約 1,875,312 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1324.html
朝食というにはあまりに重たい。 食堂の食事を見ながら改めてそう思う。これらを朝に食べるのは遠慮したいものだ。 どう見てもディナーだからな。 そう思いながらルイズの椅子を引く。 椅子にルイズが座ったのを確認して私も空いている椅子に座ろうとする。 しかし空いている椅子は無かった。前回座った場所にはマリコルヌが座っていたからだ。 「マリコルヌ。どうして朝早くから席に着いてたんだ?」 「べ、別にいいじゃないか」 マリコルヌは他の奴とそんな話をしていた。 そうか。昨日のことがあるから座られる前に座ってしまおうということか。 だからってそんなに早く座ろうと思わなくてもいいと思うがな。 しかしこれは好都合だな。なかなかいい言い訳になる。 そう思いながらマリコルヌの隣に立つ。 マリコルヌの体がビクリと震える。昨日のことを思い出したのだろう。 しかし今私は苛立ってないから昨日のようなことはしない。むしろそのことで迷惑をかけたその礼をしてあげようというのに。 する理由はある。無駄な遺恨を残さないためだ。仮にも貴族だからな。 マリコルヌの前にあったパンをとりマリコルヌのナイフを使い切り込みを入れる。 「な、なにをするんだ?」 すこしビクつきながらマリコルヌが聞いてくる。そりゃ突然自分の食事に手を出されたんだから聞くのは当然か。 「昨日の謝罪代わりさ」 「へ?」 マリコルヌはまるでわからないというような顔をしている。 わかったらおかしいがな。 切込みを入れたパンの間に彩りを重視しながら具をつめていく。 ふむ、初めてにしてはなかなかうまくできていると思う。 「あんたなにしてんの?」 ルイズは私の行動を奇異の視線で見詰めてくる。 しかしそれには取り合わず、同じものを後3つ作る。全て彩りを一番に重視してだ。勿論味のことも考えている。 食べたこと無いものも入れたが。 彩りを重視する理由は簡単だ。マリコルヌは貴族。見た目がダメなものを食べるわけが無い。 できたそれらをマリコルヌの皿の上に乗せる。 「こ、これは?」 「サンドイッチだ」 「これが?」 そう私が作ったのはサンドイッチだった。記憶にあるサンドイッチを真似て作ったものだがなかなかうまくできている。 彩りも鮮やかでおいしそうだ。 しかしマリコルヌが疑問に思っているあたり自分が知っているサンドイッチと形が違うのだろう。どうでもいいけどな。 そのうち二つを私が手に取る。これは私の分だ。それを持ち食堂を出ようとする。 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 それに驚いたのかルイズが私を呼び止める。 「外に行くんだ。ここは席が埋まっていて座れないだろう?」 そう言うと急ぎ足で食堂を出る。 「椅子を持ってくればいいじゃない!」 なにやら言ってくるルイズは無視した。朝からあんな食事が食えるか。見てるだけで胸焼けしそうだ。 そして外に出ると適当に歩き出す。 さてどこで食べようか。 すこし歩くと丁度座り心地がよさそうな場所があった。 ここで食べるとしよう。そう決め腰を落とす。 作ったサンドイッチを口にする。 ……うん、おいしいじゃないか。すこし苦かったりするけど。でも気になるようなものじゃない。 むしろそれが他の味をより引き立てる。 初めての料理(といえるかどうかは知らないが)はまさに最高の出来栄えだった。 適当に作ったのにこれだけのものができるなんてもしかして俺天才か? いい気分になりながら食べていく。 そして簡単に1つ目を食べ終えてしまった。 続いて2つ目を一齧りする。そのとき目に何かが映った。 何かと思いそれに目を向けるとそこには一匹の子猫がいた。 その日、私は猫に出会った。 マリコルヌは目の前にサンドイッチを見ていた。 あのルイズの使い魔が作ったサンドイッチだ。サンドイッチといっていたからサンドイッチなのだろう。 しかしこんなサンドイッチ見たことが無い。 パンは完全に切り離していないし具も何種類も入れていた。はしばみ草も入れていたのだ。 警戒するなというほうが無茶だ。しかし…… ゴクリ、と咽喉が鳴る。 見た目が鮮やかでとてもおいしそうだ。それに自分の前で作っていたのだから何か小細工ができるわけでもない。 それにあの使い魔は言っていたではないか、昨日の謝礼だと。 謝礼に変なことをするわけが無い。 そうだ。なんで僕が食べ物なんかで脅えなくちゃいけないんだ。 これを作ったのはあの使い魔だけど、このサンドイッチがあの使い魔というわけではないんだ! 意を決しサンドイッチを手に取る。 額から一筋汗が流れ落ちる。昨日のことが思い出される。 それを一緒に飲み込むが如く、マリコルヌは一気にサンドイッチに齧り付いた。 …………………………………………………これは! 「……おいしい」 見た目通り。いいや、それ以上に美味しい! こんなにも美味しいサンドイッチがあるなんて!はしばみ草は物凄く苦いことで知られていて皆たべない。 しかしこれに入っているはしばみ草は別物に思えた。 確かに苦い。それは間違いないのだ。しかしその苦さが次に舌に触れる食材の味をより鮮明に感じさせてくれる! 脂っこいものをさっぱりさせてくれる! 色々な食材をはしばみ草がうまくまとめている感じすらする。これなら美味しく食べられる! これが本当のサンドイッチ、まさにサンド・ザ・サンド! こんなに美味しいものを僕に作ってくれるなんて!あの使い魔は実は言うほど怖くないのかもしれない。 このサンドイッチをきっかけにマリコルヌはヨシカゲをあまり恐れなくなった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1322.html
二人! 使い魔が疾ぶ! 空条承太郎絶体絶命。周囲を取り囲んだメイジ達の詠唱は今にも終わろうとしていた。 放たれるのは炎か、氷か、風か。何にせよ承太郎を絶命させるには十分な威力。 何とか時を止めて窮地を脱しようにも、ついさっき止めたばかりで休みが足りない。 冷静に、承太郎は判断した。自分はここで死ぬのだと。 そして魔法の詠唱が終わるのを静かに聞いて――鎖がジャリと音を鳴らす。 視線を向けてみれば、付け根近くから壊された学ランの鎖が、重力に逆らい屹立して震えていた。 それが何なのか理解するよりも早く、詠唱を終えた魔法が放たれるよりも早く、鎖は見えない糸に引っ張られるように上空へと飛び上がった! 繋がれている学ランごと! 学ランを着ている承太郎ごと! 一瞬遅れて承太郎がさっきまで倒れていた地面に魔法が叩き込まれ土煙が上がる。 魔法をはずしてしまったメイジ達は、慌てて空を見上げた。 承太郎はグングンと高度を上げていて、その先には一匹の風竜の姿。 「これは……まさか!」 「ぶった切った鎖を直せばよぉ~……当然引っ張られる。 俺が鎖をしっかり掴んでおけば……! UFOキャッチャーよりも確実に承太郎さんを拾い上げれるぜぇ~」 風竜の上まで引っ張り上げられた承太郎は、風竜の主の個性的な髪型を見た。 「ルイズさんは無事送り届けました。助けに来たっスよ、承太郎さん!」 仗助の手の中にあった鎖が、承太郎の学ランの鎖と繋がる。 間に合ってよかったと笑顔を浮かべる仗助を見て、承太郎も思わず微笑を見せて返した。 「この高度なら竜騎士でもない限り手出しはされません、安心していーっスよ」 そう言いながらクレイジー・Dで承太郎の身体や学ランに触れる。 すると身体の傷どころか破れた服まで元通りになった。 「助かった……。礼を言うぜ、仗助」 「一緒に1999年の杜王町へ行くまでは、死ぬ訳にはいかねーっスから」 二人は笑みを交わす。 仗助はようやく十七歳の承太郎と真に信頼できる関係になれたと思った。 勇気と闘志が湧いてくる。 大人の承太郎のようにクールなばかりではなく、烈火のような熱さを秘める承太郎の姿を垣間見たため、親近感は大幅アップだ! 「それじゃあ帰るとしますか。旗艦のヴュンなんたら号でいいスよね?」 「仗助。1999年の俺はいい歳だったろうが、今の俺は十七歳だ。 敬語や丁寧語を使う必要はねーぜ……。それと……できれば行き先は変えてもらいたい」 「行き先? どこへっスか?」 「首都ロンディニウム……。クロムウェルを倒す」 七万の軍に突っ込んだ事もそうだが、やはりこの承太郎プッツンしてるらしいと、仗助は再び頭を抱えた。若い頃はあんまりクールじゃなかったのかな~? とすら思う。 「承太郎さん、それは勘弁してください。俺は自分の傷は治せねーんスから、 敵陣の真っ只中に飛び込むなんて真似はさすがに……」 「アルビオン軍の主力は今俺達の下で混乱している連中だ……。 つまり首都ロンディニウムには最低限の戦力しか残されていない。 俺と仗助のスタンド、そして使い魔の力があれば……」 「クロムウェルの野郎一人ぶちのめすくれー簡単って訳か~……。 連合軍が敗退しちまったし、それくらいしかアルビオンに勝つ手段は無さそーだなぁ」 「クロムウェルを討ち取り、このくだらねー戦争を終わらせて、とっとと日本に帰る方法を探すとするぜ仗助。覚悟はいいか? 俺はできている」 仗助の風竜、アズーロは威勢よく吼えると、ロンディニウム目指して飛翔した。 狙うはクロムウェル! 奴を倒してこの戦争を終わらせる!! 地べたを這いずり回る主力部隊を無視して、ジョースターの血統が空を舞う! アズーロの接近に気づいた首都ロンディニウムは、たった一騎で主力の七万を混乱に陥れた風竜の乗り手を恐れ、城の警備をさせていた竜騎兵をすべて出して撃ち落とすよう命令した。 連合軍との戦いで数を減らした竜騎兵だが、それでも数は五十もある。 そのすべてがたった一騎の風竜に向かって襲ってきた。 「作戦は以上だ。いいな? 仗助」 「任せてください。連中にヴィンダールヴの真骨頂を見せてやるぜ~。 アズーロ! おめーも気合入れろよォ~……お前は俺の相棒なんだからよー」 「キュイキュイッ」 ガンダールヴ+デルフリンガー+ヴィンダールヴ+アズーロ VS 竜騎兵五十騎 絶望的な数の差を前に仗助は笑みを崩さない。余裕の笑みを崩さない! 「頼むぜアズーロ! どの竜よりもお前が一番高く飛べるってところを見せてやれ!」 「キュイッ!」 ゴウッと風を切ってアズーロは天高く飛翔し、太陽の中へと飛び込む。 とはいえ敵の数は五十、いかに太陽に隠れようと角度の問題で、アズーロの姿を視認できる者は多かった。 さっそく魔法を詠唱し杖を向けるが、途端にアズーロは宙返りをして退却を開始する。 たった一騎で突っ込んでおきながら、今さら怖気づいたのか? そう思った直後、火竜のブレスが数騎の竜騎兵を焼き払った。 「よしよし、いい子だ。この調子で頼むぜェ~」 そう言いながら仗助が撫でる竜は、火竜。アズーロではない。 太陽の光の中に隠れた承太郎と仗助は、時間を止めて敵の竜に飛び移ったのだ! 承太郎は火竜の騎手を蹴り飛ばすと、仗助を手綱の前に座らせて時間停止を解く。 そして仗助はすぐさまヴィンダールヴの力で火竜を操り同士討ちをさせる。 突然味方を攻撃した竜に戸惑いながらも竜騎兵はその火竜を攻撃する。 「避けろ!」 仗助は初めて乗った、しかも敵の火竜を誰よりも見事に操って見せ、次々に敵のブレスや魔法を回避しながら火竜のブレスで反撃する。 さらに他の竜とすれ違い様に、承太郎は銃弾を弾いて乗り手を落とす。 空中を飛び回っている竜の背中からでも、スタープラチナの精密な射撃は的確に乗り手だけを撃ち落とした。 とはいえ数の差は埋め難い、次第に火竜は敵竜騎兵に囲まれてしまう。 「次のターゲットはあの火竜がよさそうっスね~……。 いい体格してるからブレスの威力もありそうだしよ~」 「あの竜だな。行くぜ、スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 時間を止めた承太郎は仗助を脇に担ぐと、スタープラチナの脚力で火竜の背中をめり込ませながら新たな獲物に飛び移る。 そして新しい火竜の乗り手を軽く蹴飛ばして火竜から落として、仗助を手綱の前に座らせる。 「時は動き出す。……仗助!」 「ほれほれ、俺が新しいご主人様だぜェ~。名前は何ていうんだ? へえ、エドワウか。それじゃさっそく言う事を聞いてもらうぜ」 新たな竜を得た二人は、即座に奇襲をかけ他の竜騎兵を次々に落としていく。 時折反撃を受けエドワウが負傷するが、仗助が即座に治す。 スタープラチナの時間停止とジャンプ力で竜から竜へと飛び移り、ガンダールヴの身体能力で振り回すデルフリンガーが敵の魔法を吸収し、クレイジー・ダイヤモンドの能力が負傷した竜を治療し、ヴィンダールヴの能力が竜の能力を最大限に発揮させる。 四つの力が合わさり竜騎兵は次々に落とされていき、最後に残ったのはエドワウに乗る承太郎と仗助のみであった。 そうすると雲を背中に白い身体を隠していたアズーロが降りてきて、お疲れ様とばかりに仗助に顔をすり寄せる。 「よしよし、いい子だ。ところで承太郎さんって竜に乗れますか?」 「振り落とされない程度には……な……」 「じゃ、そのエドワウは承太郎さんに任せます。火竜の火力も必要っスからね~」 仗助がアズーロに乗り移った時、竜巻が二人を襲った。 咄嗟にアズーロを操縦しバランスを取らせた仗助はともかく、承太郎はエドワウごと地面に落ちていった。 「承太郎さん!」 仗助が叫んだ直後、上空から雲に隠れていた風竜が一騎、急降下してくる。 「ガンダールヴ! 今度こそ、今度こそ討ち取ってやるぞ!」 怒りと憎しみに燃えるワルドが杖を掲げて叫んでいた。 ワルドは仗助を無視してアズーロの脇を抜けると、承太郎目掛けて竜を突進させる。 「アズーロ!」 「キュイッ!」 一心同体ともいえるアズーロは、即座に主の考え通りに急降下してワルドを追う。 しかし助走距離が足りない! いかにヴィンダールヴといえど、自分より先に、しかも上空から急降下を始めた風竜に、同じ風竜で追いつく事はできない。 承太郎は必死にエドワウの手綱を握り締め、振り落とされまいとするが、上空から新たに魔法を放とうとするワルドを見てそうもいってられない状況と理解する。 「フフッ……いかに時間を止められようと、場所が空ではどうにもできまい! 足場が無ければ跳ぶ事もできぬ! 地面に到達する前に決着とつけてやるぞ!」 ワルドは嗜虐の笑みで表情を歪めると、再びウインド・ブレイクを放った。 エドワウの手綱がちぎれ、承太郎は空に放り出される。 「死ね、ガンダー……ゴブッ!?」 突然ワルドは口から血を吐いた。身体を大の字に広げて落下速度を抑えながら、スタープラチナの指は次々と銃弾を上空に向けて弾き飛ばす。 的確に口へと撃ち込んだ次は杖を持つ指、続いて右目、左目と命中させる。 「ガボゴボッ……!」 悲鳴を上げながらワルドは風竜から振り落とされ、杖を手放した状態で地面に向けて落下して行った。 一方承太郎も眼下に広がる岩肌を睨みつけ、スタープラチナでショックを和らげようとしている。 しかし。 「承太郎さぁぁぁん!」 アズーロを駆る仗助が地面に激突せんばかりの勢いで助けに向かってきたため、即座に承太郎は学ランの鎖を切断して仗助に向かって投げた。 鎖を掴んだ仗助は即座にクレイジー・Dの能力を発動する。 地面からわずか数メイルという距離で承太郎は止まり、壊れた鎖が引っ張り合った事によりアズーロの背中へと舞い戻っていった。 「ドラァーッ!」 「オラァッー!」 クレイジー・ダイヤモンドがスタープラチナを抱き止め、承太郎はアズーロの手綱を掴んでその背中に乗る。 しかしアズーロの鼻先もまた地面までわずか数メイル。 「アズーロォォォッ!!」 「キュッイィィィーン!」 一際大きく鳴いたアズーロは円を描くようにして急上昇する。 どんな高性能コンピューターでも計算できないようなギリギリの神業で、アズーロの腹は岩肌のわずか五サントほど上をかすめた。 その岩肌から少し離れた位置に、潰れたトマトのようになっているワルドがあった。 「竜騎兵隊ィ! 全ッ滅ッ!!」 「やれやれ……ちと苦労したが、行くぜ。ロンディニウムの城に殴り込みだッ」 「キュイィィィーッ!!」 快進撃を続ける二人と一匹はロンディニウムの城へと疾ぶ! 目指すはクロムウェルがいるだろう玉座の間! 空から見えるベランダから突撃すればすぐだろう……。 時を止めるスタープラチナ! 神の左手ガンダールヴ! 伝説の剣デルフリンガー! 物を直すクレイジー・ダイヤモンド! 神の右手ヴィンダールヴ! 風竜アズーロ! ジョースター!! 虚無の使い魔!! その相棒!! もう誰にも止められない。 しかし待ち受ける者のスタンド能力を彼等はまだ知らない。 それに対抗する手段を手放してしまっていると彼等はまだ、知らない……。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/854.html
