約 13,165 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1184.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し ~プロローグ~ 「はぁ…」 上条当麻はいつもの公園で大きく溜息をついた いつもの…そういつもビリビリ中学生こと御坂美琴と出会う、あのお金を飲み込む自販機がある公園だ。 日差しはそれほど厳しいわけでもなく、むしろ優しさすら感じるほどのものでしかない それでも上条当麻は目を細めながら天を仰いでいる… 何故なら昨日から今に至るまでの不幸(きおく)を思い出しているからである □ □ □ 季節は春 高校二年に進む事のできた上条は危なげなかった進級をものにした事により少しながら幸せを感じていた。 戦争は終わり、戦争の傷跡はまだまだ回復したとは言えないがいずれ癒えるだろう 同居人のインデックスはまだイギリスで療養している フィアンマの使った霊装により多大な負荷がかかった為、しばらく療養する事になった 心配かと言われれば心配だが、神裂やステイル、天草式の建宮等が任せてくれと言ってくれた。 インデックスの状態は五和や神裂の送ってくる便りで知る事もできている。 「はぁ…今日から二年か、そーいう実感がわかないんですがね…」 上条は始業式を終え、人もまばらになった教室で一人ぼやく… そこへ見慣れた2人が寄って来る 「かみやんと同じクラスになるなんてどうしたもんかにゃー」 「いやいや、かみやんと同じクラスになる事でまた小萌先生が担任やから幸せやで~」 そう青ピと土御門、デルタフォース(三バカ)は進級しても継続される事が決定しました 「俺と小萌先生が何故セットにされてるか激しく疑問なんだが、これからもよろしくな」 そう言ってよくよく考えれば吹寄も姫神もこのクラスの一員だ… またアクの強いメンバーが揃ったものだ 「それでかみやん、この後予定はあるのかにゃ?あるんだったら急いで帰った方がいいぜよ」 不適な笑みを浮かべた土御門はこちらを遠くから睨みつけている吹寄をチラッと見た 「どうやら役員が足りなくて俺らを捕まえたいらしいのにゃー」 軽く言ってるが逃げる気満々と言った土御門の態度が吹寄を煽っている気がする… 「な、なあかみやん、そろそろ射程範囲に入ることやし…逃げへんか?」 「そ、そうだな」 「それじゃ、俺は舞夏との約束があるんで先に失礼するぜよ」 土御門が脱兎の如く走り出した瞬間を合図に3人は走り出した。 □ □ □ 「はぁ、はぁ、はぁ…なんとか逃げ切ったか」 吹寄の追跡を振り切っていつもの公園まで来ていた 「いつもなら御坂に追いかけられるのに今日は吹寄か… まさかこの後御坂にも追いかけられるとかって言うんじゃねえだろうな…」 ベンチに背を預けグッタリしている上条は「不幸だ…」と呟いた 「・・・・・・ん?」 ふと誰かの視線に気付いたが…公園にはひとっこひとり見当たらない 「???誰かいんのか?」 誰も見当たらないが気配は感じるので、一応声を出して確認してみた するとベンチの後ろ、つまり背後から小さい声が聞こえてきた 「あ、すいません。驚かしてしまいました?」 少年の声のような少女のような声といった感じの声だった、つまり若いが少し高い音域の声だ 「いや、そういうわけじゃないが視線を感じたもので・・・」 そう言っている間に後ろからごそごそと起き上がる音がして上条の前に出てきた 「こんにちは、上条さん」 「?あ、どうも」 あれ?こんなやつ知り合いにいたっけ・・・ 上条はもしや『数ヶ月ぶりに再会した記憶喪失前の知り合い』の可能性に焦った しかし… 「いやですね~上条さん、今日から同じクラスになった人に敬語はないですよ?」 笑いながらそう言った彼?彼女?は私服も容姿も中性的で結論からしてどっち?の状態だ 「あー、すまん、まだ新しいクラスのメンバー全員名前は覚えてないんだ…悪いな」 本当にすまなそうにしていた上条を見てか彼?彼女?は 「あーごめんごめん、馴れ馴れしかったかな?私は汰鶴、縁田(えにしだ)汰鶴(たつる)」 彼女?彼?は縁田汰鶴と名乗った 「縁田か、一応知ってるかもしれないけど自己紹介するか、上条当麻だよろしくな」 そういって縁田をよく見ると中性的過ぎてまだどっちかよく判らなかった そんな首をかしげている上条を見て縁田が 「なんですか、人をジロジロ見て…まさかそっちの気があるんじゃないですよね?」 と言ってきたのを聞きはっきり分かった 「いや~ははは、なんと言うか中性的過ぎてどっちか迷ってたんだが…男か」 上条は安堵の溜息をついた 女性だったらジロジロ見たことを謝らなければならないと思っていたからだ しかし縁田には違う意味で捉えられたらしい… 「女じゃなくて悪かったですね、個人的にはこういう中途半端な容姿っていうか中性的過ぎるのが嫌いなわけであっちの気がある奴から見たらそれはもう極上の獲物と言われる位で…そういえばフラグ体質でモテモテなんですよね上条さん?」 前半早口な上非常に暗い顔をされたので困ったが話は別方向へ流して消したいらしい… 「へ?」 縁田の話を聞いてていきなりの自分への質問に対応できなかった 「上条さんの仲間の方で…名前はまあいいです忘れました 青い髪のピアス君が『かみやんはフラグ体質で女の子の敵なんやでー』 って言ってましたからプレイボーイかなんかかと思ってたんですが違うみたいですね」 青ピの声マネを織り交ぜ、あははと軽く笑う彼を見て上条は好感が持てると思った そしてふとまた誰かの視線を感じた □ □ □ 少し時間をさかのぼり 御坂美琴は例の公園に向かって歩いてた 「まったく、アイツはどこであぶらうってんのかしら」 そう呟いて彼女は周りから見てもイライラしてるのが分かるような雰囲気を出している しかも、あぶらをうるもなにもアイツと呼ばれた人物こと上条当麻は美琴とは約束らしい約束もしてないのでどこにいようが自由のはずである 「電話は電池切れだし、やっぱりいつもの公園で待ち伏せしかないか」 そう御坂美琴は上条当麻に惚れていて今週の週末の予定を聞きだしてデートにでもなればなぁ… なんて淡い期待を鈍感男上条に求めているのである 鈍感な時点で気付くはずも無く、大覇星祭や罰ゲーム、一端覧祭にクリスマスとバレンタイン…すべて空振りに終ってしまった。 「まあ、楽しかった事は楽しかったけどさ…ブツブツ」 思い出に浸りながらも懸命に上条を探さんとする今の美琴を後輩の白井や初春、佐天らが見たら不自然だとツッコムだろうが今はその知り合いは近くにいない 常盤台の制服で目立つが余りにも行動が怪しく誰もが避けるような感じである そうこうしているうちに公園に着いたが… 「アイツは…あ、いたいた…ってアイツ誰と喋ってんのよ」 後半は若干イライラが入ったが同じクラスとか聞こえてきたのでクラスメイトだと理解した 盗み聞きは悪いと思いながらもこっそりと木陰から木陰へと移り話が聞こえるところまで来た 「…プレイボーイかなんかかと思ってたんですが違うみたいですね」 あははと笑っているアイツの隣の…男?女?は普通に上条と話しているのだが… 美琴はそんな上条の普通に話している顔をそれほど見た事がないような気がする… 「なによアイツ…私といる時はあんな顔あまりしないのに…」 それはそうであろうなにかあれば電撃を飛ばし、一方的に怒ったりもすれば上条はゲンナリする方が多いだろう。しかも、周りの雰囲気がそうさせない場合もある絶対能力進化計画や大覇星祭初日、戦争などである。 「ああいうふうに落ち着いて話せたら、ああいう顔もたくさん見れるのかな…ってやば」 いいなぁと羨望の眼差しを送っていた所為か上条がふとこちらに視線を向けそうになり隠れた 「ん?気の所為か?」 「どうしたんです?上条さん」 「いや、誰かに見られてたような…」 と会話が続いていたが美琴は隠れてしまった事への葛藤があり今ばかりは聞いてる場合ではない あーもう!なんで素直に出て行けないのよ、罪悪感があるなら謝れば済む事でしょうが と一人葛藤と戦っていたが落ち着いてきたところで重大な話を聞いてしまう 「上条さんは好きな方がいますか?」 □ □ □ 「「へ?」」 間抜けな声が出た もちろん美琴は二人に聞こえない程度に声を抑えた 「ちょっとまて、上条さんはいきなり過ぎてどうして聞かれてるか分からないのですが…」 上条はローテンションのままゆるーいツッコミを入れる 「理由ですか?それは簡単ですよ上条さん、私は上条さんに助けられた恩返しですよ」 縁田はさらっと引っかかるような謎めいた一言を言った 「まぁ、覚えてないのも無理はありませんか…なんせこの姿じゃなかったですし」 そう言うと彼は話してくれた、彼を助けた時の話を… 「いいですか、上条さん…私は上条さんに先月2度も救われているんですよ」 彼の顔は真剣で嘘ではない事を物語っている 「にしても、本当に覚えてないんだが…」 上条は本当にすまなそうにしているが記憶にないものはない 「あーそれはですね、私が女装してたからで…」 「へ?」 驚愕の事実で上条は本日3度目の間抜けな声を上げた 「えっとですね、彼女の趣味で…そのまま放置されまして…」 どんよりと忘れ去られた姫神のような暗さが漂ってきた… 「縁田…お前も苦労してるんだな…」 上条は縁田の肩に手を置き涙を流した 「まぁ、一回目は不良に囲まれた所を助け出してもらったのですが…二回目は…」 そこで縁田は詰まったこれは言ってもいいものだろうかと… 「あ、そうでした二回目の話も聞いてもらうのが一番なんですが… 彼女に呼び出されてたのを忘れてました…というか忘れたいんですがね… まぁ、変なところを除けばどこに出しても恥ずかしくない(主に私)彼女なんですが」 「それじゃまた明日会いましょう」と言い残し縁田は去っていった。 「縁田か…いい奴だと思うが…苦労してそうだな…」 最後に聞いたところは涙がまたでそうになった 「そういえば…質問に答えるの忘れてたような… というか恩返しとあの質問の接点が分からないのですが…」 □ □ □ 少し時間を戻してみる 美琴は先程は自分を抑えて声を小さくしたが結構危ないところだったと自覚している 「理由ですか?それは簡単ですよ上条さん、私は上条さんに助けられた恩返しですよ」 アイツ私の知らないところで人助けをしてたのか… 「まぁ、覚えてないのも無理はありませんか…なんせこの姿じゃなかったですし」 目の前にいるあの人は中性的過ぎて分からないが… 実は女の人でアイツのためにイメチェンしましたとか言われてもアイツのフラグ体質からすれば驚きはない 「いいですか、上条さん…私は上条さんに先月2度も救われているんですよ」 二度も…かそれはフラグが建つんでしょうね… 美琴は少し暗くなる、もしこのまま彼女が告白してしまうようなら… そして、結ばれてしますなら自分はこの後アイツにどういう顔で会えばいいのだろうか 「あーそれはですね、私が女装してたからで…」 「へ?」 こちらも変な声が出た…多分聞こえてはないと思う… どういうこと?あの人は…女の人じゃないの? だったらさっきまで落ち込んでた私が馬鹿みたいじゃない と急に顔が羞恥で赤くなる 「えっとですね、彼女の趣味で…そのまま放置されまして…」 なんか…アイツほどじゃないけど可哀相になってきたわ 「縁田…お前も苦労してるんだな…」 上条は縁田の肩に手を置き涙を流した 美琴も心の中ではあるが上条と同じ行動を取った 「まぁ、話は戻るんですが私が救われた一回目は不良に囲まれた所を助け出してもらったのですが…二回目は…」 そこで縁田はふと思い出したように詰まった 美琴はそんな事には気付くはずもなく まあ、あの容姿で女装すれば男は多分コロッと騙されるだろう それどころかアイドルとしてもバレない限りはやっていけるんではないかと思うほど綺麗な顔立ちをしているとか考えていた 「あ、そうでした二回目の話も聞いてもらうのが一番なんですが… 彼女に呼び出されてたのを忘れてました…というか忘れたいんですがね… まぁ、変なところを除けばどこに出しても恥ずかしくない(主に私)彼女なんですが」 「それじゃまた明日会いましょう」と言い残し縁田は去っていった。 「ふう…これでアイツに…ってこっちに来るじゃない」 あわあわと美琴は焦ったがふと気付いた事がある 「あれ?今こっちに手招きしたような…?」 そうこうしている内に彼は美琴の横を見もせず通り過ぎ公園から出て行った 「うーん、アイツには会いたいけど…うぅー」 と結局上条を一旦諦め気になる行動を取った彼の後を追う事にした それほど時間もかからずに彼を見つけて追いつく事ができた なぜなら公園を出て少し行った所でこっちを見て待っていたからだ 「説明してもらいましょうか?」 言える立場ではないのは分かっていたが気になったので言ってしまった 「まぁまぁ、立ち話も…って事だけど、君にはそんな余裕はないよね?」 スッと目を細めたがいやらしいというのではなくなにやら優しい眼差しを受けた 「私は縁田汰鶴、話をどこから聞いていたか分からないけど一応男だよ」 そういって一つ小さな溜息をつく 「えっと、盗み聞きしてたのは謝りますけど…」 美琴は女装のことを思い出して目をそらしたそして… 「なんだ、結構初めから聞いていたんだね…」 とどんよりとしたオーラを出した 「いや、まあそれはどうでもいいんだ、君の気になっていることは上条当麻の好きな人」 すぐに体勢を直し、直球ストレートで聞いてきた 「なっ、ちょ、えぇと、その…ち、ちがいます」 いきなりの事で慌て耳まで真っ赤にしたことがそれを物語っているが美琴は否定してみる 「ま、私が勝手に喋るから勝手に聞いているといいよ」 縁田は気楽にそういうと独り言のように語りだした 「彼、上条当麻は今現在好きな人はいない。ちなみに彼の場合気になる女性もいないみたいだよ…興味はあるみたいだけど今のところ完全フリーだね」 「ちょっと待ってさっきはそんな話してなかったじゃない」 美琴も言うのも間違いではない、さっきは好きな人は?と聞いてはいたが 誰がとかはアイツは答えていないはずだ 「私の能力『質疑分析(Lv3)』ってのがあるんだけどね」 読心能力者ですと縁田は言ってくれた 「効果はマンツーマンでの質問をして答えてくれるだけでフラッシュバックで顔や名前が分かるだけの能力なんですけど…上条さんからは顔も名前も出てきませんでしたね」 と溜息… 「実は今日上条さんと同じクラスになって話は聞いたのですがフラグ体質なのに彼女はいないうえ、不幸体質だと聞きます…私は上条さんに彼女を作ってあげたいと思います」 そこには真剣に言い切る彼女に女装を共用される中性的な男 これって、アイツにとって不幸…な要因なんじゃないのかしら と思わないでいられない美琴ではあったが彼女を作るという点では彼女の敵になりそうだ 「それはそうと君は上条さんにいたく惚れてるようだけど告白はしないのかい?」 一番痛いところを射抜かれました… 「そ、そそそ、そんなこと軽い気持ちでい、言えるわけないじゃないですか!」 後半は若干叫んでしまった…ただそんな自分を見て縁田はふっと優しく笑った 「なら手伝いますよ?君の名前を上条さんに聞いてどう思っているのかや、その他諸々…」 聞いていれば縁田は私を応援してくれるらしいが… 「いえ…あの、まずは自分で何とかしてみます…」 ありがたい話だったが何故そこまでしてくれるのが分からない為一応断るようなことを言った 「そう…わかったよ、でもね二回目に助けられた時は君と上条さんになんだから君にも恩返ししたいんだよ…まあ、いつでも見かけたら言ってくれても構わないよ手伝うからさ」 そう言って軽く手を挙げ彼は去っていった、美琴は逆に上条の元へ戻るように歩き出す 縁田が少し行った所で美琴の見知らぬ少女に掴まり連行されて行ったのは別の話 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1642.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ 番外編「本日のスープ」 「ねぇ、当麻。今度の日曜日、デパートに買い物に行きましょうよ」 そろそろ本格的な寒さが来ようかという冬の午後、自室で課題に取り組んでいる上条当麻は、自身の彼女、御坂美琴にそう言って誘われた。 無事にロシアから帰ったものの、欠席中の課題が、小萌先生からたっぷりと渡された。 上条ちゃんはこれを全てやらないと進級させません、などと言われたら、とにかくやるしかないのだ。 そして上条の横で課題を手伝っている美琴は、もはや押しかけ女房同然に、他もいろいろ彼の面倒を見ている。 「そうだな、美琴のおかげでこの課題も片付きそうだしな」 「実はね、この間、当麻にお似合いの可愛いセーター見つけたの」 「上条さんにはそんなお金、ありませんよ」 「いいのよ。ちょっと早いけど、当麻へのクリスマスプレゼントにするから。サイズも見たかったし」 なにより、とちょっとお世話焼きモードな美琴。 「学生服の下に着るセーターが必要な季節でしょ。コートとかはあるの?」 「ん、確かトレンチがあったはず」 「じゃ、とりあえず中に着る分があればいいわね」 「ありがとうよ。