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「The Elder Scrolls IV OBLIVION」(海外ゲーム)より、アルゴニアンと闇の一党を召喚 ゼロの使い魔-闇の七人-1 ゼロの使い魔-闇の七人-2
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前ページ次ページ斬魔の使い魔 ヴェストリ広場の決闘から一晩が過ぎた。 九郎とルイズは未だに目覚めない。 治療を担当したメイジの話では、二人は極度の疲労状態になっていたらしく、そのせいで目覚めないのではないかということだった。 とりあえず他に異常はないということで、授業は正常通りに行われた。 その間、シエスタが二人の世話をする。 タオルをきつく絞り、九郎の額にかけるシエスタ。 九郎の表情は穏やかなまま、ただ静かに胸が上下していた。 ――ろう……くろう…… 誰かが自分の名を呼んでいる。 ――くろう……九郎―― とても聞き覚えのある、この声は…… 「――おい、九郎!」 「どわあああああっっ!! ――って、アル!?」 声と共にいきなり目の前に現れた翡翠色の瞳の少女。 大十字九郎の最愛のパートナー、アル・アジフだ。 何でいきなり目の前に居るのか? そもそもここは何処なのか? ルイズ達はどうしたのか? 色々な思考が連続して出てきてパニック寸前になったが、とりあえず本能と言うべきか、身体が先に動いていた。 それは思いっきり抱きしめること。 「――にゃ、にゃにゃにゃにゃ!? にゃにをするー!?」 顔を真っ赤にして暴れまわるアル。 だが、離すつもりはない。 この柔らかい身体。芳しい香り。間違いなくアルだ。 アル、アルアルアルアル……アル―――― 「――~~、いい加減にせんか! この発情魔が!!」 巨大な魔力の爆発により、このまま押し倒そうとした九郎の企みは阻止された。 「夢の中? ここが?」 「そうだ」 あれからすぐ。黙って聞け、という殺る気マンマンの目を向けられながら聞いた話しは、九郎の想像を超えるものだった。 ここは九郎の夢の中。 九郎が気絶した後、ルイズと額がぶつかりあい、その瞬間、ホンの僅かな思念を送ることが出来たらしい。 「と、待てよ。やっぱりお前はルイズの中に?」 「ああ、この世界に召喚されたとき、この小娘と激突した。そのときに入ってしまったのだろう」 「……出られないのか?」 「分からん。そもそも人間の中に入るということ自体が初めて、というより本来ならありえないのだ。外道の知識を内に入れるなど、人の身で耐えられるものではない」 確かにそうだ。 魔導書は外道の知識の集大成。その力は、人の身体も魂も容易に犯し侵し冒しつくす。 かのウィルバー・ウェイトリイのように。 「そういえば、デモンベインはどうしたんだろうな? こっちの世界に来ているはずだけど」 「うーむ、何処かにいるという感じはするのだが、今の妾ではでは正確には分からん。だが、力を感じるということは無事なのだろう。心配するほどではない」 この世界にデモンベインをどうこうできる存在などいないだろう。 アルさえ無事なら召喚呪文で呼び出すという手もあるのだか、この状態ではそれは無理だ。 その時、アルの姿が薄く透けてきた。 「ぬ、どうやらあの一瞬での思念ではそろそろ限界のようだ。とりあえず九郎よ。妾は小娘の身体から脱出する方法を模索する。汝も何とかデモンベインと元の世界に戻る手立てを探してくれ」 「ああ、分かった。任せろ」 「――後、だ」 アルは声の質を変えた。何処となく不機嫌そうで顔も赤い。 「いいか、妾もそこまで独占欲が強いわけではない。仕方のないことだということも分かっておる」 「……あの、アル……さん?」 「この小娘に従うことも、ましてやその、く、く、く、くくく口付けなどをするのも、契約上仕方のないことであろう。妾もしておったしな」 「――お、おい!?」 「だがな! 勘違いするなよ! 赦すのはそれだけだ! それ以上の段階に進んだり、ましてや、他の女子とイチャイチャしようもなのなら……!!」 自身の顔の側で両手を握り締めながら、地の底から聞こえてくるような声で囁く。 「岩を抱かせた後、悪魔の暗礁に沈めて、イハ・ントレイの”深きものども”の餌にするからな」 後に九郎は語る。 『どんよりと黄色く光ったアルの目は本気でした』と。 そうこうしている内に、アルの姿は完全に向こう側が透けて見えるほどに消えかかった。 「あー、他にも色々と重要な話があったが、もう時間がないようだ」 誰のせいだ。 九郎は声には出さなかった。 「最後にこれだけは伝えなければならぬ」 「何だ? ひょっとして色っぽいことか?」 「たわけ! そんなことではない! 妾の断片だ!」 「ああ、断片ね…………って、ええ!? ま、まさか!」 「うむ、また喪失した。大変だな」 「他人事みたいに言うなー!」 「喪失したのは、アトラック・ナチャ、ニトクリスの鏡、あと、クトゥグア、イタクァだ。それらも探し出してくれ」 それだけ言うと、本格的にその身体は見えなくなった。 もはや僅かに輪郭が見えるのみだが、それすらも消えていく。 「いや、おい! マギウス・スタイルにもなれないのに無茶言うな!」 慌てて手を出すが、もはやその手は空を切るのみ。 それからすぐに、アルの姿は完全に消え去った。 最後に何かを言おうと口を動かしていた気がするが、もはや聞くことは出来ない。 九郎は大きく息をついた。そして、力が抜けたように腰を下ろす。 「……はあぁぁぁ……ふう…………また会おうぜ、アル」 その瞬間、視界が暗転。 一瞬で闇に包まれた次の瞬間、光が射し込んできた。 まず視界に飛び込んできたのは石造りの天井。 「知らない天井だ……」 何処がで聞いた台詞を呟く。 そのときになってようやく自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。 白い布団と白いシーツが目に映る。 そのまま、何となく顔を横に傾けると、そこには少し離れたベッドで自分と同じように横になっているルイズがいた。 一瞬、その姿がアルの姿とダブって見えたが、すぐに元に戻った。 「……そうだな、アルはアル。ルイズはルイズだ」 誰に聞かせるまでもなく呟くと、そのまま上体を起こした。 どれぐらい寝ていたのか、バキバキとなる背中を伸ばす。 トントンとドアがノックされた。 入ってきたのはシエスタだ。水の入ったコップとタオルが乗ったトレイを持っている。 こちらの姿に気付くとにっこりと微笑んだ。 「お目覚めですか? 使い魔さん」 「ああ、ええとシエスタ……だっけ?」 「はい、そうです。あの後、なかなか目覚めないから皆で心配していました」 「皆?」 「はい、厨房の皆さんに、後、使い魔さんと決闘をしたグラモン家の方も」 「グラモン家……ああ、あのギーシュとかいう奴か。へー、あいつがねえ」 変なところで感心していたとき、突然、シエスタが俯いた。 「あの、すいません、決闘のとき勝手に逃げ出してしまって」 「いやいや、別に気にしなくてもいいさ」 「でも――」 「本当に気にしなくていいから」 シエスタの眼を見つめ、微笑みながら続ける。 「誰だって怖いことはあるさ。本当に怖くて怖くて仕方がない、そんな時に逃げ出すのは、別に悪いことじゃない」 「使い魔さん……」 「九郎」 「――え?」 「俺の名前。大十字九郎。九郎って呼んでくれ」 「……あ、はい、九郎さん」 にっこりと微笑む。 先ほどの微笑とは違う。本当の笑みだ。 釣られるように九郎も笑う。 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの笑い声が響いた。 「随分と楽しそうねえ」 『――!?』 怖気を振るうような声がすぐ側で響いた。 どうしてここに来るまで気付かなかったのか。 二人のすぐ傍に、ピンクの悪魔が仁王立ちしていた。 「人が寝ている最中にラブコメなんて、随分と出世したものねえ犬」 「あ、あのぉ……ご主人様?」 「み、ミス・ヴァリエール、お気を確かに!」 「問答……無用―っ!!」 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの悲鳴が響いた。 九郎の夢。 消えゆく中、アルの残留思念が最後に呟いた言葉は、 「再び出会うまで、さらばだ」 前ページ次ページ斬魔の使い魔
