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神聖な儀式だとか属性を決めるのに重要だとか、そんな理由でうっかり変なものを召喚するモンじゃない。 ゼロのルイズと馬鹿にされていた少女が春の使い魔召喚の儀式で召喚した「使い魔」のせいで、トリステインの日常はすっかり様変わりしてしまった。 「缶詰」の普及によって食料が100年でも備蓄できるようになり、何処にでも持っていけるようになった。 「ウォトカ」と「煙草」なる嗜好品が人気で、街中の何処へ行ってもヨッパライの姿と煙が目に付くようになった。あと道端の吸殻。 電信の普及で国中のどんな場所からでも情報をやりとり出来るし、その他の情報も電線を飛び交っている。 コルベール先生が協力して量産可能になった「エンジン」のおかげで、物資の運送には革命がおきたと言えるだろう。 けれど、何より変わったのは社会体制そのものだった。 革命と社会主義は精神的な伝染病だとは、ルイズの知らない異世界の冗句だが、その病に真っ先に罹患したのが、事も有ろうに女王・アンリエッタだったのだ。 戦争によって愛した人、ウェールズを失った彼女の心に、貴族も平民も関係ない、誰もが平等な理想郷という思想がスルリと入り込んだのである。 現在、トリステイン王国はアンリエッタを同志主席としたトリステイン社会主義連邦となっていた…… (パーパーッパラーッパー!) 安っぽいラッパの音と共に、魔法学院の側にそそり立つ「使い魔」が今日も活動を開始する。 ルイズによって異世界から召喚された「理想食堂(ユートピアカフェ)」は、隣接して発展した工業地帯の同志労働者の胃袋を満たす主体的食堂となっている。 装甲版によって守られた外壁には、右肩上がりを示す向上の生産量増加を誇らしげに喧伝するグラフと、 労働者一同が敬愛する同志主席アンリエッタの肖像が掲げられていた。 国内の様々な情報管理に利用されているパンチカード式タイムカードを押しながら、次々と開店準備を整えるメイド達は、親衛女給小隊の精鋭達である。 ちなみに、決められた時間までに入店していない場合はサボタージュの疑いにより取り調べを受けた後銃殺が定番だ。 「はい、それでは今日も祖国の自由と同士のために頑張りましょうね! なお、今月の標語は『お客様のニーズに合ったサービスを提供する』です。復唱!!」 整列したメイド達を前に、胸に勲章、腰に拳銃をぶら下げたメイド小隊長シエスタの訓示述べられている間にも、他の部署では着々と準備が整えられていた。 「死んでも水温計から目を離すな!」 「全自動シチュー調理器、炉心臨界です」 「よしっ、バブル開放!!」 無数の自動調理器がゴトゴトと音を立てる中で、突撃調理中隊の同志中隊長マルトーが檄を飛ばす。 「本日の逮捕ノルマは5人です。見つけた人には一杯奢ってあげますよ」 戦旗忠誠心高揚中隊では同志情報将校であるギトーが反社会主義者を逮捕すべく監視装置に目を光らせる。 その手にあるのは、複雑な形にパンチ穴の開いた酒類配給チケットだ。 「各部所、準備完了です」 「よし、理想食堂開店だ!!」 店と一緒に異世界から運ばれてきた「店長」の号令一下、開店を告げる警笛が鳴り響けば、たちまち店内は客の姿でごったがえす。 ユートピア・カフェは連日満員である。 「いらっしゃいませー。重トラクター省のお客様どうぞー」 ちなみに昼食は午前10時から、部署単位、分単位で来店して食事するように、国家主導の元スケジュールが決められている。 また、金銭ではなく支給されている食券で食事が出来るので、国民が飢える事は決して無いのであった。 今日のメニューは油っこくて灰色のシチュー(具材不明)と合成タンパクに各種調味料・香料を添加して作られた合成ニシン。 水っぽいのにパサパサした黒パンとチューブ入りの練りサラダ。更に色付きぬるま湯みたいな大麦コーヒーが付くという豪華なものだ。 味がイマイチな事に関しては、自動調理器の民主的かつ主体的な発展が望まれる所である。 同志労働者達はアンリエッタ同士主席に感謝を捧げると、黙々と食べ黙々と席を立った。 「ありがとうございましたー。次は民主主義ベアリング工場の皆様どうぞー」 かくしてベルトコンベアにのった工業製品のように同士労働者の食事ノルマはこなされてゆく。 万が一食事中に、元貴族のぽっちゃり系少年労働者が 「相変わらずマズなぁ、ここの食事」 などと反国家的な思想を口にしても、たちまち警報が鳴り響き、カラシニコフを携えた戦旗忠誠心高揚中隊の憲兵が駆けつけて 「国家機密漏洩罪容疑だこのスパイめ! 逮捕するッ!」 と地下の取調室へと連れ出してしまうので、同志諸君は安心してノルマ通りに食事を遂行できるのである。 ……しかしまぁ、たまにはノルマの通りに食事を終えられない日もある。 この日も、平和平等板金工場の労働者がまだ昼食を終わらないうちに、終業時間の午後10時が迫っていた。 「あのぉ、そろそろ女給小隊の労働時間が規定を超えるのですが……」 「しかし、労働者に昼食を提供しないのはサボタージュにあたりますぞ、店長」 「ええい、お前達にサービス業の自覚は無いのか! お客様から全力で食券を受け取れ!」 シエスタとギトーに両側から責められて「店長」は指示を下す。 平和平等板金工場の同志労働者から集められた食券は纏められ、即座にギトーの元へと届けられる。 「うむ、書類は整っているな」 「我が国は自由と民主の理想国家であるから、残業などの悪しき因習は廃絶せねばならない。 よって―――この基本原則に則り、当店はこれより全力で閉店する!」 ノルマさえこなせば食わせたかどうかは重要ではない。 店の前に列を作る平和平等板金工場の同志労働者を残して、ユートピア・カフェは閉店した。 そこで文句を言うような反社会的な労働者は即逮捕なので、同志一同は静々と各自の家へと帰宅していく。 ちなみに「各自の家」も国家によって支給され平等に割り振られる、通勤に便利な理想的集合住宅で国民は安泰だ。 …… ………… ……………… 「と、ゆーワケで、本日も問題なくノルマをこなすことができました、じょうお……同志アンリエッタ様」 「そう。それは良かったわ。貴方の召喚した使い魔『理想食堂』のおかげで、この国は本当に理想的な素晴らしい国家になったわね、同志ルイズ」 「……本当に、そうなんでしょうか?」 「もちろんよ。同然じゃないの? そうじゃないなんて言ったら、危険思想で地下室行きになってしまうわルイズ。うふふふふふふふふふ」 「そ、そうですよね、社会主義万歳、アンリエッタ様万歳ですよね。おほほほほほほほほほ」 「うふふふふふふふふふふふ」 「おほほほほほほほほほほほ」 ガス田からパイプラインで送られてくるエネルギーのおかげで、夜も明るい首都トリスタニア。 その中心、旧トリステイン王城、現連邦中央評議会議事堂の最上階で、二人の少女の笑い声は何時までも響き渡るのであったとさ。 めでたくなし、めでたくなし。 戻る
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【作品属性】脳内+パロディ+前作流用 【作品名】宗教大戦(仮題) 【共通設定・世界観】全宇宙全次元全階層が宗教によって対立したら・・・なんて感じの話。 小宗力:別に匂いは消さない。1小宗力がハツカネズミの平均的な力くらい。 大宗力:体の匂いの力では無い。1大宗力で全階層全宇宙全次元を破壊可能。何小宗力が1大宗力になるかは不明。 大宗防御:1大宗防御は全階層全宇宙全次元を破壊可能な攻撃と同等の防御。小宗防御もある。 【作者より】小宗力・小宗防御のキャラは面倒だから出さないけど、これを利用してキャラを作りたければ作れ。 でも大宗力・大宗防御の利用は許しませんよ。 【備考】過激派教徒にIP掘られて襲撃されたらどうしよう・・・(*1))ガクガクブルブル 【名前】ジャッド=ノリステイン 【属性】生前は万引き犯、後に神 【大きさ】150cmほどだが任意で拡大・縮小が可能 【攻撃力】1大宗力 【防御力】1大宗防御 【素早さ】万引きをする速さは誰にも負けない。神になった後は無限大? 【特殊能力】誰かの体に気づかれず寄生する。 【長所】特になし 【短所】特になし 【備考】万引きしたチョコレートをシェラに与えた男。自らを神と崇めるが、信者はいない。自殺して神となった。 無教の者が全てを終わらせる寸前、シェラの体に寄生しそのままで生まれて来ることにした。 そしてゴッド=オブ=アバスダムのいない新たな世界で復活、現物神として信者を増やし、最強神となると、 余興のために第二次宗教大戦の開催を宣言した。なお、最強神としてのスペックは未だ分かっていない。 462 名前:格無しさん 投稿日:2006/06/14(水) 01 42 54 ナーバミー博士、考察も何もベニッツとかと同じ。 残り、チャールズ=ダーウィンとジャッド=ノリステイン ヒンドゥー教の真の神 >チャールズ=ダーウィン >ヤハウェ(アッラー) >釈迦如来 >天照大神 >イエス >モーセ >ムハンマド =メガアント×100003000匹 >ハーム神 >ベニッツ神 >マトリクス・キャリバー >ヤストラナガン 光坂萌 >ジャッド=ノリステイン
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【作品属性】脳内+パロディ+前作流用 【作品名】宗教大戦(仮題) 【共通設定・世界観】全宇宙全次元全階層が宗教によって対立したら・・・なんて感じの話。 小宗力:別に匂いは消さない。1小宗力がハツカネズミの平均的な力くらい。 大宗力:体の匂いの力では無い。1大宗力で全階層全宇宙全次元を破壊可能。何小宗力が1大宗力になるかは不明。 大宗防御:1大宗防御は全階層全宇宙全次元を破壊可能な攻撃と同等の防御。小宗防御もある。 【作者より】小宗力・小宗防御のキャラは面倒だから出さないけど、これを利用してキャラを作りたければ作れ。 でも大宗力・大宗防御の利用は許しませんよ。 【備考】過激派教徒にIP掘られて襲撃されたらどうしよう・・・(*1))ガクガクブルブル 【名前】ジャッド=ノリステイン 【属性】生前は万引き犯、後に神 【大きさ】150cmほどだが任意で拡大・縮小が可能 【攻撃力】1大宗力 【防御力】1大宗防御 【素早さ】万引きをする速さは誰にも負けない。神になった後は無限大? 【特殊能力】誰かの体に気づかれず寄生する。 【長所】特になし 【短所】特になし 【備考】万引きしたチョコレートをシェラに与えた男。自らを神と崇めるが、信者はいない。自殺して神となった。 無教の者が全てを終わらせる寸前、シェラの体に寄生しそのままで生まれて来ることにした。 そしてゴッド=オブ=アバスダムのいない新たな世界で復活、現物神として信者を増やし、最強神となると、 余興のために第二次宗教大戦の開催を宣言した。なお、最強神としてのスペックは未だ分かっていない。 462 名前:格無しさん 投稿日:2006/06/14(水) 01 42 54 ナーバミー博士、考察も何もベニッツとかと同じ。 残り、チャールズ=ダーウィンとジャッド=ノリステイン ヒンドゥー教の真の神 >チャールズ=ダーウィン >ヤハウェ(アッラー) >釈迦如来 >天照大神 >イエス >モーセ >ムハンマド =メガアント×100003000匹 >ハーム神 >ベニッツ神 >マトリクス・キャリバー >ヤストラナガン 光坂萌 >ジャッド=ノリステイン
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前ページトリステイン魔法学院Z 第三話 「穢れなき教師 その名はギトー」 その日の朝、バーニーとペイトンの二人が目覚めて真っ先に感じたものは、酷い頭痛であった。その痛みに顔をしかめつつも、 「…おはようバーニー」 「ああ、おはようペイトン。…やっぱ、夢じゃぁないよな」 「あたぼうよ。夢であってたまるかい。それにしても、頭が痛いぜ。飲みすぎた…」 「全くだね、声がガンガン響いてるよ、ペイトン。だけど…」 「ああ、最高の朝だな!」 ペイトンのその言葉と共に、二人は二日酔いの頭痛を感じつつも高らかに笑いあった。こっちの世界…つまり、トリステイン魔法学院で生活するようになって最高の目覚めであった。 なにより、椅子を寝床にし、食事を恵んでもらう生活からやっと解放されたのである。これほど痛快なことは無い。多少の頭痛がなんであろうというのか。 笑い終えたペイトンは、咳払いをし、真面目な顔を作ると気取った声で 「さて、我々はこうして最高の目覚めを迎えたわけだが…残念ながらその気分に水を差す任務が待ち受けている」 「ルイズを起こしに行くミッションですね、分かります」 「その通り!だが、昨日までとは違い、我々にはベッドがある!食事の心配も無い!ここは一つ、寛大な心で相手をしてやろうではないか!」 「Sir Yes Sir!」 芝居がかった調子でバーニーが敬礼を決めると、再び二人は腹の底から笑いあったのであった。 自室に来るまでにそんなやりとりがあったと知るわけも無く、いつもの通り使い魔に起こされたルイズは、二人が妙に上機嫌なのを診て訝しく思った。 「…何か怪しいわね、なんでアンタらそんなに嬉しそうなのよ?…はっ、もしかして寝ている私に何か悪戯を」 「しないしない。するわけない」 ルイズが喋り終わる前に、声を揃えて否定する二人であった。 「…そう全否定されるとそれはそれで何か腹が立つわね…ま、まぁいいわ。着替えを頂戴。」 「…本当、難儀なご主人様だなぁ…ほい、じゃぁ、俺達はいつもどおり外で待ってるよ」 「…怪しい…」 溜息とともに退出した二人を見送ると、ルイズは念入りに自分の姿を鏡でチェックしながら身支度を整えた。 本人たちは否定したが、やはりあの態度はおかしかったからだ。 だが、本当に何もしていない以上、当然異常が見つかることもなく、ルイズは首をひねりつつ、食堂へと向かうことになった。 そこでやっと、二人のあの態度の意味を知る事になったのである。 いつもどおり、使い魔に引かれた椅子に腰掛けたルイズだったが、予想もしなかった言葉に面食らう事になった。 「所でルイズ、僕たちの食事は別に用意してもらう事になったから、これからはもうスープもパンも用意する必要はないよ」 「そうそう、そういうわけで、食事してくるからまた後で」 そう言い残すと芝居がかった調子で恭しく礼をすると二人はすたすたと立ち去ってしまった。 「え?ちょ、それは一体?」 問いただそうとしたルイズだったが、しかしタイミング悪くブリミルへの感謝の祈りが始まってしまった。 自分一人だけしないわけにもいかないので釈然としないまま祈りを捧げている間に、二人の姿は既に消えていた。 「…どゆこと?」 ルイズの呟きに答えるものは、誰もいなかった。 「いやぁ、傑作だったな、あのルイズの呆気に取られた顔!」 「全くだね。これだけで食事が進むってもんさ」 してやったり、と言う表情でルイズのところから立ち去った二人だったが、ここに至って一つの問題にぶつかった。それはつまり 「なぁバーニー、ところでだ…その俺達の食事はどこに用意してあるんだろうな?」 「…どこだろうね?浮かれてないでもっとしっかり聞いておくべきだったな。夕食は部屋に用意してあったからなぁ」 自分たちの食事がどこに用意してあるかわからない、というものだった。本来ならこういう件は(一応)彼らの主人であるルイズに連絡が行っているべきなのだが、どうも先ほどの反応からして知っていた様子はない。 ルイズが知らないのだから、当然キュルケも知らないだろう。彼女には知り合ってから色々と助けられているが、この件に関しては、残念ながら当てに出来なさそうであった。 若干後悔しつつも二人は食堂を歩き回ってみたが、どうにもそれらしい物が見当たらない。やはり、誰か事情を知る物に聞かないとどうにもならないだろう。となると、誰が知っているか、と言う事になるのだが… 「…取り敢えず聞いてみようよ。ああ、ごめんね、そこの君」 バーニーはちょうどそこを通りかかったメイドを捕まえて尋ねた。振り向いた顔を良く見れば中々の美少女である。 こっちでは殆ど見られない黒髪とソバカスが特徴と言えるだろうか。アジアン…それもチャイニーズやジャパニーズっぽい顔立ちだなぁ、まぁどっちもここにはいないだろうけど、などと、どうでもいいことを思った。 「今日から食事を用意してもらえる話になっている筈なんだけど、なにか聞いてないかな?…ああそうだ、言い忘れてたけど僕はバーニー。で、こっちがペイトン」 「あ、はい!ミス・ヴァリエールの使い魔のバーニーさんと、ペイトンさん、ですよね?承ってます。もう用意は出来てますよ、厨房へどうぞ」 「厨房?厨房に入って良いの?ええと…」 「あ、すみません、私はシエスタと申します。えぇ、勿論普段厨房への立ち入りは控えてもらいたいんですけど、私たちが賄いを頂く所ですね。そこに用意してありますんで」 厨房はピークの時間こそ過ぎたものの、昼へ向けた仕込や下げられてきた食器の洗浄などでコックやメイドがあちこちを飛び回っていた。 そんな中をシエスタに先導されて付いていった二人は、厨房の一角にある小ぢんまりとしたテーブルに案内された。 何もかもが豪華なここトリステイン魔法学院ではあったが、さすがにここのテーブルは食堂の意匠をこらされたそれとは違い、あくまで実用本位の素っ気無いものであった。 とはいえ、二人にとってはどんなテーブルかよりもそこにどんな料理が並ぶか、が遥かに重要な問題である。そこには既に、生徒達が食べているのと全く同等の食事が並べられていた。 それを眺めて、二人は昨日自分達の為に用意された部屋に足を踏み入れたときと同じ感激をかみ締めていた。 「ああ、やっぱりいいよなぁ…俺達専用の食事が用意されてるってのはよ」 「ああ、全くだね。キュルケとの食事は悪くないけど、いつも分けてもらってばかりってのは内心男として情けないものがあったからね」 「全くだ。しかしアメリカにいたころは想像もつかなかったぜ。日々の食事がこんなにありがたく感じるなんてよ」 「全くだね。そういう意味じゃぁルイズには感謝するべきなのかもしれないな。