れずにいる可能性だって否定できない。 「お前らは先に行ってるがヨロシ。私も康一を見付けたら急いで追いかけるアル」 「…分かった。ならバイクを渡すからそれを使ってくれ」 迷いのない瞳で言われ、僅かな沈黙を挟み戦兎も承諾。 放送が終わっても病院に康一が来ない場合に、捜索へ行くのは戦兎も考えた。 本当ならば戦力を分散せず、5人で康一を探した方が安全だろう。 しかしそうなると今度はナナ達が危険に晒される。 リスクは承知で二手に分かれる、それしかない。 「ピカ!(お、俺も一緒に行く!)」 片手(前足)を上げ、黄色い獣が同行を名乗り出た。 神楽が仲間を心配するのは見ていてよく分かったし、そこを否定する気はない。 ただ、一人だけで探しに行くのを黙って見送れない。 仲間を次々に失う痛みは、鬼との戦いと殺し合いでの喪失から善逸にも痛いくらいに理解出来る。 だからこそ残った仲間の為に無茶をしでかさないか心配だ。 それに、罪悪感という形であれど自分と共にしのぶを悼んだ縁もある。 DIOのような危険人物との遭遇を考えれば恐くて堪らないが、神楽を放って置けない。 少女と少年の決意を嘲笑うように異変が起きたのは直後だ。 「ピカ…?」 最初に気付いたのは善逸。 ピカチュウの長い耳を揺らし、不審な音の接近を聞き取った。 次いで起こるは建物の振動。 病院全体が揺れている。 最初は極僅か、徐々に揺れが大きくなりロビー備え付けのパンフレットが落下。 まるでこちらの不安を煽るのが目的と言わんばかりに、振動は激しさを増す。 「じ、地震……?」 「違う。こいつは……足音か?」 揺れは一定の間隔で発生しており、自然災害とは違う。 一つの可能性に思い至った杉元だが、自分の言葉ながら俄かには信じ難い。 ヒグマを始め凶暴な野生動物との遭遇は多々あれど、ここまでの振動を移動だけで起こす存在は見た事がない。 一体全体何が近付いているのか、何が始まろうとしているのか。 膨らむ疑問へ長々考える必要はない。 ガラス窓を挟んだ外へ視線を移せば、向こうから答えが歩いてやって来たのだから。 「は……?」 間の抜けた声を発したのは誰だったか。 互いがどんな顔でソレを見ていたか。 少なくとも、この時の彼らにそんなものを気にする余裕はゼロ。 全員の意識を掻っ攫い、暫し思考をフリーズさせる存在がいた。 巨人、である。 10メートルを超える人型の物体を表すのに、他の言葉は思い付かない。 剥き出しの歯を打ち鳴らし近付く光景は、怪獣映画の世界に迷い込んだかの荒唐無稽さ。 病院に留まり続ける間にも、危険な参加者から襲撃を受ける可能性は頭に置いていた。 だが幾ら何でも、ここまで規格外の存在の出現は予想外。 「康一…!?」 凍り付いた意識を引き戻したのは、唯一巨人の正体を知る少女の声。 彼女もまた予期せぬ事態に反応が遅れたが、他の者より復帰は早い。 自然と神楽に視線が集まる。 「おいまさか、探しに行きたがってた仲間ってあいつか…?」 「そうアル…。でもなんで……銀ちゃんみたいにいちご牛乳が切れて禁断症状が出たアルか?」 「ピカ!ピガアアアアア!!(っていうかこっちに来てるって!どうすんの!?どうすんのこれ!?)」 「で、でも神楽さんの仲間なら……襲ったりとかはしないんじゃ……」 困惑する一同を巨人の瞳が捉える。 見下ろす視線に宿るものは、友好的とは程遠い。 早急な対処を脳が激しく訴え、全身の細胞が痛いくらいに刺激される感覚。 死闘を経験した者達ならば知らない筈がない、極大の殺気が叩き付けられた。 「おい来たぞ!」 「っ!変身!」 『KAMEN RIDE BUILD!』 『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!』 敵対者からの殺気とは即ち、導火線への点火と同じ。 何故、どうしてと頭で考えるより先に体が動く。 回避を促しつつ、杉元自身も全身をバネに変える勢いで跳び退いた。 右手には善逸を抱え、左手では未だ困惑から覚めぬ神楽を引っ張って。 信頼する仲間に襲われるショックから、直ぐには切り替えられなかったのだろう。 「きゃっ……!」 「文句は後で聞くから我慢してくれ!」 ディケイドライバーにカードを叩き込み、ビルドに変身するや否や戦兎も動き出す。 巨人が発する殺気に身が竦んだ甜花を抱え病院を飛び出る。 ラビットフルボトルの成分で強化された脚力を最大限に行使、迫りつつある死から少しでも遠ざからなければ揃って御陀仏だ。 