約 1,017,231 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2676.html
前ページ次ページ罪深い使い魔 「俺が特異点であることに変わりはない……。 俺がいれば……『こちら側』はいずれ『向こう側』に飲み込まれるだろう……」 すべてを思い出したあの時から、頭のどこかでわかっていた。 いつかはこうなる。こうしなければならない。こうする以外の方法はない。 ただ、心がそれを拒絶していた。 帰りたくない。ここにいたい。みんなと一緒が良い。一人になりたくない。 でも、そんな願いは決して許されない。 『あいつ』を倒しても、俺という存在が『こちら側』を蝕む存在であることには変わりがない。 俺のせいで、みんなが生きる『こちら側』を壊したくない。 それに、約束も果たさなければならない。 「帰るよ……『向こう側』へ……」 辛くないと言ったら嘘になる。悲しくないわけがない。逃げ出したい気持ちに偽りはない。 それでも、『向こう側』で生きていけるだけの勇気を、みんなが与えてくれたから。 だから俺は、『向こう側』へ旅立っていける。 「俺達は、この海を通して繋がっている……いつでも……会えるさ……」 『こちら側』の俺から離れ、心の中で『向こう側』を思い描く。 複雑な手順は必要ない。ただ戻りたいと願うだけで『向こう側』へ戻れる。 ここでなら、それができる。 (さようなら、みんな) 急激にぼやけていく視界。崩れ落ちる『こちら側』の俺。表情の読めない仮面の男。見守る仲間達。そして…… 涙を流す、大切な人。 (ごめん……摩耶姉) 視界が、眩い光で満たされた。 奇妙な感覚。 ものすごい速さで地面に落下しているような、逆に上昇しているような。 上も下も、右も左もわからない光の渦の中を、しかし『そこ』へ向かって進んでいるのだということだけはなんとなくわかる。 これから帰る『向こう側』に思いを馳せながら達哉は目を閉じ、この旅の終わりを静かに待つことにした。 そのため彼は、光で満たされたこの空間に漂う異質な存在に気がつかなかった。 大きな鏡という、彼の人生を大きく変えるその存在に。 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 わけがわからない。自分がどうにかなってしまったかのようだ。 こちら側にいるはずのない人間。 初対面でいきなりキスしてくる不可思議な少女。 左手に刻まれた意味不明な紋様。 自分の目の前で空を飛んで見せた少年たち。 そして…… 「…………」 達哉は制服の袖を巻くり上げ、その中にあるものを見つめる。 手首から腕にかけてべったりと張りつく、黒い痣。 皮肉にもその痣が彼を混乱から立ち直らせてくれた。 「やつとの因縁は、まだ切れていないということか……」 達哉の顔が歪んだ。 「あんた、なんなのよ!」 達哉が声のした方を見ると、今しがたキスしてきた桃色の髪の少女がこちらを見上げて眉を吊り上げていた。 ようやく発言の機会が回ってきたということか。 改めて見るとかなりの美少女だが、どう見ても中学生、下手したら小学生にしか見えないその子供は 達哉にとって好みの対象外だ。もちろん彼女個人に興味もない。しかし彼女が持っているであろう情報は別だ。 「それはこっちのセリフだ。お前らは一体なんだ? ここはどこだ? 地上か? それともシバルバーのどこかか?」 「何をわけわかんないこと言ってるのよ……まあいいわ。見たところ相当な田舎者みたいだから説明してあげる」 そう言って少女は腰に手を当てて、妙に尊大な態度で答える。 「見ればわかるでしょうけど、私たちはメイジ。そしてここはかの高名なトリステイン魔法学院!」 どうだと言わんばかり胸を張り、こちらを見据える少女。 そんな得意げになられても、こちらとしてはさっぱり意味がわからない。 「メイジとはなんだ? それに……魔法学院?」 「あんた、メイジを知らないの!? 一体どんな田舎から来たのよ!!」 信じられないといった顔で驚く少女。 どうやらこの状況を理解するには長い時間が必要なようだ。 達哉は嘆息した。 ハルケギニア。トリステイン。メイジ。貴族。魔法。 サモン・サーヴァント。コントラクト・サーヴァント。使い魔。 外で話し合うのもなんだということで場所を移し、少女――ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの自室で 俺は思いつくままに質問を行った。その結果返ってきた答え――ここが自分の知らない『異世界』だということ―― はどれも信じられないものばかりだった。 それは向こうにも言えたことらしく、俺の知る限りの知識を語って聞かせても ルイズはただ疑わしげな目を向けるだけだ。 「……じゃあ、あんたは異世界から来たって言うの? その、空飛ぶ街以外何もなくなった世界から」 「正確には、その世界に帰るはずがここにたどり着いてしまったんだ」 「なんでわざわざ何もない世界に帰るのよ。その『やり直した世界』に居座ればいいじゃない」 「その世界に俺の居場所はなかった……『特異点』である俺が無理に留まろうとすれば、あの世界はやがて滅びてしまう……」 己の恥なのであまり語りたくはない内容だったが、この際仕方がない。 ここに至るまでの経緯を簡潔に説明する。だが、結果は予想通りのものだった。 「……なるほどね。平民にしてはなかなか上手くまとめたお話じゃない」 ルイズは腕を組んで俺の『過去』をそう評する。もちろん心の中では言葉通りの評価を下していないだろう。 「で、本当のところはどうなの? 最後まで聞いてあげたんだから正直に話しなさい。 あなたの生まれはトリステイン? ゲルマニア? ガリア? アルビオン? 実はロマリアとか?」 「……やはり信じてはくれないか」 「当たり前でしょ!」 それはそうだ。 俺だって夜になってから現れた二つの月を見るまでは、ルイズが俺を騙そうとしている可能性を捨て切れなかった。 しかしあんなものを見てしまった以上、もう信じるしかない。 「どうしてもって言うなら証拠を見せなさいよ、証拠!」 これは難題だ。 俺は二つの月のような、有無を言わさない証拠など持っていない。 というか身一つでこの世界に来た俺に一体どんな証拠を示せを言うんだ? ……アレ、か? だが下手に晒すとややこしいことになるかもしれない。 そう思い、何気なくポケットをまさぐってみると―― 「…………」 冷たい感触がした。 「なによ、それ?」 「ライターだ」 達哉は慣れた手つきでライターの蓋を開け、シュボ、と火を灯してみせる。 「へぇ、『火』のマジックアイテムなんて持ってるんだ」 「マジックアイテムじゃない。火花を起こして中の燃料に火をつける着火装置だ」 「ふーん」 その反応を見るに、どうやらライターではダメらしい。 「でもそれじゃ証拠にはならないわ」 「……らしいな」 達哉はライターの火を消し、蓋をチンチンと鳴らす。 『向こう側』ではこれが癖になっていたが、『こちら側』にいた間は久しくやっていなかった。 そんな懐かしい音を聞いていると、ルイズがまたも怒鳴り始めた。 「まったく、いい加減諦めなさい! そんな適当なこと言ったって私からは逃げられないんだからね!」 どうやらルイズは、俺が語る異世界の話をここから逃げ出すための口実と受け取ったらしい。 「変な意地張るのはやめて私の使い魔になりなさいよ。そりゃ使い魔の契約を交わした以上あんたを家に帰すわけにはいかないけど、 でもちゃんと衣食住の面倒は見るし、故郷に手紙くらいは出させてあげるわ」 「…………」 本人は善意で言ったつもりなのだろうが、その言葉は達哉の胸に深く突き刺さった。 もし手紙が届くなら、書きたい。たとえ会えなくても、 摩耶姉やみんなと手紙のやり取りができたら、それだけ救われるだろう。 でもそれは多分、永久に叶わない。 「……いや、いい。それより、その使い魔っていうのは何時まで続ければいいんだ?」 「あんたが死ぬまでよ」 「な!?」 何気なく聞いたつもりだったが、その言葉を聞いて達哉は目を見開く。 「それはできない」 はっきりとした拒絶。 話が上手くまとまりかけてると思っていたルイズは達哉の豹変振りに驚く。 しかしただ驚いているわけにはいかない。彼女も彼女なりに必死なのだ。 「で、できないじゃないでしょ!? それにどっちにしろ、あんたの話が事実なら帰る手段なんてないわよ!」 「……どういうことだ?」 「『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないのよ」 「呪文でなくてもいい。何か他に手段はないのか!?」 「ああもううるさいわね! あんたの世界には何もないんでしょう!? だったらずっとこっちにいればいいじゃない! 『向こう側』とかに帰らなくて済んだんだから めでたしめでたしでしょ!!」 「…………!」 その通りだ。人がいない世界で孤独に生きるより、人のいる世界で使い魔をやってる方が良い。 そのことに関して達哉は否定しない。だが、状況はそれを許していない。 達哉はそれを、自分の右腕を見ることで理解した。 だから彼はルイズに『それ』を見せつける。 「これを見ろ!」 「その刺青がどうかしたの?」 「これは『あいつ』が俺につけた印だ! あいつが、『ニャルラトホテプ』が完全に力を失っていない証拠だ!」 『あの戦い』でニャルラトホテプはどこぞに追いやられた。だが、完全に消え去ったわけじゃない。 というより、それは不可能なのだ。すべての人間の負の面であるニャルラトホテプは人間が存在する限り決して滅びない。 それでも、今は…… 「一度倒されたやつの力は弱まっている。だからすぐにどうにかなるということはないと思う。 だが、やつはいずれ力を取り戻す! その時こいつを目印にこの世界に来るようなことになったら……!」 「悪いけどこれ以上あんたの妄想に耳を傾けるつもりはないわ」 にべもなくそう言い放つと、ルイズは哀れむような目つきで達哉を見つめた。 「どう騒ぎ立てようと、あんたは死ぬまで私の使い魔よ。これはもう、どうあっても覆ることがない決定事項なの。 そのニャルなんとかがこの世界に来ようが関係ないわ」 達哉の話などまったく信じていない口調でそう言い放つ。 それでも達哉は食い下がる。 「……使い魔の契約を破棄する方法は?」 契約とやらが切れれば『向こう側』に帰れるかもしれない。こうなったらそれしかないと達哉は思った。 しかし、そんな達哉の言動はルイズをさらに不快にさせた。 「……そんなに私の使い魔になるのが嫌なの?」 冷たい視線。頑として首を縦に振らない使い魔に対し、積み重なった怒りは いまや憎しみを通り越して殺意になろうとしている。 「それなら……死ねば?」 「……なんだと?」 ハンマーで頭を殴られたような衝撃が達哉を襲う。 「あんたが死ねば使い魔の契約は切れるわ。そのニャルなんとかってのもここへは来れないんじゃないの? 私もあんたが死ねば新しい使い魔を呼び出せるようになるし一石二鳥よね」 たっぷりと嫌味をこめてルイズはそう言い放つ。 しかし次に達哉が発した言葉にはさすがに顔を青くした。 「……そうか、その手もあったな」 「ちょ……なに言ってるのよ!?」 ルイズが騒ぎ始めるが達哉は気にしない。 達哉は今、ルイズが示した方法について本気で考えていた。 もしニャルラトホテプとまた戦うことになったとして、次も勝てるという保障はどこにもない。 なにせ一度は負けた相手だ。勝率だけ見ても五分と五分、それに戦うとなれば必ず犠牲が出る。 しかし今ならこの世界と『向こう側』を繋いでいるのは俺一人。ルイズの言うとおり、自分が死ねば ニャルラトホテプはこの世界に干渉できなくなるかもしれない。 もっとも、この世界にも人間はいるのでいつかニャルラトホテプが手を出してくる可能性はあるが、 少なくとも『向こう側』を利用したものではなくなるはず。そうなったら、あとはこの世界の人間の問題だ。 だが……本当にそれでいいのか? 俺は『向こう側』で精一杯生きていくと、心に決めた。 辛い道のりだが、それをこんなわけのわからない出来事を理由にすべて放り出していいのか? それが……罰と言えるのか? 「……死ぬのは最後の手段だ。俺は……帰る方法を探す」 まだ諦めるには早い。ルイズが知らないだけで、帰る方法はあるかもしれない。 それを見つけて『向こう側』へ帰る。それがベストだ。 「ああ、そう」 一方のルイズは達哉の言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろす。 彼女とて、呼び出した使い魔にいきなり自殺なんてされたらさすがに夢見が悪い。 それにしても、ちょっと会話しただけなのに妙に疲れたわ。こいつ本当に扱いにくい。 「それじゃ、あんたが私の使い魔になるんなら、私もあんたが『向こう側』に帰れる方法ってのを 探してあげるわ。それなら文句ないでしょ?」 「ああ」 未知の異世界で一人、なんの当てもなく彷徨うよりは遥かに効率的だ。 「それじゃ確認するわよ。あんたが『向こう側』に帰るまで、あんたは私の使い魔。これでいいわね?」 達哉は無言で頷く。 「なら、あんたには私の使い魔として働いてもらうわよ。 まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」 達哉がルイズを見つめる。 どういう意味だ? と目が語っている。 その態度にルイズは少し苛立ったが、これ以上余計なことを言って追い詰めると後が怖い。 「つまりあんたが見たもの、聞いたものを私が見たり聞いたりできるのよ。 でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」 「……そうか」 あ、返事した。よしよし、良い感じだわ。 ……見えないのは残念だけど。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?」 「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」 「それを探すのか……」 「でもあんた、そんなの見つけてこれないでしょ? 秘薬の存在すら知らないのに!」 「そうだな……」 だんだん話に乗ってきた。うん、これならなんとか……なるわよね? 「そして、これが一番なんだけど……使い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃ無理……どうしたの?」 「守る……?」 再び達哉の様子がおかしくなったことにルイズはぎょっとしたが、それが戸惑いの類だと理解すると すぐに興味をなくした。きっと、荒事が苦手なんだろうと解釈する。 「まああんたには期待してないわ。人間だもの」 達哉が何か言う前に、ルイズはその仕事を免除した。 単なる平民、それも妄想語ったりいきなり死のうとするような人間にそんな危ないことはさせられない。 「というわけで、あんたにできそうなことをやらせてあげる。洗濯。掃除。その他雑用」 「……わかった」 要するに住み込みの下働きみたいなものか。 そう達哉なりに解釈する。 「あ~疲れた」 ルイズは大きなあくびをする。 実際ルイズは疲れていた。変な使い魔のせいで。 「さてと、しゃべったら、眠くなっちゃったわ」 そう言ってルイズが次に取った行動を、達哉は軽い驚きと共に見つめる。 なんと達哉が見ている前でいきなり服を脱ぎ始めたのだ。 「なんの真似だ?」 「寝るから、着替えるのよ」 「俺がいるのにか?」 「使い魔に見られたって、なんとも思わないわ」 「……そうか」 本人が気にしないというなら、達哉に文句はない。 ただ着替えをじっと見ているのもなんなので、達哉はルイズから目をそらし、部屋を見渡す。 そこで達哉の頭にある疑問が浮かんだ。 「俺はどこで寝れば良いんだ?」 「床」 「…………」 「まあ、これくらいは恵んであげるわ」 ルイズは毛布を放ってきた。 「…………」 雨風がしのげるだけマシか。そう思い大人しく毛布に包まり、床に寝転がる達哉。 しかし目を閉じようとしたところで何かが頭の上に降ってくる。 枕でも寄越したのかと思って手に取ったそれは、今しがたルイズが身に着けていたキャミソールだった。 呆然とする達哉の頭に生暖かいパンツが乗る。 「明日になったら洗濯しといて」 見ると、素っ裸になったルイズが頭からネグリジェをかぶろうとしているところだった。 「……!?」 達也は自分の頬が紅潮するのを感じた。それがお世辞にも発育が良いとは言えない、 見た目13~14歳の子供であるルイズの裸でも彼には刺激が強すぎた。 それでも表面上は勤めて冷静に、渡された下着をその辺に置いて再度毛布に包まる。 先ほどの悲壮感もどこへやら、唐突に見せつけられたルイズの非常識さに達哉はただ目を白黒させるだけだった。 「……異世界、か」 しかし、それも一時のもの。明かりが消え、ルイズが寝静まると達哉の胸の内に様々な思いが生じる。 達哉は懐からライターを取り出し、それをじっと見つめた。 「淳……」 昔、親友と交換したその宝物を見ていると、自然と心が熱くなってくる。 このライターをくれた淳は俺のことを覚えていない。思い出すこともない。でも、約束は失われていない。 「俺は必ず『向こう側』に帰る。お前たちの世界にも、この世界にも、迷惑はかけない」 達哉はライターをぎゅっと握り締めた。 すると、まるでライターの火がついているかのように手が熱くなる。 「俺はもう逃げない。そう心に決めたんだ」 先ほどはあんなことを言ったが、死んで終わりにするのはただの逃避だ。 そんな結末を認めるわけにはいかない。 仲間だって、俺がこんなところで死ぬことは望んでいないはずだ。 「俺、頑張るよ。だから……みんなも見守っていてくれ……」 そう呟いて、達哉はようやく眠りについた。 二つの月が、小さな炎をただ静かに見下ろす。 前ページ次ページ罪深い使い魔
