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アルラツ メソポタミア神話の破壊の女神。 エレシュキガルの代わりにネルガルの妻とされることがある。 別名: アルラタ アルラトゥ
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こんにちは、涼宮ハルヒです! ……って言うよりは、涼宮ハルヒの中にある、4年前になくなった、現実的で、乙女チックな心があたしなの。 あたしはご主人様が幸せになったら消えちゃうんだけど、それがあたしの喜びだからいいわ。 だからね、あたしの役目は一つ! いつも素直になれないご主人様の背中を押してあげること! いっつも、いっつもご主人様の心はキョンくんでいっぱいなんだけどね、それが態度に出ないみたいなの。 むしろ、気が無いみたいな態度を取っちゃってる。 それをあたしが応援して、ご主人様を幸せにしてあげるの! ……あ、言ってるそばからキョンくんが登校してきたみたい。 「よう、ハルヒ。今日はなんだか機嫌が良さそうだな。顔がニヤついてるぞ」 ふふふ、いつもと違うご主人様を演出することで、キョンくんに興味をひかせちゃった。 あたしは《涼宮ハルヒ》の一部だから、体や表情や言葉も思い通りなの。 ま、ご主人様はあたしに気付かないけど。 「う、うるさい! ニヤけてなんかないわよ!」 あちゃ~、ここから世間話にでも発展すると思ったのに……。 ご主人様は意地っ張りだなぁ、もう。 「む……そんなに厳しくするなよ。ちょっと話をしようかなって思っただけだ。嫌なら黙っとく」 ありゃ、キョンくん拗ねちゃったよ。……ご主人様、ガッカリしてる場合じゃないよ、キョンくんと話すチャンスだよ。頑張って! 「あ、え……キョ、キョン! あたしは暇だから相手してあげるわ! 光栄に思いなさいっ!」 よく頑張った! ご主人様、偉い! 「じゃあ、いろいろ話すか。今日、妹がな……」 よかった……キョンくんと喋れてご主人様、とっても幸せそうだ。心臓の鼓動も早いしね。 しばらくはご主人様一人でもだいじょぶそうだね。じゃあ、あたしはしばらく休憩しよっと……。 「じゃーな、ハルヒ」 「あ、うん……」 どうしたのかな、ご主人様の元気がないような気がする。 何か悩みごとかなぁ……。ご主人様がいつもの日記を付ける時に調べちゃおう。 「はぁ……どうしよ。嫌だなぁ……」 ご主人様、どうしたのかな? 「このあたしが本気で好きになっちゃうなんて思わなかったわ……はぁ」 ありゃ、やっと気付いたんだなぁ。キョンくんが好きだってことに。 ほんとはずっと前から惹かれてたくせに、ご主人様は認めないんだもん。 「うじうじするのはあたしらしくないし……告白しちゃおっかなぁ……」 そうだよ、ご主人様! 頑張って! 「でも、面と向かってキョンにフラれちゃったら悔しいし……話せなくなりそうだし……はぁ」 ご主人様は『キョン』と名前をつけたぬいぐるみを持ち上げた。 「ねぇ、『キョン』。どうしたらいいか教えなさいよ」 ダメだよ。ぬいぐるみに聞いても答えてくれるわけないから! ……もう、しょうがないなぁ。ご主人様の思考に少しだけ働きかけて背中を押してあげようっと。 「……あ、そうよ! 面と向かって言えないなら手紙があるじゃない! 我ながらナイスアイデアね!」 あたしのアイデアだけどね。……まぁ、あたしも《涼宮ハルヒ》だけどさ。 ご主人様の筆は止まることなく進んでいた。 言いたいことはたくさんあったんだ、あたしが手伝う必要無いよね。……え? そこまで、5分程動き続けた手は止まり、ご主人様は机に突っ伏してしまった。 「あたし、キョンに『普通は大事なことは面と向かって伝えろ』って言ってたわよね……、だいぶ昔に」 そういえば、そんなこともあったなぁ……。 「でも、やっぱり恥ずかしいし……」 もう…あとちょっとだから頑張ってよ! 『好きです』って書けばいいじゃない! 「……すぅ……すぅ」 うわぁ……寝ちゃってるよ。まったく、ご主人様ったら……。 あたしが全部書いちゃおうかな。いいよね、ご主人様の気持ちは全部わかっちゃってるし。 体、寝てる間に借りちゃいま~す。じゃあ、始め! 《キョンへ あたしね、実はあんたが……中略……だからね、あたしと付き合いなさいっ!》 よし、出来た! ご主人様の気持ちを詰め込んだ、《涼宮ハルヒ》らしい文になってるはず! あ~あ、あたしも疲れちゃったなぁ。ちょっと眠って、ご主人様と同じ時間に起きて反応見ようっと。 うん……と、朝かぁ。体が起きてるし、ご主人様の方が早かったんだなぁ。 「あれ? あたしちゃんと書いてから寝たのかしら……。まぁいいわ、けっこう良い文に仕上がってるし」 よかったよかった。ご主人様も満足してるし、あとは結果が楽しみだなぁ。 学校に一番に行って、キョンくんの引き出しの中に手紙を押し込んだご主人様は、とっても不安そうだった。 こういう時があたしの出番だよね。 ――大丈夫、必ず成功するから―― と、心の中に直接話しかけてあげた。 「……うん、大丈夫。キョンなら優しく対応してくれるわ」 ほら、落ち着いた。……あれ、キョンくん? 今日は早いなぁ……。 「よう、ハルヒ。珍しく朝早くに起きちまってな」 「あ、あら、そうなの。あたしも早く起きちゃったのよ、奇遇ね」 うわ、すっごいドキドキしてるみたい。音が今までにないくらいに大きいよ。 キョンくんが椅子に座って、引き出しに手を入れた。手紙に気付いた……って、えぇっ! ご主人様、逃げちゃダメだよおぉぉぉ! ……あ~あ、屋上まで来ちゃった。意気地なしなんだから。 「はぁ……教室、戻り辛いな。サボっちゃおうかな」 ダメだよ、ちゃんと返事聞かなくちゃ! 「でも、結局キョンとは会っちゃうのよね……戻ろう」 すると、いきなり屋上のドアが音を立てて開いた。 「ハルヒ! 探したぞ!」 「キョ……キョン!?」 追っかけて来てくれたんだ。たぶん、手紙も読んでくれたんだよね。 「お前の気持ち、すごくうれしかったんだけどな。……なんで逃げたんだよ」 「それは……こ、怖かったのよ。フラれたり、あんたと今まで通り出来なくなるのが……」 が、頑張れとしか言えない! ご主人様、もう一回『好き』って言いなさい! 「でも……好き!」 「俺も、ハルヒのこと好きだぞ。自分でも気付かないくらい前からな」 よかったぁ……これでご主人様は幸せだね。 ……あたしも消えよう。 これからはキョンくんがご主人様に乙女チックな心や、現実的な心を教えてくれるだろうし。 「キス……していいか?」 「……うん」 ありゃりゃ、キスシーンはあたしには刺激が強いから退散しちゃお。バイバイ、ご主人様! 「ありがと、あたしの中のあたし」 ご主人様は胸に手を当ててそう言った。気付かれてた? そんなわけ無いよね。 あたしは足から消えはじめた。ご主人様の中に完全に溶け込むから。 ギリギリ、キスする所が見えちゃうなぁ。 ……お幸せに。 おわり
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涼宮ハルヒの出会い プロローグ 涼宮ハルヒの出会い 第1章
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4から 「は?」 と俺は聞き返す。 「なに言ってんだ、おまえ?」 受話器越しにハルヒは答えた。 「なにって……、修学旅行とかで、ほら、男子が女子の部屋に遊びに来たりするじゃない? いわば、ああいう奴よ。深い意味はないわ」 「悪いがハルヒ」 「な、なによ?」 「お前の方に深い意味がなくてもな」と俺は言った「俺にはある」 「ななな、い、意味ってなによ?」 「俺はおまえでなきゃ嫌だ」 「……」 ハルヒは黙った。それもいいだろう。どうせ全部言わなきゃ俺だって止まりそうにない。 「目の前にどえらい美人がいたとする。俺だって健康な男子高校生だし、抱きしめたいし、キスしたいし、押し倒したくなくないけどな、今はお前でないと嫌だ」 「い、今って?」 「お前に出会っちまって、お前を個体識別して、お前とお互いに話して、お互いに思ってることをぶつけあって、こうして一緒にいる今、ってことだ」 再び沈黙。波と波がぶつかり合う音が、えらく近く聞こえる。受話器から鳴っているみたいだ。 「わかったわ」 ハルヒは言った。 「あんたは、どうあってもこっちには来ないということね」 「ハルヒ、お前、いったい何を聞いて……」 「あたしがそっちへ行く。これで文句ないでしょ?」 二つのドアが同時に開く。そこにいるはずの相手を見つめ合う。 先に動いたのはハルヒだった。 さっと、俺の横をすり抜けたと思ったが、ハルヒは俺に左手首をしっかり捕まえていた。 ハルヒに引きずられ、ベランダから外へ、俺たちは夜の浜辺に駆け出た。 コテージの非常灯を除けば、辺りには明かりになるものは何もなかった。 他に明かりがないと、月の光はこんなにも青く明るいのか。 ハルヒに手を引かれて、コテージからの緩やかな坂を、夜の砂の上を走る。 波打ち際まであと数メートルというところに来て、ハルヒは止まって、俺の手首を離して、俺の方を見た。 「とりゃー!」 不意をつかれて、倒される。砂の上に上半身から落ちる。あごを砂にぶつける。痛い。 (辞書の意味で)砂を吐きながら、一応抗議してみる。 「ぺっ、ぺっ! 何すんだよ、ハルヒ!」 「カニばさみ。まずはあたしの一勝ね」 一勝? 勝負? ホワイ? えーい、こいつの思考回路はトレースし切れん。今わかるのは、「おほほ、つかまえてごらんなさい」的な展開はあり得ないってことだけだ。月の光よ、我に武運を! 「もういっちょ、いくわよ。どりゃー!!」 「のあ! いきなりか!」 「一瞬の隙は、戦場では死を意味するわ」 死かよ! そして戦場かよ! 言っててなさけないが、スピード、技の種類にキレ、それに知略(?)に上回るハルヒの絶対的優位が続いたが、ちぎっては投げちぎっては投げしているうちに(つまり俺が繰り返し砂の上に転がる度に)、未曾有にみえたハルヒの体力もいささかの陰りを見せた。やっぱり言ってて情けないが、勝ち続けるには、負け続けることを数倍する体力が必要なのだ。 言い換えれば、ハルヒの目的が「俺との当面の戦いを制すること」であるのに対し、俺の目標は「このもーよーわからん大相撲的シシフォスの労働を終わらせること」だった。つまりは、ハルヒは勝ち続けなければならず、俺はただの一回、こいつにもはっきりわかる形で勝てばいいのだ。それがものすごく難しいのだが。 「へっ、さすがに息があがってるじゃないか、ハルヒ?」 「膝に両手ついてるあんたに……言われたかはないわ」 ないなら作ってでも隙を突くしか、俺に勝ち目はないだろう。 「次で決めるぞ、ハルヒ!!」 「勝手に言ってなさい、キョン!!」 足をめがけてタックルする。むろんフェイクだ。 「ハルヒ、好きだ!!」 ちなみに言葉はフェイクじゃないぞ。 「こ、このバカキョン!!」 俺のタックルを読んでいたハルヒは、軽々と俺の上を飛び越えていく。ただし視野の端に写ったハルヒの顔は真っ赤なトマトだ。 着地するや否や、ハルヒは叫ぶ。 「卑怯者!あんた、そんな言葉まで使って!そうまでして勝ちたいの!?」 「真剣勝負で、自分に一番気合いが入る言葉を叫ぶのは当たり前だろ!」 俺にそんな難しい作戦が思いつける訳もなければ実行できる訳もない。だが、勝算は五分と見た。いくぞ、ハルヒ。 「愛してるわ、キョン!!」 怒声とともに張り手が飛ぶ。顔がよじれる、膝が崩れる。 「言われてみてわかった。すごい諸刃の剣だ」 愛の言葉って。 それを受けて、あの動きか。すごいな、ハルヒ。 「やっぱりバカだったのね、あんた。それに先に倒せば問題なし!」 「その言葉、もらっとくぞ」 「なっ、わ、わ」 膝をついた足も、足首を立てて、死んでいなかった。片膝立ての体勢から、もう一度ハルヒの腰に至近距離からアタック。腕を回して、抱え上げる。渾身の力で。 「こ、こら、離せ、アホキョン! エロキョン!」 「無理だとわかってるが一瞬だけ大人しくしろ。もうちょっとの力しか残ってないんだ。ハルヒ!」 「は、はい!」 「愛してるぞ! 絶対、離さないからな!!」 誓いは、たった2秒で膝から崩れた。体力の限界。緊張の中断。深手の影響。その他諸々。 それでもハルヒをなんとか砂の上に転がし、自分は少し離れたところに放り出した。 砂の上に並んで寝転ぶ二人。 「キョン……生きてるよね? あんなこと言って、死んだらひどいからね」 「……い、生きては……いる」 本当の意味で、砂を吐いたけど。 「……よかった……」 「はあはあ、一応聞いとくが、ハルヒ?」 「はあはあ、なによ?」 「煩悶とした青春はスポーツで昇華! なんて体育会的オチじゃあるまいな」 「バカじゃないの? そっちはもちろん別腹よ」 もちろんかよ! そして別腹かよ! ハルヒは寝転んだまま、右手をずいっと上に、夜空に向かって突き出した。その手の先には、ものすごい数の星の光。 「どう? これであんたとあたしは『ひとつ屋根の下』よ」 「やれやれ……そうだな」 二人はくすくすと笑った。ハルヒの、あまりにハルヒらしい自信たっぷりの言い方を、「いや、それだったら、ここまでしなくても」といった俺のかき消された愚痴のなさけなさを、いや多分その両方を、心のどこかで指差しながら。 相手の手は、すぐ届くところにあった。 指先がまず触れ、互いに絡み合う。手が重なる 腕が互いを引きつけ合う。身を起こす。 二人の顔が近づく。 「待って。キョン、一回つねらせなさい」 「いてて。もう、あちこち痛い! ……何すんだよ?」 「ふん。夢じゃないようね」 「そういうことはな、自分ので確かめろ」 「キスなんかで夢オチでした、なんてたまったもんじゃないわ」 「おい……」 だまってなさいと、ハルヒの口が、口をふさいだ。 「……なあ、母さん」 「なんですか、お父さん?」 「今度は人の多いところに宿とろうな。あいつらが、あまり自然に帰らんように」 その6へつづく
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【作品名】ファイアーエムブレム 聖魔の光石 【ジャンル】手ごわいシミュレーションゲーム 【名前】ミルラ 【属性】マクムート 【年齢】1200歳 【長所】見た目は幼女 幸運以外の成長率の良さ 【短所】石を返してください・・・ お願い・・・何でもしますから・・・ vol.6
