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学校ボーカロイド 文:gatsutaka (1) 教室の中はざわついていた。 朝から職員室に用事があって行った子の情報で、どうもうちのクラスに転校生が来るらしいという話でもちきりだった。最近はよその町に移るために転出していくのがほとんどで、転入してくるのは珍しかったのだ。 始業のチャイムが鳴って朝のホームルームが始まるとき、メイコ先生に付いて一人の女の子が入ってきた。普通なら大騒ぎになるところだろうが、うちのクラスは担任のメイコ先生が厳しいのでみんな静かにしていた。 「起立」「礼」「お早うございます」「着席」 僕の号令で朝の挨拶を行なう。 「はい。皆さんお早うございます。今日は新しいクラスメイトを紹介します。カガミネリンさんです」 メイコ先生は黒板に「鏡音リン」と板書し、「鏡音さん、挨拶と自己紹介をして下さい」と言った。 「東京から来ました、鏡音リンです。学校は初めてです。よろしくお願いします」 クラスのみんなが驚いた。六年生なのに学校が初めてってどういうことだろう。それに鏡音さんの話し方はどこか変だった。下を向いて小さな声でぼそぼそと喋るのでよく聞き取れないのだが、イントネーションが違うだけという感じでもなかった。鏡音さんの挨拶をメイコ先生が引き取った。 「はい。皆さん驚いたと思います。これから説明しますので、よく聞いて下さい。その前に鏡音さん、あそこの空いた席に座って下さい」 メイコ先生は僕の隣の先月クラスメイトが転校していって空いたままになっている席を指差した。鏡音さんは少し俯き加減で歩いてきて席に着いた。そのまま前を向いて座っている。ランドセルを持ってきていないのも不思議だった。それから説明が始まった。 メイコ先生の説明は衝撃的だった。僕達の学校は去年から県のパソコン教育強化指定校に選ばれている。パソコンルームだけでなく、各教室にも数台のパソコンが設置されていて、授業に活用されている。それはみんな知っていることだ。国語、算数、理科、社会といった科目の授業に使うだけでなく、パソコンの操作そのもの、ネットの使い方、検索の仕方といった内容の授業も行なわれている。今度はその一環として音楽の授業に使うソフトとしてボーカロイドが導入されることになったのだそうだ。 「ボーカロイドを知っている人いますか?」 先生が質問すると、何人かが手を上げた。 「はい、山田さん」 「えーと」 「『えーと』はいりません」 「はい、えーと、歌を唄うソフトです」 「まあ、いいでしょう。パソコンに歌のデータを入力すると、その通りに歌を唄うソフトです。去年『初音ミク』という名前で発売されたものがあります。それが有名だから知っている人も多いと思います。今度同じソフトで新しいボーカロイドが作られました。学校で使うために特別に作られたものです」 つまり、その新しいボーカロイドが僕達のクラスのパソコンにインストールされ、それを使って音楽の授業や、パソコン操作の授業が行なわれるということだ。でもそこまでの説明と、鏡音さんが学校は初めてということがどう結びつくのか分からなかった。メイコ先生の説明が続いた。 「その新しいボーカロイドの名前は『鏡音リン』と言います」 クラス中が驚いて、みんなの視線が鏡音さんに集まった。鏡音さんはさっきと変わらす、静かに座っているだけだった。 「先生、どういうことですか?」 一人が代表してみんなの疑問をメイコ先生にぶつけた。 「まだ説明は終わっていません。静かにして下さい」 静かにしろと言われても、ざわめきは収まらなかった。 「静かに!」 メイコ先生の小カミナリが落ちて、ようやく静かになった。 「ボーカロイドを開発した会社は、『鏡音リン』を作ると同時に、それと同じ機能を持ったアンドロイドを作りました。元々ボーカロイドという言葉は、唄うことを意味するボーカルという言葉と、アンドロイドという言葉を合成して作られたものです。つまり、本来の意味での唄うアンドロイドが作られたということです。そのアンドロイドは、唄うだけでなく、歩いたり走ったりする普通の動きができるようになっていて、その上で日本語を理解して話ができますし、普通の人間のように生活をすることができます」 「先生」 「はい、何ですか? 「あの、アンドロイドってどういう意味ですか?」 「分かりやすく言えば、人間と同じ形をしたロボットということです」 それから起きた騒ぎをここに書くのは面倒というくらいの大騒ぎになった。メイコ先生の大カミナリが何度落ちても収まらなかった。それから随分経ってようやくみんなが落ち着いた頃、メイコ先生の説明が続いた。 つまり、僕の横に座っている鏡音さんはボーカロイドで、アンドロイドで、ロボットということだ。鏡音さんはとてもロボットには見えなかった。普通の小学六年生程度の知識と、生活能力があるそうだ。但し、性格はまだはっきりとはしていない。性格というのは人間が生まれてから育っていく中で段々に出来上がってくるものだから、短い時間で簡単に作ることができないのだそうだ。但し、危険なことが起きないようにいくつもの仕組みが取り付けられている。異常事態が起きると緊急停止することもある。運動能力は小六の女の子並みだから、一般にロボットと聞いてイメージするような力はない。 「ボーカロイドを開発した会社が、学校にボーカロイドソフトを無償、つまり只で提供する代わりに、アンドロイドを普通の子供と同じように学校のクラスに入れるという条件を出しました。文部科学省がその条件を受け入れたので、鏡音さんがうちの学校のこのクラスに入ることになりました。鏡音さんはこれから皆さんと一緒にこのクラスで生活していきます。普通のクラスメイトとして友達になってあげて下さい。それから六年生全員にソフトとしての鏡音リンが配布されます。家にパソコンを持っている人はインストールして下さい。今日は一時間目の授業は中止して、これから校庭で全員に鏡音さんを紹介しますので、九時には全校朝礼と同じように整列して下さい。2時間目の音楽は音楽室ではなくこの教室で行います。それから、先週お知らせしたように、午後には皆さんのお父さんお母さんへの説明会がありますので、今日の授業は午前中だけです。では、鏡音さんは私に付いてきて下さい」 (2) 鏡音さんをクラスに連れて行って紹介はしたものの、私はまだ納得できないでいた。今回のことははっきり言って子供達を材料にした実験である。アンドロイドの心の成長の実験であるし、それを取り巻く子供達の反応を見ることも実験の大きな要素の一つである。 都会の学校ではなく、ここのような田舎の学校を選んだことについて、文科省の役人は色々理由を並べていたが、彼らの本音は都会の口うるさい保護者が多い学校ではなく、なんとなく受け入れてしまう田舎のほうが都合が良かっただけなのだろう。 アンドロイドの開発、ましてやまだ完全とは言えないまでも心を持ったアンドロイドが完成したということは、世界的な大ニュースのはずだ。そんなことは素人の私にも分かる。でも新聞やテレビで報道された気配がない。ということは、まだ発表できない何かがあるのだろう。ボーカロイドソフトの無償化の引き換えとは言っているが、恐らくメーカーと文科省はグルだ。 そうは言っても、校長から業務命令として受け入れを指示されれば拒否することはできない。校長にしても教育委員会やその上の文科省から命令されれば受け入れざるを得ない。こうなった以上、直接現場に携わる私が子供達を守るしかない。肉体的に傷つくことはあまり考えられないだろうが、心理的にはどうなのか。まだ始まったばかりだ。注意深く見守るしかあるまい。 職員室の隣の空き教室には、メーカーと文科省の担当者が先月から常駐している。私は中に入ることができない。さっき鏡音さんを連れ帰ったとき、担当者が待ち構えていたような気配があった。もしかすると、教室、いや学校全体が監視されているのかもしれない。 私がこの話を聞いたのは彼らがやってきた直後のことだ。そのときは、ソフトとしてのボーカロイドを授業で使うというだけの説明で、それからソフトの操作方法の習得が課せられた。それだけのことなのになぜ4人もの人が来ているのか理解できなかった。鏡音さんのことを聞かされたのは昨日だ。会ったのは今朝だ。「普通の子供と同じように接して下さい」と言われたが、考える暇を与えられなかったという印象だった。 校庭での紹介は校長が行なった。低学年は意味が飲み込めていない様子だったが、ロボットという言葉には強く反応していた。 パソコン教育強化指定校だけあって、この学校にはブログや自分のサイトを持っている子供が沢山いる。校長は「鏡音さんはロボットとしてではなく、普通のお友達としてこの学校に来ました。だから、ブログやホームページに『ロボットが来た』といった内容の書き込みは行なわないで下さい。そんなことをしたら鏡音さんが悲しみます」とも言った。これは体のいい緘口令だ。ネットの監視も行なっているのかもしれない。午後の保護者への説明会でも恐らく同じようなことを言うのだろう。 (3) メイコ先生と鏡音さんが出て行ったあと、教室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 「ロボットだって、すげえ」 「でも、ちょっと可愛い顔をしてたね」 「そうかあ、下向いてたからよく分かんなかったけど」 「レン、隣でどうだったんだよ」 「僕もまだよくわかんないよ」 そのうちに九時が迫ってきて、みんなで校庭に出た。校長先生の説明のあと、教室に戻るとき、鏡音さんもみんなに付いてきて、一人で席に座った。 みんな興味あるんだけど、どう接していいのか分からなくて遠巻きにしているという感じだった。僕は席が隣なので何か話をしなければならないと思い、話しかけてみることにした。 「鏡音さん、家はどこなの?」 鏡音さんはフッと顔を上げ、僕の方を見て「学校」とだけ言った。 「学校? 学校に住んでいるの?」 「はい」 「学校のどこ?」 「職員室の隣」 「ああ、あの教室。一人で?」 「いいえ」 返事はしてくれるのだが、なんとなく取り付く島がないという感じだった。でも僕の方を見たその顔は、誰かが言ってたように確かに可愛かった。これでニッコリ笑えば、多分クラスで一番可愛いだろう。 「他に誰かいるの?」 「大人が4人」 「大人が4人? あ、君を作った会社の人?」 「はい」 そのときメイコ先生が教室に入ってきた。 「起立」「礼」「着席」 鏡音さんも僕の号令に従った。 「今日の音楽はさっそくボーカロイドを使ってみます。パソコンには昨日のうちにもうインストールされています。では係の人、電源を入れてください」 係の何人かが立ち上がって、教室の後ろに並べてあるパソコンの電源を入れた。 「パソコンが立ち上がるまでの間、鏡音さんに歌を唄ってもらいます。鏡音さんは沢山の歌を覚えています。では、鏡音さん前に出てください」 鏡音さんは僕達が今音楽で習っている歌と、学校の校歌を唄った。その声は、喋っているときと比べ物にならないくらい綺麗だった。その歌を聞くことで、鏡音さんに対するみんなの印象は随分変わったようだった。唄い終わると、大きな拍手が起きた。でも鏡音さんは何でもないという感じで、また俯いて席に戻った。 その後の授業は、パソコンでのボーカロイドの使い方の基本的なところの説明で終わった。次の国語と、その次の算数では鏡音さんは黙って座っているだけで、何もしなかった。休み時間もずっと座っていた。 その休み時間に「教科書はどうしたの?」と聞いてみたら、鏡音さんは「全部覚えています」と答えた。 「え、全部。すごいね。あ、だからランドセルを持ってきていないんだ。でもノートはどうするの?」 「いりません」 ふう、困ったなあ。可愛くて歌が上手いんだけど、これじゃあどうしたらいいのか分からない。クラスのみんなも同じだった。結局、今日鏡音さんと話をしたのは僕だけだった。 (4) 午前中の授業が終わって子供達が下校したあと、鏡音さんを引き渡しに行ったときに、メーカーの担当者は上機嫌だった。「初日としてはまずまずです」と言っていたが、何がまずまずなのか。 今日は給食がないので、家から持ってきたお弁当を食べているとき、そう言えば鏡音さんは食事をするのだろうかと気になった。食べ終わってから校長に聞いてみたら、「飲み食いはできるそうです。でもあの子にとって食事は意味がありません。動力は電気ですから」と言われた。ではトイレは、と聞こうと思ったが止めた。あまりいい想像はできそうにない。 午後の保護者説明会には多くの父兄が集まった。元々は「本校でのパソコン教育に関する説明会」という触れ込みで案内が出されていた。それだけなら、平日の午後に来る人はあまりいなかっただろう。昨日になって電話連絡網で「重要な説明がありますので、できるだけ参加して下さい」とのお触れが回ったのだ。 説明会で鏡音さんが紹介され、会場はどよめいた。 「…ということでありまして、子供達と一緒に生活することで、アンドロイドの心の成長を期待しているのであります。アンドロイドではありますが、あくまで普通の子供として受け入れます。ですから、皆さんも特別なこととは認識しないでおいて下さい。子供達にとっても、とてもよい刺激になるものと確信しております」 校長の説明のあと、「安全」に関する質問が集中した。それには文科省の担当者が逐一答えた。「元々普通の子供並みの力しか発揮できないように作ってあるので、万が一故障しても子供に危害を加えることは有り得ない」という趣旨の回答を繰り返していた。 「子供でも本気になればかなりの力を出すことができる。故障して制御できなくなったとき、その力が子供に向かったらどうなるのか」との質問には、「制御が働いているかどうかは何重ものチェック機能で相互チェックをしています。異常が生じた場合は緊急停止しますので、ご心配ありません」と答えた。 「先ほど、そのアンドロイドには心があると仰いました。人間には心の病気があります。アンドロイドにそれは起きないのでしょうか?」 文科省とメーカーの担当者に緊張が走った。この質問は想定していなかったようで、メーカーの担当者が回答した。 「はい、えー、心があると申しましたが、勿論それは人間の心とは違いまして、プログラムで制御されたシステムということであります。ですから、まあ例えば人間ですとストレスなどに対する心の防御機能が働いて病気になったりすることがありますが、アンドロイドの場合はそもそもそのストレスを感じることがありませんので、えー、人間と同じ意味での心の病気も有り得ないということになります。システムそのものが何らかの原因で異常を起こすことが100%ないとは申せませんが、先ほど申しましたように複数の相互チェック機能がありますので、即時にそれを検知して緊急停止するということであります」 「もう一つ。なぜ子供なのですか? それと、なぜ歌を唄う機能に特化したのですか?」 「はい、アンドロイドの用途としましては、危険な場所での作業ですとか、ま、将来的には介護の場面、各家庭に入り込んでの労働などを想定しております。特に介護の場面などになりますと、介護する相手との心の通い合いと申しますか、機械的にやってはいけない面が御座いますので、どうしても心を持ったアンドロイドが必要となります。ですが、この心を持たせるというのが非常に難しい、簡単に作ることはできません。ご質問のなぜ子供なのかという点でございますが、私どもと致しましてもいきなり最初から大人の姿をして大人の心を持ったアンドロイドを作ることは困難であろうと判断致しまして、先ずは子供のアンドロイドを作り、その心の成長を記録していくことで、今後大人のアンドロイドを作る際の参考にしたいと考えております。音楽の件でございますが、私どもは人間を作っているのではなく、あくまで人間をサポートするパートナーとしてのアンドロイドを作ろうとしているのでありますから、なんらかの特徴を与えなければならないと考えております。物作りですとか、そういったものです。それで子供となりますと、運動能力でしたら、それはロボットですからスポーツ万能にすることは可能であるにしてもそれは意味がないと。子供達に受け入れられる能力とは何だろうと考えた上で、歌を唄う能力を選択した訳でございます。以上の説明でよろしいでしょうか」 「はい、分かりました。結構です」 担当者側に安堵の空気が流れた。 「すいませ~ん。もう一つ質問いいですか?」 「はい、どうぞ」 「えーと。心を持ったアンドロイドが出来たって話と、それを学校に入れるって話は、相当なニュースだと思うんですが、新聞でもテレビでも全く出てきませんよね。今日は取材も来てんのかと思ったらいないみたいだし、これ、どういうことですか? もしかして極秘プロジェクトとか」 「あ、いえ。そういうわけではございません。ございませんが、あの、これは最後にお話しようと考えておったのですが、アンドロイドの心の成長のために学校に入れるということはですね、できるだけ普通の環境で行ないたいと。つまりマスコミで報道しますと野次馬と言いますか、関係ない方が殺到する恐れがありまして、それで環境が変わるといいますか、子供達に悪い影響を与えてはかえってマイナスだと考えております。ですから、マスコミ各社にもご協力頂いて、ある程度の結果といいますか成果が出るまで報道、それから取材は自粛して頂きたいと、こうお願いしております。ですから、お集まりの皆さんも、この町以外ではあまりこの件についてお話なさらないで頂きたいとこう考えております。勿論それを話したから何か罰則があるとかそういうことではございませんが、一つ、ご協力頂きたいと、こう考えている次第です」 「それじゃ、それはいつまで続くんですか?」 「まずは半年、今の六年生が卒業するまでを最初の目処にしたいと考えております。その結果によっては、もう少し、14歳頃まで延長することも考えております」 「アンドロイドの身体は成長するんですか?」 「あ、いえ。勿論機械ですから、身体は成長しません。延長が決まりましたら、周りの子供達とのバランスがありますから、パーツを交換することで背を伸ばすなどの措置が必要になるかもしれませんが、今のところそこまでは考えておりません」 「分かりました」 「えー、では。他にご質問がございませんようでしたら、本日の説明会はこれで終わりにしたいと思います。最後にですが、このアンドロイド型ボーカロイド、鏡音リンさんの歌をお聞きいただきたいと思います」 時計を見ながら校長が質問を打ち切った。それまでずっと椅子に座っていた鏡音さんが立ち上がり、舞台の中央に向かった。 鏡音さんは文部省唱歌の「もみじ」を唄った。それは合成された声とはとても思えない美しい歌声だった。会場全体が聞きほれて、歌が終わったときには大きな拍手が起きた。鏡音さんはおじぎもせずにそのまま椅子に戻って座った。 「では、これで本日の説明会を終わります。みなさん今後ともご協力よろしくお願い致します。ありがとうございました」 (5) 翌日、僕が登校したときには鏡音さんはもう席に座っていた。相変わらず俯き加減で、何を考えているのか分からないような態度だった。 「鏡音さん、おはよう」 僕が挨拶すると鏡音さんは僕の方を向いて、「おはようございます」と挨拶を返してきた。あれ、少し話し方が違うかな、という印象があった。それを聞いて、後ろの席の山田が、「へえ、昨日より聞き取りやすいじゃん」と言った。それから周りの女の子も集まってきて、鏡音さんに話しかけるようになった。 「ねえ、学校に住んでるんですって?」 「はい、そうです」 「ご飯は食べるの?」 「いいえ。食べられますけど食べません」 「ふーん。お腹空かないんだ」 「はい。お腹空きません」 やはりみんな興味があるので、話しかけるきっかけを待っていたようだ。僕は黙って聞いていたけど、少しずつ会話が成り立っている。 「ねえ、普段は何してるの?」 「普段って、ここにいる以外のときのことですか?」 「そうそう。遊んだりとかする?」 「いいえ、まだ遊んだことはありません。部屋に帰ったら担当者さん達が私を調べます」 「ああ、それじゃつまんないよね。昼休みには一緒に遊ぼう」 「はい、分かりました」 顔は無表情だけど、鏡音さんはそう言ったとき頭を少しうなずくように動かした。そのときチャイムが鳴り、メイコ先生が入ってきた。 「起立」「礼」「お早うございます」「着席」 「はい、お早うございます。黒板の日付が昨日のままですよ。今日の日直さんは誰ですか?」 しまった、今日の日直は僕だ。鏡音さんに気を取られて忘れていた。 「はい、僕です。すぐ変えます」 「急いで下さい。あ、それじゃあ席が隣の鏡音さんも日直ですね。加賀美さん、休み時間に日直の仕事を教えて上げて下さい」 僕は黒板の日付と日直の名前を書き換えながら「はい」と返事をした。日直名欄に自分の名前と鏡音さんの名前を書く。それから連絡事項などがあって、授業が始まった。 国語、算数のあと、3時間目は体育だった。鏡音さんは体操服を持っているのだろうかと思ったら、教室の後ろのランドセル置き場にちゃんと用意してあった。体育の授業は男女別、背の高い順に整列する。鏡音さんは女子の中でちょうど真ん中だった。 体育委員が前に出て行なう準備体操もちゃんと周りに合わせてやっているようだった。ようだったと言うのは、僕の位置からはよく見えなかったからだ。 今の時期の体育は、運動会に向けての練習をしている。特に6年生は組体操があるので、その練習をすることが多かった。鏡音さんはしばらく見学をしたあと、女子のほうに参加することになった。僕の見た印象では、上手くもなく、下手でもないという感じだった。 4時間目の図工では、鏡音さんは何もしなかった。メイコ先生の説明によると、鏡音さんは音楽を専門とするボーカロイドだから、絵を描いたり工作をしたりするような創作はできないのだそうだ。音楽に関しても、歌を唄ったり、楽器を演奏したりすることはできるが、作曲することはできない。でも小学校で作曲を習うことはないから、見学になるのは図工だけということだ。他の教科はどれもずば抜けていた。知らないこと、分からないことは全くないという感じで、算数の計算間違いもなかった。 (6) 私は週に一回、担当者と打ち合わせをする機会を与えられていた。教室での様子を報告し、逆に色々な質問をすることができる。 鏡音さんがクラスに溶け込むのは、思ったよりも早かった。さすがに、どの子も興味があるので少しずつではあるが話しかけるようになり、それに対応することで鏡音さん自身も徐々に会話が進むようになっていた。 まだ冗談を言い合ったり、ふざけたりするようなことはしていない。それは「創作」に近い作業であるから、不得手なのかもしれない。担当者によれば、「そういうことも心が成長するにつれてできるようになるはずです」とのことだった。 人間と対立して喧嘩になったりすることはないのかと問うた。 「『対立』は両者の『欲求』が一致しないことで発生します。アンドロイドには自らの欲求はありません。唯一与えているのは自己保存に関する欲求だけです。ロボット三原則というのをご存知ですか?」 「一応知っています」 「そうですか。私どものアンドロイドにもそれは取り込んでいます。人間とロボットの関係は見た目では支配と服従ということになるのですが、ロボットが自分の欲求を押し殺して服従しているわけではありません。ただ、リンの場合は遊びの場面などでもっと楽しみたいという欲求が発生するような要素を持たせています。それがなければ他の子も楽しむことができないでしょうから」 私にはもう一つ懸念があった。12歳ともなれば思春期の入り口で、お互いに異性を意識するようになってくる。女の子の中には初潮を迎える子もいる。表立ってはないが、「誰々が好き」とか「付き合ってる」とかいうようなことも起きてくる。鏡音さんの心の成長にそういう要素は含まれるのだろうか。 これもまた担当者によれば、「恋愛とかそういったことは突き詰めれば生殖にたどりつく本能です。アンドロイドに生殖機能はありませんから、恋愛に関する衝動も起こりえません。ただ、歌の中には恋愛をテーマとしたものが多いので、理解はできるように作っているつもりです。情念とかそういうことを表現するまでになれるかどうかはまだ分かりません。いまのところ、ボーカロイドソフトに入力する音楽データのパラメーターなどであたかも気持ちを表現しているように唄わせることが精一杯です」とのことだった。 恋愛を「理解する」ロボットか。無関係な場所で見ている分には面白い話かもしれないが、そのロボットを他の子供達と一緒に面倒見ている私の立場では、できれば避けて通りたいテーマである。 (7) 鏡音さんは少しずつ明るくなってきた。喋り方も随分はっきりしてきて、普通に話しをしていて違和感がない。なにより。ときどき表情を見せるようになったのが大きかった。 まだ微かなものだが、クラスの誰かが面白いことを言ったときに、笑っているのかなと思うような顔になることがある。休み時間には女子が取り囲むことが多いから、最近は僕が直接話す機会はあまりなかった。僕がちょっと気になっている羽津(はねつ)さんが鏡音さんと話しているのを見たときは、その話の中に入りたいななんて思ったりもしたけれどその勇気はなかった。 一度だけ、「土日は何をしているの?」と聞いたことがある。鏡音さんは「土日は部屋で座っているだけです」と答えた。 「何もすることがないの?」 「はい。担当者さん達が私の身体をメンテしていますが、私はすることがありません」 「退屈しない?」 「退屈はわかりません」 僕は休みの日に遊びに行っていいか聞いてみた。鏡音さんは「遊びは休み時間にしています」なんて言ってたけど、学校が休みの日にも遊ぶんだよと教えたら「いいかもしれない」と答えた。 でもそれからしばらく、色々用事があったりして行く機会がなかった。 運動会は盛り上がった。僕の学校は一学年二クラスしかないので、組別といった対抗戦はない。それでも個人競技やリレーなどもあるから、それなりに楽しむことができる。鏡音さんも他の子と同じように参加した。外見からはアンドロイドには見えないから、目立つということもなかった。100m短距離走は6人中2番だった。無表情で走っているのはちょっと不気味(こう言っちゃ悪いかな)だったけど、ゴールしたときホッとしたような表情を見せたような気がした。組体操は問題なくこなしたようだ。表現種目のフォークダンスでは手をつなぐ機会があった。練習のときは見ているだけだったので、参加しないのかなと思っていたから、入場門で列に並んでいるのを見たときは意外だった。初めて触れたその手の感触は、他の子と少し違っていた。柔らかさや温度はそれほど変わらない。強く握るわけではないから、骨がどうなっているなんて感触までは分からなかった。一番違うのは湿り気だろう。乾燥していてサラサラという感じだった。あれ、僕なぜここまでこだわるのかな? 閉会式のあと、会場の片付けが済んでグラウンドで解散となった。家が同じ方向の同級生たちと帰るとき、一人で校舎に向かう鏡音さんの後姿が見えた。鏡音さんはこれから担当者さんたちのところに帰るのだろう。僕はあの部屋に何があるのかとても興味がある。でも、鏡音さんはなんだか少しかわいそうな気がした。 (8) 運動会前の打ち合わせのとき、担当者は「リンの心の成長は順調です。むしろ期待以上の成果が出ています。人間に近い感情の萌芽が生まれてきているようです」と言っていた。 「ただ、休み時間など女子としか接する機会がないようですので、もう少し男子と接する機会ができないでしょうか」 「男子と女子で違うんですか?」 「大きな違いはないと思いますが、会話する際の話題ですとか、遊びの内容なども異なるでしょうから、新たな効果が出るのではと期待しています」 「普通の子供として受け入れているのですから、そこらへんを操作することは難しいと思いますが」 「先生のクラスの男女は仲がよくないのですか?」 「特別仲がいいってことはないでしょうけど、それこそ普通だと思います」 私は、この実験に積極的に協力するつもりはなかった。確かに、教室で観察している限りにおいては、鏡音さんは女の子として作られているので、日常として接触するのも女子に限られているようだ。男子は興味はあるけれど、どう接したらいいかまだ測りかねているか、敢て接触するのを避けるかしているようだ。隣の席にしたクラス委員の加賀美(かがみ)君は、それなりに面倒を見ているようではある。そういうことを考えていたら、まるでそれを読んだように担当者が切り出した。 「ところで、先生のクラスの加賀美君ですが」 「はい、加賀美君がどうかしましたか?」 「ええ、この前ですが、リンに『休みの日に遊びに行っていいか』と話していましたので、他の男子よりはリンに興味を示してくれているのかと思いまして」 「そうでしたか。それ何か問題ありますか?」 「いえいえ。問題ではなくて、むしろこちらとしては好ましいことだと思っています」 「あの、くれぐれも言っておきますが、鏡音さんと接することで私のクラスの子が傷つくようなことは絶対にしないで下さい」 「それはもう、十分に注意をしています。一応これでも児童心理学を専攻していましたので」 「ああ、そうでしたね。でもなぜ児童心理学者さんがロボットメーカーに入社されたのですか?」 「リンのプロジェクトが始まるときに、前の社長に誘われましてね」 最初に担当者に引き合わされたとき、四人それぞれの紹介を受けた。メーカーから派遣されている三人はそれぞれ、システム工学、ロボット工学、心理学のドクターだった。もう一人は文科省の技官である。そうそうたるメンバーでモニターとメンテをしている訳だ。 「私達はここの子供達と直接接触するのは避けていますが、向こうから来てくれるのを拒むつもりはありません。あの部屋の中も、もし望むなら可能な範囲で見せたいと思っています。大人数では困りますけど」 「そうですか。では加賀美君が来たときはよろしくお願いします」 (9) 運動会は日曜日だったので、翌日の月曜は振り替えで休みになった。朝から強い雨が降ったけれど、朝食が終わる頃には一応止んだので、僕は一人で学校に行ってみた。 校舎に鍵はかかっていなかった。職員室は無人のようだ。隣の鏡音さんがいる部屋の扉をノックすると、中から「どうぞ」と声がした。中には二人の担当者さんがいた。これまでちらっと見たときはスーツを着ていたような気がしたが、今日は二人ともリラックスした服装だった。入ってすぐのところにテーブルと椅子があり、そこに座らされた。 「やあ、いらっしゃい。加賀美君だよね。僕は海渡(かいと)と言います。よろしく」 担当者さんのうちの一人が応対してくれた。大人から名刺を貰うのは初めてだった。「心理学博士」と書いてある。もう一人、空田(そらた)さんの名刺には「工学博士」と書いてあった。 「はい、加賀美です。あの、今日は」 「うん、分かってる。リンに会いに来てくれたんだろう。今ね、筐体の、あ、じゃなくて身体のメンテがまだ終わらないからもう少し待っててくれるかな」 メンテは何をするのかと聞いたら、身体の汚れを拭いたり、中の動く部分の様子を見たりしているとのことだった。僕らが毎日お風呂に入っているのと同じらしい。でも動く部分のメンテは週に一回くらいだそうだ。 海渡さんは後ろを振り向くと、「まだ終わりませんか?」と聞いた。奥から「昨日ちょっと動き過ぎましたからねえ、もう少しかかります。何だったら加賀美君に見せても構いませんよ」と声が聞こえてきた。 「見てもいいってさ。あ、でも肢体を外しているから直接見るとちょっとショックかもしれないな。身体にカバーかけてくるから待ってて」 「シタイって何ですか?」 「手と足のことだよ」 それからカーテンで仕切られた部屋の奥に入っていった海渡さんは「どうぞ」と僕に声をかけた。 僕がカーテンの奥に入ると、ベッドのような台に鏡音さんが横になっていた。身体にはシーツのようなカバーがかけてある。手と足に当る部分の膨らみがなくて不思議な感じがした。カバーから何本かのケーブルが見えていて、壁際のパソコンのような装置につながっていた。壁にはラック類がずらりと並んでいて、色々な装置が乗っていた。何に使うのか想像もできないような装置が多かった。中に、歯医者さんにあるような椅子があった。多分鏡音さんがここに座るのだろう。鏡音さんは顔をこちらに向け目を開けていた。僕を見ると、ニッコリと笑った。 「ほう、リンが笑った」 そこにいたもう一人の担当者さんが驚いたような声を出した。 「ああ、そうですね。とうとう笑いましたね。あ、加賀美君。彼は山路(やまじ)さん。ロボット工学専門だよ。さっきの空田さんはシステム工学で専門が違うからね」 海渡さんが山路さんを紹介してくれた。声をききつけて空田さんもやって来て、側にあるパソコンのモニターを覗き込んだ。でもそのときにはもう鏡音さんは笑っていなかった。 海渡さんは僕を見ると、「加賀美君、リンが初めて笑ったよ。君が来てくれたおかげだ」と言った。鏡音さんはさっきと違う表情で海渡さんを見ていた。 「じゃあ、手足を付けるからもう一度向こうに行っててくれるかな」 僕が元いた所に戻るとき、鏡音さんが僕のほうを見た。僕は少し手を振って、カーテンをくぐった。 待っている間に、海渡さんと話をした。 「今日はすごい日だ。リンが初めて笑った」 「今までも教室で笑ったことがあるような気がしますけど」 「うん。そう見えたことがあるかもしれないけれど、モニターしているデータではまだ笑うってとこまでいっていなかったんだ。さっきの反応は明らかに笑ってたよね。これから空田さんがその分析で忙しくなるぞう」 もう一人担当者さんが見えなかったのでどこにいるのか訊ねたら、川添(かわぞえ)さんという文科省の人で、今日は東京に出張してるそうだ。 「鏡音さんのデータって、ずっと調べているんですか」 「まあそうだね。僕達がここにいる目的はそれだから。でね、リンの頭脳ってのはじつはあの身体って言うか頭に入ってるんじゃなくて、この部屋にあるんだ。まだそこまで小型化できていないんでね。身体とは無線で通信してる。その無線は一応この町全体で通信できるような強さになってるから、今日はこれからリンを学校の外に連れ出して欲しいんだけど」 「いいんですか」 「ああ、ぜひ頼むよ。あまり遠くに行っては困るけど」 そのときカーテンが開いて、鏡音さんが出てきた。僕の顔を見るとまたニッコリと笑った。僕は嬉しいような切ないような、何とも説明しようのない気分になった。 (10) 運動会の次の週の打ち合わせで、担当者が「加賀美君来てくれましたよ」と言った。 「部屋の中を見せたら興味津々という感じでしたね。その後リンを外に連れ出してもらいました」 「どこに行ったんですか?」 「裏山のため池みたいです。あそこ見晴らしがいいようですね。でも土手を降りるとき加賀美君がすべって転んで、手を引いてもらっていたリンも巻き込まれて泥だらけで帰ってきました」 「そんなことがあったんですか」 「ええ、彼はいい子ですね。リンが転ばないようにってわざわざ手を引いてくれて、まあそれが仇になったんですけど、ここに連れて帰ってからもしきりに謝ってました。リンは痛みを感じないからそんなに謝らなくてもいいって言ったんですけどね」 「それで鏡音さんは?」 「あ、そうそう。加賀美君が来たときにですね、リンが笑ったんですよ。これはすごいことです。今そのときのデータの分析をやってます」 私はそれが技術的にどうすごいのかに関しては興味ない。しかし、鏡音さんが笑ったということは、今後クラスの中で何か影響があるかもしれない。 「つまり、心の成長が進んだということですか?」 「そういうことになります。これまでも笑っているような表情は出ていたようですが、おかしいからとか嬉しいからとかいった湧いてくる感情の表現ではなく、状況を分析してここは笑うべきと判断してのものでした。今回のはそうではなくて、まず嬉しいという感情があってそれを表現したものと分析しています」 「では今後、悲しいとか悔しいとかいった感情も出てくるのでしょうか」 「それは何とも言えません。以前お話したかと思いますが、感情の元になるのは欲求です。リンには自己保存の欲求は入れ込んでいますが、それ以外は持たせていません。今回の嬉しいは加賀美君が来てくれたことに起因します。つまりリンに加賀美君に来て欲しいという欲求が生まれたということです。ただ、これが人間でいうところの快不快と同じ性質のものなのかどうかはまだ分析を進めなければ分かりません。もしそうなのだとしたら、加賀美君が来ないことによる不快、つまり悲しみや悔しさという感情に発展する可能性はあります」 「何だか最初のお話から変わってきていませんか? 欲求がないから喧嘩も起きないということではなかったですか?」 「いやまあ、あのときはリンの心がここまで来るとは考えていませんでしたので」 「前提が変わったということですね」 「そういうことです」 最初から仕組まれていたような気もするが、今回はそれ以上追及しなかった。 (11) 僕はその次の日曜にも学校に行った。今回は文科省の川添さんもいた。この人たちに休みはないのだろうか。 「みなさんはどこに泊まっているのですか?」 「ああ、この町の旅館を取ってはいるけど、滅多に行かないね。ここで寝てる」 「そうそう、風呂に入りたいときだけだよなあ。飯は交代で買いに行っているし」 「疲れないんですか?」 「仕事が楽しいからねえ」 それから、部屋の中の設備を細かく説明してくれた。半分は分からなかったけど、とても面白そうに思えた。 鏡音さんはあの椅子に座っていた。その椅子に座ることで、鏡音さんの身体の中にあるシステムのデータの収集を行なうのだそうだ。 「リンはこの前君が来てくれたことがとても嬉しかったみたいだよ。今日もずっと待ってた」 「待ってた?」 「うん。朝から『加賀美君はまだ来ませんか』って何度も言ってたから」 そのとき鏡音さんが話し出した。 「私、退屈が分かった」 「ほう。どう分かった?」 「ここで、担当者さん達だけといるのが退屈」 「まいったなあ」 海渡さんは頭を掻いた。でもその顔は笑っていなかった。 「今日はどうする?」 「はい、この前転んでみっともなかったのでまた裏山に行こうと思います。でもその前にボーカロイドの使い方を教わりたいんですけど」 「ああ、それは空田さんが専門だよ。完全に使いこなしているから」 僕は空田さんのに話しかけた。 「あの、データの、調教って言うんですか、調整方法を教わりたいんですけど」 「へえ、そこまで行ってるのか。うん、いいよ」 「鏡音さんは同じデータを使ってもきれいに唄うのに、パソコンではなぜうまくいかないのですか?」 「ああ、リンはね、データを読み込んだら自分の中で歌にしてみて、それを元にして自然な声に聞こえるように調整してるんだよ。人間が自分の声を耳で聞いて調整しているのと同じなんだけどね。パソコンにはそんなことできないから、入れたデータのまましか唄えないってことだ。どれ、何かデータ持ってきた?」 「はい、これです」 僕はメモリースティックを取り出した。空田さんはそれをパソコンに入れて、調整の仕方を色々教えてくれた。 「この部分はね、アタックをあまりかけないほうがいいな。それから、ここで言葉が切れてしまうから、えーっと、どうしようかな」 僕が空田さんに教わっている間、鏡音さんは僕達の後ろをうろうろ歩き回っていた。30分もしないうちに僕をつついて、「ねえ、退屈」と言った。 「リン、もうちょっとだから待ってて。加賀美君、実は裏技があってね、このデータをリンに読み込ませたら、あっと言う間にきれいに調整したデータに変換して出してくれるんだよ。でも、まだ一家に一台アンドロイドってわけにはいかないから、当面は人手て調整するしかないんだけどね」 「うん。私、調整するよ」 「だから、それじゃ駄目だって。加賀美君が調整の仕方を覚えなきゃ」 「加賀美君のデータは全部私が調整してあげる」 「鏡音さん。もうすぐ終わるから待っててね」 「分かった」 鏡音さんは椅子に戻って座った。それから間もなく、僕が持ってきたデータの調整が一通り終わった。パソコンで聞いてみると、最初のデータよりも遥かにいい仕上がりになっていた。 「それじゃこれ、リンに唄わせてみよう」 空田さんはそう言うと、メモリースティックを鏡音さんの頭脳と言っていた装置に差し込んだ。 「リン、ちょっと唄ってみてくれ。ファイルはタイムスタンプが一番新しいやつだから」 「いいよ」 鏡音さんが唄いだした。それはさっきパソコンに唄わせたものと比べ物にならないくらいきれいな歌だった。 「すごい。鏡音さんすごいよ」 「はい、お粗末様」 「空田さんすごいですね」 「リンはボーカロイドと言っても特別だからねえ。それからね、人間って声帯を震わせて声を出してるだろう。他にも舌の位置とか、口の形とか色々あるけど、元は声帯だよね。リンの場合は、それらしく口を動かしているけど、声は電子的に作っている音だから、基本的にはパソコンで出している音と同じなんだ。だから、必要ならリンは一人で何人ものパートを同時に唄えるんだよ」 「一人で合唱できるってことですか」 「あ、ちょっと違うな。何人かでやる合唱は一人ひとりの声を微妙に変えたりしないといけないからそれはできない。リンの声は一種類だからね。リン、ちょっとやってみて、花がいいかな」 鏡音さんは滝廉太郎の「花」を二重唱で唄った。うっとりするようなハーモニーだった。 「一人で唄っているから広がりがでないけど、まあそれは贅沢ってもんだよね。で、今日も裏山に行くって?」 空田さんはメモリースティクを抜き取って僕に返しながらそう言った。 「はい、今日は天気もいいし、町がよく見えると思いますから」 「いこいこ」 鏡音さんが僕の手を引っ張った。 「じゃ、行って来ます。空田さん、どうもありがとうございました」 土手の上からの見晴らしはとてもよかった。前回は曇りで霧雨っぽかったのであまり景色が見えなかったのだ。 「鏡音さん。あっちのほうに青い屋根の家が見える?」 「うん、見えるよ」 「あれが、僕んち」 「ボクンチ?」 「ああ、僕の家ってこと。こっちの空き地の隣が羽津さんち、あそこの大きな家が山田くんち」 「ふーん」 僕らは池の周りを一周する競争をしてみた。僕が少し早くゴールした。僕ははあはあ息を切らしていたけど、鏡音さんは当然ながら疲れた様子を見せなかった。 「今ので全力なの?」 「うん。これ以上速くは走れない。走るのは面白いの?」 「うーん。まあ疲れるけど気持ちいいからね」 「それわかんない。でも加賀美君より速く走りたい」 「お、それって負けて悔しいってこと?」 「これが悔しいか。わかった」 今回は転ばずに土手を降りることができた。ちゃんとした道もあるけど、随分遠回りになるから行きも帰りも土手を通るほうがはるかに早いのだ。地面が濡れてないから鏡音さんも大丈夫だろうと思って手を引かないで降りようとしたら、鏡音さんのほうから僕の手をつかんできた。どうなんだろう。これが普通のクラスメイトの女の子だったら、例えば羽津さんだったら、恥ずかしくて手をつないで歩くことなんてできそうにない。 (12) 鏡音さんは今週とても明るかった。授業中も休み時間も、最初に来た頃とは別人のようによく喋り、よく笑った。クラスの子供達はその変化を歓迎してるようだ。体育の時間に走っているのを見たら、以前より少し速くなっていた。 「先生。私、学校が楽しい」 これは火曜日のセリフだ。今日の授業が終わったときは「みんな、また来週ねえ」と帰っていく他の子供達を見送っていた。 加賀美君はあの部屋に行っていることを誰にも話していないようだ。プリントを集めて職員室に持ってきてくれたときに、「この前の日曜にも行ったの?」と聞くと、なぜ知っているのだろうという顔をしながらも「はい、ボーカロイドデータの調整の仕方を教わりました」と答えた。 週末の打ち合わせのとき、担当者達の表情は意外だった。鏡音さんの心の成長を喜んでいるのかと思っていたら、どうもそうではないらしい。 「今週鏡音さんはとても明るかったです。何かあったのですか?」 「実はそのことでちょっと。この前の週末日曜にまた加賀美君が来てくれました。ここでボーカロイドデータの調整方法を空田が説明してあげて、その後またリンと裏山に行ってくれました」 「それが何か」 「いえ、そのこと自体はいいのです。ただリンの反応がですね。まず、加賀美君が来るのを待ち望むようになりました。それで彼が来てくれたときに『担当者さん達とここにいるのは退屈』と言ったのです」 「あら」 「いえ、そう言われることもまあいいのです。『退屈』という概念がリンなりに分かったということでそれは喜ばしいことです」 「そうですか」 「裏山の池でですね、加賀美君と競争、いわゆるかけっこをしたらしいのです。それでリンが負けて、こんどは『悔しい』ということが分かったと。帰ってきてから、運動のリミッターを緩めてくれって言いましてね、今週のリンは走るの少し速くなっていませんでしたか?」 「確かに、体育の時間に走っているのを見て、以前より速くなったのは感じました」 「リンは元々小六のトップレベルの運動能力は発揮できるように作ってあるのですが、リミッター、ああ、つまり動きにブレーキをかけてましてね、平均よりちょっと上程度でしか動けないように設定してあったのです。リンがどうしてもというので、そのブレーキを少し緩めてやりました」 「あの程度でしたら問題ないんじゃないですか」 「ええ、一応私達の裁量の範囲内でもありますから。問題はうちの会社の上層部、それと文科省の方なんです」 「どういうことですか」 「今、文科省の川添さんが東京に報告に行っています。で、報告会議での上の反応がですね、リンの成長が早すぎると」 つまり、メーカー上層部と文科省は鏡音さんの心の成長が想定以上に早すぎるので危惧を持っているというのだ。 「来週私達も報告に呼ばれています。その報告を受けて何らかの決定が出るかもしれません。つまり、現在のやり方を方向転換するとか、一時停止するとかですね」 「一時停止ってどういうことですか。鏡音さんがいなくなるということですか?」 「いや、まだ具体的に決まったわけではありませんので」 「あの、そういったことまで私に伝えて大丈夫なんですか?」 「ちょっと出しすぎかなとも思います。でも、私達、特にメーカーの三人はリンを娘のように思っているんです。何とかリンをこのままここで成長させてやりたいと。それには先生のご協力が欠かせないんです」 「つまり、文科省あたりから何かご下問があったら、いい方向の回答をして欲しいと」 「いえ、ああ、まあそういうことです。現時点でそこまで行くことはないと思いますが」 「技術的なことは分かりませんが、鏡音さんはクラスに溶け込んでいます。こんなに早い中途半端な段階で鏡音さんがいなくなってしまうのは他の子供達にとってもいいことではないと思います。もしなにか聞かれたらそう答えることにします」 「ありがとうございます」 私も鏡音さんを可愛いと思い始めていた。クラスの中でトラブルはないし、子供達にもいい影響を与えているように思う。それにずっと打ち合わせをしてきて、この担当者さん達の姿勢も好ましいものと感じてきていた。 (13) 僕は鏡音さんと約束していたので今度は土曜日に学校に行った。部屋に入ると、驚いたことにメイコ先生がいた。 「加賀美君と鏡音さんがどうやって遊んでいるのか見てみたいと思ってね」 「えー。普通ですよ」 「先週はかけっこしたんでしょう」 鏡音さんが話しに割り込んできた。 「うん。私が負けたんだ。今日は勝つよ」 そこに山路さんがやってきた。 「加賀美君ね、リンの運動能力をちょっと上げといたから、今日はいい勝負になると思うよ」 「ええー。それじゃ全力で走らなきゃ」 「そうそう。人間代表として頑張ってね」 裏山にはメイコ先生だけでなく、三人の担当者さんもやってきた。池の周りの競争は四人の大人の応援もあって賑やかになった。最初は僅差で僕が勝った。 「もう一回」 鏡音さんがそう言うので、もう一回走ることになった。今度は山路さんも一緒に走ることになった。 今度は鏡音さんが勝った。ちょっと遅れて僕。山路さんはだいぶ遅れた。 「いやあきつい。運動不足だ」 「山路さんが私に負けちゃだめじゃない」 「こら、そんなこと言うとまたリミッターを強くするぞ」 山路さんが鏡音さんを捕まえようと手を広げて追いかけた。鏡音さんは「いやあ」と言いながら逃げ回っていた。僕達はそれを見て大笑いした。 部屋に戻ったら、海渡さんが「月曜から僕達、ちょっと東京に行かなきゃならないんだ。だから、月曜の夜はリンをメイコ先生の家に泊めてもらうからね」と言った。 「へえ、そうなんですか」 「うん。まあこの部屋に一人でいさせてもいいんだけど、『退屈』ってうるさいもんだから」 「どうする? 加賀美君遊びに来る?」 「え、先生、いいんですか?」 「うん。鏡音さんはご飯食べないから、張り合いがないのよ。加賀美君が来るって言うならおうちに電話しとくよ」 「はい、行きます」 「一度家に帰ってからね」 僕は月曜日の六時半に先生のアパートに行った。お母さんから手土産に果物を持たされていた。先生は夕食の準備中だった。鏡音さんはテレビを見ていた。 「鏡音さんテレビ面白い?」 「うん。面白いよ」 「ニュース見て分かるの?」 「ううん。でも面白い」 そのときメイコ先生が「出来たあ。運んでくれる?」と言った。 夕食はハンバーグだった。ちゃんと三人分作ってあったけど、鏡音さんは食べなかった。 「だって、私のお腹の中で腐ったらよくないって山路さんに言われたんだもん。加賀美君、私の分も食べて」 ハンバーグは美味しかった。鏡音さんの分は先生と分けて食べた。食べ終わって、洗い物の手伝いをして、それが終わってから鏡音さんの歌を聞いた。僕とメイコ先生も一緒に歌ったけれど、とてもかなわない。でも楽しかった。 九時になって先生が僕の家に電話してくれて、迎えに来たお母さんの車で帰った。 (14) 加賀美君が帰ったあと、鏡音さんと少し話をした。 「先生、私、加賀美君のこと好きなのかな」 「どうしてそう思うの?」 「いつも加賀美君が帰っちゃうととても寂しい。歌の歌詞によくそういうのがあるよね」 「そうだね。クラスの女の子達とそういう話はする?」 「ううん。私、加賀美君が好きなのかなって思うようになったのは最近のことだし、女の子達と話しててもそんな話題になったことないから」 「みんなね、恥ずかしいんだよ」 「恥ずかしい?」 「うん。だって自分が誰かを好きだとして、相手がそうじゃなかったら恥ずかしいでしょう」 「でも、それって聞いてみないと分からないよね。相手も好きだったら恥ずかしくないでしょう」 「そう簡単にはいかないよ。男の子なんて照れ屋さんだから、好きと思ってもその通り言うとは限らないしね」 「テレヤサン?」 「恥ずかしがりってこと。好きでもそれを言うことが恥ずかしいの」 「ふーん。人間って難しいね」 ちょっと前の私だったら、自分はロボット相手に何の話をしているのかと思っただろう。でも今の鏡音さんは普通の女の子そのものだ。それにしてもこの告白は予想外だった。 「加賀美君も恥ずかしがると思うから、鏡音さんが好きっていうのはまだしばらく言わないほうがいいかもね。他の人にもね」 「加賀美君はどうかなあ」 「それは先生にも分からない。でも嫌いじゃないと思うよ。毎週来てくれるんでしょう。今日もここに来てくれたし」 「うん。そうだね」 「それじゃ、ちょっと早いけど先生もう寝るから。鏡音さんどうする?」 「私は寝なくてもいいから。でも先生の隣で横になっていい?」 「ええ、いいわよ」 布団に横になってさっきの話を考えていた。ついつい鏡音さんの話に乗ってしまったが、これは単純な問題ではない。「恋を理解する」ロボットが「恋する」ロボットになってしまったらこれは大事だ。加賀美君の受け止め方もとても難しいだろう。あす海渡さんに相談してみよう。それに東京での報告の結果がどうなったかも気になる。 翌日、海渡さん達は夕方遅くに学校に帰ってきた。 「ま、とりあえず今のまま継続することで上層部を説得してきました」 「それはよかったです」 「リンはご迷惑おかけしませんでしたか?」 「いえいえ。楽しかったですよ。加賀美君も来てくれましたし」 「そうですか」 「ただそのときにですね」 私は海渡さんに鏡音さんの話をした。海渡さんは「うーん」という感じで考え込んでいた。 「いよいよそこまで来ましたか」 「ええ。これで鏡音さんが普通の人間だったら年齢からいってもどうこうなることではないんですけど、ロボットですからねえ。加賀美君にとってもどちらに転んでもいい結果にはならないと思いますので」 「そうですね。少し検討してみます」 「どうにかできるんですか?」 「これはできればやりやくないし、技術的にもかなり難しいことなのですが」 海渡さんによると、鏡音さんの頭脳の中から最近発達してきた加賀美君への思いの部分を削除することを検討してみるということだった。 「できるんですか」 「かなり難しいです。他の要素も複雑にからみあっていますから、それだけ抽出してというのは不可能かもしれません。空田と相談してみます」 「削除した場合、鏡音さんの加賀美君への態度に変化はあるのですか?」 「それは当然変わります。でも加賀美君にとってもまだ今のうちのほうが影響が少ないと思います」 ある意味、私が当初恐れていたことが現実になってきたということだ。ただ、鏡音さんも私の大事な受持ちの一人であるという点は揺るぎない事実である。鏡音さんが泊まるときに加賀美君を誘ったのは特に深い意味はなかった。仮にそれがなかったとしても鏡音さんの気持ちはもう加賀美君に傾いていたのだろうし、それを早く把握できたということはかえってよかったのかもしれない。 (15) 今週は鏡音さんの様子が変だった。僕を見てニッコリ笑ったかと思うと急に目を逸らしたりする。もともと学校があっている間はあまり話をしなかったし、別段気にするほどのことではないのだけど、それにしても妙だなと思った。 僕以外、いつも話をしている女の子との間はこれまで通りのようだった。お喋りの内容が横で聞こえたが、月曜に先生の家に泊まったことも話していて、羽津さんが「ええー、いいなあ。私も行きたかった」なんて言っていた。僕が行ったことは黙っているようだった。 木曜にちょっとした事件が起きた。算数の授業のときに指名された子が何人か前に出て黒板にそれぞれ計算式と答を書いた。書いた人達が席に戻って、先生が答の確認をしたところ、山田君の答が間違っていた。それはちょっと難しい問題だった。 「この問題できる人」 何人かが手を挙げた。珍しく先生が鏡音さんを当てた。鏡音さんは前に出てすらすらと正解を書いた。 「はい、正解です」 すると山田君が立ち上がった。真っ赤な顔をしていた。 「何だい。鏡音なんてロボットで頭はコンピューターなんだからできて当たり前だ!」 「山田君、この問題は確かにちょっと難しいけど、よく落ち着いて考えれば解ける問題ですよ」 山田君は席に着いたが、納得していない様子だった。 金曜日の休み時間に、僕は鏡音さんに「明日行っていい?」と聞いた。 「うん。来て来て、待ってるから。この前のときねえ…」 僕が話しかけたのはたまたま僕らの周りに誰もいないときだったけれど、鏡音さんが話し続けたので次の授業の時間が近づいて、皆が席に戻ってきた。それでも鏡音さんは話続けて、結局チャイムが鳴るまで終わらなかった。 土曜日は雨だった。降ったり止んだりで、僕は傘を持って出かけた。鏡音さんは「また裏山に行こう」と言ったけれど、今日は土手を登るのは止めたほうがいいと思ったので、「別のとこに行こうか」と提案した。それでも鏡音さんは「ううん。あそこがいい」と言い張ったので、土手ではなく道を歩いてため池まで行くことにした。 部屋を出たとき雨は降っていなかった。鏡音さんは元々傘を持っていなかったので、僕だけ傘を持って行くことにした。裏山をぐるりと一周する道を辿るとため池に行くことができる。道の周囲は雑木林か耕作されていない畑ばかりで人影はなかった。ただ、その道は途中までは隣町に抜ける峠につながっていて、山を半周回ったところでY字型に分かれている。僕らはため池の方に向かう道を進んだ。 ようやく着いたため池の周りの土はぬかるんでいて、とても走ることなどできそうになかった。結局僕達は霧に煙る景色を眺めただけで帰ることにした。 「ちょっとつまんなかったね」 「ううん、そんなことないよ。加賀美君と歩けるだけで楽しいもん」 歩いているうちに雨が降り出した。山路さんから「リンは濡れても大丈夫だから」と聞かされていたけれど、いくらなんでも僕だけ傘を差して歩くことはできない。二人で一つの傘に入って歩くことにした。峠道との合流点を過ぎてしばらく行ったところで、後ろから車が走ってきた。僕達の横を通るときにその車が水をはね、車道側を歩いていた僕の足と靴にかかった。車はそれに気付かなかったようで、そのまま走り去っていった。 「ああ、濡れちゃった。靴の中びしゃびしゃだ。鏡音さん大丈夫だった?」 「うん。私全然かからなかった。私がそっちを歩いてたらよかったね」 「そういう訳にはいかないよ。車の通るほうは危ないからね。それにしてもひどい車だなあ」 「うふふ」 「どうしたの?」 「ううん。何でもない」 僕はこの前とは別のボーカロイドデータの調整方法を空田さんに教わるつもりでいたけれど、足が濡れて気持ち悪かったので教わるのは次の機会にしようと思った。鏡音さんを学校に届けてからそのまま家に帰った。雨はもう止んでいた。 月曜日、ちょっと寝坊した僕は、遅刻ぎりぎりで学校に着いた。教室の扉を開けようとしたときに、廊下の向こうからメイコ先生がやってくるのが見えた。 「セーフ」 そう言いながら教室に入った僕は足が止まった。黒板に大きな相合傘の絵が描いてあり、その下には僕と鏡音さんの名前が書いてあった。ヒューヒューと囃し立てる声が上がる。山田君は立ち上がっていた。そしてすぐ、メイコ先生が教室に入ってきた。 (16) 今週の鏡音さんはより明るく活発になっていた。昼休みにクラスメイトと校庭を走り回っている姿もあった。 木曜の算数の時間は私の配慮不足だった。鏡音さんはどんな問題でも解いてしまうので、誰も手を挙げない場合だけ当てるようにしていたが、最近鏡音さんを当てる機会がなかったので、つい山田君の解けなかった問題を当ててしまったのだ。山田君の反応も予想外だった。鏡音さんが明るくなってクラスの中で普通の子として目立つようになってきたのが遠因かもしれない。山田君はクラスの一部でボス的な存在であるから、今後の彼の様子に注意する必要がある。 加賀美君との関係は、クラスの中では特段目立つということはなさそうである。海渡さん達がどのような結論を出すかまだ分からないが、データ削除といった無茶なことではなく解決できないだろうか。 金曜の打ち合わせのとき、海渡さんから結論を伝えられた。 「今週、ずっと議論してきました。技術的なあらゆる可能性を検討して、そして結論に至りました。リンの記憶の一部を削除します」 「やはりそれしかないのですか」 「はい。リンの心の成長が我々の想定よりも早すぎることで社や文科省の上層部に危惧を抱かれている現状では、そうせざるを得ません。今回の研究そのものが中止になってしまっては元も子もありませんから」 「それで、削除したとしてもまた繰り返すということはないのですか?」 「以前お話しましたが、リンには歌に情感を持たせるために恋愛を理解する機能を付けていました。これも学校にいる間は不要であると判断して一緒に削除します。今回のリンの気持ちはこの機能の発展として現れたと見ていますので、それを削除することで再発は有り得ないと思われます」 「そうですか。で、その作業はいつ行なうのですか?」 「日曜日に一日かけてやります。明日の土曜は加賀美君がまた来ることになってまして、できれば断りたいところなんですが、彼に対しても申し訳ないという思いがありますから、最後ということでもう一度会わせようと思っています」 「加賀美君に話はするのですか?」 「ええ、先にリンと出かけさせて、帰ってきたときに一応話しとこうと思います」 土曜の午後に海渡さんから電話があった。 「リンが戻ったんですけど、加賀美君はここに寄らずに帰っちゃったみたいなんです。電話で話すにはちょっと重い事柄なので、月曜日に説明しようと思います。でですね。こうなったのが幸いという訳ではないのですが、データを削除したではなく、システムに不具合があって消えたということにしとこうと思います。彼の気持ちを考えれば、どちもよくないことではありますが、まだましかなと思いまして」 「騙すんですね」 「心苦しいのですが、私達の都合で記憶を消したと言うと、彼が大人への不信感を持ってしまうかもしれませんので」 「分かりました。それを了解することで、私もその片棒を担ぐことにします」 「ありがとうございます」 日曜日の夜にまた海渡さんから電話があった。 「作業が終わりました」 「分かりました」 月曜の朝、私は気が重かった。職員室から教室に向かっているとき、加賀美君が教室に駆け込んで行くのが見えた。教室が近づくと、何か賑やかな声が聞こえてきた。 私は教室に入って驚いた。加賀美君が黒板の前で立ちすくんでいる。黒板には相合傘の落書きが書いてあった。私が教室に入ると同時に声は消えたが、どうやら加賀美君を囃し立てていたようだ。 「加賀美君、席に着きなさい」 加賀美君が席に着き、私は持っていた教科書などを教卓に置いた。 「さて、黒板への落書きは禁止しているはずですが、これを書いたのは誰ですか?」 誰も名乗りを上げなかった。 「誰もいないということはないでしょう。別のクラスの人がわざわざこれを書きに来たというのですか?」 「先生」 「はい、塩田さん」 「私は今日一番に教室に入りましたが、私が来たときにはもう書いてありました」 「そうですか。分かりました。であるとすれば、誰かが土日か今日の朝早くにここに来て書いたということですね。金曜の夕方に私がここに来たときはありませんでしたから。これはもう消すことにします。でも、字を見れば誰が書いたか先生には分かります。後でいいですから、書いた人は先生のところに来てください」 最後の部分ははったりだった。ある程度は字で分かるが、チョークを横に使って字を大きくしたこの落書きは誰が書いたか分かりようがなかった。大方、男の子の誰かが書いたのだろうと思っていた。内容についてとがめる気はなかった。あの二人が対象というのは少し考え物だが、こういうことはよくあることだ。あくまでも、禁止されている黒板への落書きだけを問題にするつもりだった。私は落書きを消し始めた。そのとき、泣き声が聞こえてきた。 振り向くと、羽津さんが泣いていた。「羽津さんどうしたの?」と聞くと、羽津さんは顔を机にうずめて泣き続けた。黒板を消し終えた私は羽津さんの側に行った。 「羽津さんどうしたの?」 「だって、私見たんです。加賀美君と鏡音さんが二人で一つの傘に入って歩いているのを」 そういうと羽津さんは立ち上がり、教室を飛び出して行った。なるほど、そういうことか。私は羽津さんと仲のいい女子クラス委員の塩田さんに羽津さんを追うようお願いした。 「見つけたら図書室に連れてきて」 それから、一時間目の授業に用意していた問題プリントを配って各自その問題を解くよう指示を出して教室を出た。 あちこちに目をやりながら図書室に行ったら、ちょうど塩田さんが羽津さんを連れてきたところだった。 「塩田さんありがとう。教室に戻ってプリントをやっててね」 「はい」 羽津さんを促して図書室に入り、誰もいないその部屋で向かい合わせで席に座ったあと、考え直して羽津さんの横の椅子に腰掛けた。 「落ち着いた?」 「いえ、あ、はい」 「いいのよ。気持ちが落ち着くまで待つから」 「はい、大丈夫です」 「あれはいつ書いたの?」 「土曜のお昼頃です。朝から親戚の家に行って、帰りに車から加賀美君達を見かけて、それで学校で車を降りて教室に行って書きました」 「ああ、なるほどね」 「私、加賀美君が学校に来たら消そうと思ってたんです。でも加賀美君来るのが遅かったし、山田君がみんなに消すなって言うし、それで消せなくて」 「運が悪かったってことか。先生が怒ったのは、落書きの内容じゃなくて、黒板に落書きするのを禁止しているのに書いたっていうことだからね」 「はい。すみませんでした」 「うん、もうしないでね。それで、内容のことだけど、どういう気持ちであれを書いたの?」 「あの」 羽津さんはしばらく黙り込んだ。私は辛抱強く待つことにした。五分ほどして羽津さんが話し始めた。 「最近、加賀美君は鏡音さんとよく話をしているんです。最近と言っても金曜に見ただけですけど。でも鏡音さんの様子からそれは分かります」 「それって言うのは?」 「多分鏡音さんは加賀美君が好きなんです。そして、加賀美君も」 「でも鏡音さんはロボットだよ」 「それは分かってるんですけど、でも、今の鏡音さんは普通の子と変わらないし、頭はいいし、かわいいし、私…」 「あのね、一つ教えといてあげるけど、加賀美君は土日のどっちかに鏡音さんの所に行ってるの。それはね、鏡音さんに会いに行くというのもあるんだけど、あの部屋にいるメーカーの人と話をするのが目的みたいなの。あそこには色々な装置があって、興味ある子にはとても面白いんですって」 「そうだったんですか。でも鏡音さんと一緒に歩いてて」 「それはね、ほら、鏡音さんがこの学校に来た理由を思い出して。みんなには直接は言わなかったけど、保護者への説明会で言ってあるから聞いてるかな、鏡音さんの心を学校に入れることで成長させるのが目的なわけ。鏡音さんの心は段々成長してきたけれど、クラスでは割と女の子としか接してないでしょう。だからメーカーの担当者さん達が、できれば男の子とも話す機会が欲しいと考えて、部屋に来た加賀美君に頼んだわけよ」 「何を頼んだのですか?」 「鏡音さんと外でしばらく遊んで欲しいって。ほら、裏山のため池があるでしょう。あそこに行って景色を眺めたり、かけっこしたり、お話をしたりしているの。この前は先生も一緒に行ったんだよ。先週は雨だったから、いつも登っている土手が滑りやすいと思って、遠回りしたんじゃないかなあ」 「そういうことだったんですか」 羽津さんはホッとしたような、自分のしたことが気恥ずかしいような複雑な表情を見せた。 「ここからは先生としてではなくて女の先輩として話をするね。言いたくなかったらいわなくてもいいけど、羽津さんは加賀美君のことが好きなの?」 「はい」 「いつ頃から?」 「ずーっと前から、でも私なんて」 「そうかあ。私も加賀美君がどう思っているのか分からないけれど、はっきり言えるのは、羽津さんはまだ諦める必要なんかないってこと」 「どうしてですか」 「詳しくは話せないけれど、少なくとも鏡音さんはあなたのライバルにはならないよ」 話ながら私には迷いがあった。ごく普通の恋の鞘当であればここまで踏み込んだ話はしないだろう。しかし一方の当事者が鏡音さんであるし、その鏡音さんは既に記憶が削除されているのだ。クラスを落ち着かせるためにも、羽津さんをある意味安心させる必要があると思った。 「どうしてですか。鏡音さんがロボットだからですか」 「そういうこと。羽津さんは心を持ったロボットだけど、ロボットに人の好き嫌いがあっていいと思う? 好きならまだしも、嫌いがあったら人間の方が困るでしょう。だから、メーカーの担当者さん達と話してても、鏡音さんにそういう感情は起きないようにしてるって言ってたの。つまり、羽津さんが心配することはないんだよ」 羽津さんの表情が明るくなった。 「あの、私、何だか恥ずかしいです」 「さて、そろそろ一時間目が終わるから教室に帰ろう」 「はい。ありがとうございました」 (17) 羽津さんは一時間目の休み時間に教室に帰ってきた。恥ずかしそうにちょっと笑いながら、でも何もなかったかのように振舞っていた。 一時間目のプリントはすぐに終わってしまったので、あとは自習のはずだけどみんな騒いでいるだけだった。さすがに席を立ってうろうろするのはいなかったが、今朝の落書きをもとにして僕と鏡音さんの周りで冷やかしの声が飛んだ。 僕はそんな声は無視していた。でも鏡音さんの様子は変だった。僕を見ても笑いかけてこない。あまり表情のない顔で、冷やかしの声は勿論、僕のことが全く気にならないような態度で席に座っている。そしてときどき、顔をしかめた。 僕は「鏡音さん、どうかしたの? 具合でも悪いの?」と聞いてみた。ロボットの具合が悪くなるなんてことはないと思ったが、そうとでも言わないと話すきっかけすらなかったのだ。 「いいえ。具合悪くありません」 「そう」 「でも、私、何かを思い出せない。何かを忘れている」 「そんなことあるの?」 「そんなことはないはずだけど忘れている」 「また、土曜日に遊びに行っていい?」 「土曜日。 何のことですか?」 「え? ほら、裏山に行ったよね。帰りに雨が降って」 「いいえ」 「その前は山路さんと競争したよね。忘れちゃったの?」 「忘れた?」 そう言うと鏡音さんはまた顔をしかめた。鏡音さんどうしちゃったんだろう。午前中ずっとそんな感じだった。あの落書きが気に障ったのだろうか。僕は昼休みに海渡さんに会いに行った。 「海渡さん、鏡音さんの様子が変なんです。この前の土曜のことも忘れてるみたいで」 「ああ、ごめん。君にも言うつもりだったんだけど、その土曜の夜にね、リンのシステムに不具合が発生して、そのときにリンの記憶のいくつかが消えてしまったみたいなんだ」 「でもバックアップがあるんじゃないですか?」 「うーん。……。リンのバックアップはね、全体を戻すことしかできないだ。だから、それをやると何日分かの記憶が丸ごとなくなっちゃうんだ。だから」 「じゃあ、消えた記憶は戻らないんですか?」 「うん。仕方がないんだ」 「それじゃあ鏡音さんがかわいそうです。この前競争したとき二回目で鏡音さんが勝って、それから山路さんとおっかけっこして楽しかったじゃないですか。おとといも雨の中を一緒に歩いて、車に水を跳ねられたりして」 「君にも悪いと思っている。でもどうしようもないんだ。それとね、これから週末は不具合の発生原因を探るために色々な調査をやらないといけないから、しばらくは遊びに来てくれても相手することができないんだ。ごめんね」 そう言われると僕は何も言い返すことができなかった。 昼休み時間はまだ残っていたが僕は外に出る気がせず、そのまま教室に帰った。教室の窓から校庭を見ると、鏡音さんがクラスの女子と遊んでいた。 「加賀美君」 急に声をかけられ、振り向くと羽津さんがいた。気付かなかったけれど、一人だけ教室に残っていたようだ。 「加賀美君。あの落書きごめんなさい。私すぐに消そうと思ってたんだけど、消せなくて」 「ううん、いいよ。鏡音さんも気にしてないみたいだし。ときどきあるよね、急に噂になって、でもしばらくしたらみんな忘れちゃうから」 「あの、それでお詫びっていう訳じゃないんだけど、今度の土曜日に私の家に遊びに来てもらえないかなあと思って」 「え、僕が?」 「うん。だめかな」 羽津さんとは小一からずっと同じクラスだ。一学年二クラスしかないからそうなる確率は結構あるけれど、羽津さんとずっと一緒だったということだけでも僕は嬉しく思っていた。家が少し離れていて子供会も違うから直接羽津さんの家に遊びに行ったことは今までない。 「いや、だめってことないけど、何かあるの?」 「あー、特別なことはないけど、加賀美君が遊びに来てくれたら嬉しいなと思って」 「それじゃ、他に誰か」 「ううん、加賀美君だけ。あの、駄目かな」 これは僕にとって思いもよらない申し出だった。夢のようだと言ってもいい。 「うん。行く」 「ほんと? よかったあ。あのね、この前新しいゲーム買ってもらったんだけど、私兄弟がいないから一人モードでしかできなくて対戦型をやってみたかったの」 「えー。何のゲーム?」 「それは来てのお楽しみ」 そう言って羽津さんは笑った。その時、午後の予鈴チャイムが鳴った。 (18) 月曜は授業が終わってすぐ海渡さんに会いに行った。昼休みは雑用に追われて時間が取れなかったのだ。鏡音さんはまだ教室に残っているらしく、戻っていなかった。 「どうですか。今日のリンの様子は」 「はい、ときどき妙な表情を浮かべますが、それ以外は以前と変わらないようです」 「加賀美君とは」 「まあ、普段の授業のときは特別どうこうということはわかりませんでした」 「加賀美君は昼休みにここに来ました。この前電話でお話した線で説明をしておきました」 「そうですか。それでどういう反応でしたか?」 「リンがかわいそうだと言っていました」 「加賀美君らしいですね」 「ええ。追い討ちをかけるようにこれから週末は不具合調査をやるからしばらく相手ができないと言いました」 加賀美君がここに来ていたのは、鏡音さんに会うこともだが、ここの担当者さん達に色々教えてもらうのが楽しみだったはずだ。 「来るなということですか。そこまでする必要はありますか?」 「調査をするのは本当です。記憶の削除はしましたが、リンには記憶が無くなった部分があることが分かっているようで、削除がまだ完全ではないのです」 「それは難しいと仰ってましたよね」 「ええ、記憶は独立してあるわけではなく全てつながりがありますから、残っている部分を辿ると消えた部分があることが分かってしまいます。それをなるべく感じさせないようにしておきたいのです」 「それはいつ頃までかかりそうなのですか?」 「見当がつきません。無理なのかもしれませんし」 では当面加賀美君はここに来られないということだ。 「そうですか。一つお伝えしておきます。鏡音さんの今日の記憶をモニターすれば分かることでしょうが、今朝教室の黒板に相合傘の落書きがありました。書かれていたのは鏡音さんと加賀美君です。書いたのは女の子で、土曜日に二人が雨の中を歩いているのを見たようです」 「それはどういう動機なんですか?」 海渡さんの目が光った。 「単純に言えば嫉妬です。その子は前から加賀美君が好きだったようです」 「つまり、その子はリンを恋のライバルと捉えてそのようなことをしたということですね」 「そう思います」 海渡さんはしばらく考え込んだ。かなり長い時間だった。 「不謹慎な言い方になりますが、これは大きな成果です。学校の子がリンをロボットではなく人間扱いしているということですよね。そう感じさせるまでにリンが成長したと。残念ながらその対象が恋愛という想定していなかったカテゴリーではありますが、それは別にして、我々が到達したかった領域にリンが入ってきたと見なせると思います」 「でも海渡さん達は人間を作ろうとしているのではないでしょう」 「勿論です。将来量産するアンドロイドはそこまでする必要はありません。しかし、技術的にはその上を行く部分に達していないと量産型に反映させることができないのです」 その後の一週間、鏡音さんはときどき不安を感じさせるような表情を見せるものの、クラスでの様子は以前と変わりなかった。加賀美君も鏡音さんの記憶がなくなったことについて表面的には気にしていないような素振りを見せていた。羽津さんは落ち着いているようだ。 金曜日、羽津さんが私のところにやってきて、「先生。加賀美君が明日うちに遊びに来てくれるんです」と嬉しそうに話した。 「そう、よかったね。何して遊ぶの?」 「新しいゲームをします」 「頑張りなさい」 最後の一言はとりわけ小さな声で言った。 羽津さんはほんの少しだけど我侭なところがあるから、おとなし目の加賀美君は付き合いだすと振り回されないかなとも思ったが、それは大きなお世話だろう。 (19) 土曜日。僕はちょっと、本当にちょっとだけどおめかししてお昼から出かけた。羽津さんちには羽津さんのお母さんがいた。玄関で挨拶して家に上げてもらい、羽津さんに連れられて二階の部屋に行った。羽津さんの部屋にはゲーム機と小さなテレビがあった。 「ゲーム始めたらお茶なんか飲んでる暇なくなるから、今持ってきてもらうね」 羽津さんはそう言うと、一度下に下りていってまたすぐに上がってきた。 「お母さんがお茶とケーキを持ってきてくれるから、それまでちょっと待っててね」 羽津さんの部屋はピンクのカーペットが敷いてあっていかにも女の子の部屋って感じで、比べるのはおかしいけれど鏡音さんのいる部屋とは全然違っていた。 「かわいいのが沢山あるね」 「うん。私こういうの好きだから色々買ってもらってるの」 本棚には少女マンガと縫いぐるみ類がずらりと並んでいた。 ドアがノックされた。 「クミ、お茶を持ってきたわよ」 「は~い」 羽津さんがドアを開け、トレイを受け取った。 「お母さん、もういいから下に降りて」 「はいはい。それじゃ加賀美君、ごゆっくりどうぞ」 「はい、ありがとうございます。いただきます」 「いいから、降りて。そいじゃ加賀美君、食べて」 「うん。おいしそう」 僕達は主にテレビの話をしながらケーキを食べ、お茶を飲んだ。見ている番組は大体同じだったので、話が盛り上がった。その後、部屋の中を見回したら、この部屋にパソコンは無いようだった。 「パソコンは持ってるの?」 「ううん、私は持ってない。学校の宿題はお父さんのを借りてやってる。加賀美君はパソコン得意だよね」 「得意ってほどじゃあないけど、僕はお父さんの古いノート型を貰ってて、ネットにもつながってるから結構やってる」 「ふ~ん。ブログとかもやってるの?」 「いや、それはまだ。見てるだけ。ときどき小学生っぽい人のにはコメントするけど、自分のブログが無いから書きにくいってことはあるね」 「じゃあ始めればいいのに」 「そうだね。羽津さんがそう言うならやってみようかな」 「加賀美君始めたら、やり方教えてね。私もやってみるから」 「うん。いいよ」 それから僕達はゲームを始めた。最初は羽津さんがやってみせてくれて、その後、僕がやってみた。ゲームと言ってもシューティングとか格闘系ではない女の子向けのパズルのようなものだった。何度かやってみて慣れたところで対戦してみた。2,3回は負けたけど、段々コツが分かってきて、後では僕が勝つほうが多くなった。 「加賀美君すごいなあ。もう私かなわなくなってきちゃった」 「このゲーム面白いよ。コツが分かったらそんなに難しくないし。時間制限で焦っちゃうけどね」 気付いたらもう5時を回っていた。 「それじゃ僕もう帰るね。今日は楽しかった」 「えー、もう帰るの。晩御飯食べていけばいいのに。ちょっと待ってて」 そう言うと、羽津さんは僕が止める間もなく下に降りて行った。 結局その晩、僕は羽津さんちで夕食を頂くことになった。帰るとは言ったのだが、羽津さんのお母さんが僕の家に電話して半ば強引に決めてしまったのだ。食事が始まる直前に羽津さんのお父さんが帰ってきて、僕はかなりな緊張の中で食べることになった。ご両親からは色々なことを聞かれた。家族構成、兄弟、好きな学科、将来の志望、等々。 将来のことを聞かれて僕は言いよどんだ。小さい頃は単純にお父さんと同じようにこの町で務める(父は役場の職員だ)のだと思っていた。しかし具体的にそれがどういうものかは分かっていなかった。学校で海渡さん達と話をしていて、あの人達の仕事に対する姿勢に打たれていた。僕もあんな仕事をやってみたいと思うようになっていた。でもまだその気持ちを言葉としてうまく表すことはできない。それに、海渡さん達はみんな博士だ。あんな風になりたいと思うことと、なれることは違うのだろうとも思っていて、口にするのは恥ずかしいような気もしていたのだ。 だから、無難にという訳ではないのだが、「コンピューターを使う仕事がしたいです」と答えておいた。 食事が終わって、羽津さんのお母さんが僕の家まで車で送ってくれることになった。羽津さんも「私も行く」と言ってついてきた。玄関横のガレージに行くと、そこにあったのは以前僕に水しぶきをかけた車だった。 (20) 月曜日、羽津さんが報告に来た。加賀美君が週末に遊びに行ったそうだ。 「晩御飯も食べていったんです」 「へえ。楽しかった?」 「そりゃあもう」 先週は定例打ち合わせが中止になった。それを伝えに来た海渡さんはかなり疲れた顔をしていた。状況を聞いたが、記憶の連鎖のつなぎ直しの範囲をどの程度までするかで結論が出ず、ある意味泥沼にはまったようだと言っていた。 「こうなると、対症療法しかないかなあと思っています」 「どういうことですか?」 「記憶を遡ることで削除されている部分があることに気付く訳ですから、この記憶の反芻を抑制することで少しは今よりよくなるのではないかと」 今週の鏡音さんは不安げな表情を殆ど見せなくなり、明るく元気に振舞っていた。対症療法の効果があったということだろう。加賀美君との接触はあまりなく、他の男子との関係と同じような感じだった。 それとは逆に、加賀美君と羽津さんの間は急速に親しくなっているようだった。どちらかというと羽津さんの一方的な主導のようだが、クラスの中で大っぴらに仲のいいところを見せている。加賀美君は恥ずかしいのか、あまりなれなれしい素振りを見せようとしない。 金曜の打合せでその様子を海渡さんに伝えた。 「そうですか。まあ、収まるべきところに収まったという感じでしょうか。加賀美君には何か埋め合わせをしないといけないと思っています」 「もうあまり余計なことはしないほうがいいのではないですか?」 「先生がそう仰るのであればそうします」 「もうすぐ二学期も終わります。今年のうちはこのままそっとしておいたほうがいいでしょう」 (21) 僕はブログを書き始めた。羽津さんも自分用のパソコンを買ってもらい、僕が設定をしてあげて同じサイトでブログを始めた。 僕が何か書くたびにすぐ羽津さんがコメントを付ける。他の人がコメントしてくれることは殆どなかった。学校の他の友達にアドレスを教えていないせいだろう。しばらくやったあと、閲覧をパスワード制にした。これで、僕と羽津さんしか見ることができない。羽津さんのブログも同じ設定にした。 そのうちに僕は物足りなくなってきて、羽津さんには内緒で別のブログを立ち上げた。そちらは完全に匿名にして、好きなことを書く。他のブログさんにコメントするときも、そっちのハンドルを使い、URLを記載した。でも、書いている内容は大したものではない。学校のこと、テレビのこと、本のこと、他の人が読んでもあまり面白くないとは思うが、僕が積極的に他のブログにコメントを付けたので、結構来てくれる人がいた。 他には、ボーカロイドソフト鏡音リンに自分で作った歌を打ち込むことを始めた。歌自体は初めて作ったへたくそなものだけど、曲作りは楽しかった。空田さんに調教の仕方を教わりたかったが、部屋に来ていいと言われていないので行くことはできないでいた。 クリスマスには羽津さんの家のパーティーに呼ばれた。とは言え、ゲームをやって夕食をごちそうになっただけだ。正月の初詣には羽津さんと二人で近所の神社に行った。 「何をお願いしたの?」 「これからもずーっと加賀美君と仲良くできますようにって。加賀美君は?」 「あ、ああ。僕もそうだよ」 午後から家族でおじいちゃんち(父の実家)に行くことになっていたので、羽津さんを送ってから家に戻った。お父さんの実家は隣町にある。車で学校の横を抜けて峠への道を通る。僕は鏡音さんと歩いたあの日のことを思い出していた。鏡音さんは正月はどう過ごしているのだろう。今も学校にいるのだろうか。鏡音さんの記憶が消えてから、海渡さん達ともゆっくり話をする機会はなかった。 (22) 今年の冬休みはアパートで過ごした。いつもの年は実家に帰省するのだが、今年は両親が年末年始を利用して海外旅行に出かけたのだ。 「もう引退してるんだから、何も年末年始に行くことないじゃない」 「ウイーンフィルのニューイヤーコンサートを聞きに行くんだ」 「あら、そうでしたか」 学校が冬休みに入ってから、海渡さんたちは鏡音さんを連れて東京に戻った。鏡音さんは荷物扱いで運ばれた。 「新幹線に乗りたいと言ってたんですけど、移動中ここにある頭脳との通信が切れてしまいますからね。仕方ないんです」 「東京ではどう過ごされるのですか」 「仕事ですよ」 「え、正月も休み無しですか」 「リンの筐体のオーバーホールです。この時期しかできませんから」 「大変ですねえ」 「実際の作業は東京にいる別の技術者達がやります。まあ、私達を含めてみんな独身ですし。あ、それからここの頭脳の保守のために交代で三人のうち誰か一人は学校にいます。当番日はくじで決めました」 「大晦日から元旦にかけてここにいる不運な人は誰ですか?」 「私です」 私は元旦に自分で作った雑煮と、買っておいた出来合いの御節料理を持って学校に行った。海渡さんはかなり恐縮していたが、喜んでくれた。仕事とは言っても鏡音さんの頭脳に異常が出ない限り特にすることもないそうなので、お酒も飲むことにした。 鏡音さんの身体は東京にあって、オーバーホールのために分解されているが、学校にある頭脳に目、耳に相当するセンサーとスピーカーが取り付けてあるので、会話だけならすることができる。ちょっと変わった三人で正月を祝うことになった。 「先生、来てくれてありがとう。私動けないから退屈で退屈で」 「東京の身体はどうなの?」 「今分解してあるから、どうなっているか自分で分からないの」 「そうかあ。あ、海渡さん、この目と耳は持ち運ぶことはできないのですか?」 「できますよ。無線装置につなぐことができますから。目と耳は小さなセンサーだから私の服にでも着ければ目立ちませんし、リンの声はイアフォンで聞けます。でも、それやって外でリンと喋ってると、傍から見たら独り言言ってる変なやつになっちゃうんです」 「あはは、そうでしょうね。でも外に出られるのなら三人で初詣に行きませんか?」 「行く行く」 「いいんですか? この町で私なんかと歩いてるとこ見られて」 「大丈夫ですよ。じゃ、行きましょう」 鏡音さんのセンサーは私のコートに着けることにした。無線装置は携帯電話並みで重くはない。海渡さんもサブの無線装置でイアフォンだけ着けた。 二人ともお酒を飲んだので、車の運転をすることができない。歩いて神社まで行くことにした。 神社に差し掛かったところで、加賀美君と羽津さんが神社から出てきて向こうに歩いて行く後姿が見えた。二人はこちらに気付いていないようだった。 「あ、加賀美君と羽津さんだ。二人仲いいんだね」 鏡音さんがそう言った。私は胸が少し痛んだ。 (23) 三学期になったある日の放課後、思い切ってあの部屋に行った。僕が作った曲の調教を空田さんに教わりたかったのだ。担当者さん達は歓迎してくれたけれど、以前とは雰囲気が少し違っていた。どこがどうとは言えないのだけど。鏡音さんの姿は見えなかった。奥にいたのだろうか。 空田さんは僕の曲を聞いて褒めてくれた。 「へえ、結構面白いね。調教もうまいよ。あと少し直せば公開しても構わないくらいだね」 「でも、伴奏が作れないから」 「ああ、だったら僕が作ってやろうか?」 「できるんですか?」 「編曲については素人だけどね。適当って言っちゃ悪いけど、何とかやってみるよ。DTMソフトで音にして、君が作ったこの歌と重ねてみるから」 「ありがとうございます」 翌週の放課後、空田さんが僕の教室まで来て、「あの曲完成したよ、家で聞いてみて」とメモリーを渡してくれた。 家のパソコンで聞いてみたら、これが僕の作った歌だとは思えないくらいいい出来に仕上がっていた。伴奏は楽しいリズムになっていた。でもそれよりも歌の調教のほうがすごい。学校に走って行って空田さんに会った。 「空田さんすごいです。あんなに良くなるなんて」 「いやあ、元々の君の作った歌が良かったんだよ。それとね。内緒だけど最後の調教はリンにやらせたから」 「そうだったんですか」 「君が作った曲だとはリンには言わなかったけどね。でも、調教が終わったとき変なこと言ってたな」 「何て言ったんですか?」 「初めての曲だけど懐かしい感じがするって。で、どうする? ネットで公開する?」 「はい、そうしたいです。作詞作曲は僕で、編曲は空田さんにします」 「うーん。それはどうしようかなあ。じゃあ、ハンドルはMEETにでもしておいて」 「どういう意味ですか?」 「僕の実家が肉屋でね。そのままMEATじゃ嫌だろうから、同じ発音の別の単語にと思って。あ、最後にSを付けといて」 「それは?」 「空田のSだよ」 家に帰ってからピアプロに投稿した。僕のハンドルはLENにした。歌はRIN。 すぐに感想を幾つか付けてもらえた。「曲はともかく、調教がすごい」というのが多かった。 (24) 海渡さんに教えられて加賀美君が投稿したという曲を聞いてみた。特別に音楽を習っているわけでもない小学生が初めて作ったにしてはいい曲だと思う。投稿者コメント欄に 作詞・作曲 LEN 編曲 MEETS 歌 RIN とあって何だろうと思っていたら、「MEETSは編曲した空田のハンドルですよ。Len meets Rinか。並べてみると意味深になっちゃいましたね」と言われた。 三学期はあっという間に過ぎる。気付けばもう3月になっていた。鏡音さんは他の子と同じように卒業することになった。 「中学校にはどうするのですか?」 「先週本社から指示が来まして、小学校卒業時点で学校での研究は終了となりました。当初の予定通りということです。それも、成果が上がってのということですから、まあ、いい結果と言えます」 そう言いながら海渡さんはあまり嬉しそうになかった。 「海渡さんはまだ続けたかったのですか?」 「ええ、個人的にはね。でも仕方ないです。それから、文科省から教育委員会を通して校長先生に通達が出ていますが、卒業式にはマスコミの取材が来ます。『大きな成果を上げて研究終了』ということで発表することになりましたから」 「そうですか」 (25) 3月に入ってしばらくしてから、卒業式の練習が始まった。起立したり着席したり忙しい式次第を覚えこまなければならない。卒業生答辞は僕が読むことになった。その答辞作りも大変だった。 卒業式の前日になって校長先生が、「卒業生は、入場するときと退場するときに二列になっていますが、それぞれ手をつないで下さい」と言い出した。その二列は男女で並んでいるからみんなブーブーいってたけれど、結局そうすることになった。練習ではみんな照れくさがっていたけれど、平気な顔で入退場できるまで何度も繰り返して練習する羽目になった。僕は偶然だけど羽津さんと手をつなぐことになっていた。 「それから、明日の式にはテレビや新聞の取材が来ます。皆さんはそれに気を取れれず、これまで練習したように立派な卒業式にしましょう」 卒業式当日、女の子の一人が熱を出して欠席したので一人ずれてしまい、僕は鏡音さんと手をつないで入場することになった。会場の体育館の入り口で手をつないだら、鏡音さんがびくっとして手を引っ込めた。 「どうしたの?」 「ううん。何でもない。ごめんなさい」 手をつなぎなおして会場に入ったら、テレビカメラが沢山並んでいた。特に僕と鏡音さんのときはカメラが寄ってきた。 入場が終わって席に着き、卒業式が始まった。鏡音さんに卒業証書が渡されるときは、またテレビカメラが舞台に集まった。僕の答辞はなんとかつかえることなく読むことができた。 式が終わって卒業生が退場するときは、入場とは逆に後ろの席から立ち上がることになっていた。一人ずれた影響で僕は退場のときは羽津さんと手をつなぐことになった。もう少しで会場を出るというときに事件が起きた。 僕達の前を歩いていた鏡音さんが振り向いて、僕の方に向かって両手を伸ばした。それから急に前のめりになって倒れ、羽津さんにぶつかり、羽津さんを突き飛ばした形になったのだ。羽津さんは尻餅をついた。その横に転がった鏡音さんは動かない。 「鏡音さん。鏡音さん」 僕は鏡音さんをゆすってみたけど目を開けなかった。その間に僕らの周りにテレビカメラが殺到して会場は大混乱になった。会場にいた海渡さんと山路さんが駆け寄ってきて、鏡音さんを抱き上げると外に出て行った。 (26) 午後のニュースから卒業式の事件が大きく取り上げられた。文科省が小学校で秘密裏に行なっていた実験(報道では「研究」とは言われなかった)で、ロボットが女子児童を突き飛ばしたということだけが何度も繰り返し伝えられた。 卒業式のあと開かれた記者会見で、校長はしどろもどろだった。この記者会見は研究の成功を伝えるために開かれるはずだったのだ。記者の質問には文科省の川添さんが対応した。とにかく原因は不明、現在調査中ということだけを繰り返した。式に出席していたメーカーの社長もひたすら謝罪するだけだった。 羽津さんは尻餅をついただけで、怪我をした訳ではない。むしろ殺到したカメラや記者のほうに驚いていたようだった。羽津さんのご両親はテレビのインタビューで激昂し、「文科省に謝罪と賠償を求めます」と答えていた。 私は海渡さんに会いたかったが、とても会えるような雰囲気ではなかった。夕方になって、待機していたマスコミに対して、「原因は現在も調査中。明日午後1時から記者会見を開きます」という連絡が出された。 勿論マスコミはただ待機していたのではない。取材自粛解禁として大々的に取材を始めた。鏡音さんの担任である私にも取材が殺到した。 インタビューには丁寧に答えたつもりだ。鏡音さんはこれまで問題を起こしたことがないこと、普通の子供と同じように成長し、心が育っていたこと、学校が楽しいと言っていたことなどを説明した。今回の事件の原因には思い当たるところが無いとした。これはある意味嘘を含んでいる。鏡音さんが結果として加賀美君と手をつないでいた羽津さんを突き飛ばしたのには、鏡音さんの心が影響しているのかもしれない。しかし全く偶然に何か異常が起きたこともまた否定できない。分からないとしか言いようがなかった。インタビューの最後に子供への取材はご遠慮下さいとお願いしたが、それは無視された。 マスコミの論調は鏡音さんが羽津さんを突き飛ばしたことを前提に組み立てられていた。私は近くにいなかったので直接見たわけではないが、テレビのVTRを見る限りにおいては、それは微妙だった。加賀美君に向かって手を差し出しているときは目を開けている。顔は笑っているようにも見える。それから急に目を閉じ、その後で倒れている。であるならば、意図的に羽津さんを突き飛ばした訳ではないことになる。 私は羽津家に行って、羽津さんに会った。ご両親が念のためにと病院に連れて行ったが、何の異常もなかったそうだ。 「どう、落ち着いた?」 「はい」 「あのときどう思った?」 「急だったので、びっくりしただけです」 「怖くはなかった?」 「そんなこと思う暇もありませんでしたから」 「鏡音さんのことをどう思う?」 「やっぱりロボットなんだなあと思います。でも加賀美君が…。あ、いえ、何でもありません」 「テレビの取材なんかあった?」 「はい。でも全部おとうさんとおかあさんが返事しましたから」 羽津さんが落ち着いていたので私も安心した。それから加賀美君の家に行った。加賀美君は羽津さんと違って不安げな顔をしていた。 「先生。鏡音さんはどうなるんでしょうか」 「それは私にも分からない。今、海渡さん達が原因を調べているから」 「鏡音さんは羽津さんを突き飛ばそうとしたんじゃありません。僕の方に手を差し出して、そのときは笑ってました。どうしたんだろうと思ってたら急に目を閉じて倒れたんです。だから絶対わざとじゃありません」 「うん。私もそう思うよ」 「ても、テレビじゃ」 「そうだね。鏡音さんが羽津さんをわざと突き飛ばしたみたいに言ってるね」 「僕、取材の人たちにもそう言ったんですけど」 「マスコミにとってはわざとのほうがいいみたいね」 「どうしてですか」 「そのほうがニュースとして面白いからよ」 「そんな」 「理不尽だとは思うけれど、わざとじゃないという意見もちょっとだけ紹介して、中立ですって顔をするんでしょうね。仮にわざとじゃなかったとしても、それはそれで事故になるから、どっちに転んでもマスコミとしてはいいのよ」 「僕、海渡さんに会いに行きます」 「今行っても会えないよ。原因調査で忙しいだろうから」 「でも、行きたいんです。鏡音さんがわざとやったんじゃないって言いたいんです」 時刻は午後7時だった。私は加賀美君のご両親に断ってから学校に連れて行った。正門から入ったらまたマスコミにつかまる可能性があるので、裏に回ってから入った。 あの部屋の前に行ったら、ドア越しに声が聞こえた。 「まだ原因は分からないのかね」 「はい、皆目分かりません」 「もういい、内部的に不具合があって緊急停止した。問題のロボットは廃棄するということにしよう」 「社長、それじゃあマスコミが納得しませんよ」 「じゃあ、どうしろと言うのかね」 加賀美君が急にドアを開けた。 「社長さん、待って下さい、鏡音さんを廃棄なんかしないで下さい」 「君は誰だね」 「加賀美君」 社長と海渡さんが同時に声を出した。私は社長に向かって軽く会釈してから部屋に入った。 海渡さんが社長に私と加賀美君を紹介した。それすらもどかしいように加賀美君が喋り出した。 「海渡さん。鏡音さんは羽津さんをわざと突き飛ばしたんじゃありません。僕が一番近くにいたんだからよく分かります。僕、それが言いたくて」 「加賀美君ありがとう。わざわざそれを言うために来てくれたんだね。うん。それは分かってるよ。リンの記録でリンが緊急停止したのは羽津さんにぶつかる前のことだってはっきりしているから」 「じゃあ、鏡音さんは悪くないんでしょう」 「うーん。問題は緊急停止の原因なんだ。それが分からない。それとね、運が悪かったというか、緊急停止の結果羽津さんにぶつかってしまったというのも問題なんだ。一人で勝手に倒れたんならまだよかったんだけどね」 「鏡音さんに会うことはできませんか?」 「リンの筐体は山路が調べている。頭脳のほうは空田が調べている」 「話ができませんか」 「頭脳のほうも、あれからずっと意識が止まっているんだ。人間で言えば気絶している状態だね」 そのとき奥のほうから声が聞こえた。 「リンの意識が戻りました」 声の主は空田さんだった。誰よりも早く、加賀美君が奥に向かって走り出した。みんながそれに続いた。 「今、スピーカーをつなぎます」 空田さんが鏡音さんの頭脳にスピーカーを接続した。 「たい。加賀美君に会いたい。加賀美君に会いたい」 スピーカーから鏡音さんの声が聞こえてきた。 「鏡音さん、僕ここにいるよ」 「あ、ちょっとまって、センサーもつなぐから」 空田さんがセンサーを接続した。 「鏡音さん、僕ここにいるよ」 「加賀美君。ううん、レン君。私、レン君のことが好き」 (27) 「鏡音さん。ううん、リンちゃん。僕もリンちゃんのことが好きだよ」 (28) 社長が怒鳴った。 「どういうことだ。リンの記憶は削除したのではなかったのかね」 「社長、ちょっとお待ち下さい。考えをまとめます」 海渡さんはそう言うと、その後も怒鳴り続けている社長を無視して目を閉じ、何かを考えていた。 「先生。記憶を削除したってどういうことですか?」 加賀美君が私に尋ねた。私は海渡さんを見たが、まだ目を閉じたままだった。私は「片棒を担ぐ」と言った自分の言葉を思い出していた。 「加賀美君、ごめんなさい。みんなで加賀美君を騙していたの。鏡音さんの記憶が消えたと言ってたけど、本当は消えたのではなくて、消したの」 「消した?」 「ええ、鏡音さんは加賀美君のことが好きになったの。でも、ロボットが恋をしてはいけないの。元々そうならないように作ってあったのに、鏡音さんは加賀美君が好きになってしまった。そのままではこの学校でやっている研究が駄目になってしまう。だから、鏡音さんの記憶の中から、加賀美君を好きだ思う部分を削除したの。先生もそれに賛成したの」 「そんな」 「でも、記憶というのは簡単に全部削除することができなくて、海渡さん達もとても苦労していたの。鏡音さんがしばらく様子がおかしいときがあったでしょう。今、鏡音さんが加賀美君を好きと言ったのは、記憶が残っていたのか、思い出したのかどうか分からないけれど、鏡音さんの思いがとても強かったんだと思う」 加賀美君は私の顔をじっと見つめていた。それからちらっと海渡さんの顔を見て、社長のほうを向いた。 「社長さん、お願いがあります。僕、これから沢山勉強して社長さんの会社に入ります。そして、一生懸命働きます。だから、それまで、鏡音さんを廃棄なんかしないで下さい。お願いします」 加賀美君が頭を下げた。社長は戸惑っていた。 「私からもお願いします。リンは今回事件を起こしましたが、それは別にして、私達が考えてもいなかったレベルで成長しました。これは素晴らしいことです。会社だけでなくて、全人類の成果だと言っても過言ではありません」 空田さんがそう言った。山路さんも頷いていた。海渡さんが目を開けた。 「思いというものは私達が考えていたよりも遥かに強いということが分かりました。確かに私達はリンの記憶を削除しました。それは記憶の細部に至るまで徹底的に調査して行いました。でも、リンには記憶が残っていたのです。多分それは細部ではなくて、全体としてリンの心に残っていたのだと思います。今日調べたリンの記録で、卒業式の入場で加賀美君と手をつないだとき、リンの心に何かが現れたことは分かっていました。いえ、実際にはさっきのリンの言葉を聞くまでそれが何なのか分からなかったのですが、間違いありません。そして、式の間にリンの中で記憶が具体的になってきて、退場のときに全てを思い出したのでしょう。だから振り向いて加賀美君にそれを伝えようとしたのです。そのとき、頭脳の安全装置が急激な感情の発露を認識して筐体に対して緊急停止をかけたのだと思います」 海渡さんはそこまで一気に話すと、鏡音さんの方を向いた。 「リン。裏のため池で競争したこと覚えているか?」 「うん。加賀美君と何度も競争した。山路さんが私を追いかけたことも覚えてる」 「この前、空田から頼まれたデータの調教をしてどうだった」 「なんだか懐かしかった。この歌誰が作ったんだろうと思っていた」 「加賀美君はボーカロイドソフトのリンを使って歌を作りました。それは淡い恋心を唄ったものでした。リンが記憶を取り戻した最初のトリガーはあの歌だったのでしょう。社長」 「何だね」 「リンで得られた成果は、これから開発する量産型アンドロイドに役立てることができます。ですから、これから本社に戻って研究を続けたいと思います」 「君、そうは言うが、今度の事件でリンは世間にかなり悪いイメージを植えつけてしまった。リンを参考にして作ったアンドロイドが受け入れられると思うかね」 「まだ間に合います。明日の記者会見次第です」 「どうするというのかね」 「記者会見は私が対応します。社長は堂々とした態度で横に座っていてください」 「大丈夫かね」 「はい。それから加賀美君、リンを庇ってくれてどうもありがとう。リンはこれから本社に連れて行く。しばらく会うことはできないが、さっきの君の言葉を信じて待っているから」 「海渡さん、僕頑張ります」 翌日の記者会見で海渡さんの対応は見事だった。鏡音さんの緊急停止は卒業式で感極まったので、それを抑制するために安全装置が働いた結果だとした。羽津さんについては社として謝罪するとともに、誠意をもって対応するとした。その上で、鏡音さんの学校での研究は当初の想定以上の成果が得られたこと、量産型アンドロイドの開発に取りかかることを告げた。 川添さんも文科省としての見解を改めて表明した。それは海渡さんの姿勢に触発されたように、一般的に官僚が行なう釈明とは全く違う気持ちのこもった受け答えとなり、研究の成果を謳い、これからの人類の福祉に大いに役立てることができるとした。 その会見が功を奏したのか、昨日までの報道のトーンが一気に変わった。 (29) 僕の家は引越しをすることになった。お父さんはこの四月から県のほうに出向することになっていた。県庁はちょっと遠いけれど、車で通うつもりだった。でも、勤務先が急に県の東京事務所に変更になり、そのため一家で東京に行くことになったのだ。僕が入学する中学校も東京になった。それを伝えにいったとき、羽津さんの態度はそっけなかった。 「ふ~ん。そう」 「あの、向こうからメール出すから」 「いいよ。どうせもう会えないんだし」 引越しの日に見送りに来てくれたクラスメイトの女の子が、あのあとで羽津さんが泣いていたと教えてくれた。卒業式で倒れたとき、僕がリンちゃんのことだけを心配していたのもショックだったらしい。僕は自分がそんなことも分からない鈍感なんだと思った。だけど、リンちゃんに好きだよと言ったときから、いや、もしかするとその前から、羽津さんへの思いが小さくなっていたことは分かっていた。東京からアクセスした羽津さんのブログは閉じられていた。 うちの引越しの数日前のこと、海渡さん達が学校を出て行く前日、僕はメイコ先生と一緒に会いに行った。設備の撤去が始まっていたが、リンちゃんの頭脳はまだ動いていた。みんなでため池に行った。春の日差しの中で競争をした。小学生時代が終わったなと感じた。 故郷の僕の家は、引っ越したあとしばらくたって取り壊された。元々古い家でだったし、過疎化で借り手もいなかったから空き家になっていた。その年の台風で一部壊れたので更地にすることになったのだ。だから、盆暮れの帰省は隣町の父の実家に行き、僕が生まれ育った町に足を踏み入れることはなかった。 僕が高校生になったとき、父が仕事を辞め、友人と事業を起こした。公務員を辞めての独立に家族親戚は大反対だったけれど、家を取り壊した頃から父は決意していたのだろう。事業は順調に行っている。おかげで、僕も心配なく学業に励むことができた。 父からは「跡を継げなんて言わないから、好きなことをしなさい」と言われている。東京の官舎を出たあと郊外に父が家を建てたから、僕の帰省先はそちらになってしまった。 結局、小学校卒業以来、僕は故郷に帰っていない。 僕は東京の中学から高校、大学に進んだ。大学ではその頃できたばかりのデジタル心理学講座に入った。海渡さんたちが書いたリンちゃんに関する論文を読むこともあった。大学院の卒業年度になったとき、指導教官から大学に残らないかと勧められた。僕はそれを断ってクリプトン社の面接を受けた。面接で会った社長さんはは知らない人だったが、「君のことは海渡から聞いている」と言っていた。 クリプトン社は普及型アンドロイドの製造で大きく成長していた。競合他社のアンドロイドに比べて「人の心が分かる」ロボットとして、福祉の現場などでひっぱりだこだ。 その年、小学校の同窓会の案内が来たが、僕は論文書きが忙しかったので欠席した。その連絡で幹事に電話したときに、羽津さんがアメリカ人と結婚して向こうに住んでいると聞いた。メイコ先生も僕達が卒業した次の年に結婚して学校を辞めたと教えられた。 四月一日の入社式で挨拶に立った社長は海渡さんだった。その日付けで社長に就任したそうだ。入社式のあとで、人事部の担当者からメモを渡された。「夜7時に来るように」と書いてあり、日本料理店の名前と地図が載っていた。 同期入社の飲み会を断ってその店に行き、座敷に通された。そこには海渡さんと、山路さん、空田さんがいた。僕は上座に座らされた。 「入社おめでとう。三人とも君をずっと待っていたよ。新入社員の歓迎会をこれだけのメンバーでやるなんて異例なんだけど、君は特別だからね」 海渡社長がそう言ったて笑った。空田さんは研究所所長、山路さんはアンドロイド事業本部長になっていて、三人とも役員だった。僕は研究所に配属されることになっているから、空田さんが上司になる。 「加賀美君、上司として期待しているからね」 「はい、頑張ります」 「社長としてもそうだよ。それから、君に会わせたい人がいるんだ」 海渡さんは悪戯っぽくそう言うと、後ろのふすまを開けた。そこには二人の女性がいた。 「メイコ先生」 「加賀美君、お久しぶり、海渡メイコです」 「え、海渡さんと結婚されたんですか?」 「ええ、もうかれこれ十年ちょっとになるかな。海渡が忙しくて式を挙げなかったし、それにいつか来る今日という日に君を驚かそうと思ってたから連絡もしなかったの」 「10年越しのサプライズですか。成功ですね。ほんと驚いた。あの、それでこちらは?」 「こっちは私達の娘」 「え、でもこんな大きな娘さんって」 先生の隣にいた若い女性が立ち上がって僕の横に座った。 「レン君、私だよ。分かんない?」 「リンちゃん」 それはリンちゃんだった。二十代の姿をしていた。 「あの後ね、リンに今度は家庭での生活をさせようということになって、僕らの娘として育てることになったんだ。僕の親も同居して老人介護とか、生まれた子供の世話とかね。何より家庭の温かさを教えたかった。うちの社のアンドロイドにはリンの心が反映されてるんだ」 「そうだったんですか」 「で、研究は終わったけどそのままうちで暮してる。リンは会社の資産だから公私混同も甚だしいんだけどね。今リンは会社で研究助手として働いているんだ。ところで、加賀美君、彼女いるの?」 「あ、いえ…。何人か付き合ったことはありますが、長続きしなくて」 「リンを忘れられなかったってことかな。こうしてうちの会社に入ってくれたことでも分かるよ。それでね、加賀美君が本格的に仕事を始めたらリンを君専用の助手にするから」 「ほんとですか? それは楽しみです。あの、この身体はどうしたんですか?」 「山路さんとこで作ってもらったの。この身体は普通に食事もできるんだ。前の身体は研究室に置いてあって、そっちでも動くことができるよ。今は頭脳の大部分が頭の中に入っているから入れ替えないといけないけどね。その代わりどこにでも行けるよ。高校生バージョンの身体もあるし、加賀美君のお好みで選んで」 「加賀美君は、最初のリンがいいかな?」 山路さんがそう言って、みんなが笑った。 「加賀美君を空田さんに取られたのは痛かったなあ。まあ、ローテーションもあるし、そのうち一緒に仕事しよう。それとね、僕もあれからトレーニングして速くなったよ。今度会社のグラウンドで競争しようか」 「はい、ぜひお願いします」 僕はそう言いながら、遠い故郷のため池を思い出していた。 休みが取れたら、リンちゃんと二人で行ってみよう。 了 (あとがき) 投稿5作目です。 書き始めたのは2008年9月中旬でした。その下旬から10月にかけて事情があって中断してしまい、11月になってやっと仕上がりました。 「カガミネットです」より長くなるなんて思っていませんでした。 それでも、終わり方がちょっと駆け足になりました。やはり中断があるとその分だけ書いていての気持ちの乗りが持続できないのかもしれません。 ため池でレンがリンに家を教える部分は伏線にするつもりだったのに、結局スルーになってしまいました。 レンの中高大学時代にはそれなりの青春ドラマがあるはずですが、それは別のお話ということで。 メイコは相変わらず先生役です。今回は若いし、死んでいないし、まあいい役どころだと思います。次回は別の役をやらせようかなあ。 メイコ先生の気持ちの変化は書き始めた頃には考えていませんでした。むしろ担当者達との対立を深める方向に話を持っていくつもりでした。やっぱり私は甘いのかなあ。 羽津(はねつ)クミちゃんはちょっとかわいそうでしたね。まあ、彼女は自分で幸せをつかむと思います。 担当者さん達の性格をもう少し明確に分けたかったです。川添さんは最後まで影が薄かったですね。 本作品ではアンドロイドの心をメインに扱っています。このテーマの場合、どうしてもトラボルタPさん、ジュンPさんの「ココロ」「ココロ・キセキ」を意識せざるを得ませんが、できるだけこの二作とは異なるものにしたつもりです。 「~したい」という欲求と、心の存在との関係など、いくら考えてもなかなかすっきりしません。心理学の専門の方が読むと、なに変なこと書いてるんだと思われるかもしれないです。 本作品はこれで終わりで続きを書くつもりはありません。でも、レンとリンのその後の物語を想像すると、結局「ココロ」「ココロ・キセキ」に行き着いてしまうのでしょう。 4作目は小説が公認されたピアプロに投稿しています。本作品と同様にレンが主役で、リン、メイコ、カイトも登場しますが、全て人間(一部例外あり)でボーカロイドは一切出てこないので、こちらの投稿規約に合わないと判断しました。 興味がありましたら読んでみて下さい。冬至のパレード そう判断した時点で、それならばと書き始めたのが本作品です。 ボーカロイドであることを意識してできるだけその要素を織り込んだつもりですが、心のほうに重点を置いたために、少し薄まったようにも感じます。 リンが記憶を取り戻す最初のトリガー(ひきがね)としたレンが作った歌の歌詞を書けていたらもっと強調できたのかもしれません。実際には書こうともしないで諦めました。 また、本投稿所の感想ページで頂いたアドバイスはイメージを作る上で役に立ちました。どうもありがとうございました。 1から3作目は作者名タグで検索して下さい。 作者:gatsutaka 履歴:2008/11/18 投稿
