約 439,883 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1144.html
「…ッ!…が…ッ!!」 「…ふにゃ……うるさぁ~~い…!」 明け方妙に音がするので寝起きが壊滅的に悪いルイズですら目を覚まし音源の方向を見る。…見たのだが、ヤバイものを見た。 「グレイトフル・デッ…」 「ちょ、ちょっと!なに寝ながら危ない事口走ってんのよ!!」 「……クソッ…!またか…」 広域老化発動ギリギリで起きたプロシュートが頭を押さえながら壁に背を預ける。 全身から嫌な汗が流れ気分も最悪というところだ。 「凄いうなされてたけど…大丈夫なの?」 「ああ…」 生返事はするものの、最近例の夢を見る頻度がかなり高くなってきていてヤバかった。 (あいつらは地獄から人を呼びつけるようなタマじゃあねぇんだがな…) 原因の検討は付いているがその手段がいまのところ存在しないのが問題だ。 「こいつはダメだな…」 結果がどうあれ、イタリアに戻りそれを己の目で確かめないことには、この夢は消えないであろうという事も。 「…邪魔したみてーだな。寝直す気にもなれねぇ…外に出てくる」 「ま、待ちな…!」 それを言い終わる前に先に外に出られた。 「もう…最近調子悪そうだし…もしかして、病気にでも罹ったんじゃないんでしょうね…」 「俺が見る限り、どっちかっつーと精神面みたいだな」 鞘から少しだけ刀身を出したデルフリンガーが答える。 「精神面?プロシュートが?…ダメ、とてもじゃないけど想像できないわ」 「んーそういう柔な理由じゃなくて、イタリアってとこにスゲー重要なやり残した事があるんだろうな」 イタリアと聞いて思い当たる事はあった。 「んで、それが夢か何かに出てきてあんな風になってるってわけだ」 「そういえば…ラ・ロシェールの宿屋で仲間が命を賭けて闘ってるって言ってた」 「そりゃあ戻りてぇだろうなぁ…」 イタリアに戻る…その言葉に戸惑う。 今のところ戻る手段は見付かっていないが、見付かればプロシュートはどうするのだろうか。 迷わずその手段を用いてイタリアに戻るのか…それともここに残り使い魔としていてくれるのか。 今のルイズの心情は非情に複雑だった。 フーケやワルドに殺されそうになった時も自分が見失っていた道を照らし出してくれたような気がしたし シルフィードの上でプロシュートが気を失って自分に向けて倒れてきた時も何故か安心感があった。 確かに、かっこいいところはある。ボロボロになりながらもワルドから助けてくれた時や、自分の魔法を信頼してくれた所も。 「…もしかして兄貴に惚れたのかぶらばァッ!」 デルフリンガーの刀身目掛け爆発を起こしとりあえず黙らせる。 「そ、そんなんじゃないわよ!たた、確かに頼りになる所もあるし何回も助けてもらったけど!考え方が妙に物騒なのが問題よね…誰にでも遠慮しないし」 初対面のキュルケや、今は亡きギーシュ。そして姫様にすら容赦しなかった。 「メイドの娘っ子と馬で出かけた時に俺をハムに刺しといてよく言うわらば!」 「だ~から!好きとかそんなんじゃないつってんでしょ!」 「…じゃあなんなんだ?」 「分からないけど…こう…」 「こう?」 「結構頼りになるし…『成長しろ』…とか言ってくれるし……年上の…兄妹…みたいな…」 「あー、つまりアレか。『お兄様』って呼びたいわけダッバァァァァアア!」 三回目の爆破によりデルフリンガーの口を封じる。 「し、知らないわよ!わたしだってエレオノール姉様とちぃねえ様しか姉妹が居ないんだから!!」 そう叫びベッドに潜り込んだが心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえて中々寝付けなかった。 (イテェ…本気で折れるかと思った…しかしまぁ…俺も『兄貴』って呼んでるから分からないでもねぇが) 「戻る方法が見付かってるわけでもなし…八方塞ってやつか」 日が出て明るくなってきた頃、プロシュートが一人庭を歩いている。 「ジジイが30年前に会ったヤツは…どうやってここに来たんだ…? 使い魔としてなら本体ってわけじゃねぇが呼び出したヤツも……いや、オレが良い例だな。常に行動を共にしてるとは限らねぇ」 そうして思考の渦に漬かりきっていたので後ろから近付く気配に気付けなかった。 「わっ!」 「ハッ!?………向こうじゃ攻撃されてんぜ…オメー」 「この前、驚かされたお返しです」 後ろからシエスタが大声で驚かすという古典的な手段だったが、一瞬列車内でブチャラティに奇襲された事を思い出し攻撃しかけそうになった。 が、スタンド使いは居ないと認識していため何とか踏みとどまる。 「で、わざわざオレを驚かせるためだけに、こんな朝っぱらからきたってわけか?」 「あ!いえ…お洗濯物を洗いに行くところでお見かけしたので…その、この前のお礼もしてませんでしたし」 「礼される事をした覚えはねーな。アレはモット伯と護衛のメイジの問題なんだからよ…」 その言葉には『バレるからあまり話すな』という意味が含まれているのだが、そこは一般人であるシエスタ。謙遜してるようにしか受け取れない。 「そんな!助けていただいたのは事実ですし、もう少し遅ければ………」 モット伯に胸を揉まれていたことを思い出すと赤くなり口ごもると同時にゾッとした。後2~3分遅ければ洒落になっていなかっただろうから。 俯き加減にもじもじしながら何か小さく言っているが、このまま待っても時間がかかりそうだったし何よりまぁ言いたい事もあったのでとりあえず軽く一発叩く事にした。 「大体だ、連れてかれる三日前にそういう事があんならオレかルイズあたりに言ってりゃもっと楽に済んでんだよ。人質が居ると居ないとでは大分違ってくるんだからな…」 かなり綱渡り的任務だったはずだ。 最初の時点で、衛兵が金に釣られなければその時点で失敗。 モット伯が部下の顔を全て把握していれば、魔法を使われか叫ばれるなりして他の連中にこちらの存在がバレた可能性もある。 そして、殺害ではなく捕獲命令を出していれば老化させていたとはいえ、アレがモット伯だとバレるかもしれなかった。 正直、よくこうも上手くいったものだと思う。 本来、攻めでこそ本領が発揮される能力であり、こういう守り・奪還に適した能力ではないのだ。 「……す、すいません…」 言いながら恐る恐る顔を上げたが、予想に反してプロシュートの顔は苦笑いだった。 「……怒ってないんですか?」 「これがペッシならブン殴ってるとこだが…まぁオメーはギャングでもメイジでもねーしな。今ので勘弁しといてやるよ」 「す、すいません」 「……もう一発か」 「へ?あの…?うひゃぁぁぁぁ」 「いたた…それで、その…お礼なんですが」 「…オメーも結構しぶといな」 シカトして戻っちまおーかとも思ったが目を見て止めた。 何かに似てると思ったが…借金だ。それも金利がバカ高いやつ。 借金なら色々な手で揉み消せない事も無いが礼を揉み消すというのもなんなので早い段階で清算しておく方が良策だと判断した。 (後にすればするほど膨れ上がって収拾が付かなくなるタイプだな…) 「そうだな…この前オレんとこの故郷の話したからオメーのとこの話聞かせてくれりゃあそれでいい」 「わたしの故郷ですか?タルブの村っていって、ここから、そうですね、馬で三日ぐらいかな…ラ・ロシェールの向こうです」 「三日?えらく遠いな」 「それでも、もっと遠くから来ている方もいますし。何も無い、辺鄙な村ですけど… とっても広い綺麗な草原があって、地平線のずっと向こうまで季節ごとのお花の海が続いて、今頃とっても綺麗だろうな…」 (ダメだな…いいとこ麦畑しか浮かばねぇ) 花畑に立つ暗殺者というものほど矛盾した存在はあるまいと失笑気味だが、自分自身が常に死の中に居る。 生き方的な問題だけではなく、能力的な問題だ。生物なら全て無差別に朽ち果てさせる能力。 花畑なぞに入っても自分の周辺だけその花が枯れ果てている姿を想像し思わず自嘲的な笑みが零れた。 それを見たシエスタだが、その笑みが普通に微笑んでいるようにしか捕らえられずさらに話を続ける。 「この前、お話してくれた…そう!ひこうきとやらで、あのお花の上を飛んでみたいんです」 「勘違いしてるようだが言うが、鳥程自由には飛べねーからな」 目を輝かせるようにして思い出話に浸っているシエスタだが 村に来て欲しい事、草原を見せたい事、ヨシェナヴェなる料理がある事。まぁこれはよかった。 「………プロシュートさんはわたし達に『可能性』をみせてくれたから」 「可能性を見せた…?くだらねぇな…」 「く、くだらなくなんかないです!わたし達なんのかんの言って、貴族の人達に怯えて暮らしてて そうじゃない人がいるってことが、なんだか自分の事みたいに嬉しくて…わたしだけじゃなく厨房の皆もそう言ってます!」 「可能性ってのは、自分自身ががそこに向かい成長しようと意志さえあればいくらでもあんだよ。他人の成長を見ても自分の可能性ってのは掴めるもんじゃあねぇ」 同じスタンド使いがいねぇようにな。 さすがに、スタンド使い云々に関しては口に出さなかったが。 「…難しいですね」 「簡単に分かりゃあ誰も苦労しねーよ。ここのマンモーニどもも、魔法が使えるってだけで分かってねぇのが殆どだしな」 「また、今度…それを教えてくえませんか?」 これがペッシとかならギャング的覚悟を叩き込むのだが、この場合はどうしたものかと悩んだ。なので一応の答えで場を濁す事にしたのだが…それが不味かった 「オレの分かる範囲でなら…な」 肯定と受け取ったのかシエスタさんのスイッチが入ったご様子。 「是非お願いします!あ…でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族の皆が驚いてしまうわ。どうしよう… そ、そうだ。旦那様よって言えば…け、結婚するからって言えば皆、喜ぶわ。母様も父様も妹や弟たちも……」 ……… …………… (シエスタは…『壊れた』のか…?いや違う…ッ!こいつは『素』だッ!明らかに『素』の目をしている……ッ!) 今にもシエスタの後ろに効果音とかが現れそうだったが、引き気味にそれを見ていたプロシュートに気付いて我に返って首を振る。 「あ、あはははは!ご、ごめんなさい…!そ、そんなの迷惑ですよね…あ!いけない!お洗濯物を洗いにいかないと…それじゃあ失礼します!」 「…手遅れか…トイチってとこだな」 収拾が付かなくなる前に清算を済ませるつもりだったがスデに金利が膨れ上がり手の付けられないとこまで突入している事にようやく気付いた。 まぁかなり前から手遅れなのだが、それは兄貴。 誰でも対等に扱おうとするが故に平民と貴族が区別されているここにおいては、それが類を見ない事である事に気付けてすらいない。 少し引いていたが、今はイタリアに戻るという事が最優先事項だ。 リゾット達がボスを倒しているのなら、その姿だけ見届けどこかに消える。途中脱落した自分にそれに加わる資格は無い。 だが、もしリゾット達がボスに敗れ全滅しているのなら…成すべき事は一つ。 「…考えたくはねぇが…ボスにその報いを受けさせる…ッ!」 死んだ事になっているのならば少しはボスの事も探りやすくなるはずだ。 暗殺チームの誇りと矜持に賭けて、それこそ『腕を飛ばされようが脚をもがれようが』何があろうとボスを殺す。 だが、現状は戻れる気配すら掴めていない。 「チッ…戻れる当てがねぇのにボスを殺す事なんざ考えても意味がねぇな」 そう呟き、頭を掻きながら空を見上げると、その事は一時頭の片隅に追いやり今は使い魔としての任務を果たすべきだと切り替えルイズの部屋に戻った。 そろそろルイズを叩き起こそうとドアを開けながら声をかけたのだが、反応は実に意外だったッ! 「起きろ」 「え、ちょ、ちょっと待ちn」 「珍しく起きてんのか」 特に気にした様子もなく後ろ手でドアを閉め視線を部屋に向けると…着替え途中で産まれたばかりの状態一歩手前のルイズが固まっていた。 「……ぅぁ…っぁ…ぁぁ……」 「ようやく自分でやる気になったか…まぁ今までやらなかった方がおかしい事だったんだが」 特に気にした様子も無く、デルフリンガーと新しいスーツの上着を掴むと外に出るべく固まってるルイズに背を向ける。 普通なら、まぁ見た方が焦って慌てながら後ろ向いてしどろもどろになって逆にいい感じに発展するというのが王道パターンなのだが この場合、一片の動揺すら見せず何時もと同じような扱いをしたのが『逆に』不味かったッ! もっとも、この前まで着替えさせていたというのに急に変えろというのが無理がある事なのだが。 「……み…み…みみみみ見た…見たわね…?」 「あ?この前まで着替えやらせといたマンモーニが何を今更」 気だるそうにかつどうでもいい風にそう答えたプロシュートにルイズの何かがキレかかった。 「…って…出てって!」 「今やってんだろーが…ま、自分でやる気になったんだから少しは『成長』したんだろうな。褒めといてやるよ」 この場合当然、精神的成長なのだが、キレかかっているルイズは、まぁその何だ、肉体的な意味の成長と受け取ったらしい。主に胸とか。 「……だだだ、誰の胸がすす、少ししか成長してないですってぇーーーーーーーーー!!」 「…なッ!誰もんなこたぁ言って「兄貴…そりゃ俺もそう思うが本人の前で言うのはヒデーと思うぞ」」 否定する前に空気の読めないデルフリンガーの一言。これで完全にルイズがキレた。 「で、出てってーーーーーーーーーー!!」 ドッギャァーーーーーz____ン 「なによ…見ておいて…いつもと変わりないなんて…わたしを対等に見てないってことじゃない…!」 さすがに泣きはしないが、信頼していると言われていたのに、対等に扱って貰えないという事が今のルイズにはそれが無性に悲しかった。 一方、間一髪爆破に巻き込まれる前に部屋の外に逃げたが再び部屋を追い出される事になりプロシュートがデルフリンガーを冷めた目で見ていた。 「あ、兄貴…俺なんかマズイ事言ったか…?」 「…じゃあこれからオメーがされる事を説明すんのは簡単ってわけだ…さっきオレが言ってないと言っている途中で余計な事言ったよなオメー」 「あ、兄貴ィ!ま、まさかッ!!」 ……… …………… ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ゼロのルイズ―しばらく引き篭もる事になる。 デルフリンガーパッショーネ伝統拷問ダンスを食らいしばらく鞘から出てこなくなる プロシュート兄貴ー再びフリーエージェント宣言&ザ・ニュースーツ! ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1213.html