https://w.atwiki.jp/fuji7e/pages/38.html
東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww 東方厨キモスwwww
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/179.html
前ページ次ページゼロの剣士 #1 森の中を走って一時間も経った頃、ロングビルは馬車から降りるようルイズ達に告げた。 彼女が言うには、この近くにフーケの隠れ家があるらしい。 馬車で近づくのは色々と目立つし、ここからは歩いていこうとロングビルは提案した。 「なにやってんのヒュンケル? 早く行くわよ!」 馬車の前で靴紐を結ぶように屈んでいたヒュンケルをルイズが急かした。 ヒュンケルはすぐに立ちあがると、ルイズ達と並んで歩く。 フーケの隠れ家は、馬車を置いた場所から十数分のところ、木々が少し開けた場所にあった。 それは打ち捨てられたような小さなボロ小屋で、人の気配がまったく感じられない。 「フーケは留守なのかしら? それとももう逃げちゃったとか?」 そう言って無用心に廃屋に近づこうとするルイズを、ヒュンケルが制止した。 昨日のことといい、どうにもこの娘は勇み足でいけない。 ヒュンケルが見た感じ、ルイズはどこか急き立てられているような印象を受けた。 「落ちつけルイズ。偵察には俺と……タバサで行こう。お前はここで待っているんだ」 しかしルイズは、ヒュンケルの言葉に不満そうに頬を膨らませた。 「嫌よ! 使い魔が行くっていうのになんで主人のわたしが留守番なのよ?」 「……主人を守るのが使い魔の役目。そう言っていたのはルイズではなかったか? 危険がないか見に行くだけだ。少し待っていてくれ」 渋々頷くルイズの頭を、ヒュンケルがなだめるようにぽんぽんと叩いた。 そうしてから、また子供扱いしてとぶうたれるルイズをスル―し、キュルケとロングビルの意見を確かめる。 キュルケは肩をすくめると、ここでルイズの子守りをしていると言い、 ロングビルは用心のために周囲を見回ってみると言って森の方へ歩いて行った。 それぞれの役割を確認し終えると、ヒュンケルはタバサに頷きかけた。 「念のため、『静寂』をかける」 タバサはそう言うと杖を振るい、二人の足音を消した。 恨めしげなルイズをその場に残し、ヒュンケルとタバサは慎重かつ素早く、フーケの隠れ家に接近したが、 相変わらず廃屋からは物音ひとつせず、人の気配もしなかった。 「思いきって中に入ってみるか」 ヒュンケルはタバサに小声で言うと扉に手をかけ、ゆっくりとそれを開けた。 二人は音もなくするりと室内に入ったが、やはり人の姿はない。 廃屋は一部屋のみの構造で家具も少なく、隠れられそうな場所はありそうもなかった。 埃の積もった様子を見るに、ここでフーケが生活しているとはとても思えない。 もしや、ロングビルの掴んだ情報は誤ったものだったのだろうか。 ヒュンケルが嫌な予感を感じた時、タバサが「これ」と囁いた。 タバサはテーブルの上に無造作に置かれていた本を手に取って、何かを確かめるようにじっと見つめた。 「まさか、それが『悟りの書』か?」 ヒュンケルの言葉にタバサは「たぶん」と頷くと、自然な動作で本を開こうとした。 どうやら彼女はまだ『悟りの書』を読むことに未練があるらしい。 ヒュンケルが溜め息をついてその手を掴むと、 タバサは相変わらずの無表情で「冗談」と一言言って、『悟りの書』をヒュンケルに差し出した。 どうにも変った娘だと苦笑してヒュンケルがその本を手に取った時――そのことは起こった。 「ヒュンケル! タバサ! 小屋から離れて!!」 外からまずルイズの叫び声が聞こえ、次いで頭上の屋根が砕ける音が耳をつんざいた。 間一髪、窓から外へ飛び出した二人の背後で、廃屋は杖を失くした老人のように呆気なく崩れ落ちた。 ヒュンケルはタバサを助け起こすと、廃屋を叩き潰した張本人をぎらりと睨んだ。 襲撃者の正体は言うまでもない。 ヒュンケル達の目線の遥か上、フーケの巨大なゴーレムが、ヒュンケル達を見下ろしていた。 「小屋に人がいた形跡はなかったが――もしや情報自体が罠だったか?」 つぶやくヒュンケルの横で、タバサが真っ先に魔法を唱えた。 少女の、背丈ほどもある杖から強力な竜巻が巻き起こる。 生身の人間なら造作なく吹っ飛ばせる魔法だが、巨大なゴーレムはびくともしないでその場に留まり続けた。 タバサに続いてキュルケが炎の魔法を、ルイズが例の爆発魔法を使うが、ゴーレムの巨体からすれば効果は微々たるものだ。 「こんなのかないっこないわよ!」 呻くキュルケの横でタバサが「退却」とつぶやき、口笛を吹いて風竜シルフィードを呼び出した。 即座に空から現れた使い魔に乗って、タバサはキュルケやヒュンケル達に手招きする。 肝心の『悟りの書』は取り返せたのだから、タバサの判断は賢明なものだと言えるだろう。 ヒュンケルとキュルケは彼女に従おうとしたが、しかし何故かルイズだけは頑としてそこを動こうとしなかった。 ルイズは何度も何度もゴーレムの表面に爆発を起こし、巨大な質量を砕こうと躍起になっている。 早く乗れと急かすキュルケの声に、ルイズは「嫌よ!」と、振り返りもせずに拒絶した。 「嫌よ! ここで逃げたら『ゼロ』だから逃げたってまた笑われちゃうじゃない!!そんなのできっこないわ!!」 「そんなこと言ったってあなた……ロクな魔法も使えないじゃないの!」 キュルケの言うことにルイズは言葉に詰まるが、それでも一歩も退こうとはしなかった。 「魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ……! 敵に背を向けない者を貴族と呼ぶのよ! 邪魔しないで!」 そう言って攻撃を続けるルイズにキュルケは「あのバカ」と唇を噛んだ。 人一倍誇り高いルイズが『ゼロ』と蔑まれ、どれだけ悔しい思いをしてきたかキュルケはよく知っていた。 ルイズは汚名を晴らそうとひたすら努力し、それでも駄目で、また頑張って、どうしようもなくて――。 ルイズの気持ちは分かるが、それでもこんなところで死なれては目覚めが悪い。 強引にでもルイズを逃がすため駆け寄ろうとしたキュルケだったが、ゴーレムがその腕を振るう方が先だった。 肩を震わし、目を見開くルイズに近づく巨椀。 ルイズのちっぽけな体などバラバラにしてしまうであろう凶器。 昨日の再現のようなその攻撃はしかし、昨日と同じ人物によって受け止められた。 ただし今回の結果は昨日と違って、その人物はゴーレムに押し負けずにそのまま踏みとどまっている。 「……無事か、ルイズ?」 ルイズの目の前、ヒュンケルが魔剣でゴーレムの一撃を食い止めていた。 衝撃で数メイル後ずさり、足は地面に埋まってしまっているが、ヒュンケルは渾身の力でゴーレムの腕を押しのけた。 そしてすかさずルイズを抱えると、シルフィードの前まで連れて行く。 「離してヒュンケル!これは命令よ! わたしは戦うの!」 腕の中で暴れるルイズに、ヒュンケルは無言で頷いた。 てっきり反対されるとばかり思っていたルイズは虚をつかれ、振り上げた拳の行き場をなくす。 しかしヒュンケルは嘘をつくでも誤魔化すでもなく、真剣にルイズの望みに応えようとしていた。 「そこまで言うなら俺も共に戦おう。しかしルイズ、戦いにはやり方というものがある。 お前はゴーレムの攻撃が届かぬところから攻撃しろ。あのデカブツと直接やり合うのは俺の役目だ」 さっきまで失念していたが、周囲の偵察に出たロングビルの姿がまだ見えなかった。 彼女の無事が確認できない以上、一目散に逃げることも憚られる。 それになにより、敵わずとも立ち向かおうというルイズの言葉にヒュンケルは心打たれていた。 自棄になっているような面もあるのだろうが、ルイズの横顔には凛とした気高さが浮かんでいた。 魔法が使えなくとも――いや、魔法が使えないからこそ育まれた、魂の力のようなものがそこには根付いていた。 ヒュンケルはルイズのことをただ守るべき対象としか見ていなかった己の認識を改め、 できることならルイズの望みを叶え、自信を与えてやりたいと、そう思った。 「タバサ、キュルケ。お前達は上空から援護しながらロングビルを探してくれ あるいは怪しい人影を見つけたらそいつを捕らえろ。フーケを倒せばゴーレムも消えるだろう?」 言ったヒュンケルに、キュルケがやれやれと首を振った。 一緒に逃げられないとあれば、キュルケのやることも一つしかありえない。 「しかたない、付き合ってやるわよ……デ―ト1回分と引き換えで。もちろん費用はルイズ持ちよ?」 キュルケはそう言うとタバサと目配せし合い、風竜で飛び立った。 ゴーレムはそれを見てのそりと動いたが、タバサとルイズ達のどちらを狙うか迷ったように、少し首をかしげている。 ヒュンケルはタバサ達を見送ると、ルイズの顔を見た。 マァムと同じ色の髪をした少女は、緊張と興奮で頬を紅潮させていた。 「ルイズ、これを持っていてくれ。なくすんじゃないぞ?」 そう言うとヒュンケルは懐から『悟りの書』を取り出してルイズに押し付けた。 ――共に戦うのはいいが、絶対にやられるな。 この任務の一番の目的、学院から盗まれた秘宝を託すことで、ヒュンケルはルイズにその意を伝えた。 ルイズはしっかり本を服の中に仕舞い込み、ヒュンケルに向かって頷いてみせる。 ヒュンケルだけを前線で戦わせることに不安も不満も感じるが、 それが一番の布陣だということはルイズも分かっていたし、ルイズはこの偉そうな使い魔の力を信じたかった。 「ご主人様に指図するなんて使い魔失格なんだからね! 後で説教してやるんだから……死ぬんじゃないわよ!」 ルイズはようやくいつもの調子に戻るとそう言った。 直後、ゴーレムの巨大な足が振り下ろされ、ルイズとヒュンケルは前後に分かれる。 ルイズは森の方から後衛を務め、ヒュンケルはゴーレムのそばで前衛を担当する――。 主人と使い魔の、初めてのパーティーバトルが今始まった。 #2 振り下ろされた足をかいくぐり、そのままの勢いで斬りつける。 土くれでできたゴーレムの足はたやすく裂けたが、すぐに地面から土を補給して体を再生しはじめた。 ルイズも今は手数よりも威力を意識し、なるべく大きな失敗――もとい、 爆発を起こそうと努めたが、その傷も瞬く間に再生されてしまっている。 ヒュンケルはいつのまにか鋼鉄製に変わったゴーレムの腕を大きく飛びのいてかわし、息を整えた。 するとその隙を見計らったようにゴーレムは足まで鋼鉄製に変わり、ヒュンケルは思わず舌打ちをする。 戦いは長期戦の様相を呈していた。 ヒュンケルはまだまだ動ける自信があるが、 失敗魔法とはいえ爆発という形で魔法力――この世界では精神力――を放出しているルイズはそろそろ限界のはずだ。 上空にいるタバサ達が術者のフーケを探しているが、森の木々に遮られてそちらの状況も芳しくない。 フーケがゴーレムの維持にどれほど精神力を消費しているのか分からないが、 このまま戦いが長引けば消耗したルイズを抱えて戦うか――あるいは逃げることになる。 ルイズの安全と心境を思えば、それはできようはずもなかった。 かくなれば、再生の暇もないほど早く切り刻むか、一撃必殺で倒すほかない。 「アバン流刀殺法――海波斬!」 ヒュンケルは昨日ゴーレムの腕を斬り飛ばした技を連続して放ったが、 今やみっちりと鋼鉄で固められたゴーレムの腕は、半ばのところでその斬撃を食い止めた。 スピード重視の海波斬では一撃の威力において少々心もとない。 とはいえ、速さの技に対して力の技――大地斬では手数が足りない。 となれば…… 「おい相棒! いいかげん俺を抜けよ!」 ヒュンケルが必殺の剣を構えようとした時、すっかり忘れていた声がその動きを呼び止めた。 背中から、デルフリンガーがすねた声でヒュンケルに訴えかける。 「俺っちだって剣だぜ!? そっちばっかり使ってないで俺も使ってくれよ。頼むからさあ……」 戦いの緊迫した雰囲気からはかけ離れたその様子に、ヒュンケルは思わず笑みをこぼした。 とはいえ、自分には二刀流の心得はないし、一刀で戦うなら使い慣れた魔剣の方がいい。 ヒュンケルは率直にそう言いかけたが、デルフが憤慨したようにそれを遮った。 「心得も何もねえって! 相棒は『使い手』だろう? 剣を握りゃ勝手に体が動くんだよ!」 「使い手とは――『ガンダールヴ』の――ことか?」 ゴーレムの攻撃をかわしながら聞くと、デルフはあったりめえだろと一笑に付した。 むしろ、素でその力を出せてる方がおかしいぜと呆れ半分の調子で続ける。 ヒュンケルは頭上のタバサをちらりと見上げると、ようやくデルフの柄に手をかけた。 何故か懐かしい感触を覚え、ルーンを刻まれた左手を見やった。 もしもタバサやデルフの言うように自分が本当に『ガンダールヴ』ならば―― そしてもしあの決闘の時感じた感覚が本物ならば―― 剣を二刀使うくらい、俺には容易いはずだと自分に言い聞かせた。 目の前のゴーレムを倒し、ルイズに誇らしい記憶をつくってやる。 それだけを胸に置き、懸念も何も体から追い出した。 闘志が体の奥から、ふつふつと溢れだしてくる。 「相棒! 俺を抜け! ガンダ―ルヴは心の震えで強くなる! 闘志をみなぎらせ、剣に伝えろ!!」 声に応え、ヒュンケルはついにデルフリンガ―を抜き放った。 ゴーレムは今、タバサとキュルケが風竜の速さを活かして翻弄している。 ヒュンケルは両の手に二刀の魔剣を携えて目を閉じ、リラックスするように肩の力を抜いた。 瞼の裏に、無駄な力や動作を省いた必殺の軌跡を心に描く。 そしてゆらりと剣を持った両手を上げると、あらかじめそれが決まっていたような自然さで上段に構えた。 「アバン流刀殺法――二刀!」 ここまで意識を集中させてこの技を使うのは何年振りか。 ヒュンケルは初めてこの技を成功させた時のことをふと思い出した。 今振るうはアバン流の初歩にして、大地をも割る力の剣―― 「大地斬!!!」 カッと目を見開き、ヒュンケルは二対の魔剣を振り下ろした。 二柱の斬撃は強烈な衝撃波を生み出し、ゴーレムの鋼鉄の四肢をVの字に斬り裂いた。 刹那の瞬間、手足を失ったゴーレムの胴体が宙に浮く。 ――好機。 「タバサ! ゴーレムを浮かせろ! キュルケはヤツの頭を攻撃するんだ!!」 ヒュンケルの言葉に応え、タバサが即座に詠唱を完成させた。 あらかじめ力を蓄えていたのだろう、今までの比ではない威力の竜巻が、四肢を失い軽くなったゴーレムを持ち上げる。 ゴーレムの再生のために地面から巻きあがっていた土くれも、風の力で吹き飛ばされた。 次いでキュルケのとっておきの火炎の魔法が、ゴーレムの頭を超高熱で焼き尽くす。 今やゴーレムは、ただの大きな土の塊でしかなかった。 ヒュンケルは鎧の魔剣を地面に突き刺すと、左手のデルフリンガ―に語りかけて言った。 「デルフ、お前が俺の剣を名乗るなら、この魔剣に劣らぬところをみせてみろ。 俺の最強の一撃を、こいつと遜色ない威力で出してみせるのだ」 ヒュンケルの言葉を、デルフは威勢よく笑い飛ばした。 ガンダ―ルヴの左手、デルフリンガ―にしてみれば、そんな挑発は望むところである。 ヒュンケルの腕から流れる闘気に身を任せ、デルフは己の内にそれを蓄えた。 「任せろ相棒! あの魔剣に新参者となめられねえよう、俺もいいとこ見せちゃるゼ!」 叫ぶデルフの刀身が、錆びの浮き出たそれから、魔剣にも劣らぬ白銀の輝きに満ちたものへと変わった。 しかしヒュンケルはその変化を何故か当然のようにして受け入れ、浮き上がって再生力を失ったゴーレムを見つめた。 タバサの竜巻の力は徐々に弱まってきている。 ここはもう、一撃で決めるほかあるまい。 「ルイズ! 俺の技に合わせろ!」 ヒュンケルは片手を前に突き出し、デルフを握った方の腕を弓のように引いて力を溜めこんだ。 背後からはルイズがヒュンケルの声に応え、早口で魔法を詠唱する声が聞こえてくる。 師を襲い、弟弟子を傷つけた必殺剣を今、別の何かのために使う。 奇妙な感慨が、ヒュンケルの胸に去来した。 背後のルイズが、詠唱を完了させて杖を振り上げる。 「やれ!!」とデルフが叫び、ヒュンケルは裂帛の勢いで剣を突き出した。 「ブラッディースクライドォ!!!」 回転力を加えたその突きは螺旋の渦を描き、ゴーレムの胴体部分に大きな風穴を開けた。 そして次の瞬間、でかでかと広がった空洞から大きな爆音が響き渡った。 ルイズの失敗魔法と言う名の強力な爆発が、内部からゴーレムを爆散させたのだ。 タバサが生み出した竜巻が消えた時、地面にこぼれ落ちたのはもはやただの塵芥に過ぎなかった。 ヒュンケルは一応身構えたが、ゴーレムの残骸はそのまま動くことなく、ただの土くれのままそこにある。 おそらくフーケの精神力も既に限界なのだろう。 「終わったな」 からから笑うデルフに向かって、ヒュンケルはそう言った。 あとはフーケ本人を探して捕まえるか、『悟りの書』を持ってそのまま帰ればいい。 ルイズもあのゴーレムを倒したことで自信はついたろうし、ヒュンケル個人としてはフーケの捕縄には特に興味もなかった。 タバサやキュルケも風竜から降りてきて、安堵の笑顔でヒュンケルの手を握った。 ――しかし、そんな油断がいけなかったのだろう。 突然、ルイズの悲鳴が背後で響いた。 声の源を辿ればそこにはルイズともう一人―― 最後の同伴者、ミス・ロングビルがナイフを構えて立っていた。 前ページ次ページゼロの剣士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/654.html