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木箱だの、布包みだのが、山と積まれた隙間にコロカントは尻を割り込ませている。 せまい。 荷物と押しくらべしているようなもので、膝を抱えて場所を確保しながら、ふうと息が出た。 「――できれば幌があればよかったのですが」 手配できずすみません。御者台から申し訳なさそうな声が聞こえて、コロカントはその声の方へ頭を向ける。 御者台で手綱を握るのはグシュナサフで、その隣には宿で知り合ったララという名の女も座っていた。聞けば、バラッドの古い知り合いだという――本人はものすごい勢いで否定していたが。 ……でも、本当は知っているのだろうな。 バラッドが目が覚めた後のやりとりを眺めて、なんとなく察した。男と女のあいだに初見のよそよそしさはなく、言葉の端々に気安さが滲んでいたからだ。 親しいのだな、と思う。 どう親しいのかは、文字通りの箱入りだった彼女には、まだ説明することができなかったけれど。 「平気です」 御者台へ返しながらコロカントは笑ってみせた。 「外が見えるのは楽しいもの」 本心だった。 彼女にとってこの道中は、見るもの聞くものほとんど初めての経験ばかりだったからだ。 静けさや穏やかさはあったけれど、誰も足を踏み入れない森とは違う。錠をかけられた部屋とは名ばかりの檻とはもちろん違う。 ずっと遠くまでひつじ雲が流れてゆく空、街道の向こうからたまにやって来る行商の馬、干し草を山と積んだ荷車。 ぽつんと点在する部落には、腕まくり井戸端で話し込む女どもがいて、その脇で遊ぶ子供ら、すこし離れた向こうで草を食む山羊や驢馬(ろば)。 一度だけ、郵便の早馬が追い越して行ったこともあった。 青から黄金色に変わる中途の麦畑や、なだらかな丘陵が続くぶどう畑には、野良仕事に精を出す農夫がいた。鋤(すき)をつないだ牛が、のんびりと反芻(はんすう)している。 そうした風景の向こうから、時々初夏をにおわせる風が吹いてくる。 見慣れた人間にとっては、なんの変哲もない、ありふれた日常なのだと思う。けれど、コロカントにはすべて新鮮で、驚きの連続だったのだ。 宿場を立ってから三日経っている。その三日、飽きもせずにひたすら流れる景色を眺めている。 いまも、街道近くの草むらから、ピチピチピチピチリートルリートル。賑やかしくさえずりながらせわしなく羽ばたき、次第に高い空へ上がっていく雲雀(ひばり)を見つけ、おやあれはいったいどこまで上がっていくのだろうと、興味津々眺めていたところだ。 「次の水場で、ハナを休ませます。そこで休憩しましょう」 「はい」 グシュナサフが近隣の略地図を示しながら言った。あとふた時ほど進むと、渡河できる浅い流れがあるらしい。 辛抱なんてちっともない、頷きながらコロカントは思った。 そうしてまた背を向けてしまった御者台から隣へ目を転じる。 そこに寝ているものがある。バラッドだ。 コロカントと同じように荷物の隙間に体を押し込み、まぶしい、暑い、狭い、と文句をたれていたバラッドは、今は目を閉じ大人しくなっていた。 眠っているのかもしれない。 削げた頬が、痛々しいと思った。 男は、口では言うだけ言って荷台に乗り込んでいたけれど、その体は普段よりまだずっと熱かったし、起きているだけでしんどそうだった。休憩の折も水と煙草ばかりで、食べ物はほとんど口にしない。 そうしてまるで本調子でないのに、具合を気遣われることを、ひどくきらっているようだと言うことにも気付いていた。 虚勢という言葉を、まだコロカントは知らない。けれど、大丈夫かと心配することはやめた。男なりの強がりなのだろうと思ったからだ。 そうして、そのおかしな空(から)元気をする男だからこそ、好きなのかもしれないな、とも思った。 ――好き。 自然に湧いて出たその言葉に、深く考えるのはやめた。どうして、だとか考えても無駄なことだと思った。 たぶん好きなことに、理由なんてないのだ。 いつからなんて余計に判らない。それでもずっと自分は男のことが好きだったのだと思った。 もしくは、自分は大きな思い違いしているのかもしれない。 言葉も世間もまるで知らない、こうして日常風景にすら目を奪われ圧倒されてしまうのだから、大本(おおもと)の人を好きになる、という意味も間違っているのかもしれない。 限られた少ない選択肢の中から、無理矢理つまみ上げただけなのかもしれない。 それでもかまわないと思った。 ……口に出すわけじゃないのだから。 実際のところ、口になんて出さない。というか、出せない。 まずもってこの追手から逃げ隠れている状況で、惚れたの腫れたの浮かれたことを言える気がしない。そうでなくたって、とにかく自分と相手との差が大きすぎた。 差。 年も、経験も、知識も、置かれた立場も、なにもかも。 ……どうしてわたしは子供なんだろう。 それが悔しいと思った。 子供の自分が、仮に男に好意をしめしたところで、あしらわれるのがオチだった。 たぶん、男は大仰に驚いてみせたりして、そうして、たいそう慇懃にありがとうございますと返されるだろう。 あしらわれるのは悔しい。 だから、絶対口には出さないと決めた。 その代わり、寝ている男をそっと盗み見る。春の日差しに赤毛が透き通って、きれいだなと思った。 赤は忌みきらわれるのだそうだ。 詳しくは話してもらえなかったが、町でも、戦場でも、赤毛と判るとまともな対応を受けたためしはないと男は言う。 男が言うのだからきっとそうなのだろうけれど、いやあまったくひどいもんです。そう愚痴をこぼすその口ぶりは、どこか達観して飄々としていたので、何故だか作り話のように思えてしまうのだ。 ……バラッドは、やっぱりきらいなのかな。 そうかもしれない。いわれなく、ただ赤いからという理由で、石を投げられたこともあったというから、おのれの赤を忌んでいるかもしれない。 そうして、それでも自分はこの赤が好きだなとコロカントは思う。 頭が赤いのだから当たり前なのだろうけれど、髭も眉もまつげまで赤いのだ。コロカントの頭は藁(わら)色で、眉だのその他の毛は少し濃い茶だったから、どこもかしこも透き通るように赤いというのは、なんだか冗談みたいだった。 ……作りものみたいなんだ。 男が目を閉じているので、普段気にならないまつげが妙に気になって、思わずまじまじ見てしまった。 まつげの影って本当にあるもんなんだな、だとか。毛が赤いのだから、目を開けたときに目端の上と下は、やっぱり赤く縁取りされて見えるんだろうか、とか。 とりとめなくぼんやり眺めていると、日差しのあたたかさに誘われたハナアブが、ぷんとどこからともなく飛んできて、男の短く刈り上げた前髪に止まろうとした。 追いやろうとして軽く手を払うと、指の先が掠(かす)る。 あ、と思う前に、男がぱちと目を開けた。 瞼の下から、これまた作りものみたいだとコロカントが思っている緑灰色の目があらわれ、かち合って、慌てて視線を逸らす。 きれい。このあいだ思わず言葉にすると、男は目を見張り、心底判らないと言った顔をした。 ……この色石は、自分じゃ見えないから。 今また同じように伝えたら、やっぱり男は理解できないと言った顔をするのだろうから、絶対彼女は言わないけれど。 くあ、と軽く伸びをして、男が荷台に起き上がる。猫のような男だった。 「いいご身分だな」 男が起きた気配を察して、御者台からグシュナサフの声が飛んだ。おはようございます、律義にかえした男が、 「煙草、」 寝ぼけまなこで隠しを探りながら呟くと、……そこでか、とグシュナサフは半目になる。 「姫がいる横で吸うな。遣え。お前もっと気を遣え。そうでなくたって、両脇荷物で、火がこぼれてボヤでもでたらどうする」 「ボヤというかなんというか、そもそも積みすぎですよぅ。積みすぎ。過重積載です。自分たちと荷物じゃなくて、これじゃ荷物のついでに自分たちじゃないですか。なんだってこんなに引き受けたんです、」 「引き受けたくて引き受けたわけじゃない」 苦い顔をしてグシュナサフは顎を擦る。 「配送と引き換えに、車を手に入れられたんだ。選択肢がなかった」 町ではなく宿場で、馬に曳かせる車を探すのにグシュナサフは相当苦労したらしい。はあ、とそれを適当に受け流して、 「ここでダメなら、そこ、行って吸ってもいいですかね」 男が腰を浮かすと、グシュナサフがますます苦虫をつぶしたようになった。 「お前、二人席に今の時点で二人座っていて、これ以上座れると思っているのか。阿呆か。こっち来るな」 「いいじゃないですか。きれいになったことだし」 くんくんと体のにおいを嗅ぎながら、バラッドが 「ね、」 やりとりを見ていたコロカントへ向かってほほ笑んだ。 「もう臭くないでしょう」 「はい」 同意を求められて彼女は頷く。 今の男の言葉に、宿を出立前、グシュナサフが男をさんざんこすり上げたことを、つられて思いだした。 「手伝います」 出立前に何としても洗う、普段表情に乏しいグシュナサフが、珍しく決意をこめて宣言したとき、その場にいたコロカントはそうしてグシュナサフに手伝いを申し出たけれど、 「ダメです」 きっぱりと断わられてしまったのだった。 「姫のお気持ちはありがたいです。でも、こいつの汚さは尋常じゃありません。一皮どころか三枚くらい剥(む)いてやらんと、どうにもならない。洗っている間に病気でもうつったらどうします」 手にはたわしと、洗濯用の石鹸が握られていた。馬を洗うときに使う、毛の固いがっしりしたたわしだ。 「剥くのですか」 「剥きます。芋の皮剥くみたいに、裸に引ん剥いてつむじからケツの穴まで、こすり上げてやりますよ」 「でも、痛くはないのかしら」 「平気です。死にゃあしません」 にべもない。 引き下がったコロカントに、 「では」 一言告げて、え、だとか、言葉の綾(あや)ってやつですよね、だとか、たわしを見て引き攣る男を、グシュナサフは水場へ引き立てて行った。そうして本気でたわしを使ったらしい。 そのあとしばらく、ひゃあひゃあ情けない悲鳴が聞こえたからだ。 こすられた本人は赤剥けたと主張するけれど、とにかくきれいになったことは確かだ。体を洗い、伸び切った毛を刈り上げ、手に入れた古着に着替えて、ようやくこざっぱりとした。 「……バラッド。わたしは平気です」 煙草を吸う男の仕草を見るのが、コロカントはこっそり好きだった。大人の男、みたいに思えてどきどきする。 だから小声で告げると、男は困ったふうに笑った。 「いえ、グシュナサフの言う通りです。遠慮します」 そうして煙草のかわりに、口風琴(ハモニカ)を隠しから取り出して、くるくると手の中で転がしている。いつの間にか手に入れたらしい。 「そうだ。じゃあ、歌ってください」 ハモニカを目にして、コロカントは言った。 「ずっと、続きを聞きたかった歌があるの」 「結構ですよ。お代はいかほどです」 茶目っ気をまじえて男が返す。お代、言われて彼女ははたと一拍考えた。言葉通りに、男が小銭を要求しているのではないだろうなと思ったからだ。 「……これでもいいですか」 考えて、コロカントは服の裾に留めてあった小さな花飾りのピンを外す。宿で、男の寝台横に張り込んでいた手持無沙汰のあいだに、端切れを縫い合わせて作ったものだ。 「これはまた値千金」 芝居がかった仕草でうやうやしく男は受け取り、これじゃあ三日三晩歌い続けないといけませんねぇと、花飾りをおのれの胸元に縫い留めた。白布で作ったので、男の赤い頭によく映える。 「何をお弾きしましょう」 「歌の名前は知らないんです。樵と、森の奥にいた乙女の歌」 遠い昔の記憶を手繰りよせ彼女が告げると、それで通じたのか、はい、と頷いて男がハモニカを口に当てる。 ひと呼吸おいて聞き覚えのある音色が流れはじめた。 「……わたしが間違っていたのかしら」 続く微熱のせいか、まだ少しくぐもる感じのする男の歌声をじっと聴いたコロカントは、最後の音が鳴り終わると思わずぽつんと呟いていた。 「なにをです、」 聞きとめたらしい男が、片眉を上げて彼女へ目をやる。 「自信はないんですけど……、わたしが覚えていたのとは、ちょっと違った気がするんです」 「違う、」 「いま歌ってくれた歌の中の樵は、森の乙女を、森の外に連れて行こうとしなかったでしょう?森の外に連れて行かなかったから、乙女は鮒に戻って死ぬこともなくて……、樵は乙女を村へ連れてゆくことはできなかったかもしれないけど、そのあとも森で乙女と会うことができた」 「そうですね」 「わたしが覚えていた話は、樵が乙女を、森の外に連れて行ってしまうんです。嫌がる乙女の手を無理に引っ張って、足の皮が破けて、血が出ているのも気づかないで、手を引っ張って……、」 「そうですね」 応じる目が笑っている。言葉の途中であ、と気づいてコロカントは軽く男を睨んだ。 「……話を変えましたね」 「そうですねぇ」 とうとうこらえきれなくなったのか、くすくす笑いを漏らして男はこたえた。 「ずっと最後がどうなったか知りたかったのに、ひどいわ」 「だって。イヤなんですよぅ。森の乙女だけ痛くて悲しい思いをするじゃないですか。男が勝手をして女を泣かせるなんて、同性として風上にも置けやしない」 「それは、そうかもしれないけど」 「笑っているのがいいです。女は笑っているのがいい。自論ですが。どんな女も、笑っているのが一番かわいいです。泣かせちゃあいけません」 「それも、そうかもしれないけど」 頬をふくらませたコロカントを、尚も楽しそうに見ていた男の後ろから、 「――鏡見ろ」 「カワズの面にションベン、とかいうのかしら?……ちょっと違う?」 呆れた声がふたつした。声にコロカントが目をやると、御者台からグシュナサフと女が肩越しにこちらに目をやっている。口をはさまずにいられなかったらしい。 「どういう意味です、」 聞きとがめたらしい男が言い返すと、 「鏡を見たら、女をたくさん泣かせてる男が映っているのを、お前、知らないのか」 御者台から厭味が飛んで返る。 「鏡ですか?……見ても、いい男しか映っていませんよね」 「どの口が言う」 「事実です」 「自覚がないとか始末に負えんな……、」 きっぱりと言い切る男に、ますます呆れたグシュナサフが不意に馬を止め、 「お前、ちょっと降りろ」 面倒くさそうに言い放った。 「なんですやぶからぼうに」 「いいから降りろ。そこの袋持ってな」 怪訝な顔で返した男へ、説明することなくグシュナサフは顎で指し示す。ひどいなあ。横暴ですよ。ぶちぶち文句を垂れながら、男が言われた通り袋を持ち荷台から腰を上げ、 「姫も行きましょうね」 コロカントに話を振ってくる。いきなりな話に、彼女はぱちぱちとまじろいだ。 「わたし、?」 「自分一人じゃさみしいですもん」 「別にかまいませんけれど、……、でも、」 「ね。野掛け。二人で休憩しましょう」 促されて頷き、荷台を降りる。 やりとりを聞いている分には、いつも通りの軽口だと思うのに、急に不機嫌になったらしいグシュナサフが判らない。彼は、この程度でへそを曲げるような男でないと思う。 そうして、その指示に大人しくしたがうバラッドはますます意味が判らない。ゴネるという確信があった。 普段なら、ここでもっとゴネる。 ……それに、バラッドは野掛けだと言った。コロカントは思う。 さっき、グシュナサフがもう少し進むと水場があると言ったのに?ハナをそこで休ませると言ったのに、水場のないここで野掛け? 訳が判らず見上げたコロカントを、安心させるように男はほほ笑んで見せて、それから御者台に向かって、……十くらいかな。呟いていた。 「十か。そんなもんだろう」 「じゃあ、またあとで」 釈然としない彼女をもう一度促して、車に手を振り、男は街道脇の林に向かって足早に歩き出す。 踏み込んだ雑木林は鬱蒼と茂っていた。 「ちょっと、失礼しますね」 いくらか林の中を進むと、唐突に男は地面へ袋から出した毛布を敷きはじめた。そうしてコロカントに、その上に腹ばいになるよう指示を出す。 野掛けではなかったの? 首を傾げたままそれでも彼女は言葉に従い、その従った彼女の上へ、男は無造作にあたりの落ち葉や小枝をかぶせ始めた。 「……バラッド、」 「すこしの間、かくれんぼしましょう」 言って、男自身も体を彼女の隣にすべり込ませ、同じように落ち葉の中に潜りこむ。 「……バラッド?」 「うわあ。なんだか落ち葉って不思議な感触ですねぇ。ひんやり湿っているのに、あったかい。天然のお布団っていうんですかね?……カブトムシの幼虫とか、こんな気分なのかなぁ」 いったい何をしようとしているのか、重ねてたずねようとした彼女の耳が、遠くの地響きを捕らえた。 ……これは、 緊張がさざ波のように伝播し、一瞬で血の気が引いた彼女の手を、ごそごそ落ち葉の中で探し当てた男の手が包む。 「――なあに、ただの早駆けの馬です。なにもしやしません」 男の声は落ち着いていた。 まるでこの地響きをはなから知っていたようだ、そう思ってコロカントは、グシュナサフとバラッドが先に交わした会話を思い出した。 十くらいかな。男はそう言った。そうして理解する。 あのやりとりは、道の後ろからやって来る馬の数のことだったのだ。 バラッドもグシュナサフも、背後からの蹄の音に気がついた。追手かどうかまでは判らないが、可能性は高い。 仮に追手だった場合、顔が知られているバラッドとコロカントが荷台にいるのは、相当不利だ。 年老いた馬一頭曳きの車は逃げ切れるはずもないし、応戦するには数も多く、女子供を庇いながらのやり合いは無理だ。 ふたりはそれを知っていた。だから、気付いていない自分を必要以上刺激しないように、軽くやりとりをまとめて、グシュナサフが機嫌を損ねたふりをして、車を降りたのだ。 地響きが次第に近づいてくる。 彼女は顔を伏せ、目を閉じ、土の中で眠る幼虫だけを思い浮かべようとした。 自分は落ち葉の中で丸くなっているただ一匹の幼虫なのだと思った。白くて柔らかい皮膚に、いくつかの足をもち、朽ちた落ち葉を咀嚼するだけの生き物だ。 いずれ蛹になり、羽化する日を待っている。 ……だから、考えてはダメ。言い聞かせる。 追手は自分には気付かない。小さくて見つかりっこないに決まってる。 そうして、幼虫は必要以上に動かない。じっとしている。動いたら、鳥や、ねずみに見つかってしまう。だから体を丸くしたまま、決して動いてはいけない。 余計なことは考えたくなかった。余計なことを考えたら、ぼろを出してしまいそうだと思った。 ――だのに。 身を固くしている彼女から聞こえる距離に、騎馬は止まった。ふたりがじっと隠れている場所は、街道からすこし離れたところにあったし、茂った藪に隠されている。犬でも連れていなければ見つかるはずがない。だのに彼女にはすぐ間近に止まったように思った。 規則正しく地を蹴っていた早駆けから、次第にばらばらと踏み鳴らす早足になり、おぅい、先頭をゆくらしい誰かの声がする。 その、声。 顔を伏せたまま、落ち葉に額を付けたまま、彼女は思わず目を見開いていた。見開かずにはいられなかった。閉じていることは恐怖だった。 二度と聞きたいと思わない、あの男の声。 彼女を塔に閉じ込め、好きなように玩(もてあそ)んだ人間の声。 十ほどの騎馬は、馬にひと息入れながら、行く先を思案しているようだった。ぼそぼそと話し声が聞こえるが、ここからでは何を話しているかまでは判らない。 見開いているはずの視界は真っ暗で、ほとんど何も見えない。 こんなとき、心臓が破裂しそうなほど早くなるだなんて嘘だ。がたがた歯の根が合わないほど体が震えだすだなんて、もっと嘘だ。頭の中も体も、ただ一本のつららになったみたいに、恐ろしいほどしんと冷えて静まりかえっている。 「大丈夫ですよ。姫」 落ち葉にまぎれて囁く男の声が耳に染み入る。 「大丈夫。あすこからじゃあここは見えません」 そう言って、ぎゅ、と握り返された男の手は、こんなときでもあたたかなのだ。 あたたかさにすがるようにそっと顔を上げると、男は伏せた姿勢のまま、鋭い目をして一隊を注視していた。その唇がかすかに動いて言葉を反芻している。 やりとりされる唇の動きを読んでいるのだということに、すこし遅れて気がついた。 ――不自由な足の子供連れだ。そう遠くまで行けるはずがない。 ――それともあれかな。二人だけじゃないのかな。 ――とにかく、赤毛を見つけたら狩れ。躊躇はなしだ。ひとつも漏らさずにな。親を引っ張れば、子供は絶対に出てくる。芋づる式、って言うんだっけ。……え?誤認?……別にいいんじゃないか、赤毛なんだから。 ――ひとまず北へ……、いや東かな。すこし大きな集落があるらしいから、そこへ逃げ込んでいるかもしれない。 やがて、意見がまとまったのか、一隊は林に目をやることもなく馬に鞭を入れ、街道から脇道を東へ、走り去っていった。 走り去っていったはずだ。もう音は聞こえない。 それなのに、身じろぎひとつすることもできなくて、そのままじっとしていた。 「――姫、」 気遣う男の声が水を通したようにぼんやりと聞こえて、コロカントはのろのろと視線を動かした。 「姫」 どうしよう。あれが自分を追いかけてくる。どこまでも執拗にあれは追いかけてくる。 逃げきれない。 きっと、あれは自分を見つける。見つけられてしまう。 「姫」 今度こそ、自分は男たちと引き離され、がんじがらめに搦(から)めとられて、指先ひとつ満足に動かせないほどに縛(いまし)められて、それから針先でつつかれて命を終える標本台の蛾のように、弄り殺されるに違いないのだ。 今になって汗が吹き出してくる。汗が吹き出すのだから暑いはずなのに、体も頭も冷えていた。 あの部屋で行われた日常がくり返されることは、恐怖でしかなかった。 その汗だくの前髪をかき上げ、男が彼女を覗きこむ。 「姫」 息が吹きかかるほど間近に、ひどく怖い男の顔があって、その緑の目が自分へ注がれている。 眉が僅かに寄せられた。それからぼうと緑の目がぼやける。 相変わらず作りものみたいにきれいだな。彼女が眺めていると、みるみるうちに緑の色石が揺蕩(たゆた)い、そのまま潤みは目尻から溢れ、頬を伝い、顎から滴った。 「……バラッド、」 驚いてコロカントは男の頬へ手を伸ばす。この色の目からでも涙は普通に出るものだなという驚きがひとつ。 大人でも、こんなふうに泣くことがあるのだなという驚きがひとつ。 「どうしたの。どこか痛いのですか」 「違います。すみません、……すみません」 ぐいと上げた袖で涙を拭うとそのまま片手で顔を覆い、男は呻いた。 「自分は笑っていてほしかったんです。あなたに笑っていてほしかった。ずっと、自分の好きな笑顔で、花がこぼれるように笑っていてほしかったんです。……決して、そんなふうに怯え、慄くさまを見たかったわけじゃない」 食いしばった歯の隙間から押し出される呻きは、コロカントがはじめて聞く男の声だった。伸ばし、一度は躊躇(ちゅうちょ)した手を、おずおずと男の頬へ伸ばす。 その手を不意に痛いほど握られて、 「この状況だって、あなたは有無を言わさず巻き込まれているだけだ」 男は続けた。 「ひとえに自分たち大人が、力不足で不甲斐ないせいです。……すみません。こんなこと言ったって、あなたを困らすだけなのは判ってるんです。これじゃあただの責任転嫁だ。許す、と言われて贖罪(しょくざい)が完遂するわけじゃあない。物事はそんなに単純な造りではないです。……でも、……、それでも自分は、姫が笑った顔が好きだったですよ」 「……バラッド、」 呼びかけに男は覆っていた片手を外し、彼女の視線にかち合わせた。その目はぎらぎらと濡れている。今まで見たことのない、深い怒りをたぎらせた目だった。怒りというよりは憎しみだ。 ……なんて悲しい色だろう。 初めてみた男の表情に、圧倒されるだとか、飲みこまれるとかそんなことは一切なくて、ただ彼女が思ったことは、なんて悲しい顔をしているんだろうという、そのことだけだった。 「自分は――、――――俺は、あなたをそんな顔にさせるやつを、ぶち殺したい」 あのとき。 しばらく後にコロカントは思うのだ。 あのとき、自分が止めていたとしたら、何かが変わったろうかと。
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注意点 ・この物語は「つかさの一人旅」の続編にあたります。 ・つかさの旅、つかさの旅の終わり、の内容が含まれて居ますのでそちらを先に読んだ方がいいかもしれません。 ゆたか「田村さん、物語ってどうやって作るの」 ひより「へ、どうやって言われても……」 突然だった。昼休みの時間、昼食を食べ終えて少したった頃だった。突然降って湧いたように聞かれた質問。私は漫画を描いていてネタに困ったりしたりしているけど。 こう率直に聞かれると返答に困る。 ゆたか「起承転結……登場人物、物語の進めかた……難しいよね」 ひより「ん~その言い方、もしかして、小早川さんも何か物語を考えているの?」 ゆたか「出来たらいいな~なんてね」 はにかみながら笑う小早川さん。そういえば何度か同じような質問をされた事を思い出した。まともな答えをしていなかったっけ。 とは言え、どうやって答えるかな…… ひより「起承転結とか、構成なんか考えると余計難しくなるから……私なんかはキャラからイメージを考える」 ゆたか「キャラクター?」 私は頷いた。私は目を閉じながら話した。 ひより「少女を思い浮かべよう、背は小さいけど運動は得意……その割にはインドア派、いつも冗談や悪戯ばかりして周りを怒らせたり、楽しませたり…… でも、どこが物悲しげな雰囲気が微かに漂う青い髪の女性」 ゆたか「あ、それは……こなたお姉ちゃん……みたい」 ひより「当たり……キャラクターを決めちゃえば勝手に頭の中で動いてくれるよ」 ゆたか「そんな物なのかな……」 考え込んでいる小早川さんだった。 ひより「料理が大好き、いつも笑顔で……」 ゆたか「いつも笑顔で周りを和やかにしてくれる……つかさ先輩?」 私は頷いた。 ひより「彼女はとっても良いネタ……は!!」 ゆたか「ねた?」 ひより「い、いや、なんでもない、なんでもない」 まずい、まずい、皆をネタになんて……泉先輩と描いている漫画の事がバレでもしたら。 ひより「と、兎に角、これはほんの一例だから、キャラから入っていくのもアリって事」 ゆたか「ありがとう……ところでその、つかさ先輩なんだけど、専門学校を卒業して、就職したって聞いた?」 話題が変わった……あり難い。 ひより「うん、何でも近くのレストランに決まったって……」 ゆたか「専門学校だと目的がはっきりしているから……いいな~」 ひより「その私達も……大学生だよ」 ゆたか「そうだね」 ひより「それより岩崎さんは……」 教室の周りを見渡しても居なかった。 ゆたか「みなみちゃんは音楽室に行っているよ……」 泉先輩達がこの陸桜学園を卒業して二年、私達も卒業間近となった。皆が卒業しても頻繁に会っているので在学中とそんなに変わらない日々が続いた。 つかさ先輩が就職すれば今まで通りに会うことは出来なくなりそう。でもそれは直ぐに現実になってしまった。 私達が卒業してから、つかさ先輩だけ、極端に合う機会が減ってしまった。個人的にはいろいろネタ的なものを提供してくれてはいたので残念と言うしかない。 こなた「つかさねぇ……先週会ったよ」 ひより「ほんとっスか?」 こなた「嘘付いてもしょうがないじゃん」 ひより「そ、それはそうですけど……それで、どんな感じっスか?」 私は泉先輩の家に居た。卒業前からの極秘ミッションを完成させる為に。 こなた「どんな感じって言われてもね、普段通りのつかさだよ」 ひより「そうですか……」 こなた「あ、そういえばね」 何かを思い出したように左手を握り左手を広げてポンと叩いた。 こなた「何でも二十歳になったから一人旅をしたいなんて言っていたね、まぁ、地図すら読めないつかさの事だから、迷子になって泣いちゃうのが落ちだろうけどね……」 ひより「一人旅……っスか……」 つかさ先輩が背伸びをするなんて……職場で何かあったのだろうか。 こなた「それは、それとして……ひよりん、ミッションの方はどうなっているの」 ひより「……完成しました」 こなた「ほんとに、見せて、見せて」 身を乗り出して私に迫ってきた。そんな先輩を尻目にゆっくりと鞄を開けて焦らせた。 ひより「構想から二年……永かったっスね……」 鞄から本を取り出すと先輩はひったくる様に本を私の手から奪った。そして本を開いて見た。 こなた「……お、お、これは……さすがひよりん、やっぱり凄いや」 ページを捲るたびに目を輝かせていた。 ひより「でも、これで本当いいのかな……」 小さく呟いたつもりだった。先輩の動きが止まった。聞こえてしまった。 こなた「ひよりん、もうミッションは動いているのだよ……今更止める訳にはいかないよ」 ひより「い、いえ、反対しているのではなくて……これを極秘にしている……気が引けるっス、せめて……私達以外の誰かに見せてからでも……」 そう、この本は私と先輩で描いた漫画……登場人物が私や先輩の友人をパロディにしたもの。 見る人が見れば誰だか特定できそうな内容だった。面白半分にミッションに乗ったものの、現実に完成してみると何かしてはいけない事をしてしまったような罪悪感が 芽生え始めていた。最終的には夏コミに出すとか出さないとか……困ったな…… こなた「見せる……見せるねぇ~誰に見せる、かがみがいいかな」 ひより「げっ!! そ、それだけはご勘弁を……」 こなた「ゆーちゃん?」 ひより「これを見せるにはまだ早いかと……」 こなた「みなみちゃん?」 ひより「……きっと人格を否定される……」 先輩は溜め息をついた。 こなた「だから極秘にしてきたのでしょ、あともう少しでミッションは終わるだから、迷いは禁物!!」 それは先輩自信が自分に言い聞かせているようにも見えた。 ひより「は、はい……」 私は頷いた。 こなた「それで、ひよりんのサークルは参加出来るの?」 ひより「当選したっス」 こなた「よしよし……それで、この本を何冊刷るかなんだけどね」 嗚呼……話がどんどん具体的になってきた。 ひより「まったくオリジナルなのでどの位売れるかは未知数ですね……100……50冊でも多いかも……」 と言いつつ、私も話しに乗ってしまうのだった。 夏コミ三日前だった。突然私は泉先輩に呼び出された。それは泉先輩の家ではなく柊家だった。理由を聞いても先輩は答えてくれない。 何かとっても悪い予感がした。だけど断ることは出来なさそうだ。 私は柊家の玄関の前に立っていた。呼び鈴を押す手が重い。 『ピンポーン』 ドアが開くとかがみ先輩が出てきた。 かがみ「居間に行ってくれる」 冷たい声だった。いつもなら笑顔で迎えてくれるはず。それなのに…… 後ろから刺すようなかがみ先輩の視線を感じながら居間に向かった。居間の入り口の扉を開くと…… つかさ先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩が奥の方に並んで座っていた。そして、その対面に、みなみちゃん、ゆーちゃんが並んでいる。 二つの列に挟まれるように泉先輩が座っていた。なにかに怯えるように肩を竦めていた。 ひより「こ、こんにちは~」 みさお「おっス、こりゃ驚いた、久しぶりじゃないか、全員集合なんて」 日下部せんぱいはいつも通り……ここに呼ばれた理由を聞いていないみたい。私は泉先輩の隣に座った。 少し遅れてかがみ先輩が入ってきて居間の上座に座った…… みさお「ところで柊、なんで呼び出したんだ?」 かがみ先輩は手に持っていた本を人数分皆に渡した。 かがみ「これと同じ物が30冊……こなたの部屋から発見された」 皆は本を手に取り開き始めた。あの本は……ま、まさか…… 発見した……誰が? その時、鋭い視線を感じた。恐る恐るその方見ると……ゆーちゃん……私と泉先輩を軽蔑する様な眼で私を睨んでいた。本を手に取っていない。 まさかゆーちゃんは既に見ているのか……本を発見したって……ゆーちゃんが…… 私の顔が青ざめていくのが分った。やはり、印刷は私がすべきだった…… 顔が赤くなったつかさ先輩、目つきが恐くなった日下部先輩……無表情な高良先輩とみなみちゃん、峰岸さん…… みさお「……これって、私達だよな……こんな事をするような奴は……」 日下部先輩が私達に向くと皆が一斉に私達の方を向いた。 かがみ「これから泉こなたの弾劾裁判を施行する!」 さながら裁判官か検事の風貌を漂わせたかがみ先輩。 こなた「あの、ひよりんは……」 かがみ「被告人は黙っていなさい」 かがみ先輩の目つきが豹変した。 こなた「ひ、ひぃ……」 かがみ「この本を見てもらって分るように罪状は明らかよ、これは悪戯の域を超えたもの、ここまで私達を侮辱されたのは始めてだ」 日下部先輩とゆーちゃんは頷いた。 かがみ「同じ物を30冊も、どうするつもりだった」 かがみ先輩は泉先輩を睨んだ。泉先輩は方をつぼめたまま話そうとはしない。 かがみ「この期に及んで黙秘権か……見損なったわよ、田村さん、答えてくれるわね……」 かがみ先輩の目が和らいだ、私はその目に吸い込まれそうになった。 ひより「あ、あの……夏コミ……コミックマーケットに出品を……」 こなた「ば、バカ、そんな事を言ったら……」 『バン!!!』 かがみ先輩は手に持っていた本を泉先輩に向かって叩き付けた。本は泉先輩の顔に当たった。いすみ先輩の鼻から血が少し出てきた。 かがみ「いい加減にしろ、まだ隠そうとするのか、バカ!!」 この時分った、かがみ先輩は本気で怒っている。皆もそれを見て少し怯んだように見えた。かがみ先輩は泉先輩に近づいて腕を上げた。殴るつもりだ…… 私は目を閉じて顔を背けた……あれ、叩いた音がしない。私はゆっくり目を開けた。かがみ先輩は腕を上げたままだった。泉先輩の前につかさ先輩が立っていた。 かがみ「つかさ、何のつもり、そこをどきなさい」 つかさ先輩は首を横に振った。 かがみ「奴を庇うつもり、何故よ、つかさも本を見たでしょ、こなたには鉄槌が必要だ!!!」 つかさ「殴っても何も変わらないよ……見てよ、こなちゃん怪我しちゃったよ」 かがみ先輩はつかさ先輩を睨んだ。つかさ先輩はそんなかがみ先輩を尻目にポケットからハンカチを出すとかがみ先輩を背にして泉先輩の鼻血を拭い始めた。 つかさ「大丈夫、痛かった?」 優しい声だった……何だろう、今までのつかさ先輩と違う……かがみ先輩が怒っている時、私の知っているつかさ先輩はおどおどしているだけだったのに。 かがみ先輩の怒りに動じていない。それどころか泉先輩を気遣っているなんて…… かがみ「あんたはこなたが憎くないの、つかさがこの本でどう扱われているのか分って言っているのか」 つかさ「お姉ちゃんがこなちゃんを殴ったら、もう二度とこなちゃんはお姉ちゃんと会えなくなるよ……それでもいいの」 かがみ「別に殺すわけじゃない……」 つかさ「お姉ちゃんは友達としてもう会えなくなるよって意味だよ……」 こなた「……ゴメン……なさい」 泉先輩はつかさ先輩のハンカチを取るとそのまま目に当てた……泣いている? こなた「皆……ごめんなさい」 声が少しかすれている。泉先輩は泣いている。 かがみ「あ、謝って済むと思っているの……」 珍しくかがみ先輩が動揺している。 つかさ「私は……許すよ、もうあの本は出さないよね」 こなた「う、うん……」 泉先輩が謝った……それも驚いたけど、もっと驚いたのはつかさ先輩の言動だった。何かを守ろうとしている。それが伝わってきた。 泉先輩が泣いたのもそれが分ったからじゃないかな。私も何か心が動かされた。 ひより「済みませんでした……最初に原案を提案したのは私です……私も同罪」 かがみ「た、田村さん……」 かがみ先輩が一歩下がった。 みさお「……私も許す……ちびっ子、つかさに感謝するんだな」 みゆき「もう充分だと思います、弾劾は終わりました……」 ゆたか「……も、もう、良いよ、お姉ちゃん、田村さん……」 かがみ「……みんな甘い、甘すぎるわ……」 かがみ先輩の上げていた腕は下ろされた……その時のつかさ先輩の笑顔が印象に残った。 それから私と泉先輩だけ残り皆は帰った。その後、かがみ先輩の部屋に移り、私達二人はみっちりお説教を受けたのだった。 30冊の本は柊家の中庭にてかがみ先輩の立会いの下で燃やされた。 私が柊家の玄関を出るとゆーちゃんが立っていた。 ゆたか「あの本……燃やしたの、庭から煙が見えたから……」 私は頷いた。 ゆたか「私……そこまでするつもりは……」 ひより「うんん、自業自得だったよ……」 私達は並んで歩き始めた。 ゆたか「それにしても……つかさ先輩、かっこ良かった……憧れちゃうかも」 ひより「専門学校を卒業してから会っていなかったけど……一回り大きく見えた」 ゆたか「つかさ先輩、かがみ先輩の目を見ながら必死にお姉ちゃんを庇っていた、多分、叩かれるのも覚悟の上だったかもしれないね」 ひより「……社会人になるとこうも違うのかな……凄いね」 ゆたか「う~ん」 ゆーちゃんは立ち止まった。 ひより「どうしたの?」 ゆたか「社会人になるのとはあまり関係かないかも、ゆいお姉ちゃんは学生時代とあまり変わらなかったような……」 ひより「……成実さんは変わらないと言うよりは……最初から変わっているよ……い、いや、良い意味で言っているから」 ゆたか「ふふ、別にそのくらいじゃ怒らないから大丈夫だよ……」 よかった。笑ってくれた…… ひより「みなみちゃん、何も言っていなかったけど……もしかして、私、嫌われちゃったかな……」 ゆたか「うんん、それは大丈夫だよ、怒るよりも本の出来が良かったって感心していた」 ひより「かがみ先輩と随分違う反応だな……むしろ軽蔑されるかと思ったけど」 ゆたか「そうだね……やっぱりこうゆう物を作る時は、手順を踏まないと理解してもらえないよ」 それはかがみ先輩が何度も言っていた。秘密にするのが一番いけない事……そうだね。 私達は駅に向かった。 『キキー!!!』 大通りに出る少し前だった。凄いブレーキ音、それ共に猛スピードでトラックが近づいてきた。私達の少し前で止まると、エンジンを空吹かしして走り去った。 ひより「乱暴な運転だね~」 ゆたか「ふぅ~少し驚いちゃった……」 少し歩くと道端に丸い茶色の塊が見えた。ゆーちゃんは直ぐにそれが何か分ったみたいだった。その丸い物に走り寄ってしゃがんだ。私も直ぐ後を追いかけた。 ひより「何、何なの?」 ゆたか「犬だよ……酷い……さっきのトラックの急ブレーキはこの犬が来たから……」 これは犬だろうか。確かに柴犬みたいな毛、大きさもそのくらいだけど……首輪をしていない…… ひより「柴犬ってもっとコロコロしていない?」 ゆたか「うんん、それは冬の毛、今は夏毛だから細く見えるって」 ゆーちゃんは優しく犬の背中を擦った。ピクリともしなかった。 ひより「もしかして……死んでいる?」 ゆたか「うんん、背中から鼓動が伝わってくるよ……」 ゆーちゃんは犬の身体を細かく見だした。 ゆたか「怪我はしていないみたい……」 しかし、犬は動かないままだった。 「どうかしましたか?」 後ろから声がした。私達は声のする方を向いた。 「あら……小早川さん……えっと、田村さんでしたっけ?」 私達を知っている。でも私は知らない……あれ、会ったことあるかな……思い出せない。 ひより「あ、あの~どちら様で?」 ゆたか「田村さん、知らないの、何度も会っているでしょ、柊いのりさん……」 そう言われてみると目がかがみ先輩に似ているような気がする……巫女姿……もっと直ぐに思い出すべきだった。 いのり「かがみ……つかさ、どちらの友達だったかしら……」 ゆたか「どちらの友達でもありますけど……」 いのり「今後とも二人をよろしく……っと、挨拶は置いておいて……こんな道端でどうしたの?」 ゆたか「実は……犬が車に……」 私達は倒れている犬の方向いた。いのりさんも私達と同じ方を向いた。いのりさんはそっと犬を抱きかかえた。 いのり「大丈夫かな……」 いのりさんの顔が緩んでいる。犬が好きなのは直ぐに分った。 いのり「……この子、犬じゃないね……狐じゃない?」 ひより・ゆたか「きつね、野生の?」 いのりさんは頷いた。 ひより「い、いくらなんでもこの街に狐だなんて……狸なら居るかもしれないけど……ねぇ」 私はゆーちゃんに同意を求めた。 ゆたか「狐にしろ、犬にしろ、このままじゃ可愛そうだよ……」 ゆーちゃんの顔が悲しげになってきた。 ひより「う~ん、家はもう犬を飼っているから引き取れない、ゆーちゃんだって居候の身だから同じでしょ」 ゆたか「そ、そうだけど……実家も犬を飼っているし……」 いのり「家も両親、四姉妹の大所帯だから……」 重い空気が立ち込めてきた……八方塞って所か。 沈黙が暫く続いた。 いのり「神社の境内にある掃除用具倉庫……そこがいいかな」 いのりさんが呟くように話しだした。いのりさんは犬……じゃなかった、狐をゆーちゃんに手渡した。 いのり「神社の入り口で待っていてくれる、いろいろ持ってくるから」 ひより・ゆたか「は、はい」 私達は来た道を戻り神社に向かった。 狐はゆーちゃんの腕の中で静かに眠っている。神社に着いて10分くらいした頃、いのりさんがダンボールを抱えて走ってやってきた。服は着替えていない。巫女服のままだった。 いのり「ごめん、待たせてしまった」 私はダンボールを受け取り、ゆーちゃんは狐をいのりさんに渡した。 いのり「付いて来て」 いのりさんに言われるまま、私達は神社の奥へと進んでいった。 いのり「家に行ったら、泉さんが居てね……話が弾んでいたみたいだから何も言わないで来てしまった」 私とゆーちゃんは顔を見合わせた。 ゆたか「ふふ、仲直りしたみたいだね」 ひより「そうだね」 いのり「仲直り……なにかあったの?」 私達は今までの経緯を話した。 神社の奥にある倉庫。その裏にいのりさんは私達を案内した。倉庫の裏にダンボールを置き、タオルを敷いて狐をそっと寝かせた。 いのり「そんな事があったの……つかさがね……確かに今までつかさじゃそんな事はしない……きっと一人旅をしたせいかしら」 ゆたか「つかさ先輩、一人旅をしたのですか……どうだったのかな」 いのり「……かがみには話したみたいだけどね、私やまつりにはさっぱり……でも、悪い体験じゃなさそうだから私も敢て聞こうとは思わない」 寝ている狐を優しい目で見ているいのりさん。そんな目で妹達を見ていたと思う。今までそんなに話した事なかったけど、やっぱり長女だなと思った。 ゆたか「ところで、いのりさんのその巫女服はどうしたの?」 いのり「あ、ああ、これね、これは近所の地鎮祭の帰りだったから……着替えるの忘れていた……」 私達は笑った。 『ガサ・ガサ』 ダンボールの方から音がした。狐の意識が戻ったみたいだった。狐は私達をじっと見ている。 ゆたか「あ、気が付いた、大丈夫、狐さん」 ゆーちゃんが狐に手を伸ばそうとした時だった。 いのり「止めなさい、野生の動物だから危険、触ったら噛まれるかもしれない」 ゆーちゃんは直ぐに手を引っ込めた。 狐は私達を恐れるわけでもなく、甘えるわけでもなく、じっと観察しているみたいに見えた。 ゆたか「気が付いて良かった……でも、これからどうしよう……」 いのり「ここなら雨風は防げるし、野犬の心配もない、あとは元気になるまでの食料をどうするか」 ゆたか「私とひよりちゃんは夏休みだから交代で餌をあげられます、ねぇ、そうだよね、ひよりちゃん」 ひより「え、ええ、そうだね、出来る……でも、コミケが終わってからでないと……」 いのり「それなら、当分行事がないから私も手伝うよ」 ゆたか「ありがとう、いのりさんが手伝ってくれるなら百人力です」 な、なんだ……私は自分の目を疑った。いのりさんとゆーちゃんは気が付かないみたいだけど。私ははっきりと見た。この狐は何かおかしい。 ゆーちゃんといのりさんの会話を聞いている。ゆーちゃんが話して、いのりさんが話し出す前に顔をいのりさんに向けている……これは会話を理解していないと出来ない。 そもそも野生の狐がここに居る事自体がおかしい……何だろう、この違和感は…… 私は狐をじっと見た。狐はそれに気付き目線を逸らした……そんな……ますます怪しい……そんな仕草は家の犬もチェリーちゃんでさえしない。 ゆたか「田村さん、田村さん、どうしたの?」 私はハッと我に返った。こんなのは確証も何も無いし、話したってバカにされるだけ。それに私の病気、妄想が出てきただけかもしれない。忘れよう。 ひより「え、あ、いや、何だろうね」 ゆたか・いのり「何だろうね?」 ひより「あ、ああ、そうでなくて、えっと、そうだ、狐さんも気が付いた事だし、何か餌をあげないと……」 いのり「餌ね……そこまで頭が回らなかった……あ、そういえば地鎮祭で頂いた稲荷ずしがあった」 いのりさんは袖の下から袋を取り出した。狐は起き上がり前足をダンボールの淵に乗せた。 いのり「あらあら、食べたいの、稲荷ずしだけど食べるかしら……」 狐の口からポタポタと唾液が落ち始めた……まさかとは思うけど……中身が稲荷ずしって分っている……訳ない……う~ん。 いのりさんが袋から稲荷ずしを取り出すとゆっくり狐の口元に差し出した。狐は稲荷ずしをパクっと食べ始めた。 ゆたか「美味しそうに食べているね……狐って昔話みたいにやっぱり油揚げの料理が好きみたいだね」 いやいや……それは違う、普通の狐はネズミや小動物が餌のはず……それに人間から餌を貰うなんて…… いのり「人間にも馴れているみたいだし、きっとどこかで飼われていたのかもしれない」 ひより「それだ!!」 思わず叫んだ。二人はポカンと私を見ていた。 ひより「ですよね~そうですよ、狐がこんな所に居るはずない、きっと誰かが飼っていたにちがいないですよ、珍しいから飼い主も見つかるかもしれない」 なんだ、そうだよ。それしか考えられない、私ったら……なにボケているのだろう。 いのり「明日は私が来るから、元気になるまでここに居て良いからね」 狐はいのりさんをじっと見つめていた。 ひより「それよりこのままだと逃げ出したりしないかな……繋げないと……」 ゆたか「あ、今、狐さん嫌がったみたい、大丈夫だよこのまま大人しく元気になるまで居てくれるよ……」 狐はダンボールの中で丸くなった……いのりさんはホッとした表情を見せた。 いのり「それじゃ、帰ろうか」 ひより・ゆたか「はい」 やっぱりおかしい……二人はスルーしたけど、私が狐を繋ぐ話しをしたら嫌なポーズをした……それはゆーちゃんもそう言ったから間違えない。 人間の言葉を理解出来る動物……それは躾や、訓練のレベルじゃないような気がする。私はあの狐に妙な興味を抱くようになった。 でも、目前にコミケが……コミケが無ければ……私の痛い性がこれ以上の詮索を許さなかった。 コミケが終わり、私の餌当番が来た時には狐は居なかった。いろいろ試してみたい事があったと言うのに。いったいあの狐は何だったのだろうか? もう一つ不思議なことがあった。ダンボールとタオルが綺麗なままだった。どうやって? 今となってはどうする事も出来ない。 つかさ先輩にお礼を言いたい。そう思っていた。しかし程なく彼女は一人で遠地に引っ越す事になった。なんでも一人旅で出会った人に スカウトされてそこの店で働く事になったらしい。つかさ先輩の料理の腕は高校時代だからは知っていたけど、スカウトされる程だったとは思わなかった。 そこで私はお礼と、新天地での就職の祝いを兼ねてゆーちゃんとみなみちゃんを誘ってつかさ先輩の働く店を訪ねる事になった。 ゆたか「……レストランかえで……そう言っていたよね?」 みなみ「神社がある……少し行き過ぎたみたい」 地図を持っているみなみちゃんは反対方向を指差した。 ひより「それじゃ戻るかな……しかし、まだ泉先輩達が店に行っていない……私達の方が早いなんて、ちょっと順番が逆のような気がするね」 ゆたか「そうだね、なかなか時間が合わないみたい」 みなみ「私達が行けばきっと喜んでくれそう……」 新しい店なので地図には載っていない。温泉宿を目標に私達は歩いた。 ひより「レストランかえで……これだ!!」 新しい店……そう聞いていた。だけど古い温泉宿の一部を改装したようだ。目新しさはまったく感じられなかった。 ひより「う~ん、これってどうなんだろう、見た目はたいした事ないような……」 ゆたか「田村さん、失礼だよ、何をしに来たのか分っているの!!」 ひより「あ、失礼、失言でした……」 ゆーちゃんが怒るのも無理はない。私はお礼と祝いに来たのだった。インネンを付けにきたのではない。 みなみちゃんが店の扉に近づいた。みなみちゃんがドアに触れる前にドアは開いた。 「いらっしゃいませ」 店内から女性が出てきた。どうやら店員らしい……だけどなんとなく堂々として威厳があるような…… みなみ「予約しました田村ひより他2名ですけど」 「……伺っております……貴方達が高校時代の後輩のお客様ね、私は店長の松本かえでです」 みなみ「私は、つかささんの後輩、岩崎みなみです……」 ゆたか「私は、小早川ゆたか……」 ひより「田村ひよりっス……」 かえで「遠路はるばるお疲れ様でした、お待ちしておりました、どうぞ……」 松本さんは手を広げてお辞儀をして店内に招いた。松本さんに案内された席に着いた。 かえで「少々お待ち下さい」 すると松本さんは私達の席の近くに寄り、小声で話した。 かえで「つかさは何度も貴方達の話しをするのよ……よっぽど嬉しいみたい……今日は楽しんで行ってね」 松本さんはウィンクをすると厨房に向かって行った。 みなみ「松本さん……厳しい人だと聞いていた」 ゆたか「うん、そう聞いていたけど……仕事以外の話しをするのは、それだけつかさ先輩が信頼している証拠だと思うよ」 店内を見回した。概観とは打って変わってなんとも落ち着いた佇まい。椅子、テーブル、窓、カーテン、電灯……店長、松本さんのセンスなのだろうか。 この雰囲気……デッサンしたくなる。ゆーちゃんとみなみちゃんが楽しそうに話している。 さすがにこの状況でスケッチブックは出し難いね…… つかさ「いらっしゃいませ」 声の方を向いた……あれ……これがつかさ先輩……学生服と私服した見たこと無かった。白い調理用の制服……短い髪が清潔感をかもし出している。 大人っぽい……これが社会人ってやつなのか……かがみ先輩や高良先輩とは違った魅力を感じる。 ゆたか「うわ~かっこいいですね、すっごく似合っています」 少し照れて顔を赤くする所はまだ高校時代のままだ。だけど高校時代にそんな色っぽくはなかった。この表情もスケッチして取っておきたい…… みなみ「今まで来られなくてすみませんでした……」 つかさ「うんん、まだまだひよっ子だから……出来ればもう少し落ちてから来てもらいたかった……でも、ありがとう、今日の献立は私に任せて」 ゆたか・みなみ「はい、お任せします」 ゆたか「ひよりちゃん……ひよりちゃん」 ひより「……良い……」 ゆたか「いい、いいって何?」 私は我に帰った。 ひより「え、あ、な、何でもない」 相変わらず妄想が激しいな……自重しないと…… ゆたか「料理は任せてって」 ひより「うん」 前菜から始まり、スープ、肉料理、サラダ、そしてデザート……フルコースだった。 田舎で素材が良いのもあるのかもしれない。だけど、松本さんの作る料理は確かに違う……ゆーちゃんもみなみちゃんも会話を忘れて食べるのに夢中になっている。 確かつかさ先輩と同じ専門学校だって言っていたっけ。旅で出会った。こんな人と出会えるなんて。つかさ先輩もなかなかの強運なのかもしれない。 つかさ「いかがでしたか?」 厨房からつかささんが来た。 ゆたか「とっても美味しかった……全部食べたの、はじめてかも」 確かに、食の細いゆーちゃんがあんなに食べるのを見るのは初めてだ。 みなみ「言葉には表せません……」 つかさ「ありがとう……えっと、最後のデザートなんだけど、私が作ったのだけど……どうだった?」 私達は空になった器をつかさ先輩に見せた。つかさ先輩は満面の笑みを見せた。 つかさ「ありがとう」 そのまま松本さんの居るホールに駆け寄って何か話している。松本さんも私達の方を向いて喜んでいる……何だろう。二人が姉妹みたいに見えてきた。 ……なるほどね、つかさ先輩にとって、松本さんはかがみ先輩の代わりなのかもしれない。この店は繁盛する。そう確信した。 暫くするとつかさ先輩がまたこっちの方に来た。 つかさ「今夜はここの温泉宿に泊まるって聞いたけど?」 私達は頷いた。 つかさ「仕事が終わったらお邪魔しても良いかな……」 私達は顔を見合わせた。 ゆたか「ぜんぜん、構わないです」 つかさ「それじゃ、温泉でも入って待ってて、ここの温泉はとっても良いからね」 つかさ先輩は厨房に向かって行った。 みなみ「……つかさ先輩、はつらつとしていて良かった」 ゆたか「元気いっぱいって感じ、それに料理も……高校時代に食べたクッキーなんか比べ物にならない」 ひより「そんな時代と比べたら可愛そうだよ」 私達は笑った。 ひより「ふぁ~」 欠伸が出た。私とゆーちゃんは一足先に温泉に入ってきた。つかさ先輩が言うようにとてもいい湯だった。移動してきた疲れも取れた。 ゆたか「とっても良い湯だからみなみちゃんもどうぞ」 みなみちゃんは準備をし始めた。 みなみ「つかさ先輩……遅い、もうお店も終わる時間だと言うのに……」 ひより「これが社会人ってもの、後片付けや、明日の準備、打ち合わせなんかすればあっという間に時間は過ぎる」 ゆたか「大変なんだね……私……自信なくしちゃうな……身体も弱いし……」 ひより「高校を卒業してから随分元気になったと思うよ、ね」 私はみなみちゃんの方を向いた。 みなみ「熱が出なくなった、乗り物酔いも無くなった……」 ひより「ほらほら、元保健委員のみなみちゃんが言ってるのだから」 みなみちゃんは立ち上がり部屋を出ようとした。 『コンコン』 ドアがノックされた。ドアに一番近いみなみちゃんがドアを開けた。 つかさ「遅くなってごめ~ん」 直ぐ隣の建屋からの移動、ぎりぎりまで店で仕事をしていたに違いない。みなみちゃんは温泉に行くのを止めて部屋の中央に戻った ゆたか「お疲れ様でした」 つかさ「明日の準備に手間取っちゃった……かえでさん、連れて来ようとしたけど……今日は無理だって」 なるほどね、つかさ先輩は松本さんを下の名前で呼んでいる。でもまぁ、今更驚くことじゃないか。お昼の二人を見れば分る。 松本かえで……もう少しどんな人か知りたかったな。残念。 ゆたか「松本さんってどんな人なの」 ゆーちゃんはお茶の準備をしながら質問をした。 つかさ「怒ると恐いけど……とっても優しくて、いろいろ教えてくれる人……」 ゆたか「恐くて優しい……なんか複雑で難しい表現ですね」 ひより「そうでもない、身近な人で似ている人が居るよ」 つかさ・ゆたか・みなみ「誰?」 うわ、つかさ先輩まで聞いてくるとは思わなかった。これは本来つかさ先輩が言うべき事なんだろうけど、つかさ先輩のこう言うキャラがいい味をだすのよね。お昼の時とは違う、私の知っているつかさ先輩。でも、しったかぶらない所は見習わないといけないのかもしらない。 ひより「それは、かがみ先輩」 ゆたか「あ……そう言われてみると……」 みなみちゃんも納得した表情をした。つかさ先輩は少し考え込んだ……納得していないようだった。かがみ先輩はつかさ先輩から見ると「恐い」が抜けて見えてしまっているから 松本さんを似ていると認識出来ない。そう私は理解した。もっともかがみ先輩がつかさ先輩を直接怒った所は一度も見たことはないけどね。 みなみ「お仕事、大変層ですね……」 みなみちゃんが話題を変えた。 つかさ「そうだね、まだ店が独立したからそんなに経っていないから、落ち着くまでは忙しいってかえでさんが言っていた」 みなみ「すみません、そんな状態でお邪魔してしまって」 つかさ「うんん、来てくれて嬉しかった……あぁ、そうそう、みなみちゃん達、未成年でしょ、お姉ちゃんから連絡があって、私が引率しなさいって言うから、 泊まらせてもらうね、私、お邪魔しちゃって良い?」 かがみ先輩……硬いことを…… みなみ「重ね重ね、すみません……」 かがみ先輩のおかげなのだろうか。専門学校を卒業してから殆ど話す機会のなかったつかさ先輩と話す時間が出来た。私達は時間を忘れてお喋りを楽しんだ。 ゆたか「あの、つかさ先輩は何故、松本さんの誘いを受けたのですか……」 その時、つかさ先輩は私には一度も見せなかった悲しい顔になった。何故だろう。ゆーちゃんもつかささんの表情に気が付いたみたいだった。 ゆたか「あっ、ごめんなさい、言い難い事でしたら結構です……」 つかさ先輩は直ぐに笑顔になった。 つかさ「うんん、話しても良いけど……信じてくれるかな」 ゆたか「どう言う事ですか……?」 信じてくれるかどうか。この言葉にものすごく興味を抱いた。どんな話しなのか、つかさ先輩に何があったのか。何故一人でこんな田舎に引っ越したのか。 何か衝撃的な何かなければ無ければこんな事はしない。これは聞かないわけにはいかない。 ひより「是非、聞かせてください」 ゆたか・みなみ「おねがいします」 つかさ先輩は静かに目を閉じた。話すのを躊躇っている……違う、どう話すのか自分の頭の中を整理している様に見えた。 つかさ先輩はポケットから財布を出すと中から一万円札を出した。 つかさ「これ、何に見える?」 ゆたか「いち……一万円札にしか見えませんが……」 私とみなみちゃんも頷いた。 つかさ「これね……触れてから半日経つと、葉っぱに見える……うんん、元の葉っぱに戻るだけなんだどね……」 私達は顔を見合わせた。 ゆたか「言っている意味が分らないのですが……」 つかさ先輩は一万円札を財布にしまった。 つかさ「話すよ、私が何故、ここに移り住んだ訳を……」 つかさ先輩は静かに話しだした。 『ひよりの旅』 つかさ先輩が話しを終えると辺りは静まり返った。 いつもポーカーフェイスのみなみちゃんがハンカチで目を押さえていた。こんな姿を見たのは、はじめてだった。 つかさ「ご、ごめんなさい……私そんなつもりで話した訳じゃないけど……」 つかさ先輩も目が潤んでいた。思い出してしまったに違いない。 つかさ「わ、私、温泉に入ってくるね、まだ入っていない人、一緒にどうぞ……」 慌てて準備をして部屋を出て行くつかさ先輩。後を追うようにみなみちゃんも部屋を出て行った。 つかさ先輩の一人旅……真奈美さん、松本さんとの出会い。松本さんの友人の辻さん…… とても感慨深い話だった。このまま私が漫画のネタにしてしまいたいくらいだった。 つかさ先輩が泉先輩を庇った理由もこれで納得がいく。それに、つかさ先輩が妙に大人っぽく見えたのもこれが原因だった。 私もその場で涙を流してしまいそうだった。でも涙はでなかった。涙を出すのを止めてしまった出来事を思い出してしまったから。 それは、つかさ先輩の出会った真奈美さん。お稲荷さんと言っていた……そのお稲荷さんとゆーちゃんの見付けた狐が私の頭の中で一致してしまったからだ。 あの狐はどう考えても野生の動物ではない。私はゆーちゃんの方を見た。ゆーちゃんは乾かしていたタオルを取り、温泉に行こうと部屋を出ようとしていた。 ひより「ゆーちゃん?」 私は呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まり私の方を向いた。ゆーちゃんも目が潤んでいる。 ゆたか「私……もう一度温泉に入ってくるね」 そう言うとドアに手を掛けた。 ひより「つかさ先輩の言っていたお稲荷さんなんだけどね、あれってこの前、車に轢かれそうになった狐と同じだとは思わない?」 ゆーちゃんの動きが止まった。 ひより「やっぱり、ゆーちゃんもそう思うよね」 ゆたか「あの子は狐じゃなかった、いのりさんが調べてくれた、柴犬の雑種だったみたいだよ、だから狐に見えたって……」 ひより「い、いや、そうじゃなくて、私は見たよ、あの行動は犬や狐じゃ説明できるものじゃ……」 ゆたか「私……行ってくる……」 ゆーちゃんの目から涙が零れているのが見えた。ゆーちゃんはそのまま部屋を出て行った。 あの時私の見たのは何だったのだろう。狐でなく犬だったとしても…… 静まり返った部屋に私一人……その時私は気が付いた。 ひより「ふぅ」 溜め息を一回。 空気が読めないって私の事だった。今はつかさ先輩の話しで皆は頭がいっぱいだった。 それに、もう何処に行ったか分らない犬の話しをしても意味はない。それより素直につかさ先輩の話しに浸った方が良い。 私も温泉に行く準備をして部屋を出た。 一番髪の長いせいなのか、更衣室に私一人、ドライヤーで髪を乾かしていた。皆はもう部屋に戻ったみたいだった。 温泉での話しで妙に私だけが浮いているのが分った。 涙を流さなかったのは私一人、狐の一件が無ければ……本当にそうなのかな。私はつかさ先輩の話しをネタの一つにしか思っていなかった。だから心から感動しなかった。 いつも第三者的な目の私……何時からこんなになったのだろう。 ふと鏡を見てみた。そこには髪をドライヤーで乾かしている私が映っていた。 ひより「ふふ」 笑うと鏡に映っている私も笑う…… 何時からって、それは私が生まれた時から……私は私。 髪は乾いたみたい。ドライヤーを止めて席を立った。さて、部屋に戻ろう。 更衣室を出ようとした。椅子にゆーちゃんが座っていた。どうしたのだろう。私を待っていてくれたのだろうか。ゆーちゃんに声をかけようとした。けど、止めた。 ゆーちゃんは目を閉じて静かに座っている。何だろう。瞑想でもしているかのような雰囲気だった。全身の力をぬいて一定の間隔で呼吸をしている。 ゆたか「ふぅ~」 最後に大きく息を吐くとゆっくり目を開けた。そして私の方を向いた。 ゆたか「あ、あれ、ひよりちゃん……」 私が居たのを今、気付いたみたいだった。 ひより「……何をしていたの……神秘的な感じだった」 ゆたか「えっと、健康呼吸法って言ってね、先生に教えてもらったのをしていたのだけど……」 ひより「先生?」 ゆたか「うん、高校を卒業するくらいの頃ね、近所に整体がオープンしたから、そこで教えてもらった」 ひより「整体……」 私の頭の中にいけない何かを思い浮かべようとしている。 ゆたか「どうしたの?」 ひより「え、何でもない……ゆーちゃんが最近元気なのも、そのおかげかもしれないね」 ゆたか「大学になってから一度も休まなくなったから……そのおかげかな……」 ゆーちゃんは席を立った。 ひより「部屋に戻ろう」 私は更衣室を出ようとした。 ゆたか「ちょっと待って……」 ひより「何?」 私を呼び止めた。振り向くとゆーちゃんは何か言いたげな感じだった。ためらっているのか、少し話しだすのに時間がかかった。 ゆたか「……さっきの話しなんだけど……ひよりちゃんもあの犬をお稲荷さんだと思うの?」 「も」……ゆーちゃんはそう言った。やっぱりつかさ先輩の話しを聞いてゆーちゃんも私と同じ事を考えていた。 ひより「そうだけど、もうそれを確かめる事も出来ないし……私の話しは忘れて」 ゆたか「……うんん、確かめられるよ……あの子ね、まだ神社から出ていないから……」 ひより「出ていないって、どう言う事なの?」 ゆーちゃんはまた暫く話そうとはしなかった。 ゆたか「……週に二回、いのりさんの稲荷寿司を食べに神社に来るようになった、私と交代で世話をしているの……」 ひより「ちょっと待って、あれから二ヶ月も経っているよ……私もあの時一緒に居たのに、」 ゆたか「……ごめんなさい……いのりさんが秘密にしようって言うから……言いそびれちゃった」 ゆーちゃんは申し訳なさそうに肩を落としていた。今まで黙っていたのはいのりさんと約束のせいだったのか。 ひより「それで、何で今、話す気になったの?」 ゆたか「私もあの犬はちょっと不思議な感じがするなって思っていた、それに、さっきのつかささんの話しを聞いて、それからひよりちゃんがさっき言うものだから…… 秘密に出来なかった……本当に、ごめんなさい」 深々と頭を下げるゆーちゃん。 ひより「このままずっとって訳にはいかないと思うよ、犬の放し飼いは違法だし、下手すると保健所に捕まって……処分室に……」 ゆーちゃんは両手で耳を押さえた。 ゆたか「止めて、その話は……分っている、分っているけど……どうにもならない」 話しは思った以上に深刻だった…… ひより「柊家では飼えないの?」 ゆたか「いのりさんは家族に言ったみたいだけど……かがみ先輩は反対、まつりさんは猫の方が良いって、ご両親は皆がよければって……」 するとかがみ先輩とまつりさん次第って訳か。 ひより「私も協力したいけど良いかな?」 ゆたか「本当に……ありがとう」 ゆーちゃんは私の手を両手で握って喜んだ。 ひより「私も当事者みたいなものだしね……」 それもあるけど、なにより犬の正体を確かめたい。その好奇心の方が強かった。 ゆたか「早速だけど、明後日の夕方、私の当番なんだけど一緒に来てくれないかな?」 ひより「うん」 つかさ「大丈夫?」 ひより・ゆたか「うわー!!」 突然つかさ先輩が入ってきた。話しに夢中で近づいてくるのが分らなかった。 ゆたか「だ、大丈夫です」 つかさ「のぼせたのかと思って心配しちゃった、部屋に戻ったらお話ししようね」 ひより・ゆたか「はい」 つかさ先輩は部屋に戻って行った。 ゆたか「ひよりちゃん……この話しは皆に……」 ひより「分っている、内緒でしょ……みなみちゃんにも内緒にするの?」 ゆーちゃんは頷いた。まさかみなみちゃんにも内緒にしているとは思わなかった。もっともみなみちゃんも犬を飼っているから話し難いのは分るような気がする。 あの時、現場に居合わせた偶然に感謝するばかり。 ゆたか「部屋に戻ろう」 ひより「うん」 部屋に戻って私達は夜遅くまでお喋りをして過ごした。 話しは私達が陸桜を卒業するまでの話しや、大学の話が主になった。つかさ先輩も松本さんや、店の話しをしてくれてとても楽しかった。 次の日、つかさ先輩との別れは卒業の日よりも悲しく思えたのが印象的だった。 神社の入り口の前で私はゆーちゃんを待っていた。 ゆたか「ごめーん、待った?」 駆け足で来たゆーちゃん。息が切れていた。 ひより「うんん、時間通りだし」 ゆーちゃんは鞄から袋を出し私に渡した。 ひより「これは?」 ゆたか「今日、あの子にあげる餌、稲荷寿司」 私は袋を受け取った。 ひより「あの子って、名前、付けていないの?」 ゆたか「う、うん、飼い主が居るかもしれないから、また付けていない……いのりさんを呼んで来るから先に行ってて」 ゆーちゃんはまた走り出して柊家の方に向かった。 稲荷寿司か……私は袋をじっと見た。毎週のように稲荷寿司を食べに来る犬って、そんなに寿司が好きなのか。それとも他に目的があるのだろうか。 ここで考えていても分らないか。とりあえず向かうか。 神社の境内。狭いとばかり思っていたが、思いのほか広かった。二ヶ月ぶりの場所、しかも一回しか行った事がなかったので迷ってしまった。 確か掃除倉庫って言っていた。 迷った挙げ句に倉庫に着いた。既にゆーちゃんといのりさんは到着していた。例の犬も姿を見せていた。 ゆたか「ひよりちゃん、どうしたの?」 ひより「いやいや、迷ってしまって……」 ゆーちゃんといのりさんは顔を見合わせると笑った。 いのり「ふふ、協力してくれるって聞いた、ありがとう」 ひより「微力ながら……反対されている様ですが……」 いのりさんは溜め息を付いた。 いのり「つかさが居なくなったから良い機会だとは思ったのが間違えね、まつりは猫だったら良いって言い出すし、かがみは話しにならい……困ったもの」 ゆたか「それより、ひよりちゃん、餌をあげて」 気付くと犬はじっと私の持っている袋を見ていた。 ひより「あ、ごめん、ごめん」 袋から稲荷寿司を出すといのりさんは小皿を取り出した。私は不思議に思い動作を止めた。 いのり「地面に置くと食べないから、お皿に置いて」 私はいのりさんの持っている小皿に稲荷寿司を置いた。そして、犬の目の前に小皿を置いた。犬はいのりさんの目をじっとみている。 いのり「おあがり」 その言葉を聞くと同時に犬は稲荷寿司を食べ始めた。 ひより「お預けをするなんて、よく躾けましたね」 ゆたか「うんん、躾けてなんかいないよ、自然にできたよ」 やはり、この犬は捨て犬じゃない。どこかで飼われていた犬だ。 いのり「さて、これからどうしよう、里親を探すしかないかしら」 ゆーちゃんはすごく悲しそうな顔をした。 ひより「どうでしょう、かがみ先輩とまつりさんに来てもらってこの犬を見てもらうのは、実際に見ると可愛くて気にってくれるかもしれませんよ、 この子は人見知りもしないみたいですし」 いのり「……それは良いかもしれない」 いのりさんは携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。 ゆたか「すごい、今まで考えもしなかったのに、ありがとう」 そういわれると照れてしまう。その時だった、犬は稲荷寿司を食べ終わり私達から離れようとしていた。 ゆたか「待って!」 その言葉に犬は立ち止まった。 ゆたか「合わせたい人が居るからもう少し居て、いのりさん達に飼われてみたくない?」 暫くそのまま動かなかったが、私達の所に戻ってきた。 ひより「まるで言葉が分っているみたい……って言うより理解しているよ、これは……」 ゆたか「う、うん、実はね、私もそう思う事が何度かあって……まさか今回も戻って来てくれるとは思わなかった……でも、「待って」って言う声に反応しただけかもしれないし」 私達二人は犬をじっと見た。するといのりさんの陰に隠れるように移動した。 いのりさんは携帯電話をしまった。 いのり「かがみは今来る……まつりがまだ帰ってきていない、直接聞いてみたら明後日なら都合がいいみたい」 ゆーちゃんは喜んだ。いのりさんは犬を抱き上げた。 いのり「さて、どうなるかしらね、あとは君しだいだいだから、しっかりね」 犬はいのりさんを見ている。ゆーちゃんの言うようにこれだけではあの犬がお稲荷さんとは言えない。 もっといろいろ試してみたかったけど、 かがみ先輩とまつりさんが来るとなると直接試せない。かがみ先輩が来て犬がどんな反応をするのか、それで見極めるしかない。 暫くするとかがみ先輩が来た。 かがみ「貴女達は……小早川さん、田村さんまで……何故こんな所に……」 驚きの眼だった。私達は笑顔で答える。 ゆたか「一人……一匹の命が懸かっています、どうか助けてください」 かがみ先輩はいのりさんの方を見た。 かがみ「成るほどね……そう言うこと、いのり姉さんも考えたものね、感情に訴えて私を落とすつもりね……」 いのり「そんなつもりは……」 犬はかがみさんの近くに歩いて行った。そして尾っぽを振っている。かがみ先輩と犬の目が合った。 かがみ「……ちょっと、これ……本当に犬なの……これはどうみても……きつ……」 ゆーちゃんは慌ててかがみ先輩の口に割り込みを入れた。 ゆたか「犬、ですよね」 ゆーちゃんはいのりさんを見た。 いのり「犬でしょ」 ゆーちゃんといのりさんは私を見た。 ひより「お、尾っぽを振っていますね……犬以外考えられません……」 かがみ先輩は腰を下ろした。 かがみ「お手……」 かがみ先輩が手を出すと前足をかがみ先輩の手の上に乗せた。 かがみ「伏せ……」 何度かかがみ先輩の言う命令を難なくこなしていく犬だった。 驚いた。初めて会う人間にこれだけ忠実に命令を聞くなんて……私の心の中では既にこの犬の正体はお稲荷さんだと確信付けている。 かがみ先輩は犬の頭を優しく撫ぜた。 かがみ「……大人しくて、賢い犬ね……何か特殊な訓練でもしているのかしら……」 かがみ先輩は立ち上がった。 かがみ「……家でも吠えるような事も無さそうだし……私が反対する理由は無い……」 いのり「これで決まりね……」 私とゆーちゃんもほっと一息する間もなく、かがみ先輩は話しだした。 かがみ「……いや、まだよ、飼うには二つの条件があるわ、一つはまつり姉さんをどうにかする事、もう一つは、これだけ賢い犬をおいそれと捨てる飼い主は居ないはずよ、 探しているかもしれないわ、飼い主が居ないのを確認できれば文句は言わない」 いのり「……かがみらしい条件ね……わかった、まつりは明後日決着が付く、飼い主の件は……」 いのりさんは考え込んでしまった。 ゆたか「写真を撮って、町中に貼ればいいと思います……」 いのり「それは良い考え、町内の掲示板に貼り付ける、貼り付けの期限が丁度一週間だから、それまでに飼い主が名乗りでなければ……良いわね」 かがみ先輩は頷いた。私は携帯電話を取り出しレンズを犬に向けた。犬は私の方を向いて……ポーズを取っている様に見える…… 『パシャ』 かがみ「それじゃ私は帰るわ……田村さん、小早川さん、姉さんをよろしく」 かがみ先輩は帰って行った。 いのり「ふぅ、厄介な注文をつけるな、かがみは……」 溜め息をつくいのりさん。 ひより「はたしてそうでしょうか、かがみ先輩は言いました、この犬をおいそれと捨てる人は居ないって、逆に言えばこの犬は最初から飼い主が居ない確率の方が高いかも しれません……条件の一つはほぼ成立したと同じじゃないでしょうか、かがみ先輩もこの犬を飼いたくなったのでは、私はそう思いますけど」 いのり「……始め反対したからすぐには態度を翻せないって訳ね、素直じゃないね……」 そう、それがかがみ先輩。犬を見た時のかがみ先輩の目はもう「飼いたい」って訴えたように見えた。 ゆたか「飼い主探しのチラシ……私が作っても良いかな?」 ボソっと小さな声だった。 いのり「作ってくれるなら嬉しい」 ひより「撮った写真はゆーちゃんのメールに送っておくよ」 ゆたか「ありがとう」 いのり「ところで、明後日なんだけど……まつりはある意味かがみよりも厄介な相手、気まぐれで私にもどうなるか読めないところがある」 ゆたか「及ばずながら、立ち合わせて頂きます」 ひより「同じく」 いのり「二人が居てくれれば心強いな、成功したら何か御礼をしないとね」 ゆたか「あ、犬の名前決めておかないと、いつまでも犬じゃ可愛そう」 犬はお座りをしながら首を後ろ足で掻いていた。この辺りは犬そのものに見える。 ひより「……ポチ、チビ、が一般的なのかな……」 『フン!!』 犬が咳払いのような声を出した。 ゆたか「……そんな名前じゃ嫌みたい……」 いのり「名前は飼い主が現れなかったからでもいいじゃない、それからでも遅くない」 う~ん、この犬がお稲荷さんだとすと、必ず人間に化ける時が来るはず、そこを押さえれば正体を明かす事ができそうだ。 ゆたか「あと一週間、こんな状態が続く、また交通事故に遭うかもしれないし……」 いのり「……君、あと一週間、この倉庫を寝床にしてくれないかな、ここなら安全だよ」 いのりさんが犬に語りかけた。これは決定的な瞬間を見られるかもしれない。私は息を呑んで犬の次の行動を観察した。 犬は立ち上がると草むらの中に走って消えてしまった。これは……私が正体を暴こうとしているのを察知したのか。それとも今までが偶然だったのか…… ゆたか「行っちゃった……明後日、来てくれるかな……」 いのり「……さぁ、でも、今日来てくれたのだから、きっと来てくれるでしょ、でなきゃまつりの約束は無意味、飼う事も出来なくなる……」 いのりさんと別れて私達は駅に向かって歩いていた。 ゆたか「ひよりちゃん、どうだった、あの犬、お稲荷さんだと思う?」 ひより「……五分五分ってところかな……妙な所で犬みたいな行動するし……つかさ先輩が言うみたいに人間になる所を見ないとね……」 ゆたか「……私……あまり詮索しない方がいいと思うのだけど……」 ひより「どうして、分かったって何が変わる訳でもないよ」 ゆーちゃんは立ち止まった。 ゆたか「お稲荷さんは人間に正体を知られないようにしている、だから今まで表に出てこないと私は思うの、正体を知ったら……私達、消されちゃうかもしれない、 つかさ先輩も殺されかけたでしょ……中途半端な好奇心は危ないよ」 心配そうに私を見るゆーちゃん。 ひより「あの犬……狐が私達を殺すような仕草をしたかな」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ひより「私は結構意識してあの犬を見て、うんん、観察しているから向こうもそれに気付いているはず、でも、全く向こうは私に敵対してこない……そればかりか 正体を明かすヒントを出しているようにも見える、だから少なくともあの犬は私達を敵とは思っていない、これが私の見解」 ゆたか「で、でも……」 ひより「もう今更止められないよ、それに、あれの犬は本当に「ただの犬」かもしれないしね」 ゆーちゃんはゆっくり歩き始めた。 ゆたか「敵対していないのは分るとして、何で毎週のように神社に来て餌を食べにくるのかな……」 ひより「もしかしたら、ゆーちゃんかいのりさんを好きになっちゃたりして……」 ゆたか「えっ!?」 ゆーちゃんの顔が急に赤くなった。冗談で言ったつもりなのに。 ゆたか「そんなのは無いよ……」 ゆーちゃんの歩く速度が速くなった。私はニヤニヤしながら後を追った。 お稲荷さんと人間。確かにつかさ先輩の話しからすると何か良くない因縁を感じる。彼らもそう簡単には正体を見せてくれない。 いっその事直接聞いてみるのも良いかもしれない。その時、本性をあらわにして私の命を狙ってくるかも……好奇心は猫をも殺すって諺があるけど…… うんん、そんなの恐れていては何もできない。これはきっと良いネタになるに違いない。 それにしてもゆーちゃんは何故あの犬にこれほどまでに親身になっているのだろう。それともいのりさんの為なのだろうか…… いのりさんもあの犬には特別の想いでもあるのだろうか。私がコミケに参加していた間に何かがあったのかな…… 今日はもういのりさん、ゆーちゃんと別れてしまったから聞けない。分らないから想像する。だから楽しい。 それぞれの思惑が交錯して新たな物語が生まれる……これは面白くなってきた。 そして、三日後…… 少し早かったか。一本早い電車で来てしまった。神社で少し待つようになるけど……まぁそれはそれで良いか。 神社への道を歩いていた……何だろう、何か騒がしい。子供が騒いでいるみたいだ。もう夕方に近いからか。歩いていくと子供達の声が次第に大きく聞こえてきた。 近づいている。ふと声のする方を見てみた。数人の小学生くらいの子供達が集まって何かをしている。このご時勢に外で遊ぶ子供もいるな…んて……あれ? 子供の足の間から茶色い物が見えた。私は立ち止まって良く見てみた。犬、あの犬だ。子供に追い詰められてうずくまっている。 子供達は犬を囲うようにして棒で突いていた。俗に言ういじめってやつか…… 私が注意してはたして止めてくれるだろうか。子供と言っても数人ともなれば女の力で抑え付けられるかな……あまり自信はない。 棒で犬を突く。もう犬は怯えきって壁を背に丸まってしまった。子供は笑いながら更に棒で犬を突いていた。どんどんエスカレートしていく。見るに耐えない。 一人の子供がバットを持ち出して来た。これはまずい。私は子供達の所に駆け寄ろうとした時だった。 「こら、やめなさい!!」 私の後ろから怒鳴り声が聞こえた。子供達は私の方を向いた。私は後ろを振り向いた。女性だった。あれ……この女性は……見た事ある……思い出せない。 「そんな事をして楽しいの、放してあげなさい」 子供はその場を動こうとしなかった。女性は子供達の所に歩いて向かった。私を通り越し、子供の直ぐ近くに近寄った。子供達は黙って女性を見ていた。 女性は子供達を睨むと子供から棒を取り上げた。 「なにするんだよ!!」 子供が女性につかみかかろうとした。 『バシ!!』 女性は激しく奪った棒で地面を叩いた。鋭い眼光で子供達を睨んだ。その音で子供達は驚いて怯んだ。 「犬と同じ目に遭いたい子は出てきなさい」 一人の子供が逃げるように駆け出した。その子供を追うように他の子供達も走り出して逃げて行った。 「まったく最近の子供は……」 女性は棒を捨てるとうずくまっている犬に近づきそっと抱き上げた。犬はブルブルと震えていた。 「恐かったね、もう大丈夫だから」 優しい声……目も優しくなった。この目、誰かに似ている……つかさ先輩にそっくりだ。 あ、思い出した。この女性はまつりさんだ。やっと思い出した。 私は彼女に近づいた。 ひより「あ、あの~」 まつりさんは私の方を向いた。 まつり「あら……えっと、確か、かがみかつかさの友達だったね、どっちだっけ?」 ……いのりさんと同じ質問をしてくるなんて。やっぱり姉妹なんだな……。 ひより「二人とも友達ですけど……田村ひよりです」 まつり「田村さん……なんか凄い所を見せてしまったかな」 まつりさんは苦笑いをした。 ひより「子供とはいえ……なかなか出来る事ではないと思います」 まつり「ちょっとムキになり過ぎたか……」 まつりさんは犬を抱いたまま立ち上がった。 まつり「かがみは家には居ないけど何か用事でも?」 ひより「いえ、かがみ先輩ではなく、いのりさんに用事がありまして……」 まつり「姉さんに?」 まつりさんは首を傾げた。 ひより「まつりさんもいのりさんと約束していませんか?」 まつり「そうだった、これから神社に行って姉さんと会う約束をしていたっけ……それで何故田村さん姉さんに用事って」 ひより「犬をまつりさんに飼ってもらいたくて……」 まつり「かがみが急に犬を飼いたいなんて言い出すから、びっくりしたよ、つかさが居なくなってやっぱり寂しいのかね」 そう言うまつりさんも顔が寂しそうに見えた。 ひより「この前、つかさ先輩の働くお店に行きました」 まつり「え、本当に、で、どうだった、ちゃんとやってる?」 私に向かって身を乗り出してきた。なんだかんだ言ってまつりさんもつかさ先輩が心配なのか。 ひより「え、ええ、店長とも馬が合っているみたいで、楽しそうでした」 まつりさんは嬉しそうにも、悲しそうにも見える表情をした。そして抱いている犬を撫でながら話した。 まつり「姉妹の中でかがみが最初に家を出ると思っていたのに、つかさが出るとは思わなかった、つかさが居なくなって家が変わった、何かが物足りない、何が足りない、 分らない、つかさは家に居ても特に何をするって訳じゃなかったけど……」 甘えてくる妹が居なくなったからから。かがみ先輩は甘えるって柄じゃないよね。だから猫の方を飼いたいなんて言っているのかもしれない。 まつりさん。いつもかがみ先輩と喧嘩ばかりしているイメージだったけど、こうして会って話しをするとまた違った側面が見えてくる。 まつり「そろそろ行かないと待ち合わせの時間ね」 ひより「はい」 まつりさんは抱いていた犬をそっと地面に下ろした。 まつり「さぁ、行きなさい、今度は捕まるなよ」 犬はまつりさんを見上げたまま動こうとはしなかった。 まつり「どうした、早く行きなさい……」 犬はまつりさんの足元にぴったりと付いて離れなかった。まつりさんは溜め息をついた。 まつり「さて、どうしたものか」 ひより「あの、その犬が飼ってもらいたい犬です……」 まつり「え?」 まつりさんは驚いて私を見た。 ひより「その犬も待ち合わせの場所に行こうとしていたのかもしれません」 まつりさんは犬を暫く見るとまた抱き上げた。 まつり「しょうがない、連れて行こう」 ひより「はい」 私は神社の待ち合わせの場所に行くまでにこの犬と出会ってからの経緯をまつりさんに説明した。まつりさんは熱心に私の話しを聞いていた。 もちろんお稲荷さんの話しは話さない。ゆーちゃんと約束したから。 待ち合わせ場所に着くと既にゆーちゃんといのりさんが居た。あ、あれ、もう一人居る。男性だ。見たことも会ったこともない人だ。誰だろう。歳は三十くらいだろうか? まつり「おまたせ~」 私とまつりさんは男性を見た。男性は軽く会釈をした。それに合わせて私達も会釈をした。 まつり「だれ?」 ゆたか「こちらは、私がお世話になっている整体の先生で佐々木すすむさんと言います、そしてこちらが柊まつりさん、私の友達の田村ひよりさんです」 ゆーちゃんが通っている整体の先生だって。通りで知らないはず。でも何故そんな先生がこんな所に来るのか。私はゆーちゃんの顔をじっと見た。 ゆたか「迷子の犬のポスターを貼ってもらおうと先生にお願いにしましたら、先生がその犬の飼い主だと分りましたので……引取りに来ました」 すすむ「うちの子が迷惑をかけてすみませんでした……」 佐々木さんは深々と頭を下げた。ゆーちゃんはまつりさんの抱いている犬に気が付いた。 ゆたか「コンちゃん……まつりさんが何故抱いているの」 まつりさんの抱いている犬を見てそう言った。 コン……コンってこの犬の名前だろうか。コン。この名前はどうしたって狐を連想させる。 いのり「狐によく似ているからそう名付けたそうよ、出来れば私達で飼いたかったけど、飼い主が現れたとなれば返すしかない……で、何故まつりがその犬を?」 まつり「近所の子供達にいじめられているのを田村さんと助けた」 私と助けたって、そんな事はない……私は何もしていない。まつりさんが居なかったらはたして私はコンを助けていただろうか。 すすむ「重ね重ねすみませんでした」 まつり「どうして犬を放すような事をしたの、可愛そうに、さっきまで恐怖で震えていたよ」 まつりさんは佐々木さんを見て少し怒り気味だった。その気持ちは私も分る。佐々木さんはただ頭を下げるだけだった。 いのり「散歩中に雷雨があって、その雷鳴に驚いて逃げ出してしまった、もうその位にしなさい、まつり」 まつり「だって、姉さん……」 まつりさんのトーンが下がった。そして少し悲しい顔になった。 いのり「今度はしっかり放さないようにしてください……さぁ、まつり、コンを……」 まつりさんはコンをギュっと力強く抱きしめたように見えた。そうか、怒ったのは佐々木さんがコンを放したからじゃない。飼い主が現れて、コンを飼えなくなったから。 そんな風に理解した。 まつりさんはためらう様にコンを地面に置いた。 まつり「飼い主の所に行きなさい……」 コンはまつりさんをじっと見ていた。佐々木さんは散歩用のリードを取り出した。首輪に付けるタイプじゃないのか。前足を襷の様に固定するタイプ。犬の首に負担がかからない から最近ではこれが主流。佐々木さんはコンに近づいた。コンもそれに気が付いた。コンは素早くまつりさんの後ろに廻り込んでしまった。 すすむ「どうしたかな、このリードを見るといつも喜んでいたのに……コン、帰るぞ、さあ、おいで……」 佐々木さんの声にコンは何の反応も示さなかった。おかしいな。あんなに賢い犬なのにどうして……あれじゃ佐々木さんが飼い主じゃないみたい……まさか ひより「もしかして、この前の車に轢かれそうになった時のショックで記憶喪失になったかもしれない……」 皆は私に注目した。 ひより「こんなに賢い犬なら、一度はぐれても家に戻ると思います、現にこの倉庫に何度も来ていますし、それに飼い主を見ても喜ばない犬なんて聞いたことないです」 いのり「そうね、かがみも何故帰らないのを不思議がっていた、田村さんの推理も結構合っているかもしれない」 まつり「この犬、本当にコンなの、間違えじゃないでしょうね」 いやいや、それはない。こんなに特徴のある犬を見間違いするはずもない。 すすむ「間違えはないです、間違いなくコン」 私は聞き逃さなかった。佐々木さんがその直後「まなぶ」とコンを見ながら小声で言った。私はピンと感じた。この犬の名前はコンではない。 「まなぶ」と言うのが本当の名前。佐々木さんはコンが飼い犬であるかのような振る舞いをしている。すると自ずと結果は導き出される。 コンはつかさ先輩が出会った真奈美さんと同じお稲荷さん。そして、佐々木さんはコンがお稲荷さんだと知っている人……いや、まて、 佐々木さんもお稲荷さんって可能性もある。ゆーちゃんを呼吸法だけで元気にした人。いくら整体の先生でもそんな方法を知っているなんて考えられない。 考えれば考えるほど怪しい…… ゆたか「ひよりちゃん」 絶対に真実を突き止めてみせる。 ゆたか「ひよちちゃん、聞いている?」 ゆーちゃんの声に私は我に返った。 ひより「はぃ、何でしょうか?」 ゆーちゃんは頬を膨らませて怒り気味だった。 ゆたか「これからどうしようって話しをしているのに、真面目に聞いて」 皆を見ると腕組みをして考え込んでいた。 ひより「す、済みません、何も聞いていませんでした」 いのり「コンが佐々木さんの言う事を聞いてくれない、無理に連れて行くのもどうかと思う、でも、このままだとまた子供達に悪戯されるか、 交通事故に遭ってしまう事だって考えられる、」 私が妄想に耽っている間に話しは進んでしまったみたい。 ゆたか「私は連れて帰ってもらいたい、住んでいる家、町並みを見ればきっと記憶が戻ると思う」 強行するは無理があるかもしれない。 ひより「記憶が戻らなかったら、またこの倉庫に戻って来ちゃうかも?」 ゆーちゃんは溜め息をついて肩を落とした。 まつり「それなら、私がコンを記憶が戻るまで預かります、それなら悪戯や事故は回避できるでしょ、それに、佐々木さんも私の家にくればコンと何時でも 会えるから安心できる……どう、この考、姉さん」 いのり「えっ、あ、わ、私は別に構わないけど、佐々木さんはどうです?」 あれ、いのりさんが動揺しているように見える。どうしたのだろう。 佐々木さんは暫く考え込んでいた。 すすむ「ご迷惑ではないですか、コンはこう見えてもわがままで……贅沢をさせてしまったせいかもしれませんが」 いのり「コンの好物は知っています、わがままなのは一人家にも居ますから問題ないと思います」 まつり「ちょっと、姉さん……その一人って誰よ」 佐々木さんは笑った。そしてリードをいのりさんに渡した。 すすむ「それではお言葉に甘えさせて頂きます、コンをよろしくお願いします」 佐々木さんは深々と頭を下げた。まつりさんはコンを抱き上げた。 まつり「さて、これからよろしくね、コン」 まつりさんとコンは見つめ合っている。なるほどね。条件があるけど。これでコンを柊家で飼えるのか…… いのりさんの方を見てみると…… いのり「あの……覚えていますか、地鎮祭の時、私居たのですが……」 すすむ「地鎮祭……はて、確かにそれはしましたが……あ、その時来ていた巫女様が……」 いのりさんは頷いた。 すすむ「いやいや、服が違うと全然分らないですね……」 照れ笑いする佐々木さん。この二人、会うのは初めてじゃないのか。それにしても良い雰囲気。歳もそんなに離れていないみたいだし…… 後ろからツンツンと背中を突かれた。振り向くとゆーちゃんだった。 ひより「なに、どうしたの」 ゆたか「もう私達の役目は終わったね、帰ろう」 ひより「役目って……ゆーちゃん、まだコンの記憶が戻っていないし、正体だって」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「まだそんな事言って……どう見てもコンは犬、間違えようがないよ」 ひより「い、いや、私の推理だとコンは……」 ゆーちゃんは私を振り切るように話しだした。 ゆたか「私達は帰ります、コンちゃんの記憶が戻ると良いですね」 いのり「ありがとう、小早川さん、田村さん」 まつり「後は私に任せておいて、しっかりやっておくから」 佐々木さんは私達に頭を下げた。ゆーちゃんは会釈すると神社の出口に向かって歩き出した。私はここに居る理由が無くなってしまった。 私も会釈するとゆーちゃんの後を追った。 神社を出て駅に続く道に差し掛かった頃だった。私はゆーちゃんに声をかけた。 ひより「ゆーちゃん、私はただ真実が知りたいだけだったのに……あんな別れ方したら……」 ゆたか「真実を知ってどうするの、仮に、コンちゃんがお稲荷さんだったとしたら、ひよりちゃん、どうするの」 ひより「どうするって……そう言われると……」 ゆーちゃんは立ち止まった。私もその場に止まった。 ゆたか「コンちゃんが何かしたの、誰にも迷惑かけていないのに……そっとしてあげようよ……」 ゆーちゃんの目が潤み始めた……私のしている事はそんなに酷いことなのかな。 ひより「お稲荷さんの全てが悪いなんて言っていない、真奈美さんは違ったでしょ、だから……」 ゆたか「ひよりちゃんの分からず屋!」 甲高い声で怒鳴った。ゆーちゃんが怒る姿を見たのは……二度目かな。でも直接怒らせたのは初めてか…… ゆーちゃんはそのまま駅の方に走り去って行った。 このまま歩いても駅でゆーちゃんに会ってしまう。電車を一本遅らせるかな…… 家に戻り自分の部屋に着いた。携帯電話を充電しようとしたら。メールの着信があるのに気が付いた。ゆーちゃんからだった。 『さっきはごめんさい』 メールにはそう一言書いてあった。ゴメン、ゆーちゃん。 一度点いた好奇心の火はそう簡単に消えない。許して…… 佐々木整体院……ここだ。 私は佐々木さんの経営している整体院の目の前にいた。見た所ごく普通の整体院…… 休院日は毎週土日……今日は日曜日だからお休み。それをわざわざ選んで来た。ゆーちゃんの言うように私達が陸桜を卒業した頃から創業をしている。 評判は上々。遠くからも客が見えるほどの繁盛ぶり。きっとゆーちゃんもそんな好評からこの整体に通うようになったに違いない。 もっとも泉家からさほど離れていない所もゆーちゃんの条件に合ったのかも知れない。 もちろん佐々木すすむさんについても調べてみた。 柔道、空手、合気道……一通りの武道の有段者、私の見た限りではそんな武道をやっているような筋肉質な体には見えなかった。 月に数度、近所の道場で指導をしているらしい。しかし、そこまでの人なのに一度も大会に出場していない。出場していなから記録も残っていない。 私の調べられる所はそこまで。出身地、卒業した学校などは分らなかった。 もし私の推理が正しければ佐々木さんもお稲荷さん。何か証拠があれば。そんな期待をしながらここにやってきた。 こうして整体院の前に突っ立っているだけじゃ何も分らない。私は性退院の周りをゆっくりと一周してみた。別段変わった様子はない。 それは当たり前。どうやって調べよう。まさか黙って入る訳にもいかない。 呼び鈴を押して取材だって言えば入れてくれるかな。全く知らない人じゃないし。よし、この作戦で行こう。 整体院のすぐ隣に佐々木家の玄関があった。私は呼び鈴を押そうとした時だった。何かが私の横を横切った様な気配を感じた。呼び鈴を押すのを止めて 気配のする方に歩いて行った。整体院の裏の方に気配は動いていったような気がした。ゆっくりと近づく。そこに居たのは狐だった。 コンなのかな、いや、コンより少し大きいようなきがする。狐は辺りをキョロキョロと警戒している。私は息を潜めた。安心したのか、狐は警戒を解いたみたい。 そのまま動かなくなった。そして、次の瞬間。狐の体の周りから淡い光が出たかと思うと見る見る大きくなって……人の形に……そして……佐々木さんになった。 やっぱり私の勘は正しかった。佐々木さんはお稲荷さんだった。もう用は済んだ。帰ろう……ゆっくりと後ろを振り向いた。 私の目の前に佐々木さんが立っていた。そんな筈はない。さっきまで整体院の裏にいたのに。 すすむ「見てしまったね」 静かな口調だったけどとても重みを感じる。私は言い訳を考えていた。とりあえず何か言わないと……あ、あれ……声が、出ない。そして、身動きも取れなかった。 私は佐々木さんの目を見ていただけだった。まさか、これがつかさ先輩の言っていた金縛りの術ってやつなのか。今更気が付いても遅い…… すすむ「見てしまったのなら仕方が無い、可愛そうだが……口封じをさせてもらうよ」 佐々木さんの手の爪が伸びていく。私はこのままあの爪で切り裂かれるのか。好奇心は死を招くって……恐い、怖いよ……助けて、ゆーちゃん、みなみちゃん……つかさ先輩。 すすむ「大丈夫、急所を一突きだから、一瞬だよ」 声が出ない。呼吸がヒューヒューとするだけだった。目も閉じられない。佐々木さんの目を見ているだけだった。彼の手が高く上がった。そして振り下ろされた。 『ギャー』 ひより「はぁ、はぁ、はぁ」 ここは私の部屋……そしてベッド……冷や汗でパジャマがグッショリ濡れていた。夢だった…… もうこの夢は三回目だった。見る度に恐怖が私を襲う。時計を見ると午前5時……起きるには早いけど、寝るものも中途半端な時間。いや、もう眠ることなんか出来ない。 シャワーでも浴びよう…… 佐々木さんの家に取材に行こう。そう決めた前日からこの夢を見るようになった。とてもリアリティがある夢で私が殺されかけようとする所で目が覚める。 この夢は私の好奇心への警告なのか。それともただの悪夢なのなか。ゆーちゃんの言うように私は触れてはいけない物を調べているのかな。 「知ってどうするの」 ゆーちゃんはそう言った。漫画のネタにするには重過ぎるし、私の趣味にも合わない。 好奇心。言ってみればそれだけ。動機がない……命を懸けてまで調べるものではないのかも。好奇心が薄らいでいく自分を感じていた。 この夢を見てから私は神社にも柊家にも行っていない。コンの状態はゆーちゃんから聞くしかなかった。 話では二ヶ月ほどしたら散歩用のリードを見て記憶が戻ったらしく佐々木さんが引き取りに来たって言っていた。佐々木さんを見るなり喜んで飛びついたそうな。 コンとの別れの時、まつりさんの悲しみ方はゆーちゃんにも伝わってくる程だったらしい。それから先の話しはしていない。いや、しなくなった。 時が経つに連れて悪夢も見なくなっていった。 これで狐の一件は全て終わった…… ひより「泉先輩がつかさ先輩に誘われた?」 頷くゆーちゃん。 今日は久しぶりに三人が集まり、食事をしながら近況の話しをしていた。 みなみ「泉先輩の卒業後の就職先は?」 ゆたか「決まっていない……と言うか、全く就職活動してなかった、おじさんも心配になって居た所に……つかさ先輩からの誘いが来た」 ひより「それで泉先輩は返事したの?」 