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「ほらっ、もうおうち宣言なんてするなよ」 とある民家からまるでゴミのように丸い物体が三つ投げ捨てられた。 それはゆっくりの一家だった。投げ捨てられたのは成体れいむとまりさの両親と、一匹の子れいむ。 つい数十分前までどこにでも在るありふれた存在であったが、今は違う。 それはゆっくり達の状態。 なんと面妖か。まず親まりさには顔がなかった。当然生まれつきではない。先ほどおうち宣言をした民家の主によって改造されたのだ。 目も口もくりぬかれた上で餡子と小麦粉の皮で補修され、のっぺらぼうのようになってしまったのだ。このまりさはもう何も見ることは出来ぬし、食べることも喋ることも出来ない。 更には底部も火傷を負っていた。二度と動けぬほど炭にはなっていないが、僅かに這うことしか出来ずに自然治癒も不可能なまでには焼かれていた。 そして子れいむもまりさと同じような状態だった 目も口もなくのっぺらぼう、更にはまりさと違って髪もリボンも無い。ただ幸いだったのは底部には何もされておらず自力で動ける点か。 そしてこの中で一番まともな状態だったのは親れいむだった。 民家の主によって全身に打撲を負ってはいるが、それも生きる上には何も支障はなく、ゆっくりの自然治癒能力で治る程度だ。 「ゆぐっ……えぐっ、ばりざぁ……」 れいむは全身を殴られた痛みをこらえながらも、ずりずりとのっぺらぼう状態のまりさにすり寄った。 れいむはまりさがこんな状態にさせられた地獄を目の前で見てしまった。生きたまま目をくりぬかれて、面影もないほど顔を改造されるというこの世のものとは思えぬ光景を見たれいむは激しい恐怖を覚えた。 その上で恐怖だけでなく、れいむを散々痛めつけた人間から少しでも逃げるようにと、れいむはまりさを連れて逃げようとした。 まりさはもう自力では歩けない。だから自分が連れていくしかない。 髪を引っ張ってずーりずーり。まりさも子れいむも音を聞くことは出来る。だかられいむがかけた「ゆっくりかえろう」という声も聞こえていたはずだ。 子れいむはれいむがそう声をかけた瞬間、何かから逃げるように(いや、実際に人間から逃げている)全力で、あさっての方向に跳ねはじめたので、慌ててれいむが捕まえて親まりさの帽子の中に入れた。 しばらくそこでゆっくりしててね、と言ったら傍らに親まりさのぬくもりを感じて安心したのかおとなしくなった。 今やまりさも子れいむも、かつての姿は似ても似つかない。身内以外が、いや身内でも改造される場面を見てなければ個の判別がつかないだろう。 しかし、それでもれいむにとってはかけがえの無い家族なのだ。れいむは自身の体力を振り絞って、今や二度と治らぬケガを負った家族を、かつての巣へと引っ張っていった。 そして、治らぬケガを負っていたのはまりさと子れいむだけでは無かった。れいむもまた、心の傷という治らぬものを負っていた。 翌朝。おうち宣言する前の、子供が生まれて手狭に感じるようになった巣でれいむは目覚めた。 そこは木の根のあたりに出来た、地面の穴だった。れいむはもぞもぞもと起きて、「ゆっくりおきるよ」と小さく呟いた。 そして、家族へと視線を移す。そこにあったモノを見て、昨日のことは夢では無かったのだと今再び再確認し、落ち込んだ。 傍らにいるのは、もはや起きているのか寝ているのかも分からない、表情を浮かべることも、何かを美味しく食べることも、優しい言葉も発することが出来なくなった、最愛の伴侶の最愛の我が子の姿。 れいむは嗚咽をこらえながらも、静かに涙を零した。れいむは、自分一人で家族を支えなければならない。もはや何かを聞くことしか出来ず、何をすることも何かも伝えることも出来なくなった家族を。 こんな存在、当然野生ではお荷物以外の何物でもない。 しかしながら、れいむにとってまりさと子れいむは、お荷物だからといって切り捨てることが出来る存在ではなかった。 「まりさ、おちびちゃん、ゆっくりまっててね」 れいむはそう二匹にそう囁くと、巣を飛び出た。エサを探しに行ったのだ。 れいむが身ごもってからは毎日まりさがやっていた仕事。それを今日からはれいむがしなければならない。 出来る、出来るはずだ。れいむはそう言い聞かせて、森の中を駆けまわって朝食を集めた。 だがれいむは、あまりにも現実感のない事だから忘れていた。 もう、まりさと子れいむに食事は必要無いのだと。 「ゆ゛ぅ……」 れいむは困惑した。嘆いた。再び泣いた。 もう二度と「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~」が出来ぬまりさと子れいむ。そしてその現実を再び目の当たりにしてしまった。 子れいむは動けるはずだが、危ないからとれいむが再三に渡って動かぬように言っておいた。だから、子れいむは動かぬ。自身もまた、何も見えない恐怖に苛まれているのだから。 れいむはのっぺらぼうの伴侶と我が子の前で食事をした。二匹は食事が出来ぬとも、れいむはしなければならないからだ。 れいむは昨日暴行によって負ったケガと、体力を回復させるために、久しぶりに自分が集めた食事を口に運ぶ。余分に集めてしまった、家族の分も。 「む~しゃ、む~しゃ……」 その口から「しあわせ~」が出ることなど、二度とない。 そのまた次の日。れいむの生活サイクルは昨日の時点で確立された。 れいむが巣の外へ出るのは一日三回のエサ集め。それも一匹分のみ。 あとはずっと、巣にこもってまりさと子れいむの相手。まりさも子れいむも、当然ろくな反応も示さない。 だがれいむは、相手に伝わってるはずと思い、す~りす~りをしたり、歌を歌ったりした。 そんなれいむに、子れいむは光がない恐怖から少しだけ小さく跳ねて、まりさはろくに動かせない体を身じろぎさせて反応してくれた。 れいむは、それだけで嬉しかった。 そんな二日目。れいむが昼食を食べ終えた後の、まりさと子れいむへのお歌タイムをしている時だった。 「やぁ、れいむちゃん元気かな?」 この一家を、こんな地獄へと叩き落した張本人が、巣に現れた。 れいむは絶叫した。絶叫し、泣き叫び、狭い巣の奥へと引っ込んだ。 そのれいむの叫び声に混乱し、それまで動かなかった子れいむがにわかに跳ね始めた。顔も髪もなく、ただの饅頭と化したそれは、方向もわからず逃げようとした。 それは偶然出口へと向かっており、人間に巣の中へと殴り返されて、その後ぐったりとして動かなくなった。 その間もずっとれいむは、半狂乱に陥ったまま巣の奥に逃げていた。それ以上奥にはいけないというのに、更に奥に、より遠くへ逃げようと。 「ゆ゛ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! だずげで、だれがだづげぇぇぇぇぇ!!! ゆっぐりでぎないおにいざんがいるよ゛ぉぉぉぉぉぉ!!! いやだっ、でいぶゆっぐじじだい゛ぃぃぃぃぃぃ!!! だじゅげでぇぇぇぇぇぇ!!! いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 その叫び声を、まりさも聞いていたはずだった。 だが、まりさにはどうすることも出来ない。れいむを慰めることも、人間に立ち向かうことも、逃げることも涙することも。 ただぷるぷるとわずかに震えるのみの饅頭として、そこにあることしか出来なかった。 しかし、しかしだ。それでもまりさは愛するれいむの泣き声を聞いて、ずりずりとみっともなく這って、人間の声を頼りに立ち向かおうとした。 そんなまりさを、人間は殴り飛ばした。殴って、殴って、殴って、なおもずりずりと這ってくるまりさを喜々として殴り飛ばした。 その後もれいむは、人間が立ち去ってれいむに見つからなず巣を観察出来るポイントに行くまでずっと泣き喚いたままだった。 そして一度泣きやんだ後、巣の中で横田たわるボロボロのまりさと倒れている子れいむを見てまた泣いたのだった。 ある日れいむが巣に帰ると、そこにはボロボロになったまりさと子れいむがいた。 人間によって虐待された傷ではない。明らかにそれ以外の者による傷だった。 のっぺらぼうのただの饅頭が二個、巣の中に転がっていた。至る所ケガだらけ。餡子もわずかに漏れていた。 まりさは自身で起き上がることも出来ない。子れいむは起き上がっていてもただの髪も顔もないので、分からない。 「ばりざぁぁぁぁぁぁ!!! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁん!!! どぼじだのぉぉぉぉぉぉ!!!」 れいむは泣いて二個に駆け寄った。涙をボロボロと流して、すりすりと頬をすり合わせる。 目も見えない二匹でも、これなられいむが傍にいることが分かるだろう。もっとも、二匹がそれを伝える術は殆どないのだが。 かろじて、子れいむが拙い動きですりすりを返したぐらいだった。 それだけだったが、れいむは泣いて喜んだ。光を失ってからピンチの時以外ろくに動こうとしなかった子れいむが、動いてれいむにすりすりを返してくれたのだから。 傷ついた体にも関わらず。それで、嬉しくないはずがない。 ちなみに、二匹をこんな目にあわせたのはとある野良まりさだった。 一人立ちして自分の巣を探していた野良まりさは、ちょうどよくのっぺらぼう饅頭が留守番していた巣を見つけた。 当然そこでおうち宣言をしようとしたが、そこにいたのは気味の悪い饅頭だった。 その饅頭を野良まりさはゆっくり出来ないものとして暴行をくわえた。 散々体当たりをしたり踏みつけたりした挙句、ここはゆっくり出来ないといって巣を立ち去って行ったのだ。 なお、その野良まりさは現在、虐待を行った一家のその後を観察している人間に捕まって玩具兼おやつになっていた。 頭をくりぬかれて中の餡子を攪拌されて、小刻みに痙攣している。 人間は野良まりさの餡子を一割ほど食べたところで、「飽きた」と言って放り捨てた。 命である餡子を削り取られ、頭を切り取られた野良まりさはその場でずっと痙攣したまま動かず、そのままアリのエサとなった。 日に日にまりさと子れいむは衰弱していった。当然だ。何も食べることが出来ないのだから、餓死するしかない。 生命維持のための餡子が消費され、体が小さくなっていく。皮も薄くなって、中の餡子が透けて見える。 一日、一日と、刻一刻と死へと近づいていく日々。かつては少しは跳ねたり身じろぎして反応を返してくれたまりさも子れいむも、やがてはそんな反応も示さなくなった。 そして、ある日を境に二匹は微動だにしなくなった。 顔が無いため一見しては分からなかったが、二匹とも死んだのだった。 れいむは大声をあげて泣いた。涙が枯れるほど泣いた。流した涙で体が溶けて流れるのではないかというほど泣いた。 泣いて、泣いて、悲しんで、ゆっくり出来ていた日々と人間に合された地獄、とそのあとの苦しい生活を思い返した。 そんな、そんな不幸のどん底にいるれいむに、またあの人間が現れた。 人間は狂乱に陥ったれいむを捕まえると、しかと目を見開かせ、その状態でまりさと子れいむの死骸を踏みつぶした。 顔がなくても、まだ原形を、カタチを保っていた家族の体が跡形もなくつぶれる様を見て、れいむの精神は壊れた。 しかし、人間の手によってまた再生された。 れいむが正気を取り戻したのは、人間の家だった。ゆっくりは、精神崩壊を起こしても中の餡子をかき回せば正気を取り戻すのだ。 そしてれいむは、正気を取り戻して、恐怖の記憶を呼び起こして、もはや言葉ですらない声をあげて人間の家の中、人間から逃げ惑った。 しかしそれは徒労に終わり、地獄を見た。 それでもれいむは生還した。 ただし、まりさや子れいむと同じく、のっぺらぼうの状態で。 のっぺらぼうれいむは人間の家の表通りに捨てられた。底部は無事だから、自分で動ける。 しかし、れいむには我が家に帰還する術は残っておらず、助けてくれる者もいなかった。 のっぺらぼうれいむは、その無表情の顔のまま、あさっての方向へと跳ねていった。 その後のっぺらぼうれいむがどうなったのかは、誰も知らない。 END
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※ふたば系ゆっくりいじめ 185 選ばれしゆっくりの続編です。少しだけふたば系ゆっくりいじめ 176 ゆっくりちるのの生態(前編)も関係あります。 ※駄文、稚拙な表現注意。 ※俺設定注意 ※ずる賢いゆっくり注意 ※あとがきに新企画があります。 ああれいむ。君はなんて素晴らしいんだ!! 「しんぐるまざー」だの「あまあまよこすんだぜ」だの「とかいは」だのぬかす他のゆっくりとは別次元の存在。 まさにゆっくりのなかのゆっくりだよ。 そんな君だからこそ受け取って欲しい。この「ダイヤモンドバッジ」を。 ゆっくり Change the World(出題編) 作、長月 「ゆぜぇ・・・ゆぜぇ・・・ゆう。」 のーぶるれいむは疲れていた。ゴミ捨て場でもう少しで潰されそうになったのを全力で逃げてきたのだから当然だ。 あのゴミ捨て場で男はレンガを振り下ろそうとした瞬間ぎっくり腰になってしまった。 痛がる男の隙をつきなんとか逃走に成功したれいむ。あの状況で無傷で生還できたのは奇跡に近い。 とはいえこの一件はれいむの心に強い恐怖を残した。 もうあんないつ殺されるかもしれない恐ろしい場所には帰りたくない。 しかし他に帰る場所などありはしないのだ。 くそ。なぜこんなことになった。なぜ。 れいむは憤った。 全ては見る目のないじじいどもと・・・・あのテレビに出ていたくそれいむのせいだ。 あんな無能なやつが卑怯な方法でれいむのいるべきゆっくりプレイスにいるせいでれいむがこんな目にあっているのだ。 実際は100%自業自得でテレビに出演していたれいむは全く関係ないのだが、頭に血の上ったれいむは気づかない。 そう全てはあのクソ無能なれいむがわるいのだ。あいつさえいなければ・・・・・え? れいむは目を疑った。 テレビのれいむが自分の前にいるからだ。こちらに気づいてないらしくピョンピョンと近くの森へ跳ねていく。 見間違いかと思ったがあのりぼん、あのバッジ。どうみてもあのセレブれいむだ。 のーぶるれいむははっと思い出した。今まで夢中で逃げていて気づかなかったがここはあのテレビでやっていたあのお屋敷だ。 見渡す限りの広大な庭にゆっくりできそうなゆっくり用遊具の数々。そしてきれいで大きなお城のようなお屋敷。 くそ!!! 気か付けばれいむは、セレブれいむを追っていた。 れいむのいるべきゆっくりプレイスを奪ったあのクソ饅頭め。ぐちゃぐちゃに踏み潰してくれる!! そう思いながらセレブれいむを尾行する。 隙を突いて一撃で殺してやる。あの研究所で殺したクズどもと同じように。 セレブれいむを追ううち、れいむは人気のない野原へとはいってしまった。 れいむは物陰で様子を伺う。 誰かを待っているらしく野原の真ん中にある木の切り株に腰掛けているセレブれいむ。 殺るなら今だ。 死角に回り込もうとしたとき、向こう側で物音がした。 どうやら待ち合わせの相手が来たらしい。いったん襲撃はやめだ。 しかし待ち合わせ相手は誰なのだろう?飼いゆっくりがこんな森の奥で待ち合わせなんて。 次の瞬間れいむは唖然とした。 草むらから出てきたのはれてぃだった。捕食種のれてぃがなぜれいむと待ち合わせを? 理解不能のれいむを尻目に、れてぃのもとにうれしそうに跳ねていくセレブれいむ。 やさしい飼い主にお屋敷で蝶よ花よと育てられていたので捕食種を、いやこの世に悪意があることを知らなかったのだ。 「ゆっくりしてってね!!」と無邪気にあいさつする。 そんなセレブれいむをれてぃは・・・長い舌で捕らえると一口で食べてしまった。 れてぃはしばらく反芻するようにもごもごと口を動かしたあと 「クズ(通常種)の分際でいい暮らししてるからよ。」 と言い、プッとなにか吐き出し森の奥へと消えていった。 このれてぃは世間知らずの飼いゆっくりを言葉巧みに誘い出し、人目のない場所で襲い捕食するゆっくりだったのだ。 そしてれいむはガタガタと震えてその場を動けずにいた。 数分後、れてぃが戻ってこないのを確認するとれいむは動き出した。 れてぃが吐き出した何かに。 正直あんよの震えはまだ止まっておらず、今すぐでもこの場を逃げ出したかったがそうもいかない。 もしあれが自分の予想したものであれば。草をかき分け「何か」を探すと・・・それはあった。 やはり。れいむはニヤリと笑った。 それはあのセレブれいむのりぼんとバッジ。 これで世界を・・・世界を変えることができる。 この薄汚れた野良の世界から華やかなセレブ飼いゆっくりの世界へ。 このりぼんとバッジさえあれば・・・ そう変えることができるのだ。 こののーぶるれいむ様にふさわしい世界へと。 れいむは自分の猫にボロボロにされたりぼんをもみあげではずすと、セレブれいむのりぼんとバッジをくわえその場を立ち去った。 そして2週間がたった。 セレブれいむの飼われていた屋敷では 「れいむは・・・れいむはまだ見つからないのか・・・」 「れいむ様は全力をもって捜索しております、旦那さま。今しばらくお待ちを。」 「ああ・・・れいむ。生きていておくれ。私の愛しいれいむ・・・」 がっくりと意気消沈する男。この男がセレブれいむの飼い主でこの館の主でもある。 防犯カメラの映像によるとれいむは柵にあいていた小さな穴から外へ抜け出したらしいが、そこから先の足取りがどうしてもつかめないでいた。 探偵を雇いこのあたり一帯を聞き込みを行い、懸賞金付きでポスターも貼ったがまったくれいむに関する情報は出てこなかった。 聞けばセレブのゆっくりが神隠しのように行方不明になる事件が今年になり何件もおこっているらしい。 現場には、りぼんや帽子などゆっくりのお飾りのみ残され未だ戻ってきたゆっくりは居ないという。 もしかしたらうちのれいむもその事件にまきこまれて・・・ 「旦那さまの心中お察しいたします。れいむ様は1000万以上する高価なゆっくりでしたしなあ。」 「ちがうぞ時田。金額の問題ではない。あのれいむこそが私の理想だったのだ。」 時田とよばれた執事も男と共にうなだれる。そんな重苦しい空気が漂う中 「失礼します!」 使用人の一人が音を立てて入ってきた。 「何じゃ騒々しい!!旦那さまに無礼であろう!!」 「申し訳ございません。ですがれいむ様が・・・」 「何!!