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小屋の外から叫び声がする。ルイズたちの声だ。 小屋の窓越しに全長30メイルにも達しようとするゴーレムの姿が見えた。 「何だとッ?!」 「僕はミス・ロングビルが『杖を振る』のを確認してないぞ?」 「フーケはロングビルじゃなかったのか?」 「と、とにかく『破壊の杖』はこれです! 早く脱出しましょう!」 ミス・ロングビルはそういいながら『M72ロケットランチャー』を手に取り、外に出て行ってしまった。 「あ、ああ!」 「そうしよう!」 出て来たとたん、土のゴーレムは三人を執拗に攻撃しだす。 「ロハン!皆を連れて学院に逃げろ! こいつは俺が足止めする!」 「分かった!行くぞ!ロングビル! この状況じゃどこにフーケがいるか分からん!」 「は、はい!」 (さっき『薪に似せた杖』を投げるフリをして振った… まだ、『私がフーケである事実』はまだバレてないようね… それに『露伴』と『ブチャラティ』を引き離した! 危なかったけど計画通り!) 露伴はロングビルと共にタバサ達と合流した。 「あれすごく強いわロハン! 私の炎も、タバサの竜巻も効かないわ!」 「退却」 「ああ、そうしよう。『破壊の杖』はロングビルがGetした」 「ルイズは?」 「あ、あれ?…」 「!あそこ」 ルイズはブチャラティのすぐ後ろにいた。 つまり、ゴーレムのすぐそばである。 巨大なゴーレムの顔に小さな土煙が上がる。 どうやらルイズの魔法のようだ。 「ブチャラティ!!ルイズを頼む!」 「アリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!」 「拙いな…!俺の『スタンド』との相性は最悪だ…」 ブチャラティはそうつぶやいた。 先程から、ゴーレムの両足を 『スティッキィ・フィンガーズ』全力で細切れにしているが、土でできた『ゴーレム』は『切断』していく端から再生していく… 「『足止め』する分にはいいんだが…」 ふと、目の端に仲間の姿が映る。 「何ッ!」 ロハンとミス・ロングビルは無事にキュルケたちに合流できたようだ。 問題は、ルイズだ。こちらに走ってくる! 杖を振りかざしながらもこちらに走ってくるのをやめないッ! 「こいつと戦うつもりなのかッ!」 間一髪。 ブチャラティはルイズとゴーレムの間にわが身を入れることができた。 「お前もロハンたちと逃げろ!」 「いやよ!こいつを倒せば、誰も私のことを『ゼロのルイズ』と呼ばないでしょ!」 「何を言っている!いまはそんな場合じゃない!」 スティッキィ・フィンガーズでゴーレムの攻撃を解体しながらしゃべったため、ブチャラティに、少しずつ、だが確実に飛石のダメージがたまっていく… 「だって、ヒック。悔しくて…私…」 「くッ…マズイ… ここはルイズだけでも逃がさなくては…」 「ブチャラティ!!ルイズを頼む!」 「こいつを受け取れ!」 露伴が何かを投げた。 「飛んで飛んで飛んで飛んで…♪」 「回って回って…♪」 「落ち~るぅぅ~~♪」 そのまま露伴が叫ぶ。 「君のそのルーンは武器を持ち、主人を守る意思を持ったときに、又は、心を振るわせたときにその真価を発揮する!」 「おそらく『スタンド』もパワーアップするはずだ!」 今度こそ露伴達は走り去ってゆく。 ブチャラティは『デルフリンガー』を拾った。 右手で握ると、『ローマで体験した精神入れ替わり直後の感覚』にいた感覚だ。 (あの時は、『スタンド』の能力がパワーアップしていた…) (こらならいけるッ!!) 後ろに隠れているルイズに左手を差し出す。 「分かった。俺一人では正攻法でこいつを倒すのは困難だ。 ルイズ。力を貸してくれ。『二人で』あのゴーレムを倒そう」 「…分かったわ!」 ルイズは、差し出されたブチャラティの手を握る。 ブチャラティのルーンが光り輝いていく… そして二人が叫ぶ。 『『スティッキィ・フィンガーズ!!』』 『『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!』』 あれほど修復を繰り返していたゴーレムがあっという間に崩れていく… ルイズは実感していた。 (私一人では『ゼロ』だけど、「使い魔」いえ、『仲間』と一緒なら何でもできる!) (今ならそんな気がするわ!) バ―――――z______ン! 『『アりーヴェ・デルチ!!』』 あと、十歩。 そこに行けば、乗ってきた荷車に到達できる。 学院に「救援」を要請できる… 「そこに止まりなさいロハン!それにミス・ツェルプストー!」 声の先には、タバサの喉元に杖を突きつけたミス・ロングビルがいた。 不意に当身でも食らわせられたのか、タバサは気を失っているようだ。 あと、五歩。 だが、立ち止まらざるを得ない。 「まずミス・ツェルプストー。あなたは杖を捨ててもらいます」 「…あなたが『土くれのフーケ』だったのね…」 キュルケは杖を草むらに放り投げた。 「そしてロハン。あなたはこの『破壊の杖』の使用方法を教えなさい。 あなた、『宝物庫』でこの使い方を知っているような話し方をしていたでしょ?」 「僕が話すと思っているのかい?」 「ええ、『この子の命』と引き換えならね…」 「……分かった。『諦めた』。話そう」 「ロハン!…」 「いいか、よく聞け。 まず、リアカバーを引き出して、インナーチューブをスライドさせる。 照尺を立てた後、照準を合わせてトリガーを引くんだ。 最大射程距離は1000メートル。10メートル以内は信管が作動しないからな。 ついでに言っておくが、後方45度、25mにはバックブラストが行くから注意が必要だ。どうだ、簡単だろ?」 「?」 「?何言ってるの?」 ミス・ロングビル、もとい、『土くれのフーケ』は戸惑っているようだ。 「この子の命が惜しくないの?私に分かるように説明しなさい!」 「分かった。まず、そこの、そう。それがリアカバーだ。 それを引き出して…」 露伴が指で指し示しながらフーケに近づいた。 「待って!それ以上近づくんじゃあねーわよ!」 フーケの杖を持つ手に力がこもる。 「分かった。もう近づかない。 すでに一歩『射程内』にはいったからな…」 「?」 『ヘブンズ・ドアー』! 『タバサ達を攻撃することはできない』! 「う、動けない!」 突然、フーケが身動き一つできなくなる。 「もう大丈夫だ。キュルケ。こいつを縄でぐるぐる巻きにしてやれ」 気絶したタバサをお姫様抱っこしながら、露伴が言う。すでに勝利したような表情だ。 「は、はい!」 キュルケはフーケの杖を取り上げ、用意していたロープで縛り上げた。 「何したのよ!答えなさい!」 「僕が『諦めた』といったのは『ブチャラティに僕の能力を隠し通す事』だ」 「あの男、ゴーレムと戦っている最中にも周囲に気を配っている… 本当に戦闘経験豊富なやつだな…」
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「ほう…広いな」 歩くにつれ、少しづつ収まってきたルイズを前に食堂に着いたのだが、その結構な広さに、素直に感嘆していた。 「ここで教えているのは魔法だけじゃなくて『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』のモットーのもと 貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」 長ったらしい説明を受けたが、まぁイレーネにとってはどうでもいい。 ルイズが席に座ろうとすると、絶妙のタイミングで椅子を引くと、驚いたようにルイズが反応した。 「意外と気が利くのね…」 「組織から一通りの事は叩き込まれてきたからな」 妖気を消す薬を使った上での潜入任務用のものだが、その気になれば娼婦の目だってやれるのだ。 使用人の動きも当然叩き込まれている。 「…こんな所で役に立つとは思わなかったが」 まぁ、そのNoの高さ故に潜入などには使われる事は無かったので、今回が初披露という事になる。 しばらくルイズの近くに立っていたが、人が集まろうとしない。 いや、他の席は人で埋まっていたが、ルイズの周りの席だけ綺麗に空いている。 少し考えたが、その理由は一瞬で分かった。 (ああ、ここでは私はエルフだったな) 要は仕事を成した後に姿を見せたがらない街人のようなものだと思えば納得できる。 つまり、恐れているという事だ。 ただ、朝のルイズが嫌そうにしていた赤い髪のキュルケはそうでもなかったようだが。 「見た目より、仲が悪いというわけではないようだ」 からかっているようにも見えたが、それなりに気にかけた上での行動だろうと検討を付ける。 本人に言えば否定されるだろうから、あえて言わないでいるが、とにかく、ここに居ては食事も始まらないだろうとし外に出ておく事にした。 どのみち、まだ一週間は持つはずだ。 「私は外に出ておく。済んだ頃には外で待っている」 「へ?何で外に出る必要があるのよ」 「気付いていないのか…周りを見ろ」 結構大物になるかもしれんと思ったが、場の状況を把握できないというのは、後で後悔するハメになる事が多いので確認させるように促す。 それはもう、夥しい数の視線がこちらに向けられている。 自分にではなく、主にイレーネに。 「と、いうわけだ」 そう言うが否やイレーネが食堂を後にする。 「…って、待ちなさい!あんたの食事は…」 そこまで言って、昨日、自分が言った事を思い出したのか口篭る。 もっともイレーネはそれを気にした様子も無く、とっとと食堂から出てしまったのだが。 「もう…勝手にしなさい!」 「少し、ここを探るか」 食堂から出たイレーネだが、まだ時間はある。 これからしばらくここに居るのだ。少し、学院の構造を調べておく事にした。 「確か、今居る塔が本塔だったな、他にも分塔が分かれているというわけか。…しかし、妖力がほとんど回復していない…やはり再生の影響か」 攻撃型の上位Noが腕一本再生するとしても、数ヶ月かかるのだ。それをこの短時間で行えたのだから、その影響だろう。 高速剣は腕を覚醒させ精神力で押さえつける技のため気にしなくてもいいだろうが、こうなればいよいよ一割の妖力解放すら温存しておいた方がよさそうだ。 少し考えながら歩いていたため、曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。 これが妖魔なら事前に察知できていたのだが、相手はただの人だ。 「妖魔のようにはいかんものだ…すまんな、大丈夫か?」 「い、いえ…こちらこそ申し訳あり……」 イレーネはそのまま立っていたがぶつかった方はしりもちをついて倒れている。 戦士として鍛えられたイレーネと、そうでない者なら当然の結果か。 「珍しい色だ。私が居た場所でも滅多に無いが…確か『獅子王リガルド』がそんな髪の色だと聞いたな」 男の時代のかつてのNo2。イレーネ自身、直接遭遇した事は無いが、外見はそうだと聞かされている。 が、倒れている方は、イレーネを見たまま固まっている。 「…どうした?立てないのか?」 手を差し出すが…何故か思いっきり叫ばれた。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!わわわ、わたしなんか食べたっておいしくないですよぉ!!」 「食べる…?何を言って「ああ…!父様、母様ごめんなさい…!シエスタはエルフに攫われてしまいます!」」 どうにもこうにも、シエスタと言うらしい少女が一人で何か別の世界に突入しているが、それを見たイレーネも動じていないあたりさすがだ。 「ど、どうしよう!学院にエルフがいるってことは貴族の方たちも、連れ去られてしま「とりあえず落ち着け」」 言うと同時に手刀を頭に叩き込む。もちろん角度60°の綺麗なやつをだ。 髪型がクレアに似ていたので思わず後頭部を掴んで、土下座体勢にさせたくなったが、チョップで我慢しておく。 「ひぁ…!た、食べないでくださいぃ~~~!」 「エルフというのは人を喰らうのか?…だとしたら妖魔か?しかし、それならなんで私がそれと同列に扱われなくてはならないんだ」 妖魔扱いされたと思い少しイラついたが表情には出さない。 「い、いえ、わたしも人から聞いただけなんですけど…違うんですか?」 「私はエルフではないから、知らんし、お前達が使うような魔法なども使えん」 「…そういえば、ミス・ヴァリエールがエルフを使い魔にしたって噂になってましたけど…魔法使えないんですか?」 「少なくとも、空を飛んだりする事などできんさ。大体、お前達はどこで私をエルフだと判断しているんだ」 今朝、エルフだと思われていた方がいいと判断したばかりだが、即撤回だ。 半人半妖だが、さすがに妖魔のように人を食うとは思われたくない。 「その…えっと…耳ですかね」 「確かに一般的なものとは違っているが…私はエルフではないよ」 クレアを襲っていたあの女もそうだが、あっちではそう珍しくない。どうやらこっちでは尖っている=エルフというらしいと認識した。 「エルフじゃなくて魔法が使えないって事はわたし達と同じ平民なんですか?」 「同じ?お前、魔法は使えないのか?」 「魔法が使えるのは貴族の方達だけなんですよ。わたしは貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公をさせていただいているんです」 「ふん…ならここでは、私もそうなるのだろうな」 ルイズにならともかく、この少女に半人半妖だと言っても理解すらできまいとし、それを言うのは止めたのだが、一つ疑問が浮かぶ。 「…いや、私を召喚したというやつも魔法だったか」 なら、何故に空を飛ばなかったのかは気になったのだが、まぁ些細な事だ。 攻撃型、防御型の違いのように得手不得手があるのだろうというところで納得した。 「わたしはシエスタっていいます。よろしくお願いしますね」 「さっき私に攫われると言っていた時に聞いたよ。イレーネだ」 さっきの事を思い出したのかシエスタが慌ててながら赤くなった。 「す、すいません…!でも魔法を使える貴族ですらわたし達にとっては怖いんです…。その貴族ですら恐れるエルフと思ったんですから…」 「怖い…か。私にも怖いと思うことぐらいあるよ」 もちろん、プリシラに左腕を持っていかれた時の事だが、シエスタは自分と同じだと思ったらしい。 「やっぱりそうですよね。…そうだ!余り物で作った賄い食でよければ食べていかれませんか?」 「ああ、私は…」 「遠慮なんてしないでくださいな。こちらにいらしてください」 大丈夫だと答える前にシエスタに手を掴まれ阻まれた。どうも見た目に反し押しが強いらしい。 こうなればあちらと違って、恐れられていないだけに一方的に弱い形になる。 戦士によっては、どこまでやるのかは違うが、少なくともイレーネは一般人と揉め事を起こすようなタイプではない。 無理に断っても拗れるだけだし、一週間は持つが、食べる必要が無いというわけではない。まして妖力が尽きているのだ。 引っ張られるままに食堂の裏手の厨房に連れていかれ椅子に座らされ待つこと数分。 シエスタが皿に入った暖かいシチューを持ってきた。 半分ぐらい食べたところでスプーンを置くとニコニコしていたシエスタが急に不安そうな顔をして聞いてきた。 「もしかして…お口に合いませんでしたか…?」 「ああ、性質でな。私は大体、二日に一度この程度食べれば事足りるんだ」 まぁ戦士にもよるが、大体このぐらいだ。クレアはさらに少ない方だったようだが。 「駄目ですよ!ちゃんと食べないと大きくなれません!」 長女としてのプライドか、どうも食事を残す妹や弟達とかぶったらしく、思わず似たような説教が出た。 「これ以上成長するというのもどうかと思うが」 身長180センチ、一般的に見ても高身長だ。 