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01-456 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/08 13 52 17 ID ikuIchh+ ビッチ像がきちっとないものの、 スイーツと香辛料に影響を受けて書いてみた。 1 「ねぇ、ユウ、今日空いてる?」 緩いカールが私の目の前で揺れた。 覗き込んでくる目は、バッチリアイラインが引かれている。 「空いてるよ。どっかアテあんの?」 ワタシは机においた鏡でリップを塗り終えると、ノゾミの方へ視線を移した。 ノゾミがニッと唇を上げた。 「アヤがさ、この間ナンパした男が結構持っているんだって」 「あー、あいつか」 アヤは背が高く、スタイルもいい。 顔は、どうなんだろ、ちょっと鋭角的っていうか、きつい印象なんだけど、美人、だと思う。 そのアヤに何日か前にプリクラを見せてもらったのを思い出した。 アヤは、その男からもらった、とブランドのポーチを見せてきた。 男の印象は、ちょっと頼りない印象でスーツもそれほど高そうに見えなかったが、すぐにそんなものを買うようだから、金はあったんだろう。 遊び慣れはしてなさそうだったから、女からのナンパでコロっと引っかかった口だと思った。 「そうそう、アヤがさ、アイツ、てかアイツらの奢りで合コンセッティングしたんだって」 ワタシは頷いた。 01-457 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/08 13 52 40 ID ikuIchh+ 2 いかにもギャルな印象のノゾミ、スタイリッシュなアヤと比べるとワタシは高校デビューってやつで。 中学の頃好きだった男の子は、陸上部だった。少しでも近くにいたくて、マネージャーなんてやっていたけど、彼の趣味はワタシが苦手だって思っていたチャラい感じの娘で、3年の途中で”彼”から告白して付き合い始めた。 ワタシだって、他の男の子から告白されたことはあった。だから、人並みな容姿だとは思う。けど、なんかバカらしくなっちゃって、中学とは離れた高校に進んだワタシは高校に入るなり、髪を明るく染めた。チェンジってやつ? 最初は、話しかけてくるヤツらと合わないなぁ、って思った。 中でも男子で、チャラい格好のやつは、下心まるだしでダサすぎだった。 夏休みにはもどそうかな、って思っていた。 7月頃、中学までは真面目にやっていたお陰か、中間の成績がそれなりだったら、ノート見せて、とかいって、期末前にはアヤとノゾミとつるむようになってた。 付き合ってみれば、趣味がチャラい印象を与えるだけでアヤもノゾミもフツーだった。 01-458 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/08 13 53 01 ID ikuIchh+ 雑誌の話、テレビの話、音楽の話。 こういう格好って背伸びだ、って思った。でも、背伸びするにはバイトしなきゃお金がないから、バイトして、クラスの他の連中より大人だって3人とも思っていた。 夏休みに入る前から3人で、海行こうって決めた。 自分たちのお金で、旅行に行く!これってすごいことじゃない? その時に、ノゾミは大学生からナンパされた。ワタシはちょっとビビったんだけど、アヤが「いいじゃん、いってみようよ」って言うので、大学生は2人で、5人で飲んだ。 夜中、気づいたらノゾミと大学生の1人がいなかった。 ノゾミは感想を、「メッチャ痛い」って言っていた。 大学生とはしばらく付き合っていたけど、勢いで付き合い始めただけなのもあって、10月頃には別れていた。 ただ、ノゾミはワタシ達よりセンパイになったって気分なのか、すっごい積極的になって、アヤとワタシは引っ張られる感じだった。 11月頭の連休のとき、折角、新宿まで出たのにクラブに入るお金がなくって、結局カラオケにしよっか、って話していたらノゾミが、ナンパしよう、って言い出したときはびっくりした。 01-459 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/08 13 54 11 ID ikuIchh+ 「ノゾミ、パワフルだなー!」 アヤがノゾミを感心するように見ている。 「う、うん」 ワタシは、そうはいっても不安もあった。所詮、女子高生3人なんだよ?っ て。 ノゾミは「3人ならなんとかなるって」と言って男に声をかけにいった。無 茶だと思った。でも、しばらくして、背が高くてちょっと濃い顔のレザーの ジャケットを着た男を連れてきて、私たちはクラブに入れた。 ちょっとクラブではべらせられればいいってタイプだったみたいで、ワタシ 達は目一杯楽しんだ。 その彼はアヤとだけは携帯交換していて、イブは結構有名なホテルにお泊り だった。 クラブに行ってから一週間くらいたった時に、 アヤが「この間の彼、ユウはどう思う?」って聞いてきた。 「いいよね、サラッとしててさ」 アヤが小さく頷いた。ノゾミが思い出しながら、指をくるっと回した。 「ジローラモぽかったよね」 「それはない!」 ワタシとアヤの声がハモった。 その後から、アヤは、デートが増えた。 01-460 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/08 13 54 34 ID ikuIchh+ イブは、ワタシはノゾミと二人でカラオケオールしてたんだけど、 「これで、ユウだけだね」って言われたのは気になった。 焦るもんじゃないけど、二人とワタシは違う、っていうのが。 でも、ノゾミもアヤも、一応は気に入った人としてるわけなんだから、ワタ シだってそういう人がいれば、って思ったんだ。 アヤはその彼と喧嘩して別れた後、また3人で遊ぶようになった。 「子供だな、ってなんなのって思わない?その子供と付き合ったのが、お前 だろ、みたいなさ」 学年末の試験用にノートを書き映していたガストで、アヤがコーラを飲み干 していった。 「そうだよね。高校生に夢中になってたでしょ、って。あ、コーラでい い?」 アヤのコップを受け取って、ドリンクバーへ立つ。 「まーまー、喧嘩別れなんて、どっちもどっちだよ。それよりさ、試験終 わったらどこいく?ユウ、ホットコーヒーね」 グラスとカップ混ざると持ちづらいんだよな。 01-465 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 35 07 ID B9HtqVqO 3 試験が終わって、3人でセンター街にいったときに、4人くらいのストリート 系って感じのヤツらからナンパされて、一緒にクラブに行った。 クラブは楽しかった。代金もあっちもちだったし。 ナンパだと安く上がるよね、ってノゾミが喜んでたの、覚えてる。 アヤなんか、クラブでも声かけられまくっていた。アヤはうまく4人の男を スクリーンに使って距離をとって、他の客からよけていた。 たっぷり踊って、クラブからでると空が白んでいた。 「楽しかった!けど、マジ疲れた」 アヤの発言に、まとめてる感じの男が答えた。 「疲れているなら、休んでいかない?」 「どこで?」 ノゾミが聞いたら、急に男らは私たちのサイドに入ってきた。 そいつらは最悪だった。駅に歩いていこうとしたら、2台車がとめてあって、 その中にワタシらを乗せようとした。 「タダで遊んだんだから、分かるだろ!」 「なに、勘違いしてんだ豚!ざけんなよ!」 ノゾミが怒鳴った。ワタシ達は必至で暴れた。 人通りが少なかったけど、見かけた通行人が警察を呼んできてくれたみたい で、大事はなかった。 ただ、女子高生が明け方になにしていたんだ、って注意はうけた。 3人とも警察沙汰はさすがに凹んで、帰りの電車は反省ムードだった。 01-466 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 36 04 ID B9HtqVqO それからは、相手の人数に気をつけるようにした。やめないのかよ!って、 女子高生だもん、止めてらんないよ。 自分らで遊ぶのはお金使うけど、ナンパをする、される、それで遊ぶとお金 はぜんぜん使わないでよかった。 声をかける頻度は、ノゾミ、アヤ、ワタシの順。声をかけるのは各人の好み のタイプ。 でも、タイプだと思っても、なんかげんなりすることが多かった。同級生の 男子は下心まるだしでだっさい、って思っていたけど、男は大概ワタシ達3人 の誰かを気に入ってのってくる。 ノゾミは胸のあたりまで巻き巻きの髪型で、アヤは頭のてっぺんでアップで 固めていて、ワタシは肩の辺りまでのミディアム。 服装もそこまではバラバラじゃないけど、ノゾミがミニとかホットパンツは いていることが多くて、アヤはロングのパーカーワンピとか。ワタシもどっち かっていうとアヤの服に近いけど、もうちょっとカワイイ系のを着ていた。 このバラケ具合は3人で相談とかしたんじゃないんだけど、これもよかった みたいだった。 ただ、酒が入ると、まんま「処女なの?」って聞いてくるヤツがいて、ノゾ ミなんか「ヴァージンなのー!」って答えると喜んでいてバカじゃん、って 思った。 3人で、なんかアレだよね、って話をしているとアヤは「関係ないじゃん、 それが大事って、今目の前にいるワタシを大事にするのに、条件が必要なんで しょ。なんかうそくさい」って話していた。 01-467 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 39 44 ID B9HtqVqO 使わないで済んだお金で、新しい服を買ったりしていたけど、ノゾミが上手 くねだって買ってもらえた、って言うからまねしたら本当に買ってもらえた。 『男は下心と自分を精神的にも気持ちよくしてもらいたいから付き合ってい るんだ』 だから、付き合いが浅いうちにねだって、買わせて、プライドにひっかかる コトを言えば、喧嘩して分かれられた。簡単だった。 ノゾミは「気持ちいいから、したいなって思うときだけHまでする」って 言って、Hに特別の意味なんかない、って言った。 アヤはバイト先の男の子と付き合ってみたけど、Hしたら彼が自分のことを 所有物みたいにいってきて別れた、って話をした。 「なんかさ、やるのが最終目標なんだよね、バッカみたい」 そんなの見ているうちに、付き合うって特別じゃない、ってなってきて、 ヴァージンすてるのも適当でいいやって意識になった。ノリがあったときで、 いいな、って。 でも結局、そのノリもなんか冷めちゃって上手くつかめなかった。 スタバでラテを飲んでいるときに、アヤとノゾミに、ちょっとだけ謝られた。 「ユウがさ、すっごいドライになっちゃったのうちらのせいかな、って思う んだよね。」 「別にいいよ、男がくだないって思うだけで、アヤとノゾミといるのは楽し いよ。ノープロブレム!」 ワタシはアヤとノゾミに掌をふった。 でも、アイツは違っていた。 01-468 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 41 15 ID B9HtqVqO 4 モンテローザ系じゃないだけで、大して高くもないチェーン店の居酒屋だっ た。 別に高くないとイヤ、なんて思わない。けど、アヤのプリクラの男を思い出 すと、あー、だから冴えないんだ、って納得した。 ノゾミは「気楽でいいじゃん、こういうとこ」って言ったけど、金はもって いてもそのセッティングで、こういうとこしか思いつかないってのがね、とワ タシは苦笑した。 しかし、彼の連れてきたメンバーを見て、さすがに……。 退いた。 だって、女の子と合うのに今日びミリタリージャケットだよ?細くって首筋 が鳥みたいな男がそんなの着ていて、うわぁ、って思ったのに、もう片方は ちょっとだけ小太りの男だった。服はまともだったけど、髪もところどころピ ンピンと跳ねちゃっていて、会う気で来たのか、こいつはって感じだった。 アヤのアイツが一番まとも、ってのはセッティングの常だけど、それにして もって感じだった。 席について、飲み物を頼んですぐにトイレタイム。 ノゾミがワタシの袖を掴んで、頭を下に振った。 「びびったわー、どうみてもアキバ系じゃん」 「さすがにあれはないなー」 アヤも手を合わせている。 「ごめん、お金もっている人ならもうちょい考えてくるかと思った。あいつ らと一緒には、いたくないよね、とっととあがっちゃお」 01-469 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 44 57 ID B9HtqVqO ワタシは頷いたけど、ノゾミが急にプッと笑い出した。 「いや、逆に面白くね?アヤの罰ゲームってことで、ちゃんと時間までいよ うよ」 「罰ゲームならワタシら帰ればよくない?」 アヤが懇願するように、手を振り回しながら説得する。 「ノーゾーミー!」 「いや、あんな連中と会うことなんてないっしょ。だから、珍獣見るような もんでさ、二次会とかも誘ってくるならいっちゃおうよ。レアだよ!」 そんなもんか?って思ったけど、たしかに今日限り合わないんだからアクシ デントってことで、いいかって。アイツらなら危険もないだろうし。 たしかにアイツらのイタイとこは後々笑い話にできそうだった。 「わかった。じゃ、戻ろうか」 ナメてるっていったって、流石に最低限のマナーはあるつもりで、誘った相 手が好みじゃなくても、タダで奢ってもらうなりの時間はワタシ達もいる。 ただ、1時間ちょいを過ぎたら、すっと帰っちゃうってのが、パターンだっ た。 アヤは自分でやっちゃった分、ちょっと顔を引きつらせたけれど、ワタシ達 が残ることになってちょっと安心したみたいだった。 「ありがと、ユウ」 01-470 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/09 22 46 21 ID B9HtqVqO 席の配置は、アヤの前にプリクラの彼、ノゾミの前にミリタリー、私の前に 小太りだった。 乾杯をすると、しばらく静かになった。 ……。 ………。 絶対童貞でしょ、アンタら! こういうときは、ノゾミの出番だ 「え、っと3人はどういう知り合いなんですか?」 プリクラが答える。 「あ、うん、あのネットゲームで知り合ってさ」 ネトゲかよ! 「で、結構話が合うんで一緒にのむんだ。」 ネトゲの知り合いってコトはプリクラはお金があるけど、他はないってパ ターンも結構あるわけで、なにからなにまでアヤはチョンボだな、って思った。 そう思ってアヤを、ちらっと見たら顔を引きつらせていた。今度、ガスト奢 り決定だね。 ちなみに私たちは相手を見て、女子高生って言った方が喜びそうならぶっ ちゃけるし、20歳以上ってしたほうがよさそうって思えば、20歳以上っていう ことにしていた。当然、コイツらには20歳以上ってことにしている。 01-479 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 30 58 ID G4eRMRTV それでもノゾミがバイプレイヤーとして上手く盛り上げてくれたお陰で、 ちょっとは話が弾むようになってきた。 私たちも携帯でネットは見てるし、テレビもちょっとは被ってるの見てたり するし。 小太り君は、高原ヨシヤって名前だった。 「長谷川さんは、その野球とかって見ます?」 長谷川ってのは、ワタシね。いまさらだけど、長谷川ユウが本名なんだ。 で、野球? 「えー、全然みない。なんかルール難しいし、巨人?ってのがよく試合して るよね」 「え、そ、そうですか。あ、でも野球選手の面白い話があるんですよ」 多分、高原クンにしてはとってもがんばったんだと思う。で、その話は結構 面白かった。珍プレー集みたいのはパパ(変な意味じゃないよ)と一緒に見た こともあったし。 「結構面白いね、そっか、選手も人間だもんね、色んな話があるわけね」 「そうなんです。あ、球場とかいったことも、ないです、か?」 顔が少し赤くなるくらいテンションがあがっている。久しぶりだな、話すだ けでこんなに興奮しているヤツって。 「ない。んー、いや、ちっちゃい頃に行ったかも知れないけど覚えてない」 「そ、そうですか。あの、その」 え、なに、デートに誘っちゃうわけ?別に、誰だから付き合うとかも適当に なっていたから、誘いにのってもいいし、どう断れば面白いか、とか考えて高 原クンを見ていた。 でも結局1分くらい、もごもご言った挙句、彼は話題を変えた。 どんだけ、奥手だよ! 3杯目が飲み終わるくらいの人も出始めて、少しまったりな感じでしばらく料理を摘んでいたら、高原クンが声をかけてきた。 「長谷川さん、嫌いな食べ物ってあります?」 01-480 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 32 54 ID G4eRMRTV 「あんまりないかな。あ、でも貝とか苦手かも、それと蕎麦はあんまり好き じゃないかな」 彼はやや嬉しそうな顔をした。 「あ、俺も貝は苦手なんですよ、あの歯ごたえとか、香りとか。……蕎麦は、 僕はそれほど嫌いじゃないんだけど、すごくおいしい店があって、そこで食べ たら印象変わるかもしれないですよ」 好き嫌い直してもらおうとか思ってないけど。あと「俺」なんだ、って ちょっと思った。スポーツ観戦とか好きだと、俺って言いそうって妙に納得し た。 それで、蕎麦、ね。ボソボソとするだけって印象で、ワタシ達の活動範囲内 にないから食べない、ってのもあったけど、ちょっとだけ興味があった。 「ふーん、高いの?」 「いや、そんなに高くないです。」 「どこにあるの?」 「秋葉原です。」 でちゃったよ。ちょっとだけ首を傾げる素振りをした。 「秋葉原にそんなところあるんだ。詳しいんだ?」 「あ…、はい。」 いくら鈍めでも、ネットをやっているなら秋葉原が一般的な女の子たちから どういう印象をもたれているかは、分かっているらしく、すこし言い澱んだ。 なんか、その凹み方が分かり易すぎて可愛らしかった。 「連れてってもらおうかな、ヨシヤに」 一瞬、高原クンの顔が豆鉄砲を食らったようになった。名前を女の子に呼ば れたことなんてなかったから、って言っていたな。 01-481 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 34 00 ID G4eRMRTV 帰り道でノゾミが笑った。 「ユウ、遊びすぎじゃない?」 「たまにはいいじゃん、それこそレアでしょ、あーいうタイプ」 アヤが納得したように小さく頷いてから、軽く視線を上にした。 「へたれなだけかもしれないけど、がっつく感じ出されなくて楽だったよ ね」 ノゾミもそれには同意だったみたい。あしらうことはできるけど、面倒くさ いのも多いのに、一次会終わって、ノゾミが「今日は、ごちそうさまでし たっ!」って言って、そのまま解散はイージーで疲れなかった。 「それで、ユウ、約束はどうするの、すっぽかし?」 ワタシは首を振った。調子こいてる勘違いイケメンならともかく、高原クン にそんなことしたら、ずっと待っていたり、トラウマになりそうだったから。 「きっと初デートだよ、ユウのボランティア精神にカンドーでありますっ」 「ボランティアじゃねーし!」 3人で笑いあった。 01-482 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 35 27 ID G4eRMRTV 5 秋葉で待ち合わせってことで、ワタシは普段よりはだいぶ控えめの格好にし た。