約 1,875,311 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9199.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十五話「銀河に散った二つの星」 異次元超人巨大ヤプール 究極超獣ゼロキラーザウルス カプセル怪獣ウインダム カプセル怪獣ミクラス カプセル怪獣アギラ 登場 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ジャンボキングの亡骸を核として、数え切れないほどの侵略者、超獣の怨念と、ヤプールの象徴たる 血のような赤い雨、そして巨大ヤプールの精神そのものが混ざり合うことで完成した大怪物、その名は ゼロキラーザウルス! ウルトラ戦士抹殺用に作り上げた超獣Uキラーザウルスの生体情報に、ゼロたちへ 向けられる怨念を組み込んだことで変異を起こし、対ウルティメイトフォースゼロ用超獣として新たに生誕した、 「最強」を超越する「究極」の超獣だ! かつてヤプールがアナザースペースでウルティメイトフォースゼロを攻撃した際にも、 とっておきの切り札として投入された怪獣兵器である。そのおぞましい威容を目の当たりにした、 シティオブサウスゴータの外へと避難した人々は一様に恐れおののいた。 「な、何だ、あの怪獣は……。でかい……でかすぎるぞ!」 「巨人のゼロたちが、まるで子供みたいじゃないか!」 その言葉の通り、ゼロキラーザウルスはあまりに大きかった。その背の丈は、ゼロたちの倍近くもある。 ハルケギニアの人々は、ここまで巨大な生物は噂にも聞いたことがなかった。 通常の怪獣でも、恐ろしいほどの破壊を振りまくことはもう知っている。それならば、あれほどの 巨体からは如何なる威力が発揮されることか……。最早計り知れない。 この世のおしまいかと思われた、超獣大軍団を蹴散らしてからの、まさかのそれらをも上回る 大超獣の出現……。多くの人は、到底受け入れられない現実に心が折れかかっていた。 しかしその時、ギーシュが叫んだ。 「皆の衆、心配はいらない! ゼロたちは必ず勝つさ! 彼らはこれまで、如何なる絶望も打ち砕いた! 大きいだけの怪獣など、粉砕してくれるとも!」 ギーシュの絶対の信頼を置いた言葉は、人々の心に強く響いた。 「そうだ……ウルティメイトフォースは、どんなに恐ろしい敵にも負けなかった! 今回だって 勝ってくれるに決まってる!」 「彼らは絶対に、俺たちの未来を導いてくれるぜ!」 人々は思い出す。ウルティメイトフォースゼロの勇姿を。彼らの飾ってきた勝利を。 大円盤も、宇宙人連合の軍団も、ナックル星人の大部隊も、電脳魔神も、ヒッポリト星人と大怪獣たちも、 サイボーグ超人も、最後には打ち破って人類の明日を見せてくれた。今目の前にそびえ立つ邪悪も払ってくれるに違いない! 「がんばれー! ゼロー!」 「ウルティメイトフォースゼロ! 負けるなー!」 人々は勇者たちの勝利を信じ、精いっぱいの応援を送る。その声は、確かにウルティメイトフォースゼロに届いている。 『行くぜ、みんなッ!』 『はい!』『うむ!』『おうッ!』 見よ! ウルティメイトフォースゼロはこの状況にも少しもひるまずに、大超獣に一直線に 挑んでいくではないか! 人々は、彼らの熱い奮闘を信じて疑わなかった。 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 しかしゼロキラーザウルスが刃つきの触手をひと振りすると――。 『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』 勇者四人は、一瞬にして蹴散らされた。 「えッ……!?」 衝撃的に過ぎる光景に、人々の応援の叫びは思わず停止してしまった。 しかもそれだけではない! 触手のひと振りは四人を紙屑か何かのように吹き飛ばすだけに 飽きたらず、ザンンッ!! とサウスゴータの大地を深々と切り裂いた! あまりの出来事に、一斉に絶句する人々。大いなる古都の土地は、半ばから真っ二つになっていた。 とても信じられないが、幻覚ではない。 地割れでも起きたのか……? いや、地割れではあんなに綺麗に割れる訳がない。しかし…… 実際にその目で見ても、人々は信じたくなかった。 まがりなりにも一個の生物が、大地を両断するなどという事実を……! 『くっ……! まだまだぁッ!』 弾き飛ばされた四人の内、グレンファイヤーがいち早く立ち上がって再びゼロキラーザウルスに 突っ込んでいく。胸のファイヤーコアと全身に炎をたぎらせた、彼の最大出力の状態だ。 が、ゼロキラーザウルスは扇状の腕を振るい、手の甲でグレンファイヤーを払いのける。 『ぐわあぁぁぁぁぁぁッ!』 ベチンッ、と軽く叩いただけで、グレンファイヤーは大きく吹っ飛んで地面に真っ逆さまになった。 パワーとタフネスなら誰にも負けない炎の戦士が……羽虫か何かのようだ……! 『グレンファイヤー! おのれ、よくもぉ!』 『はぁぁぁぁぁッ!』 ジャンボットとミラーナイトが地を蹴って、ジャンミサイルとシルバークロスを放った。 しかし刃つきの触手が伸び、ミサイルと光刃を一瞬で粉々に砕いた上に、ジャンボットたちも空中から叩き落とす。 『がっはぁッ!!』 触手はそれに飽きたらず、二人を真っ二つにしようと狙っている! 『させるかぁぁぁぁッ! おおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!』 それを食い止めようと飛び出したのがウルトラマンゼロ! カラータイマーはとっくに点滅しているが、 ゼロツインソードDSを固く握り締め、消耗をものともしない勢いで触手の刃を受け止める。 ガガガガガッ! と激しく火花を散らしていたが……ゼロまでもが弾き飛ばされ、大地に沈んだ。 『うおあぁぁぁッ!!』 ゼロと才人、そしてデルフリンガーの絆の象徴の武器も……呆気なく破られてしまった……! 『愚か者どもめぇッ! この究極超獣の前には、貴様らの力など塵芥に等しいわぁッ!』 ゼロキラーザウルスの中からヤプールが傲然と豪語する。そしてゼロキラーザウルスが ゼロたち四人にとどめを刺そうとする……! 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 「キギョ――――――ウ!」 それを阻止しようとカプセル怪獣たちが立ち向かっていく。超巨大超獣と比べて幼獣のような彼らだが、勇気は満点だ。 『よ、よせ! 駄目だ、戻れぇッ!』 だがゼロは慌てて制止をかける。それも間に合わなかった。 『雑魚どもがッ! 目障りなんだよぉぉッ!』 ゼロキラーザウルスの触手が、カプセル怪獣たちも石ころか何かのように弾き飛ばした! たった一瞬の出来事だった。 「グワアアアアアアア!!」 「グアアアアアアアアッ!!」 「キギョ――――――ウ……!」 蹴散らされた三体は、あまりのダメージの深さに立ち上がることも出来ず、自動でカプセルに戻っていった……。 『ゼロキラーザウルス、やれぇいッ! 連中を消し飛ばせぇぇぇぇぇッ!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ヤプールの命令により、ゼロキラーザウルスの頭部から莫大な歪んだ光がほとばしる! 超絶破壊光線、ゼロキラービームが放たれた! 着弾したビームは、ゴガアアアァァァァァァァァンッ!! と耳をつんざく轟音とともに、 ハルケギニアの誰もが目にしたことのないきのこ雲を巻き起こす! 『うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――!!』 壮絶な大爆発に呑まれるウルティメイトフォースゼロ! そしてきのこ雲が晴れると……人々は完全に言葉を失った。 シティオブサウスゴータの街が、土地が……そのままの意味で、半分消えてなくなっていた! 残ったのは、ぽっかりと開いたクレーターだけだ! こんな光景、誰一人として想像したことすらない! 『ぐッ……うぅぅ……!』 それでもゼロたち四人は健在……。 いや、果たしてこれが健在と呼べるのであろうか……? 四人ともが等しく身体に無事なところがなく、 立つどころか身を起こすだけで精一杯であった……。 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 対してゼロキラーザウルスは全くの無傷! わずかでも消耗した様子すらない! その上で、無情にも 死にかけているゼロたちの息の根を完全に止めようとしている! 「――やらせない! ゼロたちを……才人をやらせなんてしないわ!」 そこに立ち上がったのは、ルイズだ! 一人、避難民の中から脱け出し、杖を握り締めて半壊した街の側に立つ。 ここまで彼女は、自身の『虚無』の魔力を温存していた。ヤプールは恐ろしい相手だ。 万が一の時のために……と、戦闘中は使用をこらえて、ひたすら感情を高めて魔力を蓄えていた。 そしてそれは正解であったようだ。 「私の一番の武器で……ゼロたちを、トリステインを、ハルケギニアを救ってみせるッ!」 世界を救う使命に強く燃えるルイズの魔力は、最高潮に達していた。その魔力量は、タルブの時と同等であるほどだ! 朗々と呪文を唱え上げて――最も得意とする、究極の攻撃呪文を発動する! 「『爆発』!!」 カッ――! 再び、大地に太陽の輝きが生じる! その輝きは完全にゼロキラーザウルスの巨体を覆い、 壮絶な爆発の中に閉じ込める。 その爆発は、まさしくタルブの時の再来であった。 「あれは、タルブの時の奇跡の光!」 「我らの勝利の光だぁッ!」 トリステインの人々は、『虚無』の爆発がタルブ戦で勝利をもたらした輝きだと理解し、歓喜に打ち震えた。 あの輝きは今一度、人間の勝利を授けてくれると、固く信じている。 「ルイズ……!」 アンリエッタはルイズの働きに感動し、感謝の念を胸に抱いた。 『効かぁぁぁんッ! 効かんわぁぁぁぁぁぁッ!!』 ――光が収まり、再び姿を現したゼロキラーザウルスは、依然として全くの無傷であった。 ルイズは、杖を取り落とした。 「う、嘘……」 誰しもが、これは夢を見ているのではないか、と錯覚した。 不完全でもアントラーに致命傷を負わせ、キングジョーとブラックキングの大軍団をも一撃で滅した 『爆発』ですら……ゼロキラーザウルスには微塵も通用していなかったのだ! 『馬鹿な人間どもがぁッ! 貴様らの明日など、最早どこにもありはしないのだぁぁぁ――――――ッ!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ゼロキラーザウルスの無数のトゲが発射され、ゼロたちに迫る。トゲミサイルだ。 『ぐぅッ……!』 ゼロとミラーナイトがウルトラゼロディフェンサーとディフェンスミラーを重ね合わせた ディフェンスミラーゼロを展開。ジャンボットとグレンファイヤーも支えて防御を固めたが…… トゲミサイルは協力バリアを易々と粉砕した。 『ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 四人が爆発の嵐にもてあそばれ、転げ回る。 惨劇! 最早そうとしか言いようがない……。これはもう戦いとは呼べない。一方的な蹂躙…… 処刑の有り様であった! 「もう、もうやめてくれぇッ!」 誰かが現実を直視できずに目を背け、叫んでいた。その気持ちは、全員が同じであった。 先ほどまでは確かに存在していた、ゼロたちが、才人が灯した希望は……もうひとかけらも残っていなかった。 彼らの心の支えすら、ゼロキラーザウルスの圧倒的な暴力は蹂躙してしまったのだ。 人々の心が……闇に囚われようとしている。 「どうして!? どうしてなのッ!? 何でこんなことになってしまったの!? わたしたちが何をしたというの!?」 誰かが忍び寄る闇に耐え切れず、泣き崩れた。誰しもがそうしたいところであった。 人々の努力を、奮闘を軽く叩き潰す、絶望的なまでの理不尽。人々はゼロキラーザウルスから その理不尽を感じている。 しかしヤプールは、そんな人間たちの心情も嘲笑する。 『どこまでも愚かな生き物どもよ。この究極超獣を生み出したのは、我ら闇の化身の怨念だけではない。 貴様らの心からも生じたのだッ!』 人々は、その意味が理解できなかった。自分たちの心が、あんな化け物を作り出した? そんな馬鹿な! しかしそれは、紛れもない真実なのである。 『我らヤプールは、貴様らの争いを求める心、目先の欲に走る心、薄っぺらな虚栄を得ようとする心、 全ての醜い心から発生するマイナスエネルギーによって生きる。