「そうですけど…毎日のご飯は大事なんですからね」 (やれやれ…クレアに『欲しくなくても無理にでも体に入れておけ』と言った私の立場が無いな) 因果応報。弟子にやった事がそのまま返ってきたような気がしたため、とりあえずその場は全部食べる事にした。 味は美味かったため、そう苦にはならなかったのは幸いというところか。 というか、本気で久方ぶりにまともな料理を食べた。 戦士時代から性質上、どういったものでも少量摂取すればいいというだけあって、基本的に生でいける果実か、そのまま焼いたものぐらいしか食べていない。 例外も居るだろうが、大抵の戦士はそれで済むため、わざわざ、一般人が食べるような料理を食べようなどというものは非常に少ないのだ。 だから、素直に感想が出た。 「旨いな」 「よかった。全部食べてくれて。いつでも食べに来てくださいね。わたし達が食べているものでよければお出ししますので」 「さすがに、毎日というわけにはな…ルイズの方も終わったようだ、世話になった」 「それじゃあ、またお昼に」 マントを翻し厨房を出るが、先行き不安と言えば不安だ。 「四肢接続を繰り返せばいけるか…?」 本気でそんな危ない事を考えつつ、ルイズと合流し教室へと向かう事になった。 ルイズがイレーネを伴い教室へ入ると、今まで結構話し声とかしていた教室が一気に静まり返った。 全員、正面を向き誰も一切ルイズを、もといイレーネを見ようとしない。 唯一の例外は今朝のキュルケと、その近くに座っている青髪の少女ぐらいだ。 風属性の教師曰く「学院として理想的な状態だ」とのこと。 さすがに、イレーネもこう大人数から人を食うエルフと思われてはたまらないので、ルイズに問いただす事にした。 「…お前達が言うエルフというのは人を食うのか?」 「人を食べるのはオーク鬼とかでエルフは強力な先住魔法を使うけど人なんか食べないと思うわ。急にどうしたのよ」 「そうか。…いや少しな」 どうやらシエスタの思い込みだったようで、一先ず安堵した。 なら訂正する事もあるまいと思い床に腰を落す。 やはり、こうなると背中に大剣が無い事に多少違和感を感じる。 「しかし…あれ全てが使い魔というやつか?」 「そりゃそうよ」 (まるで覚醒者の展示会だな…) もちろん普通の動物も居るが、中に浮いている巨大な目玉。蛸人魚。六本足を持つトカゲ。どれもこれも40番代ぐらいの下位の覚醒者ならありえる形だ。 そうしていると、扉が開き中年の女性の教師が入ってきた。 教室を一瞥するなり、満足げに微笑むと 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 と、口を開いたが、ルイズとその使い魔であるイレーネと目が合うと一気にその調子が下がった。 「ず、ずいぶんと、変わった…いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」 瞬間、ただでさえ冷えていた教室の空気が下がる。それはもう、生徒から空気読めよと言わんばかりの視線がモロにシュヴルーズと呼ばれる教師に集まっていた。 「で、では授業を始めますよ。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、皆さんに講義します」 こほん、と咳払いをし授業が始まるが、イレーネの興味は属性などよりも二つ名の方に移っている。 「お前達は、全員二つ名を持っているのか」 「そうね、大抵二つ名で属性が分かるのよ。あそこの小太りが『風上』。あのキザったらしい金髪が『青銅』。その横のは『香水』。後は…キュルケの『微熱』ね」 「順に、『風』『土』『水』『火』といったところだな。もう一つあるようだが…誰も使えないのか」 「伝説になってるぐらいだしね。虚無は」 「…それでルイズ、お前の二つ名は何なんだ?」 イレーネ自身、『高速剣』という二つ名を持っていたからには、そこのところはやはり興味はある。 そう聞かれてもルイズが答えないので、まぁ深くは聞かなかったのだが、かなり静かな教室の中、話していたので結構目立っていた。 「ミス・ヴァリエール、使い魔と親睦を深めるのは構わないのですが…授業中は慎みなさい」 「ああ、すまん。続けてくれ」 ルイズが謝るより先にイレーネがそう言ったのだが、思いのほか素直に謝られた事に対して緊張が取れたようで、ようやく何時もの調子に戻ったようだ。 「判っていただければ幸いです。ミス・ヴァリエールには、ここにある石ころを私がやったように金属に変えてもらいましょう」 「わ、わたしですか?」 もじもじしつつ立ち上がらないルイズを若干疑念を含んだ目で見たが、土系統は苦手なのだろうと判断した。 「や、やります」 そんな、視線に気付いたのか、緊張した面持ちでルイズが前に向かうが、別の方向から待ったがかかった。 「先生、ルイズにやらせるのは危険だと思いますけど…」 他の生徒もそれに同調しているが、シュヴルーズは止めさせるどころか、むしろ促している。 「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」 もう止められない。ルイズが教壇の前に行き杖を構えると生徒が一斉に机の下に隠れ始めた。 ルイズが呪文を唱えるが、戦いから離れていたとはいえ戦士。イレーネの体が反応した。 体のあちこちが妖力解放した時のように音を立てている。 何か分からんがマズイ! 「そこまでだ、止めろ!」 何故か限界を突破しそうな予感にかられ、ルイズを止めたのだが、もう杖を振り下ろしていた。 「いかん!」 瞬時に妖力解放。大して回復していない妖力を全て回し床を蹴った瞬間、爆発が起こった。 教室がパニックに陥り、他の使い魔達が暴れ出す。 フレイムが火を吐き、飛行可能な使い魔はガラスを突き破り外へ逃げ、その穴から入ってきた大蛇が小太りの少年を飲み込もうとしている。 「ああ!マリコルヌが食われた!」「まだ、食べられてない!助けてくれ!」「火を消せぇーーーー」 まるで、妖魔か覚醒者が町を襲った時の様な阿鼻叫喚だ。 「だ、だから言ったのよ!ルイズにやらせるなって!ってルイズと先生は!?」 キュルケが教壇を指差しながらそう言ったのだが、二人は居なかった。 「うそ…二人とも爆発で!?」 その場に居たはずなのに居ないので、爆発で消し飛んだと思ったらしいが、教室の後ろの方から声がかかった。 「まったく…問題児もいいところだ」 イレーネが珍しく焦った様子で、その右腕にルイズを抱えている。 「左腕が無いんでな。悪いが蹴ったぞ」 その視線の先にはシュヴルーズが倒れていた。 爆発に巻き込まれたわけではないが、イレーネの蹴りが良い所に入ったようで気絶している。 先住魔法というざわめきが起きたが、何の事は無い。ただ疾く動いただけの事だ 妖力解放し、教壇まで一足飛びに飛ぶと同時に教壇のルイズを掴み そのままの勢いで壁を蹴り反転。ついでにシュヴルーズを蹴り飛ばしたのだが、鳩尾に綺麗に決まったようだった。 当然、手加減はしたが急所である。そりゃあ気絶もする。 瞬間的な妖力解放による高速移動。『幻影』程ではないが、かなりのスピードで移動はできる。 ただ、もう回復した妖力を使い果たしたようだったが。 「ちょっと失敗したみたいね」 そんな教室のざわめきを受けても淡々とした声でと事も無げに言う姿を見て改めてイレーネは、こいつは大物になるな。と本気でそう思った。
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朝食というにはあまりに重たい。 食堂の食事を見ながら改めてそう思う。これらを朝に食べるのは遠慮したいものだ。 どう見てもディナーだからな。 そう思いながらルイズの椅子を引く。 椅子にルイズが座ったのを確認して私も空いている椅子に座ろうとする。 しかし空いている椅子は無かった。前回座った場所にはマリコルヌが座っていたからだ。 「マリコルヌ。どうして朝早くから席に着いてたんだ?」 「べ、別にいいじゃないか」 マリコルヌは他の奴とそんな話をしていた。 そうか。昨日のことがあるから座られる前に座ってしまおうということか。 だからってそんなに早く座ろうと思わなくてもいいと思うがな。 しかしこれは好都合だな。なかなかいい言い訳になる。 そう思いながらマリコルヌの隣に立つ。 マリコルヌの体がビクリと震える。昨日のことを思い出したのだろう。 しかし今私は苛立ってないから昨日のようなことはしない。むしろそのことで迷惑をかけたその礼をしてあげようというのに。 する理由はある。無駄な遺恨を残さないためだ。仮にも貴族だからな。 マリコルヌの前にあったパンをとりマリコルヌのナイフを使い切り込みを入れる。 「な、なにをするんだ?」 すこしビクつきながらマリコルヌが聞いてくる。そりゃ突然自分の食事に手を出されたんだから聞くのは当然か。 「昨日の謝罪代わりさ」 「へ?」 マリコルヌはまるでわからないというような顔をしている。 わかったらおかしいがな。 切込みを入れたパンの間に彩りを重視しながら具をつめていく。 ふむ、初めてにしてはなかなかうまくできていると思う。 「あんたなにしてんの?」 ルイズは私の行動を奇異の視線で見詰めてくる。 しかしそれには取り合わず、同じものを後3つ作る。全て彩りを一番に重視してだ。勿論味のことも考えている。 食べたこと無いものも入れたが。 彩りを重視する理由は簡単だ。マリコルヌは貴族。見た目がダメなものを食べるわけが無い。 できたそれらをマリコルヌの皿の上に乗せる。 「こ、これは?」 「サンドイッチだ」 「これが?」 そう私が作ったのはサンドイッチだった。記憶にあるサンドイッチを真似て作ったものだがなかなかうまくできている。 彩りも鮮やかでおいしそうだ。 しかしマリコルヌが疑問に思っているあたり自分が知っているサンドイッチと形が違うのだろう。どうでもいいけどな。 そのうち二つを私が手に取る。これは私の分だ。それを持ち食堂を出ようとする。 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 それに驚いたのかルイズが私を呼び止める。 「外に行くんだ。ここは席が埋まっていて座れないだろう?」 そう言うと急ぎ足で食堂を出る。 「椅子を持ってくればいいじゃない!」 なにやら言ってくるルイズは無視した。朝からあんな食事が食えるか。見てるだけで胸焼けしそうだ。 そして外に出ると適当に歩き出す。 さてどこで食べようか。 すこし歩くと丁度座り心地がよさそうな場所があった。 ここで食べるとしよう。そう決め腰を落とす。 作ったサンドイッチを口にする。 ……うん、おいしいじゃないか。すこし苦かったりするけど。でも気になるようなものじゃない。 むしろそれが他の味をより引き立てる。 初めての料理(といえるかどうかは知らないが)はまさに最高の出来栄えだった。 適当に作ったのにこれだけのものができるなんてもしかして俺天才か? いい気分になりながら食べていく。 そして簡単に1つ目を食べ終えてしまった。 続いて2つ目を一齧りする。そのとき目に何かが映った。 何かと思いそれに目を向けるとそこには一匹の子猫がいた。 その日、私は猫に出会った。 マリコルヌは目の前にサンドイッチを見ていた。 あのルイズの使い魔が作ったサンドイッチだ。サンドイッチといっていたからサンドイッチなのだろう。 しかしこんなサンドイッチ見たことが無い。 パンは完全に切り離していないし具も何種類も入れていた。はしばみ草も入れていたのだ。 警戒するなというほうが無茶だ。しかし…… ゴクリ、と咽喉が鳴る。 見た目が鮮やかでとてもおいしそうだ。それに自分の前で作っていたのだから何か小細工ができるわけでもない。 それにあの使い魔は言っていたではないか、昨日の謝礼だと。 謝礼に変なことをするわけが無い。 そうだ。なんで僕が食べ物なんかで脅えなくちゃいけないんだ。 これを作ったのはあの使い魔だけど、このサンドイッチがあの使い魔というわけではないんだ! 意を決しサンドイッチを手に取る。 額から一筋汗が流れ落ちる。昨日のことが思い出される。 それを一緒に飲み込むが如く、マリコルヌは一気にサンドイッチに齧り付いた。 …………………………………………………これは! 「……おいしい」 見た目通り。いいや、それ以上に美味しい! こんなにも美味しいサンドイッチがあるなんて!はしばみ草は物凄く苦いことで知られていて皆たべない。 しかしこれに入っているはしばみ草は別物に思えた。 確かに苦い。それは間違いないのだ。しかしその苦さが次に舌に触れる食材の味をより鮮明に感じさせてくれる! 脂っこいものをさっぱりさせてくれる! 色々な食材をはしばみ草がうまくまとめている感じすらする。これなら美味しく食べられる! これが本当のサンドイッチ、まさにサンド・ザ・サンド! こんなに美味しいものを僕に作ってくれるなんて!あの使い魔は実は言うほど怖くないのかもしれない。 このサンドイッチをきっかけにマリコルヌはヨシカゲをあまり恐れなくなった。
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズと康一は二人の男性と向かい合い、ソファーに腰を下ろした。 一人は先ほどの中年男性、コルベール。そしてもう一人の老人をコルベールは学院長のオールド・オスマン氏と説明した。 一言で言うと、『まるで魔法使いみたい』な容姿である。深緑のローブ、傍らには長い樫の杖を置いている。 白い顎鬚を長く垂らし、それをいじりながら康一のことを興味深そうに見ている。 一見何も考えてなさそうな顔をしているが、康一はその目の奥に深い知性の光を見た気がした。 まるで、ジョセフ・ジョースターさんのようだ。 「ふむふむ、君がその平民の使い魔かね。・・・なるほど、いい面構えをしているのぉ。」 その一言に、康一の隣に座っているルイズは露骨に『そうかしら。チビだし、彫りも浅くてハンサムとはいえないと思うけれど・・・』という顔をした。康一と目があって、またぷいっと横を向く。 オスマンはほっほっほと笑って、康一に尋ねた。 「それで君はどこから来たのかね?」 「日本です。いや、えっと、鏡に飲まれたときはイタリアのネアポリスにいたんですけど・・・。」 「日本、イタリア、ネアポリス・・・と。それはどのへんにある国なのかね?」 「どのへん・・・ですか。えーっと、日本はユーラシア大陸の東側にある国で、イタリアは逆にユーラシア大陸の西側、ヨーロッパの中にある国です。ネアポリスはイタリアの都市の名前で・・・」 康一は懸命に世界地図を思い浮かべた。 「ふーむ・・・コルベット君。」 「コルベールです、オールド・オスマン。」コルベールが訂正する。 「おお、そうそう。コルベール君じゃったの。今彼が言った国の名前を一つでも知っているかね?」 オスマンは尋ねた。 コルベールは困ったように首を横に振った。 「いや、全く聞いたこともありませんね。ハルケギニアの外の話でしょうか。エルフの住まう、サハラよりも更に東方の国のことなら、我々が知らないこともあるかもしれませんが・・・」 「(サハラ砂漠なら知っているぞ!)」と康一は言おうとした。 しかし、日本とイタリアは、まさしくサハラ砂漠を挟んで東と西である。二人の話とは大分食い違いそうなので、康一は黙っておくことにした。 オスマンはコルベールと話を続けている。 「そうか。わしも長く生きておるが、そんな国の名前は聞いたことがない。彼の話は本当だと思うかね。ゴルバット君。」 「コルベールです。オールド・オスマン。彼の言っていることが本当かどうかはわかりません。」 コルベールは少し言いよどんだ。 「ただ・・・私は先ほど彼の不思議な力を体験しました。いきなり自分の体が重くなったような・・・」 「ほう。重くなった、とな。見たところメイジでもなさそうなこの少年がそんなことができるとも思えんが・・・ちょっと君。