約 439,886 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1283.html
『息子』の能力が解除された事により、シエスタ及び村民も元に戻ったが、ルイズ達は状況説明とかをどうするのかディ・モールト心配だったが 「ねぇ…本気で夢で通すつもり?」 「スタンド使いですらなくメイジでも無い連中に、今までスタンドに別の物質に変化させられてました。つって信じるヤツが居ると思うか…?」 「………メイジでも、先住魔法って言われても納得できるかどうか怪しいってとこね」 「一応、怪我人やバラされた連中も居ないみたいだしな、事を荒立てると厄介な事になる」 とりあえず、シエスタ以外はスタンドの事を全く知らないので、夢という事で納得して貰う事にした。というか無理矢理納得させた。 駄目だった場合最悪先住魔法で通すつもりだったが、村や村民に傷一つ無い事から、どうにかなり、本命の『竜の羽衣』を見る事に漕ぎ着けた。 「こっちが寺院なんですけど…さっきのは何だったんですか?」 「あれもスタンドだ。…どういうわけか知らないが、本体は来ずにスタンドだけが中途半端な形で来て暴走してたみたいだが…迷惑をかけたな」 「え!いえ!気にしないでください!皆も無事だったんですし」 暴走状態の息子のせいとはいえ、身内のスタンドの不始末という事でそれなりに対応を取らねばならない。 それで出た言葉が『迷惑をかけた』であるが、意外な言葉にその場の全員が半ば唖然とした顔をするハメになった。 まぁ、列車で乗客を巻き込んだ立場であまり言える言葉ではないのだが、ギャングでも人の子。悪いと思えば謝る事だってある。 世話になった人間を巻き込んだのなら尚更なのだが、ルイズが魔法を成功するぐらいのありえない発言には全員ビビったッ! 「……今、なんて言ったの?」 「ダーリンが人に謝る姿なんて始めて見たわね」 「記録が必要」 「オメーら、何か人の事勘違いしてるな」 何か色々と言いたくなったが、全てメローネが悪いという事でこらえた。 (あのヤロー…戻った時に、まだ生きてたら、あいつのコレクション半分捨ててやる) 相変わらず、あの夢では仲間達の最期の姿を見るが、夢を見てあいつらが死んだなどと納得するほどドリーマーではない。 まだ生きていたらとは思うが、なるべく生きて栄光を掴んでいて欲しいと思う。 敗れていたのなら、それを捨てる事もできないのだから。 そんなこんなで草原の片隅に建てられている寺院に着いたのだが、奇妙な違和感を覚えた。 「…この寺院どっかで見た事ある形だな」 他の4人には聞こえない程度の声でそう呟く。 丸木が組み合わされた門の形。石の代わりに板と漆喰で作られた壁。木の柱。白い紙と、縄で作られた紐飾り。 確かにどこかで見た事がある。 そう思いながら、中に入った瞬間どこで見たかを思い出した。 「…あの茶と同じか」 あの時飲んだ茶と同じ。つまりこれを見たのは日本だと思い『竜の羽衣』に目をやるとそれは確信に変わった。 キュルケやルイズは、気のなさそうにそれを見て、タバサだけは好奇心を刺激されたのか、興味深そうに見つめている。 「こいつは…メローネがやってたゲームであったが…確か零式艦上戦闘機…通称『ゼロ』だったか」 「だ、誰が『ゼロ』よ!」 「オメーじゃねぇよ」 『ゼロ』という言葉に反射的反応をするルイズとそれに突っ込むプロシュートを見て、シエスタが覗き込んできた。 ちなみに、メローネがやっていたゲームは『ゼロパイロット~銀翼の戦士~』だ。 メローネが、操作をミスって建物や戦艦にぶつかる時、いちいち「ジオン公国に栄光あれーーーー!」と叫んでギアッチョにキレられていたので覚えている。 「プロシュートさん、これをご存知なんですか?」 「オレも詳しくは知らないが、五、六十年前の日本の戦闘機だったはずだな」 「せんとうき…ですか?」 「ああ、空戦を目的に作られた飛行機だな」 「これが、こないだ言っていた、ひこうきなんですか?」 「もう旧式だが……アレで見たのが確かなら、最高で時速500キロは出たはずだ」 「時速500キロ?それどのぐらい速いの?」 「1メートルが1メイルってんだったな。五十万メイルを一時間で飛ぶ事ができるって事だ」 「このカヌーに翼を付けただけのようなモノがシルフィードより速く飛んだりするの!?」 「旧式機だからな。今あるやつなら、こいつの2~3倍は速く飛ぶ」 「この翼じゃ羽ばたけないと思うんだけど…」 ルイズとキュルケはそのブッ飛んだ速度についていけないでいる。 タバサの方はこれがどうやって、そんな速度を叩き出すのか興味津々といったところだったが。 「どうやって飛ぶの?」 「…コルベールが作ってたやつがあったろ。アレが発展したエンジンを積んでいて、それでそこのプロペラが回って飛ぶ。 まぁそれだけじゃ飛ばないんだが、翼が空気を掴んで楊力を得る。鳥でも羽ばたいたりせずに、気流に乗って滑空して飛んでる時あるだろ。アレと同じだ」 分かる範囲で説明したが、キュルケ、ルイズ、シエスタは未知の技術に頭から煙が出かかっている。 唯一タバサはシルフィードが滑空している所をよく知っているため、辛うじて理解できていたが、やはりそのとんでもない速度に驚いていた。 「ふみゅ…それでこれ、飛ぶの?」 「…話し聞いてたか?」 「こんなのが、そんな速度で飛ぶなんて急に信じられるわけないじゃない…飛べないって言ってたんだし」 「そういやそうだな…何か他に遺したもんは無いか?」 「えっと…あとは大したものは……お墓と、遺品が少しですけど」 「そいつでいい」 シエスタの曽祖父の墓は、村の共同墓地の一角にあった。他の墓が白い幅広の石でできている中、ただ一つだけ黒い石で作られた墓石があり目立っている。 「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に作った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、誰も読めなくって。なんて書いてあるんでしょうね」 「『海…少………木……、……ニ…ル。』…駄目だな。メローネなら読めるんだろうが…オレじゃあ少ししか無理だ」 「この文字が読めるんですか?」 「ああ、行った事はあるから少しはな。こいつは日本語だ」 「日本語…ですか?」 「オレんとこの世界の国名だな。まぁ文化的に東から来たと言えばそうなる。 …こっちじゃあ見ない色だったから珍しいと思っていたが、オメーの髪と目の色はひい爺さんから受け継いだもんだろ」 「は、はい! どうしてそれを?」 「日本に住んでるヤツらは基本的にその色だ」 再び寺院に戻り、プロシュートは『竜の羽衣』に触れると左手のルーンが反応して光り出した。 「なるほどな…確かにこいつも武器には違いないか。しかし…便利っつーか無茶苦茶っつーか何でもアリだな」 操縦法やシステム、構造まで瞬時に理解できたのだが、何故飛ばなかったかということまでは分からない。 「ベイビィ・フェイスを燃やすんじゃあなかったな。…いや、メローネが居ないのに制御できるわけねぇか」 壊れているのなら、『息子』にパーツを作らせようかと思ったが、スデに終わった事なのでそんな事を考えても意味は無い。 散々探り燃料タンクを開くと、飛ばなかった原因が判った。 「そりゃあ飛ぶわけねーな。残量『ゼロ』。ガス欠ってわけだ」 「ゼロって…何が入ってないの?」 「燃料、こいつの場合ガソリン…まぁこっちで言う風石が無いってこった」 「それじゃあ、そのガソリンってヤツがあれば飛ぶのね?」 無言でそれを肯定すると遺品を取りに行っていたシエスタが戻ってきた。 その古ぼけたゴーグルを受け取る。あのゲームでも確かこんな感じのゴーグルを着けていたはずだ。 「ひいおじいちゃんの形見、これだけだそうです 日記とか、あればよかったんですけど、残さなかったみたいで。ただ、父が言っていたんですけど、遺言を遺したそうです」 「まぁ、下手に遺書にされて日本語で書かれて読めないとかじゃあ話にならないからな」 「それで遺言なんですけど、あの墓石の銘を読めるものが現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにと」 「全部読るわけじゃあないが、一応その権利はあるってことか」 「管理も面倒だし……大きいし、拝んでる人もいますけど、村のお荷物らしいんです。少しでも、読めるって言ったら、お渡ししてもいいって言ってました」 「ガソリンをどうにかしない事には荷物には変わりないんだが…何時か使う機会があるかもしれねぇし、ありがたく貰おう。オメーにもまた貸しができたな」 「それじゃあ、それが飛んだらそれに乗ってこの村に来てください。 あ、それともう一つ、『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです」 「そういや、日本にも確か『テンノー』ってのがいたな。まぁ多分それだろ」 「ひいおじいちゃんは、『竜の羽衣』は二つあって、一つはこの村に。もう一つは日食の中に消えたって言ってました」 「消えた…?こんな目立つもんなら他に見付かってるはずだが…日食か…可能性はあるな」 「へ?どういう事ですか?」 「消えたって事は、日食の中に向かって飛べば、イタリア…いや地球に戻れるかもしれないって事だ。まぁ日食なんざ、そうそう起こるもんじゃあないが」 それを聞いてからシエスタが後悔した。『竜の羽衣』が飛び、日食が起これば戻ってしまい二度と会えなくなるかもしれないのだから。 ルイズもルイズで結構テンパっている。 最後の最後で帰還手段かもしれないものが見付かってしまっただけに、どう反応していいのか分からないでいる。 (え…?帰っちゃうの…?) 思考が少しばかりアレになるが、日食が来る時がまだ分からないので何とか持ち直し、とりあえずシエスタの家に行く事になった。 その日、プロシュート達はシエスタの生家に泊まることになった。貴族の客をお泊めすると言うので、村長までが挨拶にくる騒ぎになった。 シエスタの家族を紹介されたのだが…何故か、シエスタの弟達から『プロシュート兄ィ』と呼ばれるハメになった。 ペッシやデルフリンガーから兄貴と呼ばれてはいるが、昔、イタリアで暮らしていた時の家族構成では一番下だったりする。 弟分の面倒を見る事は慣れているが、本物の弟の扱いには慣れていないので 正直言うと撤退決め込みたかったのだが、ベイビィ・フェイスの負い目があるので、とりあえず相手した。 だが、相手をしている姿を他3人に思いっきり見られている事に気付いた時には、天井にブチャラティが居た時の気分になった。 「……なに、全員でこっち見てやがる」 「…い、いや、凄く馴染んでるなーと思って」 「その、たまに見せる意外さがたまんないのよね」 「長兄」 一瞬、全員老化させて忘れさそうかと思ったが、さすがに久しぶりに家族に囲まれ幸せそうなシエスタを見て空気を読んだ。 (オレも結構丸くなったもんだな…) そう思うが、ルイズが聞いたら 「まだ十分すぎるぐらい尖ってるわよ」 と言われる事間違い無しなのだが。 適当に相手し終えると、外に出てシエスタが話していた草原へと向かった。 まぁ特に何もする事が無かったし、身の振り方も考えて起きたかったからだ。 夕日が差す草原の中、一人腕を頭の下に組みそこに寝転ぶ。 「しかし、日食か…自然現象頼りってのが痛し痒しってとこだな」 地球でも十年単位でしか見る事のできない現象なのが辛いところだった。 まして、天文学なぞが存在するかどうかすら怪しいここでは、次に日食が起こる時期すら分かったものではない。 星間連動の結果起こる現象なので、どう足掻こうとそれが変わるものではないため、半分は諦めかけていたが、すぐにそれを否定した。 「どうにも、この事になると違和感があるな…」 その原因が分からないのがイラつくとこだ。 「ここにいたんですか。お食事の用意ができましたよ。弟達もプロシュート兄ぃと一緒に食べたいと言ってます」 クスクスと笑いながら後ろからシエスタが声を掛けられるが その服装は、いつものメイド服と違う、茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツという格好だった。 「懐かれるようなガラじゃあないとい思うんだがな…」 まぁ職業暗殺者であるからしてそうなのだろうが、どうもルイズ達の影響を受けて雰囲気というか滲み出る気配の質が変わったらしい。 イタリアに居た時なら多分泣かれてもおかしくはないのだが こっちに来てから、殺した事はあれど状況で殺ったという事だ。仕事として暗殺をした事はない。 そのせいなのだろうとは思うが、あまり納得したくないのが本音だ。 「そんな事ないですよ?わたしも、色々と助けてもらってますし」 一瞬だが保夫やってる姿を想像して頭痛がした。どう見てもそんなキャラはしていない。 そんなのはペッシあたりが適任だと本気でそう思った。 「この草原、とっても綺麗でしょう?わたしも一緒に横になっていいですか?」 無言で、肯定しながら沈みかけている夕日を見る。 しばらく、無言の時間が続いたが、少しばかり言いにくそうにシエスタが口を開いた。 「……もし日食が起こったら…やっぱり元の世界に帰っちゃうんですか?」 「帰れるかどうかは分からねぇが試す価値はある」 「…誰か待ってる人でもいるんですか?」 少し考えたが、ルイズにも話している事だと思い話す事にした。 「生き残った仲間が居るが…こっちに来てから大分時間が経ってるからな… 全員くたばってるか、生き抜いて栄光を掴んでるかのどっちかだろうが…栄光を掴んでいたとしても、そこにオレが入る資格は無いな」 「それなら、帰らずにこの世界に居ても… 父も、ひいおじいちゃんの国を知っている人と出会ったのも何かの運命だろうから、よければこの村に、その…住んでくれないかって」 シエスタがそういい終えると、プロシュートが寝ている周りの草が音をたて枯れ始めた。 「結果がどうあれ、それを最後まで見届けないってのはオレ自身の心が『納得』できねぇんだよ。 万が一、あいつらが全滅してた時は、敵討ちって殊勝なもんでもないが…チームの最後の一人として報いを受けさせる必要がある」 周りの草が枯れている様子を見て、唖然としているシエスタに構わずさらに話を続ける。 「それに、こいつは周りの生物を無差別に老化させ朽ち果てさせる力だ。本来ならオレの周りに人が居ていいはずがねーんだよ」 氷という抜け道はあるが、無差別である事は変わり無い。パッショーネに入団し暗殺チームに属していなければ未だ一人だったろうと思う。 草を枯れさせる中、これで、シエスタが逃げるなりしてくれればいいと思い、周りを老化させているのだが…手をシエスタに握られた時は、さすがに焦った。 広域老化ではないが直で枯れさせている。直はグレイトフルデッドの手で触ったものが瞬時に老化させられる。 つまり、本体であるプロシュートの手を掴めば、少なからずその影響は出る。 「何やってんだオメーはッ!」 老化を解除するが、人間なら僅か数秒で寿命一歩手前まで追い込む直触りだ。 解除すれば姿は元に戻るとはいえ、髪や歯などの戻らないものも当然ある。 