・お熱い使い魔(キッス)を受け取りなッ! ゴッ 「「~~~ッッ!!!!」」 頭部に走った余りの激痛に二人してのた打ち回る。 周囲が笑いの渦に飲まれていたが二人ともそんな事気にしては居られない。そして見事に同じ事を考えていた。 (何だこの石頭はッッ!!!!) 腕を組みいかにも威厳たっぷりに此方を見下ろすピンク頭。 「で!あんた一体誰?!」 しかしその額は心なしか少し赤く腫れ上がっている気がしないでも無い。威厳はその腫れで帳消しになっており…どちらかと言えばマヌケだ。 恐らく明日には青くなっているだろう。 「…エルメェス…エルメェス・コステロだ」 取りあえず名前を答えておく。 …ん? 「エルメェス?変な名前」 私の名前は『それ』だったか? もう!もう!!何なのよこいつは!!! いきなり頭突きしたり私を無視して俯いたり! 何よ何よ変な髪型! 「ミスタコルベール!やり直しを!やり直しを要求します!!」 こんなの冗談じゃない 「流石はゼロのルイズ!」 「また失敗かよ!」 「平民だ!平民を召還しやがった!!」 うっせ―黙らっしゃいこのピザが 取りあえずマルコメヌは 「ピギィ!」 蹴っておいた 「ミスタコルベール!やり直しを!!」 全く冗談じゃ無いわよ マルコリヌうっさいのた打ち回らないで 「ミスヴァリエール、それは無理だ。 呼び出してしまった以上ゥ君の使い魔は彼女…?だ。残念ながらやり直しは出来ないのだよ。」 「糞ったれこのコッパゲが残りの毛全部むしってやろうか」 (そんな…ミスタコルベールあんまりです) 「「…」」 間違ったァ――!言ってることと思っている事が逆でしたァ―!! コホン… 「さ、さぁさっさと儀式の続きをを」 多少口元がひくついてるけど大丈夫でしょ 大丈夫大丈夫もーまんたい のた打ち回らないでってばマルコリヌ 何?股間?股間が痛いの?見苦しい見苦しい見苦しい三回言った ちらと後ろに目を向けるとまだ地面に座り込んでいる平民が居た。 性別は恐らく…女?厳つい顔をしている。 後、変な髪型。それに石頭。更に石頭。石頭。 ちょっと!何で私より胸があるっていうのよ!舐めてるわね!?クソッ!クソッ! と、言うかさっきから微動だにしないんだが大丈夫なのかしら まさかさっきの頭突きで色々吹っ飛んだなんて事無いでしょうね 「ねぇちょっとあんた一体どこの平民?頭(の中とか)大丈夫?」 「えっあっああ…うん大丈夫だ」 何よ周りをキョロキョロ見回して そっか平民だからこんなの見慣れてないのね それにしても…ああ、さようならルイズのファーストキッス せめて男が良かったわ 見た目男っぽいけど 行くのよルイズ!がんばっ!ルイズ! 平民の額(あ、赤くなってるわザマーミロ)に杖を向け呪文を唱える 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え 我が使い魔となせ。」 そしてそのまま顔を近づけぇ――― ドカッ! 「まそっぷ!」 後ろに吹っ飛ばされた 「なっ何をするだぁ―!!痛いじゃないの!」 「それはこっちのセリフだボケが!」 平民の癖に口答えするわけ!?頭に来た! 「ファイヤーボール!」 チュドーン! よっしゃ当たった!この際ファイヤーボールが失敗したとかどうでも良いわ 気絶した隙に契約する!なんて頭がいいの私! ズキュ――z___ン!! 契約完了 to be continued…-
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9351.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十話「その名は“邪悪”」 邪悪生命体ゴーデス 登場 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。 彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。 母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の 中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。 やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ 才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの 旅路の大詰めであった。 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。 「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。 「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。 まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の 売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、 ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで 警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際 その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。 「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に タバサとその母親を奪取しましょう」 「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、 よく無事だったと褒めてあげたいね」 「あんたは何もしなかったでしょうが」 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。 「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、 「待て」 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。 すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。 「わたしはエルフのビダーシャル」 「エルフ……!」 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。 ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。 それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の 奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。 「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、 音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。 「お前たちに告ぐ」 「な、何だよ」 「去れ。我は戦いを好まぬ」 「だったらタバサを返せ!」 「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を してしまった。渡す訳にはいかぬ」 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。 「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、 どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた 怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。 「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、 約束は決して破らん」 「駄目か……!」 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ 他人には信用してもらえそうにない。 ルイズは才人の袖を引っ張る。 「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」 「けど!」 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。 「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、 何を引き起こすのか分からないわ」 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした 情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、 ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。 才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが おろおろとした声を出す。 「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」 「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」 声を震わせながら反論するモンモランシー。 「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」 「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、 日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。 「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」 「……俺がどうにかして倒してくる」 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに 頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる ルイズと才人ではなかった。 「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、 エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは 認可できん!」 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、 友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。 「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、 どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。 その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。 「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。 二人と……あたしを信じて、任せてあげて」 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。 それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。 「サイト、ゼロになって!」 「何?」 「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は 怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける 相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。 「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」 「どうして?」 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。 「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。 あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が 尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。 ルイズは己の考えを改めた。 「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」 「ああ!」 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も 動かずに、彼らを待ち受けていた。 「やはり去らぬというのか」 「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」 「了承した」 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は どういうことだろうか? 「相棒、無駄だ。やめろ」 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。 「うぉおおおおおッ!」 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに 吹っ飛ばされた。 「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。 「サイト!」 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。 「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。 「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」 「反射?」 「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と 契約しやがったな。なんてえエルフだ」 「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」 「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。 ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」 ビダーシャルは両手を振り上げた。 