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間諜を通じて賢者の塔によるウィスタリア急襲の報を確認した日、まずは南洋諸島を抑えにかかった決断は間違っていたとは思わない。 キシュフォルドは島国だ。特に西部は元々海賊を生業とした海の民を祖としており、最大の軍事力は海軍にある。南洋諸島を領有することは領海権の拡大にあたり、自国にとって最大の戦力の活動範囲を伸ばすことにも繋がる。ビクトールは内地への進出を思うとき、キシュフォルドが島国であることを嘆きもするが、反面キシュフォルド本国に手を出すには海を越えるほかに方法は無く、海上で敗れることが無ければ自国を侵されることへの憂いがない。南洋諸島の領海を自国に組み入れてしまえば、それは海原という領土であり、本国への軍事的緩衝地帯ともなる。 まずはキシュフォルドの最大戦力である海軍の活動範囲を広げる。その点においてはハイラルの起こした争乱は役に立ったと言えるが、いかんせん…… 「……短すぎた」 再び酒瓶を煽り、ソファで身じろぎを取ると踵の体重を預けたままのビストロテーブルの卓面が歪み、波頭に抱かれる乙女を模した卓脚がミシリといやな音を立てる。 内地での争乱が長引きさえすれば、ハイラル以外に変化を巻き起こす芽として目をつけていた、帝国統治に不満を持った郡国主たちを煽って独立を唆す手筈も取れたというのに……。 そうなれば、キシュフォルドを北から塞ぐ目障りなカージナル大公国も自国の北部防衛と帝国の支援に兵を割かねばならず、千載一遇の北侵の機会となったであろうことが悔やまれてならない。 返す返すも惜しいことだが、嘆いていても始まらず、各地に再び間諜を放って実情を探らせる傍ら、新たな策をあれやこれやと思い巡らしているのだが、ビクトール自身、それを存外楽しんでいる事実には気づいていない。 ウィスタリア帝国は帝都レンシエラを始めとする主要都市の被害が大きく、虎の子の精霊騎士団も騎士団長の他、将官クラスである真・精霊騎士を2名失うなど甚大な損害を出している。 新型艦船の配備による海軍再編計画も当分頓挫するであろうし、現に先日のキシュフォルドの南洋諸島占拠について具体的な声明は出されていない。 首謀者ハイラルへの加担について嫌疑がかかっている郡国エスティバリス当主が蟄居させられるなど継続する内患も抱えており、帝国にとっても直接の版図ではない南洋諸島へのキシュフォルド進出に苦言を呈する余裕は見られない。 当分は国内の整備に奔走することだろう。 東部列強も中核をなす一国であるヴェルツヴァインが王都を焦土と化し、国王一家の消息は以前不明のまま既に国として成り立っておらず、加盟国当主たちはその始末について復興を口にしつつ、その実はヴェルツヴァインを解体して領土の割譲吸収を狙って紛糾取り沙汰されているという。 『まさしく好機!我らキシュフォルドが内地に覇を唱えるのは今を置いて他にありませぬ』 朝議の席で、内地の様相について報告を受けると興奮した面持ちでそう発言した臣下を思い出し、不快げに太い眉根をぎゅっと絞り、口中で小さく「馬鹿め」と小さく舌打ちする。 大陸内地における二強が疲弊し内患を抱えた今、確かに打って出る好機と言えなくもないだろう。 事実、大公国とサシであるなら東部の兵をも動員すれば戦力は拮抗し、すわ戦となれば平和慣れした大公国の兵に遅れを取るとも思えない。ウィスタリア帝国が同盟国である大公国に援兵を派する戦力は通常の半分にも満たないだろう。 十分に勝機はある。しかし、だ。 今回の争乱については、魔道協会が身内の不心得者によって招いた、公式には『事故』と既に発表されている。 事故によって被害を受け、復興中の国家に対して特段の理由無く戦端を開けば、世情が黙ってはおるまい。 土着民族の小規模集落を幾つか擁するのみで、国際的な交流を持った主権国家の存在しない南の島国を掠め取るのとは事情が異なる。 そうなればキシュフォルドは大公国、帝国のみならず、場合によっては東部列強、商工連邦、首長国……大陸中の国家を同時に敵に回すことになる。それは愚作に過ぎる。 キシュフォルドが内地に出るには、大公国と干戈を交えるに足る理由、もしくは継続し続ける内地の混乱が必要なのだ。 内地が麻のように乱れれば『混乱を収め、民に安寧を』と嘯き、ようようと兵を出せばいい。 ゆえにビクトールは収束に向かって動き出す事態に太い眉をぎりりと寄せ、再びの乱を待ち望んでいる。 そう、収拾がつかないほどに千々に乱れてくれなければ……。 --さて、何をどう突いたものやら…… 一旦は収まりを見せたとはいえ、まだ手はある。 人とは面白いものだ、嵐が吹き荒れる最中にはただただ嵐が過ぎ去ってくれさえすればいい、そう願うが、一度それが過ぎ去り、一息つくと荒れに荒れた光景を見回してこう思うのだ。 なぜこうなった?誰を責めればいい?と。 なぜ嵐は起こったのか、避けられなかったのか、嵐に耐えうる環境をなぜ整えなかったのか、と。 それは一見、未来に同じ轍を踏まぬ為に布石を打つ思考のように見えるが、その内には哀惜の念を何かのせいにしてしまわねば立って居られぬ、人の性が潜む。 魔術士の引き起こした、魔術事故による甚大な被害。 魔道協会自身がそのように発表しているし、あの異様な空だ。 間諜の報告によれば、眠れる古の竜まで崩落する賢者の塔に現れたというではないか。 誰がどう見ても、魔術による災厄だ。 魔術は今や素養を持つ持たざるに関わらず、日常近くどこにでもありふれたものとなっている。 暮らしの中に溶け込んだ魔術はあらゆる人種に恩恵を与え、既に文明の柱といっていい。 