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前ページ次ページ残り滓の使い魔 目の前に真っ黒な自分がいる。薄っぺらいような、水面に映る影のような、真っ黒な自分が。 (これは、夢だ) すぐに理解し、思い出した。 一度だけ見た、真っ黒な自分が目前にいる夢。 今度は、何も声を発しない。確認のような、詰問のような、どちらともとれない問いはなかった。 ──ふいに、影が揺れる。 自身に接するほど近くに在ったはずの影は、手を伸ばしても届かない距離までに離れていた。 引き止めることは、しない。影も、縋るようなことは、決してしてこない。 影が自分から離れていっているのか、それとも小さくなっているだけなのか、判断は出来ない。 そして、ついに見えなくなってしまった。 悠二がただ一つ直感的にわかることは、ここにいる間はもう現れることはないということだった。 「…………ユージ……」 「シャナッ!?」 シャナに呼ばれたと思い、飛び起きた悠二だったが、そこは悠二にとって見慣れた場所ではなかった。 (そういえば、昨日召喚されたんだったな) 異世界に召喚されていたことを思い出し、暗鬱な気持ちになった。 (さっきのは、ルイズの寝言か) ベッドを見ると、自分をこちらに呼び出した元凶であるルイズが気持ちよさそうに寝ていた。 (やっぱり、シャナの声と瓜二つだよな) 目の前で寝ている少女と、フレイムヘイズの少女を思い、考える。 (なんか性格も似てるっぽいし。素直じゃなさそうなところとか) 苦笑をもらし、立ち上がると大きく伸びをした。 床に寝ていたにもかかわらず体は全く痛くなかった。それでも伸びをしたのは、気分の問題だった。 そして、悠二はもう一度ルイズを見てから、既に習慣になっている早朝の鍛錬をするために部屋の外に出た。 悠二は、考え事をしながら廊下を歩いていた。 (そういえば、なんで何事もなく使い魔のルーンが刻まれたんだろう) 悠二は、身の内に宝具『零時迷子』を宿している“ミステス”である。 過去、“紅世の徒”との戦いでは『零時迷子』にかけられている自在法『戒禁』によって、『零時迷子』に触れた“徒”はその“存在の力”を悠二に吸収されていた。 (魔法が例外なのか、『零時迷子』自体に関係がなかったから『戒禁』が発動しなかったのかな) そこまで考察し、[仮装舞踏会]の巫女“頂の座”ヘカテーに『戒禁』の奥に刻まれた刻印を見た。 この刻印によって[仮装舞踏会]は常に『零時迷子』の位置をわかるはずであった。 (今日見た夢のせいか、確信を持てる。[仮装舞踏会]ですら僕の居場所はわからない) 根拠のない自信であったが、悠二はそれを信じて疑わなかった。 (居場所がわからないから、皆心配してるんだろうな。特に母さんは身重だから心配だな) 自分がいなくなって混乱の極地であろう御崎市を思い、知らないうちにため息をついていた。 そうこうしていると、朝もやに包まれた外が見えてきた。 (気分転換ってわけじゃないけど、今日は『吸血鬼』を使って鍛錬しようかな) 寮塔の外の広場に立つと、悠二はそう思い至って、封絶を展開した。 銀色の炎が悠二を中心にドーム状に広がる。 悠二がポケットから一枚栞を取り出すと、それは瞬時に大剣『吸血鬼』に変化した。 剣を握ると、悠二は驚きに眼を見開く。左手のルーンが輝き、自身の“存在の力”が増したように感じた。 一瞬“存在の力”の増加にあっけに取られたが、すぐに冷静になると再び驚愕することになる。 “存在の力”が増加したと思ったが、それは勘違いだった。 (これは“存在の力”の増加というよりは、『洗練』って感じかな?) その『洗練』は身体能力の向上として現れ、いつもより体が軽くなったように感じる。 しかし、それは長くは続かなかった。なぜなら、悠二が『吸血鬼』を再び栞に戻したからだった。 (ルイズから使い魔のルーンには付与効果があるとは聞いてたけど) 悠二はルーンの効果について検証したかったが、もしそれに対する代償、デメリットが有った場合のことを考え、とりあえず見送ることにした。 (そういえば、昨日コルベールっていう先生がルーンをスケッチしてたから、何か知ってるかもしれないな) 今日中にコルベールのもとを訪ねることを決め、封絶を解いた。 近くの森に行き、落ちていた適度な長さの木の枝を拾った。 このときはルーンが反応しなかったので、いつもと同じように木の枝を使った鍛錬をすることにした。 シャナの剣を振る姿をイメージしながら、悠二は枝を振り続けた。 学院のほうでメイドさん達が働き始めるのが見えると、枝を振るのを止め、悠二は部屋に戻るために歩き出した。 悠二が部屋に戻ると真っ先にルイズの下着が目に入り、思わず赤面した。 (とりあえずルイズを起こして、それから洗濯をしにいこう) 悠二はベッドに近づき、いまだに寝ているルイズの肩を揺すった。 「んにゅ」 「ルイズ、そろそろ起きたほうがいいと思うよ」 「はぁ~~~。今起きる」 ルイズが寝ぼけ眼で上半身を起こし、大きくあくびをした。 「服」 …………何も反応がなかった。 ルイズが目をこすり部屋の中を見回すが、既に使い魔の姿はなかった。 そこでやっと、寝ぼけていたルイズは一瞬にして覚醒した。 「え? 使い魔は?」 今起こしてくれた使い魔がいなくなっていることに呆然としたが、すぐに怒りに取って代わった。 「あああ、あんの使い魔。ご主人様の世話をしないなんてどういうことかしら……」 静かに怒りのオーラを発散しているルイズをよそに、悠二はのんきに洗濯をしに行っていた。 悠二が洗濯を終え部屋に戻ってくると、制服姿のルイズが仁王立ちで睨みつけてきた。 「ああ、あんた。ごごごご主人様の身の回りの世話をしないでどこに行ってたのかしら?」 「え? 洗濯をしに行ってただけなんだけど……」 なんか怒られるようなことした? という言葉を呑み込み悠二はルイズの様子を探る。 こと戦闘になると、歴戦のフレイムヘイズでさえ目を見張る鋭い冴えを見せるが、それはあくまで戦闘時であって、普段の生活、特に女心(この場合女心かは疑問であるが)には殊更鈍感だった。 「私言ったわよね。使い魔の仕事は身の回りの世話をすることだって」 「それで、洗濯に行ってきたんだけど」 「ご主人様を起こしてすぐにいなくなる奴がどこにいんのよ!」 「えーと、それはごめんなさい?」 ルイズは荒い息をついていたが、数回深呼吸をした。 「まあいいわ。次からは気をつけなさい」 とりあえずルイズの怒りは収まったようで、悠二はルイズに見えないようにため息をついた。 食堂に向かうためにルイズと悠二が部屋を出ると、同時に赤い髪の女生徒が廊下に出てきた。 「おはようルイズ」 「おはようキュルケ」 ルイズが嫌そうに返事をすると、キュルケと呼ばれた生徒は悠二を指差し言った。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 キュルケと呼ばれた生徒はあからさまにルイズと悠二を馬鹿にしていたが、悠二はほとんど聞いてなかった。 自分を『それ』と言われた事に懐かしさを感じていたからだった。 (シャナも最初のころは僕のことを物扱いしてたんだよな) と回想していたが、急に現実に引き戻された。 「熱っ! って真っ赤な何か!」 いきなり現れた真っ赤な生物に熱気に悠二は驚いた。 「あはは! 大丈夫よ。これが私の使い魔のフレイム。火竜山脈のサラマンダーよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「あんた『火』属性だからお似合いね」 得意げに使い魔自慢をするキュルケに、ルイズが実に憎憎しげにつぶやく。 「ええ。この『微熱』のキュルケにぴったりよ。そこの平民も『ゼロ』のあなたにはぴったりよ、ルイズ」 「ふん! 早く食堂に行くわよ!」 ルイズは憤怒の形相で悠二を引っ張るが、後ろから声をかけられる。 「ところで、使い魔さんのお名前は?」 「坂井悠二です」 「そ、よろしくね」 ルイズに力の限り引かれながら悠二は答え、そのまま食堂に向かった。 ルイズは食堂に向かいながら、いまだに怒っていた。 「キィー! なによ、あいつ! 自分がサラマンダー召喚したからって!」 独り言を言って話しかけにくかったが、悠二は先ほどの会話で気になったことを聞いてみた。 「あのさ、『微熱』とか『ゼロ』とかってあだ名のようなものでしょ? 『微熱』っていうのはわかったけど『ゼロ』って何?」 「あんたには関係ないでしょ!」 ルイズはそう言って誤魔化そうとしたが、悠二は気づいた。 (ひょっとしてひょっとすると、身体的な特徴のことなのかも) 横目でルイズの『ゼロ』と思わしきところを見ていると、ルイズから右ストレートが飛んできた。 「痛っ! なにするんだよ!」 ルイズがジト目で悠二を見据える。 「あ、あああんた、今ご主人様のことを失礼な目で見たでしょ」 「え? な、なんのことかわからないなあ。あははは……」 図星をつかれた悠二は、冷や汗をかきつつも笑って誤魔化した。 (少なくとも、シャナよりはあるんじゃないかな?) そんな失礼なことを考えて。 そうこうしているうちに二人は食堂に着いた。 ルイズは悠二に色々と説明した。 メイジの大半が貴族であること、貴族としての作法なども学ぶこと、平民は本来入れないことなど。 実際、食堂の装飾や料理の豪華さに悠二は圧倒されていた。 (トーチはいないみたいだな。ここだけなのか、この世界全体なのかはまだわからないけど) 「あんたの食事はそれだから」 そうやって差し出されたのは、床に置かれたスープと硬そうなパン二切れだった。 「……これだけ?」 「普通だと使い魔は外、あんたは私の特別な計らいでここにいるの。まだなんか文句あるわけ?」 (文句はあるけど、言ったら怒るんだろうな) これ以上の面倒ごとを避けたい悠二は文句を心の中にしまった。 「あのさ、ちょっと質問があるんだけど」 「あによ、文句あるって言うの?」 ルイズがサラダを食べながら悠二を一瞥する。 「文句じゃないんだけど、コルベール先生っているよね。で、先生は普段どこにいるのかなと思ってさ」 「ミスタ・コルベールなら、本塔と火の塔の間にある研究室じゃなかったかしら。で、なんであんたがミスタ・コルベールのいる場所を聞くわけ?」 「別に、ちょっと気になっただけだよ」 本当は、ルーンのことについて聞きに行こうと思っていたのだが、ルイズに言うのはまずい気がして、顔を背けながら下手なごまかし方をした。 しかし、ルイズは自分の使い魔が何を考えているのかなど、別段気にならないようで、また食事を始めた。 前ページ次ページ残り滓の使い魔