「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと 才人を襲う。 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は 身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。 「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」 「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、 あいつをどうにかすることができるんだ」 「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」 「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」 「え?」 「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」 「解除ね!」 「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部 解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を 構えているからだ。 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が 湧き上がるのだ。 「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る 全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。 「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な 拳に変化した。 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。 「あれがエルフの“先住”かよ……」 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、 またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、 後退を余儀なくされる。 「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。 「サイト! ルイズ!」 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。 「お前ら、どうして……」 「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。 「逃げろ! 俺たちで何とかする」 「いいから、黙ってろ」 「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。 キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。 「くッ!」 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。 向こうは、汗一つかいていないのである。 「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。 「いや、そうじゃないみたいだぜ」 振り返るギーシュ、マリコルヌ。 「ルイズが呪文を唱えてる」 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が 彼の心に気力をもたらしているのだ。 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の 完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。 「俺にその“解除”を掛けろ!」 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。 「相棒! 今だ!」 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は 真っ二つに切り分けられた。 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。 「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。 「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは お前たちを打ち滅ぼすだろう!」 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。 ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。 ギーシュがぽつりとつぶやいた。 「このぼくがエルフに勝った。信じられない」 「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」 モンモランシーが突っ込んだ。 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。 「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」 「どこに行くんだい?」 「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。 「ああそうだった。そのために来たんだった」 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた! 「な、何だ!?」 「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた! 「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に 崩壊していく! 「嘘!? タバサぁぁぁッ!」 「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。 「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から 逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の 肉の中へ呑まれていった! 「何だ!? 何が起こってるんだ!?」 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で 固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を 慰めることしか出来なかった。 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。 「な、何……!?」 「パムー!」 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、 巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。 「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、 『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの 実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。 「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を 惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、 どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。 胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして 真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に 過ぎる、人面の化け物。 邪悪生命体ゴーデス! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1246.html
「ほう…広いな」 歩くにつれ、少しづつ収まってきたルイズを前に食堂に着いたのだが、その結構な広さに、素直に感嘆していた。 「ここで教えているのは魔法だけじゃなくて『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』のモットーのもと 貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」 長ったらしい説明を受けたが、まぁイレーネにとってはどうでもいい。 ルイズが席に座ろうとすると、絶妙のタイミングで椅子を引くと、驚いたようにルイズが反応した。 「意外と気が利くのね…」 「組織から一通りの事は叩き込まれてきたからな」 妖気を消す薬を使った上での潜入任務用のものだが、その気になれば娼婦の目だってやれるのだ。 使用人の動きも当然叩き込まれている。 「…こんな所で役に立つとは思わなかったが」 まぁ、そのNoの高さ故に潜入などには使われる事は無かったので、今回が初披露という事になる。 しばらくルイズの近くに立っていたが、人が集まろうとしない。 いや、他の席は人で埋まっていたが、ルイズの周りの席だけ綺麗に空いている。 少し考えたが、その理由は一瞬で分かった。 (ああ、ここでは私はエルフだったな) 要は仕事を成した後に姿を見せたがらない街人のようなものだと思えば納得できる。 つまり、恐れているという事だ。 ただ、朝のルイズが嫌そうにしていた赤い髪のキュルケはそうでもなかったようだが。 「見た目より、仲が悪いというわけではないようだ」 からかっているようにも見えたが、それなりに気にかけた上での行動だろうと検討を付ける。 本人に言えば否定されるだろうから、あえて言わないでいるが、とにかく、ここに居ては食事も始まらないだろうとし外に出ておく事にした。 どのみち、まだ一週間は持つはずだ。 「私は外に出ておく。済んだ頃には外で待っている」 「へ?何で外に出る必要があるのよ」 「気付いていないのか…周りを見ろ」 結構大物になるかもしれんと思ったが、場の状況を把握できないというのは、後で後悔するハメになる事が多いので確認させるように促す。 それはもう、夥しい数の視線がこちらに向けられている。 自分にではなく、主にイレーネに。 「と、いうわけだ」 そう言うが否やイレーネが食堂を後にする。 「…って、待ちなさい!あんたの食事は…」 そこまで言って、昨日、自分が言った事を思い出したのか口篭る。 もっともイレーネはそれを気にした様子も無く、とっとと食堂から出てしまったのだが。 「もう…勝手にしなさい!」 「少し、ここを探るか」 食堂から出たイレーネだが、まだ時間はある。 これからしばらくここに居るのだ。少し、学院の構造を調べておく事にした。 「確か、今居る塔が本塔だったな、他にも分塔が分かれているというわけか。…しかし、妖力がほとんど回復していない…やはり再生の影響か」 攻撃型の上位Noが腕一本再生するとしても、数ヶ月かかるのだ。それをこの短時間で行えたのだから、その影響だろう。 高速剣は腕を覚醒させ精神力で押さえつける技のため気にしなくてもいいだろうが、こうなればいよいよ一割の妖力解放すら温存しておいた方がよさそうだ。 少し考えながら歩いていたため、曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。 これが妖魔なら事前に察知できていたのだが、相手はただの人だ。 「妖魔のようにはいかんものだ…すまんな、大丈夫か?」 「い、いえ…こちらこそ申し訳あり……」 イレーネはそのまま立っていたがぶつかった方はしりもちをついて倒れている。 戦士として鍛えられたイレーネと、そうでない者なら当然の結果か。 「珍しい色だ。私が居た場所でも滅多に無いが…確か『獅子王リガルド』がそんな髪の色だと聞いたな」 男の時代のかつてのNo2。イレーネ自身、直接遭遇した事は無いが、外見はそうだと聞かされている。 が、倒れている方は、イレーネを見たまま固まっている。 「…どうした?立てないのか?」 手を差し出すが…何故か思いっきり叫ばれた。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!わわわ、わたしなんか食べたっておいしくないですよぉ!!」 「食べる…?何を言って「ああ…!父様、母様ごめんなさい…!シエスタはエルフに攫われてしまいます!」」 どうにもこうにも、シエスタと言うらしい少女が一人で何か別の世界に突入しているが、それを見たイレーネも動じていないあたりさすがだ。 「ど、どうしよう!学院にエルフがいるってことは貴族の方たちも、連れ去られてしま「とりあえず落ち着け」」 言うと同時に手刀を頭に叩き込む。もちろん角度60°の綺麗なやつをだ。 髪型がクレアに似ていたので思わず後頭部を掴んで、土下座体勢にさせたくなったが、チョップで我慢しておく。 「ひぁ…!た、食べないでくださいぃ~~~!」 「エルフというのは人を喰らうのか?…だとしたら妖魔か?しかし、それならなんで私がそれと同列に扱われなくてはならないんだ」 妖魔扱いされたと思い少しイラついたが表情には出さない。 「い、いえ、わたしも人から聞いただけなんですけど…違うんですか?」 「私はエルフではないから、知らんし、お前達が使うような魔法なども使えん」 「…そういえば、ミス・ヴァリエールがエルフを使い魔にしたって噂になってましたけど…魔法使えないんですか?」 「少なくとも、空を飛んだりする事などできんさ。大体、お前達はどこで私をエルフだと判断しているんだ」 今朝、エルフだと思われていた方がいいと判断したばかりだが、即撤回だ。 半人半妖だが、さすがに妖魔のように人を食うとは思われたくない。 「その…えっと…耳ですかね」 「確かに一般的なものとは違っているが…私はエルフではないよ」 クレアを襲っていたあの女もそうだが、あっちではそう珍しくない。どうやらこっちでは尖っている=エルフというらしいと認識した。 「エルフじゃなくて魔法が使えないって事はわたし達と同じ平民なんですか?」 「同じ?お前、魔法は使えないのか?」 「魔法が使えるのは貴族の方達だけなんですよ。わたしは貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公をさせていただいているんです」 「ふん…ならここでは、私もそうなるのだろうな」 ルイズにならともかく、この少女に半人半妖だと言っても理解すらできまいとし、それを言うのは止めたのだが、一つ疑問が浮かぶ。 「…いや、私を召喚したというやつも魔法だったか」 なら、何故に空を飛ばなかったのかは気になったのだが、まぁ些細な事だ。 攻撃型、防御型の違いのように得手不得手があるのだろうというところで納得した。 「わたしはシエスタっていいます。よろしくお願いしますね」 「さっき私に攫われると言っていた時に聞いたよ。イレーネだ」 さっきの事を思い出したのかシエスタが慌ててながら赤くなった。 「す、すいません…!でも魔法を使える貴族ですらわたし達にとっては怖いんです…。その貴族ですら恐れるエルフと思ったんですから…」 「怖い…か。