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4 章 朝、職場のドアを開けようとしたらカギがかかったままだった。いつでも出社一番乗りのはずのハルヒはまだ来ていないらしい。俺は自分の合鍵でドアを開けた。 「誰かハルヒ見なかったか」 昼近くになっても部屋が静かなので聞いてみたのだが、三人とも顔をブンブンと横に振った。あいつが遅刻するなんてめずらしい。ヘンなもん食って腹でも壊したかな。 「おっはよう!今日も気分爽快!」 そうかい、なんてくだらないダジャレはやめておくとして、我が社長様は午後五時を過ぎてやっと顔を見せた。 「やっと来たか。連絡くらい入れろよ」 「したわよ。これでも仕事してたんだから」 ハルヒの机の上にある内線兼留守電は留守番モードになったままだった。忘れていた。 「今日打ち合わせとかあったっけ」 「特許庁よ。弁護士雇って特許庁に行ってたの」 ハルヒは鼻を高々と上げてフフンと俺を眺めた。なんだその人を小ばかにしたような態度、俺だって特許庁くらい知ってるさ。早口言葉にもあるくらいだしな。 「待て、特許庁って東京だろ。そんなとこまで何しに行ったんだ」 「決まってるでしょ、タイムマシンを特許申請してきたのよ」 「ってまだ実験段階なのに気が早すぎんだろ」 「なにいってんのよ。特許申請なんてものはねえ、実現の見込みさえあればどうでもいいのよ」 それは言いすぎだろう。特許庁のお役人が聞いたら顔真っ赤にして怒るぞ。 「ともかく、特許は先に取ったモン勝ちなのよ。タイムトラベルだけで十二件も公開されてるんだから。自分で調べてみなさい」ハルヒはパソコンのモニタをペンペンと叩いた。 「まじかオイ」 「そのうちの数件には実際に物理学会で発表された理論も含まれてるわ」 世の中には俺たち以外にも酔狂なやつがいるもんだな。 「仮によ?この理論が実用化したらこの特許権を持ってる人は技術独占状態にできるわけよ」 いつになく現実的なハルヒに俺は少しだけ感心した。 俺はハルヒの机から申請書類の控えを取って読んだ。ゼニガメを利用した時間移動技術なんて、こんな無茶苦茶な理論が審査通るはずが……、 「おいハルヒ、発明の名称が間違ってるぞ。time planeじゃなくてtime membraneだ」 朝比奈さんがハッとしたような顔をしていた。既定事項がひとつ成立したようだな。 「あら、そうだっけ?まあいいじゃない似たようなもんだし。取ってしまえばそれまでよ」 プレーンとブレーンじゃ月とスッポンくらいの意味の開きがある気がするが。結局訂正するのを忘れていて、TPDDとして特許公開されてしまうのはもっと先の話である。 コーヒーに垂らした銀河をスプーンでぐるぐるとかき混ぜる規模の長門の試算とやらが終わり、俺もかなり記憶が混乱しているところだが、タイムマシンを作る方向性というか安全対策というか長門のパトロンがしぶしぶOKを出した方法で進めることになったようだ。ハルヒの訳分からん願望とやらに付き合わされる思念体もご苦労なことだ。 ゼニガメがタイムトラベルという芸当を見せてから、ハルヒはソフトウェアの営業もろくにしないで研究室にこもっていた。 「くーっ!いったいいつになったら成功するのかしらね」 このところ機嫌が悪い。それもそのはず、失敗が続いた実験が通算で一万回を超えたのだ。そのうち成功したのがたった二回。0.02パーセントの確率かよ、ぷっ。 「まあそう簡単には無理だろ。俺たちが簡単に作れるならNASAやらCIAやらが黙っちゃいないって」 「それはそうだけど。一万回よ一万回。あんた、どれだけ経費かかってるか知ってる?試したゼニガメは五百匹、水槽が五十個、スッポンの養殖してるわけじゃないのようちは」 そうそう。わが社の歴史に残る珍イベントで取締役から社員共に総出でゼニガメ買い出しに行かされた。近隣のペットショップやらホームセンターだけでは飽き足らず、鶴屋さんちの庭の亀まで総動員されたのだ。どんどん納入される亀と水槽の数に会議室だけではスペースが足りず、たまたま空室になったお隣さんを借りて亀専用ルームにあてた。実験の結果タイムトラベラー失格の烙印を押されたかわいそうな亀たちは、スペース節約のため近所の小学校やら近隣の動物園やら水族館やら、水のある施設には手当たり次第に寄贈として養子に出されている。 爬虫類に少なからず親近感のある俺は、亀に番号をふってその後の成長を記録していけばいい生物学的統計が取れるんじゃないかと言ったのだが、そんなことタイムマシンができたら簡単にやれるわよと言われてがっくりと肩を落とした。 「世紀の大発明なんだ。いくらかかっても十分すぎるくらいの見返りはあるだろうさ」 まあ会社の経費で払っている月々のエサ代と、室温を維持するために二十四時間フル稼働させてるエアコンの電気代は半端じゃなかったが。 「もう、早いとこタイムマシン作って時間旅行したいのにぃ」 ハルヒは唸り声を上げて机に突っ伏した。そう簡単に完成なんかされたら俺も朝比奈さんも困ったことになるのだが、いったいいつの時代に行きたいんだろう。 古泉の携帯が鳴った。長門が宙を見つめた。 「すいませんが、顧客と打ち合わせに行って来ます」 「おう、気をつけてな。直帰でもいいぞ」 古泉があたふたと出て行った。たぶん閉鎖空間の始末だろう、ご苦労だなまったく。 それに加えて、ハカセくんがそろそろ試験前なので実験は二ヶ月間中止することになった。併せてハルヒのダウナー度も増した。 「もう、タイムマシン作るのやめようかしら……。ハカセくんもいつまでも付き合えないだろうし」 こんなことを言い出すのはハルヒらしくない。今までずっとこいつは、目標に向かって全速力で突っ走るイノシシみたいなやつだったからな。 「ここでやめちまったら、出資してくれた鶴屋さんに申し訳ないだろう」 「今ならまだふつーの事業をやる会社に戻れるわ」 「それが嫌だから自分で起業したんじゃなかったのか?」 「まあ……そうだけど」 「俺は別にやめてもかまわんが、お前がやめちまったらたぶん人類は時間移動技術で数世紀遅れてしまうことになるだろうな」 そう。こういうとき、俺の出番なのだ。ハルヒが道に迷ったり、暴走して崖から落ちそうになったり、疲れて道端に座り込んだりしたとき、フォローにまわるのは俺なのだ。 「あんた、ほんとにタイムトラベルなんかできると思ってんの?」 「おうよ。だからお前に付き合ってこんなわけ分からん会社やってるんじゃないか」 「ホーキング博士が言ったわ。タイムトラベルが不可能であるという根拠は、未来からの観光客が未だに現れないからだ、って」 「UFOは未来人が乗ったタイムマシンなんじゃないかって説もあるぜ。オーパーツは未来から送られてきたんじゃないかって説も」 それを聞いてハルヒは、うーんと唸った。 「そうだ、思いついたわ」 またか……。そのフレーズはいい気分で飛ばしていた車のルームミラーに突然映った白バイ並みに、俺の寿命を縮めてる気がするぞ。 「今度はなんなんだ?」 「タイムマシンはなくてもタイムトラベルはできるわ」 「どうやってだ」 「タイムカプセルよ」 なるほど。超低速時間移動か。俺も長門のマンションでやったことがある。三年間、いわばカチンカチンに凍ったまま時間を超えたのだ。 「未来のあたしに手紙を書くわ。これなら確実に届くでしょ」 「ま、まあ、昔からやる手だがな。なにを書くんだ?」 「タイムマシンが完成したらすぐ迎えに来なさい、または手紙をよこしなさい、よ」 分かった。ハルヒは今すぐタイムマシンを手に入れたいのだ。開発までの道のりがいかに長くても、完成してしまえば一足飛びに自分のところに来れるはず。そう考えたのだろう。まるで漫画のネタみたいな、今から貯金をはじめてタイムマシンで未来に行き、貯まった金を自分から奪うような話だ。そんなことをしなくても朝比奈さんに頼めばメッセージくらい簡単に届けてくれそうだがな。 まあハルヒがやるというんで黙ってやらせることにしよう。タイムカプセルなら放っておいても勝手に届いてくれるだろう。 「みんな、ちょっと聞いて。我が社はタイムマシン開発の予備段階として、タイムカプセルを作ることにするわ。開封条件はタイムマシンが完成したときね。みんな、自分宛てになにかメッセージを書きなさい」 まるで七夕の願い事を書くようなノリである。そんないつになるか分からん未来になにを伝えろってんだ。 「ちゃんと封をするのよ」 用意のいいことに封緘紙まで持ってきた。 ── 俺へ。犬が洗えるくらいの庭付きの一戸建てを買ったか?長門とはうまくやっているか?さっさとハルヒを誰かに押し付けてしまえ。 さして願い事もない俺が書いたのはそれだけだった。いつかの七夕にも似たようなことを書いた気がするが。 ハルヒは台所用品のシュリンクパックに手紙を突っ込み、空気を抜いて真空にした。A4用紙に開封条件を書いてるようだが、開けちゃだめと金庫の中に書いてあったらどうやってそれを知るんだ?やたら安易な気もするが、まあハルヒのやることだ。ほかに開けるやつもいないだろうし。 「タイムカプセルってどうやって作るんだ?」 「核攻撃下でも耐えるファインセラミックスで固めて地中深くに埋めたいところだけど。もしかしたら数年後かもしれないから、簡単でいいわ」 「金庫にでもしまっとくか」 「それじゃ味気ないわね。大理石の板で作りましょう」 「そんなもん、どこで手に入れるんだ」 「墓石屋にいけばあるでしょ」 墓石は大理石じゃなくて御影石だが。機関が墓石を扱ってるとか言ってたんで古泉に頼もう。 「僕そんなこと言いましたか?」 「言った言った。ゆりかごから棺おけまで何でも揃うと」 「すいません。あれは言葉のアヤです」 口からでまかせだったのかよ。古泉は照れて額をペンと叩いた。しょうがないので二人でホームセンターを探しまわり、墓石屋にもなく建材店でやっと見つけた。歩道や公共施設なんかで見かける敷石らしい。一辺が六十センチの正方形で、厚さ五センチの大理石を手に入れた。 会社に戻ると部屋の奥からガンガンとやかましい音がしていた。なにやってんだろうと覗いてみるとハルヒがタガとカナヅチで壁を削っている。壁紙がひっぺがされてセメントが剥き出しになっていた。 「おい、会議室でなにやってんだ」 「見て分からないの。穴を掘ってるのよ」 「ビルのオーナーに怒られるぞ」 「タイムカプセルを埋め込むためよ。バレなきゃいいの」 ハルヒが壁を叩くとセメントのくずがボロボロとこぼれてきた。意外にもろいのな。ここが刑務所なら爪切りで削ってでも脱走できそうだ。もしここで監禁されたら脱走する方法として覚えておこう。 「おい、先に帰るぞ」 退社時間になってもガンガンと工事の音が続いていた。ハルヒの足元に、朝比奈さんがおにぎりを、長門がポカリスエットとカロリーメイトを置いていた。古泉はサロンパスを置いた。 「あら、ありがと。もうそんな時間?先に帰っていいわ」 セメントの粉をかぶってホコリまみれになったハルヒがいた。一日かけて大理石の板と同じサイズの凹みができたようだ。 ハルヒはさらに二日掘りつづけて、それより縦横が十センチほど狭い奥行きのある凹みを作った。もっと深く掘ろうとしてたようなのだが、途中でビルの骨組みのようなH型の鉄骨が現れ、そこで断念したらしい。 「できたわ!」 安全第一のヘルメットを被り、ヘッドライトをつけたハルヒが叫んだ。どうやら徹夜だったらしい。額の汗をこすった跡が汚れて青函トンネルの二十年の穴掘りから帰ってきたような顔をしていた。こういう作業だけはまめにやるんだなこいつは。長門に頼めばレーザーかなんかでさくっと掘ってくれそうなのに。 掘った穴のでこぼこを石膏で塗り固め、平らにならした。赤いビロードの布を貼り、ちょっと豪華な埋め込み式の金庫が出来上がった。 「さあ、未来にメッセージを託すわよ」 古泉、長門、朝比奈さんも付き合って手紙を納めた。長門の手紙の内容を聞いてなかったな。あとで尋ねてみよう。 その上から買ってきた大理石をはめ込み、溝をパテで埋めた。手紙を取り出すときはハンマーかツルハシでぶっ壊すしかないだろうな。未来へのメッセージは無事封印され、ハルヒはなにを勘違いしたか、かしわ手を打っていた。神棚じゃないっての。 昼飯の弁当を食っていると、突然カメラのストロボを十台くらい光らせたような閃光が走った。 「キタワー!!」いつもより二オクターブくらい高いハルヒの声が響いた。 「なにがだ」 「手紙よ手紙。たった今、あたしの机の上に現れたのよ」 俺を含めた四人は何が起こったのかピンと来ず、とくに驚いた様子も見せなかった。 「なによあんたたち、もっと驚きなさいよ」 「それで、誰からなんだ?」 「もちろん、未来のあたしからよ」 「お前のことだから突っ返してきたんじゃないか?」 「違うわよ。真新しい封筒よ」 まじで返事が来たのか。俺は朝比奈さんと長門の顔を見た。二人ともかわいい目をまん丸にして、唖然としている。 「なにが書いてあるんだ?」 「これから読むわ。古泉くん、カメラの用意をお願いね。今日は我が社にとって、いえ、人類にとって記念すべき日よ」 「かしこまりました」 古泉が機材ロッカーを開けてゴソゴソとビデオカメラとライトを取り出した。しょうがない、俺が照明をやってやる。 「撮影スタンバイオーケーです」 「カメラ回して」 カメラの液晶モニタに赤いRECのマークが入った。 「えー、あたしは株式会社SOS団の社屋にいます。予てより、我が社はタイムマシンを開発中である。昨日、未来に向けてタイムカプセルを送った。そして今、未来から返事が来たのであります。読み上げる」 微妙に語尾が混在したセリフを吐きながら、ハルヒが封筒の封を切って手紙を取り出した。 ── 前略、あたしへ。あんたの手紙は読んだわ。おめでとう、あたしたちはタイムマシンの開発に成功しました。でもまだ、質量の小さいものしか送れません。成功率もなかなか低くて、まともに送れるのは二十回に一回ってところね。成功率が八十パーセントを超えたら、ハカセくんが論文を書いて世界に向けて発表するわ。 ── タイムパラドックスの危険があるから、今のあんたから見て何年後かは言えないけど。まあ、気長に待ちなさいね。ハカセくんの話では、人を送れるようになるまでにはあと十数年くらいはかかりそうってことよ。 ハルヒはそこで深呼吸をして文末を読み上げた。 「株式会社SOS団代表取締役社長、涼宮ハルヒ」 「すごいわ涼宮さん。とうとうやったのね」 朝比奈さんが拍手した。なんかすごくデジャヴを感じているのだが俺だけか。 「あ、待って。まだあるわ。追伸、このメッセージは十秒後に消滅す……」 ハルヒの手にあった手紙は、まるで急に発火点に達したあぶり出しのように燃え広がった。 「おわーっ!!火事よ火事、あたしの手が火事!」 「キョンくん、消火器!消火器!」 「はいっ」 よほど慌てていたのか、俺は粉末消火器のホースをハルヒに向けてぶっぱなした。十五秒間、わき目もふらず一心不乱に消化剤を撒いた。あまりの壮絶さに誰も止めなかった。 部屋に充満する甘酸っぱい匂いのする消化剤を吸い込んで、全員咳き込んだ。ハンカチを口に当てた長門が慌てて窓を開けた。 「バカキョン!もう、なに考えてんのよあんた」 「す、すまん。大火事にならないかと心配で」 ゆっくりと霧が晴れるように部屋の中が見えてきた。真っ白な髪に全面おしろいを塗りたくったかのような四人が立っていた。 モウモウと立ち込める真っ白な煙の中から、これまた真っ白なゾンビのようなハルヒが現れた。昭和アニメ風に言うなら、そしてハルヒは真っ白な灰になった、とでも表現しようか。俺たちは互いの顔を見た。一瞬の後、大爆笑に見舞われた。全員がパンダみたいに目だけを残してミイラになっちまってる。 鼻の穴まで真っ白になったハルヒは涙を流して笑いながら怒鳴った。 「バカキョンにアホキョン、まったくもう!腹立つわ。あたしったら何考えてんのよ。消滅するなら最初に書いときなさいよね」 これぞひとり突っ込みだな。 片付けは当然俺がやらされた。ちなみに、ハルヒの手の上で燃え広がるシーンまでの映像はちゃんと撮れており、公式社史に残されている。 雑巾でせっせと部屋を掃除するというサービス残業をしていると、ハルヒが壁に大きな額縁を飾っていた。四つ切くらいの額の中央に、紙のきれっぱしのようなゴミが貼り付けてある。 「ハルヒ、なんだそれ?シュールレアリズムかなんかか?」 