しかし、今回のことで誰もが心にこう刷り込んだはずだ。『魔術は危険だ』……と。 魔術士たちは恐らくそれを誰よりも知るからこそ魔術士なのだろう。でなければ付き合えるものではない。 しかし、そうでない者たちにとってはどうであろうか。 まして、被害を身近に受けた者たちにとっては……。 ただ便利な道具のように思っていた魔術に対する危惧は、ほんの少しのことで、魔術を用いる者への危惧となりえる。 遥か古には、その為に大陸全土を覆う戦乱があったと言うではないか。 長き年月をかけて、少しずつ築き上げられてきた魔術と、魔術を用いる者たちの信頼と権威は、ハイラルが引き起こした災厄によって失墜したといって良く、魔道協会が各国に対して有していた魔道使用に関する発言力は地に落ちた。 起動は不可能としていた遺物兵器である魔道甲冑を実際に起動し、合成獣を生体兵器として運用してしまったのだ。例えその実行が反乱魔導師による独断であろうと、存在しないとされていた技術を協会は秘匿し、自ら禁忌と定めた行為を成してしまったのだから。 その責任を誰よりも理解しているからであろう、魔道協会は被害地域への復興支援の為、術士団を組織して一早く支援活動を開始しており、一応は各地の人々から感謝もされてはいるようではある。……いまは、そして表向きは。 ビクトール自身には魔術に対する忌避感はない。 せいぜいが役に立つ技術とそれを習得した技術者という認識でしかない。 しかし、魔術を用いぬ身で今回の被害を目の当たりにした者たちには、意識の奥底に植えつけられた何かがあるはずで、それはきっとほんの些細なきっかけで表面化するだろう。 本当に、ほんの些細なきっかけさえあれば……。 ハイラルが起こした乱は確かに短く、直接的にはビクトールにとって期待はずれであった。 しかし、国という組織の中に、魔術士と魔術士ならざる者との間に、ハイラルが残したひずみは今もなお残っている。 折角、国内や隣人同士にひずみを抱えているのだ、それが亀裂と育つ前に侵攻など起こしてキシュフォルドという共通の外敵を与えて、結束を促してやる必要など無いではないか。 魔道を用いた兵器に対して厳しく目を光らせた魔道協会が反逆者の手によってとはいえ、それを稼動可能な状態で秘匿していた事実を露呈し、あまつさえ行使したことによって、その存在意義を衰えさせた今なら、大金をはたいてヴェルツヴァインから密輸した遺物兵器を元に開発させた魔道砲を用いる機会も訪れるかもしれない。 聞くところでは、鉱山妖精どもが岩山から担ぎ出した魔道砲らしきものによって、塔に配備されていた魔道甲冑を遠く離れた山から砲撃したという報告もあるが、連中が糾弾されたとは耳に入っていない。 自ら禁じていたものに足元を掬われ、同じく禁じていたものに救われたのだ、当分は協会が何を言おうと何とでも言い逃れはできるだろう。 当分はハイラルが世界に残したひずみを、せいぜい上手く利用してやろう。 考えを巡らし、打つべき手が見え始めると、当初のもやもやも忘れて、口元をニ…と歪ませるキシュフォルド王ビクトリアノであった。 - 乱を待つ王 -(3) (1)へ (2)へ 再び人の間に亀裂を生むことも必要に迫られれば臆さない王に、島のどこかに存在する、陰陽を抱いて眠る火山がゴゴゴと地鳴りを響かせたりする……のかもしれません。
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なぁに? 重力操作と物体操作による浮揚術の違いを教えてくれ? んーそうねぇ、物体操作術は魔術の内でも最も基本かつ基礎的なものね。 でもって重力操作ってのは、習得して身に付ける類の技術じゃなくって天賦の才によって得うる、個人的な能力といっていいわね。 物体操作はその名の通り『物体』を魔力を介して操作する術式で、その骨子は念動ってのは始めにならったわね。 その念動を延長することで魔力によって編んだ見えない手、これで物体を操るのがその要諦よ。 【浮揚】の術式は引力・斥力・静止しようとする力といった、これらの理を上回る念動によって物を浮かせたり、飛ばしたりするわけ。 例えば羽根を浮かせるには、羽根にかかる重力以上の念動によって"浮かせ"ればいいわけ。 個人の魔力量と念動への変換力によって許容量は異なるから、術者によって操作できる重量や質量、同時に操作できる数なんかには差異が出るわね。 物を浮かせるという行為に限って言えば重力操作も似ているけれど、これは操作する対象が『物体』ではなく『重力』という理そのものに変わるわ。 自然の状態でも常に変化するものである四大属性なんかとは違って、原則的に不変の理、つまりは世界の成り立ちを変えるわけだから、大変な術よ。当然持っていかれる内練魔力も尋常じゃないでしょうね。 物を浮かせるという結果を重力操作によって得る場合は、物体に掛かっている重力を相殺したうえで浮揚力となる斥力を与える必要がありわ。一口に言えば重力の逆転ね。けど一概に逆転しても、すごい勢いですっ飛んでっちゃうから、この力加減を制御することまで含めての重力操作式ね。 重力を操る方向・範囲・威力制御この三つで一纏めのイメージかしら。 物体操作との決定的違いは対象が『理の力』そのものだから、さっきの例とは逆に操作範囲の重力を増すことも可能よ。 念動でも同様の加圧を行うことは不可能ではないけど、念動自体が『力』だから、それを上回る念動によって破壊もしくは相殺されれば効果は解けちゃうけど、重力操作の場合は重力という自然の理が操作されているからこれを防ごうと思うとなかなかに大変でしょうね。 ぱっと思いつく範疇では同様の術で相殺するか、術者もしくは術式自体を破壊、もしくは妨害しなきゃいけないかな。 大地の精霊力を高めることで、重力操作によって加えられた不自然な干渉を止めることも可能かもしれないけれど、並の精霊の力では難しいかもね。