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「メ・・・ッセージ・・・で・・・す・・・これが・・・せい・・・いっぱい・・・ですジョースター・・・さん 受け取って・・・ください・・・つたわって・・・ください・・・」 あのとき僕は死んだ。僕は確かにエジプトでDIOに殺されたのだ。 なのになぜ、僕はこんなところにいるのだ! 法皇は使い魔~プロローグ~
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前ページ次ページ鋼の使い魔 帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世とトリステイン王国王女アンリエッタ殿下の婚礼の儀式はトリスタニアの夕方から始まり、 ウィンドボナの朝日で以って終幕を迎える事となっている。 勿論たった一日の行程ではない。有力貴族を引き連れた遠大なる『結婚旅行』として企画され、総行程は6日、予備日2日を抑えたスケジュールが組まれている。 宮廷側ではその行程に管理される人間の便覧が用意され、その中にトリステイン側から選出された『祝いの巫女』役として、ルイズの名前も入っているのであった。 トリステイン魔法学院の早朝未明、まだ誰もいない学院の敷地で一人ギュスターヴがデルフを構えて立っていた。 彼は紫色にたなびく空が匂う中で中段に構えたまま、瞠目し静かに気を凝らしている…。 剋目、流れるような剣舞を放つ。飛び込み、或いは素早く身体を引く動作を繰り返す。 朝露の光る中で、ギュスターヴはかれこれ二時間はこうして剣を振っていた。鋼の王と呼ばれ、剣戟が達人の域になって久しいギュスターヴだったが、 こうして肉体の鍛錬を欠かしたことは無い。 何しろ、若々しい態度と余り老け込まない容貌で忘れられがちだが、齢49の肉体は怠けるとすぐに衰えてしまうのだ。ガンダールヴの刻印が肉体を強化すると言っても、 安心はしない。 最後、ぐっと踏み込んで一刀を振り込んでしなやかにデルフを納めた。 「…ふぅ……」 熱を持つ身体をゆっくり冷やすように静かに息を吐く。 「ご苦労さん相棒。そうやって剣として大事に使われると俺様なんでか涙が出そうだぜ。目、無いんだけど」 「何わけの分からない事を…。さて、そろそろルイズを起こしに行くか…」 学院の遥か遠くの山際に、朝日が昇り始めていた。 さて、そうして起こされるはずのルイズは、実はとっくに起きて――尤も、寝間着のままだったが――机に向かっていた。 机には開かれたままの本が数冊。ペンとインク壷、まっさらな便箋に加えて、丁寧に書き綴られた一枚の便箋が乗っている。 ルイズは本と書き取った便箋を読み比べて小さく呻っては、まっさらな便箋にちろちろと文を何度か書き、また呻ってを繰り返す。何度か繰り返してから、 書き綴った便箋に文章を加えていった。 「~~~………~~……~…で、できたわ…っ!」 ペンを置いて書き終わったばかりの便箋を取り上げる。便箋には美麗な語句をちりばめた音韻鮮やかな詩句が並んでいた。 恐る恐ると便箋を机の上に置いて、肩を揺らして大きく息をついた。 「やっと…やっと出来たわ~……」 椅子から降りて身体を解しながら、ルイズはカーテンの隙間から漏れる蒼い朝日に目を細めた。 ルイズはこの半月の間、ギュスターヴを助手に図書館に潜りこんでは文法書や詩集を引っ張り出し、必死に祝詞の製作に励んでいた。 加えてオスマンの添削を受けての作業だった。オスマンは国一の頭脳らしく丁寧な指摘をルイズに与えてくれたが、 ルイズは中々規定の字数まで文を作ることが出来なかった。 そして今日の添削を以って締め切りと宣告と言われた中、早朝になってようやく完成したのだった。 ふらふらとベッドに倒れこんたルイズは、布団の柔かな感触に頭を埋める。 「後は…これをオールド・オスマンに見てもらえばいいわね」 ベッドの上にはまだ自分の温もりが残っていて気持ちいい。 「朝食の時間まで、まだ少し時間があるから…ほんのちょっとだけ……」 根つめすぎていたのか、ルイズはそのままベッドの上でとろとろと眠りはじめた。 机に置かれた『始祖の祈祷書』が開かれたまま、ぱらぱらと風ない中で繰られている…。 『大きな一歩、躓いて…?』 その日の午前中、最初の講義はコルベールによる各種秘薬の取り扱い方について…のはずであったが、教室には生徒がかなり疎らに入っていて、 はっきり言ってスカスカだった。 実はここ暫くの間、コルベールは講義を殆ど休講にして自分の研究に時間を充てているのだ。 だから今教室にいるのは友人と談笑しに来ているような生徒くらいで、他の生徒は好きな場所に行っているのである。 そんな教室にルイズがやってくる。その姿は普段より服がよれ気味で、豊かなチェリーブロンドも少しぼさぼさしている。 …二度寝した結果朝食を食べ逃し、急いで仕度して部屋を出たのであった。お陰で今日もコルベールの講義が無いことをすっかり忘れていた。 「……もう、最悪。それもこれもギュスターヴがちゃんと起こしてくれなかったせいよ!まったくあの中年使い魔ったらどこに行ってるのかしら!」 ルイズの記憶では定時にギュスターヴが自分を揺り起こすところを覚えているが、その後がなんとも曖昧になっている。 もしかして起き切らない自分を放っておいて一人で朝食に行ったのかもしれない。 きゅうぅ、と下腹部が締め付けられる。空腹で苛々もしていた。 「…うぅ。お腹すいちゃったけど、どうしよう……」 途方にくれていると廊下からゆらゆらとした悪趣味のシャツがやってくる。 「…やぁルイズ。どうしたんだい、こんなところで」 色素の薄さが定着しつつあるギーシュは目の下のクマを濃くして壁に寄りかかった。 「なんでもないわよ…。ハァ、休講だし、食堂で何か作ってもらうかしら…」 ギーシュを袖にしてルイズは自分のお財布に今幾らお金が残っていたかを考えていた。因みに学院の食堂は三食以外について、 生徒教員が厨房に直接お金を払って料理をしてもらうようになっている。 ギーシュはゆらりと教室に入ると日誌らしきものを手に教室から出てきた。 「ははははは。…さぁ、僕も用事は済んだからコルベール師のところに行ってくるよ…」 日誌を片手に悪趣味なシャツはゆらゆらと去っていった。 再び下腹部が締め付けられる。 「…お腹すいた」 とぼとぼとルイズの足も教室から食堂へ向かっていく。 「そういえばミスタ・コルベールの実験ってどうなってるのかしら?飛翔【フライ】や浮遊【レビテイション】を使わないで空を飛ぶって行ってたけど…」 コルベール研究塔前は、天幕を中心として随分と様変わりしていた。 天幕の傍ではコルベールとギュスターヴの手で不可思議な物体が製作されていた。 それは木板を箍で半円錐状に締めた物体に、鉄棒で作った骨組みを乗せ、そこに布を張って翼のような形をとっている。 翼は大きく左右に張り出し、さらに円錐の先端に合うように後部にも二つの小さな翼がついている。すべての翼の後半分は可動できるように作られていて、 さらに各々にはワイヤーが繋がっている。ワイヤーはすべて、円錐の広がりの上部に張り出している二本のバーへ集まっているように見えた。 その部分だけを見ると、蝸牛の角のようでもある。 円錐の先端を挟み込む形で、16本の筒が付いている。『飛び立つ蛇君』改型噴射推進装置であった。 「右のレバーを引けば右方向へ、左のレバーで左方向に曲がれるはずです」 製作及び設計者コルベールは少々疲れた顔をしていながら、目に光が灯って溌剌としている。 円錐部には人が入り込めるだけのスペースがあり、そこにはいくつかのレバーが付けられていた。 今そこにはギュスターヴが収まっている。架台に置かれた巨大な乗り物の初の乗り手として、コルベールがギュスターヴに依頼したのである。 「コルベール師。この乗り物が風を掴んで浮き、空飛ぶ蛇とやらを動力に進むのは理解しましたが…これだけの物が本当にそれだけで飛ぶのでしょうか?」 動作を確認するように何度かレバーを引く。するとレバーに合せて、羽根と尾羽の末端が上下左右に動いた。 乗り物は最前端から後部まで3メイル、翼の端から端まで5メイル強、正面から見た厚みが1メイル弱とかなり大きい。恐らくちょっとした馬車並の重さがあることだろう。 問われたコルベールは羽根の可動部に油を注して答えた。 「うむ。残念ながら現在の『飛び立つ蛇君』型噴射推進装置の力だけでは離陸する事ができない。そこで」 と、コルベールが取り出したのは両端が板で閉じられた短い鉄の筒。 「機体の下部に4リーブルの風石消費器を設置します。離陸前に操縦部の脇にあるリールを回せば、消費器の中の風石に圧力が加わって約500リーブルの機体重量を 4分の一以下に減衰することができます。