街のカラーってあるでしょ。コスプレとかは特別としても、やっぱり渋谷 やブクロと比べると違うと思う。それに今日は一緒に歩くのが、高原クンだか ら、気を使ったつもり。 パーカーにジーンズなんていう、部屋着か地元のコンビニに行く感じの服く らいのほうがいいと思った。 高原クンはワタシより先に着ていて、この間よりは服に気を使っていた気が する。 改札の中で会って道順を説明してくれてから歩き出そうとしたら、俺の服お かしくないですか?って聞いてきた。 男の服は、変な方向に走らなきゃそんなにやばくないから、大丈夫だよって 答えた。ワタシが、普段の服だと少しバランス悪かったろうな、って思ったけ どね。 ノゾミとかアヤが言っていたけど、男はブスとは歩きたくないって思うらし いけど、女の子は意外と寛容だよ。ドラドラの塚地とマツジュンならマツジュ ンってワタシだって答えるけど、それは比較だからで、別に普通の格好なら気 にしない。 それっぽいことを、高原クンが気にしていたみたいで、距離開けたほうがい いですか、なんて聞かれた。別にいいよ、って並んだら、高原クンの顔が少し 赤かった。なんか、ほほえましいって言うか、なんだろう、こんなに素直に反 応されるなんて、久しぶりで、ほわっとした。 彼オススメのお店は、中央通からは外れたところにあるとかで二人で歩き始 めた。 やっぱり……無言だなって苦笑いした。でも、いいんだ、今日はこれで。 なぜかって、今日はこういう初デートっぽい気分を久々に味わっちゃおう、 みたいなのがワタシのテーマだから。 と、雨がポツポツと降り始めた。 「うそ、傘持ってないよ!」 「俺もです……」 雨足が強くなって、仕方なく駅の屋根があるあたりに戻った。 01-483 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 37 33 ID G4eRMRTV 落ち込んでいるなぁ、って他人事のように思った。 そうしたら、急に「ちょっと、待っててください」って言って雨の中を走っ ていった。 なんだろ? ワタシは、ぐるっと見回した。 メイド喫茶のチラシを配っていたメイドも雨にぬれないように構内で空を見 上げている。 メイド服のフリフリ具合はすごいな、本当、高原クンはメイドはどうなんだ ろうなんて、考えるともなしに考えていたら、高原クンが戻ってきた。 手には、ビニール傘が2本。 「あ、これ、どうぞ」 「ありがとう」 傘の取っ手の部分を差し出されて、ワタシは傘を受け取った。随分、高原ク ンの手が遠いな、って思った。 2つの傘が並んで、雨の中を歩いていく。 「おすすめのメニューとかあるの?」 「どれもおいしいんですけど、まずはもりを食べて欲しいです」 「ふーん」 普通に答えたんだけど、その返事に少し、まずいと思ったのか、すぐ付け加 える。 「長谷川さんの好きなのでいいと思いますけど、一応、俺としては、です」 「せっかくだし、ヨシヤのオススメ通り食べてみるよ。あと、敬語じゃなく ていいし、ユウでいいよ、こっちはヨシヤって言っているし」 高原クンは名前を呼ばれると、すこしぴくって反応する。 「わかりました…あ、うん、わかった。でも、その、ヨシヤって呼ぶのはい いんだけど、ユウって呼ぶのは、なんか……」 言い籠もった。ワタシは促すようにつなげた。 「じゃ、呼びやすいように呼んでくれればいいよ」 「長谷川さんのままに、しま……、する」 少しため息をつく高原クンに、敬語をなくすのも、一苦労だね、って笑った。 01-484 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 38 47 ID G4eRMRTV 蕎麦屋の扉を開けると、人が結構いた。昼時だから当たり前だけど。 はた目に見ても賑やかで、こんだけ人が入っているってことはおいしいんだ ろうって印象を受けた。 一応はデートなんだけど、威勢のいい声が飛び交っていて、デートっぽい雰 囲気とは無縁の空間だった。 4人用の机の向かい合わせに座った。 席について、3分たったかたたないうちに、店員のおばさんが来た。 「お客さん、ご注文は?」 「俺はもりで、長谷川さんも?」 「うん、もりで。」 「もり2つー!!」 置かれた水を飲む。ドリンクメニューは日本酒ばっかりだったから、水で いっかって思った。高原クンと、目が合うとすぐ視線をそらすのが面白い。 「なんか、すごいね、パワフルって感じ!」 「うん、12時半くらいだとすごいんだよ。」 そうだろうな、って思って周りを見た後にさっき気になったことを聞いた。 この時のワタシは、まだ高原クンを弄る対象としか思っていなかった気がす る。 「ね、メイド服とかって好きなの?」 「え?!どうかな、かわいいなとは思うけど」 反応を見るに、本当は結構好きでしょ!だって、プリクラとミリジャケで3 人でいったってミリジャケが話していたの聞いてたしね、と心の中で舌を出し た。すこし上目遣いにして聞いてみる。 「ワタシが着たら似合うと思う?」 「長谷川さんが……?」」 泳がせながらも、ワタシを見る。きっと、似合うって言うな、って思った。 そうしたらコスプレできるプリクラのあるゲーセンにでも連れて行ってもらっ て、ノゾミたちに見せて、こいつのことと合わせて「ウケるんですけど」、っ て話そうって考えていたときだった。 01-485 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/13 01 40 12 ID G4eRMRTV 「多分、似合わないんじゃないかな」 耳を疑った。いや、ワタシが似合うと思っていたわけじゃない。 でも、大体の男って初デートのときは、お世辞乱射!って感じだから。 しかも、言ってみれば、餌をかけたつもりだったのに、だ。身勝手もいいと こだけど、茶化すようにはしたけど、思わず 「女の子に、似合わないってひどくね?!」 って言っちゃった。 そうしたら、しまった!って顔をしたけど、高原クンはなんかを飲み込んだ ように話した。 「その、長谷川さんが着てみたいなら、着ていいと思う。でも、俺は長谷川 さんの髪はちょっと明るすぎて似合わないと思ったんだ。」 ムキになって言い返すところじゃない。そう思ったけど。 「じゃあ、どんなのが似合うと思うの?」 「ごめん、その、今日の服とか」 「え……」 面食らった。適当に答えたのかもしれない。 それでも、自分の趣味で買った服は自分に似合うと思っていて買っていても 他人からは、うーんって思われることもあるし、直前に男の好みの服をワタシ が着るよ、って言ったのに、そう答えるなんて、想定外だった。 「はい、もり2つ、おまたせー!」 机の上に、もりそばが2つ置かれた。 「こういう服、好きなの?」 こう聞けば、私の想定内だ。たまたま自分の好みの服を着てきただけ、それ なら。でも、高原クンは遠慮がちに首を振った。そして、さっきまで逸らして いた視線をまっすぐに向けた。 もしかして、彼はすこし気づいていたのかもしれない、ワタシが彼と会った 理由を。 ゆっくりと彼が口を開いた。 01-489 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 36 40 ID ZN79VJfZ 「嫌いじゃないけど、もっと女の子女の子している服のほうが、好きかな、 なんかフェチの告白みたいになっちゃうけど。」 すこし笑って、続ける。 「けど、長谷川さんに似合っているのかって聞かれたら、この間の時の服も 似合っていたし、今日のも似合ってるって思った。俺の好みは置いてね」 ドキッとした。 だって、高原クンが嘘をついているとは思えなかったから。 これって、ワタシにはすごいことだったんだ。 結局ワタシを誉めているんだから、落としにきた男の言葉って邪推もできた よ。でも、違うと思った。ワタシを見て、ワタシに似合っているか普通に答え てくれた。 ワタシを落とす女、って対象じゃなくて、長谷川ユウとしてみていないと出 てこない言葉、って思った。ワタシの方が答えるのに、困る展開なんて考えて なくて。 「そ、そっか。誉めてくれてあ、ありがとっ」 「食べよう」 照れたように咳払いをして、高原クンは割り箸を割った。 「うん」 お蕎麦は香りがたって、のどごしも良くてとても美味しかった。 「美味しい!」 高原クンがほっとした顔をする。 「良かった。……その、ごめんね」 「ううん、変なこといってごめん」 そば湯も美味しいと思った。そして、この目の前の、見た目は冴えない彼。 私はカルチャーショックってこういうことだ、って思った。 01-490 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 38 10 ID ZN79VJfZ 食べ終わってお店を出るとき、彼は会計を別々でと言った。 彼は、傘のときは別に請求してこなかった。ワタシが濡れないようにって気 を使ってくれた。気がつかないわけじゃなく、ケチなわけでもない。奢る関係 にあるかないか、それが決まっていない時は別々だよ、って意味なんだろう。 自分自身でいうのもなんだけど、オンナノコであること、女子高生であるこ と、都合よく使い分けていたし、そういうのが当たり前になっていた。 彼のことが垣間見えた後の、ワタシを一人の人として扱ってくることが新鮮 だった。 ワタシは、彼に興味が湧いてきた。お店から出ると雨が上がっていた。 「次はどうしようか、長谷川さん、どこか行ってみたいところあるかな?案 内できそうならするけど」 ワタシは、アキバっぽいとこ、って言った。彼は、苦笑いしながら、わかっ たって言った。 その後、ワタシ達はドンキホーテ、その上のメイドカフェ、コスプレでカー ドを撮れるゲーセン、ヨドバシとかを回った。 メイドカフェ以外は、アキバ分控えめ、な気がしたけど、彼なりに考えた ルートかなって思った。 回ってる間に、ワタシは自分でもびっくりするくらい話をした。ワタシの恋 愛観みたいなのや、アヤとノゾミの恋話(コイバナ)、本を読んで思ったこと、 アヤやノゾミとは話せないようなことも、この年上の彼に話してみた。 それは答えが貰えそうだと思ったからだったり、彼に話しても大丈夫と思え ることが話している間に感じられるようになってきたからだった。 彼もさすがにある程度打ち解けてきて、沈黙の時間も短くなってきた。ただ、 やっぱり彼は適当に答えなかった。わからないことには、わからないと答えて、 知ったかぶりをほとんどしなかった。 こいつわかってんのかな、って思う相槌をされるより、なんか沁みこんでき た。 01-491 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 39 50 ID ZN79VJfZ 6 一通り、ヨドバシを回り終えて中の喫茶店に入った。カフェラテとブルーベ リーヨーグルトのドリンクがトレーに並んでいる。 「結構色々あるね、アキバ」 「メイド喫茶だけでもかなりあるし、他にも色々なお店があるから。その、 楽しかった?」 「うん」 これは本音。未知の領域に飛び込むのって、面白かった。それに、高原クン は色々説明をだらだらしないのも良かった。聞くと答えてくれるんだ。これっ て地味だけど、ポイント高い。 ワタシは悪戯っぽく笑いながら、さっきのメイド服を着て撮ったカードを出 して、自分で見た。くるっと、高原クンの方に向ける。 「これ、似合わないかもしれないけど、いる?」 彼はバツの悪そうな顔をした。 「ウソ、ウソ、あげる!いらないなら、渡さないけど」 あてつけで撮ったわけじゃない、ってのは伝わっていると思う、ノゾミとア ヤの話もしたし。自分の言ったことをちゃんと覚えていて、躊躇しているのが 分かった。ワタシは彼のカフェラテのコースターの隣に、置いた。 「いらない?」 「貰っていいの?」 「大事にしてね!」 ワタシが冗談めかして言うと、彼ははにかむ様にカードを受け取った。そし て、少し頭を掻いた。 「あのさ、お昼とか、奢らなかったのってやっぱダメだったかな?それに、 そのなんか買ってほしかったりとか」 「全然、気にしてないよ。むしろ、ヨシヤって、すごいなって思ったよ」 「え?」 「ワタシさ、さっきも言ったけど、この間あったコたちと一緒に遊んでいる からさ、今までもデートはしたことあるよ。そんでさ、みんな奢ってくれた」 彼は、ああ、俺は、って顔をした。だから、ワタシは手をひらひらとさせた。 01-492 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 41 04 ID ZN79VJfZ 「みんな付き合いたいから、点数稼ぎだった。でも、ヨシヤはワタシとは、 まだ知り合いだから、払わなかったんでしょ?」 「そう…だね。長谷川さんを案内するだけ、って思っていたから」 高原クンは少し考えて、 「今日のはデート、だよね、一応。でも、俺はそのデートじゃないって気持 ちでいたから」 どういうこと? 「それに……がっかりするかもしれないけど、付き合いたいって思ってない わけじゃないよ」 寂しそうな顔をした。ワタシは、彼が付き合いたいって思ったことがワタシ を落胆させると考えたんだと思った。 「がっかりしないよ。ヨシヤには、ワタシ、まったく魅力ないのかと思っ ちゃった」 ワタシがおどけるように言った。 「魅力がないなんて。そんなことないよ、長谷川さんは……」 なにか繋げようとして黙った。 「なに?」 彼は真っ赤になりながら、搾り出すように声を出した。 「可愛いよ」 言われたことが何度もある言葉。 だけど、こんなに拙く、そして、本心って思える可愛いなんて言われたの何 時以来だろう。子供の時にパパやママが言ってくれた可愛いとは質が違うけど、 それと同じ本当の言葉。 胸が暖かくなった。 「ありがと」 「それに」 また、寂しそうな顔をした。 01-493 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 42 16 ID ZN79VJfZ 「これは俺も謝らなくちゃいけないけど、やっぱり見た目からもっと話が合 わないって思い込んでいたよ。ネタにされるんだろうな、って、でも女の子 と一緒に歩いてみたいってのも、それはあって。すっぽかされるのも覚悟して た。来てくれて嬉しかった。でも、勘違いしないようにって自分に言い聞かせ る意味もあって、お金出さなかったんだ。距離を、とって、って。 だけど、話していたら、良い人だなって思ってさ、また会いたいなって 思ってきて……ごめん、こんなのにそんなこと言われても困るよな。」 最後は、力なく言った。そうか、彼は自分の見た目を気にしているんだって 気づいた。そして、さっきの寂しげな表情の意味に気づいた。ワタシが考えて いた落胆させるんじゃないかってのもあったけれど、それよりずっと苦しい気 持ちを抱えて、可愛いって言ってくれたんだ。胸が締めつけられた。 彼と合流して、すぐに彼はおかしくないですか、って聞いてきた。その後、 ワタシは服に文句もないし、高原クンと歩くことも全然抵抗なんかなかった。 でも、彼の中ではワタシと一緒に歩くことを楽しいって感じてくれていて、好 意を多分もってくれて、だけど、だから、俺は一緒にいられないって思ってい たんだろう。 俺と歩くのは、たまたま、今回限り。 そう思って、長谷川ユウと付き合う自分を打ち消したんだ。 今日の会話だけで、彼の今までの女の子との付き合いはわからない。彼の様 子をみればわかることは、きっとうまくいったことなんてなかったんだ。傷つ いたことしかなかったのかもしれない。 卑屈な言葉だ。それにワタシが彼が今までの男と違うって思ったのは、彼の そういう卑屈さからきていた面もあったのかもしれない。 …だけど、ワタシの中で、ことり、と音がした。 たしかに女子高生としてのワタシを目当てにした男の方がスマートで洗練さ れていた。でも、ワタシの話を聞いて、適当に答えるだけだった。彼は、ちゃ んとワタシの話を、聞いてくれていた。 たった数時間だけど、ワタシのことを理解しようとしてくれていた。そんな 男が何人いた……?彼と、歩めたら? 彼の「可愛いよ」って言葉は、告白にも近い勇気を乗せた言葉だったよね、きっと。 応えよう。 ワタシの口から自然に言葉が出た 01-494 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 43 13 ID ZN79VJfZ 「ヨシヤ、ワタシと付き合ってくれる?」 だけど、真意が伝わらない。 「馬鹿にしているの?」 彼の自信のなさを切なく思った。ワタシの右手が高原クン、ヨシヤの手に触 れる。びくりとして、ヨシヤの手が引かれる。 「ちがうよ。ワタシ、ヨシヤのこと、気になるの。ワタシが今まで知らな かった格好よさを持ってるから」 「うそだっ!」 今日で一番強い語気だった。ワタシはヨシヤを見つめた。ヨシヤは視線を ぐっと逸らした。 顔は赤く染まり、目が充血して赤くなっている。 「ウソじゃない!ヨシヤはウソついてないでしょ。だからワタシもウソはつ かないよ。付きあって」 ヨシヤの顔に戸惑いが広がり、確認するように呟く 「俺と付き合いたい……?」 「本当だよ。……さっき、ヨシヤの言ったとおりだよ。最初はネタにしよ うって思ってた、ごめんね」 こんなに心を込めてごめん、って言ったことなんて数えるほどしかない。私 はすぐに息を継いだ。 「でも、そんなことできないくらい良い人だって思った!格好良いって、見 た目だけのことじゃないよ、ううん、誤魔化さないで、ちゃんと言うね、 ちょっとひどいかもしれないけど」 ワタシは手を伸ばして、ヨシヤの手に重ねた。今度は手を引かず、その手を 見つめ、視線をワタシに移す。その瞳にまだ疑心暗鬼が燻ぶってはいるものの、 穏やかさを取り戻したのが分かった。 「たしかにイケテるルックスじゃないよ。でも、だから付き合えないなんて、 ワタシ思わない。格好良い、ってヨシヤのスタンスっていうか、トータルです ごいなって思ったんだよ。ワタシ、あなたともっといたい、ホントだよ」 疑ってない、そう分かる目だった。 すぐ応えてくれると思った。 01-495 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/15 23 45 02 ID ZN79VJfZ 「……とても嬉しいよ、けど、だめだよ」 どうして? ワタシのコトバは……伝わらないの? 「長谷川さんは、珍しいタイプの男を見てそう思っただけかもしれない」 ヨシヤが静かに言う。 ちがう。 ワタシはあなたのことが好き。この期に及んでも、自分を持って話してくれ る、あなたが好きなんだ。間違いないよ。 でも、ワタシはこれ以上どう言えば良いのかわからなかった。 カフェのBGMだけが流れていく。 パリン と、ワタシの中に彼の態度に自らの納得できる答えが、割れて出た。 「ワタシみたいな、遊んでそうなコは、イヤなんだ」 だから、ワタシはフラれるんだ、そう思った。 彼は首を振ると掌をワタシの掌と合わせて、遠慮がちに、優しく握った。 「それは関係ないよ」 「じゃあ、なんで!」 「長谷川さん、俺たちはまだ2回しか会ってないんだよ」 冷水を浴びせられたようだった。 ノゾミなんて初めて会った日に……っていうのが、標準になってしまってい たのか。 