「………ふぅ…周りに人が居ないなんてことないじゃないですか」 「…無茶しやがる…髪や歯が抜けるだけならまだマシな方だが…下手すりゃあ死んでんだぞ」 元に戻ったシエスタを一瞥するが、髪や歯が抜け落ちた様子は無い。 老化させた事はもう数え切れないが、老化中に氷も持たず直に自ら飛び込んできたヤツは初めてだ。 その行動に今度はプロシュートが唖然とする番だったが、そこをシエスタに小突かれる事になった。 「……ッ」 「プロシュートさんはもっと『自信』を持ってください! わたしを二回も助けてくれたじゃないですか…人を助ける事ができる力を持った人の側に誰も居ないって事なんて無いんですから」 その言葉にまた、沈黙が続いたが、今度はプロシュートがそれを破った。 「クク…ハハハハハハハハ!」 笑った。パッショーネに入団してからは無かったが、ここに来て久しぶりに本気で笑った。 チームのヤツらと居るときも笑った事はあるが、ここまでは無い。 まして、ハルケギニアに来てからは薄く表情に出した程度だ。『魅惑の妖精亭』のアレは営業スマイルなので数に含まれてはいない。 シエスタもシエスタで面食らっている。今までの行動からして、まさか笑われるとは思っていなかったからだ。 「その…す、すいません…わたし、何か拙い事を言ってしまったんじゃ…」 「ハハ…いや…まさかオメーに『自信を持て』なんっつー事を言われるたぁ思わなかったからな」 ペッシにもルイズにも言った言葉が、自分に向けて。しかも、最も戦いと掛け離れたシエスタに言われるとは思いもしていなかった。 一頻り笑った後、笑った姿を見て、心なしか少しだけ明るくなった声でシエスタが答えた。 「もし…もしですよ?日食の中に入っても戻れなかったり イタリアって所に戻って『納得』する事ができれば、この世界に戻ってきてくれますか?わたし、何もできないけど待つことぐらいはできますから」 「日食で戻れなかったとしても、戻る事を諦めるわけはねぇし、戻ったらこっちに来る方法が無いからな。そいつはオレよりルイズに言ってくれ」 「それでも、待ってますから」 「アテが無いのに待たれても困るんだが…まぁそいつはオメーの自由だ。好きにしろ」 「そう言えば、さっき学院から伝書フクロウが届いて、サボりまくったものだから 先生方はカンカンだそうですよ?ミス・ヴァリエールやミス・ツェルプストーは顔を真っ青にしてました」 「タバサの鉄仮面っぷりはリゾットといい勝負だな…一度会わせてみたいもんだが…日食が起こったらあいつを連れて行くか」 「そそ、それなら、わ、わたしを連れて行って、く、ください!」 「…本気にするとは思わなかったが、冗談だ。他の世界のヤツを連れてく程、堕ちちゃあいねぇよ」 「え、あ…そうですよね!冗談ですよね、驚かせないでください。わたしの事も書いてあって 学院に戻らず、そのまま休暇をとっていいですって。そろそろ、姫様の結婚式ですから。だから、休暇が終わるまで、私はここに居ます」 「アレはオメーの家のもんだからな。ガソリンをどうにかしたら、飛んできてやるよ」 「『ゼロ』でしたっけ、その時はわたしも乗せてくださいね」 「そいつに関しては…まぁ一応約束はしといてやる」 シエスタは先に戻ったがプロシュートはまだ残った。 「……3秒やるから出て来い」 そう言うと、草原からルイズが顔を出した。 「…いつから気付いてたのよ」 「そりゃあ、最初からだ」 うぐ、と言葉が詰まり何も言えなくなる。 最初からというと、プロシュートとシエスタが草原に横になっているのを見つけた時からという事だ。 「……それじゃあ…なんで、今まで何も言わなかったのよ」 「用があるなら出てくると思ってたが、出てこなかったんでな。それで放っといても出てこねぇから呼んだってわけだ」 「気付いてるなら、言いなさいよ…わたし一人バカみたいじゃない…」 「しょお~~がねぇだろ、オレはリゾットみてーに洞察力が高いわけじゃあねぇんだからな」 また、『リゾット』という名前が出て、前々から名前だけは聞いていただけに、プロシュートの仲間がどういう人達なのか聞きたくなった。 「ねぇ…前から言ってるあんたの仲間の事教えなさいよ。べ、別に深い意味は無いわよ!ちょっと気になっただけなんだから」 「ま…どうせ、あいつらはこれねぇからな。そうだなまずは……」 出来てるんじゃあないかともっぱらの噂のソルベとジェラード。 『しょぉおお~~~がねぇ~~~なぁ~~~』が口癖でスタンドの使い方を最も良く知っているホルマジオ。 鏡の中に入る事ができ、能力的にはほぼ無敵を誇るイルーゾォ。 自分の弟分で、スタンドは強力だが、まだまだ精神的にマンモーニなペッシ。 趣味は変態的だが、情報処理と追跡能力に関しては皆に頼られていたメローネ。 キレやすく手に負えない事が多いが、その実、仲間のために真っ先に動こうとしたギアッチョ。 そして、自らが最も信頼し、クセのありすぎるチームを纏め、タバサの如く表情を崩さないリゾット。 全員の事を話すと、黙って聞いていたルイズが話し始めた。 「…それで、やっぱり日食が起こったら…帰るの…?」 「そりゃあな。聞いてたとは思うが、試すだけの価値はある」 「…帰って何があるのよ…!仲間が生きてたら、姿を消すんでしょ!? 全員…死んでるなら、一人で組織ってのに戦いを挑むんでしょ!?死んじゃうかもしれないのに…何でよ…!」 半泣きでルイズが喚きたてる。 「諦めが悪いんだよ…オレはな。つーか何でオメーが泣く必要があんだ」 「あ、あんたはわたしの使い魔なんだから、心配するのは当然じゃない…!」 「少なくとも日食が来るまでは居てやっから泣くな。このマンモーニが」 「…マンモーニって言わないって約束したじゃない。なにもうあっさり破ってるのよ、馬鹿ハム」 「ウルセー、マンモーニにマンモーニと言って何が悪い」 「ま、また…!馬鹿ハム!」 「ハッ…!マンモーニのルイズが」 「馬鹿ハム!」 「マンモーニが」 「この…ば……ばばば馬鹿ハムーーーー!躾けてやるーーーーー!!」 「やれるもんならやってみやがれ」 「うるさーーーーーい!ファイトクラブだッ!!」 そう叫んだルイズが鞭を取り出し振り回すが、それを全て避ける。 「よ、避けるなぁーーーーーー!!」 「避けないでどうする。オメーはサボった事でも心配してろ」 その様子を少し離れた場所から、キュルケとタバサが見ていた。 キュルケが何か微笑ましいものでも見るかのような笑みを浮かべながら 「やっぱり、あの二人って、兄妹みたいよね。目的は達成できなかったけど…あたしの入る余地はまだ十分って事よ」 タバサはキュルケを見て、少し考えたが聞こえない程度の小さい声で 「七転八起」 と呟いた。 プロシュート兄ィ ― ヤバイ『アニメルート』へIN! ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/139.html
「……は?今なんて?」 「だから私のダーリンがギーシュと決闘するって言ったのよ」 「そういう事じゃなくて何で貴方の新しいダーリンとギーシュが決闘する事を私に報告するのかしら?ツェルプストー」 「そりゃあダーリンが貴方の使い魔だからじゃないの……」 どこか遠くを見るような目でそう言い放つキュルケに対し (何?さっき打たれたばかりなのに惚れたの?キュルケってもしかしてドM?) と思い、自分の友人がそっち方面であったのかもしれないと思い多少ドン引く が、アブノーマル認定されかかっている事も知らずにキュルケが多少熱を帯びた言葉を続ける。 「そりゃあ急に打たれた時は驚いたわ…今までの彼は私自身や私の家を目当てで優しくしてくれたり甘い事を言ってくれた人ばかり… でも彼は違ったわ…貴族でもないのに私を対等に扱ってくれた初めての人よ…これが燃えられずしてどうするのよ!ヴァリエールッ!!」 もう微熱どころかイタリア・ヴォルガノ島火山より燃え上がっているご様子。 そして完全に放置食らってるルイズ、半分意識が飛んでいた。 「……………って決闘ぉ~~~~!?何プロシュートが?何でギーシュと!?」 そして、数秒送れて肝心の本題に気付く。 「彼プロシュートって言うの…ステキな名前ね…」 完全に自分の世界へ入っているキュルケ嬢。なんかもうルイズの目に『ラリホ~』と言いながら周りを浮かぶ趣味の悪いピエロが見える。 「早くあいつを止めないと大変な事になる…!止めなきゃ!」 (ギャラリーが出来きるであろう決闘で召喚した時にあいつが使った妙な能力を使われたら大惨事になる) という事からプロシュートを止めるという事だったがもう一人の方は 「いいじゃない…平民が勝てないと分かっているメイジに挑む…燃えるわぁ~」 などとキュルケがのたまう。 (駄目だこいつ……!はやく何とかしないと……!!) 一瞬だがそういう思考が頭をよぎるが『決闘』という重大事にそれを後回しにする。 半分トリップキメているかのようなキュルケを後にしプロシュートを探す。 居た。というか凄まじく目立っているためほとんど探す必要も無かった。 ちょ、ちょっと!ギーシュと決闘するってどういう事!?」 「仕掛けてきたのはヤツの方だぜ」 (マズイ…!目が本気だ…!) 「人が大勢居る場所であんな物騒な事しないでって言ったばかりじゃない!」 「誰がアレを使うと言った?対処法がバレると厄介なんでな、使うつもりはねぇ」 授業をロクに聞いてはいなかったが水系統の魔法で氷が作り出せるという事は聞いていた。 グレイトフル・デッドの老化に対して唯一有効な手段である「体温を下げる」 生徒とはいえあの大人数の前で広域老化攻撃を使えばそれがバレる可能性がある。 後の事も考えればそれは避けたいとこだ。 「それじゃあアンタに勝ち目なんてあるわけないじゃない!今すぐギーシュに謝ってきて!」 「無駄だな、ヤツは完全にプッツンキてる。例えオメーが謝ったところでどうにかなるもんでもねぇ」 「ああもう、それじゃ逃げなさい!私から何とかうまく言っといてあげるから!」 「ヤツはオレに決闘を挑むという覚悟があってやってるんだぜ? 一時身を隠したとしても必ず追ってくるだろうよ。だからこっちが先に『やられる前にやる』んじゃあねーかッ!」 プロシュートがそう言い放ちルイズをその場に残し広場に向かう。 「……怪我じゃすまないかもしれないのにどうするのよ!」 だが、ルイズが思い違っている事が三つある。 一つは「グレイトフル・デッドというスタンドの存在」 二つは「プロシュートが一級の暗殺者」 そして三つめ「プロシュートにとっての『やる』は『殺る』」であった事… そして『ヴェストリの広場』 「遅かったじゃないか… 逃げ出してしまってたものかと思っていたよもっとも、逃げたところで無駄なんだけどね!」 「殴られた後が顔に出てるぜ?まぁその方が人気が出そうだがな」 「ぐッ…!平民が貴族を馬鹿にした報い受けさせてやるッ! 僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまい!」 ギーシュが薔薇の造花を振るうと花びらが一枚離れ金属製の人形が一体出現する。 「青銅のゴーレム『ワルキューレ』僕が青銅のギーシュと呼ばれている由縁だッ!」 「その名前ならさっき頭から香水をブチ撒けられた時に聞いたな」 「いつまで減らず口を…!まぁいい、この一体だけで片付けてあげるよ!」 ワルキューレが猛然とプロシュートに突っ込んでいく。 だがプロシュートは動かない。しかし目だけはワルキューレを凝視している。 ワルキューレとプロシュートの距離が2メートルを切りワルキューレが拳を繰り出す。 だが拳が目標に当たりそれを砕く瞬間拳の軌道が瞬時に変わった。 「何ッ!?」 「今の見たか!?」 「ワルキューレの拳の軌道が急に変わったぞ!」 そうギャラリーが騒いでいる間にもワルキューレは両の拳を繰り出すが全て当たる直前に軌道を曲げられてしまう。 「こいつ…!平民のはずじゃないのか!?」 「フン…ノロいな、その程度のスピードじゃあスティッキィ・フィンガースに遠く及ばねー」 自分が最後に戦ったスタンドの名を出しながら性能をS・Fと比較する。 「確かに人間と比べては優れちゃあいるがそれだけだな、特徴としては堅さぐらいか」 そう言い終えた瞬間――ワルキューレが腕と脚と全て弾けさせ砕けた。 「確かに正面装甲は堅いが…関節部はそうでもねーな」 「な…僕のワルキューレに何をした…? 何をしたと聞いているんだ!答えろォォォオオ!!」 「…………」 無言でギーシュを見据えるプロシュート。だが自慢のワルキューレを破壊されたギーシュはそれを挑発と受け取る。 「いいだろう…言いたくないのならそれでいい!嫌でも言いたくなるようにしてやるさ!」 薔薇の造花を振るい6枚の花びらを舞わせ残り全てを出現させる。 ――ギーシュが平民相手に本気になった。そう思った観客が騒ぎ出す (ちッ…六体か) プロシュートのグレイトフル・デッドはそれ自体の拳の射程距離だけなら近距離パワー型に属する。 だがヴェネチア超特急クラスの列車丸ごとをカバーできる老化の射程距離。 これが他の近距離型スタンドとグレイトフル・デッドの差だ。 パワーそのものは近距離型に劣るとはいえある程度のものを有するもののスピードと精密動作性が致命的に劣っている。 それを埋める為の老化だが今回はそれを使っていない。―――つまり ワルキューレの内三体がプロシュートを襲う。 さっきと同じように拳の軌道が変わる、観客達はそう思った。だが結果は違っていた。 ズドォォオオ 一体ワルキューレが吹っ飛ぶ、だが残り二体がその隙を襲う。 片方の攻撃を弾くが、もう片方は間に合わない。 ボゴォ 「うごォっ!」 横からの攻撃を受け吹っ飛ぶ。そしてそれを見たギーシュが勝利を確信したかのように勝ち誇る。 「君のその妙な能力はワルキューレ一体には抗えても複数体だと無理みたいだね その弱点が分かったからには次は残り全てでやらせてもらうッ!土下座するならいまのうちだッ!」 (骨には問題ねぇが…内臓を少しやられたみてぇだな) 立ち上がりギーシュに向き直る、だがその口からは血が出ていた。 「フン、血ヘド何て吐いて神聖な決闘を何だと思っているんだい? まぁ使い魔だけあって少しだけ妙な力があるようだが魔法を使えるメイジに勝てるはずないのさ!」 だが次のプロシュートの言葉はギーシュにとって意外だったッ! 「ハァー…ハァー…それがどうした?」 「何だって…?」 「それがどうしたと言ったんだ」 「この後に及んで強がりかい?みっともないねッ!」 だがそれに構わず言葉を続ける。 「確かに魔法ってのはスゲーもんだ、オレだってそう思う だがなッ!オレが居た場所には空気そのものを凍らせるヤツやあらゆる物体を切断できるヤツなんてのが居るッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ (何だこいつ…!?周りの空気が急に変わったぞ!) 「オレ達チームはなッ!常にそういう連中を相手にしてきているッ! オメーらみてーなマンモーニが使う薄っぺらい魔法なんかと一緒にするんじゃあねぇッ!」 「…ハッタリのつもりかい?だとしたらメイジも甘く見られたものだ。いいだろう!もう手加減なんてのは無しだッ!」 ギーシュが武器を精製しそれぞれのワルキューレに武器を取らせる。 