約125リーブル以下の重量であれば、16機搭載する『飛び立つ蛇君』型噴射推進装置を2機ずつ発動することで理論上は 離陸が可能なのです。離陸時は噴射推進装置によって機体は地面を滑走しますので、頃合を見て上昇下降レバーを引けば翼が風を掴んで空に上がる事が できるはずなのです」 「仮定や推論が多い話ですな」 スルッとギュスターヴは円錐部から抜け出る。いつもの服の上から革のベルトを肩掛けになるように身体に巻いている。 操縦部で身体を固定するためのベルトだった。 「仕方がありません。古今、このような方法で空に上がろうとするのは我々が初めてですから」 大人二人が夢か無謀か、挑戦に向けて準備をしているのを尻目にギーシュは一人作業に没頭していた。 溶鉱炉に隣接するように、ふた周りほど小さなドームを作っているのである。 ギーシュの技量では一発で作れないので作る場所にはじめ土を盛り、そこから魔法で徐々に形作っていた。 「ふぅ…ギュスターヴ。これでいいかい?」 呼ばれたギュスターヴはギーシュの作ったドームを確認した。隣の溶鉱炉よりも小さく、すこし歪だが、要望どおりの出来だった。 「ふむ…あとは溶鉱炉の方から排煙を出してもらって、吸気を一緒にもらえるように管を繋げられればいい」 「鍛冶打ち用の炉が欲しいなんて、君は鍛冶師か何かなのかい?」 問われたギュスターヴは頭をかいた。 「まぁ、鍛冶打ちもできる…って言った方がいいのかな」 らしくなく煮え切らない返事にギーシュは首を傾げるのだった。 昼食時となって、一旦解散したギュスターヴが貴族用食堂を覗くといつもの席でルイズが食事を取っていた。 「ちゃんと起きれたみたいだな」 声をかけられたルイズは振り返ってギュスターヴを確認すると、顔を背けた。 「…なんだ、起こさなかったと怒ってるのか?」 「当たり前でしょ…どうして朝起こしてくれなかったのよ」 「起こしたさ。起こしてやったのに二度寝して寝過ごしたのはルイズ自身だろう?」 普段どおりのふてぶてしい態度のギュスターヴに、ルイズは段々ムカムカしてくる。自分が根すり減らして貴族らしき義務を全うしようと苦心しているというのに、 自分の使い魔はそんなことをまるで気に掛けない、と。 「人が…誰にも任せられない重要な仕事で大変な苦労をしているって言うのに、なんなのよあんたは!」 無意識に手に持っているフォークが飛んだ。フォークの先はギュスターヴの頬を掠めて床に音を立てて落ちる。 その雰囲気に食堂を一瞬ただならぬ空気が包んだ。ギュスターヴの目は厳しいものだったが、次にはふっ、と笑った。 「それだけ元気なら大丈夫そうだな。しっかりやれよ」 そう言ってギュスターヴは厨房へ行き、視界から居なくなった。 「……ばか」 一人癇癪を起こしたのが情けなくて、ルイズはそのまま食事をやめて部屋に戻っていった。 「…で、頬に傷をもらってきたってのかい」 テーブルで静かに昼食を頂く脇で手の空いたマルトーが聞く。ギュスターヴの左頬には横一線に赤い晴れがうっすらと浮かんでいた。 「ま、人の手前説教するわけにもいかんだろう。あれでも主人だしな」 「でもよぉ。そのお嬢ちゃん、どう聞いてもギュスの主人にしておくにはもったいねぇな」 昼食に出した塩肉の余りを食べながらマルトーが続ける。 「…ギュスよ。俺の知り合いに侯爵家の料理番を代々やってる奴がいるんだ。そいつの主人は料理番風情の友人を家族みたいに優しく扱ってくれるんだとさ。 お前さんも剣の腕があるんならもっとマシな扱いをしてくれるところを探したほうがいいんじゃねぇか」 静かに食事をしていたギュスターヴはシチューのさじを置いた。 「ご馳走様。今日も美味かったよ、マルトー。…生憎と俺は暫く、主人を変える気はないよ。ルイズには色々と恩があるのは確かだし…それに……」 「それに?」 「……少しばかり気になるからな。色々と」 そういうギュスターヴの目は鋭さを佩びていた。 「…ま、ギュスがそういうなら俺は別にいいけどよ」 「気を効かせて悪いな。…じゃあ、俺は戻るから。美味い夕飯、期待してるぞ」 「へ!言われるまでもねぇな」 さくさくとギュスターヴは歩み、地下厨房を出て行く。 残された皿を洗おうと集めるマルトーは、ギュスターヴの出て行った先を振り返る。 「…堂々としたもんだよなぁ、ほんとに平民か疑っちまうね」 埒もないことをぼやいて、マルトーは頭をかいた。 食後しばらくして、ルイズは緊張した面持ちで学院長執務室へやってきた。手には今朝方完成した祝詞の原稿を手に持っている。 「失礼します…」 ルイズが部屋に入ると、既に執務室ではオスマンが待っていた。オスマンはいつもの調子で煙草を蒸している。 「祝詞の出来を見ようかの」 「は、はい。お願いします」 オスマンに渡す手が震える。渡されたオスマンはためつすがめつ原稿の文字列を読んでいるようだった。 直立して待つルイズは一秒一秒が非常に長く感じられた。皿に置かれた煙管の煙が揺れている。 「ふむ…」 「ど、どうでしょうか…」 普段は穏やかなオスマンの眼光が、今日はナイフのように鋭く見える。 「ミス・ヴァリエールや。短い期間でよくこれだけのものを書けたのぅ。これを持って儀礼上で殿下を寿ぐとよいじゃろう」 オスマンが暖かい語調でそう言うと、ルイズの足から力が抜けてフラリとした。 「あ…ありがとうございます」 脱力して腰を笑わせている生徒を細めで見ながら、オスマンはふと、彼女の傍に立つ意丈夫の使い魔を思い出した。 「ところでミス・ヴァリエール。君の使い魔君は最近どうしておるかの?」 「ギュスターヴですか?え、えぇ、とても元気にしてますわ」 何か空々しい風情でルイズは答えた。 「コルベール君とよくつるんどるようで、君としては複雑じゃろうな」 「は、はぁ…」 ルイズとしては答え辛かった。使い魔が構ってくれないなんてメイジとして情けなかろうという気持ちがある。 「ま、彼は君の使い魔じゃが一個の人間じゃ。扱いづらいところもあるじゃろうて」 「えぇ、そ、そりゃあもぅ……?」 話しかけたルイズが止まった。何やら外から轟音と微振動が伝わってくる。 「な、なんじゃ…?」 やおら窓に駆け寄る。ルイズの目下にはコルベール塔の脇を炎の尾を上げて蛇行する謎の物体が見えた。 「ああぁ~~~!誰か、た、助けてくれぇ~!」 がたがたと揺れながら走る物体から間抜けな叫び声が上がっていた。 コルベールの発明した空駆ける機(はたらき)、名づけて『飛翔機』に乗っていたのはコルベールでもギュスターヴでもなく、 悪趣味なシャツをはためかせるギーシュだった。 ギーシュは食事に出かけたコルベールとギュスターヴより先に戻って鍛冶用の炉を作っていたのだが、後は飛ぶだけと準備されていた飛翔機に 興味本位から乗り込んで色々と弄繰り回している内に推進器を発動させてしまったのだ。 「と、止まらない!だれか助けてくれぇ~」 がちゃがちゃとレバーを引くギーシュに合せて蛇行して走る飛翔機。そこに偶々居合わせたのは以前渡した秘薬の残りを譲ろうと研究塔にやってきたタバサと、 それにくっついてギュスターヴに会いに来たキュルケだった。 「な、何あれ~?!」 驚くキュルケに対しタバサはいつもどおりの無表情だったが、その目はぐっと凝らされ暴走する飛翔機を追いかけている。 「キュ、キュルケ!タバサ~!た、助けてくれ~」 ゴーゴーと火を噴きながら地面を走る物体からギーシュの声が漏れ聞こえる。 「ギーシュ!?何でそんなところに、っていうか、助けてって言われても…」 「私が止める」 困惑するキュルケを背にタバサが一歩踏み出て杖を構えた。ルーンを唱えると、飛翔機の軌道上の道に水が染み出してぬかるんでいく。 「わ!わ!ゆれ!ゆれる!あでぃ!し、舌、噛む、ぐへ!」 ぬかるみをガタンガタンと揺れながら、なおも走る飛翔機。タバサは次に別のルーンを唱えた。 するとぬかるんだ地面が段々と凍りつき、地面を走る飛翔機の車輪も一緒に凍り付いていく。 凍りついた車輪がギリギリ鳴りながら、徐々に飛翔機はスピードを落としていった。 偶然にも、火を噴いていた推進装置も徐々にその勢いを弱めつつあった。 「はぁ、はぁ、た、助かった…」 減速する飛翔機の中でギーシュが安堵の息をつく。…しかし今度は凍りついた車輪を軸に、飛翔機の後部が徐々に持ち上がっていく。 「あ…え…えぇ?」 抜けた声を出すギーシュを抱えつんのめっていく飛翔機は、ぬかるんでいた地面に頭から突っ込んだ。 「あ…」 キュルケのつぶやきも虚しく、飛翔機は泥の中に頭を突っ込んだまま推進器の力で地面にぐりぐりと押し付けられ、頭の部分がどんどんひしゃげていく…。 推進装置が完全に止まった時、ぬかるみの中で逆立ちし、まっさらな布張りを泥だらけにした飛翔機と、ベルトで固定されていなかったギーシュが円錐部から飛び出て、 頭をぬかるみの中にずっぽりと埋めている姿が出来上がった。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ日本一の使い魔 ここはトリステイン魔法学院内女子寮にあるルイズの部屋。 他の生徒達は授業中なのだが、ルイズの場合は平民とは言え人間を召喚し、 使い魔にしてしまったと言う事で特別に授業を免除された。 「あんた、どこから来たの?それに…ずばっかーだっけ何なのあれ?マジックアイテム?」 自分の疑問を解決しようと質問で捲くし立てる。 