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涼宮ハルヒの遡及Ⅳ ええっと……ここはどこだ? 気がついたら、見渡す限りの黄砂地帯で地平線の彼方まで続いているような風景が目の前に広がっていたんだ。 というか、いったい俺はいつからここにいるんだ? 「どうやら気づいたようね」 って、え? 聞こえてきた声に反射的に振り返れば、そこには染めていた髪を元の桃色に戻し、マントも羽織ったアクリルさんが神妙な顔つきで左手を腰に当てて佇んでおられました。 「まさか、これがあの子の力なの?」 「あの子って……ハルヒのことですか?」 「そうよ」 言いながら彼女は近づいてくる。周囲に警戒の視線を這わせながら。 「何か知らないけどいきなり、キョンくんの足元に魔法陣が発生したのよ。あっと、魔法陣というのはあたしが知っているものの中であの現象を表現するのに最も適切だと思ったからよ。キョンくんも知ってる言葉だしね」 俺の足元に……魔法陣……? 「ええ。ということはキョンくんには記憶がないのね。あたしに助けを求めて必死な形相で手を差し伸ばしてきたことの」 なんだって!? 「残念だけどあたしも引っ張り出せなかった。というか、キョンくんを引っ張り込む引力が強すぎた。おかげであたしも一緒にここに引き摺りこまれたからね。しかも引力を自在に操るグラビデジョンプレッシャーで対応できなかったということは、あれは引力だけど引力じゃない『転送』ってことになる力よ」 あまり意味はよく分かりませんが……とにかくハルヒの力によってこの空間に俺が連れてこられたってことだけ理解すればいいんだな……しかし何のために…… 「さて、それはたぶん、あなたの方が詳しいでしょうね。正直言ってあたしには何が起こったか分からない」 などと答えるアクリルさんの背後から、 「キョンくぅん!」 いつもながらの愛らしいボイスが、どこか焦りと悲壮感を漂わせながら俺を呼んでいる訳で、むろん、俺がこの声の主を聞き間違えるわけがない。 「朝比……って、ええ!?」 俺が素っ頓狂な声を上げるのも解ってもらいたい。 なんせ手を振りながら駆けてくる悲痛な形相の朝比奈さんの後ろに長門と古泉もいるのだから。 と言っても、そこまでであれば、『ハルヒの力』によってここに飛ばされたことを知っている俺だから、驚くほどでもないのだが、驚いたのはその三人の格好だ。 ツインテールで両目で色の違う戦う超ミニスカウエイトレスの朝比奈さん。 漆黒のとんがり帽子にマントを羽織いちゃちなスターリングインフェルノを手にしている下にはいつもの制服姿の長門。 まあ古泉は何の変哲もない北高ブレザー姿なのだが…… つまりは、文化祭の時の映画の配役衣装で現れたのである。 「気がついたら何か知らない場所にいて、いったいここどこですか? どうしてこんな格好してるんですか? な、何であたしたち、こんなところにいるんですかぁ?」 矢継ぎ早に質問してくる朝比奈さんはすでに涙目である。 いや、そんなに取り乱さなくても。 というか後ろの二人が落ち着き払っているうえに、俺も狼狽していないんですから落ち着いてください。なんとかなりますって。 などと宥めてはいるのだが、朝比奈さんは不安から俺の胸に顔を埋めて震えていらっしゃってます。 ううむ。役得ってやつだな。 「どうやら、あなたは気付いているようですね」 などと肩を竦ませて、古泉が苦笑を浮かべて聞いてくる。 「んなもん、ハルヒの力に決まってんだろ。だいたいなんだってあいつはこんなことをやったんだ?」 「端的に説明すれば、今日の午後からの出来事が起因。おそらく涼宮ハルヒはプロットを作成中。それは文化祭での映画のストーリーの続編と思われる。しかし紙上に表現する前に強く想像してしまった可能性が高い。これが我々がここにいる理由。我々がこの衣装を着衣している理由」 てことは何だ? 俺たちはまた、ハルヒの創造するストーリーの中に閉じ込められてしまったってことか? 「そういうことです。しかし、確かにこれは涼宮さんの力を現実世界には発動させない証明にもなりましたね。現実ではなく次元の狭間のような場所に僕たちの住む町ほどの大きさで一区画分の閉鎖空間=コンピ研の部長氏が巻き込まれました局地的非侵食性融合異時空間を作り出し、そこで想像を現実化させているようです。新世界を創造するわけではありませんから、地域が限定されるだけにこれは案外、喜ばしいことではないかと」 つまり、巻き込まれる俺たちだけが、これまでと変わらない苦労を背負い込むってことも証明されたのにか? 「現実世界が揺らぐよりはマシでしょう」 そんなに変わらん気もするが……。 「しかし一つ疑問がある」 長門? 「文化祭の映画において、あなたは本編に登場していない。我々よりもはるかにあの映画に貢献していたが裏方に徹していた。なのに今回はあなたもここにいる理由は?」 言われてみればそうだ。この三人の格好からすればあの映画の続編だかの話を作っている想像はつくが、果たしてあの映画に俺の登場シーンなんて作れるのか? しかも俺は別段、何のコスプレもしていない、今日、遊びに行った時の格好のままだ。 「それでしたら、そちらのさくらさんもそうですね。この方がこの世界にいる理由も説明付きません」 「ああ、それなら説明付くわよ。あたしはキョンくんを引っ張り出そうとしたんだけどミイラ取りがミイラになっただけだから」 「そ、そうですか……」 古泉の鼻白む呆気にとられた顔ってのは初めて見たな。まあ得てして真相なんて簡単なものさ古泉。あまり深く考えるな。 もっとも俺のことはまだ謎のままなんだが。 「で、これもハルヒさんが考えたこと?」 が、いきなりアクリルさんは腕を組んだまま、笑みは浮かべてはいないが不敵な表情で辺りを見回した。 「え……?」 「な……!」 「……」 どれが誰の声かは勝手に想像してくれ。つか、俺は絶句してしまったんだ。 おいおい勘弁してくれよ。何だって俺たちはいつの間にいつぞやのカマドウマの大群に囲まれてるんだ? ひょっとしてさっき古泉がコンピ研の部長の話を出したからか? 「おや? どうやらこの世界では僕の力も具現化されるようですよ。しかも威力が自由自在のようです」 などと嬉々として言ってくる古泉は手のひらサイズの球にしたり全身で赤いオーラの球を纏ったりしている。 「長門さん、朝比奈さん、おそらく、この世界では映画の時の力があなた方にも備わっていると思います。どうぞ試してみてください」 「ふ、ふぇ?」 「了解した」 朝比奈さんはまだ戸惑ってらっしゃいますが、長門は無表情のままスターリングインフェルノを目の前にかざし―― つか、その前髪の影を濃くした瞳は無表情でも怖いって! などとツッコミを入れる俺の頬を一筋の光がかすめていく! 背後で爆発音がしたと思ったら一匹のカマドウマが砕け散っていた! マジか……? それを合図に、俺たちを取り囲んでいたカマドウマがいっせいに跳ね上がり上空から襲ってくる! 冗談じゃねえぞ! あんなもんに踏みつぶされたら結果なんざいわずもがなだ! つか、俺は何の配役も与えられてなかったんだから特殊能力なんてないんだぜ!? どうするんだよ! 「え、えと……ミクルビーム!」 ほえ!? 俺の腕の中にいる、朝比奈さんが左手でピースサインを作って左目に当てると同時に黄色い声援に近い声を上げられましたよ!? その眼から、今度は俺の鼻先をかすめてビームが発射されましたがな! んで、俺たちの本当に真上にいたカマドウマが粉砕されましたし! 「わぁ、本当です! キョンくん! 今回はあたしも役に立てそうですよ!」 そ、そうですか…… いつも以上の愛らしく可愛らしい笑顔を振り向いてくださっているのですが、とても感慨に浸れるほどのゆとりは俺の心に残っておりません。 「なるほど、涼宮さんの考えが見えてきました」 肩越しに振り返る古泉の眼前では、また一体、カマドウマが吹っ飛んでいる。 どういうことだ? 「どうやら涼宮さんはあの映画の続編的には長門さんの役割を悪い魔法使いから我々の仲間になるという話を作ろうとしているのではないでしょうか。新たな強敵が現れたとき、前回、敵役だったキャラクターを味方にするのはよくある話です。 そして涼宮さんがあなたを登場させた理由ですが、おそらく、あなたは何かの鍵を握っている役。特殊能力はなくともまったく別のことで貢献する役割です。最近のお話には多い気がしますよ。圧倒的な力を持つ者に対して戦う者と解決する者が別の役になっているってものが」 なるほどな。たしかにそういう役割には特殊能力はいらん。我ながら呑み込みが早いな。 「んじゃまあ、その役割を全うしてもらいましょうか。どうやらこの世界から脱出するにはそれしかなさそうだし、この空間が異次元世界の一種である以上、あたしはともかく、ここにいるみんなは条件を満たさないと元の世界に戻れないでしょうし」 ん? この声は…… 「スターダストエクスプロージョン!」 咆哮と同時に放たれた……いや、これはもうこう表現するしかない! 銀河を駆ける数多の流星を彷彿させる光の群れが一瞬ですべてのカマドウマを打ち砕く! 「こ、これは……」 「凄い……」 「……」 古泉、朝比奈さんは愕然とし、長門もまた目を見張っている。 「ふうん――この空間、結構、魔力構成が単純になってるわね。あっさり解読できたわ。しかも、あたしの力は制約を受けていない――」 その視線の先にはマントと髪をなびかせながら悠然と佇むアクリルさんがいる。 「キョンくん、ここはあたしたちに任せて、あなたはこの世界を消滅させられる鍵を見つけてきて」 「分かりました! ……って、鍵って何だ? あとどこにある?」 だよなぁ。何のヒントもないんだよな。これで俺にどうしろと? 「古泉一樹」 「長門さん?」 「あなたが彼のフォローを。ここは涼宮ハルヒが創り出した世界。故にあなたがこの世界のことを一番分かっているはず。我々は大多数の敵を引きつける」 「なるほど。それは名案です。では行きましょう!」 「お、おお!」 言って俺たちは長門、朝比奈さん、アクリルさんにこの場を任せて走り出す! って、どこにだ!? つか、あっさり回りこまれてるし! いや、そもそもいつこいつらは出現した!? などと心の中でツッコミを入れる俺と古泉の目の前には再びカマドウマが群れをなして、今度は、サッカーのフリーキックの時にできる壁の如く並び、俺たちの進行を妨げている。 「ということは向こうに何かある、ということですよ。どうやら僕の勘は間違っていなかったようですね」 「勘か!?」 「あれ? ご存知ないんですか? 物語において主人公格の進む先には何の脈絡がなくても必ず重要なファクターがあるものなのですよ」 「理由になっとらん! それはご都合主義というやつだ!」 「グラビデジョンバースト!」 俺たちの掛け合いを打ち消したのは再び聞こえてきたアクリルさんの咆哮だ! 彼女が生み出した爆発の圧力が壁の一角に大きな風穴を開けた! 「さて、行きますよ!」 「ああ!」 こうなりゃ俺も自棄だ! この空気に乗ってやろうじゃないか! もちろん、駆ける俺たちを阻止せんと、生き残ったカマドウマ達が寄り合い、再び俺たちの壁になるべく陣形を取るのだが、 「ミクルビーム!」 「……」 俺たちの両脇から、いつの間にか走って追いついていた二人、朝比奈さんが声をあげ、長門が無言で素早くスターリングインフェルノを振るうと、二人から放たれた色違いの稲妻が再び俺たちの眼前のカマドウマを破壊する! 「メテオフレア!」 って、今度は上空からか!? んなことできるのはここには一人しかいない訳だが…… 俺たちがカマドウマに最接近すると同時に、それでも俺たちの行方を阻んでいた最後の三匹が消滅する! なんとその向こうには、塔があった! 「どうやらここがこのステージの終着駅なんでしょうか!」 「……そのステージがラストステージという断言はできんのか……?」 言いながら俺と古泉は塔に駆け込む! ん? 他のみんなは? もちろん俺は肩越しに振り返り、 うげ…… 「雑魚は任せてちょうだい。あんたたちは先に進むことね」 そう……この場に似つかわしくないとびっきりの笑顔を見せるアクリルさんと、その両脇に珍しく勝気な笑顔を浮かべる朝比奈さんと、相変わらず無表情だがそれが反って俺に安心感をくれる長門が自信満々に臨戦態勢で立っている。 その眼前にはカマドウマの大群が地響きと砂埃をまき散らしながら近づいてくる様が見て取れるんだ。 まあ確かにあの巨大カマドウマがこの塔に乗り込んでこられても大変だからな。 「それじゃお願いしますよ!」 「OK!」 「はい!」 「了解」 三人の勇ましい返事を聞いて俺と古泉は塔を登り始めた。 もちろん、この塔にはカマドウマ以上の強敵が当然いるのだろうが、逆に、塔の広さを思えばそこまで数多く表れることもないだろう。 と言っても俺には何の特殊能力もないので、思いっきり不本意なのだが…… 「古泉、俺の命はお前に預けるからな」 「信用してくださってありがとうございます」 古泉の笑顔から裏を感じなかったのは初めてだったかもしれん。 さて、この先には何があるのやら…… 涼宮ハルヒの遡及Ⅴ
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「…ルヒ…ハ…」 …… 「ハルヒ!!」 …… 俺は、気がつくと自分の部屋のベッドにいた。 「一体これはどういうことだ…?」 冷静に辺りを見渡してみる。確かにここは俺の部屋だ。 はて、部屋とか以前に俺の家は地震によって倒壊したはずなのだが。 …… 着ている服も確認してみる…どうやらこれは私服ではなく寝間着らしい。 携帯も確認してみた。何々、今日は11月29日、時刻は午前7時10分。 「…夢?あれは全部夢…?」 …よくよく考えてりゃ、おかしなことだらけだった気はする。 冬にもかかわらずの酷暑、大地震、暗黒、そして大寒波…まるで世界の終わりを告げるかのごとき夢。 ここまで支離滅裂では、さすがに夢だと考えたほうが合理的なのは誰もが納得するところだろう。 何より、人が死にすぎて… …… …死? 「妹…妹は…?!」 俺は思い出してしまった。全身から血を流し、倒れている妹の姿を…! そして、ついに帰らぬ人となってしまったことを。 考えるよりも先に体が動いていた。気付くと、俺は自分の部屋を出て廊下へと立っていた。 目的はもちろん…妹の安否の確認である。 「あ、キョン君だ!」 ふと、後ろから声をかけられた。 「今日は私が起こしに来なくても自分から起きたんだね!偉い偉い!」 …妹である。確かに妹である。 「お前…生きてたんだな…。」 「?キョン君何言ってるの?」 「ああ、すまんすまん、なんでもないぜ。」 「?とりあえず私は先行ってるね。お母さんがもう朝ごはんできたって言ってたよ!」 階段を下りてリビングへと走っていく妹。ったく、家の中で走るなっての。転ぶぞ。 …… 「よかった…本当によかった。」 妹の話しぶりからして、どうやら親父もオフクロも健在のようである。 …… 当たり前のようで気付かなかったが、家族がいるということがどれほど幸福なことなのか… 今更ながらそれを実感する。真に大切なものは無くして初めて気づくとは…まさにこのことか。 俺は部屋へと戻った。とりあえず、学校へ行くための準備をするためだ。 「しまった…宿題やってくんの忘れた。」 さすが、俺である。いつもいつも期待を裏切らない。 …… 今から忌まわしき【それ】をやり遂げようと、一瞬考えた俺であったが… どうやら時間的にそれは不可能のようである。 「学校行ってハルヒか国木田に見させてもらう他ないな…。」 頼るべきは友である。あ、いや、前者が果たして言葉通りの友なのかどうかは承服しかねるが… しかも冷静に考えてみれば、ハルヒが俺に宿題を見せてくれるなど、とてもではないがありそうにない。 おそらく、『あたしに頼るくらいなら自分でやれ!』の一蹴りでこの会話は終了だろう。 「…そういやハルヒ、随分と消沈してたな…。」 再び夢のことを思い出す俺。おかしなことと言えば、 ハルヒの様子も十二分にそれに該当するものであったからだ。 …俺は回想していた。ハルヒによって、閉鎖空間に呼ばれたあのときを。 ハルヒは新世界を構築する際に俺を閉鎖空間に呼び出した。なぜ俺が呼ばれたのかは古泉曰く、 『あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。』だそうだが。そこで俺が…まあ、あまり 思い出したくはないが…。とにかく、結果的に世界は元に戻り、事なきを得たわけだ。 まさか、今回俺が見たあの夢も、実はハルヒの能力に関したものだったのだろうか…? もしそうであるなら、夢の中でのハルヒの様子がおかしかった理由も説明がつくが…。 しかし、それではどうも俺には腑に落ちない点が多い。仮に、あれがハルヒによって 引き起こされたものだとしよう。ならば、あの世界はまず閉鎖空間のはずである。ご存じの通り、 この空間には本来古泉のような超能力者しか出入りができないはずだが、あの夢の中で 確かに俺は見たのである…この現実世界とほぼ差し支えのない、いや、現実世界そのものと言っても 過言ではないくらいの数の人間を。デパートで買い物をする客、地震で死んでいった住民、 校舎の瓦礫の下敷きとなって死んでいった生徒たち等…。 確かに、超能力者と全く関係のない第三者が閉鎖空間に呼びだされるという稀なケースもあるにはある。 俺が世界改変時ハルヒによって閉鎖空間に呼ばれたあのときのように。しかし、あれはあくまでハルヒに 呼ばれたがゆえの結果。閉鎖空間に一般人が呼び出される場合、まずハルヒ本人がそれを願ったかどうか、 それが最も重要なのである。 しかし、今回の夢に出てきた多くの一般人をハルヒ自ら願って呼び出したとは…俺にはとても思えない。 なぜか? ハルヒが人を死ぬことを望むはずないからだ。 承知の通り、あの夢の中では多くの人が命を落とした。 あの世界で起こる事象は無意識ながらもハルヒの深層心理と深く結び付いており、 つまりその理屈でいくと、ハルヒは天変地異による人間の大量死を願望として抱いていたことになる。 しかし、それがありえないことを俺は知っている。ハルヒ自身が自分の周りにいる宇宙人、未来人、超能力者に 気づかないことが何よりの証拠だ。ご察しの通り、これら3者はハルヒの願望によって出現したものであり、 にもかかわらず、ハルヒはそれらの存在を認知していないという矛盾した二重構造を成している。 これは一体どういうことか?ハルヒは願望としてはいてほしいと願っていても、それらが現実に 存在しうるわけがないという、いわゆる常識的かつ理性的な感情を密かに抱いている… というのが事の真相だ。分かりやすくいえば、ハルヒは【常識人】なのである。 例えば去年の夏、孤島での出来事。ハルヒが何かしらの事件が起こることを熱望していた最中に 起こった殺人事件。結果として古泉ら機関による自作自演劇だったわけだが、つまりはハルヒは、 事件は事件でも人が死ぬといった常軌を逸したものは望んではいなかったというわけである。 さて、いい加減納得してもらえただろうか。つまりハルヒは根本からして破壊願望など 抱くことはありえず、よって今回の事態もハルヒ本人が引き起こした可能性はゼロに近いのである。 …… 問題は解決したはずなのに、喉に何かがひっかかったかのようなモヤモヤ感…これは一体何だろう? …… 単なる夢…ハルヒのせいでないのなら、あれは単なる夢だったということになるが、 それにしては妙に感覚が生々しかったのはなぜだろうか? そもそも夢の中というのは本来痛みを伴わないはずである。漫画やアニメ等で 夢か否かを判断するために頬をつねったりする光景はもはや誰もが知るところであるだろうし、 まあ別に、漫画アニメに限らずともそれが通説であることはまず間違いない。 だが、俺は地震によって体を地面に強打している際 確かに痛みを感じているのである。 そうでなければ…夢の中で数時間にわたって気絶することなどありえない。 さらに言うべきは、俺が夢の内容を一部始終はっきりと…まるで本当に体験したのではないか? と言っても差支えないくらい鮮明に覚えているということ。たいてい、夢というのは見ていても 忘れる場合がほとんどだし、仮に覚えていたってそれを事細かに記憶しているケースはまずない。 そして、極めつけはハルヒの尋常ではない様子。 『助けて!』『あたし自身が怖い』『あたしを守って…』等の言動 …… どう客観的に捉えたって、あれは俺に助けを求めていたとしか考えられない。 もしかしたら、ハルヒはそれを伝えるために俺の夢に何らかの干渉を… いや、さすがにこれは考えすぎか。痛みはともかくとして、この場合は【単なる夢】でも説明がつく話だろうし…。 …… いかん、考えれば考えるほどわけがわからんくなってきた。 もうこの夢に関しては考えるのはよそう、いくら考えたって明確な結論など出やしないさ。 ただ、念のために一応話しとく必要はあるかもな…。 「もしもし、俺だ。」 「何か…用?」 俺は電話をかけた。ありとあらゆる方法でこれまで異常事態解決に尽力してきてくれた… そう、長門有希に。SOS団員に助けを求めるとなれば、思いつくのはまずこのお方であろう。 「昨日の夜、ハルヒに何かおかしなことはなかったか?」 「…通常の閉鎖空間に限っては昨日は発生していない。」 「通常のって…それはどういうことだ?」 「昨日の夜から深夜にかけてごく小規模な閉鎖空間が発生するのを一度だけ観測した。ただし、 それは通常の閉鎖空間とは異なり、空間形成を司る中核体が脆弱だったため内部組織を維持できず、 発生してわずか2.63秒で消滅した。ただそれだけのこと。」 「そうなのか…でも、小規模でも閉鎖空間ってのは、やっぱハルヒはストレスか何かを貯め込んでるってことか?」 「そのへんについては深く考える必要はない。そもそも昨日の閉鎖空間のレベルではストレス、 いわゆる欲求不満自体があったかどうかすら判別不可。単に涼宮ハルヒが無意識下に引き起こした、 あくまで誤差の範囲内での反応と見なすのが現状では一番。」 …? 「わかりやすく例えるならば、ある人間が喉が渇いたという理由で、 自身の一日における平均水分補給量にプラスしてコップ一杯分、その日は多く水分を摂取したようなもの。」 これは長門にしてはわかりやすい例え…なのか? 「ということはあれか、昨日の閉鎖空間はあってもなくてもどうでもいいくらい、 気にしなくてもいいものだったってことか?」 「端的に言えばそういうこと。」 なるほど、ならハルヒに何かあったわけじゃなさそうだな。俺の考えすぎか…。 「ありがとう長門!いつもいつもすまないな。」 「別にいい。しかし、なぜこのような質問を?」 「いや、なんでもないんだ。俺の気のせいってやつだな。」 「そう。」 「じゃ、また学校でな!」 「また、学校で。」 そう言って俺は長門との電話を終えた。あの万物万能の長門先生から太鼓判を押されたんだ、 ハルヒのことは特に気にする必要はなかろう。 …まだ時間はあるな。一応閉鎖空間の専門家古泉にも電話しておくとするか。もちろん、長門の言ったことは 信じてるさ。ただ、実際あの空間に出入りするやつが…昨日のあの空間をどう認識したかってのが 気になってるだけで、ようは単に感想を聞きたいだけだ。それだけのために電話をかけるのもアホみたいだが… まあ相手が古泉だし別にいいだろう。あ、いや、決して古泉をバカにしてるわけではないぞ?たぶん。 …… 「もしもし、俺だ。」 「おやおや、あなたですか。おはようございます。朝っぱらから 僕なんかに電話をかけてくださるとは、一体どういう風の吹きまわしでしょう?」 「いちいち長文句を言うな、電話きるぞ。」 「ははは、すみません。で、どういうご要件で?」 「長門から聞いたんだ。昨日小規模だが閉鎖空間が出たんだってな。」 「その通りです。