私にも怖いと思うことぐらいあるよ」 もちろん、プリシラに左腕を持っていかれた時の事だが、シエスタは自分と同じだと思ったらしい。 「やっぱりそうですよね。…そうだ!余り物で作った賄い食でよければ食べていかれませんか?」 「ああ、私は…」 「遠慮なんてしないでくださいな。こちらにいらしてください」 大丈夫だと答える前にシエスタに手を掴まれ阻まれた。どうも見た目に反し押しが強いらしい。 こうなればあちらと違って、恐れられていないだけに一方的に弱い形になる。 戦士によっては、どこまでやるのかは違うが、少なくともイレーネは一般人と揉め事を起こすようなタイプではない。 無理に断っても拗れるだけだし、一週間は持つが、食べる必要が無いというわけではない。まして妖力が尽きているのだ。 引っ張られるままに食堂の裏手の厨房に連れていかれ椅子に座らされ待つこと数分。 シエスタが皿に入った暖かいシチューを持ってきた。 半分ぐらい食べたところでスプーンを置くとニコニコしていたシエスタが急に不安そうな顔をして聞いてきた。 「もしかして…お口に合いませんでしたか…?」 「ああ、性質でな。私は大体、二日に一度この程度食べれば事足りるんだ」 まぁ戦士にもよるが、大体このぐらいだ。クレアはさらに少ない方だったようだが。 「駄目ですよ!ちゃんと食べないと大きくなれません!」 長女としてのプライドか、どうも食事を残す妹や弟達とかぶったらしく、思わず似たような説教が出た。 「これ以上成長するというのもどうかと思うが」 身長180センチ、一般的に見ても高身長だ。 「そうですけど…毎日のご飯は大事なんですからね」 (やれやれ…クレアに『欲しくなくても無理にでも体に入れておけ』と言った私の立場が無いな) 因果応報。弟子にやった事がそのまま返ってきたような気がしたため、とりあえずその場は全部食べる事にした。 味は美味かったため、そう苦にはならなかったのは幸いというところか。 というか、本気で久方ぶりにまともな料理を食べた。 戦士時代から性質上、どういったものでも少量摂取すればいいというだけあって、基本的に生でいける果実か、そのまま焼いたものぐらいしか食べていない。 例外も居るだろうが、大抵の戦士はそれで済むため、わざわざ、一般人が食べるような料理を食べようなどというものは非常に少ないのだ。 だから、素直に感想が出た。 「旨いな」 「よかった。全部食べてくれて。いつでも食べに来てくださいね。わたし達が食べているものでよければお出ししますので」 「さすがに、毎日というわけにはな…ルイズの方も終わったようだ、世話になった」 「それじゃあ、またお昼に」 マントを翻し厨房を出るが、先行き不安と言えば不安だ。 「四肢接続を繰り返せばいけるか…?」 本気でそんな危ない事を考えつつ、ルイズと合流し教室へと向かう事になった。 ルイズがイレーネを伴い教室へ入ると、今まで結構話し声とかしていた教室が一気に静まり返った。 全員、正面を向き誰も一切ルイズを、もといイレーネを見ようとしない。 唯一の例外は今朝のキュルケと、その近くに座っている青髪の少女ぐらいだ。 風属性の教師曰く「学院として理想的な状態だ」とのこと。 さすがに、イレーネもこう大人数から人を食うエルフと思われてはたまらないので、ルイズに問いただす事にした。 「…お前達が言うエルフというのは人を食うのか?」 「人を食べるのはオーク鬼とかでエルフは強力な先住魔法を使うけど人なんか食べないと思うわ。急にどうしたのよ」 「そうか。…いや少しな」 どうやらシエスタの思い込みだったようで、一先ず安堵した。 なら訂正する事もあるまいと思い床に腰を落す。 やはり、こうなると背中に大剣が無い事に多少違和感を感じる。 「しかし…あれ全てが使い魔というやつか?」 「そりゃそうよ」 (まるで覚醒者の展示会だな…) もちろん普通の動物も居るが、中に浮いている巨大な目玉。蛸人魚。六本足を持つトカゲ。どれもこれも40番代ぐらいの下位の覚醒者ならありえる形だ。 そうしていると、扉が開き中年の女性の教師が入ってきた。 教室を一瞥するなり、満足げに微笑むと 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 と、口を開いたが、ルイズとその使い魔であるイレーネと目が合うと一気にその調子が下がった。 「ず、ずいぶんと、変わった…いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」 瞬間、ただでさえ冷えていた教室の空気が下がる。それはもう、生徒から空気読めよと言わんばかりの視線がモロにシュヴルーズと呼ばれる教師に集まっていた。 「で、では授業を始めますよ。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、皆さんに講義します」 こほん、と咳払いをし授業が始まるが、イレーネの興味は属性などよりも二つ名の方に移っている。 「お前達は、全員二つ名を持っているのか」 「そうね、大抵二つ名で属性が分かるのよ。あそこの小太りが『風上』。あのキザったらしい金髪が『青銅』。その横のは『香水』。後は…キュルケの『微熱』ね」 「順に、『風』『土』『水』『火』といったところだな。もう一つあるようだが…誰も使えないのか」 「伝説になってるぐらいだしね。虚無は」 「…それでルイズ、お前の二つ名は何なんだ?」 イレーネ自身、『高速剣』という二つ名を持っていたからには、そこのところはやはり興味はある。 そう聞かれてもルイズが答えないので、まぁ深くは聞かなかったのだが、かなり静かな教室の中、話していたので結構目立っていた。 「ミス・ヴァリエール、使い魔と親睦を深めるのは構わないのですが…授業中は慎みなさい」 「ああ、すまん。続けてくれ」 ルイズが謝るより先にイレーネがそう言ったのだが、思いのほか素直に謝られた事に対して緊張が取れたようで、ようやく何時もの調子に戻ったようだ。 「判っていただければ幸いです。ミス・ヴァリエールには、ここにある石ころを私がやったように金属に変えてもらいましょう」 「わ、わたしですか?」 もじもじしつつ立ち上がらないルイズを若干疑念を含んだ目で見たが、土系統は苦手なのだろうと判断した。 「や、やります」 そんな、視線に気付いたのか、緊張した面持ちでルイズが前に向かうが、別の方向から待ったがかかった。 「先生、ルイズにやらせるのは危険だと思いますけど…」 他の生徒もそれに同調しているが、シュヴルーズは止めさせるどころか、むしろ促している。 「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」 もう止められない。ルイズが教壇の前に行き杖を構えると生徒が一斉に机の下に隠れ始めた。 ルイズが呪文を唱えるが、戦いから離れていたとはいえ戦士。イレーネの体が反応した。 体のあちこちが妖力解放した時のように音を立てている。 何か分からんがマズイ! 「そこまでだ、止めろ!」 何故か限界を突破しそうな予感にかられ、ルイズを止めたのだが、もう杖を振り下ろしていた。 「いかん!」 瞬時に妖力解放。大して回復していない妖力を全て回し床を蹴った瞬間、爆発が起こった。 教室がパニックに陥り、他の使い魔達が暴れ出す。 フレイムが火を吐き、飛行可能な使い魔はガラスを突き破り外へ逃げ、その穴から入ってきた大蛇が小太りの少年を飲み込もうとしている。 「ああ!マリコルヌが食われた!」「まだ、食べられてない!助けてくれ!」「火を消せぇーーーー」 まるで、妖魔か覚醒者が町を襲った時の様な阿鼻叫喚だ。 「だ、だから言ったのよ!ルイズにやらせるなって!ってルイズと先生は!?」 キュルケが教壇を指差しながらそう言ったのだが、二人は居なかった。 「うそ…二人とも爆発で!?」 その場に居たはずなのに居ないので、爆発で消し飛んだと思ったらしいが、教室の後ろの方から声がかかった。 「まったく…問題児もいいところだ」 イレーネが珍しく焦った様子で、その右腕にルイズを抱えている。 「左腕が無いんでな。悪いが蹴ったぞ」 その視線の先にはシュヴルーズが倒れていた。 爆発に巻き込まれたわけではないが、イレーネの蹴りが良い所に入ったようで気絶している。 先住魔法というざわめきが起きたが、何の事は無い。ただ疾く動いただけの事だ 妖力解放し、教壇まで一足飛びに飛ぶと同時に教壇のルイズを掴み そのままの勢いで壁を蹴り反転。ついでにシュヴルーズを蹴り飛ばしたのだが、鳩尾に綺麗に決まったようだった。 当然、手加減はしたが急所である。そりゃあ気絶もする。 瞬間的な妖力解放による高速移動。『幻影』程ではないが、かなりのスピードで移動はできる。 ただ、もう回復した妖力を使い果たしたようだったが。 「ちょっと失敗したみたいね」 そんな教室のざわめきを受けても淡々とした声でと事も無げに言う姿を見て改めてイレーネは、こいつは大物になるな。と本気でそう思った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9090.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その二「セーラー服騒動のゼロ」 これは、ルイズが誤って惚れ薬を飲み、才人たちがラグドリアン湖に水の精霊の涙を取りに 行く羽目になったことに至るまでの経緯である……。 ウルトラマンゼロが平賀才人という少年と一体化してから、結構な日にちが経った。ゼロは当初、 才人のことは正直今一つ頼りない、なよなよした少年だと思っていた。もっとも、それも無理からぬ ことだろう。才人は防衛チームの一員でも何でもなく、ずっと平和な社会の中で育った地球人の 普通の少年。これといって強い信念を持っている訳でもない。ハルケギニアに召喚されてから しばらくも、考えなしの行動を取って余計なトラブルを招くこともしばしばだった。 だが今は、評価を180度覆していた。最初のきっかけは、ギーシュとの決闘。その時の彼は、 ルイズの名誉のために最後まで強大な敵に屈することなく戦い続けた。ガンダールヴの力に 助けられることにはなったが、その時の彼は確かに、己自身の力で抗い続けた。よほどの勇気を 心に秘めていなければ出来ないことだ。 そして始まった、怪獣、侵略者の侵攻。次々と休む暇もなく現れる恐ろしい敵の数々にも、 才人は怖気づくことなく、ともに戦ってくれた。ゼロがどんな窮地の中にあっても、何度でも 立ち上がる力を出せたのは、才人の勇気もひと役買っている。 助けられているのは才人だけではない。ゼロも彼に、見えないところで大きく助けられていた。 才人には、深い感謝を抱いている――。 (――はぁ……) のだが、今の状況は、正直頂けなかった。才人が勇敢な、既に立派な自分の仲間であることは 十分に分かっているのだが、この場面を見せられると、その思いに疑念を挟んでしまいそうになる。 人間、いいところばかりではない。あまり贅沢を言ったらいけないのかもしれない。しかしそれでも、 どうにかならないのか。この再発した、才人の「病気」は――。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおオオオオッ! おれッ、サイッコォオオオッ! シエスタも最高ぉおおおおオオオオッ!」 ゼロが隠れてため息を吐いているとも露知らず、才人はもだえくるって奇声を上げていた。 その目の前には、セーラー服を着たシエスタの姿。 今才人は、アウストリの広場で、露店で買い取って改造したセーラー服を、シエスタに 着せている最中だった。セーラー服を着た、ただそれだけのシエスタの姿を見て尋常でなく 狂喜する才人の心理を、ゼロは理解できずに頭を痛めていた。 そうしていると、シエスタの腕輪から、ジャンボットが声を上げた。 『サイト……。一体何をそんなに喜んでいるのだ。これはいわゆる軍服だろう? 戦争の 装束などをわざわざシエスタに着用させて、あまつさえ歓喜するなど……理解不能だ』 「バカ言うなッ!」 がばっとはねおきてジャンボットに詰め寄る才人。結果的にシエスタに詰め寄ることに なったので、シエスタはひっ、とあとじさった。 「こっちのぉおおオオッ! せせ、世界ではぁッ! 確かにそれは水兵服かもしれませンッ! でむぅぉおオッ! ぼくの世界でぇはァアッ! シエスタぐらいの年の女の子はそれ着て 学校に通うッ! 現在進行形で通っているぅううウウウウッ!」 『そ、そうなのか……』 「それはぼくの世界でセーラー服と呼ばれてますッ! 生まれてすいましぇえエエンッ!」 『いや、謝られても……』 異常なハイテンションにドンびきのジャンボットだが、シエスタの方は、自分に故郷の 装いをさせて悦ぶ才人を愛おしく感じて頬を染めた。恋は盲目とはよく言ったものだ。 「最初はサイトさんがおかしくなったと思ったけど……わかりました! どうすれば、もっと 喜んでもらえますか?」 シエスタの申し出で、才人はシエスタの姿を見つめ直して、真剣に、命がけに考えた。 どうすれば今のシエスタがもっと輝けるか! (違うことにその思考力を使えよ……) ゼロが心の中で嘆息した。 そして才人は結論を出した。 「回ってくれ」 「え?」 「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!』って、元気よく俺に言ってくれ」 さすがにひきながらも、言われた通りにするシエスタ。 「お、お待たせっ」 「ちがーうッ!」 「ひっ」 「最後は指立てて、ネ。元気よく。もう一回」 シエスタは頷くと、言われた通りに繰り返した。見ると、才人は泣いていた。 「きき、き、きみの勇気にありがとう」 ジャンボットは理解が追いつかずに、呆然とつぶやく。 『これが地球人の嗜好なのか……? 度し難いな……』 『誤解しないでくれ。全部の地球人がこいつみたいなんじゃないんだよ』 いや、俺も地球のことをよく知ってる訳じゃないけど……と考えるゼロだが、それだけは、 何の確証がなくてもはっきりと言えた。 「次はどうするの?」 「えっと、次は……」 それはともかく、シエスタと才人が話していると、ぎくしゃくした足取りの二人組がこちらに 歩いてきた。ギーシュとマリコルヌ。物陰から覗いていたらしい。 おほん、とギーシュがもったいぶって咳をする。 「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」 ギーシュは何故か泣きそうな顔で怒っている。マリコルヌも、わなわなと震えながら シエスタを指差した。 「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そうだなッ! ギーシュッ!」 「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがないぞッ! のののッ!」 「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」 (こいつらもか……) ゼロは頭が痛くなってきた。 シエスタはギーシュとマリコルヌの様子に身の危険を感じて、仕事を言い訳に走り去っていった。 それをぼーっと見送ったギーシュたちが、才人に問いかける。 「な、なあきみ。あの衣装をどこで買ったんだ?」 「聞いてどうする?」 ギーシュは、はにかんだ笑みを浮かべて言った。 「あ、あの可憐な装いを、プレゼントしたい人物がいるんだ。いつもそばにいて、ぼくを 見つめ続けてくれていた可憐なまなざしを……。あの麗しい金髪を。芳しい、香水のような微笑を……」 才人とゼロは、モンモランシーのことを言っているのだと気づいた。 「ヨリを戻したくなったのか。お前ってほんとうに節操ねえのな」 「きみに言われたくない。さてと、では教えたまえ。どこで売ってた?」 「ふん。お前なんかに芸術がわかるかっつの」 「しかたない。今の出来事をきちんと報告したうえで、ルイズに尋ねてみよう」 「あと二着ある。好きにつかってくれ」 あっさり折れる才人だった。 予備のセーラー服を渡す口約束をしてしまった才人に、ゼロが問いかける。 『才人……お前いいのか? あんなこと言って』 「しかたねえだろ。