「そう慌てなさんな。ズカッカーは元は宇宙探検用に開発された車でね。 マジックアイテムってのは良く判らんが、恐らくルイズの言っている物とは違うだろう。」 「それと、どこから来たかって?俺はさすらいの私立探偵だから・・・日本って国から来と でも言えばいいのかな。」 知らない単語にどんどんルイズの機嫌が悪くなる。 「さすらいって難民みたいなもんなの?さっきも言ってたけど、私立探偵って何よ? それに宇宙ってどこの国?トリステインでは聞いたことないから、ガリア?ゲルマニア?」 「おいおい宇宙も知らないのかい。それに・・・」 かつて宇宙犯罪組織とも戦い、宇宙一の男とも言われた早川ですら聞いた事も無いような 国名に、先程自分で口にした異世界という単語が冗談では無かったのかと考えてしまう。 「(魔法…)」 「なあルイズ?さっきトリステイン魔法学院って言ってたが、まさかここは 魔法使いの学校なのか?」 「メイジよ!メ・イ・ジ!あんたもしかしてメイジも知らないの?」 ルイズは自分の呼び出した使い魔が、メイジすら知らぬ田舎物だと思いハルケギニアに おいて一般常識とも言える事を教える。 早川の順応性・理解力も日本一である事を知らないルイズは、意外に 自分の使い魔の健は素直なのかと思い得意げに説明を続ける。 後に判る自分の魔法とツッコミの才能はこの早川がきっかけで知らされる事とは知らずに。 そうこうしている間に時間は過ぎ、メイドが持ってきた夕食を食べながら早川は自分の 冗談が本当の事だと知らされる。 「月が二つ…飛鳥・・・本当に異世界に来ちまったみたいだ。」 赤い夕日に~ 燃え上がる 君と誓った 地平線~♪ 「うるさい!夜中になに大声で歌ってるの?早く寝なさい!あんたはそこ!」 着替えながら怒鳴るルイズが指差した先はただの床。 「ヒュー。男の前で恥じらいも無く着替えるなんて、レディのする事じゃないね。 チッチッチ。おいらはこっちで寝させてもらいますぜ。ご・主・人・様。」 早川は椅子に座るとテーブルに足を置き、テンガロンハットを顔に乗せ、 子供の戯言に付き合いきれないとばかりにそのまま寝ようとする。 「何よ!使い魔に見られて何か思うわけ無いでしょ!」 自分の優位性を示そうとしたが当てが外れ、自分の立場の方が上と言わんばかりに 「それ洗っておきなさいよ!」 早川は手をヒラヒラさせ見向きもしない。 翌朝、早川は昨日言いつけられた洗濯物を済せるためギター片手に校舎内を歩いていた。 「(困ったな。でも妹と暮らしていればこんな感じなのだろな。)」 早川は夜桜組との一件で出会った妹と母の事を思い出していた。 自分を捨てた母との別れ、そして再会。新しい生活を壊したくない母は… そして妹との出会い。そして別れ…さらば瞼の母よ。 「(ガラにも無いや。さてと手の掛かるご主人様の言いつけこなしますか。)」 早川が洗濯場を探して曲がり角に差し掛かった時、 「キャッ!?」 「おっと!危ない!お嬢さん怪我はないかい?」 とっさにぶつかった女性を抱き止める。 「あ、私は・・・申し訳ございません。大丈夫ですか?」 「こっちこそ考え事をしていて悪かったね。」 メイド服を着た女性を起こし荷物を拾っている早川にメイドは 「あの?もしかしてミス・ヴァリエールが召喚したって噂の平民ってあなたですか? あっ拾ってもらってありがとうございます。」 「そうみたいだね。俺は早川健、こっちじゃケン・ハヤカワって言う私立探偵さ。よろしく。ところでお嬢さんは?」 「よろしくお願いしますね。私はこの学院でメイドをしているシエスタといいます。」 自己紹介をし合うと、共に同じ目的と判り洗濯場へと二人で向かう。 是非にというシエスタに洗濯物を頼み、朝食の時間と言う事でルイズを起こしに部屋へと 帰る事にする。 行きは戸惑ったが早川である。帰りは迷うはずも無く部屋と向かう。 そこで、 「あら?あなたは昨日ヴァリエールに。昨日は大変みたいだったわね?」 そこには赤毛で褐色の肌にスケスケのネグリジェを着た女性がこっちを向いていた。 「(ルイズとは…)」 「ああ、ケン・ハヤカワ。よろしく。子供のお守りってのは大変なもんさ。 それより、朝から素敵な女性に会えるなんて今日はツイいてるね。」 「あらお上手ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。 呼ぶ時はキュルケって呼んでね。それにしても子守って、ハハハ。」 バタンと音がするとそこには地獄竜が、いやルイズがいた。 「ちょっと!子守ってどういう事?それよりも素敵な女性ってなによ!? 私にはお嬢さんって!しかもツェルプストーと仲良く話しているなんて!」 「あらケンは正直者じゃない?正直者の使い魔でよかったじゃない。目もいいみたいね。」 地獄竜が首領Lになった。 「キィィィィィィ!!行くわよケン!早く来なさい!」 やれやれと早川はテンガロンハットのつばを下げる。 部屋に帰る様子をキュルケは、 「ケン後愁傷様。それよりも、また退屈しないで済みそうね。」 と見ていた。 前ページ次ページ日本一の使い魔
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前ページ次ページ日本一の使い魔 「ケン!なにやってるの!?勝手に決闘の約束なんてして、平民のあんたが貴 族に勝てるわけないでしょ?前に貴族と平民の関係を教えたでしょ?聞いてな かったの!?」 「聞いてたさ。だが、俺が勝てないなんて一言も聞いちゃいないがね。」 「あんただって平民でしょ!下手したら死んじゃうのよ!謝れば許して貰える かも知れないから、謝っちゃいなさい!」 早川は指を立て横に振る。 「チッチッチッ、生憎と悪くもないのに下げる頭なんて持っちゃいませんが ね。」 早川はそう言うと近くにいた生徒にヴェストリの広場がどこにあるのか尋ねる。 「もう知らないんだから、、、」 『風』と『火』の塔の間の中間にあるヴェストリの広場。そこには噂を聞きつ けた生徒達で賑わっていた。学院という特性上あまり娯楽と言う物に乏しく、 退屈を持て余していた生徒達にとって今回の一件は暇つぶしには丁度良かった。 と言っても集まった生徒達の殆どが、ギーシュがどのように生意気な平民を痛 めつけるかを楽しみにしていた。 その殆どに当てはまらない生徒と言うのが、この二人で 「ねぇ、タバサ。止めなくていいのかしら?あなたが決闘なんて見に来ような んて、よく思ったわよね?」 「興味がある、、、」 「空を飛んでいた、、、」 「まぁいざとなったら、私達が助けてあげましょ。何か、ケンって憎めない所 あるのよねー。中々いい男だし。」 ギーシュを始め生徒達は生意気な使い魔の到着を待ち構えていた。 そこにギターの音色が、 「大層なご登場だね、平民君。待ちかねたよ。やはり君は人を馬鹿にするのが 上手らしいね。」 そう言うとギーシュは薔薇の花に見立てた杖を振る。そこには、錬金で出来た 墓石が現れた。 その様子に早川は素直に関心する。 「ほぉー、魔法ってのは便利なもんだね。」 しかし、関心こそすれ恐れる様子は無い。ギーシュは更に 「君の墓石だが味気ないから、これを供えてあげるよ。」 と錬金によって薔薇を一輪作り出し墓石に置く。 ニヤリと笑う早川。 「大した彫金の腕だな。だが、見た所日本じゃ二番目。」 と2本指を立てる。日本と聞きなれないが、自分より上がいると言いたい事は 解ったギーシュは、 「じゃあ、一番は誰だ!?」 「ヒュー♪チッチッチッチッチ。」 口笛を吹き、立てた2本指を5回左右に振り、微笑みながら親指で自分を指す。 「君が?じゃあやってみるがいいさ。」 「そうかい?じゃあナイフはお持ちで?」 ギーシュは錬金でナイフを作ると早川に渡す。ナイフを受け取ると、墓石の前 に立ち、数回ナイフを振るう。 すると墓石には、薔薇の園に赤子を抱いた女性の絵が見事に彫られていた。 「こいつは薔薇の聖母子って絵なんですがね、薔薇は女性であって所詮男は子 供。おいたが過ぎると棘で怪我しますよって洒落ですよ。」 そう言うと、絵の出来に関心する声とギーシュを笑う声が起こりだす。 「それと、こいつはお近づきの印ですよ。」 とナイフを渡すが、ナイフの先にはハートの形に切り取った布が刺さっている。 早川がパチンと指を鳴らすと、ギーシュのズボンがずり落ちる。下着のお尻の 部分がハートの形に切り取られている。 周囲に爆笑の渦が起き、ギーシュは自分がどんな状態なのかに気付く。 「君は、よっぽど痛い目を見ないと判らないらしいね。」 かろうじて冷静さを保ったギーシュは、薔薇の花を振ると花びらが一枚舞い落 ちる。 「僕はメイジだ。よって魔法で戦う。文句はないよね?」 すると花びらは甲冑を着た女戦士の人形へと姿を変える。その様を見ても早川 は、 「アー、ハン。」 と肩をすくめ両手を広げる。 「僕は、ギーシュ・ド・グラモン。青銅のギーシュさ。君への制裁はこのワル キューレが務めさせてもらうよ!」 ギーシュの声と共にワルキューレが猛然と殴りかかる。早川はサッと交わしな がら持っていたギターでワルキューレの頭を殴る。バランスを崩したワルキ ューレは派手な音を立て転げた。 自分の当てが外れたギーシュは更に薔薇の花を振ると、更に花びらが舞い、剣 や槍を持ったワルキューレが現れる。 一方、ここは学院の図書室。