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―第45章 悪夢への対策― 俺は二人に緊急召集をかけた。嫌な予感が的中する前に対策を…!! 十分後、二人が来た。 「一体どうしたの?」 「俺達を呼び出すなんて…何かあったのか?」 「ああ、単刀直入に言う。作戦中止かもしれない事態が起こるかもしれない。これを見てくれ。」 そう言って俺はモニターを見せる。 「これは…?」 「一体なんなんだ?」 「実は、『組織』の一部勢力が≪夢の国≫ごと『組織』への反抗勢力を一網打尽にするらしいんだ。」 「そんな事、どうやって…?」 「それなんだが、これはあくまでも推測の域をでない。可能性として考えられるだけだが…」 「一体なんなんだ?早く教えrぐはぁっ!!!」バキゴキグシャメメタァ!!! 「少し言葉を慎め。俺はこれと関連があると見ている。」 そう言ってモニターにあの廃ビルとその跡地の写真を出した。 「これがどうかしたの?」 「これはつい先日の事だが、一軒の廃ビルが音もなく消失したんだ。だが倒壊したわけじゃない。瓦礫も見つかってないからな。」 「じゃあ一体何が…?」 「俺はこのビルはとある都市伝説の力によって消滅したと考えている。その名を―」 「その名を?」 「『鮫島事件』だ。」 「鮫…島…事件……?なんなの、それ?」 「詳しい事は俺にもわからないが、能力としては多分範囲内のものをまるで最初からなかったかのように消去してしまう、途轍もなく恐ろしい能力らしい。」 「イテテテテ…そもそも、何でこのビルが消されたんだ?」 「それはだな、元々このビルは『組織』の拠点の一つだったんだ。しかし、そこに居た黒服達共々≪夢の国≫に取り込まれた。どういう意味か分かるか?」 「いや、全く?」 「だろうな。≪夢の国≫の勢力圏となってしまった拠点など、最早不要と考えたのだろう。そこで≪夢の国≫の工作員を『組織』の拠点ごと抹消した、という所だな。」 「まさか、それに用いられたのが…?」 「ああ、恐らく『鮫島事件』だろう。ちなみに、これが町内で発動されてしまえば、最悪学校町そのものが地図上から消える事になるかもしれない。」 「そんなっ…!」 「だから作戦変更だ。もし『鮫島事件』が発動されそうになったら、俺が単騎で止めに行く。例え、それが原因で『組織』の粛清対象になったとしてもだ。」 「じゃあ私たちはどうすれば!?」 「お前らは…純粋に祭りを楽しめ。」 「お前だけに良い格好h」 「まだ分からねぇのか!?戦力は分散させた方が良い。お前らには神社の方の護りをお願いしたいんだ。他にも契約者が居るかもしれないしな。」 「…分かったわ。その代わり、絶対に生きて帰ってきてよ!」 「ああ、約束しよう。」 こいつらのためにも、生きて帰らなければ…。 前ページ次ページ連載 - 結界都市『東京』
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……えー 化死窪喪血、と思われるもっさりしてほのかにピンク色のオーラを放つナマモノには逃亡されてしまい やや気まずい雰囲気が流れたものの……とりあえず、男が女子トイレにいつまでもいるというのは問題なので、場所を移す事にした 学園祭という人が多い環境、何か話していても、そうそう、周囲に気づかれる事はない 「…あぁ言うのを見て平気、って事は。黄昏、あなたも契約者なの?」 「え?……って事は、瑠璃さんも?」 あぁ、やっぱりなのか、と瑠璃は小さく頭を抱えた …兄が以前言っていた事が、ほんの少しだけ、わかった気がする 「えぇ、そうよ鏡のおばーちゃんと契約してるわ」 『ほっほ。正確には、「鏡の中の四次元婆」だけどねぇ』 そっと、裂邪とミナワに、小さな手鏡を見せる瑠璃 そこには、白い着物を纏った老婆の姿が映し出されていた 「追いかけてきてた気配は、その婆ちゃんか」 『ほっほっほ。鏡さえあれば、どこでも覗けるからねぇ』 つまるところ、鏡が存在する学校のトイレに逃げ込んだ時点で、裂邪達は瑠璃からは逃げられなかったノアd シェイドのシャドーダイブで、トイレの個室から移動していれば、また別だったのだが 「それで?あんたは、何と契約してるの?」 「俺は……このミナワと、他に三つ」 「御主人様と契約しています、ミナワです」 ぺこり、瑠璃に頭を下げるミナワ そう、と瑠璃はミナワに小さく笑いかけ …ふと、何かに気づいたように、怪訝な表情を浮かべる 「……他に三つ?多重契約じゃない。それって、危ないんじゃないの?」 「まぁ、そうだけど…」 「大丈夫です!ご主人様のことは、私達が護りますから!」 裂邪が、都市伝説に飲み込まれるような状況には、陥らせないと そうとでも言うように、断言するミナワ そんなミナワの発言に、裂邪はメロメロである …いい都市伝説と契約したものだ 瑠璃はどこか、微笑ましいものを覚える 「そう。でも、気をつけなさいよ?この街、やたらめったら都市伝説が多いんだから。契約者だと、特に遭遇しやすいわよ」 「あぁ…さっきの、赤いマントのおっさんと、赤いはんてんのロリ幼女のように?」 「そうね、ちょうど、さっきのって言うか、あそこにいるような…」 ……… ………… 瑠璃達の、前方に 先ほどの騒ぎで、一瞬姿を見せた、真っ赤なマントと、赤いはんてんが……見えた その色合いのせいか、人ゴミの中でも普通に目立つ いくら、都市伝説と契約者はひきつけあうと言っても、遭遇しすぎだろう どう言葉を続けたらいいものか、瑠璃も裂邪達もちょっと困るのだった 続くかどうかわからない 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
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夜の公園を二人の男が走る。 片方は神父のような恰好をした人の良さそうな中年の男。 もう一人は、対照的にダラけてた服装の、目つきの悪いずる賢そうな若い男。 突然、二人の足が止まる。 目の前には、大きな池。昼間なら小船を漕いだりできるが、さすがに夜にそんな事をしている人はいないようだ。 「やぁっと追いついたぜぇ」 二人の後ろから、若い男が現れる。その傍らには、白い鰐。 都市伝説「下水道の白いワニ」の契約者である。 神父風の男が振り返り、口を開く。 「何なんですか、あなたは。急に襲い掛かって来て。危ないでしょう」 「うるせぇ!お前らが母ちゃんから取った二百万!返して貰うぞ!」 「取ったって……アレは貰ったんだぞ?」 目つきの悪い男が言う。 「そうです。アレは寄付ですよ?」 神父風の男が同意する。 「何が寄付だ詐欺師ども!お前らが契約者なのは分かってんだ! 何と契約してるか知らねえが!その能力を奇跡とか言って宗教やってるらしいじゃねえか!このペテン師ども!」 男は二人に怒鳴る。 その言葉に、二人は黙ったまま何も言わない。それを見て、男は言い訳もできないらしいと判断した。 「金を返すなら見逃してやる。返さないなら、ワニの餌だ!!」 男の言葉とともに、鰐の口が大きく開かれる。 「あなたは、何か思い違いをしているようですね」 神父風の男が静かに口を開く。 「確かに、私達は契約者です。しかし、私達はやっぱりあなたのお母様を騙してなどいない」 「この野郎、そんなにワニの餌になりてぇか……」 「まあ見なさい」 神父風の男は、地面に落ちている石を拾った。はずだったが、それが男の胸の高さまで来た時、その手にはパンが握られていた。 「……は?」 「分けてあげますね」 神父風の男はそう言うと、石だったはずのパンをちぎって男に投げた。 何かの罠かと、男は受けとらず、パンは地面に落ちる。 「何を……」 「もう一つあげます」 神父風の男はまたパンをちぎる。 ちぎっては男に投げる。何度も繰り返し、いつしか、男の足元には大きなちぎられたパンの山ができていた。 