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猛烈、みくるアタック-告白-の巻 「なっ長門さん!す、す、スキーしたくありませんかっ!?」 「いい」 「そ…そうですか……」 「なな長門さん!すすす、すき焼きっ、食べたくないですか!?」 「いい」 「そうですか……」 「長門さん!すっ、隙ありぃー!」 「甘い」 「あぅっ」 「長門さぁーん!」 「ちょっ、ちょっとみくるちゃん!有希はあっちよ!」 「ふぇっ、ごごごめんなさーいっ」 「……長門、おまえ、朝比奈さんに何かしたのか?」 「…………ない」 頑張れみくる、負けるなみくる
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箱の中のおバカな面々 11KB 虐待-普通 観察 加工場 その3 公園の野良ゆっくり一斉駆除が始まった。 のんびり遊んでいる者、物陰に隠れている者、加工所職員に絡んでくる者。 そんな野良ゆっくりを職員達は片っ端から回収していった。 「まずいわ…にんげんさんがこっちにくるわ…」 「あせるんじゃないのぜ♪ありす、さくせんどおりにやるのぜ♪」 「ほんとうにうまくいくのかしら?………」 「まりさをしんじるのぜ!じゃあ、やるのぜ♪」 「なんだこりゃ…死んでいるのか?………それにしても汚い顔だな…」 加工所職員はベンチの下に置いてあったダンボールの中で、だらしない顔で死んでいるまりさとありすを見つけた。 体の腐食等が見られない事から、死んでそう時間もたっていないのだろう。 そう判断した職員が、まりさとありすを持ち上げる。 「ゆゆ?!どうしてつかまえるのぜ?まりさはしんでいるんだぜ!!さっさとはなしてほしいのぜ!!」 急に死体まりさが喋り出す。 職員はびっくりして死体まりさの方を見る。 「ん?うわっ!なんだ、生きているのか…脅かしやがって……」 「い、いきてなんかいないのぜ!まりさはしたいさんなんだぜ!しんでいるんだ、ともだちなんだ~♪なのぜ!」 「ばかまりさ!したいさんがしゃべったり、うたったりするわけないでしょぉぉぉぉぉ!」 目をつぶりながら喋るまりさ、まだ死んだ不利がばれてないと思っているのだろう。 そんなまりさの馬鹿さ思わず死体ありすが突込みを入れる。 この二匹は番なのかは解らないが、いい漫才コンビである。 「ったく…糞ゆっくりが…何処でこんな知恵付けたのかは知らないけど、どの道死体も回収してゴミに出すんだよ!」 「ゆがぁぁぁぁぁん!そういうことなら、はじめからおしえてほしいのぜぇぇぇぇ!!」 「このばかまりさぁぁぁぁぁぁ!!どおしてこんなにおばかなのぉぉぉぉぉぉ!!」 この馬鹿まりさの言う事を信じていたありすも同類なのだが、思わず叫んでしまう。 職員はそんな様子を面白そうに眺めると、少し考えてからどこかに電話した。 「あ、回収班の……はい、面白いものを見つけまして………あ、はい、そのように致します。では失礼します」 「ま、まつんだぜ!まりさのしんだふりは、かんぺきなのぜ!しゃべったやつがわるいのぜ!…ゆ?………まりさなのぜ?」 「このおおばかまりさぁぁぁ!!」 「ゆぎゃん!…あいがいたいのぜ!!」 この隙に逃げてしまえば良いものを、まりさとありすは夫婦漫才を繰り広げていた。 「ゆわっほぉぉぉぉう♪おそらをとんでるのぜ~♪ほらほら、ありすもせっかくだからたのしむのぜ~♪」 「どうしたら、ここまでおばかになれるのかしら…すこしうらやましいわ…」 まりさとありすは職員に運ばれて、回収車に連れてこられた。 回収車の中では薄汚れた様々な野良ゆっくり達が金網の中でひしめき合っていた。 「ゆふふ…おぉ、おろかおろか!かわいそうなごみのために、れいむはおうたをうたうよ!れいむはやさしいね! ゆぼえ~~~~~~♪」 「れいむはしんぐる(以下略」 「ぱちゅはこうえんのけんじゃ(以下略」 「いやぁぁぁぁ!わから(以下略」 「まりさはつよ(以下略」 そんな中でありすは、透明なケースに入れられたれいむに気が付いた。 だが、馬鹿まりさはこの状況すら楽しんでいた。 「ゆわっほ~~い♪まりさはおそらをとんでますのぜ~~♪」 「まったくこのバカまりさは…にんげんさんにつかまっただけでしょ?」 「お前らもここに入っていろ、喧嘩しないで仲良くしろよ?」 職員はそう言うと、まりさとありすを透明ケースに入れた。 「ぼぇ~~~♪…ゆん?なんなの?このきたないのらは?…れいむとおなじでえらばれたの?」 「ゆん?まりさはまりななのぜ~♪よろしくなのぜ~♪」 「きたないのはおたがいさまよ!」 れいむの態度にムッとするありすだったが、まりさは相変わらず能天気だった。 そんな二匹をれいむは面白くなさそうに眺める。 「ゆむむ…!れいむはおんりーわんで、なんばーわんだよ!ゆっくりりかいてね!」 「ゆふふ~ん♪おりわーの、なぼぼーなのぜ?ゆっくりりかいしたのぜ~♪」 「はいはいゆっくりしていってね!………つかれるわ…」 れいむはそんな二匹に興味を無くした様で、金網のゆっくり達の方を眺め哀れんだ。 「………さいあくなれいむね…とかいはじゃないわ…」 ありすは誰に言う訳でもなくそう呟いた。 しばらくすると、まりさ親子が連れてこられた。 「ゆふふ…また、ばかなまりさがつかまったよ!いいきみだね!とくべつなれいむをみてしっとしてね!」 浮かない顔の親まりさとは対照的に、子まりさは興味深そうに周りを見渡していた。 まりさ親子は透明ケースに入れられた。 「なんなの?まりさたちも、えらばれたゆっくりだったの?でも、きたないまりさたちは、れいむのそばにこないでね!」 「ゆゆ!しんいりさんなのぜ~♪よろしくなのぜ~♪ゆっくりしていくのぜ!」 「ゆふふふ…けっこうとかいはなまりさね!このあほまりさとは、おおちがいね」 「どおしてそんなこというのぜぇぇぇぇぇ?!」 れいむは相変わらず、気に入らないといった態度を取っていた。 ありすは馬鹿まりさと親まりさを見比べて、ため息をつくのだった。 そんな面々を乗せて、回収車は加工所に向かっていった。 「ゆわぁぁぁぁ!めぐみのあめなのぜぇぇぇ!!でも、まりさはとけちゃうのぜぇぇぇ!ゆっくりできない~♪」 「このおおばかまりさ!すこしだまりなさい!…あめさんにしては、あたたかいわね…」 加工所に運び込まれたゆっくり達は、金網組と透明ケース組に分けられ、透明ケース組は程よい暖かさの水で洗浄された。 まりさは楽しんでいるのか怯えているのか解らないが、ありすは以外と冷静だった。 濡れた体を丁寧に乾かされたゆっくり達は、再度透明なケースに入れらた。 そしてケースはカートに乗せられ、そのまま何処かへ運ばれて行く。 「ゆ~~ん?なんだがきぶんそうかいなのぜ!うまれかわったみたいなのぜ~♪」 「あたまのなかは、うまれかわってないみたいね……」 そんなやり取りを続けていると、ゆっくり達を乗せたカートが大きな扉の前で止まる。 だが、この二匹は漫才に夢中で気が付いていなかった。 ゆっくりと扉が開かれると、そこには目が痛くなるほど真っ白い部屋が広がっていた。 中には白い服を着た人間が一人居て、ゆっくり達を品定めするかのように眺めていた。 「ゆふふ!これがれいむのどれいなんだね!さすがれいむは、えらばれたゆっくりだね!」 「ゆふふ~ん?まっしろなにんげんさんなのぜ~♪」 「しろはせいけつでいいわね、とかいはなかんじよ!ゆっくりできるわ」 「ゆわーい!にんげんしゃんこんにちはー♪ゆっくりしていってね!」 「ゆぅ…にんげんさん…よろしくなのぜ……ゆっくりしていってね」 お馬鹿な二匹は部屋の白さに目を奪われた。 その清潔な白さにゆっくり出来そうな何かを感じた、ここはゆっくり出来る場所だと思い込んだ。 そして同時に白服の人間もゆっくり出来ると思い込んでしまった。 馬鹿ゆっくり故の壮大な勘違いはここから始まった。 白服の人間は、まりさ親子、れいむ、アホまりさとありす、といった感じで透明ケースにゆっくり達を入れる蓋をした。 ゆっくりの入った透明ケースは棚に収められると、敷居をされお互いのケースが見えなくなった。 「またとうめいさんなのぜ?とうめいでもかたいのぜ?よくわからないのぜ~♪」 「おばかなりにかんがえているのかしら?それにしても、とうめいさんがすきなにんげんさんね」 白服の人間はそんなやり取りを見てニコニコ笑っていた。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!ほっぺたがおちそうなのぜ~♪」 「しあわせ~♪にんげんさん、とかいはなごはんをありがとう!ほら、ばかまりさもおれいをいいなさい!」 「にんげんさん、ありがとなのぜ~♪やっぱりまっしろさんは、ゆっくりできるのぜ~♪」 この部屋にまりさとありすが運び込まれて数日たった。 この二匹は野良生まれの野良育ちだったため、滅多に甘い物を口に出来なかった。 故にここで与えられた餌は最高のご馳走に思えた。 陽気なまりさは更に陽気になり、ありすはここでの生活を最高に幸せだと感じていた。 この二匹は馬鹿とアホであったが、人間の恐ろしさと自分達の弱さは自覚していた。 そしてなにより、他の者への感謝の気持ちを素直に表すことが出来ていた。 ゆっくりの中では善良な部類であったが、頭は悪い方の部類であった。 どんな境遇に置かれても、その中で楽しみを見つけゆっくりする事が出来ていた。 今の野良には珍しい、ゆっくりらしいゆっくりであった。 ここに来てからの生活は二匹にとっては最高の暮らしだった。 ご飯は一日三食与えられ、定期的に体を洗ってもらえた。 寝床にはふかふかのタオルも用意され、水もいつも新鮮な物を用意してもらった。 うんうん、しーしー場もちゃんと用意されてあった。 最初はまりさはそれが解らなかったが、ありすが根気よく教えたおかげで理解できた。 いつも清潔な生活を送ることが出来るここでの暮らしは、ありすにとってまさに「とかいは」な暮らしだった。 「ゆわ~い♪おそらを~……ゆふふ~ん♪はずかしいのぜ~でももっとみていいのぜ~♪」 白服に持ち上げられ、お決まりのセリフを言いかけるまりさ。 まりさは白服に調べまわされいたが、何を勘違いしているのか不快には思っていなかった。 むしろ幸せそうに体を揺らし楽しんでいた。 「おそらをとんで………は、はずかしいわ…にんげんさん、そんなにみつめないでね…」 まりさが調べ終わると、今度はありすが白服に持ち上げられた。 このありすは実はかなりの恥ずかしがり屋で、白服に調べられる度に顔を赤くしていた。 そんな二匹を白服は何時もニコニコ見て笑っていた。 それから更に数日たった。 まりさとありすはここでの生活に大分順応していた。 二匹では若干狭く感じられるケースではあったが、思い思いに体を動かしたり、語らったりしていた。 不思議な事はこのに匹は中が良さそうなのにも関わらず、すっきりをしなかったのである。 お互い恋人ではなく、友人のように見ていただからなのかも知れないが、それでも幸せそうであった。 「ゆふふ~ん♪きょうはたくさんのーび、のーび、できたのぜ~♪これはけんこうのひけつなのぜ~♪」 「ようきなのはいいけれど、もうすこしおとなしくしてほしいわね」 「まりさがおとなしくなったら、それはびょうきなのぜ~♪」 「まあ、まちがいではないでしょうね…」 そんな二匹に少しずつ変化が訪れた。 「ゆ~ん、きょうもいいあさなのぜ~♪でも、なんだがおなかがむずむずするのぜ~?」 「おはようまりさ…ありすはあんよがむずむずするわ…なんなのかしら?」 「ゆゆ?ありすもなのかぜ?…ゆーん?…きっときのせいなのぜ~♪」 「おばかはきらくでいいわね…」 まりさとありすはお互いに不調を訴えた。 だが、お馬鹿な二匹は気のせいで済ませてしまった。 「ゆゆ?きょうはまりさのおなかに、なについているのぜ~♪」 「ゆ?なんなのかしら?」 「きっとこれは……………やっぱりおもいつかなかったのぜ~♪ゆぷぷのぷ~♪」 「やっぱりばかね…あきれるわ…」 まりさの腹(?)には得体の知れない点の様な物が浮かび上がっていた。 たが、お馬鹿な二匹は特に気にする事もなく普通に過ごしていた。 その日、白服が二匹を調べた時に何かに気が付いた様ではあったのだが、 そんな事に気が付くほど二匹は頭が良くなかった。 「ゆわぁぁぁ?!まりさのおなかに、あおいまるができてるのぜ~?これな~に?」 「ゆぅぅぅ?!なんなのかしら?あまりいいものにはみえないけど…」 「そうなのかぜ?ゆ~~ん??……きっとこれからまりさは、いろつきになるのぜ~♪」 「どうつきじゃなくて、いろつき?………どういうことなのかしら?」 「さあ?それはまりさにもわからないのぜ~♪とりあえず、ゆっくりするのぜ~♪」 「おおばかね…どうしてここまで、きらくでいられるのかしら?」 まりさの体に青い染みが浮かび上がっていたのだが、やっぱりまりさは気にしていなかった。 ありすはその怪しい染みがよくない物の様な気がしてはいたが、 まりさの馬鹿っぷりを見ているとどうでも良くなってしまった。 実はありすのあんよにも、赤い染みが出来ていた。 だが、ありすはまりさの馬鹿の方が気になってしまって、そんな事には気が付いていなかった。 その日、白服はまりさの体から青い染みの一部とありすのあんよから赤い染みの一部を採取していた。 だが、馬鹿二匹は何時もの調子でそんな事には気が付いていなかった。 白服はそんな二匹を見て苦笑いしていた。 「ゆわわわ!まりさはきれいになってきたのぜ~♪とってもとかいはなのぜ??」 「ぜんぜんとかいはじゃないわ…ありすのあんよもあかくなってきたし……」 「ゆ~ん?そうなのかぜ?そんなこともないのぜ~~♪」 「このおばかをみていると、きにするものばらかしくなるわ…」 そんな二匹を見て白服は悩んだ。 本来なら体調不良をきたすほど、カビに侵食されているはずであった。 だか、この二匹は依然元気に暮らしていた。 これがゆっくり特有の思い込みの力なのか、病は気からなのかは解らないが興味深い現象だった。 だが、白服が調べていたのは別の事だったのでこの二匹は間もなく処分される事になった。 「ゆふふ~ん♪まりさぜっこうちょうなのぜ~♪のりのりなのぜ~♪」 「ばかはどうして、いつもげんきなのかしら…ふしぎね…」 不思議なのは自分も同じだと白服も考えていた。 今日も二匹は楽しそうに暮らしていた。 完 徒然あき いふ挿絵 byめーりんあき 徒然あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る なにこれ?ww -- 2019-03-29 21 28 08 絵wwwwwwwwww -- 2014-09-24 22 05 43 絵wwwこのバカ夫婦可愛いバカ過ぎてw -- 2014-06-27 17 20 52 挿絵が全て持っていきやがったww -- 2013-03-23 19 11 03 バカ夫婦かわいい -- 2013-03-20 00 14 05 挿絵w -- 2012-09-16 21 57 00 なにこいつらwwバカすぎてかわええww -- 2012-07-26 11 52 13 wwwwwwwwwwwww -- 2012-02-07 20 46 52 お馬鹿な善良も良いペットになれそうだな -- 2011-10-17 08 31 29 絵、 歌舞伎やんww -- 2011-10-14 20 37 02 挿絵がwww -- 2011-09-15 17 50 44 ありす可愛い! -- 2011-06-26 13 13 05 カビに生えてるのに普通に生きてるなら余裕あるなら生かして観察を続けたり検査したりするけどな。 カビの治療のほかにも応用範囲結構あるだろうに。 あと挿絵はイイw -- 2011-03-08 10 26 14 オチがwwww -- 2011-02-01 23 18 52 イラストよく見るとかわいいなw -- 2010-12-14 00 04 04 めずらしく処分したくないゆっくり達だな -- 2010-08-19 22 56 30 いったいどんなエグイ状態になってんのかとおもったら、 噴いた -- 2010-07-13 20 58 27 挿絵こわい -- 2010-07-13 20 18 59