見つかったのか。れいむが!!」 がばっと使用人にがぶりよる男。 「れいむは・・・れいむは無事なのか!?」 「はいご無事です。ただ衰弱が激しいらしく今は市のゆっくり病院に搬送されています。」 「よしわかった。時田、車を出せ。ゆっくり病院へ大至急だ。」 「かしこまりました。」 男たちは慌ただしく部屋を後にした。 「ゆふふ・・・うまくいったよ。」 ゆっくり用の治療ゲージの中でしてやったりと微笑むのーぶるれいむ。 2週間の間どうすればあの屋敷の飼いゆっくりになれるかずっと考えていた。 このままセレブれいむのりぼんを自分につけて屋敷に行くという手もあったが長い野良生活で汚れきったこの体ではすぐに別ゆっくりだとばれてしまう。 それに自分はお屋敷のことを何も知らないのだ。うっかりボロを出してそのまま潰されかねない。 だからこそれいむはあえて屋敷に行かず、道路で行き倒れたふりをしたのだ。何者かに暴行されたかのように偽装して。 これなら薄汚れた体も暴行されたときについた汚れと思われ不自然でなくなる。 そして行き倒れたふりをしていれば、いずれ誰かが発見し保護してもらえる。 なぜなら町中にれいむを探すポスターが貼ってあるのだから。しかも懸賞金付きで。 人間にはゆっくりの区別などつかないからつけているバッジこそが個体の識別方法となる。 つまりバッジをつけている限りれいむがあのセレブれいむなのだ。 問題はもうひとつの方だが、それにもちゃんと秘策を考えている。大丈夫だ。やれる。 勝利は目の前だ。 れいむが色々考えていると廊下が騒がしくなっていた。 どうやらセレブれいむの飼い主が到着したらしい。れいむに緊張がはしる。 「れいむ。無事だったか!?」 そう言いながら男はれいむのゲージに駆け寄る。さあここからがのーぶるれいむ様の演技力の見せ所だ。 れいむは怯えたように演技しながら 「ゆう・・・おじさんだれ?れいむをしっているひと?」 「れ・・・れいむ!?」 「それともれいむをいじめるひと?やめてね。れいむにひどいことしないでね。」 もみあげのピコピコする部分で顔を覆いイヤイヤと首を振り怖がる演技を続ける。 愕然とする男にゆっくり医師が説明する。 「どうやらお宅のれいむちゃん記憶をなくしてしまわれたみたいなんです。なにを聞いてもわからない、覚えてないというばかりで。 どうやら暴行を受けたショックで記憶喪失になったようですね。」 「そんな、別のゆっくりという可能性は!?」 「残念ながらありえません。もし無理やりバッジやりぼんをとってほかのゆっくりがつけた場合、ダイヤモンドバッジの盗難防止センサーが反応してゆっくりセキュリティやあなたの元へ連絡があるはずです。確認しましたがそのような事実はありませんでした。」 そう。今回れいむが一番幸運だったのはそこだった。実際はれてぃの胃液でセレブれいむが溶かされた為、ダイヤモンドバッジのセンサーが反応しなかったわけだがそのことは男も医師も知ることができない。 「ああ・・・そんな・・・れいむ・・・ああ・・・」 男はショックだったのかその場でひざをつき泣き出してしまった。 その様子を見てれいむは内心ほくそえんだ。 うまくいった、と。 しかしれいむは気づかなかった。 自分が致命的なミスを犯していることを。 (解答編へつづく) 補足説明 ダイヤモンドバッジ セレブのゆっくりのみがつける事が許されるバッジ。プラチナやゴールドと違い試験を受ける必要はない。 ダイヤモンドをはじめ様々な技巧をこらした飾りがついておりそれらだけでも100万以上する。 あとがき 前回はアンケートにご協力いただきまことにありがとうございます。アンケートの結果一番リクエストが多かったのーぶるれいむの話「ゆっくり Change the World」をかかせていただきました。 ところでなぜタイトルに出題編と書いてあるか疑問に思われた方も多いでしょう。 ズバリ出題とは今回のSSの最後に書いてある 「のーぶるれいむの犯した致命的なミスとはなにか?」 を皆さんに当てていただこうというものです。感想と一緒に自分なりの推理をコメント欄に書いていただければ幸いです。 解答のヒントとしては なぜセレブれいむは1000万以上という法外な値段だったのか。(通常のれいむ種は安いので1000~1500円程度) 飼い主の男はなぜそこまでれいむに固執するのか。 またこの話の前作「選ばれしゆっくり」の中にもヒントが隠されています。もう一度読み返して見てください。 見事正解された方の中から1名様に長月のSS内容をリクエストする権利を差し上げます。リクエストのある方は感想・推理と共にコメントに書いてください。正解者でなくても次回以降の参考にさせていただきます。 リクエストの例 余り書かれないゲスさなえのSSを見てみたい。 秋姉妹のゆっくりを書いて欲しい。 「VS最強のゆっくり 史上最低の戦い」のケツ振りれいむのその後が知りたい。 星蓮船種のSSが読みたい など たくさんのコメントお待ちしています。 今まで書いた作品 ふたば系ゆっくりいじめ 176 ゆっくりちるのの生態(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 185 選ばれしゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 196 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 ふたば系ゆっくりいじめ 208 ゆっくり見ていってね ふたば系ゆっくりいじめ 218 またにてゐ う詐欺師てゐの日々 ふたば系ゆっくりいじめ 227 VS最強のゆっくり 史上最低の戦い ふたば系ゆっくりいじめ 247 夢と現実のはざまで ふたば系ゆっくりいじめ 264 あるまりさの一生 ふたば系ゆっくりいじめ 298 ゆっくりを拾ってきた
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注・続き物です。 洞窟に侵入してどれ程が経っただろうか。 群れの周辺の地理に詳しいまりさは、勿論の事この洞窟の事も知っており大体の作りも覚えていた。 ゆっくりの脳では普通そこまでの情報を記憶する事など出来ないのだが、 狩りの経験が豊富で群れを率いる責任感が強かったまりさはそういった普通のゆっくりには無いものを兼ね備えていた。 出来るならここをゆっくりの集会場か何かにしようと前々から考えていたのだ。 なので、れいむが居るであろう場所も大体の目星は付いていた。 出来るだけ敵のゆっくりに会わずにまりさはその場所へと向かう。 随分と進むと、最初に出会ったみょんと同じ様にゆっくりの見張りが居る。 れいむ種、しかも群れに昔から居た元同胞だ。 「ゆぅ…ゆぅ……」 どうやらうたた寝でもしているのか。 まりさの元にまで寝息が聞こえてくる。 出来るなら戦いたくなど無い。 まりさはそう考え、うとうとと頭を揺らすれいむに気付かれないように、ゆっくりとその脇を通過しようとする。 「そろーり、そろーり」 優秀なゆっくりであるまりさであるが、生物としての本能にも近い癖は抜け切らないのか。 こんな場面にも拘らず、自らの口で出さなくても言い音を出してすりすりと動き出す。 「そろーり、そろーり」 れいむの横から奥への通路へと差掛かろうとした時、突然れいむの「すや…すや……」という寝息が止まったかと思うと、 「ゆっ、そこにだれかいるの?」 と言う声が聞こえてきた。 まりさは心臓が飛び出すような感覚に陥り、その場で少し跳ね上がったりもしたが、 その洞窟の余りの暗さ故に、れいむはそれが元群れの長であったまりさだと気付いてはいないようだった。 「ゆゆ、じつはまりさは……はくれいむさまにたのまれて、このおくのれいむにようがあるんだよ」 「ゆぅ、そうなの。なんだかわからないけどたいへんね。ゆっくりがんばってね。」 「うん、ゆっくりがんばるよ。れいむもゆっくりしていってね」 「れいむはここでゆっくりするよ…すやすや……」 見張りである筈のれいむであるが、そこまで思考能力も高くないゆっくりな上、 寝起きであった事も合わさり全くまりさを疑う事も無く再び眠りに付く。 まりさの心中にはその場をやり切れた安心感と合わせて、そんな暢気なれいむに対して幾ばくかの怒りを感じていた。 自分があれだけ苦心して群れの皆を守ってきたと思ったのに、反乱を起こした者の部下としてこんなにゆっくりしているなんて。 妻であるれいむは敵に捕らわれ、どれ程酷い目に合わされているか。 そう思うと、眼の前のれいむをゆっくり出来なくさせてやりたい衝動に駆られた。 だが、このれいむにも家族は居るのであろう。 はくれいむの戦力に成す術も無くやられてしまった自分にも落ち度が有ったかも知れない。 まりさはそう思うことにして怒りを抑えて、先へと進む事にした。 更に暫く進むと其処には柵のようなものが掛かっており、まりさは其処にれいむが居ると確信した。 居ても経ってもいられなくなり、すぐさま駆け出す。 幸いな事に見張りなども無く、その柵の前まで辿り着くとまりさは中を覗き込む事が出来た。 人間の使う炎。 それをはくれいむは松明というものに移らせて扱う事が出来るらしい。 丁度、その柵の前にも一つ掲げられていたので、まりさは薄ぼんやりでは有るが中を確認することが出来た。 中にはれいむと思しき丸い球体が一つ存在している。 「ゆっ、そこにいるのはだれなの?まりさのいばしょならきくだけむだだよ、ゆっくりどこかにいってね」 「ちがうよれいむ。まりさだよ、ゆっくりたすけにきたんだよ」 「ゆっ、まり……さ!?」 そんなやり取りを交わした後、れいむはまりさの近くへと跳ね寄る。 まりさはれいむが正面を向かずに少し右斜めを向いて立っているのに若干の違和感を覚えたが、 松明の照らす明かりの中ではっきりとその顔を確認した後、顔に笑顔を浮かばせる。 すると次第に、嬉しい筈にも関わらずその目尻から涙が溢れ出す。 「ま……ま"り"ざぁぁぁぁぁ」 「でい"ぶぅぅぅぅ」 溢れ出る感情のまま大声で喜び合いたい二匹であったが、ここは未だ危険な場所であるのを理解して努めて小声でお互いの名前を呼び合った。 頬をすりすりとしようと更にれいむが近寄るが、二匹を隔てる柵に阻まれてそれは出来ない。 少し悲しそうな顔をしたれいむに、まりさは「だいじょうぶだよ」というと、外側からついたてになっている棒を外し、その柵の扉を開ける。 ゆっくりの作り出す牢屋だけに鍵などは無く、そういった手間が省けたのはこの二匹にとって幸いであろう。 「まりさぁ、まりさだ……たすけにきてくれたんだねぇ」 「あたりまえだよ、れいむ。あいするれいむを、まりさがみすてるはずないんだぜ」 そう言ってれいむがすりすりと頬擦りをし、まりさもそれに応える。 ふと、まりさは不思議な感触に顔をしかめる。 以前のれいむだったらもっともちもちして弾力のある肌をしていた筈なのに、この感触はざらざらとして湿気を感じさせない。 それに先ほどから、れいむの動きもどこかぎこちなかった。 まりさは数秒頬を合わせた後、薄暗い中でそのれいむの姿を眼を凝らして眺めてみる。 「ゆうぅ!!?」 音を立ててはいけないと思いつつも、まりさは思わず短い悲鳴をあげてしまう。 そのれいむの姿――以前は群れ一番と言っても過言でなかった美ゆっくりの姿は其処には無く。 髪は半分焼け縮れてボサボサとなり、頭に付いているリボンとにしても、もうほとんど原型を留めずに申し訳程度に頭の上に乗っているといった具合だ。 全身には暴行の後がはっきりと見て取れたし、今この時も頭の後ろには二、三本が痛々しく突き刺さったままだ。 何よりその顔の所々は焦げというのも遥かに超え、黒々と炭のようになっている部分がある。 特に右頬に至っては大部分が炭化し、れいむの笑顔もぎこちなく引き攣っている。 まりさが最初に顔を見せた時、れいむが正面を向かなかったのはこのせいだろう。 無意識の内に、夫であるまりさにその醜くなった部分を見せまいと振舞っていたのだ。 「ごめんね、まりさ…こんなになっちゃった……」 れいむの眼から、ポロリと大粒の涙が零れる。 「まりさ、れいむのこときらいになっちゃったよね?こんなゆっくりできないすがたになっちゃったんだもの」 そう呟くと、れいむは更に涙を零して眼を伏せる。 まりさが助けに来てくれたのは嬉しいが、もうこんな姿になってしまっては一緒にゆっくり出来ない。 そう考えると、れいむの心は哀しみで一杯になった。 すると、そんなれいむにまりさは静かに歩み寄ると、再びその頬に自らの頬をすり合わせる。 「そんなわけないぜ。まりさはれいむだからすきになったんだ。どんなすがたになってもそれはかわらないよ」 「でも、まりさ。まりさだったら、いくらでもれいむとはべつのゆっくりできることいっしょになれるよ?」 「れいむ……それいじょういったらまりさもおこるんだぜ。」 「ゆぅぅ…ぅ!?」 まりさに怒ると言われて少し怯えた表情をしたれいむは、一転して驚愕の表情に変わる。 自分の唇にまりさが唇を重ねてきたのだ。 れいむは一瞬焦ったが、直ぐにとろんとした顔へとなり、まりさにその身を委ねる。 数秒か数十秒か判らないが、れいむとまりさにとって至福の時間が暫く流れた。 時折、「んふっぅ」や「ゆふぅぁ」などという艶めかしい嬌声が聞こえるのは、お互いの舌を絡め合わせての「でぃぃぷちゅっちゅ」を行い、 すっきりとは別の、だがそれに近い快感を感じているからであろう。 先に後ろに引いたのはまりさの方であった。 二匹の間に唾液で出来た糸が出来る。 れいむは物足りないといった顔でまりさを見詰めたが、此処から脱出しなければいけないという状況を思い出し、それを口にする事は無かった。 「わかっただろ、れいむ。まりさはれいむとだけゆっくりしたいんだよ」 「……うん」 それ以上の言葉など要らなかった。 すぐにまりさは元来た道の説明をすると、身体を痛めているれいむに「だいじょうぶ?」と心配そうな顔をしながら寄り添って進もうとした。 するとれいむはまりさから離れ、 「れいむはだいじょうぶだよ。まりさのあしでまといになりたくないから、じぶんひとりであるくね」 と言い、笑顔を見せて前へと進み始めた。 その後頭部には未だに人間の手首ほどの太さの棒が突き刺さっていたが、それを抜こうとは考えなかった。 それを安易に抜いてしまえば、中の餡子が漏れ出て、直ぐに治療出来ない環境ではれいむが死んでしまうと考えたからだ。 まりさは前を行くれいむのその姿を見て、更にその身体の中から憎しみの炎が燃え上がってくるのを感じた。 脱出するのは想像していた以上に簡単であった。 途中の見張りはあの眠っていたれいむだけであったし、潜入直後に殺したみょんの死体も未だに片付けられていなかった。 あのはくれいむにしては無防備過ぎると感じたが、自分達がそうであるように向こうも完全なゆっくりで無いのだろうと考え先へと進んだ。 そのまままりさが入り込んできた穴まで進むと、二匹はすぐさまそこから脱出しようとした。 しかし―― 「どうしたのれいむ?ここから、ゆっくりでればおそとにでられるんだよ」 まりさに先に穴に入るよう言われたれいむであったが、穴に一度入ろうとして再び戻ってきたのである。 「もういちどがんばってみるね!!」 「からだがいたいだろうけど、ゆっくりいこうね」 そう言って、れいむを励ますまりさ。 それに対して笑顔で応え、再び前に進もうとしたれいむであったが、結果は同じであった。 「ゆあッ!!れいむのあたまのぼうさんがひっかかってまえにすすめないよぉ!!」 れいむが涙声でまりさに訴える。 頭に刺さった棒の一つ、頭から斜め上に生えるように伸びているそれが穴の入り口に引っ掛かって前へと進む事が出来ないのだ。 そんなれいむの状態に、まりさも顔をしかめて状況の打開策を考える。 「ねぇまりさ、まりさがれいむのあたまのぼうさんをぬきとってくれれば……」 「ゆっ!?だめだよれいむ、そんなことしたられいむのなかのあんこがもれてしんじゃうよ」 「ゆぅ、でも……」 脱出まであと少しというこんな所で足止めを喰ってしまうとは。 しかも、まりさの足手まといにならないと言ったにも関わらず、自らのせいで先に進めないという状況に陥り、 れいむの顔に影が差す。 暫く考えた後、まりさが覚悟を決めたように、 「こうなったら、しょうめんのどうくつのでぐちからだっしゅつするよ」 と言い出す。 それにはれいむもすぐに反対した。 この洞窟の奥であったからこそ警備が薄いのである。 正面から出て行っては到底逃げ切れるものではない。 自分だけが危険な目に会うだけならまだしも、助けに来てくれたまりさまで危険な目に会わせる事は出来ない。 「だったらどうすればいいのぉ!?」 「ごめんね、まりさ。せめてまりさだけでもここからおそとにでてね」 「どぼじでぞんなこというにょぉぉ!!れいむだけをおいてなんていけないよぅ!!」 れいむのその言葉に、まりさは顔をくしゃくしゃにして否定する。 互いが互いを気遣う為に、脱出への策は全くの平行線を辿るばかりであった。 そんなやり取りをしながら、時間だけが無情にも流れる。 二匹にも焦りの色は隠せない、そんな中。 「まりさ、おねがいがあるよ!!」 「おねがい?」 意を決したようにれいむがまりさに言う。 「れいむのあたまにあるぼうさんを、まりさがなかにおしこんでね!!」 「おし……こむ…!?」 れいむの思いも寄らぬ発言に、まりさは眼を丸くした。 有ろう事か、れいむの中に木の棒という異物を自分に押し込めというのだ。 それには流石のまりさも頭を左右に振って、「そんなことはできないよ!!」と涙声で拒絶するばかりであった。 「でも、それしかほうほうはないんだよ。ゆっくりりかいしてね!!」 「いやだよ、まりさはれいむにそんなことしたくないよ!!」 「まりさにしかできないんだよ!!」 「まりさはれいむをこれいじょうきずつけたくないよ!!れいむこそゆっくりりかいしてね!!」 「ゆぅ、このわからずや!!」 一向に進まぬ事に業を煮やしてか、れいむはまりさにドスンと体当たりをする。 だが、それは全く威力も無く、まりさはすこしよろけて後ろに下がるだけであった。 それでもまりさは突然のれいむの攻撃に非難の言葉を投げ掛けようと口を開こうとした。 「なにするんだよ、れい……む?」 まりさが正面を向くと、れいむはエグエグと泣き出していた。 