我らが作り出す超獣もまた、貴様らの 醜さを食って強くなった。名誉などという言葉だけの空虚な幻影を欲し、同胞同士でひたすらに殺し合う 貴様らが、終末を招く無敵の超獣の親なのだぁぁッ!!』 ヤプール人は負の心の具現化。人間の醜さの象徴だ。延々と繰り広げられた貴族と平民の確執、 目先の富と欲に溺れる姿勢、命の奪い合いの意味をろくに考えないで争いをやめない暴力性が、 巡り巡ってゼロキラーザウルスという終わりを作り出すものを産んだ。 また、人間たちの心の暗闇こそが、世界を終わらせる。世界の守り神であり、人間を信じた ウルティメイトフォースゼロという希望を、人間自身が殺す。そういう意味での『ゼロキラー』でもあるのだ……。 「そ、そんな……」 「他ならぬ俺たちが、破滅の原因だったなんて……」 ヤプールの突きつけた残酷な真実に、人間たちは今度こそ打ちのめされた。皆がもう希望を 見出すことが出来ない。いや、知らず知らずの内に、自分たちで壊してしまっていたのだ……。 「わ、わたくし……わたくしは……」 こんな時にこそ心の支えとなるべきアンリエッタまでも……絶望に呑まれていた。何を隠そう、 アルビオンへの侵攻を推し進めたのが彼女だ。自分があんなことを言い出さなければ…… まさかこんなことになってしまうなんて……。今の彼女の心にあるのは、後悔の念だけだ。 「あ……あぁ……」 ルイズも、絶対の絶望に沈んでいた。彼女が輝かしいと信じた「貴族の名誉」は…… 真逆の暗闇だった……。ルイズの光も、暗闇に覆い隠されてしまった……。 『ウルティメイトフォースゼロッ! 貴様らは貴様らの愛した人間の暴力によって死ぬッ! 恨むなら、醜い人間どもを信じた己らを恨むんだなぁッ! グハハハハハハハッ! グハハハハハハハハハハハハ―――――――――ッ!!』 いよいよゼロキラーザウルスがゼロたちの命を終わらせる……! その次は人間、そして世界そのものだ……! 今日が、世界の終わりだ……。 『――そいつは違うぜ……』 その終わりに、この状況に至っても、ノーを突きつける者が一人。 ウルトラマンゼロだ。満身創痍、全身がボロボロになってもなお立ち上がる。 だがひたすらに諦めないゼロを、ヤプールは嗤うばかり。 『まだ立ち上がるというのか? 全て無駄なのだよッ! 今の貴様のどこに、逆転の芽がある!? そんなものは全て摘み取ってやったわぁッ!』 かつて出現したゼロキラーザウルス。それもゼロたちの攻撃をことごとくはね返し、彼らをギリギリまで追い詰めた。 それは、ゼロキラーザウルスがゼロたちに向けられた怨念の結晶だからだ。ゼロたちがどんな攻撃をしようとも、 底なしの恨みから無尽蔵に生じる負のエネルギーが必ず攻撃の威力を上回ったので、ゼロキラーザウルスは ゼロたちに対して無敵だったのだ。 だがウルティメイトフォースゼロは勝った。それは、四人の絆、心の光を一つに合わせ、相乗効果で 一層強めた光を纏った体当たりで、底なしの怨念を打ち砕いて浄化したからである。負の闇で生まれた怪物は、 心の光で照らすことが出来る。 が、しかし……今の四人は、先の超獣軍団を倒すために、体力を消耗し切っていた。もうあの時と同じ、 四人の合体攻撃はとても出来ない。ゼロたちは、ヤプールの罠に完璧に嵌まっていたのだ。 ――それでも、ゼロにはたった一つだけ、究極の闇を消す手段があった! 『見せてやるぜ、ヤプール……! 俺の光はぁッ! テメェなんかにッ! 絶対に消されないってことをなぁッ!!』 気合い一閃。ゼロはまっすぐ上に飛び立ち、ウルティメイトブレスレットを展開して本来の銀色の鎧の形にした。 その鎧、ウルティメイトイージスを装着したゼロの姿は――人々の目に、神々しい輝きを焼きつけた。 「あ、あの姿は……」 降臨、ウルティメイトゼロ。 それはアナザースペースの人たちの心の光が生み出した、まさしく希望の光。宇宙のどこからでも駆けつけ、 闇を追い払う力を持った、究極の光輝だ。 しかしゼロキラーザウルスという闇は、その光すらも呑み込んでしまいそうだ。 『何かと思えば、貴様も底抜けの愚か者だなぁ、ゼロッ! その威力もゼロキラーザウルスには 通用せんこと、忘れたのかッ!』 そう、ウルティメイトゼロの力までもが、ゼロキラーザウルスには届かなかった。その怨念は、 一人の力では祓いがたいほどに大きくなっているのだ。 だが、ゼロが行うことは――攻撃ではないのだ。 『これからすること、俺はちっとも恐れてなんかいない。だが、才人……お前まで巻き込んで しまわなければならないこと、それだけが心残りだ』 ゼロはヤプールの嘲りには構わず、己の中の才人に呼びかけていた。 それに才人は、達観したような声音で応える。 『大丈夫だよ、ゼロ。怖くない訳じゃないけど……嫌って訳じゃない。むしろ嬉しい気持ちさ』 『本当か?』 『ああ。ただの高校生だった俺が、この絶望をひっくり返して世界を救うんだぜ? こんなにすごいことはないよ』 それからひと言、こう語った。 『ルイズが言った、守るための名誉。今なら分かる気がする』 『そうだな。――行くぜッ!』 ゼロは飛び出す。右腕の剣を前に突き出し、一直線に――ゼロキラーザウルスへ目掛けて! 『何ッ!?』 まっすぐ突っ込んでくるとは思っていなかったヤプールは、反応が遅れた。その一瞬が勝負を決する! 『おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁッ!!』 銀色の鋭い弾丸と化したゼロは、ゼロキラーザウルスの体表を突き破って体内に潜り込んだ! そしてカラータイマーより、自身の光の「全て」を解放する! 『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 『な、何をする!? まさか……やめろぉぉぉ―――――――――!!』 焦るヤプール。しかしもう遅い。ゼロキラーザウルスの肉体から、溢れるように光が漏れていく。 何が起こっているのか? 『ま、まさか……!』 『ゼロ、やめて下さい! そんなことをしたら、あなたがッ!』 『ゼロぉぉぉぉ――――――――――!!』 ジャンボット、ミラーナイト、グレンファイヤーが気づいて叫んだが、ゼロは止まらない。 ウルトラゼロレクター。怨念の闇をかき消す浄化技だ。しかしゼロキラーザウルスのそれは あまりに莫大すぎて、普通にやってはまるで通用しない。 そのためゼロはウルティメイトイージスを展開し、その上で最大出力を超えた、限界突破の光を 相手の体内から解き放って、この絶大なる邪悪を消し去ろうとしているのだ。 ……自身の「命」までも光に変換して。 『ぐッ、がぁッ! ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 二つの邪悪が断末魔を残し――。 二つの星の輝きが、闇を破裂させた。 その時、人々も直感で理解した。ゼロは……命と引き換えに、自分たちを救ってくれたのだということを。 『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! ウルトラマンがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』 光によって破裂したゼロキラーザウルスの残骸から、巨大ヤプールの怨霊が立ち上って怨嗟の声を上げた。 その怨嗟も、直に光によって消されるであろう。 それまでの間に、ヤプールはミラーナイトたちへ向けて言い放った。 『こ、これで勝ったつもりか!? 馬鹿めがッ! この星には俺の他にも、邪悪がまだ潜んでいるというのにッ!』 『何ッ!?』 驚愕するミラーナイトたち。彼らは、M78ワールドからハルケギニアに侵入した巨悪が ヤプールのことだと信じて疑っていなかった。 『俺はその悪の波動に導かれて、この星を発見しただけだ! 貴様らが遠からず、姿の見えない邪悪に 滅ぼされるのが見えるようだわ! クハハハハハハハッ!』 負け惜しみを込めた呪いの言葉を、ヤプールは遺す。 『破滅の未来で待っているッ!!』 そして、光がヤプールの怨霊を消滅させていく。 二つの星の輝きも――ヤプールを消し去ったすぐ後に……消え失せた。 『なッ……あッ……ゼロ……』 『ぜ、ゼロ……』 『うあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――! ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――!!』 三人の仲間が名を呼んだが……それに応じるべき者は、いなくなっていた。 「……はい。ヤプールの敗北、この目でしかと確認しました」 シティオブサウスゴータを一望する山の頂上で、一人の女性が人形に向かって話しかけていた。 クロムウェルの秘書であったシェフィールドだ。 こんなところで、一人で何をやっているのか? 『そうか。余のミューズ、これまでご苦労だった。褒美をとらそう』 人形からは人の声がする。人形に見せかけた、通信機の役割を果たす魔法の道具なのだ。 「もったいなきお言葉です、陛下……」 そしてその声を聞いたシェフィールドは、うっとりと陶酔しているようだった。 シェフィールドは、本当にクロムウェルの秘書だった訳ではない。実はクロムウェルは元々、 今の彼女の話し相手に祭り上げられたお飾りの皇帝で、人形の声の主がシェフィールドを通して アルビオンを操っていた。アルビオンがヤプールたちの巣窟とされてからは、人形の声の主は 彼らの存在にいたく興味を示し、その動向をシェフィールド越しに観察し楽しんでいたのだ。 『外世界からの侵略者たちも、手を変え品を変えウルトラマンという巨人たちを苦しめ、 なかなかに楽しかった。しかしそれももうおしまいか』 残念そうな口ぶりだが、実際には惜しむ色は全くなかった。玩具が壊れたので違うのを買おう、 そんな感じのひと言であった。 あろうことかヤプールの行いを間近から観察し、彼らを玩具同然に見なすこの者は、一体何者なのだ? どんな力を有しているというのか? 『これからは余自身でゲームの盤を動かすとしよう。余のミューズ、お前にはもっと働いてもらわねばならなくなる。心してくれ』 「元よりそのつもりでございます、我が陛下!」 ヤプールという巨悪を打ち倒したばかりだというのに……新たな暗雲は、遠くないところまで来ているようであった。 激戦の影響により、更地同然となってしまったサウスゴータ。その中を、ルイズが一人ヨロヨロと歩いていた。 「ぜ、ゼロ……どこへ行っちゃったの? 敵を倒したのなら、いつものように、私たちの前に姿を見せてよ……」 ルイズは真っ青な表情で、一人ブツブツとつぶやいていた。誰にも問いかけは届いていないが、 現実を受け止められない気持ちが問いかけという形で表れているのだ。 「ゼロ……サイトをどこへ連れていっちゃったの? こんな時に、冗談はやめてよ……。 どこかに隠れてるだけなんでしょ? 私が意地悪なことばっかり言ってたから……からかってるだけなんでしょ……?」 そんな訳がないということ、ルイズは理解していた。しかし感情が認めていなかった。 ゼロが戻ってこないということ、それはつまり、一心同体の才人も……。 「サイト……サイト……。 サイトぉぉぉぉぉ――――――――――――――――――――!!」 ルイズの呼び声は――朝焼けに染まりつつある、何もない焦土に虚しく響くだけだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9437.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十一話「ブリミルの贈り物」 地中鮫ゲオザーク 登場 アンリエッタの密命により、ルイズとティファニアをロマリアへと連れてきたオンディーヌ。 そこで待っていたのは、教皇ヴィットーリオからのガリア王ジョゼフ廃位の計画の協力要請だった。 タバサを救うために才人は乗り気であったが、ルイズは彼がまた危険を背負い込むことになる故に 消極的だった。そして返答を保留したまま――間に才人がキリエル人から身に覚えのない復讐を されるなんてこともあったが――一日が経過した。 そして早朝、才人は昨晩誘われた通り、ジュリオに連れられ地下のカタコンベまで来ていた。 ひんやりと湿った空気が漂う狭い通路の中、才人がぼやく。 「辛気臭いとこだなぁ。こんなとこで見せたいものって何だよ。お墓とかじゃないだろうな」 「墓というのはある意味で合ってるかもね。