まあ、現れてから数秒もしないうちに消滅してしまわれたので、 僕たち超能力者が入る余地などありませんでしたけどね。もちろんそんなわけですから、 神人も一切現れておりません。あなたが心配するようなことはないと思いますよ。」 やっぱ古泉からみても、あの閉鎖空間はほとんど害をなすもんじゃなかったんだな。 「そうか。ところであーいう現象は頻繁に起こってたりするのか?」 「いいえ、滅多に起こりませんね。とはいえ、現在の涼宮さんの精神状態には ほとんど問題はないわけですから、特に考えるべき事態でもないことだけは確かでしょう。」 そうか、それだけ聞けりゃ満足だ。 「ご丁寧に説明どうもな。じゃ電話きるぞ。」 「お役に立てて光栄です。しかしこのような質問をなさるとは、 何か涼宮さんの異変に心当たりがあるようなことでもお有りですか?」 おお、古泉なかなかお前も鋭いじゃないか。まあ、別に語らずともいいだろう…俺の杞憂で終わりっぽいしな。 「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」 「そうですか。それではまた学校で会いましょう。」 「おう、じゃあな。」 電話終了っと。これで悩みはほぼ解消したってわけだ。一件落着だな。とはいえ内容が内容なだけに、 夢の中での凄惨な光景はしばらく忘れられないだろうとは思うが…。そんなことより、 今は目の前にある宿題だ…むしろ、こっちのが死活問題だッ!!早く朝飯食って学校行くとするか。 この段階では俺にはまだ気付きようがなかった。 あの夢が、これから起こる恐ろしい事件の序章でしかなかったということに。 飯を食い終わり、学校へと向かう俺。 「しっかし…。」 いっつもいっつも登校時に立ちふさがるこのなっがい坂は、いい加減どうにかならないのかね? 今日はまだいい。遅刻を免れるため走っていく日などは、もはやただの死神コースへと成り果てるのだから、 正直たまったものではない。学校側も学校側だ、こんな丘の上に学校を建てるなど 一体何を考えているのだろう?生徒の身にもなってほしいもんだね。切実にそう思う。 「あ、キョン君!おはようございます!」 ふと声をかけられる。この可愛らしいスイートボイスは…もはやあの方しかいないであろう。 「朝比奈さんじゃないですか。おはようございます!」 そう、まごうことなき、我らがSOS団随一のマスコットキャラクター、朝比奈みくるさんである。 「こんな所で会うなんて奇遇ですね。」 「ふふ、私もちょうど今来たところなの。…どうせだから学校まで一緒に歩いて行きませんか?」 「もちろん構いませんよ。」 いやはや、まさか登校途中に朝比奈さんに会えるとは夢にも思わなかった。さっきまで 坂がどうのこうの愚痴を吐いていた自分がきれいさっぱり消滅してしまっていたのは言うまでもないだろう。 それにしてもラッキーな日である…朝比奈さん効果で、今日も一日なんとか乗り切れそうな自分がいる。 …… そういや昨晩の夢のことをまだ朝比奈さんには伝えてなかったっけ。いや、夢の話に限っては まだ長門や古泉にも話してはいないか…あくまでハルヒの容態を確認しただけだったなそういえば。 俺が今朝、ハルヒを除くSOS団の中で朝比奈さんにだけ電話をかけなかったのには理由がある。 まず、朝比奈さんには長門や古泉のようにハルヒの様子を確認すべく技術を持ち合わせていない。 よって、ハルヒのことを尋ねたとしてもそれは野暮というものだろう。 まあ、実際は【変に情報を与えて朝比奈さんを混乱させたくない】ってのが 俺の最もなところの理由であるわけだが。いくらあの夢に異変性・特殊性を感じたところで、 所詮客観視すればただの夢にすぎないのである。あくまで夢である。そんな曖昧かつ抽象的不確定情報を べらべらしゃべってみようなどとは、俺は思わない。特に朝比奈さんのようなタイプなら尚更である… 状況を把握できずオロオロし、必要以上に心配した挙句、疲弊してしまう彼女の姿を… 俺は容易に想像できる。そういうわけで、俺は朝比奈さんには電話をかけなかった…というわけである。 「キョン君、今日は私いつもとは違うお茶の葉をもってきてるんですよ♪」 「そうなんですか。一体どんな味のお茶なんです?」 「ふふふ、それは秘密です♪放課後つくってあげるからそのときまで楽しみにしていてね。」 「それはそれは、楽しみにしときますとも!」 朝比奈さんのお茶を飲めるというだけでも幸福そのものだというのに、ましてや俺たちSOS団のために 粉骨砕身して新たなお茶を作ってくださるとは、いやはや、もはや感謝しても足りないくらいですよ朝比奈さん。 これでまた、今日一日頑張れそうな俺がいる。 …さっきから朝比奈さんに元気づけてもらってばっかだな俺。 こんなお方に例の夢のような重苦しい話など 本当お門違いというものであろう。 皆も知るように朝比奈さんは未来人なわけであるが、時々そのことを忘れかけてしまう自分がいる。 まあ、仕方ないであろう。未来人にもかかわらず、禁則事項とやらで未来のことは一切話ができないようだし 普通に接していれば、彼女がこの時代の人間ではないなどと… 一体誰がどうやって判別できようか。 未来か… 未来という言葉に何かがひっかかる。俺は何か大事なことを見落としているような… …… そうだ…俺ははっきりと覚えている。あの惨劇が起こった日は… 12月23日 夢の中に俺が身を置いていた世界での日付である。そして、あの世界の俺には【自分が高校二年生だ】 という確かな自覚をもっていた。今の俺も同じく二年生である。そして今日は11月28日。 つまりこれはどういうことか? いや、まあ考えすぎだよな。長門や古泉が異常ないと言ってるんだ、別に俺が憂慮すべき事態でも何でもない。 うん、そうだ、あれはただの夢なんだ。そうに決まってる…!とりあえず俺は、そう強く言い聞かせることにした。 「どうしたのキョン君?何か元気がないみたいだけど…大丈夫?」 おっと、いけない…思ってることが顔に出ちまったか。 まあ、あれだけ深刻に長考してりゃ、そう思われても仕方ないよな。 …ふと思ったんだが。朝比奈さんは未来についての情報をある程度把握しているはずである。 未来人なのだから当然と言えば当然なのであるが。どうする、朝比奈さんに何か聞いてみるか? 仮に何か知っていたところで、『禁則事項です。』と返されるのがオチかもしれないが… しかし何らかのヒントは得られるかもしれない。俺は当初の理念を貫き、あくまで 朝比奈さんを混乱させることだけはないよう、質問に変化球をつけて尋ねてみた。 「朝比奈さん、突然こんなことを聞くのもあれですが、何か最近変わったことは起きませんでしたか? 例えば、未来のほうから何らかの報告を受けたりとか。」 ちょっと足を踏み入れすぎた発言だっただろうか。しかし、今の俺にはこの表現が限界である。 「み、未来からですか?」 突然の思わぬ質問に動揺する朝比奈さん。 「いえ、特に何もないですよ♪」 かと思えば明るくお答えなさる朝比奈さん。内容を問うのではなく、あるかないかという類の質問なら 禁則事項とやらにもひっかからないのではないか…?という俺の読みは当たった。 「最近は何々しろみたいな指令もあまり送られてこないから私としては助かってるんですよ。 その分、時間をおいしいお茶を作ったりとか他のことに回せるわけですから♪」 いやー、なんとも幸せそうな顔をしてらっしゃる。これでは、 さっきまで長考していた自分がまるでバカに感じられる。もはや杞憂の一言に尽きるのであった。 さて、では事態がややこしくならないためにも先手を打っておくとするか。 「それを聞けてよかったです。最近の朝比奈さんは特に明るいんで、 きっとそういう面倒な指令とやらもないのかな…と思ってちょっと確認してみたんですよ。」 「あら、そういうわけだったんですね。そんなに私明るく見えますかぁ?」 「ええ、それはもう。」 「もー、キョン君ったら♪」 よし、うまく話をはぐらかすことができた。なぜ俺がこういう質問をしたのかに対して、朝比奈さんの場合は 長門や古泉のように『ああ、そうなんですか。』のごとく簡単には納得してくれそうにないと思ったのだ。 彼女のことだから、心残りになって引きずることもおおいに有り得る。ならば、先手を打って俺からそのワケを 説明したほうが、彼女もすんなり納得してくれると思ったのである。そして、それは見事に成功した。 …操行しているうちに、俺たちはいつのまにか学校へと着いていた。 これでしばし彼女ともお別れである。なんとも、貴重な時間でしたよ朝比奈さん。 「じゃあ私教室あっちだから、また放課後ねーキョン君!」 「はい、ではまた!」 名残惜しいが、朝比奈さんと別れ教室へと入る俺。そういえば、俺はかばんの中に入っている 忌々しい宿題という名の悪魔を処理しなければならないのであった。早速国木田を探そうとする。 …… 「いねーな…。」 もうすぐ朝のHRの時間だというのにあいつはまだ来ていなかった。 優等生なだけあってあいつが遅刻することなど考えられないのだが…。 「よーキョン!なんだ、国木田のやつ探してんのか?あいつなら今日休みだぜ。」 俺は体を硬直させた。 「ん?どうしたキョン?もしかしてお前も体調悪いのかよ?まあ、こんな季節だし仕方ねーっちゃ仕方ねーけど。」 確かに11月末なだけに気候は寒く、風邪をひきやすい時期というのは間違ってはいないだろう。 ただ、俺がさきほど体を硬直させた理由は…それとは別にある。 「そういうお前は元気そうだな谷口。バカは風邪ひかないってのは本当なのかもな。」 「て、てめー!人が心配してりゃいい気になりやがって!」 妹を今朝見たときも同じセリフを言ったが、また敢えて言わせてもらおう。『生きていてくれて本当によかった』と。 夢の中での谷口の死に様が、鮮明に記憶されているだけに…尚更である。 …… っと、そんな感傷に浸っている場合ではない。例の宿題をなんとかしないといけないんだったな。 いつものように、俺の後ろ席に座ってるやつに声をかける俺。 「よっハルヒ。おはよ。」 「あ、キョン、おっはよー。相変わらず間抜け面ねー。」 朝っぱらからなんてひどいことを言い出すんだこいつは。まあ、いつものハルヒだし、別に驚くことでもない。 それにしても夢の中で意気消沈してたお前は一体何だったんだろうな。やっぱ単なる夢だったんだな。 もう知ったこっちゃねーや。 「ところでな、ハルヒ…数学の宿題のことなんだが…。」 「へえ~今日は国木田が休みだからあたしのノートを写させてもらおうって、そういう魂胆なのかしら?」 う…!?まずい、ハルヒ様には全てお見通しってわけか… 「ダメに決まってるでしょ。こういうのは自分でやらないと力つかないってのは、あんたもわかってるでしょ。」 うむ、正論である。涼宮ハルヒにしては珍しくまともなことを言ったではないか。 よしよし…と感心している場合ではない。 「頼むハルヒ!これが今日中に提出だってのは知ってるだろ? 俺の学力じゃどう考えたって間に合いそうにないんだ…頼む!力を貸してくれ!」 俺は必死に嘆願してみた。…まあ、徒労に終わりそうだが。 「そうね…ま、考えてやらないこともないわ。」 マジですかハルヒさん。こりゃ意外な返答だ。 「その代わり、それ相応の条件は飲んでもらうけど。」 …… 世間は甘くない…しみじみとそれを痛感する。 「わかった…飲めばいいんだろう。で、その条件とやらは一体何なんだ?」 「それはね…。」 ハルヒの言葉に耳を傾ける俺。 「あたしに曲を作って提供することよ!!」 ザ・ワールド、そして時は動き出す …え? 曲?作る?提供? 「というわけで、頼んだわよキョン!!じゃ、これ、あたしの数学のノート。大切に使いなさいよ。」 ハルヒからノートを手渡される俺。これで宿題という不安材料は解決したわけだが… どうやら、それと引き換えに大変な問題を背負っちまったらしい。俺は。 「ハルヒ…とりあえず説明を要求するぜ。曲作りってどういうことだ??」 「イチイチそんなことも説明しなきゃいけないわけ?団員なら黙ってても 団長の心を察せられるくらいの力量はもつべきよ。」 いや、これはあきらかに何の脈絡もなしに作曲の話をだしてきたお前に問題があるだろう。 もしこの状況でハルヒの心中を見抜けたやつがいたのなら、今すぐ俺のところに来い。 洞察力のスーパーエキスパートとして、俺が称えてやる! 「…仕方ないわね。とはいえ、もうすぐ授業も始まるし話す時間はないわ。1時間目が終わったら話してあげる。」 ハルヒにしては珍しく良心的な回答だな。常識人の俺がきちんと理解・納得できるような説明を どうかそんときは頼みますぜハルヒさんよ。そう切実に思いながら、俺は宿題に手をつけるのであった。 さてさて、人間の時間概念というものは随分とまた環境に左右されるものである。TVで延々と バラエティー番組を観ていたり、はたまたファミレス等で親しい知人と会話をしていたりしたら、気付かない間に 自分の思った以上もの時間が経過していたというのはよくある話だ。人間というのは心理学上、自身が楽しい と感じている状況においては前述通りの事象が成立する傾向にあるようである。これを逆説的に捉えれば、 つまり自身が嫌だと感じる状況下では、時間の経過は非常に遅く感じてしまうのである。 ま、要は授業が俺には苦痛ってことだ。といっても俺にかかわらず大多数の万人はそう思っているに違いないが。 とりあえず朝の朝比奈さんスマイルを活力にし、俺はこの長々しい時間を乗り越えた。 「さあ、聞かせてもらうぞハルヒ。」 「あんたねえ…そんな急がなくてもあたしは逃げも隠れもしないわよ。」 おいおい、逃走でもされたら 俺はこのモヤモヤとした感情を一日中抱えたまま過ごすことになっちまうぞ。 とりあえず、説明してくれる様子で助かった。何しろ、いきなり『作曲しろ』である。こんな要求を突きつけられ、 作曲の『さ』の字も知らない人間が、一体どうやって平静を装ってられようか?いや、できるわけがないだろう…。 「今年の文化祭、あたしがギターもって歌ってたのは覚えてるわよね?」 覚えてるも何も、忘れられるわけがない。 未だにバニーガール姿のお前が目に焼き付いて離れないぜ。いろんな意味で。 「その後、あたしはENOZのメンバーから彼女たちの作った曲のデモテープとか いろいろ聞かせてもらったんだけど…改めて思ったんだけど、彼女たち凄いのよ! とても高校生が作ったとは思えない出来ばかりだったわ!!」 だろうな。音楽的素養のない俺でも、あのときは凄さを感じずにはいられなかったぜ。言うまでもないが、 この『凄さ』とは、ハルヒや長門が纏っていた変な衣装による視覚的衝動を取り除いた、あくまで 曲そのものの純粋な感想だ。メジャーなロックバンドのだす曲と比べても遜色ない出来だったと思う。 あー、ハルヒの言いたいことがわかってきたような気がする…。 「だからさ、あたし感動して!SOS団もそんなふうにオリジナルな曲を作って演奏できたらな~と思ったのよ!!」 やっぱりそうか。要はSOS団もバンドを組んでENOZみたく頑張りましょうってことか…まあ、バンド自体は 面白そうだし 別に反対しようとも思わない。長門みたいな高度なテクを求められるのなら、話は別だがな! 「ハルヒよ、大体の概要はわかった。自作曲をやるのは良いとしてだな、 なぜそれを作るのが俺なのか…そこんとこキチンと説明してもらおうか。」 もはや俺の言いたいことはそれだけだ。オリジナルをやるにしても、なぜよりにもよってこの俺が 作らにゃならんのだ??本来なら言いだしっぺのハルヒ、あるいは何でもこなす万能長門さんが 遂行するお仕事であるはずだろうに。まさかあれか、俺がSOS団の中で雑用係だからとかいう むちゃくちゃな理由じゃねーだろーな? 「だってあんた雑用でしょ。そのくらい頑張ってもらわなきゃ。」 やっぱりそうですか。団長さんよ、あんたはホント期待を裏切らないな。 悪い意味で。できれば、そういう期待ははずれてほしかった…。 「とは言ったって、別にコード進行から全楽器パートのフレーズまで、みたいな全てを考えてこいって 言ってるんじゃないわ。あんたはボーカルのメロディーライン考えてくるだけでいいの。」 ?とりあえず俺の負担は減ったとみていいのだろうか。 「メロディーラインだけ…ってのはどういうことだ?」 「あんた、まさかその意味すらわからないって言うんじゃないんでしょうね!? そこまでアホキョンだったとは思わなかったわ…心底がっかりね。」 待て待て待て待て、勝手に失望するんじゃない!さすがに意味ぐらいわかるっての! 「そういうことじゃなくてだな、それ以外の作業…例えばお前がさっき言ってた… コード進行とかいうやつか。それは一体誰がやるんだ?」 「あー、そういうことね。それはあたしがやるから、あんたが出る幕じゃないわ。」 いや、むしろ出なくてホッとしましたよハルヒさん。 …… まあ、こいつがコード進行を担当するっていう理由はなんとなくわかる。ハルヒのことだ、 このSOS団バンドにおいても、ENOZ同様ギターボーカルでコードバッキングに徹するつもりなのだろう。 最もコードが絡む役柄なだけに、本人がそれをやったほうが良いっていうのはあるんだろうな。 「他作業の分担具合はどうなってるんだ?」 「他はそうね、有希はギターフレーズ、みくるちゃんはキーボードフレーズ、 古泉君にはドラムとベースのフレーズを作ってもらうつもりよっ!そうそう、歌詞はあたしが作る予定。」 おお古泉よ、お前は二つも楽器フレーズを作らにゃならんのか。どういうわけかは知らんが、 これも副団長の務めと思ってせいぜい頑張ってくれ。 …ん?待てよ 「今のフレーズ担当を聞いてまさかとは思ったんだが、 誰がどの楽器を担当するかってのはもう決まってたりするのか?」 「あったりまえじゃない!あたしはギタボ、有希はギター、みくるちゃんはキーボード、古泉君はドラム。 …そしてキョン!あんたはベースよ!」 どうやら俺はベースをマスターせにゃならんらしい。 「それはどうやって決めたんだ?」 「イメージよ!」 「……」 まあ、正直ベースでよかったと密かに思ってはいる。少なくともギターだけは絶対嫌だったからな… こいつが求めてそうな高等テクは長門にしかできそうにないし。ベースならそこまで目立つわけでもないし、 何より俺自身が低音好きな人種だからな。他メンバーの楽器具合にも大体納得だ。 特に長門がギターなのは…もはや誰もが賛同するところであろう。 「最初みくるちゃんにはタンバリンでもやらせようかって思ってたんだけどねー、 実際それするとドラムの音にかき消されちゃうじゃない?同じ打楽器だから役割かぶっちゃうし。」 いや、それ以前の問題だろう…そもそもバンドでタンバリンなんて聞いたことないのだが… まあ、ハルヒのその判断は適切だろうよ。ギターやベースの横で必死にタンバリンを叩く不憫な朝比奈さんなど 見たくないからな。光景自体には萌えたりするかもしれんが、それとこれとは別問題だ。 「大体のところはわかった。で、俺はメロディーに専念するわけだが、まずは曲作りの土台ともなる コードを知る必要があるぜ。長調なのか短調なのか、みたいに曲調がわからなけりゃ作りようがないからな。 というわけで、そこは任せたぞハルヒ。」 「何言ってんの?あんたがまずメロディーを作るのよ!」 何やらハルヒは意味不明なことを言ってきた。 「ちょっと待て。そりゃ一体どういうことだ?」 「だから、あんたのメロディーをもとにあたしがコードを作るってことよ。」 …とりあえず、俺はこの言葉を言わせてもらおう。 「順序が逆じゃないか?」 「つべこべ言わない!とにかく作ってくること!いいわね!?特に期間は設けないけど、 あんたが作らなきゃこっちも作りようがないんだから!なるべく早くお願いね!!」 もうここまで来ると手のつけようがない。わけがわからないが、 とりあえずここは同意しておこう…それが賢明ってもんだ。 さてさて、操行するうちに2時間目が始まってしまった。 とりあえずさっきからのモヤモヤ感が解消したって点でさっきよりは快適な授業を送れそうだ。 まあ、それでも、俺にとって授業が苦痛であることには変わりないわけだが。 午前の部を経て、時は昼休み。ところで、ここで俺はある深刻なことに気付いたんだが…。 「どうやってメロディー作りゃいいんだ…??」 やり方がわかっていても、そのために必要な設備を俺は持ち合わせてはいないではないか。 ピアノやギター等の楽器で音を鳴らさない限りメロディーが把握できないのは自明であるが、 残念ながらこれらは家にない。つまり実行不可というわけである。 「詰んだな…。」 とりあえずハルヒに話してみるか。もしかしたら何か貸してくれるかもしれん…という淡い期待を抱き、 教室を見渡すが、すでにハルヒの姿は見当たらなかった。もう食堂へ向かったというのか…相変わらず 行動の速い奴だ。とはいえ、別に焦る必要もないだろう。どうせ放課後になれば否応にも例の部室で ハルヒと顔を合わせにゃならんくなるんだし、そのときにまた事のあらましを聞けばいいだけだ。 ってなわけで、ひとまず落ち着いた俺は用を足しにトイレへと向かった。 …… 「おや?こんなところで会うとは奇遇ですね。」 学校のトイレで他クラスのやつと対面する、この状況の一体どこが奇遇だと言うんだ?? 完璧に奇遇の使い方間違ってるぞ。 「それもそうですね、失礼しました。ところでどうされたのです?何か浮かない顔をしてますが。」 どうやら古泉から見て、俺は浮かない顔とやらをしていたらしい。ハルヒの例の命令で、俺は無意識のうちに 若干鬱ってたのか、それとも古泉の洞察力が鋭かったのか?まあそんなことはどうでもいい。 「実はだな…」 俺は事の詳細を簡潔に説明した。 「なるほど、そういうことですか。実はその話については僕も聞き及んではいましたよ。」 何、そうなのか。 「それについてもっと込み合った話をしたいところですが、さすがにここで立ち話はなんですね…。」 確かに、トイレの手洗い場で長話を延々とするわけにもいくまい。 「どうせですし、部室へでも行って話をしませんか?昼ごはんもそこで食べればいいでしょう。 もしかしたら長門さんもいるかもしれませんし、悪い提案ではないと思うのですが。」 長門か…あいつならいろいろ知ってそうだな。というか、あいつが知らないことなんて ほとんどないような気もするが。とりあえず俺達はトイレを後にし、部室へと向かった。 「あ、キョン君に古泉君!どうしたんです?」 なんと、朝比奈さんまで部室にいらっしゃった。ちなみに隣には長門が顕在である。 「いえ、ハルヒの思いつきで始まった作曲云々の話でも古泉としようと思って ここに来たわけですね。朝比奈さんはどうしてここに?」 「私も同じなんです。どうしたらいいかわからずに…とりあえず、長門さんに聞けば何かわかるかなあと思って。」 そりゃそうだ。いきなり曲を作れと言われ取り乱さない人間などどこにもいない。 つくづくSOS団員はハルヒに振り回されてんだなと実感する。 「まあ、とりあえずご飯でも食べながら会話といきませんか?」 古泉が言う。言われなくてもそうするさ。 …… さて、一体何から話せばいいのやら。 「あなたは確かメロディーラインの作成でしたよね?それについて何かわからないことでもお有りですか?」 なんだ、俺の役割もすでに把握してんのか。 「いや、別にそれ自体には問題ないんだが…作曲の手順というかな、メロディーの後に ハルヒがそれにコードをつけると言ってたんだが、順序が逆のように思えてな。 コードとかで曲の雰囲気がわからなけりゃ、普通メロディーも作れねーんじゃねえかと思ってな。」 「なるほど、確かにメロディーは曲の中核なだけに、材料もなしにゼロから作り出すというのは かなり難しい作業ですね。しかし、逆もありですよ。涼宮さんの立場になったとして、 いきなりゼロからコードを作りだすことも難しいとは思いませんか?」 