約 67,607 件
https://w.atwiki.jp/new_jack/pages/402.html
新ジャンル「一年中風邪っぴき」 53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 01 01.43 ID kEvGH3KP0 女「男くーん。さっき(テーレッテレー)って効果音聞いちゃったから、 ねるねるねるねが食べたくなってきちゃったよー。 でも今日はロッカーのティッシュのストック切らしちゃって、 さっき本日4箱目の箱ティッシュ買っちゃったからお金がないよー でも食べたいよー ねるねるしたいよー」 男「しょうがないな…昨日バイト代入ったばっかりだから、それ位おごってあげるよ」 女「本当!?いいの!?わぁいやった♪」 男(女さん…お菓子位で子供みたいだな) 54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 02 17.21 ID kEvGH3KP0 続き ~そんなわけで帰り道にあるコンビニへやって来たのだ~ ペポーンペポーン 店員「っしゃーせーwww」 女「ねっるねっるねっるね~は~♪ヘッヘッヘッヘッヘッヘッ♪♪練れば練るほど色が変わって~♪」 男(女さん…お菓子位であんなにはしゃいじゃって。子供みたいだな) 女「あ!!」 男「女さん見つかったの?」 女「このお菓子ね…私の地元のスーパーじゃ品切れで…ずっと探してて…げほんっ(ちらっ)」 男「へえ。じゃあついでだから買ってあげる(そんなに高いお菓子じゃないし、女さんも嬉しそうだし)」 女「ありがとう男くん!わーいわーいっ」 (中略) 女「私病弱だから…学校に来るだけで精一杯だから…バイトも入れられないし…(ちらっ)」 男「…仕方ないなあもう…何?このお菓子でいいの?」 女「うんっ、男くんありがとう!ずずっ」 55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 03 10.32 ID kEvGH3KP0 (中略) 女「男くーんコレとコレもカゴ入れるねー」 男「え、ちょ…っ」 (中略) 女「…アイスも食べたい…な…。今日は熱が36度8分もあって…ああっ眩暈がっ(ちらっ)」 男「(いつもに比べたら微熱レベルですよねソレ!)あーハイハイハイ! もう自棄だよ入れればいいでしょ!ただしダッツはダメ!」 女「ええええドルチェのミルフィーユの食べたかったのに…」 男「ほら!こっちのガリガリくんでいいでしょ!」 女「ちぇー」 店員「計7675円になりゃーすwww」 女「えへへ、悪いね男くん。鼻セレブまで買わせちゃって。ずずっ」 男(この女…!初めからこのつもりで…悔しいっ…でも可愛い…っ!) ペポーンペポーン 店員「っとーござーっしたーwww」 ちょっと脱線気味 書いておいてなんだがこんな女と男イヤだw 56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 04 11.42 ID B38UN1Kn0 53-55 wwwww女テラ悪女wwww 57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 06 25.64 ID kEvGH3KP0 男「女さん、何読んでるの?」 女「クレヨンしんちゃんだよー ずずっ」 男「へぇ、女さんクレしん好きなんだ。面白いよね」 女「うん。特にボーちゃんは他人とは思えない親近感を覚える時があるのよね…ずずずっ」 男「あーほらほら女さん鼻かんで…」 女「ぼー」 おっといつの間にか日付変わったんだな… ほぼ1人で文章打って何やってんだろう自分… 58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 11 56.52 ID LTzYlqmvO しっかり見てます、頑張ってくれ(屮゜Д゜)屮 59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 15 55.50 ID kEvGH3KP0 男「女さん、今日のプール授業も見学?」 女「まだ風邪気味だから今日もお休みなの…」 男「そっか、残念だね…あんなにプール楽しみにしてたのに。早く治るといいね」 女「ありがとう…でも多分今学期の授業はもう無理かなあ… 今年こそは泳げるようになりたかったからとても残念だけど」 男「それじゃ、夏休みになったら一緒に練習しようよ。プールでも海でも」 女「え?」 男「だ、だからさ、絶対治しておいて!」 女「男くん…。…えへへ///」 58 そう言ってもらえるとありがたやー しかしそろそろネタがパッと浮かばない 61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 24 59.23 ID kdMcl3Wa0 うちの学校は一人の男子が 箱ティッシュ持ってきて以来 箱が当たり前になってたな 62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 sage 2008/05/25(日) 00 32 34.25 ID dGQRom4a0 俺んとこは机の鞄掛けに箱ティッシュぶら下げるのが当たり前になってたな 63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 32 50.57 ID nP+sFwwaO 良スレw 無理なくガンガレ 64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 35 07.59 ID kEvGH3KP0 「さ、女さん。早く僕の前に座って」 女「そんな…こんなに大きい…なんて…。! まさか先生!」 「そう、今からコレを君のお口に入れるんだよ」 女「え…先生…本気ですか!?本気でそんなに大きいものを私、に…っ!?」 「ああ、本気だとも。人によってはちょっと痛かったりするかもしれないけどね。 でも痛みなんて一瞬だから安心して…」 女「ううう…や、そ、そんなの…っ!私の口には、入らないで、す…っ」 「大丈夫、先っちょだけだから…ほら。早くお口を開けてごらん…」 女「いやあああああああっ!助けて男くん!!」 男「ってこの前近所の病院の前通ったら、中から女さんの声が聞こえたような気がしてさ」 女「ちょうどその頃、病院の先生に溶連菌の検査で喉に綿棒突っ込まれたの…気持ち悪かったよーぐすっ」 単に長い綿棒?ダケドナー(・∀・) このスレ優しい人率高いよ…なんだこれありがとうございます 今日は多分1時半位までやるかもです。それまでお付き合い下されば幸い しかしまたストックない上にオチも考えてなどいない!! 65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 35 32.42 ID B38UN1Kn0 ライバルだそうぜライバル ……ごめんなんでもない。 1無理すんなー。日付変わってからちょっと心配になってきた 68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 49 40.65 ID kEvGH3KP0 女子C「ねーねー男くんさー、最近女と一緒にいるけどー何な訳ー?付き合ってンのー?」 男「えっ/// べっ、別に…女さんは仲良くしてくれる友達のうちの1人だよ」 女子C「ふーん。あんな年中鼻水ばっか垂らしてるバイキン女のどこがいいんだかーwwキャハハ☆」 男「! おい、女さんの事そんな風に言うのはよせよ!!」 女「あ、男くーん。こんなところにいたんだー…ふぇ…ふぇ…」 女「 ぶ え っ く し ょ ォ ー い っ ! ! 」 女子C「ギャー!!嫌ー!!!信じらんなぁい!!!!鼻水と涎でべとべとォォォォ!!!!!」 女「ッハ、お嬢ちゃんは大人しくベットの上でおネンネしてるんだな。 ほらよ、ティッシュ1枚位ならくれてやってもいいぜ ずずっ」 男「お、女さん…!(漢らしい…!(キュン)」 ライバルっていうかただのDQN女だったな… 65 やんなる位(脳内は)元気だぜ! ただちょっとネタ切れ気味だったりで打つスピード落ちてる。遅筆でごめんな。 それなのに本当付き合ってくれてありがとうw 69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 54 03.02 ID B38UN1Kn0 ライバルktkr つーか風邪っぴきカッコいいwww 一時半か…よし、朝早いが最後まで付き合うぜー。 こちらこそ勝手に絵描かせてもらってありがとうございました 70 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 00 56 53.55 ID dDEmpPkM0 女「ゴホゴホ・・・」 男「今日も体調悪そうだな・・・」 女「ゴホ・・・ちょっとね・・」 男「おだいじn」 ライバル「ゴホゴホゴホゴホ!!!」 男「おわっ!大丈夫か!?ライバル!病院行くか???」 ラ「だ・・・大丈夫・・・ゴホゴホゴホゴホ!!」 男「本当に大丈夫か・・?」 女「・・・・ゴホゴホゴホゴホゴホ!!!」 男「どうした!!女!!ひどくなったか!?」 ラ「・・・ゴホゴホゴホゴホ!!!」 男「ライバル!!お前もどんどんひどく(ry」 終わり 72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 02 25.13 ID kEvGH3KP0 男「今日は健康診断だね。僕視力検査苦手なんだよなあ」 女「うんうんランドルト環は憎いよね!…私内科検診ひっかかっちゃうかなぁ ずずずっ」 男「女さんまだ風邪治ってないもんね…」 女「まあ何とかなるよね!じゃあ男くんまた後でねー」 ~数週間後~ 担任「健康診断の結果返すぞー 名前呼ばれたらとりにこーい」 男「あ、女さんこないだの結果どうだった? …どうしたの!?急に顔暗くなったけど、どこか悪い所でもあったの!?」 女「お、お、男くん…私…私…っ」 男(女さん震えてる…何か重大な病が見つかったとか…!?ああ、僕はどうすれば…!!) 女「1.0の視力が0.7に落ちてるの…!しかも…乱視ッ!」 男「アレでしょ、君風邪で床に伏せってる時に布団被ったまま横向いてDSとかやってたでしょ」 69 おおお朝早いのにいいのかー! 随分長い時間付き合ってくれてありがとう…!引き続きネ申絵をwktkさせてもらいます! 70 ちょ、ライバルwww これはいい火花でなく唾が飛び交っていそうな空間w 73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 10 00.92 ID dDEmpPkM0 ちょっと方向を変えて ~保健室~ 女「ゴホゴホ・・・」 男「まさか倒れるとはな・・・」 「ゴホゴホ・・・」 男が振り返ると ラ「ゴホ・・ゴホ・・・」 男「なっ!ライバルお前もか・・・」 女「ゴホゴホ・・・」 ラ「ゴホゴホ・・・」 男「つらそうだな・・・ちょっと楽になりそうな物買ってくるよ」 ガチャ バタン 女「・・・まさかライバルあんたが居るとはね・・・」 ラ「あなただけに男からやさしくされるなんてずるいわよ・・」 女「へぇ・・・言うじゃない・・・仮病さん」 ラ「人のこと言える立場ですか?元気元気ノンタンさん」 女「ノンタンですって・・・・馬鹿にしてるのかしら?」 ラ「そうですねwwノンタンに失礼ですもんね(笑」 女「やるっていうの!?」 ラ「やりますか??返り討ちにしますよwww」 ガチャ 男「雑誌とウィンダーゼリー買ってきたけど・・・」 ラ・女「ゴホゴホゴホ・・・・ゴホ・・・」 男「ちょっとひどくなってきてるな・・・」 76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 24 39.56 ID kEvGH3KP0 女「ねえ、男くん。ちょっとこっち向いて…」 男「何?女さ… !」 女「………。」 男「………。」 女「…ほら。風邪って…誰かにうつせば治るって聞いたから…けほっ」 男「え、な…!今までさんざん人に風邪菌撒き散らしといて…!!///」 女「だって男くん、私からの風邪はうつったことなかったでしょ? だからその…ちゅ、ちゅーなら風邪菌もうつるかなーって…」 男「………っ だ、だ、だからってそ、そ、そんな……っ///」 女「うつった時はー責任持って私が看病はするからね! …って聞いてる?ねえってば男くん? ずずっ」 とりあえず今日はおしまい。 て言っても明日はこのスレ自体落ちてるだろうし、これでおしまい。 長い文章書くのも初めてで、こーいう系のスレ建ても初めてだったから、 リアルタイムで文章考えて打ち込むのはものすごく不安だったけど、結構なんとかなるもんだなw …いや、なってないよねすみません調子乗りました でもあったかいレスと絵師さんまで付いてくれて嬉しかったしすごく楽しかったよ 長い時間お付き合い下さりありがとうございました! 81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 32 58.59 ID kEvGH3KP0 …とか結んだ途端、またネタ浮かぶんだよなww でも今は風邪治す為に寝ることにするよ。みんなも風邪には気をつけてな。ビタミン摂れよビタミン。 またいつかスレ建てた時はよろしくw今度はちゃんとメモ帳にネタ貯めてから投下するw 気持ち悪い位繰り返してるけど、本当にありがとう!おやすみ。 82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 33 37.65 ID kdMcl3Wa0 76乙 保守してもいい? 83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 34 00.47 ID bQOAkgmGO 76 乙!! 本当にありがとうございましたー。最後の最後まできゅんきゅんさせて貰いました。 また 1がつくるネタで絵がかけたら良いな…とか言ってみるwww 取り敢えず本当にお疲れ。ゆっくり寝て風邪治してくれー 84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 01 42 22.14 ID kEvGH3KP0 82 え、してくれるの?w 女「だがな、明日になってもネタがあるとは限らないんだぜお嬢ちゃ…げほっげほっ」 男「無理に男前気取るからだよ女さん…はい、のど飴」 女「うん…ありがとう男くん…けほっ」 83 きゅんきゅんしてくれたなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないの しかし俺はどんな社交辞令だって本気で受け取っちまう面倒臭い1なんだぜ お前さまもお疲れ!萌えをありがとう。 いつかスレ建てた時に見つけてくれて更に描いてくれるのをちゃっかり期待してるww 86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 02 05 15.24 ID HFLcCBjP0 このスレを見た奴は女と同じくしゃみがでる呪いをかけてやる! 87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/05/25(日) 02 18 38.42 ID kdMcl3Wa0 86 やめろwwwせっかく風邪治ってきたのにww PREV 新ジャンル「一年中風邪っぴき」01_vol01 NEXT 新ジャンル「一年中風邪っぴき」01_vol03
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/189.html
紆余曲折の末、“鈴谷(すずや)”がバーレーンに入ったのは、命令から実に3日目の昼すぎのことだ。 魔族軍の攻撃は一切なかった。 ただし、まるで“鈴谷(すずや)”と入れ替わるかのように、ラムリアース帝国軍をはじめ、各国がアフリカめがけて兵力を大量動員しているという情報が美夜達に届けられただけだ。 「暑い!」 手でパタパタと風を送ってみたものの、熱風しか来ないことを知ったさつきは、信じられない。という顔つきで空を仰ぎ見た。 「何よこれ……ここ、本当に地球?」 「言い過ぎだと思うが」 「美奈代は、暑くないの?」 「私も暑い」 「二宮教官も平野艦長も、これじゃあ外に出ないだろうしね」 「仕事で忙しいんだろう?」 「何言ってんのよ」 さつきは楽しげにポンッ。と、美奈代の肩を叩いた。 「この太陽の下、この暑さに“あの二人”が出てごらん?すぐにシミになって、メイクが崩れてそれはもう―――」 そこまで言いかけ、愕然とするさつきの前を通りかかったのは、その二人だった。 「―――ふむ」 甲板の上で女性士官が腕立て伏せをしている。 「この炎天下の下、真面目な士官だ」 エーランドはそうつぶやくと双眼鏡から目を離した。 「それにしても」 ベドウィンに変装したシグリッド大尉がその双眼鏡を受け取りながら言った。 「これは派手にやられましたな」 シグリッド大尉が言うのも無理はない。 船舶が停泊する港周辺の建物のいくつかが黒く焼けこげ、燃料タンクは原形さえ留めていない。何隻かの船が横転したり喫水線をはるかに越えて浸水し、甲板の残して水底に沈んでいる。 ここまで来るまでにも、その余波だろうか。市街地のあちこちが破壊されていた。 中華帝国の破壊工作の結果だ。 本当なら高台から港を見たかったエーランド達だが、銃を持った兵士達が高台や道のあちこちに立っているおかげで、下手な動きが出来ない。 半日がかりであちこち歩き回り、小高い丘にある繁華街の放置された古いビルの残骸から港が一望出来ることを、ようやく悟ったばかりだ。 このビルは火災にあったらしい。 焼けこげた建材や家具が散らばるビルの物陰に隠れているものの、人間で言うならば白人種に属するエーランドは、その豪奢な金髪を白い民族衣装で隠した。 「水中戦隊の仕業、ではないですな」 「人類の仕業だよ。アフリカ近海から太平洋に至るまで、派手に暴れた結果がコレだ」 「そいつは豪勢だ!」 シグリッド大尉は、その浅黒く日焼けした顔をくしゃくしゃに笑って双眼鏡をエーランドに戻した。 「我々も、どうせならそれ位、やってみたいもんですな!」 「―――しっ」 エーランドは小さく、しかし鋭くシグリッド大尉に言った。 「静かにしろ」 ビルの面した通り。 何か罵声のような大声が聞こえてくる。 すさまじいほどの罵声と銃声、そして悲鳴が聞こえてくる。 銃を手にした男達が集団で大通りを歩いている。 その真ん中にいるのは、黄色い肌をした男女だ。 首からは、エーランド達が読めない文字が書かれたプラカードらしいものをぶら下げている。 男女は10名近く。 皆、顔から血を流し、立っているのもやっとという有様の者も少なくない。 そんな彼等を、男達は殺気だった顔で小突いて歩かせている。 立ち止まろうものなら、容赦なく銃尻が叩き付けられ、蹴り飛ばされる。 殴られ、蹴られたくなければ歩くしかない。 エーランド達の目の前で、不意に倒れて動かなくなったのは、まだ服装からして若い女性だ。 ひげ面の男が、銃尻で頭を殴るが女はぴくりとも動かない。 男達が罵声を浴びせ、女を周囲から容赦なく蹴りつける。 それでも動かないとわかるや、体格のいい男がわざとらしい仕草で自動小銃を天に突き上げ、何事か大声で怒鳴ると、銃口を女に向けた。 鈍く乾いた銃声が数発、町中にこだました。 「少佐……あれは」 男達は、小銃弾で蜂の巣にされた女の死体の脚にかけたロープで引きずっていく。 「私刑だ」 エーランドは言った。 「おそらく、この街を攻撃した軍の仲間と思われているんだろう」 「じゃあ、あいつら」 エーランドは無言で手刀で首を切る仕草をした。 「うへぇ」 たまらない。という顔で、シグリッド大尉は舌を出して嘔吐の仕草で返すが、すぐに二人は仕事に戻った。 「とにかく、“鍵”の反応は間違いなく、あの飛行艦から出ている」 「“鍵”は、ここでは降ろさないんですね」 「本国は弓状列島と聞いている。