でも、眠ってるのは人じゃない」 「はぁ?」 才人とジュリオが行き着いた場所は、四方に鉄扉がついた円筒状の空間だった。ジュリオは 鉄扉の一つの前に立つと、錠と何重もの鎖を取っ手から外し、錆びついた扉を力ずくで開ける。 その途端に埃が舞い上がり、才人は思わずむせる。 扉の奥は照明がなく、真っ暗であった。しかしジュリオが部屋中の魔法のランタンに明かりを 灯すことで、その暗闇の中に隠されていたものが才人の目に露わとなった。 「な、何だよこりゃ……」 「驚いたかい?」 ジュリオが言った通り、才人は目の前に広がった光景に、一瞬にして圧倒されていた。 手前の棚にところ狭しと並べられているのは、明らかな銃器。しかもハルケギニアの原始的な ものとは全く違う……地球製のものばかりだった。イギリス製の小銃から始まり、ロシアのAK小銃。 サブマシンガンにアサルトライフル……スーパーガンやウルトラガンなど、歴代の防衛隊の銃器 までもあった。ほとんどは錆で覆われていて、完全に壊れているものもあるが、いくつかは新品 同様にピカピカと光を反射していた。 「見つけ次第、“固定化”で保存したんだが……中には既に壊れていたり、ボロボロだったり したものもあったんでね」 ジュリオの言葉が半分くらいしか頭に入ってこないほど、才人はこの部屋に収められている ものを見回していた。近代の技術による銃火器以外にも、火縄銃やマスケット銃などの古典的な ものや、日本刀やブーメランなど時代と地方を選ばずに、武器と呼べるものがこれでもかと鎮座 している。ちょっとした博物館のようであった。 「……何でここにこんなものがあるんだ?」 才人の疑問に答えるジュリオ。 「東の地で……ぼくたちの密偵が何百年もの昔から集めてきた品々さ。向こうじゃ、こういう ものがたまに見つかるんだ。エルフどもに知られないように、ここまで運ぶのは結構骨だった らしいぜ」 言いながら、部屋の一番奥にある、仕切りのカーテンに手を掛けるジュリオ。 「ほら、これなんかは一番大きいものさ。あまりにも大きいんでそのままじゃ運べないって ことで、一旦解体されてからここで組み立てたそうだぜ。最初から壊れてて使えないのに、 そこまでする必要があったのかは甚だ疑問だけどね」 カーテンが引かれ、その奥に隠されていたものを目の当たりにした才人が、思わず息を呑む。 それは、全長五十メイルにまで届きそうな、巨大な足の生えたサメであった。……いや、 ビリビリに破けた皮膚の下から露出しているのは肉ではなく、鋼鉄の人工物。つまり、怪物 ザメに偽装したロボットなのだ。 「巨大生物に偽装したカラクリ。誰が、何のためにこんなけったいなデカブツを造ったんだろうね」 肩をすくめるジュリオ。今は完全に破壊されていて物言わぬ巨大ロボットは、ネオフロンティア スペースの地球人が巨人の石像を探し出すため、またその際に正体が露見しないように怪獣に見える ように作り上げられた、ロボット怪獣ゲオザークである。才人たちのあずかり知るところではないが。 「けどこっちのデカブツはまだ動くみたいだ。動かし方が分からないんだけどね」 ジュリオがゲオザークから離れ、油布に覆われた小山のようなものに近づき、その油布を 引っ張って取り外した。 積もった埃がずり落ちた油布によって舞い上がる中、才人は再度目を見張った。 「こ、こんなものまで……」 武骨ながらもそれが逆に芸術性を感じさせるような黒塗りの車体。下部には四輪と、その後方に キャタピラが備わっている。そして一番目立つのが、機首より突き出た太く鋭いドリル。側面には、 歴史の教科書で目にしたウルトラ警備隊の紋章がランプの灯りに照らされ燦然と輝いていた。 地球防衛軍開発の、ウルトラ警備隊に配備された地底戦車であり、史上最大の侵略を仕掛けてきた ゴース星人の基地を爆破するための特攻で全機失われてしまったはずのマグマライザー。紛れもない 本物だった。 才人は思わずマグマライザーに手を触れた。その途端、左手のガンダールヴのルーンが 仄かに光った。それが、マグマライザーがまだ生きていることの証明だった。 マグマライザーに圧倒されている才人の様子を見て、ジュリオが口を開く。 「ぼくたちはね、このような“場違いな工芸品”だけじゃなく、過去に何度も、きみのような 人間と接触している。そう、何百年も昔からね。だから、きみが何者だか、ぼくはよく知っているよ」 「お前……」 「そしてきみは、この“武器”たちの所有者になれる権利を持っている。だから、この“場違いな 工芸品”はきみに進呈しよう」 「権利だと? どういう意味だ?」 「これは元々きみのものなんだよ、ガンダールヴ。きみの“槍”として贈られたものなのさ」 言いながら、ジュリオは“虚無”の使い魔の歌を唱えた。その中では、神の左手ガンダールヴは、 左手に大剣、右手に長槍を握っていたとある。 「ぼくはヴィンダールヴ。ありとあらゆる獣を手懐けることができる。怪獣は大きすぎて 難しいんだけどね。それでも、既に何匹かはロマリアから遠ざけることに成功してるよ」 才人はロマリアが、空中大陸のアルビオンと違って地上の国なのに怪獣被害が少ないという 話を聞いた覚えがあるのを思い出した。神官らは始祖ブリミルの威光と喧伝しているそうだが、 ジュリオがそのタネだったという訳だ。 「ミョズニトニルンは、ガリアの怪しい女。マジックアイテムを使いこなす。普通の戦いだったら 最強だろうね。最後の一人は、ぼくもよく知らない。まぁそれは今は関係ない。きみだ、きみ! 左手の大剣はデルフリンガーのことだよ。でもって、右の長槍……」 「どう見たってこいつらは槍には見えないぜ」 マグマライザーを指差す才人に、ジュリオは説く。 「槍ってのはそのままの意味じゃない。“間合いが遠い”武器って意味さ。強いってことは、 “間合い”が遠いってことだ。怪獣が何故強いか分かるかい? 尋常じゃないタフさもあるけど、 単純に人間よりずっとでかいからさ。おまけに火や光線も吐く。ただの人間じゃ、鉄砲の弾が 届く範囲にすら近づく前にお陀仏だよ。対してウルトラマンゼロたち巨人は、怪獣と同等の 間合いに、それ以上の破壊光線を発射することで怪獣以上の最強として君臨してる。六千年前の 最強の武器は“槍”だった。それだけの話さ」 マグマライザーの装甲を叩くジュリオ。 「始祖ブリミルの魔法は未だに聖地にゲートを開き、たまにこういうプレゼントを贈ってくれる。 考えられうる最強の武器……ガンダールヴの“槍”をね。だからこれはきみのものだ。兄弟(ガンダールヴ)」 才人は胸が震えるのを感じた。スパイダーも、佐々木の乗っていたゼロ戦も……始祖ブリミルの 魔法によって導かれたものだったのだろう。そして、多分自分も……ひょっとしたら、ウルトラマン ゼロすらも……。 ゼロは時空の移動中に遭遇した次元嵐を抜ける最中、何かの力に引っ張られて自分と衝突 したと言っていた。 「まぁ、そんな訳できみに進呈するよ。ぼくたちが持っていても、さっき言ったように使い方が 分からないし……作れないし直せない。どんなに強い“槍”だろうが、量産できなきゃ意味はない。 きみたちの世界は、いやはや! とんでもない技術を持っているね。ウチュウ人にだって負けないんじゃ ないか?」 「聖地にゲート?」 「そうさ。他に考えられるかい? 多分、何らかの“虚無魔法”が開けた穴だ。きっとね」 才人はここに来て次々知らされた内容に、めまいを覚えそうな気分にすらなった。 「……そんな訳で、こいつをもらってきた」 昼食後、才人は客室で、姿見からこの場に来てもらったミラーとグレンに、カタコンベから 持ってきた銃器を見せていた。 レベルスリーバースの地球の一つからゲートを潜り、ハルケギニアへとやってきたその武器の 名は、ディバイトランチャー。ナイトレイダーという組織の標準兵装である、可変光線砲だ。 武器に勘の働くデルフリンガーが、こいつが一番汎用性に優れると勧めたのだ。本来ならば 生体認証で登録者以外は取り扱うことは出来ないのだが、そこはガンダールヴの力でクリアした。 「へぇ~。しっかしすげぇ話だなぁおい。何か色々と地球の人や物品がここに来てるみてぇ だとは思ってたけどよ、まさかそんな仕掛けがあったとは!」 ジュリオから伝えられ、才人が話したガンダールヴの“槍”と聖地のゲートの話に、グレンは 感心し切っていた。ミラーもまた、圧倒されたように顎に手をやる。 「その聖地のゲートというのは、要するにスターゲートのようなものなのでしょうね。しかし、 一個人がそれを作り上げようとは……」 『ああ。俺も話だけだったら、多分信じなかった。それだけとんでもねぇ内容だぜ』 ミラーに同意を示すゼロ。スターゲートとは、多次元宇宙を股に掛けて存在する怪獣墓場の 唯一の恒常的な出入り口であるグレイブゲートのような、宇宙と宇宙をつなぐ扉である。しかし もちろん、そんな大それたものがそうそう簡単に設置できるものではない。グレイブゲートも、 誰が作ったものなのかは未だ解明されていない。 それなのに、ブリミルは六千年も機能するほぼ完璧な形のゲートを作り上げたようだ……。 “虚無”の魔法の強力さは、自分たちの想像以上だとゼロたちは感じた。 「けど今はそれよりガリアのことだぜ。ルイズの奴は、作戦に未だに反対してるってか?」 話題を変更するグレン。才人はうなずく。 「そうみたいだ。どうも不機嫌でな……。せっかくのガリアの王様をやっつける絶好の機会 だってのに、どうして分かってくれないんだ? ルイズの奴」 ぼやく才人に、ミラーが告げる。 「恐らくルイズは、あなたに危険が及んでほしくないのですよ。サイト、あなたが一番危険な 立場ですからね」 「でも、危険なら今までいくらでもあったじゃないか。どうして今頃……」 納得できていない才人に、グレンもうんうんうなずいていた。そんな二人にミラーは肩を すくめる。 「自ら危険を呼び入れようとするのに反対なのでしょう。女性とは、親密な男性相手には そうするものです」 「うーん……俺にゃあそういう心理はいまいち分かんねぇぜ」 全く女心に疎いグレンがポリポリ頭をかいた。 「で、そのルイズは今どうしてんだ?」 「ああ、あいつなら教皇聖下に呼ばれてたぜ。“始祖の祈祷書”も持っていって、向こうで 何やってるんだろ……」 才人がつぶやいたその時、不意にこの部屋の中に、ピコン、と軽快な電子音が鳴り渡った。 「ん? 今の何だ? 何かの着信か?」 「あッ、ごめん俺だ。……えッ!?」 つい反射的にグレンに答えた才人が、目を見張った。 「着信!? そんな馬鹿な!」 まさかと思いながら通信端末を引っ張り出すのだが……その画面には確かに、メールの 着信を知らせる表示があった。 ハルケギニアに来てから、一度も出てくることのなかった表示だ。 『お、おい才人、これって……』 「そんな……どうして、今になって……」 ゼロも才人も、唖然としていた。様々な機能を持つ端末ではあるが、宇宙を隔てているの だから、通信の類だけは絶対に出来ないはずなのだ。 その理由は、ルイズの側の行いにあった。 ルイズとティファニアはヴィットーリオに、新たな呪文の発見の場に招待されていた。 紆余曲折あってコルベールから“火のルビー”を返却されたことを契機に、新しい“虚無”を 祈祷書の中から見つけ出そうとしたのだった。 最初に祈祷書を見たティファニアは何も見つけられなかったが、ヴィットーリオは新たな 呪文を得た。 それは“世界扉(ワールド・ドア)”。その名の通り、ハルケギニアと別の世界を一時的に つなぐ扉を作り出す呪文。 その扉を通った電波を端末が受信し……地球からのメールが、才人の元に届いたのだった。 才人の端末には、何通ものメールが受信された。単なるダイレクトメールもあれば、友人からの メールもあった。しかし一番多かったのは……母からのメールだった。 才人は最後のメールを開いて、読んだ。 才人へ。 あなたがいなくなってから一年以上が過ぎました。 今、どこにいるのですか? 高凪春奈さんがよく元気づけに来てくれます。私は平賀くんに会った、いつか無事に帰って くるから心配しないでくださいといつも言ってくれます。 でも、いつかじゃなく今すぐにあなたの無事な姿を見たいのです。 もしかしたら、メールを受け取れるかもしれないと思い、料金を払い続けています。 今日はあなたの好きなハンバーグを作りました。 タマネギを刻んでいるうちに、なんだか泣けてしまいました。 あなたが何をしていようが、かまいません。 ただ、顔を見せてください。 その内に接続は切れたが、受信したメールはそのまま端末にある。 ぽたりと、画面に涙が垂れる。 