その夜 「ま、こんなもんだろうな」 そう言って指差すのは、チェストに入っていた銅貨と色あせた装飾品だ。 元々、この手の事には期待していなかっただけに、この結果でも特に気にはならないが、ルイズは別だ。 「このガラクタが『ブリーンシンガメル』ってんじゃあないでしょうねぇ~~?」 それにキュルケは答えず、爪の手入れをしている。もちろん沸点が低いルイズだ、今にもキレそうである。 「これで7件目よ!インチキ地図ばかりじゃない!」 「言ったじゃない『中』には本物があるかもしれないって」 「そう簡単に栄光が掴めりゃあ、誰も苦労しねーよ」 「もう学院に戻らない…?色々あるだろうし」 まぁ、からっきし浮かんでこない詔のせいなのだが、そろそろ本気で考えねばヤバいのだ。 さすがに沈黙が流れるが、それを打ち払ったのはシエスタの明るい声だ。 「みなさーん、お食事ができましたよー!」 シエスタが、火にかけた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。いい匂いが鼻を刺激する。 「美味しい…これなんのお肉なの?」 ルイズが一口食べて呟いた。はっきり言えば何か悔しかったが、この味はその感情を軽く上回ったため声にも、表情にも出さない。 だが、それを見ていたシエスタが微笑みながらスタンド使いもブッ飛ぶような事を言った。 「オーク鬼のお肉ですわ」 瞬間、プロシュートを除いた全員の動きが止まる。 貴族という意地と根性で吐くには至らないが、唖然としている。 「じょ、冗談です! 本当は野うさぎです! 罠を仕掛けて捕まえたんです!」 「オーク鬼を倒したばかりなんだから…そういう冗談は止めて…ていうか何であんたはノーリアクションなのよ!」 「豚みてーなもんだろ?」 気にした様子もなく平然と答える姿に、予想以上の反応にちょっとテンパっているシエスタを除いた全員が同じ思考になった。 ( ( (そりゃあ、はしばみ草が食べられるわけね) ) ) 「驚かせないでよね…でも、あなた器用ね。こうやって森にあるもので、美味しいものを作っちゃうんだから」 「田舎育ちですから」 「ハーブの使い方が独特で珍しいわ。知らない野菜もたくさん入ってるし」 「わたしの村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんです 父から作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根や…父はひいおじいちゃんから教わったそうです。今ではわたしの村の名物なんですよ」 今のところ成果『ゼロ』だったが、美味しい食事のおかげで座は和んだ。 正直、シエスタが居なければ、何かこう色々修羅場になっていたかもしれない。爆発とかで。 全員の食事が終わり、安穏とした空気が流れるがルイズが思い出したかのように言った。 「そろそろ、説明してくれない?あの力を」 「そうだな」 ザザッ!と全員の視線がプロシュートに集まるとスタンド能力の事を説明する。 「まず、これは『スタンド』っつー能力だ。基本的に、スタンドはスタンドでしか干渉する事はできないし、スタンド使いでないと見ることもできない こっちで言うなら、スタンドが魔法に干渉できるが、魔法はスタンドに干渉できないって事だ。衝撃は受けるし、氷とかの実体のあるものしか受けれないがな」 「魔法みたいなものね」 「似て異なるな。スタンドが傷付けば本体も傷付く。それに魔法みたいに汎用性があるもんじゃねぇ。基本的に一人一能力だ」 「つまり…ドットって事?」 「口で説明すると難しいな。汎用性が無い分、能力的に特化したものが多い。 空気そのものを凍らせたり、対象を小さくしたり…鏡の中の世界を作っちまうヤツだっている」 こちらに来る事は無いと思いチームの仲間の能力を話すが、その話している時の顔はどちらかというと笑顔だった。まぁよ~く見ないと分からないだろうが。 「ん~~、つまり火系統しか使えないけど、その能力だけならスクウェアクラスより上って事でいいの?」 「まぁ、そう思ってくれていい」 「…治す力はある?」 「少なくともオレの知る限りでは、そんなのはいねぇな。どいつもこいつも戦闘向きな能力ばかりだ」 「…そう」 残念そうに、タバサが呟くが話を続ける。 「それで、こいつが重要なんだが…スタンド能力は、この世界のもんじゃあねぇ」 ルイズは知っていたが、他は知らない。 「ウソでしょ!?……ってウソは言ってない目ね」 「破壊の杖だったか。少しばかり古いもんだったがアレもオレんとこの世界の兵器だ」 シエスタ以外の全員が破壊の杖の威力を思い出す。あの爆発はルイズのそれを軽く凌駕していた。 「まぁオレだって、オメーらのうち誰か一人がイタリアに来て 魔法が使えるとか言ったら『イカれてるのか?』としか思えねぇからな。信じる信じないは勝手だ」 「い、いえ!信じます!信じますけど…」 シエスタが途中まで言って口を閉じた。違う世界ということは帰ってしまえば二度と会えないかもしれないという事だ。 タバサも内心ショックを受けている。 異世界の能力という事は治す力があってもそれに頼ることはできない。期待があっただけに、反動も大きかった。 「スタンドって見えないの?」 「物質と一体化してるヤツなら見えるが…それ以外は無理だな。直接じゃなくていいなら見る方法も無い事は無いが」 満場一致で『見せて』という事になり準備をする。 「土を粘土なんかにして、これで見えるの?」 しばらく黙って見てると、粘土に変化が現れた。 ズムゥゥ、と音がして粘土が押され何かの、人型が出来てくる。 ぶっちゃけタバサの顔が青い。 粘土に完全にグレイトフル・デッドの形が浮かび上がるが 人型スタンドの中でもキモイというかグロいというかモンスター的な形をしているため皆さん引いているご様子。 「……ななな、なによこれ!どう見てもお化けじゃない!この4本の触手は何!?なんで眼がこんなにあるのよ!!」 「両手使う時はそれで支えてんだよ。眼は広域老化やってる時にそこから老化させるガスみてーなのが出る」 「…こ、こんなのが近くにいたのに気付かなかったなんて」 「み、見た目は怖いですけど、プロシュートさんが使ってるならへ、平気です!」 「……ぃ……ぁ…」 何かもう、タバサの様子が色々尋常じゃない。 「…ちょっと、タバサ大丈夫?」 キュルケの問いに辛うじて頷くが、ルイズがトドメを刺した。 「…ねぇ、今それどこに居るの?」 「そこだな」 そう言って指差すのはタバサの目の前の地面。別に意図してやったわけではないが、座っている位置が悪かった。 「…………」 「…タバサ?……寝ちゃったみたいね」 気絶したのだが、絶妙な勘違いをしたキュルケによって彼女の名誉は辛うじて保たれた。 気絶したタバサを置いてキュルケが地図を広げた。 「で、次はどれやるんだ?」 「諦めて帰らない…?」 「あと、一件だけよ。これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの。お宝の名前は…『竜の羽衣』ね」 「そ、それホントですか!?」 「知ってるの?場所はタルブの村の近くね」 「タルブ?…確かラ・ロシェールの向こうでシエスタの故郷じゃあなかったか」 「そ、そうです…」 『それ』は森の中をゆっくりと動いていた。 他の生物からすれば脆弱な存在だったはずだが、『それ』はまだ生き延びていた。 一匹の獣が、動く『それ』に襲い掛かる。 体格的にも相手の動きの鈍さからしても、獣に軍配が上がるはずだった。 シパーーz__ン そんな音が森の中に鳴り響くと獣がもがき始めた。 シパン!シパン!シパン!シパパ! その音がしたかと思うと獣は跡形も無く『消えて』いた。 「指令……何…す…?…ロ……」 本能で誰かに問うがやはり答えは返ってこない。 だが、唯一、一つだけ思い出した。 「了……捕…えま……。?…誰…捕ま…るん…す…?メ………」 「………ネ。誰……か?……すか?…で…か?」 返事は返ってこないがゆっくりと進む中、『それ』は村を見付け、とりあえず本能に従い指令を遂行する事に決めた。 翌朝、一向は風竜の上でシエスタの説明を受けていた。 要領を得ない説明だったが、とにかく、村の近くに寺院があり、そこに『竜の羽衣』と呼ばれるモノが存在しているということ。 「どうして『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」 「それを纏った者は空を飛べるらしいんです」 「空?…オメーら確か…『フライ』っつーんだったか。アレで飛べるんじゃあなかったか?」 「平民でも飛べる風系のマジックアイテムかしら?」 「そんな…大したものじゃありません……インチキなんですよ。 どこにでもあるような、名ばかりの秘法なんです。でも地元の皆はとてもありがたがって…寺院に飾ってるし、拝んでるおばあちゃんまでいるんです」 「まぁ見てみねぇ事には分からないからな」 「実は……、それの持ち主、わたしのひいおじいちゃんだったんです。 ある日、ふらりとわたし村に現れたそうです。その『竜の羽衣』で東の地からわたしの村にやってきたって、皆に言ったそうです」 (東…?ロバ・アル・カイリエってとこからか…?) 「凄いじゃないの」 キュルケが驚いたように答えるがシエスタの返事は暗めだ。 「でも、誰も信じなかったんです。ひいおじいちゃんは、頭がおかしかったんだって、皆言ってました」 「どうして?」 「誰かがそれで飛んでみろって言ったんですけど、飛べなかったんです。色々言い訳してたらしいんですけど誰も信じなくって おまけに『もう飛べない』と言って、わたしの村に住み着いちゃって 一生懸命働いてその皆でお金を作って、貴族にお願いして『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらったそうです」 「変わり者だったのね。さぞかし家族の人は苦労したでしょうに」 「その件以外では、働き者の良い人だったんで、村の人たちにも好かれたそうです」 「価値観ってのは人によって違うからな。 オメーらが最初ルイズの爆発を失敗って言ってたが、オレに言わせりゃあ十分実戦向きだぜ。それを見てみねぇ事には分からないが…問題は村の名物って事か」 「そうそう、わたしが『ゼロ』……ってなに言わせんのよーーーーー!!」 「でも……わたしの家の私物みたいなものだし……プロシュートさんがもし、欲しいって言うのなら、父に掛け合ってみます」 ルイズのノリ突っ込みを後にシルフィードがタルブの村へと向かった。 一向がタルブ村に着いたが、異変に気付いた。村に『誰も』居ないのである。 「誰も居ないなんて妙ね…」 「そんな…!父様!母様!」 シエスタが叫びながら家の中に入るがやはり誰も居ない。 残りも家の中に入るが、シエスタの顔はやはり暗い。 「…誰か居た?」 「いえ…誰も…」 村に誰も居ないという事が妙だった。 オーク鬼などの怪物に襲われて逃げたというのなら分からないでもないが、この場合そのような痕跡が一切無い。 とりあえず、家の中を捜してみるが、タバサがある事に気付いた。 「…まだ温かい」 そう言って指差すのは、鍋の中のヨシェナヴェだった。 「ホントね…火は燃え尽きて消えてるみたいだけど…」 「普通に生活してた状態から急に居なくなったって事?」 「……どうして」 「とにかく他も手分けして捜してみましょう」 プロシュート、タバサ、シエスタとキュルケ、ルイズに別れ他を捜し始める。 だが、どの家にも人の気配すら無い。 一旦外に出るとシエスタが泣きはじめた。 そりゃあ久しぶりに帰って誰も居なかったら泣きたくもなる。酒がそこにあれば多分直に飲んでる。 「えぐっ…!……皆どこに行ったんでしょうか」 「…生活観丸出しのまま消えてるってのが妙だな。襲撃を受けた跡すら残ってねぇ」 「二人を呼んでくる」 「そうだな。状況が分からない以上分散するのはヤバイ」 二人が居る家の中に入るタバサを見て、どう言ったもんかとシエスタの方を見るが、そのシエスタが居なかった。 「…どこ行った?シエスタ」 辺りを見回すが、シエスタの姿は無い。 だが、さっきまで閉まっていたはずの家の扉が開いていたので、中を覗くと驚くべきものを見る事になった。 スパン!スパン!グチャグチャグチュ! 「な…ッ!バカな…ッ!!こいつは…この能力は……ッ!!」 油断があったわけではないが、別世界という事で『スタンド使い』が居るという可能性を除外していた。 「こいつは…!何故…『ここ』に…!ベイビィ・フェイスの『息子』がッ!!」 言い終えると同時にシエスタを完全に家に同化させると途切れ途切れの声がどこからか聞こえてきた。 「家…出口…もう…人『人間』が……す。知…ない顔…すが指令ど…り捕獲……す」 「…ッ!ここに居るのはヤバイッ!!」 全力で後ろに飛びのくが、一瞬早く両脚を家の壁に同化された 「うぉぉぉぉぉぉ!」 そのまま、全身を同化されるかと思った瞬間、氷の塊が飛来し、それを防ぐ。 「あああ、脚…脚が…!」 「ちょっと…大丈夫なの!?」 さすがに、両脚を失っているプロシュートを見て焦るが、本人はまだ冷静なラインを保っている。 「問題ねー。だがヤバイ状況には変わりないッ! スデにシエスタがやられたが…まだ生きている。オレの脚も一応は繋がっているが…動けねぇな」 「どういう事…!?」 「こいつは…スタンドだ。名はベイビィ・フェイス。『生物を物質に組み替える』能力だ…! 物質と一体化しているタイプだから見る事は可能だが、物に擬態しているから、迂闊に近付くと瞬時に分解される…!」 「ぶ、分解って…」 「見てのとおりだ…こいつはオレの脚を壁に同化させてやがる。恐らく村の連中も全員同化させられたんだろうな… どういう訳か知らねぇが、今のこいつには『殺す』という指令は出てないみてーだから全員生きている。ヤバイ事には変わりないがな…!」 そう言いながら、親に毒づく。 「オレの顔を知らないだと…?あのヤロー…育児放棄しやがって…!一発殴るどころじゃあ済まさねぇ…ッ!!」 「そいつの事知ってるの…!?」 「ああ…ディ・モールト知ってる…ッ!こいつは、自我を持ったゴーレムみてーなもんだ。 老化は期待できねぇし、単純な攻撃も自分を分解してかわすからな…厄介だぜ…こいつはよォーーー!」 「知ら…い顔の人……三人…増え……た。………ネ、指令…くだ…い。……ー…?どう…ま…たか?…う…した…?ど…しま……か?」 (…妙だな。メローネが『ここ』に居るなら指令がハッキリと伝わってるはずだ…こいつの行動…まるで一人歩きしているような…) 「てめー…メローネは何処に居やがるッ…!」 「メロ…ネ…テ誰ダ?…ロ……?答…て……さい。メ………?」 「ちっ!息子だけこっちに来たってわけか?教育もされてねーみたいだし、成長も完全じゃあないようだが…能力だけはしっかり身に付いてやがんな」 「ど、どうすればいいのよ!」 三人が杖を構えているが、迂闊に攻撃できないでいる。 下手に攻撃して建物に同化している村人に当たれば取り返しがつかなくなるからだ。 「こいつは今、本体と切り離されて暴走状態ってとこだな…何時『殺す』っつー風に変わるか分かったもんじゃあないが…不自然な物には近付くなよ…」 ボドォォン!コロコロコロコロコロ 音がすると石が三人に向かって転がってきたが、あからさまに怪しいと思ったのかキュルケとタバサが魔法で攻撃する。 「あたしから行くわよタバサ!」 キュルケが『ファイヤーボール』で石を狙うが石が独りでに分解してそれをかわした。 「やっぱりね…でも!」 分解した石が集合し石に戻った瞬間をタバサが撃ち抜く。 親友だからこそ可能な絶妙な時間差攻撃に石が砕けた。 「やったわねタバサ!」 手を合わせる二人だが、『それ』の性質をよく知っているプロシュートが叫ぶ。 「まだだ!油断するんじゃあねぇ!!」 「油断って…手ごたえはあったわよ?ねぇタバ…!」 「……迂闊だった」 キュルケがタバサを見るが、その頭の位置がいつもの半分ぐらいしかない事に気付いた。 地面から伸びたベイビィ・フェイスがタバサの下半身を分解し地面にバラ撒いている。 「く…こいつ、タバサから離れなさい!!」 ベイビィ・フェイスの居る方の地面に杖を向け『ファイヤーボール』を放つが、さっきと同じだ。即座に分解し今度はキュルケの下半身を分解した。 「う…嘘…こいつ無敵…!?」 「三人…捕ら…した。…り…一人で…。どうし…ま…か?…ロ……」 声が何かに問うが、もちろん返事は無い。 しばらく黙っていたが、変化が訪れた。 「く…この!よくも…!この汚らわしくて気持ち悪い化物め!」 ルイズがそう叫ぶが、それは禁句だ。 「な…バカかオメーはッ!教育もされず成長しきってねぇそいつに、その言葉はヤバイ…!!」 「お母さ……ぼくの…を化…だ……っている『…ら…しく』て『気持ち…い』と罵…て…る…!」 それを聞き焦る。お母さんと呼ばれた事は置いといても、罵倒の類であるから、キレて『殺す』となるのかと思ったのだが…次に現れた言葉は意外だった 「なん…いい『お母…んだ!』」 「だ、誰があんたみたいな化物のお母さんよ!!」 もちろん母体はルイズではないが、記憶が曖昧なベイビィ・フェイスにあの言葉を言えばそう認識させるに十分だった。 その場にディ・モールト!ディーモールト良いぞッ!というような幻聴が聞こえたが、その幻聴を上回る台詞をベイビィ・フェイスが吐いた。 「おな…もす…た…ど……れば…いで…か?」 ズズズズズズゴズズズズズズズズズ とベイビィ・フェイスが地面から現れルイズの方を向く。 その姿は、本来の成体の2/3の大きさでところどころ体のパーツが欠けている。 「飲ま…て!早…飲…し…!」 「の、飲むって何をよ!」 「…ちッ!パーツが欠けてるせいで、教育状態が幼生に戻ってやがるな…!…しかし…ヤバイ!ルイズを母親と思っているってこたぁ…このままだと飲まれるな」 「…飲まれるって…もしかして、こいつ…わたしを飲むの!?」 「ああ、そいつは母体を飲んで成体に成長すんだが…今のそいつは成体の形だが、大きさが普通の2/3しか無くパーツも欠けて幼生と同じ状態と思っていい。分解されたら…」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 「確実に飲まれて死ぬな…!」