コルベールは一冊の本のとあるページを見て驚愕 した。そもそもコルベールは、早川の左手に現れた見慣れないルーンが気にな り授業の合間をぬって、どのようなルーンかを調べていた。本当ならば、儀式 の日に見た空を飛ぶ乗り物を調べたいのだが、 「大変ですぞ!これは学院長に知らせなければ。」 トリステイン魔法学院の学院長室は本塔の最上階に位置し、そこには年齢は100歳とも 300歳とも言われる、オールド・オスマンが重厚なつくりの机に肘を突いて暇を持て余していた。 「オールド・オスマン。あなたのお仕事はどうされたんです?書類のサインも 学院長の仕事じゃありません事?」 オスマンが秘書の席を見ると、書類の束を整理しながらミス・ロングビルが渋 い顔をしている。 「そんな渋い顔をしたら、せっかくの美人が台無しじゃて。それにわしは考え 事をしておったのじゃ。」 オスマンは席を立つと、思いつめたように窓の外を眺める。 「おっ、今日は黒か。」 とニヤけると、低いトーンの声がする。 「考え事ってスカートの中の事ですか?」 「わ、わかった、わかったから離してやってくれんか。」 オスマンは顔を伏せ悲しそうな顔で呟く、そしてロングビルの机の下から、小 さなハツカネズミがふわふわと宙に浮き、オスマンの肩まで届けられた。 オスマンが席につくと羽で出来たペンが重厚な机に突き刺さる。 「次は当てますよ。」 「はい、、、」 威厳なんてまったく感じられない。 コンコン、とノックの音が響く。 「コルベールです。学院長に相談があって参りました。」 「入りなさい。」 学院長室に入ったコルベールは一冊の本を見せ用件を話し出す。 その本の開かれたページを見て、 「これが、どうしたのかね?こんな古い本など見せよって。」 「学院長、これと同じルーンがある生徒が召喚した使い魔に、、、」 オスマンはロングビルに退室を促すと 「して、ある生徒と使い魔とは?」 「生徒とはミス・ヴァリエールで、使い魔とは人間、平民です。」 「まさかの、ガンダールヴと同じじゃとのお」 沈黙が部屋を包むが、すぐにその沈黙はノックの音により破られる。 「どなたじゃな?」 「ロングビルです。ヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きています。騒ぎを気に する教師達からは『眠りの鐘』の使用許可を求める声が。」 「相手は誰じゃ?」 「ギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔です。」 「放っておきなさい。子供の喧嘩に秘宝を使うとは。ちょっと見てみるとする かの。」 そう言うと、マジックアイテム『遠見の鏡』を覗き込んだ。 覗き込んだ先には一体のゴーレムに羽交い絞めにされ、ボコボコにされている 使い魔がいた。それを止めようと主人であるルイズが涙を流し懇願している。 「ギーシュ!もう止めて!勝負は付いてるじゃないの!」 「そうかも知れないが、まだ君の使い魔から僕に対する侘びを聞いていないか ら勝負は終わってないのさ。ゼロのルイズ。」 「ボコボコじゃのう。」 「ボコボコですね。」 「眠りの鐘、使うかのう。」 「学院長!ミス・ヴァリエールの使い魔が!」 そこにいるはずの使い魔がいない。 覗き見ている先でも早川がいない事に気付いている。 広場の隅からエンジン音が鳴り響き 「フライトスイッチ、オーーーーーン!!」 奇怪な乗り物が空を飛ぶと、遠見の鏡から音が。 ベン、ベベンベベン♪ベン、ベベンベベン♪ タタタタータタ♪タタタタータタッターン♪ 遠見の鏡を覗き込むオスマンもコルベールもロングビルも状況が理解出来ない。 だが状況は刻々と進む。空を飛ぶ乗り物から赤に統一された上下のピタリとし た服、黒いブーツ、奇妙な赤い兜を被った人間が飛び出すと、火の塔のてっぺ んに着地し高らかに笑う。 「ハッハッハッハッハッ。」 「ズバッと参上!」遠見の鏡が左顔を映す。 「ズバッと解決!」右顔を映す。 「人呼んで、さすらいのヒーローーー!快傑ズバァァァーーット!!」 遠見の鏡が正面を捉えアップを映し前後にシェイクすると音楽が流れ出す。 もはや3人共理解不能だが、3人ともツッコんではいけないような気がした。 「タァーッ!」 掛け声と共に飛び立ちワルキューレの中心に着地すると手にしている鞭を数回振る う。7体のワルキューレはなます切りになり崩れ落ちる。 ズバットは呆然とするギーシュに向かい怒鳴る。 「己の欲望の赴くまま2人の女性を弄び、あまつさえその罪を善良なメイドに擦り付けるとは 言語道断!」 ギーシュは口をパクパクさせている。むしろ、この場にいる全員。学院長室の 3人とも現実について来れない。 ズバットは一片の容赦なくギーシュを殴り、蹴り、鞭で首を絞め投げ飛ばす。 投げ飛ばされズバットから離れる事が出来たギーシュは降参しようとする。 「ま、ま、まいっ」 「うるさい!」 問答無用にズバットは鞭でひっぱたくと空中高く飛び上がる。 「ズバァァーット・アタァーーーーーック!」 雄叫びを上げ高速ひねり前宙をしギーシュの顔面を蹴り飛ばす。 かなたに消えて行くギーシュ。 慌てて、生徒達がギーシュの元に駆け寄ると、 吹っ飛んだギーシュの胸には『Z』の文字をモチーフにした赤いマーク、 そして日本語で『この者、恐喝破廉恥犯人!』と書かれたカードが置かれていた。 生徒達が見回しても辺りにズバットの姿は無かった。 遠見の鏡からは 「ちびっ子の皆さん。ズバットの真似は絶対にしないで下さい。マネをするととても危険です」 と男の声が流れたのは言うまでも無い。 前ページ次ページ日本一の使い魔
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王女一行が校門前に到着し馬車からアンエリッタ姫が降りてくると、門の前に並んでいた生徒から歓声があがった。凄い人気である。 最も、ここにいる生徒はメイジであるにしてもあくまで子供である。親が良からぬ事を考えているにしてもここの生徒の世代ならいくらか洗脳が効くだろう。学校とは学びの場でありつつも、そういう場であることもある。 だが、それでも興味無さそうにしているのも何人かいた。キュルケやタバサといった留学生達、そして生徒ではないポルナレフである。 「あれが王女か。凄い人気みたいだが、実際はどうなんだろうな。」 「どういう意味?」 「あの笑顔が嘘臭いという事だ。何と言うか、人の顔を見て作られた表情という感じがする。」 「なんでそう思うの?」 「30年も生きてきたらそれぐらい分かるさ。」 ふーん、とキュルケが頷く。だが、ポルナレフは自分の思ったことが単なる杞憂であることを祈った。もし本当にそうなら、たとえ尊敬していないにしても、あまりにも不憫に思えたからだ。 そういう環境で育てられた人間はよっぽどの転機が無い限り堕落していく。そうやって堕落しきった人間は望んでもいないのに将来的に非難されるのだ。 (もっとも、異邦人の自分にはどうしようもないことだが、な。) そう思うと列の方に目をやった。ギーシュや一部の男子が熱狂的にアピールしていたり、女子は女子で王女の美貌を羨ましがっていたりした。 だが、自分の主人であるルイズはその中でポケッと頬を赤く染めながら皆とは違う方を見ていた。その視線を追うと隊長らしき一人の貴族を見ているのが分かった。 見事な羽帽子、そして髭。正にダンディにしてどことなく繊細な感じを持つ、絵に書いたような美丈夫である。 (…一目惚れか?歳は離れているみたいだが、青春しているな。) ポルナレフはルイズの様子を見てそう思った。 夜になって部屋に戻ってもルイズはまだポケーッとしていた。さすがに不安になってきた。 「ルイズ、一目惚れした気持ちは分かるがいい加減しっかりしたらどうだ?貴族ならまた出会う事もあるだろう?」 それでもまだポケーとしていた。今は駄目だが、いくらなんでも明日になったら戻っているだろう、と考えるとさっさと寝ようとしたその時、部屋のドアがノックされた。 不器用に初めに長く二回、次に短く三回… ルイズが動く気配がしないので仕方なくドアを開けた。 ドアの前にいたのは黒い頭巾を被り、黒いマントを身に纏った一人の女 バタン。 危ない危ない今の女は多分人違いだろう。きっと隣のキュルケに用があるに違いない。こんな時間にルイズに会いに来るほど酔狂な奴なんかいるまい。だいたい俺の周りに来る女は災厄を持ってくる。 「え、ちょっと今の誰!?」 小声でそう言うと先程と同じ調子でドアを叩いてきた。居留守を決め込んで無視した。 「ルイズ!?いるんでしょ?ルイズ・フランソワーズ!」 無視すること約15分。ルイズがその小さな声にようやきはっとしてドアに近付き開けると、外からさっき見た女が入って来た。いくらか怒っているらしく、ルーンを唱えると些か荒っぽい動作で杖を振った。 「……ディティクトマジック?」 ルイズが尋ねるとコクリと頷き、 「どこに目や耳があるかわかりませんもの。」 と言って頭巾を外した。頭巾の中から現れた顔は端正に整っていたが、その両眼はまるで猛禽類のように吊り上がりこっちを睨み付けていた。 目を除けば昼間見た気もするが、誰だったかな。 「ひ、姫殿下!」 あのルイズが床にひざまずいた。ああ、あの王女様か。あんな顔してたのにえらい変わりようだな。