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』 あれだけの殺気を叩きつけておきながら何もしない、などと肩透かしな筈も無く。 足を後方へ振り上げ、ボールを蹴り付けるような気安さで巨人の足が猛接近。 ガラスが砕け散り床は粉砕、四方八方へ吹き飛んだ椅子が更なる破壊を齎す。 たった一撃でロビー内は見るも無残な惨状に変貌。 単なる移動でさえ命をゴミのように刈り取れるのだ。 明確な殺意で以て対象の殲滅に動けば、齎される破壊の規模は想像するのも恐ろしい。 しかし巨人の望んだ光景は実現されていない。 ここにいるのは怯え逃げ惑うだけの弱者に非ず、紙一重ながら全員病院を脱出した。 「こ、康一…なんで……」 「頭の中がこんがらがってるだろうけど教えてくれ。どうやったら止められる?」 動揺を露わにわなわなと震える神楽へ、時間が惜しいとばかりに問い掛ける。 康一が巨人となり自分達を襲った理由を考えるより、大人しくさせる方が先だ。 先程神楽は巨人を見て康一と言った、なら康一が巨人になれる事を知っていたと見て間違いない。 現状打破の鍵を握る神楽に、知っている情報を話してもらう必要がある。 「えっと…確か……」 混乱から覚めぬ頭で必死に記憶の糸を手繰り寄せる。 康一は巨人になる能力を制御出来ていなかった筈。 だから最初ロビンと会った時、暴れ回る彼を止めるのに協力してくれと頼まれた。 だというのに康一は再び巨人の姿になった挙句、案の定理性を失っている。 一体村で何が起きたのか。 制御不可能と分かっていながら巨人にならざるを得ない程、危機的状況に陥ったのか。 自分がグレーテへの対処を誤らなければ康一が村に近付く必要も無く、このような事態にならなかったんじゃあないか。 ごちゃごちゃし始める脳内を必死に探り、離れの島での情報交換を思い出す。 互いに持つ能力や支給品、体の情報も教え合い巨人についても聞いただろう。 そうだ、確かあの巨人は―― 「うなじ…うなじって言ってたネ!そこに康一が埋まってるから、引き摺り出せば元に戻る筈ヨ!」 弱点は分かったが無邪気に喜んでもいられない。 標的が全員健在なのを知り、巨人からの敵意が一層膨れ上がる。 簡単に止まってはくれないだろうプレッシャー。 DIOとの戦いの時とはまた違う緊張感が一同を包み込む。 「へ、変身……!」 『ロックオン!ソイヤッ!』 『メロンアームズ!天・下・御・免!』 放って置けば自らを支える芯まで蝕む恐怖。 己を支配下に置く感情を振り払うように、ロックシードを勢いよく装填。 アーマードライダー斬月に変身し、甜花は戦兎の隣に立つ。 顔は仮面で見えない、それでも決して顔色が良いのでないくらい察せられる。 「甜花……」 「だ、大丈夫……!恐い、けど……でも、戦兎さん達と頑張るって、決めたから……!」 声に震えは隠せない、しかし確固とした意思が宿っているのも確か。 躊躇は一瞬、共闘を受け入れ強く頷き返す。 決意に水を差すのを憚れるだけではない。 どこかに隠れていろと言っても相手のサイズがサイズだ。 病院内に身を潜め、結果巨人の攻撃で倒壊が起きる可能性も十分ある。 ならば彼女の近くでフォローに動いた方が良い。 『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■オ■■■■■■■■!!!!!』 お喋りはもう終わりだ。 放送が過ぎ、次なる舞台への準備は整えられた。 三人の支配者が雌雄を決する場。 善意と悪意が交差する因縁のステージ。 そして此度もまた一つ、新たな闘争の幕が上がる。 →
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2017年11月12日/11月23日/2018年02月10日/02月17日開催 「裏切りの代償」 ■参加キャラクター 名前 プレイヤー 職業 心 技 体 武器 備考 カレ・ルー 天かける翼 盗賊 5 11 5 ショートソード AT2 初参加PC ショー・バイニン BUSHOUMONO 魔戦士 4 9 6 ロングソード AT4 職業ボーナス補填あり マリオン hand 精霊使い 8 8 5 ショートソード AT2 初参加PC ドラ=エイモン ase 戦士 5 7 9 ショートスピア AT4 PC名変更(旧名:キンシコウ) ■依頼概要 リューンにある「劇団」に所属しているピーターという男からの依頼。 