「れいむだって……でいむだっていたいのはいやだよ。でも、まりざのあじでまどいになんでなりだぐないから……」 「ぞれにまりざのぞんななざげないずがだなんでみだぐないよ!!まりざはいづだっでがっごうよいまりざでいでほじいよ」 「れ、れいむ……」 れいむの涙ながらの訴えであった。 それに対し、まりさは少し眼を伏た後、キッと眼に力を入れれいむに近付き、 その後ろへと回り込む。 「わかったよ、れいむ。まりさがゆっくりなかへおしこむね!!」 「うん、わかってくれたんだね。ゆっくりおねがいね」 そう言って、れいむは来るであろう激痛を予想しながら、まりさに心配を掛けまいと明るい声で応えた。 まりさは「ゆーふー」と一回だけ深呼吸をすると、 れいむの中へ棒を真っ直ぐ差し込むべく一歩後ろへと下がり、空中へと飛び上がる。 そのまま前方へと飛び上がると、棒の頭をその足の下に捕らえ体重を込めて押し込んだ。 餡子の中に棒を差し入れる鈍い感触がまりさの足元へと伝わり、れいむの中へと少しだけ押し込まれて行く。 「ゆぎぃぃぃ!!!」 出来るだけ平常を保って我慢しようと思っていたれいむであったが、思わず呻き声が漏れる。 その後、棒を押し込み倒れ込むように地面へと落ちたまりさがすぐさまれいむへと駆け寄る。 れいむは激痛に身を悶えながら地面を転がっていた。 「ゆがっ、ゆぐぐぐぐぅ!!」 「ゆあぁぁ!!でいむ、でいぶぅ!!ごめんね、まりさがもっとゆっくりおしこめたらこんなにいたいおもいしなかったのに!!」 「ぎぎぎ、ゆ…ぅ……だいじょう、ぶだよ。でいぶ、ごんなのぜんぜんいだぐなんでないがら」 心配するまりさにれいむは、口から餡子が流れ出るのも構わずに笑顔を見せる。 そんな気丈なれいむの姿に、このれいむは本当に強くてゆっくり出来る最愛のゆっくりだと改めて確信し、 必ず守り抜いていこうと心に誓った。 「ゆ…ぐぅ、ま、まりざ……ここから、ゆっぐりおぞどにでようね」 「うん、ゆっくりでようね!!かぞくのもとにかえろうね!!」 よろよろと横穴に近寄るれいむにまりさは力強く応えた。 その横穴は普通でも大人のゆっくりであれば窮屈で身体を岩肌に擦り付け、 全身に切り傷が出来てしまう程の狭さである。 それを頭の棒を中に押し込んだからといって、相当な深手を負っているれいむには厳しいものがあった。 途中何度も岩肌に肌を擦り付ける痛みに耐えられずれいむの動きが止まり、 酷い時には「ゆぎっ!!ゆぐぅ!!」と呻きながらビクビクと痙攣し出すときもあった。 そんな時何度も、まりさは後ろから「がんばってね!!もうすこしだよ!!」や「うごきをとめないでね、れいむ!!まりさをおいてゆっくりしないでね!!」 と、後ろかられいむを励まし続けた。 まりさが進入した時より遥かに時間が掛かった。 そんな正にゆっくりとした脱出であったが、とうとう眼の前に外の月明かりであろう光が見え始めた。 「れいむ、もうすこしだよ!!もうすこしでおそとでゆっくりできるよ!!」 「ゆっ、ゆっ、ゆっぐじぃぃぃ!!」 まりさの掛け声と共に、朦朧とした視界の中へと外の光が飛び込んでくる。 「ゆっぐりい”、まりざとゆっぐりずるよぉぉぉ!!」 「そうだよれいむ、まりさとゆっくりしようね!!」 死力を尽くして、れいむは身体を地面へと擦り付けながら前へと進む。 後ろを続くまりさの眼には、地面に広がる餡子の跡が眼に写る。 何処かの傷口が開いたのだろうか? それとも、苦しさの余り餡子を吐き出してしまっているのだろうか? それでも前へと進むれいむの姿に、まりさは流れ出る涙を抑える事が出来なかった。 その後更に10分ほどで、れいむは横穴を抜け外へと這い出る。 遅れてまりさが飛び出した時には、れいむは横穴の傍で身体を萎ませて休んでいた。 「ゆっ……れれ、れいむ、だいじょうぶ!?ゆっくりしてね!?」 眼を瞑って全く動かなくなったれいむの様子に、最悪の結末を浮かべてまりさは急いで駆け寄る。 「れいむ、でいぶぅ!!ゆっくりへんじしてね!!」 「……ゅぅ、だいじょうぶだよ、まりさ」 「ゆあぁ、よかったよれいむ!!おそとにでられたんだよ!!」 「ぅ…ん、ここですこしゆっくりしたら…おちびちゃんたちのところへ……」 「うん、うん!!みんなでゆっくりしようね!!れいむとまりさとおちびちゃんたちでゆっくりしようね!!」 そう呟いてれいむは眼を瞑った。 まりさは慌てて肌を寄せる――大丈夫、息をしている。 全くいびきもしない、まるで子供の様な深い眠りであった。 ここも未だ安全とは言い切れないが、れいむのこの状態では今の隠れ家まで移動するのは無理である。 幸い洞窟の裏手は群れの方角とは反対で、はくれいむの住処から実質山一つ分越えた辺りに位置する。 はくれいむの部下がこちらの方向に探しに来る可能性は限り無く低いだろう。 そう考え、今晩はここでゆっくりと身体を休めようとまりさはれいむにぴったりと身体を寄せた。 そうやってれいむの体温を感じておかないと、今にもれいむがいなくなってしまうような感覚に陥ってしまうからだ。 「れいむぅ……やっぱりれいむはあたたかいよ」 「ゅぅ……ゅぅ……」 「ゆっくりおやすみ、あしたもゆっくりしようね」 翌朝、眼を覚ますとまりさのその隣にはれいむの姿は無かった。 又もや最悪の状況を想像し、まりさはれいむの名前を叫ぶ。 すると近くの茂みから、 「ゆっくりしていってね!!」 という声と共に、れいむが姿を現した。 「ゆっくりしていってね……じゃないよ!!れいむのすがたがみえないから、まりさはおどろいたんだよ!!」 「ごめんねごめんね。れいむはちかくのおはなさんをゆっくりとつみにいっていたんだよ!!」 そう言ってれいむは頬袋に溜めた色とりどりの花を吐き出す。 ただ量はかなり少なかった。 炭化して硬質化した右頬のせいで多くの量を詰め込む事など出来なかったのだろう。 「すごいよれいむ!!こんなにたくさんのおはなさんをあつめられるなんて、やっぱりれいむはてんさいだね!!」 「ゆっへん、それほどでもないよ!!」 そんな事はまりさは一切気にせず、れいむが精一杯集めてくれた食事を素直に喜んだ。 れいむの状態にしても昨日から比べれば相当良くなっている。 この調子なら今日中に皆の所まで帰る事が出来るだろう。 「じゃあ、れいむ。これをゆっくりたべたらみんなのところにかえろうか」 「うん、ゆっくりたべて、ゆっくりみんなのところにかえろうね」 そう言った後、二匹は食事を始めた。 れいむは捕囚暮らしであった事は元より、愛するゆっくりと共に食事出来る事で代わり映えしない植物でもれいむは何倍にも美味しく感じた。 それはまりさも同様であった。 二匹はその味と幸せを噛み締めながら同時に「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~♪」と高らかな声をあげる。 そして食事後少しゆっくりした後、まりさとれいむは皆の待つ隠れ家へと進む事とした。 時間にして三時間程であろうか。 二匹は時折休憩を挟みながらも、それでもゆっくりしないで道中を急いだ。 「ゆっ、れいむ!!あとすこしだよ!!ゆっくりいこうね!!」 「いやだよ、まりさ!!きょうだけは、れいむはゆっくりしないでいそぐよ!!」 「ゆぅ、だったらまりさもまけてられないね!!」 二匹はそんな会話を楽しみながらピョンピョンと跳ね続ける。 もうここまで来れば追っ手が来る事は無いだろうとは思ったが、家族の事を思えば自然にその足は進むのだろう。 会話の内容にも、幾分か余裕が出てきた。 すると、そんな二匹の進む道の横にある茂みが急にガサガサと揺れ出す。 れいむはそれにビクリと身を怯ませて、すぐさままりさの後ろへと回り込む。 だが、まりさは怯える様子も無くれいむに語り掛けた。 「だいじょうぶだぜ。きっとなかまのみんながむかえにきてくれたんだ」 「ゆっ、そうなの?」 まりさのその言葉に、れいむの顔も安心の色が窺える。 二匹はそのまま、その茂みの方へと向き直ると「ゆっくりしていってね!!」と呼び掛けた。 予想通りにそこからは「ゆっくりしていってね!!」という声が返ってくる。 しかし――そこから現われたゆっくりは予想外の者達であった。 「ゆへへ、ことばどおりにゆっくりしてやるんだぜ!!」 「わかるよー♪みょんのかたきなんだねー♪ゆっくりなぶるよー♪」 この二匹は――。 「ゆぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」 まりさの後ろでれいむが叫び声をあげる。 突然の事にまりさは驚いて後ろを振り向くと、其処にはこの世のものとは思えない恐怖に引き攣ったれいむの顔があった。 囚われの身になっていた間に受けた拷問の数々を、れいむの餡子にはしっかりと刻まれていたのだろう。 その刻まれた恐怖がフラッシュバックとなって頭を駆け巡る。 「ゆじいぃぃぃ!!いやだ、いやだよぉ!!」 「れいむ、れいむ!!おちついて!!」 それに合わせたように、ぞろぞろと他のゆっくり達も出てくる。 総勢で10は居るだろうか。 どちらにしても、こんな状況のれいむを庇って戦える筈も無い。 まりさの顔にはっきりと見て判る程に焦りの色が浮かぶ。 「こんなやつが、このまりささまよりつよいまりさなんだぜ?とてもそうはみえないんだぜ?」 口元を吊り上げ勝ち誇ったような笑みを浮かべて、はくれいむの部下であるまりさが呟く。 周りの部下達も「そうだねー」などと同意する。 「ゆあぁぁぁ、こわいよぉぉぉ!!」 「だいじょうぶだよ、れいむ!!れいむはまりさがまもるよ!!」 「まりざ、まりざぁ!!」 恐慌状態のれいむの前でまりさがプクーと頬を膨らませて相手を威嚇する。 これには敵のゆっくりも失笑を隠せない。 一対一ならまだしも、10対2。 いや、れいむのあの状態を考えれば10対2どころか10対1――足手まといと考えればそれ以上。 最早大勢は決しているのだ。 何を恐れる必要があるだろうか。 「やめでえぇぇぇぇぇ!!ごっぢごないでぇ!!」 れいむが声をあげるが、相手はそれに応える気配すら無い。 精一杯膨らむまりさを囲むように、はくれいむの部下達はにじり寄ると「ゆっくりしね!!」と叫んで一匹がまりさに飛び掛った。 このSSに感想を付ける
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おまけ 前 れいむの元から逃げ去った2匹の子れいむは、親れいむから逃げるために、方々に散って行った。 1匹は内風呂の中へ、もう1匹は最初に来た植え込みの中に飛び込んだ。 内風呂に入っていった子れいむは、運よく開いていたドアが目に止まり、その小さな部屋の中に飛び込んだ。 しかし、そのドアにはロープが掛けてあり、使用禁止と書かれてあったのだが、子れいむに文字が読める筈もない。 小部屋の隅でしばらく身を隠していると、親れいむの声が内風呂の中に響き渡った。 自分を追って来たと思った子れいむはガタガタ震えたが、どうやら親れいむは子れいむのほうに来る気はないらしく、向こうで壁に体当たりしている音が聞こえてきた。 その後、ドアの開く音と共に、れいむの悲鳴が子れいむの元まで届いてくる。 何をされているのかは知らないが、今まで聞いたこともないような親の絶叫に、子れいむはチビりながら、その声が止むのを待ち続けた。 やがて親れいむの悲鳴も止み、人間の足音が遠さかって行ったが、子れいむは恐怖に足がすくみ、その場から動くことが出来なかった。 そして、神経を減らし続けた結果、余りの疲れにいつの間にか子れいむはその場所で眠ってしまった。 「まったく!! 今日はゆっくりが多くて、散々だよ」 清掃のおばさんが、まりさ親子を崖下に捨て、露天風呂の掃除を終えて戻ってくると、子れいむの入った部屋の入口に掛けられたロープを取って、ドアを閉めた。 閉められたドアには、こう書かれたプレートが填められていた。 “サウナ室” 「ゆっ?」 子れいむは目を覚ました。 一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったが、周りを見渡し、すぐに自分がここにいる理由を思い出した。 どのくらいたったのかは知らないが、小さな部屋の窓からのぞく空は、少し夕日掛かっている。 子れいむはまだ親れいむが怒っているのでは震えた。 悲鳴は聞いていたものの、現場を見たわけではないので、まさか親れいむが死んでいるとは夢にも思わなかった。 どうやって帰ろうか? 謝れば許してくれるだろうか? いろいろ考えたが、結局名案が浮かばなかった。 そんな折、子れいむは空腹感に襲われた。 まりさ達と違って、子れいむはお菓子を食べていないのだ。一度感じると、立ってもいられないくらいお腹が空いてくる。 もう帰ろう。お母さんもきっともう怒っていないだろう。 子れいむの餡子脳は、空腹に負けて、面倒事を考えるのを停止させた。 子れいむは、小さな部屋から出ようとした。 しかし、さっき入ってきた入口は、大きな木の板で塞がれていた。 子れいむは、自分が出口を間違えたのかなと、小部屋の中を行ったり来たりしたが、どこにも出られるような場所は無かった。 「ゆうう―――!!! なんで、でられないのおおぉぉぉ――――!!!」 部屋から出られなくて、泣き出す子れいむ。 しかし、ここで泣くことは、ある意味自殺行為に等しいことを、子れいむはまだ知らなかった。 一通り泣き叫んで、子れいむは誰か助けが来るのを待っていた。 窓から見える空は、もうすっかり真っ暗であり、この時期は夜になると、めっきり寒くなってくるのだ。 ゆっくりは寒いのが大の苦手である。 子れいむも、「寒いのはいやだよおおぉぉぉ―――!!!」とまた半ベソをかくも、そこで子れいむは異変に気がついた。 なぜか部屋が暖かいのである。 本来ならもう寒い時間だと言うのに、この暖かさときたらどうだ。まるで春の陽気のそれではないか!! 「ゆゆっ!! あったかくなってきたよ!!」 暖かくなってきて、喜ぶ子れいむ。 空腹なことも部屋から出られないことも一時忘れ、嬉しくなって部屋中を飛び跳ねている。 しかし、次第に状況が一変し出した。 熱さが下がらないのだ。 春の陽気は次第に夏の昼下がりになり、夏の次に秋が来ることはなく、その後もグングン気温が上昇していく。 「たいようさ―――ん!! もうやめでええぇぇぇぇ――――!!!」 子れいむは、余りの暑さに意識がもうろうとしだしてきた。 すでに沈んでいる太陽に文句を言い放つ。 しかし、太陽(笑)は、子れいむの言うことを無視して、どんどん気温を上昇させていく。 室温70度くらいの頃だろうか? 子れいむの座っている木の板が高温になり、同じ場所にじっとしていられなくなった。 「あじゅいおおおおぉぉぉぉ―――――!!! やめでえええぇぇぇぇぇぇ――――――!!!!」 あまりの熱さに、子れいむは飛び跳ね続けるしかなかった。 その間も、子れいむの体からどんどん水分が奪われていく。 泣いたり、チビったりしなければ、もう少しは水分ももったかもしれないが、既に子れいむの体の水分は限界まで搾り取られていた。 遂には、跳ねる力さえ出てこなくなった。 「なんで……れいむがこんな……めにあわ…なく……ちゃなら………ない…の?」 カサカサになった唇は最後にそう呟くと、子れいむは先に行った姉妹たちの元に旅立って行った。 2時間後、水分の無くなったカラカラの焼き饅頭が、温泉客に見つけられた。 植え込みの中に逃げ込んだ子れいむは、適当な方向に逃げて行った。 とにかく親れいむに捕まるまいと、場所も考えることなく精一杯逃げていく。 やがて、子れいむの体力が付き、これ以上歩けないというところで、子れいむは足を止めた。 「ゆひーゆひーゆひー……」 大きく肩で息を付く子れいむ。 後ろを振り返ると、親れいむの姿は見えないし、声も聞こえない。 逃げ切ったのだと、ようやく子れいむは、一息つくことにした。 子れいむはその場でしばらくジッとしていれば、その内親れいむの怒りも収まるだろうと考え、安全そうな草むらに身を隠して、疲れをいやすべく眠りについた。 子れいむが起きたのは、サウナに入った子れいむと、ちょうど同じくらいの時間だった。 すでに空は真っ暗で、うっすら寒い。 もう親れいむの怒りも静まった頃だろうと、子れいむは巣に帰ろうとした。 しかし、その時になって、ここがどこか全く分からないことに気がついた。 「ゆううぅぅ―――!! ここはどこおおおぉぉぉぉ―――――!!!?」 大声で叫んでも反応してくれるものは誰も居なく、子れいむは仕方なく、運良く来た道に戻れることを祈り、適当に歩き始めた。 しかし、そんなことで無事にたどり着けるほど、世の中は甘くない。 元々体力が少ない子ゆっくりで、しかも飯抜き山中歩行をしたおかげで、せっかく体を休めたというのに、すぐに子れいむの体力は限界に達した。 「……もう……あるけないよ……」 子れいむはその場にうずくまった。 すると、目の前の草影がカサカサと動き出した。 初め、親れいむが迎えに来てくれたのかと思ったが、出てきたのはカルガモの親子だった。 子れいむは落胆したが、すぐにあることが閃いた。 このカルガモ達なら、あの温泉の行き先を知っているに違いない!! あそこまで連れて行ってもらえば、後は巣の帰り方は分かっている。 「とりさん!! れいむをゆっくりおゆのところにつれていってね!!」 カルガモに向かって、跳ねて行くれいむ。 本当に危機意識の薄い饅頭である。 人間ならともかく、野生生物の前に饅頭が行くなど、空腹のライオンの前に自分から進んでいく草食動物に等しい。 結果は言うまでもないだろう。 「ゆぎゃああぁぁぁぁぁぁ―――――!!! なにずるのおおおぉぉぉ―――――!!! れいむはたべものじゃないよおおぉぉぉぉぉ―――――!!!!」 親カルガモはれいむを咥えると、子カルガモの前にれいむを差し出した。 「やめでえええぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!!! いだいよおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!」 子カルガモに、チクチクと啄ばまれ暴れ狂う子れいむ。 しかし、親カルガモの体長は60㎝近くもあり、子れいむとの力の差は歴然で、逃げだせるはずがない。 子カルガモは、子れいむをボロボロ溢しながら食べていくも、しっかり下に落ちた皮や餡子も、残さず食べていく。 食べ物を粗末にしないその精神は、飽食になれた外界の人間や、どこぞの饅頭一家にも見習わせたいくらいである。 やがて、子カルガモ達がもう食べられなくなると、半分ほど残った子れいむは、親カルガモに美味しく食べられた。 ここで、一家全員が死亡したこととなった。 結局、この一家の不幸はカルガモに始まって、カルガモに終わることとなったのである。 ~本当にfin~ カルガモの親子って可愛いよね!! なのに、ゆっくりが同じことやっても腹が立つだけなのはなぜだろうww ちなみに帽子の設定は、家族は帽子を被ってもなくても個体認識が出来るということで。 今まで書いたもの ゆっくりいじめ系435 とかいは(笑)ありす ゆっくりいじめ系452 表札 ゆっくりいじめ系478 ゆっくりいじり(視姦) ゆっくりいじめ系551 チェンジリング前 ゆっくりいじめ系552 チェンジリング中 ゆっくりいじめ系614 チェンジリング後① ゆっくりいじめ系615 チェンジリング後② ゆっくりいじめ系657 いい夢みれただろ?前編 ゆっくりいじめ系658 いい夢みれただろ?後編 ゆっくりいじめ系712 ゆっくりですれ違った男女の悲しい愛の物語 ゆっくりいじめ系744 風船Ⅰ ゆっくりいじめ系848 風船Ⅱ ゆっくりいじめ系849 風船Ⅲ カルガモとゆっくり 前編 カルガモとゆっくり 後編 カルガモとゆっくり おまけ このSSに感想を付ける