しかし男に可愛いセーターって」 「なによ!彼女の見立てに不満があるの?」 「いえ、何もありません」 「それとね、ランチにいいお店があるの。お昼はそこでどうかな」 「そうだな。しばらく課題漬けで、お前にも迷惑かけたしな」 「そんなのはいいのよ。私は……、当麻と一緒に居られたら、それだけで幸せなんだからぁ」 ちょっと甘えたような口ぶりで、モジモジと上目遣いをする美琴の顔がほんのり赤い。 それを見た上条は、――まったくコイツは、と呟きながら、美琴の肩を引き寄せ、そっとキスをした。 素直に応じた美琴は、そのまま上条の肩にもたれた。 上条が学園都市に帰った夜、壮絶なカタルシスの後、2人は恋人として結ばれた。 ただ、通常のお付き合いをすっ飛ばした、最終段階から始まった関係が、甘ったれた照れやうわつきを見せない。 あれから何度か肌を重ねるたび、素直にお互いをさらけ出せるようになってきたからだろう。 彼らにとって男女の交わりとは、それぞれの心を見せ合う行為に他ならないからだ。 「ならランチ代ぐらいは、この上条さんが出しましょうとも」 「じゃ、決まりね」 ――だったら、と言いかけた美琴を、上条が遮る。 「土曜日のお泊りはだめだ」 不満そうな顔をする美琴に上条が諭すように言う。 「そうそう外泊もしてられないだろう。これでも俺たちは高校生と中学生だぜ。もう少し節度ッつうものをだな……」 「その中学生と淫らなことをしている高校生はどうなのよ?」 「いや、ま、それはその、だな……」 今度は上条の顔が赤くなる番だ。 「中学生に手を出したすごい人って言われるんでしょ?」 美琴がニヤリとしてからかう。 「学園都市第三位の超能力者が、無能力者の男子高校生と爛れた関係にって、噂になるんだぜ」 ムッとした上条が、負けじと言い返す。 だが腹を括った女ほど手強い者はいない。 「平気だもん」 ――それに、と言いながら、上条の手を自分の胸の前で抱きしめる。 「私は地獄だろうとどこだろうと、当麻と一緒なら怖くないわ」 日曜日、クリスマスセール真っ最中のデパートは混んでいた。 美琴は前日土曜日に、門限通り寮へ帰らされたためか、その日はいつもより積極的だった。 人目をさほど気にすることも無く、べたべたと上条にまとわり付く。 とはいえ、気恥ずかしさを紙一重のところで回避しているのは、外にいるという意識があるからだろう。 その姿は初々しさの残る学生カップルのそれではなく、より大人びた雰囲気を醸し出していた。 だからなのか、今の美琴に、漏電や失神といったことはほとんど無い。 もはや新たな『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を確立しつつあるようだ。 その中に『上条当麻』という存在が組み込まれているのは間違いないのだろう。 久しぶりのデートにはしゃぎ、美琴は満面の笑顔で上条の手を引いていく。 お目当てのセーターを買い、更にデパートの中をあちこち巡り歩いたのち、美琴が上条に提案した。 「お腹空いちゃった。そろそろお昼にしない?」 「そうだな。よし行くか」 デパートを出て、通りを2人して歩いていった。 冬の空はどんよりして、寒風強く、一段と冷たく感じる。 たとえ数ブロック先へ行くのでも、その真冬のような冷たさに震えが来そうだった。 美琴はいつもの常盤台中の制服の上に、ダッフルコートにマフラー、手袋と完全装備でいる。 一方で上条は、トレンチコートの下に、ウールのシャツとデニムのパンツと少し肌寒そうだ。 その店に着いたときには、上条の体はすっかり冷えていた。 入口を入ってからの暖かさが、こわばった体をほぐしてくれる。 と同時に、心まで解されていくのは、向かいに座った彼女の微笑の所為でもあるのだろう。 「何にしよっか?」 メニューを見ながら、美琴が上条へ問いかけた。 「そうだな、この『本日のスープ・デザート付カップルランチセット』なんてどうだ?」 「あ、私もそう思った」 ――それじゃ、と言って上条がオーダーを入れる。 窓から見える空は、暗くくすんだ灰色で、今にも何か降りそうな様相だ。 そんな景色をぼんやり眺めている美琴を、上条はただじっと眺めていた。 何もしなくても、何も言わなくても、ただそこに居てくれるだけで満たされる。 そんな彼女の姿を、テーブルに頬杖ついて、じっと眺めていた。 先程のデパートでの笑顔の美琴と、今のぼんやり景色を眺める美琴。 昨夜、常盤台の寮の前で別れたときの少し悲しそうな顔の美琴。 どの美琴も切なくて、ますますいとおしく感じてしまう。 美琴は、これまで周りの人にどんな顔を見せてきたんだろうと上条は思った。 今まで2人が別々の道を、違う速さで歩いてきたことが残念で仕方がなかった。 ――お待たせしました。こちら本日のスープは、オニオングラタンスープです。 ウェイトレスの言葉に2人の意識が戻ってきた。 出されたオニオングラタンスープは、大振りのカップにたっぷりのグリュイエールとエメンタールチーズがかけられ、フツフツと煮立っていた。 焼けたチーズの香ばしい香りと、たっぷりのブイヨンに、炒めたたまねぎの甘い香りが食欲を刺激する。 2人とも目の前のご馳走に、思わず我を忘れるほど、空腹だった。 「「いただきます」」 そう言って、カップにスプーンを突き立てた。 「熱ーい。やけどしそう。でもおいしい」 「うん、うまいな。猫舌の人はかわいそうだな」 カップから立ち上る湯気に、美琴の笑顔が溶ける。 ――ああ、こうして美琴の笑顔を見ていたい。 ――いつのまにか、もっと好きになったな。 ――お前は今、何を思うのだろう? 「ねぇ。この後、どうする?」 美琴が、スプーンを口に運びながら聞いてきた。 「そうだな。天気も崩れそうだし、寒いから、ちょっと早いけど一旦帰ろうか」 「そうね。買ったセーター、着てみて欲しいし」 「じゃ、帰ったら、時間までまったりしようか」 ――昨夜の分もね、と呟いた美琴の言葉は聞かなかったことにした。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2638.html
ひらりと桜が舞う頃に 3月上旬学園都市にも桜が咲いた。早咲きというものだ。桜を見にたくさんの人が集まっている。上条とインデックス、美琴の3人も桜を見に来ていた。「きれいな桜だね!」「ええ、本当に綺麗ね」「桜ってほんとにきれいなんだな」川沿いの一面、向こう岸にも桜が咲いていた。「ね、ね、はやくはやくー!」「久しぶりだね、上条当麻」上条に話かけてきたのは赤髪の神父、ステイル=マグヌスだ。「あ、ステイル!」インデックスはステイルと会えて嬉しそうだが、「久しぶりだな。また何か事件でもあるのか?」上条は嬉しくなさそうだ。無理もない。上条がステイルと会う時は、いつも事件が付き物なんだから。「いや、今日はただの観光だよ」上条が安心する。楽しいこの時間を邪魔されずにすんだのだから。「インデックス、近くに団子を売っていたのだが、一緒に行かないかい?」「え?お団子!?行きたいんだよ!」「じゃあ、行こうか。彼女は責任をもって預かるよ」「じゃあ行ってくるんだよ、2人とも」「いってらっしゃい」「また後でな。あ、そうだステイル」上条がステイルに近寄ると小声で話しかける。「(インデックスのやつ、すぐどっか行くからな。しっかり手、繋いでおけよ?)」「な、何を言っているんだ君は!ほ、ほら行くよインデックス」ステイルは顔を真っ赤にしながら歩き出す。「あ、まってよー」インデックスもステイルについていく。「じゃあ、俺たちも行くか」「うん」上条と美琴も歩き出す。「イ、インデックス。迷子になるといけないから手、繋ごうか」なにやらステイルの声が聞こえたが2人は聞かなかったことにした。 上条と美琴が歩いていると、反対側から白い髪に杖をついた男、一方通行が歩いてきた。その左右には打ち止めと番外固体もいる。「久しぶりね打ち止め、それに番外固体も」「お姉さま久しぶりーって、ミサカはミサカは挨拶していたり」「やっほうおねえたま、久しぶり」「そういやァ、あの白いシスターはいねェのか?」「ああ、さっき友達と団子食べにいったんだよ」「ふーん、じゃあおねえたま、今日は2人っきりでデートなんだ」番外固体がからかう様に美琴に話しかける。「えっ、そんなデートだなんて、いや、でもその通りだし・・・・・・」「み、美琴さーん、落ち着きましょうねー。上条さん恥ずかしいですよ」「そ、そうよね。ごめんね当麻」「い、いいんだよ」照れる2人を見て、番外固体は悪魔の笑みを浮かべる。「もぉ、そんな2人ともそんなにいちゃいちゃしちゃってさー。 ミサカ達の愛をもっと見せつけなくちゃね。ねっ?あーくん?」そういうと、番外固体は一方通行に抱きついた。「あー番外個体ずるーい、ミサカもー!」反対側の打ち止めも一方通行に抱きつく。「だァー!鬱陶しィ!抱きつくなァ!つゥかあーくンってなんだァ!! ほら行くぞお前らァ!」打ち止めと番外固体に抱きつかれたまま一方通行は歩き出す。「あいつ、幸せそうだったな」「ええ・・・・・・」美琴のどこか悲しそうな顔をしている。「なあ、美琴。たしかにあいつは10000人の殺しちまったけど、 自分の罪を自覚して、反省して、残りの10000人のために必死で戦ったんだよ。 それに俺はあいつが打ち止めのために命を懸けて戦ったのを知っている。 許してやってくれなんて言わない。だけど、恨まないでやってほしい」「わかってるわよ。そんなこと」「そうか、じゃあ、行くか。美琴」「うん!」2人は笑顔で再び歩き始めた。 結構歩いただろうか、桜の道も途切れていた。「結構歩いたな。そろそろ休憩するか」2人は土手に腰をかける。少ししてから上条が美琴に話しかける。「なあ美琴、俺は今幸せだ」「え?」「インデックスにステイル、神裂や一方通行、御坂妹や打ち止めに番外個体に浜面に滝壺。 それに何より美琴、お前がいる。こうしてお前と一緒に桜を見られるだけで俺は幸せなんだ。 命を懸けて戦って、皆が笑っていられる。それだけで俺は幸せなんだ」上条当麻はその拳でたくさんの人を救ってきた。「まったく、探しましたよステイル。財布を忘れるなど貴方らしくもない」「あ、ああ。すまない」「あ、かおり!かおりも一緒にお団子食べようよ」ある者はは失ってしまった時間を取り戻してた。「あ、お団子だ!ねえあなた買ってよーって、ミサカはミサカはおねだりしてみる」「あーはいはい、買ってやるよォ」「にしても司令塔には甘いよね、親御さん」「誰が親御さんだァ!つーかいつまで抱きついてやがる、さっさと離れろォ!」ある者は犯した罪を自覚しながれも、掴み取った幸せを噛み締めていた。「超遅いですよ2人とも」「悪い悪い」「ごめんね、きぬはた、むぎの」「何してんだか、今日はフレンダの墓にも行くんだから。ほら行くよ」またある者は手に入れた日常を楽しんでいた。皆が笑っていられる。そのために上条当麻は戦い、平和を手に入れた。そして自身の幸せも掴み取った。「ねえ当麻」「ん?なんだよ。っ!」美琴が上条にキスをしたのだ。「えへへ、ファーストキス、あげちゃった」「最初は上条さんからしようと思っていたのに・・・・・・」「だったら、次はあんたからできるようにしなさい」「へいへい」「あーあ、疲れちゃった」そう言うと、美琴は上条に肩を寄せる。「おやすみー・・・・・・」「あーもう。しょうがない、その寝顔に免じて許してやるか」美琴はスースーと寝息を立てている。「あー俺も眠く・・・・・・なって・・・・・・」上条も眠りにつく。「とうま、みこと、起きるんだよ。まったく2人してこんなところで寝ちゃって」上条が目を覚ましたらインデックスの姿があった。辺りも少し暗くなり始めてる。「ああ、すまん。ほら、美琴起きろ」「うにゅ?とうま?」「何寝ぼけてんだよ、ほら帰るぞ」「ふぁーい」「上条当麻、僕たちも帰るよ」上条に声をかけたのはステイルだ。「またね、ステイル、かおり」「またね、か。ああ、またね、インデックス」「では、また会いましょう」ステイルと神裂は帰っていく。「じゃ、俺たちも帰るか」「うん」「はーい」3人も帰るために歩き始める。「帰りにスーパー寄っていかなきゃね」「今日の夕飯は何なんだ?」「うーん、今日は唐揚げにしようかしら」「お、美味そうだな」「やったー!」笑顔の3人に桜の花びらがひらりと舞い降りる。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/734.html
とある2人の春休み 2 春休み3日目。 上条はここ2日間役目を果たさなかった目覚ましの健闘ぶりに目を覚まし、体を起こす。 と言っても左半身の機能が骨折により動かないので、右足からベットの下に下ろし、そこから右腕を使って起き上がる。 昨日は美琴が起きる前に既にいて起きるのを手伝ってくれたので、骨折翌日同様につらい目覚めとまった。「…はぁ、美琴様様じゃねぇかよ」 上条はトイレを済ませ、冷蔵庫を開く。そこには綺麗にラップしてある昨日の夕食の残りがあった。 確か美琴が朝の為にって残ってるのをラップしていたような。 ガス台を見ると鍋があり、その中には白菜の味噌汁が入っていた。 これも美琴が昨日のうちに用意してくれたものだろう。 上条はこんな美琴が天使に思えた。もう色々感謝感激で言葉にならなかった。『こいつは彼氏じゃなくて、私の旦那様なの♪』 昨日美琴が言っていた言葉を思い出す。昨夜も色々と美琴に迷惑をかけてしまったが、美琴は小言一つ言わず『旦那の世話をするのは妻として当たり前なの。だから気にしないで』 とか言ってたのも思い出す。 上条は深く溜息をした。美琴の抑えの効かない行動になどではなく、自分に向けて。「俺あいつになにもしてやれてねぇじゃん…。この辺で何かお礼しないとな、でも何したらいいのか分からない…」 上条はうーんと唸りながら味噌汁やおかずを温め、朝食を取った。 そしてその時上条は閃いた。今日も夕方には美琴がここに来る。ならば今日だけでも美琴の好きなようにさせてあげようと。 もちろんベット+ティシュ+シャワー的な事は出来ないが(理性があるうちは)それ以外なら望む事をしてあげたい。 こんなにも自分を想ってくれているのだ。ならばこちらもそれ相応の事を返してあげなければいけない。 そんな事を考えて、上条は車椅子を組み立て部屋を後にした。 この時上条は気付いていなかったが、この2日間で上条にとって美琴はいなくてはならない存在になりつつあった。 怪我をしているから助けてほしいとか、そんな考えでは無く。女性として美琴を心から愛し始めたのだと。「すみませんね、土御門さん。上条さんの為に車椅子押していただいて」「うんにゃ気にするな、カミやん。困った時はお互い様なんだぜい」 学校の補習が終わると、上条はデルタフォースと共に帰り、青ピと別れると寮まで土御門が車椅子を押してくれていた。 小萌先生にやらた心配され、家事が大変ならインデックスを帰そうかと言われたが、上条は断固拒否した。 この状態で飯を強請られると色々ダメになりそうだ。 それに部屋には美琴がいるしと思って小萌の申し出を断った。「それにしてもカミやん。そんな状態でよく今まで生活できたにゃ。一人で大変だったろ? あのシスターがいないんじゃにゃー」「そ、そうか? べ、べべべ別に普通に生きて来れましたよ?」 上条は土御門の当たり前の言葉に動揺を隠せなかった。 もちろん美琴が毎日来てくれてるので全然生活には困らなかったが、それを知られたらもう数箇所骨折する可能性がある。 土御門はそんな上条の挙動不審に疑問を持ち、車椅子を押す手を止めた。「…? つち、みかど……?」「まさかとは思うがカミやん。いるのか? お前の部屋に?」「な、なななななんのことでせう」「とぼけるな! 舞夏がカミやんの世話してるのかと聞いてるんだぜぃ!」「―――――――――は、い? ………舞、夏…さん?」「なんだ違うのか。だったら何でもいいぜい。舞夏に手を出してなけりゃにゃー」「し、親友の土御門さんが愛する舞夏様に手を出すなど…お、おお恐れ多くてとてもとても!」「そうだぜカミやん。もし手を出そうものなら」「……ものなら?」「御使堕としで使った風水魔力を使いカミやんの部屋もろともカミやんを消すぜぃ。幻想殺しだけを残して」「…」「実は既に四方に配置されて…」「…」「俺の魔法名はFallere825。その意味は背中刺す刃で…」「わかった! もういいから! 冗談でも冗談に聞こえないから!」「はは。カミやんは面白いな。冗談なんかじゃないぜぃ」「……」「それにしてもカミやん。そんなんじゃ色々と不便だろ? 彼女の一人でも作ってそいつに色々やって貰った方がいいんじゃねぇのかにゃ?」「……ま、まぁ…そうだな。で、でも彼女なんか…いない、し」「カミやんが頼めば誰でもお世話してくれると思うぜよ。でもそんなカミやんみたら、ぶん殴ってクラス中に言いふらし、集団リンチかけるけどにゃ」「…」「そういうわけでカミやん。これから抜き打ちお部屋チェックぜよ」「は、はいぃぃぃぃぃ!? な、なななななんで!?」「もちろん女を部屋に連れ込んでないか検査するのにゃ」「ぶぅぅ!! そ、そんな事しなくても誰もいないですって! (…多分)」「じゃあいいじゃないかにゃ。