その劇団に所属している幼馴染でありスター女優のイザベラに1週間ほど前から不吉な事件が続き、 命を狙っている者がいる可能性があると考えた彼は、彼女を護衛すると同時に 彼女を狙っている者の正体を突き止めてほしいと冒険者達に依頼を出した。 ■見学者 Tirina sAsa ■友好NPC 宿の亭主 給仕の娘 ルーナー ---片角の牡鹿亭の冒険者の一人。PC達に色々な助言を与えてくれる。 サンダー ---エールの井泉亭の三代目亭主。 盗賊ギルド員 ---モブ。毒針の鑑定をした。 通行人(複数)、露天商 ---モブ。イザベラ襲撃後に聞き込みを行った。 タカトゥー歌劇団 ---リューンで活動している劇団。 劇団員 ピーター(依頼人) ---役者で幼なじみのイザベラと同時期に同じ劇団に入った。 イザベラ ---劇団のスター女優。今回の護衛対象。 タカトゥー ---劇団の座長。 アンリ・ムーソン ---美術(大道具)担当。 ルカ・レドーラ ---衣装係。 サラ・トルジェン ---ベテランの女優。 劇団関連業者 ジェイソン・ノトー ---装飾関連の業者(未登場・名前のみ)。 ハゲ散らかした店主 ---劇団練習所近くでパンとスープを作ってるお店の店主。 マリナ・アジャット ---劇団練習所近くでパンとスープを作ってるお店の店員、熱烈な劇団のファン。 ■敵対NPC 裏ピーター ---イザベラへの失望によって生まれた別人格。暗黒の魔法を使う。 ■地理 交易都市リューン ■建物・名称 片角の牡鹿亭 エールの井泉亭 劇団の練習場 イザベラの家 パンとスープの店 ---劇団に食事を配達している店。名称不明。 ■イベント エールの井泉亭での調査。 劇団練習所での聞き込み。 ショー、イザベラ家の外で夜通し警護&イザベラお手製ご飯。 マリオンとエイモン、エールの井泉亭でサラに聞き込み。 カレ、劇団練習所のトイレに隠れて、夜間の潜入調査。便所で一人保存食を食べる。 劇団近くのパンとスープのお店での聞き込み。劇団ファンのマリナ・アジャット。 カレ、練習所で賄いスープゲット(祝)。 イザベラ、黒い衣を纏った暴漢により負傷。 黒い衣の暴漢、煙幕とともに消えゆ。 消えた黒い衣の暴漢を行方を探り、周囲や劇団員への聞き込み。 料理上手のイザベラのボルチーニ茸とクリームソースを使ったリゾット。 イザベラ家での警護 夜間イザベラとピーターの会話・・・ のちもう一つの人格を表すピーター。 ■獲得アイテム 元歌姫イザベラのサイン(×4) ---【イザベラのフルネームと ◯◯さんへYYYY.MM.DD】というメッセージ付き。 ■購入・支出 飲み代(10sp)(マリオン、エイモン) ---エールの井泉亭でサラから話を聞き出す際に各自支払い。 食事代(10sp)(ショー、エイモン、マリオン) ---パンとスープの店で店員から話を聞き出す際に各自支払い。 ■報酬 1人1500sp×4人=6000sp ---本来はピーターから1人300spが支払われる予定だったが、イザベラが肩代わりすることになり、更に多額の迷惑料が上乗せされた。 ■クーポン 劇団の歌姫殺害を阻止した(+4) ■セッションメモ 黒服が窓から落下について。金田一少年の事件簿のオペラ座の事件のトリックからの流用。劇団にあった重い煉瓦を使って窓を破壊して、煙玉を使って通行人に紛れたように見せる。 サラ「一つだけ許せない事があったけど、これは彼女を思っての事よ。」→イザベラの枕営業 表ピーターは自分が犯人だと理解してない。 新システム「幸運値」 PCの強化に依存せず、さまざまな状況に対応しうるファジー要素となりうる。 マルチクラスの職業ボーナスに関する仕様変更の補填としてショーに経験点15点が与えられた。(参考:セッションデータ/嫉妬と模特児と姫様) ■反省会ワンポイントメモ 推理物という形式が珍しいCWCRPGであった為かGM側も色々試行錯誤で、PC側も「推理」は難しい。位置関係の把握がややこしかった声もあったが、今後の探索や調査がメインとなるシティアドベンチャー形式への布石になったのではないだろうか。 カレは藤原竜也。