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!そんなの絶対いやぁぁぁぁぁああああ!こっちくるなぁぁぁぁぁあああ!!」 だが、悲鳴空しくベイビィ・フェイスがルイズに取り付いた。 「飲…して!早く飲ま…て!!」 「いやぁぁぁぁ!こんなのに、飲まれて死ぬなんて……!」 体の半分を分解されている三人にはどうしようもない。そう思って目を閉じたが、タバサが叫んだ。 「今が好機!」 「他人事だと思ってぇぇぇぇぇぇ!呪ってやるぅぅ!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」 テンパっているルイズには伝わらなかったようだが、二人は気付いた。 最初の授業で見せたあの光景を。そして三人が同時に同じ事を叫んだ。 「「「爆破しろ(て)!」」」 「ば、爆破って今…!?」 杖を持った方の腕が辛うじて動くのが幸いした。 ピシィッ!ズズッ!ズズッ!ズズズッ! 最速で詠唱ができるコモンマジックを唱えベイビィ・フェイスが分解を初め今にもシパァァァ!され飲まれるより一瞬早く… ルイズが『自爆』した。 正確には、適当な物を至近距離で爆破したからなのだが、爆風にモロに巻き込まれたので自爆と言えなくともない。 三人が思い出したのは初日の授業で、ルイズが石を錬金しようとし シュヴルーズを昏倒させる程の爆発を引き起こしたにも関わらず、ルイズ自身は服が破れ、煤に汚れただけというあまりにも軽い被害だけだった事を。 「爆…ッテ………タイ…ナ…ダ…イギィ…イ…イ」 「ふぅ…どうなる事かと思ったけど、やったわね」 「けほ…今ほど爆発が起こせて良かったと思った事はないわ…」 「逆に考える」 三人が分解されていた体を戻すと、プロシュートはベイビィ・フェイスの残骸の前に立っていた。 「どうするの?これ」 「自動追跡型のスタンドだからな。色々聞きたい事もあるが…この状態じゃあ話してくれねぇだろうしハデに燃やしていいぜ」 「ふっふっふ…それじゃあ、あたしの出番って事ね…!炭も残さないであげるわ…!!」 分解されかかったキュルケさんのテンションゲージがMAXになり人生最大級の火の魔法をベイビィ・フェイスの残骸に向け放った。 「コゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲ…コゲ…ゲ…コ…コゲ………」 「ちったぁ本体も燃えるといいんだがな……」 炎が消えるとベイビフィ・フェイスは文字どおり、この世から『消滅』した。 ベイビィ・フェイス ― ジョルノに燃やされた後、消滅する寸前一部がハルケギニアに呼び出されるも、再び火葬され完全消滅。 ゼロのルイズ ― 危うく飲まれかけるが自爆により生還。被害は服のみ。 タルブ村の村民 ― 捕獲されていただけなので、全員元に戻った。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/973.html
「何考えてんのよ、あいつは!」 ルイズが廊下を走っている。 「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」 いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。 「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」 剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。 そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。 「ボロ剣!あんたの出番よ!!」 勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。 「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」 しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。 「実家ってどこよ!?」 「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」 「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」 「じゃ俺帰るわ」 「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」 デルフリンガーを掴んで走り出す。 「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」 「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」 学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、 いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。 「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ! 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!? しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」 今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを 決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。 「む、誰じゃ?」 「オールド・オスマン、私です!」 「ふむ、入ってきたまえ」 立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。 「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます! 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」 「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」 「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君… いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」 「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」 「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の 使用許可を求めおりますが…」 「ふむ…」 鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。 「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」 「はい…」 不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。 「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」 「は、はい!」 その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。 「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」 「すいません、急いでいるもので…」 入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。 「何かあったのですか?」 「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」 「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」 チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。 「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」 「なななな何ですと!?」 実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。 「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」 うんうんと一人で納得するオスマン氏。 「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」 「というと?」 「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」 「コルベールです…」 「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう… ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」 「そ、そうでしょうか?」 「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね! 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン! ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる! あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」 「おい、ジジイ」 そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは 「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ! 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」 あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。 「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」 「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」 先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる! 「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」 コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。 「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」 「それは部屋に置いてあるはず!?」 「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ! しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」 キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。 「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に 刻まれていた物とまったく同じだったのです! つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」 机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。 「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」 「コルベールです!まあ、それはそうですが…」 「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」 「は?」 オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が 映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。 「彼は!?」 「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」 はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。 「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」 「諸君!決闘だ!」 ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。 「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」 隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で ギーシュを見つめている。 「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」 薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。 ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、 もちろんそんな態度はおくびにも出さない。 「………」 対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。 彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか 触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。 危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。 しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。 「では始めようか…ワルキューレ!!」 ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、 戦乙女の姿に変化した。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ! 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」 ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。 しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。 ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。 自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は 止まっているに等しい。 「なかなかやるじゃないか、あの平民」 「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」 「はっはっはっ、まかせたまえ!」 周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、 育郎を襲わせる。 ひょっとしてこれはまずいんじゃないか? ギーシュは少しだけ焦っていた。 