しかし、神父風の男の手にはいまだにパンが一つ。 「ま、さか……」 「ご理解いただけたようですね。 私は石をパンに変える事ができます。この池の水をワインに変える事ができます。 水の上を歩く事も、死人を生き返らせる事もできます。」 そして、神父風の男は言った。 「私が契約しているのは、『キリスト』です」 「そ、そんな馬鹿な……」 「まだ信じられませんか?水をワインに変えて見せましょうか?」 神父風の男はにこやかに言う。 「だから言ったろう。あれは寄付だって」 ずっと黙っていた、目つきの悪い男が口を開く。 「確かにこいつは契約者だけどな、キリストの契約者だ。人を救う力を持つ。何も問題は無いはずだ。 それでもまだ文句があるっつうなら、そのワニで、戦ってみるか?神の子と」 男は迷っていた。「キリスト」の契約者、そんなモノに勝てるのか。人を救う能力を持つモノを殺して良いのか。 「お前は、何の契約者なんだ……?」 男は、目つきの悪い男に尋ねた。この男も契約者だったはずだ。この男が人に害をなすなら、こちらだけでも。 そう考えた。 「俺か?俺はこれさ……」 そう言うと目つきの悪い男は、公園の池の方を向き、手をあげる。 その瞬間、池が割れた。 「これが俺の都市伝説、『モーゼ』だ」 男が呆然と立ち尽くすのを尻目に二人は割れた池を歩いて去っていった。 「なーんかさあ、この辺り都市伝説と契約者多くね?」 「そうですね。早めに別の町に移った方が良いかもしれませんね」 夜の公園の池、小船から二人の男がおりる。 「コップや洗面器以外の水を割って『見せる』なんて久しぶりだぜ」 「私はいつもやって『見せて』いる事をしただけですけどね」 二人は公園の外に停めていた高級な車に乗り、話し合う。 「いくら稼いだよ」 「この辺りではまだ、一千万と少しですね。まだ他の町の半分です」 「んー、どーすっかなぁ。ここ金持ち多いけど、契約者も多いし。俺らの都市伝説がばれる事は無いとは思うが……」 「ばれるだなんて、何言ってるんです。私たちの都市伝説は『キリスト』と『モーゼ』でしょう?」 神父風の男が人の良さそうな顔を崩し、ニヤリと笑いながら言う。 「おおっと、そうだったな」 それに合わせるように目つきの悪い男も笑うのだった。 この二人の都市伝説が「青森のキリストの墓」と「石川県のモーゼの墓」であり、 その能力はそれぞれの人物の行った事を「見せる」事だと。その幻影を見せる能力だと、 ただの聖人の真似事をしているだけだと、気づけたモノは誰もいない。 終 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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俺達はある町へ行く電車に乗っていた。そう、『学校町』だ。とうとう俺達はあの都市伝説の宝庫、学校町に移り住む事になった。 少年の中学校・父の転勤のためとはいえ、あの危険な場所で生活するとは、大変なものだ。 それにしても、先日の送別会はすごかったな。 ~大王の回想~ 少年と帰る道中、ふと今まで説得してきた都市伝説達が正義の前に現れてな。 正義「あ、みんな!何をしに来たの?」 下男「・・・。(訳:少年殿が学校町に向かわれると聞いたので、別れの挨拶をと。)」 正義「え、本当!?皆、ありがとう。」 大王「よく分からんが、早く終わらせろよ。」 まず少々寂しそうな顔をした【テケトコ】から、挨拶が始まったんだ。 テケトコ「・・・。(訳:少年君、これからもがんばってね。)」 正義「うん、がんばるよ。【テケトコ】もがんばってね。あとあまり分裂しないようにね。」 骨標本「・・・。(訳:あっちでも元気でやるんじゃぞ。無茶はせんようにな。)」カタカタ 正義「大丈夫だよ、心配しないで。【白骨標本】も体には気をつけてね。」 赤青マント「知らない人に付いて行ってはダメだぞ。」 正義「分かってるよ。心配しないで。」 注射男「怪我をしたら、俺に言うんだぞ。すぐに駆けつけるからな。」 正義「ありがとう。その時はよろしくね。」 そして最後に、【ベッドの下の男】が締めるように話しかけてきたんだ。 下男「・・・。(訳:少年殿、この町は私達が守っていきます。なので少年殿は安心して、学校町に向かってください。)」 正義「・・・うん、分かった。皆、今日はありがとう。この町をよろしくね。じゃあ、またいつか!」 少年は別れを告げ、走り出した。ふと目をみると、少し赤くなっていたのを覚えている。 大王「すまない、どんな内容だったのか教えてくれないか?」 正義「もう、後にして!」 ~大王の回想/終~ いくらなんでも怒る必要はなかろう。しかしあの都市伝説達があんなにも善人になるとはな。かつては人を襲う都市伝説であったにもかかわらず。 学校町でも善人が増えるのだろうか。おそらく増えるだろうな。いったい最後には何人で戦うのだろうか。 ふと窓の外を見ると、見慣れた光景が広がっていた。もうすぐだろうか。都市伝説の巣くう町、命を懸けた戦いの日々。今の俺たちでも乗り切れるだろうか? いや、乗り切ってみせる。そしてもう1度、あいつに挑んでみせる! しかしいつ来てもいい空気だ。俺の生まれ故郷。何故俺はここで生まれたのだろうか? 別に生まれの国でも良かったはずなのに。まぁ良いか。おかげでこの少年にも会えたのだからな。しかし懐かしいな――― ―――あそこから降りてきたんだったか――― ―――俺はあの空に世界征服を誓ったんだ――― ―――世界征服?――― はッ!忘れていた!?そうだ俺は世界征服のためにこの世に降りたんだ!くぅ、あまりの平和な生活の末に野望が薄れかけてていた。 これからは仲間を集め、策を練り、世界征服のために動くとするか!・・・少年が邪魔だな。 俺の野望を忘れさせかけるぐらいだからな。これからも少年によって止められ続けるんだろうか? ―――世界征服への道は遠い。 第1話「思い出した日」―完― 次回予告4コマ――― ☆Παρακολονθηση―監視―☆ ???A「―――どうやら、例の少年が『学校町』に行くようです。」 ???B「ま、あの子の事だからなんとかなるんじゃなぁい?」 ???C「しかし、死なれては困るぞォ!『Σχεδιο(スケイディオ)』に支障が出るからなァ!」 ???A「それも一理あるな。どうしますか?」 ???D「てかよォ、『学校町』で死んでるようじゃあ、ヒック、『スケイディオ』にも使えないんじゃないかァ?」 ???E「では、交代で『Παρακολονθηση(パラコロウスィシー)』をする。これでいいか?」 ???B「えぇ、まさか僕もかい?」 ???A「上位の命令は絶対、それに『スケイディオ』のためだからな。」 ???C「では決定だなァ!もう俺は修行に戻るぞォ!」 ???E「まったく。では全員、『パラコロウスィシー』を怠らない事、いいな?」 ―――いずれ来る 時のために――― ●あ、次回予告になってない。まぁいいか。次回は、いよいよ学校町! 着いて早々都市伝説出現!?そこに現れたのは・・・、第2話に続きます。 前ページ次ページ連載 - 舞い降りた大王