「さっきの手紙に決まってるじゃないの。我が社の記念すべき書類よ」 ハルヒは不機嫌極まりない様子で叫んだ。そういえば、なんとなくだが書類の燃えカスっぽいな。ところどころ粉っぽいのは消化剤か。封筒は全部燃えてしまったらしく、“ルヒ”と、ちょうど手紙の右下の署名の文字部分だけが残っている。 それから数日してのこと。こないだ頼んだ石材店から、もう一枚同じ大理石が届いていた。頼んだ覚えはないんだが、なにかの間違いだろうと電話をかけようとしたところ、ハルヒが土木作業員のような格好で現れた。家を壊せそうな、でかいハンマーを背負っている。黄色い安全第一ヘルメット、ランニングシャツ、腹巻、ニッカポッカに地下足袋をはいていた。その様子があまりに似合いすぎていて、口の周りに丸く黒ヒゲでも描いてやろうかと思ったほどだ。 「労働者ごくろう。だがあんまり腹が立ったんでビルを壊すとかいうなよ」 「そんなことしないわよ。手紙を追加するだけよ。あんないたずらされて黙っちゃいられないわ」 自動発火装置付きメッセージが相当頭に来たらしい。 「古泉くん、カメラお願い。この情報化時代に手書きの文字なんか古すぎるわ。映像を直接送るの」 「未来に再生装置がなかったら読めないだろ」 「あんた知らないの?どんな未来でも骨董品屋があって、古い電子機器が売られてるのよ」 そりゃ映画の話だろう。ガソリン車だったのがバナナの皮と飲み残しの缶ビールで走る核融合エンジンになったんだったか。かわいい十六ビットパソコンが出てたな。 「カメラ、スタンバイオッケーです」 「いくわよ」 ハルヒはお触れを読み上げるお役人のようにA4レポート用紙を広げた。 「これは未来へのメッセージである。開封条件は一通目の手紙を読み終えること、タイムマシンが完成すること」 ハルヒは読むのを止めて、カメラに向かって指さした。 「あんたの自動消滅する手紙ではひどい目にあったわよ!いたずらもほどほどにしなさいよね」 白ゾンビを思い出したのだろう、古泉が笑いをこらえていた。 「未来に対し、以下の四点を要求する。 ひとつ、そのへんで撮った写真を送りなさい。 ふたつ、あんたの髪の毛を送りなさい。本物かどうかDNA鑑定するわ。 みっつ、一週間分の新聞を送りなさい。 よっつ、タイムマシンの設計図を送りなさい。以上。 追伸、もしこれらの要求が受け入れられない場合は、時限発火装置を送るからそう思いなさい」 なに物騒なこと言い出すんだ。相手は自分だぞ。 「カメラ止めていいわ」 「この映像、どうやって送るんだ?」 「編集してDVDに焼いてちょうだい」 「それはかまわんが、DVD-RはふつーのDVDビデオと違って寿命が短いらしいぞ」 「そうなの?じゃあビデオテープでもいいわ」 「磁気テープもあんまり長くはもたんだろう」 「じゃあどうすんのよ」 「半導体メモリとかのほうがよさそうだ」 「携帯とかデジカメとかに入ってるあれ?なんでもいいわ。送れるようにしといて」 メモリといえば俺が朝比奈さんに言われて花壇で拾い、知らない誰かに送ったあれもそうだったが、なにか関係あるんだろうか?朝比奈さんに疑問符を投げてみるが、にっこり笑っただけだった。禁則事項らしい。 ハルヒはハンマーを抱えてのっしのっしと部屋の奥に歩いていった。 「おい、なにするんだ」 「二通目を入れるから大理石を壊すのよ」 ビルが倒壊するんじゃないかと思うような音がげしげしと聞こえてきた。その場にいた全員が耳を塞いだ。ハンマーを大きく振りかぶって大理石をぶっ壊している。まったく激しいやつだな。 俺はビデオカメラをパソコンに繋いで、映像を抜き出した。こないだの自動発火装置付きメッセージのシーンを再生して何度も笑わせてもらった。 「あれっ、ないわ」 ハルヒの声が響いた。なにごとかと奥の部屋へ行ってみると、足元には大理石の板が粉々に砕け、タイムカプセルの穴に顔を突っ込んでわめいている。 「どこにもないわ、キョン!手紙どっかにやったでしょ」 「知るかよ、最後に石を封印したのはお前だろう」 「そうだけど……」 覗き込んでみるが空っぽだった。長門を見てみるが首を横に振っていた。朝比奈さんは、こめかみに指を当てて考え込んでいる。 「向こうで手紙を受け取ったのだから、なくなったのでしょう」古泉が口を挟んだ。 トンネルじゃあるまいし、そんなはずがあるか。手紙がないってことはこの時間でタイムマシンが完成したってことじゃないか。……って、え? 「それもそうね。まあいいわ、次の手紙を入れるから。キョン、今日中に編集しといて」 ハルヒは、手紙が消えても何の不思議もないかのような顔をしている。そんなんで納得していいのか。 「じゃ、ちょっと早いけどお昼にしましょ。あたしは健康ランド行ってくるわ。いい汗かいたし」 ハルヒはSOS団建設とでも名称変更できそうな勢いで、すがすがしいんだかよくわからない労働の汗をタオルでごしごしと拭きながら出て行った。 ここで緊急会議である。四人は顔を突き合わせてあれやこれやと意見を出し始めた。 「これはミステリーですね。密室にあったはずの手紙はどこへ消えたのか?」 推理好きな古泉が安っぽいサスペンスドラマっぽく仕立て始めた。 「壁の向こう側から盗まれたんじゃないかしら?」 朝比奈さんが穴の奥の壁を探っていた。 「向こう側は廊下ですよ。それに穴は鉄骨で止まってますから」 「……」 長門だけはじっと考え込んでいた。 「どうした?」 「……この穴の内壁」 穴の内側をなぞっている。指先に、微妙に光を反射する粉がついていた。でこぼこを埋めたときの石膏かと思ったが、そうでもないようだ。 「……微量だが、エキゾチック物質が残っている」 「なんですって」 「どういうことだ?」 「……ワームホールが発生した形跡がある」 「ということは、手紙はほんとにタイムトラベルして向こうの時間に行ったんですか」 「……そう、推測する」 まさか、ありえないだろ。今日はエイプリルフールか。お前ら、俺をかついでんだよな。 「どうやったらそれが可能なんですか?」古泉が興味津々だ。 「……時間移動の方法はいくつかある」 前にもそんなことを言ってたな。 「原始的な方法として、エキゾチック物質で粒子-反粒子間のトンネルを押し広げ、質量のある物体を移動させるやり方がある。今回の現象は、それに該当する」 「それはかなり不安定だと聞いていますが」 「……涼宮ハルヒが、それを成功させた」 「これもまた涼宮さんの能力ですか……」古泉が考え込んだ。 「俺にはなにを言ってるのかよく分からんのだが」 俺が割り込んでも、古泉は説明もしない。 「長門、俺にも分かるように説明してくれ」 「……うまく言語化できるか分からない」 長門はホワイトボードに、蜘蛛の巣を二つ、その中心を貼り合わせたような図を描き始めた。俺は何度も何度も小学生のような質問を繰り返し、ようやく飲み込めたところでは次のような説明だった。 ── 宇宙を作っている素粒子、原子よりずっと小さい物質の大元みたいな小さな粒は、二つのペアになっている。粒子がプラスで反粒子はマイナスだと考えればいい。その二つのペアの間は不思議な力で繋がっていて、それがワームホールになる。そのトンネルを大きく広げてやれば、人でも猫でも、宇宙船でも通り抜けられるという理屈だ。 さらに、反粒子は時間を逆行して存在してるらしいので、ワームホールを抜けると時間を超えることもできる、らしい。ただし穴の壁は壊れやすく不安定なので、エキゾチック物質という負のエネルギーを持つ物質で内側を支えてやらないといけない。 なんだか前にも似たような話を聞いたような覚えがなくもないが。 「それをハルヒが無意識にやっちまったってのか」 「……それ以外、妥当な答えがない」 なるほど。ほんとかどうかは知らんが、やっぱ物理学は俺の頭じゃ無理だわ。 「あの……」 いちばん時間移動に詳しい朝比奈さんが、やっと口を開いた。 「これは歴史の転換点かもしれません。わたしの知る歴史とはまったく違う時間移動技術の発明過程です」 「これって朝比奈さんの所属する時間移動の組織と関わりがあるんですか」 「もう違う流れに変わってしまったので話しますけど、この会社は時間移動技術研究所の前身なんです。その、はずなんです」 「SOS団がタイムトラベルを管理?」 「いえ、涼宮さんがはじめて、もっと後の世代でやっと実用化した技術なんです。ここは、ほんの始まりに過ぎないの」 「ハルヒが開発を前倒ししたってことですか」 「まだ正確なところはなんとも言えないです。こんなのははじめてで……」 朝比奈さんは長門に尋ねた。 「長門さん、ひとつだけ分からないことがあるんです。涼宮さんはどうやって時間を指定したんですか?」 「粒子の存在する時空、つまり、目的の時間の粒子ペアを持つ反粒子を使った」 「その粒子を見つけられる確率は?」 「……見つけたのではない。涼宮ハルヒは自ら反粒子を作り出した」 長門は両手をパンパンと打ち合わせた。 「あの、かしわ手?」 「……そう」 まさかあの仕草にそんな意味があったんだとは。 ハルヒの命令で俺は、動画を編集するために昼休みを潰すはめになった。メモリカードを渡すと、うやうやしくアルミホイルで包んで小箱に入れ、ラッピングしてご丁寧にリボンまで付けてタイムカプセルに収めた。こないだと同じ手順で重たい大理石の蓋をし、隙間をパテで埋めてかしわ手を打った。ついでに祝詞でも唱えりゃ効果倍増するんじゃないのか。 二通目の返事は同じメモリカードで来た。部屋が一瞬閃光に包まれ、封筒がハルヒの机の上にぽとりと落ちた。続けて、赤い筒型の何か、それより細いスプレー缶みたいなもの、黒いレバーらしきもの、最後にホースが落ちてきた。赤い筒だと思ったのは消火器のようだった。中身が空で、部品ごとにバラバラに送られてきた。組み立てろってことらしい。未来のハルヒはここのハルヒより一枚上手なようだ。 ハルヒは突然目の前に降って沸いたガラクタに眉毛をひそめ、机をドンと叩いて怒鳴った。 「まったくもう!ムカつくわね。しょうもないイタズラしてないで大人になりなさいよ」 ハルヒは自虐的な突込みをいれつつ、メモリカードをパソコンに挿して動画を再生した。 『あたりまえだけど、若いわね。感動しちゃったわ』 広告の使用前使用後みたいで、見ていた四人がオオッと声を上げた。この映像のハルヒを見る限り、向こうはだいたい十年くらい未来ってことだな。もしかしたらずっと未来で、メイクか若返り治療の効果かもしれんが。 『あんたも欲張りね。駅前の写真を何枚か入れといたわ。なにも変わってないわよ。髪の毛は何本か入れといたから、勝手に分析でもしなさい。言っとくけど、今じゃDNAなんていくらでもごまかせるんだから。新聞はねぇ、未来の情報を過去に送るのは有希に止められてるの。分かるわよね。あんたが下手に情報を使ったりしたら、未来が変わっちゃうもの。同じ理由で設計図もダメ』 「チッ。サッカーくじで大儲けしようと思ってたのにぃ」ハルヒは舌打ちした。 お前そんなせこいこと考えてたのか。俺もだ。 『お詫びに消火器も送っといたから、そっちで組み立てなさいね。これ重いから、分けて送るのたいへんなんだからね』 ハルヒを見ると怒りに打ち震えているのか、プルプルと震えていた。頭にやかんが乗っていたらシュンシュンと音を立てていただろう。 「ちょっと古泉くん、相談があるんだけど」 「なんでしょうか」 「メモリカードくらいの小さい爆弾作れる知り合い、いる?」 「す、涼宮さんそれだけは」 機関なら爆弾職人くらいいるだろう。冗談なのか本気なのかハルヒは古泉ににじり寄った。いっそのこと紹介してやれ。 5章へ
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あってはならない惨劇から半日もの間、俺は一歩も動けずただじっと座っていることしかできなかった。 俺が読んでいた国木田のノートは全部偽物? それどころか、俺の妄想にすぎなかってのか? だが、あの正体不明のノートのおかげでそれが現実になり、古泉たちの存在まで書き換えてしまった。 そして、俺が作り出した妄想で俺が悪の組織に仕立て上げた機関の人たちを俺の手で皆殺しにしてしまった。 「いつまでそうやっているつもり?」 力なく自動車道の縁石に座り込んでいる俺の隣には、ずっと朝倉がいた。座りもせずにただただ優しげな笑みを浮かべ 俺をじっと見下ろしている。 俺は力なく路面を見つめたまま、 「……何もする気が起きないんだよ」 「でも、何もしないからといってこの現実は変わらないわよ」 朝倉の台詞は陳腐にすら思えるほど定番なものに感じた。その通りだ。何もしないからといって何が変わるわけもない。 だが…… 「どうしろってんだよ……! 死んだ人間はもう生き返らなねえんだぞ! こんな……こんなことをやらかして どの面下げてハルヒたちのところにいけって言うんだ!」 絞り上げれられたような声が口から吐き出た。そうだ。もうどうしようもない。どうにもならない…… 「ごめんなさい……」 ここに来て朝倉の声が変わった。今までのにこやかなものとはうってかわり、悲痛に満ちたものに変化している。 俺はすっと頭を上げて、朝倉を見た。そこには初めて見るような悲しげな表情を浮かべた彼女の顔があった。 「さっきはごめんなさい」 朝倉は謝罪を続けるが、なぜ謝る? 「思わずあなたが悪いように責めちゃったから。少し考えてみたけど、やっぱりあなたは悪くないわ」 「安っぽい同情なんて止めてくれ。そんなことをされても虚しくなるだけだ……」 「いいえ、これは重要なことなの」 そう言うと朝倉はすっとしゃがみ込んで俺の背後に回り、ささやくように言葉を続ける。 「あなたは悪くないわ。やったのはあのノートをあなたに渡した人よ。何の目的があってやったのかは知らないけど、 あなたを陥れようとしていたことは確実だわ」 「だが、いくら誘導されても俺がみんなを信じ切れなかったことは確かなんだよ! あんな妄言なんて信じずに まず古泉たちに一言相談すれば良かったんだ」 俺は頭を埋め尽くす後悔の念に耐えられなくなり、手で顔を覆う。 少し考えればわかったことだった。最初に機関にあのノートを見せるなというのは、 国木田に対する信頼もあったから否定することは難しかったかも知れない。だが、内容は今考えれば明らかにおかしい。 そもそもなぜ回想録のように今までのことを振り返る形式で書かれている? そんな重要な告発文なら とっとと結論を書いておくはずだ。理由は簡単。あの時俺の頭には、国木田がどうして、どうやって機関に入ったのかを 知りたい願望があった。だから、あのノートの内容を裏で操作していた奴は、それを叶えるように回想録のような形式にした。 俺は自分が知りたいという願望が忠実に再現されていたため、その内容に全く違和感を憶えていなかった。 そして、次に決定的に不自然だったのがページからページに飛ぶ際だ。まれに続きが気になるような切れ方をしていたが、 その次のページには俺が望んだとおりの内容が書かれていた。あれが知りたい、これはこうだったんじゃないか―― そう言った要求や想像に的確に答えている。考えればすぐにわかったことだ。 それなのに俺はまるで何も考えず、その内容をただ受け入れた。 その時は良いと思っても、あとで見返せばとんでもなく問題のある行為だった、なんていう話は日常ではよく見かける。 俺はこの重要な局面でそれを犯してしまったんだ。 「それは違うわ。そもそも、あんなノートを使ってあなたの猜疑心を煽るなんて言うことがなければ、 こんな事にはならなかったのよ? 