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あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。 お、俺はピザデブにキ…おぞましいことをされただけじゃなくご主人様宣言された。 な、なにを言ってるかわからねぇと思うが、俺にも何が起こったのかわからなかった。 かわいそうなやつとかガチホモとかじゃねぇもっとおそろしいものの片鱗を味わったぜ…! 俺は当然逃げ出した。 マントと着て杖持ったデブに迫られたら誰だってそうするだろ? だけど、悔しいがそのデブは頭がかわいそうな奴じゃあなかったんだ。 逃げ出した俺はあっさり捕らえられた。 魔法で。魔法、ゲームとかに出てくるのとおんなじようなアレだ。 月だって二つあった…信じたくないけど、どうやらここは所謂ファンタジーの世界だったらしい。 月を見て実感した俺は、仕方ないから少しは話を聞く気になった。 僕だって儀式じゃなきゃっ血の涙をデブ…マリコルヌが流したからとか、ご主人様と呼ばれた瞬間げんなりした顔で、やっぱりいいよ…といったというのもある。 マリコルヌは俺が異世界からきたことは信じなかった。 まあ、そりゃそうだよなマリコルヌは俺の話を聞く気はないようだし、話をする気もなかった。 グヴァーシルがどうとかぶつくさ言ってたけどよくわかんねー。 俺が剣を握ったこともないというと、マリコルヌは何も言わなくなった。 俺には何も期待してないって態度だったぜ。 そしてどこで用意してきたかは知らないが、体裁が悪いからと剣と文字を覚える為の本を俺の目の前に積みながら、 マリコルヌは使い魔だから面倒は見てやるけど後は知らないと言った。 俺だってこんなデブの使い魔なんて続けるつもりは無かった。 返す方法なんてないとか言いやがるマリコルヌなんかにいつまでも付き合ってられるか! 「サイトさん、おはようございます。今日も剣の訓練ですか?」 そんな俺の心のオアシスは身近な所にあった。 考え事をしていた俺は、声の方へと顔を向ける。 そこには可愛いメイドさんが洗濯物を抱えて立っていた。 「おはようシエスタ! そうなんだ。ったく師匠は修行に関してだけはストイックで困るよ」 「そんなこと言っちゃダメですよ。せっかく教えてくれてるんですから」 …この世界のメイドさんはいいな。 か、かわいいし、胸も大きいし。 鼻の下を伸ばし始めた俺の背中が叩かれた。 「うわっ」 衝撃で学院の庭に吹っ飛ぶ俺の腹に、亀の甲羅がめり込む。 痛みでのた打ち回る俺に、亀から重っ苦しい声が発せられた。 「サイト、貴様には素振りを命じておいたはずだぜ」 「ゲホッゲホッ…! …い、いやそれは今からやろうと思ってたんだよ」 「シエスタの胸ばかり見ていたお前が覚えていたとは思えねーな」 俺の言い訳をあっさりと亀は切って捨てた。 今日も切れ味抜群の突込みだぜ。 「な、なんでそれをッ!?」 「アホがッ、ブラフだよブラフ」 そう言って再度頭が叩かれたような衝撃が俺に加わる。 赤くなって胸を押さえたシエスタが去っていく。 とってつけたような別れの言葉と足音だけが目の前がくらくらしたままの俺の頭に届いてきた…師匠、恨むぜ。 俺は亀を睨みつけ、マリコルヌから貰った剣を抜く。 練習用にはいいかもしれんが、大していい剣じゃないって師匠は言ってた。俺にはよくわかんねぇ。 重くて使いづらいのは十分身に染みたけどさ。 ずっしりとした重みを全身の筋肉を使ってどうにか支えながら俺は亀を見た。 ありえない話だが、この亀が俺の師匠だった。 ここに来たばっかりのころだった。 俺はまだこの世界の常識って奴をよく知らなくってさ。 ちょっと調子に乗っちまった俺が貴族共にやられそうになった所を、この亀が助けてくれたんだ。 『これこれ子供達…大勢で弱いもの苛めしてんじゃねーぞ!!』 これなんて逆浦島太郎? なんて、助けられた時は唖然としたよ。 だけど話してみると気のいい亀で、実は俺と同じ世界から来たらしいってことやここでの暮らし方、それに生き抜くために剣も教えてくれる事になった。 名前は…長いんでまだ覚え切れてないから、俺は単に師匠と呼んでる。 「ったく、お前帰る気あんのか? メイドなんてナンパしてる場合じゃねえぞ」 師匠のため息に俺は誤魔化すように頭をかいた。 いわれて見れば確かに妙な話だった。 何故か俺は、こんなネットも風呂もないド田舎にいるのに不思議とホームシックとかにはかかってないんだよな。 字を覚えるのも速かったし…どうなってんだ? 疑問を宙ぶらりんにしたまま、俺は返事を返す。 「んー…それはそうなんだけどさ。やっぱ、モテると嬉しいじゃん。仕方ないって!」 「確かにあれは凶器だが…ハッ」 師匠、もしかしてアンタも見てたのか? 黙秘する亀からはわざとらしい口笛だけが聞こえてきた。 それを見て目を細めかけた俺の背中に気障ったらしい、芝居がかった声がかかった。 「使い魔君、めったな事を言うもんじゃない。彼はあのゼロのルイズの使い魔だったんだぞ?」 首だけ振り向くと案の定フリルの付いたシャツを着た案外顔はいい貴族が造花のバラを持って立っていた。 「ギーシュだっけ? どういう意味だよ」 「ッ…まあいい。ここでは無礼講だ」 なんでも決闘以来友達が激減し、相談相手が師匠しかいないとかいうそいつは平民の俺に呼び捨てにされて頭にきたようだが、一瞬俺を嘲笑うような目をして気を取り直した。 その視線の意味を問い詰めてやりたかったが、そいつが口の端を持ち上げて「マリコルヌの、使い魔君」と言った瞬間に理解できた。 コイツ、彼女持ち。 俺、呼び出されてマリコルヌにおぞましい事をされて、部屋一緒。 奴が感じている優越感を、言葉ではなく心で理解したぜ…! 「ゼロのルイズは胸もゼロなんだ。ゼロばかり見せられる毎日を送っていたんだから、ちょっとくらい大きい胸を見てもいいじゃないか」 「む…それは」 ギーシュの意見に、俺はすぐにイエスとは答えられなかった。 時々見る小鳥を連れたゼロと呼ばれている貴族の少女のことは俺もも知っている。 本当はアイツがお前の主人だったんだ、とマリコルヌが言ってたからな。 その女の子は、ぶっちゃけ可愛い。 魔法が使えないことなんてどうでもいい俺からすると、ちょっときつそうだが小鳥を可愛がる仕草とか、色々、可愛すぎる。 だから胸なんてどうでも、よくはないが、まぁいいのだ。失礼な言い方をするなら、許せる。 俺の微妙な気持に気付いたのか師匠が話しに入ってくる。 一応、気を使ってくれたのか? 「そんなことよりギーシュ。テメェ今度はなんだ? またモンモランシーがどーとか言う話じゃ」 「そーなんだよっ!! カメナレフッ!!」 師匠の質問に、ギーシュは芝生の上に膝をつき、ドンッと両手で手を突いて亀に顔を寄せる。 一々大げさな奴だ… 「モンモランシーが元気になったのはいいんだ! だけど、ゲルマニア貴族なんぞの毒牙にかかりそうなんだよ!」 「ゲルマニア? あぁ、ジョ…ナサンか」 ジョナサン…俺の家の近くにあったファミレスと同じ名前の貴族も、俺と同じ世界から来たらしいって師匠から聞いている。 手っ取り早く情報を集めるのに成り上がったりしてるとか、悩んでるような調子で言ってたから、よく覚えていた。 「そうだ! 奴めッ、既に、モンモランシ家に近づいていたんだ! モンモランシーは奴からの誘いを断れず…」 「いや別にそういう風には見えなかったが「いいやそんなはずは無い! でなければあのガードの硬いモンモランシーが…」てかお前、ケティとはどーなったんだ」 師匠のの言を力いっぱい否定したギーシュは、ケティの名を聞いて動きを止めた。 俺と師匠は何も言わなくなったギーシュに首を傾げた。 よく見ると少し汗をかき始めたように、俺達には見えた。 「舞踏会の夜僕は飲みすぎて酔いつぶれてしまってたんだ。 そして目が覚めると僕はケティの部屋で眠っていた…な、何を言っているかわから」 師匠は何も言わずにギーシュを殴った。 勿論俺はそれを全く止める気は起きず、寧ろ何かに殴られて転がっていくギーシュを踏みつける。 シャツに足型がついたようだが、それは天罰が足型になって現れたと思え。 俺は師匠に親指を立て「グッジョブ」とだけ言った。師匠も満足そうだった。 「痛ッ痛い! な、何をするんだ!?」 「黙れよ。テメェそういう関係になってまでまたなんだ? あん? 二股とかお兄さん許さんぞ?」 「ち、違う! 僕はケティに何もしていない…ちゃんと服は着ていたし、ケティも酔いつぶれたから運んだだけだって…!」 「「フーン」」 白い目をする俺達二人に、ギーシュは慌てて話を続けた。 「本当だ! なんなら後で彼女に確かめてくれ…! ともかく、僕は彼女の部屋で目覚めて焦ったんだがそういうわけだった。 僕はケティが淹れてくれた紅茶を飲んで部屋を後にしたよ…そして」 「そして?」 「ケティに見送られて女子寮から出る所を、モンモランシーに見られた。しかもケティはまだ寝巻き姿でね。 すっかり誤解されてしまったよ…まったく、美しいバラには棘がつき物だがあの早とちりは困ったものだね」 そう言って、また俺達にさんざ小突き回されてからギーシュはその時の事を説明する。 ケティがとてもいい笑顔で強張った表情のモンモランシーに「ミス・モンモランシ。おはようございます。こんな所で"偶然”お会いするなんて、びっくりしましたわ」 「そ、そうね。あ、貴方が早起きしてるなんて知らなかったわ」「最近、朝少し勉強をしているんです」ケティはそう言って、まだショックの抜けきらないモンモランシーからギーシュに一瞥を向ける。 「もう日課の方は済ませられましたの?」 何故か尋ねられたモンモランシーは、ギーシュを一瞬だが憎しみを込めた目で睨みつけ、笑顔になった。 「…ッ! え、ええ。ギーシュ…「う、うん?」ケティと仲がよくて羨ましいわ」 「ありがとうございます。でもミス・モンモランシーこそ……」 ケティは微かに、挑発するように重心を傾けてギーシュとの距離を詰めた。 「昨夜はとても素敵でしたわ。ネアポリス伯爵とぴったり息もあってらして、いつのまにあんなに親しくなられましたの?」 その言葉で昨夜見た光景、外国の成り上がりと踊る姿を思い出したギーシュが口を挟 「…我が家の領内で伯爵が事業をされてるの。それ以上の関係じゃないわ! は、伯爵は紳士的な方だし…、私そんな安くなくてよ」もうとした時既にモンモランシーが顔を赤くして否定していた。 恥らう姿は、余りギーシュが見たことの無い恥らう姿で、ギーシュは少し胃が痛んだ。 ケティは柔らかい笑みを浮かべたまま頭を下げる。 「それは失礼しました「そ、そうだよ。ケティ。由緒正しいモンモランシ家と出自の怪しい上に節度のない伯爵では釣り合うわけがない! それにあの男、女連れで学院に来そうじゃないか!あんな軽薄な男とだなんて二度と言わないでくれたまえ!」 