えーっと、なんという名前じゃね?」 「康一です。広瀬康一。」 「そうか。ではミスタ・コーイチ。その不思議な力を、わしにも見せてくれるとうれしいのじゃが・・・」 「嫌です。」康一はむげも無く断った。 「なぜじゃね?」 「ぼくはここにそんな話をしに来たんじゃないからですよ。この状況を説明してくれるっていうからここにきたんですよ!説明しないならぼくを早くもといた所に返してください!」 いい加減我慢も限界に近づいていた康一は立ち上がって叫んだ。 康一はまだこれがスタンド攻撃であることを微塵も疑っていなかった。 「まぁまぁ。ミスタ・コーイチ。そうかっかなさるな。聞きたいことがあるならいくらでも説明するからまずは座りなさい。」 康一は不満そうにしながらもしぶしぶ腰を降ろした。オスマンは手を組んで身を乗り出した。 「興味深いことだが、どうやら君は我々のことをよく知らないらしい。ここがどこだか分かっているのかね?」 「知りませんよ!さっきもいいましたけど、いきなり鏡のようなものに吸い込まれて、気がついたらあの草原にいたんです!」 「ここはトリステインの魔法学院じゃよ。聞いたことはないかね?」 「ま、魔法学院?」 さっきからちょくちょく言ってるけど、魔法ってなんだ。もしかしてドラクエとかFFとかで出てくる魔法のことじゃないだろうなー。 康一はからかわれているのかと不安になった。 「魔法って・・・なんです?」 「魔法も知らないなんてどんなところから来たのよ!」ルイズが信じられないものを見るように言った。 「ミス・ヴァリエール?」 コルベールが静かにするよう促すと、ルイズは黙り込んだ。 「おほん。魔法というのはじゃね・・・こういうもののことじゃよ。」 オスマンはそういうと懐からコインを一枚取り出した。 杖を手に口の中でむにゃむにゃと呪文を唱えると、それまで机の上に置かれていたコインがふわりと浮かびあがった。 「う、浮いてる!?」 康一は驚いた。部屋を見回してもスタンドの姿は影も形も見えない。 もしかして・・・馬鹿げているとは思うが、本当に魔法とやらが存在するのだろうか。さっきみんなが飛んでいたのも魔法の力? 康一はめまいを感じた。 「これは『レビテーション』という魔法じゃ。そして先ほど君は『サモン・サーヴァント』という魔法でここに召還されたようじゃの。」 「さっきも言ってましたね。『使い魔』がどうとか・・・」 「うむ。『サモン・サーヴァント』は使い魔を召還するものじゃ。使い魔とはメイジの・・・そうじゃな。助手のような仕事をする。」 オスマンはこれがわしの使い魔、モートソグニルじゃ。といってハツカネズミを見せてくれた。 「普通はこのように人間以外の動物や幻獣が呼び出されるものじゃが、今回はどうしてか人間である君が呼び出されてしまったようじゃの。」 「じゃあ、これはなんです?そこの女の子に・・・えーっと、『キス』されたらこんなのが刻まれちゃったんですけど。」 康一はルイズのほうをチラッと見ながら、左手に刻まれた印を見せた。 「き、キスじゃないわよ!契約よ契約!誰があんたなんかとキスしたりするもんですか!」 ルイズは康一以上に顔を真っ赤にした。 オスマンはまぁまぁと二人を宥めた。 「メイジは使い魔を召還すると、『コントラクト・サーヴァント』で使い魔と主従の契約をするのじゃよ。それは通常口付けによって行われるんじゃ。それはその証のようなものじゃの。」 「いやですよ!なんでぼくがこんな我が侭な子のペットみたいなことをしなくちゃいけないんだっ!」 康一は声を荒げた。 由花子と出合った頃別荘に閉じ込められたときのことを思い出した。 あの時も石鹸を食べさせられそうになったり、電気椅子に座らせられそうになったりと人間扱いされなかったが、今度は正真正銘のペットにされてしまうという! 「うむ、君のいうことはもっともじゃ。わしとしても君を帰してあげたいのはやまやまなんじゃよ。」 じゃが・・・とオスマンは背もたれに身を預けた。 「じゃが、あいにく我々は君のいた国がどこにあるのかすら分からんのじゃよ。」 「そんな・・・」康一はがっくりと肩を落とした。 「こっちに呼び出したのなら、送り返す呪文はないんですか?」 「うーむ、通常は使い魔になることを同意しているものが召還されるから、送り返す魔法なんてものはないんじゃよ・・・」 つまりぼくはその『サモン・サーヴァント』ってやつで、魔法の国なんていうゲームの世界みたいなところに、使い魔にするために連れたわけだ。 しかも帰る方法はないという!康一は頭を抱えた。 「そこでじゃね。どうじゃろう。しばらくこちらで使い魔としてやっていく気はないかね?」 「はぁ!?」康一は顔をあげた。 「使い魔召還の儀式はメイジとして生きていくうえでは避けて通れないものでの。そこのミス・ヴァリエールが2年生に進学するためには今、君という使い魔がどうしても必要なのじゃよ。」 ルイズは顔を俯かせた。 そんなこと知るもんか!と叫ぼうとした康一をオスマンは押しとどめた。 「それに想像してみなさい。見ず知らずの世界で、行くあても先立つものもないんじゃろう?食べるものはどうするかね?屋根がない生活はつらいぞい?替えの服はもっているかね?」 「ぐっ・・・」康一は反論しようとしたが、できなかった。確かに自分はこのわけのわからない世界で身分を保証するものはなにもないのだ。 「少なくとも使い魔として生活するならばミス・ヴァリエールのメイジとしてのプライドにかけて衣食住は保障される。ミスタ・コーイチの故郷のことはわしも興味があるし、調べてみよう。」 オスマンはウインクをして見せた。 「どうじゃ。それまで使い魔として生活してみんか。ミス・ヴァリエールは進学でき、ミスタは住む場所を得る。ギブ テイクというやつじゃの。」 オールド・オスマンは右手と左手でそれぞれ二人を指差した。 指差されたルイズと康一はお互いに顔を見合わせた。 結局その後も言葉巧みに説得され、康一はしばらく使い魔として暮らしていくことを同意させられてしまった。 なんだか上手く乗せられたような気がしないでもないが、実際他にどうしようもないのだからしかたがない。 ルイズは先に部屋を出ている。これから康一が住む場所に案内してくれるらしい。康一も彼女の後を追おうと立ち上がった。 「最後に一つだけいいかの?」オスマンが康一に声をかけた。 「なんです?」 「帰る前に、その『重くする魔法』を使ってみてはくれんかね?わしも魔法を見せた。これもギブ テイク、じゃよ。」とにっこり笑ってまだ浮いたままのコインを指差した。 康一は溜息をついた。断ろうかとも思ったが、確かめたいこともあった。 「ACT3。」 『YES!MASTER!』 康一が呼ぶと、突然テーブルの上に白い人影が浮かび上がり、オスマンとコルベールは思わず仰け反った。 康一はその様子を見て確信した。 「(やはり・・・見えている・・・)」 「こ、これがその『ゴーレム』とやらかね?」 「ゴーレムじゃなくて、『スタンド』ですけれどね。ACT3!そのコインを重くしろ!」 『S.H.I.T!』 ACT3が空中のコインを両手で触る。 すると、ズン!!という音を立ててコインが黒檀のテーブルにめりこんだ。 「おおおお・・・」オスマンとコルベールは立ち上がった。 「私はさっきこうなっていたのですね!」 コイン一枚でこの重さだ。自分が受けていた圧力を思うとぞっとした。 「うむ、半信半疑じゃったが、まさか本当にこんなことが・・・『スタンド』とは、いったいなんなのじゃね?マジックアイテムの類かと思うのじゃが・・・」オスマンは問いかけた。 「え~っと、ギブ テイク、ですよね?」康一は尋ねた。スタンドはもう消えている。 「うむ、それがどうかしたかの?」 「じゃあこれより先は、帰る方法が分かってからってことで。」 康一はにっこりと笑った。くるりと背を向ける。 オスマンは驚いたような顔をして、それから額を叩いて笑った。 「ほっほっほっほ!こりゃ一本とられたの!」 「それじゃ、失礼しま~っす。」康一は扉から頭を下げるとバタンと扉を閉めた。 外に出ると、ルイズが遅いじゃない!といいたげな目で康一を待っていた。そして、「こっちよ。」と歩き出していく。 康一は「(ひょっとしてぼくはとんでもない約束をしちゃったんじゃないだろうなぁー)」と先行きにどんよりとした不安を感じながらツカツカと揺れる、自分よりも小さな桃色頭についていった。 康一が出て行った後、コルベールはテーブルに埋まったコインに手を伸ばした。 完全にめりこんでしまっているが、もう重くはなっていないようだ。爪を立ててようやく引き起こし、つまみあげた。 「大したものですね。ハンマーで叩いてもこうはなりませんよ。」 コルベールは、裏返したり弾ませたりしてみたが、やはりただのコインだ。 オールドオスマンはその様子を横目で見ながら言った。 「実はの。今そのコインが重くなっている間、わしはレビテーションをかけ続けていたんじゃよ。力を測ろうと思っての。」 「そ、そうだったのですか!?それで、どうでした?」コルベールは目を輝かせて聞いた。 オスマンはただ首を振った。 「全力で持ち上げようとしたが、ピクリともせなんだ。底が知れんよ。」と背もたれに体をあずける。 コルベールは青くなった。あの大賢者と称えられたオールド・オスマンでもその力を測りかねるというのか。 「あの少年、何者なのでしょうか。『スタンド』とはいったい・・・」 自分達はひょっとして、生徒に得体のしれない「なにか」を押し付けたのではないだろうか。 オスマンはゆっくりと立ち上がると窓を開け、中庭を見下ろした。明るい太陽の光が差し込み、コルベールは目を細めた。 「『スタンド』とはなにか、彼がどこから来たのか。それはわしにもわからん。」 オスマンは何か遠くを見ているような目をして語った。 「じゃがのコンバートくん。あの少年は非常に澄んだ目をしておった。やさしく純粋で・・・まっすぐな目じゃった。ミス・ヴァリエールにとって害になることはあるまい、とわしは思うのぉ。」 そして振り向いて笑う。 「それどころか彼を召還したことは、彼女にとって・・・いや、もしかすると我々にとっても望外の幸運なのかもしれんぞ?」 コルベールは、そうだといいですけど・・・。と溜息をついた。 そして、私の名前はコルベールです。とだけ付け加えた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十四話「闇が来る」 炎魔人キリエル人 炎魔戦士キリエロイド 超古代尖兵怪獣ゾイガー 登場 ブリミルたちの村の上空に浮かび、その不気味さで村の人々を脅かしているキリエル人の ゆらめく姿を、才人は奥歯を噛み締めながらにらみつけた。 「やっぱり……あいつか……!」 この時代からしたら遠い未来だが、才人にとってはほんの二日、三日前の出来事。ロマリアで いきなり襲いかかってきた怪人そのものである。まさか六千年前の時点で既にハルケギニアにいて、 こうしてブリミルたちを脅かしていたとは。 キリエル人はおびえている村の人間全員に向けて、高圧的に言い放ち続ける。 『この世界はもうじき闇によって滅びる。貴様ら愚かで無力な人間を救うことが出来るのは、 我々キリエル人だけである! 今すぐに我々にひざまずいてしもべにあることを誓うのだ! さすれば救いの道は開かれる!』 その言い分に、外にいる村の住人は皆一様に困惑する。 「そんな勝手なことをいきなり言われても……」 「俺たちはあんたのことを何も知らないんだぞ! それでしもべになれだなんて無茶な……!」 尻込みしている人間たちに、キリエル人は苛立ったように怒鳴り散らした。 『黙れ! 貴様ら下等な人間に選択の余地はない。貴様らに与えられた道は、キリエル人を 崇め忠実なる下僕となることだけだ!』 一方的に言いつけるキリエル人に強く反論する者たちが現れる。誰であろう、ブリミルと サーシャだ。 「そんな勝手な要求は呑めない! ぼくたちにはぼくたちの信仰があり、生活がある。いきなり 出てきたあなたの言いなりになるなんてことは御免だ!」 「わたしはこの村の者じゃないけど、一つだけ言ってやることがあるわ。あんた何様なのよ! 礼儀ってものの意味を調べてから出直してきなさい!」 二人の発言に、キリエル人はますます不興を募らせているようであった。 『愚か者どもが! 己らの矜持の方が、命より大事だとでも言うのか! キリエル人の救いを 受けなければ、お前たちはこの世界とともに滅亡するのだ!』 その言葉にもブリミルが言い返す。 「ぼくたちはその滅びとかいうのを阻止するために頑張ってるんだ! それに光の戦士たちも 力を貸してくれている。世界を滅ぼさせたりはしないぞ!」 光の戦士、という単語に、キリエル人の怒りのボルテージはマックスになったようだった。 『よりによってウルトラマンを頼りにしようなどとは……愚行の極致! あまりに罪深い! もはやその罪は、我が聖なる炎でないと清められぬぞぉッ!』 喚きながら、キリエル人は火炎を飛ばして村のテントを焼き始めた! 「きゃあああああああッ!?」 一気に巻き起こる悲鳴。メイジたちは慌てて水の魔法で消火に掛かるが、火災の勢いは 凄まじく、またキリエル人が次々に火を放つので手が足りない。 「やめろ! 暴力に訴えるんだったらこっちも……!」 キリエル人へ杖を向けるブリミルだが、すぐに小さくうめく。 「くッ、呪文詠唱が間に合うか……!」 「あの高さじゃさすがに剣が届かないわ! 誰か、弓持ってない!?」 サーシャが弓を求めるが、それが届けられる前にブリミルたちの先頭に立つ者があった。 「いい加減にしろよ! このエセ救世主、いや救世主気取りの大馬鹿野郎!」 もちろん才人だ。 『何だと……!?』 正面から罵倒されたキリエル人はすぐに顔色が変わる。 「お、おいきみ! 危ないぞ!?」 「いや待った! 彼なら恐らくは……!」 メイジの一人が泡を食って才人を止めようとしたが、ブリミルが神妙な面持ちで制止した。 「守る相手に暴力を振るって言うことを聞かすなんて馬鹿もいいところだ! お前の本性は 神でも何でもない、ただの底抜けのわがまま野郎じゃねぇか! 自分の振る舞いが物語ってるぜ!」 才人の遠慮のない非難の言葉に、キリエル人は怒りの矛先を全て彼に向けた。 『おのれ、キリエル人に向かって何たる口の利き方……地獄の炎で焼かれて己の罪を思い知れッ!』 才人へと灼熱の火炎を猛然と放ってくるキリエル人! だが才人はスパークレンスを掲げて、その光で火炎を打ち払った! 『その光はッ!? そういうことか……!』 一瞬驚愕したキリエル人だが、すぐに察してこれまで以上の怒気を纏う。 『ウルトラマン! 全ては貴様らのせいだ……! 貴様らの存在が愚かな人間どもを惑わせるのだ! おこがましいと思わんのか!』 「ほざけ! お前がどう思おうが知ったことじゃねぇ! 俺がすることはただ一つ……お前の 暴力からこの人たちを守ることだけだッ!」 言い切って、才人はスパークレンスを高々とかざした。すると先端の翼型の意匠が左右に開き、 まばゆい閃光が発せられる! 「ヂャッ!」 光とともに、才人の身体はたちまち巨躯なるウルトラマンティガへと変身する。 「おおッ!?」 「あれはまさしく、光の戦士……! あの少年がッ!」 メイジたちの間でどよめきが起こった。一方のキリエル人は、ティガになった才人を激しく ねめつける。 『よかろう。見せてやろう、キリエル人の力を! キリエル人の怒りの姿をッ!』 キリエル人の足元の地面が突如ひび割れ、マグマの噴出のように火炎が噴き上がると、 それとともにキリエル人の姿が変化。ティガと同等の体格の怪巨人へと変化した! 「キリィッ!」 現代のハルケギニアで戦ったのと同じキリエロイド。しかし顔はあの時の笑い顔とは違い、 泣き顔のように見える。 「タァーッ!」 「キリッ!」 すぐにティガとキリエロイドの決闘が開始される。