どれもこれもマトモに受ければ良くて重症、悪ければ死に至るものばかりだ。 「後悔する時間も与えないッ!」 残った6体のワルキューレをプロシュートを囲むようにして布陣させる。これでもう逃げ道は無い。 ギーシュの号令を待つように囲むワルキューレ達、観客の誰が見てもギーシュの勝ちは明らかだと思っている。 ルイズがそれを止めようと観客達を押しのけ間に割って入ろうとする。だが遅かった。 「行けッ!ワルキューレ!!」 そう聞こえた瞬間ルイズはその場に立ち竦み己の使い魔がなぶり殺しにされる光景が脳裏に浮かび――倒れた。 その声を合図としプロシュート目掛けワルキューレが殺到する。 だがプロシュートが取った行動は実にッ!意外だったッ! 普通4方から囲まれているなら身を守るのが当然だッ!だがプロシュートは逆に…… 『思いっきり突っ込んだッ!』 一体のワルキューレ目掛け猛然と突っ込む。その先にはギーシュが居る。 「一体だけなら対処はわけねぇからなッ!」 「ば、バカなッ…!」 固まって動かれればワルキューレの層を突破できない、だから自分を囲ませるように仕向けた。 そうして包囲網が縮まる前に一点突破を仕掛ける。それが狙いだ。 グレイトフル・デッドでワルキューレを投げ飛ばす 壊すのは時間の無駄と判断しての事だ。 「くそぉ…来るなァァァァアアア!!」 ギーシュにさっきまでのような余裕はスデに無い。狼狽しながらも魔法を使うべく杖をプロシュートに向ける。 だが当たらない、ギーシュがいくら魔法を撃っても一発たりとも当たらない。 拳銃と同じだ、落ち着いて心を決めていなければ魔法といえども当たるはずはなかった。 後ろから6体のワルキューレを引き連れたプロシュートが迫り薔薇の杖をグレイトフル・デッドでヘシ折った。 「うぁ……あ…ま、参った…」 貴族が平民に負けた、誰もがそう思った。そしてこの決闘が終わったと思った。 否、実は終わってなどいない(古谷 徹の声で) どこからか『倍プッシュだ』というような声が聞こえたが多分幻聴だ。 「参った…そんな言葉は使う必要がねーんだ… なぜならオレやオレ達の仲間が敵と戦った時の決着は」 次の言葉で観客達のほぼ全てが凍りつく 「どちらかが死んじまってるからだッ!だから使う必要がねェーーーーッ! オメーもそうだよなァ~~~~『決闘』を挑んできたんなら…分かるか?オレの言ってる事…え?」 「ひぃ…!こ…殺される…助け…」 だがその言葉は最後まで言えない、グレイトフル・デッドが首を掴みギーシュの体が中に浮く。 「ギ、ギーシュが浮いたぞ!」 「いや…違う!見ろ、首を何かに『掴まれて』いるッ!」 グレイトフル・デッドは見物人達には見えないが何かに首を掴まれている跡だけはハッキリと見えた。 ズキュン! 「何だァーーーーーッ!あれはァーーーーッ!!」 観客達が騒ぎだす。当然だ、ギーシュがあっという間に老人の姿になったのだから…! 「うわぁぁぁぁ!やっぱり…あれは夢じゃあなかったんだッ!『ゼロ』の呼んだ使い魔は…悪魔か何かなんだァーーーーッ!」 そう叫ぶのは最初に巻き込まれた連中だ。それを皮切りに他の者が次々と騒ぎ出す。 ドザァァア ほとんどミイラと化したギーシュが地面に崩れ落ち、周囲から悲鳴や怒号が上がる。 中にはプロシュートに杖を向けている物さえ居る。 だがプロシュートはあくまで冷静に言い放つッ! 「これぐらいの事で騒ぐんじゃあねぇッ!オレがいた世界ではな! 決闘を仕掛けて『参った』なんていう負け犬は居ねーんだからな…」 ピクリとも動かない元ギーシュの首に足を乗せ―― 「『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!」 その言葉と同時に広場に乾いた音が鳴り響びく。この場を見ていない者であれば枯れ木を踏んだかのよに聞こえたであろう。 そして、その瞬間その場に居た者達は理解をする。 仕掛けられた決闘とはいえ貴族を―メイジを顔色一つ変えることなく滅せる者がただの平民ではないという事を。 ギーシュ・ド・グラモン―死亡(頚椎骨折) 二つ名 「青銅」 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/581.html
浮かぶ雲によって太陽が遮られた草原の真ん中で、少女は呆然と目の前の地面を見つめていた。 周りからは先程までの喧騒が消え、異様な静寂で満ちている。 何回も失敗を重ね、他の生徒に嘲笑されながらもやっと「サモン・サーヴァント」に成功した その少女、ルイズ・フランボワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの前には、彼女が今召喚したばかりの使い魔がいた。 しかしその使い魔は、彼女が望んでいたドラゴンやサラマンダーなどの幻獣の類ではない。 また、烏や梟、猫や大蛇などの普通の動物でもなかった。 彼女が使い魔として呼び出したもの、そう、それは―――― 植木鉢に植えられた、一本の『草』だったのだ。 「…………何なのよ、これ」 彼女の呟きは、静寂の中を悠々と横切る風に流されていった。 使い魔はゼロのメイジが好き 第一話 何故使い魔を呼ぶ神聖なる儀式「サモン・サーヴァント」で単なる『草』が召喚されたのか、 そしてこれは、一体何なのかというルイズの疑問は、 「…………ぶあっははははははははは!!」 彼女の召喚を見ていた生徒の一人が発した笑い声によってかき消された。 ガラガラ声で笑い続ける彼はその手でルイズを指さし、可笑しくてたまらないというような声で喋り出す。 「流石は『ゼロ』のルイズだぜ!召喚の儀式でただの草を呼び出すなんてよ!」 その声で我に返ったほかの生徒は、彼に同調するように笑い出す。中には、ルイズに罵声を浴びせる者までいた。 「そうよ、珍しく成功したと思ったらこれだもの」 「使い魔ぐらいきちんと呼べよ、ゼロのルイズ!」 「どういう事だよッ!クソッ!草って、どういう事だッ!魔法ナメやがってクソッ!クソッ!」 「……ちょっと間違っただけよ!失敗なんかしてないわ!」 彼らの嘲笑混じりの罵声に、彼女は耳まで真っ赤にして反論する。 そして後ろを振り返り、儀式の監督を行っていた教師に叫んだ。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しをさせて下さい!」 すると、生徒達の間からローブを纏った頭髪が寂しい男が姿を現した。その表情は困惑しきっている。 彼こそが儀式を監督していた教師、コルベールだった。 「うむ……これは……」 滅多に見ない彼の困った表情を見て、ルイズはもう一度チャンスが貰えるかもしれないという淡い期待を抱いた。 だが、その期待は次の言葉により砕かれることになる。 「いや、それは駄目だ。どんなものを呼び出そうと、召喚だけはやり直す事は出来ない」 その返答に、ルイズは少し苛立つ。やり直せないならどうすればいいのだ。こんな草が使い魔になっても、一体何を してくれるというのだろうか。 いつのまにか出てきた太陽に照らされて、強く輝く彼の頭。それを見るも無残な事にしてやろうか、そんな事を考えている間も コルベールの話は続いていた。 「君も分かっているだろうが、今回呼び出した使い魔で今後の……」 そこまで話したところで、唐突に彼の言葉が止まる。 想像の中で彼の頭の焼畑農業を行っていたルイズも、それに気付いて顔を上げた。 「どうかしましたか?ミスタ・コルベー…」 「み、ミス・ヴァリエール!君、あの『草』に何かしたか?」 その視線はルイズの方には向いていない。ルイズの後ろ、さっき召喚した草の方に向けられていた。 コルベールの顔からはさっきまでの困惑が吹っ飛び、ただ驚きと狼狽の色だけが浮かんでいる。 「『草』ですか?別に私は何もしてませんけど」 急に変わった彼の表情を、彼女は訝しみながら質問に答える。あんな草の何に驚いているんだろう、この人は。 「ならッ!ならあれは何なんだミス・ヴァリエール!答えなさい!」 彼の表情が「驚き」から「焦り」に変わった。まるで、信じられないものでも見たかのように。 その表情に圧倒され、ルイズも後ろを振り返る。半分はこの男に対する呆れの気持ちで、そしてもう半分は恐れの気持ちで。 そして彼女は、本当に信じられないものを見る。魔法を自由に扱うメイジでさえ、思わずうろたえるものを。 後ろを振り返って草を見たルイズ、その鳶色の瞳が瞬時に驚きと困惑、そして恐怖に塗り替えられた。 彼女が呼んだ『草』――――さっきまで確かに萎れて土の上に倒れていたはずの『草』が、起き上がっていた。 言葉さえも出ないルイズとコルベール、そして事の異常さに気付いた生徒達が見守る中、その草はゆっくりと起き上がる。 乾いた地面に水が染み込むように、ゆっくりと、だが力強く。 そして完全に起き上がった『草』は、一度大きく震えると、人間でいう『頭』のような部分を持ちあげる。そこには、猫のような 目と口が存在していた。 不意に、生徒達の一群がどっと崩れた。未知の植物に恐怖した生徒が、この場から逃げ出そうとしたらしい。 逃げようとした生徒と留まろうとした生徒が入り乱れ、たちまち辺りは混乱した。 そんな混乱を愛らしい二つの瞳で見つめながら、この世界に召喚された『猫草』は、そんなの関係ないねとでも言うように 小さな欠伸をして、ウニャンと鳴いた。 To Be Continued...?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/354.html
空が青く、清く、何より広い。 無遠慮な壁に邪魔されることなく、どこまでも高く高く続いていく。 陽が暖かい。豊かな草原が風になびいて波を打っている。 潮代わりの草いきれが流れ、散っていく。 人間はこうした土地に、郷愁や温かみ、開放感に心地よさといった正の感覚を知るのだろう。 一般的なホモサピエンスとはかけ離れた存在である彼にも悪くない場所と思えた。 顎を引き、見渡し、頷く。やはり悪くない。 なぜここにいるのか、その原因は分からない。 ここが地球上のどこかも分からない。 何者かによるスタンド攻撃なのかも分からない。だが、それでも悪くはない。彼にとってはどうでもいい。 草の向こうに巨大な石造りの建物が見える。 テーマパークか。図書館、博物館、見たまま城。刑務所ということはなさそうだ。 退屈な環境ビデオのごとく、稀に見る良い環境だ。 周りを取り囲むは場所柄にそぐわない怪しげな集団だったが、それに怯え竦むことはなかった。 彼は無敵だった。文字通りの無敵だった。「敵」が「無」かった。 短くも長くもない生涯で恐怖を感じたことは一度としてない。 近しい者の死にも、それによって与えられるであろう己の死にも、 客観的な視点で俯瞰から眺め続けてきた。それは今現在も変わらない。 そこかしこから笑い声が漏れ聞こえた。聞き慣れた種類の笑い――これは嘲笑だ。 彼と同じく、集団に取り囲まれた一人の少女に対して斟酌無い嘲りが投げかけられている。 「使い魔」「失敗」「ゼロ」といった単語が四方から飛び交い、もしくは囁かれ、 愛らしい少女は白い頬を朱に染め、大きな瞳をさらに見開き、屈辱に肩を震わせていた。 意味の分からない単語も多かったが、そこにからかいの意思を感じ取ることはできた。 彼にとっては見慣れた光景だ。 何やら怒鳴り返しているところをみると、少女は侮辱に対し侮辱で返しているらしい。 やはり見慣れていた。 しかし集団ということを抜きにしても相手方の優位は小揺るぎもしないらしく、 少女の怒鳴り声は集団の上を空しく通り過ぎていくだけだ。 ここまでくると、もはや見飽きている感がある。 少女を含め、皆が皆似通った格好をしていた。 安物囚人服ではない。かなり上等な……学生服だろうか。 ただ一人の年長者である禿げかけた中年男性は、 ものものしい木の杖に前時代的な黒いローブを纏い、 まるでおとぎ話にでも登場する魔法使いのようだった。 眼と耳から手に入った情報を照合し、状況を読み取り、ここで彼は合点がいった。 なるほど、見飽きた光景だったわけだ。 ここはいわゆる新興宗教で、彼らはその少年信徒といったところか。 目の前の少女は、儀式か何かに失敗して笑われているらしい。 信仰をささやかな心の拠り所にするのは大いに結構。 だが、宗教そのものを心の全てにしてしまっては本末転倒だ。 かつて大切にしていたはずの人間関係は磨耗し、やがて消えてなくなる。 胴欲かつ青天井のお布施乞食に吸い上げられて金が無くなり、 信じる物以外の全てを捨てて時間も失い、教団の意向次第で唯一無二の生命さえ奪われる。 そこまでして尚、誰から感謝されるということもなく、教祖は笑い、妄執を捨てず、 誰のおかげでもない、自分が偉大だからこの世は動いているとうそぶき、ふんぞり返る。 何もいいことはない。幸せを掴むためにはもっと他にすべきことがある。 といった意のことをわめきたてたが、彼の声はあえなく無視された。 ためになる助言に聞く耳を持たないとは狂信者にありがちなことだが、 聞こえないふりにしては出来過ぎている。 目前まで全力移動してから緊急停止などといったことを試してみるが、それもまた無視された。 喋り過ぎだと叱責されたこともある声を張り上げ、周囲を旋回してみるが、 彼に注意を払うものは、少女を含めて一人としていない。 彼を見ることができる才能の持ち主はこの場にいないようだ。困ったことになった。 少女は人垣に怒鳴り返すのをやめ、今度は中年男性に食ってかかっていた。 桃色がかった柔らかな金髪が持つ印象に反し、何かと攻撃的に生きている。 そのなりふり構わぬ姿勢は周囲のさらなる失笑を買い、 それにより少女はますます必死になっていった。 中年男性はその他野次馬連中とは違い、それなりに同情的であるらしい。 チャンスは一度ではない。二度でも三度でもない。 五度でも六度でも成功するまでやればいい、と慰めともつかない慰めをかけ、 とりあえず授業を終了する旨を宣言した。 これは単なる儀式ではなく、授業の一環であったようだ。つまり宗教学校ということか。 彼にもいまいち得心がいかなかったが、それどころではないことが起きたため、 疑問は彼方へ吹き飛んだ。 中年男性――年齢や立ち振る舞いからいっておそらくは教師――の号令一下、 少年達――ということは生徒だろう――は宙に浮いた。そう、生身の人間が宙に浮いた。 大きな口をさらに大きく開け、半ば呆然と彼が見送る中、ある者は黙ったまま、 ある者は友人と談笑し、ある者は残った少女をからかいながら、石造りの建物に向かって飛んでいく。 ワイヤーもクレーンもタネもトリックもない。 自分達が仕出かした奇跡を特別視する様子もない。 ごく自然な、当たり前の、家常飯事、日常所作、息を吸って吐くのと同じように、空を飛んでいく。 あとには大口を開いて見送る彼と、笑いものになっていた少女が残された。 少女は遠ざかる背中の一群を睨み、ふと目を逸らし、だがもう一度睨みつけ、 今度は目を伏せ、ため息とともにもう一度目をやった。 今度は睨みつけてはいなかった。 空飛ぶ旧友達の最後の一人までが建物の中に納まるまで目を離さず、 自分以外の動くものが見えなくなってからようやく動き始めた。 右手を開き、閉じ、開き、閉じ、開き、じっと見る。 再び出かけたため息を噛み殺すとともに奥歯を噛み締め、 空を飛ばず、右足と左足を交互に動かし、確かな足取りで前へ進む。 「あ、チョット待ちナー」 我に返り、彼は制止しようとしたが無視された。やはり聞こえていない。 「待てっつてンのにヨーッ。ドーなっても知らねーゾ」 声は届かず、物理的に干渉する手段を持たない以上、黙って見送るしかなかった。 少女は一歩、二歩、三歩進んだところで「凶」を踏み、 そこから四歩、五歩、六歩、七歩いったところで石につまずき前へのめった。 両手と膝をつき、ギリギリで顔面による着地は防いだが、 どうやら膝をついたところに石が顔を出していたらしい。 「アーア……やっちまっタ」 不意の痛みに涙を浮かべ、その一滴を拭うために顔へ手を伸ばし、 頬に掌が触れたところでようやく気がついた。が、すでに時遅し。 「マ、コレでウンがついたってトコジャネーノ?」 愛らしい容姿に似つかわしくない、怒声とも悲鳴ともつかない叫び声をあげたが聞く者はいない。 少女が八つ当たりをしたくても相手はいない。 怒りと苛立ちを押し殺し、ハンカチでこすり、頬と掌に付着した獣糞を拭うのがせいぜいだ。 大変に気の毒だが、彼は同情できるだけの心的余裕を持たなかった。 少女の叫びや八つ当たりと同様に、彼の忠告を聞く者もいないのだから。 これは存在意義にもかかわる重要な問題だ。 去り行く少女を横目に、周囲を見渡す。辺りには何も無い。 草、草、草、草、そして石造りの建物があるだけだ。 少女――ゼロのルイズと呼ばれていた――に目を移し、そのまま止めた。 少し悩んだフリをして、ドラゴンズ・ドリームはルイズの後を追いかける。 龍の夢は未だ覚めず。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1378.html