ゆたか「明日返事をするって言っていたけど……」 ゆーちゃんはその先を言わなかった。 みなみ「就職先がないのなら断る理由はないと思う、お店の経営も順調と聞いている、泉先輩も飲食店で働いた経験があるから問題ないと思う」 飲食店ね……少し違うけど、経験があるのは確か。どうもゆーちゃんは浮かない顔をしている。 ひより「どうしたの、さっきから元気ないよ」 ゆたか「う、うん……」 俯いてしまった。 ひより「もしかして、泉先輩と別れるのが嫌なの?」 ゆたか「えっ、そ、そんなんじゃないよ……」 みなみ「行く、行かないは泉先輩が決めること、雑音を出すと泉先輩が迷ってしまう」 ゆたか「そうだね……」 泉先輩とは陸桜を卒業してからも交流してきた。その友達である、柊姉妹、高良先輩、日下部……あやの先輩は結婚したのだった。 それにしても泉先輩が誘われているなんて初めて聞いた。ほんの数日前にも会ったばかりなのに教えてくれないなんて。 泉先輩とつかさ先輩が同じ職場で働くなんて想像もしていない。まだ決まっていない話しだけど、むしろ泉先輩はかがみ先輩の方が親しいと思っていたけど 意外だったな…… もっとも仕事とプライベートは違う、親しすぎるとかえって仕事がうまく行かないって聞いたことがある。 ひより「そういえば高良先輩も大学院に進学って聞いたけど」 みなみちゃんは頷いた。 ひより「私達も二年後には卒業だよ」 みなみ「ひよりは漫画家になるって言っていた」 ひより「ははは、それは夢であって現実的にそれで食べていけるとは思っていないよ」 みなみ「夢は出来ないと思った時点で覚めてしまう物、漫画なら別の仕事をしていても描ける、腕さえ使えれば歳をとっても描ける」 何時になく真面目な顔で答えるみなみちゃんだった。これでは私もふざけた対応はできなくなってしまった。 ひより「そう言ってくれるのは嬉しいけど……才能がね……」 みなみ「かがみ先輩に焼かれた本……私達が題材になっていた、だから皆が怒った、それを除けばとても良い作品だった、続きが見たい」 ゆたか「私……そこまで詳しく内容までは見ていなかった……」 みなみちゃんが私を褒めるなんて初めてだ。それはそれで嬉しいけど……もうあの漫画は無い。 それに、ゆーちゃんもあまりこの件に関しては話したくなさそうだし、話しを元に戻そう。 ひより「ところで泉先輩がつかさ先輩の所に行くとなると見送りをしないとね」 ゆたか「まだ決まっていないよ」 なるほどね、ゆーちゃんは泉先輩が家を出て行くのが寂しいのか。寂しげな答え方がそれを物語っている。いや、決まっていないなんて言い方は家を出るのを反対しているのでは。 確かめても良いけど、みなみちゃんの前では素直に答えてくれそうもない。 ひより「そうだね、私も泉先輩が居なくなるのは寂しいな」 ゆーちゃんはその後、何も言わなくなってしまった。 私とみなみちゃんで楽しい話題してみたが効果はなかった。 それから一週間もしないうちに泉先輩はつかさ先輩の所へ引っ越すことになった。 引越しの当日、皆が見送りに来る前の早朝に泉家を訪れた。泉先輩に呼ばれたからだ。 ひより「しかし、おじさんもよく承知しましたね、反対しなかったっスか、大事な一人娘を結婚もしないうちに外に出すなんて」 こなた「ん~確かにね、ゆーちゃんとゆい姉さんが居なかったら実現しなかったかもね」 あれ、一週間前とは様子が違う。ゆーちゃんは反対しなかった。それとも何か心境の変化でもあったのだろうか。 こなた「実ね、これはつかさには内緒なんだけど、峰岸さんからも誘いが来ていたのだよ」 ひより「先輩、あやの先輩は結婚したっス」 こなた「あっと、そうだった、そうだった」 笑ってはぐらかす泉先輩。 あやの先輩は日下部先輩のお兄さんと大学を卒業すると同時に結婚をした。泉先輩も式に出席したはずなのに。 そういえばあやの先輩はホテルの喫茶店に就職したって聞いたけど。 ひより「それで、何故つかさ先輩の所に、あやの先輩の店なら実家から通勤も可能だったのでは?」 泉先輩は立ち上がり部屋の窓を開けて外の景色を見だした。 こなた「つかさは変わったよ、これも一人旅をしたせいかな、ふふ、帰って来てかがみに抱きついて大泣きしたってさ、私の思った通りにはなったけど、 でもそれはもっと違った意味の涙だった……ところでひよりん、つかさからお稲荷さんの話しは聞いているかい?」 私は頷いた。 こなた「つかさはお喋りだから話すとは思った、それなら話しは早い、私もつかさの旅に同行したいと思った……それが理由だよ」 ひより「確かにコミケ事件ではつかさ先輩に助けられたっス、卒業して一番変わったのがつかさ先輩かも」 泉先輩は笑った。 こなた「ふふ、相変わらず天然は治っていないけどね」 つかさ先輩の旅と同行か、私もそんな旅をしてみたいものだ。 ひより「ところで先輩、私を朝早くから呼んだのは何故ですか」 泉先輩は窓を閉めて私の目の前に座った。 こなた「呼んだのはね、ひよりんにミッションを頼もうと思ってね」 ミッション、懐かしい響きだ。高校を卒業してから先輩からその言葉を聞くのは初めてかもしれない。コミケ事件でかがみ先輩からこってり扱かれてからは私も 先輩も取材をしなくなった。 ひより「ミッションっスか、して、何を?」 こなた「かがみを少し見張っていて欲しくてね」 ひより「かがみ先輩をですか、でも、泉先輩と言うジャンクションがあったからかがみ先輩と会えましたけど、それが無くなると、なかなか機会がないっス」 こなた「最近のかがみは少し変わった、呪いのせいかもしれない」 ひより「のろい?」 泉先輩は激しく動揺しているように見えた。 こなた「い、いや、こっちの話し」 私は腕を組んで考えた。かがみ先輩とどうやって会うのかを。 こなた「そんなに考え込む必要はないよ、普段通り玄関のベルを鳴らして会えばいいじゃん、かがみもお喋りは嫌いじゃないから付き合ってくれるって」 ひより「まぁ、やってみます、それにしても何故かがみ先輩を、先ほどの呪いがどうの言っていましたけど」 こなた「二年前、レストランかえでに三人で行った時に真奈美の弟が現れてね……ひと悶着あったのさ、よりによってつかさがその人を好きになっちゃってね……」 泉線はその後の話しにブレーキをかけるようにして止めた。 ひより「真奈美ってお稲荷さんの事ですよね、面白そうな話っス」 こなた「い、いや、ごめんこれ以上は話せない」 私は何度か泉先輩の話しを引き出そうと促したが効果はなかった。ここまで頑なに話そうとしない泉先輩は初めてだった。 つかさ先輩の話しはあれで終わりじゃないみたい。それは泉先輩を見て解った。 『ピンポーン』 こなた「あ、もうこんな時間じゃないか、かがみ達が来ちゃったよ、とりあえずミッションの件はよろしくね」 泉先輩は呼び鈴を聞くと慌しく部屋を出て行った。私もその後を一呼吸置いて追った。 部屋を出た頃、泉先輩は既に玄関を出ていた。廊下を歩いて玄関に向かうと丁度ゆーちゃんも玄関に向かっていて鉢合わせになった。 ゆたか「お姉ちゃんと話しは終わったみたいだね」 声は寂しげだった。だけど表情は何か吹っ切れたような爽やかさを感じる。一週間前とは大違いだ。 ひより「うん」 私が頷くとゆーちゃんは靴を履きドアを握った。 ゆたか「行こう、送ってあげないと」 ひより「うん」 それでもやっぱりゆーちゃんは悲しそうな顔だった。辛いのを必死に堪えているようだった。 玄関を出ると目に前に車が停まっていた。新車だ。運転席側のドアに泉先輩がいる。どうやら泉先輩の車のようだ。その泉先輩を囲んで成実さん、かがみ先輩、高良先輩、 みさお先輩が居る。辺りを見回すとおじさんの姿が見えなかった。そういえば家の中にも居なかったような気がする。それにあやの先輩の姿も見えない。 ひより「おじさんは?」 ゆたか「昨日、お別れをしたから良いって……」 そう言うとゆーちゃんは泉先輩の元に駆け寄って行った。何となく昨日の風景が想像できた。泣きじゃくる姿は他人には見せたくないのかな…… ゆたか「こなたお姉ちゃん、いってらっしゃい!!」 力の籠もった元気な声だった。今までのゆーちゃんの表情を知っている私から見れば余計に悲しく見えてしまう。そんなゆーちゃんの心境を知ってか知らずか、 泉先輩は皆に愛嬌をふりまいていた。 みさお「これはちびっ子の車のなのか」 頷く泉先輩。 こなた「そうだよ、餞にお父さんが買ってくれたんだ、田舎だと車が足になるからね」 みさお「まぁ、頑張ってこい、つかさによろしくな、たまには帰ってこいって」 高良先輩が包装された箱を泉先輩に渡した。きっと餞別だろう。 みゆき「暫く合えませんね、頑張ってきて下さい」 泉先輩は物欲しそうにかがみ先輩の顔を見た。 かがみ「何もないわよ、こうして来ただけでもあり難く思いなさい」 冷たくあしらうかがみ先輩。 こなた「これから妹の所に手伝いに行くというのに、なんて態度なのかな~」 かがみ「そのつかさと同居するのでしょ、引越しの荷物はもう送ったのか」 首を横に振る泉先輩。 こなた「車に積んであるよ、ディスクトップパソコン、ノートパソコン、ゲーム機一式に着替え一式……以上」 かがみ「おいおい、それだけなのか、つかさの物を使う気満々だな、パラサイトかよ、」 こなた「食器や照明はあるって言っていたしお風呂は天然温泉……制服は支給、それに家賃、光熱費、食費はちゃんと半分払うことになっているから大丈夫だよ」 かがみ「何を得意げに言っているのよ、それは最低限の事でしょうが!!」 相変わらずの二人の受け答え。当分これが見られなくなるのも少し寂しい。 かがみ先輩は変わったって泉先輩が言っていたけど、こうして見ていると何も変わった様子はない。いったい泉先輩はかがみ先輩の何が変わったと思っているのだろうか。 私が知らない間に泉先輩達はレストランに行ったみたいだけど。その時に起きた出来事と関係しているのだろうか。泉先輩は途中で話すのを止めてしまった。 ミッションを頼むならもっとちゃんと話して欲しかった。 ん、まてよ、かがみ先輩や高良先輩に聞くのも良いかもしれない。もっとも泉先輩が話すのを止めるくらいだから聞き出すのは至難の業かもしれない。 あれこれ考えているうちに泉先輩は車に乗り込み出発体勢になった。エンジンをかけるとウィンドーを開けて皆に笑顔を振り撒く泉先輩だった。 ゆーちゃんは目に涙を一杯溜めていた。やはり別れって辛いものかな。 ゆたか「お姉ちゃん」 ゆい「こなた……」 ゆーちゃんと成実さんが窓に、泉先輩の近くに駆け寄る。 こなた「それじゃ、行って来るよ」 二人とは対照的に無表情な泉先輩。泉先輩は寂しくないのかなと思った時だった。ウィンドーを閉める瞬間、泉先輩の目にも光るものを見たような気がした。 車はゆっくりと動き出し徐々に速度を増しながら私達から離れていった。そして、車は私達の視界から見えなくなった。 かがみ「こなたの奴、どうなるか心配だわ」 溜め息をするかがみ先輩。 みさお「つかさがやってこられたのだから大丈夫じゃないの」 かがみ「つかさは好きな仕事をしているのだから問題ない、こなたはつかさに誘われて行った、だから心配なのよ、あの松本店長との相性もあるしね」 松本さんとの相性は問題ないと私は思った。 みゆき「それは大丈夫だと思います、かがみさんが一番分っていると思いましたが」 かがみ先輩は何も言わず目を閉じてしまった。松本さんとかがみ先輩に何かあったのだろうか。 みゆき「今は見守るだけですね……私はこれで失礼します」 会釈をすると高良先輩は駅の方に向かって歩き出した。そして、みさお先輩も後を追うように帰って行った。 ゆーちゃんがうな垂れて肩を震わせていた。耐え切れなくて泣いてしまったのだろうか。成実さんが側に居て慰めている。私も何か言ってあげようと二人の所に向かおうとした。 後ろから肩を軽く叩かれた。振り向くとかがみ先輩だった。かがみ先輩は首を横に振った。 かがみ「そっとして置きましょう」 ゆーちゃん達に聞こえないようにしたのだろうか、小声だった。 ひより「は、はい」 私もそれに合わせように小声で答えた。かがみ先輩は駅の方向を指差した。私達は二人に気が付かれない様に駅の方に歩き出した。 かがみ先輩と二人きりで帰るなんて高校時代でもなかった。必ず泉先輩かつかさ先輩もしくは高良先輩が一緒に居た。こんな時どんな事を話せばいいだろう。 ひより「あ、あの、松本さんと何かあったのですか」 駅まで中ほどまで歩いた頃、私はかがみ先輩に質問をした。かがみ先輩は立ち止まった。やばい、気分を損ねてしまったかも。もっと気の利いた話をすればよかった。 かがみ「さっきみゆきが言っていた事を聞いているの?」 ひより「はい」 意外だった。かがみ先輩はその場で話し始めた。 かがみ「ふふ、私は彼女に喧嘩を売ったのよ、二年くらい前になるかしら」 ひより「喧嘩を……ですか、どうしてです、松本さんと馬が合わなかったとか……」 かがみ「つかさを守るため、そう、それが大義名分だわ、でもね、それはあくまで表向き、本当は悔しかった……つかさとあれほどうまくやって行けるなんて、 つかさを知っているのは私意外に居ないと思っていた、思い上がりだったわね……これが嫉妬ってやつだった、 その想いを思いっきり彼女にぶつけた、でもね、彼女は冷静だった、逆にコテンパンにされたわ…… 私より二枚も三枚も上手だわ、くやしいけどこなたの言動には手を焼いていた事もあった、松本さんならそんなこなたをうまく指導してくれるかもしれない」 あれ、かがみ先輩って自分の弱みとか失敗なんかを人には話さないって誰かに聞いたな。見栄っ張りだって。それは高校時代から分かっていた。 泉先輩に突っ込むのも、つかさ先輩の世話を焼くのも、失敗すると必至に弁解するのもそれがあったからだと思っていた。 でも、今そこにいるかがみ先輩は違う、なんの躊躇いもなくそれを私に話している。昔のかがみ先輩ならこんな話は自分からしない。確かに泉先輩の言うようにかがみ先輩は 変わった。 かがみ「変な話をしたかしら」 ひより「い、いえ、そんな事はないっス」 人が大きく変わる時ってどんな時だろう、死ぬような思いをした時、感動した時……恋をした時……まさか。でもそれは有り得る。 かがみ先輩ともう少し話をしたい。どうやって。考えろ、田村ひより!! ひより「か、かがみ先輩」 かがみ「何かしら?」 私が妙に改まってしまったのでかがみ先輩はすこし身構えたように見えた。 ひより「えっと、コンを預かってから佐々木さんの所へ戻るまでの経緯を聞きたいのですが」 しまった。私は何を聞いている。もう少しマシな話は無かったのか。 かがみ「コン、佐々木さん……あぁ、記憶喪失だった犬の話ね……コンはまつり姉さんが餌から散歩まで殆ど世話をしていたから、詳細は分からないわ…… 何故今頃になってそんな話を?」 ひより「今度描く漫画の題材にしようかと……」 漫画の題材。そんな漫画なんか描いていない。咄嗟に出た嘘だった。 かがみ「……面白そうね、こなたが介入しないなら協力するわよ」 かがみ先輩が引っ掛かってくれた。もうこのまま流れで行くしかない。 ひより「泉先輩は先ほど引っ越してしまいました」 かがみ先輩は笑った。 かがみ「それもそうだ、取材なら家に来てまつり姉さんと話すと良いわ、私が取り合うから田村さんの都合のよい日時を教えて……」 トントン拍子に話は進んで行った。これで私は柊家に行く正当な理由が出来た。まつりさんに会うと言う事は必然的にかがみ先輩にも会える。 ミッションもその時に履行すれば良い。 駅の改札でかがみ先輩と別れる事になった。 かがみ「それじゃ取り敢えずまつり姉さんに伝えておくわ、連絡がなければ予定通りでね」 ひより「はい」 私は会釈をしてホームに向かおうとした。 かがみ「ちょっと待って」 私は立ち止まりかがみ先輩の方に向いた。 かがみ「余計なことかもしれないけど、みなみちゃんが見えなかったけど何かあったの?」 そういえば気が付かなかった。 かがみ「今のゆたかちゃんに一番必要な人物だと思ったけど、喧嘩でもしていないわよね」 ひより「それは無いと思います」 かがみ「そうよね、そうだったらみゆきが何かしているわよね、やっぱり余計な事だった」 かがみ先輩は手を振ると私とは別のホームに向かって行った。 みなみちゃんが来なかったのはゆーちゃんと何かがあったから? そんなはずはない。この前だって普通に接していたし。それでは何故来なかったのか。 みなみちゃんと泉先輩は高校時代からそんなに親しくなかったかな…… 高良先輩がもし泉先輩と同じように引っ越したら、私は見送りに行かないかもしれない。そんな感じかな…… さて、そんなのはどうでもいいや。忙しくなる。帰ったら取材の準備だ。 家に帰ると直ぐに自分の部屋に入った。そして押入れの奥から鞄を引っ張り出した。 コミケ事件から封印した取材用の鞄。取材用といってもノートと筆記用具くらいしか入っていない。昔はよく持ち歩いてネタが閃いたら即この鞄からノートを出して メモをしたものだ。ちょっと懐かしいな。鞄を開けて中身を取り出そうとした。 『ゴトン!!』 何かが鞄から落ちた。足元に小さな黒い塊……よく見るとボイスレコーダーだった。私はそれを拾い上げた。何故こんなものが中に。誰のだろう。 泉先輩……いや、泉先輩はこんな物は使わない。こうちゃん先輩……借りた覚えはない。こんなに時間が経っているのだから『返せ』って言われているはず。 まったく分からない。 『カチ』 あ、ボタンを押してしまった。 『○○年○月、ついに私はレコーダーを買った、これでノートを開く間にネタを忘れてしまう事は無くなるだろう、レコーダーの性能に期待する』 この声は……私。 再生ボタンを押したみたいだった。 私はレコーダーを買った。いくら安くなったとは言っても学生である私が忘れるような値段じゃない。それに言っていた年は二年前…… 私は二年前にボイスレコーダーを買った……まったく覚えていない…… 『○○年○月○日正午、私は佐々木整体医院の目の前に立っている、見たところどこにでもありそうな整体医院、調べた所によると今日は休院日、調査には絶好の日だ』 再生は続いていた……佐々木整体医院……ま、まさか、そんなはずはない……夢の中の出来事だったはず。 『もう少し調べたい、家の裏に廻ろう……ガサ・ガサ……』 何か音がしている。何だろう。私は息を呑んで次の音を待った。 『見てしまったね……』 思わずレコーダーのスイッチを切った。 これは夢で見た出来事じゃないか……い、いや、あれは夢ではなかった。最後の声は佐々木さんの声だった。間違いない。 私は二年前、夢と同じように佐々木さんの家に行って調べていた…… でも夢とは違うところが一つだけある。私は生きている…… 何故…… ボイスレコーダーが意味するもの。佐々木さんの正体はお稲荷さん。おそらくコンもお稲荷さんに違いない。秘密を知ってしまった者は消されてしまう。 それは昔話からでも想像できる。でも私はこうして生きている。それも記憶を消されて。そして夢は警告なのか。 今度また調べるような事をすれば夢のようになるぞ…… いや待て、それならば記憶を消す必要はない。夢で脅せばそれで済むのでは…… まつりさんの所に取材に行く前に確かめなければならい。そうでないと私がコンの事を調べていると知られたらまつりさんも大変な事になってしまう。 私の心の中に再び湧き出した好奇心。それは恐怖では消えない。何故なら目的が出来たから。 次の日、大学の帰りに佐々木整体院に寄った。時間は診療時間が終わる時間。時計を見て確認した。 佐々木整体院。夢で見た建物と全く同じ造り。私の推理が正しいのを裏付けている。整体院の玄関から最後の客が出て行く。もう、後戻りは出来ない。 私は大きく深呼吸した。そして整体院の玄関ではなく、住居側の玄関の前に立った。 もうコソコソはしない。正々堂々とする。隠れる必要なんかない。 呼び鈴を押した。 『ピンポーン』 家の中にチャイム音が響いた。暫くすると扉が開いた。 すすむ「すみませんね、もう診療時間は……」 佐々木さんは私の顔を見るなり固まってしまった。そして数秒間私をじっと見ていた。 すすむ「……来てしまったか、このまま帰りなさい、それが貴女の為だ」 私はその場を離れる気は無い。首を横に振った。 佐々木さんは玄関を出て扉を全開にした。 すすむ「入りなさい……」 私は家の中に入った。 私は居間に案内され待つように言われた。適当な椅子を見つけてそこに座った。辺りを見回した。特に変わった所は見受けられない。 何処にでもあるような家具が並んでいる。テレビやオーディオなんかも置いてある。照明器具も…… 奥から佐々木さんが入ってきた。そして私の目の前にお茶を置くと佐々木さんは私の正面の椅子に座った。 すすむ「ここに来ないようにしたつもりだったが、君には通じなかったようだね」 私は鞄からボイスレコーダーを取り出し、机の上に置いた。 ひより「私は何も知りません、だから来ました、佐々木さんはお稲荷さんなのですか」 佐々木さんはボイスレコーダーを見て苦笑いをした。 すすむ「ふっ……そんな物を持っていたのか、そこまでは気が付かなかったよ……」 佐々木さんは少し下を向いて何か躊躇っているような気がした。 すすむ「単刀直入な質問だな……君達の言うお稲荷さんと違うが、かつてそう呼ばれた事がある……」 ひより「それではつかさ先輩と出会った真奈美ってお稲荷さんと同じですか」 佐々木さんは頷いた。 やっぱり、私の思った通りだった。もやもやしていた物が一気に晴れたような気がした。 すすむ「今度は私からの質問だ、何故ここに来た、君には「恐怖」を植込んだはずだ、普通の人間なら来られるはずはない」 ひより「どうしても知りたいから……」 すすむ「知りたい、好奇心だけでここに来たと言うのか、死は恐くないのか」 佐々木さんは驚いた様子で私を見ていた。 ひより「死は恐いです、でも、もし佐々木さんが私を殺す気なら二年前、とっくに殺していると思いまして……最初から殺す気なんか無かったのではないかと」 すすむ「……鋭い推理だな……その推理の裏付けが恐怖を克服したか……」 ひより「そ、そんな大袈裟な事ではないです……」 まさか褒められるとは思わなかった。でも、良かった私を殺す気は無かった。もし佐々木さんがそのつもりなら私はこの場で死んでいた…… 私は出されたお茶を手に取り飲んだ。 すすむ「出された物を口にすると言うのは、相手を信頼した、そう思っていいのだな」 微笑みながらそう言った。私はティーカップをテーブルに置いた。 ひより「私は何故記憶を消されたのですか、真実を言ってくだされば他言は致しません、それに、つかさ先輩は記憶を消されていませんでした」 すすむ「柊つかさからどこまで私達の話しを聞いていたか知らないが、私達は狐に戻った時が一番弱い、それを悟られない為に昔は見てしまった人間の記憶を奪っていた、 その癖がまだなおっていなかった……すまない、奪った記憶を元に戻すことは出来ない」 佐々木さんは頭を深々と下げた。 ひより「もう過ぎてしまった事を言ってもしょうがないです、ただ、佐々木さんの方から言って欲しかった、私が来なければずっと黙っているつもりでしたか?」 すすむ「そ、そんな事はない……時がくれば話すつもりだった」 何だろう、玄関を開けた時とは少し雰囲気が違う。だけど嘘をついている様にも見えない……疑っても意味が無い、その言葉を信じるしかなさそうだ。 ひより「あの、聞いても良いですか、貴方達はいったい何者なのですか、狐に化けたり、記憶を消したり、人間業とは思えませんが」 話してくれるとは思わなかった。しかし今度は躊躇う様子も見せずに話し始めた。 すすむ「未だ、君達人類が文明すら無かった遥か昔、私達はこの太陽系の調査のために来た調査隊やその末裔……」 ひより「それって、いわゆる宇宙人って事で?」 佐々木さんは頷いた。 すすむ「……この地球を調査しようとした時、宇宙船にトラブルが発生してしまって不時着をした……乗組員は全員無事だったが宇宙船は修理不能までに壊れてしまって 助けも呼べずこの地球に取り残されてしまった」 凄く悔しそうに話す佐々木さんだった。テーブルの上に乗せていた両手を力強く握り締めているのが分る。 ひより「救助は来なかったのですか?」 すすむ「木星の衛星に中継基地を作ってそこに待機しているメンバーも居たはずなのに……帰ってしまった……未だそれが分らない」 ひより「宇宙戦争でも起きたのではないでしょうか?」 すすむさんは笑った。 すすむ「ふっ、君は想像力が逞しいな、しかしそれは無い」 ひより「何故です、何処かに凶暴な帝国を築いた星があっても不思議じゃないですよ」 すすむ「そんな星があっても星間航行を可能にするレベル達する前に自滅してしまう、そういう星を何度も見てきた」 ひより「たまたまバッタリ出会って戦争なんて事も考えられますよ」 すすむ「そんな奇跡が起きたならむしろお互いに歓喜するだろう、宇宙は君達が想像するよりも過酷で厳しい所、戦争なんかする余裕すら無い、 資源はこの宇宙に幾らでもある、わざわざ文明のある星に出向く必要はない、それに文明を持つ星はこの地球のように大きく重力も強い、 争って奪うより月、火星、木星や土星の衛星で開発した方が良いのだよ」 ひより「なんか説得力がありますね……映画や漫画のような世界は在り得ないみたい、でも、貴方達はつかさ先輩を殺そうとしましたね」 すすむ「……この地球に降りてから私達は二つに別れた、一方は人類の中で生きるもの、一方は外で生きるもの、どちらもこの地球で生きる為に 取った行動だ、どちらも辛く、苦しいのは変わらない、我々も文明と取ってしまえば地球の生命とさほど変わらない、感情や生理現象も然り」 ひより「それじゃ私達も、佐々木さん達と同じようにいつかはこの宇宙を行き来出来るようになるわけですね」 すすむ「それは君達次第だ」 なんかスケールが大きい話しになってしまった。これはネタには使えそうにないかな…… 私の趣味にも合わないし…… 佐々木さんは立ち上がった。 すすむ「その人から離れて生きている方から一人の若者が来て同居するようになった」 ひより「それって、もしかしてコンの事ですか?」 佐々木さんは驚いた顔で私を見下ろした。 すすむ「コンが私達と同じと気付いたのは何時からだ」 ひより「……ゆーちゃんが見つけた時からかな……私達の会話を追って行くのが解りました、これは普通の犬じゃないって、名前はまなぶって言うのでは?」 すすむ「ど、どうして分った?」 動揺しているのが分る、佐々木さんはまた椅子に座った。 ひより「コンを引き取りに来た時ですよ、佐々木さんの唇が動くのを見てそう思いました」 すすむ「大した洞察力だな」 ひより「腐っても漫画家志望なので昔から人の表情とかを観察したりしていましたから……そのコンちゃんは何処にいるのですか?」 すすむ「最近やっと人間になるのを覚えて街に出かけている……まだ早いと言ったのだがな」 佐々木さんは溜め息を付いた。 私は笑った。そんな私を佐々木さんはじっと見ていた。 すすむ「田村さん、どうだろうか、コン……まなぶの教育係になってくれないか」 ひより「へ?」 寝耳に水だった。 ひより「私がですが?」 佐々木さんは頷いた。 ひより「教育って何を教えるのですか、私なんか何も教えるような物はないですよ、佐々木さんの方が私よりもずっと生きているのですから……」 すすむ「私はこうして仕事を持っている、彼に付き合う時間がない、それに何年生きようと所詮人間の真似事にすぎない、やはり人間の事は人間に学ぶのが一番だよ」 ひより「う~ん~」 すすむ「それに私達の正体を知っても動じないその精神も高く買っている、どうだろう」 ここまで見込まれては断るわけにもいかない。でも、その前に私も言わなければならない事がある。 ひより「私は友人からかがみ先輩を調べるように頼まれました、その際、コンについても調べる事になっています、今後どうなるか分りませんが、佐々木さんについても 調べるかもしれません、そしてこの一連の出来事を記録しても良いですか」 すすむ「ノンフィクションとして残すと言うのか」 佐々木さんの声が少し低くなった。 ひより「はい、でも、私なりに少しは着色しますけど」 すすむ「記録するなり、発表するなり好きにするが良い」 即答だった。おかしい、それなら私の記憶を消す必要なんか最初から無かったのでは…… 私はそんな疑問を持ちつつ机の上のボイスレコーダーを鞄にしまった。 ひより「何か?」 佐々木さんの視線を感じた。 すすむ「い、いや、それでまなぶの件についての返事を聞いていないのだが」 ひより「良いですよ、まなぶさんが良ければ」 すすむ「ありがとう、まなぶに聞いてから返事をしよう」 私は佐々木さんに携帯電話の番号を教えた。 佐々木さんの家を出ると外はすっかり暗くなっていた。思わず空を見上げた。満天に星がいっぱい瞬いている。その中のどれかがお稲荷さんの故郷があるのだろうか。 佐々木さんとの会話で心に残った……宇宙戦争はない、出来ないって言っていた。宇宙は過酷で厳しい……か、意味深長な言葉。 私達はお稲荷さんのように宇宙を旅することが出来るのかな…… 『ゴン!!』 ひより「フンギュ!!」 顎に激痛が走った。電信柱に当たってしまった。歩きながら空を見上げるのは無理があったか……幸い眼鏡に傷はない。 普段考えもしないことをするとヘマをする…… ネタ帳に書いておこう…… 顎を擦りながら私は帰宅した。 かがみ先輩と約束の日が来た。 約束の時間に柊家を訪れるとかがみ先輩は居間に通してくれた。 かがみ「少し待っていてくれる、まつり姉さん呼んでくるから」 ひより「はい」 暫くするとまつりさんが居間に入ってきた。 ひより「こんにちは、お久しぶりっス」 まつり「ほんと、久しぶりね」 まつりさんは私の正面に座った。 まつり「さて、なにから話せばいいかな?」 まつりさんから先に質問をされてしまった。どうしよう。いったい何から聞けばいいのだろう。 ひより「最近、コンとは会っているのですか?」 昔の話しより最近の方が思い出し易いはず。 まつり「姉さんが整体に良く行くようになったから、便乗してちょくちょく行っている」 ひより「いのりさんっスか?」 確認の為に聞き直した。まつりさんは頷いた。そしてにやけた顔になった。 まつり「姉さんは整体が目的じゃない、あれば絶対に佐々木さんが目当てだね、姉さんは隠しているみたいだけど、私には解る」 あぁ、そういえばコンを飼うと決まった時、いのりさんと佐々木さんが親しげに話していたのを思い出した……あれから二年、二人の仲が進展したのかな? おっと、今はコンの話しをしている。その話にも興味はあるけど今は止めておこう。 ひより「コンの世話を殆どしていたと伺っていますが」 まつりさんはいのりさんと佐々木さんの話しを続けたがっていたようにも見えたが、思い出すように少し考え込んだ。 まつり「……何でだろう、そう聞かれると……なんて言うのかな、放って置けないって言うのか……そうそう、コンってね、結構ドジでね、散歩中に溝に落ちるし、 四足なのに岩に躓いて転んだり、川に飛び込んで溺れたり……」 な、何だ、お稲荷さんの神々しいイメージとはちがってダメダメ犬だ、演技なのか、素なのか……記憶が無いのなら普段の力を発揮出来ないって事も考えられる。 それに、まつりさんは話しをしている間微笑んでいた。ドジっ子が好きなのかな…… まつり「それに、コンは私の言っている事を解っているような気がする、かがみが言うように利口な面もあって、世話をしていても飽きなかった」 気がするじゃなくて本当に解っている。犬として見ればこれほど面白い犬は居ないかもしれない。 かがみ「失礼します」 かがみさんが飲み物を乗せたお盆を持って入ってきた。そして私達の目の前にグラスを置いた。 ひより「お構いなく」 まつり「それでね、コンって恥かしがりやでね、」 かがみ先輩が居るのが気付かないのか夢中で話している。 まつり「自分からは絶対に舐めてこない、だから私からたまに抱きしめてね」 ひより「えー!!!? だ、抱きしめるっスか!!」 まつり「ん?」 思わず身を乗り出してしまった。なんて大胆な……あ、そうだった、コンはまつりさんから見れば犬。そのくらいは普通。私もチェリーちゃんや家の犬でもよくやる光景。 人間に化けられるお稲荷さんと分ると、その行為は少し意味合いが違ってくる。もっともまつりさんはそれを意識していないし、コンの正体も知らない。 ひより「い、いえ、何でもありません、失礼しました……」 まつり「かがみ、いつから居る、盗み聞きは良くないよ」 まつりさんはかがみ先輩に気が付いた。 かがみ「いつからって、さっきからよ、堂々と入って来ているのに盗み聞きも何もないわよ、ねぇ、田村さん」 ひより「は、はい……」 ここはかがみ先輩に合わすべきか。まつりさんは少しきつい目でかがみ先輩を見ていた。 かがみ「そんな事より、コンの記憶が戻ったのをどうやって知ったのよ、私はそれが不思議だった、佐々木さんから預かったリードが切欠としか聞いていない」 この質問は私が一番したかった。先にかがみ先輩がするとは思わなかった。でも、これで回り道をしなくて済みそうだ。 まつり「そう、あれは朝の散歩の用意をしている時だった、いつも仕舞っているはずの場所にリードが置いてなかった、探しているとね、 玄関の前にコンがリードを咥えて座っていた、私を見るとね、私の足元にリードを置いた……そして玄関の扉を前足で押した、もちろん開けあれるはずもない、 これで分った、佐々木さんの家に帰りたがっているのをね、それで直ぐに佐々木さんに連絡をして……」 まつりさんの目がどんどん潤んでくるのが分った。かがみ先輩は黙って静かに居間を出て行った。 ひより「……今日はここまでにしましょうか」 まつり「え、あ、ご、ごめん、私ったら……このままコンが記憶喪失のままだったらずっと飼っていられた、なんてね……わぁ、もうこんな時間だ 丁度良い時間ね、私もこの後出かけないといけないから」 ひより「ありがとうございました」 まつりさんは慌てて居間を出て行った。さてと、私も帰って話しを纏めないと。身の周りを整理して居間を出た。 かがみ「田村さん」 かがみ先輩が玄関に立っていた。 ひより「今日は有難うございました」 かがみ「少し、時間あるかしら」 ひより「今日は特に用事もありませんし、何でしょうか」 かがみ先輩は階段の方に歩き出した。何だろう。かがみ先輩の後に付いて行った。かがみ先輩は自分の部屋に入った。私も部屋に入ると扉を閉めた。 ひより「あの、御用はなんでしょうか」 かがみ「悪いわね、まつり姉さんがまだ家にいるから」 まつりさんに聞かれては困る事なのか。かがみ先輩はしばらく扉の向こうに聞き耳を立てている。そしてまつりさんが出掛けたのを確認したてから話しだした。 かがみ「もう良いわね……話しは他でもないコンの事、田村さんはもう気が付いているでしょ?」 かがみさんは私に何を話してもらいたいのだろう。なんとなく察しがつくけど安易にお稲荷さんの話しはしない方がいいのかもしれない。 ひより「まつりさん、コンとの別れの時、寂しかったみたいですね」 かがみ先輩は首を横に振った。 かがみ「犬はね、どんなに訓練しても喜怒哀楽は伝えられても自分の意思を伝えるなんて出来ない、そんな事ができるのは人間以外では類人猿や鯨だけよ、でもコンはそれをした」 流石かがみ先輩、コンの正体を解ってしまったのかもしれない。それなら無理に隠しても意味はない。 ひより「はい、かがみ先輩のお察しの通りです、コンはお稲荷さんです」 かがみ「やっぱり……」 かがみ先輩は腕を組み納得するように頷いた。 ひより「ちなみに……佐々木さんも……」 かがみ「なっ?!」 かがみ先輩は驚いたが私が想像していたよりも冷静だった。もしかしたらそっちもかがみさんの推測の範囲の中だったのかもしれない。侮れない……かがみ先輩。 かがみ「田村さんはこの話しに詳しそうね、良かったら話してくれないかしら」 かがみ先輩もお稲荷さんに興味があるのか。いや、私とは違ってつかさ先輩も関係しているし私より事情は深刻かも。 ひより「わかりました」 私は今までの経緯を話した。 次のページへ
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いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああ -- 2017-01-23 00 00 37 | | ∧ ∧ |/ ヽ ./ ∧ | `、 / ∧ |  ̄ ̄ ̄ ヽ | ̄ ̄ ̄月曜日 ̄ ̄ ̄) | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.\ |ヽ-=・=-′ ヽ-=・=- / | \___/ / やあ^^ | \/ / -- 2017-01-23 00 03 09 いや俺月曜日大好きだけど -- 2017-01-23 00 05 14 じゃあ俺はお前嫌い -- 2017-01-23 00 05 49 こんばんはめKUSOです。 料理動画を見て無性にスロークッカーが欲しくなってしまった今日この頃でございます。 さて、私が望んだ平安の2017年もここ一週間にして崩されました。 ピン芸人の狩野英孝さんが未成年との淫行によって連日報道されております。 まぁ、その問題自体はみなさんも知っておりますが、それを取り巻く芸能人の方々がいろいろとやらかしております。 今日の昼には番組の最中に謹慎中の狩野英孝さんへの電話強要をさせる出来事も起こったそうです。 また、SNSからいろいろと狩野さん絡みのコメントに関してネットでも取り上げられるようになりました。 今回の問題は狩野英孝さんの危機管理能力なかったことや、相手に対して年齢を確認してなかったのが悪い、というのが一般的な見解ですのでこれ以上言及するつもりはありません。 今回や昨今の芸能ニュースからわかることは「沈黙は金雄弁は銀」ということがどれにもあてはまることです。 変に首を突っ込めば二次被害が起き心象が悪くなっていくことが目に見えてわかります。 SNSが発達したことによって芸能人のそういったニュースに関するコメントというのが簡単に発信することができるようになりました。 ただ、ニュースに関して気軽に発言してしまい今までの好印象なイメージというものを崩してしまいがちです。 「心配だから…」という感情をくみ取ったとしても、それを世間一般に公開してもその人のイメージが良くなることは少ないです。コメントすること自体悪いとは思っておりませんが、求められていないコメントはイメージダウンにつながります。 SNSの手軽さというのは誰にでも発言できる機会を増やせますが、逆に炎上し得るネタをたくさん提供してしまうことになります。 良い発言というのはあまり目につかず、ちょっとした批判というのはすぐに標的にされてしまうのがネットの恐いところです。 SNSの使い方には芸能人のみならずみなさんにも気を付けてほしい限りです。 それでは。 -- 2017-01-23 00 23 03 年明けの俺の活動メモみつけた 1月ゼルダをあげる 2月イベントやる 3月生放送やる 4月超会議にでてみみずやる トリコやる 5月生放送やる 6月生放送やる 7月生放送やる 8月生放送やる 9月生放送やる 10月手を抜く 11月生放送やる 12月生放送やる -- 2017-01-23 00 34 19 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30481661 -- 2017-01-23 00 41 29 明日は必修単位のテストが二つ!リーチかかってるからどっちか落としても終わりっ! お休み~ -- 2017-01-23 00 46 13 左上奥歯とつっきーかよ -- 2017-01-23 00 46 35 ウキ民って美男美女が揃ってるんだな -- 2017-01-23 00 47 58 るーらさんの顎に焦土くん -- 2017-01-23 00 52 56 よく見つけたね -- 2017-01-23 00 53 55 やっくの下は一体誰なんだ -- 2017-01-23 00 55 52 堀田の右の白いの何だろう -- 2017-01-23 00 57 49 心霊写真? -- 2017-01-23 01 00 37 今日ずっとうんこちゃんと高田健志見ててもう限界 -- 2017-01-23 01 01 36 楽しそうな人生だね -- 2017-01-23 01 05 57 邪悪くんらしくて良いと思うよw -- 2017-01-23 01 09 22 邪悪早く死んで -- 2017-01-23 01 31 28 おやすみおちんぽ また明日 -- 2017-01-23 01 34 29 もんちおやすみ -- 2017-01-23 01 36 16 二度ともんちが起きることはなかった -- 2017-01-23 01 46 56 フィットネスクラブとニコニコ生放送間違えてるんかなぁ -- 2017-01-23 02 05 18 なんでバレたw -- 2017-01-23 02 12 29 ウキの"月光仮面"参上~ッ!! -- 2017-01-23 02 23 39 http //i.imgur.com/vKfjO0r.jpg -- 2017-01-23 02 26 37 下クチビルがグラスに貫通してるようにみえる -- 2017-01-23 02 32 17 https //twitter.com/myakkomyako/status/823225221792440320 ちょwww顔wwwwwwwwwww -- 2017-01-23 03 38 54 刑法 (明治四十年四月二十四日法律第四十五号) 最終改正:平成二八年六月三日法律第五四号 刑法別冊ノ通之ヲ定ム 此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム 明治十三年第三十六号布告刑法ハ此法律施行ノ日ヨリ之ヲ廃止ス (別冊) 第一編 総則 第一章 通則(第一条―第八条) 第二章 刑(第九条―第二十一条) 第三章 期間計算(第二十二条―第二十四条) 第四章 刑の執行猶予(第二十五条―第二十七条の七) 第五章 仮釈放(第二十八条―第三十条) 第六章 刑の時効及び刑の消滅(第三十一条―第三十四条の二) 第七章 犯罪の不成立及び刑の減免(第三十五条―第四十二条) 第八章 未遂罪(第四十三条・第四十四条) 第九章 併合罪(第四十五条―第五十五条) 第十章 累犯(第五十六条―第五十九条) 第十一章 共犯(第六十条―第六十五条) 第十二章 酌量減軽(第六十六条・第六十七条) 第十三章 加重減軽の方法(第六十八条―第七十二条) 第二編 罪 第一章 削除 第二章 内乱に関する罪(第七十七条―第八十条) 第三章 外患に関する罪(第八十一条―第八十九条) 第四章 国交に関する罪(第九十条―第九十四条) 第五章 公務の執行を妨害する罪(第九十五条―第九十六条の六) 第六章 逃走の罪(第九十七条―第百二条) 第七章 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪(第百三条―第百五条の二) 第八章 騒乱の罪(第百六条・第百七条) 第九章 放火及び失火の罪(第百八条―第百十八条) 第十章 出水及び水利に関する罪(第百十九条―第百二十三条) 第十一章 往来を妨害する罪(第百二十四条―第百二十九条) 第十二章 住居を侵す罪(第百三十条―第百三十二条) 第十三章 秘密を侵す罪(第百三十三条―第百三十五条) 第十四章 あへん煙に関する罪(第百三十六条―第百四十一条) 第十五章 飲料水に関する罪(第百四十二条―第百四十七条) 第十六章 通貨偽造の罪(第百四十八条―第百五十三条) 第十七章 文書偽造の罪(第百五十四条―第百六十一条の二) 第十八章 有価証券偽造の罪(第百六十二条・第百六十三条) 第十八章の二 支払用カード電磁的記録に関する罪(第百六十三条の二―第百六十三条の五) 第十九章 印章偽造の罪(第百六十四条―第百六十八条) 第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪(第百六十八条の二・第百六十八条の三) 第二十章 偽証の罪(第百六十九条―第百七十一条) 第二十一章 虚偽告訴の罪(第百七十二条・第百七十三条) 第二十二章 わいせつ、姦淫及び重婚の罪(第百七十四条―第百八十四条) 第二十三章 賭博及び富くじに関する罪(第百八十五条―第百八十七条) 第二十四章 礼拝所及び墳墓に関する罪(第百八十八条―第百九十二条) 第二十五章 汚職の罪(第百九十三条―第百九十八条) 第二十六章 殺人の罪(第百九十九条―第二百三条) 第二十七章 傷害の罪(第二百四条―第二百八条の二) 第二十八章 過失傷害の罪(第二百九条―第二百十一条) 第二十九章 堕胎の罪(第二百十二条―第二百十六条) 第三十章 遺棄の罪(第二百十七条―第二百十九条) 第三十一章 逮捕及び監禁の罪(第二百二十条・第二百二十一条) 第三十二章 脅迫の罪(第二百二十二条・第二百二十三条) 第三十三章 略取、誘拐及び人身売買の罪(第二百二十四条―第二百二十九条) 第三十四章 名誉に対する罪(第二百三十条―第二百三十二条) 第三十五章 信用及び業務に対する罪(第二百三十三条―第二百三十四条の二) 第三十六章 窃盗及び強盗の罪(第二百三十五条―第二百四十五条) 第三十七章 詐欺及び恐喝の罪(第二百四十六条―第二百五十一条) 第三十八章 横領の罪(第二百五十二条―第二百五十五条) 第三十九章 盗品等に関する罪(第二百五十六条・第二百五十七条) 第四十章 毀棄及び隠匿の罪(第二百五十八条―第二百六十四条) 第一編 総則 第一章 通則 (国内犯) 第一条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。 2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。 (すべての者の国外犯) 第二条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。 一 削除 二 第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪 三 第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪 四 第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪 五 第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪 六 第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪 七 第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪 八 第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第百六十四条第二項、第百六十五条第二項及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪 (国民の国外犯) 第三条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。 一 第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪 二 第百十九条(現住建造物等浸害)の罪 三 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪 四 第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪 五 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)、第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪 六 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪 七 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪 八 第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪 九 第二百十八条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪 十 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪 十一 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪 十二 第二百三十条(名誉毀損)の罪 十三 第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)及び第二百四十三条(未遂罪)の罪 十四 第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪 十五 第二百五十三条(業務上横領)の罪 十六 第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪 (国民以外の者の国外犯) 第三条の二 この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。 一 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)及び第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)の罪 二 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪 三 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪 四 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪 五 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪 六 第二百三十六条(強盗)及び第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)の罪並びにこれらの罪の未遂罪 (公務員の国外犯) 第四条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国の公務員に適用する。 一 第百一条(看守者等による逃走援助)の罪及びその未遂罪 二 第百五十六条(虚偽公文書作成等)の罪 三 第百九十三条(公務員職権濫用)、第百九十五条第二項(特別公務員暴行陵虐)及び第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄、あっせん収賄)の罪並びに第百九十五条第二項の罪に係る第百九十六条(特別公務員職権濫用等致死傷)の罪 (条約による国外犯) 第四条の二 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。 (外国判決の効力) 第五条 外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない。ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。 (刑の変更) 第六条 犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。 (定義) 第七条 この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。 2 この法律において「公務所」とは、官公庁その他公務員が職務を行う所をいう。 第七条の二 この法律において「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。 (他の法令の罪に対する適用) 第八条 この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。 第二章 刑 (刑の種類) 第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。 (刑の軽重) 第十条 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。 2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。 3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。 (死刑) 第十一条 死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。 2 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。 (懲役) 第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。 2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。 (禁錮) 第十三条 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。 2 禁錮は、刑事施設に拘置する。 (有期の懲役及び禁錮の加減の限度) 第十四条 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。 2 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。 (罰金) 第十五条 罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。 (拘留) 第十六条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。 (科料) 第十七条 科料は、千円以上一万円未満とする。 (労役場留置) 第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。 2 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。 3 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。 4 罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。 5 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。 6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。 (没収) 第十九条 次に掲げる物は、没収することができる。 一 犯罪行為を組成した物 二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物 三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物 四 前号に掲げる物の対価として得た物 2 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。 (追徴) 第十九条の二 前条第一項第三号又は第四号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。 (没収の制限) 第二十条 拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第十九条第一項第一号に掲げる物の没収については、この限りでない。 (未決勾留日数の本刑算入) 第二十一条 未決勾留の日数は、その全部又は一部を本刑に算入することができる。 第三章 期間計算 (期間の計算) 第二十二条 月又は年によって期間を定めたときは、暦に従って計算する。 (刑期の計算) 第二十三条 刑期は、裁判が確定した日から起算する。 2 拘禁されていない日数は、裁判が確定した後であっても、刑期に算入しない。 (受刑等の初日及び釈放) 第二十四条 受刑の初日は、時間にかかわらず、一日として計算する。時効期間の初日についても、同様とする。 2 刑期が終了した場合における釈放は、その終了の日の翌日に行う。 第四章 刑の執行猶予 (刑の全部の執行猶予) 第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。 一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。 (刑の全部の執行猶予中の保護観察) 第二十五条の二 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。 2 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。 3 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。 (刑の全部の執行猶予の必要的取消し) 第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。 一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。 二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。 (刑の全部の執行猶予の裁量的取消し) 第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。 一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。 二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。 (刑の全部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し) 第二十六条の三 前二条の規定により禁錮以上の刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。 (刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果) 第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。 (刑の一部の執行猶予) 第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。 一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者 三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者 2 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。 3 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。 (刑の一部の執行猶予中の保護観察) 第二十七条の三 前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。 2 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。 3 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。 (刑の一部の執行猶予の必要的取消し) 第二十七条の四 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。 一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。 二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。 三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。 (刑の一部の執行猶予の裁量的取消し) 第二十七条の五 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。 一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。 二 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。 (刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し) 第二十七条の六 前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。 (刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果) 第二十七条の七 刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。 第五章 仮釈放 (仮釈放) 第二十八条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。 (仮釈放の取消し等) 第二十九条 次に掲げる場合においては、仮釈放の処分を取り消すことができる。 一 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。 二 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。 三 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。 四 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。 2 刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合において、当該仮釈放中に当該執行猶予の言渡しを取り消されたときは、その処分は、効力を失う。 3 仮釈放の処分を取り消したとき、又は前項の規定により仮釈放の処分が効力を失ったときは、釈放中の日数は、刑期に算入しない。 (仮出場) 第三十条 拘留に処せられた者は、情状により、いつでも、行政官庁の処分によって仮に出場を許すことができる。 2 罰金又は科料を完納することができないため留置された者も、前項と同様とする。 第六章 刑の時効及び刑の消滅 (刑の時効) 第三十一条 刑(死刑を除く。)の言渡しを受けた者は、時効によりその執行の免除を得る。 (時効の期間) 第三十二条 時効は、刑の言渡しが確定した後、次の期間その執行を受けないことによって完成する。 一 無期の懲役又は禁錮については三十年 二 十年以上の有期の懲役又は禁錮については二十年 三 三年以上十年未満の懲役又は禁錮については十年 四 三年未満の懲役又は禁錮については五年 五 罰金については三年 六 拘留、科料及び没収については一年 (時効の停止) 第三十三条 時効は、法令により執行を猶予し、又は停止した期間内は、進行しない。 (時効の中断) 第三十四条 懲役、禁錮及び拘留の時効は、刑の言渡しを受けた者をその執行のために拘束することによって中断する。 2 罰金、科料及び没収の時効は、執行行為をすることによって中断する。 (刑の消滅) 第三十四条の二 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。 2 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。 第七章 犯罪の不成立及び刑の減免 (正当行為) 第三十五条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。 (正当防衛) 第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。 (緊急避難) 第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。 2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。 (故意) 第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。 3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。 (心神喪失及び心神耗弱) 第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない。 2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。 第四十条 削除 (責任年齢) 第四十一条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。 (自首等) 第四十二条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。 2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。 第八章 未遂罪 (未遂減免) 第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 (未遂罪) 第四十四条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。 第九章 併合罪 (併合罪) 第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。 (併科の制限) 第四十六条 併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。 2 併合罪のうちの一個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。 (有期の懲役及び禁錮の加重) 第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。 (罰金の併科等) 第四十八条 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。 2 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。 (没収の付加) 第四十九条 併合罪のうちの重い罪について没収を科さない場合であっても、他の罪について没収の事由があるときは、これを付加することができる。 2 二個以上の没収は、併科する。 (余罪の処理) 第五十条 併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する。 (併合罪に係る二個以上の刑の執行) 第五十一条 併合罪について二個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する。ただし、死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の刑を執行せず、無期の懲役又は禁錮を執行すべきときは、罰金、科料及び没収を除き、他の刑を執行しない。 2 前項の場合における有期の懲役又は禁錮の執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを超えることができない。 (一部に大赦があった場合の措置) 第五十二条 併合罪について処断された者がその一部の罪につき大赦を受けたときは、他の罪について改めて刑を定める。 (拘留及び科料の併科) 第五十三条 拘留又は科料と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条の場合は、この限りでない。 2 二個以上の拘留又は科料は、併科する。 (一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理) 第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。 2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。 第五十五条 削除 第十章 累犯 (再犯) 第五十六条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。 2 懲役に当たる罪と同質の罪により死刑に処せられた者がその執行の免除を得た日又は減刑により懲役に減軽されてその執行を終わった日若しくはその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときも、前項と同様とする。 3 併合罪について処断された者が、その併合罪のうちに懲役に処すべき罪があったのに、その罪が最も重い罪でなかったため懲役に処せられなかったものであるときは、再犯に関する規定の適用については、懲役に処せられたものとみなす。 (再犯加重) 第五十七条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の二倍以下とする。 第五十八条 削除 (三犯以上の累犯) 第五十九条 三犯以上の者についても、再犯の例による。 第十一章 共犯 (共同正犯) 第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。 (教唆) 第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。 2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。 (幇助) 第六十二条 正犯を幇助した者は、従犯とする。 2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。 (従犯減軽) 第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。 (教唆及び幇助の処罰の制限) 第六十四条 拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。 (身分犯の共犯) 第六十五条 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。 2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。 第十二章 酌量減軽 (酌量減軽) 第六十六条 犯罪の情状に酌量すベきものがあるときは、その刑を減軽することができる。 (法律上の加減と酌量減軽) 第六十七条 法律上刑を加重し、又は減軽する場合であっても、酌量減軽をすることができる。 第十三章 加重減軽の方法 (法律上の減軽の方法) 第六十八条 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。 一 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。 二 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。 三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。 四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。 五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。 六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。 (法律上の減軽と刑の選択) 第六十九条 法律上刑を減軽すべき場合において、各本条に二個以上の刑名があるときは、まず適用する刑を定めて、その刑を減軽する。 (端数の切捨て) 第七十条 懲役、禁錮又は拘留を減軽することにより一日に満たない端数が生じたときは、これを切り捨てる。 (酌量減軽の方法) 第七十一条 酌量減軽をするときも、第六十八条及び前条の例による。 (加重減軽の順序) 第七十二条 同時に刑を加重し、又は減軽するときは、次の順序による。 一 再犯加重 二 法律上の減軽 三 併合罪の加重 四 酌量減軽 第二編 罪 第一章 削除 第七十三条 削除 第七十四条 削除 第七十五条 削除 第七十六条 削除 第二章 内乱に関する罪 (内乱) 第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。 一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。 二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。 三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。 (予備及び陰謀) 第七十八条 内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。 (内乱等幇助) 第七十九条 兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。 (自首による刑の免除) 第八十条 前二条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。 第三章 外患に関する罪 (外患誘致) 第八十一条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。 (外患援助) 第八十二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。 第八十三条 削除 第八十四条 削除 第八十五条 削除 第八十六条 削除 (未遂罪) 第八十七条 第八十一条及び第八十二条の罪の未遂は、罰する。 (予備及び陰謀) 第八十八条 第八十一条又は第八十二条の罪の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 第八十九条 削除 第四章 国交に関する罪 第九十条 削除 第九十一条 削除 (外国国章損壊等) 第九十二条 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。 (私戦予備及び陰謀) 第九十三条 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。 (中立命令違反) 第九十四条 外国が交戦している際に、局外中立に関する命令に違反した者は、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 第五章 公務の執行を妨害する罪 (公務執行妨害及び職務強要) 第九十五条 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。 (封印等破棄) 第九十六条 公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 (強制執行妨害目的財産損壊等) 第九十六条の二 強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。 一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為 二 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為 三 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為 (強制執行行為妨害等) 第九十六条の三 偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 2 強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。 (強制執行関係売却妨害) 第九十六条の四 偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 (加重封印等破棄等) 第九十六条の五 報酬を得、又は得させる目的で、人の債務に関して、第九十六条から前条までの罪を犯した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 (公契約関係競売等妨害) 第九十六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。 第六章 逃走の罪 (逃走) 第九十七条 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。 (加重逃走) 第九十八条 前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。 (被拘禁者奪取) 第九十九条 法令により拘禁された者を奪取した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (逃走援助) 第百条 法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、三年以下の懲役に処する。 2 前項の目的で、暴行又は脅迫をした者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (看守者等による逃走援助) 第百一条 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者を逃走させたときは、一年以上十年以下の懲役に処する。 (未遂罪) 第百二条 この章の罪の未遂は、罰する。 第七章 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪 (犯人蔵匿等) 第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 (証拠隠滅等) 第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 (親族による犯罪に関する特例) 第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。 (証人等威迫) 第百五条の二 自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 第八章 騒乱の罪 (騒乱) 第百六条 多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし、次の区別に従って処断する。 一 首謀者は、一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。 二 他人を指揮し、又は他人に率先して勢いを助けた者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。 三 付和随行した者は、十万円以下の罰金に処する。 (多衆不解散) 第百七条 暴行又は脅迫をするため多衆が集合した場合において、権限のある公務員から解散の命令を三回以上受けたにもかかわらず、なお解散しなかったときは、首謀者は三年以下の懲役又は禁錮に処し、その他の者は十万円以下の罰金に処する。 第九章 放火及び失火の罪 (現住建造物等放火) 第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。 (非現住建造物等放火) 第百九条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。 2 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。 (建造物等以外放火) 第百十条 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 2 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 (延焼) 第百十一条 第百九条第二項又は前条第二項の罪を犯し、よって第百八条又は第百九条第一項に規定する物に延焼させたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。 2 前条第二項の罪を犯し、よって同条第一項に規定する物に延焼させたときは、三年以下の懲役に処する。 (未遂罪) 第百十二条 第百八条及び第百九条第一項の罪の未遂は、罰する。 (予備) 第百十三条 第百八条又は第百九条第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。 (消火妨害) 第百十四条 火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 (差押え等に係る自己の物に関する特例) 第百十五条 第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。 (失火) 第百十六条 失火により、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を焼損した者は、五十万円以下の罰金に処する。 2 失火により、第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。 (激発物破裂) 第百十七条 火薬、ボイラーその他の激発すべき物を破裂させて、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を損壊した者は、放火の例による。第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を損壊し、よって公共の危険を生じさせた者も、同様とする。 2 前項の行為が過失によるときは、失火の例による。 (業務上失火等) 第百十七条の二 第百十六条又は前条第一項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、三年以下の禁錮又は百五十万円以下の罰金に処する。 (ガス漏出等及び同致死傷) 第百十八条 ガス、電気又は蒸気を漏出させ、流出させ、又は遮断し、よって人の生命、身体又は財産に危険を生じさせた者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 2 ガス、電気又は蒸気を漏出させ、流出させ、又は遮断し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 第十章 出水及び水利に関する罪 (現住建造物等浸害) 第百十九条 出水させて、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車又は鉱坑を浸害した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する。 (非現住建造物等浸害) 第百二十条 出水させて、前条に規定する物以外の物を浸害し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 2 浸害した物が自己の所有に係るときは、その物が差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合に限り、前項の例による。 (水防妨害) 第百二十一条 水害の際に、水防用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、水防を妨害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 (過失建造物等浸害) 第百二十二条 過失により出水させて、第百十九条に規定する物を浸害した者又は第百二十条に規定する物を浸害し、よって公共の危険を生じさせた者は、二十万円以下の罰金に処する。 (水利妨害及び出水危険) 第百二十三条 堤防を決壊させ、水門を破壊し、その他水利の妨害となるべき行為又は出水させるべき行為をした者は、二年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金に処する。 第十一章 往来を妨害する罪 (往来妨害及び同致死傷) 第百二十四条 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 (往来危険) 第百二十五条 鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期懲役に処する。 2 灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により、艦船の往来の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。 (汽車転覆等及び同致死) 第百二十六条 現に人がいる汽車又は電車を転覆させ、又は破壊した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2 現に人がいる艦船を転覆させ、沈没させ、又は破壊した者も、前項と同様とする。 3 前二項の罪を犯し、よって人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。 (往来危険による汽車転覆等) 第百二十七条 第百二十五条の罪を犯し、よって汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、又は艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者も、前条の例による。 (未遂罪) 第百二十八条 第百二十四条第一項、第百二十五条並びに第百二十六条第一項及び第二項の罪の未遂は、罰する。 (過失往来危険) 第百二十九条 過失により、汽車、電車若しくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、若しくは艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は、三十万円以下の罰金に処する。 2 その業務に従事する者が前項の罪を犯したときは、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 第十二章 住居を侵す罪 (住居侵入等) 第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 第百三十一条 削除 (未遂罪) 第百三十二条 第百三十条の罪の未遂は、罰する。 第十三章 秘密を侵す罪 (信書開封) 第百三十三条 正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 (秘密漏示) 第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。 (親告罪) 第百三十五条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 第十四章 あへん煙に関する罪 (あへん煙輸入等) 第百三十六条 あへん煙を輸入し、製造し、販売し、又は販売の目的で所持した者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 (あへん煙吸食器具輸入等) 第百三十七条 あへん煙を吸食する器具を輸入し、製造し、販売し、又は販売の目的で所持した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (税関職員によるあへん煙輸入等) 第百三十八条 税関職員が、あへん煙又はあへん煙を吸食するための器具を輸入し、又はこれらの輸入を許したときは、一年以上十年以下の懲役に処する。 (あへん煙吸食及び場所提供) 第百三十九条 あへん煙を吸食した者は、三年以下の懲役に処する。 2 あへん煙の吸食のため建物又は室を提供して利益を図った者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 (あへん煙等所持) 第百四十条 あへん煙又はあへん煙を吸食するための器具を所持した者は、一年以下の懲役に処する。 (未遂罪) 第百四十一条 この章の罪の未遂は、罰する。 第十五章 飲料水に関する罪 (浄水汚染) 第百四十二条 人の飲料に供する浄水を汚染し、よって使用することができないようにした者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 (水道汚染) 第百四十三条 水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源を汚染し、よって使用することができないようにした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 (浄水毒物等混入) 第百四十四条 人の飲料に供する浄水に毒物その他人の健康を害すべき物を混入した者は、三年以下の懲役に処する。 (浄水汚染等致死傷) 第百四十五条 前三条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 (水道毒物等混入及び同致死) 第百四十六条 水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源に毒物その他人の健康を害すべき物を混入した者は、二年以上の有期懲役に処する。よって人を死亡させた者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。 (水道損壊及び閉塞) 第百四十七条 公衆の飲料に供する浄水の水道を損壊し、又は閉塞した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 第十六章 通貨偽造の罪 (通貨偽造及び行使等) 第百四十八条 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。 (外国通貨偽造及び行使等) 第百四十九条 行使の目的で、日本国内に流通している外国の貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、二年以上の有期懲役に処する。 2 偽造又は変造の外国の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。 (偽造通貨等収得) 第百五十条 行使の目的で、偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を収得した者は、三年以下の懲役に処する。 (未遂罪) 第百五十一条 前三条の罪の未遂は、罰する。 (収得後知情行使等) 第百五十二条 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。 (通貨偽造等準備) 第百五十三条 貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 第十七章 文書偽造の罪 (詔書偽造等) 第百五十四条 行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2 御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も、前項と同様とする。 (公文書偽造等) 第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。 3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 (虚偽公文書作成等) 第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。 (公正証書原本不実記載等) 第百五十七条 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 3 前二項の罪の未遂は、罰する。 (偽造公文書行使等) 第百五十八条 第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。 (私文書偽造等) 第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。 3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 (虚偽診断書等作成) 第百六十条 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。 (偽造私文書等行使) 第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。 (電磁的記録不正作出及び供用) 第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。 4 前項の罪の未遂は、罰する。 第十八章 有価証券偽造の罪 (有価証券偽造等) 第百六十二条 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、三月以上十年以下の懲役に処する。 2 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。 (偽造有価証券行使等) 第百六十三条 偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、三月以上十年以下の懲役に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。 第十八章の二 支払用カード電磁的記録に関する罪 (支払用カード電磁的記録不正作出等) 第百六十三条の二 人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。 2 不正に作られた前項の電磁的記録を、同項の目的で、人の財産上の事務処理の用に供した者も、同項と同様とする。 3 不正に作られた第一項の電磁的記録をその構成部分とするカードを、同項の目的で、譲り渡し、貸し渡し、又は輸入した者も、同項と同様とする。 (不正電磁的記録カード所持) 第百六十三条の三 前条第一項の目的で、同条第三項のカードを所持した者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (支払用カード電磁的記録不正作出準備) 第百六十三条の四 第百六十三条の二第一項の犯罪行為の用に供する目的で、同項の電磁的記録の情報を取得した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。情を知って、その情報を提供した者も、同様とする。 2 不正に取得された第百六十三条の二第一項の電磁的記録の情報を、前項の目的で保管した者も、同項と同様とする。 3 第一項の目的で、器械又は原料を準備した者も、同項と同様とする。 (未遂罪) 第百六十三条の五 第百六十三条の二及び前条第一項の罪の未遂は、罰する。 第十九章 印章偽造の罪 (御璽偽造及び不正使用等) 第百六十四条 行使の目的で、御璽、国璽又は御名を偽造した者は、二年以上の有期懲役に処する。 2 御璽、国璽若しくは御名を不正に使用し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用した者も、前項と同様とする。 (公印偽造及び不正使用等) 第百六十五条 行使の目的で、公務所又は公務員の印章又は署名を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 2 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。 (公記号偽造及び不正使用等) 第百六十六条 行使の目的で、公務所の記号を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。 2 公務所の記号を不正に使用し、又は偽造した公務所の記号を使用した者も、前項と同様とする。 (私印偽造及び不正使用等) 第百六十七条 行使の目的で、他人の印章又は署名を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。 2 他人の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。 (未遂罪) 第百六十八条 第百六十四条第二項、第百六十五条第二項、第百六十六条第二項及び前条第二項の罪の未遂は、罰する。 第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪 (不正指令電磁的記録作成等) 第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録 二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録 2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。 3 前項の罪の未遂は、罰する。 (不正指令電磁的記録取得等) 第百六十八条の三 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 第二十章 偽証の罪 (偽証) 第百六十九条 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。 (自白による刑の減免) 第百七十条 前条の罪を犯した者が、その証言をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。 (虚偽鑑定等) 第百七十一条 法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をしたときは、前二条の例による。 第二十一章 虚偽告訴の罪 (虚偽告訴等) 第百七十二条 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。 (自白による刑の減免) 第百七十三条 前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。 第二十二章 わいせつ、姦淫及び重婚の罪 (公然わいせつ) 第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 (わいせつ物頒布等) 第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。 2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。 (強制わいせつ) 第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。 (強姦) 第百七十七条 暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。 (準強制わいせつ及び準強姦) 第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。 2 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。 (集団強姦等) 第百七十八条の二 二人以上の者が現場において共同して第百七十七条又は前条第二項の罪を犯したときは、四年以上の有期懲役に処する。 (未遂罪) 第百七十九条 第百七十六条から前条までの罪の未遂は、罰する。 (親告罪) 第百八十条 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 2 前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。 (強制わいせつ等致死傷) 第百八十一条 第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2 第百七十七条若しくは第百七十八条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は五年以上の懲役に処する。 3 第百七十八条の二の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。 (淫行勧誘) 第百八十二条 営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 第百八十三条 削除 (重婚) 第百八十四条 配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。 第二十三章 賭博及び富くじに関する罪 (賭博) 第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。 (常習賭博及び賭博場開張等図利) 第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。 2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (富くじ発売等) 第百八十七条 富くじを発売した者は、二年以下の懲役又は百五十万円以下の罰金に処する。 2 富くじ発売の取次ぎをした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 3 前二項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。 第二十四章 礼拝所及び墳墓に関する罪 (礼拝所不敬及び説教等妨害) 第百八十八条 神祠、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者は、六月以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金に処する。 2 説教、礼拝又は葬式を妨害した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金に処する。 (墳墓発掘) 第百八十九条 墳墓を発掘した者は、二年以下の懲役に処する。 (死体損壊等) 第百九十条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。 (墳墓発掘死体損壊等) 第百九十一条 第百八十九条の罪を犯して、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (変死者密葬) 第百九十二条 検視を経ないで変死者を葬った者は、十万円以下の罰金又は科料に処する。 第二十五章 汚職の罪 (公務員職権濫用) 第百九十三条 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。 (特別公務員職権濫用) 第百九十四条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、六月以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。 (特別公務員暴行陵虐) 第百九十五条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。 2 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。 (特別公務員職権濫用等致死傷) 第百九十六条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 (収賄、受託収賄及び事前収賄) 第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。 2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下の懲役に処する。 (第三者供賄) 第百九十七条の二 公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 (加重収賄及び事後収賄) 第百九十七条の三 公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、一年以上の有期懲役に処する。 2 公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、前項と同様とする。 3 公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 (あっせん収賄) 第百九十七条の四 公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 (没収及び追徴) 第百九十七条の五 犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。 (贈賄) 第百九十八条 第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。 第二十六章 殺人の罪 (殺人) 第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。 第二百条 削除 (予備) 第二百一条 第百九十九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。 (自殺関与及び同意殺人) 第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。 (未遂罪) 第二百三条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。 第二十七章 傷害の罪 (傷害) 第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (傷害致死) 第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。 (現場助勢) 第二百六条 前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 (同時傷害の特例) 第二百七条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。 (暴行) 第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 (凶器準備集合及び結集) 第二百八条の二 二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 2 前項の場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って人を集合させた者は、三年以下の懲役に処する。 第二十八章 過失傷害の罪 (過失傷害) 第二百九条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 (過失致死) 第二百十条 過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。 (業務上過失致死傷等) 第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。 第二十九章 堕胎の罪 (堕胎) 第二百十二条 妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する。 (同意堕胎及び同致死傷) 第二百十三条 女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、二年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 (業務上堕胎及び同致死傷) 第二百十四条 医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する。 (不同意堕胎) 第二百十五条 女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。 (不同意堕胎致死傷) 第二百十六条 前条の罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 第三十章 遺棄の罪 (遺棄) 第二百十七条 老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の懲役に処する。 (保護責任者遺棄等) 第二百十八条 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。 (遺棄等致死傷) 第二百十九条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 第三十一章 逮捕及び監禁の罪 (逮捕及び監禁) 第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。 (逮捕等致死傷) 第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 第三十二章 脅迫の罪 (脅迫) 第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。 (強要) 第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。 2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。 3 前二項の罪の未遂は、罰する。 第三十三章 略取、誘拐及び人身売買の罪 (未成年者略取及び誘拐) 第二百二十四条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。 (営利目的等略取及び誘拐) 第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 (身の代金目的略取等) 第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。 2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。 (所在国外移送目的略取及び誘拐) 第二百二十六条 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、二年以上の有期懲役に処する。 (人身売買) 第二百二十六条の二 人を買い受けた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 2 未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の懲役に処する。 3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。 5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期懲役に処する。 (被略取者等所在国外移送) 第二百二十六条の三 略取され、誘拐され、又は売買された者を所在国外に移送した者は、二年以上の有期懲役に処する。 (被略取者引渡し等) 第二百二十七条 第二百二十四条、第二百二十五条又は前三条の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 2 第二百二十五条の二第一項の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。 3 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿した者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 4 第二百二十五条の二第一項の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、二年以上の有期懲役に処する。略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、同様とする。 (未遂罪) 第二百二十八条 第二百二十四条、第二百二十五条、第二百二十五条の二第一項、第二百二十六条から第二百二十六条の三まで並びに前条第一項から第三項まで及び第四項前段の罪の未遂は、罰する。 (解放による刑の減軽) 第二百二十八条の二 第二百二十五条の二又は第二百二十七条第二項若しくは第四項の罪を犯した者が、公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する。 (身の代金目的略取等予備) 第二百二十八条の三 第二百二十五条の二第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。 (親告罪) 第二百二十九条 第二百二十四条の罪、第二百二十五条の罪及びこれらの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の罪並びに同条第三項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は、営利又は生命若しくは身体に対する加害の目的による場合を除き、告訴がなければ公訴を提起することができない。ただし、略取され、誘拐され、又は売買された者が犯人と婚姻をしたときは、婚姻の無効又は取消しの裁判が確定した後でなければ、告訴の効力がない。 第三十四章 名誉に対する罪 (名誉毀損) 第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。 (公共の利害に関する場合の特例) 第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。 3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 (侮辱) 第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。 (親告罪) 第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。 第三十五章 信用及び業務に対する罪 (信用毀損及び業務妨害) 第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (威力業務妨害) 第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。 (電子計算機損壊等業務妨害) 第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。 第三十六章 窃盗及び強盗の罪 (窃盗) 第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (不動産侵奪) 第二百三十五条の二 他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。 (強盗) 第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 (強盗予備) 第二百三十七条 強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。 (事後強盗) 第二百三十八条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。 (昏酔強盗) 第二百三十九条 人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。 (強盗致死傷) 第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。 (強盗強姦及び同致死) 第二百四十一条 強盗が女子を強姦したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。 (他人の占有等に係る自己の財物) 第二百四十二条 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。 (未遂罪) 第二百四十三条 第二百三十五条から第二百三十六条まで及び第二百三十八条から第二百四十一条までの罪の未遂は、罰する。 (親族間の犯罪に関する特例) 第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。 2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。 (電気) 第二百四十五条 この章の罪については、電気は、財物とみなす。 第三十七章 詐欺及び恐喝の罪 (詐欺) 第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 (電子計算機使用詐欺) 第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。 (背任) 第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (準詐欺) 第二百四十八条 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。 (恐喝) 第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 (未遂罪) 第二百五十条 この章の罪の未遂は、罰する。 (準用) 第二百五十一条 第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪について準用する。 第三十八章 横領の罪 (横領) 第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。 2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。 (業務上横領) 第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。 (遺失物等横領) 第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 (準用) 第二百五十五条 第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。 第三十九章 盗品等に関する罪 (盗品譲受け等) 第二百五十六条 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の懲役に処する。 2 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、十年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。 (親族等の間の犯罪に関する特例) 第二百五十七条 配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。 2 前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。 第四十章 毀棄及び隠匿の罪 (公用文書等毀棄) 第二百五十八条 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。 (私用文書等毀棄) 第二百五十九条 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。 (建造物等損壊及び同致死傷) 第二百六十条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 (器物損壊等) 第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 (自己の物の損壊等) 第二百六十二条 自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸したものを損壊し、又は傷害したときは、前三条の例による。 (境界損壊) 第二百六十二条の二 境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 (信書隠匿) 第二百六十三条 他人の信書を隠匿した者は、六月以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。 (親告罪) 第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 附 則 (昭和一六年三月一二日法律第六一号) 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム 附 則 (昭和二二年一〇月二六日法律第一二四号) ○1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から、これを施行する。 ○2 第二十六条第二項の改正規定は、刑の執行猶予の言渡を受けた者がこの法律施行前に更に罪を犯した場合については、これを適用しない。 ○3 第三十四条ノ二の改正規定は、この法律施行前に刑の言渡又は刑の免除の言渡を受けた者にもこれを適用する。 ○4 この法律施行前の行為については、刑法第五十五条、第二百八条第二項、第二百十一条後段、第二百四十四条及び第二百五十七条の改正規定にかかわらず、なお従前の例による。 附 則 (昭和二八年八月一〇日法律第一九五号) 抄 1 この法律の施行期日は、昭和二八年十二月三十一日までの間において政令で定める。 附 則 (昭和二九年四月一日法律第五七号) 抄 1 この法律は、昭和二九年八月三十一日までの間において政令で定める日から施行する。但し、刑法第一条第二項の改正規定及び附則第三項の規定は、公布の日から施行する。 2 この法律による改正後の刑法第二十五条ノ二第一項前段の規定は、この法律の施行前に犯された罪については、適用しない。但し、その罪とこの法律の施行後に犯された罪とにつき、刑法第四十七条又は第四十八条第二項の規定を適用して処断すべきときは、この限りでない。 附 則 (昭和三三年四月三〇日法律第一〇七号) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 2 この法律の施行前の行為については、なお従前の例による。 3 罰金等臨時措置法(昭和二十三年法律第二百五十一号)第三条第一項の規定は、この法律による改正後の刑法第百五条ノ二、第百九十八条第二項及び第二百八条ノ二第一項の罪につき定めた罰金についても、適用されるものとする。 附 則 (昭和三五年五月一六日法律第八三号) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 2 罰金等臨時措置法(昭和二十三年法律第二百五十一号)第三条第一項の規定は、この法律による改正後の刑法第二百六十二条ノ二の罪につき定めた罰金についても、適用されるものとする。 附 則 (昭和三九年六月三〇日法律第一二四号) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 2 この法律の施行前にした行為については、この法律による改正後の刑法第二百二十八条ノ二及び第二百二十九条の規定にかかわらず、なお従前の例による。 附 則 (昭和四三年五月二一日法律第六一号) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 2 この法律による改正後の刑法第四十五条の規定は、数罪中のある罪につき罰金以下の刑に処し、又は刑を免除する裁判がこの法律の施行前に確定した場合における当該数罪についても、適用する。ただし、当該数罪のすべてがこの法律の施行前に犯されたものであり、かつ、改正後の同条の規定を適用することが改正前の同条の規定を適用するよりも犯人に不利益となるときは、当該数罪については、改正前の同条の規定を適用する。 3 前項の規定は、この法律の施行前に確定した裁判の執行につき従前の例によることを妨げるものではない。 附 則 (昭和五五年四月三〇日法律第三〇号) この法律は、公布の日から施行する。 附 則 (昭和六二年六月二日法律第五二号) 抄 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、第一条中刑法第四条の次に一条を加える改正規定、第二条及び第三条の規定並びに次項の規定及び附則第四項中新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和五十三年法律第四十二号)第二条第一項第十一号の改正規定は、国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約又は人質をとる行為に関する国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。 (経過措置) 2 改正後の刑法第四条ノ二の規定並びに人質による強要行為等の処罰に関する法律第五条及び暴力行為等処罰に関する法律第一条ノ二第三項の規定(刑法第四条ノ二に係る部分に限る。)は、前項ただし書に規定する規定の施行の日以後に日本国について効力を生ずる条約並びに戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約、海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約、捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約及び戦時における文民の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約により日本国外において犯したときであつても罰すべきものとされる罪に限り適用する。 (罰金等臨時措置法の適用) 3 罰金等臨時措置法(昭和二十三年法律第二百五十一号)第三条第一項の規定は、この法律による改正後の刑法第百六十一条ノ二及び第二百三十四条ノ二の罪につき定めた罰金についても、適用されるものとする。 附 則 (平成三年四月一七日法律第三一号) 抄 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (条例の罰則に関する経過措置) 2 条例の罰則でこの法律の施行の際現に効力を有するものについては、この法律による改正後の刑法第十五条及び第十七条の規定にかかわらず、この法律の施行の日から一年を経過するまでは、なお従前の例による。その期限前にした行為に対してこれらの罰則を適用する場合には、その期限の経過後においても、同様とする。 (罰金の執行猶予の限度に関する経過措置) 3 この法律による改正後の刑法第二十五条の規定は、この法律の施行前にした行為についても、適用する。 附 則 (平成七年五月一二日法律第九一号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (経過措置) 第二条 この法律の施行前にした行為の処罰並びに施行前に確定した裁判の効力及びその執行については、なお従前の例による。ただし、この法律による改正前の刑法第二百条、第二百五条第二項、第二百十八条第二項及び第二百二十条第二項の規定の適用については、この限りでない。 2 前項の規定にかかわらず、併合罪として処断すべき罪にこの法律の施行前に犯したものと施行後に犯したものがあるときは、この法律による改正後の刑法(以下この条において「新法」という。)第十条、第十四条、第四十五条から第五十条まで及び第五十三条の規定を適用し、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れる場合において、これらの罪名に触れる行為にこの法律の施行前のものと施行後のものがあるときは、新法第十条及び第五十四条(同条第二項において適用する第四十九条第二項を含む。)の規定を適用する。 3 前項の規定により同項に規定する新法の規定を適用した後の刑の加重減軽、刑の執行の猶予その他の主刑の適用に関する処理については、新法の規定を適用する。 附 則 (平成一三年七月四日法律第九七号) 抄 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 附 則 (平成一三年一二月五日法律第一三八号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (経過措置) 第二条 この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。 附 則 (平成一三年一二月一二日法律第一五三号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (処分、手続等に関する経過措置) 第四十二条 この法律の施行前に改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。以下この条において同じ。)の規定によってした処分、手続その他の行為であって、改正後のそれぞれの法律の規定に相当の規定があるものは、この附則に別段の定めがあるものを除き、改正後のそれぞれの法律の相当の規定によってしたものとみなす。 (罰則に関する経過措置) 第四十三条 この法律の施行前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。 (経過措置の政令への委任) 第四十四条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。 附 則 (平成一五年七月一八日法律第一二二号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (経過措置) 第二条 この法律による改正後の刑法第三条の二の規定並びに附則第三条による改正後の暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)第一条ノ二第三項及び附則第四条による改正後の人質による強要行為等の処罰に関する法律(昭和五十三年法律第四十八号)第五条の規定(刑法第三条の二に係る部分に限る。)は、この法律の施行前にした行為については、適用しない。 附 則 (平成一五年八月一日法律第一三八号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 附 則 (平成一六年六月一八日法律第一一五号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、第一追加議定書が日本国について効力を生ずる日から施行する。ただし、附則第三条の規定は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 附 則 (平成一六年一二月八日法律第一五六号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 第三条 この法律の施行前にした第一条の規定による改正前の刑法(以下「旧法」という。)第二百四十条の罪に当たる行為の処罰については、なお従前の例による。 2 この法律の施行前に犯した罪の公訴時効の期間については、第二条の規定による改正後の刑事訴訟法第二百五十条の規定にかかわらず、なお従前の例による。 第四条 併合罪として処断すべき罪にこの法律の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある場合において、これらの罪について刑法第四十七条の規定により併合罪として有期の懲役又は禁錮の加重をするときは、旧法第十四条の規定を適用する。ただし、これらの罪のうちこの法律の施行後に犯したもののみについて第一条の規定による改正後の刑法第十四条の規定を適用して処断することとした場合の刑が、これらの罪のすべてについて旧法第十四条の規定を適用して処断することとした場合の刑より重い刑となるときは、その重い刑をもって処断する。 附 則 (平成一七年五月二五日法律第五〇号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (検討) 第四十一条 政府は、施行日から五年以内に、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。 附 則 (平成一七年六月二二日法律第六六号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (調整規定) 第二条 この法律の施行の日が犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律の施行の日前である場合には、第一条のうち刑法第三条第十二号及び第三条の二第五号の改正規定中「第三条第十二号」とあるのは「第三条第十一号」とし、第四条のうち組織的犯罪処罰法第三条第一項第八号の改正規定中「第三条第一項第八号」とあるのは「第三条第一項第四号」とする。 第三条 この法律の施行の日が犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律の施行の日前である場合には、同法の施行の日の前日までの間における組織的犯罪処罰法別表の規定の適用については、同表第二号ワ中「国外移送目的略取等、被略取者収受等」とあるのは、「所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等」とする。 第四条 この法律の施行の日が旅券法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律第一条中旅券法第二十三条の改正規定の施行の日前である場合には、当該改正規定の施行の日の前日までの間における第三条の規定による改正後の出入国管理及び難民認定法第二十四条第四号ニ及びヨ並びに第二十四条の二第二号の規定の適用については、同法第二十四条第四号ニ中「旅券法(昭和二十六年法律第二百六十七号)第二十三条第一項(第六号を除く。)から第三項までの罪により刑に処せられた者」とあるのは「削除」とし、同号ヨ中「イからカまで」とあるのは「イからハまで及びホからカまで」とし、同法第二十四条の二第二号中「第四号ハ」とあるのは「第四号ハ及びホ」とする。 2 附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日が旅券法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律第一条中旅券法第二十三条の改正規定の施行の日前である場合には、当該改正規定の施行の日の前日までの間における第三条の規定による改正後の出入国管理及び難民認定法第六十一条の二の二第一項第三号及び第六十一条の二の四第一項第五号の規定の適用については、これらの規定中「第四号ハ」とあるのは、「第四号ハ及びホ」とする。 第五条 附則第一条第四号に掲げる規定の施行の日が旅券法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律第二条の規定の施行の日前である場合には、第四条のうち、組織的犯罪処罰法第二条第二項第一号イの改正規定中「別表第一第一号、第二号若しくは第四号から第六号まで」を「別表第一(第三号を除く。)」とあるのは「、第四号若しくは第五号」を「若しくは第四号から第九号まで」とし、組織的犯罪処罰法別表第一第四号ニ中「ト」を「ル」に改め、同号ト中「ヘ」を「ヌ」に改め、同号中トをルとし、ヘをヌとし、ホをヘとし、ヘの次にト、チ及びリを加える改正規定中「別表第一第四号ニ中「ト」を「ル」に改め、同号ト中「ヘ」を「ヌ」に改め、同号中トをルとし、」とあるのは「別表第一第四号ニ中「ヘ」を「ヌ」に改め、同号ヘ中「ホ」を「リ」に改め、同号中」とし、組織的犯罪処罰法別表第一中第六号を第十号とし、第五号を第六号とし、同号の次に三号を加える改正規定中「第六号を第十号とし、第五号」とあるのは「第五号」とする。 2 前項の場合において、旅券法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律第二条のうち、組織的犯罪処罰法第二条第二項第一号イの改正規定中「、第四号若しくは第五号」を「若しくは第四号から第六号まで」とあるのは「別表第一第一号、第二号若しくは第四号から第九号まで」を「別表第一(第三号を除く。)」とし、組織的犯罪処罰法別表第一第四号ニ中「ヘ」を「ト」に改め、同号ヘ中「ホ」を「ヘ」に改め、同号中ヘをトとし、ホの次にヘを加える改正規定中「別表第一第四号ニ中「ヘ」を「ト」に改め、同号ヘ中「ホ」を「ヘ」に改め、同号中ヘをトとし、ホ」とあるのは「別表第一第四号ニ中「ヌ」を「ル」に改め、同号ヌ中「リ」を「ヌ」に改め、同号中ヌをルとし、リ」とし、「ヘ 旅券法」とあるのは「ヌ 旅券法」とし、組織的犯罪処罰法別表第一に一号を加える改正規定中「六 旅券法」とあるのは「十 旅券法」とする。 (罰則に関する経過措置) 第十条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。 附 則 (平成一八年五月八日法律第三六号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (経過措置) 第二条 次に掲げる罰金又は科料の執行(労役場留置の執行を含む。)については、第一条の規定による改正後の刑法第十八条の規定にかかわらず、なお従前の例による。 一 この法律の施行前にした行為について科せられた罰金又は科料 二 刑法第四十八条第二項の規定により併合罪として処断された罪にこの法律の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある場合において、これらの罪に当たる行為について科せられた罰金 附 則 (平成一九年五月二三日法律第五四号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (経過措置) 第二条 この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。 附 則 (平成二二年四月二七日法律第二六号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から施行する。 (経過措置) 第二条 この法律の施行前に確定した刑の時効の期間については、第一条の規定による改正後の刑法第三十一条、第三十二条及び第三十四条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。 附 則 (平成二三年六月二四日法律第七四号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 附 則 (平成二五年六月一九日法律第四九号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (経過措置) 第二条 第一条の規定による改正後の刑法第二十七条の二第一項の規定は、この法律の施行前にした行為についても、適用する。 2 第三条の規定による改正後の更生保護法第五十一条第二項第六号(売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第二十六条第二項において準用する場合を含む。)の規定は、前条ただし書に規定する規定の施行前に次に掲げる決定又は言渡しを受け、これにより保護観察に付されている者に対する当該保護観察については、適用しない。 一 少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第二十四条第一項第一号の保護処分の決定 二 少年院からの仮退院を許す旨の決定 三 仮釈放を許す旨の決定 四 刑法第二十五条の二第一項の規定による保護観察に付する旨の言渡し 五 婦人補導院からの仮退院を許す旨の決定 3 第三条の規定による改正後の更生保護法第四十九条第一項及び第六十五条の三の規定は、この法律の施行前に前項各号に掲げる決定又は言渡しを受け、これにより保護観察に付されている者に対する当該保護観察については、適用しない。 附 則 (平成二五年一一月二七日法律第八六号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (罰則の適用等に関する経過措置) 第十四条 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。 第十五条 前条の規定によりなお従前の例によることとされる附則第二条の規定による改正前の刑法第二百十一条第二項の罪は、附則第三条の規定による改正後の刑事訴訟法第三百十六条の三十三第一項の規定の適用については同項第四号に掲げる罪と、附則第四条の規定による改正後の少年法第二十二条の四第一項の規定の適用については同項第三号に掲げる罪とみなす。 第十六条 この法律の施行前に附則第二条の規定による改正前の刑法第二百八条の二(附則第十四条の規定によりなお従前の例によることとされる場合における当該規定を含む。)の罪を犯した者に対する附則第五条の規定による改正後の出入国管理及び難民認定法第五条第一項第九号の二、第二十四条第四号の二、第二十四条の三第三号、第六十一条の二の二第一項第四号及び第六十一条の二の四第一項第七号の規定の適用については、これらの規定中「第十六条の罪又は」とあるのは「第十六条の罪、」と、「第六条第一項」とあるのは「第六条第一項の罪又は同法附則第二条の規定による改正前の刑法第二百八条の二(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律附則第十四条の規定によりなお従前の例によることとされる場合における当該規定を含む。)」とする。 附 則 (平成二八年六月三日法律第五四号) 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。 二 第一条(刑事訴訟法第九十条、第百五十一条及び第百六十一条の改正規定に限る。)、第三条、第五条及び第八条の規定並びに附則第三条及び第五条の規定 公布の日から起算して二十日を経過した日 -- 2017-01-23 03 46 12 322272 : ななしのよっしん :2017/01/23(月) 03 11 08 ID A+4pwlox7U 頼むウキ民とかいう狂いの集団の潰し方教えてくれ あそこの掲示板なくなれば消えるかねあのgm供 322274 : ななしのよっしん :2017/01/23(月) 03 16 10 ID DwWcvdCkiA ウキとか見てないけど、 あそこは選民思想とか馴れ合いとかに惹かれた人たちでしょ 隔離にちょうど良いからほっといた方がよくねーか 322276 : ななしのよっしん :2017/01/23(月) 03 18 54 ID eLyWWk5cBr ウキ民は高田狂いじゃないだろ? もしかして高田使って対立煽るぐらいまで落ちたの? 322278 : ななしのよっしん :2017/01/23(月) 03 21 17 ID dEqgrFXais ウキ民は正直狂いなんかより全然怖い。なんか、うまく言えねぇけど狂気の度合いが違うんだよ。大の大人が通う幼稚園みたいな、得体の知れない気持ち悪さがある。狂いの方が全然わかりやすい。 -- 2017-01-23 07 21 37 みんにょ -- 2017-01-23 07 27 07 大の大人が通う幼稚園はワロタ -- 2017-01-23 07 34 05 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30485495 -- 2017-01-23 07 37 05 空前絶後のォー! 超絶怒濤の迷惑芸人! 浮気 二股 未成年 すべての騒動の産みの親ァー! -- 2017-01-23 08 37 27 http //livedoor.blogimg.jp/rock1963roll/imgs/f/d/fdb219d6.jpg -- 2017-01-23 08 47 17 記者、何がしたいの?イジメです。ハラスメント 記者、ウザ?? その他 ひどい記者 記者もジャニーズやバーニングにもコレくらい聞けたら、認めるけど、弱小事務所の時はコレやもんなぁ?? 記者が聞かないんだもの ジャニーズはいいなぁ? 狩野英孝は悪ないと思う。 相手も分かってんねんから、言えないのは仕方ない。 年齢の確認 結婚したら、オッケーなのにね。 合意でしょ! 今後、付き合うにあたってでしょ! 後、チョットで彼女になるかな?って状態だったって事でしょ -- 2017-01-23 08 48 16 亮痛いな -- 2017-01-23 09 00 00 何に対してのコメント? -- 2017-01-23 09 13 39 さかたけ言うな -- 2017-01-23 09 21 29 abemaTVで狩野の会見が放送されてて匿名のコメントで自演してたらツイッターに反映されてモロバレ -- 2017-01-23 09 34 07 ↓こいつウキ初心者だろ -- 2017-01-23 09 36 37 亮ダサすぎるだろ -- 2017-01-23 09 43 16 亮もまとめて干されそう -- 2017-01-23 09 45 46 6股に続いてこれは馬鹿 -- 2017-01-23 09 50 24 黙れよ童貞 -- 2017-01-23 09 52 03 まとめサイトから得た情報を数日遅れでウキに輸入されてもねぇ -- 2017-01-23 09 56 47 https //pbs.twimg.com/profile_banners/2596479306/1484115030/1500x500 -- 2017-01-23 10 00 17 狩野に嫉妬すんなブサイクども -- 2017-01-23 10 00 59 別に嫉妬はしてないけど?ただね本当に馬鹿だなと思ったから言っただけで -- 2017-01-23 10 03 00 情強が集まるウキにミーハーな話題持ってこられても反応に困るわ -- 2017-01-23 10 04 10 それな -- 2017-01-23 10 07 25 どれっすか -- 2017-01-23 10 12 14 それな -- 2017-01-23 10 19 37 喧嘩しろ -- 2017-01-23 10 20 57 いい」 -- 2017-01-23 10 21 16 ぴゆだ -- 2017-01-23 10 28 21 狩野好きじゃなかったから干されて超嬉しいんだが? -- 2017-01-23 10 31 04 お前もウキから干してやろうか -- 2017-01-23 10 31 41 仕事いけ -- 2017-01-23 10 33 18 ウキから干されたら俺はどうすればいいんだ -- 2017-01-23 10 38 47 最近の狩野は芸人って雰囲気無くなってたもんね なんか勘違いしてるって感じ? -- 2017-01-23 10 39 41 狩野に嫉妬ブサイクイライラでワロータw -- 2017-01-23 10 42 40 なんでバレたw -- 2017-01-23 10 43 41 勘違い感わかるわ -- 2017-01-23 10 44 57 キミ本当バレやすいちょろなw -- 2017-01-23 10 45 57 ゟ -- 2017-01-23 10 52 53 ウキ民きもい -- 2017-01-23 10 56 12 俺が疑問なのは当時から衛門だった人間がwikiと関わらなかった点なんだよね 当時のwikiは他所と比べて郡を抜いて加藤界隈の情報を広く深く速く追いかけていたし 独自の魅力的なカルチャーも充実していた 例えば偶に降誕する有為な過疎生主を信者衛門という 文化的背景を共有した嗜好の似通った人間同士で圧抑する事は最高に楽しかったし wiki未体験衛門は衛門人生の3分の3を損していると思うんだよなー あんなに楽しいニコ生との関わり方は無いよほんまに まさに神韻縹渺 極上の娯楽だったね -- 2017-01-23 11 01 28 俺もにょろちょろ言ってまいるみちゃん囲いながらラジコンverのといくん虐めてた頃が一番楽しかったかな -- 2017-01-23 11 07 48 何だお前?泣いてんのか? -- 2017-01-23 11 13 46 【メモ01/22 1枠目 28 02】テペ「放送ってどんな字だっけ」 -- 2017-01-23 11 17 45 俺はもうまいるみちゃんの声を思い出せないよ -- 2017-01-23 11 18 43 https //www.youtube.com/watch?v=9vBuKGTulcc 俺はこれを聴けば当時の空気感を鮮明に思い出すよ -- 2017-01-23 11 21 23 こいつ完全に泣いてるな -- 2017-01-23 11 22 55 確かに新者衛門は上辺しか楽しめてない感じするよね -- 2017-01-23 11 23 44 こんな事言っても きっしょとしか返ってこない 損してることに気づいてくれ -- 2017-01-23 11 25 09 喧嘩しろ -- 2017-01-23 11 28 57 ま、今頃衛門やってる奴には分からんよ -- 2017-01-23 11 31 01 放送ってどんな字だっけ -- 2017-01-23 11 32 26 ちょっw字ふっとwwww -- 2017-01-23 11 33 08 クソガキ聞いてるか?お前だよお前 -- 2017-01-23 11 33 37 マゼヨルガナ -- 2017-01-23 11 34 57 潰すって言ってるの昨日だか放送で妖精NG入れてた雑魚だろ にわかすぎて高田の信者とも区別がつかないみたいだね -- 2017-01-23 11 35 29 現役ヤンキーやぞwwww何が面白いんだよ死ね -- 2017-01-23 11 36 38 クソガキと邪悪だけは本当に死んで欲しい 切に願う -- 2017-01-23 11 37 48 まじー? -- 2017-01-23 11 38 18 喧嘩しろ -- 2017-01-23 11 38 35 ウキ3大癌 もんち 邪悪 クソガキ -- 2017-01-23 11 41 16 ウキ4大癌 もんち 邪悪 クソガキ 名川 -- 2017-01-23 11 44 54 それな -- 2017-01-23 11 45 39 ここにいるやつなんて全員ガンだよ -- 2017-01-23 11 47 00 黙れもんち -- 2017-01-23 11 54 51 正論だな -- 2017-01-23 12 02 38 http //www.nicovideo.jp/watch/sm25293776 この枠すごいダルシムっぽいよね -- 2017-01-23 12 16 36 女優やってるだけあって04 24の声の出し方がいい -- 2017-01-23 12 20 54 カレー美味すぎ -- 2017-01-23 12 33 15 どこの? -- 2017-01-23 12 42 51 かーちゃんの -- 2017-01-23 12 54 17 またしみけん!? -- 2017-01-23 12 55 33 喧嘩しろ -- 2017-01-23 12 56 09 大人が通う幼稚園ってコメントしたやつセンスあるな ここにきてくれ -- 2017-01-23 13 02 27 ウキ民でしょ ウキにいる自分に酔ってる感じ -- 2017-01-23 13 08 49 http //i.imgur.com/TOSbUcS.jpg -- 2017-01-23 13 47 24 かーちゃんのカレーいいよな -- 2017-01-23 13 54 18 3÷3=? -- 2017-01-23 13 55 02 よっや -- 2017-01-23 13 55 24 なんで本家wikiコメ欄って閉鎖されたの? 俺vipマリオ5から本格的に見始めたんだけど ポケ6釈明配信リアタイで見てた最古参なんで丁寧に教えろ、な? -- 2017-01-23 13 56 43 ここ批判所スレみてーだな ウキというゴミ溜めにいる癖に 本家チャンネルのこと気になって仕方がないところとか ゴミと半ば自称する癖にプライド刺激する奴にはウキ民認定して小さいプライド慰めたり 批判される側に回ると発狂する様が知障にもなれないゴミの拗らせた末路 「ここにいる時点でお前も~」と喚くことが自分を正当化する奴の耳には届かんか -- 2017-01-23 14 05 53 まぜさんおる? -- 2017-01-23 14 18 56 ぴゆだ -- 2017-01-23 14 24 18 にぃにが増えてる・・・にぃに;; -- 2017-01-23 14 29 24 暴露するけどにぃに潰したの俺なw -- 2017-01-23 14 35 42 うんこちゃん気になって仕方ないのあいつとあいつぐらいやろ -- 2017-01-23 14 41 07 最近かっそ過疎だし しょうがないからうんこちゃんの動画作ってウキ興ししないか? -- 2017-01-23 14 44 17 俺は過疎でいいや -- 2017-01-23 14 48 53 なるほど ここが劣化信者衛門の集まりか -- 2017-01-23 14 49 38 まじー? -- 2017-01-23 14 57 01 3行目は勘違いだし、4,5,6行目は何が言いたいのか良く分かんないよ.. -- 2017-01-23 14 57 37 喧嘩しろ -- 2017-01-23 14 58 34 アッアッアッ -- 2017-01-23 15 07 13 322394 : ななしのよっしん :2017/01/23(月) 13 41 11 ID lqBetqJ87q 邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強! 邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強! 邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強! 邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強! 邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強!邪悪最強! -- 2017-01-23 15 08 41 http //i.imgur.com/B4TyacZ.jpg 08月27日が最後の録画という事はここ辺りで飽きたんだと思う -- 2017-01-23 15 13 53 雑談枠までダウンロードして偉いな -- 2017-01-23 15 20 31 狩野英孝に不快感しかないって言ってる坂上忍に不快感感じてるらみあに不快感感じてる名川にうるせえ!!って言ってるらみあとリプ古事記名川に不快感感じてる -- 2017-01-23 15 27 10 ↓直接言えない雑魚 -- 2017-01-23 15 29 54 http //i.imgur.com/p9BfNhJ.jpg いいか、もう観てないんだよマジで 現実受け止めろ これが事実なんだよ 偶に暗黒のタイトルに釣られてるのはご愛嬌な -- 2017-01-23 15 38 21 暗黒よりまこじきりん囲ってる所に恥じたほうがいいよ -- 2017-01-23 15 41 29 ほんまそれな -- 2017-01-23 15 42 37 http //i.imgur.com/vFc8QtN.jpg http //i.imgur.com/hh4AY06.jpg http //i.imgur.com/hCYIc1Z.jpg http //i.imgur.com/K0ERUlC.jpg http //i.imgur.com/HSfzGrW.jpg http //i.imgur.com/MFNwK8T.jpg http //i.imgur.com/UChjljQ.jpg http //i.imgur.com/X0fCNVq.jpg http //i.imgur.com/CoWqK7k.jpg http //i.imgur.com/XjuZEf2.jpg -- 2017-01-23 15 45 17 【メモ01/22 1枠目 28 02】テペ「放送ってどんな字だっけ」 -- 2017-01-23 15 49 37 続きくれ -- 2017-01-23 15 53 45 https //www.youtube.com/watch?v=eyI5P5aiEf0 -- 2017-01-23 15 57 06 あ~エメリヤーエンコヒョードルみたいになりてぇ -- 2017-01-23 15 59 22 咲のドラマやっとったんかいな〜 なんで言ってくれへんのんど -- 2017-01-23 16 03 50 去年の12月からやってるのに情弱すぎでしょ -- 2017-01-23 16 09 44 じょうよわな じょうよわハケーンしますたwwww -- 2017-01-23 16 16 10 お前弱いな -- 2017-01-23 16 25 37 http //i.imgur.com/kWKTe27.jpg -- 2017-01-23 16 27 19 ちょそれってよおうんこちゃんのネタじゃんか アッアッアッ -- 2017-01-23 16 27 34 クソガキそろそろ謝罪しろ -- 2017-01-23 16 29 18 アッアッアッ -- 2017-01-23 16 30 52 hey dj 聞かせて~ -- 2017-01-23 16 31 20 さかたけ言うな -- 2017-01-23 16 32 04 http //i.imgur.com/NWdhhsP.jpg -- 2017-01-23 16 34 54 そろそろお知らせ変えろや つまんないよ -- 2017-01-23 16 35 16 早く謝罪しろクソガキ -- 2017-01-23 16 37 17 最近バナー候補ハイセンス過ぎやしないか -- 2017-01-23 16 38 02 http //i.imgur.com/kfsjNjV.jpg -- 2017-01-23 16 45 21 だるやんカー通過しまーす ぶっぷー -- 2017-01-23 16 46 33 マゼヨルガナ -- 2017-01-23 16 46 48 悪いことしてないのに何で謝罪しないといけないの? -- 2017-01-23 16 48 14 雪1m積もっとるんやが -- 2017-01-23 16 50 45 うんこちゃんのワギャン見るじょ -- 2017-01-23 16 53 50 https //www.youtube.com/watch?v=OBJQA2INoJ4 -- 2017-01-23 16 58 17 ---ニコ生の悪魔継承戦争の根は深い -- 2017-01-23 17 16 54 お知らせのダルシムとといくんいい顔してんなぁ 楽しかったんだろうねニコ生 -- 2017-01-23 17 17 59 【速報】俳優の松方弘樹さんが、脳リンパ腫のため死去しました。74歳でした。 -- 2017-01-23 17 33 45 マツカタァーッ!死ぬなーッ!! -- 2017-01-23 17 43 50 まいるみちゃんDMだけは返してくれるから好き -- 2017-01-23 17 48 14 http //live.nicovideo.jp/watch/lv287490127 "神放送"来ました -- 2017-01-23 17 53 20 ダルシムの目 見てみろよキラッキラしてんぞ -- 2017-01-23 18 09 15 本気の佐藤さんの前に男はwjKにセ○クス言う教師www -- 2017-01-23 18 17 02 全てがねじ曲がる 赤い闇の中、、 高々しく掲げた 命を、、、 -- 2017-01-23 18 17 21 キミは言ったね、人の目気にして -- 2017-01-23 18 19 59 よこやんへ 生かされる苦しみを味わえ -- 2017-01-23 18 27 36 お前弱いな -- 2017-01-23 18 29 23 高 -- 2017-01-23 18 47 11 田 -- 2017-01-23 18 47 38 健 -- 2017-01-23 18 48 17 死 -- 2017-01-23 18 49 46 まぜさんおる? -- 2017-01-23 18 50 46 速報 松方弘樹 死去 -- 2017-01-23 18 54 28 誰やそれ -- 2017-01-23 19 14 23 佐田の口やべーな -- 2017-01-23 19 25 44 http //live.nicovideo.jp/watch/lv287490127 -- 2017-01-23 19 32 49 松方速報コミュ掲示板に勝った? -- 2017-01-23 19 33 15 おいおいおいおいおい柴崎スペイン移籍ってマジかいなかいなかいな -- 2017-01-23 19 42 42 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい俺いないじゃん@勝俣圭 -- 2017-01-23 19 49 41 http //g.e-hentai.org/g/601145/3d3f442965/ -- 2017-01-23 19 50 43 BRARきもすぎ -- 2017-01-23 20 03 59 よこやんへ お前は最強だよ -- 2017-01-23 20 15 08 団地 -- 2017-01-23 20 17 53 大地? -- 2017-01-23 20 38 46 https //www.buzzfeed.com/keijiroabe/90s-computer-quiz?utm_term=.nieeXPzLW#.opqr1XgG8 -- 2017-01-23 20 43 39 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288520894 -- 2017-01-23 20 49 05 ニコ生もHTML5版でたのか -- 2017-01-23 20 51 52 タカダケンシ逆裁3いつやるかいってた? -- 2017-01-23 21 04 37 けんしぃ? -- 2017-01-23 21 09 34 はぁ? -- 2017-01-23 21 20 20 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288524913 -- 2017-01-23 21 21 57 ばかにしないで。 -- 2017-01-23 21 23 27 街中にゴシップが散撒かれてる 面白がって誰もがそれに火をつける 自分より劣ってる マヌケをあぶりだし ホッと胸撫で下ろしてる -- 2017-01-23 21 50 26 オススメのAV女優を書きました。 これからはオススメの○○書けって言われたものを更新したいと考えています。 -- 2017-01-23 21 52 34 うーんよくわかんなぁい -- 2017-01-23 21 57 13 阿波連さんははかれない -- 2017-01-23 22 00 02 http //img-cdn.jg.jugem.jp/b95/1699299/20130925_483647.jpg http //pds.exblog.jp/pds/1/201009/14/06/c0184006_0382368.jpg https //tabelog.ssl.k-img.com/restaurant/images/Rvw/54120/640x640_rect_54120282.jpg -- 2017-01-23 22 01 06 デブがいるね -- 2017-01-23 22 03 42 デブしかいないよ -- 2017-01-23 22 32 11 ハゲもいるよ -- 2017-01-23 22 53 43 ハゲしかいないよ -- 2017-01-23 22 55 27 チビもいるよ -- 2017-01-23 22 56 10 可愛い女の子が見たい -- 2017-01-23 22 57 42 ほい http //www.nicovideo.jp/watch/sm30484072 -- 2017-01-23 23 01 38 http //live.nicovideo.jp/watch/lv287873204 -- 2017-01-23 23 01 51 誰か起きてる? -- 2017-01-23 23 32 07 死ね -- 2017-01-23 23 36 35 http //i.imgur.com/61xROOp.jpg http //i.imgur.com/ny4jTru.jpg http //i.imgur.com/wmUrZ6k.jpg http //i.imgur.com/DDi3qZu.jpg http //i.imgur.com/FciCPJM.jpg http //i.imgur.com/p6qSybI.jpg http //i.imgur.com/kyXrfqj.jpg http //i.imgur.com/xenXZQU.jpg http //i.imgur.com/rL15fJJ.jpg -- 2017-01-23 23 36 49 よくわかんない -- 2017-01-23 23 40 26 ゆとちゃんに下ネタかましてるやつ死ねそれとも殺されたいか? -- 2017-01-23 23 42 15 恋愛ってのは「お互いが好き」ってことと同じくらい「周りが認めてくれるか」も大事なんだよ -- 2017-01-23 23 43 41 深いね -- 2017-01-23 23 47 07 ダサい価値観だな -- 2017-01-23 23 48 10 なんでいきなりあまんちゅ貼った? -- 2017-01-23 23 54 27 ほしいもくそ美味なんだが? -- 2017-01-24 00 00 58 あっくんの鼻 -- 2017-01-24 00 05 32 前回大会では1次R突破、チェン&王建民は不在の見込みで「障害を抱えている」も… 台湾は主力不在も「13年の成功再現」? WBCで韓国など破り2次R進出なるか 巨人にFA移籍した陽岱鋼の出場も微妙な状況(写真は2013年出場時)【写真:Getty Images】拡大写真 3月に開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、韓国、オランダ、イスラエルとともに1次ラウンドA組(韓国)に入った台湾代表。前回大会(2013年)では2次ラウンド進出を果たしたが、今大会は選手の招集に苦しんでいる様子だ。MLB公式サイトも「いくつかの大きな障害を抱えている」と分析。それでも、自力はあるだけに、「13年の成功を再現するだろう」と予想している。 【画像】WBCに出場する野球日本代表「侍ジャパン」の一部メンバー 元ヤンキースの王建民投手がエースに君臨した2013年の台湾代表は、母国開催の1次ラウンドでオランダ、オーストラリアに勝利した。韓国には敗れたものの、2勝1敗の三つ巴で当該チーム同士の対戦における得失点率で1位となり、オランダとともに2次ラウンドに進出。第2回大会(2009年)準優勝の韓国を敗退に追いやった。2次ラウンドでは日本と延長10回の死闘を演じたが、3-4で敗戦。キューバにも0-14で完敗し、準決勝進出はならなかった。 MLB公式サイトは「チャイニーズ・タイペイは13年の成功を再現するだろう」と前向きなタイトルで記事を掲載。しかし、展望の中では「韓国での試合前に、同国はいくつかの大きな障害を抱えている」として「エースや将来有望なスラッガーが不在である。チャイニーズ・タイペイが2次ラウンドに進出するには、チーム一丸となる必要がある」と分析している。 「いくつかの大きな障害」とは何か。まず、マーリンズの陳偉殷(チェン・ウェイン)投手、元ヤンキースの王建民(ワン・チェンミン)投手は参加しない見込みだという。元中日の左腕チェンは昨夏に左肘を負傷しており、9月にロイヤルズから自由契約となった36歳の右腕・王建民は、今季もメジャーでプレーするために自身のトレーニングに集中することになりそう。大黒柱となるべき2人の不在は大きな痛手だ。 「イスラエル、オランダ、韓国に対し、2勝を収めることはできる」 さらに、記事によると、「台湾にある中華職業棒球大聯盟はワールドベースボールクラシック参加を拒否。代表チームへのサポートを否定した」という。「幸運にも、同連盟所属の4球団中3チームは選手がWBCに参加することを許可している。しかし、Lamigoモンキーズは連盟と同様の措置を講じた」とも言及しており、何人かの強打者も参加しない可能性が高いとしている。また、日本ハムから巨人にFA移籍した陽岱鋼外野手の出場も微妙な状況だ。 ただ、前回大会で日本を苦しめるなど、野球熱の高い台湾の自力は確か。MLB公式サイトは「野球に関して立派な歴史を築いている。WBSCでは現在ランキング4位であり、多くの人が考えるよりも巨大な力を持っている」と指摘。有力選手が出場できなくても、穴を埋める実力者が出てくると見ているようだ。 最後は「イスラエル、オランダ、韓国に対し、少なくとも2勝を収めることはできるだろう。しかし、スター選手不在では、MLB選手が多く在籍する他国を負かすことは困難だろう」と結論づけているが、果たしてどうなるか。2勝すれば、2位以内に入って2大会連続で1次ラウンドを突破できる可能性は高い。韓国や前評判の高いオランダを上回り、2次ラウンドの舞台である東京ドームにたどり着けるか、注目が集まる。 -- 2017-01-24 00 06 13 最後は「イスラエル、オランダ、韓国に対し、少なくとも2勝を収めることはできるだろう。しかし、スター選手不在では、MLB選手が多く在籍する他国を負かすことは困難だろう」と結論づけているが、果たしてどうなるか。2勝すれば、2位以内に入って2大会連続で1次ラウンドを突破できる可能性は高い。韓国や前評判の高いオランダを上回り、2次ラウンドの舞台である東京ドームにたどり着けるか、注目が集まる。 -- 2017-01-24 00 09 25 お前、荒らすのか? -- 2017-01-24 00 12 07 お前息くさ -- 2017-01-24 00 13 48 覇王になるwwwww -- 2017-01-24 00 20 56 猫ゆきのバキュームすごいやがwwwww -- 2017-01-24 00 23 44 もんちも放送したから入れてあげてくれ -- 2017-01-24 00 58 29 てな、たっな -- 2017-01-24 01 31 06 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288557620 深夜の突発適当タイトル枠 絶対最後にイベントの告知するよ -- 2017-01-24 01 47 01 盛り上がった長時間ゲーム放送の後にツイッターで別の情報に混ぜてイベントがあることを知らせる そして平日深夜に突発枠で本告知 どんだけイベントに対して後ろ向きなんだよ 可哀想で叩く方も萎えるんだが -- 2017-01-24 01 52 05 http //i.imgur.com/NWdhhsP.jpg http //i.imgur.com/IqatzTm.jpg http //i.imgur.com/UTjKGGJ.jpg http //i.imgur.com/FK5p60h.jpg http //i.imgur.com/h1NLFbb.jpg http //i.imgur.com/kETVb8V.jpg http //i.imgur.com/mh9UX8j.jpg http //i.imgur.com/PuXC0nK.jpg http //i.imgur.com/kWKTe27.jpg http //i.imgur.com/nvvRagX.jpg http //i.imgur.com/1ImBFGU.jpg http //i.imgur.com/kfsjNjV.jpg http //i.imgur.com/o2GU4QQ.jpg http //i.imgur.com/FeEOd7F.jpg -- 2017-01-24 03 03 39 左のメニューにこのカレンダー付けてよ -- 2017-01-24 03 05 26 もっと季節感がある画像にしろよ -- 2017-01-24 03 06 44 巧みな枠とりだね〜 -- 2017-01-24 04 09 59 俺が最速の早起きだああああああああ あああああああああああああああああ -- 2017-01-24 04 20 27 はいおぱよ -- 2017-01-24 04 30 01 おっぱ~ -- 2017-01-24 04 32 59 ねるじょ -- 2017-01-24 06 42 34 起きたじょ -- 2017-01-24 07 02 30 真紀子愛してるよ -- 2017-01-24 08 38 31 信じた -- 2017-01-24 08 45 24 https //twitter.com/shimukappi/status/823661823756935169 -- 2017-01-24 10 36 09 http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170124-00000019-mai-soci -- 2017-01-24 11 30 44 ちょwしこってかまん? -- 2017-01-24 11 34 35 今日寒すぎだろ -- 2017-01-24 11 38 54 真紀子が出ていった。 -- 2017-01-24 12 13 36 イケメンにあたためてほしいw -- 2017-01-24 12 23 31 目白の田中邸には、書生やお手伝いが常駐している。 角栄が倒れるまでは、10人前後が普通だったが、倒れて以降は、数人となっ た。 このお手伝いたちが、次々辞めていくことが続いたのである。 かつてお手伝いは、越後交通から派遣されることが多かった。 いうまでもなく、越後交通は角栄の後援会「越山会」の中核企業。地元では、 一流企業だ。ここで1年から1年半ほど働き、その中で特に優秀だった女性社員が 抜擢されて、目白邸で勤務するのである。 しかし、時が経ち、今度は秘書が越山会を通じて直接探してくるようになる。 そうしたお手伝いが、角栄が倒れて以降、なぜか不本意な辞め方をすることが続 いたのである。 そして、辞めたあと、彼女たちは貝のように口を閉ざし、何があったのか語ろ うとしないのだ。 あの目白の高い塀の奥でどんなことが起っていたのか。 「真紀子さんの猜疑心がすべての原因です。こき使われ、疑われ、そして罵倒さ れ、ボロボロになってお手伝いさんは辞めていくのです」 と、ある田中家の閑係者がこんなことを明かす。 「お手伝いは田中家の家事全般をやっていますが、家の中で小銭がなくなって も、電気を消し忘れても、鍵をかけ忘れても、真紀子によって猛烈な犯人さがし がおこなわれるのです。疑いをかけられ、面罵され、身におぼえがないのに、泣 きながら謝罪させられる彼女たちは、結局、辞める道を選びます。罰として、 素っ裸で母屋の階段を昇り降りさせられたり、雨の中、玉砂利の上で正座させら れて謝まらされたお手伝いさんもいます。でも、彼女たちは辞める時に“事務所 の中(邸内)で見たこと、知ったことは一切口外しません”という念書を書かさ れるんです。実際に勤めている時に真紀子の恐ろしさは十分、知った上で去って いくわけですから、彼女たちは辞めたあと、本当に“貝”になってしまう。角栄 さんが元気だったら、とても考えられないことでした」 そして、遂にはこんな信じられない悲劇も起こったという。 あるお手伝いが、食卓にカレーを運んでいた時のことである。 「その時、お手伝いさんが皿を落として割ってしまったのです。その瞬間、真紀 子さんが激昂し、食卓にあったカレーをお手伝いにかけたのです。彼女はギャー といったままうずくまってしまった。彼女は顔の半分に熱いカレーを浴びて、火 傷してしまうのです。もちろん彼女はお手伝いを辞めますが、悲劇なのは、その 跡が今も赤いケロイドになって残っていることなんです。彼女はその後、誰とも 接触せず、沈黙を続けていますが、お手伝いさんの中にはそのことを知っている 人もいるんです……」(古参秘書) 外務省で秘書官に書類をぶちまけたり、指輪を買いに走らせたりするレベルの 話ではない。 悲劇というより唖然とするエピソードである。 奇妙な母娘関係 真紀子が生まれたのは、昭和19年1月14日のことだ。 角栄が25歳、はな33歳の時である。 当時、角栄は自ら起こした田中土建の社長。15歳で新潟の長岡から上京した角 栄は、夜学に通いながら職を転々とし、建築士の免許をとって、やがて飯田橋に 建築事務所を起こす。これが田中土建である。 この時の事務所の大家の娘が、はなだった。彼女はその10年はど前に一度結 婚。静子という娘をもうけたが離婚し、実家に戻っていた。そして、角栄の事務 所の手伝いをするうちに妻となるのである。 角栄が自ら著した『私の履整書』によれば、はなは結婚に際して、 「喧嘩をしても出て行けと言わないこと」 「私を嫌いになっても、足蹴にしないこと」 「将来、二重橋を渡る日(皇居に呼ばれること)があったら、自分を連れていく こと」 という条件を角栄に出したという。はなの最初の結婚での苦労を想像させる話 である。 真紀子にとって、母親が再婚で家庭内で肩身の狭かったことが、のちの性格形 成に大きくかかわってくるのだが、それは後述する。 真紀子には1歳ちがいの兄がいたが、小児結核でわずか5歳で夭折。嘆き悲しん だ角栄は、真紀子をその長男に代わり、跡取りとして育てていくことになる。 真紀子が3歳の時に、角栄は衆議院議員に初当選。父親の権力が次第に増して いく過程で、彼女は物心をつけ、人格を形成していく。そして、その中で、数々 のエピソードを残していくのである。 真紀子は、田中家にとって特別な存在であり続けた。 「跡取りの真紀子は、自宅にあっても正月や法事で親戚が集まった際には、はな さんよりも上座に座らされていました。オヤジがいる時でも次席で、はなさんよ りも上座でしたよ。意識するとしないにかかわらず、自分が父親の次にえらい、 という意識は、小さい時から自然に備わっていったと思います」(元越山会幹 部) しかし、まだ世の中の道理も分っていない子供のうちから、まわりの大人がか しずき、甘やかすことが、その人の人生にプラスをもたらすわけは -- 2017-01-24 12 24 29 おーさむ -- 2017-01-24 12 28 17 真紀子、どこだ。 -- 2017-01-24 14 24 04 さかたけ言うな -- 2017-01-24 14 54 52 うどんうたえ -- 2017-01-24 15 18 55 まぜさんおる? -- 2017-01-24 15 28 52 団地 -- 2017-01-24 15 57 48 真紀子、どこだ。 -- 2017-01-24 16 33 27 バカ息子 -- 2017-01-24 16 37 14 ごめん -- 2017-01-24 16 41 28 やめてくれ -- 2017-01-24 16 46 19 アッアッアッ -- 2017-01-24 16 48 21 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30487540 -- 2017-01-24 17 10 28 やめたい -- 2017-01-24 17 31 44 なにを -- 2017-01-24 17 32 25 は?アスペ死ね -- 2017-01-24 17 36 11 俺現役さかたけやぞ -- 2017-01-24 17 37 55 マゼ=ヨルガナ(1876~1943) -- 2017-01-24 17 45 18 団地 -- 2017-01-24 18 38 07 団地3兄弟 -- 2017-01-24 18 55 08 やめたい -- 2017-01-24 19 17 36 イケメンと添い寝したいいいいいい -- 2017-01-24 19 23 04 団地 -- 2017-01-24 19 30 34 団地 -- 2017-01-24 19 42 41 マゼ=ヨルガナ(1876~1943) -- 2017-01-24 19 46 17 https //www.openrec.tv/ -- 2017-01-24 19 51 50 まぜさんおる? -- 2017-01-24 19 55 22 今から全レスしていく -- 2017-01-24 20 00 21 【投手】 大谷(日) 菅野(巨) 則本(楽) 増井(日) 牧田(西) 宮西(日) 秋吉(ヤ) ※千賀(ソ) ※石川(ロ) ※藤浪(神) ※岡田(中) ※松井裕(楽) ※平野(オ) 【捕手】 嶋(楽) 大野(日) ※小林(巨) 【内野手】 中田(日) 菊池(広) 山田(ヤ) 坂本(巨) 松田(ソ) 【外野手】 青木(アストロズ) 内川(ソ) 筒香(D) 秋山(西) 鈴木(広) ※平田(中) -- 2017-01-24 20 01 05 http //news.biglobe.ne.jp/img/blnews/trend170124_01.jpg -- 2017-01-24 20 02 46 http //i.imgur.com/7mBtqU7.jpg http //i.imgur.com/pYwF3Ic.jpg http //i.imgur.com/vUblcsb.jpg http //i.imgur.com/Eg5VWdG.jpg http //i.imgur.com/niabI7J.jpg http //i.imgur.com/A1NmreO.jpg http //i.imgur.com/7mNRQgI.jpg http //i.imgur.com/NavFaP4.jpg http //i.imgur.com/mkCJY4Y.jpg http //i.imgur.com/U5HhZtm.jpg -- 2017-01-24 20 38 47 国際窃盗団ピンクパンダ -- 2017-01-24 20 50 33 さっさと続き貼れよカス人間 -- 2017-01-24 21 09 40 いいえ踊る赤ちゃん人間です -- 2017-01-24 21 55 35 歩くクレヨン!? -- 2017-01-24 22 10 03 ポンちゃんとベルガモットのキス -- 2017-01-24 22 23 03 まぜさんおる? -- 2017-01-24 22 27 24 よこやんへ おもしろくすれば名前を出していいんですよね?(笑) 文句言えませんよね?(笑) -- 2017-01-24 22 34 55 !!!緊急事態!!! コメントが1000に届きそうにありません -- 2017-01-24 22 51 40 団地 -- 2017-01-24 22 52 15 コメントが? -- 2017-01-24 22 58 38 なんだコメントかよ 来訪者数かと思ってビックリしたじゃねえかw -- 2017-01-24 22 59 47 ウキのDOS部隊怖すぎ 頬骨もビビってたよ -- 2017-01-24 23 06 18 おい言うなよ -- 2017-01-24 23 07 47 http //twitcasting.tv/akkun__mix -- 2017-01-24 23 12 34 564 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイW cfd2-ddg/)[sage] 投稿日:2017/01/24(火) 23 12 35.22 ID Gl2HFvTj0 [2/2] ウキ民がまた勝利宣言してるな こんなことしかできないとかマジで害悪だな -- 2017-01-24 23 16 16 http //i.imgur.com/baZPs5h.jpg -- 2017-01-24 23 23 16 あと2人で1000人! -- 2017-01-24 23 38 02 1000人?余裕余裕 -- 2017-01-24 23 41 09 haibokuwosiritai -- 2017-01-24 23 42 03 閉鎖ですね -- 2017-01-24 23 47 18 なんですか、これ -- 2017-01-24 23 47 39 マゼ=ヨルガナ(1876~1943) -- 2017-01-24 23 53 57 今日のウキの質高かったな -- 2017-01-25 00 02 47 http //dropbooks.tv/detail/6aBUirq6uz -- 2017-01-25 00 05 10 誰か放送しろ -- 2017-01-25 00 14 42 さっき放送したけどコメ4w -- 2017-01-25 00 26 40 すくな -- 2017-01-25 00 29 48 どんな放送したの? -- 2017-01-25 00 35 32 現在 2 人 -- 2017-01-25 00 57 21 氷河期はいったな -- 2017-01-25 00 59 58 いつも通り -- 2017-01-25 01 03 58 うんこちゃんの競馬見ながら寝よっと -- 2017-01-25 01 27 42 クソガキ謝罪放送しろ -- 2017-01-25 01 36 10 みょんさん可愛い -- 2017-01-25 03 24 32 此処はユダヤ人隔離区ゲットー 即ち"黒"の歴史の象徴だよ 目を逸らすんじゃねえ -- 2017-01-25 03 36 20 さなえの顔にちんこビンタしたい -- 2017-01-25 03 50 37 ウキ婦人レベルたっか -- 2017-01-25 03 56 48 https //www.youtube.com/watch?v=ALrmSpws0Rs これに感化されてしまいました ウキも又、カリスマを求めています。 -- 2017-01-25 04 01 04 上の画像誰かいないよね http //i.imgur.com/K0uhcYM.jpg -- 2017-01-25 04 17 40 ユトリロちゃんいつ寝てるんだろう -- 2017-01-25 04 23 00 いつもほにゃちょろ~って打ってる人誰 -- 2017-01-25 05 18 22 おれ -- 2017-01-25 05 20 01 なんだお前かよw -- 2017-01-25 05 21 35 えへへっw -- 2017-01-25 09 03 13 オーレ オーレ オレオレ〜wwww -- 2017-01-25 09 23 05 もんちを憎んでいる人間が作ったのかな -- 2017-01-25 09 47 53 まじー? -- 2017-01-25 10 01 16 みょんぶっさ -- 2017-01-25 10 10 22 おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ おぱよ~~~ -- 2017-01-25 10 10 51 団地 -- 2017-01-25 10 27 01 そんなんにゃほにゃほにゃほたろうやろそんなん。そんなん言うても。 -- 2017-01-25 11 17 55 団地 -- 2017-01-25 11 30 10 金欠だじょ〜 いちご飴と雪で腹一杯にするじょ〜 -- 2017-01-25 12 01 59 気持ちわるっ -- 2017-01-25 12 15 59 頬2、3ぱつ叩かれて電話切らない奴がまとももしくは弱いと思えるあたりがすげー、ヤクザだろこいつ 冷静に靴履いてるのと倒れ込んだら確実に頭に蹴り入れるあたりが喧嘩なれしてる、フルスイングで素足で頭蹴ったら素人なら足いわすのよくわかってる、頭蹴った経験が何度かある奴だわ 踵の使い方も悪くない、でもパンチ力無いからデカイ相手だと秒殺されるね -- 2017-01-25 12 17 40 牛丼食おっと -- 2017-01-25 12 21 39 よこやんへ どうしよっか?(笑) -- 2017-01-25 12 22 58 暴露していい? -- 2017-01-25 12 28 39 速報 みょんさんうさ耳 -- 2017-01-25 12 31 41 水槽の脳(すいそうののう)とは、あなたが体験しているこの世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ているバーチャルリアリティなのではないか、という仮説。 哲学の世界で多用される懐疑主義的な思考実験で、1982年哲学者ヒラリー・パトナムによって定式化された。正しい知識とは何か、意識とはいったい何なのか、といった問題、そして言葉の意味や事物の実在性といった問題を議論する際に使用される -- 2017-01-25 13 03 07 IP見られるのウザ過ぎるーwwww -- 2017-01-25 13 04 54 うひひぃ~w -- 2017-01-25 13 17 25 みょんさんほんまかわいいちょろな -- 2017-01-25 13 25 15 お前歌い手への偏見ヤバイぞ。顔が良くなきゃデビュー出来ない芸能歌手と違って歌い手は唄だけでのし上がってるから純粋に歌唱力だけみれば高い -- 2017-01-25 13 37 02 え、急になに -- 2017-01-25 13 46 46 http //iitame.com/archives/2013 -- 2017-01-25 13 57 13 食用肉から出たくず肉、腱、脂肪、結合組織を混ぜた物から成るペースト状の生地と、アンモニアから作られたもの -- 2017-01-25 13 57 21 侍ジャパン最後の1人はソフトバンク今宮が最有力 日刊スポーツ 1/25(水) 4 55配信 侍ジャパン最後の1人はソフトバンク今宮が最有力 ソフトバンク今宮 侍ジャパンの小久保裕紀監督(45)が24日、都内で会見を行い、第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する日本代表8選手を追加発表し、全28選手中27人が決まった。 【写真】大谷、筒香ら WBC侍日本代表メンバー/写真名鑑 最終メンバーは28選手だが、あと1選手は後日発表することになった。会見の冒頭、侍ジャパンの広報担当者が「辞退者が1人いました」と説明した。日本ハム中島の評価が走攻守トータルで高く、選出が確実視されていた。 日本ハム栗山監督は、中島について「体の状態を含めて、自主トレの状態を見たら無理させる状態ではなかった」と説明。春季キャンプでは1軍メンバーに入っていたが、23日に2軍スタートに変更となっていた。小久保監督は体調面を選出基準の中で重要視しており、出場可能なまでにコンディションが、上がらなかった可能性が高い。 現状は遊撃を守れる内野手の層がやや薄く、最後の1人はソフトバンク今宮健太内野手(25)が最有力とみられる。身体能力が非常に高く、遊撃の守備はもちろん、俊足、犠打の小技も巧み。小久保監督の就任後は侍ジャパンの常連であり、不安視されていた右肘も不安はない。当初に中島を想定していたメンバー構成であれば、真っ先に名前が挙がるのが自然だ。他には広島田中広輔内野手(27)ロッテ鈴木大地内野手(27)も候補に挙がる。 -- 2017-01-25 14 07 06 うんち!w -- 2017-01-25 14 23 48 http //www.nicovideo.jp/user/38010302 -- 2017-01-25 14 28 52 団地 -- 2017-01-25 15 17 49 きたあああああ http //live.nicovideo.jp/watch/lv288662745 -- 2017-01-25 16 31 08 運地 -- 2017-01-25 16 55 51 俺普通にイケメンやな -- 2017-01-25 17 35 19 死ねさぎつき -- 2017-01-25 17 42 58 とい君眉毛整えてるのかな -- 2017-01-25 17 45 11 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288666659 -- 2017-01-25 17 49 10 あらかわいい -- 2017-01-25 17 52 20 この不細工のマスクさっさと外させろ。 -- 2017-01-25 18 01 13 どうやったら外してくれるかな? -- 2017-01-25 18 06 18 外すぜ・・・ばあさん!アンテ!!! -- 2017-01-25 18 09 25 wwwwwwww -- 2017-01-25 18 10 02 ワロタ -- 2017-01-25 18 10 12 これには草 -- 2017-01-25 18 10 26 ウキにもまだセンスある奴残ってるな -- 2017-01-25 18 11 47 つまんな -- 2017-01-25 18 12 43 そんなもん これ使って脅して来いよ -- 2017-01-25 18 12 55 ボロン -- 2017-01-25 18 16 13 邪悪元気すぎだろ -- 2017-01-25 18 17 17 粗末なもの出さないで -- 2017-01-25 18 19 50 邪悪いい加減にしろ -- 2017-01-25 18 22 27 すまにょw -- 2017-01-25 18 28 40 wwwwwwww -- 2017-01-25 18 33 07 わ・ろた -- 2017-01-25 18 33 31 つまんな -- 2017-01-25 18 33 56 ご・めそ -- 2017-01-25 18 39 14 つまんな -- 2017-01-25 19 14 07 つまんなすぎやがw -- 2017-01-25 19 19 09 まったくもうっwだれのせいよ!出てきなさいwww -- 2017-01-25 19 23 47 ほーいw -- 2017-01-25 19 26 29 おしりペンペン! -- 2017-01-25 19 26 42 ふええwヒリヒリしてきたよぅww -- 2017-01-25 19 27 33 https //twitter.com/jaak_jaak_jaak -- 2017-01-25 19 31 35 おしりぺろぺろ! -- 2017-01-25 19 31 50 邪悪くんのドラクエ10のキャラ教えて -- 2017-01-25 19 39 14 たかだけんし -- 2017-01-25 19 40 16 ネカマロン!? -- 2017-01-25 19 40 54 なんでバレたw -- 2017-01-25 19 49 49 ゆかちんってオカマなんだよね… その、工事って済んでるのかな? -- 2017-01-25 19 51 02 君なんで勃起してるのかな? -- 2017-01-25 19 52 10 矢田矢田矢田矢田こうじ中 -- 2017-01-25 19 55 58 本怖始まったじょおおおおおおおおおおお -- 2017-01-25 19 58 21 よせよ、昔話をするほど歳は取ってねえ そうだろ? -- 2017-01-25 20 07 29 二度もよぉ・・・ -- 2017-01-25 20 33 23 https //www.youtube.com/watch?v=5y47jsHBMUk -- 2017-01-25 20 48 44 http //live2.nicovideo.jp/watch/lv283496136 -- 2017-01-25 20 52 06 2017/01/25(水) 20 50 開場 21 00 開演 現在活躍中のクリエイターに、 世の中に訴えたいことや、作品制作の裏側などなどを 聞いていく番組です! スマートフォンからの番組へのメール投稿はコチラ ゲストは、 西野亮廣さん gest 司会は、 松嶋初音さん(twitter @HATSUNEXJAPAN blog) と 草彅洋平さん( 株式会社東京ピストル 代表取締役 Twitter @TP_kusanagi blog) 草彅洋平(KUSANAGI YOHEI) 1976年東京世田谷生まれ。 2006年にクリエイティブ制作会社の株式会社東京ピストルを設立。 代表取締役社長として、編集を軸にデザインディレクション、 プロモーション、ブランディングコンサルティング等幅広い業務をこなす。 ももいろクローバーZの公式ツアーパンフレットの編集長、 日本近代文学館内の文学カフェ「BUNDAN」と グラノーラ専門店「GANORI」のプロデュース&運営など。 でお届けいたします。 クリエイターの内部に迫る番組、こうご期待! -- 2017-01-25 20 56 34 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288620164 23時から神回です -- 2017-01-25 21 21 58 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288687538 -- 2017-01-25 21 49 31 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288687382 -- 2017-01-25 21 49 51 よっさん死ぬのかな -- 2017-01-25 22 01 05 https //www.youtube.com/watch?v=D5WC24Z5N3w -- 2017-01-25 22 37 06 巨人の陽岱鋼、WBC出場を辞退=プロ野球 時事通信 1/25(水) 21 29配信 日本ハムからフリーエージェント(FA)で巨人に移籍した陽岱鋼外野手が、台湾代表に選出されていたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の出場を辞退したことが25日分かった。昨年8月に右肋骨(ろっこつ)を骨折したこともあり、新天地でのシーズンに向けた調整を優先した。 陽岱鋼は2013年の前回大会に出場。3月の第4回大会については「巨人での1年目は大事。球団と話し合って決めたい」と慎重な姿勢を見せていた。台湾は1次リーグA組で韓国、オランダ、イスラエルと対戦する。 -- 2017-01-25 22 39 30 君の前前前前前前前前前前前前前前前前田あつき -- 2017-01-25 22 47 56 おーん -- 2017-01-25 23 03 55 故知新 -- 2017-01-25 23 04 25 んこ -- 2017-01-25 23 04 52 ぷぅ〜wごめ屁こいてもたw -- 2017-01-25 23 14 32 Q.「今日うんこちゃん来る?」 A.「2時から」 -- 2017-01-25 23 25 16 Q.「今日うんこちゃん来る?」 A.「来る」 -- 2017-01-25 23 26 05 それ明日じゃんw -- 2017-01-25 23 37 10 お前めんどくさ -- 2017-01-25 23 41 52 youtubeのコメントをニコニコっぽく表示するchrome拡張作ってみたので貼っときます http //i.imgur.com/L9JTk4A.png http //www.rupan.net/uploader/download/1485352644.crx pass unk -- 2017-01-26 00 21 45 アイコンキモいのなんとかして -- 2017-01-26 00 28 20 寝るじょ -- 2017-01-26 00 32 25 置いておくぜ http //dropbooks.tv/detail/BErrftQp1J# -- 2017-01-26 00 47 24 寝るーじょ -- 2017-01-26 01 42 18 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288719018 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288719018 -- 2017-01-26 02 13 52 みょん部屋 横綱 みょん 80kg 大関 かかりちょう 60kg -- 2017-01-26 02 41 05 ピクトセンスですか?