「お、おいサイト……」 グレンが青ざめた顔で言いかけたが、ミラーが静かに首を振りながら止めた。 『……』 ゼロもまた、何も言葉を発さなかった。 ルイズは教皇の執務室から客室へと帰ってくる途中だった。 ヴィットーリオやジュリオは、ルイズが“ワールド・ドア”を用いて才人を元の世界に 帰すようにと言い出すのではないかと考えていたようだが、才人は最早帰ろうと思えば 帰れる身。その上で自分からハルケギニアにいることを選んだのだから、そんなことを 切り出すつもりはなかった。 けれども、いつか帰還する時のために自分を極力大切にするようにと再度説得するつもりで 戻ってきたのだが……客室の扉の前に、ミラーとグレンが難しい顔で並んでいるのに面食らった。 「二人とも、どうしたの? サイトは……」 尋ねると、ミラーは口の前に指を立ててルイズに口を閉ざさせてから、ドアを少しだけ 開いて中の様子を見せてくれた。 才人は、机の前で身体をかがめ、肩を微妙に上下させていた。泣いているのだ、とすぐに分かった。 「ミラー、一体何が……?」 小声で尋ねると、ミラーが腕組みしながら説明した。 「どうしてなのかは分からないのですが……サイトの端末にメール……手紙が届いたのです」 「手紙……? 誰からの?」 「故郷……母君からです」 「……かわいそうにな……」 グレンも、ポツリとそれだけつぶやいた。 ルイズは、頭を殴られたようなショックを感じた。 自分は、才人がハルケギニアに留まると宣言した時、喜びと幸せを感じていた。 才人の親がどんな思いでいるのか、そして才人がそれを知った時、どんな思いになるのか…… 考えもしなかった。 翌日。泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていた才人は、無理矢理にでも気分を切り換える ことに決めた。明日は、いよいよ教皇の即位三周年記念式典。ガリアが必ず何らかの動きをする だろう。その時に、今のような気分のままでいたらいけない。 それと、昨日のことはルイズには秘密にしておこう。また、自分のせいにして落ち込む だろうし。……そう考えて、努めていつも通りの調子でルイズに朝の挨拶をしたのだが……。 「おはよう」 ルイズは昨日までの不機嫌さはどこへ行ったのか、にっこりと笑って挨拶を返した。しかも いつもの魔法学院の制服ではなく、やけにおめかしした姿だった。その上、こんな時にも関わらず 才人を街のお祭りへ……デートへと連れ出したのだ。才人は訳が分からず、目を白黒させた。 しかもルイズのおかしさはそれだけに留まらなかった。デート中、ルイズはずっと笑顔を 崩さなかった。才人が何を言っても。パンツを見せろだの、胸を触らせろだの、普段なら烈火の 如く怒り出すような無茶な注文をしても、嫌がるどころか進んでその通りにしたのだった。 ずっと反対していた作戦にも受け入れていた。 才人は、もしかして寝ている間にアンバランスゾーンに入り込んでしまったのではないかと 変なことまで考えてしまった。 「なぁゼロ、さっきからずっとルイズが変だ。何か知らないか?」 『……』 「ゼロ……?」 ゼロに尋ねかけても、ゼロも何故か一切口を利かなかった。しかし存在は確かに感じられる。 以前のように、長い眠りに就いている訳でもないようだった。 どういうことはさっぱり呑み込めない才人を、ルイズはぐいぐい引っ張って祭りを堪能したのであった。 そして夕方、二人は大聖堂の客室へと帰ってきた。才人はいよいよ我慢ならなくなって、 背を向けているルイズに問いかけた。 「なぁルイズ、お前何で今日はあんなに俺に笑顔を見せたんだ? そろそろ教えてくれよ。 何か理由あってのことなんだろ?」 するとルイズは、やはり笑顔のまま振りかえって……答えた。 「サイト、これが今までたくさん助けてくれたあなたへの、わたしからの精一杯のお礼の 持ちよ」 「今まで……?」 ルイズの物言いに、才人は何だか不穏なものを感じた。 そして、ルイズは続けて言った。 「それに……あなたには、笑顔のわたしを憶えて、故郷に帰ってほしいの。これがわたしの、 最後のわがまま」 才人は固まった。 「お、俺が、故郷に帰る? 最後のわがまま? お前、何言って……」 「手紙が届いたんですってね。お母さまから」 一瞬、才人は絶句した。 「聞いたのか……!」 ルイズはやはり笑顔のままだが、鬼気迫る様子で才人に言いつけた。 「サイト、あなたは帰らなくちゃいけないのよ。今すぐにでも」 「ま、待てルイズ! それは……!」 才人が取り成そうと言いかけたが、その時に左腕に妙な熱さを感じた。 思わず左腕を持ち上げると……それまで一時も腕から外れたことのなかったウルティメイト ブレスレットが、夢の世界の中でさえ消えなかったゼロとのつながりが……そこから消えていた。 「なッ……!?」 そして気がつけば、自分の目の前に見知らぬ顔立ちの青年が立っていた。しかし顔に覚えは なくとも、その雰囲気を自分はよく知っていた。 その青年の左腕に、ウルティメイトブレスレットがあった。 「ゼロッ!?」 「才人……あまりに急になっちまったが、これでお別れだ。勝手かもしれねぇが……お前と いた時間、とても楽しかったぜ」 ゼロが自分に、手の平をかざす。 「待って! 待ってくれッ!」 才人の呼びかけも聞かず、手の平からフラッシュが焚かれた。 それを最後に、才人の意識が途切れた。 才人の身体が、ぐらりと傾く。強制的に眠りに就かされた彼をルイズが抱きしめ、その顔を 優しく両手で包んで唇を重ねた。 「さよなら……わたしの優しい人。さよなら、わたしの騎士」 ひっく、と嗚咽を漏らしたルイズが、ゆっくりと才人をベッドに横たえた。そしてゼロへと 振り返る。 「……いいわ。ゼロ、お願い」 「ああ……」 ゼロが才人を地球に送り届けるために、ウルトラゼロアイを手に取った。――その寸前に、 鏡からミラーナイトの報せが飛び込んできた。 『ゼロ! ガリアに異様な気配が何十も感じられました! 恐らく、怪獣の大軍団が用意 されています!』 それに、ルイズは大きく舌打ちする。 「こんな時に……!」 ゼロは申し訳なさそうに告げる。 「……すまねぇな。ちょいと延期になっちまう。けど才人も一日二日は目を覚まさないだろう。 それまでに、何としてでも片をつけてやるぜ」 「お願い……。わたしも、出来る限りのことをするわ」 ゼロとともに部屋を出る時に、ルイズは一度だけ振り返った。涙がとめどなく溢れ、頬を伝う。 涙を拭うこともせずに、ルイズはつぶやいた。 「さよなら。わたしの世界で一番大事な人」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/100.html
契約! クールでタフな使い魔! その② 承太郎が左手を押さえてうめいていると、コルベールがやって来て刻まれたルーンを見た。 「ふむ……珍しい使い魔のルーンだな。さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」 そう言って彼は宙に浮く。その光景に承太郎は息を呑んだ。 いつぞやのポルナレフのようにスタンドで身体を持ち上げている訳ではない。 本当に宙に浮いているのだ、恐らく魔法か何かで。 そして他の面々も宙に浮いて城のような建物に飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 フライ。どうやらそれが空を飛ぶ魔法のようだった。 そしてその魔法が使えないらしいルイズと二人きりで承太郎は残される。 「……あんた、何なのよ!」 「てめーこそ何だ? ここはどこだ? お前達は何者だ? 質問に答えな」 「ったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。 ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ!」 「…………」 魔法学院。本当にこいつ等は魔法使いらしい。ファンタジーの世界らしい。 それでも念のため、ここが地球であるという願いを込めて承太郎は問う。 「アメリカか日本って国は知らないか?」 「聞いた事ないわねそんな国」 仮にも人を平民呼ばわりする文化圏の連中が、世界一有名なアメリカを知らぬはずがない。 つまりここは地球ではない可能性が極めて高い。 「じゃあここは?」 「トリステインよ」 魔法学院と同じ名前……すなわち……。 承太郎の推理が正しければ! ここ! トリステイン魔法学院はッ! ほぼ間違いなくッ! 国立だッ!! ド―――――z______ン もっともこの学院が私立だろうと国立だろうと知ったこっちゃない話だ。 重要なのは。 「つまりこういう訳か? お前達は魔法使いだ……と」 「メイジよ」 「…………」 どうやら呼び方にこだわりがあるらしい。 とりあえず当面はこのルイズからこの世界の基礎知識を学ぶ必要がありそうだ。 他に今のうちに訊いておく事はあるだろうか? 承太郎はしばし考え――。 「てめー、何で俺にキスしやがった」 ルイズが真っ赤になる。そりゃもう赤い。マジシャンズレッドより赤い。 「あああ、あれは使い魔と契約するためのもので……」 「この左手の文字。使い魔のルーンとか言ってたな」 「そうよ。それこそあんたがこの私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になった証よ。 つまり今日から私はあんたのご主人様よ、覚えておきなさい!」 「…………やれやれだぜ」 こうして校舎まで戻ったルイズは、承太郎を入口に残して教室へと入っていった。 そして授業が終わってルイズが出てくるまで、承太郎は考え事をしていた。 空条承太郎。十七歳。 母ホリィの命を救うため、百年の時を経て復活した邪悪の化身DIOを倒し、 仲間を喪いながらも日本へ帰ってきて数ヶ月……。 DIOとの戦いで受けた傷もすっかり癒え、 祖父母のジョセフとスージーQはアメリカに帰り、 少し真面目に高校生活を送るようになっていた。 そんなある日、彼の前に突然光る鏡のようなものが現れた。 スタンド攻撃かと思った。 戦闘経験の豊富な承太郎がその光に警戒しない訳がない。 だが……その時の承太郎は電車に乗っていたのだ。 座席は埋まり、車両内には何人かの乗客が吊革を手に立っていた。 承太郎もその中の一人だ。 そして、突然目の前に光が現れて、避けようと思ったが、みっつの要因により失敗した。 ひとつ、車両内に逃げ場がほとんど無かった。横には乗客が座っているし、上は天井だ。 ふたつ、承太郎は物思いにふけっていたため反応が遅れた。 みっつ、光の鏡は電車ごと移動するような事はなく、承太郎は電車の速度で鏡に突っ込んだ。 そして気がついたら、ここ、トリステイン魔法学院にいた。 「……やれやれだぜ」 日が暮れる。腕時計を見る。 本来なら今頃、適当な花屋で花を買って、花京院の墓に添え、帰りの電車に乗っている時間だ。 結局墓参りどころか、花さえ買えずこんな所に来てしまうとは。 (こういう訳の解らないトラブルはポルナレフの役目だぜ) 何気に酷い事を考える承太郎だったが正しい見解でもあった。 そして授業を終えたルイズに連れられ、承太郎は学生寮のルイズの部屋に通される。 十二畳ほどの広さの部屋には、高級そうなアンティークが並んでいた。 そこで承太郎はルイズが夜食にと持ってきたパンを食べながら、 開けた窓に腰かけて静かに夜空を眺めている。 「ねえジョー……えっと、名前なんだっけ?」 「承太郎だ」 「ジョータロー。あんたの話、本当なの?」 「…………」 無言。肯定なのか否定なのかも解らない。ルイズはちょっと苛立った。 「だって、信じられない。別の世界って何よ? そんなもの本当にあるの?」 「さあな……。少なくともここは、俺の知る世界じゃねぇ。あの月が証拠だ」 「月がひとつしかない世界なんて、聞いた事がないわ。 ねえ、やっぱり嘘ついてるんでしょう? 平民が意地張ってどうすんのよ」 「俺を平民呼ばわりするんじゃねえ!」 一喝すると、ルイズはすぐ驚いて黙る。それだけ承太郎の迫力がすごい。 だがプライドが非常に高いルイズは負けっぱなしではいない。 すぐに何か言い返そうとして――承太郎が懐から何かを取り出すのを見た。 「何よ、さっきパン上げたでしょ? 食べ物を持ってるなら最初からそれ食べなさいよ」 承太郎が取り出したそれを口に運ぶのを見てルイズは意地の悪い口調で言った。 承太郎は細長い棒状の食べ物を咥えたまま、ルイズを睨む。 実は普通にルイズに視線を向けただけだが、睨まれたとルイズは思った。 「てめー……タバコを知らねーのか?」 