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「別に責めてるわけじゃないんだ。セレスの父親も、これまで君が狩った他の魔術士と同じく奪い、痛みを撒き散らす存在だった。正直なところ、僕は君に先を越されたに過ぎない」 拳を握り締めて無言で立ち尽くす私に、一つ息を吐いて魔術士はそう告げる。 「長話で疲れたろう、架けたら?」 私に椅子を勧めると、お茶でも淹れようと言って席を立った。 室内に備え付けのポットの底に指先で火を灯し、同じく備え付けの棚から茶器を取り出すと、静かな室内には蒸気を吐きながらコポコポと鳴るポットと陶器の触れ合う音が響く。 勧められた椅子に腰を下ろす気にはなれず、そのまま踵を返して入ってきたのとは逆の扉へと歩み寄り、取っ手へと手を架ける。 「おや、飲まないのかい?」 カップを両手にして執務机ではなく、その向かいに置かれた卓にそれを並べ、いい茶葉なのにと呟きながらソファへと腰掛けた魔術士の問いは黙殺し、背中越しに一つだけ疑問を口にする。 「なぜ責めない。私があの少年の父親を殺さなければ、もしかしたら死に至るまで身を呪詛に浸すことは無かったかもしれない。お前も狩りに来たというが、お前は少年を見つけた。--けれど、私は……見つけられなかった」 もしも魔術士よりも先に少年を見つけていたとしても、何が出来たかなどと自らに問うまでもない。 私はきっと……何もできない--いや、しなかったのではないだろうか。 「僕自身の目的の為、邪魔にしかならない存在に表舞台からご退場願おうと思って来てみれば、既に領主は急死したという。不自然に思って調べてみた結果、僕は彼を見つけられただけだし、彼を救うために特別何かできたわけでもない。もしも君がそうしようと望んだなら、もっと上手くセレスの身体から呪詛を剥がせたかもしれないじゃないか」 顔だけ振り返れば、魔術士は口許からカップを離し、立ち昇る香気を楽しむ風に瞳を伏せ、何が言いたいんだいと呟いた。 「愚かにも魔力を戯れとして再び用いるものが現れれば、それを狩る。それが私が私に課した誓いだ。けれど、それはいつも災厄がもたらされてより後にしか果たせない。私は人の災厄を退けたくてこんなことをしているわけではない。ないが……」 --災いが地に満ちてから狩るとて手遅れぞ-- --いつまで続けるのかえ?終わりはあらぬぞ-- 遥か遠い日に投げられ、自分自身が退けた問いが脳裏に響き唇を咬む。 ……やはり、間違いだったのか。 「何が最良だったかなんて、過ぎた今となってはわからない。ただ、今よりもマシな何かを期待して縋りつく妄想でしかないだろう。もしも、やり直すとしてどこまで遡ればいい?」 カップを卓上に戻し、ソファに深く身を沈めて足を組んだ魔術士の瞳が薄く開かれる。 「君がセレスの父親を手にかけず、彼に引き取られればセレスは幸せだったのかな」 それとも……と、魔術士は続ける。 セレスの母親が息子に行き場の無い呪詛を向けてしまう前に、彼女にお前は息子を殺す気なのかと、その無知を罵倒すればセレスは満足だったろうか。じゃあ母親は救われなくて良いのか。 いや、さらに遡ってセレスの母親が領主たる父親に奪われなければ良かったのか、その前に僕か君が父親を排除すれば、母親は幸せな人生を歩み、その他の領民たちに嘆きが降り注ぐことも無かったのか。 セレスは生まれてきたことが間違いだったのか。 もっと遡ろうか、と魔術士は言葉を継ぐ。 君が今抱えているその気持ちのままに、かつて選ばなかった選択肢を選んでいたら、世界に人は無く、悲しみもまた無かったのだろうか。 では人は、……セレスはやはり生まれて来るべきでは無かったのか。 チガウ……チガウ! 魔術士の言葉に、内心でそうじゃないと駄々を捏ねるように何かが否定を撒き散らすけれど、代わりに言葉とする適当なものが見当たらずに葛藤ごと喉の奥へと飲み込む。 「君も、かつての選択が間違っていたと、それを後悔するべきなんじゃないかっていう自分の中の声と、ずっと闘っているのかい、リリス」 肩越しに見つめてくる魔術士の視線。 問いには答えず、扉を押し開けながら、ふと名を告げてきた少年を思い出す。 「……名を訊かれたら何と答えればいいのだ。その呼び名は聞くのも呼ばれるのも好まぬ」 セレスティア・ドナ。 誰が少年に与えた名だろうか。 母親に腹の内に在るより呪われてしまった少年の名としては、それはあまりに残酷で、あまりに悲しいではないか。 『天からの贈り物』だなどとは。 同じく旧き言葉で『夜を歩くもの』という名を刻まれ、それを憎みながらも問われて他に応じる名のない身を自嘲して、思わずついてでたそんな言葉だったが、魔術士は事の他、間を置くでもなく返事を寄こしたのだった。 「あぁ、それなら--ステラっていうのはどうかな」 提案された仮初めの名に、小さく鼻を鳴らすと扉の隙間へ身を滑らせ、半身振り返った扉の向こうで何が楽しいのか笑顔を湛える魔術士へと冷ややかな視線を投げる。 「ステラ?……ふん、星か。夜にしか存在できず、月に劣る光しか持たぬ--私には似合いの名だな」 少し驚いたような表情をした魔術士はすぐに私の閉じた扉の向こうへと消え、踵を返した私は階下へと続く冷たい石段を何処へとも無く一歩二歩と進みながら、ふと魔術士が先刻口にした言葉を思い出す。 『後悔するべきなんじゃないかって声と--』 ……私、も? 何か引っ掛かりのようなものを一瞬覚えたのだけれど、その時の私はそれ以上それを考えることなく、すぐに忘れてしまったのだけれど……