したくも無い経験だったけどね。さて、ここでこうして馬鹿みたいに突っ立っていても仕方がない。早速食べようぜ、ペイトン」 「おうよ、お預けプレイは趣味じゃねぇしな」 嬉々として着席し、早速手を伸ばそうとした二人であったが、それは不意にかけられた不審声にさえぎられた。 「なんだあんたら?部外者はここに入ってもらっちゃ困るんだが。おいシエスタ、お前が連れてきたのか?」 「ちょっと待ってくれおっさん。彼女が悪いんじゃないぜ」 「すいませんマルトーさん、この人達が例の…」 「ああ、そういうことか。不躾な事を言っちまって済まなかったな。…ん?あんたらは…」 それだけで話が通じたようで、納得した様子のマルトーと呼ばれたコックであったが、すぐにその表情が怪訝そうなものに変わった。 しかしバーニー達の方には全く面識がなかったのでそんな反応をされる理由がまるで分からなかった。なのでその疑問を恐る恐るそのまま口にした。 「え…?すみません、僕たちが何か不味いことでも…?」 「いやいや、そうじゃねぇよ。驚かせて悪かったな。誰かと思えばお前さん達だったんだな。食堂で寝てたのを見かけたんで気にはなっていたんだが…」 そこまで言うと、マルトーはちょっと黙って、所在無さげに鼻の頭を書きながら、気まずそうに声のトーンを落として続けた。 「…その、何もしてやれなくて悪かったな。情けない話だが、迂闊な事をして貴族様に睨まれると後々面倒なんでな」 「別に良いさ。おっさんにはおっさんの事情があるよ」 「そうそう、変に恨みを買ってもいいことなんてないのは良く分かってるよ。気にしないでいいさ」 二人の返答を聞くと、マルトーは安堵したような表情を浮かべた。 「そう言って貰えると助かるぜ。ま、罪滅ぼし代わりと言っちゃなんだが、食べたいものがあったらいつでも遠慮なく言ってくれ。 腕によりを掛けて作ってやるぜ。自惚れるつもりは無いが味の方は期待してくれて良いぜ。 っと、言い忘れてたな。俺はマルトー。見てのとおりここでコックをやってる。そして俺はここの料理長だ」 「なるほど、あんたがここのボスってわけだ。そりゃ心強いな!なんでも良いのかい?」 「ああ、勿論材料に都合が付けば、だがよ」 「OK!こりゃぁ楽しみが増えたぜ。ま、そうはいっても出てくる物皆文句の付けようがないほど美味いしな。まぁ、今日のところはこれで充分さ。そうだ、バーニーは何かあるのか?」 「僕も特に無いけど…ああそうだ、ハンバーガーが食べたいね。本当はコーラも欲しいところだけど、流石に無いだろうし」 「ハンバーガー!ああ畜生!何で忘れてた!前言撤回だ!そうだよ!俺達アメリカ人はハンバーガーを食わないと死んじまうからな。 そういうわけでマルトーさんよ、俺達の希望はハンバーガーだ。ビッグサイズで頼むぜ」 「ええ!そうなんですか?すみません、気が付きませんで」 素っ頓狂な声を出すシエスタに、ペイトンは気まずそうに 「あー、ごめん。ジョークだからね?」 「シエスタ。そりゃぁアルビオン人がまずい料理を食わないと気が済まないってのと同じ類のジョークだろ。 おいあんたら、この娘は良い娘だが純真なんだ、あんまりからかわないでくんな。…ところでよ、ハンバーガーってなんだ?」 マルトーのその質問は浮かれていた二人を気落ちさせるのに充分だった。 しかし考えてみればこのマクドナルドもウォルマートも無いこのファンタジーな世界で都合よくハンバーガーが存在しているというのも虫の良い話である。 「あー、なんて言ったら良いのかな…僕たちの故郷の料理なんだけど…おいペイトン、詳しい作り方…わかるか?」 「俺がか?言えるわけないだろう!あー、おっさん、要はパンでハンバーガーステーキを…いや、これじゃ通じないんだよな、Hh.…」 そこでしばし言葉を捜していたペイトンは、 「ああそうだ、パティやレタス、トマトにピクルスなんかを挟んで食べるんだが」 「パティといっても色々あるぜ。何を使うんだ?」 「え…色々あるのかよ」 その言葉に二人は顔を見合わせて、ぎこちなく笑った。料理などした事も無い二人である。 詳しく作り方を尋ねられても、100%の牛挽肉を使っている、と答えるのが精々である。 いかにマルトーの腕がよくとも、そしていかにペイトンが楽観的とはいっても、これでは満足のいくものが出来るわけがないのは明白だった。 「ああ、すまない。うん。忘れてくれよ。俺達の故郷の料理だから、知らなくて当然だよな。リクエストは別なものにするよ」 気落ちして答えたペイトンに、しかしマルトーは食い下がった。 「ちょっと待ちな。知らないままに引き下がっちゃ料理人の名折れってもんよ。 それにあんたらの反応からすると、美味いもんなんだろ? そのハンバーガーとやらをもうちょっと教えてくんな。俺の意地にかけて美味いものに仕上げて出してやるぜ」 「いや、俺達も詳しい作り方を知ってるわけじゃないんだが…。まぁいいか。パティには牛挽肉を使うよ」 「ふぅん?で、それをパンに他の具と挟むんだから…えぇと、こんな感じか?」 二人の話を聞いて、暫く考えを巡らせていたマルトーだったが、どうやらハンバーガーのイメージが纏まったらしく、 「よし、昼を楽しみにしていてくれや。そのハンバーガーとやらを作ってみせるからよ」 そう言い切ったのであった。 「では授業を始める。知っての通り私の二つ名は疾風。疾風のギトーだ」 さて、その日の最初の授業は、ギトーが受け持ちだった。黒い長髪や漆黒のマントから漂う陰気な雰囲気と、 どうにも隠せない陰険さから生徒からは総スカンを食らっているが、本人はまるで気にしていない。 「最強の系統とは何かね、ミス・ツェルプストー」 「虚無じゃないんですか?」 「伝説の話ではない、現実的な答えを言いたまえ」 回りくどく尊大な言い方にキュルケは不快を覚えたが、質問自体には素直に答えた。 「…火ですわ」 「違うな。論より証拠だ。私に君の得意な火の魔法をぶつけてきたまえ。なに、遠慮はいらん。大した事にならんのは分かりきっているからな。 それとも、その有名なツエルプストー家の赤毛は飾りかね?」 あからさまな挑発である。 キュルケは優雅に溜息をつくと、むしろ笑顔で髪をかき上げた。 「仕方ありませんわね。治療費ぐらいは出して差し上げますわ。治療できれば、ですけれど」 言い終わるが早いか、キュルケが詠唱を始めた。直径1mはある炎の玉が完成し、正確にギトーをめがけ直進する。 だが、ギトーは避けるそぶりも見せず、腰に差した杖で剣を振るようになぎ払った。烈風が巻き起こる。 それは炎の玉をかき消し、そしてその向こうにいたキュルケを吹き飛ばした。 「いけない!」 咄嗟にそれを見たバーニーが超能力を発動させた。目的は、勿論キュルケを助ける事だ。かなりの勢いで壁へと吹き飛ばされたキュルケであったが、 バーニーの狙い通り、超能力によって急減速し、何事もなく着地することができた。 …いや、何事もなく、ではなかった。何分咄嗟の事で美味く加減が出来ず、スカートがマリリン・モンローの如く見事に捲れあがり、下着が見えてしまったのである。 とはいえ、流石にバーニーもペイトンもその眼福を楽しむだけの余裕はなく、ただキュルケの無事を安堵した。 ほっとしたように、バーニーの肩を叩きながら、ペイトンが呟いた。 「流石だ。でかしたバーニー」 そして、同時にギトーへの怒りが湧き上がった。 二人とも基本的に脳天気な馬鹿であるが、女に手を上げるとは最低、という典型的なアメリカンである。 ましてやキュルケはこっちに来てから何かと世話になった恩人でもある。それだけに、怒りを買うには充分であった。 「…おい、見ろよバーニー。かわいそうに、女の子には優しくしろって小学校で習わなかった奴がいるぜ」 「言ってやるなよペイトン。我がアメリカじゃぁただのクズだが…ここじゃぁ違うかもしれないだろ?」 茶化した調子ではあるが、声には怒気がみなぎっている。無論、ギトーがそれに反応しないはずも無い。 「…ふん、平民の使い魔風情が良く吼える。ヴァリエールの躾がなってないようだな。まぁいい。そんなに意見があるなら貴様等が答えてみろ。さぁ、最強の属性とは何だ」 指名こそしたが、ギトーはまともな返答を期待していたわけではない。よりにもよって自分の授業に使い魔だからとはいえ、平民が紛れ込んでいるのが気に入らなかったのである。 精々的外れな返答を罵倒してやろう、そういう魂胆だった。 だが、彼は間違っていた。彼らを侮ってはならなかったのだ。 バーニーは素早くギトーの腹を読んだ。…恐らく、コイツは自分の属性…つまり風こそが最強だと言わせたいのだろう。 今の態度からしてそれ以外は聞く耳持つまい。だが、わざわざこんな奴をおだててやるのも癪に障る。 そう思っていたところに、ペイトンが口を開いた。勿論、答えを知っていたわけではない。勝算などない。 だが、ペイトンはそこで黙っているような殊勝な性格では決してない。 ほんの僅かな時間考えてから思いつきのままにその言葉を継いだ。こういうものは、詰まったら負けなのだ。 そして、彼の答えは誰一人として予想していないものだった。 「さて先生、そいつぁ簡単だ。何時だって、愛が最強さ」 「あ、あんた、なんて馬鹿な事を言うのよ!少しは私の体裁という物を考えてくれない?」 悲鳴のようなルイズの叫びであった。…まぁ、ルイズならそういうよなぁ…と内心溜息をつきつつ、ペイトンはギトーの出方を伺った。 「…愛だと?馬鹿馬鹿しい」 まともな解答など最初から期待していなかったギトーではあったが、この答えは完全に馬鹿にしたように聞こえたので、立腹するには充分な理由となった。 しかもそれだけではない。 「さすが我らが英雄!」 「そうだ!愛だ!」 「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ!」 何故かこのふざけた答えが男子から猛烈に支持されている。それがますます気に入らず、 「…下らんな。愛など所詮欺瞞に過ぎぬわ」 ギトーは吐き捨てるように言ったのだった。皆が辟易した表情を浮かべる中、ペイトンは肩をすくめると、 「ああそうですか?まぁ、人それぞれですからどう思おうが別に構いませんがね。ところで俺の故郷での体験から言わせて貰えば、 その台詞はモテない童貞が良く使う負け惜しみなんですがね。まさか先生に限ってそんな事はないとは思いますが実際どうなんですかね?」 「どっ…」 ギトーは絶句した。予想外の返しと、いきなりの下品な展開に呆気に取られ、咄嗟に返す言葉がなかったのである。 まともな会話は不可能と判断し、ギトーは授業に戻ることにした。 「…話にならんな。まぁ、貴様ごときに回答させた私が愚かだったか。まぁいい。授業を続ける」 吐き捨てるように会話を打ち切ったギトーであったが…彼は気づいていなかった。既に彼は致命的なミスを犯していた事に。 絶句したのは余りにまずかった。 「お前、童貞だろ」 この質問に絶句した男がどういう目で見られるか、多くを語る必要はないだろう。 僅かなうちに教室の雰囲気は一変していた。冷ややかな目、同情するような目。忍び笑いを漏らすものも少なくない。 最初、教室の雰囲気の変化に怪訝な顔をした彼だったが、その意味を悟ると流石に表情が変わった。 ギトーは普段生徒の反感など微塵も気にしないのだが、そんな彼にもこの生暖かい反応は堪えた。 「な、何を馬鹿な事を!私は童貞などではない!言い掛かりは止せ!」 思わぬ侮辱に喋らずにはいられなかった彼だが…こんな反論は火に油を注ぐようなもので黙っていた方が遥かにマシだとは諸君は良く知っているだろう。 ご多分にもれず、教室の雰囲気は「ああやっぱりね」といったものであった。 焦ったギトーはますます墓穴を掘るような発言を繰り返し… そこへ芝居がかった調子でペイトンは立ち上がり、両手を広げつつ優しい調子で言った。 「まぁ皆落ち着きたまえ。童貞は罪ではない。それにメイジとしての実力にはなんら関わりのないことだ。そうでしょう先生?」 「そ、そう。そうな…うん?」 パニックになりかけていたギトーは助け舟と見てこれに飛びついたのだが…これでは私は童貞です、と自白したも同然である。 ギトーがそれに気づいたときにはもう手遅れであった。 勿論、童貞である事は人間としての価値を些かも貶めるものではない。だが、それが何よりも重大な関心となる時期がある事も事実である。 それはバーニーたちの故郷アメリカでも、我等が日本でも、そして魔法が実在するここハルキゲニアでも同じであった。 さて、そういう者達にとって普段尊大な態度で自分達にあたるものが実は童貞でした、となったらどうなるか。 言うまでも無くそれはもう地の底までも評価は落ちる。 先ほどとは比較にならないほどの遠慮ない野次や、哀れみや生暖かい同情を込めた視線がギトーを襲った。 生徒の反感など微塵も気にしないギトーであったがこれは非常に堪えた。 「僕は青銅のギーシュだが…先生はなるほど清童でしたか」 この野次が止めであった。「後は自習!」と言い残し、逃げるようにギトーは去っていった。 それを見届けるとバーニーはニヤリと笑ってサムズアップした。ペイトンも満面の笑みでそれを返す。 だが、その笑みが困惑顔に変わった。キュルケがやって来たのだ。その表情はいつものような余裕あるものではなく、不自然に無表情であった。 「…貴方達の仕業ね?」 言われて、二人は言葉も無かった。あの場合仕方が無かったとはいえ、下着が丸出しになったと言うのはやはりまずかった。 「…その通りだ」 「初めて握手した日のこと、覚えてるかしら?調子に乗るなと言っておいたはずよね?」 「勿論覚えてるさ。言い訳はしないよ」 「そう?潔いわね」 そういうが早いか、キュルケはバーニーの顔を思い切り張った。そして、打たれた頬を押えるバーニーの手の上から両手で包み込むようにバーニーの顔を押えた。 と、キュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべ、熱烈なキスをした。 「!?」 突然の事に呆然とするバーニーであった。たっぷり30秒ぐらいはそうしていただろうか。ようやく離れると、 「ふふ、助けてくれてありがとう。言い訳しないなんて、格好いいじゃないの。本気で惚れそうよ?」 熱っぽい視線で礼を言うキュルケに、 「ふっ、いい男は手柄を誇らないもんだぜ。所で…なぁキュルケ、俺は?そりゃあ直接助けたのはバーニーだが、俺だって同じくらい心配したんだぜ?」 「分かってるわよ。貴方にも感謝してるわ。両方熱烈なのと、両方軽く済ませるのとどっちが良いかしら?」 「…そうきたか。勿論、一番アツイ奴で頼むよ」 「あら?良い事言うわね。良くってよ?」 言うが早いか、バーニー以上の閃光の様な平手打ちがペイトンに炸裂した。そして、これまたバーニー以上の熱烈なキスが交わされたのだった。 違ったのは目を白黒させていたバーニーに対し、こちらは始終至福の表情を浮かべていた事であろうか。 ここが教室である事など全く気にしないようなその様子に周囲は大いに盛り上がり、ルイズなどは怒りで顔を真っ赤にしていたが、三人にはそんな事はまるで目に入っていなかった。 ようやく離れると、 「それにしても貴方達、本当に面白いわね。あのギトーを涙目にするなんて貴方が始めてだわ」 感嘆した調子でキュルケが言った。キュルケにとっても今のは相当に痛快だったようである。 「そりゃあどうも。けど、半分以上あいつが自爆しただけさ。大した事じゃない。しかしあいつも人望無ぇなぁ。そこだけは同情してやるぜ」 全く同情しているようには聞こえない口調で言ったペイトンであったが、実際教室を見渡してみても、ギトーのことを気遣うような生徒はまるで見当たらなかった。 振り返ってみれば一応止めに入ろうとした生徒も皆無であっし、これには自分のした事とはいえ、ちょっとやりすぎたかと思わないでもなかった。 だが、キュルケはもはや哀れなギトーの事などどうでも良かったようで、 「そういえば…貴方達今朝はどうしたの?朝食の時会わなかったけど…」 と、まるで別のことを言った。 「実はついに昨日から念願の寝床と食事を手に入れてね。もう食事を分けてもらいに皆を回る必要は無くなったんだ」 「あらおめでとう。でもどうやって?あのルイズがそこまで態度を変えるなんて、一体何をやったのか興味があるわ」 「ははは、ルイズに頼んだんじゃないんだなぁ。これが。学院長に直訴してね」 「…?ねぇペイトン、貴方一体何をやったの?確かに貴方はユニークな人だけど、それだけでオールド・オスマンがそこまでの待遇を与えるとは思えないし…」 「ははは、まぁ、それは…」 と、言いかけてペイトンはこの件は出来るだけ伏せておいた方がいいと判断した。 見た目はセクハラ爺とはいえ、学院長に一杯食わせたというのがどう思われるか判断できなかったからだ。 「秘密って事で。ま、学院長か、コルベール先生に聞けば教えてくれるかもよ?まぁ、バーニーの力と」 そこでペイトンは、人差し指でバーニーを指してから、親指で自らの頭を指しつつ 「俺のココの勝利、ってとこかな。さてそれより、今まで食事を分けてくれたお礼をしたいんだ。 もし良かったら昼食を一緒にとらないか?マルトーの親父が俺達の郷土料理を作ってくれることになっているんだ。 まぁ、どこまで再現できているかはちょっと不安だけどさ。勿論タバサも一緒で良いよ」 果たして、昼、期待と不安の入り混じった表情で再び厨房を訪れた彼らを待っていたのは。 「どうだい、初めてにしちゃちょっとしたもんだろう!これらの具に合うソースを作るのはなかなか苦労したんだぜ!」 「あ、ああとても美味しいよ」 「そうだろそうだろ。しかしこりゃなかなかいけるなぁ。改良すれば食堂のメニューにも加えられそうだなぁ」 褒められてご満悦なマルトーとは裏腹に二人の表情は微妙だった。 出てきたものは、確かに彼らが説明したとおりのものだったし、文句なく美味であった。 だが、それはどう見てもハンバーガーではなかった。 手づかみで喰らい付くハンバーガーとは違い、ナイフとフォークで切り分けて頂く…敢えて言うなら、ミートボールサンドであった。 「中々美味しかったわよ。ご馳走様、お二人さん。でも、余り嬉しそうじゃないわね?」 「あーそれは…期待していた物と違っていたと言うか…まぁ、俺達も作り方を良く知らないものを再現してもらおうって言うんだから、間違っていても仕方ないんだけどさ」 「あら、これでも間違ってるの?じゃぁ、本当はもっと美味しいってことなのかしら?」 「!…完成した暁には、是非。助力が必要なら協力もする」 キュルケの言葉にタバサは余程心動かされたようで、バーニーの手を取り、真剣な表情でまたの同席を要望してきた。 勿論、彼らに断る理由も無いので多少気圧されつつも快くOKする。 「…凄いわね貴方達。タバサにここまでさせるなんて」 それを見て愉快そうに笑うキュルケにタバサは少し頬を染めながら 「…美味しいのが悪い」 とだけ言うのだった。その表情は、彼女のような幼女体型は守備範囲外のペイトンもどぎまぎさせるような可愛らしさを持っていて、 ああなるほどキュルケが可愛がるわけだなぁ、と妙に納得したのだった。 と、そこでペイトンの頭に閃くものがあった。指を鳴らすと、 「良い事を思いついたぜ。ここでQOH団の旗揚げと行こうじゃないか」 「QOH?」 キュルケやタバサは当然のこと、バーニーも何の事か分からなかったので一斉に聞き返すと、 「Quest of Hamburger。つまり、我ら一丸となってここで始めてのハンバーガーを誕生させようってわけだ。」 「いいね、乗ったよ」 美味いハンバーガーはバーニーも大いに望むところである。一も二もなく頷いた。 「協力する、とさっき言った。だから乗る」 「あら?じゃぁタバサが乗るなら私も乗るわ。ふふ、面白い事になりそうね。…けど、貴方達のご主人様はどうするの?多分…いえ、間違いなく嘴を突っ込んでくるわよ?」 悪戯っぽくキュルケは笑った。 「ふむ。まぁハンバーガーを作ろうってだけだから妨害はされないと思うが…もし妨害しようとしたらどうするかね?」 「その時は実力行使も辞さない」 真剣なタバサの即答だった。 「ち、ちょっと待てって。まだそう決まったわけでなし。まぁ、俺達に任せておいてよ」 「勿論そのつもりよ。貴方達のご主人様だものね」 「やれやれ、気楽に言ってくれるぜ」 苦笑いしながらさて、どうやってルイズを言いくるめるか…と思案するペイトンであった。 こうして、厨房の一角での昼食会は過ぎていったのである。 前ページトリステイン魔法学院Z