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【上田明也の協奏曲32~月夜に踊る踊る踊る~】 俺の契約する都市伝説にはまだ進化の余地がある。 これから戦いがよりいっそう激しくなることが予知される現在、俺はその進化をせねばならない そう結論した俺は夜中こっそりバイクで事務所を抜け出して特訓をしようとしていた。 努力をしなければ進化なんて、より強くなるなんてありえないからだ。 「…………さて、」 とは言ったものの何をしよう。 真夜中に一人で近所をうろうろするって完全に痛い高校生じゃないか。 夜の散歩で己の影に向かう俺かっこいいーってか? おお寒い寒い。 ――――――――――真面目に考えると 都市伝説の能力でまだ使ってない部分を引き出すか もう使っている部分を更に強化するか 自分がやれることはそのどちらかである。 自分は都市伝説の中でも“操作系”の都市伝説能力の扱いに適正があるらしい。 更に“操作系”に対する飛び抜けた才能から説明のしようがない系統の都市伝説能力も引き出せるそうだ。 逆に何かを“変化”させる能力や 有りもしない物を“作り出す”能力、 そして自らの身体を“強化する”能力も引き出しづらいらしい。 さて自分は都市伝説の“操作する”能力を引き出したが、それ以外には大して何もしていない。 ならば自分は操作系以外の能力を試しに引き出してみれば良いのではないだろうか。 「月の綺麗な晩だなあ……。」 何の気無しに空を見上げると月が綺麗だった。 赤くて黄色くて青くて黒くて白くて明るい丸い月。 さっきまで自分は何を考えていたのだかも忘れてしまいそうだった。 そうだ、俺は月夜の晩に散歩するといつもなにか出会いがある。 今日もそれを待つとしようか。 「イヤアアアアアアアアアアアアア!」 ああ、どこかで誰かが襲われている。 まあとりあえず助けに行ってみるか。 本当に助けるかどうかは襲われている人間見てから決めればいいし。 そもそもあれが今日の俺に与えられた出会いかもしれない。 俺は悲鳴の方向にバイクを走らせた。 俺が見たのは芥子色のセーターを着た女性に襲いかかる首無しライダーだった。 暗くても俺にはよくわかる、あの変態的なファッションセンスを除けば中々好みのタイプだ。 いいやむしろ! 可愛い女の子はちょっと変人なくらいの方が萌える! なぜなら親しみが持てるから! 俺は女性を守るようにその首無しライダーを奴のバイクごと我が愛車IMZ・ウラルwithサイドカー(戦闘仕様)で挽き潰す。 目前の敵の骨を粉砕撃滅するいい音が響いた。 「ライダー!ヴィア・エクスプグナティオ!? 私がマスターにでもなるの?」 何を言っているのだろう、頼むから日本語で話して欲しい。 「……ライダーって、仮面ライダー?」 「え、あ、……何でもないです。ってあれ? よく見たら貴方は…………。」 「お久しぶりです看護婦さん。お変わりありませんか?」 「今は看護師なのです。」 ――――――――――ていうか、知り合いだったのだ。 彼女は俺が先日起こした病院破壊事件で病院の建物が崩落する所に巻き込まれた看護婦だった。 俺が思わず助けてしまった後、精神が錯乱していたので放っておいていたのだが……。 「いやあそれにしても探偵さんには二回も助けられてしまいましたね。」 「なに、趣味でやってるから気にしないでください。 それよりもこの辺りは危ないですから……良ければ送りましょうか?」 「いやいや悪いですよ。 三回もお世話になってちゃ申し訳ないです。」 「それを言ったら俺だって前に病院で迷った時に道案内して貰っていますから。」 「ああ、そうだ! そういえばあの患者さんは今日退院でしたよね!」 「そう……ですね、まあ忙しくて中々あれ以来見舞いにも行けなくて……。」 「それは駄目ですよ、あの子……純ちゃんでしたっけ? 絶対探偵さんのこと好きですよ、罪な人ですねえあんな小さい女の子にまで好かれるなんて。」 「ははは……そうなんですかね?」 「そうですよそれは。」 「なのかなあ?あ、こっちのサイドカーに乗ってください。」 「わぁ、サイドカーなんて始めて乗ります!」 サイドカーに乗り込む看護婦さん。 ところで、サイドカーは運転席より少々低いところにある。 セーターで解らなかったが、上から見ると中々どうしてたゆんとしていらっしゃる。 素晴らしいことだ。 胸は無くても良いが有っても良い。 どちらにせよ均整のとれた麗しい形であれば良いのだ。 でも、この大きさは素晴らしい。それだけで一つの美として認めざるを得ない。 偶然にも立ったこのフラグは大事にせざるを得ないだろう。 修行なんて後回しだ。 友情・努力・勝利とか目の前のおっぱいに比べたら犬の餌なのだ。 「住所は?」 「えっと、北区の外れですね。ハッピーピエロ北区店の近くです。」 「了解。」 バイクは静かに走り出す。 月をかげらせる雲が伸びて辺りは急に暗くなっていた。 「そういえば探偵さん、探偵さんって何者なんですか? ビルを爆破してみたり空飛んでみたり……。」 「え、俺は探偵ですよ。ビル爆破したり空飛ぶだけの。」 「そうですか。」 「そうですね。ところで俺だけ質問されるのもあれなので俺から質問しても良いですか?」 「はい、どうぞ。」 「看護婦さんの名前を教えてください。」 「看護婦さんは看護婦さんです。」 「俺が聞いたのは名前です。」 「そうですか、じゃあ倉光とでも呼んでください。」 「解りました看護婦さん、じゃあそういうことにしておきます。」 「それじゃあ今度は私の質問です。 私をさっき襲った首の無い人は何者だったんですか?」 「都市伝説と呼ばれる物です。あれは首無しライダーかな?」 「なるほどなるほど……。」 何時の間にか質問合戦のようになっている。 面白い、俺と質問合戦しようなんて俺を知る人間は考えない。 だが今俺の前の前にいる彼女は俺をあまり知らないのだ。 ならば良いだろう、どうせだからとことん遊んでやろう。 まずはどれくらい狂っているのかを試すか。 「看護婦さん、あの事件の時に貴方は人命は軽いと言っていましたが……。 本当にそうなんでしょうか?」 「それはそうですよ、だってあんな良い人だった院長先生が死んでしまうんですもの。 だったら人間の一人や二人、簡単に死んでも構いませんよね。」 交互に質問をするというルールを無視してたたみかける。 「人間の一人や二人死んでも良い、それは正しいのでしょうか? 貴方はさっき襲われて悲鳴をあげた。 前に貴方を助けた時も貴方は恐怖だけでなく安堵の色を見せていた。 貴方自身は死にたくないんじゃないですか?」 「それはそうですよ、私はまだ死にたくないです。」 「貴方は人間じゃないですか。」 「ええ、人間です。人間だけどそれ以前に私です。」 「ふぅん……、そうですか。」 「じゃあ私からの質問を……。」 「ああ、【ちょっと待って】ください。」 狂う素質が有るかどうかのテストは及第点だ。 バイクを運転しているくせに隣に座っている彼女の瞳を覗き込んでお願いをする。 決めた、この娘で遊ぼう。 「もう、仕方ない探偵さんですね。」 「ありがとうございます。いや、【貴女に興味が出てきた物ですから】。」 言葉が浸透していく。 俺の言葉が、俺の気持ちが、相手の意志を無視して浸透していく。 相手は内側へ入り込んできた俺の気持ちを何時しか自分の気持ちと取り違える。 そして俺は相手のわずかな言葉から相手の気持ちを想像し、自分の中に取り込む。 勝手に想像して勝手に取り込んだ物を相手の内側にまた流し込む。 フィルターを使って都合の良いものだけを抽出するような作業。 「貴女は人間だけどそれ以前に自分は自分だと言いましたね。 だから人間が死んでも良いけど、自分は死にたくない。 ふむ、そうですよね。 世の中なんて無くなっちまえ、ただし自分除いて。 良くある話だ。 でもね、無くなっちまえとか、死んでも良いとか、 そんなこと考えている時にそう思っている対象って大抵人間全体じゃないんですよ。 むしろ人間ですらないことが多い。 貴女だって本当に無価値に思えたのは人間の命じゃない。」 「じゃあなんなんですか?」 「都市伝説のような非日常ですよ。 貴女が尊敬していた太宰院長の命を、尊い命を容易く奪った非日常。 貴女が非日常と言う言葉にどんな価値を認めていたか私には解らない。 でも心優しい一人の老医師の命をあんな簡単に奪う物ならば、 非日常という存在には価値なんてない。 そんなものただただ陰惨で残酷なだけだ。 そう思って貴女は非日常に絶望した。 でもそれを認めたくないから、貴女は人の命の価値がないと言うことにした。 …………なんて、戯れ言ですよ。探偵って仕事やってるとつい、こんな馬鹿なことを言ってみたくなる。」 自分で言っておいてあれだが自分は何を言っているのだろうか。 非日常の無価値さを認めたくないから、人の命の価値をおとしめて自らの平衡を保った。 だとしたら彼女はどれだけ非日常に夢を抱いているのだ。 「…………じつは、そうなのかもしれません。」 え゛っ? ……えっ? ―――――――ええええ!? どんだけ非日常に夢抱いちゃっているのこの子!? 「私、小さい頃から絵本が大好きだったんです。 お伽噺には何時でも出てくるじゃないですか、白馬の王子様。 ああいうのが何時か自分にも来てくれると信じて生きていたら何時の間にか大人になっていて……。 今も実家に暮らしていて両親に迷惑かけ続けで…… 趣味なんて絵本の代わりに何時の間にか嵌っていたゲームしかなく……。 女子力ダウンってレベルじゃない残念な現実ですよ。 そしてそこから逃げる為にまたゲーム等に逃避して……。」 たゆん 再びチラリと胸を見る。 あなたの女子力はどうみてもMAXです。 完全にカンストどころかオーバーリミットしてメーター振り切れているので安心してください。 「でも看護婦さん。俺思うんですが逃避するって悪いことですかね?」 「えっ?」 「俺なんてそこそこまともな家の生まれだったのですが家業が嫌で逃げ出しました。 商才だけは両親に似たらしくって探偵事務所は切り盛りできているんですけど…… まあこれも逃げですよね。 あと昔付き合っていた女性が最近結婚するらしいんですけど、 その結婚相手が俺のことをある理由から滅茶苦茶恨んでいてデスねえ……、、 なんていうかこのまま放っておくと後々面倒になりそうなんですけど俺は何も出来ていません。 まあこれもまたまた逃げですよええ。 とまあ学校町の名探偵と名高い笛吹さんですらこれですよ。 人間ってのはむしろ逃げない方が難しい。」 「名探偵……?」 「さっきの首無しライダーみたいなの退治して回っているんですよ。 料金は応相談、名刺には書いてませんけどね。 ちなみに暇な時は浮気調査やら失せ物探しやら人探しやらやってます。 都市伝説っていうかそっちの筋ではそこそこ有名なんです、そこそこ。」 「へぇ……。」 「で、まあさっきの逃げる逃げないの話に戻りますけどね。 現実から逃げるのは決して悪くないです。 ただ追いつかれるだけなんですから。 ただ追いつかれた時に痛い目に遭うだけですから。最悪振り切ればいい。 此処で問題なのはまたも貴女の言葉が貴女の心理を正確に表していないことなんです。 あなたは貴女が逃げているのは現実じゃなくて日常です。 ストレスの多い普段の生活から逃げたいと思っているだけです。 でも、貴女が逃げ道にしていた非日常も今回の事件で最低だと解ってしまった。 だから貴女は人の命の価値を切り捨ててまで非日常という自分の為の逃げ場を維持しようとした。」 「探偵さん、気になるんですけど……。」 「なんですか?」 「探偵さんが私を分析したことで私は日常にも非日常にも逃げ場がなくなっちゃったんじゃないですか?」 「いいえ、貴女はこれからも非日常を逃げ場にし続けたらいい。」 「え、だって私がもう非日常にも絶望しているって言ったじゃないですか。」 「ええ、でも日常と非日常は違います。 非日常は自らの意志で変えてしまいやすい。 日常は貴女以外にも沢山の貴女と関係有る人間が干渉してきます。 家族とか友人とか同僚とかですね。 そうするとそれを変えることに遠慮するでしょう? でも非日常ならそんな心配要らない。 なんせ貴女の非日常を知るのは私と貴女だけだ。 貴女は貴女の望むように貴女の非日常を楽しめばいい。 たとえば……、コスプレしてさっきみたいな都市伝説を倒してみるとか。 軽くヒーロー気分ですよ?」 「そんなの無理ですよ、だってあんなお化けみたいなの倒せる訳無いじゃないですか!」 「それが】【貴女の】【思い込みだ。」 なんとなく、遊びが最終段階に入ったと感じる。 あと少し方向性を示すだけで彼女は完全に狂う。 「そもそも都市伝説を倒すなんて簡単だ。 貴女も都市伝説の力を借りればいい。 いいや、それすら必要ない。 たとえば銃弾で眉間をぶち抜く。 もしくは毒薬でこっそりと命を奪う。 あとは俺みたいな人間を騙して都市伝説を無料で倒させても良いかもしれない。 まあ方法は任せますけど。 ありとあらゆる都市伝説について調べ抜いてその攻略法を探求していけば…… 極論ですが、只の人間でも都市伝説は倒せる。 そもそも妖怪だのお化けだの都市伝説の元になったもの達は 『人間に退治される為に生まれた』存在だと言われていますから。 彼等も所詮人間の望みから生まれた以上、人間に消されるのが宿命なんでしょうね。」 「…………なるほど。」 「わかってくれましたか? 只の人間だからって非日常に巻き込まれるだけである必要は無い。 むしろ楽しまないといけません。 物事は何でもハレとケがあります。 非日常を自分の望むように変革すれば、きっと楽しい人生を送れますよ?」 俺は微笑む。 彼女の顔が輝く。 眼と眼があってそこに一瞬の間が生まれた後、彼女は口を開いた。 「なるほどなるほど……そうですね! 最初からそうすれば良かったんだ、ありがとうございます!」 ――――――――――――――ああ、完璧だ。 もともと狂気に陥る素質が有る人間を完璧に堕とすのは何時でも楽しい。 だって彼等が本当に幸せそうにしてくれるから。 俺の作業が終わるとそこから先はたわいもない世間話をした。 お気に入りの中華料理店とか、お気に入りの麻婆豆腐とか。 そうやって話している内に何時の間にか彼女の家の前までついていた。 「困ったことがあったら何時でも言ってください。 これ、私のプライベートの方のメールアドレスと携帯の電話番号ですから。 都市伝説の倒し方までなら無料で教えられますし。」 「わぁ、ありがとうございます! あれ……今携帯もって無いんですか、赤外線通信の方が早いですよ?」 「そういえばそれもそうか。あんまりやったこと無いんだよなあ……。 これで大丈夫ですか?」 「はい、ばっちり登録されました!」 おいおい、白衣の天使のメアドゲットできちゃったよ。 流石俺、流石名探偵俺。 故意……じゃなくて恋の行方も操作……じゃなくて捜査しちゃうぜ!ってか。 「それじゃあ今日はここのところで。」 「はい、今日は本当にありがとうございました。 今度こそお礼させてくださいね、その中華料理店とかでご飯でもごちそうさせてください。」 「良いんですか?嬉しいなあ、無駄遣いして今週ピンチだったんですよ。」 今週ピンチとか当然嘘ですごめんなさい。無駄遣いなんてする性格じゃないです。 自分が持っているビルのテナント代も入っているのでほくほくです。 でもちょっとだらしないところを見せた方が良いじゃないですか、可愛らしく見えて。 心の中で看護婦さんに謝りながら俺はMZ・ウラルで事務所に向けて走り出した。 【上田明也の奇想曲32~月夜に踊る踊る踊る~fin】