ティガの先制の拳をキリエロイドが 腕を差し込んで止め、ボディにパンチを入れる。 「ウッ!」 「キリッ! キリィッ!」 ひるんだティガにキリエロイドの猛攻が仕掛けられる。スピーディーな回し蹴りの連発からの 側転キックという、流れるような連続攻撃にティガは身を守るので手一杯になる。 キリエロイドの軽やかな身のこなしから来る絶え間ない攻めには反撃の余地がない。しかし 才人も既にキリエロイドと戦って、その動きが分かっているはずだ。それに目の前の相手からは、 以前ほどの力は感じられない。 では何故苦戦しているのか。 『くッ……やっぱり身体を思うように動かせねぇ……!』 それはもちろん、ティガの肉体に慣れていないからである。もう長いことゼロとして戦って 来たので、その身体能力に慣れ切った分、違うウルトラマンのスペックに逆に対応できていないのだ。 「キリィーッ!」 「ウワァァァッ!」 キリエロイドの火炎弾が直撃し、大きく吹っ飛ばされるティガ。このまま押し切られてしまうのか? 『くッ、くそぉッ……!』 よろめきながら身を起こすティガ。その時に、その耳にブリミルたちの応援の声が届く。 「がんばれ! 立ち上がってくれサイトくん!」 「しゃんとしなさい! 光の戦士はその程度じゃへこたれないはずよ! わたしたち何度も 見てるもの!」 『ブリミルさんたち……!』 わぁわぁと声を張り上げて応援してくれるブリミルたちに、ティガは目を向ける。 「ぼくは信じてるよ! 光の戦士は何も言わないが……とても優しく、勇敢な人たちだとね! きみたちこそが、この世界を救ってくれる勇者だ! ぼくたちも戦う、だから負けないでくれ!」 『……!』 ブリミルの激励の言葉に、才人の心が沸き上がる。 「キリィィィッ!」 一方でキリエロイドは苛立ちを募らせたかのように、ブリミルたちへと火炎を飛ばして攻撃する! 「うわぁぁぁッ!」 ブリミルたちの窮地! ……しかし、火炎は途中でさえぎられて、彼らには届かなかった。 「ハッ!」 瞬時にスカイタイプに変身したティガが超スピードで回り込んで、その身で火炎を打ち払ったからだ! 「おぉッ! 光の戦士が、守ってくれた!」 「サイトくん……!」 「やるじゃないの」 ブリミルたちが歓喜し、サーシャはティガの背中に苦笑を向ける。 「タァーッ!」 今度はティガの反撃の番だった。スカイタイプのスピードを活かしたラッシュを仕掛け、 キリエロイドを押していく。キリエロイドも迎え撃つものの、徐々にティガの動きのキレが 増していき、少しずつ防御が追いつかなくなっていく。 「キッ、キリィ!?」 ティガの動きがどんどん良くなっていくことにキリエロイドは困惑していた。 才人はブリミルたちの応援によって心が震え、かつ戦いながらティガの身体能力に順応 しているのだ。戦いながら成長している! こうなったからには、最早完全にティガの流れである。 「タァッ!」 「キリィッ!」 ティガのハイキックがキリエロイドを蹴り飛ばす。そして距離を開けたところで、カラー タイマーに添えた腕を伸ばして青い光線をキリエロイドの頭上に放った。 「ハッ!」 光線が弾け、白い煙のようなものがキリエロイドの全身に降りかかる。するとキリエロイドが たちまちにして頭の天辺から足のつま先に至るまで凍りついていく! 「キリ……!?」 ウルトラ戦士には珍しい冷却攻撃、ティガフリーザーだ! キリエロイドは全身氷漬けに なってしまい、一歩も身動きが取れなくなった。 「フッ!」 今こそが絶好のチャンス。マルチタイプに戻ったティガは胸の前で交差した両腕を左右に 大きく開いて、同時にエネルギーを最大にチャージ。そして腕をL字に組んで必殺の攻撃を 繰り出す! 「タァッ!」 ティガの最大の必殺技、ゼペリオン光線が炸裂! キリエロイドは一瞬にして粉々に砕け 散って消滅したのだった。 「おおおおおおおッ! 勝ったぁッ!」 「やったぞぉーッ!」 ティガの逆転勝利に村の人々は一斉に歓声を発した。ブリミルとサーシャも満足げにうなずく。 ……しかしキリエロイドが砕け散っても、キリエル人が完全に消滅した訳ではなかった。 ほとんどのエネルギーが飛び散りながらもどうにか生き長らえ、生命の保存のために人知れず 異次元に逃れていく。 『おのれ……よくもやってくれたな……! この恨みは決して忘れん……。たとえ何千年 経とうとも、再び相まみえたその時には、より強めた怒りの姿によって復讐をしてくれる……!!』 恨み節を残して、キリエル人はこの世界から退散していった。 「フッ……」 そんなことは知らずに、ティガは変身を解いて才人に戻ろうとしたのだが……不意に嫌な 気配を感じ取って後ろに振り返った。 「フッ?」 そして驚愕する。視線を向けた先の背景が……徐々に真っ黒い闇に塗り潰されていくのだ! 決して夜の闇ではない。もっと恐ろしい……生存本能が非常に危険なものだとの警告をガンガン 鳴らす。 「な、何だあれは!?」 ブリミルたちも闇に気がつき、恐れおののく。彼らもまた、迫る闇が大変危険なものだと いうことを直感で理解していた。 「ハッ!?」 ティガ=才人は、キリエル人の「闇によって滅びる」という発言を思い返した。 『まさか……もう来るってのか!?』 ――現代のハルケギニア。教皇の即位記念式典が行われるアクイレイアはガリアとロマリアの 国境付近に存在する。アクイレイアからわずか北方十リーグのところには、火竜山脈を南北に 突き破る街道があり、そこに国境線が敷かれている。 その名も虎街道(ティグレス・グランド・ルート)。直線で十数リーグもの長さになる、 ロマリア東部からガリアへ通ずる唯一の街道だ。左右を切り立った崖に挟まれていて昼でも 薄暗い土地であるため、昔は人食い虎や山賊などの被害が相次いだ記録が残っている。 それ故の物々しい通称だが、整備が進んで安全が確保された今では常に商人や旅人が行き交う、 ハルケギニアの主街道の一つに数えられている。 だが、そんな虎街道のガリア側の関所では、ある揉め事が発生していた。 「通れねぇ? お役人さん、どういう了見だい?」 ロマリアの祝祭ももう目前だというのに、関所の門が固く閉ざされ、誰一人としてロマリアへと 通行できないでいるのである。式典に参加するためここまで旅をしてきた者たちは当然ながら困惑し、 一様に関所を管理する役人に説明を求める。 だが、役人からの回答はたった一つだけ。 「通れぬものは通れぬのだ。追って沙汰があるまで、待っておれ」 当然そんな答えにならない答えでは納得がいかない。商人の一人は殺気立ちながら詰め寄った。 「おい、待ってくれよ! 明日の晩までにこの荷をロマリアまで運ばないと、大損こいちまう! それともなんだ、あんたが代わりに荷の代金を払ってくれるとでもいうのか?」 「バカを申すな!」 一喝する役人だが、街道の利用者たちからは次々に不満の声が噴出した。 「教皇聖下の即位三周年記念式典が終わってしまうだよ! この日をわたしがどれだけ楽しみに していたのか、あんたたちに分かるもんかえ!」 「サルディーニャに嫁いだ娘が病気なんだよ」 役人はそれを抑えつけようととうとう杖を構えた。 「わたしだって知らん! お上からは、街道の通行を禁止せよ、との命令以外、何も受けて おらんのだ! いつになったらこの封鎖が解かれるのか、わたしの方が知りたいくらいだ!」 全く以て要領を得ない役人の言葉に、集まった人々が顔を見合わせる。 その時、一人の騎士が役人の元に駆け込んできた。 「急報! 急報!」 「どうなされた?」 「リュティスより未確認の……!」 馬から降りるのももどかしく、手綱を放り投げたままでの息せき切った報告であったのだが…… それよりも早く、その未確認の「何か」は、空の彼方より虎街道上空を横切っていった。 「ピアァ――――ッ!」 それは、巨大な鳥だったのか? それとも竜だったのか? あまりに速すぎて街道の人間の 目では全く見えなかった。分かったのは二つだけ。フネなどでは断じてないこと、そして…… 何体も街道上空を通過して、ロマリア方面へと飛んでいったことだ。 「な、何だ? 今のは……」 「リュティスから来たって? あんなものすごい速さの、何かが……」 事態がまるで呑み込めずに、利用者たちは先ほどまでの喧騒が一転して呆然としていた。 だが……彼らの背筋を、急にひどく寒いものが駆け抜ける。 「な、何だ……? この感じは……」 「何か、すごく嫌な感じが……」 唖然と空を見上げたままの人間たちの目に飛び込んできたのは……飛行物体の進行ルート上を たどるように、ロマリアへと移動する――と言うべきなのだろうか――「暗闇」としか言いようの ないものであった。 「ひやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 この場にいた人間は全員、恐怖の絶叫を発して腰を抜かしたり、その場にうずくまって がたがた震えたり、必死に物陰に身を潜めるようにして息を殺したりと恐怖に駆られた 反応を示した。――彼らの本能が、あの「闇」が、人食い虎などとは比べものにならないほど 危険で恐ろしい、おぞましいものだと感じ取ったのだ。 その「闇」は、関所の人間にはまるで無関心かのようにそのまま通り過ぎていった。「闇」が 完全に去って、人間たちの恐怖心はようやく消えたのである。 役人は未だ冷や汗まみれの顔でつぶやいた。 「一体、何が始まるというんだ……」 そのひと言が発せられたのと――ロマリア領空を警護するロマリア艦隊が、先に超高速で 飛んでいった飛行物体の集団――超古代の怪獣ゾイガーの群れに壊滅させられたのはほぼ同時であった。 そしてゾイガーの露払いが済んだのを見計らうように、「暗闇」は確実にアクイレイアへと 近づいていったのである……。 「プオオォォォォ――――――――!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十話「その名は“邪悪”」 邪悪生命体ゴーデス 登場 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。 彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。 母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の 中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。 やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ 才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの 旅路の大詰めであった。 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。 「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。 「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。 まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の 売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、 ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで 警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際 その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。 「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に タバサとその母親を奪取しましょう」 「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、 よく無事だったと褒めてあげたいね」 「あんたは何もしなかったでしょうが」 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。 「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、 「待て」 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。 すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。 「わたしはエルフのビダーシャル」 「エルフ……!」 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。 ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。 それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の 奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。 「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、 音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。 「お前たちに告ぐ」 「な、何だよ」 「去れ。我は戦いを好まぬ」 「だったらタバサを返せ!」 「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を してしまった。渡す訳にはいかぬ」 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。 「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、 どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた 怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。 「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、 約束は決して破らん」 「駄目か……!」 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ 他人には信用してもらえそうにない。 ルイズは才人の袖を引っ張る。 「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」 「けど!」 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。 「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、 何を引き起こすのか分からないわ」 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした 情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、 ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。 才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが おろおろとした声を出す。 