「それはそうなんだろうが…少なくとも前者よりは容易いだろう?コードは基本CDEFGABの 7通りとその派生しかないが、メロディーなんか無限大に作れるじゃねーか…。」 「おっしゃる通りです。コード進行にはパターンが限られてますからね…現に最近の邦楽がその証拠ですよ。 有線やラジオから流れてくる音楽を聴いて、どこかで聴いた覚えがあるようだと錯覚したことはないですか?」 確かに…あるな。もしかして俺が最近の音楽をあまり聴かない理由はそれか? まあ、単に俺が流行に疎いって可能性もあるが、90年代のJ-POPで満足してる感はあるような気はする。 「あの山下達郎さんや坂本龍一さんですら、そのことについては言及していますからね。 今の曲が過去曲の焼き直しのように感じるのは決して気のせいではないでしょう。」 「おいおい…なら、なおさらメロディーから作り出すってのは理不尽すぎんじゃねーのか? やっぱこれに関してはハルヒを説得する必要があるように思えるぜ。」 「それが好ましいやり方だとは僕は思いませんね…。」 好ましくないってのはどういうことだ古泉?お前は、俺が苦しむ姿を見たいってか? 「まさか、滅相もないです。そうではなく、もしこれが涼宮さんが望んでいることなのだとしたら、 あなたはそれを叶えてあげなくてはいけないのではないですか?」 …いや、何を当たり前のことを言っとるんだお前は。 ハルヒが俺に命令してる時点で、つまり望んでるってことじゃねーか。 「そういうことではなく、涼宮さんはあなたが何事にも縛られず、 純粋に感じたままのメロディーを一から作り出してくれることに期待しているのですよ。 簡潔に言えば、涼宮さんはあなたのメロディーをもとにコードや歌詞を付けたいと思っているわけです。」 「俺に期待されてもな…そもそもなぜそれが俺なんだ。」 「まさか、あなたはそんなことも理解していなかったのですか?涼宮さんはあなたのことが… いいえ、言うのはよしておきましょう。正直あなたがここまで鈍感だったとは思いませんでした。」 「涼宮さんが可哀相です…。」 「…鈍感。」 な、何だ何だ??先程まで二人っきりで会話を交えていた長門や朝比奈さんまでもが いきなり古泉との会話に割って入ってきたぞ??しかも全員そろって俺を非難ときた。 いや、いくら俺でも言わんとしていることはわかる。わかるが…ハルヒがそういった感情を俺に抱くとは、 正直考えられねーんだけどな…この3人の考えすぎなのではないかと思う。 「落ち着いてくれ3人とも。とりあえず、メロディーから作らにゃならんって状況だけは理解したさ。」 しかしゼロからの出発…か。ハルヒも酷なことを求めるものだ…。 「まあまあ、気を落とさないでください。」 気を落とさないで一体どうしろと言うんだ古泉よ。 「あなたからすれば、【メロディーからコード】の順番は、いつもの涼宮さんのごとく 荒唐無稽な手法に思えるのかもしれませんが、実はそうでもないんですよ。 この作成法はプロの作曲家やアーティストも普通にやっていることなんですから。」 何、そうなのか?? 「本当です。というのも、そっちのほうが想像が膨らみやすいという方も世の中にはいるらしく。 つまり、メロディーから作るのかコードから作るのかは本人の資質しだいだということですよ。」 そりゃ驚いた。もっとも、俺がどっちの資質かはわかりようもないが…とりあえず安心はした。 ハルヒの勅令から来る特例的なやり方ではないとわかっただけでも、不安材料が一つ解消したようなもんだ。 「しかし古泉、お前妙に音楽に詳しいな。」 「実は自分、中学時代バンドをしていた経験があるんですよ。そういうわけで、知ってるところもある、 といった感じでしょうか。もっとも、僕の場合は一時的なものでしたので、継続的にライブ活動している 人達からすれば、僕の知識や経験など取るに足らないものでしょうけどね。」 そうだったのか…そりゃ初耳だ。まあ、こいつが自分の過去を語るなど 今までほとんどなかったからな。今度機会あったらいろいろ聞いてみるとしよう。 「つまり、お前はそのときドラムをやっていたというわけだ。」 「おやおや、バンドパートのこともすでに涼宮さんから聞いていたというわけですね。ご明察です。」 「俺はベースみたいなんだが…果たして大丈夫なんだろうか。やったこともいらったこともないんだが。」 「大丈夫ですよ、楽器は慣れですから。今度僕が教えてあげます。」 こいつはベースもわかるのか。万能だな。 「いえいえ、単に【ベースがドラムと同じリズム隊だから】に過ぎませんよ。バンドにおける この二つの楽器は役割が似てるんです…ゆえに詳しくなるのも必然といったところでしょうか。 リズムは演奏する上での絶対条件ですからね。極論を言えば リズムさえ合っていれば ギターやキーボードがどうであれ、グダグダには聴こえないというわけです。」 ベースは地味なもんだと思ってたが、結構重要な役割担ってんだな…まあ、よくよく考えてみりゃ 重要じゃない楽器なんてあるはずない…か。そんな楽器は、そもそもバンドポジションとして定着していない はずだしな。しかしあれか、もしかして楽器初心者は俺だけという構図か?それなら、尚更プレッシャーも かかるというものだが…。隣にいる女子二人の会話も落ち着いてきたみたいなんで、ちょっと尋ねてみるとする。 「朝比奈さんはキーボードやったことはあるんですか?」 「キーボードはないんですけど、ピアノなら何年か習っていたんですよ。」 朝比奈さんにピアノ…可憐な彼女にはなんとも相応しい楽器だ。 「それなら何を長門に聞いていたんです?弾けるのなら特に問題はないように感じますが。」 「えっとですね…私が言ってるのはそういう技術的な問題じゃなくて機能的な問題なんです。」 機能?キーボードのことか。そういやあれってボタンがたくさんあるよな… やっぱいろいろと多彩な機能がついているんだろうか。 「ひとえに鍵盤楽器といっても、キーボードはピアノと違ってストリングス、シンセリードみたいな 独特な音を使い分けなきゃいけないの。エフェクトのかけ方だって知らなきゃいけないみたいで…。」 なるほど…キーボードもいろいろと大変のようだ。 「つまり、そのあたりを長門に聞いたり確認していたというわけですね。」 「その通りです♪あと、長門さんに聞いていたのはそれだけじゃないの。 さっき古泉君がキョン君に【ベースとドラムのバンド的役割は似ている】って言ってましたよね?」 ええ、言ってましたね。 「同じように実はキーボードとギターも役割が似ているの。音をリードしていったり 飾り気をつけていくようなところがね。そのへんの調節具合を彼女と話していたの。」 「ギターとキーボードの関係上、どちらかが目立ちすぎると片方の音を殺してしまったりといった あまり好ましくない事態に発展しますからね。いつ、どちらがメインになるかやサポートに回るかなど、 そのへんの折り合いをつけていたというわけですね。」 「古泉君の言うとおりです。」 なるほど、なかなか的確でわかりやすい説明だったぞ古泉。やっぱ経験者は違うな。 「もっとも、そのへんもまずは曲のメロディーやコードがわからないことには何もできませんから… 曲調によって使う音やメインな楽器も違ってきますからね。というわけで、頑張ってね!キョン君!」 朝比奈さんに頑張れと言われて頑張らない男などまずいるのだろうか? いたら今すぐ俺のところに連れてこい!俺が一刀両断してやろう! …… さてさて、ところで俺は何か根本的なことを忘れているような気がするんだが… そもそも俺は当初ハルヒに何を聞こうとしてたんだっけ…。 そうだ、思い出した。なぜこんな大切なことを今まで忘れていた? 「古泉よ、俺がメロディーを作るってのはさっき言ったが、それをするための楽器や設備を 俺は持ち合わせていないんだ。そのへんハルヒは何か言ってなかったか?」 こればかりはいくらやる気があってもどうしようもない。 「そのへんは心配無用です。ENOZさん達との縁もあってか、軽音楽部の皆さんが楽器や作曲用ソフトを 貸してくれるみたいですよ。ここでいう楽器とは、あなたで言うならベースのことですね。」 マジか、なんて親切な人たちなんだ…ベースに作曲用ソフトか…ありがたく使わせてもらおう。 これでひとまず問題は全て片付いたというわけだ。まさか放課後までに解決できるとは思ってもいなかった… これもSOS団みんなのおかげだな。感謝するぜ古泉、朝比奈さん、長門。 キリのいいところで昼休み終了を告げるチャイムが聞こえる。弁当も食べ終わった俺たちは それぞれの教室へと戻り、再び忌々しい午後の授業へと励むのであった。 時は放課後。ようやく今日の授業から解放された俺は、後ろの席に座っている団長様に声をかけた。 「ハルヒ、今日は数学の宿題見せてくれて本当にありがとな。なんとか放課後の提出までに間に合ったぜ。」 「お礼は別にいいわ。それにしたってねえ…あたしだって本当はこんなことしたくなかったのよ。 他人のノートを写すだけなんて、朝にも言ったと思うけど一時しのぎにしかならないのよ! テストの時とか困るのはあんたなんだからね。次はないと思いなさいよ!」 「お前の言うとおりだ。以後気を付けるさ。」 「その代わり例のバンドのやつ、頑張ってよね!!あたしに合った最高のメロディーを考えてくるのよ!!」 「おいおい、俺はお前じゃないんだからさ…お前に合った最高のメロディーとか言われてもな、 抽象的すぎて把握しかねるぞ。」 「頭を捻りだしてでも考えるのが団員の務めってものでしょう!? 大体、音楽に具体性なんかないわ。あんた、そのへんわかってないみたいね。」 むむむ…確かにこいつの言ってることも一理ありそうだ。 「否定はしない。だがな、ならせめて曲調だけでも言ってはもらえないか。 お前に合った音楽をやりたいのなら、まず俺はお前の感性を問う必要があるぞ。」 「じゃ逆に聞くわ。あんたから見たら、あたしはどんな感じの曲が合ってそうに見えるの?」 そうくるとはな。ここはバカ正直に言っておくか。 「ありえないほど明るい曲だ。」 …… ん、なぜ黙るんだ?何か俺変なことでも言ったか?? 「あ、いや、あんたにしては珍しくストレートに言い切ったなあ…って感心してたのよ。 いつも何かと回りくどい言い方をするしね。」 回りくどくて悪かったな。 「それに、さっき音楽に具体性がないって言ってたのはお前だろ? なら、俺も理屈だの何だのそういうものは要らないと思ったんだよ。」 「ふーん…なかなか飲みこみが早いじゃないの!」 笑顔を輝かせるハルヒ。ようやく俺も臨機応変な対応をとれるまでに成長できたってことか… いや、慢心はいけないな。これからも気をぬかず頑張るとするか。 「で、結局俺がさっき言った曲調はお前的にどうなんだ?」 「いいんじゃない?あたしそういうの好きだし。にしても、どうしてあんたはそう思ったわけ?」 「単刀直入に言おう。イメージだ。それ以上でもそれ以下でもない。」 本当に単刀直入に言ってしまった。まあ、別にいいだろう。ちょうどお前が俺をイメージという理由で ベースを割り当てたのと同じ理由さ。理屈じゃないってのはまさにそういうことなんだなと、しみじみ感じる。 「イメージか…あたしってあんたにそこまでプラスに思われてたのね。」 プラス?ああ、そうか、こいつは明るいってのを良い意味でとっているというわけか。どちらかというと、お前の 【明るい】ってのはクレイジーに近いんだが…もっとも、それを言うのはやめておく。大惨事を引き起こしかねん。 「じゃあ、そういう曲調で作ってきてよね!これで話はオシマイね。」 「おいおいちょっと待て。他に何か追加注文とかはないのか?Aメロやサビはこんな感じにしたいとか。」 「そのくらい自分で考えなさい!それに、あたしのイメージ像を捉えられたあんたならきっと作れるわよ!」 おや、ハルヒに太鼓判を押されたようだぞ。その言葉、ありがたく受け取っておくとしますよ団長様。 「あ、いや、一応伝えておくべきことはあったわね。あたしの音域についてよ。」 音域…そうか、すっかり忘れていた。どこまで高い声や低い声が出るかというのは、人間それぞれ 十人十色のはずである。危ないところだった…もし俺がハルヒが歌えないキーの低さや高さで作っていたら、 一体何と言われたことか。特に前者においては注意せねばなるまい。男と女で音域が違うのは当たり前、 ゆえに、男の俺が無自覚のまま作っていたらキーが低音によりがちという事態になりかねない。 「高さの限界は高いD♯、低音は低いB…と言ったところかしら。」 …D♯だと??確かDでも女性にしては高いほうだったはずだが。 それからさらに半音上げとはな…歌手レベルじゃねーか。すげえなお前。 「わかった、把握したぜ。その枠内に収まったメロディーラインを作ってくるとしよう。」 「お願いね!ちなみに、特にこれといった期限は設けないわ。今のところバンドで何かに出れるような イベントもないしね。でも、早いのに越したことはないから、そのへんは胆に命じときなさいよ!」 へいへい、命じておきますとも団長様。 さてさて、いつもの通り部室へと向かった後、俺たちSOS団員は団長ハルヒによる一連の音楽活動の 布告を正式に受け…かといってそこから何か具体的な活動ができるかというとそうでもなく、とりあえず俺は 古泉とボードゲームを、朝比奈さんは編み物を、長門は読書を、ハルヒはネットサーフィンをという 毎度お馴染みの団活を過ごした後、今日のところは解散となった。 玄関へと着いた俺は自分の下駄箱を開けてみたわけだが、なんと中に手紙が入っているではないか。 …今回は一体誰からのどういう要件なのだろうか。ごく普通の男子高校生なら、下駄箱に手紙という シチュエーションにトキメキを隠さずにはいられないのであろうが…残念ながら、俺はごく普通の男子高校生 などではない。ハルヒと出会ってからというもの、俺はあまりに非日常的経験をしすぎてしまった。ゆえに、 俺はこういう手紙に対し、一般認識を持ち出すことができない思考回路へと変質してしまっているのである…。 手紙をもらって朝比奈さん大(ここで言う朝比奈さん大とは、未来からやって来た大人朝比奈さんのことである) に会ったこともあったし、今は亡き朝倉涼子に呼び出され殺されかけたこともあった。 せめて面倒ごとだけにでも巻き込んでほしくはないものである…そう願いながら、俺はその手紙を開封した。 その内容は以下のようなものだった。 『こんにちは!お元気にしていますでしょうか?いきなりこういう突然の手紙をよこしたことをお許しください。 キョン君の身の回りで近いうちに不穏な動きがあります。どうか、未来にはお気をつけください。 では、幸運を祈ってます 朝比奈みくるより』 …… なるほど、差出人は朝比奈さん大のようだ。しかも先ほどの願いも虚しく、 どうやらこれは…俺にとって良い知らせとは言えないようである。 「不穏な動き…ねえ…。」 朝倉の俺への殺人未遂、ハルヒや長門による世界改変、藤原&橘一派による朝比奈みちる誘拐事件、 天涯領域による雪山遭難事件に匹敵するような何かでも…これから起きるということなのだろうか? そして気になるべき点は、この『未来にはお気をつけください。』の文章である。 『未来』というのが一体何を指しているのか…? …ええい、考えていても一向にわからない。とりあえず、『未来』というワードを 心の奥底にしまっておくとしよう。何か、事態を打開できる重要なヒントなのかもしれない。 しかし… 「変だな…。」 こういう重大な案件ともなると、手紙よりも本人が出向いて直接口頭で説明してくれたほうが 効率的なのではないか?一応周りを見渡してみるが、人の気配はない。 っ!足音がする…誰か来る…! …… 「部室のカギ返してきたわよー、ってキョン何つったんてんの?」 かと思えばハルヒだった。いかん、少し朝比奈さんの手紙で過敏になりすぎてたな。 「あ、いや、ちょっとぼーっとしてしまってな。」 「もう、しっかりしなさいよね。そんなんじゃ年寄りになっちゃう前に痴呆になっちゃうわよ。」 相変わらずひどい言い草だな…まあ、ハルヒは置いとくとして、この件については長門に相談するのが 一番だろう。もっとも、今日はすでに帰っちまってるようだが。…よく見りゃ古泉と朝比奈さんもいないのな。 「何してんのキョン、帰るわよー。」 考えてもラチがあかないのでハルヒと一緒に帰ることにした。 「ところでキョン、何か最近変なこととか起こったりした?」 一瞬ビクンとなる。変なことと言われさっきの手紙のことを思い出す俺。 まさか、ハルヒに何か心当たりでもあったりするのか…? 「特にねえな…ハルヒは何かあったりしたのか?」 「無いからあんたに聞いてんじゃない!SOS団が発足してからというもの、あたしたちは力の限り 不思議探索に努めてきたわ!けどね、いまだ何かしらそういう大それたものは見つかってないじゃない!? そんな状況にあたしは憤りさえ感じてるのよ!!こんなに懸命に探してるっていうのに!!」 いつものハルヒだ。心清いほどにいつものハルヒだった。 そんなこんなで奴とも別れ、自宅へと着こうとしていたとき…玄関の前に誰かがいることに気がついた。 あれは…もしかして大人朝比奈さんか?? 「あ、キョン君!お久しぶりです!」 やはり朝比奈さん大であった。まあ、あのグラマーすぎる体型に 栗色に輝いた髪を見れば…遠くからでも認識可能というものであろう。 「ど、どうしたんです?こんな場所で?」 「えっと、キョン君に伝えたいことがあって…落ち着いて聞いてください。 これからキョン君は大変なことに巻き込まれていくんですけど…」 嗚呼…やはり、また何かの渦中に俺は置かれてしまうというわけなんですね… まあ覚悟はしていたんで、別にそこまでのショックはないというものです。あきらめる的な意味で。 「特に藤原くん達の勢力には気を付けてください。それを心得ていれば、きっと未来は良い方向へと 好転するはずです…じゃあ時間がないんでもう行きますね。どうか気をつけてねキョン君!」 「え、あの、ちょっと…!?」 …… 颯爽と立ち去っていく朝比奈さん大。もう少し話がしたかったところだが、 何か彼女も急いでいたようだったし…仕方がないというものだろう。それにしても 「あの手紙の『未来』ってのは藤原のことだったんだな…。」 藤原は以前朝比奈みちる誘拐事件に関わっていたメンバーの一人である。 そしてヤツは朝比奈さんと同じ未来人でもある。『未来』ってのが藤原一派の未来人集団だと考えれば、 確かに合点もいく。…なるほど、これで不安は解消したというわけだ。後は藤原たちの動向に気を付ける… それさえ徹していればOKということだろう。 俺は帰宅し、疲れた体を風呂で癒した後、夕食を食べた。 明日の準備をし終えてベッドに横になった。これで後は、明日に備えて寝るだけである。 …それにしても、何か違和感があるのは気のせいだろうか…? …… そうだ…あの手紙は一体何だったのだろうか? 朝比奈さん大が直接俺に出向いて『藤原』という特定の個人名を出してきた時点で、 あの手紙に意義はなくなった。言うまでもないが、あの手紙の差出人は朝比奈さん大である。 (執筆的に以前のと字体が似ていたことから、あれを書いたのは朝比奈さん大で間違いないとは思うのだが…) にもかかわらず、なぜ彼女は手紙で未来に注意を促すよう喚起した後、再び俺に会って 直接伝えるといった二重行為をしてしまっているのか…俺に会うつもりでいたのなら、 そもそもあの手紙自体に意味はなかったはずなのであるが…。 まあ、とりあえずは藤原たちの動向を警戒するに越したことはないだろう。そう結論を下すことにする。 いろんなことを一日中考えすぎてしまっていたせいか、睡魔が予想より早く襲ってきた。 今日はもう寝るとするか…俺は静かに目を閉じた。 まさか、このとき下した結論がどれだけ迂闊で軽率なものだったか …近いうちに、俺はそれを痛感させられることになる
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コンコン ど、どうぞー 何時もどおり部室にノックで確認をとって入る俺。 ヒュー紳士的ー、しかし今朝比奈さんの声、どこか上擦っていたような? 「うぃーすってみんなどうした?」 何時もと同じ面子だが、何時もとは様子が違う。 特にハルヒ以外のメンバー 「どうしたんだ?みんな?」 「いえ、別に何もありませんよ。」 と言った古泉の顔が笑いながら少し引きつっているように見える。 長門は相変わらず本を読んでるが席が窓側の近くから、廊下側の近くに移動されている。 朝比奈さんもここなしか、いや明らかに廊下側の近くの席に座っている。 そして皆の正反対の位置でハルヒがニヤニやしながらパソコンに向かっていた。 しかし朝比奈さんならまだしも、長門や古泉が観察対象から自ら離れるなど、なかなかないことだ、どんな近寄りがたい事をしてるんだ? 俺はハルヒが何をしているのか気になり、ハルヒ近ず。 何やら何かBGM的な音楽と女の声がパソコンから聞こえてくる。 オイMASAKA!? 俺は素早くハルヒの後ろに回りこむと、そこにはゲームの画面があった。 『えへへへ、キョンくーん。』 メッセージウインドウにはそう書いてあった。 さらに足元にゲームのパッケージが落ちていた、なになに? 東鳩2?意味わからん、だがパッケージのあるシールでこれがどういうものかが確定した。 さあ深呼吸だ★ 「エロゲーかぁぁぁぁ!!」 「そうよ。」 「うお!びっくりした突然振り向くな…。」 「突然叫んだヤツの台詞じゃないわよそれ。」 いやお前に問題がってそんなことはどうでも良い。 「でどこから仕入れてきた、こんなもん。」 「コンピ研ロッカー室から」「許可は?」 その時隣の部屋から。 『ああーマイユートピアはいずこに!!!?』 『お気を確に部長!』 『オレのこのみんが…オレのまーりゃんが…』 『諦めるな!まだ探して無いところがあるはずだ!』『エヘヘへもう生きてる意味すらわからない…』 『部長ー!部長ー!』 ………ご愁傷さまだが学校に持ってきてまでやるお前らにも問題あるぞ? そしてこいつにも大問題があるぞ、俺柄みでな! 「つーか俺の名前でプレイするなぁぁ畜生がぁ!!」 「だって、誰かに見つかった時にあんたのせいに出来るしー。」 SATUGAIしてー。 そんな沸き立つ感情を内に秘め、なんとかこの場を納める事に専念した。 「なあハルヒそれやるんならみんな帰していいだろ?俺は残るからさ。用事があるんだってさ。」 そういうとハルヒが皆の方を向く。 待っていましたと全員が逃れたくて、必死に首を縦にふる。 それを見たハルヒは、 「じゃあ良いわよ、今日は用事がある人はかいさ「「「おつかれさまでした!!」」」 「ハヤ」 ものすげー速かった。 おいおいこいつは世界を狙えますよ? 「さてハルヒ、部室に二人きりだな?」 ちょっとご機嫌に言ってやると 「そうね?じゃあどうするぅ?」 やけに挑発的だ。 「決まってるだろそんなの…。」 だんだんとハルヒの陰と俺の陰が一つに重なっていく。 「エロゲーじゃー!エロゲー祭りじゃー!!」 「うほほーい!この展開有り得ないけど胸が土器☆土器☆するぜぇ、なあハルヒ!」 俺たちは一つの画面に身を寄せてエロゲーを楽しんでいる、いつもはすれちがっていた二人が一つになれた。 俺らはこの一体感とエロゲーを満喫している、青春最高! 終わり
