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ゾウビテン(象鼻天) カンギテンの別名。
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前ページ次ページデモゼロ ゼロ、という二つ名をつけられた貴族の少女がいた この世界では、貴族は誰でも魔法が使える 魔法が使えて当たり前 なのに、彼女は魔法が使えない どんなに魔法を使おうとしても、ただ、無意味に爆発が起こるだけ だから、彼女は『ゼロ』のルイズ 使える魔法がゼロのルイズ そう言われて、彼女は馬鹿にされてきた 彼女は、耐えて、耐えて、耐え続けて 他の貴族の何倍、何十倍、何百倍と努力を続けた 春の、使い魔召喚の儀式 彼女は、今度こそ、今度こそ、と何度も何度も杖を振り 結局、何も召喚できなかった 代わりに、己の失敗魔法で起こした爆発で大怪我を負ってしまい、医務室に運ばれていった 普通ならば、ここでおしまい 魔法が使えないゼロのルイズ、ここでもはやメイジとしての道を断たれ、実家に帰って政略結婚、めでたしめでたし しかし、そうはならないのがこの物語 確かに、彼女が召喚の魔法を使っても、何かが現れたようには見えなかった 見えなかった、けれど 誰に言い切ることができる? 本当に、何も呼べなかったのだ、と 召喚の儀式から数日が経った あの時、大怪我を負って意識不明の状態が続いていたルイズが目を覚ましたと聞いて、彼女の宿命のライバルたる『微熱』のキュルケは、医務室に向かっていた …最早、彼女はこの学院に残る事はできないだろう そうなったら、たとえ領土が隣同士と言っても、顔を合わせる機会も減ってしまうことだろう だから、せめて、その前に、何か言葉をかけてやりたかった 日頃、からかって遊んではいたものの、キュルケは他の同級生たちと違い、ルイズを侮辱した事はない ルイズが努力している事を理解し、いつか、その努力が身を結んでくれるであろうと、そう考えていた …それが、こんな結果になってしまって どう、声をかけたらいいのだろう どんな言葉をかけたら、少しでも、彼女の心を癒してやれるだろう 明確な答えが見つからないまま、医務室の前にたどり着く 自分は、ルイズと顔をあわせて、大丈夫だろうか 少し悩みつつも、最終的には (まぁ、なんとかなるでしょ) と、少々お気楽に結論を出して、扉を軽くノックして、医務室に入る 「ルイ……」 …ベッドの上にいるであろう、ルイズに声をかけようとして キュルケは、思わず思考をフリーズさせた ぱくぱくぱくぱくもぐもぐもぐもぐ むしゃむしゃはむはむはむはむはむぐむぐぐん キュルケの視界に、入り込んできたのは 一心不乱に食事にいそしむ、ルイズの姿だったのだ もぐもぐもぐもぐ 食べる、食べる、とにかく食べる ルイズの周囲には、どんどん、空の食器の山が出来上がっていた 唖然として立ち止まってしまっているキュルケの背後に、ふっ、と気配が生まれる 振り返ると、その小さな体一杯に料理を抱えたメイドが、困った表情で、キュルケを見つめてきていて 自分が通行の邪魔になってしまっている事に気づき、慌てて道を明ける 珍しい黒髪をしたメイドはぺこり、キュルケにお辞儀をすると、急いでルイズの元へと料理を運んでいった ルイズは、早速その料理も受け取って、ぱくぱくと食べ始める …これは、まだまだ、追加が必要そうである そう判断したのだろう、ルイズの傍らについていたコルベールが、メイドにもう少し料理を追加で持ってくるよう頼み、メイドは慌てて、医務室から走り出ていく (…どう言う事?) ルイズが目を覚ました、そう聞いて、自分は彼女を慰めにきた…つもり、だった だったの、だが この現状、どう、解釈すればいいのだろうか いまだ、思考がうまく働いてくれない ただ、唖然と、ルイズを見つめる事しか、キュルケはできないでいた …そうしていると 「むぐ?」 ぱ、と 顔をあげたルイズと、思い切り、目があって ぴたり ルイズの、食事をしていた手が、口が、止まった 時が止まってしまったかのような、錯覚 コルベールも、キュルケが来た事にようやく気づき、どこか途惑っているような表情を浮かべていた …数秒間、時が止まった、直後 どっかん!!と そんな音が聞こえるような錯覚を感じる程に、一瞬で、ルイズは耳まで真っ赤に紅潮させていったのだった 何が起こったのか 正直、ルイズにもよくわからない ただ、召喚の儀式に失敗し、大怪我を負って…自分は、数日間も、意識が戻らなかったらしい その間、妙な夢を見ていたような気がするのだが、よく覚えていない 覚えているのは、夢の中で、自分は桃色の毛並みをした狼のような獣人を召喚していて その獣人に、使い魔にする為の契約の口付けをした、という事だけ 気がついたら、自分は医務室のベッドの上で その時点で、ようやく、自分は己の魔法の失敗による爆発で、大怪我を負ってしまったのだという事を自覚した 大事な儀式で失敗してしまった、その事実が悲しくて、悲しくて、絶望的で …医務室にいた水のメイジが、声をかけてきたのにも、気づかず、目の端から涙が零れ落ちそうになった時… ぐきゅるるるるるるるるるるるるる 悲しみも、何もかも 全てをぶち壊しの音が、医務室に響き渡り その瞬間、自分が酷く、空腹である事に、ルイズは気づいた それからずっと、食べ続けていた ひたすら、ひたすら食べ続けていた わからないけれど、妙におなかがすいていたのだ 自分が、ここまでたくさんの食べ物をおなかに納められるとは、ルイズは全く知らなかった 「数日の間、ずっと意識がありませんでしたからね。体が、その間の食事を求めているのかもしれません」 コルベール先生はそう言ってくれたけれど、花の乙女が…それも、ルイズのような小柄な少女が、一気にこれだけの量の料理を食べていくのは異常である どう考えても、こんな小さな体に収まりきらない しかし、ただ、ひたすら、食べたかった …その、結果が ベッドの両脇に、山のように詰まれた空の食器の山である 「…落ち着きましたか?」 「は、はい」 しゅん、としながら、ルイズはコルベールに頷いた …恥ずかしい 食べている間は自覚していなかったけれど、食べ終わってからこの空の食器を見ていると、いかに自分が大量の料理を食べたのかがわかって ひたすら、恥ずかしさがこみ上げてくる …しかも しかも、それを宿敵たるキュルケに見られてしまっていたなんて あまりの恥ずかしさに、死んでしまいそう 「…えぇ、と」 そのキュルケは、ルイズに何か、声をかけようとして しかし、どう言葉をかけたらいいものか、少し、悩んでいるようで… …ようやく、口が開き、出てきた言葉は 「…大食い大会、優勝間違いなしね」 「………」 爆発で吹き飛ばしたろか、このアマ 貴族にあるまじき思考が口を出かけたが、ここはぐっと抑えるルイズ 落ち着け、落ち着け自分、これ以上貴族として失態を晒してはいけない …これから、自分には、様々な問題が降りかかってくるのは、確実だ 召喚の儀式は、成功したのか失敗したのか、わからない コルベールも、判断に酷く悩んでいるようだった 本来ならば、あの儀式で何も呼び出せなかったように見えたルイズは、使い魔召喚の儀式に失敗したとの事で、この魔法学院を退学する事態になっている事だろう …しかし その判断が正しい物かどうか、コルベールは悩んでいた 学院長たるオスマンの判断を仰がねばならない、そう考えていた 何も呼び出せなかったはずのルイズ 魔法成功率ゼロと呼ばれたルイズ キュルケは、まだ気づいていなかったけれど …ルイズの、左手の甲には 誰も見た事のないような、ルーンが 本来ならば、使い魔に刻まれるはずのルーンが、くっきりと浮かび上がっていたのだった 続く 前ページ次ページデモゼロ
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前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 空を飛ぶ竜の背で感じる風は一時も休まることなく頬を叩き髪をなびかせる。 目に入りそうになった髪の一筋をかき上げたキュルケは指の間から見えるひときわ大きな雲の中におぼろげに光る何かを見つけた。 髪に当てた手をそのままに目をこらしていると、それは横に広がる輪郭を雲の中に映していき、なんの支えも無く宙に浮くその姿を見せていく。 「見つけたわ。あれ」 それこそがアルビオン。霧のベールをまとうが故に白の国とも呼ばれる浮遊大陸である。 その大陸にそびえる山に積もった万年雪が日の光を照り返し、まるで自らの内から発していたかのように輝いていたのだ。 キュルケが見たものと同じ光を見たタバサが、自らの使い魔である風竜の耳元で囁くと、それは翼を大きく羽ばたかせ首をアルビオンに向けた。 アルビオンの周りを囲む雲が後ろに流れるたびに、それまで淡い影だった大陸は徐々にはっきりとした輪郭と色を得ていく。 「ギーシュ、出番よ」 「ふふん。ぼくのヴェルダンデにまかせたまえ」 シルフィードの背に乗りラ・ロシェールから飛び立ったものの、キュルケ達はルイズがアルビオンのどこに行ったかは全くわからない。 それを見つけるための決め手こそギーシュの使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデなのだ。 「さあ、頼むよ。ヴェルダンデ」 ギーシュが使い魔に命令する、と言うより麗しい女性のように頼まれたヴェルダンデは鼻を少し上げて左右に振り始めた。 モグラは元々嗅覚に優れた動物である。ジャイアントモールの嗅覚はさらに優れており、地中深くにある宝石を探し出し、嗅ぎ分けることすらできる。 それならヴェルダンデの嗅覚を使って水のルビーを見つければ、それをつけたルイズも見つけることができる。 ギーシュはそうラ・ロシェールでヴェルダンデと再会した後に蕩々と語ったのだ。 「ふんふん、なるほど」 「どう?ルイズはどこにいるの?」 ギーシュはさらさらの髪をかき上げ、ふっと鼻で笑うと答えた。 「わからない、だってさ」 「タバサ、ちょっと宙返りして。余計なもの捨てるから」 それを聞いたタバサは全く躊躇することなく真顔で頷く。 「わ、わ、わー、ちょっと待ってくれたまえ」 ギーシュの必死の叫びに何か思うことがあるのか、タバサはシルフィードの傾きかけた体を水平に戻す。 ただ、後ろを向いてギーシュを見る目は一見いつもと変わらないものであったが、被告人の言葉を聞く冷酷な裁判官のようでもあった。 「いいかね。いくらヴェルダンデの鼻が優れていると言ってもアルビオン全部の宝石の臭いが分かるほどじゃないんだ」 「それで?」 キュルケの二つ名は微熱。 だが、その言葉は吹雪よりも冷たい響きを秘めていた。 ──つまらないことだったら落とす とでも言いたげに。 「アルビオン全部はムリだけど見える範囲くらいなら十分嗅ぎ分けられる。それでも目で探すよりはずっと早いし確実なはずさ」 ギーシュはさらに説明を続ける。 ここで落とされたらメイジといえどもたまったものではない。 フライやレビテーションの魔法を使うにも限界はあるのだ。 「だからアルビオン上空をくまなく飛んで欲しい。必ず見つかる。いや、見つけてみせる」 「それしかないわね」 もう一度アルビオンを見たキュルケは溜息を一つついた。 ヴェルダンデが現れた時にはアルビオンが見つかればすぐにわかるというように聞かされていたのに随分と話が違ってしまった。 だからといってキュルケはここでルイズ探しをやめる気はない。 それどころか絶対に見つける気でいた。 「あなたが起きていればもっと別の方法もあったかも知れないわね」 キュルケは胸に抱いていたフェレットのユーノの背を毛並みに沿って撫でる。 まだ死んではいない。 しかし血を流しすぎた白い獣からは温かさよりも冷たを感じる。 「思ったとおりにはいかないものね」 シルフィードが雲の中に滑り込んだ。 視界が一瞬だけ白く覆われ、すぐに晴れる。 雲を抜けるとその下にはもうアルビオンの大地が広がっていた。 ──思ったとおりにはいかない まさしくその通りだ。 キュルケとギーシュは竜に乗り慣れていない。 タバサもシルフィードの主人ではあるものの未だ竜の乗り手として熟練しているとは言いがたい。 特に移動するアルビオンまでの航路の知識は船乗りには及ばないし、フネとの速度差も実感してはいなかった。 故に彼女らが思ってもいないことが起こっていた。 窓の外を見るルイズの目に映るいくつもの雲は流れては消え、また消えては流れる。 だが、それは瞳に映るのみで心は全く違う二つのものを見ていた。 1つは彼女の婚約者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 手を引かれてラ・ロシェールの港に走っていくのはまるでおとぎ話の1シーンのようでもあり、夢のようでもあった。 彼がいればこの任務を必ず果たせると確信できる。 それに彼は魔法も満足に使えない自分のことを覚えていてくれたし、結婚まで申し込んでくれた。 その時のことを思いだし、ルイズは頬を赤らめ、ほうと溜息をついた。 もう一つは彼女の使い魔、ユーノ・スクライア。 剣と魔法を操り、無数の傭兵の前に立つ彼の後ろ姿は自分よりもずっと年下なのにとても頼もしく見えた。 彼は今一番近くにいて欲しい人。 だけどその後ユーノは追いかけては来なかった。 その時のことを思いだしたルイズはレイジング・ハートを固く握りしめた。 (ユーノ、私はここよ。こっちよ) 声は届かなくても念話なら届くかも知れない。 届けば空を飛べるユーノなら必ず追いかけてくるはず。 (早く来て) ワルドの申し出にどう答えるか。 その答えはもう決まっていた。 だけど、どうしても言えずにいた。 ワルドの前に行こうとする足は止まり、答えを伝えようとすれば喉がつまる。 ──ユーノならきっと喜んでくれるわよね そうすればきっと答えられるような気がした。 ルイズは再び外を見る。 青い空が見えた。流れる白い雲が見えた。眼下には大地が見えた。 アルビオンはまだ見えなかった。 ユーノはどこにも見つからなかった。 これはシルフィードがアルビオンの大地に影を落としたのと同じ時刻のこと。 ルイズの乗るフネは未だアルビオンを離れた空にあった。 ヴェルダンデの鼻があるとはいえ、どこにいるかわからないルイズを見つけるにはアルビオン中を飛び回るしかない。 しかしシルフィードの背に乗り、空を飛ぶギーシュ達はルイズを見つける前に逆に見つけられていた。 「うわああ、来た、来た、来た!」 酷くうろたえてギーシュはちらちらと後ろを伺う。 「ちょっとは落ち着きなさい」 「そりゃそうだけど」 アルビオン大陸中央部に入ってからすぐの事だ。 たまたま後ろを見ていたギーシュは雲間に小さな影を見つけた。 何かと考えているうちにどんどん接近してくるそれを見続けていたギーシュは思わずそれはもう情けない顔──モンモランシーには見せなくない──をしてしまった。 それは風竜だったのだ。 ただの風竜ではない。背中に人を乗せている。つまりは竜騎士だ。 アルビオンはほとんどレコン・キスタの勢力下にあるという。 