そこまでは、あの船の中だろうな」 「どうします?」 「メースで急襲してとも思うが……」 唸るエーランドの視線の先。 米軍基地に並ぶのは、小豆色のメサイア達。 米軍の主力メサイア“グレイファントム”だ。 無骨なデザインの重装甲が与えられた重厚なフォルムをした巨大な鎧が、四方ににらみを利かせている。 グレイファントムが単なるメサイアだったら、エーランドもここまで躊躇しないだろう。 エーランドは、そっと双眼鏡を構え、グレイファントムを見た。 ざっと見るだけでその騎数は20騎近く。 そのすべてが武装して周辺を警戒している。 エーランドの双眼鏡に仕込まれた魔力分析装置が、その内の一騎を包む魔力反応を分析する。 装甲に張られた装甲魔法は大したことはない。 多くの騎が持つ速射砲も脅威ではない。 問題は、その手が掴む巨大な戦斧だ。 その無骨なまでの刃先には、攻撃系魔法がかかっている。 エルプス系魔法とは違う。 ダメージ増強系の魔法だ。 だが、その魔法の詳細が分からない。どんな効果があるのだろう? 人類のオリジナル魔法だとすれば、あまりにデータ不足だ。 「あの魔法がどの程度のものかわからないと……」 エーランドが危惧するのは、あの斬艦刀の破壊力を知っているからだ。 数十騎があの武器をもっていたら、わずか4騎で戦を仕掛けるのは愚の骨頂だ。 「リスクが高すぎる」 そう、結論づけるしかない。 「どうします?」 「メースでの下手な攪乱は、逆に連中を警戒させかねない」 すぐ近くで歓声と銃声が響き渡った。 「シグリッド。貴様の艦で、潜入工作に長けたは者は?」 「ウチは元々、そういうのが本業です」 「上等だ」 エーランドは嬉しそうに頷いた。 「今晩、かかるぞ」 バーレーンに入港してからというもの、美奈代達女性士官が、代わる代わる見に行く場所がある。 “鈴谷(すずや)”に接続された真水の供給装置だ。 “鈴谷(すずや)”の舷側につけられた取り込み口が開かれ、専用のクレーンに取り付けられたホースがそこに接続されている。 このホースが取り付けられている限り、真水タンクは一杯になるし、艦内では水が潤沢に使える。 美奈代達は、そのホースがつながっていることを確かめては、腕時計を見て仕事に戻る。 一体、何を楽しみにしているのか? 風呂だ。 “鈴谷(すずや)”の空いた居住ブロックには、整備兵がメサイアの廃棄パーツを流用して 作り上げたという伝説の大浴場がある。 大浴場を持つ軍艦なんて、実際“鈴谷(すずや)”くらいなものだろう。 そして、こういう階級組織では、一番最初に使えるのは、当然ながら最も階級の高い者となる。 一番風呂に意気揚々として入ったのは、美夜と二宮だ。 次にMC(メサイア・コントローラー)達と士官、そして下士官と兵達が順番に入ることになる。 女性の長風呂で消費される水量は半端ではない。 外部から水を入れて、常に湯を作らなければ、湯が不足するし、何より汚れて入れたものではなくなる。 美夜と二宮が二人で夕食前1時間、次にMC(メサイア・コントローラー)と女性士官と来て、例えパイロットだろうがなんだろうが、士官候補生でしかない美奈代達は、軍隊士官兵牛馬猫鼠油虫士官候補生のヒエラルキーの最下層に属する者として、当然ながら最後だ。 一度、湯を抜いて、みんなで掃除して、再び浴槽に湯が満たされたのは、夜の9時過ぎだ。 皆が脱衣所で服を脱いで、風呂に入れる喜びを語り合っている時、不意にドアが開いて当然という顔をして入ってきたのは、フィアだ。 皆に優雅な仕草で一礼し、美奈代を殺気立った目で睨み付けると、さっさと服を脱いで風呂場に消えた。 「……まだ、警戒されてるんですかねぇ」と、美晴は少し寂しげに言った。 「私、お昼一緒だったんですよ?」 「あの子、スゴい人気高いんだよねぇ」さつきは服を脱ぐ手を止めて言った。 「明るいし、礼儀正しいし、物腰優雅だし。ちょっといないタイプだよね」 「……おかげで染谷がロリコン扱いされているがな」 宗像は興味がないといわんばかりに服を脱ぐ手を止めない。 「“幻龍改(げんりゅうかい)”のSTRシステムに高圧電流を流そうとした整備兵がいたらしい」 「ロリータ染谷って、都築あたりが喜んで言いふらしていらるらしいよ?」 「あいつ、うらやましいだけじゃないのか?」 「それより……」 さつきは言った。 「貯まっていた下着、あの子の前で洗濯したくないんだけど……」 美奈代達は、パンパンに膨れあがった袋を前に、互いに顔を見合わせた。 裸のおつきあい。 それが、お風呂での日本人の礼儀。 真偽の疑わしいことを言って、さつきと美晴がフィアと戯れている。 “鈴谷(すずや)”乗組員の中では最も年齢的に近いせいもあるだろう。 フィアも楽しげに会話に参加している。 キャーキャーという、楽しげな黄色い声が大浴場に響く。 それと距離をとるのは、宗像と美奈代だ。 元々が長湯だという宗像は、ゆったりと湯船の中で見事すぎるスタイルをさらけ出している。 反面、お腹のあたりが気になる美奈代は、誰を見てもため息ばかりだ。 「あの子、はやく出てくれないかな」 「宗像……お前は本当に」 美奈代はあきれ顔で言った。 「興味のない女の子には恐ろしいくらい冷淡だな」 「……そういうものだろう?」 「そういうものか?」 「うむ」 二人の視線の先ではフィア達三人が背中を流しあっている。 「それにしても……」 白い陶磁器のような肌。折れそうなほど細く長い手足。くびれたウェスト。 そして、服の上からでは想像も出来ないほど豊かな双丘。 「……うっ」 そこまで見た美奈代は、その視線を自分の体に向け、そのまま浴槽の中に沈んだ。 結局、消灯時間が近いことを理由に、さつき達はフィアを浴場から追い出した。 親密になりたいが、それよりもたまった洗濯物をどうにかしたいという本音が勝ったのだ。 「では、失礼します。お休みなさい」 一礼して大浴場のドアを閉めようとしたフィアの手が、不意に止まった。 「あっ。瞬、ごめんなさい。待った?」 「―――まぁ、待て」 顔を真っ赤にして大浴場から飛び出そうとした美奈代を羽交い締めにして止めたのは宗像だ。 「洗濯物、どうするんだ?」 「……っ!」 「明日から履ける下着がなんだろう?」 事態が動いたのはそれからすぐのことだ。 皆が残り湯で洗濯物を洗っていた。 もう誰もいないと思い、こっそりと下着を洗いに来た女性士官や兵が、それぞれの洗い場に陣取り、風呂場は奇妙に賑わっていた。 とても男共には見せられないわねぇ。 誰かがおどけて笑いをとる。 そんなのどかな光景ではあった。 フィーッ! フィーッ! 不意にそんな音が艦内に響き渡ったのは、本当に消灯時間が間近になり、皆が風呂場から出なければならなくなった時だ。 もう、真夜中に近い時間だ。 少なくとも、美奈代達は、その音を聞いたことがなかった。 「何?」 洗い終えた洗濯物を袋に詰めようとしていた美奈代は、その手を止めた。 「侵入者警報です」 誰かが言った。 すると、それを証明するかのように、艦内放送が流れた。 「憲兵隊より警告!艦内に侵入者あり!各ブロックを緊急閉鎖、各員はマニュアル所定の対応をとれ。各憲兵隊員は自由発砲許可、各騎士は憲兵隊の指揮下にて対処せよ」 結局、侵入者は見つからず、徹底した調査の結果、艦内での破壊工作等は確認されなかった。 ただ一つ、犠牲者が出ただけだ。 山科教官だ。 一体何故、その場にいたのかわからないが、普段は閉鎖されている物資貯蔵Fブロックから外部に通じる“F45”緊急脱出用ハッチの間近にある隔壁に頭を潰される格好で死んでいた。 物資貯蔵Fブロックは、メサイアのパーツを保管するための区画であり、深夜、人がいるべき場所ではない。 それが問題になった。 憲兵隊が、各通路に仕掛けたセンサーの反応を確認した結果、侵入者が入り込んだのは、その“F45”緊急脱出用ハッチだと断定したのだ。 根拠は十分にある。 “F45”緊急脱出用ハッチの真下は5メートル程の高さで海面に接している。 不時着水時に艦内から脱出するために用意されたもので、普通は使用されることはない。 そのハッチ周辺から複数の海水に汚れた靴痕と、脱出用のハシゴを引っかけるフックに何かロープのようなモノで擦ったような痕が発見されたのだ。 さらに、ハッチの操作レバー付近に、拭き忘れたと思われる山科教官の指紋が残されていたことが決定打となった。 山科教官がハッチを操作し、外部からの侵入者を招き入れたとしか思えない。 しかし、その理由は? それを解き明かしたのも憲兵隊だった。 山科教官の部屋を徹底的に調べた結果、ベッドのフレームにガムテープで貼り付けることで隠されていたのは、白い錠剤の入った袋だった。 「簡易検査の結果、合成麻薬であることが確認されました」 憲兵隊長の鬼塚軍曹が独特の塩辛声で美夜に告げた。 美夜は、顔をしかめながらテーブルに置かれた錠剤を睨み付ける。 「……鬼塚軍曹」 「はっ?」 「全員の簡易検査を。反応が陽性だった者は構わないから営倉にぶち込め」 「了解であります」 「……頼む」 「……それと」 普段なら、命令があればすぐに動く鬼塚軍曹がその場に立っている。 軍人にとって憲兵は関わりたくない兵種の最たる連中だ。 鬼塚軍曹もそれがわかっており、仕事の用件を除いては、普段から誰とも関わろうとしない。 それはつまり、まだ話が終わっていないことを意味した。 「どうした?」 「米軍憲兵隊からの協力要請がありました。同行を願いたいのですが」 「同行?どこへだ」 「米軍憲兵隊本部です」 美夜と副長の高木は、鬼塚軍曹をつれてバーレーン米海軍基地内部にある憲兵隊本部の正面玄関をくぐった。 憲兵隊を率いるマーロウ大佐がオフィスで出迎えてくれたかと思うと、すぐに美夜達は地下にある死体安置室に連れて行かれた。 清潔感とは違う、言いようのない飾り気のない内装をした死体安置室。 ステンレス製の筒がいくつも壁に詰め込まれて並んでいる。 その一つ一つが、死体を保管するための冷凍ケースだと、さすがに美夜も知っていた。 「こちらです」 鬼塚軍曹同様の寡黙な人物で、鍛え抜かれたフットボール選手を連想させるいかつい体格の持ち主のマーロウ大佐は、部下に命じて、美夜達の前に台に乗せられた死体袋を6体、引き出した。 「死体を見たことは?」 「私は軍人です」 美夜の答えに納得したのか、マーロウ大佐はあごで部下に指示を出した。 部下は、無言で死体袋のジッパーを下げた。 「……うっ」 死体袋をのぞき込んだ美夜が思わずうめいたのも無理はない。 真っ白にふやけてた肉塊がそこにあった。 人間の頭部だが、ザクロのように裂けた頭から青白くなった脳漿がみてとれる。 胃液が逆流しなかったのは幸いだ。 「今朝、スズヤの近くの海で発見された―――黄色人種であることは間違いない」 マーロウ大佐の部下が、すぐに死体袋のジッパーを戻した。 「遺留品はこれです」 ストレッチャーが音もなく運ばれてきた。 銀色に輝くストレッチャーの上には、着衣だろうウェットスーツや酸素ボンベなどが並べられていた。 「さすがに身元を示すようなモノはなにもない。物好きがダイビングでもして、スクリューに巻き込まれでもしたか?普段ならそうとも考えたが」 マーロウ大佐が手にしたのは、酸素ボンベの脇に置かれていたゴム製のケース。 「状況が状況だ。しかも」 マーロウ大佐はゴム製のケースを開いた。 中からはゴルフボール大の黒いブロックがいくつも出てきた。 「こんなものをダイバーが持っているはずがない」 「……これは?」 マーロウ大佐は、慣れた手つきでブロックを指に挟んで美夜達に見せた。 「爆薬です―――他にも」 爆薬をストレッチャーに戻すと、さらに横に置いてあったモノを美夜達に見せた。 銃身をすっぽりと覆うサイレンサーのバケモノのような銃だった。 「64式消音短機関銃です」 「……その名前が来るということは」 「そうです」 マーロウ大佐は頷いた。 「昨晩、スズヤに侵入を試みたのは、中華帝国軍ということになるでしょうな」 「我々としても情報が欲しいのです。出航を差し止めることはしませんが、ご協力を」 マーロウ大佐にそうオフィスで告げられた後、 「艦長」 憲兵隊からの帰り道、高木が問いかけた。 「どうされますか?」 「司令部には報告する」 車に乗り込んだ美弥はそっけなくそう答えたが、 「だが……辻褄が合わん」と、腕組みをして唸りだした。 「……は?」 「考えてみろ、高木少佐」 美夜は言った。 「仮に山科がチンク共に買収された内通者だったとして、奴を用済みだと殺したのがチンク共だと見なしてもいい」 「だが……何故、奴らが殺されるんだ?誰に殺されたんだ?」 「そ……それは」 「山科?バカな。あいつは頭を潰されたんだぞ?いくらなんでも、頭を潰されてなお、相手を殺す?ありえた話ではない。何より」 「……」 「……銃ではない。あれは何か、鈍器に近い武器で殺された痕だった」 「では……相手は騎士」 「……鬼塚軍曹」 ハンドルを握る鬼塚軍曹に、美夜は訊ねた。 「聞き忘れていた」 「―――はっ」 「侵入者は、どこから逃走をはかった?」 「D区画と思われます」 「……思われる?」 「D区画での目撃情報を最後に、行方をくらませています」 「待ってくれ軍曹、D区画とは」 「……部隊には箝口令を敷いています」 鬼塚軍曹は、後ろを振り返ることもなく、まっすぐ前だけを見ながら答えた。 「佐官以上の高級将校向け居住区画。そこから海に逃れたとしか考えられません」 「なっ……」 「何しろ、ハッチを開かずに脱出するためには船窓が必要です。船窓があるのは、あの辺りだけです」 「しかし!」 高木は信じられないという顔で、鬼塚軍曹と美夜を交互に見るだけだ。 「現在、D区画を使用している佐官は一人だけです」 鬼塚軍曹は乱れることもなく言う。 「誰か、報告しましょうか?」 「いらない」 「……いかがなさいますか?」 しばらくの沈黙の後、美夜は言った。 「二人共」 「はっ」 「……はい」 「この件は、私に任せてもらいたい」 「……はっ」 「……憲兵には、難しい依頼ですな」 「個人的感情を交えるつもりはないが……今、彼女を失うことは、“鈴谷(すずや)”にとっては自滅を選ぶようなものだ」 「……戦時の特別判断としましょう」 鬼塚軍曹は言った。 その言葉には、美夜達も頷くしかなかった。 「“白百合の守護者”が銃殺台の露に消えたなんて話は、自分も聞きたくないですからな」
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/209.html
美奈代騎と二宮騎の作戦は、正直、無駄に近いものとなっていることを、日米両軍で知っている者はいなかった。 中華帝国側、朱少将は、すでに米軍の残存部隊に対する攻撃は貴重な戦力の浪費と見なしており、「撤退するなら勝手にしろ」というスタンスだ。 すでに中華帝国側の米軍残存部隊への攻撃は停止している。 米軍も撤退の通信を受け取っており、負傷兵のTAC(タクティカル・エア・カーゴ)への移乗準備と、TAC(タクティカル・エア・カーゴ)に搭載出来ない兵器や機密文書の処理が進んでいる。 状況は悪くない。 日没まであと1時間。 夕日が眩しい。 金色に染まるジャングルの中、美奈代達はただ、“鈴谷(すずや)”の到着を待っていた。 「もう少しで長野大尉達も到着する」 二宮騎からそんな通信が入った。 すでに敵の攻撃はない。 敵の集結地点はここからかなり離れているし、その方面からの侵入はセンサーで感知出来る。 センサーに反応はない。 「この島ともこれでおさらばだな」 「米軍は、この島を放棄するんですか?」 「違う」 二宮は笑って言った。 「中華帝国は、このままなら降伏するよ」 「―――えっ?」 「連中の補給線を止めた上で小さく叩く。小出しに戦力を使わせれば連中の物資は底を突く」 「……」 「泉。補給線が切れるっていうのは、お前が想像しているより遙かに怖いことだぞ」 「―――はい」 補給線が断たれる恐怖。 そう言われても実戦経験の浅い美奈代には、どうしてもピンと来ない。 ただ、バカみたいに頷くだけだ。 「米軍はこれから制海権と制空権を奪取に動く。後は空から空爆で中華帝国を叩く。こうなればほとんど一方的な戦いになる」 「うまくいきますか?」 「行ってもらわねば―――」 ピーッ! 「熱源っ!」 「何っ!?」 ズンッ!! 二宮騎のMC(メサイアコントローラー)、青山唯中尉の警告。 二宮の驚いた声。 そして、二宮騎が吹き飛ぶ音。 それを美奈代はすぐには理解出来なかった。 目の前で半身を吹き飛ばされた二宮騎が、ゆっくりとジャングルの中に倒れようとしていた。 「泉准尉っ!」 美奈代より早く現実に立ち戻ったのは牧野中尉だ。 彼女の鋭い怒鳴り声が、茫然自失の美奈代を無理矢理に現実に引き戻した。 「―――な、なんですか!?今の!」 「大口径ML(マジックレーザー)の狙撃!」 牧野中尉は引きつった声で言った。 「ま……まさか」 「二宮教官は!」 「バイタル反応正常……せ……センサーに反応なし?そんなバカ……な」 牧野中尉の意識は、敵攻撃に備えたエネルギー感知モニターに集中していた。 ログを見ても、何の反応もない。 「魔法反応まで……ど……どうやって?」 「中尉っ!」 ギンッ! 美奈代の声と、鋭い戦闘機動で、牧野中尉は我に返った。 「て、敵は!」 「センサーに反応なしっ!」 「じゃあ、アレはなんですか!?」 牧野中尉が見たスクリーンに映し出される3騎のメサイア。 重装甲をまとった“歩く要塞”さながらの騎だった。 それは、牧野中尉が見たことのない騎だった。 即座にライブラリーが開かれるが、 「不明っ、該当騎なしっ!」 そう答えるしかなかった。 「い……一体!?」 美奈代達は知らない。 中華帝国側の参謀が言った“帝剣”。 否、それさえ違う。 目の前にいるのは――― 「おそらく、中華帝国側の試作メサイアです」 牧野中尉はそう結論づけた。 「エンジン出力、その他の反応、“帝刃(ていば)”や“赤兎(せきと)”とは比較になりません」 パワースペックは間違いなく“帝刃(ていば)”の倍では効かないだろう。 フレーム反応も最新型だろうことを示している。 あの厚さの重装甲が本物なら、実剣は通らない。 牧野中尉はデータがとれていることを確認しながら、背筋を震わせた。 「こ……こんなの量産されたら!」 厄介じゃ済まない! その声が上がる前に、3騎は動いた。 「准尉っ!後退を!」 牧野中尉は叫ぶ。 データがない敵と斬り結ぶことが如何に危険か知っている牧野中尉の判断は正しい。 だが、 「教官を見殺しにする気ですか!」 美奈代にとって、敵が何だろうと、ここで逃げることは出来なかった。 二宮教官を助ける。 それこそが、美奈代の全てだったのだ。 迫り来る敵は長い柄に斧を付けたハルバードを振りかざす。 対する美奈代騎は斬艦刀を抜刀。 戦いの火ぶたが切って落とされた。 「くそっ!」 鳴り響く警報 魔晶石エンジンから発する甲高い戦闘出力音 スクリーン一杯に迫る甲冑のバケモノ。 美奈代は倒れた二宮騎の前に立ちはだかると、斬艦刀を構えた。 距離はまだかなりある。 あれほどの重量級だ。接近するまでにはかなり間があるはずだ。 ダンッ! 大地を蹴って敵騎が動き出した。 「―――え?」 敵の装甲の厚さは一目瞭然だ。 楯攻撃(シールドやエッジ)の効く相手じゃない。 グリーンの角張った恐ろしく分厚い装甲が美奈代めがけて襲いかかってくる。 「速いっ!」 その動きに、美奈代は目を見開いた。 重装甲をものともしない素早い動きを見せる。象のような鈍重な外観からは全く想像が出来ない機動性だ。 「あの装甲で!?」 重装甲に高機動性ではシャレにもならない。 美奈代は必死に隙を見つけようとした。 装甲がいくら分厚いとはいえ、どこかに弱点があるはずだ。 ―――どこだ!? 美奈代は焦りながら視線を激しく移動させた。 正面から撃破出来そうな場所が思いつかない! ―――背後に回り込めば。 美奈代は、ふと、そう思った。 “装甲は、正面装甲が最も厚いが、後方や上面は得てして薄い” かつて、授業で聞いた言葉を思い出したのだ。 戦車かメサイアか、一体、何の装甲について語った言葉で、誰から言われた言葉かさえ思い出せないが、それでも、このタイミングでこの言葉を思い出したことを、美奈代は誰かに褒めて欲しかった。 