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「条件」を書いたものです。まだ名はありません。 今回も「格差」が大きく出ています。以下の注意点があります。 ・誤字脱字、文的に変なところがあるかも知れません。 ・希少種優遇ものです。(希少種は死ね!!という派の方はUターンをお勧めします) ・納得いかない終わり方かも知れませんので覚悟の上でご覧下さい ・設定に納得いかない点があるかも知れませんがご了承下さい。 以上の注意点を踏まえた上でお楽しみください。 それでは始まり始まりー ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「やい、くそじじい!まりささまたちにあまあまをけんじょうしろだぜ!!」 「れいむはおなかがすいてかわいそうなんだよ!いっぱいちょうだいね!」 「はやくしなさい!まったくいなかものはとろすぎるからこまるわ!」 「むきゃきゃきゃ!ていのうのぶんざいでいだいなけんじゃのぱちぇにやくだてることをこうえいにおもいなさい!」 「・・・」 家から少し離れたコンビニに出かけた。買ったものは雑誌、飲み物とスナック菓子。 気になる漫画を立ち読みをしていい気分転換が出来たと歩いていた矢先にこれだ。 「なんでお前らに食べ物やらなきゃいけないんだよ?馬鹿か?死ぬのか?」 「・・・ゆふふふ!ばかはじじいのほうだぜ!」 「これをみなさい!いなかもの!」 「あ!」 よく見ると4匹の飾りには金バッチがついていた。体も割と綺麗な方だが・・・ 「お前らどっかから盗んで来たのか?」 「ゆゆっ!?しつれいなどれいだね!これはれいむたちのだよ!!」 「本当かよ。なら、調べさせろ。」 俺は四匹のバッチの裏を確認した。確かにそれぞれについているバッチは付けている者の種類を指している。 「これでわかったかだぜ!だったらはやくあまあま「ちょっと待て」」 「お前ら金てことは飼いゆっくりだろう?飼い主にあまあまを貰えばいいだろうが」 普通に考えれば金がこんなことをする筈がない。考えられるのは・・・ 「お前ら、捨てゆっくりか?」 この口の悪さだ。捨てられてもおかしくない。汚れも目立たないとはいえ付き始めている。 「むきゃきゃ!いだいなぱちぇがすてゆっくりですって!」 「とかいはなありすがすてられるわけないじゃない、このいなかもの!」 「れいむみたいなゆっくりできるゆっくりをすてるにんげんなんてこのよにいないよ!」 「まりささまたちはいえでゆっけりだぜ!」 「は?」 聞くところによるとこいつらは仲良しグループで4匹とも飼い主の愚かさに絶望し家出をしたそうだ。 別に聞きたくはないがゆっくり共は家出をした理由を話し出した。 れいむは子供が欲しかったが飼い主に反対されていた。 我慢できなくって家に来た飼いゆっくりのちぇんとすっきりをした。子供が出来たのはちぇんの方だったがれいむは満足した。 だが、飼い主は物凄く怒り茎に付いていたれいむにのおちびちゃんを潰した。れいむはあまりの怒りに家を出たそうだ。 まりさは元気に遊んでいたら奴隷のガキ、つまり飼い主の子供がまりさのゆっくりプレイスに入って来た。 少しせいさいしていたら飼い主の平手打ちを喰らったそうだ。まりさは家出を決意した。 ありすはとかいはなコーディネートをしていたらしく会心の出来だと喜んでいたら飼い主が帰って来た。 コーディネートを誉めてくれると思ったありすだが、来たのは罵倒と蹴りであった。 いなかものだとは思っていたがここまでいなかものだとは思わなかったありすは家出をしたのだ。 ぱちゅりーはけんじゃな読書タイムを満喫していたところを飼い主が帰ってきた。 天才的な頭脳が疲れたのであまあまを要求したら飼い主がくれたのは殺意の篭った拳であった。 ぱちゅりーは余りにも愚かな奴隷に幻滅し家出をした。 自分達の話のゆへんとしている四匹。引っ立ている四匹を他所に俺はただ呆れていた。もう帰ろうとしたその時・・・。 「!?」 俺はあるゆっくりに目が止まった。四匹を無視しそのゆっくりの元に走った。 「おい!大丈夫か!?」 「じゃ・・・おおお・・・」 あまりの暑さで死にかけている銀バッチのめーりんを見つけた。 「ゆ!くずめーりんがいるよ!」 「むきゅ!まったくゆっくりしてないわね!」 「ほんとうにいなかものね!」 「かんだかいまりささまがいまらくにしてやるだぜ!」 めーりんの存在に気付いたゆっくりは罵倒し始める。だが・・・ 「うー!だまれ・・・!!」 「「「「ゆっ!?ふ、ふらんだあああああああああああああー!?」」」」 「だまらないと金バッチだろうがころす・・・!!」 「「「「ゆあああぁぁぁぁぁ・・・」」」」 突然現れたゆっくりふらんが四匹を睨み付ける。しーしーを盛大に漏らす四匹。 