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ゆっくりいじめ系2216 「さあ、おたべなさい!」のこと(上)から 「あー、金と時間損した……ただいまー」 「ゆゆっ!おにいさんがかえってきたよ!!」 「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」 玄関のドアが開く音に続いて飼い主の青年の声が聞こえるや、 二個のれいむは押し合いへし合い、お兄さんを出迎えようと玄関に走った。 そんな光景を目の当たりにしたお兄さんは、素っ頓狂な声を上げざるを得ない。 「へっ!? 何で二個!?」 「ゆゆ!おにいさんがたべてくれないからふえちゃったんだよ!!」 「ゆっくりできるれいむがふえて、にばいゆっくりできるよ!!」 れいむ達は、あくまで前向きだった。 お兄さんは「ああ、そういえばこいつ今朝割れたんだっけ」と、どうでも良過ぎて忘れていた事を今思い出した。 ゆっくりが適当な存在であることはお兄さんも承知していたつもりだった。しかしまさか分裂するとは…… 頭を掻きながら家に上がり、とりあえず腰を落ち着けるお兄さんに、れいむ達はぴょこぴょこついてくる。 「おにいさん、れいむおなかすいたよ!!」 「れいむもだよ!!ゆっくりごはんをちょうだいね!!」 「これ食い扶持が増えたってことだよなあ……別にそのぐらい困らないけどよ」 お兄さんはブツブツ言いながら、台所にゆっくりフードを取りに行く。 しかしゆっくりフードは買い置きを切らしており、残っていたのはあと一食分ほどだった。 彼は「しまった」と言おうとしたが、よく考えたら勝手に増えたのはゆっくりの方であることを思い出し、やめた。 他に何か作るか……と思うも、ペットショップ店員の言葉が脳裏に蘇る。 「基本的にこれ以外は食べさせないで下さいね。人間の料理などを食べさせると、舌が肥えますから。 そうすると餌代がかさむようになりますし、ゆっくりも満足出来難くなりますから、どちらにとっても良くないんですよ。 このゆっくりフードがゆっくりにとって、美味し過ぎず不味くもなく、一番ゆっくり出来るバランス食品なんです」 一度彼もゆっくりフードをつまんでみたことがあるが、何とも言えぬ微妙な味だった。 あれなら自分で作った酒のツマミなどの方が、よほど食べ物として上等と言える。 そんなものを食べさせて食事の水準を上げてしまっては、お互いの不幸を招こうというものだ。 仕方なく彼はゆっくりフードの箱を手にし、わくわくと身体を揺する二個のれいむの元へと戻る。 「おい、悪いけど一人前しかないぞ」 「ゆゆっ!?そんなぁぁぁぁぁ!!」 「れいむおなかいっぱいたべたいよ!!」 当然、れいむたちからはブーイングが噴出。しかし彼にとってこれは初めてではない。 以前にもゆっくりフードを買い忘れてしまい、れいむの晩ご飯が抜きになったことがあった。 確かにその晩は機嫌が悪かったが、翌日買ってきた餌を与えると、ケロリと忘れて上機嫌に戻った。 極端な話、数日抜いたところで別に死ぬようなものでもない。そう彼は楽観視していた。 「まあ明日は少し多めに買ってくるから。今日はそれで我慢しとけ」 「れいむおたべなさいしてつかれたよ!!おなかぺこぺこだよ!!」 「れいむだっていっしょだよ!!」 「だったら仲良くはんぶんこしないとな。それがゆっくりってもんだろ」 「「ゆっ・・・」」 しかしこの問題の根は、空腹とはまた違うところに存在した。 れいむたちは「二倍ゆっくりできる」と前向きに考えていたが、事実はそうではない。 お兄さんが与えてくれる有限のゆっくりを、二人ではんぶんこしなくてはいけないのだ。 それでは充分にゆっくり出来ず、満足な「おたべなさい!」が出来るかどうか解らない。 この「ごはんが足りなかった」という一事は、れいむ達の心にそう印象付けるに至った。 しかし内心はそう感じていても、そこはゆっくり。出来る限り波風を立てず、お互いゆっくりする方向で動いた。 「ゆっ、れいむ、いっしょにたべようね。おにいさんをこまらせないでね」 「ゆゆ、わかってるよ!はんぶんこしようね!」 「れいむはゆっくりしてるね!!」 「れいむもゆっくりしてるよ!!」 二個のれいむは形ばかりのすりすりで一応の親愛を高めると、食事に取り掛かった。 とはいえ、ゆっくりの知能で綺麗に二等分など出来るはずもなく、自然と偏りが生じた。 多く餌を取れた方のれいむは、「むーしゃ、むーしゃ♪」と食事に集中している。 そうでない方のれいむは、まだ咀嚼をしているもう一個のれいむを羨ましそうに見つめている。 そんな手持ち無沙汰の状態だったから、お兄さんがぽつりと呟いた一言に気付けたのだろう。 「くだらねえな……」 (ゆっ!?) れいむたちを見下ろすお兄さんの瞳は、どこか冷ややかだった。 いつもはぶっきらぼうながら、どこか暖かみのある視線を送ってくれていたのに。 しかしそれも無理からぬ。青年は心のどこかが次第に冷えていくのを感じていた。 彼は「自分対れいむ」という限定的に完結した関係性の中に意味、救いを見出していたのだ。 それがもう一個ゆっくりが増えたことにより、「れいむ対れいむ」という異なる関係性が生まれた。 人間は人間同士、ゆっくりもゆっくり同士の方が接しやすいだろう。 となると、彼がそこに食い込んでいくのにはエネルギーを使わなければならない。 それが彼には面倒臭い。それは彼が日頃疎ましく感じていた、社会というものの構図だからだ。 実際にはれいむたちは、お互いを内心嫌っており、お兄さんにゆっくりしてもらうことしか考えていない。 だが客観的に事実を見れば、れいむたちはお互いにゆっくりしており、お兄さんは観察者に過ぎなかった。 彼にはゆっくり同士が仲良く過ごすのを眺めるような趣味は無かった。 (いや、これは自己中心的な考えか……) そう思いなおしたとて、一度感じてしまったことを撤回することなど出来はしない。 まあ、長く付き合っていれば色々ある。自分もその内、こういった観察の良さが解ってくるかもしれない。 そう自分を納得させながらも、お兄さんは表情を顰めたままれいむ達に背を向け、PCの前に腰掛けた。 (おにいさんがゆっくりできてないよ。きっとこのゆっくりできないれいむのせいだよ) そんな様を見ていた食いっぱぐれいむは、お兄さんの感情の機微を直感した。 お兄さんは、れいむたちが増えちゃったのを見て、明らかにゆっくり出来なくなっている。 「晩御飯を食いっぱぐれる」という、分裂のデメリットを味わった方のれいむだからこそ出来た発想かも知れない。 このままではお兄さんもゆっくり出来なくなり、れいむの享受出来るゆっくりも、以前の半分以下になってしまうだろう。 まさに負のスパイラル、ゆっくり無き世界。待っているのは絶望だけ。 早急に何とかしなければならない。 ようやく食事を終えたもう一人の自分を見ながら、れいむは決心を固めた。 とにもかくにも、まずはゆっくりしなければならない。 とは言え、れいむ同士では到底ゆっくり出来ない。同じ髪飾りをつけたゆっくりなど気持ちが悪くて仕方がない。 お兄さんが構ってくれなければ、ゆっくり出来ない子と過ごすしかなくなってしまう。そんなの嫌だった。 れいむはネットの巡回を楽しむお兄さんの足下へと縋り付いて行った。 「おにいさん!れいむとあそぼうね!れいむとゆっくりしてね!!」 「えっ? どうしたんだ急に」 「おにいさんとゆっくりしたいよ!れいむとおはなししてね!!」 れいむがこんな風に遊びをせがんで来ることなど、今までほとんど無かった。 珍しいことだとお兄さんが一瞬戸惑っている間に、沢山ごはんを食べた方のれいむが慌てて駆け寄って来た。 お兄さんの足に身体を擦りつけていたれいむを、身体を使って押しのける。 「ゆっ、れいむ!おにいさんのじゃましちゃだめだよ!!」 「ゆゆ、でも、でも・・・」 「おにいさんはゆっくりしてるんだよ!れいむはれいむとゆっくりしようね!!」 「ゆぅぅぅぅ・・・・・」 沢山ごはんを食べて幸せになった方のれいむは、少し心に余裕が出来ていたようで、 「ゆっくり出来ないれいむとでも何とかゆっくり過ごしてやろう」という気概を見せていた。 しかしもう一方のれいむにとって、そんな気遣いはありがた迷惑も良いところであった。 「まあ良いじゃないか、仲良くしてろよ。ゆっくりはゆっくり同士の方が良いだろ」 「ゆゆ・・・おにいさん・・・・・」 「おにいさんもそういってるよ!むこうにいってゆっくりしようね!!」 お兄さんにまで言われては仕方がない。ここでゴネてお兄さんにまで嫌われたらどうしようもない。 部屋の隅に置かれたれいむ用のゴムボールに向かって、意気揚々と跳ねていくれいむと、 後ろ髪を引かれる思いで渋々その後ろについていくれいむ。 お兄さんはその背中をどこか寂しげに見送ると、PCに向き直り、面白動画サイトを見てアハハと笑っていた。 れいむとれいむは交互にゴムボールに体当たりし、キャッチボールのような遊びをしていた。 何だかんだで身体を動かす遊びは楽しいし、遊び相手がいるというのも悪くない。 それでもやはり、相手が自分と全く同じものだと思うと、両者とも良い気持ちはしなかった。 これからお兄さんが仕事に行っている間、ずっとこんな思いをしなければならない…… 一方のれいむは「その内慣れるさ」と自分に言い聞かせていたが、ごはんを少ししか食べられなかった方のれいむは 空きっ腹を抱えながら、来るべき憂鬱な生活を想像して、そんなのは耐えられないと感じていた。 「ゆっ!れいむ、ゆっくりしてる?」 「ゆっ・・・?れいむはゆっくりできてるよ!!」 「いっぱいゆっくりして、おにいさんをゆっくりさせてあげようね!!」 そんなものは欺瞞だ。れいむが二人もいる限り、お兄さんはきっとゆっくり出来ない。 空きっ腹のれいむはボール遊びを中断し、もう一方のれいむの傍に駆け寄った。 「ゆ?どうしたの?れいむもっとあそびたいよ!!」 「れいむきいてね。あしたになったらまたおたべなさい!しようね」 「ゆゆ!?でもまたたべてもらえなかったらたいへんだよ!もっとゆっくりしてからじゃないとだめだよ!」 「だいじょうぶだよ。れいむにいいかんがえがあるよ」 「ゆゆ・・・ほんとう?さすがれいむだね!!」 自分の分身の考えた作戦なら、きっと素晴らしいものに違いない。 疑いもなくそう確信したれいむは二つ返事で承諾し、二人はゆっくりと明日の打ち合わせを始めた。 ヘッドホンを付けて動画を見ていたお兄さんがその密談に気付くことはなかった。 もしかするとそれは、れいむ達が楽しそうにしている声をむざむざ聞きたくないという、ある種の防衛行動であったのかもしれない。 それぞれがダラダラと時間を過ごし、夜は更け、やがて一人と二個は深い眠りについていった。 運命の朝。 お兄さんがいつも通りの時間に起きて来ると、居間のテーブルには二個の饅頭が行儀良く並んでいた。 「「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」」 「ああ……おはよう。そういえばお前増えたんだっけ……」 そこ邪魔だからどいとけよ、とれいむたちに言い、流しに顔を洗いに行こうとするお兄さん。 しかしそんなお兄さんを、れいむたちは「ちょっとまってね!!」呼び止める。 「ん……何だってんだよ?」 「おにいさん!きょうこそれいむをたべてもらうよ!!」 「ふたりになったからにばいゆっくりできるよ!!」 「またその話か。だから俺は要らないって」 「えんりょしないでね!いっぱいあるからたべていってね!!」 「あのなあ……」 「れいむ!あれをやろうね!」 「ゆゆっ、わかったよれいむ!!」 「おい、ちょっとは聞けよ」 れいむたちの打ち合わせ。それはお兄さんのおいしい朝ごはんになること。 いっせーの、で二人同時に「さあ、おたべなさい!」をする。 そのまま放っておいてしまえば、可愛そうなれいむは四人に増えてしまう。 れいむが増えるとお兄さんはゆっくり出来なくなるのだから、今度こそ食べるしかあるまい。 お兄さんを脅かすようで気が引けるやり方だが、食べてもらいさえ出来ればゆっくりしてもらえるのだ。 その結果を得るためには、仕方の無い妥協だった。 れいむたちは互いに頷きあい、お兄さんにの顔をきりりと見つめる。そして…… 「「いっせーの、」」 「「さあ!」おたべなさい!!ゆっ!?」 「ああ、また……あれ?」 「さあ!」までは二人同時に発声した。しかし肝心の「おたべなさい!」を行ったのは一方だけだ。 作戦立案をした空きっ腹のれいむの方は、割れたれいむの隣で平然と、丸々と構えている。 お兄さんへの親愛は衰えていなかったため、「おたべなさい!」は痛みもなく上手くいった。しかしこの状況は何だ? 「ゆゆ、れいむどうしたの!?ちゃんとおたべなさいしてね!!」 「・・・・・・」 何か失敗したのだろうかと、割れたれいむが必死に呼びかける。 だが残ったれいむは何も言わず、割れいむが予想もしていなかった行動に出た。 バクンッ 「むーしゃ、むーしゃ・・・しし、しししししあわせーーー♪」 「ゆあああぁぁぁぁぁ!?どうしてれいむがたべちゃうのおぉぉぉーー!!」 れいむが「おたべなさい!」をしたのは、お兄さんに美味しく食べてもらうため。決して他の人間や動物には食べられたくない。 なのに何故かれいむを焚き付けたれいむの方が、お兄さんのためのれいむの身体をむしゃむしゃと食べ始めた。 こんな結末、苦痛と絶望以外の何者でもない。「おたべなさい!」を冒涜されたれいむは、その全生涯を否定されたのだ。 「むーしゃ、むーしゃ♪」 「やめてね!!れいむをたべないでね!!れいむをたべていいのはおにいさんだけだからね!!」 空きっ腹れいむがどんなにゆっくり食べたとしても、一度誰かに口をつけられてしまった以上、 割れいむが「ふえちゃうぞ!」で再生する事は最早無い。同胞……いや、自分自身の裏切りを甘受し、このまま消えていくだけだ。 「どうじてごんなごとするの!!れいむやめてね!!これじゃゆっぐりでぎないよ!! やべてよおぉぉぉぉぉ!!!ゆっぐ」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせーーーーー♪」 残された半身の口も食べられてしまい、断末魔の叫びが途絶える。 もう一人の自分の身体を跡形も無く食べつくしたれいむは、一回りほど大きくなり、心身共に満たされていた。 れいむはやっぱり、ものすごく美味しかった。こんなれいむをお兄さんが食べたら、一生分のゆっくりが味わえることだろう。 更にそんなれいむを食べたれいむには、ゆっくりが二人分乗算されている……これこそがこのれいむの、真の作戦だったのだ。 でっぷりと膨れた身体を引きずり、残ったれいむはお兄さんに向き直る。 「おにいさん!!れいむはやっぱりすごくおいしいんだよ!!おにいさんもきっとすごーーくゆっくりできるよ!! れいむはゆっくりできるれいむをたべたから、きのうよりもなんばいもゆっくりしてるよ!! こんなにゆっくりしたれいむならおにいさんもたべてくれるよね!!さあ・・・」 「あー、ちょっと待て」 お食べなさい、と言おうとしたれいむを、お兄さんがその手で制止する。 お兄さんは一連の光景を眺めて、どん引きしていた。この上食べてもらえないと泣き叫ばれては敵わない。 「俺、甘いもの嫌いなんだよ」 「ゆ・・・・?」 「食べたらオエッて吐いちゃうぐらいな。だからお前は食えん。悪いが」 れいむの頭は真っ白になった。 どうして? あんな裏切り紛いのことを働いてまで、お兄さんにゆっくりしてもらおうとしたのに…… どうして甘いものが嫌いなのに、れいむのことを飼ってたの? れいむと一緒にいっぱいゆっくりしたら、最後には甘い甘いれいむを食べるって決まってるのに。 れいむのゆっくりは、お兄さんに食べてもらうためにあったのに。 れいむは自分を食べてもらう以上に、お兄さんをゆっくりさせてなんてあげられないのに。 じゃあれいむは、本当はゆっくりできない、いらない子だったの? 次から次へと溢れてくる疑問が、そのまま涙となったかのように目からこぼれて来た。 「ゆっ・・・・ゆぐっ・・・・どうじで・・・・・・・・ゆぐっ・・・・」 「はぁ……別に食べてもらう以外にも付き合い方は色々あるだろ。そう落ち込むなよ」 お兄さんは事も無げにれいむを一瞥すると、洗面所に顔を洗いにいってしまった。 れいむははっと我に返り、お兄さんのあとを必死な顔でついていく。 「おにいさん!まってね!!れいむをたべなくてもいいよ!!だかられいむをきらいにならないでね!! れいむゆっくりできないゆっくりじゃないよ!!おにいさんといっしょにゆっくりしたいよ!! もうあんなことしないからね!!だからあんしんしてゆっくりしていってね!!ずっといっしょだよ!!」 「…………」 バシャバシャと水を顔にかけながら聞いていたお兄さんには、返事は出来なかった。 続く?