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第一話 「おはよう、涼宮さん。最近嫌な事件が続いてるのね」 あたしが朝教室に着くなり阪中さんが話しかけてきた。 「おはよ。なにそれ?どんな事件?」 そう返事すると少し驚いたような顔をして教えてくれた。 「知らないの?最近この辺りで女子高生が誘拐される事件が続いてるのね。犯人はまだ捕まってないし…怖いのね…」 えっ?そんな事件があったなんて全然知らなかったわ…これは気になるわね… 「涼宮さんも気をつけた方がいいのね。それじゃあまたなのね」 そう言い残し自分の席へと戻って行った。 それと入れ替わるようにキョンが教室に入ってきた。 「おう、ハルヒ。おはよう。…どうした?」 ボーッと考え事してたからだろうか、あたしの顔を覗きこむようにたずねてきた。 …って顔近いわよっ! 「キョン!大事件よ!」 さっき聞いたばかりの事件をキョンに話した。 「ああ、その事件なら俺も知ってる。昨日のニュースでもやってたしな。 嫌な話しだぜ…」 なんだ、知ってたんだ…それなら話は早い! 「いい?これは放っておけない大事件だわ!早速今日の放課後からSOS団で調査開始よ!」 あたしは椅子の上に立ち上がり、しかめっ面をしたキョンへと高らかに宣言した。 「おい、ハルヒ!バカな事言うな。警察でも探偵でもない俺達に何ができる?」 むっ…なに呆れた顔してんのよっ! 「もし事件に巻き込まれたらどうするんだ…危険な目にあうかもしれないし…俺は…嫌だぞ、ハルヒがいなくなったりするのは…」 とつぶやくのが聞こえた。 「え…それってどういう―」 「と、とにかく事件のことは警察にまかせておけよ。わかったな?」 「わ、わかったわよ…」 急に話を終わらせたキョンにしぶしぶと答えるとちょうど岡部が入ってきた。 「みんな、おはよう。ホームルーム始めるぞ。それとハンドボールはいいぞ!」 岡部の戯言が耳に入らないくらいあたしはドキドキしていた。 さっきの言葉、どういう意味だったのかな…もしかしたらキョンもあたしのこと…好き、なのかな? いつか…この大好きって気持ちをキョンに伝えたい。今週の不思議探索の時に…頑張ってみようかな… その日あたしは授業中もずっと一人でにやけていた。かなり危ない人みたいね…今日はすごくいい日だわ!記念日にしてもいいくらいに。 そんなことを考えているとあっという間に放課後になった。 「キョン!掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよ!遅れたら死刑なんだから!」 「はいはい、わかってますよ。団長様」 いつもみたいな会話をして、一人で部室に向かった。 そして勢いよく部室のドアを開いた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「あ、涼宮さん。こんにちわー」 あたしが部室に入るとメイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。 「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉くんは?」 「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」 温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。 「そうなの。…ん?」 机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。 「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」 冗談めかして言ってみる。 「え?あぁっー、そ、それは…その…」 んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね! 「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」 瞬間的に思考が凍りついた。 嬉しそうな顔したみくるちゃんがあたしの机にお茶を置く。 ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…? 自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。 「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ちを伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」 その言葉を聞いて、さらに黒い嫉妬は叫びをあげる。 「そん……対……許……わよ」 「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」 聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。 「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」 机の上に置かれたお茶を思いっきり床へ叩きつけた。 ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。 「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」 泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。 「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」 自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。 「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンはあたしのものよ?あんたなんかよりあたしの方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」 「わ、わたしだってキョンくんのこと大好きなんです!諦めたくありません!それに…わたしの気持ちなんだから涼宮さんには関係ないじゃないですか!」 思ったより強い力で突き飛ばされあたしは尻餅をついた。 なによ…みくるちゃんのくせに! 目の前が怒りで真っ赤にそまる。 そして気がつくとあたしはみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。 「あっ…」 みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。 しばらく苦しそうにうめいていたがやがて動かなくなる。 ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめた… 「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」 震える手でみくるちゃんをゆさぶる… でも…ぴくりとも動かない。 「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああああああああああああああああああ!」 叫び声が響き渡る。 どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの… その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」 部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。 最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて… 「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」 大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。 どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ! 「脈がない…死んでる、のか…」 キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。 「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」 「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」 すごい顔をしながら睨んできた。 「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」 必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな… もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。 しばらく沈黙の時間が続く。やがて、 「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」 さっきとはうってかわって ものすごく優しい声でキョンが言った。 最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに… 「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」 「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」 「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」 我慢しきれず涙がこぼれる。 「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」 そう言って優しく抱きしめてくれた。 「うん…うん。二人で…頑張る!」 あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。 こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。 だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。 でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを… --------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」 キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。 「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」 キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。 「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」 「うん…わかった。」 私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、 「いやあ、遅れてすみません。」 「……………」 相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。 「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」 「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」 キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。 私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。 「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」 キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。 「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」 「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」 キョンのフォローで助かった。 「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」 いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ… 「あ…えっと…」 「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」 またもキョンがフォローしてくれる。 でも、少しずつ身体が震えてきた… 「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」 心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。 「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」 「おう。わかった」 「かしこまりました」 「……………了解」 それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、 ガタッ…! 掃除道具入から音がした。 っ…!なんで…!こんな時に! みんなの視線がいっせいに掃除道具入へとむけられる。 気になったのか有希が立ち上がり掃除道具入の扉に手をかける。 どうしよう!まずい、まずいまずいまずい… もう、ダメだ…諦めて目をつぶった時、 「長門、中のホウキが倒れただけだろ。気にするな」 有希を止める声が聞こえた。 「………………そう」 有希はほんの少し怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて扉から手を離した。 それを見てあたしは気づかれないように息を吐き、そのまま椅子にもたれかかった。 本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃… 「それじゃあお先に失礼いたします」 「………お大事に」 二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。 「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」 「う、うん…大丈夫…ありがと」 キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。 「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」 そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。 「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」 「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」 キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。 これから一体どうなるんだろう… 誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか… 私は椅子に座ったまま目を閉じた。
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「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。 この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上」 宇宙人?長門のことか? 未来人?朝比奈さんか? 超能力者?これは古泉か? 異世界人?……それは見たことないぞ。 「あんた宇宙人なの?」 いや、違う。 「じゃあ話かけないで。時間の無駄だから」 ちょ、ちょっと待てよ。 「普通の人間の相手をしている暇はないの」 じゃあ俺はなんなんだ。お前にとって俺は、普通の人間は必要じゃないのか? でも、俺は……それでもお前が――。 『涼宮ハルヒの交流』 ―第一章― 放課後の誰もいない教室で目覚める。 あれ、授業は?もう終わってたのか。くそっ、ハルヒも起こしてくれればいいだろうに。 ……あぁ、そういえば昼間けんかしちまったもんな。 冷静になってみると確かに俺が悪かったと思う。が、そんなに激怒するようなことでもないと思うんだがな。 とりあえず謝るだけは謝らないと。すぐには機嫌は直らないんだろうけどな。 で、今何時だ?きっと今から部室行っても怒鳴られるだろう。まぁそれでも行くしかないか。 それにしてもどうやら不思議な夢を見ちまったようだ。はっきりとは覚えていないがどうやら一年前の夢か? 入学式、出会った日のハルヒの自己紹介。その部分を見ていたことはなんとなくだが頭に残っている。 ……懐かしいといえば懐かしいか。 俺達も2年生になり、新入生を迎える立場となったわけで、それなりに勧誘もやってはみたのだが、 SOS団に入るなんて物好きなぞ結局現れなかった。 まぁ普通の人にはわけのわからない団体だしな。 そのままずるずると入部者もないまま、もうG.Wが終わってしまった。 ということは、我らがSOS団もそろそろ一周年ということか。 これからも色々とめんどうなことになるんだろうか?いや、なるんだろうな。やれやれ。 ……さて、部室に向かうとするか。 ◇◇◇◇◇ そういえば日も長くなったな、なんて考えながらも部室への道を歩いて行くと後ろから、 「おや、今からですか?やけに遅いですね」 聞き覚えのある声に立ち止まって振り返る。 「古泉か。ちょっと教室で寝てたらこんな時間になっちまってた」 「それはそれは。となると涼宮さんもご立腹ですかね」 「だろうな。でもお前と一緒なら一人で行くより少しはましかもな」 「そうかもしれませんね。そのせいですか?先ほどから浮かない顔をしているようですが」 「まぁそれもないわけではないが。実は昼間ハルヒと少しばかり激しいケンカをしちまってな。 それも含めておそらくかなり怒られるだろうからな。そりゃあ足も進まなくなるさ。 閉鎖空間、大きめのやつができたんじゃないか?すまなかったな」 「おや、それは不思議ですね。今日は閉鎖空間はまだ発生していないはずですが……。 ということは実際にはそれほど怒ってらっしゃらないのではないですか?」 ……そうなのか? あれで閉鎖空間ができてない?どういう事だ? 「それならそれでいいが…。どっちにしろ後でちゃんと謝っておくよ」 「そうですね、それがよろしいかと。お願いしますね」 古泉はいつものように笑って言う。 「ああ、あとそれに加えてさっき寝てた時に一年前の入学式の日の夢を見てたんだ。 そのせいで、ああ、俺は一年間かなり無茶をやってきたな、そしてこれからも無茶をやるんだろうな。 と、さらに憂鬱な気分になってたってわけさ」 「ふふっ、まぁそういうことにしておきましょう」 何がだよ……。古泉と並び部室へ向かいながら、思いついたことを話してみる。 「ところでさっき見てた夢のせいで今ふと思ったんだが、宇宙人、未来人、超能力者は簡単に現れたくせに 結局のところ異世界人は現れなかったな」 「おや、あなたは現れて欲しいのですか?」 そんなばかな。これ以上の騒動はごめんだぜ。 「いや、そういうわけじゃないが。どうしてなのか少し気になってな」 「どうしてだと思いますか?」 予想外の返答に思わず足が止まる。 「わかるのか!?」 「わかる…、とは言えませんね。あくまで仮説です。それでもよろしければ」 古泉に促され、再び歩き出しながら話を続ける。 「とりあえず聞かせてもらおう」 古泉はどう話そうか少し考えているようだったが、すぐに話し始めた。 「涼宮さんはこの世界の神のようなものであると僕が言ったのは覚えていますか?」 「……そんなことも言っていた気はするな」 「僕達には認識しえませんが涼宮さんの神性はあくまでもこの世界でのものと考えられます。 その根拠、とまでは言えませんが、宇宙人、未来人、超能力のどれもがこの世界の中での者です。 もし、……そうですね。この場では異世界としておきましょうか。異世界にもその力が及ぶのであれば、 我々と同様に涼宮さんの側に呼び寄せられているでしょうからね。おそらくは、SOS団の6人目として。 あるいは、……あなたが異世界人なのでしょうか?」 ニヤリと笑い古泉は言う。 「っ!?おいおい、そんなはずはないだろ?」 たちの悪い冗談はやめろ。頼んでやるからやめてくれ。 思わず慌てふためいてしまった俺を横目に、あいもかわらず涼しい顔で続ける。 「ふふっ、冗談です。前にも言ったように、あなたはれっきとした普通の人間ですよ」 「やれやれ、勘弁してくれよ」 俺の少し大きめのリアクションも気にせず、古泉は続ける。 「異世界人というのは少し特殊でして、未来人や超能力者のように力を与えれば良いというものでも、 宇宙人のようにその存在を創造すれば良いというものでもありません。 異世界に存在している、という条件が不可欠になります。となると、まずは異世界から創らねばなりません。 その気になればできるかとも思えますが、そこから人を連れてくるとなると、それは誘拐に近い行為です。 さすがにそこまではできないのでしょう。涼宮さんの良心が咎めるのかもしれませんね」 「あいつにそんな常識が通じるとは思えないがね」 「いえいえ、そんなことはありませんよ。以前にも言ったように涼宮さんはちゃんと常識を持った方です」 ……ほんとかよ。 「あるいは、異世界というものがすでにあるとしても、そこにも涼宮さんのような力を持った者、 つまり『神』が存在して、涼宮さんからの干渉を防いでいたりするのかもしれませんね」 なるほど、それならありえるかもな。 「それだと向こうの神様も必死だろうな」 ハルヒから再三に渡って人員を要求されている異世界の神様には同情を禁じえない。 とりあえず面識もないが謝っておく。うちのハルヒが迷惑をかけてすいません。 「まぁ、全て僕の仮説ですけどね。もちろんそれなりに自信はありますが。 どちらにせよ、この説がある程度でも当たっているならば、異世界人が現れる可能性は低いと思われます」 確かに、話を聞いている限りにおいては、なるほど、と納得させられるような内容だ。 まぁ、別に俺にとっては現れて欲しいわけでもないしな。いや、むしろ現れないで欲しい。 「あなたに言うべきか、少し判断に迷いますが、あなたも興味があるようですので話しておきましょう」 古泉は少し考え込むような仕草を見せた後、立ち止まって話し始めた。 「実は過去に3回、涼宮さんは異世界人を呼ぼうと試みています」 な、なんだって。どういうことだ? 「それが元から存在した世界なのか、涼宮さんがわざわざ創り出した世界なのかはわかりません。 ですが実際にここではない世界に干渉した力の発現を感じました」 「それは、例の『なぜだかわかってしまうのです』ってやつか?」 「そうです。根拠はありませんがそう感じました」 なるほどな。 「でも、それじゃあ異世界人ってのはもうどこかにいるんじゃないのか?」 「いえ、それが成功したことはありませんので、異世界人はまだいません。それに……」 古泉は笑顔になり、再び手で促し歩き出す。 「一年前、あなたと出会ってからは一度もありませんのでご安心を」 ◇◇◇◇◇ 古泉の話について深く考える間もなく、すぐに部室に到着する。 少し考え込む俺を後ろに古泉がドアをノックすると、 「はあぁい、どうぞぉ」 と、いつものように朝比奈さんの可愛らしいボイスが出迎えてくれる。 古泉はいつものようにドアを開け、いつものように 「すいません、遅くなりました」 と挨拶を交わした後、いつものように入って……は行かずに、ドアを閉めてこちらに向き直る。 「ん?なんだ?」 古泉は珍しく真剣な面持ちで 「申し訳ありませんが、少しこのままここで待っていてもらえませんか?」 「あ、ああ、構わないが?」 「すぐに戻りますので」 そう言葉を残し、部室の中へと入って行く。 一体なんだってんだ。異世界人でもいたのかねぇ。けど俺が入れない理由にはならないか。 部室の中からは微妙に声が聞こえる。 「――いえ、たいしたことではありませんので」 「そう、まぁ別にいいわ。まぁ古泉君は優秀だし、色々あるんでしょ。誰かさんと違って」 どうやらハルヒと何かしらの会話をしているようだ。 っておい!誰かさんて誰だよ?俺か?……まぁ俺のことなんだろうが。 「それで申し訳ありませんが、まだ少しやることがありまして、今日はこれで失礼させて頂きたいのですが」 「そう?まぁ仕方ないわね。古泉君は優秀だし、色々あるんでしょ。誰かさんと違って」 くそっ、また言いやがった。そんなにダメか?ダメなのか俺は? 「すいません。それと、彼もお借りしたいのですが、宜しいでしょうか?」 「えっ、俺か?」 「んー、別にいいけどこいつ使えないわよ。古泉君と違って。」 「ったく……。そのことは悪かったって、謝ったろ?勘弁してくれよ。 あ、古泉、少し待ってててくれ。これ片付けるから」 って、また言った。普通3回も言うか!?さすがにそれは酷いだろ? ……じゃなくて、ちょっと待て。中で今俺が返事しなかったか?いや、間違いなく俺だよな。 落ち着け。そんなはずはない。俺はここにいる。……でも確かに今のは俺だ。 何が起こってるんだ?どうなってるんだ?と、考えていると古泉が顔を出し、 「すいませんが屋上で待っていてもらえますか?すぐに向かいますので」 と、小声で簡単に告げる。 色々と聞きたいことはあるが、ここは仕方ない。とりあえず屋上に向かうとするか。 ◇◇◇◇◇ 第二章へ
