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消息情報 自己紹介 基本情報 活動の記録プレ配信期間 予選イベント期間 本選イベント期間 名言集 ファンのブログやnote、togetterまとめ 消息情報 自己紹介 皆さん、初めまして! ハル と申します!! この度、アイドルへの夢に向けてオーディションへ参加することにしました!! アニメや漫画オタクなので、沢山お話できたらと思います! 好きな事はイラストを描くことです! このオーディションを通して、新しい事に挑戦する事や夢を追いかける事の素晴らしさについて、応援してくださる皆様にお伝えできるよう頑張ります!! 基本情報 キャラクター番号 ⑤ 番号 0017 名前 ハル よみ ルーム https //www.showroom-live.com/revorn_05_0017 Twitterアカウント revorn_haru ニックネーム ファンネーム ルーム挨拶(入室) ルーム挨拶(退出) 配信タグ ファンアートタグ 活動の記録 プレ配信期間 配信の記録 Twitter等での活動 予選イベント期間 配信の記録 Twitter等での活動 本選イベント期間 配信の思い出 Twitter等での活動 名言集 ファンのブログやnote、togetterまとめ
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575 どうすればいいのかわk 2007/07/24(火) 03 44 48 ID kfDLrDVI 「ちょっとキョン、お茶淹れなさいよ」 放課後、SOS団の部室でのことだった。 いつもお茶を出してくれる朝比奈さんは、本日は所用で不在。 ハルヒは口が寂しかったらしく、そんなことを言いだした。 あーはいはい、仕方ないな。古泉、お前は? 「僕もお願いしますよ」 「有希、あんたは?」 ハルヒが、いつものように窓際で読書にふける長門にも声をかけた。 「…………」 長門は顔を上げた。 そしてそのまま、ハルヒをじーっと見ている。返事に困っているようにも見えた。 おいそこ、そんなに考えるところか? さすがのハルヒも困惑したようだ。 「え、有希? お茶、いらないの?」 「私はあなたが欲しい」 ……。 は? 長門? 何を言っているんだ? まるで意味がわからなかった。古泉が驚きと微笑の入り交じった変な顔をしていた。 ハルヒも、頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま固まっていた。 長門はおもむろに立ち上がると、そんなハルヒに近づいて(省略されましt 576 名無しさん@秘密の花園 2007/07/24(火) 22 39 00 ID iB5pCIfr rァ[続きを読む]
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新学期が始まり、一ヶ月程過ぎた5月のある日。 SOS団の私室と化した元文芸部室で、 いつものように、朝比奈さんの淹れてくれた美味いお茶を飲みながら、古泉相手に将棋をしていた。 古泉が次の手を考えてる間、ふと顔を上げてSOS団メンツを眺めた。 長門はいつもの場所で本を読んでいる。 朝比奈さんはハンガーの前に立ち、コスプレ服を整頓したり掃除している様だ。 平和な部室。それというのも、いつも何かをしでかすハルヒが居ないからだ。 どこにいったのやら。どうせまたろくでもないことを考えなら校内を徘徊しているのだろう。 視線を元に戻す。古泉が駒を握り、手を進めたと同時に扉が勢いよく開かれた。 我らが団長様の登場である。ハルヒはニコニコとご機嫌な顔つきをしている。今度は何を思いついたんだ? そして俺は久しぶりに驚かさせられる事になる。 一応言っておくが、俺は今までに散々色々な事に巻き込まれ、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信がある。 だが、今回のハルヒには意表を突かれた。ハルヒの横には小柄な少女が立っていた。 そんなに校内をうろついた事はないが、その少女を今まで見た記憶がない。 推測から言うと、新入生って所だろうか。俺が驚いたのはハルヒの次の言葉だ。 ハルヒは少女の手を引いて中に入ると、立ち止まりこう言った。 「皆、注~目!紹介するわ。新しい団員よ!」 今、なんて言った?WHAT?新しい・・団員!? 続いて横の少女が自己紹介を始める。 「新しくSOS団に入る事になった伊勢 海奈でーす。よろしくお願いしまーす」 伊勢と名乗った少女をよく観察する。見た目は本当に高校生か?というような童顔である。 さらに胸はぺったんで、長門といい勝負かもしれない。 総合的に考えて、妹と同じ年齢だと言われても驚かない様な容姿である。 ハルヒの指示で現SOS団の自己紹介が始まる。俺の番はハルヒによって遮られ、案の定キョンと紹介された。 しかし、そんな事はどうでもいい。普通の部活動ならロリ属性の一年生が入団しましたー。ですむだろう。 だが、ここはSOS団は普通の部ではない。未来人、宇宙人、超能力者が一同に集まるというおかしな集団なのだ。 という訳で、ここには俺を除いて普通の一般人はいないし、入団することもないだろう。 ということは、目の前のロリ少女も普通ではないはずなのだ。 ふと周りのSOS団メンバーの顔を見る。 長門は無表情の中にどこか怪訝な顔付きをしている。 古泉はぱっとみれば、いつものニコニコハンサムスマイルだが、どこか影りがある気がする。 朝比奈さんは慌てた様な、どうしたら良いのか分からない様な困った顔をしている。 ハルヒだけが能天気にニコニコ笑っている。お前はいいよな、悩みが無さそうで・・。 思い返すのは2ヶ月程前の朝比奈(みちる)さん拉致事件である。(参考原作小説陰謀) 古泉の機関に敵対する組織。その尖兵である可能性もあるのである。 メンバーの紹介後、ハルヒは伊勢にある程度のSOS団活動の簡単な説明をし、 既に時刻が日暮れ時な事もあり、その日の活動は解散となった。 ハルヒ達が帰った後、ハルヒを除いたSOS団メンツの集会が行われた。 内容は言うまではないとは思うが、伊勢についてである。 集まっているのは俺、古泉、長門の3人だ。 朝比奈さんの伊勢の見張りという事でハルヒと一緒に帰っている。内容は後で連絡するつもりだ。 「で、伊勢の正体についてだが・・何か心あたりはあるか?」と俺が2人に聞く。 「こちらにはなんとも言えない、といった感じですね。敵対組織の情報はある程度聞いていますが、 その数も少なくも無く、完全に特定はできません」と古泉。続いて長門が、 「ある程度は理解した。でも・・ありえない存在」 どういうことだ?という俺の更なる問いに、長門が続ける。 「彼女はこの世界に存在するはずの無い存在」 よく分からないな・・存在しているのに存在するとは・・幽霊とか、そういう類のものなのか? 「違う。貴方にも分かるように言えば・・彼女は別の次元の存在」 つまり・・、異世界人ってことか? 「そう」 俺は初めてハルヒを知ったあの強烈な自己紹介を思い出していた。 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところまで来なさい。」 現在そのハルヒの望み通り宇宙人、未来人、超能力者はSOS団に所属している。 ということは、1年越しで異世界人がやってきたということになる。 けれど妙だ、最近のハルヒは、今のSOS団の活動に結構満足している様子だった。 時には、ハルヒの気まぐれかもしれないが、まったく謎に関係のない事もしている。 そんなハルヒが、今頃になってそんな事を望むのだろうか?俺の問いに答えたのは、やはり長門だった。 「今回は、涼宮ハルヒが望んだ事ではない」 そうなのか?だったら、なぜ伊勢は俺たちの前に現れたんだ?古泉の敵対組織に関係あるのか? 「敵対組織に関係あるのかは分からない。でも伊勢海奈が自ら望んで私達の前に現れた事は事実」 「今まで割りと大人しく影で行動していた彼らが、とうとう表まで出てきたんでしょうか」 「わからない」古泉の問いに長門が答える。 いくら長門が万能宇宙人だとしても、未来との同期を止めた事で先のことは分からない。 結局伊勢が異世界から来たであろう、ということくらいしか分からなかった。 古泉は機関で情報を集めてみますといい、その日は解散になった。 完全に日も落ち、薄暗い道を歩いていた時。 「あの、---さんですか?」ふいに後ろから名前を呼ばれ立ち止まった。 自分の本名など久しぶりに聞いたので一瞬自分のことかわからなかった。 が、次の言葉で気づいた。「それとも、キョンさんと呼んだ方がいいでしょうか?」 振り返る。薄暗い夜道を照らす街頭の下に、一人の少年が立っていた。 北高の制服を着ているその少年は、俺と同じぐらいの年頃だろうか。 古泉の様に気持ち悪いほどのハンサムスマイルとはいえないが、それなりの笑顔で俺を見ている。 「こんばんは、キョンさん」そういいながら俺に近づいてくる。 「1年2組の鏡野と言います。時間が無いので手っ取り早く説明しますね」 俺は黙っている。というよりはいまいちよく分かっていなかっただけだが。 「僕はこの世界の人間ではありません。もう伊勢海奈には会いましたよね?彼女と僕は同じ世界の人間です。」 次々に喋る。その表情はどこか焦っているように見えた。 「彼女の動向に注意してください。彼女は・・」鏡野と名乗った少年は次に恐ろしいことを口にする。 「涼宮ハルヒさんの命を狙っています」一瞬、頭の中が真っ白になった。 なんだって?伊勢がハルヒの命を狙っている?そんなもん狙ってどうすんだ?新手のギャグか? いきなりの爆弾発言に完全に動転してしまい、何がなんなのか分からなくなる。
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第二章 断絶 週のあけた月曜日。あたしは不機嫌オーラをばらまきながら登校した。 半径5メートル以内に人がいないのがわかる。 教室に入り、誰も座っていない前の席を睨む。 二年生になっても変わらないこの位置関係に怒りを覚えたのは初めてだ。 あいつを見ていなければいけないなんて。 幸いなことに今日は席替えがある。 入学してからずっと続いていた偶然が途切れることを祈った。 遅刻ギリギリにあいつが教室に入ってくる。 席に鞄をおろして声をかけてくる。 「土曜日はすまなかった」 無視。 「今度からはちゃんと行くからさ」 無視。 「……?おーい」 無視。 ため息をつくとキョンは前を向き、岡部が入って来た。 授業中はイライラしっぱなしでろくに話も聞いていなかったけど 学校の授業なんて余裕よ、余裕。 こんなのもわからないなんて本当にキョンはバカよね。 待ちに待った席替え。 あたしは窓際一番後ろ。 キョンは廊下側一番前。 教室はパニック寸前だった。 ……この程度のことで騒がないでよ。 キョンを谷口のバカと国木田が慰めている。キョンは憮然と、と言うか唖然としている。 キョンは鞄を持つと教室をでた。 掃除を終わらせ我がSOS団部室へ向かう。 扉を開けるとそこには古泉君と有希とみくるちゃんと…… キョンがいた。 あたしの我慢は限界に近づいている。 あたしたちに嘘ついてまでデートしてたやつがのうのうと 『あたしたち』といようとする。 「キョン」 「何だ?」 普段と全く変わらない様子についに切れた。 「なんでここにいるの」 「いちゃ悪いのか?」 「ここはSOS団の部室よ」 「それが?」 「あたしたちに嘘ついて、SOS団の用事を放って、デートしたやつに ここにいる資格はないわ」 怪訝な顔をするキョン。 「ちょっと、ま……」 もうこれ以上聞きたくない。 『『出てけ!』』 ”四重奏”とともに古泉君につかみあげられて廊下に引っ張られるキョン。 ほかの四人も我慢の限界だったみたい。 「おい、ちょっと待てって。話を……」 鈍い音がしてキョンが黙る。 やけにニコヤかな古泉君が部室に入って鍵を閉めた。 改めて部室内を見渡すとみんなの怒り具合がわかる。 古泉君はボードゲームを出してなかったし、 湯のみも有希と古泉君の分しか出てない。 「はい、みんな注目!邪魔者も出てったところで次回の不思議探索について ミーティングを行います」 ここでいったん間。 「今度の土曜日十時に街に集合よ。遅れたら、罰金だから!」 空気が一瞬重くなる。 「罰金=キョン」の方程式が成り立っているみたいだ。 「そうですね。そっちの方がいいでしょう」 古泉君がいつものように朗らかに同意する。 「はい、お茶です」 それから他愛もない談笑で時が過ぎ、有希が本を閉じてあたしたちは下校する。 そのときあたしは廊下にあるものを見つけた。 「ねえ、古泉君」 「何でしょう?」 笑って答えながら、古泉君もあたしと同じ場所を見ている。 「どのくらい強くあいつを殴ったの?」 転々と跡を残しているそれは……。 「見た通りだと思いますよ」 そう、それは血だった。 <幕間2> 朝、学校についてハルヒに土曜日のことについて謝ったが無視された。 悪いことしたな、とは思ったけどここまでひどい扱いを受けるとは。 そのことに少なからずへこんでいて、授業には全く身が入らん。 わかんねえ……、ってつぶやいたら後ろのハルヒに鼻で笑われたような気がする。 俺が何をしたってんだ。 席替えがあった。どうせハルヒの前だろうって思ってたんだが 何が起きたのか、一番遠いところに座るはめになった。 ……ざわざわしすぎだお前ら。 偶然だろ、席替えなんて。 国木田と谷口がどうやら慰めてくれてるらしいがそんなことは気にならなかった。 とりあえず部室に行ってほかのやつらに話でも聞こうか。 と思ったんだが、みんなの反応がなんか――というか、ものすごく――よそよそしい。 古泉はボードゲームを誘ってこないし、朝比奈さんは俺にお茶を入れてくれない。 長門に至っては怒りの視線をぶつけてくる。 ……はげるって。ストレスで。 しばらくして掃除当番だったハルヒが入って来た。 こっちを見てものすごく不快そうな顔をする。 そして訳の分からん難癖を付けてきやがった。 「ここはSOS団の部室よ」 ってそれくらい知ってるさ。なんで俺がいちゃいけないんだ? ……。 土曜日?デート? ああ、『あれ』か。『あれ』を見られてたのか。 そりゃ、事情を知らなきゃ怒るだろうな。 とりあえず説明しようと口を開いた俺を……。 古泉がつかんで廊下に投げ飛ばしていた。 長門にまで「出てけ」って言われたのは正直きつい。 もう一度説明しようとした俺を古泉が思いっきり殴る。 壁に頭をぶつけて意識が遠ざかる。 気づくと部室内では次の土曜日のことを話していた。 こうなったら最終手段かな。 痛む頭を抑えて俺は学校を後にした。 終章