色々条件が整えば、誰でもつい不安に思ったりしちゃう。 大抵の場合は、それは時間が進んで別の事実に付き合わせれば、ただの妄想に過ぎないって解消されるわ。 でもね、このノートは徹底的にあなたを煽り続けたの。不安に不安を募らせて、あまつさえ現実へ介入さえした。 だから、全てに置いて矛盾が発生しなかった。こんなことは第3者の悪意がなければ成り立たない話よ。 はっきりと言えるわ、あなたのせいじゃないって」 「だが……やっちまったことには変わりがないんだよ。もうどうしようも……」 ここで朝倉はすっと俺の背中に抱きついてきた。そして、さらに耳元でささやき始める。 「自分のミスが許せないのね。でもね、こんな理不尽な話があると思う? 自分のせいじゃないのに、とんでもなく大きい罪を 着せられてしまう。やった本人に復讐はできるけど、だからといって起きてしまったことが変わる訳じゃない。 あなたはそんな不合理が許せる?」 「それが現実って奴だ。一度やってしまったことが消えるなんて言うことはあり得ない」 「でも、その方法が一つだけ存在していると言ったらどうする?」 朝倉の言葉に、俺ははっと顔を上げた。俺のミスが全部無かったことになる? バカ言うな。そんなことがあるわけがない。 だが、朝倉はしゃがんだまま俺の前に立ち、両手で俺の方をなでるようにつかむと、 「あるわ。一つだけね。そして、その方法をあなたは知っている……」 俺を見つめている朝倉の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。そんな方法が存在していて、俺が知っている? この俺の失態を無かったことにできる方法は一つ。死んだ古泉たちを生き返らせるぐらいしかないぞ。 そんなことはいくら望んでも適うわけが――いや、ある。確かにある。 「……あのノートだ! あそこに俺が殺してしまった人たちが生き返るように書けば――」 「それは無理。少なくともあなたが望むようなことにはならないわ」 「なんでだ! あそこに書いたものは全て現実になるんだろ? なら生き返れと書けば生き返るはずだっ!」 つばを飛ばして力説する俺だったが、朝倉は顔を背けることもなく、ゆっくりと首を振って、 「有機生命体の生存活動を再開することは可能だと思う。でも、それでできあがるのはただ生きているだけで意思のかけらもない ただのタンパク質の固まりのようなものだけよ。記憶、感情、身体的構造……あなたはそれを全て知っている? それを事細かに表現して、ノートに記さなければ、あなたが望んだ人形ができあがるだけだわ」 「だったら全部元通りって書けばいいだろ!」 「それもどうかしら? 曖昧な記述では、どういう作用の仕方をするかわからないわよ? それにあのノートの背後に あなたを誘導していた人がいることを忘れないで。そいつの意思で記述の内容をどうにでも書き換えられるんだから。 やってみる? うまくいくかも知れないし、失敗するかも知れない。あなたに任せるわ。でも、そんなリスクのある方法よりも もっと確実な手段をあなたは知っているはずよ。よく考えてみて」 朝倉の問いかけに、俺は再度思考をめぐらせる。確かにノートの使用にはリスクが生じる。 そもそも、あれは俺を陥れるために渡されたものだ。同じ事が再現するだけかも知れない。 そうなれば、もっと良い方法があるならそっちを選択するべきだな。他には――他に―― 次に脳裏に過ぎったのは、過去に遡ってとっととあのノートを破り捨ててしまう方法だ。 そうだ、過去を改ざんしてしまえば惨劇は全てなかったことにできる。それを可能にするためには 朝比奈さんのTPDDがあれば可能だ。そうだ、それでいい。 だが、すぐに問題点が頭に浮かんだ。まず朝比奈さんがTPDDを使わせてくれるのだろうか? いや、大体あれを使うかどうかは、過去の朝比奈さんの言葉から察するに彼女一人の判断ではできない。 未来側の許可がいることになっているようだ。俺のミスを帳消しにしたいから過去に戻りたいなんていって許可が下りるか? 到底、そんなことが認められるとは思えない。それに、過去を変えてしまったら、今こうやって自分の失態に苦しんで 打開策を悩んでいる俺自身はどうなる? 過去が帰られたが故に、俺のいる未来そのものがばっさりと切り捨てられることになる。 それでは何の意味もない。 「――涼宮ハルヒ」 唐突に朝倉の口から飛び出してきた言葉。ハルヒ。長門曰く情報爆発であり、朝比奈さん曰く時間の断層、 古泉に至っては神と呼ぶ存在。そして、それが有している力は何でも作り出せる情報創造能力。 「……そうか。ハルヒか! 確かにこんな閉鎖空間を平気に作り出せる奴だ! あいつの能力をちょっとだけ使わせてもらえば、 こんなことは全部無かったことにできるかも知れない! そうだハルヒだ!」 至った結論に俺は大きく笑い出してしまった。さっきまでの絶望感が嘘のように無くなり、閉鎖空間の灰色も ずっと明るくなっているようにすら感じられる。 「そうよ、涼宮さんの力を使えば何でもできるわ。あなたの理想がすべて叶うのよ。それってすごく素敵な事じゃない? そして、あなたは涼宮さんにとって大きな存在でもある。自覚さえしてくれれば、きっとあなたの言うことも叶えてくれるはずね」 「だが、どうすればいいんだ?」 ここで朝倉は俺の頬から手を離し、立ち上がる。そして、すっと空を見上げると、 「実を言うとね、あたしは涼宮さんの居場所を知っているの。でも、頑固に閉じこもっちゃってて出てこないのよ。 だから、あなたに説得して欲しいのね」 「……わかった。すまないがハルヒのところまで案内してくれ」 「うん、そうする。でね、ちょっとお願いがあるんだけど……」 朝倉はもじもじした仕草を見せつつ、 「あなたが涼宮さんにお願いするときに、あたしの願いも叶えて欲しいの」 「いいぞ、そのくらい。ハルヒに頼んでやるさ」 「ありがとう! じゃあ、これから涼宮さんのところに連れて行ってあげる♪」 そう言って朝倉は軽い足取りで俺の手を引き始めた。そうだ、ハルヒのところへ行こう。そうすれば、全て終わるんだから―― ――目を覚ませ! この大バカ野郎が!―― 「いてっ!」 耳に背後から聞いたことのあるような無いような声が届いたかと思ったら、頭の頂点分を何かで思いっきり殴られた痛みが走る。 ヘルメットを外していたおかげで、何かが頭を直撃したようだ。 俺はあまりの痛みに頭をさすりながら、振り返る。せっかく気分が良くなったってのに、なんだ一体! ……しかし、振り返った瞬間、俺の身体が凍り付いた。なぜならそこには一瞬だけ『俺』がいたように見えたからだ。 すぐに2,3度目をこすって見返す。すると、『俺』の姿はすでに消えていた。幻覚でも見たかと思ったが、 頭の痛みはそのままだ。なんだってんだ。 「どうかしたの?」 俺の異変に気がついたのか、朝倉が不思議そうにこっちを見つめている。俺は痛みの残る部分をさすり、 特に怪我とかをしていないことを確認しつつ、 「いや……何でもねえよ。さあ、とっととハルヒのところへ行こうぜ」 「うん、わかった」 そう言って俺たちはまた歩き出す。しかし、さっきのは何だったんだ? 一瞬俺の姿も見えた気がしたが、 それにその前に浴びせられた罵倒は俺の声じゃなかったか? まさかドッペルゲンガーじゃねえよな。 それとも俺の深層心理の部分で何か引っかかるものがあるとでも言うのだろうか。目を覚ませ。それがその時聞こえた言葉の一つ。 「……目を覚ませ――か」 その台詞はあのノートに騙されている時にかけられるべき言葉だろ。俺の第六感ってのは反応まで半日以上かかるような 鈍い代物なのか? まあいい。もうそんなことなんてどうでもいいんだ。ハルヒの元に行けば全て解決するんだからな。 ――騙されないでっ!―― 今度は可愛らしいが鼓膜が吹っ飛ぶぐらいの声が脳内に響く。 ――お願いですっ! しっかりしてくださぁいっ!―― しばらく声の音量がでかすぎて気がつかなかったが、ようやくわかった。 「……朝比奈さんですか!?」 俺の頭の中の声は間違いなく朝比奈さんのものだった。ああ、2年近く聞いていなかったが、このエンジェルボイスだけは どんなことがあってもわすれるつもりはねえぞ。 ――キョンくんっキョンくんっ! 気を確かにしてくださいぃ! がんばって! しっかり!―― 「いや朝比奈さん! 声をかけてくれるのは大変ありがたいんですが、もうちょっと音量を下げて……。 鼓膜がいかれるどころか、脳内の音声認識回路までふっとんじまいそうですよ!」 ――あ、すみませんっ……ごめんなさいぃぃぃぃぃ―― もうこのふにゃふにゃな対応は朝比奈さんそのものだ。これがまた朝倉のように脳内イメージから作り出されたっていう偽物なら 俺はもう何にも信じられなくなるぞ―― ……唐突に。本当に唐突に気がついた。いや、気がついたと言うよりもあの『目を覚ませ』『しっかりしてくださぁい』の 意味がようやくわかったといった方がいいだろう。ちっ、何で今まで気がつかなかった? 「本当にどうしたの? 大丈夫?」 また朝倉が不思議そうな顔+不安な顔を俺に向けてきていた、 俺は立ち止まったまま朝倉を凝視し 「お前は誰だ?」 その言葉に、朝倉の顔にわずかながら動揺が走った。まるで気が付かれたかと言いたげなように少しだけ引きつっている。 だが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻ると、 「そんなこと知ってどうするの? あたしのことなんかより、今のあなたにはやらなければならないことがあるんじゃない?」 「そうだ。だからこそ、不安要素は全て消し去っておきたいんだよ」 俺の返答に、朝倉は今度ははっきりと失望の表情を浮かべた。そして、視線を下げたまま俺の元に歩いてくる。 ――キョンくん気をつけて。その人は……―― ああ、朝比奈さん。今度は声が小さすぎて聞こえませんよ。何ですか? だが朝比奈さんが再び声をかけるまでに、朝倉が俺の前に立ち、とんでもないバカ力で俺の肩をつかんできた。 「良いから黙って付いてくればいいのよっ!」 俺は驚愕する。今さっきまでは確かに俺の前にいたのは朝倉涼子だった。あの谷口はAA+評価を下すような完璧の美少女。 だが、今俺の肩をつかんでいるのは、全く見たことすらない中年女だった。浴びせてきた声も可愛らしいものとは正反対の すり切れて低い声だ。 ――その人はキョンくんの知っている人ではありません!―― 「何で言うことを聞かない!?」 朝倉――いや、中年女のどす黒い罵声が俺の身体を震わせる。その顔は怒りと悪意で醜くねじ曲がり、異様な殺気を 噴出していた。上から下まで見回しても見たことのない奴だ。俺が生まれてきてから見てきた人の中に こんな奴は全く該当しない。誰なんだ。 「あんたは黙って言うことを聞けばいいっ! そうすれば、仲間を皆殺しにした罪は全部消えるんだよっ! 何の損がある!? まだ何か不満でもあるって言うのかいっ!?」 「――離せこの野郎!」 俺は必死にその中年女引きはがそうとするが、化け物じみた力で俺を押さえつけているらしく全く微動だにしない。 挙げ句の果てに、怒りにまかせて俺の身体を揺さぶり始めると、 「どうしてあたしの邪魔ばかりするっ! どいつもこいつも気にくわない! せっかく優しくしてやったのに、 平然と疑いやがって! 何様のつもりだ、このくそ男が!」 あまりの罵倒ぶりに一瞬頭の中が空っぽになる。何だ、こいつは。今まで変な奴も見たことはあったが、 度を超して狂っているぞ、こいつは。 「ああそうかい! お前がそんな態度を取るってなら、こっちも情けなんてかけないよ! 今すぐお前の思考能力を奪ってあたしの人形に仕立て上げてやる――」 『そうはさせない』 今度は長門の声が俺の頭の中に響いた。ほどなくして、中年女の表情が一変して俺から離れようとするが、 すぐに醜い悲鳴を上げて苦しみ始める。ああ、はっきりいって展開について行けてねえぞ俺は! 「ふざけやがって! 死ね! みんな死んじまえ! どいつもこいつも! みんな消えて無くなればいいのよ! 消えちまえっ!」 そう最期まで汚らしい罵声を上げながら、その中年女の姿が原子分解でもされたかのように光の粉となって消えていく。 そう言えば、長門が朝倉を消滅させた時もあんな状態だったな…… 『時間がない。すぐあなたを別の時間軸へ転移させる』 いや、長門。少しは俺に説明してくれよ。はっきり言って訳がわからなくて、頭の中でA~Zまでの単語がバウンドして 暴れ回っているんだ。 『急がないと彼らがやってくる。すぐに行きたい場所を思い浮かべて』 ああ、もうわかったよ。その代わりあとでゆっくりと事情を聞かせてもらうぞ。ところで、どうやって別の時間に行くんだ? 長門は確か時間移動できないんじゃないのか? 『朝比奈みくるのTPDDを強制起動して使用する。今あなたを危険性のない空間に移動させるにはそれしかない。 同一時間平面上では彼らはすぐに追いかけてくる』 ――ええっ!? ちょちょちょっと待ってくださぁいぃ!―― 朝比奈さんもパニックになっているぞ。やっぱりもうちょっと落ち着いてだな…… 『来た』 「え――」 長門の言葉に反応して、俺は辺りを見回して――腰を抜かした。いつの間二やら、俺の周りを大勢の人間が囲んでいた。 男女年齢性別に関わらず、一応に無表情な顔つきで俺を睨みつけている。明らかに敵意を感じるぞ。 『彼らにあなたを渡すわけにはいかない。彼らはあなたの外見と記憶だけが必要。一度捕まれば、あなたの自我意識は 修復不可能なレベルまで分解される。そうなれば、どれだけ情報操作を行っても元には戻せない』 「うわっわわわっ!」 俺は長門の言葉も耳に入らず、腰を抜かして辺りを逃げ回った。だが、不思議なことにそいつらは立ち止まったまま、 一向に俺の方に近づいて来ようとしない。 ――ほどなくして、まるでラジオの奥底からかすかに聞こえるような小さな物音が耳に届き始める。 じわりじわりとその音量が大きくなっていき、次第に耐えられないほどの騒音とかしてきた。 俺は必死に耳を閉じてそれをシャットダウンしようとするが、直接脳が認識しているせいか全く効果がない。 その騒音は最初はただの意味をなさない雑音だと思っていた。だが、たまに人間の言葉らしきものが混じっていることに 気が付く。それはさっきあの中年女が言っていたのと全く同じようなものだった。 罵倒の応酬。今俺の頭にそんなものがぶつけられている。このままだと長持ちしねえぞ。 『彼らが互いを牽制している。今の内に、あなたを移動させる。早く行きたい場所を思い浮かべて』 ええい、また説明もなく急転直下の展開か! だが、これ以上耳元で騒がれたら本当におかしくなる! やむ得ず、喧噪の中、俺はどこに行きたいか考え始める。色々頭に浮かぶが雑音が邪魔してまとまらねえ。 行きたい場所――会いたい人。長門は完全ではないが、会った。朝比奈さんはさっきようやく声が聞けた。 なら、まだたった一人声を聞けていない人物…… ……その時、俺はハルヒに会いたいと思った。 ◇◇◇◇ 俺はいつの間にか閉じられていた目を開く。 重力を失ったように、俺は暗闇の中を漂っていた。いや、薄暗いものの周りには何かが見える―― 『ちょっとキョン。のどが乾いたからみんなにジュースを買ってきなさい。あ、当然あんたのおごりでね』 『何で俺が』 耳に入ってきた会話。