翌日、『竜の羽衣』こと零式艦上戦闘機を学院に運ぶべくシルフィードで学院に戻り オスマンに竜騎士隊を手配してもらいゼロ戦を運んだのだが それを見たコルベールが妙にテンパった様子で頭を…もとい顔を輝かせて『ゼロ戦』に寄ってきた。 ちなみに輸送代はギーシュの遺産+オスマンに負担させた分で全額出したので問題無い。 彼の生き甲斐は研究と発明であり、ドラゴンに運ばれてきたゼロ戦を見て、好奇心を刺激されスッ飛んで駆けつけてきた。 息切れしながら走り、ただでさえ少ない髪の毛がヤバイ事になってるのも気にしない。 「き、きみ…これは…一体何だね!?」 汗まみれの顔で質問攻めにしてくるので非常に鬱陶しい。いっその事老化させちまおうと思ったのだが その心を読んだ他の三人が悲しそうな顔をしているので止めた。 やはり、これ以上髪が減るのは見るに耐えないらしい。 「…この前、言ってたエンジンを積んでるやつで、オレんとこじゃあ、飛行機ってやつだ」 「ひこうき…?飛行というからにはこれが飛ぶというのかね!?詳しく説明してくれたまえ!!」 顔を寄せてくるコルベールをスタンドで阻む。弟分でもないオッサンの顔を至近距離で見る趣味は無い。 「そうだが…それ以上寄ると毛を抜くぞ、てめー」 ~5秒後~ 「調子乗ってスイマセンでした」 綺麗に土下座するコルベールの姿がそこにあった。 「次、その顔で寄って来たら全滅させっからな…」 スーツに中年の汗が付くと言うのは非常に避けたい事なのでこっちもこっちで結構必死だ。 土下座を終え顔を上げると、ゼロ戦の近くに寄りあちこちを探り始めそこからまた質問攻めを始めた。 「いや、ホントすまなかったからそれだけは…それでこれは羽ばたくようにできていないが、どうやって飛ぶんだね!?」 「エンジンでそこのプロペラが回って推力を得て飛ぶ」 「なるほどよく出来ておる!私の作ったエンジンでも、これと同じものが飛ぶようになれば…」 半分陶酔したような顔をしているコルベールに三人娘が引いているが当の本人は気にしていない。 「では早速飛ばして見せてくれんかね! ほれ! もう好奇心で手が震えておる!」 もうスデに彼の頭の中ではゼロ戦と自分が作ったエンジンを積んだ飛行機が大隊を組んで飛行している姿が映っているらしい。 今にも「バンザーーーーーイ」と叫んで何かに特攻しそうだったが、とりあえずガソリンが作れるかどうかを言う事にした。 「その為の燃料…風石みたいなもんなんだが、ガソリンっつーもんがねぇと飛ばねぇんだよ、そいつは」 「ガソリン…なんだね?それは」 今にも『しぶいねぇ…』と言いたげな顔のコルベールを無視し、ゼロ戦の燃料タンクを開き 固定化のおかげで化学変化を起こさずに僅かに残っていたガソリンの臭いをかがせた。 「ふむ…嗅いだ事のない臭いだ…温めなくてもこのような臭いを発するとは…… 随分と気化しやすいのだな。これは、爆発したときの力は相当なものだろう」 「火気厳禁だ。仮にこのタンクが満タンで、そこに少しでも火が入ると、この周りが吹っ飛ぶ」 「私が作った愉快なヘビ君に使ってた油では駄目なのかね?」 「ありゃ駄目だな。オレんとこじゃ石油っつーやつから精製したモンがガソリンになるんだが。こっちに石油はあんのか?」 「石油とだけ言われてもな…どういったものなんだね?」 「化石燃料…だったな。地下に埋まってるモンで『粘り気のある黒い液体』ってとこだ。もちろん燃えるが…そのままだと煙とかがスゲーって聞いたな」 一方こちら三人娘。科学的話をされてもサッパリ分からないので完全に放置食らっている。 「……今日の晩ごはんなんだろ」 「……よく、あの臭いをかいだ後でそんなこと言えるわね」 「……はしばみ草!」 「黒い燃える液体か…自然に湧き出したりするものかね?」 「普通、掘って採掘するもんだからな…無いとはいえねぇだろうが」 「とりあえずサンプルを採って私の研究室に来たまえ。それと…君達三人は分かってるだろうね?」 コルベールが妙に体を捻らせ三人を指差しつつ、ズキュゥゥゥゥンというような音を出しながら、三人娘に窓拭きを命じた。 研究室は本塔と火の塔に挟まれた一画にあった。お世辞にも綺麗とは言えない。むしろボロいという表現が適切な掘っ立て小屋である。 「自分の部屋では追い出されてしまってね」 そう説明されるが、この臭いだ。そりゃあそうだろうと思う。 回りを一瞥するが、、本棚や天体儀はまだいい。オリに入ったヘビやトカゲなどがいて、妙な異臭が漂いそれに顔を顰めた。 「なあに、臭いはすぐに慣れる。しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく、この通り独身なんだがね」 「ヤローでも慣れたくねぇよ…で、ガソリンなんだがどうにかなりそうか?」 「難しいな…石油というのがあれば錬金できるかもしれないが…それに近いものでもいい」 「化石燃料っつーぐらいだからな…こっちに石炭はあんのか?石炭も化石燃料のはずだぜ」 「石炭か…それなら用意できる…おもしろい!調合は大変だがやる価値はあるな!」 「頼む」 「しかし、東の地の技術は素晴らしい…私も何時の日か行ってみたいものだ」 「期待させたようでわりーが、こいつぁ別の世界の技術だ」 東の地という事で通してもよかったが、ガソリンの精製をやってくれる者に偽りで通すのは、恩を仇で返す事になる。 リスクはあるが、他のヤツにベラベラと話すようなタイプでもあるまいと判断し事実を話す事にした。 「別の世界…なるほど。確かに君が取ったミスタ・グラモンへの言動、行動、そしてその能力。その全てが我々ハルケギニアの常識から掛け離れている」 「あのマンモーニか…あいつにオレを平民だからっつーナメた理由で、殺す気があったからな。 悪いが見せしめも兼ねて始末させて貰った。ここのマンモーニどもじゃあ、ああでもしねぇと後が鬱陶しい」 ぶっちゃけ、コルベールの耳が痛い。彼自身はそうでもない方だが プロシュートが召喚されたとき、やり直しを要求したルイズを突っぱねて契約させたという理由がある。 貴族がいくら神聖だの、重要だの言ったところで、呼ばれた方からすれば、いきなり拉致され一方的に奴隷契約を結ばれるようなものだ。 命を救われたという恩義があったからよかったようなものの、そうでなければどうなっていたか分かったものではない。 魔法学院、下手すればトリステインは今頃老人の死体だけという事もありえただけに、少々背筋が寒くなった。 『炎蛇』の二つ名を持つコルベールであるが、何故か、過去に捨てたはずの軍人としての本能が『悪魔憑き』の能力の前には歯が立たないと警告している。 火を出した瞬間、死亡確定だからなのだが、体温の上昇で老化速度が変わる事はコルベールには知りようの無い事だ。 そう考えているコルベールを射抜くような目で見ているプロシュートに気付いたのか、話を戻す。 「私は、周りから変わり者だの、変人だの言われていて、未だに嫁さえこない。しかし…このコルベールには信念がある!」 いい年こいたオッサンが15の少年のような目をして熱く語り始めている姿を見て少し引いたが、言ってる方は構わず話を続ける。 「ハルケギニアの貴族は、魔法をただの道具……それでも使い勝手のいいような道具ぐらいにしかとらえておらん だが、私はそうは思わないのだよ。魔法は使い方次第で変わる。伝統や既存の考えに拘らず、様々な使い方を試してみるべきだとね」 それを聞いて、なにかわからんがコルベールが未熟ながらもエンジンを作れた理由を納得した。 能力の応用という、ここにおいては珍しい事ができる存在。 スタンド使いが最も必要とさせられる能力。それをコルベールは持っていた。 「能力の応用…ホルマジオがよく言ってる、くだるくだらねーは使い方次第って事だな」 「やはり君は別の世界の人間のようだね。そのホルマジオ君という人にも会ってみたいものだよ」 「……そいつぁ無理だ」 「別の世界だからなのだろう?分かっているよ。だが何時の日か君の世界との道を「違う」」 ちょっとトリップしているコルベールの言葉を遮る。 「……そいつはもう死んでるんでな」 「………拙い事を聞いてしまったようだね」 「気にするこたぁねー。…『覚悟』の上での結果なんだからよ」 組織から離反した事を後悔など微塵もしていない。 そんな事をすればホルマジオとイルーゾォの覚悟を汚す事になる。 「それで、ガソリンの他にもう一つ頼みてぇ事があるんだが…日食って何時起こるか分かるか?」 「日食…か。前に起こった時期を調べれば大体は特定できるだろうが…余裕があれば調べてみよう」 「つ…疲れた…」 よろよろとベットにボテっとルイズが倒れこむ。 そりゃあ学院の窓拭きやっていたのだから疲れも溜まるというものだ。 もちろんプロシュートは生徒でもないので、そんな事は知ったこっちゃあない。 「姫様の結婚式までもうすぐなのに…詔も考えなくちゃいけないのに…どうしよう」 「つまり、まぁ何も思いつかなくてヤバイってわけか」 ぶっちゃけ、どうでもいいため殆ど聞いていない。 「そうなんだけど…なにも思いつかないから困ってるのよ」 どうでもいい。と言おうとしたが、そんな事を言えば確実にこじれるので一応聞く事にした。 「じゃあ、考え付いたとこだけ言ってみな」 その後、ルイズが前文と各属性への感謝を読み上げるが 「そりゃ詩じゃなく、形容詞や諺だろ」 という突っ込みにあえなく爆沈させられたのは割愛させていただく。 ベッドに倒れたまま、床に藁の上に布を重ねた即席布団で寝ているプロシュートにルイズが尋ねた。 ちなみに、ベッドに寝ていいと言ったが 「んな事できるか」 の一言に一蹴させられている。 「組織ってとこで…何やってたの…?」」 「…どうしても聞きたいってのなら教えてやらねーでもないが…後悔すんなよ?」 「わたしは、あんたの使い魔なんだから…そのぐらい知っておく義務があるのよ」 少しばかり躊躇ったが、きっぱりと言った。 「暗殺だ」 「…あ、暗殺って…こ、殺すやつよね…人を」 「そりゃあな」 暗殺という言葉にビビったが、よくよく思い出してみれば 『ブッ殺すと心の中で思ったなら』発言などがあるために真実味があった。 「な、何で…そ、その…暗殺なんてやってたの…?」 「あそこで、生きるための手段だ。別に趣味でやってたわけじゃねぇよ」 趣味では無いと聞き安心したが、やはり殺しである事に少しだけ嫌な感じがする。 「それで、組織に信頼を裏切られて離反したんだったのよね…逃げようとは思わなかったの?」 「そこで逃げるようなヤツなら暗殺チームなんぞに属してねーよ。 殺すっつー『覚悟』を持ってるからには殺されるかもしれねぇっていう『覚悟』も持ってなけりゃあいけないんだからな…」 「…元の世界に帰っても…暗殺とか…するの?」 「さぁな、ボスが生きてたら報いを受けさせるために殺るだろうが…それが終われば、他人の命令で殺す気にはなれねぇな」 当然、リゾット達が生きていても、それに加わる気は無い。 そう言うとルイズがベッドから降り、即席布団の上で腕組んで寝ているプロシュートの横に寝てきた。 「狭いんだが、何やってんだ」 文句に答えずに、怒ったような声で続ける。 「わたしが、帰らないでって命令しても…帰るの?」 「あいつらは仲間通り越して家族みてーなもんだったからな。日食が来る時期が分かんねー。来れば、そん時決める」 「家族か…そりゃあ帰りたいわよね…」 自分とて家族、特にカトレアの安否が不明になればスッ飛んで駆けつけるはずだと思う。 だから、それ以上何も言えなかった。 しばらく沈黙が続いたが、片方が口を開いた。 「ま…オメーもペッシみてーなもんだからな」 要は弟分扱いなのだが、兄貴属性的に未熟な弟分を放って帰るってのもどうかと思い始めている。 短期間で成長させられればいいのだが、経験上それがそう巧くいかない事をよく知っているため、結構悩むところである。 ペッシ=マンモーニ扱いされた事により何らかのリアクションがあるかと思っていたがルイズはスデに夢の世界に突入して子供のような寝息を立てていた。 「……このマンモーニが」 ペッシと違うのは、ギャング的説教で叩き込めれないとこだ。 ギャング世界に漬かりきっていたため、それを封印して成長させるとなると結構な事だった。 数日後 トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号がラ・ロシェール上空に艦隊を率いて布陣していた。 艦隊戦を行うわけではない。新生アルビオン政府がゲルマニア皇帝とアンリエッタの婚礼に出席する大使を乗せた艦隊の出迎えに出ているのである。 「やつら遅いではないか。艦長」 そうイラついた声で呟いたのは、艦隊総司令『ラ・ラメー』 「獅子身中の虫ですからな。虫は虫なりに着飾っているのでしょう」 そう返すのは『メルカトール号』艦長フェイヴス。この男もアルビオン嫌いで通しているため似たような状態だ。 「左舷上方より艦隊接近!…確認しました。アルビオン艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』級…『レキシントン』です」 鐘楼に登った水平の報告に、ラ・ラメーと艦長がそちらを見ると、巨大な艦が後続艦を引きつれこちらに降下してきていた。 「あれが『ロイヤル・ソヴリン』か…なるほど、あの艦を奪われたのでは王党派が太刀打ちできんわけだ」 あえて、現在の艦名であるレキントンとは言わないのが彼なりの意地である。 