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「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
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ウェアウルフの種族が暮らす地域である。外部の者を敵視し、彼らだけの領域を築いて生きている。 24レベルのアイテムを入手できます。 入場条件 黒い怒り地域通常難易度クリア狩り場ポータルレベル16が必要 All Clear報酬 2等級英雄カード 4個 地域 難易度 登場モンスター リセット 出現部隊 総攻撃力 総防御力 獲得EXP 獲得金貨 備考 カマルラの草原 通常 ウェアウルフレッドハーピー 10分 10 27984 29170 上級 20分 10 37206 38740 490 610 英雄 40分 10 46110 47980 カマルラの森 通常 ウェアウルフウォータースライム 10分 10 29260 29942 370 534 上級 20分 10 38830 39686 英雄 40分 10 48070 49094 カマルラの分かれ道 通常 オーガウェアウルフ戦士 10分 10 28764 31866 上級 20分 10 37638 41697 490 615 英雄 40分 10 46206 51189 カマルラの渓谷 通常 レッドハーピーウェアウルフ戦士 10分 10 27573 31798 狩り場ポータルレベル17が必要 上級 30分 10 36360 41890 460 616 英雄 1時間 10 44844 51634 カマルラ平野 通常 オーガ怒りのケーナインオーク 20分 10 29746 32348 上級 30分 10 39055 42440 510 619 英雄 1時間 10 48043 52184 オーク駐屯地 通常 怒りのケーナインオークレブリン戦士 20分 10 30576 37065 450 563 蒼空のヘルム古い知識の帽子 上級 30分 10 40320 48810 英雄 1時間 10 49728 60150 カマルラ廃墟 通常 ウェアウルフ戦士怒りのケーナインオーク怒りのトロール 20分 10 30024 34146 上級 30分 10 39420 44760 540 625 英雄 1時間 10 48492 55008 ウェアウルフの村 通常 オーガ怒りのケーナインオーク怒りのトロール 20分 10 31635 33860 430 546 上級 30分 10 41292 44126 英雄 1時間 10 50616 54038 燃えるウェアウルフの村 通常 ペインウェアウルフウェアウルフ戦士怒りのトロール 3時間 7 18239 20232 780 1908 フリージングワイバーンアーマーフリージングワイバーンローブ 上級 3時間 8 26457 29442 英雄 3時間 9 35550 39700 コメント 名前
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一体、何がどうなっているのか。 この状況下を理解できている奴がいるならとっとと俺の前に来てくれ。すぐには殴らないから安心しろ。 洗いざらい聞き出してからやるけどな。理解できるのは首謀者以外ありえないからな。 『一度しか言わないので、聞き逃さないようにしてください』 そう体育館内に聞き覚えのない声が響き渡る。 まず、状況を説明しよう。俺たちは今体育館にいる。外は薄暗く、窓から注がれる月明かりしか体育館内を照らすものがないが、 それで体育館内の壁に立て掛けられている時計の時間がかろうじて確認できた。1時だそうだ。午後ではなく午前の。 体育館内には北高生徒が多数いた。皆不安そうな表情を見せつつも、パニックを起こすまでには至っていない。 何でそうなる可能性を指摘しているのかと言えば、俺たちがどうしてこんな夜中に体育館にいるのかがさっぱりわからないからだ。 俺は確かベッドに潜り込んで寝たはずだ。次の瞬間、気が付いたら体育館の中と来ている。 夢遊病でも制服まで着込んでこんな遠くまでくるなんてありえないし、大体これだけの大人数が突然夢遊病に かかって同じ場所に集結するなんて絶対にあり得ないと断言できる。ならば、これは何者かがしくんだ陰謀と見るべきだろうな。 それも、普通の人間の仕業ではなく、いつぞやの雪山で起きた建物に俺たちを閉じこめてレベルの連中が仕掛けたのだろう。 俺もここまで冷静な思考ができるようになっていたとはうれしいよ。 『ルールは簡単です。今から3日間、あなた達が生き残れば何もかも元通りになります。しかし、全員死んでしまった場合、 この状況が現実になってしまいます。ようは一人でも生き残れば、例えその他の人が死んでもそれはなかったことになり、 一人も残れなかった場合は全員死んだままになると言うことです。あと助けを求めようとしても無駄です。 現在、この空間にはこの施設内以外には人間は一人も存在していません。電話も通じません』 一方的すぎる上に訳がわからん。どうしてこんなことになってしまったのか。前日を思い出してみるか。 ◇◇◇◇ 季節は春。3学期も半ばにさしかかり、残すイベントは球技大会ぐらいになっていた。 俺たちはいつも通りにSOS団が占領下においている部室に集まって何気ない日常を送っていた。 放課後になって、朝比奈さんのお茶をすすりつつ、古泉とボードゲームに興じる。 ワンパターンと言ってしまえばそれまでだが、平穏であることを否定する必要もない。 「おい、ハルヒ」 相変わらず激弱な古泉をオセロで一蹴したタイミングで、俺はあることを思い出してハルヒを呼んだ。 退屈そうにネットをカチカチやっていたハルヒは、 「なーに?」 「今度、球技大会があるだろ? おまえも参加しろよな」 「いやよ、めんどくさい」 とまあつれない返事を返されてしまった。ちなみにこうやって参加を促しているのは、 別にスーパーユーティリティプレイヤー・ハルヒを参加させてクラスに貢献!なんて考えているわけではなく、 クラスメイトの阪中からハルヒを誘ってほしいと言われたからである。 最初は戦力としてほしいから言っているんだろうと思ったが、もじもじしている阪中を見ていると どうも別の理由があるらしい。ま、いちいち他人のことに口を出してもしょうがないし、 阪中自身が言いづらいから俺のところに頼みに来ているのだろうから、快く引き受けておいたがね。 「おまえな……たまにはクラス行事に参加しろよ。いつまでも腫れ物扱い状態で良いのか?」 「べっつに構わないわよ。気にしないし。大体、球技大会ってバレーボールじゃない。そんなありきたりのものに 参加したっておもしろくもないじゃん。南アルプスでビッグフット狩り競争!ってのなら、喜んで参加するわよ」 「そんな行事に参加するのはお前くらいだ。おまけに球技大会ですらねえよ」 俺のツッコミも無視して、良いこと思いついたという感じにあごをなでるハルヒ。 このままだと春休みにはアルプスに連れて行かれかねないな。 「あー、でも一般客も見に来たりするんだっけ? それなら、クラスじゃなくてSOS団としてなら参加して良いわよ。 いいアピールにもなるしね。ユニフォームのデザインはまっかせなさい!」 「勝手に変な方向に話を進めるな!」 俺の脳裏に、開会式にSOS団が殴り込みを掛ける映像が再生される。それも全員がハルヒサナダムシ風ユニフォームを着込んで いや、朝比奈さんだけは別か。何を着せられるのやら。ハルヒなら本気でやりかねないから冗談にもならん。 「やれやれ……」 難しいとは思っていたが、こうも脈がないとハルヒ参加は無理みたいだな。阪中には明日謝っておこう。 で、その後は古泉とのボードゲームを再開。夕方になって全員で帰宅モードへ移行。何気ないいつもの一日だった。 ただ、少し気になったのは部室内にいる間、少し様子のおかしかった長門だ。何かを問いかけられた訳でもないのに どうも数センチだけ頭を傾ける仕草を頻発していたのが少し気になっていたので、 「……長門。どうかしたのか?」 帰り道でハルヒに気づかれないように聞いてみる。長門はしばらく黙っていたが、 「情報統合思念体とのアクセスが不安定になっている。原因不明。私自身のエラーなのか、外部からの妨害なのかも不明」 「また、やっかいごとか?」 「回答できない。情報があまりに不足している。帰宅次第、調査を続行する」 「そうか」 俺は嫌な予感を覚えていた。特に長門自身のエラーということについて、つい敏感に反応してしまう。 あの別世界構築騒動の再来になりかねないからだ。 と、長門が俺に視線を向け続けていることに気が付く。そして、俺の不安を察知したのか、 「大丈夫。前回と同じ事にはならない。私がさせない」 きっぱりと言い切った言葉に俺はそれ以上不安を覚えることはなかった。 で、その後は夕飯を食って、部屋で適当にごろごろして、ベッドに潜り込んだ…… ◇◇◇◇ 『校舎と校庭の方にはたくさんの武器が置いてあります。自由に使って構いません。あと、本日午前6時までは何も起こりません。 では、がんばってください』 そこまで言うと、声が止まった。生徒達のひそひそ声がかすかに聞こえるようになる。 昨日のことを思い出してみたが、おかしかったのは長門の様子ぐらいだ。確かに、雪山でも長門の異常とともに、 あの洋館に押し込められたっけか。今回も同じと言うことなのか? 「やあ、あなたも来ていましたか」 考え事をしていたため、目の前のスマイル野郎の急速接近に気が付かなかったことが悔やまれる。 古泉の鼻息が頬にあたっちまったぜ、気色悪い。 俺は微妙な距離を取りつつ、 「ああ、本意どころか、夜中の学校に迷い込んだ憶えもないがな。お前も同じか?」 「ええ、気が付いたらここにいたという状態です。してやられましたね。油断していたわけではありませんが」 そう肩をすくめる古泉だ。ニヤケスマイルはいつも通りだが。 「キョン!」 「キョンくん~!」 「やっほー!」 と、今度は背後から聞いたことのある声が3連発だ。最初のがハルヒで次に朝比奈さん、最後は鶴屋さんだな。 振り返らなくてもわかるね。で、その中には長門もいると。 「全くなんなのよ、これ! 誰かのいたずらにしては大げさすぎない? 人がせっかく暖かい布団でぬくぬくしていたのにさ!」 そうまくし立て始めるハルヒ。こいつにとっては燃えるシチュエーションのはずだが、 寝ていたところをたたき起こされた気分のようで、すこぶる荒れているみたいだな。 「こ、これなんなんですかぁ~。どうしてあたし、学校の体育館にいるんですかぁ?」 涙目でおろおろするばかりの朝比奈さん。これはこれで……ってそんなことを考えている場合じゃない。 俺は即座にこの状況を唯一理解できそうな長門の元へ行く。 相変わらずの無表情状態だったが、少し曇った印象を受けるのは闇夜の所為ではないだろう。 「おい、長門。これは昨日言っていた異常の続きって奴か?」 「…………」 俺の問いかけに長門は答えなかった。もう一度同じ事を聞こうとして、彼女の肩をつかむと、 「情報統合思念体にアクセスができない」 長門はぽつりと言った。あの親玉にアクセスができない? となると、ますます雪山と同じ状況じゃないか。 「ちょっとちょっとキョン! 何こそこそやっているのよ! まさか有希をいじめているんじゃないでしょうね!」 人聞きの悪いことを言いながら俺に詰め寄るハルヒ。こんな状況でいじめる余裕がある奴がいるなら会ってみたいけどな。 そこに、古泉が割って入り、 「まあまあ。けんかをしている場合ではないでしょう。それにこれ以上、体育館にいても仕方ありません。 とりあえず、外に出てみませんか? どうやら、これをしくんだ者からのプレゼントもあるようですし」 「そうね」 ハルヒは素直に古泉の提案を受け入れ、体育館の出入り口に向かう。 「ひょっとしたら、辺り一面砂漠になっていたりして! なんだかワクワクしてきたわ!」 もうハルヒはこの状況を受け入れつつあるらしい。らしいといえばらしいが。 ふと気がつくと、今までひそひそ話をする程度だった他の生徒たちも俺たちについてくるように、 体育館の出入り口に向かって歩き始めていた。一様に不安そうな表情を浮かべているものの、 特に錯乱するような奴はいない。なんだ? おかしくないか? どうして誰も泣いたりわめいたりしない? 「気づいたようですね」 またニヤケ男が急接近だ。しかも、耳元に。吐息が当たって気色悪いんだよ! 「何がだ」 「他の生徒の様子ですよ。まるで落ち着いている。ちょっと動揺しているように見えますが、 表面上だけです。訓練された人間でもこうはいかないでしょう」 「そのようだな。でも、ひょっとしたらみんな肝が据わっているだけかもしれないぞ」 「それはありえません。あなたが初めて涼宮さんに絡んだことに出くわした時を思い出してみればわかるはずです。 しかも、ざっと見回す限り1学年のみの生徒がいるようですが、それでも数百名のうち一人も錯乱しないわけがありません」 「何が言いたい?」 「まだ結論を出すには早いですが、何らかの人格調整を受けたか、あるいは――」 古泉は強調するようにワンテンポおいて、 「姿形だけ同じで、中身は全然別物かもしれませんね」 そこまで言い終えた瞬間、俺たちは体育館から外に出た。 ◇◇◇◇ 「なに……これ」 呆然とハルヒがつぶやく。俺も同じだ。驚きを通り越してあきれてくるぞ、これは。 体育館から出てまず気がついたのは、武器の山だ。体育館の周りに所狭しと銃器が山積みになっていた。 俺は思わずそれを一つとり、 「M16A2か。状態も良さそうだ」 そう知りもしないはずなのにつぶやく。さらに安全装置などを調べている間に、俺ははっとして気がつく。 「なあ古泉。俺はいつからミリタリーマニアになったんだ?」 「さて、僕もあなたのそんな一面を今までみた覚えはありませんが」 古泉も同じようにM16A2を手慣れた感じに、チェックしている。当然だ。俺は映画以外では鉄砲なんて みたこともないし、ましてや撃ったこともない。さわったことすらない。しかし、なんだこの手慣れた感触は。 使い方、撃ち方、整備の仕方までどんどん頭の中に浮かんでくるぞ。どうなっているんだ一体! 「みてください。弾丸の詰まったマガジンも山積みです。どこかと戦争になっても一年は戦えそうですよ」 しばらく古泉は表情も変えずに古泉は武器の山を眺め回していたが、やがてそばにいた長門となにやら話し始めた。 「キョンあれ見てアレ!」 ハルヒが興奮気味に指したのは、校庭だ。そこには10門の火砲――120mm迫撃砲と、 一機のヘリコプター――UH-1が置かれている。って、やっぱりすらすら知りもしない知識が沸いて出てきやがる。 「なによこれ、いつから北高は軍事基地になったわけ?」 なぜか不満そうなハルヒ。あまりこっちのほうは好みではないのか? そんな中、朝比奈さんは不思議そうに無造作に並べれられている迫撃砲の砲弾を突っついている。 「うわ~、何ですかこれ? 初めて見ましたぁ~」 「こらみくる、さわると危ないよっ! 爆発するかもしれないんだかさっ!」 「ば、バクハツですかぁ!?」 びっくりして縮こまる朝比奈さんとおもしろそうにマガジンの山をつっついている鶴屋さん。まあ、鶴屋さんがいれば 大丈夫だろ。 「おい、これって俺たちに戦えってことじゃないのか?」 突然、聞き覚えのない声が飛んできた。さらに、 「さっき、体育館で聞いたじゃない。3日間生き残ればいいって。きっと敵が襲ってくるのよ!」 「おいおい、俺は殺されたくねえぞ」 「そうよそうよ! 徹底抗戦あるのみだわ!」 突然俺たち以外――SOS団に関わりのない生徒たちが盛り上がり始めた。そして、次々とM16A2を手に取り、 構えたり、チェックをはじめやがった。何なんだ、何だってんだ。どうして、誰も疑問に思ったり拒否反応を示したりしない? おまけに俺と同じように知っているかのように扱っている。 さらに、狂った状況が続く。 「でも、ばらばらに戦っていちゃだめだ! 指揮官がいるな!」 「そうね!」 「誰か適任はいないのか?」 「そうだ! 涼宮さんなら!」 とんでもないことを言い出す奴がいたもんだ。よりによってハルヒだと? 一体どんな奴がそんなばかげたことを言い出したんだと声の方に振り返ると、そこには文化祭でドラムをたたいていた ENOZのメンバーの一人がいた。 当のハルヒはきょとんとして、 「あ、あたし?」 そう自分を指さす。さすがのハルヒでも状況が理解できていないらしい。 「そうだよ! 涼宮ならきっと俺たちを導いてくれる!」 「お願い涼宮さん! 指揮官になって!」 「俺も頼む! おまえになら命を預けられる!」 『ハルヒ! ハルヒ!』 「ちょ、ちょっと待っててば!」 と、最初こそしどろもどろだったが、やがて始まったハルヒコールにだんだん気分がよくなってきたらしい。 だんだん得意げな顔つきになってきたぞ。 「ふ、ふふふふふふふふ」 ついには自信に満ちあふれた笑い声まで発し始めやがった。 「わかったわ! そこまで頼られちゃ仕方がないわね! このSOS団団長涼宮ハルヒが指揮官としてあんたたち全員を 守ってあげるわ! このあたしが指揮する以上、どーんと命を預けてもらっていいわよ! アーハッハッハッハ!」 そうやって生徒たちの中心で拳を振り上げるハルヒ。あまりの展開に頭痛がしてきたぞ。 額を抑えていると、長門と密談を終えたらしい古泉がまた俺に急接近してきて、 「大丈夫ですか?」 「ああ、今ひどい茶番を見た」 微妙な距離を保ちつつ答える。古泉はやや困ったように表情を変え、 「それには果てしなく同意しますね。しかし、この強引すぎる茶番劇でしくんだ者の大体目的が理解できました」 「頭痛が治まったら聞いてやる……ん?」 ふと俺の目に二人の生徒がこの茶番劇な流れに逆行するようにこっそりと移動しているのが入ってきた。いや、正確に言うと、 一人が逃げるように移動し、もう一人がそれを追いかけているみたいだ。まあ、思いっきり見覚えのある奴なんだが。 「まずいよ、勝手に逃げ出しちゃ」 「馬鹿言え! こんなばかげた催しに参加してたまるか! おまけに総大将が涼宮だと? 冗談じゃねえよ!」 「でも、なんだかおもしろそうだよ? すごいものがいっぱいあるし」 学校の塀を必死に上ろうとするが、どうしてもうまくいかない谷口。そして、それをやる気なく止めようとする国木田。 何というか、この意味不明空間に閉じこめられてから、初めて正常と思える人間にであったな。 「おい、何やってんだ谷口。それに国木田も」 そんな二人に向かって声をかけると、谷口の野郎がまるで鬼でも見るような目で、 「く、くるなキョン! いや、別におまえに恨みはないが、セットで涼宮がついてくるかもしれないからな! 今は見逃してくれ! 頼む! 明日弁当をおごってやるから!」 もう谷口は今にも泣き出しそうだ。まさに普通の反応。安心するどころか癒されるね。まさかアホの谷口に 癒しを求める日がこようとは。 「まあ、落ち着け。いや、落ち着かないほうがおかしいけどな」 「どっちだよ」 すねた表情で谷口が抗議する。俺ははいはいと手を振りながら、 「とにかく、逃げだってどうにもならんだろ。ここがどこなのかもわからんしな。それにさっきの超不親切放送を信じるんなら、 3日間学校に閉じこもっていれば、何もかも元通りとのことだ。それなら学校のどっかに隠れていた方がマシだろ」 「僕もそう思うよ。別に殺されると決まった訳じゃないし」 国木田がうなずいて俺に同意する。しかし、谷口は聞く耳も持たず、またロッククライミングを再開して、 「うるせえ! そんなの信用できるか! とにかく俺は逃げる! 誰も知らないところで隠れて3日間逃げ切ってやるからな!」 わめきながら谷口はようやく塀を乗り越えようとした瞬間―― 「うわわわわわっ!」 情けない悲鳴を上げて、背中から落下する。 咳き込む谷口の背中をさする国木田を背に、俺もとりあえず塀を上ってみる。一応何があるのか確認しておきたいからな。 「……なんてこった」 塀を乗り越えた俺の目に広がったのは、絶望的に広がった暗闇だ。夜だからではない。学校の塀が断崖絶壁になり、 それよりも向こう側には何もなかった。崖のそこは暗く何も見えない。まさに底なしだ。落ちたらどうなるのか。 試してみたい気もするがやめておこう。 「畜生……なんてこんな目に……」 すっかり逃げる気も失せた谷口は、肩を落として地面に座り込んでいた。一方の国木田はいつものまま。 マイペースな奴だ。 俺はとりあえずハルヒの元に戻ることにした。谷口ももう逃げようとはしないだろうし、あとは国木田にでも任しておけばいい。 しかし、体育館入り口に戻った俺はさらに驚愕する羽目になった。 「ほらほらー! 時間がないんだからちゃっちゃと運びなさぁい! そこ! それ落としたら爆発するかもしれないから、 慎重に扱ってね! さあビシバシ行くわよ!」 校庭のど真ん中にたったハルヒが、メガホン片手に生徒たちを動かしていた。そこら中に散らばっている銃器や砲弾を 学校の校舎内や体育館に運び込ませさているらしい。実際、野ざらしだとどんなはずみで暴発するかわからんから、 ハルヒの判断は間違ってはいないが、すっかり指揮官なりきり状態にはいささか不安を覚える俺だった。 ◇◇◇◇ 「さて! じゃあ、SOS団ミーティングを始めるわよ!」 