だったら、こんなところを飛んでいるのは間違いなくレコン・キスタ側の竜騎士だ。 杖を振りかざして「降りろ」と合図を送っているのが見えるほどに近づいたが、冗談ではない。 アルビオン王家に接触しようとしているトリステイン貴族が捕まってただですむはずがないではないか。 ルイズと一緒にいるワルドがレコン・キスタに着いていると予想されている今ならなおさらだ。 「もっとスピードは出ないのかい?このままじゃ追いつかれる」 「無理」 完結に答えたタバサの後ろでまたもギーシュは情けない声を上げる。 シルフィードも風竜ではあるがまだ子供。しかも、こちらは3人乗りで向こうは軽装の1人だけ。 どう見ても向こうの方が速い。 「ど、ど、ど、どうするんだよ」 追いつかれるのも時間の問題だ。 これ以上速度が上げられないシルフィードの下を村が通りすぎ、街道が通りすぎる。 草原を通り過ぎた後は森が広がっていた。 タバサは握りしめた杖の頭を上に向ける。 「私に考えがある」 タバサがあの時──学院で大砲を持ったゴーレムと戦った時──と同じように呟いた。 サウスゴータ地方に配属された竜騎士である彼はいつもの通り哨戒を続けていた。 すでに王国軍が一掃されたこの辺りの任務で退屈をしていた彼は、大あくびの途中で思いがけないものを見つけた。 こんなところを風竜が飛んでいたのだ。 しかもその背に乗っているのはレコン・キスタに参加しているとは思えないどこかの学生らしき人だ。 つまりは不審竜と不審者である。 ぴしゃりと頬を叩いて眠気を晴らした彼は手綱を操り、風竜の速度を上げ不審な風竜を追った。 近づいて合図を送るが速度をゆるめる気配はない。 それどころか速度を上げて逃げようとまでしたのだ。 当然彼も任務を果たすべく速度を上げて追う。 逃げられるはずがない。風竜の大きさもさることながら乗っている人数の差から考えても無駄なことだ。 そうしてサウスゴータ近くの森林上空まで来た時だ。 逃げる風竜の周囲にいくつかの光点が突如発生したのだ。 「なんだ?」 彼もメイジだ。 その光点が何かはすぐに知れた。 魔法で作られた火球がカーブを描きながら飛んでくる。 自動的に目標を追いかける火の魔法、フレイムボールだ。 「くっ」 この風竜は残念ながら使い魔ではないが彼も竜騎士になったばかりの新米ではない。 音に聞こえた無双ともうたわれるアルビオンの竜騎士なのだ。 普段の訓練通りにマジックアローを飛ばし、一つずつ火球にぶつけ相殺していく。 「やるな」 その火球の起こす爆発に彼はいささか舌を巻いた。 火球の速度、大きさから考えても腕の悪いメイジではない。 おそらくトライアングル以上のメイジだ。 爆風が晴れると逃げる風竜が急激に上昇を始めていた。 「これを狙っていたか」 上空には折り重なった分厚く、濃い雲があった。 「しっかり捕まって」 タバサはそうぽつりといつものように言うと、キュルケの返事も聞かずにシルフィードの首を真上と見まごうくらい高く上げた。 「ひっ」 後ろからのギーシュの悲鳴を聞きながらキュルケはシルフィードの背びれに両手でしっかりとしがみついた。 途端、目の前に厚すぎて灰色になった雲が迫る。 その分厚さにキュルケは目の中に雲が入ってくるような錯覚を覚えて思わず目をきつく閉じた。 それは手ばかりでなく足でもしがみついているギーシュや不思議な掴まり方をしているジャイアントモールのヴェルダンデも同じだった。 逃げ続ける風竜が雲の中に隠れても彼はまだ余裕があった。 相手の風竜を操る乗り手の腕は悪くない。いや、彼の所属する竜騎士団の中でも中の上には位置するだろう。 まるで風竜に言い聞かせるように自在に操っている様子から考えると、あの風竜は使い魔なのかも知れない。 だが、いかんせんあの風竜には荷物が多すぎたし、乗り手は空戦の経験に不足しているようだ。 分厚い雲に隠れるという発想はいいが、入り方がいかにもまずい。あれでは飛ぶ方向がはっきりわかってしまうではないか。 先ほどの魔法の応酬で距離は開いてしまったが追跡に問題はない。 彼もまた手綱を引いて竜の首を上げ、雲に飛び込んだ。 ──このままやつの頭を押さえる 視界が雲に覆われても焦りはなかった。むしろ余裕すらあった。 このような時には経験がものを言う。 その差を確信したが故に彼は目前にぼんやりとした竜の影を見つけた時、笑みさえその顔に浮かべた。 首の後ろをひんやりとしたものが掴んだ それが何かを確認する暇さえなく、突如無数の針に首を刺されたような痛みを感じた瞬間、彼の心と体は力を失い自らの竜の背に身を横たえた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 街道を、金の冠を御者台の隣につけた四頭のユニコーンに引かれた馬車が、静々と歩ん でいた。 馬車の所々には金と銀とプラチナでできたレリーフ。そのうちの一つ、聖獣ユニコーン と水晶の杖が組み合わさった紋章は、この馬車が王女の馬車である事を示していた。 王女の馬車の後ろには、さらに立派で風格のある馬車が続いていた。先帝無き今、トリ ステインの政治を一手に握る、マザリーニ枢機卿の馬車だ。 二台の馬車の四方を、三つある王室直属の近衛隊が固めている。魔法騎士隊の一つたる グリフォン隊もいた。 街道に並んだ平民達が、口々に歓呼の声を投げかける。 「トリステイン万歳!アンリエッタ姫殿下万歳!」 そしてたまに「マザリーニ枢機卿万歳」という歓声も。 馬車のカーテンがそっと開き、うら若くて美しい王女が顔を見せると、街道の観衆達の 歓声が一段と高くなる。王女は優雅に微笑みを観衆に投げかけた。だが、その微笑みは、 どこか憂鬱な影を含んでいた。 しばらくして窓から、丸い帽子を被った痩せぎすの40男、マザリーニが顔を出した。 骨張った指で、警護する騎士隊の中から腹心たる貴族を呼ぶ。 呼ばれたのは、羽帽子に長い口ひげが凛々しい、精悍な顔立ちの若い貴族。グリフォン をかたどった刺繍が施された黒マントを身につけるグリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 「お呼びでございますか?猊下」 「ワルド君、殿下のご機嫌がうるわしゅうない。何か気晴らしになる物を見つけてきてく れないかね?」 「かしこまりました。もしお許し頂けるのであれば…」 ワルドは、枢機卿と王女に何事かをささやく。 枢機卿は真っ白な口ひげを捻りながら頷いた。王女アンリエッタも、頬を緩ませ瞳を輝 かせた。 ワルドは副隊長に護衛任務の引き継ぎを命じ、自らはグリフォン隊から3騎を率いて、 王女一行の行き先へ飛び去っていった。 ところ変わって魔法学院、ミスタ・ギトーの風系統の授業中。 漆黒のマントをまとった『疾風』の二つ名を持つ教師ギトーから、『風が最強なのを証 明しよう』と挑発されたキュルケが炎の玉を教師に放ち、それを烈風でかき消されたつい でに風でキュルケが吹っ飛ばされていた。 そんな中、今日もルイズとジュンは並んで座って授業を受けていた。真紅と翠星石も二 人を挟んで、机の上に腰掛けている。さすがに授業中は、ジュンの傍らのデルフリンガー も黙っていた。 ギトーが更になにか呪文を唱えようとした時、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔の ミスタ・コルベールが現れた。金髪のカツラを被り、レースや刺繍が踊るローブを纏って いるなど、妙にめかし込んでいた。 授業の中止を告げた拍子にカツラが落ちて笑われたり、タバサに「滑りやすい」とから かわれて怒ったりしつつも、コルベールは授業中止の理由を告げた。 「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。恐れ 多くも、先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰 りに、この魔法学院にご行幸なされます」 教室がざわめきに包まれる。 「そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列する事。それと…」 コルベールは教室の外にいる人物に声をかけた。 「これに先立ち、グリフォン隊からこちらのワルド子爵が…」 と言ったところで、コルベールが教室の中を見渡した。 ルイズの横には、不自然に開いた空席がある。 教室の後ろの扉は、いつのまにやら開け放たれていた。 慌てて教室を飛び出して、階段を駆け下りるジュン。両手に真紅と翠星石、背中にデル フリンガーを背負っていた。 「うひゃー、まさか王女様が直接くるなんてなー!」 「まったく予想外だわ」 「面倒な事になる前に、さっさと逃げるですー!」 「まぁ後の事は嬢ちゃんに任せて、ほとぼり覚めるまでトンズラだな」 ジュンは彼等を抱えたまま、塔から飛び出した。 急いで広場に出て寮塔に向かう足が、急に地面から離れた。真紅も翠星石も一緒に、宙 にふわふわ浮いてしまっていた。 「えっ!?うわ、な!なんだぁ!??」 「これは、『レビテーション』だな。捕まっちまったか」 冷静かつのんきに解説するデルフリンガー。 「ジュン!あっちですぅ!あれですよ!!」 翠星石が広場を指さす先には、三人の騎士がジュン達に向けてレイピア風の杖を構えな がら駆けてくる姿があった。 「真紅!翠星石!」 「分かったわ!」 「騎士さん達、ちょっとゴメンですー!」 真紅はステッキを、翠星石は如雨露を構える。同時に真紅の掌から薔薇がわき出した。 薔薇の帯が疾風のごとく騎士達へ向かっていく。 だが、騎士の一人が杖を薔薇の帯に向けて振り、火炎を投げつけた。襲いかかろうとす る薔薇の花びらは、ほとんど焼かれていく。 「こっちはどうですかー!?」 翠星石が思いっきり如雨露から騎士達の周囲に水をまいた。とたんに、わさわさと草や ら雑草やらが一面生い茂り、騎士達の体すら覆ってしまう。騎士達は視界を塞がれ足を取 られてしまう。 しかし、もう一人の騎士が杖から『エア・カッター』を放った。周囲の草を一気になぎ 払い、視界と足場を確保する。 『レビテーション』を、残る一人が保ち続け、ジュン達の動きを封じ続けている。 「魔力が弱まったわ、飛ぶわよ!」 「オッケーでぇす!」 真紅と翠星石が、『レビテーション』から一気に抜けだし、左右へ飛翔した。気付いた 騎士達も、急いで次のルーンを唱える。 『ウィンド・ブレイク!』 二人の騎士は突風を、飛来する人形達に打ち出した! 「遅いわ!」「残念ですねー♪」 真紅と翠星石は軽々と突風をかわし、火と風を放った騎士達へ突っ込んでいく。騎士達 は人形を迎撃しようと杖をフェンシングのごとく構えた。 だが、人形達は騎士達の間合いに入る直前で、いきなり方向を変えた。 カンッ! 『レビテーション』をかけ続けていた騎士の杖が、真紅と翠星石に叩き落とされた。 どさっと地面に落ちたジュンは、慌てて腰のナイフに手をかけた。同時に左手の包帯か ら光が淡く漏れ出す。 「よし!」 「分かってるわ!」 「行くですよ!」 ナイフを構えるジュンのかけ声に、真紅と翠星石もステッキと如雨露を構え直した。騎 士達を包囲するように位置を取る。 騎士達3人も、改めて杖を彼等に向ける。 そして! ジュンは逃げてった。 真紅と翠星石も飛んでった。 騎士達は一瞬呆然とした後、慌てて三人を追いかけていった。 「なんで俺を使わねえの?」 背負われたままのデルフリンガーが残念そうだ。 「だってデル公抜いたら、シャレにならないじゃん。向こうも殺しに来たワケじゃないん だし」 「いや、そりゃそうだけどよぉ…」 そんなおしゃべりをしつつも、ジュンは寮塔に向かって駆けていた。 ジュンが寮塔入り口を視界に入れた時、ちょうど真紅と翠星石も降りてきた所だった。 三人が寮塔入り口に集まろうとした。 その瞬間、寮塔入り口に突然生まれた竜巻が、竜のごとく天へ駆け上る! 「うわあっ!」「たっ竜巻!?」「まだいたですかーっ!」「うひょ、こりゃでけえ」 集まろうとしていた三人は、竜巻に巻き上げられ、宙へ投げ出された。 きゃあ~~・・・ 人形の真紅と翠星石は軽いので、彼女らは悲鳴だけ残して、遙か高くまで一気に巻き上 げられてしまった。 ガシッ! ジュンは巻き上げられながらも、寮塔の石の隙間にナイフを突き立て、逆さまで壁に張 り付いたまま下を見た。 地上には、羽帽子に黒マントを身につけた、長い口ひげの若者が杖を構えていた。 あいつか!? 竜巻が弱まった瞬間、一気に壁を駆け下りた。地面に着地するや、勢いそのままでナイ フを構えて男に突っ込んでいく! 男も杖でジュンを突く! カキィンッ! ナイフが手から払われ、宙を飛んでいた。 「くっ!?」「俺を抜けっ!!」 うめいたジュンが、慌てて背中のデルフリンガーに手をかけようとした。 ガシッ 男の手が、ジュンの右手を掴んでいた。 「なかなかやるな!少年」 「いたっ、いてて!」 腕をひねり上げられて、苦痛に顔を歪ませる。 まってー、みんなちょっと待ってー! 遠くから、ルイズが駆け寄ってきた。後ろにはさっきの三人の騎士がついてきている。 真紅と翠星石も上空から降りてきた。男もジュンから手を放す。 「ルイズさん、待つって何をですか!?」 「ごめんなさい、ルイズ。私達は捕まるわけにはいかないわよ」 「だ、大丈夫!ぜーぜー…、この方達は、あなた達を、捕まえに来た訳じゃないのよ!」 ジュンと人形達は眉をひそめて、一番立派そうな姿の羽帽子の男を見上げた。 「この方はワルド子爵。王室直属の近衛隊、魔法騎士隊の一つたるグリフォン隊隊長で、 私の婚約者なの」 「え…婚約者!?」 目を丸くして仰天するジュンへ、ワルドはきさくに語りかけた。 「君が噂の、ルイズの平民使い魔だね。僕の婚約者がお世話になっているよ」 慌てて3人とも一歩下がり、恭しく礼をした。 「ルイズ様の婚約者とは、知らぬ事とはいえ失礼致しました。僕はルイズ様の使い魔を勤 めさせて頂いております、桜田ジュンと申します」 「同じく、ローゼンメイデン第五ドール、真紅と申します」 「同じく、第三ドールの翠星石ですぅ、初めましてですぅ」 頭を下げる三人を見て、ワルドも満足げに頷いた。 「お初にお目にかかる。僕はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。ルイズの婚約 者だ。あんまり、かしこまらないで欲しい。僕の事はワルドとでも呼んでくれればいいか ら」 「承知致しました、ミスタ・ワルド。して本日の来訪は、いかなるご用件でしょうか?」 ジュンの口調は礼儀正しくても、視線は鋭くワルドに向けられていた。真紅と翠星石も ステッキと如雨露を手放してはいない。 「ふふふ、そう怖がらなくて良いよ。君たちを捕らえるとか分解するとかいう気はないの だから。 実は本日、殿下が君たちの拝謁を許して下さるのだよ。だが話では君たちは、王室や魔 法研究所に誤解を抱いているらしいからね。だから先に僕たちが来て、君たちに害が及ぶ 事はない、と伝えに来たんだ」 「そういう事なの。だから、みんな安心して一緒に来て欲しいのよ」 ジュン達は不安げに視線を交錯させたが、ルイズの言葉に従ってそれぞれの武器を収め た。 