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建前は冬合宿、その実は今年度最後の大騒ぎ、または古泉劇団発表会の場となった鶴屋家別荘。 掘ゴタツに足を突っ込んで、俺達はハルヒと古泉が共同製作したスゴロクに興じていた。 「はい。次、有希の番ね!」 手元に転がって来たサイコロを拾い上げて、ハルヒが長門に手渡す。 長門はサイコロを手の平で受け止め、すぐに少しだけ手を傾けてテーブルに落とした。 「…に」 振ったサイの目に書かれた数を呟いて、長門はコマを二マス進めた。 げえ。それが俺が長門のコマが止まったマスの指令を読んだ感想だ。 「『団長を気分良くさせる言葉を五種類以上言う』…」 ぱちり、と一回だけ瞬きをして長門はそれを読み上げた。 どうする長門。お前は社交辞令とかには無縁な奴だよな。 天上天下唯我独尊が乗り移ったようなハルヒを褒めるなんて、罰ゲームにしかならないぞ。 そう俺が考えていると、 「有希? その…できなくても別にいいのよ? 有希は素直だから、褒め千切るなんてできないだろうし、キョンみたいに罰金なんて言わないわ」 と、ハルヒが少し困ったように長門の顔を覗きこんだ。 何かもう、文句を言う気にもなれんな。この俺限定の不平等にも長門限定の気ィ使いっぷりにも慣れちまった。 あと暗にそれは褒め千切る天才の古泉は素直じゃないって言ってることになるぞ。 いや、その通りだが。 ハルヒや俺の心配をよそに、長門はコタツの中で身をよじって、ハルヒの正面を向くように座り直した。 お、パスしないのか。 「活発」 ひとつ目だな。まあ嘘ではないだろう。 「健康的」 ふたつ目。あれ、それってひとつ目のと意味被ってないか? 「物怖じしない」 みっつ目。あー、まあな、当てはまるわな。 「優しい」 よっつ目。長門限定だがな…ところでハルヒよ、今のお前に鏡を見せてやりたくてたまらんのだが。 なんつーだらしない顔だ。 よっぽど嬉しいんだろうな。 最後の一個。 五種類以上ってことは、いつつより多くてもいいと言うことだが、最低限のいつつでも上出来だろう。 なんてたってハルヒを褒める言葉だからな、いつつは多過ぎるくらいだ。 さーて、長門は最後に何と言うかな? 「…好き」 それは…褒め言葉なのか?個人的な感情じゃないのか?? 長門の爆弾発言に、見ろ、朝比奈さんはおろか古泉まで固まってるじゃないか。 こんな時でも落ち着き払っている多丸さんは流石だな…鶴屋さん、大爆笑してるのなんてあなただけですよ。 いや、それよりも…おいハルヒ!! なんだってお前はタコみたいに真っ赤になってるんだ!? 「わ、私もよ…」 もじもじ、と効果音を背負えるほど顔を更に赤く染めて言うハルヒに、 「そう」 とあくまで無表情な長門。 朝比奈さんが何となく寂しそうに見えるのは…俺の気のせいだ、うん。 終わり。
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公園の野良ゆっくり一斉駆除が始まった。 のんびり遊んでいる者、物陰に隠れている者、加工所職員に絡んでくる者。 そんな野良ゆっくりを職員達は片っ端から回収していった。 「まずいわ…にんげんさんがこっちにくるわ…」 「あせるんじゃないのぜ♪ありす、さくせんどおりにやるのぜ♪」 「ほんとうにうまくいくのかしら?………」 「まりさをしんじるのぜ!じゃあ、やるのぜ♪」 「なんだこりゃ…死んでいるのか?………それにしても汚い顔だな…」 加工所職員はベンチの下に置いてあったダンボールの中で、だらしない顔で死んでいるまりさとありすを見つけた。 体の腐食等が見られない事から、死んでそう時間もたっていないのだろう。 そう判断した職員が、まりさとありすを持ち上げる。 「ゆゆ?!どうしてつかまえるのぜ?まりさはしんでいるんだぜ!!さっさとはなしてほしいのぜ!!」 急に死体まりさが喋り出す。 職員はびっくりして死体まりさの方を見る。 「ん?うわっ!なんだ、生きているのか…脅かしやがって……」 「い、いきてなんかいないのぜ!まりさはしたいさんなんだぜ!しんでいるんだ、ともだちなんだ~♪なのぜ!」 「ばかまりさ!したいさんがしゃべったり、うたったりするわけないでしょぉぉぉぉぉ!」 目をつぶりながら喋るまりさ、まだ死んだ不利がばれてないと思っているのだろう。 そんなまりさの馬鹿さ思わず死体ありすが突込みを入れる。 この二匹は番なのかは解らないが、いい漫才コンビである。 「ったく…糞ゆっくりが…何処でこんな知恵付けたのかは知らないけど、どの道死体も回収してゴミに出すんだよ!」 「ゆがぁぁぁぁぁん!そういうことなら、はじめからおしえてほしいのぜぇぇぇぇ!!」 「このばかまりさぁぁぁぁぁぁ!!どおしてこんなにおばかなのぉぉぉぉぉぉ!!」 この馬鹿まりさの言う事を信じていたありすも同類なのだが、思わず叫んでしまう。 職員はそんな様子を面白そうに眺めると、少し考えてからどこかに電話した。 「あ、回収班の……はい、面白いものを見つけまして………あ、はい、そのように致します。では失礼します」 「ま、まつんだぜ!まりさのしんだふりは、かんぺきなのぜ!しゃべったやつがわるいのぜ!…ゆ?………まりさなのぜ?」 「このおおばかまりさぁぁぁ!!」 「ゆぎゃん!…あいがいたいのぜ!!」 この隙に逃げてしまえば良いものを、まりさとありすは夫婦漫才を繰り広げていた。 「ゆわっほぉぉぉぉう♪おそらをとんでるのぜ~♪ほらほら、ありすもせっかくだからたのしむのぜ~♪」 「どうしたら、ここまでおばかになれるのかしら…すこしうらやましいわ…」 まりさとありすは職員に運ばれて、回収車に連れてこられた。 回収車の中では薄汚れた様々な野良ゆっくり達が金網の中でひしめき合っていた。 「ゆふふ…おぉ、おろかおろか!かわいそうなごみのために、れいむはおうたをうたうよ!れいむはやさしいね! ゆぼえ~~~~~~♪」 「れいむはしんぐる(以下略」 「ぱちゅはこうえんのけんじゃ(以下略」 「いやぁぁぁぁ!わから(以下略」 「まりさはつよ(以下略」 そんな中でありすは、透明なケースに入れられたれいむに気が付いた。 だが、馬鹿まりさはこの状況すら楽しんでいた。 「ゆわっほ~~い♪まりさはおそらをとんでますのぜ~~♪」 「まったくこのバカまりさは…にんげんさんにつかまっただけでしょ?」 「お前らもここに入っていろ、喧嘩しないで仲良くしろよ?」 職員はそう言うと、まりさとありすを透明ケースに入れた。 「ぼぇ~~~♪…ゆん?なんなの?このきたないのらは?…れいむとおなじでえらばれたの?」 「ゆん?まりさはまりななのぜ~♪よろしくなのぜ~♪」 「きたないのはおたがいさまよ!」 れいむの態度にムッとするありすだったが、まりさは相変わらず能天気だった。 そんな二匹をれいむは面白くなさそうに眺める。 「ゆむむ…!れいむはおんりーわんで、なんばーわんだよ!ゆっくりりかいてね!」 「ゆふふ~ん♪おりわーの、なぼぼーなのぜ?ゆっくりりかいしたのぜ~♪」 「はいはいゆっくりしていってね!………つかれるわ…」 れいむはそんな二匹に興味を無くした様で、金網のゆっくり達の方を眺め哀れんだ。 「………さいあくなれいむね…とかいはじゃないわ…」 ありすは誰に言う訳でもなくそう呟いた。 しばらくすると、まりさ親子が連れてこられた。 「ゆふふ…また、ばかなまりさがつかまったよ!いいきみだね!とくべつなれいむをみてしっとしてね!」 浮かない顔の親まりさとは対照的に、子まりさは興味深そうに周りを見渡していた。 まりさ親子は透明ケースに入れられた。 「なんなの?まりさたちも、えらばれたゆっくりだったの?でも、きたないまりさたちは、れいむのそばにこないでね!」 「ゆゆ!しんいりさんなのぜ~♪よろしくなのぜ~♪ゆっくりしていくのぜ!」 「ゆふふふ…けっこうとかいはなまりさね!このあほまりさとは、おおちがいね」 「どおしてそんなこというのぜぇぇぇぇぇ?!」 れいむは相変わらず、気に入らないといった態度を取っていた。 ありすは馬鹿まりさと親まりさを見比べて、ため息をつくのだった。 そんな面々を乗せて、回収車は加工所に向かっていった。 「ゆわぁぁぁぁ!めぐみのあめなのぜぇぇぇ!!でも、まりさはとけちゃうのぜぇぇぇ!ゆっくりできない~♪」 「このおおばかまりさ!すこしだまりなさい!…あめさんにしては、あたたかいわね…」 加工所に運び込まれたゆっくり達は、金網組と透明ケース組に分けられ、透明ケース組は程よい暖かさの水で洗浄された。 まりさは楽しんでいるのか怯えているのか解らないが、ありすは以外と冷静だった。 濡れた体を丁寧に乾かされたゆっくり達は、再度透明なケースに入れらた。 そしてケースはカートに乗せられ、そのまま何処かへ運ばれて行く。 「ゆ~~ん?なんだがきぶんそうかいなのぜ!うまれかわったみたいなのぜ~♪」 「あたまのなかは、うまれかわってないみたいね……」 そんなやり取りを続けていると、ゆっくり達を乗せたカートが大きな扉の前で止まる。 だが、この二匹は漫才に夢中で気が付いていなかった。 ゆっくりと扉が開かれると、そこには目が痛くなるほど真っ白い部屋が広がっていた。 中には白い服を着た人間が一人居て、ゆっくり達を品定めするかのように眺めていた。 「ゆふふ!これがれいむのどれいなんだね!さすがれいむは、えらばれたゆっくりだね!」 「ゆふふ~ん?まっしろなにんげんさんなのぜ~♪」 「しろはせいけつでいいわね、とかいはなかんじよ!ゆっくりできるわ」 「ゆわーい!にんげんしゃんこんにちはー♪ゆっくりしていってね!」 「ゆぅ…にんげんさん…よろしくなのぜ……ゆっくりしていってね」 お馬鹿な二匹は部屋の白さに目を奪われた。 その清潔な白さにゆっくり出来そうな何かを感じた、ここはゆっくり出来る場所だと思い込んだ。 そして同時に白服の人間もゆっくり出来ると思い込んでしまった。 馬鹿ゆっくり故の壮大な勘違いはここから始まった。 白服の人間は、まりさ親子、れいむ、アホまりさとありす、といった感じで透明ケースにゆっくり達を入れる蓋をした。 ゆっくりの入った透明ケースは棚に収められると、敷居をされお互いのケースが見えなくなった。 「またとうめいさんなのぜ?とうめいでもかたいのぜ?よくわからないのぜ~♪」 「おばかなりにかんがえているのかしら?それにしても、とうめいさんがすきなにんげんさんね」 白服の人間はそんなやり取りを見てニコニコ笑っていた。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!ほっぺたがおちそうなのぜ~♪」 「しあわせ~♪にんげんさん、とかいはなごはんをありがとう!ほら、ばかまりさもおれいをいいなさい!」 「にんげんさん、ありがとなのぜ~♪やっぱりまっしろさんは、ゆっくりできるのぜ~♪」 この部屋にまりさとありすが運び込まれて数日たった。 この二匹は野良生まれの野良育ちだったため、滅多に甘い物を口に出来なかった。 故にここで与えられた餌は最高のご馳走に思えた。 陽気なまりさは更に陽気になり、ありすはここでの生活を最高に幸せだと感じていた。 この二匹は馬鹿とアホであったが、人間の恐ろしさと自分達の弱さは自覚していた。 そしてなにより、他の者への感謝の気持ちを素直に表すことが出来ていた。 ゆっくりの中では善良な部類であったが、頭は悪い方の部類であった。 どんな境遇に置かれても、その中で楽しみを見つけゆっくりする事が出来ていた。 今の野良には珍しい、ゆっくりらしいゆっくりであった。 ここに来てからの生活は二匹にとっては最高の暮らしだった。 ご飯は一日三食与えられ、定期的に体を洗ってもらえた。 寝床にはふかふかのタオルも用意され、水もいつも新鮮な物を用意してもらった。 うんうん、しーしー場もちゃんと用意されてあった。 最初はまりさはそれが解らなかったが、ありすが根気よく教えたおかげで理解できた。 いつも清潔な生活を送ることが出来るここでの暮らしは、ありすにとってまさに「とかいは」な暮らしだった。 「ゆわ~い♪おそらを~……ゆふふ~ん♪はずかしいのぜ~でももっとみていいのぜ~♪」 白服に持ち上げられ、お決まりのセリフを言いかけるまりさ。 まりさは白服に調べまわされいたが、何を勘違いしているのか不快には思っていなかった。 むしろ幸せそうに体を揺らし楽しんでいた。 「おそらをとんで………は、はずかしいわ…にんげんさん、そんなにみつめないでね…」 まりさが調べ終わると、今度はありすが白服に持ち上げられた。 このありすは実はかなりの恥ずかしがり屋で、白服に調べられる度に顔を赤くしていた。 そんな二匹を白服は何時もニコニコ見て笑っていた。 それから更に数日たった。 まりさとありすはここでの生活に大分順応していた。 二匹では若干狭く感じられるケースではあったが、思い思いに体を動かしたり、語らったりしていた。 不思議な事はこのに匹は中が良さそうなのにも関わらず、すっきりをしなかったのである。 お互い恋人ではなく、友人のように見ていただからなのかも知れないが、それでも幸せそうであった。 「ゆふふ~ん♪きょうはたくさんのーび、のーび、できたのぜ~♪これはけんこうのひけつなのぜ~♪」 「ようきなのはいいけれど、もうすこしおとなしくしてほしいわね」 「まりさがおとなしくなったら、それはびょうきなのぜ~♪」 「まあ、まちがいではないでしょうね…」 そんな二匹に少しずつ変化が訪れた。 「ゆ~ん、きょうもいいあさなのぜ~♪でも、なんだがおなかがむずむずするのぜ~?」 「おはようまりさ…ありすはあんよがむずむずするわ…なんなのかしら?」 「ゆゆ?ありすもなのかぜ?…ゆーん?…きっときのせいなのぜ~♪」 「おばかはきらくでいいわね…」 まりさとありすはお互いに不調を訴えた。 だが、お馬鹿な二匹は気のせいで済ませてしまった。 「ゆゆ?