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さあ、SOSバンドのライブの始まりだ。 1曲目は――『パラレルDAYS』 ハルヒ書下ろしの新曲だぜ。 『パラレルDAYS』は1曲目に相応しい疾走感のあるロックナンバーだ。 しかしこの曲、ドラムの難易度は半端じゃない。 なんせ曲の入りが俺のドラムからなのだ・・・! しかし、思い切って叩き出したビートは、自分でもびっくりするくらい、素晴らしい出来だった。 ドラムをしばき倒す打撃音が体育館の壁に反響し、俺の鼓膜にまで返ってくる。 よし!イントロ成功だ。 即座にキーボードが、ギターが、ベースが、俺のビートに一気に覆いかぶさってくる。 長門のギターが流れるようなメロディラインを、ハルヒのギターが正確なリズムカッティングを刻み、 古泉の弾き出す重低音がそれを支え、そして朝比奈さんのキーボードが色とりどりの彩色を加える。 今まさに、バンドが走り出したんだ。 そしてハルヒがスタンドマイクの前に歩み寄り、歌い出す。 体育館の天井を突き破って、空の先まで、月まで、届きそうな程の伸びやかで美しい輪郭を持った声。 今日のハルヒはどうやら絶好調らしい。 ああ――この歌声を聴くために俺はドラムを叩いているんだ―― いつか思わずハルヒにこぼしてしまった失言も、この歌声を聴いた今は本音だって胸を張って言えるね。 観客はハルヒの歌声、長門の超絶ギター、朝比奈さんと古泉のプロ並みの演奏に驚いている。 俺のドラムも何とか4人についていけている。 そして曲はサビへと展開する。 『おいで忘れちゃダメ 忘れちゃダメ 未来はパラレル―― どーんとやってみなけりゃ 正しい? いけない? わからない!』 まさにハルヒを象徴するような歌詞だ。 俺は夢中にドラムを叩きながらも、最初は驚きに静まり返っていた観客が 曲に合わせ手拍子を鳴らし、拳を振り上げ、声をあげる様子を視界の端に認めることが出来た。 そして俺の真正面に立って、マイクに向かい、天上の美声を紡ぎだすハルヒが普段よりずっと大きく見えた。 そして曲は間奏の長門のギターソロパートへと進む。 ココは『パラレルDAYS』における最難関とも言えるパートである。勿論長門はどんなに難しいソロであろうと 完璧に弾きこなしてしまうだろう。問題は俺である。 ドラムのソロパート(しかも叩きまくり)がある上に、長門のソロのバックではツーバスという高等技術を披露せねばならない。 ツーバスとは、ドラムセットの中で最も大きく、足でペダルを蹴って低い音を出すドラムのことだが、 通常は1つのこのドラムを2つセットし、両足でドカドカ連打するのである。 (※こんなの http //www.cozypowell.com/images/kit1981.jpg) 要するにムチャクチャ高度なテクと体力が必要って訳だ。 正直、あのENOZの岡島さんですら「このパートはちょっと難しいね~」とおっしゃっていた。 つまるところ、1曲目から初心者ドラマーであるこの俺に最大の山場が訪れてしまったというわけだ。 ハルヒの歌が止み、古泉が軽やかなフレーズをベースで刻む。そしてドラムソロ―― 「うおりゃーっっ!!!!」 思わず声に出てしまう程の力を込めてドラムをしばき倒す。スムーズさはイマイチだったが何とか成功! するとハルヒが流れるようなピックスクラッチ(※弦に対してピックを垂直に当てて滑らせることにより独特の効果を得る奏法) を決め、それに呼応するかのように長門がスッと前に出てソロを取り始める。 さあ、こっから俺はツーバス連打だ。動け!俺の両足よ! 『ドカドカドカドカドカ・・・・・・』 自分でも不思議なくらい両足が動く!そんな俺に触発されたのか、長門のソロにも一層熱がこもる。 古泉も朝比奈さんもノリノリで身体を揺らしながら演奏している。 ハルヒは最大の難所を越えて見せた俺の方にちらりと顔を向けると満足そうな笑みを浮かべた。 そして、再びマイクに向かい、サビを熱唱する。 観客の熱気も1曲目にして最高潮だ。アウトロの『ラララ~』のパートもハルヒと共に合唱までしてくれている。 所謂シングアロングってやつだ。そしてそんな熱狂を保ったまま、長門の再びの超絶ギターソロと共に曲は終了する。 湧き上がる拍手と歓声。当初はその珍妙な名と衣装から好奇の目を向けられていた俺達SOSバンドは、 1曲目にして完全に観客に受け入れられたようだ。 間髪置かず、ハルヒの合図と俺のスティックのカウントから2曲目が始まる。 2曲目はこれまたハルヒ書下ろしの新曲『冒険でしょでしょ?』だ。 1曲目とは打って変わってのポップなミディアムナンバーである。 『パラレルDAYS』の主役が俺のドラムだとするならば、この曲の主役は朝比奈さんの表情豊かなキーボードプレイと ハルヒの情感のこもったボーカルが主役だ。 俺や古泉は黒子に徹し、堅実にリズムキープに勤める。長門は朝比奈さんのキーボードにあわせコードを鳴らす。 その朝比奈さんは何と左右2台!のキーボードを両手を使い、引き倒す。まさに神業だ。 (※こんな感じ http //www.messyoptics.com/bird/ELP-1.jpg) しかもキーボードを弾きながらバックコーラスまで付けている。ただし、歌声は相変わらずポンコツだがな。 そしてハルヒはあの閉鎖空間の神人でさえ、聞き惚れて破壊活動を止めてしまいそうな程の歌声を体育館中に響かせる。 『冒険でしょでしょ! ホントが嘘に変わる世界で―― 夢があるから強くなるのよ 誰の為じゃない』 とうとうあの長門までも、曲のリズムに合わせて微妙に身体を揺すり始めた。 俺にしかわからないぐらいに微妙な、小さな揺れではあるが。 あの長門をもノらせてしまうとは、音楽の力とは何と恐ろしいものだろう。 観客はハルヒの歌にあわせ、手拍子を叩く。大勢の人間が一度に手を叩くとこんなにも大きな音になるモノなのか。 正直、その微妙にズレた手拍子に何度かリズムを狂わせかけられた俺ではあったが、 その度毎に古泉が気味の悪いアイコンタクトを俺に送ってリズムを修正してくれる。 そういえばヤツは「バンドにおいてはベースとドラムのコンビネーションが大事」なんて言ってたが、こういうことだったのか。 まあ、さすがに一心同体にまでなる気はないがな。 そして、曲はエンディングを迎える。一層に大きくなる観客の歓声と拍手。 歌い終えたハルヒは肩で息をしている。2曲続けてあれだけの熱唱をしたんだ。疲労も当然だろう。 それと同じくらい疲労している俺も備え付けのペットボトルの水に口をつける。 そういえば懸念されていた腕の痛みは今のところ感じない。何とか持ったみたいだな。 ハルヒは息を整えると、再びマイクに向かって歩み寄る。事前の段取りではここで一旦MCが入るはずだが・・・。 「えー、こんばんは。SOSバンドです――」 ハルヒが観客に向かって語り出す。 「もしかするとあたしとこっちの有希は去年の文化祭の時に見たことあるっていう人がいるかも知れないけど、 そう、去年ENOZのステージに急遽出演させてもらいました。あの時はホントに急の出演で・・・ あまり準備する時間も無かったんだけど・・・今回は自分達のバンドでこうして出演しています」 ハルヒはウサミミを揺らしながら一言一言搾り出すように話す。何というか緊張しているみたいだ。 アイツでも緊張するなんてことがあるんだな。 「私達SOSバンドは殆どのメンバーが楽器初心者で・・・さっきの演奏も上手く出来たかどうか自信ないけど、 練習だけはしっかりしてきたからそんなに恥ずかしくない出来だったんじゃないかしら」 いや、あの観客の盛り上がりを見れば恥ずかしくない出来どころか、とんでもなく素晴らしい出来だったと言えるだろう。 「ああ、ちなみに今演奏した2曲、『パラレルDAYS』と『冒険でしょでしょ?』は・・・ 実は今回の文化祭のためにあたしが作ったオリジナルの曲です。 作曲なんて今回が殆どはじめてみたいなものだし・・・イマイチだったかもしれないけど、 皆凄い盛り上がってくれて・・・ホントにありがとう」 先の2曲が実はハルヒの作詞作曲だったことが判明し、観客は一様に驚いているようだ。 そりゃそうだろう。ハルヒ自身は珍しく謙遜しているが、 2曲共オリコンランキングに入ってもおかしくないくらいのクオリティであり、 そんな曲を一介の女子高生が作ってしまったことには驚きを隠せないってのが普通だ。 「えっと、それじゃあバンドのメンバーを紹介したいと思います!」 さて、文化祭バンドの定番、メンバー紹介である。 事前の打ち合わせでは、ハルヒにコールされたメンバーは各自自分の楽器で短いソロを披露しなければならない、 ということになっている。 「キーボードはあたし達SOS団の萌え萌えマスコット!未来からやってきた戦うウェイトレスにして 狂気のキーボードプレイヤー、みくるちゃん!」 「ふええ~!?いきなり私ですか~!?」 いきなりハルヒに振られた朝比奈さんはまさか最初に自分がコールされるとは思っていなかったらしく、酷く狼狽している。 観客席からは「ウオーッッ!!!」という主に朝比奈ファンクラブの男子連中が構成すると思われる野太い歓声が沸く。 その歓声の中には谷口の声なんかも聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろう。 朝比奈さんは戸惑いながらもキーボードの鍵盤に両手を添えると流麗なフレーズを弾いてみせた。 その音色はまさに天使の歌声のような甘さを持って、体育館中に響いた。 まあ、弾いているのが天使のようなお方だからな。 「みくる~っ!!めがっさかっこいいにょろよ~っ!!」 この歓声は鶴屋さんに相違ない。あの人もしっかり見に来てくれているようだ。 「ちなみにみくるちゃんは私達が制作した映画『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE01』にも主演しているわ。 みんな是非是非見に行ってね!みくるちゃんの歌う『恋のミクル伝説~第2章~』も聴けるわよ!」 そしてちゃっかり映画の宣伝までしているハルヒであった。 「ベースはSOS団のクールな副団長!古泉君!」 朝比奈さんに続き、ハルヒのコールを受けた古泉は相変わらずのニヤケ顔でベースを構えると、 目にも留まらぬスピードでファンキーなフレーズを次から次に弾き出した。 いつかアイツが披露して見せたスラップ奏法というヤツである。 弦が古泉の指に弾かれる『バチン バチン』という音が響く。 そしてそれを受けて上がる歓声。その殆どが女子の黄色い歓声である。 やっぱりムカツクな。古泉ファンの皆さん、騙されないでくれ。 ソイツは全裸でステージに上がろうとした真性の変態だぞ。 「ギターはSOS団が誇る最強のオールラウンダーにして無口キャラ!有希っ!」 長門はコールを受けはしたものの、ピクリとも反応しない。 オイオイ長門よ、そこは何でもいいからギュイーンといつもの超絶ギターソロをかます所だぞ。 まあ、何と言うかその無反応は予想通りではあるが。そもそも黒魔術にご執心の不気味なギタリストって設定だし、 コレくらいの不気味さやナゾを抱えていた方がちょうどよいのかも知れない。 「ドラムはSOS団のヒラ団員にして雑用係!キョン!」 そして俺の名前がコールされるが・・・なんか随分他の3人と差があるな。 一応そのコールに呼応する形で、適当にドラムソロを叩く。 おお、それでも観客は沸いてくれているみたいだ。その歓声の中に国木田や谷口の声も聞こえる。 アイツらも見に来てくれていたのか・・・。 「そしてボーカルとギターはあたし。去年はギターは殆ど担いでるだけだったけど、今年は少し練習しました。 なので、去年よりはギターの方も少しはマシになっていると思うわ」 そして最後に自分の紹介をするハルヒ。いつもの傲慢な態度はおくびも見せず、 至極恐縮しきった自己紹介である。何かハルヒらしくないな。アイツもやはり緊張していたのだろうか。 そんなことを考えている内に、ハルヒは更にMCを続ける。 どうやら次に演奏する曲の紹介をするようだ。 「それじゃあまた曲をやります!次は・・・皆も知っていると思うお馴染の曲をやるわ。 今回の文化祭出演にあたり、オリジナルのENOZ本人達にも演奏の許可をもらいました。 あたしにとっても去年の文化祭ではじめて歌った思い出の曲です。 『God Knows...』と『Lost My Music』―― 2曲続けていくわよっ!!!」 『God Knows...』と『Lost My Music』―― 今回の文化祭で最もみっちり練習してきた曲だし、ENOZのドラムである岡島さんから アドバイスまで受けた曲だ。いくら俺でもこの2曲を失敗するわけにはいかない。 「シャンシャン」という俺のシンバルによるカウント。 それに反応した長門のギターが火を噴く――まさに神業と形容するに相応しいソロである。 去年より正確に、そして更に速くなっている。まさにギターの鬼だ。 そんな長門のフレーズにハルヒの刻むリズム、朝比奈さんの紡ぐメロディ、古泉の重いベースが覆い被さり、 まるで音が鉄の塊のような質量を持って体育館を揺さぶる。 俺はそんな音の洪水に流されぬよう、必死にビートを叩き出す。 『私ついていくよ どんな辛い世界の闇の中でさえ きっとあなたは輝いて―― 超える未来の果て 弱さ故に魂こわされぬように my way 重なるよ いまふたりにGod Bless...』 サビを熱唱するハルヒ。 観客のボルテージも最高潮に達している。地鳴りのような歓声が響く。 俺達5人の演奏に人々がこんなにも熱くなっている。 ――なんて快感なんだろう。音楽ってこんなにもキモチイイものだったのか。 そして、SOS団の5人で演奏することは――こんなにも楽しいものだったのか。 『あなたがいて 私がいて ほかの人は消えてしまった―― 淡い夢の美しさを描きながら 傷跡なぞる』 搾り出すように歌詞を吐き出すハルヒ。 もはや熱唱というより、絶唱という表現が相応しいかも知れない。 ドラムセットから見るその後姿には冗談じゃなく後光がさしているように感じられた。 そんなハルヒに引っ張られるように長門はギターを加速させ、朝比奈さんは鍵盤を叩き壊さんかという勢いで掻き毟る、 古泉はとうとうヘッドバンキングまで始めやがった。 俺も飛び散る汗を気にもせず、無我夢中で両手両足を動かす。 そして曲は再度長門の超絶ギターソロに導かれ、終わりを迎える。 俺は言葉に出来ない快感が体中を電撃のように走り抜けていくように感じていた。 俺の今までの十何年間のどちらかと言えば無難だった人生で、ここまで『自分が今何かを成し遂げている』、 という感覚を味わったことはない。 そんなこれまでの俺の人生の体たらくぶりが恥ずかしくなるような体験を、こうしてステージの上で、 長門や朝比奈さんや古泉、そしてハルヒと共有しているのだ。 