俺は急いで買ったスポーツ飲料をめーりんに飲ませた。すると渇いていた肌が元に戻っていく。表情もゆっくりしてきた。 辛そうだったふらんにも残りのスポーツ飲料を飲ませた。夜行性と思われているふらんだが一応昼も行動できる。 だが、この暑さは流石にしんどかったようだ。めーりんのバッチ番号を確認した俺は職場に電話をかけた。 「もしもし、職員の・・・○○か!ちょうどよかった!例のめーりん見つけたぞ。 容態は脱水をしていたがスポーツ飲料の飲ませたから今はもう大丈夫だ。 早く飼い主さんに・・・そこにいるのか。なら、場所は・・・」 現在地を説明し頼み事をして電話を切った。 「めーりん、すぐにお兄さんが向かいにくるぞ」 「じゃおお・・・」 「めーりん・・・」 どこか俯かない顔をするめーりん。ふらんは心配そうにめーりんに寄り添う。電話をして5分位経った頃。 四匹は小声でめーりんの悪口を言っている。ふらんが睨み付けで黙らせた。 目の前にスクーターが一台止まった。ヘルメットを取り、俺の元に凄い勢いで近づいて来た。 「めーりん!よかった・・・よかった!」 抱えていためーりんを受け取った途端、めーりんを抱きしめる青年。今にも泣き出しそうだ。 「じゃおおおおん!じゃおおおおおおん!!」 「いいんだよ・・・お兄さんも悪かったんだ・・・無事でよかったよ」 喋れないゆっくりであるめーりんと完全に意志疎通をしている。喋れないゆっくりと意志疎通が出来るのはかなり良い信頼関係を築いている証拠だ。 めーりんは家出ゆっくりであった。 青年の説明によれば、めーりんのお気に入りのクッション(お兄さんからの最初のプレゼントで一番の宝物)を青年は説明せずに洗濯してしまったらしい。 それを捨てられたと勘違いしためーりんは外へ飛び出してしまった。しばらく泣いていたが暗くなってしまい帰れなくなった。 途方にくれているとふらんが心配して話しかけて来た。めーりんは事情を説明するとふらんは巣に招き入れた。 友達になってくれた。めーりんは初めて友達が出来た。 翌朝、めーりんは家に帰ってお兄さんに謝ろうとふらんの巣を出た。だが、あまりの暑さに途中で動けなくなった。そこを俺に救われたと言っている。 ふらんも心配になって急いで後を追ったそうだ。追い付いた時、そこの四匹がめーりんを罵っているところだったので威嚇に入ったそうだ。 青年はめーりんを馬鹿にした四匹を冷たい目で睨んだ。四匹はその目に恐怖し、しーしーを流した。 だが、そいつらのことよりも今はめーりんが無事であったことが嬉しかった。 「本当にありがとうございます。なんとお礼を言えば・・・」 「いえ、これも仕事ですから。それにお礼はふらんに言ってあげてください。」 俺がそういうと青年はふらんにも深くお礼を言った。そして、ある提案した。 「ふらん、お世話になったのに一つ頼みがあるんだ。お兄さんとめーりんと一緒に暮らさないか?」 「うー!?」 その提案にふらんは驚いた。このめーりんはかなりの引っ込み思案で中々友達が出来なかった。 ふらんはそんなめーりんの初めての友達だ。出来れば一緒にいさせてやりたいと青年は考えた。 「じゃおおじゃおおおん!」 「めーりん・・・。」 完全には理解できないがめーりんが何を言いたいのか俺でも分かる。ふらんは顔をあげた。 「ふらんもめーりんと一緒にいたい!」 青年はめーりんとふらんを抱き抱え、俺にもう一度深くお礼を言って帰っていく。 見送ったあとに残ったのは俺と金バカの四匹が残った。 四匹はめーりんの姿を見て羨ましくなった。ゆっくりできないと蔑んでいためーりんのあのゆっくりとした光景には羨ましいと思えた。 「安心しろ、お前等のももう少しで来るから」 「「「「ゆ!?」」」」 俺の発言に驚いたがすぐに態度が戻る。 「そうだね!あのくずめーりんだってむかえにきってくれるんだよ」 「とかいはなありすたちだってとうぜんむかえにくるわ!」 「けんじゃなぱちぇがいなくなったんですもの!けっそうをかえてさがしているわ!」 「はやくくるだぜ!どれい!」 帰ったらどうするか迎えに来るのが遅かった奴隷をどう制裁するかを和気あいあいと話す四匹。 すると四匹は大きな影に包まれた。この影の主はきっと奴隷だと確信する四匹はくるっと後を向き「ゆっくりしていってね」を言おうとした。 心の広いれいむたちは遅れた奴隷に対して過ぎる言葉だったが自分達の最高のゆっくりしていってねを聞かせてやることにした。 「「「「ゆっくりしていって・・・ね?」」」 