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学校街内、とある廃ビルの一室にて 黒い影が、ひそひそと話し合っていた 「…A-No.666め、ドジを踏みやがって…」 「どうする?私達まで処分されるかもしれないぞ」 彼らは、「組織」の黒服 強行派、もしくは過激派に所属する者達 彼らが口にした、A-No.666の、非人道的実験に関わっていた者達 …その数、20程 自分達が、一箇所に集まる事は危険だとわかっている それでも、何故、彼らは集まっていたか? ……それは、まだ、A-No.666の企みが判明し…彼が殺された「直後」と呼んで良い時期だったからだ たとえ、自分達がA-No.666の実験に賛同し関わっていたとしても、「組織」が彼らに処分を下す判断が降りるまでには、まだ時間がかかる 穏健派が動いているからには、なおさらだ 穏健派は、その考え方故、非情な判断には時間がかかる事が多いのだから 「とにかく、姿を隠すべきだ」 「サイコメトリー系や思考探知系能力者が尋問を行えば、我々の行いもすぐに知られる」 「「組織」から離れる事も考えた方がいいだろう。いっそ、「アメリカ政府の陰謀論」にでも移って…」 そうやって、今後を話し合っていた黒服達 ふと…一人が、壁の向こう側を、見た 透視能力保持者であったその黒服が、壁の向こうに見たもの それは、外の風景に混じって……こちらに向かって飛んでくる、天使 それも、若い外見の、可愛らしい、ミニスカ天使達で その、天使達が、可愛らしい外見に似合わぬ、ゴツく、物々しい重火器を持っていた、姿で… 直後 彼らのいた部屋は、重火器の一石攻撃を受けて、爆砕した 「…やったか?」 モンスの天使達が、一斉攻撃を仕掛けている様子を、天地はやや離れたところから確認していた 天地の契約しているモンスの天使は、重火器で武装した天使達を召喚するというもの 天地自身は、まったく強化されない よって、戦闘スタイルは、目標からやや離れたところで天使達を召喚 そこから移動させ、攻撃させるというものだ 今、天地の指示を受けたモンスの天使達は、無邪気に、A-No.666の実験に協力していた黒服達が集まっていた廃ビルを攻撃し続けている …上の許可? そんなもの、知るか 自分の派手な攻撃能力では、都市伝説の存在を隠しきれない? 知るか どうせ、自分は始末屋だ 「組織」の始末屋 どうせ、相手は「組織」の意図に反する行為を行っていたのだ 始末しても構うまい どうやら、少しは上の立場らしい女黒服が、責任は自分が取ると言っていたが、それはあまり気にしていない 自分は、勝手にやるだけだ 天使達の一斉攻撃が終わった 片がついたか、と天地が顔をあげると …天使達が攻撃していた、その廃ビルから 黒い影が飛び出したのが…見えた それは、天地のいる方向に向かって、まっすぐに飛んでくる 廃ビルに向けて飛ばした天使を呼び戻しても、間に合わない 素早く、目前に新たな天使を召喚する 召喚されたモンスの天使は、天地の指示を待つことなく、主を護るべく、迫る危険に対して、ロケットランチャーを発射した それは、迫ってきていた黒い影に命中 しかし、その直前に、その背中に乗っていた数名の黒服が飛び降り、地面に着地してくる 「…4人…いや、5人残ったのか」 ロケットランチャーを受けた影は、衝撃に飛ばされたはしたものの、ダメージなし すぐ傍の電柱の天辺に止まり、天地を見下ろしてくる あの20人の、それぞれの都市伝説を思い出す あの攻撃の中、生き残れそうな者の名前をあげていく 目の前に居るのは、そいつらに違いない 「くそ…っ!門条 天地!何故、お前が我々に攻撃する!?」 「わかってるだろ?」 しらばくれさせなどするものか こちらを睨んでくる黒服を、天地は鋭く睨み返す 「「組織」の在り方に反する行為を行ったお前達を、始末する」 「っちぃ……!」 廃ビルへ向かわせていた天使達が、戻ってきた スカートの中を覗かれる事など一切気にする様子なく、上空から、生き残った黒服達相手に攻撃を仕掛けていく べちゃ!!と 銃撃を受け、一体の黒服の体が、ゲル状になって崩れた スライムに飲まれたそれは、ぐじゅぐじゅと不気味に蠢きながら、天地に向かってくる 他の三体と、電信柱の上にいた化け物の姿をしたそれも、驚異的な反射神経で、銃撃を回避 それぞれが、天地に攻撃を仕掛けようと迫ってくる 西洋系の顔立ちの黒服の体の表面に、白い鱗が現れ始め…その顔が変化し、服が破け、白い鰐へと変化する 一人の黒服がスーツの内側から缶のコーラを取り出し、一気に飲み干して身体能力を強化させて駆ける 中学生ほどの顔立ちの女黒服の下半身が消え、地面を高速で這い出した 白い鰐、コーク・ロア、てけてけ それぞれに飲み込まれた黒服達が、一斉に天地に攻撃を仕掛けてくる だが 「甘いんだよっ!」 ばらばらと何かをばら撒き、二人の天使に抱えられ、上空に逃れる天地 直後、ばら撒かれたそれ……自らが召喚したモンスの天使から渡されていた手榴弾が、一斉に爆発した 爆炎の中、コーク・ロアが消滅した様子を確認する 「あぎょうさん、さぎょうご」 聴こえてきた、不気味な声 あの黒い化け物が、ビルの壁を這って、迫ってくる モンスの天使がすかさず銃撃するが、当たってもダメージを受けたようには見えない 「あぎょうさん、さぎょうご」 せまるそれに、天地は叫ぶ 「----嘘!!」 あぎょうさん、さぎょうご あ行3、さ行5 う、そ 嘘 あぎょうさんとは、そのような都市伝説 その正体を、見抜かれれば… 「………ぁ」 化け物の姿が、ただの黒服に、戻った 壁を這う力も失われ、その体は地面に落下していき…そこを容赦なく銃撃され、穴だらけにされて べちゃり、地面に落ちた時には…ただの、肉片へと変わっていた 地面に戻ろうとすれば、ボロボロになったてけてけが、一矢報いようと迫ってくる しかし、傷つきスピードの落ちた体は、天使の攻撃を避けきれず、狙い撃ちされていく あぎょうさんと同じように、それはただの肉片へと姿を変えた (あと2体…!) 白い鰐と、スライム …どこへ逃げた!? 辺りを見回した直後、そばにあったマンホールの蓋が、突然、汚水で押し上げられた 白い鰐が汚水を纏って出現し、大口を開けて天地を飲み込もうと襲い掛かる ----っが!と その攻撃を、一人の天使が阻止した その大口に、つっかえ棒のようにライフル銃を差し入れ、口が閉まらないようにする その口内に…ぽい、と 投げ入れられた、爆弾 天地が離れた直後、白い鰐は体内から爆砕され、消滅していく 残り一体 スライムだけだ どろ ぐちゃり ゲル状のそれは、状況不利、と見たのだろう ずるずると、白い鰐が蓋を開けたマンホールから、下水道へと逃げていこうとしている 逃がさない 懐から小さなペットボトルを取り出し、天地は中身をスライムへとぶちまけた 構わず、マンホールへと入っていく天地 次に取り出したのは……ライター まだ少し中身が残っているそのペットボトルを、天地はそのマンホールから下水道へと投げ捨てて そして、しゅぼ、と ライターを点火して……同じく、投げ入れた 素早く、離れる 直後、そのマンホールの下で、小さな爆発音と、何かが燃やされ、もがき苦しむ絶叫が響き渡った 液体の正体は、ガソリン スライムの強靭な生命力は、しかし、炎など、焼いてくる攻撃には、弱いのだ 標的である20人の黒服達が、どんな都市伝説に飲まれた存在だったか、全て把握していた だから、その対処は完璧にしてきた 誰一人、生かして逃がす気などなかったから 「………ふぅ」 これで 全員、始末し終えた …終わりだ 「お疲れ様ですー!」 「デストロイ終了ですー!」 「皆殺ししましたー!」 「…あぁ、お前らも、ご苦労さん」 天地に褒められ、嬉しそうな天使達 とても、先ほどまで殺戮を繰り広げていたようには見えない、無邪気な笑顔 天地は、天使達の姿を消させると、ふらり、夜の町中に消えていった …この直後 天地は、友人たる直希から連絡を受け、「首塚」の本拠地へと移動 天倉姉妹に、今後の事について、話すこととなる to be … ? 前ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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―――この物語はIFでありどうせ幻想に決まってます 本編と関係あるはずもありません――― これは、少し昔の話 まだ、「首塚」組織が出来る前の話…… 「ん……------」 目の前で酩酊状態の少年を前に、店主はほくそえんだ 本人は高校生だ…と言い張っていたが、まだ中学生だろう 年齢を偽ってバイトの面接に来た時点で、訳アリに決まっている だから…たとえ、この少年が行方不明になったとしても、周囲はさほど騒ぎ立てないだろう いや、騒ぎ立てたところで、彼はそれを問題とはしないのだが -----ねぇ、知ってる? あのお店のバイトの子って、しょっちゅう入れ替わるでしょ? あれって、どっかの国に売られてるからなんだって どうして売られるかって? そりゃあ、エッチなお仕事につかされるためらしいよ? 