01-496 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/16 00 03 40 ID ZN79VJfZ 「長谷川さんからしたら珍しいタイプの男、俺からしたら長谷川さんは俺が 関わった、って会社の同僚とか学校の同級生って程度だけど、少しでも接触の あった女の人とは明らかに違うんだ。だから、強烈で、勘違い、しているかも しれない。意外性に、惹かれたと思っているだけっていうか」 たしかに聞く話だ。だけど、ワタシの気持ちはワタシが一番分かってる、勘 違いなんかじゃない。でも、そう言われると、このテンションが絶対に影響し ていないって断言は……? アヤとかを見ていたから、ヨシヤのいうことも分かった。日が経って、その ときでも気持ちが、っていう姿勢が、彼の臆病さもあったけど、ワタシを大事 にしたいって気持ちに思えた。 それとも、やっぱり、と、ワタシの心がさざめく。ワタシが思っているだけ なのかな。ヨシヤはワタシを拒絶しているんじゃ……。 ヨシヤが小さく唇を上げた。うなずくようにしたと思うと、少しだけ手に力 が込められた。 「好きになった女の子と手握ったことなんて、初めてで、手、ものすごい汗 かいてる」 ワタシは好きになったって言葉に、安心感を与えられて、小波が引いていく の感じた。そして、その掌の湿り気が大事なものに思えて、でもその奇妙さに 変な笑い方をしてしまった。 「ア、アハハ、すっごい汗」 ヨシヤも笑う。 「うん、やばい。ね、長谷川さん、付き合うことの返事はまだできないけど、また会ってくれるかな?」 「うん」 ワタシは大きく、ゆっくり頷いた。 帰りの電車で、彼のことを思うだけで、ドキドキしているのに気づいた。 ワタシ、別れたばっかりなのに、すぐ会いたいって思ってる! 電車の窓に映る、私の顔が赤くないか気になった。 それくらい、ドキドキしてた。 01-506 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/16 23 58 29 ID wnpqdeQv 7 翌日は3人ともバイトがなかったので、学校帰りにモスに寄った。 3人で頼んだポテトとオニオンリング、ノゾミはアップルパイを食べながらワタシは 昨日のカードを見せた。ノゾミが笑った。 「すげー、でもメイド服ってカワイくね?」 アヤも同意する。 「さすがに着て歩くのはわかんないけど、こういう服みたいなの、昔は着てみたいっ て思ったことはあるな、幼稚園とかの頃だけど。メイドだけどお姫様っぽいていうか さ」 ノゾミがカードを見ながら、悪代官って顔をしながら聞いてきた。 「ご主人様ー、とかいってやっちゃったの?」 「いや、それがさ」 ワタシは昨日の話をした。 ノゾミには驚かれた。でも、アヤもノゾミも話をしたら、分かったみたいだった。 「カフェ出てすぐ帰ったの?」 「そ、言葉どおり、ね」 「一緒にいると、冷静になれないし、今日はここで」ってヨシヤは言って、ワタシ達 は別々の電車に乗った。もっと、いたかったけど……。 「なんかすっごいね、高原さん」 アヤの言葉が、うちらのもっている男性像から離れていたのを物語っていると思う。 付き合うって言っているのに付き合わない、ってのがすでにありえないんだ。その上、 その対応も、ありえなかった。ワタシ達の知っている男では。 好き、だから付き合うんだけど、ワタシ達の感覚ではデートしたからって付き合うこ とにはならないんだ。付き合うってのはその人とだけ、会うってことで、恋愛関係のス テップを進めるって意味だった。付き合ってから、好きになる場合もある。ノゾミなん かは、そのパターンの方が多いくらい。 もちろん、男がそういう付きあいたい、と好きってのを分けているかは分からないけ ど。 01-507 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/16 23 59 52 ID wnpqdeQv アヤは好きだから、付き合いはじめるのは順番どおりだけど、「好き」って言葉は本 当に良いって思わないと言わないんだって言っていた。なんで?って聞いたら、好きっ ていうと男の扱いが明らかに変わるんだって言っていた。喜ぶけど、その後が大体よく なかったんだって。 ワタシは、昨日、「好き」って言葉を自分が一回も言わなかったのを思い出した。な んでだろう、アヤの話で疑っていたのかな……。でも、アヤの話から、ちゃんと自分の 心に「本当」が浮かんできたら、言うべきなんだって思っていたのは、あったかも。 「じゃあ、ユウはもう1回あってみるんだ?」 ノゾミの問いに、答える。 「そのつもり」 「1日経って、どうなの?ま、あんまり変わらないだろうけど」 「好き、なまんま」 なんかこういうの、友達にいうのでも、照れる。アヤは嬉しそうに微笑んだ。多分、 ワタシに好きな人ができたことを喜んでくれているんだって思った。 ノゾミも嬉しそうだけど、経験人数が多いから、気になったらしい。 「おーおー、顔が赤いよ!でもさ、彼女いるってことは?」 ぎくりとする。でも。 「ないと思う。初めて手握った、っていっていたし」 「初めて、ってのは常套句だからねー」 ノゾミの言葉にアヤも肯いた。 「この間見た感じ、いるとは思わなかったけどね」 アヤがフォローすると、ノゾミが重ねた。 「それに、会ったユウがいないって感じたなら、大丈夫だろうけど。付き合うって いって、メチャ好みじゃないってならともかく、付き合わない男とか考えられねーし。 ま、気をつけて、そこまで作戦ってのもいるから」 なんか少しモヤモヤした。ノゾミがなんか少しいらついてる、って感じたんだ。 帰りにノゾミが本屋に寄りたいって、買い物しているときアヤがそっと囁いてきた。 言ってみれば、ワタシからアプローチ、っていうと初めてに近いわけで、それが嫌な ことにならないといいって、ノゾミなりに気を遣ってくれているんだよ、って。 01-508 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/17 00 03 30 ID 2g/pPo+u アヤは「ユウの話し聞く前から、微妙に浮かれているってわかるくらいだったよ」って言った。アイツに高いもんでも買ってもらって自慢話かなって思ったら、違かったからフェイントだった、って言っていた。 そんな浮かれているときって、周り見えてないしね、って言われた。 たしかにアヤの男と会ったときに、ワタシもノゾミもどうよ?って思うところがあっ たけど、アヤは気をつけるとは言ったけど、聞いてなかった。ワタシ、いまそんなんな の?!って思ったけど、二人からそう思われているってのはそうなんだろう。 別れ際に、ノゾミにありがと、って言っておいた。 すこし「?」って顔をしたあと、ああ、って納得したみたいで、「うまくいくといい ね、ガンバレ!」って言って、ワタシの肩をぽんぽんって叩いてくれた。 アヤとノゾミに話して良かった、って思った。 浮かれたままじゃ、ヨシヤが時間空けた意味ないしね。どれくらい、冷静になれているか自信はまったくなかったけど。 01-509 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/17 00 05 33 ID wnpqdeQv 8 結局、ワタシはいっつも男に任せて回っていただけで、いざ自分で計画を考える段に なって、思ったより悩んでしまった。 ヨシヤに次は、長谷川さんに任せるよ、って言われたからだ。 好きな人と、デートって大変なんだ。いまさら、そんなことを思って、なんかそんな 悩むことも楽しかった。 とはいえ、今までの男とは違うし、ヨシヤがクラブってタイプじゃないのも間違いな いわけで。 うーん、って結局悩んで、ブクロの水族館にした。ちょっと子供っぽいかなって思っ たけど、逆にヨシヤとじゃなきゃいかないな、って場所だったからトクベツって気がし て選んだ。 ヨシヤとはメールくらいはしていた。ヨシヤは徹底していてワタシが早く会いたいね、 とか送っても、ハートとか、好きみたいな言葉を使わなかった。 もっと言えば、感想メールか、って内容だった。好きな服くらいは答えてくれたけど、 ワタシからのアプローチはあえてスルー気味に返答してきていたし、メールでは、相変 わらず敬語だし。あまりにも冷静な気がして、ちょっと、冷却期間で冷めちゃったん じゃないか、って思うくらい。返事はしっかりくれていたけど。 デートの前の日に夕飯のあと、メールが来ていたのを見たら、本当あの日以来初めて 「長谷川さんと会えるのが、楽しみです。返事が事務的っぽくてごめんなさい。でも、 会えると思ったら、とても嬉しいです。」って送ってきてくれた。 なんかもう脳内物質とかがドッってでた感じだった。メールだけでハッピーって、ど うかしてる!どうかしてるけど、どうにもなんない! なんか、じっとしていられなくって、しばらくクッションを抱えて足をばたばたさせ た。 ワタシは、服装は前くらいで問題ないよ、ってメールした後、彼が好きだっていうワンピをメインに服を用意した。もちろん、彼とのバランスは考えて。 媚びる女って思われたくないけど、彼にかわいいって思ってもらいたい、って素直に 思ったから。 クラスの女子がデートに出かけるときと、オシャレにしても、女友達で会うときとは 違う格好をしていくのを、なんだよって思っていたけど、気持ちが分かった。 彼氏に喜んでほしい、って思うからなんだ。 ワタシの方が、わかってなかったんだな、ってつくづく思った。 01-517 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 19 50 ID mBTs5P/j 翌日、ブクロの東口カラ館の近くでヨシヤを待っていた。 待ち合わせは11時だったけど、20分前にはそこにいた。 「あれ、長谷川じゃん」 名前を呼ばれて振り向くと、ワタシ達とは別のグループのクラスの女2人がいた。山 本と野木だ。普段、教室では他に2人いて、4人のグループ。 「なにしてんの?」 こいつらとは、仲が悪い。仲が悪い理由は、もう本当バカらしい話だけど、中心の山 本の好きな男が、アヤのことが好きで告ってきたんだ。 でもアヤは、クラスのやつに興味ないし、フったんだ。そいつは、サッカー部で人気 だったけど、2、3人付き合ってモテル気になっているウザだったから。 でも、自分のメとかも関係なしに逆恨みして、アヤに因縁つけてきたんで、ワタシ達 と険悪になった。向こうは陰口とか言う方だったのもあって、クラスから一時期、ワタシ達は孤立したけど、アイツらの陰口は日常茶飯事で皆が皆、真に受けたわけじゃないからそのうち平穏になった。っていうか、冷戦状態になって落ち着いた。 そいつらと会った。折角のふわふわ気分に、異臭を持ち込まれたようで不快だった。 「岡島と吉井と待ち合わせ?って、一緒に来るよね、なに、また男?」 軽蔑するような色合いが混ざっているのがすぐ分かる。 不機嫌さを隠す努力も、ほとんどしないで言い放つ。 「そ、デート。アンタ達は何の用?」 「うちらは買い物。ハンズにキャンプグッズ買いにきたんだよ」 3年の秋だって言うのに、余裕だな、って思った。ま、ワタシもそこんとこは人のこ と言えないんだけど。 山本の家は片足だけセレブ生活につっこんでますって感じの家で、別荘があったり、 兄貴がクルマだしてそういうアウトドア的なこともたまにやっているってのは、知って いたけど。 「じゃ、ま、彼氏によろしくね」 01-518 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 27 24 ID mBTs5P/j 野木がそういった時に、ヨシヤが来た。 「長谷川さん、ごめん、待たせちゃった?」 ブルーがかったボタンダウンのシャツに綿のジャケットで、及第点だったと思う。 でも、 山本のヤツが笑った。 「あ、どうもぅ。長谷川のクラスメートの山本です、こっちが野木です」 この間のときに、ワタシが高校生だっていうのはもう伝えていたから、クラスメー トって言葉には驚かなかったみたいだけど。 ヨシヤが頭を下げる。 「あ、どうも。長谷川さん、今日は?」 この人たちと一緒なの?って目で問いかける。 「たまたま会ってね。これから買い物なんだって」 「あ、そうなんだ」 野木が値踏みするように見てから、少し含み笑いをしながら、わざとらしくヨシヤの 顔を覗き込む。。 「パソコンとか詳しそうですね」 「え、ええ、まあ……」 ワタシも元々こうだったから、あんまり言えないけど、失礼だった。 こいつらは、自分がバカにしているのがばれていないとでも思っているんだろうか。 バカにしているのを見せて、相手の反応をバカにしているのだろうか、どちらにせよ、 最悪だ。 省みて、ちょっと自己嫌悪した。 「じゃ、アタシ達買い物あるんで失礼しまーす」 二人が少し歩いてから、ちらっとこっちを見て笑いあったのが見えた。舌打ちした い気分になって、彼の方を向いた。 「声、かけるの、待った方が良かったみたいだね、ごめん」 彼の心に小さなひっかき傷ができたのがわかった。 「いいよ。今行くとあいつらと一緒だから、ちょっと早いけどお昼にしよう」 ワタシは彼の手をとって、ひっぱるように歩き出した。すこし力がない。振り向いて、 聞いた。 「手、つながない方がいい?」 ヨシヤは肯定も否定もしないで、ため息をつく。 「俺と一緒のとこ、クラスメートに見られて、それも多分あんまり仲良くなさそうな コたちに見られて、平気?」 ワタシが思うのは、アイツらへの怒りだ。彼と会えただけで、こんなに嬉しい。この 気持ちに水をさされたことが腹立たしかった。彼が気にすること無いのに、優しさから ワタシが気にしない、っていっても、「ワタシのこと」が気になってしまうんだろう。 「平気だよ。もう!折角会ったんだから楽しもう?」 ワタシはまだ立ち尽くす彼の腕を抱いた。ワタシの身体の感触に、緊張してるのがわ かる。 「長谷川さん、あの」 「ね?」 ワタシの言葉に、ようやく一緒に歩き出した。 01-519 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 31 51 ID mBTs5P/j その後ワタシ達は昼食を食べて、水族館へいった。昼食も水族館も支払いは別々でい いよって、ワタシから言った。 彼と一緒にいられることが大事で、お金を払ってもらうとかえって今までと同じに なっちゃう気がしたんだ。 昼食の間に、ヨシヤは元のテンションに戻ってくれた。そして、この前と変わらず穏 やかに話してくれた。すこし、自分の高校時代の失敗とか、恋愛とかもね。 告白成功率0%。でもさ、ワタシがいうのもなんだけど高校くらいの頃って見た目が 一番な人の方が多いでしょ。話からすると、高校時代も今もそんなに変わってなさそう だし、そういうことはあるだろうな、って思った。論外な見た目はあるけど、年齢とと もに許容範囲が広がるっていうか、見た目の重要度が下がれば、また違っていたろう なって思った。 でも、そういうことがあって、彼は他の男の人と違う距離感を持てたんじゃないかと 思う。だから、ワタシは、そういう話を話してくれて、ワタシの間違いっぽいことに語 気は強くないものの反対を示してくれる、彼の中にまっすぐあるものに惹かれて、自分 の気持ちが強まるのを感じた。 店から出て、水族館に入るまでも水族館の中でも、彼から手を握ってくることはな かったけど、ワタシが手を出すときゅっって握ってくれた。手に触れることは同じなの に、今までの男たちが手を触ってきた、って感じたのに、好きな人と一緒に手を握って 歩くのって、こんなに違うんだって思った。 水族館なんて、いつ以来だろ。久々にみたら、面白い魚、綺麗な魚、グロい魚、色々 面白かった。 ヨシヤも水族館なんて久しぶりだって言いながら、二人で魚に似た顔の芸能人なんて いって笑った。 幼生とかのいる小さい窓から見る時に、ヨシヤの顔が近くて、息が詰まるような気が した。 本当、フツーだ。いや、フツーより世間的にはすこし悪いかもしれない。ヨシヤの気 にするとおり、ハタから見たら遊ばれている男に見えちゃうんだろう。 でも、ワタシはこの顔に見とれる。だって。 ヨシヤが隣の窓へ移った。ぼーっと残っているワタシに声をかける。 「長谷川さん?」 「なんでもない」 ワタシはヨシヤの方に行った。 01-520 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 35 03 ID mBTs5P/j 水族館をでて、しばらくサンシャインシティの中を見て回った。 ヨシヤが、そろそろ帰る?って言ったけど、中学生じゃないんだし、夕飯までは、い いでしょ?って言ったら、それもそうだね、って言ってくれた。 今日一日のヨシヤの表情を見て、多分大丈夫って思う。 大丈夫、だよね? でも、少し気になった。ヨシヤの表情にずっと暗い影が残っていたから。 夕飯は、ダッキーダックに入った。チェーン店だけど、シフォンケーキの美味しいお 店だ。 注文を終えて、飲み物がきた。 「今日も楽しかった!」 「俺も楽しかった。それに……」 一口、飲んで。 「それに?」 「今頃、って思うかもしれないけど、今日の服、アキバのときよりかわいいね。 俺の好みでは、だけど。会ったときに、友達がいていいそびれてたよ」 「そう?良かった!」 ワタシの中で花が弾ける気分だった。最悪の出会い頭になっちゃって、そのあともな んにも言ってくれなかったから、空回りしたのかと思った。やっぱり好きな人に褒めら れるのって、とっても嬉しい。 もっと近づいて、言って欲しいって思った。ちょっと澄ました顔をして、首を傾けた。 「あれ?かわいいのって、服だけ?」 ヨシヤが不意をつかれたような顔をする。求めるように応えさせちゃだめだ、って 思ったけど……ワタシはヨシヤの口から聞きたくって。 「長谷川さんも。……言わせないでよ」 ヨシヤがすこし視線を逸らしながら、言う。耳が赤い。 自分で言わせておきながら、カーッって赤くなっちゃった、なんだろ、ワタシ馬鹿み たい。でも、ワタシの中でアキバからの答えは、とっくに出ている。今日会って、その 想いが重ねられただけ。 01-521 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 37 13 ID mBTs5P/j ワタシはどうしても聞きたくって、レポーターのように聞いた。こういうのって、 ちょっと助走つけなきゃいえないし! 「じゃ、ヨシヤさん、そのかわいいユウと付き合いたいですか?」 ヨシヤがきょとんとした後に、笑った。 「俺は会社員で、キミは女子高生。それでもかまいませんか?」 「それは、OKってこと?」 「長谷川さんがよければ」 目の前が明るくなるのを感じた。同じ場所なのに、電球が変わったみたいだった。 「本当?」 「ウソついてどうするの」 「嬉しいっ!」 ワタシは蕩けるような心地のまま、夕飯を終えた。普段から美味しいシフォンケーキ は多分今まで一番、甘いスイーツだった。 もう少しだけ、一緒にいて、って言って、ワタシ達は階段状になっている公園を歩い ていた。 すこし肌寒い。 「長谷川さん、さっきはちょっと冗談ぽくいっちゃったけどさ、長谷川さんは、本当 にいいの?」 「いいよ、だってワタシ」 ワタシが「好き」って言おうとヨシヤの手を離して振り向いたら、ヨシヤがかぶせて きた。 「ありがとう。でもね」 ヨシヤの顔が、真剣になった。私は息をのんだ。 「長谷川さんが、無理だって思ったら、すぐ離れて。ごめん、もっと気が利いたこと いえたら良いんだろうけど、キミのこと守るなんて簡単に言えないから」 別れるときの心配なんて。