ハルヒの威勢のいい声が部室内に広がる。最初のとまどいもどこにやら、完全にいつものペースに戻っているようだ。 おまけに総大将とかかれた腕章まで着けている。すっかりその気になっているみたいだな。 全生徒総出での片づけがようやく終了して、現在午前4時の部室内にいるのは、 SOS団のメンバー+鶴屋さんの総勢6名である。 総大将ハルヒはどうやらSOS団関係者を中心としてこの事態を乗り切るつもりらしい。 「とにかく、このよくわかんない状況をとっとと終わらす必要があるわね! さっき体育館でなんて言っていたっけ? 古泉君」 「3日間一人でも生き残れば、その間にあったことすべてが無効となって、元の世界に戻ることができる。 しかし、全員死んでしまった場合はこの3日間の間に起こったことがすべて事実になる。ということのようでした。 あと、午前六時――あと一時間後までは何も起きないとも言っていましたね。それに我々以外の人間は存在せず、 助けを求めようとしても無駄だとも」 さわやかに答える古泉。ハルヒは満足げにうなずき、 「そう! それよ! さすが古泉君ね!」 なにが、さすが古泉なのかわからんが、そんなことはどうでもいい。 「おい、ハルヒ。ちゃんと状況を理解しているのか? 体育館で一方的に言われた内容だと、これから俺たちは 命をねらわれるということになるんだぞ。いつもの不思議探検ツアー気分でやっているんじゃないだろうな?」 「わかっているわよ、そんなこと」 当然だとハルヒ。さらに続ける。 「まあ、いつもならこんな訳のわからない超常現象に遭遇してワクワクしているかもしれないけど、 はっきりいってシチュエーションが気にくわないわ。仕掛けてきたのが宇宙人なのか未来人なのか異世界人なのか 知らないけどこんな不愉快な接触をしてくるなんてナンセンスすぎ! 説教の一つでもしてやらないと!」 これでハルヒが望んだからこんなけったいなことに巻き込まれたというのはなしだな。 ますます雪山の一件と同じになってきた。 ハルヒは仕切り直しというようにわざとらしく咳き込んで、 「まず、これからどうするかよね。有希、何か良い意見ある?」 何で真っ先に長門に聞くんだ。確かに一番適任かもしれないけどな。 話を振られた長門は、数センチ頭を傾ける動作をしたまま無言だった。 ハルヒはそれをわからないというポーズと受け取ったようで 「そっか、有希に聞いても仕方ないわね。じゃあ、古泉君は?」 今度は古泉に話を振るが、それに割り込むように鶴屋さんが大きく手を挙げ、 「はーい! やっぱさ、ここは偵察所を兼ねた前線基地を作ったほうがいいと思うねっ! 話を聞く限りだともうすぐこの学校は何かにおそわれるってことだけど、いきなり本拠地である学校への 襲撃を許したらまずいと思うんだっ! だから、少しでも敵を学校から引き離すためにさっ!」 「すばらしいわ、鶴屋さん! それ採用よ!」 はい、あっさりと終了。何気に息がぴったりな二人だな。しかも、鶴屋さん。 そんなことをすぐに思いつけるなんて、いくら名家の人とはいえこういった戦闘的な経験はあったりしませんよね? 話を振られようとしていた古泉も珍しく苦笑いを浮かべつつ、 「僕も賛成です。このままじっとしているだけでは、敵に叩かれるだけでしょうね」 俺はちらっと長門の方を見るが、相変わらずの無表情だった。とりあえず、口を開かないと言うことは 同意しているととっておくことにしよう。 俺も特に異論もないので、鶴屋さん案に同意する。 「なら決まりね! じゃあ、早速作戦を立てましょ」 そう言ってハルヒが机に広げたのは学校周辺の地図である。ただし、北高のすぐ左側を縦に黒いライン、また同じように 北高の敷地の南側に沿うようにも同じようにラインが引かれている。さっき谷口が腰を抜かした断崖絶壁を 表しているラインであり、屋上から確認したところ、北高より西側と南側はまるで何かに切り取られたように なくなっていた。よって、敵が襲ってくるなら北高よりも北西となる。 さて、こんな地理関係でどこに前線基地をつくればいいのかと考えてみる。というよりも敵がどこから襲ってくるのか 予測しなければ、前線基地の意味もないのでそっちが先決だな。 「北高の北側は住宅街です。見通しがききづらいので、民家を陰に接近されやすいでしょう。東側は森がありますが 幸い校庭に面しているため、即刻学校にとりつかれることはありません。校庭に侵入を確認した時点で 迎撃することが可能かと」 「なら北側しかないわね。でも、どこにするのがいいのかしら」 古泉の意見を取り入れつつ、ハルヒは北高の北側一帯を指でなぞる。そんな中、ちらちらとハルヒが目をやっているのは、 北山公園だ。そこそこ広範囲な森で隠れるならうってつけの場所だろう。 「そうなると、ここが最適じゃない?」 ハルヒが赤いサインペンで丸をつけたのは、北側に東西に延びるようにたてられているサンハイツと呼ばれる建物だ。 良い感じに北高をカバーする防壁のように立ち並んでいる。 「問題ないと思うよっ! ここなら建物沿いに学校へ移動してきてもすぐに発見できるんじゃないかなっ。学校からも すごく近いし、移動も簡単だと思うよっ!」 鶴屋さんが賛同するんで、俺も適当に賛同しておく。こういった頭を使うものは俺なんかよりもハルヒたちに任せておけばいい。 「ちょっとキョン! さっきから他人の意見ばっかりにハイハイしたがってないで、自分の意見を言ったら!?」 いつも人の意見を聞かないくせに、こんな時ばかり聞かないでくれ。どのみち、ハルヒや鶴屋さん以上の意見なんて 全く思いつかないんだからな。 「……まあ、いいわ。じゃあ、これで前線基地は決まりね! 次はお待ちかねのみんなの役割を発表するわよ!」 何がお待ちかねだ。一番胃が痛くなるやつじゃねえか。こいつが決めた物は大抵ろくな配分になっていないからな。 とくに俺と朝比奈さんは。 ハルヒは満面の笑みを浮かべて、懐から一枚のメモを取り出して机に広げた。 ● 総指揮官 涼宮ハルヒ(もちろん、すべての作戦を統括する一番偉い人!) ● 副指揮官 長門有希 (戦況を判断して的確に指示を出すSOS団のブレーン) ● 小隊長 古泉君 (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 鶴屋さん (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 キョン (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) 以上、これがメモかかれていたことである。総指揮官、副指揮官ときて次に小隊長かよ。階級差が飛びすぎだろ。 それになんか俺が前線で戦う人にされているし。 不満そうにしている俺に気がついたのか、ハルヒはしかめっ面で、 「何よ。 なんか不満でもあるわけ? いっとくけど、総指揮官であるあたしの命令は絶対よ! ハートマン軍曹より 厳しいからそのつもりで!」 放送禁止用語を連発するハルヒを想像してしまって吹き出しそうになるが、あわてて飲み込む。 「完全に数えた訳じゃないけど、体育館にいたのは一学年全員ぐらいはいたわ。となるとざっと数えて270人がいるわけ。 幸いみんな協力的だから、戦力として数えられるわけよ。で、そのうち5割を戦闘員として、キョンたちが指揮して、 残りは補給とか片づけとかの役割に回すわ」 続けるハルヒに少し安堵感を覚えた。さすがにSOS団VSコンピ研の対決の時のように突撃馬鹿になるつもりはないようだ。 ところでだ、メモ最後にかかれているのはいったい何だ? 「あのぅ……わたしは一体何をするんでしょうかぁ? 癒し系担当とかかかれているんですけどぉ……」 おそるおそる手を挙げて質問する朝比奈さん。メモには、 ● 癒し系担当 みくるちゃん (みんなを癒す係) とだけかかれている。確かにこれだけでは一体何をするのかさっぱりわからないな。 「それにみなさんは戦闘服なのに、なんでなんでわたしだけはナース服なんですかぁ?」 朝比奈さんの発言で思い出した。言い忘れていたが、今朝比奈さん以外の面々はみんなウッドスタイルな迷彩服を着込んでいる。 おまけに実弾入りの小銃のマガジンやら必要な物をすべて身につけ、肩には銃器を抱えていた。 これはとある教室に押し込まれていたものだったが、ハルヒ曰く、せっかくあるんだから使わないと損、と言って 男女問わず生徒たちに身につけるように指示を出した。むろん、俺たちSOS団+1も例外ではない。 おかげで全身が重くてたまらん。だが、それにすら慣れという感覚を感じてしまっている。 で、そんな中、朝比奈さんだけがナース服という状態だから、端から見るとコスプレ軍団が密談をしているようにしか見えんだろ。 「みくるちゃんは、その格好で歩いているだけでいいわ。それだけでみんな癒されるはずよ。 それに戦闘中に歩き回られても邪魔なだけだし」 ハルヒ、それは違うぞ。朝比奈さんはそんなけったいな衣装を着込まなくても十分癒しを提供してくれるんだ。 見てくれを気にしすぎるおまえには一生わからんだろうがな。 「じゃ、これで役割分担は終わり。さっそく実行に移しましょう」 「おい! これだけで終わりかよ!」 思わずハルヒに抗議の声を上げる。たとえばだ、俺が小隊長にされているが、分隊はどうするのかとか、 各装備はどうするのかとか―― 「そんなことは分隊長であるあんたが決めなさいよ。古泉くんと鶴屋さんも。あ、学校内の態勢とかはあたしと有希で決めるわ」 細かいところはやっぱり適当だな、おい。まあいいか、ハルヒにどうこういじられるよりかは、 俺が直接やった方が自由がききそうだ。やったこともない知識が頭の中にすり込まれているせいか、 どうすればいいかは大体わかるしな。 「さて……」 ハルヒは忘れ物はないかとしばらく考えていたが、 「ちょっと顔を洗ってくる」 そういって早足で部室から出て行った。いつもよりも落ち着きのない足取りからガラにもなく緊張しているのか? と、鶴屋さんと朝比奈さんもハルヒに続くように、 「あっ、あたしも行くよっ!」 「わたしも行きます~」 そう言って部室から出て行った。ただし、鶴屋さんは俺にウインクをして。どうやら気を遣ってくれたらしい。 まあ、せっかくのご厚意だ。今のうちに聞いておけることは聞いておこうか。 「おい古泉。もう頭痛も治まったから、さっきの続きを言っても良いぞ。ただしハルヒたちが戻るまでだから手短に頼む」 古泉は待ってましたといつもの解説口調で説明を始める。 「この閉鎖空間に近いような空間――わかりやすく疑似閉鎖空間と呼びましょう。これはあきらかに涼宮さんが作り出した物では ありません。現に神人も現れず、また僕の能力も使えるようになっていない。となれば、別の何者かがこの空間を作り出し、 我々をそこに押し込んだと推測できます」 「それは俺でも予想ができたな。雪山の時と一緒だろ」 「ええ、その通りです。あと、疑似閉鎖空間を作った者の目的ですが、おそらく涼宮さんを追い込んだ状況に 陥らせて彼女の能力を使った何らかのアクションが起きることを期待しているのかと」 「何を期待しているんだ?」 古泉は首を振りながら、 「残念ながらそこまでは推測できません。情報が不足しすぎていますしね。しかし、涼宮さんに強烈な負荷をかけて 彼女の精神状態を乱すことが目的なのか確実です」 「それにしては、状況が甘すぎるんじゃないか? 不親切とはいえ状況説明をしたあげく、わざわざ武器まで渡している。 おまけに学校の生徒をハルヒの言うことを聞くようにして、俺たちにも軍人並みの知識と経験もすり込んでいるしな。 いっそ、生徒全員、あるいはSOS団メンバーだけで殺し合いをするようにすれば、さすがのハルヒでも おかしくなるだろうよ。そんなのはまっぴらごめんだがね」 「それでは、涼宮ハルヒがこの状況そのものを否定する可能性がある」 そこで割り込むように口を開いたのは長門だった。そういや、体育館以来声を聞いていなかったな。 「長門さんの言うとおりです。それでは涼宮さんは疑似閉鎖空間そのものを破壊してしまうでしょうね。 彼女の能力を持ってすれば簡単な話です。それをさけるためには、一定レベルで涼宮さんがこの疑似閉鎖空間の状況、 つまりこの仕組まれた展開を受け入れなければなりません。先ほどの茶番劇も涼宮さんに対して、 今この学校内にいる全生徒が自分を信頼してくれているという暗示をかけたようなものでしょう。 涼宮さんの性格からあそこまで持ち上げられると乗ってくるでしょうし、何よりも不満があるとはいえ、 彼女にとっては今まで味わえなかった奇怪なシチュエーションです。今のところ、この状況そのものを 否定するような要素は存在しません。完全に仕組んだ者の思惑通りに進んでいると思います。今のところ、はですが」 なるほどな。確かにあいつが興奮気味なのは見てりゃわかる。しかし、それが敵と言える奴らの思惑なら 腹立たしいことこの上ない。 と、俺は学校から逃げだそうとしていた谷口――とおまけで国木田――を思い出し、 「だが、妙なこともあるぞ。確かにここにいる大半の生徒たちはハルヒに従うように人格を調整されているみたいだが、 俺たちSOS団のメンバーや鶴屋さんはどうなる? 確かに軍事知識と経験は頭の中にねじ込まれているみたいだが、 ハルヒに盲目に従うようにはなっていないぞ。谷口に至ってはハルヒが総大将になったとたん、 学校から逃走しようとしたぐらいだ」 「その通り。SOS団や涼宮さんに関わりの強い人間は、人格調整的なものまでは受けていないようですね。 しかし、これからもわかることがあります。涼宮さんに従うようにされている生徒たちは、はっきりと言ってしまえば、 捨て駒のようなものであり、使いたいときに使える道具とされている。あ、とはいっても本当にロボットのように なっているかと言えばそうではありません。9組の何人かと話をしてみましたが、性格的なものは普段のままでした。 あくまでもベースは個人の人格を踏襲しつつ、涼宮さんと関わる際にその指示に必ず従うよう 何らかの暗示のようなものをかけているのかもしれません。 本題は涼宮さんに近い人間を通じて彼女に負荷をかけるということです。 しかし、僕たちがあまりにいつもと違う言動を行えばリアリティを損ない、 涼宮さんが姿形は同じな別人であると認識しかねません。それでは負荷も半減するというものです」 つまり、普段のままの俺たちがどうこうなることで、ハルヒに衝撃を与えようとしているって訳か。 俺を殺してハルヒの反応を見るとかいっていた朝倉の仕業じゃないかと疑いたくなるぜ。 「ん? となるとハルヒ自身には何も操作が行われていないってことか? にしちゃ、武器の扱いも 手慣れているように見えたが」 「涼宮さんは文武両道、しかも何でもそつなくこなせる非常に優れた方です。そのくらいできても不思議ではありません。 あるいは、涼宮さん自身がそう望んだからかもしれませんが。どちらにしろ、今までの推測から涼宮さんの能力には 制限がかけられていないと考えられます。僕や長門さんとは違ってね」 古泉は困りましたねと言わんばかりに肩をすくめる。そういや、長門は昨日から異常を察知していたようだが…… 「古泉はともかく長門もそうなのか?」 「現在のところ、情報統合思念体にはまったくアクセスできない。また、わたしの情報操作能力も完全に封鎖され、 今ではあなたと大して変わらない」 ここぞと言うときにはどうしても長門に頼ってしまうのが悪い癖だと思っているが、 今回は頼ることすらできないと言うことか。しかし、それでも普段と同じ無表情を貫いているのは、 ただ緊張や不安という感情を持ち合わせていないためか、それとも見せないようにしているか。 以前みたいに脱出のためのヒントも期待できないだろう。どうすりゃいいんだ。 「我々からこの状況を同行できる状態ではありません。今は仕組んだ者の思惑に乗るしかないでしょう。今はね」 古泉の言うとおり、どうにかする手段どころか手がかりすらない。腹立たしいが、今はこのバカみたいな展開を 乗り切ることを考えるか。 ふと、長門がじっと俺を見たまま動かないことに気がつく。表情もそぶりもいつものままだが、 俺は何かの感情を込めたオーラのようなものがこっちに向けられていることをひしひしと感じる。 「取り返しのつかない失態。すまないと思っている」 長門は慣れない単語を口に出そうとしているためか、口調がぎこちなかった。だが、 「今のわたしにはあなたを守ることができない」 彼女の意志だけはこれ以上ないと言うほどに伝わった。 ◇◇◇◇ 『あー。テストテスト』 時刻は午前5時半。場所は校庭、俺たちは朝礼台の上でトランジスターメガホンのマイクテストを行う 総大将涼宮ハルヒに向かって、現在朝礼のように全生徒が整列して並んでいる。あと30分ほどで何かが始まるということだ。 ちなみに、並び順はハルヒから向かって右側に戦闘部隊――つまり俺や古泉、鶴屋さんがいる。生徒たちはハルヒだけじゃなく、 どうやらSOS団に深い関わりを持つ人間の言うことには素直に従うように調整されているらしい。さくさくと 1-5組を中心に30人をかき集めて小隊の編成をくみ上げて、こうやって整列している。なんだかんだで谷口と国木田も 俺の小隊に入った。他の二人も同様に編成を終えている。細かい編成内容を説明するのは勘弁してくれ。 無理やり詰め込まれた知識を披露するようなもんで、大変腹立たしいからノーコメントとさせてもらうぞ。 向かって左側にはそれ以外の生徒だ。長門はこっちのグループに入っている。で、なぜか朝比奈さんだけはハルヒのいる 朝礼台の上と来たもんだ。衆目の目前に景気づけにとんでもないことをやらされそうになったら一目散に飛び出すつもりである。 『えー、皆さん!』 準備が整ったのか、ハルヒがトランジスターメガホン片手にしゃべり始めた。 『はっきり言ってなんかよくわかんない状況だけど、あたしについてくれば大丈夫! どっどーんとついてきなさぁい!』 あまりの言いように俺は肩を落としてしまった。もう少し言うことがあるだろうに。誰も見捨てないとか、 みんなで乗り越えようとか。ハルヒらしいといえばそれまでなんだが。 『んで、とりあえず作戦なんだけど、北高の北側に前線基地を作ります。そこの担当は鶴屋さんね! よろしく!」 突然の指名に一瞬きょとんとする鶴屋さんだったが、やがていつもの笑顔に戻り、 「へっ? あたし? りょーかいっ!」 おい、そんなことは初めて聞かされたぞ。前もって言っておけよな。そして、鶴屋さん。それを少しも動じずに 受け入れられるあなたは大物すぎます。 『他の人たちは適当に学校周辺を見張って。特に校庭側に注意すること! 今のところは以上!』 適当すぎる。今からでも遅くない。とっつかまえて再考させるべきではないだろうか。 「すがすがしいほどに簡潔でわかりやすいじゃないですか」 相変わらずのイエスマンぶりを発揮する古泉。もはやつっこみも反論する気にもならん。 『じゃあ、最後に癒し担当のみくるちゃんに、激励の言葉をお願いするわ!』 そう言ってトランジスターメガホンを手渡された朝比奈さんはただおろおろするばかり。 しばらく、ハルヒと言葉を交わしていたが、結局いつものように観念したのか、朝礼台の前に立った。 『ええーと、あのーですね……』 「みくるちゃん! そんな覇気のない声じゃ激励になんないでしょ!」 メガホンなしでもハルヒの声が聞こえてきた。朝比奈さんが不憫すぎる。今すぐにでも助けに行くべきか? しかし、俺が考えている間に朝比奈さんは決意したようで、 『みっみなさーん! がんばってくださーい! 一緒にかえりまひょー!』 その声に全生徒が一斉に腕を上げておー!と答える。ちなみに、男子生徒はやたらと張り切って手を挙げているのに対して、 女子生徒はいまいちやる気なく手を挙げているのは俺の偏見にすぎないのだろうか? ハルヒはとっとと役割を終えた朝比奈さんからトランジスターメガホンを奪い取り、 『よーし! じゃあ、張り切って作戦開始!』 黄色い叫び声が飛んだと当時に、並んでいた生徒たちの整列が解け、それぞれの持ち場に移動を開始した。 やれやれ、これからが本当の地獄だろうな。 と、俺の小隊の連中がぞろぞろと周囲に集まり始めていた。どうやら、俺の指示を待っているらしい。 そんなとき、学校から出て行こうとする鶴屋さんの姿が目に入る。俺は彼女の元に駆け寄り、 「すいません鶴屋さん、ハルヒの奴が勝手なことばかり言って。本来なら俺か古泉が行くべきなんでしょうけど」 「んー? いいよっ、別にさっ! 言い出しっぺはあたしだからちょうどいいよっ!」 変わらずハイテンションだな。ハルヒといい勝負かもしれん。 「じゃっ、あたしは行くよっ! みくるによろしくって言っておいてっ! じゃあ、またねーっ!」 まくし立てるように言ってから鶴屋さんは学校から小隊を引き連れて出て行った。無事を祈ります、鶴屋さん。 「キョンくーん!」 続いて一歩遅れて俺の元にやって来たのは朝比奈さんだ。ああ、そんな息を切らせて走ってこなくても。 呼んでくだされば、たとえ地球の裏からでも馳せ参じますから。 朝比奈さんは呼吸を整えるようにいったんふーっと息を吐き出すと、 「つ、鶴屋さんはもう言っちゃいましたか?」 「ええ、たった今。朝比奈さんによろしくって言っていましたよ」 何か伝えたいことでもあったのだろうか。残念そうな表情を見せる朝比奈さんだった。 「しかし、すごい人ですね。こんな状況だってのに全くいつものペースを乱していないんですから。 俺もあの度胸を少しだけ譲ってほしいかも」 「そんなことないです!」 俺の言葉を即刻否定されてしまった。見れば、普段とは違ったまじめな顔をした朝比奈さんがいる。 「そんなことはありません。鶴屋さんはこの事態を深刻に受け止めているんです。だって……」 朝比奈さんは強調するようにワンテンポをいてから、 「だって、鶴屋さん、ここに来てから一度も笑っていないんです。いつもは少しでも楽しいことがあればすぐに……」 言われてからはっと気がついたね。確かに口調とハイテンションぶりは変わっていなかったが、 一度も笑っていない。いつもあんなに心底楽しそうに笑う人なのに。 「すみません。俺がうかつでした。そうですよね、あの人なりにやっぱり考えることも当然あるでしょうし」 「いいいいえ、別にキョンくんを責めた訳じゃないんですよっ。ただ、鶴屋さんも真剣になっていると わかってほしかっただけなんです」 「それはもう、心の底から理解していますよ」 とまあ、なんだかんだで良い感じになっていた俺たちな訳だが、それをぶちこわす奴が登場だ。 「あ、朝比奈さん! どうも! 谷口でっす!」 おーおー、鼻の下をのばしきった下心丸出しのアホが登場だ。せっかく良い感じだったってのに。 「谷口さんですね。覚えています。映画撮影と文化祭の時はどうも」 丁寧にお辞儀をする朝比奈さんだが、そんな奴にかしこまる必要はありませんよ。顔にスケベと書かれているし。 そこで谷口は突然襟を正し始め、少し不安げな表情になる。そして、ねらい澄ましたような口調で、 「朝比奈さん。実は俺、怖くてたまらないんです。こんな世界に押し込まれてこの先どうなるかもわからない。 だから、せめてあなたの胸で抱擁させていただければ、この不安も少しは解消されて――ぶっ!」 「小隊長命令だ。とっとと朝比奈さんから離れろ」 堂々とセクハラしますよ宣言をしやがった谷口の襟をつかんで、俺のエンジェルから引きはがす。 一瞬息が詰まったのか、谷口は咳き込みながら、 「キョン! なにしやがる!?」 「うるせえ。小隊長命令が聞けないなら、キルゴア中佐命令まで格上げしてサーフィンさせるぞ。当然銃弾が飛び交う中でだ」 「職権乱用だ! 大体、サーフィンってどこでやるんだよ!」 なんてしつこく抗議の声を上げているが完全無視だ。