多少挙動不審になりながらモンモランシーの代わりに言ったつもりのギーシュを、モンモランシーは睨み付けた。 「ギーシュ…っ、失礼なことを言わないで! 私の家は今伯爵と協力してるんだから」 「な、「ギーシュ様、そろそろ行かれないと皆さん起きてきてしまいますわ」 激昂しかけたギーシュをケティが押し留める。 モンモランシーは既に美しい縦ロールをなびかせながら二人に背を向けていた。 「さよなら。またねケティ」 「ええ、ごぎげんよう」 …その時の事を語り芝居がかった様子で首を左右に振るギーシュへ、俺達二人は引きつった生暖かい笑顔を向けた。 「…お前それでよくそのジョナサン?とかいう貴族の事どうこう言えるな」 「あんな奴と一緒にするんじゃあない! 僕は今でも…」 「おっと、それならどうしてケティとまだ付き合ってるんだ?」 反論しようとしたギーシュは、師匠の質問を受けて苦虫を噛み潰したような顔をした。 「うっ…いや、それはだね。偶々言い出す機会がなかったというか、ケティもあの通り可愛いし、ね?」 「……師匠、俺はどう考えてもモンモランシーって娘とは切れたと思うんだぜ?」 「奇遇だな。俺もそう思う「ちょ…ちょっと待ってくれ! まだだ! まだだよ!! 僕はそろそろ本気を…」 「「無理だろ」」 膝から崩れ落ちるギーシュを置いて、俺達二人はシエスタの所に朝ごはんをたかりに行く。 野郎の浮気が原因の涙なぞ、俺達二人の足を止める枷にはなりようもなかった。 「私の分も忘れるんじゃないよ」 マジシャンズ・レッドを操作し、厨房へ亀を抱えて向かわせるポルナレフに気の無い言葉がかけられた。 声の主は、ここにいる間は不用意に外に出るわけにもいかないので現在ポルナレフと同居中のマチルダだった。 ポルナレフがサイトに剣を教えるのを邪魔するほど嫌な女ではないマチルダは、行儀悪くソファに寝そべったままジョルノが組織の人間用に作成させた問題集を解いている。 眉間に皺がよっているのを見て、ポルナレフはマチルダが解いている問題集を覗き込める位置へ歩き出す。 「わかってるさ。テファにもよろしくって頼まれてるからな。俺に任せておいてくれ」 最近、気分が若返ってきたのか昔のように自分の事を俺と言うようになって来たポルナレフの笑顔は爽やかだ。 「ならいいんだけどね」 「…俺が教えてやろうか?」 「アンタの世話になるほど落ちぶれちゃいないよ」 テキストを渡された時、娘同然のテファにもとても嬉しそうに"私が勉強を見てあげる”なんて言われたせいか、マチルダは反発した。 その様子に気付いて世話を焼こうとするポルナレフを拒否して、紙面をジッと睨みつける。 そうしていると何か頭に浮かんでくるような気がした。結局浮かびはしないのだが… テファや孤児院の子供達までがやっていたと聞いて暇つぶしにやりだしたが、案外梃子摺っていしまい意地になってしまったようだった。 暫くいなかった同居人に冷たくされ、ちょっぴりだが傷ついたポルナレフは肩を竦めた。 その頃、日課の朝練を終えたトリスティン魔法学院の教師の一人『疾風』のギトーは食堂に向かおうとした所を彼が教える生徒達と変わらぬ年の伯爵に呼び止められていた。 最初、ギトーは生徒かと思い鬱陶しく思い首だけ振り向いて話を聞こうとした。 客人がいる事は聞いているが、それよりも自分が覚えていないできの悪いメイジの可能性の方が高いと思ったからだ。 だがそうではなく、ゲルマニア貴族のネアポリスだと聞いて、ギトーは体を少年へと向けた。 ヴァリエール家の次女が患っていた病を治療した優秀なメイジの名前は、ギトーの耳に入っていたからだった。 爽やかな笑みを浮かべながら、ネアポリスは信じがたいことをギトーに提案した。 不愉快そうな表情を作り、ギトーは聞き返す。 「私にここを辞めて貴様の軍門に下れというのか?」 ネアポリスは頷き、説明をする。 ギトーは話にならんと、鼻で笑って去ろうとしたが…奇妙な事に足は動こうとしなかった。 気持としてはココから逃げ出したいというのに! 逸る気持を抑え、感情を隠そうとするが、爽やかに微笑むネアポリスの見透かしたような目にギトーは射竦められていた。 疾風のギトー…彼は風のメイジとしてとても優秀だった。 若くして炎のトライアングルであるキュルケの炎を軽くかき消すことだって出来たし。 風のスクエアである『遍在』だって使えるスクエアメイジである。 魔法を使うセンスもいい方だった。 だが…彼はどうしようもなく"臆病"だった。 遍在で五人に増えることはできても、五人分の勇気でも周りのメイジ達の一人分の勇気に到底足りなかった。 授業でキュルケを弄ぶことはできるのだが、戦いに赴くとなると気持が萎んでしまう。 先日現れた格下のトライアングルである"土くれ"の相手などとんでもない。 この臆病さのせいで、フーケ討伐にも参加しなかった。 もしそんなものに参加していたとしても、ギトーは戦わずに逃げ出していただろう…ギトーには覚悟が無かった。 だが、ギトーには不幸な事に魔法の才能はあり、プライドだけは育ち過ぎ…虎の威を借りながら自分の本性は隠してきた。 平静を装い続けるギトーの心を、ネアポリスの危険な甘さを含んだ言葉が掴もうとしていた。 それを察したのか、2、3言葉を交わしネアポリスが去った後もギトーはその場所から動けなかった。 ギトーの説得を終えたジョルノは朝食に向かうギトーと別れ、人気のない広場へと向かった。 そこは奇しくもポルナレフが決闘を起こったのと同じ広場だった…朝という時間、それに皆食堂に向かっている時間であった為に人気は全くなく、誰かが覗き見をしているようなこともなかった。 ジョルノにはわからないが、オスマンの使い魔のネズミがジョルノの前に現れたということは、そういうことなのだろうとジョルノは思っていた。 建物の影に立つジョルノと目を合わせたネズミが二本足で立ち上がり、喋り出した。 その声は間違いなく学院長オールド・オスマンのものだった。 「ネアポリス伯爵、わざわざこんな場所に移動してもらって悪いのぅ…しかしじゃ、わしの立場や何を言いたいのかまで貴公ならわかってくれると思っておるんじゃが?」 「ミスタ・コルベール達のことですね」 ジョルノは頷いた。 ネズミ…モートソグニルからから話が早くて助かると、若干相好を崩したような雰囲気が伝わってくる。 「うむ。教員の引き抜きは止めてもらえんかのぅ…」 学院にとって血肉ともいえる教員を引き抜かれてはかなわない。しかもそれがゲルマニアによるものというのは、オスマンにも看破できぬ問題だった。 流石にコレが王国にばれたら問題にする貴族もいるかもしれないし、新たにスカウトしてくるのも面倒くさい仕事だった。 「わかりました…ですが、既に声をかけた方に関しては、彼らの意志に任せていただくのが条件です。既に彼らと私の間で約束を交わしました。声をかけた私が今更なかったことにすると言うわけにはいきません」 「勝手に引き抜きをしたそちらに問題があると思うがのぅ」 自業自得と切り捨てるようにきっぱりというネズミに、ジョルノは笑みを浮かべたまま言う。 「それをおっしゃるなら、貴方方が彼らを飼い殺しにしたから応じていただけた。という言い方も出来ますが? ミスタ・コルベールの行動を、貴方は十年以上の時間があっても理解しなかった。そうですね?」 「むぅ…」 オスマンは苦い声を出した。辞表を出したコルベールを引き止めようとして、似たようなことを言われたからだった。 「わしもできれば穏便に済ませたいと考えておる。万事今まで通り何もなかった、と言う風にのぅ。勿論、辞めてまで何かしようとした彼らの要望には今後は耳を傾けるようにはするがの」 ネズミの目が鋭く細められる。広場の空気が密度を変えようとしていた。 「それを踏まえて、手を引いてもらえんかのぅ。今ならわしに貸し一つじゃよ君?」 「お断りします」 きっぱりと拒否するジョルノにネズミは眼光をより鋭いものへと変え、その小さい体でジョルノを威圧し始めた。 得体の知れぬ何かをネズミから感じ取り、ジョルノはそれを見定めようとネズミを見る。 「身の程を弁えろ成り上がり、貴様如き力尽くで従わせても構わんのだぞ」これこれモートソグニル、それではまるでわしが脅しておるようではないか。わしはタダお願いしておるだけじゃ、のう伯爵?」 「ええ。ですが、お断りすると言ったはずです。もう少し説明しなければいけませんか?」 圧力にもどこ吹く風と淀みなく返事を返すジョルノに、ネズミから発せられる何かが強くなった。 モートソグニルは、主人が止めるのも構わずに何故自分が一介の貴族如きに苛立たせられているのか考えずに、牙を剥いた。 風がネズミにまとわり付くように動き始めた。 「彼らとはよい関係を築きたいと私は思っている…約束は違えられない」 「ふむ…致し方ない「叩き潰せばすむと言ってやったのに、生意気な奴だ…!」 青い渦がネズミを包み、巨大な渦へと変わる。 そして風は不意に止んだ。 ネズミのかわりに巨大な竜が広場に現れていた。 シルフィードより何回りかは大きく、白い鱗が光を反射して輝いているようだった。 少し余った皮などを見て、もしかしたら年老いているのかもしれないと思ったが…見た目以上の何かを秘めているような凄みをジョルノは感じた。 「やめんか…!すまんの、伯爵。わしと離れておるせいかモートソグニルを押さえきれんようじゃ。この場は引いてくれんか?」 「三度も同じことを言わせる気ですか?」 「伯爵、挑発せんでくれ。拠点全ての精霊と反射の契約をしたエルフに向かって行ったメイジ達と同じ末路を辿りたいのなら止めはせんがの」 「反射?」 オスマンの、この場に相応しくない長い、説明的な例えにジョルノは首を傾げた。 系統魔法の本は幾つか読んでいたが、心当たりはなかった。 頭の中に浮かび上がったのは、久しく使っていない自分の能力の一つ。 「詳しくは話せんが、お主の攻撃はモートソグニルには届かぬのじゃよ。騙しておるのではない。また後日話し「なるほど。そういうやり方もありましたね」 ジョルノは合点がいったらしく、笑みを消して自分の胸元のボタンに触れた。 「ほっほ、中々博識じゃな。そういうわけじゃから、わかってくれたかの?」 「だが断る」 ネズミであった時より幾分余裕を持ったオスマンの声をジョルノはきっぱり断った。 竜の筋肉に力が入っていくのが、ジョルノの目に映る…ジョルノの肉体など一撃で粉々に出来るかもしれない。 だがモートソグニルは、攻撃するどころか「我をまといし風よ 我の姿を変えよ」 と唱え、元のネズミの姿に戻る。 不満げな様子でモートソグニルはジョルノから目を逸らす。だが口からは相変わらずオスマンの言葉を吐いていた。 「その凄み。ただのハッタリとも思えんの…いいじゃろう。じゃから、食堂にいるラルカス君に杖から手を離すように言ってもらえんか」 「ありがとうございます。こんな無駄なことは今後は遠慮したいですね」 冷めた表情で言いながら、ジョルノは片手をあげる。 