エコーがかかったようにぼやけたものだったが、はっきりと聞き覚えのあるものだった。 俺は目をこすって辺りを確認する。薄暗く霞がかかったみたいに視界が悪い。それに光が屈折しているかのようにゆがんでいる。 何とかそんな視界にようやく慣れてきたころ、俺は今目の前で何が起ころうとしているのか悟った。 待て! そっちに行くな! 必死に叫ぶが、声が出ない。 視線の先には脳天気に自動販売機を目指して歩いている奴がいる。どっからどうみても俺だ。あの日――俺が事故にあった日。 今俺はその時間にいるんだ。だが、どうしてこんな中途半端な状態なんだ? 必死に泳ぐように俺の後を追おうとするが、蹴るものが何もない状態では進みようがない。周りには俺の姿が見えていないのか、 誰一人こっちを気にかける人もいない。 止めなきゃならん。俺が事故に遭うのを阻止できれば、その先に起こる悲劇は全部起きなくなるんだ。 今ここにいる俺が消えるかも知れない? 知ったことか! 目の前で起こることの結末を知っていながら見過ごすほど 落ちぶれちゃいねえ! すぐに身体中を手で探り、何か使えるものがないか探す。しかし、使えそうなものは何もなかった。 このままではあと数十秒で俺が盛大にはねられるというのに、何もできずにただ見ているだけなんてまっぴらゴメンだ。 俺はふと思い出す。靴を脱ぎかけの状態にし、目の前を歩くの俺の反対方向へ蹴り飛ばした。すると思った通りに 反作用が発生して、ゆっくりと俺の身体が流れるように動き出す。よしいいぞ。このまま俺の背中を捕まえてやる。 ゆっくりと移動し、俺の背中に迫る。幸いまだ信号待ちの状態だ。このまま手を伸ばせば―― 『邪魔をするな』 衝撃を伴った大勢の声が辺りに響く。俺は一瞬身構えて、辺りを見回した。 誰もいない――いや違う! 俺の方を見つめている人たちがいる。歩道を歩いている老人、公園のベンチに座っている青年、 自動車に乗るOL、自転車に乗ったまま立ち止まっている女子学生……周りを歩く一般人たちの中にポツンポツンと 俺の存在に気が付いているように見ている人がいる。 ――瞬間、俺は気が付いた。目の前にいた俺の背中が横断歩道を歩き始めていることに。 待て! 進むな! それ以上進むと…… そして、はっきりと目撃した。目の前で俺がトラックに轢かれる瞬間をだ。確かに一瞬俺の身体はバラバラになっていた。 しかし、すぐにビデオの逆再生のように復元される。振り返れば、ハルヒが手を伸ばしてこっちに走ってきていた。 やはり、ハルヒが俺の傷を癒していたのか? トラックはすぐにバランスを崩して、近くの電柱に突っ込んだ。激しい衝突音が耳を貫き、ほどなくしてクラクションの音が 虚しく鳴り続けるようになる。 『キョン! キョン!』 ハルヒがすぐに路上に倒れたままぴくりとも動かない俺のそばに駆け寄った。続いて、朝比奈さん、長門、古泉も真っ青な顔で 俺の様子をうかがう。 古泉は思い出したように携帯電話を取り出すと何やら話し始めた。おそらく救急車を呼んでいるんだろう。 朝比奈さんは泣きじゃくりながら俺への呼びかけを続けている。一方の長門は、俺の身体に何も異変がないことを察知したのだろう 少し安心したような――表情には出していないがそんな雰囲気を見せながら、辺りの様子をうかがっていた。 そこで思い出す。さっき俺を見ていた連中を再度見回すと、今度は倒れている俺辺りを全員で見つめていた。 こいつらはいったい何なんだ? 一方の長門も全身のオーラを一変させて、強い警戒感をあらわにしている。 と、そこで見つめたまま動かなかった自転車に乗った女子学生が無表情から心配そうな表情に変化させて、 俺のそばに寄ってきた。どうやら身を案じているようだったが、それをすぐに長門が遮る。 『近寄らないで。重傷のおそれがある。専門知識を持った人以外は触れない方がいい』 その言葉に、女子学生は納得したような表情を浮かべたが、そいつが軽く舌打ちしたのを俺は見逃さなかった。 長門の言葉を聞いたのか、古泉がハルヒと朝比奈さんを俺から引き離し始める。二人は完全に腰を抜かしてしまっているようで、 もう何も言えずに路上に座り込んでいた。 ほどなくして、救急車がたどり着き、救急隊員が俺の様態を調べ始める。一方の長門は、やはり殺気の連中が気になるのか、 俺から少し離れてその周りをグルグル回っていた。 ――だが、長門の死角になったあたりで、あろうことか救急隊員の一人が妙な行動を取った。俺の額に手を当てて 何かをしている。明らかに医療行為とは違う。なぜなら、そいつの顔が狂気に染まった笑みを浮かべているからだ。 だが、長門は周りに警戒心を見せているために、それには気が付いていなかった。 やがて、担架に乗せられた俺は救急車に運び込まれ、ハルヒたちも乗り込んだ。そのまま、病院に向けて走り出す。 野次馬がそのまま残って見ている中、俺たちを見ていた連中はまるで何も起きなかったように、その場を去っていった。 ちくしょう……せっかく大チャンスだったってのに、何もできずに終わるなんて……! 後悔と自分の無力さを嘆くが、どうにもならない。これからどうする? まだ別の場所に移動できるのか? このまま浮遊したままなんてゴメンだ。 俺はまた願い始める…… ◇◇◇◇ 「ぐはっ!」 強烈な落下感とともに、俺の背中に強烈な刺激が展開した。一瞬呼吸が止まり、全身に震えが走る。 俺はしばらくそれにもだえていたが、ほどなく寝ころんだまま手で周りを探り始めた。どうやら仰向けに倒れているらしい。 手のひらに床のような冷たい感触が感じられる。とりあえず、海の上とか水中とか火の中とか、地獄巡りな場所ではなさそうだ。 ゆっくりと目を開けると、見覚えのある天井と蛍光灯が目に入った。いや、見覚えがあるどころか懐かしいと表現した方がいい。 続いて身体を起こして、辺りを見回す。部屋の中央に置かれたテーブル、古めかしい黒板、脇には朝比奈さんのコスプレ衣装、 ノートパソコンの山…… 次に目に入ったものに、俺は目を疑った。『部室』にある窓、そしてその前に置かれている『団長席』とパソコン。 そして、そこに座って唖然とした表情を浮かべるSOS団団長の涼宮ハルヒの姿…… 「キョン!?」 ハルヒは俺の姿を見るや否や、椅子をけっ飛ばして俺の元に駆け寄る。ハルヒ? ハルヒなのか? 本当に? 「ちょっとどうしたのよ……っていうか、あんた病院で眠っているんじゃなかったの!? でも何よ、その軍隊みたいな格好は!」 「い、いや、ちょっと待て! 俺も何が何だかわからなくて混乱――」 この時、俺の目がハルヒの視線に捕まった。まあ、眼力パワーはもの凄いハルヒなわけだから、ここで頬を赤らめて 視線を外したりはしないし、そもそもそんなことは期待していないんだが。代わりに俺の胃の辺りから 今までに感じたことの無いような感覚囲み上がってくる。 我慢しておくべきか? いや、周りには誰もいないしな、そんな必要はないだろ。 だが、俺にだってプライドがあるんだ。相手はあのハルヒだぞ? いいのか? 自分の気持ちに素直になったって良いじゃないか。こんな時ぐらいは。 えーと、何で俺は問答をしているんだ? いいじゃねえか。ここでやらなかったら、次にいつ逢えるか―― いつ逢えるかわからないんだ! 「ハルヒっ!」 俺はハルヒに抱きついた。強く強く抱きしめる。 唐突な行動に、ハルヒは当然ながら、 「ちょ、ちょっと何すんのよキョン! 放しなさいってば!」 「……すまん! 少しだけ! 少しだけこのままでいさせてくれ……!」 懇願する俺にハルヒは観念したのか、代わりに俺の背中をなで始め、 「まあ……いいわ。何があったのか知らないけど、団員が辛いときは団長がそれを受け止めてあげなきゃね」 「すまねえ……すまねえ……」 俺は謝罪の言葉を続けながら、ハルヒを抱きしめ続ける。離したくなかった。ずっとこのままつなぎ止めておきたかった。 でなければ、次いつ逢えるかわからないから。 「ちょっと休みなさい。あんた、すごく疲れているみたいだからね。ふふっ、大丈夫よ。ずっとそばにいて上げるから……」 ハルヒの言うとおり、俺には相当な疲労がたまっていたのだろう。ほどなくして俺は深い眠りに落ちていった。 ◇◇◇◇ どのくらい眠っただろうか。俺は自分が長時間眠っていたことを自覚したとたん、がばっと起き上がる。 そして、辺りをきょろきょろ見回し、状況確認に努める。 辺りはすっかり暗くなり、月明かりだけがSOS団部室を照らしていた。そして、その中をハルヒは団長席に 突っ伏するようにすーすーと寝息を立てて眠っている。俺のためにずっと残っていてくれたのか? 俺はとりあえずハルヒを起こさないように、状況確認を再開した。まず今の日付だ。カレンダーをのぞくと、 どうやら俺が事故に遭ってからちょうど14日目になる。ん、そういや、古泉から聞いた説明だと、 俺が昏睡状態になってから一週間後、ハルヒはSOS団の部室に閉じこもったと言っていた。ならハルヒはもうここにこもって 一週間が経過していると言うことになるが……。 ちょっと待て。そして、ハルヒが閉じこもってから一週間後に確か全世界で神人が大量発生したはずじゃなかったか? そうなるともうすぐそれが起きるということになる。 俺は時計を見た。時刻は22時過ぎ。残念ながら神人発生の詳しい時刻までは聞いていなかったが、俺が昏睡状態になってから 2週間後に大惨事が発生したことは確実だ。そうなると、近々それが発生すると言うことになる。 すぐにハルヒを起こそうとして、窓際に経って気が付く。外に誰かがいる。それも校庭、向かい側の校舎の廊下、屋上と ありとあらゆる場所に人がいて、そこから不気味な視線を向けられている。なんだったんだ。 とにかくハルヒを起こさなくてはならない。俺は軽くハルヒの背中を揺さぶる。 「……んあ?」 間の抜けた声を上げるが、目の前に俺の顔があることがわかるとすぐに口に付いたよだれを拭いて、 「ちょっと! なに人の寝顔を見てんのよっ!」 「しっ! 静かにしろって!」 俺は怒鳴り始めたハルヒの口を押さえる。しばらく抗議の声を上げて口をもぐもぐさせていたが、 窓の外を指さして外にいる連中の存在を知らせると、すぐに頷いて黙った。 ハルヒが大人しくなったことを確認すると、俺は手をどけて、 「外にいる連中にも憶えがあるか?」 そう俺たちを監視するように見ている連中を指さす。ハルヒはかなり不安そうな表情を浮かべて、 「……あんたが事故に遭ってから何度か見かけているわ。最初はあたしを遠くから眺めている程度だったけど、 一週間前ぐらいになるとエスカレートしてきて、自宅の部屋まで現れたわ。その時は叫んだらすぐに消えたけど、 それ以降ずっとあたしの周りをまとわりついてくるの。それも一人じゃない。すごく大勢」 「今、外にいる連中はそいつらってことか」 ハルヒは恐る恐る外を見て、 「うん。あいつらどういうわけか部室の中には入ってこないの。だから、あたし一週間前からずっと閉じこもったっきり」 「長門や朝比奈さんも部室に入れていないのか?」 「あいつら、みんなの後ろにくっついて入ってこようとしたのよ」 ぞっとする話だ。自宅の寝室まで上がり込んでくるなんてただの犯罪者のように見えるが、騒いだら消える? まるで幽霊じゃないか。大体、何で教師たちは気が付いていない? ハルヒはふるふると首を振って、 「わかんない。何度も学校側や警察に訴えたわ。でも、あたしには見えるのに写真やカメラには全く写らないの。 みくるちゃんたちも気が付いていないみたい。そのせいで、幻覚を見ているんだろうと相手にしてくれなくて」 そこでハルヒははっと気が付いたらしく、 「キョン! あんたにはあいつらが見えるの!?」 「ああ……不愉快だがばっちり視線に捉えている」 そう言いながら、外を一瞥する。はっきりとはわからないが、あの棒立ちのような姿を見る限り、俺の事故現場にいたやつらと 同質の連中だろう。あの時は俺を見ているのかと思ったが、本当はハルヒを見ていたのか。だが目的は? ふと、もう一つの事実に気が付く。少し混乱していたせいで記憶は定かではないが、あの棒立ちの様子は 過去にとばされる寸前に俺を囲っていた奴らに雰囲気がそっくりだ? 何モンなんだ一体。 「って、お前一週間もここに閉じこもっているのかよ。その間のメシとかはどうしたんだ?」 「古泉くんが持ってきてくれたわ。ドアの前に置いてもらって、あたしが隙を見て回収してた。トイレもたまにこっそりと出てね。 それでも最近はすぐ扉の前に立っていたりするからうかつに開けられなくて……」 ホラー映画かよ。マジで勘弁してくれ。となると今もドアの外に立っている可能性があるって事だ。 それじゃ、うかつに出れやしねえ。 俺は再度連中の姿を確認するべく、外を眺める。と、急にハルヒが俺の手を握ってきて、 「……キョン。あんたキョンよね? あたしにはわかる。別人じゃない。正真正銘のキョン本人だわ。でも、キョンは病院で 眠っているはずよ。どういう事か説明して」 当然の疑問だな。一週間籠城していたハルヒの前に、病院で寝ているはずの俺が、迷彩服姿で出現したんだ。 おかしいと思わない方がどうかしている。 俺は返答に困ってしまった。どう答えればいいのか、自分でもわからないんだからしょうがない。 あの閉鎖空間の一件、さらに今俺たちを囲んでいるの正体。何一つわかりゃしねえんだから。 「……わりい。俺も自分がどうしてここにいるのかさっぱりなんだ」 「そう……」 ハルヒは俺から目をそらす。思えば、さっきからハルヒらしい傍若無人な姿は全く見せていない。外の連中に よっぽど怖い目に遭わされたのだろう。そう思うと、俺に激しい怒りが立ちこめてくる。 「今俺がはっきりと断言できるのは、ハルヒ、俺はお前の味方だ。例えどんな状況になろうともな」 「…………!」 そんな俺の言葉が予想外のものだったのか、ハルヒは何かこみ上げてくるものがあったらしく顔を紅潮させていた。 が、すぐに顔を振ってそれを振り払うように、 「当然よ当然! 団員は団長のためにきりきり働くの! それが社会や組織の原理ってもんだわ!」 腕を組んでえらそうに言ってくれるよ全く。でも……その方がハルヒらしいけどな。 ◇◇◇◇ 午前1時。0時に何かが起きるのではと緊迫していたが、一向にあの白い化け物が現れる気配はない。ハルヒに異常もない。 退屈そうにネットをやっているぐらいだ。 ――気が付いたときには遅かった。異変はとっくに起こっていたのだ。 俺がようやくそれに気が付いたのは、外の連中の様子をうかがった時だ。 「…………?」 見れば、いつの間にやら取り囲んでいた連中の姿が無い。さっきまでが嘘のように無人になっている。 「――きゃあ!」 次に起こったのはハルヒの悲鳴だ。俺があわてて駆け寄ると、パソコンの液晶ディスプレイの画面が渦を巻くように ゆがんでいる。ただの故障かと思ったが、そんなものではないことがすぐにわかった。何せ、ディスプレイが盛り上がり、 そこから何かが出てこようとし始めたからだ。 俺はすぐにディスプレイの電源を引っこ抜くが、一向に電源が落ちない。次第に盛り上がってくるディスプレイが 人の顔のようになってきていることに気が付いた。まさか、パソコンのネット回線を介して侵入してきやがったのか!? すぐにそのディスプレイを壁に叩きつけて破壊する。ぱちぱちとスパークする音がなり、ディスプレイの電源が落ちた。 盛りだしていた人の形をした物体も消えていく。 「今までネットをやっていて大丈夫だったのか!?」 