美奈代は背面に回り込もうとSTRシステムに力を込め、即座にその無意味を悟った。 否、悟らされた。 ブンッ! 突然、敵騎の上半身で白い光が走った。 メサイアの腕ほどもある三角の円錐状の光が、肩や頭部に走る。 その光に本能的な危機を感じた美奈代は動きを止め、目を見開いた。 「な、何?」 「レーザースパイクです」 牧野中尉が言った。 「固定式の光剣と思ってください。タックルでも喰らったら串刺しです」 「―――くっ!」 背後から斬り込むことはやめた。 三騎であんなものにプレスされたらたまらない。 肩部装甲のレーザースパイクが装甲の動きに合わせて激しく揺れる。 不用意な接近は、自殺行為だと、その動きが教えてくれる。 ―――どうする? 接近のため、激しい動きを見せる敵騎を睨み付けていた美奈代が“そこ”に気づいたのは、そんな瞬間だった。 美奈代は結局、その三騎に何もしなかった。 牽制のためのML(マジックレーザー)攻撃さえしなかった。 三騎から見れば、今の美奈代騎は、突然、仲間が倒されて動揺している程度にしかみえないだろう。 だらりと下げられた長い剣もシールドも構えられてさえいない。 戦闘の意志さえ感じられない。 そんな姿で立ちつくすのが、今の美奈代騎だ。 当然、敵はそんな美奈代騎にかける情けなど持ち合わせていない。 殺されたくなければ、全てを殺せ。 それこそが、戦場における騎士の規範(ルール)だ。 三騎のメサイアを駆る騎士達は、自らの規範に従順過ぎるほどに従った。 それだけだ。 楔形陣形で迫り来る三騎。 前衛騎がハルバードを振り上げた。 槍に斧を付けた斧槍(おのやり) それがハルバードだ。 斧と槍双方として使え、「突き」「切り」「刺し」「払い」―――凡そ近接用武器に求められるほぼ全ての攻撃が出来る優れものだ。 その破壊力の源は、長い柄を操作することによる遠心力や慣性力―――そして操作する者のパワー。 メサイアのパワーを上手く遠心力に乗せることが出来た場合のハルバードの破壊力は、およそメサイアの扱う近接用武器の中では最強の部類に入るだろう。 まともに喰らえば、美奈代騎は真っ二つだ。 ピピピピピピ―――ッ!! センサーが脅威を感知し、操縦者である美奈代に警告を告げる。 長い柄を両手で握って振り上げつつ接近する敵騎を、美奈代は強ばった顔で見つめていた。 ―――チャンスは一度だ。 美奈代は自分に言い聞かせていた。 ―――しくじったら……終わりだ。 終わり。 つまりは―――死。 死ねば、全てが終わる。 そこまで考えるのが、今の美奈代にとっては精一杯だ。 目の前に迫る敵騎を前に焦る心を押さえつけるのがやっとなのだ。 「―――くっ!」 歯を食いしばった途端、 ブンッ!! 凄まじい音を立てながら、敵騎がハルバードを振り下ろした。 まともに喰らったら、メサイアは脳天からかち割られるだろうその攻撃だったが、 ガンッ!! その斧が捉えたのは、何の変哲もない大地。 メサイアの魔晶石エンジンが産み出す大出力を遠心力に変えて繰り出された一撃は、大地に深々をめりこみ、砕かれた大地が土砂となって舞い上がった。 ―――かわされた!! 前衛騎の騎士は、即座にハルバードを大地から引き抜こうとして―――出来なかった。 「!?」 ハルバードの斧の根本。 何かが押さえつけている。 必殺の一撃をかわしたメサイアの脚だとわかった次の瞬間、 グガンッ!! コクピットを凄まじいほどの振動が走った。 コクピットを形成していた様々な装備が吹き飛び、モニターや計器類が一斉に消えた。 振動が収まった時にはコクピットの中は暗闇となった。 手元でさえ見えない事態に、予備電源まで切れたことを悟った騎士が次に感じたのは、奇妙な重力感。 立っていることが出来なくなった自騎が倒れる感覚だった。 メサイアの弱点である喉部防護用可動式装甲と騎体の隙間に斬艦刀を突き刺された前衛騎は、頭部にあるMCL(メサイア・コントローラー・ルーム)と本体を結ぶ操縦系統を根こそぎ破壊されたことで動きを止めた。 人間でいえば、頸骨を切断されたのと同じ。メサイアといえ、ここを破壊されればどうしようもない。 ズズゥゥ……ンッ!! 奇妙な程ゆっくりと前衛騎が倒れる。 その光景に狼狽した後続騎達が一歩、後ずさった。 美奈代にはそう見えた、その次の瞬間――― ブンッ!! 突然、左騎の腕が光った。 「ぐっ!?」 騎体に激しい振動が走り、警報が一斉に鳴り響いた。 「さっきの一撃ですっ!」 牧野中尉が怒鳴った。 「シールド43%融解、左部異常加熱警報!」 「くっ!?」 騎体の状態を示すステータスモニターをちらりと見る。 騎体の左側が危険なほど加熱していることを示す赤色で点滅している。 「一体!?」 後衛の二騎のうち、美奈代から見て右騎が何かを構えているのに、美奈代が初めて気づいたのは、その時だった。 巨大な筒―――バズーカだ。 とっさの牽制用に撃ったんだろう至近弾だけでシールドが溶け、騎体は半身が焼けた。 一体、どれほどの高出力のML(マジックレーザー)が発射されたのか、美奈代はそんなことを考えている余裕さえなかった。 キュィィィッ 筒の中が光り出した。次は外さないだろう。 「えっ!」 美奈代騎が動いた時、美奈代が急速後退をかけてその攻撃を回避する機動をとると思っていた牧野中尉は、眼が点になった。 自分の乗っている騎体は後退したのではない。 前進したのだ。 「ちょっ!?」 ここで前進すれば、自分から的になりにいくようなものだ。 いくらなんでも、美奈代だってそれがわかっているはずだ。 それなのに―――? 唖然とする牧野中尉の目の前にバズーカを構えた敵騎が急速接近してくる。 よく考えられて配置された装甲は、幾重にも重なって鉄壁の防護とはどういう代物かを牧野中尉に教えてくれる。 この位置から喉部を狙うことはまず無理だ。 美奈代にどういう勝機―――いや、美奈代自身が正気なのかさえ、もうここまで来たらわからない。 そっと脱出装置の位置を確認した牧野中尉の耳に美奈代の声が響く。 「さくら、シールドパージっ!」 「はいっ!」 美奈代の声に、美奈代騎の左腕が大きく振られ、溶けたシールドが左騎めがけて飛んでいく。 右騎は、シールドを難なくかわした代わりとして、射撃のタイミングを失った。 そこが、美奈代の付け入るタイミングだ。 「そこっ!」 美奈代騎が右騎の懐に飛び込んだ。 ピーッ! ピピピッ! MCL(メサイア・コントローラー・ルーム)にそんな音が響く。 スクリーンに映し出されるのは、敵の装甲だけ。 そのあちこちが光り始めていた。 牧野中尉は、敵騎の近接防御用のML(マジックレーザー)が発射態勢に入ったことがすぐにわかった。 ―――まずいっ! この至近距離からML(マジックレーザー)を喰らえば無事では済まない! 「准尉っ!後退を!」 たまらず牧野中尉が叫ぶ。 その目の前で、自分の乗る騎が奇妙な動きを見せた。 ザンッ! 大地に斬艦刀を突き刺した右腕が、右騎の腰回りを防御している巨大な装甲プレートの端を掴むと、一気に持ち上げたのだ。 ベギッ! 奇妙な音を残して装甲プレートの可動部を止めていたボルトが破断、装甲プレートが外れた。 装甲プレートに隠れていた右騎の股関節部が丸出しになった。 そこへ――― ガンッ! 再び斬艦刀を握った美奈代騎は、斬艦刀の切っ先を股関節に突き込んだ。 股関節から真上に突き入れられた斬艦刀は、熱せられたバターナイフがバターを易々と溶かし切るように、内部構造物を解かし、破壊した。 騎体の中からは、何かが連続して砕け、爆発する音が響く。 斬艦刀から手を放した美奈代は、とっさに右騎の腕からバズーカをもぎ取ると、撃破したばかりの、その騎体の背後に回った。 背後から襲いかかろうとしていた左騎が、右騎にハルバードを振り下ろそうとする。 右騎の背後から突き出されたバズーカの筒先が左騎の装甲とぶつかった瞬間――― 美奈代はバズーカのトリガーを引いた。 「泉准尉が撃破した正体不明の騎は」 作戦終了後、洋上に撤退した“鈴谷(すずや)”のハンガーで、美夜は二宮に言った。 その背後には、美奈代が撃破した三騎のメサイアの残骸が転がっている。 「中華帝国軍の最新鋭メサイア―――それも」 整備兵達が忙しく立ち回るのをチラリと見た美夜は続ける。 「王制党親衛軍の次期専用騎と見て間違いないわね」 こうして見ると、その装甲の分厚さは信じられないほどだ。 整備兵達が騎体のあちこちを調べているのを眺めながら、美夜は嬉しげに言った。 「この騎をこの程度の破壊で確保出来たことは、実に有益な事よ」 そして、苦い顔をしている二宮に言った。 「あんたの騎体中破は、部下の功績で不問にされるだろうし」 「……感謝、します」 二宮は、むすっとした顔で敬礼した。 その顔が余程気に入ったのか、美夜は嬉しげに微笑んだ。 「あんたの弟子にしておくにはもったいない素質ね。あの子」 「……」 「育てた甲斐があったんじゃない?」 「このことで」 二宮は言った。 「つけあがらなければ良いけど」 「大丈夫じゃない?」 “鈴谷(すずや)”帰艦時点のスコア16騎、陸戦艇1の戦果は、むしろ伝説の世界だ。 美奈代騎担当の整備兵達の足取りが明らかに軽いのがわかる。 「―――とはいいたいけど」 美夜は、ちらりと二宮を見た。 「あの子、抜擢されるかもよ?」 「抜擢?」 「内親王護衛隊(レイナガーズ)か、天皇護衛隊(オールドガーズ)」 「まさか!」 「なにがよ」 美夜はあきれ顔だ。 「宗像准尉だって、内親王護衛隊(レイナ・ガーズ)配属が内定していたんでしょう?それに、あなただって―――」 「おおいっ!艦長っ!」 ハンガーの隅々まで届くその大声を発したのは、坂城だった。 「あの騎体のことだが」 今、艦長室にいるのは、坂城とその部下のシゲ、美夜と副長の高木少佐。そして二宮と長野だけだ。 壁にもたれかかった姿勢で腕組みをする坂城の表情は、愛用のレイバンに隠れてわからない。 「エライことがわかった」 「エライこと?」 「電磁筋肉はアメリカ製のE&H社製の最新型。去年の冬、シンガポールの見本市でお披露目になったばかりの量産されていないヤツだ。ついでに電子機器の大半はドイツ製」 「……」 「……」 皆がポカンとした顔で坂城を見た。 撃破したのは中華帝国騎だ。 戦闘後、捕虜となった騎士とMC(メサイアコントローラー)は中華帝国人だ。 「どういうことです?」 長野が訊ねた。 「対立する国のパーツで組み上げた騎だというのですか?」 「そんなこと、俺が知るか」 坂城はにべもなく答えた。 「俺は技術屋で、政治屋や外務の役人じゃねぇ」 「……」 「といっても、俺からすればもっと厄介なことがある」 坂城はそう言うと、ポケットから何かを取り出すと、長野に放り投げた。 「外せたのは、それだけなんでな」 それを長野は両手でキャッチした。 銀色に輝く金属の塊。 サイズはタバコのフィルターくらいだ。 恐ろしく軽い。 「検査は中央に任せるつもりだ。“鈴谷(すずや)”の機材じゃ詳しいことはわからねぇ」 「これは?」 手の上で転がすように眺めていた長野が訊ねた。 「泉の嬢ちゃんがブッ倒した騎が掴んでいたエモノから外したのさ」 「獲物?あのバズーカですか?」 「ああ」 坂城は顎で合図すると、脇に控えていたシゲがテーブルに写真を数枚、ひろげた。 「長野大尉さんよ―――そいつが何で出来ているか、わかるか?」 「……アルミですか?」 二宮や美夜達も長野からその金属を受け取った。 「そうね……でも、アルミにしては感触が」 「詳しくないけど……セラミックかしら?」 「硬度からしてアルミでもセラミックより固てぇ」 「じゃぁ、なんです?」 「さぁな……学者先生にでも聞いてくれ」 壁から離れた坂城が、写真に広げられたテーブルに両手をついた。 「俺からすれば、泉の嬢ちゃんの最大の功績は、“こいつ”を捕獲したことだ」 テーブルの上に広げられた写真は、すべてあのバズーカの各部を撮影した物だ。 「単なる……」 長野は、そこまで言いかけて口を閉ざした。 実体弾ではなく、大口径高出力のML(マジックレーザー)砲だ。 それだけなら、長野は発言を止めなかったろう。 問題は、発射時にML(マジックレーザー)特有の反応は何もなく、メサイアのシールドを瞬時に融解させるほどの破壊力を持つ。 トドメとして、横にいる上官、二宮が感知するどころか、避けることさえ出来なかったことだ。 MC(メサイアコントローラー)二人が“攻撃はセンサーで拾えなかった”と主張しているし、ログもその通りだったことを示している。 ML(マジックレーザー)攻撃飛来を告げるセンサーが、ML(マジックレーザー)攻撃を検知出来なかった。 かすっただけで、対ML(マジックレーザー)コーティングが施された装甲が溶けた。 それは、看過出来る話ではない。 「これから話すことは、俺の仮説に過ぎねぇと思われるだろうが」 坂城は言った。 「こいつは人類の造った代物じゃねぇ」 「……は?」 二宮と美夜が目を点にした。 「どういう?」 「まず、こいつにはネジがねぇ」 二宮が見る限り、坂城は本気だ。 「それらしいモノぁあるんだが、バラし方がわからねぇ。もし、中華製だとしても、工業規格ってもんは今時世界共通だ」 「……」 「わざわざ、この砲のためだけに、特別な規格を造ったなんてこたぁありえねぇ」 「……よろしいですか?」 坂城とほぼ同い年の高木が言った。 「憲兵隊からの報告によれば、捕虜が興味深いというか、おかしなことを」 「ん?」 「あの兵器は、中華帝国でも知っている者はごく一部で、単に“筒”とだけ呼ばれていたそうです。捕虜達も数日前に初めて見たと」 「“筒”?」 「はい。装弾数6発。実は」 高木が首を傾げた。 「おかしい。というのは、ここからでして」 「言ってみろ」 「はい―――パイロットやMC(メサイアコントローラー)達が知っているのは、その砲の使い方……単に、トリガーを引くことだけなんです。しかも、彼らは、この兵器をML(マジックレーザー)を発射出来るバズーカ程度としか聞かされていません。使用後は梱包の上本国送り。なにより分解整備は禁止されていたそうです」 「……で、だ」 坂城はテーブルの上にあった写真の一枚を掴んだ。 筒の端に取り付けられていた金属製のプレートが写っていた。 「何て書いてあるかわかるかい?」 「ん?」 美夜が写真を受け取ったが、 「……?」 首を傾げるしかなかった。 「少なくとも、目にしたことのある表記じゃないわね」 「北京語、ハングル、アラビア語にサンスクリットまで調べたが、該当するモノぁねぇ」 「じゃあ?」 「……シゲ」 「へい」 脇に控えていたシゲが鍵の付いたアタッシュケースを開いた。 「……こいつは、アフリカの記念にもらっておいた代物だ」 アタッシュケースの中身は、半ば焼けこげた金属のプレートだった。 「これは?」 「魔族軍のメサイアの残骸さ」 「!?」 その一言に、二宮と長野の表情が強ばった。 「アフリカで擱座した魔族軍メサイアで、“鈴谷(すずや)”に収容されたのがあったろう?あの騎体から剥がれ落ちたプレートが、これだ」 坂城は写真とプレートを横に並べた。 「―――比べてくんな」 「……い」 何度も見た。 目が痛くなるほど見比べた。 そして、そういう結論にイヤでも達した。 「一体……これは」 長野が救いを求めるように上官達の顔を見た。 その表情は硬く強ばっている。 「……坂城整備班長」 美夜は殺気だった声で言った。 「情報に感謝する」 「プレートは返しておくさ」 坂城は言った。 「これから、イヤでも手にはいるだろうからな」 坂城がアタッシュケースから取り出し、写真の上に乗せたプレート。 写真とそのプレートをみれば、イヤでもわかるだろう。 一つは魔族の兵器からとったプレート。 もう一つは、中華帝国軍メサイアの兵器のプレート 接点はない。 あってはならない。 そのはずなのに。 「中国人っては、誰と商売しているんだ?」 二宮の皮肉を咎める者は、ここにいはなかった。 誰でも一目でわかること。 プレート同士の言語は―――共通していた。
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/188.html
幅500キロの砂漠横断。 飛行機なら寝ている間に終わるだろう。 だが、飛行艦は、結局の所、空に“浮かぶ”船でしかない。 空を“飛ぶ”航空機とは違う。 圧倒的な輸送量を誇りながら、それでも飛行艦が、航空機に空の主力輸送手段の座を奪われ続ける理由は一つ。 速度だ。 重力力場をブースターの代わりとするメサイアやTAC(タクティカル・エア・カーゴ)とは異なり、飛行艦は厳密には空を飛ばない。 飛行艦が浮かぶのは、力場の海―――フリー・グラビティ・フィールド―――なのだ。 航空力学の入りこむ余地はここには存在しない。 魔法で無重力空間ともいうべき“力場の海”を生成し、そこに浮かびながら、魔法の反作用をスクリュー代わりにして航行するのだ。 この“力場の海”の形成には、若干の時間が必要であり、一般的な認識では60ノットを越えたら力場の形成が間に合わず、飛行艦は力場の海から転落して地上に“沈没”するとされている。 なにより、60ノットを可能にする“力場の海”を生み出すフィールドジェネレーターは存在しないとされる。 むしろ、安定した航行が可能とされるのは、現在のフィールドジェネレーターの技術からすれば30ノットまで。 30ノットを越えればいつ“沈没”してもおかしくないというのが、飛行艦乗りの常識だ。 このため、安全速度として国際的に設定されている飛行艦の巡航速度は、実は20ノット(時速37キロ程度)に過ぎない。 つまり、飛行艦は、飛行機とではなく船と比較して十分すぎるほど遅いのだ。 エンジンを増設した現在の“鈴谷(すずや)”でさえその例外ではない。 幸い、“伊吹”から調達した食料や水、そして弾薬は豊富だ。 足りないのはメサイアだけだ。 「とんでもないことになったな」 自販機が全て停止した食堂から引き上げ、ブリーフィングルームに戻った美奈代はため息混じりに、肩を落とした。 「予想してたんでしょう?」 「予想はしていた」 さつきの問いかけに、美奈代は素直に頷いた。 「ただ、覚悟していなかった」 「……ま、そうだよね」 はぁっ。 皆がため息をついた。 「一番悪いのは、こんな事態になる前に、具体的な撤退先を指示出来なかった司令部だよ―――違う?」 「まぁね。それにしても、平野艦長って、結婚していたんだ」 「知らなかったんですか?」 「あれ?美晴、知っていたの?」 「近衛飛行艦隊副司令がダンナ様ですよ?」 「セレブって言いたいけど……さぁ……艦長ん家……帰ったらスゴいことになるんじゃない?」 「無理もないよねぇ……」 腕組みしたさつきは、深く頷いた。 「危険なところに嫁を送り出した挙げ句コレじゃ、普通は怒るよ。うん、ダンナが悪い」 「それで、気づいてます?」 「何を?」 「二宮教官、朝から機嫌がいいの」 「―――そういえば、妙に晴れ晴れした顔してたな」 「平野艦長、結婚した時に散々裏切り者呼ばわりしたそうですから。離婚すれば仲間に戻ったことになるから」 「……なぁ」 宗像はぽつりと言った。 「平野艦長、二宮教官の男運のなさが移ったんじゃないか?」 「そのどばっちりでこの事態ですか?」 「そうは思わないか?」 「私達も教官の男運の悪さ、伝染しているかな?」 「……」 「……」 「……」 「……誰か否定してくれ」 ●ルブアルハリ砂漠 ルブアルハリ砂漠は、アラビア半島南部の3分の1を占める世界最大級の砂漠の一つだ。 その名の語源に近い所では、「何もない所」となるらしい。 近年まで人が通うこともなく、知られることもなかった未開にして不毛の土地だ。 夏の気温でさえ夜は氷点下に下がり、正午には摂氏55度に達する激しい温度差。 エッフェル塔 (324m) より高い砂丘もある荒涼とした大地。 その過酷な世界故に、「地球上で最も近寄りにくい環境の一つ」ともいわれる程だ。 「まさか砂漠で」 美夜は腕をさすりながら言った。 「暖房を使うハメになるとは思わなかった」 「昼間は冷房ですよ。艦長」と、副長の高木は言った。 船窓の外は夜明け。 朱に染まった“鈴谷(すずや)”艦橋で、ブリッジ要員達が普段通りの仕事をこなしていた。 普段より皆早い配置であるにもかかわらず、動きに乱れはない。 