ジョルノの視界の端で、建物の中からこちらを窺っていたラルカスの遍在が頷いた。 生徒に直接危害を加えるつもりはなかったが、ちょっとした騒動くらいは起こすつもりで控えさせておいたのだった。 「ほっほっほ、そうじゃのぉ。わしも将来有望な若者とはもっと建設的な話をしたいと思っておる」 「勿論です。私も貴方とは良い関係を築きたいと考えています」 「それは喜ばしい事じゃな。ではあるご婦人に一つ伝言を頼めないかのぅ?」 朗らかな笑い声をあげながら碌でもないことを言ってきそうなオスマンに、ジョルノは頷いた。 「構いませんが」 「ミス・サウスゴータというグンパツな太もものお姉さんに、わしからよろしくと伝えておいてくれんかな」 「わかりました。必ずお伝えしましょう」 サウスゴータ…ポルナレフの亀の中にいるマチルダが捨てさせられた家名をあげるオスマンに快く承諾する。 「すまんの。おおそうじゃ! 後一つ質問があるんじゃが」 「なんです?」 「ミス・ウエストウッドの胸って本物?」 「さあ? 本物なんじゃないですか」 イザベラが前に揉んでいたのを思い出しながら、ジョルノは返事を返して背中を向ける。 驚愕しているらしいオスマンとそのネズミを置いて、何事もなかったような顔で食堂に向かう。 知り合った学生達に軽く挨拶をし、以前から探させていたデルフリンガーが見つかったとか、トリスティンの王女アンリエッタが学院に来るなどの報告を受けても、共に食事をしているタバサ達が気にも留めない程度にしか反応を示さず… オスマンも暢気な、好々爺らしい表情で生徒達を見守りながら朝食を取っていたし、ラルカスはお近づきになった女生徒と今日も仲良さそうにしていた。
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アニェスドボーモンシュルオワーズ(アニェス・ド・ボーモン=シュル=オワーズ) フランス王の系譜に登場する人物。 関連: ブシャールヨンセイドモンモランシー (ブシャール4世・ド・モンモランシー、夫) マチューイッセイドモンモランシー (マチュー1世・ド・モンモランシー、息子)
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ヂンモラ 日本の民話に登場する妖怪。 豚の姿の妖怪。 鹿児島県に伝わる。
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山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
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モンモンモン 141 名前:水先案名無い人 :2005/10/30(日) 22 05 55 ID rgzjLmcb0 全モンモンモン選手入場!! 猿殺しは生きていた!! 更なる研鑚を積みおさる刑務所が甦った!!! 所長!! 後藤のじじいだァ――――!!! 総合調教術はすでに我々が完成している!! さる刑の調教師 アキラ・サンダース・松っつぁんだァ――――!!! 組み付かれしだい玉をつぶされまくっている!! マルチンコワールド代表 支配人イバラだァッ!!! モンモンとの出会いならこいつの勘違いがものを言う!! さる刑のリーダー役 4組応援団団長 ビッグ・ジョン!!! 真の似顔絵を知らしめたい!! ただの落書き 画家ミネだァ!!! 実力は中学校のクラス対抗戦で補欠だったくらいだがサッカー対決なら全グラウンドオレたちのものだ!! サッカーおさる コージ・ハゲル・マラドーダ・コレッカ・後始末だ!!! ワシントン条約違反対策は完璧だ!!「これは…えーと…とにかくダメ」 つり師虎造!!!! 全格闘技のベスト・カウンターは私の過労死にある!! すとりーとばとらー2たーぼの最弱キャラが来たッ 企業戦士・サラリーマン!!! ヒルツ・レース(独房王競争)なら絶対に敗けん!! 暴走族のケンカ見せたる トロージャンの狼 ウォッティだ!!! バーリ・トゥード(な展開)ならこいつが怖い!! 砂漠の城のストンピング・ファイター 魔法使いのババアだ!!! 危機一髪号から幽霊の海賊が上陸だ!! 船長 黒ヒゲ!!! 活気の無い街を救いたいから用ちん棒をやとったのだ!! プロの射撃を見せてやる!!チンゲート一家!!! 「1ラウンドじゃねぇ1分だ!!」とはよく言ったもの!! 女の鉄拳が今 実戦でバクハツする!! 怒ると最強 鮫島チャラ子だ―――!!! 宮蔦組こそが草競馬最強の代名詞だ!! まさかマキバオーにも出てくれるとはッッ 宮蔦代議士!!! 「なぞなぞひみつおしえな~い!」だけでここまできたッ キャリア一切不明!!!! メキシコ製のマスク(980円)ファイターズ 謎の覆面ざる軍団だ!!! わしたちは殺猿ヨーヨー最強ではないグルグルゲロゲロで最強なのだ!! 御存知枢斬暗屯子 スケ番ざる軍団!!! 東日本の頂点は今や伊達山にある!! オレたちを知っている奴はいないのか!! 伊達山おさる連合二代目総長 ジェロJr.とハカセ&イタコ八郎だ!!! デカァァァァァいッ説明不要!! 20m40!!! 310kg!!! KM510(キングモンキーゴトー)だ!!! ぬいぐるみは実戦で使えてナンボのモン!!! 超実戦?偽モンチャック人形!! さる刑2組からゴライアスの登場だ!!! 「死ね」とか「クソ」とかは褒め言葉 出された料理は思いきり貶し思いきり殴られるだけ!! ウンコク星統一王子 ダージン! 乗馬を試しにこども園へきたッ!! 第37回荒馬記念チャンプ サンダーボルト!!! 占いに更なる磨きをかけ“ずばり死だ!死ぬのじゃあー!”長老のブリルじじいが帰ってきたァ!!! 今の自分たちに出番はないッッ!! ビリーにハラマキ 脇役ざる!!! 嵐山料理道場の愛情クッキングが今ベールを脱ぐ!! さる刑1組から 味兵衛だ!!! くそ正宗を飲んだ後なら親父はいつでも全盛期だ!! 三代目総長 ミノ・モンタナ モンタナスペシャル・ローリング・ハリケーン葉っぱで登場だ!!! 本業の仕事はどーしたッ 親切の心 未だ消えずッ!! ただ乗りもハコ乗りも思いのまま!! タクシーのおっちゃんだ!!! 特に理由はないッ ライバルと仲が悪いのは当たりまえ!! 屁を吸ったのはないしょだ!!! 天涯孤独の一匹狼! くまチョン(熊野ちん平)がきてくれた―――!!! おさる刑務所で磨いた殺猿野球!! 元死刑囚のデンジャラス・野球猿(ベースボーラー) キャルだ!!! モンタナ一家だったらこの母を外せない!! 超A級かーちゃん エリザベス・モンローだ!!! 超一流おさるの超一流の兄弟愛だ!! 最終回拝んでオドロキやがれッ 原崎山おさる軍団4代目総長!! モンチャック!!! みどりのマキバオーはこの男が完成させた!! 動物漫画の切り札!! つの丸だ!!! 原小のそうじ大臣が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ さる刑総長ッッ 俺達は君を待っていたッッッモンモンの登場だ――――――――ッ 加えて負傷者発生に備え超豪華なリザーバーを4品御用意致しました! マサーキ京元コレクション めがねマン・ちぢれんジャー変身セット!! 伝統派誕生日プレゼント スーパーマシン・ニューセーヒン!! チャッくんの人形!ポチョムキン! ……ッッ どーやらもう一体はボディが弱点の様ですが、ピンチになり次第ッ偶然に必殺技を編み出しますッッ 関連レス 165 名前:水先案名無い人 :2005/10/31(月) 01 19 29 ID 6Vp38kw20 モンモン懐かしいなあ ベアナックルの兄が出てる漫画だな コメント 名前
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山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
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山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
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山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
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前ページ次ページ使い魔はじめました 使い魔はじめました――第二十四話―― 「ここまでは順調だったのに!」 アカデミーの一室で、エレオノールが悔しげにるつぼの中の液体を見つめていた。 ゲルマニアに蔓延する『カエルの呪い』の特効薬――になる予定のものである。 「まさか、『水の精霊の涙』の在庫が切れてるなんて……」 ヴァレリーもまた、困り切った様子で液体を見つめている。 この世界には『水の秘薬』という水の魔法の効能を高める薬が存在する。 『水の精霊の涙』の涙はその秘薬の中でもとてつもなく希少なもの。 水の精霊との交渉役を務める家から、極々稀に市場に出回るだけであった。 「あんまり出回ってないとは聞いたけど、ここまでとはね」 「あなたの荷物の中に代用が出来そうなものはないの?」 エレオノールに問われ、サララは考える。 考えたが、それに該当するものは今は手元にはなかった。 もし向こうの世界に戻れたら早急に『賢者の石』を入手しておこう、と決める。 「参ったわね……ゲルマニアは既に話を通してあるらしいし、あんまり先延ばしに出来ないわ」 ゲルマニアは非公式ながら、『カエルの呪い』が悪魔の手によるものであったと認めている。 風の噂では、実は皇帝自らも悪魔(エンペル)の姿を見かけていたらしい。 それを公に口にしなかったのは、悪魔を見たなどと言えば頭の病気を疑われ、 即刻帝位を奪われて幽閉されかねなかったからだ、とかなんとか。 その皇帝からは、国民の支持を取り戻すためにも早急に解呪薬を、という意見書が来ており 一刻も早く薬を完成させねばならないのであった。 「『別の』市場も覗いてみたんだけど、あっちにも全然無いみたい」 ヴァレリーが声をひそめる。別の、とはサララの世界で言うところの盗賊ギルドであろう。 ――目的を達するために必要な品がない。その状況でサララのとる行動は至って単純だ。 「え? 水の精霊が何処にいるか、ですって? あなたそれを聞いてどうするの?」 疑問符を浮かべるエレオノールに向かって、サララは微笑んだ。 ちょっと、取りに行ってきます、と。 欲しいものがあるなら危険を冒してでも手に入れろ。 それがだんじょんの町で生きてきたサララの信条だった。 