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~トライセラの紅旗の聖女まとめ~ 【境界の剣】 古代文明時代の遺産の一つ。 古代文明の魔導師により『遠く青き水の月』より召喚された旧き神々の一角、大地の女神に仕えた従属獣の魂が刀身に刻まれた束縛の古ルーン詩文により繋がれ、封じられている。 従属獣は蛇の姿をしており、女神の命により海に落ちた竜の屍の上を這い、その跡を女神は陸と川、人と人ならざるものの境目となした。 かの獣の魂によって、境界の剣は大地に突き立てれば地割れを、海に突き立てれば道を開くと伝承にはあり、手にしたものを境界なき王の中の王となすと伝わる。 実際は剣閃によって成した線を境界とし、理を曲げて空間ごと切断する能力や、強固な結界を発生させる力を秘める。 その築きたる護りの壁は一軍の展開した騎兵の突進をことごとく撥ね飛ばすほどに強力。 意思を持ち、現界において獣が女神もしくは女神の代行者と認めた者にしか口をきくことは無く、力の行使も拒否する。 然しながら束縛の詩文の内に隠されている、強要の呪を発動することで強制制御する方法が古代文明末期に研究されていたが、その発動方法に関する知識は失われたとされる……。 【背景】 長らく古代王国の滅亡と共に失われたと思われていたが、凡そ400年前にそれと思しき剣が東部列強トライセラで古代王国時代の研究所と思われる遺跡より、幾重にも鎖で壁に繋がれて発見された。 時のトライセラ王は魔道協会との盟約である古代文明に連なる遺跡・遺物の報告・処置委任の条項に反してこれを秘匿。 解析を進め、伝承の力を国益に用いようと画策するも、何者かの介入によって事が露見、協会及び盟約国から批判を受ける中、剣自体をも紛失するという失態を演じる。 剣の紛失により、トライセラは図らずも遺跡の届け出責務の抵触のみを咎められたに留まるも、盟約違反を理由とする魔晶をはじめとした魔道技術の供給制限による国内生産力の低下や、国際的信用を著しく失墜。 トライセラ王は数年後、心労により崩御。 跡を継いだ新王は、王太子時分より、境界の剣秘匿~露見、紛失まで一連の事件は帝国による陰謀と固く信じており、下がり続ける王家の権威に業を煮やした結果、突如帝国領へ布告無く侵攻するという暴挙に及ぶ。 強襲により開戦当初こそ優勢を誇るトライセラ軍。 しかしすでに国力を著しく減退させていたトライセラ軍に長期戦は戦えず、伸びきった補給線を通う物資はあまりに少なく……。 報復に出た帝国軍によってじりじりと占領地を追われ、やがて自国領への侵入をも許してしまう。 当時連邦国家として形を成し始めた商工連邦にとって、北に隣接するトライセラを滅ぼされることは、自国を帝国領によって囲まれることとなる。 帝国・列強双方を顧客に持つ連邦にとってそれは好ましい事態ではなかった。 また帝国にとっても無用な圧力を連邦にかけることで、防衛措置として連邦が列強と攻守同盟を結ぶような事態は避けたいことから、あくまで領土を侵したトライセラに対し、国としての面子を立てた上、一郡割譲程度で済ませたかったが、皇帝の思惑を理解できなかった東部方面軍の司令官は、そもそも国力が衰え長期戦を戦えず、王家の求心力低下に伴って士気も低いトライセラ軍を蹴散らしたことに気を良くし、トライセラ王都に迫る勢いで進軍を継続。 時勢はトライセラに非ありと当初静観していた列強諸国をも巻き込む戦に発展するのは時間の問題であった。 王都を目前とした帝国軍に、国外逃亡を図るトライセラ王家と一族。 混乱する軍部と国民。 この先どのように転んでもトライセラは滅び、その領土を帝国、列強、場合によっては連邦とで奪いあい、『小麦実る黄金の丘陵 その美しさは筆舌に尽くしがたし』と謳われたトライセラの地は、激しい戦火に蹂躙される運命しか残されていないかと思われた……。 戦場に一振りの剣と、白く風に揺れるトライセラ国旗を掲げた少女が現れるまでは。 ◆ 境界の剣を発掘してしまったトライセラから剣を持ち去り、深い湖の底に再び鎖をかけて沈めた黒騎士とブリュンヒルデの名を持つ剣戟の自動人形と、緑髪紅眼の魔女。 彼らに協力したトライセラ生まれの一人の神官見習いであった銀の髪の少女。 報復としてトライセラへと攻め込みすぎた、帝国東部方面軍を預けられた司令官。 はじめに踏み込んだのは祖国、けれどやがて報復の軍靴に踏み荒らされ、焼かれてゆく祖国と同胞の為、湖に分け入り剣を呼ぶ神官見習いの声は剣の獣に届き…… 『汝を女神の代行者と認めよう』 低く響く声と震える湖面。 帝国軍が憎いわけじゃない、王家を妄信しているんでもない。 儀礼用に習った剣の腕が戦争で役立つなんて思ってない。 そもそも戦争なんてしたくない。 耳をふさいで嵐が過ぎ去るのをただ屈んで待っていたい。 でもそれじゃ何もかもなくなるから。 大好きな人たちが一緒に暮らせる場所が無くなるから……。 ただ止めたかった、大切な隣人たちが奪われていくのを止める力が欲しかっただけ。 あまりに無力な自分でもかの剣の力を借りられれば……漠然とした願いで持って振るわれた、あまりに強大な力。 ただの一薙ぎで断ち割られた兵士の胴体、首、先刻まで身体だったはずの肉の塊が落ち、散乱する光景。 立ち込める臭気に少女は膝を折る。 その指は柄を握ったまま凍りつき、涙混じりの嘔吐を何度も何度も繰り返す。 