振り向いた先にいたのは飼い主ではなかった。そこにいたのは・・・ 加工場の制服を着ていた人間であった。 「先輩、休暇なのにお疲れ様です!」 「いや、これを放置していく訳にはいかないからな。」 突然、現れた加工場の人間と親しく話す俺を見て混乱する四匹。混乱していたが次の言葉で正気に戻させた。 「こいつらですか?処分届けがあったのは?」 「そう、ご丁寧に四匹一緒に俺に絡んできやがったよ。まあ、手間は省けたがな。」 「あー災難でしたね」 四匹に嫌な言葉が耳に入った。処分。それはペットショップで散々聞いた言葉。それになったものは永遠にゆっくりしてしまうこと。 「「「「どうじでじょぶんされるのー!!!?」」」」 「・・・お前等が散々奴隷とか吐かした人からの頼まれたんだよ、俺達」 「じじいはなにものなのぜ!?」 「俺か?俺は・・・」 後輩の一人が持っていた頼んだものを受け取り頭に被せた。 「俺は加工場の職員だ。ついでにいうとこの地区のリーダーさ。」 俺が被ったのは加工場の帽子だ。それを被った途端、四匹は目を見開いて静かになった。 「一応説明してやるよ、なんで処分されるかをな」 四匹は冷や汗をかき始めたが無視して続けた。 「まず、れいむ。他人の飼いゆっくりを無理矢理れいぷして子供を作らせた奴はもう面倒見切れないそうだ。 あ、お前がれいぷして出来た子供はちぇんの飼い主から引き取ってお兄さんが育ててるから安心しろ。でも、れいむ種は潰したらしいぞ。」 「ゆう?ゆう・・・?」 「まりさ。お前がせいさい!しようとしたのは飼い主の妹だ。妹を傷つけようとしたお前の顔なんて二度と見たくないって。 お前の遊び道具とか集めていたガラクタはもう捨てたってさ。」 「ま、まりさのたからものを・・・?」 「ありす、お前がとかいはなこーでぃねいとをしたせいで色々なものが駄目になったそうだ。 なによりも許せないのは飼い主の大切な品を無惨に壊したことだ。あんな田舎者ですらないありすなんていらないそうだ。」 「あ、ありすがいなかものいか・・・?」 「最後にぱちゅりー。お前が理解も出来ないくせに弄った本はべとべとでもう読めなくなったらしい。 その中には大切にしていたものもあったみたいでな。もうお前みたいな無能なゲロ袋はいらない!だって」 「ぱちぇば・・・むのう・・・?」 告げられたことがあまりにショックで無言になった。俺はお構いなくとどめの一撃を言い放った。 「れいぱー母性もげす帽子もいなかもの以下も無能で馬鹿なゲロ袋もいらない。つまり、お前は・・・」 四匹の付けていた金パッチをむしり取り俺の足元に落とした。 「自由な野良になったってことだよ」 足元に落としたバッチを原型が分からなくなる位踏み潰した。四匹は何も言えなかった。自分達の誇れることが既に跡もなく無くっていたという事実を突き付けられたからだ。 「さて、加工場に連れていてくれ。でもな・・・」 後輩に指示を出して俺は家に帰った。貴重な休日を堪能するために・・・。 あれからめーりんは幸せに暮らしている。もう二度と家ではしないだろう。 ふらんのお飾りにはめーりんと同じ銀バッチが輝いている。野良出身でありながら短期間で取れたのはめーりんと一緒がいいという思いが強かったからだろう。 お兄さんもめーりんだけでなくふらんにも愛情を注いだ。なんたって、めーりんの初めての友達であり・・・ 「「「めーりんー!ふらんー!遊ぼう~!」」」 「じゃあああん!」 「うー!うー!」 引っ込み思案だっためーりんを変えてくれる切欠を作ってくれたのだから。 他にもめーりんには友達が出来た。積極的に他のゆっくりとも交流をするようになった。 いつも一人ぼっちで寂しそうな顔をするめーりんはもういない。 めーりんとふらんには欠かせない日課がある。それはお昼寝をすることだ。 その寝顔はとてもゆっくりしていた。 飼い主のお兄さんは風邪を引かないように掛け布団を掛けてやる。 めーりんは天命を全うするまで幸せなゆん生を送ったという。 ・・・一方、あの四匹はというと 「んほほおおおおお!!!いいまむまむよれいむ!!!」「いやじゃああああ!!!しゅっきりしたくない!!!」 「まりざはずっぎりじだくないだぜ!!!!」「つんでれさんなのねー!!!!あんしんしてー!ありすがとかいはなあいをいっぱいそそいであげるわー!!!」 「やべでぇぇ!!!ありすがありすをおかさなでー!!!!」「いいわー!!このきんだんのすっきりみたいでとてもとかいはよー!!!!」 