「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」 「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」 声を震わせながら反論するモンモランシー。 「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」 「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、 日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。 「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」 「……俺がどうにかして倒してくる」 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに 頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる ルイズと才人ではなかった。 「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、 エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは 認可できん!」 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、 友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。 「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、 どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。 その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。 「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。 二人と……あたしを信じて、任せてあげて」 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。 それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。 「サイト、ゼロになって!」 「何?」 「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は 怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける 相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。 「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」 「どうして?」 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。 「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。 あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が 尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。 ルイズは己の考えを改めた。 「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」 「ああ!」 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も 動かずに、彼らを待ち受けていた。 「やはり去らぬというのか」 「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」 「了承した」 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は どういうことだろうか? 「相棒、無駄だ。やめろ」 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。 「うぉおおおおおッ!」 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに 吹っ飛ばされた。 「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。 「サイト!」 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。 「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。 「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」 「反射?」 「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と 契約しやがったな。なんてえエルフだ」 「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」 「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。 ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」 ビダーシャルは両手を振り上げた。 「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと 才人を襲う。 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は 身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。 「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」 「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、 あいつをどうにかすることができるんだ」 「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」 「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」 「え?」 「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」 「解除ね!」 「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部 解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を 構えているからだ。 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が 湧き上がるのだ。 「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る 全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。 「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な 拳に変化した。 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。 「あれがエルフの“先住”かよ……」 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、 またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、 後退を余儀なくされる。 「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。 「サイト! ルイズ!」 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。 「お前ら、どうして……」 「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。 「逃げろ! 俺たちで何とかする」 「いいから、黙ってろ」 「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。 キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。 「くッ!」 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。 向こうは、汗一つかいていないのである。 「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。 「いや、そうじゃないみたいだぜ」 振り返るギーシュ、マリコルヌ。 「ルイズが呪文を唱えてる」 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が 彼の心に気力をもたらしているのだ。 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の 完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。 「俺にその“解除”を掛けろ!」 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。 「相棒! 今だ!」 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は 真っ二つに切り分けられた。 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。 「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。 「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは お前たちを打ち滅ぼすだろう!」 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。 ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。 ギーシュがぽつりとつぶやいた。 「このぼくがエルフに勝った。信じられない」 「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」 モンモランシーが突っ込んだ。 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。 「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」 「どこに行くんだい?」 「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。 「ああそうだった。そのために来たんだった」 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた! 「な、何だ!?」 「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた! 「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に 崩壊していく! 「嘘!? タバサぁぁぁッ!」 「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。 「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から 逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の 肉の中へ呑まれていった! 「何だ!? 何が起こってるんだ!?」 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で 固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を 慰めることしか出来なかった。 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。 「な、何……!?」 「パムー!」 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、 巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。 「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、 『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの 実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。 「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を 惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、 どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。 胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして 真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に 過ぎる、人面の化け物。 邪悪生命体ゴーデス! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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『ザ・グレイトフル・デッド』 あれ?さっきと一寸ちがうような? まっ・・・いいか 「お待たせ」 お待たせって・・・キュルケ? 「何しにきたのよ!」 「助けにきてあげたんじゃないの。朝方、窓からみてたらあんたたちが 馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ」 キュルケは風竜の上のタバサを指差した パジャマ姿なのを見ると寝込みの所を叩き起こされたのだろう タバサ・・・あなた、キュルケの使い魔なの? 「ツェルプトー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び?だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。 とにかく感謝しなさいよね。あななたちを襲った連中を捕まえたんだから」 キュルケは岩陰を指差した 「少し待ってろ、ヤツ等に聞きたいことがあるんでな」 プロシュートが岩陰に入るのを見届けると、キュルケをにらみつける 「勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」 キュルケはしなをつくると、ワルドさまに、にじり寄った 「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 キュルケ。今度はワルドさまなワケ? 文句を言おうとした時、頭の中に声が聞こえてきた 『ブッ殺す』と心の中でおもったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ! ちょっと!なにやってんの?