少女の漠然とした願い、突きつけられた戦争と言う文字の先にあった現実。 こんな恐ろしいもの放りだしてしまいたかった。 本当はもうそのまま何もかも忘れて目を閉じていたかった。 膝を抱えて誰かに優しく守られていたかった、誰かに護って欲しかった。 けれどその間に誰かが奪われていくから、私は護る術を手に入れてしまったから……。 旗を掲げ、剣を従えて人々の前を行く。 白銀の甲冑に身を包み、誰よりも朱く染まりながら。 やがて画策されるトライセラ領の大幅な割譲を条件とした講和。 王家がただ王家として存在するためだけの、民を養う穀倉地を支配権の継続と引き換えに結ばれようとする、国を国でないものへと変えてしまう形ばかりの講和条件。 一度は国土と王座を取り戻す役に立ったものが邪魔となる……。 遥か極東の地より飛び立つ一つの影。 取り上げなくては、あの剣を。 あの娘が聖女などと呼ばれ、数えきれない命をその名に背負っていたなんて。 なぜ封印場所を見せてしまったのか、なぜ剣は応えてしまったのか……。 『この国も人も大好きなんです』そう言って笑ったあの娘。 止めなくては、取り上げなくては…… 翼よ、もう二度と飛ばなくていいから、お願い翼よ、間に合って。 ◆ 『陛下はこの土地を講和条件として帝国へ割譲されることをお定めになられました。しかしこの穀倉地に実る小麦はトライセラの民の生活を守るために必要なものです。五年十年は過ごせるかもしれません、けれどいずれ国民は飢え、パン一つ買えぬ家が溢れるでしょう』 たった二人で始めた進軍に、自ら馳せ参じてきた者たちの前を輪乗りで駆け、馬上から語りかける。 『国には再び餓えと嘆きと死が満ち、その時には恐らく国も民も別たれトライセラという国は地図より消えるでしょう。私はそのような未来を望みません、あなた方にとってそれは望むものですか?』 否定を叫んで打ち鳴らされる兵士たちの剣と盾。その数僅かに二百と八十八。 『私たちがこれから赴く戦は陛下の命に叛くものです、領の接収に進んでくる帝国軍は七千の大軍。勝敗に関わらず我らは逆賊の名を負い、大軍を相手取らねばなりません、それでも……それでも、この地に踏み留まるという者は……左右の臣に惑わされ、お迷いになられている陛下に、ただお気付き頂く為だけにここから一歩も退かず抗うという者だけは残って、その命をもう一度、私に下さい』 シンと鎮まる丘に再度高らかに上がる国と聖女を称えて上がる声は二百と八十八から一つも欠けることは無く。 前方に領土受領の調印の為に粛々と進む、名高き精霊騎士団を含む帝国先遣軍。 背後には逆賊とされた聖女討伐の命を受けたトライセラ正規軍。 苦悩の果てに自ら聖女の名を受け容れた少女。 その最後の戦いの火蓋は、雲間を切り裂いて飛ぶ緑の魔女の祈りも虚しく、間もなく切って落とされようとしていた。 ◆ 謁見の間に呼び出され、下された命令に復命の務めも忘れて我が耳を疑った。 「恐れながら、我らが国の窮地を救った聖女を討てとは、いかなるご所存でありましょうか」 片膝をついた視線の先には、失政の末薨去した父王の残した国際的非難や、民の不信の念、帝国への根拠の無い疑念に耐えかねた挙句、自ら巻き起こした戦火すらも怖れ、城を、都を、国と民を捨てて一度は逃げ出した男の足が見えた。 「左将軍、お前まで聖女かぶれか?」 華美な室内履きの上から苦々しげな声音が降る。 「一武人として認めるところはあれど、かぶれなどと、そのような…。しかし兵達には聖女を崇める者も多く、ご下命の理由いかんによっては士気に影響致します」 『…兵卒をたぶらかすとは何を企んでいたのやら…』 『戦場に若い娘がおれば人気も出ようよ…』 『旗を持ち、立っているだけで英雄とは…』 脇に居並ぶ近臣達がざわめき、扇の内で下卑た囁きを交わす。 戦塵に身を置く全ての者と、何より血濡れた我が手に震え、自らの名を叫び、倒れ逝く命の重みを一身に受け止めて月明かりの下で慟哭した、まだ大人でさえなかった娘に対する侮蔑に、目眩む程の怒りを覚え、口中に錆びた味が滲む。 「帝国との講和条件は聞き及んでおろうな左将軍……いや、将軍はその条件には反対を唱えておったようであるから当然知っておるな」 聖女の働きによって一度は対等の戦況に持ち込むこんだことで、少しはまともな条件を引き出すお膳立てが整ったというのに、退位を迫られた我が身の権益可愛さに、自ら王であり続けることと引き換えに国を支える穀倉地帯を売り渡すという余りに愚かな条件提示を呑んだ、滑稽な王の声が冷たく降り注ぐ。 あの娘が我が身を誰よりも朱に染めながら白き旗を守り続けたからこそ、貴方は素足で逃げ出したこの王城におめおめと舞い戻り、そのような室内履きに今も足を包んでいられるというのに……。 「……決定事項として既に拝命仕っております」 その講和条件がいずれこの国にもたらす未来が見えない王にいくら諫言しようとも、耳心地良く囁く近臣に囲まれ、視界に映る煌びやかな玉座さえ守れればそれで満足な男には届かず、響かない。 それだけでも、あの娘に……この胸倉を掴んで"聖女"と呼ばないでくれと泣いたあの子にどれほど詫びればいいのかわからないというのに、この私に『聖女を討て』とは……。 「越境を許可した帝国先遣隊との領土割譲と講和条約調印の為派遣したビュラード侯が、国境守備軍との合流前に暴漢に襲われ拘束されたとの報告が入っておる。暴漢の先頭に立っておったのが、あの小娘だという報とともにな」 忌々しきことに、我が国の旗を掲げての暴挙である。 そう王は言葉を続けるが、それはどこか遠くの雑踏の音のように聞こえる……。 あの娘が何をしようとしているのか、すぐに察しがついた、けれどあまりに無茶だ。 