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書きたかった事 本スレ91の 220さんの書き込み 『ゆっくりが物覚え悪いのは都合の悪い記憶を餡子と一緒に吐くからという設定があったよな。』 からインスパイアされて 若干汚いのが注意点、嘔吐物的な意味で 作者 チェンマガツ 男はその手にゆっくりれいむを抱いている。 成体サイズのそれは近くの森で甘い言葉で誘って着いてきた普通の野良れいむだ。 男の家にはすでにゆっくりまりさが居るのだがそろそろ番となるゆっくりも欲しかろうと思い拾ってきたのだ。 わざわざゆっくり屋で買うのも馬鹿らしい。 気に入らなければ潰して、まりさには別のれいむをあてがえばいいのだ。 そんな男の考えを知らないれいむはといえばご機嫌上々である。 一度だけだが森の中で出会った人間さんから舌がとろけそうなほど美味しい食べ物をもらったことがあった。 その思い出だけで人間への警戒感は全くない。その上かっこいいまりさと会えるというのだ。 これ以上幸せな状況は無い、というわけだ。 「ただいまー」 「おにいさん、ゆっくりおかえりなさい!!」 帰宅すると玄関まで飼いまりさが跳ねてきてきっちりと挨拶をした。 お兄さんはかなり厳しい性格でこれまた野良であったまりさを一から叩き直して立派な飼いまりさに仕上げていた。 「ゆゆっ、おにいさんそのれいむどうしたんだぜ」 「ああ、お前もそろそろ番になりたいだろうと思って連れてきてやったんだ」 そう言ってまりさの目の前にれいむを降ろしてやる。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしていってね!!」 「まりさはまりさだぜ」 「れいむはれいむだよ!!」 「れいむはゆっくりできるれいむだぜ?」 「とてもゆっくりできるよ!!」 「それならおにいさんのおうちでゆっくりするといいぜ」 「う、うん……。まりさのおうちじゃないの?」 「だめだぜれいむ、ここはおにいさんのおうちだぜ。まりさはここでゆっくりさせてもらってるんだぜ」 「れいむもゆっくりできるの?」 「れいむもちゃんとゆっくりさせてやるさ。その代わりちゃんと言う事聞いて貰うぞ」 「ゆゆっ、ゆっくりりかいしたよ!! れいむもゆっくりするよ!!」 「よし。まりさ、れいむを部屋に案内してやれ」 「ゆっくりわかったよおにいさん!! れいむこっちにくるんだぜ」 「ゆゆ!!」 玄関先で一通りの自己紹介を済ませたまりさとれいむは部屋の奥へと消えていった。 まりさとの会話からもそれほど性根悪いれいむでなさそうなので男はこのまま様子を見る事にした。 まりさの為に用意された部屋は上下に分かれた押し入れの下段だった。 それでも並のゆっくりには十分すぎるほどのスペースである。 れいむはもちろんそこが押し入れと理解するわけがないのでまりさはとても広い巣を持っているゆっくりだと思った。 巣の広さもゆっくりのステータスの一つであるためれいむがまりさを気に入るのは早かった。 「まりさのすはとってもひろくてゆっくりできるね!!」 「ゆゆ~ん、あんまりほめるんじゃないぜ」 さらに飼いゆっくりであれば当然食事面で野生のゆっくりと差がついている。 まりさ本人もゆっくりからしたら美ゆっくりの部類に入るわけでれいむはその点でもまりさをお気に召したようだ。 逆にまりさの方は正直別のゆっくりならなんでもよかった、今は後悔してない状態である。 程良い関係であるならこれからの生活に支障はない、男はそう思った。 「もうお昼だしご飯にしようか」 「れいむにごはんはやくちょうだいね!!」 「れいむ、ゆっくりまってたらおにいさんはもってきてくれるんだぜ」 「ゆゆっ!! まりさはすごいんだね!!」 「それはちがうぜれいむ……」 まりさの実にまずそうな表情を男は読み取る。 れいむはまりさの言葉をまりさの為に男がご飯を持ってきてくれていると完全に誤解している。 まりさが伝えたかったのはご飯を催促することなく大人しくしていたらようやくご飯をもらえるということだ。 男は所詮野生のゆっくりだと思って甘くみたがまりさからすれば冷や汗ですむ話ではない。 「れいむ、うちでは静かにしている奴にゆっくりできるご飯を持ってくることにしている、わかったか?」 「どうしてそんなこというの? さっさとごはんもってきてね!!」 「まあそのうち分かるよ」 意味深な言葉を残して男は去っていった。れいむはそんなことは一切気にしなかった。 その後男は二匹に同じ量、同じ見た目のご飯を持ってきてまた部屋をあとにした。 二匹がご飯を食べている間にれいむを洗う準備をするためだ。 これから一緒に暮らすためにはあまりに汚らしい肌やリボンでは都合が悪いのだ。 ぬるま湯にボディーソープを入れてよく掻き混ぜると即席泡風呂が完成した。 そのころ押し入れの二匹は仲良くご飯を食べていた。 まりさはゆっくりらしいがつがつ食べるスタイルをとうに捨て去り、器から舌で少しずつ巻き取りながら綺麗に食べている。 一方のれいむは見事にご飯を食べ散らかしていた。 飼い慣らされたまりさから見れば卒倒物である。最近では忘れていた男の怒声が飛んでくるのが目に見えて震え上がった。 「れいむ、ごはんはきれいにたべるんだぜ。すのなかもきれいにしないとだめだぜ」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪ なにかいったまりさ?」 「いや、なんでもないぜ……」 まりさは一応忠告はしたとばかりにれいむの食べ様に知らない振りを決め込む。 そして男が戻ってくると案の定れいむに雷が落ちる。 と思われたが男の意外な反応にまりさは驚くこととなる。 「れいむ、ごはんをたべるときはきれいにな。すがきたなくなってるぞ」 「ゆゆっ、れいむのせいじゃないよ!!」 「きれいにしないとゆっくりできなくなるぞ?」 「れいむはしらないっていってるでしょ!?」 「そうかまあいい。れいむおいでお前を綺麗にしてやろう」 「ほんとう!? ゆっくりはやくつれてってね!!」 「はいはい」 まりさの開いた口がふさがらない。何故だ、自分の時はあんなに優しくされた覚えはないのだがといったところだろう。 れいむを担いで男が向かったのはれいむを洗う準備をした風呂場である。 水面を直接見せることなく洗う事の出来る泡風呂はじつに便利だと男は常々思う。 ゆっくりがどうしてこうも水に対して恐怖心を抱いているか男は全く理解していないからだ。 最初にまりさを洗おうとしたときの騒動は今でも忘れられないほどの惨事となった。 「あわあわさんがとてもゆっくりできるね」 「そうだな」 男はれいむとの会話に適当に相槌を打ちながら細部まで綺麗に磨きあげていく。 飾りを外すのは拒まれたのでしかたなく頭に付けたままごしごしと洗う。 れいむの顔はマッサージをするように洗うと、見た目が気持ち悪い気持ちよさそうな表情をした。 風呂上がりにドライヤーも厳禁であることも経験済みだ。最初はあの音がゆっくりできないらしい。まりさは今では逆に病みつきらしいが。 面倒だがタオルできちんとれいむの水分を拭き取ることにした。 風呂場を出た頃にはれいむもそこいらの飼いゆっくりのような綺麗な肌になっていた。 田舎娘でもきちんと化粧とおしゃれな洋服を着せれば都会っ子なのだ。 まりさの待つ押し入れにれいむを戻すとまりさのれいむを見る目が変わった。 れいむがまりさに抱いていた思いに概ね近づいたようだ。つまりは相思相愛だ。 薄汚いれいむに何の感情も抱かなかったまりさもなかなか現金な奴である。 家にれいむが来てまだ一度もしていなかったすーりすーりを急にし始めたところからもわかる。れいむも満更ではないようだ。 「この様子なら心配はないな」 そんなまりさ達の行動におとこは苦笑いをしながら水受けに新しくボトルから水を注ぎ部屋を出て行った。 その日は男は晩ご飯と水の補給をしてあとはゆっくり達に関与しなかった。 今まではまりさの相手をしてやる必要があったがこれからはそれをれいむに任せればいいのだ。 れいむの躾けに関してもまりさの行動を見ているうちにれいむがそれを真似するようになるだろうと考えた。 その考えをしらないまりさは男の怒りがいつれいむに向かうか恐ろしくて仕方がなかった。 これまでの経験からすればもうすでに激しい暴行があってもおかしくないからだ。 今度れいむが粗相を起こせばなんとしてもれいむを庇わなくてはならない。 綺麗になったれいむにまりさの思いはそれほどにまで募っていたのだ。 しかし就寝直前に事件は発生した。 「ばでぃざ……うっぷ、ぎもぢわるぃおろろろろろろろろ」 「ゆぎゃあああああでいぶどうじだのおおおお!!」 れいむが突然餡子を嘔吐したのだ。 れいむは生粋の野生生まれ野生育ちだった。 その為実に人工物に対しての耐性がこれでもかというほどなかったのだ。 男が餌に混ぜていた少量の塩やカルシウムに。体を洗ったときに口に入れたあわあわこと洗剤に。そして水分補給に飲んだ硬水のミネラルウォーターに。 すべてがれいむの体調を崩す元となりついに嘔吐してしまったのだ。 だがまりさはれいむの体調の心配はまったく気にしてなかった。 またれいむが部屋を汚したのだ。 今度こそ男に見つかったられいむは潰されてしまいかねない。こんな美ゆっくりのれいむがいなくなるのはまりさは勘弁ならなかった。 そこでまりさが取った咄嗟の行動はれいむの嘔吐物を食べて証拠隠滅することだった。 基本的にゆっくりの体から出た餡子はそのゆっくりにとって汚いものである。 しかし背に腹は代えられないとばかりにれいむの嘔吐物を一気食いする。 ちびちび食べてはこちらも貰いゲロしてしまいかねないというまりさの判断だ。 「どうしたまりさ。悲鳴したような気がしたが」 なんとかれいむのものを食べ終えた頃男が押し入れの様子を覗きに来た。 「なんでもないよおにいさん!! ゆっくりおやすみなさい!!」 「ああ、おやすみ」 不審そうな表情で男は襖を閉めて、さっさと寝るために自室に戻っていった。 なんとか誤魔化せたまりさは安堵の溜め息をつく。ふとれいむのほうを見ると気を失うように眠りについてしまったようである。 その様子をみてまりさをれいむに頬擦りをして自分も眠りにつくことにした。 れいむがまりさの所にやってきて二日目の朝がやってきた。 「れいむ、ゆっくりしていってね!!」 「ゆゆっ、ゆっくりしていってね!!」 いつも通りの時間に目覚めたまりさはまだ眠っているれいむに向かって朝の挨拶をする。 「ここはどこなの!? れいむはどうしてこんなところにいるの!!」 「れいむはおねぼうさんだね!! きのうれいむはまりさのところにおにいさんときたんだぜ」 そんなれいむの姿を見て微笑んでいたまりさの表情が次の瞬間凍り付く。 「まりさはだれなの!? れいむにゆっくりちかよらないでね!! れいむおうちにかえる!!」 「どうしたのれいむ!! まりさはまりさだよ、わすれたの?」 「れいむはまりさのことなんてしらないよ!! ゆえーん、でぐちはどこなのー!!」 一体全体れいむはどうしてしまったのだろう。昨日あんなに仲良くなったのにすーりすーりしたのにそれも忘れてしまったのか。 「おにいさんもわすれたの? ごはんをもってきてくれたにんげんさんだよ?」 するとれいむの目が変わった。まりさはようやく思い出してくれたのだと安心した。 「すごいねまりさ!! まりさはにんげんさんよりえらいんだね!!」 しかしれいむの発した言葉は昨日の焼き直しのようだった。 「ちがうんだぜれいむ……」 昨日晩ご飯のときに説明していたことも忘れたのだろうか。もしかすると理解できてなかったのかもしれないそうまりさは思う事にした。 それからすぐ男が朝ご飯を持ってきて水の補給をして、挨拶をしただけであまり会話もすることなく出て行った。 汚らしくご飯を食べたれいむをまりさは注意して、すーりすーりしたりかけっこしたり男とゆっくりとの関係について話をして昼ご飯がきた。 朝同様男はすぐに出て行った。これからは男とではなくてれいむと仲良くするんだとまりさは言われた。まりさはれいむにこの家でのルールを教えていった。そのうちに晩ご飯がきた。 水の補給も終え部屋を出て行こうとする男にまりさとれいむは仲良くおやすみなさいと言った。 男は満面の笑みでそれに返して部屋を後にした。 そして就寝直前れいむは再び嘔吐をした。 体に合わないサプリメントと硬水中のミネラルの影響によるものである。 まりさも再びそれを何とか口にする。 出来れば食べたくないのだが男に知られるわけにはいかないため、食べる以外に処分方法がないのだ。 そして三日目の朝が来た。 「れいむ、ゆっくりしていってね!!」 「ゆゆっ、ゆっくりしていってね!!」 いつも通りの時間に目覚めたまりさはまだ眠っているれいむに向かって朝の挨拶をする。 「ここはどこなの!? れいむはどうしてこんなところにいるの!!」 れいむは昨日と全く同じ台詞を吐いた。 あとがき 記憶継承な話題になってたけど忘れるのも面白そうかなと思ってみた。 嘔吐した餡子を食べると記憶継承するのはあくまでも同種のゆっくりでそれ以外は餡子に消化しちゃうんじゃないかと。 ありすのカスタードをれいむが食べても駄目そうな雰囲気で。 れいむとまりさの餡子も似ているようで少し違うんだよきっと。 というのは勝手な妄想なのでさらっと流してください(・3・)~♪
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「ゆっ! ここはなかなかゆっくりできるところだね!!」 「かぜさんもはいってこないし、ぽかぽかさんだよ~!」 「ここならえっとうっ! もらくしょうだね! れいむ!!」 「ゆゆっ!! そうだねまりさ!! ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!!!!」 冬の直前にれいむとまりさの番が見つけたのは、 積み上げた石で囲まれた穴だった。それは冷たい風をさえぎり、中の気温を上げる。 石は固まってるようで、れいむとまりさがぶつかってもびくともしなかった。 おまけに床は藁や枯れ草、枯れ木、落ち葉などが敷き詰められている。 少し暗いけど、出入り口をけっかいっ! で覆えばえっとうっ! には困らない。 「ゆゆ~ん!! さいっこうっ! のゆっくりぷれいすだよ!!!」 「れ、れいむ!! まりさはもう……もうっ!!!」 あたらしいおうちを手に入れた喜びのあまり、まりさは興奮し、 れいむとすっきりー! し始めた。れいむはまんざらでもなく受け入れる。 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 光悦の表情を浮かべるれいむとまりさ。 れいむの額からは蔦が伸び、そこに赤ゆっくりが1、2、3、4、5、6…… ……張り切りすぎたようだ。 「ゆゆ~んっ!! かわいいおちびちゃんだよっ!!!」 「ゆへへ!! まりさはさっそくえささんをとってくるんだぜ!!!」 ・ 「……? あれ?中に何かいるぞ」 「ほんとだ! ゆっくりじゃねーか!!」 まりさが最後の狩りに行ってる間、お昼のすーやすーやタイム中、 外から聞こえた声にれいむたちは目を覚ました。 「ゆ~っ!!!! だれだかしらないけど!!! かわいいれいむのすーぱーすーやすーやたいむをじゃまするなぁぁぁぁ!!!!」 「しょうじゃしょうじゃ!!!!! ぷきゅぅぅぅぅぅ!!!!」 「ぷきゅー!!」 目が覚めたれいむと、先立って生まれた2匹の子、赤れいむはにんげんを見るや否や ぷくーを始める。このれいむたちは人間の脅威を知らないらしい。 あるいは知っていたが、「こんなにゆっくりしたおうちうをもっているれいむたちに にんげんがかてるわけない!!!!」と思っているのか。 「まずいなぁ……おーい、はやくでてこい」 「おいおい、そんなやつら放っとけよ」 「ほっとけんよ。一応生きてんだろ、こいつらも」 中をのぞいていた青年は手招きしてれいむたちに外に先導する。 その後ろにいる青年は呆れた顔だ。 「ゆぅぅぅぅぅ!!! れいむのゆっくりぷれいすをうばうきだね!!!!!! くずなにんげんはゆっくりしないでしぬといいよ!!! でもそのまえにあまあまもってきてね!!!!! たっくさんでいいよ!!!!!!!」 「れいみゅわきゃっちゃよっ!!! にんげんしゃんは、れいみゅたちに『しっと』 しちぇるんでしょ!!? おおあわりぇあわりぇ!!!! ぎぇらぎぇらぎぇら!!!」 「ゆーんなんてかしこいおちびちゃんなんだろうね!!! さすがれいむのおちびちゃん!!!! そこにきづくなんてやっぱりてんさいだねぇぇぇぇ!!!!」 「おねーちゃんしゅぎょい!!! たいしたゆっきゅりじゃねぇぇぇ!!!」 「最後褒めてんのか、それ?」 出てくるどころか体をねじらせてすーりすーりぺーろぺーろし始めたれいむを見て、 青年たちは息をついた。 「無駄だな。こりゃ」 「だから言ったろ」 「自分で選んだんだ、しゃあねぇか」 青年はその場を後にした。 それすなわち、れいむのかちである!!!(れいむの脳内で) 「ゆっ!!! かったよ!!! かわいいれいむがにんげんにかったよ!!!!」 「しゃしゅがおきゃあしゃんだね!!! ゆっきゅりー!!!」 うれちーちーをしながら尊敬の目で母を見る子れいむ。 帰ってきたまりさのごちそう「らむねさん」を、そのことを肴にしながらたべ、 家族は深い眠りに就いた。 ・ 「ゆっ? なんだかさわがしいよ?」 れいむは目を覚ました。外が騒がしい。 けっかいっ! の隙間から外を見る。そこには何人もの人間がいた。 「ゆぷぷ……れいむにかてないからって、おおぜいひきつれてきたんだね。 そこまでしょうねがくさったにんげんははじめてだよ。おおあわれあわれ……」 れいむはわらう。追い払ってやってもいいが、眠気が強い。 「れいむがほんきになればくずにんげんなんてけちょんけちょんにできるけど、 めんどくさいからみのがしてあげるよ! かわいいれいむにゆっくりかんしゃしてねっ!!! そういうとベッドに戻ろうとして―――― ぼっ! 「ゆっ?」 何かが投げ入れられ、れいむはふりかえった。 視線の先ではけっかいっ! を突き破って、火のついた棒が床に落ちていた。 「ゆっ!!!! あついよ!!! れいむをゆっくりさせないめらめらさんは ゆっくりできないよ!!!!! ゆっくりしないでどっかにいってね!!!!!」 れいむは床に広がる落ち葉や枯れ木をもみ上げできれいに巻き上げ、 火に向かって投げ入れた。消そうと思ったのだろう。しかし 「どぉしてめらめらさんひろがるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!?」 火は空中で見事に引火し、それが地面に落ちて床に敷き詰めた落ち葉や 枯れ木に燃え移る。あっという間に出入り口は火の海になった。けっかいっ! などもう燃え尽きている。 「ゆっくり!! ゆっくりしていってね!!! ぺ~ろぺ~ゆぎゃぁぁぁ!!! あ゛づい゛ぃぃぃぃ!!!!!!」 火付きの床をぺ~ろぺ~ろで消そうとして、れいむの舌先が焼け落ちた。 それだけではなく、しゃがんだことで実ゆっくりに引火した。 「ゆがああああああああ!!!!! れいむのあがぢゃんがぁぁぁぁぁ!!!!!!」 言葉も発せぬまま炎に包まれる実ゆっくりたち。 れいむは火を消そうと振り回し、そして。 すぽーん! 「ゆっ!!?」 実ゆっくりは蔦ごと引っこ抜け、炎の中に消えた。 「あがぢゃあああああああああん!!!!!!!!!!!!! ゆぐっ!!!? ゆぐえっ!!!!!!」 れいむがあんこを吐きながらも叫ぶと、実ゆっくりが突っ込んだところから ぱぁんと返事が聞こえた。実ゆっくりと蔦の中の空気が熱で膨張して破裂した音だ。 「ゆはっ!!!! そうだぁぁぁ!!!! までぃざぁぁぁ!!!! おぎろぉぉぉぉ!!!!! れいむをだずげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」 眠っていたまりさを思い出し、渾身の力で体当たりをかます。 しかし、まりさは起きない。子れいむも赤まりさも同様。ラムネのせいだ。 「ゆっ!!! てんじょうさんがあいてるよ!!!! でいぶだずがるよぼぉぉぉぉ!!!!」 ふと煙が上に逃げていくのに気づき、れいむは今までふさがっていた天井が ぽっかり空いていることに気づく。 炎が燃え移っても一向に起きないまりさと子れいむ赤れいむはすでに諦めた。 (まりさやおちびちゃんなんて、どうでもいいよ!!! でもれいむは世界でただいっぴきっ!!!! にんげんにもかてるとくべつなゆっくりなんだよ!!!) 言うや否やまりさを踏み台にし、飛び跳ねようと試みるれいむ。 熱で溶けやすくなっていたまりさの皮がはがれおちる。 さすがの激痛に、まりさは目を覚ました。 「ゆっ? なんなんだぜ……!? なんなんだぜぇぇぇぇ!!!!!? こればぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!?」 「ゆっ! いまごろきづくなんてどんかんなまりさだね!! そんなぐずまりさは れいむにふさわしくないよ!!!!! りこんのいしゃりょうさんにれいむだけたすけて まりさはさっさとしんでね!!!!!!!!」 「ど……うじでぞん……なご……どいぶ……の…………!!!!!!」 れいむはまりさを見下し、げらげら笑うととんだ。 その衝撃でまりさは潰れ、永遠にゆっくりした。子れいむ赤れいむはすでに火の球で 何やら暴れていた。 「よいしょっと!」 「ゆっ!!!!? なにしてるのぉぉぉぉぉ!!」 れいむがもうすぐ外に出ようとした時、大量の火付き棒がれいむに ――正確にいえば穴の中に――向かって落とされた。 れいむは落石事故にあったように棒に正面衝突し、火の海と化した “おうち”にたたき落とされた。 「ゆぎゃぁぁ!! なんでぇぇぇ!!!! めらめらさんはゆっくりできないぃぃぃぃ!!!!」 煙と火のせいで叫ぶこともままならない。それでもれいむは叫んだ。 「もう……や……だ……おう……ちか……え……りゅ!!」 れいむはそのまま燃え尽きた。 ・ 「うおーっさいこーっ!! れいむの断末魔でメシがうまうま!」 外の人間たちは自作の釜の上で作ったおもちを食べていた。 そのおもちは何もつけずとも不思議と甘く、一段とおいしかったそうな。おしまいおしまい。 ――――ハッピー・エンド! …………あれ? Q、描写薄いよなにやってんの!? A、息抜き ゆっくりを燃やして作るモチってすげー甘くてうまそう 今まで書いたモン anko1000 ゆ anko1298 ゆっくりにかけるかね
