約 2,051,592 件
https://w.atwiki.jp/shinsen/pages/668.html
山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/aoari/pages/9527.html
山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nolnol/pages/588.html
山城 オンモラキ レベル 50-7 特徴 黄色NPC 夜のみPOP 出現地域 山城:リーぬ 構成 名前 種類 レベル 開始時付与 特徴 オンモラキ コウモリ 50 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火喰鳥 コウモリ 49 ▲ 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 火精 ネズミ 49 再生 ドロップアイテム その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8463.html
前ページ次ページ使い魔はじめました 使い魔はじめました――第二十四話―― 「ここまでは順調だったのに!」 アカデミーの一室で、エレオノールが悔しげにるつぼの中の液体を見つめていた。 ゲルマニアに蔓延する『カエルの呪い』の特効薬――になる予定のものである。 「まさか、『水の精霊の涙』の在庫が切れてるなんて……」 ヴァレリーもまた、困り切った様子で液体を見つめている。 この世界には『水の秘薬』という水の魔法の効能を高める薬が存在する。 『水の精霊の涙』の涙はその秘薬の中でもとてつもなく希少なもの。 水の精霊との交渉役を務める家から、極々稀に市場に出回るだけであった。 「あんまり出回ってないとは聞いたけど、ここまでとはね」 「あなたの荷物の中に代用が出来そうなものはないの?」 エレオノールに問われ、サララは考える。 考えたが、それに該当するものは今は手元にはなかった。 もし向こうの世界に戻れたら早急に『賢者の石』を入手しておこう、と決める。 「参ったわね……ゲルマニアは既に話を通してあるらしいし、あんまり先延ばしに出来ないわ」 ゲルマニアは非公式ながら、『カエルの呪い』が悪魔の手によるものであったと認めている。 風の噂では、実は皇帝自らも悪魔(エンペル)の姿を見かけていたらしい。 それを公に口にしなかったのは、悪魔を見たなどと言えば頭の病気を疑われ、 即刻帝位を奪われて幽閉されかねなかったからだ、とかなんとか。 その皇帝からは、国民の支持を取り戻すためにも早急に解呪薬を、という意見書が来ており 一刻も早く薬を完成させねばならないのであった。 「『別の』市場も覗いてみたんだけど、あっちにも全然無いみたい」 ヴァレリーが声をひそめる。別の、とはサララの世界で言うところの盗賊ギルドであろう。 ――目的を達するために必要な品がない。その状況でサララのとる行動は至って単純だ。 「え? 水の精霊が何処にいるか、ですって? あなたそれを聞いてどうするの?」 疑問符を浮かべるエレオノールに向かって、サララは微笑んだ。 ちょっと、取りに行ってきます、と。 欲しいものがあるなら危険を冒してでも手に入れろ。 それがだんじょんの町で生きてきたサララの信条だった。 面倒だからって夜中だけ開いてる店で買って済ますようなことは、性に合わない。 「それで、一度こっちに戻ってきたわけ?」 問いかけるルイズの膝には、一冊の古びた本が載せられている。 始祖の祈祷書、と呼ばれるその本は王族の婚姻で祝詞を読み上げる巫女が 大事に持っていなければならないとされるものだ。 ゲルマニアの件が片付けばウェールズと結婚する予定のアンリエッタが、 その巫女役をルイズに頼んだため、今はその場にある。 「ラグドリアン湖かぁ、何度か行ったけど綺麗な所なのよねぇ」 袋にせっせと荷物を詰め込むサララの背中に向かって呟く。 「いいところなのよねぇ、ラグドリアン湖」 それは楽しみですね、早く行きましょう、とサララが笑って答える。 「へ? え、ええ、勿論よ! ついていくに決まってるじゃない!」 本を小脇に抱えて立ちあがると、クローゼットへ歩みを進める。 「サララは私のパートナーなんだからねっ、私が一緒に居て当たり前じゃない!」 ぷりぷりと口を尖らせながらも、その表情には喜びが隠し切れていない。 正直少しルイズは寂しかったのだ。何しろ二週間もの間サララはアカデミーに籠り切りで、 自分のパートナーであるサララが自分の傍に居ないことが、不満だった。 だから、危急の事態とはいえサララと一緒に居られるのが嬉しいのだった。 こういう時にワクワクしてしまう辺り、ルイズも少々サララに感化されているようである。 「でもさぁ、どうやってその水の精霊に涙を分けてもらうわけ?」 ウキウキしていた主従の動きが、チョコの一言で止まった。 「……考えてなかったの?」 サララの視線が明後日の方を向いている。前髪で見えないが。 「はぁ……。ま、ちょっとボクにツテがあるから聞いてみるよ」 「ツテ、ってどこにあんのよ?」 ルイズが首を傾げる。チョコは得意そうに告げた。 「ふふん。ボクだって何も昼寝ばっかりしてたわけじゃないんだよ」 自慢の尻尾を揺らし、胸を張るチョコを二人は不思議そうに眺めて顔を見合わせた。 チョコに言われるままやってきたのは学園の一角にある広場だ。 ここでは使い魔達が好き勝手にくつろいでいる。 元は野生の動物とはいえ、メイジと契約を結んだからには人を襲うことはないし、 種族間での闘争もほとんど行っていない。なんとも暢気な光景がそこには広がっている。 あちらでカラスがオウムと共に歌っているかと思えば、 こちらの足元を狼とウサギが駆け比べをしている。 かと思えば、少し離れた噴水ではスキュラがまどろんでいる、といった様子だ。 チョコはその噴水へとてとて歩み寄ると、縁に手をかけて何やらにゃごにゃご言っている。 動物同士で話す際には人間相手に使うのとは異なった言語を使用するらしい。 そのにゃごにゃごが止まったかと思うと、噴水からぴょん、と一匹のカエルが跳び上がった。 ぬめぬめとした黄色い肌に黒い点が幾つも散った、いかにも毒がありそうなカエルだ。 「きゃっ、かっ、カエルっ」 ルイズが可愛らしい悲鳴を上げてサララの後ろに隠れる。 子供の頃、一番上の姉にカエル関係でからかわれて以来のカエル嫌いは未だ治らない。 「この子はロビン。この子のご主人さまが水の精霊との交渉役の家系なんだってさ」 チョコが彼女(ロビンはメスである)に聞いた話によると、 水の精霊との交渉は指定された一族の血を継ぐ者にしか行えないらしい。 幸い、ロビンの主がその一族の末席に名を連ねているため頼んではどうか、とのことだった。 「ボクたちも知ってる人だしね」 「あ、そっか」 その言葉を聞いて何やら思い出したのか、ルイズがぱん、と手を叩く。 「確か、水の精霊との交渉役って、モンモランシ家の仕事だったわね」 「ええ、その通りよ」 タイミングを計ったかのごとく、声がかけられる。 「厳密には元、だけど」 金の巻髪を揺らしながら現れたのは、モンモランシーであった。 「それで、どうして水の精霊と交渉しなきゃいけないのよ」 「それは、アン……むぐっ」 アンリエッタの命によるものだ、と答えかけたルイズの口をサララが慌てて塞ぐ。 どうして命を受けたのか、という話になればアンリエッタの密命をバラさねばならなくなる。 いくらなんでもそれはまずいだろう。 「……まぁ、あなたにはお世話になってるし、ちょっと分けてもらえるんなら私も問題はないわ」 と言っても、とモンモランシーはため息をこぼした。 「何年か前にお父様が水の精霊の機嫌を損ねたせいで、一度お役御免になってるのよね。 だから、何か交渉材料があればいいんだけど……」 「水の精霊が欲しがってるものがあればいいってこと?」 「そうね……そんなものがあればだけど」 あ! とサララが一声上げて袋の中から一つの指輪を取り出した。 先日エンペルの手から奪ってきた『アンドバリの指輪』だ。 確か本来ならば、水の精霊の持ち物であったはずである。 「……綺麗な指輪ね。でも指輪なんかで喜ぶかしら」 強い水の力はあるみたいだけど、と不思議そうに見つめながらも、モンモランシーは納得したらしい。 「それじゃあ、行きましょうか。ラグドリアン湖へ」 モンモランシーの言葉を受け、二人は馬小屋へと進んだ。 なおその馬小屋で後輩の少女と遠乗りをしようとしていたギーシュと遭遇し、 しばらくもめることになったのだが特に詳しくは書かない。 置いて行くと浮気しそうだから、というモンモランシーの一言でギーシュも連れ、 一行がラグドリアン湖に到着したのは昼を少し回った辺りだった。 湖畔近くの木陰に座ると、一行は昼食をとった。 「いやしかしこのスキヤキという料理は実に美味いね」 一人に一個宛がわれた鍋を空にして、ギーシュは満足げに呟いた。 「この甘辛いタレがおいしいのよね、今度レシピ教えてちょうだい」 モンモランシーの問いに、サララは笑みを返すばかりだ。 これの出所が知られたら、多分彼女は商売が出来なくなる。 ルイズは、サララのこの笑みが何かをごまかす時のものだと気付いているが、 それを突っ込んでこの美味しい料理が食べられなくなるのは嫌なので黙っていた。 「そういえばモンモランシー、交渉というのはどうやるんだい?」 「一族のものの血を使い魔に水の精霊まで届けてもらって、話をさせてもらうのよ」 モンモランシーは立ちあがると、腰の袋からロビンを取り出す。 ポケットからは針を取り出し、それで指先を突いて傷を付けた。 そこからこぼれた血を一滴、ロビンの背に垂らす。 「あなたの旧いお友達に、旧き偉大な水の精霊に伝えてちょうだい。 盟約の持ち主の一人が話をしたいって言ってる、って」 任せておけ、とばかりにゲコ、とロビンは鳴いて湖に潜っていった。 「そういえば、水の精霊ってどんな姿をしているの?」 ルイズが問いかける。 「どんな、と言われても困るわね。その時々で姿を変化させるから」 「とてつもなく美しい、と前に話してくれたっけ」 「ええ。陽光にキラキラと輝いて、とても美しいのよ」 ダンジョンでよく見かけるウンディーネと似た姿だろうか、とサララは一人考えている。 意思を持つ水が魔物と化したものだが、見た目と中身は愛らしい少女のそれだ。 しかし、見た目は美しくとも魔物は魔物。 その生きた水の中に冒険者の死体を貯め込んでいる恐ろしい一面もある。 冒険者の命を呼び戻すためサララは幾度となく彼女達に立ち向かい、 その死体を取り戻すために尽力した。その回数は数えきれない。 そう、彼女達に立ち向かったのは命を救うためである。 断じて、断じて、その冒険者が持っている金品の半分を、彼らを蘇生させる教会と 山分けにするためではない。彼らを救うためだ。救うためなのだ。 などと誰へとでもなく言い訳をしているサララは、ふと気配を感じて湖面を見つめた。 湖面は光り輝き、そこに水の精霊が現れたのである。 まるでそれ自体が意思を持つかのようにうねうねとうごめく。 盛り上がった水面は見えない手でこねられるかのようにして様々に形を変える。 戻ってきたロビンを迎えいれ、頭を撫でてやった後、モンモランシーは水の精霊に向き直る。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 旧い盟約の一員よ。カエルにつけた血に覚えがおありなら、私達にわかる やり方と言葉で返事をちょうだい」 水面がぐねぐねと形を変えていく。サララは驚いた。 その姿が、モンモランシーのそっくりのものになって微笑んだからだ。 ただし、実際の彼女よりは一回り大きく、服も身につけていない。 透明な裸のモンモランシーだった。氷の彫像を思ってもらえばいいかもしれない。 ギーシュがくるりと後ろを向いた。ポケットからハンカチを出して鼻を拭っているようだ。 存外、彼はウブである。 「覚えている、単なるものよ。貴様に最後にあってから月が五十二回交差した」 「よかったわ。お願いがあるの。あつかましいと思うけど、あなたの体の一部を 私達に分けてもらえないかしら」 そこまで言うと、モンモランシーがちらり、とサララを見やる。 アイコンタクトを受け、サララが水の精霊の方へ近づいた。 これをお返ししますから、どうかわけてください、と指輪を差し出す。 「おぉ……、これは悪魔によって奪われた、アンドバリの指輪……」 精霊は水の一部を触手のように伸ばすと、サララの手から受け取ろうとして触れる。 触れた途端、水の精霊の姿が大きく揺れ動いた。 「おぉ! おぉ!」 「え、ちょっと、ど、どうしたのよ」 こんな水の精霊を見るのは初めてらしいモンモランシーがうろたえる。 「単なるもの。貴様は『全ての始まり』の血族。我が遠き同胞を知るもの」 水の精霊は感極まった、とでも言うようにゆらゆらと揺れる。 「貴様が交渉をし、我は物品を受け取った。ならば、支払いをせねばなるまい」 アンドバリの指輪を受け取ったのとは、別の触手がサララの掌に伸びる。 その先端がぶつり、と切れたかと思うとそこに一掬いの水が残った。 「こっ、こんなに!」 モンモランシーが慌てて瓶を差し出し、サララは一滴もこぼさぬようにその中に収めた。 「指輪を取り戻したことを、感謝しよう。全ての始まりの血族よ」 再びただの湖面へと戻っていく水の精霊。 だが、そこへ向かってルイズが叫んだ。 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 『全ての始まりの血族』ってなんなの!?」 また小さく湖面が揺らぐ。水滴の王冠を被った透明の少女、とでも 表せるような姿で水の精霊が姿を見せた。 「この世界はね、人の想いから生まれたの。魔女さんの一族が、その想いを集めた。 世界が出来て、私達が生まれた。だから、魔女さんは『全ての始まりの血族』」 先程まで感情がなかったのが嘘のように、水の精霊は笑った。 「嬉しいなぁ。はじめて、魔女さんからお買いものしちゃった。ずっと、憧れてたんだ」 その笑みを残して、ぱしゃん、と今度こそ水の精霊は消えた。 世界の成り立ちについて、ルイズ達は、否、ハルケギニアに住む人々の大半は 詳しいことを知らない。そもそもブリミル教徒はブリミル降臨以前のことを 深く考えることを異端と考えているのだ。 であるからして、この小さな魔女の血族が世界を作るのに関わっていた、などと 言われても理解が及ぶものではない。 「と、とにかくこれだけあれば十分なんじゃないかしら」 モンモランシーの言葉に、誰ともなく頷く。 「そうね。早く帰りましょう、サララ」 ルイズが声をかける。サララは押し黙っている。 「……サララ? ねぇ、どうしたのよ、サララ!」 肩をつかんでゆすぶられて、ようやく呼ばれているのに気付いたらしい。 なんでもありません、と笑う顔は、やはり何かをごまかしている顔だ。 ルイズの胸が不安で軋んだ。 サララが何処か遠くへ行ってしまいそうで寂しい、と心中をよぎり そもそも彼女は遠くからこちらへ来ているだけで、いつか帰ってしまうのだ、と 今まで忘れていたその事実がルイズの胸をさらに軋ませた。 顔を曇らせた彼女に、サララは気付かない。未だに考え事をしていたから。 彼女が思い出していたのは、おとぎ話だった。 一人の魔女が鍋いっぱいに集めたアイテム。 それにこめられた人々の想いの力で、世界が出来たのだという魔女に伝わるおとぎ話。 今まで考えて見たこともなかったが、この世界もサララの故郷と同じように 『魔女』が作り上げた近くて遠い世界なのかもしれない。 だったら、帰るための手段はきっと見つかるはずだ。 頑張って探してみよう、サララは決意を新たにした。 こちらでの生活も楽しいけれど、自分はだんじょんの町の商人なのだ。 あんまり長く、店を空けておくわけにはいかない。 そう決意したサララは、ルイズの顔が不安げなのに気付かなかった。 所変わって、アルビオンのとある場所。 数百年は経たであろう廃墟の片隅に奇妙な紋様があった。 円陣の中に六角星が描かれたその紋様が突如として光る。 光が消えると同時に、そこに人影が現れた。人影、と言ったがその姿は人間とは程遠かった。 青白い肌、銀の髪。ハルケギニアでは月目と呼ばれる左右で色の違う瞳。 だが何よりもその人影を異形たらしめているものは、背に生えた闇色の翼だ。 「なるほど……エンペルが言っていた『ハルケギニア』とやらはここか」 空を見上げる。二つの月が照らす世界は人影には少々眩しいようだった。 「だが、これくらい明るい方がアイツを見つけやすいな」 人影は独りごちて地面を蹴る。片方しか翼がないにも関わらず、 並み大抵の鳥よりも早く人影が夜空を翔けていく。 「魔力こそ多いが、アイツの魔力は独特だ。すぐに見つかるだろう」 空を翔けながら、人影はここへ来るまでのことを考える。 魔族である自分を、他の人間と分け隔てなく接する変わった魔女。 その魔女が行方不明になってから三十回以上月が巡った。 ダンジョンの中で倒れたとは聞かないが、黙って居なくなるような魔女ではない。 あちらこちらで魔女の安否を問う声がささやかれ始め、 彼自身も物足りなさを感じていた時に、部下の一人から彼女の匂いがして問い詰めた。 問い詰められた部下の言葉で、この世界に魔女が居ることが判明した。 それを知って、何故だか居ても立ってもいられずに迎えに来たのである。 魔族の少年は名をアイオンといい、時期魔王候補であり、サララの店の常連客であった。 前ページ次ページ使い魔はじめました
https://w.atwiki.jp/cardsummoner/pages/262.html
オンモラキ No.079 凶鳥 ☆ ● M2 DL 飛 AP1/HP2 F・ブレイク M0 プリペアーフェイズに自動的に発動する。 このナカマはF・ブレイクの能力を持つ。 『封じられないかぎり自動的に発動する』 鳥の姿をした妖怪。 供養をされなかった者の死体がオンモラキになるといわれる。 解説 飛行仲魔は飛行している分サイズが小さくなるが、それでもAP1ではF・ブレイクはあんまり役に立たない。 入手方法
https://w.atwiki.jp/mangaaa/pages/1659.html
183 名前:_[] 投稿日:01/12/12(水) 12 25 モンモンとモンチャック _, ,--――-- √ / | \ `ヽ i / | \ | ̄ ̄フ |-⌒ー⌒ー‐┴―┤ / | 、, , 、, , }二 | ̄ | O O く 二 |,.__ | (●●) / ヽ二|/⌒;`; γ(二二∪∪二! | =| !__// ! // / /| |= |ー‐ ゝ/ ー‐ / ゝ __丿ノ \_/ ̄ ̄ ̄ ___;--、 / ̄  ̄``ヽ (―---、_ | i ⌒ー‐⌒ヽ二ニニ) | 、, , 、, , }二 | | O O く 二 |,._ | (●●) / ヽ二| `; γ(.二二二二! | =| / ! // / /| |= |ー ゝー‐ / ゝノ/ `iー" ̄ ̄ ̄| | ! !_ __// `ー-ニ--‐