学院長室では、ソファーに座るアンリエッタ姫の前に、オスマン氏はじめ全教員が跪い ていた。その最前列にはルイズとジュンがいた。 アンリエッタが伸ばした左手に、真紅と翠星石が口づけていた。 「なんと愛らしいお人形でしょう。ルイズ、大儀でした」 「光栄至極にございます、殿下」 普段はおてんばなルイズも、さすがに姫の前では礼節を尽くしている。 真紅と翠星石はアンリエッタに頭を下げたまま、ジュンの横まで下がり、跪く。 そしてアンリエッタは、涼やかな笑顔をジュンに向けた。 「そなたが、ルイズの使い魔ですね?」 「はい。桜田ジュンと申します」 ジュンは平静を装いつつも、手に汗を握っていた。 「噂では平民ながら、数々の東方の技を身につけ、メイジに並ぶ力を示す、とのことです ね」 「恐れながら、噂には尾ひれがつくモノです。僕はただの平民に過ぎません」 内心、あんまり突っ込まないでくれー、と必死で祈ってた。 「これはこれは、大きな力を持ちながら、謙虚な少年ではありませんか。そちらの美しく も高い魔力を秘めた人形達といい、ルイズはよい使い魔をお持ちですね」 「はい、身に余る程に素晴らしい使い魔達にございます」 「使い魔はメイジの力を示すもの。あなたはいずれ、ハルケギニアに名を知らしめる立派 なメイジになるに違いありませんわ。私も、幼き日を共に過ごしたそなたを誇らしく思い ます」 「もったいないお言葉にございます。その時が訪れた暁には、殿下のしもべとして忠義を 尽くす所存にございます」 「期待していますわ。ところでその時には、そなたの使い魔達も共に忠義を尽くしてくれ るのでしょうか?」 アンリエッタの言葉に、使い魔達には一瞬緊張が走った。 ジュンがゆっくりと、必死に言葉を選びながら、言葉を紡ぐ。 「我らはルイズ様の使い魔にございます。ゆえに、ルイズ様が忠誠を尽くす方には、我ら も忠誠を尽くします」 「よろしいですわ。その時には期待しています」 ルイズと使い魔達は、どっと汗をかきながら安堵した。 その後マザリーニに時間を告げられたアンリエッタは、少し名残惜しそうにしながら、 来た時と同じように静々と学院を去っていった。 「ぐはぁ~、つっかれたぁ」 ジュンはルイズのベッドに大の字で寝っ転がっていた。 「やれやれ、俺もその美人の姫様とやらを見たかったな。そんなにべっぴんさんだったの かい?」 「そりゃーすごい美人だったよ。つーか、ホントにお姫様って感じだったよ。清楚で、可 憐で、青い瞳なんかそりゃあもう!」 「あーくそ、そんなんなら俺も持ってってくれりゃいいじゃねぇか」 「しゃーねーだろ、王族の前に出るのに武器なんか持てるかよ」 「しょうがないですよデル公さん。でも、本当に綺麗ですよねぇ。しかもルイズさんと幼 なじみなんですってねぇ」 「ええ、あの美しさは素直に認めるしかないわね」 「ところでルイズさん、さっきからどうしたですか?」 「本当に変ねぇ、ぼんやりしたままだわ」 ルイズの部屋に戻ると、皆アンリエッタの美しさを口々に讃えていた。 だがルイズは椅子から立ったり座ったりと落ち着きが無く、視線も宙に彷徨わせている ばかりだ。 ジュンが頬をつついても無反応。 翠星石が頭の上に乗っても気付かない。 真紅が薔薇の花びらを顔にペタペタ貼り付けてもぼんやりしたまま。 三人は、大きく息を吸って、ルイズの耳元に口を寄せて… 「「「「わっ!」」」」 「うわっひゃあっ!?・・・な!なによ、ビックリさせないでよ」 ようやくルイズは我に返った。 「ルイズ、どうしたの?ぼーっとするなんて珍しいわね。せっかく幼なじみの姫様に会え たのに」 「あ、うん、真紅…あのね、ワルド様の事を考えてたから」 「ああ、あなたの婚約者の事ね」 「こいつはおでれーた!お前さんみたいなおてんばにも婚約者がいたのか!」 「デル公!もう、茶々入れないでよね。 でも、婚約したのは10年前だし、お父様も戯れにしただけだから、もう反故になった と思ってたわ。・・・まさか、覚えててくれただなんて」 腕を組んでツンとすましてはいても、顔はちょっと赤かった。そんなルイズを見たジュ ンは、ちょっと複雑な表情だ。 「そっかぁ~、ルイズさんには婚約者がいたんだぁ…そうだよなぁ、貴族って普通そんな もんなんだよなぁ」 「あら、なあに?ジュン、もしかして、妬いてるんだあ♪」 ルイズにツンツンつつかれて、ジュンも焦ってしまう。 「そ、そんなワケないだろ!?からかうなよ」 「そーだぜ!なにせジュンにはあのシエス」 「わーっわっわっわー!」 ジュンは慌ててデルフリンガーを押さえつけようとした。でも、どこが口か分からない ので、とりあえず剣を抱きしめていた。 その様を女性陣はニヤニヤしながら眺めていた。 「な、なんだよ!ほら、遊んでないで、そろそろ帰るぞ!」 「あらあら、いいのですかぁ~?でも早く帰らないと、地球では巴さんも待ってるですも んね~♪」 「す、翠星石!バカ言ってないで、ほら、急ぐぞ!」 「そうね、それじゃ私達はそろそろ帰らせてもらうわ。また明日」 そういってジュン達は、輝く鏡面から地球へ帰って行った。 ルイズの部屋にはルイズとデルフリンガー、そして二つの光玉、ホーリエとスィドリ- ムが残った。 その日の夜。 ルイズの部屋をノックする者がいた。初めに長く二回、それから短く三回…。 はっとしたルイズがドアを開けると、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女がいた。 ――そして次の日の朝、ルイズの部屋。 カーテンが引かれて薄暗いルイズの部屋を、鏡台から生じる光の波が淡く照らす。 「ルイズさーん、こんちはー・・・って、誰もいないや」 「おいおい、俺はいるぜぇ」 壁に立てかけられたデルフリンガーに出迎えられ、鏡から出て来たのはジュン達だ。 「デルフリンガー、ルイズはどこへ行ったの?」 「おう、実はお前等に急ぎの伝言があるんだ。」 「どうしたです。何かあったですか?」 「おう!俺もおでれーたよ、いいかよく聞け、実はな・・・」 デルフリンガーから語られた事実と伝言の内容に、一同言葉を失った。 ――学院長室 「うむ、そうじゃ。ミス・ヴァリエールは姫殿下の密命を受けて、今朝アルビオンに向け て旅だったのじゃ」 「すまねぇな、なにせ急な事でよぉ」 「そ、そんな!ルイズさん、無茶だよ…」 「あーに考えてるですかぁ、あのちんちくりんはぁ!人工精霊だけ連れて行ってもだめで すよぉ」 「困ったわ、どうやって追えばいいのかしら」 鏡から出てきたばかりの三人は、ルイズが昨夜アンリエッタ姫から『以前、アルビオン 王家ウェールズ皇太子にしたためた手紙を回収して欲しい』という密命を受け、ワルド子 爵とギーシュを共にしてアルビオンに向かった事を告げられた。三人には『後から飛行機 で追いかけてきてね』というルイズの伝言がデルフリンガーに託されていた。 しかも学院長から伝えられたアルビオンの状況――反乱軍レコン・キスタの『革命』に より、王軍は敗北寸前――という事実が、更にジュン達の顔色を青く塗りつぶしていく。 ルイズ達は、既に敵軍が完全包囲しているであろう王軍のウェールズ皇太子と接触しなけ ればならないのだから。 第一、追えと言われても行く方法が無い。 行く方法がない、と困っているのを見て、ジュンの背中のデルフリンガーが不思議そう に聞いてきた。 「なぁジュンよ、あのぜろせんってヤツで飛べばすぐじゃねえのか?道分かるヤツを後ろ に乗せればいいだろ。ルイズもそう言ってたぜ」 「それダメ!飛行機は滑走路の無い場所じゃ離着陸できないんだ…そうか!ルイズさんは それを知らなかったんだ」 「なんと!そうか、そうじゃった、じゃから『かっそうろ』を作ったンじゃった。うむ、 ではどうするか」 頭を捻ったオスマンが、声を上げた。 「よし、ここはひとつ風竜の出番じゃ」 ――タバサの部屋 既にもぬけの殻だった。ついでにキュルケの部屋も。 「ううむ、留守です。困ったですねぇ」 「うむ、困ったのぉ…良い手はないじゃろか」 「コルベール先生に燃料が出来てるか聞いてみよう。もしかしたら、ラ・ロシェール近く に、ゼロ戦で着陸できる場所があるかも知れない。無ければ、ちょっと離れるけどタルブ の草原へでも」 ジュンの提案に一同頷いた。 ――コルベールの研究室 研究室の前には、エンジンが取り外されたゼロ戦があった。 機首のエンジンは地面に降ろされ、見事バラバラにされていた。 「そ、その・・・どうしてもこの、『えんじん』というのが知りたくて・・・」 ぼそぼそと言い訳するコルベールの前に、全員がっくりと膝をついた。 「だ、大丈夫ですぞ!ミスタ・グラモンに頼めば、竜騎士隊を貸してくれますぞ!」 「コルベールよ…ギーシュ君なら、ミス・ヴァリエール達と一緒に出て行ったんじゃ」 「・・・申し訳ない!」 ――結局、再び全員学院長室へ戻ってきた。 オスマン氏はずっとウンウンうなっている。 「うーむ、これは密命じゃからのぉ。学院から竜騎士隊とかに依頼する事は出来ん。同じ ように姫殿下とも連絡はとれん。フーケの件もあるし…」 「フーケ?」 ジュン達がキョトンとなる。 「おお、そういえば話しておらんかったか。実はの・・・」 オスマンから語られる『フーケ脱獄。恐らくはレコン・キスタ派貴族の手引き』という 事実に、ジュン達はもはや青いというより白い顔だ。 「と、ゆーことは・・・王宮や軍に『飛竜貸して』なんて頼んだら」 「おそらく、そのまま暗殺されるじゃろ。少なくとも合流はできんな」 オスマンの冷酷な予想に、ジュン達は力が抜けていく。 「ど…どうするですかぁ?」 「こうなったら、最後の手段ね!」 真紅の言葉にぎょっとして、ジュンが耳打ちする。 (おい真紅、まさかnのフィールド通って行く気か?) (まさか、それこそ無理よ。だって、どこを通ればラ・ロシェールに着くか知らないもの。 それに、nのフィールドから出てくる所を、誰かに見られでもしたらやっかいよ) 「ふむ、ミス・シンクには何か妙案がおありか?」 身を乗り出したオスマン氏に、真紅が胸を張って答えた。 「馬よ!」 ――そんなこんなで、もうお昼の正門前。 馬に跨ったシエスタは前に真紅と翠星石、後ろにジュンを乗せていた。 「それじゃシエスタさん、急いでお願いします!」 「分かったわ、ジュンさん!みんな、急ぐわよ!」 「頼むですぅ!」 「おでれーた…やれやれ、馬でグリフォンを追いかけようだなんて、俺はおでれーたよ」 「手段は選んでいられないわ。私達だけじゃ道が分からないし」 四人を乗せた馬は、ラ・ロシェールに向けて駆けだした。 さほど乗馬が上手くない田舎出のメイドと、乗馬の経験すらほとんど無い少年と、人形 達を乗せた馬は、それでも必死に南へ駆けていた。魔法学院からは馬で2日ほどの距離に あるラ・ロシェールを目指し、休みもほとんど取らず、宿場町の安宿で泥のように眠り、 きしむ関節と悲鳴を上げる筋肉に鞭打って、どうにかこうにか次の日の夜にラ・ロシェー ルへ到着した。 そして丘の上に昇った彼等の目の前には、いや頭上に、『桟橋』があった。東京タワー 並の枯れた巨木に、巨大な木の実のごとき『船』がぶら下がっていた。 「な・・・なんでこんな山の中に港が、て思ったら、こういうことだったのか・・・」 「さすが魔法の世界ですねぇ・・・ビックリですぅ」 「なんでえ、お前等の世界じゃ船ってこういうのじゃねえのか?」 「地球の船は、みんな海に浮いてるわ…全く驚きだわ」 使い魔達は天を突く巨木を見上げ、口をあんぐり開けっ放しだ。 枯れた大樹の根元をくりぬいたホールから、シエスタが小走りで戻ってきた。 「ついてるわ!船はまだ出てないって。明日の朝にならないと船は出る事が出来ないんで すって!」 その報告に一同安堵のため息をついた。 「良かったわ。ならルイズ達は、どこかの宿に泊まっているわね」 「シエスタさん。この街に貴族向けの高級な宿屋って、幾つかありますか?」 「ああ、それなら『女神の杵』亭ね。ほら、あそこの・・・あれ?」 ラ・ロシェールの街を指さしたシエスタは、怪訝な顔で目をこらしていた。 「どうしたですかシエスタさん・・・なんですか?あれは」 街の灯りにぼんやりと浮かび上がるのは、巨大な人型だった。街の建物より背の高い人 型が、一際立派な建造物の前に立っていた。 どぅん・・・ 地響きの様な轟音と共に、人型が建造物の入り口を吹き飛ばした。 「あれは、フーケですぅ!フーケのゴーレムですよぉ!」 「ということは…あれが『女神の杵』亭!?」 「ルイズ達が襲われているんだわ!」 「シエスタさんはここにいて下さい!僕らはルイズさんの所へ行ってきます!」 「はっはい!」 「おっとジュンよ、その必要は無いようだぜ。こっちに走ってくるのはルイズと、ああ、 ワルドって隊長さんじゃねえか?」 デルフリンガーの言うとおり、月明かりに照らされた丘を駆け上ってくるのは、ルイズ とワルドだった。赤と緑の人工精霊が人形達の下へ飛んでくる。 「おーい!ルイズさん、大丈夫だった~!?」 「みんな!まったくもう、一体どうしたのよ!?ずっと待ってたんだからね!」 「諸君!話は後だ、今は船へ!」 そう叫ぶや、ワルドはホールへ駆け込んでいった。 「分かったですぅ!それじゃシエスタさん、ありがとでしたよ」 「は、はい!皆さんも、どうぞご無事で!」 手を振るシエスタを残し、一同はワルドに続いてホールへ飛び込んでいった。 ワルドは各枝につながる階段の中で、目当ての階段が示されたプレートを見つけると、 一気に上り始めた。ワルドとルイズに続いてジュンもデルフリンガーを握って駆け上る。 真紅と翠星石はトランクに乗ってジュンの後ろを飛んできていた。 木の階段をきしませながら、途中の踊り場に差し掛かった時、きしむ音にもう一つの 足音が混じっていた。ジュンが振り向くと、黒い影がさっと翻り、人形達とジュンの頭上 を飛び越し、ルイズの背後に回った。長身で黒いマントを纏った、白い仮面の男だった。 「ルイズさん!?」 「きゃあっ!」 一瞬で男はルイズを抱え上げる。 ジュンは男を斬りつけようとした。だが、ルイズが邪魔で剣を振れない。 男はそのまま地面に向けてジャンプした。 「翠星石!行くわよ!」「オゥですぅ!」 真紅と翠星石がステッキと如雨露を構えてトランクから飛ぶ。 燕のように宙を舞い、急降下で仮面の男に襲いかかる。 だが、仮面の男は落下しながらルイズを離した。軽やかに身を翻し、ステッキと如雨露 をかわす。ルイズは地面に真っ逆さまで落下していく。 間髪入れずにワルドは階段から飛び降り、急降下して落下中のルイズを抱き留め、空中 に浮かんだ。 男はそのまま階段の手すりにつかまったが、更に真紅の薔薇が襲いかかる。『フライ』 で高速飛行しながらかわし、ジュンから少し離れた場所に降り立った。そして薔薇に向け て杖を振る。 「『ウインド・ブレイク』!」 突風に薔薇が吹き飛ばされてしまう。 「うぉあっ!」ジュンは間合いを一瞬で詰め、仮面の男に向け突きの連撃を放つ。 カカカカキィンンッ! だが男は黒塗りの杖で華麗に突きをさばいていく。 その男の口からは、一定のリズムでつぶやき声がもれていた。男の頭上の空気が、ひん やりと冷え始める。 「ジュン!構えろ!!」 デルフリンガーの叫びに、とっさにジュンは剣を正中に構えた。 