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ。」 王女様は感極まった表情をするとルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ…」 …やばいな…王女様、ルイズを抱きしめてるけど目が明らかに笑ってない。まだにこっちを睨んでる… ジョースターさん…また、あれをお借りします。 「二人は何故かは知らんが親しいようだな。二人だけで話し合いたいこともあるだろうし、邪魔者はしばらく外に出ていよう。」 と言って紳士らしさを装い部屋の中から逃げた。後ろから来る視線が痛いが気にしない。 部屋から出るとすぐにギーシュと遭遇した。 「夜中の女子寮で何やっているんだ?貴様は。」 「い、いやモンモランシーに会いに行こうと思ってさ…」 「ここはルイズの部屋だが…貴様、さては二股に飽き足らず…!」 「ち、違う!」 ギーシュが慌てて否定する。 「本当のことを言うとだね、彼女の部屋に黒いマントと頭巾の人が入ってきたろう?横顔をちらっと見たんだけど、姫殿下らしかったから気になって…」 ギーシュの言い訳が終わるのを待ってからギーシュと別れた。 15分も待ち続けるとはこいつ、無意識ではあるがストーカーだな。このことを種にしたらこいつもギトーのような金づるに出来そうだ。 懐かしいヴェストリの広場に来た。ベンチに腰掛けるが夜中なだけあって誰もいなかった。 「友達…か。」 ルイズと姫を見て十年以上前、エジプトへ旅した時に得た仲間達…真に心の内を伝え合うことの出来た、掛け替えの無い親友達を思い出した。 帰ってこないのが二人と一匹、そして連絡を絶たれたのが二人。 いまや自分も帰れない仲間に入った。 若き希望の為に命を賭し…そして戦いに費やした人生は戦いの中で終わった。だが、もう戦わなくてすむとなるとホッとした所があった。心の安らぐことがほとんどなかったからだろう。 (もう闘いはいらない…心落ち着くような平和な生活がしたい…) 肉体が戻った今、心からそう願っている。長年会えなかった友人達にも会いたい。だがその願いは… 空を見るとそこには輝く月が二つ。別世界にいるという何よりの証明。それを見て涙を流した。 ここは別世界なのだ。自分の故郷も無い、知り合いもいない、孤独な世界…もう帰れないかもしれないと思うとますます淋しくなった。 「ミスタ・ポルナレフ…。」 不意に声をかけられた。顔を上げると素晴らしいハゲ頭をしたコルベールがいた。 「隣に座らせていただいてもよろしいですかな?」 「…」 ポルナレフは無言で頷いた。よいしょ、とコルベールが隣に座った。親父二人、あまりにも不愉快な光景である。 「みっともない所を見られたな…」 ポルナレフが切り出した。 「いやいや、誰でも泣きたいときはありますし、泣きたい時は泣くべきですぞ。」 「…そうか?」「そうですぞ」 ポルナレフとコルベールは笑いあった。親父同士伝わるものがあるのだろう。 「しかしこんな夜更けにどうなされた?」 「月が綺麗だったから散歩したくなってな…」 ポルナレフは嘘をついた。ルイズの部屋に王女がお忍びで来ているからとは言えないからである。 「私もですな。」 コルベールが空を見上げた。先程のポルナレフと同様、物憂げな表情をしている。ポルナレフはそれを見てきっと思い出したく無い過去があるのだろう、と思った。だから、それには触れないように返事をすることにした。 「へえ、意外だな。貴方がそんなにロマンチストだなんて…」 「はは…私のような者でもたまには月を見て散歩したくなる日もあります。」 「そういうものかな?」「そういうものです。」 ははは、と二人はまた笑いあった。笑い終わった後、しばらく二人は何も喋らずに月を眺めていた。だが、二人の間には友情という絆が確かに芽生えていた。 「ただいま。」 ポルナレフはコルベールと別れてルイズの部屋に帰って来た。 「遅かったわね。」 ルイズが多少嬉々とした様子で迎える。 「姫様は帰ったのか?」 「ええ。」「…ルイズ、何があった?」 ルイズの機嫌がやけにいいのが気にかかり、ポルナレフが尋ねた。 「姫様からアルビオンの皇太子様の持つ手紙を返して貰ってこいと言われたの。姫様から直々だし、すごい名誉よ。だから明日、早朝からラ・ロシェールへ行くわよ。分かった?」 そう言うとルイズは明日が待ち切れなさそうに布団を被った。それと対称的にポルナレフがまた女難か、と嘆いたのは言うまでもない…。 To Be Continued...
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人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
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前ページ次ページ無情の使い魔 早朝、朝食の給仕の準備に向かうシエスタは道中、辺りをちらちらと一瞥している一人の少年の姿を見かけた。 見慣れない姿であるが、その様子からして何かを探しているようだ。 「あの、何かお探しものですか?」 彼はシエスタの声に反応して振り向く。 (うわっ……すごい綺麗な人……) 思わず息を呑む。貴族の人間に負けずとも劣らない端整な顔立ちをしており、何とも言えない威圧感と張り詰めた雰囲気が感じられた。 そして、氷のように冷たい瞳……。ぞくりと身震いする。 しかし、彼はどうやら平民のようだった。自分と同じだ。 彼は言葉ではなく、行動で意思表示をした。 小脇に抱えていたものを差し出してくる。どうやら洗濯物のようだ。 そして、その事からどこか水場を探しているのを察する。 「あ……こ、こちらになります。どうぞ」 まるで本物の貴族のような威圧感に少し恐れながらも、シエスタは彼を案内する。 「あの、もしかして、ミス・ヴァリエールの召喚したという使い魔でいらっしゃいますか?」 黙々と洗い物をする彼の横に立ち、問いかける。すると、彼はくくっとゆっくり頷いていた。 (喋れないのかな) 何一つ語ろうとしない彼にシエスタは少し不安を感じつつもさらに話しかける。 「わたし、シエスタと言います。ええと、あなたは……」 「キリヤマ、カズオ」 (ほっ……良かった) 「わたし、ここで給仕をしているんですけど、あなたの事で話題が持ちきりですよ。人間を召喚するなんて初めてだって」 「お前も、魔法が使えるのか」 「いいえ。わたしはキリヤマさんと同じ平民ですから。……あ、せっかくですからわたしも手伝いますよ」 と、言ってシエスタも手伝いだす。桐山は特に何を言うでもなく黙々と作業を続けている。 そして、その仕事の上手さと速さはシエスタにも勝るものだった。まるで以前にもこんな事をしていたようにも見えてくる。 「あの、キリヤマさん。もしかして、前にこんな事をしていたんですか?」 「いや……このような洗濯をするのは初めてだ」 では、どうしてか。そう問うと、「お前を見て覚えた」と言ってきた。 それを聞いてシエスタは驚いた。今、自分もやっている作業を僅かな時間で見ただけで覚えてしまうなんて。 シエスタの手伝いもあって、洗濯はすぐに済んだ。 「他にも何かございましたら、何でもおっしゃって下さいね。同じ平民同士、がんばりましょう」 愛想よく笑ってみせるも、桐山は相変わらずの無表情と冷たい瞳のままこくりと頷くだけだった。 (ちょっと怖いなぁ……) しかし、外面だけで相手を判断してはいけないことだ。これから少しずつ、彼と話をして打ち解けていけばよい。 桐山はルイズの部屋に戻り、洗い終わった洗濯物を干す。 そして、ベッドの上でシーツを蹴散らしてだらしなく寝ているルイズの肩を揺らし、起こそうとする。 「う~ん……あと五分……」 と寝ぼけるだけで起きようとしない。 桐山はくくっと小首を傾げた。 それだけで普通にやったのでは起きない事を判断し、桐山は羽織っている学ランの制服の内ポケットの中からスタンガンを取り出す。 バチバチと一瞬、電撃を迸らせてみた後、再びベッドの横に立つ。 そして―― 「ぎゃん!」 ネグリジェの上から腿にスタンガンを押し付けた途端に悲鳴を上げて飛び起き、ベッドから転げ落ちるルイズ。 起きた事を確認し、桐山はスタンガンをしまうと前を開けたままの学生服に腕を通し、踵を返す。 「……あ、あああああんた、ねぇ……!」 立ち上がろうとしても足が痺れて動けない。ルイズはベッドに這い上がりつつ物凄い剣幕で桐山を睨みつけるが本人はそれに意を返さずデイパックの中を漁りだしている。 「ご、ご主人様に向かって何て起こし方をするのよ!! 使い魔のくせして!! そんな事して良いと思ってるの!?」 「一度、お前を起こそうとした。だが、起きなかった」 仕方がなかった。そう言いたそうだ。 「もっと他に起こし方はあるでしょうが!! この、馬鹿ぁ!!」 枕を掴み、投げつける。 しかし、桐山はすいと体を少し動かすだけでかわし、扉に乱雑な音を立てて当たるだけだった。 「バツとして今日は朝飯抜きよ!」 その後、バケツに水を汲むよう命じても、着替えをさせるように命じても桐山は黙々とまるで人形のように作業をこなしていた。 桐山の態度にイラつくルイズは作業をしっかりこなす彼を本来なら少しは褒めてやっても良いかとも考えた。 