今日は舞夏が遅くなるっていうから暇だったんだぜぃ。久しぶりに笑いのトークでもしようぜぃ」「そ、そう…ですネ」 そう言って上条は速攻で美琴にメールを送った。 自分の生活を守る為に。自分の命を永らえる為に。Time 10/03/25 16 22To 御坂美琴Sub―――――――――――――――――突然ですが、今どちらにいらっしゃいます? メールはすぐに帰ってきた。Time 10/03/25 16 24From 御坂美琴Sub Re ―――――――――――――――――今はまだ初春さん達と一緒よ。なーに?会いたくなっちゃったの?もうしょうがないなー。ちゃっちゃと買い物して帰るからもう少し我慢しててね♪ そんな美琴に上条もすぐ返す。Time 10/03/25 16 27To 御坂美琴Sub Re2 ―――――――――――――――――いやいやいや!そんな悪いですよ!久しぶりに友達と遊んでるんだから、もう少しゆっくりしてろって。俺も少し遅くなるからさ。 上条はそれだけ送ると「完璧だ…」と小声で言う。土御門には聞こえていない。 その後寮に着くまでに携帯がメールを受信したが上条は見なかった。 上条は部屋まで行くと土御門に支えられ部屋に入る。 上条は気付いていないが、皆さんなら既にお分かりだろう。 まず上条当麻が不幸だと言う事。 そして先程のメールの内容からして今美琴はどこにいるのかと言う事。 さらにはピンクのフリルエプロンの事。 その現実を目の前に上条当麻と土御門元春は言葉を失った。 そこには、上条当麻の部屋には、ピンクの可愛らしいエプロンだけを着ている御坂美琴が玄関に立っており上条を(正確には2人を、だが)迎えていた。「おかえり! ご飯にする? お風呂にする? そ、それとも…わ・た・し?」「……………」「……………」「あ」「……………カミジョウトウマクン?」「……………ナ、ナンデセウカ。ツチミカドモトハルクン」「キミハイッタヨネ? カノジョナンカヘヤニイナイ。フツウニイキテイケテルッテ」「イ、イイマシタ…ガ、コ、コココレニハフカイワケガゴザイマシテ」「ちょっと! そこの金髪! 人を勝手に彼女にすんな!」「―――へ? 何だ違うのかにゃ。そんな格好してるからてっきりカミやんの彼女かと思ったぜぃ。いやぁ、久しぶりにビビったにゃー」 上条も安堵の息を漏らす。…が、その後思い出した。昨日の事。昨日美琴が同じような事を聞かれた反応を。「ま、待て! み―――」「私は彼女じゃなくて、そいつの妻なの! だからこれから先は私がお世話するわ! ここまで旦那を連れてきてくれてありがとう」「―――こと」「つ…ま? カミやん? 嘘だろ? お前はフラグを立てるのが仕事で回収なんかしない奴だよな? そうだよな?」「…」「嘘なんかじゃないわよ! ほら。いいから渡して! これから愛を育むんだから!」「か、カミ…やん――――」「つ、土御門…」「土御門? あぁ。ひょっとして舞夏のお兄さん? はじめまして、御坂美琴です」「御坂…美琴だと? 常盤台の超電磁砲か。カミやん…おまえ……」「ま、待ってくれ土御門! お、俺を! 今俺を1人にしないでくれ!!」「はぁ!? なに言ってくれちゃってるのよアンタは! 2人きりじゃないと恥ずかしいじゃない!」「そ、そんな格好のおまえがそんな台詞吐くか!!」「もう……エプロンの下を見せるのは、アンタだけがいいって言ってるの。気付いてよ、バカ…」「ぶっはぁぁぁ!! みみみみみ美琴ぉぉぉぉっ、そ、そそそそそそんな事ををををををを」「…離せや、カミやん」「え?」「だ、大丈夫だぜぃ? こ、この事は絶対誰にも言わないからにゃぁ…」「う、嘘つけ! おまえがどもる時はロクな事を考えてねぇ! な? お、俺達は…デルタフォースは固い結束で結ばれているんだよな?」「……今日限りでデルタフォースは解散だぜぇ、カミや…上条くん」「な、なにを? 君が何を言ってるのか分からないよ…元春くん」「自分の胸に聞くんだにゃーーーーーっ!!」「ぶっはぁぁ!?」「ちょっ! あ、アンタねぇ! 人の旦那なんだと思ってるの! 怪我人なんだから優しく扱って!! 私を愛してくれないじゃない!」「……うぅ…うわあああああああああん!!! ま、舞夏ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」「つ、土御門ッ! 待ってくれ!!」「うるせぇにゃーーっ! 精々残り少ない余生をいちゃつく事にゃーーーっ!!!」「ふ、不幸だ…」 上条はその後改めて美琴を見た。マジでエプロン以外何もつけてねぇ…と思ったが、短パンだけは穿いているらしい。 上条は安堵する。まだ彼女が恥じらいを持っていてくれた事に。 そして美琴に支えらながらベットに腰かける。 もうそれだけで美琴の柔らかさを感じ、口から心臓がこんちにはしそうになった。 美琴は上条の隣に座ろうとしたが、上条はそれを許さない。精一杯の理性を駆使し、美琴を目の前に正座させた。 美琴は頬を膨らませながらも上条の言う通りに目の前に正座した。 上条当麻の理性説教vs御坂美琴の愛の9裸エプロンの戦いの火蓋はこのようにして切って落とされたのだ。 ちなみに上条当麻の理性の壁は、現在94%崩壊している。「おい、御坂美琴」「なによ」「君は何故そんな格好をしてこの部屋にいるのかな? お友達と遊んでたはずだよね?」「アンタが帰ってきて欲しそうだったから…急いで帰ってきたんじゃない」「まぁ、そっちの話はいいんだよ? 問題はその格好」「これがどうかしたの?」「なんで裸エプロンという格好なんでせう? 仮にも嫁入り前ですよね? 土御門にもその格好を見られましたよ?」「だって舞夏が男を落とすならコレ! って言うから…それにエプロン大きいの買ったから前からじゃ全然見えないし」「舞夏…だと?」 そんな話をしていると隣の部屋から「ま、舞夏ぁぁぁぁぁぁ! そ、その格好は何だにゃあああああああ!!!」と聞こえてきた。 土御門にとってその出来事は、記憶を上書きする程の事であり、後日も土御門は上条に対して普通だった。「…」「あ、舞夏もお兄さんにやってるみたいね」「…あのですね。美琴さん」「ん?」「おまえはまだ中学生じゃないか。そんな格好しなくてもおまえはおまえのいい部分があるんだから、そんなに急ぐこ――」「………う、うぅ…」「え? お、おい…みこ――」「せ、せっかく…折角アンタが喜ぶと思って買ってきたのに…恥を忍んで着たっていうのにぃ…う、うぅ……」「あ、あぁ…あ、す、すまん美琴。お、おまえがそこまで考えてるとは思ってなくて…てっきりまたふざけてるんだと…」「ふざけてこんな格好するわけないでしょぉ…うぅ、こんな格好見てもアンタは文句ばっかりで何にも言ってくれないし…」「あ…」 上条は朝の事を思い出す。自分の決めた事を。 今日だけでも美琴の好きなようにさせてあげようと。 だって美琴はやり方はぶっ飛んでいるが、中身は可愛い恋する乙女なのだ。好きな人に喜んでもらいたいと思うのは当たり前だろう。 上条も朝それで悩んでいたのだから。「ご、ごめんな。俺…ちょっとキツくいい過ぎたよ。お、お詫びに今日は美琴の好きなようにしていいから」「………なんでも?」「まぁ…一線越えないくらいなら」「…知ってるよ。前夜まで取っておくんでしょ?」「ま、まぁ…そ、それ以外なら何でもいいからさ!」「じゃ、じゃあ私が何を言ってもその通りにしてくれる…?」「そ、そんな風に言われるとイエスと言いづらくなるんですが…」「…う、うぅ…やっぱりダメだよね…こんなぺったんこな体で迫られてもアンタは全然うれしくないもんね…」「い、いや…美琴さんの体は十分魅力だと思いますよ? た、ただ恥ずかしすぎて……」「うぅ…」「だああああ! もう分かったよ! 何でも聞いてやるから何でも言えや、もう!」「…本当に? 後でやっぱ無しとか言わない?」「男上条舐めんな! どんな事を要求されようと即座に実施してやっけんのぉぉおおおお!!!」「あ、そう? はー、やっとその台詞聞けたわ。つっかれたー泣きまねすんの。アンタ早く折れなさいよね、全く…」「―――――――なん、…だと?」「さてと。じゃあまずは何をして貰おうかしらねぇ…あ、もちろん今日は泊まるからね? これ絶対。拒否不可」「み、みこ…と?」 さっきまでの泣き顔はどこへやら。美琴はゲコ太の台詞の様にケロッと表情を変え、上条へ何をしてもらうか考える乙女の顔になった。 上条は本気で泣いてるんだと思ったから、無理な要求でも呑んで美琴を泣き止ませようとしたのだが、美琴はその上条を狙い打った。 ここは美琴の勝ちだろう。彼女は上条の事を詳しくしっていたし、上条は彼女の事を知らなすぎた。「じゃあまず抱っこ。抱っこして?」「えっと…美琴さん? 上条さんは見ての通り骨折してるんですが、その痛みに耐えて抱っこしろと?」「アンタはそのままベットに腰掛けてればいいわ。私が勝手に乗っかるから」「なんですと? って、うぉ――」「えへへー」 美琴は上条の上に跨ってきた。2人の顔は急接近し、唇が時々当たるくらい近かった。 そんな状態の上条は顔を真っ赤にし、少し背を仰け反った。しかし美琴はそれを許さない。 上条の首に腕を絡めて、顔をまた自分の目の前に持ってきてホールドする。 美琴は上半身はエプロンだけだったので肌を直接触る事になる上条の右手は、行き場を無くしバタバタしていた。「手は肩に」「は、はいぃぃぃ!? そ、それはさすがに…」「即実施」「そ、そうでしたネ」「…んっ」「へ、変な声出すなよ…」「だっ、だって…そんな優しく触るからぁ…」「……ぁ、は」 上条は、上条は、上条は、もうどうしたのか? どうしたものか? ちなみに言っておくと理性の壁はとっくの大昔に全壊され、本能と書かれた覆面部隊が脳内の操縦室に攻め込んできている。 壁をなくした理性部隊は迎撃するが、数が圧倒的で間違いなく占拠されるのは時間の問題だった。 上条はそんな自分から湧き出る欲望に耐えてるのか、上を向いてぷるぷると震えていた。 しかし――「…ん。…っちゅ、れろ…」「…!? お、おまえ…なにをっ……んっ」 美琴は上条の首筋にキスをすると優しく舐めた。 上条はその行為に大変驚き美琴に目を向ける。しかしそこには唇が待ち構えており、上条はそれを奪われた。 その瞬間、本能の覆面兵士が、冠を被った理性覆面の偉そうな奴をぶっ飛ばして、 「上条」と表札が掛けられていた脳のドアを蹴破り、上条当麻コントロールルームに入っていった。「…はぁ、えへ……ん?」「コォォォォォォォォォォォォ……」「ど、どう…したの?」「み、みことォォォ……」「な、なに…?」「責任は、取らせていただきます」「はぇ?――――」 上条当麻の理性の壁、3日目の夜に完全崩壊。 夕方に部屋に戻った上条だが、その日の夕食を取る事は無かった。 あ。いや、まぁその…夕食は取った。 春休み5日目。 上条当麻は目を覚ました。目覚まし時計の音で。 何故なら今日は補習がある。とても面倒臭いが春休みに2日だけの補習で済んだ上条だったので、今日行けばもう終わりだ。 上条は頑張って体を起こし朝食を取って部屋を後にした。 ちなみに朝美琴は部屋にいない。 今日は3日目の夜無断外泊したので、ルームメイトの白井黒子のご機嫌取りをしないといけないらしく、夕方にならないと来れないらしい。 学校では土御門、青ピと共に補習を受けたが、いつもと変わらない光景に上条は安堵した。 そんなこんなで上条は土御門に連れられ部屋に帰ってきた。まだ美琴は来ていないようだ。 上条は玄関まででいいと土御門を帰すと松葉杖を使ってベットまで行くとそのまま倒れ込んだ。 学校で補習があったからか、または普段の疲れが溜まっていたのか、上条はそのまま寝入ってしまった。 そして暫くすると玄関のドアが開く音が聞こえて上条は目を覚ます。 部屋に入ってきたのはスーパーの袋を持った御坂美琴だった。「たっだいまー」「……ん? おぉ、美琴…おかえり……」「あれ、寝てたの? そのまま寝ててよかったのに。寝顔拝見したかったし」「あー、うん。でも悪いし…米くらい洗うよ」「だめよ。立ってるのもつらいんだから。そのまま寝てて」「……お世話かけます。美琴さん」 上条のその言葉を聞くと、美琴は上条の前に歩み寄って来て、顔をまじまじと見た。 突然の事で上条は少し驚いたが、何か言う前に美琴が笑って上条の頬に手を置いた。「うん、もう大丈夫みたいね」「なにが…」「なにって…昨日アンタやばかったわよ? さすがにあの状態のアンタは手を焼いたわ」「う…そ、それはもう忘れてください……マジで黒歴史なので」「あはは。まぁそれだけ私と離れたく無かったって事だしね」「うぅ…」 昨日というのは4日目。つまりは上条当麻の理性が崩壊した翌日にあたる日なのだが。 4日目の朝、上条はいい匂いで目を覚ます。 隣を見ると誰もいないが、台所で美琴が料理をしているようだ。 可愛いエプロンをつけて鼻歌を奏でて。「ん…おはよう、美琴ぉ…今日は早いんだな」 上条の声に美琴はビクッとして上条を見る。 その顔は瞬く間に真っ赤になり、小さくおはようと言うと俯いてしまう。 上条はそんな美琴を見て首を傾げたが、特に気にする事もなくベットから出ようとした。 右足、右手を駆使し起き上がる…が、そこで何やら違和感を覚える。「…あれ? 俺何も着てない……?」 上条は裸だった。何やらおかしい。足にはギブスを包帯で巻かれているので、簡単には脱げないはずだ。 では何故裸か? 答えは簡単で、自分が気付かないうちに自分が脱いだのだろう。 この部屋には帰って来たら鍵を掛けたし、中には自分と美琴しかいないはずだ。 さすがに美琴が自分に気付かれずに全てを脱がすのは不可能だろう。 では何故脱いだか? 着替える途中で力尽きたとか? うーん… そんな事を考えていると、上条は部屋の異変に気付く。 やたらと丸めてあるティッシュが散乱している。上条や美琴だけでこんなに鼻をかんだのか? 上条はちゃんとゴミ箱に捨てろよと思っていると、ベランダに何かが干されているのでそれに目をやった。「短…パン? こんなの俺持ってない…し、誰の……短パン…短、パン?」 上条は床に置いてあったトランクスを穿くと、シャツも拾って着た。 そこに美琴がご飯を持ってきてくれて、上条はテーブルにつく。 美琴の格好は昨日と同じエプロン姿だが、他に着ているようには見えなかった。 上条はまだその格好してるのかよと溜息を吐いたが、美琴が台所に戻る後ろ姿を見ると昨日とは何かが違った。「………ない」 美琴は正に純正裸エプロン姿だった。ベランダのアレは美琴ののようだ。 上条はその後ろ姿に呆気に取られていると、昨日の事を思い出すように頭に手を置いた。 そして、全てをフラッシュバックさせる。 フラッシュバックと言っても記憶が無いので、昨日の最後の記憶なのだが。 その記憶とは、確か自分の手で…美琴の着ていたエプロンを、引き剥がし―――「だああああああああああああああああああああっ!!!!!」 上条は吼えた。もう大声で。近所の迷惑など考えずに。 その咆哮に美琴は驚愕し、上条の前に走って来た。「ちょ、ちょっと! ど、どうしたのよアンタ!? 何があったの!?」「み、美琴…」「ど、どうしたの…?」「み…美琴、正直に答えてくれ。嘘なんかいらない。回りくどい言い方もいらない」「う、うん…」 上条は美琴の両肩に手を置き、真剣に向き合った。左腕の痛みなど忘れて。 そして上条は深呼吸を一回大きくすると美琴に言い放った。「俺、美琴に手を出したのか?」 その言葉に美琴は頭から湯気を出すほど赤くなって俯いてしまったが、小さく「うん…」と言って頷いた。「そ、その…どこまで手を出した? 俺の記憶が正しければ、おまえのその可愛いエプロンを引ん剥いたところまでなんですが…」「……どこまでって…、その、さ……最後、まで…」「……………最後、だと」 上条は美琴の肩に置いてあった手を下ろした。 美琴は真っ赤になって俯きながらも、上条の方を上目使いでチラチラと見ながら更なる事を言い出した。「わ、私はちゃんと止めたんだよ? 前夜まで取っておくんじゃないの、って。で、でもアンタは『もう我慢できません』だとか」「…」「『美琴ちゃんは俺の事嫌いなの?』とか」「…」「『おまえの全てが欲しい』…と、とか言うから……」「…あは、」 上条はもう笑うしかなかった。そしてとりあえず美琴に服を着せると彼女の前で土下座した。 足なんか、骨折なんか痛くなかった。「本当に申し訳ありませんでした」「い、いいわよ。…そ、その…嬉しかったし……えへへ」「こうなった以上は、この上条当麻、一生を掛けて御坂美琴さんを守り抜いて行くと誓―――」「そんなんじゃ、嫌」「は、はい? い、嫌…とは?」「そ、その……し、しちゃったから一緒にいるとか、そんなのじゃ嫌」「そ、そんな軽い気持ちではないです! 上条さんは美琴さんをこれ以上ないくらいに!」「じゃあ…ちゃんとプロポーズしてよ」「わ、わかった…」 そして上条は今自分が考えられる精一杯の好意を持って、美琴にプロポーズした。 美琴は上条のプロポーズに満面の笑みを浮かべ、泣きながら誓いのキスをした。 その後美琴は上条に泣き止むまで胸を借りていたが、やがて笑いながら言った。「恋人の告白の前に結婚のプロポーズだなんて、アンタほんとにバカなんだから」 そんな事があって取った朝食。 