「は? タバコ? あんたの世界の食べ物?」 「……やれやれだぜ」 そう呟くと、承太郎はタバコを箱に戻し、懐にしまった。 「食べないの?」 「食べ物じゃねえ」 この世界にタバコが無いとすると、今持ってる一箱を吸い終わったら補充不能。 それは喫煙家の承太郎にとってかなりの苦痛だった。 「ルイズ、てめーの説明でこの世界の事はだいたい解った。 ハルケギニアという世界だという事も、貴族……メイジと平民の違いも。 だが一番重要な事をまだ説明してもらってねーぜ……それは……」 「何よ?」 「俺が元の世界に帰る方法はあるのか?」 「無理よ」 曰く、異なる世界をつなぐ魔法などない。 サモン・サーヴァントは元々この世界の生き物を使い魔として召喚する魔法。 何で別の世界の平民を召喚してしまったのかなんて全然ちっとも完璧に解らない。 だいたい別の世界なんて本当にあるのかルイズは信じきっていないようだ。 何か証拠を見せろ、と言われたが承太郎の持ち物は財布とタバコ程度。 後は電車の切符くらいだ。 ルイズ相手にいくら話をしても無駄に思えてきた承太郎は、口を閉ざしてしまう。 ルイズはというと、そんな承太郎の態度に怒りをつのらせる。 だって、平民ですよ? 使い魔が平民ですよ? 使い魔は主人の目となり耳となったりするが、そういった様子は無い。 一番の役目である『主人を守る』というのも無理。 平民がメイジやモンスターと戦える訳がない。 嫌味たっぷりにそう言ってやった時、承太郎はなぜか視線をそらした。 ルイズはそれを『図星を突かれた』と判断した。 という訳で承太郎ができる事など何もないと思い込んだルイズは命令する。 「仕方ないからあんたができそうな事をやらせて上げるわ。 洗濯。掃除。その他雑用」 「…………」 無言。肯定とも否定とも取れない。 でも文句なんて言えないだろうしルイズは勝手に肯定の意として受け取った。 「さてと、喋ってたら眠くなってきちゃったわ。おやすみ平民」 「待ちな」 ようやく、承太郎が口を開く。窓を閉めてルイズを睨みつける。 「な、何よ……もう眠いんだから、話はまた明日って事にして」 「俺の寝床が見当たらねえぜ」 ルイズは床を指差した。 「……何が言いたいのか解らねえ。ふざけているのか? この状況で」 「はい、毛布」 一枚の毛布を投げ渡され、承太郎はそれを受け取る。 直後、ルイズはブラウスのボタンを外し始めた。 「……何やってんだてめー」 「? 寝るから着替えてるのよ」 「…………」 承太郎は無言で背中を向けた。その背中に、何かが投げつけられる。 「…………」 承太郎は投げつけられた物を手に取り、無言で立ち尽くしている。 「それ、明日になったら洗濯しといて」 それはレースのついたキャミソールに白いパンティであった。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎は無言で振り向き、 ネグリジェに着替えたルイズにキャミソールとパンティを投げ返した。 「……これは何の真似?」 「やかましい! それくらいてめーでやりやがれ!」 「な、何よ! あんた平民でしょ! 私の使い魔でしょ!?」 「俺はてめーの使い魔になるつもりはねえ」 「フーン? でも私の言う事聞かないと、衣食住誰が面倒見るの?」 「……やれやれだぜ」 承太郎はそう言うと、毛布に包まって床に寝転がった。 それを見たルイズは満足気に微笑み、やわらかなベッドで眠った。 承太郎が「うっとおしいから今日はもう寝よう、洗濯はしねえ」と考えていて、 使い魔になる気ゼロな事に微塵も気づかずに。 戻る 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1445.html
「駄目かな?」 「そりゃ駄目って事は無いけど…」 昨夜タバサに母の治療を頼まれた育郎は、朝の食堂で、食事をとろうとするルイズに、タバサと供に、昨夜の事を話していた。 といっても、タバサが呼び出して襲い掛かった?辺りの話は伏せてだが。 「でも、あんたに治せるかどうかはわからないんでしょ? えっと、タバサだっけ、貴方はそれでも良いの?腕の良いメイジに見せた方が」 「かまわない」 タバサが何時もと変わらない無表情で即答する。 「それなら良いんだけど………そっか…ひょっとして…」 しばらくブツブツとつぶやいたルイズが、一度育郎を見、そしてタバサの方に向き直る。 「ねえ…あなたの使い魔って風竜よね。家に帰る時は使い魔に乗ってくの?」 その質問に頷くタバサ。 「じゃあさ…帰りでいいから、私の家に寄ってくれない?」 「わかった」 「じゃあ家に連絡入れないといけないから、出かけるのは来週の虚無の曜日ぐらいに」 「あらタバサ。珍しいじゃない、ルイズと一緒だなんて…あ、そういう事…」 食堂に入ってきたキュルケが、ルイズ達と話しているタバサに気付く。 「キュルケ…何がそういう事なのよ」 「さーねー、にしても相変わらず空いてるわね、貴方達の周り」 先日育郎が生徒達を返り討ちにした事が伝わってから、食事の際、以前にもましてルイズ達の周りに人がいない状況になっていた。 寄って来るのは、何かとルイズにちょっかいをかけに来るキュルケと、何故かギーシュがモンモランシーと一緒に話しかけてくるぐらいである。 もっとも、モンモランシーはいまだに育郎を警戒しているようだが。 「それで、何を話してたのかしら?」 「えっと…今度の休みにこの子の家に行く事になって」 他人の家の事を話すのもどうかと思い、ルイズはそれだけを告げる。 「タバサの家?じゃあ私も行かせてもらうわ」 「な、なんでよ?」 「あらいいじゃない。タバサ、良いわよね?」 「…かまわない」 「ほらね。っとそれとタバサ、こっち!ちょっとこっち来て!」 「ちょ、ちょっとキュルケ、何処行くのよ!」 ルイズを無視し、キュルケがタバサの手を引いて、食堂の外に連れて行く。 「もう、なんなのよキュルケの奴…」 「友達が心配なんだよ、きっと」 「…そうかしら?」 ぶすっとするルイズを育郎がなだめている最中、キュルケは人目の無いところまでタバサを連れて行き、少し躊躇した後、真剣な目で話し始めた。 「あのねタバサ、あたし昨日貴方がイクローに手紙を渡しているところを見てたの…その、なんて言えばいいのかしのね?あたしね、彼が人間じゃないって知って びっくりしたって言うか…ほら、あたしの二つ名知ってるでしょ? そう『微熱』…でね、実は彼の事いいかなーって思ってたんだけど、 でも彼が亜人って分かって、さすがにどうかと思って諦めたのよ…」 そんな事を自分に話す意味がわからないが、とりあえず黙って聞いているタバサ。 「だからあたし、貴方の想いに気付いた時ショックだったのよ… 確かに貴方に恋をするように勧めたわ。でも貴族が亜人となんて…って」 少し間を開けた後、ガシッ!っとタバサの両肩をつかむ。 「でも一晩考えて気付いたの!私が間違ってたわ!そして感動したのよ! そう!種族の差なんて、愛の前に関係ないって貴方に教えられたの! あ、でも心配しないでね、あたしは貴方の事を応援するから」 「応援?」 何を応援するというのだろう? 「そう、だって親友の貴方が恋をしたんだもの!」 なるほどとタバサは思った。 キュルケは自分が育郎に渡した手紙を、恋文と思ったらしい。 「勘違い」 いつも通り、簡潔にその事を伝える。 「もう、照れなくてもいいのよ!家に帰るのも、親御さんに紹介しに行くんでしょ? 安心して、そりゃ反対されるでしょうけど、一緒に説得してあげるから! そうだわ!いざとなったら私の実家でかくまってあげる!」 しかしキュルケは分かってくれなかったようだ。とはいえ特に害があるとも思えず、さらに言えばめんどくさいので、タバサは一々訂正する事はしなかった。 自分の実家に一緒に来るのだ、その時に分かるだろう。 タバサがそんなことを考えているとは露知らず、キュルケは少し困ったように続ける。 「それでね、彼の全てを受け入れたくなるのは、すっごくよくわかるんだけど…… あのね………その………一度に2本までにしておくのよ?」 「何が?」 「オールド・オスマン、モット伯をお連れしました」 「うむ、入ってもらいなさい」 王宮勅使、モット伯を案内するミス・ロングビルは、顔にこそ出しはしないが、これ以上ないというほど不機嫌だった。 その原因は2つある。 一つは彼女が王家やそれに近しい貴族が、この世で何よりも嫌いだという事。 そしてもう一つは… 「では、王宮よりの命しかと伝えました」 「うむ、ご苦労」 受け取りの書類をオスマン氏から手渡されたモット伯が、部屋を出る前にミス・ロングビルに話しかける。 「相変わらず美しいですな、ミス・ロングビル。今度是非一緒に食事でも」 「まあ、お上手ですこと。お言葉は嬉しいですが、遠慮させていただきますわ」 モット伯のお世辞を抵当に受け流すロングビルは、彼の目が何を見ているか気付く。 その視線の先にはミス・ロングビルの胸があった。 おっぱいである。 その谷間を見る顔は、好色極まりなく。 そしてその視線はねっとりと執拗で、そして容赦がなかった。 視 姦 で あ る そのスケベ面に拳を叩き込みたくなるが、グッと堪える。 ていうか、いつまで見てるんだいこのドスケベ! かれこれ5分はたっぷり眺めているが、それでも全く止める気配がない。 何とかしてくれないかと、オールド・オスマンを見る。 「モット伯…それぐらいにしておきなさい」 期待はしていなかったが、なんと意外なことに、オスマン氏がモット伯を諌める。 「オールド・オスマン…」 「よく見ておきなさい」 よく見る? どういう事かと思っていると、オスマン氏がミス・ロングビルの方を向き、その視線を胸に向けた。 おっぱいにである。 その谷間を見る顔は、モット伯を上回る好色さだった。 そしてその視線はモット伯よりさらに執拗で、そして容赦がなかった。 しかし、そこにはモット伯には無いものも物も含まれていた。 それは愛であった。 おっぱいに対する愛が溢れていた。 その視線には、乳飲み子を見る母の愛にも似たものがあった。 い っ そ 惚 れ 惚 れ と す る よ う な 視 姦 で あ っ た 「おお、オールド・オスマン…」 モット伯が感極まった声をあげる。 「わかったかね?モット伯」 威厳に満ち溢れる声でそれに応えるオスマン氏。 「お見事!私のような若輩者では、まだ貴方の足元にも…」 「なに、君も後10年もすれば…」 「いやいや、私などまだまだ…」 「いやいや、君もなかなかの…」 「うおおおお!ギブギブ!ギブアップじゃ、ミス・ロングビル!」 あぁもう!ハラがたってしたがないね! モット伯が部屋を出た後、早速オスマン氏にキャメルクラッチをかけながら、ミス・ロングビルこと、盗賊土くれのフーケは考えた。 まったくあのスケベ親父、人の胸をじろじろと…そのうち盗みに入るつもりだったけど、いますぐホエヅラかかせてやろうかい!? 「し、しかしこれはこれで尻の感触が背中にぃぃぃぃぃぃぃ! ミス・ロングビル!それ以上力を入れてはいかん!折れてしまう!」 そういえばあのドスケベ、学院のメイドを一人買い入れてたねぇ… 人が足りないとかほざいてたそうだけど、どうせ夜の相手でもさせるつもりなんだろ そう考えると、さらに怒りがこみ上げてくるが、ふとあることに気付く。 そう言えばそのメイド、確かあの坊やと… 密かにほくそえむ。 うまくいけば、このうっぷんを晴らすだけでなく、回りくどい事をする必要も無くなるかもしれない。 「そろそろ許してくれんかミス・ロングビル!? それとも、もしやワシを真っ二つにしてラーメ」 「ふん!」 ゴキャ! 「うっ!」 オールド・オスマンを昏倒させたミス・ロングビルは、部屋を出て、学院の正門へと急いだ。そして、いままさに出発しようとするモット伯になんとか追いつく。 「おや?どうかしましたか、ミス・ロングビル」 息を切らすミス・ロングビルの、上下する胸を凝視しながらモット伯が尋ねる。 「いえ…その、モット伯。先程の食事の件、やはりお受けする事にしますわ」 笑みを浮かべてそう告げる。 「おお!それは本当ですか?」 「ええ、よろしければ今夜にでも」 「喜んで!」 そのやり取りの最中も、胸からは視線をそらさないモット伯であった。 To be continued…… 20< 戻る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9329.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百一話「迷宮のルイズ」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 登場 才人がリシュに連れさらわれたのと同時に、トリステイン各地に実体とも幻影とも取れない 怪獣が出現。