「戦場では会いたくないものですな…こちらの戦列艦が小型艦艇のようにしか見えません」 「正面からぶつかればな…そうでなければ、やりようはある。……もっとも今砲撃されれば成す術は無いが」 「は…?今なんと?」 「いや、ただの杞憂だ」 砲撃云々の部分は、聞こえない程度の呟きだったのでフェイヴスには聞こえていない。 そこにアルビオン艦隊の旗流信号を確認した水兵が内容を報告した。 「レキシントンより旗流信号を確認しました。『貴艦ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長』以上です」 「こちらは提督を乗艦させているというのに、艦長名義での発信とは…」 「あの艦があるにしろ…元々我が艦隊とアルビオン艦隊では 空挺戦力に差がありすぎるのだから仕方あるまい。返信だ。『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令長官』、以上」 『メルカトール』のマストに旗流信号がのぼるとアルビオン艦隊から大砲が一定の間隔を開け放たれた。 儀礼用の空砲だが、その空域の空気を震わせるのは十分だ。 「…よし、答砲だ。順に7発」 「よろしいのですか?最上級の貴族なら11発と決められておりますが」 「向こうは、艦長が旗流信号を出してきたのだろう?司令長官でもないのに11発撃つ必要はあるまい」 くだらない意地と言えばそうだが、フェイヴスもそれが気に入ったのかにやりと笑ってラ・ラメーを見つめると命令を出した。 「答砲用意!砲数7発、順次射撃!準備出来次第撃ち方初め!」 「ハルケギニア中に恥を晒す事になる…か」 そう低く呟くのはレキシントン号艦長ボーウッドだ。 正直、この作戦には乗り気ではないのだが、軍人である自分には命令に拒否権は無い。 まして、戦死したはずのウェールズもそれに関わっているとなると… 艦隊司令長官のサー・ジョンストンが何か喚いているが聞いていない。 実戦経験の無い司令長官など飾りもいいとこである。空なら自分がルールブックだ。 「左砲戦準備!気付かれるなよ」 「Sir!Yes Sir!左砲戦準備!」 それと同時に、轟音が鳴り響きトリステイン艦隊より答砲が放たれる。 「作戦開始だ!『ホバート』号乗員は速やかに退避!退避が完了し次第『ホバート』号を自沈させよ!」 その瞬間軍人の顔に変化した。ここまでくれば後戻りは出来ない。そうなればただ、作戦を遂行するのみである。 答砲を発射しているメルカトール号の艦上が騒がしくなる。 アルビオン艦隊、最後尾の旧型艦が炎上、轟沈したからだ。 「旗流信号を確認しました!『『レキシントン』号艦長ヨリ トリステイン艦隊旗艦。我ガ方ノ『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ』以上です!」 「撃沈だと!?馬鹿なッ!至急返信!『本艦ノ砲撃ハ答方ナリ。実弾ニアラズ」 そう送るが、すぐさまレキシントンより返答が返された。 「タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ガ艦隊ハ貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」 その瞬間ラ・ラメーが悟った。そして瞬時に命令を下す。 「…謀ったな!!全艦に伝達!砲撃に備えよ!!」 艦隊に指令が行き渡ると同時にアルビオン艦隊から轟音が鳴り響いた。 「て、敵艦発砲!!……『ニーベルング』!『ヴァレンシュタイン』!『ケルンベル』!被弾!!」 「こ、この距離で大砲が届くだと…!?閣下!至急アルビオン艦隊に砲撃の中止を!」 「…無駄だ。我々は奴らに嵌められたのだ!」 「では、応戦ですか?」 「我々は浮き足立っている…準備万端のアルビオン艦隊と浮き足立った我々では勝ち目はあるまい。降伏か撤退しかあるまいが…降伏は性に合わん、逃げる事にしよう」 続けざまにレキシントンから砲撃が撃ち込まれ各艦が被弾していく。旗艦は今のところ健在だが何時撃沈させられるか分かったものではない。 「伝達。『旗艦ガ最後列ニ残リ味方ノ撤退ヲ援護スル。各艦艦長ノ裁量ニヨッテ戦域ヲ離脱セヨ』…以上だ」 メルカトール号より右舷大砲が砲撃を行うが射程外からの砲撃だ、届くはずもない。 放物線描き数発着弾した砲もあったが、そんな勢いの無い砲弾ではレキシントンの分厚い装甲に阻まれ殆ど被害らしきものを出してはいない。 メルカトール号同様に残り撤退を支援する艦もあったが、次々と被弾し撃沈させられていく。 「『ヴァレンシュタイン』大破轟沈!『ホーランド』沈みます!」 次々と僚艦が沈められていくが、旗艦は各所に被弾しながらも未だ健在であり、何とか踏みとどまっていた。 しかし、火災を起こし火薬庫に引火するのも時間の問題である。 「…味方は脱出できたか?」 「『ロイヤル・ソヴリン』の砲の射程が思いのほか長かったため…脱出艦艇は約4割程度かと…その内、何隻が無傷かは…」 「…全滅よりはマシといったところだろう、本艦も退避命令を……」 そこに、トドメの砲撃が撃ち込まれ船体が大きく揺れた。 「…間に合わん…か、旗艦に乗り合わせた者には悪いことをしたな」 ラ・ラメーとフェイヴスが向かい合い敬礼をすると同時に甲板がめくりあがりメルカトール号が爆沈した。 「思いの他、敵艦隊の行動が早かったですな」 被弾しながら射程外に離脱していくトリステイン艦隊を見送りながら、上陸作戦の指揮を取るワルドが呟いた。 「の、ようだな子爵。だが、旗艦を初め主力艦をほとんど撃沈したのだ。 すでに勝敗は決した。…しかし、制空権を抑えておきながら、あの作戦にレキシントンを使う必要があるのかね?」 「恐らくガンダールヴも出てくるでしょう。ヤツの奇妙な魔法ならレキシントンがいくら巨大でも数分で制圧されますな」 「それほどのものかね…」 「それに、私が新たに召喚した使い魔ならばレキシントンなど無くとも、十分です」 そこにレキシントン号の艦上から万歳の叫びが聞こえボーウッドが眉をひそめる。司令長官のサー・ジョンストンまでそれに混じっているのが拍車をかけた。 「トリステインの司令長官は、乗艦を犠牲にしてまで味方の撤退を支援したというのに、我が方の司令長官がアレではな…」 戦力そのものの差と奇襲という戦術上の優勢、それが無ければどうなっていたかと思い、思わずそう呟く。 「艦長、彼が来たようです。御紹介した方がよろしいですかな?」 「ああ、頼む」 扉が開きボーウッドが視線をそちらに向けると、アルビオン艦隊司令長官よりも長官らしい佇まいの人影が入ってくるのを見た。 トリステイン艦隊 ― 大破轟沈6割 残存艦艇中 中破4割 小破5割 健在艦艇1割 司令長官ラ・ラメー以下旗艦『メルカトール』号乗員全員『戦死』 閃光のワルド ― ザ・ニュー使い魔! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/827.html
「わ…ワケわかんないこと言わないでよ! しかも『誰だ?』って また質問で返してるじゃないの!」 目の前の少女が怒っている。確かに、ワケがわからない。自分でも、そう思う。 混乱してるのかもしれない。冷静に考えてみよう。 ダメだ。何も思い出せない。 何もすることがないし、わからないので、ボーっと少女の行動を見ていた。 頭頂部の寂しい男となにやら言い争って、こっちに戻ってきた。なんだか顔が赤い。 「感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通一生ないのよ!?」 どんなことしてくれるって言うんだ? そして何かごちゃごちゃしゃべりだした。 『我が名はルイズ……』だとか言っている。この子の名はルイズというのか。 少女、ルイズが手を動かしている。しゃがんで、と言いたいのだろうか。 多分そういうことだろうと推察し、しゃがんでやる。 キスをされた。唇が柔らかい。一瞬だけの口付けの後、ルイズは俺から離れた。 「ぐおっ!?」 突然、左手に猛烈な痛みが走る。 「心配しなくても、すぐに痛みは引くわ」 本当だ、もう痛くない。 気付いたらさっきの男が傍にいた。俺の左手を見ている。 「ふ~む、珍しいルーンだね」 その男は『る~ん』とやらから目を離して、俺の頭をちらちら見ている。 帽子がほしいんだろうか? それからその男が浮いた。名残惜しそうに帽子を見ている。 「すごいな……」 オレは思ったままを口に出した。 周りの奴らも、ルイズ以外が全員浮いた。人間って浮けたのか。 「なに? 魔法がそんなに珍しいわけ?」 「まほう?」 「魔法見たこともないわけ? こりゃ飛んだ田舎モン召喚しちゃったわ。飛んでないけど」 なんだ、魔法だったのか。人間って、魔法が使えたのか。 俺も飛んでみよう。 ダメだ、飛べない。 「どうやって飛ぶんだ?」 「聞いてなかったの? 魔法よ。でも平民のアンタにゃ一生無理ね」 へいみん? 平民ってどういうことだろう。 「飛べないのはお前も一緒だろ~? 『ゼロ』のルイズなんだからな!」 「飛べない同士、歩いて帰ってくるんだな!」 そんなことを言って、上の奴らは飛んでいってしまった。 「ほら、ボーっとしてないで、ついて来なさい!」 ルイズが俺を呼んでいる。特にすることはない。ついていくことにする。 原っぱの中をふたりで歩いていく。 ルイズは飛ぼうとしない。ひょっとして、オレが飛べないからだろうか。 ルイズは前を歩きながら平民がどうの召喚がどうのと呟いている。 「大体アタシ、ファーストキスだったのよォ~~!?」 「ルイズ」 「へ!?」 突然名前を呼ばれて驚いたようだ。立ち止まってこちらを振り返っている。 「いい天気だな…」 空を見上げる。ルイズも空を見る。 「…ええ…そうね………」 素敵な青空だった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2592.html
夜、陽気に賑わう酒場に、一人の男が入ってきた。 マントを着けているが、身なりからすると貴族とは思えない。 幅の広い帽子と、担いでいるこざっぱりとした荷物からすると旅人の様だ。 だが、酒場の喧騒の中その男に注目する者は居なかった。 その男は、大声で歌っている男の側を通り抜け、踊っている者たちを押しのけ、喧嘩をしている連中を避けてやっとカウンターにたどり着いた。 「お隣よろしいかな?」 緑色の髪の女に声を掛け男は席に着いた。 声を掛けられた女は気だるそうに顔を上げた。 「はん?…あんた誰よ?……さっきまで居たボーヤは?」 かなり呑んでいるらしい。ワリと整った顔は酒の為に火照っている。 年齢は二十代後半ぐらいだろか。 「坊やって…こいつの事かい?」 足元を指差す男。 見ると16、7の少年が酔いつぶれて寝ている。 「そうよ…いや、違ったかも………もうどうでもいいわ。マスター!もう一杯!」 「それじゃあ」 足元の少年を跨いで席に着く男。 「僕に奢らせてくれないか?」 「あら~いいの?じゃあ一番高い奴」 「おいおい…まあいいか。僕にも同じのを頼むよ。僕はジャック。君の名前は?」 少しの間、酒が注がれているグラスを見つめてから、女は答えた。 「…マチルダよ」 「マチルダか…ステキな名前だ」 「あら、口説いてるの?」 「そう聞こえるかい?」 グラスを受け取ると、ジャックはマチルダに向き直って言った。 「乾杯しないかい?」 「何によ」 「僕らの出会いに」 「プッ。何よそれ」 「では、アルビオン共和国の戦勝一周年を記念して」 「いいわよ」 「乾杯」 「乾ぱ~い」 神聖アルビオン共和国がトリステインに宣戦布告をしてから2年。 戦争はたった1年で終結してしまった。 当初、トリステインとゲルマニアが同盟を組むというと言う噂もあったのだが、開戦とほぼ同時に反故にされてしまった。 さらにトリステインのカリスマであるアンリエッタ王女が、開戦直後のタルブで戦死してしまったのだ。 突然の悲報に兵士達の士気は落ち、王宮勤めの貴族たちはアルビオンの事よりも、王女をタルブへ行かせたのは誰か?と責任を押し付け合った。 その様な状態では『空の怪物』『羽を持つ悪魔』『灰の塔』等とあざなされるレキシントン号率いる空中艦隊と戦えるはずも無く、トリステインはアッサリと降伏したのだった。 その後、ジャックとマチルダは他愛も無い話をしながら酒を楽しんでいた。 深夜に近づいているというのにあたりの騒音はいっそう酷くなってきている。 「所であんた仕事は何?あ!ちょっと待って当てるから……吟遊詩人?」 「ハッハッハ、何でそう思ったんだい?」 「いや、何か帽子がそう見えたからね。で、本当は何さ?」 「こいつだよ」 そういってジャックはマントをめくって見せた。 「杖…あんた貴族かい」 マチルダの顔が少し険しくなった。 「いやいや、傭兵さ。とっくの昔に没落しててね。貴族制が廃止されたんで少しスカッとしてるよ」 「フフ、あたしもだよ」 「君も…するとやっぱり傭兵でもやってたのかい?」 「まあね。この戦争のおかげでちょいと稼がせてもらったよ」 頬杖をつくマチルダ。 そんなマチルダにジャックが質問した。 「戦争の前は何をやっていたんだい?」 「何って…まあ色々さ」 「色々とは?」 「…レストランとか、宿屋で働いてたよ」 「それだけじゃないだろう?」 「…どういうことだい?」 ジャックの顔が険しくなった。 「魔法学院でも、だろ?」 「フン!傭兵にしちゃ礼儀正しいと思ったら…あんた何者だい?」 袖口に隠し持っている杖に手を掛けるマチルダ。 「早まるな」 手で制するジャック。 「ちょっと話を聞きたいだけさ」 「話って?」 杖に手を掛けたまま怪訝そうな顔になるマチルダ。 「あの日の事をだ」 「あの日…」 マチルダの顔に、一瞬怯えが過ぎった。 「そう。あの日だよ」 ジャックはマチルダにグッと顔を寄せた。息が掛かるぐらい近くに。 「…一体何があったんだ?」 「何って…」 喧騒に掻き消されそうな声で呟くマチルダ。 「3年4ヶ月前の春の召喚の儀式の日。トリステイン魔法学院の教師・生徒・使用人全員が死んだ。何故だ?」 「……」 「トリスタニアで検分書を読んだよ。全員即死。殆どの者に外傷は無い。被害者の死んだ場所はわりとバラバラで、厨房で死んでいた者。 洗濯物の山に埋もれていた者。廊下に倒れていた者。木に寄りかかっていた者。生徒全員が居眠りしている様に机に突っ伏して死んでいた教室も在るそうだ。 3人ほど、首の骨が折れていた者があったな。フライ中に落ちた様だが、フライを使ってて落ちるか?普通。落ちたために死んだのではなく、死んだために落ちたんだろうな。 そして二年生だけは全員サモン・サーヴァントを行っていたであろう広場で死亡していた…」 ジャックは溜息を付く様に一旦言葉を切った。 「検分書に因ると、二年生の誰かが悪質な病気を持った生物を呼び出したのだろうとある。確かに病気なら被害者たち殆ど無傷という説明が付くかもしれない。 だが、明らかに何者かから逃げて、狼に怯えた羊のように数人で寄り添って死んでいた者たちも見つかっている。病気の感染者から逃げたのか?違う。感染すると即死するのでこれは違うだろう。 