きょうはまりさのおなかに、なについているのぜ~♪」 「ゆ?なんなのかしら?」 「きっとこれは……………やっぱりおもいつかなかったのぜ~♪ゆぷぷのぷ~♪」 「やっぱりばかね…あきれるわ…」 まりさの腹(?)には得体の知れない点の様な物が浮かび上がっていた。 たが、お馬鹿な二匹は特に気にする事もなく普通に過ごしていた。 その日、白服が二匹を調べた時に何かに気が付いた様ではあったのだが、 そんな事に気が付くほど二匹は頭が良くなかった。 「ゆわぁぁぁ?!まりさのおなかに、あおいまるができてるのぜ~?これな~に?」 「ゆぅぅぅ?!なんなのかしら?あまりいいものにはみえないけど…」 「そうなのかぜ?ゆ~~ん??……きっとこれからまりさは、いろつきになるのぜ~♪」 「どうつきじゃなくて、いろつき?………どういうことなのかしら?」 「さあ?それはまりさにもわからないのぜ~♪とりあえず、ゆっくりするのぜ~♪」 「おおばかね…どうしてここまで、きらくでいられるのかしら?」 まりさの体に青い染みが浮かび上がっていたのだが、やっぱりまりさは気にしていなかった。 ありすはその怪しい染みがよくない物の様な気がしてはいたが、 まりさの馬鹿っぷりを見ているとどうでも良くなってしまった。 実はありすのあんよにも、赤い染みが出来ていた。 だが、ありすはまりさの馬鹿の方が気になってしまって、そんな事には気が付いていなかった。 その日、白服はまりさの体から青い染みの一部とありすのあんよから赤い染みの一部を採取していた。 だが、馬鹿二匹は何時もの調子でそんな事には気が付いていなかった。 白服はそんな二匹を見て苦笑いしていた。 「ゆわわわ!まりさはきれいになってきたのぜ~♪とってもとかいはなのぜ??」 「ぜんぜんとかいはじゃないわ…ありすのあんよもあかくなってきたし……」 「ゆ~ん?そうなのかぜ?そんなこともないのぜ~~♪」 「このおばかをみていると、きにするものばらかしくなるわ…」 そんな二匹を見て白服は悩んだ。 本来なら体調不良をきたすほど、カビに侵食されているはずであった。 だか、この二匹は依然元気に暮らしていた。 これがゆっくり特有の思い込みの力なのか、病は気からなのかは解らないが興味深い現象だった。 だが、白服が調べていたのは別の事だったのでこの二匹は間もなく処分される事になった。 「ゆふふ~ん♪まりさぜっこうちょうなのぜ~♪のりのりなのぜ~♪」 「ばかはどうして、いつもげんきなのかしら…ふしぎね…」 不思議なのは自分も同じだと白服も考えていた。 今日も二匹は楽しそうに暮らしていた。 完 徒然あき if挿絵:めーりんあき
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第61話 バカの葉ラプソディ ハルヒ「今日は七夕よ!」 長門「待ちぼうけ待ちぼうけ~」 ハルヒ「棚ボタじゃないわよ。織姫と彦星の七夕」 長門「音重鎮と彦野。誰でも知ってるかつての中日の代打の切り札」 ハルヒ「そんなの知らないわよ。これよこれ。この笹を見て。立派でしょ?」 長門「……まずい。ムシャムシャ」 ハルヒ「食うなぁー! あんたはパンダかー!」 長門「なぜこんなまずいものを?」 ハルヒ「これは食べ物じゃないの! こうやって短冊を」 長門「……これもまずい。ムシャムシャ」 ハルヒ「だから短冊も食べちゃダメー!」 長門「カラフルだからついどんな味か確かめてみたくて」 ハルヒ「ちゃんとやろうよ~。んもう~、七夕はあたしには大事なイベントなのぉ~。うぅぅぅ……」 長門「よしよし」ナデナデ ハルヒ「ちゃんとやってよぉ……ここに願い事を書いて」 長門「……書いた」 ハルヒ「書いたらこの笹に吊るすの」 長門「……吊るした。その後は?」 ハルヒ「願いが叶いますようにって……」 長門「しょうゆに漬けて食す」 ハルヒ「だから食べるな!」 ~おしまい~ 第62話 パソコンバカ コンピ研部長「ようし、ようやく新しいパソコンで作業を進められるぞ……ハッ。 お、おい、君達、ヤツが入ってこないようにその扉には厳重に鍵をかけておいてくれたまえ」 長門「ブラジャー」ガチャリ 部長「よしっ、ってお前やー! いつのまにー!」 部員達「部長ー! 入れませーん」 長門「コンピ研 買ってもすぐに 壊される」 部長「季語に組み込むな。毎回毎回お前に壊されていたらかなわん」 長門「つまりこれが今回わたしが壊すべきパソコンというわけ?」 部長「さぁわるなああぁぁ!」 長門「大丈夫。今回は触らずに壊す」 部長「やめてくれぇぇぇ。うぇっうぐ、本当に……本当にやめてくれ……うぐぐ」 長門「穢れない涙……その涙で壊れたパソコンも浮かばれるというもの」 部長「壊した本人が言うな!」 部長「だいたい君は何者なんだね? 手で触れるだけでウィルスに感染させるとか神業としか思えん」 長門「ヴィーナス……わたしのこと?」 部長「ウィルスだ。そんなことも知らないであんなことが出来るのかね?」 長門「空気感染」 部長「するか! そもそもネットにも繋いでなかったのに、いったいどうやったんだね」 長門「喜緑江美里のトロイの三角木馬」 部長「三角はいらん。あいつの仕込みだったわけか……くそっ」 長門「今日は壊しに来たのではない。習いに来た」 部長「パソコンの使い方をか?」 長門「……そう。コクリ」 部長「はんっ! 今まで散々迷惑をかけてきたくせにどのツラ下げて僕にそんなことを言うのだね」 長門「さもなくばこの部室にあるパソコンの中のエロゲのデータを破壊する」 部長「ふん、そんなことは無意味だ。この部室にはエロゲなど置いていないからな!」 部員達「部長~! そいつのいうことに従ってください~」 部長「お前らあぁぁ! こっそりやってやがったなー! 僕だって我慢してるというのにー!」 長門「やっぱり」 部長「もういい……パソコン教えてやるから終わったらさっさと帰ってくれよ」 長門「わかった。ついでにエロゲも持ってかえる」 部長「勝手にしろ」 部員達「部長~、そんなぁ~!」 部長「うるさいっ!」 ~~~ 部長「えー、まず。キーボードの使い方だが」 長門「こう?」バシバシ 部長「いきなりCtrl+Alt+Delを連打しないでくれ……」 長門「キーボードの使い方はYOUTUBEでドイツ人から習った。イエスゲッツロッス、イエスゲッツロッス」ガンガンパリーン! 部長「アンリアルゲーマーを参考にするな!」 部長「文字入力はわかるみたいだから、次はインターネット検索でもやってみるか」 長門「この最初のページは何?」 部長「ああ、それは我がコンピ研のホームページだ。ネットを開くと最初にそのページが開くようになっている」 長門「つまりF5連打」ガガガガガガガガガガガガガガガガ 部長「やめろおぉー!! 16連射するなー!」 長門「得点が表示されるとつい高得点を狙いたくなる……」 部長「カウンターは得点じゃない!」 長門「なるほどこれがインターネット。ワールドワイドウェブ。 世界と繋がっている……お尻で繋がっている……ブツブツ」 部長「じゃあ、そこのお気に入りからグーグルというサイトを開いてみて」 長門「ベーグル。おいしそう……」 部長「何イメージ検索してるんだよ……ってかきっちりグーグル使いこなせてるじゃないか」 長門「でもこの前のページの見方がわからない」 部長「この『戻る』ってボタンを押して」 長門「押した。戻らない」 部長「画面を手で押したらダメだろ……そうじゃなくてマウスで押すんだよ」 長門「マウスで押してみる。戻らない。壊れてる」 部長「だから直接画面押すんじゃないって! マウスでポインタを動かして押すんだ」 長門「ポインタって何?」 部長「この矢印みたいなヤツのことだ」 長門「えいっ えいっ 動け! えいっ」 部長「……だから指で画面に触っても動かないんだって。あー、もうこのバカ……」 長門「このパソコンはそれほどバカじゃない」 部長「お前のことだ!」 部長「もうだいたいインターネットの使い方はわかっただろ? というか最初からわかってないか?」 長門「やっと全部覚えた。次はインターネットの使い方を教えて」 部長「今教えただろ!」 長門「今わかったのはキーボードの使い方」 部長「あー、もうなんか頭痛くなってきた……どこか遠くへ行きたい」 長門「じゃあ、SOS団のホ-ムページのこのマークを見て」 部長「なんだこのサナダムシがクダを巻いたようなマークは? ん? ……う、うわぁー! 画面に吸い込まれるぅぅ!」バシュゥゥン 長門「あ……ウィルス踏んだ。またパソコン壊れた……いない……とことん使えないヤツ……」 ~当然インテル入ってない~ ──完── 第63話 大バカの壁 朝倉「どうしよう……こんな長いセリフ覚えられないよ……」 キョン「ん? どうした朝倉。なんか深刻な顔して」 朝倉「あ、キョンくん……ねえ、長いセリフを覚えなきゃいけない時って、 有機生命体ならどうやって覚えているの?」 キョン「どんなセリフだ?」 朝倉「このセリフなんだけど……」 キョン「あー、結構長いな」 朝倉「そうなの。だからわたし困っちゃって……」 キョン「そういうときはカンペを使えばいいんだよ」 朝倉「かい~の、あへあへあへあへ……」 キョン「寛平じゃねえっ! カンニングペーパーだ」 朝倉「でもわたしその場面で片手にナイフ持ってなくちゃいけないんだけど……」 キョン「スケッチブックに大きく台本を書いて、後ろで誰かに持っててもらうとかすればいいんじゃないか」 長門「何かお困りの様子」ヌッ キョン「うわっ、お前いたのか」 長門「カンニングなら任せて。いつもテストの度にやってる」 キョン「するな! じゃあ、このスケッチブックをセリフに合わせてめくってくれ」 長門「理解した」ピラリ 朝倉「いやん」 キョン「スカートをめくるな」 ~~~ キョン「これでだいたいわかったか?」 長門「わかった。わたしめくる。あなたしゃべる」 朝倉「うん、ありがとうキョンくん。長門さん。じゃあさっそく始めるわね」 キョン「始める? 何を始めるんだ?」 朝倉「えーっと……『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』」 キョン「俺相手のセリフだったのかよ!」 朝倉「『じゃあ、死んで!』」ビュン! キョン「待て待て! セリフの順番間違えてるぞ」 朝倉「え?」 キョン「違うだろ……まず、俺が登場したら、『やらなくて後悔するよりも、やって後悔……』だろ?」 長門「ごめん、カンペの順番間違えた」 朝倉「しっかりしてよねー」 キョン「それよりナイフしまってくれないか?」 朝倉「うん、それ無理。だって、あたしはあなたに本当に死んで欲しいのだもの」 キョン「だからそれはもっと後のセリフだろ? まず『やらなくて後悔……』から」 朝倉「あ……ち、ちがくて……」 長門「頑張れ」 朝倉「あ……う、うん……なんか違うんだけどな……」 ~~~ 朝倉「『それまで涼宮さんとお幸せに。じゃあね』」 キョン「はい、カットー」 長門「名演技」 朝倉「う~ん……あれぇ? キョンくん生きてるし……」 キョン「どうした朝倉。セリフは完璧だったぞ」 朝倉「何かもっと大事なことを忘れてるような……」 長門「眼鏡の再構成を忘れた」 朝倉「あー、それそれ!」 キョン「お前は最初から裸眼だろうが」 ~~朝倉が生き延びたわけ~~ おわり 第64話 バカはどこにいった? 古泉「それではこれより推理ゲームを始めたいと思います」 ハルヒ「待ってましたー!」 長門「と、ここでネタばらし。実は」 古泉「ま、まままってください! 始まる前に推理しないでください!」 ハルヒ「有希も気が早いわね~、殺人が起こってからでもいいでしょ」 長門「そう。多丸圭一が殺されてからにする」 古泉「まだ殺されるとか言ってないんですが……。まあ、いいです。 最初に言っておきますが、その通り、殺されるのは圭一さんただ1人です」 長門「質問」 古泉「はい、なんでしょう長門さん」 長門「推理ゲームって何?」 古泉「これから仮想の殺人事件が起こります。犯人がどのようなトリックで殺人を犯したかを当てるのです」 長門「お菓子くれるの?」 古泉「トリックオアトリートではありません。トリックです。それにそのネタは前にやりましたよね」 長門「ところで獲物を割るバットはどこ?」 古泉「スイカではありません推理です」 長門「そもそも推理ってなに?」 古泉「簡単に言うと犯人を当てるということです」 長門「犯人は、あな…」 古泉「まだ言わないでくださいっ!」 長門「…るが好きな男」 古泉「言わないでください!」 古泉「キーとなる存在はこの猫です」 長門「にゃあん」 古泉「……違います。シャミセン氏をどこにやったんですか?」 長門「雪の降りしきる外」 シャミ「……グッタリ」 キョン「うわあぁぁぁ! シャミセンが冷たくなってるー!」 妹「うわぁぁん、シャミが死んじゃったー! うわぁぁぁん!」 長門「さて、推理ゲームのスタートです。犯人は誰でしょう」 キョン「お前やー!!」 妹「ひどいよぉー!」 ハルヒ「待って! 夏のときを思い出して! あのときと同じような大どんでん返しがあるのかもしれないわ」 長門「そう。実は犯人はわたしではない。その猫を殺したものの存在は他にいる」 キョン「な、なんだって!」 古泉「僕の計画した推理ゲームが……全部パー……」 長門「猫を殺した存在……それは体温を奪った雪。……ユキ……有希。わたしでしたー」 キョン「やっぱりお前じゃないかー!」 長門「とみせかけて実はこの猫は生きているのでした」 ハルヒ「ええぇぇぇぇ!?」 長門「……とここで次回につづく」 キョン「大丈夫なのか?」 長門「あなたに掛ける。次までに生き返らせる方法を考えて」 キョン「ふざけんなぁぁぁ!!!」 シャミ「……グッタリ」 本当に次回に続く 第65話 バカはどこにいった? ~解決編~ 妹「うわぁぁぁん、シャミー、シャミー! 生き返ってよ~」 キョン「本当に死んでる……」 古泉「完全に冷たくなってますね……おそらく蘇生することは不可能でしょう」 ハルヒ「シャミセン……かわいそう……」 長門「いったい誰がこんなことを……」 キョン「お前は黙ってろ」 古泉「実はさっきの推理ゲームのネタばらしになるんですが……」 キョン「なんだ?」 古泉「僕はシャミセンの他にもう一匹、姿を似せた猫を用意していたんです。 さっきまでシャミセンの振りをしていた猫はシャミセンではなく、もう一匹の別の猫だったんです」 キョン「……ってことは……シャミセンは死んでない!?」 長門「その辺は抜かりない。きちんと二匹の猫を識別して外に出した。 あそこで死んでいるのは間違いなく、正真正銘、あなたの家の猫」 キョン「人の家の猫殺しておいて何が抜かりないだぁー!」 古泉「……鬼ですね。……たしかにこの猫は三毛猫でありながらオスです。 模様から見てもシャミセン氏で間違いないようです。もう一匹の猫もここにいますしね」 シャミツー「にゃぁん」 長門「さぁ、犯人はどうやって被害者を生き返らせるのか!?」 古泉「推理ゲームとはそういうゲームじゃありません」 長門「え!? 嘘!?」 