「き、昨日までは何にも起きてなかった……ひっ!」 ハルヒの短い悲鳴。今度はなんだと思えば、ホラー映画のワンシーンのように部室の扉がゆっくりと開き始めている。 バカな。ちゃんと鍵はかけておいたはずだぞ。 しかし、そんな俺の抗議も無視して扉は完全に開いてしまった。そこには黒いセーラー服を纏った少女が一人立っている。 やはり見たことのない奴だ。 俺は何か武器になるものはないかと辺りを回し、掃除用具入れからモップを取り出して構えた。 「来るな! 今すぐ出て行け! 怪我してもしらねえぞ!」 そうモップを振り回して威嚇してみるが、完全にそれを無視してその少女は部屋の中に入ってきた。 さらにその後に続くように大勢の人――子供から老人まで様々――が部室内に入ってくる。 多勢に無勢。俺は戦っても相手にならないと思い、ハルヒの手を引いて窓際まで下がる。仕方がない。ここは二階だが、 飛び降りれないこともない。一か八か飛び降りるしか…… しかし、その考えはすぐに打ち砕かれた。バタバタ!と窓が揺さぶられ何事だと振り返ってみて、 ――腰を抜かした。そこには獲物をほしがっている肉食動物のように、人間の顔が大量に窓に押しつけられている。 ぎしぎしと力を込めて今にも窓が破壊されそうだ。一方で出入り口の扉からは次々と連中が流れ込んで来ている。 囲まれちまったぞ。 「何の用だ! とっとと出て行きやがれ!」 俺はモップを振り回して奴らを追い払おうとするが、全く連中は動じない。それどころか、一人の少年があっさりと それを取り上げて部室の脇に投げ捨ててしまった。 じりじりと狭まる包囲網。窓の外は奴らで埋め尽くされ、入り口も溢れかえっている。逃げ場がないのだ。 が、奴らの動きが止まった。窓のきしむ音も聞こえなくなる。今度は何だ―― ――突如上がる悲鳴。言葉に表現できないような絶望的な声を上げ始めたのはハルヒだ。頭を抱えて床を転がり周り 痛みにもだえるかのように泣き声を上げる。 「ハルヒ! どうしたハルヒ! しっかりしろ!」 俺は必死にハルヒを抱きかかえ、落ち着かせようとするが、ハルヒは目もうつろに口からよだれを流して悲鳴を上げ続ける。 このままじゃハルヒがおかしくなっちまう。誰か! 頼む! 誰か助けてくれ! 俺の叫びが通じたのかはわからない。突然、部室の壁が吹っ飛んだ。衝撃にしばらく耐えていたが、 やがてそれが収まったことを感じ取ると、目を開く。 そこには北高のセーラー服を着た長門の姿があった。すぐ横にはおびえる朝比奈さんの姿もある。 「遅くなった」 「だ、だいじょうぶですかぁ!?」 二人の声。だが、久しぶりの再会に感動している場合ではない。ハルヒはもう声すら上げられない状態になっているんだ。 「長門! 朝比奈さん! 頼む――ハルヒを助けてくれ! お願いだ!」 俺の言葉に反応するように、長門が手を振った。するとなんということか。連中の姿が全て消失する。助かった! 全く長門さまさまだ。 が。 「遅かった」 長門の言葉は絶望に満ちていたように感じる。なんだ? 長門が奴らを消し去ってくれたんじゃなかったのか―― 『なぜだ!』 突然起きる脳内ボイス。あの閉鎖空間や事故現場で聞こえたのと同じものだ。もの凄い圧力で俺の全身を揺さぶってくる。 『お前ら邪魔だ!』 『お前こそ邪魔だ!』 『うるさいわね! 無能な連中は消えてよ!』 『なんだとこの野郎!』 『邪魔しないでよ~! お願いだからぁ~』 『くそ野郎!』 『何なのあんたたちは!』 『お願いだ! 一つだけで良い! 頼む!』 『俺以外みんな消えろ!』 洪水のように襲いかかる罵声の嵐。俺は耐えられなくなり床に倒れ込む。だが、そんなことをしている場合ではない。 口を開けたまま完全に意識を失っているハルヒが目の前にいるんだ。助けないと! そこの長門がやってきて、 「すでに涼宮ハルヒの意識の一部分が彼らに浸食された。このままでは全ての意識を奪われる可能性がある」 「何でも良いからハルヒを!」 「わかっている。すぐに自立防御を精神階層に張り巡らせ、これ以上の浸食を防ぐ」 そう言って長門はハルヒの額に手を当ててあの高速呪文を唱え始めた。 その時だった。俺の背中が月明かり以外の何かで照らされていることに気が付く。そして、窓の外にいたのは、 「神……人?」 あの光の巨人。ハルヒのストレスが最高潮になったときに閉鎖空間内で暴れ回る怪物。そいつが閉鎖空間ではないのに 今目の前に生まれ出ようとしている。 「なん……で」 「彼らのストレスが最高潮に達した証。それを解消するべく発生させた」 長門の淡々とした説明に俺は、 「ここは閉鎖空間じゃねえぞ! なんでだ!」 「涼宮ハルヒが閉鎖空間内であれを発生させていた理由は無用な被害を出さないため。だが、涼宮ハルヒの能力を一部奪った彼らは そのような認識を持っていない。自ら以外の有機生命体の死を持ってそれを解消させようとしている」 「ば……!」 冗談ではない。大量殺戮でストレス解消だと! ふざけんな! ハルヒの力をそんなふざけたことに使うんじゃねえ! だが、俺の抗議なんて通じるわけもなく、神人は破壊活動を開始した。俺が知っている神人発生と同じならば 奴らは全世界に発生して暴れているはずだ。 と、長門が急に辺りを見回し始めた。 「これは」 「今度は何だ!?」 「閉鎖空間が発生した。発生させているのは涼宮ハルヒ本人」 「何だと……!?」 最初は何が起きているのかわからなかったが、すぐに理解できた。ハルヒは神人の発生を感じ取り、あわてて閉鎖空間を 発生させて神人を閉じこめようとしているんだ。全ては被害を出さないために。 なんて……奴だよ、ハルヒ。お前はそこまで……! 長門は今度は俺の手を握り、 「あなたはここにいてはいけない。すぐにもとの時間軸へ戻るべき。危険。彼らに利用される」 「目の前でハルヒが苦しみながら戦っているのに、逃げ出せって言うのか!?」 「ここであなたができることは何もない。でも、あなたがいた時間にはできることがある。その時間上のわたしが言っている」 『一時的だが脅威は排除した。もう戻って問題ない』 頭の中に響く長門の声。それは目の前でハルヒの手当をしている長門ではない。閉鎖空間の中で俺の身体を 乗っ取ったときと同じだ。何でここにいる? 『朝比奈みくるのTPDDを再度使用した。ここにも朝比奈みくるがいるので、同じ方法で戻れる』 「だがよ……世界がどうなるかわかっているのに……」 「自分の力を過信しないで」 そう反論してきたのは、ハルヒの手当をしている長門だ。俺の方をじっと見つめている。 「できなくても誰もあなたを責めたりはしない。あなたはあなたができることを確実にするべき」 『そう。そして、元の時間ではあなたを信頼している人たちが待っている』 まさか……古泉たちか!? だが、みんな俺の手で…… 『それは全て欺瞞。全ては彼らがあなたを利用するために手段。全員の無事は確認している』 ……そうか。よかった……よかった……! まだ俺はやり直せる……! 俺はすっとハルヒの両手を握る。 「待っていてくれハルヒ。絶対に迎えに来るからな! 少しだけ――少しだけ辛抱してくれ……!」 続いて、長門と朝比奈さんを交互に見回して、 「長門、朝比奈さん。ハルヒのこと……頼みます!」 「は、はい! がんばります!」 「あなたが来るまで全て対応する。任せて。必ず守ってみせる」 俺はすっと立ち上がり、町を破壊している神人を睨み付ける。何だかしらねえが、これ以上好き放題させねえ。 「長門! 俺を元の時間にもどしてくれ!」 『わかった』 長門の声と同時に、俺の意識が闇へと落ちた…… ~~その5へ~~
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涼宮ハルヒのOCG④ (2008/11~ ぐらいの時期だという前提でお願いします) 「えーっとね、潜水艦でキョンくんに攻撃して・・・カードを一枚伏せてわたしの番は終わりだよ。」 「違うわよ妹ちゃん、ターンエンドの前にこのカードを伏せとくの。そうすればキョンが何か出してきても一発で除外・・・」 今俺の目の前にはなぜかカードを握る我が妹と、その後ろからあーだこーだと口出ししてるハルヒがいる。長門はというと後ろの方で俺の本棚をあさっている、マンガぐらいしかないから面白くないと思うぞ長門。そして場所は俺の部屋だ。さて、何でこんな状況になったんだろうな。少し時間を遡って話していくか・・・。 朝倉との奇妙な再会の翌日、やはり朝倉は北高に転入してきた。俺のクラスではなく長門のクラスだったので大した騒ぎにはならなかったのだが、我らが団長がそんなニュースを聞き逃すわけも無く、放課後部室で朝比奈さんのお茶を飲みながら一緒にデュエルをしている(ディアボリックガイを制限解除したのは絶対にミスだ)と、ハルヒがドアを蹴っ飛ばして、 「突然転校して突然転入した、うちのクラスの元委員長にして今は有希の友達、朝倉涼子よ!今日からSOS団の一員ね!」 と、一気に朝倉の自己紹介をした。俺たちの中で一番長かったんじゃないか?まあ、俺と長門はされたことすらないような気もするが。ともあれこんな感じで朝倉も放課後の部室に姿を現わすようになり、デュエルができることが分かると、 「すごいじゃない涼子!パーミッションなんてデッキ今まで見たことなかったわ、あたしと勝負よ!勝負!」 と当然のようにデュエルを始め、俺は朝比奈さんや長門、古泉と交替で勝負したり、ウィキでカードの裁定を調べたり(ライラのカード破壊効果、対象は相手の伏せてある天罰。ライラの効果にチェーンして天罰を使用して、天罰に魔宮の賄賂をチェーンしたとき、逆順処理後ライラは守備になるか)と、だんだん日常化しつつある放課後を過ごし、金曜の放課後をむかえると 「明日は全員で駅前に集合ね!遅れたら罰金よ!」 いつもの団長の命令で解散となった。 そして不思議探索の日、俺は罰金を免れた。前代未聞のことだが、理由は朝倉と長門が二人そろって遅れてきたためだ。どうやら朝倉が長門の服を選ぶのに時間をとられたらしい。 「長門さん、せっかくのお出かけなのに制服で行こうとするから、私の服と長門さんの服をいろいろ合わせてたの、そしたら・・・」 とのことである。珍しいこともあるものだ。まあ長門の私服姿は新鮮だったし、何より俺がおごりを免れたので万々歳だ。そして午前中のクジ分けだが・・・ 「あたしは無印」 「僕は印入りですね」 「無印」 「印入りです」 となって俺の手には無印の爪楊枝があり、朝倉の手には印入りの爪楊枝があった。つまり俺・ハルヒ・長門と、朝比奈さん・古泉・朝倉となったわけだ。各々の会計を済ませ(割り勘ってのはいいね)分かれて歩き出すと、 「ねえ、今日はキョンの家行ってみない?」 とかハルヒが言い出した。こいつの発言が突発的なのはいつものことだが、なんでまた俺の家なんだ。 「なんか冬以来妹ちゃんに会ってなかったし、シャミセンも見てみたくなったから」 なんとも適当な理由だな。確か今日は両親とも妹の学級懇談会かなんかで午前中不在だったし、妹も一人での留守番を寂しがってた気もする。まあこの二人を連れてけば妹も喜ぶだろうし、あちこち連れまわされるよりはマシだが・・・ 「長門、お前はどうしたい?」 一応、見慣れない私服姿の宇宙人娘の意見も聞かなくてはならな・・ 「賛成、私も彼の自宅を訪問する。」 「決まりね」 というわけで先ほど出たばかりの俺の家へ舞い戻り、 「キョンの部屋がいいわ」 「賛成」 「わたしも~」 賛成3棄権1により俺の部屋へと入り、長門とハルヒがデュエルを始め(というかデッキ持ってきてたのか)、興味をもった妹が友達にもらったというカードを自分の部屋から持ってきて、3人で新しいデッキを構築。ルールを覚えつつの模擬戦ってことで今俺と妹+ハルヒがデュエルしていて・・・冒頭に戻るわけだ。 「裏守をリリースして邪帝召喚、効果でサブマリンロイドを除外、ダイレクトアタックで俺の勝ちだ妹よ。」 「うーキョン君つよーい。ハルにゃんくやしいよ。」 「そうよキョン、すこしは手加減しなさい!邪帝なんて壊れカード使っちゃダメよ」 ガイザレス使ってるお前に言われる筋合いはないぞ。ハルヒの教え方がいいのか、妹はルールの飲み込みが速い。カード名はまだ全然覚えてないようだが。 「一度あなたとあなたの妹だけで闘うべき」 いつのまにか後ろにいた長門が言った。そうだな、試しに一回ハルヒ抜きでやってみないか? 「そうね。一回やってみましょ。妹ちゃん、ちょっとこっちに来て、作戦会議よ!」 なにやら部屋の隅でごそごそやり始めたハルヒと妹を一瞥して、俺のベッドの上に腰掛けて珍しそうにマンガを読んでる長門を見た。 「面白いか?」 「・・・ユニーク。ただ、ラーの翼神竜は裁きの龍の完全下位に思える。」 まあそりゃそうだな。読みたきゃ借りていってもいいぞ? 「そう。」 ハルヒ達の方は終わったらしい、よし、いくぞ妹よ。 「うん。えへへ今度こそ負けないよキョンくん。」 「キョン、先攻は妹ちゃんにあげなさいよ」 ああわかってる。おれだってそのくらいのハンデはやるさ。 「じゃあわたしからね、どろー。モンスターカードを一枚セットして、カードを3枚伏せて、終わりだよ。」 3伏せとは気になるな・・・。まあいい、ドロー、俺はハーピイ・クイーンを召喚し・・ 「えーっとキョンくん、キョンくんがモンスターを召喚したときにね、この伏せたカードを発動したいの」 ・ ・・奈落の落とし穴、か。さらば俺のハーピイ。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「キョンくんの番がおわったときに、サイクロンを使って伏せたカードなくしちゃうね。やったーキョンくんのとこにカードなんにもなくなった!」 げ・・・。エンドサイクなんてできたのか妹よ。しかも神宣とかおいしいのを破壊するとは・・ 「いいわよ妹ちゃん!」 ハルヒが後ろでエールを送っている。くそ、忌々しいがいかんともしがたい。 「わたしの番だね、どろー。もぐらをだして、キョンくんにこーげき!カードを一枚伏せて終わりだよ。」 もぐらといってもグランモールではない。ドリルロイドである。よって俺のライフは残り6400というわけだ。俺のターン、ドロー。霊滅術師カイクウを召喚、ドリルロイドに攻撃だ。んでカードを2枚伏せてターンエンドだ。 「どろー、潜水艦をだして・・・」 おっとそうはいかん、召喚したときに激流葬を発動だ。フィールド上のモンスターを全部破壊するぜ。 「えーーつ、キョンくんずるーい。」 「キョン少しは遠慮しなさいよ。」 そうはいわれてもな、それに除外されないだけマシだと思うぞ。妹よ、ターンエンドか? 「あ、うん。」 俺のターン、ミストバレーの戦士を召喚、プレイヤーにダイレクトアタックだ。そしてカードを一枚伏せてターンエンドだ。 「うわーライフが6100になっちゃった。ハルにゃんー、大丈夫かな?」 「平気よ平気、ライフが0にならなきゃ全然問題ないわ。」 全然問題なくも無いがな、ハルヒ。800きるかきらないかってのはけっこう微妙なラインだぞ。洗脳的な意味で。 「えと、わたしの番だね、どろー。裏側でモンスターを出して、カードをもう一枚伏せておわりだよ。」 裏守か・・・。おそらくトラックロイドか何かだろうが伏せも気になるしここは普通に攻撃といこう。ミストバレーの戦士で裏守に攻撃だ。 「ひっくりかえって召喚。ひっくりかえったからメタモ・・メタモルポッドの効果をつかうね。キョンくん手札捨てて5枚引いてー。」 