美琴はいつものように上条の右手を取って自分で食べさせているが、今日は上条の方が違った。 今朝は上条から美琴の手を握り、食べさせてほしいを言い出したので。 美琴は上条の変わり様に少し戸惑ったが、嬉しい事だったので否定しなかった。 しかし、今日この後の上条を考えると、ここで少し間を取った方がよかったのかもしれない。 それは何故か。つまり上条は完全なる美琴の虜になり一生を誓ったために、離れたくない精神が特化されすぎたのだ。「み、美琴? ど、どこ行くんだ?」「どこって…醤油切れたから新しいの入れてくるだけよ」「ま、待って! お、俺も一緒に…」「はぁ!? あ、アンタね! すぐそこの台所だっつの! そんなんでいちいち動かなくていいわよ!」「そ、そんな…俺を…俺を置いて醤油の所に行くってのか! 俺より醤油が大切なのか!」「な、なななななに言ってるのよ!? あ、アンタ大丈夫? ホントにすぐ帰ってくるからここにいなさいよ」「ほ、ほんとすぐだぞ! 待ってるからな!」「はいはい、ったく…」 というやり取りを事あるごとに繰り返し、美琴の春休み4日目は相当に疲れた。 だから夜、今日は帰らなくちゃと言った途端に上条が泣いて引き止めた時には溜息まで吐いた。 でもさすがに2日連続無断外泊はまずいと言ったが上条は引き下がらない。 そんな上条に明日から来れなくなっちゃうかもと言ったら、上条は泣きやんで帰してくれたのだ。 そんな4日目の出来事を美琴は上条に話していた。「も、もうその辺りで勘弁してください。昨日は周りが見えてなかったというか、何というか…」「離したくないっていうのは嬉しいけど、正直アレは勘弁してほしいわね。もっと普通にお願い」「か、かしこまりました」「じゃあ責任取るって言ったんだから、ちゃんと言えるわよね? …はい」「…? カエルの携帯、これ…おまえのじゃないか。どうするんだよ、これ」「画面見てみて」「?」 そう言われて上条は美琴の携帯の待ち受けを見る。 …とそこには「Phone Call」と書かれており、その下に「父」と名前が出ていた。「ぶぅぅぅぅ!! み、美琴さんんんんん!!???? こ、これはいきなりハードル高すぎやしませんかね!? ま、まずは美鈴さん辺りが妥当と言うか!」「いつかは言うんだからいいじゃない♪ ちゃんと言ってよね♪」「は、初めて会話する上に娘さんを下さいなんて…と、とても上条さんのガラスの心では言え――」『―――ブッ、…もしもし? 美琴か? 珍しいな、何かあったのか?』「あ…」 上条当麻と御坂美琴の春休み。5日目終了。上条はこの日だけで一生分の大半を占める冷や汗をかいたそうだ。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1082.html
騙し愛 上条宅。現在インデックス一人でお留守番している。上条はというとインデックスが唯一部屋の中でおとなしくなる時間『超機動少女カナミン』の放送中を狙って必要最低限のお金をポケットに突っ込んで激安スーパーに買い物に行っている。もちろんそのことはインデックスに伝えているため、アニメの終了時間に帰るだろうとお互い考えていた。そして『超機動少女カナミン』が終了した。「とうま、遅い」プリプリと怒り出すインデックス。次回予告が終わった直後にこの一言。噛み付くくらいの短期な性格のせいなのだろうか。ピリリリリリ!上条宅の電話機が着信音をならした。機械音痴なインデックスはこれを押すだけで会話ができると教わっていたので通話ボタンを押し、耳に受話器を当てた。「はい、こちらインデックス・・・じゃなかったかみじょーです」『・・・・』「あれ?もしもし?」『・・・・あー、もしもし』「もしもし?とうまなの?」『そう!とうまだよ!』「早く帰ってくるんだよ!お腹減ったんだからね!」『ごめん、ちょっと問題が起きて・・・』「また魔術師に追われてるの?」『え?魔術?あの~子供を怪我させてしまって』「なんて悪い事してるんだよとうま!早く謝るんだよ!」『それが治療代にお金が必要になってしまって・・・』「ふうん、で?」『キャッシュカードの番号知ってるかい?忘れたから教えてほしいんだけど』「わかった。ちょっと待つんだよ」インデックスは上条が不幸体質でカードを踏んでしまわないために小さい収納ケースに入れている事を知っていたのでそこから取り出した。ガチャ。そこで家主である上条当麻がスーパーの袋を持って帰宅した。「ただいま~・・ってインデックス、何故カードと受話器を片手に持ってるのでせうか・・・」「あれ?とうまが帰って来た。電話の向こうのとうま、カードの番号はね・・・」「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!!」プツッ上条の手によって電話の通話は遮断された。「とうま!子供を怪我させたんでしょ!」「その前に!!今の相手は誰だ・・・」「とうまだよ?」「じゃあ何故俺がここにいる!今のは恐らくだな・・・・・・ガミガミ」この日インデックスは上条にたっぷり説教された。いつも悪い人に説教する物だが今回はインデックスの世間知らずのレベルが酷いということでもっと常識を学べ!等怒られた。おれおれ詐欺。この学園都市でもまだ滅びてないのかと上条は不安になる反面、なんとかインデックスの失態を防げた事もあったので少し今回の出来事は面白かったりもした。 ☆翌日の放課後、上条は恋人になり今はラブラブな御坂美琴と一緒に帰っているのだが美琴にとっては全く面白くない事が起きた。上条から珍しく楽しそうに昨日のインデックスの話を話始め、美琴も笑いながら聞いていたが邪魔者が入ってきた。上条のクラスメート、土御門元春が。偶然ばったり会ってしまい、ばらされたくなかったら俺も一緒に帰ってもいいかにゃ~と脅しをかけてきたが上条はあたふたする素振りもなくいいぜと返事した。上条も美琴も誰にも言ってないのでこれで知っているのは土御門のみとなった。そして今、美琴は二人から少し離れて歩いている。ガールズトークというものがあるのならボーイズトークもあるらしく、二人とも下品にがっはっはと笑っていた。それを気にして美琴は少し距離を置いていたわけだ。上条は昨日のインデックスの話を美琴と全く変わらない内容で土御門に喋っていた。土御門はその話題を聞いてさも下品に大笑いしていて、それを後ろから見ていた美琴は置いてけぼりにされた感覚で嫉妬していた。(何よ面白そうに男だけで話しちゃって・・・少しからかってやろうかしら)悪戯心に火がついた美琴は二人からまた少し距離を開き、携帯を開いて上条にカーソルを合わせ、非通知発信にして電話をかけた。「おっ、電話だ。俺に電話かけるのって美琴か土御門くらいしかいねえのによ」「出ていいぜいカミやん」「非通知!?誰だろう?」「変な電話ならすぐ切ればいいぜい」「そうだな、じゃあちょっと失礼」「もしもし?」『上条くんかね?』低い声だった。もちろん相手はすぐ後ろにいる美琴なのだが上条なので気付くハズもない。ちなみに土御門は美琴がかけている事に既に気付いており、笑いを堪える事に集中した。「えーと、どちらさまですか?」『・・・・土御門だ』「えええ!?」『声が大きい。俺はテレパシーで今話しかけているんだ』「お前そんな能力もっていたのか!?」『また声が大きい。そして隣の俺を見るな!』「あ!悪い・・・」いつも猫みたいな口調で喋る土御門だから変だなと気付くハズなのだがそこはやはり上条。そんな事は全く忘れて必死に耳を傾けた。土御門はこの通話の内容を地獄耳を使ってニヤニヤしながら聞いていた。「んで、テレパシー使って何を言おうとしてんだ?」『驚かないで聞いてくれ。実は俺・・・・』「・・・・・・」ゴクっ「・・・・・・」ニヤニヤ『御坂美琴の事が好きなんだ』「な、なななんあなんな何だってええええええ!????」「ブフ!!」たまらず土御門は吹きだしてしまったが上条は急なカミングアウトと勘違いしているのでここでも気付かない。美琴も笑いを堪えて続けた。『彼女に聞こえたらまずいだろ?だからこうやって伝えているのだよ』「そ、そうか・・・・」『お前の彼女だが俺は諦めない!覚えとけ!』その言葉を最後に通話は途切れた。「土御門、お前・・・・」「そ、そういう事ぜよ(やばい、気を抜いたらまた吹き出しそうぜよ)」「絶対お前なんかにやらねえからな!!!」殺伐とした二人(上条だけ)の後ろで美琴は声を押し殺して大爆笑した。(あ、アイツ、本気になってんの!鈍感な故に単純って最悪じゃん!)いち早く美琴の様子を見た土御門は素早い行動で美琴の隣に立った。上条はあっ!とした顔をするだけで何もする事ができなかった。そして土御門は小声で御坂に話しかけた。「超電磁砲、君はとんでもない事を思いつきやがったにゃ~」「聞こえてました?面白いと思いまして」「最高ぜよ。もし良かったらもうちょいカミやんをいじめたいんだが」「当麻をからかうなら問題ナシです。じゃあ協力してもらってもいいですか?」「了解だぜい。とりあえずこれから・・・・ヒソヒソ」「ブフぉ!それ傑作ですね。わかりました!」上条をからかう作戦会議が終了すると土御門はささっと上条の隣に戻った。上条は何を耳打ちしたんだよとしつこく質問していたがそれを美琴が打ち切った。「ねえ当麻、もしよかったらこれからお茶しに行かない?」この言葉に上条は心から喜んだ。ほら見ろやはり美琴は俺を選んでくれた!と。「も、もちろんお供します!地球の果てまでも!!」悪かったな~土御門、これから二人きりでデートだからあ~ばよ!と言ってやろうと思っていたがそれもまた美琴が打ち切った。「もしよかったら土御門さんもご一緒しませんか?」「おお!いいのかにゃ~お邪魔虫になっちまうぜよ。女の子に誘われたの初めてだにゃ~」「全く構いません。土御門さんは当麻の大切な友達ですから」とてつもない営業スマイルだったが土御門も把握済みだ。「・・・・・・・・・・・・」上条はこれぞ開いた口が塞がらない状態だった。 ☆喫茶店に到着。先程とは逆に美琴が先頭に立って二人を案内し、中に入ると美琴は真っ先に一番奥のテーブルに座り、その隣に土御門が隣は譲らん!といわんばかりに座った。もちろんこれは土御門と美琴の作戦だなのだが上条はその行動を見て呆気にとられた。普段の上条なら誰がどこに座るとか考えてなかったのだが先程の土御門のテレパシーという美琴の電話により俺の隣は美琴が座るのが当然だと考えていたが土御門が美琴の隣に急いで座る様子を見て、コイツ本気なのか・・・と愕然とした。でも負けじと美琴の目の前に座った。(超電磁砲、どうやらまずは効果てきめんみたいぜよ)(みたいですね。大体座る席なんてどっちでもいいのにこれだけの事にムキになっちゃって)「おい二人とも、ひそひそ話してないでさっさと決めろ。俺はとっくに決まったぞ」珍しく上条がイライラした様子でメニューを開きながら話しかけた。「あ、ゴメンね。私はもう決まったから」「おっ!御坂ちゃんは何にしたのかにゃ?俺もそれにするぜい」(ちゃ、ちゃんだと?・・・・)「当麻、何勝手にワナワナしてんのよ。早くボタン押して店員さん呼んで・・・」「・・・・・・・・」美琴が今まで見たことない上条の怖い顔を見た。ギラッと土御門を睨みつけながら呼び出しボタンを押した。(土御門さん、当麻本気にしているみたいだし怒っているみたいですよ)(安心しろい。俺が上手くはい!ドッキリ大成功~まで行ってやるぜよ)(これが原因で別れる事があったらぶっ殺しますからね)(可愛い顔してとんでもない事言うにゃ~。そのへん俺はプロだから安心しろい)それから注文をしてドリンクが運ばれ、全員が飲み終わるまで土御門は作戦としてずっと美琴に話しかけていた。まさに上条が美琴に話しかけるタイミングを全て崩すかのように。(さあ超電磁砲、次の作戦に移るぜよ)(了解!)上条の目の前でも構わず耳打ちをした二人は作戦を実行した。「当麻、土御門さん、私トイレに行ってくる」そう言って美琴はそそくさとトイレにかけこんだ。フリをした。実際上条から見えない死角に行きここで先程の電話をやろうとの考えだ。土御門と入念なネタ合わせをしたので通話が土御門に聞こえなくても問題ない。美琴が遠くから二人を見ていると上条が土御門に何やら怒った口調で話しかけていた。「土御門、てめえ俺の彼女にあそこまでやるとはふざけすぎだぞ!たとえ好きだとしても!」「俺はカミやんから奪うつもりで行動しているぜよ。友人の彼女だからと言って恋にブレーキはかけられないにゃー」「だとしてもアーンはねえだろアーンは!まだ俺もやってないっつーの!」「でも御坂ちゃんは拒否したぜよ。これはどっちが先にアーンにたどり着くか・・・あっ!ウエイトレスさんお冷やのおかわりちょうだいぜよ!」これは美琴に今電話をかけろとの合図だった。それを確認した美琴は非通知にする事を忘れずまた上条に電話をかけた。ぴりりりり!「また非通知・・・てことはお前か?」「・・・・・早く出てくれい」土御門はそう言って両肘をテーブルに立て口を隠すように両手を口の前に置いた。これで上条からは真剣に見え、笑いを堪える準備は完了。恐る恐る携帯を耳にあてた。電話の声の主はもちろん美琴だが土御門のテレパシーによる物だと上条は未だに信じていた。『いつ御坂ちゃんがトイレから戻ってくるかわからないからこうやって伝える。俺は本気だ』「本気だからって美琴がお前を選ぶとは決まってない。美琴は俺を世界で一番愛してるって言ってくれたんだ!」『お前はそれにどう応えた?』「もちろん俺も世界で一番愛してるって応えたさ!!」「クク・・・」拳を握り大きい声で電話に向かって堂々と告げた上条を見て土御門は必死に笑いを我慢した。美琴は失神しそうになったがなんとか踏ん張り土御門との打ち合わせ通り続けた。『じゃあ御坂ちゃんのためならなんでもできると?』「当たり前だ!あっ、金銭面以外ならだけど」『なんでも・・・ね。なら今ここで御坂ちゃんに愛の言葉を叫べ』「トイレに行ってるじゃねえか。戻ってこないと無理だろ」『そうか・・・なら俺が今トイレにいる御坂ちゃんに向かって気持ちを伝えるぜ。俺の声は響くからトイレにいても聞こえるだろう』「それは困る!」『お前が困っても結構。じゃあ俺が気持ちを・・・』ぷつっ通話が切れた。「あれ?もしもし!!」土御門は美琴が通話を切った事を確認するとおもむろに立ち上がりトイレの方向に体を向け、口に手を当てた。今にも叫ぼうとする仕草で。「すう・・・・」(うおおおおおおお!告白なんか死んでもさせん!!その幻想をぶち殺す!!)「美琴ぉぉおおおおおお!!わたくし上条当麻は世界でいっっっっっっっちばんお前を愛してるぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」土御門を制止させるつもりでトイレに向かって愛を叫んだ上条。だがその行動はまず周りのお客さん達の目を一気に引きつけてしまった。シーンとした空気の中で一斉に上条を見つめるお客さん一同。土御門はもうたまらず大爆笑。たまらず上条は顔を真っ赤にしながら席についた。「うひ、うひひひ!本当に言いやがったぜい!」「お、お、お前に言わせてたまるかってんだ!恥ずかしくても俺は負けないからな!!」「お~っと、もう一回テレパシーするぜい」土御門は遠くで漏電しかけている美琴に合図をして再び電話をかけさせた。ぴりりり「何だよ!また美琴が戻ってくるからテレパシーってか!?」『・・・・・・・・・・ホントにバカ』「・・・・・・・・・へ?」『私によく伝わったわよ。後ろを見て』電話の言葉通り振り返ると美琴が電話を耳に当てたまま立っていた。『「おーい」』電話の声と美琴の声が少し遅れながら聞こえてきた。「・・・・・・・・・へ?」『どうせなら直接言ってもらいたいわね』「・・・・・言えません」『言え!!』「ひいい!!」「土御門さん、今日はありがとうございました!とても楽しかったです!」「こちらこそだぜい。明日からカミやんをおちょくるネタが増えたからいい事ぜよ」「あっ、私の話を入れたら許しませんからね。当麻に聞くんで。焼きますよ」「・・・・・・できるだけ努力するぜい」その後美琴は土御門がこっそり録音してくれた上条の愛の言葉をゲコ太時計に入れ、毎日の目覚ましに使い幸せを感じながら起きる毎朝を迎える事になった。白井は毎朝ヒステリックを起こすようになったのだが。一方上条は、愛の言葉を土御門に録音されていた事は知らず、昼休みの校内放送に突然流されたことに驚き椅子から転げ落ち、それを見ていた土御門は大爆笑し、何も知らない生徒は激怒しフルボッコにされる結末だった。「・・・・・・・・不幸だ」「ごめんね。ちょっとやりすぎちゃった」「いつか美琴にバチが当たるぞ」「私に当たる訳ないわよ!ふふ~ん」美琴は既にバチが当たっている事にまだ気付いていなかった。「お邪魔しま~す!珍しいですね白井さんから常盤台の寮に誘ってくれるなんて」「またパンツと御坂さんの盗撮した写真を見せてくれるんですかね」「初春、佐天さん!お姉様が帰って来られる前に急いでくださいませ!」「御坂さんも一緒じゃないんですか?これもまた珍しい」白井は美琴の枕元にあるゲコ太の目覚まし時計を手にとり説明を始めた。「お姉様愛用のこのゲコ太時計。録音した音源をこの中に入れてその音源を目覚まし変わりにできるんですの」「知ってますそれ。最近色んなキャラクターで発売されてるヤツですよね」「それがどうしたんですか白井さん?」「お二人の様子だと何も知らないようですわね。驚かないでこれを聞いてくださいまし」そう言って白井は目覚ましボタンを押した。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2964.html