古泉「……」 長門「じゃあ、この猫は誰が生き返らせるの?」 古泉「死んでしまったものは生き返りません」 シーン…… 長門「……綺麗な顔してるだろ? 死んでるんだぜそれで」 シーン…… 長門「滑った」 ハルヒ「ちょっと有希……どういうこと?」 長門「わたしはただ猫を雪の中に埋めただけ」 ハルヒ「だけって……そんなことしたら死んじゃうじゃないの!」 長門「知らなかった。ついカッとなってやった。死ぬとは思わなかった。反省している。もうしない」 キョン「犯罪者の真似すんな」 ハルヒ「ふざけないでよ! わたし怒ってるんだからね!」 長門「大丈夫。これには伏線が張ってある」 ハルヒ「伏線? どういうこと?」 長門「61話を思い出して。七夕のとき」 ハルヒ「七夕……短冊を飾ったときのこと?」 長門「そう。あのときわたしは短冊に『シャミセンが雪山で死にませんように』と書いていた」 ハルヒ「でもその紙食べちゃったじゃない」 長門「……なぜかしょうゆ味がした。うかつ。これでは伏線も何もあったものではない」 キョン「例え短冊に書いてあったとしてもそれは全く関係ないと思うがな」 ハルヒ「せっかく古泉くんの用意してくれた推理ゲームを楽しもうと思ったのに……。 有希のせいで台無しよ! バカ! もう知らない! 寝るわ!」 妹「待って、ハルにゃーん。わたしも~」 古泉「まずいことになりました……閉鎖空間です」 キョン「マジかよ……」 古泉「ここでなんとかしないと大変なことになります。なぜなら僕や森さん、多丸兄弟や新川さんなど、 機関の人間がすぐに現場に駆けつけることが出来ないからです」 キョン「そういえばみんなここにいるもんな……さすがに雪が降ってる中では移動もできなそうだ」 古泉「なんとかして涼宮さんの機嫌をとることは出来ないでしょうか」 キョン「それが出来たら苦労しないぜ……長門に謝らせに行くか」 ~~~ 長門「犯人は……あなた」 みくる「え、えぇぇ!? わ、わたしですか~!?」 長門「犯罪に使われた凶器はその巨乳による圧死。証拠を押収する」モミモミ みくる「あ……あ、ちょ、ちょっとや、やめ……あん」 キョン「コラッ」ゴン 長門「あいたっ、何をする」 キョン「お前は少しくらい反省してろ! これからハルヒと妹のところに謝りに行くぞ」 長門「なぜ? 犯人は朝比奈みくるなのに」 キョン「いい加減にしろ!」 古泉「ハッ……!? そうか! ま、待ってください! もしかしたら……」 キョン「ん? どうかしたか古泉」 長門「実は古泉一樹が犯人だった」 古泉「違います」 長門「犯罪に使われた凶器はその●●による圧死。証拠を押収する」モミモミ 古泉「あ……あ、ちょ、ちょっとや、やめ……あん」 キョン「するな!」ゴン 古泉「あいたっ、な、なぜ僕が……」 キョン「話を進めろ」 古泉「失礼しました。さっき長門さん、雪の中に埋めたっていいませんでしたか?」 長門「埋めた。首まですっぽりと埋めた」 キョン「てめぇ……人ん家の猫を……」 古泉「でもさきほど見つかったとき、シャミセン氏は雪の上でぐったりとしていました。 雪の中から自力で脱出して、そこで力尽きたのでしょうか」 キョン「そうなんじゃないのか?」 古泉「いえ、他にもおかしい点があるのです。まず、シャミセン氏が見つかったとき、 死体がすごく冷たかったということです。まるで死んですぐではなく、 死後数時間が経過しているような冷たさでした」 キョン「外がこれだけ寒いんだから当然じゃないか?」 古泉「そうかもしれませんが、まだあります。僕は推理ゲームを始める直前に、 シャミセン氏ともう一匹の猫の存在を確認しているのです。 長門さんがシャミセン氏を外に持っていった時間はその後でしょうから、 せいぜい20分程度でしょうか。さらにそこから雪の中から這い出るまでの間は生きていますね? それから死んで死体が完全に冷たくなるにはいくらなんでも時間が足らないのです」 キョン「何が言いたんだ?」 古泉「つまりこういうことです。あのシャミセン氏の遺体は今のシャミセン氏の遺体ではありません」 キョン「どういうことだ!? さっぱりわからん」 長門「つまりあの猫は実は犬だったということ」 古泉「長門さんは黙っててください。……つまりですね、あの遺体はたしかにシャミセン氏ですが、 未来のシャミセン氏なのです。シャミセン氏も猫ですから、いつかは死にます。 おそらく僕たちが生きている間にその死に目に会うことでしょう。 そして死んでしまった死体が今ここに来ていると考えればいいのです」 キョン「ちょっと待て! じゃあ、生きているシャミセンはどこにいるんだ?」 古泉「どこだっていいのです。おそらく犯人が隠したか、今も持っているか。 それはこちらで選択できますし、もうすぐ会えるでしょう」 キョン「?? よくわからんぞ」 古泉「犯人は時間移動のできる人物……だから犯人は朝比奈さんです。 長門さんの推理は見事に、いや偶然ですが当たっていたといえます」 みくる「ええぇぇー!? わたしだったんですかー!?」 長門「しんみょうにおなわにつきやがれ」 みくる「は、はーい……。うぅぅ、知らなかったですぅ……」 古泉「待ってください。朝比奈さんだとは言いましたけど、この時間の朝比奈さんではありません。 つまり未来の朝比奈さんなんです。 こういうことです。未来の朝比奈さんがシャミセン氏の遺体を持ってこの時代へやってきます。 そして雪に埋められた生きているこの時代のシャミセン氏を掘り出して、未来の死体を交換します。 あとは僕たちがそれを見つけて、大騒ぎをします。 終わった後にもう一度未来の朝比奈さんに死体と生きているシャミセン氏を交換してもらえば完了です」 キョン「なんで朝比奈さんがそんなワケのわからない行動をとらなきゃならないんだ?」 古泉「なぜならシャミセン氏を生き返らせるためです。このように既定事項に変化させればシャミセン氏は 死んでいないということになります。しかし、この行動がないのであれば、 やはりシャミセン氏はここで死んでしまうのです。ですからこの行動は絶対に必要な既定事項のです」 古泉「そしておそらく、朝比奈さんは自分に会うことはまずいと考えています。 だからそこの物陰にいるのです。さあ、あなたが会いに行ってあげてください」 キョン「なんでそこにいるってわかるんだ? それにどうして自分に会うのがまずいんだ?」 古泉「未来の朝比奈さんに後でそこに行ってもらえばいいのです。 現にここで今の朝比奈さんが見ているのですから、場所も時間も間違えようが無いでしょう。 未来の朝比奈さんが自分に会えない理由は……会ってみればわかると思います。 それと未来の朝比奈さんは、この後またシャミセン氏の遺体を未来に持って帰らなくてはいけません。 ですからそこにあるシャミセン氏の遺体も持っていってください」 俺は古泉の説明に半信半疑であったが、シャミセンの遺体を抱えて部屋を出て、 外の廊下の方へと向かうと……いた。本当に朝比奈さんがいた。 それも大きいほうの朝比奈さんだ。 なるほど、これだと本人と会うわけにはいかないもんな。 みくる(大)「キョンくん、久しぶりね。は……はっくしょん!」 朝比奈さん(大)は大きなクシャミをすると鼻からキラキラと光る鼻水を垂らしながら、 俺のほうへとダイヤモンドのような輝きの笑顔を向けた。 俺はティッシュを持っていなかったので、鼻のことは黙っていることにした。 シャミセンが朝比奈さん(大)の大きな胸の中に顔をうずめて丸くなっていた。 みくる(大)「早く、あまりこの時間には留まってはいられません」 キョン「そのシャミセンもいつかは死んでしまうんですね。この死体を見る限りではそんなに先ではないようですが」 みくる(大)「もちろんそれは」 キョン「禁則事項ですね」 みくる(大)「はいっ」 朝比奈さんは人差し指を頬に当ててニッコリと微笑みながらいつものポーズを決めた。 プラプラと垂れ下がった鼻水がダイヤモンドのように輝いていた。 果たして俺はシャミセンの遺体と交換で生きているほうのシャミセンを手に入れたのだった。 キョン「ハルヒにはなんて説明すればいいんだ」 長門「未来の朝比奈みくるが犯人だったといえばいい」 キョン「バラしちゃダメだろ」 古泉「そこは任せてください。僕が何とかします」 それからハルヒと妹を呼んでシャミセンを見せた。 妹「わーい、シャミだぁ! シャミだぁ! 生きてる~」 キョン「いやぁ、シャミセンの死体がなくなったと思ったら、とことことのんきに 外を歩いているシャミセンを見つけてな。実は生きていたらしいんだ」 ハルヒ「でもさっきは完全に死んでいたじゃない。古泉くんだって蘇生は無理だって言っていたのに……変ね」 古泉「ええ、蘇生はしていませんし、おそらく無理でしょう。あれは完全に死んでいますから。 ですがもう一つ不思議なことに、気づいたらシャミセン氏の死体がないのです。 たしかにそこにあったはずなんですが、生きているシャミセン氏が見つかったとたん、 死体は忽然と姿を消していたのです。どこを探しても死体は見当たりませんでした。 まるでシャミセン氏が生き返ったかのようでした。 あれから僕なりに原因をいろいろ考えたのですが、これはドッペルゲンガー現象ではないかと思うんです」 ハルヒ「ドッペルゲンガーって……同じ顔の人物に出会ったら、近いうちに死んでしまうっていうアレ?」 古泉「つまりこういうことです。犯人はシャミセン氏自身だったのです。 シャミセン氏はドッペルゲンガーに出会ってしまったのです。 だからシャミセン氏は死んでしまったのです」 ハルヒ「でも生きてるじゃない。それにドッペルゲンガー……長いからドッペルにするわ。 ドッペルっていうのは本人にしか見えないって言われてなかった? 脳内の病気で見える幻覚だとすれば本人以外には見えるはずが無いと思うんだけど」 古泉「元々世界で数例の未確認情報しかない現象ですから、例外はあるのでしょう。 幻覚の類だと思ってください。集団催眠のようなものがあることは前にも説明したとおりです」 ハルヒ「そうね……それにドッペルは雪山とかでよく見られる幻覚とも言われているらしいからね。 たしかブロッケン現象って言われてるんだっけ? そんなものもあるらしいからね。 シャミセンの分身か……。猫にもドッペルがあるなんてね」 古泉「しかし、その分身を何かの偶然で長門さんが見つけてしまい、 長門さんのバカパワーの前に葬られてしまった。分身が葬られたことで、 元のシャミセン氏は生き延びられたというわけです」 ハルヒ「死んだと思ってたシャミセンは分身の方だったのね。 でも元々分身は幻覚だから死体も消えてしまったというわけね……なるほどね」 古泉「さすが涼宮さん。僕なんかよりもお詳しいようで」 ~~~ キョン「最後の説明でよくハルヒが納得したな」 古泉「涼宮さんがオカルトマニアで助かりました。彼女はああいう話には弱いみたいでして」 キョン「最後は自分で勝手に解釈して納得してたもんな」 古泉「彼女はオカルト的な現象に出会うと自らの理論を展開し、科学的な証明を無理矢理にでも 立証させようとする性質があるようです。そのおかげでまだ自分では超常現象に出会えてないと思っているようですが。 ブロッケン現象も本来外で観測されるもので、部屋の中で見ることはないと思うんですがね。 何にしても涼宮さんがそれでいいならいいのです」 キョン「ところで今日はこれで終わりか? 他に何もなかったっけ?」 古泉「そういえば……何かを忘れているような気がするんですがね……」 長門「……」 キョン「あ、長門! お前どこに行く気だ! もう暗いから外には行くんじゃありません」 長門「でも……」 キョン「ダメ! お前が動くとろくなことが起きないんだから、家の中でじっとしていなさい」 古泉「もうこれ以上の殺人事件はこりごりですよ」 長門「ま……いいか……」 ~離れの部屋~ 圭一「まだかな……ハラヘッタ……グッタリ」 第二の殺人事件が始まっちゃうにょろ。 っていうか雪山の話なのにあたしが出てないってのはどういうことさっ! あたしの別荘だぞおおおおっ! ──完── 第65話おまけ(未投下) 地獄の沙汰もバカしだい 長門「ここが地獄……」 閻魔「わしが閻魔大王である。長門有希、その方の裁判を始める」 長門「異議あり!」 閻魔「まだ何も言っておらん。その方、この報告書にあるとおり、相当のバカだったらしいな」 長門「そんなはずはない。その報告書はちゃんとわたしが偽造した」 閻魔「偽造をした後に本物の報告書を処分することを忘れていたので、こうして報告書が2部あるのだが」 長門「……うかつ」 閻魔「それによく見るとお主はまだ死んではおらぬようだが」 長門「猫を返してもらいに来た」 閻魔「なんと、猫をな。そんなことのためにわざわざ地獄の門までやってきたと言うのか」 長門「そう」 閻魔「しかしどの猫か名前もわからぬことには生き返すことも出来ないぞ」 長門「えっと……名前はたしか……シャ、シャ」 閻魔「シャ? シャなんだ?」 長門「えっと……シャ……シャミ……」 閻魔「頑張れ頑張れ」 長門「そう、たしか……」 キョン「で、それはなんだ」 長門「ハシャミー!」 妹「うわぁ~ん……シャミー!」 第66話 落としバカ 妹「キョン君お年玉ちょうだ~い」 キョン「なんでだよ。お前は親戚のおじさんやらおばあちゃんから十分もらっただろ」 妹「ケチンボー」 長門「毛チンポー」 キョン「……いつからそこにいた、長門」 長門「お年玉をいただきに参りますbyキャッツアイ。っていう年賀状が届いていたと思うけど」 キョン「あれはお前か。年賀状じゃなくて予告状っつうんだあれは」 長門「お年玉をもらえるまでここを動かない」 妹「わたしもー」 キョン「わかったわかった。じゃあ待ってろ。今用意してやるからな」 長門「わーい」 妹「わーい」 キョン「このボールをよーく見てろよ。ボト はい、落とし玉」 妹「……ペッ。何百年前のダジャレだよそれ」 キョン「……すまん。金がなくてな」 長門「わーい、お年玉お年玉~。ありがとう」 キョン「……」 妹「……」 長門「ありがとう。大切にする。あなたからもらったお年玉、一生忘れない」 キョン「いや、長門これはな俺の超一流のジョークというやつで……」 長門「むむ、返して欲しいといってももうこれは返さない。わたしのお年玉」 キョン「まあ、お前さえよければいいけど……」 長門「いい。わたしにとってこの地球上に存在する程度の物は、どれも価値はあまり変わらない。 あなたからもらったという行為自体がわたしにとっては宝物」 キョン「良いこと言うなぁ。妹よ、お前も見習いなさい」 妹「なんか超後味悪ぅい……」 ~新年やらせ番組~ 完 第67話 バカい運祈願 朝倉「あら、山根くんも初詣?」 山根「やぁ、朝倉さん。偶然ですね」 朝倉「すごい偶然よね。まるでわたしの後をついてきたかのような偶然だわ」 山根「そんなことしてません」 朝倉「おみくじ引きたいんだけどお金が足りなくて困ってたところなの」 山根「100円すらも持ってきてないんですかあなたは」 朝倉「いいからいいから」パシッ 山根「あ、僕の財布取らないでください」 朝倉「いいから」 山根「いや、よくないです!」 