そしてクリスは、リシュの正体を語った。リシュはサキュバスという四百年前に 封印された、夢を支配する危険な亜人だったのだ。そして各地に出現した怪獣は、リシュが才人と ゼロの記憶を元に作り出した代物のようだ。このまま放っておいたら、世界中に怪獣が溢れ返って 手がつけられなくなってしまう。 そこでルイズが、才人とゼロを救出するために夢の世界へと旅立っていった。だが、それは非常に 危険な旅路であるのだ。果たして、ルイズは無事に才人たちを救い出すことが出来るのだろうか。 クリスの力を借りて、サキュバス・リシュの作り出した夢の世界へ侵入したルイズだが、 その世界はこれまで見ていた夢と同じようで異なった世界であった。舞台は才人の記憶から 再現された地球の日本なのだが、夢の続きそのままという訳ではなかった。この世界では ルイズは転校してくる前の段階で、キュルケでさえルイズのことを事前に知らなかった。 ルイズはこの世界の住人と、完全に初対面ということになっていた。ルイズは孤立無援であった。 (……みんなの記憶は、リシュによって調整されてるみたいね。わたしはクリスの手を借りての 侵入で、最初からはいなかったから、わたしの存在はみんなの記憶に反映されてないんだわ) そして、夢の世界で肝心の才人を発見することが出来たのだが、才人でさえルイズの顔を見て……。 「えーっと……ごめん、君は誰かな? 誰かと間違えてない?」 何と、才人までがルイズを覚えていなかった。あれほどともに暮らし、ともに戦ってきたというのに……。 さすがにルイズもショックを禁じ得なかった。 やはり、才人もリシュに記憶をいじられているのか。 「思い出して、サイト! 本当のことを! あなたの中にいるゼロはどうしちゃったの? ほら、あなたの左腕にはゼロのブレスレットが……!」 才人の左手首を確認したルイズ。そこにはちゃんとウルティメイトブレスレットがあったのだが……。 (!? 明かりが灯ってない……!) ブレスレットのランプには光が宿っておらず、電池が切れたかのように黙しているのだ。 ブレスレットの輝きはゼロの意識を表している。それが消えているということは、ゼロは強制的に 眠りに就かされているのか。 最も心強い味方が封じられてしまっていることに、ルイズは激しく動揺する。クリスの言った通り、 夢の世界ではゼロほどの戦士といえどもサキュバスには逆らえないのか。 しかも才人自身は、自分の左手首を訝しげに見つめた。 「ブレスレット? 何言ってるんだ? 俺はアクセサリーなんてしてないぞ」 「!? まさか……見えてないの?」 才人は、ブレスレット事態を見えなくされていた。恐らく、ブレスレットを見て記憶を 取り戻さないようにするための処置。リシュに隙がないことに改めておののくルイズ。 更には、 「サーイト♪ その子、一体誰?」 ルイズの記憶にはない謎の女が、才人の腕になれなれしく抱きついたのだ。才人は彼女について、 はにかみながら説明した。 「こいつは、俺がつき合ってる彼女だよ」 才人に彼女……! それが最もルイズがショックを受けた事柄だった。ひどく心を痛めて、 思わず才人の前から走り去ってしまったほどだ。 以上のように、夢の世界は想像以上にルイズに辛い世界であった。……しかし、簡単には 行かないということは初めから分かり切っていたことではないか。これしきのことでくじけては、 自分に全てを託してくれた仲間たちに申し訳が立たぬ。ルイズは気を強く持ち直して、この逆境を 打破して才人とゼロを取り返す気概を燃やすのだった。 無人の高校の教室で、ルイズはここまでで得た情報を整理し、自分がこれから何をするべきかを 定めていた。 「やっぱり、まずはどうにかしてサイトに元の記憶を取り戻させるのが先決よね……」 才人は完全にリシュの力によって心を操られている。この状態では、夢の世界から連れ出すことは ほぼ不可能であろう。それにゼロのこともある。才人とゼロは一心同体。才人の力がゼロの力となる。 才人に記憶が戻ってゼロのことも思い出せば、きっとゼロも封印を破って覚醒するはずだ。一度ゼロに 力が戻れば、たとえ夢の世界だろうとサキュバスにも負けないはず。 「そのためには、あのサイトの彼女とかいう女が障害となるわ……。あれはきっと、リシュが サイトを夢に縛りつけておくために送りつけた刺客……」 才人の彼女を名乗る女の顔を忌々しく思い返すルイズ。それまで見てきた夢の記憶を手繰り 寄せてみたら、春奈もいたのにあんな女は一度として登場したことがなかった。それに、仮に 現実に才人に彼女がいたのならば、普段からもうちょっと女慣れしているはずだ。そういうこと なので、才人の彼女はこの世界で設定された架空の存在なのだと推理する。 「あの女が側にいたら、サイトに手出し出来ないわ。どうにかしてあの女を遠ざけて、サイトが 一人でいる状況を作らなくちゃ……」 それから何とか説得を……と算段を立てていたところ、不意に誰かから声を掛けられる。 「ルイズさん、こんなところで何をやってるのかしら?」 振り返れば、ちょうど例の才人の彼女が一人でこちらに接触してきた。ルイズは警戒心を強める。 「……そっちこそこんなところに一人でやって来て、何の用かしら」 ルイズがにらみ返すと、女はこんなことを正面から告げた。 「ルイズさんに、サキュバスのことでお話しがあります……と言ったらどうかしら?」 「!?」 ルイズはますます身を強張らせた。まさか、こんな直球に自分に挑戦してくるとは。 「もったいぶらなくていいわ。話を聞こうじゃない」 ここで逃げても仕方がない。ルイズはその挑戦を真っ向から受けた。 「ふふッ……」 笑んだ女はパチリと指を鳴らす。 すると、教室の空間がグニャリと歪んで、戻った時には肌に触れる空気が、上手くは説明できないが 妙なことになっていた。 「な、何をしたの?」 「気づいた? ここを、あなたかあたしが出ていくまで余計な人が入って来れないようにしたのよ。 これで思う存分話せるわ」 女の言葉にひと筋の冷や汗を垂らすルイズ。いきなり、お互いの核心に迫る話をするつもりのようだ。 「最初に聞きたいんだけど、あなたがここに来たのはあの、封印の一族に連なるお嬢様の差し金かしら?」 問いかけてくる女。ルイズは答えるべきか否か少し考えたが、今更隠し立てしても有利に なることはない。ここは強気で行こう、と判断する。 「ええ、そうよ。クリスの力を借りてサイトとゼロを取り返しに来たの! どんなことをしても、 サイトを連れて帰るんだから!」 サッと杖を抜いて女に向けるルイズ。クリスの力で、武器を一緒に送ってもらったのだ。 「知ってるかもしれないけど、わたしもただのメイジじゃないわ。ちょっと簡単にはいかないわよ。 覚悟しなさい!」 精神的に優位に立とうと脅しを掛けるが、女は動じもしない。 「もちろんあなたのことも知ってるわ。伝説の“虚無”の使い手……。でもいくら伝説でも、 頭の中をいじられて、意思や記憶を操作されて同じことが言えるのかしらぁ?」 「お、脅かそうったって無駄よ! 確かにこの世界はいじれるでしょうけど、クリスの力で 夢の世界に来たわたし自身は変えられないでしょ!」 ルイズが突き返すと、女は不敵に笑む。 「……何故そう思うの?」 「出来るなら、最初からやってるに決まってるじゃない!」 それがルイズの根拠。しかし、女は嘲るようにクスクス笑い声を立てる。 「ルイズ、あなた面白いわねぇ」 「な、何が面白いのよ!」 「あなたが侵入者であることはすぐに分かったわ。ただの余興でそのままにしてあげてる だけだっていうのに、得意そうにして」 「う、嘘よ。はったりかまして、こっちを屈服させようとしてるんでしょ!」 「嘘じゃないわぁ。その証拠に、現実世界に現れた怪獣を操って動かしてたのは、このあたしなのよ。 あたしはあんな大きな生き物の意思も自由に出来るのよ。あなた一人を思い通りにするくらいは お茶の子さいさいだわ」 そう指摘されて、ハッと息を呑むルイズ。確かに、リシュは他者の精神を支配できる実例がある。 自分自身、リシュの手先となったダリーに侵されて危機に陥った。 「今だって、既にあなたに縛りを与えてること、気づかない?」 「えッ……!?」 「今、その縛りを解いたわ。あたしの身体を見て、よーく思い出して?」 「身体って……その翼……!?」 ルイズは驚愕して目を見開いた。先ほどまでは普通の女子生徒にしか見えなかったが、 今目の前に立つ女には、角があり、翼がある。そしてその顔は……! 「ああッ! な、なななななッ! あなた、リシュ?」 「いい反応ねぇ。うふふ、そうよ。こんにちはルイルイ」 どうしてこんなことに気がつけなかったのか。杖を持つ手が震えるルイズに、リシュが得意げに告げる。 「驚く必要はないわ。あたしが気づけないようにしてたんだから」 「な、何でこんなことするのよッ!」 「余興だって言ってるじゃない。すぐに黒幕が分かったら面白くないでしょぉ?」 リシュの言うことは正しくないだろう。ルイズにも影響が及ぼせることを分からせるための デモンストレーションだ。 「だけど、これ以上サイトにちょっかい出すようなら……あなたの記憶を奪って、出口のない 部屋に閉じ込めてあげる。息をすることくらいしかやることのない部屋にね。きっと、楽しいわよぉ?」 「くッ……!?」 本当にリシュが、この世界を自在に操作できるのだと思い知らされ、ルイズは大きくひるむ。それでも……。 「それでも、わたしは諦めないわッ!」 自分を奮い立たせて杖を握り直す。リシュの魔法が夢の世界で万能であろうとも、“虚無”は 魔法の中で最上位。そのルールは夢の世界でも変わらないはず。ディスペルなら夢の魔法を解除 できるだろうし、最悪ちょっとした爆発でも起こせばリシュとも戦えるはずだ。 そう思っていたのだが、しかし、 『もうッ、お馬鹿な子ね! しつこい女は嫌われるわよぉ~?』 教室に更なる怪人が現れた。才人がさらわれる直前に、自分とシエスタを足止めしたナックル星人だ! 「! あんたまでこっちの世界に……!」 『当たり前でしょぉ~? アタシとリシュはお友達、協力してるんだから!』 敵が増えたことに動じるルイズ。リシュとの一対一ならともかく、宇宙人が向こうに加勢したら 圧倒的にこっちが不利だ。 しかもそれだけではなかった。 『オホホ、窓の外をご覧なさいな』 「窓……?」 言われた通り振り返ると、校舎の外、校庭にいつの間にか巨大怪獣が出現していた! 「グウウウウ……!」 直立した羊のような姿だが、顔面には眼球が七つも並んでいる、悪魔のような容貌の怪獣だ。 「あれは……!」 『夢幻魔獣インキュラス! 夢の中に確かな実体を持つ怪獣よぉ。お嬢ちゃんがちょっとでも 変なことをしようとしたなら、すぐにインキュラスがペシャンコにしちゃうわよッ。分かる? あなただって無駄に命を散らしたくはないでしょ? 大人しくしといた方が身のためよぉ~』 脂汗を滝のように流すルイズ。リシュだけでも厳しいのに、宇宙人、怪獣まで敵にいては、 とてもではないが孤立無援の自分ではどうすることも出来ない。 震え上がるルイズの姿に、リシュはクスクス笑う。 「そんなに怖がらないでぇルイルイ。そもそも、あたしたちとあなたが敵だというのが早計よ」 「なッ、それはどういう意味よ! サイトをさらって、いいように操っておいて!」 リシュは真面目な面持ちになり、語り始めた。 「あたしたちの目的は、サイトをこの世界に引き込んで現実世界に怪獣を作り出してるだけには 留まらないわ。このまま夢の世界を拡大していき……最終的には現実世界も夢の世界で覆い込む。 夢と現実の境界をなくすのよ」 「なッ……!?」 「そうなったら素敵だと思わない? 世界はなぁんでもみんなの思い通りになるの! 人間同士で いがみ合ったり、憎み合ったり、争い合ったりすることもなくなる。理想郷が実現するのよ! あたしのサキュバスの力って、そのためにあるんだわ! だからルイルイも、あたしたちの仲間に なりましょうよ。そしたらあたしが、ルイルイのお望みの世界も作ってあげるわぁ」 リシュの語る世界に、戦慄を覚えるルイズ。リシュは良いように語っているが、結局は全てが リシュの意思一つで何もかもが決定してしまう、人間の自由と尊厳が奪われた偽りの世界だ。 そんなのを実現させる訳にはいかない。……だが、今の自分に何が出来るのか。現状は完全に 手詰まりだ。しかし……。 ルイズの反抗的な視線に気づいてか、ナックル星人が口を開く。 