第一.五章 途中であった多大な揉め事の一つ 第23学区へと向かうバスの中、上条当麻を取り巻く空気は非常にピリピリしていた。『槍』を破壊するため、これから大なり小なりグレムリンと一戦交えなくてはならないのだ。緊張感が漂うのも仕方がない。………からという訳ではない。美 「…で? 何でアンタはバスの中でまで両手に花状態な訳…? 言い訳があるなら言ってみなさいよ聞く気ないけど」イ 「…とうま? いくら慈愛に満ちている私でも、我慢の限界はあるんだよ…?」上 「そ、そう言われましてもですね………」上条は汗をダラダラと流しながら、どう答えるべきか考えていた。正直、「聞く気ねーのかよ!」とか「慈愛に満ちてる奴が、人の頭をザクロにしますかね!?」とかツッコミたい所だが、慎重に言葉を選ばないと『槍』が完成するその前に、『上条当麻』という人間がこの世から消えてしまうかも知れない。目の前にいる、二人の少女の手によって。現在、上条の膝の上にはバードウェイが、隣の座席にはレッサーが座っている。レッサーはまた眠くなったらしく、先程と同じく、そして当たり前のように上条にしだれかかり、「着いたら起こしてください……」と一言残し、夢の世界へダイブしていた。一方バードウェイは、何かを勝ち誇ったかのように、インデックスと美琴に対しドヤ顔をする。それが更に二人の神経を逆撫でしていたのだった。男女比にして1:4…+1匹。「ハーレムとか羨ましすぎワロタwww」などと思うかも知れないが、ハーレムというのはお互いが合意の上でなければ成り立たない。そうじゃない場合、人はそれをこう呼ぶのだ。『 修 羅 場 』、と。つまりこの状況を一言で表すと、『俺の同居人と友人達が修羅場すぎる』、という事である。上 「つーかバードウェイ! ここはもうバスん中なんだから、座席は冷たくないだろ!? わざわざ俺の上に乗んなよ!!」インデックスと美琴に何を言っても効果は薄そうなので、言い訳をするのではなく、問題を解決する【バードウェイをどかせる】事で、この場をおさめようとする。バ 「断る。私がどこに座ろうとも私の勝手だ。 それとも何か? この国は人が腰掛けるだけでも、色々と手続きや許可が必要なのか?」上 「俺の上に座るなら、最低でも俺の許可は取ってからにしようぜ!?」彼女はテコでもここを動く気がないらしい。何だかんだで、上条の膝の上が気に入ったようだ。しかし、それを快く思わない二人が、『何故か』バードウェイに対してではなく、上条に対して威嚇行動…いや、攻撃態勢を取る。具体的には、インデックスは口を大きく開け、美琴は頭の上でバチバチと帯電させる。だが今の上条は防御態勢は取れない。何しろ、逃げようにもバードウェイが重し代わりになって立ち上がれないし、美琴の電撃だけでも幻想殺しで何とかしようと思っても、今度はレッサーが右側をガッチリとロックしている。ある種、『死』を覚悟した上条は、目をギュッと瞑る。だがその時、バードウェイが思わぬ助け舟を出してきた。バ 「……おい。いつまでも突っ立ってないで、お前らも座ったらどうだ。 この男の『隣』に座りたいなら、もう一席空いているだろう。『前』は私の特等席だがな」上条に一撃を食らわせようとしていたシスターとお嬢様は、ピタリと止め、お互いに顔を見合わせる。このバスは全席前向きシートとなっており、左側は2人がけ、右側は3人がけとなっている。上条は右側の席の真ん中に座っている。上条の右の席はレッサーが座っているが、左はフリーだ。つまり、もう一人なら上条の隣に座れる事になるのだ。美 「ふっ…ついにアンタと決着をつける時がきたようね……」イ 「む…私に勝てると本気で思っているのかな…?」 二人の間にバチバチと火花が散る。美琴の能力ではなく、比喩的表現で。そして背後にはスタンドのようなモノまで現れる。龍と虎…ではなく、ゲコ太とカナミンなのが大分迫力に欠けてしまうが。両者相対し、その拳に全てを賭ける。勝負は一瞬。美 「さい! しょは! グー!」イ 「ジャン! ケン!」美&イ 「「ポイ!!!」」決着は―――美 「っしゃああああぁぁぁぁぁ!!!!!」イ 「」インデックスの『紙』を、美琴の『ハサミ』が切り裂いた。美琴はその形のままで手を高々と上げ、ビクトリーした事を主張し、インデックスはその形のままの手を床につけ、orz←のポーズをとる。ハッキリと、勝者と敗者で明暗を分けたのだった。そんな様子を間近に見ていた上条は、疑問に思ったので素直に聞いてみる。上 「…お前ら、何でわざわざこんな俺の隣【せまいところ】に座りたがってんだ? 他にも空きはあるだろ?」素直に聞いたせいで、結局彼は噛み付かれ、感電させられ、ついでにバードウェイも足を踏んできた。訳も分からず「不幸だー!」と叫ぶ上条だが、本当に不幸なのは、こんな乙女心を欠片も理解していない男を好きになってしまった彼女達の方である。ガタガタと揺られ、バスは第23学区へとひた走る。ジャンケンに負けたインデックスとそれに抱かれたスフィンクスは上条の真後ろの席に座り、勝った美琴は左側に座っている。正に四方を少女に囲まれており、前方のバードウェイ、後方のインデックス、右方のレッサー、左方の美琴という状態だ。『神』の右席ならぬ、『上』の右席の完成である。しかし、せっかく上条の隣の席を射止めたというのに、美琴は上条との距離を微妙に開けている。先程はその場のノリと勢いでおかしなテンションになっていたが、冷静に考えたら、自分は簡単に上条に抱きついたりできる性格【キャラ】じゃない事に気がついたのだ。上条の肩を枕代わりにするレッサーや、上条の胸を背もたれ代わりにするバードウェイを横目に見て、「羨ましい!」とは思うのだが、それを自分に置き換えて想像するだけで顔が真っ赤になる。と、その時だ。デカい石でも踏んだのか、それとも道路に凸凹でもあったのか。車体は大きくガクンと揺れる。美琴は上条と距離を開ける為、若干不自然な体勢を取っており、バスが揺れると同時に、美 「きゃっ!!?」と前に放り出されそうになる。次の瞬間、美琴は前の座席の後頭部に顔面をぶつけ…てはいなかった。気がつくと、上条の左手に肩を抱かれ、美琴はそのまま上条の左肩に頭を乗せていた。美 「なっ!! な、なななっ!!! な~~~~~っ!!!?///」上 「ったく危ねえなぁ。変な乗り方してるからだぞ?」早い話が、とっさに美琴を助けた訳だ。美琴はみるみるうちに顔を上気させ、何だか急に大人しくなる。しかし、上条の後部座席【インデックス】から何故かイヤ~なオーラが立ち込めてくる。いい事をしたのに、何故非難されるのか、鈍感キング上条には分からない。分かる訳がない。しかもバードウェイまで不機嫌になっている。まるで、『お兄ちゃん』を盗られた『妹』のように。だからなのか、バードウェイは唐突に爆弾を放り投げてきた。バ 「それにしても、レッサー【コイツ】はよく寝るなぁ! 今朝、上条【おまえ】の布団の中であんなに寝てたのになぁ!」天国から地獄。人は上げてから落とされると、ショックはより大きくなる。バードウェイの爆弾は美琴にとって効果絶大だったらしく、上条に抱かれたままビシリと固まる。 上 「ちょ、バ、バードウェイさん!? 何故にこのタイミングでその話題を持ち込むのでせうか!? お、終わった事をイチイチ蒸し返すのは良くない事だと思います!」バ 「安心しろ! そんなに焦らなくても、私も一緒に寝ていた事はさすがに言わないさぁ!」上 「言ってるううううぅぅぅぅぅ!!! バードウェイさん、それ言ってるよおおおぉぉぉ!!?」バ 「あー! そう言えばレッサー【ソイツ】が『おっぱいなら服の上から触るくらいノーカウント』 と言っていたのを思い出したなぁ! どうだ!? 触ったのか!? ん!?」上 「だから何でこのタイミングで思い出すんでございますかねええええぇぇぇぇぇ!!!!!」イ 「……とうま…? どういう事なのかな…? おっぱいの件【いまのはなし】は初耳なんだよ…? それとは全く関係ないけど、後ろの座席【このいち】からだと、 とうまの頭がとってもかじりやすいと思うんだよ…… もはや、かじってかじってかじってナンボ、かじってナンボの商売なんだよ……」上 「止めろ! 止めてくれ!! お止めになってくださいませの三段活用!!! それ多分、全く関係なくないから!! それ、かじる気満々の台詞だから!! あたまかじり虫になってるから!!」何とかインデックスをなだめようとする上条だが、怒りゲージMAXで超必殺技がいつでも放てる状態なのはインデックスだけではない。美琴もまた、俯きながらワナワナと震え、美 「ア~~~・ン~~~・タ~~~・は~~~………」しかししっかりとバチバチと帯電音を響かせる。美 「何でそういつもいつもいっつも―――」溜めたモノを一気に解放するべく、美琴は俯いていた顔を勢いよく上へ向ける。だがその時だ。デカい石でも踏んだのか、それとも道路に凸凹でもあったのか。車体は再び大きくガクンと揺れる。美琴は上条をキッ!と睨むために顔を上げた直後だったので、バスが揺れると同時に、美 「きゃっ!!?」とそのまま跳ね上がる。しかし、今回は上条は余裕がなかったせいか、押さえられる事もなかった。つまり、上条を見上げた顔は、そのままブレーキする事なく―――ちゅっ…♡…という音を立てて、美琴の唇は上条の左頬に直撃する。イ 「なっ!!?」バ 「なっ…!」上 「なぁ!!!?」美 「な、なな、な……///」それは誰がどう見ても偶然の事故だった。しかし、誰がどう見ても口付けだった。上 「あ…あー、まぁ…その……き、気にするなよ! 今のはホラ! 事故だから! ノーカンだか」イ 「とぉぉぉうぅぅぅまああああぁぁぁぁぁ!!!」上条が言い終わる前に、すでに上条の後頭部にはインデックスの歯が突き刺さっていた。上 「痛い! 痛いよ!? てか、今のは俺全然悪くねーじゃん!!? この世の理不尽ここに極まれり!!?」イ 「やかましいんだよ!! とうまはもうとうまだからこうするしかないかも!!!」上 「意味が分からん!! せめて日本語で話してくれ!!! バードウェイも! 見てないで何とかしてくれ!!! 上条さんのピンチですよ!?」とヘルプされたバードウェイだが、バ 「それがどうした私が知るかっ!!!」と一蹴した。何かまた不機嫌になっている。そして事件の中心人物、美琴はといえば………美 「……………ふ……ふにゃー///」と漏電【いつものアレ】をした。上 「うおおおおおぉぉぉぉい!!! これ以上面倒ごと増やすんじゃねええええぇぇぇぇぇ!!!!!」そんな様子を見ていた三毛猫は、『この人間共は、よくもまぁ、これだけ騒いでバスから叩き出されないものだ』、と言わんばかりに、迷惑そうな声で「ニャー」と鳴き、これだけの大騒ぎの中、未だに熟睡している強者レッサーは、レ 「むにゃむにゃ………ワイヤードビキニ…スケルトンワンピ……ふへへ……」と訳の分からない寝言をほざいていた。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3371.html
とある葛藤の本能理性【バトルブレイン】 美琴は今日も深い溜息を吐いていた。その原因はすぐ隣のベッド…いや、『自分のベッド』にある。寮へと帰り、部屋のドアを開けた瞬間、美琴の目に飛び込んで来たモノは、「はぁ! はぁ! あ゛あ~、お姉様お姉様お姉様! くんかくんか! くんかくんかhshs!」ルームメイトである白井が、何故か自分のベッドの上で枕やらシーツやら毛布やらを、匂いを嗅ぎつつ抱き締めている最中の姿であった。『いつもの事』ながら、どっと疲れが出る美琴である。「……何やってんの…黒子…」「すんすんすんす………ハッ!? お、お帰りなさいですの」お帰り、とは言いつつも美琴の寝具を放そうとはしない白井。「あのね…いい加減にしないと放電する【やく】わよ」「お姉様の愛の電撃【ムチ】で文字通り身も心も焦がされるのならば、この黒子本望ですの」目がマジである。タフなドM相手では、叱ろうがお仕置きしようが通用しない。それどころか罵りの言葉を吸収し、自らのエネルギーへと変換するのだ。我々の業界ではご褒美です状態なのである。しかも厄介な事に、シカトしても「その冷たい態度も素敵ですのー!」と繋がる為、もはや対応策が無いのである。故に美琴は、今日も深い溜息を吐いているのだ。ただし一応断ってはおくが、美琴は別に白井を嫌っている訳ではない。彼女に助けられた事も一度や二度ではないし、(あくまでもルームメイトとして)パートナーだとも思っている。しかしそれを口にするとまたややこしい事になるのは分かりきっているので、敢えて言わないようにはしている。が、しかしそれはそれ。これはこれである。白井の暴走っぷりは日に日に面倒くささを増しており、美琴にとっても悩みの種だ。この前は美琴の使用済みストローを舐めようとしていたし、その前は夜中に美琴と同じベッドに忍び込もうとしていた。更にその前は美琴が寝ている隙に口付けをしようとしていた…なんて事もあるくらいだ。そろそろ本気でルームメイトを代えて欲しいと、寮監に直談判しようかと思った程である。そして今もこうして、美琴のベッドを我が物顔で占領している訳なのだ。美琴はガックリと肩を落とし、とりあえずシャワーでも浴びようと浴室に足を運ぶ。すると当たり前の様に「お背中をお流しいたしますわ!」と服を脱ぎ始める白井に、美琴はここでようやく電撃をぶっ放した。痺れながらも満足げな白井ではあるが、足止めにはなっただろう。美琴は溜息を吐きながら、ぬるめのお湯を浴びるのだった。 ◇その翌日である。昨日の様子とは打って変わって、テンションが高ぶっている美琴。正確に言えば、あくまでも顔は必死に呆れ顔を作ってはいるのだが、心の中では満面の笑みなのである。その一方で、昨日の美琴と同様に深い溜息を吐いている人物が一人、美琴と向かい合わせに座っている。それこそが美琴が上機嫌な理由でもあるのだが。「はああぁ……終わらねー…休みてー…寝てー………不幸だー…」上条である。彼は左手で頭をガリガリかきながら、右手で目の前の問の答えをガリガリ書いている。本日はゴールデンウィーク最終日。だが彼には黄金な週間など一日も無く、補習・課題・宿題・小論文・感想文の毎日を送っていた。小萌先生の頑張りで、もう一度一年生を送る事はなくなったのだが、その代償も大きかったのだ。しかし最終日だと言うのに、彼のテーブルの上には真っ白な宿題の山。そこで年下(しかも中学生)に教えを請うという恥を忍んで、美琴に手伝ってもらっている。勉強の事ならば、学園都市でも最高の演算能力を持つレベル5に聞くのが一番だし、レベル5の中でも最も気安く仲が良いのは美琴である事も上条は自覚している。ちなみに現在、インデックス・オティヌス・スフィンクスの「○○ス」三人組はここにはいない。彼女達(スフィンクスは雄だが)がいると絶対に宿題に身が入らないし、美琴とインデックスは、何故か顔を合わせれば小競り合いが始まるからだ。ナンデカナー。と長々と説明した訳だが、つまり何が言いたいかと言うとだ。上条と美琴は今、部屋の中で二人っきりだという事だ。上条は視線を問題集に釘付けにしたまま、テーブルを挟んで向かい側の美琴に質問する。どうやら今は、数学の時間らしい。「あのー、美琴センセー? ここが分からないんですけどー…」「全く仕方ないわねアンタは。ほら、さっきやった公式を当てはめれば簡単でしょ? こうすると…ね? yの値が出てくるから後は」「あー、あー。なるほどね。サンクス、ミコっちゃん」「べ、別に大した事じゃないし! 勘違いするんじゃないわよ! ただアンタから頼りにされるのが嬉しいだけなんだからねっ!」嬉しすぎて、ツンデレ具合もこじれる美琴である。緩んで落ちそうになる頬を頑張って引き上げてはいるが、気を抜くとすぐにでもニマニマしてしまいそうになる。と、そんな時だ。上条が急に立ち上がった。「…? どしたの?」「悪ぃ。ちょっとトイレ。……ジュース飲みすぎたのかも」テーブルの上には勉強道具の他にも、ストローが刺さったコップが二つある。勿論、上条の分と美琴の分だ。中には安物のオレンジジュースが注がれているのだが、大量の宿題を片付けているとやたらと喉が渇き、上条はゴクゴクと飲んでしまっていたのだ。トイレが近くなるのも当然の事である。上条がお花を摘む【ようをたす】姿を不覚にも想像してしまい、ボンッ!と音を立てて、勝手に顔を爆発させる美琴。「わ、分かったから早く行ってきなさいよ馬鹿! わざわざ言わなくてもいいから!」上条は「えー? そっちが『どしたの?』って聞いてきたんじゃんかー」と不満を漏らしつつも、オシッコまで漏らす訳にはいかないので、そそくさとトイレに駆け込む。 さて、ここからがある意味本番である。上条の暮らしている空間で、一人っきりになってしまった美琴。ここで彼女の中で、悪魔が囁いたのだ。美琴の目の前には、先程まで上条が座っていたペラッペラの座布団が一枚ある。