面接の時点で、既に選別されるんだって そこで選ばれると…売られちゃうんだって そんな噂があった そんな都市伝説があった 店主は、その都市伝説と契約していた …いや、そもそも、彼には「契約した」と言う自覚はない 自覚などないままに、彼はその仕事を行っていた 面接にきた、主に女性を相手に、水に能力で作り出した特殊な液体を混ぜて飲ませ、今のこの少年のような状態にして そして、じっくり、じっくりと選別して 売り物になりそうだったら、売り払う その相手がどうなるのか、彼は知らないし興味がない ただ、対象の初物を得られるのが楽しくて、彼はそれを続けていた 彼は気付いていない 無意識に都市伝説と契約してしまった時点で、彼は既に都市伝説に飲み込まれかけていた …それ以前から、彼は別の都市伝説とも契約していたからだ あまりにジャンルが違う都市伝説同士の多重契約 もともと、さほど器が大きくなかった彼は、それによって…都市伝説に、飲み込まれかけた 既に彼は、彼自身が半ば都市伝説となりかけている 「…さぁて、男相手は久々だが…」 相手は、まだ中学生だ …この年頃で、まさか後ろの経験なんぞある訳ないだろう あったらむしろ驚く 元から契約していた能力で配合した薬も、水に混ぜておいた たとえ、そっちの才能がなかったとしても…じっくりと、開発してやればいい 「------んん」 するり シャツの下に、手を滑り込ませた 少年特有のきめ細やかな肌の感触を堪能する 薬の効果が表れているだろう、ぴくりっ、少年の体は触れられた事に反応し、小さく跳ねる つつ、と脇腹からゆっくりと、手を上へ上へと移動させ…そこに、到達する 「---っ」 くに、とそこを弄ってやれば、少年の体はますます跳ねた 執拗に弄ってやれば、そこはぷくり、立ち上がってきて せっかくだ、味も見させてもらうとするか シャツをたくし上げ、露出させた肌に、舌を這わせようとした…その時 「---そこまでです」 「っ!?」 駆けられた声に、慌てて振り返る 彼の能力が発動し、誰も入り込めないはずの部屋 …その部屋の入り口に、何時の間にか、黒服の男が立っていた 彼に銃を向け、静かに告げてくる 「…その少年から、離れなさい」 「っく……「組織」か!?」 都市伝説の知識などほぼないはずの彼であったが、なぜか「組織」の事は知っていた その理由を、彼は知らない 彼の以前にこの都市伝説と契約し、「組織」に消された人間がいるなど…そんな事実を、彼は知る良しもないし だからこそ、その知識を自分が受け継いでいるのだ、と言う事実など知らない ただ、彼がいますべき事は あの黒服を、どうにかする事だ 幸い、ひょろりとした体格で弱そうだ 不意さえ打つ事ができれば… そう考えて、彼はそれを発生させた 己の体から、人間だけではなく、都市伝説相手すら効果のある薬を生み出す それが、彼の力 薬の効果は、彼の思いのままに作り上げられる 睡眠薬なり媚薬なり、毒殺できるような薬こそ作れないが、他人を思いのままにできる薬を作り出せる その、応用だ 体内で睡眠薬を合成し、彼は体中から発生させる 霧状になったそれは、部屋を包み込み… ----しかし、黒服に、変化はない 「…対策を打たずに来るとお思いますか?」 「っち……」 眠らせてやろうと思ったのだが…中和剤か何かでも飲んできたか!? 薬が効かないとなると、不味い あの銃で一発でも撃たれたら、彼は死ねる 彼自身の肉体は、強化などされていないのだから 「…く、くそっ!」 少年は惜しいが、仕方ない 彼は急いで部屋の奥へと走り、隠し扉の奥へと逃げ込んだ そのまま、外へと…… 「おぉっと、残念」 「ーーーーっ!?」 ……しゅるんっ ! 彼に向かってきた、それ 彼は、それを寸前で避けた びたんっ!と壁に張り付く 「お?」 しゅるり 黒い、まるで触手のようになった髪を操る黒服の男が、そこにはいた …逃走経路は既に抑えられていたか! だが、甘い! にょろん、ズボンの裾から真黒な尻尾をはみ出させ、彼はひたひたと壁を垂直に登っていく 「……「イモリの黒焼き」との多重契約かい。それで、イモリっぽい能力もあるってか?」 っち、とその黒服は舌打ちしてきた しかし、彼はそんな事は聞いていない 今は、逃げるべきなのだ 逃げて、どこか遠くでこの商売を続ければいい そう、彼は考えていた 殺されるつもりなんざ、さらさらない……! 「…だが、逃がさねぇよ」 黒服も、彼を逃がすつもりなどなかった しゅるり、際限なく伸び続ける髪が、彼を追う ごがっ! ごがっごがっごがっ!!! 強烈な薙ぎが、次々と壁に打ち付けられる 彼は、それを必死で避けて逃げ続けた 捕まるものか、捕まるものか まだ、自分は生き続けるのだ 仕事を続けるのだ …自分を生み出した噂は、まだ生き続けているのだから……!! 「…残念ゲームオーバーだ」 しゅるりっ 彼の、そのズボンからはみ出した尻尾が……捕らえられた 「お前、もう飲み込まれてるよ」 無慈悲な声と、共に 彼の体に、黒服の髪の毛が一斉に絡まりだした 「大丈夫ですか?しっかりしてください」 「……ん」 …駄目だ 睡眠薬の類でも、摂取させられたようだ 意識が定まっていないのだろう、ぼんやりとしていて…こちらの声も、聞こえているかどうか 呼吸が荒く、頬が紅潮している辺りを見ると…他の薬も混ぜられているのかもしれない とにかく、急いで解毒してやらなければ 黒服は、すぐに「ユニコーンの角の粉末」を鞄から取り出した 少年に、飲ませようとするが… 「………」 …口を、空けてくれない 水は…コップに入ってる分は問題外だ。鞄にミネラルウォーターが入っているから、それを使えばいい ただ、どちらにせよ口をあけてくれない事には… 「…仕方ありませんね」 強引にでも、飲ませなければ そう考えながら、黒服はミネラルウォーターのペットボトルをあけた ミネラルウォーターとユニコーンの角の粉末を、そのまま口に含むと、少年の顎に手をかけた 少し力を入れると、少年の口が、うっすらと開いて その口内に、ユニコーンの角の粉末を含んだ水を流し込んでいく ……ぴくりっ、と 黒服の腕の中で、少年の体が小さく跳ねた 「………んん」 まだ、意識は戻っていないが…ユニコーンの角の粉末の効果が現れているようだ 呼吸が、落ち着いてきている 黒服がほっと息をはいて、少年の頭をそっと撫でてやったのだった 「悪いねぇ、お前さんに恨みはないんだけどよ……むしろ、女の子相手にエロエロする。それに関しては羨ましいと思うよ」 しゅるしゅるしゅるしゅる その黒服の伸びる髪が、店主を束縛する 全身を髪の毛で覆われ、店主は苦しそうにもがき苦しんでいた …それだけ、ではない 全身を締め付けられ、呼吸など最早できていないはずだ 「でも、まぁ、こっちは黒服成り立てでよ……上の信頼を得なきゃいけないだわ、これが」 困ったように笑いながら、黒服はそう言って …そして、残酷に言い切った 「だから、悪いけど死んでくれや。俺が上から信頼を得るために」 ぶちんっ!! 店主の首を、髪で引きちぎる ぽい、と、なるでボールのように投げられたそれは、壁にぶつかり、ごろん、と床を転がった 「うっし、終わりー!」 ぐぐぅ、と背伸びする黒服 とてもじゃないが、たった今、人殺しをしたようには見えない …と、携帯が着信を告げて、黒服はすぐに応対した 「あ、はいはい……あぁ、始末したぞ………ん?あぁ、被害者がいたのか……まぁ、未遂かどうかは割りとどうでもい…あ~、わかったわかった。