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6499.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでしまった翌日の夕方。 「解除薬が作れない、ですってぇ!!?」 「す、すいませぇん……」 その惚れ薬の製作者であるモンモランシーは、エレオノールに怒鳴られていた。 「どういうことよ!?」 「それが、その……解除薬の調合に必要な秘薬の『水の精霊の涙』が、売り切れで……」 「っ………、…っ」 エレオノールは昨晩ベッドの中で『眠れない夜』を過ごしたため、目の下にクマを作って明らかに寝不足な状態であった。 何せユーゼスが目覚めて最初に目にした光景が、『どんよりした目で自分を見るエレオノール』だったほどなのである。徹夜をしたと言ってもいいだろう。 モンモランシーの作った『眠気覚まし用ポーション』で一時しのぎはしているが、それも所詮は気休めに過ぎない。眠気は隙あらば襲って来ようとしている。 そんな寝不足な状態でいきなり頭に血が上ったせいか、エレオノールはクラリとめまいに襲われた。しかし頭をブンブンと振って強制的に意識をハッキリさせると、モンモランシーへの詰問を再開する。 「くっ……、……次に手に入るのはいつなの?」 「ラグドリアン湖に住んでる水の精霊と接触が出来なくなったみたいですから……、多分もう、絶望的なんじゃ……?」 「何ですってぇ!!?」 「……少し冷静になれ、ミス・ヴァリエール」 激昂したエレオノールがモンモランシーの胸倉を掴もうとしたが、後ろで話を聞いていたユーゼスがエレオノールに声をかけてそれを制止する。 「お前は確かに優秀ではあるが、感情のコントロールが不得手なのが最大の欠点だな」 「あなたは感情をコントロールしすぎよ!」 「そうか? 自分ではかなり苦手な方だと思っているのだが」 「あなたが感情的になってるところなんて、今まで見せたことないじゃないの!」 「……むぅ~……」 感情の薄い銀髪の男性と、感情むき出しの金髪の女性のそんなやり取りを見て、カヤの外に置かれた桃髪の少女は不満そうに頬を膨らませた。 「ユーゼスは、やっぱりエレオノール姉さまの方がいいの? わたしより姉さまと一緒にいたいの?」 「む?」 不安そうな顔で自分の使い魔を見上げるルイズ。 ユーゼスはその問いかけに『ふむ』、と頷いてしばらく考え込んだ後、 「……そうだな、少なくとも今の御主人様よりは『共にいたい』と思うが」 サラリとそんなことを口走った。 「!」 「…………!!!」 その言葉に、ヴァリエール姉妹は過敏に反応する。 「うぅぅぅううう~~……!」 「なっ、ななな、いきなり何を言ってんのよ、あなたは!!」 ルイズは涙目でポカポカとユーゼスの背中を叩き、エレオノールは強めに一度だけバシンとユーゼスの頭を叩いた。変なところで似ている姉妹である。 ……ちなみに他の面々は、と言うと……。 「何とまあ、臆面もなくあんなセリフを言うとは……」 「うーむ、アレは狙って言っているのだろうか……。それとも何も考えていないのか……」 「あたしは『何も考えていない』だと思いますけどねぇ。『朴念仁』って言葉が服着て歩いてるようなあの男が、意識してあんな言葉を言えるワケありません。 ……大体、狙って言ってるとしたら相当な恋愛巧者ですよ、アレ」 「やはり君もそう思うかね、鳥くん。……だが、『下手に言葉を並べ立てるよりも、単純な一言の方が女性の心を打つこともある』というのは意外に真理かもしれないな……」 「あたしの名前は『鳥』じゃなくてチカです。……まああたしも昨日悟ったんですけど、回りくどいやり方よりはそっちの方が効果的なこともあるっぽいんですよねぇ。 特にエレオノールさんとか、ルイズさんとか、それと貴族のボンボンさんのお相手のお嬢さんみたいな、『素直じゃなくて少々ひねくれてる方』には」 「僕は『貴族のボンボン』じゃなくてギーシュだ。あとモンモランシーはひねくれてないぞ、多分。……しかし『女性を口説く時には最大限の言葉を尽くす』というのが僕のポリシーであって……」 「……そんな風に『他の女性を口説くこと前提』で話を進めてるようだから、彼女の愛想が尽きかけてんじゃないですか?」 「何気に失礼なヤツだな、君は!」 ギーシュとチカのコンビは、ユーゼスたちをダシに親交を深めており。 「ほう……。一段階クラスが異なるだけで、随分と可能な範囲が異なるようですね……」 「あぁん、シュウ様ぁ~♪」 シュウはユーゼスが製作したレポート(エレオノールの添削つき)を次から次に読みふけり、ミス・ロングビルはウットリしながらそんなシュウに張り付いていた。 ……なお、ミス・ロングビルはその本名が知れ渡ってしまうとかなり問題になってしまうため、魔法学院内においてシュウと二人きりでいる時以外は『ミス・ロングビル』で通すことにしている。 「と、ともかく!」 何だか微妙な空気になりつつあったユーゼスの研究室内で、エレオノールはゴホンと咳払いをした後に高らかに宣言した。 「取り寄せが望めないのなら、こっちからラグドリアン湖に行くしかないわ!!」 「えええええっ!? が、学校はどうするんですか!? それに水の精霊は滅多に人間の前に姿を現さないし、しかも物凄く強いし、怒らせでもしたら……!!」 「学校なんてサボりなさい。1日や2日休んだくらいでどうなるものでもないわ。……それに、モンモランシ家はその『水の精霊との交渉役』を代々勤めて来たんでしょう。ご機嫌取りの方法くらい伝わってないの?」 「そんな都合の良い物があったら、苦労してません……!」 アワアワしながらラグドリアン湖行きを回避しようとするモンモランシーだったが、続いてエレオノールが放った言葉によってその態度は一変する。 「じゃあ、王宮にあなたの所業を……」 「い、行きますぅぅぅうううううう……! …………ううぅっ」 さすがに自分の将来や命、家の衰退までかかってしまっては頷かざるを得ない。 「安心してくれ、恋人よ。僕がついてるじゃないか」 ガックリと肩を落とすモンモンランシーに対して、ギーシュが肩を抱こうとするが……。 「……気休めにもならないわ。あなた、弱っちいし」 モンモランシーはスルリとその手をすりぬけ、ボソッと呟いた。 ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲んでから、2回目の朝。 『今日はもう日が暮れかけているし、出発は明日の朝にしよう』ということであの場は解散となり、ユーゼスは今、ルイズの部屋のベッドの上で睡眠を取っていた。 なお、移動手段はジェットビートルを使うことになっている。 シュウによればプラーナコンバーターの調整は既に終了しているらしいので、もうプラーナ切れを起こす心配はないだろうが、操縦者であるユーゼスはいち早く起床して発進準備を進めなくてはならない。 「……む」 目を閉じたままで、意識が覚醒する。 現在時刻は、起床予定時間ピッタリのはずだ。 クロスゲート・パラダイム・システムを使えば、目的通りの時間まで完全に熟睡し、更に眠気の余韻などを残すことなく完全に目覚めることなどは造作もないのである。 (……イングラムに知られたら、卒倒されそうな使い方だが……) まあ、特に因果律を乱しているわけでもないのだから、大目に見てもらおう。 「……………」 身体の状態を確認してみると、どうやら自分は今、右半身を下にして横向きで寝ているらしい。眠る直前には仰向けだったはずなのだが……おそらく寝返りでも打ったのだろう。 「ふむ」 少し身じろぎして目を開く。 すると、目の前にエレオノールの寝顔があった。 (そう言えば一昨日と同じく、昨日も御主人様とミス・ヴァリエールと三人で眠ったのだったか……) 再び『三人での睡眠』に至った経緯については、以前の焼き直しになるので割愛する。 「……………」 「……すぅ……すぅ……」 エレオノールは昨日よく眠れなかった反動か、今日はよく眠っているようだ。『眠れなかった理由』は自分にはよく分からないが。 眠る前にあおった、睡眠導入用のポーションも効いたらしい。 (……起こすのも気が引けるな) 音を立てないよう、慎重に身体を起こそうとするユーゼス。 だが、それがかえって動きにぎこちなさを生じさせてしまい、結果としてユーゼスとエレオノールの膝がガツンとぶつかってしまう。 「ぬ……」 「…………んぅ、ぅ……?」 (いかんな……) エレオノールの瞳が開き始める。 「ぁ……ユー、ゼス……?」 どうやらほとんど覚醒しつつあるようだ。 ……起こすつもりはなかったのだが、起こしてしまった以上は謝るしかあるまい。 いや、それよりも先に挨拶をするべきか。 「お早う、ミス・ヴァリエール」 (……しまった) 挨拶をしてから気付くのも何なのだが、自分もエレオノールも、まだお互いに横になっているままだった。 せめて起き上がってから挨拶をするべきだった。これでは礼を失することになってしまう……と後悔するが、すぐに『それも含めて謝ろう』と切り替える。 ―――ユーゼス・ゴッツォという人間は、一度執着し始めた対象に対しては『死ぬまで』執着するのだが、割り切るべきだと判断した対象に対しては恐ろしいまでの割り切りを見せるのである。 ともあれ、ユーゼスからの目覚めの挨拶を受けたエレオノールは、徐々にではあるが意識をハッキリとさせていった。 「…………ぅゅ……、ぉはょ……………、……!?」 自分と相手との距離を認識し、自分の体勢と言うか姿勢を認識し、そして相手の姿勢も認識し、自分の今の服装を思い出し、『自分が現在置かれているシチュエーション』を確認し……。 「き、き、きゃぁぁあああああああああああああああああああああ!!!??」 「ぐぅ!?」 軽いパニックに陥って絶叫しながら、エレオノールはユーゼスの腹部に蹴りを叩き込んだのであった。 「わ、わわ、高い! 速い! 凄い! 何この乗り物、一体何なの!!?」 「はっはっは。モンモランシー、興奮するのは分かるけど落ち着きたまえよ? 迂闊に動いたら危険だからね」 『初めてジェットビートルに乗ったハルケギニア人』として非常に正しいリアクションをするモンモランシーと、そんな彼女をたしなめるギーシュ。 ギーシュとてビートルに乗り込むのは二度目なのだが、少なくとも初回よりは余裕のある態度であった。 何せ、今回は前のようにいきなり猛烈な加速はしていないし、ユーゼスも操縦に慣れたのか振動やグラつきが少ない。要するにかなり快適なのだ。 「しかし、これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー! ホホホホ!!」 旅行気分、精神的な余裕、更にモンモランシーの前という状況のせいかテンションが上がって浮かれまくるギーシュ。 「ええい、邪魔だな、この『べると』とか言うのは!」 ベルトで固定された状態から身をひねって窓の外を眺めるのがわずらわしくなったのか、ギーシュはガチャガチャとその金具を外し、立ち上がる。 「そろそろ着陸するぞ」 「え?」 そしてギーシュが立ち上がった瞬間、ユーゼスの報告と共にガクンと機体が揺れた。 固定器具を外した上に、座席に腰掛けてすらいないギーシュは当然バランスを崩し……。 「うぉおおおおおっっ!!?」 盛大に頭から転んで、派手に顔面を床に叩き付けることとなった。 「い、痛い、痛いぃぃぃいいいいいいいい!!」 「……はあ。やっぱり付き合いを考えた方がいいのかしら」 鼻血を流してのた打ち回るギーシュを見て、モンモランシーが溜息をつきながら呟く。 一方、そんな彼らには構わず、ユーゼスはゆっくりとビートルを着陸させつつラグドリアン湖を眺めていた。 「ほう、美しい湖だ……」 これはユーゼスの素直な感想であったが、その言葉に過敏に反応する者がいた。 「……ね、ユーゼス」 ジェットビートルを操縦しているユーゼスの膝の上に座っている、ルイズである。 ビートルを発進させる際、一人で座席に座るのを嫌がって駄々をこねまくり、まんまと『絶好の位置』を獲得したのだ。 ルイズは少し拗ねたような顔で、愛しい使い魔に問いかける。 「わたしとラグドリアン湖と、どっちが綺麗?」 「む?」 いきなりそんな質問をぶつけられたので、ユーゼスは少々困惑してしまう。 だが、問われたからには答えねばなるまい。 と言うか、そんな質問の答えなど考えるまでもなく決まっている。 「ラグドリアン湖だな」 「!!」 ガーン、とショックを受けるルイズ。 ……そもそもユーゼスは『人間の“外見の”美醜』に対して、あまり興味がない。 そのような時代・世代・国・地域・個々人の判断や精神状態によって評価が大きく異なるような薄っぺらいモノなどに、価値を見出せないのである。 強いて言うなら『人間の“生き方”の美醜』、あるいは『人間の“在り方”の美醜』に対しては惹かれる物を感じはするが、少なくとも現在のルイズからそれは感じない。 『外面的な美しさ』でユーゼスが感じ入るのは、やはり自然などの『普遍的なモノ』に対してのみだ。 「う、うぅぅう~~~……!!」 しかしそれを『恋は盲目』状態のルイズが理解も納得も出来るはずがなく、ポカポカとユーゼスの胸を叩くことで抗議の意をアピールする。 「ぐっ……。叩くのはやめろ、御主人様」 苦悶の表情を浮かべて主人の行動を止めさせるユーゼス。 そんな苦しそうな様子を見て、ルイズは途端に心配そうな顔でユーゼスの身体をさすり始めた。 「どうしたの、ユーゼス? 身体の具合が悪いの?」 「……いや、今日は起きた直後に、腹部に強い衝撃を受けたのでな。そのダメージが残っている」 言った直後に、ガタンと隣で音がした。 その方向を見れば、エレオノールが赤い顔をしながら横目でこちらに視線を向けている。 「…………ともあれ、着陸するぞ」 ユーゼスはあえて言及せず、手頃な場所にビートルを着陸させた。 「着きましたか、ユーゼス・ゴッツォ」 先にラグドリアン湖に到着していたシュウとミス・ロングビルが、ユーゼスたちを出迎える形で歩いてくる。 この二人はネオ・グランゾンを使って移動していたのだが、さすがに戦闘機程度でネオ・グランゾンのスピードに敵うわけもなく、こうして大きく引き離されたのだ。 「……ネオ・グランゾンはどこに隠した?」 「そこの森の中です。『かくれみの』は使っていますから、余程のことがなければ発見されることはありませんよ」 そしてシュウはラグドリアン湖を見回して呟いた。 「しかし、この景観……さすがはトリステイン随一の名所と言われるだけのことはありますね。水の精霊がここに存在しているということも納得がいきます」 「……シュウ様、シュウ様」 「何です、ミス・ロングビル?」 その呟きを聞いたミス・ロングビルは、若干の期待を込めた態度でシュウに尋ねた。 「私と、このラグドリアン湖……どちらが綺麗ですか?」 ピク、とルイズが反応する。 シュウは一瞬だけ妙な動きをしたルイズに目をやるが、すぐに気を取り直してミス・ロングビルへと返答を行った。 「難しい質問ですね……一概に比べることは出来ません。何せ『美しさ』の種類が異なります。物理的な『強さ』と精神的な『強さ』を同列に扱うことが困難なようにね」 「そうですか……」 シュン、となるミス・ロングビル。 しかしそんな緑髪の女性に、紫髪の男は続けて声をかける。 「ですが、この湖が『この湖にしかない美しさ』を持つように、あなたには『あなたにしかない美しさ』があります。 それが外面的なものなのか、内面的なものなのかはそちらの判断にお任せしますが、それを生かすも殺すもあなた次第だということは覚えておいて下さい」 「……あ、はいっ、シュウ様!」 その言葉を聞いた途端、ミス・ロングビルはパッと表情を明るくする。 なお、他にそのやりとりを聞いていた面々は、『よくあんなセリフがサラッと出て来るなぁ』と感心する者、ジトッと自分の使い魔を睨む者、『おお、ああいう風に言えば……!』と学習する者、そんな馬鹿の頭を叩く者、と様々なリアクションを見せていた。 ともあれ、いつまでも喋ってはいられない。 早速、水の精霊とやらとの交渉を行わなければならないのだが……。 「……変ね、湖の水位が上がってるわ」 「水位だと?」 「ええ。ラグドリアン湖の周辺は、ここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね」 「ふむ……」 モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。 ユーゼスとエレオノールとシュウの研究者組が首を傾げていると、モンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手をかざして目を閉じる。 「……水の精霊は、どうやら怒っているようね」 「ほう、よく精霊の感情などというものが分かりますね。契約でもしているのですか?」 感心したように言うシュウ。 「『契約』じゃなくて、どっちかって言うと『交渉』に近いです。『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めてきましたから」 「『務めてきた』……過去形ですね」 「うっ……そ、それは……」 シュウの指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。 ちなみに、モンモランシーはシュウに対しては敬語を使っている。 「察するに、交渉時に何らかの不手際、あるいはトラブルが発生して交渉役を解約された……というところですか?」 「……その通りです」 その推察がほとんど的を射ていたので、モンモランシーとしても肯定せざるを得ない。 「しかし『長年に渡って交渉役を務めてきた』というのが事実であれば、我々のような何の繋がりもない人間が接触しようとするより、よい結果を得られる可能性があるでしょう。ではお願いしますよ、ミス・モンモランシー」 「……はい」 若干シュウに気圧されつつも、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出し、自らの血液を媒介として水の精霊との交渉を開始した。 岸辺より30メイルほど離れた水面が輝き、ゴボリとうねり始めた。そして見る間に水面が盛り上がり、その水はぐねぐねと形を変え続ける。 「アメーバ……不定形生物か?」 「いえ、さすがにそれを『精霊』呼ばわりはしないでしょう。不定形という点では共通しているようですが、本質的には全く異なる存在のようです」 「……ユーゼス、『あめーば』って何のこと?」 「……後で説明する。今は水の精霊とのやり取りに集中するべきだ、ミス・ヴァリエール」 研究者組の言葉の応酬に構わず、モンモランシーは姿を現した水の精霊に話しかけた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」 その言葉に反応したのか、水の精霊とおぼしき水のカタマリは大きくうごめいて、人の―――モンモランシーの姿を模して彼女と会話を始める。 「…………覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が52回交差した」 「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」 「……………」 沈黙する水の精霊。 そんなモンモランシーと水の精霊の交渉をじっと見ているユーゼスたちは、それぞれの考察を交えながらこの『水の精霊』について議論を行っていた。 「一部……ということは、アレは水の秘薬の集合体なのか?」 「『水の精霊の涙』って名目で秘薬が市場に出回ってるくらいだから、そのはずよ。まあ、精霊がホントに涙を流すわけがないとは思ってたけど」 「私としては、精霊に『形』があることの方が驚きですね。ラ・ギアスの精霊は人と心を通わせることはままありますが、このように物理的な形をとって『会話』を行うとは……」 「ふむ。水そのものに意思があるのか、何らかの意識体が水を媒体として意思を現出させているのか……ただ見ているだけでは判断が付かんな」 「『水の精霊は個にして全。全にして個』って話は聞いたことがあるわ。『千切れても繋がっていても、その意思は一つ』とも。少なくとも、私たちとは全く違う生き物なのは確かね」 「『生き物』と分類が出来るのかどうかも、議論が分かれるでしょうね。 ……精霊レーダーやREBスキャンを使えば何らかの分析結果が出るでしょうが、それを察知されて下手に機嫌を損ねられるわけにもいきません」 「私のシステムも同じ理由で使えないな。……アレが因果律を感知する可能性もゼロではない」 「ちょっと、『れーだー』とか『すきゃん』とか『しすてむ』とか、何の話?」 「我々の出身地の技術だ。長くなるので詳しい話は避けるが……、しかし分析結果か。許されるのなら、ぜひじっくりとアレを研究してみたいものだ」 「確かに。私もかなり興味があります」 「それについては同意するわ」 ユーゼスとエレオノールとシュウは、水の精霊をほとんど実験動物のように見ているが、そこには特に気負った様子も後ろめたさもない。 この3人は、良くも悪くも『研究者』であった。 そしてしばしの沈黙の後、モンモランシーの願いに対して水の精霊はキッパリと告げる。 「断る。単なる者よ」 その言葉を聞いて、今まで興味深げに水の精霊を観察していたエレオノールの表情が一変した。 「ちょ、ちょっと待ちなさい! ルイズはどうするのよ!?」 ずい、とモンモランシーを押しのけて水の精霊と対峙するエレオノール。 「ミ、ミス・ヴァリエール、水の精霊を怒らせたらどうするんですか!?」 「ミス・モンモランシ、あなたも交渉役を自称するんだったら、もう少し食い下がりなさい! ……とにかく、水の精霊! 私の妹のために、あなたの身体の一部を分けてちょうだい!!」 「……………」 エレオノールが叫ぶが、水の精霊は何も答えない。 「お願い! 何でも言うことを聞くから―――」 頭まで下げて、悲痛に訴え続けるエレオノール。 