無意識なのか意識的なのか、美琴はごく自然にその座布団を手に取っていた。(……あ…まだ温かい…)座布団には、まだ上条の体温がほんのりと残っており、その温みが手からじんわりと伝わってくる。何だろう。とてもイケナイ事をしている気がするのだが、その思いとは反比例して、心臓はもの凄くドキドキしてくる。美琴は頭をポーっとさせながら、その座布団をギュッと抱き締めて、そして、「………すん…」匂いを嗅いだのだ。だが頭をポワポワさせたまま、「…アイツの匂いがすりゅ~……」などと感想を漏らした瞬間、彼女はハッと我に返った。「って!!! ななな何やってんのよ私はっ!!! こ、ここ、これじゃあ昨日の黒子と一緒じゃないのよっ!!!」今更である。出来れば座布団を手に取った所で気付いてほしかった物だ。しかも先程までケツが乗っかっていた物【ざぶとん】のスメルを堪能するとか、寝具で楽しんでいた白井よりも遥かに上級者である。しかし、そんな事は言いつつも、自分の座っていた座布団と上条が座っていた座布団を、『しっかり』と入れ替える美琴。だが悪魔の囁きはそれで終わりではなかった。自分が白井と同じような事をした事で、今までの白井の奇行が頭の中でフラッシュバックしてくる。(……そう言えば…黒子【あのこ】、私のストローを舐めたりもしてたわね…)既に説明した通り、テーブルの上には上条の飲みかけのジュースのコップと、そこに刺さったストローがある。先程まで上条が口にしていたストローが。「ま、ままままたお手洗いが近くなっても可哀想だし!!! わ、わ、私がチョロっとアイツの分のジュースを飲んであげようかしら!!?」無茶苦茶な言い訳を自分自身に言い聞かし、美琴は上条のコップに手を取る。いいのかそれで。しかし美琴はそのまま止まる事なく、「はむっ」とストローを口にくわえた。その瞬間、「何してんの?」「にゃあああああああああああああ!!!!!」トイレから戻った上条に声を掛けられビクゥッ!としてしまった。男の小便など手を洗う時間を入れても、ものの数十秒で完了するのだ。逆に言えば数十秒という短い時間で美琴は、上条の座布団を抱き締め、匂いを嗅ぎ、自分の座布団と入れ替え、言い訳をして、ストローを口にくわえた事にもなるが。どんだけだよ。美琴の様子がおかしいようにも見えたが、そんなのは『いつもの事』なので、あまり気にせずに宿題の続きを再開する上条。自分のジュースのストローに美琴の口が付いた事にも、自分の座布団が美琴の座布団と入れ替わっている事にも気付かずに。 ◇それから数十分。今は国語の宿題に取り掛かっている上条なのだが、「だぁ~もう! 『この時の私の気持ちを説明せよ』とか言われても知るかよ! そんな事、夏目漱石【これかいたひと】本人に聞けよ!」身も蓋もない事を叫びながら嘆いていた。対して、「く、口を動かす前に手を動かしなさいよ!」と注意をする美琴ではあるのだが、下に敷いた座布団が気になり、どうにも据わりが悪くモジモジとしてしまう。自分で取り替えたクセに。だがそんな事を知る訳もない上条は、シャーペンを放り投げてベッドに横になってしまう。ちなみにこのベッド、普段はインデックスが使っている物である。「ちょ、アンタ! 何してんのよ! まだ宿題こんなにあるのよっ!?」「いやダメだ…すげー眠くて集中できねー……昨日も課題やってて、ろくに寝てなかったし… 悪い、30分だけ寝かせてくれ…起きたら続き…やる……か…ら…………くかー」勝手な言い分だけ言うと、上条は光の速さで眠りに就いた。美琴は「ったく、もう…」と呆れながらも、上条に毛布をかけてあげる。何だかんだ言いつつも、上条には甘いようだ。惚れた弱みという奴なのかも知れない。30分経ったら上条を起こすとして、それまで暇になってしまった美琴。とりあえず部屋の中にある漫画本でも読んで時間を潰そうかと思った瞬間である。美琴の脳内に、本日三度目となる悪魔の囁き。(そう言えば……黒子ってば、夜中に私のベッドに忍び込もうとした時もあったのよね…)再び白井の奇行がフラッシュバック。そして目の前には、無防備な姿で仮眠を取る上条の姿。寝息を立てて、可愛らしい寝顔(美琴談)で眠りこけているその様子から、ちょっとやそっとじゃあ起きないであろう事が窺える。美琴はそこで何を閃いたか、言わなくてもお察し頂けるだろう。「そ、そう言えばこんな所で寝ちゃったら風邪引いちゃうわよねー!!! こっ、こ、こうなったら、ひ、ひひと、ひと、人肌で温めてあげた方がいいのかしらっ!!?」またも無茶苦茶な言い訳を独り言でぶちかます。もう5月に入り春真っ只中であり、周りの空気は寒さとは無縁で温める必要もないだろうし、そもそも『こんな所で』も何も、上条が横になっているのはベッドの上だ。ベッドの上で寝たら風邪を引くと言うのなら、人は一体どこで寝ればいいと言うのか。と、そんなツッコミを入れる者など、この場にいる訳もなく、美琴はいそいそと上条のベッドに潜り込む。白井と全く同じ事をしていると思うと複雑ではあるのだが、これはあくまでも上条が風邪を引かないようにする為の予防処置()なのだと割り切る。美琴には大義名分()があるのである。仕方ない()のである。セーフ()である。「ふぉ…ふおおおおおぉぉぉぉ………」自分でやっておきながら、美琴はいざ上条の隣で横になってみると、今更恥ずかしさのあまりワナワナと震えてきた。目と鼻の先には上条の背中があり、少し手を伸ばせば思いっきり抱きつく事も可能である。しかし羞恥心やら背徳感やら罪悪感やら理性やらがそれを塞き止め、美琴を硬直したままの状態にしていた。 ここまでやったのだ。もういいだろう。普段の自分では絶対にできないような経験を、思う存分楽しんだではないか。白井の事を棚上げして、自分もこんな事をしては、彼女にも申し訳が立たない。美琴はそんな事を思い、ベッドから立ち上がろうとする。しかしその時、事件が起きた。「んっ…んー……むにゃ…」「っ!!!?」ゴロン、と寝返りを打ち、上条がこちらを向いてきたのだ。先程まで背中だった眼前は、くるりと回って上条の胸元が現れる。そしてほんの少し顔を見上げれば、「すーすー」と寝息を立てる上条の寝顔。しかも美琴の顔との距離は、わずか数㎝だ。それはちょっとだけ首を伸ばせば、お互いの唇と唇がぶつかってしまう距離だった。美琴は再度思い出した。(く…黒子……私が寝てる隙に、キ…キキ、キス……とかもしようとしてた…のよね…)心臓はバックンバックンであった。もしも今から、頭に過ぎった『その行為』を自分がしてしまったらと思うと、顔が沸騰しそうになる。だが流石にそれはマズいだろうという認識はあるらしく、美琴は思い留まった。美琴は絶賛熟睡中の上条に語りかける。『何故か』小声で。「あ…あー、そろそろ起きなさいよ。もうすぐ30分経つんだから」いつの間にか、あれから25分程が経とうとしていた。随分と長い時間、ベッドの上でお楽しみだったようだ。しかし上条は起きる様子がない。小声なのだから当然である。「お……おお、おき、おき、起きない…と、キ…キキキキスっ!!! しちゃうわよ!?」訂正しよう。美琴は思い留まっていなかった。始めから上条が眠っている間に、口付けをする気満々だったのだ。小声だったのも、本気で起こす気がなかったからである。ここで上条が起きてしまったら、口付けをするチャンスもなくなってしまう。「お、おお、起き…ないの…? ホホ、ホントにしちゃう…わよ…? も、もう遅いんだからね! 私は何があっても知らないんだからっ!」何があってもと言われても、だったら大声で上条を叩き起こせばいいし、そもそも「起きないとキス云々」というのも美琴発信な訳で、嫌なら止めれば良いだけなのだが。しかし夢の外【げんじつせかい】の自分周りでそんな事が繰り広げられているなど知る由も無い上条は、「んー……いいから…美琴…早く………むにゃ…」と寝言をほざくのだった。その一言が美琴の引き金を引くなど、知りもしないで。 ◇「…………あれ?」上条が目覚めると、既に3時間が経過していた。仮眠の筈が、本眠りへと突入していたようだ。「えっ……えええええええええっ!!? な、何で美琴は起こしてくれなかったんだ!? いやそれ以前に、何で美琴センセーも俺と一緒に寝てんのーっ!!?」上条の隣には、気持ち良さそうに寝ている【きぜつしている】美琴の姿。残されたのは、終わっていない宿題とベッド周りの謎の焦げ【ふにゃー】跡。そして微かに感じる、唇の柔らかい感触だけだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2826.html
終章その後 先に辿り着いた者は 第7学区にある、とある病院の一室。四人部屋のベッドの内3つが埋まっており、それぞれ上条当麻、浜面仕上、黒夜海鳥の三名が横になっている。(本当はそれぞれ別室だったのだが、 『面倒な事情を抱えた患者は一緒くたにした方が都合がいい』 という病院側【カエルがおのいしゃ】の意向で無理矢理同室にされたのであった)しかし病室には現在、入院患者三名の他に、上条の見舞いに来た客が二名。正直な所、あまり空気はよろしくない。というより最悪である。見舞い客の一人から、何やらどす黒いオーラが出ている気がする。しかも何やらバチバチと帯電音もしている。こちらは『気がする』ではなく、物理的【マジ】にだ。そしてもう一人の見舞い客は、上条に抱きつき、その豊満な胸でモニュモニュと上条の右腕を『挟んでいる』。一言でいうなら、正に『修羅場』である。黒夜は上から布団を被り、帯電音がする度にビクッとしている。サイボーグである彼女は、電撃そのものが怖いのだろう。(もしくは、ハワイで番外個体に遊ばれた【いじられた】事がトラウマになっているのかもしれない)浜面は何度も読み返した映画情報誌(おそらく絹旗からの見舞い品だと思われる)で顔を隠し、我関せずを決め込んでいる。こちらは電撃よりも、この空気が怖いらしい。そして上条はというと、電撃も空気もどちらも怖いのであった。しかし同時に、制服の上からでも分かる程の柔らか~い感触が右腕から伝わってくるので、珍しく『幸せだー!』と思っているのも確かである。よって、彼の顔は青くなったり赤くなったりで大忙しだ。? 「い、い、い、いい加減その馬鹿から離れなさいよ!!!」と、怒鳴った見舞い客は御坂美琴。当然、帯電していた方だ。? 「あらぁ、御坂さん。約束力は守らないとイケナイんじゃなぁい?」と、反論したのは食蜂操祈。当然、豊満な胸をしている方だ。どちらも常盤台中学が誇るレベル5の超能力者であり、今回の事件にも少なからず関わっていた者達だ。食 「『先に辿り着いた方が好きにする』…私の方が御坂さんよりも早くこの病室に入ったのよぉ? 上条さんを『こうやって』好きにできる権利力は、私にあるのが当然じゃないかしらぁ」美 「たかだか4~5分の差でしょ!? しかも私が遅れたのは、アンタが洗脳した奴等の妨害にあったのが原因だし!! てか、あんなのちょっとした口約束じゃない! 承認した憶えはないわよ!!」食 「あらぁ? 大覇星祭でのちょっとした口約束で、 罰ゲームと称して上条さんを連れまわしたのはどこのどちらさんだったかしらぁ?」美 「なっ! ななな何でアンタがそんな事知ってんのよ!?」食 「私の情報力をナメないで欲しいわねぇ」大方、あのツーショット写真事件を目撃した通行人の中に食蜂の手の者がいたのだろう。だが今はそこを追及している場合ではない。とりあえず、目の前で起こっている出来事【じけん】を何とかしなくてはならない。大切なのは『今』なのだ。美 「だとしても! 『好きにする』で何で『ソレ』なのよ!!!」食 「そんなの私の勝手力でしょぉ? 上条さんだって喜んでるみたいだしねぇ」美 「ア・ン・タ・も・ア・ン・タ・よ!!! 何、一切抵抗しないで胸の感触楽しんでんのよこの変態!!!」上 「あ…いや、あのですね? ワタクシ上条当麻は現在動けない状態にありまして、逃げようにも逃げられないのであります……」と、自分の弁護をする上条だが、彼の怪我は黒夜と違って、歩けない程の重症ではない。しかしながら、食蜂のモニュモニュ地獄【てんごく】を食らい続けている上条は、下半身の『一部分』が大変な事になっており、布団から出るに出られないのである。健全な男子高校生なのだから仕方がない。ちなみに浜面も、雑誌を読むフリをしながら横目でこの状況を見ており、上条同様、下半身の『一部分』が大変な事になっていた。滝壺が知ったらと思うと恐ろしい。 食 「女の嫉妬力は見苦しいわよぉ? 悔しかったら御坂さんもやればいいじゃない。 もっとも、御坂さんにそんな度胸力はないし、 そもそもその俎板力じゃ物理的にも無理だと思うけどぉ」美 「あん!?」くすくすと嘲る食蜂に対し、美琴は「バヂヂィッ!!」と本日最大の帯電音を発して威嚇する。仲裁に入ったのは上条…ではなく、黒 「やァめェろォよォォォ! ここ病院なンだぞォ!? 精密機械とかいっぱいあンだぞォ!? 他の患者さンの迷惑になるから、ケンカなら外でやれよォォォ!!!」若干半泣きの黒夜であった。しかも正論である。よほど電撃が怖いらしい。しかし黒夜の恐怖とは裏腹に、美琴の次の行動は、予想【でんげき】とは違うものだった。食 「なっ!!?」上 「み、みみみ御坂さん!!?」食蜂とは反対側、つまりは上条の左腕側に抱きついたのだ。美 「こ、ここ、これでいいんでしょこれで!!!///」食 「い、いい訳ないじゃない! 勝負は私が勝ったのよぉ!? どぉして御坂さんまで抱きつくのかしらぁ!」美 「ア、アア、アンタが『やればいい』って言ったんじゃない!!」食 「だ、だってそれは、まさか本当に御坂さんがこんな大胆力な事ができるとは思わなかったしぃ!」確かに、普段の美琴ならできなかったかもしれない。しかし今は、食蜂というライバルに煽られた事による対抗心と、目の前で上条が思いっきり誘惑されているという嫉妬心、更には、「ここで引いたら色々と負ける気がする」という謎の不安心などが入り乱れ、結果、羞恥心に勝ったのである。二人の言い争いの激しさが増す事に比例して、両サイドからの乳圧も強くなる。食蜂がスゴイのは言わずもがなだが、美琴とて決して「つーるーーー♪ ぺーたーーー♪」ではない。小振りながらもそれなりに主張してくるお胸さまと、何よりも普段では見れない大胆な美琴自身に、紳士を自称する上条さんとて理性の崩壊は目前だ。こんな時は素数を数えて気を紛らわすのが上条流なのだが、その余裕すらない。だが上条にとって、これが不安でもあった。何故なら彼は、自他共に認める『不幸体質』の持ち主だ。幸せの後は必ず不幸が訪れるものなのだ。つまり、「俺の幸せがこんなに続くわけがない」と、ラノベのタイトルのような事を思っている訳だ。と、その時である。美 「―――てんのよ!! って、聞いてんの!?」上 「……ふぁ!? は、はえ!? なな、何でございませう!?」言い争いは、いつの間にか上条に飛び火していたらしい。食 「だからぁ。上条さんは私と御坂さん、どっちの胸の感触力が良かったのぉ? 勿論、私よねぇ」美 「ち、違うわよ!! わ、わた、私の方が気持ち良かったでしょ!!?///」上 「………はい?」二人の言い争いが、どうしてそんなとんでもない所で終着したのか、両腕に神経を集中していて、ろくに会話を聞いていなかった上条には知る由もない。理由は分からない。が、とにかくここは、どちらかを選ばなければならない。 数々の戦いにその身を投じてきた上条は、本能的に悟ったのだ。二人のうち一人を選ばないと、この妙な桃色空間は終わらないと。平和的に解決しようとして、「いやー、どっちも良かったから選べないやー」などと曖昧な返事をすれば、昨日よりも恐ろしい出来事が待ち受けているのも、今までの経験から知っている。(それは上条にとって、7500人の自称ヒーロー達や、 第一位から第六位までの能力を自在に使える恋査を相手にするより恐い事らしい)なので、美琴【ビアンカ】か食蜂【フローラ】のどちらかを選ばなければならない。上条はそれぞれを選んだ時のシミュレーションをしてみる。美琴を選んだ場合、食蜂は何人もの人間を操り自分をボコボコにする気がする。それは嫌だ。食蜂を選んだ場合、美琴はコインが尽きるまで超電磁砲をぶっ放してくる気がする。それも嫌だ。……………結論、どっち道不幸だ。しかし、先ほど述べた通り曖昧にする方が危険だ。そうなるとやはり……上 「い、いや~、み、御坂の方が気持ち良かったかなー…?」食 「なっ!!?」美 「えっ!!?///」上条は美琴を選んだ。美琴を選んだ場合、実害が出るのは自分一人だけだが、食蜂を選んだ場合は病院全体に被害が出る。そうなると、先ほど黒夜の言った事が冗談では済まなくなる。食蜂がピクッと動いて身構える上条。だが食蜂は、上条が思っていたように能力を使うわけでもなく、食 「うわ~ん! 上条さんのバカアホ貧乳派~!」と、泣きながら走り去っていった。どこぞの隣人部の肉のように、それはもう見事な走りっぷりであった。ちょっと可哀相なくらいである。嵐が去った後のような病室で、上条は溜息をつきながら美琴に話しかけた。上 「あのなぁ、御坂。あまりこういう悪ふざけはやめてくれないか? 俺だって男なんだから、何か問題が起こっても………ってアレ? 御坂?」おかしい。美琴から、返事も相槌も聞こえてこない。美 「私を…選んで…コイツが…私を……///」と言うより、そもそも上条の声が届いていなかったらしい。この様子はもしや……美 「……ふ…///」いつものアレだ。美 「ふny」黒 「ぎゃァァァす!!!」上 「危ねーーーー!!!」が、とっさに右手で頭を抑えた【そげぶった】。しかし、左側にいた美琴を右手で抑えるためには体を捻る必要があり、くわえて上条はベッドで上半身だけ起こしている状態だったので、バランスを崩した挙句、そのまま美琴を引っ張りベッドに押し倒す事となる。そのせいで再び美琴は「ふにゃー」しそうになるのだが、上条の不幸は終わらない。この直後、どこから話を聞いたのか、純白のシスターが病室に入ってくる。彼女は、また上条が自分を放って何かの事件に首を突っ込んでいたというイライラ。単純にお腹が空いているというイライラ。そして何より、いざ心配して来てみれば、何やら美琴と仲良く【イチャイチャ】しているのを目撃したというイライラ。以上、3つのイライラを自らの歯に集中させ、上条の頭皮目掛けて飛び掛る。『修羅場』の第二ラウンドのゴングが鳴り響く。その一部始終を見ていた浜面が、最後にポツリと呟いた。浜 「……俺は滝壺一筋でいこう」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/87.html