「艦長、時間です」 艦長席に座った美夜に、腕時計を確認した高木が報告した。 「よし」 美夜は、従兵の持ってきたコーヒーを飲み干すと、アームレストに装備されているインターホンをとった。 「真理?準備はいい?」 「良好よ」 艦橋の前に立つ二宮騎が軽くシールドを揺らした。 二宮騎の他、数騎のメサイアの右腕には、速射性能に優れた35ミリガドリング砲がマウントされている。 ガドリング砲は背面に背負われたバックパックから補弾ベルト経由して弾丸を供給するシステムを採用しているため、長時間の弾幕展開が可能だ。 MC(メサイアコントローラー)の管制もあり、上空からのミサイル攻撃に対するCIWSの代わりには十分すぎる。 他の騎も、バックパックからベルトで補弾する120ミリ機動速射野砲を構えている。 対空戦闘能力は、これで万全だ。 何より―――。 「FGF(フリー・グラビティ・フィールド)、全周囲展開、即時待機っ!」 魔法の力場であるFGF(フリー・グラビティ・フィールド)は、接触するものすべてを原子単位に分解する絶対のバリアーでもある。 普段は艦を力場に浮かせる水として利用するため、喫水線下にのみ発生させるが、有事の際は、艦全体を包み込むことも出来る。 魔力をより強く必要とするため、長時間の展開は航行に支障を来すことになる欠点はあるが、少なくとも実体弾に対抗するこれ以上の防御はない。 ―――大丈夫だ。 美夜は自分に言い聞かせた。 艦はボロいけど、乗組員はベテラン揃い。 大丈夫だ。 私は夫(あいつ)を殴りに行けるっ! 「機関長」 美夜は命じた。 「機関前進、第三戦速―――“鈴谷(すずや)”、発進っ!」 「了解―――メインバイパス供給正常、機関エネルギー充填120%、フライホイール始動、フィールド形成を確認。“鈴谷(すずや)”、発進します!」 魔晶石エンジンからパワーを供給されたFGF(フリー・グラビティ・フィールド)推進機関が軽い振動を残して“鈴谷(すずや)”を前進させる。 前進を開始した“鈴谷(すずや)”の艦橋を始め、各部署では指揮官達の号令が怒号混じりに飛び交っていた。 「対空警戒、怠るな!」 「手空きの者はすべて対空監視に回せっ!」 「整備兵は機銃座へ!」 「ランチはすべてエンジンに火を入れておけっ!」 「メサイア隊への弾薬供給、大丈夫だろうな!?」 部下達のきびきびとした動きと言動に、美夜は満足そうな浮かべて何度も頷く。 「全く、あのバカ亭主」 美夜は悔しそうに唇をかんだ。 「書類不備を理由に作戦行動中の部隊を動かさないなんて!」 「後方勤務なんて、そんなもんですよ」 高木は肩をすくめた。 「ご主人のことで文句は言いたくないですが」 「何?」 「もし、帰ってからご主人殴るようでしたら」 美夜の目の前で、高木は笑いながら言った。 「一発多めに殴っておいて下さい。我々の代わりに」 「……ふっ」 パンッ! 美夜は右手の拳を左手の掌に叩き付けた。 「……楽しみだわ。いろいろと」 “鈴谷(すずや)”は赤道を横切る形で航行を続ける。 島もなければ何もない所を航行する初日は、敵どころか一切の船舶に遭遇することさえないままに過ぎた。 この間、美奈代達メサイア隊は、3交代制で休憩を取るシフトをとる。 つまり、一日8時間、騎士とMC(メサイアコントローラー)は、メサイアのコクピットに缶詰にされることでもある。 女として、“絶対に使いたくない”自動排泄装置のお世話になり、空調装置を使ってもぬぐえない、自分の汗と体臭に満ちあふれた空気が、美奈代達を支配する。 ハンガーに収容された後、コクピットから出た時に吸う空気が恐ろしく美味く感じられること請け合いだ。 美奈代達と入れ替えに、ハンガーを都築騎と山崎騎が出ていく。 「お疲れ」 美奈代は、コンビを組むのは宗像に声をかけた。 「うむ」 互いに背にしたバックに隠しているのが何かは聞かないが、排泄装置のタンクであることは間違いない。あとで自室のトイレの清掃システムに接続して流すのだ。 「明日も、何もなければいいが」 「……そうだな」 言いつつ、互いにそれが無理だと実感していた。 「せめて、日本に戻りたいな」 「……そうだな」 宗像は言った。 「中華帝国がいかに傲慢でアホだとしても、本気で米軍とやりあうとは思えない。まさかラムリアースまで本気にさせたら終わるのは連中だ」 「……“赤兎(せきと)”だったか?中華帝国のメサイアは」 「ああ。チベットの鉱山から掘り出した魔晶石で大量生産した代物だ」 宗像は口にするのも汚らわしい。と、舌打ちした。 「スターリンのパチもんのクセに数だけはやたらだ。インド攻略では200騎の波状攻撃で、インド軍の本家スターリンを圧倒したと聞く」 「―――来るかな」 「届かんよ。早めに休んでおけ―――それとも」 宗像の指がそっとうなじに触れた途端、美奈代の総毛が逆立った。 「―――クスッ。一人じゃ眠れないのか?」 その妖艶な声はマネしようとしても出来はしない。 ただ、二人っきりで聞きたい声では決してなかった。 「ば、ばばバカをいえっ!」 美奈代は真っ青になって怒鳴った。 「いくらでも寝てやる!ああ、いくらでもなっ!」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「接近する機影有ります!」 艦長席の上、レーダー要員が報告をあげたのは、それから翌日の午前11時。 あと半日でバーレーンに達する付近でのことだ。 レーダーを警戒して“鈴谷(すずや)”は高度を海面ギリギリ、わずか50メートルほどの高度に設定して、速度10ノットの無音航行を続けていた。 飛行艦の航行音から存在を把握されないための措置だが、時速に換算すれば18キロとという速度はとにかく遅い。 そして、レーダーに隊商らしい反応がある度に針路を変えるため、未だに砂漠から逃れることが出来ない。 「どこからだ!?」 緊張の連続も少しだけゆるみ、うつらうつらしかけていた美夜は、その声に弾かれたように反応した。 「アラビア海方面から本艦へ向け接近中。距離250。呼称、ボギー1」 艦橋の真上に設置されたスクリーンに反応が表示される。 「機種、わかるか?」 「速度からしてプロペラ機です。反応は……Tu-142に類似」 「Tu-142?」 美夜は首を傾げた。 「ロシアか?」 「空警二号ではありませんか?」 レーダー要員はそう進言した。 「Tu-142の早期警戒機のコピーと聞いています」 「データ出せるか?」 「はい―――あっ、ボギー1、針路変えます」 「気づかなかった……か?レーダー、現在の我々の位置は?」 「ライラから南西へ約200キロ」 「こっちのレーダー攪乱装置が勝ったと思いたいが……中華帝国軍の陥落(おと)した航空基地で最も近いのは?」 「おそらく、昨日、陥落が確認されたアラブ首長国メダ空軍基地かと思われます。距離は約700」 「航続距離は約一万五千……か。不可能ではないが」 「艦長」 高木が顔をしかめた。 「先程のが空警一号、つまり、早期警戒機だとして」 「放っておけ」 美夜は言った。 「連中が警戒しているのは我々ではなく、米軍だ。こんなちっぽけなフネなんて相手にせんよ」 ●アフリカ キリマンジャロ 魔族軍司令部 「お招きいただいて感謝します」 豪奢なソファーに座った神音が、その細い足を組み直しながら言った。 「補給は順調です」 「……その通り」 神音と向かい合って座るのは、カーメン大佐の上官にあたるユム中将だ。 神音にとってはライバル会社の一社員であり、ユムからすれば、相手はライバル会社の大社長となる。 ユムは、背の高い細身の体つきで、死んだ魚のようなギョロリとした冷たい目を光らせている。ソファーにゆったりと座り、長い足を組んでいる。 人を見下した態度ともとれるが、この男には不思議と似合う姿勢だった。 「受領したメースの配置も……そういいたいが」 「ザンジバルあたりで部隊ごと敗北したとか」 「よく知っておられる」 ユムは、ちらりと脇に座る男を見てから頷いた。 「すでに損害は50騎では足りん……増援も送る端から倒されて―――今や補充を送る余力さえない」 「……一体?」 神音もその存在に興味を持った。 「人類の、どの国の、どれほどの規模の部隊です?」 「……実は」 ユムは深いため息と一緒に答えた。 「問題なのは―――たった1騎なのです」 「たった……1騎?」 神音は目を見張って、その細い指を一本だけ立てた。 「たった1騎で……50騎を?」 「昨日の被害で通算58騎。白いメースで、前線では“白い死神”と呼ばれています」 「……白」 神音は、その色で所属に見当をつけた。 「……由忠にいろいろ聞くべきね」 「ん?」 「いえ、こちらの話です。それで」 神音は話題を変えた。 「今の人類は、魔族への抵抗どころの騒ぎではないでしょうね」 「これほどの年月を経ても、人が進歩していない証拠ですな」 「……ビジネスライクにお話ししましょう」 一口、口を付けただけで顔をしかめた神音は、紅茶をテーブルに置いた。 「今回、追加ご希望でメース、“ツヴァイ”“サライマ”計五百騎とのことですが、納入予定は一ヶ月です」 「“ツヴァイ”と“サライマ”は300年前のクロッツェリア動乱の際に大量建造された騎。現在の帝国軍では第三線配備―――最新鋭たる第一線配備騎とは、性能的に隔世の差が」 「人類がその第一線配備騎を使っているわけではないでしょう。人類の操るメース、人類側名称はメサイア―――あれ相手なら、余裕で主導権を握れます。問題は武器です」 「そうでしょう。そう思っていました。ところが、エルプス系魔法を兵器に転用出来る技術力を、人類が持っているとは」 「白い奴もつかっているんですか?」 「はい」 「同系統の対抗魔法を装甲に付与するのでしたら、追加料金が発生しますよ?」 ユムの横に控えていたユギオが疲れ切った顔で頷いた。 「……格安で頼みます」 「人類側のエルプス系魔法の普及率は低いでしょうけどね。むしろあなた方の問題は、今後の継戦能力の確保」 「その通り」ユムが頷いた。 「補給線が細すぎます」 「人間達が残した宝石、現金、金……その他、各地に放棄された人類側兵器……要するに、人間側の金目のモノ全ての引き渡し、それと、例のお約束を御守りいただければ、赤字覚悟のお見積もりをお出しできます」 「日本ですか?」 ユギオの問いかけに、神音は頷いた。 「日本、少なくとも滝川村に攻撃を仕掛けない。これが、我が商会との交渉開始条件です。維持していただきたい」 「向こうから襲ってでも来ない限り、攻撃はしかけません。ユム中将、よろしいですな?」 「反古にするつもりはないが」 ユムは喉を鳴らすような低い笑い声をたてた。 「クックックッ……全世界と、たった一つの村の安全を引き替えにするとは」 「―――感謝いたします」 神音は、ハンドバッグから書類を取り出すと、ユギオに手渡した。 「……額的には、妥当な額ですな」 「恐れ入ります」 「追加で発注を希望する装備があるので、別室に控えている参謀達に確認して下さい」 「はい。それで?」 神音は、ユギオとユムを見た。 「私をアフリカくんだりまで呼びつけた用件は終わりですか?」 「いえいえ」 ユギオは楽しげに微笑んだ。 「現状、人類は互いに疑心暗鬼になり、互いを牽制することに精一杯で、全てを結びつけることまで思考が出来ません」 「中華帝国が動くのも?」 「―――ああ」 ユギオは、ほくそ笑んだ。 「あれは……ちょっと、耳元で囁いてあげただけですよ―――今なら、アメリカは動けませんよ?とね」 「呆れた!」 神音は言った。 「全ては、あなた達のお膳立て―――気づかぬは当人ばかりなりって具合に」 「おやぁ?長年、アフリカ方面での人類側侵攻を阻害し続けていたのは、我々中世協会だけでなかったようですが?」 神音はそっぽを向いた。 「……いただくモノをいただいていませんもの」 「アフリカの鉱物資源採掘に、ドワーフ族を大量動員していたと聞きますが?」 「まぁ、いろいろと方法はあるものです―――」 黒いゴスロリ風のドレスを着込む神音は、衣擦れの音と共に、テーブルに乗った紅茶に手を伸ばし、ユマの質問を誤魔化した。 「少なくとも、国連軍司令部を建物ごと爆破したのは、私ではありません」 「あれは―――どなたの仕業でしょうねぇ」 「あなたではなかったの?」 「まさか」 ユギオは、首を横に振った。 「どうしようかなぁと考えながら街のスタバでコーヒー飲んでいたら、新聞に爆破されたって書いてあるじゃないですか。思わずコーヒーをおかわりしてしまいました」 「人類の仕業だと?」 「おそらくは、アフリカに債権を持つ国の謀略ではないかと」 「それこそ、中華帝国の仕業では?あなたにそそのかされた」 「まぁ、そうでしょうねぇ。何しろ、あの国は紛争当事国に武器を売り込んで、政治的対立を内戦に、内戦を無政府状態に引き込む天才的な連中ですから」 「あのテロの翌日よ?あの連中が国境を越えたのは」 「……成る程?ハハッ。あまり興味がなかったので忘れていました」 ユギオは、そこで突然、真顔になった。 「ところで」 「そろそろ、本題に入りませんか?」 「―――本題?」 「うむ」 「我々が神音様にお越しいただいたのは、他でもありません」 ユギオは真顔になった。 「―――お知恵をお借りしたいのです」 「私の?」 「ヴォルトモード卿の封印についてですが」 1時間後。 部屋を辞した神音は、別室に控えていた神音とそっくりな顔をした部下、かのんにバッグを手渡した。 「物資引き渡しは?」 「順調ですじゃ」 かのんは、そう言って、主人たる神音の後に続く。 「兵糧、大型妖魔用飼料、薬品からトイレットペーパーまで、よくこれだけ物資が不足したままで戦争が出来たもんじゃ」 「戦争は偉大な浪費というでしょう?取りこぼしはないわね?」 「ございませんのじゃ」 「そう。こっちも商談成立よ―――かのん」 「おめでとうございますじゃ」 「急いでタヨトに“ツヴァイ”500騎と“サライマ”300騎、それとキズスには“ヌーヴェル・エッジ”を急いで手配するように通達。かのん、あなたはこのリストに載ってるだけの装備を3日以内に確保なさい。」 「歩兵用速射槍に甲冑に楯……兵糧に……ふむふむ。しめて三万ラガは確実じゃが」 かのんは最後の項目に凍り付いた。 「……ご主人様?」 「何?」 「こ……この……最後の項目は、本気ですか?」 「―――そうよ」 「ガ……ガストラフェテスなんて、何に使うつもりなのじゃ?あれは妖魔とはいえ、特級の」 「いいこと?かのん」 神音は言った。 「我々は商人であって、求められた物を売るのが商売。売ったあとのことまで責任はとれないわ」 「……」 「手配しなさい」 「……了解じゃ。それよりご主人様」 かのんはこっそりと自らの主人に告げた。 「あのチョビが殺されたのじゃ」 「……中世協会を調べていた?」 「そうじゃ」 「……」
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/216.html
舷側に立ち、海面を見渡すさつきの目の前を、海面から立ち上ったML(マジックレーザー)が飛び去った。 一瞬で装甲の表面温度が危険値に跳ね上がった。 「あ、危なぁっ!」 「海面を狙えっ!」 二宮からの命令が飛ぶ。 「ど、どこにいるかわかんないのに!?」 さつきはスクリーンのズームを繰り返しながら海面を見るが、敵の姿はどこにもない。 「海中に潜む敵を、この高度から見分けろというんですか!?」 美奈代が二宮に文句を言う気持ちが、さつきにはよくわかる。 「当てろとはいわないっ!」 二宮は怒鳴った。 「海面を叩いて連中の攻撃を散漫なものにすればいいっ!」 ―――成る程。 さつきはそれで納得がいった。 二宮が求めているのは、敵の撃破じゃない。 敵の頭を押さえて、この海域から逃げ出すチャンスを作り出すことだ。 「春日中尉」 さつきはMC(メサイアコントローラー)の春日春乃(かすが・はるの)中尉に言った。 「敵の攻撃が反撃の合図です」 「その通りです」 春日中尉は頷いた。 「敵、ML(マジックレーザー)の発射直前のエネルギー集束現象を狙って射撃します」 MC(メサイアコントローラー)側のFCSを調整しながら、春日中尉は答えた。 「上手くすれば対消滅を―――」 ブンッ! 再び、艦をML(マジックレーザー)がかすった。 「……出来るかしら」 艦の下腹にML(マジックレーザー)が突き刺さったが―――。 「くそっ!」 その結果に、シュナー少佐は舌打ちした。 一瞬、命中カ所の空間が歪んだだけで、艦には何のダメージも与えていないのは明白だったからだ。 「中和フィールドか!?」 重力を中和するフィールドである重力力場(フリー・グラビティ・フィールド)なんてシュナー少佐が知るはずがない。 魔族軍も使用する浮揚システムであり、同時にバリアシステムも兼ねる優れものである中和フィールドとしてシュナー少佐の目には映った。 そのフィールドを破るには、高出力のML(マジックレーザー)がいる。 ただでさえ海水で出力を削られるカプラーヌのクロービーム程度をいくらぶち当てても意味はない。 「シナベールっ!」 シュナー少佐は覚悟を決めた。 敵艦をここでさっさと仕留めてしまうに限る。 下手な躊躇は命取りだ。 使えるものは何でも使わねば―――!! 「艦の主砲で敵艦を仕留めろっ!」 チカッ! 飛行艦の舷側で強い光が生まれたのは、その時だった。 海面で連続した爆発が発生、一斉に水柱が立ち上った。 「やった!?」 さつきのその期待を込めた言葉は、水中からのML(マジックレーザー)攻撃によって否定された。 「ちっ―――くそっ!」 美奈代は海面を睨み付けながら舌打ちした。 敵が見えない上に、海水というバリアが邪魔して、ML(マジックレーザー)攻撃が本来の性能を発揮出来ないのだ。 おそらく、ML(マジックレーザー)が到達しているのは深度20メートル程度のはず。 敵に届かない。 「せめて―――敵さえ見えれば」 恨めしいのは、ビームランチャーにつながった出力ケーブルだ。 これがあるおかげで、甲板から離れることが出来ない。 「隊長っ!」 不意に、都築の声が通信機に入った。 「俺がオトリになりますっ!」 「何っ!?」 「海面でオトリをやれぱ」 「―――っ!」 二宮は唸るような声をあげ、言った。 「都築、海面で敵を誘い出せ。各騎は海面に出る敵に対し、精密射撃っ!」 「教官っ!」 美奈代が言った。 「自分も志願しますっ!」 「泉っ!?」 「……わかった」 二宮が言った。 「泉―――何か策があるんだろうな」 「は、はいっ!」 美奈代は思わずそう答えてしまった。 目の前ではさくらがびっくりとした顔で自分を見ている。 今更、何もないとは言えない。 「命令を変更する」 通信機に二宮の声が入る。 「泉、都築両騎で敵を誘え。自殺志願者同士―――夫婦で行って来いっ!」 「絶対に違いますっ!」 「了解っ!」 通信機に美奈代と都築の声が重なった。 「くそぉっ!」 ルサカは狂ったようにカプラーヌのML(マジックレーザー)を乱射していた。 艦には命中するが、すべて無効化されている。 敵に位置がばれているのは、集中する反撃の砲火から明らかだ。 それにも関わらず、ルサカが乱射を止めないのは、 「このままじゃ、少佐達に殺されちまうっ!」 その恐怖心故だ。 「ルサカっ!」 アミラントの声に我に返ったルサカは、アミラント騎が自分の騎の背後から接触していることにようやく気づいた程だ。 「馬鹿野郎っ!なにやってやがるっ!」 罵声と同時に、ルサカ騎は海中に引きずり込まれた。 それと同時に、ルサカがいままでいた場所を、ML(マジックレーザー)の爆発が駆け抜けた。 「海面に浮上してどうする!的になりたかったのか!?」 そう。 興奮したルサカは、自分が海面すれすれまで上昇していたことに全く気づかなかったのだ。 「す……すみ」 ルサカは謝ろうとして、やめた。 警戒システムが、敵艦から2騎のメースが発艦し、海面に降下してきたことを告げている。 「ですがっ!」 ルサカは陽光に輝く海上を睨み付けると、アミラント騎を振り切った。 「俺だってやれますっ!」 ルサカ騎のブースターに光が走った。 アミラントには、ルサカが何をしようとしているのか、すぐにわかった。 「ルサカっ!」 伸ばされたアミラント騎の手をすり抜けるようにして、ルサカ騎が海上めがけて飛翔を始めた。 「―――敵はどこだ!?」 