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「消極的制裁行為」 ゆっくりたちが多く暮らしている、人里に隣接している草原。 ひらひらと宙を舞う蝶を追いかけて、ぴょんぴょん跳ねているのは一匹のゆっくりれいむだ。 れいむは綺麗なお花畑の花を踏み潰しながら、夢中で蝶を追いかけていく。 「ゆっゆっ!ちょうちょさんまってね!!」 ぴょんと大きくジャンプするれいむ。 口をあんぐりと開けて、蝶を飲み込もうとするが…紙一重のところで避けられてしまう。 「ゆぐぐぐぐ!!ひどいよちょうちょさん!!ゆっくりたべられてね!!!」 地団駄を踏むれいむ。しかし、蝶だってそう簡単に食べられてくれるわけがない。 れいむが追う蝶は、そのまま木の上のほうへ上っていった。 「ゆゆ!!まってねちょうちょさん!!」 枝の隙間をぬって飛んでいく蝶。 れいむはそれを目視すると、勢いをつけて大きくジャンプした…! 太い枝の上に飛び乗ったれいむ。その枝を伝って、蝶を追いかける…が。 一瞬の油断だった。焦ってしまったばかりに、れいむは足を踏み外してしまったのだ。 「ゆゆぅ!!おちちゃうよ!!」 このまま地面に激突すれば、無傷ではすまない。 直後襲うであろう激痛の恐怖に、れいむは強く目をつぶった。 がさがさ!!がささっ!!! しかし、れいむは地面に落下することはなかった。 れいむはゆっくりと目を開く。何故か、目に映るもの全てが逆さまだった。 そして、宙に浮いているような不思議な感覚。 れいむ自身には、何が起こったのかわからないだろう。 実は枝から落ちたときに、れいむの髪飾りが細い枝に引っかかったのだ。 その細い枝はそのままれいむの体重を支え、結果としてれいむを地面への落下から守った。 ぐい~ん! 枝の弾力で上のほうへ引き戻されるれいむ。 地面への落下を免れたれいむは…上下逆さまの状態で宙吊りになっていた。 当のれいむも、だんだん状況を理解していく。 自分が助かったとわかると、安心して「ゆっくりぃ~♪」と微笑んだ。 だが、本当の悲劇はここからだった。 十分ゆっくりしたので家に帰ろうと、枝から降りようとする。 そこで、初めてれいむは自分が置かれた状況を、正確に理解したのだった。 「ゆっ!ゆっ!」 宙吊りのままのれいむは、ゆっさゆっさと体を揺さぶる。しかし、枝から自分の身体が外れる気配はない。 髪飾りは、周囲の細い枝としっかり絡まっている…四肢を持たないゆっくりには解くことは出来なかった。 「ゆー!だれかたすけて!!ここじゃゆっくりできないよ!!」 最初は浮遊感を楽しんでいたれいむだが、自力での脱出が無理だと分かった途端助けを求め始める。 しかし…周りには人間はおろか、ゆっくりや他の野生生物もいない。 仮に見つけてもらったとしても、助けてもらえる保障はどこにもないのだ。 「ゆっくりしたけっかがこれだよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」 あれから3時間。 おでこに止まった蝶に「ゆっくりたべられてね!」と舌を伸ばすも届かず、あっさり逃げられた。 あるとき、人里のほうから子供たちがやってきた。誰も居ない寂しさから開放されて喜んだれいむ。 れいむはその喜びを表現しようと、歌を歌い始めた。 「ゆっゆっゆ~♪」 しかし、その歌を気持ち悪がられ「きもーい!」「しね!!」などと罵られる。 「ゆ!!れいむはきもちわるくないよ!!れいむはかわいいゆっくりだよ!!」 とれいむが口答えすると、子供たちは下から木の棒でつついたり、ぺちぺちと全身を叩いたりして れいむの反応を楽しんだ。その間もれいむを罵倒し続ける子供たち。 とうとうれいむは泣き出してしまった。 「ゆっ…ゆゆっ、ゆ゛っぐり゛いいいぃぃぃ!!!」 「うわ!!こいつ泣いてるぞ!!気持ちわりぃ!」「もう飽きたな。早く帰ろう!」 「皆でおやつ食べようぜ!お母さんがクッキー焼いてくれるって!」 宙吊りのれいむを放置して、子供たちは走り去っていく。 そして、事態は一向に進展しないまま、今に至る。 「ゆっくりー!!」と叫んでみても、誰も来ない。 それに、だんだんお腹がすいてきた。 きっと、さっきの子供たちは今頃おいしいおやつを食べているだろう。 そう思うと、れいむの空腹はさらに強くなってくる。 「ゆっくりぃ…」 お腹に力が入らず、声が出ない。 たまに体を揺さぶってみるが、やはり無駄だった。細い枝に引っかかった髪飾りは、びくともしない。 諦めて、宙にぶら下がったままうとうとし始める… そこへ、一人のお兄さんがやってきた。 「お、君はそこで何をやってるんだい?」 お兄さんは何かがいっぱい入った籠を背負っている。 話しかけられたれいむは、ゆっくりと質問に答えた。 「ゆ!ゆっくりひっかかっちゃったよ!!」 「そうか、だから逆さまにぶら下がってるんだね。…それ!」 ぴん!とれいむの体を指ではじくお兄さん。 ゆらゆらと振り子のように揺さぶられるれいむは、ぷんぷんと体を膨らませた。 「おにーさんひどいよ!!ゆっくりたすけてね!!」 「あはは、面白いなぁ♪…よし、今から下ろしてあげるから、ちょっと待っててね」 すると、お兄さんはれいむの髪飾りに絡まった細い枝を丁寧に解いて、れいむを地面に下ろしてくれた。 「ゆゆ!!ありがとう!!これでゆっくりできるよ!!」 「そうかい、じゃあ僕は帰るから、ゆっくりしていってね!」 れいむに背を向けて去っていくお兄さん。 彼が背負っている籠の中身がれいむの目に入ると、れいむは大声でお兄さんを呼び止めた。 「おにーさん!!それなあに!?」 「あ、これかい?これは“りんご”だよ。食べたことないの?」 「たべものなの!?れいむたべたいよ!!ゆっくりちょうだいね!!」 遠慮の欠片もないれいむ。お兄さんの目の前にやってきて、図々しく大きな口を開けた。 「うーん……それじゃあ、お兄さんの家に来てくれるかい?来てくれればりんごをあげるよ」 「ゆ!!いくよ!!おにーさんのおうちでゆっくりりんごをたべるよ!!」 「そうと決まったら早速出発だ!お兄さんの家はこっちだよ」 そうしてお兄さんとれいむは、人里離れたお兄さんの家へと向かった。 お兄さんが扉を開けると、れいむはすごい勢いでその中に飛び込んだ。 昼間から木の枝に宙吊りになっていたから、今まで何も食べてないのだ。 本能に忠実なため空腹には勝てない。部屋のど真ん中に鎮座したれいむは、大声で叫んだ。 「おなかすいたよ!!はやくりんごちょうだいね!!」 「はいはい、今出すからね」 お兄さんは籠の中からりんごを3つ取り出すと、れいむの目の前に置いた。 「むしゃむしゃ…しあわせ~♪」 お腹をすかせていたれいむは、あっという間に3つのりんごを食べつくしてしまった。 「りんごおいしいね!!でもこんなんじゃたりないよ!!もっとちょうだい!!」 「これ以上はダメだよ。残りは明日食べようね」 そう言って、りんごの入った籠を台所に持っていってしまうお兄さん。 れいむは不満そうな顔をしながらも、我慢することにした。 「さて、僕はちょっと用事があるから出かけるね。れいむはゆっくりお留守番しててね」 「ゆゆ!!わかったよ!!ゆっくりまってるね!!」 「じゃあ行ってきます…あ、そうそう、ひとつだけ約束して欲しいことがあるんだ」 お兄さんはれいむの目の前にしゃがみ込んで、神妙な声で語りかける。 ただならぬ雰囲気を感じたれいむは、「ゆ?」と首をかしげた。 「台所にはりんごが沢山あるんだけど…“ぜ っ た い に”食べたらダメだよ」 「ゆゆ!!」 「お兄さんとの約束、守れるかな?」 れいむはしばらく考え込んだあと…ぴょんと跳びはねながら満面の笑みで答えた。 「まもれるよ!!りんごはもうたべないよ!!あしたたべるんだもんね!!」 「そうそうよく分かったね、れいむは偉いね。じゃあ行ってきます。 お土産も買ってくるから楽しみにしててね!」 お兄さんはれいむに手を振りながら、笑顔で家から出て行った。 お兄さんが家から出て扉を閉じると…れいむは一目散に台所へ向かった。 もちろん先ほどの約束は覚えている。覚えているが、れいむはその約束を破るために台所に来たのだ。 台所に入ると、床の上にはりんごが沢山入った籠が置いてあった。 しかし、その籠はかなり大きいため、このままではりんごを食べることは出来ない。 そこでれいむは、ここから跳びはねて籠の中に入ればいい、と考えた。 「ゆゆ…ゆっくりとぶよ!……それっ!」 しかし、れいむが思い描いたとおりにはならなかった。れいむは自分の跳躍能力を過信していたのだ。 れいむの体は籠のふちに当たって、そのままぼよんと床落ちて2,3回弾んだ。 「ゆ!いたい!!いたいよ!!」 バウンドが止まると、れいむは体勢を整えて籠のほうに目をやる。 そこには… 「ゆゆ…やったね!!さくせんせいこうだよ!!」 先ほどの衝撃で倒れた籠が転がっていた。りんごは床の上に転がってしまっている。 予定とは違うが、結果オーライ。れいむは早速りんごを貪り始めた。 「むーしゃむーしゃ!!しあわせ~!!」 それは、れいむにとって最後の“しあわせ”だった。 時間も忘れて、りんごを食べ続けるれいむ。 ふと、遠くから扉を開く音が聞こえ、続けてお兄さんの声も聞こえてきた。 「ただいまー!」 「ゆ゛っ!?」 そこで、れいむは初めて我に返った。 周りには食いかけのりんごが撒き散らされている。 そして、倒れたまま転がっている籠。 れいむは今になって気づいたのだ…このままでは、約束を破ったことがバレてしまう、と。 「ゆっゆゆ!!」 慌ててその場を跳ね回るれいむだが、いまさらどうにかなるわけでもない。 台所にやってきたお兄さんに、決定的な犯行現場を目撃されてしまった。 目の前の惨状に、思わず声を上げてしまうお兄さん。 「これは…!」 「ゆゆっ……お、おにーさんのりんごおいしかったよ!!もっとたべさせてね!!」 こんなことを言いながら、精一杯媚びた笑顔を浮かべるれいむ。 一瞬お兄さんのこめかみに青筋が浮かんだが、れいむはそれを見ていなかった。 「…はぁ」 大きなため息をつくと、お兄さんはれいむの方へと歩み寄る。 何かされると思ったれいむは、強く目をつぶった。 「ゆゆ!!ゆっくりやめてね!!……ゆ?」 次にやってきたのは、痛みではなく浮遊感だった。 目を開けると、れいむはお兄さんに抱きかかえられており、そのまま最初の部屋に連れ戻された。 宙で手を放され、ぽよんと床に落ちるれいむ。 「ゆ?ゆるしてくれるの!?」 お兄さんを見上げて声をかけるが、お兄さんは無言で台所へ行ってしまった。 おそらくれいむが荒らした台所を片付けるためだろう。 とりあえず危機は去ったと思ったれいむは、その部屋でゆっくりし始める。 床の上をコロコロ転がったり、ベッドの上でぽんぽん弾んでみたり。 でも、お兄さんがいつまでたっても戻ってこないので、れいむは退屈になってきた。 ちょうどそのとき、れいむはあることを思い出して…お兄さんのいる台所へと向かった。 そこでは、れいむが食べ散らかしたりんごをお兄さんが片付けている最中だった。 「おにーさん!!おみやげはどこ!?れいむにゆっくりちょうだいね!!」 「……」 満面の笑みを浮かべるれいむに、沈黙するお兄さん。 お兄さんの顔はぴくりとも動かず、台所の片づけを続けている。 何か返答があるのだろうと待っていたれいむだが、いつまでたってもお兄さんは答えてくれない。 「おにーさん!!おみやげちょうだい!!れいむにちょうだい!!」 ぽんぽんお兄さんの目の前で跳ねて見せるが、お兄さんはまったく目もくれない。 邪魔そうにするそぶりすら見せない。 やがて台所を片付け終えると、お兄さんは先ほどの部屋に戻って本を読み始めた。 「れいむをむししないでね!!れいむにおみやげちょうだいね!!」 お兄さんの視界に入るように、喚き散らしながら上下に跳ねるれいむ。 それでもお兄さんはまったく反応しない。まるで、れいむが見えていないかのように… さすがのれいむも、何かが違うと感じ取ったのだろう。 形容できない怖さに身を震わせながらも、れいむは必死にお兄さんの目の前でジャンプする。 「おにーさん!!れいむはここにいるよ!!むししないでね!!」 が、返されるのは沈黙だけ。 お兄さんは本を読み終えると、それを本棚に戻してベッドにもぐりこんでしまった。 歯を食いしばって「ゆぎぎぎ…」と唸るれいむ。 もう何がなんだか分からないが。とにかく怒りと不安だけが蓄積されていく。 「おきてよ!!ねないで!!れいむといっしょにゆっくりしていってね!!」 お兄さんはまったく反応せずすやすやと眠っている。 れいむはお兄さんの体の上に乗ってどんどん跳ねるが、それでも目を覚まさない。 一体どうしたら自分の相手をしてくれるのか、れいむには全然わからなかった。 「ゆ゛っくりしてい゛ってね゛!!!!ゆ゛っくり゛してい゛ってね!!!!」 れいむの貧弱な語彙力では、もうそれしか言うことはなくなってしまっていた。 結局、れいむは疲れ果てて眠りにつくまでの10時間、ずっとお兄さんを起こすべく跳ね続けたのだった… 「……ゆ!?ゆっくりしていってね!!」 差し込む朝日のまぶしさで目を覚まし、いつもどおりの言葉と共に起き上がるれいむ。 周りの状況がいつもと違うので最初は戸惑ったが… ぐるぐる周囲を見回して、少しずつ自分が置かれた状況を理解する。 ここはお兄さんの部屋。そして自分はベッドの上にいる…という具合に。 目が覚めてくると、まず最初に視界に入ったのはお兄さんの姿だ。 お兄さんはテーブルに向かって何かをしている。 興味をそそられたれいむは、跳びはねてお兄さんの足元へと向かった。 「おにーさん!!なにしてるの!?れいむにゆっくりみせてね!!」 黙殺するお兄さん。 お兄さんは味噌汁を啜ったり、目玉焼きを口に運んだり…簡単に言えば、朝食をとっていた。 口に何か物を入れる動作を見て、すぐにそれが食べ物だと分かったれいむは… 「れいむもおなかすいたよ!!ゆっくりごはんをもってきてね!!」 …お兄さんは沈黙したまま食事を続ける。 れいむはお兄さんの脚に体当たりするが、お兄さんは何事もないように沈黙を守ったまま。 しばらくすると、食事を終えたお兄さんはお皿を抱えて台所に向かう。 「ゆ!!おなかすいたよ゛!!ごはんをもってきてね゛!!」 涙目になりながらお兄さんの前に立ちはだかるが、れいむに見向きもしないお兄さんはそのまま歩き続け… ぽーん!! 「ゆぎゅ!?」 れいむは軽く蹴飛ばされてコロコロ転がり、ゴミ箱にぶつかって止まった。 倒れたゴミ箱からばらばらとゴミがあふれ出し、れいむはその下敷きになってしまう。 「ゆぐっ!!ぐるじいよ!!おにーざんだずげで!!」 ちょうど台所から出てきたお兄さんは、散らばっているゴミを見ると不思議そうな顔をしてれいむのほうへ 歩み寄ってきた。 やっと自分を見てくれた…そう思ったれいむは、心から安心しきっていた。 ところが… 「はぁ…何もしてないのに、どうしてゴミ箱が倒れてるんだろう?」 「ゆ!!れいむがぶつかってたおしたんだよ!!ゆっくりここにいるよ!!」 「うーん…ここら辺は後で掃除しないといけないな」 やはりお兄さんは、れいむなど存在しない、という風に振舞っている。 ゴミを粗方片付け終えると、お兄さんはそのまま本棚の前でこれから読む本を選び始めた。 「ゆぐぐぐぐ!!どうじでむじずるの゛!?れいぶはごごにいるのにぃぃぃぃぃ!!!」 涙声で訴えるれいむ。しかし、その訴えもお兄さんには届いていないようだ。 お兄さんの読書タイム。 れいむは、椅子に座りテーブルに向かって読書するお兄さんの足元で、ずっと喚き続けた。 「おにーざん!!おながずいだよ!!ごはんもっでぎでね゛!!!」 「だいぐづだよ!!いっじょにゆっぐりじようよ゛!!!」 「おねがいだがらごっじむいでよ゛!!れいぶをぶじじないでえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!!」 とうとう泣き始めるれいむ。それでも、お兄さんはまったく反応を示さない。 もっともっとお兄さんに呼びかけたかったが、空腹のせいで体に力が入らない。 れいむはそれでも声を張り上げながら、お兄さんの脚に自分の体を擦り付けることで気を引こうとした。 そのままお兄さんは読書を続け…4時間が経った。 「ゆ゛っ…ゆ゛っぐり゛じようよぅ…!」 声を張り上げようとしても空腹は限界に達しており、また喉もかれていたのであまり声が出ない。 どうしてお兄さんは自分にまったく見向きもしないのか。 自分はここにいるのに、どうしてお兄さんは自分がいないように振舞うのか。 れいむは必死に考えたが、すぐに餡子脳の限界に達してしまって考えるのを止めた。 れいむには、お兄さんがとる行動の意味も、自分が昨日約束を破ってしまったことも、まったく頭の中に なかったのだ。 そして12時。昼食の時間である。 お兄さんは電話の受話器を上げて、どこかに電話をかける。 「えーと、味噌ラーメンと…ギョウザ!…そうです、どっちも一人前で」 ラーメンの出前だった。しかし、れいむは昼食のメニューよりも『一人前』という言葉がショックだった。 「ふだりだよ゛!!れいむ゛もいるがら!!だべぼのはふだりぶんだよ゛!!!」 やはり、自分の存在を認識されていない。餡子脳でもそれがハッキリとわかった。 しばらくしてやってきた出前のおじさんから品を受け取り、代金を支払うお兄さん。 味噌ラーメンとギョウザ。確かに頼んだものが届いた、と確認する。 しかし、その目は…れいむの姿をまったく捉えていない。 「はふっ!…あーうまい!!」 ひとりで昼食をとり始めるお兄さん。 その間、れいむは足元でひたすら食べ物をねだり続けるが…答えは返ってこない。 「おながずいだよぅ…ゆっぐりでぎないよぅ…!」 朝昼と2食も食事を抜いているため、れいむは普段の元気を失っていた。 無理やり食べ物を横取りしようにも、テーブルはれいむが飛び移ることの出来ない高さだ。 そして、お兄さんに体当たりしても全然びくともしない。 万策尽きたれいむは… 「ゆ……おねがいだがらゆっぐりざぜでよぅ!!」 その言葉をお兄さんに無視されると、ずりずり這いずってベッドのほうへ向かった。 もうベッドの上に飛び移る体力もないれいむは、そのままうとうとし始めた… それから一週間。 れいむはことあるごとにお兄さんの気を引こうとしたが、その全ては完全に黙殺された。 お兄さんは食事を全てテーブルについて取るので、れいむは横取りすることも出来ないし、 おこぼれにあずかることも出来ない。 まともな食事にありつけないれいむにとって、唯一の食べ物… それは、時折どこからともなくやってくる蚊やハエ、そしてゴキブリだった。 「むーしゃ…むーしゃ…」 …全然“しあわせ”じゃない。 人間に例えれば雑草を茹でて食べるような行為を、れいむは続けるしかなかったのだ。 たまにお兄さんがしゃべる時といえば、それは電話の相手との会話だった。 最初は自分に話しかけてくれたと喜んで跳ねるのだが、すぐにそれがぬか喜びだと思い知らされた。 電話の相手と談笑するお兄さんに背を向けて、れいむはテーブルの下で「ゆっぐりぃ…」とため息をつく。 外に出たい、という願いも無視されるため、家の外に出ることもできない。 れいむの体の構造では、玄関の扉も窓も自力で開けることができないからだ。 「みんなでいっしょにゆっくりしようね!!」 「ゆゆー!!おかーさんおうたうたってー!!」 「ゆっゆっゆ~♪ゆゆっゆゆ~♪」 「ゆっぐ…いっじょにゆっぐりじだいよぉ……!!」 窓の外で仲良くゆっくりしているゆっくり一家を見て、れいむは悔し涙を流した。 どんなに大声を上げても、外のゆっくり一家は振り向いてはくれなかった… 当然、お風呂にも入れてもらえない。 「すっきりしたいよー!!」とお兄さんの目の前で跳ねてみたこともあった。 しかし、お兄さんはそれに気づかずにれいむを蹴飛ばして、風呂場へ去っていってしまう。 れいむは壁にぶつかって…「ゆっ、ゆっぐ…」と涙を滲ませた。 ただ蹴られただけなら、こうはならない。 