では病気を持った生物から逃げていたのか?それも違う。スクウェアのメイジ達が検査したが生徒と生徒の使い魔以外の痕跡は見られなかった。 …というか、病原体や毒物の痕跡すら全く見られなかったのだよ!そしてそんな大惨事のなか…君だけが生き残った。何故だ!!」 ジャックに両腕をつかまれ、ビクッとするマチルダ。 「あ、あたしは……」 一瞬言葉に詰まる。 「あたしは何にも知らないよ」 ジャックの目が鋭くなった。 「隠してもために成らんぞ…」 「隠してるんじゃあない!本当に何も知らないんだよ!!あの日あたしは…」 マチルダことロングビルは辟易していた。 魔法学院に潜り込んだはいいが、あのスケベじじいが終始セクハラをして来るわ、忌々しい白鼠を使って下着を覗こうとするわ、あまつさえ昨日は着替えを覗かれたのだ。 これも辛抱、宝物庫からお宝を頂くまでの我慢だ!お宝さえ手に入ればこんな所さっさと辞めてやる!!ついでにセクハラの事を上に訴えてやろうか。 そういえば、今日は使い魔召喚の儀式があるんだっけ?使い魔を手に入れてハシャぐあまり、覗きをやろうとする生徒がいるから気を付けろってシュヴルーズが言ってたが、やれやれそんな奴はオールドオスマン一人で十分だよ… 等と考えながら学院長室の前に来たロングビル。 ノックしてから「失礼します」と声を掛ける。 ………………… おかしい。 いつもならスケベじじいが浮かれた声で招き入れるというのに、返事が無い。 「失礼します。入りますよ」 ドアを開けて中に入ると、いつもの席に座っていたオスマンが、ハッとこちらを向いた。 その瞬間、ロングビルは心臓が締め付けられるような嫌な感じを覚えた。 こちらを見たオスマンの顔には、はっきりと恐怖が表れていた。 何?何がどうしたのよ?まさかフーケだとバレた?!いや、そんな筈は無い! もしフーケだとバレたとしても、オスマンが恐怖を抱くだろうか?このあたしに。 ここに勤め始めてから初めて見たオスマンの恐怖。他人の恐怖が、ロングビルに言い知れぬ不安を与えた。 「ど、どうかなさったんですか」 オスマンはロングビルの方と遠見の鏡の方を交互に見た。 「大変な…大変な事が起こったんじゃ!!こ、こんな事が!!」 「オールドオスマン。落ち着いて下さい」 と言ったものの、自分も落ち着けぬロングビル。 「何が起きたのですか?」 「こ、これは!こんな事が!!まさかこんな!これはどういう事なんじゃ!!??」 日ごろからボケた様な事を言うオスマン。 しかし、これは違う。これはボケ老人の戯言ではない! 知能の高い者が理解不能の状況を目の当りにして混乱しているんだッ!!。とロングビルは思った。 オスマンはロングビルと遠見の鏡の方を交互に何度も見ている。 「ああ!何ということじゃ!!これは…そ、そういう事か!何ということじゃぁああ~!!!」 叫ぶと同時にイスから立ち上がり、ロングビルをビシッと指さし指示を出す。 「ミス・ロングビル!!急いでぜんs――」 指示はそこで途切れた。 唐突に。何の前触れも無く。糸が切れた操り人形が倒れるように、オスマンは崩れ落ちた。 「オールドオスマンッ!!」 持っていた書類を投げ出し駆け寄るロングビル。 鼻の前に手をかざすが、呼吸が無い。 首筋に指を当てるが、脈が無い。 死んでいる。 死んでいる、という事には多少慣れていた。 色々危ない橋も渡ってきた。 死を覚悟した事もあった。 目の前で人が死んだことも一度や二度ではない。 もちろん…殺した事もだ。 だが… だが……この『死』は異常過ぎる!! 矢を射られる訳でもなく、氷を射られる訳でもなく、炎に焼かれる訳でもなく、岩に潰される訳でもなく、唐突に『死』が現れた。 どうする?助けを呼ぶか?いや、死んだ原因は何だ?その原因はまだここにあるのか?オールドオスマンをも殺せるような原因が。 このオールドオスマンを殺せる…? 背筋に激しい悪寒が走った。 胃の中から何かがせり上がってくる。 駄目だ、助けを呼んでいる場合ではない!宝物庫なんて知ったこっちゃあない!!逃げるんだ!! 自分の盗賊としての勘がそう叫んでいる。 部屋を駆け出したロングビルは、手近な窓を見つけると、そこから飛んだ。 今まで出したことも無い速度で。 自分の荷物さえも置いて。 三日後。 トリスタニアの宿屋で、学院の人間が全員死んだと聞いたロングビルは、しばらく震えが止まらなかった。 「それだけか?」 ジャックの声は、落胆した声で聞いた。 二人は多少静かな方へ席を移していた。 「そうよ。だから言ったでしょ、何も知らないって…がっかりさせて悪かったね」 「いや」 気を取り直すようにジャックが言った。 「疫病ではないと確信できただけでも進展さ」 「フ。目の前で死なれて、その死体を触ったあたしが死ななかったからね」 と自嘲気味に言ってからグラスを煽るマチルダ。 酔いもスッカリ醒めてしまった。 「では僕はこれで失礼させてもらうよ」 そう言って席を立つジャック。 「協力を感謝する」 歩き出そうとした所をマチルダが引き止めた。 「ねぇ…一つ聞いて言いかい」 「何だね?」 「…あんた何でこの事件を調べてるんだい?」 「何でそんな事を聞く?」 「いや、何か随分がっかりしてたからさ…ちょっとした好奇心だよ」 「………大した事じゃあない。トリステイン魔法学院に許婚が居たんだ。それだけさ」 「そう。悪い事聞いちゃったね」 「いや。では今度こそ失礼する」 そう応えると、ジャックは酒場の喧騒の中へ消えていった。 一人残されたマチルダは、少し悩んでから、次のボトルを開ける事にした。 許婚か……一体どの『教師だったんだろう』…。…シュヴルーズ? 「まさかね」 呟いてから、新しいワインに口を付けた。 魔法学院で一体何が起こったのか?ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは生涯この謎を追い続けた。 家庭を築いて後も、暇を見つけてはトリステイン魔法学院跡地に赴き、時には家族と、時には一人で調査を続けた。 しかし、結局最後まで何も判らぬまま、その生涯を閉じる。 では、何が起きたのか?時は3年4ヶ月前に遡る。 春の召喚の儀式の日。 進級試験に臨んでいたルイズは、同級生が何の問題も無く使い魔を召喚して行った後に、自分が召喚したものが信じられなかった。 「……先生!召喚のやり直しをさせてください!!」 ルイズが叫ぶ。 現れた物は、一人の『おじさん』だった。 何の変哲も無い、普通の、どう見ても平民にしか見えない『おじさん』だった。 青い帽子を被り、パイプを咥え、青緑の上着を着ている、無精ひげを生やした『おじさん』……。 到底、使い魔にしたい相手でもなければ、コントラクトサーヴァントしたい相手でもない! 「残念ながら、ミス・ヴァリエール。儀式のやり直しは許可できません」 監督をしていた教師のコルベールが言う。 ルイズにとっては無情な言葉だが、コルベール本人も前代未聞の出来事にこれ以上の事を言えないのだ。 「そんな!!でも――」 「すみません」 「!!」 いつの間にか、コルベールとルイズのそばに来た『おじさん』。 「ちょっと質問したいのですが」 「な…なんでしょうか?」 コルベールが答える。顔に少し、緊張の色が見える。 「サンレミの病院は、どちらにいけば良いのでしょうか?」 質問しながら、帽子を取る男。 「サン・レミの…病院ですか?」 「何言ってるのよあんた。それより引っ込んでなさい!今は取り込み中よ!しかも!あんたのせいでね!」 「おや?」とルイズの顔を覗き込む男。 「な、何よ!」 「ちょっと待って。この私の事知ってますよね?そうでしょう?私ですよ」 知ってるんですか?という顔のコルベール。 「知らないわよ!こんなおっさん!見たことなんて無いわ!」 「そうですか…でも、今わたしを見て感動したでしょう?皆さんも」 と周りを見渡す男。え?という顔の生徒達。 確かに、この『おじさん』には何か引きつけられる物がある。何かわからないが。 「…あんた何なの?」 ルイズが聞く。 「わたしは…ヴィンセント」 パイプを咥えなおし、帽子を被る男。 「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。『ゴッホの自画像』です。昨日カミソリで耳を切り落としました………所で病院は、どちらでしょう…?」 こうして、同日中にトリステイン魔法学院は全滅した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/95.html
目の前の超異常事態に多少放心気味のルイズであったが男がこちらに近付いてくる事に気付き我を取り戻す。 「これは・・・アンタがやった事なの!?」 だがプロシュートは何も答えずルイズにさらに近付く。 「ちょっと・・・ご主人様が聞いてるんだから答えなさいよ!」 「テメー・・・一体何モンだ?オレに何をした?」 「平民が貴族に向かってそんな口の利き方していいと思ってるの!?」 「2秒以内に答えろ……オレに何をした?」 「質問に答えなさい!」 ルイズが怒鳴り散らすがプロシュートは全く動じない。 「ウーノ!(1)」 「ひ、人の話を聞きな――」 「ドゥーエ!(2)」 ルイズは魔法成功率0とはいえメイジ…つまり貴族だ。 平民という存在より圧倒的に上の立場にいると言ってもいい。 だが組織の暗殺チームの一員とし幾つもの死線を潜り抜けてきたプロシュートから見れば「良いとこのボンボン」つまり「マンモーニ」にしか見えない。 そして、その百戦錬磨の暗殺者としてのプロシュートの「スゴ味」が自然とルイズに質問の答えを答えさせていたッ! 「……アンタを召喚したのよ」 「召喚だと…?」 「そうよ、本当ならアンタみたいな平民なんかじゃなく 皆が召喚したようなドラゴンとかを使い魔にするはずだったんだけど何処を間違ったかアンタが召喚されたってわけ」 「その左手のルーンがアンタが私の使い魔になったって印よ」 「左手…さっきの左手の痛みはそれの事か」 だがプロシュートがある違和感に気付く。 (待て…さっきの左手の痛みはいい、それは納得できる…) (だがオレはその左手を何で押さえたッ!?) プロシュートがその答えを得るべく疑問の先へ視線を向ける。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「何ィーーーーーーーーーーッ!!」 「ちょっと…そんなに大声出さなくてもいいじゃない。それに貴族にキス……って何言わせんのよ!」 使い魔の儀式のアレを思い出しルイズが顔を真っ赤にさせるがプロシュートにとっても問題は左手ではなかった。 そう、左手にあるルーンなどどうでもいい。問題は「左手」ではなく「右手」だった。 (バカなッ!?ブチャラティのスティッキィ・フィンガースに切断されたはずの右手がなぜ『付いて』いるッ!?) 「まったく…弟分がお前を引っ張ったその『糸』に救われたぜ」 記憶に映るのはあのフィレンツェ超特急でのブチャラティとの闘い。 「バカなッ!! ブチャラティィイッ!」 (オレの右手はペッシのビーチ・ボーイの糸を殴ったブチャラティの攻撃で確かに『切断』されたはずだッ!) そこまでだ。プロシュートにはそこまでの記憶しかない。いくら記憶を探ってもそれは同じ事だった。 だが地面に激突する瞬間何かの光に包まれたような気がする。 思考を中断し視線をルイズに戻す。 「……テメーの言ってる事はどうやらマジのようだな」 「理解できた?じゃあ早くこの老化を解いてちょうだい」 「断る」 「アンタ…平民、それも使い魔が貴族に逆らえると思ってるの?」 「平民か貴族なんてのはオレたちにとってはどうでもいい、何より使い魔ってのが気に入らねぇ」 「貴族を敵に回してここで生きていけると思ってるの…!?」 「それに使い魔って言っても奴隷とかそういうのじゃなくて主人を守り忠誠を誓うある意味平民にとっては名誉なものよ?」 ルイズが使い魔の事について説明を始める。 が、当のプロシュートは殆ど話を聞いていない。 プロシュートが再び思考を巡らす。だがそれは使い魔になるかならないかという単純なものではなかった。 (どうするか…) 思考の末プロシュートは三つの選択肢を作り出す。 (一つはこいつを殺しここから離脱する事だが…これは駄目だな。 もしこいつの言うとおりここが全く違う世界なら地理が分からねぇしどういうわけか言葉は分かるようだが文字が分からないってのが致命的だ) (二つはこいつを人質にしここから離脱する…これも却下だ。 チビとは言え人一人を無理矢理担いで移動するのは限界があるし何より目立ちすぎる。) (三つは使い魔とやらになったふりをし情報を集める…今の状況下ではこれが最善か…? 殺す事は何時でもできるしやはり何より今は情報が欲しい。それにこいつ…メイジとか言ったがスタンド使いではないようだな。) (スデにグレイトフル・デッドで殴りかかってみたが動揺一つせず汗すらもかきやしねぇ) 自身の状況を正確に把握し最善の策を見出す。それが暗殺者としてプロシュートが生き抜く為に身に付けた事だ。これは当然他のヤツらも持っている。(ペッシ以外だがな) プロシュートのかなり物騒とも言える思考を知らずにルイズが「早くルイズ様の使い魔になるって言いなさい」という視線を送ってくる。 「……大体の状況は理解した」 「そう、それじゃあ早く皆を元に戻してちょうだい!」 「使い魔とやらになってはやる、だが…オレを他の連中と同じと思わねぇ事だなッ!」 ズキュン! グレイトフル・デッドの能力が解除され倒れていた生徒達の老化が解除されしばらくしてコルベールが起き上がる。 「うう……一体何があったのだね?ミス・ヴァリエール。」 「もう大丈夫ですミスタ・コルベール」 「そうか……他の生徒達も大丈夫なようだね、各自教室に戻りなさい。」 生徒達が多少ふらつきながら戻っていく。だがプロシュートは空を見据えたまま動かない。 「ほら、早く戻るわよ!」 (ペッシ…メローネ…ギアッチョ…リゾット…すまねぇな、ボスを倒すと誓ったはずなのにしばらくそっちに戻れそうにねぇ) プロシュートにとって昨日まで一緒に居た仲間が急に遠くに感じられたが、今は状況を少しでも良くする為に前に突き進むしかなかった。 予断だがコルベールのU字ハゲが進行した事は言うまでもない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/282.html