『まだ気持ちの整理がつかないみたいねぇ。リシュちゃん、ちょっと考え直す時間をあげましょうよ。 すこーしお利口さんになれば、自分がどうすべきかすぐに分かってくれるわぁ~』 「ええ、そうね。それでは、さよならルイズさん。また明日、教室で会いましょうね」 たっぷりと余裕を見せつけて、リシュとナックル星人は教室から立ち去っていった。 インキュラスもまた、校庭から姿を消す。 後には、打ちひしがれて立ち尽くすルイズだけが残された……。 その後、ルイズもうなだれた状態で教室から出た。 正直なところ、ルイズは“虚無”の魔法を駆り、才人と会いさえすれば何とかなると心のどこかに 甘い考えを持っていた。だが、それは大きな誤りだったのだと見せつけられた。クリスたちには心を 強く持てと言われたが……ルイズの精神は既に折れそうであった。 「わたし、一体どうすれば……」 力なくつぶやいたその時、 「ルイズさん、大丈夫?」 自分に掛けられる、優しい声音。顔を上げると、目の前に五人の男女がいた。 「えっと、あなたたちは……」 「同じクラスの塚本だよ。こっちの四人は仲良し四人組」 「毎度お馴染み、落語でございます! そして博士とスーパー、ファッションでござい!」 才人と同じ黒髪に黒い瞳。ハルケギニアにはいないタイプの容姿と名前だ。彼らは春奈のように、 才人の本来のクラスメイトなのだろう。 五人の内、ファッションがルイズを気遣う。 「ルイズさん、すごく元気がないわね。どうしたの?」 彼女たちに本当のところを言っても、どうしようもあるまい。ルイズは曖昧に答える。 「さっき、わたしの力じゃどうしようもないことに直面してね……。もうどうしたらいいか 分からないの……。わたしには、何も出来ない……」 それを聞いた塚本は、何を思ったか、唐突にその場で逆立ちをした。 「よっと!」 「えッ? 急にどうしたの……?」 呆気にとられたルイズが問うと、塚本は答えた。 「こうしてると、地球を支えてる気分になるんだ。地球をしょって立つ!」 突飛な発言にルイズが目をパチクリしている内に、塚本が足を下ろして立ち上がり、ルイズを諭した。 「僕は以前、登校拒否をしてたんだ。もう何もかもが嫌な、どうも出来ない気分だった。 でもそんな時に矢的先生がこうやって元気づけてくれたんだよ。地球を背負うことに比べたら、 どんなことも難しいことじゃないんだって」 「ヤマト先生……?」 「僕たちの担任の先生ですよ」 博士に教えてもらって、ルイズは思い出す。魔法学院にはいないほどの、熱心で生徒想いな 教師であることがよく伝わってくる先生。情熱に溢れている、という点ではコルベールを思い出させる。 続いてスーパーが言った。 「矢的先生、こんなこともよく言うんだ。『一所懸命になれ』って」 「イッショケンメイ?」 「人には一生、命を懸けてやらねばならないことがある。その大きな目的を達するためには、 その人が今いるところで、今やっていることに最大を尽くす。そういうことが必要なんだって」 『一所懸命』の教えに、ルイズの伏しがちな目が少し開かれた。 「ルイズさんが何をしようとしてるのかは知らないけど、全力を尽くしたらきっと何かが変わる。 僕はそう思うよ」 「ルイズさんが良ければ、僕たち相談に乗りますからね」 「私、同じ女の子としてルイズさんのこと応援するわ! がんばって!」 「あぁッ! みんな俺の言いたいこと全部言っちゃってさぁ。ルイズさん、俺も応援するぜ!」 「ということですのでルイズさん、わたくしども一同、心より応援をしております! それでは、お達者でー!」 塚本、博士、ファッション、スーパー、そして落語の順にルイズを励まし、五人は去っていった。 彼らのお陰で、絶望の淵にあったルイズの心は、気がつけばいくばくか軽くなっていた。 「へへッ、なかなか気持ちのいい小僧どもじゃねえか。娘っ子もそう思わねえか?」 突然、特定の者だけが使う自分への呼び名が聞こえた。 「えッ!? 今の声……今の呼び方! まさかッ!」 驚いたルイズは声の元を探り、その結果、ポケットからあるものを引っ張り出した。 才人が使用しているのと同タイプの通信端末。それから、かのデルフリンガーの声が 発せられていたのだった。 「デルフ! どうしてここに……? というかあんた、ツーシンタンマツになってるわよ!?」 「何だ、今の俺ぁそんな姿になってんのか」 デルフリンガーは、自分の姿に気がついてなかったようだ。 「俺も相棒と娘っ子のことが心配になってね、おまえさんの後にあのブシの娘っ子を説得して、 こっちに送ってもらったんだ。今の姿は、この世界に合わせた結果さね。この世界じゃ、剣の ままじゃ目立ってしょうがねえみてえだしよ」 「……そう。でも来てくれたこと、嬉しいわ」 実際、デルフリンガーがこの夢の世界まで追って来てくれたことは、これ以上ないほどの ルイズの心の助けとなった。味方がいないと思われた世界で、自分を知っている者が側にいると いうのがこんなにも嬉しいことだとは。 「で、早速だがちっこいの、いやサキュバスのことだ。娘っ子、また随分と追い詰められてたじゃねえか」 どうやらデルフリンガーは、リシュと相対した時点で既にポケットの中に隠れていたようだ。 それで事情は分かっているらしい。 「だが実際のとこは、どうにも出来ない訳じゃあなさそうだぜ」 「え! それってどういうこと!? ちゃんと説明しなさい!」 意外なところから光明を見せられ、ルイズは若干焦って尋ね返した。 「ちょっと落ち着けっての。いいか? サキュバスはあんなこと言ってたが、本当にこの世界を 自由に出来る訳じゃねえ。恐らく、世界の設定というか状況を決められるだけで、個々の人間の 意識を完全に操れる訳じゃあない」 「で、でも、怪獣を操ってたし、さっきわたしだって……」 「そいつは姿を変えてのごまかしを、記憶を操った結果と誤認させただけのトリックだよ。 角と翼っていう印象に残る部分を消しときゃ、意外と人って分からなくなるもんだぜ」 さすがは六千年も生きたインテリジェンスソード。含蓄がある。 「怪獣の方も、ここに行けとかの大雑把な暗示しか掛けられねえはずさ。じゃなきゃ、わざわざ 彼女になるくらい相棒を気に入ってんのなら、相棒が変身して飛び出した段階で怪獣を退かせてるはずだろ」 「確かに……ゼロはイコールサイトだものね。危険な目には遭わせないはずだわ」 「何より、さっきの奴らみてえな娘っ子に味方する奴をこの世界に作るはずがねえ。余興って 言葉も、結局は嘘さ。惑わされんな」 デルフリンガーの言う通りだ。あそこまで脅迫してきた後で、夢の登場人物を使って自分を 励ます訳などない。 「それともう一つ、ウチュウ人がちょいと妙なことを口走ってたじゃねえか」 「妙なこと? それって何?」 「怪獣を紹介する時、夢の中に確かな実体を持つなんて変に念押ししてただろ。それだと他のもん、 たとえばサキュバスの力が幻みてえじゃねえか」 「あッ、なるほど……!」 デルフリンガーの慧眼に感心するルイズ。ナックル星人は、ルイズを確かに殺せるという意味で 言ったのだろうが、それが裏目に出て、こうしてデルフリンガーにサキュバスの能力のカラクリを 気づかせることとなった。 「つまり、サキュバスはあくまで夢をコントロールできるだけで、この夢の世界の本当の主は 相棒なのさ。相棒の腕にブレスレットがしたまんまなのも、サキュバスの限界を示してるね。 夢の魔法じゃあ、一つになってる魂と魂を切り離すことは出来ない。結局夢ってのは、見てる 本人と現実には敵わねえのさ」 「ということは、サイトが現実の記憶を取り戻せば、リシュはこの夢の支配者じゃなくなるってことね! そうすればゼロも復活して、勝ちの目が見えてくる……!」 「そういうこった。……だが、そのための時間はあんまり掛けられねえ。分かるだろ?」 固い表情でうなずくルイズ。いざルイズが才人の目を覚まさせようとしたら、リシュとナックル星人が 黙っているはずがない。インキュラスも、才人の夢の産物ではないので、才人の状態に関係なくルイズに 危害を加えられる。それらの妨害をかいくぐるためには、なるべく時間を掛けずに才人を覚醒させる他ない。 「って簡単に言うけれど、実際にはどうすればいいのよ。“虚無”は詠唱に時間がかかるし……」 「方法があるとすりゃあ、相棒のガンダールヴの力を呼び覚ますことだ。要するに相棒の感情を 揺り動かすってことだな」 「感情を揺り動かすって……短い時間の中で、どうやって? 剣を握らせれば簡単だけど、 この世界にはないわ。あんたも今はちっさいタンマツだし……」 「それくらいはそっちで考えてほしいとこだがね。まぁ手っ取り早い方法を挙げるなら、 キスするとかだろうね」 「き、き、キスぅぅぅ!?」 思わず真っ赤になるルイズ。全くデルフリンガーは何てこと言うのか。デリカシーはないのかと憤る。 しかし、何も才人とキスをするのは初めてではない。恥ずかしくない訳でもないが…… リシュに才人の唇を奪われたままというのも何だか癪だ。それにいざとなったら手段を選んでいる 余裕はないだろう。 実際キスするかどうかは別として、現実世界では皆が待っているのだ。ルイズは、明日には 決着をつけるという意気込みを固めたのだった。 ルイズに散々脅しを掛けた後、リシュは廊下を歩いていたら、ある人物から呼びかけられた。 「リシュ、少しいいかな」 「……ヤマト先生」 矢的猛。リシュのクラス……つまり才人の担任の教師。リシュは少々警戒する。 というのも、彼を含めた一部の人物は、才人の記憶を覗き見たリシュにとっても未知の部分が 多いからだ。彼らについて、才人の記憶から得られた情報が妙に少ない。夢の世界に怪獣が出現 し続けたのも、リシュの仕業ではない。どういう訳か、勝手に出てきてしまっていたのだ。才人が ハルケギニア外から来た未知の異邦人だから、自分の力でも制御し切れないのか……。 そういうことなので、この矢的がどういう行動に出るのか今一つ判別し難い。それ故に警戒心だった。 「リシュ、君が平賀とつき合ってるのは僕も知ってるが……変な言い方だが、それは正しいことなんだろうか?」 実際、矢的はリシュの行いの核心を突くようなことを言ってきた。 「……どういうことですか?」 「先生が生徒を疑うなんてあるまじきことだが……君たちの関係はどうも不自然な感じがする。 リシュ、君が平賀を自分の方向へ誘導してるようだ。本当に愛し合ってるなら、立場は対等の はずだろう?」 「……」 何とも鋭い人物だ。面倒だ、と内心舌打ちするリシュ。いなかったことにしてしまえたら いいのだが……あまり下手に夢の世界を変更すると、才人が現実の記憶を取り戻すかもしれない。 そうなったら全てが水の泡だ。 「それに……リシュ、君は何だか、いつもどこか悲しそうな目をしてる」 「!!」 「君が今のままではいけないって、先生思うんだ。君が抱えているものについて、先生に 話してもらえないだろうか。きっと君の力に……」 「もういいですッ!」 熱心に説く矢的だが、リシュはひどく気分を害してそれを振り払った。 「先生にそんなことを言われる筋合いなんて、ありませんから。余計なお世話です。もうあたしたちの ことは放っておいて下さい。さよならッ!」 一方的に言いつけ、リシュは憤然と矢的に背を向け立ち去っていった。 その背中を、矢的は心配そうな、それでいて何かを決心したかのような表情で見つめていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1393.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「貴様……」 「ルイズ、君は逃げたまえ」 ルイズはそういわれると、震える足でよろよろと逃げ出していく。 ワルドがギーシュに向けて、杖を振る。 杖の先から放たれた雷光は、先ほどのようにワルキューレに阻まれる。 「土のドッド如きが私に勝てると思っているのかね?」 「やってみれば解るさ!」 ギーシュが跳ぶようにして距離を詰め、粗いながらも速く、剣を振る。 ワルドはそれを杖で受け止める。 「メイジが剣を使うか!」 「使っちゃいけない理由もないと思わないかね」 ギーシュは剣を打ち込みながらも、詠唱を完成させる。 剣を防いでいたワルドも同じように、詠唱を完成させ、 ほぼ同時というタイミングで魔法を放つ。 「『錬金』!」 「『エア・カッター』!」 だが、ギーシュの方が速い。 ワルドの足下が粘土のように柔らかくなり、 ワルドは体勢と狙いを崩す。 外れた『エア・カッター』が礼拝堂の椅子の角を切り落とした。 「今だ、ワルキューレ!」 