都築騎”が海面から数十メートルの高度を飛行する。 「海面下でのエネルギー反応警戒―――都築候補生、この騎の戦闘エネルギーの半分をセンサーに回します。よろし?」 「―――任せます」 「水中から急速上昇する物体ありっ!」 突然、精霊体が警報をあげたのは、まさにその時だ。 「ちっ!?」 ブースターを吹かし、海面から距離を取ろうとする都築騎より、海面に上昇してきたカプラーヌの方が早かった。 ガッ! 海面に飛び出したカプラーヌの腕が、都築騎の左足を掴んだ。 「ぐっ!?」 垂直に海めがけて引っ張られる衝撃に、都築は舌を噛みそうになった。 ブースター出力を最大に引き上げ、海中に引きずり込まれまいと足掻いた。 「なめんじゃ……ねぇぞっ!」 都築騎が海中から出現したメサイアに海中へ引きずり込まれそうになっているのは、美奈代も目視出来た。 「都築っ!」 美奈代はとっさにさくらに命じた。 「さくらっ!シールドパージっ!」 「はいっ!」 左腕を大きく振るい、振り切る寸前にシールドをパージ。 遠心力をつけて敵に叩き付ける美奈代とさくらのオリジナル技。 さくら曰く「シールドどん」 シールドの質量が加わった攻撃は、実際かなりのダメージを与える技で、シールド喪失による始末書というオマケがつくある意味禁忌の技だ。 “征龍改”から放たれたシールドが激しく回転しながら、海中から伸ばされた腕の根元にめり込んだ。 衝撃で離れた手から逃れた都築騎が斬艦刀を抜刀、海中に沈み行く敵騎に剣を突き立てたのは、その直後だった。 アミラントの目の前で、ルサカ騎が、一瞬痙攣したようにビクッと動いたかと思うと、糸の切れた人形のように、力無く海中へと沈んでいった。 「ルサカ!」 ルサカ騎に接近したアミラントは、ルサカ騎のコクピット頭部―――コクピットブロックを貫通した破孔を確かに見た。 破孔から盛大に海水がコクピットへの流れ込んでいる。 それがどういう意味を持つか、考える必要さえない。 「くそっ!」 アミラントはコクピットのコンソールに頭を叩き付けた。 脳天から全身を走る痛み。 それが発狂しそうな程、アミラントの体内を駆け回る慚愧の念……いや、自暴自棄に近い報復の念を押さえてくれる。 額を走る生ぬるい液体を、アミラントは舌で拭った。 鉄の味がした。 「……少佐」 「ルサカは落とし前をつけただけだ」 シュナー少佐は冷たくそう言った。 「アミラント。シナベールに戻るぞ。カプラーヌではこれ以上はどうしようもない。艦隊戦になる前に収容してもらう」 「―――了解」 アミラントは、ルサカ騎が消えていった海底をちらりと見た。 光の届かない漆黒の闇が、底には広がっていた。 「……戦場で、勝手なマネするヤツはそうなるんだよ……馬鹿野郎が」 「敵騎、海中へ沈みますっ!」 オペレーターの明るい声に、艦橋が湧いた。 「よしっ!」 美夜は力強く頷いた。 「海域の離脱もあと少しだ!」 「泉騎より通報!海底より上昇する物体有。質量―――空母クラスっ!」 「何っ!?」 驚愕の表情を浮かべる美夜の目の前。 スクリーン上に映し出された海面の色が変わった。 そして――― 「ルサカの件は」 艦橋に戻ったシュナー少佐に、艦長席の男が振り返りもせずに言った。 がっしりとした体格。長年の風雪に耐えたたたき上げ者特有の貫禄ある顔がそこにあった。 魔族軍巡航艦シナベール艦長、オイゲン大尉だ。 「残念―――そう言って良いですか?」 すでに艦橋は海面から出ようとしていた。 「そうだな」 シュナー少佐は艦長席の横に立つと、窓の外に視線を向けたまま頷いた。 「またしても、私は未熟者を制することが出来なかった」 「我々、ロートルは」 久しぶりに見た太陽光のまぶしさに顔をしかめつつ、艦長は言った。 「若手相手には後悔と不満ばかり―――そういうものですよ」 「艦長っ!」 砲術担当士官がその席から報告する。 「主砲射撃準備完了っ!照準はあの艦で!?」 「うむ―――仕留めろ」 「ひ、飛行艦だと!?」 美夜達の目の前。 静かなはずの海面に突如現れたのは、“鈴谷(すずや)”より二周りは大きい巨大な飛行艦だ。 「全長380メートル、推定排水量10万トン―――」 “鈴谷(すずや)”の“目”が捉えたデータを前に、美夜の出来ることは、それを音読する程度だ。 元来、輸送艦改造型の“鈴谷(すずや)”に、この艦に対して対抗出来る兵器はない。 あるとしたら、メサイア達の持つビームランチャーが精一杯だ。 そんな美夜の目の前で、メサイア達が一斉に動いた。 「砲門は6門―――」 二宮が着眼したのはそこだ。 「長野、早瀬」 二宮は命じた。 「相互データリンク展開、敵A砲塔砲身の発射タイミングを狙って狙撃しろ。同様に柏、山崎はB砲塔。宗像、私と共にC砲塔を叩け。対消滅によるダメージで敵艦を仕留める」 「―――了解」 各MC(メサイアコントローラー)達は一斉にFCSを精密射撃モードに切り替えた。 ―――だが、 ズンッ! 艦を走る激震が、彼女たちを搭乗したメサイアごと襲ったのは、その直後だった。 その瞬間、美夜は自分がどんな声をあげたのかまるで覚えていない。 いや。 その瞬間、世界に音があったのかさえ、美夜は覚えていなかった。 覚えているのは、ただ、体をシェーカーに放り込まれたような衝撃が走ったことだけだ。 「被害報告っ!」 「艦橋より各部、被害報告を!」 「艦橋見張りより報告っ!右舷命中弾2、至近弾4、命中弾は艦を貫通しました!」 「―――ちぃっ!」 「ちぃっ!」 FGFを突き抜けた“鈴谷(すずや)”への攻撃命中に関し、舌打ちしたのは美夜だけではなかった。 シナベールの砲術長もまた、自らの射撃結果に舌打ちしていた。 至近弾が4 命中弾はたったの2 せっかく命中した弾も、出力が高すぎて艦内で爆発することなく貫通してしまった。 「各砲塔誤差修正っ!ML(マジックレーザー)出力を半分に下げろっ!―――ええいっ!オンボロの人類艦めっ!」 「一番砲塔修正完了」 「二番完了」 「エネルギー充填。出力40%でホールド。撃てますっ!」 「よしっ!」 砲術長が砲撃命令を下そうと、管制システムのアイピースに顔を押しつけた。 砲撃用カメラと連動するシステム上で、敵艦の様子が手に取るように分かる。 黒い煙を吐き出しながら飛ぶ敵艦。 その艦橋に並ぶメース達がこちらに武器を向けているのまでがわかる。 「敵艦からの砲撃―――来ますっ!」 船底から斜めに抜けた2発の攻撃は、幸いにして竜骨を傷つけずに済んだとはいえ、そのダメージははっきり大きい。 それだけは確かだ。 その“鈴谷(すずや)”からの報復が果たされたのは、その直後だった。 「ぐうっ!?」 丁度、都築と共に、肉迫攻撃を試みていた美奈代は、突然発生した敵艦上の爆発の衝撃に吹き飛ばされた。 一度、海面に叩き付けられ、大きくバウンドした後、騎体の姿勢制御を取り戻した美奈代が見たものは、無惨に打ち壊され、空を浮かぶ残骸に成り下がった敵艦の無惨な姿だった。 「き……教官達がやったの?」 「ち、違います」 牧野中尉が強ばった声で答えた。 「“鈴谷(すずや)”からの攻撃はすべてバリアに弾かれました」 「じ、じゃあ?」 驚く美奈代の目の前で、敵艦の舳先が南東を向いた。 「事故?砲塔が爆発した?」 「別なML(マジックレーザー)が命中したのは確認しています」 あと一歩で巻き込まれる所でした。 大きな安堵のため息と共に、牧野中尉はそう呟いた。 「友軍の攻撃ですか?」 「おそらく。ただし、レーダーに反応なし。推定射撃距離600キロ以上の射撃です」 「……飛行艦?」 「この海域に、近衛軍の飛行艦は存在しません」 黒煙を吐きながら遠ざかる敵艦を見送りながら、美奈代は都築騎に接触した。 「都築。大丈夫か?」 「ああ……ありゃ、放って置いても沈むだろう」 「……そうだな」 「誰だ?」 美夜は敵艦から逃れることが出来た安堵感より、そちらの方が気になっていた。 メサイア隊のML(マジックレーザー)攻撃をはじき返した敵のバリアを貫通し、敵艦の砲塔を吹き飛ばした攻撃。 それは、“鈴谷(すずや)”とは別な攻撃だ。 「一体、誰の攻撃だ?」 「恐ろしいほど高出力のML(マジックレーザー)砲を装備した艦が展開しているのは間違いないです」 副長は言った。 「これはメサイアの攻撃ではあり得ません」 「……しかし」 美夜が気にするのは、レーダースクリーン上の反応だ。 数は3 飛行艦にしてはサイズが小さすぎる。 「艦長」 通信オペレーターが報告を上げた。 「通信です」 「通信?」 30分後。 被害復旧の進む“鈴谷(すずや)”の甲板に降り立ったのは、すでに収容された美奈代達ではない。 甲板には3騎の異形のメサイアが並んでいた。 長大な砲と手足のない戦闘機じみたフォルムを持つ、メサイアらしくないメサイア。 近衛軍の開発した高々度戦域支配メサイア、Fly ruler(フライ・ルーラー)だ。 収容作業が完了し、甲板から引き出された固定ワイヤーに拘束されたFly ruler(フライ・ルーラー)のハッチが開いた。 整備兵がラッタルをハッチにひっかけ、それを伝わってMC(メサイアコントローラー)達が降りてきた。 「へえ?」 感心した声をあげたのは、それを見物していたさつきだ。 「騎士一人にMC(メサイアコントローラー)が2人?」 「Fly ruler(フライ・ルーラー)は」 二宮が言った。 「先の改造で、バリアを強化した関係で、MC(メサイアコントローラー)が一人では処理出来なくなったそうだ」 「バリア?―――うわ。ゼータクな騎体」 「バリア……欲しいですね」 「柏。気持ちはわかるが……騎士が降りてきたぞ?」 「……」 「……」 「……」 甲板に降り立ったMC(メサイアコントローラー)達はまだいい。 問題は、そこに並んだ三人の騎士だ。 「せ、整列っ!」 緊張した声は、恐ろしくあどけない。 小学生が戦闘服を着ているようにしか、美夜には見えなかった。 それだけじゃない。 騎士達は、三人が三人。同じ顔をしているのだから余計タチが悪い。 「名札を用意しろ」 美夜は横に立つ副長にそう命じたのも無理はないし、その方がありがたかった。 「く、クローンですかね」 「ありえるか」 そんなやりとりをする美夜と高木の前で、一人が声を張り上げた。 「し、申告しますっ!葉月実検センター所属第7特務隊ラグエル隊隊長、神城一葉少尉以下、神城双葉少尉、神城光葉少尉、以上3名。着艦の許可願いますっ!」
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/211.html
「くそっ!」 鳴り響く警報 魔晶石エンジンから発する甲高い戦闘出力音 スクリーン一杯に迫る甲冑のバケモノ。 美奈代は倒れた二宮騎の前に立ちはだかると、斬艦刀を構えた。 距離はまだかなりある。 あれほどの重量級だ。接近するまでにはかなり間があるはずだ。 ダンッ! 大地を蹴って敵騎が動き出した。 「―――え?」 敵の装甲の厚さは一目瞭然だ。 楯攻撃(シールドやエッジ)の効く相手じゃない。 グリーンの角張った恐ろしく分厚い装甲が美奈代めがけて襲いかかってくる。 「速いっ!」 その動きに、美奈代は目を見開いた。 重装甲をものともしない素早い動きを見せる。象のような鈍重な外観からは全く想像が出来ない機動性だ。 「あの装甲で!?」 重装甲に高機動性ではシャレにもならない。 美奈代は必死に隙を見つけようとした。 装甲がいくら分厚いとはいえ、どこかに弱点があるはずだ。 ―――どこだ!? 美奈代は焦りながら視線を激しく移動させた。 正面から撃破出来そうな場所が思いつかない! ―――背後に回り込めば。 美奈代は、ふと、そう思った。 “装甲は、正面装甲が最も厚いが、後方や上面は得てして薄い” かつて、授業で聞いた言葉を思い出したのだ。 戦車かメサイアか、一体、何の装甲について語った言葉で、誰から言われた言葉かさえ思い出せないが、それでも、このタイミングでこの言葉を思い出したことを、美奈代は誰かに褒めて欲しかった。 美奈代は背面に回り込もうとSTRシステムに力を込め、即座にその無意味を悟った。 否、悟らされた。 ブンッ! 突然、敵騎の上半身で白い光が走った。 メサイアの腕ほどもある三角の円錐状の光が、肩や頭部に走る。 その光に本能的な危機を感じた美奈代は動きを止め、目を見開いた。 「な、何?」 「レーザースパイクです」 牧野中尉が言った。 「固定式の光剣と思ってください。タックルでも喰らったら串刺しです」 「―――くっ!」 背後から斬り込むことはやめた。 三騎であんなものにプレスされたらたまらない。 肩部装甲のレーザースパイクが装甲の動きに合わせて激しく揺れる。 不用意な接近は、自殺行為だと、その動きが教えてくれる。 ―――どうする? 接近のため、激しい動きを見せる敵騎を睨み付けていた美奈代が“そこ”に気づいたのは、そんな瞬間だった。 美奈代は結局、その三騎に何もしなかった。 牽制のためのML(マジックレーザー)攻撃さえしなかった。 三騎から見れば、今の美奈代騎は、突然、仲間が倒されて動揺している程度にしかみえないだろう。 だらりと下げられた長い剣もシールドも構えられてさえいない。 戦闘の意志さえ感じられない。 そんな姿で立ちつくすのが、今の美奈代騎だ。 当然、敵はそんな美奈代騎にかける情けなど持ち合わせていない。 殺されたくなければ、全てを殺せ。 それこそが、戦場における騎士の規範(ルール)だ。 三騎のメサイアを駆る騎士達は、自らの規範に従順過ぎるほどに従った。 それだけだ。 楔形陣形で迫り来る三騎。 前衛騎がハルバードを振り上げた。 槍に斧を付けた斧槍(おのやり) それがハルバードだ。 斧と槍双方として使え、「突き」「切り」「刺し」「払い」―――凡そ近接用武器に求められるほぼ全ての攻撃が出来る優れものだ。 その破壊力の源は、長い柄を操作することによる遠心力や慣性力―――そして操作する者のパワー。 メサイアのパワーを上手く遠心力に乗せることが出来た場合のハルバードの破壊力は、およそメサイアの扱う近接用武器の中では最強の部類に入るだろう。 まともに喰らえば、美奈代騎は真っ二つだ。 ピピピピピピ―――ッ!! センサーが脅威を感知し、操縦者である美奈代に警告を告げる。 長い柄を両手で握って振り上げつつ接近する敵騎を、美奈代は強ばった顔で見つめていた。 ―――チャンスは一度だ。 美奈代は自分に言い聞かせていた。 ―――しくじったら……終わりだ。 終わり。 つまりは―――死。 死ねば、全てが終わる。 そこまで考えるのが、今の美奈代にとっては精一杯だ。 目の前に迫る敵騎を前に焦る心を押さえつけるのがやっとなのだ。 「―――くっ!」 歯を食いしばった途端、 ブンッ!! 凄まじい音を立てながら、敵騎がハルバードを振り下ろした。 まともに喰らったら、メサイアは脳天からかち割られるだろうその攻撃だったが、 ガンッ!! その斧が捉えたのは、何の変哲もない大地。 メサイアの魔晶石エンジンが産み出す大出力を遠心力に変えて繰り出された一撃は、大地に深々をめりこみ、砕かれた大地が土砂となって舞い上がった。 ―――かわされた!! 前衛騎の騎士は、即座にハルバードを大地から引き抜こうとして―――出来なかった。 「!?」 ハルバードの斧の根本。 何かが押さえつけている。 必殺の一撃をかわしたメサイアの脚だとわかった次の瞬間、 グガンッ!! コクピットを凄まじいほどの振動が走った。 コクピットを形成していた様々な装備が吹き飛び、モニターや計器類が一斉に消えた。 振動が収まった時にはコクピットの中は暗闇となった。 手元でさえ見えない事態に、予備電源まで切れたことを悟った騎士が次に感じたのは、奇妙な重力感。 立っていることが出来なくなった自騎が倒れる感覚だった。 メサイアの弱点である喉部防護用可動式装甲と騎体の隙間に斬艦刀を突き刺された前衛騎は、頭部にあるMCL(メサイア・コントローラー・ルーム)と本体を結ぶ操縦系統を根こそぎ破壊されたことで動きを止めた。 人間でいえば、頸骨を切断されたのと同じ。メサイアといえ、ここを破壊されればどうしようもない。 ズズゥゥ……ンッ!! 奇妙な程ゆっくりと前衛騎が倒れる。 その光景に狼狽した後続騎達が一歩、後ずさった。 美奈代にはそう見えた、その次の瞬間――― ブンッ!! 突然、左騎の腕が光った。 「ぐっ!?」 騎体に激しい振動が走り、警報が一斉に鳴り響いた。 「さっきの一撃ですっ!」 牧野中尉が怒鳴った。 「シールド43%融解、左部異常加熱警報!」 「くっ!?」 騎体の状態を示すステータスモニターをちらりと見る。 騎体の左側が危険なほど加熱していることを示す赤色で点滅している。 「一体!?」 後衛の二騎のうち、美奈代から見て右騎が何かを構えているのに、美奈代が初めて気づいたのは、その時だった。 巨大な筒―――バズーカだ。 とっさの牽制用に撃ったんだろう至近弾だけでシールドが溶け、騎体は半身が焼けた。 一体、どれほどの高出力のML(マジックレーザー)が発射されたのか、美奈代はそんなことを考えている余裕さえなかった。 キュィィィッ 筒の中が光り出した。次は外さないだろう。 「えっ!」 美奈代騎が動いた時、美奈代が急速後退をかけてその攻撃を回避する機動をとると思っていた牧野中尉は、眼が点になった。 自分の乗っている騎体は後退したのではない。 前進したのだ。 「ちょっ!?」 ここで前進すれば、自分から的になりにいくようなものだ。 いくらなんでも、美奈代だってそれがわかっているはずだ。 それなのに―――? 唖然とする牧野中尉の目の前にバズーカを構えた敵騎が急速接近してくる。 よく考えられて配置された装甲は、幾重にも重なって鉄壁の防護とはどういう代物かを牧野中尉に教えてくれる。 この位置から喉部を狙うことはまず無理だ。 美奈代にどういう勝機―――いや、美奈代自身が正気なのかさえ、もうここまで来たらわからない。 そっと脱出装置の位置を確認した牧野中尉の耳に美奈代の声が響く。 「さくら、シールドパージっ!」 「はいっ!」 美奈代の声に、美奈代騎の左腕が大きく振られ、溶けたシールドが左騎めがけて飛んでいく。 右騎は、シールドを難なくかわした代わりとして、射撃のタイミングを失った。 そこが、美奈代の付け入るタイミングだ。 「そこっ!」 美奈代騎が右騎の懐に飛び込んだ。 ピーッ! ピピピッ! MCL(メサイア・コントローラー・ルーム)にそんな音が響く。 スクリーンに映し出されるのは、敵の装甲だけ。 そのあちこちが光り始めていた。 牧野中尉は、敵騎の近接防御用のML(マジックレーザー)が発射態勢に入ったことがすぐにわかった。 ―――まずいっ! この至近距離からML(マジックレーザー)を喰らえば無事では済まない! 「准尉っ!後退を!」 たまらず牧野中尉が叫ぶ。 その目の前で、自分の乗る騎が奇妙な動きを見せた。 ザンッ! 大地に斬艦刀を突き刺した右腕が、右騎の腰回りを防御している巨大な装甲プレートの端を掴むと、一気に持ち上げたのだ。 ベギッ! 奇妙な音を残して装甲プレートの可動部を止めていたボルトが破断、装甲プレートが外れた。 装甲プレートに隠れていた右騎の股関節部が丸出しになった。 そこへ――― ガンッ! 再び斬艦刀を握った美奈代騎は、斬艦刀の切っ先を股関節に突き込んだ。 股関節から真上に突き入れられた斬艦刀は、熱せられたバターナイフがバターを易々と溶かし切るように、内部構造物を解かし、破壊した。 騎体の中からは、何かが連続して砕け、爆発する音が響く。 斬艦刀から手を放した美奈代は、とっさに右騎の腕からバズーカをもぎ取ると、撃破したばかりの、その騎体の背後に回った。 背後から襲いかかろうとしていた左騎が、右騎にハルバードを振り下ろそうとする。 右騎の背後から突き出されたバズーカの筒先が左騎の装甲とぶつかった瞬間――― 美奈代はバズーカのトリガーを引いた。
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/185.html