『召喚の世界』 窓から空を見上げると、二つの月が浮かんでいる。 月が二つあるのは当たり前だが、今日はなんだか、それが不思議な気がした。 明日が儀式の日だからだろうか、そんな気分になるのは。 そのまま月を見上げながら、さり気なくテーブルの端に小さな箱を置く。 「いったいそれは何?」 「君へのプレゼントさ」 「どうしてプレゼントをそんな端っこに置くのよ?」 「君がその美しい腕を伸ばすところを見ていたいからさ」 決まった。完璧に決まった。 「貴方のその気障ったらしいところって、どうにかならないのかしら?」 言いながら箱を受け取る。言ってはいるが、内心満更でもないのだ、彼女は。 さて今宵は、この辺でお暇しよう。焦らすのもテクニックさ。 「あら、もう帰ってしまうの?」 「ああ、もっと君と一緒に過ごしたいけれど、君をいつまでも夜更かしさせるわけにはいかないよ」 「そう…ところで貴方、『浮気』……してないわよね?」 ギクリ。 「まさかだろ? この僕がそんな仕打ちを君に対して!」 証拠なんかありはしない。だからこそ余計にタチが悪いのだ、女の勘というのは。 「別に疑ってるわけじゃあないわよ。けど、嫌な気にさせたのなら謝るわ。 そのお詫びと言っては何だけど……」 ポケットの中で小瓶を転がしてみる。ひょっとして、これが渡したかっただけなのか。 そう思うと、なんだかばつが悪かった。 そして翌日、『儀式』が始まった。 いったいこいつに、どんな名前をつけてやろうか!? いくつか候補は決まっているが、やはり迷うな……。 召喚したばかりのジャイアントモールについてのギーシュの思考は、突如後方で起こった 爆発によって中断せざるを得なかった。 「ゲホ、ゲホッ」 土煙に咽ぶのは、今しがた契約を完了したばかりのキュ(略)・ツェルプストー。 「やってくれたわね…ゲホ、予想通りに、やってくれたわねぇ……」 「いつものこと」 特に動じていないのか、隣に立つ友人(タバサという)はそう言いながら 呼び出した竜の頭をなでている。高速で。 「またしても、またしても失敗かしらね、あの子は」 答える代わりに、タバサは土煙の中を指差した。 「人影」 成程、煙の中に二つの人影、一つはこの爆発を起こした張本人のものと、 もう一つ背格好の高い、確かに人型の影が確認できた。 「いえ…、あれはサラマンダーね」 「?」 タバサにはキュルケが何を言っているのかサッパリ理解できなかった。 「サラマンダーよ…火トカゲ、ヒトカゲ、ひとかげ……『人影』」 そう言うとキュルケは、チラリと何か期待したような表情で、タバサの顔を見た。 少々の思考の後、タバサの発言は―― 「かなり大爆笑」 「そう? 後でもっとジワッと来るから気をつけなさいよ。…ところで見て何アレ……」 男が、立っていた。 (何よ何よ、なんなのよ) 想定外。斜め上。いったいこれは、何なのか。成功なのか、失敗なのか。 周囲のどよめきが嘲笑、爆笑に変わっても、彼女はそれに対応するどころではなかった。 目の前に、男が立っている。紛れも無く、『男』…人間の……つまりは―― (平……民?) (落ち着きなさい、逆に考えるのよ……逆に…) (…うん、やっぱダメ。無し、アウト、チェンジ!) 「ミスタ・コルベール!」 彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは召喚のやり直しを 要求した。返答はNO! 当然である。この男と契約しなければならない。 それがこの神聖なる儀式の約束事である。しかしルイズにとってそれは―― (ファースト・キスッ! アタシってばわりと純情まっしぐらなのに!!) 気付くと、さっきまで立っていた男は仰向けにぶっ倒れている。 恐る恐る近寄るが動く気配はない。気絶しているのだろうか? (まあ、起きてる相手よりはやりやすい、かな) 寝ている人間の唇を奪う行為の是非は考えない事にした。 そっと口付けをする。ひげがくすぐったい。男は少し呻いたが、目覚めはしなかった。 ルーンの確認が終わると、みんな帰っていった。『みんな』…彼女以外の。 チラ、と男のほうを振り返る。 (変なヒゲ……ガイコツみたい)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2288.html
タバサの部屋から場所を変えてシルフィードのねぐら。 さすがにタバサの部屋の窓にシルフィードが張り付きっ放しというのも目立つし なにより声が結構デカイので移動したわけだが、まだ結論は出ていない。 「で、貸すのか貸さないのかどっちだよ」 一応そう質問したが、ぶっちゃけ貸さないと言っても無理矢理借り受けるつもりでいる。 先にもあったが、ギャングが求める答えにNoは無い。『だが断る』や『絶対にノゥ!』は存在すらしていない。 かと言って、自分が出す答えにはしっかりそれがあるのだから自己中心的極まりないというところだろう。 タバサもいい加減この男がどういうタイプか分かってきているので、どう答えても同じ結果になるんだろうなと思っている。 ……思っているのだが、なんだか釈然としない。 百歩譲って韻竜という事がバレた事は置いておくとしても、隠してきた素性とかをシルフィードは勝手に喋った挙句に『おにいさま』とか呼んでるし。 考えてみれば、今までシルフィードと韻竜として言葉を交わした人間は自分しか居なかった。(緊急避難的にガーゴイルにした事は何回かあるが) 面倒だからとはいえこの事はキュルケにさえ秘密にしている。 それなのに、もう開き直りましたと言わんばかりにプロシュートに喋りまくっている。 で、挙句『おにいさま』だ。 ……これは一体どういう事だろうか?自分を『おねえさま』と呼んでいるのだから、それより年上のプロシュートもそうなるのは分かる。 だが、『おにい《さま》』というのはどういう事だ。譲れるとこ譲っても『おにいさん』だろう。 どういう理屈で戻ったのか分からないが、他人の元使い魔なのに主人の自分と同格の『さま』付けだ。 気に入らないとまではいかないまでも、どこか納得いかない部分がある。 もしかしたら、シルフィードの中でプロシュートの方が順序的に自分より上になりつつあるのかもしれない。 ……これがS.H.I.Tッ!……じゃなくて嫉妬とかいうやつだろうか。 まさかシルフィード相手にそう思うようになるとは露にも思っていなかった。 今なら当時のキュルケの気持ちも少し分かるような気がする。 上機嫌でマシンガントークを繰り出すシルフィードと、どうでもよさそうに生返事を返しているプロシュートを見たが 自分以外の、しかも契約も交わしていない人間にああも懐くというのは、なにかこう複雑な気分だ。 もし、契約の力が切れたりしたらシルフィードは変わらずに居てくれるだろうかとか色々考えさせられてしまう。 無論、そのあたりの事は表情には出さないが とりあえずプロシュートに言ってもどうにもならないのでシルフィードへ矛先を向ける事にした。 「きゅい!?お、おねえさま、なにをー!?」 無言でてけてけとタバサが近づくと両手に持った杖をシルフィードの額に何度かぶつける。 さすがにタバサの腕力で竜に大したダメージがあるはずもないが、唐突に行われた行為にシルフィードも面食らっている。 抗議も無視して杖と額がぺしぺしと小気味良い音を立てているが 叩かれる理由に気付いたのか少しばかり落ち着いたシルフィードが返してきた。 「……もしかしておねえさま、シルフィが楽しそうにおにいさまとお話してるから怒ってるの?」 シルフィードからすれば、プロシュートをそう呼んでいる事に大して意味は無い。 ただ単に、デルフリンガーが『兄貴』と呼んでいた事と、凄い力を持ってタバサの事を手伝ってくれそうな人という事でそうなっているだけである。 「別に怒ってない」 「きゅい?それじゃあなんで叩くのね?」 その疑問への答えは無い。というより、タバサにしては珍しく答えに窮しているようで少し考え込んでいたりする。 「…………」 「……………」 シルフィードとタバサの間に数秒の妙な沈黙が流れる。肝心のプロシュートはオレの方の質問に早く答えろよ。という具合なのだが。 「か、かわいい……」 と、そこに小さいシルフィードの声。心なしか声が震えているのは気のせいではないだろう。 「そんなおねえさまもかわいいのねーーー!」 その声に一拍遅れて思いっきりシルフィードが叫ぶ。 場所を変えていて正解だったというところだろうが、さすがに少し五月蝿い。大体高度3千メイル以上での発声は禁止してたのにもうどうでもいいのか。 幸い周りに人は居ないからいいようなものの、これにはさすがのタバサもシルフィードを睨み付けた。 「大丈夫!シルフィはおねえさまが一番なのね!きゅい!」 最高にハイ!というのはこの事だろうか。柴○亜○先生の絵柄なら間違いなく某ドクターT顔負けの鼻血を出しているはずである。 ぶっちゃけタバサの抗議なぞ全く意に介していない。 今にも『お持ち帰りぃ~~』と言わんばかりに悶えていたが唐突にタバサの横にその巨体を座らせると何かの呪文を唱え始めた。 『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』 聞きなれない。どちらかというと、メローネズコレクションの一つであった日本の漫画に出てくるようなやつだ。 風がシルフィードに纏わりつき、青い渦がそれを包む。 何らかの魔法だろうと思ったがプロシュートの興味は薄い。亀ですらスタンドを使うご時勢だ。 人語を解するシルフィードが魔法を使おうがそれは想定内の出来事である。 ……まぁ裸の女が現れるとまでは思っていなかったが。 そして、そのままタバサを押し倒した。 「このからだならおねえさまを潰さずにすむのね。きゅいきゅい」 そう言いながら頬ずりをしているが、傍から見ればただの変態だ。 とにかく離れさせようとタバサが小さくため息を付き、傍らに落ちていた杖を無言で掴むと横にあった頭を叩いた。 「いたい!?いたいよぅ。シルフィおねえさまに嫌われちゃったの?」 「そうじゃない」 「なら問題ないのね」 そういう事以前に離れろと言いたいのだが、タバサがそれを言うより先に別の所から突っ込みが入った。 「オメーらの漫才なんざどうでもいいんだがよ」 「きゅい?」 頭を掻きながらそう言ったが、なんかマジにどーでも良くなってきた。 もう全部纏めてブッ殺したッ!で綺麗サッパリ済ませてーな、とも思ったが耐える。 とりあえず、このクソ厄介な出来事の領収書は後で全部ルイズと才人に回す事にして一応納得しておく事にした。 そうでも思わないと多分、この先やっていけない。 「シルフィのとっておきなのに、おにいさまあまり驚いてないのね?」 「剣が口利いて、バカデカイ島が空に浮いてんだ。例えポルポの隠し財産が沸いて出ても驚きゃしねぇ」 何でもアリが前提のスタンド使いであるからには多少の事では驚きはしないのだが それ以上にブッ飛んだ世界に慣らされてしまったため、もうこの程度では驚かないようになってしまった。 なお、もう一度言うが今のシルフィードは裸である。それも召喚者とは違って出るとこは出て締まるとこは締まっている。 町を歩けば10人中9~8人は振り向くであろう事確実なのだが、どうやらそのあたりもどうでもいいらしい。 パッショーネの特攻隊とも言える暗殺チームに属していただけあって、元が竜であるしその裸ごときで動じるはずがないのだ。 というか、敵であるならこんな状態でも迷い無く攻撃する事ができるし むしろ、このクソ忙しい時にややこしい事やらかしてんじゃねーよという具合である。 まぁペッシなら話は別だし、メローネならディ・モールト!とでも叫んでそうだが。 そろそろ言葉でなく肉体言語で強制的に分からせてやろうかと思ってきたが、上の方からフクロウが飛んできてタバサの頭の上に留まった。 もうこの世界お馴染みの伝書鳩ならぬ伝書フクロウという事ぐらいは分かるので、押し倒されている状態のタバサより早く書簡を奪う。 「人形…七号?……意味が分からん」 ルイズん家である程度文字が読めるようになったが、人形七号と書かれていてもなんのこっちゃと理解できるもんではない。 そうしていると、物凄く嫌そうな声でシルフィードがその疑問に答えてきた。 「あの憎たらしい従妹姫がおねえさまを人形って呼んでて、七号というのは北花壇警騎士団の番号なの」 やけに『憎たらしい』を強調してきたので、基本的に人懐っこい方のこの韻竜にしては珍しくマジに従妹姫というのが嫌いなのだろう。 「花壇?汚れ仕事専門のチームにんな名前付けるたぁ随分と悪い趣味してんな」 「きゅい…チームじゃなくて騎士団なのね」 騎士団だろうとチームだろうと、あまり変わりはないので訂正する気にもなれないが、やはり貴族の感性というのは理解しがたいもんがある。 オレらなんざ護衛チームとか暗殺チームとかそのまんまだぞ?どういうこった北花壇ってのは。 そう思ったが言うと余計ややこしくなりそうなので口には出さない。 「で、結局のところ、こいつはどういう意味だ」 「う~……つまり、今頃あの小娘が『あの人形娘はまだなの?』とか言いながら召使をイジメてる頃だから……」 「早い話、任務ってわけか」 きゅい、と言いながら頷くシルフィードを見たが思わず溜息が出た。 ったく…次から次へとメンドクセーことばっか起こりやがる。 そう思ったものの、タバサ本人や家族の命にも関わる事なので本人がそれを無視する事はできない事ぐらい分かる。 かと言って、このまま何も行動しないというのも非生産的である。 「他にアテもねーし、ただ待つってのも性に合わねぇ。オレも行くぜ。第一そっちのが早く済むからな……」 「お金が無い」 「おねえさまはいつも新しい本を買い込むからそうなるのね。そんなのだからシルフィのご飯もままならないの」 そんなタバサとシルフィードのシビアな現実問題を聞いて顔を下に向けてプロシュートが少し笑った。 こいつマジにオレ達と同じか。と、思えてきたからだ。 何故なら暗殺チームも金が無かった! 収入源はシマを持たずボスからの仕事内容に見合わないような報酬のみで基本的にリゾットが必死にやり繰りしている状態だった。 組織に反感を抱いた原因の一つであるだけに、余計そう思える。 「ま……試用期間ってやつだ。金は気にしなくていいぜ」 「ガリア?なんでまた急に」 学園に戻ってオスマンを蹴り倒しているフーケにガリアに向かう事を告げたが、まぁ当然の反応というやつだろう。 「理由が必要か?」 「当たり前じゃないか」 適当な理由をでっち上げてもよかったが、タバサの任務付いてった時点で何かしらバレるし、何よりそこまで考えるのも面倒だ。 「そいつは元王族で知り合い連中に汚れ仕事でコキ使われてる。ついでに言うならこいつの使い魔も韻竜ってやつだ」 プロシュートがそう言った瞬間ゴフォ!と飲んでいた水タバサが盛大にむせた。 そりゃあ、あれだけ人が必死になって守っていた秘密をあっさりとバラされたのだから無理も無い。しかもよりにもよってフーケに。 「こいつも付き合わせるつもりだからな……。どうせバレるもんはバレる。なら先に言っといた方が余計な所でボロ出さなくていいだろうが」 さすがに文句を言おうとしたタバサもこれにはぐうの音も出ない。正論と言えば正論である。 フーケを置いていけばいいのだが、どうやら逃走防止のために連れて行くようでガッシリと肩を掴んでいる。 「いい加減、それ止めて……そんなに信用されてないのかね……?」 「オメーの実力は信用してやるが、まだ逃げないと思ってるわけじゃあねぇしな。 最初にオレら全員殺す気だったくせになに贅沢言ってやがる。なんならムショにでも入って待つか?ある意味一番安全な場所だぜ?」 「遠慮するよ……」 ブフゥ~~~というやたら暑苦しい息が聞こえてきたので全力で拒否したが、本気で疲れてきた。 「……他には誰にも言わないで」 しばらく思案してタバサがそう告げたが、それでも不安だ。先もあったようにフーケと言えば盗賊でそうそう信用できる相手ではない。 