でも、今日ずっとヨシヤの引きずっていた影は、山本たち のせいだって認識した。無理、っていうのはワタシが嫌な思いをしたら、ってことだっ てわかった。 01-522 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 39 50 ID mBTs5P/j 自分の弱さを理解して、だけど、私のことを想わないと出てこない言葉だって思う。 守るっていって、守れることがどれだけある?逃げのある言葉、だけどウソじゃないホ ントの言葉。ワタシが裏切られたって思うことが無いように、傷つかないように。 ホント、優しいね。 だから、大好き。 「離れないよ。ワタシ、ヨシヤのことが好き!」 ヨシヤのほうへ跳んだ。転ばないように、ヨシヤがワタシを抱きとめた。ちょっとだ けメタボな腕が柔らかかった。 腕の力を強くもせず、弱めもせず、ヨシヤが私の肩のあたりを見るようにしながら、 耳元に伝えてくれた。 「俺も好きだよ。本当はもう少し、様子見ないといけないかもしれないけど、……抵 抗できないや」 「ね、ユウって呼んで」 「ユウ……」 なんか言いづらそうで、苦笑した。 「呼びづらい?」 「う……ん。ユウさん、じゃダメ?」 なんか、昔の芸能人みたいだなって思ったけど、長谷川さんって呼ばれるより近く なった気がした。 「いいよ、ユウさんで。名前で呼んでくれて嬉しい」 そう言ってワタシは左腕をヨシヤの肩の方へ回した。 ヨシヤの唇にワタシの唇が触れた。キスくらいは今までの男としたことはあった。騙 すのに、簡単でテキメンだったから。だから、ファーストキスじゃなかったけど、その 時よりずっと、ていねいに唇を重ねた。 ヨシヤの目が大きく開いた。しばらく、口をぱくぱくさせた後、すごい優しい顔に なった。 「柔らかいんだね、唇って」 「そうだね、ふふっ」 ヨシヤの腕に包まれているだけで、胸の中に白い綿毛が舞っているようだった。 「暖かい。もう少しこうしてていい?」 「うん」 ヨシヤの暖かさとワタシの体温の移動が、服越しに感じられなくなるまでずっと抱き 合ってた。 01-523 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/18 02 41 29 ID mBTs5P/j その後、駅の方に手をつないで歩いた。 今日は土曜日だし、離れたくないって思ったけど、ヨシヤはワタシの誘いには首を 振った。 「ユウさんと一緒にはいたいけど、もっと時間をかけたいんだ。その、初めて好きっ て言ってくれた人だし。だから……」 つなぐ言葉に苦労しているのがわかる。 「急いだら良くない気がして」 でも、一緒にいたいよ。 「どうしても、ダメ?」 「どうしても、って言われると困るけど……」 ヨシヤが本当に困った顔をしているのを見て、あ、ワタシ、自重しろ!って思った。 無理強いしたら、きっと、泊まってくれる。それで……。 だけど、それってワタシががっついて、ヨシヤのこと考えてないのとおんなじだって 気づいた。 実は、さっきからヨシヤの腰は、少し引けている。 なのに、誘いに乗らない。 間違いないよね。身体よりも気持ち、大事にしてくれるから好きになったんだもん。 「ごめん、うん、今日は帰る」 ヨシヤがほっとした顔をする。改札に入って振り向いた。 「電話はたまにしてよね!メールも、もうちょっと……んー」 どういうか悩んでいたら、ヨシヤが笑った。 「わかった?」 ワタシの問いに、何回か首を上下にふった。 「わかった」 最寄駅について、家までの間に電話する。ノゾミはでなかったけど、アヤが出てくれた。 もう10時だけど、土曜の10時なら普段は遊んだりもする。 「よかったね!!今日はアタシ、明日朝からバイトだからダメだけど夜はお祝いだ ね!」 「ありがと!」 翌日は3人ですっごい弾けた。ノゾミも、この間と違って手放しでお祝いしてくれて た。 大事な人って、本当いつ会えるか分からない。 そして、それに出会えた私と喜んでくれる友達がいるワタシは幸運だって思った。 01-532 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/19 22 00 43 ID +XKN/1+t 9 月曜日、学校に行くと山本達のグループがワタシを見て、ひそひそとしていた。 それは珍しいことじゃない。 問題は、野木がなんか携帯を見せて、笑っていることだった。 なに? 山本達のグループと絡む男子連中もそれをみて笑っていた。 「長谷川、趣味わりーな、なにエンコウ?」 「パソコンとか買ってもらっちゃったんじゃない」 その言葉で、意味が分かった。 アイツら……!ヨシヤのこと撮ったんだ。 ノゾミも察して、叫んだ。 「なにやってんだよ、勝手に撮ってんじゃねーよ!早く消せよ」 「ネタじゃん、なんだよ、消しますよぉ。奢ってもらうにしても、もっと相手選べよ、 マジないわぁ」 山本達のグループの輪から下品な笑い声が上がる。その嘲笑にワタシはキレた。 「相手選ぶのはてめーだよ!!」 ワタシの声が、マジすぎたからか一瞬静かになった。アヤが手を引いた。そうだ、こ いつらなんかスルーするのが一番だったのに。 「な、に、……もしかして、長谷川さんマジなんですかぁ?」 野木が含み笑いを含みきれない感じで吹き出した。 「えー、こいつがイケるなら俺告っちゃおうかなー」 軽口の男子が、調子にのって茶化す。 笑い袋みたいな、甲高いバカ笑いが続く。 歯噛みする思いだった。 けど、アヤのお陰で冷静さをちょっと取り戻したから、後はもう黙っていた。 ワタシが馬鹿にされるのもイヤ。でも、ヨシヤのことを馬鹿にされることに黙ってい ないといけないことが辛かった。アヤやノゾミに火の粉が降りかかったときに怒ったこ とはあったけど、ヨシヤのことがネタにされているのを黙っているワタシが許せない気 がした。 01-533 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/19 22 01 34 ID +XKN/1+t 「ごめん、アヤ、ありがと」 アヤが昼のパン用のチルドのカフェオレを買っているときに、アヤにお礼を言った。 「いや、ほんっと山本とかってサイアク。でもユウが怒鳴るなんて思わなくってさ。 あいつら、余計ノるタイプだし」 「わかってたけど……」 しょげるワタシに、ノゾミが自分のいちごオレを買いながら視線で同意した。 「そりゃ、ガマンできないよね、昨日の今日だもん、って一昨日だけど」 「ま、うちらもアイツらのグループが高原さんと同じタイプのといたら、言っちゃい そうだっただけにね」 前のワタシ達はそうだったから、それは否定しない。 ワタシ達とあいつらのグループは結局、鏡みたいなもんでグループ内だから結束して いるけどちょっと調子こいた女子高生グループであることに変わりなんかない。 ワタシが変わっただけ。そして、アヤとノゾミはそれを受け入れてくれただけ。 アヤとノゾミに退かれる可能性もあった。実際、付き合いの時間は限られていて、男 と友達で男を選んで、男にはそのうちフラれて孤立ってコは、いる。だから、ワタシは ついていると思う。まだ数える程しか会ってない、としてもね。 「ま、暴発しちゃったけど、その後はよく我慢したよ、よしよし」 ワタシもカフェオレを買って、それを取り出そうと取り出し口へ手を伸ばすのに頭を 降ろしたら、ノゾミがワタシの頭を撫でた。撫でられたら、ワタシはヨシヤのことを悪 く言われて、黙っていただけの自分がイヤでなんか目頭が熱くなってきた。 ズズッ、って鼻をすすったら、ノゾミが焦った。 「ちょ、泣かないでよ」 「ご、めん」 もー、って言いながらノゾミがティッシュを渡してくれた。このコはギャル系だけど、 こういう気の遣ってくれかたが本当すごい。ワタシが鼻をかむと、アヤが屋上に行く階 段に歩きながら、笑った。 「ベタボレだなー、ちょっと情緒不安定で心配ですけどっ!」 「ううっ」 「はいはい、後は食べながら!」 ノゾミがワタシの袖を引っ張った。 01-534 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/19 22 02 55 ID +XKN/1+t その日はバイトがあったから、帰り道は、駅近くのスタバにちょっと寄っただけだっ た。 ノゾミがソイラテを飲んで、エロ親父っぽい顔をする。 「でもさー、まさか高原っちEDじゃないよね?」 高原っち、って。ノゾミが年上をさんて呼ぶことなんて滅多にないから、そう呼ぶの かー、って思っただけだけど。腰が引けていたから、それはない、と思う。 「ワタシからするとさー、大事っていっても、もうちょっとアグレッシヴでよく ね?って思っちゃうんだよな」 それは、正直、思う。 「そうかなぁ、高原さんってそういうキャラっぽいじゃん。そこにユウちゃんベタボ レなわけで!」 アヤがニヤニヤしてる。アヤにまで弄られるなんて! 「まーね。でも、もう少し自信は持って欲しい感じ?ユウが大事なのはマジだと思う んだ。でも、ビビり部分もかなりあるっぽいからさ」 「うん。しなきゃダメって思わないけど、高原さんならそうなった方がもっとユウ にもいいかも、って思うかな」 こういう話だともうアヤとノゾミの方がセンパイなわけで。ワタシも、アヤが初めて だったときは、当時は好きな人とだったから、すごい幸せぽかったのを思い出した。 まあ、そう思ったからこの間、泊まりたいオーラを出しちゃったんだけど。 「んー、でも当分かかると思う」 「奥手だもんね」 アヤの言葉に、うなずく。 「でも、これはおねーさんとして言わせてもらうけどっ」 ノゾミがびっと指をワタシに向ける。なんだ、おねーさんて。 「高原っちの気持ちも大事だけど、ユウの気持ちがのっているときも大事だよ」 「うん、それはそう思う、アタシも。別にしたから、最後じゃないんだもん。そりゃ、 大きいイベントだけどあくまで通過点でしょ、付き合っていくなら」 ああ、そうか、って妙に納得した。ワタシも初めてで、ヨシヤと初めてでよかっ た、って乙女チックに思っちゃったけど、なんかそこが到達点って思っちゃっていた。 ヨシヤなんて、きっともっとそう思っているだろう。 これって、二人に言われなかったら、気づかなかった。 「で、次いつ会いますか?」 ってノゾミが、エロ親父顔で聞く。梨本かよ! 「教えない!」 「ぶーぶー」 アヤとノゾミがブーイングをするので、ワタシがむくれていると二人が笑い出した。 ワタシもつられて笑った。もうひどいよ、二人とも! 01-535 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/19 22 04 08 ID +XKN/1+t 10 その夜の電話の時に、ヨシヤは山本達のことを覚えていて、「平気だった?」って聞 いてきた。よく覚えていたなって思った。 「うん、まあ……大丈夫だよ」 ワタシにしては歯切れ悪く答えた。ヨシヤに話したら、心配するだろう。ううん、心 配してくれることはとても嬉しい。だけど、心配させたくなかった。特に、週末までは、ヨ シヤの仕事が立て込んでいて会えないことが確定だったから。 それすらも無理して会ってくれるかもしれないけど、そういうのはダメってワタシは 思った。 「そう……?」 「うん」 なにかあったってのはヨシヤのことだから、察知できただろう。だけど、ヨシヤは詮 索はしなかった。話したくないことを話させないでくれるのって助かる。隠し事になっ ちゃうのは気持ち悪かったけど、会った時に話そうって思った。 それにね。 スタバで話したこと、こっちのほうが重要なんだから。 「金曜日の夜に会える?」 「金曜日?うん、でもちょっと遅くなるかも。土日はなにかあるの?」 「ちょっと、ね。金曜会いたいんだ」 これは……そういうことで。金曜の夜、遅くのほうが自然な気がして。 ヨシヤはきっと簡単には、行かないと思う。でも、それはノゾミの言っていたヨシヤ の自信、悪い言い方をすればビビり部分とワタシの希望を天秤にかけて、そのワタシの 希望が、適当じゃないって思ったら、わかってくれるよね。 絶対、しなきゃいけないことじゃない。だけど、ずっと一緒にいるなら、そこはゴー ルじゃなくって、二人にとってただのチェックポイントなんだ。なら、別に早い遅いだ けで答えを出さないでいいでしょ。 そう思ったら、早く……ヨシヤを一番近くに感じたかった。 「わかった、それじゃ金曜で」 「ヨシヤ……」 「なに?」 「大好き」 息を吹き出した音がした。ヨシヤの顔が赤く染まるのが、電話越しでも分かった。 01-536 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/19 22 04 54 ID +XKN/1+t すぐに好きって言葉を返せないのが、ヨシヤらしかった。 「ユウさん、無理してないよね?」 「してないよ。じゃあね」 今日は、言ってくれないかな、って思ったけど誘導みたいにしたくなかったから、切 ろうとしたら、あの、って声が聞こえた。 「俺も、ユウさんが好きだよ。じゃ、じゃあ!」 言ったと思ったら、ツーツーって音が鳴っていた。早っ! でも耳に残った言葉が、魔法のようにリフレインしていた。 もう!バカップルだよ、これじゃ! 木曜日の放課後、ガストに寄った。 「バカップルですな」 「対処のしようがありませんな」 ワタシはすっかり弄られ役になってしまった。こんなに弄られるんなら、アヤが付き 合っていたときにアヤを弄っておくべきだった。 「それで、明日、勝負かけるわけ?」 「かける……つもり」 ノゾミが仰々しくうなずくと、グラスを掲げた。 「じゃあ、ユウのハッピータイムが来るように!カンパーイ!」 アヤがグラスをぶつけた。制服だから、もちろんソフトドリンクだけどワタシはな んか弄られているだけな気がして、遠慮がちにコツンとぶつけた。 「なんか、怒ってる?」 「怒ってないけどさ」 ちょっと口を尖らせる。アヤがワタシの方に身体の向きを変えた。 「いや、真面目な話、ユウが羨ましいよ」 また弄られるのかと思ったら、ノゾミがこくりとうなずいた。 「ぶっちゃけ、高原っちはイケてないじゃん」 うー。これにも反論したくなってる自分は、本当ダメダ。これ、あばたもえくぼって 言うんだよね。そうなっちゃ、だめだろ!て突っ込むのがワタシの最後の理性かも。 01-544 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 20 31 ID 3C/cOc15 「だけど、ユウの話聞いててさ、ま、相手がいないとダメなんだけどね、付き合うな ら、やっぱハートが大事!って思ったよ。 今までもハート無視してたわけじゃないけど、あの見た目でユウが夢中になるの、 聞けば全然わかるし」 アヤが右手の人差し指をこめかみのあたりに当てる。 「ワタシたち、損得で付き合えるようになっちゃったからさ。ユウやノゾミへの感情 と男に対する感情を同じラインで考えられなくなってたとこ、あったと思うんだ」 指が離れる。アヤの言ったこと、ワタシは実感としてある。男なんて、みたいになっ ていた。 「だけど、違うんだ。大事な人っているんだって。だけど、焦ってもダメだって」 「焦ってもダメって、ワタシが明日勝負かけんのは?」 アヤの言ったことに疑問があったから、口を挟んだ。 「いいんだよ、ユウは。高原さん、絶対大丈夫だって思うもん」 「うん、高原っちがユウへの態度変わるの、想像できないもん」 これは、弄られてるのか?ノゾミが続ける。 「でさ、焦らない方がいいっていうのは、落としにくる男だっていいけど、そいつら がアタシとどっちへ進んでいくのかって、そういうこと考えられるヤツと付き合ったほ うがいいんだって、考えてみようって。で、そういう風に思える人だったら、もっと ちゃんと向き合おう、とかね」 いっているコトはわかる。でも、ワタシ見てそんなこと思うのかな、ワタシの話して たことがそういう風に聞こえていたのかな。 「そういうもん?」 「これだから、困っちゃうよねー」 アヤとノゾミが、わざとらしくため息をつく。 「ユウがアキバ行った時、高原さんに、言われたことでしょ。高原さんはすごい なー、って思ったのはそれを自分って言わなかったこと」 ヨシヤとは数時間しか話していなかったアキバで、なんでヨシヤが嘘をついてないっ て思ったのか。 01-545 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 21 18 ID 3C/cOc15 「そっかぁ」 なんか間抜けな感じで、納得していた。 似たようなことはきっと他の男も言っていただろう。 だけど、彼は自分はその対象として外して言っていた。だから説教臭すぎず、都合の いい文句でもないって思えたんだ。ワタシの口から伝えただけのアヤやノゾミにも、そ れはワタシから伝わった分素直にってところもあるだろうけど、大切なことが伝わる。 それは、彼が真摯だから。だからアキバの日に、もう惹かれてた。 そして、そういう言葉を言って、ワタシと付き合おうとすぐしなかった。格好付け じゃない、彼の中の真実だからそういう態度がとれたんだよね。 アヤもノゾミも、それをできるヨシヤだからワタシが付き合い始めることに反対しな かったし、むしろ喜んでくれたんだ。そして、ワタシがヨシヤと出会えたことが本当に ステキなことだったんだって実感した。運命、ってチープな言葉だけど、そんな言葉を 信じたくなるくらいは、ワタシも女の子で、胸の暖かさを軽く右手で触れていた。 ワタシがはっと気づくと、アヤがニヤリとした。 あうー、また弄られる! 「ってなことで、ユウが羨ましいよ、ホント」 「もう少し格好良かったら、最高だったけどね」 む、って思わないようにしたけど、アヤが被せてきた。 「気にならないくらい、最高なんだよね、ユウ?」 やられっぱなしでなんていないんだから! 「最高だよ!ほら、もっと羨ましがれ!」 「うざっ、うざあっ!開き直りやがった!」 ノゾミがのけぞるようにして、手をバタバタと振る。 アヤも、口をイーって形にあけて、目を見開いて、手をシッシッって感じに振る。 「やぶへびー!」 「ヘビ出したのはアンタ達でしょ、さ、聞いてもらおっか!」 ワタシが不敵な笑みを浮かべたら、アヤとノゾミが手を合わせて謝った。 「だーめ、とりあえず、注文そろうまでは覚悟してよね!」 「デザートまで頼むんじゃなかった……」 ノゾミが観念した様子で天を仰いだ。アヤはデザートまで頼んでなかったから、ノゾ ミのせいで巻き込まれたようなもんで、 「ノーゾーミー!」 アヤがノゾミに叫んだ。 01-546 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 22 09 ID 3C/cOc15 11 金曜日の8時に新宿の南口のGAPのあたりで待ち合わせ。 ワタシだって覚悟してきてるけど、やっぱ緊張する。 ヨシヤが仕事を終わったらメールくれることになっていて、7時ちょいにメールが来 た。ワタシは時計を見た。そろそろかな? 「あ、ユウさん、ごめんね、遅くなっちゃって。」 ヨシヤがスーツ姿で来た。 ヨシヤのスーツってはじめて見るんだよね、そういえば。こうみると……スーツって ものすごい体型以外は、見れる感じがする。 「スーツのヨシヤもいいね!なんか、いい感じ!」 ワタシは腕を絡めた。ヨシヤが自分のスーツを見て、照れくさそうにする。 「そ、そう?ユウさんの服も似合ってるよ。今日は、カワイイ系じゃなくって、綺 麗っていうか。