なんてこった。今までのデュエルであんなカードは出てきてないぜ。さてはハルヒの差し金か。仕方ない、カードを5枚ドローだ。そしてメイン2、霊滅術師カイクウを召喚。8シンクロでダークエンドドラゴンを特殊召喚。一枚伏せてターンエンドだ。 「わたしのターン。カードをひいて、伏せてあったカードを使うね。チェーン・マテリアル!手札・デッキ・墓地からトラックと新幹線ともぐらさんと戦闘機をフィールドの外に置いて、手札から線路が3本伸びてるカードを発・・・」 そうはいかん。ビークロイド・コネクション・ゾーンにチェーンして神の宣告だ。 「えーっと、キョンくんの神の宣告にね、わたしもカードを使うの、神の宣告!」 ふっ・・・それも読んでたぜ。さらにチェーンしてもう1枚神の宣告を発動だ。悪いな妹よ。そう簡単にやられはしないぜ。 「キョンくんのカードに・・チェーンして・・・魔宮の・・・・ハルにゃん、これなんて読むんだっけ??」 「わいろよ妹ちゃん!」 「そうだった。魔宮の賄賂を発動するね。」 ちょっと待て、なんで魔宮の賄賂なんていう高額カードが妹のデッキに入ってるんだ?うちにそんなカードはないぞ。というかあったら俺がデッキに入れてる。ふと視線をずらすとハルヒがニヤニヤしながらこっちを見てる。なるほど、これもハルヒの差し金か・・。 「甘いわよキョン!あたしたちがさっきの作戦会議でなんにもしてないと思ったの??」 一杯くわされたな。まあ仕方ない。逆順処理でビークロイド・コネクション・ゾーンは有効。ライフは妹が1525、俺は1600.んで、何を召喚するんだ? 「ロボット!」 スーパービークロイド・ステルスユニオンね、了解だ。だがチェーンマテリアルを使ったターンは攻撃できない。俺のターンだ、ドロー! 破壊耐性はあっても墓地へおくる効果への耐性はないぜ!ダークエンドの効果を使い・・ 「読んでたよ!てへっ! 天罰をはつどう!」 なんだって、なんか朝倉の時以上にカウンターばっかりされてるな・・・。裏側守備でモンスターをセット、ターンエンドだ。裏守なら吸収はされない、なんとか次のターンまで・・・ 「わたしのターン、ドロー。もぐら・・じゃなくてドリルロイドをしょうかん!ドリルロイドでキョンくんの裏側モンスターを攻撃!そしてステルスユニオンでキョンくんにダイレクトアタック! やったーキョンくんに初めて勝った!ハルにゃんやったよー」 「すごいわ妹ちゃん、えらいえらい。」 ハルヒと妹は手を取りあって小躍りしてる。負けた・・・なんだか普通に負けた。あんなにカウンターされるとは思ってもいなかった。正直いおう、ショックだ。 「勝負は時の運」 長門が呟くように言った。そうだな、まあこういうこともあるよな。 「そう。この漫画を借りたい。」 ん?○戯王か? 構わんが今日はこれから午後もあるのにもって歩くのは邪魔じゃないか? 「大丈夫。情報操作は得意。私の家まで転送する。」 そうか。まあそれならいいんだが。長門、最近情報操作能力の使いどころがおかしくないか? 「気のせい」 気のせいではないと思うんだが・・・まあいいか。 「おっと、もうこんな時間ね。キョン、有希、午前の部は終わりだからそろそろ出かけるわよ!」 妹とはしゃいでいたハルヒが時間に気づいていいだした。今度は俺もデッキを持っていけとのことらしい。午後もどっかでデュエルするのか? 「お邪魔しましたー。妹ちゃん、またね!」 「うん、ハルにゃん、有希ちゃん、楽しかったよ~。」 妹と別れて家をでた俺たちは(結局デュエルするためだけに俺の家に来たんだな)再集合場所の駅前へ向かった。なんか今日は一日が長いぞ。まだ半分も終わってないとか信じられん。だが・・・久々に妹があんなに喜んでいるのを見たような気がする。これもハルヒのおかげか。ありがとうな、ハルヒ。 「な、何よ急に・・・」 「なんか妹が喜んでたからさ、その礼さ。」 「ふ、ふん。あんたが普段かまってあげないからでしょ! でも・・・・・・・・・どういたしまして。」 最後の方は消え入るような声で言ったハルヒはプイと前を向いてしまった。やれやれ、午後のクジ分けはどうなるかな、少し楽しみだ。 ハルヒ+長門+妹という奇妙な組み合わせで午前中を過ごした俺達は(といってもただ決闘していただけだが……)駅前で再集合してファーストフード店で昼食をとったあと、午後の部のクジ分けをした。 「いつも爪楊枝じゃ面白くないわ!たまには変わったクジ分けをしましょ!」 というハルヒの鶴の一声によりハルヒのデッキの中から罠とモンスターを各三枚ずつ選んでテーブルの中央に置き、それぞれ引くことになった。爪楊枝と根本的には何も変わらないような気がするのは気のせいだ、多分。 「俺は剣闘獣の戦車」 「あたしはダリウスね」 「僕は剣闘獣ムルミロです」 「………次元幽閉」 「えと…魔宮の賄賂です」 「私は剣闘獣ベストロウリィね」 という結果になり(見れば見るほど剣闘獣だ。やれやれ)午後は俺・長門・朝比奈さん、ハルヒ・朝倉・古泉になった。あれ、また長門が一緒か……まあこういう日もあるだろう。 「今日中に最低1つは○ナミの不思議裁定を見つけるわよ!各自分かれて探索開始っ!」 そう宣言するや否やハルヒは朝倉の手をとってあっという間に行ってしまった。そのあとを古泉が小走りで追いかけている、ごくろうなこった。というか不思議裁定を見つけるならわざわざ街をぶらつく必要もない気もするが、ここは敢えてツッコまないでおこう、ハルヒのことだ、代わりに何を言いだすかわからん。それに今の状況は両手に花、しかも未来がらみも宇宙がらみもないときてる。この状況に文句を言ったらバチがあたるぜ。 「あのぅ………キョン君?」 俺がよからぬ妄想に入りかけたとき、朝比奈さんが声をかけてきた。なんでしょう? 「えーと、今日このあと行きたいところとか、予定とかありますかぁ?」 いえ、とくにはないですが……長門はどうだ?図書館とか行きたいか? 「今日はそれほど行きたいわけでもない。」 長門にしては曖昧な表現だ。まあ何か予定があれば合わせると考えて問題ないだろう。 「二人とも何もないのなら……鶴屋さんの家に行きませんか?」 鶴屋さんの家に行くのはバレンタイン以来か。あのときは全く大変だったな。今回は「みちる」さんも連れていく必要もなさそうだしあちこち歩き回るよりはゆっくりできそうだ。長門、どうだ? 「構わない」 ということで朝比奈さん、俺も長門も賛成です。 「よかったぁ…。じゃあ、案内しますね!」 朝比奈さんは可愛らしくうなずくと前にでて駆けていった。俺も何回か付近まで行ってるから道は知ってるんだがな。まあそこをつっこむのは野暮ってものさ。 「やあやあみくるにキョン君に有希っ子、よく来たねっ!さあさあ中へ入った入った!」 鶴屋さんの家である和風の邸宅(相変わらず広いな)の入り口につくと、朝比奈さんが連絡したらしく、ハイテンションの鶴屋さんが迎えてくれた。どうやら今日の午後は朝比奈さんと鶴屋さんは遊ぶ約束をしていたらしく、もし不思議探索があったとしてもそのメンバーも連れてくることになってたらしい。ハルヒとペアが一緒になってたらどうしたんだろうな、いやでも鶴屋さんの誘いならハルヒも応じたかもしれん。 「さぁさぁみんなこっちにょろ」 鶴屋さんが案内した先は1つの部屋だった。この屋敷は和風で統一されているのだが、この部屋は最近作ったらしく半洋風半和風といった感じだ。 「今日はここで思いっきり遊ぶっさ!」 鶴屋さんがその部屋の戸を開くと、 「うわぁ………」 「すげぇ……」 「……………驚愕」 そこには○ナミのカードゲームセンターを彷彿させるような光景が広がっていた。壁にはガラスケースに飾られた大量のカード(なんとサモプリもプリズマーもある)、部屋の中央には長テーブルと椅子、テーブルの上には印刷されたデュエルフィールド、さらにライフカウンターまでおいてある。やっぱ鶴屋さんって金持ちだったんだな……。というか親御さんはなんていってるんですか? 「なんか元々うちは○ナミの大株主だったらしくてさっ、わたしが興味もったっていったらいい機会だからって会社の人が作ってくれたんだよっ。今度ここで公認大会もやるらしいっさ!まぁカードゲームセンター鶴屋店ってとこだねっ!」 鶴屋さんはアハハと快活に笑った。ん?鶴屋さんは確か「興味をもった」っていってたな。ということは興味をもつきっかけがあったはずだ。鶴屋さんと仲のいい友達といえば……… 「鶴屋さん、こないだ遊んだときに家でデュエルやったらすごく面白がって、それからたまに一緒にやるようになったんですよ」 俺が答えに辿り着くよりも先に、朝比奈さんが答えてくれた。ううむ……たったそれだけでこんな部屋まで作ってしまうとは、ハルヒといい長門といいデュエルには何か人をひきつける魅力があるのだろうか?まぁ俺も今となっちゃ面白いが、初体験でここまでいれこんだかどうかは正直わからんな。 「キョン君、私と一緒にやらないかい?」 デッキを片手に(緑色のスリーブだ)鶴屋さんは言った。つまりデュエルやらないかい?ってことだろう。いいですよ、じゃあその奥のテーブルで…………ってちょっと待て、いつのまにか俺と鶴屋さんの間に人が割り込んでいた。ライトロード使いの宇宙人である。 「午後は私が」 とデッキ(スリーブは白だった)を片手に瞬間移動としか思えないスピードで俺と鶴屋さんの間に移動した長門は言った。あー、なんだつまり午前中はデュエルしなかったから午後はやりたいと、そういうわけか? 「そう」 といいつつ長門は首だけをこちらにむけた。 「わはは、面白いね有希っ子は!わたしはどっちでもいいにょろ?」 鶴屋さんは快活に笑って俺の判断を待っている。うーむどうしたものか。 「だめ?」 長門が数ミリ首をかしげた。その仕草は反則だぜ。分かった、先に鶴屋さんとやっててくれ。後で代われよ? 「わかった」 長門はわずかにうなずくと鶴屋さんとテーブルに向かいあって座ってデッキをきりはじめた。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「ライトロード・パラディン ジェインを通常召喚。ターンエンド。エンドフェイズ、ライトロード・パラディン ジェインの誘発効果 デッキからカードを二枚墓地へ送る。」 うげ…、ライロぶんまわりだな全く。というか長門、そんなにモンスター名を正確に言わなくても大丈夫だぞ、大会じゃないんだしな。いや大会でもライロのモンスター名を毎回一字一句違わずに読むやつなんてそうそういない気がする。 「そう」 長門は僅かに首肯した。 「有希っ子らしいといえばらしいんだけどねっ!私のターンっさ!ドロー。サイバードラゴンを特殊召喚。ライオウを通常召喚。サイドラでジェインに攻撃にょろ。」 「ダメージステップ、ダメージ計算時」 あーオネストか。あそこまでポーカーフェイスでいられるとなんかすごいプレッシャーだな。 「でも鶴屋さんにはあんまり効果がないような気がします」 と朝比奈さん。まぁたしかにあの年中ハイテンションの鶴屋さんにはプレッシャーを感じることなどなさそうだ。 「とくになし。ジェインは破壊。」 ……ってブラフだったのか!長門が心理作戦を使うとは驚きだ。いったい誰から習ったんだ? 「朝倉涼子に聞いた」 納得。あいつは毎回重要どころでオネストを使ってきやがる。おかげでアルテミス攻撃表示でも迂闊に攻撃できやしない。やれやれ。 「ライオウで攻撃にょろ」 「攻撃をうける」 「カードを三枚伏せてターンエンドっさ!」 鶴屋さんのデッキはまだよくわからない。場にでてるカードだけだと朝倉のパーミッションとあんまり変わらんな。 「私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。手札よりおろかな埋葬を発動。ウォルフを墓地に送って誘発効果発動、特殊召喚する」 「特殊召喚にチェーン!奈落の落とし穴にょろ」 「ウォルフは除外。ルミナスを通常召喚、優先権行使、手札からガロスを捨てて墓地のウォルフを特殊召喚する。」 「スルーするっさ!」 「バトルフェイズ、ウォルフでライオウに攻撃する。」 「ターンエンド。ルミナスの誘発効果発動。デッキから三枚墓地へ送る。」 うーむ、奈落にライオウにサイドラか…。鶴屋さんのデッキはメタビートか?いかんせん汎用性が高すぎるカードばかりで全然分からん。朝比奈さんは鶴屋さんとやったことあるんですよね? 「はい何回もやりましたし、実はあのデッキもわたしがアドバイスして組んだんですよ?」 なんだってー、そういや朝比奈さんはSOS団の中で唯一の古参だったんだっけ。ん?なら朝比奈さんなら鶴屋さんのデッキを知ってるはずだ。 「朝比奈さ……」 「禁則事項です☆デュエルの勝敗が出てからの方が面白いですよ。」 うっ…朝比奈さんに考えを読まれるとは………普段はドジっ娘メイドでも、時々朝比奈さん(大)の片鱗が伺えるぜ。俺としてはいつまでも可愛らしくいてほしいのだが………いやそれはそれで将来が不安か。というか将来は既定事項か。あーもうわけがわからん。 「私のターンっ、ドロー!エアーマンを召喚っ!誘発効果でデッキからアナザーネオスをサーチっさ。バトルフェイズ!エアーマンでルミナスに攻撃っさ!」 「破壊される」 「カードを二枚伏せてターンエンドにょろ」 俺と朝比奈さんが話している間にもデュエルは進んでいた。そういやハルヒ達はどこいったんだろうな?午前はただ俺の家に来て妹と遊びつつデュエルしただけで終わったんだが、午後も似たり寄ったりか?それとも○ーガやアメ○リとかのカード屋を巡ったりとか、まあそんなとこだろう。黙ってれば普通に可愛いハルヒと谷口的美的ランクAA+の朝倉、悔しいが顔はいい古泉が店内に入ってきたら客はどんな反応をするのかね。 「私のターン、スタンバイ、メイン。ウォルフをリリースしてケルビムをアドヴァンス召喚。誘発効果、コストで墓地に4枚送る。対象はサイバードラゴンと伏せカード1枚。チェーンは?」 「あるにょろーん。効果にチェーンしてスキルドレインを発動。コストでライフを1000払うっさ!」 「バトルフェイズ、エアーマンに攻撃する」 「受けるよー」 「カードを1枚セットしてターンエンド」 「私のターンっ!手札から神獣王バルバロスを通常召喚さっ!バトルフェイズっ、ケルビムに攻撃っ」 ……鶴屋さんのデッキはスキドレバロスだったらしい。やれやれなんつう高額デッキだ。 「攻撃宣言時、罠カード光の召集を発動する。」 「あちゃ~これはやばそうにょろ」 スキドレ発動下でも何故か発動できるオネスト。長門や朝倉には悪いがやっぱやっかいだと思うのは俺だけだろうか。OCG化でこんなにも強力になったカードも他にはないだろうな。というかなんでいつも闇と光が優遇されるんだ!風属性のオネストを出せ、風属性を。 「オネストを手札より捨てて効果発動。ケルビムの攻撃力を3000上昇させる。バルバロスは破壊。」 「やられたにょろ~。ターンエンド!」 デッキ的には鶴屋さんのもオネストがいてもおかしくないんだが、どうやらいなかったようだ。 「…私のターン、ドロー。裁きの龍を特殊召喚。ジェインを通常召喚。バトルフェイズ、裁きでサイバードラゴンに攻撃。」 「攻撃宣言時に次元幽閉を発動っ!」 「裁きの龍は除外。ケルビムでサイバードラゴンに攻撃。」 「破壊にょろ。ジェインの攻撃も受けるっさ。」 「ターンエンド」 うーむ。鶴屋さんの状況はかなり厳しいな…。