面倒だからって夜中だけ開いてる店で買って済ますようなことは、性に合わない。 「それで、一度こっちに戻ってきたわけ?」 問いかけるルイズの膝には、一冊の古びた本が載せられている。 始祖の祈祷書、と呼ばれるその本は王族の婚姻で祝詞を読み上げる巫女が 大事に持っていなければならないとされるものだ。 ゲルマニアの件が片付けばウェールズと結婚する予定のアンリエッタが、 その巫女役をルイズに頼んだため、今はその場にある。 「ラグドリアン湖かぁ、何度か行ったけど綺麗な所なのよねぇ」 袋にせっせと荷物を詰め込むサララの背中に向かって呟く。 「いいところなのよねぇ、ラグドリアン湖」 それは楽しみですね、早く行きましょう、とサララが笑って答える。 「へ? え、ええ、勿論よ! ついていくに決まってるじゃない!」 本を小脇に抱えて立ちあがると、クローゼットへ歩みを進める。 「サララは私のパートナーなんだからねっ、私が一緒に居て当たり前じゃない!」 ぷりぷりと口を尖らせながらも、その表情には喜びが隠し切れていない。 正直少しルイズは寂しかったのだ。何しろ二週間もの間サララはアカデミーに籠り切りで、 自分のパートナーであるサララが自分の傍に居ないことが、不満だった。 だから、危急の事態とはいえサララと一緒に居られるのが嬉しいのだった。 こういう時にワクワクしてしまう辺り、ルイズも少々サララに感化されているようである。 「でもさぁ、どうやってその水の精霊に涙を分けてもらうわけ?」 ウキウキしていた主従の動きが、チョコの一言で止まった。 「……考えてなかったの?」 サララの視線が明後日の方を向いている。前髪で見えないが。 「はぁ……。ま、ちょっとボクにツテがあるから聞いてみるよ」 「ツテ、ってどこにあんのよ?」 ルイズが首を傾げる。チョコは得意そうに告げた。 「ふふん。ボクだって何も昼寝ばっかりしてたわけじゃないんだよ」 自慢の尻尾を揺らし、胸を張るチョコを二人は不思議そうに眺めて顔を見合わせた。 チョコに言われるままやってきたのは学園の一角にある広場だ。 ここでは使い魔達が好き勝手にくつろいでいる。 元は野生の動物とはいえ、メイジと契約を結んだからには人を襲うことはないし、 種族間での闘争もほとんど行っていない。なんとも暢気な光景がそこには広がっている。 あちらでカラスがオウムと共に歌っているかと思えば、 こちらの足元を狼とウサギが駆け比べをしている。 かと思えば、少し離れた噴水ではスキュラがまどろんでいる、といった様子だ。 チョコはその噴水へとてとて歩み寄ると、縁に手をかけて何やらにゃごにゃご言っている。 動物同士で話す際には人間相手に使うのとは異なった言語を使用するらしい。 そのにゃごにゃごが止まったかと思うと、噴水からぴょん、と一匹のカエルが跳び上がった。 ぬめぬめとした黄色い肌に黒い点が幾つも散った、いかにも毒がありそうなカエルだ。 「きゃっ、かっ、カエルっ」 ルイズが可愛らしい悲鳴を上げてサララの後ろに隠れる。 子供の頃、一番上の姉にカエル関係でからかわれて以来のカエル嫌いは未だ治らない。 「この子はロビン。この子のご主人さまが水の精霊との交渉役の家系なんだってさ」 チョコが彼女(ロビンはメスである)に聞いた話によると、 水の精霊との交渉は指定された一族の血を継ぐ者にしか行えないらしい。 幸い、ロビンの主がその一族の末席に名を連ねているため頼んではどうか、とのことだった。 「ボクたちも知ってる人だしね」 「あ、そっか」 その言葉を聞いて何やら思い出したのか、ルイズがぱん、と手を叩く。 「確か、水の精霊との交渉役って、モンモランシ家の仕事だったわね」 「ええ、その通りよ」 タイミングを計ったかのごとく、声がかけられる。 「厳密には元、だけど」 金の巻髪を揺らしながら現れたのは、モンモランシーであった。 「それで、どうして水の精霊と交渉しなきゃいけないのよ」 「それは、アン……むぐっ」 アンリエッタの命によるものだ、と答えかけたルイズの口をサララが慌てて塞ぐ。 どうして命を受けたのか、という話になればアンリエッタの密命をバラさねばならなくなる。 いくらなんでもそれはまずいだろう。 「……まぁ、あなたにはお世話になってるし、ちょっと分けてもらえるんなら私も問題はないわ」 と言っても、とモンモランシーはため息をこぼした。 「何年か前にお父様が水の精霊の機嫌を損ねたせいで、一度お役御免になってるのよね。 だから、何か交渉材料があればいいんだけど……」 「水の精霊が欲しがってるものがあればいいってこと?」 「そうね……そんなものがあればだけど」 あ! とサララが一声上げて袋の中から一つの指輪を取り出した。 先日エンペルの手から奪ってきた『アンドバリの指輪』だ。 確か本来ならば、水の精霊の持ち物であったはずである。 「……綺麗な指輪ね。でも指輪なんかで喜ぶかしら」 強い水の力はあるみたいだけど、と不思議そうに見つめながらも、モンモランシーは納得したらしい。 「それじゃあ、行きましょうか。ラグドリアン湖へ」 モンモランシーの言葉を受け、二人は馬小屋へと進んだ。 なおその馬小屋で後輩の少女と遠乗りをしようとしていたギーシュと遭遇し、 しばらくもめることになったのだが特に詳しくは書かない。 置いて行くと浮気しそうだから、というモンモランシーの一言でギーシュも連れ、 一行がラグドリアン湖に到着したのは昼を少し回った辺りだった。 湖畔近くの木陰に座ると、一行は昼食をとった。 「いやしかしこのスキヤキという料理は実に美味いね」 一人に一個宛がわれた鍋を空にして、ギーシュは満足げに呟いた。 「この甘辛いタレがおいしいのよね、今度レシピ教えてちょうだい」 モンモランシーの問いに、サララは笑みを返すばかりだ。 これの出所が知られたら、多分彼女は商売が出来なくなる。 ルイズは、サララのこの笑みが何かをごまかす時のものだと気付いているが、 それを突っ込んでこの美味しい料理が食べられなくなるのは嫌なので黙っていた。 「そういえばモンモランシー、交渉というのはどうやるんだい?」 「一族のものの血を使い魔に水の精霊まで届けてもらって、話をさせてもらうのよ」 モンモランシーは立ちあがると、腰の袋からロビンを取り出す。 ポケットからは針を取り出し、それで指先を突いて傷を付けた。 そこからこぼれた血を一滴、ロビンの背に垂らす。 「あなたの旧いお友達に、旧き偉大な水の精霊に伝えてちょうだい。 盟約の持ち主の一人が話をしたいって言ってる、って」 任せておけ、とばかりにゲコ、とロビンは鳴いて湖に潜っていった。 「そういえば、水の精霊ってどんな姿をしているの?」 ルイズが問いかける。 「どんな、と言われても困るわね。その時々で姿を変化させるから」 「とてつもなく美しい、と前に話してくれたっけ」 「ええ。陽光にキラキラと輝いて、とても美しいのよ」 ダンジョンでよく見かけるウンディーネと似た姿だろうか、とサララは一人考えている。 意思を持つ水が魔物と化したものだが、見た目と中身は愛らしい少女のそれだ。 しかし、見た目は美しくとも魔物は魔物。 その生きた水の中に冒険者の死体を貯め込んでいる恐ろしい一面もある。 冒険者の命を呼び戻すためサララは幾度となく彼女達に立ち向かい、 その死体を取り戻すために尽力した。その回数は数えきれない。 そう、彼女達に立ち向かったのは命を救うためである。 断じて、断じて、その冒険者が持っている金品の半分を、彼らを蘇生させる教会と 山分けにするためではない。彼らを救うためだ。救うためなのだ。 などと誰へとでもなく言い訳をしているサララは、ふと気配を感じて湖面を見つめた。 湖面は光り輝き、そこに水の精霊が現れたのである。 まるでそれ自体が意思を持つかのようにうねうねとうごめく。 盛り上がった水面は見えない手でこねられるかのようにして様々に形を変える。 戻ってきたロビンを迎えいれ、頭を撫でてやった後、モンモランシーは水の精霊に向き直る。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 旧い盟約の一員よ。カエルにつけた血に覚えがおありなら、私達にわかる やり方と言葉で返事をちょうだい」 水面がぐねぐねと形を変えていく。サララは驚いた。 その姿が、モンモランシーのそっくりのものになって微笑んだからだ。 ただし、実際の彼女よりは一回り大きく、服も身につけていない。 透明な裸のモンモランシーだった。氷の彫像を思ってもらえばいいかもしれない。 ギーシュがくるりと後ろを向いた。ポケットからハンカチを出して鼻を拭っているようだ。 存外、彼はウブである。 「覚えている、単なるものよ。貴様に最後にあってから月が五十二回交差した」 「よかったわ。お願いがあるの。あつかましいと思うけど、あなたの体の一部を 私達に分けてもらえないかしら」 そこまで言うと、モンモランシーがちらり、とサララを見やる。 アイコンタクトを受け、サララが水の精霊の方へ近づいた。 これをお返ししますから、どうかわけてください、と指輪を差し出す。 「おぉ……、これは悪魔によって奪われた、アンドバリの指輪……」 精霊は水の一部を触手のように伸ばすと、サララの手から受け取ろうとして触れる。 触れた途端、水の精霊の姿が大きく揺れ動いた。 「おぉ! おぉ!」 「え、ちょっと、ど、どうしたのよ」 こんな水の精霊を見るのは初めてらしいモンモランシーがうろたえる。 「単なるもの。貴様は『全ての始まり』の血族。我が遠き同胞を知るもの」 水の精霊は感極まった、とでも言うようにゆらゆらと揺れる。 「貴様が交渉をし、我は物品を受け取った。ならば、支払いをせねばなるまい」 アンドバリの指輪を受け取ったのとは、別の触手がサララの掌に伸びる。 その先端がぶつり、と切れたかと思うとそこに一掬いの水が残った。 「こっ、こんなに!」 モンモランシーが慌てて瓶を差し出し、サララは一滴もこぼさぬようにその中に収めた。 「指輪を取り戻したことを、感謝しよう。全ての始まりの血族よ」 再びただの湖面へと戻っていく水の精霊。 だが、そこへ向かってルイズが叫んだ。 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 『全ての始まりの血族』ってなんなの!?」 また小さく湖面が揺らぐ。水滴の王冠を被った透明の少女、とでも 表せるような姿で水の精霊が姿を見せた。 「この世界はね、人の想いから生まれたの。魔女さんの一族が、その想いを集めた。 世界が出来て、私達が生まれた。だから、魔女さんは『全ての始まりの血族』」 先程まで感情がなかったのが嘘のように、水の精霊は笑った。 「嬉しいなぁ。はじめて、魔女さんからお買いものしちゃった。ずっと、憧れてたんだ」 その笑みを残して、ぱしゃん、と今度こそ水の精霊は消えた。 