4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。 モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。 勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は 嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。 逆に考えるんだ、避けられると言うのなら… 「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」 育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。 「突撃だ!!」 その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。 これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、 完全に避けられる事は無いだろう。 対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。 「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」 確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。 もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。 一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。 そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。 「うわわわわわ!!」 ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、 自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。 「わ、ワルキューレ!」 振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、 槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。 しかし、その槍は受け止められた。 並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない 育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。 この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。 育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。 この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。 これで終わり、そう安堵していた。 しかしそれは油断だった。 ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。 故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。 ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を 持っているという事だった。 「ぐぅ…ッ!?」 育郎の腹部から槍が突き出ていた。 彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。 育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように 杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、 実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。 それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を まともに受ける事となった。 「ああ……」 呆然とするギーシュ。 いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。 しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。 「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「平民相手に情けないぞ!」 周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。 モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。 「そんな!?」 ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が 槍に貫かれている姿だった。 こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった 何としてでもあの時止めるべきだったのだ これは自分のせいなんだ… 涙で視界がぼやけてくる。 やっぱり自分はゼロなんだ 使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ あの傷じゃ死んでしまうかもしれない 自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう… 「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」 手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。 「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」 「しゃーねーな……相棒を見てみな」 「………え?」 『変化』がおきていた 「なななななな何だこれは!?」 ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。 育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。 『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始! 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、 彼の肉体を完全に支配した!』 渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。 『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ……… 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』 育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。 蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。 『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』 そこに立っていたのは人間ではなかった 金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ! こ れ が ッ ! こ れ が ッ !! バルバルバルバルバル!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! そいつに触れることは死を意味するッ! アームド・フェノメノン 武 装 現 象 ッ ! ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1536.html
珍妙な帽子を被った男が机のケーキを見て何やら喚いていた。 「なんで残り4個なんだよクソッ!なんて縁起悪ィんだ!」 「それなら最初から3個にしておけばよかったじゃあないですか、ミスタ」 「そうなんだがよぉーー……まだ、クセが抜けきらねーで、つい5個買っちまうんだよ……」 ブチャラティ。アバッキオ。ナランチャ。フーゴ。 かつて5人だった仲間は、新入りの……現在、パッショーネのボスであるジョルノを除いて全て居なくなってしまったのだ。 「そうですね…ですが、彼らの意思は僕達が受け継いでいるんです。それに……フーゴだって時間が経てば戻ってきてくれますよ」 『サン・ジョルジョ・マジョーレ島』で組織を裏切った時、唯一その場に残ったフーゴだが、彼なりに協力をしてきてくれていた。 ディアボロを倒し組織を掌握した際フーゴが戻ってきてもいいように体制を整えていたが、フーゴ自身がそれを許さなかったようで戻るには至っていない。 やはりブチャラティ、アバッキオ、ナランチャが死んだ事に負い目を感じているのだろう。 「ミスタァーーーウエエエーーーンハラヘッタヨォ~~~~~」 「おいおい、だから言ったろうがよォ~~~4は縁起が悪りーんだ我慢しろって…!」 「モウガマンデキネーーヨミスタァーーーー!クレークレーーー」 ミスタがピストルズ達をなだめているが、収まりそうにない。 それを見たジョルノだが、薄く笑みを浮かべ言った。 「好きにして構いませんよミスタ。今日はもうやる事は特にありませんからね」 「お!?そうか、悪りーなジョルノ!」 「アギャギャギャギャ!メシ食イニイクゾーーーー!」 「何かスゲー美味いトマトを使った料理を食えるとこがあるらしいんだが、オメーも行くか?」 「そんな店ができたんですか?残念ですけど、トリッシュがこっちに来るらしいんで、一人で行ってきてください」 「出迎えってやつか。パッショーネのボスもトリッシュだけには敵わねーらしいな」 「そういう事です」 「日本でやってたクオーコ(コック)が里帰りしてきて、知り合いの店手伝ってる間だけらしいから、行くならオメーも早い方がいいぜ」 そう言うとアギャギャギャギャと騒ぐピストルズ達を連れミスタがドアを開け外に出て行った。 「さて、店はこっちだったな」 軽い足取りで歩くが、何かに正面からぶつかった。 「うぉぉぉ!いてて…なんだじーさんじゃあねーか。立てるか?」 「あ……ああ、スイマセンがああああ、手を貸してくれないかなあああああ」 倒れている老人と、立っているミスタ。 面倒だったが、状況的に見て放置すると色々と誤解を受けかねない。 「しょうがねぇな……ほらよ。俺は今から飯食いに行くんだから早くしてくれよ」 「それはそれは……」 老人がミスタの手を両手でガッシリと掴み立ち上がるが…次に言った言葉はミスタをブッ飛ばすに十分だった。 「だが、お前は、もう何も食えないさ……ミスタ」 あまりにも覚えのある状況と台詞。 唯一自分が、何も出来ずに敗北した相手を思い出すが、ヤツはブチャラティに列車から突き落とされ死んだはずだ。 だが、これは……! 「て、てめェーーーー!まさか!!」 片手で銃を抜き老人に向けるが、あの時と同じなら間に合わない。 そう思い、何とかジョルノに遺す術を張り巡らせたが、『それ』はやってこなかった。 「はて……?何か言いましたかなああああああ?」 「と、とぼけるんじゃねぇーーーーーッ!オメー今、確かに俺の名を言ったじゃあねーか!」 「ここ最近、曖昧になりもうして、よく覚えとらんのですよおおおおお」 銃を突きつけられている事にも関わらず変わらないペースで老人がそう答える。 周りも騒がしくなってきたようだ。老人に銃を突きつけている男。どう考えても分が悪い。 「チッ!」 手を振り解くと、その場から逃げるかのように走り去った。 「ジョルノォーーーーーーーーーーーー!!」 「ずいぶん早かったですね。トリッシュならもう来てますよ」 扉を蹴破らんばかりに入ってきたミスタに少し眉を潜めたが、まぁ何時もの事だと思い大して気にしていないジョルノだったが 次にミスタが言った台詞には、さすがに反応せざるをえなかった。 「暗殺チームの……確か……そうだ!プロシュートが生きてたんだよッ!!」 「……それは無いはずですよミスタ。見間違えじゃないんですか?」 「いや、マジだって!」 「考えてみてください。ブチャラティから聞いただけですが、150キロの列車から突き落とされたんですよ?万が一生きていたとしても再起不能なはずです」 なおも食い下がるミスタに少し辟易したのか、ジョルノが何があったのか聞き出す事にした。 「とりあえず、落ち着いてください。何があったんですか?」 さっきあった事をミスタが説明をするが、当のジョルノは何かこう…何時もと変わらない表情だったが、何かを諦めたような顔をしている。 「つまり手を掴まれて、あの時と似たような事を言われたからそうだって言うんですか?」 「オメーは直にあいつを相手にしてねーから分からねーだろうが…!ありゃマジで本人だぜ!?」 必死になってミスタがそう力説するが、ジョルノは醒めた目でミスタを見ている。 「……ミスタ。確かに僕はパッショーネに入団する時ブチャラティに『やるのは個人の勝手』と言いましたが……貴方が手を出すとは思っていませんでしたよ」 「……?何が言いてーんだ?ジョルノ」 何かこう、ガッカリしたような口調だ。 「腕を見せてください」 「お、おう」 腕を見せるが、ジョルノは腕の真ん中あたりを凝視している。 「……痕はありませんね。吸引系ですか?」 「ジョルノ…オ、オメーまさかとは思うが……!」 「マリファナかコカイン……どのルートを使って手に入れたんですか?僕が組織を乗っ取ってから麻薬チームは解散させたはずです」 「薬じゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 その日最大の叫びがその場に響いた。 「大声出して何やってるの?」 奥から出てきたのは、ディアボロの娘、トリッシュだ。 「ええ、ちょっとミスタが麻薬を…」 「違うっつってんだろーがッ!!」 「……違うんですか?」 「たりめーだ!」 「何があったのよ」 状況を知らないトリッシュにさっきあった事を説明したが、似たような反応だ。 「いいですか?さっき手を両手で掴まれたと言いましたよね?」 「ああ、そうだぜ」 「ブチャラティが言うには、もう一人のスタンドを利用してスティッキィ・フィンガースを叩き込み、彼の右腕を切断して突き落としたんです」 「ブチャラティは嘘を見抜いても嘘を付く理由は無いから、そのとおりなんでしょうね」 「時速150キロで地面に激突したんです。生きていたとしても 僕のゴールド・エクスペリエンスで部品を作ったのならともかく、そんな手が無事にくっつくはずがありませんよ」 「で、でもよォーーーー!確かに『だが、もう何も食えないさ…ミスタ』って言ったんだよそいつは! 銃を抜いちまって騒ぎになったから、それ以上追求できなかったけどよォーーーー」 「……それだけの情報なのに街中で銃を抜いたんですか?…しかも老人相手に」 「スタンド使いに襲われたんだから当然だろうがよ」 「……トリッシュ」 「……ええ、分かったわ、ジョルノ」 ジョルノに促されトリッシュが電話を取り、どこかに掛け始める。 「……どこに電話してんだ?トリッシュ」 「ミスタ、ちょっとそこに座っててください」 ミスタが椅子に座ると同時に、ロープを持ってきたジョルノがスタンドで手早くミスタを縛った。 「な、なにすんだてめェーーーーーー!」 「じっとしててください。時間がかかるかもしれないんで」 「ト、トリッシュ!オメーも何か言え……」 トリッシュの方を見るが、その話し声を聞いて愕然とする事になる。 「……ヴェネツィア総合病院ですか?……ええ、そうです。精神科のベッドの予約を一つ……名前は『グイード・ミスタ』でお願いします」 「な、なにやってムゴォ!」 そう叫ぶミスタをジョルノが手早く猿轡で黙らせる。 