「びょうじゃくなばちゅりーがなんどやってもしなないなんてー!とかいはよー!!!」「むぎゃああああ!!!!??だれがばじゅりーをごろじでー!!!」 れいぱーありすによって無理やりすっきりさせられた揚句、薬によってすぐ赤ゆっくりが産まれるようになった四匹。 すっきりをして瞬く間に赤ゆっくりが産まれる。だが、4匹は産まれて来た我が子と「ゆっくりしていってね!」の挨拶を交わすことが出来ない。 「やべでぇぇぇ・・・!!まりざのあがじゃんいぎゃないでー!!!!」 「もどでぐぎで・・・!!ずりずりじようよ!おうだをうだおうよ・・・!!!(グシャ!)お、おじびじゃん・・・!!」 「ありずのどがいはなあがじゃんが!!(グシャ!)もうやべぇでー!!!(グシャ!)ゆぎゃあああああ!!!」 「ぱぢぇのけんじゃなおぢびじゃんが・・・!!やべぇで!お、おじびじゃん・・・!そんなべでみない(グシャ!)おじびじゃん!!!!」 何故なら産まれた我が子はペルトコンベアーに乗せられ商品の材料になったり、実験のための道具になったり、補食種の餌になったりと一切ゆっくり出来ず死んでいく。 断末魔や助けを呼ぶ声、なんで助けてくれないと言わんばかりの殺意の籠った目線を送る子どもや必死でいい子になると叫ぶ子供がいる。 助けることが出来ない四匹は泣く暇もなくすっきりをし続ける。 すっきりが終わり、牢屋に近い入れられても四匹には休める訳がなかった。 「よぐもまりささまをだまじだな!!!このクソどもがー!!!!」 「じね!じね!れいむたちをだまじだゲスはじね!!」 「なにがかいゆっくりにしてやるだ!!!なにがごはんをめぐんでやるだ!!!」 四匹以外にもゆっくりは多く入れられている。それらのゆっくりは殺意をこもった罵倒と攻撃を繰り出す。 「やべぇで・・・!!もうやべぇで!!!」 「ゆっぐりじだいよ・・・!!ゆべぇ!!?」 「ありすのかみのけんさんひっぱらな(ブチ!)ああああ!!!」 「どうじでえれえれできないの!!!??(ドゴ)むぎゃああああ!!!」 四匹にはエレエレ防止用の薬と非ゆっくり症防止用の薬を打たれているので簡単には死ねなくなっている。 何故ここまで恨まれているのか。それはこの四匹が家出をしていた時に遡る。 四匹は餌には困らなかった。何故なら野良にとっては上級のごはんを食べることが出来ていたからだ。(飼いゆっくりの頃のごはんに比べればレベルが低いが) 餌を多く集められるゆっくりから貰っていたのだ。ある提案をして・・・ 「まりささまたちにごはんさんをくれたやつはいえにもどったらどれいにかいゆっくりにしてもらうようにたのんでやるのぜ」 「かいゆっくりがだめでもおいしいごはんをもってきてあげるわ。どう?とかいはなはなしでしょ?」 「でも、おいしいごはんじゃないとだめだよ!いっぱいくれたゆっくりにはどれいにつよくめいれいするよ!」 「かいゆっくりになれなくてもおいしいごはんさんはてにはいるのよ!とてもけんじゃてきでしょう?」 野良ゆっくりたちはその提案を信じた。勿論金バッチを付けていたのは大きい。 最高級のご馳走といえるべきご飯を四匹に渡したのだ。 野良にとっては飼いゆっくりになれるかもしれないというのは又とないチャンスなのだ。 だが、餌を渡したゆっくりたちは裏切れた。しかも最悪なことに渡していたゆっくり全員が加工所に捕まったのだ。 そこで出会ったのはあの四匹だ。野良達は理解してしまった。こいつ等はもう金バッチの飼いゆっくりではないことを・・・ 散々利用されたという怒りが爆発し、この様に四匹はストレス解消のサンドバックになったのだ。 食べ物をくれたゆっくりの殆ど処分されても今度は残ったゆっくりには「捨てられた飼いゆっくり」と罵られるようになった。 ボコボコにされた四匹は飼い主を罵倒する。 自分達を捨てたことを罵倒した。奴隷としての役目を果たしていないことを罵倒した。 それが四匹にとってのストレス解消法なのだから。 ・・・ポチ・・・ 職員が四匹の前にテレビをつけた。そこに映っていたのは・・・奴隷と言っていた飼い主と・・・見知らぬゆっくりであった。 とても楽しそうにゆっくりしている飼い主と見知らぬゆっくり。 今まで奴隷のあんな楽しそうな顔を見たことが無い四匹は少しフリーズしていった。 「「「「――なんだあの「お前らの元飼い主の新しいゆっくりだよ」ゆ!!?」」」」 新しいゆっくりという言葉にまたフリーズする四匹。お構いなしに職員は続けた。 