なに言っているんだろ」 ヨシヤが咳払いをするように、明後日の方向を向く。 普段はちょっとパステル系の色の服を中心に着るんだけど、今日は白を中心にシンプ ルな色合いで、シルエットも割りとタイトな感じの服にした。 照れながらも、こういうこと言ってくれるのって、とっても嬉しいし、女の子にとっ てこういうこと言ってもらえるとカワイクなれる。だって、ワタシがチガウこと、わ かってくれてるってことでしょ。ちゃんと見てくれてなきゃ、言えないはずだから。 「綺麗?えへへっ」 ワタシが言うと視線を戻して、ためらいがちにうなずいてくれた。 「夕飯、どこにしようか?」 「タイムズスクエアの上でいいかな」 ヨシヤが時計を見る。 「わかった。今日は、あんまり長くいられないね」 その言葉にワタシがちょっと強張る。でも、これは後で。 「そうだね。うん」 夕飯はクリヨンってフレンチのところに決めた。 ヨシヤが珍しく、「奢りたいんだけど、いいかな?」って聞いた。 01-547 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 23 00 ID 3C/cOc15 「え、別に出すよ?」って言ったけど、ヨシヤは「スーツで会ったの初めてだし、 ちょっとは年上らしいとこ、見せたいから」って言ったんで、甘えることにした。 ペアコースがあったから、それを頼んだ。 食前酒のときに、ヨシヤにいい?って聞いた。一応、未成年だし、ヨシヤはそういう の平気で無視するのキライだから。 「最初の一杯だけね」 「うん」 真面目なんだけど、融通はある程度利かしてくれるんだよね。ま、これは働いている からかもしれないけど。もちろん、ヨシヤがダメって言ったらやめるつもりだったけど。 どうしても飲みたいってほどお酒が好きなわけじゃないし。 スープが済んで、魚料理が来るまでの間にヨシヤがすこし言いづらそうに切り出した。 「あのさ、この間の、山本さんだっけ?月曜日、なんかあったんじゃない?」 「うーん。なんでそう思うの?」 「ユウさんにしては、なんか様子がおかしかった、っていうか。気のせいならいいん だけど」 やっぱり気づいてたか、って思ったし、それを覚えていてくれたのもヨシヤらしい なって思った。 「わざわざ言うほどのことじゃないんだけどね……。でも隠し事みたいになっちゃう のもいやだし、気になるだろうから」 ワタシはかいつまんで、写真をとられていたこと、それを多少ネタにされて、ワタシ が悔しかったことを話した。 「そっか……。ユウさん、ごめんね」 ヨシヤが落ち込んでいる。自分がネタにされたことについては、多分ほとんど落ち込 んでないと思う。ワタシがつらい思いをしたことに、悲しそうにしているんだと思う。 だから、ワタシに謝っているんだろう。 「なんで、謝るの?悪いのは山本たちだよ」 「だけど、やっぱり、俺と一緒だと……」 「ね、ヨシヤ?」 ワタシが名前を呼ぶと、視線がぶつかった。 01-548 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 23 37 ID 3C/cOc15 「ワタシと山本たちの噂、どっちが大事?」 「それは、ユウさんだよ。でも」 ヨシヤが答えるのを制して、ワタシが繋ぐ。 「なら、気にしないで。そんなことで、ヨシヤがワタシから離れるのはもっとイヤ」 ヨシヤの波立っていた瞳が、無風の湖面のように静かになっていった。 「ユウさん……」 「ワタシ、ヨシヤと一緒にいられることが一番大事なんだ。他のことなんて、それと 比べたら全然気になんないよ」 「俺も、ユウさんといられることがとても大事だよ。だけど」 まだ、何か留保しようとするヨシヤにワタシは首を振る。 「ヨシヤがワタシのコト想ってくれているのは、本当嬉しい。でも、ワタシだって 色々あるよ。全部、心配されたらワタシもヨシヤに話せなくなっちゃうよ」 ヨシヤの湖面に、ワタシの言葉が雫となって波紋のように広がっていく。 「そっか。そうだね、俺は自分のことで、キミが辛くないようにって心配したけど、 俺がキミが嫌な思いをすると辛いように、俺が辛いって思いすぎたら変わらないよな。 ……ユウさんのほうが大人だね」 ワタシが大人、なんてことない。ヨシヤと知り合って、ヨシヤと話していたから、た だ気遣い続けるだけが優しさじゃないって気づいたんだ。 ワタシにとって大事な人、だから大事な人が辛い思いして欲しくない。それはただ気 遣うだけじゃない自立が必要で、それはとっても大変だと思う。でも、本当につらいと きに支えてくれるなら、きっとずっと一緒にいられる。 「ううん、ヨシヤに会わなかったらこんなこと思わなかった。ヨシヤが優しいから、 そう思えるようになったんだよ。だから、ワタシはヨシヤといられるなら、あんなこと なんて平気だよ、大丈夫!」 ワタシの大丈夫、って言葉がヨシヤの心のベルをリンって鳴らした気がした。 ウェイターが来て、魚料理をセッティングする。 「こちら、カレイのソテーです。ローズマリーと黒胡椒をアクセントにオリーブオイ ルを中心にシンプルにしましたものですね」 ウェイターが去った。 01-549 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 24 58 ID 3C/cOc15 ヨシヤは、しばらくうつむき気味だったけど、フォークとナイフを取った。 「ありがとう。俺も……」 不意にヨシヤが無言になって、ワタシを見つめた。 「?」 「さっき、ユウさんが言ってくれたけど、俺もユウさんといられることが一番大事だ。 それが一番で、心配だったりはするけど、さっきみたいにユウさんの気持ちと俺の気持 ちを比べる時に間違えないようにしたい。世間とか、勝手に自分で思いこみすぎちゃ、 だめだね」 周りからのことをまったく気にしないのもどうかとは思う。だけど、周りは周り。周 りを気にして、一緒にいられなくなる、一緒にいられないなんて思うのは絶対間違って る。 ワタシは、ヨシヤの自信のなさが心配だった。周りを理由に、離れちゃうかもってと ころがあったから。だけど、きっともう大丈夫。 「うん。ね、冷めちゃうよ」 ワタシもフォークとナイフを手に取った。 「そうだね。うん、美味しい」 きっと、これからも色々ある。ヨシヤは、ワタシと付き合っていることが会社の人に 知られたら、10代かよ!?とか、遊ばれてんじゃないの?とか言われたりはするだろう。 だけど、それとワタシ達の気持ちは別で、二人で一個ずつ乗り越えていけばいい。だ から、ワタシは。 「ごちそうさま」 ワタシがヨシヤにぺこりと頭を下げた。 「どういたしまして。やっぱりコースだと時間かかるね、もう10時前か」 「うん。でも美味しかった」 笑顔を向けると、嬉しそうに微笑む。 「そうだね。遅いけど、少し一緒にいたいかな。ユウさん、電車は何時くらいまで平 気?」 この少し一緒にいたい、ってヨシヤから言ってきたのは小さな変化。必ず、ワタシに 聞くのが今までだったから。だから、こうやって素直に言ってくれるのは嬉しい、けど。 01-550 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 26 00 ID 3C/cOc15 「11時半くらいまで平気だよ、明日土曜だし……」 「そっか、じゃあ喫茶店かマックとかでも行こうか。飲み屋は金曜だからあんまり空 いてないだろうし」 ヨシヤが東口のほうへ視線を向けている。でも、そこらへん行っちゃったら普通に帰 る展開になる気がした。でも、今日はそれじゃダメ。 「うん……」 うう、やっぱり恥ずかしいよ。でも! 「ユウさん?」 がんばれ、ワタシ! 「ね、ヨシヤ、ヨシヤがイヤなら、いいんだけど」 「うん?」 「ホ、」 「ホ?」 ホじゃない!すごい、裏返ってるし! 「ホテル行きたい」 ヨシヤがむせた。こ、こっちだってむせたいくらい恥ずかしいんだから! 「ヨシヤは、早いって思うかもしれないけど、ワタシ、ヨシヤのこと好きだし」 「で、でも」 「ワタシ、ヨシヤと一緒になりたい。そ、それにね」 なんか、もうすっごいパニック。やっぱり、少し怖さもあるからなのかな。 もっと整理していたはずなのに!でも、言い切らなきゃダメだって、そう思って続け る。 「アヤとかノゾミがいっていたんだけど、その、することってゴールじゃないって」 ワタシも酷いあわて方だけど、ヨシヤもすっごい狼狽していて。 「そ、それは、うん。え、どういうこと?」 なにその分かってるの、分かってないの?って答え! 「だから、別に、してもずっと一緒に……」 と、息を吸い込んだ。そうだ、こっからが最重要なんだから。必至に冷静になろうと する。頭の奥がアツイけど。 「一緒にいてくれるよね?だったら、通過点でしかないって」 ヨシヤはワタシの問いを反芻して、少しだけ落ち着いたみたいだった。 「あ、ああ……うん。なるほど、そ、そうか」 ヨシヤがぐっと目をつぶった。5秒くらいして、ゆっくり瞼をあげた。 01-551 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/21 23 27 23 ID 3C/cOc15 「突然で焦ったけど、うん、ユウさんの友達の言うとおりかもしれない。ユウさんと ずっと一緒にいるなら、その、なんていうか、してからのほうが長い……ってことだよ ね」 さっきよりはだいぶ落ちついたけど、やっぱりちょっと顔が赤いままヨシヤが言う。 「うん。だったら、早い遅いってそんなに関係ないっていうか。さ、さっき言ったけ ど……」 うまく言えないよぅ。 って、思ったらヨシヤが急にワタシのことを抱きしめた。気を張っていたのに、抱き しめられてふにゃって力が抜ける。 「ごめん、気持ち大事にするっていったばっかなのに、言わせちゃって。ユウさんが いいなら、ホテル行こう?」 すごい体が熱くなった。きっとワタシ、今、真っ赤だ。 「む、無理しなくてもいいよ?」 「やめるほうが無理かも」 ぎゅってヨシヤの腕の力が強くなった。 「じゃ、じゃあ」 ワタシがヨシヤの腕を外すように手をかけると、両肩に手が置かれた。ヨシヤが本当に 軽くだけど額にキスしてくれた。おでこなあたりがヨシヤらしいけど、ヨシヤの方から してくるのって、本当思ってなくてワタシが目を丸くしていると、照れながら両肩から 手を下ろした。 「無理してない証拠、になったかな」 ヨシヤからしてくれただけで、十分な証拠。 ワタシは、さっきまでの硬さがなくなって、ふふって笑ってヨシヤに右手を差しだし た。ヨシヤがワタシの右手を取る。まだとっても緊張しているし、もっと緊張するかも だけど、この気持ちの温かさは本当にあるもので、それを確かめられるなら怖さなんて とてもちっぽけだって思った。 01-555 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/23 02 50 10 ID ogV25IzV 12 タイムズスクエアから10分くらい歩いたところにあるホテル街についた。 いざ、近くになるとやっぱり、ドキドキしてきちゃって、でも、ヨシヤも慣れてな いっていうか初めてだから、多分傍からみたらワタシ達が初めてなのってわかるんじゃ ないかってくらい、ぎこちなく、どこにしようかってキョロキョロする。 金曜の夜、ってことは、やっぱそういう人は他にもいるわけで、最初に、見えたとこ ろは満室だった。そうしたらなんか、どこがいいのかも分からないし、迷っちゃってい た。 で、少し歩いたら、ビジネスホテルに近い入り口のところがあった。 「ここにしようか」 「うん」 一応、看板にrest、ってあるし、多分そういうホテルなはず。22時以降はご宿泊に 限ります、って書いてあった。さっき、もう10時近かったから、22時は過ぎている。 自動ドアが開いて、中に入ったら部屋の内装の写真があって、部屋番の横にボタンがあ るタイプだった。 ヨシヤが3階の部屋を押そうとした時に、手がとまった。 「どうしたの?そこで、いいよ?」 「あ、その、俺、ゴム、持ってないよ……」 ヨシヤの声がすぼむ。ヨシヤが持っている方が驚くけど、ここまでくるのも結構気合 いれていたのに、ここでまたコンビニとかって、なんか微妙な気分になるのは、わかる。 でも、ワタシもノゾミに言われていたのを忘れてた。ホテルにあるけど、気になるなら 持って行きなよって言われたんだけど、ヨシヤにホテルに行くのどう言うかで頭が一杯 で、買っておくの忘れちゃっていた。 ヨシヤのことだから、なしでいいか、って言うのはナイよね。たぶん安全日だし、ワ タシはそれでも……っていうか、間になにもない方が嬉しい気がしちゃうんだけど、ヨ シヤの中では、ワタシとできることとそれはきっと別で、多分、別のものも気にしな きゃいけなくなっちゃうって思うから。 だから、ちょっとだけ気になるけど。 「あ、あるらしいよ。2つくらい」 「そ、そう、じゃあ、この部屋でいい?」 ワタシがうなずくと、ヨシヤがボタンを押す。カギがディスプレイの下に出てきた。 01-556 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/23 02 51 28 ID ogV25IzV エレベーターの中で、二人きりになると動悸が早くなった。 3階でドアが開いて、左手に進んで部屋のカギを開ける。電気のスイッチをヨシヤが 押すと、部屋が照らされた。 ドアからまっすぐのところにバスルームがあって、右側がリビングっぽくなっていて 大きいベッドが1つにソファーとテーブルがあって、その正面には液晶テレビ。テレビ 台の横に、1人暮らし用くらいのサイズの冷蔵庫があった。 「こういう風になっているんだ」 ヨシヤは、わざとらしく部屋のものを眺めてる。 「意外とシンプルだね」 でも、ワタシはチェックしなきゃいけないことがあるから、ノゾミの言葉を思い出し て、ベッドの枕元を見る。 サイドボードにティッシュとかと並んで、、普通のホテルのアメニティみたいな袋が ある。その中に正方形のパックが2つ入っている。 「ね、これ……」 「あ、うん、あるんだね。よ、よかった」 ヨシヤはちょっと焦るようにしながら、その袋を元の位置に置くと、ソファに座った。 ワタシも隣に座る。 沈黙。 何話そう。 ヨシヤがなんとなく、テレビのリモコンを持って電源をつけた。 「んっ、ああっ……!」 突然、裸の男女が絡み合っているAVが映し出された。ヨシヤが慌てて、チャンネル を変える。変えたチャンネルではちょうど映画がクライマックスっぽかった。 「び、びっくりしたね」 「うん、びっくりした」 「いきなり、あれはないよなあ」 ヨシヤの顔が引きつったのを見て、なんだかおかしくなって笑った。 「あーいうの、ネットとかで見たりする?」 01-557 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/23 02 52 49 ID ogV25IzV ええ?!って顔をしたけど、苦笑しながら答える。 「それはまあ、ね。でも、テレビつけて写るとは思わなかったからさ」 「いきなり、なに?!って思ったもん!」 すこしリラックスできて、二人で笑いあった。 緊張が緩んだら、もう照れてたってしょうがないって思って。来る前も、そしてこの 部屋に入った時から決まっているんだから。 このまま勢いで、って思わなくは無いけど、ちょっとだけクールダウンしたいような 気もして。 「シャワー、浴びるね。えーと」 ベッドの足元のほうにバスタオルやバスローブの入ったかごを見つける。 「どっちが先に入る?」 ヨシヤもさっきまでと比べれば、いくらか余裕ができたみたいで、表情に柔らかさが 戻ってる。 「ユウさんが先でいいよ」 「じゃ、先に入るね」 一瞬、二人で、って思ったけど、さすがにワタシもいきなり裸で向き合うのはちょっ と心の準備ができてないっていうか……、だから1人でシャワーを浴びることにした。 そんなんだから、多分本当はおかしいかも知れないけど、下着はバスルームで脱いだ。 一応シンプルでかわいいめの着てきたんだけど、そんなこと忘れちゃうくらいは、テン パってはいて。扉を開けて、カゴの中に下着を入れる。ヨシヤは努めて、こっちを見ないよ うにテレビを見ている。 シャワーで身体を洗っていたら、またさっきまでとは別の緊張って言うか不安がすこ し湧いてくる。 ワタシの胸は、そんなに大きくない。スタイルも特別よくない。全然、気にしないで いられたことが、がっかりしないかな、とか不安になってきた。ヨシヤがそんなことい うキャラじゃないのは分かってる。だけど……。 いまさらしょうがないことなのに、どうしてこんなこと気にしちゃうんだろう、って 思った。 ホテル備え付けのよく分からないメーカーのシャンプーは気になるので、髪以外を 洗って身体を拭く。バスローブを纏ってヨシヤの隣に座る。 01-558 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/23 02 53 23 ID ogV25IzV 「はい、ヨシヤ、どうぞ」 ヨシヤはテレビを凝視するようにしながら、うなずく。バスローブのワタシを見るの にドキドキしているんだって分かる。だけど、向いてくれないから、不安が纏わりつい たまま。二人ではいれば良かったって、思うのに、二人で入れないとか、ムジュンして るよね。 「ヨシヤ、早くあがってね?」 ワタシの言葉の意味を掴みかねたまま、ヨシヤは返事をする。 「う、うん」 「待っている時間が」 この言葉が合っているかどうかわからないけど。 「怖いの……。だから」 ワタシの視線が下向きなことに気づいてくれたのか、ヨシヤの腕がワタシを包んだ。 「早く上がる。俺もやっぱなんかバンジージャンプみたいな気分だけど、ユウさんも 怖いよね」 違うの、そのこともちょっぴり怖いけど……どうしよう、ヨシヤのこと信じているの に、なんでこんなこと思っちゃうんだろう。 「違うの、なんか、そのがっかりされないかな、って……」 ヨシヤが不思議そうな顔をする。 「がっかり、って?」 「その、ワタシ、スタイルとかよくないし……胸もあんまり……」 ヨシヤが、ふって笑った。 「ユウさんでもそんなこと思うんだね。でもね」 ヨシヤが少し悩んだ後、密着するように抱きしめてきた。そのちょっと硬いトコロが ある。 「ひかれると困るんだけど、一番分かるかなって。ユウさんは、俺にとって一番カワ イイし綺麗な女性だって思う。それに」 硬いところは当たらないように少し腰を引く。 「大好きなことに勝る人なんていないよ」 硬い感触に気恥ずかしさはあったけど、その感触とその言葉に、不安がほうっと吐息 となって抜けていった。 「ありがとう……ちょっと、びっくりしたけど」 「う、うん、じゃあ、早く上がるようにするから」 01-566 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 44 52 ID 5NswRNto ベッドに入って、テレビを見る。テレビの中身は全然頭に入ってこないけど、しばら くするとガチャってバスルームの扉が開いた。ワタシの鼓動がその音に跳ねる。 ヨシヤがベッドに横になった。ベッドの端と端くらいに離れた位置でしばらく見つめ あった。 耳の近くまで心臓が来ちゃったんじゃないかって思うように、鼓動ががドッドッって鳴ってる。でも、後は、飛び込むだけ。 ベッドの中を滑って、ヨシヤに近づく。 「ヨシヤ……」 ワタシはヨシヤに抱きついて、唇を重ねた。 「ん……」 もっと……。 ワタシの舌がヨシヤの唇の裏に少しだけ届くとヨシヤの舌があたった。