然れどそれをこのような者たちに暴挙などと呼ばれてなるものか……。 誰も彼も国ではなく、民でもなく、己が利権を守ることにのみ執着する舵取りを頂き、この混迷した国の中、あの娘だけが正しく将来(さき)を見据え、何をすべきかを理解し、たった一人行動を起こしたのか……。 かの娘以外、何者がこの白い旗を掲げる資格があるというのだろう……。 「侯を拉致した小娘の一団は何を血迷ったか帝国先遣隊に向かって進んでおるとの報が先ほど参った。帝国軍と当たれるほどの数ではないが、我が国の誠意を疑われては折角の講和が水の泡となる。国をこれ以上戦で疲弊させるはそちとて望むところではあるまい」 貴方がそれを言うのか……。 一欠片も民を顧みることの無い、虚しい誠意とは何だ……。 我が剣と忠誠は国に捧げたはずだ、国とは何だ。王とは国なのか? このように民を顧みぬ王と、それを取り巻く諂い者たちに頭を垂れる為に我が剣は捧げられたのか……。私は……。 「勅命である。近衛軍を率い、国境守備軍と合してビュラート侯を救出せよ。聖女を語るあの神官崩れの娘アデアット=ラウィーニアとその一団は国賊としてこれを殲滅し、首魁であるアデアットについては首と境界の剣を必ず持ち帰れ。………どうした左将軍、復唱せぬか」 ◆ 石突をしっかりと大地に突き刺した槍先には、ぐっしょりと朱を吸い、もはや翻ることも無く垂れ下がった旗。 身に纏った甲冑はあちこちが破損し、露になったあまりに細い肩。 槍と同じく切っ先を大地に埋めた大剣に体重を預けるように前のめりに、けれど今もしっかりと守りきった祖国の土を踏みしめて立ち続ける少女に歩み寄る。 「……アデアット」 細い腰を支え、剣の柄を握り締めたままの鎖編みの手袋に包まれた手にそっと触れ、少女の命を吸い尽くしてしまった霊剣を取り払おうと柄を引くけれど、しっかりと握り締められた拳がそれを手放さない。 「もう、いいのよ。あなたは大好きだと言った国を守ったのだから」 もう一度、柄を握り締める拳と指に手を触れて固く握り締めたそれを一本一本緩めてやりながら、俯いたままの少女の顔を覗き込めば、全身と同じく自らと自ら屠った者の返り血に汚れた白い顔。 閉じられた瞼、かんばせに幾条も走る裂傷。 どんなにか怖かったろう、人と人が命のやり取りを行う場所に身を置くことは。 どんなにか辛かったろう、自分の振るった剣の先で命が失われるのを感じることが、自らを聖女と仰ぎ、その名を呼びながら前を駆けていった者たちが戦う光景を見続けるのは……。 でも覗き込んだ少女の顔は苦悶に歪んでいるわけでも、国を守った誇りに包まれて満足気な表情をも浮かべてはいなかった。 ただ、安らかという他にはない、すべきことを終えて安心したかのように静かで穏やかな表情で瞳を閉じる少女を目にして、込み上げたものに思わず肩が震える。 「アデアット……いっぱい頑張ったね、えらかったね……最期まで貴女自身で選んだ"したい"ことをしたのね……」 冷たく固まった指を解きほぐし、愛しげに自らの頬に沿わせながら語りかける。 嗚咽が漏れてコツンと額を美しかった銀の髪、今は血と泥にまみれ硬くなってしまった冷たい髪に押し当てて、私は重すぎる名に押し潰されずに小さな自分を貫いて生きた少女を悼んで泣いた。 ぐしと袖口で顔を拭うと鼻を啜って、物言わぬけれどまだ意思を残していることを波動で伝えてくる剣を提げ、細い少女の身体を抱き上げる。 翼を拡げ大地を蹴ろうとすると、黙って遠巻きにしていた武人が制止の声を上げた。 黒い甲冑に身を纏った姿はトライセラ正規軍の将だろうか。 「貴女が誰かは知らない、剣は何処へなりと持っていってくれて構わない。けれどお願いだ、どうか彼女を連れていかないでくれ」 実直そうな面立ちをした将は、後悔と恥じ入る感情を押し殺していることを眉に表わしながら言い募る。 「……娘一人救ってやれなかったお前たちに預けろだと?それとも国賊としてまだこの娘に鞭をくれようとでも言うのか?」 自分にも出来なかったことは棚上げにして、行き場の無い悲しみと怒りの溜飲を下げる相手を見つけた私は、みっともなく強い眼差しとともに低い声音で言葉を返すが、将は尚も懇願する。 「アデアットを賊と呼んだ愚かな王はもういない。彼女は丁重にその身を弔うと誓う。貴女がアデアットを思ってくれていたことは見ていて痛いほどよく分かった、貴女が我らに怒っておられることも重々承知だ、けれどそれでも頼む。お願いだ、我々から彼女を連れ去らないでくれ。手遅れだとしても我らが間違いを認め、忘れず、アデアットの願いを果たすことを、国を支えてもう一度歩き出すことで今更だとしても彼女に報いる機会をどうか我々と、トライセラの民から奪わないで欲しい」 勝手ではないか…… 命あった彼女を救わなかったのに、間に合わなかったのに、冷たくなってしまったアデアットにもう一度働けと言うのか。 「勝手だということはわかっている。アデアットが聖女と呼ばれるたびに泣きながら傷ついていたことも知っている、けれど、それでも我々にはまだ……」 聖女が必要なんだ……。 血を吐くような表情で懇願する将の顔をしばし見つめ、腕の中に抱いた少女の顔へと視線を落とす。 『確かに今は、この国は問題が山積みですけど、でも……この土地も人も、私この国が大好きなんです』 -だって自分の生まれて育った国ですもの、ステラさま- 別れ際に笑顔でそう告げられた、少女と交わした最後の言葉を思い出す。 ……もしも今、この腕の中でまだ少女が口をきくことができたとしたら……… 自分になんと言うのか、想像に難くなかった……。 