「けらないでね!!ゆっくりあやまってね!!」と謝罪を求めるぐらいのことはするだろう。 だが…このれいむは、ただ蹴られたのではない。自分の存在が、お兄さんに認められていないのだ。 お兄さんには自分が見えていない。自分が聞こえていない。お兄さんの中には、自分が…いない。 「れいむ゛はごごにいるのに゛!!どぼじでむじずるの゛!?」 どんなに泣き喚いても、お兄さんはこっちを向いてくれない。慰めてもくれない。 自分はここにいるよ。ずっと前からここにいるよ。だからこっちを向いて! そんな心からの叫びも、ことごとく受け流される。 「ゆっぐ……ゆっぐりぃ……ゆっぐりいいぃぃぃ…!!」 れいむを腐らせるのは、この上ない孤独。 腐っていくのは体ではない、心である。 自分と同じ姿をしたゆっくりの幻覚を見ては、それに話しかけようとするが… 「ゆっぐりじでいっで……あぁぁぁぁぁなんでいなぐなっぢゃうのおお゛お゛お゛!??」 何かの見間違いだったのだろう、それはすぐにかき消えてしまう。 かつてはただの食料でしかなかったハエやゴキブリに対しても… 「ゴキブリさん…いっしょにゆっくりしようね…!」 などと話しかけて、頬ずりまでしようとする始末。 ゴキブリがどこかに去っていくと、れいむは孤独によってさらに心をえぐられるのだった。 そしてさらに一週間がたって… れいむに、転機が訪れた。 「ゆっ……ゆっ…」 意味もなく、意味のない声を出し続けるれいむ。 精神的なダメージは限界に来ていた。 目はすでに輝きを失い、満足な食料を得られないために体中が乾ききっていた。 唯一潤っていると言えば、だらしなく開いた口から漏れている涎ぐらいだろう… お風呂に入れてもらっていないため、髪はボサボサで髪飾りも黄色く変色していた。 「ただいまー」 そこへ、仕事を終えて帰ってきたお兄さんが現れた。 いつもなら目の前のれいむの存在などまったく気にしないで、ベッドで休憩するのだが… 今日のお兄さんは、いつもとは様子が違った。 「…え、れいむ?」 「ゆっ!?」 テーブルの下に篭っていたれいむは、最初何が起こったのかわからなかった。 お兄さんが、二週間ぶりに自分の名前を口にした。 れいむは驚きと喜びのあまり、うまく声が出なかった。 でも…気のせいではない。お兄さんはじっとれいむの方を見ている。 お兄さんの目には、確かにれいむの姿が映っているのだ。 「れいむ…やっと帰ってきたのか!!今までどこに行ってたんだ!?」 そう言ってれいむを抱き上げ、強く強く抱きしめる。 れいむは苦しくてたまらなかったが、それよりもお兄さんが自分を見てくれたという喜びが勝った。 今なら…今だけなら、どんなに強く抱きしめられても、我慢できる。 とめどない涙で前が見えなくなっても、全然気にならなかった。 お兄さんがれいむを放すまで、れいむは抱きしめられたままゆっくりし続けた。 これでやっとゆっくりできる。もう一人ぼっちじゃない。 これからはお兄さんと思う存分ゆっくりできるんだ…! そして、れいむをベッドに置くとお兄さんはれいむを見下ろして問い始める。 「今までどこに行ってたんだ!!勝手に出て行ったらダメじゃないか!!」 「ゆっ!!れいむずっどごごにいだよ゛!でもおにーざんがむじじだんだよ゛!!」 「はぁ?どうしてそんな嘘をつくんだ!ずっとれいむを心配してたお兄さんの身にもなってみろ!!」 バン!!とテーブルを強く叩く音に、れいむは身震いした。 「で、でも゛!!ほんどだよ゛!!れいむはずっどゆっぐでぃおうぢにいだよ゛!!!」 「まだ言うか…そんな嘘をつくれいむとはゆっくりできないな」 「ゆ゛!?」 “れいむとはゆっくりできない” いやな予感がした。 よくわからないけど…よくわからないのに、れいむは震えていた。 何かが怖い。それが何なのか分からないけど、とにかく怖い。 「れいむがそういう嘘をつくのなら……お兄さんは『一人でゆっくりする』よ」 びくっ!! 何もされていないのに、れいむの体が痙攣した。 脳裏に思い浮かぶのは、お兄さんに無視され続けた二週間の出来事。 次の瞬間には、れいむは先ほどの態度と打って変わって、泣き叫びながら必死に謝罪し始めた。 「いやだあああああああおぁっぁぁぁ!!!ひどりでゆっぐりじないでええ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!! れいむもいっじょにゆっぐりざぜでよお゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉ!!!」 「『一緒にゆっくりさせてください』…だろ?」 「いっじょにっ!!おねがいでずがら!!いっじょにゆっぐりざぜでぐだざい゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」 「よし、そこまで言うならしょうがない。許してあげるよ!」 普段どおりの、優しいお兄さんだった。 それから。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 たまにれいむが何か文句を言うと、お兄さんは優しくこう問いかける。 『一人でゆっくりするかい?』 そう問いかけてやれば、れいむは必ず文句を言うのを止めた。 不味いご飯も我慢した。三日お風呂に入れてもらえなくても我慢した。 外に出してもらえなくても我慢した。遊んでもらえなくても我慢した。 砂を食べさせられても我慢した。熱湯を飲まされても我慢した。 目にわさびを塗られても我慢した。舌にからしを塗られても我慢した。 頭に穴を開けられて、餡子を少し吸われても我慢した。 かなづぢで体中を叩かれても我慢した。釘で貫かれても我慢した。 体の一部をちぎられても我慢した。自慢のリボンを取られても我慢した。 髪の毛を引きちぎられても我慢した。タバコの火を押し付けられても我慢した。 舌をちぎられても、目をえぐられても、とにかく我慢した。 ただただ、あの一言が怖かったから。 『一人でゆっくりするかい?』 その言葉が聞きたくないから、れいむは我慢し続けた。 お兄さんとれいむは、いつまでも一緒にゆっくりし続けた。 にっこり微笑むお兄さんに、原形をとどめない顔で微笑み返すれいむ。 お兄さんは…とてもとても、優しかった。 GOOD END あとがき いつもよりあっさり、それでいてマイルドに仕上がったと思います。 ごゆるりと… 作:避妊ありすの人 このSSに感想を付ける
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その5より 「おおおにいさん!! きょきょきょうは、れれれいむをぎゃくたいしてね!!!」 翌日、れいむは男の足音が聞こえてくるや、男の言葉を待たずして、精一杯の声でそう叫んだ。 そうでもしないと、奮い起した勇気がいつ萎んでしまうか分からないからだ。 現に、今のれいむは朝から一度も震えが止まらなかった。 しかし、言ってしまった以上、後戻りはできない。する気もない。 自分の存在意義がかかっているのだから。 「ほう、ようやくお前の出番が来たか。待ちくたびれたよ」 男はさも嬉しそうに、扉越しに声をかける。 対して、まりさとありすは、何を馬鹿な事を!! と言わんような口調で、れいむに詰め寄ってくる。 「れいむ!! なにをいってるの!! ゆっくりばかなことはいわないでね!!」 「そうよ、れいむ!! れいむがぎゃくたいされることはないわ!! ここは、まりさととかいはのありすに、まかせておけばいいのよ!!」 まりさもありすも、予想通り、れいむを止めにかかる。 しかし、ここで虐待を止められるわけにはいかないのだ。 まりさと対等になるためにも。 ありすより先に、まりさにプロポーズするためにも。 「まりさ、ありす、ゆっくりありがとう!! でもれいむはへいきだよ!! きょうは、ゆっくりしていってね!!」 「ゆぅぅ!! うそつかないでね、れいむ!! こえがふるえてたよ!! れいむがいじめられることなんてないんだよ!! きょうはまりさにまかせてね!!」 「もうきめたんだよ、まりさ!! それに、いつまでもまりさとありすにたよってばっかりじゃいられないよ!! ゆっくりりかいしてね!!」 「れいむこそゆっくりりかいしてね!! れいむがいじめられること、ないんだってば!!」 「なんといわれても、れいむのかんがえはかわらないよ!! おにいさん!! ゆっくりはやく、れいむをつれていってね!!」 埒が明かないと感じたれいむは、さっさと男に連れて行けと要求する。 いつまでもまりさやありすと話をしていると、せっかく奮い立たせた勇気が萎えてしまいそうになるのだ。 そのため、多少強引ではあったが、れいむは二匹との会話を切り上げた。 「ふふ、久しぶりに、れいむを苛め倒すことが出来るよ。楽しみで仕方がないぜ」 男はれいむの部屋の鍵を開けると、扉を開けた。 その手には、一月ぶりに見る、恒例の箱が収められている。 この部屋と虐待部屋を行き来するのに、かつて男が使っていたものだ。 れいむはそれを見るや、体が委縮してしまう。これから虐待をされるのだと、否応なしに思い知らされるのである。 「さあ、れいむ。この箱の中に入れ」 男が木箱の蓋を開けて、命令してくる。 両壁からは、突然まりさとありすの声が聞こえなくなった。 何を言っても無駄だと気づいたのだろうか? それはそれで好都合だが、いざ声が聞こえてこないと不安になってくるのも事実だ。 生物(?)の心理とは、本当に不思議なものである。 れいむが完全に入ったことを確認した男は、木箱の蓋を閉める。 そして、れいむに一言言葉をかけた。 「お前だけは、利口なゆっくりだと思っていたのに、どうやら俺の見込み違いだったようだな」 利口なゆっくり。 この場合、頭がいいという意味ではなく、卑怯・狡猾という意味であろう。 二匹に虐待を任せ、一匹気楽に過ごしていたれいむに対する皮肉であろうか? 何とでも言うがいいと、れいむは心の中で反発した。 男は知らない。 虐待されることこそが、れいむの望みであることを。 これこそが、自分がこれから生き残る上での最善の方法であることを。 虐待されることは、すなわち将来への布石なのだといういことを。 自分が勝者だとおもっているであろう男は、れいむから見たら自分に従って動くピエロのようなものであった。 男の規則正しい足音が聞こえ始めた。移動を開始したのだろう。 これから一か月ぶりに、れいむは虐待を受ける。 れいむは、再度耐えしのぐ決意を固めた。 およそ一月ぶりに受けた虐待は、予想通り、死んだ方がマシといえるほど苦しいものであった。 それでもれいむは必死に歯を食いしばり、男の責苦に耐え続けた。 悪魔の拷問ような一時間が過ぎた時、れいむはあまりの激痛に意識を手放してしまった。 それでも男はきっちり時間どおり終えて、部屋に戻してくれた。 れいむが目を覚ましたのは、翌日の朝方であった。 虐待を受けてから、丸々20時間近く眠っていたことになる。 昔は虐待を受けても、ここまで長く休息を取ったことはなかった。 やはり、久しぶりの虐待に、体が付いてこなかったのだろう。 れいむは起き上がると、未だ痛みの引かない体を引きずりながら、ドッグフードと水の置かれている部屋の隅に向かい、もそもそと食べ始めた。 まりさとありすはまだ寝ているのか、物音一つ聞こえなかった。 少し残念ではあるが、れいむももうひと眠りしたいので、好都合でもあった。 何しろ、れいむは今日も男の虐待を受けるつもりなのだから!! まりさやありすに言えば、絶対に反対されるだろう。昨日の様子を見て入れば、考えるまでもない。 しかし、虐待を一回受けた程度でまりさと対等になったなどというおこがましいことは、さすがにれいむも考えていなかった。 まりさの受けた回数と同じとまではいかなくとも、少なくとも一週間分くらいは虐待を受けなくては、まりさと同じ位置に並べない。 だからと言って、ありすがいつまりさに告白するか分からない以上、三匹で順番に虐待されるなんて、悠長なことは言っていられない。 ほんの一月前までは、毎日のように虐待をされ続けてきたのだ。 それでも、れいむは生きている。悔しいが男の加減は、それだけ正確なのだろう。 これで障害が残ったりするなら考え物だが、そんなこともない以上、れいむは今日も明日も明後日も虐待してもらわなければならない。 そのためには、まず体力を回復させることが、何をおいても重要である。 れいむは食べ終わると、再び男がやってくるまで、眠りについた。 「れいむ!! いいかげんにやすんでよ!!」 「そうよ、れいむ!! これいじょうむりはやめてね!!」 れいむが虐待される決意をしてから、一週間が経過した。 まりさとありすは、2〜3日はれいむを説得し続けたが、れいむが以前のありすのように意志を曲げないと分かると、次第にれいむの心意気をくんでくれるようになった。 しかし、それでいて二匹のこのセリフ。れいむを行かせまいと必死で止めている。 納得したというのに、二匹がれいむを止める理由。 それは、れいむがこれで一週間連続で虐待をされ続けているためである。 どんなに止められようと、れいむは虐待され続けた。 男もそんなれいむの狂気じみた様子に、何か思うところがあったのだろうか? れいむの言い分を聞いて、毎日虐待をし続けてくれた。 しかし、虐待を受けているというのに、れいむは嬉しかった。 自分の思い通りに事が運んでいることに満足していた。 れいむにどんなにやる気があろうと、目下最大の懸念は、男がれいむを指名してくれるかというものであった。 如何に自分から名乗り出ようと、れいむを心配するまりさとありすも必ず名乗りを上げてくる。 心配してくれるのは嬉しいのだが、この時ばかりは、二匹のお節介も鬱陶しいと思わざるを得なかった。 気分屋の男だ、その日の気分次第ではれいむを虐待してくれないかもしれない。まりさやありすを選ぶかもしれない。 しかし、れいむには時間がないのだ。最短でまりさと対等にならなければならないのだ。 それを男は見据えているかのように、れいむを虐待してくれる。 れいむは、すんなりと事が運ぶことに満足し、今日も虐待の痛みに必死で耐えた。 虐待が終わり、れいむは部屋に戻された。 いつもなら食事をしてすぐに寝付くのだが、今日のれいむは中々寝られなかった。 嬉しかったのだ。 れいむの目安としていた一週間が終わったのだ。 これでやっとまりさとありすに、負い目を感じることはなくなる。 まりさと同じ高さに立てる。 そう考えると、ついついニヤケ面になってしまい、体の痛みも忘れてしまいそうになる。 そんなれいむに、両隣から声が掛って来た。 「れいむ!! だいじょうぶなの!?」 ありすの声である。 余程心配だったのだろう。 れいむの企みを知らぬありすは、必死にれいむの名を呼び続けてくる。 「れいむ!! あしたはぜったいにまりさがぎゃくたいされるからね!! これいじょう、れいむがいくんだったら、ぜっこうだよ!!」 まりさの言葉。 絶交とは、温和なまりさがよく口にしてきたものである。 危なかった。ノルマが達成した後で助かったものだ。 まりさと一緒になるために頑張っていたのに、そのまりさに嫌われてしまっては、本末転倒である。 「ゆっ……わかったよ、まりさ……あしたは……まりさにまかせる…ね……」 「ゆっ!?」 今まで頑として、まりさの言葉に耳を傾けなかったれいむが、いきなり素直になったのを受け、まりさは言葉を詰まらせた。 しかし、れいむの言葉はまりさにとっても、嬉しかったのだろう。 久しぶりに、まりさの声が落ち着きを取り戻した。 「ゆうぅ!! やっとれいむが、まりさのいうことをきいてくれたよ!!」 「ごめんね……まりさ………しんぱいばっかり……かけて」 「まったくだよ!! ゆっくりはんせいしてね!!」 「ゆっくり……はんせいするよ……」 「れいむ!! あしたはまりさだけど、そのつぎはありすがいくからね!!」 「ゆっ……ゆっくり…りかいしたよ……ありす……がんばってね……」 「まったく、しょうがないわね!! あとはとかいはにまかせなさい!!」 「おねがいね、ありす……でも……そのつぎは………またれいむがいく……からね」 「なにいってるの、れいむ!! れいむはしばらくおやすみよ!!」 「そうだよ、れいむ!! あとは、まりさとありすにまかせてね!!」 「だめだよ……れいむだって……まりさとありすの……やくにたちたいよ……ゆっくりなかまはずれは……やめてね」 「ゆぅぅ……やっぱりれいむはいじっぱりだよ!!」 まりさは最後に困ったような言葉を吐きながらも、最終的にはそれを認めてくれた。 元々、れいむが虐待をされることに反対だったわけではなく、れいむの行き過ぎる行いに対して苦言を呈していたのである。 れいむがしっかりと順番を守ってくれるのなら、まりさはれいむの意志を尊重してくれるつもりなのだ。 やはり、まりさは最高のゆっくりである。 この一週間、地獄の苦しみに耐えたかいがあったというものだ。 これで、準備は整った。 後はありすより先に、まりさに告白をするだけ。 しかし、物事にはタイミングというものがある。 少しでも確率を上げるためにも、その時に告白するのがベストだろう。 あの呑気でお人よしのれいむは、この時もうすでに存在していなかった。 世の物事すべてを損得の計算で考えられるように変わってしまったのである。変わらざるを得なかったのである。 それだけこの異常な空間が、れいむを変えてしまったのである。 しかし、れいむは自分が変わってしまったことに気付きもしない。いや、例え気づいていても、どうも思わないだろう。 すでに賽は投げられたのだ。 もう振り直しは出来ない。どの目が出ようと、突き進無以外道はない。 れいむは、そのまま少しの間二匹とお喋りをし、その後すぐに意識は深い深い海の底に落ちていった。 自分の成功を信じながら。 れいむの無茶苦茶な一週間が終わり、まりさとありすを含めて、三匹でサイクルを組んで虐待される日々が始まった。 すでにまりさ→ありす→れいむと一回り虐待は終了しており、今日はサイクルが始まってから、れいむが二回目の虐待を受ける日であった。 それと同時に、れいむが例の作戦を実行に移し出すと決意した日でもあった。 今日、男の虐待から戻ってきたら、まりさに告白しよう。 れいむはそう決めていた。 そのタイミングを選んだ理由はいくつかある。 一つ目は、虐待帰りだということである。 普通に告白をするより、虐待を受け心身ともに疲れている方が、まりさの気を買えるだろうという、れいむなりの考えである。 それなら、虐待一週間を終えたすぐの方がいいのではと思うかも知れないが、これについても、れいむなりに思うところがあった。 あの場で告白してしまったら、れいむの考えを見透かされる可能性があったからである。 見透かされるとは、虐待を受け続けた理由が、まりさに告白するためだとバレテしまうことを意味する。 そんなことを知られては、計算高いゆっくりだと、逆に引かれてしまいかねない。 しかし、数日置けば、さすがにそこに結びつけることはなくなるだろう。 二つ目は、あまり悠長に構えている時間もないということである。 作戦はただ告白するだけでなく、ありすより先にするというのが根幹の部分にある。 れいむも出来ることなら、もっと時間を置きたいのだ。 虐待のノルマを達成したといっても、それは所詮れいむだけが考えていることである。 まりさからすれば、れいむなんてまだまだ苦しんでないよと感じられるかもしれない。 だからこそ、今後もっと虐待を受け続けていけば、それだけまりさに近づくことが出来るのである。 しかし、悠長に構えていてありすに先を越されてはたまらない。 そういった様々な要素を考えまとめ、れいむは今日まりさに告白することを決意したのである。 男に虐待部屋に連れてこられ、今日も虐待が始まった。 その日れいむに怯えはなかった。 いざ告白を決意しても、ちゃんとまりさに伝えることが出来るか不安でいっぱいなのだ。 それに、ちゃんと告白できたとしても、まりさがれいむの告白を受けてくれるかどうかも分からない。 その気持ちが、虐待の不安を押し退けてしまったのである。 体が虐待に慣れてきたことや、虐待内容が以前行われた事の繰り返しであるということも、れいむにあまり不安を与えない要因となったのだろう。 れいむは、虐待の痛さに必死で耐えながらも、頭の中では今後のことばかりを考えていた。 虐待は終了し、れいむは部屋に帰された。 いよいよ告白の開始である。 痛さと疲れはあるものの、ゆっくりのくせにアドレナリンでも出ているのか、れいむはそれをほとんど感じなかった。 ゆっくりは思い込みの生物であるという学説がある。 思考のすべてを今後のプロポーズに費やしたれいむは、自分が痛いということを忘れてしまい、それが体にも影響しているのかもしれない。 ある意味羨ましい体である。 と、れいむがどういうふうに切り出すか悩んでいると、当のまりさの方かられいむに声をかけてきた。 「れいむ!! ゆっくりだいじょうぶだった?」 「ゆぅ!! ゆっくりだいじょうぶだよ!! ぜんぜんへっちゃらだよ!!」 いつも通りのやり取りであるが、れいむは言葉にしてからしまったと思った。 虐待後を狙ったのは、苦しみながらも告白することで、まりさの気を最大限引き寄せる効果を狙ってのつもりだったのに、うっかりと普通に話をしてしまった。 考えに夢中で痛さを感じないのも良しあしである。 