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虚無の曜日より、日付を跨いで僅かに三分。 ルイズは中庭で、蒼い髪を持つ少女と対峙していた。 才人とシエスタの姿は無い。彼らは、日付を跨いだ事もあり、すでに自室へと下がっている。 つまり、これより先、ルイズと蒼い髪を持つ少女―――タバサとの会合を止める者など一人も居ないと言う事に他ならない 「まずは・・・・・・お礼を言うわ。 貴方のお陰で、予定より早く、学院に帰る事が出来たんだから」 助かったわ、と告げるルイズに、タバサは僅かに首を動かし、その言葉を受け取る。 「でも―――」 二の句を継げるルイズの声色が変化する。タバサにとって最も身近で、最も嫌悪すべき感情を内包して。 「貴方が放った氷の矢・・・・・・痛かったわ。死ぬ程ね」 憎悪が爛々と燈る瞳は、もしも眼力だけで人を殺せるなら、13回はタバサを睨み殺す程の殺意を秘めていた。 だが、その殺意もすぐに飛散する。 ルイズ自身が瞳を閉じ、タバサを見つめるのを止めた為にだ。 「貴方は・・・・・・危険。だから、あの時は、殺すしかないと考えた」 キュルケはタバサにとって、掛け替えの無い大切な友人だ。 タバサ自身、自分の愛想が悪いことは理解している。 こんな自分に友人が出来るはずも無いと考えていた。だと言うのに、キュルケは自分に対して、まるで当たり前のように親しく接しくれる。 嬉しかった。 母親の再起と、父親の仇への復讐に生きていただけのタバサに、誰かと一緒に居る事の楽しさを思い出させてくれた。 その事実が、タバサにとって、ただ只管に嬉しかった。本当に嬉しかったのだ。 そんな友達を、目の前に居るこの女は才能奪い、あまつさえ殺す所であったのである。 「危険・・・・・・危険ね・・・・・・確かに、あの時、私は考え無しだった事を認めなければならないわ。 あの時の軽率な行動で、私は大切な友達を失う所だったんですもの」 虚空に視線を漂わせ、自然と口から紡がれたルイズの言葉に、タバサは目を大きく見開き驚きを表現してしまう。 「それは・・・・・・どういう意味?」 「・・・・・・あの時、キュルケは私を庇ってくれた。それで、ようやく分かったのよ。 キュルケは、私にとって本当に大切な人だって事に」 正確に言うならば、それは切っ掛けであり、本当に大切な友人であると確信したのは、後にキュルケの『記憶』を確認した時だが、そこまで伝える理由など無い。 「貴方は・・・・・・もう、彼女を殺すつもりも、才能を奪うつもりも無い?」 「決まってるじゃない。友達にそんな事出来ないわよ」 堂々と宣言するルイズの瞳は、先程の殺意は微塵も感じられず、高潔な輝きが見て取れる。 タバサには分からなかった。 あの戦いの時の、まるで世界全てを憎むかのように嘲笑していた少女。 それとも、今、目の前で、真っ直ぐ過ぎる瞳をしている少女か。 タバサには、分からなかった。 一体、どちらが本当のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのかが。 どちらが本当なのか、或いは、どちらも本当では無く、今だ彼女には隠された本当が存在するのか。 そこまで考え、タバサは頭を振った。 違う、今はそんな事を考えている時では無い。 今、ここに居るのは、目の前に佇む者に問うべき事柄があるからだ。 「訊ねたい・・・・・・事がある」 本題を切り出す。 訊ねなければならない事柄。 確認しなければならない事象。 「精神的に壊れていた彼を、貴方は治した・・・・・・どうやって?」 要約し過ぎた問い掛けに、ルイズは首を傾げた。 彼とは誰か? それに治したとは? 自分は、果たしてそんな事をしたのだろ――― 「―――あぁ、ギーシュの事ね。 何、あいつを治した事が、どうかしたの?」 別段、特別さを感じる事の無い抑揚の声に、彼女にとって、ギーシュを治した事が、本当になんでも無い事である事を表している。 「貴方が・・・・・・彼を治した?」 「正確に言えば、私じゃあ無いわ。こいつよ」 そう言って指し示す方向には、二つの月明かりに照らされたホワイトスネイクが銅像のように微動だにせず、ルイズとタバサ、二人を視界に収める形で立っていた。 「貴方の使い魔が、彼を治した?」 「そうよ」 「どうやって?」 「どうやってって・・・・・・」 怪訝な顔付きで、ルイズは疑問を投げ掛け続ける少女を見る。 授業なので見かける彼女は、無口を極めたように何事も語らない事が多い人物だ。 だと言うのに、今の饒舌めいた問いは一体なんだと言うのか。 「ねぇ、逆に聞くけど、どうして治した方法を知りたいの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ここまで彼女が熱心になる理由をルイズは尋ねたが、帰ってきた答えは沈黙だった。 答えたくない。 もしくは、踏み込まれたくないか。 大方その辺りだろうと、当たりを付けたルイズは、敢えて答えを促さなかった。 言いたいのであれば、彼女は語るだろうし、言いたくないのであれば語らない。 確かに少し気になる事ではあるが、飽くまでそれは少しだけの興味だ。 何も、無理矢理に聞きたくなる程では無い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 沈黙が続くタバサに、ルイズはホワイトスネイクに視線だけで合図を交わす。 ホワイトスネイクは微動だにしなかった身体を動かし、タバサへと近づいていく。 「アノ男ハ、治ッタノデハ無イ。忘レタダケダ。 マァ、広義的ニ見レバ治ッタト言ウ表現モ間違イデハ無イガナ」 「治ったのでは無い―――?」 静かに語りかけるホワイトスネイクに、タバサは呆然と語りかけられた言葉を反芻する。 「ソウダ、治癒トハ、根源ニ病巣ガ無ケレバ成リ立タナイ行為ダ。 ツマリ、新シク、治癒ト言ウ『記憶』デ病巣ヲ上書キシタト言ウコト。 私ガ、アノ男ニ行ッタ事ハ、治癒トハ、マッタクノ逆ニアタル。 私ハ上書キスルノデハ無ク、ソレマデノ『記憶』ヲ病巣諸共奪ウ」 「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・」 「人間ハ『記憶』ニ異存スル生キ物ダ。自分ノ体調ハ勿論、ソノ他ノ事柄モ全テナ。 酒ヲ呑ンデイナイ人間ニ、酒ヲ呑ンダト言ウ『記憶』ヲ与エレバ、与エラレタ人間ハ、呑ンデモイナイ酒ニ酔ウダロウ。 ツマリ、ソウイウ事ダ。『記憶』ヲ抜カレ、自分ガ壊レタ事スラ忘却サセレバ、人ハ壊レル前ノ『記憶』ニ基ヅイタ人間ヘト戻ル」 完全なる忘却。 今まで歩いてきた道を奪い、壊れてしまったその時まで強制的に引き返させる。 「治すのではなく・・・・・・戻す・・・・・・」 「ナルホド、物分リハ良イラシイナ」 納得するかのように頷くタバサに、ホワイトスネイクは感心からか、賛美を口にする。 なるべく簡単に説明したつもりであったが、まさか、こうまですんなりと理解してくれるとは、ホワイトスネイクも考えていなかった為にだ。 だが、そんな賛美は彼女にとっては関係無い。 理屈は理解できた。 予想していたモノとは、若干掛け離れた方法であったが、それでもタバサにとっては十分望み通りの働きをしてくれるだろう。 差し当たっての問題は、どのように頼むかだ。 生半可な言葉は恐らく通用しない。 いや、それよりも、自身を殺そうとした者の頼みなど果たして聞いてくれるのだろうか。 「何を考えているかは知らないけど、早くしてくれる。 朝っぱらから出掛けてた所為で、眠たいんだけど?」 見せ付けるかのように欠伸をするルイズを見て、決意を固める。 真っ向から正攻法で頼む以外、自分には道など無い。 キュルケに仲介を頼むと言う手段もあったが、このような事に彼女を巻き込みたくは無かった。 「貴方の使い魔に壊れる前の状態に戻して欲しい、人が居る」 「・・・・・・私は医者じゃないし、こいつも当然違うわ」 「彼の事は?」 「ギーシュの時は、才能を返すついでよ」 本当は、ギーシュとモンモラシーに同情していたキュルケの悲しそうな横顔を嫌って、壊れる前の状態に戻したのだが、そんな事をタバサに知られるのに抵抗があったルイズは、出任せを述べた。 「嘘」 ささやかな過ぎる程度の虚偽であったが、タバサは、その虚偽を見抜いていた。 「嘘じゃないわ」 幾分ムキになったかのように反論するルイズに、タバサは口を開こうとするが、止める。 先程と同じように、また脱線してしまっている。 元の道筋に修正しなければ。 「貴方が医者でも無ければ、私を恨んでいる事も知っている。 だけど・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・」 そこで一旦言葉を区切り、次に紡ぐべき言の葉を探すように中空へと視線を漂わす。 その間、ルイズもホワイトスネイクも、決して言葉を挟まず、タバサの口から紡がれる音を待っていた。 やがて、虚空へと向けられていた視線が、ゆっくりとルイズへと向けられた時、タバサは続きを口にする。 「例え、それがどんな苦難がある事だろうと、私が出来る事ならなんでもする。 だから、お願い・・・・・・・・・・・・私の頼みを、聞いて欲しい」 言葉一つ一つに想いを込めた懇願。 その重さは、計り知れない程に重く、懇願されているはず立場だと言うのに、ルイズは息苦しさを感じてしまう。 「なんで、あんたがそこまで必死なのかは知らないわ」 息苦しさを紛らわす為に、ルイズは口を開く。 「人に言えない事情とやらがあるんだろうけど、私にそれを聞く気は無いわ。 そりゃ、気にはなるけど、あんたは話したくないから故意に伏せてるんでしょうからね。 他人が話したく無い事を無理に聞き出すような野暮な真似、私はしないわ」 最も、自分に対しての事柄は、これには当て嵌まらないが。 「ともかく・・・・・・あんたが、そこまで必死に頼んでくるなら、私も考えないでも無いわ」 何も減るものでは無いし、頼みを聞くのは構わなかったが、ルイズは一旦、そこで言葉を止めて考える。 相手は、自分の事をあそこまで傷つけたメイジだ。 あの時、キュルケから才能を奪った事は間違いだと認めるが、 だからと言って、ボコボコにされたのを忘れろと言うのは無理な話である。 早い話が、ルイズはタバサに対して一泡吹かせてやりたいと思ったのだ。 「頼みを・・・・・・聞いてくれる?」 「まぁね、でも、条件があるわ」 そこで、ルイズは首に手を当て、考えた。 どのようにすれば、目の前の少女に付けられた傷の鬱憤を晴らせるのか。 才能を捧げさせる事が真っ先に頭に浮かんだが、忌々しい事に、この娘はキュルケと仲が良い。 (何か・・・・・・何か無いかしらね) キュルケの中で自分の株が落ちる事無く、尚且つ、相手に自分と同じぐらいの痛みを与える方法。 言わば、直接的でなく、少女が自発的に行う形の苦痛。 ホワイトスネイクの能力使用が頭に浮かぶが、万が一にも頭部からDISCが抜け落ちたりすれば、事が露見する危険性がある。 かと言って、他に思いつく方法も無いが。 (他人にバレても良いDISC? そんなものある訳無いじゃない) 露見しても、別段罪に問われないのは、相手に有益になるモノだけだ。 ホワイトスネイクのDISCにそんなものなどあるはずが―――――― 「あっ」 思わず漏れてしまった単音に、ルイズは思わず手で口を塞ぐ。 それは、咄嗟に浮かべてしまった、あまりにも邪悪な笑みをきっちりと隠していた。 「これを・・・・・・あんたが使いこなせるようになったら、あんたの頼みを聞いてあげる」 その言葉と共に、ルイズはタバサへ一枚のDISCを投げる。 「これは・・・・・・」 投げられたDISCの表面には、右半身が砕けた人型が映っている為、ギーシュの頭から落ちたDISCとは、何かが違うと言うのは、タバサにも理解できた。 (ルイズ) (何よ?) 厳しい面持ちでDISCを見つめているタバサを横目に、ホワイトスネイクの幾分焦れたような声がルイズの頭に響く。 (何ヲ考エテ、アレヲ渡シタノカハ知ラナイガ、今スグニ考エ直シタ方ガ良イ。 アレハ、他者ニ渡シテ良イ程、生易シイ力デハ無イ) (それは使いこなせたらの話でしょ? 確かに、こいつは強いけど、アレを扱えるかって言うと、また別問題じゃない?) なんやかんや理屈を付けてはいるが、要するに、ルイズはタバサが無様に吹っ飛ぶ姿が見たいのだ。 あの時、自分が、あのDISCを挿し込み吹っ飛んだように。 「それに入ってるのは、簡単に言うと使い魔みたいな存在よ。 スタンドとか言う種族だけど、扱えれば並の魔獣、幻獣なんかより、よっぽど強力って言うね」 ルイズの何処か楽しげな説明に耳を傾けつつ、タバサは、これが果たして安全かどうかを思慮していた。 確かに、ギーシュの頭から落ちた物とは違うのは見て分かるが、それでも得体の知れない物である事に変わりは無い。 最悪、相手がこちらを謀殺しようとしている可能性もある。 タバサは、ちらりと、自分の後ろで夜空を見上げている使い魔にアイコンタクトをする。 ギーシュの時は、頭部に強い衝撃を与えたら、原因と思しき円形の物体が出てきた。 ならば、もし、自分が死ぬような暗示が、この円形の物体に入っていたとしても、シルフィードに尻尾で自分の頭を殴らせれば良い。 多分、凄く痛いだろうけど。 すぅ、と息を吸い込み、タバサは覚悟を決めた。 「はぐぅ―――ッ!」 頭部が裂け、その間に形ある物挿し込まれていると言うのに、痛みは不思議と無かった。 だが、それでも、得体の知れない奇妙な物体を自分の頭に入れていると言う事実が、タバサの口から声を漏れさせた。 そのあまりに嗜虐心を刺激する声に、ルイズは思わず生唾を飲み込む。 「――――――ンッ」 艶かしさとは、また違った色気を纏ったタバサだったが、頭部に完全にDISCが挿入されると、様子が一変した。 パクパクと酸素を求める金魚のように口を開閉しながら、両手で胸の辺りを押さえ始めたのだ。 「きゅい~」 尋常で無い様子に、彼女の使い魔の風竜は心配そうな声で鳴くが、タバサは喘ぎながらも風竜に大丈夫と告げる。 (ちょっと!!) タバサのそんな様子に、ルイズは不満たっぷりの声をホワイトスネイクに掛ける。 (どういうことよ!! なんであいつは苦しそうな顔してるだけで吹っ飛ばないのよ!! おかしいじゃない!!) 予想とは違った光景に文句を吐くルイズであったが、ホワイトスネイクは言葉を返す事は無く、油断の無い目つきで、タバサを見据えている。 相変わらず、タバサは何かを耐えるように両手で胸を押さえ込んでいた。 「ちょっと返事ぐらいしなさいよ!!」 何時までもホワイトスネイクから返答が来ない事に、腹を立てたルイズが、思わず怒声を上げてしまうが、それはこの状況において取ってはいけない行動の一つだった。 「ダメッ!!」 タバサの悲痛な叫びに、ルイズは何がダメなのよ! と叫び返そうとしたが、口が動かない。 (なっ!!) いや、口だけでは無い。 喉も、瞼も、指も、足も、何もかもが動かない。 (何よ、これ!?) 自分だけでは無い。ホワイトスネイクも、あの風竜も、草も、雲も何もかもが『静止』している。 