舌の感触、っ てすごい。映画なんかでみるディープキスってくどすぎじゃない?って思っていたけど、 官能的だからなんだって知った。 舌が硬くなり柔らかくなる。その柔らかくなった時に自分の舌が柔らかいと、まるで 溶け合ったみたい……。 「んん……」 唇を離したら、透明の糸ができて、消えた。なんか、もうこの感触だけで、身体の奥 が熱くなってきちゃって。 「ちょっと、やばい、かも」 ヨシヤの目が少しだけ赤い。 「ワタシも、すごい……舌、融けちゃいそうだった」 「うん……」 ヨシヤが遠慮がちに尋ねる。 「その……、触っていい?」 「ネットで予習した?」 ワタシが悪戯っぽく聞くと、唇を歪めた。あ、ヨシヤにしては悪いカオしてる。 「もう!……そうだね、予習だけならしてるね」 ヨシヤの手が、ワタシの胸をバスローブ越しに触れる。 01-567 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 47 23 ID 5NswRNto 「ぁ……」 胸の膨らみをなぞるように触れられているうちに、先が硬くたってくるのがわかる。 硬くなった部分がバスローブと触れて、また刺激になって……。 ヨシヤの手がバスローブの中に入ってきて、先端に触れ、膨らみを包むように撫でる。 ヨシヤの手が触れるたびに、ワタシの身体が火照ってくるのがわかる。 「……っ」 吐息が漏れる。ヨシヤが耳元で訊ねる。 「耳、いい?」 「ん……いい、よ、ヨシヤに任せ……る」 ヨシヤの指が鎖骨の辺りをなぞる。くすぐったいって思ったら、耳たぶが咥えられた。 「ひゃん!」 なんか、うなじがぞぞぞってした。一番似ているのはくすぐったい、って感じなのに 身体の奥にこよりができたような感覚。 ヨシヤの手が胸の辺りに戻る。耳を責められながら、胸に触れられたら、こよりが解 けて中から、熱が溶けだした。 そのうち、ヨシヤはワタシにキスをすると、バスローブをはだけさせ、舌を胸の先端 に這わせた。指と違った生温かさがワタシの熱を溶け出させる。 ヨシヤの手がやがて、ワタシのお腹を弧を描くように触れながら、ワタシのそこの近 くへ移る。指が、ヘアの辺りをさわさわと蠢く。 「いや……そこじゃ、あはっ……くすぐったい」 「あ、そ、そう。もう少し下?」 ワタシはこくんとうなずいた。ヨシヤの指が、ワタシの間に入ってくる。 ためらいがちに分け入る指の動きは初めてで、たまにピッってワタシの敏感なところ に触れる。 「ん……はっ…ん」 ワタシも人並みに興味はあって、自分で、指でしたことはある。だから、その性的な 快感っていうものも、初めてなわけじゃない。だけど、自分以外の人の指だと自分とち がって、どこが一番敏感か分からないから「近い」って思っても遠ざかったり、そう 思ったら急にポイントに触れてきたり、想像できない。 自分でするときが一直線だとすると、彼に触れられているのはまるで浮きが水面に 入ったり沈んだりを繰り返してるみたい。 01-568 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 48 52 ID 5NswRNto その不規則さが、ワタシの中の熱を溶かし、そこを湿らしていく。 「ユウさん、指、いい?」 「うん……」 湿り気のある音と一緒にワタシの中に、指がヌルって入ってきた。 「はぅ……んんっ…」 ヨシヤの指が上壁を奥から手前になぞる度に、 溶けていく。 溶け出していく。 チュク……チュプ……って音がするようになって、 身体の熱と頭の熱が同じになって、快感がせりあがってくる。 ワタシのあげる声がヨシヤもなにかに取り付かれたみたいに呼吸が荒くなってくる。 「ヨ……ヨシヤ、大丈夫、だ……から……」 ワタシの言葉に、ヨシヤは手を止めるとバスローブを脱いで、枕元にある袋を取る。 ヨシヤのそれは、反り返るようにたっていて、先っぽのとことそれ以外の部分の色が違 う。 パッケージを開けると、ゴムが出てきた。ヨシヤが身体の向きを変えた。つけるとこ ろは見えないようにかな……? ……? 「どうしたの?」 「う、うん……うまくつけられないっていうか、うーん」 「ちょっと見せて」 「え」 ワタシの熱があるうちに、あんまり待ちたくなかったから、ヨシヤの方に顔 を近づけたら、さっきよりなんかずんぐりしてた。 「さっきより小さくなってる?」 「いや……その」 ノゾミが言っていたのを思い出した。男によってはゴムつけるときにその作業で、少 し弱まっちゃったりする場合があって。大抵自分で少し擦ったりとか、女につけさせた りとか、リカバリして、つけるみたいな。 01-569 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 51 11 ID 5NswRNto 思い返したら、今までヨシヤに責められていただけだったから、これくらいはしてあ げたいって思って。 「貸して」 ヨシヤの手から、左手でゴムを取って、右手でヨシヤのそれに触る。 「っ!」 「ワタシがつけてあげるね」 キスをして、舌を絡ませる。 「んん……」 ワタシの薬指が触れたら、ちょっと上向きの力が出て、中指が触れるとすこし太く なった。人差し指と親指で輪を作って、親指がくびれているところに触れたらもうさっ きくらい……さっきより少し大きくなった。 これに、被せればいいんだよね?でも、なんか先から、透明なのが出てるから、ゴム の輪の中止をその透明なのが出ている部分にあたるようにして、被せる。 被せていく最中も、それがたまにびくって上に跳ねたりする。 大きい、かどうかわからないけど、ゴムは根元まではちょっと届かなかった。 「あ、ありがとう……じゃあ…」 「うん……」 ワタシがベッドに寝そべると、ヨシヤが手でワタシの両膝を押し広げる。 ヨシヤと本当に1つになれるんだっていう幸福感とちょっぴりの恐怖感が交錯する。 ヨシヤの手がワタシの腰の外側に置かれる。 「ユウさん、挿れるよ」 痛っ……だめだ、力、抜かなきゃ……。 おへその辺りまで迫り来るような、裂ける痛みは想像以上で。 ワタシの顔が思ったより厳しかったんだろう、ヨシヤが心配そうにワタシを見つめる。 「痛い?む、無理そうなら」 「ううん……少しずつ……なら、多分…んっ…大丈夫だから」 呼吸を深くする。ワタシの呼吸に合わせて、そこが動くからかヨシヤのそれが脈動し て、ワタシの中をすこし押し広げようとする……と痛いけど、無理なほどじゃない。 「ヨシヤ……」 ワタシは腕を伸ばして、ヨシヤの身体に絡めると、ヨシヤも抱きしめてくれた。 「好きっ……」 ワタシがヨシヤにキスする。少しずつ、ヨシヤが中に入ってきて、止まった。多分、 一番深くまで入ったんだと思う。 01-570 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 55 25 ID 5NswRNto 「俺もだよ、ユウさん」 痛い、けどヨシヤと1つになれたって実感があった。ワタシの奥にヨシヤが繋がって る。たぶん、本当は動かないとヨシヤ、気持ちよくないよね? だけど、ヨシヤはワタシの顔を見ながら、じっとしてくれている。もうきっと爆発し そうだって思うのに。痛くないように、ってワタシのこと考えてくれてる。 ヨシヤの腕に抱かれて、顔がこんなに近くにあって、一番深く繋がってる。痛みすら 愛しいって思えた。 ワタシはヨシヤにもう1度キスをすると、微笑んだ。 「ヨシヤ、ありがと……動いて、いいよ」 「でも……」 「ヨシヤがイけた方が、ワタシ、嬉しいから……平気、だから」 「ありがとう……でも、痛かったら言って」 「うん……わかった」 ヨシヤのそれが入り口へ戻っていく。なんか引きずられるみたいで、やっぱり痛い、 けど。 また、中に入ってくる。でも、さっきよりは痛くない気がする。 「大……丈夫?」 「うん、ゆっくりならへ…平気そ…あっ……」 もう1度外へ。 オブラートのように少しずつだけど、痛みが減っていく。 「ふぁ……ん……」 スライドが繰り返されていくうちに痛み以外に少しずつ、快感が混ざってきた。自分 でした方が、快感は強い。けど、肉体的な快感とはちがう温かい気持ちが湧いてきて、 痛みまじりの行為なのに、なんだかすごく嬉しい、に近い感情に変化していく。 「んっ……、……はあ…も……すこし……早く…して…もっ…あっ」 ワタシの言葉に、ヨシヤの腰の動きが早くなる。 ちょ……と、激しいけど……。 そこに熱がだんだん集まっていく感じがした。 「ユウさん……!」」 「あ……んんっ……!」 グッってヨシヤの腕に力が込められて、ワタシの中にあったそれが細かく震えた。 本当は、ゴムとかすぐ外さなきゃダメなのかもしれないんだけど、ヨシヤがイってく れたこと、その震えた時にでたモノ、全部、大事なものな気がして、しばらくその状態 でいた。 01-571 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 58 42 ID 5NswRNto ヨシヤの腕がワタシを包んだ。でも、その腕の力は夕飯までの遠慮がちのものでもな く、さっきまでのような力じゃない。 とても柔らかくて、優しくて、だけど強さももっていて、きっとワタシを守ってくれ る翼って思った。ちょっと、ロマンチックすぎるなって思ったけど、今はそう思っちゃ う自分をそのままにしたい気分で。 「ヨシヤの腕、羽根みたい」 「羽根?」 「ふふっ」 ワタシはヨシヤの胸に、顔を埋めた。 しばらくそうしていたら、ヨシヤは顔を耳元へ寄せると、大好きだよって囁いてくれた。耳に 吐息がかかるのもそうだけど、心の奥までくすぐったくて、心にバラのような香りが広がる。 この香りを表せる言葉は1つしかなくて。 「いま、すごい幸せ」 ワタシがヨシヤの頬に頬擦りする。 「うん」 また、ワタシはヨシヤにキスをした。 この幸せを更に上乗せできる言葉があるとしたら、ワタシの中ではたった1つ。 その言葉が、今より相応しいタイミングなんてないってワタシは思う。 だけど、ヨシヤはそれは言わなかった。きっと、もっと先にならないと言ってくれな いんだろう。だけど、そういうヨシヤだから、ワタシは心の底から思うんだ。 「ヨシヤ、愛してる!」って。 01-572 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/24 23 59 51 ID 5NswRNto 13 見るともなしに、街灯に照らされる桜の木を見たら、桜のつぼみが膨らんでいた。 そっか、そろそろだよね、って思いながら見ていたら、アヤとノゾミがカラオケ屋か ら出てきた。 「明日は、高原さんと?」 「うん、卒業祝いしてくれるんだって」 「そっか、あそこ行くんだっけ?」 「そう」 ま、遊んでいるようでもそれなりにこなしていたから、3人とも無事卒業ってわけで。 ワタシは一応は4月から大学生、ってことになる。 アヤとノゾミは専門学校に行くことにした。アヤは服飾デザインとかで、ノゾミはネ イルアートとかの学校で、学校は別々なんだけどね。 とりあえず、みんな進路も決まったし、卒業も決まったんで、卒業パーティを3人で 開いたんだ。昨日は、クラスのパーティで2連荘。 他愛のない話をしながら歩いて、交差点に着く。ここからは、別々だ。ノゾミとアヤ に手を振った。 「じゃあねっ!」 「おつかれ!」 「明日、遅刻しないようにね!」 01-573 名前: ◆WoueFxyFoA :09/01/25 00 03 17 ID 5NswRNto 翌朝起きて出かける準備をして、ドアから出て、空を見上げると雲が黒く厚かった。 「雨、降りそうだなぁ」 ワタシは傘を持って、家を出た。 家から駅までの間に雨が降ってきて、傘をさす。 乗り換えて山手線に乗ると、傘を持っている人と持っていない人がいた。 「思ったより降ってやがんな」 「出るとき降ってなかったからなァ」 細身のジッパーが多めのジャケットを着た二人が話している。 こっちのほうは、降ってなかったんだ。 駅名がアナウンスされて、ワタシは電車を降りた。 彼はいつもとあまり変わらない格好で、あの日と同じあたりに立っていた。 ワタシが微笑むと、彼も微笑んだ。 「雨、結構強くなってる? 「そうでもないよ、小雨でもないけど」 「そっかぁ」 改札を抜けて、左側に出る。 「ちょっと待っていて」 「傘?」 うなずく彼に、ワタシが傘を差し出す。 「一緒に入っていこう?」 彼は照れたように首を縦に振った。 彼の腕にワタシの腕を絡める。 「お昼はさ、自分で出すよ」 「え、いいよ、お祝いだし」 「いいのっ!」 だって、いくのがあのお店なんだから。 1つの傘の下、二人で並んで雨の中を歩いていく。 雨が跳ねて、靴が汚れる。雨って嫌だって思っていたけど。 それだけじゃないよね。こうやって二人で歩けるなら。 目的のお店に着く。 雨空でも通る声が私たちを出迎えた。
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ハーイ。第二回目の放送だぜ、肉塊ども。 今回の死者は12名だ。 能美クドリャフカ 来ヶ谷唯湖 ドラえもん 源静香 一方通行 麦野沈利 人吉善吉 球磨川禊 相川歩 京子 鹿目まどか 暁美ほむら 以上だ。 残り3人だが、こちらの目的量エネルギーはもう集まったんだ。 つーわけで、だ。最終決戦といこうぜ、生き残った奴等。 俺様のアジトには魔術兵隊と駆動鎧が用意されている。まあせいぜい頑張れや。 「……フィアンマ。君は自信家だね。」 「そう言うな、インキュベーター。お前の狙っていた鹿目は死んだ。…まあ球磨川は予想外だったがな」 暗闇の中で話声だけがする。 今、最後の戦いが始まった。 負物語(マケモノガタリ)/望語(ノゾミガタリ) 投下順 終わりの始まり 負物語(マケモノガタリ)/望語(ノゾミガタリ) 時系列順 終わりの始まり 第一回定時放送 フィアンマ 終わりの始まり GAMESTART キュゥべえ 終わりの始まり
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REFLEC BEAT Monthly Ranking 01 Sakura Reflection / Ryu☆ (HARD 10) Rank Name Score リザルト Just Great Good Miss JustR MaxC Rate Date 1 あんちょっび 1387 リザルト 395 1 0 0 15 396 99.9% 23/4/13 2 MASIMO 1371 リザルト 380 15 1 0 15 396 98.5% 23/5/7 2 けつまろさん 1365 リザルト 373 23 0 0 15 396 98.0% 23/4/28 3 えふぁ 1222 リザルト 313 78 3 2 13 264 92.4% 23/4/24 4 カービィ改二 1135 リザルト 290 75 22 9 13 173 87.7% 23/5/21 5 ノゾミ 1134 リザルト 271 102 14 9 13 95 86.7% 23/5/1 登録者一覧 MASIMO あんちょっび えふぁ けつまろさん カービィ改二 ノゾミ 【参加方法】 ①ハッシュタグをつけてtwitterにリザルトを投稿 #REFLEC_MR ③ダイレクトメッセージでリザルトを送信
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ドラマチックスターター2 Ζガンダムの後期をモデルとしたドラマチックスターター。 三つ巴の戦闘を「三つのスターター」という風に形にした製品。 尚、赤のみΖΖが含まれる。(登場時期の関係でカード化出来るモノが少なかった為か) ドラマチックスターター2 正義の創痕青 黒い覇道黒 赤き脅威赤 正義の創痕 機動戦士Zガンダムのエゥーゴがモデル。 カミーユ・ビダンや刻の涙など、強力なカードが収録された。 青 ユニット ジムII ネモ メタス ネモ(クレイバズーカ装備) メタス(ファ・ユイリィ機) リック・ディアス ガンダムMk-II(エマ・シーン機) スーパーガンダム 百式 Zガンダム(バイオセンサー起動時) ラーディッシュ キャラクター カミーユ・ビダン クワトロ・バジーナ ヘンケン・ベッケナー エマ・シーン コマンド 戦略的勝利 必殺の一撃 起死回生 メールシュトローム作戦 正義の創痕 オペレーション 避難命令 ニュータイプの勘 弾幕 刻の涙 黒い覇道 機動戦士Zガンダムのティターンズがモデル。 同名のカードである黒い覇道や決戦など、強力なカードが収録された。 黒 ユニット ハイザック ガルバルディβ マラサイ ハイザック・カスタム バーザム ジムII ハイザック(ミサイルポッド装備) ハンブラビ(ヤザン・ゲーブル機) パラス・アテネ(重装備) ボリノーク・サマーン ジ・オ グリプス2 キャラクター パプテマス・シロッコ サラ・ザビアロフ レコア・ロンド ヤザン・ゲーブル コマンド 特攻 一斉攻撃 生命散って 黒い覇道 オペレーション 整備不良 後方支援 決戦 劇場にて 赤き脅威 機動戦士Zガンダムのアクシズがモデル。 ハマーンの嘲笑など強力なカードが収録された事に加えて、作戦の看破や密約といった基本カードも再録された。 赤 ユニット ガザC ガザD キケロ ダカール ガ・ゾウム リゲルグ(イリア・パゾム機) ザクIII改 ゲーマルク キュベレイ キャラクター ハマーン・カーン マシュマー・セロ キャラ・スーン イリア・パゾム コマンド 作戦の看破 密約 サラサ再臨 アクシズからの使者 ハマーンの嘲笑 オペレーション 内部調査 重税 オールレンジ攻撃 紅き脅威 サイコミュニケーター
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番長GSS 番長GSS このページでは、番長G陣営の応援SSをまとめています。 SS名 作者 ★お姉ちゃんガチャ★ 姉尾ノゾミ 時々雨宮守プロローグ【ヤモっち、崖っぷちなう】 時々雨宮守 【デイジィ・ロマルティナプロローグ】 デイジィ・ロマルティナ 【天紗堂理佐プロローグ】 時々雨宮守 無題4 NAKI 【希望崎学園雑誌部の激突取材・番長グループ編 File5】 雑誌部員みっちゃん お口の恋人お届けします ラ・ピュセル 【ヤモっちはヤモリじゃないよ】 時々雨宮守 吹上姫之プロローグSS 吹上姫之 無題5 はくぐい 【ふたりはレプ友!】 時々雨宮守 【ポリエナメル・ケイジ】 時々雨宮守 【進め!番長グループシークレット部隊!】 冬頭美麗 『ヘルプミー、ランダムお姉ちゃん』 姉尾ノゾミ 【パソ部の二人は何故・・・】 ライネー・チャンスダウン 【ヤモっちのお姉ちゃん登場】 時々雨宮守 【くもり、ときどき、どしゃぶり】 時々雨宮守 時々雨宮守エピローグ【ブーケは落ちてこなかった】 時々雨宮守 【おのぞみの姉はどこ!?】 tasuku
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カルデロン クルティウス「カルデロンの美術理論と自由学科」in「ヨーロッパ文学とラテン中世」 パゾリーニ「カルデロン」in「teatro」