手札にはエアーマンでサーチしたアナザーネオスがあることはわかってるんだが、長門の場にはケルビムとジェインがいる。幽閉か聖バリ、ライボルをひけばなんとかなるってとこだろう。 「私のターン!ドロー!アナザーネオスを召喚っ!ジェインに攻撃!」 「ジェインは破壊。」 「カードを一枚伏せてターンエンドっ」 お、鶴屋さんカウンター罠をひいたのか? 「ブラフかもしれないですけどね…。一応アナザーネオスは光属性だし…オネストも警戒させられますね」 え?朝比奈さん、やっぱあのデッキにオネスト入ってるんですか? 「え?えーっと………禁則事項です☆」 ………多分入ってるんだろう。やれやれ。長門は攻撃してくるかな? 私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。バトルフェイズ…………………………………」 あれ、珍しく長門が長考している。一枚の伏せとアナザーネオスが光属性であることが攻撃を躊躇わせているのだろうか。まあ確かにこの攻撃の後ケルビムが除去されれば、スキルドレイン発動下ではかなり危険だ。バルバロスか死者蘇生で次のターン負けることもあり得るしな。 「……………ケルビムでアナザーネオスに攻撃する。宣言時何か?」 「ないよっ!」 「ダメージステップのダメージ計算時、優先権を放棄」 「こっちからはなんにもなしっさ!」 「アナザーネオスを撃破。ターンエンド。」 「鶴屋さんなんにもなかったみたいですね……」 朝比奈さんが俺の隣で呟いた。うーむこれはいったいどうなんだろうな。 「私のターン、ドローっ!私の負けにょろ。サレンダーっさ!」 「………了承する。」 サレンダーと共に鶴屋さんが手札と伏せを公開した。伏せはサイクロン。今ひいた手札は魔宮の賄賂、持っていたのはスキルドレインのようだ。やれやれ、伏せも全部ブラフだったってことか。 「なかなか楽しかったっさ!真剣勝負は面白いにょろ。」 鶴屋さんは負けたというのに相変わらずのハイテンションだ。鶴屋さんにとっては勝敗よりもデュエルすること自体が楽しいんだろうな。 「じゃあキョンくん。お待たせっさ!私と決闘!」 そういえば最初は俺とやるはずだったな。すっかり忘れてたぜ。 「………先にやらせてくれたことを感謝する」 席を変わろうとしたとき、長門が小さく言った。そんな大したことじゃないぜ。 「…………そう」 長門は僅かに頷くとカードが展示されているガラスケースの方へ向かった。 「こっちはいつでもいいよっ!」 見ると、鶴屋さんがデッキをディールして待っていた。よし、じゃあやりましょうか。じゃんけん、ほい。俺の先攻、ドロー! ………その後もしばらく鶴屋さんの家で遊んでいると、ハルヒの再集合の電話がかかってきたので(なんか機嫌が良さそうだった、なんでだろうな)俺と長門と朝比奈さんはいつもの駅前に向かった。ちなみに鶴屋さんとの決闘は俺の3勝2敗だった。ダルシムとデスカリが結構効いた。2敗のときはバルバロスとスキルドレインでこてんぱんにやられたけどな。 傾きかけた夕日に彩られた駅前にはハルヒと朝倉と古泉が既に待っていた。古泉があまり疲れた表情をしてないところを見るとそんなにあちこち振り回されたわけでもなさそうだな。よう古泉、そっちはどうだったんだ? 「フリー対戦会に参加しましてね。流石は涼宮さん、11勝4敗という素晴らしい成績でしたよ」 まあ剣闘獣だからそう簡単には負けんだろうな。ちなみに4敗のうち1つは朝倉らしい。パーミッション恐るべしだぜ。当のハルヒは朝倉や朝比奈さん、長門と談笑していたが、どうやら終わったらしい。 「本日のSOS団の活動はここまで!解散よ!」 腰に手をあてていつもの如く宣言し、俺達はそれぞれの帰路についた。長門は朝倉と、古泉と朝比奈さんは1人で、そして俺は……………ハルヒと二人でだ。たまたま駅前からの帰り道が一緒というだけなのだが、不思議探索の後ハルヒが上機嫌の時はいつもこうして帰っている。不機嫌の時はどうかって?触らぬ神に祟りなし、というか勝手にハルヒが帰ってしまうから必然的に別行動になる。ともあれ今日はフリー対戦会でボロ勝ちしたせいかえらく上機嫌だ。 「今日の大会楽しかったわよ」 ハルヒが言った。古泉から聞いたぜ、ボロ勝ちだったらしいな。 「あたしの剣闘獣がそう簡単に負ける分けないじゃない!……涼子には負けたけど」 らしいな。ちなみに朝倉や古泉の戦績はどうだったんだ? 「涼子は7勝5敗だったわ。『大寒波それ無理。』とか言ってたわね。古泉くんはボロボロだったけど、3勝はしてたわ。しかも商品で王宮の弾圧あてたのよ!すごいわよねー」 ハルヒは嬉々として言った。随分面白そうだったんだな。今度は俺も参加してみたいものだ。 「あったりまえじゃない!6人全員で参加してSOS団の名を天下に轟かすのよ!」 そんなこんなでハルヒと俺は帰り道を話ながら帰っていった。鶴屋さんが決闘できること、デッキはスキドレバロスであること、古泉だけなんであんなにデッキ構築が滅茶苦茶なのか、とかな。 ……ちなみに新パックはSOS団で箱買いが決定した。ダークダイブボンバーが当たることを期待するぜ。 END
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涼宮ハルヒの憂鬱Ⅲ(2006年放送版第05話、構成第03話・DVD版第04話/2009年放送版・時系列第03話) スタッフ 脚本:山本寛 絵コンテ:坂本一也 演出:坂本一也 作画監督:堀口悠紀子 原作収録巻 第1巻:長編『涼宮ハルヒの憂鬱』より第2章P96からP100まで第3章のP101からP108までP120~P136、第4章全てと第5章のP174まで。計67ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第2巻』に収録 紹介 2006年放送順では『涼宮ハルヒの退屈』を挟んで、時系列(DVD)順では『涼宮ハルヒの憂鬱 II』に続いてキャラクター紹介と属性紹介が続く。 2006年放送順からの人は前回で、長門、古泉、みくるが只者でないことが分かっている視点で見られ、各陣営からの立場などの説明も分かりやすいかも。 今回は『涼宮ハルヒの憂鬱 II』から続いて長門の話から始まり、みくるの話に続き古泉の話という流れ。キョンはあまりに突拍子のない3人の話を信じることはできない。 何気に今回のTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』で消化できない伏線がある。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『ETねこマン』。(DVD第03巻に収録)ETの部分はモザイクでつぶされかかっている。 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの激奏』DVDに収録): ハルヒ:次回、涼宮ハルヒの憂鬱第9話!! キョン:違う、いい加減学習しなさい!次回涼宮ハルヒの憂鬱第8話『孤島症候群(前編)』 。 ハルヒ:来週はねぇ……こちょこちょこちょ……(耳打ち音) キョン:んな!?、なんだってーっ!? DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 IV』。見て。 放送版とDVD版との違い 古泉がキョンに握手を求めるシーン、みくるがコケてオセロ盤につっこむシーンが追加。 鞄などの修正。 パロディ・小ネタ キョンが図書館で読んでいた本はハルヒの作者谷川流の別著『学校を出よう!』2巻。 長門が本棚から離れないので、キョンが長門に図書カードを作って本を借りる手立てを作る。 EDテロップで、1段目にキョンとハルヒのテロップが巨大で2人並んでいる。2段目は残り3人。これはハルヒがキョンと2人で探索したかったから?という疑惑がスレに浮上する。(キャストが5人しかいなかったというのもあるかもしれないが)このテロップについて、「超解読涼宮ハルヒ」(三才ブックス)では、『超監督』であるハルヒが自らの願望を表すため、無意識にテロップを改変させた…というネタ仕込なのではないか、との仮説を立てている。以降、このようなテロップの『改変』は随所に行われている。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 2段目 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 古泉一樹:小野大輔 スタッフ 脚本:山本寛 絵コンテ:坂本一也 演出:坂本一也 作画監督:堀口悠紀子 動画検査:中峰ちとせ 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:竹田明代 制作マネージャー:栗須貫大 原画 渡邊政治 植野千世子 秋竹斉一 福島正人 唐田洋 大更麗子 岡野文恵 第二原画 紅林誉子 池田さやか 羽根邦弘 橿原教子 冨田亜沙子 動画 定村ゆきな 池田さやか 大橋由巳 仕上げ 津田幸恵 瀬波里梨 一ノ瀬益美 小浦千代美 宿谷葉子 背景 細川直生 篠原睦雄 袈裟丸絵美 加藤夏美 川内淑子 松浦真治 鵜ノ口穣二 伊藤豊 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年4月30日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年4月30日25時30分-26時00分 tvk:2006年5月1日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年5月1日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年5月1日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年5月2日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年5月2日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年5月3日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年5月3日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年5月5日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年5月5日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月16日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月16日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月16日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年4月17日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月17日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月18日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月19日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月20日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月21日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月21日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月21日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月21日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月21日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月21日27時55分-28時25分 Youtube:2009年4月22日22時00分-2009年4月29日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年11月1日25時50分-26時20分 DVDチャプター アバン(0:00~0:27) Aパート開始(1:57~3:47)※題名無し信じて(3:48~5:47) 謎の転校生(5:48~8:02) はじめまして古泉です!(8:03~10:12) 演説ぶる涼宮ハルヒ(10:13~11:22) Bパート開始(11:23~12:07)※題名無しみくるちゃんとデート!?(12:08~16:03) 本当の歳を教えてください!(16:04~16:57) 長門と図書館に(16:58~18:37) 幸せの青い鳥(18:38~20:05) 3年前・・・(20:06~23:07) 下着姿のみくるちゃん!(23:08~23:35) 使用サントラ 0 00~0 26 SE 0 27~1 56 OP 1 57~3 29『長門の告白』サントラ03収録 3 30~3 48 SE 3 49~5 20『ザ・ミステリアス』サントラ02収録 5 21~5 53 SE 5 54~6 38『うんざりだ』サントラ03収録 6 39~7 15 SE 7 16~7 59『ザ・強引』サントラ05収録 8 00~8 46 SE 8 47~9 33『悲劇のヒロイン』サントラ03収録 9 34~10 17 SE 10 18~11 22『おいおい』サントラ02収録 11 23~11 45『特訓あるのみ』サントラ05収録 11 46~12 09 SE 12 10~12 42『小さくても素敵な幸せ』サントラ08収録 12 43~13 04 SE 13 05~15 52 『みくるのこころ』サントラ03収録 15 53~16 25 SE 16 26~16 52『特訓あるのみ』サントラ05収録 16 53~17 25『好調好調』サントラ03収録 17 26~17 32 SE 17 33~17 56『SOS団始動!』サントラ05収録 17 57~18 39 SE 18 40~19 17『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 19 18~19 44 SE 19 45~22 25『ミステリータイム』サントラ06収録 22 26~23 25 SE 23 26~24 38 ED 24 39~24 54『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
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ウルラ モンゴル帝国皇帝の系譜に登場する人物。 関連: ヨブクル (父)