参加しますよ -- 2017-01-26 02 42 10 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288720923 ピクトセンス -- 2017-01-26 02 44 18 PASS にこにこ -- 2017-01-26 02 47 42 http //i.imgur.com/GlVQVYc.png わーちゃそ楽しそうや -- 2017-01-26 03 31 35 おはみょ -- 2017-01-26 07 07 16 おはんにょろ~ -- 2017-01-26 07 56 45 クソガキおはよ -- 2017-01-26 08 01 18 今日は何の日? -- 2017-01-26 08 21 07 俺もピクトセンス呼べよ -- 2017-01-26 08 38 46 https //livetube.cc/p%EF%BE%98%EF%BE%9D%EF%BD%BD/%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%B9VR%E9%83%A8%E3%80%80%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA7%EF%BC%882%EF%BC%89 -- 2017-01-26 08 45 14 ↓プリンス -- 2017-01-26 08 46 12 どこで放送してんねん -- 2017-01-26 08 59 18 ぷりんちょ!? -- 2017-01-26 09 02 45 http //www.nicovideo.jp/user/38010302 おはよう -- 2017-01-26 09 07 45 もんちやめろ -- 2017-01-26 09 13 33 まぜさんおる? -- 2017-01-26 09 32 35 【速報】柴崎のスペイン移籍 -- 2017-01-26 10 05 59 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30504633 -- 2017-01-26 10 11 26 クソガキきも消えろや -- 2017-01-26 10 23 46 これクソガキのサブ? -- 2017-01-26 10 29 41 そうだよ -- 2017-01-26 10 47 52 自分で加藤に晒された動画上げてたのかよ きっしょいわ -- 2017-01-26 10 48 50 体は本気で応えている 擦りむく程度はもう慣れっこ 喜んで良いものなのかな 一生今日が続いてほしい -- 2017-01-26 10 54 35 焼いて魂 -- 2017-01-26 12 03 53 団地 -- 2017-01-26 12 09 48 クソガキの本名って水野圭介だっけ -- 2017-01-26 12 24 11 http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170126-00000002-khks-spo.view-000 -- 2017-01-26 12 38 51 月、木曜日だけゲストに困ってそうだし頬骨と高田のニコラジ共演まじでありそうだね -- 2017-01-26 13 28 41 geroとか、この前もnerだったし身内しか呼んでないの? -- 2017-01-26 13 39 31 団地 -- 2017-01-26 13 44 32 http //www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/58274 あらま・・・またこんなのやってるよ・・・^^;;; -- 2017-01-26 13 47 37 うわぁ・・・ -- 2017-01-26 13 50 50 固定ツイートまでしたのにチケット売れ残ったってことは需要ないってことよ えーもんもバカじゃないんだね -- 2017-01-26 13 54 02 あ http //i.imgur.com/njVKG6Q.jpg -- 2017-01-26 13 57 57 買うバカおるん? -- 2017-01-26 13 59 05 また女衛門食ったのか -- 2017-01-26 14 02 04 自分で書いておいてよく言うよ -- 2017-01-26 14 04 30 俺が分身できれば分身に爆弾抱えさせてくっちゃべに特攻するのに -- 2017-01-26 14 08 47 おんぎゃあおんぎゃあ -- 2017-01-26 14 09 13 1回目 66人 2回目 70〜80人 会場は100〜200人キャパ ニコ生チャンピオン()がこの程度ですか・・・ 実際チャンネル集客も水増しかもな -- 2017-01-26 14 09 29 イベントに来た女の子食ってるんだろうな いいな〜 -- 2017-01-26 14 15 59 http //www.nicovideo.jp/user/38010302 70人といえばこいつのフォロワーの10倍 -- 2017-01-26 14 17 15 ネェハナチャン -- 2017-01-26 14 21 23 生放送 55% (32EXP) 動画 34% (20EXP) モバイル 6% (4EXP) 静画 1% (1EXP) アプリ 1% (1EXP) その他 0% (0EXP) -- 2017-01-26 14 31 27 動画 70% (43EXP) 生放送 24% (15EXP) アプリ 1% (1EXP) モバイル 1% (1EXP) 静画 1% (1EXP) その他 0% (0EXP) -- 2017-01-26 14 39 48 ちょやめ〜や -- 2017-01-26 14 41 03 うわー戦闘力負けた -- 2017-01-26 14 43 38 ほかの投稿者に暴言を吐きますか? -- 2017-01-26 14 43 48 加藤君、年末のあれもそうだけど人前だと糞つまんないのによく金取る気になるね -- 2017-01-26 14 52 10 うんこちゃんのこと気になって仕方ないみたいだねぇ〜おーん -- 2017-01-26 14 57 54 自分の雑談に金銭的価値があると思い込んでる -- 2017-01-26 15 00 41 売れ残ってるとか チケットの受付1/28(土) 10 00~だから^^; -- 2017-01-26 15 03 01 俺がウキを見始めたのは中学のときだった -- 2017-01-26 15 04 56 売れ残ってるとか チケットの受付1/28(土) 10 00~だから^^; 過去二回のイベントの話な^^;完売できてなかったよね^^; -- 2017-01-26 15 14 02 30日のニコラジに高田出ます! -- 2017-01-26 15 23 03 よこやんへ ダサすぎです(笑) -- 2017-01-26 15 26 02 過去二回のイベントの話な^^;完売できてなかったよね^^; ↑はいそれ後付け哀れだなウキッズ -- 2017-01-26 15 26 29 http //www.nicovideo.jp/user/38010302 こいつとどっちがダサい? -- 2017-01-26 15 27 08 クソガキくん落ち着きなよ〜 -- 2017-01-26 15 27 53 喧嘩しろ -- 2017-01-26 15 28 51 過去二回のイベントの話な^^;完売できてなかったよね^^; ↑はいそれ後付け哀れだなウキッズ ?????????????????????????? -- 2017-01-26 15 33 05 はじめっから2回の話しかしてなくて喧嘩にもなってないの可哀そう -- 2017-01-26 15 38 49 22で自称現役ヤンキーの方がダサい -- 2017-01-26 15 39 10 https //www.youtube.com/watch?v=YxFr2bNGZMc -- 2017-01-26 15 41 16 横山緑が昨日放送中にシコって視聴者にザーメン見せつけたってマ? -- 2017-01-26 15 50 11 さすがニコ生トップ -- 2017-01-26 15 57 34 もっと早く出すと思ってた -- 2017-01-26 15 57 58 yoyoちょろ?これ本物? http //i.imgur.com/KCowFhd.png -- 2017-01-26 15 59 36 俺も見せたら人気者になれるかな -- 2017-01-26 16 00 45 そこらで歩いてる女の子にかけてみ? キャーキャー言われるよ -- 2017-01-26 16 05 19 なにをかけるかちゃんと書こうね -- 2017-01-26 16 07 28 あたまがおかすくなるうううううううううううううううううううううううう -- 2017-01-26 16 13 49 バイオハザード7相当評価高いな -- 2017-01-26 16 25 11 クリアまで2.5時間なんだろ? -- 2017-01-26 16 36 52 普通にやったら10時間くらい。 多分その時間はRTA -- 2017-01-26 16 40 16 この間の「ク リュヌイ」試したら1ヶ月で9キロ痩せてガリガリになったwww運動一切してないのに(笑) -- 2017-01-26 16 58 15 このすば2期つまんねぇ どうしてこうなった -- 2017-01-26 17 16 30 団地 -- 2017-01-26 17 17 30 お前ら今特定しようと必死か?まぁええけど -- 2017-01-26 17 19 25 クスッ -- 2017-01-26 17 22 59 俺現役ヤンキーやぞ -- 2017-01-26 17 24 08 こわい -- 2017-01-26 17 33 22 アオアシ面白いじょ -- 2017-01-26 17 56 26 といくん消えてどれぐらい? -- 2017-01-26 17 57 32 みにょ -- 2017-01-26 18 08 25 https //www.youtube.com/watch?v=1yjx1fJ270E -- 2017-01-26 18 35 32 jun channel viewer 0.3.0 http //www.rupan.net/uploader/download/1485419710.zip pass unk -- 2017-01-26 18 45 49 ウィルスだぞ -- 2017-01-26 18 56 29 http //jin115.com/archives/52164053.html とりあえずルキナとサーリャが2位3位で嬉しいです! あとドルカスさんは何故か某所のネタで知ってました! -- 2017-01-26 18 59 26 配信しようかな -- 2017-01-26 19 18 44 youtubeおもしろい -- 2017-01-26 19 19 37 hey dj 聞かせて~ -- 2017-01-26 20 13 54 まぜさんおる? -- 2017-01-26 20 14 53 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288755832 -- 2017-01-26 20 31 10 ヤフミが復活してるちくらん -- 2017-01-26 20 33 05 http //www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm -- 2017-01-26 21 41 26 何が言いたい -- 2017-01-26 21 44 22 https //www.youtube.com/watch?v=aHI7EhMaxG4 -- 2017-01-26 21 47 37 ねえねえど忘れしちゃったんだけど サムネイルがあずまんが大王の大阪のツイ右衛門って誰だっけ -- 2017-01-26 21 59 03 今週も マロン爆睡 同じオチ -- 2017-01-26 21 59 22 フェデラー対ナダルの決勝観てえ -- 2017-01-26 22 05 11 自己解決しました このトピは閉じます -- 2017-01-26 22 07 46 ぞえふぁーむ君か -- 2017-01-26 22 11 30 団地の子ぞえふぁーむ -- 2017-01-26 22 23 03 つまんないコメントばっかり -- 2017-01-26 22 40 42 焼いて魂 -- 2017-01-26 23 01 01 もんち追加まだ? -- 2017-01-26 23 01 46 なしこの右にいるじゃん -- 2017-01-26 23 25 36 もんちがもんちを継承したなら俺もなしこを継承する -- 2017-01-26 23 26 35 好きになった女の名前名乗って生活して何が悪い? -- 2017-01-26 23 37 15 真美子 -- 2017-01-26 23 39 22 名川がテペコミュに入って来たんだが -- 2017-01-26 23 52 14 ほーなん -- 2017-01-26 23 55 03 テペも名川に犯されるってこと? -- 2017-01-26 23 58 20 もうあいつら出会ってるぞ -- 2017-01-26 23 59 17 なんでバレたw -- 2017-01-27 00 04 54 性癖を 暴露した ら -- 2017-01-27 00 05 46 こっから名川さんに繋がるバトン -- 2017-01-27 00 06 47 はんじーってなんだよ -- 2017-01-27 00 07 48 名川はもう引退してるぞ -- 2017-01-27 00 08 05 なんでバレたw -- 2017-01-27 00 09 23 寝るじょ -- 2017-01-27 00 20 59 https //www.facebook.com/mamiko.miyadai.9 -- 2017-01-27 00 32 38 特定早いねぇ -- 2017-01-27 00 34 48 ウキは有能揃いだからね -- 2017-01-27 00 48 42 @bagina25 -- 2017-01-27 00 51 39 https //www.facebook.com/masao.matumoto.35 -- 2017-01-27 00 52 39 布団ちゃん顔かっこいいじゃん -- 2017-01-27 00 53 38 高田健志と繋がりたいスレ立てたらおまえら盛り上げてくれる? -- 2017-01-27 00 54 50 布団かっこいい -- 2017-01-27 00 56 15 https //www.ims.gr.jp/contents/recruit/pdf/rehabilitation/shintotuka.pdf -- 2017-01-27 01 04 35 イケメンで性格もいいとか最強だな -- 2017-01-27 01 10 15 布団が性格いい・・・? -- 2017-01-27 01 10 43 1ヶ月ぶりのウキはいいね、特にお知らせのバナーがいい -- 2017-01-27 01 15 00 閉鎖ですね -- 2017-01-27 01 19 20 探しものはなんですか -- 2017-01-27 01 22 28 愛しかないとか思っちゃうヤバい -- 2017-01-27 01 30 46 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288797831 -- 2017-01-27 01 43 06 ついにここも閉鎖か -- 2017-01-27 01 46 58 抱きしめてると死んでもいい -- 2017-01-27 02 04 11 隔離場の画像専用ろだ消えてんぞ -- 2017-01-27 02 07 38 a ぱぁ!? -- 2017-01-27 02 13 59 頬骨パンパン男の人たちもさ ゆっくりしていけばいいじゃない 特にこんな時間の経つのが早い日は -- 2017-01-27 02 27 32 おでんツンツン男みたいに言うなや -- 2017-01-27 02 30 37 ラーメン食べたい -- 2017-01-27 02 34 54 ダルシム矢野「Re syuuroku」 http //www.nicovideo.jp/watch/sm22223207 20 40今フルチンで放送してる 22 25もう少しで25歳、ヤバくない? 23 12大学時代の誕生日は彼女とケーキ食べてた 23 45好きでもない女の子(167cm90kg介護職)と付き合ってる 25 00出会った日に3回SEXした 26 30彼女がハゲてる 27 50ネット回線代3ヶ月滞納してる 29 16カメラでゴミ部屋を映して枠切り -- 2017-01-27 02 38 07 やっぱり"ボトムビリオン"時代のダルシム最強だな -- 2017-01-27 02 43 51 奨学金地獄ワープア地獄モラトリアム地獄、即ち24歳ダルシム矢野最強 -- 2017-01-27 02 46 17 ダルシムおもろい -- 2017-01-27 02 47 41 生活の悪臭の集積がマイクロフォン通して喋ってんだ -- 2017-01-27 02 51 03 ダルシムほど底辺の奴を見たことがない -- 2017-01-27 02 56 11 テペの胃カメラ動画5万出してもいい -- 2017-01-27 03 24 07 今日の頬骨の録画隔離場にあげますよね? -- 2017-01-27 03 42 16 https //www.youtube.com/watch?v=R5wZFeaTaKM この赤西仁ステキだわ -- 2017-01-27 03 47 21 一人ウキンキキッズことジャスティス名川に歌ってほしいね -- 2017-01-27 03 51 00 その気持ち分かるわ -- 2017-01-27 03 58 40 そろそろゴリラ晒したいな〜 -- 2017-01-27 04 57 36 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる 真のもんちを上の画像に加えろ@水野圭介 -- 2017-01-27 05 03 32 またウキのせいにされてる・・・ -- 2017-01-27 06 17 03 ウキ民だけにゴリラあげる http //i.imgur.com/iGFdXMd.png -- 2017-01-27 07 20 21 こんなのみんな持ってるよ -- 2017-01-27 07 34 19 布団潰したの?やるねえ君たち -- 2017-01-27 07 52 17 はあ、また勝っちゃったよ 敗北を知りたい -- 2017-01-27 07 56 35 http //www.ims.gr.jp/shintotsuka/kawahiramethod/index.html 最前列左から2番目 -- 2017-01-27 08 04 21 脚ないじゃん -- 2017-01-27 08 05 32 脚ない奴にリハされたくね~w -- 2017-01-27 08 07 44 布団ちゃん脚もんちかよ -- 2017-01-27 08 09 23 バイクの事故で両足切断したって言ってたな -- 2017-01-27 08 10 08 http //shintotsuka.cocolog-nifty.com/nurse/ おまんらコメントするなよ~ -- 2017-01-27 08 12 18 こいつどの写真も親指立ててんな -- 2017-01-27 08 14 12 http //shintotsuka.cocolog-nifty.com/nurse/2016/08/28-3f57.html いる? -- 2017-01-27 08 15 18 外掘りから埋めていって頬骨潰すじょ -- 2017-01-27 08 20 58 そうだね がんばえ~ -- 2017-01-27 08 23 02 ウキがなに?自分で行動しなよ -- 2017-01-27 08 28 56 http //www.ims.gr.jp/book/shintotsuka/legami_vol.21/#page=1 左側青服の上 -- 2017-01-27 08 31 17 わろた -- 2017-01-27 08 31 58 加藤純一?フィギュアスケートより興味ねぇよ -- 2017-01-27 08 34 25 http //www.ims.gr.jp/book/shintotsuka/legami_vol.18/#page=1 下膨れのスーツ男性の右上 -- 2017-01-27 08 35 43 布団引退だなこりゃ -- 2017-01-27 08 36 17 http //www.ims.gr.jp/book/shintotsuka/legami_vol.16/#page=3 右下作業療法士 -- 2017-01-27 08 37 29 チャンピオン集団 -- 2017-01-27 08 37 31 出てきすぎだろ -- 2017-01-27 08 38 05 掘り出し物市@ウキ -- 2017-01-27 08 39 53 たのしいね~ -- 2017-01-27 08 41 01 起きてきた組が加わったウキは誰にも止められない -- 2017-01-27 08 42 07 facebookの友達に布団の家族いるな -- 2017-01-27 08 46 45 布団って一人っ子だったよな? -- 2017-01-27 08 47 24 布団の親も潰しちゃう? -- 2017-01-27 08 49 39 言ってることを素直に信じるピュアウキ民 -- 2017-01-27 08 49 54 ミミズ締めべ -- 2017-01-27 08 50 58 masao.matumoto.35 mamiko.miyadai.9 最後の数字は何の意味があるんだろう? -- 2017-01-27 08 52 08 まさおって読むのか まさきだと思ってた -- 2017-01-27 08 57 02 マツモト マソソ -- 2017-01-27 09 17 37 あっくん、20歳の誕生日おめでとう。 あっくんと始めて出逢ったのは"ウキ"だったね。 出逢った頃によく着てた黒のタンクトップ、今でも鮮明に憶えています。 今日からは大人の仲間入り。みんなで応援してるよ。 -- 2017-01-27 09 35 24 次はクソガキ てめえだからな -- 2017-01-27 09 36 56 加藤純一より松本のほうがイケメンじゃん 鈴木もイケメンらしいし加藤が一番不細工なんじゃね? -- 2017-01-27 09 38 01 ここまできたら全員特定したいにょろ -- 2017-01-27 09 39 51 エーモンは自分勝手すぎる 少しは本人の気持ち考えてやれよ 職場が特定されたってのに知らないふりするから放送しろだって? 特定しようとする奴が悪いだって? 徹底的に特定してやって、二度と戻って来れないようにしてやるのが本当の優しさだ -- 2017-01-27 09 44 50 http //www.ims.gr.jp/group/recruit/parts/pdf/rehab/shintotuka.pdf -- 2017-01-27 09 45 06 ほんまそれちょろな -- 2017-01-27 09 46 54 思いやり@wiki -- 2017-01-27 09 51 05 https //www.ims.gr.jp/contents/recruit/pdf/rehabilitation/shintotuka.pdf -- 2017-01-27 09 52 26 布団の顔、布団の本名、布団の職場 大三元デェスゥッ!!ソォレイ!!! -- 2017-01-27 09 52 43 右下にいるね -- 2017-01-27 09 53 26 ほんまわかりやすい顔と髪型してるわ -- 2017-01-27 09 53 55 布団写真館作って -- 2017-01-27 09 57 06 朝起きたらウィキ民が布団特定しててわろた -- 2017-01-27 10 01 41 君たちちゃんとウキの仕事を全うしてて偉いと思う -- 2017-01-27 10 02 53 興味なくても仕事は仕事だからね -- 2017-01-27 10 04 52 物見遊山でよぉニコ生するとバチが当たるんだよ 既婚者でしたっけ?対岸の火事は最高だよなぁ? 俺の辞書に判官贔屓の文字は無いからねぇ 大三元デェスゥッ!!ソォレイ!!! -- 2017-01-27 10 05 52 頬骨も専門卒かな? -- 2017-01-27 10 09 18 嫁の名前までバレたのか。昨日の録画くれ -- 2017-01-27 10 12 19 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288782416#12 20 ここ数分見ればいいよ 他はくだらない雑談だったから -- 2017-01-27 10 14 27 鈴木がマリアの名前ポロったってこと?こっからなんで布団の職場につながったん? -- 2017-01-27 10 21 00 苗字バレてるからね 検索したらfacebookが出てきてフレンド欄に布団じゃね? -- 2017-01-27 10 23 37 ほーなん -- 2017-01-27 10 24 09 よっちウキ民になればいのに -- 2017-01-27 10 25 08 30過ぎたおっさん3人の話題とか正直どうでもいいからアヌス貼ってよ うんこちゃんwikiじゃないんだよここは -- 2017-01-27 10 27 41 えーもんの話題そらしかな? -- 2017-01-27 10 30 26 頬骨が配信中に電話しなければ・・・ 次の被害者は姉家族かな?わっちゃんかな? -- 2017-01-27 10 30 44 コミュ爆破したら職場確定なのに誰か爆破しないかな -- 2017-01-27 10 31 51 https //www65.atwiki.jp/jon_atwiki/ こっちでとっくに漏れてんじゃねえか -- 2017-01-27 10 35 08 すーげー有能じゃんコイツ -- 2017-01-27 10 36 32 ウキ民最強! -- 2017-01-27 10 37 19 知らないふりしとけよ また俺らのせいにされるだろうが -- 2017-01-27 10 37 23 はっっっや -- 2017-01-27 10 37 59 11月にバレる要素あったっけ -- 2017-01-27 10 38 43 もっとずっと前から知ってましたけど -- 2017-01-27 10 39 22 えまってウキ民と信者衛門の特定力の差が2ヶ月以上もあるってこと・・? -- 2017-01-27 10 40 27 真性ホギーの書き込みから名前はわれててググったら病院出てくる -- 2017-01-27 10 41 11 特定得意なウキ民ダルシムの実家も特定してくれねぇかな あいつのボロ家の外観すごい見たいんだ -- 2017-01-27 10 41 41 ダルシムとといくん特定して -- 2017-01-27 10 42 19 また勝ってしまったか・・・ -- 2017-01-27 10 43 08 はよコミュ爆破しろ -- 2017-01-27 10 45 59 真性ホギーまで網羅してたか・・・・恐るべしウキ民 -- 2017-01-27 10 47 02 鈴木馬鹿だから爆破すると思ったけどしないねぇ -- 2017-01-27 10 50 44 布団さーん爆破まだ? -- 2017-01-27 10 51 11 まだまだ隠し持ってるよ -- 2017-01-27 10 57 21 ウキ民凄すぎる・・ -- 2017-01-27 11 01 04 やっぱウキ民が最強なんだな・・・かっけえ・・・ -- 2017-01-27 11 01 31 エーモンってホントに脳みそ無いんだろうね 少しは頭動かしながら放送見なよ -- 2017-01-27 11 09 12 ウキ民数少ないのに個人のチカラが余りにも強大過ぎる… -- 2017-01-27 11 10 07 https //twitter.com/dekkachan2003/following -- 2017-01-27 11 10 15 ヒョードルみたいになりてぇ -- 2017-01-27 11 10 55 今日盛り上がってるね -- 2017-01-27 11 16 44 ウキ民さん2月は何が起きるんですか?教えてください -- 2017-01-27 11 18 41 といくんが復活します -- 2017-01-27 11 24 31 情強のウキ民でもとい君に関しては全く読めません -- 2017-01-27 11 26 22 布団の嫁からしたら配信していた頬骨が悪だよな -- 2017-01-27 11 27 30 頬骨って容姿性格両方ブサイクじゃん -- 2017-01-27 11 38 47 匡雄みたいな上司欲しいなあ -- 2017-01-27 11 43 22 頬骨ってここ一年で容姿も劣化したよね -- 2017-01-27 12 07 06 結局君たちは興味津々で仕方ないんだね 残念 -- 2017-01-27 12 10 58 先週かなんかのしみけんが出てた時のニコラジにワイプで映った時不細工過ぎて草生えなかった -- 2017-01-27 12 12 18 俺は興味ないで -- 2017-01-27 12 14 06 俺も -- 2017-01-27 12 15 49 つまんないよね -- 2017-01-27 12 18 43 俺も興味ないわ -- 2017-01-27 12 20 35 うちも -- 2017-01-27 12 21 42 特定の流れどうせ一人でやってるんでしょ -- 2017-01-27 12 22 10 興味ない奴らにすら特定されてしまう馬鹿が悪い -- 2017-01-27 12 22 53 それな -- 2017-01-27 12 23 40 エーモン糖質発症しててワロタ -- 2017-01-27 12 25 24 あれだけいてなんで指くわえてヘラヘラしかできないの? -- 2017-01-27 12 29 53 うん -- 2017-01-27 12 31 01 いつもより常駐人数多いから監視してるのバレてるよ -- 2017-01-27 12 31 50 信者衛門 死んでしまえエーモン ウキの吐き溜 閉じ籠もりエモン ニコ生の嫌われエーモン 疎まれエーモン 要らないエーモン バケモン 信者衛門 もう俺は貴様らに 言わねばならぬ事がある 信者衛門 貴様らなんか 死んでしまエモン 嫌われモン 人に成り損ない なんて哀れなデーモン ネットのゴミ溜め ウキ破壊バケモン 貴様らに荒らされ(荒らされ) 貴様らを恨んで(恨んで) だからこそわかれエーモン 信者衛門 死んでしまえエーモン チャンネル猿山護りエーモン ニコ生の人以下エーモン エタモン 要らないエーモン バケモン -- 2017-01-27 12 33 33 あー興味ない 早く終わらないかな -- 2017-01-27 12 35 46 エーモン監視中 -- 2017-01-27 12 37 23 よこやんへ いつ戻るの? -- 2017-01-27 12 40 29 https //www.youtube.com/watch?v=keX70hPOlvw -- 2017-01-27 12 47 29 懐かしいじょ -- 2017-01-27 12 49 17 昨日貼られてたフェイスブック本物なの?うんこのとこの掲示板に貼ったら凄いことになりそうだね -- 2017-01-27 12 52 33 もうとっくに貼られてる -- 2017-01-27 12 53 50 情弱すぎ 4んだほうがいいよ -- 2017-01-27 12 54 40 807 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (アウアウカー Sa43-Z4Qg)[sage] 投稿日:2017/01/27(金) 10 18 30.49 ID 29ScmOwGa [1/2] 流れを追ってきたけど今回はウキ民じゃなくてコミュのやつが特定したっぽいな 23 41 ねもうすコミュで嫁facebookバレ 23 55 嫁友達から松本facebookバレ 0 32 ウキにfacebookが貼られる 0 55 羅刹に職場pdfが貼られる 1 04 ウキにpdfが貼られる ここの奴ら情報おっそw -- 2017-01-27 12 55 53 だってよぉ・・・俺ら布団ちゃん大好きやねん!!誰も特定出来るわけねえべよ・・・ -- 2017-01-27 12 57 57 ここの奴ら情弱すぐるし自殺しようなww -- 2017-01-27 12 58 30 23 41 ねもうすコミュで嫁facebookバレ 0 32 ウキにfacebookが貼られる ウキ惨敗!w -- 2017-01-27 12 59 37 布団もトップ絵に入れといてね -- 2017-01-27 13 00 47 最初がウキだとここにヘイト溜まるから掲示板に先貼ったんだけど? -- 2017-01-27 13 01 04 エーモンが特定したように見せかけた"トリック" 上手いね -- 2017-01-27 13 04 31 100%上手くいくという人生ってどうなんだろ 完璧なストーリー最高だと思っちゃうけど -- 2017-01-27 13 07 34 つまり、貼った場所は違えど最初に特定したのはウキ民だったってことか。。 -- 2017-01-27 13 08 17 http //www.nicovideo.jp/user/38010302 全て"コイツ"の計画通り -- 2017-01-27 13 11 16 こいつら結局口だけかよ 自称情強は一番ダサいはw -- 2017-01-27 13 12 56 顔いいしこいつ音楽やれば確実に売れただろ -- 2017-01-27 13 13 07 まだ手のひらで踊ってる"情弱"がいるね 可哀想に・・・ -- 2017-01-27 13 14 51 麻美子も館山高校か 高校からの彼女ってか。 硬派なやつだよ匡生は -- 2017-01-27 13 15 13 http //www.ims.gr.jp/reha/images/350/-/search/search_41_staff2-image.png -- 2017-01-27 13 20 05 ここが迷路の入り口 -- 2017-01-27 13 21 12 髭に合わねー -- 2017-01-27 13 21 37 マサオくんいらっしゃい -- 2017-01-27 13 21 58 http //jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201202246651772318 -- 2017-01-27 13 22 55 ↑ここから自称情強()のバカの書き込みw ↓ここまで情弱のgmどもw -- 2017-01-27 13 26 53 盛り上がってきてるのに水差すなよ -- 2017-01-27 13 28 32 単芝寒いからやめな? -- 2017-01-27 13 30 17 布団ちゃんの彼女監視中 https //twitter.com/_37564444/status/556381091628449792 -- 2017-01-27 13 37 29 とっとと高田と復縁しろ加藤がよぉ -- 2017-01-27 14 32 58 お知らせ (・。・ミэ )Э(・。・ミэ )Э(・。・ミэ )Э(・。・ミэ )Э(・。・ミэ )Э 2017年01月27日 14 14 55 - (*´ω`)bちゃん コミュ設立4周年おめでとー!!!! 数々の苦節・楽しみ・謎???を乗り越え、ここまでこれたのも それもこれもどれもぜんぶみなさんのおかげ! そしてわたしのおかげ! ありがとう -- 2017-01-27 14 38 01 おまつりだおー -- 2017-01-27 14 39 57 小籔だわ -- 2017-01-27 14 45 19 松本監視中 -- 2017-01-27 14 45 40 興味ない話はつらい -- 2017-01-27 14 53 34 よこやんの顔もかっこいい可能性ある? -- 2017-01-27 14 55 14 興味無いって言ってる人の声でかいな 逆に君が興味ある話題にみんな指摘した事ないんだから我慢して 嫌なら去って@管理人 -- 2017-01-27 14 57 47 興味ないなぁ〜 -- 2017-01-27 14 58 11 ウキはなんでといくん特定しないの? -- 2017-01-27 14 58 35 やっぱりここ劣化信者衛門の集まりだな -- 2017-01-27 14 58 55 できないからでしょw -- 2017-01-27 14 59 04 自演盛り上げ早く終わって -- 2017-01-27 14 59 14 なんでバレたw -- 2017-01-27 14 59 49 よこやん とい ダルやん ゴキミ 次は誰かな -- 2017-01-27 15 00 25 俺かな?@愛の使者 -- 2017-01-27 15 01 20 まさおと頬骨は安房高校卒でしょーが! -- 2017-01-27 15 02 40 http //i.imgur.com/njVKG6Q.jpg -- 2017-01-27 15 07 21 マサオ引退するかな -- 2017-01-27 15 08 05 950 :不死子グレイシー:2005/06/13(月) 19 06 43 ID mbM6Vchy今日ガッコソでマーチャソの話になったぜ!� 951 :桑原:2005/06/13(月) 20 27 55 ID OxXETQ+tあの作業療法科のゴミチャネラー共はなんだって?2000円ありがと�� 952 :グレイしー:2005/06/13(月) 20 38 14 ID mbM6Vchyまたサッカーやるんだと・!マツモソマサソクソのトモダチのカワカソマサヒソクソにもやるかどうか伝えてとのこと! �返信キボン� 松本も天狗も名前は出ちゃってるんだな -- 2017-01-27 15 10 59 今日は3000人いけるな -- 2017-01-27 15 19 25 僕より学歴下のやつ全員虐めたいです@邪悪 -- 2017-01-27 15 31 01 邪悪特定しても盛り上がらなさそう -- 2017-01-27 15 33 23 うっせw -- 2017-01-27 15 35 58 布団ちゃん専門なの? どおりで邪悪調子乗るわけだ -- 2017-01-27 15 37 01 雑魚やw -- 2017-01-27 15 40 07 加藤くんも専門だからもっと調子乗るね -- 2017-01-27 15 45 29 小籔に似てるってマジだったんだな -- 2017-01-27 15 45 51 あーあー邪悪さんに目つけられてるじゃんこのおっさん 終わったな -- 2017-01-27 15 46 15 本日 2330人!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!? -- 2017-01-27 15 46 47 邪悪のおかげだな -- 2017-01-27 15 47 01 真性ホギーもね配信中にぺらぺら喋ったからね〜 -- 2017-01-27 15 53 51 863 :まさお:2005/06/09(木) 19 01 56 ID TLN9xcf/ -- 2017-01-27 16 18 12 普通2ちゃんねるに本名ブッパするかぁ?わらわらバカだろコイツらw -- 2017-01-27 16 38 53 ジャスティス名川特定します -- 2017-01-27 17 05 40 患者さまの笑顔を引き出す 私達はチャンピオン集団です! -- 2017-01-27 17 10 34 ちょくちょく有力なコメント消えてるけど誰が消してるの? -- 2017-01-27 17 29 40 糖質怖 -- 2017-01-27 17 34 37 こことりあえず糖質って言っとけばいいみたいなところあるよね -- 2017-01-27 17 36 15 みょんさん発狂中 -- 2017-01-27 17 39 51 もう一人の勤め先わかってるけど最初に書くとややこしいから書かない -- 2017-01-27 17 43 55 ネカマロンが何か言ってる https //twitter.com/gmt01234/status/824828415811268609 -- 2017-01-27 17 45 26 天狗はパン屋じゃないとだけ言っておく -- 2017-01-27 17 46 14 おいおい俺たちダチの間で隠し事はなしだぞ -- 2017-01-27 17 57 46 えぇw -- 2017-01-27 17 58 16 いまからどっか食べにいかね? -- 2017-01-27 18 02 25 ロブション行くじょ〜 -- 2017-01-27 18 04 44 ダルやん。。 -- 2017-01-27 18 07 30 鳥貴族行くじょ -- 2017-01-27 18 08 02 鳥貴族昨日行ったじょ〜 -- 2017-01-27 18 10 26 もっとうまいもん食わせたる!!w -- 2017-01-27 18 11 00 ダルやんは弁当しか食べてないのに -- 2017-01-27 18 11 48 といくんマックかな -- 2017-01-27 18 12 28 ロッテリアっていう良い店あるよ -- 2017-01-27 18 15 15 バーガーキングのがうまいよ -- 2017-01-27 18 16 55 モスよこやん バーガーキングゴキミ マックといくん -- 2017-01-27 18 21 19 ロッテリア邪悪 -- 2017-01-27 18 22 03 なんでバレたw -- 2017-01-27 18 25 22 決まッッッたァァァあああああああ!!!!!!!!! -- 2017-01-27 18 26 08 妖精何食うの? -- 2017-01-27 18 27 02 女w -- 2017-01-27 18 29 05 妖精すげーw -- 2017-01-27 18 30 28 主食オンナなん?w -- 2017-01-27 18 33 24 女食えるなら俺も妖精になろうかな・・・ -- 2017-01-27 18 40 31 宝くじを買いに行く途中で死ぬ確率は、宝くじが当たる確率よりも高い。 -- 2017-01-27 18 46 58 へぇ へぇ へぇ へぇ へぇ へぇ あへぇ -- 2017-01-27 18 58 44 はぁー明日月曜か -- 2017-01-27 19 18 30 おいおいおいおいもう月曜かよ -- 2017-01-27 19 21 37 ねフミちゃんねる(´・ω・`)やってるよ -- 2017-01-27 19 22 10 明日からまた仕事だぞ! -- 2017-01-27 19 22 22 プレ垢やめたけど別に都合悪いことないな -- 2017-01-27 19 23 39 なんかよく分からんけど、松本匡生をレイプ疑惑で通報すればいいんだな? 勤め先もバレてるみたいだし終わりだなこいつ -- 2017-01-27 19 25 08 邪悪にかかればこんなもんよ -- 2017-01-27 19 26 12 運慶も天狗も布団も義久もイケメンか うんちだな -- 2017-01-27 19 29 58 ウキ民は全員ブサイク -- 2017-01-27 19 32 21 義久って誰 -- 2017-01-27 19 32 31 一方ウキはブサイクばっかりw -- 2017-01-27 19 32 42 黙れ。 -- 2017-01-27 19 33 09 邪悪はガチでブサイク -- 2017-01-27 19 33 18 ウキ民はグロ面 -- 2017-01-27 19 35 05 ここ名川以下の顔しかいないからな -- 2017-01-27 19 37 03 そぉなのぉ?ww -- 2017-01-27 19 37 55 ウキのつまらないノリ来たね -- 2017-01-27 19 38 13 くそみたいな特定の流れより質いいな -- 2017-01-27 19 38 45 死んだ女の名前を名乗って暴言吐きまくってるくそきもかまってちゃん死ね -- 2017-01-27 19 40 15 クソガキイラついてんなあ -- 2017-01-27 19 41 28 ぼんやり松本嫁のFB見てたら友達欄がリアルタイムで非表示になってわろた -- 2017-01-27 20 02 05 記事も今削除したみたいだし確定かな -- 2017-01-27 20 05 08 ちょうど俺も麻美子のフェイスブック見てたわ 今更消しても魚拓取ってるっての -- 2017-01-27 20 06 35 魚拓くれ -- 2017-01-27 20 14 33 え、誰も取ってないの? -- 2017-01-27 20 25 58 なんでバレたw -- 2017-01-27 20 27 28 普通に忘れてたわー -- 2017-01-27 20 35 08 名川くん放送しなくなった? 割とイケメンで好きだったのに -- 2017-01-27 20 58 36 ごめん魚拓どっかいった -- 2017-01-27 20 59 55 興味ないからいいや -- 2017-01-27 21 12 17 お前いつも、頬骨関連の話題だしたらピキってくれるからほんまおもろいわw -- 2017-01-27 21 16 52 びびってるの? はやく魚拓見せなよ -- 2017-01-27 21 18 05 ななななな無いから出せましぇ〜ん(震え声 -- 2017-01-27 21 34 04 あるけどね?w http //i.imgur.com/ahd3OPM.png -- 2017-01-27 21 53 42 レイプしてぇなぁ -- 2017-01-27 21 57 43 コミュ爆破はまだかね?単身赴任するとかなんとか言ってたからちょうどいいでしょ 消えても頬骨の金儲けの道具に使われる日が来るから^^ -- 2017-01-27 22 04 36 今日の動画 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30513699 -- 2017-01-27 22 05 22 クソガキ来ちゃったか・・・ -- 2017-01-27 22 07 39 ずっといるお! -- 2017-01-27 22 12 31 死んだ女の名前を名乗って暴言吐きまくってるくそきもかまってちゃん死ね -- 2017-01-27 22 14 31 といは死んだし名川も死んだ 今のウキで何が出来るんだ -- 2017-01-27 22 16 41 松本ってだれ? -- 2017-01-27 22 18 23 さあ?まみこさんの旦那さんなら知ってるけどね -- 2017-01-27 22 19 40 おほーw -- 2017-01-27 22 20 50 まったん!? -- 2017-01-27 22 22 45 ↓アスペ -- 2017-01-27 22 25 33 松本、俺たちはネットでしか粋がれないから安心してくれ -- 2017-01-27 22 29 26 市村さんの方のまみこさん元気かな -- 2017-01-27 22 37 34 魚拓取っといてよかったー -- 2017-01-27 22 48 07 消すに決まってるのに魚拓取ってない奴馬鹿だろ -- 2017-01-27 22 56 31 果たしてそうかな -- 2017-01-27 23 03 05 なんでバレたw -- 2017-01-27 23 04 41 魚拓取れなかった情弱は誰だ! -- 2017-01-27 23 05 15 布団の情報とかいらなーい -- 2017-01-27 23 05 54 テペマンコまだ? -- 2017-01-27 23 07 33 オ・レw -- 2017-01-27 23 09 04 テペマンめっちゃくさい -- 2017-01-27 23 10 42 テペガチでくさそう -- 2017-01-27 23 12 24 安心して引退しろよ布団 -- 2017-01-27 23 13 58 加藤の放送みたいに定形文が発達してる放送ってのはコミュ症にとっては都合のいい場所だからな お互い一方的にもかかわらず表面上はコミュニケーションがとれているように見える 加藤の放送は意思の疎通を捨てた猿ガキの溜まり場 書き込まれている内容は鳴き声に近い -- 2017-01-27 23 16 36 いいこと言うね -- 2017-01-27 23 20 14 それ自体がコピペ定期 -- 2017-01-27 23 23 10 うんこちゃん用語もなんJのパクリだからね -- 2017-01-27 23 35 20 お前さん、カタギじゃねえなぁ? -- 2017-01-27 23 37 55 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288868997 -- 2017-01-27 23 39 29 僕の小指どこにいったか知りませんか? -- 2017-01-27 23 39 49 食べた -- 2017-01-27 23 40 10 腹の中で暴れます 気をつけてくださいね -- 2017-01-27 23 42 16 今日の一曲 https //www.youtube.com/watch?v=BlH_27mL_Mc -- 2017-01-27 23 46 07 ウキ民と飲んできた -- 2017-01-27 23 55 17 ジョンくん用 http //i.imgur.com/8mqjWbQ.jpg -- 2017-01-28 00 09 44 布団特定まとめだれか~~たのむお~~ -- 2017-01-28 00 55 39 掲示板に言ってきなよ -- 2017-01-28 00 57 41 非常に頼みづらいのですが、隔離場のほうに加藤さんの録画あげていただけませんか -- 2017-01-28 01 12 14 土日に見ようと思ってるアニメ 小林メイドラゴン 幼女戦記 ガウリールドロップアウト うらら迷路 AKIHA’sTRIP 亜人ちゃんは語りたい 正宗君のリヘンジ このすば!2 -- 2017-01-28 01 21 09 http //www.nicovideo.jp/watch/1485401550 -- 2017-01-28 01 21 16 セイレンも見ろ -- 2017-01-28 01 21 33 "ガヴリール"な "AKIBA"な "リベンジ" な -- 2017-01-28 01 23 27 外に出ろキモオタ -- 2017-01-28 01 58 25 と、キモオタが申しております -- 2017-01-28 02 04 54 http //i.imgur.com/8mqjWbQ.jpg 名川って130Rのほんこんに似てるよな -- 2017-01-28 03 45 33 相談所に参加 http //www.nicovideo.jp/user/18443730 -- 2017-01-28 05 14 08 名川 @nagawa2525 5時間5時間前 @d2d7x 代理、中川です。名川さんは今仮眠中なのでもうちょっとしたら枠を取ると思います 名川 @nagawa2525 9時間9時間前 @d2d7x じゃあ今日します! 名川 @nagawa2525 9時間9時間前 @d2d7x 見てくれるなら放送します♡ -- 2017-01-28 05 55 19 ジャスティス名川爆睡中 -- 2017-01-28 06 29 18 おはチャンピオン! -- 2017-01-28 06 41 38 https //twitter.com/ukyokyon2525/status/825098989204709376 公式出演に向けて徐々に顔出しスタイルに切り替えるこれ即ち頬骨現象 -- 2017-01-28 07 06 34 SNOWでこんな目小さい奴はじめてみた -- 2017-01-28 07 18 36 ほんとかっこ悪いわ 一発ガツンと言えばいいのに -- 2017-01-28 07 21 15 http //i.imgur.com/yNvNYkp.jpg http //i.imgur.com/xRDCCJc.jpg さなえちゃん 01/27日ツイ消し分、新作です。 -- 2017-01-28 07 31 12 http //i.imgur.com/8o4fPfU.jpg 2枚目、貼り間違えました。すみません。 -- 2017-01-28 07 31 56 毎度どうも -- 2017-01-28 07 35 10 うきょち狡猾だなあ -- 2017-01-28 09 14 04 うきょちでーす -- 2017-01-28 09 17 33 ウキ民愛してるぜ -- 2017-01-28 09 19 11 今日の予定 11 30美容院、帰宅後掃除(カーテン洗濯、断捨離) 昨日のみょんさんからの金言「やる気は物事に取り掛かってから始めて出てくるもの であって何もしないで湧いてくるものでは無い」に感化されたので今日の僕は腰が軽いですよ。 掃除が終わったらはっきり言ってポトフでも作ってやろうと思っています。 -- 2017-01-28 09 26 36 やっぱり寝るわ -- 2017-01-28 09 28 18 そろそろウキ潰そうかな -- 2017-01-28 09 31 32 もう潰れてるw -- 2017-01-28 09 43 12 確かにw -- 2017-01-28 09 55 34 ほんまさなえの顔にちんこ擦り付けて嫌がる顔が見たいわ -- 2017-01-28 11 25 30 すごい睨まれるだろうなあ ブフッ 興奮してきたっちゃ♪ -- 2017-01-28 11 36 40 ブサイクこわ -- 2017-01-28 11 40 31 今日人生初二郎行きます -- 2017-01-28 12 02 51 もんちに次郎マナー教わってからいけ -- 2017-01-28 12 03 52 http //suresuta.jp/wp-content/uploads/2017/01/x0BwxaOD-336x400.jpg.pagespeed.ic.7xxI23onBf.jpg これなしこに似てる -- 2017-01-28 12 06 33 ホントだそっくり -- 2017-01-28 12 21 45 よこやんへ やられっぱなしで悔しくないの?^^ -- 2017-01-28 13 21 22 今からアニメ視聴を行いたいと思います。 まずはメモの1行目、メイドラゴンから見ます。 視聴中はくれぐれもお静かにお願いします。 -- 2017-01-28 13 27 47 黙ればか -- 2017-01-28 13 51 16 ちゃんと点数と評価しろよ ちなみにメイドラゴン糞だよ -- 2017-01-28 14 14 30 静かにして今見てるから -- 2017-01-28 14 16 29 はぁ~い -- 2017-01-28 14 17 07 つまんな -- 2017-01-28 14 18 21 メイドラゴンの作者ってつまんねえ漫画量産してんのになんでアニメ化連発してんだろうな -- 2017-01-28 14 19 16 小森さんのおっぱいは好き -- 2017-01-28 14 27 48 静かにしてって今やっと2話見たところなんだから -- 2017-01-28 14 28 48 【JCG SV】国内最大級ゲーム大会! JCG Shadowverse Open Season 1 Final - Day1 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288386488 -- 2017-01-28 15 23 00 おいおいユトリロちゃんのチョーカー犯罪級に可愛いな -- 2017-01-28 16 52 59 よこやんへ やんのか?^^ かかってこいよ^^ -- 2017-01-28 16 59 09 団地 -- 2017-01-28 17 02 19 ウキ民配信中 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288929939 -- 2017-01-28 17 04 04 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288386488 -- 2017-01-28 17 05 57 JCGトーナメント表見てたらマリガンのりんごさん出てるな ニコ生勢はムーニーマン、青火辺りか -- 2017-01-28 17 16 02 $CIM Yano -- 2017-01-28 17 18 16 http //www.dmm.co.jp/pr/dc/nijigen_ext001/374/ -- 2017-01-28 17 22 42 ダラーシムヤノ -- 2017-01-28 18 01 58 盛り下がってきたな -- 2017-01-28 18 39 43 19時からタカケン人狼 -- 2017-01-28 18 51 27 ん?いつも通りだけど -- 2017-01-28 18 51 51 ご飯食べるじょ -- 2017-01-28 19 01 35 FF155買いました今からやります -- 2017-01-28 19 04 02 ウキ民未来に生きてんな -- 2017-01-28 19 07 03 わざとらしい誤字は寒い -- 2017-01-28 19 13 17 なんでバレたw -- 2017-01-28 19 13 30 ねもうす channel viewer 0.1.0 http //www.rupan.net/uploader/download/1485594610.zip pass unk http //com.nicovideo.jp/community/co3314651 -- 2017-01-28 19 20 49 2016年11月のうんこちゃんMAD黄金期を支えた石油王。 具体的に言えば、うんこちゃんMADに100万円近い額の広告を積むバカである。 -- 2017-01-28 19 31 17 やば・・・。名川さんの トランキーロ あっっせんなよ が聞きたくなってきた・・。 -- 2017-01-28 20 04 34 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288945058 衛門ちゃんですよ~~ -- 2017-01-28 20 16 02 おれも聞きたい -- 2017-01-28 20 18 47 http //pbs.twimg.com/media/C3QSFiDUEAEAuL-.jpg -- 2017-01-28 20 33 10 猿の脳みそ注意 -- 2017-01-28 20 42 49 名川さんイビョンホンに似てるって言ってたけどどこのパーツも似てないよね -- 2017-01-28 21 02 54 みんにょ -- 2017-01-28 21 22 04 みんにょって知ってるわ -- 2017-01-28 21 23 28 古参じゃん -- 2017-01-28 21 26 06 みんにょ~ みんにょ? -- 2017-01-28 21 53 55 みんにょりあん星人でしょ俺も知ってる -- 2017-01-28 22 08 10 まさか俺以外に知ってる人いるなんて・・・ -- 2017-01-28 22 12 59 ちょ、うーでしこってかまん? -- 2017-01-28 22 14 21 今日見たアニメ 小林メイドラゴン ガウリールドロップアウト うらら迷路(1話のみ) 亜人ちゃんは語りたい 正宗君のリヘンジ このすは!2 あいまいみー 明日に見られてないものを見ようと思います -- 2017-01-28 22 20 26 本田望結ちゃん可愛すぎる 監禁してもいいよね・・・? -- 2017-01-28 22 34 28 それって↑にいる人? -- 2017-01-28 22 36 59 謀反を起こすのは誰じゃ -- 2017-01-28 22 37 54 俺は覇王だ! -- 2017-01-28 22 39 03 ねもうす channel viewer 0.1.0 http //www.rupan.net/uploader/download/1485594610.zip pass unk インストール方法 ・zipファイルを解凍してcrxファイルを取り出す ・chromeでchrome //extensions/にアクセスする ・開いた拡張機能ページにcrxファイルをドラッグアンドドロップする ※クロスドメインの関係上"http //com.nicovideo.jp/bbs/co2078137?com_header=1 quot;などでは動作せず、 "http //dic.nicovideo.jp/b/c/co2078137/ quot;のように掲示板に直接アクセスするURLでのみ有効なことにご注意ください。 (コミュページからの遷移はdic.nicovideo.jpに誘導するようにしているため有効です。) ※掲示板の仕様と処理の負荷の問題上、基本的に30件区切りで処理してます。 (ちょっとしか取得できなかったり、ごそっと取得できたりする) ※対応予定(やる気が継続する限り) ・ロード中表示 ・大百科リンク削除 ・オートリロード ・レス先ポップアップ表示 ・このレスにレス機能 ・ジャンプ機能(過去のレスを見返すためのもの) ・ID関連機能(NG、書き込み履歴一覧) ・しおり機能(次回表示時にそこから表示) -- 2017-01-28 22 44 55 それいらないから貼らなくていいよ -- 2017-01-28 22 45 36 俺は嬉しかったよ -- 2017-01-28 22 47 08 うそよね〜んw -- 2017-01-28 22 47 26 なんだお前 -- 2017-01-28 22 47 58 ウキ民が作ったの?流石だね -- 2017-01-28 22 58 35 こいつウキに取り込め http //com.nicovideo.jp/community/co3314651 -- 2017-01-28 22 59 51 女は帰れ発見 -- 2017-01-28 23 01 53 そろそろ管理人がどっち側の人間なのかハッキリさせようぜ -- 2017-01-28 23 02 34 どっちでもいいじゃんw -- 2017-01-28 23 04 26 ↓本人登場か? -- 2017-01-28 23 09 02 どうやら今夜は祭りのようだな -- 2017-01-28 23 09 47 魔釣りじゃ!魔釣りじゃ!魔釣りじゃ!魔釣りじゃ!魔釣りじゃ!魔釣りじゃ! -- 2017-01-28 23 12 30 覇王がきたぞ!^_^ -- 2017-01-28 23 14 23 全然盛り上がらねぇ…w -- 2017-01-28 23 31 56 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30507858 -- 2017-01-28 23 50 51 けものフレンズが覇権だよ -- 2017-01-28 23 54 41 ほーなん -- 2017-01-28 23 57 00 ポケモン萌えアニメみたいになってんのな -- 2017-01-29 00 08 16 うんこちゃんのダビスタ96見ます 去年のをまだ見てなかったので、そこから見ようと思います -- 2017-01-29 00 11 58 気が変わったのでダルシム矢野さんの壊れたラジオ人間見ます -- 2017-01-29 00 17 10 びっくばんまぐなむううううううううううううううううううううう -- 2017-01-29 00 18 55 どうせ見るなら上映会しようよ -- 2017-01-29 00 19 25 みんにょろりんの長い夜上映会いいですか? -- 2017-01-29 00 23 03 クソガキ上映会しろ -- 2017-01-29 00 23 20 上映会で許してやってるって言ってんだよバカ 早く配信しろ -- 2017-01-29 00 36 57 悪いことしてないのに何で謝らないといけないの? -- 2017-01-29 00 41 03 自覚のない馬鹿 -- 2017-01-29 00 43 15 まぁまて今準備してる -- 2017-01-29 00 48 40 一番やりてぇんは俺だからよ -- 2017-01-29 00 50 20 今日の昼までにコミュ作るわ 約束する -- 2017-01-29 01 12 02 今すぐ作れよ -- 2017-01-29 01 17 59 昼までにコミュ作らなかったらアカウント消すよ -- 2017-01-29 01 20 21 クソガキおもちゃにされてるな -- 2017-01-29 01 28 33 ……ぼくらは悪くない、 ——誰もが皆、そう思ってる。 だから、 殺し合いは終わらない -- 2017-01-29 01 36 02 https //shonenjumpplus.com/episode/13932016480028799982 -- 2017-01-29 01 52 14 俺の彼女に似てるな -- 2017-01-29 01 56 27 面白い漫画くれ できれば完結してるのがいい -- 2017-01-29 02 16 26 やさしいセカイのつくりかた -- 2017-01-29 02 18 54 まいしゃんの本名わろち -- 2017-01-29 02 19 41 明日150センチの巨乳と遊びいってくる -- 2017-01-29 02 28 20 ブスだけどね -- 2017-01-29 02 39 09 ユトリロちゃんが心の扉を開き全てを披瀝してくれたから俺は一生この子と添い遂げるって決めた この子を守る為に今日から俺はハッキリ言って筋トレを始める 【ユトリロちゃん 01/27 3枠目】 小6の時に近所の男子(中2)に「木のみを拾おう」と誘われ強姦未遂(パンツの上に性器を擦り射精)される 中2の時に公園で同じ男に捕まえられ強姦(完遂)される 後にこの男が当時付き合っていた男の兄だと判明 -- 2017-01-29 02 41 43 頑張れだるやん -- 2017-01-29 02 42 41 http //live.nicovideo.jp/watch/lv289003180 -- 2017-01-29 03 16 15 こんばんはめKUSOです。 約1週間ぶりにPCに触り悦に浸っている今日この頃でございます。 ここ1週間いろいろと滞っておりましたのも、ほかでもない風邪からのインフルというまさに泣きっ面に蜂でとにかく休んでおりました。 調子が悪いと電子機器をいじる気にならないといいますか何と言いますか、体が拒絶反応を起こし触れない状況になりこのようなことになりました。 しばらく現実で溜まっているものの整理やうんこちゃんのTS消化などなどをしながら過ごすことになりそうです。 まぁ、これからまたインフルやらなにやらに感染する人も増えてくると思いますが、それなりの予防もしておいた方がよろしいでしょうね。 手洗いうがいにマスクや消毒や過失等々、方法はいろいろありますのでとにかく気を付けてください。 一番の対策は早寝早起きをしてしっかりと力を蓄えるのがよいらしいですね。 とにかくみなさんも体調だけには十分に気を付けてください。 それでは。 -- 2017-01-29 03 16 33 べんべみっけ -- 2017-01-29 03 25 34 どこー? -- 2017-01-29 03 30 26 http //com.nicovideo.jp/community/co3314651 -- 2017-01-29 03 45 03 母乳もいるじゃん -- 2017-01-29 04 03 54 ねもうす channel viewer 0.2.0 2017年01月29日 04 06 23 - シチア http //www.rupan.net/uploader/download/1485629794.zip pass unk ※今回からファイルの構成が変わり、フォルダを直接圧縮したものになります 導入方法も変わっているためご注意ください(コミュプロフィール欄参照) ※seiknの方も同じ構成でうpしなおしています -- 2017-01-29 04 16 45 ウキビュアーも作ってよ -- 2017-01-29 04 22 25 (▀▀◕つ◕▀▀)まこじき過疎すぎ -- 2017-01-29 04 38 54 ゆとちゃん凄いね -- 2017-01-29 04 51 43 http //www.nicovideo.jp/watch/sm30523329 6位ありがとうございました -- 2017-01-29 05 11 40 ユトリロちゃんの為に強くなりてえ -- 2017-01-29 06 29 45 ガソリンの揺れかたのラブリーベイベーからのベイベーラブリーの箇所ださすぎだろ -- 2017-01-29 06 41 28 おぱ~ -- 2017-01-29 07 06 08 むにまんいっけええええええ! -- 2017-01-29 07 19 22 カトウサクラコ;; -- 2017-01-29 07 24 37 ビッグバンマグナムきたーー -- 2017-01-29 07 29 33 プリンセスジャンヌもえー -- 2017-01-29 07 31 57 好きだね~ -- 2017-01-29 07 42 54 ジャンヌg----m -- 2017-01-29 07 43 13 ジャンヌきたあああああああああああああああああああああああああああああああ -- 2017-01-29 07 46 31 朝からうるさいな -- 2017-01-29 07 52 51 ついにマグナム出陣じゃ -- 2017-01-29 07 53 34 グリグリじゃい -- 2017-01-29 07 56 23 4ねマグナム -- 2017-01-29 07 57 19 マリア展覧会やってくれよ -- 2017-01-29 07 57 53 ジャンヌは頼りがいあるで -- 2017-01-29 08 00 55 ;; -- 2017-01-29 08 01 38 ついに40歳になった -- 2017-01-29 08 03 28 みんな買った? http //www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/58274 -- 2017-01-29 08 09 43 どりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ -- 2017-01-29 08 11 23 無料じゃないのか -- 2017-01-29 08 31 13 お金無いから行けないや -- 2017-01-29 08 34 10 貧乏人の前では喋らないってか?偉くなったもんだな頬骨も -- 2017-01-29 08 35 39 純の悪口いわないで -- 2017-01-29 08 38 28 これ行くぐらいなら美味しいもの食べに行くわ -- 2017-01-29 09 09 14 イベント行って美味しいものも食べればいいじゃんw お金無いの? -- 2017-01-29 09 12 05 ないよ -- 2017-01-29 09 13 27 加藤本人が宣伝しに来てるね -- 2017-01-29 09 15 22 http //i.imgur.com/x6OwYhb.jpg http //i.imgur.com/8CWmcMt.jpg http //i.imgur.com/ZywXLWs.jpg http //i.imgur.com/yyJJHWQ.jpg -- 2017-01-29 09 33 56 みんにょ -- 2017-01-29 09 47 36 初見です -- 2017-01-29 09 53 32 お、初見キター -- 2017-01-29 09 54 16 クソガキでっぶ -- 2017-01-29 10 00 17 クソガキ顔も出したのかよw -- 2017-01-29 10 01 57 先輩には敬語使えよ -- 2017-01-29 10 19 50 他人の空似どころじゃねぇな -- 2017-01-29 10 23 14 先生特に何もやらずw佐藤さんが壊れたエロいー妹www -- 2017-01-29 10 37 50 といくんに嫉妬してる人がいるね -- 2017-01-29 12 12 15 http //takakenwatch.web.fc2.com/ 墓場民が行き場を無くして困ってるから取り込もう -- 2017-01-29 12 27 42 豚汁飲むじょ -- 2017-01-29 12 29 38 いりまーせん -- 2017-01-29 12 34 47 ここまで高田に通報されたら面倒くせえから墓場民来るな -- 2017-01-29 12 37 18 てすと -- 2017-01-29 12 42 20 動画 78% (104EXP) 生放送 14% (19EXP) アプリ 6% (9EXP) モバイル 0% (1EXP) その他 0% (0EXP) -- 2017-01-29 12 43 16 http //i.imgur.com/TIc8LDv.png -- 2017-01-29 12 49 29 オートリロード追加されたんだ やるじゃん -- 2017-01-29 12 57 30 妖精さんお昼何食べた? -- 2017-01-29 13 10 11 女w -- 2017-01-29 13 19 05 といくんプレ垢 -- 2017-01-29 13 20 11 妖精すげーw -- 2017-01-29 13 20 33 豚貼るなよw@とい -- 2017-01-29 13 20 59 明日は広島行くじょ -- 2017-01-29 13 21 37 広島の女楽しみだじょw -- 2017-01-29 13 25 21 表示件数もうちょっと増やしてくれたら使いやすくなるのに -- 2017-01-29 13 26 43 掲示板見てることに驚きだよ -- 2017-01-29 13 36 30 そっちよりジャンプ機能のほうが必要だろ -- 2017-01-29 13 37 41 昨日の続きからアニメを消化していきたいと思います 幼女戦記 うらら迷路(2話以降) AKIHA’sTRIP 亜人ちゃんは語りたい(4話) もしかしたら One Room 南鎌倉高校女子自転車部 を追加で視聴するかもしれません -- 2017-01-29 13 41 22 ウキ民ってこんなとこまで出張してんの? http //new.bbs.2ch2.net/test/read.cgi/otaku/1485446573/ -- 2017-01-29 14 26 57 639 たぬき 01/29 14 16 [↓] なぜバレたw -- 2017-01-29 14 28 20 いやそれ打ってるの邪悪君だから通報しといて -- 2017-01-29 14 37 10 うんこちゃんをより楽しむためのツール http //www48.atwiki.jp/unkochan-plus/pages/386.html -- 2017-01-29 14 41 52 おーありがと -- 2017-01-29 14 48 15 うんこちゃんをより楽しみたいのなら昔のうんこちゃんと今のうんこちゃんを比較することだよ -- 2017-01-29 14 49 10 うんこちゃんみなくなったなー -- 2017-01-29 15 00 28 かたわ海賊団 片足のもんち -- 2017-01-29 15 33 35 名川さん最強! -- 2017-01-29 15 42 55 衛門から逃げて引退したゴミの名前出すな -- 2017-01-29 16 14 18 やっぱといくんだね -- 2017-01-29 16 33 39 http //live.nicovideo.jp/watch/lv289043935 萌声衛門ちゃん -- 2017-01-29 17 02 48 うんこちゃんをより楽しむためのツール ウキ -- 2017-01-29 17 15 58 それな -- 2017-01-29 17 26 39 どれ? -- 2017-01-29 18 05 48 みふぁそらしど -- 2017-01-29 18 10 06 みんにょ? -- 2017-01-29 18 59 13 かっそ -- 2017-01-29 19 48 01 いつも通り -- 2017-01-29 19 51 29 墓場民が必要なようだな -- 2017-01-29 19 53 04 今日過密すぎるな -- 2017-01-29 19 58 47 http //live.nicovideo.jp/watch/lv288478484 みるお -- 2017-01-29 20 04 00 激寒放送禁止 -- 2017-01-29 20 20 02 春休みはアナル開発しようっと -- 2017-01-29 20 27 47 俺1日10発射精チャレンジするわ -- 2017-01-29 20 31 54 ウキには意識高い人が集まってるな -- 2017-01-29 20 36 46 クソガキきも -- 2017-01-29 20 43 05 ↓ミス うんこちゃんかっこいい -- 2017-01-29 20 47 55 はぁ? -- 2017-01-29 20 48 56 ゆとちゃん可愛い -- 2017-01-29 20 50 33 正解 -- 2017-01-29 20 59 31 今日のウキ質高いな -- 2017-01-29 21 05 57 しにて -- 2017-01-29 21 26 14 ほーん -- 2017-01-29 21 31 11 ぷぴ -- 2017-01-29 22 20 05 テペ? -- 2017-01-29 22 22 53 放送しろヤリマン女 -- 2017-01-29 22 23 57 ある病室に2人の末期ガンの患者が入院していた。 一人は窓側のベッド、もう一人はドア側のベッド。 2人とも寝たきりの状態だったが、窓際のベッドの男はドア側のベッドの男に窓の外の様子を話してあげていた。 「今日は雲一つない青空だ。」 「桜の花がさいたよ。」 「ツバメが巣を作ったんだ。」 そんな会話のおかげで死を間近に控えながらも2人は穏やかに過ごしていた。 ある晩、窓際のベッドの男の様態が急変した。自分でナースコールも出来ないようだ。 ドア側の男はナースコールに手を伸ばした。が、ボタンを押す手をとめた。 「もしあいつが死んだら、自分が窓からの景色を直接見れる・・・」 どうせお互い先のない命、少しでも安らかな時をすごしたいと思ったドア側のベッドの男は、 自分は眠っていたということにして、窓側のベッドの男を見殺しにした。 窓側のベッドの男はそのまま死亡した。 晴れて窓側のベッドに移動したドア側のベッドの男が窓の外に見たのは、打ちっ放しのコンクリートの壁だった。 -- 2017-01-29 22 30 37 糖質きも 死んで当然だな -- 2017-01-29 22 33 05 窓が埋め立てられたってこと? -- 2017-01-29 22 33 32 ↓アスペ -- 2017-01-29 22 36 13 コンクリートなのに青空が見えるとか矛盾してるじゃん -- 2017-01-29 22 37 50 窓側の男の墓で窓が塞がっちゃったのかな -- 2017-01-29 22 38 41 ほうほう ここは頭の回転が速い人が多いね -- 2017-01-29 22 39 49 もう顔中コンクリートまみれやw -- 2017-01-29 22 45 19 みんにょ -- 2017-01-29 22 47 14 僕泣いちゃったよ -- 2017-01-29 22 48 32 お前の境遇は泣けるよな -- 2017-01-29 22 55 24 ここには酷い人がいっぱいだ -- 2017-01-29 23 00 21 ああいうモノを真っ直ぐ見るな。ここはそういう場所でそれが一番だ。 -- 2017-01-29 23 04 43 お前のかお真っすぐ見ると吐き気するはw -- 2017-01-29 23 06 26 viewerアップデート 2017年01月29日 23 01 34 - べんべ seikin TV viewer 0.4.0 http //www.rupan.net/uploader/download/1485697800.zip pass seikin ・設定保存機能追加 ねもうす channel viewer 0.3.0 http //www.rupan.net/uploader/download/1485698029.zip pass unk ・設定保存機能追加 ・オートスクロール(新着レスへのスクロール)追加 ・ジャンプ機能(新規タブで指定Noのレスを表示)追加 -- 2017-01-29 23 07 57 ジャンプ機能やっときたか -- 2017-01-29 23 11 10 http //i.imgur.com/sNfiNWl.png -- 2017-01-29 23 17 17 いいねぇ -- 2017-01-29 23 21 12 一般人が出来るのにニコニコ運営が出来ないはずがないからやってないだけなんだな -- 2017-01-29 23 23 41 僕は此処でマイノリティーである事にやっと気付くことができた。 -- 2017-01-29 23 25 45 こんばんはめKUSOです。 子供のころは「ゲームするだけでお金が稼げたらいいな…」みたいな変な願望を持っておりました。 今は「ゲーム実況者」という予想外の角度からの刺客が登場したため、ある意味ゲームをしていればお金を稼げる状況であります。 しかし、現在の日本では動画以外でのただ単純にゲームで闘う、所謂「e-sports」にというのはあまり流行っておりません。 e-sportsをかみ砕いて説明すると、競技性のある対人戦ゲームをスポーツとしてとらえた呼び方です。 ポケモンなどのゆったりしたゲームと違い、うんこちゃんも行ったEVOで取り扱っているゲーム競技(スマブラfor、ストVなど)やFPSといったプレイヤースキルを求めるゲームが主にそう呼ばれております。 法律的な観点から日本は賞金制の大会を開くことができないらしいです。また、ゲームは一般に浸透されているとしても、競技的な観点から見てみるとまだそこまで広まっておりません。 日本のe-sports協会(通称:JeSPA)によると海外では1990年代にゲームのプロ化がすでに始まったところもあります。しかし、日本が本格的にe-sportsに関して取り組み始めたのも2007年と先進国の中ではかなり遅れております。 国内向けのe-sportsの実施の遅れによって日本のプロゲーマーと呼ばれる方々は実力ともども海外勢に劣っているのが現状であります。格ゲー勢は強いと言われておりますが、そのほかはボロボロという悲惨な状況です。 現在、ゲーム実況文化の浸透によりゲームのプレイ動画というのも一般化されつつあります。 これに伴いゲームの競技文化がもっと広まって欲しい限りでございます。 ニコニコでもゲームの祭典と呼ばれる「闘会議」なるものが開催されるそうですね。ぜひともゲームの素晴らしさというものを広めてほしいと思います。 それでは。 -- 2017-01-29 23 26 23 金にならないからやらないんだよ -- 2017-01-29 23 27 12 べんべと女は帰れが推すだけのことはあるな -- 2017-01-29 23 27 38 やあ^^ -- 2017-01-29 23 28 10 はいこんにゃ -- 2017-01-29 23 28 40 レスツリー機能つけろ -- 2017-01-29 23 29 08 ウキにもレス機能欲しい -- 2017-01-29 23 29 48 中村憲剛最強! -- 2017-01-29 23 30 16 スマホで出せ -- 2017-01-29 23 32 23 あのクソガキさんも絶賛しているねもうす channel viewer -- 2017-01-29 23 33 14 現在 52 人 -- 2017-01-29 23 35 53 その内広告付けて金稼ぐからよろしくな -- 2017-01-29 23 37 08 中村憲剛がウキ民だって掲示板のやつら知らないの? -- 2017-01-29 23 38 05 まぁ見とけって 次のverでアイコンをといにしてやるからさ -- 2017-01-29 23 46 04 -- 2017-01-29 23 47 06 君、慌ててるねぇ -- 2017-01-29 23 48 23 2000人届かず・・・! -- 2017-01-29 23 57 54
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2005年08月29日(月) 14時55分-月組 『賢石の園』を出てから一日と数時間後――ソレは突然に、彼らの頭上に平等に降り注いだ。 「ご乗客の皆様に、お知らせいたします。次の停車駅は、『めぐりあいの地』、『めぐりあいの地』でございます。繰り返します、次の停車駅は、『めぐりあいの地』でございます。お降りのお客様は、お早い準備をお願いいたします――」 よく響く車内アナウンスは、知る者にとって、もうそのような場所まで来たのかと実感させるものであった。 そして彼らは決意する。 この先に行く前に、下りなければならないと。 そのアナウンスを食堂車の奥にある厨房で聞いていたジャンルーカとテューンは、その隣にいた婦人が大いに仰天したのとは対照的に、平然とくつろいでいた。 「もう、そんな・・・早いものね」 婦人は優雅な仕草で驚き、次の駅で降車する必要の無い、ゆったりと構えた少女とその膝の上に陣取る猫を、少々の羨望といくらかの感心をもって見やった。少女の上で、くああ、と猫のテューンが大あくびをする。 厨房でくつろぐというのも妙な話だが、彼らは今、重大な任務をやり遂げ、結果を待つのみとなっていたのである。そして厨房ですることといえば一つ。 そう、彼らは今、クッキーを焼いていたのである。 「おばさぁ~ん、そぉ~慌てなさんなぁ~」 オーブンの前に据えられた椅子にもたれかかりながら、そう婦人に声をかける。 「うま~くできるかどうかはぁ~、運命次第~だから~」 「ああ、ううん、違うのよ、ジャンルーカちゃん。がんばって作ったクッキーだものね、失敗するはずはないわ」 こくん、とジャンルーカの首が上下する。視線は相変わらず、燃える炎を見つめたままだ。 「私が驚いたのはね、今のアナウンスのことなの」 語りかける口調で、婦人は笑った。 「私達は、次の駅で列車を乗り換えなければならないから、もうジャンルーカちゃんともお別れなのね。寂しいわ」 「うん、ボクも~、色々とぉ~、ありがとぉでした~」 列車に乗っている希沙のためにお菓子をプレゼントしていないことに気付いたジャンルーカとテューンがここの厨房を借りれたのも、うまく動けない彼女達を手伝ってクッキー作りを指導してくれたのも、この婦人のだった。 「じゃあ今から、お別れのティータイムといきましょうか。みんな、おいで」 微笑みながら、婦人は厨房の入り口から中をうかがっている子供達を手招きした。どっと厨房に詰め込んだその数は、両手では足りるまい。 そんなたくさんの小さな子供達がいっぺんにわあっと一所に集まったからたまったものではない。香ばしい匂いが溢れる厨房は、たちまちはちきれんばかりパンパンに膨れ上がった。 全員が全員、他の子のことを省みずに婦人にいっぺんに話し掛けているのを見て、テューンはうるさそうに耳を伏せた。 聞こえてくる雑音は様々だったが、主に、「クッキーちょうだい」、もしくは「もうすぐ降りちゃうの」、という二つだった。 「みんな、よぉく、聞いてちょうだいね」 「はぁ~い!」 澄み通った婦人の声に、子供達の元気一杯の声がそう唱和する。彼ら一人一人の顔をニッコリと見渡しながら、彼女は、 「みんなでおやつを食べたら、この電車から降ります」 と言った。うんうん、と子供達が大きめの頭を上下させる。 「自分の荷物は、自分でしっかりと持つこと。いい子にして、車掌さんに元気な声で、ありがとうを言いましょうね」 またあの「はぁ~い!」が返ってきた。 「それじゃあ、テーブルの準備をしてもらえるかしら?」 今度は「わぁ~い!」という叫び声と、「クッキークッキー!」「おやつおやつ!」という呪文のような喋り声と、そして小さな足音が重なる大きな振動が返ってきた。 元気だねぇ、というテューンの呟きに、婦人はふふっと微笑を返す。 「あの子達は、私の希望なんです」 無駄に元気だというだけで、別に褒めたわけではないんだけどな――その思いは心のうちにしまったまま、テューンは嬉しそうに子供らの背中を見守る婦人の横顔をじっと見詰めた。 そういえば、とふと思う。 母者人セティーナ様がまだ若かった頃も、こんな優しい顔をしていたっけ、と。 そんな視線に気付いたのかどうか、婦人はちょっとテューンの方を見やると、 「あらいやだ。ぼうっとしてたらクッキーを焦がしてしまうわ。さ、じゃあおりこうなネコちゃん、ちょっとどいてもらえるかしら」 そう問いかけるようにして命じられたので、テューンはとりあえず、ぶすっとした顔を婦人に向けると、さっとジャンルーカの膝から飛び降りた。 ジャンルーカがゆるゆると立ち上がり、焼きたてのクッキーを婦人の肩越しに覗き込んだ。婦人は満面の笑顔でこう言った。 「すごいわジャンルーカちゃん、上出来よ! ううん、上出来なんてもんじゃないわ、すばらしいわ! おばさんも教えたかいがあったってものよ」 彼女の言うとおり、クッキーは匂いをかいだだけでもうっとりするような出来栄えだった。惜しむらくは自分がこのクッキーを食べられないことだろうな――テューンはますます仏頂面に力を込めると、彼女らをせかすようににゃーと鳴いた。 普段では閑散としている車内の長椅子が全部埋まってしまうぐらいに、人がいた。いつもならばコンパートメントに閉じこもっているであろう乗客達が、次の駅に到着するのを今か今かと待ち構えているのだ。 車窓が沈み行く太陽が次第にオレンジ色に変わってゆく様を逐一見せ続けたが、彼らの目にはおそらくその美しい光景は映ってはいないのだろう。ただ、何も知らない子供達が、キレイキレイとはしゃぎながらあっちこっちを指差して笑っているだけだ。 「こらこら、もう少し静かにしていなさい。他の人に迷惑ですよ」 まったくもって迷惑千万、といった乗客達をよそに子供達は楽しそうに笑い、そんな彼らを優しく婦人は見詰めている。 そんな折、彼らが待ちに待ったアナウンスが降ってきた。 「ご乗客の皆様に、お知らせいたします。間も無く当列車は『めぐりあいの地』、『めぐりあいの地』に到着いたします。お降りの際は、お手荷物などお忘れ物の無いようお願いいたします。繰り返します、間も無く当列車は『めぐりあいの地』に到着いたします。お降りのお客様は、扉付近押し合わないよう、順序良くお降り下さい――」 ガタガタと席を立つ音。列車は次第に、その速度を落としている。 音も無く、衝撃も無く、いつの間にか列車は止まった。ややあって、閉ざされた車内と広がる世界とを繋ぐ唯一の扉が開かれ、手に荷物を持った乗客達がゾロゾロと列車から吐き出されていった。 薄暗い黄昏の中、彼らは互いに何か語り合うことも無く、石畳の道を踏み締めて遠ざかって行った。 希沙がぼんやりから覚めて扉の外に出たのは、大声で彼女を呼ぶ声と、そして笑い声がしたからであろう。実際、彼女の扉の前では例の子供達が「キぃ~サぁ~ちゃ~ん!」唱和して騒いでいたし、アイビスが背丈の足りない子供達の代わりに扉をとんとんとノックして「キサ、早くしないとダメよ」呼びかけていたし、その後ろでは「こぉ~んな扉ぁ、バンってやって壊せないかなぁ~」などと物騒なことを言い出すテューンとジャンルーカを、良識あるストルクや婦人が「やめなさい、そんなことは」「危ないですよ」止めていたり、かと思えば面白がって賈が「おう、いいな、やってみろ譲ちゃん」煽っていたりと、通常では考えられないような騒がしさだったのである。 「え? えっと、ちょっと待って!」 ただならぬ雰囲気に慌てて希沙が飛び出してきたところを、一斉に子供達がわあっと円陣を狭めて駆け寄った。 「何? 何、何? 何が起こってるの?」 口々に「これどうぞ」を連発しながら、子供達は彼女に群がった。手を下げて器の形を取らされたかと思えば、その彼女の手に小さな指で金平糖が次々と入れられていった。そして仕事が終わった子供達は、「バイバイ、キサおねえちゃん」とこれまた思い思いに叫びながら手を振り、タッタッとタラップを降りて行ってしまう。 最後に少し大きい、みんなのまとめ役のような子供――といっても小学校低学年ぐらいだが――がペコリと頭を下げると、 「キサおねえさん、これ、もらってください」 と言って、最後に白い金平糖を山盛りになった金平糖山の上に乗せた。呆然とする希沙に笑顔で頭を下げると、彼はぶんぶんと手を振った。 「さよなら、キサおねえさん。みなさんも、お元気で」 その他大勢に含まれてしまった人々が軽く手を上げて別れの意を示す中、希沙はまだはっきりしない頭を抱えたまま、ぼんやりと扉の前に突っ立っていた。 子供達がタラップを駆け下りると、嵐が過ぎ去った後のようだった。 「貴方が、希沙さんね」 「・・・え、えーっと・・・え、は、はいそうですけど!?」 急に名前を呼ばれてびっくりして前を見ると、希沙の前にあの婦人が立っていた。彼女は希沙の手をとると、持っている袋の中に、希沙の手を塞いでいた色とりどりの金平糖を注ぎ入れた。暫く手の上に載っていたにもかかわらず、金平糖はべたつくことも無く、素直に袋の中に入っていった。 「遅くなってしまって、ごめんなさいね」 袋の口を白いリボンで花をあしらいながら綺麗に結ぶと、婦人はその袋を希沙の手に預けた。 「どうぞ、受け取ってくださいまし。あの子達も、喜びますわ」 「え、あ、ありがとうございます」 どうしてもらえるんだろう、という疑問符を頭に浮かべている希沙にアイビスがそっと耳打ちをする――ほら、あたしもあげたじゃない。あれよ。 「他の方からも、貴方に渡してくれと頼まれましたわ」 見れば、ジャンルーカの腕にはテューンの代わりに箱にドッサリと入ったお菓子があった。 「金平糖~が~、ここにおらせる~、アマンダ婦人~。と~、その子供達~」 「子供達みんな、貴方にありがとうと言っていただけて光栄ですわ」 「あと~、クッキーが~、ボクらのぶ~ん」 「ジャンルーカちゃんの手作りなんですよ」 「んで~、ア~モンドチョコが~、黒ヒゲの紳士さ~ん」 「ブエラ公です」 「ホワイトチョコが~、双子さ~ん」 「ウィルソン兄弟ですね」 「キャラメルが~、犬のおば~さん」 「ベネット婦人です」 「あとは~色々と~、袋詰め~」 「詳しいお名前は手紙にご記入いただきましたので、後ほど時間のあるときにご覧下さいな」 見ればそれらしき手紙があった。何気なく広げて見ると、『アニー・アマンダ』の下に、子供達の名前がびっしりと――イーダ、イリア、ウラノ、ウラー、カルロス、カルロッタ、ケニス、ケート、コーダ、コロナ、サイラス、サラ、ジュノ、ジュリエ、ソロ、ソニア、ティーダ、ティンク、トト、トーラ、ナイル、ナイラ、ネス、ネネ、ノルド、ノール、バド、パトラ、ブルーノ、フィーダ、ヘンリー、ヘレナ、ポール、ポーラ、マット、マリー、ミック、ミント、メリル、メリー、ヤン、ユーリ、ランディ、ララ、リッド、リンダ、ルノ、ルシア、レイ、レナ、ロイド、ロザンナ、ワム、ワンダ――書かれていた。それだけで一枚埋まっている。 希沙がうわぁ、と感心していると、ドサッと腕に重りを感じた。ジャンルーカが相変わらず無表情のままで――来るのが遅いから腕が疲れてしまったわ、という無言の怒りを感じた――希沙の腕に箱を下ろしたのだ。心なしか、その顔も冷たい怒りが隠れているような気がしてくる。 「えと・・・ジャンルーカさん、ごめんね」 腕が重いのをこらえながら、精一杯、悪かったの顔をしてみせる。アイビスがすっと、箱を半分持ってくれた。 「あ、ありがとアイビス・・・」 「・・・よかった。ようやく笑ってくれて」 ニコッと笑い返す彼女の顔を見て、希沙はあっと口を開いた。そういえば、『賢石の園』を出て以来、彼女とはケンカ別れの状態だったのだ。ごめんね、と思わずうつむいたところを、アイビスにつつかれる。 「気にしてないわ。そういう時もあるし。Let’s forget our quarrels.よ」 「うん・・・?」 とりあえず意味はわからなかったが、希沙は顔を上げた。そこでもう一度、あっと顔を赤く染めた。気まずいところを見られてしまった。 「いや、これは、その、ですね・・・」 「いやいや、嬢ちゃん、気にするこたないな。良かったじゃねぇか、なぁ」 賈にニヤッと笑いかけられ、一層希沙は顔を赤くする。いつの間にか彼女の肩にはアイビスの腕が回されており、それを下からテューンがニヤニヤした顔で見ている。ストルクと婦人はそれを微笑ましいことだと笑っていた。 「それでは、私はここで失礼いたしますわ。指し示す導(しるべ)があるように・・・みな様の旅のご無事を、お祈りしておりますわ」 アマンダ婦人は胸の前で何かの模様を指できると、手を合わせた。例の挨拶だ、と希沙が思っていると、素早くストルクがそれに応えて、同じような少し違うような模様を指できって返した。 「旅に祈りを・・・ご婦人も、お元気で」 アマンダ婦人は砂糖菓子がとろけるような甘い笑顔を残して、タラップを降りていった。思わず見とれていた希沙の耳に、子供達が、待っていましたというように婦人の手を取り合って駆け出してゆく、あの笑い声が心地よく響いた。 「とりあえず、希沙、部屋に荷物を置いたら、いったん列車を降りよう」 ストルクに促されるまま、希沙は部屋の入り口に箱を下ろすと、甲高い音を立てながらタラップを駆け下りた。夜風になりたての冷たい風が、そっと彼女の火照った頬を撫でていった。 名残惜しそうに赤い光を投げかける夕日に赤く照らされながら、タラップから黒尽くめの男性が二人、降りて来た。 「私で、最後ですね」 「ええ」 二人はすっと黒い列車に目を戻して、それからまた二人で面と向かい合った。 「それでは、私はここで」 「お疲れ様です」 四角い鞄を持った方が、おそらく運転手なのだろう。彼が石畳を歩いて遠ざかっていくのを、彼の姿が見えなくなるまで見送った後、車掌と思しき乗務員は敬礼の手を下げ、希沙達の方を振り返った。 「さて、ここに残られる皆様は、引き続きのご乗車ということでよろしいでしょうか」 うん、と大きく頷いて見せたのは、ジャンルーカとテューンだった。彼女らは車掌の横をすり抜けると、そのまま素早い動きでタラップの手摺りに手をかけた。 「いっちばぁ~ん!」 門番さながらに陣取っているジャンルーカとテューンにちょっと羨ましい気持ちがしたが――いやいや、もうそんなお子様じゃないもん、私は――希沙は気を取り直して、車掌に尋ねた。 「それって、あの、一体・・・どういう、ことです、か?」 じっと車掌が希沙を見詰めるので、彼女はどぎまぎしながらそう言った。これといって特徴の無い顔が、帽子の影を受けて不気味さを醸し出している。 「そうですね、希沙様は初めてでいらっしゃいますので――」 「あたしもだけど」 「俺もだな」 アイビスと賈の冷ややかな突っ込みを見事に無視しながら、彼は仕事口調で淡々と繋いだ。 「この『めぐりあいの地』駅は、乗換駅でございます。この先、この列車は目的地までのお時間を短縮するため、多少なりとも危険な道を通ります。もちろん、安全規定は定められてはおりますが、お客様にも多大な迷惑がかかる恐れが多々ございますので、そのようなものは有って無きようなものと心にお留め置き頂きたく存じます」 車掌は感情のこもらない声でそこまで言うと、急に寒気を感じた希沙に向かってこう言い切った。 「ですが、希沙様はここで乗り換えることは出来ません。それが、貴方が持つ資格の意味するところでございますゆえ」 「そんな危ない目をしてまで、キサに乗り続けろって言うの?」 「はい。そういった決まりでございます」 怒り心頭のアイビスに彼は事も無げにそう返すと、 「それがお嫌でしたら、ここで引き返すことも出来ますが・・・それはお客様がご自身で、お決めくださいませ。それでは、当列車は新しい運転手が着き次第、出発をいたします。停車時間はおおよそ30分でございます。他のお客様も、よく考えてお乗りくださいますよう、切にお願いいたします」 機械的にそう言い、踵を返した。 「待って! じゃあ貴方は何故乗ってるの?」 彼はアイビスの問いに少し歩みを止めたかのように思えたが、まったく変わらぬスピードで列車に向かって歩きながら、 「それが私の使命でございます。他に適任者もおりませぬので」 背を向けたままそう答えると、ジャンルーカとテューンの間を割って列車に戻っていった。 「さんば~ん、車掌ぉさ~ん」 その子供らしい声が、いやに空々しく黄昏時に響いた。 結局、希沙は列車を降りなかった。 こうなったら最後まで見届けてやるんだから――意地というものが、彼女の中にどっかと居座っていた。そして、昔の親友・咲のことも。きっと大丈夫だという、全く根拠の無い自信が彼女にはあった。そしてそれは事実、彼女を守ってくれたのだ。 そういった訳で、ここで別れを告げた人も少なくは無かったようだ。乗ろうと決めていたものの、怖気づいて石畳を越えていった人も大勢いた。意気地無し、とはテューンの言だ。しかし実際、すんなりと乗ることを決めたのはジャンルーカとテューン、車掌、あと3人の乗客、希沙、アイビスの8人だった。 賈もかなり迷っていたが、俺は決めたぞ、と意を決して乗り込んだ。 「きゅうばんめ~、怪し~おじさ~んの賈さ~ん、と~、鳴かないカナリアさ~ん」 だがそれ以上に迷っていたのはストルクだった。最後には、アイビスが「あたしを最後まで送ってくれるって約束よ」という一言で押し切ったものの、かなり乗り気しない様子ではあった。とはいえ、乗り込む時にはもう、私も決着をつけなければ、と笑っていたのだが。 「じゅういちばんめ~、悩める旅人~ストルク~」 各人はおのおの、コンパートメントに戻ったり、長椅子に腰掛けて談笑していたりしたが、ジャンルーカとテューンだけは、一番星が輝く空寒い景色の中、タラップに腰掛けて続けていた。そうやってじっと、石畳の向こうを見ていた。何を見ているのか、寒くないのかと尋ねても、教えない、寒くないの一点張りだった。 そうこうしているうちに、 「じゅうにばんめ~、たぶん運転手さ~ん」 そう告げる声があった。もうすぐ、出発の時刻だ。 ジャンルーカとテューンがようやく車内に戻ると、そこには車掌がいるだけだった。 「お部屋にお戻りください。揺れますので」 返事を返す前に、別の声が聞こえた。 幼い子供の声。邪気の無いような気がする、純粋そうな声だ。だがそれはいわば氷の無垢さ。先ほどまでの子供らとは全く異なった、対極に位置する声だった。 その、凍りきった子供らしからぬ、だが子供らしい、生気の無い声は言った。 「私も、乗ります」 そこには、手を触れれば壊れてしまいそうなほど、傷つき弱りきった、それでいて美しい子供がいた。ジャンルーカを触れれば割れそうなガラス細工だとするならば、その子は触れれば崩れてしまいそうな脆くなった石像だった。 白を通り越して青くなった肌に、赤と黒の派手な色使いのひらひらした服をまとっていた。そこから突き出た腕や足は驚くほどに細い。髪は色素の無い白、唇は乾いてささくれ血が滲んだ赤紫色をしており、目の下に深く刻まれたくまや、血色が悪く紫色を呈し始めている瞼の中で、その琥珀色の双眸だけが、ギラギラと肉食獣のそれのように異様な輝きを放っていた。 だがその空恐ろしい客の姿を見ても、車掌は全く動じずに淡々と責務を果たしていた。 「畏まりました。資格を拝見――」 「私は、伯爵様の使いです」 子供がそう答えると車掌は何も言わず、頭を下げると車掌室に戻った。 「それって資格ぅ~?」 わざと明るく尋ねるテューンに、子供は大きく頷くと、 「この先は『伯爵様の領土』です。そのお目付け役が、私です」 誇り高く言い切ると、コンパートメントに続く扉の中に消えた。 だが、テューンにはその不気味さがはっきりと、やけに鮮明にわかった。 同類、あるいは似た存在であると。 そして思い出していた。クッキーを食べながら、確かアマンダ婦人はこう言ったのだ。この子達が伯爵に気に入られないよう、私はこの駅で乗り換えるのよ――と。伯爵のお気に入りとなった者は、二度と戻っては来ないと、それはあくまでも噂だというが。 「じゅう・・・さんばんめ、か」 テューンはそう呟くと、ジャンルーカの後を追って自分達のコンパートメントに戻った。 列車の電気が弱々しく、人気の無い車内を照らし続けている。 ややあって、列車はすっかり暗くなってしまった暗闇の中、音を立てて走り出した。もう、後戻りは出来ぬのだという、警告のような音を立てて。 ◆17 夜食の時間だった。部屋で食べても良いのだが、希沙にそのつもりはない。大勢で食べたほうが楽しいから。 車両に出てみると、そこにいたのはいつもの面々。賈はテューンとジャンルーカの向かいでしきりに喋っている。何やら滑稽な話をしているらしく、テューンは所々で相槌を打っている。ジャンルーカは相変らず無表情だが、心もち笑っているような感じもする。アイビスは隣の席で、賈の駄弁を聞くとも無しに聞いている。ストルクは一人離れて窓の外を眺めつつ思索に耽っている。 どうやら今晩の夜食はサンドイッチらしい。 前に座った希沙を、アイビスは笑って迎えた。空腹のため、しばし無言でサンドイッチをほおばる。二つ、三つ。咽喉のほうがつまりかけると、ジュースでもって流し込む。 「――そこで俺は言ってやったのさ。『雁首揃えりゃなんとかなると思ってんのか。聞くけどな、お前らは蟻の群れを怖がるか?』。言い終わるや、俺は少林寺とジュードーの技を駆使し、連中をちぎっては投げちぎっては投げ、しまいにゃその場にいた五百人のヤクザは、みんな俺の靴を嘗めて舎弟になると誓ったわけでな」 「よく肩を痛めなかったね~」 希沙と眼が合うと、アイビスは笑って、ひょいと肩をすくめる。またやってるわ、という意味である。希沙もつられて笑う。 がらっ、という扉の開く音。 そちらを見ると、件のけばけばしい身なりの少年が入ってきたところだ。賈やストルクの表情がこわばった。少年は彼らには見向きもせずに、つかつかと歩みを進めてくると、希沙に言った。 「隣、いいかな?」 わけもなく心臓がどきりとした。 「……どうぞ」 少年はすっと、希沙の横に腰掛けた。希沙は頭がくらくらした。少年のつけている香水のせいだろうか? しかしさほど嫌な臭いでも、強烈な香りを放っているわけでもない。少年はサンドイッチには手をつけず、ジュースをほんの一口コップに注ぎ、ちょっと舌で嘗めた。それ以上は何も口にする様子がなかった。 ややあって、少年はふいと賈のほうを向いた。 