静寂と停止を約束された世界。 その中で動くのは、今にも泣きそうなぐらいに苦しげな表情をしているタバサと、何時の間にか彼女の横に立っていた、黄金色に輝く右半身が欠けた人型のみだった。 (あいつ・・・・・・ホワイトスネイクと同じ感じがする・・・・・・) 身体が動かないと言う危機的な状況であると言うのに、ルイズはそんな事をぼんやりと思っていた。 だが、次の瞬間に身を固くする。 人型が、ゆっくりとルイズへと向かって動き始めたのだ。 ゆらりゆらりと、人型が動く中、ルイズは喉一つ動かせず、唾液を嚥下することすら出来ない。 (やばいわね・・・・・・このままだと) さっき、ホワイトスネイクに言われた言葉が、今になってようやく分かった。 なるほど、確かにこれは他者に渡していいような力では無い。 他者を動けなくする能力とでも言うのか。 あらゆる者を停止させ、その中を自分だけが動ける。 (圧倒的じゃない) ホワイトスネイクが最強と呼んでいたのも納得する。 戦う者として、これほどまでに圧倒的な能力は存在しない。 「―――ダメッ!」 タバサが呟いた言葉に、思考に集中していたルイズは、黄金色の人影が自分の目の前にまで到達し、尚且つ、隻腕を振り上げている事に気がついた。 (マズいマズいマズいマズいマズいマズい!!!!) 能力の考察などしている暇では無い。 今すぐにこの力から逃れ無くてはならない。 でなければ、自分はあの隻手で土手っ腹に風穴を開けられてしまうと言う、考えるのもおぞましい結末になってしまう。 必死に拳から逃れようと、身を捩ろうとするが依然として静止空間は続いている。 (動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動きなさい!!) 必死の祈りが通じたのか、拳が腹部を貫く寸前に空気が、風が、そして身体が動き始める。 「動けェええぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇ!!」 喉も動くようになり、ルイズの口からは思考とまったく同じ形の意味が声となり周囲に木霊する。 『無駄ァァァ!!』 しかし、その動きすら砕くと言わんばかりの拳圧が彼女の横っ腹に喰らいつく。 「―――ッ!!」 痛みに顔を顰めるルイズであったが、幸いにして脇腹の肉が多少削げた程度と軽傷であった。 ギリギリだった。 後、もうほんの少し、静止空間が続いたなら、かすり傷どころの話では無かっただろう。 安心するのも束の間、ルイズは無理な体勢になった為に倒れてしまった身体を起こす事も無く、即座に人型の砕けている右半身の方向へ転がる。 服が汚れるのも気にしない。命には代えられないからだ。 転がり、人型の背後へと回りこむと、ホワイトスネイクの手を借り一瞬で体勢を立て直し、杖へと手を伸ばすが、詠唱を開始したところで、ホワイトスネイクの腕が顔の前に出され、その動きを制止した。 (落チ着ケ。ソシテ、良ク見テミルトイイ) 頭に直接響いてくる声に、ルイズは杖に手を掛けたまま、自分の脇腹を掠め取っていった人型を見る。 『無駄アァァァァァ!!』 相変わらず人型は、奇妙な叫び声を上げつつ拳を振り上げ、渾身の力を持って殴りつけていた――――――壁を。 「はっ?」 察し難い人型の行動に、ルイズは思わず呆けたような一声を発してしまう。 いやいやいや、少し落ち着きなさい私。 ほら、息を吸って、吐いて、吸って、吐いて――――――さぁ、もう一度。 『無駄無駄無駄無駄!!』 やっぱり壁を殴っている。 あんなに圧倒的な力を持っていながら、何故に壁を? 理解の範疇を超えまくってる光景に、ぽつーんと突っ立っていたルイズだったが、後ろから聞こえてきた、呻くような声に振り返る。 人型の後ろに回りこんだと言う事で、ルイズは人型とタバサの丁度中間点に居た。 と言う事は、つまり、後ろから聞こえてきた呻き声の持ち主は、蒼色の髪の少女でしか有り得ない。 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァハァ・・・・・・」 「ちょっと、大丈夫?」 先程から額に汗を浮かべ、呼吸を荒くしているタバサに、ルイズは不機嫌な声ながらも体調を気遣うような発言をする。 無論、ルイズにはタバサの体調を心配するような殊勝な心がけなど一切無く、所謂、社交辞令のようなものだ。 本音を言うと、そのまま、くたばってしまえば良いのにとか考えていたが、それはそれで面倒な事になる。 そんな事をルイズが考えている中で、一際大きな音が、人型が殴っている壁から聞こえてきた。 どうやら、断続的な拳打に耐えられず、とうとう壁が崩壊したらしい。 「あ~、もう! どうしてこうなるのよ!!」 下手をしたら、また謹慎期間が延びてしまうであろう事態に、ルイズは心底苛立った声を上げる。 本当なら、タバサが吹っ飛んだ姿を拝んだ後に、即座に自室のベッドで寝息を立てているはずが、どういう訳か、怪我も増え、おまけに大切な睡眠時間も刻一刻と減っていく。 ままならないとは、まさにこんな事を言うのだろうとルイズは思ったが、よくよく考えてみれば、自分が横しまな考えを抱かず、タバサにDISCを渡さなければこんな事態にはならなかったのだ。 つまり、今のルイズの状況は完全に自業自得であったりしたが、その考えにまで至った所で苛立ちは治まらない。 むしろ、膨れ上がるのがルイズの性格であった。 「とりあえず、あんたはさっさとあいつを消しなさい!」 顔色が青くなりだしたタバサに、一階の壁を破壊し尽くし、今度は一階の破壊の影響でヒビだらけの二階の壁を殴り始めた人型を消すように声を掛けるが、タバサからの返事はゼィゼィと喘息患者がするような呼吸音だけだ。 「ルイズ・・・・・・ドウヤラ彼女ハ、ソレ所デハ無イヨウダガ」 「そんな事は分かってるわよ」 あっけらかんとしたルイズの態度に、ホワイトスネイクは肩を竦める。 「何モ、消スヨウニ命ジナクトモ、私ガ、マタDISCニ戻セバ良イダロウニ」 呆れたように呟くホワイトスネイクの言葉に、ルイズは一瞬硬直した。一瞬だけ 「そんなことが出来るならもっと早くやりなさいよ!!」 次の瞬間には、顔を真っ赤にして自分の使い魔へと怒鳴りつけていた。 怒鳴りつけられたホワイトスネイクは、タバサの頭からスタンドDISCを、即座に引き抜く。 その一動作で、今まで破壊の限りを尽くしてきた右半身の砕けた人型は、何の余韻も残さずにキレイさっぱりこの世界から消失した。 大規模な破壊の爪痕を残したまま。 「どーすんのよ、これ」 途方に暮れて呟くルイズであったが、どうにもこうにもなるはずが無い。 一階は言わずもがな、見ると、五階にある宝物庫の壁にまで見事にヒビが入っている。 「きゅいきゅい」 ぐったりとしているタバサを器用に自分の背に乗せた風竜が、これまた器用にルイズの肩を翼でぽんぽんと叩く。 恐らく慰めているつもりなのだろうが、今のルイズにとっては煩わしい事、この上ない。 「止めなさい」 「きゅいきゅい」 「止めなさいってば」 「きゅ? きゅきゅきゅい!!」 「だから、止めなさいってば!!」 しつこい慰めに、怒声で返答したルイズだったが、すぐにその身体はホワイトスネイクによって竜の背に吹っ飛ばされる。 「なっ!?」 主に手を上げた!? と頭に血が一瞬で上ったが、目の前に飛び込んできた光景に、ルイズは、ただ口をあんぐりと開けるしかなかった。 土の塊が、音も無く蠢き、全長30メイルにもなるゴーレムが誕生しようとしている光景が、そこには存在していた。 フーケは、舞い降りた幸運に小躍りでもしたい気分だった。 宝物庫の弱点である物理的衝撃について考えあぐねていたフーケの前に現れた二人の少女。 どちらにも見覚えのあったフーケは咄嗟に身を隠し、その場を観察していたが、 やがて、一人の少女が苦しみ始めると、突然現れた亜人が学院の壁をどんどん壊し始めたのだ。 その衝撃的な光景に、思わず呆けてしまったが、その亜人がどんどん壁を壊していくのを見るにつれて、フーケは思いがけない幸運が舞い込んだ事に気がついた。 どういう訳か、特別に頑丈に作られ『固定化』の魔法まで掛かっている学院の壁を、隻手隻脚の亜人は、いとも簡単に壊している。 その破壊は、放射状にヒビを発生させ、そのヒビ割れが宝物庫まで届くと同時に、もう一人の少女の使い魔が、苦しみ始めた少女に何事かをすると、壁を破壊していた亜人は、一瞬にして消えてしまった。 「なんだか知らないけど、これはチャンスなのかねぇ」 自分のゴーレムでは無傷の壁を破壊するのは不可能だが、ヒビの入った壁となれば話は違う。 ニヤリと歪められた口から詠唱が紡がれる。 それは、魔力と土を媒介とし、彼女の目的を果たす為の存在を作り上げるのであった。 「何なのよ、もう!!」 空へと舞い上がったシルフィードの背中で、ルイズは思い通りにいかない事態に、金切り声を上げていた。 彼女の眼下では、ヒビが入り脆くなった壁に、ゴーレムがトドメを刺している。 「宝物庫」 顔色は優れなかったが、なんとか意識を保っているタバサが、ゴーレムにより壊された壁の中に入り込む人影を見て、そう呟いた。 「宝物庫って・・・・・・それじゃあ、あいつ!?」 そういえば、モット伯の『記憶』DISCに、この頃、貴族相手に盗みを繰り返している土のメイジが居る事が記されていた。 確か名前は・・・・・・ 「『土クレ』ノ、フーケ・・・・・・ダッタナ」 シルフィードの前足に掴まっているホワイトスネイクが、その名を口にする。 『土くれ』のフーケ 貴族の屋敷の壁や金庫などを、錬金の魔法より、まさに『土くれ』に変えて盗みを働くと言う強力な土系統のメイジ。 また、錬金が効かない場合などは、攻城戦でも出来そうな巨大なゴーレムを従え、貴族や衛兵などを蹴散らし、目的の物を奪っていく。 まさに怪盗と呼ぶに相応しい人物なのであった。 眼下に居るゴーレムは、サイズから見ても、まず間違いなくフーケが作ったものであろう。 となると、次なるフーケの目的は、このトリステイン魔法学院の宝物庫の何かと言う事になる。 「この私の目の前で、盗みを働こうなんて随分生意気じゃない!!」 喜々とした表情でルイズが杖を振るうと、杖の回りの空気から水分だけが抽出され、巨大な水泡が生成される。 その水泡は、ふわふわとゴーレムの上空に漂っていき、一気に弾けた。 「よし!」 ゴーレムに確り水が被った事を確認して、ルイズは右手の杖を今度は、先程より激しく振るう。 乗り慣れたシルフィードの背で、どうにか気分が落ち着いてきたタバサは、今、ルイズが何をしようとしているのか、見当がついていた。 どうやら彼女は、土で作られたゴーレムに水をたっぷり染み込ませ、その水を操る事でゴーレムの操作系統を奪おうしているらしい。 最初は、あまりにも常識を逸脱した魔法の運用に、タバサは呆れたが、ゴーレムの動きが見る見ると鈍くなっていくのを目の当たりにすると、その呆れが間違ったものであると認めざろうえない。 「くっ―――」 ならば、自分も手伝う為に水をゴーレムに掛けようと杖を手にしたが、呪文を紡ごうにも、力が入らない。 原因は分かっている。先程のDISCの所為だ。 自分でも良く分からなかったが、あの半身の欠けた人型が現れている最中、自分の精神力や体力など、とにかく生きるのに必要なモノが、どんどん自分の身体から、人型に流れていったのが、感覚的に理解できた。 特に、あの静止した空間の消耗は半端では無かった。 正直な話、もし、あの空間が、ほんのちょっぴりでも続いていたら、自分は衰弱死していただろうとタバサは思っている。 一秒にも満たない程度の僅かな『静止』であったが、それだけでもタバサの身体に、信じられないぐらいの負担を掛けていたのだ。 「あんたは休んでなさい」 タバサの詠唱の気配を察知したのか、ルイズが下のゴーレムを見据えたままで、そう告げる。 確かに、今のタバサは呪文一つ、まとも唱えられないだろうが、だからと言って、目の前で行われる不正を見逃せるかと、問われればタバサは首を横に振るだろう。 「頑固なのね、あんた」 相変わらずタバサの方を見ないルイズであったが、言葉の韻に何処と無く今までに無い響きが混じっている。 が、次の瞬間には、全ての感情を一つの言葉にしてルイズは紡いでいた。 「ホワイトスネイク!!」 自らの使い魔の名を叫ぶその声にはどうしようも無い程の焦燥が込められており、それは―――――― 「仕留めた・・・・・・?」 シルフィードの眼下、ゴーレムの肩の上に戻ってきたフーケは、今、ゴーレムから放たれた岩石が風竜を絶命させたかどうかの疑問を口にしていた。 宝物庫から戻ってきてみたら、たっぷりと染み込んだ水によって動きを鈍くさせられていたゴーレムにフーケは歯噛みしたが、それが空を飛んでいる風竜の上に居る少女によって行われている事に気付くと、魔力をゴーレムの右腕に集中させ、壁の破片を対空砲火のように、風竜へと放り投げたのだ。 ただの岩石ならば、シルフィードも避けることも出来るのだが、フーケは投げる瞬間に、岩石を砕いていた。 その為、散弾銃のように拡散した石の雨に、シルフィードは晒され、無防備な腹にしこたま石の飛礫を喰らってしまったのだ。 「まぁ、こんなもんだろうね」 ゴーレムの動きが正常に戻った事を確認してから、フーケはそう呟き、さっさと学院から離れるように、指令を下すのであった。 「きゅぅ~~~」 「だあぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛がってないで、さっさと翼を動かしなさいよ、コラァ!!」 頭部への石は、全てホワイトスネイクに弾かせたが、それ以外の箇所に石がモロに入ってしまったシルフィードは、痛みのあまりに翼をはためかす事を忘れ、その身を重力に引かれ、地面に激突20秒前である。 「シルフィード!!」 叱咤するタバサの声に、ようやく翼を動かし始めるシルフィードであったが、翼にも石は当たっており、どうしても力強く羽ばたく事が出来ない。 「きゅいきゅいー!!」 言葉で表すとしたら、ごめんなさいと言うのが適切であろう鳴き声を上げるシルフィードが地面と落ちる寸前、その身体が宙へと浮く。 ギリギリで、ルイズが『レビテーション』の呪文が唱え終わったのだ。 危機を脱した事に安堵するシルフィードであるが、ルイズとタバサは、ゴーレムが城壁を一跨ぎで乗り越えるのを、唇を噛み締めながら見つめるしかなかった。