幸い国木田が仲裁に入って、アホをなだめているので、 「ささ、朝比奈さん、ここには野獣がいますから戻った方が良いです」 「あ、はい……」 そう言って彼女は内股走りで去っていった。やれやれ、下劣な侵略を阻止したってことで俺の任務は終了にしてくれんかね。 谷口はまだ何か言って見るみたいだが、完全に無視。で、次にやることはっと…… 「……何をすれば良いんだ?」 俺はハルヒが引っ張り回している120mm迫撃砲を見ながら考え込んでしまった。 ◇◇◇◇ とりあえず、俺は東側からの襲撃に備えて校庭を警備していた。むろん、自分の小隊を引き連れて。 現在午前7時半――日数の期限があるからこういった方が良いか。1日目午前7時半である。 今のところ、全く異常はない。無事にサンハイツに陣を張った鶴屋さんの方にもそれらしいものはないらしい。 と、通信機を持たせているクラスメイトの阪中が、 「涼宮さんから連絡なのね」 そう言って無線機を差し出してきた。すぐ近くにいるのに、わざわざ無線で連絡しなくても。 俺はそれを受け取って――とハルヒと話すのは一時停止だ。 「阪中、すまないがこないだの球技大会の話なんだが……」 「……球技大会?」 何のことかわからないと首をかしげる阪中。覚えていないのか。いや、それともこの阪中は そんな記憶すら存在していないのか。ま、どっちでもいいか。 「いや、何でもない」 そう言って無線機を取る。 『あーあーあー、キョン聞こえる?』 「なんだハルヒ。こっちは特に異常はないぞ」 『オーケーオーケー。平穏無事が一番だわ。前線基地構築に敵もびびったのかしらね! このまま、何もしてこなければ良いんだけど』 相変わらずのポジティブ思考だ。そうなってくれることに越したことはないが。 だが、これを仕掛けた奴もそんなに甘くはない。突然、どこからともなくパーンパーンと 乾いた発砲音が耳に飛び込んできた。やがて、すさまじい連続発射音が鳴り響き始める。 「おい、キョン! なんだなんだ!」 至極冷静な小隊の中で、さっそくあわて始めたのは谷口だ。これが普通の反応なんだろうけどな。 「ハルヒ! 何が起こっている!?」 『鶴屋さんの方に攻撃があったのよ! 今わかっているのはそれだけ! 詳しくわかったらまた連絡するから、 そっちも警戒を怠らないで! オーバー!』 そこで無線終了。ちっ、早速戦闘かよ。鶴屋さんは無事なんだろうか? 俺は校庭の東側に対して警戒を強めるように支持をする。ほとんどの生徒は素直に従うが、 谷口だけはびびっておろおろするばかり。M60なんてデカ物を構えているのは、恐怖心の裏返しなのかもな。 激しい銃声音が響いたのは5分程度だろうか。やがて、それも収まり、辺り一帯に静寂が訪れる。 結局、学校東側からの攻撃もなかったな。 また、阪中が俺に無線機を差し出してきた。ハルヒからの連絡らしい。 『鶴屋さんの方は終わったみたいよ。けが人もなくあっさり撃退したんだって! さっすが、鶴屋さんよね。 SOS団名誉顧問なだけあるわ!』 SOS団は関係ないだろうが、あの人ならこのくらいは平然とやってのけそうだ。 『で、そのまま北山公園の方に逃げていったんだってさ。大体、20人ぐらいが襲ってきたらしいけど』 「20人? なら攻撃してきたのは人間なのか?」 『うーん、それがいまいちはっきりしないのよね。鶴屋さん曰く、人の形を何かが銃やらロケット砲やら抱えてきて 襲ってきたんだってさ。形は人間らしいけど、全身真っ黒でまるでシェルエットみたいな連中らしいわよ。 何人か倒したらしいけど、銃弾が命中すると昔のゲームみたいに飛び散ってなくなっちゃんだって』 なるほどね。ゲームだと思っていたが、本当にゲームの敵みたいな奴が襲ってくるのか。 じゃあ、俺が撃たれても大して痛くないのかもしれないな。それは助かる。 「これからどうするんだ?」 『ん、とりあえず、現状維持で。このまま、3日間学校を守りきるわよ!』 そこで通信終了。すぐさま、阪中に鶴屋さんに連絡を取るように指示する。 『やっほーっ! キョンくん、なんか用かいっ?』 いつもと同じ調子なお陰でほっとするよ。 「鶴屋さん、なんか大変だったみたいだけど大丈夫ですか?」 『へーきへーき! もうみんなそろってぴんぴんしているよっ!』 「そうですか……それはよかった――」 と、そこで鶴屋さんの声のトーンが少し変わるのに気がついた。いや、しゃべってはいないんだが、 息づかいというかなんというか…… 『んーと、おろろっ? なんだあれ――』 いやな予感が走る。なんだ…… 『――伏せてっ!』 無線機から飛び出したのは、今まで聞いたことのないような鶴屋さんの声だった。 恐ろしく緊迫し、驚いているのが表情を見なくても簡単にわかる。 次の瞬間、北高校舎の西側3階で大爆発が起こった。衝撃と音で全身がふるえ、鼓膜が破れるぐらいに 圧迫される。 「みんな伏せろ! とっとと伏せるんだ!」 俺は小隊の仲間をすべて地面に伏せさせた。とはいっても、見通しがよく物陰のない校庭では どのくらい効果があるのかわからないが、呆然と立っているよりも安全なはずだ。 そんな中、阪中は愚直に俺のそばにつき、無線で連絡が取れるような状態にしていた。 本来の彼女ではないのだろうが、こう忠実なのは今ではかえってありがたい。 「鶴屋さん! 何が起きているんですか!?』 『北高に向けて何かが飛んでいっているっさ! まだまだそっちに行くよ! ハルにゃんと連絡を取りたいから、 いったん通信終了っ!』 無線が終了して、阪中に無線機を返す。冗談じゃねえ、敵はミサイルかロケット弾か何かを 北高に向けて撃ってきているってのか!? 反則だろ! 反撃のしようがねえじゃねえか! さらに続けざまに2発が校舎側に直撃し、さらに一発が俺たちの目前に広がる校庭の東側に落ちた。 轟音で地面全体が振動している。 そんな中、器用に匍匐前進で谷口が近づいてきて、 「おいキョン! このまま、ここにいたらやべえぞ!」 「言われんでもわかっているさ!」 やばいのは重々承知だ。しかし、校舎側にも激しい攻撃――また3発が校舎に直撃した――が加えられている。 あっちに逃げても状況が変わらない上、人口密度が増えてかえって危険だ。なら、いっそのこと、 北高敷地外に出るか? いや、あわてふためいて逃げ出したところを敵に襲撃されたらひとたまりもない。 案外、学校周辺に敵が潜んでいて、俺たちが北高から飛び出すのを待っているかもな。校庭に塹壕でも 掘っておくんだったぜ。 どうするべきかつらつら考えていていたが、ふと気がつく。さっきの校舎に直撃した3発以降、 北高に何も攻撃が加えられていない。収まったのか? 俺は全員に伏せるように指示し――ついでに東側から敵が襲ってきたら遠慮なく撃てとも―― 俺自身は校舎に小走りに向かった。 ◇◇◇◇ 学校は凄惨な状況だった。学校の外壁には穴が開き、衝撃で校舎の窓ガラスがかなり割れてしまっている。 負傷者も出たようで、担がれて運ばれていく生徒もちらほらと見かけた。 と、状況確認のためか走り回っていたハルヒが俺に気がつき、 「キョン! よかった無事だったんだ!」 「ああ、おかげさまでな。俺の部隊も全員無事だ。負傷者もない。しかし、こっちは手ひどくやられたな」 「うん……。幸い、重傷者はでていないけど、窓ガラスの破片で数人が怪我をしたわ。今、みくるちゃんが手当してる」 朝比奈さんが看病? 当然膝枕の上だろうな? なんだか無性に負傷してきたくなったぞ。 「なに鼻の下のばしているのよ、このスケベ」 じと目で下心を見破るハルヒ。こういうことだけはほんとに鋭い奴だ。 「で、これからどうするんだ? このままだと、またさっきの奴が飛んでくるぞ」 「わかっているわよそんなこと」 ハルヒはあごの手を当て考え始めた。と、すぐそばを負傷した生徒が抱えられていった。 顔面に傷を負ったのか、激しい出血が迷彩服に垂れかかり、別の色に染め上げつつあった。 「状況は一変したわ。作戦の練り直しが必要だと思う」 ハルヒが取った行動は、SOS団メンバーを集めてミーティングを開くことだった。 さすがのこいつでも一人では決めかねるらしい。独断で何でも決められるのよりは何十倍もマシだが。 のんきに部室に戻るわけにも行かず、昇降口前での緊急会議だ。 ただし、鶴屋さんだけは前線基地から動けないので、無線越しである。 さらに朝比奈さんは負傷者の救護で手一杯らしく不参加。手当を求める『男子生徒』の長蛇の列を捌いているとのこと。 絶対に負傷していない奴も混じっているだろ、それは。 「最初に前線基地が攻撃されたかと思えば、今度は遠距離からの攻撃ですか。敵もいろいろと考えているようですね」 感心するように古泉はうなずいているが、そんな場合じゃないだろ。 さっきは十発程度で終わってくれたが、次はこれ以上かもしれない。校舎の被害は大きいが、 本当に幸いだったのは、砲弾やらなんやらが置かれているところに直撃しなかったことだ。 万一、誘爆なんていう事態になれば、どれだけの犠牲者が出たかわからん。 さすがのハルヒもまいってしまっているのか、いつものような覇気が50%カット状態だ。 真剣に考えてくれるのはありがたいけどな。 「このままじゃまずいわね。何とか反攻作戦を練らないとね。 有希、さっきのミサイルみたいな奴がどこから撃たれたか、わかった?」 「この建物の北東に位置している北山公園の南部。屋上で周辺を監視していた人間から確認した。 ただし、具体的な場所までは不明。範囲が広いため、砲撃による反撃を行っても効果は薄い。 かりに砲撃で向こうと撃ち合っても勝てる可能性はきわめて低い」 的確な答えを出す長門だ。宇宙人パワーを失っても、長門本人の能力は失われていないらしい。頼りになるぜ。 「なるほどね。鶴屋さん、さっきそっちを襲った連中も北山公園に逃げ込んだのよね?」 『そうにょろよっ! でも、公園の北側に逃げていったように見えたっさ!』 ん? 鶴屋さんの言うことが本当なら、前線基地を襲った連中が学校へロケット弾やらミサイルでの 攻撃をした訳じゃないってことか? 「でも、簡単よ! 敵は北山公園にあり! だったら、こっちから出向いて北山公園全部を制圧すればいいだけのことよ! そうすれば、さっきの奴もなくなるしね!」 ここに来て突撃バカぶりを発揮するハルヒと来たか。しかし、間違ってはいないな。 どのみち発射地点を制圧するなり、さっきの攻撃手段をつぶすなりしないかぎり、一方的に攻撃を受け続けるだけになる。 「罠の可能性もありますね」 唐突にそう指摘したのは古泉だ。 「鶴屋さん部隊への攻撃は非常に小規模のものでした。そして、あっさりと撤退しています。 その次に北高へのロケット弾攻撃ですが、これも十発程度で終わっています。 本気で攻撃するのならば、もっと大量に撃ち込んでくるでしょう。あきらかに北山公園に我々を呼び込もうとしています」 「最初の襲撃に関してはそうかもしれないが、ロケット弾攻撃に関しては弾が尽きただけかもしれないぞ」 俺がそう反論する。ハルヒもうーんと同意のそぶりを見せた。ただ、古泉は、 「確かにその可能性はゼロではありません。しかし、これだけ有効な攻撃手段であるものを 序盤で使い切ってしまうのは、明らかに不自然と言えます。切り札を使い切ってしまったのですから。 無論、あれ以上の効果的な攻撃手段を保有していて、今回のロケット弾攻撃は挨拶程度のものという可能性もありますが」 どっちなんだ。はっきりと答えろよな。 「僕が言いたいのは、誘い込むための罠という可能性があるということです。北山公園に攻め込むことを決定する前に、 考慮していても損をすることはありません」 確かに古泉の指摘する可能性は十分にある。しかし、ここにいてもどうにもならんのも確かだ。 そうなると、ハルヒが導き出す結論は一つしかない。 「確かに古泉くんのいうことには一理あるわ。でも、このままだと攻撃を受け続けるだけだし、 そんなのおもしろくないじゃない。相手がびびっているのか知らないけど、遠く離れたところからこそこそ攻撃してくるなら、 こっちからぶっつぶしに行くだけよ!」 ほらな。ハルヒの性格を考えれば、じっとしているわけがない。古泉もひょうひょうといつものスマイルで、 「涼宮さんがそう決定なさるのなら、僕もそれに従いますよ。上官の命令は絶対ですから」 そうイエスマンへと転じた。ただ、こいつの指摘も無駄ではなかったらしい。 「でも、少しでも罠っぽい状況だとわかったら、即座に撤退するわ。その後は別の方法を考えましょ」 ◇◇◇◇ 次の議題は北山公園攻略作戦だ。この公園は南北に2キロ程度広がる森林のようなものになっていて、 南北の中間地点のやや南側には緑化植物園があり、公園入口っぽくなっている。 「やはり、突入ポイントはこの植物園でしょう。部隊の輸送には北高敷地内にあるトラックを使うことになるので、 車両で入れる場所が理想的です。当然、敵も同じことを考えているでしょうから、植物園奪取には激戦が予想されますね」 淡々と古泉のプランを聞いているSOS団-朝比奈さん+鶴屋さん。わざわざ敵が陣取っているような場所に 正面からつっこむのか。ハルヒが好みそうな作戦だな。 「悪くないわね。植物園を取ってしまえばこっちのもんだわ! あとはロケット弾の発射拠点を制圧して完了ってわけね! さっすが古泉くん! 副団長なだけあるわ!」 ハルヒの賞賛を一心に浴びて、古泉は光栄ですと答える。やれやれ、本当に突撃になりそうだ。 「で、誰の小隊が北山公園での掃討作戦に従事するんだ?」 「あんたと鶴屋さんよ」 とんでもないことをいけしゃあしゃあと言いやがる。古泉の野郎はどうするんだよ? 「古泉くんはいざって時のために前線基地で後方待機してもらうわ。あんたたちがやばくなったら、 すぐに駆けつけられるようにね。あと、伏兵とかが学校に奇襲を仕掛けてきた場合はすぐに戻ってもらうから」 どうしてそうなったのか聞かせてもらおうか。 「わかんないの? まず、あんたには鶴屋さんたちを襲った連中を追撃するために北山公園北部に向かってもらうわよ。 初めて遭遇した鶴屋さんがあっさりと追い払ったんだから、あんたでも大丈夫でしょ。鶴屋さんは一度だけとはいえ、 敵と戦っているわ。敵について知っているのと知らないんじゃ大違いよ。だから、南部のロケット弾発射地点に 向かってもらうわ。おそらくそこの守りが一番堅いと思うし。学校からトラックで向かうから、 途中で古泉くんと入れ替わってもらうわね。いい、鶴屋さん?」 『りょーかいりょーかいっ! 任せちゃってほしいなっ!』 「古泉くんはあんたよりも運動神経も思考能力も遙かに上よ。状況に応じて臨機応変に対応する必要のある場所にいるのが 最適だわ。あと、有希は学校に残って砲撃での支援をお願い。こっちから指示した地点に遠慮なく撃ち込んで。 古泉くん、有希、いいわね?」 「もちろん異存はありません」 「問題ない」 あっさりと同意する二人だが、ん、ちょっとまて。 「それなら植物園には誰が陣取るんだよ。まさか、空っぽにするつもりじゃないだろうな?」 「そこにはあたし自らが行くわ。あとで、適当な人員を集めるから」 ハルヒ総大将自らがお出ましか。だが、指揮官がそんな銃弾が飛び交う場所にいて良いわけがない。 「あのなハルヒ。以前にも言ったが、総大将がずけずけと前線に出るモンじゃないぞ。 おまえがやられちまったら、生徒たちを誰が――」 「異論は許さないわよ」 俺の声を遮ったハルヒの言葉は、今まで聞いたことのないような鋭さだった。ただ、怒りやいらだちからくるものではない。 強烈な決意がにじみ出るようなものだ。わかったよ。おまえがそういいなら好きにしろ。 しかし、俺の中にあるこのもやもや感は何だ? ◇◇◇◇ さて、作戦も決まったことなのでいよいよ決行だ。ハルヒ小隊の編成が終わり次第、出撃と言うことになる。 俺たちは校門に並べられた輸送トラックの前でそれを待っている。 「正直に言ってしまえば、少々不安ですね」 突然、こんなことを言い出したのは古泉だ。おいおい、出撃直前に不安になるようなことを言い出すなよ。 「涼宮さんがあなたが敵と確実に一戦交えるような場所に送り込むとは思っていませんでした。 てっきり学校に残して後方支援をさせたり、最悪でも僕のポジションが与えられるものだと。 涼宮さんと一緒に植物園にいるならまだ納得ができますが、あなた一人をそんな場所に行かせるとはね」 「はっきりと言え。時間もないことだしな」 「涼宮さんが現状をきちんと認識しているかどうか、ひょっとしたらあのコンピュータ研とのゲーム勝負程度として 考えているのではないか、そう思っているんですよ。あなたを危険な場所に向かうように指示したと言うことは、 あなたが死んでしまうかもしれないということを考えていない証拠です。信頼といってしまえば、それまででしょうけど、 今はそんな状況ではありません。鶴屋さんが敵を撃ったときに、まるでゲームキャラクターが消えるかのようになったと 言っていましたね。あれで僕たちもそうなのかもしれないと思いましたが、先ほどのロケット弾攻撃で 負傷した生徒を見るとどうも違うようです。確実に僕たちに『死』が訪れるかもしれません」 「確かにな。そんなに甘くないことは、俺も理解しているつもりだ」 ハルヒが今の状況をどう考えているのか。それはハルヒ自身にしかわからないことだろう。 だが、一つだけ言えることはある。 「俺がいえるのは、どんな状況であろうともハルヒは、誰かが死ぬことなんて望んでいない。 SOS団のメンバーならなおさらさ。万一、誰かが傷けられたら、ハルヒはやった奴をたこ殴りにするだろうよ」 「それはわかります。しかし――」 俺は古泉の反論を遮って、 「さっきのおまえの言い方だと、まるでハルヒは鶴屋さんならどうなっても良いってことになっちまう。 だが、断言できるがハルヒはそんなことなんて思ってもいないだろうよ。古泉も別にかばいたくて、 一歩下がった場所に配置したんじゃない。ただそれが適切だと考えたのさ」 ――俺はいったん話を区切って、話すことを整理する―― 「ハルヒはハルヒなりに考えたんだろ。どうすれば、このくそったれな状況を乗り切られるかを。 で、結論は戦い抜いて乗り切る。そのためには、一番信頼のできるSOS団の人間をフル活用する。 どうでもいいとか、たいしたことじゃないとなんて理由で俺たちを前線に持って行こうとしているんじゃない。 それが乗り切るためにはもっとも適切だと判断したんだろうな」 ガラにもなく古泉調の演説をしちまったが、古泉は痛く感銘したのかぱちぱちと手を叩きながら、 「すばらしいです。そこまで涼宮さんの思考をトレースできるなんて。どうです? これからは 機関への報告書作成をしてみませんか? 僕よりも適切なものが書けると思いますよ」 「全身全霊を持って断る」 そんな疲れるものなんてこっちから願い下げだ。 「おっまたせ~!」 と、ここで30人ばかしを引き連れたハルヒ総大将が登場――と思ったら、いつもつけている腕章が『中佐』になっている。 いきなり降格かよ。 「バカね! 前線に出るんだからそれなりに適切な階級があるってモンでしょ。大将とかってなんだかデスクの上に ふんぞり返って命令しているようなイメージがあるし。中佐なら、映画とかなんかでも前線でドンパチやっているじゃん」 ……まあ、それは別にかまわんけどな。 ハルヒが編成した連中はみんなクラスもバラバラ性別もバラバラだった。 大方、その辺りを歩いていた奴を捕まえてきたんだろう。にしては、結構時間を食っていたみたいだが。 「あー、ラジカセと音楽を探していたのよ。景気づけにワルキューレの騎行でも流しながらつっこめば、 敵も混乱するんじゃないかって。でも、ラジカセはあったんだけど、肝心の音楽の方がね」 ヘリで突入する訳じゃないんだから、別に必要ないだろ。心理作戦が通じるような相手でもなさそうだし。 ふと、気がつくと朝比奈さんと長門も校門前にやってきていた。おお、朝比奈さんに見送っていただけるとは光栄ですよ。 「古泉くん……どうか気をつけてね」 朝比奈さんのありがたいお言葉に古泉はいつものスマイルだけ返していた。まったく価値のわからない奴である。 「キョンくんも気をつけてね。無事に帰ってきてくださいね」 「ええ、がんばってきます」 と、そこに長門が割り込むように、俺をじっと見つめ始める。表情は相変わらずだったが、漂うオーラみたいなものは はっきりと感じ取れた。 「心配すんな、長門。なるようになるさ。支援よろしくな」 長門は俺の言葉にこくりとうなずく。やっぱり、親玉とのつながりをたたれて不安になっているのだろうか。 ややいつもと違う雰囲気を醸し出している。 「こらキョン!」 せっかくこれから戦地に向かう兵士が見送りをさせられる気分を味わっていたのに、それをぶっ壊したのはハルヒだ。 「なにやってんのよ! まさか、有希やみくるちゃんに『帰ってきたら~』とか言ったんじゃないでしょうね! それはばりばり死亡フラグなのよ! いい? あんたはあたしの下でビシバシ働いてもらうんだからね! 勝手に死んだりしたら絶対に許さないんだから!」 言っていることがよくわからん。もっとわかりやすく説明してくれ。 「要約すると、とっととトラックに乗りなさい! 出撃するわよ!」 やれやれ、なんてわがままな中佐殿だ。 まあ、出征前モードはここで終了だ。俺は大型トラックに自分の小隊を乗せるように指示し、 俺もそれに飛び乗る。いよいよか。しかし、ちっとも緊張しない上に、慣れた感覚に頭が満たされるのは、 相当俺の頭の中をいじくられていることの証拠だろう。当然、戦地に向かうってのに、 まるで何も反応を示さない俺の小隊もだ。おびえた表情を浮かべる谷口をのぞいてだけどな。 「よーし、出撃! 一気に北山公園に突入するわよ!」 ハルヒの威勢の良い声とともに、北山公園に向けトラックが発進した―― ◇◇◇◇ この時、俺はハルヒは状況を理解していて、これからどんなことが起きるのかもわかっていると思っていた。 だが、それは間違い――いや、正確にはハルヒは理解していたのかもしれない。間違っていたのは、 俺自身の認識だったんだ。ハルヒがどう思っているか勘ぐる資格なんてないほどにな。 ~~その2へ~~