「『ライトニング・クラウド』!」 空気がパチンッっと弾け、男の周囲からジュンへ稲妻が伸びる。 だが、電撃は全て刀身に吸い込まれていった。 仮面の男も、ジュンも予想外の事に一瞬たじろいでしまう。 「スキ在りですぅっ!」バゴッ! 仮面の男は、飛んできた翠星石の如雨露で思いっきり頭をどつかれた。 「終わりよっ!」どすっ さらに、真紅のステッキが男のみぞおちにめり込んだ。 「とどめだぜっ!」「応!」 ジュンは、上段突きで一気に踏み込む。 ぼごんっ! だがデルフリンガーが突き立つ前に、破裂音と共に仮面の男は消滅してしまった。 「あ、あれ?…デル公、どうなったの?幻影か?」 「いきなり、消えた、です。…もしかして、逃げられたですか?」 「遍在、だよ」 口にしたのは、『フライ』で飛び上がってきたワルドだった。 「風のユビキタス(遍在)。風の吹く所、何処と無くさ迷い現れる。敵は極めて強力な風 系メイジのようだね。 そして、君の剣は魔法を吸収できるとはな、驚いたよ」 「デルフリンガーってんだ、よろしくな!」 「ああ、よろしく。さて、おしゃべりはここまでだ。次の追っ手が来ると不味い」 一同はさらに階段を駆け上る。 階段を駆け上がった先の枝には、一艘の船が停泊していた。枝からタラップが甲板に下 ろされている。一行は甲板に駆け降りた。甲板で寝込んでいた船員達が、驚いて飛び起き た。 「な、なんでぇ?おまえら!」 「船長はいるか?」 ワルドが船員達と交渉する。 その間にルイズ達は、この二日間の事を伝え合っていた。 襲い来る傭兵達とフーケを、ギーシュ・キュルケ・タバサが食い止める間に、桟橋へ向 かった事も。 「おでれーたな、あの貴族の3人がフーケを足止めしてくれてたとはよぉ」 「みんな大丈夫ですかぁ?無事だと良いですけど…」 「だーいじょーぶよ!タバサのウィンドドラゴンもいるんだから、危なくなったらさっさ と逃げるわよ」 だがジュンは、浮かない顔で考え込んでいた。 「うん、キュルケさん達は大丈夫と思う…けど…」 何かにひっかかっているジュンに、真紅が怪訝な顔をする。 「ジュン、どうしたの?何か気になる事があるの?」 「あ…うん、大したことじゃないんだ。 うーん、何かヘンな感じがしたんで、なんだろうって思ってたんだけど、やっぱりよく わかんないや」 そこへ船長との交渉を終えたワルドが駆け寄ってきた。 「すぐに出航だ。ただ、今出航すると、途中で風石が足りなくなる。だから僕の魔法で補 う必要がある。その間は僕は戦う事が出来ない」 ワルドはジュンの肩に、ぽんっと手を置いた。 「その間は、君達がこの船『マリー・ガラント』号を守って欲しい」 「え…僕たちが、ですか?」 「そうだ。学院で剣を交えた時といい、さっきの戦いといい、君と人形達なら十分に戦え る。話に聞いたとおりだね。君達なら、トライアングルクラスのメイジも相手にならない だろう」 ワルドの言葉に、3人は誇らしげに胸を張った。 「分かりました。頑張ります」「承知致しましたわ」「任すですよー♪」 ワルドは口笛を吹き、飛来したグリフォンを甲板に呼び寄せた。 帆が張られ、もやいは放たれ、風に乗って船は出航した。 二日間の馬での強行軍に、桟橋での戦闘。疲れ果てていたジュン達は即座に熟睡してし まった。 「アルビオンが見えたぞー!!」 鐘楼の上に立った見張りの船員が叫ぶ声で、ジュンは目が覚めた。 早速、舷側から下を覗き込む。船の下には白い雲が広がっている。トランクからもそも そと出てきた人形達も下を覗き込むが、見えるのは白い雲海だけ。どこにも陸地など見え はしない。 3人の隣に立ったルイズが「あっちよ」と空中を指さした。 ルイズが指差す方向を振り仰いで、ジュン達は息をのんだ。 巨大な…まさに巨大としか言いようのない光景が広がっていた。雲の切れ間から、黒々 と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が 流れていた。 「驚いた?」 ルイズがジュン達に言ったが、3人とも声が出ない。 「すごいわ…」「…信じられんです」「うん。こんなの、見たことないよ…」 ようやく声になったものの、口はあんぐりと開きっぱなしだ。 使い魔達が『アルビオンは白の国と呼ばれてて…』と聞かされている時、鐘楼に登った 見張りの船員が大声を上げた。 「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」 ルイズは言われた方を向く。なるほど、大きな黒い船が一艘近づいてくる。後甲板でワ ルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。 黒くタールが塗られた船体、片舷側に突き出た二十数個の大砲。その全てがこちらをピ タリと狙っている。 後甲板からは「返信無し」「旗を掲げて無い…!」「空賊!?」「逃げろ!」と言った叫 び声に近い報告と命令がが飛び交う。 ぼごんっ!と鈍い音と共に、黒船が撃った大砲の弾が青空に消えていく。 黒船の威嚇砲撃数発を見た船長は、助けを求めるように、隣に立っているワルドを見つ める。 「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」 ワルドは落ち着き払って言った。 ジュンはデルフリンガーを構えた。左手の包帯から光が漏れる。真紅と翠星石も手にス テッキと如雨露を構えた。 「ちょ、ちょっとあなた達!まさか、戦艦相手にやり合う気!?」 使い魔達の行動に、ルイズは驚きを通り越して呆れてしまう。 その様子を見たワルドも駆けつけてきた。 「やめておけ。既にこの船は敵の大砲の射程範囲内だ。メイジだっているかもしれない。 確かに守ってくれとは頼んだが、勝てない戦いをする必要はない。20以上の大砲を同時 に撃たれたら、終わりだよ」 「はは!なるほどそいつぁごもっともな意見だぜ。けどな…」 正中に構えられたデルフリンガーの刀身は、心なしか輝きを増していく。 「あんたと嬢ちゃんは敵だけじゃぁなく、味方の力量もしっかりとわきまえてた方がいい ぜぇ?」 ジュンの左薬指の指輪が、紅く輝き出す。そして、真紅と翠星石の体からも、紅と緑の 光があふれ出す。 「ミスタ・ワルド。船をお願いします。…それじゃ、頼むぜ!」 「ええっ!」「ぶっとばすですよっ!」 叫ぶが早いか、真紅の手の平から紅い竜巻の如く薔薇が舞い上がる。翠星石は緑に輝く 光の尾を残して、上空に舞い上がった。 ゴウッ!! 薔薇の巨大な竜巻が、一気に黒船へ襲いかかる。異常事態に気付いた砲手が、大砲を発 射しようとした。 だが、出来なかった。全ての大砲が沈黙した。 大砲の砲身に、飛来した薔薇の花びらが一瞬でギッチギチに詰め込まれ、その勢いで砲 身もあさっての方向を向いてしまったからだ。 間に合わずに導火線へ火を移してしまった数名の砲手が、慌てて曲刀で導火線を切り落 とす。 黒船の舷側に並んだ空賊数名が、魔法を放とうと杖を構えた。 ドドドドドッ!! しかし魔法が発動する前に、その全員が頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受け、甲板 に倒れてしまった。黒船の上空から、翠星石が如雨露から水をまいたのだ。ただし、甲板 に穴が開くほどの水圧だ。 ぶううぅおおおっっ!! 翠星石が水をまいた箇所から、ツタのような植物が一気に生え育った。甲板はおろか、 舷側にも飛び出したツタで穴が開き、マストも傾く。 重量バランスが崩れ、黒船は大きく『マリー・ガラント』号側へ傾いてしまった。 空賊船内は既にパニック状態だ。甲板上の箱や空賊達が、傾いた甲板を滑って行く。雲 海へ落ちそうになる者もいる。 それを見ている『マリー・ガラント』号の人々も、開いた口が塞がらなかった。 「ミスタ・ワルド!」 「…え?」 「逃げるんですっ!!」 ジュンの叫びに、あっけにとられていたワルドが我に返った。同じく呆然としていた船 員達も。 大混乱に陥る空賊を尻目に、船は再びアルビオンへ向けて走り出した。 空賊船が見えなくなった頃、ようやくアルビオンの港、スカボロー港が見えてきた。 近づいてくる港を見つめるジュンの背を、ワルドがぽんっと叩いた。 「まったく、大したものだ。恐らく君たちの力は、スクウェアクラスにも引けを取らない だろう。目的を忘れず、敵の足を止めてすぐに立ち去るという冷静さも、若いのに大した 物だ」 「お褒めにあずかり光栄です」 「はははっ!かしこまるのはよしてくれ!僕とルイズが結婚したら、君とも家族の様なも のになるんだからね」 バンバンと背中を叩かれて、ゲホゲホとむせてしまう。 「ぐへごほっ…あ、あの、結婚って、結局、婚約の件は、今はどうなっているんでしょう か?」 「まぁ、ルイズが卒業した後の話だ。 実はラ・ロシェールで泊まった時にプロポーズしたんだが、卒業まで待って欲しいと言 われたよ」 「卒業まで…待つ…」 ジュンは、しばし考え込み、次第に顔を伏せていく 「多分、おめーら使い魔連中に気ぃ使ったんじゃねぇか?」 背中のデルフリンガーの言葉に、ジュンは何も答えられない。 「はっはっはっ!君が気にする必要なんか無いよ!」 「ごふっ!げふぅっ!」 バンバンバンバンッと背を叩かれ、更にむせこんでしまう。 「僕もルイズも10年くらい会っていなかったからね。婚約者とはいえ、今すぐ結婚と言 われても困るだろう?ルイズもまだ書生の身だしね。お互いの事を分かり合う時間に丁度 良いよ。 そういうわけなので、ジュン君。君の人形達、シンクとスイセイセキと共に、これから よろしく頼むよ!もちろんデルフリンガー君もな」 「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします」「おう、よろしくな」 ジュンはワルドに深く頭を下げた。ワルドはジュンを笑顔で見下ろしていた。 だが、目が笑っていなかったことには、船上の誰も気付かなかった。 第三話 アルビオンへ END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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前ページ次ページデモゼロ 馬鹿力のルイズ、元「ゼロ」のルイズ とうとう、自分の使い魔の正体を知っちゃった それは、悪魔寄生体 宿り主に、強き力を与える存在 …だが、しかし その力に飲み込まれれば、本当に悪魔のごとき存在となってしまう 自分は、どうするべきなのか? 今ならまだ、間に合うと言う だが、しかし …自分に、使い魔を捨てる事など、できるのか? 広い広い、華やかなホール そこで、魔法学院の生徒や教師たちが、各々着飾った姿で、踊りや雑談を頼んでいた …今夜は、フリッグの舞踏会 土くれのフーケの騒ぎで、一時は中止すべきでは、との声も出たものの ルイズたちの活躍により、無事事件が解決した…と言う事になった為、例年通り開催される事になったのだ キュルケは華やかで露出たっぷりのドレスに身を包み、多数のボーイフレンドに囲まれて雑談を楽しんでいた 傷痕は水メイジの治療にって完全に消えており、痛々しさは全くない もぐもぐもぐ タバサは、そこから少し離れた所で、黒いパーティドレスに身を包んだ姿で料理に夢中だ 大変な戦いの後だったからか、いつもより食欲倍増である 「もう、よく食べるわねぇ。その小さな体にどれだけ入るのよ?」 す、とボーイフレンドたちから離れ、キュルケはタバサの様子に苦笑した 思わず、ルイズの状態を思い浮かべたが…この親友は、前々から、体格に似合わずけっこう食べる子だった、と言う事実を思い出す …きょときょと キュルケは、ホールの中を見回す 目当ての相手の姿は、まだない 「遅いわねぇ、ルイズ」 「………」 そう ある意味で、今夜のパーティの一番の主役と言ってもいいルイズの姿が、まだない 準備に時間がかかっているのだろうか? キュルケは、つい数時間前のルイズの様子を思い出し…心配になってくる 「私…次第…」 選択を突きつけられたルイズ 使い魔を、捨てるか、否か 使い魔を捨てなければ…どこか、一つでも間違えたら、その存在に己を飲み込まれる 人の心を、失ってしまうかもしれない その恐怖を自覚して、震えていたルイズ キュルケに出来た事は、そのルイズの体を、そっと支えてやる事だけで 「……私、は」 ぎゅう、と 強く、強く、拳を握り締めていたルイズ きっと、あの苦悩は…同じ立場に立たされた者にしか、わからない …と、その時 ホールの扉が、開かれた 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール嬢、おな~り~!」 ひらり 美しい、純白のドレスに身を包んだルイズが…ホールに、姿を現した その姿は、馬子にも衣装? いや、違う ルイズが本来持っている高貴さ、美しさが、存分に発揮された姿 普段、ルイズの事を馬鹿にしていた生徒たちも、思わず見とれてしまう姿だ まぁ、人間なんてそんな物である、所詮見た目だ 特に、男子生徒たちは、その美しさに思わず見とれ、ルイズをダンスに誘っている者もいる …が、しかし、ルイズはその誘いを全て断っていた そして、ずんずんずん 向かう先は!! 「…あ、やっぱり」 思わず、呟くキュルケ ぱくぱくもぐもぐ 用意された豪華な料理に食いつくルイズの姿に、キュルケは思わず、和んだ笑みを浮かべたのだった もぐもぐもぐ うん、美味しい! やはり、体を動かした後の食事と言うものは最高だ …一応、その、ドレスに着替える前にも、軽く食べたのだ 着替えている間、おなかが鳴りっぱなしと言うのも嫌だから …そうなのに、やっぱり、食べたい 色々と視線が突き刺さっている気がするが、気にせずルイズは食事する 「…あ、あの、ルイズ様…」 「あら、シエスタ。あなたも食べればいいのに」 もぐごっくん デルフを運んできてくれたシエスタに、笑いかけるルイズ ルイズのそんな言葉に、シエスタは慌てて首を左右に降った 「い、いえ!私は、まだ仕事がありますから…」 「そう?…あ、デルフはそこの壁にでも立てかけておいてくれる?御免なさい、重たかったでしょ」 いえ、とシエスタは微笑んで、デルフをすぐ傍の壁に立てかけてくれた そのまま、料理を運ぶなどの仕事に戻るべく、ぱたぱたと離れていく 一応、デルフもルイズの手によって活躍したのだし 剣であるデルフには、舞踏会などよくわからないかもしれないが、一応、雰囲気だけでも味合わせてあげようと思ったのだ が、流石にドレス姿の自分が持ってくるわけにもいかず、シエスタに運んでもらったのだ ひゅ~ぅ、とデルフは口笛のような音を出す 「賑やかなもんだねぇ。俺には何が楽しいのか、よくわからねぇけど」 「ま、あんたは踊る事も食べる事もできなんだし。とりあえず、雰囲気だけ味わったら?」 言いながら、ルイズは他の料理に手を伸ばす …せっかくのパーティだ、今日は食べ尽くそう!! 食欲全開の、そんなルイズの姿に 「…舞踏会ってのは、踊ってなんぼなんじゃね?」 