れいむの元飼い主と一緒にいるちぇんは、れいむがちぇんをレイプして作った子供だ。お兄さんはちぇんの飼い主から謝罪を込めて引き取ったのだ。 飼い主の持つ猫じゃらしを一生懸命追いかけるちぇん。その姿を見てお兄さんはとてもゆっくりした顔をしている。 まりさの元飼い主と一緒にいるさなえは、怪我をしているところを加工所が保護したゆっくりであった。まりさの代わりにと加工所がそれ程高くない値段で提供した。 さなえと一緒に歌を歌う飼い主の妹。その光景はとても楽しそうであった。お姉さんは楽しそうにしている妹の姿を見てとても優しい笑顔をしている。 ありすの元飼い主と一緒にいるさくやは、飼い主のお爺さんが死んで途方に暮れていたところを保護された。ありすの元飼い主に試しにとさくやを提供した。 お兄さんはさくやを気に入り正式に飼いゆっくりにした。今は一緒になって部屋の掃除をしている。だが、お兄さんは楽しそうであった。 ぱちゅりーの元飼い主と一緒にいるぱちゅりーは、とても利口であった。あの後、知り合いからぱちゅりーの子供を引き取ったらしい。 今度は失敗しないと頑張ろうとしたお姉さんだが、元から優秀であったぱちゅりーにその決意は必要なかった。 ぱちゅりーに本を読んであげるお姉さん。一生懸命聞くぱちゅりーの姿を見てこれからの成長を楽しみにしている。 「「「「・・・」」」」 映像が終わり、真っ黒の画面を唯見続ける四匹。正直、この生活はいつか終わると思っていた。 奴隷が結局、自分達を引き取りに来ると考えていたからだ。だが、この映像を見て確実に確定してしまったものがある。 迎えに来るなんてことはこの世が滅んでも絶対にあり得ないと。だって、奴隷・・・飼い主は新しいゆっくりと幸せにしているのだから。 四匹は見たことが無かった。新しいゆっくりに向ける優しく暖かくほほ笑む飼い主の姿を・・・。 「ご、ごめんなざい!!!!ぜんぶれいぶがわるがだでず!!!!」 「ばりざがじょうじごいでまじだ!!!いいごになるがらだずげでぐだざいいい!!!!」 「ありずがいながものでじだ!!もうごーでぃねいどなんでじまぜんがら!!!!!」 「ばちゅはむのうでおおばかものでじだ!!!おりごうにながるがら!!なるがら!!!」 この状況を脱出することが出来ないと理解してしまった四匹は掌を変えた様に謝りだした。 チャイムが鳴る。このチャイムが鳴るということは地獄の開始であることが四匹の芯に植えつけられたいた。 部屋に入ってきた職員に連れて行かれながらも四匹は謝り続けた。だが、無意味にも程がある・・・。 飼い主たちの頭には前のゆっくりのことなんて微塵も残っていない。だって、今自分にとてもゆっくりできるゆっくりがいるのだから・・・。 テレビをつけた職員は帽子・・・いや、俺は帽子をとった。 「散々好き勝手してきいたツケだ、馬鹿どもが。それと・・・」 俺は四匹に向かって舌を出した。 「俺の休みを邪魔した罰だよ。死ぬまでゆっくりしていきな」 そういって俺は再び帽子を被り、仕事へと戻っていた。 家出をした代償として四匹は、誰からも優しくされず激痛と苦悩を強いられるゆん生を支払うことになった・・・。 四匹は仲良く加工場という地獄で天命を全うさせられた。 家出をしたゆっくりの結末は二つに分けられる。 一つはお互いの大切さを再認識しより良い仲を築いていける結末。 もう一つは、完全に見限られ栄光の生活は崩壊に惨めで愚かな姿になるという結末。 四匹は、飼い主に感謝をせず奴隷と言い続けた挙句、飼い主を失望させる地雷を自ら踏みぬいた。明かなる自業自得である。 自分の愚かさを理解してももう遅すぎる。何故なら、一度失った信頼を回復させるなど奇跡に近いからだ。 それがゆっくりなら尚更である。 ~E N D~ ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき 五作目です。如何だったでしょうか? 基本種4匹のゲスを酷い目に遭わせるのって楽しいね!という感覚で作ってみました。 前回は長過ぎたので今回は20KB位に抑えてみました。読みやすかったでしょうか? 楽しんでいただけて、尚且つすっきりできたら幸いです。 それではお読みになられた方に感謝をしつつ、手短いですが今回はこの辺で・・・。 過去作 ・1856「条件」 ・1907「嫌われた代償と招く幸福(前編)」 ・1914「嫌われた代償と招く幸福(中編)」 ・1957「嫌われた代償と招く幸福(後編)」