「どうぞお構いなく、お喋りを続けてくださいよ」 「あんたにゃ詰まらん話さ」 「……でしょうね、あなたの生涯で一番面白い出来事についでは良く知ってますし、それ以外の出来事など陳腐で聞く気にもなりません。……珊珊の具合はどうです?」 「おかげさまで、絶好調」と答えたのは賈ではなく、カナリヤの珊珊。 少年は目を細める。 「身体の保存を伯爵様に頼んでおきながら、一方で魂まで保存しておかれたんですね。あの人に――伯爵の仇敵であるあの人に、それを頼んだんですか」 賈も珊珊も沈黙する。少年は破顔する。 「なに、伯爵様は気を悪くなどされませんよ。身体も魂も自分のものにしておきたいって、そういう思考には酷く共感されますからね。私もですけど」少年はニヤニヤと笑いを浮かべながら、続ける。「――で、どうなんですか、調子のほうは。永遠に恋人を抱いていられるというのは格別でしょう?」 険悪な調子になりかかったのを遮ったのは、いつの間にかこちらに来ていたストルクだった。 「いい加減にしなよ、ローゼン。若い娘の前で言う冗談じゃないだろう」 ローゼンと呼ばれた少年は、薄ら笑いを浮かべながら立ち上がり、正面からストルクを見据える。 「それもそうですね、失礼しました。――ああ、ストルクさん、あなたも相変らず面白い人生を送ってるんですね。興味を引かれる部分もないわけじゃないですよ。ただあなたは、少しばかり長生きし過ぎてますから、そこがちょっと」 「私の倍も生きているくせに、よくもまあそんなことを言えるものだ」 見えない火花が、二人の間で散った。 「――とにかく、伯爵には軽はずみに手を出さないよう言っておくんだな。乗り続けると決めた以上、私は目的地まで行く。手は出させない。誰にも、決して」 それだけ言うと、ストルクはふいと背を向けて、自分の部屋に戻ってしまった。ローゼンはオレンジ色の巻き髪をかきあげ、次にテューンたちを見た。ややあって、ため息。 「駄目ですね」 「何がぁ~?」 と、テューンが露骨に嫌悪感を示して問う。ローゼンは言う。 「地上のものにしか興味がないんですよ。あなたたち、半分あの世に脚を踏み入れてるでしょ。――いや、寧ろあの世からこちらに半分脚を踏み入れてるのかな」 憮然とするテューンをよそに、ローゼンは再び座席について、アイビスのほうを向く。 「そこへいくと、生きている人はいいですね。そう思いませんか、ブロンズヤード」 アイビスは眉間に皺を寄せる。 「どうして私の名前を知ってるのか分からないけど、私の名前を知ってるくらいなら、私がセカンド・ネームを嫌ってることくらい、ご存知のはずよね?」 ローゼンは、相変らず薄ら笑いを浮かべたまま。 「ですが、あなたが面白いのは、あなたの姓ゆえですから」 アイビスは大げさな身振りで立ち上がると、希沙の手を取る。テューンたちも賈も、とっくに車両を去っている。 「行こう、希沙」 「え? で、でも」 先ほどから皆が何を言っているのか分からないでいた希沙は、突然行こうと言われて戸惑ってしまった。ローゼンを一人残しておいていいものだろうか。ローゼンは嫌な思いをしないのか。 アイビスはぶんぶんと首を振った。 「あー、もう、知らない。私は寝るから」 そしてそのままくるりと回れ右をして、自分の部屋へ去ってしまった。 ローゼンと一緒に残された希沙は、ふとどうしたものか分からなくなって、ジュースを飲むふりをしながら、相席の少年をちらちらと見やった。少年は相変らず不思議な笑いを浮かべながら、ちろちろとジュースを嘗めていた。 「あの」 希沙が声をかけると、少年が振り向いた。わけもなく顔が赤くなって、何を言おうとしたのかきれいさっぱり忘れてしまった。 「何か?」 「あ、その……えと……食べないんですか」 「お気遣いありがとう、でも食欲がなくて」 言ったそばから、少年のお腹がぐう、となる。 希沙と少年の目が合う。二人は思わず笑い出した。 「実はね、結構食べるほうなんですよ、これでも」少年が言う。「でもね、どうも、人前で貪るのは恥ずかしくって」 「あ、分かります、それ」希沙が応じる。「クラスで給食を食べるとき、おかわりしたくても、他の子の視線が気になって、つい気が引けちゃったりとか」 少年はあはは、と笑って、 「では一つ、秘密の大食らい同士、友情の儀式でもやっておきますか」 というと、希沙も楽しくなって、 「うん、誓いましょう誓いましょう」 と答えた。少年は希沙のコップにジュースをなみなみと注ぎ、希沙も少年のコップに注ぐ。少年はコップを掲げて、言った。 「それでは、世界のあらゆる美食と、新しい友に乾杯」 「乾杯♪」 さすがに食べ過ぎて、もたれ気味の胃をさすりながら、希沙は部屋に戻った。ローゼンはその背中を見送りながら、首をかしげてひとりごちた。 「不思議だな。なんで彼女のような人が、この列車に乗ってるんだろう」 18(バーネット) 「おはよう、キサ。昨日は大丈夫だった? あいつに何かされたりしなかった?」 次の日の朝、車両に現れた希沙に真っ先に気づいたアイビスの第一声はこんな言葉だった。 「え? あ、うん」 最後にアイビスがいなくなってから二人で夜食を食べながらお喋りをした。男の子と一対一で話した経験などそれほど多くなく初めは少し緊張していた希沙だったが、いつの間にかそれも解けて、長いこと二人で喋り続けていた。ただそれだけだ。 「そう。ならいいわ。それじゃ朝食を食べに行きましょう」 希沙の返答に安心したらしく、アイビスはくるりと向きを変えると前の車両へと歩き出す。その隣を歩きながら、希沙は昨日の夜からずっと気になっていた疑問を口にした。 「ねえ、アイビス。その……どうしてみんなローゼン君のこと嫌がるの?」 自分以外の皆が彼を嫌っているのは希沙にも分かった。だが、その理由が分からないのだ。確かに派手な格好をして不健康そうで――もっとも彼に言わせれば十分健康らしいが――ちょっと怖そうに見えるが、昨日話した感じでは普通の男の子のようだった。希沙にはあの少年が何か酷いことをするようには思えなかったのだ。 アイビスはわずかに考え込んだ後 「……そうね。キサの安全のためにも早めに話しておいたほうがよさそうだし」 そう言いながら前の車両へ移るためのドアに手をかけ、そのまま開いた。 「まあ、その話は食べながらしましょう」 「おはよう、お二人さん。先に頂いてるぞ」 そう言って二人に声をかけてきたのは賈だった。 ここは食堂車。やや大きめのテーブルがいくつかあり、その周りを囲むようにいくつもの椅子が置かれている。そのテーブルのうちの一つにいつものメンバーが集まっていた。 「おはようございます」 「おはよう」 「ああ、おはよう」 希沙、アイビスの挨拶をストルクが返す。が、いつもここで返ってくるはずの間延びした声が聞こえない。そういえばジャンルーカはいるのにテューンの姿が見えない。 「あれ、テューンは?」 希沙の問いかけに対してジャンルーカが無表情のまま下を指差す。その指の先に目をやると――顔ごと容器に突っ込んで一心不乱に何かを飲んでいる灰色の猫がいた。普段の不思議な感じは消えていて、本当にただの猫と化している。ちょっとかわいい。 「まずは飲み物を取りに行きましょう、キサ」 「うん」 二人は飲み物が置いてある中央のテーブルへと歩いていく。その間に希沙は他のテーブルをきょろきょろと見まわすが、どのテーブルにも人はいなかった。つい先日までは食事時になるとたくさんの人がここに集まって食事をしていたのに、今は自分たち以外誰もいない。みんな降りてしまったのだから仕方が無いのだが、やっぱり寂しい。 「キサはオレンジジュースでよかったわよね?」 「う、うん」 希沙が周りを見まわしている間に先に着いたアイビスがジュースをコップに注ぎ、希沙へと渡す。アイビス自身は湯気を立てるカップを持っている。飲み物を手に二人は皆のいるテーブルに座る。 「「いただきます」」 二人で声をそろえて言い、食べ物に手を伸ばす。テーブルの上に置かれているのはバスケットいっぱいに詰められたロールパンと大皿の上に山盛りにされたスクランブルエッグだった。ハムやベーコンも添えられている。パン用にマーガリンや赤、オレンジ、紫、さらに緑や黄といった色のジャムの瓶もある。とりあえずパンを取り、試しに緑色のジャムを付けて食べてみる。甘い、がちょっと酸っぱい。多分これはキウイだ。 「みんな、ちょっといい?」 希沙の隣でスクランブルエッグを自分の取り皿に移し終えたアイビスが口を開いた。 「キサに伯爵のことを話しておきたいと思うの。これから先何か起こったときのために」 伯爵、という言葉が出た瞬間、皆の動きが止まった。それぞれが手にしていたものを皿の上に置き、アイビスへと視線を向ける。普通ではない雰囲気に希沙も慌ててパンを置く。それぞれの顔に苦々しいものがよぎったのが見えた。もっともジャンルーカは無表情のままだし、テューンの姿は見えていなかったが。 「……もうここは『伯爵の領土』だ。確かに何か起こっても不思議ではない」 「まあ、そうだな。ここを通る以上、嬢ちゃんも知っておいたほうがいいだろう」 楽しい食事の時間が一転、一気に重苦しいものになった。希沙は訳が分からず、心の中でえっ、えっ、と困惑する。 「えっと……、伯爵さんってどんな人なの?」 「そうね、あえて一言で言うなら、そう……変態ね」 「へっ、ヘンタイ!? ヘンタイってあの変態だよね……!?」 「……あなたの頭の中の変態のイメージがどんなものかちょっと気になるけど、多分間違ってないと思うわ」 ちなみに希沙が想像した変態とは、コートだけを着て女の子の前でいきなり裸を見せるおじさんだったりする。しかし、希沙が知る限り伯爵というのはかなり偉い人のはずだ。偉い人はそんなことをしないだろうと考え直そうとして――なぜか裸を見せる偉そうなおじさんを想像してしまい、余計に怖くなってちょっと泣きそうになった。 「そうだな。幼児趣味でサド、おまけに両刀って噂だしな。どこまで本当かは知らないが」 「まあ、少なくとも全部が単なる噂ということはないだろう」 「ヨウジシュミ? サド? リョウトウ?」 「あー、そうか嬢ちゃんには分からんよな。幼児趣味ってのは小さな子供――嬢ちゃんたちみたいのをいやらしい目で見るやつのことで、サドって言うのは相手を痛めつけるのが楽しくて楽しくてたまらないやつのことだ。あと両刀ってのはだな――ん、どうした嬢ちゃん?」 賈の視線の先で希沙はあうあうと目線でアイビスに助けを求めていた。少し震えているようにも見える。ちなみに今現在希沙の頭の中には、小さな子供をいやらしい目で見る相手を痛めつけるのが大好きな裸を見せる偉そうなおじさんが存在している。希沙、かなり本気で泣きそうである。 「……それくらいにしてあげて。キサにはまだ早すぎるみたい」 希沙の目線の意味を正しく理解したアイビスが賈を止める。と、そこに聞き覚えのある間延びした声が割り込んできた。 「あぁ~~、お~いしか~った~。や~っぱり~、伯爵領のミルクはぁ~最高だ~ね~」 テューンはぴょんと飛び上がると、いつもの定位置――つまりジャンルーカの膝の上に着地した。顔全体が白くなっているが、本人は満足ここに極まれりといった感じである。 「これだけはぁ~ここのことをぉ~褒めても~いいかもね~」 「ええ、伯爵様は大のミルクティー好きですからね」 新たな声は誰も予想していなかったところから聞こえてきた。全員が一斉に声のほうへと振り向く。そこにいたのは―― 「私も同席させていただいてもよろしいですか?」 伯爵の使いを名乗る少年だった。 19 皆既日食 「あ・・・ローゼン君、おはよう」 さすがに賈の話を聞いた後では、少年に対する態度もぎこちなくなってしまう。 「おはようございます希沙さん。昨夜はよく眠れましたか?」 「え、ええ」 少年は-伯爵の使いは、そんな希沙の様子にもかまわず言葉を続ける。 「それよりみなさん、本日は伯爵様が是非みなさんを館に招待したいとのことです。外出の準備は早めにしてくださいね」 「嫌よ」 「断る」 「遠慮しとくよぉー」 「ヤだね」 希沙を除く全員が、一切の迷いもなく即答した。 「はは、そんなことを言われましても」 さすがのローゼンも少しだけ困った顔をするが 「もう到着しますし、あきらめて招待されていただけませんか?」 がたん 列車が止まる。 「馬鹿な!駅でもないのにこの列車が止まるだと!?」 珍しいことにストルクが声を荒げる。 「おや、先ほど貴方がおっしゃったことでしょう?ここは『伯爵の領土』。何が起こっても、不思議ではありません」 からかうように少年が言うと、列車は再び動き出した。 ただし、ひどくゆっくりと。 「それではみなさん窓の外をご覧ください――伯爵様ご自慢の館、<スノウホワイト>でございます。」 希沙が窓の外を見てみると、先ほどまでとは風景が一変していた。 白亜の城。そうとしか形容しようのないほど光り輝く純白の外観をもった中世ヨーロッパ風のお城の門が開き、その中に列車がゆっくりと入っていく。 列車はそのまま噴水の横を通り過ぎ、紅いバラの庭園の中を通って、正門の前に到って止まった。 列車のドアの前には真っ赤な絨毯が敷かれ、その脇には女性とも男性ともつかない、真っ白な鎧に身を包んだ騎士たちがずらりと並んでいる。 「行くしかないってわけね・・・」 アイビスが、心の底から忌々しそうにつぶやいた。 この列車に乗ってからいろんな珍しいものを見たが、列車を出た瞬間にもう帰りたいと思ったのは初めてだった。 伯爵の館はそれはもう豪華できれいで、とにかくひたすら圧倒された。 天井で輝く巨大なシャンデリア、絨毯も足首まで沈むのではないかというぐらいのもので、 館においてあるものはすべて希沙の目から見てもありえないほどの超高級アンティークであることがわかった。 そんな中で、パジャマにコートの希沙。 正直言って恥ずかしさで顔から火が出そうだった。 そしてそのまま応接間にみんなそろって案内されて、真っ白なソファーに身体を縮こませて座っている。 ローゼンが「少しお待ちください」と言って出て行ったあと、誰一人として口を開こうとしない。 ガチャ 恐ろしく重苦しい雰囲気の中、ついにドアが開いた。 20 藤枝りあん 「ようこそ、我が館へ」 だがしかし、そこに現れたのは柔和な笑みをたたえた上品な感じのする男性だった。銀髪をオールバックで固め、濃灰色のベストをかっちりと着込んだ身なりの整った、年齢不詳の――しかし、若すぎも老いすぎもしていない――威厳あるこの館の主だ。 希沙は、当然のごとく首をかしげた――もちろん、心の中でひっそりと、だが。 というのも、見る限り、ローゼンを傍らに従えたその人は、他の人達が恐れるような雰囲気は全く感じられなかったからだ。言うまでもなく、自分のイメージした危ないおじさんとは似ても似つかなかったからというのもある。 ところが、彼女が横に座っている人々を盗み見ると、人間のお客さん達全員が、白磁よりも青白くなった顔で、その男を眺めたり視線をさまよわせたりしていた。ちなみに人間でないお客さん、テューンはというと、何事も全く気にする様子も無く、縄張りを示そうとするネコのように、豪華そうなふかふかのソファーで爪をといでいた。しかし、それをとがめる者は誰もいない。 伯爵はというと、そんな駄猫の様子など目に入らないようで、皆よりも一段高い場所で足を止めたまま、列車に乗っていた人々を順々に見定めていた。 「今日のお客人は・・・ふぅむ、11人か。ローゼン、これで全員だな」 「・・・いえ、それが・・・」 言いかけて、ローゼンははっと口をつぐんだ。 「どうした。言いたいことがあるならば、はっきりと言いたまえ・・・」 伯爵が笑いかけるような蜜の含んだ声で、そう少年に声をかけた。ローゼンは何かを言いたそうに伯爵の顔を見上げていたが、「・・・はい、間違いありません」と消え入るように呟いて、ちらとその無礼極まりないネコを見やった。 「ああ、11人と1匹か。ふふっ、そうかネコが・・・」 「・・・よろしいのですか」 面白そうに含み笑いをしている伯爵に、ローゼンはためらいがちに尋ねた。伯爵様に無礼を働くのを見過ごしていてよろしいのですか、その言葉にはそんな意図が感じられた。 だが伯爵は「構わないさ」と少年を制し、それから、 「飼い主はどなたかな」 と問いかけた。 誰も手を上げない。 そっか、ジャンルーカちゃんも怖いんだ。どうしてだろう――本当はただ単純に自分の意思で手を上げることが出来ないだけなのだが、希沙はそう思った。 すると、伯爵らの視線が自分に向けられていることに気が付いた。希沙は思わず「え?」と口に出して下を見た。 そこには、丸くなっているテューンの姿。彼女の膝にどっかりと居座っている。 「え、あの・・・その」 「気にしてはいないよ。ただ、愛玩動物の躾はきちんとすべきだと、老婆心ながら忠告しておこうかな」 そうは思わないかい、と伯爵はローゼンに無言で伝えた。それをはっきりとわかったうえで、ローゼンは、 「そのとおりでございます、伯爵様」 と心底同感したように頷いてから、もう一度、今度は軽蔑と嫌悪感を加えた眼差しをテューンに向けた。 男の人なのになぜお婆さんの心なのか、などというところに疑問を抱いた希沙は、周囲の人々が――ジャンルーカを除いて、というのも彼女が何を思っているのかを知るすべは無いからである――血の気を失ったことに気が回らなかった。 『愛玩動物』――伯爵が言うそれの意味が、確実に『人間』にも向けられているということを、彼の隣に従順に控えている少年の立ち振る舞いを見れば、嫌というほどに思い知らされるからだ。 今度の犠牲者は誰だ――ここの噂を知る者は、どうかそれが自分で無いようにと祈りを捧げた。そして、伯爵が一定年齢以上の人間には興味を示さないことが真実であるようにと願った。 そしてそれは正しく、彼らは解放されることとなる。 「・・・伯爵様。申し訳ありませんが、我々はここにとどまるわけにはいきませんので、そろそろお暇したいのですが」 そう切り出した勇気ある人物は、車掌だった。ただし、事務的な口調で、だ。 「まだそんなに時は経っていないだろう? もう少し羽を伸ばしていったらどうだね」 「お心遣い感謝いたします。が、我々は、少なくとも私と運転手は、今現在も勤務中でございます。列車に戻り、他のお客様を待つのが役目である以上、もてなしは受けられません」 「そうか・・・いや、残念だ。また次の機会を待つとしよう」 明るく伯爵はそう言って、座ったまま軽く手を上げた。 「では、失礼いたします」 無言のままの運転手と共に、制服姿の車掌はきびきびと立ち上がり、深々と一礼をしてから、くるりと踵を返してエントランスから出て行ってしまった。 それに乗じようと、数人が立ち上がりかけたが、 「まだ帰るには早いのではありませんか、皆様」 ローゼンの一言で再び腰を下ろす羽目になった。 「玄関先で話を・・・というのも無粋極まりない。さあ、どうぞ奥へ。つつましいながらもお茶の席をご用意させていただいたのでね」 伯爵が楽しそうに話せば話すほど、人々はますます生きた心地がしなくなっていた。 「はは、遠慮は無用。我が家だと思ってくつろいでいただきたい。ローゼン」 「はい。皆様、ご案内いたします。どうぞ、こちらへ」 否定する者はいなかった。どうしようかという逡巡は見られたものの、逆らってはいけないのだという諦めと共に、ローゼンの後を死者のようにぞろぞろとついて行く。 その時、アイビスが強張った顔で希沙の手を握った。そしてその隣ではストルクが、何やら厳しい顔をしているのも見えた。 一体どうしてこんなにも伯爵を恐れているのか、問いただしてみたい気もしたのだが、希沙はそんな皆の雰囲気を察して、黙っていることにした。 ただ、希沙はともかくジャンルーカにテューンを返そうとしたのだが、テューンが彼女にへばりついて離れなかったことと、ストルクの「今は君の猫としておいた方がいい」という謎の言葉に従って、首をかしげながらそのままテューンを抱いていた。 まるで拷問だった。 そのお茶会は、誰も出された紅茶や茶菓子に手をつけず、伯爵が尋ねることに淡々と答えるだけの時間が流れていた。といっても、主に応答をしているのは賈やストルク、それも自分から何か必要以上を語ることは決して無かった。ただきつく表情を固め、そこに鎮座し続けていた。 暫くして伯爵が一度席を立った時、ローゼンの刺すような視線に耐えて一人が転がるように飛び出していった。アイビスが、「無事に帰れるといいけど」と、何やら不穏な言葉を口にしたが、希沙がその意味を問うよりも早く伯爵が戻って来てしまったので、またあの地獄のようなお茶会が再開されたのである。 「ローゼン、君はどう思う」 「・・・」 ローゼンは黙っていた。 その問いかけは、お茶会はどうだろうかという意味ではなく、伯爵の御眼鏡に叶うような者がいると思うかという確認だったからだ。 それはつまりローゼンにとって、伯爵の寵愛を受けられなくなるのではという、彼にとっては恐ろしい考えを呼び起こさせるものだった。 「ローゼン、私は君の意見を聞きたいのだよ」 「・・・お耳汚しになろうかと」 「かまわん」 無表情で絨毯に落ちた花びらを見つめながら、ローゼンは重い口を開いた。 「・・・あの、少女ならば」 顔を上げればわかっただろうが、伯爵は嬉しそうに笑っていた。ここで「誰もいません」などと口にしようものならば、確実にローゼンはお気に入りから外されていただろう。 己を脅かす可能性があるものを、彼自身に告げさせるというのも一興――伯爵にとってはその程度の事だ。だがローゼンは精気の無い顔で淡々と続ける。 「3人です・・・うち一人は本物ではないので名前はよろしいかと・・・」 「それは私自身が決める。何と?」 「・・・ジャンルーカ。あの目を引く美しい少女です」 「あの物言わぬ少女か。そうか、それは残念だ・・・なかなかお目に掛かれない逸材かと思っていたのだがな」 少し聞き覚えのあるような、無いような名前だった。コレクションの一人にでも似たような名前をつけていたからだろうと、然程気にすることも無く、伯爵は「それで他には」と先を促した。 「・・・金髪の娘がアイビス。ブロンズヤード姓です。そしてこの場に似つかわしくない服装の少女が、希沙。希沙・Heartlyです」 「Heartly?」 「・・・翼の生えた鳥、という意味だそうです」 さらに感情を押し殺した声で、ローゼンは素早く言い切った。 あんな程度が、という思いが強い。歯牙にもかけなかったような輩がこの僕と同等に扱われるかもしれないなんて。確かに、あの不思議な少女だけは、伯爵様も興味を引かれるかもしれないとは覚悟していたのだが。 伯爵はそんな彼の様子をつぶさに観察しながら、あえて暫し考え込むふりをした。嫉妬心や何やらに耐えているローゼンの姿も、なかなか愛しいものだ。 「・・・よし、では戻ろうか」 「・・・・・・はい」 十分満足するまで彼の心理を玩んだ後、伯爵は茶会の席へと足を向けた。 誰かが選ばれてしまったのだろうか、とローゼンは不安になった。外見では伯爵様に気に入られるものはいなかったはずだ。だがしかし、あの希沙とかいう少女だけはどうだろうか。 そこに、伯爵の声が降ってくる。 「・・・正直、今回はあのような珍しい鳥を手に入れる事が出来るとは思っていなかったよ、ローゼン」 一瞬、ローゼンの足が止まった。遅れてはいけないと慌てて後を追うが、既に心は乱れに乱れていた。 やはりとは思っていたが、まさか―― 「・・・そうでございますか、伯爵様。喜ばしい、事でございます」 口だけで心にも無いことを述べる。 「そう思ってくれるか」 「はい。ですが――」 茶会の席を今度は二人で立ったので、もう誰もいないかもしれない。むしろ、そうあって欲しいとローゼンは強く願った。 「――君が何を願っているのか、私がわからないとは思わぬことだ、ローゼン」 「いえ、私は何も・・・」 ふっと笑みをこぼしながら、伯爵は言った。 「もし逃げられたとしても、この手で捕まえてみせるさ・・・小鳥は籠の中で愛でられるべきだ。そうだろう? ローゼン」 美しいものはすぐ傍らに置き、それを慈しまなければならない――それが伯爵の信条だということぐらい、ローゼンにはわかっていた。 だが、だからこそ、ローゼンは恐れていた。 また、あの暗い場所に戻されるのではないか、と。伯爵に見向きもされず、ただただ時をその身に刻み続けるしかない、あの場所へ。選び出されたのが気紛れであったとしても、戻されるのも気紛れにされるわけにはいかない。 しかし、ローゼンにはなすすべも無い。仕方無しに、彼はうつむいたまま、 「はい、伯爵様」 と答えた。 誰もここに残っていなければいいのに。ローゼンはひたすら、その思いに身を寄せ、元の道を歩き続けていた。 しかし、そこにはまだ彼らは誰一人欠けることなく居た。 ローゼンは落胆したが、それを表に出さぬように努め、こう切り出した。 「お待たせいたしました、皆様。まさかお待ちいただけるとは思っておりませんでしたので、いささか驚いておりますよ」 「・・・許可が無いと、帰れない――伯爵の領土からはね。違いますか、伯爵」 思わぬところから礼の無い言葉が返ってきて、そこにいた全員が驚いた。その声の主は、ストルクだった。彼は決意をあらわに、伯爵に向かって正面から視線を投げかけていた。 「成る程、ここでの私は全てを決定する支配者、というわけか」 「その通りでは?」 「ふむ・・・それはいささか物騒な話だな。はっはっは」 ストルクの冷たい皮肉を笑って返しながら、伯爵は席に着いた。 「さて、どこまで話したものだったかな――」 「『めぐりあいの地』まで。そしてもう、話すことなどありません」 そう言い切ったストルクに、視線が集中した。 何という恐れ知らずなのだろうか。だがしかし正論でもあり、また、ここから去るためのいい口実にはなる。 「――よくもまあ、そんな事を言えたものですね、ストルクさん」 「事実だ」 乗客らは、一縷の希望を秘めた非難まじりの瞳で彼を見た。 伯爵はテーブルに肘をつき、頬杖をしながらその勇気ある男性を無表情でじっと見据えていたが、 「そうですか」 と呟くと、意外とあっさりと引き下がった。 「それにもうこんな時間――いや、それはすまないことをいたしましたね。ここから出ずにいると、外の世界が気に掛かる時があるのですよ。この館、そしてこの領土よりも外の世界に思い焦がれる――旅に、ね。そうは思いませんか、皆さん」 じっと、その視線が皆に向けられ、彼らはこっそりと目を逸らしてうつむく。 「旅が出来るとは、羨ましいですよ。しかし私はここから出られない・・・そして旅をなさる方々の話を聞くのが、せめてもの慰みでしてね。申し訳無い」 伯爵が動くよりも早く、ローゼンがつつと立ち上がって伯爵に上着をかけた。 「それでは、皆様の旅に祈りを・・・指し示す導(しるべ)があるように」 ほっと安堵の溜息をつきながら、ガタンガタンと人々が次々と席を立った。希沙も隣に座っていたアイビスに手を引かれ立ち上がったのだが、 「――伯爵様がお待ちです」 「え・・・?」 もう片方の手を、ローゼンの細い腕で握られて立ち止まってしまった。 「聞いてないわよ、そんな話。行きましょ、キサ」 「いえ、そういうわけには・・・」 ギュッと両方の手に力が込められ、希沙はうろたえながらアイビスとローゼンの顔を見比べた。上座の席では、伯爵がニコニコと笑っているのが見える。 「おいおい、お嬢ちゃん、いつまでこんなとこに――」 賈が部屋の扉の外から、中に入ろうとして鎧に阻まれた。 「なッ!? 何だこいつら!?」 ただの装飾品かと思っていた古の騎士の鎧が、剣や槍を手に開かれた扉の前に陣取っていた。中に入るのであれば容赦しない、とその鎧の空洞の闇が暗に言っている。 「老賈!」 駆け寄ろうとしたストルクもまた、いつの間にか周囲を取り囲んでいる生命の無い鎧に気が付いた。 「・・・どういうおつもりか」 「いや、なに」 伯爵は笑ったまま、テーブルの端に手を突いて優雅に立っていた。 「出口までそれらに警護させようと思っているのですよ。何分、昨今ではこの辺りも安全とは言い難くなって参りまして、ね。お客人を無事に帰せぬとあらば、我が先祖代々の『伯爵』の名折れ・・・」 「・・・誰が、貴方に・・・!」 一歩、希沙とアイビスの元へ近寄ろうと踏み出したストルクの首元に、槍が交差した。 「・・・口を慎みたまえよ、ストルク」 本性を垣間見せながら、伯爵が唇を引き攣らせた。 「この領地では私が支配者だと、先程君が言ったばかりだろう? 私が用があるのは、そこの君――」 視線を向けられて、アイビスと希沙、二人の少女は身を硬くした。その隙に、ローゼンが希沙の手を引っ張って強引にアイビスから引き剥がした。 「え? え?」 「キサッ!」 「アイビス・ブロンズヤード嬢、一緒に連れて行ってやれなくてすまないね。しかし残念ながら、今の君では私の興味を引くものは何一つ無い――青銅の庭を捨てた君には」 希沙を追おうとして、アイビスは自分の足が動かないことに気が付いた。恐怖が、理性を抑えて彼女の動きを止めていた。 ――ダメよ、動きなさい! 動いて! 必死になって前に出ようとして、アイビスはバランスを崩し、椅子の背もたれにどうにか掴まって身を支えた。伯爵に見られていると思うだけで、ワナワナと小刻みに体が震えて止まらない。 「さて。ご理解いただけたところで、部外者はご退出願おうか」 最後に、場の雰囲気を読まない無礼者――ジャンルーカに、伯爵の注意が向けられた。彼女は無表情のまま、希沙と、彼女の足元にしっかりとくっついて行っている猫のテューンを眺めている。 「・・・君のことだよ、お嬢さん」 伯爵はツカツカとジャンルーカに歩み寄ると、顎の下に手を添えて乱暴に自分の方を向かせた。それでも、彼女は無表情のままだ。 「ふん・・・やはり偽者、命無き人形か」 伯爵が軽く手を振り払うと、彼女は文字通り、椅子から転げ落ちて地面に倒れた。そこを待ち構えていた鎧が二体、身動き出来ない彼女の両脇を引っ掴んで半ば擦るようにして立ち上がらせる。 腕が折れてしまうのではないかと思えるほど無茶な力で、彼らは人形を扱うかのようにズルズルとジャンルーカを扉まで引っ張って行く。途中、何度か足がもつれて転び、その度にこすれて血が滲んだ彼女を、鎧が乱暴に掴み直す。 「ちょ、ちょっと! 女の子に何てことするのよ!!」 「やめろ! 彼女に手を出すな!!」 ガチャン、とストルクが立ち塞がる鎧にぶつかって音を立てる。ようやく扉まで辿り着いたジャンルーカを、鎧は無造作に放り投げる。賈が「大丈夫か、しっかりしろ!」と駆け寄って服をはたいてやっている。 希沙はぼんやりと、それらを見るとはなしに眺めていた。 何故だろうか、ぼんやりと遠い。 感じるのはただ、ローゼンの手の少し冷たい感触と、伯爵の吸い込まれそうな赤い瞳だけ。 「お、おい! お嬢ちゃん!!」 「キサッ! 戻って! 手を振り払ってこっちに来るのよ!!」 「しっかりするんだ、希沙! 飲み込まれてはいけない!!」 「・・・耳を貸さないで」 別に皆が言うほど、伯爵という人は悪い人ではないのでは――そんな思いだけが、彼女の心に居座っていた。 ――そうだよ、どうしてアイビスはあんなことを言っているのだろう。ローゼン君も、あんなに慕っているのに。 今にも部屋の外に追い出されそうになっている友人の心配をよそに、ゆるゆると、希沙は伯爵の元へと来てしまっていた。 「さあ、行こうか、希沙。では、ローゼン」 「・・・ついて来て下さい」 「・・・・・・うん」 行っちゃダメだ、誰かが最後にそう叫んだ気がした。 バタンと音を立てて閉まった扉の向こうで、誰かが呼んでいるような気がした。 しかし、そんなものは気のせいに過ぎないのだと、希沙は素直にローゼンの手に従って歩き始めた。 その足元では、テューンが厳しい顔つきをしながら、希沙の後をついて来ていた。 案内されたのは、どうやら衣装室だった。 「その格好で、いつまでもいるわけにはいかないだろう?」 「え・・・あ、はい・・・」 ぼんやりと、そう希沙は答えた。 伯爵がローゼンに、「彼女に会う服を見繕うように」とか「彼女には黒が似合うだろう」とか言っているのが、何となく聞き取れた。 それから伯爵は何やら言葉を残して、部屋から出て行ってしまった。 暫くぼうっとしていたが、希沙は少し頭のもやが取り払われたような気がして辺りを見渡した。 自分の部屋よりも明らかに広い場所に、黒光りする木製のつやのある巨大なクローゼットが林立している。ただその部屋はあまりにも――薄暗く、不気味だった。 「・・・ネコ・・・?」 ぼそりと、ローゼンがそう呟くのが聞こえた。針を落としても聞こえるような静けさだ、いくら声を落としたとしても呟きは聞こえてしまう。 「ネコが、どうかしたの・・・?」 ローゼンは答えない。 「いつの間に、ここへ・・・? まさか、ずっとついて来てた・・・?」 ローゼンの捕まえようとする手をスルリとすり抜けて、テューンは近くにあった椅子の上に飛び乗った。その脚で無遠慮に、希沙のために出されていた黒い衣装を踏みつけて勝ち誇ったように立っている。 「ちょ、テューン、ダメだよ、しわになっちゃうよ」 希沙は慌ててテューンを抱き上げると、めっと睨んでみせた。高価そうなドレスが、哀れにもしわしわになっていた。 「別に・・・代わりなどいくらでもありますよ」 ローゼンは希沙に向かって、しかし全く別な方向を向いたまま、そう呟いた。 「黒い服がいいかと思いますが、ご自由に選んでくださって結構です」 投げ捨てるようにして、クローゼットから黒い衣装を三枚ほど椅子にかける。 「私の見込みは期待せずに、ごゆっくりとどうぞ」 「あ、ま、待って!」 そのまま出て行こうとするローゼンを、希沙は呼び止めた。こんな所に一人にされるのが怖かったのだ。 だが、ぐるりと振り返ったローゼンの表情を見て、希沙は危うく叫び出すところだった。 痛々しい赤が目に付いた。 泣きはらしたような血走った瞳、強く締め付けて腫れている二の腕、爪の間から滲む血。 そしてあまりにも強く噛み過ぎたためだろう、ローゼンの唇は切れ、ぷっくりと小さな血の玉が盛り上がっていた。 「あの・・・ローゼン君・・・」 「気安く呼ばないでいただきたい・・・!」 心配そうな希沙の一言を、そのローゼン本人が憤怒を伴って断ち切った。 その血走った眼はカッと見開かれ、怨敵を睨み付けるような輝きで希沙に突き刺さった。つい先程まで、それこそこの館に踏み入れるまで、そんな表情は微塵も見せなかったというのに。 希沙には、ローゼンの豹変振りが全く理解出来なかった。思い当たる節すらないのだ。 しかしローゼンはというと、依然どす黒い炎を渦巻かせながら、ふつふつとその憎しみをたぎらせていた。その幼く壊れそうなほど脆い彼の顔に、その熱が異様な美しさと不気味さを与えている。 希沙は思わず胸にギュッとテューンを抱きしめ、猫越しに彼の足元の辺りに視線を落とした。 気まずい沈黙がどれほど続いたのだろうか。ふと、ローゼンが口を開いた。 「では・・・ここでお待ちください、希沙・Heartly。伯爵様を・・・呼んで参ります」 感情の全くこもらない声で彼はそう言い残すと、ゆらゆらと希沙の視界から消えた。ガチャリ、という扉の閉まった音が、やけにはっきりと彼女の耳を貫いた。 誰もいなくなった。 生きている躍動感や生活臭といった、ある種の安らぎを与えてくれるものは何もそこには無かった。あるのはただ、赤や黒や紫といった派手な色使いとレースやフリルの目立つ、可愛らしくも人形に着せるような、現実味の全く無い様々な衣装を収めた巨大なクローゼットばかりだ。 こんなにも多くのドレスのような衣服を、ローゼン一人が着ているのだろうか。それともまだ他にも、彼のような人がいるのだろうか。もしそうだとしても、男の子なのにこんな短くてひらひらしたスカートをはいたりしているのだろうか。そんなフランス人形のような格好をさせられて、ローゼンは何とも思っていないのだろうか。 様々な疑問が希沙の思考の表層を掠めていった。しかしそのどれもが、彼女の心に引っかからない。大切なことなのかもしれないのにという思いは、そこにはもう無かった。 そういえば、と希沙は別のことに気が向いた。君には黒が似合うだろうと伯爵に言われたが、それを試してみたいとは思えない。 ただ希沙は、パジャマの袖を握り締めながら、ひたすら何かを待ち続けた。 すると――それは一瞬だったのだろうか、あるいはもっと長い時間経った後のことだったのだろうか。 リー・・・ン 自分の呼吸と、テューンの鼓動以外に音が無かった世界に、澄み渡った鈴の音がかすかに、しかしはっきりと響き渡った。 それはまるで警鐘だった。 希沙は突然、何かから解放されたような感じを味わった。と同時に、今すべきこと、絶対にしなければならないことが思い出される。 ――逃げなきゃ! だがその戒めから抜け出した途端、今までそれとなく彼女の周りを漂っていた『恐怖』が一斉に希沙を取り囲んだ。 今まで迂闊に手を出せない状況にあったからだろう。その反動で、正気に戻った希沙に『恐怖』はあっという間に集った。幾重にも包囲し、押し寄せ、潰してあげようとばかりに、じわりじわりと近付いて来る。 叫ぼうと口を開いて、危うく息が出来なくなっている自分に愕然とした。ガタガタと震えるほどに寒いのに、じっとりと汗が噴き出し始めていた。 無理を言ってでも、みんなについていくんだった――一人で。たった独りで、こんな所に取り残されて、これからどうなってしまうのだろう。 怖い。 誰か、助けて。 ――そんな希沙の心を感じ取ったかのように、テューンがぺろりと舌で彼女の頬を舐めた。少し牛乳のにおいもするし、何よりもザラザラした感触で飛び上がるほど驚いてしまったが、それがテューンの仕業だと気付いて表情が緩んだ。 「そっか・・・テューンもいるんだよね・・・」 微妙に左右で目玉の向きが違うその瞳を、テューンはしっかりと希沙の顔に向けていた。それから、にゃぁ、と鳴いてバシバシと彼女の背を叩いた。 「うん、わかった、わかったから・・・そうだね、ともかく・・・列車に戻らないと」 テューンの喝を受け、希沙は瞬きをして涙を振り落とした。ぐすっと鼻が鳴るが、それをもろとも拳で拭い去る。 本当は彼に喋ってもらいたかったが、そこは大人らしくグッと我慢する。もしかしたら、彼は本当にただのちょっと変わった猫なのかもしれないという嫌な不安をかき消すためにも、さらに彼を抱く腕に力を込める。 張り付いたようになっていた右足を床から引き剥がし、ずっと前に出る。その次は左足。ずりっ、ずりっと出口の扉に近付く。 と、暫く進むと、扉にあと少しという安堵感からか足をもつれてしまい、扉にぶつかってバァンという派手な音がした。ローゼンが戻ってくるのではと身を硬くしたが、その様子は無かった。 そろそろと顔を出し、廊下の様子を伺う。頭がぐるぐると回り続け、周囲がだんだんと薄暗くなって来ていた。 いま少しだけでも冷静を装わなければいけないと、希沙の内に潜む防衛本能とでも言うべきものが、彼女に語りかけて落ち着きを取り戻させようとする。 震える息で、大きく息を吸い、強引に吐き出す。それを数回繰り返し、へたり込んでいた足に力を込め、ぐいっと立ち上がる。 ――廊下は真っ直ぐだった。だから、外に出られる! 希沙は、「よしっ」っと頷いて気合を入れると、壁に手をつきながら元来た道を辿り始めた。そうしないと数十歩先が見えないほどに、希沙の視界は閉ざされようとしていた。 ――しっかりするんだ、自分! 希沙はバクバク飛び跳ねる心臓をテューンに押し付けながら、そのぬくもりで心を静めようと努力した。怖い怖いと思っているから、余計に暗く、前が見えにくくなっているのだと。 いや、だがそれは違った。 いくつ目かの閉ざされた扉に触れた時、希沙は自覚した。 ――霧!? そう、霧だった。いつの間にか、この館に黒っぽい暗い何かが広がっていた。 「急ぐんだ、希沙。このままでは危ない」 誰かにそう肩を叩かれたような気がして、希沙はぱっと左肩を見た。だがそこにいるのは、視線に気が付いて彼女の顔を不思議そうに見返しているテューンだけだ。 誰もいない。だが不思議と、怖くは無かった。どこかでこんな感触を味わったような気がしたのだ。 しかし、思い出に浸るわけにはいかなかった。テューンの一声で希沙はすぐに前に向き直ると、「うん、ごめん」と彼に声をかけ、再び歩き始めた。 ――この霧に覆いつくされる前に、出なきゃ! 希沙はその奇妙な確信にも似た思いを胸に、わななく右手を杖代わりに、少しずつ着実に歩を速めた。 その肩の上で、テューンが身じろぎ一つせずに、次第に濃くなってまとわり付くこの不気味な霧を、その眼光で追い払うかのようにじっと睨み続けている。 21 穂永秋琴 闇の奥から、銀色の光が二つ。がしゃがしゃと、耳障りな音を立てて。 ――来たっ! 次第にはっきり見えてくる。人でないモノがまとっている、銀色の甲冑が。その手に携えられた、朱房の槍が。 「止まっちゃダメだ!」 希沙は耳元の声に勇気を得て、まっしぐらに駆けた。テューンは一声うなって、希沙の肩から跳躍し、地面に降り立つ。二度目の跳躍で、一体の鎧の、右足の継ぎ目あたりに、思い切り体当たりする。継ぎ目が外れて鎧は転倒し、取り落とした槍を踏みつけて、もう一方の鎧も大きな音を立てて倒れこんだ。希沙は二体の鎧を跳び越える。 全力で駆ける希沙のうしろから、がしゃがしゃという音が迫ってくる。 そのせいだろうか。前から”何か”がやって来る音に、気がつかなかった。 ”それ”は、不意に姿をあらわした。 身体はライオンのようだが、毛並みは赤い。サソリの尾が九本生えている。そして何より恐ろしいのは、その顔――人間の女だった。その表情は笑うが如く泣くが如く、滑稽である以上に恐ろしげである。 獣が悲鳴を上げた。女の、耳を劈く甲高さで。そして叫び終わるや、希沙に向かって飛び掛った。 テューンも同じく空中を舞い、この獣を迎え撃とうとしたが、あっさりと前肢ではたき落とされた。希沙は足がすくんで、逃げることもできなかった。 希沙は後ろから、突き倒された。 ――後ろから? 突き倒したのはあの銀の甲冑だった。獣の爪が鎧を引き裂いた。中の空虚から血が流れていた。 後ろから、もう一人やってきて、喝した。 「去れ」 獣は、その人物と睨み合い、それから笑うが如く泣くが如き声を上げて、闇の奥へ去っていった。その人物は鎧の下から希沙を引き出すと、手を取った。 「こっちだ」 伯爵だった。希沙は逆らうことなど思いつきもせず、手を引かれてついてゆく。テューンがあとに従った。 一室に連れ込まれた。広いようで狭く、狭いようで広い。伯爵が部屋の明かりをつけた。希沙はその部屋が図書室であると知った。 「怪我はないか」 伯爵は尋ねた。希沙は首を振る。 「その血は」 伯爵の問いかけに希沙が自分の腰のあたりを見ると、べっとりと血がついている。思わずどきりとしたが、触ってみれば別に傷はない。 「あの、鎧の、人、の……」 「そうか、無事で結構。そちらの猫はどうかね」 テューンがふいとそっぽを向く。伯爵はまじまじと眺める。 「どうやら左前肢が折れているようだな。……ふむ、先ほどの躾をすべきという言葉は、失言であったか。忠誠は確かなようだ……いや、友情と言うべきかな。希沙君はおまえの主人ではなかろう」 テューンは何も答えない。希沙が「なぜ気づいたんですか?」と聞くと、伯爵は「私の眼はごまかせんよ」と答えた。 それから伯爵は、面を改めて、言った。 「夜、一人で部屋を出てはならぬ。この館には我が父祖への呪いと、私への呪いが満ち溢れていて、魑魅魍魎が至る所に徘徊しているからだ。君も見た通りな。私の衛士がいなければ、君の命はなかった」 これを聞いて、希沙はようやく恐れがこみ上げてきた。先ほどは逃げるのに手一杯で、怖いなどと感じる間はなかったのだ。だがふと伯爵を見ると、その顔は自分のそれより――というのは、自分で自分が青ざめていることがわかったからだが――よほど青い。 「あの、大丈夫、ですか……?」 「私かね。うむ、身体は別に大事ない。だが、どうも血を見るのは苦手でな。……ちと、気付けの酒でも飲むとしよう」 「え~と、取ってきましょうか?」 「私が今言ったことを忘れたのかね」 問い返されて、希沙は赤くなった。一人でここを出てどうしようというのだ。 伯爵は部屋の電話でローゼンを呼び、ぶどう酒を持って書庫へ来るように言いつけた。希沙が心配げな顔を見せると、「彼は慣れているから大丈夫だ」と伯爵は言った。 それから、沈黙。 ややあって扉が開き、ローゼンが入ってきた。手に持った盆にはぶどう酒と、ミルク。 「ご苦労」 ローゼンは酒をグラスに注いで、伯爵に渡した。それからコップにミルクを注ぐと、 「あなたの分だ」 と言って希沙に渡した。 「ありが……」 希沙が礼を言い終わらないうちに、ローゼンは憤然として言った。 「誰があなたに出歩く許可を与えましたか」 詰問されて、希沙がとまどっていると、伯爵が助け舟を出した。 「急に水が飲みたくなったのだそうだ。そうだね?」 希沙は慌ててうなずいた。ローゼンの表情は釈然としない。それを見て、伯爵は聞いた。 「まだミルクは残っているかね」 「え? ええ……はい」 「では、彼にも飲ませてやりなさい」 伯爵はテューンを示した。ローゼンはやはり納得しかねる表情のまま、一番安手の食器にミルクを注ぐと、テューンの前に置いた。ローゼンと同じくらい無愛想な表情を浮かべていたテューンだったが、この誘惑には耐えられなかった。 ややあって、それぞれが飲み物を飲み終えると、伯爵は立ち上がって、言った。 「さて、ローゼン。希沙君を部屋まで送っていって、一晩つきそってあげなさい。今日、色々と見たもののことで、心が怯えているようだから。食器のことは気にしなくても、後で別の者を呼んで片付けさせる。私かね? ここに来たら、ふとある本を読みたくなった。今晩はそれを読むことにする。さあ、行きたまえ」 ローゼンが渋っていると、 「行きたまえ。今夜は一人で、読書をしたい気分なのだ」 と伯爵は言った。そこでローゼンは、希沙の手を引いて、書庫を出た。 テューンが足を引き摺って、その後を追った。 ローゼンはずんずんと歩いていった。希沙はほとんど駆け足のような格好で、手をひかれてついていった。おかしなものの気配はまだあちこちに忍んでいたが、敢えて向かってくる様子は無かった。二人と一匹は、何事も無いままに部屋についた。希沙が入ると、ローゼンは扉をゆっくりと閉めた。テューンが滑り込んだ。希沙は思わず、長い長いため息をついた。 「着替えてください」とローゼンが言った。「その血まみれの服で、伯爵様の家具を汚してはいけませんから」 こう言われては、希沙も反論できない。気は進まなかったが、クローゼットから適当に一着、飾り気のなさそうなものを取り出す。黒ではなく、白を基調にしたものを選んだのは、別に反抗したいわけではなく、ただ自分の好みに従ったまでのことだ。 「あの」 「何か?」 ローゼンは扉のほうを向いていた。希沙は「あっちを向いていて」と言おうとしたのだが、ローゼンははなから着替えを覗こうなどとは考えていないらしい。言葉を継ぐことができずに、希沙は黙り込んだ。 「――ごめんなさい」 ややあって、希沙は言った。 「何を謝ってるんですか?」 ローゼンには希沙の言葉が理解できない。 「その……さっき、怒らせちゃったから」 ローゼンは黙った。希沙も言葉を続けない。 「別に、今はもう怒ってませんよ」 何の感情もこめずに、ぽつりとローゼンは言った。 「やっぱり、怒ってたんだ」希沙の言葉に、ローゼンは返事をしない。「あの、もう着替え終わったから」 ローゼンは静かに振り向いた。柔和な笑顔を浮かべていたので、希沙はほっとした。ローゼンはつかつかと歩いてきて、希沙の隣に腰掛けた。 「こちらこそ」とローゼン。「先ほどは取り乱して、みっともないところを見せてしまいました」 あの、と希沙が言いかける。ローゼンは首を振る。 「もうこの話はやめましょう」とローゼンは言った。それからまた、二人は黙り込む。重い雰囲気の中で会話を盛り上げる能力は、双方とも持ち合わせていない。 「旅は楽しいですか?」なんとなく、ローゼンはそう聞いてみた。 「楽しい……かな、多分」希沙はそう答えた。 「はっきりしない言葉ですね」 「よく分からないの」 会話が続かない。 「あの」今度は希沙が聞く。「……私のこと、嫌い?」 「よく分からない」とローゼンは、少し仰向いて、言った。そのまま長嘆息して、ばたりとベッドに倒れた。 希沙も、そのすぐ隣で、横になった。 「ローゼン君、元気?」 「……疲労がたまってます。精神的にも肉体的にも」 「私も。なんか疲れちゃった」 ローゼンはがばりと起き上がった。 「もう休んだらどうですか」 「そうする」 希沙も一度起き上がり、布団をめくって、中に入った。ローゼンはまだベッドの端に腰掛けていた。まさに立ち上がろうとしたとき、希沙が急に言った。 「ローゼン君、一緒に寝てくれる?」 「は?」 少女の口からかくもストレートな誘惑の言葉が発せられるとは夢にも思わず、ローゼンは頓狂な声を上げた。 「あの、さっき、旅は楽しいかって聞いたじゃない」 「ええ、でもそれと、私があなたと同衾することと、どういう関係が」 どうきん、という言葉の意味は分からなかったが、希沙はかまわずに答えた。 「よく分からないって言ったけど、今になって分かった。みんなといたときは楽しくて、一人になったら寂しくて、心細かったの。ローゼン君……一人にしないで」 まじまじと見つめられて、ローゼンは狼狽した。性的な意味で寝てくれと言っているわけではないのは分かったが、どう答えたものか検討もつかない。断るにも断りきれそうにない。 「――無知は無垢、ですか」 「え、どういう……」 「いや、分かりました」ローゼンは動悸を抑えて、ベッドに入った。「失礼しますよ」 「うん、……お休み、ローゼン君」 希沙の眼は早くもとろりとしていた。 「お休みなさい、希沙さん」 逆にローゼンのほうは眠るどころではなかった。 希沙の寝息と髪の毛が、ふわりと顔にかかる。希沙が息をするたびに、小さな胸が自分の胸に触れる。おまけに、どんな花の香水とも違う、不思議に強くて心地よい香りが漂ってくる。 ローゼンは頭がくらくらした。 ――私は何を考えてるんだ。 それでも結局、やがて疲れて寝入ってしまった。 この一幕を残らず見ていた人物がいた。 伯爵である。目の前のスクリーンは、安らかな表情で眠る希沙とローゼンを映し出していた。伯爵は鉛筆を持ち、手元のノートに二人の様子をスケッチしていた。 伯爵は手は休めずに、部屋に紛れ込んだ不粋者に声をかけた。 「さて――私の眼をごまかすことはできぬよ。出たまえ、賈玉鳴」 呼ばれて本棚の影からぬっと顔を出したのは、あの賈だった。 「よく分かったな」 「おまえこそ、よく入ってこれたものだな」 「これでも、若い頃は泥の道で食ってたからな。まだまだ腕は衰えちゃいねえ」 「まったく見事よ。――座りたまえ。珊珊は連れてきていないのかね。結構、なら遠慮なく話もできるというもの。……珊珊の具合はどうかね」 「身体のほうか、魂のほうか。ま、どっちも生きてるときと変わんねえな。二つがくっついてねえだけで」 「大変よろしい。そしておまえも、彼女が生きていたときと――いや、今でも生きているのかね――同様に、彼女と交わっているわけか。なかなか美しい」 「屍姦趣味を美しいと言うのか、あんたは」 自嘲をこめた賈に、伯爵は心底からの声で答えた。 「私はそう思うね。まあ、魂のほう、人間の魂を鳥の身体に入れるなどということは、悪趣味の極みと思うがね」 「わざわざ留めた客の少女を、お気に入りの寵童と同衾させて、それを写生するような変態に、悪趣味なんて言われたかねえな」 伯爵は手を止めなかったが、言葉を止めた。賈も口を閉ざした。ややあって、伯爵は、これまでとはがらりと調子を変えた声――まるで力のこもらぬ声――で、尋ねた。 「魂の移植は、あの女に頼んだのだろうな」 「ああ」 「――あの女は、壮健だったかね?」 「口だけは全盛期のままさ。歯もまだ全部残ってる。ただ脚はもうほとんど動かないし、老眼も進んでる。耳も遠くなってるな」 「彼女も老いたか」 苦い思いをこめて、伯爵はつぶやいた。 「ところで、戻ってきた理由は何かな?」 伯爵が問い掛ける。賈は笑った。その笑いは、もはや今までの、人の好い中年親父のそれではなかった。 「ダチを連れ去られて、緑林の好漢が黙ってると思うなよ」 伯爵も笑った。ドスのきいた賈の笑いに比べ、あくまでも上品に。そしてそれ以上に凄然と。 「では、どうやって彼女を連れ戻す?」 22(バーネット) 「さて、どうしようかねぇ。ここで、いや、この『伯爵の領土』の中であんたの相手をすることは神様と喧嘩するのと同じようなものだからな」 そう言うものの、賈の眼は毅然として真っ直ぐに伯爵を見据えている。が、それとは対照的に伯爵は嘲るような表情をしてみせた。 「神? この私を神と呼ぶのかね、おまえは。……どうやら私のことを正しく理解出来ていぬようだな。この私がわざわざ説明したというのに」 「理解してるさ。あんたはこの世界――『伯爵の領土』そのものだっていうんだろう。要は同じだろうが」 「違うのだよ。まったく違う。むしろ逆といってもいい。――私が世界なのではない。世界が私なのだよ」 伯爵はそこでようやく手に持っていた鉛筆とノートを置き、体ごと賈のほうへと向き直った。嘲りの表情はそのままに。 「話をしよう、賈玉鳴。この私についてだ。静聴したまえ」 そう言って伯爵は一人、講義をするように――あるいは芝居を始めるかのように語り始めた。 「おまえの言うとおり私は世界だ。だが厳密には世界の一部と言ったほうが正しい。分かるかね。この世界、『伯爵の領土』こそが私の本体なのだ。いや、本体という言い方はおかしいか。私とこの世界は別のものでもあるのだからな。……私はね、人でも物でも無い、世界の偏在点なのだ。偶然か必然かは知らないが、この異常なる世界に満ちる要素が――世界という巨大にして希薄なる意思の一部が一点に集約されて生まれた存在。それが私だ」 少し薄暗い部屋の中に伯爵の声が響く。饒舌な伯爵とは反対に、賈は憮然とした表情で押し黙っていた。こうなった伯爵を止めることは出来ないと知っているからだ。伯爵の一人語りは続く。 「もし私が人間だったなら恐らく自分の存在について悩んだだろう。世界という要素で形作られている私は、本当に世界とは別の存在なのかと。今ここに存在する私という意識は果たして本当に私のものだろうかと。だが、私はそのようなことには悩まなかった。私が『伯爵』だったからだ。そう、私は最初から――生まれたときから『伯爵』だった。美しいものを愛し、快楽を何よりも好む。理由など無しにそれを行う、そういう存在だったのだ」 「………………」 「先ほど世界と私とは別の存在だと言ったがね、それでも完全に別の存在というわけではないのだ。私とこの世界の間には絆のようなつながりがある。それを利用することで私は力を得ているわけだが、このつながりが奇妙な感覚を引き起こす。この世界が、私と同一の存在であると感じるのだ。いいかね、賈玉鳴。世界とつながるということは世界の中に存在するあらゆるものとつながるということだ。この城も、この衣服も、そしてここを満たす空気さえもが私と同質だと分かるのだよ。これがどういうことか分かるかね?」 伯爵の語りは次第に熱を帯びていく。伯爵自身の顔も上気し、陶酔とも恍惚ともとれる表情を浮かべている。冷たい夜の空気すらも伯爵の熱気に蝕まれ、部屋には異様な空気が満ちる。 「例えばだ。おまえは今呼吸をしている。呼吸をせねば生きていられないのだから間違いないだろう? 呼吸をするということは空気を自らの体の中に取り入れるということだ。ここにある空気を、だ。そう、今おまえの体の中を満たしているのはこの私と同質の存在、いや、あえて言わせて貰おう、――この私自身なのだよ。中だけではない。その肌にまとわり付いている空気とて同じだ。外も、中も、おまえの体はこの私で満たされているのだよ。おまえだけではない。『伯爵の領土』にいる外から来た存在すべてに言えることだ。これほど素晴らしいことはなかなか無いぞ。私の可愛い子供たちとの深夜の宴にも匹敵する。だから私は多くの者をここに招待し、食事を振舞う。有らん限りの贅沢をもってだ。そして心の中でこう叫ぶのだよ。『さあ! その胃を! その肺を! その体すべてをこの私で満たしたまえ!!』、と!」 「……ド変態め」 「結構。よく理解してもらえたようで何よりだ」 聞こえてきた――というか本人はわざと聞こえるように言ったのだが――賈の呟きを気にもせず、それどころかその身に賞賛を受けたかのように満足げな表情で伯爵は話を終えた。そして、元の小馬鹿にするような口調に戻り賈に問いかけた。 「さて、私の話は以上だが、おまえはどうするのだ? 私は神ではないがそれに匹敵する力は持っている。その私からどうやって取り返す?」 だが、その見下したような問いに、賈は平然としたまま答えた。 「なに、勝算はあるさ。……あんたは俺を殺さないからな」 「ほう……? どうしてそう思う?」 口調を幾分か真面目なものに変えて再び伯爵が問い返す。それに対し、賈はなんでもないことを語るような口ぶりで答えを返す。 「簡単だ。俺を殺すより生かしておいたほうがあんたは楽しめる」 「なるほど。思っていたよりもこの私のことを理解しているようだ」 ふむ、と小さく呟き、伯爵は賈を見据えた。賈も負けじと伯爵を見据え返す。先ほどまでの異様な空気が嘘のように部屋の中が静まる。 静寂を破ったのは伯爵のほうだった。 「いいだろう。……ゲームをしようではないか」 「ゲーム……だと?」 「そうゲームだ。おまえはあの娘を取り戻そうとし、私はそれを阻止する。ルールは、そうだな……まず、私はおまえも彼女も殺さない。それと今この城に存在するものだけで戦おう。それ以外では私は力を使わない。その代わりおまえは外の仲間に助けを求めてはいけない。それ以外は自由だ。期限は八時間。ちょうど朝日が昇る頃だ。それまでに彼女をこの城から連れ出せればおまえの勝ちだ」 「待て。そんなことをしてあんたに何の徳が――」 「私が楽しめる。十分な理由だろう? それにおまえに拒否権は無い。その気になればおまえをこの城の外まで排除することぐらいは出来るのだからな」 「……そのルールが守られるって言う保障は?」 「無い。だが破らんよ。世の中には自分に圧倒的に有利な条件の中で相手をいたぶるのが好きな輩がいるようだが、私には全く理解できん。勝負というのはルールという対等な条件の下で、お互いの手を読み合う心理戦に熱中し、相手の起こす一挙一投足に無駄なほどに緊張し、何の前触れも無く起こるすべてを台無しにする偶然に大いに慌てながらやるものだ。自らが優位に立てば興奮しながら次の一手を打ち、不利になっても巻き返すべく奮起し逆転のための策を練る。それこそが勝負だ。そうでなくては面白くない。ただ圧倒的な勝利を得るだけの勝負などむしろナンセンスだ。もっとも、勝利の美酒の味が素晴らしいものであるのは否定できないがね」 そう告げる伯爵の顔は楽しげだった。何かをはき捨てるような顔をした賈とは対照的に本当に楽しそうだった。その心がこれから始まる楽しみの訪れに歓喜しているのは間違いないだろう。そして、一人の少女の命運を握るゲームの幕開けにしては異常なほど嬉しそうな表情で伯爵は告げた。 「さあ、存分に楽しもうではないか」 23 皆既日食 「へいへい。そーさせてもらいますわ」 賈はにやりと笑うと、右手に抱えていたバッグを放り投げた。 「あばよ」 即座に部屋から退避しながら、カチッと無線式のボタンを押す。 爆音と共に、部屋が丸ごと吹き飛んだ。 「さて、とりあえずこれでモニターは潰せたな」 つぶやきながらも全力で走る足は緩めない。 「そいじゃあ頼むぜ、テューン」 併走する猫に笑いかける。まずは希沙を助け出さなければならない。 明かりのひとつもない暗い廊下を、一人と一匹は駆け抜ける。 夢を見ていた。 悲しい夢だ。 彼はとても貧しい家に生まれた。 希望なんてなかった。 誕生の祝福に与えられたのは絶望のみ。 そう長く生きられないということは、誰に聞かなくてもわかっていた。 やがて彼の周りの人間が死んでいった。 疫病だった。 彼は迫害された。 「おまえが病気をうつしたんだ」「おまえは疫病神だ」「死神め!」 彼は住処を離れた。 どこまでも逃げた――否、逃げようとした。 お金もない、体力もない。頼るべき人もいない。 そんな彼が遠くへ行けるはずもなかった。 彼は倒れた。 死を目前にして、恐怖しなかったといえば嘘になる。 でもそれ以上に彼は安堵した。 もうおびえなくていいのだから。 ゆっくりと体から力が抜けていく。 その彼に、手を差し伸べてきた人がいた。 貴方は誰? あなたはだれ? アナタハダレ―――? ローゼンは目を覚ました。 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。 となりに眠る希沙はぐっすりと眠っている。 「やれやれ」 調子が狂う。まったくこの子は。 さて、自分ももうひと眠りしよう。 今度はいい夢が見られますように。 「ここか」 テューンの案内によって、ようやく希沙がいる部屋にたどり着いた。 ドアに手をかける。が、その寸前で思いとどまる。何しろ相手はあの伯爵だ。こういうところにこそ罠を仕掛けたがる。 入念にチェックしてから、ようやく賈はドアを開いた。 ◆藤枝りあん(24) そしてそこにいたのは―― 「おや、戻られるとは・・・何かご質問でも?」 あの男、伯爵その人だった。 「いや、それともわざわざお詫びに来てくれたのかな? 君らしくもないが・・・何とも義理堅いことだ」 驚愕の表情を顔に出すまいとしている賈に、伯爵はおかしそうに笑いかける。 だんまりを決め込む賈を意に介さず、彼はつらつらと喋り続けた。 「なぁに、心配は要らないよ。あのモニターは外界の技術を真似たものでね――確かに惜しくないかと言われれば、手に入りにくい珍しいものだから少し残念ではあるが――代わりはいくらでもある。また創り出すだけのことでもあるしね・・・手間はかかるよ、もちろん。だが、気に病んでもらうようなことではないから、安心してゲームを続けたまえ」 コツコツコツ、とわざとらしく伯爵はゆっくりと賈の横をすり抜け、扉の外に出てから振り返った。 「そうそう、もう一つ・・・この館は迷いやすい。注意したまえよ」 大きなお世話だ――賈がそう伯爵の背中に吐き捨てると同時に、彼は扉を閉めて向こう側へ行ってしまった。その扉に手をかけ、少し開いてから、賈はもう一度舌打ちをした。 「なるほどな・・・この館もアイツだって事らしいな」 そこには闇夜に広がる星空があった。 先程まであった廊下ではなく、バルコニーへと、扉一枚を介して空間そのものが捻れて繋がっている。 「こりゃ・・・相当手間がかかるゲームだな・・・」 にゃあ、とテューンがそれに同意も否定もしない返事をし、もう一つの扉を開けるように催促する。 「わぁってるって。男・賈玉鳴、これしきの事でへこたれるほど、ヤワな人生は送っちゃいないぜ」 勢いを振り回し、彼は扉に手をかける。 勝算は無い。だが、やるしかない。果たして次の場所は、吉と出るか凶と出るか―― その頃、列車内では、一騒動が持ち上がりつつあった。 「――だからサ、エ? 何度も言うようだケド、こっちも客なンだよ。それがなンだい? ここで帰って来るかもわからりゃしない他の乗客をボサッと待つだって? ふざけンじゃないよ」 「いえ、お客様、当方は決してそういうわけでは――」 「言い訳はもう沢山さね。アタシゃね、急いでンだ。エ? いいかい、急いでンだよ。そのためにワザワザこっちに乗ったってェのに――」 「そこをお願い出来ませんか、ご婦人」 車掌を挟むようにして、ストルクがその女性に静かに語りかけた。だが彼女はフン、と鼻息を荒くすると、 「出来るわけないねェ、お若いの。差し詰め、車掌が渋ってンのもアンタらの入れ知恵なンだろ? エ?」 と今度はその彼に突っかかって来る。 伯爵から解放され、列車に戻ってからずっとこうだ。 彼女は――といっても実際に年齢がどれだけなのかわからないのだが――発車の素振りを見せない車掌と、乗客を待つべきだというストルクとを相手に、延々と同じ事を言い続けているのだ。 「待つ、待つだってサ。呑気なもんだねェ、帰って来やしないってのに」 「そんなこと、わからないでしょう」 「わかるのサ、アタシゃね」 ジャラジャラと、全身を覆うローブにつけた様々な装飾品から派手な音を立てながら、女性はフンとあごを上げた。 「そこいらのボンクラどもと一緒にすンじゃないよ、アタシを。ハッ? ここで鎮座して待ってたらみんな仲良くお手手繋いで帰って来るだって? バカにしてくれンじゃないか、エ? 伯爵がお気に入りを手に入れてうっとりしてるスキに、後ろからこっそりオサラバってェのが常識ってモンさ。違うのかい?」 彼女はシャラン、と頭や耳や首から垂れ下がり巻き付いている巨大な宝石やら鎖やらを振った。本人にしてみれば、ただ得意そうに髪の毛をかき上げただけだが、その一挙一動がうるさく音を立てる。 彼女の黒いローブ以外は、すべて、金銀細工や眩い輝石、そしてそれらを繋ぐ鎖や石の数珠だった。ローブの裾という裾に刺繍を施し石を括った紐飾りを垂らし、首には幾重にもネックレスをかけ、耳が千切れんばかりのイヤリングに、頭には小型のティアラにごてごてと装飾をあしらったものを載せている。 それらを長く伸びた、真っ黒に染められた爪で弄りながら、彼女が鼻で笑った。 「どうしたヨ、反論は無いのかい? エ? 所詮は口で言っても自分が可愛いんだねェ、偽善者だらけの列車に綺麗事・・・笑わせてくれるねェ、ヒッヒッヒ」 「お客様、ここでは皆様の誹謗中傷は――」 「何さ、文句あるのかい? アンタみたいな影法師が、このアタシに説教? ハッ」 赤く呪法が刻印されたその顔で、その紫に塗られた口元を歪めながら、彼女は笑った。 車掌は表情一つ変えなかったが、そのまま黙ってしまう。 「じゃあ聞いてみるがねェ、今からあそこに囚われの姫君を助けに行こうって奴が何人いるのさ? 手を上げな」 すっと、二本の手が伸びた。アイビスはまっすぐに上に伸び、ストルクは逡巡しながらも手のひらを上げている。 しかし彼女はそれを一蹴すると、「やめときな」と手を振った――驚くべきは、その指にはすべて幾つもの指輪がはめられ、その腕には首に勝るとも劣らない数のブレスレットが巻いてあったことだ。さらに、手の甲にまで赤い刺青が施されていることだろう――そして、言う。 「手の込んだ自殺をしたいってェならとめやしないがねェ、今のアンタらじゃ、むざむざ死にに行くようなモンさね」 「でもッ!」 「お嬢ちゃん、いやァ、ブロンズヤード嬢・・・アンタ、捕まりたいかい?」 「え・・・?」 突然の質問に、アイビスが少し詰まった。でも希沙を思えばそれくらい、と彼女が言いかけた瞬間、その女性がジャラジャラと頭を振った。 「違うねェ、そうじゃない。伯爵のことじゃあないのさ・・・アンタの、血に、青銅の庭に、力に、その先祖達の過去に、呪いに、一生付き纏われそして己自身を侵食されても構わないって程の覚悟はあるのかって訊いたンだよォ?」 さぁっとアイビスの顔から血の気が消え失せた。 「ヒッヒヒヒ・・・無理だろォ? いーや、答えなくていいサ、出来っこないンだからねェ。ヒヒ・・・けど受け入れらンないからって、恥じる必要は無いさァ。それにアタシの知ってる限りじゃァ、それはアンタが思ってンのよりもずっと凄惨で残酷で一縷の希望すら持てない未来さね」 「・・・で・・・も・・・」 アイビスがパクパクと口を開けて、ほとんど息のような声でそう呟いたのを、女性は耳聡く聞き付けて手を振った。 「決めたんだろォ? 捨てるなら捨てちまいな、そんな名字。それに迷ってちゃ、捨てられるモンも捨てらンないよォ?」 唇を噛み締めて、アイビスが俯く。代わりに、ストルクが女性に声をかける。 「ならば私が――」 「無理さね、アンタじゃ」 落ちかかる装身具をかき上げながら、彼女はピアスのはめられた紫の唇を奇妙に歪めた。 「勇気はかってやるさァ、ケドねェ、それだけじゃどうしようもない。それに・・・伯爵はアンタが酷くお嫌いのようだ、素直に入れてくれるとも思えないねェ、キッヒヒヒヒヒヒ」 おかしそうに、体を揺すりながら女性が笑う。つられてジャラジャラと音が鳴り、まるで体中で笑っているような錯覚に陥らせる。 「まァ、それを言うならあのカだかなんだか言う男も止めてやるべきだったンだろうがねェ・・・ヒヒヒ、アタシゃアイツが嫌いだから・・・知ったこっちゃないねェ、キキキキキ」 黙りこむ彼らの前で、女性はつと視線を逸らした。 「とゆぅワケさァ、お嬢ちゃん。覚悟は出来てンだろうね、エ?」 彼女の視線を追うと、その先には椅子に座ったままのジャンルーカの姿があった。 「え・・・?」 「ちょ、ちょっと」 無造作のジャンルーカを掴み、立ち上がらせる女性に待ったの声がかかった。しかし彼女は意に介さず、「さっさとしな」とジャンルーカを急かしている。 「何だい何だい、そこをどきな」 「・・・行かせられません」 スッと、ストルクが列車の出口に立ち塞がった。 「彼女を・・・巻き込むわけにはいかないのです」 「フン、そう頼まれた、って奴かい? 馬鹿馬鹿しいったら・・・」 呟いて、女性はドンとジャンルーカの背を押した。バランスを崩し、ストルクにぶつかる。まさかそう出るとは思っていなかった彼の体ごと、二人は列車の扉をぶち開けて外に転がり落ちた。 「ストルク!!」 慌てて外に飛び出したアイビスの周囲に、ムッとした霧が立ち込める。 列車の中からはわかりにくかったが、外はかなり霧が出始めているらしい。 「さぁて、行くかねェ・・・」 どこからかキセルを取り出すと、女性はおもむろにプゥッと吹いた。紫煙が霧の中に混じる。 「ほらァ、邪魔邪魔、邪魔だってンだよ」 思わずぼんやりとしたアイビスを手でしっしとどかしながら、ローブの裾を引き摺り引き摺り、女性は列車を降り、倒れているジャンルーカを引き起こした。 「まったく、手間がかかるし世話が焼けるね、エ? それでよく助けに行くなんて言えたモンだ」 「お客様、大丈夫ですか」 すぐに、車掌が列車から身を乗り出してそう尋ねた。 「私は・・・ゲホッ」 「大丈夫でも平気でもないわよ! ちょっと、そこの!! 何てことするのよ!!」 ストルクを抱えながら、アイビスが女性に噛み付く。 「アタシの邪魔をする方が悪いンだよ、お嬢ちゃん」 だが女性はそれをあっさりと素通りすると、霧の中へと歩を進めた。 「あぁ、ちょっと待ってな、すぐ戻るからサ。わかってンだろうねェ、アタシを置いてくなンて馬鹿な考えをしたら・・・無いとは思うケドねェ」 「何をする気なのよ!? 待ちなさいったら!!」 思わず叫んだアイビスに、女性はくるりと振り返った。 そして、紅紫色の双眸を妖しく輝かせながら、首を傾げたような格好でハハンと軽く笑うと、こう言い切った。 「このアタシが、キサとかいうのを助けてやるって言ってンだ。感謝しな」 そしてそのまま、止める間も無く、そして声をかける間も無く、女性の姿は霧の中へと消えてしまった。 剪定され、手入れの行き届いているだろう庭を歩きながら、女性は独り言のようにブチブチと呟いていた。 「何て日だい、エ? 厄日だったのかねェ・・・アタシが自分の事を占えさえしたらねェ、こんな目には遭わなかっただろうよ。忌々しいったら」 その隣を、ゆるゆるとジャンルーカがついて来ていた。 「アンタもだよ、キヒヒ、特別と知り合いになるとロクなこと無いってェ、身に沁みてわかったろ、エ?」 「・・・」 「フン、好きに言ってな、アタシゃ関係無いねェ。あるとすれば、アンタの母親・・・セティーナだけさね」 「・・・」 「ハン? そんなモンどうだっていいだろ? 嫌いなモンは嫌いなのさ。アタシゃね、あの女が大嫌いなのさ、あの女だけじゃない、アタシゃあの女もあの男のあの野郎もあのアマもみんな嫌いさね。理由? 必要無いサ、そんなモン」 「・・・」 「よくわかってンじゃないか、そうさ、アタシゃそんな奴サ。そんな奴からお嬢ちゃんに教えたげよう・・・察するにセティーナはもうじき死ぬらしいねェ、喜ばしいこった」 「・・・!」 「何さ、知らなかったってェの? ハッ、馬鹿らしい、あの女らしい馬鹿げた優しさとやらさァ、無駄骨だったがねェ。ヒヒヒ、何でそう思うかって? そりゃそうでなきゃ、籠からアンタを出したりなんかしやしないのさ、あの女はねェ」 「・・・」 「そりゃ知ってるさァ、アタシゃ誰だって知ってンのさ。ヒヒヒ、だが、死、か・・・キヒヒ、いいねェ、せいせいするよ。イヒヒヒキヒヒヒヒヒッヒヒヒヒヒヒ」 「・・・」 暫くゲラゲラと笑いながら、霧の濃い方へ濃い方へと進んでいく。 ややあって、女性の方が立ち止まった。 「ここまでさね」 キセルからもくもくと煙を立ち上らせながら、女性は呟いた。 「わかってンだろうケド、こっから先はアタシの関与するこっちゃない。覚えときな」 わずかに頷いたか頷かなかったか、ジャンルーカはそのまま立っている。 「そうさねェ、アタシゃあのキサしか助けないよォ? あの女さえ戻って来れば、車掌は列車を出すってンだ。アタシゃ余分な労力は使いたくないンでねェ」 「・・・」 「ああン? アタシがどうするかってェ? 決まってンじゃないか、安全な場所から見てやるに決まってンだろ? なァに、その点についての心配は一切無用さァ、アタシを誰だと思ってンだい? エ? 伯爵だか子爵だか知らないがね、このユージュ様の足を止めた事を後悔させてやるさァ。キッヒヒヒヒヒ」 「・・・」 キセルを加えたまま、ユージュはジャンルーカの頬をそっとなぞった。 「さァ、行きな。アンタはたった今からアタシの目さ」 「・・・」 無造作にペンダントを一本外すと、それをジャンルーカにかける。 「言っとくケド、期待はしてないからねェ。それはただの飾りさ。ま、セティーナの鈴よか役に立つに決まってンだけどねェ・・・ヒヒヒ」 「・・・」 「ボサッとしてないで、さっさと行きな」 追い立てられるようにしてジャンルーカが一歩踏み出したとたん、立ち止まる。 「・・・」 「どうしたんだい? まさかもう駄目だとでも?」 「・・・違・う・・・」 聞こえるかどうかの声で、彼女が呟く。 「・・・霧・・・」 「あァ、この霧はどうやら、中に入っている精神同士を勝手に繋げるモンらしいねェ。無差別精神交流って奴さァ。思った通り・・・さすがはアタシ、狂いは無い。ヒヒ、気持ち悪いだろうが、味方の考えもわかるンだ、慣れて逆に利用するこったね」 「・・・声・・・」 「そうさ、こっちの考えが声になって誰にでも伝わる、反面、誰かの心も伝わってくる。その様子からして、どうせ伯爵だろ? 早速気付かれたねェ。頑張ンな。どーせ奴のことだ、アンタをコレクションにしたがってンだろ? 違うのかい」 ジャンルーカが首を横に振る。 「・・・声・が・・・」 イライラした様子で、ユージュがズイッと彼女に迫る。それこそ接吻出来るような距離まで近付いて、長い爪でじわじわと肌をなぞる。 「わかンない奴さねェ。アタシに必要なのは『目』だけさ。アンタはアタシの『目』になりさえすりゃいいんだよォ。アンタはキサを探して、目に映してこればいい。後はこっちでうまくやンだからサ」 「・・・」 「だから他は好きにしな。自分が助かりたけりゃ、自分で何とかしな。他の奴を助けたけりゃ、それも自分で何とかしな」 伯爵とはまた異なった威厳と、恐ろしさ。 この人物の言うことを聞かなければならない、いや、従うことこそが自分にとって正しいのだと、そう思わせるような魅力をたたえている。 並大抵の人間であったならば、ここで素直に頷いてしまっただろうが、ジャンルーカは正確には人間ではない。無表情はそのままだったが、暫くして、ユージュの方が眉をひそめた。 「ハァン? 取引かい、このユージュ様と。いい度胸さね」 じっと、目を逸らさずにらみ合う。 そして、どうやらユージュが折れる気になったらしい。彼女はふぅっと煙を吹き出すと、手にしたキセルでジャンルーカの顎を上げて冷たく笑った。 「・・・いいだろう、探しといで。ただし、アタシゃ手伝いなんぞしないからねェ、うまく『駒』が揃ったら、そのとき初めて・・・道を開いてやろう」 ジャラリ、と音を立てて霧の中を指差しながら、ユージュが最後に言った。 「さァ、行きな、アタシの可愛い『目』よ。もう戻って来ンじゃないよォ・・・ヒヒヒ」 ジャンルーカが霧のより濃い方へと姿を消した事を見届けてから、ユージュは元来た道を満足そうに戻っていった。 「ちょっと、ねえ! どういうことなのよ!?」 ガタン、ガタン・・・列車は単調なリズムを繰り返しながら、動いていた。 敷かれたレールの上を、ゆっくりと、しかし確実に、走っている。 「車掌さん、納得出来ません。一体どうして・・・まだ彼女は戻ってきていないんですよ?」 「いいンだよ、車掌サン」 ぷはぁっと盛大に煙を吐き出しながら、ユージュが割り込んだ。 「このまま走らせとくれな」 「では説明を――」 「止めなさい! 止めなさいよ!!」 ガクンガクンと車掌を揺さぶりながら、アイビスが叫んでいる。 「ですから・・・お客、様、説明を・・・」 「いらないわよ!」 そのやり取りを面白そうに目を細めて見ながら、ユージュは手にした杖で水鏡の面をかき混ぜていた。 「アイビス、落ち着いて。車掌さん、説明とはどういう事なんですか」 「ええ、お客様・・・ッ・・・ここで、待っていても・・・仕方が無いと」 咳き込まぬように言葉を止めながら、車掌がポツポツと言葉を継いだ。 「どういうことです?」 「つまり、戻って来られない、お客様を・・・待つに・・・相応しい場、所にて・・・お待ちし、ようと・・・いうわけで、ございます・・・失礼」 車掌は咄嗟に振り返って、ゴホゴホと大きく咳をしてからまた向き直った。 「失礼いたしました。現在、この近隣の状況は酷く悪化しております。『霧』の発生、時空の捻れ・・・伯爵の領土では茶飯事ではございますが、こうも重なる事は通常ありえません」 まだ事態を飲み込めていないというストルクに、ユージュが馬鹿にしたように声をかける。 「要するに、あの館の前でいつまで待ってたって、誰一人戻って来やしないさ。キサはもちろん、あのカとかいう男も、ねェ・・・ああ、ジャンルーカもか」 「な・・・ッ!」 「ヒヒ・・・本人がそう望んだんだから仕方ないだろう? ま、もっとも、本当に助けたいのは彼氏の方らしいけどねェ」 ぐるぐると渦巻きの中を覗き込みながら、ユージュが笑う。 「運が良けりゃ、全員戻って来るだろうよ」 「・・・運が、悪かったらどうする気なのよ・・・!?」 ユージュはアイビスに視線をくれることも無く、キセルから煙を立ち上らせたまま、にべも無くこう言った。 「さァ? 興味無いねェ」 絶句して声も出ない彼らに、さらに追い討ちをかけるようにこう続ける。 「とりあえず、キサさえ助かりゃいいのさ、アタシは」 ――今からでは、外に出ることも出来ない。 ストルクは窓の外を睨みつけたまま、唇を噛み締めた。不本意ながら、自分以外の者に彼女達の運命を託さなければならなくなってしまった。 ――今出来るのは、祈ることしか・・・ 「どうか、皆、無事で・・・」 その隣では、一心不乱にアイビスが祈りの言葉を呟いている。 列車は様々な思いを乗せ、ただ走り続ける。 ジャンルーカは、どこかの館にいた。 扉を開けた先が、同じ館に繋がっているとは限らない事は良くわかっていた。 だからこそ、みな――伯爵に連れ去られてしまった希沙、彼女を助けに行くと言って列車を飛び出した賈、伯爵の使いでもあるローゼン、茶会の席から逃げ出した人、そしてテューン――が、どこにいるのか把握する事は、伯爵以外では不可能に近い。 先程から霧の力によって聞こえる『声』に耳を澄ませても、聞こえて来るのは「君は何をしに来たのかな?」「ようこそ、歓迎しよう傀儡の少女」といった伯爵の声や、「殺ス」「ドコニイル・・・肉ハ? 血ハ?」といった魑魅魍魎の声ばかりである。 気が滅入りそうではあったが、彼女にとっては吹き付ける風のようにそれらを受け流すことが出来た。 そうやって歩き続けていると、ふと、別の声が聞こえた。 「畜生・・・や、やめてくれ・・・嫌だ、嫌だ・・・うわあああああああッ!」 断末魔の声――人間の声だ。 一瞬、テューンのそれかと思って身を硬くしたが、違う声だった。 安心して、それからその声の主がおそらく逃げ出した人であり、そして魑魅魍魎にやられてしまったのだという事実に胸を締め付けられる。 全員助けてみせる――それは早くも成せなかったのだ。 しかし、次の瞬間。 「―――――――――――――――――――――――――! ! !!」 声にならない振動がジャンルーカの中を駆け抜けていった。 人間ではなく、化け物の死に際の叫び。 不審に思っていると、先程と同じ声で、こう思っているのが伝わってきた。 「何だ・・・あっけない。ククク・・・化け物だらけ、か」 笑っている。 この状況を、心底楽しんでいる声。 霧の力の声に、嘘はつけない。だから先程の恐怖に引き攣った声も、この喜んでいる声も、両方とも本心なのだ。 「ひゃっははは! ざまぁみろ、この体は俺のものだ! ザコは引っ込んでな、伯爵から逃げ出したお前にこの体は必要無い!」 「ち、違う・・・逃げなきゃ助からないんだ。消えろ、殺戮者め!!」 「くッ、返すものか・・・これは俺の体だ、俺の!」 「もう俺は嫌だ、誰も殺したくない、もう血なんて見たくないんだ・・・」 ふいに、声が途切れる。 扉を開けて、どこかに行ってしまったようだ。 気を取り直して、ジャンルーカは再び先に進む。どこかでまた、必ず会える。そして、その時は――あのユージュ自身が、約束を果たしてくれる番なのだ。 そしてそのためにも、彼女は進むしかない。 伯爵のゲームに、彼の敗北は無い。 しかし、時にゲームとは、予想外の不確定因子によって、その勝負が覆るものなのである。 ◆穂永秋琴(25) 長い夜が明けて太陽が姿を現した、しかしそれは、希望を感じさせるような代物では到底無かった。鮮やかすぎる朝焼け。朝焼けの光を反射して赤く染まる霧。赤い赤い霧。 ――嫌な色だ。 窓の外の赤い霧を眺めながら、伯爵は思った。その赤さは、否応なしにあの色を思い起こさせる。 ――あの女は、こういう色が好きだった。 本当に、とことんまで、反りが合わない女だった。そんな彼女も、もう自分と会うこともないまま、まもなく朽ちていくのだろう。一方の自分には、まだ永劫の時が残されている。彼女とのことも、結局のところ、すぐに癒えるような小さな傷痕を残したに過ぎないのだ。 ドアが開いた。 「――かけたまえ。紅茶くらいは出そう」 目前にいた人物に一瞬ひるみながらも、ジャンルーカは伯爵の招きに応じて席に着いた。どこからともなく給仕が現れて、紅茶とトーストをテーブルに置いて、またどこかへ去っていった。 「眠くはないかね? ――結構。変な呪いをかけられているな。かわいそうに」 ジャンルーカは何の反応も示さない。茶とパンにも手をつけない。 「そうか、客の中にそういう人物がいたな。確か、ユージュ、といったか」 ジャンルーカは何の反応も示さない。 「ユージュか。私に対抗できるつもりでいるとは滑稽だね。あの女の妹だから、私が手加減するとでも思っているのか。――失礼、君に聞かせたところで仕方がないか。いや、君に聞かせれば聞こえるのかな? まあいいさ。ユージュはともかく、君は見たいものがあって来たのだろう。結構。見たまえ」 伯爵が手を一ひねりすると、空中に――そこにはスクリーンもテレビもなかった――映像が現れた。静かに眠っている希沙とローゼン。 「タイトルは『平和』、『抱擁』、はたまた――いや、どれも凡庸だな。いかんね、起きたばかりでは頭が働かない。もっと良い題があるはずだが。――私はこれ以外のものを見る気にはなれんが、折角君が来てくれたのだから、少しは我慢しよう」 手をまた一ひねり。今度は賈とテューン。柱の陰に隠れて、衛士の隙を窺っている。衛士が背を向けると、さっと次の柱の陰へ。 「上手く敵をかわしてまだ傷も負っておらん。天晴れ、友のためには命も賭けると。何? いや、彼らは別に滑稽ではないよ。ユージュと違って、悪意がないからね。『悪意』、ひどく喜劇的な言葉さ。おっと、つい話がユージュのほうへ行ってしまったな。まあ、含むところもあるからね――それに比べて、彼らの様はどうだ。これぞ叙事詩中の英雄だよ。悲劇の主役だ。しかし何より滑稽なのは、尊大で自分の思い通りにならんことはないと思ってる女より、泥まみれの中年男のほうが美しいという有様さ。くくく」 賈が衛士に見つかった。衛士の振り回す槍の穂先を紙一重でかわすと、賈とテューンは後も振り返らずに背中を向けて逃げ出した。追いかけようとする衛士が無様に転倒し、空っぽの鎧がバラバラになる。賈が逃げるとき、床に油を撒いていたのだ。鎧の篭手がにょきりと動き出し、胴と兜、すね当てなどをくっつけ、間もなく元通りの姿になって、賈のあとを追っていく。――ジャンルーカは何の反応も示さない。 「ひどい表情だ。心配はいらんよ。彼らはたやすくは、私の手にかかりなどしないさ。もうそろそろ時間だし、穏便に帰ってもらうとしよう。――何。まだ見る気かね。嫌だぞ私は。嫌だ断る。私は見たくないのだ。――やれやれ、強情だな。私のことなど気遣ってはくれんわけだね」 伯爵はまた手をくるり。今度はあの客――最初のお茶会のとき、途中で逃げ出したあの客の映像だ。だが、彼の顔――彼をよく知っているわけではないが、穏やかそうな顔だった――は醜く歪み、ひきつり笑いを浮かべており、身体は血にまみれていた。だがその血は、一滴たりとも彼自身のものではない。彼が一晩の間に、殺して殺して殺しまくった、衛士や魑魅どもの返り血である。 「――もういいだろう。この映像は消させてくれ。――嫌な性格をしているな。私にとっては拷問だ」 伯爵は青い顔を映像から背けた。それからシャツのように白い手をひねって、映像を消した。それからしばらく呼吸を整えると、また顔色が落ち着いてきた。 「さて、時間まであと三十分といったところだな。希沙もローゼンもそろそろ起きるだろう。――君は招かざる客だが、来た者を拒むことはするまい。しばらくここにいたまえ。私の勝利の瞬間には、みなにこの場所に集まってもらおう。そして互いの健闘を称えて杯を乾すとしよう。いや、お茶だがね。君たちに酒を飲ませるわけにはいかない。当然だが。くくく」 (まだ、逆転の目は、ある) 伯爵は驚いて、ジャンルーカを見た。確かに聞こえたような気がしたが、彼女が喋った様子はない。 「いいさ」 ややあって、伯爵はつぶやいた。 「逆転されても、再逆転するだけのこと。ゲームとしては、そのほうが面白いだろう。くくく、何でも起こるがいいさ。血を見るのはごめんだが」 窓の外を眺めると、空の赤は薄い白に変わっていた。 26(バーネット) カーレル・ウィーバーはただの少年だった。馬鹿ではないが、それほど頭がいいわけでもない。友人が多いわけではないが、さりとて皆無というわけでもない。どちらかといえば目立たないいたって普通の少年だった。――十年前までは。 十年前のその夜、いつもより早く眠りについていたカーレルは何かの物音で目を覚ました。聞こえたのはクラッカーを連想させるような短い音、それが三つ。無視することも出来たのだが、なぜか気になったカーレルはそっと自分の部屋を抜け出し、明かりの点っているリビングへと足を向けた。 リビングは静かだった。壁にあるシミの位置まですべて知りつくしているその部屋に入ったカーレルは、そこに自分の知らないモノを二つ見つけた。一つは全身黒ずくめでバイクのヘルメットをかぶった人間、そして二つ目は床に広がる紅とその中心に横たわっている人間らしきものだった。手には黒いものを握っている。 足音に気付いたのか黒ずくめがカーレルへと振り向いた。そして何を思ったかメットのバイザーを上げると、右手に持った銃を突きつけた。 「せっかくだ、この顔とケビン・イーストウッドって名前を覚えときな」 黒ずくめは低い声でそう言って、クククと笑った。ヘルメットのせいで口元を見ることは出来ないが、その瞳を――その瞳の中に浮かぶ色を間近で見たカーレルは黒ずくめが心の底から笑っているのが理解できてしまった。話が通じる相手ではないということも。 ――ここから先をカーレルはよく覚えていない。ただ、やらなければ殺られると思ったことと、――『殺れる』と頭のどこかが自分に告げてきたのだけははっきりと覚えている。とっさに血の海の中に倒れていた父の手にあった銃を取り、黒ずくめが撃つより早く左胸――心臓の位置を狙って一発だけ撃ったのも曖昧には覚えている。 今考えてみるとこの行動は異常であったと言える。当時のカーレルは扱い方に関する知識はあったものの、実際に銃を撃つのは初めてだった。銃というのは初心者が狙ったところへ当てられるようなものではない。にもかかわらずカーレルの放った弾丸は正確に心臓を打ち抜いていた。一発しか打たなかったというのも妙である。あの状況ならば確実に沈黙させるため、あるいは錯乱して全弾撃ち尽くすのが普通である。だが、カーレルは一発しか打たなかった。それ一発で確実に仕留められると分かっていたかのように。 その後、友人との夕食会に参加していた母親がリビングの惨状と呆然とそこに立ち尽くしているカーレルを見つけ、混乱しながらも警察と救急を呼んだ。警官が現れたときには黒ずくめと父はすでに死んでいた。 しばらくの後、カーレルは一通りの事情聴取を受けた。その際にあの黒ずくめはケビン・イーストウッドという名でいわゆる殺人狂だったことも知った。いろいろあったが最終的に正当防衛が認められ、カーレルは普通の生活に戻った。 こうして彼の悲劇は終わった、否、終わるはずだった。 普通の生活に戻ってから、カーレルはおかしくなった。見知らぬ通行人の横を通り過ぎるとき、野良猫に菓子のクズをくれてやるとき、そして友人たちと話をしているとき。あらゆる生き物をその目に捉えるとき、カーレルはどうすればその生き物を殺せるかを無意識のうちに理解できるようになっていた。異常としか言いようが無かった。精神科に行くべきかとも考えたが、人に知られるのが怖くて結局行かなかった。それからずっとカーレルは沸きあがってくるそれを押し込めるのに必死だったが、月日が経つにつれそれは確実にカーレルを蝕んでいった。 最初に殺したのは路地裏の野良猫だった。その数ヶ月後、人気の無い場所で絡んできたチンピラを殺した。カッターで首を切ったらあっさり死んだ。そして十八歳で母親の頭を撃ち抜いたとき、カーレルは本当の意味で普通ではなくなった。 自らの手で肉親を撃ち殺すその直前、カーレルは心の中から語りかけてくる声を聞いた。実のところ、あの事件以来自分の心の中にカーレル自身が理解できない何かがあるような気はしていたのだが、まさかそれが意思を持っているなどとは考えたことも無かった。 声は自らケビン・イーストウッドと名乗った。さらに自分がカーレルの中にいることと、そして殺すことが何よりの楽しみであるということを語った。そして無理やりにカーレルの体を乗っ取ると、カーレルの母親を殺した。この日からカーレル・ウィーバーとケビン・イーストウッドのせめぎ合いが始まった。 手当たり次第に殺しつくしたカーレル――ケビンは満足していた。これだけ殺したのは久しぶりだった。贅沢を言えば普通の生き物がよかったのだが、殺せたのだからまあいいだろう。それに、防衛本能かあるいは気持ちの問題か、化け物が相手のときはカーレルの抵抗が弱いのでずいぶんと気持ちよくやれた。 それにしても亡霊から血が出るとは、この呪いを造ったヤツは随分と悪趣味なようだ。もっともケビンにとっては都合がよかったが。そんなことを考えながら血まみれになった剣――最初に殺した甲冑から奪ったものだ――を軽く振る。 ここがどんなところかはケビンも知っていたが恐れるつもりは全く無かった。伯爵が何者だろうが関係ない、どんな力を持っていようがそれをかいくぐって殺すだけだ。それは伯爵に限ったことではない。弱者も強者も関係なくケビンは等しく全てを殺すつもりだった。 逆に殺すこと以外に関してのケビンの興味は極めて薄い。実際カーレルが何を思ってあの列車に乗っているのかにも興味が無かった。何が目的かは大体想像がついてはいたが。 そしてケビンは愚かではない。殺してはまずいときには心の中に潜み何もせず、だが殺しても問題無いと判断すれば心の中から現れ、何のためらいもなく殺しつくした。日常はカーレルの領域、非日常はケビンの領域であるとも言うことも出来るだろう。 そして今は非日常だった。ケビンは血の紅に染められた廊下を後にする。より多くを殺すため、殺戮の舞踏を一秒でも長く続けるために。自らの欲望に従い殺戮の天才は歩を進める。廊下の先には扉が見えていた。 27 皆既日食 扉を開けると、少年と少女が一緒に眠っていた。 この狂乱の夜にはまったくふさわしくないその寝顔。まるで絵画に描かれたかのような、あまりにも安らかで平和な姿。 その姿を見て、殺人鬼ケビン・イーストウッドの顔に穏やかなほほえみが浮かんだ。 ざくり。 並んだ首を一緒に切断。すばらしい、これで絵画は完成した。芸術とはまさにかくあるべきだ。 ガラにもないことを考えながら、再び廊下に戻る。 「まだまだ夜は長いぜぇ?」 なんとすばらしい日だろうか!思わず独り言も出ようというものだ。スキップを踏んで駆け回りたいくらいだ。――さすがにそんなマネはしないが。 「ああもう、これで幾つ目だよ!」 半分やけになりながら賈はドアを開ける。はずれ。 時間は限られている。まったく、想像以上に面倒なゲームに賭けてしまったらしい。 「よぉそこのニイサン」 「あ?」 なんだてめえは今俺は忙しいんだよ用があるなら後にしやがれ、と言おうとして気づいた。ここは伯爵の館だ。 相手の姿を見る。一見どこにでもいそうな少年、しかしその手には血にぬれた一振りの剣が握られていた。 (ひょっとしてゲームの中ボスってところか?) 胸中でつぶやき、腰を落とす。 「一応聞いとくが・・・誰だよ」 「誰?俺がダレ?うひゃひゃひゃひゃ!誰でもいいんだよそんなこと!とりあえず俺に殺されろ!あはっはははははっは!!!」 うわあ。伯爵絶対趣味最悪。いまさらか。 伯爵様が確実に変○です。ごめんなさい。(R) 殺伐とした中、主人公一人でほのぼの。――伯爵の館に行くところまで書けなかったよ。(穂永) 伯爵=○態が確定です。あとアイビスがお姉さんっぽいとの指摘が。自分的にはこんな感じだと思ってるんですがどうでしょう? (バーネット) 次回、ついに変○伯爵登場か!?(逃げた) (日食) もぉ何でもいーや。長くないヨー(藤枝) ……そっ、そんな眼で見ないでくれ! 僕が変○なんじゃない、伯爵だ、伯爵が○態なんだ! 巻き添えを食って賈まで変○になってしまいましたが、伯爵のほうはちと良い人にしてしまったかねえ。うむ、難しい。穂永。 ずいぶん遅れてしまった……。皆既日食さんごめんなさい。 伯爵が人間じゃなくなってますが、それでもやっぱり伯爵は○態です。むしろレベルアップしてます。しかも大幅に。 ちなみに、伯爵が心の中で叫んでる言葉は某ゲームエピソード2の白髪○態にーちゃんの台詞をいじったシロモノです。まあ、○態つながりと言うことで。(バーネット) さて、ずいぶんあっさり部屋までたどり着きましたが、これはまあ仕様です(おぃ。でも伯爵ワールド展開中なので実は違う部屋とか少年少女の中身偽者とかドア開いたらやっぱりトラップ発動とかもありです。希望が潰える瞬間って楽しいよね!(日食) ニューキャラ登場!(またか!) 一人は黒魔法使い系の女性、もう一人は二重人格のケがありそうなおそらく男性。 他にマトモな奴は乗ってねーのかこの列車! Yes! 絶対、乗ってない!(R) さて逆転はあるのか、そして勝利はあるのか。決着は近い(……逃げた。ごめん)。穂永。 最後の(?)乗客登場です。結局あの列車の乗客にまともなヤツはいないようです。まあ、分かりきっていたことですが(バーネット) 芸術ってわかんないなあ。でもまあ絵画ですから。ホンモノではないってことで(皆既日食),
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DynamicImageのキー(3) Category = DynamicImageで、 Type = SpectrumAnalyzer(スペクトラムアナライザ)のフィールドのキー一覧です。 キー名が赤字と青字のキーは必須のキーです。(青字のキーは他のキーの設定状況などによっては省略することも可能です) キー名の左の欄に*があるキーは、ModifyItemコマンドで後から設定を変更することができます。 カテゴリの設定 キー名 値 内容 Category DynamicImage カテゴリをDynamicImageに指定 アイテムの機能の設定 キー名 値 内容 Type SpectrumAnalyzer アイテムのTypeをスペクトラムアナライザに指定 アイテムを表示するタイミングの設定 キー名 値 内容 初期値 ViewType 【※1】 ファイルの再生状態に応じたアイテムを表示するタイミング AlwaysVisible * ActiveType 【※2】 uLilithのアクティブ状態に応じたアイテムを表示するタイミング ActiveAndInactive ※1 ViewTypeを設定しなくても、スペクトラムアナライザ自体は再生時のみ必ず表示されます。 (ViewType = Playingと同じタイミング) スペクトラムアナライザに背景色やコマンドも設定する場合で 背景色の表示・クリックへの反応を制御したいときのみ設定してください。 再生中に表示されないViewType(NotPlaying・Suspending・Stopping)を設定すると スペクトラムアナライザも表示されなくなってしまうので ViewTypeを設定する場合はこれ以外のViewTypeを設定してください。 なお、再生中以外も表示されるViewTypeを選んだとしても 背景色やクリックへの反応は設定したViewTypeのとおりに表示・反応しますが スペクトラムアナライザ部分自体は再生中以外は表示されません。 ViewTypeの種類に関してはType一覧表(1)を参照。 ※2 Type一覧表(1)を参照。 配置する画像ファイルの設定 ☆ImageFileに設定した画像をスペクトラムアナライザとして表示します。 (PushedImageFile・MouseOverImageFileも設定可能ですが スペクトラムアナライザではなく、通常の画像として表示されます。 この2つのキーを設定すると、クリック/マウスオーバー時に スペクトラムアナライザ(=ImageFileの画像)が消えてしまいます。) キー名 値 内容 初期値 * ImageFile 画像ファイル名 スペクトラムアナライザに使用する画像のファイル名 * PushedImageFile 画像ファイル名 クリック時に表示する画像のファイル名 * MouseOverImageFile 画像ファイル名 マウスオーバー時に表示する画像のファイル名 スペクトラムアナライザの動作設定 キー名 値 内容 初期値 Range 数値(0.0より小さい小数値) スペクトルパワーのレンジ(dB単位) -80.0 Reduction 数値(整数)(0~255) スペクトラムアナライザの表示が減衰する割合 128 Step 数値(整数)(1以上) スペクトラムアナライザの各メーターの太さ(ピクセル単位) 1 VerticalReversed TrueかFalse True:スペクトラムアナライザの バーの動きを上下逆転させる (画像の向きは逆転しない) False RefChannel 数値(整数)(0~5か-1) スペクトラムアナライザに表示するチャネル【※】 -1 ※スペクトラムアナライザを複数配置する場合の 表示する特定のチャネルを指定します。 (再生中のファイルに存在しないチャネルのスペクトラムアナライザは そのファイルを再生している間のみ表示されません。) -1に指定した場合はすべてのチャネルの中の最大値で表示します。 RefChannelの値と表示するチャネルの関係は以下のとおり。 RefChannel数値 モノラル ステレオ 5.1ch RefChannel = -1 表示される 表示される 表示される RefChannel = 0 表示される 左チャンネル フロントレフト RefChannel = 1 ― 右チャンネル フロントライト RefChannel = 2 ― ― センター RefChannel = 3 ― ― サブウーファー RefChannel = 4 ― ― バックレフト RefChannel = 5 ― ― バックライト 背景色の設定 キー名 値 内容 初期値 * BackgroundColor 色指定 アイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 0x00000000 * PushedBackgroundColor 色指定 クリック時のアイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 * MouseOverBackgroundColor 色指定 マウスオーバー時のアイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 ※アイテムの表示領域の矩形(長方形)部分全体に設定した色・透明度で塗りつぶされます。 ImageFileキーで設定されているスペクトラムアナライザ画像のすぐ下に(奥に)背景色が表示されます。 PushedBackgroundColor・MouseOverBackgroundColorは それぞれクリック時・マウスオーバー時に背景色を変えたいときだけ設定してください。 キーを省略すると、クリック(マウスオーバー)時もBackgroundColorの色指定のままになります。 アイテムの表示サイズの指定 キー名 値 内容 初期値 * Width 数値 アイテムの表示サイズ(幅) ImageFileの画像ファイルの幅 * Height 数値 アイテムの表示サイズ(高さ) ImageFileの画像ファイルの高さ ☆スペクトラムアナライザの場合ImageFileキーは必ず設定されているので Width・Heightキーは省略することも可能です。 キーを省略した場合、Width・Heightは ImageFileの(スペクトラムアナライザ)画像ファイルの幅・高さになります。 アイテムの表示位置指定 ☆通常は『PosX・PosYキー両方とも』 ウィンドウの特定位置(四隅・四辺の中央など)からの相対位置にする場合は 『TopLeftAnchorキー』が、それぞれ必須キーになります。 (PosX・PosYは省略してもエラーにはなりませんが TopLeftAnchorキーが未設定のときにPosX・PosYも省略すると PosX・PosYがどちらも0扱いとなり、アイテムがフェイス左上端に配置されてしまうので 基本的にはPosX・PosYを省略せずに記述するようにしてください。 なお、OriginItemキー設定時で 基準アイテムと同じ位置に配置する場合は省略してもかまいません。) キー名 値 内容 初期値 * PosX 数値 アイテムの左上端位置のX座標 0 * PosY 数値 アイテムの左上端位置のY座標 0 OriginItem 基準になるアイテムのフィールド名【※1】 アイテムの表示位置がキーの値に指定したフィールド名のアイテムの表示位置からの相対位置になる【※2】 * TopLeftAnchor 【※3】 アイテムの表示領域の左上座標を指定した原点からの相対座標に固定する【※4】 None * BottomRightAnchor 【※3】 アイテムの表示領域の右下座標を指定した原点からの相対座標に固定し、ウィンドウサイズの大きさに応じて表示サイズを自動調整する【※5】 None Priority 数値 アイテムの表示の優先度 0 ※1 iniファイル(定義ファイル)内で、 このキーを記述するフィールドの前に記述されているフィールド名のみが対象。 (このキーを記述するフィールドの後にあるフィールド名や iniファイル内に存在しないフィールド名はエラーになります。) ※2 OriginItemキーを記述した場合、 アイテムの左上端位置のX座標は、 「OriginItemで指定したアイテムのPosX+このアイテムのPosX」に、 Y座標は「OriginItemで指定したアイテムのPosY+このアイテムのPosY」になります。 PosX・PosYキーの数値にマイナスの数値を指定することで、 OriginItemで指定したアイテムよりも上や左に配置することもできます。 PosX・PosYキーの数値がどちらも0の場合(または、キーを省略した場合)は OriginItemで指定したアイテムと同じ位置に配置されます。 ※3 〔原点〕, 〔相対X座標〕, 〔相対Y座標〕の3つを半角スペースとカンマで区切って指定します。 原点はTopLeft(左上端)・TopCenter(上端中央)・TopRight(右上端)・ CenterLeft(左端中央)・Center(中央)・CenterRight(右端中央)・ BottomLeft(左下端)・BottomCenter(下端中央)・BottomRight(右下端)・ None(自動補正を行わない)のうちどれか1つ。 相対X座標と相対Y座標はピクセル単位だけでなく、 ウィンドウの幅や高さに対する割合でも設定が可能です。 割合で指定する場合は数値の後に半角で%を記述してください。 (%表記の場合、10.0%というふうに小数表記も可能です) ※4 このキーはPosX・PosYキーの代わりに設定します。 また、OriginItemキーの設定は無視されます。 ※5 このキーはTopLeftAnchorキーとともに設定します。 アイテムの表示サイズはウィンドウサイズに応じて自動的に調整されますが、 初期サイズとしてのWidth・Heightキーは設定しておいてください。 なお、アイテムの表示サイズにあわせて スペクトラムアナライザ自体の表示(描画)サイズも変更したい場合は TilingMethod = Scalingか TilingMethod = KeepAspectScalingをあわせて指定し「拡大縮小表示」にしてください。 (ただし拡大縮小表示にすると、表示されているスペクトラムアナライザ画像自体を引き伸ばすので 画像本来のサイズ以外の表示サイズになっているときは多少ぼやけた感じの表示になります。) 画像ファイルの配置設定 ☆TilingMethodキーを使用する場合は拡大縮小表示のみ使用してください。 繰り返し表示の設定は非推奨です。 (繰り返し表示した場合は 同じ表示内容のスペクトラムアナライザが複数繰り返し表示されます。) キー名 値 内容 初期値 Align 【※1】 アイテムの表示領域内での画像ファイルの表示位置 TopLeft TilingMethod 【※2】 画像ファイルの表示方法(繰り返し・拡大縮小) None ※1 TopLeft(左上端)・TopCenter(上端中央)・TopRight(右上端)・ CenterLeft(左端中央)・Center(中央)・CenterRight(右端中央)・ BottomLeft(左下端)・BottomCenter(下端中央)・BottomRight(右下端)のうち どれか1つ ※2 Both(縦横に繰り返し)・Horizontal(横方向に繰り返し)・Vertical(縦方向に繰り返し)・ Scaling(表示サイズにあわせて拡大縮小表示)・ KeepAspectScaling(縦横比を保ったまま拡大縮小表示)・ None(繰り返しや拡大縮小を行わない)のうちどれか1つ マウスオーバー/クリックへの反応の設定 キー名 値 内容 初期値 * TipHint 文字列 マウスカーソルがアイテムの表示位置に一定時間置かれたときに表示されるチップヒントの内容 * Enable TrueかFalse True:クリックに反応するようになる Commandキーが設定されている アイテムの場合、 クリック時にそのコマンドが実行される False LinkedItem 他のアイテムのフィールド名【※1】 アイテムをクリック/マウスオーバーすると値に指定したフィールド名のアイテムも同時にクリック/マウスオーバーする AlphaThreshold 数値(整数)(0~255) 〔指定した数値〕より大きいα値を持つピクセルに当たり判定を持たせる【※2】 0 DisableRegion TrueかFalse True:表示画像の中で 完全に透けている部分のある画像でも アイテムの表示領域全体に 当たり判定を持たせるFalse:表示画像の中で完全に透けている部分には 当たり判定を持たせない【※2】 False MouseCursor 【※3】 マウスオーバー/クリック時のマウスカーソルの指定 Auto ※1 複数のアイテムを同時に連動させることも可能。(半角スペース・カンマで区切って指定する) ※2 AlphaThresholdキーで当たり判定を制御する場合は DisableRegionキーは省略するかFalseを指定してください。 ※3 マウスカーソルに使用する*.curのカーソルファイル名か、 以下の値のうちどれか1つ Auto・Normal・Finger・ TopLeftResizer・TopRightResizer・BottomLeftResizer・BottomRightResizer・ Arrow・IBeam・Wait・Cross・UpArrow・Size・ SizeNWSE・SizeNESW・SizeWE・SizeNS・No・Hand・AppStarting・Help 設定可能なマウスカーソルの一覧はこちら。 アイテムの初期表示状態の設定 キー名 値 内容 初期値 * IsHided TrueかFalse True:初期状態でアイテムを非表示にする【※】 False ※HideItemコマンドで非表示にしたのと同じ状態です。 後からShowItem・SwitchShowItemコマンドで表示させることはできます。 アイテムの透明度・表示範囲の設定 ☆背景色指定の透明度や画像ファイル自体の透明情報を編集すれば ConstAlpha・AlphaChannelFileキーを使用しなくても アイテムの表示透明度や表示範囲を制御することは可能です。 キー名 値 内容 初期値 * ConstAlpha 数値(整数)(0~255か-1) アイテムの定数α(不透明度)を指定【※1】 -1 AlphaChannelFile 画像ファイル名 αチャネル生成元として使用する画像ファイル【※2】 ※1 「0」で完全透明、 「255」で不透明(背景色や画像ファイル自体が半透明なら、その透明度のまま)になります。 ただし、不透明扱いにするのならキーを省略(-1に設定)するほうが高速に描画されるので このキーで透明度を調整する必要が無い場合は、キーを省略してください。 なお、背景色指定の透明度や画像ファイル自体の透明情報が設定されている場合 ConstAlphaキーの設定が乗算されます。 ※2 このキーで指定された画像ファイルをグレイスケール化した後、 画像の「白い部分は不透明」・「黒い部分は透明」としてみなされ その透明・不透明の部分にあわせた形/範囲でアイテムが表示されます。 (灰色部分は半透明、白っぽい灰色は不透明に近くなる・黒っぽい灰色は透明に近くなる) アイテムの表示エリアの差分描画の設定 キー名 値 内容 初期値 DisablePartialUpdate TrueかFalse True:差分描画が行われなくなる False コマンドの設定 キー名 値 内容 初期値 * Command コマンド名 クリック時に実行するコマンド名 * CommandParamType 【※1】 コマンドのパラメータの種類(パラメータが必要なコマンドのみ) * CommandParam 【※2】 コマンドのパラメータの内容(パラメータが必要なコマンドのみ) CommandTargetWindow ウィンドウ名【※3】 コマンドを実行する対象のウィンドウ(別のウィンドウに対して実行する場合のみ。省略した場合はCommandキーを記述したウィンドウ自身が対象になる) CommandTargetPlugin プラグイン名 コマンドを実行する対象のプラグイン名(プラグインに対して実行する場合のみ) * CommandCount 数値 実行するコマンドの数(複数のコマンドを設定する場合のみ【※4】) UseAsyncCommand TrueかFalse True:コマンドを非同期実行するようにする False ※1 Int・String・Double・Bool・RandomInt・RandomString のうちどれか1つ (コマンドによって使用できる種類が異なる) ※2 文字列や数値など、コマンドによって異なる ※3 CreateSubFace・ToggleSubFaceコマンドで開くときにパラメータで指定した「ウィンドウ名」。 サブウィンドウに記述したコマンドで、メインウィンドウを対象とする場合は 「uLilith MainWindow」と指定する。 ※4 1つのアイテムに複数のコマンドを設定する場合、 CommandCountキーを設定した上で Command・CommandParamType・CommandParam・ CommandTargetWindow・CommandTargetPluginの全てのキーの末尾に (スペースは入れずに)連番をつける必要があります。 例:「Command2」「CommandParamType2」など コマンドはキー末尾につけた連番の番号の順に実行されます。