朝倉「どれどれ……あら。このおみくじ素敵」 山根「なにを引いたんですか?」 朝倉「大凶」 山根「はぁ……朝倉さんにはお似合いですね」 朝倉「今時こんなものを入れておく神社なんてそうそうないわ。これは新年早々ついてるわね」 山根「まあ……確率的には一番低いところですからね……」 朝倉「待ち人:遅れてくる。仕事:変化がなく退屈になる。願望:友人に邪魔される。 方角:北は凶。友人関係:普段無口な人に裏切られる。学問:バカ 勝負運:二度やって二度とも失敗。健康:死兆星を見る。結婚:それ無理。 アンラッキーカラーは青。アンラッキー役職は委員長。アンラッキーアイテムはナイフ」 山根「それ本当におみくじなんですか?」 朝倉「おみくじ引いた残りは全部お賽銭に入れるわね ポイッ ジャラジャラジャラー」 山根「やめて~やめてくれ~。ああぁぁぁぁ!」 朝倉「いいことした後は気分がいいわ」 山根「ひどいことをしながら言わないでください」 朝倉「大丈夫。困っている人が救われますようにって願っておいたから」 山根「まず僕を救ってください!」 第68話 おめでたいバカ 喜緑「あけましてーおめ●(ピー)とうございま~す!」 会長「はいはい、おめでとうおめでとう。新年最初から君に会うなんてなんともめでたくないけどな」 喜緑「もう~、会長ったら照れちゃって~。新年最初にやらなきゃいけないことまだやってないじゃないですかー」 会長「なにを言っている。初詣ならもうすでに1人で済ましてきた」 喜緑「ひ・め・は・じ・め。お忘れですよね♪」 会長「するかっ!」 喜緑「あぁ~ん、会長新年最初のツッコミをいただけるなんて最高の気分です~。 股間にジュンってきましたジュンって」 会長「私は最悪の気分だがね」 喜緑「じゃあ、気分を変えて書初めでもしませんか? ティッシュはご用意できてます」 会長「……何をする気だ」 喜緑「マスのカキ初め……ゴクリ」 会長「帰ってくれないか」 喜緑「じゃあコマ回ししましょう! この振袖の帯を持って思いっきり引っ張ってください」 会長「コマ回しはそういう遊びじゃない!」 喜緑「コマして輪姦されるのでも構いませんが」 会長「もっと自分を大事にしたまえ」 喜緑「カルタ遊びとかはどうです? わたしが看護婦役やりますから」 会長「カルテ遊びじゃない!」 喜緑「羽根突きしましょう! わたしが羽役やりますから会長は後ろから突いて下さい」 会長「どんだけ危ない遊びだそれは」 喜緑「凧揚げはどうですか? 凧を揚げている会長を後ろから襲います」 会長「凧関係ないだろ! もう何でもいいって思いやがったな!」 喜緑「はぁ……はぁ……だいたい正月ネタはこんなものでしょうか」 会長「ツッコむ方の気にもなってくれ」 喜緑「そうだ会長、一緒に初詣行きましょう!」 会長「私はもう行ったと言っているではないか」 喜緑「わたしはまだなんですが」 会長「勝手に君1人で行ってきたまえ」 喜緑「会長と行きたいんですぅ」 会長「私はもう十分だ。お参りを済ませて君に振り回されない一年を願ってきたのだ。 一日くらいその願いを叶えさせてくれないか」 喜緑「そうですか~。わっかりました~」 会長「今日はやけに聞き分けがいいな」 喜緑「いいえ、おめでたい日に泣いたりしてしめっぽくなるのはどうかと思いまして。 でも……今日のために振袖用意したのになぁ……。高かったのにこれ……ぐす」 会長「自分で言ってておめでたい日にしめっぽくしないでくれたまえ。行けばいいんだろ、行けば」 喜緑「え!? じゃあ一緒に行ってくれるんですか!?」 会長「ああ、近所の神社でよければな」 喜緑「じゃあ、神社でやりましょうね。姫始め」 会長「だから違うっつの!」 69回記念エロ話 第69話 バカ喪失 長門「あなたにお願いがある」 キョン「ん? どうした?」 長門「わたしの処女をもらってほしい」 キョン「ぶはぁっ!」 長門「何をそんなに驚いている」 キョン「そんなはしたない事口走るんじゃありません!」 長門「わたしも年頃の女。もう処女を卒業してもいいと思う」 キョン「ほ、本気か?」 長門「わたしならいい。心の準備は出来ている」 キョン「どうして急に……」 長門「朝倉涼子も喜緑江美里ももう卒業したと聞いたから」 キョン「そうだったのか……でも無理に他人に合わせることはないんじゃないか?」 長門「わたしのこと嫌い?」 キョン「いや……き、嫌いなわけないだろ」 長門「わたしもあなたがいい。あなたが好きだから」 キョン「長門……」 長門「でもここじゃ嫌。場所を変えて欲しい」 キョン「あ、ああ、もちろんだとも」 ~~~ キョン「ホテルの前まで来て言うのもなんだが、いいのか本当に?」 長門「いい。ここに来るまでに覚悟は決めた」 キョン「そ、そうか、じゃあ、入るぞ」ドキドキ 長門「……」コクリ キョン「お前もシャワー浴びてこいよ」 長門「うん」トテテテ キョン「はぁー、緊張すんなー」ドキドキ 長門「シャワー完了」ホカホカ キョン「うおぉっ、ドキィ!! 服着ろよ!」 長門「このままでいい」 キョン「そ、そうか。じゃあ長門……さっそく始めてもいいか?」 長門「待って。こういうの初めてだから……」 キョン「どうした? やっぱり怖いのか?」 長門「……少しだけ」 キョン「むはーっ。か、かわいいぜ……ドキドキ……やばい、もう興奮してきた」 長門「ちゃんと気持ちよくしてくれる?」 キョン「ああ、俺も初めてだけど努力する」 長門「あ、ゴム忘れた……」 キョン「うぉっ、そうだった……ど、どうする?」 長門「もしものときは……大事にしてくれる?」 キョン「あたりまえだろ。お前のことは一生大事にするぜ(ここまで来ていまさら引けるかよ!)」 長門「それじゃあ電気を消して……」 キョン「あ、ああ」パチリ 長門「前戯ってわかる?」 キョン「いや、なんとなくしか……」 長門「がんばれ前戯」 キョン「『がんばれ元気』だろ」 長門「そう、それがわかるなら漫画好きなはず。じゃあ、はい、これ」ドサッ キョン「ん? なんだこの大量の漫画本は」 長門「……6部までで80巻。もらってほしい」 キョン「処女じゃなくてジョジョかよおおおぉぉ!!」 長門「輪ゴムで止めた方がよかったと思うけどなかったから……じゃあ、大事にしてね」 キョン「あの……ホテルに来た理由は?」 長門「そんなのあなたが勝手に選んだだけ。もう帰る」 キョン「いらねええよおおおお! 俺もジョジョ全部持ってるしいいぃぃ!」 長門「あー、気持ちいい」 ~ジョジョ喪失~ ─ 完 ─ 第7部最終回 第70話 ハンドボールバカ 岡部「えー、今日の体育は5組と6組の合同体育ということで、 お互いの親睦を深めるために、何か好きな球技で対戦することにします。 みんなはどの球技にしたいかなー?」 「バスケーやりてえ」 「サッカーだろ」 「バレーボールがいい~」 岡部「んー、それもいいんだけどなー。誰かハンドボールやりたいって人はいないかなー。 やってみれば結構面白いんだけどなあ~」 シーン…… 岡部「い、いや、別にそんなに無理にお願いしてるわけじゃないんだぞ? うん、ただちょっとだけ興味があるなーなんて思ってたらいい機会だと思ってな~」 シーン…… 岡部「ハンドボールは究極の球技なのに……う、うぅ……」 長門「ハンドボールにはとても興味がある」 岡部「おぉぉー、長門、お前はハンドボールのことをバカにしていないんだな!」 長門「まずルールを知りたい」 岡部「そうかそうか、じゃあ、お前にもわかりやすいように説明してあげるからよく聞いていなさい」 長門「わかった。聞いてあげる」 キョン「長門のせいでハンドボールやることになってきたぞ……」 ハルヒ「有希のことよ。きっと何かたくらんでいるに違いないわ」 岡部「まずハンドボールは7人でやるスポーツだ」 長門「つまりわたしが7人いればできるということ? 長門Aから長門Gで」 岡部「んんん? 何を言ってるんだ?」 長門「気にしないで、続けて」 岡部「ハンドボールはボールを手で持つ競技で、ゴールにボールを投げ込んだら一点だ」 長門「ボレーシュート。ゴォール」バシュー 岡部「違う。それはサッカーのゴールだ。ハンドボールにはハンドボール専用のゴールがある」 長門「じゃあ、このゴールはわたし専用。赤く塗る」 岡部「それと足を使ったら反則だ」 長門「足を使わなかったら空を飛べとでも? 寝転がりながらやる球技なの?」 岡部「違う。足に当たったら反則とでも言いなおそう」 長門「当たってるんじゃない。 当 て て ん の よ 」 岡部「同じことだ! それとボールは3秒以上持ってはいけない。すぐに味方にパスしないといけないんだ」 長門「じゃあ、あなた達はどうやって試合をするの?」 岡部「ん? どういうことだ?」 長門「股間のボールを2個も持っているのに」 岡部「これはいいの! 持ってないとダメなの!」 長門「でもわたしはもってない。……ハッ。これがもしかしてこれがお年玉という物!?くれるの?」 岡部「ダメです。あげません」 長門「独身貴族が」 岡部「関係ないだろぉぉ!」 岡部「それとボールを持って3歩以上歩いてはいけない」 長門「ちんぽ異常なら歩いてもいいの?」 岡部「そんなヤツは試合に出ちゃダメだ」 長門「反則をするとどうなるの?」 岡部「反則の種類によって違うけど、基本はフリースローだな」 長門「ケツバット……罰ゲームみたい」 岡部「おい、聞いてるのか? 人の話」 長門「裸でやるスポーツだというところまで聞いた」 岡部「ぜんっぜん聞いてないなお前」 長門「とにかくゴールに入れれば妊娠」 岡部「そんなに危ないスポーツじゃないって!」 長門「ゴムに穴を開けるのは反則」 岡部「ゴムなんて使わん! 使うのはボール一個だけだ」 長門「でもあなた達は二個もってる……」 岡部「だからこれはぁ!」 キーンコーンカーンコーン キョン「ナイス長門」 ハルヒ「説明してる間、ずっとみんなで適当に遊べてたから面白かったわね」 岡部「うぅ……なんてバカなんだ」 長門「ハンドボール……したかったのに……」 ~~敵は己のバカ~~ 第7部おわり 第8部へつづく
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長門「……通信開始……情報統合思念体……応答して……」 思念体「ザー……どうした製造番号2……ザザー」 長門「……光熱費及び水道料金、それに学費が滞納している、限界……至急振り込んで欲しい……」 思念体「ザザー……これ以上の紙幣増刷は社会に影響を及ぼす……不可……ザー」 長門「ではどうすればいいの……?」 思念体「自身での対策を求む……ザー……とにかく情報統合思念体はこれ以上のサポートは出来ない……」 長門「……わかった……」 翌日 長門「……私を臨時雇用してほしい……」 パチンコ店店長「ん~……悪いけど、君みたいなか弱い女の子に出来る仕事はないな」 また翌日 長門「臨時雇用してほしい……」 本屋店長「……君、北高だろう? 北高の生徒の万引きが今多いからねぇ……」 その夜 長門「…………」 ドンドン!! 集金「いい加減に払って貰えないと配電止めますよ! ……いるんでしょ!?」 長門「……どうしたら……いいの……」 カチッカチッ 長門「……あ……」 長門「ご飯炊けてない……電子レンジも……電子コンロも……つかない……」 長門「……朝ごはん食べれない……」 放課後 ハルヒ「……正直言って、こんなバカな事、予想もしてなかったわ……」 みくる「うっ……ううっ……」 キョン「……」 古泉「……」 長門「……」 ハルヒ「ねえ……? 誰なの、みくるちゃんの財布盗ったのは……この中にいる以外に無いわよ……?」 みくる「……ううっ……」 キョン「……俺は違うぞ」 古泉「僕も……そんなにお金には困ってませんしね……」 長門「その……私も……」 ハルヒ「……誰かが盗らなきゃ勝手に消えたりしないでしょ!? 昼休みにみくるちゃんがバックをここに置いたんだから、落としたなんてのもあり得ないわ!!」 みくる「ううっ……うううっ……」 キョン「……だったら、その時から今までで部室に最初に来た人間しかいないな……」 古泉「確か今日……僕が来たときは……長門さんが、いましたよね……?」 長門「……確かにいたけれど……私は……違う……」 ハルヒ「まさか……もしかして有希なの……? 違うわよね……? 有希……!?」 長門「……その……私……私は……」 その夜 プルルル、ガチャ キョン「はい、もしもし」 ハルヒ「キョン? 私よ。ちょっといい……?」 キョン「ああ……ハルヒか。どうした?」 ハルヒ「……今日、あの後……私と有希だけで部室に残ったじゃない……?」 キョン「あ……ああ……それで……?」 ハルヒ「有希……有希のバックから、みくるちゃんの財布……見付けたわ……」 キョン「な……マジか!?」 ハルヒ「嘘言ってどうするのよ!? 私、もう……どうしたらいいの……!? なんて有希に言ったらいいのかわからなくて……」 キョン「その……だな……まず理由を聞いてみたほうが……」 ハルヒ「聞けなかったわ……聞ける雰囲気じゃなかった…… ……何も言えなくて、帰らせちゃったけど……私……どうしたらいいのかわからないわ……」 キョン「……とにかく明日の部活までは、どうすることもできん……お前は疲れてるんだ、今日はもう寝ろ」 ハルヒ「……わかった……ありがと……キョン……じゃあね」 ガチャ ツーツー キョン「……どうしたらいいのかわからない……か……」 翌日 放課後 みくる「……長門さん……だったんですか……」 長門「……」 ハルヒ「……」 キョン「……」 古泉「……」 みくる「……どうして……? 私の事が嫌いだから……?」 長門「……」 ハルヒ「……みくるちゃん」 キョン「……」 古泉「……」 みくる「……なんなの……私が何をしたの……!?」 長門「……」 みくる「いくらなんでも……人間として最低ですっ!! ……絶対許さないから……」 長門「……(私は……私は、どうすれば良かったというの……? 情報統合思念体……答えて……)……」 翌日 放課後 ガチャ 長門「……」 ハルヒ「あ……」 キョン「……」 古泉「……」 みくる「……そろそろ……お茶入れますね……」 スタッ みくる「はい、涼宮さん」 ハルヒ「あ……うん……その……あ、ありがと……」 みくる「キョンくん……どうぞ」 キョン「あ……ああ、どうも……」 みくる「古泉くん、はい」 古泉「……ありがとうございます」 長門「…………」 みくる「……なに見てるんですか……? 長門さんの分なんて入れてませんよ……?」 長門「……そう」 みくる「そんなにお茶が欲しいなら……誰かのお財布からお金とっていくらでも買えばいいじゃないですか……!!」 キョン「……朝比奈さん……」 ハルヒ「ちょ、ちょっとちょっと……みくるちゃん……そんな言い方……」 古泉「しかし……まあ……朝比奈さんの言うことにも一里ありますし……」 長門「……」 キョン「……悪いけど……俺、今日帰るわ……」 ハルヒ「ちょっと待って……私もいく」 古泉「僕もです……この空気は耐えきれません……」 みくる「じゃあ私もいきますけど……長門さんはついてこないで下さい……」 バタン 長門「……うっ……どうしてこんなことに……」