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【登録タグ F 巡音ルカ 弄乳首P 曲】 作詞:弄乳首P 作曲:弄乳首P 編曲:弄乳首P 唄:巡音ルカ 曲紹介 弄乳首Pの2作目。 激しく重くをイメージしたらこうなってました。(投コメより) 歌詞 どこか不完全な 赤く重い月 明かりの付いた浴槽で 静かに産み落とされる 鏡に映った自分の背後で 口を開けて笑ってる残像 束の間の夢を夢見て 手にした微かな灯火 穢れた欲望のワルツ 求めて下着を濡らす 夢か幻か 蘇る貴方の幻影 ノゾミヲカナエタマエ 貴方の言葉が この心を壊すよ 消せない傷跡 独りで抱き締めてる 貴方の記憶を この腕に刻んで 赤色に染まる 手首を見つめたまま 水面に赤い雨傘 遠くで鳴る霧笛 灯火は雨に打たれて 静寂の中へ消える 黒く塗り潰し 塗り固められた この場所に愛は無い ノゾミヲカナエタマエ 鮮やかに咲いた モノクロの世界 貴方の言葉が この心を壊すよ 消せない傷跡 独りで抱き締めてる 貴方の記憶を この腕に刻んで 赤色に染まる 手首を見つめたままで 壊れていく コメント え、なんか意味深・・・! -- まろり (2011-07-25 23 23 36) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/umidqn/pages/32.html
現在のトリガー状況 赤は所持確認、青は未確認 NM一覧 POPさせるのに必要なトリガー 所持している個数 Ix aern フ・ゾイ 上質なアーン器官1~3 4個 Jailer of Temperance 抽選 Ix aern ル・メト1F 特殊抽選 Jailer of Fortitude ゴラホチップ12個 22個 Ix aern ル・メト2F 特殊抽選 Jailer of Faith 上質なユブヒ器官 3個+2個 Jailer of Hope 無瞋[むしん]の善根、第一の聖徳、上質なフワボ器官 無瞋[むしん]の善根 1個、第一の聖徳 0個、上質なフワボ器官 3個 Jailer of Justice 無貪[むとん]の善根、第二の聖徳、上質なゾミト器官 無貪[むとん]の善根 1個、第二の聖徳 1個、上質なゾミト器官 2個 Jailer of Prudence 無痴[むち]の善根、第三の聖徳、上質なペミデ器官 無痴[むち]の善根 1個、第三の聖徳 2個、上質なペミデ器官 4個 Jailer of Love? 第四の聖徳、第五の聖徳、第六の聖徳 第四の聖徳 1個、第五の聖徳 2個 Absolute Virtue? Jailer of Love?討伐後にPOPする時がある 最終更新日 2009年02月17日19時17分16秒
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能力値ランキング 割と知られてなかったり地味にこいつの能力は高い! という目安を知る為のページです とりあえず目安で6以上を持つキャラに絞ってみます 6越えたら普通の人間の限界超えてるみたいだしね *注意* キャラについては学年欄を情報源としています 漏れてるキャラは載ってないから知らないということで、作者あきは頑張って載せてください 五十音順で纏めています、追加の際はご協力お願いします 数値 名前 物理攻防(近) 8 滝沢 丈 西川 千晶 アルフレド 7 難波 那美(2019) 拍手 敬 真崎 春人 三浦 孝和 天地響 椿幻司郎 6 風間 深赤 西院 茜燦 坂上 撫子 難波 那美 藤森飛鳥&道化師 小夜川 嵐子 物理攻防(遠) 7 六谷 純子 6 瑠杜賀 羽宇 天地響 精神攻防or異能力 10 宇佐 カオル 9 桜川 夏子 天道 ユリカ 8 春奈・C・クラウディウス 覘 弥乃里 7 ギガフレア 藤森 飛鳥&道化師 星崎 真琴 松戸 科学 皆槻 直 アルフレド 6 久留間 走子 斯波 涼一(オフビート) 月白 恭史朗 東堂 蒼魔 西野園 ノゾミ 星崎 美沙 舞華 風鈴 水無瀬 響 体力 7 小松 ゆうな 草壁 藤乃 アントワーヌ 6 錦 龍 学力 9 ダ・ヴィンチ 8 アスフォルト ドナテロ 7 ギガフレア 中島 虎二 渡辺 道程 6 カシーシュ=ニヴィン 月白 恭史朗 難波 那美(2019) 西川 千晶 春奈・C・クラウディウス 舞華 風鈴 鵡亥 明日明 鵡亥 未来来 椿幻司郎 八十神九十九 魅力 7 造間 改 天道 ユリカ 西野園ノゾミ 6 堂下 大丞 安達 凛 運 7 安達 凛 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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投稿者:美貴 投稿日:2005/11/03 それぞれの人たちの、それぞれの最後。 もしも、今日で世界が終わるなら、貴方はどうしますか? 世界が終わるまでに、今日、何ができるだろう? ※パラレルです。政治団体や国とは何の関係もありません。 CASTはまだ未定ですが、年長戦士が現役・OB(OG)問わず出てきます。 目次 1.プロローグ 2.ナナセとハルナ 3.リホとゴウキ 4.リュウイチとチヒロ 5.ユキコとサユリ 6.ツグミとノゾミ 7.タクヤとアリサ 1.プロローグ 「今日でこの世界はなくなります」 その報告を、それぞれの場所で聞く全世界の人間たち。 そして、最後のこの日に何かしないと、と焦りだして、動き始める。 もう、働いたって何の意味もないから、テレビ局も放送をやめてしまい、 電車などの交通機関もストップ。 開いている店なんか、ほとんどないに等しい。 最後のお知らせが、ラジオという手段で人々に伝わった。 「……核ミサイルが…全世界………日本も迎撃……」 電波が悪くて、良く聞こえない。声とノイズが混ざり合う中、 その言葉だけは、不思議と正確に自分の耳に伝わる。 「明日の午前0時で日本は滅び、午前11時までにこの世界は滅亡します」 そして、ラジオ局も最後の放送を終わり、 ラジオだったはずのその箱からは、ノイズだけが、流れている。 きっかけなんて、本当に些細なこと。 ある、経済的にも有力な国の重要ポストに着いている人が、 酔っ払って、誤って許可を下してしまった。 コンピューターはそれをそのまま受理し、 その国からあらゆる国へと核ミサイルが放たれた。 そして、軍事衛星がそれに反応し、 迎撃ミサイルを、また、あらゆる国へと放った。 報復のための、自衛のためのステムが、 これから、全てを滅ぼそうとしている。 それぞれの国は、それぞれの時間に滅び、 明日の午前11時には、この世界は、完全に滅びる。 それを知った人々の行動は、明日を恐れ自殺するものもいれば、 どうせ警察ももう動かないからと犯罪に手を染める人もいれば、 最後は自分らしく生きたいと願う人もいる。 けれど、全ての人々の運命は一緒で、 今日、何をしようとも、明日には皆、跡形もなく無くなってしまうのだ。 上へ戻る 2.ナナセとハルナ ラジオを聴いた私の決断。 最後の今日をどう過ごすかは、すぐに決まった。 「ナナセ、父さんと母さんは、おばあちゃんの家に行く。 おまえは、どうする?」 両親は、最後のこの日を、自分の両親と共に過ごすことに決めたのだろう。 「……やめておく」 「……そうか」 少し考えた後に返事を返すと、父の寂しそうな声が返って来た。 「ごめんね……。 でも、私は、私の大切な人のところへ行くって決めたから」 「そう……、そうね。それがいいわね」 母が、そう言って少し悲しそうに笑ってみせた。 「お母さん、いつもお弁当ありがとう。美味しかったよ」 「ナナセ…良い子に育ってくれて、ありがとうね」 そう言って、母は私をぎゅっと抱きしめた。 「ナナセはまだ15年間しか生きていないのに……残酷なことだな」 「そんなことない。私、15年間精一杯生きたもん。 今までありがとう、お父さん」 父も、また母と同様に私を抱きしめた。 そして、両親の最後の笑顔を見て、見送った後に、 私はテーブルの上に放ったらかしだった携帯を手に取った。 慣れた手つきでその人の名前をアドレス帳から出して、メールを打った。 「今日、暇?」 いつもと同じ感覚でメールを打つ。返事はすぐに来た。 「メールはまだ繋がるんだね。電話はもう繋がらないみたいだけど。 すっごく暇してるんだ、うち、来ない?」 彼女のメールを見て、少し微笑んだ。 彼女も、いつも通りだったから、嬉しかったんだと思う。 私は鍵なんか閉めず、携帯だけポケットに入れて、 他は何も持たずに家を出た。 犯罪が多いと予測される繁華街をできるだけ避けて、 路地裏とか出来るだけ目立たない道を通って、彼女の家まで駆け足。 インターホンを鳴らすと、彼女はすぐに出てくれた。 「いらっしゃーい!待ってたよ」 「お邪魔しまーす」 そう言って、いつも通りに彼女の家に入った。 家の中はやけに静かだった。 「ハルナ、家族の人は?」 「皆でかけちゃった」 「そっか」 「紅茶、淹れてくるね!それから、お菓子も持ってくよ!」 「ありがとう!」 私はそう言って、先に彼女の部屋へと足を運んだ。 最後の日の彼女の部屋も、やっぱりいつも通りだった。 明日は本当に来ないの、なんて思っちゃうぐらい。 私たちはこの時間までの今日を、普通に、いつも通りに過ごしていた。 「お待たせー!」 そう言って、彼女は大きめなトレイに、 暖かい紅茶とクッキーとチョコレートを持ってきた。 「はい、いつものでよかったよね?」 「うん!ハルナの特性のミルクティーでしょ?」 「そうだよ」 そのあと、また、いつもように他愛もない会話をしたあと、 ハルナの顔はいきなり真面目な表情になった。 「……こんなにさ、普通なのに、明日はもう来ないんだよね」 「……うん、そうだね」 「私さ、明日は必ず来るんだって思ってた」 「あはは、それは皆一緒だよ、きっと」 「そうだね」 私たちは、そう言ったあと、また少し微笑んで、 他愛もない会話に話しを戻した。 どんなにシリアスな会話をしている人たちも、 こんなバカバカしい会話をしている私たちも、 待ち受けている運命は一緒なんでしょう? なら、少しでも、楽しい最後でありたいじゃない。 もっと遊べばよかったとか、橋本君に好きって言えばよかったとか、 ハルナともっと一緒にいたかったとか、 両親は無事におばあちゃん達と会えたのかなとか、 後悔なんて、悔やみなんて、言い出せばキリがないもの。 だから、そんなマイナス思考な考えよりも、 両親との最後の笑顔でよかったとか、今まで生きることができてよかったとか、 一番最後を親友と過ごせてよかったとか、今の幸せに感謝しよう。 「わー、もう11時だよ!」 「ほんとだ!すっごいよ、私たち。 お昼ごはんも食べずにずーっと喋ってるもん!」 「あはは、でも、お菓子はこーんなに食べたけどね?」 そう言って、空になったクッキーなどのお菓子が山ほど入っていた缶とか、 スナック菓子の袋を2,3袋見せる。 「あちゃー、太るよ、コレは」 「しかも、ミルクティーとコーラだからね」 「きつー!」 私たちはそう言って大笑いした。 お腹を押さえて、転げて、たくさん笑った。 ハルナは、ふと立ち上がって、カーテンを開けて窓の外を覗いた。 「わ!ナナセ、見てみなよ!空、ヤバイって!綺麗すぎ!」 「マジで?」 そう言って、私もハルナと一緒に夜空を見上げた。 そこには、星と月だけの世界があって、本当に綺麗だった。 「……ナナセ、私ね思うんだ」 「え、何?」 ハルナは、少し切なげで、でもしっかりとした口調で、私に声をかけた。 「私たちね、あれに還るんだよ」 「……星に?」 「うん、星もそうだけど、地球が生まれるずっとずっと前に還るの。 皆で、宇宙に還るんだよ」 「そっかあ、そうだね」 私はそう言って微笑んだ。 そうだよね。私たちは、皆で宇宙に還るだけ。 「……それなら私、恐くないなあ」 「うん、私も!だって、また宇宙でハルナと会える気がするもん」 「あ!凄い!私、今ナナセと同じこと考えてたんだよ!」 「以心伝心じゃん!」 私たちがそう言って笑いあって、空を見上げていたときだった。 真っ白な光が私たちを包んで、何もかも、ハルナも見えなくなった。 私たちは、皆で一斉に宇宙に還っただけだから、ひとりなんかじゃないんだ。 上へ戻る 3.リホとゴウキ 今日が世界の最後の日って、そんな知らせを聞いた後、 私は一目散に家を飛び出して、愛しい人の家へ向かった。 「リホ!」 「ゴウキ!」 半分ぐらいまで走ったところだった、 彼も私のところへ来ていた途中だったらしい。 道端で会った私たちは、人目なんか気にせずに、強く抱き合った。 「……ゴウキ、会えてよかった」 「俺も……。今日、会えなかったら、俺、死んでも死にきれねえもん」 そう言って、ゴウキは軽く笑った。 その後、私たちは近くの公園に入った。 いつもはたくさんいる子供達は勿論いなくて、 私とゴウキと遊具だけの静かな公園は、少し奇妙だったけれど、 ゴウキが横にいるという事実がひたすら嬉しくて、 そんなことは気にしなかった。 「……びっくりしたよね」 「…うん、そうだな」 「って、びっくりしてない人間なんて、いてないだろうけどね」 私はそう言って、苦笑いをこぼした。 だっって、そうでしょ? 私たちは皆、明日は必ず来るものだって信じて疑わなかった。 まさか、こんな日が来るなんてこと、 少しだって考えてもいなかったのだもの。 そんなことを考えていると、隣でゴウキが少し微笑みながら口を開いた。 「でもさ、俺……、ちょっとすっきりしてんだ」 「え?」 「確かにさ、やっぱ恐いとか思うよ? でも、何だろな、なんか、すっきりしてる。 俺さ、今まで、バスケすっげぇ頑張ってきたじゃん? やっぱそれはさ、将来、なりたい自分があって……、 将来があったから頑張れたわけじゃん?」 「……うん、そうだね。 将来がないなんて分かったら、頑張ったって意味がないもんね」 「だからさ、……もう頑張らなくていいんだとか思うと、 少しほっとした気もする。 勿論、もう出来ないってのも悲しいって思うよ? 皆と、おまえと会えなくなるのも悲しいし寂しい。 でも、今まで頑張ってきたから、大丈夫だって、 どこかでそんな確信があるんだ」 ゴウキの顔は、最後の日だなんて思えないぐらい、 自信に満ち溢れていて、笑顔で、格好よかった。 私は、どうだろうな?どんな顔しているのかな? 最後の日ぐらい、ゴウキみたいに格好よく終わりたい。 でも、私にはゴウキが全てだったから、 ゴウキがなくなると、何もなくなってしまう。 「……ゴウキには、頑張ったってことが残る。 でも、私には何も残らないね」 私がそういうと、ゴウキは呆れたような顔をして、私を見た。 「バーカ。あるだろ?1個ぐらいは残るもんが」 「え……?」 私がそういうと、ゴウキは少しの間もあけずに、 自分の唇と私の唇を重ねた。 目の前にいるのは、愛しのゴウキだけで、 その数秒間が、永遠にすら感じた。 「……おまえが俺を愛してて、 俺がおまえを愛してたっていう事実も、ずっと残るだろ?」 「…そうだね」 「それから!今、キスしたってことも」 「今私が抱いてほしいって思ってることも?」 私が、いつもよりも少し積極的になってそういうと、 彼は少し驚いたように笑って、私をぎゅっと抱きしめた。 ああ、この暖かさも、残る。 なら、大丈夫だね。私たちが消えたって、大丈夫。 私にもそんな確信が生まれて、お互いに抱きしめたまま、 その後の最後の時間を過ごした。 「……リホ」 「なーに?」 「……あの世ってあるとか分かんねえけどさ、 このまま俺達が消えても、ちゃんと愛が残るんなら、 俺達、また会える気がする」 「…私も、そんな気がするな」 私たちはそう言ったあと、また少し離れて、口づけをした。 いつの間にか、周りは暗くなってだいぶ経つ気がする。 公園にある少し大きな時計台を見ると、 もう、11時50分をまわっていた。 「ね、もうすぐ0時だよ。あと、10分ぐらい」 「10分なんて、すぐだな」 「カウントダウンなんて、したくないね」 「ああ、嫌だね」 私たちはそう言って、時計が見えぬよう、 抱きしめたまま、またキスをした。 最後は、互いの体温を感じ、互いの愛を感じながら、消えてゆこうよ。 私たちを真っ白な強い光が襲ったのは、 そんなことを考えたすぐ後だった。 私たちが消えても、残るものがあれば、大丈夫だよね。 上へ戻る 4.リュウイチとチヒロ 今日で世界が最後、なんて言われても、 やっぱりそんなにすぐ実感なんて沸くものじゃなくて。 両親は2人で最後の1日を過ごすと言っていた。 俺と姉貴も自分の好きなように今日を過ごせと言われて、 姉貴は迷わず彼氏に会いに行った。 俺は、何もすることが思い浮かばなくて、とりあえず、外に出てみた。 繁華街は危ないと、通りすがりの誰かが言っていたのを聞いて、 俺はそういう道は避けて、東京都内でも、 わりかし目立たないような道を選んで歩いた。 途中、小さな公園があって、ふと何気なく見てみると、 同年代ぐらいのカップルが抱き合っていた。 姉貴も、今頃彼氏の家でこんなことしているのかな? なんて考えてどこに向かうわけでもなく、ひたすら歩いた。 残念ながら、俺は、生まれてこの方1度も彼女というものがいなかった。 彼女というものを知らないまま死んでいく。 まあ、別にそういうことはいいけど。 もともと、恋というものにはあまり興味がなかったから。 ドンッという音がして、はっとして振り返った。 ヤバイ、誰かにぶつかった。 「あ、すんません!つい、ボーっとしてて……」 「いえ!こちらこそ…って……リュウイチ?」 「……チヒロじゃん」 そこには、去年、隣の校区に引っ越した元クラスメイトのチヒロがいた。 そういや、結構歩いたもんな。 「わー!ひっさりぶりだねー!」 「おう、ほんと、1年ぶりぐらい?」 「どう?元気?……って、明日にはみんな消えちゃうんだったね」 チヒロはそう言って、寂しそうに笑った。 「…まあ、な……。そうだ、チヒロ、これから暇?」 「超暇!友達は彼氏と過ごすって言うしさ。何?リュウイチもなの?」 俺は笑って頷いた。 「やった!仲間だ仲間だ!」 「俺ら寂しいー」 「まあまあ、今日、ここで会えたのも何かの縁だしさ! 一緒にどっか行こうよ!」 チヒロはそう言って、歩き出した。 俺も、その隣を合わせて歩く。 チヒロとは、よくバカみたいなことで騒いでいた。 小学校の6年間、中学校の1年と同じクラスだった俺達は、 その辺の友達よりも仲が良かった。 「そうだ!聞いてよ、うちの学校の社会の先生さ、すっごくウザイの! 明日でアイツも死ぬと思うと、ちょっと嬉しかった」 そう言ってチヒロは軽く舌を出して笑った。 「ひっでえ奴ー」 「えー、リュウイチだってそういう人いない?」 「まあ、いないこともないかな……」 「じゃあ一緒じゃん!」 そう言って、俺達は、行くあてもなく、歩き続けた。 しばらくすると、見たこともないような景色になって、 チヒロはあるものを見つけた。 「あ!見てよ!あれ、桜の木だよ!」 そう言って、チヒロは少し駆け足で、その木に駆け寄った。 少し枯れかけの桜の木は、どこか切なげだった。 「俺、桜ついてないと、桜の木とか分かんねえ」 「私、植物好きだもん!」 そういうと、チヒロは少し、悲しそうな、寂しそうな顔をした。 「……どした?」 少し気になってそういうと、彼女は苦笑いをこぼして言った。 「……この木もさ、なくなっちゃうんだよね」 俺は、彼女の言葉に耳をすませた。 「私さあ、実を言うとね、人間なんて汚い生き物、 滅びても、別に構わないと思った。 むしろ、他の生き物たちにとっては、その方が幸せなんじゃないかって。 でもさ、世界が終わるってことは、 他の生き物たちにとっても、同じなんだよね。 明日で、世界はなくなるんだから、みんな、消えちゃうんだからさ…、 そう思うと、ちょっと寂しいなあって」 そう言うチヒロの顔は、今までみるどんな笑顔よりも綺麗で、切なかった。 