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リンク先はリンク切れがあっても掲載時のままです。 デモ・抗議開催情報(2018年5月アーカイブ)から続き デモ・抗議行動日程別一覧 月日 都道府県 タイトル 時間 URL 6/1(金) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 6/1関連法案/承認案“安倍晋三入り”審議!~“TPP(11)関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 京都 安倍も麻生も辞めろデモ@右京 18 15~ 告知 地図 6/2(土) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 17 00~ 告知 〃 埼玉 南越スタンディング(南越谷駅前) 17 00~ 告知 〃 東京 憲法にラブソングを!カトリック・シスター署名運動第二段(新宿駅西口小田急デパート前) 11 45~ 告知 〃 大阪 高プロ止めろ全国一斉抗議 リーフ配布(JR天満駅) 18 30~ 告知 告知2 〃 大阪 辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動(JR大阪駅南バスターミナル) 15 30~ https //twitter.com/Osakakodo/status/1001330400545849345 6/3(日) 全国 「アベ政治を許さない!」ポスター一斉掲示 13 00~ 告知 詳細 Website 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 15 00~ 告知 〃 埼玉 6.3オール埼玉総行動(集会後パレード) 10 30~ 告知 フライヤー Website Facebook 〃 東京 月例・在沖米軍新基地建設反対抗議街宣(首相官邸前) 12 00~ 告知 〃 東京 対米自立実行委員会他主催の街宣(有楽町マリオン前) 13 00~ 告知 時間 〃 東京 安倍9条改憲NO!民主主義まもれ!若者憲法集会2018(集会後デモ) 10 30~13 30~16 00~ 告知 告知2 告知3 告知4 フライヤー 時間変更 デモコース プラカード News 〃 東京 6.3新宿アルタ前街頭リレートーク 12 00~ 告知 告知2 Facebook 〃 東京 街頭宣伝「新宿アルタ前アピール・怒っていいとも」第366回 唄い場&喋り場 スピーチ、スタンディング、音楽、3000万署名 (新宿駅東口アルタ前) 15 30~ 告知 告知2 3000万署名 〃 東京 高江辺野古スタンディング (新宿駅西口 小田急百貨店前辺り) 13 00~ 告知 〃 東京 第110回池袋スタンディング★池袋駅西口広場 14 00~ 告知 〃 東京 草の根アピール@池袋西口 15 10~ 告知 〃 東京 みんなの自由が丘大行進 14 00~ 告知 Blog 〃 東京 「安倍退陣板橋アクション」スタンディング(成増駅北口) 13 30~ 告知 〃 神奈川 アベ政治を許さないスタンディング(茅ヶ崎駅北口ペデデッキ) 13 00~ 告知 〃 香川 【無実で獄中43年】星野文昭さん解放 全国集会(集会後、高松市内パレード) 12 30~ 告知 Website News Blog 6/4(月) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 越谷スタンディング(越谷駅東口) 16 00~ 告知 〃 東京 辺野古に基地をつくらせない!防衛省への抗議・申し入れ行動(防衛省前) 18 30~ 告知 Website 〃 東京 あたりまえの政治を取り戻す 0604新宿西口街宣(新宿駅西口) 18 30~ 告知 詳細 生中継 生中継2 〃 東京 “承認案+関連法案=使えるTPP(11)”に絶対させない!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 大阪 高プロ止めろ全国一斉抗議 リーフ配布&アナウンス(なんば高島屋前) 19 00~ 告知 告知2 6/5(火) 千葉 市川・浦安市民連合定例街宣(浦安駅前) 18 00~ 告知 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.5国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 告知 暫定告知 行動予定 〃 東京 オスプレイ飛ばすな 6.5首都圏行動(集会後デモ) 18 30~ 告知 告知2 フライヤー Blog 生中継 生中継2 〃 東京 “承認案+関連法案=使えるTPP(11)”に絶対させない!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 東京 GAZA plus,世界に平和を!火曜定例会(新宿西口小田急百貨店前・雨天中止) 19 00~ 簡易告知 〃 東京 3000万署名 街頭宣伝・憲法シールアンケート(JR蒲田駅西口) 20 00~ 告知 〃 東京 財務省前緊急行動 19 30~ 告知 〃 東京 Stop!辺野古埋め立て 戸田建設抗議(京橋戸田本社ビル ) 17 30~ Blog 6/6(水) 千葉 戦争ロック!原発ロック!ロックアクション(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 共謀罪法廃止!秘密保護法廃止!6.6行動(衆議院第二議員会館前) 12 00~ 告知 Website フライヤー 行動予定 〃 東京 「TPP11協定批准反対 議員会館前で抗議アクション 13 00~ 告知 Blog 〃 東京 TPP反対、卸売市場法改正するな!スタンディング&座り込み(参議院会館前) 15 30~ 告知 告知2 〃 東京 “承認案+関連法案=使えるTPP(11)”に絶対させない!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 東京 第29回NO WAR KITAKU ACTION(JR駒込駅南口)★ 中止! 19 00~ 告知 〃 大阪 戦争あかん!ロックアクション御堂筋デモ 18 30~ 告知 6/7(木) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 杉戸平和アクション(東武動物公園駅西口・雨天中止) 17 30~ 告知 Blog 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.7国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 暫定告知 行動予定 〃 東京 森友学園疑惑徹底追及!安倍内閣は総辞職を!6.7国会議員会館前行動(衆議院第二議員会館前) 18 30~ フライヤー 行動予定 〃 東京 小池“迷惑都知事”百合子に物申す!~豊洲新市場10月開場など不可能だ!築地市場“先行破壊”絶対反対!都議会前アクション 17 30~ 告知 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 反対 スタンディング(JR東京駅「丸の内(⇦大事)南口」出てすぐ) 18 00~ 告知 〃 大阪 高プロ止めろ全国一斉抗議 リーフ配布&アナウンス(京橋駅連絡通路) 19 00~ 告知 告知2 6/8(金) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 TPP反対、卸売市場法改正するな!スタンディング&座り込み(参議院会館前) 15 30~ 告知 告知2 〃 東京 “承認案+関連法案=使えるTPP(11)”に絶対させない!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 東京 #0608高プロ反対国会前抗議行動 (国会正門前北庭側) 19 30~ 告知 Website 生中継 6/9(土) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 15 00~ 告知 〃 東京 このままいけば『死の商人』 三菱電機から買わないで!秋葉原・ヨドバシAkiba前アピール 13 00~ 告知 告知2 ML 〃 東京 安倍9条改憲NO!3000万署名街頭宣伝(新宿駅南口) 14 00~ 告知 Blog 〃 東京 3000万署名 街頭宣伝(JR蒲田駅西口) 19 00~ 告知 〃 東京 基地はいらない!6・9練馬駐屯地デモ 12 00~ 暫定告知 Labornet 〃 東京 動物はごはんじゃないデモ行進 17 30~ 告知 告知2 〃 東京 「安倍退陣板橋アクション」スタンディング(成増駅北口ペデストリアンデッキ) 13 30~ https //twitter.com/democracy_sakai/status/1004512760846118912 〃 東京 セクハラを許さない!6・9八王子アクション(JR八王子駅北口マルベリーブリッジ) 17 00~ 告知 場所変更 Facebook 〃 神奈川 安倍内閣の退陣を求める6.9神奈川3区市民の集い(集会後デモ) 13 00~ 暫定告知 Facebook 〃 大阪 辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動(JR大阪駅南バスターミナル) 15 30~ https //twitter.com/Osakakodo/status/1004215207407771649 〃 大阪 安倍はやめろ!梅田解放区(梅田HEP5前) 18 00~ 告知 6/10(日) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 15 00~ 告知 〃 東京 パート・派遣など非正規ではたらく仲間の全国交流集会集会 in 東京 サウンド・デモ 12 00~ 告知 詳細 〃 東京 財務省前納税者一揆行動+デモ 12 00~ 告知 Blog 〃 東京 安倍9条改憲NO!政治の腐敗と人権侵害を許さない!安倍政権の即時退陣を要求する6.10国会前行動(国会正門前) 14 00~ 告知 告知2 Blog 〃 東京 高江辺野古スタンディング (新宿駅西口 小田急百貨店前辺り) 13 00~ 告知 〃 東京 日曜定例新宿アルタ前街頭アピール・怒っていいとも!第367回 15 30~ 告知 〃 東京 第111回池袋スタンディング★池袋駅西口広場 14 00~ 告知 〃 東京 脱原発と平和を求める武蔵野市民デモ第72回 13 30~ https //twitter.com/musashinononuke/status/997430501420888064 〃 東京 「憲法9条を守ってください」と「オスプレイ配備反対」の署名集めと宣伝 (福生駅2階自由通路) 11 00~ 告知 〃 京都 世界一斉イベント☆屠殺場を閉鎖しよう@京都デモ 14 00~ 告知 6/11(月) 千葉 原発ゼロ!戦争ゼロ!の「ゼロアクション」(津田沼駅パルコ側デッキ) 19 00~ 告知 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 6月11日は花を持って東京高裁前へ行こう。袴田巖さん「幸せの花」プロジェクト 12 30~ 告知 Facebook 6/12(火) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.12国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 告知 告知2 暫定告知 行動予定 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前) 18 00~ 告知 詳細 〃 東京 TPP(11)承認案委員会審議/採決、卸売り市場法改悪案委員会審議予定日!~“卸売り市場法改悪案”/TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 安全保障関連法廃止に向けた街頭宣伝行動(有楽町駅前交番裏・交通会館脇) 17 30~ 告知 詳細 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 反対 スタンディング(新橋駅SL広場)★ 中止! 14 00~ 告知 場所変更 〃 東京 全労連・労働法制中央連絡会宣伝(新橋駅SL広場) 18 00~ 告知 〃 東京 GAZA plus,世界に平和を!火曜定例会(新宿西口小田急百貨店前・雨天中止)★ 中止! 19 00~ 簡易告知 〃 東京 3000万署名 Peace9 sGear大田 街頭宣伝(JR蒲田駅西口) 20 00~ 告知 〃 沖縄 F15戦闘機墜落 緊急抗議集会(嘉手納基地第1ゲート前) 12 00~ https //twitter.com/nissie_loud/status/1006016039170134016 6/13(水) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 千葉 高プロ止めろ全国一斉抗議(柏駅東口デッキ) 19 00~ 告知 バナー 〃 埼玉 南越スタンディング (南越谷駅前) 13 00~ 告知 〃 埼玉 安保関連法に反対するママの会@川口 スタンディング(川口駅東口デッキ) 10 30~ 告知 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前)★時間変更 10 00~ 告知 詳細 〃 東京 “卸売り市場法改悪案”/TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 東京 0613命を奪う高プロは許さない!昼の新橋宣伝行動(新橋駅SL広場) 11 30~ 告知 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 反対 スタンディング(JR東京駅「丸の内(⇦大事)南口」出てKITTE前) 14 00~ 告知 6/14(木) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 杉戸平和アクション(東武動物公園駅東口・雨天中止) 17 30~ 告知 Blog 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.14国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 告知 告知2 暫定告知 行動予定 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(座り込み)(参議院議員会館前) 10 00~ 告知 詳細 〃 東京 “卸売り市場法改悪案”/TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 森友学園疑惑徹底追及!安倍内閣は総辞職を!6.14国会議員会館前行動(衆議院第二議員会館前) 18 30~ 告知 フライヤー 行動予定 ライブ予告 生中継 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 反対 スタンディング(新橋駅SL広場) 14 00~ 告知 6/15(金) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 沖縄連帯15日行動(有楽町駅前→マリオン側のガード下) 12 00~ 告知 場所変更 〃 東京 高プロ反対 0615仕事帰りの新橋デモ (日比谷公園西幸門 集合) 18 45~ 告知 告知2 生中継 〃 東京 6.15全労連ディーセントワークデー・ロングラン宣伝(新橋駅SL広場) 17 00~ 告知 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 0615新橋街宣(新橋駅SL広場) 18 45~ 告知 告知2 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前) 12 00~ 告知 詳細 〃 東京 “卸売り市場法改悪案”/TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 30~ 告知 〃 東京 守ろう!築地市場 都庁前スタンディング行動 12 00~ 告知 〃 東京 樺美智子さんを偲ぶ会(国会南通用門前) 13 00~ 告知 Website 〃 東京 #うたデモおどりデモみんなデモ 新宿西口モリカケ定例街宣 (新宿駅西口地下コンコース) 18 30~ 告知 告知2 6/16(土) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 17 00~ 告知 〃 埼玉 南越スタンディング (南越谷駅前) 17 00~ 告知 〃 東京 世界難民の日2018 収容やめろ!東京入管収容者を激励する行動 16 00~ 告知 Blog プラカード 〃 東京 「世界難民の日」ソーシャル・アクションin渋谷(渋谷駅ハチ公前) 10 00~ 告知 告知2 詳細 〃 東京 第5回共謀の日(新宿駅西口 ユニクロ前)場所変更 13 00~ Facebook 暫定告知 Website Blog ライブ予告 〃 東京 6.16 なるほど 築地がええじゃないか! 新宿港町行進 ~そうなんだあ!卸売市場… 14 00~ 告知 告知2 Twipla Blog 〃 東京 「安倍退陣板橋アクション」スタンディング(東武東上線 成増駅北口ペデストリアンデッキ) 13 30~ 告知 〃 東京 練馬で島じまスタンディング(練馬駅南口) 15 00~ 告知 告知2 〃 東京 チトフナデモ 14 30~ 告知 〃 東京 3000万署名 街頭宣伝(JR蒲田駅東口) 17 00~ https //twitter.com/ootawakademo/status/1007763030179041281 〃 東京 小金井署不当連行事件 小金井署への再発防止を求める要請&駅頭宣伝 16 00~ 先行告知 〃 大阪 辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動(JR大阪駅南バスターミナル) 15 30~ https //twitter.com/Osakakodo/status/1007188076567752704 〃 大阪 安倍はやめろ!梅田解放区(梅田HEP5前) 18 00~ 告知 6/17(日) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 高江辺野古スタンディング (新宿駅西口 小田急百貨店前辺り) 13 00~ 告知 〃 東京 日曜定例新宿アルタ前街頭アピール・怒っていいとも。第368回 14 00~ 告知 〃 東京 第111回池袋スタンディング★池袋駅西口広場 14 00~ 告知 〃 東京 草の根アピール@池袋西口 15 10~ 告知 〃 東京 まちなかお散歩デモ 13 00~ 告知 〃 東京 戦争はいや!安倍9条改憲NO!市民パレード 15 00~ 告知 暫定告知 Blog 〃 東京 第35回 NO WAR! 八王子アクション (八王子駅北口 東急スクエア前) 10 30~ 告知 暫定告知 Website 〃 東京 オスプレイの横田基地配備に反対する6.17東京集会 会場:多摩川中央公園(JR青梅線 牛浜駅徒歩10分) ※集会後デモ行進 13 30~ 告知 Blog Website 〃 東京 横田基地すわりこみ行動(フレンドシップパーク) 13 30~ 告知 6/18(月) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 0618新宿西口緊急街頭宣伝 国会パブリックビューイング「街頭テレビ・国会可視化プロジェクト」高プロ編(新宿西口地下広場) 19 00~ 告知 告知2 〃 東京 TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 大阪 バクチで景気対策なんてありえへん!!『カジノ実施法』に反対する集会・パレード 18 30~ 告知 6/19(火) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 TPP11反対!国会前座り込み抗議行動(参議院議員会館前) 10 00~ 告知 告知2 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.19国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 告知 告知2 行動予定 〃 東京 安倍9条改憲NO!安倍政権退陣!6.19国会議員会館前行動 キャンドル行動(衆議院第二議員会館前) 18 30~ 告知 Blog 〃 東京 脱被ばく実現ネット 官邸前抗議 19 30~ 告知 Facebook 〃 東京 TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 Stop!辺野古埋め立て!大成建設抗議(新宿センタービル前&新宿西口地下スタンディング) 17 30~ 暫定告知 Blog 〃 東京 GAZA plus,世界に平和を!火曜定例会(新宿西口小田急百貨店前・雨天中止) 19 00~ 簡易告知 〃 東京 高度プロフェッショナル制度反対 緊急スタンディング(新橋駅日比谷口/SL広場) 18 00~ 告知 〃 東京 安保法制廃止をめざす中野アピール 定例街頭アクション(中野駅北口) 18 00~ 告知 6/20(水) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 TPP11批准反対!国会前抗議行動(参議院議員会館前)★ 中止! 10 00~ 告知 〃 東京 TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 守ろう!築地市場 都庁前スタンディング行動 18 30~ 告知 〃 東京 「働き方改革」法案、徹底審議!デタラメ審議で法案通すな! 0620秋葉原緊急街頭宣伝(秋葉原駅電気街口{UDX側}) 19 00~ 告知 行動予定 〃 東京 世界難民デー、東京入管包囲行動・キャンドルデモ 18 00~ 告知 詳細 6/21(木) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 杉戸平和アクション(杉戸高野台駅西口・雨天中止) 17 30~ 告知 Blog 〃 東京 死の商人にならないで!株主総会アクション 三菱重工 9 00~ 告知 告知2 〃 東京 TPP11批准反対!国会前抗議行動(参議院議員会館前) 10 00~ 告知 告知2 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.21国会前アクション(衆院第二議員会館前) 12 15~ 告知 告知2 Blog 行動予定 〃 東京 森友学園疑惑徹底追及!安倍内閣は総辞職を!国会前連続行動(衆議院第二議員会館前) 18 30~ 告知 告知2 Blog 行動予定 ライブ予告 〃 東京 守ろう!築地市場 都庁前スタンディング行動 18 30~ 告知 〃 東京 “審議モドキ”はもう沢山だ!会期延長ふざけるな!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 Peace9 sGear 街頭宣伝 3000万署名(JR蒲田駅西口) 20 00~ https //twitter.com/ootawakademo/status/1009566545884864513 6/22(金) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 TPP11批准反対!国会前抗議行動(参議院議員会館前)★ 中止! 10 00~ 告知 〃 東京 “審議モドキ”はもう沢山だ!会期延長ふざけるな!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 高度プロフェッショナル制度 反対 緊急スタンディング(新橋駅烏森口) 18 00~ 告知 告知2 6/23(土) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 17 00~ 告知 〃 埼玉 第12次・9条守れ、米軍基地撤去‼️ 川越集会 パレード 14 20~ 告知 〃 東京 脱被ばく実現ネット 新宿アルタ前街宣 16 00~ 告知 Facebook 〃 東京 シールアンケート チラシ、テイッシュ配り(東上線大山) 14 00~ https //twitter.com/juliaatmsk/status/1009307883392196609 〃 東京 「安倍退陣板橋アクション」スタンディング(成増駅北口ペデストリアンデッキ) 13 30~ 告知 〃 大阪 辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動(JR大阪駅南バスターミナル) 15 30~ https //twitter.com/Osakakodo/status/1009736921864474624 〃 大阪 安倍はやめろ!梅田解放区(梅田HEP5前) 18 00~ 告知 6/24(日) 青森 青森レインボーパレード 2018『明日に向かって』 13 30~ 告知 フライヤー 〃 茨城 牛久入管を囲みましょう! FREEUSHIKU 14 30~ 告知 告知2 プラカード 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 15 00~ 告知 〃 埼玉 “安倍政権は即刻退陣を‼︎”市民と野党の共同宣伝(川口駅東口デッキ) 13 00~ 告知 フライヤー 〃 東京 高江辺野古スタンディング (新宿駅西口 小田急百貨店前辺り) 13 00~ 告知 〃 東京 辺野古の海を土砂で埋めるな!首都圏キャンペーン@新宿(新宿駅前情宣アルタ前アピールデモ行進) 14 00~15 00~16 00~ 告知 告知2 告知3 Website Facebook Facebook2 ライブ予告 〃 東京 日曜定例新宿アルタ前街頭アピール・怒っていいとも。第369回 16 00~ 告知 〃 東京 改憲阻止!辺野古の新基地建設許すな!新橋駅まえ街宣(新橋駅・烏森口) 13 00~ 告知 Blog 〃 山梨 山梨から怒りの声を!まともな政治を求める6.24甲府デモ 14 00~ 告知 〃 神奈川 非核市民宣言運動・ヨコスカ月例デモ 16 00~ 告知 Facebook 6/25(月) 千葉 オスプレイ飛来抗議と監視(中の島公園) 13 00~ 告知 〃 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 越谷スタンディング(越谷駅東口) 16 00~ 告知 〃 東京 戦争法廃止大井町デモ 18 50~ 告知 告知2 告知3 〃 東京 全国沿岸クロマグロ漁民共同行動(農水省前) 14 00~ 告知 フライヤー 告知2 〃 東京 国会正常化=(更なる)国会異常化”ふざけるな!プロレス国会もう沢山だ!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 新宿・柏木公園デモ利用制限抗議・要請(情宣 新宿区役所正門前要請書提出行動 新宿区役所正門前柏木公園デモ) 12 00~13 00~18 30~ 告知 告知2 告知3 〃 東京 福島みずほずんずん街宣(新宿西口地下広場) 19 00~ 告知 告知2 告知3 〃 沖縄 辺野古埋め立て許さない・第4回海上座り込み 7 00~ 告知 Blog 6/26(火) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 千葉 第31回松戸アクション(松戸駅東口) 13 30~ 告知 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前) 10 00~ 告知 告知2 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.26国会前アクション(議員会館前) 12 15~ 告知 〃 東京 0626高プロ反対国会前抗議行動(国会正門前) 19 30~ 告知 告知2 ライブ予告 〃 東京 国会正常化=(更なる)国会異常化”ふざけるな!プロレス国会もう沢山だ!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 華々しいオリンピックのウラの顔を大暴露する街頭情宣(東京地裁前) 13 30~ 告知 告知2 詳細 〃 東京 Stop!辺野古埋め立て!五洋建設株主総会抗議(五洋建設本社前) 9 00~ 暫定告知 Blog 〃 東京 GAZA plus,世界に平和を!火曜定例会(新宿西口小田急百貨店前・雨天中止) 19 00~ 簡易告知 〃 東京 Peace9 sGear大田 街頭宣伝 3000万署名(JR蒲田駅西口) 20 00~ 告知 〃 東京 高プロ反対 スタンディング(新橋駅日比谷口/SL広場) 17 00~ 告知 6/27(水) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 千葉 リーフレット「働き方改革のひみつ」配布(柏駅 東口デッキ) 18 45~ https //twitter.com/ppaakkuu/status/1011604074632970243 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前)★ 中止! 10 00~ 告知 〃 東京 国会正常化=(更なる)国会異常化”ふざけるな!プロレス国会もう沢山だ!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 高プロ反対 スタンディング(新橋駅日比谷口/SL広場) 18 30~ 告知 〃 東京 0627高プロは廃案に「働き方改革」法案、徹底審議!!デタラメ審議で法案通すな!!緊急街頭宣伝(新橋駅SL広場) 19 00~ 告知 告知2 〃 東京 第5回6.27新宿ピースウォーク 18 30~ 告知 Facebook 〃 東京 守ろう!築地市場 都庁前スタンディング行動 18 30~ 告知 告知2 6/28(木) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 埼玉 杉戸平和アクション(東武動物公園駅西口・雨天中止) 17 30~ 告知 告知2 Blog 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参議院議員会館前) 10 00~ 告知 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.28国会前アクション(参議院議員会館前) 12 15~ 告知 行動予定 〃 東京 「働き方改革」一括法に反対する6.28国会前緊急行動(仮称)(参議院議員会館前) 18 30~ 告知 告知2 Blog 行動予定 〃 東京 JKS47 廃炉招福月例祈祷会(経済産業省正面玄関前) 15 00~ 告知 Website 〃 東京 “国会正常化=(更なる)国会異常化”ふざけるな!プロレス国会もう沢山だ!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 死の商人にならないで!株主総会アクション 三菱電機 9 00~ 告知 告知2 〃 東京 Stop!辺野古埋め立て! 大成株建設主総会アピール行動(新宿西口地下スタンディング新宿センタービル{大成建設本社}前抗議) 8 00~9 00~ 暫定告知 Blog 〃 東京 反ヘイトスピーチの周知活動(新宿駅東口) 19 00~ 告知 〃 東京 高プロ反対 スタンディング(新橋駅烏森口) 18 30~ 告知 告知2 〃 神奈川 横浜カジノいる?いらない?シール投票(JR保土ヶ谷駅西口) 14 00~ 告知 告知2 6/29(金) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 19 00~ 告知 〃 東京 TPP11 批准反対! 国会前抗議行動(参院本会議に法案が上程された場合行動・参議院議員会館前) 10 00~ 告知 告知2 〃 東京 “国会正常化=(更なる)国会異常化”ふざけるな!プロレス国会もう沢山だ!~TPP(11)“関連法案”成立絶対反対!新自由主義はいらない!永田町アクション(参議院議員会館前) 17 00~ 告知 〃 東京 守ろう!築地市場 都庁前スタンディング行動 12 00~ 告知 告知2 〃 東京 安倍9条改憲NO!3000万署名& MeToo WithYou 街頭宣伝(新宿駅西口) 18 30~ 告知 Blog ライブ予告 6/30(土) 千葉 「もう勘弁! 安倍総理、麻生大臣! 最期は国民の声で政権退陣へ!」船橋南口シャウト(船橋駅南口) 17 00~ 告知 〃 埼玉 南越スタンディング(南越谷駅前) 17 00~ 告知 〃 東京 おしつけないで 6.30リバティ・デモ 18 30~ 告知 詳細 〃 東京 Families Belong Together Tokyo Rally(渋谷駅ハチ公前広場) 17 30~ Facebook 〃 東京 オスプレイの横田配備も辺野古新基地も許さない集会・デモ 14 00~ 告知 詳細 ML 〃 大阪 辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動(JR大阪駅南バスターミナル) 15 30~ https //twitter.com/Osakakodo/status/1012297606435749888 デモ・抗議開催情報(2018年7月アーカイブ)へ続く
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寛永侠豪伝 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)下野国《しもつけのくに》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)親|同朋《きょうだい》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)※[#「さんずい+参」、第4水準2-78-61] ------------------------------------------------------- [#8字下げ]一の一[#「一の一」は中見出し] 「――山内の若様」 堤の上でやさしく呼ぶ声がする、 「若様……今日も釣ですか」 年は十五六であろう、小麦色の肌をしてやや険ある眼つきだが、上背のあるきりりとした躰つき、かたちの良い唇が艶やかにしめりけを帯びて、どことなく年にはませた色気が溢れている。 下野国《しもつけのくに》宇都宮付近で、 『小鼬《こいたち》のお絹《きぬ》』 といえば知らぬ者のない娘だ。 けれどどこの何者の娘か、どんな素性をもっているかということになると誰も知らなかった。山窩《やまもの》の子だという者もあり、渡り乞食の棄子だともいう、二、三年まえからこの付近に現われるようになったが、親|同朋《きょうだい》があるかないかも知れぬし、どこに寝てどこで喰べるかすらまったく分っていないのだ。 「ふん」 娘は鼻を反らせて、 「若様の黙り坊」と罵った。 堤の下では前髪立の少年が、大剣を草の中へ置いたまま、さっきから石のように釣棹を覓《みつ》めている。 お絹はもう一度鼻を反らせて行き過ぎようとしたが、気を変えて堤を駈け下り、少年の傍へ男のようにしゃがみこんだ。 お絹が側へ寄ったので、初めて少年の躰のひどく巨《おお》きいのが分った。肩から腰へかけてのすばらしい肉付、身丈《みのたけ》は五尺四五寸あるだろう、眉の濃い眸子《ひとみ》の張った、豊かな頬に血の色の美しい顔だちだ。年は十六、宇都宮藩士|山内伊織《やまのうちいおり》の二男|鹿之助《しかのすけ》という少年であった。 「なにか釣れて――?」 娘が訊《き》いた。鹿之助は眼も動かさず、まるで相手を無視しきった様子で川波を見|戍《まも》っている。 「もっと上へ行けばいいのにな」 暫くしてまた娘が云う、「柳の堰のところには鮠《はや》がうんといるんだ、夕方になると川獺《かわうそ》が二疋も三疋も漁りに来ている、あたいが掴んだって十や十五はすぐだ」 「――うるさい」 鹿之助がどなりつけた。「しゃべるならあちらへ行ってしゃべれ、魚がみんな逃げてしまうじゃないか」 娘は敏捷に少年を見やってからぶすりと黙った。 八月の残暑。堤の上には熱い埃が時おり北へと流れる、川の上の微風は向う岸の蘆を戦《そよ》がせ、低く垂れた柳の枝をなぶって、少年の乱れた髪にもつれる――鹿之助はふっと、娘のほうへ振返った。男のようにしゃがんだ裾前が割れて、風の来るたびに媚めかしく白い脛がちらちら覗いている、鹿之助は慌てて眼を外《そ》らすと、二三度空咳をして、ぷっと遠くへ唾を飛ばした。 娘はながいこと不機嫌に黙っていた、しかしいつまで経っても相手が何とも云わないので、不機嫌のやりばが無くなったか、いきなり草の根から礫を拾いとると、川波に揺れている浮木《うき》をめがけて投げつけた。 「止せ!」 鹿之助はそういって睨みつけた。 「おお怖い眼」 娘はくいと肩をつきあげて、「まるで無念寺の仁王様みたいだ、でも仁王様のほうがずっと男らしくって強そうだ」 「おれだって……強さじゃ負けないぞ」 「じゃ腕を捲って見せてよ」 鹿之助は釣棹を措いて、右の腕をぐいと捲りあげ、うん――と力みながら力瘤を出してみせた。肌目《きめ》の細い二の腕の白い皮膚がまるではじけそうに盛上って、ぐりぐりと若い生命《いのち》のかたまりが逞しく息づいている。 「なあ……んだ」 娘は嘲るように云って、何気なく手を伸ばすと鹿之助の力瘤をそっと掴んでみたが、手指の腹に少年の肉体の強い弾力が触れた刹那、かっと胸の紊《みだ》れを感じて手を引込めた。 「ちっとも強そうじゃないじゃないの」 「これでもか――」 鹿之助は満面を紅潮させて力んだ。 腕に盛上った力瘤は、まるで皮膚を割ってはじけ飛ぶかとばかり蠢動《しゅんどう》する――お絹はこくりと生唾を呑みながら、妖しく光る眼尻で見やっていたが、 「そんなの……」 と粘る舌で云う、「江戸相撲の白雲峰右衛門《しらくもみねえもん》に比べればまるで、まるで――寒竹みたいじゃないの」 鹿之助は腕をおろした。 [#8字下げ]一の二[#「一の二」は中見出し] 宇都宮の大社八幡神社は、毎年八月十五日が大祭に当っていた。 この大祭には例年土地の草相撲を奉納する習わしになっていたが、今年はさらにそれを盛大にするため、江戸から本職の行司力士を呼び、その一行と地元の者と東西に組んで奉納相撲を取ることになった。 江戸から呼ばれて来たのは行司二名に力士十名で、白雲峰右衛門というのが力士の筆頭であった。この峰右衛門は身丈五尺三四寸の小兵であるが、膂力《りょりょく》すぐれて相撲が烈しく、五日の取組を四日まで、出る相手出る相手をほとんど子供扱いに投げ勝っていた。 鹿之助は初日から三日目まで群衆にまじって見物したが、見ていると飛出したくてむずむずしてくるのが怖しいので、四日目の今日は眼をつむって釣に来てしまったのである。 「白雲なんか――何だ」 鹿之助は不機嫌に呟いた、「あんな相撲、おれが出れば一度で投げてやる」 「かげ弁慶なんか駄目よ」 「嘘なんか云うか、本当に投げてやる」 「じゃ投げてみせてよ」 娘はきらきらと眼を輝かした。 「投げろって……馬鹿だなあ」 鹿之助は嘲るように、「御側頭を勤める武士の子が、町相撲と裸になって相撲が取れるかよ、ちえっ!」 「何故いけないの」 「そんなことおまえに分るかい」 「分るわよ、教えてくれれば……」 浮木がくくくくと烈しく水を潜った。 鹿之助は機敏に合せて、棹尖をためながらぐっと上げた、午さがりの強い陽を浴びて三寸あまりの赤腹が、溌剌と跳りながら宙をとんだ。――鹿之助が巧みに鈎を外して、片手に魚籠《びく》を取上げた時である。 「やい、怪童丸なにをしている」 と喚く声がした。 振返ると堤の上に、大番組|埜田甚右衛門《のだじんえもん》の伜、八十吉《やそきち》が、弟の仙太郎《せんたろう》というのを伴れて立っていた。八十吉は鹿之助と同年で、悪童仲間の牛耳を執っている暴れ者だった。 「おやあ、小鼬のやつもいるな」 八十吉はにやりと笑って、「やい、山内の怪童丸、貴様は昼日中こんな往来ばたで、穢らわしい売女と何をしていたんだ」 「なんですって――?」 同時にお絹がとびあがっていた、「売女とは誰のことを云うの!」 「黙れよ、誰を云うものか、売女とは貴様のことを云うんだ、家も無し親同朋も無いやつは売女に違いないじゃないか、それともおまえは何か商売があるのか」 「坊ちゃん、埜田の坊ちゃん」 お絹の美しい唇がぴくっと痙攣《ひきつ》った「あなたはたいそうよく知っていらっしゃるのね、家も無し親も身寄りもない者は、みんな売女だと思召すの……? ほほほほほ」 お絹は刺すように嘲笑した。 「それで分った、はい、それでようく分りましたよお坊っちゃま、あなたそれでこのあいだの晩あんなことをなすったんですね」 「何だ、何だ」 八十吉はさっと色を変えた、「おれが何を知るもんか、あんなことって――何だ」 「云ってもよくって?」 「勝手にしろ、貴様なんぞ売女が何を云ったって驚くおれではないぞ、なんだ貴様なんか、家無しの野良猫め、根もないことを云うと無礼討ちにしてやる」 「から威張りは止したらどう」 娘はふんと鼻を反らした、「お絹は一つ星だよ、どこで死んだって惜しくない躰だ、斬るなら斬るがいいさ、だけど黙って斬られちゃいないからそう思ってちょうだい――無礼討ちにするというのはこっちのことだ。あたしにそのつもりがあれば、このあいだの晩あの森の中で、おまえさんの躰から一滴残らず血を絞ってやったんだ、そう云われて竦然《ぞっ》としないかい?」 「気違い、野伏《のぶせ》り」 八十吉は唾をとばして喚いた、「貴様なんぞ穢らわしいやつが何を云ったって、何だ、大嘘つきめ、――やい、――怪童丸」 鉾を転じた。 「貴様こんな女といて恥かしくないのか、こっちへ来い。そんな女の側にいると魂まで穢れてしまうぞ、来いったら怪童丸」 「おれは釣をしているんだ」 鹿之助は振向きもせずに云った、「この女は勝手にここへ来て勝手に見ているんだ。おれの知ったことではない」 「ちえっ、八十吉に恥をかかせる気か」 鹿之助は答えなかった。 お絹は態《ざま》をみろという顔で、片足の爪先をとんとんと踏みながら巧みに唇をおちょぼにして口笛を吹いていた。――八十吉は弟を促して足音荒らく二、三間行くと、 「やい、覚えていろ小鼬」 と振返った、「怪童丸も忘れるな、貴様たちがここで何をしていたか、おれはちゃんと見届けてあるんだ、後悔するなよ」 そう喚きたてると、勝誇ったお絹の嘲り笑う声を後にさっさと立去ってしまった。 鹿之助は何事もなかったように、平然と釣棹をのべ、両手で膝を抱えながら水面を覓めている。お絹は少年の逞しい肩を見ているうちに、何とも知れぬ力強い頼もしさを感じ、思わず側へひきつくようにして坐った。 「馬鹿ねえ埜田の野良息子は」 お絹は喉で笑った、「あいつ、このあいだの晩――っていったら眼の色を変えていたわ、あいつもう大人なのよ」 「うるさい!」 鹿之助の声は吃驚するほど大きかった「しゃべるなら向うへ行け、おまえなんか――大嫌いだ、なんだ……女なんか」 お絹はぎゅんと胸を緊つけられるように思った。そして上半身を反らせながら、にわかにうるみの現われた眸瞳《ひとみ》で、少年の怒った横顔をながいこと見戍っていた。 [#8字下げ]一の三[#「一の三」は中見出し] 八幡神社の奉納相撲は五日目になった。 境内は見物の群衆で埋まっている、本殿への石段も神楽殿も御手洗《みたらし》の屋根の上も、大銀杏の枝にまでびっしり人が犇めいている、別に木戸銭を取る訳ではなく、力士溜りの周囲に縄張りをしただけだから、見物の群衆はほとんど無数に詰めかけていた。 刻《とき》はもう日暮れに近い――四日間、まるで勝負にならぬ勝放しを続けてきた白雲峰右衛門は、今日も土地の草相撲で大関を取る夕凪定吉《ゆうなぎさきち》を投げ、続いて飛入りの二名を突放して今……傲然と土俵上に突立っている。 「もう相手はないか」 右衛門は太々しく喚いた。「下野は土相撲が盛んで、腕っ節のある者が少々はあると聞いたから、楽しみにして来たんだがまるでどれもこれもへろへろじゃないか。――この奉納相撲も今日が千秋楽、また来年といって白雲峰右衛門が来られるかどうか分らんぞ、江戸相撲の骨のあるところを味わってみる者はないか、誰も出る者はないかよ」 色の黒い眼の怒った男が、小意地の悪い調子で喚きたてるのがびんびん響いた。 鹿之助はこの日早くから来て、群衆の中にまぎれこんだまま熱心に見物していたが、もうさっきから身内へ力疼きがきて、うずうずと耐え難いまでに闘志を唆られるので、もう出よう、もう帰らなければいかん――と思い思い、ついに結びまで観てしまったのであるが、いま白雲の暴言を聞くと矢も楯も堪らなくなってきた。 「誰か出てくれ」 鹿之助は自分を制しきれなくなった、「早く誰か出てくれ、そうでないとおれは……」 「若様」 耳の側で不意に囁く者があった。ぎょっとして振返ると、小鼬のお絹、 「白雲は強いのねえ」 唆《け》しかける声音である、「あんなに威張りかえっているのに、もう誰も出る者がないなんて、宇都宮には男がいないのかしら」 「うるさい、黙っていろ」 「口惜しいからよ、口惜しいじゃないの、あんなにのさばって、あたいが男なら死んだっていいから白雲にぶっかかってやるわ」 お絹は皓《しろ》い歯をきりきりと噛んだ。 「さあ、もう誰もないか」 峰右衛門は挑みかかるように、「骨のある者の一人や二人いそうなものじゃないか、せっかく江戸から揉みに来たものを、このまま帰して後で悔んでも仕様がないぞ……誰もないか、なければいよいよ下りるが」 「――待った」 「鹿之助は思わず叫んでしまった。はっ! としたが遅い、声を聞きつけて峰右衛門が振返る、詰合っていた群衆の眼が一度に鹿之助のほうへ注がれた。 「待てと云うのは、お出なさるのか」 「出る、出る!」 もう仕方がない、鹿之助は慌てて答えると、ぬっくり立上った。 「わあ――山内様の怪童丸だ」 見知り越の者がどっと声をあげた。 「若様あ、頼みますぜ」 「怪童丸しっかり」 「白雲を土俵の砂に埋めてくれ」 喧々と力声が競いおこる、鹿之助は一瞬、鋭い悔恨と羞耻を感じて立竦んだ。 謹直な父伊織は、常に鹿之助の腕力を封じていたのである。なにしろ幼少の頃から体格人並にすぐれ、十二三歳になると力自慢の大人を平気で取って投げるほどの膂力が出た、そのために喧嘩をすると相手の腕を折ったり腰骨を挫いたりすることもしばしばだったし、第一――武術の稽古さえ充分に出来なかった、というのが、あまりに力が余りすぎて、精一杯の稽古をすると必ず相手に傷を負わせてしまうのだ。 藩の兵法指南を勤める淵神軍兵衛《ふちがみぐんべえ》も、 「鹿之助殿は型だけお習いなさい」 と匙を投げてしまった。 武士として衆に秀でた体力をもつことは誇るべきであるのに、皮肉にも鹿之助の場合にはそれが余りに異常なため、反って邪魔になるという妙な結果を招いていた。 「どんなことがあろうとも決して腕力沙汰に及んではならぬぞ、そのほうにとって戒慎すべき第一は力だ、ゆめにも忘れるな」 父の伊織は口癖にそう戒めていた。 然し、抑えるほど唆るものはない、肉体の底に鬱屈している力は、制すれば制するほど烈しく暴れ出そうとする。年頃から云っても十六歳の鹿之助にとって、ほとんど本能ともいうべき闘志を、どこまでも抑制し切ることのできないのは当然である、――彼は半ば夢中で、白雲の声に応じたのであった。 [#8字下げ]一の四[#「一の四」は中見出し] わっと巻起る喚声に、一度は、 「しまった」 と立竦んだ鹿之助、 「怪童丸、宇都宮男子の耻辱を雪《そそ》げ」 「若様たのむぞ」 「白雲を投げ殺してくれ」 わっわっと叫ぶのを聞くと、もはやのっぴきならぬ立場だと感じた。 この群衆のなかで、町相撲と立合ったことが知れれば父の怒りは見るが如しだ、ことによると勘当ぐらい喰うかも知れぬ、どうせ叱られるなら存分に取ってやろう――と、鹿之助は度胸をきめて力士溜りのほうへ進んだ。 地許方《じもとかた》の者が二三人、鹿之助を取巻いてすぐに衣服を脱がせ、締込の新しいのを選んでさせる、 「醜名《しこな》を何としましょう」 と云われて、鹿之助は言下に、 「――下野《しもつけ》」 と答えた。 白雲峰右衛門は土俵の上から見ていたが、躰こそすばらしいがまだ前髪の少年だから、取るまでもないという顔でにやにやしていた。鹿之助は支度が出来ると、五六度まで四股を踏んで躰を馴らし、行司の合図を待って土俵へ上った。 「東、白雲――西、飛入り下野」 行司が高く呼上げる声に、群衆はどっと歓呼の声をあげた。 土俵に上って、白雲峰右衛門と眼を見合せた刹那、鹿之助はながいこと抑えつけていた身内の力がむらむらと血管を衝いて湧きあがるのを感じた。堰を切られて奔流する万石の水にも似て凄じく、念《こころ》燃え肉跳る闘志――五体に溢れ漲って張裂けんばかり。 「――やっ」 と行司の引く軍配、立った。 得意の突っ張をかけるつもりの峰右衛門、立った刹那に、鹿之助の巨躯が弾丸のごとく、だっ! と来たから、危く耐えて捲込もうとする、とたんに腰を落して、 「お――!」 と、突放す。足らなかった、残した白雲は巧みに廻りこんで、ずぶりと双差し、 「あっ! いけねえ」 「怪童丸、振れ、振れ、振っちまえ」 どっと湧上る喚声。白雲は満身の力をふるって、鹿之助を土俵際まで持って行った。 「若様――あ」 きいんと響く女の声、「お絹が見ていますよ――う!」 鹿之助は踏止まった、 「うむ!」 もうひと押しと見せて、白雲が突然――腹櫓にかけようとする、のっけへ、鹿之助足をひきざま、双差しになっている白雲の両腕を、ぐいと閂に絞った、腕を返そうとしたが遅い、ぐいぐいと金剛力に絞られて堪らず腰が浮く、刹那、鹿之助は躰を開きざま、 「う――ん!」 とばかりに振った。 廻ろうとしたが及ぶところではない、白雲は藁束のように飛んで西の力士溜りへ、だ――と転げ落ちた。 「わあ――っ」 と地をゆるがして起こる鬨の声、境内に詰めかけた何千という群衆は狂喜乱舞して、怒涛のように土俵際へ押寄せた。 [#8字下げ]二の一[#「二の一」は中見出し] 「鹿之助、父上がお召しだ」 兄の左次馬《さじま》が来て呼んだ。 「――気分が悪いのですけれど……」 「一刻逃れをしても無駄だぞ」 悄気《しょげ》ている弟を見て、兄は慰めるように云った、 「それより早く行ってお詑びをするがいい、今日はことの外のお怒りだから、決して口答えなどするな、どこまでもお詑びをするんだ、よいか」 「はい」 「左次馬も口添えをする、さあ――」 鹿之助は仕方なく立上った。 伊織は居間で煙草を喫《ふか》していた、酒も飲まず何の道楽もない伊織にとって、勤めから戻っての煙草だけが何よりの楽しみであった、しかし今宵は味を楽しむ余裕などはなく、ただ怒りを煙に托して発するようなものだった。 鹿之助と左次馬が入って来る、じろりと見やった伊織は、 「左次馬、来てはならん」 と強く云った。 「はい、けれど私もお詑びを」 「ならん!」 伊織は頭を振った、「今宵は口添え無用、さがっておれ、いてはならん」 「……は――」 それを押してと云えぬ温和な左次馬は、眼顔で鹿之助に、飽くまで詑びるのだぞ、と知らせながら静かに部屋を去った。 鹿之助は心細そうに片隅へ小さくなって坐る、伊織は音荒く煙管を置いて、 「鹿之助、近う寄れ」 と向直った。 「近う寄れと申すに」 「はい」 鹿之助は恐る恐る膝行した。伊織はその面をじっと見戍っていたがやがて傍にある手文庫の中から、小さな紙包を取出してずいと鹿之助のほうへ押しやった、 「鹿之助、これは親子の縁を切る餞別じゃ、これを持ってどこへでも行け」 「父上様!」 「何も申すな」 伊織はきっぱりときめつけた、「父も今となっては何も云わぬ、本来なれば斬るべきだが――亡き妻に免じて命だけは助けてやる。今宵のうちに当地を立去れ」 「父上様、お赦しくださいまし」 鹿之助は平伏した、「鹿之助が恐うございました、以後は決して過を致しませぬ、きっと謹慎いたしますから、こんどだけはどうかお赦しくださいませ」 「今さらなにを云うか、この馬鹿者」 伊織は嚇然と呶鳴った、「武士たる者は、己の為したことに対して責を負うのが当然だ。十六にもなって、過を犯し、ただ――相済まぬでことが納まると思うか、後になって詑びるくらいなら何故あんな馬鹿なことをする、奥平家御側頭を勤める者の子が、裸芸人同様の町相撲と、衆人の眼前で勝負を争うなどということをすれば、その結果がどうなるかぐらい分りきったことだ。それを今になって詑びるなど……己を辱める致し方と云うべきだぞ」 鹿之助は腕で眼をこすった。 「立て!」 伊織は静かに云う、「一時の怒りや威しで勘当などをする父と思うと間違いだぞ、親類縁辺へも断りの状が廻してある、誰を頼んで詑びようなどという未練がましい振舞をすると、その時こそ座は立たせぬから覚えておれ」 鹿之助はせきあげる涙を、腕でとすりこすり頭をあげた。 己の為したことに責を負え! 父の一言は又なき重さで渠《かれ》の心を圧しつけた。そうだ、おれはすでに戒を破ったのだ、その責任は自分で負わねばならぬ。 「何をめそめそしているか」 伊織はぐいと起った、「そちも子供ではないぞ、父の言葉が分ったら立て!」 「――はい」 鹿之助は両手をついて、「では……父上様、仰せに従って立退きますが、父上様の子として恥かしくない者になったら、御勘当をお許しくださいませ」 「たわ言を申すな、親子の縁を切ったからには他人だ、名を挙げようと乞食《かたい》になろうと知ったことではない、行け」 獅子は子を産んで三日、谷底に蹴落して力を試ると云う――伊織の胸に、ふいっとその言葉が泛《うか》んできた。いま自分の忿りの中に、果してそれだけの大慈悲があるかどうかは不知《しらず》。日頃から、こいつは小宇都宮に跼蹐《きょくせき》して、果つべき人間でないと考えていたのは事実であった。こいつはどこへ突出ても伸上る奴だ! 男親として我子にこれだけの頼みのもてる心強さを――今ほど生々と感じたことはない、 「再び顔を見せるな」 そう云って伊織は部屋を出て行った。次の間から、兄が来ようとするのであろう。 「ならん、行ってはならん!」 と父の遮る声が聞える、「勘当すればそのほうにも弟ではない、捨て置け!」 鹿之助はぽろぽろ涙をこぼしながら、投出されてあった金包には眼もくれず、一度自分の部屋へ戻って大剣を取ると、逃げるように家をとび出した。 鹿之助は自殺する覚悟であった。 「母様の墓前で腹を切ろう」 そう思いつめたのだ。 体こそ巨《おお》きく、力こそ衆にすぐれていたが、生来のんびりと育ってきた鹿之助には、父に突放されてみるとやはり十六歳だけの思案しかなかったのである。武士が責任を取る――といえば割腹することだ、少年鹿之助にはそう思うだけが精一杯であった。 初更の屋敷町を急ぎ足にぬけて、菩提寺の墓地へ入って行った渠は、やがて母の墓前へ来ると、躊躇なく端座して肌を寛げた。 「――母上、お側へ参ります」 訴えるように去って差添を抜く――ふっと面《かお》をあげると十六夜《いざよい》の月が冴えかえった光をなげている。母様が迎えに来てくだすった……そう思えた。鹿之助は月を見上げたまま、微笑しながら左手でぐいと下腹を撫でた。 [#8字下げ]二の二[#「二の二」は中見出し] 「あっ、あなたは――?」 「埜田八十吉だ」 「じゃあ手紙をよこしたのは」 「いかにもおれさ、どっこい……逃げようとしたってそうはいかぬ」 八十吉はぐいと腕を掴んだ、「鹿之助の名で遣れば必ず来る、そう思ったから偽手紙で釣りだしたのだ。ふっふふ、小鼬が逆に化されたという図さ」 「どうしようというの」 「まあ落着け、少し話がある」 小鼬のお絹はちらと四辺《あたり》を見た。 木間がくれに月はあるが、初更にちかい菩提寺の墓地だ、人の来るはずはなし庫裡へも遠い、――さすがに人を人と思わぬお絹が、掴まれた腕を伝わってくる八十吉の荒々しい力に、のっぴきならぬ場合を感じて我知らず色を変える、八十吉は勝誇った調子で、 「このあいだは怪童丸とひどく仲の良いところを見せつけたなお絹――それから、よくもおれの讒訴を披露してくれた」 「い、痛っ……」 「貴様でも痛いことが分るか」 「乱暴な、放してください」 「動くなよ、放していい時がくれば放してやる。温和しくおれの云うことを聞いていろ。だいたい貴様は素性も知れぬ卑しい身分のくせに悪くのさばり過るぞ、大番組埜田甚右衛門の子ともあるおれが、格別に眼をかけているのを有難いとも思わず、あんな化物同様な怪童丸などにべたつくばかりか、つまらぬことまでしゃべりたてておれに耻辱を与えるなどとは以ての外の奴だ。あんなことを曝きたてられた以上は、もう――意地でも貴様をおれの物にしなければならぬ、今夜こそ泣いても喚いても駄目だぞ」 八十吉はのしかかるように云いながら、強く娘の体を引寄せた。お絹は反抗しなかった。八十吉は憎みとも愛情ともつかぬ、烈しい情熱が胸へつきあげてくるのを感じ、力を喪った柔かい娘の体をぐいぐい引緊めながら、 「どうだ、これでも逃げられるか、どうだ」 上づった声で、喘ぐように、「おれは、貴様を殺してやろうとまで思切っているのだぞ、さあ逃げてみろ、どうだ」 と荒々しくお絹を揺り立てながら、大きな榧《かや》の幹へと押しつけた。 お絹は黙っていた、眼を閉じ歯を喰しばってされるままになっていた。そして榧の幹へ背中を押しつけられたときである、張出ていた根に足をとられて、どうと倒れたとたんに、誰かが大声に、 「この馬鹿者!」 と喚くのが聞え、同時に八十吉の体が自分から離れて宙へ浮くのを感じた。 「あっ、貴様」 「馬鹿、馬鹿」 平手打ちの激しい音がして、だだ! と体を揉合う気配、お絹が跳起きると同時に、ぽきりと骨の挫《お》れる音、 「あああ――」 痙攣るような悲鳴とともに八十吉が倒れる、相手はがっしりと仁王立ちになった、月の光に見ると思いもかけぬ鹿之助だから、お絹は弾かれたように駈寄って、 「わ、若様――!」 と縋りつく、鹿之助はそれを押退けて、 「やい八十吉」 と倒れている八十吉へ喚いた、「貴様耻ということを知れよ。おれの云う言はこの一言しかない、いま挫いた腕の骨が痛む限り、おれの言葉を忘れるな」 「斬れ、斬って行け」 八十吉は苦痛を耐えて叫んだ。 「馬鹿な、貴様のような卑しい奴を斬る剣は持たぬ、口惜しかったら自分で死ね」 云い捨てて鹿之助は大股に立った。 お絹は小走りに追いついたが、鹿之助は見向きもせず元の場所、――母の墓前へ戻った、まさに割腹しようとしていたところを、思わぬ出来事のために遮られて、張詰めた気持はすっかり外れてしまった。 「若様、どうしてこんな所へ来ておいでになりましたの」 「うるさい、あっちへ行け」 「あら!」 鹿之助が墓前に置いた差添を拾いあげるのを見て、それから寛げた衿のあいだに逞しい腹が覗いているのに気付くと、お絹の敏い勘はすぐに事情を察した。 「若様は、お腹を召しにいらしたのね」 「馬鹿! 行けと云うのに」 「何故そんなにお怒りなさいますの?」 「当りまえだ」 鹿之助は手早く衿を掻合せて、「貴様は、偽手紙で誘《おび》き出されたそうだが大体鹿之助ともある者が、夜陰の墓地へ女を誘い出すような男だと思っていたのか、馬鹿者! 八十吉も卑しい奴だが貴様も底の知れぬ馬鹿者だ、貴様のような女は騙されるのを待っているようなものだ、行け!」 「行きません」 お絹はきらきらと眼を光らせた、「若様はお腹を召しにいらしったんです。八幡祭りで白雲峰右衛門と相撲を取ったことが知れて、それで御切腹なさるのでしょう?」 「それを貴様の知ったことか」 「お絹は馬鹿です、若様の名で来た偽手紙を、疑ってみる余裕《ゆとり》もないほど……馬鹿です、でもあたしが騙されて来たお蔭で、若様のお生命をお助けすることができました、お絹はお側を離れません、どこまでも御切腹の邪魔をして差上げます」 「おれは腹など切りに来たのではない」 「ではお帰り遊ばせ」 「そんなことの指図を受けるか」 鹿之助は事実もう自害の決心を喪っていたのである。八十吉の腕の骨の折れる音が、掌《たなごころ》から頭の心へ伝わってきた刹那に、何とも云いようのない力が、腹の底から湧上ってくるのを感じたのだ。勝つことの快感は人に生きる悦びを与える――鹿之助には、切腹することよりも外に、もっと立派な、もっと武士らしい責任の負いかたと生きかたが有るように思えてきたのである。 鹿之助は乱れた衣服を正すと、今はもう宇都宮藩士山内伊織の二男でなく、一人の牢人山内鹿之助としての新しい大望へ向って、力強い一歩一歩を踏出して行った。 [#8字下げ]三の一[#「三の一」は中見出し] 天正十八年、徳川家康が入国して以来四十余年、江戸はまだ微々たる一城市に過ぎなかったが、寛永十一年に至って譜代大名の妻子を江戸に置くことが決定し、次いで十二年、参覲交代の制が成って外様諸大名もまたその家族を移すに及び、市中はにわかに活気を呈し始めた、諸侯の邸宅は境を接して新築され、従って入府する諸家士藩臣またその数を知らず、同じく十三年江戸城惣郭造営のこと成るや、諸匠人工商家の発達も驚くばかり、市域は延び街巷は整い、ここにまったく将軍家お膝下としての大江戸が現出するに至ったのである。 さてここにおいて、もっとも注目すべきは町人階級の勃興である。元来、関東は生産物の少ない新開の地であったところへ、政治の枢軸たる幕府の権勢確立とともに、江戸市中は三百諸侯はじめ消費階級たる武士たちの数が激増し、さながら一大消費都市と化したから、各地より物資移入の必要を生じ、為に商業の発展はいうまでもなく、貨幣制度の改革、一株市場、金融機関の進出等、諸商家および御用商人はめざましくその勢力を伸暢しはじめた。 しばらくして町人階級の生活力は次第に根を張って行ったが、当時の思想は依然として士農工商の順序が厳格に固守され、商人たちは常に武士階級からの圧迫を甘受しなければならなかった。そこで――豊かな財力を擁した彼等は、対抗上ことに力の代行者を必要とするに至ったのである、いうまでもなく、それは男伊達《おとこだて》という存在であった。 男伊達、いうところの侠客なる存在が生じたのは、勿論その外にも多くの理由をもっているが、一般町人階級や富商達が武士の権力に対する己の代弁者として、彼等に依拠し、これを庇護したところに、彼等の存在が社会的意義をもちきたったことは否めない事実であろう。かくして寛永から正保へかけて、男伊達の輩出するもの踵を接し、なかにも夢《ゆめ》の市郎兵衛《いちろべえ》、放駒四郎兵衛《はなれごましろべえ》、幡随院長兵衛《ばんずいいんちょうべえ》、鐘《かね》の弥左衛門《やざえもん》、深見重左衛門《ふかみじゅうざえもん》等は、その巨擘《きょはく》として知られていた。――ところで、それと同時にもう一つ注意すべきことは、市中に於ける牢人群の汎濫である。大坂の役から僅々二十年ほどしか経っていなかったが、同役において主家を失った人々の多く、それ以後に徳川幕府の政策の犠牲となって取潰された諸大名の家臣等など、扶持を放れた牢人の群が、出世の途を求めて続々と江戸へ入込んでくるのだ。しかし、既に泰平の機運動かすべくもない時で、諸侯はこれ等を召抱える必要がなかったし、たとえ特殊の人物がたまたま仕官に有りついたとしても、その数は実に微々たるものであって、大多数の牢人群は将来の希望もなく巷間に窮乏の日を送る状態だった。 富を擁して次第に社会的位置を高めつつある商人、階級的権力を以てこれに対峙する武士、両者のあいだに新しい地歩を占めつつある侠客、そして光明を喪った多くの牢人群……繁昌を誇る大江戸の坩堝《るつぼ》には、これらの要素が渦をなして相|鬩《せめ》いでいた。 故郷宇都宮を出た山内鹿之助が、胸中に大望をいだいて、乗込んで来たとき、江戸の情勢はおよそ右に述べたような有様だったのである。 [#8字下げ]三の二[#「三の二」は中見出し] 「これへ出ろ、出ろと申すに、町人」 めっきり秋の風情を増してきた向島|木母寺《ぼくもじ》の森のそとは、今宵十七夜の月を待つ人たちで賑わっていた。墨田の流れを前にした草地へ、思い思いに毛氈《もうせん》を敷き、酒や弁当をとりひろげて、まだ黄昏というのに早くも絃歌のさざめきさえ起っている――その中で、有福な商家の者と見える七八人の一団が、妓《おんな》交りにひときわ浮かれているところへ、通りかかった一人の牢人者が威猛高に罵りかかったものである。 それ始まったと四方から集まって来て、遠巻きにする群衆を後眼に、牢人者は大剣を左手にひきそばめながら、 「牢人たりとも麻田邑右衛門《あざだむらえもん》、町人ごときに酒をうち掛けられては武士の面目が立たん、これへ出ろ、ぶち斬ってくれる」 「どうぞ御勘弁ください、御覧のとおりみんな酔っておりますので、お通りかかりとも存じませずつい盃の酒をあけましたので、まったく粗忽でございますどうぞ平に…」 「ならん、粗忽で済むことと済まぬこととある、成上り者の黄白に染んだ酒で大剣を穢されたからは、その穢れを洗う法は一つしかない、えい出ろと申すに」 年は三十二三にもなろうか、色|蒼白《あおざ》め、鬢髮伸び、垢染みた縞の帷子《かたびら》によれよれの袴、見るからに落魄した風俗である。――縮みあがっていた七八名の中で、年配の男がようやく牢人者の目的を察したらしい、手早く紙入れを取出して幾許《いくら》かの金を包むと、 「誠に御無礼なことを申上げるようではございますが、手前どもの過ちで御差料をお汚し申しましたことは、何とも申訳ございませんが。如何でございましょうか、甚だ礼儀知らずな言分ではございますが、お汚し申した御差料をお拵え直して頂くとして……」 と金包を差出そうとする。 「そのほうは、何だ?」 浪人が喚いた時である。 「待たれい」 と叫んで、遠巻にした群衆の中から、ずいとそれへ立現われた者がある。――牢人者が振返って見ると、埃だらけの衣服に草鞋《わらじ》ばき五尺七八寸あろうという逞しい体で、まだ前髪のある男が近寄って来た。いうまでもなく、山内鹿之助である。 「待てとは、何だ」 「仔細はあれで拝見仕った。失礼ながら町人どもはあのように詑びておる。過ちは誰にもあること、もういい加減に赦しておやりなさい」 「黙れこいつ、見ればまだ前髪のある分際で、要らぬことに口出しをするな、すっ込んでおらぬと貴様も唯はおかぬぞ」 「面白い――」 鹿之助は一歩出た「せっかくこうして止めに入った以上、このほうも黙ってそうかと引込むつもりはない、唯はおかぬというとどうするのか」 「望みとあらば思知らせてくれよう、いざとなって逃げるなよ」 「果合か――」 牢人が柄へ手をかけるのと、鹿之助が二三間とび退くのと同時だった。 この問答のあいだに、肝心の商人たちは素早く道具を片付けて、こそこそと何処かへ逃げてしまったが、二人はそんなことに気付く暇もなく、互いに大剣を抜いて相対した。――鹿之助は臍緒《ほぞのお》切って初めての真剣勝負だったが、いちど母の墓前で割腹しようとした時、死に直面した一種の境地を味わっているので、気のあがっている割には神の鎮澄を感ずることができた。 相手は剣を中段にとって、なにをこの小伜と云わんばかりに、 「えい、え――い!」 声をかけながら、ずいと一二歩すすみ出た。鹿之助は応えずに、中段の剣をそのまま上段へすり上げる、――圧倒するような呼吸、 「えい――ッ」 喚きざま斬下した。刹那! 「あっ」 と云って牢人は、きりきり舞いをしながら二三間とび退く、鹿之助が踏込むのを、慌てて手を振りながら遮った。 「ま、待て、待て」 「待てとは――」 「待ってくれ、貴公…本当に拙者を斬るつもりか」 牢人は痩せた手を前へ差出して、及腰になりながらせいせい[#「せいせい」に傍点]息をついている。鹿之助は拍子ぬけがして剣をおろした。 「本当だとも、冗談に剣は抜かぬ」 「驚いた男だ、こんなことでそうむやみに斬られて堪るものではない、まあとにかくその剣を納めてくれ」 牢人は冷汗を※[#「さんずい+参」、第4水準2-78-61]ませながら自分の剣を納めると、群衆のほうへ振返って、 「こやつら、見世物ではないぞ――!」 と喚いた。――吃驚してわあっと散る群衆のかなた、遠野に霞む森の上へ、鈍い色の月がいつかのっとさし覗いていた。 [#8字下げ]三の三[#「三の三」は中見出し] すっかり暮れた堤の上を、鹿之助は牢人麻田邑右衛門と肩を並べて歩いていた。 「食えないからだ」 邑右衛門が云った、「牢人はみんな食うにすらこと欠いているのだ」 「しかし、いくら食えないからとはいえ、あれではまるで押借、強請《ゆすり》の類ではありませんか」 「その外に方法があるか、――あいつらの懐中《ふところ》は狡猾な商法で貯めこんだ不浄の金でふくれているのだ、我々が生命を投出して戦場に働き、世を泰平にしてやったからこそ、あいつらは安閑と金儲けができるのではないか。それをみろ……やつらは町人の分際で妓を伴れ、美酒に喰い酔って騒ぎおるのに、この邑右衛門は今日で二日も飯を喰べていないのだ」 鹿之助はごくりと喉を鳴らせた。彼もまた昨日の早朝宇都宮を立って以来、水を飲み飲み一粒の食も採らずここまで来たのである。 「高が一両や二両、やつらにすれば妓の塵紙代にくれてやる金であろうが拙者にとっては六七十日を支えることができる――それがもう少しで手に入るところを、貴公の邪魔ですっかりめちゃめちゃになってしまった」 「それにしても、あんなことまでして生きなければならぬとは、どうしても合点が参りませぬ」 「貴公は知らぬからだ」 邑右衛門は力の抜けた下腹をぐっと息ませて、「どんなに落魄したって武士は武士だ、町人を威して僅な金にするなどということを恥じぬやつはない、だが、その外にどうしたらいいかい、物心つく頃から兵法と切腹の仕方だけしか知らぬ我等、扶持を放れてどう生きる?――何をしたらいいのかい、食わずに死んでしまえとでも云うのか」 「そう仰せられずとも、この広い江戸に出世の緒口の一つや二つ無いはずは」 「そんなことは夢だ」 邑右衛門は嘲るように遮った、「すでに百年泰平の基礎は定っている、加藤、福島などという大所が除封されても、もはや一人として徳川に反抗する者は無い、――城壁の石ひとつ直してもすぐ幕府の監察に睨まれ、逆意ありなどと云われる状態で、誰が迂濶に牢人者などを召抱えるか」 鹿之助は絶望を感じ始めた。 江戸へ出れば出世の途《みち》はごろごろ転がっていると、思って来たのだ。将軍家のお膝下で三百諸侯の邸宅があり、一世の繁昌を※[#「言+区」、第4水準2-88-54]歌すると聞いていた江戸だ、才能さえあればどんな立身の緒口にもありつけると信じて来たのに、これはまた何ということであろう――こんなことなら母の墓前で割腹するほうがよかった。鹿之助は思わず心の内に歎息した。 「ところで貴公」 邑右衛門はふと蒼い顔を振り向けて、「見たところまだお若いようだが、江戸勤番の御家中かそれとも――」 「牢人でございます」 「なに牢人、ほう貴公も……」 「実は父に勘当されまして、一度は切腹するつもりだったのですが、思いかえして出府する気になったのです」 「江戸にはお身寄りでもお有りか」 「ございません」 麻田邑右衛門は眉をひそめた。――この時、二人の行手に人声と唄うのが聞え、七八人の巨きな男伴れが近寄って来たので、こちらは道を端へ避けなければならなかった。 [#ここから折り返して2字下げ] 「――ひとくち茄子を置いてきた いんやさ、ひとくち茄子に紅のついたを置いてきた」 「――やんれどこへおいてきた」 「――よんべの船宿へとんと忘れた 可蔵《べくぞう》ちえだす分別は」 「ねいねい、ねっからないないおんじゃりもうさないよさ」 「――とかく恋路は気がもめる……」 [#ここで字下げ終わり] やんやと唄い囃しながら通り過ぎるのを見ると、いずれも六尺豊かな巨躯に一本刀、肉瘤の盛上った肩で風をきらんばかりの伊達者であった。鹿之助は暫く見送っていたが、 「あれは何者ですか」 と訊いた。 「新規お許しになった寄合部屋の相撲だ、この辺を歩いているところをみると、恐らく深見重左衛門《ふかみじゅうざえもん》の部屋の者であろう」 「はあ。して寄合部屋の相撲とはどういう者のことでございますか」 「まあいい」 邑右衛門は興も無さそうに、「そんなことは追々と分るさ。それより貴公、腹がへっているのではないか」 「実は私も昨日から一度も喰べませぬ」 「昨日からというと、では――貴公も懐中は空だな?」 邑右衛門は気の毒なほどがっかりして、さも忌々《いまいま》しげに舌打をしながら呟いた。 「ああ、せめておれも体さえあったら、寄合部屋へ転げこんで相撲にでもなろうものを」 [#8字下げ]四の一[#「四の一」は中見出し] その建物は正しく廃寺であった。 江戸の繁昌も浅草寺までの賑いで、浄明院の数から北は見渡すかぎりの田圃、処々に雑木林を取廻した農家が点々とあるくらいのものだ。後に新吉原の遊女街ができた辺は、まだ山谷堀の水が広く沼地を造っていて、一年中じくじくと湿った葭原に過ぎなかったのである。――牢人麻田邑右衛門が鹿之助を案内して来たのは、その葭原を前にした千束村の数の中で、そこには藁葺《わらぶき》の朽ち屋根に軒も傾き、羽目板の剥げたところから裸壁の覗いているという、実にみじめなくらい廃朽した一棟の家があった。恐らく小さな庵寺の跡であろう、軒先には縁彫りのある扁額が掲げてあるし、脇手の薮の中には卒塔婆と思える板片の腐ったのが投出されてあった。 邑右衛門と鹿之助がその薮の中へ入って行った時、荒果てた前庭で一人の牢人者が、地面に穴を掘って造った釜戸で大鍋を焚きつけていた。 「唯今戻った――」 邑右衛門が声をかけると、相手は、痩せて鋭くなった顔を振向けて、 「やあ」 と答えた。半面に焚火の光を受けてまざ[#「まざ」に傍点]と闇の中に浮出た男の顔は、まるで地獄から這いあがって来た幽鬼のように凄く見えた。 「何かうまいことがあったかよ」 「草臥《くたび》れだけを儲けて来た、おまけに同志を一人拾っての」 「うむ――?」 男は眼を剥いて鹿之助を睨んだ。邑右衛門は鼻をひくひくさせながら鍋を覗きこんだ、 「今夜は何か食えるのか」 「銕兵衛《てつべえ》が粟をまかない[#「まかない」に傍点]おった、それに拙者が沼で野鶏を捕ってきたからいま粟鶏粥と洒落ているところだ――客人、まあ上へおあがりなさい」 「は、かたじけのう……」 鹿之助は叮嚀に小腰を跼めた。 元の庫裡と思われる所は壊れていたが、本堂のほうは破れた床板の上に古畳が四五帖あって、どこから拾ってきたか、古ぼけた短檠《たんけい》が一基、鈍く光を放っている。そしてその光のなかに三四人の牢人たちが、寝転んだまま声高に何か話していたが、邑右衛門の鞏音《あしおと》を聞いて振返った。 「やあ但馬守帰城だな」 「何かうまいことがあったか」 訊くことは同じだった。 「うまいことか?」 邑右衛門はどっかと座って、「うまいことはあった、少なく見積っても五両がとこ……」 「え? 五両、ほ、本当か」 みんな一度にはね起きた。 「まあ急くなよ」 邑右衛門はにやっとして「正に五両がところ手に入ろうとしたのだがな――駄目だった」 「なに駄目だ。おい、あんまり罪な冗談を云うな、おれの胃腑は口までとび出してきたぞ」 「ちょうどいい、そいつをここへ出さんか、みんなで煮て喰べてやろうじゃないか、胃腑は腹の薬というぞ」 「馬鹿を、熊の胃ではあるまいし」 力の無い声でひと笑い鎮まると、邑右衛門は向島の件を話して鹿之助を皆に引合せた。椙井銕兵衛《すぎいてつべえ》、太田亮介《おおたりょうすけ》、鈴木基左衛門《すずききざえもん》、島田靱負《しまだゆきえ》というのがそこにいる牢人たちで、庭で粥を炊いているのが鯖島弾市《ざばじまだんいち》という福島牢人だということを鹿之助は知った。 「鯖島は明日愛宕山へ行くそうだ」 太田亮介がやがて気の無い声で云った。 「愛宕に何かあるのか」 「例年の奉納仕合さ、それが今年からとびいり[#「とびいり」に傍点]勝手となったそうだ、うまく勝越すことができれば殊によると出世の口にありつけるかも知れぬ」 「冗談じゃない」 邑右衛門は膝をついて寝転んだまま「奉納仕合の宰領は小野次郎右衛門《おのじろうえもん》がするくらいで、旗本の腕利き、諸侯の家中から選抜きの達者が集まって来るのだ、我々痩せ牢人が出たところで、まあ片輪にされて帰るのが落だろう」 「片輪になれば乞食で食へるさ」 基左衛門が嘲るように口を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]んだ。 「我々ならそうかも知れぬが、鯖島は案外やるかも知れぬぞ、彼の諏訪派は相当なものだと思う、――なあ鈴木」 「あの犬を斬った手際か?」 再び虚ろな笑いがひろがった。そして、それが鎮まると基左衛門が、溜息をつくように呟いた。 「あの犬は旨《うま》かった」 「犬か。武士も犬を食うようになっては終いだ」 銕兵衛が泣くような声でいて、どたりと仰向に身を倒した。 鹿之助の十六歳の神経は、この惨澹たる世路艱難《せろかんなん》の相に圧倒されて、身動きのならぬ絶望を感じ、溺れる者のような息苦しさに責められるのであった。――そこへ、鯖島弾市が大鍋を運んで来た。 [#8字下げ]四の二[#「四の二」は中見出し] まだ明けきらぬ空を、隅田川のほうから一羽の鵜《う》が浅草寺のほうへ向って飛過ぎていった。 鯖島弾市は古井戸で身を潔め、ゆうべの残り粥で腹を拵えると、まだみんな眠りこけているあいだに身支度をして廃寺を出た。葦の茂っている沼地には濃い乳色の朝霧がたち靄《こ》め、行々子《よしきり》の声が遠く近くしはじめている。 「――お待ちください」 うしろから呼ばれて振返ると、大剣を腰へ差しながら山内鹿之助が追って来た。 「どこへ行かれる」 「御一緒に参りたいのです」 弾市は不審そうに見やって、 「一緒に行くと云って、拙者の行先を知っているのか」 「愛宕山へおいでなさるのでしょう」 「しかし遊山ではないぞ」 「奉納試合のことを伺ったのです。私もぜひお伴れください」 弾市は苦笑した。 「というと貴公も試合に出るつもりか」 「やってみたいと思います」 「止したほうがいいな……」 「何故ですか」 弾市は答えずに歩きだした。 鹿之助は黙って跟《つ》いて行きながら、鯖島弾市の横顔を見た。廃寺のなかに逼塞している牢人たちは、いずれも生きる望を喪って、その日その日の飢を凌ぐことしか考えず、一椀の食のためにはどんな浅猿《あさま》しいことをも辞さぬまでに落魄していた。――その中にあって独り鯖島弾市だけは、どこかにまだ情熱の燻りをもっているかに見える。痩せた頬、落窪んだ鋭い眼、肉付の悪いかさかさに乾いた手足、どこを取ってみても敗残の哀しい姿ではあったが、つきあげた肩つきや身構えにはまだ負けぬ気の閃きがみえ、ことに今朝は髪を結いあげているせいもあるが、憔悴した相貌が一種の凄気をさえ帯びていた。 「――どうしても行く気か」 暫くして弾市が云った。 「お伴れくださらなければ独りでも参ります」 「伴れて行かぬとは云わぬ、だが――帰りは独りになるぞ」 「――貴方は帰らぬのですか」 「帰るとしても、死体になってのことだ」 「……?」 鹿之助が驚いてかえり見ると、弾市は引結んだ唇を歪めて微かに笑っていた。 「今日の試合には江戸中の達者が集る、旗本の乱暴者も来る、なまなかの腕で勝てる訳のものではない、――それに、今年から牢人のとびいりを許すということには、別に少し仔細があるのだ」 「腕の優れた者を取立てるという……」 「表向はそういうが、本当のところはまるで違う、底を割っていえば要するに牢人狩りなのだ」 「牢人狩り――といいますと?」 「これ以上江戸に牢人者が殖えてはならぬのだ、現在でさえ幕府は困っている、巷に溢れている牢人たちはいずれも大志を懐きながら食うにこと欠き、才能のある無しに拘らず将来の希望も無く、満々たる不平に胸を焦しているのだ。もうひと息、ほんのもうひと息窮迫すれば、この不平がどう爆発するかも知れぬ」 鹿之助はごくりと唾をのんだ。 「現在でさえこの有様なのに、これ以上牢人者が殖えたらどうなる。――幕府の政治は、今や徳川家千年の礎を固めるために、大藩の取潰し、諸侯の勢力削減を計ることは必至だ。順って牢人者は殖える一方なのだ、そしてこれらの牢人たちが、出世の緒口を求めて江戸へ来るのも当然な帰結だ。ここに幕府の自縄自縛がある……政治の上から歇《やむ》を得ずして牢人をつくりながら、その牢人をどうするかということには方策がない、しかも殖える一方の牢人たちは、これ以上捨ててはおけぬ危険を孕みつつある――貴公は家光の牢人狩りを聞いたことがあるか」 「存じませんが――家光とは?」 「将軍家光だ」 弾市の眼がきらりと光った。 「二年ほど前のことだが、家光は小野次郎右衛門《おのじろうえもん》とその腕利きの門弟両三名を供に、夜中城を出て牢人者を斬って歩いた」 「――それは、本当ですか」 「小野の道場に通っている者から聞いたのだが、事実その当時しばしば牢人者が辻斬に遭って屍を曝していた、次郎右衛門が介添をして家光が斬ったのだ。――牢人ども、うろうろしているとこの通りだぞと、云わんばかりの遣り方であった」 鹿之助にはさすがに信じられなかった。如何になんでも少し穿ちすぎた話である、牢人を脅すという意味は分らなくもないが、将軍自ら手を下す必要があるであろうか。 「今日の試合にも同じ意味があるのだ」 弾市は静かに続けた。 「とびいり[#「とびいり」に傍点]勝手と云えば、世に出る機会を狙っている牢人たちが集まるのは知れている、そこでこれを取詰めて厳しく立合わせ、あわよくば打殺すか、少なくとも片輪にしてやろうという底意がある。いや、ただ底意があるというばかりではない、現に次郎右衛門は腹心の門弟たちに旨を含めたということだ」 「どうしても私には信じられませぬが」 「そうかも知れぬ」 弾市は自嘲するように首を振った。 「年も若く、世間の機構《からくり》にも疎い貴公には、こんなに凄じい話は信じられぬかも知れぬ。だが……時勢はこうなのだ、そしてやがて貴公にもそれの分る時が来るだろう」 「では貴方は、それを承知の上で試合に出ようとおっしゃるのですか」 「拙者はもう生きることに飽きた、武士の誇どころか人間の誇さえ持つことができず、蛙や犬を殺して食い、落穂を盗んだ雑炊に飢を偽わって何のために生きて行くのか――もう沢山だ、せめて最期だけは武士らしく死にたいと思う」 弾市の声には言葉とは逆な、一種の明るい力さえ籠っていた。――朝霧はいつか薄れて、ようやく動きはじめた街巷《ちまた》の上に、強い朝の日ざしが縞をなして輝きだした。 「それでも一緒に来るか」 「参ります」 鹿之助は期するところあるごとく答えた「そして、私も試合に加わります」 [#8字下げ]四の三[#「四の三」は中見出し] 坂の登口に幕張りの番所があって、五六名の武士が控えていた、とびいり試合を願出る牢人たちの姓名を書留めるのだ。弾市と鹿之助が着いた時にはすでに三十人ばかり来て番所の前に並んでいた。若いのでも二十四五、多くは三十歳左右の者で、中に六十近くの老人が一人いた。鹿之助はこの老人が姓名を尋ねられた時、 「もと加藤肥後守の牢人|多々羅六右衛門《たたらろくえもん》」 と答えるのを聞いた。 鹿之助の番になった時、書き役の武士は筆を控えてじろりと見上げた。前髪のあるのを見て不審に思ったらしい。 「とびいり試合をお望みか」 「はい」 「何歳になられる」 「十六歳になります」 書き役は改めて鹿之助の体を見上げ見下していたが、 「今日の試合は烈しいから、命を落すかも知れぬし手足を打折られるかも知れぬ、まだ年少のそのもとなどは控えたほうがいいと思うが」 「武術の試合を望むからには、素より命は惜みませぬ、打殺されたら屍は野にお捨てください」 鹿之助の張のある声を聞いて、隣にいた中老の書き役が振返った。 「良い覚悟じゃの、しかしそのくらい立派な体があるなら、何もわざと危険な火を浴びるより、寄合部屋へでも入ったらよかろうが、考え直してはどうかの」 「そうだ、この体なら立派に大関相撲になれるのう」 鹿之助は黙っていた。 番所を通過ぎて女坂を登ると、愛宕神社の境内に広く幕をうち廻してあり、中ではすでに奉納試合が行われていた。これは未明から始まるので、もう番数も余程進んでいるらしく、済んだ人たちは武者溜に屯《たむろ》をなして見物していた。 「小野先生はどこにいるのですか」 「あすこの牀几《しょうぎ》にかけている五人の真中にいる老人がそうだ」 筵を敷いた控溜から伸上るようにして見ると、幕を絞った上座に五人の武士が検分をしていて、その中に鬢髪の半白な、痩形で肩幅の広い老人が右手に自然木の杖を持って、じっと試合の様子を見戍っていた。 「あの左手に並んでいるのが旗本組で、白帷子を着て肱を張っている男が水野十郎左衛門《みずのじゅうろうざえもん》だ。近藤登之助《こんどうのぼりのすけ》、阿部播磨《あべはりま》、長坂《ながさか》、渡辺《わたなべ》などという連中もいるのだろうが顔を知らぬ――それから右手に並んでいるのが諸侯の家士。町道場の剣士は向うにいる」 弾市の言葉を聞きながら、鹿之助はいつか身内に強い力の盛上ってくるのを感じていた。 当代の剣の高峰、小野次郎右衛門をはじめ旗本の諸豪、名だたる剣士がとこに集まっているのだ。武道を志す者にとってこれ以上晴れの場所はない、たとえ手足を折られようと、また武運拙く落命して果てようとも、この場所でなら悔むところはない、 「存分に働いてみせるぞ」 鹿之助はひそかに頷いた。 それから半刻ほどすると、ようやく、とびいり試合が始まった。いままでは袋竹刀であったのに今度は木剣である、立合は同時にふた組ずつで、相手には次郎右衛門の高弟たちが当り、また町剣士の達者のうちから選ったのも出された。 弾市の話を聞いて、半信半疑ながらもその烈しさを覚悟していた鹿之助は、しかし――第一番の試合を見て予想以上なのに愕いた。 一番に出た二人の牢人の内、東側の一人はほとんど木剣を構える暇もなかった。挨拶をして一歩さがろうとする、とたんに相手の体が躍ったと見ると、が! と頭蓋骨の砕ける音を立てながら、牢人は仰さまに顛倒した。――これを見た控溜の牢人たちは、はっと息をひき、思わず低く呻声をあげた。そして、同時に出た西側の者が脇胴へ猛烈な一撃を喰って、鼻口から血を吐きながら斃れた時……控溜にはさっと冷たい沈黙が流れ、居並んでいる者のどの顔もひき歪んで、凄じい妖気を孕むかに思われた。 「――次!」 審判の呼ぶ声に、 「応!」 と答えて立ったのは、若い土佐牢人と鯖島弾市の二人であった。 [#8字下げ]四の四[#「四の四」は中見出し] 鯖島弾市は手早く身支度をして――そのまま控溜を出ようとする、その様子はまったく落着を失っていた。鹿之助は思わず、 「鯖島さん!」 と叱りつけるように声をかけた。弾市はぎくりとしながら振返った。両眼が上ずっているし、顔色は蒼白め、木剣を握る手は微かに顫えている。駄目だ、鹿之助は心のなかで舌打をしたが、相手の眼を睨みつけながら、 「骨は私が拾います。存分に!」 と低い声で云った。 「うん……うん――なあに」 弾市は唇を痙攣らせ、慌てて鹿之助の眼から外向くと己を唆しかけるように大きく肩を揺上げながら出て行った。 あれではひと堪りもあるまい、鹿之助はそう思ってみていたが、しかし試合の場へ出ると弾市の様子は驚くほど変った。――相手は町剣士の中から選ばれた小野派の鳥井重兵衛《とりいじゅうべえ》という男であったが、互いに挨拶をして位取をすると、今まで憔悴していた弾市がにわかに大きくなって見え、殺気に充ちたその気合は、ぴん! と場内に響き透った。 「これは――やるぞ!」 鹿之助は呟いて身を乗出した。 鳥井重兵衛は一挙に勝を制するつもりであったらしい、呼吸を計っていたが、弾市が木剣を上段へすりあげる虚を衝いて、絶叫しながら真向へ打を入れた。弾市は大きく右へひらくと、相手に足を踏替る隙も与えず、 「えい――ッ」 鋭く叫んで上段から面へ、猛烈な一撃を打下した。勝った! と鹿之助が伸上る、と同時に鳥井重兵衛の体がうしろへ二三間跳躍し、弾市は木剣を打下した体勢のまま、だだだと前へのめって烈しく倒れた。――どうしたのだ? 意外な結果に仰天する鹿之助の隣で、 「――卑怯!」 と喚いて立った者がある、見るとあの肥後牢人と名乗る老人多々羅六右衛門であった。老人が立上るのを見ると、警衛に当っていた若侍が二三名走って来て、 「何事だ、騒ぐと退場させるぞ」 と呶鳴った。 「黙れ、これが見※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]《みのが》しておけるか」 老人は大音に喚きたてた「いまとびいりがた[#「とびいりがた」に傍点]の牢人が勝を取ると思われた時、手裏剣を打った者がある、こんな卑怯な」 「何を申すかこの老耄《おいぼれ》」 「けしからんことを云うと摘み出すぞ」 「おお摘み出されよう」 老人は胸を叩いた。 「こんな卑怯な試合は当方から断りを入れる。かねてこのたびの試合は牢人狩りとか噂に聞いたが、将軍家お手直しをも勤める小野次郎左衛門が左様なことを構えるはずは無いと打消していた。しかし唯今見るところによると噂は事実だ。これは武術試合ではない、明らかに牢人狩りだ、牢人を犬のように打殺すための拵え勝負だ、――御同座の諸公」 老人は控溜の牢人たちに振返って、骨張った拳を振廻しながら喚いた。 「いずれもお引取りなさい、いずれも……」 「引摺出せ」 警衛の若侍たちはばらばらと多々羅老人を取詰めて、左右から腕を捻上げ、衿髪を掴んで控溜から引出した。 鹿之助は、老人が、「手裏剣を打った」と云った刹那に、嚇然と胸へとみあげる忿怒を感じ、倒れている弾市の体を動かさず覓めていたが、やがて審判の者の合図で、二人の若侍が弾市を運去ろうとするのを見ると、 「――暫く」 と云って進み出た。 「その鯖島は私の知人でございます。私にお引渡し願います」 審判の武士は振返ると、じろり鹿之助に一督をくれて、 「ならん、ならんぞ」 と冷やかに突っぱねた。 「何故いけないのですか、傷の様子も心許のう存じますし、宿へ伴帰って」 「その必要はない、渠は既に落命しておる」 鹿之助はさすがに胸を刺された。 「……然し、それなれば尚のこと、私が死体を引取ってやりたいと存じます」 「ならんと申すに諄《くど》いぞ、この試合で落命した者は当方で始末をする定だ、親類縁者にも当方から知らせてやる、そのために生国姓名を書留めてあるのだ」 「お言葉ではござるが」 鹿之助はぐいと出た。 「――唯今あの老人が申した一言にも不審がござります、正しく勝負に敗れたものなれば格別、万一にも余人の打った手裏剣で落命したというようなことなれば、同伴して参った者として一応――」 「黙れ、何を申すかとやつ」 審判の者はだっ[#「だっ」に傍点]と鹿之助の胸を突いた。 「仮にも小野先生御宰領の奉納試合に、左様な疑いを※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28]むとは奇怪至極、出ろ、下手なことを申すとそのままにはおかぬぞ――、出て失せい」 鹿之助はきゅっと唇を噛んだ。 [#8字下げ]五の一[#「五の一」は中見出し] 葺屋町《ふきやちょう》の遊女街に燈が入った。 後年浅草の吉原へ移って殷盛を極めたのに比べると、当時はまだほんの仮宅造りで、棟を割った長屋の軒先に掛け行燈《あんどん》も佗びしければ、妓たちの風俗も区々《まちまち》に貧しかった。 昼の隠れ遊びには勤番の田舎侍も来たが、大抵は船夫や人足、または無頼の徒から良いほうで職人たちが客であった。――燈の入った屋内では、風呂からあがった妓たちが、窓際にあらわな肌を見せて化粧をしたり、三味線や唄の稽古をしたりしながら、忙しい宵の人通りに嬌声をなげかけていた。 表通りからひと側裏に『大巴』という家がある、その奥座敷に昼から酒びたりになっているあまり風体のよくない三人の牢人者があった。どうしたことであろう、この三人はひと月まえに千束村の廃寺で見た連中で、太田亮介、椙井銕兵衛、麻田邑右衛門という顔触れである。 「おい安楽城主」 邑右衛門が太田亮介の膝を叩いた。 「どしどし飲《や》れ、貴公いちばん元気がないではないか、さあ酒だ」 「もうならん、眼が舞う」 「ばかな、これしきで酔う奴があるか、久しく飢えていた酒だぞ、酔潰れて死んでも本望というところだ」 「誰だ死ぬなどと云う奴は」 銕兵衛が首をぐらぐらさせて、毛脛をやけに叩きながら喚きたてた。 「拙者は死なんぞ、生きておればこそこの酒も呑める、妓も買える――のう但馬守、人間考えをひとつ変えれば、手を濡さずして歓楽は思いのままだ。ばかばかしい、田鶏と称して蛙を喰い、家猪と号して犬を屠り、落穂の粥を吸って乞食のように暮していたことを思うと、我ながら腹が立ってやり切れぬ」 「それでも我々はこうして、思いのままに酒を呑み妓を買えるようになったからいいが、白痴《こけ》の骨頂はあの鯖島弾市よ」 「うむ、あいつは可哀そうなことをした」 銕兵衛はがくりと首を垂れて、「あいつは時勢を知らん、世の中を見る眼が無かった、だから犬を喰って生き犬のように打殺された、可哀そうな奴だが――馬鹿だ」 「可哀そうなのは弾市だけではない」 太田亮介が悵然《ちょうぜん》と呟くように云った、 「我々三人だとて同様だ、お互いに立身出世して、あっぱれ父祖の名をあげようと誓っていたのが、今では博徒の走狗となって巷の汚穢にまみれている――人を脅し、女を掠め、悪業を尽して僅かな酒と色に己を偽っている……馬鹿さ、哀れさは弾市に劣ってはいない」 「また安楽城主の愚痴か、もうその泣言なら聞飽きているぞ。まあ呑め――貴様は酔わぬからそんな愚痴が出るのだ」 「そうだ、酔わなくてはいかん。聞けよ太田、人間はいつも自分に取って一番大事なことを考え、それを実行しなくては駄目だぞ、何が一番大事か?」 銕兵衛がぐいと顎をしゃくった、「芸術か、誇りか、面目か――違う、そんなものは夢だぞ。たとえば貴公があと一刻のうちに死ぬと定ったらどうする、芸術を励むか? 面目を立てるか? 家名を挙げるか? ――ばかな。一刻後に死ぬ人間に何の芸術、何の家名だ。まず美酒を飽くほど呑み、珍味を腹の裂けるほど喰い、美女を擁して娯む……これが誰にとっても一番の望みだ。その他のことは虚栄だぞ、白昼の夢だぞ。百年の生命があると思えばこそ人間は徒に遠廻りをするが、一刻後に死ぬと定れば誰の考えもひとつの筈だ、――一刻後と十年後とどれだけの差がある、安楽城主……おい、貴様もっと腹を据える必要はないか」 太田亮介は黙って俯向いていた。 「もういい、理屈は沢山だ」 邑右衛門がうるさそうに手を振った。 「それより呑もう銕兵衛――や、いつの間にか妓どもがいなくなった」 「酒も無いぞ」 邑右衛門は手を鳴らした。