と、デルフは剣の癖に、至極真っ当なツッコミを呟いたのだった どうしよう どう、声をかけようか キュルケは、少し離れた位置からルイズを見つめ、悩む …ルイズが、決断した様子を キュルケは、間近で見たのだ 「…教えて、モートソグニル」 「ちゅ?」 「あなたは、あの化け物を…人間に戻した、わよね?あれは…私にも、できる?」 俯いていた、顔をあげ ルイズは、真っ直ぐにモートソグニルを見つめ、そう尋ねた こくり、モートソグニルは頷いてくる 「できまちゅよ。僕たちのような力を持った者は、あぁやって悪魔の種を取り出すのでちゅ」 「……それじゃあ」 ルイズの瞳に宿るのは、強い、決意 彼女は、答えを選んだのは 「私は…この力を捨てない。捨てる訳には、いかないわ」 「…どうして?」 モートソグニルの問いかけに ルイズはゆっくり、はっきりと、答える 「弱き者を護る、救う。それが、貴族の役目。あの化け物の状態になってしまった人たちは、平民だったわ。 あれは、メイジでも、太刀打ちするのが難しい相手。 きっと、あれに立ち向かえるのは、同じ力を得た者だけ…そうなんでしょう?」 ちゅちゅ、とモートソグニルは頷いている …それは、キュルケにもなんとなくだが、わかっていた トライアングルクラスの自分やタバサでも、あの化け物と戦って、勝てるという確証はない …しかし そんな相手を、ルイズとモートソグニルは、いとも簡単に薙ぎ払ってしまった あれらに太刀打ちできるのは、同じ力を得た者たちだけなのだ 「そして…あの状態になってしまった人達を人間に戻せす事が、救う事ができるのならば… 私は、その力を、捨てる訳にはいかないの」 あぁ、ルイズ その瞳に、強い決意を宿らせながらも…小さな体は、震えている 力に飲み込まれるかもしれない恐怖 それと、必死に戦い続けている 「私は、どうしてなのかはわからないけれど…魔法が使えない。貴族なのに、魔法が使えない『ゼロ』のルイズ。 こんな私でも…この力が、あれば。弱い人達を、護る事が、救う事ができる」 …あぁ、だから あなたは、険しい道を、選ぶというの? 「だから、私は使い魔を、この力を捨てる訳にはいかない。『ゼロ』の私でも、誰かを救えるのなら …私は、この力を捨てたりしない。力に飲み込まれたりしない、制御してみせる!!」 「…ルイズ」 強く、強く、はっきりと 皆の注目を浴びている中…ルイズは、そう言い切った 戦うのだ、と 彼女は、明言してみせたのだ あの瞬間の、ルイズの決意の表情 しかし、同時に震えていた、体 …果たして、自分は、あのルイズに、どう声をかけてやればいいのだろうか? 「…あら?」 ……と、キュルケが悩んでいると ルイズに、す、と近づいている青年の姿に気付く あれは… 「…もう。先を越されちゃったわね」 青年がルイズに話し掛けている姿に、キュルケは苦笑して 気持ちを切り替えるように、すぐ傍のテーブルの料理に、手を伸ばすのだった 「ルイズちゃん、ルイズちゃん」 「むぐ?……あ、モートソグニル」 自分に話し掛けてきたモートソグニルを、ルイズは見上げた 整った身なりの、青年の姿をとっているモートソグニル 舞踏会と言う場のせいか、さほど違和感を感じる事無く、場に溶け込んでいる 「楽しんでまちゅか?」 「えぇ、とっても!」 「食ってばっかりだけどな」 ぎゅうううううううう 「っちょ!?痛い痛い痛いやめてーお願い手加減してー!!」 余計な事を言ったデルフの柄を、思いっきり握り緊めるルイズ 悲鳴をあげるデルフの様子に、モートソグニルは苦笑してきた うん、これくらいにしてあげようか ぱ、とルイズはデルフを解放してやる 「モートソグニル、いいの?オールド・オスマンから離れていて」 「大丈夫でちゅ。ご主人様の許可はとってまちゅ」 なら、いいのだけれども じ、と…モートソグニルは、ルイズを、見つめてきて ぽつり、呟いてきた 「…良かったんでちゅか?ルイズちゃん。本当に…その力を、捨てなくても」 「貴族に二言はないわ」 そうだ これは、自分が決めた事 自分が出した、答え この力で、誰かを救う事ができるのならば …自分は、恐怖に打ち勝ってみせる 力に飲み込まれたりしない 必ず、制御しきってみせる 「だから、モートソグニル…この力の、制御の仕方。教えてね?」 「もちろんでちゅ。協力するでちゅよ」 ありがとう、とルイズは微笑んだ そして…そろそろ、料理を食べるのにも、満足して にこり、モートソグニルを見上げる 「ちゅ?どうしたでちゅ?」 「せっかくだから…一曲、踊ってくださる?」 ルイズの、その申し出に ちゅちゅ?と、モートソグニルは、途惑った様子を見せた 「え?でも…僕、所詮鼠でちゅから。ダンスなんて、できないでちゅよ?」 わたわたわた 慌てているその姿に、ルイズは思わず笑みを深めた 戦っている姿や、学院長室での様子などを見ていた時は、なんだか凛々しい感じだったけれど 今のこの様子は、まるで彼の本来の、あの可愛らしい鼠の姿を連想させて、気持ちが和んでしまう 「大丈夫よ、私がリードするから」 「ちゅ…そ、それじゃあ、一曲だけ…」 恐る恐る、ルイズの手に手を差し伸べたモートソグニル ルイズは、この日一番の、最高の笑顔を浮かべて…モートソグニルの手をとったのだった くるり、くるり 今日のパーティ一番の主役と、どこからともなく現れた青年が、ダンスを踊る 慣れない様子のモートソグニルを、ルイズがリードしてやる様子は、どこか微笑ましくて いつの間にやら、ホールの視線を釘付けだ 「はっはっはぁ!メイジと踊る使い魔なんて、初めて見たぜ!!」 けらけら そんな二人の様子に、デルフはさも愉快そうに、笑い声を上げたのだった 前ページ次ページデモゼロ
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前ページ次ページ異世界BASARA 幸村とルイズは長い廊下を、2人並んで歩いていた。 「良き主君にござるな、ジェームズ殿は」 廊下を歩きながら、幸村はルイズに話し掛ける。 「配下の将を見ていれば分かる。あのように慕われるのは幸せでござろう」 「……でも、明日には戦って死んじゃうのよ?」 ルイズが震える声で口を開いた。 「嫌だわ……何であの人達死のうとするの?姫様が逃げろって言っているのに……」 次第にルイズの目から涙が流れる。遂には立ち止まり、その場で泣き出してしまった。 幸村はそれを黙って見ている。 「私、もう一度説得してみる。国より、愛する人の方が大事じゃない」 「それはなりませぬ」 と、黙していた幸村が首を横に振りながら言った。 「どうして!?ウェールズ様だって本当は……!」 「アンリエッタ殿を想うからこそにござる」 幸村は真剣な表情でルイズを見つめ、さらに続けた。 「ルイズ殿。皆、勇敢に戦い果てる事を決心しておられる。その思い、察して下され」 だがルイズは頷かなかった。 ルイズは武士ではない、ましてや戦に出た事もない少女である。 彼女にはどうしても理解出来なかった。だから、ルイズは幸村にこう言った。 「……ユキムラ、あんたは死ぬのが怖くないの?」 「この幸村、武士となったその日から死する事は覚悟しておりまする」 「じゃあ、私が戦って死ねって言ったらあんたは死ぬの?」 「それがルイズ殿の望みであれば」 その瞬間、幸村の頬に平手が飛んできた。 一瞬、幸村は何が起こったのか分からず、呆けた顔でルイズを見ていた。 「ルイズ殿?何を……」 数秒後、自分の頬を押さえていた幸村がやっと口を開いてルイズに尋ねた。 「やっぱりあんた馬鹿だわ、この国の人と同じ、自分の事しか考えてないのね!」 「そのような事は!拙者はルイズ殿の為ならば命懸けで……!」 「それで死んで満足?残された人の気持ちはどうなるのよ!!」 ルイズはその目に涙を溜めたまま、幸村を睨んだ。 今まで何百、何千という敵と刃を交えてきた幸村であっても、ルイズの涙と、その小さな体から発せられる気迫にたじろぐ。 しばらく幸村を睨んでいたルイズだったが、少し落ち着いたのか、腕で涙を拭ってもう一度幸村を見て言った。 「あんたは使い魔だから、私を守るのは当然よ。でもね、それで死ぬなんて絶対ダメ。分かった?」 「……は、ははっ!!」 幸村は我に返り、ルイズに深く頭を下げた。 「あ、そうだ」 と、ルイズは何かを思い出したのか、はっとした顔になる。 「あ、あのねユキムラ……ラ・ロシェールで言い忘れていた事だけど……」 「はっ!何でござろうか?」 ルイズは困ったような表情になり、ポリポリと頬を掻いた。 「ワ、ワルドがね、私と結婚しないかって」 「おお!そうでござるか!結婚…………結婚んんんーーーっっ!?!?」 予想だにしなかった告白に、幸村は素っ頓狂な声を上げた。 「け、け、けけけけけけけ結婚とは!ななな何故いきなり!?」 今にも飛び出しそうな程に目を見開き、ルイズに尋ねた。 「そんなに驚かないで、婚約者なんだからいつか結婚するのは当たり前じゃない」 そんな幸村とは違い、ルイズは落ち着いた様子で腰に手を当てている。 「でも安心しなさい。結婚はしないから。」 「そ、そうでござるか……」 それを聞いてほっとしたのか、幸村は大きな溜息をついた。 「私、これからワルドにこの事を謝ってくるわ」 「ルイズ殿、拙者も御供いたしますぞ」 しかし、ルイズは突然慌てた様子になってそれを止める。 「い、いいわ!ユキムラは先に戻ってて!こ、こういうのは当人同士で話し合った方がいいのよ!」 「し、しかし……」 「いいから!戻ってなさい!!」 戸惑っている幸村を戻らせ、ルイズはワルドの部屋に向かっていた。 相手は憧れていたワルド子爵だ。幼い頃、結婚するのを夢見ていた…… それなのに、今は結婚する事を考えると気持ちが沈んでしまうのである。 滅び行くこの国を見たからか、それとも死に向かうウェールズを目の当たりにしたからか…… しかし、そのどれも今の心境の原因ではないように思えた。 不意に、ルイズは幸村にワルドと結婚する事を話した時の事を思い出す。 幸村にまだ結婚はしないと話した時の、あのほっとした顔を見た時…… 何故か自分も安心したのである。 まさか、自分はワルドとの結婚を否定して欲しかったのだろうか? そんな考えが頭をよぎった頃、ルイズはワルドのいる部屋の前まで来ていた。 ルイズがワルドの部屋に着いた頃、幸村は言われた通りに自分の部屋に戻っていた。 「ひでぇ慌てっぷりだったな相棒」 すると、今まで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。 「あそこはあれだぜ、俺の傍にいてくれ!とか、そういった事を言わねぇと」 「何を申すか、拙者はルイズ殿の傍にいるよう心掛けているが?」 そういう意味じゃねぇよ……と、デルフリンガーは小さい声で呟いた。 デルフ自身も薄々感づいてはいたが、この幸村という男、戦いにおいては中々のものだが、女性の事となるとまったくの二流……いや、三流であった。 さらに片や自分の気持ちに素直になれないルイズである。 (こりゃ嬢ちゃんが猛烈にアタックしない限りは無理だな……) 「結婚は出来ない?」 一方、こちらはワルドの部屋。 突然訪れてきた婚約者の言葉に、ワルドは思わず聞き返した。 「ごめんなさい。ワルド、あなたには憧れていたわ。もしかしたら恋だったのかもしれない……」 ルイズは俯きながら話していたが、深く深呼吸すると顔を上げ、決心したように言った。 「でも、今は違うの。私……」 話そうとしたところで、ワルドがルイズの手を取った。 「……緊張しているだけさ。そうたろうルイズ?」 しかし、ルイズは首を振る。 その瞬間、ワルドの目が吊り上り、ルイズの肩を強く掴んできた。 「世界、世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!その為に君の力が必要なんだ!」 豹変したワルドに、ルイズは震え上がった。 「……む?」 その頃、幸村の体にある異変が起こっていた。 「どうしたね相棒?」 「今……ワルド殿の姿が見えたような……」 幸村はそう言って、しきりに目をこする。 武器を握っていないのにも関わらず、左手のルーンが光っていた。 「ルイズ!僕には君が必要なんだ!君の才能が、力が!」 ワルドはルイズの肩を掴んだまま、激しい口調で詰め寄る。 その剣幕に、ルイズは顔を歪めた。 「嫌よ。そんな結婚死んでも嫌……!あなた、私の事愛してないじゃない!」 ルイズはそう言い放つと、ワルドの手を振り解く。 「……こうまで言ってもダメなのかい?」 「嫌よ。誰があなたなんかと結婚するもんですか!」 その言葉を聞いたワルドは、唇の端を吊り上げ、禍々しい笑みを浮かべた。 「そうか……分かった、分かったよルイズ。手に入らないのならば、壊すとしよう……」 ワルドはそう言うと杖を手に取り、呪文を唱え始める。 そして、杖を振るうと、杖の先から光の玉が飛び出す。 光は窓を突き破って上昇すると、空中で大きな音と光と共に爆ぜた。 「子爵……今のは?」 ルイズは恐る恐るワルドに尋ねる。 対してワルドはいつもルイズに見せるような笑顔を浮かべて言った。 「合図だよ。ニューカッスル城を総攻撃せよという合図さ」 その言葉の後、城が轟音と共に大きく揺れ動いた。 「……どうやら、彼は言いくるめるのに失敗したようだな……」 レキシントン号の甲板上で、松永久秀は砲撃を受けるニューカッスルの城を見ながら呟いた。 不意に松永は指を鳴らす。 すると、彼の背後に長身のメイジが現れた。だがそのメイジから発せられる雰囲気は貴族というよりも傭兵のそれである。 「御出陣ですかマツナガ様」 「欲しい物は自分で手に入れるから良い。セレスタン、卿は女子供を捕らえてくれ」 「何に使うんです?」 「余興だよ。いずれトリステインの姫君に見せる余興に使うのだ」 松永はその顔に嫌な笑みを作り、笑った。 だが、セレスタンと呼ばれたメイジは困ったように松永に尋ねる。 「俺はやりますけど……“あの2人”はどうするんで?」 それを聞いた松永は、歯を剥き出しにし、さらに邪悪な笑みを浮かべて言った。 「欲望のまま血を啜らせればよい。肉を喰らわせればよい。それが彼等の真理……」 前ページ次ページ異世界BASARA