そう責めないでくれよ。とりあえず、そいつ、送ってやるのな?……わかった」 …やれやれ なんとも、優しい同僚がいたものだ 黒服に優しさなど、必要なのか? …この黒服には、その必要性がわからない 「ま、いいか」 後始末は任せられた ……すなわち! 「店のどこかにいるかもしれない、囚われのおねーちゃんたちの扱いは俺に任せられた、という事だな!!」 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!! 物凄い勢いで、髪を伸ばし この黒服はスキップなどしつつ、店内へと入っていったのだった 「………あれ?」 「あぁ、目が覚めましたか?」 少年を背負って、店を出た …薬の効果が切れたのだろう 少年が、意識を取り戻した 「…あれ…俺…」 「あまり、無理に喋らなくてもいいですよ…とにかく、家に送りますから」 「家………嫌だ……」 ふるふると 少年は、小さく首を振る 「…あんな所……もう、戻らねぇ…」 ……また、家出だろうか? 一瞬、そう考えたのだが…少年の声から感じられたのは、「家には絶対に帰らない」と言う、はっきりとした強い意志 今までの家出とは、明らかに違う もう二度と、家には戻らない…あの両親に対する、はっきりとした拒絶を感じ取れた 「…それでは、どちらにお帰りになられるので?」 「…………」 …返事はない ほぼ無計画で家を飛び出したのだろう 全く、困ったものだ ……しかし、少年の考えもわからなくはない あの家は…この少年には、酷すぎる環境だから 「わかりました、今夜は、ホテルに送りますから…家から、私物は持ち出しているのですか?」 「…きょーかしょとか、着替えとかは……ダチの家に…」 「わかりました。明日、その友人に連絡するのですよ?」 わかった、とそう頷いてきて 少年はこてん……と、力尽きて、寝息を立て始めた 小さく、ため息をつく この少年は、まだ中学3年 生活費を稼ぐ為に、アルバイトをしようとしたのだろうが… …あぁ言う都市伝説に引っかかってしまうようでは、危ない せめて、安全なアルバイト先を見極められるようになるまでは、自分が援助してやらないと 黒服はそう考えながら、少年を背負い、夜の街を歩き続けたのだった fin
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とある昼下がり 学校町の繁華街に存在する、ウェイトレスの制服のデザインがちょっとアレな事で有名なファミレス「フェアリー・モート」にて ことん、と 机の上に置かれた小さな子瓶 中には、液体…薬品が入っている 「これが、悪魔の囁きを体外へと排出させる薬かい?」 「あぁ。つっても、深く憑かれた奴には、一発じゃ効かねぇからな。そう言う奴には、数度に渡って投薬するか、投薬前に説得なりなんなりして、悪魔の囁きを少しでもそいつから引き剥がす必要がある」 「第三帝国」所属のドクターと、マッドガッサー一味の1人である広瀬 辰也 この二人はとある理由から協力しあっており、時折、こうやって薬品類の譲渡などを行っている 辰也が、本来はドクターのような研究者の類を毛嫌いしている事を考えれば、随分と異質な光景である 「こっちでは、ひとまず、魔女が精製に成功した。だから、それはそっちで好きに使え」 「あぁ、それでは、そうさせてもらおう」 薬品の入った小瓶を、懐に仕舞うドクター その表情には、やや疲れが滲んでいた 「また、ロクに休んでねーのか、お前は」 「…何せ、沙々耶が襲われてしまったからね。彼女を護る為の対処もしなければならないからな」 「…悪魔の囁き契約者の、口封じか」 ドクターの研究の成果によって、悪魔の囁きから人間になった少女、沙々耶 だが、彼女から、悪魔の囁きであった頃の記憶が消えた訳ではない …契約者であった存在に、彼女はいつ、口封じされてもおかしくないのだ 人間となった今、その気配を探る事もできないであろうから、彼女が過敏に犬を怖がっていなければ、ほぼ、バレなかったはずなのだが 「朝比奈 秀雄。かなり冷酷な人物のようだね」 「…冷酷どころか、人間のカスだ」 ぼそり、低く呟く辰也 朝比奈 秀雄と言う男の経歴その他を調べた結果わかった事実は、ただでさえ、仲間が悪魔の囁きに憑かれて暴走したり、悪魔の囁き憑きに襲われて負傷した事実から彼が抱いていた怒りに、油を注いだ 辰也にとって、朝比奈 秀雄と言う男は、どこまでも憎悪の対象でしかなくなっていた 「相手の戦力その他は、こっちのメモに纏めといた。「第三帝国」が連中に対してどう言う態度に出るかは知らねぇが、使えそうだったら使っとけ」 「ありがたく、その情報も頂こう……こちらとしては、総統が無茶な事をしでかさない事を祈るばかりだよ」 小さく苦笑するドクター …そうなのだ 朝比奈の、クールトーとの契約による、犬を操る能力 それは、「第三帝国」総統日本支部代表にとって、まことに嫌悪すべき能力である 無茶な事をしでかさないでほしい 本当に、祈るばかりである 「…それにしても、これくらいのやり取りなら、診療所で行っても、良かったのではないかね?」 コーヒーを口にしつつ、そう尋ねるドクター まぁ、この店のウェイトレスの制服は、目の保養になるのでこれはこれでいいのだが …ドクターが尋ねたその言葉は、辰也は難しい表情を浮かべた 「……つってもな。診療所にあの餓鬼がいる時は、なるべくこう言う話はしたくねーんだよ」 「エニグマ姉妹の、妹の事かね?」 あぁ、と頷く辰也 あの少女から、何らかの都市伝説の影響を感じて以来、辰也はずっと、彼女を警戒し続けていた なるべく顔を合わせようとせず、彼女の前ではいかなる情報も口にしようとしない 徹底したさけようである 出来うる限り、恵を彼女に会わせないよう努力も忘れていない 「何の都市伝説の影響か、わかったもんじゃないからな。悪魔の囁きの可能性だって捨てきれないし……万が一、「アメリカ政府の陰謀論」の影響なんざ受けてた日にゃ、洒落になんねぇだろ」 「まったく、君は警戒心が強いな……まぁ、悪い事ではないと思うがね」 辰也の生い立ちや今までの経験を考えれば、むしろ、その警戒は当然の事と言えよう 自身の身の安全のためにも、仲間の安全の為にも 彼は、強い警戒心を持って、行動しているのだ …その辺りに関する知識は、恐らく一部…どころか大半が、あの黒服から受け継いだ知識なのかもしれないが 「複数の都市伝説組織と敵対してんだ。警戒は当たり前だろ」 ドクターの予想通り、そう口にする辰也 そうだな、とドクターも頷く 「…君が身につけているピアスが、ミスリル銀製なのも、一部都市伝説の不意打ちを警戒してかい?そのピアスならば、「ピアス穴の白い糸」の効果は受け付けないだろうからね」 「……よくわかったな。これがミスリル銀だって」 ちらり、普段は肩の辺りまで伸ばされた髪に隠れてよく見えない、その耳 そこにつけられた一対のピアスは…確かに、ドクターの言う通り、ミスリル銀製だ その存在自体が都市伝説であるそれは、他の都市伝説の影響を受け付けない 「組織」にいた頃に、黒服Hから渡された物だった ……また、あれに世話になっている事実に気づかされ、辰也はやや、面白くない 「…とにかく。あいつについてる都市伝説、さっさと確認した方がいいんじゃねぇのか?」 「……そうだな。君の言うとおり、「アメリカ政府の陰謀論」の影響を受けていたら…それは、問題だ」 …もっとも、それ以上に問題なのは 彼女についているのが「アメリカ政府の陰謀論」だったとして…それが判明した時、どうするか? それが、非常に重い問題として、存在してしまっている それが、ドクターを憂鬱にさせた 「もしもの時は、こっち経由であの双子の餓鬼の引き取り先、探すぞ?」 「…気持ちだけ受け取っておこう。