――不浄の金で遣いぶりは良いが人柄が悪いので、妓たちはともすると座を外すのである。 「お呼び――?」 二十七八になる卑しげな妓が顔を出した。 「よう、妙な化物が現われたぞ」 銕兵衛は酔眼を剥いて、「どこから蛹《わ》いて出た、貴様は? 鍋の尻へ米粉をなすったような面で妖奇な声を出すな」 「どうでもようござんす、御用は?」 「脹《ふく》れるなよ、世の中に女種の尽きる時が来れば、それでも通用するには違いない、安心して酒を持ってこい」 妓はなにをこの蛆虫が――という顔で、返辞もせずに立とうとするのを、 「待て待て、酒も急ぐが妓どもの消えたのもけしからんぞ、妓どもを呼べ」 「今みんな支度を直しているところですよ」 「過ぎた相手だと思って精々|粧《つく》るか、よかろう、――おっと、それなら別に註文がある、さっき酒を運んで来た小娘、あれに酌をさせてくれ」 「あんな田舎者に大層な御執心ですね」 「余計なことを申すな、貴様は皮肉を云うような面ではない、黙って消えてしまえ」 妓はぶすりと立った。 [#8字下げ]五の二[#「五の二」は中見出し] 間もなく酒を運んで来た小娘がある、袖口の詰った薙刀袂の着物に、引結びの帯のはしを――小さな腰の上へ垂れて、油気のない髪を背にさげた身妝《みなり》は、ひと眼で客に出す妓でないことが知れる。 「や、小女郎の御入来じゃ、かたじけなし、かたじけなし」 邑右衛門は眼を細くして、「さ、ずっとこっちへ、そこではいかん、ずっとこっち」 「あれ、お酒がこぼれます」 「拙者もこぼれます」 邑右衛門は娘の肩へ手をのばしたが、娘は鼬のように身軽く、男の手をすり脱けながら酒徳利を平膳《ひら》へ置いた。 「そう薄情にせずにちとこっちへ寄れ、羞しいのも今のうちで、やがては男の側が離れられなくなろう、色の諸分とやら、恋の何とやら、この麻田邑右衛門が手解《てほどき》を……」 「わははははは」 銕兵衛が腹をゆすって笑った、「色の諸分まではいいが、麻、田、邑、右、衛、門――ときてはどうも堪らぬ」 「これはけしからん、友達が先になって裏切るとは心外千万」 邑右衛門はがぶりと酒を呷って「したが娘、見たところまだ年若に思うが、そなたもこの家へ客勤めに買われてきたのか」 「いえ、そうではありませぬ」 娘は賢しげな眼を振向けて、 「お江戸に尋ね人があって参りましたばかり、ここはただわたくしの知辺というだけでございます」 「その若さで尋ね人とは怪しいぞ、誰だ」 娘は笑って答えなかった。 「こいつめ、さては国許で男と馴合い、親の眼をかすめて駈落ちでもしたな」 「そんな浮いたことではありませぬ」 「いやいや顔に出ているぞ、いくら……」 「黙れ但馬守」 銕兵衛がまた毛脛を叩いた。 「相手をよく見て物は申すものだ、この娘の眼を見ろ、泥中の蓮、芥溜の鶴、まだいささかも汚れに染んでおらぬぞ、拙者が察するにこれは仇討だな、そうであろう娘、親の仇か兄弟の仇か、とにかく仇を捜しているに相違ない、どうだ」 「ほほほほ、そうかも知れませぬ」 「それみろ、見る者が見れば的は外さぬ、して相手は何だ、武士か町人か」 「お侍でございます」 「武士とあればとても娘一人の手には負えまい、よし、この椙井銕兵衛が助太刀をして進ぜる、必ず仇は討たせてやるから安心せい、――ところで一盞酌だ」 娘は酒を注いでやると、 「本当に助太刀をしてくださいますか――?」 「武士に二言はない」 「けれど銕兵衛に人は斬れない」 邑右衛門が茶々を入れた。しかし娘は案外に真面目な様子で、 「助太刀までして頂けなくとも、貴方様がたは世間もお広うございましょうから、相手を捜していただきましたら……」 「それは無論のことだが、助太刀もぜひしてやる、こう見えても拙者は神道流の極意に達した腕でな」 「逃足の早いのも得意だ」 「うるさい、邑右衛門は黙って酒を呑んでおれ。――で、その相手はどんな奴だ、どこかの家中にいるのかそれとも牢人か」 「今は御牢人だと思いますが」 「名は何という」 娘は相手に銘記させるかのように、一語ずつ区切ってゆっくりと云った。 「もと宇都宮の藩中で、名は――山内鹿之助といいます」 「山内鹿之助……」 邑右衛門がひょいと振返った。どこかで聞いたことのあるような名だ、 「人相に覚えがあるか」 「はい、背丈は六尺に近く、骨太の逞しい体つきで眉が秀で、唇のひき緊った、眼の涼しい顔だちでございます――それから、体は巨きゅうございますが年はまだ十六歳、国許を出る時にはまだ前髪を立てておりました」 「――それだ」 邑右衛門が大仰に乗出してきた。 「体の巨きいのと前髪で思い出したが、そうだそれに違いない、名もたしかに山内鹿之助と覚えている、知っているぞ」 「あの……」 娘の頬にさっと血がのぼった。 「本当に――御存じでございますか」 「知っている、拙者すんでに斬られようとした相手だ、ひと晩の知己で忘れていたが、宇都宮奥平家の牢人というのも間違いない」 「どこに、どこにいましょう」 娘は息をはずませながら急きこんで訊いた。 [#8字下げ]六の一[#「六の一」は中見出し] 「御不在だ」 横鬢に大きな疵痕《きずあと》のある男だった。 「そんな筈はない」 鹿之助は押返していった。 「御道場のほうでも小梅の別墅《べっしょ》へ成られていると申していたし、この付近の者も御姿を見かけたとたしかに申している」 「どこで何と云おうが御不在は御不在だ」 「とにかく、一応お取次ぎください」 「分らぬ奴だな、たとえ御在邸でも別墅に於いては決して人にお会いなさらぬ習しだ。道場のほうへ参ってお帰りを待ったうえ、改めて願い出たらよかろう」 「無駄なことだ」 「なんだと」 「今日までおよそ四十日余り、何度願い出ても言を左右にして面会を避けられる、同じことを幾度繰り返したらいいのか」 相手はにやりとして、 「幾度繰り返しても駄目だということが、分るまでやってみたらどうだ」 「それが次郎右衛門の作法か」 「な、なに、無礼なことを」 鹿之助の冷やかな態度に、相手は眼を剥いて式台へ下りてきた。 「貴様、将軍家お手直し番を呼棄てに致したな、――おのれ、赦さんぞ」 「赦さぬ? 面白い、赦さなければどうするのだ」 「無礼者!」 すばらしい勢で蹴上げてきた足、だが鹿之助が体をひらいたと見ると、相手は疵のある横鬢から先に、だ! と烈しく式台へ顛倒していた。――声高なやりとりとけたたましい物音を聞きつけたのであろう。廊下を踏鳴らす音がして、五六人の者が押取刀で立現われた。 「――どうした」 「おう、天野が……」 顛倒したまま気を失っているのをみつけて一人が走寄ると、他の四名はすばやく式台から跳下りて鹿之助の左右を取巻いた。 「狼藉を働いたのは貴様か」 「――」 鹿之助は無言のままぐいと左手《ゆんで》に大剣をひきそばめた。右手にいた一人が、 「や、こいつ愛宕山へ来た奴ではないか」 「そうだ、何か無礼なことを申したので、叩き出した奴だ、――さては、このあいだ中先生に面会を強要していたというのは貴様だな」 「如何にも、――」 鹿之助は左右に眼をくばりながら答えた、 「今日もそのためお伺い申した。しかし狼藉を働いたのは手前ではなくそちらでござる」 「そ奴……そ奴――」 介抱されて息を吹返した天野というのが、鹿之助を指さしながら喚きたてた。 「そ奴が、先生を辱めおったのだ」 「先生を辱めたというか」 五人は色を作《な》した。 「いや辱めはせぬ、小野次郎右衛門ともある者が、面会を乞われて居留守をつかうのが作法かと申したまでだ」 「こいつ僭上な舌を叩くな」 「――斬ってしまえ」 いずれも抜こうとするのを、年高の一人が制して進出た。 「待て、見ればまだ前髪のある少年、斬るなどとは大人気ない業だ、阿呆払いにして追返すがいい」 「しかしこのままやっては先生の名聞にも関わろう」 「ばかなことを、たかが喰詰め者の迷言ではないか、こんなことを荒立てるほうが却って先生の御迷惑と申すものだ。――これ少年、今日のところは許してやる、早々に立去れ」 「致方がない」 鹿之助は微笑して、 「次郎右衛門が会わぬというものを、貴公らと争ったところで無駄なことだ」 「――まだあんなことを!」 「今日はこれで退下るが、諦めた訳ではないぞ。今までは順序を踏んで会うつもりでいたが、それでは会わぬと分った以上、これからはどんな方法をとるかも知れぬ、――次郎右衛門殿にそう申して頂きたい、山内鹿之助必ず一度は見参仕るとな」 云うだけ云うと、鹿之助は踵を返してその場から立去った。 [#8字下げ]六の二[#「六の二」は中見出し] 堤を枕橋のほうへ二三丁来た時である。 「そこへ行くお武家、お待ちください」 とうしろから声をかける者があった。――振返って見ると、ひと眼でそれと知れる男伊達の三人連れが足早に追って来る。 うしろの二人は子分らしく、親分と見える先頭の男は年の頃二十七八、骨太に肥えた逞しい体つきで、色白の眉の太い、眼に凄みのある偉丈夫。白地に藍で『夢』と染出した単物《ひとえもの》を着ている。 「呼んだのは手前か?」 「無礼はお赦しください、いま小野先生の門前での始終を拝見致し、失礼ながらお近付きを願いたいと存じて参りました、お厭でなかったらそこまでお運びくださいませぬか」 辞を低うするというほどでもないが、押つけがましさのない態度である。 「よろしい、お伴れください」 鹿之助は頷いた。 相手の男は堤を北へ戻って、長命寺の前に並んでいる掛茶屋の、とある一軒へ入った。九月も末に近かったが昼はまだ暑く、じっとり汗ばんでいる鹿之助にまず風呂を浴びさせ、やがて酒肴を揃えたひと間に子分を交えず、二人相対して寛いだ。――表は掛茶屋ながら、内の造りは意外に凝ったもので、女たちの風俗も卑しからず、障子を明けると外は満々たる隅田川の水であった。 「ほう、掛茶屋にもこんな贅沢な家があるとは知らなかった」 湯あがりの肌へ風を入れながら、鹿之助が正直に驚くのを見て相手は笑った。 「なにこれはこの近辺で一軒きりのことです、小梅から柳島へかけて、近頃大小名の下邸や金持連の寮ができるので、自然と向島へ来る人足も多くなり、こういう家もできた訳でございます、ところでまず一杯」 「酒か、酒はなりません」 「まあそうおっしゃらずに一杯だけ――」 「いや御免蒙る、酒といっては祝儀に舐めたくらいのもので、それも美味《うま》くはない、苦いばかり、どうか勘弁してもらいたい」 真顔になって辞退した。 「左様でございますか、ではこちらだけ勝手に頂きながら、お話し申しましょう」 男は手酌で呑みだしながら、 「まず手前から申上げます、もうお察しのことではありましょうが、私は男伊達とか町奴とか云われる、世間のあぶれ[#「あぶれ」に傍点]者で、夢の市郎兵衛と申します」 鐘の弥左衛門、深見重左衛門、夢の市郎兵衛といえば、いま江戸で三歳の童も知る伊達者の雄である、――しかし鹿之助は知るはずもないから、別に驚く様子もなかった。 「拙者は宇都宮牢人、山内鹿之助と申す」 「失礼ながらまだお年若と存じますが、先ほどの様子を拝見して実は舌を巻きました。なにしろ将軍様のお手直し番、剣道の神とまで云われる小野次郎右衛門先生の御門前で、門人衆五名を相手にあれだけ立派な挨拶をなさるとは驚きました」 「そう申されては恥入る」 「しかし、どういう訳で小野先生にお会いなさろうというのですか」 鹿之助はしばし※[#「足へん+寿」、第4水準2-89-30]躇《ためら》っていたが、市郎兵衛の態度に微塵も邪気のないことは初めから分っていたので、やがて云った。 「実は朋友の仇と狙っているのだ」 「――小野先生を仇と……?」 「去月、愛宕山に奉納試合のあったこと、そこもとも御存じであろう。あの節――拙者の知人がまさに勝を取ろうとした刹那、卑怯にも次郎右衛門が手裏剣を打って助勢し、無惨に打殺されてしまったのだ」 「世間で牢人狩りとさえ評判に出た、あれ[#「あれ」に傍点]でございますな」 「その評判の嘘実はともあれ、次郎右衛門ほどの者がいかなる心得でそんな卑怯な振舞をしたか、それもたしかめてみたし、また、打殺された友の恨み、――一太刀なりと報いたいと存じて、この四十余日というもの機を狙っている次第でござる」 「そうでございましたか」 市郎兵衛はじっと鹿之助の話を聞くうちに、この少年の体内に燃えている火のような気魄、こうと思えば相手が剣道の神と呼ばれる名人であろうと、一寸も退かぬ生一本のくそ度胸に、驚きを新にすると同時に、堪らぬ魅力を感じてきた。 「では山内様、手前がお手引をして差上げましょうか」 「できようか」 「任せてくださるなら必ずお計い致しましょう」 江戸へ出て以来実に初めて、鹿之助は人間らしい人間に会った、――この人物にならどんなことでも云える、という気がしてきたのである。 「ではお願い申す」 そう云ってから顔をあげ、 「申し兼ねるが、空腹で堪りません、これを頂戴してよろしいか――?」 「あ、これは気付かぬことを」 市郎兵衛は手を拍って、 「飯を持って来い」と命じた。 [#8字下げ]六の三[#「六の三」は中見出し] 暫く家で遊んでいるようにといわれて、鹿之助はその日から市郎兵衛の家へ寄食することになった。 市郎兵衛の家は飯田町も九段坂に近いところにあって、まだ木の香も新しい恐ろしく堂々たる構えだった。しかも、家の中には二十前後から四十に余る男たちが、およそ三十人ばかりも寄食しているのだ、――牢人態の者もいるし無頼もいる、どれもこれもひと癖あり気な面魂の者が、何をするということもなくごろごろしているのだ。 「この家構え、この人数を、いったいどうして養っているのか」 鹿之助は第一にそれが分らなかった。 市郎兵衛の家へ来て三日めのことである、ふらり外へ出て田安御門の外を上段空地のほうへ歩いていると、――向うから来た二人連れの牢人者が、あっといった顔でこっちを見ながら立停った。そして鹿之助が気付かずに行過ぎようとすると、二人は何か眼配せをして、 「ああもし、暫く」 と声をかけた。鹿之助が足を停めて振返ると、二人は近寄って来て、 「おおやはり山内氏であったか、久方ぶりの対面でござるな」 と云うのを見ると、いつか千束村の廃寺で会った麻田邑右衛門と太田亮介である。 「やあ、これは珍しい」 「さよう、実に珍しい、あはははは」 邑右衛門は空々しく笑って、 「愛宕山へ行かれて以来、とんと音沙汰がないので、一同お案じ申していたが、――唯今はいずれにおいでか」 「されば、――」 と云ったが、もし本当のことを云って、こんな男たちに転げ込まれては市郎長衛の迷惑であろうと思ったから、 「いまのところ知辺《しるべ》を頼っております」 「ははあそれは結構でござるな、我々もあれから間もなく千束村を引払い只今では細々ながら生計も立つ身上でござる、――時に、久方ぶりの対面、このままお別れ申すも本意ないが、その辺までお付合いくださらぬか」 「御好意は有難いが、さて――」 「いや、決して御迷惑はかけぬ、実はこの近くで貴公も御存じの椙井銕兵衛――彼と合うことになっておるので、幸い揃って夕食など参ろうと思う、ぜひお運び願いたい」 厭だと云ってはうるさそうなので鹿之助は是非なく承知してしまった。 邑右衛門は喜んだ、葺屋町の娼家でお絹と冗談まじりに約束したが、内心お絹に執着をもっていたので、実のところは冗談でなく、一日も早く鹿之助をみつけ出し、お絹の望みどおり、仇討の助太刀をしてやるつもりでいたのだ。――何しろこいつはちょっとないやま[#「やま」に傍点]である。首尾よく仇討ができれば、麻田邑右衛門の名もあがるし、かねてお絹の愛情も掴めようというものだ。 もう獲物をしめた気で、ほくほくしながら三河町までやって来ると、横丁へ入ったところにある『小花屋』という茶店へ入った。 二階座敷へ通ると、 「まだ銕兵衛は来ておらんな」 と呟いた邑右衛門、 「太田氏、すまぬが椙井を呼んで来てもらいたいな、珍客を待たせておくのは失礼だ、貴公ひと走り頼む」 「承知した」 太田亮介はすぐに立って行った。と――邑右衛門は、 「おお忘れた」 と何か思出した様子で、そそくさと追って出たが梯子口で亮介を呼止めるとすばやく耳へ囁いた。 「察したであろうが銕兵衛に知られてはならん、『大巴』へ行ってお絹を呼んで来るのだ、伴れて来たら下の部屋へ待たせて貴公だけ部屋へ来い、――銕兵衛のことはよろしく頼む、では急いでな」 「承知した」 人の好い亮介を出してやって、部屋へ戻って来ると――意外にもそこでは、鹿之助ともう一人、まだこれも前髪だちの見知らぬ少年が、声高に罵り合っているところであった。 「これは、ど、どうしたことでござるか」 邑右衛門は驚いて部屋へ入った。――鹿之助はすわったままで、 「今日は奇遇が重なる日だ、これは拙者と同藩の者で埜田八十吉という人物、いま聞けば九段坂から後を跟けて来たのだそうな」 「無駄言は措け。出ろ、出ろ鹿之助」 「そう急くな、貴様が怖くて逃げるような鹿之助ではない、――麻田さん」 鹿之助は大剣を左手に持って、 「仔細あって拙者はこの八十吉に狙われているのです、彼はこの鹿之助を斬るために江戸へ出て来たのだそうで、これからどこか場所を選んで立合わなければなりません、――せっかくですが今日の御馳走は延ばしで頂きます」 「冗、冗談ではない、そんな馬鹿な……」 「いや又いずれ改めて、――八十吉、行こう」 慌てて押止めようとする邑右衛門の手を、振切って鹿之助は立った。 [#8字下げ]七の一[#「七の一」は中見出し] 一ツ橋御門の外にある四番空き地。喬《たか》い椎の古木が三四本、西の隅のほうにみっしり蒼黝《あおぐろ》く茂っていて、腰っきりの雑草が、強い南風にざあざあと波のような音を立てながら揺れている。 先に立ってやって来た鹿之助は、草原の中へ入ると、 「ここがよかろう、どうだ」 と振返った。 「場所は選ばぬ、来い」 八十吉は吐出すように云って、うわずった眼で睨みつけながら大剣を抜いた。 「急くと仕損じるぞ、仕度はいいのか」 「それはこっちでいうことだ」 八十吉は嘲るように顎をしゃくった、 「やい、鹿之助――大きに貴様落着いているが、今日は少し勝手が違うぞ」 「何だと」 「あれを見ろ」 そう云って八十吉は右手に抜いた剣を高く振った。いつ、どう跟けて来たか、一人二人と散りぢりに、およそ十四五人ばかり、いずれも流行《はやり》の男伊達姿の者が、草原をこっちへじりじりと詰めて来る、――その中に、八十吉の弟仙太郎も入っていた。 「卑怯者……」 鹿之助はさすがに色を変えた、 「一人で討てぬと思って、助太刀を雇って来たな、――埜田、貴様……耻じろ」 「何をぬかす」 八十吉は勝誇った肩で、 「おれは貴様を討つのが目的だ、卑怯であろうと無かろうと、討って取りさえすればいいのだ、貴様も夢の市郎兵衛の家にいるからは、名ぐらいは聞いるだろう、あそこにいる者は神田地内で鯉《こい》の鬼九郎《おにくろう》と云われる町奴、――元を訊《ただ》せばおれの家の若党だ」 「拙者が市郎兵衛の家にいることも承知か」 「出府して三十日、もし貴様が夢[#「夢」に傍点]の許へ身を寄せなかったら、まだ捜し当てずにいたかも知れぬ、おれの訪ねて来た先が男伊達、貴様の匿われた家が男伊達、すぐに噂が聞えたからこの十日あまり跟狙っていたのだ」 鹿之助は、ちらと四辺を見廻した、――草原のはずれのほうに、麻田邑右衛門が、うろうろと戸迷いした恰好でこっちを見ている、 ――あいつは駄目だ! 幾ら自負するところがあっても、この人数へ一人で当るのは無謀である、しかし遠く距《はな》れて逃腰になっている邑右衛門の他には、犬の仔一疋いないと知ると、鹿之助の逞しい胸は急に大きくふくれあがった。 ――よし、しょせん討たれるならば、こっちがやられるまでに何人相手を斬れるか、力限り暴れてみよう。 覚悟がつくのと、右足を踏出して抜討ちをかけるのと同時だった。 「えいっ!」 びゅっ、と風を截って閃く剣。八十吉が鼠のように身を辣めて、二三間うしろへ跳んだ時、右手へ寄っていた町奴の一人が、頭蓋骨を斬割られて、血煙をあげながら草の中へ倒れた。 「油断するな、――詰めろ」 「詰めろ、うしろを塞げ」 口々に、嗄《しわが》れた声で喚き交しながら、人数はぐるりと鹿之助を中に取籠めた。 「――斬れるぞ」 鹿之助は思わず呟いた。 向う島で麻田邑右衛門と抜合せた時は、まだ真剣の光が眼に眩しかった、また愛宕山で鯖島弾市が撃殺されるのを見た時には、息の詰るような戦慄を感じた、――しかし、今こそ鹿之助は剣の精神に触れたのだ、刄が頭蓋骨を断割る時の重々しく、そして一種壮快でさえあった力感は、全身の骨髄へ徹って生々しい闘志を火のように燃えたたせた。しかもしょせん討たれるもの――と身を捨ててかかったところに鹿之助の退引きならぬ強味があった。 初太刀に勝を取った以上、多人勢を相手にこっちから攻勢に出る要はない、鹿之助は呼吸を鎮めて変化に備えながら待った。 「――かかれ」 八十吉が叫んだ。 それを口火のように、苛っていた助勢の者が二人、右と左から大股に踏込んだ。鹿之助の体がぐいと捻られる、二尺八寸の刄が、一閃、二閃、 「――とう!」 耳を劈く掛声、踏込んだ一人は烈々たる刄風を喰って毬のようにすっ飛び、一人は背を肩から斬放されて、ぱっと血しぶきを立てながら顛倒した。 [#8字下げ]七の二[#「七の二」は中見出し] 邑右衛門はこの有様を憑かれでもしたように、大きく眼を剥出したまま見戍っていた。腋の下にじっとり冷汗が※[#「さんずい+参」、第4水準2-78-61]み出て、両の膝頭は音のするほどがくがく慄えている。 ――大変な野郎だ。 口の内で同じことを何度も呟いた。 鹿之助のほうでは、ことによったら助勢に頼むか、とも思ったのだが、邑右衛門のほうは反対だった。彼は出る機会さえあれば、八十吉のほうに付いて鹿之助にひと太刀でも入れようと考えていたのである、――どうせお絹に助太刀をして討つとしても、彼の手に余るのは知れている、とすればこれだけの人数で取籠めているのを幸い、どさくさ紛れに斬りつけてお絹の仇を討ってやれば、労せずして一石二鳥というものである。 ところが、目算はがらりと外れた。二尺八寸の大剣が閃光を放ったと思う間に、血しぶきをあげて二人斬伏せられたのを見て、――いや、邑右衛門は本当のところ胆を消した。 ――迂濶に出なくて命拾いだ。しかしそれにしてもまた何という強い小僧だろう。 恐怖と嘆賞とを籠めて呻いた時である、不意にうしろで、 「……勘も佳《よ》い」 という声がした。 邑右衛門は跳上るほど驚いた。背中から一刀、ずばりと喰ったように、慄然としながら振返って見ると、二間と距れぬ処に二人の人物が立っている、――邑右衛門は夢中で知らなかったが、一ツ橋外の板倉伊予守《いたくらいよのかみ》邸から出て来て、この決闘をみつけてよって来たのだ。一人は痩躯鶴のごとき老人である。悟りすました高僧とも思える慈顔ながら、唇の緊り、双眸の光、自然木の杖をついた身構えに……どこということなく冴えた、鋭さと威儼をもっている、――小野次郎右衛門だ。 「お話し申したのは、あの男でございます」 「――何じゃと?」 「いえ、板倉の御前でお話し申上げた、先生を友の仇と狙っているというのはあの男でございます」 「――ほう」 側で説明したのは、夢の市郎兵衛だった。 「ほう……」 次郎右衛門の眼はきらりと輝いた。 突風が襲いかかった、草原は怒涛のように打返し、揉み立てられ、葉裏を見せて揺れに揺れる、――と、決闘の人々が戦《そよ》ぎたつ草を蹴って入乱れた。誰も声をあげなかった、鹿之助の巨躯が大きく跳躍し、白い剣光がちかちかと尾を曳いた。ほんの一瞬――討手がたの一人が腰を斬放されて倒れたと見る、入乱れた人数がさっと割れて、ふたたび鹿之助は孤立の陣に身を現わした。 西風がいつか強い南に変った。 「――雨が来る」 次郎右衛門が澄んだ声で呟いた。 「え……?」 自分が斬結んででもいるように、全神経を決闘に奪われていた市郎兵衛は、静かな次郎右衛門の呟きを叫喚のごとく聞いた。 「いや、雨が来ると云うのだ」 「老来、雨は苦手じゃ、そろそろ参るとしようかの」 「しかし、このままには」 「あの少年を伴れて行くのだ」 次郎右衛門は顎をしゃくった。 「呼んで来い」 「――?」 呼んで来いと云っても、こいつそう手軽にゆく訳のものではない、さすがの市郎兵衛もいささか返答に困った。 「それ、やって来た」 次郎右衛門の言葉とともに、大粒の雨が、さっと光の箭《や》のように落ちてきた。 「呼んで参れと云うに」 「と仰せられても、あのありさまでは――」 「なに、次郎右衛門が呼んでいると云えば来る、少年のほうで剣を退けば、相手はもう手出しをする気遣いはない」 「あの人数で――」 「人数はあれほどいるが心はばらばらじゃ、あれでは少年の髪一筋斬ることは出来ぬ。――呼べ」 「は、――」 市郎兵衛は決闘の場所へ近寄って行った。 邑右衛門はこの始終を聞いていた――どうも妙なことになってきたものである。どこかで見たことのある老人だと思ったら剣聖小野次郎右衛門だ。その次郎右衛門を鹿之助が朋友の仇とつけ狙っているという――そしていま、狙われている次郎右衛門のほうから鹿之助を呼びにやったのだ。 「こうしてはいられない」 邑右衛門は、さあっと寄せて来た急雨のなかを、丸くなって駈けだした。 [#8字下げ]七の三[#「七の三」は中見出し] 「早く、早く」 お絹は駕籠の中で身を揉んだ。 「もしこうしているうちに、また山内の若様に会いはぐれてしまいはしないか」 そう思うと駕籠から出て走りだしたいような焦りをさえ感じはじめた。 「おい棒組、やって来たぜ」 「おう」 先へ行く駕籠とそう声をかけ合ったと思ったら、足が停まってとんと駕籠が下された。 「来たんですか」 お絹は息を喘ませながら訊いた。 「へえ、もうじきです」 「どうしたの――?」 「桐油をかけますんで」 と駕籠舁《かごか》きは何か解きながら、「季節はずれの夕立でね、たっぷりやって来ますぜ」 ばさばさと駕籠へ桐油をかけると、なるほど、豆を叩きつけるような急雨の音が、お絹の耳を快く打った。 たちまち沛然と襲いかかってきた雨の中を、駕籠はふたたび走りだした。 雨の音は、前後もなくつきつめているお絹の気持を煽るように、駕籠の四方でさっさっと荒れ狂った、駈け散る人の叫びや、あわただしい鞏音や、街並に雨戸をおろす姦しい物音を、追い抜き走って――それからおよそ十四五丁も行ったと思うと、やがて二挺の駕籠は合図をしながら停まった。 「へえお客様」 と駕籠舁きの声に、お絹はどきりと胸を波立たせながら身を起した。 『小花屋』という茶屋の前である、小女が傘をさしかけにきてくれるのを、待つ暇もなく駕籠から出たお絹は、髪にかかる雨を庇いながら走りこんだ。 「やあ、ひどいひどい」 太田亮介は大剣を抱えこみ、袴をたくしあげて後から来ると、出迎えた婢《おんな》に、 「この女《ひと》をどこか階下《した》の部屋においてやってくれ、――お絹さん、すぐに来るから」 と云って二階へ行こうとすると、 「あの、もし――」 と婢が遮った。 「お伴れのかたでしたらもう先刻《さっき》、ちょっと出てくるとおっしゃってどちらかへ」 「なにでかけた――?」 「はい、お三人でお出ましになりました」 「三人で」 太田亮介はた[#「はた」に傍点]と当惑した。聞いていたお絹は気もそぞろに、 「どうしたんですか?」 「訳が分らぬ、どんなことがあろうと、二人が来るのを待っていない道理がないのだし、それに三人で出たというのからして……」 「お二人だったんですか」 「無論のこと、――して」 と亮介は婢のほうを見て、「三人というと、拙者の伴れのほかにどんな人物がいたのか知らぬか」 「はい、お伴れのお若いほうのかたと似たりよったりで、どうやらお国も同じようなことをおっしゃっていました」 「そ、それで」 お絹が思わず身を乗出した。 「何か間違いでもありはしませんでしたか」 「はい、あの……申上げてよいかどうか分りませんが、なんでもお二人同志で声高に云い合っていらしったのを伺いますと、どうやら斬合いでもなさるようなお話で――」 「八十吉だ」 お絹は思わず叫んだ。 「ええ――おまえ知っているのか」 と云うところへ、濡れ鼠のようになって麻田邑右衛門が駈込んできた。 「や、麻田ではないか」 「太田か、や――お絹坊も来たな」 「山内様は、山内様は?」 お絹は邑右衛門の胸ぐらを執らんばかりにとびついて行った。 「待て、まあ待てと云うに」 邑右衛門は髪から垂れてくる滴を押拭いながら、痩せた胸を苦しそうに波打たせ、 「そう急かずとも話してやる。何しろ苦しくっていけない、――これ女中、このとおりの濡れ仏だ、何か衣服を都合してくれ」 「そんなことはどうでもようござんす、山内様はどうなさいました、無事ですか、勝負の様子を聞かしてください」 「待てと云うに、ひとことではとても話し切れん、何しろ強い奴だ、まるで――なにしろ、拙者が出ようとしているところへ、まあさ、とにかくおぬしの仇だから、一刀でも恨んでおとうかと思ってからに、ところが――」 「何だか訳が分りません、無事か無事でないかそれだけを」 「そう簡単な話にはいかんというのだ、なにしろおまえ、将軍家御指南番の小野次郎右衛門までとび出して来たんだぜ」 邑右衛門はぺたりとそこへ座りこんだ。 [#8字下げ]八の一[#「八の一」は中見出し] 「いやどうも大したやつだ」 邑右衛門は女の持ってきた着物を借りて、二階座敷へどっかり座ると、お絹に急かれながら話を続けた。 「仔細はよく分らぬが、朋友の仇といえばきっと鯖島弾市のことに違いない。つまりこうだ、愛宕神社の奉納試合に二人で出掛けて行ったが、鯖島だけは試合の場で撃殺されてしまったのだ。――その時見ていた者の話によると、勝負は弾市の勝であったそうだが、その刹那というところで小野次郎右衛門が手裏剣を打って鯖島を仕止めた、という噂なのだ」 「そんな卑怯なことをなさるんですか、将軍様のお手直し番ともある人が」 「おまえが怒ったって仕方がない、世中の機関《からくり》には底の底、裏の裏がある。そんなことはどっちでもいいとして――だな、鹿之助先生それを根に、次郎右衛門を狙っているらしい、つまり鯖島弾市の怨を晴らそうというのだ」 「冗談じゃない」 太田亮介はにやにやして、 「いくらなんでも小野|忠明《ただあき》を狙うとは桁外れだ、田舎者でもそれくらいのことは分るだろうが」 「あの体では総身に智恵も廻るまい、とにかくあの向う不見《みず》のくそ度胸には呆れる」 「それで後はどうなったのですか」 お絹はもどかしげに促す。 「それで、そうさ、それでその次郎右衛門が鹿之助を呼んでこいと云ったのだ、今頃は恐らく小野の道場へ伴れて行かれたことだろう」 「伴れて行かれたとすると、どうなりましょう……」 「どうなるものか、次郎右衛門の手にかかるか門弟たちの嬲《なぶり》殺しにあうか、――いずれにしても生きて還る気遣はないだろう」 お絹は聞くより早く立上った。 「お、おい、どうするのだ」 「鹿之助さまが殺される、いえ嘘だ、殺されはしない、あたしが殺させはしない」 「騒いでも仕様がないよ、おまえの手で討たずとも次郎右衛門が仇を討ってくれるのだ、あの強さでは拙者が助太刀をしたところでおいそれと……」 「放してください」 お絹は邑右衛門の手を振放すと、そのまま廊下へとび出した。 「あ、おい、待てと云うのに」 追って立ったが、小鼬と綽名《あだな》を取るほどの娘だ、辷るように階段を下りて、 「この近くに駕籠宿は?」 と女に訊くと邑右衛門が下りて来る暇もなく外へ走出てしまった。 急雨は過ぎたが、ひと荒れでぐっと冷えた秋の空は、いつか地雨になってしとしとと降り続いている。お絹を乗せた駕籠は、雨のなかをまっすぐに麹町へ急いだ。 お絹の心は緊つけられるように苦しかった、もし本当に鹿之助が斬られるとしたら、――そう思うだけで眼前がまっくらになる。まだ、宇都宮にいた頃は、ほんの芽生えでしかなかった愛情が、離ればなれになって以来ぐんぐん育って、今は動きのとれぬほど烈しい情熱になっているのだ。お絹のような育ちかたをした女にとっては、なまぬるい思慕の情などは無い、いちど燃上ればその焔が自分を焼尽すところまで行着かずにはいられないのである。しなやかな、妖しい野獣のような体のどんな隅までも、愛慾に突詰めようとする盲目的な本能が脈搏っているのだ。 お絹は男というものの持つ気持を罵った。なぜ男たちは、分りきっている不可能に身をぶちつけて行くのであろう、鯖島弾市などという仮初《かりそめ》の友を討たれたからといって、天下の剣聖、将軍家お手直し番を狙うとは馬鹿げきったことではないか、 「まるで、夜空の星を欲しがる子供みたいだ」 お絹は苛立たしく呟いた。 「それも一人と一人なら万一ということもあるけれど、正面から名乗って掛るなんて、――向うには何百何千の門人もいようし、御指南役の権勢もある。そこへただ一人で乗込むのは、まるでわざと斬られに行くようなものではないか、それが手柄にでもなるというのかしら」 お絹は鹿之助の無謀を怒った、その世間知らずを怒った、罵りつけた。そしてその果には、その無謀と世間知らずと、不可能に対《むか》って身をぶち当てていく度胸とに、総身の顫えるような愛情を感じ、矢も楯も堪らぬいとしさが胸いっぱいに脹れあがるのを知った。 「生きていて、生きていて――」 お絹は両腕にひしと己の胸を抱緊めながら、祈るように呟き続けた。 [#8字下げ]八の二[#「八の二」は中見出し] 燻し銀へ地紙形をおいた宗達《そうたつ》風の襖に対って、鹿之助はじっと端座していた。一ツ橋外から小野次郎右衛門に伴われて、麹町の道場へ来ると、奥まったこの書院造りの部屋へ導かれたのである。 「しばらく待つように」 と伝えたまま、次郎右衛門も出てこず、茶を運ぶ者さえ無かった。 一ツ橋外で五人まで斬った鹿之助は、もはや以前の鹿之助ではなかった。骨まで断ったのは一人だけであるが、自分の刄が相手の肉体に触れる刹那の、じかに生命の髄へ伝わってきた感覚は、その一瞬にこっちの五官をまったく新しいものにした。十六歳の少年から一躍して成年になったともいえよう。それまで夢のように朧だった人生が、忽然として相《すがた》を現わしたのだ、のっぴきならぬ事実の核に触れたのだ。 鹿之助が無頼の徒を斬ったのは、相手を斬るべくして斬ったのでなく、己の追詰められた状態を突詰めるための手段にすぎない。彼は埜田八十吉の一味を斬ったのではなくて、当面したところの『事実』に身をもって突進し、身をもってこれを打開したのだ。漠とした人生の霧の中から、動かし難い『事実』を己の手にがっちりと掴出したのである。鹿之助は自分の感覚が大きく弘がるのを知った。万象ことごとく新しい、身内にも新鮮な力が活々と動き始めている。 「今おれの感じている、こんなすばらしい気持を、かつて誰か感じたことがあるだろうか。――この生々しく強い感覚に比べれば、鯖島弾市の死など取るに足らぬことだ。この感覚こそおれの生涯の王だ、この力がどれほどの深さと大きさを持つか、それをおれは究めてやるのだ、――まず小野次郎右衛門がこれをどう受けるか、見てやろう」 導かれて来たままやがて半刻も経った。 幾曲りも廊下を遠く離れた道場のほうから、折々鋭い気合と、床を踏鳴らす烈しい鞏音が響いてくる他には、こそとの物音も聞えない。弓弦のように張詰めている鹿之助の気持は、刻の経つに順って緊張に耐えられなくなり、端座した足の痺れが全身の神経に伝わって、捉えどころのない不安をじりじりとかき立てるのであった。 「どうするのだ」 鹿之助は苛立ってくる感情を抑えるように、少し膝をずらして座を楽にした。 「待たせて焦らすつもりか、渡らせて闘志を挫くつもりなのか、それとも虚を狙って殺到する策か、――いずれにせよ、そう易々討てると思うと間違うぞ」 半刻はやがて一刻になった。体の巨い鹿之助は、座っていることだけでも努力であるのに、いつ襲われるとも知れぬ敵に対して、微塵の気配をも聞追せぬ切迫した緊張を保たねばならないのだ。体の疲労、心の困憊《こんぱい》、刻々と身内に弘がっていく不安、それらが混合し揉み合いつつ千貫の重みとなって、徐々に鹿之助を圧倒しはじめた。 部屋の隅々から、やがて水の寄せるように夕闇が濃くなっていった。廊下に面した障子は、冷やかな秋雨に暮れていく黄昏の色を吸っている。襖の燻し銀はそれを斜に受けて、底深く荘厳にまで寒々と光って見える。――鹿之助はその光を見るに耐えられなくなった、しかし眼を外らすことは敗北するように思える。 「なにくそ!」 肩をつき上げて、いちど楽にした座を再び正しくすると、のし掛ってくる不安と焦燥に挑みかかるごとく、唇を引緊め、膝を張り、双眸を醒って端座を続けた。 無限のように長い時間が経って行く、すっかり暮れて、道場のほうで響いていた物音も聞えなくなり、途切れ途切れに床下で鳴く地虫の声ばかりが、心へ喰入るような寂しさで耳へ徹る。そして襖の燻し銀だけが、更けて行けば行くほどの重々しさで、鈍い光を強めるかに思われた。 鹿之助の頭は混乱し始めた、膝下の畳が波のように揺れる、血管を流れる脈搏の音が、まるで怒涛のように耳の中で騒ぐ、古びた高い天井は恐ろしい勢で四方に伸び、千似の断崖が崩れかかるような圧力で落ちかかる。――何という息苦しさであろう。鹿之助の胸膈《きょうかく》は見えぬ手で押拉《おしひし》がれるかのように荒々しく波を打った。 襖の燻し銀の中から、むらむらと物の相が現われた。 「来たな!」 鹿之助は大剣を引寄せた。全身の血が一時に逆流する、――と、そこには何物もなくて、右手の壁の表へ朦朧と何か見える、はっとして刀の柄へ手をかけた時だった。 「えい」 という低い気合が聞えたと思と、鹿之助の体は自らどうと仰ざまに顛倒した。――一瞬、二瞬、やがて襖が音もなく明いて、小野次郎右衛門が静かに部屋へ入って来た。 鹿之助はまったく気絶していた。 [#8字下げ]八の三[#「八の三」は中見出し] 背筋へぐっと水のような物が走った。塞がれていた胸が急に寛くなり、清々しい空気が肺いっぱいに流込むと、鹿之助は深い溜息をつきながら意識を取戻した。 「はっは、気がついたの」 云われたほうを見ると、明るい燭台を傍にして小野次郎右衛門が座っていた。鹿之助は夢から醒めたように、不思議な気持で四辺を見廻した。 次郎右衛門の左手に夢の市郎兵衛がいる、それから五十年配の逞しい頬髯のある浪人風の男がいる。三人とも和やかに微笑しながらこっちを見戍っているのだ、――これはどうした訳か、自分はどういうことになったのか、不審なのはしかしそればかりではない、なんと体が軽くなったことだろう。頭がこんなにすっきりしたのは覚えて以来初めてのことだ、心もいままでかつて知らなかったほど爽かに静かである。 「何を訝しそうにしているのだ」 次郎右衛門が楽しそうにいった。 「別に不思議がることはない、――どうだ、すっかり気持が晴れたであろう」 「――はい」 「頭も静まり、体も軽くなったであろう」 まるで見透しているようだった。 「それでよいのだ、おまえの心を捉えていた小さな鬼をこの次郎右衛門が追出してやったのだ」 「心の鬼とおおせられまするは?」 「分らぬか、――」 次郎右衛門はにこりとして、「おまえは今日一ツ橋外の真剣勝負で自己流の悟をひらいたであろう、――驚くことはない、おまえの顔にそれが歴々《ありあり》と現われていた。あれが鬼だ、おまえくらいの若さでその悟を掴んだのは凡俗でないには違いない、いや千人に一人もおまえの掴んだだけの悟を掴みきる者はないかも知れぬ、だが……その悟はおまえの現在の力で持耐えるには大き過ぎるのだ。その悟を自分の物にするほどおまえは人間に成っていない、その証拠には僅か二刻あまり虐めただけでその悟はすぐ暴れだす。事実を掴んだ、と悟ったことが却っておまえを迷いに導くのだ。闇の中に幻影を見たであろう、それはおまえの悟のした仕業だ。蛇を知らぬ者は蛇を怖れない、また蛇を知り尽した者も蛇を怖れない、真髄を究めず形に囚れる者がその執着のゆえに怖れを感ずるのだ。己の心にある小さな『知』が己に恐怖を与えるのだ」 鹿之助は一枚ずつ膜が剥げてゆくように、眼前が明るくなるのを感じた。 「儂《わし》の言葉に不審があるか、あるなら遠慮なく訊ねてみい」 「はい、――」 鹿之助は静かに眼をあげて、 「ただ、夢から醒めたように思いまする」 「今日は二度醒めたわけじゃな」 そう云って次郎右衛門はくくと笑った。 「儂の申したことを忘れるな、まだまだこれからじゃ、おまえの生涯を打込んでも足りぬかも知れぬぞ、どう生きようと道に差別はないが、不退転の心を喪ってはならぬ」 「御教訓、胆に銘じて忘れませぬ」 「さて、――そこで改めて訊くが、朋友の仇としてこの次郎右衛門に立合うかの」 「思いもよらぬ仰せ」 鹿之助は両手を突いて、「弾市の死につきましても、いささか発明するところがございました、もはやお手向いは仕りませぬ」 「そうか、それは次郎右衛門に取っても有難い、年をとると無精になるでの、その巨きな体とくそ力を相手にするのはちと迷惑じゃ、のう市郎兵衛」 「どういたしまして、さき程の気合などは金輪際まで打砕く鋭さでござりましたよ」 「旨く慰めおるぞ――時に、鹿之助はまだ知るまいが」 と振返って、頬髯のある浪人を紹介《ひきあわ》せた。 「こちらは本所に住む部屋持で深見重左衛門という仁じゃ、挨拶をせい」 「は、手前山内鹿之助と申します」 「良い体だの」 深見重左衛門は眼を細めて頷きながら、次郎右衛門のほうを見やって云った。 「これだけの体は、江戸中どこの寄合部屋にもござらぬ、相撲にしたらあっぱれ関を取りましょうな」 「儂もそう思うのだ、泰平の武士は世出しても数が知れている、もしこの体で相撲になったら間違なく日本一じゃ。時も時、この相撲隆昌の時運に乗れば、手に唾して天下を取るようなものであろう」 「貴公、相撲を取ったことはないか」 重左衛門が訊いた。鹿之助は苦笑しながら、 「はい、故郷宇都宮におりましたおりは、悪戯に試みたこともございます」 「宇都宮、貴公宇都宮か――」 重左衛門は膝を叩いて、「それではこの夏、江戸相撲白雲峰右衛門を投げたというのは、貴公ではないか」 「――お恥しゅうございます」 恥しそうに赧《あか》くなるのを見て、重左衛門はぐいと乗出しながら、 「小野先生、これは良い人物を拾った、この少年は拙者がぜひ貰い受けたい。宇都宮八幡神社の勧進相撲で、白雲峰右衛門を土俵の砂に埋めた手際、充分に素質があると行司どもの噂に聞及んでおった、拙者の手許で力士に育てたいからぜひお任せください」 ひどく意気込んだ調子で云った。 [#8字下げ]八の四[#「八の四」は中見出し] 街並の軒先、小路の蔭などに、人眼を忍んでうそうそ[#「うそうそ」に傍点]と人影が動いている。宵のうちから二人現われ三人来るというぐあいで、今は三四十人の数であろう、――それが小野次郎右衛門の道場屋敷を中心にして、表通りは無論のこと抜け露次《ろじ》まですっかり固めている。 十時頃、――九段のほうから駕籠がひとつやってきて、真田屋《さなだや》という筆屋の前で止まった。駕籠から出たのは派手な町奴姿で、両頬に太く鎌髭を描いている四十がらみの男だ。これは神田地内のあぶれ者で、鯉の鬼九郎と云われている。 「――権造」 筆屋の店先、すでに閉してある大戸の潜戸《くぐり》から中へ入りながら鬼九郎が呼んだ、――店の土間には埜田八十吉兄弟と、鬼九郎の子分で重だった者が四五名いた。 「親分、お待ち申しておりました」 「相手の様子はどうだ」 「鬼九郎、まず掛けろ」 八十吉が自分の脇を明けて、「一番案じていたのは次郎右衛門の手で斬られはせぬかという点だが、どうやらその様子もない、今しがた銀太を忍ばせたところ、皆で酒宴をしていたそうだ」 「深見重左衛門がいるてえ話ですね」 「重左の他に夢の奴もいる」 鬼九郎は闘志の燃える眼を剥いた。 「良い雁首が揃やあがった。重左にも市郎兵衛にもたんまり貸しがある、今夜こそはたり[#「はたり」に傍点]取ってくれベえ、――」 「重左に何か恨みがあるか」 「三年以来のことなんで、わっちの縄張内で挨拶もなく相撲興行をしゃあがる、それも市郎兵衛が世話やきで重左が元方をする時に限ってるから癪だ、好い折がねえので黙っていたが今夜あ※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]さねえ、――神田地内を帰るのに供も伴れねえという、人を見縊ったやりかたがどうなるか、鯉の鬼九郎がどれほどの男か、今夜こそは思い知らせてくれよう」 「それにはここは地理が悪いぞ、うっかりすると小野の門人たちが助けに出る」 「わっちらは堀端へ退きましょう、あとへ若旦那と十人ばかり残しておきますから、※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]さねえように跟けて来てくだせえ」 鬼九郎は振返って、 「――藤兵衛どん」 と呼ぶ、店の奥から筆屋の主人藤兵衛が出て来た。藤兵衛は鬼九郎の妹婿に当っているので、今宵の待伏せに店を借りたのだ。 「これは兄さんおいでなさいまし、様子は伺っていましたが却って御挨拶に出ないほうがよろしいと思いましたから」 「そいつは勝手だが、酒はあろうか」 「堅気のことでたんとの用意はございませんが支度を致しましょう」 「世話をかけて済まねえ、冷でいいから急いで頼む」 酒の支度に藤兵衛が引込むのと、ほとんど同時に、店の表が騒がしくなって、 「乱暴な、そんなにせんでも――」 と云う声と、子分たちの、 「うるせえ、黙って歩《あゆ》びやあいいんだ、――やい阿魔を逃がすな」 勢い立つ喚き声がして、すぐに潜戸が明いたと思うと、だっと二人の者が土間へのめり込み、あとから四五人の子分が入って来た。のめり込んで来たのは、――浪人麻田邑右衛門と、小鼬のお絹であった。 「何だ何だ、こいつらあ――?」 「何だか知らねえが不審な野郎どもなんでしょ曳いて参りやした」 銀太というのがお絹を指して「宵のうちっからこの阿魔め、道場屋敷の廻りをうろうろしゃあがって、変な具合だと思ってると、こっちの浪人者が探しに来たというふうで、二人でこそこそ話してるのを聞くと山内鹿之助てえ名前でさあ、何か曰がありそうだと思ったから、連れて来やした」 「馬鹿なことを云うな」 邑右衛門は、のめった時に口の中へとび込んだ砂粒を吐出しながら、 「不審も何もない、拙者はこの娘の介添で、この娘は父の仇を討とうとしているのだ、つまり拙者は助太刀役なので、別におまえがたに関りのあることではないはずだ」 「――父の仇だと?」 埜田八十吉が聞きつけて身を乗出した。そして燈火の蔭になっている娘の姿を見ると、 「やっ」 と云って立上った。 [#8字下げ]八の五[#「八の五」は中見出し] 「小鼬、――お絹でないか」 「――え?」 己の名を呼ばれて、ぎょっと顔をあげたお絹は、そこにいるのが八十吉だと見るなり、 「あっ!」 とはね起きた。 「動くな」 八十吉は大股に踏寄って「こいつは意外な対面だ、まさか拙者を見忘れはしまいな」 「若旦那さまは御存じの者でございますか」 鬼九郎も寄って来た、――邑右衛門は救われたように、 「それだから拙者が繰返して申したのだ、その娘は仇討をするために」 「仇討――? 誰を討つのだ」 八十吉が振返って訊いた、 「む、無論その、山内鹿之助という」 「馬鹿なことを」 八十吉はせせら笑って、「鹿之助はこの女が恋慕している相手だ」 「な、なにを――そ、それこそ馬鹿な」 「女に訊いてみるがよかろう」 年は親子ほど違うが、八十吉の態度はまるで圧倒的だった。邑右衛門は惨めにおろおろしながら、 「これお絹どの、いまこの仁が云われたことは何かの間違いであろうな、山内鹿之助は真のところおもとにとっては」 「情人《いいひと》です――」 お絹はくっ[#「くっ」に傍点]と面をあげて叫んだ、 「鹿之助さまはお絹の情人です、ええ、お絹が一生の良人と定めた大事な大事な殿御です、それがどうかしましたか」 「――※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 邑右衛門は仰天した。八十吉は残忍な冷笑を浮べながら、 「それがどうかしたか? まあどうするか見ていれば分るだろう、――鬼九郎、そちにこの女を預ける。先に堀端へ連れて行ってくれ、鹿之助一行の手足を縛るにはよい囮だ」 「ようごぜえます、銀太――阿魔をしょ曳いて行け」 「卑怯者!」 お絹は鋭く叫んだ、「正面から向って敵わないものだから、あたしを枷にしようというのだね。それでも侍の子か!」 「吠えろ吠えろ、貴様の遠吠えることによると今宵限りだぞ」 「どっちの遠吠えが今夜限りかは、山内の坊ちゃまと会ってからのことでしょう、宵のうちから見ていると、だいぶ大勢狩集めてあるようだけれど、ふん、――ちょいと鹿之助さまは強うござんすからねえ」 「頬桁を叩かずと歩べ」 銀太がどんとお絹を突飛ばした。 そこへ藤兵衛が酒の支度をしてきたので、鬼九郎は重立った子分を集め、八十吉を中央において、盃を配った、 「さあ皆、この盃ゃあ飲んだら割ってくれ」 「――盃を割る?」 子分たちは不審気に見上げた。 「一言で云やあ死んでくれというのよ、今夜の仕事あ若旦那のお手伝いばかりじゃあねえ、――深見重左衛門と夢の市郎兵衛、二人とも供も伴れず雁首を揃えているのを幸い、かねての遺恨を晴らしてくれるのだ、場所は堀端――」 云いかけたところへ、 「親分、出て来た出て来た」 と見張の者がとび込んで来た。 「なに来たと」 「駕籠が三挺、脇門から出てこっちへやって来ますぜ」 「よし、見張ってろ」 鬼九郎は立上って、はっしと盃を土間へ叩きつける、一同それに倣っていずれも盃を割り、刀の目釘をしめして起った。 「では若旦那!」 「うん、ぬかるな※[#感嘆符二つ、1-8-75]」 頷き合って外へ出る。――戸惑いをした猫のように、うろうろしていた邑右衛門は、鬼九郎のあとから跟いて出ながら、 「その、――いかがでござろう、拙者もお助太刀を致したいが、実は拙者もいささか山内と申す者に遺恨がござるで」 「邪魔だ邪魔だ」 鬼九郎もさすがに、見ただけで相手がどんな人間か見当はつくとみえ、邑右衛門の言葉などは耳にもかけず、手ばしこく人数の配分を決めたうえ、急ぎ足に堀端のほうへ立去った。 八十吉は弟とともに、残った十人ほどを家並の軒に伏せて待っている――邑右衛門は身のおきどころに困って、おるにおれず、去るに去れず、しばらくその辺でうろついていたが、やがて向うから駕籠の提灯が近づいて来るのを見ると、鼠のようにこそこそとどこかへ隠れてしまった。三挺の駕籠は勢よく近づいて来た。 [#8字下げ]九[#「九」は中見出し] まだ夜半過ぎであった。 埜田八十吉兄弟や鯉の鬼九郎一味のかけた罠を、早くも看破した次郎右衛門の計いで、脇門から出た三挺の駕籠には、次郎右衛門と高弟両名が乗り、一味の眼につくように堂々と出掛ける一方、――見張の解かれるのを待って、重左衛門、市郎兵衛、鹿之助の三人は裏口から逃がしたのである。 三人が本所の深見重左衛門の寄合部屋へ帰ったのは、もう午前一時《ここのつはん》を廻っていたが、そこにはすでに次郎右衛門が二人の門人とともに先着していた。 「御無事でござりましたな」 市郎兵衛が、衣紋の崩れもない忠明の様子を見て云った。 「市郎兵衛の前だが、町奴というやつは心掛の悪いものじゃな、――堀端の一番町のところで取巻きおったが、儂の面を見ると物も云わずに逃げ出したぞ」 「それは町奴ならずとも逃げましょう」 市郎兵衛は苦笑して、「この鹿之助殿なら知らぬこと、小野先生と知ってぐうとも云えるものじゃあありません」 鹿之助は顔を赧らめて俯向いた。 重左衛門はこのあいだに、夜中ながら部屋の重だった者を起させていた。花房一学《はなぶさいちがく》、鶴舞玄之進《つるまいげんのしん》、越川額右衛門《こしかわがくえもん》、延田欣助《のぶたきんすけ》、道家右馬之介《みちいえうまのすけ》、生田兵右衛門《いくたへいえもん》の六名、――いずれも浪人だが深見部屋の力士として、今や江戸はいうまでもなく近郷にまで名を知られている豪の者揃いだった。 酒の支度ができて、小野次郎右衛門を仮親に、鹿之助の部屋入り固めの盃が廻された。六人の者もいずれ劣らぬ逞しい体をもっていたし、稽古で錬えた肉付はすばらしいものであったが、いざ席を並べて見ると鹿之助の巨躯は驚くほど眼立った。 ――これはとても我々の手に負えぬぞ。 と六人はひそかに舌を巻いた。 固めの盃が終ると、次郎右衛門は懐中から生紙に包んだ物を取出して、静かに鹿之助のほうへ向直った。 「――鹿之助、これは忠明がそちの首途《かどで》へ餞別《はなむけ》じゃ、開いてみい」 「は、かたじけのうございます」 鹿之助は押頂いて紙包を開いた。中には一握の清塩《きよめじお》が入っていた。 「――?」 「塩じゃ」 鹿之助の解せぬ眼許を、きっと見戍って次郎右衛門が云った。 「塩は天地万象活気の素づくところじゃ、水に土に遍満して四大の精髄となり、また汚穢を除くこと、かしこくも伊弉諾尊《いざなぎのみこと》が橘の檍《もち》ヶ原に行わせられし潮のみそぎに於て顕章《あきらか》じゃ。――我が相撲の心は、まことにこの塩のごとく、日本国の太初以来民心の精をなし汚穢を祓い、入っては神を興し出ては武を熈《あきら》にし、国運隆昌の根柢となってきたのじゃ。さればこそ宮廷におかせられても、垂仁朝の七年|野見宿禰《のみのすくね》、当麻蹴速《たいまのけはや》の決闘天覧を濫觴《らんしょう》とし給い、後、節会として永年これを行わせられたが、中古このかた戦乱うち続いたため、いつしか衰微して今日に至っている。しかし時期は来た、――今こそ相撲再興の機運到来じゃ、これを興し、これを煥発するは今を措いてその期は無い、鹿之助!」 「――はっ」 「そち、塩となれ。相撲が単なる技でなく、神国万民の真髄をなす塩であるように、そちは相撲の塩となるのじゃ、忘るな」 「――胆に銘じて、……」 と鹿之助は平伏したが、 「御免!」 というと、清塩の包を持って座を辷り退る。そのまま裏手へ出て行ったと思うと、すでに霜を結ぶ夜気の中で、しばらくはざあざあと水垢離《みずごり》を取る気配がしていた。 座敷の北面には、注連《しめ》を張廻した土俵が築いてある、――水垢離を取った鹿之助は、やがて全身溌剌と血色を発した裸身になって、この土俵の際へ進寄った。次郎右衛門は会心の笑を浮べながら、ずいと座を端へ進める、重左衛門も市郎兵衛も、六名の力士まで、思わず衿を正して向直った。 鹿之助は土俵へ登る作法を何も知ってはいない、しかし千万の作法も――いま鹿之助の心裡に燃えている情熱のまえには無力であろう。彼はまず土俵に面してつく這い、じっと息をひいて精神を鎮めた。 今こそ、今こそ『土俵』が見えて来た、土俵は『神』である、微塵の邪気も容るるを赦さぬ。清藁《せいこう》で結んだ土俵を見よ、注連を見よ、清砂を見よ、 「――――」 鹿之助は両手を下して礼拝した。それから清塩を掴んで左右の肩へ振掛け、柏手を打ってから、静かに腰を上げて土俵へ登った。――心気は虚空のごとく澄み、勇力は五体に火のごとく燃えている。鹿之助は歓喜に躍動する意をそのままに、まず大きく左足を上げ、――この力の輪金際まで届け、とばかり、 「……う――む」 という気合とともに踏下ろした。重々しく、大きく、力強い地響が、柱を伝って家棟を震憾させた。次郎右衛門はその響きの中に、 「天下泰平!」 と叫んだ。――鹿之助は満空の気を吸い尽すように、深く深く息を吸い込むと、さらに渾身の力を奮い起して、右足を大きく高く上げた。 底本:「強豪小説集」実業之日本社 1978(昭和53)年3月25日 初版発行 1979(昭和54)年8月15日 四刷発行 底本の親本:「相撲」 1936(昭和11)年5月~12月 初出:「相撲」 1936(昭和11)年5月~12月 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
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DynamicImageのキー(2) Category = DynamicImageで、 Typeがスライダアイテム(VolumeBar・PanControl・SeekBar・EqualizerSlider)の フィールドのキー一覧です。 キー名が赤字と青字のキーは必須のキーです。(青字のキーは他のキーの設定状況などによっては省略することも可能です) キー名が緑字のキーは、作成するアイテムの種類によっては必須になるキーです。(該当するアイテム以外を作成する場合は省略してもかまいません) キー名の左の欄に*があるキーは、ModifyItemコマンドで後から設定を変更することができます。 カテゴリの設定 キー名 値 内容 Category DynamicImage カテゴリをDynamicImageに指定 スライダの種類の設定 キー名 値 内容 Type 【※】 スライダの種類 ※VolumeBar・PanControl・SeekBar・EqualizerSliderのうちどれか1つ。 Type一覧表(2)を参照。 イコライザバンドの指定 ☆このキーは、Type = EqualizerSliderの場合のみ必須です。 他のTypeの場合は設定する必要はありません。 キー名 値 内容 初期値 EQBand 数値(整数)(0~17、-1) 表示するイコライザバンド、プリアンプ(Level)を指定【※】 ※数値と対応するバンドの関係は以下の表のとおり。 EQBand = 0 0Hz EQBand = 9 1kHz EQBand = 1 25Hz EQBand = 10 1.6kHz EQBand = 2 40Hz EQBand = 11 2.5kHz EQBand = 3 63Hz EQBand = 12 4kHz EQBand = 4 100Hz EQBand = 13 6.3kHz EQBand = 5 160Hz EQBand = 14 10kHz EQBand = 6 250Hz EQBand = 15 16kHz EQBand = 7 400Hz EQBand = 16 22kHz EQBand = 8 630Hz EQBand = 17 24kHz EQBand = -1 プリアンプ(Level) アイテムを表示するタイミングの設定 キー名 値 内容 初期値 ViewType 【※】 ファイルの再生状態に応じたアイテムを表示するタイミング AlwaysVisible * ActiveType 【※】 uLilithのアクティブ状態に応じたアイテムを表示するタイミング ActiveAndInactive ※Type一覧表(1)を参照。 つまみ画像に使用する画像ファイルの設定 キー名 値 内容 初期値 * ImageFile 画像ファイル名 つまみ部分に使用する画像のファイル名【※】 * PushedImageFile 画像ファイル名 クリック時に表示するつまみ部分の画像のファイル名【※】 * MouseOverImageFile 画像ファイル名 マウスオーバー時に表示するつまみ部分の画像のファイル名【※】 ※ImageFileに設定した画像ファイルのサイズ(幅・高さ)が つまみ部分のサイズ(幅・高さ)になります。 PushedImageFile・MouseOverImageFileは それぞれクリック時・マウスオーバー時に表示する画像を変えたいときだけ設定してください。 キーを省略すると、クリック(マウスオーバー)時もImageFileの画像のままになります。 なお、『通常時のみ非表示・マウスオーバー/クリック時のみ画像を表示させる』という場合でも ImageFileは省略できないので、そのような表示にしたい場合には 必ずDisableRegionキーをTrueで設定した上で MouseOverImageFile・PushedImageFileと画像サイズを同じにした 透明の画像ファイルをImageFileに指定してください。 スライダがゲージ式(IsProgressBar = True)のときはつまみ部分ではなく ImageFileに設定した画像ファイルがスライダの領域全体に配置され スライダの現在位置に応じて端から表示(0%で非表示~50%で半分~100%で全部表示)されます。 ☆横方向動作のスライダなら『ImageFileの画像の高さとHeight』を 縦方向動作なら『ImageFileの画像の幅とWidth』を ゲージ式なら『ImageFileの画像の幅・高さとWidth・Height』を それぞれ同じサイズに合わせてください。 なお、ゲージ式かつ「サイズ変更可能なスライダ」にする場合 (サイズ変更可能なフェイスで、スライダのほうも TopLeftAnchor/BottomRightAnchorキーで配置していて ウィンドウサイズに応じて幅(あるいは高さ)が拡大縮小するゲージ式のスライダにする場合)は ImageFileの画像がサイズ変更に応じて自動的に拡大縮小されるので、 滑らかに画像を表示したいときはWidth・Heightの初期サイズよりも 大きめの幅・高さの画像の指定をおすすめします。 (元画像が小さいと、うねったり多少表示の乱れが生じることがあります。) 背景色の設定 キー名 値 内容 初期値 * BackgroundColor 色指定 アイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 0x00000000 * PushedBackgroundColor 色指定 クリック時のアイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 * MouseOverBackgroundColor 色指定 マウスオーバー時のアイテムの背景色(・透明度)の設定【※】 ※スライダの現在位置に関係なく、 スライダの表示領域の矩形(長方形)部分全体に設定した色・透明度で塗りつぶされます。 ImageFileキーで設定されているつまみ画像部分のすぐ下に(奥に)背景色が表示されます。 スライダの現在位置にあわせて色をつけたい場合はこれらのキーを使用せず IsProgressBarキーをTrueに指定した上で ImageFileキーに全体を1色で塗りつぶした画像を指定してください。 PushedBackgroundColor・MouseOverBackgroundColorは それぞれクリック時・マウスオーバー時に背景色を変えたいときだけ設定してください。 キーを省略すると、クリック(マウスオーバー)時もBackgroundColorの色指定のままになります。 アイテムの表示サイズ(スライダの幅・高さ)の指定 ☆Width・Heightキーを省略してしまうと ImageFileの画像サイズ=つまみ画像と同じサイズに設定され、 スライダが操作不能になってしまうのでWidth・Heightキーは必ず設定してください。 キー名 値 内容 初期値 * Width 数値 スライダの幅 * Height 数値 スライダの高さ アイテムの表示位置指定 ☆通常は『PosX・PosYキー両方とも』 ウィンドウの特定位置(四隅・四辺の中央など)からの相対位置にする場合は 『TopLeftAnchorキー』が、それぞれ必須キーになります。 (PosX・PosYは省略してもエラーにはなりませんが TopLeftAnchorキーが未設定のときにPosX・PosYも省略すると PosX・PosYがどちらも0扱いとなり、アイテムがフェイス左上端に配置されてしまうので 基本的にはPosX・PosYを省略せずに記述するようにしてください。 なお、OriginItemキー設定時で 基準アイテムと同じ位置に配置する場合は省略してもかまいません。) キー名 値 内容 初期値 * PosX 数値 アイテムの左上端位置のX座標 0 * PosY 数値 アイテムの左上端位置のY座標 0 OriginItem 基準になるアイテムのフィールド名【※1】 アイテムの表示位置がキーの値に指定したフィールド名のアイテムの表示位置からの相対位置になる【※2】 * TopLeftAnchor 【※3】 アイテムの表示領域の左上座標を指定した原点からの相対座標に固定する【※4】 None * BottomRightAnchor 【※3】 アイテムの表示領域の右下座標を指定した原点からの相対座標に固定し、ウィンドウサイズの大きさに応じて表示サイズを自動調整する【※5】 None Priority 数値 アイテムの表示の優先度 0 ※1 iniファイル(定義ファイル)内で、 このキーを記述するフィールドの前に記述されているフィールド名のみが対象。 (このキーを記述するフィールドの後にあるフィールド名や iniファイル内に存在しないフィールド名はエラーになります。) ※2 OriginItemキーを記述した場合、 アイテムの左上端位置のX座標は、 「OriginItemで指定したアイテムのPosX+このアイテムのPosX」に、 Y座標は「OriginItemで指定したアイテムのPosY+このアイテムのPosY」になります。 PosX・PosYキーの数値にマイナスの数値を指定することで、 OriginItemで指定したアイテムよりも上や左に配置することもできます。 PosX・PosYキーの数値がどちらも0の場合(または、キーを省略した場合)は OriginItemで指定したアイテムと同じ位置に配置されます。 ※3 〔原点〕, 〔相対X座標〕, 〔相対Y座標〕の3つを半角スペースとカンマで区切って指定します。 原点はTopLeft(左上端)・TopCenter(上端中央)・TopRight(右上端)・ CenterLeft(左端中央)・Center(中央)・CenterRight(右端中央)・ BottomLeft(左下端)・BottomCenter(下端中央)・BottomRight(右下端)・ None(自動補正を行わない)のうちどれか1つ。 相対X座標と相対Y座標はピクセル単位だけでなく、 ウィンドウの幅や高さに対する割合でも設定が可能です。 割合で指定する場合は数値の後に半角で%を記述してください。 (%表記の場合、10.0%というふうに小数表記も可能です) ※4 このキーはPosX・PosYキーの代わりに設定します。 また、OriginItemキーの設定は無視されます。 ※5 このキーはTopLeftAnchorキーとともに設定します。 スライダの表示サイズはウィンドウサイズに応じて自動的に調整されますが、 初期サイズとしてのWidth・Heightキーは設定しておいてください。 なお、シークバー(Type = SeekBar)のみ 変更されたサイズにあわせてつまみの位置が自動調整されますが、 その他のスライダはサイズ変更後に一度クリックしないとつまみの位置が変更されません。 スライダの方向の設定 キー名 値 内容 初期値 IsVertical TrueかFalse True:スライダを縦方向動作にする False IsReversedSlider TrueかFalse True:スライダ動作方向を入れ替える 横方向動作なら「右が小さい値・左が大きい値」、 縦方向動作なら「下が小さい値・上が大きい値」 False スライダの動作の設定 キー名 値 内容 初期値 DisableDirectTrack TrueかFalse True:スライダの表示領域内をクリックで ダイレクトに移動する機能を無効にする False SliderAlwaysDrag TrueかFalse True:スライダの表示領域内のどこをクリックしても、 ドラッグしか出来ないようにする False IsProgressBar TrueかFalse True:スライダをゲージ式に変更する【※】 False ※このキーをTrueに設定する場合、ImageFileに設定する画像ファイルは Width・Heightキーで設定したスライダ全体の幅・高さと 同じサイズ(幅・高さ)の画像ファイルに差し替えてください。 ただし、ウィンドウサイズの拡大縮小に応じてスライダの幅(あるいは高さ)も拡大縮小するスライダ (TopLeftAnchor/BottomRightAnchorキーで配置したスライダ)にした場合は 幅・高さを揃えなくても自動的に画像のサイズがスライダのサイズに合わせて拡大縮小されるので サイズを揃える必要はありませんが、 元画像が小さいと拡大表示時にうねったり多少表示の乱れが生じることがあるので 大きめのサイズの画像の指定をおすすめします。 マウスオーバー/クリックへの反応の設定 キー名 値 内容 初期値 * TipHint 文字列 マウスカーソルがアイテムの表示位置に一定時間置かれたときに表示されるチップヒントの内容 * Enable TrueかFalse True:クリックに反応するようになる【※1】 False LinkedItem 他のアイテムのフィールド名【※2】 アイテムをクリック/マウスオーバーすると値に指定したフィールド名のアイテムも同時にクリック/マウスオーバーする AlphaThreshold 数値(整数)(0~255) つまみ部分の画像の中で〔指定した数値〕より大きいα値を持つピクセルにつまみ部分としての当たり判定を持たせる【※3】 0 DisableRegion TrueかFalse True:つまみ画像の中で 完全に透けている部分のある画像でも 画像の表示サイズの範囲全体に つまみ部分としての当たり判定を持たせるFalse:つまみ画像の中で完全に透けている部分には つまみ部分としての 当たり判定を持たせない【※3】 False MouseCursor 【※4】 マウスオーバー/クリック時のマウスカーソルの指定 Auto ※1 Falseに設定するとスライダが操作不能になるので 基本的にはTrueに設定してください。 ただし、同じ機能のスライダを複数配置する場合は 複数あるうち1つをTrueにしてあれば操作は可能なので 残り全てのスライダをFalseにしてもかまいません。 ※2 複数のアイテムを同時に連動させることも可能。(半角スペース・カンマで区切って指定する) ※3 通常のDynamicImageアイテムと異なり、 つまみ部分の当たり判定についての設定になります。 なお、AlphaThresholdキーで当たり判定を制御する場合は DisableRegionキーは省略するかFalseを指定してください。 ※4 マウスカーソルに使用する*.curのカーソルファイル名か、 以下の値のうちどれか1つ Auto・Normal・Finger・ TopLeftResizer・TopRightResizer・BottomLeftResizer・BottomRightResizer・ Arrow・IBeam・Wait・Cross・UpArrow・Size・ SizeNWSE・SizeNESW・SizeWE・SizeNS・No・Hand・AppStarting・Help 設定可能なマウスカーソルの一覧はこちら。 アイテムの初期表示状態の設定 キー名 値 内容 初期値 * IsHided TrueかFalse True:初期状態でアイテムを非表示にする【※】 False ※HideItemコマンドで非表示にしたのと同じ状態です。 後からShowItem・SwitchShowItemコマンドで表示させることはできます。 アイテムの透明度・表示範囲の設定 ☆背景色指定の透明度や画像ファイル自体の透明情報を編集すれば ConstAlphaキーを使用しなくても アイテムの表示透明度を制御することは可能です。 キー名 値 内容 初期値 * ConstAlpha 数値(整数)(0~255か-1) アイテムの定数α(不透明度)を指定【※1】【※2】 -1 AlphaChannelFile 画像ファイル名 つまみ画像が表示される部分のαチャネル生成元として使用する画像ファイル【※3】 ※1 「0」で完全透明、 「255」で不透明(背景色や画像ファイル自体が半透明なら、その透明度のまま)になります。 ただし、不透明扱いにするのならキーを省略(-1に設定)するほうが高速に描画されるので このキーで透明度を調整する必要が無い場合は、キーを省略してください。 なお、背景色指定の透明度や画像ファイル自体の透明情報が設定されている場合 ConstAlphaキーの設定が乗算されます。 ※2 ゲージ式のスライダ(IsProgressBar = True設定)で、 TopLeftAnchor/BottomRightAnchorキーを設定していて ウィンドウサイズに応じて長さが拡大縮小するスライダにしている場合は、 画像の拡大縮小とConstAlphaの設定が両立できないので ConstAlphaキーは使用しないでください。 ※3 このキーで指定された画像ファイルをグレイスケール化した後、 画像の「白い部分は不透明」・「黒い部分は透明」としてみなされ スライダ全体の中でその透明・不透明の部分にあわせた形/範囲で つまみ画像部分の表示が制御されます。 (灰色部分は半透明、白っぽい灰色は不透明に近くなる・黒っぽい灰色は透明に近くなる) 左右の端でフェードアウトするような表示にするときなどに設定してください。 例えば、両端が黒く、それ以外が白い画像をAlphaChannelFileに指定すると AlphaChannelFileの黒色部分にあたる領域(両端)につまみがあるときはつまみ画像が透明になり、 白色部分にあたる領域にあるときはつまみ画像が表示されます。 アイテムの表示エリアの差分描画の設定 キー名 値 内容 初期値 DisablePartialUpdate TrueかFalse True:差分描画が行われなくなる False つまみ画像の配置設定(キー省略を推奨) ☆他のDynamicImageアイテムと同じくキーの設定をすること自体は可能ですが、 スライダアイテムの場合はAlignキーを設定すると つまみ画像の位置や表示がおかしくなることがあります。 また、TilingMethodキーはスライダアイテムでは使用できません。 このため、基本的にはこれらのキーは省略してください。 ゲージ式のスライダ(IsProgressBar = True設定)で、 TopLeftAnchor/BottomRightAnchorキーを設定していて ウィンドウサイズに応じて長さが拡大縮小するスライダにしている場合は、 TilingMethod = Scalingと設定していなくても スライダのサイズの変更に応じて自動的に画像が拡大縮小するので TilingMethodキーの設定は必要ありません。 キー名 値 内容 初期値 Align 【※1】 アイテムの表示領域内での画像ファイルの表示位置 TopLeft TilingMethod 【※2】 画像ファイルの表示方法(繰り返し・拡大縮小) None ※1 TopLeft(左上端)・TopCenter(上端中央)・TopRight(右上端)・ CenterLeft(左端中央)・Center(中央)・CenterRight(右端中央)・ BottomLeft(左下端)・BottomCenter(下端中央)・BottomRight(右下端)のうち どれか1つ ※2 Both(縦横に繰り返し)・Horizontal(横方向に繰り返し)・Vertical(縦方向に繰り返し)・ Scaling(表示サイズにあわせて拡大縮小表示)・ KeepAspectScaling(縦横比を保ったまま拡大縮小表示)・ None(繰り返しや拡大縮小を行わない)のうちどれか1つ コマンドの設定(設定不可能) ☆スライダアイテムの場合、コマンドの設定に関するキーを記述しても コマンドは実行されません。
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★ 「あ、雨だ」 ぽつんと鼻先に冷たい雫を感じる。 空を見上げると、鈍い光を受けた雨が線となって降り注いでいた。 あともうすこしで家に着くというのに。 徐々に強くなる雨が私の髪を濡らしてゆく。 腰まで届く蒼い髪が雨を含み、体にまとわりついた。 「むぅ、嫌な季節になったねえ」 『紫陽花色に光る雨』 6月も半ばを過ぎ、梅雨の季節を迎えていた。 連日降り続く雨のせいで、空は一面暗い雲に覆われている。 どこまでも続いてゆく暗い雲は、私の心まで覆ってしまいそうだ。 ずっと青空が見られないのは寂しい。 気分までどんよりとなりそうになったが、雨もたまにはいいことをしてくれる。 「今日は録画の時間変更しなくてもいいかな」 野球が中止になるからだ。 「かがみが横にいれば一緒に入れてもらうんだけど」 今、傘に入れてくれそうな人は横にいない。 かがみ達とはさっき駅で別れたところだ。 どうして別れた後で降り出すんだろう。 どうせなら、一緒にいるときに降ってくれればいいのに。 「何で傘持って来ないの、なんてまた怒られそうだけどね」 いつ雨が降り出すか分からない今の季節には、折りたたみ傘を持ち歩くのが当然なのかもしれない。 でも、かばんが膨らむので中には入れたくない。 折りたたむのが面倒くさいという理由もある。 手は濡れるし、一本一本骨を折りたたむ作業が大変だ。 誰かボタンひとつで簡単に折りたためる傘を開発してくれればいいのにといつも思う。 突然雨が強くなった。 愚痴を言っている暇は無さそうだ。 雨が制服に染み込み、徐々に体温を奪ってゆく。 衣替えも既に終え半袖の薄着ということもあり、肌寒さに身震いした。 6月に入り気温が上がったとはいえ、雨の日は急に涼しくなることもある。 「急がないと」 自慢の俊足で家を目指す。 一人雨に打たれながら走る自分の姿が、水溜りに映る。 ──こんなとき側にいてくれたら 一抹の寂しさを感じながらも、これ以上濡れてしまわないよう先を急いだ。 ★☆ 昨日から降り続く雨が、今朝も駅舎を濡らしていた。 いつものように駅前で待ち合わせをしながら、止まない雨をじっと見つめていた。 「おーっす、こなた」 「こなちゃん、おはよう」 ざあざあと降り続く雨の音が頭の中で反響している。 かがみ達の声が、どこか遠くから聞こえてくるようだ。 「おーい、こなた?」 「……ああ、おはよう、かがみ、つかさ」 「元気ないわね。どうしたのよ?」 「ん、ちょっとね」 怪訝な表情でかがみは私の顔を覗き込んできた。 「ん、何?」 「ちょっとごめん」 そう言うと私の額に手を当てた。 ひんやりとしたかがみの手が心地よい。 「うわ、これは熱あるわね。ボーっとしてるから熱でもあるんじゃないかと思ったけど、その通りみたい」 「こなちゃん、大丈夫? 苦しくない?」 つかさが心配そうに身を乗り出した。 「これぐらい大丈夫だって。昨日ちょっと雨に濡れただけだから」 「苦しくなったら言ってね」 「うん。つかさは優しい娘だねえ」 そう言ってつかさの頭を撫でると、恥ずかしそうに笑った。 「まったく。雨の中ではしゃいでたんじゃないでしょうね?」 「むっ、双子なのにどうして姉の方はこうもがさつなのかねぇ?」 「悪かったわね、どうせ私はがさつで優しくないですよ」 頬を膨らませながら、そっぽを向いてしまった。 ──ちょっと言い過ぎたかな? 腕を組みながら横を向いているかがみの様子を窺っていると目が合った。 「むふふ、心配してない素振りを見せながらも、さりげなく横目で私の体調気にしてるかがみ萌え」 「う、うるさい! 冗談言う元気あるんなら、さっさと行くわよ」 そう言うとかがみは先を歩き出した。 「あ~、待って、かがみ様~」 「様は止めんか」 私に気をつかってくれているのか、ゆっくりと歩いてくれている。 心配そうに後ろを振り返っては私のことを見てくれた。 時折目が合うとごまかすように前を向く。 そんな不器用なかがみの心遣いがとてもうれしかった。 ◆ 「──じゃあこの問題を、泉」 お昼も近い4時間目の授業を、ボーっとする頭で聞いていた。 どこかで私の名前が呼ばれた気がする。 「泉、おーい、泉、寝てんのか?」 耳元ではっきりとした声が聞こえると同時に、頭にゴスンと衝撃が走った。 「おおお、これが病人に対する仕打ちですか?」 「何や、いつもみたいに寝てんのかと思たけど、ほんまにしんどいんか?」 「ちょっとしんどいかも」 「昼までもちそうか?」 時計に目をやると、授業が終わるまでまだ30分以上あった。 授業が始まってからずいぶん長い時間経ったと思ったが、まだ20分しか経っていないことに驚いた。 このまま30分以上座り続けるのはさすがにきつい。 「うう、無理そうです」 そう言ってまたぺたんと机の上に顔を乗せた。 「あんまり無理しーなや。どうする、保健室行くか?」 「そうさせてもらいます」 「一人で大丈夫か?」 「まあ、なんとか」 「保健室の場所分かるか?」 「……大丈夫です」 思わずツッコミそうになったが、その元気も無い。 これも先生なりの気の使い方なのだろう。 確かに以前の私は保健室に縁が無く場所を忘れていた時期もあった。 しかし、ゆーちゃんがよく利用するようになってからというもの、自然と覚えてしまっていた。 机の上の教科書をまとめ席を立つと、不意につかさが立ち上がった 「先生、私保健室まで付き添います」 普段のおっとりした様子とは異なり、はっきりとそう告げていた。 「ああ、そうやな。途中で倒れたらあかんからな。ほんなら頼むわ」 先生の了承を得ると、早速つかさが私の側まで来る。 「あんまり無理しないでね」 「うん、ありがと」 みゆきさんも心配そうな目を向けてくれている。 普段余り意識することはなかったけど、こうやって心配してくれる友達がいることに胸が熱くなった。 これ以上無用な心配はかけたくなかったので、大丈夫だとみゆきさんに手を振った後一緒に教室を出た。 ◆ 「じゃあ、ゆっくり休んでね」 「うん。一緒に来てくれてありがとう」 「お姉ちゃんには、またあとで言っておくから」 「私と一緒にお昼ごはん食べられないからって寂しがらないように言っておいてね」 「えへへ」 そう笑い、つかさは保健室を後にした。 最後に見せた謎の笑顔が気になったが、今は何も考えずゆっくり休もう。 体の力を抜き、倒れるようにベッドに横になる。 自分の部屋とは違い、消毒薬のにおいが漂っている。 ベッドも真っ白で清潔だ。 火照った体で横になりながら、窓の外を眺めた。 朝から降り続く雨は、一向に止む気配を見せない。 一日中雨に降られたグラウンドには、大きな水溜りが出来ていた。 こんな雨の日に外で体育の授業を受ける生徒はいない。 誰一人いないグラウンドは、まるで生き物が活動を停止したように静まり返っている。 小さな花壇に咲く草花だけが、潤いに満たされ青々としたその姿を見せつけていた。 そのとき、ふと目の端に鮮やかな紫が映った。 もう一度その方向に目を向けると、紫陽花だった。 雨に打たれた紫陽花は蒼とも紫とも取れない色を見せている。 雨露をたっぷりと含み、ますます鮮やかになってゆく色がとてもきれいだ。 雨で霞む景色の中、まるでそこだけが輝いているようだった。 つかさが去ったあと、この部屋には誰もいない。 保健のふゆき先生も、用事で席をはずしている。 今自分の置かれている状況を思うと、急に寂しくなってきた。 しとしとと降り続く雨の中、一人だけこの学校に取り残されたような感覚に襲われる。 「かがみ……」 今は側にいない人の名を呼んでみる。 紫陽花の中に、かがみの姿が思い浮かんだ。 笑った顔、怒った顔、今朝私に見せてくれた心配そうな顔…… 様々な表情が浮かんでは消えてゆく。 でも、どの顔も私を見守ってくれていた。 腕に抱かれたような安らぎを覚え、そのまま目を閉じた。 ◆ ──…… 苦しくない? うん、大丈夫 寒くない? うん、かがみが一緒にいてくれるから ずっとそばにいるからね かがみ…… ……── 耳元で聞こえる物音に、私は目を覚ました。 「あっ、起こしちゃったようね」 「……うぅん、かがみ?」 「よっ、気分はどう?」 未だボーっとする頭をもたげると、かがみがベッドの脇に座っていた。 なんだかずいぶん恥ずかしくなるような夢を見ていた気がする。 「顔が真っ赤ね。まだずいぶん熱があるのかしら?」 「……それは熱とは関係ないと思うよ」 「?」 「何でもない。今休み時間?」 「そう。お昼休みよ」 「お昼ご飯は?」 「みゆき達と一緒に食べた。あんたまだでしょ?」 「うん。寝てたみたいだから」 「ほんとよく寝てたわ。よっぽど疲れたみたいに」 「見てたの?」 「えっ、いや、ずっとって訳じゃないけど」 気まずいのか明後日の方向を向いた。 「寝てる人の顔を見るなんて、かがみのエッチ」 「なっ、……何がエッチよ。だいたい同じ性別なのに」 顔を真っ赤にしながら、もじもじしているかがみがおかしかった。 「そ、それにあんたが呼んだんでしょ?」 「私が?」 呼んだ覚えは全く無い。 もしかしてうわごとでかがみの名を呟いてたんだろうか。 そうだとするとかなり恥ずかしい。 「あ、あんたが寂しそうにしてるって聞いたから」 「誰に?」 「つかさ」 つかさ、なんという味な真似を。 「と、とにかく、ずっと寝顔見てて悪かったわね」 「ううん。別に気にしてないから。私もからかったりしてごめんね。私のこと心配して見に来てくれたのに」 「まあそうだけど。今日はずいぶん素直なのね。熱のせいかしら?」 「むぅ、せっかく素直に謝ってるのに」 「ふふっ、ごめんね。あんまりあんたがしおらしいから、つい。いつもこうだったらいいのにね」 「ふん、どうせ素直じゃないもん」 「そうやってふくれないの。ほら、お弁当持ってきてあげたから」 そう言ってかがみお手製だろうか、お弁当を差し出してきた。 「食欲はある?」 「うん、ちょっとだけなら」 「少しでもあるなら、ちゃんと食べなさい。チョココロネばっかり食べてちゃだめよ。少しでも栄養あるもの食べないと」 焼き魚と野菜という、質素ながらも栄養バランスの良さそうなお弁当だった。 「かがみが作ったの?」 「そうよ。味に関しては自信ないけど、栄養はあると思うわ。私の余った分で悪いけど、何も食べないよりはましでしょ?」 私のために自分のお弁当を少し残してくれたんだ。 そう思うと、胸から熱いものがこみ上げてきた。 それをごまかすように、私は口をあーんと大きく開けた。 「えっ、何?」 「あれ、かがみが食べさせてくれるんじゃないの?」 「ば、ばか。そんな恥ずかしいことできるか」 「でも誰もいないよ?」 「誰もいなくたって、恥ずかしいのは恥ずかしいのよ。それにあんた手は動かせるでしょ?」 どうしても食べさせてくれないみたいなので、少し芝居を打つことにした。 「どうせかがみは私なんかに食べさせてくれませんよ」 悲しそうに目をつぶり、不貞寝をした。 「なっ、そんなにいじけることないでしょう。分かったわよ、もう」 そう言うとお弁当の中からおかずを適当な大きさに切り分けて、口まで運んでくれた。 「はい、あーん」 「ノリノリだね、かがみん♪」 「そんなこと言うならあげない!」 「あ~、やめないでかがみ様」 「もう、冗談は言わないでよ。あと、様はやめい」 恥ずかしそうにしながらも、ちゃんと食べさせてくれた。 口に含んだおかずはごく普通のもののはずなのに、ともておいしい。 幸せな味が口いっぱいに広がった。 「かがみの愛情の味だね」 「恥ずかしいこと言うな」 顔を赤くしながらも、まんざらではなさそうだ。 そのはにかんだ笑顔が私を幸せな気持ちにしてくれる。 後ろで赤くなっている二人も、この微笑ましい私たちの姿を祝福してくれているに違いない。 …… 「申し訳ありません、お取り込み中でしたか」 「こなちゃん、お姉ちゃん、どんだけー」 その声に私たちは固まった。 ここが誰もが入ってくる可能性のある保健室であることを忘れていた。 かがみは錆びた機械のように、ギギギと首を後ろに回している。 「い、いつからそこにいたの?」 「かがみさんが、はい、あーんとおっしゃったときからでしょうか」 かがみは頭を抱えてうずくまった。 「申し訳ありません、泉さんの体調が気になってしまって、つい。で、でも、これだけ甲斐甲斐しく看病してもらえれば、泉さんの風邪もすぐに治りますよね」 「……フォローになってないよ、みゆきさん」 「お姉ちゃん、こなちゃんと一緒に幸せになってね」 抱えていた頭をなんとか持ち上げ、かがみは説得に乗り出した。 「と、とにかく、誤解だってば!」 真っ赤になりながらかがみは必死に否定し始めた。 ──そんなにむきに否定しなくてもいいのに 何だかその姿を見ていると、無性に悔しくなってきた。 「かがみんとの関係がこの程度だったなんて、悲しいヨ」 「そうよ、こなたも言って……ん、って何言ってんのよ、あんたは」 「かがみんの愛は見せかけの愛だったんだネ」 「ああ~もう、ややこしくなるからあんたは黙ってなさい!」 「みんなー、保健室では静かにね」 しばらくぶりに戻ってきたふゆき先生の一言で、その場は何とか納まりを見せた。 そんなこんなで一騒動あったあと、昼休みも終わりに近づいてきた。 「5時間目の授業は、この熱じゃ無理そうね。どうする、おじさんに迎えに来てもらう?」 ピピッと鳴った体温計を見ながら、かがみはそう提案してきた。 「ううん、お父さん今日仕事で出かけてて夕方にならないと帰ってこないから無理」 「そう。ゆたかちゃんに送ってもらうわけにもいかないか」 「ゆーちゃんも最近体調崩してるから無理させられないよ。送ってもらってもゆーちゃんの方が先に倒れそうな気がする。二人共倒れなんて嫌だよ」 「共倒れって……しかたない、私が帰り家まで送ってあげるわよ」 「えっ、でも悪いよ」 「あんたに途中で倒れられるよりましよ」 「病弱のヒロインを家まで送り届けるなんて、……かがみん、リアルで私を攻略するつもりだね?」 「ちゃかさないの。それに誰が病弱のヒロインだ」 「……ほんとに、いいの?」 「当たり前よ。さっさと休んで風邪治しなさい」 「……うん。ありがと」 「じゃあ、放課後またここに寄るから」 「うん」 ちゃかしてみせたけど、かがみは力強く私を送ってくれると約束してくれた。 かがみ、冗談じゃなく本当にフラグを立てちゃってるよ。 ゲームみたいに何かイベントが起こるのかな。 こういうシーンってどういうイベントが起こったっけ? 去っていくかがみの背中を見送りながら、これまでやった数々のゲームを思い出していた。 主人公がヒロインを家に送り届けて、家はたまたま親が仕事で遅くまで帰ってこなくって、……って○シーンに突入? ……駄目だ、自重しろ、私。 恥ずかしい妄想をしていると、熱が出てきそうになった。 ○な妄想で熱出したなんてかがみに知られたら、一生の恥。 私は一生からかわれて、主導権を握ることができなくなる。 「……寝よう」 なるべく変なことは考えないよう、放課後まで寝ていることにした。 ◆ にわかに生徒の声で騒がしくなりだした放課後、かがみはつかさやみゆきさんと一緒に保健室に現れた。 「おっ、起きてたんだ」 「さっき起きたんだよ。寝てる間にかがみんにいたずらされたら困るからね」 「するか。それより気分はどう?」 「うん。寝てたらずいぶんましになった気がする」 「無理しないでね」 「ありがと、つかさ」 「黒井先生にはかがみさんに送ってもらう件、既に伝えてありますので心配しないで下さい」 「さすが根回しが早いね、助かるよ」 「それにしてもずいぶん体調が良くなられたようですね。やはり、かがみさんの手料理が良かったのでしょうか?」 「へっ!?」 「んなっ!?」 思いもかけない台詞に私とかがみは同時に変な声を上げてしまった。 「な、何を言うのよ、みゆき」 「ああ、別に変な意味ではなく、本当に泉さんが元気になって良かったなと思いまして」 一人赤くなって慌ててるけど、こういうときこそ冷静であらねばならぬのだよ、かがみん。 「こなちゃんもお姉ちゃんみたいに真っ赤だね」 「うぇ? そ、それは熱のせいだよ、うん」 思わぬところから反撃がきた。 まさか私としたことが赤くなるなんて。 思わず頬に手を当ててしまった。 「まだ熱あるの?」 つかさは私の額に手を当ててきた。 「そんなに熱くないよ?」 「うああ……」 天然コンビにしてやられた。 つかさは何も気付いてないし、みゆきさんは本当に天然なのかどうか…… 光る眼鏡に阻まれて目が見えず、考えが読めない。 むう、手ごわいね、みゆきさん。 「じゃ、じゃあ、気を取り直して」 未だ赤さの抜けきらない顔でコホンと咳払いしながら言った。 「こなた、歩いても大丈夫?」 「それくらいなら大丈夫そう」 「よし、じゃあ帰りますか」 「これ、こなちゃんのかばんだよ」 「悪いね。じゃあ、行きますか」 ベッドから降りると、まだ少しふらつくようだ。 完全に熱が抜け切っていないのだろう。 そんな私をかがみは支えてくれた。 今日は寝てばかりだけど、帰って休むことにしよう。 早く風邪を治さないと、かがみ達と一緒に過ごせないから。 ◆ 「それじゃあ、こなちゃんお大事にね」 「うん。今日はほんとありがとね」 「お姉ちゃん、ファイト」 「何をがんばるのよ」 半分呆れ顔になりながら、かがみは妹に手を振っている。 今日さんざんいじられたせいか、すっかり慣れたみたいだ。 かがみには家まで送ってもらうことになっているので、途中つかさと別れることになった。 いたずらっこのような笑みを浮かべながら、つかさは去っていった。 ほんと、つかさは自分が何言ってるのか分かってるんだろうか。 分かって言ってるんだとしたら……なんか恥ずかしいな。 帰りの電車の中は思ったより混雑していた。 ずっと揺れる電車の中で立ち続けるのは思っていたより体力がいるようで、熱のある体では正直こたえた。 途中の駅で人が降りたので、ようやく一人分座れるスペースが空いた。 「ここ座って」 「ありがと」 かがみに感謝し席に座ると、体の力が一気に抜けていった。 思ったより、疲れているらしい。 まだ熱の残る体では、このままずっと立っているのは辛かったに違いない。 目の前では、電車の揺れに合わせてかがみの制服がひらひらと揺れている。 時折制服の隙間から、かがみのお腹がちらちらと見え隠れしていた。 ──きれい…… ついその白い肌に見とれてしまう。 かがみはいつも体重のこと気にしているけど、本人が言うほど肉付きがいいようには見えない。 適度に腰は引き締まっているし、出るところは出ている。 理想的な体形だし、とてもきれいでうらやましい。 ……って、何を見とれているんだ、私は。 昼間の妄想がふと頭をよぎり、また顔が赤くなり始めた。 かがみの顔をチラッと上目遣いでうかがう。 大丈夫、私のこと見ていない。 ほっとため息をつきながら、どこか申し訳ない気分になってきた。 気分を変えようと窓の方を向いた。 外では相変わらず雨が降り続いている。 斜めに走る雨の雫が電車の窓を濡らしていた。 「止まないね」 「そりゃあ、梅雨だからね」 その時窓の外に続く田園風景の中に、色鮮やかな紫陽花を見つけた。 「あっ」 「えっ、何?」 雨で霞む景色の中、そこだけが色彩を放っているようだった。 「紫陽花が咲いてる」 「どこ?」 「もう見えなくなっちゃった」 「あんた花とかに興味あるの?」 「いや、特に無いよ」 「ふーん」 「……でも、特別だからね」 「?」 「何でもない」 何か聞きたげな様子だったが、そのまま気付かない振りをした。 ◆ 「ほら、こなた、そろそろ起きなさい」 「……んぁ?」 目を開けると体がゆらゆらと揺れている。 かがみが私の肩を揺さぶっていた。 「もうすぐ降りる駅よ」 「んん、分かった」 寝ぼけ眼をこすりながら、周囲を見回す。 もうすぐ降りる駅が近いようだ。 しかし、昼間あれだけ寝たはずなのに、また眠ってしまうとは。 ゲームで夜更かししたのが原因だろうか。 眠い目をこすりながら、またふらつかないよう注意し席を立った。 雨足は先ほどよりずいぶん弱くなったようだ。 「もう少し待ってれば雨止みそうだけど、どうする?」 「んー、早く帰って休みたいかも」 「そう。じゃあ、行きましょ」 「うん」 「そういや今日はちゃんと傘持ってるのね」 「そりゃあ朝から降ってたからね。さすがに雨に濡れながら登校するわけにはいかないよ」 「昨日はどうして雨に濡れちゃったのよ?」 「だって傘って持ち歩くのめんどくさいじゃん? 折りたたみ傘はかばんの中濡れるし膨れて邪魔だし」 「あのねえ。そうやっていつも傘持ち歩かないから、ばちが当たったのよ」 「むう、まさか風邪引くとは思わなかったんだもん」 「いい教訓になったでしょ」 「まあね。でもそんな風に言われると意地でも持ちたくなくならない?」 「ならないわよ。はぁ、まったくあんたは懲りないわね。 そんなに傘が嫌ならカッパを着ればいいじゃない。ちっちゃい子がよく着てるやつ」 「なんだかとても馬鹿にされてるような気がするんだけど」 「気のせいよ」 「カッパは蒸れるから好きじゃないんだよね」 「文句ばっかりね。まあ、確かにこの季節毎日傘ささなきゃいけないのが面倒くさいって気持ちは分かるけど」 そう言って止まない雨を見つめながら、いつものようにため息をつく。 肩が下がった拍子に、ツインテールが傘からはみ出し雨に濡れていた。 「かがみ、髪が濡れてるよ」 「えっ、ああ、ほんとだ。もう、これだから雨は」 「嫌だよね」 私も自分の髪が濡れていないか首を回して確認してみた。 幸い大きな傘だったので、小柄な自分が濡れることは無かったようだ。 振り向いた先の民家の庭先に、偶然紫陽花が咲いているのを見つけた。 今日あの紫の色の中にかがみの姿を見てから、気になって仕方が無い。 これまでそんなもの気に留めることもなかったのに。 熱のせいかボーっとしている。 まるで吸い寄せられるように、その花のもとへ近づいていった。 「こなた、危ない!」 かがみの声が聞こえると同時に、強く抱き寄せられた。 とたん、車が横を猛スピードで通り過ぎてゆく。 「まったく、何考えてるのかしら!」 かがみは通り過ぎた車をキッとにらみつけている。 どうやら私は前から車が近づいてきたことに気付かなかったらしい。 「怪我は無い?」 「う、うん。心配かけてごめん」 私が無事だとわかると、ほっと息をついた。 「大丈夫? さっきまで普通に話してたから熱が下がったのかと思ってたけど、まだ熱があるのね?」 「うん。完全にはまだ治ってないみたい」 「それもそうか。ごめんね、熱のこと忘れてて。家までちゃんと送り届けるっていったのに」 さっき危ない目に遭わせたことを悔いているようだった。 「そんな、心配しないで。ちゃんと歩けるから」 「でも、まだボーっとするでしょ?」 「それはそうだけど……」 かがみはしばらく迷ったあと、何かを決意したように言った。 「こなた、こっちに来て」 「えっ?」 そう言ってかがみは私を引き寄せると、肩に腕を回してきた。 「か、かがみ?」 「こ、こうしていれば安全でしょ?」 「う、うん」 「これでふらふらすることもないと思うし、さっきみたいに危ない目にも遭わないし」 照れを隠すためか、やたらと理由を強調している。 「うん。でもこれって、……相合傘だよね」 私の呟きに、かがみは真っ赤になった。 かがみはいつも通りの反応とはいえ、自分の言った言葉の意味を悟り私まで赤くなってしまった。 「なっ、何言ってるのよ。別に変な理由なんてないんだから。 仕方ないじゃない、だいたいあんたがふらふらして危なっかしくて──」 ──やっぱりいつものかがみんだ 必死に反論するかがみを見ていると、ふと可笑しさがこみ上げてきた。 二人して一緒に赤くなって何やってるんだろう。 「もう、素直に私の側にいたいと言いたまへ」 「あ、あんたは私の話聞いてなかったの?」 「本心じゃないくせに」 「ううっ、もう知らない」 そういいながらも、私の側を離れることはしない。 私を守るように、ずっと肩を抱いてくれている。 ──ありがとね、かがみ 私はそっと、気付かれないようかがみに寄り添った。 本当ならじめじめして暑いはずなのに、触れた肌から伝わるかがみの体温はとても温かくて心地よかった。 ほんのちょっと寄り添っただけなのに、それに気付いたかがみはぎゅっと私の肩を抱き寄せた。 驚いてかがみの方を振り返ると、頬を赤らめながら明後日の方を向いている。 何だかとても変な感じ。 頭がボーっとする。 でも、不思議と体のだるさは感じない。 これもきっと熱のせいなんだ。 朝から続いている熱が私をおかしくしているに違いない。 でもじゃあ、体をだるくするはずの熱がどうしてこんなに心地よく感じるんだろう。 ずっとこのままでいたいって思うのはどうしてだろう? 気がつくと、ずっと降り続いていた雨が止んでいた。 雲間から射す日の光が、雨の雫に濡れた周りの世界を輝かせていた。 光の雨が降りそそぐ中を、二人ひとつの傘をさし寄り添いながら歩き続けた。 傘が日の光をさえぎってくれる。 きっとこの瞬間、傘でさえぎられた私たち二人の世界にはまだ雨が降っているんだ。 だから、まだ傘はたたまない。 あともう少し、このまま一緒に歩きたい。 私たちの世界に降り続く雨が止まない限り…… 「ここまで送ってくれてありがとね」 「どういたしまして」 駅から自分の家までの道のりは、こんなに短かっただろうか? まだ未練の残る中、かがみのそばを離れた。 触れていた肌から温もりが消えていくのが寂しい。 本当は早く家に帰って休みたかったのに、二人でもっと歩いていたいと思った。 雨なんか嫌いだったはずなのに、……もっと降り続けてほしいなんて思ってしまった。 ほんとどうしてしまったんだろう。 そんな動揺を隠すため、冗談めかして言った。 「かがみんとの相合傘は良かったヨ」 「えっ、ほんとに?」 「ちょっ、何まじめに言ってるのさ」 かがみが素で返事をしてきたので、慌ててしまった。 いつもなら顔を真っ赤にして返してくるのに。 かがみまでどうしちゃったんだろう。 「そ、そうよね。何言ってんだろ私。あれは仕方なくなったんだもんね」 とても寂しそうな顔で、俯いてしまった。 その姿に私の心が痛んだ。 「ち、違うよ。自分でからかっておいておかしいと思うけど、かがみがそばにいてくれて嬉しかったよ。ああもう、何言ってんだか」 いつもの調子でかがみをからかうことが出来ない。 私まで慌ててどうしちゃったんだろう。 そんな様子の私をかがみが見ている。 とても恥ずかしい。 「こなた」 「なに?」 「ありがとね」 「……!」 それはとても幻想的な風景だった。 ほんの一瞬、雨の雫に濡れたかがみの髪が日の光を受けきらきらと輝いていた。 それにも勝るとも劣らない、輝きの中で見せる満面の笑み。 それはどんな花よりもきれいだった。 「……」 何も言えない。 私はかがみから目が離せなかった。 私はただボーっと見惚れることしかできなかった。 「こなた?」 「……」 「どうしたの?」 「……えっ、あっ、べ、別に何でもないよ」 「もう、家に着くなりどうしちゃったのよ?」 「うん……まだちょっと熱があるみたい」 「まだ立ってるの辛い?」 「ううん、そんなんじゃなくて」 「熱でふらふらするんじゃないの?」 「そんな熱じゃないよ」 「えっ、じゃあどんな?」 「……ずっと、下がりそうにない熱だよ」 かがみは頭の上にクエスチョンマークをつけながら、きょとんとしていた。 「もうすこし風邪が長引いてもいいかも」 「何でよ?」 「秘密だよ」 「?」 「気にしないで。熱でちょっとおかしくなってるだけだから」 「気になるわね」 「ふふ」 「教えなさい」 「またいつかね」 かがみ、私自身にもその答えは分からないよ。 このもやもやする気持ちが何なのか、今はまだはっきりと分からない。 この気持ちをうまく言い表すことができるかも、うまく伝えることができるかも分からない。 でも、いつか分かるときが来ると思う。 もしそのときが来たら、必ず言うから。 だから、今はもう少し待っててね。 空を見上げると、雲間から青空が覗いていた。 初夏の到来を予感させるその青空に、私の心は躍った。 ──これから先きっといいことがあるよね 蒼に染まる空と、紫陽花色に光る雨。 それはまるで、私とかがみみたい。 季節はこれから夏に向かう。 蒼が空いっぱいに広がる私の季節が来る。 今はまだ紫の多い季節かもしれない。 でも、待ってて。 きっと夏空のように、かがみを私の色で染めてみせるから。 Fin コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-03 07 05 46) ボタン一つで簡単に折りたためる傘、ありますね -- 名無しさん (2017-10-30 16 45 00) 両想いだとなぜ気付かない!? -- 名無しさん (2010-06-17 16 32 12) これいい!このSSすっごく萌えた!! -- 名無しさん (2009-04-27 00 12 39) 初々しい二人の思いが素敵でしたw -- 名無しさん (2008-06-19 18 22 09) 良いなぁ、何か心が暖かくなりました。 -- kk (2008-06-18 22 07 21) 肩抱きよせるトコで悶えしにましたwwwwwwGJ! -- 名無しさん (2008-06-17 08 46 10)