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DYLAN(でぃらん) ※現在、当該作品はURL凍結中とのことです。他の作品は閲覧できるようです(2012.01.26 管理人) 掲載サイト 宵待ち坂 ジャンル 現代 ページ数 500ページ以上 描画法 鉛筆ラフ→ペンタブ 夏 ★★★★★ 状態 完結 主人公 男女 【概要】 おバカな長姉、料理好きな次兄、しっかり者の末の妹。 田舎町に引っ越してきた三人姉弟たちの夏の物語。 紹介・応援コメント 凍結される前に読んだ漫画。当時は、月に何百作品と読みあさっていたから内容はあまり覚えていない。けれど、ラストで胸が締め付けられた事をはっきりと覚えている。 レビューを書く この作品が好きな人におすすめのweb漫画 才色兼備 人生ゲーム 南の島のレズビアン 河野さん家の日常 リッスン DYLAN(でぃらん) デブと美人 このページの登録タグ 500ページ以上 完結 感動 新都社 日常 現在非公開 このページのトラックバック trackback トップに戻る
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部室の前に到着して、急いでドアノブを回そうとした自分の手を、俺はギリギリのところで思いとどめた。 そうだ。忘れるな。今ここはSOS団の部室なんかじゃない。そんな部活は存在しない。 ここは……文芸部の部室なんだ。 「ふう……」 一度ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ちつかせてから、目の前のドアを見据え直す。 今回は……いきなり襲いかかるようなマネはしないようにしないと。 握りしめた拳の中で汗がジンワリと噴き出てくるのがわかった。 もう一度大きく深呼吸をする。 ……くそ…緊張するな…… だけどこんなところで立ち止まってるわけにはいかないんだ。 トントン 小さく二回、ノックする。返事はない。 だが俺はかまわずに金色の冷たいノブを回して、ドアを開いた。 「長門……」 「……」 長門はやっぱり、そこにいた。 パイプ椅子に座って、本をその両手に持って。いつも通りの格好で。 窓から射す夕日が反射して、うまく表情を見ることができない。だけど、どうやらメガネはかけているようだった。 「……」 その瞬間。半年前のあのできことが…… いや、あの時の長門の姿が、フラッシュバックのように鮮明な映像となって俺の頭の中で蘇った。 「……」 無理やり掴んだ俺の腕の中で、怯えるように震えていたあの時の表情。 顔を薄っすらと赤く染めながらも、ひたすら本を読み続けていたこと。 俺があいつの家から帰ろうとした時、服を掴んで引き止めてくれたこと。 白紙のまま返した入部届けを見て、泣き出しそうになっていた時の表情。 ……そして…… 一度も見たことのなかった、あの笑顔…… 「なが……」 俺がもう一度その名前を呼ぼうとした時、長門はすっと静かな動作で椅子から立ち上がった。 「な……」 「どうして……」 「……あなたが、ここに……」 そう言って長門が一歩前へと踏み出したおかげで、俺はようやく彼女の表情を確認することができた。 あの時と同じだ。口がわずかに半開き。そして、必至に冷静さを保とうとしているようだが、明らかに驚いているのがその顔に表れている。 こんな表情……本当の世界の、宇宙人のあいつなら、絶対に見せることはない。 それを見て確信した。間違いない。この長門は…… あいつのバグ……いや違う。そう、あいつの願望、本心が作り出した、あの時のあの世界の長門だ。 ホントにわずかな……たったの三日間だったけど、共に過ごした。 宇宙人でもなければ万能でもない、ちょっとシャイな、ごく一般的な文芸部員の女の子。 「……」 ……なぜだろう。胸が熱くなった。 たまらず涙が頬を伝った。 「……」 止まらなかった。 「くっ……ズズッ…」 拭っても拭っても、決壊したダムのような勢いで涙は勢いよく溢れ出てくる。 どうして……こんなに涙が出てくるんだ? 「…あ…ははは……ごっ、ごめん…」 ……そう。 懐かしかったから……いや、嬉しかったから。 俺は……もう一度会いたかったんだ。 長門に……いや、この子に。 あの時エンターキーを押して、俺は元の世界へ帰ることを願った。だけど…… また、会いたかったんだ…… 「グズッ……ズズッ…」 窓から差し込む夕日を後ろに背負う長門の姿が、ユラユラと霞んで見えた。 「……どうして……」 「え…」 「どうして泣いているの……」 「あっ、わ、悪い…」 俺は慌てて上を向き、目頭を親指と人差し指で押さえて、必死に零れ落ちる涙を抑えた。 「……」 …少しの間、オレンジ色に染められて幻想的な雰囲気をかもし出している部室の中に、沈黙が落ちた。 上を向いて嗚咽をこらえる男に、それをボンヤリ眺める女の子。はたから見れば、それはなんとも奇妙な光景だったことだろう。 「……ふうーっ……」 …どうやら、なんとか収まったようだった。 「……悪くない」 「え?」 「泣くこと……」 「あ……」 「別に……悪くない……」 長門がポツリと呟いたのをなんのことかと思ったが、どうやら30秒ほど前の俺の言葉への返事だったらしい。 「はは…」 それでまた少し嬉しくなった。なんとも長門らしい返答だ。 こっちの。 「あ、あのさ長門…」 「……」 「俺のこと…覚えてくれてるか?」 「……」 「……覚えてる」 「そ、そっか……」 「……」 「はあ……ははは。よかった。ちょっとだけ安心したよ」 べつに事態が好転したわけではない。帰るための手がかりが見つかったわけでもない。 だけど、それなのに……長門が覚えていると言ってくれたことは、地獄の淵にいた俺の手を、強く握って這い上げてくれたような気持ちにさせてくれた。 こいつには……なんの力もないのに…… それなのに、どんな時だって長門の言葉は、俺に勇気を与えてくれる…… それはこっちの世界だろうがあっちの世界だろうが、変わらない…… ドクン… 「……」 …なんなんだろう。この気持ちは。 わからない……けど、今は深く考えないことに…しておこう。 「……もう」 「?」 「もう……来ないかと思ってた」 「え? どうして?」 「……」 もう来ないって? どうしてそんなことを言うんだろう。 俺のことを知っているってことは、あの事件があってからこの半年あまりの間だって、俺は存在していたということになる。よな? そしてきっと、俺はあのエンターキーを押した瞬間に、こっちの自分に……そう、 こっちのやつらから見たらいつもの俺へと戻ったんだと思う。この世界が存在を続けているわけなのだから。 そしたらきっと、あの場にいたハルヒ達とまたSOS団を校外にだろうが作りあげて、苦労しながらも面白おかしくやっているんじゃないかと思っていた。 そしてそこには、きっとここにいる長門の姿もあるものだと…… 「な、なあ。なんでもう来ないと思ってたなんて言うんだ? 俺、もしかして、おまえと会ったの久し振りか?」 俺の言葉に長門は困惑したような、訳がわからないといったような表情をあの時と同じように見せていたが、 しばらくの間を置いてから、コクリと小さく頷いた。 「な、なんでだ? す、スマン。あの……できたら、去年の12月20日、あの日──」 「…あの、俺がお前に入部届けを返したあと、あの後、いったい何があったか、教えてくれないか…」 「……」 長門は…俺が元の世界へ帰った日から今日までのことを、ゆっくりと静かな口調で詳しく教えてくれた。 あの後、パソコンのエンターキーを押した途端、俺はまるで糸が切れた人形のように派手にぶっ倒れたらしい。 だが、しばらくしてから保健室の布団の中で目を覚ました。…どうやらそこまで運んでくれたのは長門のようなのだが… そして、キョロキョロと辺りを見回したあと、長門に一言礼を言って、恥ずかしそうに帰って行ったそうだ。 そしてそれからというもの、文芸部の部室へは顔すら出していないらしい。 ハルヒも、長門が俺を見舞い終わってから部室に帰ってきたら、どこにもいなかった。無論、古泉も、朝比奈さんも。 そいつらももうそれ以来やってくることはなかったそうだ。 なんじゃそりゃ。 「……」 ……何考えてんだよ……こっちの世界の俺は…… いや、ハルヒもだ。あれだけ大騒ぎしていたのに、ちょっと面倒なことになったから顔すら出さないってのか? ふざけんなよ。 くそっ。こんな寂しそうな長門を一人にして放っておくなんて……死ね、俺。 「……それから」 「それから?」 「…か…」 「……付き合っている人も、いるみたいだった……」 …… 「……は?」 「…付き合ってる人…」 「……」 「な、なんだって?」 「……」 ……つ…… ……付き合ってる人って……つまり…… ……彼女って、ことか…… 俺が? 「…えー……あー、うーん……」 「?」 「スマン。あの…なんか変な質問なんだが……いや、変な質問なのは最初っからだが…」 「…俺はいったい、誰と付き合っていたんだ?」 「……」 長門はなぜかうつむくと、消え入りそうなくらい小さな声で言った。 「…あたしの知らない人…」 「え?」 「元…8組の人…」 「……」 元……8組……? 誰だろう? 8組なんて一回も行ったことがないぞ。一人の名前も顔も思い出せない。 クラス構成は9組以外は特に変わってはなかったはず……ってことは、こっちの俺だって同じはずだ。 ちくしょう。それなのに俺はそんなクラスの子とうまくやったってことなのか。信じられん。 「……キレイな人だった……」 「……」 ……ますます信じられん。 このクソ野郎。長門のことを放っておいて何自分だけヨロシクやってやがんだ。 覚えのないことで自分自身に腹を立てるというのは何とも妙な感覚だったが、とにかく、むかついた。 「でも……」 「…今は、知らない」 …もうとっくに別れていることを、本気で望む。 じゃないと明日からますます面倒なことになってしまいそうだ。 ……しかし…… 「……」 ……自分自身のことを聞くなんて、まるで病院から抜け出してきた記憶喪失患者みたいにわけのわからないことを俺はしているのに…… それでも長門は…何も聞かないんだな…… それがとても不思議だった。 …もしかしたら。 こいつは…今までの、こっちの世界の俺と今ここにいる俺は別人で… そして、あの三日間をいっしょに過ごした俺こそが、今ここにいる俺と同一人物だと言うことに気付いているのかもしれない。 …気付くはずはない。 なぜなら、今ここにいる長門は、空間移動なんかとはまったく無縁の普通の女の子だからだ。 しかしそれでもこいつなら……長門なら、もしかすると感覚的に気付いてくれているのかもしれない。 長門なら。 ……もしホントにそうなら、大変助かるんだが…… 「あっそうだ!」 そこまで考えて、俺はようやく重大なことを思い出した。 ここに、この部室に俺がやって来たもう一つの理由。 現実の世界からの、長門の助け。 ガタッ! 俺は大きく飛び込むように踏み出して、窓際にたたずんでいた長門との距離を一気に縮めた。 「…!!」 …しまった。眼前の長門が怯えたような顔をしている。 またあの時のように襲われると思ったんだろうか。そんなつもりじゃないんだ。 「…長門」 「……」 「…パソコン、借りていいか?」 「え……」 「あ……うん……」 長門は思い出したように一度だけ頷いた。 「悪い」 相も変わらず古臭い旧型パソコンの電源を急いで入れる。 やっぱり変わってないな。SOS団の新型より、三世代ほど前の代物だ。 古泉がこれを見たときにアンティークものだと言っていたっけ。 ウイイイイイイイインン… パソコンはガタガタと嫌な音を上げながら、イライラする、まるで牧場にいる牛のようなのんびりとしたスピードで、ゆっくりゆっくりと起動を始めた。 俺を怒らせるためにわざとやっているんじゃないかと言いたくなってしまうような遅さだ。 「あっ待って」 ようやくパソコンが完全に立ち上がった時、俺が掴んでいたマウスを横から手を出してきた長門が奪った。 そしてパソコンとは正反対のもの凄いスピードで、デスクトップに出しっぱなしになっていたフォルダをマイボックスにしまいこんでいた。 「……」 …前も同じことやってたな。 「…何しまったんだ?」 「……」 「…自分で書いた小説?」 そう俺が言った瞬間、長門の顔がまるで勢いよく火がついたように、ボッと赤くなった。 「…違う」 少し荒い息を吐きながら、真っ赤な顔をして必死に否定する長門。 そりゃ、さすがにバレバレだよ。嘘を見抜くことは得意なんだ。 「嘘だ」 「…嘘じゃない」 「小説だろ?」 「…違う」 「嘘つけよ~」 「…嘘じゃない」 同じ言い訳を繰り返す長門を見て、ああ、やっぱりこっちの長門は普通の女の子なんだなと改めて思った。 それも、とびっきりにかわいい。 「なあ、今度読ませてくれよ。前から読んでみたかったんだ。頼む」 「……」 「…わかった」 「ホントか? 約束だぞ!?」 「約束する」 俺は笑った。長門も恥ずかしそうだったが、どこか嬉しそうな表情だった。 「!!」 その瞬間、視界の横で、起動していたパソコンの画面が急に真っ暗なものへと変わった。 停止した? …いや、違う。 この画面は。 何秒かの間があってから、その真っ暗な画面の中に白色の文字で、自動的にタイプが始まった。 YUKI・N> やっぱり…予想した通り。 長門。そっちでもおまえは見ていてくれたんだな。ホントに頼りになるヤツだ。 この画面と文字になるのも何度目のことだろう。俺にとってはすっかりお馴染みだから驚くこともない。 それにしてももうヒントなんて、今回は随分気前がいいじゃないか。 >そこはパラレルワールド 「パラレルワールド…?」 パラレルワールド。 ついさっき、耳にした言葉だった。さっきもさっき、今日の昼休みだ。 あっちの朝比奈さんがご飯を食べながらも、熱く語ってくれた。 >あの時あなたが、別のキーを選択した世界の未来。 「別のキー…」 別のキーってのはもしかして、脱出プログラム作動させる時の、エンターキーとは違うキーってことか。 …俺が選んだのとは別の、宇宙人も未来人も超能力者も、そして神様もどきみたいなヤツもいない、平穏な世界。 朝比奈さんの長い講釈をぼんやりと思いだした。 「キョン君にもありますよね? 二者択一の選択を迫られて、どちらかを選んだということが。 そしてその選択の結果を悔やんだこともありませんか? 間違ったーっとか、ああこうしていればなあ、とか。 そんな失敗や成功を経て辿り着いたのが今のわたしたちの世界というわけなんですけど、実は別の方を選んだ場合の未来も、ちゃんと存在してるんです」 「ほうほう」 「間違ったほうの世界、正しかったほうの世界。世界は、何通りも存在してるんです。あたしたちがいる世界だけが現実じゃない。わかりますか?」 …なるほどね。 