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それって」 「あの鋼鉄のゴーレムを召喚するためのものじゃよ」 鋼鉄のゴーレム、つまり光武のことだ。 「ミス・ヴァリエールは自分の魔法で召喚できるようになったというが、キミはダメだろう。 だからそのためのものだ。あれだけの物を馬や竜で運ぶのも骨じゃからの」 「でもこれは、大事なものなのでは……」 「ああ、アカデミーで開発を進めていた汎用魔法兵器の一つなんじゃが、戦争に使うより はキミに使ってもらった方が良いと思って、持って帰ったんだ」 「しかし、自分のような者が……」 「そう謙遜なさるな。キミがワシを含めた学院の皆を守ってくれた、心ばかりの礼じゃよ」 「そんな……」 「もらっておきなさいオオガミさん」そう言って隣にいたコルベールが軽く肩に手を乗せる。 「は、はい。ありがたく頂戴いたします」 「うむうむ。それでいい。これは一旦召喚して、用が済めば元の場所に戻るという便利な 代物じゃ」 「それは凄い」 「ただし、ルーンの刻まれた石には限界があってな、そうじゃの。八回までしか使えんからな」 「八回ですか?」 「大事に使えよ。指輪の替えは、次に出来るまで時間がかかるゆえに」 「はい。わかりました」 「それからもう一つ。これはコルベールくんに渡そう」そう言って学院長は机の中から一冊の 本を出す。 「これは?」とコルベール。 表紙には何も書かれていないが立派な装丁の本だ。 「古文書の写しじゃよ。部下に命じてアカデミーの図書館から盗っ……、借りてきたのじゃ」 「これってまさか……」 「そう、オオガミくんの乗った鋼鉄のゴーレムに関する記述のある古文書じゃ。見つけるのに 苦労したというがの、この世界に起こっている異常を解くカギになるやも知れぬと思い持っ てきた」 「失礼します。ちょっと読んでみてよろしいですか」そう言ってコルベールはパラパラと学院長 から受け取った本のページをめくってみる。 「どうじゃろう」学院長は自信満々で聞いてきた。 「さすが学院長。かなり重要なヒントになりますよ。これからどうすればいいか迷っていたところ なので」 「そうか、それは良かった。これなら、オオガミくんが元の世界に戻れるヒントがあるやもしれん からな」 「は!」 元の世界に戻れる。最近忘れかけていたけれども、よく考えたらそれが最も目指さなければ ならない目標のはずである。のんびりとした時間の中で緩みかけていた緊張感を再び引き 締める大神であった。 オスマン学院長から貰った(借りた)古文書の写本によると、炎の衣と呼ばれるものが、 ゲルマニアという国の活火山地帯にある火の洞窟という場所に封印されているという。 大神はその話を聞くと、今すぐにでも火の洞窟に行ってみたい衝動に駆られる。しかしそこには 大きな問題が二つほど存在した。 一つはゲルマニアが外国であること。オスマンはトリステイン王国の臣民であるため、 自由な出入りができない。大神にいたっては無国籍だ。 もう一つは、火の洞窟には炎を司る竜がいる、ということである。竜といっても王国で 飼いならされているような竜ではなく、幾人もの戦士を葬り去った悪の化身のような竜だ という。 「竜なら、光武の力を使えばなんとか抑えられるかもしれません」 「しかし、どうやってゲルマニアの国境を越えましょうか」 コルベールの居室兼実験室で二人が悩んでいると、突然ドアが開いた。 思わずドアの方を見る二人。 「話は聞かせてもらったわ!!」 そこには、赤髪で褐色の肌、そしてあふれんばかりの胸を持つ女子生徒がいたのだ。 「キミは……」 「あらやだ、一緒に戦った『仲間』を忘れちゃったの?」 そう、彼女は大神とルイズが巨大ゴーレムと戦った際、人質に取られた学院長を救い 出した二人の女子生徒のうちの一人である。 「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。キュルケって 呼んでね、大神さん」そう言うとキュルケは軽くウインクをした。 「あう……」大神は年下の仕草に動揺しつつも聞く。「ところでキュルケ、キミはどこまで 聞いていたんだい」 「最初から最後までよ」 「盗み聞きとは感心しませんね、ミス・ツェルプストー」コルベールは動揺を覆い隠すように、 教師としての威厳を意識してやや強い口調で言った。 「ふふふ、本当に重要な話なら、結界の一つでも張っておくものでしょう?もし私が他国の スパイだったらどうするわけ?」 急に身構える大神。 「落ち着いて、別に私はスパイでもなんでもないわ。ただの留学生よ。もちろん家の方では そういう仕事を期待しているけど、私、政治とかには全然興味ないのよね」 「じゃあなんだって俺達の話を」 「ふふ、ここからは内密にしましょう」そう言うとキュルケはドアを閉める。 「……」 いつの間にか、キュルケの背後には青髪の少女が立っていた。背が低いのと、意図的に 気配を消していたようなので、その存在に大神はすぐには気付かなかった。 「彼女はタバサ、私の親友。知っているわよね、大神さんなら」 そう、タバサもキュルケと共に巨大ゴーレムと戦った女子生徒だ。シルフィードと呼ぶ青い 風竜の使い魔を従えている。無口で、喋っているところをほとんど見ていないけれども、強い 魔力の持主であることだけは大神にもわかった。 タバサが誰にも聞こえないような小さな声で呪文を詠唱すると、周囲は耳鳴りがするほど 静まり返る。 「タバサの魔法で音は遮断したわ。これで思う存分密談ができるでしょう、先生方」 「それで、君たちの話というのは」 「簡単よ。協力してあげたいの、大神さんに」 「ん?」 「私はゲルマニアの人間なの。だから私が手引きすればゲルマニアにも普通に入れるわよ。 万が一役人に捕まってもあなたたちの身の安全は保障するわ」 コルベールの補足説明によると、帝政ゲルマニアは中央に君臨する皇帝の権威が弱く、 地方の貴族が半独立的な勢力を持っているという。その中でもキュルケの実家である ツェルプストー家はかなりの領地と財を有しており、その影響力は皇帝に匹敵すると言っても 過言ではないらしい。 「だから大神さん。私を連れて行ってくれれば、仕事が楽になるわよ」 「……」 大神は押し黙ったままキュルケの瞳をじっと見つめる。 そしておもむろに彼女の前に出ると、キュルケの後の方にいるタバサに向けて言った。 「タバサ。もう結界を解いていいよ」 「……」一瞬目を見開いて、驚いたような表情をしたタバサだが、すぐに元の人形のような無表情 に戻り、口を素早く動かすと、再び外から音が聞こえ始めてきた。 「どういうこと?」とキュルケが大神に詰め寄る。 「キュルケ、二人きりで話をしないか」 「え……?」 学院内にある中央塔の最上階には、外を見張らせるベランダのような場所がある。 「風、気持ちいいわね」 高いところなので、風も強い。キュルケの長い赤髪が風によって柔らかく泳いでいた。 「それで、二人きりで話したいことって? 悪いけど今夜は予約が入ってるから」 「いや、そういうんじゃない」 「なんだ。大神さん相手なら、予約もキャンセルしてもよかったのに」 予約ってなんだろう、そう思いつつ大神は話を続ける。 「キミが俺達に協力する、本当の目的を教えてくれないか」 「本当の目的?」 「そうだ。俺達が火の洞窟を目指すのは、この世界の異変と俺が元の世界に戻るための 手がかりを得るためだ。ただ、それにキミたちが協力したところで、直接的な利益はないと 思うんだが」 「別に、ただ面白そうだからよ」 「そんな理由で連れて行くわけにはいかない」 「へ?」 「そんな理由で命を危険に晒すような真似はできないだろう」 「危険だなんて」 「俺達の話を最初から盗み聞きしていたのならわかるはずだ」 「それは……」 不意に目を逸らすキュルケ。彼女とは付き合いは浅いけれども、それが何かを隠している 仕草である、ということくらい世界的なニブチンである大神にもわかる。 「似ているのよね、あなた」 「ん?」 「大神さんって、昔私が好きだった人に。いや、好きっていうより憧れていた人かな」 「それが」 「彼がね、その昔あの火の洞窟の竜退治に行くと仲間とともに出かけて行ったの」 「……」 「でも、戻ってこなかった」 「……」 「私は待ったわ。何日も何日も。それでも、戻ってこなかったわ。そうして何日待ったかわから なくなったころ、私は決意したの」 「決意?」 「いつか私が強くなったら、彼の行ったあの場所に行き、彼の最期がどうなったのか確かめ てやろうって」 「え……」 「そうしたらたまたま例の洞窟の話をしているじゃない?鋼鉄のゴーレムの話は初耳だけど、 これって神が与えてくれたチャンスなんじゃないかって思ってね。だから大神さん」キュルケは、 今度は目線をそらさず大神の方をじっと見つめた。 「なんだい」 「私も連れて行って。絶対に足を引っ張らないから」 「……、わかった」 彼女の話が本当かどうか、なんてことはわからない。ただ、大神を見つめる視線は真剣その ものであった。 数日後の早朝。大神は旅の支度をして部屋を出る。 数週間前に戦場となった学院の中庭では、シルフィードという名前の巨大な風竜と少女が二人。 一人はキュルケ、そしてもう一人はシルフィードの主人、タバサだ。 コルベールは残念ながら仕事があるから行けそうにない。 他に何か忘れているような気もするのだが……。 まあいい、とにかく出発だ。大神は二人を促す。学院長から貰った古文書の写しと召喚の指輪は 持っているから問題はないだろう。 * ルイズ・フランソワーズは早朝に目を覚ました。しかし身体が動かない。 これは金縛り? 以前大神に聞いたことがある怪奇現象。意識はあるのに身体が動かないという。ただ 完全に動かないというわけではない。両腕と両足が動かないだけだ。よく見ると縄で縛ら れているではないか。しかも縄には魔法がかけられているらしく、縄ぬけができない。 「フガーッ、フガーッ!」 自分の魔法で縄の魔法を打ち消そうとするも、口には猿轡(さるぐつわ)をはめられて おり上手く喋れず、呪文の詠唱ができない。 やったのはキュルケね。 ルイズは心の中でそう確信した。 確信はしたものの、寝起きでまだ心も身体も動き出していないうえに、もがけばもがく ほど縄が食い込んでしまうのでどうにもならなかった。 * 朝の冷たい風が頬に当たる。 東に向かって飛んでいるため日の出はいつもより早くなるはずだ。 「寒いわ大神さん」そう言って身を寄せてくるキュルケ。 「あまりこっちに寄らないでくれキュルケ。落ちてしまう」 風竜の背中は大きいとはいえ、人が三人乗るには若干窮屈ではある。先頭にはタバサが 乗り、その後に大神とキュルケが二人並ぶように乗っている。 「悪かったねタバサ。付き合わせてしまって」 「……、別にいい」タバサは大神のほうを見ずに答えた。 そして布袋から何かを取り出して食べる。 「何を食べてるんだい?」 「食べる?」 「やめときなさい。それ、ハシバミ草よ」後からキュルケが声をかけた。 「ハシバミ草?」 「すっごく苦いの。タバサはそれを乾燥させたやつをおやつ代わりに食べるの」 「それがいいのに……」やや寂しげにつぶやくタバサ。 「はは。クッキーとかに入れたら食べられるようになるかな」と大神は冗談まじりに言ってみる。 「なるほど。クッキー…、なるほど」その言葉を聞いたのか、タバサは一人で何かブツブツと 言っていた。 「ああ、一人思考モードに入っちゃったわね」とキュルケ。 「なんだいそれは」 「ああなったら、話しかけても無駄よ。一人で延々と議論しているの、頭の中で」 「はあ、そうか」 シルフィードは一路東へと飛んで行くのであった。 ゲルマニア帝国内マエル火山帯。小惑星の衝突によってできたと言われる盆地に街並みが 広がる。 途中天候が悪化したため、予定より遅くの到着となった。夜になると危ないので、洞窟の探索 は明日にすることにしよう、ということで全員合意した。この日は麓の町で宿をとり、明日に備え 英気を養うことに。 ちなみに火山の町ということもあってここには温泉が。 温泉……! いやいや落ち着け大神一郎。そうだ、温泉はいい。日本を思い出す。温泉に入れば身も心も リフレッシュするはずだ、と大神は無理やりに思考を健全な方向へと導いていった。 「大神さん」 「!!」 大神が宿の部屋の中でウロウロしていると、部屋の外からキュルケの声がした。 「ああ、なんだい」ドアを開け対応する大神。なるべく平静を装っている。 「私たち、これから温泉に行くから」 「あ、そうなんだ」 「向い側の公衆浴場に行ってきますね」 「ああ、わかった。俺もちょっと疲れたけど、少し休んだら行こうかな」 「では」 そう言って大神は、キュルケと別れる。 そしてドアを閉めて考える。 キュルケとタバサは温泉に行っている。 ということは、 彼の頭の中で例の選択肢が出てくる。 1.……体が勝手に温泉の方に…… ちょっと待て! 全然選択肢になってないじゃないか、なんで項目が一つしかないの! 大神は心の中で叫ぶがなぜか抵抗できない(本能に)。 ふらふらと部屋を出ると、次の瞬間女性の悲鳴を聞いた。 「きゃあああああああ!!」 急いで宿を出て悲鳴のした場所に走り出す。 塀を越えるとそこは秘密の花園……。 「いやあああああああ!!!」 「いや、待ってくれ、俺はその……!」 問答無用で大神は風呂桶をぶつけられ、鼻血を出してしまった。 * その後、鼻の穴に綿をつめた大神は宿の部屋にいた。部屋の中には大神のほかに キュルケとタバサ、そしてもう一人。いや、もう一匹と言った方が正しい。 「これは」 「火竜ね。火竜の子供」 「ほう」 「きゅううん」 青のシルフィードとは違い、赤い外見の小さな、といっても中型犬くらいはあるドラゴンが いたのだ。大きな瞳に嘴。そして翼もある。確かに小さいが形はしっかりと竜だ。 「この子が温泉に紛れ込んでいたんだな」 「そうなのよ。それえ大騒ぎになって」 「そうだったのか」 「ところで大神さん」 「どうしたんだい、キュルケ」 「裸が見たいなら私に言ってくれればよかったのに……」キュルケが熱っぽい視線を送ってくる。 「最低」一方氷のように冷たい視線を送ってくるのはタバサの方だ。 「いやいや、誤解だって。俺は女性の悲鳴が聞こえたから」 「まあ、そういうことにしといてあげる」 「そういうことって……、それはともかく、この子はどうするんだ」 「飼いましょう」 「ダメだよ」 「冗談よ。恐らく迷って麓におりてきたのね。明日山に帰してあげましょう」 「そうだな」 「きゅるるる」 キュルケが竜の頭をなでると、気持ち良さそうに鳴く。まるで母子のようだ。 「名前は付けないのかい?」 キュルケが子竜をあまりにも可愛がっているので、大神はそう聞いてみた。 「え?つけないわよ」 「どうして」 「だってこの子、いずれ山に返すでしょ?名前をつけたら情が移って返せなくなるじゃない」 「そうか」 彼女の一応割り切っているのか。 「でもどうしてもっていうんなら、つけてもいいかも」 「ええ?」 「そうね、イチローとかどう?」 「却下で」 「もう。じゃあエリック」 なぜ彼女がその名前にしたのか、理由までは聞かなかった。 翌朝。この日も早い。大神たちは旅の準備を整え、火山帯へと向かった。目標は火の洞窟。 そこまでに行く道は領主によって閉鎖されているけれども、シルフィードに乗って飛んでいけ ば問題ない。 キュルケの腕には、昨日保護した火竜の子供がすやすやと寝息を立てて眠っていた。 こうして見ると、彼女は母性が強いのかもしれない。別の一面を見られた気がして、大神は 少し新鮮な気持ちになった。 「見えた」 タバサの声で下を見ると、そこには小さめの入口らしきものが見える。シルフィードは入れ そうもないほどの大きさだったため、彼(彼女?)