桃色の髪の少女が起こすそれが、何度目の爆発なのか、それを数えているものは一人も居なかった。 周りを囲む少年少女達は、繰り返される爆発を囃し立てる者、早く終わって欲しいとうんざりした表情をしている者、興味を向けずに居る者、の三者に大別されていた。 中央に立ち集団を監督する男性、魔法使いにして学院の教師であるコルベールは当然心無い生徒達と同じようにそれを囃し立てることはない。そして立場からくる責任感と生来の気性から、無関心でもいられなかった。 彼は事態の終結を願う集団の一人だった。 彼がその集団の他の者達と違うのは、他の者が少女に対し「早く諦めろ」と言った思いでいるのに対し「なんとか成功して欲しい」と願っている事だった。 彼は特別その生徒に思い入れがあるわけではない。その彼をして思わず応援させてしまうほどに桃色の髪の少女、ルイズは懸命だった。 使い魔召喚の儀式の監督役として目を離さず見ていたコルベールは、ルイズが繰り返される失敗にも、それに伴う嘲笑にも耐え、疲労した精神と肉体を意志によって支えて召喚魔法を繰り返す姿に心打たれたのだ。 (おや……?) 繰り返される詠唱と爆発が止まっていた。 (ついに諦めてしまったか……) だが無理も無い、とコルベールは思った。 むしろここまで努力した事を褒めるべきだろう。無論、結果は結果だ。彼女に進級単位を出す事はできない。 しかし彼女のために召喚魔法に関する文献を洗い直し、自分が教授した後に改めて再試の機会を設けるぐらいは良いだろう。 そうコルベールが思っていた時だった―― 「やった……やりました!ミスタ・コルベール!」 (……なんですと?) 使い魔召喚の儀式を止めたルイズが、幾度もの爆発で焦げ付き荒れた地面に膝を付けて地面を指差している。 そこには注視しなければ見過ごしてしまいそうな、黒く焦げ付いた布切れのようなものが落ちていた。 「わ、私が呼び出したんです!成功したんです!」 ルイズは興奮していたが、コルベールには誰かのマントの切れ端が飛んできて爆発に巻き込まれた切れ端にしか見えなかった。 周りの生徒たちは何が起こったのかわからずに「何だ、成功したのか?」「まさか?ゼロのルイズが」と言った声が飛び交い、ルイズに注目していた。 「それを、君が呼び出したと言うのかね?ミス・ヴァリエール……」 「そう、そうです!良く見てくださいミスタ・コルベール!」 彼女が指差すそれに近付いてみると。 「なんと!」 ただのこげた布切れに見えたそれに一筋の切れ目が入ったかと思うと、ギョロリと見開かれたのだ。 それは『目』だった。 それはただのコゲた布切れではなかったのだ。 「ふぅ~む、これは珍しい。見たことのない魔法生物だ。ともあれおめでとう。ミス・ヴァリエール」 「はい、ありがとうございます!」 そう応えたルイズの顔は本当に嬉しげで、コルベールもこの生徒の努力が報われた事に胸を撫で下ろしたのだった。 「さ、コントラクト・サーヴァントを」 「はい!」 嬉しそうに杖を構えて詠唱を始めるルイズ。 周りの生徒達が「何だ小物か」「見ろよあの貧相な布っきれ」「ゼロのルイズにはお似合いさ」などと嘲笑するが、喜びに溢れるルイズにはまったく気にならなかった。 布切れを持ち上げ『目』の上あたりに口付けをするルイズ。布切れの『目』は目線を上にあげてそれを見ていた。 「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントは一度で出来たね」 嬉しそうにコルベールが言い、ルイズもそれに嬉しそうに応える。 周りの生徒がまた囃し立てるが、ルイズはやはり気にしなかった。 布切れに光が踊りルーンが刻まれていく様子を二人で観察する。 「ふむ……珍しいルーンだな」 それは、使い魔召喚の監督役として、幾多のルーンを見てきたコルベールにもついぞ覚えの無い変わったルーンだった。 生来の研究者気質からそれを記録しようとした矢先に、ルーンの発光が収まると布の黒に沈んでルーンは見えなくなってしまった。 コルベールはその変わったルーンの事が少し気になったが、今は時間を取った使い魔召喚の儀式を終わらせて生徒達を学院に戻さねばならない、と思い声を上げる。 「さぁ、皆教室にもどりますよ!」 彼はこれから使い魔をもった生徒達に、大型使い魔の厩舎の使い方や、基本的なエサが用意してある場所など使い魔に関連したことを指導しなくてはならなかった。 そのため彼は、無事に儀式の終わった安堵とこれからの忙しさの中、ルイズの使い魔に刻まれたルーンのことはすぐに忘れてしまった。 そして、皆が宙を浮き学園へと去って行くなか一人残されたルイズは、己の使い魔をしっかりと抱きしめて学院へと歩き出したのだった。 ―――夜、自室にて。 ルイズは机の上に使い魔を置いて、ああでもないこうでもないと唸っていた。 「焦げ焦げっぽいからコゲ?……駄目ね。もっと格好良くないと」 彼女は、己の使い魔の命名に悩んでいるのだ。 なかなかしっくり来る物が思い浮かばないらしく、かれこれ1時間以上も悩んでいる。 彼女は現実で言えば命名で詰まってしまい、ステータスポイントを振るまでにプレイ時間を重ねてしまうタイプであった。 「そうね、黒くてなんだかダークっぽいし目が特徴だから『イビル・フォース・アイ』に決めたわ!格好良いし!!」 使い魔の名前をイビル・フォース・アイ(略してコゲ)と決めたルイズは、満足して寝巻きに着替えると、コゲを抱えてベッドにもぐりこんだ。 ルイズはもし使い魔を呼び出すことができたら、まず掃除、選択、着替えの手伝いなどをさせるつもりだったが、手足すらないイビルでは流石にそれはさせられない。 普通メイジはそれらの雑用は魔法で済ませる。しかしルイズは全て自分の手でそれをやって来た。(一部は学院つきの使用人に命じただけだが) もし、自分の魔法が使い魔召喚と言う形で成功したならば、使い魔にやらせるという形ででも自分の魔法によってそれを成したかったのだ。 それが出来なかったのは残念だったが、「大丈夫」とルイズは思う。 何しろ使い魔召喚の魔法は成功したのだ。その証拠が今ここに居る。 ルイズはコゲをぎゅっとだきしめて思う。 これから普通の魔法だって使えるようになるに違いない。だから気にする必要何か無いんだと。 自分を信じさせるように、そう繰り返してルイズは眠りに落ちた。 ―――次の日、授業にて。 土系統のメイジ、ミセス・シュヴルーズの授業にて、ルイズは『錬金』に挑戦した。 ルイズは本当に頑張ったのだ。 昨日の召喚と契約の成功を思い出して、その感触を再現するように呪文を唱えた。 「なのに……なんでだめなのよ……」 ルイズは一人で荒れ果てた教室の掃除をしていた。 箒を掃いて、ちりとりですくう。罰として掃除に魔法を使用することを禁止されたが、ルイズには関係が無かった。 それが一層彼女の惨めさを誘った。 この罰が、それを狙って出されたものだとしたらなんて陰険なんだろうとルイズは思った。 ぼろぼろになった教卓を見る。 その上には焦げた布切れ、ルイズの使い魔コゲが置いてあった。 物言わぬその『目』でルイズを見ている。 体力が落ちると気力も萎えてしまうものだ。 たった一人で広い教室を掃除しているルイズには、昨日は自分の希望を見るように見えたそれが、今は自分の無力を嘲笑っているように感じた。 「ねぇイビル、掃除を手伝うとか出来ないの?」 そう問いかけてみるが返事は無い。口が無いのだから当たり前だった。 喋れないだけではない。手も足もないコゲにできることはただ見ていることだけだった。 その姿が自分の無力さを映している様にルイズには思えた。 「なんとか言いなさいよ!」 思わず箒でコゲを叩く。 吹き飛んだコゲは、床に転がった。 その余りにも無力な姿に、ルイズは急に悲しくなった。 視界が歪む。 (こんなの私の使い魔じゃない。私が欲しかった使い魔じゃない!) 涙を堪えてルイズは掃除を終わらせる。掃除は夕方までかかった。 教室を出るとき、使い魔をそのまま捨て置こうかと一瞬思った。 だが出来なかった。 どんなに情けなくとも、コゲはルイズにとって自分の唯一成功した魔法の証だったから。 ――自室へ戻る途中、ルイズはキュルケと出合った。 「あらルイズ。掃除は終わったの?」 「えぇ。それが何よ」 「別になんでもないわよ。お疲れ様」 「そう、私疲れてるの。それじゃあ失礼」 「ちょっと待ってよルイズ、ねぇ、貴方の使い魔ってそれ?」 ルイズが手に持ったコゲを指して言うキュルケ。 「そうよ」 「へ~、なんだかみすぼらしいし、小さいし、ねぇルイズ。それって役に立つの?」 「うるさいわね」 「あたしも昨日使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で呪文成功よ」 「あっそ」 「どうせ使い魔にするならこういうのが「うるさい」…え?」 自らの使い魔を誇ろうとしたキュルケをルイズが遮った。 「なぁにルイズ。私の使い魔が羨ましいからって――」 「うるさいうるさいうるさーい!!アンタの使い魔なんか知らないわよ!!」 ルイズはコゲを握り締めて走り出した。 あっけに取られてキュルケはそれを見送った。 「あの子……泣いてた?」 (言い過ぎたかしら……) キュルケの胸がチクリと痛んだ。 バタン!!と音を立てて自室の扉を閉じた。 鍵をかける。 ルイズは悔しかった。 ツェルプストーの人間に、馬鹿にされて、見下されて、逃げることしか出来ない自分が嫌でたまらなかった。 握り締めた右手が痛い。 「……え?」 爪が食い込む、と言うレベルではなかった。 右手から血が流れている。 慌てて手を開くと手の平がすっぱりと切れていた。 調べてみると、コゲの体の端に小さな刃があった。今までは体に埋もれていて気付かなかったのだ。 「――っ!!」 思わずコゲを床に叩きつける。 まるで役に立たないくせに、こんなときに主人を傷つけることだけはするなんて、最悪だと思った。 使い魔にまで、馬鹿にされてる。 「このぉ!!」 足を振り上げてコゲを踏み潰―――そうとして、止める。 ルイズは深呼吸をして、必死で自分を落ち着かせた。 傷ついたのは、自分のせいだ。使い魔にあたっても……しょうがない。 何もできない、何もしない。 (それでも私の唯一つの魔法……私の使い魔……) コゲを床にから拾って机に載せる。 自らの傷の手当をした後、血で汚れたコゲを丁寧にあらってからルイズはベッドに倒れこんだ。 くぅとお腹がなった。 しかしルイズは動かなかった。 ―――それから 次の日、キュルケが話しかけて来てもルイズは取り合わなかった。 ルイズは前にもまして魔法の勉強をするようになった。 空き時間の大半を図書館で過ごすようになり、様々な魔法書を読み漁った。 図書館ではキュルケを居るところをたまに見かける、水色の髪の少女を良く見かけたが、話しかけることはなかった。 相手からも、出入りの時に一瞥があるだけで、挨拶の一言も交わすことは無かった。 ルイズは懸命に魔法を学んだが、一度として成功する事はなかった。 魔法に失敗するとルイズは「サモン・サーヴァントは上手く行ったのに!」と言って荒れた。 ルイズはコゲを肌身離さず持ち歩いた。自分の魔法が成功した証拠であると言うように。 ある日、トリステインの王女アンリエッタが学院を訪れた。 彼女はルイズの部屋にお忍びで訪れると、頼みごとを残していった。 ゲルマニアとの同盟のためアルビオンの皇太子ウェールズから手紙を返して貰いに行って欲しいと。 断る事などできるはずが無かった。幼い頃からの友人であり、王女である彼女の頼みだ。そして国の大事でもある。 ルイズはどんな時でも、貴族たらんとするのだから。 決死行と思った旅だったけれど、頼もしい同行者が居た。 魔法衛視隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵。ルイズの婚約者にして風のスクウェアメイジ。 彼は強く、優しく、ルイズの旅を助けてくれた。 ならず者達に襲われた時も、仮面のメイジに襲撃を受けたときも。 だから、彼の求婚を受けたのだ。 しかし、誓われた愛は即座に裏切られることになった。 ワルドは突然豹変しウェールズ王子を殺害し、アンリエッタの手紙を奪おうとした。 ルイズは止めた。それがルイズにとって当然のことだったから。 ワルドはルイズを説得しようと言葉を重ねたが、ルイズは決して首を縦に振らなかった。 彼女はどんな時でも決して屈しない心を持っていたから。 「残念だよ……。この手で、君の命を奪わねばならないとは……」 ルイズは嘆かなかった。助けを求める相手は居なかったから。 彼女は杖を構えて抵抗した。しかし雷撃が彼女の血液を沸騰させ、その意志も掻き消えていった……。 「ワルド……何故……」 強く、そして優しかったワルド。 何が彼をこんな風にしてしまったんだろう……。 ルイズは最後にそう思った。 命の灯が消えたルイズの体に、肌身離さず持ち歩かれていたコゲが溶ける様に染み込んだ。 ―――図書館世界にて (おい) どこからか声がする。 (起きろー) せっかく気持ちよく眠っていたのにうるさい、と思った。 しかし自分を起こす声が止みそうもないので、仕方なくルイズは起きることにした。 「……どこ?」 巨大な本棚。 本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚、本棚。 本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本、本。 ここに比べたら学院の図書館なんて小さな図書室のようなものだと思った。 何処からか響く時計の音。 規則的に響くその音がルイズの意識をはっきりさせていく。 「そっか。私、ワルドに……っていうことはここは天国?」 (自分が死んだら天国にいけると疑っていないところが凄いな) 「っ誰!」 掛けられた声にあたりを見渡すけれど、誰も居なかった。 それになんだか動き辛かった。 (俺だよオレオレ) 「だから誰よっ!?」 キョロキョロとあたりを見渡す。そしてふと頭上を見上げると―― 「キャッ」 ――そこには帽子のお化けが居た。 闇を塗り固めたように黒く、巨大な一つの目と、帽子の端に付いた刃が…… 「って、もしかしてイビル?」 (あーちがうちがう、それは俺じゃないよ。