前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/シークレットメッセージ 一端覧祭終了後 「お待たせー」 美琴がお盆を手に現れる。 大騒ぎの一端覧祭も終わり、学園都市は静寂を取り戻す。 美琴は約束通り、上条の部屋に食事を作りに来ていた。 ……凶悪な『あの』ミニスカエプロンドレスと共に。 「お、おう」 上条は美琴をちらりと見ると、再び視線をTVに戻す。 「食事の時間までTV見てるんじゃないの」 美琴は上条の手からリモコンを取り上げると、TVを消す。 「アンタのリクエスト通りに作ったけど、これでいいの?」 ローテーブルの上には肉じゃが、ほうれん草のおひたし、大根の味噌汁が並ぶ。 「ああ、うん」 「……アンタ何でこっち見ないのよ?」 上条はうつむき、テーブルの上を見つめている。 「いや、別に特に理由は」 「ないんだったらこっち見なさいよ」 美琴は、例のウェイトレス姿で上条の向かいに座っていた。 「…………いただきます」 「いただきます」 二人は手を合わせて、食事を始める。しばらくは二人とも無言で食を進めていた。 「……うまい」 「ホント? よかった」 「うん、うまい。すごくうまい」 そこで上条は顔を上げ、美琴をちらりと見るとまたうつむいた。 「えーと、何か不満でも?」 「ない。何にもない」 「にしてはアンタ無口じゃない。ホントは口に合わないんじゃないの?」 「んなことない。俺が作るより断然うまいって!」 上条は力説し、ハッとなってまた顔を下げてしまう。 「アンタこの間から変じゃない? 何か私のこと避けてるみたいだけど」 「んなことねぇよ……」 一緒に一端覧祭を回ったとき、あんなにひっついてたんだから避けてるも何もねぇだろと、上条は独りごちる。あれから、あの時の二人を思い出すとこっ恥ずかしくて、美琴を見かけても声をかけられず、美琴に見つからないよう逃げ帰る毎日だった。 「ごちそうさま」 「おそまつさまでした」 美琴は食器を下げ、流しで洗い始めた。 「ねーえー」 「んー?」 「……やっぱアンタどっかおかしいんじゃない? 具合でも悪いの?」 洗い物を終えた美琴が、上条の隣にぺたんと座る。 「おっ、俺は別にどこも具合悪くなんかないって」 「ほんとーにー?」 美琴は上条の額に手を差しかける。美琴のひんやりとした手が触れ、上条がビキッと背筋を伸ばした。 「う、うわ、おい……」 「熱はないみたいね」 「そ、そんなに顔を近づけるな!」 上条が後ずさりする。 「何よ」 「だ、だから……」 「はっきりしなさいよ」 美琴が睨むが、上条は目を合わせない。 (その格好で近づくな!) 上条の思考がぐるぐると回る。相手はあの電撃娘、御坂美琴だとわかっていても (そ、その衣装でこっち向くんじゃねぇ! 変に意識しちまうだろうが!) 上条は変な動悸を押さえられなかった。 コイツ、わかっててやってんじゃねぇだろうな? 上条はビクビクしながら、おそるおそる美琴を見る。美琴は疲れたのか、ローテーブルに突っ伏していた。座り込んだ足の間で何か見えているような気がするが、そちらに意識を向けないよう頭の中で振り払う。 「あー、それにしても一端覧祭疲れたぁ」 「あ、ああそうだな。お疲れさん。客たくさん入ったんだろ?」 「そうなのよ。喫茶室やるのは初めてだったんだけど、集客数はうちのクラスが過去最高だったみたい」 「へ、へぇ。そりゃすごいな」 「でもねー」 ここで美琴が顔を上げる。頭にはヘッドドレスを装備したままだ。 「うち、女子校じゃない? 男の客ばかり集まってきても来年の受験者数には関係ないのよねー」 「あ、ああ、そうだよな、うん」 一端覧祭で各校が門扉を広く開くのは、来年の受験者を確保するためだ。もちろんそれは、名門常盤台中学といえど例外ではない。 「クラスでお客さんをチェックしてた子の話じゃ、ほぼ毎日通ってた奴もいたみたい」 「……そりゃそうだろうな」 「はい?」 上条の返しの意味がわからず、美琴がツッコむ。 「……その服」 上条が美琴の服を指さすと、美琴は裾をつまんでみせる。 「これがどうかしたの?」 「……わかってないんだったら、いい」 「何がよ?」 「………………あーくそ!」 上条は叫んで立ち上がり、頭をかきむしる。 「ちょ、ちょっと急にどうしたのよアンタ!?」 「お前、御坂だよな?」 「何言ってんのよアンタ。頭おかしくなっちゃった?」 「学園都市第三位、超電磁砲の御坂美琴だよな?」 「何わかりきったこと言ってんのよ」 「だから、何でそんなに男の客がわんさか来てるのか」 「うん。それが何?」 「その男共は『学園都市第三位の超電磁砲』が可愛いコスプレしてるから見に来てんだって気づかねーのかよ!」 「………は、い?」 美琴はきょとんとした。 (かわいい…………可愛い?) 美琴の顔がボン! と音を当てて赤く染まった。そろそろ瞬間沸騰機と名付けて良いかもしれない。 「えっと……だって、この服着てたの私一人だけじゃないし、私より可愛い子なんていくらでもいるでしょ?」 「それでも! お前のクラスじゃ知名度が一番高いのお前だろうが! 気づけ馬鹿!」 「馬鹿とは何よ!」 美琴が立ち上がり、スカートの裾が揺れる。それを見て、上条がうっとうめき、その場に座り込んだ。 「………だいたいアンタが……どうしたの? 顔真っ赤だけど」 「な、なんでもねぇよ!」 美琴は上条の隣に女の子座りで腰を下ろす。 「私のことを馬鹿呼ばわりしたのはともかく」 「…………」 「言いたくないんだったら……良いけど」 歯切れが悪い口調のまま、美琴は上条の顔をのぞき込んだ。よく見れば美琴もほんのり顔が赤らんでいる。 「…………あの、さ」 「…………」 「アンタは……その、この服見て……どう思ったの?」 「どう、って」 「聞かせて欲しいな……アンタは、学園都市第三位の超電磁砲が、コスプレしてるのを見てどう思ったの?」 「さっき『言いたくないなら良い』って言ってただろうが」 「………………やっぱり、聞かせて」 「…………やだね。断固拒否する」 「ふーん、そうなんだ」 美琴は上条をちらりと見ると、一つ頷いて上条の正面に回り込み 「ちょ、おま、何やって」 「…………と・う・ま?」 上条の前で小首をかしげて見せた。 (ぎゃぁああああぁぁぁぁぁぁ!!) 声なき絶叫とともに、上条は全力で壁ぎりぎりまで後ずさる。 「や、やめっ、やめろ、みさかっ」 「何が?」 「だっ、だからっ、そっ、それっ」 「それが何?」 「だから! それやめろ!」 「それって何よ?」 「お前わかっててやってるだろ!」 「何を?」 美琴はにやにや笑っている。 「くーっ…………」 上条は頭を抱えてうずくまる。 「あははっ」 美琴は笑って立ち上がった。 「御坂?」 「ほら」 美琴は上条の目の前でくるりと一回転してみせる。 「ちょ! おま、ばか、やめ」 上条はジタバタと顔の前で手を振って目の前の光景を消そうとする。 「大丈夫よ、今日は短パン履いてるから。ざーんねんでした」 スカートの向こうがこの間と違うことにほっとしつつ、上条は 「し、心臓に悪い……」 「同じ失敗は二度しないわよ。美琴さんの学習能力をなめないで欲しいわね」 「そうしてくれ……」 上条は左胸のあたりが痛んだような気がした。 「えっと、それでアンタは……私がこの服着て接客してるのを見て、どう……思ったの?」 「もうその話は良いだろ……」 「いいじゃない、聞かせてくれたって」 美琴はしつこく食い下がる。 「…………中学生ということを差し引いても、その服は反則だ」 「どこが? 何が?」 「……全部」 「……他には、ないの?」 「ほかって、なにが」 「だから…………他に感想」 「…………似合ってる」 「…………それから?」 「…………可愛いと、思う」 「…………あとは?」 「…………破壊力高すぎ」 「…………私は爆弾扱い?」 「いや……これはオトコにしかわからん話です」 まぁお前は爆弾と変わらんだろ、と上条は息を吐く。 「他の男に見せるのが惜しいってのは、あながち外れじゃねぇよ。俺すっげぇびっくりしたし、ましてやお客がそんなに来てたってんならなおさら」 「………………そ、そう」 美琴がそわそわし出した。 「だから、御坂さん」 「……………なに?」 上条はがばっと土下座した。 「お願いだからこれ以上いじめないでください! 服を着替えて元の御坂に戻ってください! 上条さんはこれ以上精神が保ちません!!」 「………………えっと、意味不明なんだ、けど」 美琴がきょとんとする。 (そこは素か、素なのか!) 上条は一人悶絶する。 考えてみよう。目の前で整った顔立ちの女の子が、紺色基調のミニスカエプロンドレス&オーバーニーソックスを身につけて、女の子座りをしているところを。それを身につけているのが、例え上条当麻の天敵・御坂美琴でも、 (か、かわいい……萌え死ぬ……) 純情少年上条当麻は持って生まれた免疫の低さにより、建前と本音の綱引きで敗北しつつあった。これを世間ではギャップ萌えと言ったり言わなかったりする。 「ちょーっと確認させてね」 「あい?」 「アンタはこの服、気に入らないの?」 「そ、そんなことはにゃい!」 あ、舌噛んだ。 (お父さんお母さんごめんなさい。あなたたちの息子は中学生に手を出したすごい人になる一歩手前です!) 上条は心で血の涙を流す。 彼は思う。これはどんな拷問なんだと。 「アンタ、私に何か隠し事してるでしょ?」 「にゃ、にゃんにもしてませんの事よ? 上条当麻は裏表なきにしの事よ?」 自分が何を喋っているのか、もう訳がわからない。 「本当に?」 「ふぉんとうですぅ」 「とりあえず、アンタが私に服を着替えて欲しいことはなんとなくわかった。着替えるから、その前に私のお願いを一つ聞いて欲しいんだけど」 「にゃ、にゃんでしょうかー」 「わ、私の名前を…………呼んで? 今のうちに」 「ぴゃあああああぁぁぁぁぁぁあぁッっ!?」 もうダメかもしんないと、上条は思う。このままだと後戻りできない言葉まで口走ってしまいそうだ。 「ダメ…………かな?」 「……………………み、み、みさかっ!」 「ちょ、ちょっと! アンタいきなりどしたのよ!」 上条は美琴の肩をつかんでいた。引き返すことのできない断崖絶壁に立たされたような思いで 「おれ、おれ、おれは……み、み、み、みこ、みこ…………その幻想をぶち壊す!」 最後の意地を振り絞り、幻想殺し(右拳)を自分に向かって発射した。 岩のごとく固めた上条の右が、その額に突き刺さる。 「! ちょっとアンタ、何やってんのよ!」 自分を殴って気絶した上条を見て、美琴が仰天した。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「うあ…………いててて」 上条は目を覚ました。 直後にふに、という感触が後頭部に触れる。 「アンタ何やってんのよ」 ジト目でにらみつける美琴が天井にいた。 違う。 美琴が上条を見下ろしていた。 「えーと、これどういう構図?」 この感触どっかで触ったことあるなぁ。ああそうか橋の上で美琴に膝枕を 「………………ええええええええ? 御坂、お前何やって」 「馬鹿、まだ起きちゃダメでしょ」 起き上がろうとした上条を、美琴が遮った。 上条の額には美琴が用意してくれたと思しき濡れタオルが乗っている。 「アンタが自分を殴って気絶したくなるくらい、私の名前を呼びたくないってのはよくわかったわよ」 「………………」 いや、あれはそうじゃないんです一時の気の迷いで危うく犯罪を起こすところだったんですと言いかけて、止めた。 目の前の美琴が、今にも泣きそうな瞳で上条を見つめていた。 「何か言うことある?」 「…………ゴメン」 「何で謝るのよ」 「…………お前に謝んなくちゃいけないと思ったんだ」 「だから、何で」 「お前を見てくれで判断しようとしたから」 「…………」 「何着てたってお前はお前だよな、美琴」 「!」 「これでいいか?」 美琴は上条に微笑みかけ、上条の額から濡れタオルを外した。そして 「……今この状態で名前を呼ぶな馬鹿!」 地球の重力に引かれ加速のついた美琴の左が上条の額を直撃する。 「うぐあっ!?」 上条は再び意識を失った。 次に上条が目を覚ましたとき、美琴の姿はなかった。 頭の下には枕が置かれ、体には上掛け布団がかけられて。 ローテーブルの上に「帰る」と一言だけ書かれたメモが置かれていた。 上条は起き上がった。 美琴がいた気配は、どこにも残っていない。 自分でぶち壊した幻想は、もうどこにもない。 『アンタ、私に何か隠し事してるでしょ?』 優しい幻想をぶち壊しても、言葉は上条の胸に残った。隠した言葉はいつか暴かれるかもしれない。それでも 「…………純情少年上条当麻さんは、意地を貫き通しましたよっと」 テーブルの上のメモを拾い上げ、くしゃくしゃと丸めてゴミ箱に放り投げ。 上条は制服のポケットにあるプリクラシールを取り出そうとする。 その直後、背筋を悪寒が走った。 「…………明日が来るのがこんなに怖いとは。…………不幸だ」 時刻は二二時〇五分。 美琴はドラムバッグを担ぎ、寮への帰路を急いでいた。 「門限破りどころかこの時間かぁ。黒子助けてくれるかな」 美琴は携帯電話の電源を入れる。画面を確認すると、美琴の携帯電話は黒子からの悲鳴混じりの留守電メッセージと山のようなメールを受信していた。 「この時間に帰るつもりはなかったからなぁ。あーあ」 この時間に帰るつもりがなかったのなら、いつ帰るつもりだったのか。それは美琴だけが知っている。 『何着てたってお前はお前だよな、美琴』 美琴の作戦は、あの瞬間たった一言でぶち壊された。上条は全てを見抜いて、あのタイミングであの言葉を言ったのだろうかと美琴は思う。何にせよ、美琴は上条に『また』負けたのだ。 美琴の作戦。それは上条の部屋を訪れたときと同様に、ドラムバッグの中に詰め込まれていた。 「とりあえず明日よ明日。あの馬鹿が残り一六枚の招待券を誰に配ったのか吐かせて、それから……殺す!」 学園都市の夜は明けて、いつもの朝が訪れる。 そしてとある通学路で少年と少女は出会い、いつもの鬼ごっこが始まる。 少年が逃げ、少女が追いかける、とてもありふれた、お互いの本音を隠した鬼ごっこが。 終 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/シークレットメッセージ
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/796.html