プライドの高い彼女がそこまでしたという事実に、他の面々は驚いたり感心したりしていた。 その訴えに効果があったのかどうかは分からないが、水の精霊はまたぐねぐねと何度も姿を変え、再びモンモランシーの姿に落ち着くと一つの問いを投げかけた。 「世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は『何でもする』と申したな?」 「い、言ったわ!」 一縷の望みが出て来たことで、エレオノールの顔に喜色が差す。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治して見せよ」 「退治?」 一同は顔を見合わせる。 「左様。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治すれば、望み通りに我の一部を進呈しよう」 「……分かったわ。引き受けましょう」 「ええええっ!!? そんな安請け合いしないでくださいよぉ!!」 「うるさいわね。お望みなら、牢獄の中で一生を送らせてあげても良いのよ? それで問題が解決するわけじゃないけど、少なくとも私の不満は少しだけ解消されるでしょうから」 禁制の惚れ薬を作ったことを、あることないこと付け足した上で王宮に報告してやる……と、エレオノールはモンモランシーを暗に脅しているのである。 このカードを切られてしまっては、モンモランシーは嫌でも協力せざるを得ない。 「うう、分かりました……。協力させていただきます……」 「じゃあ取りあえず、その相手の情報を聞きましょう」 こうして一同は、水の精霊に対する襲撃者とやらを撃退することになったのだった。 「私は直接には手を出しませんよ」 では作戦会議を……という段階になるや否や、いきなりシュウが言い放った。 「ちょ、ちょっと、どうしてよ? あなたのあの……デモンゴーレム? だっけ? アレはかなり戦力になると思ってたのに、いきなりそんな……」 エレオノールはその言葉に面食らいつつも、何とか引き留めようとする。……貴重かつ強力な戦力を、みすみす手放すわけにはいかないのだ。 ちなみにネオ・グランゾンのことを知っているのは、この場ではシュウ以外にユーゼスとミス・ロングビルだけである。 「デモンゴーレムなどを使ってしまっては、このラグドリアン湖周辺の地形が変わってしまいますからね。それはあの水の精霊としても望むところではないでしょう。 それに……」 「そ、それに?」 シュウは、自身の『根幹』とも言えるセリフを口にする。 「いかなる世界であろうと……私に命令が出来るのは、私だけなのです」 「っ……」 圧力を感じ、エレオノールは思わず一歩後ずさった。 しかし、そんなエレオノールをかばうようにしてユーゼスが割って入る。 「……そこまでにしておけ、シュウ・シラカワ」 「フッ……、そうですね。少し脅かしすぎましたか」 肩をすくめつつ、薄い笑みをエレオノールとユーゼスに向けるシュウ。 「『直接に手を出すことはしない』とは言いましたが、アドバイス程度ならば構いません。『手は出さないが口を出す』、ということです」 「ほう……良いスタンスだ。私も見習わせてもらおう」 シュウの宣言に対してユーゼスは感心したように呟くが、即座にエレオノールから口を挟まれた。 「って、あなたは前衛で戦うに決まってるでしょう!!」 「私が? 何故?」 「あなたのそのインテリジェンスソードはメイジに対してかなり有効な防御手段になるんだから、当然よ!!」 「……別に私が使う必然性も無いのではないか? 御主人様あたりでも構わないはずだが」 「…………この中で『武器を上手く使うこと』に関して、あなた以上の人間がいる?」 「ミスタ・グラモンのワルキューレならば、あるいは……」 「あんなドットメイジが作ったゴーレムごときが、腕の立つメイジ相手にそうそう役に立つわけないでしょうが!!」 「何気に馬鹿にされてないか、僕……?」 「でも事実でしょ」 話を聞いて微妙な表情になるギーシュと、それにツッコミを入れるモンモランシー。 ついでに言うと普通にガンダールヴを発動させた時の『生身の』ユーゼスの戦闘力は、通常のワルキューレ3~4体分ほどである。 「ミス・ロングビルはどうする? そう言えば戦えるのかどうかも知らないが」 「私はシュウ様が命じられるのであれば戦いますが……」 とろんとした目でシュウを見るミス・ロングビル。 「ふむ……。あなたの戦法では、私と同じようにこの辺りの地形に影響を及ぼしてしまうでしょうね。ここは私と一緒に観戦していましょう」 「はい、分かりましたぁ。……シュウ様と一緒に……シュウ様と……」 うふふ、とミス・ロングビルは笑みを浮かべながらシュウの台詞を反芻する。 ユーゼスは続いてモンモランシーの方を向き、一方的に彼女の参戦決定を告げた。 「ミス・モンモランシは参戦してもらうぞ」 「ええっ!? 嫌よわたし、ケンカなんて!!」 「戦闘において水メイジは重要だからな。試してみたいこともある」 「どうしてわたしがあなたの実験台にならなくちゃいけないのよ!?」 「……いやモンモランシー。ユーゼスが一度こうなったら、もう彼がある程度納得するまでは開放してくれないんだよ……」 「何それ!?」 諦めたように言われたギーシュのセリフに、モンモランシーは悲鳴を上げるのだった。 「では、戦闘に参加するのは私と、ミスタ・グラモン、ミス・モンモランシに……御主人様か」 「…………ちょっと、何で最初からミス・ヴァリエールが除外されてるのよ?」 戦闘メンバーを発表するユーゼスに、モンモランシーが噛み付く。……自分の時は問答無用で参入させたのに、この扱いの差は一体何だと言うのだろうか。 「………」 そしてそのモンモランシーの言葉で、あらためて自分が『最初から』除外されていることに気付いたエレオノールがユーゼスの方を見て、他のメンバーもまた同じくユーゼスを見た。 「……説明が必要か?」 「必要よ!」 ユーゼスは仕方なさそうに、エレオノールが戦闘メンバーに含まれていない理由を説明した。 「ミス・ヴァリエールは、理論の組み立てや『魔法の使い方』の運用・応用方法の考案については目を見張るものがあるが、決定的に直接戦闘に向いていないからだ」 「わたしだって向いてないって言ってるじゃない!」 「サポート程度ならば出来るだろう? 何も先頭に立って戦えと言っている訳ではない」 モンモランシーは納得の行かない顔でユーゼスを睨むと、ポツリと小声で言った。 「……あなた、何だかミス・ヴァリエールに甘くない?」 「む?」 「なっ……!」 「え……っ!?」 僅かに反応するユーゼスと、うろたえるエレオノール、そして一気に不安そうな顔になるルイズ。 「そんなつもりは無いのだが」 「そうかしら……」 しれっと否定するユーゼスに対してなおも訝しげなモンモランシーだったが、そこにエレオノールが口を出してきた。 「そ、そうよ! ヤブから棒に変なこと言わないでちょうだい! そんな、ユーゼスが私だけ特別扱いしてるとか、私のことを守ろうとしてるとか、私のことを大切に思ってるとか……そんなことは全然、別に、あんまり、そんなに、少しも……いえ、少しくらいは……とにかく無いかも知れないはずなんだから!!」 少々パニックと言うか暴走しながら、否定なのか肯定なのか判断の付きにくいアピールを行うエレオノール。 「……お前は何を言っている、ミス・ヴァリエール」 そんな支離滅裂なことを口走る金髪の女性に、銀髪の男は冷静にツッコミを入れた。 「…………そこでアッサリ切って捨てないでよ、もう」 「? 何か言ったか?」 「何にも言ってないわよっ!!」 「……?」 顔を赤くしながら怒るエレオノールに、ユーゼスは首を傾げる程度しかリアクションが出来ない。 ―――そして、モンモランシーの言葉に過剰に反応する人物は、エレオノール以外にもう一人いた。 「うっ……、ううぅ……っ、ひっく、ぐすっ……」 言わずもがな、惚れ薬の影響の真っ最中にあるルイズである。 「や、やっぱり……ひっく、やっぱりユーゼスは、わたしよりエレオノール姉さまが……良いのね、うぅ、好きなのね……うっ、うぅっ」 「……またか」 どうしてこの状態のルイズは、やたらと自分とエレオノールの関係を意識するのだろう……と、再び首を傾げるユーゼス。 「いいもん、いいもん……勝手にすれば? ……ぐすん。 で、でも……わたしのこと嫌いにならないでぇ~! うわぁぁあ~~ん!!」 泣いたり怒ったり、わめいたり叫んだり、すねたり駄々をこねたり、と酷く情緒不安定な様子である。 ユーゼスとしては『泣いている女性への対処』など、どうすれば良いのかサッパリ分からないので、取りあえず放っておくことにしたのだが……。 その内、ミス・ロングビルがそのルイズの言動に触発されたのか『わ、私を捨てないでください、シュウ様ぁ~!』とシュウに泣き付き始め、余計にワケの分からない事態になってしまった。 「ぐぅ……」 「……すぅ」 ラチが明かないと判断したシュウの手によって、ルイズとミス・ロングビルは眠らされ、ようやく正常な作戦会議がスタートする。 「ではまず、相手の情報についてだが……」 「水の精霊の話によると、『背の低い風系統のメイジ』と『背の高い火系統のメイジ』の二人らしいですね。直接に水の精霊のテリトリーである水中に入り込んで攻撃を仕掛けている以上、かなり自分の実力に自信がある……と見て良いでしょう」 なお、この会議の司会は『対フーケ会議』と同じく、ユーゼスである。 「となると……この際、敵の実力はスクウェアクラスと仮定しておくべきだな」 「……それはちょっと、高く見積もりすぎなんじゃないかしら。スクウェアメイジなんて、そうそうお目にかかれるものじゃないわよ?」 『敵の実力』の見当を付けたユーゼスに対して、エレオノールが意見を出した。 確かに水の精霊に挑むくらいなのだから『敵』の実力はかなり高いのだろうが、スクウェアが二人というのは過大評価が過ぎると考えたのである。 「一理あるが、敵の実力は高く見積もっておくに越したことはあるまい。相手の力を低く見積もって、結果として敗北した例を私は数多く知っているぞ」 「まあ、そういうことなら良いけど……」 そしてユーゼスは『仮想敵』に対するイメージを明確にするべく補足を行う。 「……ミス・タバサとミス・ツェルプストーをそれぞれグレードアップさせた相手を、同時に敵にすると思えば良いだろう。連携を使うことも考えられるから、それもあの二人のレベルを上げれば良い」 良い手本が身近にあって幸運だ、と頷くユーゼス。 その言葉にギョッとしたのは、ギーシュとモンモランシーである。 「ちょっ、ちょっと待ってくれ! サラッと言うが、『あの二人をグレードアップさせて同時に敵に回す』ってメチャクチャな前提条件だぞ!?」 「そうよ、大体キュルケとタバサがスクウェアになったら、ドットのわたしたちじゃ対処のしようが……。……いや、でも、あくまで仮定の話だし……」 この二人は、要するに『もう少しハードルを下げようよ』と言っているのである。 そんなカップル未満の二人に対し、ユーゼスは冷静に告げた。 「……では、現れた敵が本当に二人ともスクウェアクラスの実力者で、ミス・タバサとミス・ツェルプストー以上の連携を見せた場合、どうするつもりだ? 『ここまで強いとは思っていなかった』とでも言いながら敗北するか?」 「「うっ……」」 言葉に詰まるギーシュとモンモランシー。そう言われてしまっては、言い返すことも出来ない。 「では、前提条件も決まったところで、作戦立案に入るが……」 「……その前に、少しよろしいでしょうか?」 それぞれの意見を出し合おう、という段階になって、シュウが口を挟んでくる。 「何だ、シュウ・シラカワ?」 「『前提条件』……と言いますか、ユーゼス・ゴッツォはともかく、ミスタ・ギーシュとミス・モンモランシーにはお話をしておきたいことがあります」 「え? 僕たちに?」 「な、何でしょう……」 身構える二人に向けて、シュウはある確認を取る。 「ミス・モンモランシー。あなたは先程、『ケンカは嫌だ』と言っていましたね? そしてミスタ・ギーシュもその言葉に対してあまり反応はしなかった……これはミスタ・ギーシュも戦闘行為に対しては同じ見解、と捉えてよろしいのでしょうか?」 ジッと見られて、ギーシュとモンモランシーは怯みつつも答えた。 「ま、まあ、生身の人間相手には、ちょっと……。ワルド子爵は『偏在』で作られた分身だったし……」 「ケンカが好きな人なんて、そんなにはいないと思いますけど……」 シュウはその言葉を聞くと、二人に向かってキッパリと言う。 「―――では生き残りたいのであれば、そのような甘い考えは今すぐ捨てることです」 「え?」 「そもそも戦闘行為を『ケンカ』と表現している時点で、あなたたちの認識の甘さがうかがえます。 ……これから行うのは『殺し合い』のための作戦会議です。せめて相手を殺す覚悟程度はしておいてください」 「なっ……」 「そ、そんな……!」 言われた言葉に絶句するギーシュとモンモランシー。 「な、何も殺すことはないんじゃ……!」 「ほう、それでは相手が我々のことを『殺しに来ない』という保証がどこかにあるのですか? 下手に手心を加えて、結果は殺された……などと、笑い話にもなりませんよ?」 畳み掛けるように、シュウは言葉を続ける。 「戦いで人が死ぬのは当然のことです。そしてあなたたちメイジには、最下級のドットであろうともそれを容易に行えるだけの力がある。しかしどうしても人を殺したくない、と言うのであれば……」 「……………」 二人は息を呑んで、その言葉を聞いていた。 「……敵を生かすために、あなたたちが殺されることですね」 その非情とも取れる勧告に、ギーシュは声を絞り出すようにして反論する。 「っ……必ずしも、殺す必要はない、はずでしょう?」 「ええ、『今回は』そうですね。……ですが『次の戦闘』は? 特にミスタ・ギーシュ。あなたも一応は貴族の子息であるならば、戦場に立つこともあるはずです。その時に戦場で『人を殺さずに済ませよう』と虫の良いことを言うつもりですか? 相手は確実にあなたを殺しに来ますよ?」 「そ、それは……」 動揺する様子を見せるギーシュ。 この目の前の男に対して何とか言い返そうとするが、上手い言葉が出て来ない。 横を見れば、モンモランシーが不安げな顔で自分を見ていた。 彼女を安心させるためにも、せめて何かを言わなくてはならないのだが……。 「僕は……」 敵を殺す。 たったそれだけのセリフが、どうしてか酷く、重い。 そうやってギーシュが逡巡していると、横から助け舟が出された。 「……シュウ・シラカワ、戦闘前に士気を下げ過ぎるな。全滅してしまったらどう責任を取るつもりだ?」 ほんの僅かに表情を厳しくしたユーゼスが、会話に歯止めをかけたのである。 シュウは悪びれもせずにユーゼスに向き直り、自分の発言の意図を説明した。 「フフ……、これは申し訳ありません。いずれ必ずぶつかってしまう壁ならば、早い方が良いと思ったのですが……余計なお世話というやつでしたか?」 「そんなものは『時期』が来るなり『事件』が起こるなりすれば、本人がどれだけ拒否しようとも身に付いてしまうものだ。意図的に与える類のものではない」 「確かに」 それきり、この話については打ち切られた。 ギーシュとモンモランシーは今の話が少々応えたのか、俯いているが……それに構っている余裕も、それほどない。 そして今度こそ作戦会議を……とユーゼスが場を仕切ろうとしたら、エレオノールが少し緊張した顔で話しかけてきた。 「……ユーゼス、少しいいかしら?」 「何だ、ミス・ヴァリエール? ……先程の心構えについての話なら、お前は直接戦闘に参加はしないのだから―――」 「いいえ。私のことじゃないし、彼らの問題は彼らに考えてもらうわ。ただ……」 「ただ?」 「……一つ、いえ二つだけ聞かせて。あなたは、その……『心構え』が出来ているの?」 「ああ」 何でもないことのように、ユーゼスはエレオノールの問いを肯定する。 シュウとの会話の内容から察しは付いていたが、やはりユーゼスはとっくの昔に『殺す覚悟』を済ませていたらしい。 ……今更ながら、タルブで『作業』のように竜騎士を撃ち落していたことを思い出す。 あの時は色々ありすぎて、ユーゼスの細かい部分にまで注意が回らなかったが……。 「なら、あなたはどうやって……何がきっかけで『心構え』が出来たの?」 「知りたいのか?」 「ええ」 エレオノールとて、普通ならここまでヅカヅカと他人の事情に踏み込んだりはしない。……しかし『ユーゼスに対しては変に遠慮はしない』と、これもあの時に決めたのだ。 「……………」 言ってくれるまで引き下がらない、という意思を込めて、エレオノールはユーゼスを見る。 やがてユーゼスは軽く溜息をつくと、別に構わないかと口を開く。 「…………これはあくまで『私の経験』であって、御主人様やミスタ・グラモンの参考にはならないだろうが」 「別に参考にさせるつもりはないわよ」 やり取りの後で、ユーゼスはごく簡単に『自分の体験』を語った。 「今となっては、何が引き金となったのかすら曖昧だが……。……そうだな、一度目に死んだことが『きっかけ』の一つではあるだろう」 「……どういう意味?」 今まで問われたことに対して淡々と事実を答えていたユーゼス・ゴッツォにしては、随分と抽象的な表現である。 「―――私は今までに、二度ほど死んでいるからな」 「?」 今度は具体的な答えが返って来るだろう、とエレオノールは思っていたのだが、それに対する補足もまた彼女にとっては抽象的なものだった。 「……無駄話はここまでだ。襲撃者の対策について話し合うぞ」 「え、ええ……」 そうして、対象の殺害まで視野に入れた対策会議が始まる。 だが……。 (二度、死んでる……?) 会議を続けながらも、エレオノールの心の片隅には疑問が渦を巻いていたのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1740.html