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「……ズ………さい……ゥ~…」 寝ているルイズの頭に何か声が聞こえるが寝起きが壊滅的に悪いルイズだ。当然この程度では起きはしない。 「…イズ……なさい……フゥ~…」 今度はさっきよりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。妙に重圧感のある声だったのでさすがのルイズも目を開ける。 「ルイズや…起きなさい…ブフゥ~~」 辺りを見回すが何も居ない。だが景色には見覚えはあった。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭だ そして何故かベッドがそこにあった。 何故ベッド?とルイズが頭に「?」マークを浮かべていると突如 グォォォオオォォ という音と共にベッドに四肢と頭が生える。 ベッドが突然縦も横も巨大な男になったのである。正直言ってビビる。そりゃあジョルノだってビビる。 「……あんた…誰?」 恐る恐るサモン・サーヴァントをし平民を召喚した時のように目の前の男に問うがその返答は実に意外だったッ! 「ブフゥ~~…私はあなたの杖の精です…ブフ~~~」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」 そう叫び一目散に逃げる!自分の杖の正体がこんなのだったのだから半泣き、いやもうマジ泣きだ。 「ブふぅ~逃げないで、逃げないでっていうか引かないで。ブフ~~~ 今日は私…ブフゥ~~~爆発を起こしてもめげずに頑張るあなたを応援しにまいりました。ブフゥゥゥ~~」 さすがに応援という言葉にルイズも立ち止まる。 「さぁこの精霊様に何でも言ってみさないブフゥゥ~~っとね」 「そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?」 さっきまで思いっきりドン引きし逃げようとしていたのに現金なものだが、当の精霊様の返事は 「もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~」 クラッカーを食べながらそう即答した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 もうさっきよりもマジ泣きしながら逃げ回る。顔から色んな汁とか出しながら。 「ま、待ちなさいルイズ!…ブフゥ~今の無し、ノーカン!ノーカン!ブフゥゥゥ」 焦りつつも自分の指ごとクラッカーを食べる精霊様がマジ泣きして逃げるルイズが思わず足を止める言葉を吐き出す。 「ルイズ…ブフゥ~~よくお聞き。寝ている場合じゃあないのよ。ブフーーー 今、君たちにディ・モールトデンジャーが迫っているのだよ。ブふーー」 「……え?……ディ・モールトって何ですか?」 「ブフゥ~~…『非常に』ってこと」 「………デンジャーって?」 「『危険』なこと。ブフ~~~」 「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」 「寝ながら何喚いてんだ…ウルセーから起きろ」 目を開けると悪夢の元凶がそこに居た。 覗き込むようにして起こされたため思わず顔が赤くなる。 「……あんたが原因よ」 「そいつは悪かったな」 もちろん、クラッカーの歯クソほどにも悪いと思ってはいないのだが。 「…ってなんであんたがここにいるのよ?」 ドアには鍵が掛かっており鍵を持っているワルド以外入ってこれないはずだ。 「人がベランダで月見ながら酒飲んでるとこにアホみてーな叫びがしたから来てみればっつーわけだ」 よく見れば窓が開いている。つまりそこから入ったという事だ。 「不法侵入じゃない…ワルドに見つかったらどうするのよ!?」 「使い魔扱いしといて今更でもねーだろうが」 「…実際、使い魔なんだから仕方ないじゃない」 それに返事せずに部屋から見える普段とは違う一つになった月を見る。 「大きさは違うが…一つだけだとイタリアで見るヤツとあまり変わんねーもんだな」 もっともその心中は(ギアッチョがこれ見てりゃあ間違いなく『引力を無視してんじゃあねぇ!コケにしやがってッ!ボケがッ!』とブチキレてるだろうな)であるが ルイズの方はそれを別に受け取っていた。 「…イタリアって所に帰りたいと思ってるの?」 「…戻る手段がありゃあな。あっちではオレの残りの仲間が命を賭けて戦っている オレが生きてるのに戻らないってわけにもいかねーからな。だが、今のとこ戻る手段が無い以上オレの任務はオメーの護衛だ」 「……悪かったわよ」 「何がだ?」 「…わたしが『ゼロ』のせいで、そんな大事な事してる時にこっちに呼び出しちゃって」 一瞬訪れる気まずい沈黙。だがそれを打ち破ったのはプロシュートだ。 「言ったろーがよォーーーオメーに召喚されてなけりゃあオレも死んでたってな それにだ。オメーはまず『自信を持て』…『自信』を持っていいんだぜ!オメーの爆発をよォーー」 「…それって褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ?」 「あの爆発をマトモに食らえば人一人軽く消し飛ばせるからな」 「ok貶してるって事ね?ちょっとそこに座りなさい。ご主人様を貶すって事は躾が必要なようだから」 どこからともなく鞭を取り出すが依然としてプロシュートは冷静だ。 「今のでキレるってギアッチョかオメーは、一体何歳だよ」 「16だけどそれが何か関係あるのかしら?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音とドス黒いオーラを噴出させているルイズだがプロシュートは別の事で飲みかけのワインを思いっきり咽ていた 「ガハッ!ガッ!ゴフッ!……マジかよ?精々12~14ぐれーだと思ってたが」 ボスの娘―トリッシュ(プロシュート達は名前を知らないが)ですら15である。あのルイズをそれより年下と思っているのは当然だッ! 「な、なななななんですってェーーーーーッ!そ、そそそそう言うあんたは何歳なのよォーーーーーッ!!」 「…22だ」 そう聞いて今度はルイズがぶっ飛ぶ番だった。 「OH MY GOD!28ぐらいだと思ってたのに人の事言えないじゃない!」 プロシュートの爆弾発現に思わずさっきまでの怒りがどこかに消し飛んだ。 「ウルセーな…そういやあのワルドってのはどうなんだ?」 「ワルドは…確か26のはずよ」 「お前……あの髭よりオレを上と思ってたってのはどういう事だよクソッ」 思わずギアッチョの口癖がうつったが気にしない。 「確か婚約者とか言ってたな」 「昔、わたしとワルドの父が交わしたのよ。確かに憧れてたけど十年前別れて以来会ってなかったから正直どうしていいのか分からない…」 (6と16って地球じゃあ犯罪だぜ?おい) さすがにこれは文化と価値観の違いなので口には出さないが若干引いている。 「……ワルドから結婚を申し込まれたんだけどどうしたらいいと思う?」 「…憧れてたんならすりゃあいいじゃあねーか。まぁオレに聞かねーと結論が出ねーようじゃあ止めといた方がいいな」 「自分でもよく分からないのよ…ずっと憧れてたのに…何かか心に引っかかる…」 「オレが言えるこたぁテメーで選んだ選択を後悔するような生半可な『覚悟』はすんなって事だ」 「…その覚悟っていうのがよく分からないから聞いてるんじゃない」 「言葉じゃなく心で理解するもんだから説明できるもんじゃあねぇ」 それを最後に言葉が途切れるがその沈黙も長くは続かない。 「チッ…!ナイフを土くれに変えたっていうから予想はしてたがな」 プロシュートの視線の先には月を遮るようにして巨大な物体がそこに存在していた。 月明かりをバックに写るは巨大な人型。さらによく見ればそれが岩で構成されている事が分かる。 そしてその巨大な質量の上に鎮座している長い髪の人物は―― 「オメーか『フーケ』。どうやって脱獄したか知らねーが…今回はババァになるだけじゃあ済まねーぜ?」 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「心配するな、すぐに忘れるからよ。…ただしお前が『老化して』オレをだ」 「お、お礼をしにきてあげたのに、あ、あああいかわらずおっかないわね……」 その言葉に手を掴まれ己の体が急激に朽ち果てていくような感覚を思い出したのかフーケが怯む。 「白仮面とマントの男ってのがそいつか…随分と手の込んだ真似をしてくれるな」 フーケの横にその男が立っているが何も言わない。いや言わないが身振りで『やれ』と言っているようだった。 「それじゃあ、わたしからのお礼を受け取って頂戴!」 「土産なら必要ねぇッ!」 その言葉と同時にゴーレムの拳でベランダが粉砕されるがそれよりも早くプロシュートがルイズの腕を掴み部屋を離脱していく。 だが階段を降り一階に向かうがそこも戦場と化していた。 ワルド達が下で飲んでいたのだがそこに傭兵の一部隊に襲われたのだ。 ワルド、タバサ、キュルケが応戦しているが数があまりにも違いすぎ手に負えないでいる。 床と一体化している机の脚をヘシ折りそれを盾にしているが 傭兵たちは手練でメイジとの戦い方を心得ているらしく、緒戦の応酬で魔法の射程を見極め、その射程外から矢を射かけてくる。 傭兵側が暗闇を背にしているというのも不利な点だった。 「これじゃあジリ貧ね…!」 魔法を唱えようにも少しでも姿を見せればそこに矢が射掛けられる このまま行けば間違いなく精神力が途切れたところに突入され突撃されるのは自明の理だ。 「この前吐かせた連中もこいつらの仲間ってわけか」 そこに二階からプロシュートとルイズが降りてくる。身を隠そうともしないプロシュートに矢が飛んでくるが全てその手前で止まっている。 グレイトフル・デッドでガートしているのだ。そしてそのまま机の影に滑り込む。 「この様子だとラ・ロシェール中の傭兵が集結してるみたいだね」 入り口の先にはフーケのゴーレムの足も見え下手すればこのまま建物ごと潰される恐れがあり、それがプロシュートとタバサを除いて焦らせていた。 「いいか諸君。このような任務では、半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 タバサが本を閉じ自分とキュルケを杖で指し「囮」と呟く そしてプロシュート、ルイズ、ワルドを指し「桟橋へ」と呟いた。 それに応えるかのようにしてワルドが裏口にまわるように促すが、プロシュートは動こうとはせず口を開いた。 「囮ってのは悪くねーが人選ミスだ。タバサとキュルケだけで支えきれるもんでもねぇ。…だがオレとタバサが居りゃあ5分でカタが付く」 「言ってくれるな…だが、君がそれでいいというのなら任せよう。裏口に回るぞ」 ルイズはあの時以来のアレを使うつもりだと思っていたが、そこにプロシュートが自分のために囮を買って出たという吊橋効果もいいとこな思考でキュルケが口を挟む。 「ダーリン…あたしのために…無事会えたらキスしてあげるから死なないでね」 「オメーのためでもねーし、その呼び方は止めろ」 三人が姿勢を低くし移動する。当然矢が飛んでくるがそれはタバサが風を使い防いでいた。 「どうして貴方が囮に?」 「確か二つ名が『雪風』だったな。氷を作れる事と、何より口が硬そうってのがある 対応策を知ってるヤツは少なければ少ないほど良いし合流するのに竜が使えるからな…」 「氷?」 「老化を抑える」 それだけ言い放ち広域老化を仕掛けようとするがそれをタバサに止められた 「あそこにも人がいる」 そう言って杖で指した方向には貴族とここの主人がカウンターの下で震えていた。主人に至っては腕に矢を食らっている。 氷が作られるのを確認すると無言で貴族の客と主人に氷を投げつけ、1~2発頭に当たったのか貴族が文句を言おうとするが 「死にたくなけりゃあ黙って持ってろ」 その、スゴ味の効いた声に全員が押し黙る。 そしてタバサが自分の氷を作ったのを確認すると己の分身の名を宣言するかのように叫んだ。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 突入を仕掛けようとしていた傭兵達の動きが急激に鈍くなる。 クソ重い鎧を着込みこちらに矢を射掛けているのだ。当然――フルスピードでカッ飛ばした車のように『温まって』いる 「頭痛がする…吐き気もだ…この俺が気分が悪いだと…?疲労感で…立つことができないだと……!?」 それに呼応するかのように次々と自らの鎧の自重に耐え切れず崩れ落ちる傭兵達。 それを巨大ゴーレムの上で見ていたフーケだが正直気が気ではない。 「傭兵達が倒れていくって事はあの使い魔が残ったって事ね… それにしても、あんな魔法反則じゃあない…無駄に範囲が広いし射程に入ったら即あんな風になるわね…」 「分散させる事ができれば問題無い」 「あんたはそうでも、わたしはそうはいかないさね…あいつに掴まれた時の事は今でも夢で見るんだから…」 「……よし、俺はあいつを相手にする」 「…わ、わたしはどうすんのよ」 フーケが眼下の惨状に恐怖しつつ引きつりながら男に問う 「好きにしろ。逃げようとも前の勝手だ。合流は礼の酒場で」 男がゴーレムから飛び降りると倒れている傭兵を避けるかのようにして宿屋に入っていく。 「何考えてんだか…勝手な男だよ」 そう苦々しげに呟くフーケだが攻撃を仕掛けるか逃げるかまだ迷っているようだった。 だが、さすがに傭兵達の悲鳴が地の底から聞こえるようね呻き声に変わった時決断は決まった。 「………逃げるんだよォーーーーーッ!スモーーーーキィーーーーーーーッ!」 ゴーレムをジョセフ・ジョースターのように走らせその場を離脱した。 「…片付いたようだな」 酒場の中はスデに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 なにせ鎧姿の傭兵達が全て倒れ伏せ呻き声をあげている。 大半は生きているようだが体が温まっているのだ。寿命が尽きるのは目前だった。 だがそこに一人、仮面の男が乱入してきた。 (新手か…!?…老化してねーようだが氷でも持ったか?) 広域老化で老化してないのなら直しかない。即座にそう判断し接近戦を仕掛けるべくデルフリンガーを抜き距離を詰める。 「やっと…俺の時代が…長かった…冬が…」 白仮面の男が黒塗りの杖を握ろうとする。剣を振ったのでは間に合わない。そう判断し突進しつつ蹴りをブチ込み酒場の外に吹っ飛ばした。 「チッ…!さすがに杖は離さねーか」 吹っ飛ばされながらも杖はしっかり握っておりプロシュートに向き直り杖を構えている。 「兄貴ィ!魔法が来る!」 白仮面が呪文を唱えているがデルフリンガーに言われるまでもなく男との距離を詰めようと駆け出している。 右手に持ったデルフリンガーで斬りかかる。甲高い音が鳴り響き白仮面が杖でこれを止めている。 だがこれは陽動だ。人間見えているものに注意がいけばそれ以外の場所が疎かになる。 「…掴んだッ!」 プロシュートの左手が男の腕をガッシリと掴んでいる。直触りを仕掛けようとしているのだ。 手加減の必要など微塵も無い。スタンドパワー全開の直触り。白仮面の男は確実にミイラになるはずだった――― 「…何の真似だ?」 だが白仮面の男は老化した気配など微塵も見せずにそう答える。さすがのプロシュートもこれには動揺したッ! 「バカなッ!直触りを受けて『老化しない』だとッ!?」 「兄貴ィ!ヤベーぜッ!そいつから離れて構えてくれッ!」 だが、遅かった。離れた瞬間、白仮面の男周辺の空気が冷え空気が弾け閃光がプロシュートの体を貫いた。 「~~~っがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「兄貴ィィィィィィィイイイ!『ライトニング・クラウド』かよぉ!」 一瞬意識が飛びそうになるがそうなれば傭兵達の老化が解除される。それだけは避けようとし意識をギリギリのところで意地するが正直ヤバイ。 「たまげたな…今のを受けてまだ生きているか」 (左腕の感覚がねーな…おまけに直を受けて老化しないだと?話てるって事はゴーレムの類じゃあねーしどういうこった!?) 生物である以上グレイトフル・デッドの老化からは逃げられないはずだ。ましてこの男は魔法まで使っている。 いかに体を氷で冷やしていようとも直触りを受ければ確実に老化するはずなのだが、こいつは老化してない。それが珍しくプロシュートを焦らせていた。 白仮面の男が第二撃を仕掛けようと呪文を唱えようとする。だがそこに上空から風の塊が白仮面の男を襲い吹き飛ばした。 「早く乗って!」 タバサがシルフィードの上から『エア・ハンマー』を唱え白仮面の男を吹き飛ばしたのだ。 一瞬白仮面の男を見据えるが、すぐに考え直す。 (どういうわけか知らねーが直が効かない以上老化は役に立たない…か。腕もヤバイし時間稼ぎは達したな) そう判断しシルフィードに飛び乗る 「直が効かない理由は分からねーが…この借りは兆倍にして返すぞッ!」 その言葉と同時にシルフィードが上空に飛び立ったが事実上の敗北と言ってもよかった。 プロシュート兄貴 ― 左腕―第三度の火傷 スーツ損傷率17% ←To be continued 戻る< 目次 続く