こんな体験が出来るなら今までの苦労もどうってことはない、本気でそう考えていた。 次の曲は『Lost My Music』である。 『God Knows...』と同じく曲は俺のシンバルでのカウントから始まる。 長門の流れるようなフレーズで曲の開幕を告げる。まるで戦いの始まりを告げるファンファーレのようだ。 ハルヒが腕を回すようなストロークでコードをかき鳴らす。その動きに合わせてウサミミも揺れる。 古泉はそれまでの指弾きからピックに持ち替え、弦を力いっぱい叩く。 朝比奈さんが2台のキーボードを駆使し、彩りを添える。 『星空見上げ 私だけのヒカリ教えて―― あなたはいまどこで 何をしているのでしょう?』 ハルヒの歌声に導かれ、バンドは更に加速する――と、その時、 俺は急に自分の腕に違和感を感じた。収まっていたはずの痛みがここにきて再発したのだ。 まるで腕が千切れそうな、熱い、苦しい痛みが俺を襲う。 なんてんたってこんな時に・・・。さっきまでは何ともなかったハズだぞ? それともこれまで練習でも4曲ぶっ続けで演奏したことがなかったことが災いして、 とうとう限界が来てしまったのだろうか? とにかく痛い。腕の感覚がなくなりそうだ。 曲の方は今にもサビに入ろうかというその瞬間―― 自分でも全くその感覚がわからなくなってしまっていたが――気付けば俺はスティックを落としてしまっていた。 急に刻まれるのを止めてしまったビート。 最初にその異常に気付いたのは長門だった。ギターを引く手を止め、俺の方に振り返る。 ヤバイ・・・!!早く替えのスティックを取って演奏を再開させねば・・・!! 焦る俺であったが・・・全く持って腕が動かない。どうやら痛みで神経もマヒしてしいるようだ。 他の3人もドラムとリードギターの演奏が急に止まるという異常事態に気付いたようだ。 ビートを失ったバンドは失速し、とうとう演奏自体が止まってしまった。 急に静まり返るステージ。俺の落としたスティックはころころと転がっていき、 ハルヒのマイクスタンドにこつんと当たってその動きを止める。 観客もその異常事態を察知したのか、さっきまでの熱狂はどこへやら急に静まり返ってしまった。 腕の痛みに顔を歪める俺に最初に声をかけたのは古泉だった。 「大丈夫ですか!?」 いつもニヤニヤしている古泉の顔に恐々とした緊迫感が見て取れる。 「ふええ~!?キョンくん、一体どうしたんですか~!?」 そういって駆け寄ってきたのは朝比奈さん。 さっきまであんなに威厳たっぷりに演奏していた彼女も当惑している。 「ちょっとキョン!いきなり演奏止めるなんてどうしたのよ!? って、もしかしてアンタ腕を・・・」 その先は言うなハルヒよ。今まで隠していた俺が馬鹿みたいじゃないか。 長門は液体ヘリウムのような目で事の成り行きを見守っている。しかしその瞳の中には心配の色も見て取れる。 相変わらず静まり返ったままの観客。 そして、ハルヒ達は一様に当惑した表情を浮かべている。最悪の展開だ・・・。 チクショウ・・・俺のせいで・・・演奏が止まっちまいやがった。 しかもこんな最悪の形で・・・。 俺は胸の中を掻き毟られるような憤怒に駆られていた。 それは大事なところでスティックを落としてしまう不甲斐ない自分への憤怒であった。 それでも・・・俺は諦めきれない。こんな形でステージを・・・SOSバンドを終わらせてたまるか! クソッ!動け!俺の腕よ!あと2曲だ、それぐらい何とかなるだろう! それに俺はもう火がついちまってるんだ!腕がぶっ壊れたって構いやしない!最後までドラムをブッ叩いてやるんだ! 必死に俺は腕を動かそうと力を入れる。 「キョンッ!あんた腕を怪我してたんでしょ!?何でもっと早くそのことを言わなかったのよ!?」 と、俺を見つめ、怒鳴るハルヒ。俺はそんなハルヒを見つめ返し、言い放った。 「ハルヒ、演奏を続けるぞ。早くマイクに戻れ。他の3人もだ、早く演奏再開の準備をしてくれ」 そんな俺の発言を聞き、驚いたように目をひん剥いたハルヒは 「あんた馬鹿!?自分の状態をわかって言ってるの!?そんな腕じゃ演奏なんて無理に決まってるじゃない!」 しかし俺は止まらない。 「わかってるさ。俺の腕は限界だ。さっきから痛くて痛くて仕方ない。 でもあと2曲ぐらいなら何とかなる。だから演奏を続けるぞ、ハルヒ」 「何とかなるって・・・」 「そうですよ~キョンくん・・・これ以上演奏するのはムリですよ~・・・」 「僕もそう思います。これ以上は本当に危険です。早く病院に行くべきかと・・・」 朝比奈さんや古泉も俺を説得しようと言葉を投げかける。しかし俺の気持ちは揺らがない。 「俺が大丈夫と言ったら大丈夫だ。それにだ、ここでやめちまったら一生後悔が残る。そんなのは耐えられん」 俺の決意がよほど固いとみたのか、その言葉を聞くや否や長門はスッと黒装束を翻し、自分の立ち位置に戻る。 「アンタ・・・どうしてそこまで・・・」 「それはお前のほうがよくわかってるだろ、ハルヒよ。俺は今このバンドで、このメンバーで演奏するのが 楽しくて楽しくて仕方ないんだ。この瞬間の1分1秒たりとも無駄にしたくないんだ。本当だ。 その気持ちはハルヒ――お前も同じだろ?」 「・・・・・・」 ハルヒも俺の真剣さに気付いたのか、神妙な顔つきをして黙り込んでいる。 朝比奈さんと古泉は互いを見合わせて「どうしたものか」といった表情を浮かべている。 その時、静まり返っていた観客席から声が上がった。 「キョンくんっ!頑張れっ!!」 この声は・・・ENOZの岡島さんの声だ・・・! 見れば岡島さんはじめ、財前さん、榎本さん、中西さんのENOZ全員の姿が客席の最前列にある。 皆今日のステージを見に来てくれていたのか・・・。 「キョンくん負けるな~!頑張るにょろよ~っ!!」 この声は鶴屋さんだ・・・。 「キョン!頑張れーっ!」 この声は国木田・・・。 「立て!立つんだ!キョン!」 谷口まで・・・。 そしてその歓声はやがて観客全体へと広がっていく。 気付けば体育館中に響き渡る「頑張れ!頑張れ!」の大合唱だ・・・。 「ほら見ろ、ハルヒ。観客は俺達の演奏を聴きたがってるぞ。 ここまで来て止めるなんて選択肢は俺には存在しないが」 相変わらずダンマリのハルヒ。俺は更に続ける。 「それにハルヒ、お前の歌、やっぱりスゴかったよ。正直鳥肌が立ったくらいさ。 だからこそ俺はあと2曲、お前の歌が聴きたい。 そしてそんなお前の後ろで俺もドラムを叩きたいんだ。 ヘタクソな演奏だけど・・・それでもこのドラムでバンドを、お前を支えたいんだ。」 そう言いながら俺は痛みに震える腕を何とか動かし、替えのスティックを手に取り、握りしめた。 後から冷静に考えれば、自分で言っていて余りのクサさに卒倒するような台詞だったかも知れない・・・。 しかし、恥ずかしい話、言っていた俺は真剣そのものだった。 ハルヒは一瞬顔を赤らめたものの、頭をブンブンと振ってすぐに表情を戻した。 そしてこれまで以上に真剣な眼差しで俺を見つめ、一言、 「わかった」 とだけ答えた。 そして朝比奈さんと古泉に目配せをする。2人も状況を察したのか、ひとつ頷くとそれぞれの演奏位置に戻った。 長門は既にスタンバイしている。 最後にハルヒがもう一度マイクスタンドの前に歩み寄り、態勢は整った。 観客もその様子を見届けると再び熱狂を取り戻し始めた。 さあ、仕切りなおしだ! 再びビートを刻みだす俺。腕はヒリヒリと痛み続ける。 力が入らないためか、音も随分弱々しくなっている。テンポも遅れている。 しかしそれでも長門のギターが、朝比奈さんのキーボードが、古泉のベースが、 そしてハルヒの歌声が、そんな俺を盛り立てる。 『大好きな人が遠い 遠すぎて泣きたくなるの―― あした目が覚めたら ほら希望が生まれるかも Good night!』 ああ、ハルヒよ。本当に希望が生まれてるぞ。 今にも腕が引き千切れそうな俺だが、それでも何とか叩けているのはこの歌声に引っ張られてるからなのかも知れない。 『I still I still I love you! I m waiting waiting forever―― I still I still I love you! とまらないのよ Hi!』 ああ、本当に止まらないね。例え本当に腕が千切れてもな。 やがて曲は再度の熱狂に包まれながら終了した。 俺は放心状態だった。腕の感覚は正直言って、無いに等しい。 途中から自分がどんなフレーズを叩いていたのかも記憶に無い。 ただ、熱唱するハルヒと必死に楽器をかき鳴らす長門、朝比奈さん、古泉の後姿が見え、 熱狂する観客の歓声が耳に届いていただけだ。 ああ、今すぐにでも大の字になってぶっ倒れたいくらいだぜ・・・。 ハルヒは曲が終わるや否や俺のほうに振り返り、心配そうな視線を向けている。 意識も飛んでいってしまいそうなぐらいに疲弊していた俺だったが、 何とかハルヒの目を見据え、言葉を発することが出来た。 「さあ、最後の曲だ。思い切ってかましてやろうぜ、ハルヒ」 ハルヒは小さく頷き、振り返ってマイクに向かい、語りだした。 「演奏を止めてしまってごめんね、ちょっとトラブルがあったけどもう大丈夫! 気を取り直して・・・次が最後の曲です。今回SOSバンドで文化祭への出演を決めてから最初に作った曲で・・・ この曲をこのSOSバンドのメンバーで演奏することを本当に楽しみにしていました・・・。 歌詞もこのSOS団のことを思い浮かべて書きました・・・」 切々と語られるハルヒのMCに観客は静かに聞き入っている。 「今回こうしてこの曲を皆で演奏できることを本当に嬉しく思っています・・・。 それにこんな大勢の人の歓声まで受けて・・・本当にありがとう! そんな感謝の気持ちも込めて、一生懸命演奏します! それでは聴いてください!『ハレ晴レユカイ』!」 ハルヒがそう叫ぶや否や、沸き上がる観客。 ギターを構える長門、鍵盤に指を置く朝比奈さん、俺の方を見てタイミングを伺う古泉、 そして、メンバーを見渡し、ひとつ大きく頷いたハルヒ。 さあ、本当に最後の曲だ――思いっきりブチかましてやろうぜ!! ハルヒの合図に従い、感覚の無い腕で思い切り俺はドラムを叩く。 唸りを上げる長門のピックスクラッチ。朝比奈さんが2台のキーボードを駆使し、イントロのメロディを紡ぐ。 古泉のベースがステージの床を振動させる。 『ナゾナゾみたいに地球儀を解き明かしたら みんなでどこまでも行けるね』 ハルヒのパート、とうとう5曲通してこの伸びやかで張りのある歌声は輝きを失わなかった。 『ワクワクしたいと願いながら過ごしてたよ かなえてくれたのは誰なの?』 何と驚くことなかれ、ここは長門のパートだ。というかあの長門が歌えることは意外の極みだが、 もともとこの『ハレ晴レユカイ』はハルヒ、長門、朝比奈さんの女性メンバーが交互にボーカルを取るという 異色の一曲である。練習では殆ど歌ってくれなかった長門だったがここにきてやっとその神秘的な歌声を披露してくれた。 何と言うか・・・こんな歌声だったのか。地声と全然違うな・・・。 『時間の果てまでBoooon!! ワープでループなこの想いは――』 朝比奈さんのパート、正直言ってポンコツな歌声だが俺としては萌えるから別に良いのだ。 しかも2台のキーボードで主旋律を奏でながら歌うんだから、まさに神業である。 『何もかもを巻き込んだ想像で遊ぼう!!』 そして3人のユニゾンだ。観客の盛り上がりも最高潮。最前列ではとうとうモッシュの波まで起こっている。 ハルヒと長門のギター、朝比奈さんのキーボード、古泉のベース、俺のドラム、全ての楽器の音がひとつになりステージを揺さぶる。 まさに窓ガラスを割らんばかりの音圧だ。というかマジで割れてるし・・・。 『アル晴レタ日ノ事 魔法以上のユカイが―― 限りなく降り注ぐ 不可能じゃないわ――』 まさに魔法以上のサウンドだ。腕の痛みより先にこの高揚感でぶっ倒れてしまいそうだ。 『明日また会うとき 笑いながらハミング―― 嬉しさを集めよう カンタンなんだよ こ・ん・な・の――』 3人の歌声が体育館に響く。 後姿に汗が飛び散るハルヒ、意外に楽しそうに身体を揺らす長門、身体と一緒に胸も揺れる朝比奈さん。 俺と古泉は必死に3人の歌と演奏を盛り立てる。 古泉は何か変な境地に達したようで、光悦とした顔になってやがる。 ムチャクチャ気持ち悪いぞ。まあその気持ちはわかるがな。 『追いかけてね つかまえてみて――』 俺は感覚の無い腕で必死にドラムを叩く。感覚が無いから叩いたときの感触も手ごたえもわからない。 それでも俺は、今叩き出しているビートが、ハルヒ達の歌声に、そして演奏にジャストフィットしているという不思議な確信があった。 『おおきな夢&夢 スキでしょう?』 ああ、大好きだね。やっと認める気になったよ。 まさにこの瞬間、俺達の夢そしてハルヒの夢が叶ったんだ。 この5人で、バンドとして、ステージに立って演奏して、観客を沸かせる、という夢がな――。 とどまることを知らない大歓声。タカが外れたかのように腕を振り上げる観客。 俺達の演奏は止まることを忘れたかのように体育館に響き渡り続けた・・・。 あの文化祭の後、即刻病院へと担ぎ込まれた俺は、見事に腱鞘炎との診断を受け、 しばらくの間、ドラム演奏は禁止との旨を医者に宣告された。 まあ、俺としても限界だということはわかっていたんだがな。 しばらくはサポーターをつけて、腕に負担がかかることは避けて生活せねばならなくなってしまったわけだ。 あの後、俺達SOSバンドの評判は凄まじく、全校あらゆる所から演奏のデモテープを求める声がどこからともなく上がってきた。 それに気を良くしたハルヒは当初、 「こうなったらCDを作りましょう!そしてゆくゆくはメジャーデビューよ!」 なんて息巻いていたが、俺の怪我であえなくその案は立ち消えになってしまった。 俺としてはホッとしたのと少し残念なのが半々というところだ。 そんなこんなで今日も今日とて、放課後にSOS団の部室に出向き、 今こうして朝比奈さん特製のお茶を美味しく頂いているところだ。 うーん、やはりこうした何も起こらない安穏とした日常が一番落ち着くのかもしれないな。 「キョンくんがスティックを落としちゃったときは本当にびっくりしました」 いつものメイド服に身を包んだ朝比奈さんが俺に語りかける。 「ほんと、もうダメかと思ったんですよ?」 いやいや、あなたに心配をかけるくらいなら俺は何度でもゾンビのように生き返って見せますよ。 「でも、やっぱり楽しかったな~。 私、歌もあんまり上手くないし、昔から音楽の授業も苦手だったけど、文化祭での演奏は本当に楽しかったです。 それにあの時のキョンくん、凄くカッコ良かったです」 あなたにそう言ってもらえるのならば、腱鞘炎にまでなった甲斐があったというものです。 