世界の成り立ちについて、ルイズ達は、否、ハルケギニアに住む人々の大半は 詳しいことを知らない。そもそもブリミル教徒はブリミル降臨以前のことを 深く考えることを異端と考えているのだ。 であるからして、この小さな魔女の血族が世界を作るのに関わっていた、などと 言われても理解が及ぶものではない。 「と、とにかくこれだけあれば十分なんじゃないかしら」 モンモランシーの言葉に、誰ともなく頷く。 「そうね。早く帰りましょう、サララ」 ルイズが声をかける。サララは押し黙っている。 「……サララ? ねぇ、どうしたのよ、サララ!」 肩をつかんでゆすぶられて、ようやく呼ばれているのに気付いたらしい。 なんでもありません、と笑う顔は、やはり何かをごまかしている顔だ。 ルイズの胸が不安で軋んだ。 サララが何処か遠くへ行ってしまいそうで寂しい、と心中をよぎり そもそも彼女は遠くからこちらへ来ているだけで、いつか帰ってしまうのだ、と 今まで忘れていたその事実がルイズの胸をさらに軋ませた。 顔を曇らせた彼女に、サララは気付かない。未だに考え事をしていたから。 彼女が思い出していたのは、おとぎ話だった。 一人の魔女が鍋いっぱいに集めたアイテム。 それにこめられた人々の想いの力で、世界が出来たのだという魔女に伝わるおとぎ話。 今まで考えて見たこともなかったが、この世界もサララの故郷と同じように 『魔女』が作り上げた近くて遠い世界なのかもしれない。 だったら、帰るための手段はきっと見つかるはずだ。 頑張って探してみよう、サララは決意を新たにした。 こちらでの生活も楽しいけれど、自分はだんじょんの町の商人なのだ。 あんまり長く、店を空けておくわけにはいかない。 そう決意したサララは、ルイズの顔が不安げなのに気付かなかった。 所変わって、アルビオンのとある場所。 数百年は経たであろう廃墟の片隅に奇妙な紋様があった。 円陣の中に六角星が描かれたその紋様が突如として光る。 光が消えると同時に、そこに人影が現れた。人影、と言ったがその姿は人間とは程遠かった。 青白い肌、銀の髪。ハルケギニアでは月目と呼ばれる左右で色の違う瞳。 だが何よりもその人影を異形たらしめているものは、背に生えた闇色の翼だ。 「なるほど……エンペルが言っていた『ハルケギニア』とやらはここか」 空を見上げる。二つの月が照らす世界は人影には少々眩しいようだった。 「だが、これくらい明るい方がアイツを見つけやすいな」 人影は独りごちて地面を蹴る。片方しか翼がないにも関わらず、 並み大抵の鳥よりも早く人影が夜空を翔けていく。 「魔力こそ多いが、アイツの魔力は独特だ。すぐに見つかるだろう」 空を翔けながら、人影はここへ来るまでのことを考える。 魔族である自分を、他の人間と分け隔てなく接する変わった魔女。 その魔女が行方不明になってから三十回以上月が巡った。 ダンジョンの中で倒れたとは聞かないが、黙って居なくなるような魔女ではない。 あちらこちらで魔女の安否を問う声がささやかれ始め、 彼自身も物足りなさを感じていた時に、部下の一人から彼女の匂いがして問い詰めた。 問い詰められた部下の言葉で、この世界に魔女が居ることが判明した。 それを知って、何故だか居ても立ってもいられずに迎えに来たのである。 魔族の少年は名をアイオンといい、時期魔王候補であり、サララの店の常連客であった。 前ページ次ページ使い魔はじめました
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前ページ次ページラスボスだった使い魔 ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでしまった翌日の夕方。 「解除薬が作れない、ですってぇ!!?」 「す、すいませぇん……」 その惚れ薬の製作者であるモンモランシーは、エレオノールに怒鳴られていた。 「どういうことよ!?」 「それが、その……解除薬の調合に必要な秘薬の『水の精霊の涙』が、売り切れで……」 「っ………、…っ」 エレオノールは昨晩ベッドの中で『眠れない夜』を過ごしたため、目の下にクマを作って明らかに寝不足な状態であった。 何せユーゼスが目覚めて最初に目にした光景が、『どんよりした目で自分を見るエレオノール』だったほどなのである。徹夜をしたと言ってもいいだろう。 モンモランシーの作った『眠気覚まし用ポーション』で一時しのぎはしているが、それも所詮は気休めに過ぎない。眠気は隙あらば襲って来ようとしている。 そんな寝不足な状態でいきなり頭に血が上ったせいか、エレオノールはクラリとめまいに襲われた。しかし頭をブンブンと振って強制的に意識をハッキリさせると、モンモランシーへの詰問を再開する。 「くっ……、……次に手に入るのはいつなの?」 「ラグドリアン湖に住んでる水の精霊と接触が出来なくなったみたいですから……、多分もう、絶望的なんじゃ……?」 「何ですってぇ!!?」 「……少し冷静になれ、ミス・ヴァリエール」 激昂したエレオノールがモンモランシーの胸倉を掴もうとしたが、後ろで話を聞いていたユーゼスがエレオノールに声をかけてそれを制止する。 「お前は確かに優秀ではあるが、感情のコントロールが不得手なのが最大の欠点だな」 「あなたは感情をコントロールしすぎよ!」 「そうか? 自分ではかなり苦手な方だと思っているのだが」 「あなたが感情的になってるところなんて、今まで見せたことないじゃないの!」 「……むぅ~……」 感情の薄い銀髪の男性と、感情むき出しの金髪の女性のそんなやり取りを見て、カヤの外に置かれた桃髪の少女は不満そうに頬を膨らませた。 「ユーゼスは、やっぱりエレオノール姉さまの方がいいの? わたしより姉さまと一緒にいたいの?」 「む?」 不安そうな顔で自分の使い魔を見上げるルイズ。 ユーゼスはその問いかけに『ふむ』、と頷いてしばらく考え込んだ後、 「……そうだな、少なくとも今の御主人様よりは『共にいたい』と思うが」 サラリとそんなことを口走った。 「!」 「…………!!!」 その言葉に、ヴァリエール姉妹は過敏に反応する。 「うぅぅぅううう~~……!」 「なっ、ななな、いきなり何を言ってんのよ、あなたは!!」 ルイズは涙目でポカポカとユーゼスの背中を叩き、エレオノールは強めに一度だけバシンとユーゼスの頭を叩いた。変なところで似ている姉妹である。 ……ちなみに他の面々は、と言うと……。 「何とまあ、臆面もなくあんなセリフを言うとは……」 「うーむ、アレは狙って言っているのだろうか……。それとも何も考えていないのか……」 「あたしは『何も考えていない』だと思いますけどねぇ。『朴念仁』って言葉が服着て歩いてるようなあの男が、意識してあんな言葉を言えるワケありません。 ……大体、狙って言ってるとしたら相当な恋愛巧者ですよ、アレ」 「やはり君もそう思うかね、鳥くん。……だが、『下手に言葉を並べ立てるよりも、単純な一言の方が女性の心を打つこともある』というのは意外に真理かもしれないな……」 「あたしの名前は『鳥』じゃなくてチカです。……まああたしも昨日悟ったんですけど、回りくどいやり方よりはそっちの方が効果的なこともあるっぽいんですよねぇ。 特にエレオノールさんとか、ルイズさんとか、それと貴族のボンボンさんのお相手のお嬢さんみたいな、『素直じゃなくて少々ひねくれてる方』には」 「僕は『貴族のボンボン』じゃなくてギーシュだ。あとモンモランシーはひねくれてないぞ、多分。……しかし『女性を口説く時には最大限の言葉を尽くす』というのが僕のポリシーであって……」 「……そんな風に『他の女性を口説くこと前提』で話を進めてるようだから、彼女の愛想が尽きかけてんじゃないですか?」 「何気に失礼なヤツだな、君は!」 ギーシュとチカのコンビは、ユーゼスたちをダシに親交を深めており。 「ほう……。一段階クラスが異なるだけで、随分と可能な範囲が異なるようですね……」 「あぁん、シュウ様ぁ~♪」 シュウはユーゼスが製作したレポート(エレオノールの添削つき)を次から次に読みふけり、ミス・ロングビルはウットリしながらそんなシュウに張り付いていた。 ……なお、ミス・ロングビルはその本名が知れ渡ってしまうとかなり問題になってしまうため、魔法学院内においてシュウと二人きりでいる時以外は『ミス・ロングビル』で通すことにしている。 「と、ともかく!」 何だか微妙な空気になりつつあったユーゼスの研究室内で、エレオノールはゴホンと咳払いをした後に高らかに宣言した。 「取り寄せが望めないのなら、こっちからラグドリアン湖に行くしかないわ!!」 「えええええっ!? が、学校はどうするんですか!? それに水の精霊は滅多に人間の前に姿を現さないし、しかも物凄く強いし、怒らせでもしたら……!!」 「学校なんてサボりなさい。1日や2日休んだくらいでどうなるものでもないわ。……それに、モンモランシ家はその『水の精霊との交渉役』を代々勤めて来たんでしょう。ご機嫌取りの方法くらい伝わってないの?」 「そんな都合の良い物があったら、苦労してません……!」 アワアワしながらラグドリアン湖行きを回避しようとするモンモランシーだったが、続いてエレオノールが放った言葉によってその態度は一変する。 「じゃあ、王宮にあなたの所業を……」 「い、行きますぅぅぅうううううう……! …………ううぅっ」 さすがに自分の将来や命、家の衰退までかかってしまっては頷かざるを得ない。 「安心してくれ、恋人よ。僕がついてるじゃないか」 ガックリと肩を落とすモンモンランシーに対して、ギーシュが肩を抱こうとするが……。 「……気休めにもならないわ。あなた、弱っちいし」 モンモランシーはスルリとその手をすりぬけ、ボソッと呟いた。 ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでから、2回目の朝。 『今日はもう日が暮れかけているし、出発は明日の朝にしよう』ということであの場は解散となり、ユーゼスは今、ルイズの部屋のベッドの上で睡眠を取っていた。 なお、移動手段はジェットビートルを使うことになっている。 シュウによればプラーナコンバーターの調整は既に終了しているらしいので、もうプラーナ切れを起こす心配はないだろうが、操縦者であるユーゼスはいち早く起床して発進準備を進めなくてはならない。 「……む」 目を閉じたままで、意識が覚醒する。 現在時刻は、起床予定時間ピッタリのはずだ。 クロスゲート・パラダイム・システムを使えば、目的通りの時間まで完全に熟睡し、更に眠気の余韻などを残すことなく完全に目覚めることなどは造作もないのである。 (……イングラムに知られたら、卒倒されそうな使い方だが……) まあ、特に因果律を乱しているわけでもないのだから、大目に見てもらおう。 「……………」 身体の状態を確認してみると、どうやら自分は今、右半身を下にして横向きで寝ているらしい。