ルイズにこのこと知られたら、あいつのことだから、何するかわかんないし」 『けど、あいつらが使ってるとこを、ルイズに見られるってことも考えられるぜ』 その可能性に初めて気づいて、うッとうめいた才人だが、思考を楽観的な方向に切り替える。 「なーに、あいつらにも理性ってもんがあるだろ。人前で堂々と楽しもうなんてしないって。きっと」 『だといいんだけどな……』 この時点で、ゼロは悪い予感を抱いていた。 だが翌朝、ギーシュがプレゼントしたセーラー服を、モンモランシーが教室に着てきてしまった。 当然ルイズの目にもつき、それが才人の買ったものだとすぐに気がついた。 「ねえ、あれってあんたが買った服でしょ? どうしてモンモランシーが着てるのよ」 才人はガタガタ震えながら答える。ゼロは今日も頭を痛めた。 「その、えへ、あ、ギーシュがくれって言うから……」 「なんでギーシュにあげたの?」 「え? だって、欲しいって言うから……」 ルイズは、才人の態度に怪しいものを感じた。 「ねえ、なにをわたしに隠してるの?」 「え? ええ? なにも隠してないよ! いやだなあ……」 そんな言い訳では、ルイズの疑念は晴れない。放課後になってもう一度問い詰められそうに なったので、才人は逃げることにした。 「ハトの小次郎に餌やらなくちゃ」 ありえない理由を言い残して、教室から走り去っていく。残されたルイズが、ひと言ツッコミを入れる。 「いつハトなんか飼ったのよ」 『だから言ったのに。とんでもないことになるぞ。やめてくれよ、俺まで巻き込むの』 「うるさいな! とにかく証拠隠滅だ! まだ間に合うッ!」 才人は厨房へと駆けつけると、マルトーらの歓迎をすり抜け、すぐに洗い物中のシエスタに囁きかけた。 「シエスタ、あの例の服を、仕事が終わったら、持ってきてくれないか?」 「え?」 「そうだな……、人目につかないところがいいな……。ヴェストリの広場に、塔に上がる 階段の踊り場があるだろ? あそこに持ってきてくれ」 「は、はい……」 用件だけ伝えると、才人はすぐに立ち去った。その後で、シエスタがうっとりと顔を赤らめた。 「どうしよう。ああ、わたし、奪われちゃうんだわ……」 『サイトがシエスタを奪う? 何を言ってるんだ。サイトは服を返してもらいたいんだろう』 ジャンボットが不思議そうに指摘したが、シエスタはひそひそと否定する。 「違いますよ! 男の人が、人目につかないところに、特別な格好を指定して呼び出すということは、 女の人を頂いちゃうということ以外にありません! 遂に、遂にこの時が来たんだわ……」 『意味がよく分からないが……シエスタ? もう聞いていないか……』 ロボットのジャンボットは、シエスタの言う「奪う」「頂く」の意味もよく理解できなかった。 そしてシエスタが陶酔してしまったので、それ以上呼びかけるのはやめた。 ここで、強引にでも彼女とよく話していれば、この後の惨劇は起こらなかったかもしれないのに……。 待ち合わせの場所にシエスタがやってきた時には、すっかり日が落ちていた。風呂で体を清め、 身支度を整えていたので、時間がかかってしまったのだ。 階段の踊り場には、才人の姿はない。樽が二つばかり置いてあるだけ。シエスタは心配そうに きょろきょろと見回した。 「サイトさん……」 心細げに呟くと、がたん! と音がして、樽の蓋が開き、中から才人が顔を出した。 「シエスタ」 「わ! サイトさん! なぜそんなとこに!」 「いや、いろいろと事情があって……、って、え?」 才人はシエスタの格好を見て、目を丸くした。セーラー服を着用している。 「き、着てきちゃったの?」 「え、ええ……。だって、こっちの格好の方がサイトさん喜ぶと思ったから」 才人は持ってきて、じゃなくて返してくれ、と表現するべきだったと後悔した。ここで 脱げというわけにもいかない。あたふたしていると、シエスタがくるりと回転して、 例のポーズを取った。 「えっと、その……、お、お待たせっ」 がたん! と背後で樽が揺れる音がした。シエスタがきゃっ! と叫んで才人に抱きついた。 樽からは、にゃあにゃあ、と鳴き声がする。 「なんだ、ネコか……」 『お、おい才人……』 才人は安堵するが、ゼロは震えた声を出した。しかし今の才人は、それに取り合っていられなかった。 シエスタの胸が押し付けられている。その感触から、才人の顔が青くなった。 「シ、シエスタって、その……」 「なんでしょう?」 「ブラジャー、つけてないの?」 シエスタはきょとんとした顔になった。 「ブラジャーってなんですか? メイド服のときはシャツの下にドロワーズとコルセットなら つけてますけど……今はなにもつけてません。短いスカートにドロワーズをはくとはみ出ちゃうので……」 ブラジャーが存在しないことと、今のシエスタが下着を着用していないことを知り、才人は 茹でダコのようになった。 『才人ッ!』 ゼロが強く呼びかけるが、その声も耳に届かなくなっていた。 「サイトさんは意地悪だわ……。わたし、貴族のかたみたいにレースの小さな下着なんて 持ってませんもの……。それなのに、こんな、こんな短いスカートをはかせて……」 『おい才人!』 ゼロの声はやはり、シエスタの恥ずかしそうな声にかき消される。 「あ、あの……こ、ここで、ですかっ?」 「え?」 「もう、ちょっと、その、人が来なさそうで、綺麗な場所がいいなあ。あ、でも! これ願望でして! サイトさんがここがいいって言うんなら、ここでも平気よ。ああ、わたし、怖いです。だって初めて なんだもの。母さま許して。わたしここでとうとう奪われちゃうのね」 シエスタは激しく勘違いしているようだ。才人はどうにか本当のところを説明しようと、 考えをめぐらせた。 しかしもう遅かったのだ……。背後で、もう一個の樽の蓋が垂直に跳ね上がった。 「な、なんだぁ!」 振り返った才人が見たのは、樽の中から立ち上がる、ルイズの姿……。その形相……。 『樽の中に、ルイズが隠れてるぞ……』 ようやく、ゼロの声が届いた。 「何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!」 『聞かなかったじゃねぇか……』 ルイズの顔は怒りで青ざめている。目はつりあがり、全身が地震のようにわなないている。 思いっきり震えた声で、ルイズは呟いた。 「随分と素敵なハトを飼ってるのね。へぇ。可憐な装いをプレゼントね。まあいいわ。わたしは優しいから、 そのぐらいのことなら許してあげる。ご主人様をないがしろにして、ハトにプレゼントを贈ろうが、 別にかまわないわ」 「ルイズ、あのね?」 「しかし、そのハトはこう言ったわ。『こんな短いスカートをはかせて』。下着もつけさせずに、 『こんな短いスカートをはかせて』。最高。今世紀最高の冗談ね」 「ルイズ! 聞いて! お願い!」 「安心して。痛くしないから。わたしの『虚無』で、塵一つ残さないようにしてあげる」 ルイズは『始祖の祈祷書』をかまえると、呪文を詠唱し始めた。本気だ。才人は命の危険を感じて、 思わずデルフリンガーを抜いた。シエスタは怖くなって物陰に体を隠した。 「なによあんた。ご主人さまにさからおうと言うの? 面白いじゃないの」 そう呟くルイズが怖い。ワルドより、怪獣より、どんな侵略者よりも、ルイズ怖い。 「相棒、やめとけ」 デルフがつまらなそうに呟いたが、才人は蛮勇を発揮して剣を掲げた。 「きょきょきょ虚無がなんぼのもんじゃあッ! かかってこいやぁッ!」 途中詠唱のままルイズが杖を振り下ろす。ボンッ! と音がして、才人が踊り場から吹き飛び、 下の地面へと叩きつけられる。 才人は立ち上がるなり逃げ出した。踊り場から顔を出したルイズが追いかけ出す。 「待ちなさいよッ!」 才人とルイズがいなくなると、ジャンボットがぼそりと発した。 『有機生命体……。私の頭脳の理解を超えるな……。全く恐ろしい』 ビートスターもかつてはこんな気分だったのだろうか……。いや違うだろうな、絶対……、 なんて思うジャンボットだった。 『才人、これでお別れだな……。まさかこんな別れ方になるなんて、俺も予想もしてなかったぜ』 「不吉なこと言うなぁー!」 ルイズから必死に逃げる才人は、寮塔内をしっちゃかめっちゃかに走り回っていた。恐ろしいことに、 どんなに速く走ってもルイズの気配を振り切ることは出来ない。 このままでは追いつかれる、そんな気がしてならない。そう思ったので、誰の部屋かも確認しないで、 一番近くの扉を開け放って中に飛び込んだ。 中にいたギーシュとモンモランシーが、ワインで乾杯しようとした手を止めて目を丸くした。 ここはモンモランシーの部屋だった。 「なんだ! きみはぁ!」 「かくまってくれ!」 才人はギーシュたちに構わず、モンモランシーのベッドに飛び込んで身を隠した。 『無駄だぜ才人。こんなことしたってルイズは見つけるに決まってる……』 「あ、諦めるかぁー! 俺は一縷の望みに賭けるぞー!」 一縷の望みは儚かった。すぐにルイズが飛び込んできて、才人を見つけてしまった。 「サイト、出てきなさい」 「才人はいません」 せめてもの、無駄な抵抗だった。ルイズはテーブルの上のワインのグラスを取り上げ、 一気に飲み干した。モンモランシーがあっ! と声を上げたが、もう遅かった。 「ぷはー! 走ったら喉がかわいちゃった。それもこれもあんたのせいね。いいわ、こっちから 迎えにいってあげる」 ベッドの上の布団を、ルイズはひっぺがした。ガタガタと震えている才人がそこにいた。 「覚悟しなさい……、んあ?」 しかし、おかしい。才人を目の前にして、怒り狂っているはずのルイズが、いつまで経っても 何もしてこない。才人がいぶかしんで立ち上がると、何とルイズはいきなり泣き出した。 モンモランシーは態度を急変させたルイズを目の当たりにして、頭を抱えた。 「おい、ルイズ……」 声を掛けると、ルイズは才人を見上げ、その胸に取りすがった。 「ばか!」 「え?」 「ばかばか! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ~~~~ん!」 ぽかぽかと才人の胸を叩くと、顔をうずめて大泣きした。 「な、何が起きてるんだ?」 『さぁ……』 ルイズの激しい怒りはどこへ吹っ飛んでしまったのだ。才人は命の無事を喜ぶより、ルイズの 心変わりに戸惑った。それはゼロも同じで、ただただ首を傾げるばかりだった。 こうして才人は、ラグドリアン湖へ赴く原因を作り出し、テペト星人の暗躍やギロン人の 罠に巻き込まれることになったのだった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/969.html
(やっぱりやりすぎだったかしら…) ルイズは己の使い魔を見て考える。 食堂から出てきたあとから、ずっと元気がない『平民』 …パンナコッタ・フーゴのことを。 教室の床に座り込み、膝を抱えて譫言を呟いているばかり…。 あの食事は『主人』と『使い魔』の違いを理解させるために 用意させたのだが、それが予想以上に効いてしまっているようだった。 粗末な食事。当然不満がでてくるだろうが、そこに寛大な主人が 施しを分け与え、主従関係を強固なものにするという計画だったのだが…。 まさかあれを我慢できるだなんて誰が想像できるだろうか!? (何とかしないといけない!…のかな?) ルイズは少々複雑な感情を抱いた…。 『紫霞の使い魔』 第四話 【そいつの名は『ゼロ』】 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね」 中年の女教師 ミセス・シュヴルーズは教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 視線の先にはサラマンダー、バグベアー、スキュア、カラス、大ヘビ、フクロウ、 人食いリス、カタツムリの殻を背負った犬、レザーブーツを履いた猫、 耳が ケンカか なにかで 虫に喰われた葉のように 欠けている ネズミ 服が 趣味か なにかで 虫に喰われた葉のように 穴だらけの 人間。 ………人間? 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがとぼけた声で言うと、教室は笑いの渦となった。 「ゼロのルイズ!召還できないからってその辺歩いてた露出狂連れてくるなよ!」 小太りの少年がガラガラ声を張り上げて嘲りの言葉を浴びせる。 「違うわ!きちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」 ルイズが立ち上がり、『床のモノ』を指さして反論する。 当の本人は、 「ぼくのは違う…ぼくのはファッションなのに……」 別方面の中傷に対して傷つく。もはや怒る気力もないようだ。 「嘘つけ!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?ゼロのルイズ!」 「なんですって!わたしを侮辱するの!?かぜっぴきのマルコルヌ!!」 「ぼくは風上のマルコルヌだ!かぜっぴきじゃないぞ!記憶力もゼロなのか!」 「あんたなんか『かぜっぴき』で充分よ!喋らないで!風邪が移るから!」 売り言葉に買い言葉…。二人とも段々ヒートアップしてきたようだ。 「ゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ!!!」 「風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪!!!」 いつまでも続くかのように思われたケンカだが、所詮 人生は有限である。 フーゴがルイズのマントを(力なく)引っ張って、椅子に座らせ シュヴルーズがマルコルヌと一部の生徒に粘土を食べさせることで 子供じみた不毛な争いは終結した。 「どんな理由があろうとも、お友達の悪口をいってはなりません。 それでは授業を始めます」 「──このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係して───」 (コイツ随分元気になってるじゃない…) 床にいる自分の使い魔を横目で見て、ルイズは思った。 そう、フーゴはさっきの落ち込んだ様子から一変していた。 こう見えても彼の最終学歴は『中学中退』。 大体必要なことは独学で勉強したが、やはりまだまだ学びたい年頃である! それが初めて聞く事柄なら尚更だ。 窮屈な空間ではあるが、聞いた授業の内容を手帳に書き記している。 最も、書いている文字(?)はルイズにはまったく読めないが…。 それよりも まず、彼に授業内容が理解できているのだろうか? (ま、どうせメモを取ったところで無駄だけどね~) そもそも、魔法が使えるのは貴族のみ。 『平民』であるコイツが勉強したところで できるわけ… そう考えていたルイズの顔が曇り、 不意にトラウマが甦ってきた… 手が止まる。思考が止まる。時が止まる。 {{わたしは?わたしはどうなの?わたしは…}} 息が詰まる。胸が詰まる。言葉が詰まる。 {{わたしにそんなことを言える資格が…?}} 「どうかしたんですか?」 『使い魔』に声をかけられ、時が動き出した。 「大丈夫よ。なんでもないわ」 気丈に振る舞うルイズだったが、その顔色は冴えない。 「本当ですか?何処か悪いのなら…」 「そこ!授業中の私語は慎みなさい!」 中年女教師からの叱責が飛ぶ! 「「す、すみません!」」 見事にハモった。 「そうですね…それだけの余裕があるのでしたら 貴女に この『石』を『錬金』してもらいましょう。ミス・ヴァリエール」 その瞬間!鼓膜が劈くようなブーイングの嵐が巻き起こった! 「先生!『ゼロのルイズ』にやらせるなんて危険です!」 「『ゼロのルイズ』にやらせたら『終わり』って恐怖だけがあるんだよーッ!」 「おまえならできるッ!やれーッ!やるんだーッ!ルイズゥ!」 青ざめた顔で応援するヤツもいるが口の中に何かが見えた。あれも使い魔か? ハッキリ言って、フーゴには皆が何を恐れているのか解らなかった。 わかるのは彼女のあだ名が『ゼロのルイズ』だということぐらい…。 しかし、『危険』というのは一体? ルイズは少しうつむいたが、立ち上がり叫んだ! 