「もしも誓いを破ってみなさい、その時は私がこの手でこの国を滅ぼすわ……」 では……と、呟く将へと歩み寄り、腕の中の少女を託すと片手を伸ばしてもう一度少女の頬を優しく撫でる。 「さようなら、アデアット……」 ◆ 大陸暦1493年、ウィスタリア帝国との戦時下にあった東部列強連盟トライセラ王国にて起きたクーデターにより、トライセラ旧王家廃さるる。 クーデターと日を同じくして救国の聖女に率いられた一軍と帝国軍との間に行われたイースラー会戦にて、帝国の侵攻を一時退けたトライセラ新王朝は、帝国と改めて講和を結び二群を帝国に割譲、新たな国境線をウィジレ河によって引き直すこととなる。 イースラーの丘にて寡勢を率い、帝国軍を退けながらも壮絶な討ち死にを遂げた救国の聖女アデアット=ラウィーニアの国葬を執り行ったトライセラ新王朝は、聖女に深い敬意と感謝の念を表し、常に聖女とともに戦場にたなびき、穀倉地イースラーの境を一歩も退かぬまま聖女の血に染まった旗にあやかり、国旗を白より赤へと改むる。 故に救国の聖女は『紅旗の聖女』と呼ばれる。 その亡骸を包んだ紅の旗はイースラー国境線に建てられた要塞に安置され、聖女騎士団によって今も堅く守られている。 紅旗の聖女はトライセラ国民にとって誇りであり、彼女の意思を継ぐ証として甲冑・制服に紅布をあしらう聖女騎士団員が現国境線を守ることを指して人々は『聖女は死してなお今もトライセラを支える穀倉地帯を守っている』一様にそう口にするのである。
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「あら、リッセ。小難しい顔して、どしたのよ?」 午後の二限は受け持ち授業が無いので中庭で昼寝でもしようかと適当な木陰を探していると、同じく空き時間なのだろう、触媒教室に籍を置くリッセがトレードマークの三つ編みを揺らしつつ歩いてくるのに出くわした。 「あ……先生。やっぱり極東とこっちじゃ存在する種族とかに隔たりって結構あるのかな。時々みんなと会話が噛み合わない気がして……」 遥か東に位置する帝国の同盟国である極東王朝。 世界地図を竜に見立てると尾にあたる巨大な半島、その中央部に位置する鉱山をいただく里の生まれであるリッセであるから、同じものについて語っていても、その捉え方、考え方の違いによる祖語が時折付きまとうのは少し気の毒なのだが、そういった溝をあきらめず日々埋めていくこの生徒がアタシは大好きだ。 「ふむん、今日は何の話をみんなとしてたの?」 にこりと問いかけると、リッセは応じようとして唇を開きかけるけれど、すぐに自身の無さ気な表情でうなだれてしまう。 「どしたのよ、いいから言ってみなさいってば」 「……うん。先生、塩の妖精がいるから海は海なんですよね?」 ……しおの……ようせい?? 海、海って言ったわよね。……てことは潮の精霊のことかしらね。 確かに潮の精霊は海か、海に流れ込む河口にしか存在しない。 多分そのことを言ってるのだろう。 「うん。間違ってなんかないわよ。というより海だからいるってのが、より正確かもね♪」 満面の笑みで頷くと、にわかにリッセの表情も明るいものになってこっちまで嬉しくなる。 「ですよね!よかった、俺また変なこと言っちゃったのかと思って。そうですよね、塩の妖精がいるから海は海なんですよね。湖との違いがそこにあるんですよね(塩辛さ的に)」 喜色満面でアタシの両手を取ってぶんぶんと振り回すリッセ。 その後ろに控えているリッセの使い魔でもある子鬼の少女が複雑な面持ちなのが気にはなるけど……。 「そうね、彼らはとても高位の存在で、海を海たらしめるものね。海への敬意を忘れて、彼らの機嫌を損ねると大変なことになるしね」 「……(塩の妖精の機嫌を損ねる → 『もう海をしょっぱくしてやんねーよ!べー』 → 海、真水に → 塩が取れない! → 食卓から塩が消えてしまう!?)……それは食卓の危機ですね。なんて恐ろしいんだ」 やにわに顔色を落とすリッセ。 食卓の……危機?? ……潮の精霊の中でも気の荒い連中は渦潮の精霊とも呼ばれる。 海の精霊たちの怒りを買えば、いの一番にしっぺ返しをしてくるのは彼らと高波の精霊だ。 怒れる精霊の前には漁師たちが操る漁船など、ひとたまりもないだろう。リッセの言うとおりだ……沿岸の危機は即ち食卓に並ぶ魚介類の危機に違いない。 「……ほんとうにね。荒ぶる自然と精霊たちの前に人はあまりに無力ね。……感謝を忘れないようにしたいわね」 深く頷けば、リッセも真摯な瞳で見つめ返してくる。 二人して無言で頷き合う。 なぜか困ったように渋い表情の鬼子……。 「とにかく、リッセ。なんだかよくは分かんないけど、アンタの勘違いなんかじゃないわ、しおの精霊、つまるとこあんたの地元で言う【しおのようせい】は存在するわ!胸を張っていいのよ♪」 「ありがとうございます!相談して良かった……俺もう一回みんなに塩の妖精を敬わなきゃダメだって言ってきます!」 ぐっ、と拳を握りしめるリッセを頼もしく見上げる。 こんなに力強く世界を守っていく意思を見せる子供たちがいる。 ……それは素晴らしいことだ。 「ん、がんばって。応援してるからね♪」 傾きかけた夕日に向かって走りながら、時折振り向きつつ駆けていくリッセの背を幸せな気持ちで見送る。 なぜかリッセの後を追わずにその場に残った子鬼の少女が、クイとあたしの服の裾を引く。 「ん、どしたの鬼子ちゃん」 「……センセ……おしお……たぶん、ちがう……」 あうあうと唇をぱくぱくさせる子鬼の少女に小首を傾げる。 「へ?おしお?……だから潮流の高位精霊でしょ?」 中庭を黄昏色の遮光が横切る中、子鬼の少女のあうあうが止まらない……