むしろいくらでもなってやりますよ。 「涼宮さんも凄く満足してたみたいですし。これも皆キョンくんのおかげですね。 やっぱりキョンくんは、涼宮さんの期待を裏切りませんでした」 いやいや、買い被りですよ。 「あと・・・実は鍵盤にナイフを突き刺すタイミングをずっと伺ってたんですけど・・・結局出来なかったですね」 やっぱり本気だったんですか・・・朝比奈さん。 「実はですね、僕達のあのパート配置は偶然ではなく必然だったのかもしれません」 ニヤケ顔で古泉が話しかけてくる。必然って何がだよ。 「僕達のパート配置はそのままSOS団での僕らの役割とリンクしてしていた、ということです。 団長の涼宮さんが花形のボーカル、天才型のオールラウンダーである長門さんがリードギター、 団に彩りを添える朝比奈さんがキーボード、そして彼女達を影から支える僕とあなたががベースとドラムです」 まあ、たしかに考え方によってはそうかも知れんな。 「特に、涼宮さんがあなたをドラムに抜擢したのはまさに必然ですよ。ドラムはバンドにおける根幹、 縁の下の力持ちです。あなたはまさにSOS団を支えるキープレイヤーであり、その認識が涼宮さんにも勿論あります。 だからこそ、あなたはドラムを担当したのですよ」 偶然だろ、偶然。 「良いですか?バンドというものはいかにボーカルが上手かろうと、ギターが超絶テクニックだろうと、 ドラムがしっかりしていないと全く魅力のないものになってしまう、と言われています。 だからこそ、あなたがいかにこのSOS団にとって大切な存在か、ということです。 言い換えれば涼宮さんにとって大切、ということでもありますけどね」 いい加減、お前の薀蓄は聞き飽きたぜ。 「まあ、何にせよ、あなたのおかげで僕にしましても非常に有意義な文化祭になりましたよ。 前も言いましたけど、機関の思惑は抜きにして、楽しみたいと思っていましたからね。 涼宮さんの精神状態も安定していますし、言うことなしですよ。これ以上のハッピーエンドは望めません」 そうかい、そりゃあ良かったな。 「ただ、ひとつだけ後悔しているのは、やはり何としても全裸でステージにあが(ry」 五月蝿いぞ、変態。 「・・・マッガーレ・・・」 長門は今日も相変わらず、部室専用の漬物石のようにパイプ椅子に鎮座し、静かに本を読んでいる。 俺は何となしに文化祭の話題をふってみることにした。 「長門、文化祭のステージで演奏した感想は?」 俺の急な質問に、本に向けていた視線を上げる長門。 しかしじっと答えを待つが、沈黙が流れるのみ。俺は質問を変えてみた。 「楽しかったか?」 長門は本に視線を戻ってしまったものの、ポツリとした声で、 「それなりに」 と答えた。 俺は更に続ける。 「というかお前歌えたんだな、なかなか良かったぞ。お前の歌」 長門は表情を変えず、コクンと小さく頷いた。その頷きがどういう意図かはわからん・・・。 「また、来年も出てみたいと思うか?」 その質問に対する答えは返ってこなかった。 しかし俺は、長門の手が時折本から離れ、その指がステージで見せたように―― 目にも留まらぬ速さで動いているのを見逃さなかった。 その日、SOS団の部室にはいつになってもハルヒがやってこなかった。 今日は掃除当番でもなんでもないはずだし、一体どうしたのだろう? いつものアイツならいの一番にこの部室にやってきて、朝比奈さんをオモチャにしたり、 ネットサーフィンに励んでいるというのに・・・。 「涼宮さん、今日は遅いですね・・・」 心配そうな朝比奈さん。 「俺、ちょっと探してきますよ」 そう言い残し、俺はハルヒ探索の校内行脚へと向かった。 結論から言うと、ハルヒは中庭の芝生にゴロンと寝転がって空を見つめていた。 こんな光景は確か去年も見たような気がする。 「よう。こんな所で何してるんだ?団長ともあろうものが活動に顔を見せなくてもいいのか?」 そう声をかける俺にハルヒは空をボーっと見つめたまま答える。 「何よ、あたしの勝手でしょ。 それよりキョン、あんた腕の具合はどうなのよ」 「どうもこうもない。前に言ったとおり腱鞘炎で絶対安静だ。ドラムなんかしばらく叩けんぞ」 俺は苦笑しながら答える。 「あっそ」 そう呟くとハルヒはまた空をボーっと見つめ始めた。 俺はふとハルヒにこんな質問を投げかけてみた 「なんでバンドなんかやろうって言い出したんだ?」 ハルヒは少しムッとして、 「何よ、あんたまだ不満でもあるの?」 「いや、別に。何となくだ」 それからしばらく黙って空を見つめ続けていたハルヒだったが、 急に思い立ったように語りだした。 「去年、あたしと有希が飛び入りでライブをやったでしょ――」 ああ、そんなこともあったな。 「あの時、ろくな準備も出来てなくて、本物のENOZに比べたら全然稚拙な演奏だったかもしれないけど――」 そんなこともなかったと思うけどな。 「凄い楽しかったのよ。それで『自分が今何かをしてる』って、心底そういう気分になれたの――」 「お前はいつも何らかの騒動を巻き起こしているし、十分何かをしてる気分を味わってるんじゃないのか?」 「そうだけど・・・っていちいち揚げ足取るんじゃないわよ!」 スマンスマン。 「とにかく、あんなに楽しくて充実感を味わった経験はこれまでになかったのよ」 ハルヒは一層遠い目をして空を見上げる。 「それで単純に、あの楽しさと充実感をあたしと有希だけじゃなくてSOS団の皆で味わいたいなって。 そう思っただけよ」 なるほどな。 俺はやっとなぜここまでハルヒがバンドに熱意を注いだのか、俺にドロップキックを食らわせるまでに夢中だったのか、 その理由が完全に理解できた気がした。だからこそその後の台詞もすんなりと吐き出せた。 「俺は楽しかったぜ。腱鞘炎も気にならなかったくらいに、な。 長門も朝比奈さんも古泉もきっと俺と同意見さ」 ハルヒはフンと鼻を鳴らし、 「当たり前でしょっ!この私の完璧な計画に狂いはないのっ!」 と言い放つ。 起き上がるハルヒ。俺は続けざまに言葉を投げた。 「それでお前は――楽しかったか?」 「当たり前でしょ!!」 満面の笑みである。 ぶっ倒れそうなくらいの疲労と腱鞘炎の代償がこの笑顔だって言うなら―― きっとお釣りが来るぐらいだね。 立ち上がり、急に俺に顔を近づけるハルヒ。 オイオイ、顔が近すぎる!息がかかるって! 「今回の文化祭であたし達SOSバンドの評判はうなぎ上りだわ! キョン!あんたの腕が治ったら早速デビューアルバムのレコーディングよ!」 マジかよ・・・。 「そうすると、スタジオを借りなきゃいけないし、レコーディングの仕方も学ばなきゃね。 早速軽音楽部に言って色々聞いてきましょ」 オイオイ、いくらなんでも気が早いんじゃないのか? 「何よ、今度はあたし達SOSバンドが日本の音楽シーンを変革させるときが来たのよ! あんたもドラムが叩けないならその間機材の使い方でも勉強しなさい!」 んな無茶な。 「さあ、SOSバンドの活動はまだまだこれからよ!!」 ハルヒが俺の手首を掴み、引きずっていく。コレも去年と同じ光景だ。 ただ去年と違うのは、俺の手首を握るハルヒの力が少し強かったことと、 俺がどうしようもなく気恥ずかしかったことだがな。 この後、SOSバンドのデビューアルバムがレコーディングされることは無かった。 別に、ドラマーが一生ドラムを叩けないほど腱鞘炎が悪化したからとか、 ベーシストがワイセツ物陳列罪で逮捕されたからとか、 そんな理由からではない。 要はハルヒの興味が完全に別のことに移ってしまったからなのである。 俺達がステージで最後に演奏した『ハレ晴レユカイ』は、 5曲の演奏曲の中でも最もその反響が大きかった。 それに目をつけたハルヒがこの曲のPVを作成してDVDに焼いて売り出そうとか言い出したのだ。 そもそも音源が無いじゃないかという俺の主張は、後に演奏を別取りして被せるということで却下されてしまった。 まあ、別にPVを作るのはよい。ドラムを叩くよりはラクだしな。 ただ・・・なぜに俺達がPVで珍妙なダンスを踊ることになってしまったのであろう!? ハルヒ考案の振り付けは正直無茶苦茶恥ずかしい・・・。 そして今日も今日とて、部室では振り付けの特訓が行われている。 「ちょっとみくるちゃん!今のタイミング遅れてたわよ!」 「ふええ~、振り付けなんてムリですよ~、身体が動きませ~ん・・・」 「古泉君!最後のジャンプは画面のフレームから首から上が外れるくらい高く跳躍しなさい!」 「団長の仰せのままに」 「有希!あんた振り付けは完璧だけどその無表情をもうちょっと何とかしなさい!画面栄えしないわよ?」 「・・・・・・」 こんな感じである・・・。 「ちょっと、キョン!また間違ったわよ!やる気あるの!?」 ハイハイ、真面目にやってますよ・・・。 この珍妙なダンスを収めたPVがどういった形で世に出るのか・・・。 そしてそれが出てしまったら最後、本格的に俺達は変人の烙印を押されてしまうのではないか・・・。 そんなことを考えながら、今日も元気な団長様の声に耳を傾けている。 古泉は俺が、『SOS団の縁の下の力持ち』だと言った。 ああ、そうさ。俺はこのSOS団を、ドラマーのように、後ろからしっかり支えていく運命にあるんだよ。 だからな、ハルヒ。お前がどんな無理難題を言い出そうと俺は後ろから支え続けるぞ? 無論、腕がぶっ壊れようとな。覚悟しとけよ? そして、まあそんな日が万が一、億が一にも来るかはわからんが、 いつの日か、お前の後ろじゃなくて―― お前の隣に立って―― どこまでも支えていってやりたいなんて―― そんな柄にもない恥ずかしいことを考えたりして、な。 ―――END―――
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どうしたんだろう。舌がなんだか縮こまっちゃって、うまく話せない。 「ね、ねえキョン。その、つまんない疑問なんだけど、さ」 「うん?」 こちらを見るキョンの様子がおかしい。明らかに心配そうだ。そんなに今のあたしはひどい表情をしているのか。 「こないだ、なんとなく深夜映画を見てたのよ。それがまた陳腐でチープなB級とC級の相の子っぽい、つまんない代物だったんだけど」 「ふむ、そりゃまた中途半端につまらなそーな映画だな。しかしハルヒ、あまり夜更かしが過ぎるとお肌に悪いぞ」 「うっさい、話を混ぜっ返すなっ! …でね、その映画ってのが、途中で主人公をかばってヒロインが死んじゃうのよ。でもって墓前に復讐を誓った主人公が敵の本陣に乗り込んで、クライマックスになるわけなんだけど」 べたりと汗のにじんだ手の平を握りこんで、あたしはキョンに訊ねかけた。 「もしも。もしもよキョン、あんたが言った通り映画の主人公がトラブルを乗り越えて行くべき存在なら…ヒロインが死んじゃったのって、それって主人公のせいなのかしら…?」 あたしがその質問をした途端、キョンは「あ」と小さく声を上げた。苦虫を噛み潰したような表情になって、それから、ゆっくり口を開いた。 「おい、ハルヒ。分かってるとは思うが、さっき俺が言ったのは『物語を客観的に見ればそういう考え方も出来る』って程度の話だぞ」 うん、そうよね。それは分かってる。 「脚本家やらプロデューサーやらの都合じゃヒロインが死ぬ必然性はあったかもしれないが、それは当然、主人公の意思とは無関係だ」 それも分かってる。けど。 「だいたい、自分が活躍するためにヒロインが死ぬ事を望むヒーローなんか居るかよ。もし居たとして、そいつはヒーローなんかじゃない。 だからその、何というか。要するに、俺はお前を責めるつもりであんな発言をしたわけじゃないってこった。単純にお前にトラブルを乗り越えてく覚悟があるかどうか確かめたかったっつーか、なんとなく意地悪な質問をしてみたかっただけというか。 大体ここまで人を巻き込んどいて、いまさら遠慮とかされても逆にだな」 「分かってるわよそんな事ッ! だけど…」 そう、分かってる。分かってるのよ。キョンの言い分は全て理にかなってる。こんなに声を荒げてるあたしの方が、きっとおかしいんだ。 でも。それでも! 「でもやっぱり、主人公が英雄的活躍を求めた結果として、ヒロインが死んじゃった事には変わりないじゃない!? あたしは、そんなのは嫌…。あたしのせいでキョンが居なくなるなんて、絶対に我慢ならない事なのよ!」 ああ、言ってしまった。直後に、あたしはそう思った。 それは言いたくなかったこと。認めたくなかったこと。でも言わずにはいられなかったこと。 「――北高に入って、あたしの日常はずいぶん変わったわ。毎日がとても楽しくなった。中学の頃なんかとは段違いに。 あたしはそれを、自分が頑張ったおかげだと思ってた。SOS団を作って、不思議を追い求めて。前に向かってひたすら走ってるから、だから毎日楽しいんだと思ってた。 昨日まで、ついさっきまで、そう思ってたのよ! でも、違った。本当はそうじゃなかった…」 「何が違うんだ? お前が日常を変えようと努力してたって事なら、俺が証人台に立ってやってもいいぞ? その努力の方向性が正しかったかどうかは別問題として」 この湿った雰囲気を変えようとでもしてるのだろうか、軽口っぽくそう言うキョンを、あたしは鋭く睨みつけた。 「だから、それよ! 気付いちゃったのよ、あたしは、その事に!」 「意味が分からん。いったい何に気付いたっていうんだ?」 「あんたが、あたしの背中を見ていてくれるから! だからあたしは走り続けていられるんだって事によ!」 気が付くと、あたしは深くうつむいていた。今の表情を、キョンの奴には見られたくなかったのかもしれない。 「中学の頃だって、あたしは走ってたのよ。日常を変え得る不思議を捜し求めてね。でもあたしはずっと一人で…息切れとか起こしたって、それに気付いてくれる奴は誰も居なかった…」 「…………」 「あの頃と今と、何が違うのか。 今のあたしが前だけ向いて、心地よく走り続けられるのは、それはあたしの後ろで、あたしの背中を見続けてくれる奴が居て…。もしもあたしが転んだとしても、すぐにそいつが駆け寄ってきてくれるっていう安心感の後ろ盾があるからだ――って…気付いちゃったのよ…」 喋っている間に、いつの間にか立ち上がったキョンが、すぐ前に立っていた。あたしはうつむいたままだからその表情は分からないけど、腕の動きから察するに多分、さっきぶつけた後頭部をさすっているんだろう。 「ありがたいお言葉なんだが、お前にそう殊勝な事を言われると、驚きを通り越して寒気がするんだよなあ。 ともかくハルヒよ、別にそれは俺だけの話じゃないだろ。朝比奈さんや長門や古泉、その他もろもろの人がお前を支えてくれてる。俺なんかパシリ役くらいしか務まってないぞ」 「そうよ! あんたはみくるちゃんみたいな萌えキャラでもないし、有希ほど頼りになんないし、古泉くんほどスマートでもないわ! せいぜい部室の隅に居ても構わないってくらいの存在よ!」 