「心的外傷後ストレス障害……PTSDですね。さっさと入院して良くなってくださいよ」 「ウンガァァァァァアアア(違うつってんだろーが!)」 「何です?聞こえませんよ。そんなに不安なら氷でも持っててください」 「ウンゴォォオオオオ(オメーが話せないようにしたんだろーが!)」 グイード・ミスタ―ヴェネツィア総合病院 精神科に強制入院 スタンド名『セックス・ピストルズ』 簀巻きにされ、どこかに運ばれるミスタを建物対面のオープンカフェに座った壮年の男が薄く笑いながらそれを見ていた。 「ああはなるとは思ってなかったが…ま、恨むなら信用されてないテメーを恨めってこったな」 そして机の上の紅茶を口に運ぶが、一口飲んで顔を顰めた。 「…………不味い」 どうにも合わない。以前ならそうでもなかったろうが、『向こう』に居たせいで味覚が変わったらしい。 貴族用の茶の葉。ネアポリスのある意味淀んだ水とは違う天然水。 どう見ても、味に格段の違いがある。 金を払わずに店を出るが、その時『青年』になっていた男は誰にも気付かれる事無く外に出ることが出来た。 再び自身を多少老化させ懐からサングラスをかけ街を歩く。 髪も結構伸び、それを降ろしているため見知った顔に見られたとしてもバレる事は無いだろう。 「さて……どうすっかな」 ミスタにちょっかい出したとは言え、現在のボス―ジョルノを相手にする気はさらさら無かった。 「まさか、あの新入りがボスを倒してるとはな」 この5日間、組織の事を調べたが、ボス―ディアボロが倒されジョルノにパッショーネが乗っ取られている事を知る。 ディアボロが相手なら何があろうとも暗殺を慣行するが、ブチャラティの新入りがボスの座に収まっていると知りそんな気は雲散していた。 まして、暗殺チームは壊滅しているのだ。結末を知り心に納得する事はできたが、やる事が無くなっていた。 良く言えば自由。悪く言えば暇。 ちなみにゼロ戦は発見された後、日本に運ばれたらしい。 大戦中の戦闘機が稼動状態で見付かったのだ。ニュースにもなっている。 気付いた時は燃料ギリギリでルーンも消えていたため危うく墜落しそうになったのだが、操縦法は辛うじて覚えていた事で何とか建て直し着陸を慣行する際にメローネが「後輪からディ・モールト優しく着陸するんだ。前輪から着陸すると教官に怒られるからな!」と言っていた事を思い出し、何とか墜ちる事無く戻る事ができた。 航空機の着陸の基本だそうだがゲームの受け売りだ。タイトルは『パイロットになろう2』 「国外(そと)に出るか」 イタリアでは見知った顔が多すぎる上に、それなりに襲われる理由もある。 金はあった。ポルポの隠し財産ではないが、ソルベとジェラードが殺された日から緊急用としてチーム全員が出し合い貯めた金が一括され隠されていた。 「悪りーな、オレ一人で使っちまう事になりそうだが……先に逝ったオメーらには必要ないだろ?」 納得させるようにそう呟くと、さっそく行動すべく動き出していた。 草原に立つのは桃赤青の三色。後、太陽光を反射するのが一つ。 「まだ一週間しか経ってないけど…ホントにもういいの?ルイズ」 「もちろんよ、神聖で美しく、そして、強力な……あいつに負けないぐらいの使い魔を呼ばないといけないんだから」 二日程引き篭もっていた事を知っているため、それなりに心配し聞いたキュルケだが、そう答えるルイズを見て、結構成長したわねと素直に感心していた。 かくいう本人も帰ったと聞かされた時は小一時間ほど呆然としていたのだが、立ち直りは早かった。 学院に戻ってきたシエスタにも話したのだが、ゼロ戦が日食の中に消えていく様子を見て、もうスデに知っていたようだった。 何時もと変わらない笑顔だったが、どこか寂しそうに見えたのはルイズだけではあるまい。 表情を崩さなかったのはタバサぐらいか。 ちなみにコルベールはゼロ戦が消えた事にもんのスゴイショックを受け徹夜の影響もあり3日程寝込んでいた。 ストレングスが沈黙した後、戦意喪失したアルビオン地上軍であったが、『レキシントン号だッ!』やストレングスの砲撃でトリステイン軍も一杯一杯だった。 両軍疲弊の半ば引き分けのような形だったのだが、帰る手段を失ったアルビオン軍が降伏するという形で終結した。 戦勝パレードの後に戴冠式も行われアンリエッタの婚姻も消し飛んだらしい。 なにせ、トリステイン単独で精強なアルビオンを破ったのだ。何もしていないゲルマニアに対し強気に出る事ができるのは当然だ。 「では、ミス・ヴァリエール。サモン・サーヴァントを」 コルベールがそう促すとルイズが一歩踏み出し詠唱を始める。 あの時とほとんど同じだが、ただ違うのは指に嵌めた水のルビーと虚無の使い手であるという事。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ!わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに、答えなさい」 杖を振り下ろすと……爆発が起きた。 『イタリアで発見された、旧日本海軍所属『佐々木武雄少尉』が登場していたと思われる零式艦上戦闘機が、修復を終え展示され……』 街頭テレビのニュースがそう伝える街を、髪を整えスーツでキメたプロシュートが歩いていた。 言葉は分からないが、映像を見る限りあのゼロ戦だと判断したようだ。 二日経ち場所は、ある者は魔都と呼び敬遠し、またある者は聖地として崇める混沌の地。かの有名な秋葉原。 外国人ですら知れ渡っているため、外人は珍しくはないが…どう見ても場違いというか、ぶつかったりしたら狩られそうなので皆避けていた。 「メローネのヤロー……よくこんな場所に入り浸ってたな……」 つくづく感心する。訪れた理由は、ただ単にメローネが入り浸ってた場所に興味があったからだ。 訪れてから結構後悔したが先に立たず。 メイド喫茶なるものを発見した時なぞ、敵スタンドに襲われた時よりブッ飛んだ。 元ギャングと混沌の街『秋葉原』。カルチャーショックを通り越してデカルチャーである。 当面の定住先として日本を選んだのは幾つかあるが、入国関連の審査が甘い事と簡単に身分を偽造できるからだ。 その気になればイタリア語講師で食っていけるだろう。 「なんでメイドが居るだけで、あんな馬鹿高い金取られるんだ?理解できねー」 まぁ店先で立っていた、セミロング黒髪メイドを見た時、シエスタを思い出したのだが。 「ま……もうオレの関われる事じゃあねーな」 行ける場所なら、する事が無くなった以上、ペッシようなあいつらの面倒見てもいいとは思うが、もう関わりの無い事だ。 金はまだまだあるとは言え限りがある。とりあえず食っていかねばならない。現実的な問題は山積みだった。 「う~~~~パソコン、パソコン」 今、修理が終わったノートパソコンを求めて全力疾走している俺は高校に通うごく一般的な高校生 強いて違うところをあげるとすれば出会い系に興味があるってとこかナ――― 名前は『平賀才人』 そんなわけで秋葉原にあるPCショップにやってきたのだ 修理が終わったパソコンを受け取り、ウキウキ気分で家路に着く途中、思いっきり人にぶつかった。 「いってぇな……前見て歩けよ……」 余所見していたのは思いっきり彼である。だが、せっかく修理したパソコンが壊れては洒落にならないという考えからそんな言葉が出た。 ……出たのだが正面を見て後悔した。 外人だ。それもこんな場所にも関わらずブランド物っぽいスーツでキメている。 彼の貧弱ゥな想像力は場所に関わらずスーツ装備=マフィアor某機関の工作員という結論に達したのだった。 そして次に取った行動は―― 軽くデカルチャーを感じながらモーゼの如く街を歩いていたのだが、人にぶつかった。 前を見ていないわけではなかったが、デカルチャーを受けていたため気付けなかったようだ。 もっとも、相手も前を見ていないようだったが。 現役時代なら、蹴りが飛ぶとこだがここは日本。入国管理はザルだがイタリアと違い警察は優秀な方である。賄賂も効かない。 ベイビィ・フェイスとは違うが携帯用のパソコンを庇うようにして少年が倒れていたので手を顔の前に差し出すと…恐ろしい速度で土下座された。 「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!」 必死だった。なにせ謝まるために起きようとした瞬間、腕が伸びてきて目を指でえぐろうとしてきたのだからッ! 17年生きてきてヤクザな世界の方々とは一切関わった事が無いので、ちょっと勘違いしているご様子。 「目はホント勘弁してくださいッ!いや、できる事なら全部勘弁してくださいッ!」 相手が外人であるという事も忘れ日本語で言いながら、『組織の工作員』だの『殺し屋』だの『血も涙も無いマシーン』だの色々な想像をしながらなおも地面に頭を打ちつけるかのように土下座をする。ハッキリ言う。スゲー目立っている。 ギャラリーも出来始めているが誰も助けようとはしない。東京砂漠だ。この時ばかりは馴染んだこの街を恨んだ。 「なんだ?このマンモーニは……」 目の前には叫びながら思いっきり土下座する少年。 日本語でなにか言っているが、ポーズと照らし合わせると謝っているのだろうと思う。 当然の事だが、目をえぐる気なぞ無い。ただ単に手を差し出しただけだが、勘違いされたようだ。 「腑抜け野朗がッ!なんだ?そのザマは!?ええ!?」 ボギャア!ドカッ!ボゴッ!ボゴッ!ボゴッ! (ペッシならこうだな…) 少年を踏みつけていたようだが、どうやら想像だったようだ。 説教したい衝動に駆られていたが、その姿が同じ黒髪のもの凄い勢いで人に謝り倒すメイドと被った。 「日本人ってのは皆こうなのか?」 ちょっとばかし偏見だが、出会った二人がこうなのだから仕方あるまい。 ギャラリーも出来てきたので面倒ごとになる前にカタを付ける事にした。 「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマはぐぉ!」 土下座していると、頭に衝撃。なんだ、凶器か、凶器で殴られたのか。 バールのようなモノ。という凶器名が思い浮かんだが、よくよく考えれば衝撃が軽すぎる。 恐る恐る顔を上げると、その外人が呆れたような顔で犬を追い払うかのような手をしながらこっちを見ている。 「い、行っていいって事ですかね……?」 当然日本語だから返事は無い。 恐る恐るその場を離れる。走らない。走りたいけど走ったら逃げたと思われ何か追われそうだったからだ。 ゆっくりと歩きながらその場を離ようとした時『マンモーニ』という単語だけよく聞こえたのだが イタリア語なんぞ知ったこっちゃあないし怖かったので気にせずその場を離れる事にした。 「このマンモーニが」 恐る恐る、背を向け歩き出した少年に向け、そう言い放つ。 歳は分からないが、10代後半といったとこだろう。 その時スデにギャング世界に片足突っ込んでいたオレ『達』に比べてなんっつー平和な世界だと思ったのだが本来これが正しい世界なのだろうとも思う。 スーツのポケットに手を入れると何かある感触。 取り出してみると少しばかり驚いた。 「ヤッベ……そのうちオレが渡すと言ってたが……返すの忘れてたな」 手にするは大きなルビーが付いた指輪。風のルビーだ。 こちらの世界では盗品というわけではないから裏で売ろうと思えば、かなりの高値で売り捌ける。これからの事を考えるとそうしてもいい。 だが、そうする気は無い。 「持ってきちまったもんは仕方ねーな」 手で弄びながら歩く。さっきの少年と同じ方向だ。 しばらく歩いていると、正面に光る鏡のような物体を見た。 「……マン・イン・ザ・ミラー、イルーゾォか!?」 暗殺チーム、鏡の中のスタンドと本体の名前が出る。 戻った時、新聞を漁ったりして仲間の墓は確認したのだがイルーゾォだけ確認できなかった。 もちろん状況的に見て、その可能性は低い。 実際、パープルヘイズでドロドロに解けて死体が残らなかっただけだが、一瞬でもそう思わせるには十分だ。 思ったらなら行動する。スデにそちらに向け走り出していた。 先ほどのウキウキ気分から一転。かなり凹んだ感じで歩いていると何か嫌な予感して後ろを振り向いた。 「ok。これはドッキリだ。ドッキリテレビだな?皆して俺をハメようとしてるんだ。だからさっき誰も助けてくれなかったんだ」 言うまでも無いが軽い現実逃避である。 だって後ろを振り向けば、さっきの才人の中では『工作員』『殺し屋』『殺戮マシーン』と認定された外人が後ろに┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨という文字が浮き上がらんばかりにこっちに走ってきたのだから。 「最近ネタが無くてまた始めやがったな!カメラはどこだ!?」 必死こいてあたりを見回すが当然そんなものは無い。 だが、前方の光る鏡のような物体に気が付いた。 「カメラはアレだな!」 そう思った瞬間走り出す。これがカメラじゃなかったら死ぬ。 「もうホント、今時ドッキリなんて流行らないからやめろって!」 そういう思いに支配されていた彼は迷うことなく、その物体に触った。 「あのマンモーニ……!鏡に半身を…やはりイルーゾォか!」 あの少年をイルーゾォが襲う理由は分からないが、元暗殺チームだからそういう仕事を続けているのだろうと思った。 別段、かれこれ言うつもりは無かったが、自分より先に死んだと思っていたイルーゾォが生きている。 鏡の中の世界は許可された物しか通る事はできないが、向こうからでもグレイトフル・デッドかこちらの姿を見れば分かるはずだ。 「グレイトフル・デッド!」 スタンドを発現させ少年の腕を掴もうとする。 そんなもので止まらないというのは当然承知の上だ。 これで少なくともグレイトフル・デッドの存在には気付く。 だが、腕を掴もうとした瞬間、どこからか虹のような光が出ているのを見た。 腕を掴み発生源を確認すると発生源は握っていた右手の中だ。 「なんだ……?こい……つ……がッ!」 向こうで喰らった『ライトニング・クラウド』程ではないが似たような衝撃を受け意識が遠くなる。 「なん……だ……!?マン・イン・ザ・ミラー……じゃあ…ねぇ……!」 迂闊だったと思うが、スデに遅い。 ただ、意識が途切れる瞬間、前にもどこかで似たような感覚を受けたと体が覚えていた。 「……なんでまた爆発なのよ」 「ま、そう簡単にいかないってことよ」 「臥薪嘗胆」 虚無に目覚めたのに、またハデ爆発を起こした事に凹むルイズと、虚無に目覚めたことを知らないキュルケとタバサが何時の事という感じで流すが煙が薄くなるとコルベールがちょっと『ハイ』になりつつそっちを見ていた。 見覚えのありすぎるシェルエット。この世界では届くことの無い技術の塊。 「また、これを再び見れるとは思ってもいませんでしたぞ!ミス・ヴァリエール!」 ゼロ戦がそこにあった。 「なんで……?プロシュートと元の世界に戻ったんじゃ……」 そこまで思ってハッとした。 元の世界に帰ったはずのモノが再び現れたなら、乗っていた本人も居るのではないかと。 ゼロ戦の周りを捜すと影に脚が見える。 期待と、また呼びつけた事に殴られるんじゃないかという二つの思いが交錯する中、その脚の先を覗き込むと黒と白の見た事の無い服を着た、自分と同じぐらいの歳の少年が倒れていた。 「……また平民かしらね」 キュルケがルイズを覗き込む。声の調子がちょっと下がっているあたり期待していたのは同じらしい。 以前のルイズなら、ただの平民と判断しロクな扱いをしなかっただろうが、今は違う。 奇妙な事だが…… 悪事を働き、法律をやぶる『ギャング』、その中でも特に忌諱されるべき存在の『暗殺者』がルイズの心を成長させたのだ。 もう、『ゼロ』などというイジけた目つきはしていない… ルイズの心には、まだ少しだけだがさわやかな風が吹いていた…… 自分のやった事には後悔せず前向きに受け入れていこうという気持ちが多少なりとも目覚めていた…… だから、この少年が目を覚ました時も見下したような目はしていない。もちろん使い魔にする気ではあったが。 「あなた、名前は?」 「ってぇ……俺?……俺は平賀才人」 その瞬間、黄金のような風がその場に流れた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/161.html