ここは、俺がエンターキーを押さなかった世界。 どういうわけか押したはずの俺が、押さなかった方の世界に迷い込んじまったってわけか。 黙って考え込んでいると、再びスクリーンにタイプが始まった。 >さらにその世界の中でも、何通りにも枝分かれする未来の一つ。 「その世界で、何通りにも…?」 どういうことだろう。俺は考えた。 それは、俺がこの世界を選択するエンターキーを押した後から、その後の未来のことだろうか。 その後の世界も、何通りにも分かれているということだろうか。 つまりもしかしたら、平穏な中でも俺達はあの時集まったハルヒや古泉や朝比奈さん、そして長門たちと、SOS団を組んで活動していた未来もあるということだろうか。 たとえ神様や宇宙人や未来人や超能力者がいなくても。 そしてそれは、俺がエンターキーを押す直前に、泣き出しそうな表情の長門の見て、そうなって欲しいと強く願った未来だった。 そうだ。きっとあるはずだ。そんな未来だって。 今の一人ぼっちの長門は…あまりにも寂しすぎる。 こんな世界だけがたった一つの現実なんて、そんなことあっていいはずがない。朝比奈さんだって言っていたじゃないか。 「……」 横を向いて、長門の顔を見た。茫然とした、無垢な表情だった。 …そうだ。あるさ。きっと。 「…でも」 俺にはどうしてもわからなかった。 カタカタカタカタ >どうして俺は、こっちの世界にまたやってきちまたんだ? 直接キーボードを叩いて文字を入力した。これがこっちから自分の意思を長門に伝える唯一の連絡方法だ。 >前回はおまえの意思で俺をこの世界に送った。でも、今回は違うだろ? なぜだ? 何秒かしてから再び返信がくる。 >わたしにもわからない。 わからない…? おまえが作った世界じゃないか。 カタカタカタカタ >どういうことだ? >わからない。でも、帰還方法はある。 「…え…!?」 >あるのか!? 戻る方法が? >ある。ただし少し時間がかかる。 「時間…」 時間ってなんだ。まさか五年とか十年とか言うんじゃないだろうな。 >どれくらい? >一週間。その時またそこいて。あなたを連れ戻す。 「一週間…」 俺がそう小さく呟いた途端、今まで写し出されていた文字が画面の上から全て消えた。どうやら本当に電源が落ちてしまったらしい。 いくらキーボードを叩いても、スクリーンは真っ黒のままだった。 「一週間か…」 うん。 べつにたいした時間じゃない。この前だって、一瞬に感じたけど三日もここにいたんだから。 よかった。あいつが…長門が断言したんだ。絶対間違いはないだろう。今回は安心してもよさそうだ。 「YUKI・N…」 「?」 「…わたしの名前…」 横で長門が青い顔をしながら俺に聞いた。 「…どういうこと?」 「え、あ、ああ、うん。これにはその…もの凄ーい深い事情があって…」 「深い事情…?」 「ああ。深いっていうかめんどくさいっていうか…で、でも、もう大丈夫。全然なんてことなかったからさ。はははは」 「……」 そう言うと、それ以上長門は何も追求してこようとはしなかった。 そのサッパリしたところがこいつのいいところだ。こっちでも、あっちでも。 「さーて」 俺は緊張の解けた身体を、ゆっくりと椅子から持ち上げた。 窓からもう半分沈んだ夕日を眺め見る。辺りの色はいつのまにか紫色へと変わっていた。 「どーすっかなー」 うんと背伸びしてから、間抜けに言った。 一週間の猶予。俺はその時間を、いったいどうやって過ごすべきなのだろう。 どうやって過ごせと言うのだろう。 …決まってるさ。 「あ、あのさ長門」 一言言ってから、俺は長門の目を見つめた。 すると長門は、たったそれだけのことでまた薄っすらと頬を赤く染め、下を向いて黙り込んでしまった。 「あの…」 「…何?」 「…入部届け、あるか?」 「…!」 俺がそう言うと、うつむいていた顔を長門はゆっくりと上にあげた。 そして今度は向こうから、俺の目を力強く見つめてきた。 「…ある」 「悪い。また一枚、くんないかな?」 「待って」 そう言うと、勢いよく傍の机の中をあさり始めた。 その様子を眺めながらふと横の棚を見ると、白紙の入部届けの束がキレイに揃えて置かれているのを俺は見つけた。 「あ、長門。ここに…」 「あった」 顔を上げた長門がその手に持っていたのは、クシャクシャの、白紙の入部届けだった。 「…そんなに必死に探してくれたのは嬉しいけど、ここにほら、新しいやつがたくさん──」 「あなたの」 「…え?」 そう言って長門が俺の傍へとテコテコと駆け寄ってきた。そして、すっと俺にそのクシャクシャの入部届けを差し出した。 それを見て、俺の胸に衝撃が走った。 「…まさか、これ」 「あなたの」 …この入部届け… 「…あの時の…」 コクリ 「……」 信じられなかった。 半年も前の、何も書かれていない入部届け。 しかもあの時俺が乱暴にポケットにしまったから、それでこんなにクシャクシャになってしまっているんだろう。 そんなものを、今まで大事に取っておいてくれたなんて… 「…な…」 「長門…」 長門は再び、照れたような顔をして下を向いた。 ズキンッ その時、俺の胸に中に小さな、でも鋭く尖った痛みが走った。 俺を…こんな冷たい俺のことを、ずっとずっと待ってくれていた、目の前で俯うつむく小さな彼女。 …今すぐ抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。 「……っ」 だけど俺は、自分の腕をを強く握って、ぐっとそれを抑え込んだ。 「…えと」 「?」 「あ、ありがと長門。あと…ついでに、何か書くもんあるかな?」 「ある」 そう言うと、長門は制服のポケットからゴソゴソと鉛筆を取り出して俺に渡してくれた。 「さ、サンキュ。えーっと、それじゃあ……はい、これ!」 「……」 「前に一回破棄しちゃったけど…今回はちゃんと正式に、文芸部に入部したい」 「……」 俺は一つ息を吐いてから、静かに続きの言葉を言った。 「許可して…」 「…くれますか?」 「……」 …一瞬の沈黙。 だけどすぐに、その沈黙を破って彼女は言ったんだ。 そう。ただ言ったわけじゃない。薄っすらとだったけど、あれは、確かに… 「認めましょう」 ──それは ずっと……俺が求めていたものだった。 エンターキーを押して、元の世界へ帰ってきて、たった一つ。ずっと、ずっと悔やんでいた。 もう一度だけ、見てみたかった。 長門の、優しい笑顔だった。 ──翌日。 「ふわぁ…」 重たい身体を布団から起こした俺は、眠い目を擦りながら自分の部屋の中をキョロキョロと見回してみた。 「……」 特に変わったところはない。 いつも通りの、何のおもしろみもない俺の部屋だ。 「…夢…」 …だったのか? もしかして。 だとしたら、随分リアルな夢もあったもんだ。こんなにリアルな夢はハルヒと閉鎖空間に閉じ込められた時くらいのもんだ。 まああれはどうやら夢じゃなかったようだが。 「おはよ~キョンくん~」 「ん…おはよ」 廊下で俺のことを滑るように追い抜いて行った妹が笑って朝の挨拶をした。 「…うーむ」 家族に特に変わった様子はない。猫のシャミにも別段変化はない。 前来た時もそうだったけど。 それにしても、これじゃ本当にまた別の世界にやってきてしまったのかよくわからないな… そう思っていたのが、焼けるような気温のなか教室にたどり着いくと、そんな甘い考えは通用しないのだとさっそく思い知らされた。 「あら、おはようキョン君」 「…おはよう」 ハルヒの代わりに朝倉がいるのだ。 「昨日もちょっと変なこと言ってたけど、今日は大丈夫?」 「大丈夫だよ」 …ふう。 こいつの顔を見ると、心底疲れる。 どうやら殺されかけたとかそういうのを抜きにしても、どうやらこいつとは根本から合わないようだ。 「しっかしよ~昨日の地震にはホントびっくりしたよなぁ」 横の席で谷口がいつものおちゃらけた口調で言った。本当にびっくりしたようにはとても思えない言い方だ。 だが…しかし。 「そう」 「?」 地震だ。 「……」 昨日学校から自宅に帰ってきたあとも、俺は眠らずにいろいろこの世界にやってきてしまった原因を考えた。 あの時長門が作り上げた世界の、その未来。このパラレルワールドへ俺が再び飛ばされた理由を。 やはり、あの地震が直接的な原因だとしか考えられない。 あの直後に俺は朝比奈さんにビンタで吹っ飛ばされ、教室からはハルヒが消えた。 そして代わりのポジションに朝倉がいて、長門はかわいらしい女の子になってしまっていた。 きっとあの時の巨大地震の影響で、世界が微妙におかしくなったんだ。 「うーん…」 「なんだキョンさっきからよぉ。便秘かぁ?」 「違げーよっ」 「昨日もなんかおかしかったもんねー。今日は大丈夫なの?」 「朝倉と同んなじセリフ言うな」 …ま、 考えてもしかたがないか。どうせ、どうやったって俺のこのチンケな出来の頭じゃ、理解できる範疇を超えた問題なんだろう。 それに、今回は前回と違って、考えたり悩んだりする必要も特にないんだ。 必ず迎えが来ると決まっているのだから。 「だけどあんだけでかい地震でよくこのボロ校舎がぶっ潰れなかったよな。ちょっと感心したぜ」 俺が考えたことと同じことを谷口は言った。どうやら思うことは皆一緒のようだ。 「というより、学校だけじゃなく他のどこでも物理的な被害はなかったみたいだよ。変な話だよね、いいことだけどさ」 「うーん不思議だなぁ」 確かにそりゃ不思議だ。 俺がこっちに飛ばされてきたことともしかしたら関係あるかもしれない。 …と思ったが、それ以上深く考え込んでしまう前に、自分の思考回路をストップさせることにた。 いいんだよ、そんなことは。どうでも。 キーンコーンカーンコーン 放課後の始まりを告げるチャイムが鳴った。 何も考えていなかったから、今日も授業が終わるのが大変早かった。 「…そ」 今の俺は、そんなことを考えてる余裕なんてどこにもないんだよ。 コンコン 見慣れた、いつもなら何の遠慮もなしに開けるはずのドアを、軽い力でノックする。 「はい」 中から小さな声で返事が返ってきた。 「俺だ。入っていいか?」 「…どうぞ」 「ん、それじゃ」 ガチャリ… 長門は、今日もいつも通りに窓際に置かれたパイプ椅子に腰掛け、分厚い本を読んでいた。 「…こんにちわ」 「…こんにちは」 俺がそう挨拶をすると、彼女はこっちを向いてから、やっぱり赤い顔でうつむいて、でも、どこか嬉しそうな声で、俺にも挨拶を返してくれた。 だけどたったそれだけのことで、俺の心は心底胸いっぱいになるほどの充実感で満たされた。 だって、俺がいた世界の長門がこんな風に優しく返事を返してくれるなどということは、どう間違ったってありえないから。 その挨拶の一つ一つが、俺にとっては信じられないくらいの希少価値があるものなんだ。 そうだ。 俺が今、何よりもしなくてはいけないこと。 それは、このたった一人の健気な文芸部員の心の隙間を、少しでもいいから埋めてやることだ。 寂しさを紛らわせてやることだ。 たったの一週間。本当にたったそれだけの短い間だ。けれど… それでもいい。 俺ができるだけのことは、全てやってやる。 「…あの」 「ん?」 長門は開いていた本に栞を挟んで閉じてから、それを机の上に置くと、モジモジとした様子で言った。 「今日…図書館に…」 「あ、ああ。図書館行くのか? うん、いいよ、行こう行こう」 「ええ」 長門の表情が、たったそれだけでパッと明るいものへと変わる。 …それを見て、俺はようやく本当のことに気付いた。 「……」 …長門のために、とか、寂しさを紛らわせてあげる、とか… かっこいいようなことを言っていたけど、本当は違うんだな。 俺はただ、こいつと、この世界の、普通の女の子の長門と、いっしょにいたいだけなんだ。 もう一度、いや何度だって、あの儚げで優しい笑顔を見てみたいと思っているんだ。 こいつの喜んでいるところが見たいんだ。 学校を出ると、陽は低くなり始めていたけれど、それでもじわっと肌に絡みつく蒸し熱い気温は未だに保たれたままだった。 そんな中を俺と長門とは二人並んで、例の地獄坂を、ゆっくりと歩て下っていく。 途中、二人の間にはまったくと言っていいほど会話はなかった。 だけど俺は、別にそんなことは別段気にもならなかった。なぜならそれは重苦しい、気まずいといった類の空気の沈黙ではなくて、 どこか落ち着いていて、なんと言ったらいいか、その場にいるだけで幸せを感じられるような沈黙だったからだ。 いっしょにいるだけで。 「…なに?」 「えっ? あ、いや、なんでも…」 い、いかん。ついうっとり見とれてしまっていた。 なんだがいっしょにいればいるほど、長門のことが可愛く見えてきてしまうような… なんなんだ、いったい。 一時間と少しほど歩いて、ようやく見覚えのある図書館の前に俺たちは到着した。 そう。本など滅多に読まない俺だが、この図書館にだけは前にも一度来たことがある。それはハルヒ達SOS団全員で不思議探しをするために町へと出たとき。 クジ引きで長門とペアになった俺が暇つぶしをさせてあげるために、この図書館へと連れてきてあげたのだ。 「ふうー…」 中に足を踏み入れた途端、ちょうどよい涼しさのエアコンの風がふんわりと俺の身体を包み込んだ。 まるで天国へやってきてしまったのかと錯覚してしまうほどの気持ちよさだった。 「閉館までまだけっこう時間あるみたいだから、長門、ちょっと休もう…」 そう言って横を向いた時には、すでにそこに長門の姿はなかった。 「あ、あれっ?」 慌てて辺りを見回して探すと、すぐに見つかった。 彼女はこことは少し離れた場所の棚の前で、目をキラキラと輝かせながら本を手当たり次第に物色していた。 「…熱心ですねぇ」 そう呟いた自分の口調が、なんとなく古泉のようになってしまっていることに俺は気がついて、ちょっと愕然とした。 くそ…いつの間に。やっぱりいつもいっしょにいて話しをしていると、知らぬ間に影響を受けてきてしまうものなのかもしれない。 あいつみたいなしゃべり方になっちまうのか……なら、前髪ももっと伸ばした方がいいのかな? だけど俺はなぜかそれが少しだけおかしくなって、ふふっと自嘲気味にかすかに笑ってしまった。 「しかたない…ちょっとソファで休んでるか…」 ツンツン 「ん…ムニャ…」 ツンツン 「んん…? あ…あ、あれっ?」 「起きて」 「おわっ!」 ふと気が付くと眼前に長門の顔があった。 「な、長門っおまえ何やって…!」 「もう閉館」 「え?」 そう言われて、慌てて振り向いて壁に掛けられている時計を見上げた。 本当だ。俺がソファに座ってからすでに一時間ほど経過してしまっている。いつの間にそんなに時間が経ったってんだ。 「す、すまん。ちょっと休むつもりがこんな熟睡しちゃって…」 「かまわない」 「もう、本はいいのか?」 「ええ」 そう言って、長門はその手に持っていた本をスッと俺の目の前に差し出してきた。 4冊の分厚い、なんとも難しそうなタイトルとカバーをした、まるで辞典のような本が俺の視界に飛び込んできた。