第二十三章 惚れ薬、その終結 授業が終わった後の風の塔の踊り場にルイズの声が響いた。 「見つからないってどういうことよ!」 「言葉通りの意味だよ。解除薬は見つからなかった」 フーケは少し億劫そうな声で答えた。トリスタニア中の闇魔法屋を回ったため、疲れたのだ。 「念のため、材料についても探してみたんだけどね。どうしても必要な水の精霊の涙が入荷されなくなってるらしいよ。何でも、ラグドリアン湖に住んでる水の精霊たちと最近、連絡がとれなくなっているって話でね」 「何で?」 「さあ、そこまではわかんないね。でも、入荷は絶望的らしいよ」 人一倍真面目に知識を蓄えてきたルイズは水の精霊の涙についても知っていた。水の精霊の涙と言うのは、実際には涙ではなく、水の精霊の身体の一部である。 「それじゃ、タバサを元に戻せないじゃない……」 ルイズは肩を落とした。リゾットの前で「解除薬を手に入れておく」と言った手前、彼が戻るまでに薬を手に入れておかないのはルイズの主人としての沽券に関わる。何より、本人は認めたくないが、タバサがあんな調子では精神的なストレスがたまってしょうがない。 「まあ、そう気を落とす必要はないよ。魔法屋の一つで水の精霊の涙を買った客を聞き出すことができたんだけど、どうやらこの学院の生徒らしい」 「本当に!? だ、誰?」 「ちょっと待ちなよ……」 フーケは興奮して身を乗り出したルイズを片手で制しながら、メモを取り出して読み上げる。 「女性。黒いマントを着用……あんたと同学年だね。金髪碧眼。ツリ眼。体系は痩せ型。胸がない」 気忙しく貧乏ゆすりしていたルイズの身体がぴたりと停止した。 「さ、さささ最後の情報は何? 私へのあ、あてつけ?」 「秘薬を作るってことはまあ、水のメイジだろうね……。って、は?」 怪訝な顔でフーケがメモから顔をあげると、ルイズはこめかみをひくつかせてこちらを凝視していた。笑顔だが、何故かその笑顔が怖い。 ルイズはまじまじとフーケの胸を見た。今まで気にしていなかったため、分からなかったが、よく見ると大きい部類のようだ。 否、はっきりと大きい。オスマンとコルベールをして「けしからん」と言わしめたフーケに、ルイズは圧倒された。 (て、敵……。敵だわ……) ルイズが内心で悶えている間、フーケもまたルイズの胸を見た。なるほど、こちらもあまり気にしていなかったが、ちゃんと見ると、服の上からでもはっきりと分かる。平原だ。大規模な野戦にちょうどいい地形だろう。 (同じ年頃でもこうまで差が出るとはね……) アルビオンで暮らす家族同然に思っている少女の胸と比較し、フーケは思わず哀れみの眼でルイズを見た。胸の大きさが女性の全てだとは思わないが、流石に平原ではコンプレックスにもなろう。 「……」 二人の間に気まずい沈黙が降りる。重い空気にフーケはつい口を滑らせた。 「……始祖ブリミルも残酷なことをなさるわね……」 次の瞬間、ルイズはフーケに虚無を放った。 「……まあ、私からの情報はそんなところなんだけど、誰か心当りはある?」 フーケは服に積もった埃を払いながら尋ねた。ほとんど詠唱せずに放たれたからか、爆発は大した威力ではなかったが、フーケの髪は爆風で乱れ、服は埃まみれになっていた。 (やれやれ、こりゃあリゾットも大変なご主人様を持ったもんだね) そんなことを考えながら髪や服を整えるフーケをまだ少し不機嫌そうに睨みながら、ルイズは考えを巡らせた。この学院には沢山の人がいるが、学年や系統、さらに髪や眼の色、体型まで分かっているなら相手を特定することはさして難しくない。 「モンモランシーかしら。彼女は香水とか、秘薬作りが趣味だったはずだわ」 『香水』のモンモランシーはルイズと同じ二年に所属する水系統のメイジで、ギーシュの恋人であり、リゾットとギーシュが決闘する際、ギーシュに絶縁宣言を突きつけた一人である。 「ああ、彼女か……。それじゃ、彼女に頼んで、譲ってもらうなり、解除薬を作ってもらうなりするんだね。もう使われてたらどうしようもないけど」 「確かにそうね…。今から急いでモンモランシーの部屋に行ってみるわ」 「行ってらっしゃい。私はここで待ってるから、あとで首尾を聞かせて」 フーケの返事を聞くのもそこそこに、ルイズは寮塔に向かって走り出した。 さて、その頃、モンモランシーの部屋では、ギーシュが部屋の主にして恋人を一生懸命、口説き落としていた。この二人、年中くっついたり別れたりしており、今はその瀬戸際なのだ。 と言っても、実はこの手の言い合いは二人にとって年中行事である。今回の場合、そもそもの原因はギーシュが下級生に色目を使ったことに端を発する。 ギーシュにとって『ちょっと念入りに挨拶する』程度のことがモンモランシーの気に障るのだから、衝突は避けようがないのだ。 ギーシュはモンモランシーの機嫌をとるため、部屋の中を行ったり来たりしつつ、薔薇やら水の精霊やら星やら黄金の草原やら、とにかく思いつく限りの美の対象を引き合いに出しながら、既に歌劇一本分ぐらいの台詞を吐き出していた。 流石にモンモランシーもギーシュが可哀想になってくる。モンモランシーとて、ギーシュの気持ちを本当に疑っているわけではない。 何しろ命をかけて秘境から財宝を取ってきて、それを自分にプレゼントするくらいだ。だが、それはそれとして他の女を見るのは気に食わないし、腹も立つ。 どうしようかとしばらく考えていたが、その時、モンモランシーの頭に閃光のように名案が浮かんだ。 すっと、後ろを向いたままギーシュに左手を差し出す。ああ、とギーシュは感嘆の呻きを漏らし、その手に口付ける。 「ああ、僕のモンモランシー……。もう僕は君以外目に入らない……」 続いてギーシュは唇を近づけようとしたが、すっと指で刺された。 「その前に、ワインで乾杯しましょうよ。せっかく持ってきたんだから」 「そ、そうだね!」 テーブルの上には、花瓶に入った花とワインの壜と陶器のグラスが二つ置いてあった。ギーシュはそれらを携えて、モンモランシーを訪れたのである。 ギーシュは慌てて、ワインをグラスについだ。すると、モンモランシーはいきなり窓の外を指差した。 「あら? 窓の外に裸のお姫様が飛んでる!」 「え? どこ! どこどこ!」 ギーシュは目を丸くして、窓の外を食い入るように見つめている。 (なーにーが! 『君以外の女性は目に入らない』よ。やっぱりコレを使わなきゃダメね! 全く、使わなきゃ使わないで済ませたのに……) そう思いながら、モンモランシーは袖に隠した小瓶の中身を、ギーシュの杯にそっと垂らした。透明な液体がワインに溶けていく。 香水のモンモランシーが腕によりをかけて密かに作り出したそれは、早い話が惚れ薬だった。 完全に液体がワインに溶けるのを見計らって、モンモランシーはにっこりと笑った。 「嘘よ。さあ、乾杯しましょ」 「やだなあ、びっくりさせないでくれ」 ギーシュはおどけながらも杯を手に取った。二人の杯が触れ合い、その中身が両者の喉を降りていく。 杯が空になったその時、大きな音を立てて部屋の扉が開き、ルイズが入って来た。 「モンモランシー、話があるんだけど!」 中に居た二人は思わずルイズに視線をやった。そう、ギーシュもである。 「ノックくらいはしたまえ、ルイズ! ………ん?」 「あ!」 モンモランシーが声を上げたが、既に遅かった。ギーシュの中で、ルイズへの好意が急速に膨れ上がっていく。元々ギーシュは女性には好意的であるが、その好意は桁違いだった。 「ああ、ルイズ……、君はなんて美しいんだ……。君に比べればこの世のどんなバラの美しさも霞んでしまうよ……」 そういってルイズの手を取り、その甲にキスをする。 「へ? と、ととと突然、何よ、ギーシュ! 気持ち悪いわね」 不意打ちで自分への賛美を聞かされ、ルイズは思わず照れて、手を引っ込めた。みると、モンモランシーが頭を抱えている。その様子でピンと来た。 「モンモランシー、あんた……まさかと思うけど、惚れ薬をギーシュに飲ませたんじゃないでしょうね?」 途端にモンモランシーの身体がぎくりと跳ねた。 「な、何で分かったの!?」 「やっぱり……。遅かったわ……」 がくりと肩を落とすルイズだったが、ギーシュはその肩を抱き寄せる。 「どうしたんだい、僕の愛しいルイズ? 君にそんな顔は似合わないよ。笑っておくれ。そうだ、元気が出るおまじないをしてあげよう」 そう言ってルイズの頬に唇を寄せる。次の瞬間、モンモランシーとルイズは双子もかくや、というコンビネーションを発揮し、あっという間にギーシュを縛り上げ、床に転がした。 「な、何をするんだね、二人とも。ああ、もしやそういう趣向なのかい? ルイズがしたいなら僕は構わないよ」 などと見当違いのことをいうギーシュを、モンモランシーは怒りに肩を震わせて睨んだ。 「な、何がおまじないよ…! 惚れ薬を飲んだとはいえ、私の前でよくもそんなことを……!」 低く呟く。よくもも何も自分が惚れ薬を飲ませたせいなのだが、感情は時に論理を超越するのである。 「モンモランシー、解除薬を作って!」 詰め寄るルイズに、モンモランシーは気まずそうに答える。 「無理よ。もう材料を使い切っちゃったし。買い直すにしてもお金なんてないもの……」 貧乏な貴族、というと奇妙な印象を受けるかもしれないが、世の中、ルイズの実家、ヴァリエール家のように豊かな貴族ばかりではない。 むしろ、貧乏な貴族というのが世の貴族の半分を占めている。 そもそも貴族が何より大切にする体面を保つのには存外、金がかかる。 例えば、ギーシュの実家のグラモン家は元帥職も輩出している武門の名家であるから、戦争のある度に、見栄を張って多大な出費を繰り返している。 また、屋敷や領地というものは維持するだけでも結構な費用がかかる。貴族は基本的に世襲制であるので、代々の当主が経営の才に恵まれているとは限らない。 領地経営を失敗すればあっという間に貧乏へと転落する。 干拓に失敗して領地を保つのにやっと、という状態になったモンモランシーの実家、モンモランシ家はこちらの部類に入る。 今回の惚れ薬の材料にしても、モンモランシーが得意の香水を調合しては売り払い、こつこつ貯めたお金で購入したものなのだ。もう一度材料をそろえるのにはどれほど掛かるか……。 が、金はとりあえず問題ではない。リゾットはフーケに資金を預けていったため、出そうと思えば出せる。問題はその前だ。 「……使い切っちゃった? 材料を?」 「ええ……」 その言葉と同時にがくり、とルイズが膝から崩れ落ちた。市場にないものはいくら金を出しても買えない。それでは解除薬が作れず、解除できないのでは使い魔をタバサから取り戻せないし、薬の力でギーシュに好かれたところで迷惑でしかない。 二重の意味で打ちひしがれているルイズを尻目に、モンモランシーも考え込む。何だかんだいっても彼女だってギーシュがこのままでは精神衛生上、とてもよくない。何とかして解除しなくてはならない。 そうこうしているうちにルイズが決然と顔を上げ、宣言した。 「こうなったら水の精霊に会いに、ラグドリアン湖へ行きましょう!」 「本気? 学校はどうすんの? それにルイズ。あんた、水の精霊が何か、知らないわけじゃないでしょうね?」 「分かってるわよ。滅多に人前に姿を現さないし、怒らせでもしたら大変なんでしょう? でも、一ヶ月も一年もギーシュがこのままでもいいわけ?」 「それは……」 モンモランシーは言葉に詰まった。しばらく唸りながらギーシュやルイズに視線をさまよわせた挙句、遂に音をあげた。 「あー、もう! 分かったわよ。仕方ないわね! 手伝ってあげるわよ!」 「最初から素直にそういえばいいのよ」 満足げに笑うルイズと対象的にモンモランシーは不満げに鼻を鳴らした。 「勘違いしないで。ギーシュが心配ってわけじゃないわ。お付き合いなんて遊びみたいなものだけど、薬のせいとはいえ、浮気されるのが嫌なだけよ」 「そう。まあ、それならそれでいいわ。貴方が素直じゃないのはわかったし」 ちょっと肩をすくめながら、どこかでこういう光景を見たことがあるな、とルイズは思った。普段の自分自身なのだが、自分のことほど理解しにくいものなのである。 「はあ、サボりなんて初めてだわ」 「大丈夫だよ、モンモランシー。僕なんか今学年は半分も授業に出てないし、僕のルイズはもっとだ。まあ、僕のルイズのためなら授業なんて一つもでなくても後悔しないけどね! あっはっはっ!」 ギーシュは底抜けに明るく笑い、次の瞬間、二人の少女に同時に殴られた。 ぐったりしたギーシュを尻目に、ふと、モンモランシーはルイズに訊いてみた。 「ところで、貴方の使い魔はどうしたの?」 ルイズはその質問に少し声を詰まらせた。平静を装ってそっけなく答える。 「……別に。ちょっと使いに出してるだけよ」 「そうなの……」 モンモランシーはほっとしたように息をついた。モンモランシーはルイズの使い魔が苦手だった。特に目立つわけでも乱暴を働くわけでもないが、何となく不気味なのだ。 素手でギーシュとの決闘に勝ったという事実がその雰囲気を助長していた。当のギーシュはリゾットにそんなに悪い印象を抱いているわけではないのが不思議だったが。 「じゃ、明日の朝一で出発ね! それまで、ギーシュの面倒みておいてよ!」 ルイズがそういって出て行った。残されたモンモランシーは気絶しているギーシュを見て、一人、憂鬱そうにため息を吐いた。 ルイズたち三人は馬を使い、ラグドリアン湖までやって来た。道中、ギーシュはルイズを自分の立派な葦毛の馬の前に乗せたかったようだが、ルイズに拒絶され、モンモランシーに凄まじい形相で睨み付けられ、それは諦めた。 丘から見下ろすラグドリアン湖の青い水面は、陽光を反射し、キラキラと宝石のように輝いていた。 「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやあ、なんとも綺麗な湖だな!ここに水の精霊がいるのか! 感激だ!」 はしゃぐギーシュとは対照的に、ルイズは懐かしい目でラグドリアン湖を見渡していた。前に一度来たときはアンリエッタのお供だった。その当時のアンリエッタは園遊会の後、夜毎にルイズをベッドの中に影武者として寝かせ、自分は夜な夜な抜け出していた。あれは今は亡きウェールズに逢っていたのだな、と、今、成長したルイズならば理解できるが、当時は不思議だったものだ。 思い出から戻り、ふと気付くと、ギーシュは馬を回り込ませ、ルイズの後ろから湖を見ていた。そのまま薔薇を咥えて悩ましげに眉を寄せている。 「……何してるの?」 何となく嫌な予感を覚えながらルイズが尋ねると、ギーシュは盛大にため息をついた。 「いや、今、感激したばかりだが、こうして一緒にみるとラグドリアン湖の美しさなど、ルイズには遠く及ばないね。霞んでしまうよ」 「なっ!?」 歯が浮くような台詞を言われ、ルイズは赤面した。その途端、ギーシュの馬が急に湖に向かって走り出す。 「うわっ!?」 波打ち際まで全力で走った馬は、水を怖がり、急停止した。慣性の法則で、ギーシュは馬上から投げ出され、湖に頭から落ちる。 「背が立たない! 背が! 背ぇええええがぁあああああッ!」 ばしゃばしゃとギーシュは必死の形相で助けを求めている。どうやら泳げないらしい。 「ふん、なによ! ルイズルイズって馬鹿みたい!」 ギーシュの馬に鞭を入れた張本人、モンモランシーは不機嫌そうに呟き、自らも波打ち際まで馬を進める。 ギーシュがルイズに付きっ切りなため、彼女は道中、ずっとこの調子だ。 「ま、まあ、薬のせいだし。解除薬を飲めばすぐ治るわよ」 ルイズがフォローを入れながら後に続く。水の精霊との連絡には『水』のメイジであるモンモランシーが必要不可欠なため、彼女がいつ機嫌を損ねて帰ると言い出すかと、ルイズは内心ひやひやしていた。 必死の犬掻きで岸に辿り着いたギーシュは、息を整えると、薔薇を咥えなおして精一杯格好をつけた。 「ちょっと格好悪いところをお見せしてしまったかな?」 そんなギーシュに女性二人が顔を見合わせ、がっくりとうな垂れていると、遠くから一頭の馬に跨った金髪の女性が近づいてきた。二人の側に来ると馬を降り、ルイズに向かって礼をする。 「お嬢様、お待ちしておりました。無事に到着されて何よりです」 「ええ。頼んでいたことは調べてくれた?」 「はい。まだ付近住人に聞き込んだ程度ですが」 誰? と目線で尋ねてくるモンモランシーに、ルイズは答える。 「ええと、うちの実家の使用人のラ・ポルト。ほら、夏期休暇に入ったら実家に帰るから、その準備のために来てくれたんだけど、ラグドリアン湖の水の精霊がおかしいって話だから、先に行って調べてもらっていたの」 ルイズは覚えた『設定』を一気にまくし立てる。ふぅん、と特に疑った様子もなく、モンモランシーは聞いていた。 「さすがラ・ヴァリエール家のご令嬢ね……」 「よろしくお願いします。ミス……」 「モンモランシよ。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」 「僕はギーシュ・ド・グラモンだ」 「よろしくお願いします、ミス・モンモランシ、ミスタ・グラモン」 そういってラ・ポルトは頭を下げた。護衛をかねているのか、杖を下げている。そんな彼女を見て、モンモランシーは何か引っかかるものを覚えた。 「ねえ、貴方……どこかで会った事、ある?」 「いいえ、初対面です」 「そう……。きっと他人の空似よね」 モンモランシーは首を傾げた。どこかで会ったことがあるような気がしたのである。 それもそのはずで、このラ・ポルトという女性はフーケの変装である。 元々、フーケは学院長の秘書という、生徒と直接には関係ない職についていたので、そもそもフーケがミス・ロングビルを名乗っていた頃の顔をはっきり覚えている生徒は少ない。髪を染め、化粧の仕方を変え、眼鏡を野暮ったいものに変えるだけで、十分に変装になっていた。 ちなみに偽名のラ・ポルトというのは、ルイズがアンリエッタと過ごした少女時代によく叱られた侍従の名前である。 「まあ、そんなことより、どうなの? 何かわかった?」 ルイズが本題を切り出す。フーケは頷いて喋りだした。 フーケの調査によると、二年ほど前からラグドリアン湖の水位が上昇し始めたのだという。徐々にではあるが、確実に増水は進んでいるようで、湖を見渡すと、確かに屋敷の屋根らしきものがかろうじて水面に出ている。湖面を覗き込むと、畑の名残らしきものも湖底に見て取れた。もちろん自然現象ではありえない増水の仕方である。 「付近の住民によると、水の精霊の仕業だとか」 「……そうね。水の精霊は怒ってるみたい」 話を聞きながらじっと湖面を見つめていたモンモランシーが呟いた。『水』のモンモランシ家は代々、トリステイン王家と水の精霊の盟約の橋渡しをして来た家柄である。今は交替してしまったとはいえ、その一員であるモンモランシーも、何か感じ取れるのだろう。 「領主はどうしたの? 自分の領地がこんなことになっているのに」 「訴えはあるようですが、どうやらまだ大した問題にしていないようですね。 元々、ここの領主は宮廷での付き合いに夢中なようですし、今は戦争の準備があります。関わっていられないのでしょう」 「ふぅむ……戦争は国家の一大事だし、貴族同士の付き合いも面子がかかっているところがあるからねえ……」 服を乾かしていたギーシュがそういうのを、貴族嫌いのフーケは冷ややかな目で見ていた。貴族から追放された身だからこそ分かることもある。貴族は領民がいるから生活できるのだ。それが苦労しているのに放置するというのは本末転倒だ。 「ギーシュ、ふざけたことを言わないで。自分の領地と領民も守る責任を果たしてこその貴族なのよ」 だから、ルイズがそういってギーシュを睨み付けたときは、ルイズを見直すような気持ちになった。 「ああ、ごめんよ、僕のルイズ。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」 慌てて弁解するギーシュに、そっぽを向いたルイズは、フーケの視線に気付いた。 「何よ?」 「いいえ、お嬢様がご立派になられたことに感激しただけでございます」 そういってフーケは心からの微笑を浮かべた。 「ふ、ふん。別に当たり前よ、このくらい。それより、モンモランシー。水の精霊は呼び出せるの?」 そういってモンモランシーを見る。次の瞬間、そこにいた生物を見て悲鳴をあげた。 「か、カエル!?」 鮮やかな黄色に所々黒い斑点のついたカエルが、モンモランシーの手の平の上にちょこんと乗っかり、主人を見つめていた。 驚いたルイズとカエルの間にギーシュが割り込む。 「大丈夫だよ、ルイズ。あれはモンモランシーの使い魔なんだ」 「そうよ。あんまり嫌がらないでちょうだい。大事なパートナーなんだから」 憮然として言うと、モンモランシーは指を立て、カエルに命令した。 「いいこと? ロビン。貴方の古いお友だちと、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先を突き、血を一滴、カエルに垂らした。 すぐに呪文を唱えて傷を治療すると、顔を近づけ、カエルに言い聞かせる。 「これで覚えていれば相手は私のことがわかるわ。お願いね、ロビン。水の精霊に、盟約の持ち主の一人が話をしたいと伝えてちょうだい。わかった?」 ロビンは頭を下げると、水の中へと入っていった。 「さ、後は待つとしましょう」 「水の精霊ってどんな姿なの?」 ルイズが興味本位で訊いて見た。知識として知っているが、実際にその姿を見たことはない。ギーシュも相槌を打った。 「僕も見たことないなあ」 「う~ん……生きている水って言えばいいのかしらね。私も小さい頃、一度だけしか見たことないわ。領地の干拓をするときについてきてもらったの。大きなガラスの容器の中に入ってもらって来たんだけど……。その姿を例えるなら……」 その時、岸辺から三十メイルほど離れた湖面が光を放った。 「っと、来てくれたみたい。私が説明するより、見た方が早いわ」 餅が膨らむようにして湖面が盛り上がったと思うと、何か見えない手にこねられているように形を変えながら水が盛り上がった。形を変える水、それその物が水の精霊なのだ。 湖から戻ってきたカエルを自分の懐にしまいながら、モンモランシーは両手を広げ、水の精霊に語りかけた。 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。古き盟約の一員、その末裔よ。貴方が私を覚えていたら、私たちにも分かるやりかたと言葉で応えてちょうだい」 その声に反応するかのように、水の精霊はぐにゃぐにゃと形を変え、一糸纏わぬモンモランシーそっくりの形になった。日の光が反射し、それはまるで宝石が動いているようだった。その美しさに思わずルイズとフーケはため息をつく。ギーシュは水の精霊ではなく、ルイズの横顔にため息をついていた。 水の精霊は形を整えると、身体を震わせてモンモランシーに返事をした。 「覚えている。単なる者よ。貴様の身体に流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に出会ってから、月が五十二回交差した」 「よかった。水の精霊よ。