「やれやれ、俺はお部屋の消臭剤か」 なんで、あたしはこんなにイラついてるんだろう。どうしていちいちキョンの言葉に反応してしまうんだろう。 あたしの不愉快さは、それはもしかして…不安の裏返しなの? 「そう、あんたは特に取り柄があるわけでもない、ただ単に手近な所に居ただけの奴だったのに! そのはずなのに! でもあの春の日に、あたしの髪型の変化に気が付いたのはあんたで…その後もあたしの事を一番気に掛けてくれるのはあんたで…。 いつの間にかあたしは、あんたに見られる事を意識するようになってた…。あたしがこうしたらあんたはどんな反応するだろうって、それが一番の楽しみになってた。 あんたが変えちゃったのよ、あたしを! もうあの頃のあたしには戻れないのよ! それなのに、あんたがあんな事を言うから…」 ああ、失敗。失敗だ。 うつむいてしまったのは大失敗だった。確かに表情を見られはしないけど、にじみ出てくる涙をこらえられないんじゃ、意味がない。 「あんたが…人間なんて明日どうなってるか分からないとか言うから…。だからあたしは、こんなに不安になってるんじゃない!」 あんまり悔しくって、あたしは涙に濡れた顔を上げ、再びキョンの奴を睨み据えていた。 つい先程聞いた有希のセリフが、また胸の奥でこだまする。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 『価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった時の喪失感は、絶大』 今なら、その意味が分かる。 あたしにとってあるはずのもの、そこに居てくれなければ困るもの。それは、キョンだったんだ――。 「もし…もしもあんたを失っちゃったら、きっとあたしは今のあたしのままじゃいられない…。何度も何度も後ろを振り返って、おちおち前にも進めなくなる…。 そんなの嫌! そんなのはあたしじゃない! だから、あたしは!」 こんな事を言ったら、キョンはきっとあたしの事を軽蔑するだろう。そう思いながらも、でも一度ほとばしった罪の告白は、途中で止められるものではなかった。 「あんたをここへ、ラブホへ誘ったのは、なんとか励まして元気付けたかったからっていうのは本当。 でもあたしにはあたしなりの思惑があって…。あんたが目の前に居て、あんたに触れる事が出来る内に、あんたとしておきたかった…。 あんたがあたしと一緒に居たって証拠を、心と身体に刻み込んでおきたかったのよ! 悪い!?」 はあ。 言っちゃったなあ…あたしのみっともない本音を。 キョンの奴も、さすがに愛想が尽きただろう。いつも偉そうぶってるあたしがこんな、ただの利己主義で動いてるような人間だと知ったら。 キョンの反応が恐くて、あたしはギュッと固く目を瞑って、肩を震わせる。そんなあたしの耳に、キョンの呆れたような声が届いた。 「やれやれ。男冥利に尽きるお言葉ではあるんだが、願わくばもう少し可愛げのある言い方をしてくれないもんかね」 「………は?」 「いや、訂正しとこう。可愛げのあるハルヒってのは、やっぱりどうも薄気味悪い。少し横暴なくらいがお似合いだな」 「な、なんですってぇ!?」 あたしの本気を茶化すような、あまりといえばあまりの雑言に、あたしは思わず目を剥いて、キョンの胸倉を掴み上げてしまう。 すると、キョンの奴は悪びれもせずにあたしの目を見つめ返し、子供をあやすようにポンポンとあたしの頭を叩きながら、こうささやいた。 「なあ、ハルヒ。ひとつ訊くぞ?」 「…何よ」 「お前は、俺に消えていなくなってほしいのか?」 「なっ、このバカ! 今までなに聞いてたのよ、その逆でしょ!? あたしは、あんたと…」 「だったら、つまんないこと心配すんな」 え、と顔を上げたあたしに、キョンは驚くほどキッパリと言い切ったの。 「お前が望んでる限り、俺は、ずっとお前の傍にいるはずだから」 ――まったく。 まったくもう、なんでこいつは。 普段は優柔不断の唐変木ののらくら野郎のくせに、こういう時だけは断言できたりするのだろうか。 不覚にも、ぐっと来てしまったじゃないか。 不覚、不覚! 涼宮ハルヒ一生の不覚! 気付けばあたしはキョンの胸にすがりついて、ボロボロに泣き崩れていた。さっき流した悔し涙や、不安と寂しさで流した涙とは全然違う、それは頬がヤケドしそうなくらい、熱い、熱い涙だった。 次のページへ
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涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― キョンが欠席した翌日。 今日もあいつは欠席していた。 ただ何かが違う。 岡部は今日も「家の都合」って言った。 でも詳細は教えなかったんだから。 よく考えたら昨日はあたしも頭に血が上っていたのか、もう一つ欠席表現としての言葉を思い出した。 もし親戚に不幸があったなら『忌引き』って言うはずよ。 それが無かったということは答えは一つしかない。 と言っても、まだこれは憶測の域を出てないから軽はずみなことは言えないんだけどね。 あたしの昨日までの怒りは完全に収まってたわ。 ううん。そんな状況じゃなくなった気がする。 そんな疑心暗鬼のまま、一日は過ぎ去り、そして放課後。 あたしはいつものように部室へと向かう。隣にあいつがいないことになんとなく隙間風を感じてしまっていることは自覚しているわ。 んで否定する気もない。 そりゃそうでしょ? 犬だって三日飼えば情が移るんだから。 それが三日どころか一年以上、隣にいたんだし、それが当たり前だと思っていたから寂しくなって仕方がない。 あ、言っておくけど、これがキョンじゃなくてみくるちゃんや古泉くん、有希が傍にいなくなっても同じ感情を抱くわよ! 絶対に勘違いしないように! って、あたしは誰に何を言っているのかしら。 などと考えながらあたしは部室のドアをくぐる。 「お待たせー! キョン以外のみんな! いる!?」 キョンが居ないことでみんな気にしてたみたいだから少しでも明るい雰囲気を作らないとね。てことで、あたしは努めて明るい声を張り上げたわけだけど。 「ハルにゃん!」 って、え!? まったく予想していなかった泣き叫んでいるような幼い声を耳にして、あたしは思わず素っ頓狂な表情を浮かべてしまったの。 ちょっと待って……今の声は…… 「妹ちゃん!?」 「ハルにゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 あたしが目を丸くして呼びかけると同時にキョンの妹ちゃんが泣きながらあたしにむしゃぶりついてきた。 いったい何がどうなって……? あたしの胸の中で泣きじゃくる妹ちゃんの様子にどうやらあたしの疑念は確信に変わってしまったらしい。 自分でも分かる。 周りの世界がどこか遠くなって、色彩が薄れていく感覚に包まれて―― キョンに……何かあった…… 茫然自失と立ち尽くすあたしの頭の中はそのフレーズをリフレインするのみになってしまった…… 「えっとね……ひっく……あのね……ひっく……おとといの日曜日にね……ひっく……」 妹ちゃんはみくるちゃんの腕の中で、泣きじゃくりながら語り始めていた。 「家に着いたらね……ひっく……真っ暗で……ひっく……でも鍵がかかってなくて……」 「鍵がかかってなくて真っ暗、ですか?」 「う、うん……」 古泉くんの神妙な確認に、まだ震えながら頷く妹ちゃん。 そうね……あたしも今、まだ茫然としているし、ここはみんなに任せましょう…… 「それでね……ひっく……キョンくんのお部屋に行ったらね……ひっく……誰もいなかったの……」 「妙ですね」 「でしょ……」 「で、今日まで彼から連絡もなかったということですか?」 「そうなの……うっうっうっ……」 それっていったい…… 「ハルにゃぁぁぁぁぁぁぁん!」 ととっ! 今度はあたしにむしゃぶりついてきたし! 「SOS団って不思議を探し出すところなんでしょぉ! いきなり消えちゃったキョンくんって不思議だもん! だから、キョンくんを、キョンくんを探してよぉ! お願いだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 あたしの胸の中で泣き叫ぶ妹ちゃんの気持ちはよく分かる。 今の話をそのまま信じるならキョンが日曜日の時間は不明だけど、その日から消息不明になっているってことだから。 でも……なぜ……? しばし、あたしの胸でむせび泣いていた妹ちゃんが静かになったと思ったら―― ん…… そっか、泣き疲れて寝ちゃったんだ…… 優しく頭をなでてあげる。 と、妹ちゃんは一瞬、びくっと震えて、またすすり泣く声だけが聞こえてきた。 キョンの夢でも見てるのかしら…… などと、あたしもどこか物哀しげになってくると、 「わたしは明日、明後日とSOS団の活動を休止する。許可を」 うわ! 顔近いし有希! 息もかかる! って、そうじゃなくて今何て? 「彼を探索するため、わたしは情報統合思念体にアクセスし、この惑星のみならず銀河系規模で捜索する。そのためには二日から三日ほど必要であり明日と明後日、学校に来ることも不可能。だからSOS団活動の休止の許可を」 銀河規模でキョンを探す!? ちょっと! なんたってそんな大事になるのよ!? 思わずあたしは聞き募っていた。 ん? 有希が宇宙人ってことなら知ってるわよ。正確には宇宙人が造り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス、だったかしら? つい最近、ちょっとした……じゃないわね、かなりの大きくて衝撃的な出来事があって、その時にキョンが有希が宇宙人だって教えてくれたの。あとキョンがジョン・スミスでみくるちゃんが未来人ってこともね。しかもその言葉に嘘がないことの証言もあったし信じるしかないってもんよ。んで、その衝撃的な出来事の時に異世界人で『魔法』という名の超能力を振るう存在にも出会ったんだけどそれは別の話。 今はもっと重要なことがあるし。 すなわち―― キョンを探し出す―― 「昨夜、情報統合思念体から連絡があり、彼がこの惑星外へ飛ばされた可能性がある、と報告を受けた。むろん杞憂かもしれないが確かめる必要はある。そうなると銀河の広さを鑑みれば二日から三日は捜索期間として妥当」 何ですって!? 「杞憂かもしれないと言ったはず。だから、あなたたちはこの地域を捜索してほしい」 ええっと……何か一足飛びどころか、百足も千足も、と言うよりそれ以上ははるかに飛んでる気がする想定なんだけど…… しかし、あたしの苦笑を浮かべた困った表情は有希の真摯な両眼に迎撃されてしまい、 そ、そうね……宇宙規模となれば有希以外誰も何もできないでしょうけど…… 「わ、分かった。有希は明日と明後日、団活を休んでいいからね」 苦笑のまま不承不承に頷くあたし。 「感謝する」 有希が深々と頭を下げた。 「もう一つ確認したいことがある」 って、また顔近いし! 「あなたは仮に彼がこの惑星外に強制送還されたとしても生きていると思う?」 そんなあたしの焦りを無視するがの如く、有希は何でもないような顔で聞いてくる。 ……? 何、今の質問。んなの答えは決まってるじゃない。 「もちろん生きているわ。ヒラで雑用のあいつの生殺与奪の権限はあたしが持っているんだから。それがたとえ宇宙空間だろうと生きてなきゃ許さないわよ」 「それを聞いて安心した。これでわたしも希望を持って創作……もとい、捜索できるというもの」 何で言い直したのかしら? 「単なる言語表現の間違い。深い意味はない」 本当に? 「嘘つく意味もない。わたしという個体も彼のオリジナルが戻ってきてほしいと望んでいる。わたしだけでなく、あなたはもちろん、古泉一樹も朝比奈みくるも」 「分かった。じゃあしっかり探してきてね。あたしたちもこの辺りはくまなく探すから」 「了解した」 あたしが了承すると同時に、有希は颯爽と部室を後にする。 その後ろ姿を見送って、 頼んだわ……有希…… 妹ちゃんを抱きかかえたまま、あたしは、自分では気付けなかったけど、悲壮感漂う表情で有希を見送っていたらしい。 涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side K―
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涼宮ハルヒの遡及Ⅳ ええっと……ここはどこだ? 気がついたら、見渡す限りの黄砂地帯で地平線の彼方まで続いているような風景が目の前に広がっていたんだ。 というか、いったい俺はいつからここにいるんだ? 「どうやら気づいたようね」 って、え? 聞こえてきた声に反射的に振り返れば、そこには染めていた髪を元の桃色に戻し、マントも羽織ったアクリルさんが神妙な顔つきで左手を腰に当てて佇んでおられました。 「まさか、これがあの子の力なの?」 「あの子って……ハルヒのことですか?」 「そうよ」 言いながら彼女は近づいてくる。周囲に警戒の視線を這わせながら。 「何か知らないけどいきなり、キョンくんの足元に魔法陣が発生したのよ。あっと、魔法陣というのはあたしが知っているものの中であの現象を表現するのに最も適切だと思ったからよ。キョンくんも知ってる言葉だしね」 俺の足元に……魔法陣……? 「ええ。ということはキョンくんには記憶がないのね。あたしに助けを求めて必死な形相で手を差し伸ばしてきたことの」 なんだって!? 「残念だけどあたしも引っ張り出せなかった。というか、キョンくんを引っ張り込む引力が強すぎた。おかげであたしも一緒にここに引き摺りこまれたからね。しかも引力を自在に操るグラビデジョンプレッシャーで対応できなかったということは、あれは引力だけど引力じゃない『転送』ってことになる力よ」 あまり意味はよく分かりませんが……とにかくハルヒの力によってこの空間に俺が連れてこられたってことだけ理解すればいいんだな……しかし何のために…… 「さて、それはたぶん、あなたの方が詳しいでしょうね。正直言ってあたしには何が起こったか分からない」 などと答えるアクリルさんの背後から、 「キョンくぅん!」 いつもながらの愛らしいボイスが、どこか焦りと悲壮感を漂わせながら俺を呼んでいる訳で、むろん、俺がこの声の主を聞き間違えるわけがない。 「朝比……って、ええ!?」 俺が素っ頓狂な声を上げるのも解ってもらいたい。 なんせ手を振りながら駆けてくる悲痛な形相の朝比奈さんの後ろに長門と古泉もいるのだから。 と言っても、そこまでであれば、『ハルヒの力』によってここに飛ばされたことを知っている俺だから、驚くほどでもないのだが、驚いたのはその三人の格好だ。 ツインテールで両目で色の違う戦う超ミニスカウエイトレスの朝比奈さん。 