狩人だ。あと俺の名前はイビルじゃないから) 「違うの?確かに大きさとか違うし、イビルみたいにぼろっちくないけど……」 (ぼろっちぃとは酷いな。あとイビルじゃないから。そんな黒歴史な名前でよばないでくれ) ルイズをその一つ目でじーっと見ていた帽子のお化けは、やがて興味をなくしたように飛び去っていった。 「あ、行っちゃったわ」 (ふー、行ってくれてよかったよ。お前俺を着てなかったら大変なことになってたぞ) 「着る?」 なんのことだろう、と思ったところでルイズの目の前には手鏡があった。 都合よく、脈絡なく。 しかし何故?と思うことは無かった。 鏡に映った姿に疑問なんて吹っ飛ぶほど驚いていたから。 「小さくなってる!?」 ルイズは、手鏡に全身が映り込むほど小さくなっていた。 そして、目元だけを覗かせて全身が黒い布に包まれていた。 目元の上にはルイズの顔と同じほど大きい一つの目が開かれていた。 「ってアンタ!イビル!」 (だーかーらー、俺をそんな名前でよばないでくれよ) 「何よ、ご主人様が付けてあげた名前が気に入らないって言うの?じゃあどんな名前ならいいのよ」 (一応、コゲ……と呼ばれてる) 「何よそれ。見たまんまだし情けなさ過ぎるわよ!」 (気にしてるんだからほっといてくれ。邪○眼よりましだよ) 「なによ!」 納得いかないわ。私が考えてあげた名前がそんなのに。とぶつぶつ文句を言うルイズ。 (まぁとにかく、俺の名前はコゲだから。以後よろしく) 「仕方ないわね。名乗るのが遅すぎるけど許してあげるわ。感謝なさい!」 (へーへー) カチ、カチ、と針を刻む時計の音だけがこだまする図書館世界に、とぼけたやりとりを響かせるルイズとコゲ。 「って、アンタの名前なんてどうでもいいのよ。何でアタシがこんなに小さくなってるの!?」 (あー、それは君の存在なんてこの世界ではその程度のもんだー、ってこったよ) 「何よそれ!」 (というか、俺を着てなかったら意識を保つ事すらできないんじゃないかなー) 「……どういうことよ」 コゲがルイズに説明をする。 ここは世界と世界を繋ぐ世界、図書館世界であること。 ここに収められた本の一冊一冊が、それぞれ個別の世界であるということ。 ルイズが死んだ事。 本の世界で死んだ者は図書館世界に来て、地獄だか天国だか来世だかの世界へ移動すると言う事。 「そっか。やっぱり私、死んじゃったんだ……」 (そうだなー) 「で、私はこれからどこへいくの?天国ってどこにあるの?」 (やっぱり自分が天国へ行く事は疑ってないのかよ。っていうか、どこへだって好きなところにいけるぜ) 「え、どういうこと?」 (普通、図書館世界では人間は意識を保てない。行くべきところへ勝手に行くだけさ。 もし強大な意志とかがあって、意識を保てても狩人がそれを許さない。ここで自由に振舞う存在はすぐに刈り取られる) 「狩人ってさっきの?」 (そう。ちなみに俺も狩人だ、ハグレだけどな。だから俺を着ていれば狩人に襲われないし、この世界で自由に動けるってわけ) 「そうなんだ。アンタって無能な役立たず使い魔じゃなかったのね」 (酷いな、これでも結構凄い存在なんだぞ) 「手も足も口も無いくせに。それに自由に動けるって言ったって、天国に自分で行けるぐらいの役にしかたたないじゃないの」 私はどうせ天国行きだったから意味が無い、とルイズは言う。 (そんなこたーないぞ。元居た世界に戻る事だって簡単にできる) 「え?それって……」 (生き返れるってことだ) 「うそ!?」 死。 抗えないそれによって生まれた諦めから、図書館世界のことや使い魔のことなども受け入れることができていたルイズだったが、生き返ることができるとなれば話は別だった。 「あ、アンタそれどれだけ凄い事かわかってるの!?」 (だから凄いんだってば) (お、落ち着いて。落ち着くのよルイズ) すーはーと深呼吸するチビるいず。 コゲの切れ目から垂れ下がる桃色の髪が揺れた。 ルイズは必死になって生き返ることができる、と言うことを考えた。 「生き返っても、又すぐに殺されちゃうんじゃないかしら?」 (ああ、あの時にもどればそうだな。嫌だったらもうちょっと前に戻ればいいさ) 「前って?」 (本のページを戻せば、その世界の時間が進む前に戻れるよ) 「な、何よそれ!?」 (もっとも、オレを媒介にしてるからルイズが戻れるのは俺を召喚したところまでだけどな) 「……むちゃくちゃだわ。むちゃくちゃすぎるわ」 (だから凄いんだって) ルイズは次々明かされる事実に理解が追いつかなかったが、それでもなにやらとんでもないことであるのはわかった。 「つまり、アンタがいれば幾らでも生き返れるし時間を戻せる……ってこと?」 (基本的にはねー。ただあんまり無茶やってると狩人に狩られちゃうかもな。さっきは手を出されなかったけどさ) 情報をかみ締めるように思考する。 たとえ限定的であっても、これはすごい力だ。役立たずどころか、究極の使い魔だと言っても良い。 そう思うとルイズはその薄い胸の奥から、やる気が滾々と沸いて出るような気がした。 「遣り残したことがあるのよ。やらなきゃいけないわ」 アンリエッタの手紙を取り戻さなきゃならない。 ウェールズ皇太子を助けなきゃならない。 魔法を使えるようになって、皆に認めてもらいたい。 (あー、がんばってくれ) 「? 何言ってるのよ。アンタも手伝いなさいよね」 (でもオレ自分じゃ動けないからさー、世界の中じゃ声も聞こえないみたいだし……) 「やり直しのチャンスはくれるけど助力はあてにするなってこと?」 (助けられることがあれば助けるけどさ。まー、何もできないんじゃないかな。せいぜいここで相談にのるくらいだなー) 「何よ、役に立たないわね」 (なっ!?) 喚くコゲを黙殺してルイズは考えた。 やり直しが聞くとはいえ、ワルドの裏切りに自分だけで対処することなどできるのか? それはとても困難な道に思えた。 (くそ。確かに実際の手助けはできないけどさ、他にも誰かの助けを借りるとかしてみると良いんじゃないか?友達とかさ) 「友達なんて……」 誰かの力を借りる、と言う案は良く思えた。 事情を話せば力になってくれる人もいるだろう。 (いないって?でもこれから作れば良いじゃないか。キュルケだっけ?あの赤髪の子とか、ルイズのことを気にかけてるように見えたけどな) 「キュルケですって!?だめよあんなの!」 ルイズの脳裏に、つい先日のことのように悔しさをかみ締めた日のことが思いだされた。 コゲをまとったチビるいずが、だんだんと地団駄をふむ。 (誤解とかもあるしさ。話し合ってみれば案外ってこともあると思うけどなー) 「ふん!ツェルプストーの女なんか願い下げだわ!」 そうは言ったものの、ルイズはあまり粘性の怒りを持つ性質ではなかった。 使い魔の優劣にしたところで、今ではキュルケのフレイムなんかに負ける気はしないので、相手があやまるなら話をきいてやってもいいかな、程度には思っていた。 時間をもどせば何もないのだから、謝るも何もないのだが……。 「それじゃ、あんまり長居して狩人っていうのに目を付けられても困るし、行くわよ」 (おう。そこに栞がさしてあるから、そのページに飛び込めばいいさ) 「……、重いじゃないの!」 相対的に巨大サイズの本を、ちびルイズはえっちらおっちらページをめくる。 栞が挟まったページを開くと、ぜぇぜぇと呼吸を整える。 「もう、勢いつかないわね。じゃあ行くわよ!」 (おー!) ぴょんとページに飛び乗ると、ルイズとコゲは光の沫となって本の中込まれたのだった。 ゼロと帽子と本の使い魔 1週目END
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8195.html
前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 「アルビオンか……」 空に向かって昇り始めた朝日を全身で受けながら、柊は切り立った崖の端に立っていた。 眼下に広がっているのは霧のように立ち込めた雲と、その隙間に垣間見える青色。 この崖の底は存在しない。 あるのは今彼の天上を覆っているのと同じ空であり、そこから更に数千メートル下にある海面が底と言えば底なのだろう。 浮遊大陸アルビオン。 ファンタジー世界ここに極まれりといったそれを実際眼にしそこにたっている事に、柊は少なからずの感動と興奮を覚えていた。 「凄えな――」 嘆息交じりに柊はそう呟き、 「――シルフィードは」 振り返って少し離れた場所にぶっ倒れているシルフィードを見やった。 結局あれからシルフィードは何かに取り憑かれたように空を走り続け、ついには柊達の駆る箒の後塵を拝する事なくアルビオンまで到達したのだ。 ……もっともそれは柊の方が一旦性能の差を見せ付けて溜飲を下げたので、あえて抜こうともしなかっただけなのだが。 ともかく箒との勝負に勝利を収めたシルフィードではあったが、その代償は大きかった。 一時も速度を緩める事なくアルビオンまでの距離・高度を一気に飛んできたため疲労の困憊具合が著しく、柊が遠目から見てもそれとわかるくらい激しく身体が上下している。 ひゅうひゅうと掠れた呼吸音まで聞こえる始末だ。 「スピードの向こう側にあるゼロの領域を垣間見たのね、きゅいぎゅっ……ダメ、吐きそう……」 「……馬鹿」 息も絶え絶えに小さく漏らすシルフィードに、すぐ傍に腰を下ろしていたタバサは嘆息しつつもどこか嬉しそうに言って頭を軽く撫でる。 くすぐったそうに眼を細めて主人の労りを受けるシルフィードの下に、柊がゆっくりと歩み寄ってきた。 「大丈夫か?」 「……!」 するとシルフィードは途端に牙を向き出し、威嚇するように尻尾を振り回して柊を睨みつけた。 そして彼女は小さく唸りを上げた後、柊に向かって言った。 「……あんたなんかにお姉様は渡さないのね」 「いや、取りゃしねえって……」 嘆息交じりに柊は返したが、シルフィードはそれでも収まりがつかないらしく翼を手足のようにばさばさとバタつかせて叫んだ。 「あんな棒っきれよりシルフィードの方がずっと速いんだから! お姉様の使い魔はシルフィードなのね! お姉様が乗っていいのはシルフィードだけなんだから!!」 「わかったわかった、俺が悪かったよ……!」 頭をかきながら柊がそう言うと、シルフィードは満足気にふんと鼻を鳴らして再び身体を大地に横たえた。 そんな彼女を見ながら、柊がぽつりと漏らす。 「なあシルフィード、一つだけ言っていいか?」 「きゅい?」 「……お前、喋れたのな」 「……………………あっ」 シルフィードがはっとして呻いた。 沈黙がしばし場を支配し、ややあってシルフィードは厳かに口を開いた。 「……あ、あっしはお姉様に作られたガーゴイルなのでやんす」 「なんで三下口調になるんだよっ!?」 柊が思わず突っ込んだが、次の瞬間シルフィードから視線を反らしてうっと息をのんで黙り込んだ。 それにつられてシルフィードもそちらに眼を向ける。 そこには、 「……」 恐ろしいまでの無表情でシルフィードを睨みつけるタバサがいた。 「ヒぃっ、ひぃ!? あ、お、お姉様っ、これは違うのね! やむにやまれぬ事情というか、言っておかなきゃいけないというか!! とにかくそんな感じで……!!」 「……」 「お、落ち着いてお姉様!! あっしの話を聞いて欲しいでやんすのね!!!」 「混ざってる混ざってる、三下口調が混ざってる!」 柊の突っ込みも聞こえないらしくシルフィードはガタガタと震えながらタバサに擦り寄った。 タバサはそんなシルフィードを今までにないほどの完璧な無表情で見据えた後、杖を手にゆらりと立ち上がる。 シルフィードの顔が恐怖に染まった。 ※ ※ ※ きゅおぉーーーーーーーーん…… シルフィードの悲痛な叫びを背後に受けながら柊とタバサは箒でアルビオンの上空を走っていた。 「いいのか、置いてきて……」 「構わない。回復すれば勝手に来るだろうから」 タバサはシルフィードに何もしなかった。何もせずに完全放置して柊を促し出発したのだ。 シルフィードはタバサにかなりご執心のようだったので恐らく一番キツい仕打ちだともいえよう。 主がそうするといった以上柊としてはそれ以上何も言えなかった。 ともかく、柊達はそうして哀れな風竜を置き去りにしてその場を離れ、辿り着いた現在地を知るために近隣の村なり町なりを探し始めた。 「……シルフィードが喋れること、他の人には言わないで欲しい」 眼下に広がる山野を眺めていると、タバサが柊に向かって声をかけた。 「喋る竜は珍しいのか?」 使い魔になった犬やら猫やらは人語を解し一部は喋れるようになるらしいという事は柊も知っている。 アルビオンに行くまでと違いさほど速度を必要としないため、今は柊の後ろに同乗しているタバサは小さく頷いてから言葉を続ける。 「絶滅した、とされているくらいに珍しい。だから、知られれば面倒な事になる」 「なるほどな。わかったよ」 「ありがとう」 ぽつりと呟いた彼女に軽く頷いて答えると、柊は改めて周囲を見渡した。 この場所はアルビオンの完全に端であり、流石に空に浮かぶ断崖絶壁の周辺で生活を営む村落などはないようで見渡す限り緑ばかりだ。 内陸に入ってしまった後で岸壁沿いに行けば港に辿り着いただろうことに気付き、柊は小さく舌打ちした。 「引き返すか……」 箒なら引き返して改めて岸壁沿いに向かうのもそう手間ではない。 するとタバサが背中を軽く叩いて遠目に見える大きな山を指差した。 「あの山沿いに北に向かって。そうしたらおそらく北西に向かう街道にあたる。後は道なりに進めば主街道に合流する」 「わかるのか?」 「地図でしか見たことないけど、多分合ってる。かなり南の方に着いてる……と思う」 「了解」 言って柊は機首を回して少し速度を上げると、タバサの指示通りの進路へと向かう。 やがて彼女の言った通りの街道を遠くに見つけると、なるべくそちらに寄らないようにして道に沿うように箒を走らせる。 人がさほどいない山野ならばともかく街道ではそれなりに人が通るため、自分達の立場を考えるとあまり人目につかない方がいい。 まして飛んでいるのが竜などといった騎獣ではなく箒ならなおさらだ。 更にもう少し進んで今までのそれより更に広い主街道が確認できる場所まで行くと、柊は一旦箒を止めて上空で浮遊したままタバサを振り返った。 声をかけるまでもなく柊の意図を察したタバサが遠目の主街道をなぞるように指を動かす。 「西に行くと工廠の港町ロサイス。北に行けばシティ・オブ・サウスゴータ。そこから北東に首都のロンディニウムがあって、ニューカッスルはその更に北」 「てことはこのまま真っ直ぐ北に行けばニューカッスルには行けるか……?」 アンリエッタから依頼を受けた際に、王党派は現在ニューカッスルに追い詰められているという情報を得ている。 だが、この世界の情報伝達とその誤差がどの程度あるのか定かではない。 戦地を移しているのかもしれないし――あるいは既に敗北し戦争が終結してしまっている可能性もゼロではないだろう。 ならばまずやるべきは現地での情報収集だ。 「……そのシティ・オブ・サウスゴータ辺りか?」 戦地直近のニューカッスルと王都だけに現状ではレコン・キスタの本拠地となっているだろうロンディニウムは色々調べ回るにはかなり危険度が高い。 適度に離れているシティ・オブ・サウスゴータならばいくらか動きやすいはずだ。 柊が尋ねるとタバサはさほど間をおくでもなく「妥当」と頷いた。 やはり彼女はルイズやキュルケと毛色が違って『現場』向きであるらしく、柊としても非常にやりやすい。 二人を乗せた箒は光の尾を引いてアルビオンの空を北に駆けていった。 ※ ※ ※ 「もうだめだっ!!」 陽が中天を過ぎた頃、サウスゴータの中央広場にある噴水を臨むベンチに座り込んで柊は頭を抱えた。 数時間前にこの街に辿り着いた二人は、街の手前で箒から降りると別々の入り口から街へ入り手分けして情報収集をすることにしたのである。 そして柊が得た情報は要約すると二つ。 戦況はレコン・キスタ――国内では貴族派と呼ばれている――が圧倒的に優勢なこと。 王党派はニューカッスルに追い詰められていること。 ……つまり、学院でアンリエッタから得た情報以外は何もわからなかった。 「やっぱシティアドベンチャーにはシーフ職なりエクスプローラー職が必須だったか………」 などと意味不明な事をぶつぶつ呟きながら地面を見つめていると、ふとそこに影が差した。 見上げればそこにタバサが立っていた。 眠たいのか呆れているのか半眼で見つめてくる彼女に、柊はおずおずと尋ねる。 「ど、どうだった?」 