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出典:ALDNOAH.ZERO外伝 TWIN GEMINI(電子書籍版)、佐竹清順・Olympus Knights、芳文社、2015年12月12日発行 【作品名】ALDNOAH.ZERO外伝 TWIN GEMINI 【ジャンル】アルドノア・ゼロの外伝漫画 【名前】リビティナwithアキダリア 【属性】双子の火星騎士のリーダーwith火星カタクラフト 【大きさ】20m程度の人型 【攻撃力】 荷電粒子砲:原理が電磁パルスのため、伝播速度は電磁波そのものの速度と思われる(光速) 7秒程度のチャージ後に発射。チャージ時は地面に静止する必要がある。 射程距離・威力は1.5㎞程度離れた藻岩山(標高531m、直径3㎞程度)が直撃で跡形もなく吹き飛ぶくらい チャージ中は前面に電撃によるバリアを形成し、120mmライフルの一斉射撃を無傷で耐えきることが可能 また発射と同時に、射程距離までの前面50度程度あたりに電磁パルス対策が施された軍用機ですら沈黙するレベルの電磁パルスを放射する(電磁波×2) これを後述の電磁パルスと合わせて合計2度使用するとオーバーヒートとなり、恐らく1時間程度はこれと電磁パルスは使用できない スパイラルランス:近接専用の手から形成されるドリル。長さは自身と同じくらい。高熱で焼き切る方式で目標を切断する。 温度はさっぽろテレビ塔(147.2m)や軍用機がやすやすと切断される程度 またゲリュオンの雷鞭攻撃と何度も打ち合えるほどの素の威力もある 【防御力】ボロボロの状態でも、自身の荷電粒子砲を鞭の一撃ではじき返したゲリュオンの雷鞭による攻撃を数度耐えて戦闘続行可能 溶けた鉄が降り注いでも平気なほどの熱耐性を持つ 自身の発する電磁パルスや荷電粒子砲の影響を受けないので、電磁波耐性×2 【素早さ】60m程度からの距離から放たれた荷電粒子砲を発射後反応し、触腕ではじき返したゲリュオンと互角に近接戦闘が可能なリビティナ そのリビティナと互角以上に近接戦で張り合う三影陽弥が反応できない速度で的確に攻撃を当てられ、 リビティナと息の合ったコンビプレーが可能なリベルティナの2人が搭乗している またアキダリアはボロボロの状態でも、ゲリュオンが反応できない速度で有効打を近接戦で与えられる戦闘速度を持つ ⇒まとめると60mからの光速反応と光速の3分の1倍の戦闘速度 移動速度は大きさ相応の達人並み、戦闘機と同じ高度で飛行可能。飛行速度は移動速度と同等か 【特殊能力】 電磁パルス:チャージ時間なしで全方位に放つ。多数の軍用戦闘機の空対空ミサイルがロックオン距離に入った瞬間に これをぶっぱなして全機沈黙させた。電磁パルスなので光速。電磁パルスは機械限定の機能停止攻撃。 軍用機に備え付けられた電磁パルス対策が施されたシールドを全て貫通し沈黙させたので電磁波×1+α。 短距離型の空対空ミサイルである04式空対空誘導弾の射程距離が35㎞なので、最低でも射程はそれくらいある これを荷電粒子砲と合わせて合計2度使用するとオーバーヒートとなり、恐らく1時間程度はこれと荷電粒子砲は使用できない 【長所】和解し、地球側と共闘する唯一の火星騎士 恐らく火星騎士の中では一番カタクラフトを上手く使っている 【短所】礼を重んじ出来る限り命を取らないという性格が仇となり敗北する 【戦法】とりあえず電磁パルスをぶっぱなす。効かないならスパイラルランス 【備考】本作は地球と火星のそれぞれの双子が主役で、リビティナ、リベルティナは火星側の双子の姉妹 アキダリアには妹のリベルティナと共に搭乗しており、リビティナが戦闘の指示や荷電粒子砲・スパイラルランス・電磁パルスと右半身の操作、 リベルティナがソルジャージャベリン(ここでは使用せず)と左半身の操作を担当している 第1~2巻では地球の双子と敵対しているのでその状態で参戦 参戦 vol.103 931 画像 vol.104 808 vol.104 109 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2020/01/25(土) 03 42 49.14 ID moJSgq6K [1/2] ジン兄貴さようなら まあウオッカ単体でもそんな弱体化しないか リビティナwithアキダリア考察 反応は1mからのマッハ3万5千位か 正し移動速度が達人程度しかない 攻防的に都市破壊の壁から見ていく 〇 ドラム 電磁パルス勝ち 〇 第3水晶島 同上 〇 戦闘のプロ 同上 〇 四足 同上 〇 ヴァラク スパイラルランス勝ち 〇 帝王ゴール 同上 〇 バースデイ 電磁パルス勝ち 〇 クェス・パラヤ 先手電磁パルス勝ち 〇 カリスマデビルX完全体 スパイラルランス勝ち × サガ ギャラクシアンエクスプロージョン連打負け △ ヴィクティム 速さ的に分け × マスター・バタフライ 電子妨害食らって負け 〇 ラピュタ 電磁パルス効くか分からんが適当に乗り込んで破壊勝ち × ロア=ア=ルア 音波負け 〇 ディー スパイラルランス勝ち × 万魔の魔女 ウイルス負け × 新条アカネ 認識改変負け × 幽霊戦艦大和 当たらん 長期戦負け 〇 白魔城 電磁パルス勝ち × ネロ(デモンベイン漫画版) 電磁パルス当てても潰されて負け 〇 リーブラ 電磁パルス勝ち 〇 ロージェノム 電磁パルス勝ち 〇 空中要塞デスボール 荷電粒子砲で削り勝ち 〇 マザーシップ (地球防衛軍3)電磁パルス勝ち × ゴジラ・アース 耐えられて熱波負け × フィンチ 大きさで耐えられて潰されて負け × HCACS 近づいて放射線負け 〇 ゼルエル 攻撃耐えながら近づいてスパイラルランス勝ち 〇 異魔神 同上 〇 ゼロムス 同上 × ルシェイメア 移動している間に光負け 〇 鳴滝 スパイラルランス勝ち × 巨王龍 近づいてる間に電撃負け 〇 豊臣秀吉 スパイラルランス勝ち 〇 バブイルの巨人 電磁パルス勝ち 110 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2020/01/25(土) 03 43 04.62 ID moJSgq6K [2/2] 〇 超巨大ギア 荷電粒子砲による削り勝ち × 百目王 ぬえ負け 〇 白鯨 電磁パルス勝ち 〇 ナヘマー 荷電粒子砲による削り勝ち × ギドラ(GODZILLA 星を喰う者) センサーやモニターに映らない 噛みつき消滅負け 考察のところ読んでみたら普通に上がりそうだから後で再考察するね × 宇宙人の小型UFO 耐えられてビーム負け × 闘神イクサツナギ 移動してる間に斬撃負け × 超ヴォルケンクラッツァー 移動している間に波動砲負け × 闇の帝王(ハデス) コックピットにダイレクトアタック負け ×× テッカマン組 移動している間にボルテッカ負け × ミラーアクエリオン 反応向こうの方が上 無限拳で月面衝突負け 〇 ローマン上司 スパイラルランス勝ち × 一方さん 無理 反射負け 弱体化してた頃ならチョーカー無効にして勝てたのに… 〇 サンドリオン スパイラルランスで削り勝ち × 六耳の化け猿 耐えられて巨大化からの踏みつぶされ負け ここからは攻防や大きさ的に無理 位置は ギドラ(GODZILLA 星を喰う者)>リビティナ>ナヘマー ギリギリ勝ち越せた 移動速度が遅すぎ辛い 138 名前:格無しさん[] 投稿日:2020/01/28(火) 11 58 11.38 ID NyP0Ua8u [1/2] 110 考察乙だけどアニメギドラはメトフィエスがガルビトリウムという装置を使って制御してるから、 電磁パルス撃たれたら実質メトフィエスが制御不能になるので優位性失って弱体化すると思うぞ (省略) 182 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2020/01/29(水) 23 43 13.24 ID qKTy19Ro 138 了解 でも素で物理無効有るから攻撃受けないから 分けて ギドラ(GODZILLA 星を喰う者)=リビティナかな
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前ページ次ページドラえもん のび太のパラレル漂流記 「はあぁ……」 と、ルイズは重いため息をついた。 そのため息の原因は、彼女の使い魔……いや、コントラクト・サーヴァントはしていないので 使い魔とは言えないかもしれないが、とにかく彼女が喚び出したモノに原因があった。 見たこともない外見をして、さらに言葉まで話していたので、最初は高位の幻獣を引き当てたか、 と喜びもしたのだ。 ――しかし、実際には大外れだった。 全くもって、使えない。というかもう、使えない以前に言うことを聞かないのだ。 この世界のことはよく知らないだろうと思って、 とりあえず簡単に出来そうな掃除や洗濯を命じると、 「そうじにせんたく? じぶんでやれよ。 こんな子どものうちからひとをたよってばかりだと、しょう来ろくな大人にならないぞ」 と逆に説教をしてくる始末。 それならば、と、 「あんた、未来の秘密道具とやらが使えるんでしょ。 だったらせめて洗濯する道具を出しなさいよ!」 と言ってみれば、 「せんたく板とたらい~」 とか何とかほざいて、それをルイズに押し付けてきた。 「……で、これは何?」 こめかみの血管がピューピュー言いそうになるのを必死で抑えてルイズが聞いてやると、 「なにって見たらわかるだろ。せんたく板とたらいだよ」 悪びれもせずに答えてくる。 「へぇー。それはとても興味ぶかい情報ね。……それで? これでどうやって洗濯するの?」 「ルイズ。きみはほんとうにばかだな。じぶんの手でこすってあらうにきまってるだろ」 「ふぅうん……」 そこでルイズはにこっ、とびっきりの笑顔を見せて、 「ふざっけんじゃないわよこのイカレタヌキィイイイ!!!」 「ぼくはタヌキじゃなぁーい!!」 ――結局、つかみ合いのケンカになった。 「しっかしほんと、どうしたもんかしらね」 しっぽを引っ張って動かなくさせたドラえもんの顔に足を乗せ、ルイズは首をひねった。 使い魔一匹満足に従えられないなんて、このヴァリエール家のルイズ、一生の名折れである。 いや、それでなくてもとにかく、こんな妙ちくりんな顔したタヌキにバカにされるのは 貴族として人として一個の生き物として、どうにもがまんならないのであった。 「それに、ようやく呼び出した使い魔がこんなのだなんて、わたしまたみんなの笑いものに……」 そこでルイズはハッと気づいた。 「しまった! こんなことしてる場合じゃないわ! もう朝食の時間すぎてるじゃない!」 足の下にいるドラえもんを再起動させ、その頬を容赦なくバンバン叩く。 「こらあんた! ドラえもん! 起きなさい、食堂に行くわよ!」 それでぼんやりと目を覚ましたドラえもんだが、 「いいよぼくは。のび太くんのことを思うとかわいそうでかわいそうで、 ごはんなんてのどをとおらないよ」 そう言って本格的に二度寝に入ろうとする。 「あんたが良くてもわたしが困るの! 朝食の後はすぐに授業に行くんだし、 最初の授業に使い魔がいないとわたしの立場が悪くなるでしょうが!」 言いながらヒゲをぎゅうぅ、と引っ張ってやると、ようやく根負けしたのか、 ドラえもんがのっそりと体を起こした。 「めんどくさいなあ。そこまでいうならすこしだけつきあってやるよ」 などと言いながら、扉の方へ向かう。 ルイズは、 (またこいつはこんな生意気な口を……) と思ったが、また機嫌を損ねられでもしたらそれこそ面倒なので、なんとか堪えた。 ご主人様もなかなか楽ではないのである。 二人が廊下に出ると、近くの部屋のドアの一つが、ちょうど開くところだった。 そしてそこから顔をのぞかせた生き物を見て、 「ぎゃー! ネズミー!!」 ドラえもんがすっとんきょうな叫び声をあげる。 「あいたっ!」 突然足を止めたドラえもんにルイズがぶつかって、 「で、でっかいネズミ、ネズミネズミネズミー!」 さらにドラえもんの狂乱は続く。 「ちょ、ちょっとあんた、どこに入って…!」 ドラえもんが錯乱して、ルイズのスカートの中に隠れようとしたのだ。 これにはルイズ、さすがに焦る。 「ちょ、やめなさ…! これは高貴な、きゃぁ! もう、とにかく離れなさいよ! しっぽ引っ張るわよ!」 必死に引きはがそうとするが、半狂乱になったドラえもんの力は存外に強く、 すぐには振り払えない。 しかしそこで、 「ネズミだなんて失礼ね。この子はサラマンダー。火トカゲよ」 ドラえもんが見た生き物と同じ部屋から出てきた赤髪の少女が、 笑いながらドラえもんの勘違いを指摘する。 それでようやく、ドラえもんの暴走は止まった。 「キュルケ! そのサラマンダーもしかしてあなたの…?」 しかし、聞こえてきたその声に、今度は仇敵の姿を認めたルイズが叫び声をあげる。 「ええ。フレイムって言うの。サラマンダー、それもまず間違いなく、火竜山脈の火トカゲね。 うふふ。この子ってば火の系統の使い魔の中でもかなりのものなんじゃないかしら」 動揺するルイズに、ふふん、とルイズとは月と銭亀くらいにサイズの違う胸を張るキュルケ。 そんな中、ようやくドラえもんがわれに返って、 「なんだ、トカゲか。おどかすなよ」 おそるおそるフレイムに近づいていく。 「うんうん。よく見るとなかなかかわいいじゃないか。 ネズミなんかとまちがえてわるかった。 そうだ。ほらおいで。ぼくがおいしいおだんごをあげよう」 ドラえもんはそう言ってフレイムをあやしながら、ポケットから桃の絵が描かれた袋を出して フレイムに食べさせようとしている。 「あら、あんまり変な物を食べさせないでよね。くせにするから」 一方キュルケは一応制止しているが、その態度はおざなりで、本気で困っているようには見えない。 そんなほほえましく見えなくもない自分の使い魔と仇敵の様子を苦々しく見つめながら、ルイズがほえる。 「こらドラえもん! ツェルプストーの使い魔なんかに物をあげるんじゃないわ! で、キュルケ、何の用?! 何も用事がないなら、さっさとどっかに行ってくれる?」 しかし、使い魔の差か、胸の差か、ルイズのとけとげしい態度にも、キュルケは余裕の表情を崩さない。 「あら、そんなにつれないこと言わないでよルイズ。あたしとあんたの仲じゃないの」 笑いを含んだ声でキュルケが言って、 「なにがあたしとあんたの仲よ! 先祖代々から続く仇敵でしょ、あたしたちは!」 ルイズが憤慨する。 まったくいつもの光景であった。 しかし、いつもと違うところがひとつ。 「にしても、これがルイズの使い魔、ねぇ…」 それはサラマンダーに団子を与えながら、よしよしと目を細めているロボットの姿。 キュルケはゆかいそうにそれを眺めている。 ルイズはその視線に侮辱されたと感じて、 「なに見てんのよ! あたしが喚び出した使い魔に文句でもあるわけ?!」 そうキュルケに食ってかかる。 しかしその言葉に、キュルケはさらに嘲りの色を深くして、 「だって、ゼロ――魔法の成功率ゼロパーセントのあんたが召喚した使い魔よ。 やっぱりもう一度じっくり見ておきたいじゃない?」 なんてことを言ってくる。 一瞬ぐっと詰まったルイズだったが、 「ぜ、ゼロじゃないわよ! サモン・サーヴァントは成功させたでしょ!」 出てきたのはこんな役立たずだけど、と心の中だけでつぶやきながら、強気な台詞を吐く。 「あら、そうね」 意外にもキュルケは納得したようにうなずいて、しかし、 「でもだいじょうぶよ、まだ残ってるじゃない」 すぐに悪だくみを思いついたかのようににやりと顔をゆがめ、 「ほら、ゼロのルイズ」 ルイズの絶壁を指差して、そう口にした。 「な、なななななななな…!」 あまりのことに、ルイズはとっさに言葉が出ない。 「それじゃ、失礼。……ほらフレイム。何してるの、置いていくわよ」 使い魔のサラマンダーと共に、悠然と歩き去っていってしまった。 キュルケの姿が見えなくなってから、あふれる悔しさを飲み込んで、 ルイズはしわがれたような声を出す。 「ほら、ドラえもん。そんなとこでぼうっとしてないで、さっさと行くわよ」 しかし、返事がない。 「……ドラえもん?」 