その様子に気付いたのか、これ以上無いぐらい簡単に、そして最大級に抑止力を持つ言葉でプロシュートが言い放った。 「気にすんな。万が一洩らしたりすりゃあどうなるかは……こいつが一番よく知ってるからよ」 ――畜生……知りたくなかった!聞かなきゃよかった!! 少し強められた手の力とその言葉に本気でそう後悔したが、もう遅い。 知りすぎると大概ロクな事が無いというのは世界を問わず共通の事象である。 これで人が居る場所でおちおち酒も飲めなくなってしまった。酔った拍子でこの事を喋ってこの物騒なヤツに狙われるなど洒落にもならない。 もうすっかりヤムチャと化した盗賊を放っておくと、キュルケがこちらに近付いてきた。 「よぉ。さっきの続きでもしにきたか?フーケならそこで腑抜けてるがさっきみてーな目に合いたくなけりゃあ別の場所でやれよ」 そう言うと、キュルケが笑いながら両手を広げる。 「冗談。それだけはもう二度と御免被るわ。先生から預かった物があるの。それを渡しにきたわ」 放り投げられた革袋を受け取ったが、感触で中身を理解した。 「何だ、この金は?」 一応中身を見たが、それなりの額が入っている。 今まで独身で研究以外の趣味のなさそうなコルベールなら出せてもおかしくは無い額だったが 理由も無しに金だけ渡されても乞食扱いされてるようで何か知らんがムカつく。 「それともう一つ、言付けがあって『アルビオンに渡るならミス・ヴァリエールとサイト君の事をよろしく頼む』だって」 「依頼って事か?こいつは。それより何であのハゲ、オレがアルビオン行くって事知って……オメーか」 現在、目標がアルビオンにある事を知っているのはオスマン、タバサ、フーケ、キュルケの四人。 となると、後は消去法でオスマンかキュルケしかいなくなり、さっきまでコルベールに付き添っていたキュルケが情報を漏らした事になる。 別に機密情報というわけではないのでどうこうする気もないが、さてどうしたもんかと少し考える。 この件に関しては、元々カトレアからも結構金貰って頼まれているからだ。 無論、余裕があれば、との条件付きだが元プロとして依頼の二重受領というのもどうかと思わないでもない。 まぁだが、金はいくらあっても困るもんではないし、くれるというのなら貰っといた方がいい。 「先にくたばってたりしてたら責任取らねーし、金も返さないがな。で、そっちはどうすんだよ。ここで匿うつもりか?」 「さすがにそれは限界があるだろうから、あたしの実家で匿う事にするわ。『自分達を庇ってくれた先生を手厚く葬るため』っていう口実もあるしね」 「で、その先生を殺ったオレは速やかに逃走を実行した方がいいってわけか?」 少量の皮肉と冗談で割った言葉だったが、どうやら本気に捉えられたようで珍しくすまなさそうにしている。 「ったく……たまに言うとこれだ。オレがそんな事気にするようなタマなわけねーだろうが」 普段、一般人が聞いたら冗談に思えるような事でも本気でやろうとしているのだから 急にそういう事を言われてもそう受け取れるはずがないという事を全く理解していないから余計性質が悪い。 ようやく何時もの調子を取り戻したのか目を細めて笑うと、少しタバサと二人にして欲しいと言ってきた。 それに関しては邪魔する気もないので、そうさせてやろうと、場を離れる事にした。 ……フーケをスタンドで無理矢理引っ張りながら。 「丁度いい機会だ。オメーにも『ギャングの世界』ってのを教えてやる。ありがたく拝聴しろよ」 「わたしは盗賊だって!なんなのさギャングって!!」 「似たようなもんだろーが。まずはおさらいだ。LESSON1『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」 「LESSON1からそれ!?」 そうしてキュルケとタバサの話が終わる頃にはギャング的教育LESSON4まで進み少しばかりやつれたフーケが地面に倒れ伏せていた。 ガリアの首都リュティス。 トリステインの国境から千リーグ程離れているがシルフィードならそう時間は掛からない。 と言っても、色々あったので到着は夕方ぐらいになってしまったのだが。 ハルケギニア最大の都市で人口三十万と言われてもプロシュートにはあまりピンとこない。 まぁネアポリスやヴェネツィアと比べればこの世界のあらゆる都市はド田舎という扱いなのだから仕方ない事だ。 無論、プロシュートとフーケは城に入るわけにもいかないので、ヴェルサルテイル宮殿近くの郊外の森で待機している。 ただ待っているのも暇なのでLESSONを再開しようとしたが これ以上やるとイルーゾォみたいに鏡の中にでも引き篭もりそうだったのでガリア関係の情報を引き出す事で手打ちにする事にした。 「ガーゴイル?オメーのゴーレムとどう違うんだよ」 「ゴーレムが命令をしなけりゃ動かなかったりしないのに対して、ガーゴイルは自分の意思で判断して動けるって事だね」 「自動遠隔操作型スタンド。ベイビィ・フェイスの息子みてーなもんか」 魔法で擬似生命を与えられた自立式の魔法人形。スタンド能力で擬似生命与えられた遠隔パワー型のベイビィ・フェイスと共通点はある。 厄介なのが、これも精度が高いと生物の見分けが付かないらしい。 老化が効かないのがこれまた厄介で、やはり息子を思い出させてくれる。 そうこうしていると上の方から翼の音が聞こえてきた。 シルフィードが小声でぶちぶちと文句を垂れているあたりどうやらロクな任務じゃなさそうだ。 「わざわざ呼び出しまで食らって受けた任務ってのは何だよ?暗殺か?」 「……いきなり暗殺ってあんた一体何やってたのさ」 任務=暗殺とかフーケですら考えはしない。相当ヤバい事に足突っ込んでた証拠だ。 「聞きたいのか?ま…別に隠すような事でもないんだがな」 「いーーや、聞きたくない。どうせロクでもない事やってたんだろ?」 「人の事言えねーだろ。専門はあ」 「それ以上言うなァーーーーーッ!」 大声を出してプロシュートの言葉を遮ったが、素面で暗殺が仕事だったとか聞いたらただでさえそうなのに胃に穴が開きそうだ。 「ルセーな…そんなたいした事ァねーだろうがよ……で、任務ってのは?」 色んな意味で限界突破しそうなフーケを放置して任務内容を確認するためにそう聞いたが返ってきたのは実に意外な答えだった。 「タマゴ」 「……あ?」 タマゴってのはアレか。あの卵か。割ると白身と黄身が出てくるどこにでもあるあの卵か。 プロシュートのそんな様子に気付いたシルフィードがさらに付け加えてきた。 「おねえさま、タマゴだけじゃ分からないのね。あの最悪姫は極楽鳥のタマゴを取って来いって言ったのね」 まぁこのブッ飛んだ世界の事だからただの卵ってわけでもないだろ。極楽鳥ってからには万病に効くとかいう効果があるのかもしれねぇ。 と一応の納得はしておいたが、ある事に気付いたフーケが口を挟んできた。 「……確か極楽鳥のタマゴって今の季節は旬の時期から外れてるはずだけど」 フーケの言葉の中にやたらくだらない内容の言葉があったような気がしたが、聞き間違いかと思って一応聞き返す。 「オメー今、旬とか言ったか?言ったよな?言ったな?どういうこった?ええ?」 「え?ああ、極楽鳥ってのは一年に二度タマゴを生むのさ。 幻の極楽鳥のタマゴって言われてて、その味のせいでかねりの値がする代物だよ。一度貴族から盗んだ事があるけど味は知らないね。売ったから」 このアマ今、味とか言いやがったか。つまり今回のタバサの任務の理由ってのは……。 「美食」 「『たかがわたしの美食のため』とか言っておねえさまを火竜の住処に行かそうなんて意地悪姫にも程があるのね!きゅい!」 そうタバサとシルフィードが言った瞬間何か知らないが、やたら小気味良い何かが切れたような音が聞こえたような気がした。 特に気にしないでいると突然フーケが襟元を引っ張られる。 「な、何するのさ!?」 そんな抗議も無視してずーるずると引き摺るように引っ張っていく。 何事かと思い無言で一定の方向を見ながら進んでいくプロシュートの視線の先の物を見たが……見た瞬間冷や汗が思いっきり流れ出た。 進行方向にはヴェルサルテイル宮殿があったからだッ! 「お前何をやろうとしているんだァーーープロシュート!行き先はともかく理由を言えーーーーーーッ!」 「命令出すやつが死ねばこんなくだらねー任務も消えるって事だよな?おい」 そう言い放ち無駄に靴音を鳴らしながら進んでいくプロシュートを見て思考が一層最悪な方向に向かっていく事を感じたが それでもまだ、まさか……?という思いだけは捨てたくはない。 「ストーーーーーップ!冗談よね?冗談って言って!」 「卵だぁ?そんなに食いてーなら極楽に送って死ぬほど食わせてやる」 引き摺られながらも必死に抵抗するが、地力の違いがある上にスタンドでも掴まれているため地面に後を残しながら引っ張られていく。 なんかもう、プロシュートの全身が黒い影のように見えるのはテンパりすぎての幻覚かなにかだろう。 「はーーーなーーーせーーー!大体あんた一人で十分だろ!わたしを巻・き・込・む・な!」 射程半径が200メイルもあるんだから仕掛けるにしても一人で十分だろ。 という事から出た必死の抗議だったが、無常にも次の一言で見事に撃破された。 「ガーゴイルっつーんだったか?その始末をオメーに期待してんだよ」 (こいつ本気かァーーーーッ!確実にわたしを巻き込んで正面からガリアと戦争おっ始めるつもりだッ!!) ――もう止めて!姉さんの胃のライフはゼロよ! ゼロどころか、もうスデにマイナスに突入しているだろ、という突っ込みは置いといて そんなお馴染みの幻聴まで聞こえてきたが、本人は今頃胸を揺らしながら家事に勤しんでいる事だろう。 確かに、こいつの能力ならメイジでも百人単位で相手できるだろうが、氷という致命的な対応策がある。 もしそれがバレでもしたら相当厄介だ。ガーゴイルとかもいるし。 捕まりでもしたら遠島どころじゃ済まない。死刑で済めばまだいい方だろう。 最悪考えられるありとあらゆる拷問を受けて晒し者という事も十二分にありえる事だ。 逃げられたとしても追われる事になる。その事に関しては今でもそうだけどハッキリ言ってレベルが違う。 並みのメイジの2~3人ならどうにでも始末できるが、国に喧嘩売った相手に並みのメイジが追っ手になるはずがない。 この国自慢の花壇騎士団総出で掛かられてはどうにもならないのだ。 いや、こいつはいいよ。杖なんかなくても能力が使えて自分の年齢をも自由に変えられる上に射程も長いから追っ手なんかどうにでもなる。 つまり貧乏くじを引くのは自分一人であまりにリスクが高い。 かと言って、逃げるという選択肢も無い。恐らく、逃げようとしたりしたら即老化を叩き込まれる。 宮殿が射程内に納まってしまえば確実にアウトだ。間違いなく自分も共犯に見られるハメになる。 唯一の望みはバレないように暗殺してくれる事だが、この男の性格的にも能力的にそんな事するはずがない。 Q.ある集団の中に紛れて暗殺対象が居ます。どうやって対象を始末しますか? という問題があれば間違いなく A.全員始末する。 と答えるようなヤツである。きっと……いや、絶対能力全開で正面から堂々と乗り込むに違いない。 一歩、また一歩と宮殿に近付く毎に絶望感がフーケを襲っていくが唐突に歩みが止まった。 「ダメ」 と、タバサが首を横に振りながらそう言ったからだ。 「何だ?この際、オメーの仇ってのも含めて纏めて始末してやるんだがよ」 最初から広域老化を叩き込む。本来のグレイトフル・デッドの大前提だ。 広範囲で巻き込むなら、ついでに始末してやれば丁度いいという具合である。 「わたしが欲しいのは、伯父の首一つ。他はいらない」 そう小さく呟いたタバサを見て、こいつはオレ達とは違うわ。と前に思った事を撤回した。 暗殺チームなら、目的のためなら必要があれば一般人だろうと遠慮なく巻き込む。 無論、進んで攻撃したりはしないが当時はそれだけ必死だった。 「それに、本当なら自分一人の手で仇を討ちたい」 続けてそう言ってきたが声こそ小さいが強い意志を持っている。是非ともペッシに聞かせてやりたい言葉だ。 「つまり、この仕事やってんのは自分を鍛えるためってか?」 その言葉に頷いたタバサを見て、今度は逆に呆れてきた。 過酷な環境の任務をこなしていけば自然と地力も上がり鍛えられる。 一見良い事のようにも思えるが、実際自分達自身がそうだっただけに死ぬ確率の方が遥かに高い事ぐらいは承知している。 それを、このちんちくりんの小娘は昔から当然のようにやっているわけだ。 「ったく……オレの負けだ。依頼の条件って事にしといてやる」 そう言いながらフーケから手を離しかき上げるようにして額の右半分に手をやる。 足元でフーケが小さく『助かった……』と呟きながら荒い呼吸をしているのは気のせいではないだろう。 だが、見た目十二~三のガキに言い負かされっぱなしではない。 タバサに近付くと、その頭を勢いよく叩く。 それと同時にパァンと良い音がし、タバサの頭がぐらぐらと揺れている。 「一人で殺れると思うだけなら、オレらだってとっくにボスを殺れてんだよ。 大体、ボスを相手にする以前に……ブチャラティどもに負けちまったからな」 直接敗れたことを知っているのはホルマジオとイルーゾォだけだが 性格や能力、なにより数の少なさから見て他の連中も一人でブチャラティどもを相手にしたはずだ。 甘く見ていたわけではないが、暗殺チームに属するだけあって単独行動向けのスタンドが殆どだったというのが最大の理由か。 過程として他の連中も誰かと組んで仕掛ければ結果は変わっていたかもしれない。 例えば、イルーゾォが鏡の中へ引きずり込み、無防備な相手を対スタンド戦闘能力の低いリトル・フィートで攻撃し尋問なり始末なりをする。 または、ベイビィ・フェイスの息子やギアッチョが攻撃を仕掛け、敵が気を取られている隙にリゾットがメタリカで確実に始末をする。 と、組み合わせ次第で戦闘力は何倍にもなる。 もっとも、過去の事をどう考えようとも仕方の無い事だが、これから先の教訓としては覚えておいて損は無い。 特に、これから同じような事をやろうとしているタバサにとっては。 「おにいさまの言うとおりなのね。この前だって、おねえさまの味方してくれる人が現れたのに無視して追い返したし」 「オメーみたいなガキが肩肘張りすぎなんだよ。ちったぁ力抜いた方が身のためだ。くだらねー事はこういうヤツに押しつけりゃいいんだよ」 「今、少しでも良い事言ったなって思った事を全力で撤回させてもらうよ」 こういうヤツと言って指差したのは、もちろん今現在、地面に蹲っているフーケの事だ。 あくまで自分はくだらない事に関わりたくないというあたり相変わらずベリッシモ自己中である。 「……覚えておく」 その相変わらずの無表情で返してきた答えに、どこまで分かってるんだかな。と半信半疑だったが、まぁ今はこれでいい。 とにかくそういう事なら、このくだらねー任務をさっさと済ませてこっちの仕事を片付けねばならない。 かったるそうにシルフィードに乗り込むと、とりあえず当面は火竜を何秒ぐらいで老死させられるかを考える事に決めた。 臨時北花壇騎士御一行――地獄の(何にとっての地獄かは知らないが)火竜山脈ツアーに出発。 イザベラ――危うい所で老死を回避。ただし本人は何も知らない。 戻る< 目次 続く