「……それなりに」 タバサが言うと柊は歓喜の表情を浮かべて立ち上がり彼女の諸手を取ってぶんぶんと振り回した。 「よくやった! 助かった、ありがとう! お前がいてくれてよかった、マジで!」 「……」 今度こそ呆れた表情を浮かべたタバサは小さく嘆息すると、彼の隣に腰を下ろして得てきた情報を話し始めた。 話が進むにつれようやく柊も本来の表情を取り戻し、彼女が報告を終えると少しの間沈黙してから呟いた。 「……それはおかしいな」 「おかしい」 柊の呟きにタバサも首肯する。 仕入れた情報によると王党派は一週間ほど前にニューカッスルの外れ、大陸の端にある城にまで追い詰められたという事だ。 一週間も持ちこたえているのだから存外に王党派が食い下がっている――と言いたいところなのだが。 情報を仕入れていくほどに明らかにこの状況はおかしい事がわかったのだ。 追い詰められた王党派の戦力は現在恐らく五百は上回らないだろうという話だ。 一方追い詰めている側のレコン・キスタ――貴族派は反乱を起こして以来国の内外から無節操に戦力を取り入れ、今では三万とも四万とも言われている。 ……もはや趨勢を語るのが馬鹿々々しいほどの戦力差だ。 極端な話突撃命令を下しさえすれば、後は指揮官が寝ていても勝利が転がってくるレベルの話である。 にも関わらず依然として王党派は今だ残存しており戦況が膠着している。 「万単位の軍隊なんて維持するだけでも馬鹿にならねえってのにな……」 タバサが話を聞いた傭兵達などは何もしないで食い扶持が稼げると深く考えもせずに喜んでいたそうだが、生憎彼女と柊にとっては喜べる状況ではない。 「……つまり、そんな馬鹿にならない事をやってでも王党派を残しておく意味がある、ということ」 彼女の言葉を否定する材料がないため柊は嘆息を返す他になかった。 自分達が今ここにいる理由を鑑みればその意味は簡単に行き当たってしまうからだ。 このアルビオンでの勝利はもはや覆ることはない。ゆえに彼等の視線はその先――対トリステインを見据えているのだろう。 ゲルマニアとの同盟を阻止するために必要とされる、アンリエッタの手紙。 ものがものだけに王党派を攻め落としてその残骸から探し出すのは極めて不確かで効率が悪い。 よってあえて攻めることをせず、潜入なり何なりをやってどうにか入手しようと策を練っているといった所だろうか。 「そうなるとこっちとしても急がないといけねえんだけど……」 こちらには入手そのものに関してはアドバンテージがあるとはいえ、向こうは既に状況を構築して約一週間が経過している。 できる限り急いで王党派に接触するべきなのだろうが、柊が調べた限り彼等の尻尾すら見出すことができなかった。 期待交じりにタバサをちらりと見たが、やはりというべきか彼女も首を左右に振った。 「……陣中突破しかねえか」 ある意味依頼を受けた時点でほぼ唯一の方法ではあるのだが、正直情報を仕入れた今では更に気が進まない手法だ。 箒の機動性があれば戦陣を抜くことも追っ手を振り切ることもさほど難しい事ではない。 問題はそれによって自分達――外部の者が王党派に接触したことがレコン・キスタに知れてしまうという点である。 この状況でそんな事態が起こればその接触の意味は悟るに十分だろうし、そうなると下手をすれば敵の攻勢を招く恐れすらあるのだ。 「夜になって?」 「いや、飛ぶ時の魔力光は隠せねえから逆にバレる。もうちょっと経って夕陽に紛れて行くのが一番いいだろ。まあ遅かれ早かれってレベルだけどな……」 嘆息交じりに言って柊はベンチから立ち上がり噴水で軽く手を洗った後、タバサを振り返った。 見やれば彼女はベンチに座ったまま、僅かに表情を硬くしてじっと柊を見やっている。 ――いや、正確には柊を見ているのではない。 柊の後ろにある噴水、その更に向こうにある露天の雑踏を見据えていた。 「どうした?」 「……」 柊が尋ねるとタバサは音もなく立ち上がり、その露天通りの方へと歩き出した。 付いて来い、とでも言う風に袖を引かれて柊も彼女の後に続く。 この大陸で起きている戦争ももはや終結に近いというだけに街の露天はさほど重たい空気はなく多くの街人達が賑わっていた。 中には傭兵然とした者達やフードを被り素性を隠している者も少なくない。 どうやらタバサはそんな素性の知れない何者かの後を追っているようだった。 尾行を始めて間もなくタバサが追っている相手がほぼ特定できた。 フードを目深に被って顔を隠し、ローブを着込んでいる人間。 その動きや所作からして、おそらく女。 先を行く彼女は向こうから歩いてきたガタイのいい傭兵と肩がぶつかり、僅かによろめく。 ぶつかった事にも気付かずに歩いていくその傭兵に、彼女は振り返りざまに睨みつけて小さく舌打ちした。 「……!」 その時に僅かに覗いた女の顔を垣間見て、柊はタバサが彼女を追っていた理由を理解した。 その女は眼鏡をかけていた。振り返るときにちらりと、翡翠色の髪が覗いた。 改めてみれば、確かにその動作には見覚えがある。 と、女は不意に脇道にそれて路地裏の方に入っていった。 「バレた」 「だな」 言って二人は頷きあい、歩を速めて路地裏へと足を踏み入れた。 路地裏の常というべきか、表の喧騒が別世界のように静まり返ったその道の奥。 待ち受けるように女がそこに立っていた。 彼女はかけていた眼鏡を外すと、猛禽のような鋭い視線を柊達に向け―― 「あ?」 少し間の抜けた声を出した。 次いで彼女は見るからに動揺を露にし、信じられないものを見るような表情で口をぱくぱくさせた。 「な、なんでお前がここに……!」 「それはこっちの台詞だ。なんであんたがここにいるんだよ、ロングビル先生……いや、フーケって言った方がいいのか?」 深く息を吐きながら言った柊に、彼女――フーケは忌々しそうに顔を歪めた。 ※ ※ ※ 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5632.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 ――それから数時間後… 未だ何をするでもなく、青空を見上げていたジャンガは突然の事に何が起こったか解らず、怪訝な表情をした。 「ンだ?」 短く呟き慌てて身を起こしたジャンガは左目を擦る。 まるで真夏の陽炎の如く、左目に映る景色が揺らめきだしたのだ。 初めは妙な事を考えて精神的に疲れた所為だろうと思ったが、左目を幾ら擦っても視界の揺らめきは止まらない。 それどころか、ますます視界は歪んで行く…と思いきや、今度は歪みは徐々に収まりを見せていく。 そして、歪みが消えた時、左目は右目に映る光景とはまるで違う光景を映し出していた。 そこは大きな広場のような所だった。周囲は森に囲まれ、人家などは見当たらない。 遠くには屋根の吹き飛んだ小屋のような物が見えた。 だが、それより目が行ったのは、その小屋の前に立ち尽くした巨大な人型だった。 見間違うはずも無い…それは自分があの時、仕留め損ねたフーケの操るゴーレムだ。 と、屋根の吹き飛んだ小屋から竜巻が飛び、続いて火炎が飛ぶがゴーレムはそれらを意にも介さない。 すると、視界が急に動き出した。自分の意思とは別に動くそれはまるで別の誰かの視界であるかのような…。 (別の誰か?) 高くなったかと思うや一瞬だけ視界は下を向く。 その時、視界の端の方に見慣れた桃色の髪が見えた。 「オイ」 ジャンガはデルフリンガーに向かって声を掛けた。…が、デルフリンガーは返事を返さない。 「オイ」 もう一度言った。しかし、鞘から出てこようともしない。 「…オイッ!!」 三度目の怒鳴り声でようやくデルフリンガーは鞘から飛び出した。 「うわっと!?なんだい、相棒…俺を呼んでたのか?」 「テメェ以外に誰が居る?何で直ぐに出なかった?」 「いや……だって、さっきも相棒言ってたじゃねぇか…”話しかけるな”ってよ?」 「俺から呼んだ時は直ぐに出て来い…」 「解ったよ……それで?なんだい?」 「…左目が変だ。あの”自称ご主人様”の視界が見える…。これが何か、テメェは知ってるか?」 「ああ…なるほどね。多分だが、使い魔の能力の一つだろう。…その娘っ子に聞かなかったか? 『使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられる』ってよ? まぁ…大抵は使い魔の見てる光景が見えたりするんだがよ。どうやら相棒の場合は逆のようだな」 ジャンガは徐に袖を捲くり、左手の甲を見た。ルーンが輝いている。 使い魔の能力と言うのはあながち間違いではないようだ。 (能力ねェ…、人の視界まで好き勝手しやがって…クソッ) 心の中で毒づくジャンガにデルフリンガーは尋ねた。 「それで、一体何が見えるんだい?」 「…ゴーレムとやりあってる真っ最中だ」 覗き見る視界の中、ルイズの声も聞こえてくる。 ルーンを唱え、杖を振ると小さな爆発がゴーレムの肩で起きた…が、それだけだった。 ゴーレムの巨体はビクともしていない。と、ゴーレムがルイズの存在に気が付いたのか、ゆっくりと振り向く。 三十メイルの巨体に睨まれ(と言っても顔のような物が在るだけだが)、ルイズは怯えるかのように小さく声を上げた。 ゴーレムが地響きを立てながら歩を進める。我に返ったルイズは慌てて杖を構えなおす。 そこに小屋から飛び出したキュルケの声が聞こえてきた。 「ルイズ、貴方何しているのよ!?早く逃げなさいよ!」 ルイズが歯を噛み締める音が聞こえる。 「いやよ!!」 「何強がりを言っているのよ!?大体貴方、魔法なんて何一つまともに使えないじゃない! それなのに、そんな巨大なゴーレムに適うわけ――」 「っ!?……私は貴族よ!」 声を張り上げて叫ぶルイズに、キュルケも視界を共有しているジャンガも目を見開いた。 迫り来る巨大なゴーレムを前にし、それでもルイズは凛とした態度で言い放つ。 「魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない、敵に後ろを見せない者を…逃げ出さない者を貴族と言うのよ! 私は敵に後ろを見せたり…逃げ出したりなんかしない!私は…」 そこで一旦言葉を切り、ゴーレムを睨みつける。 「私はゼロの…『悪夢』のルイズなんかじゃないんだからぁぁぁーーーーー!!!」 ゴーレムがその巨大な足を振り上げ、ルイズもまたルーンを唱えて杖を振る。 足が振り下ろされる前に、ゴーレムの胸の辺りで爆発が起きた。だが、やはり駄目だった。 僅かにゴーレムの身体を形作る土が零れ落ちただけだ。――そして、その巨大な足が振り下ろされた。 ルイズが目を瞑ったらしく、視界が真っ暗になった。 響き渡る轟音はゴーレムの足が地面に振り下ろされた物だろう。音が聞こえているという事はまだ死んではいまい。 とルイズが目を開けたらしく、視界に光が戻った。その目の前にはキュルケの顔があった。 彼女がルイズを助けたのだろう。 「邪魔をしないでよ、ツェルプストー!!」 だが、ルイズはキュルケに向かって怒鳴り散らす。――瞬間、視界が横を向いていた。 ゆっくりと前へと向き直ると、キュルケがルイズを睨んでいた。おそらくは彼女がルイズの事を引っ叩いたのだろう。 「ヴァリエール…貴方の言いたい事は良く解るわ。私だって貴族だから…。 だとしても、今のは余りに無謀だわ。いや、無謀と言うのも馬鹿馬鹿しいわね。 貴族らしい死というのもあるわよ…、けれど今のはどう考えても犬死よ。 勝てないような相手からは逃げたって恥じゃないわよ」 真剣なキュルケの表情にルイズの高ぶった感情も急激に冷やされていったようだ。 ルイズは俯き、やがて静かに口を開いた。 「だって……私、いつも貴方や皆にバカにされていたし…。召喚できた使い魔もあんな奴だし…、 姫様にも迷惑を掛けちゃったし…、あいつに『悪夢』だの『疫病神』など言われたし…、 …挙句には姫様を…あんな風に言われて…凄く悔しくて…」 視界が歪んでいく。だが、先ほどの物とは違う……これは”涙”による物だ。 「ルイズ…」 キュルケの言葉にルイズは顔を上げ、見つめた。キュルケの顔は止めどもなく流れる涙に揺らめいている。 「ここで逃げたら…また皆にバカにされるじゃない…。あいつにだって…また舐められるじゃない…。 もしかしたら…姫様をまた悪く言うかもしれない…。だから私…絶対に逃げたりしたくないの…」 ――勿論、逃げる事は時には必要だと思うよ?自分にどうしようもない事なら尚更ね―― ――当然だな…―― ――でもね…私は、どうしようもなくても逃げたくない…引きたくないって事もあるの―― ――何だよ…?―― ――ん~?…あんたが化物呼ばわりされた時…とか?―― ジャンガの脳裏を昔が過ぎる。――そして、激痛。 「ぐっ!?」 「ど、どうしたい相棒?」 突然呻き声を上げたジャンガに、デルフリンガーは声を掛ける。 ジャンガはそれに答えずに左手を押さえ、ため息を吐いた。 「…はァ~…、クソが…。どうしてこうもあのガキは…俺を色々ムカつかせるんだろうな?」 広場では未だゴーレムとルイズ達の戦いが続いていた。 タバサはシルフィードに乗って空中からゴーレムを牽制し、キュルケと立ち直ったルイズもまた応戦する。 が、やはり状況はこちらに不利だ。このまま戦っていても勝ち目はあるまい。 キュルケは一時撤退を決意。ルイズも心底悔しそうにしながらも、キュルケに続いた。 タバサのシルフィードが地面に舞い降りる。 ようやく辿り着いたキュルケは背後で駆けて来るルイズに向かって叫ぶ。 「ルイズ!早く!」 「解っているわよ――きゃあっ!?」 突如、足を何かに掴まれた感触がし、ルイズは前のめりに地面に倒れた。 「痛つつ…な、何?」 慌てて視線を向ける。見れば、地面から生えた手が自分の足を掴んでいた。 ”アースハンド”…土を手に変えて対象を掴む土系統の魔法だ。これもフーケの仕業だろう。 ルイズは慌ててその手を外そうとするが、足をガッチリと掴んでおり簡単に外れそうもない。 と、自分の周りに影が落ちた。見上げれば、そこには今にも振り下ろさんとされているゴーレムの豪腕が在った。 「あ…」 そんな言葉がルイズの口から漏れた瞬間、豪腕が振り下ろされた。 キュルケの声が聞こえた気がしたが、それも直ぐにゴーレムの豪腕が叩き付けられた轟音に掻き消された。 キュルケとタバサは呆然とその光景を見ている他はなかった。 地面に倒れたルイズの姿がゴーレムの豪腕の下に消え去るのを見ているしかなかった。 唐突にキュルケが膝から地面に崩れ落ちた。 「ル、ルイズ…」 「……」 呆然と友人の名を呟くキュルケに対し、タバサは何も言わない。だが、その唇は強く噛み締められていた。 「…三人でかかれば、何とかなると思ったか~?」 突然、横から聞こえた声にキュルケは顔を向ける。 そこにはこの場に居るはずのない、紫色の長身が立っていた。 「貴方…何でここに――ルイズ!?」 長身=ジャンガの腕に抱かれたルイズを見て、キュルケは声を上げる。 その声にルイズも気が付いたようだ。 「え、キュルケ?…私、潰されたんじゃ……って、ジャンガ!?」 「よォ、クソガキ。どうだ…?『もう死ぬ』っていう感じはタップリ味わえたかよ?」 ニヤニヤ笑うジャンガにルイズは顔を背けた。 「…何よあんた?今更出て来て…、何の用よ?」 「キキキ、ご挨拶だなァ~?俺はテメェの事を助けてやったんだゼ?もうちっと感謝してくれてもいいと思うがよ?」 「冗談じゃないわよ!いいから放して!」 暴れるルイズにジャンガは舌打ちをし、ルイズを抱き抱えている腕を放した。 ジャンガはそのままゴーレムの方へと進み出る。 「ちょっと…何するの?」 「キキキ、何かって?当然……この木偶人形を潰すんだよ」 「…何で?」 「キキキ、気まぐれさ…」 言い終わるや、ジャンガはゴーレム目掛けて駆け出した。 背中の鞘からデルフリンガーを抜き放つ。 「おう相棒、俺を使ってくれるのかい?相棒にはその爪があるから、俺の事は正直使ってもらえないかと――」 「お前…剣じゃ頑丈な方か?」 唐突な質問にデルフリンガーはポカンとする。 「あ?…ああ、まぁな。ちゃちなそこらの剣よりは頑丈だってのは保障するぜ」 「そうかい……なら、問題無ェな」 「へ?」 言葉の意味が解らないデルフリンガーを他所に、ジャンガはゴーレムの腕や身体を跳んで上っていく。 そして、ゴーレムの頭の上に立つと、そこから力一杯跳躍する。 ゴーレムを眼下に捕らえると、ジャンガはデルフリンガーを構えた。 「どうするんだ相棒?」 「…キキキ、テメェには鑿の代わりになってもらうゼ」 「あ?」 ジャンガは勢いをつけ、デルフリンガーをゴーレム目掛けて投げつける。 