「ソコトラ島だと?」 青い水を満面とたたえる美しい海辺。 そこに並ぶのは、魔族軍のメース“カプラーヌ”達。 片膝をついた発進待機姿勢のその手には、大型のビームカノン砲、魔族軍側呼称“大型魔法弾発射筒”が仕込まれている。 水中メース第203小隊。 それが彼らの所属。 その指揮官はシグリッド大尉である。 メース使いとして先の戦争でも敵味方に知られた歴戦の猛者。 神族軍メース撃破数200騎を越えるエースの一人だ。 ただ、生粋のメース使いではなく、元が地質学者として人間界に来訪、そのままヴォルトモード卿の主張に呼応してその軍に身を投じたという、ちょっとした変わり種だ。 そんな少佐にとってアフリカは実に魅力的な土地であった。 むき出しの地層を興味深げに眺めつつ、海辺を散策していた大尉は、副官であるムブナ軍曹から受けた報告に足を止めた。 「はい。地域防衛に配置された弓兵部隊からの報告です。昨日、エーランド少佐の隊が壊滅した部隊です。場所はここからすれば目と鼻の先です」 「司令部は何と?」 「エーランド少佐の隊に追撃させています」 「失態の責任をとらせるか?」 「おそらく。敵は多くても8騎程度。ただ、追撃までさせたのは、正直異例でしょう」 「異例?」 「普通でしたらアフリカから追い出す所で止めています」 「……成る程?」 「追撃は、何かせっぱ詰まった理由があってのことと思います」 「……うむ」 ムブナ中尉の言葉に、シグリッドも頷いた。 「他の人類の動きは?」 「アデン湾は、我々の支配下と呼んでいいでしょう。先日の戦闘以来、湾内に人類側の陰も形も……」 「エーランドからは?」 「何も。というより、我々がここにいることを、エーランド少佐がご存じかすら、不明です」 「……そうか」 「―――やりますか?」 「エーランド少佐は顔なじみだ。何より、シュバルツラント家恩を売っておいて損はあるまい?」 シグリッドはきびすを返した。 「あのエーランド少佐が手こずった人類側メースには、私も興味がある」 「はっ!―――総員乗騎ぃっ!かかれぇっ!」 ●アデン湾上空 「来るなこいつぅっ!」 さつきは必死になってハルバードを振り回した。 丁度、ハエ叩きで空振ったのとよく似た感じがした。 すぐ間近では、けん制のために長野が120ミリ速射砲を乱射している。 敵騎は目の前に撃ち込まれる砲弾を煩わしいとは思っても、脅威と感じているとはとても思えない。 1発いくらの代物か知らない。 ただ、さつきがお小遣いで買える程安くないだろうことは確かな砲弾が、まるで海に捨てられるも同然に消えていく。 さつきには、それをもったいないと思う余裕さえ、もうなくなっていた。 「7時方向、後ろっ!」 「ちいっ!」 メサイアとメースの決定的違い。 それは、この空中戦闘時の機動性にある。 爆弾を腹一杯ためこんだ爆撃機並の機動性しかないメサイアに対して、戦闘機どころか、小鳥か蝶さながらに飛び回ることの出来るメースでは勝負にならない。 背後から接近する敵騎にようやく振り返った時、さつき騎を待っていたのは、メースから放たれた蹴りだった。 「ぐうっ!?」 蹴り飛ばされた衝撃で、長野騎と激突したさつき騎めがけて、敵騎が戦斧を振り上げる。 ドンッ! 背後から突き飛ばされたさつきは、あやうく舌を噛みそうになった。 長野騎がさつきを突き飛ばし、ブースターを加速、ショルダーアタックをかけたのだ。 メサイアとメースの質量に加速が加わったその一撃を腹部に受けたメースは、その騎体をくの時に曲げた。 ガンッ! 長野騎が、あの手斧で頭部を殴りつける。 「早瀬っ!」 「は―――はいっ!」 落下しかけていたさつきは、あわてて騎体バランスをとると、ハルバードを構えて、長野騎の目の前の敵騎めがけて下から急接近した。 「いけっ!」 バンッ!! ハルバードの斧部分に鈍く重い感触が走る。 斧が敵騎の胴体に深くめり込んでいた。 まるですべての力を失ったといわんばかりに、空中で棒立ちになった敵騎。 戦斧がその手から落ちる。 「―――おっと」 長野騎がそれを空中で拾ったのと、騎体が海めがけて落下していったのは、ほぼ同じタイミングだった。 「宗像、柏!そっちはどうだ!?」 敵騎が宗像騎めがけ、戦斧を振り下ろした。 宗像騎は、戦斧が生み出す轟音に押されるかのように騎体を下へと降下させ、その一撃をしのいだ。 攻撃に失敗したと敵騎が気づく間もなく、宗像騎の背後に潜んでいた美晴騎の一撃が、メースの首を吹き飛ばした。 「さっすが宗像さん!」 スピンしながら海に消えていく敵騎の首を見送りながら、美晴が歓声をあげた。 「空中戦は天下一品ですね!」 「―――そうか?」 ドンッ! 宗像は美晴騎を突き飛ばした。 それまで美晴騎がいた場所を、敵騎の剣が走る。 「こいつら!」 宗像は驚嘆の声をあげた。 「頭部がなくても生きている!?―――ちぃっ!」 敵騎の背後に入った宗像だったが、対抗手段がない。 剣が通じないのは、昨日、嫌と言うくらい味わわされている。 宗像は、敵騎のランドセルを掴むと、未だに火花をあげる切断された首部へ、右腕の30ミリ機動速射野砲の銃口を突っ込み、引き金を引いた。 ヴォォォォォォォ……ム!! ガドリング砲の射撃音が終わった。 「……装甲内部に至近距離からだ」 宗像は自分に言い聞かせるように言った。 「これで死ななければ、冗談だぞ―――美晴っ!」 「はいっ?」 「なにボッとしてるんだ!仕留めろっ!」 宗像達が有利な戦いをしていた頃――― むしろ間逆の戦いを余儀なくされていたのは、二宮と美奈代だ。 男運のなさが、戦果にまで響いているんじゃないかと、自分達にイヤミを言いたくなったとしても無理はない。 相手はエーランド少佐だ。 ピーッ! 「ちいっ!」 警告と二宮の舌打ち。 そして、 バンッ―――ギュィィィィンッ!! ドンッ!! 二宮騎のシールドに光が命中、1秒足らずのタイムラグの後、爆発が生じた。 「ML(マジックレーザー)攻撃っ!」 牧野中尉が怒鳴る。 「前方、11時方向、距離1500っ!」 「速すぎるっ!教官っ!」 「ソコトラ島が見えた!」 二宮は怒鳴った。 「降りるぞ、高度を落とせっ!」 二宮騎は、半ば融解してへしゃげたシールドを構えたまま、地上へ降下した。 美奈代達もそれに続いた。 「注意して!」 “さくら”が怒鳴ように言った。 「何か海中に潜んでいる!」 「何っ!?」 「数5。騎種、ライブラリーなしっ!水中を追いかけてきている!」 「何だとっ!?」 「敵接近中、距離1200」 二宮の目の前で、敵騎が滑るような機動で地面に降り立ったかと思うと、そのまま切り込んできた。 機動に無駄がない。 乗っているのがかなりのベテランだと、動きだけでわかる。 教本の掲載したいな。 二宮はふと、そう思った。 「泉、斬艦刀準備。弾幕を張れ」 「弾幕?効くんですか?」 「祈れっ!同時に煙幕(スモーク)発射っ!隙を見て逃げるっ!」 ポンッ。 気の抜けたような音がして、メサイアの肩に仕込まれた煙幕弾発射装置から煙幕弾が撃ち出された。 爆発すれば一瞬で騎体を覆い隠すほどの白い煙の柱が、撃ち出された弾の数だけ立ち上り、美奈代達の前方の視界を奪う。 美奈代達は、その柱の向こうへむけ、照準もつけずに火砲を乱射した。 二宮がやろうとしていることは単純だ。 敵から自分達の姿を隠した上で火砲の乱射を行い―――とにかく敵の接近を止める。 その間に逃げる。 そういうことだ。 煙幕の別機能、レーダーとと熱画像処理双方のシステムへの干渉が即座に始まった。 目の前のモニターのいくつかがブラックアウトした。 「よしっ!行くぞ、ついてこいっ!」 二宮騎からそんな号令がかかったのは、美奈代が120ミリ機動速射野砲を撃ち終わったのとほぼ同じタイミングだ。 「了解っ!」 美奈代は、浮き上がる二宮教官騎に続こうとした。 だが――― ピーッ!! 「―――来ますっ!」 「ちいっ!」 煙幕をかいくぐって突撃してきた敵騎のシルエットが白い煙の向こうに見える。 美奈代はとっさに120ミリ機動速射野砲を煙幕の中へと投げつけた。 ザンッ! 砲が真っ二つに叩き斬られ、漆黒の敵が現れた。 「小手先の技が通じると思うなっ!」 エーランドは右太股にマウントしていた戦斧を抜き、敵騎にめがけてメース、ツヴァイを突進させた。 警報が鳴り響き、メースのエンジン音と戦闘機動の振動が体を揺さぶる。 これが戦場の醍醐味だ! エーランドは歓声を上げたかった。 再び立った戦場(いくさば)は、今でも自分を歓迎してくれている! そう、叫びたかった。 「いい感じだ!」 エーランドは、最初から目星を付けていた騎に襲いかかった。 「―――さぁ。相手をしてもらおうか!」 敵騎に何の躊躇もなく突撃するエーランドには、先日の圧勝の記憶がある。 満足な抵抗も受けず、一方的に追いつめた記憶。 それが、彼を誤算へと導くなんて、予想しろという方が無理だった。 その瞬間まで、エーランドは敵を切り刻む自分の未来を信じて疑っていなかった。 その瞬間は―――すぐにやってきた。 「何っ!?」 敵騎が、例え一瞬とはいえ、視界から消えた。 想定外の出来事に、エーランドの戦斧が空を斬った。 「何!?」 戦斧がおかしいことに気づいたのは、戦斧を振り降ろしきった後だ。 戦斧が―――軽い。 「……何?」 戦斧の柄から上が―――ない。 敵の武器―――斬艦刀が、ツヴァイの戦斧を叩き斬ったなんて、エーランドには想像さえ出来ない。 「な!なんだと!?」 エーランドは、戦斧を真っ二つに叩ききられたことに、少なからず狼狽した。 「じ、人類の技術はここまで!?」 戦斧は単なる金属の斧ではない。 騎体から供給される魔力によって敵の装甲をかち割ることの出来る立派な魔法兵器だ。 それを真っ二つにしてのけるとは―――!! 「や、やるなっ!」 嫌な汗が背筋を流れ、体内を何か表現出来ない不快感が走る。 それが忘れかけていた恐怖という感情だと気づき、エーランドは自分を取り戻した。 「ふふっ―――ハッハッハァッ!!」 ツヴァイのコクピットにエーランドの笑い声が響く。 「楽しませてくれるわっ―――人類がぁっ!」 振り下ろされる敵騎の長剣。 エーランドはその柄を抑え、その腹部に蹴りを食らわした。 「ちぃっ!」 バランスを失い、ひっくり返る二宮騎に、エーランドは容赦なく襲いかかった。 腰に下げていた剣を抜き、倒れた二宮騎を串刺しにしようと、連続した突き技を繰り出す。 二宮騎は、それを大地を転げ回ることで回避する。 「教官っ!」 美奈代がけん制のために機動速射野砲を放つが、30ミリ機動速射野砲程度で割れる装甲をツヴァイは持ち合わせていない。 一瞬だけ、その攻撃を止めたのが精一杯の功績だ。 「無駄なあがきを―――いつまでも!」 ツヴァイの蹴りが二宮騎の腹部を蹴り上げ、二宮騎がくの字になって宙に浮いた。 「ぐっ!?」 そんな鈍いうめき声を、通信装置に聞いた美奈代は、何の躊躇いもなく二宮騎救援のために、エーランドへ向かって斬りかかった。 「このぉぉぉっ!」 美奈代は、ツヴァイめがけて、30ミリ機動速射野砲をを乱射しながら接近、滅茶苦茶な太刀筋で攻めまくる。 美奈代にとって、目の前の敵を撃破するより、二宮騎から敵を引き剥がすことの方が、余程大切なのだ。 「な、なんだ!?」 ところが、相手にする方は驚くしかない。 人類の太刀筋とはこういうものですとでも説明されれば、納得するしかない立場なのだ。 しかし、それが形もへったくれもない、恐ろしくデタラメなのは確かなのだ。 「こいつは―――ぐっ!?」 かわしたはずが、肩部装甲を切り落とされた。 先日の武器ではこうはいかなかった。 どうやら、秘密は長剣にあるらしい。 エーランドはそう判断し、武器を奪うチャンスを狙った。 隙を見て敵を倒すだけでいい。 理屈ではわかっている。 ところが、その太刀筋のあまりのデタラメぶりに、危なくて近づくことが出来ない。 しかも、敵の方がリーチが長いとあっては尚更だ。 「こいつ!」 エーランドは予想外の動きを見せる剣に翻弄されながら言った。 「余程上手いのか、それとも単なるバカか!?」 型もへったくれもあったもんじゃない。 これが剣術使いなら、素人も同然だ。 そうか。 だから、それだけに逆に攻撃を予測出来ないのだ! 「こんな―――っ!」 ようやくみつけた隙を見て、エーランドは敵騎の胸に蹴りを入れた。 吹き飛ばされた敵騎が、地面を抉りながらスライディングして止まった。 「デタラメがいつまでも通用するかぁぁっ!」 敵騎が立ち上がり、再び斬りかかってくる。 「まだやるのか!?―――ええいっ!」 エーランドは敵騎の剣を止めた。 「中のメース使いの面が見てみたいものだ!」 エーランドの駆るツヴァイは、シールドを構えて突撃してくる美奈代騎めがけて逆襲に出た。 ツヴァイの肩部シールドと、美奈代騎のシールドが激突。 斬艦刀が逆袈裟斬りに走り、ツヴァイが体勢を低くしてかわす。 ツヴァイが、美奈代騎の懐に飛び込んで突き飛ばし、その動きごと止める。 「―――くっ!」 全身にアドレナリンが走り、体が熱くなるのがエーランドにはわかる。 体中の血が沸き立つようなこの感覚。 生死の境、刃の上を歩くような緊張感。 このギリギリの感覚が、何より楽しい!! エーランドは、その高揚した気分のまま、ツヴァイの剣を構えなおした。 「―――さぁ、いくぞ人類っ!」 「くそ―――しつこい男は!」 斬艦刀を振り回し続け、息が上がった美奈代は、荒い息のまま、目の前の敵騎を睨んだ。 「嫌われるんだぞぉっ!?」 息を飲み込んで呼吸を抑え、美奈代は逆襲に転じた敵騎に斬りかかった。 最初はありがたかった斬艦刀の長さが、今となっては重荷になりつつある。 15メートルは長すぎる。せめて10メートルだ。 美奈代はそんなことをつぶやきながら、“征龍改(せいりゅうかい)”を駆る。 両手で剣を構える敵騎が、騎体を自分の騎に突撃させて来るのがスクリーン一杯に映し出される。 敵騎が突き技で来るのは、その構えから嫌でも分かる。 大降りに振り下ろすより、ここは突き技で来る方が正しい。 ―――避けられない! 美奈代の心のどこかで、そんな警告が鳴り響いたのは、敵騎の剣をうち払おうと切っ先を下げた体勢をとった美奈代の心の中だ。 「ダメです!」 牧野中尉が悲鳴を上げる。 「回避可能性5%!脱出してくださいっ!」 迫り来る剣がコクピットへマトモに命中するだろう。敵の突撃スピードと構えは完璧だ。 剣をうち払った所で、体当たりをマトモに喰らう。 どうするか。 「―――くうっ!」 美奈代が乾坤一擲のカケに出るべくSTRシステムに力を込めたのは、攻撃が完全に回避不能になる直前のことだった。 そして、 勝敗は一瞬で決まった。
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/196.html
グレイファントムM14 それは、大統領警護騎士団向けに開発された重装備型グレイファントムM64を高機動強襲型に改造した特殊騎中の特殊騎だ。 騎体の上半身を若干小型化し、装甲がM64より薄くした分、防御性能は落ちるが、軽い分の機動性の向上と、任務にあわせた様々な改装が可能なのが強みだ。 一世代前の“征龍改(せいりゅうかい)”で勝負になる相手ではない。 最悪なことに、その数は美奈代達の倍を超えている。 メサイアの手が持つ小型速射野砲(ハンド・キャノン)のタクティカル・レーザーがなめ回すように美奈代達の騎体を走る。 相手騎の性能は圧倒的だ。 下手に戦えばひねり潰されるのがオチだ。 ―――どうする? 背中を、嫌な汗が流れたのを感じながら、美奈代は自問を続ける。 ―――どうする? 下手に動くだけで小型速射野砲(ハンド・キャノン)で蜂の巣にされる。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のリキッド・タンクにでも喰らったら火だるまの究極形態にされてしまうだろう。 ……。 ……え? ……火だるま? 「おい、待てよ」 美奈代が自問する中、動いたのは都築だ。 横を見ると、武器を下げた都築騎のコクピットハッチが開き、中から都築が出てきた。 唖然とする美奈代の前で、モニターにズームされた都築は、両手をあげて薄ら笑いを浮かべていた。 「そっちの隊長さん。名前、なんて言ったっけ……まぁ、いいや。聞こえているか?」 「―――聞こえている」 ウォーレン中尉は答えた。 「ちなみに、私はウォーレン中尉だ」 「ああ。そうそう、ウォーレン中尉だ」 都築は手を広げたまま、頷いた。 「若い頃のヴァル・キルマーかと思ったよ」 「―――その態度の目的は何だ」 ……少しはノレよ。 小さくそうつぶやいた都築は言った。 「こいつを収めたいだけさ」 「収める?」 「要するに、ことの発端は―――」 都築の右手が染谷騎を指さした。 「ホームズかマーロウだか、とにかくそこのバカが、名探偵だか、タフ気取りのアホ刑事になっちまったのが原因だ」 「……」 ウォーレン中尉は無言だが、“フッ”という鼻息が小さくスピーカーに入った。 「マーロウとは、フィリップ・マーロウのことか?」 「そうだ。俺の憧れさ」 都築は楽しげに言った。 「奴にならケツ貸しても良い」 「たいした心酔ぶりだ」 ウォーレン中尉は苦笑混じりに言った。 「だが、奴は私立探偵だ」 「検事局元捜査官だろ?」 「……ふむ」 ウォーレン中尉は都築の答えが気に入ったらしい。 「よろしい。話は聞いてやろう。何がしたい」 「シールドの修理費と消耗した弾薬の請求書は、染谷に送りつけてくれ」 都築は答えた。 「最初から無かったことにして欲しい」 「出来ると思うか?」 「―――何」 ウォーレン騎のタクティカル・レーザーが都築の腹部を照射する中、都築は肩をすくめた。 「ここにいるのは、どうせ俺達とあんた達だけだ。あんた達は、あのコンテナもって帰れば手柄になるし、俺たちは帰って染谷袋だたきにしてウサ晴らせば、なべて世界はこともなしで回るんだ」 ウォーレン中尉は、少しの沈黙の後、訊ねた。 「―――名は、なんと言ったかな?」 「都築だ」 「ツヅキ……そうか。冥途の土産に覚えておけ、若造」 都築の体が、ぴくりと動いた。 「我々の任務は、反応弾の回収ともう一つ、貴様等の口封じだ」 「俺達が帰らなければ、“鈴谷(すずや)”が黙っていないぜ?」 「お前達を始末したあと、ゆっくり料理させてもらうことになるだろう」 「……はぁっ」 都築は盛大なため息をつくと、大きく手を振り上げ、興奮した口調になってわめきだした。 「何が気に入らなかったんだよ!おっさん!何か金になるようなブツが欲しいのか?それならはっきり言えよ!」 コクピットにも潜り込んだ都築の駆る“幻龍改(げんりゅうかい)”が突然、美奈代騎の広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のリキッドタンクを掴んだ。 「―――泉、タンクをはずせ」 突然、レシーバーに入ってきたのは都築の小声。 「え?」 「いいから、責任は俺がとる」 「……」 普段なら反論もしただろう。 だが、その真剣な声を聞いた美奈代の手は、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の整備用着脱スイッチを押していた。 「サンキュ」 都築は言った。 「お前、普段からそれ位素直なら可愛いんだよな」 「なっ!?」 都築騎が、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のリキッドタンクを片手で持ち上げ、まるでウォーレン達に見せつけるかのようにちらつかせた。 「どうだ!?日本製の特殊リキッドが入った火炎放射装置だ!リキッドの成分は非公開だから、こいつ一つ、横流しすれば大もうけ出来るぜ!?」 都築は広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)を何気なく地上に置いた。 「まだ不満か?―――なら、こいつもつけてやる!」 次に都築が取り出したのは、腰のサイドスカートにマウントされていた手榴弾の入ったウェポンラックだ。 都築はそれを広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の下に置いた。 「どうだ!?これだけでもかなりの金額になるはずだ!それとも女か!?そこの騎にいる泉って女なら、いくら楽しんでくれてもいいぜ?どうせ嫁のもらい手なんて期待出来ない女だ!」 「……き」 「これで見逃せ!それでいいだろう!?」 「……き、貴様ぁっ!!」 そんな声が挙がったのは、美奈代ともう一人。 ウォーレン中尉だ。 交渉を持ちかけられたはずのウォーレン中尉は、モニターの中で顔を真っ赤にしていた。 