いぶかしげにドラえもんの顔を覗き込むと、 「あんなこといわれて、きみはくやしくないのか! みかえしてやろうとはおもわないのか!」 なぜか怒り狂っていた。 急にドラえもんが怒り出した理由はよくわからないが、苛立つ気持ちはルイズも一緒だった。 しかし、 「わたしだって見返してやりたいわよ! ……でも、やっぱり魔法は使えないし、せっかくのチャンスだった使い魔召喚の儀式でも、 出てきたのはあんたみたいなおかしなタヌ…ネコだったし」 いじけた顔でルイズは言う。 その言葉に何か感じるものがあったのか、ドラえもんは自分がバカにされたにも関わらず、 菩薩のような丸顔で同情の言葉を口にする。 「それはきのどくだったなあ」 ガツン! 言われた瞬間、ルイズは思わずドラえもんを殴りつけていた。 「な、なにをするっ!」 当然再び怒り狂うドラえもん。 「いや、その……」 詰め寄られ、ルイズは口ごもる。 ルイズにも何か理由があった訳ではなく、ドラえもんの顔を見た瞬間、 つい衝動的にやってしまったのだった。 「ご、ごめんなさい。なんかあんたの顔見たら、無性に殴りたくなって…」 めったに謝らないルイズだが、ここはさすがに自分の非を認めた。 「そんないいわけがあるか!」 ただ、ドラえもんが怒るのはまあもっともだ。 (だってあんたの顔があんまりにもむかついたんだもん) とはいくらルイズでも口に出来ないし、言ってもまた怒られるに決まっていた。 「それにしても、急に怒り出してどうしたのよ。 今までわたしのことなんてどうでもいい、って感じだったのに」 だからとりあえず、ルイズは全力で話を逸らすことにした。 すると、ドラえもんは急にしゅんとなって、 「ごめんよ。きみのそのどうにもたんじゅんでだまされやすそうなところとか、 なにをやってもだめなところとか、ついのび太くんを思いだしてしまって…」 (……こいつ、一度絞め殺してやろうかしら?) ルイズは一瞬本気でそんなことを思って、すぐにそんな場合でないことを思い出す。 「まずいわ。今のでまた時間を取っちゃった。すぐに朝ごはん。それから授業よ!」 ルイズはそう言って歩き出すが、すぐにドラえもんがついてこないことに気づいた。 振り返ると、まだ扉の近くで立ち止まっている。 「ルイズ。いや、ルイズちゃん。いやいや、ルイズさん。 ぼくはここでるすばんしているから、きにしないでいってきなよ」 気味の悪い笑顔でそんなことを言ってルイズを送り出そうとするが、 「ダメよ。わたしだって不本意だけど、とにかく使い魔を連れてかなくちゃまたバカにされるの。 ていうかあんた、さっきまではわたしがのび太とかいうのに似てるとか言って、 すごくやる気だったじゃない!」 ルイズはそう言って促すが、ドラえもんは一向に動こうとしない。 あいかわらずの気持ちの悪い態度で何か言い始めた。 「いや、なんでもこの学えんにはつかいまがおおくいるそうじゃないか。 そんな中、ぼくがいくとおびえさせてしまうんじゃないかと…」 「そんな訳ないでしょ。あんたを怖がるのなんて、せいぜい小鳥とかネズミとか…ん?」 ネズミ、と口にした途端ドラえもんがびくんと反応して、ルイズは勘付いた。 「あんたまさか、学校の使い魔にネズミがいるかもしれないって思って、それで嫌がってるの?」 「ま、まままさかそんな! ぼくはネコ型ロボットだぞ! ネズミなんて……」 「はいはい。じゃ、行きましょうね」 ルイズは嫌がるドラえもんの手を引いて、問答無用で進んでいく。 (ああ、なんでこんなことになっちゃったんだろう…) 張り切って廊下を進んでいくルイズの背中を見ながら、ドラえもんはため息をつく。 (なんだかのび太くんのきもちがわかるきがするよ。学校って、じつにいやなところだなあ) しかし、それがドラえもんにひらめきをもたらした。 (そうだ。こういうときはのび太くんのまねをして……) 「い、いたい!」 いきなりを大声を出したかと思うと、突然ドラえもんがうずくまっておなかを押さえる。 「イテ、イテテテテテ! きゅうにおなかがいたくなってきた。 はやくトイレにいかないと、イテ、イテテテテ!」 あからさまに怪しいドラえもんの態度に、さすがのルイズも不審な目をする。 「トイレならあっちだけど、あんたまさか仮病を使って…」 しかし、ルイズが何も言い終わらない内に、 「えへへ。ではすぐもどりますので」 急に元気になったドラえもんが不気味ににやけながら駆けていき、 「あ、ちょっと?! そろそろ時間がないんだから、勝手に……ああもう!」 ルイズの制止も聞かずに廊下の角を曲がって、 「オマタセ シマシタ」 なぜかたったの数秒で戻って来た。 「なによ。やけに早かったわね」 今度はどんな駄々をこねるつもりかとルイズはうろんな目つきで身構えるが、 「イヤ ボクハ ドラエモン ダヨ?」 「そんなことわかってるわよ。変なやつね」 おかしな返事が返ってきて、調子を崩された。 「ジャア キョウシツヘ イコウ」 しかしドラエモンは、そんなことお構いなしな様子で先に立って廊下を歩き始める。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 教室はそっちじゃないから。ああ、もう! 行きたくないって言ったり急に行く気になったり、なんなのよあんたは!」 どんどんと先を行くドラエモンを追いかけるように、ルイズもその後を早足で歩いていく。 ……やがて。 視界からルイズたちの姿が消えたのを確認すると、曲がり角からドラえもんが顔を出した。 「しめしめ。すっかりニセモノにだまされたみたいだな。 ……さて、へやにもどってひるねでもするか」 そうしてドラえもんは来た道を戻り、部屋へと帰っていくのだった。 ――その後、教室ではルイズが錬金に失敗して爆発を起こしたりしたそうだが、 それはドラえもんには全く関係のないお話である。 第二話『ゼロのルイズとドラエモン』 完 前ページ次ページドラえもん のび太のパラレル漂流記
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トラゾウの監視の意味も含めての深夜の特訓だって言うのに、 キュルケがついてきたら何の意味もないのよね。 まぁ、まとめて監視できるから良いんだけど。 タバサも良い迷惑なんじゃないかしら。あんのなに振り回されて。 まぁ――――つまらないとは言わないけど―――― 宵闇の使い魔 第陸話:開け - Knock Knock - 《土くれ》のフーケ。 今世間を騒がす大快盗である。 神出鬼没且つ手口を一定に保たずに行動パターンを読ませないようにしては、王都衛士隊の魔法衛士も振り回している人物が、今まさに魔法学院の宝物庫がある本塔の壁に垂直に立っていた。 黒いローブと、その下から覗く青い髪が夜風に揺れる。 「流石は魔法学院ってとこか――これは一筋縄ではいかないね」 厳重に《固定化》を掛けられた分厚い壁。 これはフーケといえども簡単には破れない。 ――どうやって開けたものかね―― そう考え込んでいたところに、人の気配が近づいてくるのを感じると、チッと舌打をして飛び降りる。 地面ギリギリで《レビテーション》を唱えて減速し、地面に足をつけると音を立てずに塔の影へと飛びこんだ。 其処に現れたのは、虎蔵にルイズ、キュルケ、タバサの御一行である。 「んで。なーんであんたが着いてくるのよ!人の使い魔にべたべたしてんのよッ!」 「いーじゃない、別に。特訓するって言うから見にきてあげたのよ?」 「頼んでないッ!トラゾウもでれでれしてないでなんか言いなさいッ!」 「でれでれしてねーだろ――あー、ほれ、匂いがつくぞ」 御一行のうち二人は夜だというのに騒がしく歩いてくる。 ルイズが虎蔵の腕にべつたりのキュルケに突っかかり、キュルケがそれをいなしては楽しんでいる形だ。 タバサはなかばキュルケに連れ出されたようなもので、月明かりで本を読んでいる。 「あら、私はこの匂い、嫌いじゃないわよ?」 キュルケはそういって虎蔵の胸元に顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らす。 「こらぁぁぁぁッ!」 ルイズは顔を真っ赤にして魔法を放つが、明後日の方向の地面が爆ぜただけだった。 キュルケはそれを見ると、「ほらほら、集中しなきゃね」と言って虎蔵から離れて、もってきたシートをひいて座る。 タバサも本から目は離さずにキュルケの隣に座った。 虎蔵は少し離れて立っている。 流石のキュルケも、いざ特訓と言うときにはからかうのをやめたようだ。 「まったく、本当になんの用なのよ――」 ルイズはぶつぶつ言いながら、一度深呼吸をすると、精神を落ち着かせ始めた。 ルイズの特訓が始まると、キュルケはタバサをすぐ傍に感じながらルイズに気付かれない程度に虎蔵を眺め、続けてルイズへと視線を移す。 彼女にしてみれば、今最も炎を燃え上がらせてくれる虎蔵と居られ、人見知りなのかすぐに篭ろうとするタバサを人と触れ合わせ――まぁ、本を読んでいるのだが、部屋に一人でいるよりは良いだろう――ルイズもからかえる。一石三鳥だ。 とはいえ―― 「ほんと、なんであんな風になるのかしらねぇ――」 ルイズの魔法がまた失敗し、視線の先の本塔の壁面が爆発したのを見て呟いたのだった。 だが、その失敗魔法にキュルケとはまったく別の感想を抱いた人物が居た。 塔の影に隠れたままのフーケである。 ルイズ達がなかなか去りそうに無い為、今夜は無理かと諦めかけたときに頭上で爆発がおき――あの壁面に皹が入ったのが見えたからだ。 「ッ――」 ――これは、行けるッ―― 思わず興奮してぐっと手を握るフーケ。 だが、其処に―― 「誰か居るのか?」 と声が掛けられた。 気配を消していたのだが、興奮して思わず漏れてしまったらしい。 一瞬逃げるかとも思ったのだが、それで下手に警戒されるのは不味いと考えたフーケは、彼らの元に出て行くことにした。 ローブを脱ぎ捨て、ミス・ロングビルとして――― 『ミス・ロングビル!?』 塔の影から出てきた人物に、ルイズとタバサの声がハモる。 タバサと声を掛けた張本人である虎蔵の視線も、当然集まってくる。 「ミス・ロングビル――こんな時間に何を?」 四人を代表してルイズが問う。 「いえ、見回りをしていたのですが――突然人のくる気配がしたもので隠れてしまったんですよ」 「何でまた――」 キュルケの疑問は最もで、オスマンの秘書である彼女が見回りをする理由は無い。 だが、ロングビルは理知的な顔立ちに僅かな苦労の表情を浮かべて、 「最近は色々と物騒ですから――ほら、例の快盗とか。ですのに、教師の方々は宝物庫のつくりをとても信用されているようで、宿直の方すら寝ている始末。ですから私が――ね」 と肩を竦めて見せた。 そして次に軽い苦笑を浮かべると、ルイズに視線を向けて、 「それでまぁ、見回っている途中に人が近づいてくる気配があったもので、まさかと思って隠れたのですけど―― そうしたら、特訓が始まってしまったものですから――」 と申し訳無さそうに軽く頭を下げた。 「あ、いえ、それは良いんですけど――」 確かにあまり人に見られたいものではないルイズとしては、その心遣いは多少なりともありがたく、納得してしまう。 と、そこまで離したところで、突如虎蔵が壁から身体を離してロングビルに近づく。 ――なんだい、いったい―― フーケは内心で緊張するが、表には出さずに「えぇと、何か?」と首を傾げる。 「いや、糸屑が付いてるぜ――」 虎蔵はそういうと、片手を彼女の肩を掴むと、もう片手で髪に触れた。 「なッ――」 一瞬、あの黒いローブの物かと緊張してしまうロングビルだが―― 「なぁぁぁぁにしてんのぉぉぉぉッ!」 と、ルイズが雄たけびを上げて虎蔵の背中にとび蹴りをかましたものだから、 前につんのめる虎蔵の胸に飛び込んでしまう形――正確には虎蔵がつんのめってロングビルに抱きついた――になった。 煙草の匂いと、よく鍛えられた身体を感じる。 しかし虎蔵はすぐにロングビルを開放して、ルイズへと振り返る。 「ってぇな――おい。なにすんだ、コラ」 「それはコッチの台詞よ!このエロッ、エロ犬ッ!なにいきなり肩抱いてんの?」 ルイズは顔を赤くして、杖でビシビシと虎蔵をたたく。 「あんなのじゃ抱いた内に入らんだろ。なぁ?」 と、肩を竦めて視線を向けられれば、ロングビルは「――どうでしょうか」と、僅かに照れたかのような演技をして見せる。 そして、 「まぁ、勘違いされる方もいらっしゃるかも知れませんから、ほどほどになさった方が良いとは思いますけど。ミスタ――えーと?」 理知的な笑みに戻して何時ものペースで答えるが、名前が解らずに首を傾げた。 「長谷川虎蔵――なんかここ数日名乗ってばっかだな」 虎蔵がそう名乗ると「ミスタ・ハセガワ」と一度復唱をしたロングビルは、 「それでは、私はこれで失礼しますが――皆さんも、余り遅くならない内に」 と丁寧に頭を下げて、立ち去って行った。 ロングビルが見えなくなると、ルイズは再び虎蔵にビシビシと杖を叩きつける。 「ほんっと何してんのよアンタ。最低のエロ犬ね!」 「狗ねぇ――つか、最後のはお前のせいだろうが。まあ、良い女だったのは否定せんけどな」 そう言いながら肩を竦めてスーツの上着を脱ぐと、ルイズの靴跡をパッパッと手で払う。 すると今度はキュルケが不満そうに食いついてきた。 「なによー、ダーリンってば年増好み?」 「年増って、ありゃせいぜい23、4って所じゃねえか?」 虎蔵の感覚では、20代半ばなら食べ頃――もとい、女盛りである。 だが、どうやらこの世界では年増扱いらしい。 キュルケは「十分年増じゃない」といって胸を張る。 それを虎蔵は苦笑しながら煙草を咥える事で答えを濁し、 ルイズは「盛ってんじゃないわよ、全くどいつもこいつも――」と呟くのだった。 そこで、完全に集中力が切れて解散の流れになったことを察したのか、タバサがパタンと本を閉じて立ち上がる。 キュルケがそれを見て頷いて「そろそろ身体も冷えてきたしね」と言って解散を宣言し、寮へと向かって歩き出した。 ルイズと虎蔵もそれを追おうとする―― が、その時。 彼らが先程居た場所に程近い地面が、豪快な音を立てて競りあがっていく。 「なんだとッ――!」 流石の虎蔵もこれには驚く。おおよそ30メートルもの土巨人が地面から現れたのだ。 こういうことをやらかす人物にも心当たりはあるが、よもやこの世界で合うとは考えにくい。 ルイズ達三人も、突然のことに呆然と見上げてしまっている。 しかし、ゴーレムは彼らを無視して学院本塔の壁の一部へと、その鈍重な拳をぶち込んだ。 虎蔵さえも気付かなかったが、そこは先程ルイズが失敗魔法で皹が入った辺りである。 フーケの目論見どおり、見事に破壊される壁面。 さらに、そのゴーレムの肩にはいつの間にか黒いローブの人影が立っている。 「まさか――フーケ!?」 それに気付いたルイズは黒いローブの人影に魔法を打ち込むべく、杖を構えて駆け出すのだが、ゴーレムはお構い無しに腕を引き抜く。 すると、当たり前のように大量の破片がルイズの頭上にも降り注ぎ―― 「あッ――」 それを見上げて呆然とするルイズ。 此処にきて頭を危険信号が支配し、逃げようとするが、足をもつらせて転んでしまう。 「ルイズッ!」「ちぃッ!!」「ッ!!」 