こちらの問題は、こちらで始末をつけるさ」 …それが、最悪の結果になってしまわないように、努力するだけだ ドクターはそう、口の中で小さく付け足したのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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王隠堂ぼたんには悩みがある。 二、三日前から変な電話がかかってくるのだ。 prrrrrr prrrrrr prrrrr 「はい、もしもし」 「私メリーさん、今」ガチャン これだ。 意味も意図も分からない悪戯電話。夜中にもかかってきたため、ぼたんは寝不足である。 それ自体は携帯電話の電源を切ることで解決したのだが、電源を入れればすぐに携帯が鳴りだす。 これでは友達と連絡もとれない。 prrrrrr prrrrrr prrrrr 「……はい、もしもし」 何度目かの着信にぼたんはうんざりしながら、携帯を耳にあてる。 ぼたんは、そろそろきっぱりと言ってやらなければなるまい、と考えていた。 「私メリーさん、今あなたの後ろn」 「貴女ね、迷惑って言葉知ってます?」 「えっ」 「昼も夜も電話してきて、こっちにも都合があるんですよ?だいたいこの電話番号どこで知ったんですか?ストーカーですか?警察呼びますよ? 貴女、声からしてまだ子供でしょう?電話は玩具じゃないの。こんな事したら、お母さんやお父さんが悲しみますよ。夜中に意味も無く起こされたら、 貴女だって嫌でしょう?だいたい」 「うっっさいわあああぁぁぁ!!」 「後ろにいるって言ってんだから振り向きなさいよ!何なのよ!?いつまでもくどくどと!!」 喚く少女の声にぼたんは渋々という風に、後ろを見る。 蜂蜜色の髪を腰まで揺らせながら、白いワンピースの少女が若干涙目になっていた。 「ハァ……。 それでですね。もし夜中に電話すr」 「まだ続くの!!?」 ぼたんの話は長いとは、彼女の家族の談である。 「だいたい、どうして貴女そんな上から目線なんですか?『うっさい』とか『後ろ向け』とか」 「あなた、私が怖くないの……?」 「何ですか、話を逸らさないでください。」 「私メリーさんよ!?都市伝説よ!?もっとこう、何かあるでしょ!?」 「貴女が都市伝説な事は今は重要ではありません。今は貴女の常識はずれな行動について話をs」 「足は、いらんかねぇ?」 「はい?」「え!?」 二人の会話に介入してきた声の方を向く。 にこやかなお婆さんが大きな風呂敷を背負いながら立っていた。 都市伝説「足売り婆」 すぐにソレだと分かったメリーさんは、すぐに逃げる準備を始めた。 (これ以上この女の長話なんか聞いてらんないわ。婆が襲ってる間におさらばよ。) 「足はいらんかね、お嬢さん達。」 「…………達?」 メリーさんも襲う対象であった。 足売り婆、足はいるかと尋ねてくる都市伝説。 いらないと答えれば足を取られ、いると答えれば、無理矢理足を付けられる。 マイナーなのか、口裂け女のべっ甲飴やポマード、赤い紙青い紙に別の色で答えるような有名な対処法が存在しない都市伝説。 「ちょっと!なんで私にも聞いてんのよ!?同じ都市伝説同士でしょう!?」 「足はいらんかね?」 「私の方を向きながら言うな!!」 「落ち着いてください、メリーさん。こういう場合は契約です。」 「そ、そうね………………て、違うわぁ!!」 「あれ?何か間違いました?」 「契約ってのは都市伝説から人間に持ち掛けるのが話のセオリーでしょ!?なんであなたから契約の話してんのよ!!」 「そういうメタな発言はちょっと……」 「知るかああああ!!」 二人は完全に足売り婆を無視していた。 「足いらんかねぇ…………」 「このままじゃ埒が明かないわ。さっさと契約して終わらせましょう。」 いろいろと諦めてメリーさんはついに投げ出した。 「じゃあ契約ですね。」「ええ、力を貸してもらうわ。」 長い言い争いの果てに、やっと二人は契約した。 「それで、貴女は何ができるの?」 「敵の後ろに瞬間移動できるわ。」 「ありきたりですね。しかも敵を目の前に能力をばらすなんて……」 「あんたが聞いたんでしょうがあぁぁぁぁ!!」 言い争いは終わっていなかったが。 「じゃあ、とりあえず足売り婆の後ろに移動してくださいな。」 「いや、なんでよ!?待ち伏せされるじゃん!!」 「能力をしゃべってしまったのは貴女の責任ですよ?」 「あれ、私のせい!?」 「ほら早く能力使ってください。ほらほら。」 「だー、もー、やけくそだー!!『私メリーさん、今足売り婆の後ろにいるの』!」 突然、メリーさんの姿が消える。ソレと同時に足売り婆は後ろを向き、 「足はいらんかね。」 瞬間移動したメリーさんの足を掴む。 「うわぁ!やっぱ待ち伏せされ」 ドガンッ 「足、いら……」ズガンッ 「貴女、押し売りって知ってます?」ズガッ「迷惑なんですよ」グリッ「いらないっていったら?」グチャッ「取る?」グチ 「日本語って難しいと思いますよ?」ズチャ「でも、それだったら」ガンッ「いるって言った時は何もしない」ニチョ「そういうものでしょう?」 「ス、ス、ススス、ストォォォォォップ!!」 「何ですか、メリーさん」 「何、やってんの……?」 「何って、」 ぼたんの手には、高校生ぐらいの女の子の手より、工具箱の中が似合いそうな、金槌。 足売り婆がメリーさんを襲う為に振り向いた瞬間、ぼたんはソレを足売り婆の頭に振り下ろした。 何度も何度も。足売り婆が死に、光となり消えるまで。 「な、なんで、そんな物持ってんのよ……」 「二、三日前からかかってくる悪戯電話にいらいらしていたから。つい♪」 「あ…………………………そう」 「あ、そうだメリーさん」 「ハ、ハイ!?」 「契約したのですから、これからよろしくお願いしますね?」 「え、えぇ、よろしく……」 自分に使われていたかもしれない金槌を見つめながら、複雑そうにメリーさんは呟いた。 終
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「悪いんだけどさ、お嬢ちゃん」 男は嫌悪感を抱かずにはいられない、嫌らしい笑みを浮かべながら、口を開いた。 「この包丁で、君の両親、殺して?」 男が指差す先には、縄で縛られ頭から血を流し、ぐったりとした男女。 「……………………」 少女は奮える手で、男から包丁を受けとると 「………………!」 「お?」 そのまま、男に向けて突き刺した。 けれど、その包丁は男には刺さらなかった。 まるで、男の身体が石でできているかのように、硬質な音を響かせ、包丁は止まってしまう。 「いけないなあ、お嬢ちゃんは」 「…………っ!」 男は少女を殴る。 男の握りこぶしには、びっしりとフジツボがはえていた。 男は、それなりに有名な部類となる都市伝説と契約していた。 有名なだけあって、男の能力を見れば一目で何の都市伝説て契約しているか分かるだろう。 もちろん、都市伝説の関係者なら、だが。 そして、数時間前まで一般人だった少女にとって、その男は化け物以外の何者でもなかった。 「あのね、お嬢ちゃん。弱い奴は強い奴に逆らっちゃ駄目なんだよ。これ、社会の常識ね」 「……………………」 頭から血を滲ませる少女に、男は再び、包丁を握らせる。 「ほら、ちゃんと握って。上手に殺せたら、ご褒美をあげよう」 そう言って男は、下品な笑みを浮かべ、少女の身体を舐めるように見回す。 「でも、上手にできなかったら……」 男は少女の視界に、握りこぶしをちらつかせる。 「………………!」 少女は、頭の痛みに、目の前の化け物に怯え、しっかりと、包丁を握りしめる。 そうして、ふらふらと、微かに息をしている両親の前に立った。 「よくできたねえ。ご褒美あげるからね」 吐き気をもよおす笑みを浮かべながら、裸の男が少女にのしかかる。 もはや、泣く気力もない少女の手にはいつの間にか、 何かのカプセルが握られていた。 終