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三 章 そんなこんなで、とりあえず会社という体裁は整った。作る人、売る人がちゃんと働けば会社は回る。だがSOS団にひとつだけ足りないものがあった。 「あー、みくるちゃんに会いたいわ。帰ってこないもんかしらね」 このところ、これがハルヒの口癖だった。これだけタイムマシン開発を豪語しているのだから、朝比奈さんからなんらかの接触があってもよさそうなものなのに。朝比奈さんはあれから未来に帰ってしまい、それからは音沙汰がない。たまにひょっこり帰ってくることもあるのだが。ハルヒへの説明ではスイスの大学院に留学していることになっている。 「こんにちわ、株式会社SOS団はこちらでしょうか」 ドアが開いた。来客も珍しく、誰がやってきたのかと全員がそっちを見た。 「みくるです。その節はどうも~」 会いたい願望が通じたらしい。さすがハルヒである。こいつにかかれば時間を越えようが空間を越えようが、逃げ切れるものではないな。 「これはこれは朝比奈さんじゃないですか。お久しぶりですね」 「キョンくん、みなさんもお久しぶり」 「……」 「あら、みくるちゃん。帰ってたんだ」 「お元気そうでなによりです」 「もう、ずっとずっと会いたかったわよ~」 ハルヒはひとまわりグラマーな体つきになった朝比奈さんに抱きついた。朝比奈さんは困った顔をして笑った。朝比奈さんの風体は、俺が知っている朝比奈さん(大)と同じタイトスカートと白のブラウスだった。左腕に金色のブレスレットもしている。もしかしたらあのときの朝比奈さんなのだろうか。 「どう?チューリヒ大学は。いい男捕まえた?」 「やだ涼宮さん、そんなことしませんよぅ」 「赤くなってるところを見ると、いい獲物がいたようね」 「ちがいますってばぁ」 未来に帰っても朝比奈さんは朝比奈さんだ。照れて頬が染まるところとか、そのままだな。 スイスのお土産です、と小さな包みをくれた。俺が開けてもいいですかと言い終わらないうちにハルヒが早々と中身を検めている。 「キョン見て見て、金塊よ金塊。スイスゴールドよ!」 「ほんとかオイ」 「やだ、それチョコレートですよ」 なるほど、スイスといえば金塊チョコか。にしても、わざわざアリバイ作りのためにこんな高価なものまで、と苦笑めいた俺の表情を見てか、 「あら、ほんとにスイスにいるんですよ今」と俺だけに聞こえるように言った。 「えっそうなんですか」 「スイスのある研究所で働いてるの」 「へー。やっぱ時間関係ですか」 「スイスだけにね、ってちがうちがう」 手をぶんぶんと振る朝比奈さんのノリツッコミはかわいい。 「あとでちょっと話せます?」 俺は腕時計をさして尋ねた。 「ええ、時間は大丈夫です」 ハルヒたちがチョコを食ってる最中に抜け出して、俺と朝比奈さんは喫茶店に入った。 「ハルヒが今度は、タイムマシンを作ると言い出したんですよ」 「ええ。詳しくは言えないけど、わたしはそのために来たんです」 「ひょっとして、ハルヒがタイムマシンを作るのは既定事項なんですか」 「いいえ。涼宮さんは時間移動技術のはじまりに関わってる人の知り合いっていうだけで、開発に直接的には関わってないはずなんです」 「もし完成でもしたら、どうなります?」 「我々はそれを懸念しているんです。そんなことになったら時間移動技術に支えられている既定事項が崩れてしまうから」 「というと?」 「タイムマシンが完成する前にタイムマシンが完成したら、既定の歴史が混乱するの」 「ややこしいですね。あきらめさせたほうがいいですか」 「そうとも言えないの。涼宮さんの存在は時間移動技術に深く関係があるの。本人自身は関わらないけど、事が始まるための最初のポイント、と言えば分かってもらえるかしら」 「つまりハルヒがタイムマシン開発のスタート地点ということですか」 「そういうことね」 「朝比奈さんの役割は何なんです?」 「涼宮さんと、この会社の監視。時間移動の実験はいろいろと危険が伴うの。時空震もそのひとつだけど、そのための監視ね」 「ということは、しばらくこの時代にいるわけですか」 「そういうことになります。しばらくお世話になると思うけど、よろしくお願いしますね」 「もっちろんですとも」 俺は俄然やる気が出てきた。また朝比奈さんと一緒に過ごせる日々が訪れたんだ。 「いくつか質問していいですか」 「教えられることなら、どうぞ」 「ええと、あなたは高校時代の俺に会った朝比奈さんなんでしょうか。つまり、白雪姫の話をしてくれた?」 「あれはわたし。すべて終えてからここに来たの」 「それと、あなたの本当の歳は……教えてもらえないんでしょうね」 朝比奈さんは人差し指を立ててウインクした。 「禁則事項です」 相変わらず、この人の笑顔は男をときめかせる。 「忘れてました。朝比奈さん、いつだったか車に轢かれそうになった少年を助けたことがありましたよね」 「え、ええ」 「あの子とこの会社のつながりはあるんでしょうか」 「ええと、この会社自体が既定事項にないことなので本来は関係ないはずなんです」 「というと、今後つながりがある可能性も出てくるわけですか」 「なんとも言えないの。禁則事項ではなくて、わたしにはそういう未来は見えないから」 「というと?」 「歴史というのはいくつかの既定事項が重なって出来ているの。だからこの会社がどういう既定事項をたどるかで別の未来になってしまうの。別の道を進み始めた歴史はわたしには見えない」 相変わらず時間というのは難しいようですね。 「その少年の様子を見に行ってみませんか。あれから音沙汰ありませんし」 「わたしも気にはなっていましたから、行ってみましょうか」 ハルヒには営業に行くと言い残して、二人で電車に乗って祝川駅まで出かけた。ハカセくんの家はハルヒの実家の近くらしいんだが、俺はどの番地なのかまでは知らない。先を歩いていく朝比奈さんは知ってるようだ。 あのとき敵対するグループとやらに誘拐拉致までされたにもかかわらず、朝比奈さん(大)は俺たちがなにをやっているのか教えてはくれなかった。川べりからカメを投げ込んだ様子はどう考えても時間移動に関係のあることらしい。すべてが明らかになる日には、朝比奈さんの所属する時間移動の組織が生まれていて、それはずっと未来の話だろう。 俺と朝比奈さんは東中学校の校区をうろうろ歩き、番地を確かめつつ住宅街をあちこちさまよった挙句、それらしき家にたどり着いた。 「朝比奈さん、いきなり尋ねちゃっても大丈夫でしょうか。怪しまれませんか」 「それもそうですね。こっそり様子見るだけにしましょうか」 二人で隣の家の壁に隠れて人の気配をうかがった。金融公庫と銀行の三十年ローンで買えそうな、ありきたりな一戸建てだ。 「誰もいませんね。住所は確かにここですか」 「ええ、記録ではそうなっています」 その場で十五分ほど見張っていたが、誰の出入りもない。二階の窓のカーテンは閉まったままだ。一階の掃き出しの窓は生垣の向こうでよく見えない。犬は飼っていないようだし、ちょっと忍び込んでみるか、なんて法に抵触しそうなことを考えていると、「あの、どちらさまでしょうか」突然背中から呼びかけられて俺と朝比奈さんはビクと飛び上がった。 「あの、いえ、なんでもないんですっ」 空き巣に入る算段をしているところを見つけられた泥棒になった気分だ。 「あ、もしかしてウサギのお姉さんですか?」 ずっと前に見た面影のある、少年と呼ぶにはやや歳を食っているかもしれない眼鏡の少年がそこにいた。ハカセくんだった。 「ハカセくん?だいぶ前に祝川公園でカメを渡した」 名前を知らないので俺たちの通称で呼んでみたのだが、少年は特に違和感のない表情をしていた。 「そうです。僕のあだ名ご存知なんですね」 ハカセくんは笑った。昭和の某漫画じゃあるまいに、いまどきハカセくんをあだ名につける子供もいないだろう。俺と同じく親戚の叔母さんか爺さんにでもつけられたのだろうか。 「ここじゃなんですし、ちょっと上がりませんか。今学校から帰ってきたところなんです」 「その制服、北高?」 「ええ、そうです。もしかしてOBの先輩ですか?」 「まあそうだ」 俺たちの後輩にハカセくんがいたなんて知らなかった。二人はハカセくんの案内で家の中に入った。ふつーにありそうな一般的庶民の雰囲気だ。調度品やら家具は俺んちの居間に似てなくもない。当たり前だがタイムマシンもなかった。 「ということは今受験生?」朝比奈さんが訊いた。 「ええ、そうです」 「どこを志望してるの?」 「いちおう、ここから通える国立なんですが」 ハカセくんは少しはにかんで答えた。へー、それはまた奇遇だね。俺は朝比奈さんを見た。 「これは偶然ではないですよね」 「どうかしら……」 朝比奈さんは考え込んでいるようだった。 「なにが偶然なんです?」 「俺はその大学のOBなんだ」 「そうだったんですか。もしかして涼宮姉さんもですか?」 「そうそう。ハルヒもだ」 あと宇宙人と超能力者もそうだが。 「ハカセくん、どこの学部なの?」 「いちおう物理学で素粒子物理を専攻したいと考えてるんですが」 朝比奈さんの耳がピクと動いた。 「あの、ヘンなこと聞いていいかしら。もしかして宇宙論とか時間論とか時間平面……じゃなくて時空構造論とかかしら」 「詳しくは知りませんが、たぶんそっちにも繋がるんじゃないかと思います」 朝比奈さんは腕組みをしてうーんと考え込んでいた。ハカセくんがお茶かなにかを用意しにキッチンへ引っ込んだところで、耳打ちした。 「朝比奈さん、どうかしましたか」 「あの、わたしが彼と話をしていること自体問題あるのかもしれないけど、この子が時間移動技術に関わるのは間違えようのない事実なの。でもこんなに早くから関わっていたとは思わなかったわ」 「ということは時間移動技術を知っている朝比奈さんが開発に関わってしまうということですか?」 「そこが問題なの。そういう歴史は知らないし、知らされてもいないの」 しばらく考えていた二人は、納得できるひとつの妥当な答えにたどり着いた。 「これはハルヒじゃないですか」 「もう、それしか考えられないわ」 「この際だから、ハカセくんをハルヒに引き合わせてみませんか」 「え、でもそれは……」 それはどういう結果を招くのか分からない、と確かに俺も思う。 「元々ハルヒが勉強を教えていたみたいですし」 「うーん……。こんな歴史はないはずなんだけど」 未来と通信しているらしき仕草をしていたが、困った表情で唸るばかりだった。未来にいる時間移動管理のお役人とやらも前例がないことへの対応を苦慮してるんだろう。 「最近会っていないんですが涼宮姉さんは元気ですか」 ハカセくんがお茶と羊羹をお盆に載せて戻ってきた。 「ああ、元気元気。もう元気すぎて空回りしてるよ」 俺は渋いお茶をすすりながら苦笑して言った。 「いいですね。あの人にはなにかしら人を巻き込んでしまう台風みたいな不思議なエネルギーを感じます」 俺はその台風と七年も付き合わされてるんだけどね、えへへ。 俺はまだ意見を決めかねている朝比奈さんの様子を伺いながら、フライングを切った。 「そのハルヒなんだが、会社を作ったんだ。ハカセくん、よかったらうちでバイトしないか」 案の定、朝比奈さんが目を丸くして止めようとした。 「キョンくん、そんなこと言って大丈夫なの!?」 「ええ。ちょうど人手も足りなかったことですし、物理学に多少なりとも覚えのある人が欲しかったんですよ」 「いいですけど、どんな仕事なんですか」ハカセくんはちょっとだけ考えて答えた。 俺はできるだけ目を泳がせないように、ハカセくんを正視して言った。 「タイムマシン、を、作る」 ほとんど棒読みだった。その場の空気が摂氏四度くらいに急速降下して凍りついた。俺ってハルヒと付き合ってきて人との話し方を忘れてしまったんじゃないか。 「それ本気ですか?」 「本気も本気、猿並みに本気」 「いいですけど」 ボソリと呟いたハカセくんの目がキラキラしているのは気のせいだろうか。この目、誰かのに似てないか。 「どうやって作るおつもりですか」 「それもまだこれから考えるんだ」 「なるほど……」 「ハカセくんもなにかと物入りだろう。遊びに来てくれるだけでいいから時給出すよ」 「それは嬉しいお誘いですが、毎日は通えません。学校やら塾やらでいつも帰りが遅いですから」 「どうだろう、ハルヒが受験勉強の手伝いをするというのは」 「それなら助かります。たぶんうちの親も承諾するでしょう」 こういうとき、こっちの都合のいいように事を運ぶ知恵が働くのは俺の得意とするところだ。 「じゃあ、二三日中にハルヒから連絡入れさせるから」 「分かりました。よろしくお願いします」 ハカセくんがぺこりと頭を下げた。素直でいい子だよな。こういう貴重な人材は早めに確保しといたほうがいい。 俺たちはお茶のお礼を言ってハカセくんの家を後にした。 「俺思うんですけど、朝比奈さんが知らない未来ってことはまだ既定事項じゃないってことですよね」 「そう、だと思うけど」 「ということは、ここからの未来は当事者が作ってもいいんじゃないですか」 「そうね。そうかもしれないわね」 まだ合点が行かないように考え込む朝比奈さんは、たぶん歴史の保全ばかりを気にしていて、自らが作る歴史というのに不安があるんじゃないかと俺は思った。あなたは自分で自分の歴史を作るつもりはないんでしょうか、と尋ねるには俺はまだ若すぎるが。 「じゃあ、わたしはここで」 「俺は一度会社に戻ります」 「また明日ね」 朝比奈さんは右手をにぎにぎして言った。振り返るともういなかった。もしかして未来と現在を日帰りしてんのかな。 会社に戻ったときには六時を過ぎていた。ハルヒと古泉はいなかった。 「待ってたのか長門、すまんな。帰りに晩飯おごるよ」 「……乙、あり」 「ハルヒが昔家庭教師をしてやっていたやつで、今高校三年生の子がいてな。そいつに会った」 「……知っている。未来からの干渉で交通事故を装った殺人に巻き込まれそうになった」 「知ってたのか。あの子をバイトに雇おうと思うんだ」 「……そう」 長門はあらかじめ知っていたという感じで、頭を七度くらい傾けてうなずいた。 「あの子、長門のいた学部を志望してるらしいんだが。もしかして予定の行動?」 長門は何も答えず、ただ微笑らしきものを浮かべただけだった。こいつのことだ、すべて知っていたに違いない。ハルヒが会社を作るとわめき始めるのも、タイムマシンを作ると豪語するのも。 「……知っていたわけではなく、予測と誘致」 「なるほど。じゃあハルヒがタイムマシンを作ることに関しちゃそれほど懸念はないんだ?」 「……阻止するより、コントロールするほうが望ましい」 ハルヒの監視を続けて十年、長門はついに悟りを開いたようだ。 翌朝、ハルヒ社長から重大な発表があった。 「みんな、いい知らせよ。みくるちゃんが非常勤務でうちの会社を手伝ってくれることになったわ」 「それは素晴らしい。またあの頃のように五人で賑やかにやりましょう」 古泉が喜んでいた。あの頃みたいな非日常的騒動の毎日はごめんだぞ。 「さあっ、みくるちゃん。あなたのために衣装を用意したのよ。さっそく着替えて」 ハルヒはフリルの付いたドレスを取り出した。朝比奈さんのために新調したようだ。俺と古泉は、またあのコスプレを見られるのかとワクワクしていた。ところが朝比奈さんは顔を縦には振らなかった。 「それはいやです」 「えー、せっかく買ってきたのに。ちゃんとサイズも合わせてるのよ」 「だめです。わたしはもう涼宮さんの着せ替え人形ではないの」 ハルヒが唖然とした。はじめて見せる、ハルヒに対する朝比奈さんの頑とした態度だった。睨まれたハルヒはたじたじとなった。 「ねえ、お願い。あたしじゃ似合わないのよね」 「いや、です」 朝比奈さんは腕組みをして譲らなかった。 「困ったわ……」 ハルヒは用意した衣装を持ったまま、どう取り繕えばいいのか分からず俺たちに視線をさまよわせた。よくぞ言った朝比奈さん。今まで朝比奈さんを散々おもちゃにしてきたから、ハルヒにはちょうどいいクスリなのだ。俺にはちょっと残念だったけど。 「……わたしが、着る」 それまで黙ってパソコンのモニタに向かっていた長門が、ぼそりと言った。 「そ、そう?有希が着てくれるの?」 もう、この際誰でもいいという感じでハルヒは渡りの船に乗った。 「……貸して」 長門はハルヒの手から衣装を受け取り、会議室のドアを閉めた。 「有希、手伝おうか?背中ちゃんと締められる?」ハルヒがドア越しに尋ねた。 「……いい。やれる」 しばらくごそごそと衣擦れの音が聞こえていたが、やがてドアが開いた。アリス系ロリータのエプロンドレスに身を包んだ長門が現れた。それを見た四人が、ほぅ!まぁ!これは!と感嘆の声を漏らした。小柄な長門にはボリュームのあるドレスが似合う。似合いすぎている。朝比奈さんとは別の意味でいい。朝比奈さんとはサイズも体型も違うはずだが、分子情報操作とかで裁縫か。 「ピンクが栄えていますね。今までこういう衣装を着た長門さんを見られなかったのが、もったいないくらいです」 「なぜ今まで気が付かなかったのかしら。有希、すっごく似合うわ。ほら、ヘアバンドしてみて」 そう、ロリータファッションと言えばヘアバンドだ。 「……どう」 ヘアバンドを髪に巻いてあごのところで小さく結んで、俺を見た。微笑っぽいものが浮かんでいるところを見ると本人も気に入ってるようだ。俺はにっこり笑って親指を付きたてた。 「長門、似合ってるぞ」 「な、長門さん、似合ってますよ……」 気のせいかもしれんが、朝比奈さんの口数が減っている。もしかして役柄を取られて後悔してるんじゃありませんか。 「部長氏、ちょっといいものを見せたいんだけど」 俺は内線をかけて、長門の親衛隊を自称する開発部の連中を呼んだ。 「おおおお」 ドアを開けるなり部長氏以下五名の感嘆のコーラスが響いた。 「スバラシイ。とてもよくお似合いです、副社長」 もう長門の元にひれ伏して靴にキスでもしそうな勢いだ。 「……そう」 長門がちょっとだけ微笑んだ。これ、来客のときも着てくれると営業効果あるかもな。長門にはなにかこう、特殊な部類の人種を惹き付けるオーラのようなものがあって、黙っていてもそいつらが寄ってくる。俺もそのうちのひとりなわけだが。 そのようなわけで我が社のマスコット的コスプレイヤーはしばらくの間、長門ということになりそうだ。 「そういえばハルヒ、お前高校の頃家庭教師やってたろう」 「突然なによ。まあ、やってたけど」 「あのときの男の子はどうしてるんだ?」 「さあ……もう高校生くらいなんじゃないの?」 「あの子をアルバイトに雇ってもらいたいんだが」 「いいけど、バイトなんか必要なの?」 言っとくが開発部の連中はマンパワーぎりぎりで、いつでも人を欲しがってるんだぜ。 「タイムマシンに興味があるらしいんだが」 この単純な社長を動かすにはこれだけで十分だった。 「へー、そうなんだ」 「今年受験生で物理学部を受けるらしい」 「そうね、人材にも投資しないとね。昔の人はいいこと言ったわ。腐ったリンゴをつかみたくなければ、木からもぎ取ればいいのよ」 それってなにか、俺は腐ったリンゴか。 ハルヒは自宅に電話をかけ、ハカセくんの家の電話番号を聞き出しているようだった。再度かけなおし、ハカセくんを呼び出していた。 「今週中に来てくれるって」 「そりゃよかった」 「あんた、ほんとにタイムマシンなんか作れると思ってんの?」 「お前が言い出したことだろ」 「あたしは過去に行ってみたいだけよ。タイムマシンの仕組みなんか知ったこっちゃないわ」 この人はいつもこれだからな。 「まあなんとかなるんじゃないか?科学技術は日進月歩爆走してんだろ」 「あたしが今から開発をはじめて、孫の孫くらいに完成すればいいくらいに思ってるだけよ。そしたらどの時代にでも連れて行ってくれそうじゃない」 未来への投資か。自分の手でなんでもやってやるという、いつものこいつらしくないな。こいつの願望を実現する能力がなけりゃ、とても今世紀中の完成は無理だろう。 「創始者のお前がそんなこっちゃできるもんもできなくなるぞ。もっと自分を信じろ。やればできる、成せば成る。心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃなくて、石の上にも三年、じゃなくて、我田引水じゃなくてええとなんだ」 「それを言うなら、千里の道も一歩からでしょ」 「そうそう、それだ」 いまいちぱっとしないよなあ。やっぱ古泉のいうとおり、ハルヒの活力やら突拍子思いつきエネルギーやらが薄まっちまってる。ここはひとつ、まわりが盛り上げてやる必要があるかもな。 「実は俺も時間旅行が好きなんだ」 「へー、そうだったの。初耳だわ」 朝比奈さんと目の回るような時間移動を何度も経験している俺がいうんだから、嘘じゃない。たまに吐きそうになるくらい好きだ。 「どの時代に行くんだ?」 「完成したらの話よ」 「じゃあ完成したらいつの時代に行くんだ?」 「そうね。十年前ぐらいがいいわ」 「十年前ってーと中学生くらいか。自分にでも会いに行くのか」 「自分に会ってもしょうがないでしょ。ちょっと会いたい人がいるのよ」 十年前……?死んだ爺さんか婆さんにでも会うのか。 「勝手に殺すんじゃないわよ。まだピンピンしてるわ」 「じゃあ完成したらみんなで行こうぜ。俺は自分に小遣いでもやりたいぜ。あの頃はバイトもできなくて貧乏だったからな」 「そうね。それもいいかもね」 ハルヒは頬杖をついてぼんやりと遠くを見ていた。こいつのメランコリーの原因はどうやら過去にあるようだ。 次の日ハカセくんがやってきた。学校の帰りにハルヒに捕まったらしい。 「期待の新人、ハカセくんを連れてきたわよ」 「あ、先輩こないだはどうも」 ハカセくんに先輩呼ばわりされちまってるぜ俺。 「よう、来たな。こっちが古泉、こっちが長門だ。長門はハカセくんが志望する専攻の研究室にいる」 「ほんとですか、よろしくおねがいします」 「……長門有希」 「ようこそハカセさん、なにもないところですが。今お茶を入れます」 「ありがとうございます」 丁寧に腰を四十五度に曲げてあいさつをするハカセくんだった。今日は朝比奈さんが来ていないので古泉がお茶当番だ。 「あれからいろいろと調べてみました」 「なにを?」 「タイムマシンに使えそうな技術です」 この子はピザの宅配並みに気が早いというか。 「すごいわねハカセくん。将来はノーベル科学賞ね」 「涼宮姉さん、気が早すぎますよ。まだ勉強しはじめたばかりです」 ハカセくんはてへへと照れた笑いを浮かべた。 「ハカセくん、本を買ったら領収書もらっておいてね。会社の経費で清算してあげるから」 それより図書カードを渡しといたほうがいいんじゃないか。いくら清算してやるといっても財布に限界があるだろう。あとで経費で商品券でも仕入れとくか。 「ほかになにかいるものは?」 「ええと、とくにないと思います。今のところは」 「そうだ、白衣が必要だわ」 「白衣ってまさかナースか」 「バカね、実験着の白衣よ」 ああ、科学者が着てるやつね。長門にナース服を着ろというのかと思った。それはそれで見てみたい気もするが。 「……これ、読んで」 長門が分厚い本をハカセくんに差し出した。前に見たようなシーンだな。 「量子論ですか?」 「……そう。それからこれも」 「量子力学ですか」 長門の抱えた本は古びて表紙の文字が薄く消えてしまっていた。これ見覚えがあるんだが、もしかしてかつて文芸部部室にあったやつじゃ。 「ちょっと僕にはまだ難しいです。高校の物理程度のことしか……」 パラパラとページをめくるハカセくんは苦笑いしていた。 「……大丈夫。わたしが教える」 まあ長門と庶民的高校生じゃ知識の差がありすぎるが。いい教師にはなるだろう。 ハカセくんはハルヒの尽力(もとい圧力)によって今通っている塾をやめ、大学受験のための勉強をハルヒに、さらにタイムマシン開発のための勉強を長門に教わることになった。勉強を教えてもらってしかもバイト代が出るってのもエサで釣ってるようでアレだが、まあ本人が喜んでいるのでいいとしよう。 【仮説1】その1へ
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ハル 名前 ハルモニア=ダリン 概要 グランディア大陸出身のガンナーの傭兵少女。 一流傭兵に憧れ傭兵を志願し、修行しながら傭兵稼業をしている。 現在はカリキュラムを終了し、他の中小ギルドに属している。 天才肌で、まだまだ新人であるが伸びしろは大きく、化ける可能性があると噂されている。 その一方で天狗になりがちな所がある。 外見はポニーテールに大きなリボン。幼さの残る顔立ち、そこそこスタイルのいい体格。 胸下までのタートルネックにミニスカートにロングコートを羽織る。靴はショートブーツ。 性格 フレンドリーで小生意気な不良娘。楽観的で、天才肌。 すぐ調子に乗りやすいお調子者で、天狗になりがち。 主な技・魔法 「スナイピング」 意識を集中させ、遠距離から狙撃を行う。 この時は狙撃銃を使う。 「ブラックアサルト」 気配を消しながらの奇襲攻撃。 主な特殊能力・技能 「銃器取り扱い」 銃器を扱うことが出来る。得意なのは拳銃だが、狙撃銃も扱える。 今後の伸び次第で増えるかもしれない。 「ステルス」 気配を殺して潜む技能。習いたてだが筋はいい。 ちなみに ガンナーの女の子。ブルーノが新人丸出しなのでこちらはルーキーさを狙ってみた。 カークンさん、設定お借りしました。事後ですみません>< 登録タグ グランディア ポニーテール ルーキー 一般傭兵 人間 傭兵 新人 銃火器