しかし、何故、彼が何も言ってこないのかが分からず逆に不愉快で、そんな事は言えない。 朝食を抜き、と言われても桐山は別に気にしてはいなかった。 ここで例のパンが役に立つ。と、言ってもあまり味気はないのだが。 アルヴィーズの食堂の隅でパンを齧っている桐山は自分の私物である本「人体解剖学」を読んでいた。ルイズから「あたしの食事が終わるまで待っていなさい!」と命じられてそうしているだけである。 「何をしてらっしゃるのですか?」 そこに声をかけてきたのはシエスタだった。 桐山はちらりと彼女を一瞥する。 「ルイズに待てと言われて待っている」 「……あの、もしかしてそれがキリヤマさんの食事ですか?」 ほとんど食べ尽くしているパンを見てシエスタは呆然とする。 桐山はこくりと頷いた。 「そんなパン一つだけなんて駄目ですよ。よろしかったらわたし達と一緒にどうですか? 賄い食しか出せませんけど」 桐山は本を閉じると、了解したのかシエスタの後を付いていこうとする。 「ちょっと待ちなさい」 そこで呼び止めたのは食事を終えたルイズだった。 「あんたは今日朝飯抜きだって言ったでしょう! 勝手にそんな物を貰ったりして何してるの!」 桐山の私物であるパンを指差し、ルイズは叫ぶ。 別に貰った訳ではないのだが、ルイズにはそう見えたらしい。 「あんたも、人の使い魔に勝手に餌付けしないでよ! 躾にならないじゃない!」 と、今度はシエスタを睨んで喚いた。そして、ふんと鼻を鳴らして食堂を後にしていく。 しゅんと気落ちするシエスタ。しかし、桐山の方は気にするでもなく相変わらず無表情だ。 「……お昼にはちゃんとを用意しておきますので、来てくださいね」 ぼそりと桐山に言い添え、シエスタは厨房へと戻っていった。 桐山は残ったパンを一気に飲み干し、ルイズの後を追う。 「あたしが戻るまで、あんたは部屋の掃除をしてなさい!」 追いつくと、相当苛立った様子で桐山に命じていた。 桐山が部屋の掃除をすぐに終え、読書をしていると突然ルイズがやってきて彼を無理矢理外へ連れて行った。 連れて来られたのは瓦礫の山と化していた教室で、錬金の実習でルイズが教師や生徒を巻き込む大爆発を引き起こしたものである。 そして、その片づけを桐山に命ずるルイズは机の上にふんぞり返ったまま彼を見ていた。 桐山は何一つ文句を言わず、黙々と作業を続ける。 従順な使い魔だ、とも思ったが彼が自分に対して文句はおろかほとんど何も言ってこないまま仕事を続けるので、決して使い魔と信頼関係を築けている訳ではない事も察している。 確かに、ムカつく態度ではあるがしっかり信頼関係を築かなければ何にもならない。 「ねぇ、あんた何で何も文句を言わないの? 普通平民のあんただったら、何か一つは言うはずよ」 しかし、桐山は全くの無反応。 まるで自分が拒絶されているような気がして余計にルイズの癪に障る。 「何とか言ったらどうなの!」 「何故、爆発が起きた」 ようやく答えたその一言にうっとルイズは息を呑む。 そして、搾り出すように言う。 「……錬金に失敗したのよ。あたしは昔から、何一つ魔法を成功させた事がない……。それで付いたあだ名は「ゼロ」のルイズ……。 ふんっ、笑ったらどう? 貴族なのに未だに空も飛べないし、魔法一つ使えないんだから。あんただって、あたしの事を馬鹿にしてるんでしょ?」 少し自暴自棄気味に自嘲するルイズ。 しかし、桐山は気にするでもなく手際よい片づけを続けている。もうほとんど終わりかけていた。 そして、ルイズは気付かなかったが桐山は小さなガラス片をいくつか回収し、別の小さな袋に詰めている。 「……何で、何も言わないのよ!」 「俺は、お前の使い魔。それだけだ」 一切の感情がこもっていない声で彼は返してくる。 興味など無い、そうも聞こえてくる。 それが余計に悔しくて、ルイズは喚くのを通り越して泣き出してしまった。 「終わった」 それすら桐山は意に返さず、淡々と告げてくる。 「……終わったなら、さっさと部屋に戻りなさい!!」 目に涙を浮かべつつ叫ぶと、桐山は用は済んだと言わんばかりに教室を後にしていった。 「人間って脆いものだな」 教室から去る寸前、桐山は一言そう口に出していた。 昼になり、桐山は朝にシエスタに言われた通り食堂の裏にある厨房へと赴く。 「あ! お待ちしてましたよ! キリヤマさん!」 入るなり、シエスタが満面の笑みで桐山を出迎えてくれた。そして、料理長を呼ぶ。 「お! お前さんが貴族の使い魔になっちまったっていう奴かい?」 マルトーの言葉に、無言のまま桐山は頷く。 「何でい、元気がねえな! よし、お前さんの元気が出る特製料理を作ってやるぜ! 待ってな!」 豪快に笑いながらマルトーは仕事場へと戻っていき、シエスタは桐山をテーブルに案内する。 そして数分後、賄い食とは思えない豪勢な料理が桐山の前に出てきた。 桐山は無言のまま食器を手にし、食していく。 「どうだい? 美味いか?」 マルトーが言うと、桐山はこくりと頷く。 元々、彼は香川県でも指折りの大企業の御曹司。これくらいの食事は常日頃から食してはいたので素直なものだった。 「おかわりもありますから、欲しい時は言ってくださいね」 と、桐山の横でシエスタが言う。 (ちょっと怖いけど……大丈夫、大丈夫よ) 上品に食事を続ける桐山を見ていて、相変わらず人形のように冷たい表情にまた思わず身震いしてしまった。 しかし、彼は平民だ。同じ平民同士、ここでちゃんと仲良くしておかないと。 「あ、もう良いんですか?」 「礼を言う」 無機質ながら感謝されて、シエスタは嬉しさを感じていた。 「またいつでも来てくださいね」 その後、シエスタは食堂で貴族達にデザートの配膳をしていた。 そこには桐山の姿もあった。 自分達の仕事だからやらなくても大丈夫、だと言ったが桐山は「いいんだ。少しくらいは手伝ってみてもいいと思った」 そう言って仕事を手伝ってくれた。 (優しい所もあるんだな。キリヤマさん) と、さらに嬉しく感じていたが桐山は別に好意で手伝っている訳ではない事をシエスタは知らない。 桐山が配膳の手伝いをしている所を多くの生徒達が見かけていた。 そして、彼がいつ自分の所へ来るのかと恐怖に震え上がる生徒が多数存在した。 特に、一年の生徒達は彼がデザートを配膳しに近くへ来た途端、びくりと反応し極端に怯えていた。 配膳の手伝いが終わり、桐山は壁に寄りかかったまま読書を開始していた。 桐山に怯えていた生徒達は彼が読書に夢中になってくれた事で安堵に溜め息を吐いている。 少しすると、何やら食堂内が騒がしくなる。桐山は意に返さず、読書に集中する。 「すみません! すみません!」 「いや、許せないな!」 シエスタの必死そうな声と共にキザったらしい男の声も聞こえてくる。 「貴族である僕はあの時、知らないと言った! それを受けたら平民である君は気を利かせるべきではなかったのかな? まったく、これだから平民は……」 侮蔑の混じった声が響く。 それに対してシエスタは先程から頭を下げて「すみません」と言うばかりだ。 桐山は本を閉じ、声が聞こえてくる群集の元に行くと、 「静かにしてくれないか」 張り詰めたような声に、シエスタと彼女に八つ当たりをするギーシュを含めた聴衆が桐山の方を向く。 「な、何だね君は?」 「キ、キリヤマさん……! 駄目です!」 「静かにしてくれないか。……今、そう言った」 彼の言葉が今一理解できず、ギーシュは顔を顰める。 「こちらは今、取り込み中なのだよ! 引っ込んでいてくれたまえ!」 (な、何なんだ……こいつは……) ギーシュは目の前にいるのが平民であると理解していたが、その氷のように冷たい無情の瞳に思わずゾクリとした。 「聞こえなかったのかね? 早く、立ち去りたまえ!」 桐山の威圧感に負けじと叫び、腕を振るギーシュ。 しかし、桐山はじっと冷たい視線をギーシュに向けたまま立ち尽くしているだけで従わない。 「ああ……そういえば、君はミス・ヴァリエールが召喚した使い魔だったな。使い魔の躾がなっていないとは、さすがにゼロのルイズだ」 と、侮蔑を込めた言葉を吐く。しかし、桐山はそれに意を返さない。 「何とか言ったらどうなのだね!?」 桐山の前まで詰めより、間近で彼の顔を睨む。 すると、彼はすぅと目を閉じ―― 「ぶっ」 バン! という大きな音が響き、低いうめき声と共にギーシュの体は軽く錐揉みをし、床に叩きつけられた。 桐山の手には人体解剖学の本があり、それでギーシュを殴打したのだ。 その衝撃で歯が一本抜け落ち、コロコロと床に転がり落ちる。 「へ、平民が……、き……貴族に対して、手を出す、とは、良い度胸をしているな……」 先程、ケティに叩かれていた右の頬ごと側頭部を殴打されたので押さえつつ、立ち上がったギーシュはぺっと血を吐き捨てて桐山を睨みつける。 「決闘だ!」 杖を突きつけ、叫ぶ。しかし、桐山は無表情のまま小首をくくっと傾げるだけだった。 一部の生徒達は、桐山から発せられる異様な威圧感に恐怖を覚え、身震いしていた。 ただの平民のはず。それなのに、貴族とほとんど変わらない……いや、それ以上のオーラを彼は発していた。 「ヴェストリの広場で待つ、逃げることは許さない!!」 しかし、ギーシュはそれには全く気付いていない。 前ページ次ページ無情の使い魔