トリステイン魔法学院本塔最上階学院長室 そこにどこからどう見ても仙人としか言いようの無い老人が椅子に座っていた。 動きは無い、ボケているようにも見えるが、まぁただ単に暇なだけだ。 微妙に震えている気がするが多分ボケてはいないッ! 「学院長、き、緊急事態です!」 そこに飛び込んできたのは見事なU字禿を持つコルベール。 「………………」 返事が無い (遂にボケたかッ!?)と本気で心配になる。 「……はッ!何か用かの?」 (とうとうか…) だが、緊急事態の内容を思い出しオスマンのボケの可能性の心配を消し飛ばす。 「ヴェストリの広場で、決闘を始めた生徒が…」 その言葉をオスマンが遮る。 「貴族というのは暇な生き物が多いようだのぉ。で~誰と誰がやらかしとるんだね?」 正直「ま た 決 闘 か !」という反応である。 「一人はギーシュ・ド・グラモン。相手はメイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民ですが…」 「いかんのぉそれは…メイジと平民では勝負にならんではないか、止めてきなさい」 だが次のコルベールから発せられた言葉はオスマンを驚嘆させるに十分であった。 「それがその…もう決闘は終わったようなんですが…」 「なんじゃ、それを早く言わんかね」 「いえ…その…実は……『死者』が出まして…」 「何じゃとぉぉおおおお!!」 その報告にオスマンがブッ飛んだように立ち上がる。無理も無い、メイジと平民の決闘などメイジが勝つに決まっている。 だから、オスマン自身も必然的に死んだ方は平民の使い魔と判断した。 「まったく…ミス・ヴァリエールも変り種とは言え使い魔の召喚に成功したというのに…」 「違います、死者は……ミスタ・グラモンの方でして…」 『オスマンも月まで吹っ飛ぶこの衝撃!』 本日最大級のオスマンの叫びが轟いた。 「なんとしたことじゃ…」 今までメイジと平民が決闘をしたとういう事すら前例が無いというのに 平民がメイジに勝った挙句それを殺したという異常事態に生きる魔法辞書オスマンも精神的動揺を隠せない。 「それで、どうやってその平民の使い魔がメイジに勝ったんじゃ」 「決闘の原因は分かりませんが…それを見ていた生徒達の話によると 見えない何かがミスタ・グラモンの首を掴み中空に持ち上げた瞬間…信じられないかもしれませんが『老化』させたというのです」 「なんと…その使い魔はメイジではないのじゃろう?」 「杖など持っていませんし…それに老化させる魔法など聞いた事もありません」 「ふむ…召喚した時とか何か妙な事は無かったかの?」 「…実は、ミス・ヴァリエールが使い魔の儀式を終えた後 その使い魔が何かを叫んだと思ったら私が急に倒れてしまって…」 その瞬間オスマンの目がカッと開かれ叫んだ 「なぜそれを早く言わぁーーーーーーん!!」 「気が付いた時は特に異常は無かったものですから…」 だがオスマンは奇妙な違和感に気付く。 「ミスタ・コルベール…髪……いや何でもないぞい…」 視線をコルベールから反らし唯でさえ少なかった毛髪がさらに減少している事に目を押さえ泣く。 「じゃが、どうしたもんかのぉ…」 平民がメイジを殺す、普通の状況なら即刻死刑というとこであるが、決闘という場合は前例が無い。故に対処が分からない。 「…ともかく話だけでも聞いておかねばならんようじゃな その使い魔とやらを呼んできてくれんか。それとミス・ヴァリエールもじゃぞ」 「ミス・ヴァリエールは決闘の最中に気を失ってしまい医務室で治療中です」 「なら無理に呼ぶわけにもいかんようじゃの…ともかくその使い魔だけでも来るように伝えておいてくれんか」 暗い闇の中でワルキューレに囲まれたあいつが居た。 自分はそれを止めようとして必死にそこに向け走る。でも距離が縮まらない。 ワルキューレが武器を構え動きだし叫ぼうとする。でも声が出ない。 それぞれの武器が振り下ろされるのを見た。その光景に思わず目を閉じた。 しばらくして目を開ける、ワルキューレ達はどこにも居ない。 でも、私の足元にあいつがボロ雑巾のようになって倒れていた。 決闘をすると知っていても何もできなかった。何もできなかった自分に無性に腹が立って泣きたくなった。 自分が殺したようなものだ。そう思った。 だけど、自分の手に杖が握られているのに気付く。 勇気を出して恐る恐るあいつの体を見る。 あいつの体はワルキューレの持っていた武器で傷つけられたものじゃなかった。 これは、爆発を受けた傷だった。さっきまでワルキューレに囲まれていたはずなのにそれが不思議に思えた。 杖を手に持っていてあいつが爆発を受けて倒れている。そう思った瞬間何かが繋がった。 まさかと思った。あいつを助けようとして自分の魔法が失敗したせいで殺したんじゃないかと。 必死になってそれを否定する。でも状況がそれを肯定していた。 自分の頭の中で様々な声が聞こえる。だけど聞こえる内容は一つだけだった。 『お前が『ゼロ』のせいであいつを殺した』―と 蹲り耳を押さえそれを否定する。けれど頭の中の声は消えなかった。 泣きそうになるのを必死になって耐えた。でも無理だった。 ――――そして泣きに泣いてる最中急に意識が遠くなった。 目を開けると医務室の天井が見えた。 (…………夢?) 周りを見る。キュルケとその親友のタバサがそこに居た。 「やっと起きたの?寝ながら泣いてたわよ貴方」 そういえばさっきから少し目が痛い。 「私…どのぐらいここに?」 「丸一日」 状況が今一掴めない。何故自分がここに居るのかという事も。 夢の内容を思い出そうとして肝心の事に気付く。 「そうだ…決闘!一体どうなったの?」 そう聞くと、キュルケが何か言いにくそうに答え始めた。 「落ち着いて聞きなさいルイズ。あまり言いたくないんだけど…」 だがタバサが途中から口を挟む 「死亡確認」 『ザ・ワールド!』 そんな声と共に何も考えれなくなった。 さっき見た夢の内容と現実との状況が重なる。 また意識が遠のくけどギリギリのとこで踏みとどまる。 気が付けば医務室を飛び出し自分の部屋に走り出していた。 部屋に飛び込み視点が一点に集中する。 ベッドの上にあいつの服が洗濯され置いてあった。 その瞬間あいつを自分が殺したという実感が沸いてきて―また泣いた。 ベッドに倒れ込み服の上で泣く。 だがそこに後ろから声が掛かる 「…人の服の上で何やってんだオメーは?」 泣き顔のまま後ろを振り向き…一瞬にして涙が止まる。 そこには教員の服を着たプロシュートが居たッ! 「………何時から見てたの?」 「部屋に入ってくるなりいきなり泣きはじめたとこからだ。つーかシワになるからどけ」 「…この服と今着てる服は一体何よ?」 「こっちに来てからそればかりなんでな ついでに洗濯したとこだ。この服は乾くまでの代わりだ。」 スーツを着るプロシュートを尻目にルイズが無言で部屋を出る。 そして部屋に来る時以上の速度で医務室に走り出し、ドアを勢いよく開ける。 「急に飛び出してどこ行ってたのよ」 キュルケが半ば呆れ気味に言い放つ。だが当のルイズはそれを無視しタバサに詰め寄る。 「謀ったわねタバサ!何が『死亡確認』よ! 生きてるじゃない!思いっきり生きてるじゃない!!何?何か私に恨みでもあった!?」 もうキュルケの髪より顔を赤くしたルイズに詰め寄られるタバサだったが何事も無かったかのように一言だけ言い返す。 「最後まで話聞かないのが悪い」 「うぐ……じゃあ何で『死亡確認』なのよ」 「だから、ほら…ギーシュがね」 『スタープラチナ・ザ・ワールド!』 またそんな声が聞こえた気がして思考が止まる。 「えぇーーーーーーーーーーーー!?」 だが、今度は気付けば思いっきり叫んでいた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/23.html
第一章 光と影 ゼロの影-01 ゼロの影-02 ゼロの影-03 ゼロの影-04 ゼロの影-05 第二章 影に吹く風 ゼロの影-06 ゼロの影-07 ゼロの影-08 ゼロの影-09 ゼロの影-10 第三章 影差して ゼロの影-11 ゼロの影-12 ゼロの影-13 ゼロの影-14 最終章 太陽と影 ゼロの影-15 ゼロの影-16 ゼロの影-17 ゼロの影-18 ゼロの影-19 ゼロの影-20 ゼロの影~The Other Story~ ゼロの影~The Other Story~-01 ゼロの影~The Other Story~-02 ゼロの影~The Other Story~-03 ゼロの影~The Other Story~-04 ゼロの影~The Other Story~-05 ゼロの影~The Other Story~-06 ゼロの影~The Other Story~-07 ゼロの影~The Other Story~-08 ゼロの影~The Other Story~-09 ゼロの影~The Other Story~-10 ゼロの影~The Other Story~-11 ゼロの影~The Other Story~-12 ゼロの影~The Other Story~-13 ゼロの影~The Other Story~-14 ゼロの影~The Other Story~-15 ゼロの影~The Other Story~-16(前編)/(後編) ゼロの影~The Other Story~番外編 ゼロの影~The Other Story~番外編其の二 ゼロの影~The Other Story~完結編(前編)/(中編)/(後編) ゼロの影~The Other Story~『ゼロと一の物語』(ゼロの影~The Other Story~第5話より分岐) ゼロの影~The Other Story~-20 ゼロの影~The Other Story~-21 ゼロの影~The Other Story~-22 ゼロの影~The Other Story~-23 ゼロの影~The Other Story~-24 ゼロの影~The Other Story~-25 ゼロの影~The Other Story~-26 ゼロの影~The Other Story~-27 ゼロの影~The Other Story~-28 ゼロの影~The Other Story~-29(前編)/(後編) ゼロの影~The Other Story~-30(番外編)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/734.html
ドスッ!! 「な・・・」 (くっ・・・ガキどもに紛れているとは・・・心臓をやられてしまったからリプレイできねぇ・・・ 後少し…後少しで…ボスの手がかりが掴めると言うのに・・・俺は・・・終り・・・か・・・) 死により意識が遠のく寸前、誰かの声が聞こえてきた 「まだやれるさ、アバッキオ」 「?なんでオレの名を・・・・・・・知っているんだ? ・・・あんたは・・・・!!そうだ!!あんたはッ!! あんたはオレがワイロを受け取ったせいで撃たれて殉職した・・・・・・・!! 」 「アバッキオ お前はりっぱにやったのだ。私が誇りに思うぐらいにね。そしてお前の真実に『向かおうとする意思』は あとの者たちが感じとってくれているさ 大切なのは・・・・そこなんだからな」 「・・・あぁ、だからこそ最後に俺がやるべき任務は終らせる、ムーディブルース!!」 バゴォッ!! (ボスの顔と指紋だ・・・後は・・・任せたぜブチャラティ・・・ジョ・・ル・・・・ノ) 新たな進むべき道を選択したブチャラティ達を水平線から消えるまで二人は佇んでいた。 「・・・もういいのか?アバッキオ」 「…ありがとうよ、あんたが俺を支えてくれたおかげで俺はあいつ等にボスの手がかりを渡す事ができた…」 「いや…私は何もしてないさ、私はただきっかけを与えただけに過ぎない」 「そうか・・・んじゃ行くか」 「あぁ・・・ん?何だこの鏡?」 「あん?」 突如殉職した警官の前に現れた銀鏡、それを見た瞬間俺の中で「これは…ヤバイ」とアラームがなった。 「下がれっ!!」 警官を掴み自分の後方に投げつけた瞬間、鏡は行き成り進路を変えアバッキオを飲み込むように包んでゆく。 「なっ、アバッキオ!」 「来るなっ!!あんたも巻き込まれるぞ!!…チッ、やっぱギャングだから地獄逝きだな…」 「アバッキォォオオオ!!」 そして無重力の空間かのように体の感覚がおかしくなり・・・俺の視界は闇に閉ざされた・・・ 空は晴天、風は特に無し。ピクニックにはちょうどよい天候であった。 そんな中、トリステイン魔法学院の2年生たちは各々が召喚・契約した使い魔たちを自慢しあっていた。 ……ただひとり、ルイズ・フランソワーズ(中略)・ヴァリエールを除いてだが… 少々頭が寂しくなってる頭を持つ中年の男性が本日最後の召喚儀式を行う者の名まえを読み上げた。 「ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」 「はい!」 はきはきとした声でピンクの髪の少女が返事をした。 その声とは正反対に周りのギャラリーとしている少年少女たちは 「おっ、とうとうゼロのルイズの番だぜ!」「また爆発だろうな…」 「せっかく召喚した使い魔をすすだらけにしたくないから下がってよっと」 「逆に考えるんだ失敗しないルイズはルイズでは無いと」 …少女は少しこめかみをピクピクさせたが、すぐ気を取り直し呪文を唱えた。 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ドッゴォオォォォン 「…またか…」「まぁ何時もどおりと言えばそれ以上でもそれ以下でもないな…」 「Oh,my god 僕の使い魔がすすだらけにぃぃぃいい」「もうここまで来ると…ブラボー!おお…ブラボー!!」 周りの少年少女達はルイズが魔法を使うと爆発が起こるという事を非常識を常識としていたので、 焦らず普段どおり嘲笑の言葉を次々と爆発の張本人に送っていった。 (…どうして…どうして爆発だけなのよォオオオ~~~~~~~~ッ!!) ルイズは心の中で絶叫していた。まいどまいどの事とは言え初歩の初歩であるサモン・サーヴァントにまで失敗 …成功率ほぼ100%と言われるこの呪文にまで失敗する…私は魔法が全く使えないの運命だろうか… と深淵の底まで落ち込みながら「死にたくなった。」と言う誰かの幻聴まで聞こえ出し、目の前をぼーぜんと見ていると、 ふと周りのギャラリーの「あれ…?何か煙の中にいる…?」とつぶやきが耳に入った。 爆風によって見えにくくなった視界だったが何かの影がある事に気づいたので、 目を凝視してみると段々と煙が晴れてきその影…いや人影が倒れていた。 何か卵の殻のような帽子を被っている。 煙が完全に晴れるとルイズはゆっくりとその人物に歩いて行き見下ろしてこう言った。 「あんただれ?」 「あんただれ?」 「あ・・・?・・・ここどこだ?天国・・・ってわけじゃなさそうだな」 目の前にはピンク色の髪をした少女ってかガキがいた。 周りを見渡すとローブを羽織った怪しいガキども、頭のてっぺんがつるつるな中年の男 そしてわけわからん生物…まるでナランチャがフーゴに読んでくれってねだっていたファンタジーって光景だな・・ (まぁ、フーゴが仕方なしに諦めて読もうとして「何でファンタジーって言いながらSFの本持ってくるんだよ! このど低脳がぁあああ」とプッツンしてた気もするが・・・) ガキがよく読む絵本のような光景が俺の前に広がっていた。 「質問に答えなさいよ!」 「うっせぇなぁ…ちったぁ落ち着けや、何なら茶飲むか?」 「へ…平民風情の分際で貴族にそんな物言いする気!!」 「貴族に平民だぁ?」 周りの空気と建物的にヨーロッパのどっかのド田舎って感じだと思ったが、貴族やら平民やら… 時代錯誤もここに極まりって奴だな・・・ 「ん?待てよ、何で俺生きてるんだ?」 さっき俺は死んだと思ったのに銀鏡に吸い込まれた事により生き返った…?新手のスタンド使いにしちゃ 殺意が無いうえに、何故俺を生き返らすんだ…?それとも…罠…にしてはここまで移動させる意味が無い… と俺が考えている間にピンク髪のガキは中年のおっさんの方に 「ミスタ・コルベール!」 「何だね?ミス・ヴァリエール」 「再召喚させt「ダメだ」 「・・・まさかあの平民と契やk「神聖な儀式だからやり直しは認めない」 「「・・・」」 ・・・何か知らんが口論は終ったようだ・・・ ピンク色の髪をしたガキは俺をかなり恨めしそうな目で睨んでいるが知ったこっちゃ無い。 