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佐々木VS長門 ふとしたきっかけで佐々木を伴って、長門宅での食事に招かれたのだが・・・・・・。 俺は今、長門の部屋のコタツで独り、台所に立つ二人をぼんやりと眺めていた。 「わたしがやる」 無表情な長門の声にはどこか、強い意思が含まれているようだった。 「いえ、私も手伝います。手持ち無沙汰にコタツに入っているだけだと、どうも悪い気がしちゃって」 笑顔で長門に対峙する佐々木の声からは、対女子用の柔らかい女の子口調だったが、何となく硬質な 毅然とした印象を受ける。 「気にしなくていい」 「ううん。そっちこそ気を遣わなくていいのよ?私、こう見えて結構料理得意なんだから。」 一歩も譲らない二人。かれこれ三十分になる。俺の腹の虫も、大概鳴き疲れてきた。 全く、なんなんだろうね。この妙に意固地な二人は。 「ねぇキョン。僕のコックとしての腕前が中々のものなのは、君もよく知っているだろう」 なぜ俺に話を振る 「・・・・・・」 そして長門、なぜ俺を見つめる。心なしか瞳の奥に冷たい光を感じるのだが、気のせいか。
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『長門の湯』 なに、給湯器が壊れたから風呂には入れないだって。 なんてことだ、一日の疲れを癒すべくささやかな楽しみにしていた風呂に入れないとは、許しがたい暴挙だ、責任者、出て来い! と、ぼやいたところでどうしようもないが、ぼやかせてくれ。 「キョンくーん、行こうよー」 しかも、妹を連れて銭湯に行け、とは、うちの親も無茶なことをいう。なんだかんだ言ってもあの妹だって、すでに男湯には入れないような年頃だから、なにも俺が連れて行くこともなかろうに。 まぁ、いいか。たまには銭湯の大きな湯船にゆっくりつかるのもいいだろう。 そういえば、銭湯などというものには長らく行ったことがなかった。昔行ったはずの近所の銭湯も当然のように廃業して今はマンションが建っている。 しかたなく俺は、初めて銭湯に行くことにやたらとうきうきしている妹を連れて少し離れたところで今も営業をしている銭湯に向かってチャリンコを転がしている。 「キョンくん、まだぁ?」 「もう少しだから。黙ってついてきなさい」 思ったより遠い。これだと帰り道は湯冷めに注意しないといけないな、などと考えながら、ふと前の交差点で信号待ちをしている見慣れた制服の後姿が目に留まった。 その小柄な姿の隣に自転車を止め、俺は片足を地面に下ろして話しかけた。 「よぉ、長門。買い物か?」 もはや見間違うこともないその姿は、SOS団の貴重な戦力である究極の無口キャラ、長門有希であった。 俺の呼びかけに黙って振り向くと、わずかに首を傾けて挨拶をしてくれた。 「あ、有希ちゃんだー」 追いついた俺の妹の呼びかけに対しても同じように無表情で答えるアンドロイド。 あれ、二人でどうしたの? と、でもいいたげな漆黒の瞳の輝きを感じた俺は、 「いやー、うちの給湯器が壊れてな、風呂に入れないもんだから、銭湯に行くところさ」 「そうなの、銭湯、銭湯! あたしはじめてー、有希ちゃんも一緒に行かなぁーい?」 無邪気に答える妹のはじけるような笑顔を不思議そうに見つめていた長門は、何を思ったのかポツリと言った。 「一緒には行かない。しかし、わたしのうちのお風呂を使ってくれてもいい」 「なに?」 「え、有希ちゃんちのお風呂? 行ってもいいの?」 「いい。問題ない」 「行く行くー、キョンくん、行ってもいいでしょ?」 「ちょっと待てよ、長門、それはちょっと……」 「困ったときはお互い様、遠慮は無用」 いや、お互い様ではなくて、知り合ってからこの方、ほぼ一方的に俺が世話になりっぱなしのような気がするのだが。 「いや、あのな、長門……」 「そうだ、有希ちゃん、一緒に入ろうよ、お風呂、背中、流しっこしよう」 それになんだ、お前は銭湯に行きたかったのではないのか? 二人に軽く無視された俺は、楽しそうに長門に話しかける妹の声を聞きながら、青に変わった信号を受けて、横断歩道を並んで渡り始めた大小二つの後姿を追いかけていくしかなかった。 自転車を押しながらなので、思ったより時間がかかった。素直に銭湯に行った方が手っ取り早いのに、と思いつつも、俺たちはお馴染みのリビングに通された。 「すぐに沸かすからしばらく待って」 そういい残して消えていく長門は、心なしか少し照れているように見えたのだが気のせいに違いない。 「へー、あたし有希ちゃんちはじめてー。なーんにもないんだね」 コタツ机の一辺に座った妹はきょろきょろと室内を見回している。 妹には、この殺風景な部屋はどう映るんだろうか。俺も初めて来たときは目が点になったものだ、しかもその後、延々と電波な話を聞かされたしな。 この後の成り行きを危惧しながら、ふぅ、と溜息をついたところで、長門がお茶とジュースをお盆に載せてリビングに戻ってきた。 「お茶、どうぞ」 「すまないな、長門。妹のせいで変なことになっちまって」 「気にすることはない」 「有希ちゃん、テレビ見ないの?」 「見ない」 「ふーん、普段何してるの?」 「本を読んでいる」 「楽しい?」 「楽しい。本はいい」 「どんな本読んでるの?」 「なんでも」 無邪気に続く妹の質問攻めに、表情一つ変えることなく淡々と答え続ける有機アンドロイドに俺は今更のように感心することしきりだった。それにしてもだ、俺の妹に指摘されるまでもなく、そろそろテレビのひとつぐらいは置いてもよかろうに。統合思念体も金がないわけではあるまい。 ピピピ、ピピピ 微妙に不毛な長門と妹の禅問答を遮る様に、風呂が沸いたことを告げるアラームがなった。長門もそれを待っていたかのように振り返って俺に言った。 「沸いた。わたしは最後に入るから、お二人からお先にどうぞ」 「えー、有希ちゃんも一緒に入ろうよ」 「おいおい、こらこら、それは……」 と、言いかけた俺が全てを言い終わらぬうちに、 「わかった、では少し狭いかもしれないが三人一緒に」 「わーい、一緒に入った方が、ガスも電気も無駄にならないからエコなんだよー」 何のためらいもなくすっと立ち上がる二人を目の前にして、俺は、 「だから、待てって、長門。三人一緒はないだろ、それはいかん」 「なぜ? わたしは別にかまわない」 「あたしもいいよー」 こいつらは何を言っているんだ? 妹と一緒に入ることは百歩、いや千歩ぐらい譲る必要はあるかも知れないが、何歩譲ろうが長門と一緒に風呂に入るわけにはいかない。いくら宇宙人製のアンドロイドとはいえ、一応は年頃の同級生の男女なんだから。 「通常の男子高校生は、同年代の女性の体躯に興味を持っているはず。せっかくの機会なので観察してもいい」 「な、なんだって? 何を言っているんだ、お前」 「あなたは、あなたのベッドのマットレスの下に潜ませている数冊の雑誌で女性の特徴について研究している」 すました様子で軽く首を傾げた長門は、パチパチと瞬きをして俺のことを見つめている。 「な、な、なんだとぉ、お、お前、何でそれを知っている?」 思わぬ長門の攻撃にしどろもどろの俺……。 「当たった? カマを賭けただけ」 や、やられた。確かに谷口から回ってきた数冊のその手の雑誌がベッドの下に隠されている。それにしてもだ、妹の前で何を言い出すのだ、このアンドロイドは……。 唖然として二の句を継げない俺を追い立てるように、長門は、 「知的な好奇心を満たすために行動することは、科学を探求する上で必要なこと。是非、二次元ではなく三次元の世界で研究を継続して欲しい」 「いや、だから、別に好奇心とかそういうものでは……」 「有希ちゃん、もうほっといて二人で入ろう」 さらに何か言いたそうな長門の手を強引に引っ張って、妹たちはリビングを出て行った。ありがとう、妹よ、兄の窮地を救ってくれて……。 それにしても長門のやつ、なかなか妙なことをしてくれるじゃないか。自律進化の可能性だって? もう十分進化しているんじゃないのか、長門自身は……。 そんなことをぼんやり考えながらリビングで一人、お茶を静かに飲んでいた。 そう、長門が言うように、俺だって健康な男子高校生さ。 扉の向こうの浴室から、少しばかりのエコーとともにかすかに耳に届く妹の笑い声と長門の冷静な受け答えが聞こえてきて、俺の頭の中には湯気とともにいろいろな妄想が渦巻いて仕方なかった。 やはり、長門にはテレビを買うように言っておこう。テレビでも見て気を紛らわせないことには、この状況は如何ともしがたい。 ふと気がつくと、浴室の扉が開くような音に続いて衣擦れの音が聞こえている。どうやら二人は風呂を出たようだ。 すぐに妹がリビングに飛び込んできた。着ている服は来たときとは変わらない。そもそもチャリンコで銭湯に行く予定だったから、下着以外は特に着替えは持ってきていないからな。 「気持ちよかったよー、キョンくん」 まだ少し湿っている髪を白いバスタオルで拭きながら、妹は俺の隣で立っている。 「そうか、よかったな」 「あのね、有希ちゃんねー……」 と、妹が何か言いかけたところで、長門もリビングに登場した。 妹と同じようにバスタオルで髪を軽く拭きつつ、タンクトップとショートパンツからは少し上気してうすピンクに染まった有機アンドロイドのしなやかな四肢がすらりと伸びて輝いている。 その姿に一瞬どぎまぎした俺は、その動揺をごまかすためにも妹に話しかけた。 「ざ、残念だったな。銭湯なら、フルーツ牛乳が飲めたのに」 「あ、そうか。忘れてたー」 片目を閉じて、しまったー、という表情の妹に対して、 「大丈夫、フルーツ牛乳は用意している」 長門はそれだけいうと、頭の上のバスタオルを手で押さえながらキッチンの方に消えていった。 そして長門が戻ってきたときには、薄いオレンジ色の液体が入った牛乳ビンを片方の手に持っていた。反対側の手に持つビンはどうやら普通の牛乳のようだった。 「どうぞ」 と言って差し出されたビンには『フルーツ牛乳』の文字が見えた。受け取った妹は珍しそうにそのビンを眺めている。 「よくそんなものが自宅の冷蔵庫にあるんだな、長門」 長門は、自分の分の牛乳のふたを開けながら、小さく首肯した。 いまどき、牛乳瓶にはいったフルーツ牛乳など手に入れるのも至難の技のような気がするのだが、そこは情報統合思念体の力の見せ所ということか。それにしても、もう少し建設的な用途に使ったほうがいいだろうに、思念体も案外ヒマなのかもしれない。 「ふた、開かないよー」 妹は、ビンの口の紙のふたで苦労をしているようだ。気をつけないと指突っ込むぞー、と思った矢先、 バチュッ、 と湿っぽい音とともに、あまい香りの液体が少しばかり飛び散った。 「きゃー、やっちゃったー」 突っ込んだ指先をひらひらさせながら、飛び散ったフルーツ牛乳を眺めていた妹のやつは、すぐに指をぺろぺろとなめて、「ごめんなさーい」とだけは言った。 長門は飲みかけの牛乳ビンを俺に手渡すと、キッチンに雑巾を取りにいったようだ。 「こらー、気をつけないとだめだろ」 「えへっ、だってこのフタ、開けにくいだもん。給食の時もときどき失敗する子いるんだよ」 まぁ、確かにそうだったかも知れないないな。 小さく肩をすくめた妹は、手に持ったフルーツ牛乳のビンを俺に見せるようにかざして、 「おいしいよ、これ」 といって、残りを一気に飲み干した。 フルーツ牛乳の騒動が一段落したところで、 「じゃあ、すまないが俺も風呂、入らしてもらうわ」 「どうぞ。お湯は残しておいてかまわない。後で洗濯に使うから」 長門の人間的な言葉に感心しながら、俺はリビングを後にして洗面・脱衣場に向かった。 一番生活感があふれるであろう洗面所にさえ特に何もなく殺風景なのはもはや驚くには値しないな。 服を脱ぎながら、鏡の周りを見渡しても、泡のハンドソープのボトルが置いてあるぐらいだ。コップや歯ブラシなどはおそらく棚の中にでもしまってあるのだろう。 床の上の脱衣かごには真新しい白いバスタオルがきちんとたたまれて入れられている。俺は、そのかごの中に脱いだ服と着替えに持ってきた下着を入れると風呂場に入った。 浴室内も新築マンションのモデルルームのようにピカピカだった。長門がここで暮らしだして三年は経過しているはずだ。普通なら多少の汚れや黒ずみなんかがあっても普通なのだが、そんなものはこれっぽっちも感じられない。 一度、うちの風呂も長門に掃除してもらうと新品同様まできれいにしてくれるのではないかな。 そんなことを考えながら、湯船でのんびりとさせてもらっていると、脱衣場に人影が動くのが見えた。おやっ、と身構えると、ドアが開いて長門が首を突っ込んできた。 「湯加減はどう?」 俺は、湯船の中で思わず体をこわばらせながら、 「お、おう、いい感じだ、ありがとう」 「背中、流す?」 「え、え、いや、それは……」 「さっきも言った、遠慮は無用」 「だから、それはいいって。気持ちだけでいいよ、ありがとう」 「そう? 必要ならそこの呼び出しボタンを押せばいい。では」 かちゃん、とドアの音がして長門は引っ込んだ。 俺は長門が指差した給湯リモコンのパネルにある「呼び出し」ボタンを眺めながら、思わず押してしまいそうになる衝動を抑えているうちに、のぼせる一歩手前までいってしまった。 やっとの思いで風呂場を出てやや足元をふらふらさせながら、リビングに戻った時には、すでに四十五分も経過していた。リビングでは長門と妹がトランプをして遊んでいた。 「キョンくん遅かったねー、何してたの?」 「……ん、いや、ちょっとな、考え事を……」 「何か飲む?」 手にしたトランプをテーブルに置き、すっと立ち上がった長門の問いに対して、 「すまん、冷たいものが欲しいのだが」 「少し待って……」 キッチンに引っ込んだ長門は、俺の予想通りコーヒー牛乳を持ってきてくれた。俺は、よく冷えたビンを右手に持ち、左手を腰に当てて一気に飲み干した。 うまい、うますぎる。 少しのぼせかけの体によく冷えたコーヒー牛乳が一気に沁みわたって行くのがこれほどよくわかったのは初めてだ。実に心地よい。そしてやっと一息つくことができた。 その後しばらく三人でババ抜きなどで遊ばせてもらった上に、帰り際に長門は、お土産にと、フルーツ牛乳とコーヒー牛乳を一本ずつ持たせてくれた。 「世話になったな、すまない」 「気にすることはない。いつでも歓迎する」 「また来るね、有希ちゃん」 そういい残して、俺と妹が長門のマンションを後にした時には、家を出てから二時間も経過していた。いったい何時間銭湯に行っていたんだと、お袋にどやされるだろうな。しかし風呂上りに長門のリビングでくつろいだおかげで、帰り道で湯冷めすることを心配する必要はなくなった。 家に帰ってみると、ちょうどガス屋が壊れた給湯器を修理し終えて変えるところだった。ということは、明日からはまた我が家の風呂に入れると言うことだ。よかった、よかった。 俺は、長門にもらった二つの味の牛乳ビンを冷蔵庫にしまいながら、もう長門の家の風呂に入れてもらうことはないだろうな、と考えていた。少しばかり残念な気がしないではない。 が、それはともかく――。 いい湯だったよ、長門、ありがとう。 Fin.