お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、貴方の身体の一部を分けて欲しいの」 水の精霊が怒っている理由も多少、気になるが、まずは自分たちの目的から頼んでみる。 その願いを聞くと、水の精霊はにこりと笑った。 「断る。単なる者よ」 表情とは裏腹に、精霊はそう言ってにべもなく断った。 「そういわずに、お願いするわ。私たちにはそれが必要なの。何らかの形でお礼はするわ」 粘り強く交渉しようとするモンモランシーを押しのけて、ルイズが水の精霊に懇願した。 「お願い! それがないととても困るの! ほんのちょっとでいいから、私たちに貴方の一部を分けてちょうだい!」 ルイズが頼み込んでいるのを見て、ギーシュも水の精霊に頭を下げた。 「水の精霊よ。僕からもお願いするよ。どうか貴方の一部を分けてくれないかい?」 「ギーシュ……」 モンモランシーが呟くと、ギーシュはちらっとモンモランシーを見た。 「何に使うか知らないが、女性二人が、しかもルイズとモンモランシーが望んでいることを、この僕が手伝わないわけにもいかないだろう?」 水の精霊は三人に懇願され、考えるように形をぐにぐにと変えていたが、またモンモランシーの姿を取ると、返事をした。 「よかろう。単なる者たちよ。我のいう条件と引き換えに、我の一部を譲り渡そう」 そして水の精霊はその条件を語り始めた。条件を聞いていくうちに、一同の表情が渋くなっていく。はっきりいって苦手な依頼だ。しかし、断るという選択肢はない。 (フーケに相談するしかないわね) ルイズは心の中でそう思っていた。 タバサに命じられた任務は、ラグドリアン湖を増水させている水の精霊の退治だった。水の精霊は盟約を結んだ人間としか交渉に応じないらしく、盟約を結んでいるのはトリステイン王国であるため、ガリア王国側からは交渉をできない。ならばトリステインを経由して交渉すればいいようなものだが、そこに何か思惑があるのか、それともそれを口実にしてタバサを消したいのか、どちらなのかは指令から読み取ることはできなかった。 どちらにしてもタバサたちに拒否権はない。タバサ、キュルケ、リゾットの三人は、その夜も任務に取りかかるため、ラグドリアン湖の岸辺にきていた。 ことが明らかになれば国際問題に発展する可能性すらあるため、人目につかないよう、三人とも漆黒のローブを身に纏い、フードを目深に被っている。 タバサが杖を掲げ、呪文を唱え始める。 タバサが風の魔法で空気の球を作りだし、湖底にいる水の精霊をキュルケの炎とリゾットの武器で攻撃するのだ。水そのもののような水の精霊も、液状の身体を蒸発させたり分解したりすればダメージがある。もちろん、相手からの抵抗もあるが、水が届かない限り、相手からの影響は受けない。 こう書くと簡単なように思えるが、逆に言えば少しでもタバサが動揺したり集中を切らしたりして、湖の水が入ってくれば三人とも一瞬で殺されるということでもある。 従って、任務の間、リゾットとキュルケは極力口を利かないようにしていた。二人が会話すると、それだけで惚れ薬の影響下にあるタバサが動揺する可能性があるからだ。 タバサの詠唱が終わる頃を見計らって、リゾットも用意した武器を握る。手袋の下のルーンが発動し、身体が軽くなる。と、何か違和感を感じた。 次の瞬間、突然地面が盛り上がり、大きな手のように広がると、三人を捕縛しようと絡みつく。同時に背後の茂みから七人の武装した人影が飛び出してくる。 だが、三人の反応は素早かった。即座にキュルケが呪文の詠唱を開始し、リゾットは飛び出してきた敵に対応するため、跳躍して土の手を回避する。 キュルケが杖から出した炎で土の戒めを焼き払う。その魔法を放った隙を狙うかのうようにラグドリアン湖の水面が盛り上がり、水柱となってタバサたちに襲い掛かる。 だが、水柱はキュルケと少し時間をずらして呪文を詠唱したタバサの放つ風の槌に粉々に散らされた。と、思ったらまた地面が隆起し、牙を剥く。 相手も二人で組んでいるらしく、土と水が交互に襲い掛かり、キュルケとタバサの火と風とぶつかり合う。 一方、リゾットは武器を先頭の人影に叩きつける。火花が散り、人影が吹っ飛んだ。 「ゴーレムか」 倒れたときの金属音と自分の手に伝わってきた感触からそう判断すると、空いている手でデルフリンガーを抜き、二体目のゴーレムを切り裂く。 「なんでぇ、相棒。今回、俺の出番はねーんじゃなかったのか?」 「あっちはゴーレムには役に立たないからな」 いじけたように呟くデルフリンガーに言葉を返しつつ、リゾットは加速してゴーレムを切り伏せ、同時にそれを操るメイジを探す。 木陰に杖を持った複数の人影を見つけると、リゾットは他の二人に視線を投げかける。その意図を瞬時に理解したキュルケとタバサは落ちてきた水柱を二手に分かれて回避すると、それぞれ炎と、氷の矢を放った。 だが、それに対応するように一人が杖を振る。タバサたちと人影の間の土が盛り上がったと思うと、瞬時に鋼鉄へと変化し、二人の魔法を弾く。 「よし! ……え!?」 相手のメイジが短く歓喜の声を上げるが、その声は次の瞬間、驚きの声に変わった。二人の魔法に隠れるようにして接近したリゾットが壁を回りこんで飛び込んできたからだ。 眼前のメイジを切り捨てようとした瞬間、リゾットは聞き覚えのある詠唱を耳にした。 「待て!」 リゾットの制止も間に合わず、その最後の一人は延々と唱えていた詠唱を中断し、杖を振る。光の球が突如、空間に出現した。 リゾットはデルフを構えて背後に跳ぶが、それでもなお襲ってきた爆発の衝撃によって地面に叩きつけられた。 「相棒、大丈夫か!?」 「大丈夫だ。心配させて悪いな、デルフ……」 即座に立ち上がると、杖を構えるメイジたちを手で制す。 「待て、ルイズ」 フードを外すと襲ってきた四人の一人が声を上げた。 「え……リゾット!? ということは……」 後方にいたキュルケとタバサもリゾットの様子に気付いてフードを取り去った。暗闇に潜んでいたギーシュとモンモランシーが叫ぶ。 「キュルケ! タバサ!」 「何であんたたちがこんなところにいるの!?」 「それはこっちの台詞よ!」 一同が困惑する中、リゾットはルイズの隣の変装したフーケに気付いた。 「なるほど。素人じゃないなと思ったが、お前がいたのか……」 フーケは無言で肩をすくめてみせた。 合流した七人は、ラグドリアン湖のほとりで焚き火を囲みながらお互いの事情を教え合うことにした。 キュルケたちは夕食がまだだったこともあり、自然と宴会のような様相を呈している。ギーシュはルイズにワインを勧められ、酔っ払って眠り込んでいた。 「つまり解除薬に必要な水の精霊の身体の一部を分けてもらうため、襲撃者である俺たちを倒してくれ、と依頼されたのか」 リゾットが話をまとめる。ルイズの『エクスプロージョン』を受ける瞬間、デルフリンガーを掲げたため、リゾットは比較的軽傷で済んでいた。 治癒をかけるなら水系統のモンモランシーが適任なのだが、タバサが譲らなかったため、今、リゾットはおとなしくタバサの治療を受けている。 「最初は断られたんだけどね」 まさか解除薬に水の精霊が必要だったとは思わなかったリゾットは、あのまま水の精霊を倒した場合を考えて少しひやっとした。 「それにしても、まさか別に惚れ薬の問題が持ち上がっているとは思わなかったな……」 「こっちも驚いたわよ。ルイズから使いに出されたとは聞いていたけど、タバサたちに付き添ってたのね」 事情を聞かされたモンモランシーは興味深げにタバサをみていた。タバサは甲斐甲斐しくリゾットの治療を続けている。 「なるほどね……」 「まあ、タバサのことはおいといて、何で惚れ薬なんて作ったの?」 キュルケがモンモランシーに尋ねる。 「つ、作ってみたくなっただけよ。深い意味なんてないわ」 何となく悔しそうに呟くモンモランシーの視線の先には酔っ払って寝ているギーシュがいる。それだけでキュルケにはぴんと来たようで、苦笑した。 「全く、自分に魅力がないからって薬に頼らなくってもいいじゃない」 「うるさいわね! 元はといえば、ギーシュが浮気ばっかりするのがいけないのよ! 惚れ薬でも飲まなきゃ治らないの! それなのに……」 言葉の途中で涙声になり、モンモランシーは俯いてしまった。憎からず思っている相手が別の女性にかかりっきりというこの状況はやはり心身に堪えるらしい。 「それくらいにしてあげて。私にもちょっとは責任があるから」 ルイズが言うと、キュルケは肩をすくめた。 「でも、どうするの? 解除薬は手に入れなきゃタバサとギーシュは治らないけど、水の精霊は倒さなきゃいけない」 「俺たちの攻撃だと水の精霊を消滅させることはできても切り取ることはできないからな……」 「そういえば、ミス・ツェルプストーはともかく、リゾットさんはどうやって水の精霊に攻撃していたのですか?」 今まで使用人らしく、黙って肉を焼いていたフーケが不意に訊いて来た。その質問に、リゾットは長さ1メイルほどの鉄の棒を取り出す。棒には銅線がびっしりと巻きつけられ、柄に当たる部分にはゴムが巻かれていた。 「これに磁力を通すと、電撃が発生する」 リゾットはメタリカを発動させつつ、鉄棒を握り、薪の一つに押し付ける。 火花が散って、薪が弾けとんだ。いうなればスタンガンのようなものである。 科学的には電磁誘導と言った現象にあたるのだが、リゾット自身、磁力をコイルに通すと電気が発生する、といったことを知っているだけで、それがどの程度の電圧がでるかなどといった詳細は知らない。そもそもリゾットの発生させる磁力は酸化した鉄分をも操作することが可能であり、通常の磁力とは性質を異にする。 スタンド能力にとって重要なのは「出来て当然」と思うことであり、科学知識はその思い込みを補強する要素に過ぎないのだ。 「電撃は水を分解する。これで水の精霊を攻撃していた」 「色んなことができるのね、それ」 ルイズの珍しく感心したような呟きに、リゾットは首を振った。 「だが、今必要なのは、相手の身体を切り取る能力だ。少し……難しいな」 「……私はもう少しこのままでもいい」 治療を終え、リゾットの隣で黙々とはしばみ草のサラダと肉を食べていたタバサが、不意に呟いた。 「そういうわけにはいかないだろう」 リゾットがタバサに言うと、ルイズもそれに同意する。 「そうよ。そんなのダメよ! タバサが実家に帰る度に使い魔がいなくなってたら、使い魔の意味がないじゃない!」 食ってかかるルイズに、タバサは僅かに首を傾げた。 「嫉妬?」 「しっ……だ、だだだ、誰が! そんなわけないでしょ!?」 「本当に?」 じっと、青い眼でルイズを見つめる。しばらくして、呟いた。 「嘘吐き」 「う、嘘なんか吐いてないわ! 私はただ……」 そこでルイズは絶句した。タバサの視線に、ルイズは思わず視線を逸らす。 「そ、そんなことより。どうして貴方たちは水の精霊を襲ってたの?」 「それは……ええっと……水の精霊が湖を増水させているから、タバサの実家でも被害に会ってるらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」 キュルケがタバサの家の事情を伏せて説明する。それを聞いて、一人、フーケは怪訝な顔をしていた。 (確かこの近くはガリア王の直轄領だったはずだけど……) リゾットに視線を送ると、僅かに首を振った。何か事情があるのだろうと察して、とりあえず納得する。調べようと思えばすぐに分かるだろう。 「では、こうしたらいかがでしょうか? ミス・モンモランシーに仲介していただき、水の精霊から増水させている理由を聞き出すのです。理由が聞き出せれば交渉の余地もあるかと」 「確かに。水が引けば退治する理由もなくなるな……。それでいいか?」 リゾットの問いに、タバサは頷いた。 「よし、決まり! それじゃ、明日、早速交渉しましょう」 キュルケが宣言し、その夜は過ぎていった。 翌日、朝靄の中から現れた水の精霊に襲撃者を撃退したことを伝えると、水の精霊は自らの一部を分け与えた。 湖底に戻ろうとしていた水の精霊を、ルイズが慌てて呼び止める。 「もう一つ、聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」 湖底に戻ろうとしていた水の精霊は再び湖面に浮上した。 「どうして貴方はこの湖の水を増水させているの? この辺りの人たちは皆、増水に困ってるわ。今回の襲撃者もそれが原因で来たみたいなの。多分、貴方がこのまま水かさを増やし続ければ、誰か別の襲撃者がやってくるわ。 何か目的があるなら私たちも協力するから、話して」 水の精霊はまた考えるように形を変形させていたが、やがてモンモランシーの姿に戻り、口を開いた。 「よかろう、単なる者よ。我は約定を守る者を信じる」 そういってまた姿をいくつか変えた後、元に戻って語り始めた。 「我が目的は我が長き時をともに過ごした『アンドバリの指輪』を取り戻すことにある。そのために我の領域である水を増やした」 その名前を聞いて、モンモランシーが記憶を探るようにしばし考え込んだ。 「聞いたことあるわね。確か、偽りの生命を死者に与える、『水』系統の伝説のマジックアイテムね」 「そうだ。誰が作ったのか、何故作られたか、我は知らぬ。だが、お前たちがこの地にやってきたときには既に存在していた。死を恐れるお前たちには偽りとはいえ、命を与える指輪は魅力に思えるかも知れぬ」 それを聞いて、フーケはピンときた。似たものを見たことがあるし、リゾットが不在の間に耳にしたある噂を思い出したからだ。 「先住魔法によって作られた物かもしれませんね。そういう品があると、耳にしたことがあります」 「ん、先住魔法?」 不意にデルフリンガーが声を出した。 「ええ、何かお心当たりが?」 「んー、いや、なんだっけなあ。何か今、思い出しそうになったんだが……」 「またか。土壇場にならないとお前は思い出さないのか?」 リゾットが呆れたようにいうと、デルフリンガーは仕方ないだろ、昔のことなんだから、と呟いて、黙り込んでしまった。時折、何かを思い出そうとうんうん唸っている。 デルフリンガーがそれ以上思い出しそうにないことを見取ると、フーケは前に出た。 「水の精霊様、お尋ねしたいことがあります。『アンドバリの指輪』を盗んだ賊は、アルビオンの手の者ではございませんでしたか?」 至極丁重な口調で言う。地を知るルイズやキュルケは、よくもまあ、こんなに雰囲気を変えられるものだ、と感心してそれを見ていた。 「どこの者かは分からぬ。だが、我が住処に来た数個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」 「アルビオンの新皇帝の名前じゃない」 キュルケの呟きに、フーケは頷いた。 「ええ。恐らく、間違いないかと」 「どういうことだ?」 リゾットが全員を代表して疑問を述べる。最近、聞いた話なのですが、と前置きして、フーケは話し出した。 「クロムウェルは死者を蘇らせることができるらしいのです。本人はそれを伝説の『虚無』の力と喧伝しているそうですが、今の話を聞く限り、アンドバリの指輪のせいと考えた方がよさそうですね」 それを聞いて、ルイズは何かに納得したように手を打った。 「そっか……。何でアルビオン王家が簡単に裏切られたかと思ってたけど、その宣伝の効果もあったんだわ。死んでも生き返らせてもらえると思えば、普段は日和見している貴族も貴族派につくもの」 始祖ブリミルは信仰の対象になるほどハルケギニアの人間の心に根を下ろしている。そもそも、現存する王家自体が始祖の血を受け継ぐものたちが作ったものなのだ。 その始祖の力が使える、と臭わせるだけでも効果は十分だっただろう。 「だが、単なる者よ。重ねて言うが、『アンドバリの指輪』によって得られる命は偽りの命。それを使って蘇らせた者は使用者に従う人形に過ぎぬ」 「悪趣味ね。死人を意のままに操るなんて」 水の精霊の言葉に顔をしかめながら、キュルケは内心、頭をひねっていた。 何か引っかかるものを感じていたのだが、うまく思い出せない。まあ、今は水の精霊と交渉するのが先か、と髪をかきあげて思い出すのを諦めた。 「アンドバリの指輪というのは死者を操ることしかできないのか?」 リゾットの質問に、水の精霊はしばらく間をおいて答えた。 「いいや、水の力そのものを凝縮したものであるが故、その使い方は一つに留まらぬ」 「なるほどな……。外付けの精神力みたいなもので、どう使うかは使い手次第ってわけか……。で、どうする、ルイズ?」 ルイズはしばらく悩んでいたが、リゾットの問いかけに、決心したように頷いた。受けるのだろう。 「いいのか?」 「仕方ないじゃない。タバサだって実家の手前があるし……。それより、あんたは私の使い魔なんだから、手伝うのよ! 分かってる!?」 「ああ……。もちろんだ」 「ん、分かってるならいいわ」 笑顔で頷くと、ルイズは大声で水の精霊に叫んだ。 「このまま水を増やしたところで、空の上のアルビオンには届かないわ! 私たちがクロムウェルから指輪を取り戻すから、今は水を引いて!」 水の精霊は震えると、言葉を発した。 「分かった。お前たちを信用しよう。お前たちの寿命が尽きるまで、我はここで待ち続けるとする」 そう言って再び湖底に沈もうとした水の精霊を、それまでの会話中は興味がなさそうにしていたタバサが呼び止めた。 「貴方に訊きたい事がある。貴方は人間に『誓約』の精霊と呼ばれている。それはなぜ?」 「単なる者よ。我とお前達では存在の根底が違う故に、お前たちの考えを理解できぬ。だが、思うに我は形は不定なれど、存在は変わらぬ。月が幾度交差しようともこの水とともに在った。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」 タバサは頷いた。跪くと、眼を閉じ、手を合わせた。キュルケはその肩に優しく手を置いた。 それをみてギーシュは何か思いついたように薔薇を掲げた。 「ふむ……じゃあ、僕もルイズに永遠の」 そこまで言ったところでギーシュは水柱の中に閉じ込められた。 「ごぼぼ!? ごぼ!?」 「全く……早く薬を作らなくちゃ……」 誰が魔法を使ったなどはもはや書くのも野暮であろう。モンモランシーは不機嫌そうに横を向いていた。 タバサは祈った後、何かを期待するような眼でじっとリゾットを見上げた。 その表情から何を求めているか、察することは可能だったが、リゾットはあえて尋ねる。 「……何だ?」 タバサはしばらく黙って見上げていたが、やがて首を振った。 「何でもない」 呟いてリゾットに寄り添い、シルフィードを呼び出す。 「……悪いな。期待に答えられなくて」 リゾットが呟くと、タバサも僅かに頷いた。 「いい。無理を言った」 平坦に、しかしどこか寂しそうに、そう呟いた。 学院に戻ると、モンモランシーはすぐに解除薬の調合に取り掛かった。 「出来たわ! ふう! しっかし、やたらと苦労したわねー!」 額の汗をぬぐいながら、テーブルのるつぼから小瓶に液体を取り分ける。小瓶をタバサに、るつぼをギーシュに手渡した。 「はい、二人とも、そのまま飲んで」 ギーシュはそれに鼻を近づけると、顔を離した。 「何だか凄い臭いがするね。でもルイズ、僕はこれを飲んだところで、君への思いは変わらないと思うよ?」 臆面もなくそう言い放つギーシュに、ルイズは苦笑を浮かべる。 「そうね……。そうだったら私ももう少し真剣に考えるんだけど。でもそうじゃないわ」 「じゃあ、僕はこれを飲んで確かめてみよう」 言い放つと、ぐいっと飲み干した。一同の視線がギーシュに集まる。 味が残るのか、飲み干したギーシュは顔をしかめていたが、やがて憑き物が落ちたように表情に冷静さが戻ってきた。が、次の瞬間、焦りに満ちた表情に変わる。 「ご、ごごごごごめんよ、モンモランシー!」 ガンダールヴもかくやという速さで振り向くと、いきなりモンモランシーに土下座をした。 「僕ともあろうものが、君を一瞬でも邪険に扱ってしまうなんて、なんて謝ればいいんだ!」 必死で謝るギーシュだが、モンモランシーは背を向けた。 「ふ、ふん。何よ、今更謝ったって遅いわ!」 惚れ薬を飲ませたのはそもそも彼女なのだから、許すのはやぶさかではないが、簡単に許すのはプライドにかかわる。そんな想いから、思わずすげなくしてしまう。 そんなモンモランシーの態度にギーシュはがっくりと肩を落とす。 「ああ、そうだね。許してくれるには僕は罪を重ねすぎた。お詫びにここで果てるとしよう」 杖を振ってナイフを錬金する。ぎょっとしてルイズが止めに入った。 「ちょ、ちょっとギーシュ! 止めなさいよ!」 「いいんだ、ルイズ。君にも迷惑かけてしまったね。本当にすまない」 などといいながらナイフを喉に押し当てようとする。 