「感謝しなさい、平民が貴族にこんなことされるなんて一生ないんだから」 そんなえらそうな態度で言われても感謝できねーっつの 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 反射的に体をねじらせピンク髪のガキのキスを避ける。 「何で逃げるのよ!」 「何でキスしようとするんだ!!」 「だってあたしが召喚した使い魔だから契約しないといけないんじゃない!!」 「あん?って事はお前が俺を呼び出したって事か?」 「そうよ!!だからおとなしk「分かった」 「聞き分けいいわね・・・んじゃ「何を言ってるんだ、俺は帰らせてもらうぜ」 「な・・・何で平民の分際で逆らうのよ、第一どうやって帰るのよ!!」 「こうやるんだよ、ムーディブルース!」 アバッキオは構わず自分の分身でルイズをリプレイし始めた。 「な・・・何よこれ!何で私がいるのよ!!説明しなさいよ!!理解不能!理解不能!!」 「説明する気はない、これでさっき俺を呼んだ鏡が出たらそこに飛び込む・・・それだけだ」 周りは突如二人に増えたルイズが居る事が理解できずに沈黙かルイズと同じように理解不能!理解不能!!と叫んでいる。 しかしコピールイズは構わず詠唱する。・・・だがアバッキオは一つのミスを犯していた。それは・・・ 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ドッゴォオォォォン ルイズが呪文を唱えると必ず爆発すると言う重大な欠点がある事を知らなかった・・・。 「なぁあああにぃいいいいい!!」 何の脈絡も無い爆発に思わずどこぞの吸血鬼のような発言をしてしまい、爆風に吹き飛ばされてしまった。 (ちっ、まさか爆発するとは、だが早くあの鏡に飛び込まなくてはブチャラティ達に追いつけなくなる。 何で生き返ったかはまだ理解できねぇが…戻ってから考えるか・・・) 速やかに脱出しようとしたが、後鏡まで1mと言う時点で何かが悲鳴をあげながら鏡からアバッキオ目掛けて飛んできた。 「どわぁああああ」 「チッ」 何とかジャンプに成功し、鏡から出た何かをかわし鏡に飛び込んだ・・・と思ったら もう・・・鏡は消えていた。 「クソッ、何だ今出たのは…」 振り返ると…青と白のパーカーを着たアジア系のガキ?がヘッドスライディングしてる…? 何か関わりたくないが一応起こすか、茶で気つけしてやりたいがここだとさすがに作るのはまずい。 本当ならケリ入れたいが・・・平手打ちで起こすか… 「お~ぃ起きろ~」ペシペシ 「うぅ・・・ん?ここどこだ?」 「ん~…一応あいつらの会話聞く限りトリスティンって所らしいが…ところでお前の名前は?」 「あっ、俺の名前は才人、平賀才人って言います」 あぁ、またここに被害者が追加されるとは何て運命・・・ マルコリヌ 2回目の爆発時にキュルケに盾代わりに使われ重傷 再起可能 ギーシュ 2回目の爆発時に気絶したモンモラシーを人工呼吸と言う名目で服を脱がそうとした所で モンモラシーの目が覚め袋叩きにされ重傷 再起可能 To Be Continued →...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/261.html
「ささやき いのり えいしょう ねんじろ!」 旧式の召還呪文を唱える。旧式だが伝統ある呪文である。 この呪文では神代のものが呼ばれると言われている。 が、落ちこぼれの魔術師がそんな呪文を成功させられるはずもない。 瞬間、爆発がおこった。 「なんだってのよ!」 爆発を起こした本人が叫ぶと煙の中から地獄の底から絞り出したような声が聞こえた。 「UREYYYYYYYYYYYYYY」 ぞくぞくとした感覚があたりの者たちに伝わって行く。 自分が呼びだしたモノだ、そういった意識が働いたのか、落ちこぼれの魔術師は勇気を振り絞った。 「あんた・・・名前は?私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 煙の中の影が答える。 「お前が、私をよんだのか? そうか・・・私の名は・・・」 煙が晴れ、姿が現れる。 圧倒的な存在だった。そして続ける 「・・・荒木飛呂彦だ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1014.html
第2章 中編 「……50Mプールぐらいあんじゃねぇか?ここ。」 トリステイン魔法学院の食堂は(ry …とにかく広くて豪華です。 この学院では、マントで学年分けしてるみたいだ……。 一年生は ”marrone”(伊:茶色の) 二年生は ”nero” (伊:黒い) 三年生は ”viola”(伊:紫色の) 一年生より、三年生の方が凄い魔法とか使えるのか? 食堂には生徒以外にも教師が朝食をとりに来ていた。 (教師か…。 それこそ”凄いヤツ”がいてもおかしくないな) キョロキョロと辺りを見渡していると、ルイズが講釈し始めた。 「どう? 凄いでしょ。」 「あぁ。とても豪華だし、人もいっぱいいるな。」 得意げにふふんと鼻を鳴らし、話を続けるルイズ。 「トリステイン魔法学院が教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「魔法だけじゃない?」 「メイジはほぼ貴族なの。貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」 食事も”貴族らしく”ってことらしい。 マナーは勿論、質と量も。 ほんとは、この食堂へは『平民』は一生入れないらしい。 それはそれは。とあいまいな返事を返しつつ、ルイズのため椅子を引く。 桃色がかったブロンド娘は気品良く、椅子に腰掛ける。 「隣に座っても?」 こちらもマナーとして一応御主人様にお伺いを立てる。 「残念でした。 あんたは…」 そこまで言って、ルイズは固まってしまった。 どうした? スタンド攻撃でもされたか? オラオラですか? 無駄無駄ですか? 「……」 「もしかして…」 「……」 「オレの分、準備していない?」 「…Yes!Yes!Yes!……(OH MY GOD!)……」 「………(ドジこいたーッ! 昨日厨房に言い忘れてた! とっておきの作戦があったのに!こいつはいかーん! チクショー!!)」 「……それはねぇよ。 ルイズ…」 「き、貴族でも、極々稀にミスはするものよ!」 「………」 今度は使い魔が黙る。何か訴えるかのような目つきでルイズを見つめる。 「……な、何よ?」 「―――ミスより」 「は?」 「ミスよりキスがいいな……」 「…なッ!!」 今度はルイズが赤くなる。それにして感情の起伏が激しい娘だ。 「御主人様より、『ごめんねのキス』を頂ければ幸いです…」 仰々しくお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。 …ヤバイ。 肩を小刻みに震わせている。 キレるな。これ。 調子に乗るんじゃあない!とテーブルにあったフルーツを投げつけられる。 貴族のマナーは一体何処へ……。 「『食べ物を粗末にしちゃいけません!』って、危ないっ!」 至近距離である。いくら少女の力でも痛い。 特に落とさないように、掌で受けるから痺れる痺れる。 数個投げると、ルイズは椅子に座りなおし、そっぽをむいたまま告げる。 「……そ、それでも食べてなさい!」 「……キスは?」 今度は燭台を投げようとするルイズを見て諦めた。 …朝は『濃い目のエスプレッソに、砂糖をたっぷり入れたヤツ』って決めてんだがなぁ……。 怒るルイズから逃げるため、食堂の壁際まで逃げてきていた。 でもエスプレッソどころか、コーヒー自体あるかどうか……。 パスタやピッツァは? そもそもトマトはあんのか? …すげー不安だ。 朝食は軽めに済ませる性質(たち)のスクアーロは、フルーツと思わしきものに噛り付く。 リンゴだよな?… こっちは…どう見てもオレンジ……。 元の世界とほとんど似ているが、なんとなく違う気がするフルーツを味わう。 味は悪くない。というか美味い。……良かった。これで食事は期待できる。 この味が”美味い”という感覚ならば、料理も高水準だろう。 しかし、これはあくまでも貴族用だ。 使い魔でしかも平民(とされている)の自分の食事はどうだろう? 朝はともかく、昼食や夕食が貧しいものであったら……。 「かなりヤバイな…(自制が利くかどうか… きっと暴れるね…)」 交渉なり、実力行使なりで、どうにかしなくては……。 ルイズと交渉するか…? だめだろうな… きっと…。 窃盗・恐喝でもするか…? …それじゃ、ただのチンピラだ。 …最終手段だな…。 もっと、楽で確実で。できれば美味いものを…。 一年生の女子生徒が数人、こちらを”ちらちら”見ているのに気づく。 笑顔で手を振る。 あ… 貴族様だから、怒るか無視する? (あれ… 笑ってる… というか、喜んでる?) 以外にも邪険にするでもなく、キャッ!キャッ!とはしゃぎながら食堂を出て行った。 少しだけ気分が和んだ。 なるほど。どこの世界でも”乙女は乙女”なのか。 ついで(…といっては失礼だが)に、料理を運ぶメイド達にも手を振る。 一人一人、目が合った順に手を振る。 流石に仕事中であるし、目の前で貴族様の給仕をしているからか、表情や仕草に変化は無い。 そりゃそうだ。と割り切ろうと思った時、一人の黒髪のメイドが横を通る。 (この子には、最初の方で手を振ったな… 黒髪か… うん!”ディ・モールト”可愛い!) 通り過ぎると思った時、目の前で立ち止まり、感謝の意を述べきた。 「御心遣い、ありがとうございます。 貴方様も、お仕事頑張ってくださいね」 …マジで? この世界の女性は優しいなー。 …たとえ社交辞令だとしても。 コチラコソ、アリガトウ。キミモガンバテネ。 ……何故かカタコトでお礼を返す。 メイドは微笑を湛えたまま、礼をして厨房の方に下がっていく。 なるほど、貴族相手(オレは違うが)には笑顔と礼儀が基本てか? 感心しながら、メイドが下がっていった厨房の方をぼーっと見る。……厨房? ―――厨房関係者を味方につける? 余った食材なら、少しぐらい分けてくれるだろうし、さらに料理できるやつなら申し分ない。 良し。決定。後で厨房に行こう。 とりあえず、行けば何とかなるだろう! 気づくと、昨日は何も食べていなかったせいか、果物を残さず全て食べていた。 遠くにいる御主人様も、どうやら食事を終えたようだ。 さあ、御主人様の元へ馳せ参じますか―――。 「…意外と順応してるなぁ。オレ。」 自分の適応能力の異様な高さを感心しながら、うんと背伸びをした。 なんだかんだで、朝飯抜きにせず、 ちゃんと自分に果物を(投げつけて)与えたくれた (すこ~しだけ)優しい御主人様に (すこ~しだけ)感謝しながら ルイズの元へ歩き出す―――。 「…あんた、一年生とかメイドに『手』振ってたでしょ? 笑顔で。」 「え? あ、あれは…。 挨拶です。挨拶。」 「今日から三日間、ご飯抜き。」 「……飛びてー」 前言撤回! 全然優しくない! …早く食料事情を何とかしなければ……。 ―――今晩当たり襲いかかろうか? ……なんとも不穏当なことを考える鮫であった。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 中編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/704.html
ニューカッスル城礼拝堂。始祖ブリミルの像が置かれている場所に皇太子の礼服に身を包んだウェールズが佇んでいた。 周りは戦の準備や脱出者の手伝いなどで忙しいため他には誰も居ない。 ウェールズもこの式が終わり次第すぐにでも戦の準備に駆けつける予定だ。 そこに扉が開き。ルイズとワルドが現れた。ルイズの方は昨日プロシュートから式があると聞かされていたものの、まだ戸惑っている。 もっとも、昨日言われた『なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい』 これを本気で考えていたため、結婚の事など頭から消し飛んでいたのだが。 確かに気絶させるなりすればウェールズをトリステインに連れ帰る事はできる。 …だが、問題はその後だ。『自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つ』 そうなった場合、下手をすればアンリエッタまでもがその後を追いかねない。 もちろん、自殺するとは限らないが『覚悟』という言葉が重くのしかかっていた。 死を覚悟した王子を止める『覚悟』ができない自分に対して自暴自棄な気になり落ち込ませていた。 ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と告げアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せ 続いて、何時も着けている黒のマントを外し同じく借り受けた純白のマントをまとわせる。 ワルドによって着飾られても、思考の渦に埋まっているルイズは無反応でワルドはそれを肯定の意思と受け取った。 だが、一つある事に気付いたルイズがワルドに問う。 「………プロシュートは?」 「彼なら今頃イーグル号に乗ってるところさ」 それを聞いた瞬間ルイズの心にさらに影が差す。 あれだけ『今のオレの任務はオメーの護衛だ』と言っていたプロシュートが自分を置いて先にトリステインに帰る。 (何時までたっても『覚悟』ができない自分に対して呆れ見捨てられたんだ……) そう思いさらに自暴自棄な気持ちが心を支配した。 「では、式を始める 新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移すが当のルイズはハイウェイ・トゥ・ヘルが発現してもおかしくない状態だ。 そんな、状態でウェールズやワルドの声がマトモに聞こえるはずはなかった。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いの詔をウェールズが読み上げる段階になってようやく結婚式をやっているという事に気付いた。 相手は、幼い頃からこの時をぼんやりと想像し憧れていた頼もしいワルド。 その想像が今、現実のものとなろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるだろう。 でも、それならばどうして、こんなに心に迷いがあるのだろう。 そう思い、宿屋でワルドに結婚を申し込まれた事をプロシュートに相談した事を思い出した。 どうして自分は、プロシュートにそれを相談したのだろうかと思う。 (自分で決められずに他人に決めて欲しかったからだ) なぜ決められなかったか。その答えはスデに自分が知っている。 (肝心な時に『覚悟』ができていなかったからだ) プロシュートがよく言っている言葉を借りれば自分は『マンモーニ』だという事だ。 そして、その覚悟の意味を知っているであろうプロシュートは自分から離れていった。 「兄貴ィィィ起きてくれよォーーー」 壁に打ち付けられ体中に傷を作り血に塗れたプロシュートのが辛うじて握っていたデルフリンガーが己の主の名…もとい敬称を呼ぶが返事は無い。 「『ガンダールヴ』の事を思い出せそうなのに兄貴が死んだら意味がねぇだろうがよォーーー」 だが、それに答えるべき主は沈黙したままだった。 ……… ……………… ……………………………… 気が付くとさっきまでとは別の場所を歩いていた。 見覚えが無い場所ではない。いや…見覚えが無いどころかよく知っている場所 一定のリズムで規則正しく流れる音。自分が召喚される前居た『ヴェネツィア超特急』の中だ。 無意識の内に車両を進むと、一人の男が釣竿を持ってそこに居た。列車に釣竿、ミスマッチもいいとこな組み合わせだがそいつの事はよく知っている。 「ペッシかッ!」 しかし、ペッシはそれに答えずに何かを叫んでいる。 「まさかッ!この糸から墜落した一人分の『体重』っていうのはッ!うっ嘘だッ! う…嘘だ!嘘だッ!あ…兄貴がッ!ま…まさかッ!オ…オレのプロシュート兄貴がッ!う…嘘だ!」 ペッシが床に蹲りパニクって泣き始める 「どうしよう~どうしよう~あ…兄貴がう…嘘だ!!オ…オレどうすれば……? う…ううう…うう~~~そんなぁああああ…亀の中のヤツらも、でっ出てくる!ど…どうしよう~オ…オレ」 『マンモーニ』、その言葉に相応しいうろたえ様だ。当然そんな弟分にする事はただ一つ。 「オレがさっき言った事がまだ分かんねーのかッ!?