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打開 ゲーム名 打開日 打開した人 未打開! ツインビー 打開! ソンソン? 2013/6/15 孔明&リスナー 打開! グーニーズ? 2013/6/15 孔明 打開! ゼルダの伝説 2013/6/17 孔明 未打開! サーカスチャーリー? 未打開! 忍者ハットリくん? ジャイロダイン? 打開! ハイドライド・スペシャル? 2013/7/14 孔明 未打開! バルトロン? 未打開! マグマックス? タッグチームプロレスリング? 未打開! 謎の村雨城? 未打開! アーガス? 未打開! アトランチスの謎? 打開! ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境? 2013/8/19 孔明&あり 影の伝説? ディグダグII? 未打開! マイティボンジャック? 打開! グラディウス? 2013/7/20 リスナー けいさんゲーム さんすう1年? けいさんゲーム 算数2年? けいさんゲーム 算数3年? スパイvsスパイ? セクロス? 打開! ドラゴンクエスト 2013/6/30 孔明&リスナー 未打開! スーパーマリオブラザーズ2 バード・ウィーク? B-WING? 未打開! スターソルジャー? 打開! 魔界村 2014/1/25 自宅凸リスナー 未打開! スーパーチャイニーズ? 未打開! スクーン? 未打開! チョップリフター? 打開! 東海道五十三次? 2013/7/20 リスナー 未打開! バベルの塔? 打開! バレーボール? 孔明 未打開! がんばれゴエモン! からくり道中? 未打開! ソロモンの鍵? 未打開! 涙の倉庫番スペシャル? 未打開! ワルキューレの冒険 時の鍵伝説? 未打開! メトロイド? 打開! 六三四の剣 ただいま修行中? 2013/7/26 孔明 未打開! 北斗の拳? 未打開! じゃじゃ丸の大冒険? 未打開! スカイキッド? 保留 アイアムアティーチャー スーパーマリオのセーター? 未打開! 機動戦士Zガンダム ホットスクランブル? 未打開! ASO? 未打開! スーパーピットフォール? 未打開! バナナ? 未打開! 高橋名人の冒険島? 未打開! キングスナイト? 未打開! 子猫物語? 未打開! スーパーゼビウス ガンプの謎? 未打開! ゴーストバスターズ? 未打開! スペースハンター? 保留 アイアムアティーチャー 手編の基本? 未打開! 悪魔城ドラキュラ? 未打開! 戦場の狼? 未打開! テラクレスタ? 未打開! バギーポッパー? 未打開! Othello? 未打開! プロレス? 未打開! うる星やつら ラムのウエディングベル? 未打開! けいさんゲーム 算数4年? 未打開! けいさんゲーム 算数5・6年? 未打開! ミシシッピー殺人事件? 未打開! 銀河伝承? 未打開! スーパースターフォース 時空暦の謎? 未打開! ファミリートレーナーアスレチックワールド? 打開! 迷宮組曲? 2013/8/16 孔明 未打開! デッドゾーン? 未打開! アイギーナの予言 バルバルークの伝説より? 未打開! 元祖西遊記 スーパーモンキー大冒険? 未打開! 長靴をはいた猫 世界一周80日大冒険? 打開! もえろツインビー シナモン博士を救え!? 2013/8/18 孔明 未打開! 怒? 未打開! マッピーランド? 未打開! ドラゴンボール 神龍の謎? 未打開! きね子? 未打開! キャッスルエクセレント? 未打開! ザナック? 未打開! タイガーヘリ? 未打開! ディーヴァ ナーサティアの玉座? 打開! トランスフォーマー コンボイの謎 2013/8/20 孔明&あり 未打開! ホッターマンの地底探検? 未打開! ガルフォース? 未打開! たけしの挑戦状? 未打開! プロ野球ファミリースタジアム? 未打開! シャーロックホームズ 伯爵令嬢誘拐事件? 未打開! アディアンの杖? 打開! ドラえもん? 2013/9/8 孔明 未打開! 謎の壁 ブロックくずし? 未打開! 水晶の龍? 未打開! 魔鐘? 未打開! ブリーダー? 未打開! メトロクロス? 未打開! キングコング2 怒りのメガトンパンチ? 未打開! マドゥーラの翼? 未打開! ディープダンジョン 魔洞戦記? 未打開! ナイト・ロアー? 未打開! 光神話 パルテナの鏡? 未打開! 消えたプリンセス? 未打開! レイラ? 未打開! コスモジェネシス? 未打開! ファミリートレーナーランニングスタジアム? 未打開! 闘いの挽歌? 未打開! プロフェッショナル麻雀悟空? 未打開! 聖飢魔II 悪魔の逆襲? 未打開! アルカノイド? 未打開! エレクトリシャン? 未打開! クレイジークライマー? 未打開! 時空の旅人?
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フィラドタウン ●普通 コラッタLv 2 ポッポLV 3 ハネッコLV 3 ゴマゾウLV 3 オタチLV 4 オニスズメLV 4 ニドラン♂LV 4 ニドラン♀LV 4 ヒマナッツLV 4 ホーホーLv 4 ネイティLV 5 ◆準レア エイパムLV 5 ディグダLV 6 サンドLV 6 ★レア ヒトカゲLV 5 ヒノアラシLV 5 ミュウLV 35 エンテイLV 40
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