は外で待たせて、大神たち三人と火竜一匹 で行くことにした。 入口こそ小さかったものの、洞窟の中はわりと広い。迷路のように入り組んでいるけれども、 迷うというほどではない。 「古文書によれば、この奥に伝説のゴーレムがいるという」タバサが小さな明かりを頼りに持っ てきた古文書の写しを読みながら言う。目が悪くなりそうだ。 「何よ、意外とアッサリしているのね。あたしはてっきり巨大なドラゴンでも出てくるのかと思っ たわ」キュルケはつまらなそうに言う。その後には火竜のエリックが、まるでカルガモの親子の ように、後をついて歩いている。実にほほえましい。 しばらく歩くと、大きく開けた場所についた。 「すごい……」思わず声の漏れる広さ。帝国劇場よりもさらに広い場所が洞窟の中に広がって いた。 「見てタバサ、大神さん。あそこに石碑が」キュルケの指さすその先には確かに石碑のような ものが見える。 警戒しながら近寄ってみると、そこには文字が書いてあった。 「読める? タバサ……」心配そうにキュルケが聞いてみる。 「う、うーん。見た事もない字」とタバサらしくない返答をする。 あの勉強家のタバサが分からない字。一体どんな文字なのか。大神も興味本位でのぞいて みると、 「あっ!!」 「どうしたの?」 「……?」 それは見覚えのある字であった。いや、見慣れていると言ったほうが正しいか。 漢字とかなで書かれた文字。それは間違いなく日本語なのだ。 しかしなぜ日本語。なぜこんなところに。色々と疑問は浮かんだが、今は石碑に書かれている 文章を読むことが先決だ。 「読めるの?」 「ああ、これは俺が元いた場所で使っていた文字だ。ええと、なになに。『世界に異変が起きた時、 それを救う手段として炎の霊子甲冑をここに封印す。封印を解くカギは、使い手と伝説の……を……』 うーん」 「どうしたの?」 「すり減っていて上手く読めないんだ」 「随分古いものだしね。って、何?」 「どうした」 「それが、連れてきたエリックが……」 よくわからないが何か震えている。 「光った?」 火竜のエリックが赤い光に包まれているのだ。 「え、一体どういうこと」 「ねえキュルケ、あなたも」タバサがキュルケの方を見て心配そうに言う。 「へ?」 つられて大神もキュルケの方を見た。 「どうなってるのよ!」 すると、キュルケ自身も赤い光に包まれているではないか。 続いて洞窟内が揺れ始める。 「地震か? 噴火か?」 大神はパニックになりそうな自身の心を静めるよう努め、周囲を見回した。 すると、石碑のあった場所の後の岩が音を立てて割れはじめた。 「なんだ?」 「これは!!」 岩の割れ目から出現したのは、間違いなく光武、霊子甲冑であった。それも真赤な霊子 甲冑。トリステイン魔法学院の地下にあったものとはまた違う光武である。 「そこまでよ!!」 洞窟内に聞き覚えのある声が響き渡った。 「誰だ!」 よく見ると、紫色のローブを着た魔術師。あれは、以前魔法学院で巨大ゴーレムを操って いた奴だ。 「お前は!!」 「ほっほっほ。また会ったわね。お宝の封印を解いてくれてありがとう。素直にそれを 渡せば、苦しまずに殺してあげますわよ」魔術師の不気味な声が洞窟内にこだまする。 “それ”とは、間違いなく炎の衣、つまりこの赤い光武のことだ。 「誰が渡すものか!」大神は当然言った。 「そう、あなたならそう言うと思ったわ。では蒸気獣ども、やってしまいなさい」 魔術師が手を広げると、広い洞窟内に何十体ともいえる蒸気獣が出現する。しかも学院で 見たものとは微妙に違う。色も赤に近いものだ。 「キュルケ、タバサ。キミたちは下がっていてくれ」 「でも大神さ……」 「いいから」 「……」 「タバサ」大神はじっと敵の様子を伺いつつ名前を呼ぶ。 「なに」 「これの使い方は、まだ聞いてなかったけど」そう言って自分の右手を彼女に見せる大神。 「召喚の指輪……」 「そうだ」 「召喚したいものを、強く念じればよい。ただそれだけ」 「ありがとう」 そう言うと大神は、指輪をつけた右腕を固く握り、それを上に向かって付きあげた。 「光武、召喚!!」 大神がそう叫んだ瞬間、指輪が光だし、その光は彼の足もとの地面に魔法陣を描き始める。 そしてその魔法陣から、トリステイン魔法学院の地下にある大神専用の白い光武が出現した。 「いいぞ」大神は素早く出現した光武に乗り込むと、レーダーで周囲の状況を確認した。 状況は数的に不利。だがこまめに霊力を回復させながら各個撃破していけば勝機は見える。 そう判断して飛びだした。 * 胸が熱い。いや、胸だけでなく身体全体が熱い。 キュルケの心臓は高鳴るばかりである。それはこの赤い炎の衣、いや、鋼鉄のゴーレム を見てから。 自身の体からあふれる赤い光。そしてゴーレムもまた、その光に呼応するようにわずかに 動いている。 金属の塊のような外見にも関わらずまるで生きているかのような反応に彼女は戸惑った。 もしかして自分も、大神一郎のようにこれに乗って戦うことができるのか。 キュルケはそんな事を考える。まさか自分には、そうは思ったけれども、目の前のゴーレム が呼んでいるようでならなかった。 自分のすぐ後ろで自分を守るために戦っている者がいる。キュルケはそれを見ているだけで やり過ごすような女ではない。 「タバサ」彼女は近くにいた親友の青髪の少女を呼んだ。 「なに」 「この子を、エリックをお願い」 自分の足元でうずくまっていた赤い火竜の子供をタバサに預けると、彼女は赤い光武の元に向かう。 「はじめまして、私はキュルケ。あなたのパートナーになりたいの」 彼女がそう言うと、赤い光武がまるで口を開くようにハッチを開き、操縦席を解放させる。 「良い子ね」 そうつぶやくとキュルケは素早く光武に乗り込んだ。 ルイズのやっていたことを見ていた、といっても彼女にとってははじめての体験。ハッチが閉じる と一瞬視界が暗くなるが、すぐに明かりがつき周囲の状況が見えた。敵の姿ははっきりと視認できる。 「さあ、お楽しみの時間のはじまりよ」 * 斬っても斬ってもキリがない。やはり一人で戦うには限界があったか。こんな時に仲間がいてくれ れば、とそこまで考えたところで大神は自分の弱さにいらだち頭を振る。そんな考えじゃだめだ。 どうしてもあの光武を守り、また一緒に来た二人の命もまもらなければならない。 「なに!?」 不意に噴きかかる火炎。赤い蒸気獣がはなったものと思われる。四方八方から炎が飛んでくる。 「心頭滅却すれば火も……」そこまで言いかけて止まった。やはり熱いものは熱い。光武は耐水も そうだが、そこまで耐熱用の設計もなされていない。 とりあえず素早さを生かして火の攻撃を避け、接近して斬る戦術を選ぶ大神。しかし敵もある程度 こちらの動きを読んでいるらしく、容易に近づけさせないような戦い方に切り替えてきた。 数体の蒸気獣が一斉に火炎攻撃を仕掛けてこようとしたその時―― 地を這うような炎の波がその蒸気獣をなぎ払うように大神の目の前を走る。 「なんだ!」 『お待たせダーリン』 「きゅ、キュルケかい?」 『そうよ。助けにきたわ』 「キミも、動かせたんだね」 『無駄話は後、一気に倒しちゃおうかしら。それにしてもこの無線機っていうもの、便利よね』 無駄話は後、とか言っているくせに無駄話をしているのは、キュルケであった。あの例の赤い光武に 乗っているようだ。光武は長い柄に斧状のものがついた、いわゆる長斧というやつであろうか。多少の 間合いなど気にせずぶった斬れる上に破壊力も強力だ。 キュルケの出現にひるんでいる蒸気獣のスキをついて大神は斬りかかる。二刀流が接近した敵を 一体、二体、そして三体斬る。 『さすが、やるわねえ』 「危ないキュルケ」 キュルケ機に急接近する蒸気獣を確認。 『問題ないわ!!』そう言ってキュルケは蒸気獣を一刀両断にした。 接近戦も強いとは。 死角なしか? 大神がそう思った瞬間、蒸気獣はさらに間合いを広げで火炎攻撃をしようと移動しはじめた。 いくら長斧が広い間合いに使えるとはいえ、完全な飛び道具には及ばない。 『ダーリン!』 「ダーリンはよしてくれないか」 『そんなことどうでもいいの。とにかく、あなたは私を盾にして身を守って』 「な、何を言っているんだキュルケ」 『いいから私を信じて。私がこうするから、あなたは……』 身を挺して仲間をかばうのは大神の専売特許のはずだが、キュルケにも何か考えがある らしい。 「よし、まかせたキュルケ」 『まかせてダーリン』 「だからダーリンはなあ」 蒸気獣が一斉に火炎と火球を飛ばす。それを真正面から受けるキュルケ。一瞬赤の光武が 炎に包まれ、さらに赤く燃え上がった。と、次の瞬間その光武の背後から大神機が飛び出し、 蒸気獣に最接近して斬りつける。 荒方蒸気獣を斬り倒した大神は、すぐにキュルケの無事を確かめる。 「キュルケ!大丈夫か」 『平気よ。この機体、熱には強いらしいの。確かに無傷とまではいかないけど』 「よかった」 しかしほっと一息ついたのも束の間。 「これで勝った気にならないことね!!」 先ほどの魔術師が叫ぶ。 「お前の目的は一体何だ!なんのために光武を狙う!」 「あなたに話してやる義理わないわよ!!さあ出でよ竜型蒸気獣、メカギドラ!!!」 洞窟内に魔術師の声が響き渡る。 と同時にタバサが抱いていたエリックがじたばたと赤い光を放ち暴れ始めた。 「あっ」たまらず手を離すタバサ。 地面に落ちた火竜の子供は、よろよろと立ちあがると赤い目を光らせる。 「まさか……」 「ふっふっふ、あれがこの地の秘宝を守る伝説の竜の子孫さ。そして私は、そいつに少し仕掛けを させてもらった」 「仕掛けだど!?」 「蒸気獣として我らの手駒になるようにな」 「なんだって?まだ子供じゃないか」 「何を言っているかね。あれはその赤いゴーレムを出すための道具だよ」 「き、貴様……」 モニター越しに見える魔術師に対して、大神は強い怒りを感じた。 『エリック!!』 しかしそれ以上に憤っていたのは―― 「キュルケ!!」 大神が叫ぶよりも早く、キュルケの乗る赤い光武は魔術師に向かって斬りかかっていた。 「よせ!!」 しかしキュルケの構える長斧は魔術師には届かず、途中で巨大な火球によってはばまれてしまった。 『きゃああ!!』キュルケの叫び声が無線を通じって聞こえてくる。 地面に落ちるキュルケ。しかすすぐに体勢を立て直す。 『はあ、はあ、あの子に……、何の罪もないエリックになんてことを』 「キュルケ落ち着くんだ!」叫ぶ大神。 しかしその声は届かない。 「ふふふ、私を倒したければメカギドラを倒してからにするんだね」 そう言って魔術師を守るように出現したのは、首が三本もある機械と竜を融合させた化け物であった。 再び戦闘態勢に入るキュルケに対して三本の首が襲いかかる。 「まずい!」 キュルケの機体は、熱に対しては強いが物理攻撃に関しては大神の機体とそう大差は ないはずだ。しかも大きな武器を持っている分素早さも劣る。 「すまん!!」そう言って体当たりでキュルケの機体ごと吹き飛ばす大神。 『きゃあ!!』無線からは悲痛な叫び声が聞こえていた。 「大丈夫か」 『何するのよ!』 「焦るなキュルケ。冷静になるんだ」 『私は冷静よ!』 「それのどこが冷静だっていうんだ。まともにやり合って勝てるあいてじゃないだろう」 『だから魔術師だけを狙うの!あの子をあんなにして、許せない』 キュルケは幼い火竜の子供を悪魔のような形にした魔術師に対して本気で怒っている。だから といって、怒りに身を任せて戦っても勝てる相手ではない。 「魔術師を倒してもあの子は元には戻らない!冷静にこの場の対処を考えるんだ」 『なにを……!』 「キュルケ、危ない!」 真横から接近してくる竜の首攻撃に、大神がキュルケを守るように割って入ったため吹き飛ば されてしまった。 『大神さん!!』 * 不覚だ。一生の不覚。 ツェルプストーともあろう者が怒りで我を忘れてしまうなど。 奴らは冷静に悪事を働いた。故にこちらも冷静に罪を裁かねばならない。 キュルケはきっと正面の三本首のドラゴン、メカギドラを見据える。 これはもうあの子ではない。悲しい事実だけれども仕方のないことだ。ただ、彼女は人が思うほど 別れには強くない。 エリック―― タバサ、大神一郎。この場にいる人はこれ以上誰も死なせたくない。それは彼女が持つ偽らざる 本心であった。 だから、ごめんなさい―― キュルケは長斧を振う。 接近戦ならば長い首の攻撃も、それほど意味をなさず、やたら炎も吐けないはず。 それまでにないダッシュでメカギドラの懐に潜り込んだキュルケは長斧でひとつ目の首に斬りつけ、 そしてもう一つの首にも斬激をくらわせる。 そして返す刀で最後の首を斬りつけようとした瞬間、すでに真後に竜の首が迫っていた。 キュルケは敵の耐久力を見誤っていた。彼女が思っているほどダメージは与えられなかったようだ。 やられる!! そう思った瞬間、背中に衝撃が走った。 これはやられたか。一瞬目をつぶるキュルケ。しかし、背中を貫かれたような感覚はない。 もう死んだから? それとも光武というものは耐久力が高いのか。 どちらも不正解だった。 『大丈夫かキュルケ!』 「大神さん!」 キュルケの背中では、大神がしっかりと竜の首の攻撃をガードしていたのだ。 * メカギドラの攻撃を防いだキュルケと大神は、再び間合いを取る。広い間合いは不利だ。なんとかして間合いを詰めなければならない。 「キュルケ、聞こえるかい?」 『なに、ダーリン』 すっかり元の調子に戻っている。冷静さを取り戻したようだ。 「今度は俺が前に出る。それで一気に片をつけよう」 『いいの?相手は火炎攻撃もできるのよ』 「俺の武器じゃあ間合いが足りない。キミの武器なら間合いといい威力といい十分だよ」 『私の武器でも、威力は……』 「大丈夫、その後二人で力を合わせれば問題ない」 『二人で……?』 「そうさ」 『わかった。あなたを信じるわ、ダーリン』 「じゃあ、行くよ」大神は一気にダッシュをかける。 その動きを追尾するキュルケの存在をしっかり意識しつつ、光武の持つ二本の刀を十字 に構える。 「うおおおおおおおおお!!!!」 「ギシャアアアアア」メカギドラが口から炎を吐きだした。この機体は、炎にはあまり強くない。 しかし。 「心頭滅却すれば火もまた涼し!!!」やせ我慢だ。 敵の炎に屈せず、更に前進する。 「今だ!!!」 三つの頭が一斉に火を吐いたと同時に、大神の後にぴったりとくっついていた赤い光武が 飛び出す。火を吐いている時、頭はかなり無防備になっている。 『とりゃあああああああ』 一気に斬るキュルケ。狙ったのは固い皮膚ではなく、目。 「ギャアアオオオオオオ」 苦しむメカギドラ。 そこに大神が叫ぶ。 「行くぞ!!」 『いいわよ』 《来て、ダーリン!!》 《やはりダーリンはちょっと》 《いいからやるわよ》 《おう!!》 《Das Backen von Hize grose Brandung (炎熱の大波)》 メカギドラがひるんだ所に合体技を仕掛け、敵を完全に粉砕した。 しかしそれは同時に、自分たちのいる場所を危険に晒す行為でもあった。 大きく揺れる地面。 「まずいな、これは」 洞窟が崩れるかもしれない。 「ダーリン!タバサは私が助けるから、あなたは出口の確保をお願い」 「わかった!」 もう、どちらが隊長かわからない状況だが、そんなことは言っていられない。とりあえず、 大神は光武の力をフルパワーで使い、崩れかかる出口の穴を開き、障害物を取り除いた。 * なんとか洞窟を脱出した大神たち三人。 しかしキュルケは、塞がった洞窟への入口を見ながら沈み込んでいた。 「キュルケ」声をかける大神。 「なによ」 ややぶっきらぼうな返事。今は一人でいたのかもしれないけれど、大神は話を続けた。 「あの子は、エリックはこの洞窟の守り神だったんだね」 「そう、なのかな……」 「だったら、その光武があいつらに取られなくてよかったじゃないか。エリックとその親が 代々守ってきたものが。これからはキミが守るんだ、それを」 「ダーリン」 「だからダーリンはやめてくれと」 「私を元気づけてくれるの?」 「いや……、まあ。落ち込んでいるキミはらしくないというか」 「やだ、嬉しい!」そう言うとキュルケは大神の首に巻きつく。 「ちょっと、よせキュルケ!ほら、タバサも見ている」 「……私は何も見ていない」そう言ってハシバミ草を食べるタバサ。 「やめなさい。って、そうだ。まだアレをやっていなかった」大神が首に絡みつくキュルケを 引き離しながら言う。 「アレ?」 「そう、戦いに勝った時はいつもやるんだ」 「もしかして……」 「さあ行くぞ、タバサもおいで」 「私は遠慮しとく」 「あんたも来なさい。私にだけ恥ずかしい真似をさせないで」そう言ってキュルケはタバサの 服を掴み引き寄せた。 「じゃあ行くぞ」 「勝利のポーズ!!」 「決めっ!!」 エピローグ いつものアレもやったところで、帰り支度をはじめる三人。そんな中、大神はあること を思い出したのでキュルケに聞いてみる。 「ところでキュルケ、ここはキミの憧れの人に関係する場所じゃなかったのかい?」 「え?あこがれ」 「花の一つでも手向けたほうがいいんじゃないかな」 「え……?ああ、ああ」何かに気がついたように、彼女は手をポンとついた。 キュルケは、かつて憧れの人が火の洞窟に竜退治に行って帰ってこなくなった、と言っ ていたのだが……。 「どうしたんだい」 「あれはウソよ」 「はあ!?」 「だってダーリンって真面目だから、単に面白そうだから連れて行ってくれっていっても連れて 行ってくれないでしょう?」 「そ、それって」 「ごめんなさいね」 「………!」 「もしかして怒ってる?」 「当たり前だろうがあああああ!!!!」 「結果オーライじゃないのお!!!!」 こうして、大神たちの今回の旅は終わりを告げたのであった。 * トリステイン魔法学院の中庭で、空を切る音が響く。 「ふんっ、ふんっ」 ルイズは木刀で素振りを繰り返していた。 「ふう……」一通り練習を終えたルイズは汗を拭きながら空を見る。 空は広く、気持ちが良いくらい晴れ渡っていた。 「私の出番は、まだかしら」 お し ま い 前ページ檄・トリステイン華劇団!!