純真無垢な上条さん 3 美琴は上条と別れると、気付いたら常盤台中学の自分の教室にいた。 いつどうやって登校したのか分からないくらいに朝の出来事に動揺しており、今日の放課後の上条との恋愛相談について、 どのように話すかだけを考えていた。 もちろんそんな状態なので、授業の方は全く入っていかず、先生や他の生徒に心配される事もあった。 そして、午前中の授業が終わり昼休みになったのと同時に美琴の教室に白井がテレポートしてきた。「おっ姉っさま~~~~~~ん♪」 白井は美琴の後ろから抱きつくように飛び掛る。 しかし、当の美琴は全く無反応でぼーっとしているだけだった。 白井はいつもなら電撃をかまされるか、軽く流される程度かと思っていたので、おかしいと思って美琴の顔を覗きこんだ。 そんな美琴はどこか放心状態で、目の前で手を振っても反応しない。「うーん。どうなさったのです? お姉さま?」「あ。白井さん。白井さんなら御坂様が何故この様な事になられたのかご存知でしょうか?」「え? いえ…申し訳ありませんですの。わたくしも何がなにやら…」「そうなのですか。白井さんでも存じないとなれば…ま、まさか! 御坂様に殿方が!?」「っ―――」 白井に話しかけてきた美琴のクラスメイトから「殿方」という単語が出てきた瞬間に、美琴は顔を真っ赤にさせてガタッと席を立った。 そして周りをキョロキョロしだす。昼休みだったためか教室にはあまり生徒は残っていなかったが、残っていた生徒はみんな美琴に目をやった。 美琴はその状況に気付いたのか、俯いてあうあうしだす。 他の女生徒達は普段とかけ離れた美琴の可愛らしい一面に興奮し、キャーっと騒ぎ始めた。「見ました? あの御坂様が…」「殿方のお話をしたら過剰に反応されて…」「あんな御坂様見た事ないですわ。とても可愛いです!」 常盤台はお嬢様学校のため、色恋沙汰の話には免疫があまり無く、そういう噂がたとうものなら一気に注目の的になってしまう。 しかもそれが常盤台が誇る電撃姫御坂美琴となれば、これ以上無くボルテージは上がっていくことだろう。 お嬢様のたしなみかどうかはわからないが、美琴本人に直接詰め寄る事は無かったが、皆その場で美琴に熱い視線を向けていた。 美琴はもうどうしていいか分からなくなり「ちょっとご飯食べてくる!」と言い残し、教室を後にした。 所変わって上条当麻の教室。 上条は午前中の授業になんとか耐え切り、なんとか昼にありつく事が出来ていた。 上条の教室には弁当持参な生徒もいるらしく、昼休みになってもそこそこの人数が残っていた。 しかし上条は弁当なんか持ってきていないため、購買に食べ物を買いに行かなくてはならない。 そしていざ行こうと席を立ったところでデルタフォースこと土御門元春と青ピが話しかけてきた。「カミやーん。昼飯一緒に食おうぜい」「おお。でも俺飯ないから買いに行かねえと」「今日は何狙いに行くんやー?」「うーん…」 上条は悩んでいるが、とりあえず見て決めるという事で購買に向かおうとした。 そんな上条にまたも人影が迫る。 委員長の吹寄制理と、自称魔法少女の姫神秋沙だ。「上条当麻。わたし達も一緒に行こう」「吹寄? おまえらが購買に行くなんて珍しいな。今日は弁当じゃないのか?」「今日に限って。忘れた。」「ふーん。まぁいいか。じゃあ早く行こうぜ? 混み合うとお目当ての物が買えなくなるぞ」「ふ。その為に貴様と一緒に行くのよ。わたし達の盾になってもらうわ!」「マジか…」「あー、そうだカミやん。おまえ今日の放課後暇だろ? 久しぶりにこの5人でお茶でもしないかにゃ?」「放課後? あー…すまん。今日俺無理だわ」「ん? なんでや? 今日は珍しくデルタフォース補習なしな日やないか」「ちょっと恋愛相談してやる約束しててさ。だから今日は――」「今。なんて?」「え? だ、だから恋愛…」「貴様。まさかとは思うが、その相談相手は女ではあるまいな?」「え? えっと…女の子ですけど………常盤台の」「と、常盤台!? あのお嬢様学校の生徒にまで手ぇ出したんかい! カミやん! 補習無いのをいい事に自分だけいちゃつこうと思ったんかい!」「お、落ち着け青ピ! そ、そそそれに皆も…」「言い訳無用だぜい! 黙って殴られろにゃーーーーっ!!!」「だああああああっ!!!! な、なんでだあああああっ!!」 一方の常盤台中学校。 上条のボコられている原因(と言っても上条が言い出したことだが)の御坂美琴は、食堂へは向かわず、校庭のベンチに俯きながら腰掛けていた。「はぁ…どうしよう、ホントに」「ここにいましたのね。お姉さま」「え?」 美琴が顔を上げると、そこにはさっきまで教室にいた気がする白井黒子がサンドイッチを二つ持ってたっていた。 白井は「学食のですが、どうぞですの」と言って美琴に渡すと、美琴は「ありがとう」と受け取りふとももの上に置いた。 そしてまた俯いたので、白井は美琴の隣に座り自分のサンドイッチを頬張り始めた。「上条さんの事、まだ悩んでますの?」「…そうだけど、昨日の事とはまた違う悩みっていうか」「違う悩み?」「……うん」「…なるほど。恋に敏感になっても、上条さんは上条さんだったってわけですわね」「どうしよう…このままじゃアイツ勘違いして私に好きな人がいるって思われちゃうわ…」「お姉さま? 勘違いされる事に何をそんな焦っておりますの?」「え?」「お姉さまが上条さんに好意を持っておられるのは知っておりますわ。上条さんの事です、お姉さまの気持ちにも気付いてないのも知っております」「…」「ですが、結局はお姉さまがはっきりなさらないのがいけないんじゃありませんの。 昨日の本の事もそうですが、お姉さまは自分で勝手に結論付けて勝手に悩んでるだけですわ。上条さんがいかに鈍感と言えど、 面と向かって告白されたら勘違いなどしないですし、ちゃんと真剣に答えてくれるのではないでしょうか?」「で、でも…」「まぁツンデレなお姉さまが素直になれないのも分からないでもないですが、上条さんが恋に飢えたとなれば急いだ方が良いですわね」「なっ…なんで? アイツまたどこかに行くんじゃ…!」「そういう事ではなくて…上条さんに好意を抱いているのはお姉さまだけではないということですわ。今までは『異性スルー型』とやらで 女性のアプローチを流してただけかもしれませんが、これからはそうも行かなくなりますわね。今まで恋をした事がないとなれば、 好きになったら周りなど見えないくらいになってしまうかもしれませんわ。お姉さまのように」「そ…そんなの、嫌よ」「まぁわたくしとしては? お姉さまが傷心のところを優しく接することで開かれるお姉さま×黒子ルートに―――」「嫌。アイツが誰かに取られちゃうなんて…そんなの、嫌!」「お、お姉さま? さ、ささサンドイッチから煙が…」「決めるのはアイツよ! でも勘違いされたまま、この気持ちに気付いてくれないまま身を引くなんて、絶対嫌だんだから!!」 美琴はそう言うと焦げたサンドイッチを一気に食らい、校庭へ目掛け走っていった。 その途中でくるっと振り返り、美琴は笑顔で言い放つ。「黒子! ありがとうね! 私絶対に素直になるから!」 その美琴の真っ直ぐな声に白井はドキっとしたが、その後小さく笑ってポケットから何かを取り出すと美琴へ向けてテレポートさせた。 その何かは美琴の目の前で姿を現し、美琴の手に落ちた。「これ…」「お守りですわ。そのお守りが、きっと上条さんとお姉さまを結んでくれるはずですの」「……ありがとっ!」「いいんですの。黒子はお姉さまの喜ぶ姿が見たいだけですわ」「うまくいったら何でもしてあげるね!」「お、お姉さま!? そ、それは本当ですの!? はぁ…はぁ…。で、でしたらわたくしと毎日熱いヴェーゼを―――」「それは嫌」「お、お姉さまあああああああああああああああっ!!!!」 そして放課後、美琴はファミレスへは向かわず、上条の高校に直接向かった。 さすがに校門を跨ぐことは出来ないが、その敷地ギリギリの所で仁王立ちしながら上条当麻を待つ。 高校の生徒は、有名な常盤台のお嬢様が何故校門前で? みたいな感じで見ていたが、美琴はそんな視線など全く気にした様子も無く、 ただただ上条が出てくるのを待っていた。 待ち合わせは四時だ。 ここから徒歩だとするとそろそろ出てくる時間なはず。 そして、そんなことを考えていると校舎に見覚えのあるツンツン頭が現れた。 美琴は一瞬にして顔の温度が上がったのが分かった。心臓が高鳴り始めたのが分かった。 しかし当の上条は、そんな美琴が校門前にいる事など知らずに校庭内を走り回っていた。「お・ま・え・らーーーっ! いい加減にしろよ! 俺が何したって言うんだよぉおおおおお!!」「黙れやカミやん! 何もやってないが、絶対この後何かしでかすに決まってるんや!」「そうだぜい! おまえだけいい思いさせてたまるかにゃーーーっ!」「な…何を言って……」「上条当麻ーーーっ! 貴様! またも純情な乙女の心を弄ぶつもりかぁああああっ!」「許すまじ。とりあえずこの魔法のステッキで。」「だあああああああ! もおおおおお! おまえらこういう時だけ無駄に足が速いな! 全然撒けねぇ…って、ん?」 そこで上条は校門前に美琴がいる事に気付く。 上条は逃げ回りすぎて遅刻したのかと思ったが、時間にはまだ余裕があった。 とりあえず上条は校門の方へと向かい、美琴の手を引っ張るとスピードを緩めること無く走り続けた。「ちょ、ちょっと…! なにがあったの!? 追われてるみたいだけど」「知るか! とにかく捕まったらボコボコにされるのは確かだ! 今はここを離れないと!」「じゃ、じゃあさ! 川原! 川原に行こう!」「はぁ? 話を聞くのはファミレスだったろ? なんで川原なんかに?」「私決めたの! 今日告白する! だからアンタに聞いてほしい!」「はいぃぃ!? なんで上条さんがそのような事を?」「私の恋愛応援してくれるって言ったでしょ! だから最後まで見届けてほしいの! 嫌なんか、言わせないから!」「わーったよ。つか手離すぞ? 走りにくいだろ?」「だ、ダメ! 離さないで! 川原に着くまで、ずっと繋いでて!」「…はいよ」「えへ。えへへ」「おまえ何か楽しそうだな? こっちは死にかけてるっていうのに…」「うん! とっても楽しい! あはは、それにこんなに足が軽いの久しぶりかも! 今ならアンタに追いつけそうだわ!」「は? 追いつく? もう追いついてるじゃねえかよ。何言ってんだ?」「こっちの話! いいから前見て走れ! 不幸なアンタが余所見しながら走ってるとすっ転ぶわよ!」「そ、そうだな。このスピードで転ぶのはよろしくないな」「そうよ。えへへ」「はは」 公園の自販機前。 初春飾利と佐天涙子は各自ジュースを買って立ち話をしていた。 誰かと待ち合わせでもしているのか、話しながらキョロキョロしながら周りを見ている。「初春ぅ~? ところで白井さんはぁ~?」「うーん、そろそろ来るはずですけどねー? 何なんでしょうね? わたし達に頼みごとって」「ま、まさか御坂さんが振り向いてくれないからってわたし達に…!?」「ぬっふぇ!? そ、そんなの嫌ですよー!」「そのような事は決してないので安心して下さいまし」 そう言って白井は初春達の前に現れた。 初春達はさっきの会話を聞かれていた事に相当焦ったが、白井の真剣な表情で我にかえる。 ふと白井の手を見ると、佐天専用金属バットが握りしめられていた。「し、白井さん…そのバット、私の?」「そうですの。どうぞ、佐天さん」「はぁ…?」「初春?」「は、はひ!」「あなたは武器になりそうな物が無かったので体を張ってでも止めてくださいませ」「と、止める? …って、なにをですか?」「アレですわ」 初春と佐天は白井の指差す方を見ると、美琴と見知らぬ男の人が手を繋いで走ってくるのが見えた。 どうやら追われているようだが、美琴の顔はとても楽しそうで、男の人もなにやら追われているという感じはしなかった。 そして色恋沙汰に敏感な佐天と初春は感じ取った。 止めるとは。 美琴のこれから起こる事を守ってあげる事なのだと。 そしてそんな白井達を上条と美琴はスピードを緩める事なく走り抜けた。「お姉さま! ファイトですわ!」「み、御坂さん! 頑張ってくださいね!」「そこのツンツンの人! 御坂さん泣かせたらこのバットが火を吹きますよ!」「ありがとう! みんな!」「お、俺…何かすげぇ睨まれてたんですけど」 そして二人が通り過ぎて間もなく、四人の男女が追いかけてきた。 白井はすぐに「わたくしが殿方二人を請け負いますわ。あとの女性は任せましたわよ」と言い、身構えた。 そう言われて初春達も身構える。 白井vs土御門・青ピ! 佐天vs姫神! 初春vs吹寄!「そこをどくにゃーーーーーーっ!」「こ、この子も常盤台や! しかも何やら不穏な匂いが…」「ここから先へは行かせませんわ!」「いいや! ここは通させてもらうぞ! このまま上条当麻を行かせるわけにはいかないわ!」「だ、ダメなものはダメです…!」「どいて。ビリビリする事になる。」「人の恋路を邪魔する奴ぁ…えっと、何たら何たら何とやらよ!」「む。出来る…。」「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」」」 ※ちなみに言っておきますと、この先は平和的な話し合いて解決されました。決して騒ぎになるような事にはなっておりません。 上条と美琴は、以前妹達の実験の時に相対した鉄橋が見える川原まで来ていた。 学校からここまで一気に走り抜けてきたので、二人は着く途端に膝から崩れ、息を荒げていた。 上条はここで今から、美琴が誰かに告白すると言っていたのを思いだし、その人に美琴の悪いイメージを与えないために手を離そうとしたが、 握る力を緩めたことに気付いた美琴が、強く握りしめてきた。 上条は変な誤解されるぞと言ったが、美琴はこれに返事をすることなく、息を整えている。 それから時間は流れた。 太陽は段々と赤みを増し、土手を歩く人影も少なくなってきた。 美琴はその沈んでいく太陽を見送ると、辺りが暗くなったのと同時に手を離して言い出した。「そろそろいいかな」「え? だって…誰もいないけど」「ちょっとここに立ってて。右手を開いて前に出して」「?」 美琴は上条から5メートル程離れるとポケットの中に手を入れた。 上条はワケも分からずに、ただ美琴に言われた通り動かずに右手を開き前に差し出した。「一回しか言わないから」「へ?―――」 美琴はポケットから取り出した何かを、デコピンをする様な右手の小指で挟んだ。 それは白井から自分と上条が結ばれるようにと渡されたお守り、真っ赤な色をしたコインだった。 そしてコインを挟んだまま右手を上条の方へと向けると、腕に電撃を溜めはじめる。「ちょ、ちょっと待て! れ、超電磁砲ですか!? おまえまさか、ここまで俺を連れてきたのは俺を亡き者にしようと…!」「んなワケあるか! いいから黙って聞く!」「だ、黙って殺されろと…?」「違うって言ってんでしょ!」「な、何が違うって…つか、おまえ今日告白するんじゃなかったのかよ!?」「だからこれからアンタにすんでしょうが!」「……へ? お、俺?」「そうよ! 今からアンタに見せてあげる! 私の本気。本当の気持ちを!」「ほ、本気って…!?」「アンタは前言ったよね。この幻想殺しが赤い糸を消したのなら、今この時この時間にその相手も俺の事を探しているはずだって」「言った気がするけど…そ、それが?」「アンタの赤い糸がどこの誰と結ばれているかは分からないわ。でもね」「お、おい…」「私の運命の赤い糸はっ!」「待っ―――」「大好きなアンタと結ばれているのよっ! 受け取れやコラーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」 美琴はそう言うと、ありったけの電撃を溜め込んだ全力全開の超電磁砲を上条の右手目掛けて放った。 もちろん音速の数倍もある速度だったため、上条は反応出来なかったが、美琴の狙いは正確で寸分狂う事なく、上条の小指の付け根に直撃する。 幻想殺しで超電磁砲の威力を無効化しているが、いかんせん威力が半端なかったため一瞬で消滅とはいかなかった。 そして上条が、超電磁砲の衝撃を受けていた時から瞑っていた目を開けると、そこには―――「―――――い、糸だ…。赤い、糸――」 上条の右手の小指と、美琴の右手の小指を赤い糸が繋いでいた。 それは美琴の放った超電磁砲の軌道なのだが、赤かった。 今まで何回か超電磁砲を見てきた上条でも、赤い電撃は見た事が無い。 それは白井のお守りが、赤いコインが生み出したの奇跡なのか、それとも美琴の本心がそうさせたのかわからないが、 夕日が沈みきった真っ暗な川原で、なんとも言いがたいその幻想的な光景はとても綺麗で、上条はその赤い糸にすっかり見入っていた。「お、俺にも…あったんだ。運命の赤い糸が―――」 赤い超電磁砲は30秒も持たなかったが、その時間が終わると、周りは静まりかえり聞こえてくるのは美琴の息使いだけになった。 上条は自分の右手に目を落とすと、そこには何か役目を終え燃え尽きたように真っ黒なコインがあった。 そしてそのコインをしっかりと握ると、美琴の方を向いて溜息を吐きながら言った。「はぁ…おまえな」「なによ」「これはあれですか? 今時の中学生はこんな命がけで相手に告白するんですか?」「そんなわけないでしょ! それにこんな事アンタじゃないと出来ないじゃない!」「こんな方法じゃないとこんな事言えないとか、どんだけツンデレだよ…」「つ、ツンデレで悪かったわね! いいでしょ何だって! 恥ずかしいんだから!」「やっと認めたようだな」「…あ、あの……ぁぅ」「じゃあ俺も返事しないとな」「……うん。聞きたい」「多分おまえが今聞きたい答えではないかもしれないけど」「え?」「俺今までおまえの事、悪友とか…そんな感じで見てたんだ」「…知ってる。女の子として見てくれてないのは」「だから今、おまえと付き合うことは出来ない。付き合って俺がやっぱり合わないから別れよう。なんて、おまえも嫌だろ?」「…うん」「だからこれから女の子としておまえを見ることにする。悪友でもあるけど、それ以上におまえの女の子としての一面も見てみたい」「で、でも…私なんか他の女の子に比べたら、生意気で我侭で胸無くて子供で、ビリビリでツンデレで…こんな私なんか」「うーん…いやでもさ、多分俺はもうおまえしか、御坂しか見えないと思うよ」「なんで? なんでそんな事言い切れるの?」「だってさ」「?」「こんな『運命的な』告白されたら、意識しないはずねぇじゃんか」