漆黒のとんがり帽子にマントを羽織いちゃちなスターリングインフェルノを手にしている下にはいつもの制服姿の長門。 まあ古泉は何の変哲もない北高ブレザー姿なのだが…… つまりは、文化祭の時の映画の配役衣装で現れたのである。 「気がついたら何か知らない場所にいて、いったいここどこですか? どうしてこんな格好してるんですか? な、何であたしたち、こんなところにいるんですかぁ?」 矢継ぎ早に質問してくる朝比奈さんはすでに涙目である。 いや、そんなに取り乱さなくても。 というか後ろの二人が落ち着き払っているうえに、俺も狼狽していないんですから落ち着いてください。なんとかなりますって。 などと宥めてはいるのだが、朝比奈さんは不安から俺の胸に顔を埋めて震えていらっしゃってます。 ううむ。役得ってやつだな。 「どうやら、あなたは気付いているようですね」 などと肩を竦ませて、古泉が苦笑を浮かべて聞いてくる。 「んなもん、ハルヒの力に決まってんだろ。だいたいなんだってあいつはこんなことをやったんだ?」 「端的に説明すれば、今日の午後からの出来事が起因。おそらく涼宮ハルヒはプロットを作成中。それは文化祭での映画のストーリーの続編と思われる。しかし紙上に表現する前に強く想像してしまった可能性が高い。これが我々がここにいる理由。我々がこの衣装を着衣している理由」 てことは何だ? 俺たちはまた、ハルヒの創造するストーリーの中に閉じ込められてしまったってことか? 「そういうことです。しかし、確かにこれは涼宮さんの力を現実世界には発動させない証明にもなりましたね。現実ではなく次元の狭間のような場所に僕たちの住む町ほどの大きさで一区画分の閉鎖空間=コンピ研の部長氏が巻き込まれました局地的非侵食性融合異時空間を作り出し、そこで想像を現実化させているようです。新世界を創造するわけではありませんから、地域が限定されるだけにこれは案外、喜ばしいことではないかと」 つまり、巻き込まれる俺たちだけが、これまでと変わらない苦労を背負い込むってことも証明されたのにか? 「現実世界が揺らぐよりはマシでしょう」 そんなに変わらん気もするが……。 「しかし一つ疑問がある」 長門? 「文化祭の映画において、あなたは本編に登場していない。我々よりもはるかにあの映画に貢献していたが裏方に徹していた。なのに今回はあなたもここにいる理由は?」 言われてみればそうだ。この三人の格好からすればあの映画の続編だかの話を作っている想像はつくが、果たしてあの映画に俺の登場シーンなんて作れるのか? しかも俺は別段、何のコスプレもしていない、今日、遊びに行った時の格好のままだ。 「それでしたら、そちらのさくらさんもそうですね。この方がこの世界にいる理由も説明付きません」 「ああ、それなら説明付くわよ。あたしはキョンくんを引っ張り出そうとしたんだけどミイラ取りがミイラになっただけだから」 「そ、そうですか……」 古泉の鼻白む呆気にとられた顔ってのは初めて見たな。まあ得てして真相なんて簡単なものさ古泉。あまり深く考えるな。 もっとも俺のことはまだ謎のままなんだが。 「で、これもハルヒさんが考えたこと?」 が、いきなりアクリルさんは腕を組んだまま、笑みは浮かべてはいないが不敵な表情で辺りを見回した。 「え……?」 「な……!」 「……」 どれが誰の声かは勝手に想像してくれ。つか、俺は絶句してしまったんだ。 おいおい勘弁してくれよ。何だって俺たちはいつの間にいつぞやのカマドウマの大群に囲まれてるんだ? ひょっとしてさっき古泉がコンピ研の部長の話を出したからか? 「おや? どうやらこの世界では僕の力も具現化されるようですよ。しかも威力が自由自在のようです」 などと嬉々として言ってくる古泉は手のひらサイズの球にしたり全身で赤いオーラの球を纏ったりしている。 「長門さん、朝比奈さん、おそらく、この世界では映画の時の力があなた方にも備わっていると思います。どうぞ試してみてください」 「ふ、ふぇ?」 「了解した」 朝比奈さんはまだ戸惑ってらっしゃいますが、長門は無表情のままスターリングインフェルノを目の前にかざし―― つか、その前髪の影を濃くした瞳は無表情でも怖いって! などとツッコミを入れる俺の頬を一筋の光がかすめていく! 背後で爆発音がしたと思ったら一匹のカマドウマが砕け散っていた! マジか……? それを合図に、俺たちを取り囲んでいたカマドウマがいっせいに跳ね上がり上空から襲ってくる! 冗談じゃねえぞ! あんなもんに踏みつぶされたら結果なんざいわずもがなだ! つか、俺は何の配役も与えられてなかったんだから特殊能力なんてないんだぜ!? どうするんだよ! 「え、えと……ミクルビーム!」 ほえ!? 俺の腕の中にいる、朝比奈さんが左手でピースサインを作って左目に当てると同時に黄色い声援に近い声を上げられましたよ!? その眼から、今度は俺の鼻先をかすめてビームが発射されましたがな! んで、俺たちの本当に真上にいたカマドウマが粉砕されましたし! 「わぁ、本当です! キョンくん! 今回はあたしも役に立てそうですよ!」 そ、そうですか…… いつも以上の愛らしく可愛らしい笑顔を振り向いてくださっているのですが、とても感慨に浸れるほどのゆとりは俺の心に残っておりません。 「なるほど、涼宮さんの考えが見えてきました」 肩越しに振り返る古泉の眼前では、また一体、カマドウマが吹っ飛んでいる。 どういうことだ? 「どうやら涼宮さんはあの映画の続編的には長門さんの役割を悪い魔法使いから我々の仲間になるという話を作ろうとしているのではないでしょうか。新たな強敵が現れたとき、前回、敵役だったキャラクターを味方にするのはよくある話です。 そして涼宮さんがあなたを登場させた理由ですが、おそらく、あなたは何かの鍵を握っている役。特殊能力はなくともまったく別のことで貢献する役割です。最近のお話には多い気がしますよ。圧倒的な力を持つ者に対して戦う者と解決する者が別の役になっているってものが」 なるほどな。たしかにそういう役割には特殊能力はいらん。我ながら呑み込みが早いな。 「んじゃまあ、その役割を全うしてもらいましょうか。どうやらこの世界から脱出するにはそれしかなさそうだし、この空間が異次元世界の一種である以上、あたしはともかく、ここにいるみんなは条件を満たさないと元の世界に戻れないでしょうし」 ん? この声は…… 「スターダストエクスプロージョン!」 咆哮と同時に放たれた……いや、これはもうこう表現するしかない! 銀河を駆ける数多の流星を彷彿させる光の群れが一瞬ですべてのカマドウマを打ち砕く! 「こ、これは……」 「凄い……」 「……」 古泉、朝比奈さんは愕然とし、長門もまた目を見張っている。 「ふうん――この空間、結構、魔力構成が単純になってるわね。あっさり解読できたわ。しかも、あたしの力は制約を受けていない――」 その視線の先にはマントと髪をなびかせながら悠然と佇むアクリルさんがいる。 「キョンくん、ここはあたしたちに任せて、あなたはこの世界を消滅させられる鍵を見つけてきて」 「分かりました! ……って、鍵って何だ? あとどこにある?」 だよなぁ。何のヒントもないんだよな。これで俺にどうしろと? 「古泉一樹」 「長門さん?」 「あなたが彼のフォローを。ここは涼宮ハルヒが創り出した世界。故にあなたがこの世界のことを一番分かっているはず。我々は大多数の敵を引きつける」 「なるほど。それは名案です。では行きましょう!」 「お、おお!」 言って俺たちは長門、朝比奈さん、アクリルさんにこの場を任せて走り出す! って、どこにだ!? つか、あっさり回りこまれてるし! いや、そもそもいつこいつらは出現した!? などと心の中でツッコミを入れる俺と古泉の目の前には再びカマドウマが群れをなして、今度は、サッカーのフリーキックの時にできる壁の如く並び、俺たちの進行を妨げている。 「ということは向こうに何かある、ということですよ。どうやら僕の勘は間違っていなかったようですね」 「勘か!?」 「あれ? ご存知ないんですか? 物語において主人公格の進む先には何の脈絡がなくても必ず重要なファクターがあるものなのですよ」 「理由になっとらん! それはご都合主義というやつだ!」 「グラビデジョンバースト!」 俺たちの掛け合いを打ち消したのは再び聞こえてきたアクリルさんの咆哮だ! 彼女が生み出した爆発の圧力が壁の一角に大きな風穴を開けた! 「さて、行きますよ!」 「ああ!」 こうなりゃ俺も自棄だ! この空気に乗ってやろうじゃないか! もちろん、駆ける俺たちを阻止せんと、生き残ったカマドウマ達が寄り合い、再び俺たちの壁になるべく陣形を取るのだが、 「ミクルビーム!」 「……」 俺たちの両脇から、いつの間にか走って追いついていた二人、朝比奈さんが声をあげ、長門が無言で素早くスターリングインフェルノを振るうと、二人から放たれた色違いの稲妻が再び俺たちの眼前のカマドウマを破壊する! 「メテオフレア!」 って、今度は上空からか!? んなことできるのはここには一人しかいない訳だが…… 俺たちがカマドウマに最接近すると同時に、それでも俺たちの行方を阻んでいた最後の三匹が消滅する! なんとその向こうには、塔があった! 「どうやらここがこのステージの終着駅なんでしょうか!」 「……そのステージがラストステージという断言はできんのか……?」 言いながら俺と古泉は塔に駆け込む! ん? 他のみんなは? もちろん俺は肩越しに振り返り、 うげ…… 「雑魚は任せてちょうだい。あんたたちは先に進むことね」 そう……この場に似つかわしくないとびっきりの笑顔を見せるアクリルさんと、その両脇に珍しく勝気な笑顔を浮かべる朝比奈さんと、相変わらず無表情だがそれが反って俺に安心感をくれる長門が自信満々に臨戦態勢で立っている。 その眼前にはカマドウマの大群が地響きと砂埃をまき散らしながら近づいてくる様が見て取れるんだ。 まあ確かにあの巨大カマドウマがこの塔に乗り込んでこられても大変だからな。 「それじゃお願いしますよ!」 「OK!」 「はい!」 「了解」 三人の勇ましい返事を聞いて俺と古泉は塔を登り始めた。 もちろん、この塔にはカマドウマ以上の強敵が当然いるのだろうが、逆に、塔の広さを思えばそこまで数多く表れることもないだろう。 と言っても俺には何の特殊能力もないので、思いっきり不本意なのだが…… 「古泉、俺の命はお前に預けるからな」 「信用してくださってありがとうございます」 古泉の笑顔から裏を感じなかったのは初めてだったかもしれん。 さて、この先には何があるのやら…… 涼宮ハルヒの遡及Ⅴ
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結局その後、俺達は飲めや騒げやなんとやらで一晩中宴会場で騒いでいた 分かった事は喜緑さんは備中と呼ばれる城下町出身の飯綱使で、眼鏡の男の人と一緒に旅をしていると言う事ぐらいだ。 その眼鏡の人は自分の名前が分からないらしく、それを含めた全ての記憶を探す旅をしているんだとか ==宴会所・朝食== ハルヒ「ねえアンタ」 眼鏡の男「なんだね?」 ハルヒ「なにか呼ばれたい名前とか無いの?眼鏡の男じゃ違和感があるわ」 眼鏡の男「そんなものはどうでも良かろう」 ハルヒ「でも眼鏡の男じゃなんかあれよねえ…」 喜緑さん「う~ん、そうですね。あ、そういえば東の方の城下町では会長なんて呼ばれてますよ?」 古泉「会長とは?」 喜緑さん「私もよく分らないんですけど…『短筒を愛する会』と呼ばれる集りのまとめ役を会長と呼ぶらしいんです」 ハルヒ「決まりね!そっちの方が呼びやすいし!アンタこれから会長って呼ぶわ」 会長「お、おいそんな勝手に…」 キョン「まあ、いいじゃないですか。眼鏡の人より呼びやすいですよ。」 会長「…まあ呼ばれ方にはそう拘らん。それより君達は此れからどうするんだね?」 キョン「此処でもう少し掘り出し物を探してから…比叡山に行こうと思っています」 会長「比叡山だと…?あらゆる生命を司る神々の住む領域…人呼んで【神霊域】と呼ばれるあの場所へか…?」 キョン「ええ、あそこが一番手っ取り早く腕を鍛える事が出来ると思うんです」 喜緑さん「やめた方がいいと思います…あの洞穴は神の領域。私の母もあの地で命を…」 キョン「・・・・」 会長「好きにすれば良い」 喜緑さん「でも・・・」 会長「止めはしない。だがもう少し時を置いても良いんじゃないか?」 キョン「・・・?」 古泉「具体的にどうすれば良いのでしょうか?」 会長「相模天狗の森に行け」 古泉「!」 ハルヒ「何よその相模天狗の森っていうのは」 古泉「僕から説明します。この城下町を少し北へ行ったところに一際不気味な森があります。それを万民は『天狗の森』と呼びます」 キョン「なんだそりゃ?天狗と戦えとでも言うのか?」 会長「その通りだ。今の君達の力がどれ程の物かは知らん。だが相模天狗と言えば古来より伝承されてきた仙術を駆使する、いわゆる仙人だ。噂によれば、かなり好戦的とも聞く。経験に勝る知恵無しとでも言うべきか…比叡山に行くつもりならその前に寄ってみて損は無いだろう。腕試し、と言ったところか」 キョン「なるほど…わかりました。色々ありがとうございました」 喜緑さん「良いんです。久しぶりに楽しかったですし・・・そうだ!今日は皆様一緒に相模市場を周りませんか?」 ハルヒ「いいわよ!有益な情報を提供してもらったし人数は多い方が楽しいわ!!」 古泉「どうやら決まりのようですね。」 長門「・・・決まり」 うお長門! 今日初めて声を聞いたぜ あれ・・・朝比奈さんは? ハルヒ「みくるちゃんなら知らない女の子に連れられてどっか行っちゃったわよ。アタシも起きたところで寝ぼけてたから止められなかったのよね」 な、なんですとっ!? ==相模城下町・市場== ???「どうだいこのお茶っ葉!めがっさいい品じゃないかなっ!!どうにょろ?」 みくる「いい品ですぅ~これも買いですぅ!」 ???「はい毎度ありぃ!」 みくる「このお店は広くて大きくてどんなお茶っ葉でもありますぅ~凄いですぅ」 ???「相模市場の中でもこの鶴屋商店はめがっさ人気の店なのさ!刀、鎧、薬、食糧なんでもござれって感じだねっ!」 みくる「こんないい店に連れてきてくれて嬉しいですぅ。本当にありがとうございますぅ~」 ???「良いって良いって!うちの親父がやってる店だからねこれっ!」 みくる「ふぇえ~!?そうだったんですかぁ?」 鶴屋さん「そうそう!アタシのことは鶴屋さんって呼んでくれていいよっ!」 みくる「私は朝比奈みくるって言います。宜しくです鶴屋さん」 鶴屋さん「よろしくっ!」 会長「私も見たぞ。確か鶴屋商店の若い娘に連れられていったな」 ハルヒ「鶴屋商店?」 会長「相模商店の中で最大の権力を持つ鶴屋家の営む店だ」 キョン「とりあえずその鶴屋商店に案内してください!」 