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「正さねば──…誰かが血に染まらねば…! "英雄(ヒーロー)"を取り戻さねば!!」 「来い 来てみろ贋物ども…」 「俺を殺していいのは 本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」 堀越耕平氏の漫画『僕のヒーローアカデミア』に登場する敵(ヴィラン)。 アニメでの担当声優は 井上剛 氏。 本名は「赤黒血染(あかぐろ ちぞめ)」。 通称の「ステイン(Stain)」は英語で(血などで)染める・汚すといった意味である(格ゲーだとギースの台詞でも出てくる)。 「ヒーロー殺し」の二つ名を持ち、「ヒーロー」を個性を活かして治安維持・人命救助に当たる「職業」とみなす作中の価値観を否定し、 「ヒーローは選ばれし者だけが名乗ることを許された称号」という考えに取り憑かれた男で、 この独特の思想のもと、各地で「資格なし」と判断したヒーローを襲ってきた凶悪犯罪者。 再起不能にされたヒーローは23人、殺害されたヒーローは17人に上り、個人としては作中屈指の犠牲者を出している。 それまで作品に登場した軽はずみに犯罪を犯していた類のヴィラン達とは異なり、 歪んだ正義感を持つ「思想犯」であり、読者に作中世界のいびつさを改めて意識させる大きなインパクトを与えた。 飯田天哉の兄であるインゲニウムを再起不能にしたことで天哉から憎悪され、 復讐に逸る天哉を返り討ちにして殺しかけるが、彼の身を案じて駆け付けた緑谷出久、 出久のメッセージでいち早く駆け付けた轟焦凍がこれを阻止し、激戦の末に敗北。 そのまま拘束されるが、突如出久を攫いに現れた翼の脳無を強引に拘束を脱出して刺し殺し(結果論だが出久を救う)、 満身創痍の身体でその場にいたヒーロー達に立ち向かおうとするが、遂に限界を迎えて立ったまま気絶。 最終的に凶悪犯専用の刑務所「タルタロス」に収容された。 出久達はまだヒーロー免許を取得していなかったので一連の行動は法的にはアウトな行為だったが、 地元警察の面構署長の計らいによって出久達の行動は大衆には伏せられ、 ステイン逮捕は遅れて駆け付けたエンデヴァーの功績ということになり、 出久達は「たまたま居合わせて巻き込まれた」ということで処理された。 収監によりステイン自身は物語から退場したが、その強烈な姿と思想は作中世界全体に大きな影響を与えており、 現状のヒーロー達に対する不信感の兆しや、感化された若者や犯罪者達を取り込んだ敵(ヴィラン)連合の増長を招く事となった。 一方で彼の掲げるヒーローへの(あまりにも高過ぎる)理想像自体は作中でもある程度の説得力を持っており、 人助けよりも個人的な復讐を優先した姿勢などを徹底的に否定された天哉はその理想を「正しい」と評価した上で その行動指針や手段は明確に否定しつつ、彼の言葉を自身のヒーローとしての在り方を見つめ直す切っ掛けとしている。 前日譚であるスピンオフ作品『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS』では敵の殺害をも辞さぬクライムハンター「スタンダール」として登場。 主人公である苦労マンザ・クロウラーやその師匠ナックルダスターとの邂逅を経て本編の「ステイン」へと至る経緯が描かれた。 “個性”社会やヒーロー制度の歪みの表出として物語中で重要な人物ではあるが、彼の主張している事は何処までも極論に次ぐ極論の塊であり、 多くの二次創作において保須市での対決場面がステイン論破大喜利(或いは話す価値もなしで撃破RTA)になるくらいには、賛否両論の激しい人物である。 例えるなら医大の派閥に馴染めず医学部ドロップアウトした奴が「金に汚い偽医者共が!」って真面目に勤務してる町医者襲って 医療崩壊の切っ掛け作ってたら、そらあナイチンゲールも助走つけて殴るよ + 個性「凝血」 対象の血液を摂取することで、身体の自由を奪う個性「凝血」の使い手。 効果時間は血液型によって決まり、O<A<AB<Bの順で奪える時間は大きくなり、 最大に効果を発揮するB型に対しては8分もの拘束が可能。 摂取する血液の量に関わらず相手の動きを止められるため、 極端な話、ナイフでかすり傷を負わせただけでも「血液を舐める→拘束→殺害」が可能。 直接的な攻撃力は無いが、対人戦及びタイマンでは非常に厄介な初見殺しの能力である。 加えて、ステインの身体能力及び戦闘技量も非常に高く、 フルカウル5%を習得した当時の出久ですら近接戦において圧倒されたほど。 MUGENにおけるステイン VanguardMugen氏による『JUS』風ドットを用いたMUGEN1.0以降専用のちびキャラが公開中。 海外製なのでボイスは英語。 機動力が非常に高く、突進技から近接戦に繋げるコンボが強力だが、 ナイフを投げ付ける飛び道具も備えており、遠近共に隙が無い。 また、当て身技や「凝血」で相手の動きを止める特殊技も存在する。 AIもデフォルトで搭載されている。 DLは下記の動画から 「信念なき殺意に何の意義がある」 出場大会 JUS風キャラトーナメント JUS風キャラタッグトーナメント
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海外物のLシステインの錠剤 752 :可愛い奥様:2005/08/27(土) 01 10 28 ID YNBFHIHQ 海外物のLシステインの錠剤。 シミと虫さされの痕を早く消したくて飲み始めたんだけど、 一晩寝てもとれなかった疲れがとれるようになった気がする。 part2 http //human5.2ch.net/test/read.cgi/ms/1120106596/
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前ページ次ページ檄・トリステイン華劇団!! * 物凄い勢いで学院内に入ってくる馬車。 その日も大神は、ルイズの指導をしようと、彼女と一緒に学院内を歩いていた。しかし、 大神のすぐ近くで馬車が止まる。 「は!」 馬車を見てルイズは立ち止った。見覚えがあるのだろうか。大神がそう思っていると、 馬車から髪の長い、少し背の高い女性が出てくる。 「ここにいたのねルイズ。まあちょうどいいわ」 メガネをきらりと光らせた背の高い女性は隣にいる大神には見向きをせず、ルイズを 見つめてそう言い放った。 「誰?」 「エレオノールお姉さま。私の姉です」心なしかルイズの声が弱い。 「お姉さんか」 「さあ、何をやっているの。一緒に来なさい。学院長に最後の挨拶をするの」 「ええ?」 「さあ」 そう言ってルイズの腕を引っ張りだすエレオノール。 変だ。いつものルイズなら、そんな強引なやり方には反発するはずだが、この日の彼女 は大人しい、というか元気がない。 「待ってくれロベリア!」思わず大神は声を出した。 「ロベリア?」 「あ、すいません。知り合いに声が似てたもので」 「この人はイチロー・オオガミ。私の先生よ」大神に代わって紹介をしてくれるルイズ。先ほど よりは、少し声に張りがある。 「先生?見たことないわね……。まあいいわ。とにかく邪魔しないでいただきたいわ。それ では」 「だからちょっと待ってくれよ。彼女が何をしたっていうんだ」大神が食い下がる。 「何をしたですって?たとえ先生といえどもわが家のことには口出ししないでいただけますか」 「教え子を守るのは教師の務めです」インチキ教師だけど教師は教師だ、と大神は自分 に言い聞かせた。 「先生。あなたも教師なら、事情はご存じと思います。妹のルイズは使い魔の召喚に失敗し、 未だにまともな魔法を扱う事もできません。これ以上この学院にいたとしても意味がありま せんわ。ゆえに、本日をもって学院をやめさせます。これはお父様、ラ・ヴァリエール公爵 の意思でもあるのです」 「しかしですね……」 大神が何かを言おうとした次の瞬間、大地を揺らすような大きな爆発音が中庭から聞こえて きた。 その場にいる者が一斉にルイズを見る。 「わ、私は何もしていません!!」顔を真赤にして否定するルイズ。 「と、とにかく様子を見に行きましょう」 そう言って大神とルイズは、爆発のした中庭に走りだす。 中庭は、文字通り地獄絵図と化していた。 「なんだあのゴーレムは!!」 ゴーレム、などという聞きなれない言葉に大神は立ち止る。 「え?」 見覚えのある巨大な人型の機械。それはヨーロッパの巴里で見たあの蒸気獣たちであった。 それも一体や二体ではない。 学院の警備兵が弓や槍などで応戦するも、とてもかなう相手ではない。 「生徒たちは下がっていなさい!!」そう言って教師陣が前に出て、杖を振り上げる。 火炎や氷の矢が蒸気獣を狙うが、全く効いた様子がなかった。蒸気獣どもは、何かを探す ように並木や周辺の建物を攻撃している。 「コルベールさん!」見知った者がいたので、大神は駆けつけ声をかけた。 「危ないですよオオガミさん。早く逃げてください。ミス・ヴァリエールも」 「そんなことより、何なんですかあれは」 「わかりません。正体不明のゴーレムが急に学院内に現れ、暴れ出したのです。私も戦い ますので、あなた方は」 「待って下さいコルベールさん。あいつら相手に、普通の戦い方では無理です」 「どういうことです」 「俺は一度あいつらと戦ったことがあります。少なくとも普通の武器で連中を倒すことは できません」 「驚いた。すると、あれらはこの世界のものでは……」 「おそらく」 「え? どういうこと」ルイズは事情がわからないようで戸惑っている。 彼女には、まだ大神が異世界から来た人間である、ということを話していない。 「くそう、こんな時に光武が、霊子甲冑があれば」 「オオガミさん」不意にコルベールが大神の方を見つめて言う。 「はい?」 「ちょっとこっちに来てください」 「え、でも」 「いいから」 コルベールに引っ張られるようにして動き出す大神。 「ルイズくん!」 「え?」 「キミもくるんだ」 そう言って大神はルイズとともに、学院内にある地下室へと向かった。 一体この地下で何をするのというのか。いや、危険なのでここで大人しくしていろ、という 意味だろうか。そんな事を考えつつ走っていると、ひとつの大きな扉の前に来た。 コルベールが杖を振ると扉が開く。魔法で施錠しているらしい。 部屋の中は真っ暗であったが、目が慣れてくると上の方から漏れるわずかな光で、部屋の 中の全容が見えた。 「こ、これは…!」 コルベールが杖から炎を出すと、そこには帝劇で見た光武、霊子甲冑によく似た機体が 二体ほど立っていたのだ。 一体は見覚えのある真っ白な機体。そしてもう一体は桃色の機体だ。 「コルベールさん。これは一体…」 「何十年か前に山で発見したものらしいのです。学者を色々と集めて研究したのですが、 その正体がわかりませんでした。我々は、もしかしてこれが伝説の『鋼鉄のゴーレム』かと 思っていたのですが……」 「鋼鉄のゴーレム?」 「ええ、伝説に出てくる、この世の災厄を取り払う神の使いです。もちろん、そんなことは誰も 信じていないんですけどね」 「しかしそれは」 「ただ、オオガミさんの話を聞いていると、あんたの世界にあった光武というものに近いのでは ないかと思い……」 「近いというか、そのままですよ」 そう言って大神は再び光武を見上げる。 「このゴーレムを動かすことはできますか?我々は今まで何をやっても動かすことができなかっ たのですが」 「イチロー、あなた……」うるんだ目で大神を見つめるルイズ。 「ルイズくん、すまない。俺は本当は先生なんかじゃないんだ。こことは違う世界から来た住民 なんだよ」 「……・ううん、そんなの関係ない。別に異世界だろうがなんだろうが、あなたは私の先生だから」 「ありがとう」そう言うと大神はルイズの頭を軽く撫でた。 その時、地下室にある光武が反応する。 「な! ゴーレムが動く姿、初めて見ました」驚がくの表情を浮かべるコルベール。 「光武が、反応している……?」 光武は蒸気の力と霊力を併用して動くものだ。故に霊力の強いものが近くにいれば、それに 反応する。 霊力=魔力とするならば、今まで反応しなかったのはおかしい。だとすれば、霊力と魔力はやはり 別モノ、ということになるのか。 色々と考えているが迷っている暇はない。今はあの外にいる蒸気獣をなんとかすること が先決だ。もしこの光武が動くのならば。そう思い大神は光武に手を伸ばす。 すると、光武のメインモニタが光り、起動しはじめたではないか。 「やはり動くのか、お前は」 大神がそう言うと、光武は彼を受け入れるかのようにコックピットのハッチを開いた。 ふと横を見ると、桃色の光武も何かに反応している。 「ルイズくん!!」 「は、はい」 「もしよかったら、俺と一緒に光武(これ)で戦ってくれないか」 「え?私が」 「そうだ。恐らく、今これを動かせるのは君しかいない」 「でも、私そんなゴーレムの動かし方なんて」 「迷っている暇はない。君が無理なら俺一人で行く」 そう言うと大神は光武に乗り込む。形としては、巴里で乗った光武Fに近いが、どことなく違い もある。 ハッチを閉めると、機器類は驚くほど正常に作動した。 「一体……」 構造を知りたいところだが、今はそれどころではない。 * タバサは肩で息をしていた。並のメイジが束になっても敵わないほど強力な魔力を持つ彼女 が疲労の色を露わにするほどの敵。 「いったい何なのよあいつら。魔法が全然効かないじゃないのよ!」さきほどから手応えのない 魔法をくり返すキュルケにも焦りの色が見える。 もちろん全く効かないというわけではないが、これまでの幻獣やゴーレムなどと比べて、 明らかに強い装甲と攻撃力を持っている。 「お前たち、何をやっている。早く逃げるんだ」ローブをボロボロにした教師の一人が二人を見て叫ぶ。 「先生、あなたこそ逃げた方がよろしくて」キュルケはそう言って笑って見せた。笑顔を見せる ほどの余裕があるわけもないけれど、彼女なりの誇りがそうさせているのだろう。 「え、あれは…?」 「ん」 《そこまでだ!!》 大きな声が学院内に響く。聞き覚えのある声。 土煙の中から、二体のゴーレムが姿を現した。 しかし先ほどまで学院内を荒らし回っていたものとは、明らかに形が違う。 * 白色の光武は見慣れない二本の片刃の剣を、桃色の光武は大きな剣を武器にしている。 『ルイズくん、調子はどうだい?はじめての光武だけど』 「あ、はい。大丈夫です。なんか、乗馬よりもよっぽど簡単というか。それよりこの声が出る のって、どんな魔法を使ってるの?」 どこからともなく大神の声が聞こえる。 『その説明は後だ。まずは目の前の敵を倒すことから』 「りょ、了解」 まるで自分の体を動かしているみたいに動くゴーレム、いや巨大な鎧と言ったほうがいい だろうか。 ルイズは目の前にいる蒸気獣に対して剣を振るった。相手も槍のようなもので対抗してくる。 魔法が全く効かなかった相手。怖い。しかしその恐怖心を押さえなければ……。 その時、大神とほぼ毎日やっていた剣の稽古を思い出す。 「見えた!」 紙一重で敵の攻撃をかわしたルイズは、大剣を振り下ろす。剣は的に当たると同時に、 大きな稲光を発生させた。 「すごい……」大剣の破壊力に驚愕するルイズ。 『それがキミの力だルイズくん』と再び大神の声が聞こえる。 「これが、私の力?」 『そうだ、光武は乗り手の力を使って動くんだ。キミの力があるからこそ、敵を倒せる』 「はあ……」 『来るよ、ルイズくん』 「わかった」 ルイズは精神を集中させる。この機体に乗っているためだろうか、その心は今までにない くらい澄み渡っていた。 「Bliksem Zwaard(雷の剣)!!!」 * まるで初めてとは思えない桃色の光武の動きに関心しつつ、大神も敵蒸気獣を次々に 斬り倒す。 弱い相手ではないが決して強くもない。 「危ない!!」そう言って大神はルイズに迫る攻撃を防ぐ。 『あ、ありがとう』 「どんな時もキミを守るよ」 『イ、イチロー……』 「来るぞ、ルイズくん」 『了解!!』 大神は気力を溜め、両手の刀を構えた。 「狼 虎 滅 却 刀 光 剣 影 !!!!」 一瞬の閃光とともに吹き飛ぶ蒸気獣。 中庭を見渡すと、先ほどまで暴れていた蒸気獣は軒並み倒したようだった。 《その程度でいい気にならないことね!》 「誰だ」 どこからともなく声が聞こえる。 と、思ったら中庭の地面が大きく盛り上がる。先ほどとは明らかに違う、巨大なゴーレム が出現した。しかもゴーレムの手には学院長が握られている。 「ホッホッホ。この爺の命が惜しければ、その鋼鉄のゴーレムを渡しなさい」 紫色のローブで顔を隠した魔術師のような女がゴーレムの肩に乗り、そう言う。 「やめろ! 学院長を離すんだ」と大神。 「ならばそいつを早く渡しなさい」 巨大ゴーレムや、先ほどの蒸気獣の狙いはやはりこの光武。そう考えると、簡単に渡すわけ にはいかない。 「オオガミくん!わしのことはいいから、こいつをやっつけてくれ」学院長は気丈に叫ぶ。 「しかし……」 「オオガミさーん! 学院長もああ言っていることですし、やっちゃってください。いや もう、学院長ごとスッパリと!!」今までにないほど大声で叫ぶコルベール。 「コルベールさん……」 学院長ごと、と言われてもそう簡単に倒せる相手ではない。何よりその巨大さだ。 ゆうに二十米(メートル)はあろうか。 その時、 《Glace Hache(氷の斧)》 氷の矢がゴーレムの指に当たったかと思うと、 《Der Holle Rache kocht im meinem Herzen》 次いで激しい炎が腕を焼いた。 「ぬわ!!」 一同がゴーレムの右腕に注目している中、そこには何も握っていないゴーレムの手が あるだけであった。 「どういうことだ」 周囲を見回すと、上空に青い竜が見えた。そこにはこの学院の制服を着ている二人の 少女と学院長の姿があった。 「うぬぬ、小娘どもが小癪なまねを」魔術師が悔しがっている。 そのチャンスを大神が見逃すはずがなかった。 「今だ、ルイズくん!」 「はい!!」 大神の刀、そしてルイズの大剣が一斉に斬りかかる。 「なに!」 しかし先ほどの蒸気獣などと違って、巨大ゴーレムはそう簡単に斬れるものではない。 「ホホホ、無駄よ無駄。蒸気獣を倒したくらいでこのゴーレムを倒せると思って?」 ゴーレムの拳がルイズの乗る桃色の光武に襲いかかる。 「危ない!!」とっさにルイズの前に出た大神はそのままルイズの機体ごと吹き飛ばされ てしまった。 金属製のバケツを頭にかぶり、それを思いっきり殴られたような衝撃が大神を襲う。 前が良く見えないのは、モニターの不具合だけでもなさそうだ。頭を横に振るときっと前を 見据える。 「ルイズくん!大丈夫か」 『な、なんとか。それよりイチローは』 「問題ない、と言いたいところだけど。かなりダメージを負っているようだ」 光武のダメージ、というより大神の精神的なダメージの方が大きい。あのゴーレムもまた、 物理的な攻撃だけでなく何らかの魔法的な攻撃効果も有しているのだろう。 『イチロー、逃げよう。もう私たちは戦えない』 「ルイズくん。それはやりぬいてから言うものだ。俺はまだ戦える」 『でも……』 「ルイズくん。俺と心を一つにするんだ」 『え……』 「あいつを倒すためには、俺達が心を一つにして戦わなければ、倒せないと思う」 『それって』 「可能性は低いが、やってみる価値はあると思う。ここにいる全員を救うためにも」 『イチロー』 「俺を信じてくれ」 『……、はい。了解』 大神は気力を振り絞って動き出す。恐らくこれが最後の攻撃になるだろう。怖くないと言えば うそになるが、恐怖よりも彼自身の使命感がそれを優先させた。どんなことがあっても人を 助ける。それは帝都でも外国でも、そして異世界でも同じであった。 「イチロー!!」 「ルイズ!!」 大神とルイズが手を取り合う。一瞬そんな光景が彼の脳裡を過った。 《 donderen zwaard storm (雷と剣の嵐)》 巨大な光の柱がゴーレムを包み、そして天高くへと押し上げて行く。 「な、なんなんだこの力はあああああああああああ!!!!」 雪のように舞う光の粒。 それが大神とルイズの持つ霊力の残り火だとは、誰も気がつかなかった。 * 敵の消失を確認した大神は、すぐにコックピットのハッチを開けて、ルイズのいる桃色 の光武へと駆け寄った。 「ルイズくん!」 大神が呼びかけると、彼女の光武もその声に呼応するようにハッチを開ける。 「大丈夫かい」 「え、ええ」力はないものの、はっきりとした口調で答えるルイズ。 「よかった」 「大丈夫ですかあああ」 そんな二人の元にコルベールが駆け寄ってきた。 「はあ、なんとか。さすがに疲れましたけど」 「私も、大丈夫です」とルイズ。 「いや、良かった。それにしても二人とも、凄い活躍でしたね。ほら、見てください」 ふと周りを見ると、それまで避難していた学院の生徒や教師および職員が全員集まっていた。 「すごいぞルイズー!」 「やったわねー!!」 拍手、そして称賛の声が聞こえる。それらがルイズを元気づけてくれるようで、彼女は目を きらきらと輝かしている。 「ルイズくん。キミはよくやったよ」 「そんな、私なんてイチローに守られてばかりで」 「いや、キミがいなかったら勝てなかったよ」 「はあ」 「もうキミは、ゼロのルイズなんかじゃない」 「……うん」 今までに見たことのないような満面の笑みであった。 そんなルイズを見た大神は、ふとあることを思い出す。 「ねえルイズくん。実は俺が元いた場所では、戦いに勝利するとあることをするんだ」 「え?あること」 「いいかい、こうやるんだよ。あ、コルベールさんもどうぞ」 「え、何をやるんですか」 「せーのっ」 「勝利のポーズ、決めっ!」 「……」 「……」 「なんだよ、二人とも、恥ずかしがっちゃダメだよ」 「は、はあ」 と、次の瞬間ルイズはその場に崩れ落ちるように倒れた。 「ルイズくん、ルイズくん!」 「無理もありませんね、あのような巨大な魔力を使ったのでは、いくらミス・ヴァリエールでも」 「ルーイーズーくーん!」 大神の腕で気を失ったルイズは、まるで赤子のような無邪気な顔をしていた。 エピローグ すっかり元通りになった広場で、ルイズは杖を振るった。 「Om in te trekken vertrouwd animo(召喚)」 何度やっても成功しなかった召喚魔法。しかし今は、しっかりと成功している。 召喚したのはもちろん、あの時共に戦った桃色の光武だ。 「どう、お姉さま。これが私の使い魔よ」 「うぬぬ……」 目の前であんな戦いを見せられた以上、ルイズを全くの役立たずと断定するわけにもいかない。 「私はもう少しここで勉強したいの。いいでしょう」 「ええ、勝手になさい」そういうと、エレオノールは足早に、その場を離れる。 大神はその様子をじっと見ていた。 出会ったころのルイズとは違い、その表情は自信に満ちているようだ。 姉を見送った彼女は、大神を見つけると、笑顔で親指を上に立てたので、大神も同じような仕草をした。 お わ り おまけ 1位 ルイズ:やる気十分 2位 コルベール:やる気まあまあ 3位????? 4位????? 5位????? 大神一郎:熱血隊長 前ページ次ページ檄・トリステイン華劇団!! ※予告です※ 帰ってきた大神さん。 一部の要望に応え、キモカッコイイ大神さんが帰ってきます。 今回のはなしはこんな感じで。 あらすじ ルイズの指導係を外れた大神は、しばらくの間学院内でのんびりと過ごしていた。 そんなある日、学院長から伝説のゴーレム(つまり光武)、について書かれた古文書を 貰う。 コルベールが読んだところによると、帝政ゲルマニア領内にある火の洞窟と呼ばれる 場所に、炎の衣という光武らしきものが封印されているという。 その話を聞いた大神は、コルベールと二人でゲルマニア行きの相談をする。 その時、学院の生徒の一人、キュルケとタバサが部屋に乱入してきた。 ゲルマニア出身のキュルケは、自分を連れていけば何かと便利だと申し出る。当初は 断る大神だったけれども、色々あった末に、結局大神、キュルケ、タバサの三人で火の 洞窟に行くこととなった。 火の洞窟はゲルマニア屈指の火山地帯にあり、麓の町には温泉も出る。 洞窟を前に、町で一泊する事を決めた三人。 温泉を前に大神の取った行動とは? 果たして火の洞窟には何があるのか。 檄・トリステイン華劇団!! 第二話 わが愛は炎よりも熱く 前ページ次ページ檄・トリステイン華劇団!!