「やります!わたし やります!」 教室に響く リンとした声。そして 絶望と落胆の声…。 されど 彼女の決心は変わらず、緊張しながらも教室の前に進んでいった フーゴの目にはその姿がとても凛々しく思えた。 そうだ。せっかく『主人』が魔法を使うのだからぼくも見て── (何コレ…?) 立ち上がったフーゴとは対称的に生徒達は全員机の下に潜り込んでいた。 二重の意味で、授業を受ける姿勢ではない。異常である。 「そんなところで何してるんですか?」 とりあえず一番近くにいた生徒に聞いてみるが… 「いいからお前も伏せろ!危ないぞ!」 …『危ない』?? 「えっ?それはどういう意…」 とりあえず言われたままに しゃがむと…! ドッッグオオオォォォォォォンンンン ギャグマンガでしか見たことがなかったような大爆発! 屈んでいたフーゴの頭を爆風がよぎった! 木片が飛び!窓ガラスが割れ!使い魔たちが暴れ出す! 「なっ!『石』が…いきなり爆発したぞ!?」 突然起きた出来事に対応し切れてないフーゴ。 まさか!?『ゼロのルイズ』というのは…!? 話していた生徒が忌々しげに口を開いた…。 「近づくなよ……『ゼロのルイズ』が『魔法』を使うとき 何者も そばにいてはならない……」 立ちこめていた爆煙がはれ、中から煤だらけになったルイズが現れた。 服はビリビリ、机はボロボロ、教師はピクリとも動いていない…。 そんな悲惨な状況を見まわした彼女の一言。 「ちょっと失敗したみたいね」 コレだけの惨事を引き起こしておいてそれはないだろう…。 いつも魔法が失敗するから『ゼロのルイズ』。 フーゴは そのあだ名の意味をようやく理解した。 そして…朧気ではあるが、自分が彼女に『召喚』された理由も…。 周りのもの全てを巻き込み、破壊尽くしておきながら 自分自身『だけは』何事もなかったかのように君臨する。 その姿は… ───彼女の可愛らしさとは縁遠いはずなのだが─── 忌まわしいほど醜い『アイツ』と重なって映った。 フーゴは痛み出した頭を押さえ、静かに呟いた…。 「…なんてこった……!」 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2488.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「ごめんなさい。学院長は不在なんです。」 3度目になる学院長室の前でミス・ロングビルは申し訳なさそうに教えてくれた。 ルイズを授業に送り出した後、学院長を訪ねて来た康一だった。 それもそうだよなぁー。学院長っていうからには相当急がしいんだろうし。 「それじゃあ、しょうがないですね。また今度来ます。」 「待ってくださいな。」 退出しようとする康一を、ミス・ロングビルが引きとどめる。 「なにか相談したいことがあったのでは?たとえば・・・『スタンド』・・・のことですとか。」 なんでこの人が『スタンド』のことを知ってるんだァー!? 「ななな、なんでそのことを!?」 正直動揺した。やはり『スタンド』のことが広まってしまうのはまずい気がする。 「隠さなくても結構ですわ。実はこっそり聞き耳を立ててましたの。」 口を手で隠して、ごめんなさいね、と笑う。 まいったなぁ・・・。康一は頭を掻いた。こうしれっと言われると追求しようがない。 まぁオールド・オスマンの秘書なんだから悪い人ではないだろう。 「しょうがないなぁー。いや、実はぼくの故郷のことについて何か分かったことがないか聞きにきたんですよ。」 ミス・ロングビルはしばらく考えていたようだが、やがて首を横に振った。 「そのような話は伺っていませんわ。でもオールド・オスマンだけでなく、ミスタ・コルベールも文献などを漁っておられるようですから、そのうちきっと見つかりますわよ。」 「そうですか・・・」 やはり杜王町に帰るのはまだまだ先のことになりそうだ。というよりも、帰ることができるのだろうか。 康一は肩を落とした。 がっかりした様子の康一を不憫に思ったのかもしれない。 ミス・ロングビルはちょうど休憩するところだったから、と康一をお茶に誘った。 ミス・ロングビルに薦められて、康一は応接用の椅子に座った。 ここに座るのは3度目だが、そのとき向かいに座っているのはオールド・オスマンやミスタ・コルベールだった。 今はミス・ロングビルが座り、淹れたての紅茶を出してくれる。 綺麗な人である。おしとやかな物腰だが、どことなく影があって、キュルケとはまた違う意味で大人の女性という感じがする。 最近美人に縁があるなぁ。と思う。 由花子さんと知り合う前なら、多分もっと舞い上がっていただろう。 ティーカップに手を伸ばす。立ち上る湯気からは紅茶の華やかな香りがした。お茶に詳しくはないが、きっといい茶葉を使っているのだろう。 「そういえば、故郷のことを聞きにいらしたんですよね?」 「ええ・・・まぁ。」 ミス・ロングビルと目が合った。 「故郷に、帰りたいですか?」 「・・・ぼくを待ってる人がいるんです。いきなりいなくなったからきっと心配してます。」 「恋人かしら?」 冗談めかして笑うロングビルに康一は頷いた。 「まぁ、恋人もそうですね。でも、家族や友人も。」 「そう・・・。大切な場所なんですね・・・。」 ロングビルは康一を見つめた。 いや・・・。康一は思った。 彼女はぼくを通してどこか遠くを見ているような気がする。 「でもロングビルさんにも故郷があるでしょう?」 ミス・ロングビルは一瞬だけ胸を突かれたような顔をした。 「・・・・いえ。私の故郷はもうないんです。ですからあなたが少しだけうらやましいですわ。」 少しだけ寂しげに笑った。ティーカップを静かに傾ける。 故郷がない?彼女の故郷には何かがあったのだろうか。 しかし聞いていいものかも分からない。康一は黙り込んだ。 康一の困惑を察したのだろう。ミス・ロングビルは明るい声で言った。 「でも、大切な場所は今でもありますわ。いつどこで何をしていても、心はそこに置いている。そんな場所です。」 康一は心から嬉しそうに笑った。 「よかったぁ~。帰る場所がないなんて寂しすぎますもんね!」 ロングビルはふっと息を吐いて、微笑んだ。 そして、ソーサーをもつ康一の左手を見た。 「そのルーンのこと、ご存知ですか?」 康一はティーカップをテーブルに置いた。 「いえ、よくは知らないんですが。なんだか変なルーンなんです。武器を持つと光ったりして・・・」 康一は自分が経験したことを話した。武器を握ったらルーンが光りだして体が軽くなったこと。『スタンド』のパワーも上昇したこと。 「『スタンド』というのも不思議な能力ですね。魔法とは違うのですか?」 「ええ、多分。・・・まぁ、実は自分でも『スタンド』が何なのか良く分かってないんですけどね。」 超能力、としか言いようがない。こっちの『魔法』は多分系統だった研究がされているのだろうが。 「『スタンド』のことは分かりませんけど、その『ルーン』のことは少し分かりますわ。『ガンダールヴ』と読むそうです。」 ミス・ロングビルは説明した。 ガンダールヴとは、ハルケギニアに系統魔法を伝えた虚無魔法の使い手『始祖』ブリミルの使い魔の一人である。 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。 という歌が残されているという。 そして康一の左手に刻まれているのはそのガンダールヴのルーンと非常に似ているらしい。 「『始祖』ブリミルってここでは神様みたいに言われてる人ですよね。ぼくがその使い魔?」 実感がわかない。というか、自分に関係ある話とは到底思えない。 「ええ。ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。私たちメイジの始祖。そして彼の使い魔『ガンダールヴ』は歌にあるように武器を扱うのに長けているといいますわ。その『ルーン』の効果と合致するんじゃありません?」 「じゃあ、ぼくを召喚したルイズが『虚無』の使い手ってことですか?」 「さぁ・・・さすがにそれは信じがたいのですが・・・」 ルイズは俗に言うと『落ちこぼれ』である。神聖視されている『始祖』と同列に扱うのは抵抗があるのだろう。 康一は考えたが、正直話が大きすぎてよく分からなかった。 「このことはルイズには黙ってたほうがいいですね。」 「ええ。オールド・オスマンもミス・ヴァリエールがこれを知ったら変に気負うのではないかと心配していましたわ。」 そして、「本当はコーイチさんにも言わないつもりだったみたいです。だから私が話してしまったのは内緒ですよ?」と片目を閉じた。 学院長室を退室したあと、康一は学院の廊下を歩きながら考えた。 あの話は本当のことだろうか。もしかしてからかわれたのではないだろうか。 ここ数年非日常的な生活を送ってきた康一にしても、短期間にあまりにいろいろなことが起こりすぎていた。 明日になれば、杜王町の自分の部屋で目がさめるのでは、とまで考える。 でも、このルーンが『ガンダールヴ』だったとして、なぜぼくがそんな大層なものに選ばれたんだろう。 「呼び出されたのが承太郎さんみたいな人だったら誰だって納得するんだろうけどなぁ。」 夜。 ハルケギニアの双月が照らす薄闇の世界。 学院の本塔の壁に垂直に立つ人影があった。 足の裏で外壁に張り付き、垂直のまましゃがみこむと、コツコツと壁を叩く。 「さすがは噂に名高い魔法学院。壁の厚さも並じゃないわねぇ。」 夜風になびく、長い長い髪。 彼女は、二つ名を『土くれのフーケ』。ハルケギニアにおいて、大胆不敵な犯行で名の知れた盗賊である。 しかし、警備の厚い貴族の屋敷は狙っても、盗みやすいであろう平民の家を襲うことはないので、一部平民からは『義賊』と呼ばれて密かに人気が高い。 そんな彼女が今狙っているのは、魔法学院の宝物庫に眠るという『弓と矢』である。 弓矢は魔法という強力な戦力があるハルケギニアでは大した価値はない。だが以前オスマンがぽろりと漏らした、『弓と矢』の『言い伝え』に興味を引かれたのだ。 酒場に行けば掃いて捨てるほどある、くだらない与太話の一つのように思えるその『言い伝え』。 だが、魔法王国トリステインで、『賢者』と目されるオールド・オスマンと彼の学院がそれを宝物庫にしまいこんでいることが、信憑性を裏打ちしていた。 「あのハゲ。この壁は物理衝撃には弱いだなんてよく言えたもんだ。」 フーケは計画もなしに盗みに入るような盗みはしない。事前に情報を集め、弱点を見極め、そこを一気につく。 だから今まで捕まらずにこれたのだ。 この魔法学院への盗みも、鉄壁といわれている魔法学院の宝物庫の弱点を探すため、内部に潜入してもうどれくらいになるだろうか。 ジジイに尻を触られながらもお宝のために耐えてきた。 そしてようやく、教師の一人からこの宝物庫唯一の弱点を聞き出したのだ。 だというのに、唯一の弱点のはずの物理的衝撃に対する耐久性すら、王宮の城壁並みなのだ。 自分の力を全力でぶつけても破れるかどうか・・・。 だが、錬金などといった他の手段で破るのは不可能だ。 「できるかどうか分からないとしても、やるしかないね。」 セクハラに耐えるのも我慢の限界だ。 フーケは詠唱と共に杖を振るった。 眼下の地面が集まり、盛り上がる。みるみるフーケのいる宝物庫外壁の高さまで大きくなったときには、巨人のような人型の土人形ができあがっていた。 土人形――ゴーレムの肩に飛び乗る。牛も軽く握りつぶせそうな大きさの拳を鋼鉄に錬金した。 「さぁ、伝説の『弓と矢』。この『土くれ』のフーケがいただくとしようかね!!」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1416.html
虚無の曜日より、日付を跨いで僅かに三分。 ルイズは中庭で、蒼い髪を持つ少女と対峙していた。 才人とシエスタの姿は無い。彼らは、日付を跨いだ事もあり、すでに自室へと下がっている。 つまり、これより先、ルイズと蒼い髪を持つ少女―――タバサとの会合を止める者など一人も居ないと言う事に他ならない 「まずは・・・・・・お礼を言うわ。 貴方のお陰で、予定より早く、学院に帰る事が出来たんだから」 助かったわ、と告げるルイズに、タバサは僅かに首を動かし、その言葉を受け取る。 「でも―――」 二の句を継げるルイズの声色が変化する。タバサにとって最も身近で、最も嫌悪すべき感情を内包して。 「貴方が放った氷の矢・・・・・・痛かったわ。死ぬ程ね」 憎悪が爛々と燈る瞳は、もしも眼力だけで人を殺せるなら、13回はタバサを睨み殺す程の殺意を秘めていた。 だが、その殺意もすぐに飛散する。 ルイズ自身が瞳を閉じ、タバサを見つめるのを止めた為にだ。 「貴方は・・・・・・危険。だから、あの時は、殺すしかないと考えた」 キュルケはタバサにとって、掛け替えの無い大切な友人だ。 タバサ自身、自分の愛想が悪いことは理解している。 こんな自分に友人が出来るはずも無いと考えていた。だと言うのに、キュルケは自分に対して、まるで当たり前のように親しく接しくれる。 嬉しかった。 母親の再起と、父親の仇への復讐に生きていただけのタバサに、誰かと一緒に居る事の楽しさを思い出させてくれた。 その事実が、タバサにとって、ただ只管に嬉しかった。本当に嬉しかったのだ。 そんな友達を、目の前に居るこの女は才能奪い、あまつさえ殺す所であったのである。 「危険・・・・・・危険ね・・・・・・確かに、あの時、私は考え無しだった事を認めなければならないわ。 あの時の軽率な行動で、私は大切な友達を失う所だったんですもの」 虚空に視線を漂わせ、自然と口から紡がれたルイズの言葉に、タバサは目を大きく見開き驚きを表現してしまう。 「それは・・・・・・どういう意味?」 「・・・・・・あの時、キュルケは私を庇ってくれた。それで、ようやく分かったのよ。 キュルケは、私にとって本当に大切な人だって事に」 正確に言うならば、それは切っ掛けであり、本当に大切な友人であると確信したのは、後にキュルケの『記憶』を確認した時だが、そこまで伝える理由など無い。 「貴方は・・・・・・もう、彼女を殺すつもりも、才能を奪うつもりも無い?」 「決まってるじゃない。友達にそんな事出来ないわよ」 堂々と宣言するルイズの瞳は、先程の殺意は微塵も感じられず、高潔な輝きが見て取れる。 タバサには分からなかった。 あの戦いの時の、まるで世界全てを憎むかのように嘲笑していた少女。 それとも、今、目の前で、真っ直ぐ過ぎる瞳をしている少女か。 タバサには、分からなかった。 一体、どちらが本当のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのかが。 どちらが本当なのか、或いは、どちらも本当では無く、今だ彼女には隠された本当が存在するのか。 そこまで考え、タバサは頭を振った。 違う、今はそんな事を考えている時では無い。 今、ここに居るのは、目の前に佇む者に問うべき事柄があるからだ。 「訊ねたい・・・・・・事がある」 本題を切り出す。 訊ねなければならない事柄。 確認しなければならない事象。 「精神的に壊れていた彼を、貴方は治した・・・・・・どうやって?」 要約し過ぎた問い掛けに、ルイズは首を傾げた。 彼とは誰か? それに治したとは? 自分は、果たしてそんな事をしたのだろ――― 「―――あぁ、ギーシュの事ね。 何、あいつを治した事が、どうかしたの?」 別段、特別さを感じる事の無い抑揚の声に、彼女にとって、ギーシュを治した事が、本当になんでも無い事である事を表している。 「貴方が・・・・・・彼を治した?」 「正確に言えば、私じゃあ無いわ。こいつよ」 そう言って指し示す方向には、二つの月明かりに照らされたホワイトスネイクが銅像のように微動だにせず、ルイズとタバサ、二人を視界に収める形で立っていた。 「貴方の使い魔が、彼を治した?」 「そうよ」 「どうやって?」 「どうやってって・・・・・・」 怪訝な顔付きで、ルイズは疑問を投げ掛け続ける少女を見る。 授業なので見かける彼女は、無口を極めたように何事も語らない事が多い人物だ。 だと言うのに、今の饒舌めいた問いは一体なんだと言うのか。 