「お、おわぁぁぁぁぁぁーーーーー!!?」 突然の事に頭がついていかず、デルフリンガーは叫び声を上げながら、ゴーレム目掛けて飛んで行く。 ガギンッ! デルフリンガーの先端がゴーレムの左の手首の部分に突き刺さる。 「あ、相棒!?な、何を…って!?」 デルフリンガーが見上げた先では、ジャンガが彼を投げた反動を利用して高速で回転しているのが見えた。 そして、回転したままジャンガは突き刺さっているデルフリンガーへと突撃してくる。 「キキキキキ!オラァーーーーー!」 叫び声を上げながらジャンガは回転で勢いをつけた凄まじい蹴りを、デルフリンガーの柄の先端に放った。 衝撃が突き刺さったデルフリンガーの先端を通じて、ゴーレムの手首の中に直接叩き込まれる。 一瞬で罅割れが広がり、ゴーレムの左手は崩れ落ちた。 ジャンガは、土くれとなった左手とともに地面に落ちたデルフリンガーを拾い上げる。 一足飛びにその場を離れ、距離を取る。 「ほゥ?確かに頑丈だな、罅一つ無ェや…」 繁々と観察するジャンガにデルフリンガーは叫んだ。 「相棒!?今のはどう考えても滅茶苦茶だ!俺を杭かなんかの代わりにしてくれるなよ!?」 「ウルせェ…、使ってもらって嬉しいんじゃないのか?だったら文句を言うんじゃねェよ、ボロ刀!?」 「あぁぁぁぁぁ~~~……相棒、使ってくれるのは嬉しいが、もっと優しくにだね!?」 「黙れ……騒いでる暇は無ェみたいだゼ?」 「はい?」 ジャンガの視線の先ではゴーレムが地面の土を吸い寄せ、破壊された左手を再生させていた。 その光景にデルフリンガーは納得した様子。 「ああ、ゴーレムは操っているメイジの精神力が尽きない限りはな、ああいう風に再生するぜ?」 「…知っているなら最初に言いやがれ」 「まァ…それはそうとどうするよ?」 「ハンッ、再生するなら片っ端から砕いてやるさ!」 言うが早いか、ジャンガは再び駆け出した。 ジャンガは相手の攻撃をかわしながらデルフリンガーを叩き込み、蹴りを放って砕いていく。 一方で分身を生み出し、無数のカッターを投げつけて切り刻む。 しかし、ゴーレムも傷つく度に土をかき集めて再生していく。 ゴーレムの方の攻撃は当然の如く、掠りもしなかったが。――そんな攻防が暫く続いた。 ゴーレムの豪腕が何個目かのクレーターを地面に作った。 その場から飛び退き、距離を取る。そして舌打。 「チッ、メンドくせェ…」 「なぁ、相棒……お願いだからもうやめてくれ?今さ”ミシッ”って音がしたんだよ”ミシッ”て…。いやマジで…。 これ以上やられたら冗談抜きで折れちまう…頼むからもうやめてくれ。いや本当…お願いだからさ…」 デルフリンガーのそんな悲痛な訴えなど完全に無視し、ジャンガは考えた。 今のまま続けていても一向に事は進展しない。大本を叩けばいいのだろうが、その大本の姿が何処にも見えない。 (やっぱりあの時仕留めとけば楽だったゼ……クソッ) 心の中で毒づき、ジャンガは忌々しげにゴーレムを睨みつけた。 「何よ…?大口叩いて全然じゃないの、あいつ!?」 ルイズはイライラしながらジャンガを睨んでいた。 あれだけ自分を馬鹿にしておきながら、あいつはゴーレムを倒せないでいるのだ。 だが、ルイズ達の魔法にビクともしてなかったのを再生されているとはいえ、破壊しているのだから、 やはり凄いと言わざるを得ないだろう。事実、ゴーレムに再生能力が無ければ、既に跡形も無いはずだ。 しかし、ルイズにはそんな事はどうでもよかった。とにかく、何が何でもゴーレムを倒し、フーケを捕まえなければならない。 …それが、姫様に迷惑を掛けてしまった自分に出来る、唯一の謝罪なのだから。 では、今どうすればいい?…悩むルイズはふと”あれ”の事を思い出し、キュルケに訊いた。 「キュルケ、”あれ”、”あれ”はどうしたの?」 「”あれ”…って何よ?」 「『破壊の箱』よ、見つかったの?」 「『破壊の箱』?…ええ、それだったらタバサが――」 それを聞くが早いか、ルイズは立ち上がるとタバサに駆け寄る。 「タバサ、『破壊の箱』を!」 ルイズの意図を察し、タバサは杖を振り、シルフィードの背鰭に乗せていた『破壊の箱』を手元に引き寄せる。 それを見たルイズは眉を顰める。見た目は赤い箱のようだが、蓋のようなものが無いのだ。 何処をどうすれば開ける事が出来るのか皆目見当が付かない。しかし、今の現状を打開できるのはこれ以外に無い。 「もう、どうすれば開くの!と言うよりも、これ本当に箱なの!?」 「ウルせェな…あのガキ――」 そう言って振り向いたジャンガは怒鳴りつけようとして――目を見開いた。 ルイズがイライラしながら弄っている物は赤い箱のような形をしている。 間違いなく、あれが『破壊の箱』だろうと直感し――同時に驚いた。 「あれは…」 だが、直ぐに口元に笑みを浮かべ、ルイズの所へ向かって走った。 駆け寄ってきたジャンガにルイズ達は顔を向ける。 「な、何よ?」 「キキキ、ありがてェ。これなら、楽勝じゃねェかよ!?」 言いながらルイズ達から『破壊の箱』を奪い取る。 彼女達の抗議の声が聞こえたが無視。『破壊の箱』を使用できる状態にする為、あれこれ操作をする。 安全装置を解除し、収まっていたグリップを引き出すと、箱の片方の断面がブラインドのように開き、発射口が露になる。 その一連の光景をルイズ達はただ、呆然と見ているしかなかった。 グリップを握り、肩に『破壊の箱』をかけ、発射口をゴーレムに向ける。 「キキキ、目に物見せてやるゼ」 笑いながら引き金に爪を掛け…… ――だから私…絶対に逃げたりしたくないの…―― ――どうしようもなくても逃げたくない…引きたくないって事もあるの―― ――脳裏を過ぎった桃色髪の二人の少女の顔に、引き金を引こうとした爪が止まった。 「チッ…」 舌打ちをする。引き金を引けばそれですむ…、だがそれを何故か出来ない…躊躇ってしまう。 徐に後ろのルイズを振り返る。唐突にこちらを見たジャンガにルイズは一瞬怯む。 「な、何よ?」 「……」 ジャンガは無言のまま、肩にかけていた『破壊の箱』を下ろすと、ルイズに向かって差し出した。 突然の事にルイズは怪訝な表情でジャンガを見る。と、ジャンガが口を開く。 「…テメェがやれ」 「え?」 言われた事が理解できず、間の抜けた声が口から漏れる。 「テメェ…『悪夢』じゃないんだろ?だったら、それを証明してみやがれ。それを撃ってな…」 「う、撃つ?」 「ああ、それはまァ…言ってみれば銃のデカイやつだ。…そう思え」 「銃!?これが!?」 ルイズは目を見開き、正に仰天といった表情で『破壊の箱』を見る。 「そこの引き金を引けば、その穴から弾が出る…、威力抜群なやつがな。そいつをあのゴーレムに撃ち込んでやれ」 「そ、そんなの…貴方がやればいいじゃない!?何で私に…」 「…いいからやれ」 そう言ったジャンガの顔にはいつもの嘲りの色は無い。 そんな彼の言葉にルイズは静かに頷いた。 「よし…、俺があいつに一発食らわせる。そうしたら、その『破壊の箱』をぶっ放せ。 ――あんな木偶位倒して見せろよな。『悪夢』や『疫病神』じゃないならよ~?」 「当然よ!!!」 叫びルイズはジャンガが先程やっていたように『破壊の箱』を肩にかけ、グリップを握り、発射口をゴーレムに向ける。 「キキキ…上出来だ!」 叫び、ジャンガは駆け出した。 駆けながら例の三体の分身を生み出す。 目にも留まらぬ動きでゴーレムに駆け寄る。 一斉に爪を振り翳し、ゴーレムと擦れ違いざまに切り付ける。 無数の切り傷が胸に走り、ゴーレムは怯んだ。 その瞬間、ルイズは『破壊の箱』の引き金を引いた。 大きな音がし、白煙を引きながら四発の小型ミサイルが飛ぶ。 四発の小型ミサイルがゴーレムの身体に吸い込まれる。 直後、巻き起こった大爆発にゴーレムは粉々に砕け散った。 粉々になったゴーレムの破片が降り注ぎ、小山のように積みあがる。 そんな中、撃ったルイズはおろか…その様子を見守っていた、タバサとキュルケ(と、シルフィード)も驚きを隠せなかった。 「何よ……これ、銃なんて比べ物にならないじゃない…」 呆然としながら、思わず落としてしまった『破壊の箱』を見ながら呟く。 今の大爆発はトライアングル…いや、下手をすればスクウェアクラスの炎の魔法に匹敵、或いは凌駕するかもしれない。 それほどまでに、今の大爆発の威力は圧倒的だった。 呆然とするルイズ達の所にジャンガが歩いてきた。三人は一斉に彼を見る。 「キキキ、やりゃ出来るみたいだな……正直、以外だぜ」 「ふ、ふん!こ、これぐらい…と、当然でしょ!」 まだショックから立ち直れていないルイズだったが、ジャンガの言葉に胸を張り、精一杯の虚勢を張って答える。 と、ゴーレムの残骸である土の小山を見ていたタバサが口を開く。 「フーケはどこ?」 その言葉にルイズとキュルケは顔を見合わせ、ジャンガは帽子を押さえながら舌打ちをする。 その時、ルイズの傍らに落ちていた『破壊の箱』を誰かが拾い上げた。 辺りの偵察に出ていたミス・ロングビルだった。 「ふふ、ご苦労様」 ミス・ロングビルは微笑みながらそう言い、拾い上げた『破壊の箱』を見つめる。 「ミス・ロングビル…今まで何処に?」 ルイズの問いかけには答えずミス・ロングビルは、すっとその場から遠のくと、四人に『破壊の箱』を突きつけた。 「何を!?」 「動かないで!『破壊の箱』はピッタリあなた達を狙ってるわよ?」 「ミス・ロングビル…貴方は?」 キュルケの言葉にミス・ロングビルは『破壊の箱』を構えたまま、後ろで纏めていた髪を下ろし、眼鏡を外す。 その目付きが猛禽類を思わせる、鋭い物に代わった。 「さっきのゴーレムを操っていたのは私…、『土くれ』のフーケよ」 自らの正体を明かしたフーケに、ジャンガを覗いた三人は目を見開く。 フーケは『破壊の箱』を構えながら叫んだ。 「全員杖を遠くへ投げなさい!」 悔しそうに唇を噛み締めつつも、言われたとおりに三人は杖を放り投げる。 「使い魔の貴方は、その背負った剣と両手に付けた爪を外してもらおうかしら?」 「あ~…そりゃ無理だな」 「どういう意味かしら?」 「剣はいいんだがよ…」 言いながらデルフリンガーを鞘ごと地面に下ろす。そして袖を捲くってみせた。 「爪は無理だな…。――どうだ?」 袖が捲くられて露になった右手。…それは奇妙な物ではあった。 指と思しき物が無く、代わりに爪が直接手から生えているのだ。爪が指の代わりに生えている種族など、ルイズ達は知らない。 もっとも、ルイズは彼を召喚して間もない頃に看護した時、シエスタと共に彼の手を見ているので驚きはしなかったが。 「この爪は俺の身体の一部なんでな…外す事なんか無理なんだよ、キキキ」 『破壊の箱』を突きつけられているにも拘らず、ジャンガは余裕の表情で笑う。 「変わった手を持ってるね?私のゴーレム相手にも引けをとらない強さを持ってるし…、まさに”化物”じゃないさ」 ――何だこれは!?―― ――まぁ…気色悪い―― ――やーい、やーい、ばけもの、ばけもの!―― ギリッ、奥歯を噛み締める音が響く。 「まぁ、別にいいけどね」 「どうして!?」 ジャンガを鼻で笑うフーケにルイズが叫んだ。 「そうだね……ちゃんと説明してあげた方が、悩み無く楽に死ねるだろうしね」 そう言い、フーケは妖艶な笑みを浮かべる。 「この『破壊の箱』…盗んだはいいけど、使い方がまるで解らなかったからね。 魔法学院の誰かを連れてくれば、きっと旨い事使ってくれると思ったのさ。 まぁ、教師じゃなくて生徒だったのは予定外だったけどね…」 「それで…」 「私達の誰も知らなかった場合、どうするつもりだったの!?」 「その時はゴーレムで全員踏み潰して、代わりに誰かを連れてくるだけよ。 まぁ、そこの亜人の使い魔君がちゃんと教えてくれたからね、感謝してるわ」 「……」 ジャンガは答えない。 「ふん、まぁいいさ。じゃあ、短い間だったけれど楽しかったわ。向こうへ行っても元気でね…、さようなら」 そう言ってフーケは引き金を引いた。――何も起こらなかった。 慌ててフーケは再度引き金を引く。やはり何も起こらない。 「どうして!?」 「単発式の使い捨てだからな…」 俯いたジャンガの静かな声がフーケの耳に届く。その声にジャンガへと向き直る。 「単発式だって?」 「ああ…一発撃ったらそれでおしまいさ。キ、キキキ…」 最後の方の笑いにルイズは妙な感覚を覚えた。 (何、今の?) ジャンガは静かに言葉を続ける。 「それによ…同じ盗むんだったら――」 「くっ!」 フーケは『破壊の箱』を投げ捨て、杖を握ろうとする。 「こーゆー、役に立つ物を盗むんだったな!!!」 BANG!!! ”銃声”が響き、フーケの身体が宙を舞った。 背中から地面に倒れたフーケは、右肩から大量の血を流している。 「あ、が…」 突然の事に、フーケもルイズ達も呆然とするしかなかった。ルイズは徐にジャンガを見る。 笑みすら浮かべていないジャンガのその手には、紅い色の大型の”銃”のような物が握られていた。 ジャンガは未だ硝煙が立ち上る銃を下げ、フーケの方へと歩み寄る。 「ハン!盗人風情が粋がってるんじゃねェよ!大人しくしてりゃ、好き勝手言いやがってよ…あン!!?」 BANG! BANG!! BANG!!! 立て続けに三発…、左肩、右太股、左太股へと弾が撃ち込まれる。 「ああああああ!!!?」 激痛に悲鳴を上げるフーケ。その口を塞ぐ様にジャンガは足を振り下ろす。 「あぶっ!?」 「ウルせェよ……クソアマが。…不愉快な事を思い出させてくれやがって」 何時の間にか、ジャンガは四人に増えていた。それが示すのは―― 「テメェにも地獄見せてやるよ」 問答無用、情け容赦の無い袋叩きが開始され、三分と経たずにフーケはボロボロの半死半生の状態にされる。 血みどろになり、僅かに呼吸音が聞こえるだけのフーケを見下ろしながら、ジャンガは手にした銃を向ける。 「向こうへの道先案内、ご苦労さん……だがよ」 両目を見開き叫ぶ。 「地獄の果てには一人で行きなァァァァァーーーーー!!!」 ZBAAAAAAAAAAAAAN!!! 銃声が響き渡った。 「…何の真似だ、テメェ?」 ジャンガは目だけを動かし、腕にしがみ付くルイズを睨みつける。 銃から撃たれた弾丸は、フーケの眉間ではなく…彼女の頭の数サント横の地面に減り込んでいた。 撃たれる瞬間、ルイズがジャンガの腕にしがみ付き、無理矢理に銃口の向きを変えたのだ。 「こいつは盗人で、テメェの事も殺しかけたんだゼ?…何で庇うんだよ!?」 「私達は『破壊の箱』の奪還とフーケを捕まえる為に来たの!殺しに来たんじゃないわ!」 「ハンッ、奇麗事を言うんじゃねェよ!」 「フーケは学院に連れて帰るわ、解った?」 「……」 「……」 暫し、二人はお互いに睨み合った。 やがて、ジャンガは舌打ちをして銃を懐へとしまい、踵を返した。 「何処へ行くのよ?」 「…帰るに決まってるんだろうが?」 その言葉が終わると同時に、ジャンガの姿はその場から消え去った。 その後、ルイズ達は半死半生のフーケと『破壊の箱』と共に学院へと帰還した。 『破壊の箱』は再び宝物庫へと収まり、フーケもまた最低限の応急処置を施されて城の衛士に引き渡された。 三人には王宮からの褒美として、ルイズとキュルケには『シュヴァリエ』の爵位が送られる事となり、 既に『シュヴァリエ』の爵位を持っているタバサには精霊勲章が授与される事になった。 喜ぶ三人が出て行った後、学院長質を訪れた者があった。…ジャンガだ。 「ちィとばかり、テメェに聞きたい事があってな…」 「何だね?」 オスマン氏の目の前の机の上に、懐から取り出した例の紅い銃を置いた。 それを見てコルベールが驚きに目を見開く。 「そ、それは、『紅の巨銃』ではないか!?」 「ほゥ?そんな風に呼ばれてるのか…、まァいい。まず聞きたいのは、こいつとあの『破壊の箱』の事なんだがよ…」 ジャンガは『紅の巨銃』=大型のハンドライフルを指し示し、オスマン氏に聞く。 「まず言うが…俺はここの世界の出身じゃ無ェ。こことは違う、別の世界の住人だ。 そして、こいつと『破壊の箱』は俺の世界の武器だ」 「それは本当かね?」 「嘘吐いてどうするよ?大体、こんな物がこの世界に存在してるのかよ?」 オスマン氏やコルベールは暫し考え、首を横に振る。 「だろうが?俺はあのルイズ嬢ちゃんの『召喚』で呼ばれたんだよ」 「なるほどのう…」 「こいつやあの『破壊の箱』…『ミサイルポッド』って言うんだがよ、どこで手に入れたんだ?」 「…『破壊の箱』は、ある亜人の形見なんじゃ」 そう言ってオスマン氏は遠い目をした。 「もう…三十年ほど昔かの…、森を散策していた私はワイバーンに襲われた。 