会長「うむ。急ぐのならば走るぞ。付いてこい」 みくる「あ、みなさぁ~ん」 鶴屋さん「ん?みくるの知り合いにょろ?」 みくる「旅の仲間なんです」 キョン「あっ朝比奈さん・・・・ぜえぜえ・・」 ハルヒ「あんた早いわよ・・・はあはあ・・」 会長「こっ・・・これぐらいの速度で無ければ走るとは言わん・・・」 喜緑さん「何気合い入れて走ってるんですか・・・もう・・・」 会長「き、気合いなど入れてない!」 喜緑さん「隠したってバレバレですよ~」 会長「ま、全く何を言っているのだか」 古泉「それより朝比奈さん、ご無事で何よりです」 長門「何より・・」 みくる「ふ、ふえ?」 鶴屋さん「そういう事にょろか~ごめんよーこの子があんまりにも可愛いもんだからつい手を引きたくなったのさ」 うほっ・・・いつか見た相模美人・・・ この店の人だったんだな 流石にいい店にはいい美人がいると言ったところか・・ しかし・・・朝比奈さんまでとは言わないが・・・大盛り・・・って何を考えているんだ俺は!? 話を聞くところによると、鶴屋さんは宿屋にある物を配達しに来たらしい その時に宿の入り口で寝起きの背伸びをしている朝比奈さんを見て何となく自分の店に連れて行きたくなったらしい 動機が素晴らしく無茶苦茶だな…この人は それから遠慮する俺達を遮り、鶴屋さんがお茶と団子を御馳走してくださった ハルヒも長門も鶴屋さんとは非常に気が合うらしく、まあこれはこれで良かったと思っている。 楽しい時間を過ごす内に、日はやがて傾き、俺達は宿に戻る事になった 長門も古泉も鶴屋商店で自分の買い物をすませたらしい さて、あと一つだな・・・ ==宿屋・キョン、古泉部屋== 朝、ゆっくりと顔を見せる日の出を見つめながら、俺は一つの懸案事項を抱えていた。 それは平泉の洞窟で手に入れたこの刀…鋼忍刀(義経刀)の事である。 キョン(なぜ抜けないんだ・・・?) そう、抜けないのである。 洞窟で一度抜いたきり、後から何度やっても鞘からこの刀を抜くことが出来なかったのだ 俺が足りない頭を動かして、必死に鞘から刀を抜く方法を考えていると古泉が起きてきた 古泉「…どうもおはよう御座います。どうかされましたか?何か思い詰めているような顔付きですが・・・」 キョン「ああ、少しな」 古泉「僕で良ければ御話を伺いますよ?」 古泉「成程…つまりあれから一度も抜刀していないと?」 キョン「ああ、手入れも出来ない」 古泉「昨日、鶴屋さんに少しお話を伺ったのですが、この町の外れに宗兵衛と言う名匠が住まれていらっしゃるそうです。その方なら何か分かるかも知れません」 キョン「そうだな。今日はそこに行ってみるか」 古泉「お供しますよ。涼宮さん達はどうされます?」 キョン「あいつらも連れて行こう。特にハルヒは愛用の双剣が欠けちまったらしいからな」 古泉「了解しました」 ==相模城下町付近・山道== 鬼道丸「あの民家か…」 影の軍中忍「そのようです。捉えますか?」 鬼道丸「その必要は無い。私は頼み事を行う立場にいる。成らば、剣術家として最大限の礼儀を払うべきは、この私だろう」 影の軍中忍「相も変わらぬ剣術家精神…感服致します」 鬼道丸「行くぞ・・・」 ===相模町外れ・山道寄り== キョン「あの民家がそうなのか?」 古泉「町の人の情報によると、そうらしいですね」 ハルヒ「早くアタシの双剣直してもらいたいわ」 キョン「先に俺の刀を説明するぞ」 ハルヒ「別にいいわよ。アタシは急ぎじゃないし」 みくる「ふ、ふえええ!」 ハルヒ「どうしたのみくるちゃん?」 みくる「あ…あれ…」 ハルヒ「へ?」 みくる「ほらあそこに・・・」 ハルヒ「…!あれは」 キョン「どうしたハルヒ?」 ハルヒ「キョン、あれって影の軍じゃないの?」 黒い忍者服に身を包んだ群衆…間違いない!! キョン「!!・・・確かにそうだ!」 ハルヒ「まさか…」 古泉「どうやら目的は僕達と同じあの小屋にあるようですね」 ハルヒ「何をしに来たのかしら?」 キョン「何でもいい!あいつらの事だから何か悪事を仕出かすに違いない!」 古泉「しかしその考えは聊か早計では…」 ハルヒ「あいつらは信長が動かす影の軍よ?いい事なんかする筈ないわ!!」 そうだ、あいつらが今までどんな事をしてきたか考えれば俺達が成すべきことは決まっている!! キョン「行くぞみんな!」 涼宮ハルヒの忍劇11
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二 章 まあメランコリーはさておき、ハルヒの突拍子もない思いつきにどうしたものか考えあぐねていた。営利目的になれば高校や大学の同好会とは違う。金はからむし、顧客と出資者への責任も生じる。それに社員全員の生活もかかっている。社会的責任、ってやつだ。ハルヒの思いつきだけで会社がやっていける世の中なら、経営コンサルタントなんていらないだろう。なんというかこう、ハルヒも満足する、社員も顧客も満足する、すべてがうまくいく方法はないものか。 長門から晩飯を作ると電話があったので、俺は帰りにマンションに寄ることにした。俺も今回ばかりはうまく切り抜ける案がないので、長門の知恵を借りることにした。 「ハルヒを満足させられるだけの仕事で、四人を養っていくだけのネタがあればいいんだが」 「……事業内容を二つに分ければいい」 「とういと?」 「基本収入を得る事業、実験的な投資事業」 なるほどな。前者が仕事、後者が遊びってわけか。 「後者のタイムマシン云々はハルヒに好きにやらせるとして、前者の基本収入を得る事業だが、なにかいい方法はないか」 「……低コストでなら、ソフトウェアを売るのがいい」 「お前ならさくっと作れるだろうが、学生をやりながらはきついだろ」 「……大丈夫。時間の切り分けをうまく調整する」 「ハルヒのお守りのためにあんまり長門の手間をかけさせたくないんだがな」 「……いい。必要とされるのは、いいこと」 長門の顔に少しだけ微笑が浮かんだ。そう言ってくれるのは嬉しいんだが。 「じゃあ、俺も勉強して手伝うよ。ハルヒと古泉にも手伝わせるから」 とはいっても、ハルヒに今からプログラム言語を勉強しろと俺が言えるかどうか。 「それで、どんなソフトウェアを売るんだ?」 長門はごそごそと薄型ノートパソコンを出してきた。 「……アイデアはある」 長門テクノロジーから生まれた製品のアイデアはいくつかあった。すぐにでも実用化できそうなのは『自律思考型業務支援仮想人格』とか言うらしい。 「どういうもんなんだそれ?」 「……通俗的な用語を使用すれば、人工知能」 長門がとあるプログラムを起動すると、黄色いリボンをした3Dの人形っぽいキャラクタが画面に飛び跳ねた。 『ゆきりんおかえりぃ、元気ぃ?』 「ゆきりんってお前のことか」 「……そ、そう。たまにそう呼ばれる」 『その人だぁれ?ふふっ、もしかしてカレシぃ?』 このキャラクタ、知ってる誰かに非常によく似てるんだが。 「……この子は元はウィルスだった。北高のコンピ研に所属していた頃、コンピュータから抽出して育てた」 「ウィルスって、大丈夫なのか」 「……問題ない。増殖する機能は切ってある」 長門が言うには、この“涼宮ハルヒシミュレータ”は元々ハルヒの情報を栄養源とする人工知能の一種らしい。 「こいつ、自分で考えて喋るのか」 「……プログラムに考えるという機能はない。状況を示す情報に応じて反応しているだけ」 「どうやってこっちの様子が分かるんだ?」 「マイクとカメラからの情報を内部で解析している」 俺はCCDカメラに向かって話し掛けた。 「おいハルヒ、ちょっと見ないうちに小さくなったな」 『うるちゃいわね!でかいだけが能じゃないわょ』 この三頭身だか四頭身だかのミニハルヒはかわいい。パッケージ化しておまけにフィギュアをつけたら売れるぞ。 「……同じコアロジックを利用し、業務支援ソフトを作る」 長門が考えているのは、会社全体の情報から経営分析し、スケジュールとか文書管理などの仕事で必要な手間をすべてやってくれるマルチなプログラムらしい。簡単にいえば社員全員にAI秘書をつけて業務管理する、らしいが。 「これを店頭で売るのか」 「……店頭小売パッケージにはできない。ライセンス数で売る。グリッドコンピューティングの一種」 難しい名前が出てきたが、要は複数のパソコン上で連携して動くソフトウェアらしい。二十台以上のパソコンがある事業所なんかで稼動可能。だから個人用途では売れない。 「ほかにも、セキュリティ機能をオプションで付ける」 そっちのほうが人気出そうだな。近頃の管理職はセキュリティソフトが好きだから。とりあえず食うために、それをメインに事業をはじめてみるか。 翌日、今度は俺がハルヒを呼び出した。 「ということでだな、まず安定収入を得ることが先決だと思う」 「しょうがないわ。お金なんか目的じゃないんだけど、食っていけるだけの余裕がないと困るものね」 「まあ長門が作ったデモを見てくれ」 ノートパソコンの画面に冴子先生より美人なお姉さんが現れた。さすがにハルヒの格好をしたキャラクタなんか見せたら猛烈に怒り出すだろう。 『おはようございます、涼宮さん。三十分後にミーティングです。出席者は社長、事業部長、課長、担当者です。議題は四点、プリントアウトしている資料に目を通しておいてください。新着のメールは二十件。そのうち、一時間以内に返信が必要なものは四件です』 「なんか、仕事に管理されてるって感じね」 「無駄がなくていいじゃないか」 「無駄がないのはいいんだけど。なんか足りないのよね」 曖昧だな。なんかって何だ。俺も考え込んだ。 「萌えよ萌え!いわゆるひとつの萌え要素」 なにを言い出すかと思ったらまたそれか。 「この秘書、もっと若くしてメイド服着せて、眼鏡っ子にしたらどうかしら。きっと仕事もはかどるわ」 たまにスケジュールミスとか打ち合わせバッティングしそうな秘書だな。 「性格も選べるといいわねぇ。ツンデレとかお嬢様とか。女性向けにイケメン秘書も。ジョークなんか飛ばしてくれると和むわ」 「お前、別のゲームと勘違いしてんじゃないのか」 「ソフトウェアなんて所詮は道具よ。だったら、かわいかったりかっこいいほうがいいに決まってるじゃない」 朝比奈さんみたいな秘書だったら、まあ、一理あるな。 「もうちょっとキャラクタ性が欲しいのよね」 機能に関しちゃなにもなしかよ。 「……分かった」 長門はちょっとがっかりしたようだった。まあそうしょげるな、ハルヒは何も分かってない。いっそのことミニハルヒで売りに出すか、本人の営業付きで。 数日後、バージョンアップした秘書が現れた。 『ハーイ古泉くんげんきぃ?昨日はよく眠れた?もしかして彼女と一晩中ウフフだったのかしら。あら、眉間に皺なんか寄せちゃって、冗談よん』 画面には“メールを読む・今日の予定を聞く・昨日の彼女の話をする”の選択肢が現れた。業務が三択かよ、分かりやすすぎる。 「いい感じですね」 「俺もいいと思う。音声認識させたらキーボードもマウスもいらなさそうだな」 男は単純だ。 「古泉くんみたいなキャラはいないの?」 「……設定すれば、可能」 「じゃあキャラクタをオプションで売りましょう。渋めの中年が好きな人もいるし」 表向きは秘書ソフトなんだが、バックで超高度な人工知能とデータベースが動いてることには興味なさげだった。まあ顧客ってのはそういうもんだろうけどな。 「それでだな、これを主力商品にするのはいいんだが、長門ひとりに開発を任せるのは負担が大きすぎる。だから俺らも勉強して、せめてセールスエンジニアくらいの仕事はこなせるようになりたい」 「僕も多少なら手伝えますよ。専攻ではありませんが、情報工学も取っていましたから」 「プログラム書けるか?」 「ええ。たしなみ程度なら」 そうだったのか。思わぬ伏兵だな。 「ハルヒ、お前も勉強しろ」 「分かったわ。しのぎよね」 「長門、お前は大学院を優先させてくれていいから。無理なスケジュールで働くことはないからな」 ハルヒが趣味で作る会社のために長門の時間を潰させたくない。 「……分かった」 長門に気を使ってそうは言ったが、こいつがいないと会社が回らないかもしれない。思いのほか長門も、ハルヒとつるんでなにかはじめられることを喜んでいるようで、溜息をついているのは俺だけとなった。まあ、しばらくは付き合ってみるか。せめてハルヒが飽きるまでは。潰れたらそんときまた考えればいい。 残るは資金だが。これが最も重要な課題で、しかも難題だ。ハルヒの会社に投資してくれるような酔狂なやつは、たぶんこの世界にはひとりもいない。 「古泉、お前の機関の財政状態はどうなんだ?」 「最近は締め付けが厳しいですね。経費清算もやたら書類ばっかり書かされます」 どこぞもそうだよな。このご時世、金が余ってるなんてやつがいたらお目にかかりたいもんだ。 「機関ってどういう金で動いてるんだ?」 「世界を守るという、我々の目的に同調してくださる御仁が数名いらっしゃいまして。その方々のご支援によっています」 「その、御仁への見返りは?」 「いちおういくつかの会社法人を抱えていますから、その利益を少しでも還元していますね。多丸氏はそのへんの財務を担当しています」 なるほど。どの世界でもしのぎが必要なわけだ。 「出資者はどれくらいいるんだ?」 「片手で数えるくらいです。前にも言ったかもしれませんが、鶴屋さんはその御仁のご息女です」 そういえばそんなことを聞いた覚えがある。鶴屋さんか……。 「もしかして、鶴屋さんに出資を依頼しようとお考えですか」 「分からんが、ダメモトで当たってみる価値はあるな」 「では僕は顔を出さないことにしましょう。機関は鶴屋家には直接的には関わらないというルールがあるので」 「そうか。じゃあ俺は週末にでもハルヒを連れて鶴屋さんに会ってくる」 「なんであたしが鶴ちゃんにお金を借りないといけないのよ」 「金が天から降ってくるとでも思ってるのか」 「銀行に借りればいいじゃないの」 「銀行は借りる必要がないことを証明してはじめて融資してくれるんだよ」 「は?」 「つまりな、銀行は支払能力があることを認定しないと貸してくれないんだ。俺たちには担保物件になりそうなものもないだろ」 ハルヒが実家を抵当に入れると言い出さないかハラハラした。 「妙なことになってるのね金融って。しょうがないわ。ただし、」 「ただし、なんだ」 「タイムマシン開発がうちの主力事業だということははっきりさせておくわよ」 いくら鶴屋さんが物好きでも、それを言い終わらないうちに断られるぞ。 「わははっ。さすがはハルにゃんだねっ。で、タイムマシンはいつ完成するんだい?」 だから言うなっていったのに。鶴屋さんに会うのは卒業式以来か。相変わらずあっけらかんとしていた。大学を出てから親父さんが経営する会社をいくつか任されているらしい。 