「もう! リゾット、ギーシュを止めて!」 「ああ……」 本当につきたてるようには見えないが、恋愛というのは意識的にしろ、無意識的にしろ、駆け引きも必要である。何より、丸く収まるならそれに越したことはない。ギーシュの芝居に乗り、リゾットはギーシュの手を押さえる。 その間に、ルイズがモンモランシーを説得にかかった。 「モンモランシー、反省してるんだから、いいでしょう? そもそもあんたが惚れ薬を作ったんだし、許してあげなさいよ!」 「そもそも自分の彼氏くらい自分で繋ぎとめておきなさいよ」 呆れたようにキュルケが言う。フーケもギーシュを哀れんで、一言述べる。 「殿方には時に飴も必要かと」 「な、何よ。まるで私が悪いみたいじゃない」 モンモランシーが呟くと、リゾットが冷静にツッコミを入れた。 「根底の原因はギーシュにあるかもしれないが、今回の件に限って言えば、お前にも責任があるだろう」 苛立ちをあらわすように爪を噛んでいたが、諦めたように両手を広げて降参の意を表した。 「……もう、しょうがないわね。許してあげるわ!」 「ああ、モンモランシー……。君は女神のように慈愛に溢れているね」 感極まってモンモランシーによろよろと近寄るが、彼女はギーシュを手で押し留めた。 「その代わり! もう金輪際、浮気しないこと! 私と付き合ってる間は私だけを愛すると誓いなさい」 「もちろんだよ、モンモランシー!」 勢い込んで答えるギーシュは、モンモランシーの眼に光るものをみつけて驚いたように硬直した。 モンモランシー自身も無自覚だったようで、ギーシュの驚いた顔をみてからそれに気付き、自分の目元を慌てて拭うと、照れ隠しのように横を向いた。 「次はないからね!」 「分かったよ、モンモランシー……」 ギーシュが神妙に呟き、優しくモンモランシーを抱きしめた。 その光景を見て、ルイズは安心したように呟く。 「やっと元の鞘に納まったわね」 「男に言い寄られるなんてあんたにはないだろうし、いい経験だったんじゃないの?」 キュルケが笑みを浮かべてからかうと、一息ついたような表情のルイズはスカートの裾をいじりながら、つまらなさそうに返した。 「別に……。好きでもないのに言い寄られても迷惑よ……」 割と真剣にそういったので、キュルケはそれ以上の追求は避けた。 「そう。まあ、とにかく、次はタバサね。……どうしたの?」 タバサはじっと瓶に入った液体を見ていた。キュルケに声を掛けられると、ルイズに視線を移す。 「な、何よ。まさか飲むのが嫌とかいうんじゃないわよね?」 その言葉に軽く首を振ると、タバサは呟くようにルイズへ告げた。 「しばらく、彼と二人にして欲しい」 「え……な、何で?」 「お願い。これが最後」 重ねてタバサはルイズに頼み込んだ。 先を歩くタバサについて、リゾットは火の搭の屋上に来ていた。円形の搭の屋上は、階下に通じる階段に続く穴以外、何もなく、胸ほどの高さの石の塀がぐるりと搭を囲んでいる。 屋上に着くと、リゾットは夕日のまぶしさに一瞬、眼を細めた。タバサは塀まで歩き、杖を抱えて夕日に眼をやっていた。赤い日がタバサの青い髪を照らし、いつもとは違った色合いにしている。特に何も言わずに黙っていたため、リゾットもタバサの横でじっと夕日を見ていた。何もかもが異質な異世界で、太陽の輝きだけは地球と変わらない。 じりじりと落ちていく夕日を、二人で並んでしばらく眺めていたが、沈黙を破ったのはタバサだった。 「……私の世界に色はなかった」 リゾットは一瞬、タバサに眼をやったが、黙っていた。タバサが続ける。 「母様がああなってから、私の眼に映る世界は灰色で、何もかも冷たく感じた。 どんな景色も、この夕陽でさえ、寒々しい光景にしか見えなかった」 タバサはじっと夕陽を見つめながら、一言一言を噛み締める様にして言葉を紡ぐ。 「しばらくして、キュルケやシルフィード、それに貴方と出会って、私の世界は少しだけ色を取り戻した。だけど……貴方と過ごしたこの数日間ほど、世界が輝いていたことはない。私はこの光景を一生覚えていると思う」 リゾットが買った銀細工のしおりを取り出すと、それを愛しそうに撫で、リゾットに向き直る。 「ありがとう。貴方のお陰で私は世界が冷たくないことを思い出せた」 「……薬の効果だ」 「そうだとしても、貴方は私を不必要に忌避しなかった。貴方に冷たくされていたら、私はきっと耐えられなかったと思う。だから、感謝を」 「改まって礼を言うことでもない……。お前には……色々助けられている」 リゾットはタバサから視線を逸らしてそういった。暗殺稼業から離れ、大分経つが、改まって礼など言われることには未だに慣れない。 「それに……。あまり一生、なんて言葉はこの場合は使うな。お前の母親を治して、目的さえ果たせば、お前はいつだって色のついた世界を見られるようになる。この景色が普通になるさ」 「…………」 不意にタバサはリゾットに抱きついた。精一杯の力を込めてリゾットを抱きしめる。 「おい……? どうした?」 タバサは答えない。表情は見えなかったが、悲しんでいるようにも喜んでいるようにも見えた。リゾットはどう対応すればいいのか困惑していたが、しばらく躊躇した後、どうにも出来ずに夕日に目をやったまま、突っ立っていた。 そのまましばらく二人はじっとしていた。太陽が地平線から僅かにその頂点を覗かせるのみとなった頃、ようやくタバサはリゾットから離れた。 「これで、終わり……」 名残惜しげに呟くと、タバサはポケットから解除薬を取り出した。 「今のこの『私』にとって、貴方は全て。だから、これを飲んでその想いが消えるなら、『私』も同時に消える。でも、それが貴方の、そして私のため。……せめて、見送って欲しい、他の誰でもない、貴方に。貴方だけに」 瞳に僅かに不安をにじませ、タバサはそう懇願した。 「……分かった。だが、そう深刻に考えるな。惚れ薬の効果があろうがなかろうが、俺たちが仲間だということに変わりはない。そうだろう?」 そういうことではないのだが、タバサは無表情に頷く。寂しさはまだあったが、その心の中には確かに暖かいものがあった。 そしてタバサは薬を口に運ぶ。味に関してはタバサは少し変わった味覚をしているため、特に抵抗はない。そのまま飲み干した。 「……治ったか?」 しばらくしてからのリゾットの問いかけに、タバサは頷くと、リゾットに背を向けた。 「どうした?」 「…………解除されても記憶は残る」 ああ、とリゾットは納得した。 「照れてるのか」 ほんの僅かにタバサは頷いた。 「そうか。じゃあ、元に戻れるような話をしよう。お前の母親だが……。水の先住魔法で心の均衡を失っているのだったな?」 タバサがまた頷いた。 「なら、アンドバリの指輪で治せるんじゃないか?」 リゾットがそういうと、タバサは振り向いた。その顔にはほんの僅かだが驚愕の表情が浮かんでいる。 「やはり、あのときの話をあまり聞いていなかったか。アンドバリの指輪は先住魔法の水の力の結晶らしい。なら、治療に使えないか? どう思う?」 タバサはしばらく考え、やがて頷いた。 「可能性はある」 「そうか……。希望が出てきたな。だけど、焦るなよ」 「大丈夫」 タバサの所属するガリア王国はアルビオンに対して中立を宣言している。そんな国の皇帝に対して下手な行動を起こせば、人質同然の身のタバサの母親に危害が及ぶのは想像に難くない。そこはタバサも分かっていた。 「私もアンドバリの指輪について調べてみる」 気がつくと、周囲はすっかり暗くなっていた。夜の訪れと同時に気温も下がり始めている。 「タバサ、中へ戻るぞ。遅くなった」 リゾットに続いて階下へ向かいながら、タバサは胸の辺りを押さえ、空を見上げた。夜空には赤と白の月が輝き、タバサを優しく照らしていた。 騒動の終結を報告しようと、二人が寮搭の三階まで来ると、廊下で待っていたルイズがじろりと視線を投げかける。 「……遅かったじゃない」 「悪いな。……どうして外に?」 ルイズの顔が途端に赤くなった。 「いや、何かその……ギーシュとモンモランシーが盛り上がってたから、邪魔しちゃ悪いかなって……」 どうやらギーシュとモンモランシーは上手く和解できたようだ。 「それで外で帰りを待っててくれたのか。気を使わせて悪いな」 「べ、別にあんたたちのためじゃないわ……。キュルケとフーケも待ってるから、さっさと中に入るわよ!」 ルイズが自室の扉を開けると、中でフーケとキュルケが待っていた。キュルケはサラマンダーのフレイムに餌をやっていたが、中に入ってきたタバサに笑いかけ、手を止める。 「おかえり、タバサ。どう? ダーリンとの仲は進展した?」 「別に……」 興味津々のキュルケにそっけなく答え、椅子に座ると、本を広げる。代わってリゾットが口を開く。 「解除薬は飲んだ。これで……今回の一件は落着だ。フーケ、これが今回の報酬だ。ご苦労だった」 金貨の入った袋を受け取ると、フーケは大きく伸びをした。 「これで終わりですか。それでは、『お嬢様』。私はこれで失礼いたします。 ミス・モンモランシには、急用ができて実家に先に戻ったとでも言い繕っておいてください」 「うん、わかった。一応、その……お疲れ様」 「いいえ、仕事ですので。それに……」 眼鏡を本来のものに取り抱え、ルイズににやりと笑みを返す。 「私は楽しかったよ。あんたにもいいところがあるって分かったしね。威張り散らすだけの我が儘娘って評価は改めておくよ。貴族の義務って奴も心得てるようだし、友達思いのところもあるじゃないか」 そういってフーケがルイズの頭を撫でまわすと、ルイズは顔を真っ赤にした。 「ちょ、ちょっとやめてよ!? 髪が乱れるじゃない! それにあんた、私をそんな目でみてたわけ!?」 う、と呻いてフーケは視線を逸らす。 「ところでリゾット」 「答えなさいよ!?」 キュルケに何があったのか問い詰められていたリゾットが振り返った。 「何だ?」 「明日からしばらく休み取らせてもらいたいんだけど。ちょっと遠出して、耳にした変な噂を調べてみようと思ってさ」 「変な噂って何?」 好奇心の強いキュルケが尋ねる。誤魔化された形になったルイズは不満げだったが、次のフーケの一言でその不満は吹き飛んだ。 「アルビオンのプリンス・オブ・ウェールズが生きてるんだってさ。しかも、皇帝クロムウェルと行動をともにしてたって話でね」 「ウェールズ皇太子が?」 思わずルイズは呟き、リゾットと顔を見合わせる。二人ともウェールズが死んだ瞬間を見たわけではない。だが、あの状況からの脱出が絶望的だったことは明らかだ。何より、ウェールズ自身があの場で死ぬことを決めていた。降伏も逃亡も捕縛もよしとしないはずだ。 そのとき、キュルケが大声を上げた。 「そうよ! 思い出したわ! そのウェールズ皇太子よ! あたしも見たわ!」 キュルケはゲルマニアの皇帝が就任したとき、その顔を見たことがあった。 彼はそのとき国賓席で高貴で魅力的な笑みを振り撒いていた。今まで綺麗さっぱり忘れていたのだが、名前が出たことで思い出したのだ。 「どこで見た?」 「タバサの実家へ向かう道の途中ですれ違ったわ。タバサとダーリンは絵本を読んでたから気付かなかったけど、確かそこの剣は一緒にみたわよね? 戦死されたって公布が出てたけど、生きてらっしゃったのね」 「そういえばそうだったな。ありゃあウェールズだった」 デルフリンガーも思い出し、キュルケに同意する。だが、ルイズは力なく首を振った。 「……生きてた? そんなわけ……ないわ。まして、クロムウェルと一緒にいるなんて……」 「アンドバリの指輪」 タバサが本を広げたまま呟く。 「なるほど。死体を操ってるってわけか……。もしくは本当に生きているなら洗脳されているか……」 スタンド使いの中にはそういう能力がある者もいる。魔法でも似たようなことができる可能性はあった。 「大変! リゾット、行くわよ!」 「え? ちょ、ちょっと!?」 ルイズはフーケの言葉が終わらないうちに走り出す。トリステインからガリアへの道ですれ違ったということは行く先はトリステインなのだろう。 狙いがアンリエッタであることは明白だった。本当に生きていたとしても、クロムウェルと行動を共にしていたという噂が本当なら、やはりアンリエッタは危険だ。 「待って! どういうこと!?」 「姫様が危ないわ!」 リゾットとルイズを除く三人はアンリエッタとウェールズの関係について知識がないため、ルイズのいう危険について理解ができない。 部屋から飛び出そうとしたルイズだったが、その足が宙を蹴る。『レビテーション』の魔法だった。 「ちょっと、邪魔しないでよ、タバサ!」 「私も行く。こっちの方が速い」 タバサは本を閉じ、窓を指し示した。いつの間に呼び寄せたのか、窓からシルフィードが顔をのぞかせている。タバサがシルフィードの背に乗り、ルイズとリゾットもそれに続く。 出発しようとすると、キュルケとフーケも乗り込んできた。 「お前ら……。危険だと……」 警告しようとしたリゾットの唇に指を当て、キュルケは微笑んだ。 「今更そういうことを言うのは野暮よ、ダーリン。あたしも行くわ……。でも事情は説明してよね」 一方、フーケは何か思いつめたようにぼそぼそと呟いた。 「まあ……、ウェールズにはちょっとばかり、因縁があるんでね。これは仕事じゃなくて、個人的な行動ってことで頼むよ……」 そういわれてはそれ以上、リゾットも何も言わない。タバサがシルフィードに声をかけ、夜空に風竜が舞い上がった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5440.html
前ページ次ページIDOLA have the immortal servant ギーシュはモンモランシーの部屋で、必死に彼女を口説いていた。 モンモランシーの容姿を薔薇に例え、水の精霊と並べ立て、およそ思いつく限りの美の表現で誉めちぎった。 トリステインの女貴族は外国人にしばしば高慢と自尊心の塊だと言われる。 モンモランシーもその多分に漏れず、おぺんちゃらは嫌いではないのだが、思わず逃げ出してきた図書館の顛末が引っかかっていて、折角のギーシュの口説き文句も右から左へ抜けていく状態であった。 そのモンモランシーの物憂げな表情を、誉め言葉が足りないのだと判断したのか、ギーシュは更に頭をひねる。 ギーシュが言葉を続けようとしたその時、勢い良く扉が開け放たれ、室内に桃色の旋風が飛び込んできた。 部屋の中を行ったり来たりしながら今まさに改心の口説き文句を述べようとしていたギーシュがそれに巻き込まれ、跳ね飛ばされて床に転がった。 「な、なんだ! きみはぁ!」 それは薄笑いを浮かべるルイズだった。表情は笑っていても目は据わっている。何故だか分厚い本を手にしていた。異様な迫力を感じたのか、ギーシュは二の句が継げなくなる。 モンモランシーは心当たりがありすぎて、引きつったような表情を浮かべていた。 「ルイズ。少し冷静になってここは穏便にだな」 フロウウェンが遅れて入ってくる。 決闘の時以来だったギーシュの顔は、いきなりの遭遇に少し青褪めた。 「モンモランシィィ?」 「なななな何かしら?」 ルイズに詰め寄られて必死に平静を装おうとするが、モンモランシーの声は上ずっていて、目は宙を泳いでいる。 「あなた、何かわたしとヒースに言うことがあるんじゃないの?」 そういって、ルイズは香水壜を突きつける。動かぬ証拠であった。 「やめたまえルイズ! 僕のモンモランシーが君に何をしたというんだ!」 「ギーシュは黙っていて」 「そうはいかな――」 と、そこまで言ってギーシュはモンモランシーの様子がおかしい事に気がついた。 唇を噛み締め、渋面を浮かべている。 「モンモランシー? なにかあったのかい?」 「あ、あれは事故よ! 不可抗力だわ! まさか丁度人が……ミス・ロングビルが下にいて、あんなことになるなんて、思わなかったの!」 耐え切れずにモンモランシーは叫んだ。そして、ギーシュに指を突きつけて言う。 「だいたいねえ! あんたが悪いのよ!」 「ぼ、僕がかい!?」 さっぱり訳の分からない内に矛先が向いてきてギーシュは狼狽した。 「あんたがいっつも浮気するから……!」 馬鹿をやったものだ、とモンモランシーは苦々しく思った。 元々、陳列棚に入れてコレクションとして眺めて楽しむだけの代物だったはずなのだ。 完成に浮かれて、持ち歩いたまま出歩いたこと。 自分でも大概馬鹿をやったとは思うが、元はといえば、ギーシュが浮気などしない誠実な男なら起こりえなかった事故だ。 「モンモランシー。これは惚れ薬ね?」 「ほれぐすりぃ!?」 ルイズの言葉にギーシュが頓狂な声を上げる。慌ててモンモランシーがその口を手で塞いだ。 「大きな声出さないで! ……禁制の品なんだから」 「ギーシュに使うつもりだったのね……」 厭きれたとばかりに、ルイズは溜息をついた。 「モンモランシー……そんなに僕のことを」 ギーシュはやや感動した面持ちで頬を染め、モンモランシーの手を取る。 「ち、違うわよ! 最初はただのコレクションのつもりで……! ああ、もう! ともかく浮気されるのがイヤなだけなの!」 「僕が浮気なんかするはずないじゃないか! 永久の奉仕者なんだから!」 などと、自分の先日の行動も忘れて口走るギーシュ。 「あとにしなさいっ!」 いちゃつく二人にルイズが割って入る。 「君も無粋だな、ルイズ」 「ともかく! すぐにでも解除薬を作ってもらうわ。出来るんでしょう?」 ギーシュを無視してルイズが詰問する。 「そ、それが、その……水の秘薬が必要なんだけど、ほ、ほら。わたしが買ったので、最後だったみたい」 しどろもどろに答えるモンモランシーに、ルイズの表情が曇る。 「水の秘薬? よりにもよって!?」 ルイズは頭を抱えた。自分も今朝方、最後の秘薬をマグに食べさせたばかりであった。 「何だ? それほど貴重なものなのか?」 「そう。ないのよ。水の秘薬。お金があっても無理」 「何故だ? この間まで買っていただろう」 事情を知らないフロウウェンが尋ねると、ルイズは言った。 「水の秘薬っていうのは、ラグドリアン湖の水の精霊からもらってるって話なの。けれど最近、その水の精霊と最近連絡が取れなくなっちゃったらしいの。つまり秘薬を手に入れることはできないわ」 「薬の効果が自然に切れるのは?」 フロウウェンが聞くと、モンモランシーは視線をあらぬ方向へ泳がせる。 「い、一ヶ月から一年ぐらいかしら」 フロウウェンは眩暈を覚えた。時間による解決は望むべくもない。あの状態のフーケを放置しておくのは色々な意味で致命的だ。 惚れ薬と聞いて、毒や体内の異常を中和するテクニックであるアンティを後で試して見ようと思ったが、多分効果が出ないだろうとも考えていた。 一ヶ月から一年という効果の長さを聞く限り、つまりそれだけ強力な薬だということだ。 応急治療としての意味合いが強いアンティでは、治せない公算が強い。事実、モンモランシーの作った惚れ薬は、科学的薬物というよりは精霊の力の宿る魔法薬の類であった。 「いいじゃないか。ミス・ロングビルのような美人に惚れられて困るようなことは……ああ、いや、うん。本人の意思を無視するのは良くないな。うん、良くない」 言いかけてルイズとフロウウェンに睨まれ、ギーシュはくるりと転身した。 「要するに……そのラグドリアン湖とやらにこちらから赴き、水の精霊と直接交渉すればいいのだろう」 「ええ!? 水の精霊は滅多に人前に姿を現さないし、とっても強いのよ! 怒らせたら大変よ!」 「ただ待っているわけにもいかないのでな」 「モンモランシー? 他人事だと思ってるようだけど、どう考えてもあなたの責任だし、あれは禁制の品なのよ? ミス・ロングビルがあのままでいて、もしバレたりしたら……」 ルイズの言葉にモンモランシーは顔を青くした。 「わかったわよ! わたしも行けばいいんでしょ! もう!」 「安心してくれモンモランシー。僕も行くよ。例え何があっても僕は君を守る!」 危険だと聞いて、ギーシュもモンモランシーに着いていくことにしたらしい。 「気休めにもならないわ。あなたよわっちいし」 それから四人は打ち合わせをした。 出発は早い方がいい。明日の早朝ということになった。フーケも放置すると何をするかわからないので一緒に連れて行くことにした。 「やれやれ……」 フロウウェンは大きく溜息をついた。ハルケギニアに来てからというもの、やけに女難……というか、そういう気苦労が絶えない気がする。 ルイズ一行は馬を使ってラグドリアン湖へと向かった。 先頭を行くのはギーシュとモンモランシー。それぞれ葦毛の立派な馬に跨っている。少し後ろをフロウウェンとフーケが横並びに。最後にルイズ、という形だ。 どうも先日の焼き直しのような形だ。