「ねぇ、逆に聞くけど、どうして治した方法を知りたいの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ここまで彼女が熱心になる理由をルイズは尋ねたが、帰ってきた答えは沈黙だった。 答えたくない。 もしくは、踏み込まれたくないか。 大方その辺りだろうと、当たりを付けたルイズは、敢えて答えを促さなかった。 言いたいのであれば、彼女は語るだろうし、言いたくないのであれば語らない。 確かに少し気になる事ではあるが、飽くまでそれは少しだけの興味だ。 何も、無理矢理に聞きたくなる程では無い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 沈黙が続くタバサに、ルイズはホワイトスネイクに視線だけで合図を交わす。 ホワイトスネイクは微動だにしなかった身体を動かし、タバサへと近づいていく。 「アノ男ハ、治ッタノデハ無イ。忘レタダケダ。 マァ、広義的ニ見レバ治ッタト言ウ表現モ間違イデハ無イガナ」 「治ったのでは無い―――?」 静かに語りかけるホワイトスネイクに、タバサは呆然と語りかけられた言葉を反芻する。 「ソウダ、治癒トハ、根源ニ病巣ガ無ケレバ成リ立タナイ行為ダ。 ツマリ、新シク、治癒ト言ウ『記憶』デ病巣ヲ上書キシタト言ウコト。 私ガ、アノ男ニ行ッタ事ハ、治癒トハ、マッタクノ逆ニアタル。 私ハ上書キスルノデハ無ク、ソレマデノ『記憶』ヲ病巣諸共奪ウ」 「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・」 「人間ハ『記憶』ニ異存スル生キ物ダ。自分ノ体調ハ勿論、ソノ他ノ事柄モ全テナ。 酒ヲ呑ンデイナイ人間ニ、酒ヲ呑ンダト言ウ『記憶』ヲ与エレバ、与エラレタ人間ハ、呑ンデモイナイ酒ニ酔ウダロウ。 ツマリ、ソウイウ事ダ。『記憶』ヲ抜カレ、自分ガ壊レタ事スラ忘却サセレバ、人ハ壊レル前ノ『記憶』ニ基ヅイタ人間ヘト戻ル」 完全なる忘却。 今まで歩いてきた道を奪い、壊れてしまったその時まで強制的に引き返させる。 「治すのではなく・・・・・・戻す・・・・・・」 「ナルホド、物分リハ良イラシイナ」 納得するかのように頷くタバサに、ホワイトスネイクは感心からか、賛美を口にする。 なるべく簡単に説明したつもりであったが、まさか、こうまですんなりと理解してくれるとは、ホワイトスネイクも考えていなかった為にだ。 だが、そんな賛美は彼女にとっては関係無い。 理屈は理解できた。 予想していたモノとは、若干掛け離れた方法であったが、それでもタバサにとっては十分望み通りの働きをしてくれるだろう。 差し当たっての問題は、どのように頼むかだ。 生半可な言葉は恐らく通用しない。 いや、それよりも、自身を殺そうとした者の頼みなど果たして聞いてくれるのだろうか。 「何を考えているかは知らないけど、早くしてくれる。 朝っぱらから出掛けてた所為で、眠たいんだけど?」 見せ付けるかのように欠伸をするルイズを見て、決意を固める。 真っ向から正攻法で頼む以外、自分には道など無い。 キュルケに仲介を頼むと言う手段もあったが、このような事に彼女を巻き込みたくは無かった。 「貴方の使い魔に壊れる前の状態に戻して欲しい、人が居る」 「・・・・・・私は医者じゃないし、こいつも当然違うわ」 「彼の事は?」 「ギーシュの時は、才能を返すついでよ」 本当は、ギーシュとモンモラシーに同情していたキュルケの悲しそうな横顔を嫌って、壊れる前の状態に戻したのだが、そんな事をタバサに知られるのに抵抗があったルイズは、出任せを述べた。 「嘘」 ささやかな過ぎる程度の虚偽であったが、タバサは、その虚偽を見抜いていた。 「嘘じゃないわ」 幾分ムキになったかのように反論するルイズに、タバサは口を開こうとするが、止める。 先程と同じように、また脱線してしまっている。 元の道筋に修正しなければ。 「貴方が医者でも無ければ、私を恨んでいる事も知っている。 だけど・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・」 そこで一旦言葉を区切り、次に紡ぐべき言の葉を探すように中空へと視線を漂わす。 その間、ルイズもホワイトスネイクも、決して言葉を挟まず、タバサの口から紡がれる音を待っていた。 やがて、虚空へと向けられていた視線が、ゆっくりとルイズへと向けられた時、タバサは続きを口にする。 「例え、それがどんな苦難がある事だろうと、私が出来る事ならなんでもする。 だから、お願い・・・・・・・・・・・・私の頼みを、聞いて欲しい」 言葉一つ一つに想いを込めた懇願。 その重さは、計り知れない程に重く、懇願されているはず立場だと言うのに、ルイズは息苦しさを感じてしまう。 「なんで、あんたがそこまで必死なのかは知らないわ」 息苦しさを紛らわす為に、ルイズは口を開く。 「人に言えない事情とやらがあるんだろうけど、私にそれを聞く気は無いわ。 そりゃ、気にはなるけど、あんたは話したくないから故意に伏せてるんでしょうからね。 他人が話したく無い事を無理に聞き出すような野暮な真似、私はしないわ」 最も、自分に対しての事柄は、これには当て嵌まらないが。 「ともかく・・・・・・あんたが、そこまで必死に頼んでくるなら、私も考えないでも無いわ」 何も減るものでは無いし、頼みを聞くのは構わなかったが、ルイズは一旦、そこで言葉を止めて考える。 相手は、自分の事をあそこまで傷つけたメイジだ。 あの時、キュルケから才能を奪った事は間違いだと認めるが、 だからと言って、ボコボコにされたのを忘れろと言うのは無理な話である。 早い話が、ルイズはタバサに対して一泡吹かせてやりたいと思ったのだ。 「頼みを・・・・・・聞いてくれる?」 「まぁね、でも、条件があるわ」 そこで、ルイズは首に手を当て、考えた。 どのようにすれば、目の前の少女に付けられた傷の鬱憤を晴らせるのか。 才能を捧げさせる事が真っ先に頭に浮かんだが、忌々しい事に、この娘はキュルケと仲が良い。 (何か・・・・・・何か無いかしらね) キュルケの中で自分の株が落ちる事無く、尚且つ、相手に自分と同じぐらいの痛みを与える方法。 言わば、直接的でなく、少女が自発的に行う形の苦痛。 ホワイトスネイクの能力使用が頭に浮かぶが、万が一にも頭部からDISCが抜け落ちたりすれば、事が露見する危険性がある。 かと言って、他に思いつく方法も無いが。 (他人にバレても良いDISC? そんなものある訳無いじゃない) 露見しても、別段罪に問われないのは、相手に有益になるモノだけだ。 ホワイトスネイクのDISCにそんなものなどあるはずが―――――― 「あっ」 思わず漏れてしまった単音に、ルイズは思わず手で口を塞ぐ。 それは、咄嗟に浮かべてしまった、あまりにも邪悪な笑みをきっちりと隠していた。 「これを・・・・・・あんたが使いこなせるようになったら、あんたの頼みを聞いてあげる」 その言葉と共に、ルイズはタバサへ一枚のDISCを投げる。 「これは・・・・・・」 投げられたDISCの表面には、右半身が砕けた人型が映っている為、ギーシュの頭から落ちたDISCとは、何かが違うと言うのは、タバサにも理解できた。 (ルイズ) (何よ?) 厳しい面持ちでDISCを見つめているタバサを横目に、ホワイトスネイクの幾分焦れたような声がルイズの頭に響く。 (何ヲ考エテ、アレヲ渡シタノカハ知ラナイガ、今スグニ考エ直シタ方ガ良イ。 アレハ、他者ニ渡シテ良イ程、生易シイ力デハ無イ) (それは使いこなせたらの話でしょ? 確かに、こいつは強いけど、アレを扱えるかって言うと、また別問題じゃない?) なんやかんや理屈を付けてはいるが、要するに、ルイズはタバサが無様に吹っ飛ぶ姿が見たいのだ。 あの時、自分が、あのDISCを挿し込み吹っ飛んだように。 「それに入ってるのは、簡単に言うと使い魔みたいな存在よ。 スタンドとか言う種族だけど、扱えれば並の魔獣、幻獣なんかより、よっぽど強力って言うね」 ルイズの何処か楽しげな説明に耳を傾けつつ、タバサは、これが果たして安全かどうかを思慮していた。 確かに、ギーシュの頭から落ちた物とは違うのは見て分かるが、それでも得体の知れない物である事に変わりは無い。 最悪、相手がこちらを謀殺しようとしている可能性もある。 タバサは、ちらりと、自分の後ろで夜空を見上げている使い魔にアイコンタクトをする。 ギーシュの時は、頭部に強い衝撃を与えたら、原因と思しき円形の物体が出てきた。 ならば、もし、自分が死ぬような暗示が、この円形の物体に入っていたとしても、シルフィードに尻尾で自分の頭を殴らせれば良い。 多分、凄く痛いだろうけど。 すぅ、と息を吸い込み、タバサは覚悟を決めた。 「はぐぅ―――ッ!」 頭部が裂け、その間に形ある物挿し込まれていると言うのに、痛みは不思議と無かった。 だが、それでも、得体の知れない奇妙な物体を自分の頭に入れていると言う事実が、タバサの口から声を漏れさせた。 そのあまりに嗜虐心を刺激する声に、ルイズは思わず生唾を飲み込む。 「――――――ンッ」 艶かしさとは、また違った色気を纏ったタバサだったが、頭部に完全にDISCが挿入されると、様子が一変した。 パクパクと酸素を求める金魚のように口を開閉しながら、両手で胸の辺りを押さえ始めたのだ。 「きゅい~」 尋常で無い様子に、彼女の使い魔の風竜は心配そうな声で鳴くが、タバサは喘ぎながらも風竜に大丈夫と告げる。 (ちょっと!!) タバサのそんな様子に、ルイズは不満たっぷりの声をホワイトスネイクに掛ける。 (どういうことよ!! なんであいつは苦しそうな顔してるだけで吹っ飛ばないのよ!! おかしいじゃない!!) 予想とは違った光景に文句を吐くルイズであったが、ホワイトスネイクは言葉を返す事は無く、油断の無い目つきで、タバサを見据えている。 相変わらず、タバサは何かを耐えるように両手で胸を押さえ込んでいた。 「ちょっと返事ぐらいしなさいよ!!」 何時までもホワイトスネイクから返答が来ない事に、腹を立てたルイズが、思わず怒声を上げてしまうが、それはこの状況において取ってはいけない行動の一つだった。 「ダメッ!!」 タバサの悲痛な叫びに、ルイズは何がダメなのよ! と叫び返そうとしたが、口が動かない。 (なっ!!) いや、口だけでは無い。 喉も、瞼も、指も、足も、何もかもが動かない。 (何よ、これ!?) 自分だけでは無い。ホワイトスネイクも、あの風竜も、草も、雲も何もかもが『静止』している。 静寂と停止を約束された世界。 その中で動くのは、今にも泣きそうなぐらいに苦しげな表情をしているタバサと、何時の間にか彼女の横に立っていた、黄金色に輝く右半身が欠けた人型のみだった。 (あいつ・・・・・・ホワイトスネイクと同じ感じがする・・・・・・) 身体が動かないと言う危機的な状況であると言うのに、ルイズはそんな事をぼんやりと思っていた。 だが、次の瞬間に身を固くする。 人型が、ゆっくりとルイズへと向かって動き始めたのだ。 ゆらりゆらりと、人型が動く中、ルイズは喉一つ動かせず、唾液を嚥下することすら出来ない。 (やばいわね・・・・・・このままだと) さっき、ホワイトスネイクに言われた言葉が、今になってようやく分かった。 なるほど、確かにこれは他者に渡していいような力では無い。 他者を動けなくする能力とでも言うのか。 あらゆる者を停止させ、その中を自分だけが動ける。 (圧倒的じゃない) ホワイトスネイクが最強と呼んでいたのも納得する。 戦う者として、これほどまでに圧倒的な能力は存在しない。 「―――ダメッ!」 タバサが呟いた言葉に、思考に集中していたルイズは、黄金色の人影が自分の目の前にまで到達し、尚且つ、隻腕を振り上げている事に気がついた。 (マズいマズいマズいマズいマズいマズい!!!!) 能力の考察などしている暇では無い。 今すぐにこの力から逃れ無くてはならない。 でなければ、自分はあの隻手で土手っ腹に風穴を開けられてしまうと言う、考えるのもおぞましい結末になってしまう。 必死に拳から逃れようと、身を捩ろうとするが依然として静止空間は続いている。 (動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動きなさい!!) 必死の祈りが通じたのか、拳が腹部を貫く寸前に空気が、風が、そして身体が動き始める。 「動けェええぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇ!!」 喉も動くようになり、ルイズの口からは思考とまったく同じ形の意味が声となり周囲に木霊する。 『無駄ァァァ!!』 しかし、その動きすら砕くと言わんばかりの拳圧が彼女の横っ腹に喰らいつく。 「―――ッ!!」 痛みに顔を顰めるルイズであったが、幸いにして脇腹の肉が多少削げた程度と軽傷であった。 ギリギリだった。 後、もうほんの少し、静止空間が続いたなら、かすり傷どころの話では無かっただろう。 安心するのも束の間、ルイズは無理な体勢になった為に倒れてしまった身体を起こす事も無く、即座に人型の砕けている右半身の方向へ転がる。 服が汚れるのも気にしない。命には代えられないからだ。 転がり、人型の背後へと回りこむと、ホワイトスネイクの手を借り一瞬で体勢を立て直し、杖へと手を伸ばすが、詠唱を開始したところで、ホワイトスネイクの腕が顔の前に出され、その動きを制止した。 (落チ着ケ。ソシテ、良ク見テミルトイイ) 頭に直接響いてくる声に、ルイズは杖に手を掛けたまま、自分の脇腹を掠め取っていった人型を見る。 『無駄アァァァァァ!!』 相変わらず人型は、奇妙な叫び声を上げつつ拳を振り上げ、渾身の力を持って殴りつけていた――――――壁を。 「はっ?」 察し難い人型の行動に、ルイズは思わず呆けたような一声を発してしまう。 いやいやいや、少し落ち着きなさい私。 ほら、息を吸って、吐いて、吸って、吐いて――――――さぁ、もう一度。 『無駄無駄無駄無駄!!』 やっぱり壁を殴っている。 あんなに圧倒的な力を持っていながら、何故に壁を? 理解の範疇を超えまくってる光景に、ぽつーんと突っ立っていたルイズだったが、後ろから聞こえてきた、呻くような声に振り返る。 人型の後ろに回りこんだと言う事で、ルイズは人型とタバサの丁度中間点に居た。 と言う事は、つまり、後ろから聞こえてきた呻き声の持ち主は、蒼色の髪の少女でしか有り得ない。 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァハァ・・・・・・」 「ちょっと、大丈夫?」 先程から額に汗を浮かべ、呼吸を荒くしているタバサに、ルイズは不機嫌な声ながらも体調を気遣うような発言をする。 無論、ルイズにはタバサの体調を心配するような殊勝な心がけなど一切無く、所謂、社交辞令のようなものだ。 本音を言うと、そのまま、くたばってしまえば良いのにとか考えていたが、それはそれで面倒な事になる。 そんな事をルイズが考えている中で、一際大きな音が、人型が殴っている壁から聞こえてきた。 どうやら、断続的な拳打に耐えられず、とうとう壁が崩壊したらしい。 「あ~、もう! どうしてこうなるのよ!!」 下手をしたら、また謹慎期間が延びてしまうであろう事態に、ルイズは心底苛立った声を上げる。 本当なら、タバサが吹っ飛んだ姿を拝んだ後に、即座に自室のベッドで寝息を立てているはずが、どういう訳か、怪我も増え、おまけに大切な睡眠時間も刻一刻と減っていく。 ままならないとは、まさにこんな事を言うのだろうとルイズは思ったが、よくよく考えてみれば、自分が横しまな考えを抱かず、タバサにDISCを渡さなければこんな事態にはならなかったのだ。 つまり、今のルイズの状況は完全に自業自得であったりしたが、その考えにまで至った所で苛立ちは治まらない。 むしろ、膨れ上がるのがルイズの性格であった。 「とりあえず、あんたはさっさとあいつを消しなさい!」 顔色が青くなりだしたタバサに、一階の壁を破壊し尽くし、今度は一階の破壊の影響でヒビだらけの二階の壁を殴り始めた人型を消すように声を掛けるが、タバサからの返事はゼィゼィと喘息患者がするような呼吸音だけだ。 