ママっ子野郎のペッシ!!」 その言葉と同時にペッシの顔面に思いっきり蹴りをブチ込む。それを受けたペッシは吹っ飛びいつもの説教に突入するはずだった。 だが、それは虚空を蹴る。 「なん…だと…!?」 もう一度同じようにして蹴り上げる。だが同じだ。 さっきと同じように空を蹴るだけだ。いや、ペッシには当たっている。当たっているが、何事もなかったかのように『通り抜けて』いる。 「も…もうダメだあああああ」 「なんだパニクってらあ~~~こいつマンモーニだな~ちェッ!」 誰かにまでマンモーニと言われるペッシだがその声の主は老化が解けた乗客だった。 そこでプロシュートが理解をする。自分が居なくなった事により老化が解除された列車だという事を。 そこで全ての光景が途絶え闇になり自分がどこで、何をしていたかを思い出す。 「あの野郎にやられてくたばってるってわけか…」 こうして、考えることができるという事は恐らくまだ生きてるのだろうとそう検討を付ける。 断崖に置かれた樽と同じ状況だ。少しでも押せば谷底に、引き戻せば手元に戻る。 そして、出した結論は一つだった。 「ったく…情けねーなぁおい?何が『腑抜け野郎』だ?誰が『マンモーニ』だ? オレがここで覚悟見せねーと…この先オレがペッシにマンモーニって言われちまうじゃあねーか!!」 その言葉と同時にどこからか 「兄貴ィィィィィィィイイイイイイイ」 と聞こえたような気がし意識が光に包まれた。 「兄貴ィーーーー!」 「ペッ…いやオメーか」 デルフリンガーを杖代わりにして立ち上がる。 状態は最悪に近い。左脚にヒビが入り、全身打撲。おまけに頭も打っていてまだ視界がボヤけている。 「チッ…左目が妙だな…」 「そりゃああれだけ、やられればな」 デルフリンガーは頭を打ったせいだと言うが、それが右目と左目で微妙に違っている。だが、まだその違いに気付けないでいた。 「新婦?」 妙な様子に気付いたウェールズがルイズを見ている。思考の渦からそれに気付いたルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかい?初めての時は事がなんであれ緊張するものだからね」 緊張…などではない。自分は一人では何も決められない『マンモーニ』だ。 だからこそ、今ワルド…いや誰かと結婚する事などできない そう思い、深く深呼吸をし生涯初めての『真の覚悟』を決めウェールズの言葉の途中首を横に振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んむ。ルイズはワルドに向き直り、悲しくも何かを決意した顔で再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 ワルドがルイズの目を見るが、その視線は反らさない。 「日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 声そのものは小さいが、その言葉には確かに『決意』と『覚悟』が込められていた。 その言葉にウェールズが首を捻る。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません!」 その瞬間、ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 だが、ワルドはウェールズを無視しルイズに詰め寄りその手を取る。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がないッ!」 「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…わたし自身がまだ結婚なんてできる段階じゃない」 ワルドがルイズの両肩を掴み熱っぽい口調で語りだし、目が爬虫類を思わせるような冷たい目に変わった。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 人格が入れ替わった…そう思えるほどに豹変したワルドに脅えながら何とか首を振る。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 プロシュートが怒っている所を見て怖いと思うことはあったが恐ろしいと思うことは無かった。 あいつが人に対して本気で怒る時は必ず相手に何らかの原因があったからだ。 だけど、このワルドは違う…! 「ルイズ!宿屋で話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!君がまだ自分で気付いていないだけだ!その才能に!」 この感情は…恐怖そのものだ。目の前のワルドはルイズが知っているワルドではない。 それだけに、今のワルドが無性に恐ろしかった。 「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」 「黙っていろッ!!」 そう叫ぶと再びルイズの手をヘビが獲物に絡みつくがの如く両の手で握る。 「君の才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは『ゼロ』よ!そんな才能のあるメイジなんかじゃあないわ」 「何度も言っている!自分で気付いていないだけだ!」 「あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけ… そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!そんな結婚…たとえ死んでも嫌よ」 ルイズがワルドの手を振りほどこうと暴れるが離れない、尋常ならざる力で握られていた。 見かねたウェールズがワルドの肩に手を置き、二人を引き離そうとするが突き飛ばされる。 ウェールズが立ち上がると同時に杖を引き抜く。 「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 その段階になってようやくルイズから手を離すが、その顔はどこまでも優しい、『偽善』で固められた顔だった。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!」 「ふぅ…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方あるまい。目的の一つは諦めよう。」 「目…的…?」 頭に『理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!』という幻聴が聞こえる。 「まず一つは君だ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」 「…当然よ!」 「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目…」 アンリエッタの手紙という言葉で全てを理解し杖をワルドに向け詠唱を始めるが それよりも、ワルドの方が閃光の如く杖を引き抜きウェールズの心臓を青白く光る杖で的確に貫いた。 「き…貴様…『レコン…キスタ』…」 ウェールズの口から血が溢れる。誰がどう見ても致命傷だった。 「三つ目…貴様の命だ」 「貴族派…!アルビオンの貴族派だったのねワルド!」 「Exactly。いかにも僕はアルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」 「トリステインの貴族のあたながどうして!」 「答える必要は無いな…これから君はウェールズや…プロシュートだったか?彼らの下に逝くのだから」 その言葉にプロシュートの名が入っている事に衝撃を受ける。 ウェールズと同時に言われたという事はスデにプロシュートもワルドに殺されたという事だ…! 杖を握ろうとしたがそれをあえなくワルドに弾き飛ばされる。 「助けて…」 蒼白になり後ずさる。立って逃げようとしても腰が抜けて立てないでいるが、その様子をみてワルドが首を振り『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばす。 「もう遅い…だから共に世界を手に入れようと言ったではないか…鳴かぬなら殺してしまえと言うだろう?なぁ…ルイズ…」 壁に叩き付けられ床に転がる。呻き声をあげ泣き、もうこの世にいないであろう使い魔に助けを求めた。 「助けて……お願い……」 そう繰り返し助けを求めるが、ワルドは愉しそうに呪文を唱え始めたが扉の外から足音と声が聞こえてきた。 「『殺す』…そんな言葉は使う必要はねーんだ…」 声と足音が大きくなる。そしてその声はルイズにとって聞きなれたものだ。 「なぜならオレやオレ達の仲間が…その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…」 次の瞬間ドアがブチ破られ、ドアの破片が飛びそれをワルドが回避する。 「実際に相手を殺っちまってもうスデに終わっちまってるからだ…!」 慌てるわけでもなく、怒りをもっているわけでもなく、いつもの調子で危険極まりない言葉を吐き出し歩くのは全身傷だらけになったプロシュートだ。 「…貴様!」 「プロシュート…!」 二人が驚愕の目で傷だらけのプロシュートを見るが、ワルドの目は怒りを含み、ルイズの目は動揺を含んでいる。 「オレが昔やった事と同じ事をしたようだから忠告…しといてやる……敵の頭に銃弾をブチ込んだとしても…生死の確認ぐらいしておくんだったな…」 列車内でミスタに直触りを仕掛け、拳銃を奪い頭に3発の銃弾をブチ込み死んだものと思い亀に向かったが どういうわけか脳天に弾をブチ込んだはずの『ミスタのスタンド』が『氷』を持って『ブチャラティ』の所に居た。 生死さえキッチリ確認していれば今頃は、ブチャラティ達は全滅しボスの娘を奪っているはずだったのだ。 「…ったく、どっちの世界もマンモーニだな…!なに泣いてやがる」 ギャングであるペッシとそうでないルイズを比べるのもどうかと思うがまぁ似たようなものとして扱っているプロシュートには関係無い。 「生きてるなら…早く来なさいよ…!」 そう叫ぶが顔の方は泣き顔のそれだ。 「さっきのお前の魔法…本当にオシマイかと思ったよ…ワルド…今までお前の事『老け顔のヒゲ』だなんて思っていたが 撤回するよ…無礼な事だったな…お前は信頼を裏切れる男だ…『婚約者の信頼』を含めてな…いやマジにおそれいったよ」 淡々とした口調だがその言葉にははっきりとした意思がある。そのままゆっくりとワルドに近付くが『ウィンド・ブレイク』が飛び吹き飛ばされ壁に激突する。 だが、それでも何事も無かったかのように立ち上がり再びワルドに近付く。 「オメーは『ゲス野郎』なんだよワルド…裏切ったんだ…組織のようにな…!分かるか?え?オレの言ってる事…」 「信じるのはそちらの勝手だ。勝手に信じたものを利用して何が悪い?」 また『ウィンド・ブレイク』が飛びまた吹き飛ばされそうになるが、今度はデルフリンガーを床に打ち込みスタンドパワー全開で支え飛ばされないようにする。 「どうした『ガンダールヴ』!動きが鈍いぞ?今にも死にそうではないか。攻撃しないと僕を倒せないぞ?せいぜい僕を楽しませてくれるんだな」 だが、その言葉にも動じずその目はワルドのみを見据え歩みを進める。その歩みには一片に迷いなど無い。 「…分かったよ兄貴!兄貴がいつも言っている『覚悟』ってのが俺にも言葉でなく『心』で理解できたッ!!」 三度『ウィンド・ブレイク』が飛ぶがデルフリンガーが自分を前に突き出すように叫びそれに応じるかのように手を前に突き出す。 「無駄よ!無駄無駄ァァアアア!剣などでは風は受けることはできん!」 風がプロシュートを飛ばそうとした時デルフリンガーの刀身が光だし風を全て吸い込んだ。 「魔法を吸い込むと思ったなら兄貴…!スデに行動は終わっているんだな…!」 「そんな事ができるなら最初からやりやがれ…!」 「六千年前も昔に『ガンダールヴ』に握られて以来だからてんで忘れてたんだよ でも、これからは任せてくれていいぜ兄貴ィ!ちゃちは魔法は俺が全部『吸い込んだ』からよ!」 「…なるほど。私の『ライトニング・クラウド』を受けて生きているのはおかしいと思っていたが… その剣のおかげか。それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」 プロシュートとルイズはそれを見据えたまま動かないでいる。前者はあえて動かないでいるが、後者は動けないでいる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 そうしてワルドが分裂するが、今度は1体だけではなく4体…計5体のワルドがプロシュートと相対した。 「また同じか芸がねーな」 分身が懐から仮面を取り出し顔に付ける。 「『エア・ニードル』…杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込む事は不可能よッ!!」 それを見てプロシュートがルイズの方に向かい話し始める。ワルドx5は完全に余裕の態度でそれを見ている。 「なに…ボケっとして…やがる。正念場だぜ…ルイズよォーー! フーケの時の覚悟見せやがれ…!オレが…突っ込むからよ…オメーは爆発を起こせ。自信を持て…いいなッ!」 「無茶よ!そんな…!それに、そんな怪我してるのに巻き添え受けたらどうするのよ…!」 それを聞かずに、ワルドの本体へと歩き出す。 後ろ取られないようにワルドへ向かう。 剣とグレイトフル・デッドで受け流すが、相手は五体。後ろを取られないようにしているとはいえ入れ替わるように分身と本体が攻撃を仕掛けてくる。 腕に一撃を受ける。だが止まらない。 脇腹を杖が掠め血が流れ出る。だが止まらない。 大腿部に『エア・ニードル』が突き刺さる。だがそれでも止まらない。止まろうとしない。 急所に受ける攻撃だけを受け流し、後は全て体で受け止めている。 傍から見れば一方的に攻撃を受けているだけに見えるが、ジリジリと後退しているのはワルドと分身の方だ。 「こ…こいつ!何故だ…?何故、貴様を使い魔として使役しているあの高慢なルイズのために命を捨てる!?」 「『恩には恩を…仇には仇を…』それがオレ達チームのリーダーの流儀だ… だから…オレもそれに従っている……オレの命を救ったという借りを返さねーってのは…オレがチームの流儀を裏切る…って事になるからな…!」 「兄貴!それだ!心を振るわせられればなんでもいい!『ガンダルーヴ』もそうやって力を溜めていた!」 それを聞いた瞬間ルイズに衝撃が走る。 プロシュートは自分の魔法を信頼してくれているからあんな無謀な行為をしてくれている。 ここで自分が何もしないという事はその信頼を裏切る…つまりワルドと同じ事をするという事だ…! 「まだ『覚悟』っていうのはよく分からない…けど!わたしを信頼してくれているのは『心』で理解できたわ!」 その声と共に杖を本体と分身に向け、詠唱の短いコモンマジックを連発する。 狙いはプロシュート以外の全ての物だ。 一発が分身に直撃し消し飛ばす。 それでも爆発は止まらない。残りは命中はしていないが爆風がワルドと分身を容赦なく襲う。当然突っ込んでいるプロシュートにもそれは襲いかかる。 「…くッ!邪魔だ!!」 3体の分身がルイズに襲い掛かる。だがそれでもルイズは魔法を止めようとはしない。最後まで自分の使い魔を信頼すると決めたからだ。 『エア・ニードル』がルイズを突き刺そうと飛び掛った瞬間…分身の動きが急激に鈍くなった。 「グレイト…フル・デッド…」 そう呟くように言う本体のワルドへと突き進む。 「こ…これは…!?貴様…まさか…私や貴族達を…道連れに死ぬ気か…!?」 「一瞬だ…一瞬老化させて掴めればそれでいい。爆風の熱で温まってる今なら…オメーだけよく老化するだろうよォーーーーーー!」 それだけ言うとワルドに突き進む。速い、満身創痍な状態とは思えない速さだ。 ワルドの左腕を右腕で掴むと老化を解除する。この程度の時間ならば城の連中に効果はあまり及んでいないはずだ。 「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」 だが、そこに広域老化が解除され動きが元に戻った分身の杖が振り下ろされ… 空中に『腕が舞った』 ←To be continued ゼロの兄貴-23 戻る< 目次 続く