キュルケの役回りがフーケと入れ替わった格好だが、フーケがフロウウェンに何事か楽しそうに話しかけるたびに、ルイズは顔色と表情がくるくると面白いほどに変化していた。 と言って、二人の間に割って入ろうとするとフーケは巨大ゴーレムでも作り出すような勢いで暴れそうになるのである。ギーシュとモンモランシーの目もあるので迂闊な事は出来ないというジレンマに陥っていた。 一方のフロウウェンはというと、適当に受け答えしながらフーケをあしらっていた。 と、その内に悲しそうな顔を浮かべたフーケが言う。 「ヒースは私の事を血も涙もない悪党だと思っていらっしゃるのね。だから私に冷たいんだわ」 「そういうわけではないが」 フーケ、というよりミス・ロングビルの口調で彼女は続ける。 所謂「営業用」なのだろうか、とフロウウェンは思いあぐねた。 オスマンもこれで口が軽くなったのかもしれない。なるほど、淑女のように振舞う彼女は盗賊とは思えない高貴さを漂わせていた。 フーケの捜索に出た時、馬車の上でキュルケと交わした会話では「貴族の名はなくした」と言っていた。 メイジである以上、元貴族という部分に偽りはないだろう。素の彼女の一部でもあるのかもしれない。寧ろ、盗賊の彼女こそが、後から身につけた仮面なのだろう。 それを裏付けるかのように、彼女は貴族への恨み言を口にした。 「私は貴族が嫌いなだけなの。アルビオンの王家が私達に何をしたか」 フロウウェンは話題の雲行きが怪しくなってきたので彼女の手首をそっと取って、それを制した。 「……もう止めておけ。オレに心の内を吐露したいと思うのは本心ではないだろう」 「でも」 「すまなかった。決して嫌っているわけではない」 なおも言い差そうとするフーケを引き寄せる。彼女はされるがままで上体をフロウウェンに預けた。 フーケの場合は恐らくだが、こうして身体を一時預けるよりも、己の心情を晒す方が辛いに違いあるまい。そして、自分はフーケに内心を明かしてもらえるような間柄ではないはずだ。 だから彼女と距離を取ることで、フーケが自分の事を理解してもらおうとして自分について踏み込んだ話をしてしまうより、こうすることで「今の彼女」が満足するなら、そちらの方がいい。 「あなたは……お父様に似ているわ……」 目を閉じてフーケは呟いた。 やがて一行は小高い丘陵に差し掛かる。それを越えると、ラグドリアン湖の青く輝く湖水が眼前に広がった。 「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやあ! 噂以上の奇麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! イヤッホォォォゥ!」 一人だけ旅行気分のギーシュが嬉しそうに馬の腹を蹴って丘を駆け下りていく。馬が水を嫌がって急に足を止め、ギーシュは馬上から投げ出されて湖に落ちる。派手な水しぶきが上がった。 「背が立たない! 背が! 溺れるうぅぅぅぅうう!」 必死の形相で助けを求めるギーシュに、思わずフロウウェンは小さく笑った。 そしてそれから、馬から降りてロープを投げてやる。 「やっぱりつきあいを考えた方がいいかしら」 「バカだしね」 「ええ。バカね」 ルイズとモンモランシーが頷きあう。 「ハァ、ハァ。た、助かったよミスタ・フロウウェン」 モンモランシーは濡れ鼠になったギーシュを無視して湖面を見やって言った。 「本当。確かに水位が上がってるわね。ラグドリアン湖の岸辺はずっと向こうだったのに」 モンモランシーが「ほら」と指を指した先には、波打ち際のすぐそば藁葺きの屋根の屋敷があった。湖底に沈んだ家屋も見て取れる。 それから馬を下りて波打ち際に手をかざす。 「水の精霊は怒ってるみたいね」 「ほう。それだけで解るのか」 「わたしは『水』の使い手。香水のモンモランシーよ。ラグドリアン湖の水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は何代も務めてきたわ。 今は……色々あって他の貴族がその役なんだけれど……」 そこまで言った所で老いた農夫らしき男が木陰から姿を現した。 「もし、旦那さま。貴族の旦那さま」 農夫は話しかける事も恐れ多い、と言った様子だったが、それでもおずおずと前に出てくる。 「どうしたの?」 「旦那さま方は水の精霊と交渉に来られた方々で? いえね、早いところ、この水を何とかして欲しいもんで」 モンモランシーはルイズと顔を見合わせる。 「わたしたちは……その、湖を見に来ただけなの」 モンモランシーが当たり障りのない言葉で茶を濁した。 「さようですか……領主さまも女王さまも、こんな辺境の村など目に入らんのですかのう……」 農夫は深い溜息をついた。 「ラグドリアン湖に何があったの?」 ルイズが尋ねると、 「増水が始まったのは二年程前からでさ。ゆっくりと水は増え、船着場が沈み、寺院が沈み、畑が沈み……ごらんなせえ。次にはわしの家まで今にも水没しそうになっているという有様です。 領主さまはご領地の経営より宮廷でのお付き合いの方に夢中なようで、わしらの嘆願もなしのつぶてでして……」 と、農夫は泣き崩れた。 それからしばらくの間、愚痴をこぼし続ける。言いたいことを好きなだけ言うと満足したのか、農夫は自分の家へと戻っていった。 モンモランシーは農夫の後ろ姿を見送って小さく溜息をつくと、腰につるした袋から黄色い物体を取り出した。艶やかな黄色に、黒い斑点を散らした、それはカエルであった。 「えうあ」 カエルが苦手なのか、ルイズは奇妙な声を上げて後じさった。 「な、何よその毒々しい色のカエルは!」 「毒々しいなんて言わないで! わたしの大事な使い魔なんだから!」 モンモランシーは指を立てて、使い魔に命令をする。 「いいこと? ロビン。あなたたちの古いおともだちと、連絡が取りたいの」 ポケットから取り出した針で自分の指先を突く。その血を一滴カエルに垂らす。傷を魔法で塞ぐと、カエルに言った。 「これで相手はわたしのことがわかるわ。覚えていればの話だけど。じゃあ、ロビンお願いね。偉い精霊。旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい」 カエルは頷くと、モンモランシーの手から跳ねて、湖面へ飛び込んだ。とぷん、と水面を叩く小気味のいい音だけ残して、ロビンは群青を湛える湖底へと消えた。 「モンモランシーは水の精霊と会ったことがあるのかい?」 シャツを脱いで、扇いで乾かしていたギーシュが尋ねる。 「小さい頃に一度だけね。領地の干拓を行う時に水の精霊の協力を仰いだのよ。父上が機嫌を損ねて、干拓事業は失敗しちゃったけど……」 モンモランシーの水の精霊の話に一同が耳を傾けていると、水面が輝き始めた。 「来たわ」 岸辺から三十メイルほど離れた位置の水面が、生物的に蠢いた。それから、見えない力で上に引かれるように水面が盛り上がり、粘土でも捏ねるように様々に形を変える。陽光を反射して七色に輝いた。 ルイズも実際に見るのは初めてだったが、どうもあの悪夢を思い出してしまう。フロウウェンも微妙な表情を浮かべてそれを眺めていた。 湖からロビンが戻ってくる。モンモランシーはしゃがんで使い魔を迎えた。頭を撫でて手に乗せた使い魔の仕事を誉めると、 それから立ち上がって水の精霊へと向き直る。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えがおありかしら。覚えていたらわたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をしてちょうだい」 その言葉に水の精霊が更に形を変える。不規則に蠢いていたそれは段々と形を整えて、やがてモンモランシーそっくりの姿となって微笑みを浮かべ、また表情を変える。 人間の喜怒哀楽の表情を確かめているのだ。モンモランシーの言うところの「わかるやりかた」というのは自分の感情を人間の表情で伝える、ということなのだろう。 やがて一通りの“おさらい”が終わったのか、水の精霊の相貌は無表情で固定された。 人の姿をして、人と同じような表情を造っても、まるで異質だとフロウウェンは感じた。 異なる尺度。異なる時間。異なる価値観で生きる存在。目の前にいるのはそれだ。そういうモノに一度は取り込まれたフロウウェンだからこそその異質さが解った。 「覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 「よかった。水の精霊よ。お願いがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」 水の精霊はにこっと笑うが口にした言葉は拒絶だった。 「断る。単なる者よ」 どうやらその笑みは、盟約を交わしたものへの社交辞令や礼儀の類だったらしい。 「そりゃそうよね。残念でした。さ、帰りましょう」 モンモランシーはあっさりと引き下がろうとするが、フロウウェンとしてはそうもいかない事情がある。 フロウウェンが一歩前に出て、恭しく跪いた。その一歩後ろにフーケが付き従う。 「お呼び立てした無礼をまずは謝りたい。水の精霊よ。我が名はヒースクリフ・フロウウェン」 水の精霊はフロウウェンの姿を認めると、ふるふると姿を変える。 「どうか我が願いを聞き届けていただきたい。『水の精霊の涙』を分けてはいただけないだろうか。その見返りとして、貴方が臨む願いを叶えることを誓おう」 水の精霊が再び人間の姿に戻った時、その貌に張り付いていた表情は“困惑”であった。 「連なる者よ。我は貴様に命じることなど叶わぬ。また、貴様がそう望むならば阻むこともできまい」 そうしてまた、水の精霊はぐるぐると形を変える。 「連なる者……?」 ルイズとモンモランシーが怪訝そうに眉を顰めた。 「……命令でなくば、今の貴方の悩みや願いを聞かせてもらうだけでもいい。オレはその解決をもって、その身を分けてもらうことへの見返りとしよう」 フロウウェンは一瞬表情を曇らせたが、その言葉への追究ではなく、精霊に話を合わせることを選んだ。それは、より対等な立場に立った言い回しだった。 「よかろう」 暫く不定形の姿で蠢いていたが、やがてモンモランシーの姿を取る。今度は、無表情だった。 「我は今、単なる者どもの同胞に襲撃を受けている。我は水位を増やすことに手一杯で、襲撃者への手が回らぬ」 「襲撃者? 彼らは何時、どこに現れる?」 「単なる者どもがガリアと呼ぶ土地より、夜更けに現れる。毎夜我が領分へと踏み込んで、我が体を削っていく」 「水の精霊の領分って?」 ギーシュの小声の問いに、モンモランシーが答えた。 「湖底の奥深くよ」 一行は水の精霊に教えられたガリア側の岸辺で襲撃者を待ち伏せることにした。 フロウウェンは折角なのでギーシュに体術や陣形の重要性を説いていた。ルイズやモンモランシーと話をしようとするとフーケの機嫌が悪くなるのだ。とりあえずギーシュと話をしている分には、寄り添っていられれば満足するらしい。 トレードオフでルイズの機嫌が悪くなるのだが、これは今しばらく我慢してもらう外にない。 「では、ミスタ・フロウウェン。貴方は僕に平民の武術や戦術を学べというのかい?」 「平民と侮ったものでもあるまい。ゴーレムにできることは白兵戦だ。ならば技術的にも応用が利くことは多い」 「なるほど……」 「操る者が体術に習熟すれば、相対した者が何をしたいのか、どう動きたいかという事にも察しがつく。 そうすれば読みも早くなる。恐れも疲れも痛みも知らず体術と陣形に明るい。しかも一つの統率された意思の下に動く一団。これはかなりの脅威だぞ」 「そ、そうか。僕って実はすごいのか! そうなんだな!」 景気付けなのか、ギーシュは持ってきたワインをがぼがぼと音を立てて呷った。かなりメートルが上がっているようだ。 フロウウェンにしてみると、これから戦地に赴く新兵を見ている気分だ。こうやって気を大きくしないと居ても立ってもいられないのだろう。 「でも、どうやって湖の底までいくのかしら。確か……水の精霊は、相手が水に触っただけで心を奪えるのよね?」 ルイズがモンモランシーに尋ねる。 「よく知ってるわねルイズ。ええ。その通りよ。……多分、風の使い手じゃないかしら。空気の球を作って、それで湖底まで行くのね」 「危ないわね。それで水の精霊と戦うなんて。少しでも集中が乱れたらお仕舞いじゃないの」 ルイズは眉根を寄せた。 「他に攻撃に回る者がいるのかもしれんな」 独りごちるように言うフロウウェン。 「水の精霊は体を削るって言ってたし……だとしたら炎の使い手が一緒にいるんじゃないかしら」 「相当な命知らずか、或いは腕に自信があるか。いずれにせよ油断できない相手だろう」 「わ、わたしやーよ。戦いなんて野蛮なこと」 「まだ戦いになると決まったわけではない」 「た、戦うんじゃないのかい?」 「理由があるだろう。考えられる所では水害に困った近隣の村の者がメイジの傭兵を雇った、とか」 「交渉次第では色々解決できそうね」 とルイズ。 「最初はオレ一人で前に出よう。皆は物陰に隠れていてくれ。交渉が決裂した時には、オレがこう、左手を上げる。合図をしたら『錬金』で動きを封じ、オレとワルキューレで突撃……と、こんなところか」 それから一時間も経った頃だろうか。岸辺に人影が現れた。 人数は二人。漆黒のローブを纏い、目深にフードを被っているので男か女かも分からないが、片方の背丈はかなり小さいことが遠目にも伺える。 そのまま物陰から出方を見ていると、岸辺に立って、呪文の詠唱を始めた。どうやら間違いないらしい。 フロウウェンは姿を隠しもせず、剣も抜かずに正面から歩いて近付いていった。 「すまないが、そこの二人」 まるで世間話でもするかような気軽さで二人に話しかける。 「っ!」 二人は一瞬身構えるもフロウウェンの姿を確認すると 「え!? どうしてここに!?」 と、片方が頓狂な声を上げた。その声は皆がよく知る声であった。 二人組がフードを取り払う。そこには見知った顔があった。 「キュルケ! タバサ!」 相手が顔見知りと知って戦う必要が無くなったので、一行は焚き火を囲んでお互いの事情を伺うこととなった。 キュルケとタバサが肉を焼き、ギーシュが楽しそうにワインをかっ食らっている。 フロウウェンはフーケにしな垂れかかられて動けないので、事情の説明をルイズとモンモランシーに任せて、木立に寄りかかっていた。 キュルケはその光景を見て目を丸くする。 「どうしちゃったの? ミス・ロングビルは」 「それなのよ」 ルイズが渋面で答える。地の底から響いてくるような、不機嫌そうな声だった。 「モンモランシーが作った惚れ薬を、誤って飲んじゃったの。それでフロウウェンを最初に視界に入れて……」 「なんで惚れ薬なんか」 キュルケがモンモランシーに視線を送ると、ばつが悪そうにそっぽを向いた。 「つ、作って見たくなっただけよ」 「全く、自分に自信のない女って最悪ね」 「うっさいわね! ギーシュはこうでもしないと病気が治らないのよ!」 「うーむ。元はといえば僕のせいなのか」 腕組みをするギーシュ。 「で、水の秘薬が惚れ薬の解除に必要ってわけ。でもブルドンネでは品切れで、ラグドリアン湖まで来たの。 秘薬を貰う為に水の精霊を襲っている相手を撃退するって約束しちゃったんだけど……二人はどうして水の精霊を襲っていたの?」 「それは……その、タバサの実家に頼まれたのよ。水の精霊のせいで水かさが上がっているから退治してほしいって」 正確には依頼元はガリアの王宮だった。 タバサは本名をシャルロット・エレーヌ・オルレアンという。現ガリア王、ジョゼフ一世の弟、シャルルの娘。 つまりジョゼフの姪に当たり、本来なら王族だがその権利は剥奪されている。 ジョゼフが即位と共にタバサの父、シャルルを暗殺したからだ。 シャルロットの母もまた、娘の命を庇う為に自らジョゼフ王と娘の眼前で毒を呷り、心を病んだ状態で床に伏せた。 タバサと名付けられた人形をシャルロットと信じ込みながら、今でも夢と現の狭間でシャルロットを守ろうとしているのだ。 それ以降、シャルロットは己をタバサと名乗っている。 ジョゼフ派は後顧の憂いを無くしたいと思っていたが、シャルル派の反発もあってタバサを表立って処刑するわけにもいかない。 だが、暗殺の危険は付きまとう。タバサは己を守る為に『任務』に志願した。例えば、単身で吸血鬼を相手にするような、命を落とす危険度の高い仕事だ。 王宮はこれを喜んだ。死ねばそれでよし。死ななくとも雑事は解決する、というわけだ。 タバサはこれを見事こなし、王家への忠誠の証を立てた。王宮はそれを受けてタバサにシュヴァリエの称号を与え、トリステインへ留学させることで厄介払いをしながらも、 事あるごとに王宮からの汚れ仕事を与えてこき使っている、という状況である。 今回もタバサには、水の精霊を討伐し、ラグドリアン湖の水かさを元に戻す為の任務に就くよう命が下った。 タバサはラグドリアン湖の水かさが増していることを聞いて母のことが心配になり帰郷しただけなのだが、王宮はタバサの動向を知ると、ついでとばかりに命を下してきたというわけだ。 それらのことを、キュルケはタバサと共に赴いたオレルアンの屋敷で、使用人から聞かされて知ったのである。 そんな親友の境遇をぺらぺらと話すわけにもいかず、キュルケはできるだけ簡素に事情を説明したのだった。 「それは困ったわね。退治しなければタバサの立つ瀬は無いし」 「水の精霊ともう一度交渉するしかあるまいな。土地が元に戻れば良いのだろう」 タバサは頷いた。 朝靄煙るラグドリアン湖。 モンモランシーは昨日と同じようにロビンを使いに立てて水の精霊を呼び出した。 「水の精霊よ。もうあなたを襲う者はいなくなったわ。彼との約束通り、あなたの体の一部をちょうだい」 モンモランシーが言うと、不定形の水の精霊は細かく震えた。体の一部が弾け、水滴のような何かがこちらに飛んでくる。 「うわっととと!」 ギーシュが叫んで、それを壜に受けた。それを見届けると、水の精霊は湖底へ帰ろうとする。 「待って! 聞きたいことがあるの!」 キュルケがそれを呼び止めた。 水の精霊はぴくり、と動きを止め、再び盛り上がってモンモランシーの形を取る。 「なんだ、単なる者よ」 「あなたはどうして水かさを増やすの? できれば事情を説明して欲しいのだけれど。あたし達にできることなら、解決に当たるわ」 キュルケの言葉を受けて、水の精霊は様々に形を変えた。恐らくは、それが感情の表れなのだろう。迷っている、と一行には見えた。 「お前たちに任せてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我の願いをかなえた。信用して話してもよいことと思う」 一行は黙って水の精霊の次の言葉を待つ。また幾度か形を変えた後、モンモランシーの姿に戻り、語り始めた。 「数えるのもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前達の同胞が盗んだのだ」 「秘宝?」 「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から。その秘宝が盗まれたのは月が二十五ほど交差する前の晩のこと」 おおよそ二年前だ。水かさが増し始めた時期と一致する。 「じゃあ、人間に復讐する為に水かさを増やしてるってわけ?」 「復讐? 我はそのような目的はもたない。ただ、秘宝を取り返したいと願うだけだ。ゆっくりと水が浸食すれば、いずれ秘宝に届く。水が全てを覆う暁には、我が体がその在り処を知ろう」 一同はその言葉に呆気に取られた。気の長い話だ。 「我とお前たちでは、時に対する概念が違う」 「じゃあ、私達がその秘宝を取り返してくればいいのね? なんていう秘宝なの?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 「聞いたことがあるわね」 モンモランシーが考え込む。 「確か……『水』系統のマジックアイテムね。偽りの命を死者に与えるとか……」 「そのとおりだ。単なる者よ。死は我にない概念ゆえ理解できぬが、死を宿命とするお前たちには魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、其は偽りの命。 旧き水の力に過ぎぬ。『アンドバリ』の指輪はお前たちの益にはならぬだろう」 「誰がそんなもの取っていったのかしら。名前とか分からないの?」 「個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」 「……クロムウェル……って。