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前ページ次ページトリステイン魔法学院Z 第二話 「寝床を手に入れろ!」 トリステイン魔法学院の食堂は、朝を迎えていた。まだ朝食の時間にはなっていないものの、まもなく訪れるその時間に対応すべく、厨房は既に戦場のごとき様相を呈しており、 食堂もまた、その準備で人がひっきりなしに行きかっていた。そんな中で、その慌しい物音で起こされた明らかに場違いな二人がいた。 バーニーとペイトンであった。 「…おはようバーニー」 「…ああ、おはようペイトン。…やっぱり、夢じゃないんだよなぁ…」 「言うなよ、悲しくなる」 あの後、終始怒りっぱなしだったルイズに簡単に使い魔の仕事を一方的に説明された後、寝るから後はまた明日、とばかりに彼らは部屋から締め出されたのだった。 どこで寝ればよいのか、と抗議してみたが、扉越しの返答は「食堂ででも寝れば?」という実に慈悲深いものだった。 ま、RPGでお馴染みの馬小屋よりはマシだよな…と半分やけくそで彼らは食堂の椅子を並べ、その上で寝たのであった。 不幸中の幸いというか、椅子が上等な物だったのでそんなの即席のベッドでも床に寝るよりは余程快適であった。 「…とりあえず、ご主人様を起こしに行かなきゃ、だな」 「…だねぇ…」 時間を確かめようとして、携帯を取り出したペイトンは、しかし時刻の表示がまるで当てにならないことに思い当たると、溜息を一つ吐いて、ご主人様-…つまりルイズの部屋へと歩き出した。 その後をのろのろとバーニーがついていく。 「何時だった?」 「…ここが我が愛しのアメリカなら十時半ってとこだな。ま、ここじゃどうか分からんがな」 「そうか…ペイトン、もしかして昨夜かけてみた?」 「…電話か?言わなくても分かるだろ。圏外で繋がりゃしねぇよ…っていうか、いくら魔法があるってったってここは出鱈目な世界すぎないか?お前も見たろ!何で月が二つあるんだよ! …ああ畜生、椅子で寝たせいで体が痛いぜ…っと、ここだよな?」 愚痴りながらペイトンは昨夜のうちに渡された合鍵を取り出し、解錠した。 中に入ってみると、カーテンが閉められ、明かりも点けられていない部屋はまだ暗闇に包まれていた。 起きていてくれれば手間が掛からなくて良かったんだがなぁ、との彼らの期待をあっさり打ち砕く現実であった。 「寝てるみたいだな」 「まず寝てるね…じゃ、やろうか」 「…だな。おいバーニー、カーテン開けてくれ。…サンキュ。…で、ベッドは…と。お、いたいた。全くこっちの気も知らんで幸せそうに寝やがって…」 「…こう黙ってりゃ可愛いんだけどなぁ…」 「黙ってても駄目だろ。あのパンチ、かなり効いたぜ」 「それもそうだね。じゃ、黙っていて、暴力を振るわなければ可愛いって事で」 「HAHAHAバーニーもひどいな。つまりは全然駄目だって事じゃないか?まぁ同感だがな!」 彼らはひとしきり笑うと、再び深い溜息をついた。今の笑い声でも起きないあたり、中々手間が掛かりそうである。 「…それはさておき問題だ。どうやって起こす?」 しばし思案した後、バーニーは決断した。 「…仕方ない、ペイトン、呼びかけ続けてくれ」 「あいよ。おーい、起きて下さい、ルイズ様―」 ペイトンの声をバックに、バーニーは精神を集中させた。すると、ルイズの包まっている毛布の一端が宙に浮き上がり、ゆっくりとルイズからはがされていく。 バーニーがサイコキネシスを使用したのだ。別に毛布を取るくらい超能力を使うまでも無いのだが、昨日見た目にそぐわぬ凶暴性を身をもって味わった彼らである。 どこぞでよくある展開のように、迂闊に揺り起こして起きたルイズと目があって変な誤解をされ魔法が飛んできたら堪ったものではない、と慎重になるのも無理はなかった。 毛布を取られたことや差し込む日光のせいだろう、程なくルイズが目覚めた。ふにゃふにゃになりながらも、二人の姿を確認すると、 「だ、誰よあんた達ッ…って、…ああそうか、使い魔にしたんだっけ」 寝ぼけているのが明白な第一声をあげた。 「…朝から随分な挨拶ですねぇご主人様。それで、要望通り起こしたわけですが、次の仕事は何ですか?」 「着替え。クローゼットに入ってるから」 皮肉交じりのペイトンの質問には全く動じず、ルイズは鷹揚に指示を出した。 「で、どれ?ああ、右端ね。はい、どうぞ。…え、下着も出すの?…どうぞ。いいえ、変な目で見てませんって。 …ったく、誰がんな子供みたいな…いえ、何も言ってませんよ?他に仕事は?無い。じゃあこの後は…ああ、食堂ね。分かりました。では、後ほど」 若干本音を漏らしながらも、どうにかこうにか初仕事を終え退室した彼らは扉を閉めるなり今朝何回目か分からぬ深い溜息をついた。 「…もしかして俺達、召使と思われてるんじゃないか?」 「奴隷じゃないだけマシかもね、ペイトン。…参ったね、この先の扱いが大体見えたよ」 「全くだ。実に楽しい未来図じゃないか、えぇ?」 同じ結論に達した彼らが、先程より深い溜息をついたとき、ルイズの部屋の隣のドアが開き、女生 徒が現れた。 見事なプロポーションを持つ褐色の美少女である。もし現代アメリカで街を歩いていても男達の注目を浴びるだろう。 まぁ、ルイズも美少女ではあるのだが…こちらの方は現代アメリカで迂闊に声を掛けようものなら逮捕されるのがオチであろう。 その美少女が、思わず口笛を吹いたペイトンに反応してこちらを振り向いた。 「…あら、ルイズの所の使い魔じゃないの」 「は…はは…昨日はごめん」 流石に昨日の事があり、怯えながら挨拶したバーニーを見て、苦笑しながら、その美少女は安心させるように笑いかけた。 「ふふ、そんなに怯えなくていいわ、昨日の事はもう怒ってないから」 「え?そうなの?」 「えぇ、きっちりお返しはさせてもらったから、ね。何かねぇ…こんな目に合うの初めてじゃないしねぇ。ま、良い女は恨みを買いやすいのよねー」 「ははは、確かに君は魅力的な女性だね。他の女の子も君みたいにさっぱりした性格だと助かるんだけどな」 「残念、そこは諦める事ね。それと、昨日の事は許してあげるけど…だからといって調子に乗らない事ね。良い女の裸は安くはないわよ。拝みたかったら実力で、ね」 「それは、俺にも君を口説くチャンスがある、と期待しても良いのかな?とにかく、改めてよろしく、俺はペイトン」 「僕はバーニーだよ」 そう言いながらペイトンが片手を差し出し握手を求めた。バーニーが続き、それに彼女は応えた。 「キュルケよ。しかし貴方達も災難よね。この国は堅物が多いけど、あの子は特に難物よ」 「ははっ、有り難い事に身をもって体験してるよ」 こうして、三人は固く握手を交わしたのであった。だが、そこへ不機嫌な声が飛んできた。 「ちょっと!何キュルケなんかと握手してるのよ!」 驚いて振り向けば、何時の間に出てきたのか身支度を終えたルイズが仁王立ちしていた。 「何って…仲良くなったら握手ぐらいしたって可笑しくないだろ?」 「だから、何でキュルケなんかと仲良くしてるのよ!」 「何で…って…何か問題あるの?それと、なんかって酷くない?キュルケさん良い人じゃない」 その言葉に、キュルケは少し驚いたような顔をすると、愉快そうに続けた。 「あらあら、賢い使い魔さんじゃない。良かったわねルイズ。貴女には勿体無いくらいの当たりみたいよぉ、ルイズ?」 「…っ!もういいわ!先に食堂に行ってる。アンタ達は好きなだけそうやってればいいわよ!」 怒りで顔を真っ赤にしてそう言い捨てると、ルイズはぷりぷり怒りながら去っていってしまった。 「…わけがわからないよ。何でルイズはあんなに怒るんだ?」 「一応ね、私の家とルイズの家は因縁があるからねー。だからああ怒るのも解るのは解るんだけどねー」 「え?そうなの?」 「そうそう。昔っからあそこのところの男どもをご先祖様が誘惑しちゃってねー。それでなくても国境挟んで隣同士だから、戦争のたびに真っ先に殺し合いよ? ま、そういうわけだから、これに関してはルイズじゃなくても敵視してもおかしくはないわね」 「俺としちゃ、その男達に同情するわ。ワイフがルイズみたいな性格だったらそりゃ逃げるよ。 相手が君みたいな魅力的な女性なら尚更さ」 「あら、ありがとうペイトン。中々お上手ね。でもそっちのバーニーも中々のものね。良い人なんて言われたの初めてよ?」 キュルケは軽くあしらいながらも満更でもなさそうだった。 「そうなの?本当に良い人だと思うんだけどなぁ。ところで君は、そういう割には別にルイズを憎んではいないようだね?」 「あら、良く分かるのね。ま、殺し合いといっても、顔も知らないようなご先祖様の話しだし。 大体、どうせ身を焦がすなら憎しみの業火よりも恋の炎の方が良いじゃない。だからといって仲良くする気も無いけどね。向こうはこっちを憎んでるみたいだし」 「憎しみより恋って下りには全面的に同意するけどね。うーん、できればルイズに優しくしてやって欲しいかなぁ。でないと俺らにとばっちりが来る」 「ふふ、言うわねぇ。でもそろそろ、あの子を追いかけた方が良いんじゃない?余り一人にしておくと、また癇癪が爆発するかもよ?」 「それもそうだな。ご忠告どうも、キュルケ、じゃあ行くぞ、バーニー」 「待てよ!ああ、ありがとうキュルケさん。じゃぁ、またね」 慌しく礼を言うと、彼らは食堂目指し走り始めた。 こっちへ来てから始めて、それもキュルケのような美女にまともに接してもらったこともあり、彼らの気分は随分上向いていた。 なんだかんだで、こっちでも案外楽しくやれるかもしれない。何となく、そう思った。 「…気のせいだったな」 「…気のせいだったねぇ…」 彼らは、先程までの自分を呪っていた。床に座らされた彼らの前に置かれたのは硬いパンが二切れ申し訳程度に乗せられたスープである。 まぁ、床に座らされるのは我慢も出来る。だが、若い男の食事にしては明らかに量が足りない。 流石にこれは耐えかねたので、せめて量だけでも何とかするように、しつこく懇願していたら、根負けしたか、固そうなパンが増えた。 …が、それだけである。肉を要求したが、癖になるから駄目、とにべも無かった。いや、肉だけではない。ルイズが食べている美味そうな物は何一つ貰えなかったのだ。 落胆しながら食事を終えた彼らは、食堂の壁にもたれながら不満をぶちまけていた。 「…ったく、何が特別な計らい、だよ。ダイエットでもさせようってのかね」 「周りが豪華な食事な分余計惨めだよね…イギリス人だってもっとマシなもんを食べてるよ、きっと。いっそもう、ストでもするかい?」 「ハンストでもする気かよ。まぁ、こんなんじゃ食べてないのと大して代わらないけどよ…ああもう、仕方ねぇ、恵んでもらいに行こうぜ」 「それしかないだろうね…まぁ、昨日の反応から考えれば、男子を回れば誰か分けてくれるだろ。それに期待しようか」 「ヘイ、待てよバーニー。どうせなら綺麗所と食事としゃれ込もうぜ」 「おい待てよペイトン、そんなあてなんかないだろ!」 「あるだろ、ついさっき知り合ったばかりのあてがよ。駄目元だ、行ってみようや」 「それで?あたしのところに来たってわけ?」 食事中、突然やって来た彼らに最初キュルケは不審な顔をしていたが、理由を説明する内に段々その表情は崩れてゆき、最後には必死に笑いをこらえていた。 「貴方達、大胆すぎて面白いわねー。良いわ。もう手を付けちゃってるから、あんまり残ってないけど、それでも良ければ、だけど」 「とんでもない!ありがたく頂くよ、なぁバーニー!」 「勿論さ。ありがとう、キュルケさん!」 「ちょっと、正気なのキュルケ!なんでこんなのに!」 近くにいた女子からは一斉に非難の声が上がったが、キュルケはまるで気にしなかった。 「貴方達には頼んでないわよ?別に良いじゃない。まぁタバサが駄目というならちょっと考えるけど。別に構わないでしょ?」 その問いかけに、猛烈な勢いで食事をしていた少女が、僅かに手を止め、 「了承」 とだけ言うと再び轟然と食事を詰め込み始めた。 「タバサからも同席の許可がでたわ。ま、もっともこっちは分けてはくれないでしょうけどね」 「構わないよ、正直、白い目で見られないだけでもほっとする」 こうしてキュルケと話している今でも、周りの女子からの敵意の篭った視線がビンビンに突き刺さってきていた。 それだけに、普通に接してくれるキュルケ、放って置いてくれるタバサは非常にありがたかった。 こうして、彼らは何とか食事にありついたのである。そしてこれは、暫く続くこととなったのであった。 「おお、我等が英雄のお出ましだ!」 朝食が終われば、いよいよ授業が始まる。教室に入った彼らを出迎えたのは、そう熱烈に歓迎する男子と、 「………」 氷点下以下の侮蔑の篭った視線でこっちを睨む殆ど…というか、ルイズ、タバサ、キュルケ以外の全ての女子であった。 食堂の時の反応から予想は出来ていた事だったが、だからといってそれが慰めになるわけも無い。流石にこう露骨に敵意をあらわにされると逃げたくもなった。 面白そうな顔で手を振ってくれたキュルケが唯一の救い、といったところだろうか。彼らはせめて居心地の悪さを出来るだけ感じないようにした。 そして、その敵意はルイズに対しても向けられていた。そのせいで不機嫌を前面に押し出した顔をしていたルイズにペイトンは気になっていたことを尋ねた。 「…ところで、来いというから授業について来たけど、俺達は何をすればいいんだ?まさか俺達にも魔法を習わせる気か?」 「まさか!この授業は、使い魔を連れてくる事になってたから、というだけの話よ。アタシだって何を好き好んであんた達みたいなトラブルの種をわざわざ… はぁ、もういいから。黙ってそこに突っ立ってればいいわよ。とにかく、余計な事は一切しないで。他には何も望まないから」 「へいへい、有り難い御配慮に感激して涙が零れそうですよっと」 「おいペイトン、挑発するなよ…僕だって我慢してるんだ」 愚痴をこぼしながら、彼らがルイズの後ろに控える格好になると、いい加減耐えかねたか、女子達から一斉に非難の声が上がった。 「ルイズー?あんなの連れてくるんじゃないわよー?今すぐ出て行かせなさいなー」 「そうそう、またやったら今度はアンタも只じゃ済まさないわよー」 自業自得とはいえ、相変わらずの反応にすっかり彼らはゲンナリした。男子共もあんだけ持て囃すならちっとは擁護してくれても良いのに…と内心思ったが、 この状態で擁護したら最後、女子からどういう扱いをされるかは火を見るより明らかである。擁護ゼロなのは無理もなかろう。 だが、幸いな事にほどなくその声は途切れた。ふくよかな中年の女教師が入ってきたのである。 紫のローブに身を包んだ彼女は、教室を見渡すと満足そうに口を開いた。 「皆さん、春の使い魔召喚は成功に終わったようで何よりですわ。このシュヴルーズ、様々な使い魔を見るのがこの季節の一番の楽しみなのです。 生徒達の成長を実感できますしね。ところで…」 そこで、シュヴルーズは言葉を切ると、彼らを見て 「貴方達ですか、ミス・ヴァリエールの使い魔というのは。…えぇと、平民の身で使い魔となっては色々戸惑う事も多いでしょうが、だからといって変な事はしないように。 くれぐれも頼みますよ。ミス・ヴァリエール。貴女もしっかり監督するように心がけて下さい」 その言葉で我が意を得たとばかりに、中断された非難の声が再び飛んでくる。 「先生!私は反対です!あのルイズにこの使い魔を制御できるとは思えませんわ!」 「この平民にそんなこと期待できません!ああ、思い返すだけで腹立たしい!」 その声にルイズはひたすら耐えるばかりで、その様子は散々な扱いを受けた彼らも少しは同情したくなるほどであった。 彼らは反論するわけにも行かず、しばしそれを黙って聞いていたが、収まりそうもないので立ち上がると 「あー、ルイズ。悪いが俺達は席を外すよ。周りの反感が凄いもん。正直、君だって辛いだろ?」 「そうそう、次は出るからそれで許してよ。すいません先生。どうも授業の邪魔になるようですから僕たちは失礼します。構いませんね?」 「本当は使い魔は一緒にいて欲しいのですが…まぁ、こう空気が悪くては仕方が無いですね。 退室を認めましょう。えぇ皆さん。彼らも反省しているようですし、禍根は…まぁすぐに忘れろというのも難しいでしょうが、何時までも引きずらないように。よろしいですね?では授業を始めます」 ルイズは、唇をかみ締め彼らを睨んだが、結局何も言わなかった。彼らも肩を竦めこそしたが、結局無言で出て行った。 その少し後、教室から凄い爆発音が響いた。かなり遠ざかっていた彼らが思わず振り返るくらいの大きなものであった。 「…何だ、今の?」 「おいおい、俺に分かるわけないだろ?ま、何かの魔法だろうな。さすがファンタジーだ。きっと派手なのをぶっ放したんだろ」 再び肩を竦めると、彼ら歩き出した。よもや、それを起こしたのがルイズだなどと知る由も無かった。 そうと知ったのはルイズに呼びつけられて惨憺たる教室の片づけを命じられた時であるが、それはまぁ余談である。 そんなこんなで数日が過ぎた。流石にルイズも慣れてきたか、初日の不信感丸出し、といった様子もなくなり、彼らを前にしても露骨に不機嫌になることはなくなっていた。 そういう意味では随分進歩したと言えよう。言えるのだが…彼らの待遇はまるで代わっていなかった。 どうやらそれは嫌悪感や罰によるものではなく、ルイズの使い魔と主人では扱いに差があって当然、という意識によるものらしい、 という事が彼らにも分かってきたのだが…当然、彼らがそれで納まるはずも無い。その日もまた、愚痴っていた。 「ああ!もう我慢出来ねぇや。俺達はいつまでこんな生活しなきゃなんないんだ?」 「そんなの僕に分かるわけ無いだろ。未来予知は専門外さ」 「まあ、ルイズが魔法を使えるようになるのが一番ハッピーなんだけどな。今のままだと、コッチが割を食うばっかだ」 「だね。