その窮地を救ってくれたのが、私の命の恩人である亜人だった。 彼は『破壊の箱』とは別の…筒のような物でワイバーンを簡単に吹き飛ばすと、バッタリと倒れたのじゃ。 その亜人は見慣れない格好をしており、更に酷い怪我を負っておった。私は彼を連れて帰り、手厚く看護したのだが…」 「くたばったか…」 オスマン氏は寂しげに頷く。 「結局、彼が何処から来たのか…どのような種族かは解らなかった。 私は彼がワイバーンを倒すのに使った筒のような物を彼と共に墓に埋め、残った『破壊の箱』を王宮に献上したのじゃ」 オスマン氏の話を聞きながらジャンガは考えた。 三十年前とすれば、まだボルクが今ほど治安が安定しておらず、あちこちでゲリラ活動や内戦などが頻発していた時期だ。 そして、あのミサイルポッドは三十年前辺りまで使われていた使い捨てタイプだ。…時期はあっている。 おそらく、ワイバーンを倒したのに使ったと言うのは、筒のような形状から察するにバズーカの類だろう。 「こいつはどうした?これもその亜人が持っていたとか言うのか?」 ハンドライフルをオスマン氏に見せて尋ねると、オスマン氏は首を振る。 「それは違う。それはあるメイジが召喚の実験中に偶然に召喚した物でな…」 「ほゥ?」 そう言えば…”あいつ”は”今使っているのは二丁めだ”とか言っていた。…なら、これも間違いない。 「で、最後だが…」 そう言って、ジャンガは袖を捲くる。露になった左手を差し出し手の甲のルーンを見せる。 「こいつだ。このルーン…知ってるか?」 「このルーンか…知っておるよ。ガンダールヴのルーンじゃ」 「ガンダールヴ?」 「伝説の使い魔、神の左手ガンダールヴ……ありとあらゆる武器を使いこなす事ができたそうじゃ」 「武器を?」 確か、最初に身体が軽くなった時、あの気障ガキを痛めつけた時、自分は武器など持っていなかった。 …ならば、このルーンは自分の毒の爪を”武器と認識している”のだろうか? だとすれば、何も持たなくてもルーンの力が働いたのは説明が付く。 「フン、なるほどねェ。…どうして、俺なんかがそんな大層な使い魔なんかになったんだ?」 「解らん…解らん事だらけじゃ」 オスマン氏はため息を吐いた。 ジャンガは詰まらなさそうに鼻を鳴らすと、ハンドライフルを懐にしまう。 「こいつは、俺の向こうでの知り合いの物だ。…俺が持っていても問題無ェよな?」 「…いいだろう」 「キキ…そうかい?必要な事も聞けたし、もう俺は行くゼ」 それで話はお終いとばかりに、ジャンガは部屋を出て行った。 ――その夜… アルヴィーズの食堂の上の階にあるホールで、祝賀際が開かれた。 キュルケもタバサも着飾り、それぞれ楽しくパーティーを満喫しているようだ。 「まァ、俺には関係無ェがな」 「相棒も楽しんでくればいいのによ?」 「…今ここで圧し折られたいか?」 「ごめん、黙る。だから勘弁してくれ」 言いながらデルフリンガーは鞘の中に引っ込んだ。 ジャンガは鼻を鳴らし、シエスタが持ってきたワインをラッパ飲みする。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~!」 呼び出しの衛士の到着を告げる声が響き、ルイズがホールへの階段を上ってきた。 姿を現したルイズにジャンガは思わず「ほゥ?」と言葉を洩らす。 桃色の髪をバレッタに纏め、肘まで隠れる白い手袋と胸元の開いた白いパーティードレスに身を包んでいるその姿は、 宝石のような輝きを持っており、そこらの女なんぞ相手にならないような美貌を放っている。 そんなルイズの美しさに見事にやられたのか、散々『ゼロのルイズ』などとからかっていた連中が、 次から次へとルイズにダンスの申し込みをしてきた。 「…くだらねェ」とその様子を見ていたジャンガは呆れながら呟く。 ルイズはダンスを申し込んできた男子生徒の誘いを尽く断り、ジャンガの所へとやって来た。 「何してるのよ、こんな所で?」 「あン?別に何をしてようがテメェには関係無ェだろうが…」 そう言って再びワインをラッパ飲みする。 一気に飲み干し、息を吐く。と、照明が少し落とされ、音楽が流れ始めた。 大勢の生徒のカップルが音楽に合わせてホールで踊り始める。 「おい、始まったゼ?行かねェのかよ?」 「相手がいないのよ…」 ルイズは両手を広げてみせる。 「テメェが断ったんじゃねェかよ……ん?」 見ればルイズは自分に向かって手を差し出している。…と言う事は、 「オイ、何の冗談だ?」 「…冗談でやる訳無いでしょ。…踊ってあげても良いって言ってるのよ」 「…とうとう壊れたか?」 「っ!……も、勿論、今日だけよ!今日だけの特別なんだから!」 そう言って、ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げ、自分が決めたダンスパートナーに一礼する。 「私と一曲踊ってくださいませんか、ジェントルマン」 「……後悔すんなよ?」 ジャンガは左の爪を差し出す。ルイズはその爪を取り、ホールへと進んだ。 ルイズはジャンガの爪を軽く握り、向き合った。 「あんたは踊りなんてした事無いでしょうから、私に合わせ――」 「テメェが合わせろ」 「え?」 ルイズが驚く間も無く、ジャンガは右の腕をルイズの背中に回し、踊りだした。 その優雅さにルイズは驚きで頭がいっぱいだった。 「あ、あんた…こんな優雅な踊りが出来たの?」 「…まァな…」 「驚いた……ダンスなんて興味無さそうなのに」 「昔、ちょっとな…」 ――そこで、ステップを踏んで―― ――おい、俺は別に踊りなんざ―― ――うん…ジャンガ、やっぱり筋が良いよ。続ければ、プロのダンサーになれるかも…―― ――勘弁してくれ…。俺は踊りなんかには興味が無ェんだよ?―― ――いやだ~。私が踊っていたいの~♪―― ――ハァ~…―― 「……」 ぼんやりと遠く見つめるジャンガにルイズは小さく呟いた。 「ありがとう」 「…ン?」 「今日はあんたのお陰で助かったわ……本当に感謝しているから」 「俺はテメェを助けようなんざ――」 「解ってる!…それでもよ」 ジャンガの言葉を遮って叫ぶルイズ。その様子にジャンガも口を閉じた。 暫く静かに踊っていると、ルイズの方から話を切り出した。 「ねぇ…聞いてもいい?」 「あン、何がだ?」 「…その、マフラーの事」 ルイズはバツが悪そうにマフラーの色が変わっている所を見る。 ジャンガは暫く黙っていたが、やがて口を開いた。 「別に何も無ェ…ただのお気に入りだってだけだ…」 「そう…」 ルイズは寂しそうに俯いた。 「でも、いつかお詫びで、あんたに何かしてあげるわ。…このダンスだけじゃなんにもならないし、 第一…あんたは別に踊れるだけってだけで、踊りそのものには興味無いでしょうし…」 「いや…」 「え?」 ルイズは顔を上げる。ジャンガがいつものニヤニヤ笑いを浮かべているのが見えた…が、何故か不快な感じはしない。 「偶にはこんなのも悪くは無ェかもな…キキキ」 「そう…」 ルイズははにかむ様な笑みを浮かべた。 そんな踊る主人と使い魔を見ながら、デルフリンガーは呟いた。 「いやいや、おでれーた。主人のダンスの相手を務める使い魔なんざ始めて見たんでおでれーたが…、 相棒のようなのがダンスを踊れるってのは、もっとおでれーた!こりゃおでれーた!」 そんなデルフリンガーのちゃちゃも音楽に混ざって聞こえず、主人と使い魔は踊り続けた。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/5595.html
autolink ZM/WE13-04 カード名:揺るぎない信頼 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:5000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】応援 このカードの前のあなたのキャラすべてに、パワーを+X。Xはそのキャラのレベル×500に等しい。 【自】[①]あなたのクライマックス置場に「サモン・サーヴァント」が置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を見てレベル1以上の、《使い魔》?か《虚無》?のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加える。その山札をシャッフルする。 ノーマル:わたし、信じてるもん。 サイトは絶対絶対、来るんだから! パラレル:ずっと、私のそばにいないと許さないんだから レアリティ:R illust.- 初出:電撃G sマガジン 2008年6月号 12/04/18 今日のカード。 CXシナジーを搭載したレベル応援。 シナジーの内容は1コストでの山札サーチ。 ネオスタンであれば《使い魔》?・《虚無》?共に対象も少なくない。 ゼロの使い魔には各色に大活躍?を持ったキャラが用意されているので、それらのサポートをしてやるのも良いだろう。 貴族の務め ルイズの経験を満たすために必要な1枚でもある。 そちらも《虚無》?を持つため、勿論CXシナジーでサーチが可能。 パラレル版はイラスト・フレーバー共に別。 ・対応クライマックス カード名 トリガー サモン・サーヴァント 1・炎 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 貴族の務め ルイズ 3/2 10000/2/1 黄
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5634.html
前ページ次ページデジモンサーヴァント 「はあはあ……」 俺は走る。 無我夢中で。 気がついたら、俺は何故かこの姿になっていた。 気がついたら、俺はリアルワールドにいた。 気がついたら、俺は見たことも無い機械を手に持ち、何故かそれの名前を知っていた。 人間たちが、俺を恐れている。 恐れていない人間たちは、他のデジモンたちと連携して、俺を捕まえようとする。 彼らは俺に呼びかける、「危害を加えるつもりは無い」と。 それを聞き、止まろうとして、突如として正面に現れた鏡のような物体に俺は突っ込んでしまった。 その日、一人の究極体が錯乱状態で都内を彷徨い、突如としてその姿を消した。 分かっているのは、我々の呼びかけに反応し、止まろうとしたことだけである。 俺がサイバードラモンと出会った方のデジタルワールドから来たのか、賢と出会った方のデジタルワールドから来たのか……。 ひょっとしたら、どちらでもない全く別のデジタルワールドから来たのだろうか? 真相は闇の中だ……。 秋山リョウ 第一節「ナイト・オブ・ザ・ミョズニトニルン」 視界が晴れると、そこは草原だった。 そこには、さっきまでいたリアルワールドのそれとは明らかに違う服を着ている人間たちがいる。 自分が召喚した者を見て、ルイズは戸惑った。 漆黒の鎧をまとい、マントを羽織った、目の前の存在に。 他の生徒たちは、メイジを召喚したのかと、どよめく。 だがルイズは、何となくではあるが、目の前にいるのは人外ではないかと思った。 「ここは何処だ? 教えてくれ」 彼が声を発し、それにルイズは自然と応えた。 「ここは、トリステイン魔法学院よ」 「聞いたことが無いな……。俺は……アルファモン。君の名は?」 「ルイズよ」 「ルイズか……。ルイズ、俺は、何故ここにいるんだ?」 何故か憔悴しているアルファモンを落ち着かせようと、自分が召喚したと告げようとした直後、隣にいるコルベールに遮られた。 「ミス・ヴァリエール、他の生徒たちを待たせてはいけません。先に契約を済ませてください」 コルベールに促され、ルイズは渋々先に契約を済ませることにした。 「ごめんなさい、事情は後で話すから」 アルファモンに謝罪し、コントラクト・サーヴァントを詠唱して、口付けした。 アルファモンは驚くより先に、凄まじい熱さを額に感じ、思わずうめく。 その額には、純白のルーンが刻まれていた。 「い、今のは!?」 「大丈夫、ルーンが刻まれただけよ」 その日の夜、ルイズは自室で、アルファモンにこの世界のこと、サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントについて、アルファモンに教えていた。 アルファモンは、自分がルイズによって召喚され、そしてあのときのキスで使い魔になったことを知る。 落ち着きを取り戻したアルファモンは、不思議とその事実を受け入れていた。 究極体である彼に、ルーンの洗脳効果は効かない。 彼は自分の意思だけでそれを受け入れた。 ルイズは、今度は問い質した。 何処から来たのか、何者なのか、そして召喚された時に手に持っていたものは何かを。 アルファモンは、淡々と答える。 「俺は、こことは違う別の世界から来た、「デジモン」という人外の存在だ。そして、これに関しては「デジヴァイス」という名前以外全く分からない」 「別の世界から来た!?」 「そうだ。俺はデジタルワールドと呼ばれるデジモンたちが住む世界から、人間たちが住むリアルワールドに迷い込み、そこで君に召喚された」 「そうなの……」 そして、アルファモンはルイズにデジヴァイスを手渡した。 驚くルイズを尻目に、アルファモンは続ける。 「これを君に」 「いいの?」 「何となくだが、君が持っていた方がいい気がするんだ」 そう言って、アルファモンは更に続けようとするが、思いとどまった。 広場から、女子寮へと行く際、違和感を感じた。 ルイズだけ、歩いていたことに。 何故ルイズだけ歩いていたのかを聞こうとしたのだ。 (俺は今、聞いてはいけないことを聞こうとした……) 気を取り直し、アルファモンはそっと話題を変えた。 「ルイズ、使い魔とは、何をすればいいんだ?」 「使い魔には三つの役目があるの。感覚の共有に秘薬の材料の調達。そして主の身を守ること」 ルイズの説明に、フムフムとうなずくアルファモン。 ルイズは試しに目を閉じる。 そこには、アルファモンを見上げながら両目を閉じた自分の姿が移った。 「感覚の共有は可能みたいね」 「秘薬の材料の調達だが、俺はこの世界に来たばかりだから無理だな。そして最後の一つ……、俺にうってつけ、だな」 「あなた、強いの?」 「あまり嬉しくはないが、強い」 そう言って、アルファモンはうつむく。 悪いことを聞いてしまったと勘違いしたルイズは、思わず謝りそうになったが、アルファモンに先手を打たれた。 「君は悪くない。悪いのは、勝手に感傷に浸った俺の方だ」 アルファモンはそう言って立ち上がり、ドアに手をかける。 「何処へ行くの?」 「散歩も兼ねて、学院内を探検してくる。安心しろ、逃げたりしないさ」 夜の学院を、アルファモンが歩き回る。 アルファモンは、学院の内部をある程度見てまわったところで食堂に入り、小さな人形たちが踊る光景を目の当たりにする。 アルファモンにとって、それは不思議以外の言葉が当てはまらない光景だった。 「魔法で動いているの、か?」 アルファモンを尻目に、アルヴィーたちは踊り続ける。 彼らの踊りをしばらく眺め、やがて飽きてきたアルファモンは食堂を出ようとした。 しかし、背後に気配を感じ、右腕を振り回しながら物凄い勢いで振り向く。 そこには誰もいない。 よく見ると、ネズミが月明りに照らされていた。 「ネズミか」 そう言い残し、アルファモンは食堂を出た。 アルファモンの足音が徐々に遠くなる。 聞こえなくなった直後、ネズミは暗がりへと逃げた。 直後、そこから人のようなものが現れる。 「空白の席の主……、まさかこの目で見れようとはな。我(われ)がオスマンの使い魔となりて百と五十年。これだから人間の側にいるのは止められぬ」 平時はネズミに化け、モートソグニルと呼ばれる、オールド・オスマンの使い魔。 七大魔王が一人、リリスモン。 「弄りがいがなさそうだから、代わりにルイズの方を弄ってやるかの」 リリスモンは月明りに照らされながら微笑んだ。 次回、「アイ・アム・ナッシングネス」まで、サヨウナラ…… 前ページ次ページデジモンサーヴァント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4582.html