眠る直前には仰向けだったはずなのだが……おそらく寝返りでも打ったのだろう。 「ふむ」 少し身じろぎして目を開く。 すると、目の前にエレオノールの寝顔があった。 (そう言えば一昨日と同じく、昨日も御主人様とミス・ヴァリエールと三人で眠ったのだったか……) 再び『三人での睡眠』に至った経緯については、以前の焼き直しになるので割愛する。 「……………」 「……すぅ……すぅ……」 エレオノールは昨日よく眠れなかった反動か、今日はよく眠っているようだ。『眠れなかった理由』は自分にはよく分からないが。 眠る前にあおった、睡眠導入用のポーションも効いたらしい。 (……起こすのも気が引けるな) 音を立てないよう、慎重に身体を起こそうとするユーゼス。 だが、それがかえって動きにぎこちなさを生じさせてしまい、結果としてユーゼスとエレオノールの膝がガツンとぶつかってしまう。 「ぬ……」 「…………んぅ、ぅ……?」 (いかんな……) エレオノールの瞳が開き始める。 「ぁ……ユー、ゼス……?」 どうやらほとんど覚醒しつつあるようだ。 ……起こすつもりはなかったのだが、起こしてしまった以上は謝るしかあるまい。 いや、それよりも先に挨拶をするべきか。 「お早う、ミス・ヴァリエール」 (……しまった) 挨拶をしてから気付くのも何なのだが、自分もエレオノールも、まだお互いに横になっているままだった。 せめて起き上がってから挨拶をするべきだった。これでは礼を失することになってしまう……と後悔するが、すぐに『それも含めて謝ろう』と切り替える。 ―――ユーゼス・ゴッツォという人間は、一度執着し始めた対象に対しては『死ぬまで』執着するのだが、割り切るべきだと判断した対象に対しては恐ろしいまでの割り切りを見せるのである。 ともあれ、ユーゼスからの目覚めの挨拶を受けたエレオノールは、徐々にではあるが意識をハッキリとさせていった。 「…………ぅゅ……、ぉはょ……………、……!?」 自分と相手との距離を認識し、自分の体勢と言うか姿勢を認識し、そして相手の姿勢も認識し、自分の今の服装を思い出し、『自分が現在置かれているシチュエーション』を確認し……。 「き、き、きゃぁぁあああああああああああああああああああああ!!!??」 「ぐぅ!?」 軽いパニックに陥って絶叫しながら、エレオノールはユーゼスの腹部に蹴りを叩き込んだのであった。 「わ、わわ、高い! 速い! 凄い! 何この乗り物、一体何なの!!?」 「はっはっは。モンモランシー、興奮するのは分かるけど落ち着きたまえよ? 迂闊に動いたら危険だからね」 『初めてジェットビートルに乗ったハルケギニア人』として非常に正しいリアクションをするモンモランシーと、そんな彼女をたしなめるギーシュ。 ギーシュとてビートルに乗り込むのは二度目なのだが、少なくとも初回よりは余裕のある態度であった。 何せ、今回は前のようにいきなり猛烈な加速はしていないし、ユーゼスも操縦に慣れたのか振動やグラつきが少ない。要するにかなり快適なのだ。 「しかし、これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー! ホホホホ!!」 旅行気分、精神的な余裕、更にモンモランシーの前という状況のせいかテンションが上がって浮かれまくるギーシュ。 「ええい、邪魔だな、この『べると』とか言うのは!」 ベルトで固定された状態から身をひねって窓の外を眺めるのがわずらわしくなったのか、ギーシュはガチャガチャとその金具を外し、立ち上がる。 「そろそろ着陸するぞ」 「え?」 そしてギーシュが立ち上がった瞬間、ユーゼスの報告と共にガクンと機体が揺れた。 固定器具を外した上に、座席に腰掛けてすらいないギーシュは当然バランスを崩し……。 「うぉおおおおおっっ!!?」 盛大に頭から転んで、派手に顔面を床に叩き付けることとなった。 「い、痛い、痛いぃぃぃいいいいいいいい!!」 「……はあ。やっぱり付き合いを考えた方がいいのかしら」 鼻血を流してのた打ち回るギーシュを見て、モンモランシーが溜息をつきながら呟く。 一方、そんな彼らには構わず、ユーゼスはゆっくりとビートルを着陸させつつラグドリアン湖を眺めていた。 「ほう、美しい湖だ……」 これはユーゼスの素直な感想であったが、その言葉に過敏に反応する者がいた。 「……ね、ユーゼス」 ジェットビートルを操縦しているユーゼスの膝の上に座っている、ルイズである。 ビートルを発進させる際、一人で座席に座るのを嫌がって駄々をこねまくり、まんまと『絶好の位置』を獲得したのだ。 ルイズは少し拗ねたような顔で、愛しい使い魔に問いかける。 「わたしとラグドリアン湖と、どっちが綺麗?」 「む?」 いきなりそんな質問をぶつけられたので、ユーゼスは少々困惑してしまう。 だが、問われたからには答えねばなるまい。 と言うか、そんな質問の答えなど考えるまでもなく決まっている。 「ラグドリアン湖だな」 「!!」 ガーン、とショックを受けるルイズ。 ……そもそもユーゼスは『人間の“外見の”美醜』に対して、あまり興味がない。 そのような時代・世代・国・地域・個々人の判断や精神状態によって評価が大きく異なるような薄っぺらいモノなどに、価値を見出せないのである。 強いて言うなら『人間の“生き方”の美醜』、あるいは『人間の“在り方”の美醜』に対しては惹かれる物を感じはするが、少なくとも現在のルイズからそれは感じない。 『外面的な美しさ』でユーゼスが感じ入るのは、やはり自然などの『普遍的なモノ』に対してのみだ。 「う、うぅぅう~~~……!!」 しかしそれを『恋は盲目』状態のルイズが理解も納得も出来るはずがなく、ポカポカとユーゼスの胸を叩くことで抗議の意をアピールする。 「ぐっ……。叩くのはやめろ、御主人様」 苦悶の表情を浮かべて主人の行動を止めさせるユーゼス。 そんな苦しそうな様子を見て、ルイズは途端に心配そうな顔でユーゼスの身体をさすり始めた。 「どうしたの、ユーゼス? 身体の具合が悪いの?」 「……いや、今日は起きた直後に、腹部に強い衝撃を受けたのでな。そのダメージが残っている」 言った直後に、ガタンと隣で音がした。 その方向を見れば、エレオノールが赤い顔をしながら横目でこちらに視線を向けている。 「…………ともあれ、着陸するぞ」 ユーゼスはあえて言及せず、手頃な場所にビートルを着陸させた。 「着きましたか、ユーゼス・ゴッツォ」 先にラグドリアン湖に到着していたシュウとミス・ロングビルが、ユーゼスたちを出迎える形で歩いてくる。 この二人はネオ・グランゾンを使って移動していたのだが、さすがに戦闘機程度でネオ・グランゾンのスピードに敵うわけもなく、こうして大きく引き離されたのだ。 「……ネオ・グランゾンはどこに隠した?」 「そこの森の中です。『かくれみの』は使っていますから、余程のことがなければ発見されることはありませんよ」 そしてシュウはラグドリアン湖を見回して呟いた。 「しかし、この景観……さすがはトリステイン随一の名所と言われるだけのことはありますね。水の精霊がここに存在しているということも納得がいきます」 「……シュウ様、シュウ様」 「何です、ミス・ロングビル?」 その呟きを聞いたミス・ロングビルは、若干の期待を込めた態度でシュウに尋ねた。 「私と、このラグドリアン湖……どちらが綺麗ですか?」 ピク、とルイズが反応する。 シュウは一瞬だけ妙な動きをしたルイズに目をやるが、すぐに気を取り直してミス・ロングビルへと返答を行った。 「難しい質問ですね……一概に比べることは出来ません。何せ『美しさ』の種類が異なります。物理的な『強さ』と精神的な『強さ』を同列に扱うことが困難なようにね」 「そうですか……」 シュン、となるミス・ロングビル。 しかしそんな緑髪の女性に、紫髪の男は続けて声をかける。 「ですが、この湖が『この湖にしかない美しさ』を持つように、あなたには『あなたにしかない美しさ』があります。 それが外面的なものなのか、内面的なものなのかはそちらの判断にお任せしますが、それを生かすも殺すもあなた次第だということは覚えておいて下さい」 「……あ、はいっ、シュウ様!」 その言葉を聞いた途端、ミス・ロングビルはパッと表情を明るくする。 なお、他にそのやりとりを聞いていた面々は、『よくあんなセリフがサラッと出て来るなぁ』と感心する者、ジトッと自分の使い魔を睨む者、『おお、ああいう風に言えば……!』と学習する者、そんな馬鹿の頭を叩く者、と様々なリアクションを見せていた。 ともあれ、いつまでも喋ってはいられない。 早速、水の精霊とやらとの交渉を行わなければならないのだが……。 「……変ね、湖の水位が上がってるわ」 「水位だと?」 「ええ。ラグドリアン湖の周辺は、ここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね」 「ふむ……」 モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。 ユーゼスとエレオノールとシュウの研究者組が首を傾げていると、モンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手をかざして目を閉じる。 「……水の精霊は、どうやら怒っているようね」 「ほう、よく精霊の感情などというものが分かりますね。契約でもしているのですか?」 感心したように言うシュウ。 「『契約』じゃなくて、どっちかって言うと『交渉』に近いです。『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めてきましたから」 「『務めてきた』……過去形ですね」 「うっ……そ、それは……」 シュウの指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。 ちなみに、モンモランシーはシュウに対しては敬語を使っている。 「察するに、交渉時に何らかの不手際、あるいはトラブルが発生して交渉役を解約された……というところですか?」 「……その通りです」 その推察がほとんど的を射ていたので、モンモランシーとしても肯定せざるを得ない。 「しかし『長年に渡って交渉役を務めてきた』というのが事実であれば、我々のような何の繋がりもない人間が接触しようとするより、よい結果を得られる可能性があるでしょう。ではお願いしますよ、ミス・モンモランシー」 「……はい」 若干シュウに気圧されつつも、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出し、自らの血液を媒介として水の精霊との交渉を開始した。 岸辺より30メイルほど離れた水面が輝き、ゴボリとうねり始めた。そして見る間に水面が盛り上がり、その水はぐねぐねと形を変え続ける。 