…とはいえ、魔法の事なんかわかりゃしないしなぁ…協力したくてもしようが無いよ」 「だよなぁ…こうなったらアレだ。抗議しないか、抗議」 「ルイズに…じゃないんだろ?どこにだよ。FBIか?CIAか?それに何て言うんだよ。労働基準法違反とでも言う気か?」 「まぁ俺もどこに文句ぶつけたらいいか分からないけどさ…おお、そういえば、ほら、俺達が最初に出会った先生いたじゃん。 ちょっと頭の寂しい。あの人はどうよ。結構話せそうな感じだったし」 突然の訪問にもコルベールは嫌な顔を見せず対応していたが、彼らの話を聞くと、困ったような顔で、頭をかきつつ答えた。 「はぁ、まぁ…君達の要求は分かりますが…正直君達は最初にちょっとその… 不味い事をしでかしたわけですし、ある意味しょうがないでしょう」 「それはそうですが、ルイズはまるで聞く耳持たないので…せめて、それとなく仲裁に入ってもらえないかな、と」 「多くは望みませんが、せめて食事だけでも何とかしてもらえませんか。贅沢は言えませんが二人で食うには量が、その…」 「私としては、もう少し日にちがたてばミス・ヴァリエールも冷静になって待遇を改善するのでは、と思いますがねぇ。 そこへ私が下手に口を出して依怙地になっては逆効果ですし…というわけで、もう少し我慢していただけませんか? 彼女はもともと頭の良い生徒ですから、きっと落ち着いて話せば分かってくれますよ」 「駄目じゃん!正論だとは思うけどなんの救いにもならねぇよ!」 「言うなよペイトン…そうだ、こうなったら駄目元で、先生の更に上に掛け合ってみようぜ」 「上?つまり誰だ?」 「ここの、校長さ」 人に何度か場所を尋ね、やっとたどり着いた学院長室の前で、彼らは躊躇していた。 「じ、じゃぁ、行くぞ」 緊張の余り、震える手でドアノブに触れる。ここの魔法使いを束ねる存在となれば、それ相応の実力を持つはずである。 まさか御伽噺にあるように、ちょっと機嫌を損ねただけで呪いを掛けられ蛙にされてしまった、等という事は無いだろうが… 大丈夫、迂闊な振る舞いをしなければ問題ない。そう言い聞かせて胸に沸き起こる悪い想像を押さえつけながら、ついに扉を開けた。そこで彼らは見た。 「全く!お尻を!触るなと!何度言えば!」 「触って何が悪い!大体、君のお尻が魅力的なのが悪いんじゃ!尻の引力に魂が惹かれたんじゃ!」 学院長らしき人物が、秘書らしき美女に蹴り倒されていたのを。 無言で扉を閉じた彼らは顔を見合わせ、同時に溜息をついた。見たまんまなのか、そういうプレイなのか状況が良く分からなかったが …とにかく、まるで当てにならないことは確実だったからだ。 「駄目だなこりゃ。本当に怒りが収まるのを待つしかなさそうだ」 「…その日まで敬謙にすごせ…ってか?この調子だと審判の日が来る方が早いかもな。 そうなったら凄いな。俺でも神父様になれそうだぜ…いや、待てよ…今のは上手くすれば…」 「…?おいペイトン、何を考えてるんだ?」 「うん?面白い事を思いついたんだ。題して、プレゼント作戦!耳かせ、耳」 ペイトンの作戦は単純なものだった。が、バーニーは難色を示した。 「…やだよ、バーナデッドから始めてもらったメールがあるんだ。コイツは墓場まで持っていくぞ!」 「純情だなぁ…わかったよ、俺のを使うよ。貸し一つな。その代わり色々俺のアドレス帳のを登録してもらうぜ」 「何でだよ、全然分からないんだけど!」 不審の声を上げながらも、バーニーは結局ペイトンの案に乗った。他に妙案も無い以上、それに賭けるしかなさそうだったし、何だかんだでペイトンの事を信頼しているからである。 「…おや、君達は…」 再び尋ねた学院長室には先客…コルベールがいた。彼は彼らを見て若干狼狽した様子だった。その手には二枚のスケッチがあり、 良く見ればそれにはバーニーの手に浮かぶ文様と同じものが描かれていたのだが…彼らはそんなものには全く注意を払わなかった。それよりも優先されるべき事項があったからだ。 「始めまして。学院長先生。ルイズの使い魔になりましたバーニーです」 「同じくペイトンです」 「そうかそうか、君達じゃったか。わしが、学院長のオールド・オスマンじゃ。こっちの、コルベール君とは面識はあるな? それとこちらの美人はミス・ロングビル。わしの秘書をやってもらっておる。して、何用かな?」 「実は、学院長先生に見せたいものがあります。多分、ここではまず見られない珍品ですよ?」 そういって、ペイトンはにやりと笑った。 「実は…ああすみません、その前に窓が開いていた方が都合が良いんで、ちょっと窓を開けてもらって良いですかね?」 「…ふむ?」 怪訝そうにオスマンがロングビルを見やると、彼女は頷き、立ち上がると窓へ向かった。 その動きに合わせ、ペイトンが懐から携帯電話を取り出す。ペイトンがバーニーを小突いたのはその時であった。 それを合図に、バーニーが精神を集中する。すると、窓を開けに向かったロングビルのスカートが風も無くふわり、と捲れあがり、同時にカシャリ、と音が響いた。 現代人なら瞬時に誰に、何をされたか理解し、ペイトンは吊るし上げを喰らっていただろう。 だが、生憎とロングビルはいつもの事…つまり、オスマンのセクハラだと解釈し、報復に出た。振り向きもせずに、無造作に手を振った。 ほぼ同時にオスマンの呻き声が響いた。 狙いたがわず、手に持っていたペンがオスマンの顔面に命中していたのだ。 「すげ…ニンジャみたいだ」 ぼそりとペイトンが呟いた。 「オールド・オスマン、悪戯はいい加減にして下さいね。用事を思い出したので少し席を外させてもらいます!」 にっこりと、凄みの篭った微笑をオスマンに投げかけると、鼻を晴らしてロングビルは退室していった。 ロングビルが退室したのを見届けると、ペイトンは仕切り直しというように二、三回咳払いをしてから 「さて、これはですね、色々機能がありますが…まぁ簡単に説明するとですね、 この枠内に映ったものを写真…ああ、絵として保存しておくことが出来るのですよ、このように」 と、ペイトンが携帯を操作する。すると、先程捲れあがったロングビルのスカートの中身が見事に激写されていた。ちなみに、赤であった。 「…とまぁ、このような品、恐らく興味を引かれるのではないか、と思うのですが…如何です? ああ、この絵については気にしないでくださいね。窓から見える景色をとって見せるつもりでしたが、たまたま、偶然、不運にもこんな物が撮れてしまいまして」 「お、おお、うん、これは実に、その、興味深い!」 「全くですな!これは、一体どういう仕組みになっているのですかな?」 「でしょう!そう仰ると思っていました。それで…しばらく使ってみますか?勿論興味がお有りなら、の話ですが」 「勿論じゃ、勿論じゃとも!」 興奮して身を乗り出してくる二人に、極簡単に撮り方、見方だけを教えてペイトンは携帯を手渡した。 「はい、どうぞ。後で解らない事があったら気軽に聞いてくださいね。 ああ、念を押すまでも無いでしょうが、他じゃまず手に入らない代物ですんで、丁寧に扱ってくださいよ?」 「勿論じゃとも!」 力強く頷く二人を見ると、ペイトンは満足そうに頷き、 「それでは、これで失礼します。存分に研究して下さいよ。戻るぞ、バーニー」 「え…?おい、ちょっと、まだ話があるだろ」 「いいから来いって。いいんだよ、これで」 そういうと、ペイトンは無理矢理バーニーを引きずって退室した。が、爛々と目を輝かせている彼らには、その様子は最早写ってはいなかった。 彼らはこの携帯をどうするかにもう夢中だったのだ。 コルベールは、これを隅から隅まで研究してみたいという欲求で。 オスマンは、これで隅から隅までロングビルを激写したいという欲求で。 さて、収まらないのはバーニーである。余りにすんなり引き下がったので、退室するなりペイトンに食って掛かった。 「…おいペイトン、どういう事だ?」 「ん~、どういう事って?」 「待遇改善してもらうんだろ?なんで携帯渡しただけですんなり引き下がるんだよ!」 「ふっふっふ、まぁ見てなって。後数日の我慢だ。俺の読みが正しけりゃぁ、そうすれば愉快な事になるぜ」 「…?」 果たして、数日後、ペイトンの言ったとおりになったのである。 そろそろ良いだろ、とのペイトンの判断で彼らは再びオールド・オスマンに面会した。 が。面会自体はすんなり適ったが…彼らを迎えたオールド・オスマンとコルベールの様子がおかしいのだ。 「あ、ああ、君達か。何の用かな?」 「賢明なる学院長殿にはご推察だと思いますが?そろそろこの前渡した携帯を返していただきたいのですが。もう充分研究なさったでしょう?」 「い、いや…あれは実に興味深くてな、もう少し貸しては貰えんじゃろうかなぁ」 「まぁ、それならそれで構いませんが…まさか、壊したりはしてませんよね?」 「はははいやいや、まさか、そんな、なぁ!コルベール君」 「ええ、勿論ですとも!ただ、まぁ興味が尽きないので、もうしばらく!何卒!」 「ですよね!まさかそんなはずないですよね!いやいや失礼しました!」 「いやいや、君がそう心配するのも、うん。もっともじゃよ。じゃが、その、安心してくれんか」 動揺しすぎな彼らを見てバーニーにも大体事情が飲み込めた。無論、それを合えて口にするほどバーニーは空気の読めない男ではない。 「そうですか、ところで話は変わるんですが、ああ、コルベール先生には相談したんですけど。俺達初日にやらかしたせいもあって、未だに食堂で寝てるんです。 食事もキュルケや他の男子から分けてもらっているようなもんだし、もうちょっと、衣…はともかく食住の環境をですね」 「ああ、わかったとも!男子寮に空室があったはずじゃから、そこに移れるようにしよう!食事に関しても厨房に取り計らっておこう。その代わりといっては何じゃがな」 「…ふぅ、わかりましたよ。もう暫くお貸ししておきます。でも、気が済んだら必ず返して下さいよ?」 それだけ言って彼らは退出した。ドアが閉まるなり、満面の笑みで彼らはハイタッチを交わした。 「やりやがったなペイトン!これを狙ってたのか!」 「そうさ、あの秘書さん、結構過激みたいだし、あの爺さんが調子に乗って盗撮でもすればもしや…と思ったんだ。 それに、珍しさからいじり倒せばどの道すぐに電気切れになるだろうって…と」 そこでペイトンは指を立てて「静かに」のジェスチャーをした。怪訝に思いながらもバーニーが黙ると、 「だから私はあれほど彼女の下着を狙うのは止めろと…」 「どんな影響があるか分からんから固定化はやめておこうといったのは君ではないか!大体…」 と激しく言い争う声が聞こえてきたので、彼らは笑いをこらえるのに必死だった。 「それじゃぁ、俺達の新しい城に!」 「我らの再出発に!」 「「乾杯!」」 その夜、彼らは与えられた部屋で存分に祝杯を挙げた。話を聞いた幾人かの男子達もお祝いにやってきて彼らは大いに意気投合した。 そして、久々に満ち足りた気分で、ふかふかのベッドで眠りについたのであった。 前ページ次ページトリステイン魔法学院Z
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前ページ次ページ檄・トリステイン華劇団!! プロローグ 六度失敗した彼女の召喚魔法は、ついに七度目には爆発すら起こさなくなっていた。 貴族の子弟を教育するトリステイン魔法学院での恒例となっている二年生の使い魔召 喚の儀式。魔法学院の中庭で生徒たちは、一生の相棒となる使い魔を召喚する。周りの 生徒たちが火蜥蜴や梟、中には大型のドラゴンなど次々に召喚している中で、桃色の髪 をした小柄な少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは詠唱の度に 爆発を起こし、ついにただ一人召喚魔法を達成できていない生徒となってしまったのであ る。 「ミス・ヴァリエール。日を改めましょうか」立会いの教師の一人がそう言って少女に声をか ける。 「いえ、もう一度やらせてください」しかし彼女頑なにやめることを拒否した。 そして最後のチャンスとばかりに杖を振り上げるルイズ。 周囲の召喚を終えた生徒たちは、また爆発がくると思い身構えている。 しかし、七度目の召喚において、ついに爆発すら起こらなくなった。 「どうして…」涙目でつぶやくルイズ。 と、その瞬間、学院の敷地外で大きな爆発音が響くと同時に地面が大きく揺れる。 「え…?」 状況がよく理解できていないルイズは、急な揺れに尻餅をついてしまった。 「何が起こった!」 「外です、外で爆発が起こりました」 塀の向こうから黒煙が立ち上っているのが見える。かなり大きな爆発音だったらしく、教師 陣も他の生徒たちも混乱している。 「山賊か?異民族の攻撃か」 「わかりません!今様子を見に行っているところです」 学院の敷地外の爆発が、自分の仕業だとはルイズは思わなかった。目の前ならともかく、 わざわざ離れた所を爆発させるような器用な真似などできるはずもない。もしそんなことが できるのならば、とっくに使い魔も召喚しているはずだ。 「馬車だ!馬車が壊れていました」儀式の立会をしていた教師陣に対してそんな報告がなさ れた。 「馬車ですって?それはどういうことなの。説明してちょうだい!!」 「あの馬車には、今日学院に来るはずだった新しい教師が乗っていたはずなのですが…」 教師の一人の顔がみるみると青ざめている。 「本日の使い魔召喚の儀式は中止と致します。指示があるまで各自は自分の部屋に戻って ください!!」 そんな声が中庭に響き渡った。 檄・トリステイン華劇団!! 一体何が起こったのか。 気がつくと目の前に大きな石の壁が見えた。そして周りを見回してみると、バラバラに なった馬車、らしき残骸。そして尻を火傷した馬。 状況が全く飲み込めないまま彼はその場にへたり込んでいた。 「大丈夫ですか!?」 不意に誰かの声がきこえる。 振り返ると、数人のこげ茶色のローブを着た人が数人がこちらに駆け寄ってくるのが分 かった。 彼はゆっくりと立ち上がり、服の泥を払い落す。 「大丈夫ですか先生!」 先生? 一瞬彼らの言葉の意味が理解できなかった。 「あの…」 「はい?」 「ここはどこですか」 彼のその質問に、駆け寄ってきた人たちは顔を見合わせた。 * 重厚な本棚や作りのしっかりした窓。それに大きな机。それだけでこの部屋が偉い人の ものだということがわかる。 「イチロー・オオガミ?」 「はい」 白髭の老人はそう言って彼の表情をじっと見つめる。 「状況を整理しよう。本日、当学院には首都トリスタニアから新しい講師を迎える予定であった。 しかし、講師が乗っていた馬車は学院に来る直前に爆発。そして爆発の後には講師ではなく、 キミ、オオガミ君がいたということかね」 「そう…、なんでしょうか。自分にはよく状況が理解できないのですが」 彼、大神一郎は仙台から上野に向かう列車に揺られているはずだった。客車でついウトウト していると、いつの間にか目の前には馬車か何かの残骸が転がっており、客車の中とは全く 違う環境にいたのである。 「学院長、よろしいですか」 「ん?なんだねコルベール君」 大神の横に立っていたコルベールと呼ばれた男性、頭が見事に禿げあがり、かつメガネを かけているその人は白髭の学院長から許可を得て喋り始める。 「ミスタ・オオガミが突然現れた件なのですが、本日行っていた使い魔召喚の儀式が原因では ないかと思われます」 「ふむ、しかし、彼が現れた時には召喚の儀式は概ね終わっていたのだろう?」 「はい、そうなんですが、一人まだ残っておりまして」 「ヴァリエール家の三女かね」 「はい。実は、彼女の召喚魔法が何かしら影響したのではないかと私は考えるのです」 「しかしミス・ヴァリエールの魔法は未だかつて成功したことがない、と聞いておるのだが」 「確かにそうですが、彼女の魔力に関しては底知れぬものがあります。本人はまだ気が付いて いないようですが、その魔力の強大さゆえに上手く制御できていない。それが彼女の魔法が成 功しない最大の原因だと考えております。 ですから、今回の召喚の儀式でも彼女はことごとく失敗しました。そして最大の失敗が、トリス タニアからおいで下さった教師の乗った馬車の破壊。そしてミスタ・オオガミの召喚です」 「なんと、では彼がここの現れたのはミス・ヴァリエールの召喚魔法のせいだと」 「断定はできませんが、その可能性は高いと思います」 「しかし、では教師はどこへ行ったのか」 「はあ。ミスタ・オオガミの話を聞く限り、彼はどうもこの世界、少なくともハルケギニアに住んで いる人ではないと思えるのです」 「なに?」 「例えば、蒸気機関などというものが実用化された、という話を我々は聞きません」 「ふむ、蒸気機関?」学院長が白髭をさすりながら尋ねる。 「あの、蒸気機関とは蒸気の力で物を動かすものです」と大神が答えた。 「蒸気の力とな?」学院長は、今度は大神の方を正面に見据えて聞いてくる。 「お湯を沸かすと湯気が出てくるじゃないですか。その力を、物を動かす、例えば車を動 かしたり工場で糸を作ったりするのに利用するのです」 「聞いたことがない。それは魔法なのかな」 「魔法…?魔法ではありませんよ」 「学院長、ミスタ・オオガミの住む世界では魔法というものはあまり一般的ではないようです。 ですよね」そう言ってコルベールは大神の方を見る。 「は、はあ。しかし…」 「じゃがコルベールくん。彼からは魔力のようなものを感じるぞ。一般の平民がこのような 魔力を帯びているとは考えづらいのだが」 「この力ですか。自分たちはこの力を『霊力』と呼んでいます。この世界で言うところの魔力 に近いでしょうか。でもこの世界で言う魔法ほど頻繁に使われるものではありません」 「ふむ、なかなか興味深いの。しかし今日は時間がない。コルベールくん」 「はい」 「彼には職員用の宿舎で休んでもらおう。