前ページ次ページゼロのロリカード ワルドは歯噛みした。 得物持ちの空賊が数十人。こちらへ向けられている二十数門に及ぶ船の大砲。そしてグリフォンを眠らせたメイジ。 彼我の戦力差は明らかであった。だが幸い精神力はほぼ満タンと言って良い、『遍在』を使い攪乱しつつで戦えばなんとかなるかも知れないが・・・・・・。 しかし相手のメイジが何人いるのかもわからない、いくらかの被るダメージは覚悟しなくてはならないだろう。 そして他を・・・・・・少なくともルイズを守りながら戦うというのは、かなり難しいと判断する。 ラ・ロシェールから順調に行程を消化し、既にアルビオンは目と鼻の先だと言うのに・・・・・・。 ここに来て面倒なトラブルに見舞われた。まさか空賊なんぞに襲われるなどは予想していなかった。 完全な想定外、とはいえ自分たちは貴族。 拘束し交渉すれば、身代金を得られることくらいは承知の筈。 なればそれに賭けるか?もしかしたら直接交渉も可能かも知れない。 ワルドは思考を巡らせる。敵戦力を再度注意深く観察し、危険を承知で戦うか大人しくするかを天秤にかける。 船員達は恐れ戦き、ルイズは緊張した面持ちを見せている。 しかし唯一人、超然と倣岸不遜に笑みを浮かべている少女がいたものの気に留める者はなかった。 「荷は硫黄か・・・・・・情報通りだな。よしっ船ごと頂こう、料金はてめえらの命だ」 手下から報告を受けた空賊の頭はそう叫ぶと、続いてルイズ達へと近付く。 空賊の頭はまじまじとルイズ達を見つめ、値踏みをしているようだった。 緊張感に耐えかねたルイズが口を開く。 「わ・・・・・・我々は大使よ!アルビオン王党派への使いであるトリステイン貴族、ゆえに相応の扱いを私達は要求するわ!」 空賊達は揃って飽きれた顔をする、最初に笑い出したのは頭であった。 「はっはっはっは。空賊相手に何を言っている?しかも王党派への使い?あいつらは明日にでも滅ぶだろうよ!」 続けざまに他の空賊も笑い出す、ルイズは恥ずかしそうに唇を噛んだ。 確かに略奪に生きる空賊に、使者であることを訴えかけたところで意味がない。 一方でアーカードだけはマイペースに空を仰ぐ。 雲間に見えるアルビオン大陸は、これ以上ないほどに圧倒される光景。 これほどのモノはなかなかお目にかかれるものではない。 風石によって空を飛ぶ船の上で見るのも、なかなかに新鮮で乙なものであった。 眺望の余韻に浸りながら、目の前で飛ぶ羽虫――――空賊――――が少々目障りであった。 きな臭い空気にもなってきたところで、アーカードは口を開く。 「命令(オーダー)をよこせ、我が主人(マイマスター)」 並々ならぬオーラを発した声の主に、ルイズは振り向いて見つめる。 「今現在、我々の置かれた眼前の状況を打破してやる。こいつらは障害だ。さあルイズ、命令を下せ」 ワルドも、空賊も、船員達も全員が黙りこくしかなかった。 一体今・・・・・・自分たちがどのような感情を以て、言葉を発することが出来ないのか。 否、許されないのかが理解出来ない。 「そ・・・・・・そうね」 確かに不死身の化物たるアーカードであれば、全員を倒せるだろう。 しかし――――――。 「殺すの・・・・・・?」 「無論、殲滅する。唯の一人も残さずに」 ゴクリとアーカードを除いた全員が生唾を飲む。 当然その言葉は、ルイズやワルドや船員達に向けられたものではない。 がしかし、その迫力は――――理性を持った動物の――――内なる生存本能が働いた結果なのかも知れない。 「私は殺せる、微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺できる。この私は化物だからだ」 アーカードは続ける、他の者達はその口上をただ聞くのみ。 「剣は私が構えよう、敵も私が定めよう。鞘から刀身を抜き、標的の抵抗を掻い潜り、地に引き摺り倒し、白刃をその首元へと突きつけよう。 ・・・・・・だが、殺すのはお前の殺意だ。さあどうする、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!」 ワルドは生唾を飲み込む。 あぁ、やはり勘違いなどではなかったと。この少女は危険過ぎると。 目的を遂行する上で・・・・・・必ず邪魔になる存在だと。 力量を推察することは、戦闘に於いてとても重要である。若いながらもそれなりに経験を積んできたつもりだ。 だからわかる、そして直感する。恐らくハルケギニアに存在する、人間を含めたあらゆる獣よりも危険だと。 最悪でもエルフや巨竜に匹敵する。それ以上の可能性も充分に考えられる。 ルイズの額から嫌な汗が流れる。己の殺意が人を殺す。 自分が命令を下すだけでアーカードは宣言と相違なく、間違いなく皆殺しにするだろう。 言葉では形容できない重圧がルイズの心を鈍らせる。 「こ・・・・・・殺さないで無力化することはできないの?」 重圧に耐えかねたルイズは質問をする、アーカードはその言葉に嘆息をついた。 「其の一、根本的に手加減は得意ではない。其の二、主を守りながらそれを行なうは難し」 「むっ・・・・・・うぅ」 悩み始め、考え込むルイズをアーカードは半眼で見つめる。 そのままアーカードはトスンッと地べたへ腰を下ろし、あぐらをかくと両手をその間へと置いて欠伸をした。 「私以外の・・・・・・他の人は知ったことじゃないのよね?」 ルイズはなんとなく予想はしているが、一応聞いてみる。 一対一の戦闘であれば、ハルケギニアでも指折りであろう。 だがアーカードはメイジではない、あくまで一戦士でしかないのだ。 一人を倒す間に、他の空賊が船員達に危害が及ぼしても困る。 「努力はしてみるが・・・・・・確約は出来んな」 ルイズは一人で悠長に葛藤する。 主人である自分以外は関知せず、敵は皆殺し・・・・・・。 敵味方共に相当な被害になる、惨状になるのを強烈にイメージしてしまう。 「もう一つ手はあるぞ」 「えっホント!?なに?」 「一度大人しく捕まってから、抜け出して一人ずつ仕留めていく」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「それ・・・・・・今言っちゃったら意味なくない?」 「んむ、そうだな。だから早く殲滅の命令をくれ」 空気を"読まない"従僕と、空気の"読めない"主人のコンビ。 まるで漫才でも見せられてるかのようなやり取り。場を張り詰めていた気が弛緩する。 緊張感が欠如したものの、先の余韻の所為か下手に動こうとする者はいなかった。 ルイズはまたもうんうんと唸り、思考を巡らせ始める。 ワルドは機を窺いながら成り行きを見守り、空賊達は何とも言えぬ雰囲気にたじろいでいた。 「・・・・・・そんなにもこの場を血風呂(ブラッドバス)にするのが嫌か」 頭を体ごと左右に揺らしながらアーカードは呟く。 「だって・・・・・・」 ルイズはバツが悪そうに唇を尖らせた。 「やれやれ・・・・・・まだまだだ喃、ルイズ。こんなことでは股ぐらもいきり立たん・・・・・・今はないけど」 「なっ・・・・・・ま・・・股ってアンタ・・・・・・ッ」 ルイズの顔が紅潮する。そんな様子を見ながらアーカードはニヤニヤと笑っていた。 「くっ・・・・・・」 アーカードの笑う顔を見て、してやられた感と羞恥心でルイズは半ば自棄気味に空賊達へと向き直る。 「直ちに退きなさい下郎!私の使い魔は本当にアンタ達を殺せるわ。わかったらとっととこの場から消えなさい」 精一杯の言葉でルイズは空賊達を恫喝する。 「いや、その必要はない。お嬢ちゃん、ちょっと俺らの船に来てくれないか?」 思ってもみない空賊の頭の言葉に、その場にいる誰もが一瞬ポカンとした。 「は・・・・・・?」 「勿論そっちの怖いお嬢さんにもついてきてもらって構わない。ちょっとばかし交渉したいことがある、なぁに悪いようにはしねえ」 ルイズは迷った、どういう腹づもりであるのか、勘繰るもよくわからない。 「おめーらは俺の指示があるまではこのまま待機しろ!!」 頭が空賊達に命令する。空賊達も訳が分からない様子で、疑問を抱きながらもそれに従う。 黒髪の少女の威圧感と警鐘を鳴らす第六感から、もとより余計なことをする気力も失っていた。 「・・・・・・わかったわ」 ルイズは決断する。交渉ならば望むところである。 このままだとアーカードが気まぐれで殺しかねない可能性がある。 「僕も行こう」 「いえワルド、あなたは残って。もしも何かあった時に、戦力となる人間が全員敵の船にいるのはまずいもの」 「・・・・・・わかった。でも何かあったらなんでもいい、合図を出してくれ。すぐに助けに行く、僕にとって君は大切な婚約者だからね」 ワルドの言葉にルイズは恥ずかしげに俯く。 「わけがわからんが・・・・・・とりあえず参ろうか」 空賊の頭の雰囲気が明らかに変わったことを、アーカードは見て取る。 敵愾心は目に見えて薄れ、闘争に発展する可能性が低くなった。 まだまだ甘ちゃんのルイズも含め・・・・・・折角の闘争の好機はもはや無いと悟る。 様々な想いを込めて、アーカードは人知れず心の中で嘆息をついた。 ◇ ルイズは部屋で顎に手を当て月を眺めていた。 そこはあと数日には滅びるであろう、王党派が篭城するニューカッスルの城。 空賊の頭に扮していたのは、なんとウェールズ皇太子。 ウェールズ達王党派は、敵軍の補給を狙って空賊を装い、船を襲っていた。 そしてアーカードが威圧している最中に、ルイズが嵌めていた指輪に気付いたのであった。 実際には交渉ではなく、ルイズ達がトリステインからきた貴族なのか、その指輪が本物なのかを確かめた。 トリステイン王家の水のルビーと、アルビオン王家の風のルビー。 水と風は虹をつくり、それが紛う事のない本物だと証明された。 偶然にしては・・・・・・あまりに都合が良いと感じる。 アンリエッタの想いとウェールズの想い、水のルビーと風のルビー。 互いに引き合ったような、そんな導きを・・・・・・ルイズは感じていた。 本来であれば敵陣をどうにか突破して、ウェールズに謁見する予定であった。 場合によっては王党派が先に滅びる可能性もあったが、その心配もなくなった。 一向はそのままニューカッスルの城まで直接赴き、ルイズは正式な形でアンリエッタの手紙を渡す。 ウェールズ皇太子達は、収奪した硫黄で以って最後の抵抗を試みるらしい。 ルイズの説得むなしく、ウェールズら王党派の意志は固かった。 そしてウェールズから手紙を受け取り、あとは帰るだけで任務そのものはこれで無事終わりとなる・・・・・・。 しかしルイズはどうにも煮え切らない気持ちを持て余していた。 アンリエッタはウェールズを愛している。そしてウェールズもアンリエッタを愛している。 アンリエッタとウェールズ、それぞれの態度を見ていたルイズは確信していた。 だが二人とも国の為にと、その身を斬り、己の心を押し殺している。 それはとても哀しいことで・・・・・・、それでも何も出来ない自分が歯痒くて・・・・・・。 「ねえ、アーカード。どうしてあの人達は・・・・・・自ら進んで死を選ぶのかしら。想い人の気持ちをわかってる筈なのに・・・・・・わけわかんない」 椅子に腰掛けたアーカードはゆっくりと喋りだす。 「ふむ・・・・・・そうだな、人の死生観など様々だと、言ってしまえばそれまでだ。 生まれも違えば育ちも違う、他人を本質的に理解することなど甚だ不可能だろう。 そういう意味ではどこまで行っても、人間という者は孤独から逃れられん」 (尤も・・・・・・私のような化物は別だが) アーカードは自嘲気味に心の中で呟く。そしてそのまま言を続けた。 「彼らは命を賭すだけの価値を見出したから、喜び勇んで死地へと赴く。それだけだ。人間は歩き回る陽炎に過ぎん」 人はとかく儚いもの。化物と違い寿命は短く、簡単に死ぬ。 揺らめくように、生まれては死んで――――――そしてその中で、閃光のような輝きを放つ。 「が、しかし・・・・・・前にも言ったかも知れんが、私は足掻く人間が好きだ。限られた生の中で儚くも燃え上がる人間は素敵だ。 死とはある種の"あきらめ"、彼らは最初から負けるつもりで闘いを選んでいる。私はそれが気に入らない」 そう、気に入らない。一泡吹かせるだけで・・・・・・そして死ぬことに意義を見出している。 己がかつて人間だった頃。ワラキア公ヴラド三世として、強国オスマン・トルコと相対した。 諸外国の救援もなく、孤立無援の状況。圧倒的な戦力差、しかしそれでも戦った。 夜襲やゲリラ戦術を仕掛けて、勝利を積み重ねた。 勝つ為に――――敗ければ、戦い続けられない――――戦った。 根本的な動機は違う。 だがそれでも勝つ気概を持たないのは、如何ともし難い。 勝とうという気があったのならば、戦略家として、一戦士として、少しは助力してやっても良かったのだが。 苦言を飲み込み、アーカードは淡々と続ける。 「どんなに絶望的状況下であろうが、満身創痍の状態であろうが。 仮に勝機が那由他の彼方であろうとも、諦めず進み続ける人間は素晴らしい」 ルイズは一拍置き、アーカードに尋ねる。 「もし・・・・・・彼らが勝つ為に戦おうとするのなら、アーカードはそれを肯定するの?」 「無論だ」 間髪入れず答えが返ってくる。 「私には・・・・・・わからないわ。残された人の気持ちはどうなるの?自分の事しか考えられないの?」 「死に逝く者は残される者の気持ちを慮ろうとしない、だが残される者も死に逝く者の心を鑑みてやれない。 一方が妥協すれば、一方が我を通すことになる。双方が折り合いをつけても、どこかである種の諦めが生じる」 「・・・・・・じゃあどうしようもないの?」 「どちらも己が信念を、気持ちを通そうとしているだけ。だが相手を説き伏せ、根幹からその考えを変えてしまえば良いかも知れんな。 なればそこには妥協も諦めもない。尤も、当然それは容易なことではない。そして今はそんな時間もないだろう」 「なら・・・・・・しょうがないって諦めるの?」 「さてな」 ルイズはぐずと鼻をすすり、窓から双月を仰ぎ見る。 ハルケギニア大陸よりも、雲よりも高いアルビオンから見る夜空は手を伸ばせば届きそうで・・・・・・。 気分が落ち着くまで眺め続け、ルイズは眠りへとついた。 アーカードは主人の眠りを見届けて、目を瞑った。 自分は「さてな」と答えを濁した。そう・・・・・・吸血鬼たる己が戦争に参加すれば勝てる。 大将首を獲ってもいいし、まとめて全てを飲み込んでもいい。 ルイズがもしも自分の意志で命令を下すならば、この戦争を一方的に終わらせることが可能だ。 しかし今のルイズには酷であろう。否、無理だ。 空賊を殺すことすら躊躇った者が、より多くの人間を殺す命令を下せる筈がない。 仮に命令を下すにしても、それは迷いだらけの情緒不安定で感情的な、意志無き命令にしかならない。 そんな命令は気が乗らないし、ご免蒙る。故に提案もしない。 いつかルイズが成長し、己が意志で命令を下せる日まで――――――。 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/tkapm/pages/30.html
クラブメンバー紹介 パンヤ内クラブ「TKAPM」のメンバー紹介(スコア記録掲載許可をもらったメンバーのみ) 使用キャラクターのSS、ニックネーム、パンヤ内称号、レベル、チームかげオリジナル称号の順で載せてます オリジナル称号の見本は一番下にあります(随時追加中) メンバーの画像をクリックするとその人の個人ページに行けます(ページが完成していない場合は非公開になっております) 各キャラクターについてはこちらへ(別ウインドウで開きます) マスター:やー サブマスター:かげ。 ナッパ3 べぶー キャラちゃん♪ なし なし 卍xフリーダムx卍 hiro,☆彡 ふみか1 ポップ02 Exelia なし なし なし なし なし GIGA12345 あほタン +ことり+ kome ユウキス なし なし なし なし 炭酸ソーダ sunchsco Kafka.0120 ☆ぷちぃ☆ ジャガっち なし なし なし なし なし x瀬戸際x ザークシーズ 世ちゃま 疾風の銀狼 ムーン なし なし なし なし なし 虎z 七味〆 こぅじ 虹羽根 はいちぇら なし なし なし 澄男 有希 はごろもo ξΩξ リスフィア なし なし なし なし ながれっど なし オリジナル称号見本 この中から選んでもおkです ACE 自宅警備員 年中パンミ 変態紳士 てけとー組 赤影家出中 クーは俺の嫁(Ver.1) クーは俺の嫁(Ver.2) エリカは俺の嫁(Ver.1) エリカは俺の嫁(Ver.2) ごみくず 最弱なちょ ネカマ.com ネカマ.com(Ver.2) 誤爆乙 出荷待ち アリンは俺の嫁 セシリアは俺の嫁 ダイスケは俺の嫁 エリカは俺の嫁(Ver.3) カズは俺の嫁 ケンは俺の嫁 クーは俺の嫁(Ver.3) ルーシアは俺の嫁 マックスは俺の嫁 カニみそ ぬこ入荷待ち パンミでBI おしい人 兎の勘 以下広告