確かアルビオンの……貴族派の首魁じゃなかったっけ」 キュルケが呟いた。 「あの、恥知らずの貴族派?」 ルイズが顔をしかめて敵意を露にした。 フロウウェンの腕に縋りついたフーケの手に込められた力が、少し強くなる。アルビオンの事情は、世間一般に流布している程度の話なら、シエスタとの世間話からフロウウェンも承知していた。 王党派に反旗を翻した貴族派が、打倒王家を掲げて内戦の只中なのだとか。 王党派は相次ぐ重鎮達の翻意で地盤を崩され、威厳は地に落ち、押されに押されて明日をも知れぬという状況だ。どうも……話がきな臭くなって来た。 「偽りの命を与えられると、その者はどうなる?」 「生前と同じ姿、同じ声、同じ記憶で指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは不便なものだな」 「死者を動かすなんて趣味が悪いわね」 眉を顰めるキュルケ。 「……約束する。その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのをやめて」 言ったのはタバサだった。 「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら水を増やす必要もない」 「いつまでに取り返してくればいいの?」 「お前たちの寿命が尽きるまでで構わぬ」 また気長なことだ、と顔を見合わせる一同。 「我にとっては明日も未来もあまり変わらぬ」 「待って」 言い残して去ろうとする水の精霊を呼び止めたのはタバサだった。 「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」 「なんだ?」 「あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由を聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。我はお前たちが深く理解はできぬ。しかし我がお前たちの身から見て不変であるが故に、変わらぬ何かを祈りたくなるのであろう」 タバサは頷くと、跪いて目をつむり、水の精霊に祈りを捧げた。その祈りの意味を知るキュルケが、タバサを優しく見詰める。 「ねえギーシュ」 「なんだいモンモランシー」 「誓って?」 「何を?」 ギーシュは途方もなく鈍感だった。モンモランシーがその頭を思いきり殴りつけた。 「わたしへの愛に決まってるじゃないの!」 「あ、ああ。えーと。ギーシュ・ド・グラモンは誓います。これから先、モンモランシーを一番に愛す……」 そこまで言ってまたギーシュは殴られた。一番に、というのが気に入らなかったらしい。 「ヒースは私に愛を誓ってくださらないの?」 「なっ!」 そんな二人のやり取りを見ていたフーケが言う。フーケの言葉に、ルイズが目を白黒させた。 フロウウェンとルイズは親子より年齢が離れている。異性として意識しているわけではないが、自分の使い魔なのだ。 それが、フーケと仲良くするというのは精神衛生上よろしくない。 「お前はオレの為などではなく、他の大事な者の為に祈ると良い」 フロウウェンは目を細めて答える。 「うー」 「ルイズもな」 唸っているとフロウウェンに視線を向けられて、気恥ずかしそうにルイズは顔を背けた。それから、見上げるようにフロウウェンの顔を横目で伺う。 「じゃあ……ヒースは?」 「オレ? オレは……そうだな。望みはあるが、永遠に変わらず誓う、とは言えないな」 と、苦笑した。 「祈りが済んだら、先に行ってくれないか。オレは一人で水の精霊に聞きたいことがある」 「私も?」 フーケが悲しそうな顔で聞いてくる。 「すまないな。用が済めば、すぐに馬で追いかけよう」 「そう……」 渋々といった様子でフーケはルイズ達の後を追った。後に残されたのは水の精霊とフロウウェンだけだ。 「何だ、連なる者よ」 「それが聞きたい。オレは何故、連なる者なんだ?」 ぐるぐると形を変えて、また人間の形になると水の精霊は言った。 「わからぬ。貴様の体は単なる者の血と肉を持ちながらも、我らに近しい力を感じる。だが同じではなく、違うものだ。つまり、我らではなく、我らに連なる者。 しかし、それとはまた別の力を更に感じる。それらを形容する言葉を、我は持ち合わせぬ」 「それらとは?」 「貴様に感じる力は四つ。我が形容しえぬは二つ」 「……そうか。礼を言う」 水の精霊はとぷんと、小さく沈む音だけを残して湖面へと消えた。後にはただ、静かな湖が広がっているばかりだ。 フロウウェンは暫し無言で湖底を見詰めていたが、やがて踵を返すと、ルイズ達の後を追ったのだった。 前ページ次ページIDOLA have the immortal servant
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/895.html
8話 日もとっぷり暮れて、翌日に近いヨルー! なぜか谷岡ヤスジっぽく夜がやってきた。緊迫感が欠片もないのはどういうことだろう。 理由は簡単。昼間の幽霊騒動のせいで、女衆は襲撃者よりも幽霊のほうに怯えているからだ。モンモンなぞギーシュの腕にすがり つき、ガタガタと震えている。「大丈夫。僕がついてるじゃないか。」と慰めるのはギーシュ。増水した湖さえ干上がりそうだ。 一方ルイズはというと、 「ゆ、幽霊なんて、こ、こ、怖いわけないじゃないの。モ、モンモンモンモランモンシーも、た、たいしたことないわねっ!」 と精一杯虚勢を張っていた。誰だ、そいつは。 「ひ、昼に見張りましょうよ!昼に!」 こんな意見も出たのだが、当然却下された。襲撃者は夜来るというのに昼見張ってどうするのだ。そういうと、 「おっちょこちょいな襲撃者がいて、間違えて昼に来るかもしれないじゃない!」 断言する。そんな襲撃者はいない。このカシオミニを賭けてもいい。 見張り始めて1時間経ったころだろうか。岸辺に2つ、人影が現れた。漆黒のローブを身に纏い、深くフードをかぶっているので男か女かもわからない。アボット&コステロを思い出させる凸凹コンビだ。つまりノッポとチビである。 でっきるっかな、でっきるっかな、と凸凹コンビが杖を掲げ、呪文を唱え始めた。間違いなく、襲撃者だ。 「……どう、ビッグ・ファイア?」 襲撃者の心を読んでいたバビル2世にルイズが訊ねる。訊かれたバビル2世は当惑した表情を浮かべていた。 「いや、なんであの2人が?」 その言葉に疑問符を浮かべるルイズ。バビル2世がスックと立ち上がった。 「あっ!こら!」 無防備に姿をさらすバビル2世を諌めるルイズ。ギーシュとモンモンのあわてている姿も見える。 「いや、大丈夫だよ。なぜならあの2人は―――」 バビル2世に凸凹コンビが気づいた。慌てて杖を掲げて構える。が、すぐに構えを解いて、首を捻りながらフードを取り払った。 「あなたたち、どうしてこんなところにいるの?」 ノッポのほうの、フードの下から現れたのはキュルケの顔であった。 真実とは、問いかけることにこそその意味もあれば価値もある。 托塔天王晁蓋こと、ガリア王ジョゼフにとって、それは魂の叫びであった。 『この世界には、なぜ真実を知ろうとしない人間がこれほど多いのだ。』 ジョゼフの半生は、みじめの一言に尽きた。 ブリミル直系の4王家の嫡子として生まれながら魔法が使えない。すぐ下には天才と呼ばれる弟。性格が歪んでいくには、これ以上ない環境といえた。このような設定を与えられて、まっすぐに育つ人間がいるものか。ブスはブスと罵られるため、性格もブスになるというが、ジョゼフはまっすぐに育つ機会を得ることなく長じたのである。 そんな彼が熱中したのは、魔法を必要としない詰めチェスや、ボードゲームなどの1人遊戯であり、あるいは世の中を呪うことであった。 『この世界にはなぜ真実を知ろうとしないのだ』 という思いはそんな彼の青春時代に培ったものである。魔法が使えないゆえに、彼は逆に「なぜこの世界に魔法などが存在するのだろう」ということを考えた。ガリア王家に伝わる古文書を読み漁り、あらゆる学者に問い、メイジたちを観察した。 だが、何一つその理由はわからない。当然だ。メイジにとって魔法ははじめからあるべくしてあるものであり、なぜ使えるのかなどということを今までに考えたものはいないからだ。あえていうならば、メイジであるからだという観念論的な答えに終始するだろう。 いや。ただ唯一、そのことを考えていた人間たちがいた。 職人である。 ご存知のようにいくら錬金という魔法技術があるといっても、精密な細工や精巧な仕掛けに限っていえば、魔法は職人の持つ技術に勝ち目はない。メイジがいくら努力をしようとも作れぬ芸術作品を作ることのできる人種。それが職人である。 そのため職人の中にはメイジなにするものぞという気風があった。職人にとってメイジは「偶然妙なことができる家に生まれた人間」であり、魔法というものは「便利な技術」に過ぎない。なぜ使えるのかと問われれば、彼らはこういうだろう。 「ノミの尻をハンマーで叩けば、刃先が木に潜り込む。魔法というのは目に見えないノミの尻を、呪文で叩いてるだけでしょう。」 人間不信に陥りかけていたジョゼフにとって、この答えは天啓であった。なんという理論的な答えだ。使えるから使えるのだ、というだけの国有数の学者だというメイジよりも、市井に住む職人のほうが賢いではないか。 そう考えるならば自分が魔法を使えない理由もおぼろげにわかる。自分は単に目に見えないノミを叩く技術を身につけていないだけなのだ。あるいは自分のノミは他のメイジが使っているノミとは別種のものなのかもしれない。 以降、ジョゼフは職人の持つ技術理論にのめりこんでいくこことなる。 職人の技術は嘘をつかない。職人の技術にはごまかしがない。職人の技術は理論的だ。 また、こうも考えた。メイジの中には、職人が天職と言ってよいほど手先が器用なものがいる。そんな連中の中には、こっそり職人の真似事をしたり、偽名を使って金銀細工を作っているものすらいるという。ならば逆に、平民の中にメイジが天職と言ってよいほど魔法技術に秀でたものがいてもおかしくないではないか。今、メイジになるものがメイジの血筋なのは、そういった連中を見つける努力を放棄しているからではないのか。 そんなとき、彼は王に出会った。 王を呼び出したのだ。 王はメイジではなかった。だが不思議な力を持っていた。なにより、人を区別しなかった。差別しなかった。あらゆる人間を平等に扱い、愛していた。 それはすさまじいカルチャーショックであった。頭の中では平民にもメイジになる可能性のあるものがいると思っていても、身体が拒絶していた。王族に生まれたというプライドが、平民と貴族を分けて考えさせていた。 なにより、王の部下は自分の理論を実証するように平民でありながら不思議な力を持っていた。生まれながらの力ではなく、懸命な努力とたしかな技術体系によって身につけた能力。天才ではなく、努力の人々。 王は、王を統べる王を見つけたのだった。 王という字を分解するとヨミとなる。ジョゼフが見つけた王を統べるもの、その名をヨミと言った。 ジョゼフは充実したときを過ごしていた。 彼はうまれてはじめて友を得ていた。傍にいるのはメイジではない。かといって平民でもない。不思議な力を努力で手に入れ、実力を身につけた英傑・好漢である。偶然力を行使できる立場におかれて生まれただけで、使えない人間を虫けらのように扱うような野蛮きわまりない生き物ではない。確立された技術体系を持ち、メイジをはるかに凌駕する力を持つ男たちである。 ジョゼフは夢を見ていた。それはハルケギニアにおいて、図法もない夢である。 メイジであるとか、平民であるとか、亜人であるとかそういったすべての垣根をなくして、平等とする国をこのハルケギニアに建国するという夢である。すなわち、あらゆる身分差を消失させて、あらゆる人間を平等とし、それぞれの持つ人格や技術によってのみ評価を行う国を打ち立てるという夢だ。 梁山泊を建立したのはその伏線であった。ここにあらゆる技術に秀でた英傑好漢をエキスパートとして集結させ、全ハルケギニアを統一するという大計画を打ち立てたのであった。そして別の世界をも侵略し、ヨミの名の下にあらゆる差別や垣根を取り払うという夢を抱いたのだった。 だが、それを邪魔しかねない懸念がバビル2世以外に一つあった。 実弟、オルレアン公シャルルである。 一般的に世間では天才魔法使いの名で通っている。事実、わずか12歳でスクウェアクラスに到達したほどであった。頭脳明晰で人望厚く、善良にして高潔。周囲からはジョゼフを廃してむしろオルレアン公こそが王位を継ぐべきと囁かれた人物であった。 が、それはあくまで現支配階級であるメイジの目から見ての話である。幼少期からの体験でメイジと平民という身分差について疑問をもち、ヨミとの出会いで近代的人権の思想に出会ったジョゼフにとっては、メイジと平民という階級差別に何の疑問も持たず、与えられた力を振りかざすだけのオルレアン公は守旧的な抵抗勢力でしかなかった。 ジョゼフは兄としての直感で、もし自分がメイジ制度を廃してガリア国に平等という概念を持ち込もうとすれば、オルレアン公こそが率先して杖を自分へ向けてくるだろうことを確信していた。守旧派に担ぎ上げられて自分には歯向かう急先鋒となるだろうことを予想していた。 それを取り除くには一つの方法しかなかった。 そのことは充実したときをすごす托塔天王晁蓋の心に突き刺さったトゲとなっていた。 だがやるしかなかった。それ以外に夢を現実とし、理想を形とする手段はなかった。 家族をも皆殺しにしようとした。それは今後の改革で、守旧派がオルレアン公の血筋のものを担ぎ上げぬようにするためであった。 この国には自分のシンパよりもよほど公派の人間のほうが多いのだ。苦渋の選択であった。 だが、失敗した。 確実に姪を始末するつもりであったが、公妃の命をかけた嘆願によりそれを中止せざるを得なかった。 それだけではない。自分へも多額の援助を行っている、大口スポンサー『幻惑のセルバンテス』が、姪を始末せんと開いた会食場に突如として現れ、公妃の嘆願の見届け人となったのだ。ガリアだけでなく、いくつもの国に強い影響力を持つセルバンテスが見届け人となっては、約束をたがえるわけにはいけない。 あとで知ったことだが、セルバンテスが駆けつけたのは公妃最後の策略であった。自分が死ぬ、もしくは死んだも同然となった後、娘を守る盾がいる。そこで烈々たる庇護を願った文章を手紙として送ったのである。セルバンテスはそれに応え、オルレアン公の娘シャルロットの庇護者にして保護者となったのであった。 キュルケが昨晩セルバンテスから説明を受けたのはあくまで『王弟を憎んでいた現国王ジョゼフが卑劣にもオルレアン公を闇討ちにし娘シャルロットの命までも奪おうとした。しかしそのことを察知した公妃によってセルバンテスが呼ばれ、暗殺は防がれた。だが、娘の身代わりとなった公妃は正気を失い、この屋敷に閉じ込められた』ということである。 また同時に、なぜタバサなどという猫にでもつけるようなものを名乗っているのかということ。ときどき学院を抜け出し、帰国していたのかということを知った。 「ジョゼフ王は、なんとしてでもシャルロット君を抹殺する腹積もりなのだ。そのために、幾度となく生還困難な任務を与えたのだ。もし任務を果たせず殉職するのならば、『シャルロット君には以降絶対に手出しをしない』という私が見届けた誓約を破ることなく、目的を果たすことができるからねぇ……。」 悔しげに言うセルバンテスの姿が強く印象に残っている。聞けばこの屋敷の維持費、唯一残る使用人、正気を失った公妃の治療費や生活費などはすべてセルバンテスが用立てているのだという。ジョゼフは目的を達成するために屋敷を完全に閉ざし、収入を一切消滅させ、不名誉紋まで刻んだのだという。 『そういえば、門に×印が刻んであったわね…』 この屋敷へやって来たときのことを思い出すキュルケ。王族の証である杖を交差させた紋章に刻まれた、紛れもない傷痕を。 「わたしはあくまで庇護者でしかない。王がシャルロット君へ危害を加えないようにするための防波堤だ。だが、防波堤はあくまで波を防ぐための堤に過ぎない。シャルロット君には、波をものともせぬための支えが必要なのだ。キュルケ君。君という友達があの子にいてくれてよかった。シャルロット君のあんなに嬉しそうな顔を見たのは公が死んで以来だ。」 強くキュルケの手を握り締めるバンテス。 「きみが信用できる人物だと思ったからこそ、全てを隠さず話した。あの子を……シャルロット君をよろしく頼む。」 バンテスのゴーグルが、白く曇ったようであった。 そのタバサは今、キュルケの横にちょこんと座っている。相変わらず無表情だ。 「なんであなたたちは水の精霊を守っているの?」 場面は変わって深夜。湖のほとり。つまり襲撃者の正体がキュルケとタバサと判明した後である。 「説明すると長くなるんだが。」 かくかくしかじかと説明する4人。 「ふーん、惚れ薬ね。ま、アタシには無縁よね。」 胸を強調した、色っぽいポーズをとるキュルケ。思わず愚息がご立派になりそうだ。 「でも世界には特殊な趣味の人がいるし。わからないんじゃないかな?」 あー、そうね。と思わず納得するキュルケ。脳裏にゴーグルをつけ、ドジョウ髭を生やした男の姿が浮かぶ。 「誰を想像しているのだね、キュルケ君。」 「きゃー!」 ずざざざざ、とフナ虫が真っ青になるような速度で後ずさるキュルケ。いつの間にかセルバンテスが横に立っていたのだ。ふっふっふ と笑みを浮かべるセルバンテス。 「バンテスおじさん。」 4人が尋ねる前に、タバサが紹介した。紹介しなければあっというまに警察を呼ばれるような怪しい風貌だ。 ギーシュとモンモンはセルバンテスと知ると、目を輝かせた。 「え、あの幻惑の?」 「フッフッフッ。その通り。君はたしか、グラモン卿の四男で、名前はギーシュ・ド・グラモン君だったね。そちらのレディはモンモランシ家 の、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ君。あちらのピンクブロンドの女性はヴァリエール家のルイズ・フランソワ ーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール君……。」 いずれもパーティで大昔に1度紹介されたかされていないかという人間だろう。それをすべて完璧に記憶している。これほどの人間でなければ、一代で財産を築けぬということなのだろうか。 グラモン家、モンモランシ家ともにセルバンテスから多額の借金がある。ヴァリエール家は借金こそないものの、いくつかの事業を共同で行っている。たしかに知っていてもおかしくはないが、異常な記憶力と言ってよいだろう。 「ふむ。そちらの少年は?」 バビル2世について訊ねるセルバンテス。ルイズがかしこまって 「わたくしめの使い魔、ビッグ・ファイアでございます。」 と答える。使い魔にまで丁寧にお辞儀をするセルバンテス。 「今までの話を失礼とは思ったがすべて聞かせてもらったよ。人類は滅亡する!ではなくて、だ。水の精霊は襲撃者がいなくなれば満足するというのだろう?」 「ええ、そうですね。」 と言ってももう一つのほうが精霊にとっては大切そうなのだが。 「ならばこれで解決だ。私が責任を持って、密売ルートと話をつけておこう。これで襲撃者は現れぬはずだ。明朝にでも精霊を呼び出して、襲撃者はいなくなったと言えばよい。」 「昼じゃないと納得しない気がするわね。」 「ああ。」 ルイズの言葉に頷く残る3人。よくわかっていないキュルケたちは疑問符を浮かべる。 「ふむ。なにか理由があるようだねぇ。昼に呼び出すほうがよいというのならばそうすればよいだろう。今日はもう遅いし、屋敷にでも泊めてあげたらどうだい、シャ……タバサ君。」 セルバンテスの言葉にシャルロットが頷いた。この男、タバサにこんなに多くの友達がいると知ってほっとしたらしい。内気な子供を 持つ母親のようだ。 「フッフフ。それじゃあ行こうじゃないか、諸君。」 マントを翻し歩き出すセルバンテス。その後を全員がついていく。 深夜。 ラグドリアン湖を望む、オルレアン公の屋敷のバルコニー。 二つの月に照らされる、1人の男の姿あり。 ワイングラス片手に、遠い世界を見つめてる。 「いくつもの並行世界を渡り歩き、ようやく辿り着いたこの世界。ついに、望みを見つけた。バビル2世様を、見つけたのだ。」 セルバンテスは双月めがけ高々と右手を掲げた。 「 すべては 我らがビッグ・ファイアのために! 」