「ルイズ・・・・・・ドウヤラ彼女ハ、ソレ所デハ無イヨウダガ」 「そんな事は分かってるわよ」 あっけらかんとしたルイズの態度に、ホワイトスネイクは肩を竦める。 「何モ、消スヨウニ命ジナクトモ、私ガ、マタDISCニ戻セバ良イダロウニ」 呆れたように呟くホワイトスネイクの言葉に、ルイズは一瞬硬直した。一瞬だけ 「そんなことが出来るならもっと早くやりなさいよ!!」 次の瞬間には、顔を真っ赤にして自分の使い魔へと怒鳴りつけていた。 怒鳴りつけられたホワイトスネイクは、タバサの頭からスタンドDISCを、即座に引き抜く。 その一動作で、今まで破壊の限りを尽くしてきた右半身の砕けた人型は、何の余韻も残さずにキレイさっぱりこの世界から消失した。 大規模な破壊の爪痕を残したまま。 「どーすんのよ、これ」 途方に暮れて呟くルイズであったが、どうにもこうにもなるはずが無い。 一階は言わずもがな、見ると、五階にある宝物庫の壁にまで見事にヒビが入っている。 「きゅいきゅい」 ぐったりとしているタバサを器用に自分の背に乗せた風竜が、これまた器用にルイズの肩を翼でぽんぽんと叩く。 恐らく慰めているつもりなのだろうが、今のルイズにとっては煩わしい事、この上ない。 「止めなさい」 「きゅいきゅい」 「止めなさいってば」 「きゅ? きゅきゅきゅい!!」 「だから、止めなさいってば!!」 しつこい慰めに、怒声で返答したルイズだったが、すぐにその身体はホワイトスネイクによって竜の背に吹っ飛ばされる。 「なっ!?」 主に手を上げた!? と頭に血が一瞬で上ったが、目の前に飛び込んできた光景に、ルイズは、ただ口をあんぐりと開けるしかなかった。 土の塊が、音も無く蠢き、全長30メイルにもなるゴーレムが誕生しようとしている光景が、そこには存在していた。 フーケは、舞い降りた幸運に小躍りでもしたい気分だった。 宝物庫の弱点である物理的衝撃について考えあぐねていたフーケの前に現れた二人の少女。 どちらにも見覚えのあったフーケは咄嗟に身を隠し、その場を観察していたが、 やがて、一人の少女が苦しみ始めると、突然現れた亜人が学院の壁をどんどん壊し始めたのだ。 その衝撃的な光景に、思わず呆けてしまったが、その亜人がどんどん壁を壊していくのを見るにつれて、フーケは思いがけない幸運が舞い込んだ事に気がついた。 どういう訳か、特別に頑丈に作られ『固定化』の魔法まで掛かっている学院の壁を、隻手隻脚の亜人は、いとも簡単に壊している。 その破壊は、放射状にヒビを発生させ、そのヒビ割れが宝物庫まで届くと同時に、もう一人の少女の使い魔が、苦しみ始めた少女に何事かをすると、壁を破壊していた亜人は、一瞬にして消えてしまった。 「なんだか知らないけど、これはチャンスなのかねぇ」 自分のゴーレムでは無傷の壁を破壊するのは不可能だが、ヒビの入った壁となれば話は違う。 ニヤリと歪められた口から詠唱が紡がれる。 それは、魔力と土を媒介とし、彼女の目的を果たす為の存在を作り上げるのであった。 「何なのよ、もう!!」 空へと舞い上がったシルフィードの背中で、ルイズは思い通りにいかない事態に、金切り声を上げていた。 彼女の眼下では、ヒビが入り脆くなった壁に、ゴーレムがトドメを刺している。 「宝物庫」 顔色は優れなかったが、なんとか意識を保っているタバサが、ゴーレムにより壊された壁の中に入り込む人影を見て、そう呟いた。 「宝物庫って・・・・・・それじゃあ、あいつ!?」 そういえば、モット伯の『記憶』DISCに、この頃、貴族相手に盗みを繰り返している土のメイジが居る事が記されていた。 確か名前は・・・・・・ 「『土クレ』ノ、フーケ・・・・・・ダッタナ」 シルフィードの前足に掴まっているホワイトスネイクが、その名を口にする。 『土くれ』のフーケ 貴族の屋敷の壁や金庫などを、錬金の魔法より、まさに『土くれ』に変えて盗みを働くと言う強力な土系統のメイジ。 また、錬金が効かない場合などは、攻城戦でも出来そうな巨大なゴーレムを従え、貴族や衛兵などを蹴散らし、目的の物を奪っていく。 まさに怪盗と呼ぶに相応しい人物なのであった。 眼下に居るゴーレムは、サイズから見ても、まず間違いなくフーケが作ったものであろう。 となると、次なるフーケの目的は、このトリステイン魔法学院の宝物庫の何かと言う事になる。 「この私の目の前で、盗みを働こうなんて随分生意気じゃない!!」 喜々とした表情でルイズが杖を振るうと、杖の回りの空気から水分だけが抽出され、巨大な水泡が生成される。 その水泡は、ふわふわとゴーレムの上空に漂っていき、一気に弾けた。 「よし!」 ゴーレムに確り水が被った事を確認して、ルイズは右手の杖を今度は、先程より激しく振るう。 乗り慣れたシルフィードの背で、どうにか気分が落ち着いてきたタバサは、今、ルイズが何をしようとしているのか、見当がついていた。 どうやら彼女は、土で作られたゴーレムに水をたっぷり染み込ませ、その水を操る事でゴーレムの操作系統を奪おうしているらしい。 最初は、あまりにも常識を逸脱した魔法の運用に、タバサは呆れたが、ゴーレムの動きが見る見ると鈍くなっていくのを目の当たりにすると、その呆れが間違ったものであると認めざろうえない。 「くっ―――」 ならば、自分も手伝う為に水をゴーレムに掛けようと杖を手にしたが、呪文を紡ごうにも、力が入らない。 原因は分かっている。先程のDISCの所為だ。 自分でも良く分からなかったが、あの半身の欠けた人型が現れている最中、自分の精神力や体力など、とにかく生きるのに必要なモノが、どんどん自分の身体から、人型に流れていったのが、感覚的に理解できた。 特に、あの静止した空間の消耗は半端では無かった。 正直な話、もし、あの空間が、ほんのちょっぴりでも続いていたら、自分は衰弱死していただろうとタバサは思っている。 一秒にも満たない程度の僅かな『静止』であったが、それだけでもタバサの身体に、信じられないぐらいの負担を掛けていたのだ。 「あんたは休んでなさい」 タバサの詠唱の気配を察知したのか、ルイズが下のゴーレムを見据えたままで、そう告げる。 確かに、今のタバサは呪文一つ、まとも唱えられないだろうが、だからと言って、目の前で行われる不正を見逃せるかと、問われればタバサは首を横に振るだろう。 「頑固なのね、あんた」 相変わらずタバサの方を見ないルイズであったが、言葉の韻に何処と無く今までに無い響きが混じっている。 が、次の瞬間には、全ての感情を一つの言葉にしてルイズは紡いでいた。 「ホワイトスネイク!!」 自らの使い魔の名を叫ぶその声にはどうしようも無い程の焦燥が込められており、それは―――――― 「仕留めた・・・・・・?」 シルフィードの眼下、ゴーレムの肩の上に戻ってきたフーケは、今、ゴーレムから放たれた岩石が風竜を絶命させたかどうかの疑問を口にしていた。 宝物庫から戻ってきてみたら、たっぷりと染み込んだ水によって動きを鈍くさせられていたゴーレムにフーケは歯噛みしたが、それが空を飛んでいる風竜の上に居る少女によって行われている事に気付くと、魔力をゴーレムの右腕に集中させ、壁の破片を対空砲火のように、風竜へと放り投げたのだ。 ただの岩石ならば、シルフィードも避けることも出来るのだが、フーケは投げる瞬間に、岩石を砕いていた。 その為、散弾銃のように拡散した石の雨に、シルフィードは晒され、無防備な腹にしこたま石の飛礫を喰らってしまったのだ。 「まぁ、こんなもんだろうね」 ゴーレムの動きが正常に戻った事を確認してから、フーケはそう呟き、さっさと学院から離れるように、指令を下すのであった。 「きゅぅ~~~」 「だあぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛がってないで、さっさと翼を動かしなさいよ、コラァ!!」 頭部への石は、全てホワイトスネイクに弾かせたが、それ以外の箇所に石がモロに入ってしまったシルフィードは、痛みのあまりに翼をはためかす事を忘れ、その身を重力に引かれ、地面に激突20秒前である。 「シルフィード!!」 叱咤するタバサの声に、ようやく翼を動かし始めるシルフィードであったが、翼にも石は当たっており、どうしても力強く羽ばたく事が出来ない。 「きゅいきゅいー!!」 言葉で表すとしたら、ごめんなさいと言うのが適切であろう鳴き声を上げるシルフィードが地面と落ちる寸前、その身体が宙へと浮く。 ギリギリで、ルイズが『レビテーション』の呪文が唱え終わったのだ。 危機を脱した事に安堵するシルフィードであるが、ルイズとタバサは、ゴーレムが城壁を一跨ぎで乗り越えるのを、唇を噛み締めながら見つめるしかなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1094.html
「さすがに『アン・ロック』程度の魔法では開かないわね」 メガネをはずした、ミス・ロングビルは嘆息した。 実は彼女、巷では「『土くれ』のフーケ」と呼ばれている、メイジの盗賊であった。 この学院に保管されている、あるマジックアイテムを手に入れる為、 ミス・ロングビルという偽名を使ってこの学院に潜入していたのである。 そして、その『目標の物』は、ここ、宝物庫に保管されている。 「ッ!」 真夜中にもかかわらず足音がする。近づいてくるようだ。 フーケは、とりあえず20メイル先の胸像の影に身を潜めた。 コッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッ… 通路中に響く足音とともに現れたのは… 「……」 岸辺露伴であった。 「どうだ?『デルフリンガー』の具合は?」 屋外では巨大な二つの月が天を彩っている頃、 ブチャラティは、すでに待ち合わせ場所にいた露伴に話しかけた。 ここは魔法学院本塔5階。 学院長室の1階下にある、宝物庫がある階である。 「いや、ダメだねありゃ。何を聞いても『思い出せねえ』ときた。 さすが6千年前に作られただけあって、相当ボケてるようだ。 取材対象としては失格だな。」 露伴は宝物庫の扉に寄り掛かりながら答えている。 「ところで、用件はなんだ?それにこんなところに呼び出して」 「ああ、ルイズの魔法のことなんだが、あの『爆発』。本当に『失敗』だと思うかい?」 「いや、違うな…本当に失敗したのならば対象に何の変化も起こらないはずだ。 おそらく、彼女はあの『爆発』に関係するような系統のメイジなのだろう。 オレの知っている系統のなかでは『火』が一番関係ありそうだが…」 「僕は、彼女は『虚無』の系統のメイジだと思う」 「なるほど。そう考えれば『俺たちを召喚できた事実』も納得がいくな…」 「でだ、ブチャラティ君」 「なんだ?いまさら君付けで呼び出して?」 「この『宝物庫』なんだが、中には貴重なマジックアイテムや伝説のお宝が多数眠っているんだ」 「もしルイズが『虚無』系統のメイジであるならば、 この中に何か彼女にとって助けになるようなものがある可能性が高い」 「?」 「この宝物庫には『固定化』という魔法が強力にかかっていて、ちょっとやそっとの魔法じゃ進入できない。 それに、常識的に考えて、物理的な破壊も難しいような壁の厚さに設計しているだろう」 「何が言いたい?」 「そこでだ…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「君は教室で、『ジッパー』を床に取り付けて地面にもぐり、あの爆発を回避していた」 「なにッ!見えていたのか?」 「君の『スタンド』能力を使えば、この宝物庫の中に入れるんじゃあないか?」 「つまり、君は…」 「そう。僕も『スタンド使い』さ」 「…なるほど、心理的立場では君がひとつ『上』の立場にいるのか…」 「つまり、君は『オレのスタンド能力を使ってこの『宝物庫』に侵入したい』と?」 「そんなに気にするなよ。いいだろォ?同じ『使い魔』同士なんだし、さ?」 「…ひとつ条件がある。」 「何だい?」 「この場で君の『スタンド』を出してみろ…そうすれば手助けの件は考えてやらんでもない…」 「いいだろう…」 『ヘブンズ・ドアー』!! 岸辺露伴がブチャラティの目の前に『スタンド』を出現させる。 「なるほど、これが君の『スタンド』か…さすがに能力は教えてはくれないんだろうな…」 「ああ、僕の『ヘブンズ・ドアー』の能力はかなり特殊でね。 君の『スタンド』能力と違って、敵に知られてしまうと圧倒的に不利になってしまうんだ。」 (やはり使い魔には僕の『スタンド』能力は発揮できないか…これはなかなか厄介だな) 「…わかった。ルイズの為であるのならば『宝物庫』に侵入するのを手伝おう」 「だぁ〜い丈夫だって。ちょっと見るだけだからさ?」 「…どうだか…」 物陰に潜んで聞き耳を立てていた『土くれ』のフーケは、信じられない音を耳にした。 ギギギィ… 『宝物庫』の扉が開く音である。 フーケはあわてて物陰から顔をのぞかせて確かめる。 彼女に内容は聞き取れなかったが、『宝物庫』の前で話をしていた男達は何か話をしていた。 この男達(たしか二人共ミス・ヴァリエールの使い魔のはず)は、両者ともメイジではないはずだ。 にもかかわらず、彼らは、フーケが『アン・ロック』の魔法に失敗した扉を堂々と『開け』、中に入っている。 『スクウェア』クラスのメイジが『固定化の呪文』をかけている扉を、である。 フーケは驚きながらも、先日に起こった「決闘騒ぎ」を思い出していた。 (あの使い魔の能力なら『扉』をあけることは可能かも知れないわ。) (しかし、『あれ』を盗むのは今が最大のチャンス!) フーケは、学院での秘書生活を完全に終える決断を下した。 「すごいな…いろいろあるぞ。 こいつを見てみろ!どうやって使うんだろうな?」 「やっぱりルイズは関係なしか…」 子供のような目をして倉庫内を走り回る露伴を尻目に、ブチャラティはため息をついていた。 ふと、部屋の中央にある『筒』に目が行く。 「お、おい。ロハン!あれを見ろ! なんであんなものがここにあるんだ?」 ブチャラティは『破壊の杖』と説明書がされてある物をみて、驚愕した。 「これは…確か『M72ロケットランチャー』だな」 露伴が『破壊の杖』を手にしながらいう。 「うん。このダサいセンスのデザインは間違いなくアメリカ製だ。 『固定化の魔法』で劣化を防いでいるようだが… おいおい、安全ピンが抜かれているじゃないないか! 非常識な保管をしているな。いや、こいつの取り扱い方法を誰一人として知らないのか…」 そのとき、ブチャラティの目に、部屋の隅で動くものが映った。 「誰だッ!」 「どうした?ブチャラティ」 「いま、俺たちの背後で誰かが隠れる気配がした」 「なにッ」 露伴が『破壊の杖』を元の場所に戻しながら応じる。 〔オレが先に行く。ロハンは後ろでサポートしてくれ〕 〔分かった〕 (まずい!バレた?) 宝物庫に侵入し、身を隠しているフーケの体が硬くなる。 ブチャラティ達はそのままフーケが隠れているところまで一直線に歩いていく。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… グァシッ! 華奢な腕を『スティッキィ・フィンガーズ』が掴む。 「捕まえたぞ…」 「ちょっと痛いわ!放して!そんなに強く握らないで!」 「キュルケか…こんなところで何している?」 「それはこちらのセリフよ!宝物庫なんかに侵入して! バレたらどんな処罰が下されるかわからないわ!最悪処刑されてしまうわ!」 「それは『バレたら』の話だろ?」 「それよりも君に尋ねたいことがある。『破壊の杖』のことなんだが…」 「『破壊の杖』?何よ、それ。どこにあるの?」 「あそこに……無いな…」 ブチャラティが指差した先の壁には、 新しく文字が刻まれていた。 『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 「…しまった…」 「…ヤバいな…」 「…ヤバいわね…」 その頃 宿舎では… 「フフフ…無駄よぅ、キュルケぇ。 私の使い魔の能力で『あなたと私のムネを入れ替えた』わ……ふにゃ」 To Be Continued...