「アメーバ……不定形生物か?」 「いえ、さすがにそれを『精霊』呼ばわりはしないでしょう。不定形という点では共通しているようですが、本質的には全く異なる存在のようです」 「……ユーゼス、『あめーば』って何のこと?」 「……後で説明する。今は水の精霊とのやり取りに集中するべきだ、ミス・ヴァリエール」 研究者組の言葉の応酬に構わず、モンモランシーは姿を現した水の精霊に話しかけた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」 その言葉に反応したのか、水の精霊とおぼしき水のカタマリは大きくうごめいて、人の―――モンモランシーの姿を模して彼女と会話を始める。 「…………覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が52回交差した」 「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」 「……………」 沈黙する水の精霊。 そんなモンモランシーと水の精霊の交渉をじっと見ているユーゼスたちは、それぞれの考察を交えながらこの『水の精霊』について議論を行っていた。 「一部……ということは、アレは水の秘薬の集合体なのか?」 「『水の精霊の涙』って名目で秘薬が市場に出回ってるくらいだから、そのはずよ。まあ、精霊がホントに涙を流すわけがないとは思ってたけど」 「私としては、精霊に『形』があることの方が驚きですね。ラ・ギアスの精霊は人と心を通わせることはままありますが、このように物理的な形をとって『会話』を行うとは……」 「ふむ。水そのものに意思があるのか、何らかの意識体が水を媒体として意思を現出させているのか……ただ見ているだけでは判断が付かんな」 「『水の精霊は個にして全。全にして個』って話は聞いたことがあるわ。『千切れても繋がっていても、その意思は一つ』とも。少なくとも、私たちとは全く違う生き物なのは確かね」 「『生き物』と分類が出来るのかどうかも、議論が分かれるでしょうね。 ……精霊レーダーやREBスキャンを使えば何らかの分析結果が出るでしょうが、それを察知されて下手に機嫌を損ねられるわけにもいきません」 「私のシステムも同じ理由で使えないな。……アレが因果律を感知する可能性もゼロではない」 「ちょっと、『れーだー』とか『すきゃん』とか『しすてむ』とか、何の話?」 「我々の出身地の技術だ。長くなるので詳しい話は避けるが……、しかし分析結果か。許されるのなら、ぜひじっくりとアレを研究してみたいものだ」 「確かに。私もかなり興味があります」 「それについては同意するわ」 ユーゼスとエレオノールとシュウは、水の精霊をほとんど実験動物のように見ているが、そこには特に気負った様子も後ろめたさもない。 この3人は、良くも悪くも『研究者』であった。 そしてしばしの沈黙の後、モンモランシーの願いに対して水の精霊はキッパリと告げる。 「断る。単なる者よ」 その言葉を聞いて、今まで興味深げに水の精霊を観察していたエレオノールの表情が一変した。 「ちょ、ちょっと待ちなさい! ルイズはどうするのよ!?」 ずい、とモンモランシーを押しのけて水の精霊と対峙するエレオノール。 「ミ、ミス・ヴァリエール、水の精霊を怒らせたらどうするんですか!?」 「ミス・モンモランシ、あなたも交渉役を自称するんだったら、もう少し食い下がりなさい! ……とにかく、水の精霊! 私の妹のために、あなたの身体の一部を分けてちょうだい!!」 「……………」 エレオノールが叫ぶが、水の精霊は何も答えない。 「お願い! 何でも言うことを聞くから―――」 頭まで下げて、悲痛に訴え続けるエレオノール。 プライドの高い彼女がそこまでしたという事実に、他の面々は驚いたり感心したりしていた。 その訴えに効果があったのかどうかは分からないが、水の精霊はまたぐねぐねと何度も姿を変え、再びモンモランシーの姿に落ち着くと一つの問いを投げかけた。 「世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は『何でもする』と申したな?」 「い、言ったわ!」 一縷の望みが出て来たことで、エレオノールの顔に喜色が差す。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治して見せよ」 「退治?」 一同は顔を見合わせる。 「左様。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治すれば、望み通りに我の一部を進呈しよう」 「……分かったわ。引き受けましょう」 「ええええっ!!? そんな安請け合いしないでくださいよぉ!!」 「うるさいわね。お望みなら、牢獄の中で一生を送らせてあげても良いのよ? それで問題が解決するわけじゃないけど、少なくとも私の不満は少しだけ解消されるでしょうから」 禁制の惚れ薬を作ったことを、あることないこと付け足した上で王宮に報告してやる……と、エレオノールはモンモランシーを暗に脅しているのである。 このカードを切られてしまっては、モンモランシーは嫌でも協力せざるを得ない。 「うう、分かりました……。協力させていただきます……」 「じゃあ取りあえず、その相手の情報を聞きましょう」 こうして一同は、水の精霊に対する襲撃者とやらを撃退することになったのだった。 「私は直接には手を出しませんよ」 では作戦会議を……という段階になるや否や、いきなりシュウが言い放った。 「ちょ、ちょっと、どうしてよ? あなたのあの……デモンゴーレム? だっけ? アレはかなり戦力になると思ってたのに、いきなりそんな……」 エレオノールはその言葉に面食らいつつも、何とか引き留めようとする。……貴重かつ強力な戦力を、みすみす手放すわけにはいかないのだ。 ちなみにネオ・グランゾンのことを知っているのは、この場ではシュウ以外にユーゼスとミス・ロングビルだけである。 「デモンゴーレムなどを使ってしまっては、このラグドリアン湖周辺の地形が変わってしまいますからね。それはあの水の精霊としても望むところではないでしょう。 それに……」 「そ、それに?」 シュウは、自身の『根幹』とも言えるセリフを口にする。 「いかなる世界であろうと……私に命令が出来るのは、私だけなのです」 「っ……」 圧力を感じ、エレオノールは思わず一歩後ずさった。 しかし、そんなエレオノールをかばうようにしてユーゼスが割って入る。 「……そこまでにしておけ、シュウ・シラカワ」 「フッ……、そうですね。少し脅かしすぎましたか」 肩をすくめつつ、薄い笑みをエレオノールとユーゼスに向けるシュウ。 「『直接に手を出すことはしない』とは言いましたが、アドバイス程度ならば構いません。『手は出さないが口を出す』、ということです」 「ほう……良いスタンスだ。私も見習わせてもらおう」 シュウの宣言に対してユーゼスは感心したように呟くが、即座にエレオノールから口を挟まれた。 「って、あなたは前衛で戦うに決まってるでしょう!!」 「私が? 何故?」 「あなたのそのインテリジェンスソードはメイジに対してかなり有効な防御手段になるんだから、当然よ!!」 「……別に私が使う必然性も無いのではないか? 御主人様あたりでも構わないはずだが」 「…………この中で『武器を上手く使うこと』に関して、あなた以上の人間がいる?」 「ミスタ・グラモンのワルキューレならば、あるいは……」 「あんなドットメイジが作ったゴーレムごときが、腕の立つメイジ相手にそうそう役に立つわけないでしょうが!!」 「何気に馬鹿にされてないか、僕……?」 「でも事実でしょ」 話を聞いて微妙な表情になるギーシュと、それにツッコミを入れるモンモランシー。 ついでに言うと普通にガンダールヴを発動させた時の『生身の』ユーゼスの戦闘力は、通常のワルキューレ3~4体分ほどである。 「ミス・ロングビルはどうする? そう言えば戦えるのかどうかも知らないが」 「私はシュウ様が命じられるのであれば戦いますが……」 とろんとした目でシュウを見るミス・ロングビル。 「ふむ……。あなたの戦法では、私と同じようにこの辺りの地形に影響を及ぼしてしまうでしょうね。ここは私と一緒に観戦していましょう」 「はい、分かりましたぁ。……シュウ様と一緒に……シュウ様と……」 うふふ、とミス・ロングビルは笑みを浮かべながらシュウの台詞を反芻する。 ユーゼスは続いてモンモランシーの方を向き、一方的に彼女の参戦決定を告げた。 「ミス・モンモランシは参戦してもらうぞ」 「ええっ!? 嫌よわたし、ケンカなんて!!」 「戦闘において水メイジは重要だからな。試してみたいこともある」 「どうしてわたしがあなたの実験台にならなくちゃいけないのよ!?」 「……いやモンモランシー。ユーゼスが一度こうなったら、もう彼がある程度納得するまでは開放してくれないんだよ……」 「何それ!?」 諦めたように言われたギーシュのセリフに、モンモランシーは悲鳴を上げるのだった。 「では、戦闘に参加するのは私と、ミスタ・グラモン、ミス・モンモランシに……御主人様か」 「…………ちょっと、何で最初からミス・ヴァリエールが除外されてるのよ?」 戦闘メンバーを発表するユーゼスに、モンモランシーが噛み付く。……自分の時は問答無用で参入させたのに、この扱いの差は一体何だと言うのだろうか。 「………」 そしてそのモンモランシーの言葉で、あらためて自分が『最初から』除外されていることに気付いたエレオノールがユーゼスの方を見て、他のメンバーもまた同じくユーゼスを見た。 「……説明が必要か?」 「必要よ!」 ユーゼスは仕方なさそうに、エレオノールが戦闘メンバーに含まれていない理由を説明した。 「ミス・ヴァリエールは、理論の組み立てや『魔法の使い方』の運用・応用方法の考案については目を見張るものがあるが、決定的に直接戦闘に向いていないからだ」 「わたしだって向いてないって言ってるじゃない!」 「サポート程度ならば出来るだろう? 何も先頭に立って戦えと言っている訳ではない」 モンモランシーは納得の行かない顔でユーゼスを睨むと、ポツリと小声で言った。 「……あなた、何だかミス・ヴァリエールに甘くない?」 「む?」 「なっ……!」 「え……っ!?」 僅かに反応するユーゼスと、うろたえるエレオノール、そして一気に不安そうな顔になるルイズ。 「そんなつもりは無いのだが」 「そうかしら……」 しれっと否定するユーゼスに対してなおも訝しげなモンモランシーだったが、そこにエレオノールが口を出してきた。 「そ、そうよ! ヤブから棒に変なこと言わないでちょうだい! そんな、ユーゼスが私だけ特別扱いしてるとか、私のことを守ろうとしてるとか、私のことを大切に思ってるとか……そんなことは全然、別に、あんまり、そんなに、少しも……いえ、少しくらいは……とにかく無いかも知れないはずなんだから!!」 