顔に浮き上がった血管と皺ですさまじい形相になったウォーレン中尉が、レシーバーが悲鳴を上げたほどの声量で怒鳴った。 「貴様、それでも軍人かぁぁっっっ!」 美奈代は、今までの人生の中で、ここまでの怒鳴り声を聞いたことがなかった。 「敵に機密兵器を渡して助けろだと!?貴様、軍人としての矜持はないのか!?日本軍はそんないい加減なことを認めるのか!?」 その怒鳴り声を聞いて、ウォーレン中尉が教官向きの人物だと思ったのは、何も美奈代だけではない。 「私の部下ならたたき殺している発言だ!取り消せ!」 「交渉持ちかけられて取り消せって、あんたどういう神経してるんだ?」 「こんなものは交渉ではない!」 「じゃあ、どんなのが交渉だと?」 「そんなことは自分で考えろ!」 「……はぁっ」 都築はわざとらしいほど盛大なため息をついた。 「……交渉決裂ってわけ……か」 その時、都築はちらりとウォーレン中尉を見た。 「広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)、もう一発オマケしてあげるけど?ダメか?」 返答は、ウォーレン中尉騎からの一発だった。 「おいおい」 皆が武器を構える中、攻撃を受けた都築騎だけが、両手を広げて見せた。 「その返答も、ずいぶん、金がかかってるじゃねぇか」 「―――次は外さん」 ウォーレン中尉は夢に見そうなほどドスの効いた声で言った。 「覚悟しろ。このクソガキ」 「はいはい。せいぜい、覚悟します―――よっ!」 ドンッ! 突然、都築騎の背後でそんな音がしたかと思うと、何か巨大な物体が都築騎の背後から鍾乳洞の天井めがけて飛び上がったのは、都築騎が背負ってた広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のリキッドタンクだ。 「―――逃げろっ!」 都築の短い怒鳴り声を受け、美奈代達は一斉に脇穴の中へ飛び込んだ。 「逃がすかっ!」 M14が持つ小型速射野砲(ハンド・キャノン)が一斉に火を噴いたが、飛び上がった広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)に気をとられた一瞬が命取りになった。 その射撃はシールドで防御され、美奈代達が全騎、脇穴に飛び込むのを止めることは出来なかった。 「クソッ!」 獲物を逃したウォーレン中尉が舌打ちした。 その頭上で鈍い爆発音がした。 「ち、中尉っ!」 「―――ん?」 不意に、頭上が明るくなったことに気づいたウォーレン中尉は、目の前で発生した光に包まれたのを、確かに感じた。 「なっ!?」 粘っこい、腹に響く音が背後から迫る。 「染谷、山崎っ!撃てっ!天井を壊せっ!」 都築がそう怒鳴ると、手にした機動速射野砲を、逃げてきた鍾乳洞の天井めがけて乱射する。 「落盤させて通路を塞ぐんだ!」 「そんなことしたら」 「し損なったら死ぬぞ!」 真っ青になって怒鳴る染谷に、都築は答えた。 「それが狙いなんだよ!」 速射野砲の砲撃で、天井から剥がされた幾枚もの巨大な岩盤が逃げてきた穴を塞いでいく。 「?」 何事が起きたかと怪訝な顔をする美奈代の目の前。 落盤の煙を照らし出す光が穴を走ってくるのが見えた。 それは、炎の塊だった。 炎が通路一杯に自分達めがけて走ってくる。 「なっ!?」 美奈代はそれが何だかすぐにわかった。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のタンクが爆発した炎だ。 美奈代騎と都築騎の2騎分のリキッドタンクの爆発が生み出した炎が、広大な“大聖堂”を舐め尽くし、まだ獲物が足りないと、美奈代達めがけて襲いかかっているのだ。 あの炎がどれほどの破壊力を持つかは、使用者である美奈代には骨身にしみている。 「―――ひっ!」 美奈代が小さく悲鳴を上げた、丁度の瞬間、今までで最大の落盤が発生。 美奈代の目の前で、洞窟が完全にふさがれた。 カシム大鍾乳洞が完全に崩落したのは、美奈代達が脇穴から鍾乳洞を脱出してからすぐのことだった。 崖を遮蔽物にして騎体を隠した美奈代達は、生きた心地さえしない。 「頭上と目の前でリキッドタンクが爆発したんだ」 都築の声がレシーバーに入った。 「目の前で火のついたリキッドが飛び散る。避けても頭上からもリキッドが降り注ぐ」 クックッ……続きは楽しげに言った。 「どっちにしても、あの中尉達が無事のはずがねぇ」 「……だ、大丈夫か?」 美奈代は訊ねた。 「何が」 「相手は米軍だ。それを」 「イギリス軍に偽装していたんだ」 通信に割り込んできた染谷が言った。 「それに、彼等自身は、自分達をアメリカ軍とは名乗っていない」 「……っ」 「あくまで国籍不明の部隊として処理出来る」 「もとを正せば」 都築は怒鳴った。 「染谷っ!貴様がヘンなことしなければよかったんだ!」 「へ、ヘンな事?」 「あんな尋問じみたことしやがって!あれであの中尉、バケの皮剥がされて怒ったんだ!」 「そ、そんな!」 「それは違うだろう」宗像が言った。 「どう考えても、あれは都築、お前にコケにされたからだ」 「俺は普通に話していたぞ?」 「……どこがだ?」 「―――ちょっと静かにしてください」 言い争いになりかけたのを止めたのは、牧野中尉だ。 「“鈴谷(すずや)”と通信を回復させています」 「“鈴谷(すずや)”は無事ですか!?」 「通信が……」 「ま、まさか!」 最悪の事態が脳裏に浮かぶ美奈代に、牧野中尉はたしなめるような口調で言った。 「悪い方へ悪い方へ考えるのは、候補生の悪い癖ですよ?」 「す……すみません」 「こちら宗像騎、桜庭」 宗像騎のMC(メサイア・コントローラー)、桜庭優(さくらば・ゆう)の声がレシーバーに入った。 「すぐ近くで戦闘音」 「どこだ?」 「はいお姉さま。11時方向。騎数は複数。エンジン音の特性から、主体は魔族軍メサイア部隊と思われます」 「―――何?」 戦闘はそれから数分の後も続いていた。 行くか。 無視するか。 選択肢を巡って部隊は割れた。 結局、様子を見て判断することになって、斥候に出たのが美奈代と都築だ。 メサイアから降りて、崖を駆け上がった。 鍾乳洞の中にいたせいで、時間の変化に気づかなかったが、外はすでに真っ暗になっていて、月の青白い光が世界を照らし出していた。 美奈代達は、コクピットから出た時に目印にしていた一番高い崖の上に出た。 アフリカの夜の景色がパノラマとなって美奈代の目の前に広がる。 夜は闇。 その先入観がある美奈代の目の前は真っ暗なはずなのに、月の明かりで信じられないほど世界がはっきりと見える。 「頭が高い」 都築に言われ、景色に見とれ始めていた美奈代はとっさに伏せた。 乾ききったアフリカの土の感触が戦闘服ごしに伝わってくる。 ズーン ズーン 鈍い音がする。 メサイアの戦闘音だと、すぐにわかった。 「俺が状況を確認する。お前、周囲を見張ってくれ」 腹這いになって暗視装置付きの双眼鏡を構えた都築に言われ、 「了解した」 美奈代は素直に従った。 二人で双眼鏡をのぞき込んでいて、振り向いたら妖魔に頭からかじられていたなんて、想像さえしたくない。 美奈代は、コクピットから引っ張り出してきたM14の弾倉にフルメタルジャケット弾を装填した。 さっきのメサイアもM14だったな。 美奈代はそんなことを思いながら、周囲を警戒することに専念した。 だが、美奈代の目にもはっきりと映るものがあった。 棒状に伸びた幾本もの光だ。 軽く見積もっても10本以上。 その中でも一本の光の棒が最もよく動く。 そして、その棒状の光が動くたびに、まるで花火のような、短い光が生まれ、最低でも一本の棒状の光が消える。 「何だ?」 目を凝らす美奈代に都築は言った。 「一本は間違いねぇ」 だめだ。壊れている。 都築は双眼鏡をケースに戻しながら言った。 「斬艦刀だ」 「斬艦刀?」 「ああ。夜間訓練の時、斬艦刀の光を遠くで見ると、あんな感じだった」 「じ、じゃあ」 「そうだ」 都築は頷いた。 「俺達以外にも、このアフリカに派遣されていた部隊があるってことさ」 二人の目の前で、再び棒状の光が動いた。 「―――戻るぞ」 都築は言った。 「ここで見物している位なら戻っていい」 「加勢しなくていいのか?」 「加勢が必要か?あれで」 都築が顎でしゃくった先。 すでにあれだけあった光は、ほんの2、3本になっていた。 「下手にかかわると厄介だ。下がろう」 「う……うん」 崖を降り始めた都築に、美奈代は黙って従うことにした。 美奈代の背後で、月明かりに照らされた世界から、鈍い戦闘音だけが聞こえてきた。
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/203.html
艦砲射撃によって産み出された闇が薄らぎ、後続のグレイファントム達越しに海が見えてきた。 「林っ!下がれっ!」 その声に呼応するように、150ミリ速射砲を持った“赤兎(せきと)”が塹壕に滑り込んだ。 ズンズンズンッ! その“赤兎(せきと)”に襲いかかるように、無数の砲弾が雨霰と塹壕の付近に着弾。激しい爆発の連鎖を引き起こす。 「後方でMLRSが発砲!」 「よしっ!」 目視出来る限り、ほぼ全てのグレイファントムが塹壕の中に飛び込みつつある。 戦車部隊は塹壕を避け、その間近に近づくことさえ出来ないらしい。 「これほど上手くいくとはな」 “赤兎(せきと)”部隊を率いる李少佐はほくそ笑んだ。 子供時代、苦労して仕掛けたイタズラが成功した時を、ふと思い出した。 李少佐の見る限り、グレイファントム達の射撃精度はそう高くない。 グレイファントムは、ML(マジックレーザー)装置の配置の問題から、塹壕からML(マジックレーザー)を発射出来ず、速射砲に頼っているせいだ。 元来が砲弾をばらまくために作られた速射砲だから、命中精度を求めるのもどうかとは思うが……。 対する中華帝国軍は、単発とはいえ、命中率の高い狙撃砲を多数に配備しているし、センサーの配置から、ML(マジックレーザー)も余裕で撃てる。 さらに、メサイアではないが、機動性の高いジープにガドリング砲を搭載した自動車部隊が頑張っている。 口径は20ミリと、装甲目標相手には小さいが、それでも速射性の高い機関砲が歩兵達と共に必死に撃ちまくっている。 メサイアのセンサーにでも当たればこれでも十分アウトだ。 おかげで、グレイファントム達は、塹壕から頭を上げることさえ出来ない。 ―――頃合いだ。 李少佐は思った。 おい米兵達よ。 その塹壕を掘ったのは俺達だ。 俺達がその塹壕を放棄したと思っているのか? それとも、お前達にくれてやるために掘った? ありえないね! さぁ―――教えてやる。 そいつはな? “赤兎(せきと)”達の後方。 小高い丘に小さく目立たないように土嚢を積んだだけの陣地に陣取っていた中華帝国の士官が後方に控えた兵士に手で合図した。 兵士の手には、ポケットサイズのウィスキーのビンによく似た装置が握られている。 キャップの上に取り付けられたTの字のレバーを、兵士が捻った。 すると――― 敵の砲撃が緩んだ。 「さぁいくぞっ!」 マックスは野太い声で怒鳴った。 その声を合図にしたかのように、グレイファントム達が一斉に塹壕から飛び出そうとした、まさにその瞬間――― ドンッ! 美奈代は、その光景を目の当たりにした。 「なっ!?」 光の柱が地面に走った。 そう思った次の瞬間、この世の物とは思えない程の爆発音が光をかき消し、地面を揺すぶるほどの爆発が発生した。 「何が!?」 「―――やられた」 二宮は唸るような声に、美奈代は思わず訊ねた。 「な、何が起きたんですか!?」 「中華め……塹壕に、爆薬をしかけていたんだ」 「爆薬?」 「予め爆薬を仕掛けた塹壕を用意しておく。敵をそこに誘い込んで、頃合いを見て爆破する」 塹壕だった跡からは朦々とした黒煙が立ち上る。 「爆発の規模と特徴から見て、1トン爆弾クラスにハイパーナパームのカクテル攻撃でしょう」 牧野中尉が言った。 「狭い中を駆け回った爆発エネルギーとナパーム……無事では済みません」 「グレイファントムの反応は?」 「消えました」 「これで、戦力の半分以上を喪失―――」 二宮騎のMC(メサイアコントローラー)、唯は悲鳴に近い声をあげた。 「高熱源体複数接近!」 「何だ!?」 「空中で爆発―――クラスター砲弾っ!?」 上陸部隊はもう死に体だった。 グレイファントム部隊を喪失。 他部隊も、子爆弾を無数にばらまくクラスター砲弾の連続した飛来を前に、軽装甲以下の車両にも乗れずにいた歩兵達は逃れる術さえないままに挽肉にされた。 生き残った戦車達でさえ、メサイア達の放つ砲撃の前には単なる的でしかなかった。 美奈代達が“鈴谷(すずや)”に撤退する中、塹壕の淵に立つ“赤兎(せきと)”達が、塹壕の中でもがくグレイファントム達に速射砲を乱射する光景が開始された。 上陸部隊司令部はすでに全滅。 その機能は揚陸艦司令部に委譲。 揚陸艦司令部は、即座に撤退を命令した。 結局、美奈代達はこの日、ボルネオ島の土を踏むことはなかった。 米軍上陸部隊第一波の全滅はこうして現実のものとなったのである。 「ぼさっとしているヒマはないぞ」 “鈴谷(すずや)”の飛行甲板に着艦しただけで、騎体から教え子達に降りることさえ許さなかった二宮は言った。 「で、ですけど……」 さつきは恐る恐るという口調で言った。 「な、何千人と死んでるんですよ?」 「被害集計はまだだが、軽く見積もって三千という所か」 「三千って……」 さつきは目を丸くした。 「ウチの村の人口より多いじゃないですか!」 「だからどうした?」 「ど……どうしたって言われても」 「三週間戦争では、一度の戦いで万の単位で戦死者が出るのが相場だった」 「……」 「米軍も、三千人の兵隊殺されて黙ってるはずがない。斬り込み隊はやられたが、本隊がその仇を討つ」 「うっ」 「“伊吹”一隻で何人死んで、我々がどう動いたか考えろ」 「攻撃は、いつです?」 「金剛級の弾薬補給が終了してからだから……おそらくはあと6時間後だ」 「急げっ!」 海岸周辺は、中華帝国兵が汗だくになって動き回っていた。 上空を友軍の戦闘機が警戒に出ている。 たった1機にすぎないが、それでもいるといないとでは大違いだ。 空から襲われたらシャレにもならない。 「地雷は二重に埋めろっ!」 「そこっ!対戦車地雷はもう少し間隔をあけるんだ!」 砂浜をシャベルで掘る兵士達に指揮官は矢継ぎ早に命令を下す。 その背後、あのメサイア用塹壕の周囲では、あらたな爆弾の埋設や、グレイファントム達の処理が続いている。 パンッ パンッ メサイアや重機の音に混じって、乾いた音が響く。 歩兵隊第二班指揮官の一人、治軍曹は、その音に顔をしかめた。 砲撃で開いた大穴の辺りだ。 「よう治」 休憩に出ていた第三班指揮官の悟軍曹がズボンのベルトを直しながら意気揚々と近づいてきた。 恐ろしくすっきりとした顔をしていた。 「交代は30分後だったな」 「……」 悟軍曹が何をしてきたか知っている治軍曹は、無言で部下を見張っているフリをした。 「何だよ」 ポンッ 悟軍曹は、楽しげに治軍曹の肩を叩いた。 「米兵の女も悪くなかったぜ?」 「……お前」 「おいおい。そんな怖い顔すんなよ―――なんでも、初物だったらしいぜ?米国の女って、9歳位で体売ってるって聞いてたけどな」 「……」 「しょうがねぇだろ?メサイア一気に仕留めた対戦車攻撃班が一番手柄だ。捕虜の女一番にヤれたって。あー畜生っ、俺が30人目だったおかげで、女の反応悪い悪い」 「捕虜虐待って言葉、知ってるか?」 「オトコの方は皆殺しだぜ?」 悟軍曹は驚いた顔をした。 「女も、始末が始まっている。早くしろよ?残ってるのはそう多くない。我慢出来ずに、メサイアから死体引き出してヤってるヤツもいる……この気温だ。腐るの早いから気を付けろ?」 治軍曹は、そう言い残して部隊に戻る悟軍曹の背中に毒づいた。 「地獄に堕ちろ―――この馬鹿者が」 正直、朱少将達は捕虜の処遇に構っている余裕は全くなかった。 憲兵隊が処理してくれるだろう程度にしか考えていなかった。 よもや、憲兵達が金をとって、捕虜になった女性を兵士達に強姦させることで、私腹を肥やしているとは全く予想さえしていなかった。 前線各地で無数に発生した事態ではある。 耐えられず、舌を噛みきったり、抵抗してその場で殺された女性捕虜の正確な数は、戦後いつまでたっても、いや、永久にわからないままだろう。 第一、朱少将にとって、問題は次に来るだろう米軍上陸部隊に対する備えをいかに構築するかだ。 すでにこちらの手の内は一度、明かしている。 いくら米兵でも、二度も三度も引っかかるほど愚かではないだろう。 効率的に敵を殺す方法を考えなければならない。 「敵のメサイアの数はどの程度だ?」 「スパイの情報では、斬り込み隊の2倍です」 参謀は答えた。 「斬り込み隊に戦力を集中し、メサイア隊だけで戦局を決めるのが米兵の腹づもりでしたが」 「我々が、それを覆したというわけか」 クックックッ……朱少将は楽しげに頷いた。 「よろしい。久々に楽しい気分だ」 「ただし、メサイアの戦力差は、それでようやく均衡がとれたにすぎません」 「―――そういうことになるか」 「まぁ」 参謀は目をつむって頷いた。 「手は打ちました。後は―――」 「そうだな」
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/195.html