行方不明になられた教師の探索も含めて、今後 色々と検討せねばならんからの」 「はい、わかりました」 「あ、そうだコルベールくん」 「はい、なんでしょう学院長」 「とりあえず彼を首都から来た教師ということにしてみようじゃないか」 「はい?」 「え……」 大神とコルベールは同時に驚き顔を見合わせた。 「どういうことですか」戸惑う大神に対しコルベールは学院長に詰め寄る。 「ふむ。教師、それも首都トリスタニアのアカデミーから派遣されてきた者が行方不明になった とあっては大変じゃ。ゆえに、しばらくの間オオガミくんにはその教師の代わりになってもらおう」 「隠すんですか?」 「ば、バカ者。人聞きの悪いことを。異世界から来た者を学院に置いておく、などと言うわけには いかんじゃろうが」 「いや、しかし……」それ以上言葉が出ないコルベール。 「そ、そうですよ。自分は海軍の士官学校を出ただけで特別に教えられるようなことは……」大神 はそう言ってみたが白髭は澄ました顔のままであった。 「まあ気にする事もない。あくまで表向きじゃから。その間に何とか調べるよ」 そういうと白髭の学院長はかっかと笑った。 「それであの、行方不明になった先生のことは……・」大神が恐る恐る口を開いてみた。 「まあ、なんとかなるじゃろう。それよりキミは自分の心配をしたまえ」そう言って老人は、白髭 を手でいじり、窓から外を見た。 一刻も早く帝都に帰り、家で休みたいと思っていた大神にとって、長い長い帰りの旅路が今、 はじまったばかりである。 * 案内された職員用の宿舎は多少埃っぽかったものの、寝泊まりするには申し分のない広さ だ。しかし、ここには照明用の電気がなく、夜の明かりは月明かりとランプが頼り、という心許 無い。 「それにしてもコルベールさん。見ず知らずの僕にここまでしていただいて申し訳ない」部屋を 案内してくれたコルベールに対して素直に礼を言う大神。 「いえ、あなたをこの世界に呼んだのは我々にも少なからず責任があるのです。どうぞお気に なさらずに」 「はあ、そう言われましても」 「ところで、オオガミさん」 「はい」 「先ほどの蒸気機関の話を、もう少し詳しく聞かせていただけないでしょうか」 「はあ。僕も技術者ではないのであまり詳しくは知らないのですが、僕がここに来る直前まで 蒸気機関車というものに乗っていました」 「ほお、蒸気機関車ですか」 「簡単に言えば、蒸気の力で動く馬車ですね」 「でも、その馬車よりも早い」 「馬よりも早いのですか」 「そうですね」 「じゃあ、竜はどうですか」 「それはわからない」 「グリフォンは」 「申し訳ない。そういう生き物は、僕らのいる世界にはいないもので」 「なるほど。ドラゴンやグリフォンの代わりに、蒸気で動く幻獣を扱っているわけか」 コルベールは何かブツブツと言っている。 「いや、幻獣というわけでは……」 「ところでオオガミさん。話は変わるのですが」 「はい」 「あなたの世界では、その蒸気というもので動くゴーレムはいますか?」 「ゴーレム?」 「いや、その。大きな人形とでもいいましょうか。魔法で動く物なのですが…」 「光武のことかな…」 「え、コウブ?」 「ああいや、霊子甲冑のことをそう呼んでいるのですが」 「レイシカッチュウとは何ですか」 「蒸気と霊力、あなた方で言うところの魔法ですか、その力を併用して動く兵器です」 「兵器…、武器なのですか」 一瞬コルベールの顔が曇る。 「はあ」 「いや、失礼。変なことをお聞きしまして」 「いえ、自分の方こそあまりお役に立てるようなことが教えられなくて」 「いいえ、とても勉強になりました。あの、そろそろ私は」 「はい。どうもありがとうございます」 「ごゆっくり」 「はい」 コルベールが部屋を出て行くと、急に静かになったような気がする。 それと同時に緊張の糸が途切れたのか、急に力が抜けベッドの上にへたり込んでしまった。 やはりここは日本ではないのか。 日本どころか、地球であるかどうかも怪しい。薄暗い部屋の中に差しこむ月明かりは、 ロウソクの火よりも強いかもしれない。そう思い外を見ると、二つの月が浮かんでいた。 急に不安になる心。ここでは一人なのだ。 彼は今まで何度も死の危険を乗り越えてきた。それをしてこれたのは、信頼できる仲間 がいたからこそである。部下のいない隊長がこれほどまでに無力でみじめなものだとは 思わなかった。 「さくらくん、元気にしているかな…」 沈みかける心。しかし大神はそれを振り払うかのように頭を強く横に振った。 「いかんいかん。こんなところで弱気になっていたら、それこそ帝劇や巴里の隊員たちに 笑われてしまう」 彼は自分に言い聞かせるように呟くと、ほおを強く叩いた。 * 翌日、コルベールに案内されて職員用の食堂で朝食を済ませる大神。他の教職員たち からは奇妙な格好をした大神は変な動物を見るような目で見られていた。ちなみにこのとき 大神が着ていた服は帝國華劇団のモギリ服である。 さっさと朝食を終えた彼は途方にくれていた。 これからどうすればいいのか。 「あ、オオガミさん。ちょうど良かった」 ふと、この学院で数少ない顔見知りであるコルベールが声をかけてきた。 「どうしましたコルベールさん」 「いや実は、ちょっと人を探しているのですが」 「人?」 「ミス・ヴァリエールのことなんです」 「ミス、ヴァリエールですか」 そういえば、昨日の学院長室での会話でもそんな名前が出てきたな。 「はい。ちょうど今朝から姿が見えなくてですね」 「え? もしかして脱走……」 「まさか。それはないと思うのですが」 「ですよね」 「ただ、彼女は今年の二年生の中で唯一使い魔召喚ができていませんでしたから、そのショック があったのかもしれません」 「はあ」 「桃色の長い髪をした、小柄な少女がいたら、おそらくそれがミス・ヴァリエールです」 「そうですか」 「オオガミさんも見かけたら、私に教えてください」 「あ、はい。わかりました」 学院は高い塀に囲まれていて、正規の出入り口以外では簡単に出入りできそうにない。という ことは、やはりこの学院内にいるということだろう。それにしてもこの広い敷地で、見つけることなど できるのだろうか。 いた……。 コルベールの言う事をそのまま理解するならばおそらく、いや間違いなく彼女だ。 中庭の芝の上に一人座りこむ少女。黒いマントはこの学校の制服なのだろう。桃色の長い ブロンド髪はかろやかに波打っている。 「や、やあ」 いったいこの世界の住人、それも女性にどう声をかけていいのか大神にはわからなかったけれ ども、帝都、そして巴里においてあらゆる国籍、あらゆる性格、あらゆる外見の女性とフラグを立て てきた彼にとってはピンク色の髪でしかも魔法使い、などという特徴は障害のうちには入らない (ただし、年上は除く)。 「……だれ」鋭い目つきで威嚇するようにこちらを見る少女。 しかし大神には、その鋭さが逆に弱さを覆い隠そうと必死になっているようにも思えた。 「僕は大神一郎。え、ええと……、首都から派遣されてきた教師だよ」 大神はとりあえず学園長に言われた通りのウソをついてみた。すぐバレるウソなのだが。 「そう……。って、ちょっと待って」 「ん?」 「もしかして昨日の爆発に巻き込まれたっていうのは、あなた」 「あ、ああ。そうだね」 「身体は、大丈夫なの」 「ん?おかげさまで」 「……悪かったわね」 「いや、別に何ともないから」 「そう……。私はこれで退学になるみたいだから、それで許して」 「え? 退学って、学校をやめるってことかい」 「そうよ」 「そりゃどうして」 「どうしてって。二年生で使い魔を召喚できなかったのは私だけなの。使い魔はメイジにとって 重要ものよ。それの召喚ができなかったってことは、メイジとしても貴族としても失格 ってことよ」 大神にはわからない言葉も色々と出ているのだが、話の腰を折らないためそのまま聞き 流すことにした。 「し、失格だなんて」 「そうなのよ。ねえ、私、他の生徒からなんて呼ばれているか知ってる?」 「ん?」 「“ゼロのルイズ”って呼ばれてるの」 「それはまた……」 「成功率ゼロ、才能がゼロだからゼロのルイズ。ぴったりでしょう」 自嘲気味に笑う少女。 そんな横顔を見て大神は何か言わずにはいられなかった。 「そんなことないよ」 「へ?」 「昨日コルベールさんも言ってたよ。ミス・ヴァリエールは凄い力を秘めているって」 「そんなお世辞、聞きたくもないわよ。っていうかあなた、なぜ私の名前を…?」 「いや、間違えたのかな。ミス・ヴァリエールっていうのは」 「間違いじゃないわ。私の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール」 「へ、へえ……」 「ルイズでいいわよ」 「ああ、わかったよ」 「あなたの名前……」 「ん?」 「もう一度教えて」 「え、ああ。大神一郎だ」 「イチロー・オオガミ。随分シンプルな名前なのね。どこの出身?」 「あ、いや」 「そういえば首都から来たとか言ってたわよね」 どうやら勝手に納得してくれたらしい。 「ねえ」 「なんだい」 「オオガミって言いにくいからイチローでいい?」 「ああ、構わないよ」 「それじゃイチロー先生。短い間だったけど、会えて嬉しかったわ。それじゃ」 「あの、どこに」 「心配しないで。コルベール先生の所に行くの。ちゃんと正式な手続きを経て学院を辞めるわ。抜け 出すような真似はしないから」 「そうか……、って、それは」 昼食時。 相変わらず奇異な目で見られる中、大神とコルベールは昼食を食べていた。 「いや、オオガミさんのおかげでミス・ヴァリエールがすぐに見つかって良かったですよ」 「いえ、俺は何もしていませんよ」 「なあに、慣れない環境でただでさえ疲れるのに、このような用を頼んでしまい申し訳あり ませんでした」 「いえ、そんなことはありません。ところでコルベールさん」 「なんでしょう」 「ルイズは…、いやミス・ヴァリエールは本当に退学してしまうのでしょうか」 「う……」コルベールはパンを持ったまま固まってしまった。 「なんでも、使い魔召喚の儀式に唯一成功しなかったとか」 「ミス・ヴァリエールは、実技こそ得意ではありませんが、学科でも熱心ですし、私どもとし てはしっかり卒業して欲しいとは思うのですが」 「そうなんですか?」 「ただ、彼女の家のほうが問題がありまして」 「家」 「あまり他人の、それも貴族の家の問題にとやかく言うつもりはありませんが、ラ・ヴァリ エール家は、彼女に、ルイズに魔法使い(メイジ)ではなくお嫁に行って欲しいと考えている ようなのです」 「はあ…、でしたら別に学校を卒業してからでも」 「ええ、そうなんですが、前にも言いましたようにミス・ヴァリエールは魔法の実技で一度も 成功したことがありません。ゆえに、彼女の家としてはこのまま勉強を続けさせるよりも、 いっそ退学させて嫁に行かせた方が良いと考えているようなんです」 「そんな。ルイズの気持ちはどうなんですか」 「先ほど、私の所に来た彼女は、このまま学院を辞めてもいいと言っておりました」 不意に思い出す寂しげな横顔。 それでいいのか。そんなことで本当にいいのか。大神は手にもっていたフォークを強く握りしめる。 * 翌日、学院内の中庭にはルイズと大神の二人がいた。 「一体どういうこと?」まったく解せないという顔で大神を見るルイズ。 「いや、学院長に頼んでキミの指導をさせてくれるようにしたんだ」 「指導って、私はもうやめるのよ。今さらそんなこと……」 「キミには能力があるんだ。それを上手く活かしきれなかったのは学院のカリキュラムに何か 問題があったのかもしれない。僕もキミみたいに上手く能力を使えない子を何人か知っている から、そういう経験を生かしてやってみようかと思うんだ」 「そんなこと言われても」 「一度でもいいから成功したいと思わないかい?」 「え?」 「キミは凄い力の持主なんだ。その可能性を潰すのは惜しい」 「そんなの、嘘よ」 「まあ無理にとは言わないけどね。もし成功すれば、学院の皆もあっと驚くんじゃないかな」 「学院の皆……」そう言うとルイズは黙り込んだ。 「どうだい」 「べ、別にいいわよ。勘違いしないでよね。あなたを信用しているってわけじゃないの。ただ、これ から学院を出るまで少し時間があるから、その間だけならあなたに付き合ってあげてもいいのよ」 「そうか、よかった」 大神が笑いかけると、なぜかルイズは赤面していた。 「どうしたんだいルイズくん」 「な、なんでもありません」 こうして、大神によるルイズの指導がはじまったわけである。ただ、士官学校を卒業した後はすぐ に帝国華劇団に入った大神にとっては、教えられることは限られていた。それでも彼は、できるだけ のことはしようと決意したのである。 それは、これまでの部下たちとルイズの姿を重ねたからかもしれない。大神は困っている女性を 放っておくことなどできない。 「こうして、草をむしって」 大神は、中庭の芝生をすこしつまみ、両手の上に置いた。そしてそこに自身の霊力を流し 込む。 すると、掌の草は静かに、それでいて素早く燃え上がる。 「すごい」 「いやいや、こんなもの普通だよ」 「私、こんなのもできないのよ。笑っちゃうでしょう」 「そんなことないって。やってごらん」 「う……」 大神に言われるがまま、両手の上に草を乗せるルイズ。 「本当にいいの?」そう言って大神の方を見るルイズ。 「構わないよ。どうぞ」 「うん……」 そう言うとルイズは静かに精神を集中させた。 「VUUR(ヴュール)」 そして火の呪文を詠唱するルイズ。しかし、掌の上の草になんの変化もなかった。 「ん……?」 次の瞬間、大きな音とともに、ルイズの掌が強い光を放った。 「うわあ!!!」 あまりの衝撃にのけぞる大神。 「げほっ、げほ」 ルイズの掌の草は、燃えるどころか爆発をしてしまった。 「ひゃあ、驚いだ」そう言って起き上がる大神。まだ心の臓が激しく鼓動している。 「ご、ごめんなさい。やっぱり駄目なのよ私。こんな簡単な魔法すら上手くいかないんだから」 「すごいよルイズ!」 「へ?」 「凄い力だ。これなら光武も操縦できるかもしれない」 「え、コウブ?」 「あ、いや。こっちの話。とにかくコルベールさんの言っていたことは本当だったんだね。やっぱりキミ には能力がある」 「で、でも何をやっても爆発しちゃうんですよ」 「キミの持つ力が強すぎるってだけさ。もっと訓練すれば、自分の霊力も制御できるようになるはずだ」 「レイリョク?」 「いや、ここでは魔力というのかな。とにかく、キミは凄いんだ」 「は、ふ……」 「どうしたの?」 「私、そんなに褒められたことなんてなかったから……。べ、別にお世辞なんて言わなくても私は」 「お世辞なんかじゃないよ。キミは能力がある。俺が保障するよ」 「そんな」 「俺なんかの保障じゃダメかい?まあ、そうかもしれないけど」 「そ、そんなことないもん! わ、私凄くうれしい」 「そうか。じゃあ、次の訓練に行こう」 「は、はい。と、その前にイチロー」 「ん?」 「顔、拭きに行きましょう。煤がついててカッコ悪い」 「そういうルイズくんも」 「えへへ」 * 中庭での黒髪の男と、ルイズとのやり取りを見ている二つの人影。 「あら、あれってトリスタニアから来たっていう新しい先生じゃない?ゼロのルイズと何 をやってるのかしら」 赤い髪、褐色の肌、そしてあふれんばかりの巨乳が目印のキュルケがそんなことを言った。 「個人授業……」青髪の少女が本を読みながらも、時々中庭の方に目をやりながら答える。 「あら、なんだか怪しい雰囲気ね」 「キュルケ、あなたは考え過ぎ」 「そうかしら。それにしてもあの先生、結構いい男じゃない?」 「よくわからない」 「そう、アンタは男には関心示さないわよね、タバサ」 「そういうキュルケ、あなたは関心を示し過ぎ」タバサ、と呼ばれた青髪の少女は本を読み ながら冷静に切り返す。 しかしキュルケもそういうぶっきらぼうなもの言いには慣れているらしく、深くは考えない。 「あらま、なんか木の棒を持ち出して剣の稽古をはじめたみたいよ」 「……」 「いったい何を考えてるのかしらあの先生」 「……」 「メイジが剣で戦うなんてありえないわ。そうよね、タバサ」 「……ユニーク」 「へ?」 「何でもない。部屋に戻る」 「ああ、ちょっと待ってよタバサ」 * 乾いた木を打ち合う音が中庭に響く。 警備兵が訓練用に使う木刀を使って大神とルイズは剣の稽古をやっているのだ。 「ちょ、ちょっとイチロー。いったいどういうこと?」 「どうって、剣の稽古だよ」 「私たちって、魔法の訓練をするのよねえ」 「ああ、わかってるよ」 「じゃあなんで剣なんか」 「ルイズくん。キミは少し急ぎ過ぎなんだよ」 「急ぎ過ぎ?」 「そう、何事も近道はないんだ。キミ自身の力は巨大だけども、俺の予想だとそれを抑える ための受け皿がまだ完璧じゃない。だったら、魔法サイドを鍛えるより、もっと身体を使った ほうがいいんじゃないかと思ってね」 「そう、なんだ。よく考えているのね」 半分は口から出まかせなのだが、それは黙っておいた。 「とりゃああ!」 「いいぞ、ルイズくん!」 大神によるルイズの指導はその後、数日続いた。 ある時は乗馬。 「結構うまいな」 「そうよ。乗馬はわりと得意なの」 ある時は釣り。 「精神を静めるためにはちょうどいい」 「ああ、イライラするわあ。早く釣れないかしら」 「ははは、焦っていると釣れないよ」 「う、もう。そうよね」 「あ、引いてるよルイズくん」 「あ、あ、あ、どうしよう。どうすればいい?」 「竿をあげて、竿を!」 「いやああああ」 そして帝國歌劇団でもやっていた歌の練習も。 聖堂のオルガンを弾いて声を出して見る大神。 「ラーラーラーラーラー♪、はい」 「ら~ら~ら~ら~らああああ」 「……」 「なに?」 (歌は、苦手みたいだな…) そんな日々の終わりは突然やってきた。 前ページ次ページ檄・トリステイン華劇団!!