そこへ、キュルケが庇うように飛びつき、抱きしめる。 虎蔵が刀投げて大きな破片を砕くと、タバサが絶妙なタイミングで《ウインドブレイク》を放ち、砕かれたそれを吹き飛ばした。 結果として、二人には――というより、ルイズを抱きしめたキュルケに――殆どの破片が到達できなかった。 ふぅ、と安堵の溜息を突くタバサに、虎蔵は「ナイスアシスト」と肩を叩いた。 一方、キュルケは抱きしめていたルイズを開放して、怪我が無いことを確認するとほっと息をつく。 「怪我は無いわね?もう、無茶しないでよ――」 「そ、そそ、それはコッチの台詞―――ッ!!」 顔を赤くしながら、いつもの調子で抗議しようとするルイズであったが、その目に飛び込んできたのは、肩に居た黒いローブが見えなくなっているにも拘らず、二人へと向けて手を振り上げてくるゴーレムの姿。 慌ててキュルケを安全圏まで突き飛ばそうとするのだが、非力な彼女の腕では叶わない。 「ひッ――」 声にならない悲鳴を飲み込んで目を瞑った瞬間――― 「く・た・ばれぇッ!!」 怒声を上げた虎蔵の刀が一閃し、ゴーレムの拳を綺麗に切断し、弾き飛ばした。 さらにシルフィードが滑り込み、二人を器用に足で掴むと一気に上空へと舞い上がる。 安全圏に到達すると、足で掴んだ二人を落さぬように気を使いながらターンし、自らの主人を乗せるべく大地を目指す。 一度は手首から先を切り落とされたゴーレムだが、すぐさまそれに手首を近づけてくっつけると、今度は虎蔵目掛けて殴りかかっていた。 「リジェネレイトかっ!?」 切断面が滑らかな為か、再生速度も速いようだ。 流石に刀で切断できるのは手首などの細い部分が限界で、それ以外の部分を斬りつけても直ぐに再生してしまう。 後方からタバサの魔法による援護を受けてはいるが、それも似たようなものだ。 其処へ「きゅぃぃぃ!」と鳴き声を上げてシルフィードが舞い降りる。 タバサはすぐさま飛び乗り、「戦略的撤退!!」と虎蔵に声を掛ける。 虎蔵もチィッと舌打をするが、すぐに驚異的な跳躍力でゴーレムの元からシルフィードへと飛び乗った。 それを確認すると、シルフィードは再び上空に舞い上がる。 その頃、フーケは見事に目的の物を手に入れ、ゴーレムの肩へと飛び乗っていた。 《破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ》とサインを残す事も忘れていない。 なにやら柄が少し太いモールにも見える《破壊の杖》にチュッと軽く口付けをすると、 上空のウインドドラゴンを見上げては「サンクス、ミス・ヴァリエール」と酷薄に笑っては、ゴーレムに城壁を一跨ぎさせて、草原を歩かせ始めた。 盛大な地響きを立てながら進むゴーレムの上空をウイングドラゴンが旋回する。 その背でタバサが自らの身長より長い杖を振ると、《レビテーション》によってルイズとキュルケの身体がドラゴンの足から背中へと移動した。 「ありがとう、タバサ。それに、ルイズ、ダーリンも」 「別に――級友を見捨てるわけには行かないでしょ」 珍しくキュルケに礼を言われて照れたのか、ルイズは僅かに頬を染めて眼下のゴーレムへと視線を逸らした。 「さっきの礼もあるしね――」という呟きは風に流されたと信じたい。 キュルケが「こういう時は友達って言っちゃえば良いのに」と肩を竦めるが、聞かなかったことにした。 「あれが壊した壁は?」 「宝物庫」 誰にともなく虎蔵がつぶやくと、タバサが過不足なく答える。 「随分と派手な盗人だな。その割りに握ってたのは一つしか見えなかったが――」 「見えたの?」 驚くルイズに、虎蔵は目は良いんでね、と答えてゴーレムに視線を向ける。 でかい。 ざっと30メートル程か。 あの外壁を破壊したことや地響きを考えればハリボテということは考えにくい。 ――厄介だな―― 小さく舌打ちをする。 あれほどのサイズになると、刀や数珠による攻撃では致命傷を与えられないだろう。 あの再生が無ければ時間を掛ければ余裕だろうが――雷術を使うか? そんな事を考えた瞬間、 「あッ!」 ルイズとキュルケがシンクロして叫ぶ。 ゴーレムが突然崩れ落ちて、ただの土山になってしまったのだ。 虎蔵がタバサに視線を向けると、「魔法を解いたみたい」と短く説明してくれた。 肩に居た筈の黒ローブは姿を消していた。 翌日、魔法学院は蜂の巣を突付いた大騒ぎになっていた。 秘宝《破壊の杖》が盗まれていた事が発覚した為だ。 下手人は巷を騒がす快盗《土くれ》のフーケ。 これはフーケ自身の犯行声明が残っていたことと、ルイズ達の目撃情報から間違いないとされた。 「魔法学院にまで手を出すとは、随分と舐められたものじゃないか!」 「衛兵は何をしていたんだ!」 「衛兵など役に立つと思っているのか?所詮は平民だぞ――」 教師達の怒声が宝物庫に響き渡る。 内容はすぐに当直担当であった教師・シュヴルーズへの責任追及へとかり替わった。 ルイズにも責任の所在を決めておきたい彼らの気持ちは解らなくも無いが、 今はそんな事をしている場合ではないだろうとも思う。 ちらりと横を見れば、キュルケも似たような表情で肩を竦めてきた。 タバサは何時ものように無表情であるが、トラゾウにいたっては壁際で欠伸を噛み殺している。 暫くしてシュヴルーズが泣きながら崩れ落ちたところで、ようやくオスマンがやって来た。 僅かに教師達も落ち着きを取り戻して事実の確認が進む。 途中でルイズ達にも話が振られ、昨夜のことを話すことになったが、 これといってヒントになるような事があったわけではなく、誰もがどうした物かと口を噤んでしまった。 「ときに、そのミス・ロングビルはどうしたのだね。姿が見えんようだが」 「は――そういえば朝から姿を見ませんな」 オスマンが気付いて、教師達に確認を取っていると、タイミングよくロングビルが現れる。 「ミス・ロングビル!この一大事に何処へ言っていたのですか!」 コルベールが興奮した様子でまくし立てるが、彼女はそれを遮ると、何時も通りの冷静な様子で話し始めた。 「申し訳ありません。朝から、少々情報収集を――」 「ほう。フーケの件じゃな?」 「えぇ。自主的とはいえ見回りをしておきながら発見できなかったわけですし――調査は早いに越したことは有りませんから」 仕事が早いの――と感心した様子のオスマンと、数人の教師。 残りの教師達は苦虫を噛み潰したような表情だ。 その様子を見てトラゾウがくくっと小さく肩を揺らす。 ルイズは慌てて睨みつけると、彼は肩を竦めて無表情に切り替えた。 このやり取りに教師達は気付かなかったようで、心中でそっと溜息をつく。 その間にも教師達のやり取りは続いていたようで、 「なんですとッ!」 と、コルベールの素っ頓狂な声にそちらへと意識を戻す。 どうやらロングビルがフーケと思われる人物の目撃情報を見つけてきたようだ。 ロングビルが言うには、近在の農民から近くの森で怪しい黒いローブの人影を目撃したとの事で、 その人影は森の廃屋へと入って言ったという。 黒いローブといえば、昨夜のゴーレムに飛び乗った人影もそうであったことをルイズが告げれば、 教師たちは俄かに盛り上がりを見せた。 場所も近い。まだ取り戻すチャンスがあるようだ。 その後、コルベールが王室に報告し、兵隊を使って討伐することを提案するが、 オスマンは年に似合わぬ迫力でそれを却下する。 王宮に知らせている間に逃げてしまう可能性や、貴族としてのプライド、 魔法学院の問題であることなどを持ち出されれば、コルベールも反論は出来ない。 貴族としてのプライドに関しては人一倍高いルイズも、表には出さないが強く同意していた。 そしてオスマンは、軽く咳払いをすると、有志を募った。 「我と思うものは、杖を掲げよ」 静寂。 誰一人として杖は掲げず、困ったように隣りの教師と顔を見合わせるだけだ。 オスマンがまたしても大声で発破を掛け、煽ってはみるものの、誰一人反応しない。 ルイズはそれを見ると、虎蔵を一瞥する。 彼は軽く肩を竦めて見せた。 好きにしな――そう言っているんだと思う。いや、思いたいだけかも知れないが。 だが、止めておけと言われても、此処で引き下がるわけにはいかないと、ルイズは考える。 教師の誰もが貴族としての義務をはたせないと言うのならば、自分がやるしかないのだ。 ルイズは、すっと杖を顔の前に掲げて見せた。 「ミス・ヴァリエール!何をしているのですか。貴女は生徒ではありませんか!此処は教師に任せて――」 シュヴルーズが驚いた声を上げて止めようとするが、 ルイズはそれを遮って「誰も掲げないじゃないですか」と言い放つ。 虎蔵はルイズの、真剣な目をして貴族としての義務を果そうとする姿に、 凛々しさ、美しさを感じては「ほう――」と小さく呟いた。 すると、 「ふふん。ルイズには負けられないわね。昨日は情けない姿をダーリン―― もとい、ルイズの使い魔に見せてしまったことだし」 「――心配」 といって、キュルケとタバサも杖を掲げる。 これに数人の教師が反対をしたものの、ならば代わりに行くかと問われれば、言い訳をして断るだけだ。 加えて、キュルケやタバサの優秀さや、ルイズの使い魔である虎蔵がドットとはいえメイジであるギーシュを決闘で破ったことをあげられれば黙るしかない。 オスマンは学院の教師達に情けないものを感じながらも四人に向き直り、 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 と告げた。 『杖に掛けて!』 ルイズ、キュルケ、タバサの三人は真顔になって直立し、唱和した。 「では馬車を用意しよう。魔法はフーケに備えて温存しておいた方が良いからな――ミス・ロングビル」 「え、あ――はい」 オスマンに呼ばれたとき、ロングビルはルイズ達を見て僅かに複雑そうな表情をしていたが、 彼に「先程も言ったとおり、彼女等なら心配は無い。安心したまえ。それよりも――」と言われるといつも通りの知的な様子に戻って、 「解っております。一足先に、馬車の用意をしておきますわ」 と今度はにこやかに答えて、宝物庫を出て行った。 ルイズ達も後に続くが、廊下に出て暫く歩くと、虎蔵がくくっと肩を揺らして笑い出した。 怪訝そうに視線を向ける三人に、彼はあまり人の良くなさそうな笑みを見せてこういった。 「なに、ブツが盗まれた翌朝に潜伏場所がわかるとはね」 「なによ。良いことじゃないの」 言外に何かを含んだような言い方にルイズは僅かに抗議の声をあげるが、 虎蔵は「あぁ、全くだ」と言って笑うだけだった。
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前ページ次ページゼロウォーズ 夢を見たんだ・・・ どこかの広場で、小さな女の子が泣いている夢を・・・ 俺は今、学校の裏山に来ている。理由は誰かに呼ばれたからだ。 「誰に?」と聞かれれば、「わからない」と、答えるしかなかった。でも・・・【確実】に誰かが呼んでる。 「なんだろう、胸騒ぎがする・・・なんだ?」 過去に異世界【エンディア】に飛ばされた時と、同じ感覚を感じていた。 「ん?光?まさか・・・【エンディア】に何かあったのか!?考えても仕方ない。行くか再び【エンディア】に!」 でも、この光が【エンディア】ではなく、まったく別の異世界に通じるゲートだとは、 この時俺はまだ知らなかった。 第1話 異世界からの来訪者 広場の真中に一人の少女、その子を見守る大勢の人々。 突如、少女の目の前で大爆発が起きた。 何で成功しないの?私はやはり[ゼロ]なのか?等と落ち込んでいると、 爆風が晴れ、一人の少年がそこに居た。 「ゼロのルイズが成功させた・・・」 「待てよ。でも人間だぞ。しかも〈平民〉だ。きっと、ここに迷い込んで来たんだ」 「爆風の中にか?いくら〈平民〉でも、そこまでするか?」 「でなければ、説明がつかない」 (何を言っているんだ、こいつ等は?) 周りの人間から発せられる言葉に少女は怒っているのか、小さく体が震えだし・・・ その矛先は側に居る〈平民〉に向けられた。 「アンタ誰!!」 「声デカイよ。ガキはおとなしく家に帰って、寝てろ」 「何なの?アンタ!」 「ガキの相手なら後でしてやるから、少し黙ってろ!」 (この手のタイプの子供は、大体性格が悪いんだよな・・・適当に相手するか・・・) 「アンタ、聞いてんの?」 「ごめん、なに?」 「アンタ、誰?」 「日下 兵真(くさかひょうま)。わかった?『あんた』って名前じゃないんだよ。 おれからも聞きたいんだけど、ここ何処?お前誰?なんで震えてんの?」 兵真がそう聞くと、少女の体がさらに震えた。 「さっきから、『お前』とか『ガキ』とかなんなのよ・・・」 「ああ・・・そのことか・・・悪かったな・・・」 (やっぱり、性格悪そうだよ。【エンディア】に来て、この手のタイプか・・・ついてないなぁ) 「名前と、場所教えろよ。」 「私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ここは、トリステイン魔法学院よ。わかった!?」 (【エンディア】に、魔法学院なんてあったか?それとも、新しくできたのか?) 「そうか・・・俺、用件があるから、じゃあな」 「ち、ちょっとなんなの、用件って!?」 (なんだ?このガキは。人の用件まで聞いてくるか?) 「うるさい!!ガキ!!人の用件にまで関わるな!!」 「あ・・あんたねぇ・・・平民が、貴族に向かってそんな口を叩いて良いと思ってるわけ?」 「はぁ?・・・貴族?あっそ、だから?」 一触即発のこの状態に終止符を打つべく、一人の男が動いた。 「ミス・ヴァリエール。もう止めなさい(喧嘩の事)」 「えっ!?コルベール先生、あと、少しだけやらせて下さい(召喚の事)」 「駄目です。わかりましたか?」 「はい。アンタ、貴族にこんな事してもらえる平民なんて居ないのよ。光栄に思いなさい。」 (私、こんなの使い魔にしないと留年なの?) 「おい、どうした?」 「あんたは黙ってなさい!!」 「なんなんだよ・・・」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 「バカだろ?お前」 そう唱えると、ルイズはキスをした。 「なにす・・・ッ!!!うあッッッッ!!」 「使い魔のルーンが刻まれているだけよ!」 炎にでも焼かれたような感覚はすぐに収まったが、 その直後に兵真の『怒り』の炎が燃え上がった。 「てめえ、なにする!使い魔?そんなもの俺はやらねえし、 用件を終わらしたらさっさと帰るから、他の奴にしろ」 そう兵真が言い終えると、今度はルイズの『怒り』の炎が噴き上がった。 「アンタは私の使い魔になったの!それと、さっきも言ったけど、 貴族に向かってそんな口を叩いて良いと思ってるわけ!?」 そう言い放つと同時に、ルイズのハイキックが兵真の頭にヒットした。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ」 「お前はフライもレビテーションもできないんだろ?」 そして、飛んでいってしまった。 兵真は薄れ行く意識の中こう思った。 (空を自由に飛びたいな)と・・・ 兵真が意識を失った後、コルベールが兵真の手を見て、何か書いていた。 前ページ次ページゼロウォーズ