中華帝国。 その電撃的近隣諸国侵攻は、今のところ成功しつつある。 そして、彼等は、自らの行動の正当性を主張し続けていた。 自分達がやったのは、“侵略”ではない。 近隣諸国で不当な扱いを受ける邦人保護のための“派兵”なのだと。 その“派兵”した国で邦人を保護していてるのか? 中華帝国軍が何をしているのか? 逃げまどう市民めがけて機関銃を乱射し、商店の店先にあるものは全て奪い、死体が身につけている貴金属、金歯を抜き取る程の略奪を軍の命令として行う。 女を、年端もいかぬ少女でさえ陵辱し、事が済めば、あるいは飽きれば殺す。 男は、老若問わず前提として殺す。 女子供は将来的な労働力、或いは奴隷、何より臓器移植を目的として、本国の人身売買ブローカーに売りつける。 その映像を見れば、子供でも違うと答えるだろう。 国際世論が最も噛み付いたのがそこだ。 だが、人権と人道、そして民主主義を最大の輸出品に据えているはずの米国は、これに対して“懸念の意”を表明するに留まった。 何故か? 抗議をしなかったのではない。 出来なかったのだ。 アメリカを率いる大統領、ジョージ・バラマ。 彼が、病的なまでに中華帝国との軋轢を認めなかったからだ。 彼が恐れたのは、中華帝国が保有する反応弾や軍事力ではない。 その経済力だ。 安い賃金で雇える労働者を売り物に、世界の工場、世界一の軍事大国、世界一の経済大国へと成長……いや、変貌した中華帝国は、今や世界最大の米国債の保有国となっており、米国の行動をかなりの範囲で制限することさえ可能な立場に立っていた。 その国を敵に回すことを、彼は恐れた。 アジア人なんて知るものか! 米国債は安全か!? 中華帝国軍隣国侵攻の第一報を受けたバラマの放った言葉がこれと伝えられている。 反応弾が使われようと、東南アジア諸国から数百万の女子供が奴隷として中華帝国に連行されようと、バラマが心血を注いだのは、影響が米国へ波及することを避けることのみだった。 2選を目指す大統領選挙はもうすぐ。 彼にとって戦争は選挙のことだ。 ここで経済を混乱させ、失業者を増やすことは許されない。 経済を安定させ、票につなげることこそが大切だ。 国政より政府内部のパワーゲームに勝つことで大統領に就任した彼にとって、兵力とは支持者のことであり、武器は金。勝利は票だ。 選挙と票以外に関心を示さないバラマが、侵略を続ける中華帝国に求めたのは、経済的不均衡是正だったといえば、彼の世界に対する認識の甘さが知れるだろう。 中帝国首脳部を失笑させたとさえ伝えられているバラマの外交下手が、世界のかなりの人々の運命を決めたことは確かだ。 武力侵攻開始の4日後、米国は、国務長官フランクリン・パリスを北京に派遣し、江国家主席との会談を実施。 世論は“アメリカが戦争反対に動いた”と見なした。 だが――― 3時間の会談の後の共同記者会見で発表された2国間の同意内容に、世論は度肝を抜かれると共に、バラマに対して深い失望を持つことになった。 ―――今回の“経済的混乱”において、中華帝国が米国債の売却を行わない見返りに、米国は中華帝国とより緊密な経済関係を構築する。 他国を侵略する国との会談で、この物言いだ。 武力侵攻そのものへの抗議に属する発言は一切記録されていない。 パリスが政府専用機で北京を離陸したのとほぼ同時刻、中華帝国はインドネシア戦線において反応弾を使用し、地方都市3つを消滅させている。 米国は、これについてコメントさえしなかった。 その中華帝国にとって新たなる頭痛の種が、今回発覚した反応弾問題だ。 ●数日前 アメリカ合衆国ワシントンD.C ホワイトウス 「帝国は、事態が表に出ることを望んでいない」 豪奢な革張りの椅子にふんぞり返るのは、仕立てのよい背広に身を包んだ、肥満気味の男。 中華帝国駐米大使、偉武漢だ。 本人はダンディなつもりだろうが、低い背とぶよついた体つき。 童顔の頭をバーコードにしているせいで、醜悪なのかコミカルなのかわからない。 初めて彼を見た者は笑いをこらえるのに苦労すること請け合いだ。 威厳というより、子供が精一杯背伸びをしているような、そんな印象ばかりを受ける。 「全てを秘密裏に処理されることが望みだ」 「……それは確かに」 引きつった愛想笑いを浮かべているのは、バラマ大統領だ。 胸の辺りを抑えながら、青い顔をしている。 対する偉は、そんなバラマの様子に気づく神経すらない。 「帝国は現在、東南アジアにおける平和安定のため、全力を傾けている。アフリカに関わっているヒマはない。そこで、帝国の代役を貴国が果たすことを望む」 「……」 バラマはピルケースから薬を取り出すと、口の中に放り込んで水で流し込んだ。 「見返りに米国債の購入額を、先の公約に倍増しする」 男は顔をしかめながら言った。 「まさか、それでは不満だとはいわないだろうな。大統領」 「部隊を派遣することは可能ですが……」 大統領の歯切れは悪い。 アメリカは、魔族軍との戦いに敗れて以降、アフリカに軍事力を派遣していない。 先の三週間戦争で、空軍を始め、派遣した軍が壊滅的損害を被ったことで議会世論が戦争介入に対する態度を硬化させた結果だ。 “偉大なる合衆国が敗北することは許されない” ならば戦い続けるべきだと思うが、相次ぐ敗北の前に、世論は別な方向へ動いてしまった。 三週間戦争の末期、米国の世論を支配していたのは、 “勝てない戦に介入するな” 未だ死力を尽くすアフリカ・ヨーロッパ・中東連合全てから裏切り者呼ばわりされてもなお、アメリカは己の強者としてのメンツを保つため、勝てない戦であるアフリカ戦線から手を引いた。 そして、人類は敗北した。 以降、アメリカがいかに強大な軍事力を誇示しようとも、それに振り向く国は、この世界には最早存在しない。 落ちぶれ果てた大国アメリカは、その後のアフリカ植民地争奪戦にも乗り遅れ、その集落の度合いを深めていた。 バラマ大統領は名実共に、アメリカをそういう方向へとし向けた立て役者だ。 国際社会における権威の失墜を世論の眼から逸らすため、バラマがやったことは、世界的発展を続ける大国、中華帝国との蜜月な関係づくりだ。 人類の大陸としてのアフリカを奪還せんと戦費を支払い続けるEUを後目に、世界の二極支配、G2を謳うが、それさえ中華帝国の甘言に乗った結果でしかない。 中華帝国は、そこにつけ込んだ。 「このアメリカに、我が同胞が何千万人存在すると思っている?次の選挙で勝ちたくはないのか?」 「それは……」 「不法移民と言われた我が国の同胞に選挙権付きの市民権を発行したのは君だ。 多くの“市民”が君を評価し、支持してくれている。 その支持を失いたくなければ、君は我が国との関係をよりよきものにする必要がある。 そのためには、ここは首をたてに振るべきだ。わかっているな?」 「……」 何かを躊躇するバラマに、偉は畳みかけるように言った。 「選挙人の半数は抑えている。マスコミも我が帝国資本の下にある。君は我が国との安定した関係さえ考えていればいい。そうすれば君と、その支持者たる我々は安泰なのだ」 「……そうだな。大使」 「大使“閣下”だ!」 偉は不快感をあらわにして声を荒げた。 「立場をわきまえろ!」 「……はっ」 「……EUはアフリカでの反応弾回収を日本軍にやらせることに決定している。これはアメリカにとって幸いだろう?」 「幸い?」 「奴らに反応弾を回収させ、奴らごと反応弾を始末するのだ。そうすれば目障りなあの国にも一矢報いる事が出来る」 ブヨブヨの体を揺すらせ、偉はくぐもった笑い声をあげた。 「―――私の考えた案だ。悪くはあるまい?」 「……はっ」 「いいか?大統領」 偉はサイドテーブルに置かれたグラスに手を伸ばした。 「国債の購入増額を本国に認めさせたのは私の功績だ。国債発行額を巡って受けている下院の反発は、我が国が抑えてやろう」 グラスの中身を一息で飲み干した偉は、ちらりと大統領をその細い眼で盗み見るようにした。 「この国の中では、それが君の功績となるのだ―――バラマ大統領」 「た、確かに」 功績。 その言葉に、バラマはほっとした顔になった。 「経済を立て直せば、世論は私を支持する!」 「そうだ」 何故か笑いをかみ殺したような顔になった偉は頷いた。 顎が、巻き付くような首周りの脂肪にめり込んだ。 「君も、我が国にたてつくべきだという、ふざけた連合党の考えに同調するわけではあるまいな?」 「まさか!」 「なら―――反応弾を我が国に代わって始末するんだ。あの国の部隊と共に」 ●アフリカ大陸 タナ湖近郊 カシム大鍾乳洞 カシム大鍾乳洞は、世界でも有数の規模を誇る鍾乳洞とされる。 地下の巨大な石灰岩の岩盤が地殻変動の影響で大きく割れ、その割れ目が長い年月の間にカシム大鍾乳洞を作り上げたというのが、学者達の意見だ。 無論、そんなことに構っていることの出来る美奈代達ではなかった。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)が灼熱地獄を生み出し、炎の奔流が全てを焼き尽くす。 洞窟が生まれてから今日まで、これほどの光と熱を洞窟自身が受けた経験はなかっただろう。 それほど、洞窟内部の戦闘は、爆風と炎によって彩られた凄惨な代物だった。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の灼熱の炎が通過した後は、全てが焼き払われ、妖魔達は跡形さえ残さずに消えた。 物陰に隠れ、炎そのものからは逃れることが出来た妖魔達も、その炎の生み出した産物―――酸欠によって命を奪われた。 前衛2騎の広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)だけで洞窟内部での戦いは最後まで美奈代達の一方的勝利で終わった。 本当に、それは美奈代達の恐怖心からすればあっけなく感じるほどの短時間で終了した。 ●アフリカ大陸 タナ湖近郊 カシム大鍾乳洞 最奥部“大聖堂” カシム大鍾乳洞の最奥に存在する広大な空間。 高さは有に100メートルに達する信じられないほど高いホール。 そこは、幾本もの巨大な柱が左右対称に並び、天然の産物とは思えないほど荘厳な建築物然とした印象を与えることから“大聖堂”と名付けられている。 その中でもさらに奥。 テラス状の石段の形状から、“祭壇”と呼ばれる場所には、濃緑に塗られた金属製のコンテナが無造作に積み上げられている。 「中を見なければ……なんとも言えません。とにかく」 センサーで中身を調べていた牧野中尉が言った。 「内部に放射線反応はありません」 「爆発の危険性は?」 「Xレイ捜索ではトラップは確認されず……とにかくコンテナを開けてみないと……」 「そういうことですね―――おい都築」 「何で俺なんだよ!」 都築は怒鳴った。 「山崎だっているだろうが!」 「放射線防御服を着られるのはお前だけだ」 「染谷は!」 「指揮官を騎体からおろせるか」 美奈代はそっけなく言った。 「下っ端の仕事だ」 「し、下っ端なら、お、お前らだって」 「ぐちゃぐちゃぬかすなっ!」 いらだった口調で、美奈代は都築に怒鳴った。 「男だったら黙って行けっ!」 「―――こんな時ばっかり」 都築はコクピットハッチを開きながら大声でぼやいた。 「女持ち出すからフラれるんだよ―――クソ泉」 「聞こえているぞ!?」 コンテナはカギさえかかっていない。 それどころか――― 濃緑色のコンテナの扉が開かれ、都築が中に入っていく。 メサイアの駆動音以外、何も聞こえない沈黙の世界を照らし出すのは、メサイアから放たれる照明と、都築の持つ電灯だけだ。 「……あった」 電波状態が悪く、都築の防御服につけらけたライブカメラがデータを送ることが出来ない。いつ起爆するかわからない状態で、外に持ち出すことも覚悟しなくてはいけない瀬戸際の中で、頼りになるのは都築の声だけだ。 「こんなの、俺に分かるかよ」 へそを曲げた都築はぼやき続けてばかりだ。 「ったくよ?何が男女平等だよ。こりゃ立派な男性差別だ」 「文句を言わずにやれって」 つっこみを入れたのは美奈代だけではない。 「こちら都築だ。コンテナ内部の状態だが、ひどい有様だ」 「こちら染谷。どういうことだ?」 「ずいぶん乱暴に扱ったようだ。ロケット部分はグシャグシャ。液体燃料が漏れた痕跡がある」 「燃料が?」 「ああ。ただし、かなり以前の話だ。今、火をつけても燃えるかどうか疑わしいがね」 「弾頭は?」 「ん?……ああ、あった。あれ?ケースのハッチが開いているぞ?」 「……おいおい隊長さんよ」 「どうした?」 「……こいつはしてやられたぜ」 「ん?」 「爆発の心配はない」 染谷は言った。 「こいつは訓練用のダミーだ」 「これが?」 都築騎によってコンテナから引き出された反応弾の弾頭部分は、円陣を組んだコクピットからのぞき込むことが出来る高さまで持ち上げられている。 コクピットハッチから身を乗り出して見た弾頭は、小さい頃食べたアポロチョコのような形をしていた。 「思ったより小さいな」 「サイズはともかくよ!」 都築は言った。 「本物と思って近づいた俺の心境を察してくれ!寿命が100年は縮んだ!!」 「そんなバカほっといて」美奈代は都築の懇願を受け流した。 「ひでえな!」 「―――ここにどうして訓練弾があるんだ?」 「非常時の解体訓練用のダミーだろう」 コクピットから降りて、メサイアの腕を足場にして器用に都築騎の手に飛び移った宗像が弾頭を間近に見ながら言った。 「中国語の表記があるな……“手順14:解体時はまずこのレバーを引け”……なるほど?」 クックックッ……と、宗像は笑って言った。 「これを横流しした奴らは本物だと思っていたが、奴らも偽物を掴まされていたわけだ」 「でも、これから……どうするんです?」 美晴が訊ねた。宗像は即答した。 「これを回収して引き上げる。弾頭が中国製だというまたとない証拠だ」 「全騎へ警報!」 突然、染谷騎のMC(メサイア・コントローラー)から鋭い声が走った。 「洞窟入り口より接近する騎あり。騎数多数―――早いっ!!」 美奈代達がコクピットハッチを閉めるのと、ホール入り口にそいつらが現れるのは、ほぼ同時だった。 漆黒のメサイア達が、ホール入り口を固める。 光を反射しない塗料が使われているのだろう。 居並ぶメサイアが、まるで亡霊のようにさえ見える。 「数は1個中隊規模―――かなりですね」 牧野中尉が言った。 「一体、どこの部隊です?」 「イギリス軍の“テンペスト”と思われますが……」 牧野中尉が首を傾げる。 「でも……“テンペスト”とはフレームが一致しません」 「前方のメサイアに告ぐ」 漆黒のメサイアから通信が入ったのはその時だ。 通信モニターに金髪をオールバックにした、いかにも軍人という感じのいかつい男が現れた。 「こちら英国陸軍第707メサイア隊、ウォーレン中尉だ。隊長と話がしたい」 ドスの利いた言葉は英語だった。 それに返答したのは、部隊長である染谷だ。 その染谷は、落ち着き払った声でとんでもないことを言った。 「こちら大日本帝国近衛兵団所属第206メサイア隊、染谷大尉」 206メサイア隊 染谷大尉。 共にウソだ。 生真面目で通っている染谷がそんなウソを他国の軍人相手についたことに、美奈代達ははっきり驚いた。 「―――大尉にしては若いな」 ウォーレン中尉の疑問は当然だが、 「それは私に対する侮辱ですか?」 毅然とした態度で染谷は訊ね返した。 「―――失礼した」 ウォーレン中尉は生真面目に返答した。 「司令部命令により、タナ湖周辺にて発見された反応弾の奪還に来た」 「任務ご苦労様です」 「EUからの協力要請に基づいて行動していた日本軍とは君たちのことだな?」 「はい」 染谷は頷くと言った。 「おかげで、こんな地下通路を探索です」 「目標は発見出来たか?」 「―――そこに」 染谷騎がコンテナを指さした。 「ご苦労だった。後は我々が引き受けよう」 「感謝します。イギリス軍が出張るとは聞いていませんでした」 「君たちの出撃の後、派遣が間に合ったのだ」 ウォーレン中尉の口調はあくまでそっけない。 「君たちが知らなくても当然だ」 「……コンテナをここから運び出すのは、ちょっと苦労ですね」 「そうでもない」 美奈代達の目の前で、ウォーレン中尉の部下が動き出した。 ピーピーピー 美奈代の目の前。 通信モニター上に通信文書が開かれたのはその時だ。 染谷騎からの部隊内限定通信だ。 「―――えっ?」 その内容を読んだ美奈代達は、突然送られてきた通信文書と染谷騎を何度も見比べながら、それでも、通信文書に従うことにした。 染谷は隊長だ。 その命令に従う義務がある。 ウォーレン中尉達からすれば、自分達に道をあけるべく騎体を後退させたようにしか見えないだろう。 妙に饒舌になった染谷がウォーレン中尉と未だに会話を続けていた。 「これだけ大きなトンネルを祖国でも見たことがありません」 「日本にもサブウェイがあるのか?」 「無論、ありますよ」 染谷は親しげに笑った。 「自分は英国にも滞在経験がありますが、日本の駅は狭くていけません。そこにいくと英国の駅は立派だった。入り口から入って二階に登る……えっと」 染谷は困惑した口調で、まるでウォーレン中尉に助けを求めるように言った。 「何でしたっけ?あの自動的に上り下り出来る箱」 ちっ。 小さく通信機に入ったのは間違いなくウォーレン中尉の舌打ちだ。 ベラベラと喋り続ける染谷に、ウォーレン中尉がいらついているのは明らかだ。 「―――大尉」 「はい?」 「現在、ここは戦場である。戦場においては無駄口は叩くべきとは思えないが?貴国の軍隊では、こんな状況において、部隊同士で無意味な会話を推奨しているのか?」 「これ?国際親善ですが」 染谷はあっけらかんと笑った。 「……気に入りませんでしたか?」 「全く」 「そっけない……でも中尉。私は英語が苦手で、これでも勉強してここまで喋るようになったんです」 熱心に染谷が語りかける中、美奈代達はそっと一カ所に集まりつつあった。 その背後には、このホールに入った時に見つけたもう一つ、別な場所に出る通路の入り口があった。 美奈代は手にした広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のトリガーの安全装置を解除した。 さつきと美晴は、それぞれハルバードをいつでも振り回せる体勢に、そっともっていく。 「気分を害したのはお詫びします。ですが、同盟国士官の将来のためにご協力ください。それで黙ります」 染谷は焦ったような、困惑気味の声で言った。 「―――さっきの質問の答え、教えていただけませんか?」 「ちっ。我々は遊んでいるわけではないのだがな!」 ウォーレン中尉が不愉快さを露骨にあらわにした口調で怒鳴った。 すでに、彼の部下の騎が、コンテナに手を伸ばそうとしている。 「ようするにあれだろうが!」 その声は、英語であろうとなかろうとドスが利いている分、まるで教官から叱責を喰らっているような印象を美奈代達に容赦なく与えた。 ウォーレン中尉は怒鳴った。 「In other words will you want to say that you rose from the first floor to the second floor by an elevator? (つまりお前は、一階から二階へエレベーターで昇ったといいたいんだろう?)」 怒鳴られているはずの染谷は顔色一つ変えないで、じっとウォーレン中尉の言葉を聞いている。 「I do not know what apartment you lived in, but am poor to use the railroad! (どこのアパートに住んでいたか知らないが、鉄道を使うとは貧乏なことだ!)」 「……英国軍中尉にしては」 染谷は言った。 「使う英語がアメリカ英語なのは何故だ?」 「っ!」 ウォーレン中尉がハッ!となったのと、染谷騎がウォーレン中尉騎に襲いかかったのは同時だった。 袈裟斬に振り下ろされた斬艦刀がウォーレン中尉騎のシールドを真っ二つに切り裂いた。 「何をするか!」 ウォーレン中尉は騎体を急速後退させつつ怒鳴る。 「英国軍にたてつく気か!?」」 「中尉……いい機会だから教えてあげましょう」 染谷は斬艦刀を構えなおしながら言った。 「あなたは―――学がない」 「なっ!?」 ウォーレン中尉の額に青筋が走った。 「イギリス人がサブウェイ?エレベーター?ファーストフロア?アパートメント?」 染谷は軽く首を左右に振った。 「本物のイギリス人を気取るなら、こう言うべきでしたね。アンダーグラウンド、もしくはチューブ。それからリフト、グランドフロア、そして―――フラット……我々が東洋人であるから、わからないと判断したのでしょう?甘いですよ」 染谷はとどめのような口調で言った。 「―――あなたのその南部なまりも、なおしておくべきでしたね」 ヴォォォォッッ!! 突然、鍾乳洞を機関砲の砲声が支配した。 ウォーレン中尉からの返答は、腰部にマウントされていた機関砲の乱射だった。 何発かに一発混じっている曳光弾が鍾乳洞内部で光り輝き、鍾乳洞の壁を砕いた。 普通なら蜂の巣にされることは避けられない攻撃だが、シールドを構えた染谷騎は、一瞬でその全弾を避けきった。 反射神経の優れた騎士が駆るメサイアが世界最強でありうるのは、その攻撃に対する高すぎるまでの回避能力故のことだ。 染谷が至近距離からの機関砲の乱射を避けられたのは、騎士としての能力の賜(たまもの)以外の何者でもない。 「そちらの本当の所属を明らかにせよ!」 部隊が戦闘態勢をとっていることを確認した染谷は怒鳴った。 「これは国際騎士法に基づく要請である!国際騎士法第3章交戦規定に基づき、所属官姓名を予め明らかにしない場合、捕虜待遇を受けることは出来ないことを宣言する!」 「―――ふん」 染谷の警告をウォーレン中尉は鼻で笑った。 「国際騎士法を戦場で順守する物好きがいるものか」 ウォーレン中尉騎が腰から抜いたのは大型のコンバットナイフだ。 鞘から抜かれた途端、ナイフの刃が怪しい光に包まれた。 「注意してください」 牧野中尉が言った。 「あのナイフ、対装甲貫通魔法がかけられています」 「対装甲貫通魔法?」 「魔法による装甲コーティングを無力化します。まともに喰らったらアウトですよ?」 「……了解」 「いろいろと私をコケにしてくれたお礼はしっかりさせてもらおう!」 グウォォォォォォォォッッッ!! まるでウォーレン中尉の怒りを形にしたように、ウォーレン中尉の駆る“テンペスト”の魔晶石エンジンが吠えた。 「機種判明っ!」 牧野中尉達、近衛のMC(メサイア・コントローラー)が一斉に怒鳴った。 「グレイファントムM14!配備されているのは―――」 その怒鳴り声をかき消すかのように、“テンペスト”達が一斉にナイフを抜いた。 「ソーコムです!」 「ソーコム?」 美奈代は斬艦刀を構えつつ、きょとんとした顔になった。 「何のメーカーですか!?こいつら、民間軍事会社の人ですか!?」 「何バカ言ってるんですか!違いますよ!」 牧野中尉は頭を抱えた。 「USSOCOM―――アメリカ特殊作戦軍ですっ!」