俺は、言い返す言葉を捜すけれど、なかなかうまい言葉が見つからない。 チヒロはそんな俺を察して笑ってくれた。 「気にしないでいいよ!ごめんね、変なこと言っちゃってさ!」 「あ、いや、別にいいんだけど……その」 「リュウイチからうまい言葉が出るなんて、 最初っから期待してないから大丈夫だよ?」 「うわ、きっつー…」 俺はこのとき初めて、明日で世界が終わるのだと、確信した気がした。 そして、それと同時に俺の中に生まれたのは、恐怖という感情だった。 世界が終わって、俺が消えて、チヒロが消えて、周りが消えて、全てが消える。 それが、どうしても恐いのだ。 死ぬのが、恐い。 死ぬことに実感が沸くと、恐怖は止められなかった。 「……リュウイチ?」 「……」 チヒロが心配そうに俺を見るけれど、 それに応える余裕すら、今の自分にはなかった。 「……どうしたの?なんか、急に変になっちゃって…」 「……チヒロは平気なわけ?」 「え?」 聞いてはいけないことだったかもしれない。 でも、一度出した俺の声はとどまることを知らなくて、 気遣いすらない、そのままの素直な俺の言葉を、チヒロにぶつけた。 「……死ぬってさ、すっげぇ痛いんだろ? おまえは恐くないわけ?平気なわけ? 植物の心配とかより、自分の心配とか、ないわけ? ……普通に考えて恐いだろ……。 死ぬんだぞ?植物だって、他の生き物だってなくなるかもしれねえけど、 何より自分が消えちまうんだぞ!?」 途中、何回も自分で自分をとめようとした。 やめろ、これはただの八つ当たりだ。大人気ない。 チヒロを傷つけて、何になる? それでも、俺は、チヒロに言葉をぶつけることをやめなかった。 「……おまえの考えが分からねえ。 俺は、恐いよ、死にたくない。もっと、生きたい。 こんなところで死ぬなんて、そんなの嫌だ」 「……でもさあ」 チヒロが少し俯いて口を開いた。 そんなチヒロを見て、俺は、少しだけ冷静さを取り戻した。 「……でもさあ、どうせ死ぬんだよ? どうあがいたって、死ぬんでしょ?」 「…それは……」 「なら、……最後が分かってるんなら、笑ってたいって思うじゃん。 私だって恐いよ、死にたくないよ。 まだまだやりたいことだって、いっぱいあるんだよ? でも、これが私の運命なんだよ……。 どうにも変えられない、運命ってやつなんだよ。 だからさ、この運命を受け止めようよ。」 なら、運命すら変えてみせる。 心の中でそんな強気なことを言ってみたけれど、ただの悪あがきだった。 「大丈夫だよ、死ぬのは誰でも恐いんだから。 それに、私たちは死ぬんじゃない。 歴史が、元に戻る。それだけのことなんだから」 チヒロはそう言って、少し切なげに笑った。 「……そろそろ、行こう?」 「……ああ、そうだな」 俺達はそう言って、その後は無言のまま、歩いた。 周りはいつの間にか、真っ暗になっていて、 それでもチヒロと俺は無言のまま、歩き続けた。 そんなとき、チヒロがふと足を止めた。 「……あと、5分」 「え?」 「0時まで、あと5分だよ、リュウイチ……」 チヒロはそういうと、泣きそうになって笑った。 「笑おうよ…、ねえ、リュウイチも笑ってよ……私、最後は笑ってたいよ?」 「……うん」 俺も、色々な感情を抑えながら、笑った。 泣きそうになって2人で笑った。 急にあふれ出す涙。 感謝の気持ち。恐怖。寂しさ、悲しさ、悔しさ。 俺は、すべてを涙にたくして、白い光が俺達を包み、 俺達の歴史が崩される最後のこの瞬間まで、ずっと笑っていた。 きっと大丈夫、歴史が元に戻るだけだから。 上へ戻る 5.ユキコとサユリ 「ううん、仕方ないよ。帰ってこれないのは」 私は自分に言い聞かすような口調で両親にメールを送った。 「ごめんね……ユキコにはいっぱい迷惑かけたわね」 「そんなことない。私、この家に生まれて良かった。ありがとう」 「サユリをよろしくね。…あの子、強がりだけど、怖がりだから」 「知ってるよ、本当に今までありがとう。お父さんにも伝えておいてね!」 「こちらこそ、私たちの子供になってくれてありがとう」 私はそのメールを送ったあと軽く笑った。 そして、それ以上返事は送らなかった。 世界最後の日、私の両親は仕事で大阪にいた。 交通機関はストップ。 もう、会えない。 今日、生き別れになってしまった家族は、 いったいどれくらいいるのだろうか? 私も、その中の1人だけど。 世界が終わる、なんて、思ってもなかったことだけど、 こうなってしまったのなら、仕方ないこと。 それぐらいは誰もがわかっているけれど、 誰もが感情を抑えることなんかできずに、 自殺をしたり、犯罪をおこしたり。 どうせ今日で終わるのに、そんなことに時間を使うなんて、 勿体無いのにね。 「サユリ」 私は1個下の妹のところへと行った。 強がりで恐がりの私の妹は、青いソファーに座り、クッションを抱きしめていた。 泣きそうな顔が、クッションの間から見えて、やけに切なくなった。 それを振り切るために、私は笑顔でサユリにもう1度話しかけた。 「サユリ!少し、昔話しようよ?」 「え…?」 私がそう言ってサユリの隣に座ると、 サユリは不思議そうな顔をして私の方を見た。 「サユリ、私ね、最後の日を大好きな妹と一緒に過ごせて嬉しいよ」 「……私も。今、隣にお姉ちゃんがいて、本当に良かった」 「だからね、私、最後の最後まで、サユリと笑顔でいたいな」 「……私もだよ!お姉ちゃん!」 サユリはそう言ってニッコリ笑った。 私も、笑った。 人生1番の笑顔を、人生の1番最後にできる私たちは、 きっと、どの世界のどんな人よりも、幸せに死ねるよね。 「それでさあ、サユリってばそのあとまーた泣いちゃって!」 「だーかーらー!それはお姉ちゃんとお母さんがさあ」 私たちは他愛もない会話に華を咲かせていた。 人生まだ16年と15年。昔話って言っても、 1,2時間で終わっちゃって、そのあとはこれからのことを話していた。 「私はね、純白のウェディングドレスがいいの!」 「あー、サユリ、白似合うもんねー!私はね、薄いピンクがいいなあー」 「あ、それも可愛い!」 これからもし、もっと生きることが出来たのなら、 どんなことが出来ただろう? 大学、就職、恋人、結婚、子供、孫、老後。 「子供にはさ、どんな名前付ける?」 「男の子ならソラで、女の子ならリエ!」 「あー、お姉ちゃんっぽいかもしんない! 私ならね、男の子ならツバサで女の子ならミユキかなあ?」 「あ…、ツバサっていい!ツバサ君ってなんかいい!」 その時間は本当に楽しくて、朝、泣きそうだったサユリが嘘のようだった。 お昼ごはんは特別に何か食べるのはやめて、 家に落としたチキンラーメンに卵をおとして食べた。 私たちがよく食べていたものだった。 美味しいね、なんて言って笑う私たちは、少し、切なかった。 夜になって、周りが暗くなってきた。 もう私たちが死ぬまでに、そう時間はかからないのだろう。 そのとき、サユリは、突然顔つきを変えて話し出した。 「お姉ちゃん、私ね、本当は凄く恐いんだ。 お母さんとお父さんにもう会えないのも、凄く辛いんだ。 でもね、今、私たちはきっと、誰よりも幸せだよ。 だって、1番大切な人の隣で、死んでいけるんだもん!」 サユリは少し、切なげに笑った。そして、私も笑ってうなずいた。 「……本当は、お姉ちゃんともっといっぱい生きて、 もっといっぱいしたいこもあったんだけど、 今が凄く幸せだから、それは我慢することにしたんだ!」 「私も、……幸せだよ、サユリ」 私がそういうと、サユリは私の手をぎゅっと握った。 それから、サユリは少し不安そうな顔で、私を見る。 「もし、あの世があったり、生まれ変わったりすることができるのなら、 また、私のお姉ちゃんになってくれる?」 近くて、でも近すぎて遠く感じるときもある。 そんな、妹っていう大事な位置にいられるのは、 サユリだけに決まってるじゃない。 「なーに言ってんの?当然でしょ?」 私ははそう言って、サユリの手をぎゅっと握り返した。 その瞬間、白い光が私たちを包んで、 私とサユリは手を繋いだまま、世界の全てのものと一緒に消えていった。 生きていても、死んでいても、私たちは仲良し姉妹だよね。 上へ戻る 6.ツグミとノゾミ その知らせをラジオ越しに聞いた私は固まってしまった。 そして、すぐに走り出した。 会いにいかなきゃ、早く、早く。早く彼に会いにいかなきゃ。 昨日、彼氏と喧嘩したばかりだった。 理由は、彼氏が浮気紛いのことをしたから。 勿論、彼は違うと言い張っているけれど、 女の先輩と楽しそうに話しをして歩く姿は、 私にはそうとしか思えなかった。 それでも、つまらない意地を張って、 嫉妬したのは、彼を信じてあげられなかったのは、誰でもない自分。 謝らなきゃ。 謝って、最後の時間を一緒に過ごしたい。 私はそれだけを頭において、出来るだけ早く行こうと、繁華街を走った。 前から、男の人が来る。 でも、そんなの気にするわけもなくて。 ただ、通りすがるとき、腕に、激しい熱を感じた。 痛い、腕が、痛い。 「…っ………」 私は、腕を押さえて、その場に座り込んだ。 ぱっと後ろを振り返ると、 男は狂ったようにニヤニヤと笑って私を見ていた。 そして、彼は突然口を開いた。 「痛いか?痛いだろ!?でもなあ、どうせ明日には死んじまうんだ! おまえも、この俺もな!」 男はそう言って、逃げるように走ってその場から立ち去った。 周りは一瞬私に目をやったけれど、ふと周りを見ると、 私みたいに誰かに傷を負わされた人は、たくさん転がっていた。 その中には、死体と思われるようなものもあった。 まだ、ナイフで腕を刺されただけでよかったじゃない。 死にやしないわ。 私は、そう考えることにして、 痛む腕をぎゅっともう片方の手で押さえながら、 彼の家へとできるだけ早く走った。 彼の家について、インターホンを押すけれど、 家からは誰も出てこなかった。 嘘?どうして?行き違い? それとも、昨日のアレは本当に浮気で、 あの先輩のところに行っちゃったの? ノゾミは今、どこにいるの? 大切な、愛しい人に、会えないかもしれないという不安と恐怖、 そして、絶望を感じて、私はその場に座り込んだ。 腕の痛みなんて、どうでも良かった。 目から、暖かいものがあふれ出す。 ああ、涙だ。私、泣いている。 「……ノゾミ…どこにいるのよ……?出てきなさいよ!」 私がそう叫んだときだった。 「………ツグ…ミ……?」 自分の背後から、彼の声が、聞こえて、私はゆっくりと後ろを振り返った。 そして、そこにいたのは、ノゾミ。 「……ツグミ…あの、っておまえ、怪我してんじゃん!」 ノゾミは私の名前を呼んで、何か言いかけたあと、 私の腕に気づいて、焦ったように私の方へ駆け寄った。 「うわ、結構深いな、こりゃ……。とりあえず中入れよ」 ノゾミはそう言って、私を家の中へ通した。 家には、誰もいない。私とノゾミと2人きり。 多分、家族の人たちは、どこかへ行っちゃったのだと思う。 私が、自分の家族に別れも告げずに、ここに来たのと、原理は同じだ。 「…しみるぞ」 そう言って、ノゾミは消毒液を私の腕にこぼした。 そのとき、急激な痛みが襲った。 ノゾミは出来るだけ優しく手当てしてくれたけれど、 やっぱり、しみたみたいだ。 「ま、これでとりあえずは大丈夫」 「……ありがとう」 ノゾミは最後にカーゼと包帯で私の腕を止血するかのように強く巻いて、 私を見てニィっと笑った。 「でさ…、いきなりだけど、会えてよかった」 「……会いに来たんだよ」 「…ごめん、俺、昨日……」 「私もごめん!……意地張って。でも、今日、本当に会えてよかった……」 「ん…」 ノゾミは私をぎゅっと抱きしめた。 嬉しかった。 暖かいノゾミの腕の中に自分がいるということが、 自分でも驚くほど、嬉しかった。 「……ノゾミ、私、ノゾミが大好きだよ」 「俺も……ツグミが大好き」 ノゾミのとびきり綺麗な笑顔が、横から少しだけ見えて、私の頬も緩んだ。 そのあと、ノゾミはコーヒーを淹れてくれた。 「ごめん、あんまり自分で淹れたことないから、美味しくないかも」 「いいよ、別に」 苦笑するノゾミに笑顔で応えて、私はコーヒーを1口飲んだ。 「反抗期……とはいえさ、親のことなんか、どうでもいいって思ってた…。 こうやってコーヒー淹れてくれてたのも、おふくろなのにさ。 ……1人で生きてるって思ってたけど、違うんだよな」 「……そうだね」 ノゾミの素直な言葉に、私も素直に返した。 いつもは、意地を張って、強がってばかりだけど、 今日ぐらいは、素直にノゾミに気持ちをぶつけてみよう。 後悔だけはしないように。 「あと、数時間で死んじまうんだよな……ツグミ、何かしたいことある?」 「あるよ」 ノゾミの望んでいてくれたらいいな、 なんて心の中で思っている自分が、少し恥ずかしい。 「…ずっとノゾミの隣にいたい」 ノゾミは、しょうがないなあなんて冗談っぽく笑いながらも、 私の隣に来て、優しいキスを額に落とした。 そのあと、ずっと寄り添いながら座って、ただ、愛を感じていた。 たまに、目が合うと、お互い恥ずかしさを隠すために、笑った。 そのたびに、私の中のノゾミの笑顔が1つ増えていって、嬉しかった。 「……あと、10分だね、ノゾミ」 「ああ…このまま待つか」 「そうだね」 ノゾミは私をぎゅっと抱きしめた。 少し、腕が痛んだけれど、気にしなかった。 こんなに、強く抱きしめあっているのだから、どんな衝撃がきても、大丈夫だよね。 「俺より先に死ぬなよ」 「分かってる」 「同時に死ぬんだから」 「うん」 抱きしめあったまま私たちは笑う。 少し顔をあげると、ノゾミの優しい瞳が私を見つめていた。 「最高に幸せな最後だよね」 「悪くない死に方だな」 「ねえ、絶対に離さないでよ?」 「じゃあ、しがみついてろよな」 ノゾミはもう1度、抱きしめる腕に力をこめた。 そして、再びノゾミが私に優しいキスをしたとき、 白い光に襲われて、私たちは一緒に最後を迎えた。 意地っ張りな私だけど、向こうでもよろしくね。 上へ戻る 7.タクヤとアリサ 今日で世界が終わるという知らせを聞いて、 とりあえず俺は家族に別れを告げに行った。 「親父、……マジで今までありがとな、いろいろ迷惑かけて」 「ほんとにな。まあ、あの世でまた会えるだろ」 「おふくろも、弁当サンキュ」 「今度親子になったら、部屋の片付けぐらいちゃんとしなさいよ」 親の暖かい言葉を聞いたあと、俺は、軽く手を振って、家を飛び出した。 向かうのは、いつも彼女と寄り道して帰った小さな公園。 彼女はもう来ているだろうか?まだ来ていないだろうか? 連絡なんてとらなかった。 だって、絶対彼女もこの場所にくるだろうという自信があったのだ。 そして、彼女はもうその公園に来て、いつものベンチに座っていた。 「アリサ!」 「タクヤ」 いつものように、ニコっと頬を緩めるアリサが、愛しくて俺も笑った。 「知らせ、聞いた?」 「聞いたから此処にいるんじゃない」 「それもそうか」 「これからどうするの?」 「どうもしない。いつもどおりに過ごすだけさ」 「そうだね、それがいいね」 そう言って、俺達はどちらかともなく、手を繋いで歩き出した。 「どこ行こうか?」 「たこ焼き屋さんは?」 「あー、あそこ、あいてるかな……、店もだいぶ閉まってきてるから」 「行ってみよ!まだ、時間あるんだしさ!」 俺はそう言って、アリサの手を引いて、小走りになる。 アリサも俺もいつもと同じように、 楽しそうに笑っていて、話しも盛り上がっていた。 本当に明日世界がなくなるのが、信じられないくらい。 「あ、見て!あいてるよ!」 「マジで?やったじゃん!食おうぜ!」 そう言って俺は、もう顔見知りのおばちゃんの方へ近寄った。 「おばちゃん!たこ焼き6つずつ!」 「まあ、タクヤ君にアリサちゃんじゃない。ちょっと待っててね」 何度も何度も学校帰りに寄ったから、 おばちゃんは俺達の名前を覚えてくれていて、それが凄く嬉しかったんだ。 「はい、最後だからお金はいいよ」 「ほんとに?」 「ああ、もうもらってもどうしようもないからねえ」 「サンキュ!」 俺達はそう言って、たこ焼きと爪楊枝を2本受け取った。 そして、素朴な疑問をぶつけてみた。 「どうして、おばちゃんは……こんな日まで、店開いたんだ?」 おばちゃんはニッコリと笑って俺たちを見た。 「そんなの決まってんでしょ、最後の日だから、 自分が好きでやっている店のおばちゃんでいたいのよ。 2人とも、向こうに行ってもたこ焼き作るつもりだから、 また買ってよ、おまけつけてあげるから」 「…うん!ありがとう!」 隣にいたアリサが笑顔でそう言った。俺も、頷く。 そして、俺達は再び歩き出した。 「此処で、食おうか」 俺達はそう言って、路地裏に入った。 さっきいた公園に寄ってみたら、 隣のクラスのカップルが抱き合っていて、入れなかった。 「やっぱ、ここのたこ焼きうまいよなー」 「うん!ほんっと美味しいよね!」 そのとき、突然、たこ焼きを食べていたアリサの手が止まった。 「……どうした?」 「いや、別にどうってこないことなんだけどね……、 私たちがこのたこ焼き食べてるみたいに、 爆撃も私たちを飲み込んじゃうんだなあって思って」 アリサはそういうと、またたこ焼きを1つとって、 美味しそうに口を動かした。 たこ焼きは食べきられ、俺達も爆撃に飲み込まれる。 そうか、今夜起こる惨事とは、そういうことなんだ。 ふと、昨日の昼休みがよみがえる。 『分かんないよ、高校入ったら突然ノゾミの背越すかも』 そんな日はもう二度と来ない。 そして、そういえば昨日の放課後、 ノゾミと彼女のツグミちゃんが喧嘩していたことを思い出して、 仲直りできたのかな、なんて考えた。 「これから、どうしよう?」 「んー……たこ焼き食べたしなあ」 「繁華街は危ねえし」 たこ焼きを食べ終えた俺達は、そう言って頭を悩ませた。 「何もしたいこと、思い浮かばないね」 「そうだな」 そう言ったあと、俺は、繋いでいた手に力をこめた。 そして、そっと呟く。 「いつも一緒にいたんだし、今日も一緒にいれば、いっか」 「そうだね!」 俺達は、一般的で平凡を絵に描いたような中学生のカップルで、 毎日こうやって過ごしてきた。 だから、今日もそうやって過ごせばいい。 最後の日を迎えるのに、何も気を張ることはない。 「最後まで、ここにいようか」 「そうだね、ここなら、誰もこないだろうしね」 ふと、告白した日のことが思い出された。 アリサとは元々仲の良いクラスメイトで、よく一緒に遊んだりしていた。 そして、俺の方から告白して、 アリサの返事もすぐに帰ってきて、付き合うことになった。 付き合うってさ、皆が騒ぐようなことじゃない。 キスすることでもなければ、エッチをすることでもない。 一緒にいること、それが1番忘れがちで、1番肝心。 こうやって何も喋らないで手を繋いで横に座っていることが、 付き合っているってことだから。 一緒にいるということが、1番大事なことだから。 それから、時間が経つのは早かった。 「もうすっかり夜だねー」 「こんな時間まで一緒にいるの、初めてだな」 アリサは頷いて、少し笑って自分の時計を見た。 「あと、1時間か」 「早かったな」 俺は、そう言って、繋いでいた手をふわりと離し、 アリサをぎゅっと抱きしめた。 「ね、タクヤ」 「ん?」 「最後までね、こうやって抱きしめてて欲しい」 「…じゃあ、そうしよう」 そう言って、軽くキスを交わす。 その後も、何度も何度もキスをした。 まるで、それしか知らない子供のように、キスをした。 数十回目のキスをしているときだった。 アリサの顔は見えなくなって、白い光が舞い降りた。 ただ、抱きしめている感覚と、唇の熱だけが、残っていた。 あの世に行っても大丈夫なのは、俺とアリサが一緒だから。 上へ戻る 後編へ