こうなったら作戦実行日を変えるか? いや、やはりそれは出来ない。 ありすがいつ告白してくるか分からないのだ。あまり時間はかけたくない。 それに、せっかく今日に計画を合わせてきたのだ。 れいむは気持ちの面でも最高潮に達している。今なら、れいむの有りっ丈の気持ちをまりさに伝えきることが出来る。 れいむは、無駄な事を考えることは止めた。 最初から出鼻を挫かれたのだ。もう怖いものなどありはしない。当たって砕けろ!! いや、砕けたくはないけど、そんな意気込みで言え!! 本心をまりさにぶつけることにした。 「まりさっ!!」 「ゆっ!? なあに、れいむ?」 「れいむは、まりさがだいすきだよ!! まりさのことを、ゆっくりあいしているよ!! れいむといつまでもゆっくりしていってね!!!!」 「!!!」 言った!! 言ってしまった!!! もう後には引けない。賽は投げられた。 れいむの愛の告白に、まりさは何も返事を返してくれなかった。 しかし、一瞬、言葉に詰まった様子を見せた。相当驚いているのだろう。 こんな場合だというのに、告白なんてしてくるんだ。無理もない。 れいむは緊張で、喉(?)が乾いて仕方がなかった。 一刻も早く、水を飲みたい。 しかし、まりさの返事を聞くまでは、なんとか我慢するつもりだった。 壁越しの告白のため、姿は見えないのだが、水を飲んでしまったらまりさに振られる気がしたのだ。 様は願掛け、気分の問題である。 30秒が過ぎ、一分が経過しても、まりさは一向に口を開かなかった。 さすがにれいむも焦りだした。 やはり、まりさはれいむのことを好きじゃないのか? れいむじゃ、まりさには釣り合わないのか? 様々な感情が去来する。 しかし、ようやくまりさが口を開いて来た。 考えが纏まったのだろう。 「れいむ……れいむのきもちはうれしいよ」 「ゆっ……」 「まりさもれいむがだいすきだよ……」 「ゆゆっ!!」 「……」 そう言って、まりさは再び沈黙してしまう。 大好きだよ。 愛の告白をして大好きを言われたのだから、普通に考えれば、れいむの気持ちを受け止めたと考えていいのかもしれないが…… その後の間が嫌な気分にさせる。 なんとか傷つけないように断る手段を考えているような気分を感じさせる。 れいむは、やはり自分ではダメだったのかと弱気になった。 しかし、次の瞬間…… 「だから!! だから、まりさといっしょに、いつまでもゆっくりしていってね!!!」 …… ……… ………… れいむは唖然としてしまった。 もう十中八九、玉砕を覚悟していた。 それなのに、まりさはれいむの気持ちをしっかりと受け止めてくれた。 れいむは、ただただ感情を整理できず、言葉を詰まらせた。 「れいむ、どうしたの?」 何も話してこないれいむが気になったのだろう。言葉をはさんでくる そんなれいむの心情に気付かないのが、まりさらしいと言えばまりさらしい。 れいむは、とにかく何か話さなければ、言葉を掛けなければと、考えを纏め上げようとしたが…… 「ゆ……ゆゆ………ゆゆ……」 「ゆっ?」 「ゆ……ゆあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁ――――――――――――んんんんんん!!!!!!!」 「れ、れいむ!! どうしたの!!」 一気に感情が爆発してしまった。 爆発は涙となって、れいむの目から止めどなく溢れてくる。 嬉しかった。まりさが自分を選んでくれたのが。 嬉しかった。あの虐待された日々が、無駄ではなかったことが。 嬉しかった。れいむにはっきりと居場所が出来たことが。 れいむは、今までの自分の行動を振り返り、延々と泣き続けた。 「れいむ、なきすぎだよ!!」 「ゆぅ……ゆっくりごめんね、まりさ!! でも、れいむ、すごくうれしかったんだよ!!」 「まりさもうれしかったよ!! れいむがすきといってくれて!!」 「まりさ!!」 「れいむ!!」 ようやくれいむは泣きやんだ。泣きやむまで、実に10分もの時間を費やしてしまった。 れいむは水が飲みたかったことも忘れ、まりさとの話に興じ始める。 「れいむ!! いまはできないけど、けっこんしきはここをでられたらゆっくりしようね!!」 「ゆぅ!! そうしようね!!」 「それから、れいむはまりさのおうちにゆっくりくるといいよ!!」 「ゆゆっ!? いいの!!」 「あたりまえだよ!! れいむのおうちはまだできていないんでしょ? それに、れいむはまりさのおよめさんだもん!! いっしょにくらすのは、ゆっくりあたりまえだよ!!」 「ありがとう、まりさ!!」 「まりさのおうちはおっきいよ!! にんげんさんのおうちみたいにおっきいから、ゆっくりたのしみにまっててね!!」 「ゆっ!! ゆっくりたのしみだよ!! ゆっくりはやく、まりさのおうちにいきたいよ!!」 「あと、おちついたら、はねゆーんにもいこうね!!」 「ゆっくりたのしみにしてるよ!!」 人間のお家と同じくらい大きいとは、まりさも大げさに出たものだ。 まあ、所謂物の例えだろう。 しかし、れいむは「うそつかないでね!!」なんて、無粋なセリフを吐くつもりはない。 まりさは、れいむを喜ばせるために言っているのだろう。れいむだって、そのくらい分かるつもりだ。 こんな幸せなひと時を、自分から壊す必要はない。 自分の居場所が出来たばかりか、出会ったときからずっと好きであったまりさと、これからは永遠にゆっくりすることが出来るのだ。 れいむの頭の中は、まりさとの会話でいっぱい幸せいっぱいで、何にも考えられなかった。 しかし、次にまりさが言った言葉が、れいむに重要なことを思い出させた。 「ありす!! ありすも、まりさとれいむを、ゆっくりしゅくふくしてね!!」 「!!!」 そう、作戦が完璧なほどに決まったことで浮かれまくってしまい、すっかりありすのことを忘れていたのである。 れいむはなんと言葉をかければいいか分からなかった。 そもそも勝者であるれいむが、敗者であるありすにかける言葉なんて、どれも陳腐に聞こえるだろう。 裏切ったれいむの言葉なんて、都合のいい言葉としか感じないだろう。 事実、れいむの心の中は、ありすへの優越感で満たされている。 何とか考えずにいようとしても、すぐに思考の中に入り込んできてしまう。 とても甘美な麻薬のようなものだ。 れいむの口から出る言葉も、自然とありすを見下すものになってしまうだろう。 しかし、ありすへの背信行為をしておきながらも、ありすとは親友でいたい。嫌われたくない。 これもまたれいむの本音だった。 それは、勝者だからこそ持ち得ることが出来る、自分に甘く都合のいい考えである。 ありすのことを全く考えてない、自己中心的な思考である。 しかし、例えそれが分かっていようと、れいむはありすとの友情も諦めきれなかった。 それだけありすのことが好きだったのだ。 ありすは、まりさの言葉に、なかなか返事を返さない。 一体、どんな心中でいるのだろう。 自分を裏切り、まりさを手に入れたれいむに、仕返しでも考えているのだろうか? それとも、まりを諦めきれず、虎視眈々とまりさを奪う算段でも整えているのだろうか? 何とかありすに言葉を掛けなければならない。 親友でいてもらうためにも。 れいむが、なんて声をかければいいのだろうと、頭を悩ませていると、ようやく当の本人から反応が返ってきた。 「おめでとう!! れいむ!! まりさ!!」 その言葉に、特に棘があったようには聞こえなかった。 いつものやさしさに満ちたありすの声に聞こえたきがする。 心から祝福しているような気がする。 「ゆっ!! ありがとう、ありす!!」 まりさが祝福を受け、感謝の意を示す。 「けっこんしきには、ぜったいにありすをよんでね!!」 「あたりまえだよ!! ゆっくりかならず、ありすをよぶよ!!」 「ゆっくりれいむをたいせつにしてね!!」 「ゆっくりやくそくするよ!! れいむをいつまでもかわいがるよ!!」 その後、まりさとのやり取りを終えると、ありすはれいむにも声をかけてきた。 「れいむ、おめでとう!! まりさとゆっくりしてね!!」 「ゆっ……ありがとう、ありす……」 「けっこんしても、ありすとはしんゆうでいてね!!」 「ゆぅぅ……」 ありすはれいむを祝福してくれた。 そればかりか、れいむに対して、親友でいてくれとまで言ってくる。 れいむは自分でありすを裏切っておきながら、ありすの寛大な態度に居たたまれなくなった。 それと同時に不審に思った。 ありすは悔しくないのだろうか? 悲しくないのだろうか? れいむがありすの立場なら、決して自分を許さないだろう。 なのに、ありすは祝福してくる。れいむが最も望んでいた言葉をかけてくる。 腑に落ちなかった。自分に都合がよすぎる。 昔のれいむなら、その言葉に何ら疑問を抱かなかっただろう。 しかし、今のれいむは、物事を計算で見るようになってしまっている。 ありすの言い分は、そんなれいむを納得させるには、あまりにも納得の出来ない言葉だった。 折角想いに想っていたまりさと一緒になることが出来たのだ。 なのに、つまらないことで将来への希望を壊されるようなことは、絶対にあってはならない。 本当にありすは自分たちを祝福してくれているのか? 何か不穏当な考えを持っているのではないか? もしありすが何らかの手で自分を陥れようとしているのなら、何が何でも防がなくてはならない。 例え、今後ありすとの友情が壊れようと。 れいむは、ありすの真意を測ることにした。 一夜明けた翌日、今日はまりさが虐待される日である。 男はまりさを虐待部屋へと連れていった。 今がありすと話す絶好の機会である。 れいむは、ありすのいる壁際の方に行くと、真意を質すべく、核心をぶつけた。 「ありす、おきてる?」 「ええ、ゆっくりおきてるわ!!」 「ありす!! れいむ、ききたいことがあるよ!!」 「なにかしら?」 「きのうのことだよ!! ありすは、れいむにまりさがとられて、かなしくないの?」 「……」 「まりさがすきじゃなかったの?」 「……」 「れいむをうらんでいないの?」 「……」 「ねえ、どうなの、ありす!!」 れいむの問いに、ありすは中々反応を示さない。 れいむはゆっくりとありすが言葉を出すまで待ち続けた。 ようやくありすが口を開いて来たのは、一分後であった。 「……くやしいわよ!! かなしかったわよ!! ありすはまりさがすきだったんだもの!!」 ありすは、自分の隠していた感情のすべてをぶつけるかのように、大きな声で叫んできた。 これには、さすがのれいむも、少なからず動揺した。 ありすがこうまで生の感情を出してくるとは思わなかったのだ。 「それじゃあ、どうして……」 「……だって、しょうがないじゃない!! これはこいのかけひきなんだもの!!」 「ゆっ?」 「れいむは、じぶんのことをどうおもってるの? ありすのことをうらぎったとおもってる?」 「ゆぅぅ……それは……」 「さいしょはありすもそうおもったわ!! れいむにうらぎられたって!! でも、じっさいはそうじゃない!! まりさはだれのものでもないんだもの!! まりさにこくはくするのは、れいむのじゆう!! それをうけるのもまりさのじゆう!! そこのありすのはいるよちはないわ!!」 「……」 「ありすがまりさにさっさとこくはくしなかったのもいけなかったしね!! まりさのあいてが、れいむならなっとくだわ!! それに、まりさはれいむのことがすきだったみたいだから、こくはくしてもたぶんふられていたけどね!!」 「ありす……」 「だからありすはあきらめたの!! かこをふりむかないことも、とかいはのたしなみよ!! だから、れいむがきにすることはないわ!! これからもありすのしんゆうでいてね!!」 「……ありす!! ありがとう!! ありがとう!!」 「かんしゃすることなんてないわよ!! ここからでられたら、まりさいじょうにすてきなゆっくりをみつけてやるんだから!!」 「ありすならきっとみつけられるよ!!」 「ありがとう、れいむ!!」 れいむはここに来て以来、三回目の衝撃を受けた。 自分はなんて小さいのだろう。ありすと言葉を交わし、嫌というほど思い知らされた。 自分は決してそんな風に考えられない。 ありすの立場なら、絶対に嫉妬をせずにはいられない。 しかし、ありすはどこまでいってもありすだった。 優しく他人を思いやれるゆっくりだった。 本当に心の底から、れいむとまりさを祝福してくれていたのだ。 れいむは、ありすを疑ったことを悔いた。 そして、同時に感謝した。 こんな最高のゆっくりと知り合えたことを。 ありすと親友になれたことを。 「ありす!! れいむとありすはいつまでもしんゆうだよ!!」 「もちろんよ!!」 れいむは、今最高に幸せだった。 隣には愛するまりさと、親友のありす。 例え姿は見えなくても、スリスリ出来なくても、心が繋がっている。 それが感じられるだけで満足だった。 しかし、今日の幸せはそれだけに留まらなかった。 まりさが虐待を終えて帰ってきた。 それと同時に、壁越しに男からとんでもない一言が飛び出してくる。 「お前たち。今日でお前らの虐待は終了する」 「!!!」 突然の男の発言に、れいむは驚きのあまり、餡子を吐いてしまいそうになった。 何とか飲み込んで、事なきを得たが。 「ゆっ!!! ほ、ほんとうなの!?」 「ああ。飽きてきたしな。明日、部屋から出してやるよ!!」 「ゆうううぅぅぅぅぅぅぅ―――――――!!!!!」 れいむが雄たけびを上げる。 まさか、婚約した翌日に、この辛く苦しい虐待まで終わることになるとは!! 人間でいえば、盆と正月とクリスマスがいっぺんに来たようなものである。 「やったああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!」 遂に、遂にここから出られるのだ。 まりさとありすに会えるのだ。 スリスリ出来るのだ!! 隣では、二匹とも感無量なのか、一言も言葉を発しなかった。 「それじゃあな」 そう言って、男の足跡は遠ざかっていく。 れいむは、すぐさま二匹に声をかける。 「まりさ、ありす!! でられるんだよ!! やっとここからでられるんだよ!!」 「ゆう!! ながかったよ!!」 「やっと、ここからでられるのね!!」 「まりさ!! あしたはいっぱいすりすりしようね!!」 「ゆっ!! そうだね。れいむ!!」 「あしたがたのしみね!!」 「ゆっくりたのしみだよ!!」 れいむの頭の中には、男が嘘を付いているという考えは一切ない。 別に昔の純粋なれいむに戻ったという訳ではなく、単に嬉しすぎて頭が回らないのだ。 もっとも、男はちゃんと出してやるつもりなので、考えたところで、れいむの杞憂に終わるのだが。 早く明日が来ないだろうか? れいむは浮かれて、なかなか寝付けなかった。 その7へ
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「ごべん゛な゛ざい゛い゛い゛はんぜい゛じまずがらゆるじでぐだざい゛い゛い゛い゛い゛」 一匹のゆっくりれいむがお兄さんに捕まった。お兄さんの家に忍び込み大切な母の形見を壊したからだ。 ここまではよくある風景だがこのゆっくりはちょっと違った。 「でいぶはどうなっでもい゛い゛がらおながのあがじゃんだげはだずげでぐだざい゛い゛い゛い゛」 このれいむ実は胎生型妊娠をしていたのだ。幸いなことにお兄さんは虐待お兄さんではなかったので 子供が生まれるまで生かしてもらえることになった。 − − − 1 日 目 − − − 「むーしゃ、むーしゃ…」 れいむは逃げないよう檻に囚われ餌として野菜くずを与えられた。 くずといっても野生の食べ物に比べればはるかに美味しかったがれいむは幸せな気持ちになれなかった。 もうすぐ人間さんに殺されてしまう。そう思うと美味しいはずの食事も味が良く分からない。 「ゆゆっ?あかちゃん?」 その時れいむの腹の中の赤ちゃんが動いた。 「れいむのかわいいあかちゃん、げんきにそだってね」 死の恐怖に怯えていたれいむだが赤ちゃんそ存在がれいむの心を支えていた。 − − − 7 日 目 − − − 「うーん、うーん、うまれるよ…」 お兄さんが仕事で家を開けている時、れいむのおなかに痛みが走る。赤ちゃんが生まれようとしているのだ。 「れいむのあかちゃんうまれるんだね…れいむとってもうれしいよ」 だがその時お兄さんの言葉を思い出す。 『子供に罪はないから生まれるまで待ってやる。だが子供が生まれたらお前は殺すからな』 「ゆゆっ!だめだよ、あかちゃんまだうまれないで!」 れいむは腹に力を込めて生まれてこようとする赤ちゃんを押し戻した。 やがて赤ちゃんも諦めたのかれいむの産気は収まった。 「あかちゃんうまれるのはもうちょっとだけまってね…」 − − − 1 0 日 目 − − − 「うーん、うーん、うまれるよ…」 お兄さんが仕事で家を開けている時、れいむのおなかに痛みが走る。赤ちゃんが生まれようとしているのだ。 「れいむのあかちゃんうまれるんだね…」 だがその時お兄さんの言葉を思い出す。 「あかちゃんおねがいだからうまれないでええええ」 れいむは腹に力を込めて生まれてこようとする赤ちゃんを押し戻した。 だが赤ちゃんは前回より強い力でれいむの体から出ようとする。 「おねがいだからやめてええええ」 自分の力では抑えきれないと思ったれいむは野菜の芯で自分のまむまむに蓋をした。 そのかいあってかしばらくして産気は治まった。 「あかちゃんがうまれるとれいむがこまるんだよ。おねがいだからうまれないでね」 − − − 1 2 日 目 − − − 「うーん、うーん、うまれるよ…」 お兄さんが仕事で家を開けている時、れいむのおなかに痛みが走る。赤ちゃんが生まれようとしているのだ。 「おねがいだからう゛まれないでっていってるでしょお゛お゛お゛お゛」 だが今回は赤ちゃんもなかなか諦めようとしない。 まるで『なんでうんでくれないの?じぶんはいらないこなの?』と言っているようだった。 「わがままなあかちゃんだね!れいむそんなわがままなあかちゃんいらないよ!」 怒ったれいむはお腹の中の赤ちゃんを罵倒しはじめた。れいむの気持ちがわかるのか赤ちゃんは大人しくなった。 「こんなできのわるいあかちゃんがいるなんてれいむはふこうだよ」 赤ちゃんは寂しそうにごろりと動いた。 − − − 1 7 日 目 − − − 「い゛だい゛い゛い゛い゛、でいぶのおなががい゛だい゛い゛い゛い゛い゛」 お兄さんが仕事で家を開けている時、れいむは激痛でのた打ち回った。 お腹の子供が成長しすぎたせいでれいむの体を圧迫しているのだ。 「れいむをいたいいたいさせるあかちゃんはしね!」 れいむは壁や床にお腹を叩き付けた。何度も何度も… あかちゃんは『いたいよ、なんでこんなことするの?』と言う様にもぞもぞと抵抗したが その動きがよけいにれいむのお腹を痛くし怒りを買うことになった。 「あかじゃんあばれるな!はやくしね!はやくしね!」 やがてお腹の赤ちゃんは動かなくなった。壁に叩きつけられたダメージで死んでしまったのだ。 れいむのまむまむからチョロチョロと餡子が漏れる。 「なあれいむ・・・」 「ゆ、ゆぴっ!!」 気がつくと背後にお兄さんが立っていた。 「れいむの赤ちゃん中々生まれないな」 「し、しらないよ!れいむはあかちゃんになにもしてないよ!」 「…」 「お、お兄さん?」 「なあれいむ…」 「れれれ、れいむはなにもしてないよ、あかちゃんはげんきにそだってるよ!」 「…そうか」 お兄さんは無言で部屋から立ち去った。 − − − 2 0 日 目 − − − 「うーん、うーん」 お腹に痒みを感じれいむは目を覚ました。何だろうと思いお腹を見ると… れいむのまむまむにウジ虫が入り込もうとしていた。 どうやら腐った赤ちゃんの餡子の臭いに釣られて湧いてきたらしい。 「やめでえ゛え゛え゛!むしさんれいむのなかにはいらないでえ゛え゛え゛!」 れいむはまむまむを壁に擦りつけウジ虫を引き剥がした。 ほっとしたのもつかの間腹の中にちくりとした痛みを感じる。 どうやら気づいたのが遅かったらしくすでに数匹体内にウジ虫が入り込んでいたのだ。 チクチクとした痛みはやがて激痛に変わる。どうやらウジ虫が中枢餡子のあたりまで入ってきたらしい。 「いだいよお゛お゛お゛お゛!むしさんでいぶをだめないでえ゛え゛え゛え゛!」 「なあれいむ・・・」 「ゆ、ゆぴっ!!」 気がつくと背後にお兄さんが立っていた。 赤ちゃんを殺したことをお兄さんにばれないようにしなければならない。 れいむは痛みをこらえて平静を装った。 「れいむがこの家に来てからもう20日になるな」 「れ、れいむのあかちゃんはゆっくりしているからなかなかうまれないんだよ」 自分が疑われていると思ったれいむは聞かれてもいないのに言い訳を始めた。 「俺あれから考えたんだけどさ。れいむ、赤ちゃんが生まれてもお前は助けてやるよ」 「ゆ、ゆゆっ!?」 「俺も幼い頃母親が死んでさ。だから形見が壊されたときすごい怒ったけど やっぱりゆっくりでも母親は必要だと思うんだ。」 「…」 「生まれてすぐ母親がいなくなるのって悲しいからな。お前の赤ちゃんにもそんな思いさせたくないんだ」 「……」 「あの時のことは水に流してゆるしてやるからお前も赤ちゃんのこと大事にしろよ」 「…ゆ、ゆぐっ」 「れいむ?」 「ゆ、ゆげええええええ!!」 「おいれいむ?どうしたんだ?しっかりしろれいむ!」