「ええと、そっちは研究事業ということにして、ソフトウェア開発を主体に考えているんです」 「ほ~う。キョンくんそっちに詳しいんだ?」 「詳しいのは長門のほうでして、あいつが開発担当になる予定です。俺たちはもっぱら営業ですね」 俺は年度ごとの事業展開と収支の見込みをまとめた事業計画書(外様向け)を見せた。 「な~るほど。出資してもいいけど、ひとつだけ条件があるんだけどねっ」 「なんでしょうか」 「タイムマシンができたら、あたしを乗っけて江戸時代に連れてっておくれよ」 「そりゃもちろん」 まかり間違って完成するようなことがあったらですが。江戸時代って、まさか山に埋まっていたアレを調べに行くんじゃ。 「いやぁ、うちにはいろいろと謎の言い伝えがあるんっさ。それを調べに行きたいね」 これだけのお屋敷を数百年も維持している一族だ、いくつものミステリーが眠っているに違いない。 「それで、一億くらいあればいいかい?」 「……は?」 俺もハルヒも、目が点になった。 鶴屋さんが言うには、会社経営じゃ一億なんてあっという間に消えてしまうものなのらしい。 「消えていくお金をどれだけ回収できるか。そこが社長の手腕よ、あはははっ」 なるほど、肝に銘じておきます。というかハルヒ、しばらく鶴屋さんのところで修行させてもらえ。 とはいえまだ収入の見通しも立っていないので、初年度分の人件費と設備費を借りるだけにしておいた。資本金が一千万を超えないほうが税金が安いらしいからな。それに、ハルヒに大金を持たせたらえらいことになりそうだし。 俺たちは三回くらい畳に頭をこすりつけて礼を述べ、鶴屋さんちを後にした。 「キョン、早速事務所を借りに行くわよ。まずは足場を作らないとね」 そんな、ビルの建設現場みたいに。 翌日、俺は古泉と長門を呼び出して開業資金が調達できたことを伝えた。 「さすがは鶴屋さんです。本当の投資家というのは、あのような方のことを言うんですね」 ただ無謀なだけかもしれんが。 「社屋はやっぱり駅に近いほうがいいわよねぇ」 「僕の知り合いに不動産を扱っている人がいましてね。彼ならいい物件を知っているかもしれません」 知り合いって機関の連中か。古泉にこっそり尋ねてみた。 「ええまあ。不動産も営んでいますから」 「ゆりかごから棺桶まで何でも揃いそうだな、お前の機関」 「ええ、墓石もあります。お安くしておきます」 いや、冗談だから。 古泉の案内で空き事務所を見に行った。さして古くはない雑居ビルの四階だった。これが北口駅から徒歩三分という、絶好のロケーションにあった。偶然じゃないだろこれ。 「明るくて広いし、いい物件ですね」 「ここにしましょう!ドリームも近いし。集合場所にも近いわ」 この歳になって市内不思議パトロールはいいかげんやめてもらいたいもんだが。 月曜日、俺は今の職場に辞表を出した。友達と会社を作ることになったのでと言うと、上司が呆然と俺を見た。自分がクビになったら雇ってくれと涙ながらに頼まれたが、まだ俺自身が食っていけるかすらも分からないので考えておきますとだけ答えておいた。残りの一ヶ月は引継ぎだけだ。少し気分がいい。 ハルヒは欠勤プラス有給消化でさっさとやめてしまっていた。通常は一ヶ月の余裕を見て辞表を出すもんなんだが、とても待てなかったらしい。 「キョン、次の土曜日に事務所開きをするわよ。SOS団のハッピを作ってくれるところ、探しといて」 事務所開きって……まるで涼宮組じゃないか。家紋入りの提灯も必要か。 忙しい人ばかりにもかかわらず、週末にはいろんな知り合いが集まってくれた。出資者の鶴屋さん、機関の森さんに新川さん、多丸兄弟。喜緑さんも差し入れを持ってきてくれた。他にもハルヒの大学時代の友達やら、俺の前の会社の知り合いやらで賑わった。ちなみに今年高校三年になる妹もいた。 まだ長テーブルとパイプ椅子しかないがらんとしたフロアで、団員四人と鶴屋さんがSOS団オリジナルハッピを着て酒樽のフタを割った。ハルヒは上戸だった。酒は一生飲まないとか言ってなかったか、おい。 宴が終わる頃、ハルヒがぼそりと言った。 「みくるちゃんがいたら……巫女衣装で出てもらったのにね」 それから一ヵ月後。俺は元の職場を無事退社し、今日が株式会社SOS団の初出社だ。昨日、やっと登記が済んだ。ハルヒは待てずにひとりで出社している。これまた殊勝なことに、机やらパーテーションやら内装やら、肉体労働を全部自分でやったらしい。 出社第一日目となる今日、朝メシを食いながら新聞を開いて、目が飛び出るくらいに仰天した。覚えていると思う、十年前に俺とハルヒが東中のグラウンドに描いた謎の地上絵を。全面広告にアレが出ていたのだ。絵文字がでかでかと載っているだけで、何の宣伝ともどこの会社とも書いていない。でかい絵文字の下にちょこっとホームページのURLが書かれてあった。こ……このURL、SOS団のじゃないか。妙な焦燥感が俺を包んだ。なにかまずいことが起るとき、この感じに襲われる。これは緊急召集だ。 俺は携帯を取り上げた。 「古泉、今朝の新聞見たか」 「ええ、見ました。涼宮さんが広告を出したんですね」 「そんなのん気なこと言ってていいのか。これの意味知ってるよな」 「ええ知ってます。載せるならSOS団のエンブレムでもよかった気がしますが。会社登記が済んだのでその記念でしょう」 「記念って。URLが書いてあるってことは集客するためだろう」 「涼宮さんがウェブに長門さんの秘書システムの紹介を載せたみたいですよ」 「全然聞いてないぞ。いったいいつだ」 「三日くらい前だったかと」 全国紙の全面広告だ、それでも十分すぎるくらいに宣伝効果はある。これでもし問い合わせが殺到したら。 「古泉、急ぎ出社してくれ。緊急事態だ」 俺は食いかけたメシもそのままに玄関へ走った。 「キョンくん、ご飯くらいちゃんと食べて行かないとだめよ」 妹が呼びかける声がしたが、そんなことを気にかけてる場合じゃない。俺は自転車を飛ばした。車なんかに乗ってる余裕はなかった。道々、長門に電話して事情を伝え大至急出社するよう頼んだ。順風満帆で起業できたと思ったら、いきなりこの暴風雨か。 「やっほー!早いじゃないのキョン」 やっほーじゃないよまったく。初日から飛ばしてくれるぜ。 「今朝の広告、お前の仕業か」 「そうよ~。なかなか派手な初広告でしょ」 「新聞広告って締め切りは最低でも一ヶ月前だろう。どうやって頼んだんだ」 「さあ。ちょうどキャンセルが入ったらしいからタイミングよかったんじゃないの」 そのタイミングとやらはきっとお前自身が作り出したんだな。ハルヒが鼻歌を歌いながら、近所で買い漁ったらしい新聞の広告ページを壁に貼り付けていた。 「全国紙で全面広告って、お前掲載にいくら払ったんだ?」 「三千万くらい、かな」 さ……さんぜんま……。眩暈がした。俺たちの給料の何年分なんだ。うちの資本金を軽く超えてんじゃないかよ。 俺は時計を見た。まだ八時半だな。 「ハルヒ、あのな、全国紙ってことは軽く八百万人が見てるってことなんだ。仮にそのうちの一パーセントが興味を持って問い合わせてきたらどうなると思う?」 「電話が鳴るわね」 鳴るだけじゃないよまったく。 「殺到だ殺到!下手すりゃ一週間くらい電話対応に追われるぞ。電話だけじゃない、メールもパンクする」 「いいことじゃないの。こっちで客を選べるんだから」 分かってない、お前はなにも分かってない。俺は頭を抱えた。 「遅くなりました。おはようございます」古泉が顔を出した。 「……出社した」続けて長門も現れた。 初出社がこんなでなけりゃ、長門のフォーマルスーツ姿をじっくり眺めて心安らぐ余裕もあったのだろうが、それどころではなかった。 「お前ら、全員電話の前に座れ。今日一日電話対応だ。長門、事業内容と製品概要を軽くまとめて人数分プリントアウトしてくれ」 「……了解した」 長門にも意味が分かったようだ。手早く作業に取り掛かった。 「俺は燃料を調達してくる」 近所のコンビニに走った。食えなかった朝飯の分と、栄養ドリンク、のど飴、人数分のおにぎり、その他カロリーメイトなどなどを調達した。 俺は時計を見た。もうすぐ九時を回る。そして今日が、SOS団のいちばん長い日の始まりである。 「お電話ありがとうございます、株式会社SOS団です!」 「どうもお世話になっております、SOS団です」 「……SOS団の、電話」 九時十分ごろから五つあった電話が一斉に鳴り始めた。新聞とホームページを見た客からの問い合わせに、事業内容とかろうじてひとつだけある製品の説明を繰り返し繰り返し伝えた。終業時間が来る頃には全員ノドが枯れていた。 長門にはメール対応も頼んだ。形態素解析とかなんとかいうプログラム技術で、メールの本文を分析し内容に応じて自動返答する仕組みを作り、さくさくと処理していた。余談だが、ホームページのアクセスカウンタが桁が足りなくてとうとう壊れたらしい。かつてのハルヒ自作のSOS団エンブレムを上回る集客効果だ。 電話は六時を過ぎても鳴り止まない。しょうがないので就業時刻を終えたメッセージを入れた留守電に切り替えた。 当然ながらこの日、休み時間は一切なかった。午後七時、全員がぐったりと椅子によりかかっていた。ある者は机に突っ伏していた。メーカーのサポートセンターってきっとこんな感じなんだろうなぁとかぼんやりと妄想していた。 「ハルヒ……明日もこんな感じだぞきっと」 「悪かったわよ……」 「……緊急会議を提案する」長門がぼそりと言った。 ふだんから無口な長門に電話対応をさせたのは、ちょっとかわいそうだったが。イライラした客から上司を出せと何度も言われたらしい。 「会議?なにか議題あるのか」 「……受注数が予定で二十件を超えた。外注したほうがいい」 なるほど。長門は電話対応しながらまめに営業してたのか。 「二十件の注文が取れたの?すごいじゃない」 ハルヒが突然元気を取り戻した。 「……まだ、営業担当を訪問させる約束を取り付けただけ」 「それでもすごいわ、二階級特進して昇進よ!」 やれやれ、二階級特進が好きだな。ハルヒが腕章を取り出して副社長と書き込んだ。そのストックまだあったんだ。 「……拝命する」 長門は両手で腕章を受け取った。気のせいかもしれんが、嬉しそうだな。 「長門さん、昇進おめでとうございます」 古泉が拍手した。俺もしょうがなしに拍手した。そういえばハルヒと知り合ってからずっと、俺だけが腕章をもらってない気がする。いや別にいいんだが。 「外注っていっても、やってくれそうなところがあればいいが」 「……心当たりは、ある」 長門がスクと立ち上がった。 「って、これから行くのか?」 「……そう。来て」 いくらアウトソースといっても、アポくらいしていったほうがいいんじゃないだろうか。この時間だし。 ぞろぞろと三人で長門の後をついていった。エレベータに乗ったが、長門は三階のボタンを押した。 「このビルか?」 「……そう」 偶然にしちゃえらく近くにあったもんだな。俺たちの部屋があるちょうど真下に、IT関係っぽいカタカナの名前の会社があった。規模はそれほどでかくなさそうだが。 俺はドアの前でインターホンを押した。 「すいません、営業担当の方、いらっしゃいますか」 「どちらさまでしょうか?」 「上の階に事務所を構えている株式会社SOS団と申しますが」 そこでインターホンの向こうから咳き込む声が聞こえた。 「な、なんですって!?」 「突然で申し訳ありません。お仕事をお願いできないかとご相談に上がった次第なんですが」 「ちょ、ちょっとお待ちを」なぜか慌てている。 ドアが開いてわらわらと人が出てきた。 「な、なんでキミタチがこんなところにいるんだ!」 誰かと思えば。見覚えがあるどころか、忘れもしない。朝比奈さんとの強制セクハラ写真を撮られた挙句、パソコン一式、いやそれ以外にノートパソコンまで取られたあのコンピ研部長氏だった。あのときの部員が全員いる。 「あら、あんた。コンピ研の部長じゃないの。お隣さんだったのね」 「部長じゃないよ!社長だよ社長」 「奇遇ね。あたしも社長なのよねぇ」 これはどう考えても奇遇じゃないだろ。俺はちらりと長門を見た。長門は我関せずの顔を決め込んでいた。 数年ぶりのご対面がこんなだったが、いちおう客として応接に通してくれた。 「で、なにしに来たのキミたち」 「新聞広告出したら注文が殺到しちゃってさあ。うちの仕事手伝ってよ。報酬はそうね、あんたんとこが三でうちが七でどう?」 まるでありがたく仕事をくれてやる態度だな。俺たちがやったのは電話対応だけじゃないか。ぼったくりにもほどがある。 「残念だけど、僕たちもう廃業するんでね」 「えっ、そうなんですか」 俺は驚いた。この人なら技術も経営ノウハウも十分ありそうなのに。 「この業界って仕事の取り合いでなかなか難しいよ。最近は人件費が安い海外の企業に流れることが多いし」 生半可な気持ちではじめた俺らとはえらい違いだ。うちもうかうかしてはいられない、明日はわが身かもしれん。 「一年前に意気揚々とはじめた会社だったのに、残ったのは債務の山だけ。このパソコンも全部抵当なんだ」 部長氏は愛する機材をなでなでしながら大きくため息をついた。 「じゃあ、あたしがあんたたちを買い取るわ。企業買収って一度やってみたかったのよねぇ」 「おいハルヒ、そんな金どこにあるんだ」 「なんとかなるわよ。うちの実家を担保にしてもいいわ」 お前の親父さんが汗水たらして二十年間ローンを払いつづけてる一戸建てをか。いくら一人娘とはいえそれは酷なんじゃ。 部長氏を見ると難しい顔をして呆然としていた。これが沈みかかった船への救助なのか、あるいは地獄の日々がはじまる予兆なのか考えているようだった。 「もう、好きにしてくれ……」 「じゃあ、あんたにはシステム開発部部長の肩書きをあげるわね」 「なんでもいいよもう」 「担当副社長は有希だから、この子に任せるわ。あんたたち、有希のこと好きでしょ」 「ええっ、ほんとかい?」 「有希、こいつらの面倒みてくれるわよね?」 「……たまになら」 部長氏は願ったり叶ったりといった感じで手を打って喜んだ。まあ、コンピュータが分かる者同士、長門とならうまくやっていけるだろう。 部長氏の会社は看板が変わっただけで、今日付けでうちのシステム開発部に吸収合併された。株式会社SOS団はメンツも増え九人になった。いよいよ大所帯だな。 部長氏の負債だが、出資者の鶴屋さんに頼むほかなく、結局全額引き受けてもらうことになった。実家を担保にしなくてよかったな、ハルヒ。まあこれだけ受注が来てるんだ、全部掃けたら保守費も取れてうまい具合に回るだろう。副社長の長門は三階と四階のフロアを往復する毎日だった。大学院の授業もあるだろうにご苦労だ。俺も営業に回れるだけの知識を得るべく、しばらくは長門に教えてもらいながら勉強の日々だ。 文中の“涼宮ハルヒシミュレータ”は◆eHA9wZFEww氏による作です「涼宮ハルヒの常駐」 3章へ