少々パニックと言うか暴走しながら、否定なのか肯定なのか判断の付きにくいアピールを行うエレオノール。 「……お前は何を言っている、ミス・ヴァリエール」 そんな支離滅裂なことを口走る金髪の女性に、銀髪の男は冷静にツッコミを入れた。 「…………そこでアッサリ切って捨てないでよ、もう」 「? 何か言ったか?」 「何にも言ってないわよっ!!」 「……?」 顔を赤くしながら怒るエレオノールに、ユーゼスは首を傾げる程度しかリアクションが出来ない。 ―――そして、モンモランシーの言葉に過剰に反応する人物は、エレオノール以外にもう一人いた。 「うっ……、ううぅ……っ、ひっく、ぐすっ……」 言わずもがな、惚れ薬の影響の真っ最中にあるルイズである。 「や、やっぱり……ひっく、やっぱりユーゼスは、わたしよりエレオノール姉さまが……良いのね、うぅ、好きなのね……うっ、うぅっ」 「……またか」 どうしてこの状態のルイズは、やたらと自分とエレオノールの関係を意識するのだろう……と、再び首を傾げるユーゼス。 「いいもん、いいもん……勝手にすれば? ……ぐすん。 で、でも……わたしのこと嫌いにならないでぇ~! うわぁぁあ~~ん!!」 泣いたり怒ったり、わめいたり叫んだり、すねたり駄々をこねたり、と酷く情緒不安定な様子である。 ユーゼスとしては『泣いている女性への対処』など、どうすれば良いのかサッパリ分からないので、取りあえず放っておくことにしたのだが……。 その内、ミス・ロングビルがそのルイズの言動に触発されたのか『わ、私を捨てないでください、シュウ様ぁ~!』とシュウに泣き付き始め、余計にワケの分からない事態になってしまった。 「ぐぅ……」 「……すぅ」 ラチが明かないと判断したシュウの手によって、ルイズとミス・ロングビルは眠らされ、ようやく正常な作戦会議がスタートする。 「ではまず、相手の情報についてだが……」 「水の精霊の話によると、『背の低い風系統のメイジ』と『背の高い火系統のメイジ』の二人らしいですね。直接に水の精霊のテリトリーである水中に入り込んで攻撃を仕掛けている以上、かなり自分の実力に自信がある……と見て良いでしょう」 なお、この会議の司会は『対フーケ会議』と同じく、ユーゼスである。 「となると……この際、敵の実力はスクウェアクラスと仮定しておくべきだな」 「……それはちょっと、高く見積もりすぎなんじゃないかしら。スクウェアメイジなんて、そうそうお目にかかれるものじゃないわよ?」 『敵の実力』の見当を付けたユーゼスに対して、エレオノールが意見を出した。 確かに水の精霊に挑むくらいなのだから『敵』の実力はかなり高いのだろうが、スクウェアが二人というのは過大評価が過ぎると考えたのである。 「一理あるが、敵の実力は高く見積もっておくに越したことはあるまい。相手の力を低く見積もって、結果として敗北した例を私は数多く知っているぞ」 「まあ、そういうことなら良いけど……」 そしてユーゼスは『仮想敵』に対するイメージを明確にするべく補足を行う。 「……ミス・タバサとミス・ツェルプストーをそれぞれグレードアップさせた相手を、同時に敵にすると思えば良いだろう。連携を使うことも考えられるから、それもあの二人のレベルを上げれば良い」 良い手本が身近にあって幸運だ、と頷くユーゼス。 その言葉にギョッとしたのは、ギーシュとモンモランシーである。 「ちょっ、ちょっと待ってくれ! サラッと言うが、『あの二人をグレードアップさせて同時に敵に回す』ってメチャクチャな前提条件だぞ!?」 「そうよ、大体キュルケとタバサがスクウェアになったら、ドットのわたしたちじゃ対処のしようが……。……いや、でも、あくまで仮定の話だし……」 この二人は、要するに『もう少しハードルを下げようよ』と言っているのである。 そんなカップル未満の二人に対し、ユーゼスは冷静に告げた。 「……では、現れた敵が本当に二人ともスクウェアクラスの実力者で、ミス・タバサとミス・ツェルプストー以上の連携を見せた場合、どうするつもりだ? 『ここまで強いとは思っていなかった』とでも言いながら敗北するか?」 「「うっ……」」 言葉に詰まるギーシュとモンモランシー。そう言われてしまっては、言い返すことも出来ない。 「では、前提条件も決まったところで、作戦立案に入るが……」 「……その前に、少しよろしいでしょうか?」 それぞれの意見を出し合おう、という段階になって、シュウが口を挟んでくる。 「何だ、シュウ・シラカワ?」 「『前提条件』……と言いますか、ユーゼス・ゴッツォはともかく、ミスタ・ギーシュとミス・モンモランシーにはお話をしておきたいことがあります」 「え? 僕たちに?」 「な、何でしょう……」 身構える二人に向けて、シュウはある確認を取る。 「ミス・モンモランシー。あなたは先程、『ケンカは嫌だ』と言っていましたね? そしてミスタ・ギーシュもその言葉に対してあまり反応はしなかった……これはミスタ・ギーシュも戦闘行為に対しては同じ見解、と捉えてよろしいのでしょうか?」 ジッと見られて、ギーシュとモンモランシーは怯みつつも答えた。 「ま、まあ、生身の人間相手には、ちょっと……。ワルド子爵は『偏在』で作られた分身だったし……」 「ケンカが好きな人なんて、そんなにはいないと思いますけど……」 シュウはその言葉を聞くと、二人に向かってキッパリと言う。 「―――では生き残りたいのであれば、そのような甘い考えは今すぐ捨てることです」 「え?」 「そもそも戦闘行為を『ケンカ』と表現している時点で、あなたたちの認識の甘さがうかがえます。 ……これから行うのは『殺し合い』のための作戦会議です。せめて相手を殺す覚悟程度はしておいてください」 「なっ……」 「そ、そんな……!」 言われた言葉に絶句するギーシュとモンモランシー。 「な、何も殺すことはないんじゃ……!」 「ほう、それでは相手が我々のことを『殺しに来ない』という保証がどこかにあるのですか? 下手に手心を加えて、結果は殺された……などと、笑い話にもなりませんよ?」 畳み掛けるように、シュウは言葉を続ける。 「戦いで人が死ぬのは当然のことです。そしてあなたたちメイジには、最下級のドットであろうともそれを容易に行えるだけの力がある。しかしどうしても人を殺したくない、と言うのであれば……」 「……………」 二人は息を呑んで、その言葉を聞いていた。 「……敵を生かすために、あなたたちが殺されることですね」 その非情とも取れる勧告に、ギーシュは声を絞り出すようにして反論する。 「っ……必ずしも、殺す必要はない、はずでしょう?」 「ええ、『今回は』そうですね。……ですが『次の戦闘』は? 特にミスタ・ギーシュ。あなたも一応は貴族の子息であるならば、戦場に立つこともあるはずです。その時に戦場で『人を殺さずに済ませよう』と虫の良いことを言うつもりですか? 相手は確実にあなたを殺しに来ますよ?」 「そ、それは……」 動揺する様子を見せるギーシュ。 この目の前の男に対して何とか言い返そうとするが、上手い言葉が出て来ない。 横を見れば、モンモランシーが不安げな顔で自分を見ていた。 彼女を安心させるためにも、せめて何かを言わなくてはならないのだが……。 「僕は……」 敵を殺す。 たったそれだけのセリフが、どうしてか酷く、重い。 そうやってギーシュが逡巡していると、横から助け舟が出された。 「……シュウ・シラカワ、戦闘前に士気を下げ過ぎるな。全滅してしまったらどう責任を取るつもりだ?」 ほんの僅かに表情を厳しくしたユーゼスが、会話に歯止めをかけたのである。 シュウは悪びれもせずにユーゼスに向き直り、自分の発言の意図を説明した。 「フフ……、これは申し訳ありません。いずれ必ずぶつかってしまう壁ならば、早い方が良いと思ったのですが……余計なお世話というやつでしたか?」 「そんなものは『時期』が来るなり『事件』が起こるなりすれば、本人がどれだけ拒否しようとも身に付いてしまうものだ。意図的に与える類のものではない」 「確かに」 それきり、この話については打ち切られた。 ギーシュとモンモランシーは今の話が少々応えたのか、俯いているが……それに構っている余裕も、それほどない。 そして今度こそ作戦会議を……とユーゼスが場を仕切ろうとしたら、エレオノールが少し緊張した顔で話しかけてきた。 「……ユーゼス、少しいいかしら?」 「何だ、ミス・ヴァリエール? ……先程の心構えについての話なら、お前は直接戦闘に参加はしないのだから―――」 「いいえ。私のことじゃないし、彼らの問題は彼らに考えてもらうわ。ただ……」 「ただ?」 「……一つ、いえ二つだけ聞かせて。あなたは、その……『心構え』が出来ているの?」 「ああ」 何でもないことのように、ユーゼスはエレオノールの問いを肯定する。 シュウとの会話の内容から察しは付いていたが、やはりユーゼスはとっくの昔に『殺す覚悟』を済ませていたらしい。 ……今更ながら、タルブで『作業』のように竜騎士を撃ち落していたことを思い出す。 あの時は色々ありすぎて、ユーゼスの細かい部分にまで注意が回らなかったが……。 「なら、あなたはどうやって……何がきっかけで『心構え』が出来たの?」 「知りたいのか?」 「ええ」 エレオノールとて、普通ならここまでヅカヅカと他人の事情に踏み込んだりはしない。……しかし『ユーゼスに対しては変に遠慮はしない』と、これもあの時に決めたのだ。 「……………」 言ってくれるまで引き下がらない、という意思を込めて、エレオノールはユーゼスを見る。 やがてユーゼスは軽く溜息をつくと、別に構わないかと口を開く。 「…………これはあくまで『私の経験』であって、御主人様やミスタ・グラモンの参考にはならないだろうが」 「別に参考にさせるつもりはないわよ」 やり取りの後で、ユーゼスはごく簡単に『自分の体験』を語った。 「今となっては、何が引き金となったのかすら曖昧だが……。……そうだな、一度目に死んだことが『きっかけ』の一つではあるだろう」 「……どういう意味?」 今まで問われたことに対して淡々と事実を答えていたユーゼス・ゴッツォにしては、随分と抽象的な表現である。 「―――私は今までに、二度ほど死んでいるからな」 「?」 今度は具体的な答えが返って来るだろう、とエレオノールは思っていたのだが、それに対する補足もまた彼女にとっては抽象的なものだった。 「……無駄話はここまでだ。襲撃者の対策について話し合うぞ」 「え、ええ……」 そうして、対象の殺害まで視野に入れた対策会議が始まる。 だが……。 (二度、死んでる……?) 会議を続けながらも、エレオノールの心の片隅には疑問が渦を巻いていたのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