「く……」 ワルドは迅速に粘土から足を抜くが、そこにワルキューレが襲いかかる。 詠唱が間に合わないのを見て取ったワルドは、 腰に下げていた紅い剣を左手で器用に引き抜き、ワルキューレに振りかぶる。 「遅いッ!」 ワルキューレの拳が直撃して、ワルドは倒れ込みそうになる。 だが持ち直すと、左手に持った剣を再びワルキューレに向けて振った。 ギーシュはその剣が何か揺らぎのようなものを纏ったのを見た。 それは膨れあがるとその剣をそのまま大きくしたような形を取り、 ワルキューレを切った。切断面が赤熱している。 ギーシュは危険を感じ、とっさに飛び退く。 先ほどの斬撃と交差するようにワルドが再び剣を振るう。 剣がワルキューレを通り過ぎる。交差した赤熱の線が十字の様に見えたかと思えば、 次の瞬間にその線が膨れあがり、ワルキューレが爆発する。 「な、何だって……」 ワルドがギーシュの方を睨みつける。 ギーシュは細剣では打ち合えないと考え、 ワルキューレを全て出し、 剣を細剣から長剣に変え、薔薇をしまい込む。 ワルキューレを散開させ、複数方向から攻め込ませる。 ワルドは前から来た殴りかかってきた二体の腕を巨大化した剣で切り裂き、 右から来た一体を杖でいなし、左から来た二体を風で吹き飛ばした。 しかし、背後から来たワルキューレの一撃を受ける。 「ぐっ……」 しかし俊敏に身を翻し、そのワルキューレに向け斬撃を繰り出す。 そのワルキューレは先ほどのものと同じように十字に切り裂かれ、吹き飛んだ。 「な、なんだあの剣は……」 ギーシュは恐怖におののいた。爆発するのも不思議ではあるが、 ワルキューレをあっさり切り裂いてしまうそれはブルーやアセルスのそれを彷彿とさせたからだ。 切り裂かれたワルキューレを見回す。 と言っても、消し飛んだので五体しかないが。 (あれ?) そこで疑問に思った。消し飛んだのは先ほどの二体だけなのである。 何故なのか、先ほどの剣を使えば全て消し飛ばすことも出来たはずだ。 なら、使えない? (……なんでだ?) 「呆けている余裕があるのかね?」 ワルドが巨大化した剣を振り下ろす。 ギーシュはそれをとっさに剣で受け止めた。 そう、受け止めた。 (ワルキューレをあっさりと切れるのなら、剣ごと僕は切り裂かれているはずだ) やはり、使えないのだろうと考えた。剣を押し返して弾き、 吹き飛ばされていたワルキューレを再びワルドに向けて、 自身は距離を取る。そして、何故使えないのかを考え始めた。 (なにか条件があるのか?) それが解るまでは、距離にはいるのは危ないと判断し、遠くから機を狙う。 二体を相手しているワルドに生じたその隙をギーシュは見のがさなかった。 「今だ!」 杖でいなされ、倒れ込んでいたワルキューレが跳ねるように起き上がり、 ワルドに蹴りを飛ばす。ワルドは不意の一撃を食らう……が、倒れなかった。 「……魔法衛士隊の連中は化け物か」 そして、またワルキューレが十字に切られ、消し飛ぶ。 そこでようやくギーシュは気付いた。 あの斬撃を出した時と、出してないときの相違点に。 (もしかしてあれは、殴られないと使えないのか?) 最初の時も、二番目の時も、今の時も消し飛ばされたのは 攻撃を成功させたワルキューレだった。 ならば、とギーシュは残った二つと自分自身で三方向から攻撃を試みる。 ただし、自分の攻撃はわざと外して。 一体目を剣で無理矢理倒したワルドは、 ギーシュのフェイントに引っかかって背後のワルキューレの一撃を食らう。 するとギーシュには目もくれず、紅い剣を振りかぶり、 背後のワルキューレを同じように十字に切り裂く。 切られたワルキューレは、やはり爆ぜた。 「やっぱりか、その斬撃は攻撃を受けないと使えないようだね!」 ギーシュは笑いながら勝ち誇った声で言う。 ワルドはそんなギーシュに冷静に返す。 「解ったところでどうしようもあるまい」 「へ?」 「攻撃せずにどうやって勝つというのだ?」 ギーシュが固まる。 ワルドはそんなギーシュに向けてゆっくりと一歩ずつ歩み寄って来る。 ギーシュは今度は汗を流して、必死に頭を回転させる。 (え、えーと、冷静に考えればそうじゃないか! どうしようも――?) そこで、一つの閃きを得て、剣を構え直す。 ワルドはそれを見て、一度立ち止まる。 「死ぬ覚悟が出来たのか?それとも逃げる気か?」 「どちらでもないね」 「そうか」 そう言うと、片手で剣を振り上げる。 ギーシュはそれを集中して見つめていた。ワルドが剣を振り下ろす。 ギーシュはそれに対して剣を斜めに構えて受け止める。 そして、そのままワルドの懐まで入った。 「何――?」 ワルドが右腕の杖を振り上げる。 ギーシュはそれは無視し、剣を回して左手を絡め取り、 そのままその手に在った剣を弾き飛ばす。 紅い剣が宙に舞い、風を切る音を鳴らして礼拝堂の固い床に突き刺さる。 ギーシュは振り上げた形になった剣を右腕にたたき付けようとする。 が、ワルドは『ウィンド・ブレイク』を唱え、ギーシュを吹き飛ばす。 当然、剣を振り下ろすことは出来ず、ギーシュは床にたたき付けられる。 「……どうやら私は君を見誤っていたようだな。 だが、もう油断はせぬ」 ワルドは呪文を唱え、杖を振る。 杖の先から雷光が迸り、ギーシュに向かって飛ぶ。 「があっ……!?」 ギーシュの前進に激痛が走り、あまりの痛みに崩れ落ちる。 ワルドはそれを冷酷な目で見つめて、小さく唱えた。 「『エア・ニードル』」 杖が青白い光に包まれる。 先ほど、ウェールズを貫いたものだろう。 ワルドは、電撃を喰らって動けないギーシュに一歩一歩近づく。 そして、すぐ前で一旦立ち止まり、杖を振り上げる。 「君を殺したら、ルイズを追うとしよう。 この城の包囲から逃げられる筈もない」 そして、杖を振り下ろす――が、それは一本の剣によって途中で遮られる。 ワルドは咄嗟に、彼が入ってきたであろう扉とは反対側の、始祖像まで飛び退く。 杖を防いだ人影は、剣を構え直す。左手に刻まれたルーンが光り輝いている。 「ブルー!」 「相棒、ようやく出番か!」 「貴様……どうやって此処まで!」 ブルーは答えずに、短く呟く。 数本の剣が現れ、ワルドに向かい飛ぶ。 ある意味、もの凄い解りやすい返答かも知れない。 ワルドは呪文を唱えて風を巻き起こし、それを弾き飛ばす。 ギーシュは誰かの手が自分の手を引っ張るのを感じた。 その力を借りて、何とか立ち上がりその手の先を見る。 「ルイズ……」 「間に合ったみたいね」 ボロボロで、まだ感覚がはっきりしない状態でも、ギーシュは何とか笑いを作る。 「逃げなかったのかい?」 「貴族は背中を見せないわ」 ギーシュは今度は笑いを作らず、心の底から笑いを浮かべる。 「逃げるとき、足が震えてたよ……」 「……そ、その時はその時よ!」 ルイズが顔を赤くして騒ぎ立てるが、 ギーシュは笑いを止めて、正面を向く。 ワルドと、彼らが対峙していた。 「……そうか、主人の危機が目に映ったか」 「ルイズを騙したのか?」 彼らは歩みながら、ルーンを刻む。ワルドは動かない。 「目的のためには手段を選んではおれぬのでな」 「それは勝手だ。だが、他人を巻き込むな」 ルイズはその様子を見ていた。 ブルーは……いや、ルージュか……? どちらとも解らないが、怒っているように見える。 どちらも、そういう人には思えないのだが。 それに、ルイズのために怒っているのとも、違う気がする。 むしろ、ワルドの行為そのものを憤っているような……。 と、そこで彼が動いた。目に追えぬほど速い……とまでは行かないが、 それなりに速く、ワルドに突っ込み、剣を振り下ろす。 ワルドは身体を翻してかわし、青白く光ったままの杖を突き出す。 ブルーが剣で受け止めると、ワルドは飛び退いて距離を取る。 そして、一度『エア・ニードル』を消し、再び唱える。 「く……ユビキタス・デル・ウィンデ……」 その呪文を唱え、ワルドが杖を振ると、 ワルドが分身する。突如出現したとも言える。 数を増やして、最終的にワルドは5人に分身した。 それを見て、彼らは剣を止めて、飛び退く。 「風の遍在だ……知っているとは思うが」 「知らん」 その言葉を聞いた途端、短く返してブルーは再び斬り込む。 刻まれたルーンから発せられた光が彼らを覆うと、 今度こそ目にも見えぬほどの速さになった。 ワルド達の内の一人が、呪文を唱える。 「『ウィンド・ブレイク』!」 風が、彼らめがけて放たれる。 彼らは反射的に、デルフリンガーを前に突き出す。 剣で風が防げる道理はないが、それでも防御しようとした。 「ちょ、相棒」 「剣で魔法が防げるはずが――」 その言葉を言い終える前に、魔法の威力が到達する。 しかし、身体に伝わってくるはずの衝撃は来ない。 少々困惑していたがそれでも考えると、 手に持った剣が風を吸い込んでいる事を発見する。 「何だと……!」 「おお、なんだこりゃ……そういや……なんかそんな事も出来たような……」 自分でもよくわかっていないらしいデルフリンガーに、彼らは問い詰める。 「どう言う事だ」 「いや、ちょっと待って。今思い出すからよ……」 「『ウィンド・ブレイク』!」 「……取り敢えず、防いでもらうぞ」 ワルド達が放った突風を、今度は意志を持ってデルフリンガーで防ぐ。 先ほどの雷撃と同じように、突風は吸い込まれ、彼らに届くことはない。 「その剣……一体何だというのだ!」 「……そうだ、思い出した!」 彼らはその声は無視して狼狽しているワルド達に切り込む。 「い、いやちょっと、聞いて欲しいかなー、なんて」 「聞いてやれる余裕はない」 「……まぁいいさ、今はやりたいようにやっちまいな、『ガンダールヴ』!」 そう叫ぶと、デルフリンガーが光り出す。 ワルド達が再び『エア・ニードル』を唱える。 「…杖自体が魔法の中心!打ち消すことは出来ぬ!」 そういって、五人のワルドが杖を突きだしてくる。 それを受け流し、回避し、いなす。 最後に振り下ろされたのを受け止めると、デルフリンガーを包んでいた光が弾ける。 そこには、磨き抜かれたように輝きを返す、錆びの混じらぬ鋼の刃があった。 「何なんです?」 「……細かいことは気にすんな!行くぜ!」 懐に入れたワルドのうちの一つを切り上げる。 それは悲鳴も上げずに消滅した。 ワルドの遍在達が彼らを取り囲んで、杖を突き出してくる。 彼らはそれを軽く跳躍して、回避する――軽くと言っても、 人一人飛び越せるぐらいの高さだったが。 そのままワルド達の内の一人の頭を足場に大きく飛んで、包囲から離脱する。 その動きを見ていたギーシュは呟く。 「やっぱり、凄いな……彼は」 軽い音と共に地面に着地する。 次にその音を大きく、激しくしたような音と共に剣を振り抜く。 一気に距離を詰めて、勢いを乗せた斬撃がワルドの内もう一人を斬る。 が、それも斬られると消滅する。 人一人斬っても尚余る勢いを、床を滑るようにして制動をかける。 バランスを崩しかけて、途中で片手を付いた。 「どれが本物か解ったりしないか?」 「それは無理」 「……全員叩けばいい話だな」 立ち上がり、後ろを振り向く。 ワルドが始祖像の下で杖を構えている。 青白い光は、既に消したようだ。 呪文を唱えて、彼らに向け杖を振り下ろす。 「『ライトニング・クラウド』!」 杖の先に、青い光が灯り、放電する。 後ろから、かすれた小さな叫び声が聞こえてくる。 「気をつけたまえ、ブルー! それを喰らえばただでは済まないぞ!」 轟音と共に、杖先から雷が放たれる。 デルフリンガーで受け止めるが、吸い込みきれない。 それどころか勢いに押されてだんだんときつくなってくる。 「相棒、このままだとジリ貧だぞ!」 その言葉に対して、彼らは剣を握る手を強めるどころか、 片手を離してしまう。デルフは思わず叫びかけるが、叫べなかった。 器用に、回転させる。今まで押されていた雷を押し返し始める。 そして最後には雷を弾くと同時に、青白い光と唸るような低い音を放ち始める。 「な、なんか嫌な感じがするんだが!?何というか折れそうな」 「確かかなり摩耗するからな」 「……もう少し優しく扱ってほしいな俺」 そのまま、地面を蹴ってワルドまで跳ぶように駆けよる。 ワルドは咄嗟に呪文を唱えて、『エア・ニードル』を纏わせる。 それで剣を受け止めようとするが、 デルフは何も遮る物が無いかのようにワルドの身体をあっさりと切り裂く。 だが、その姿もかき消える。 残り一人、本体であるだろう最後のワルドを探すために、辺りを見回す。 「離して!」 声のした方へ振り返ると、ワルドがルイズを捕らえて、杖を此方に向けていた。 ギーシュは突き飛ばされたのか、少し離れたところで倒れている。 「ルイズを離せ」 「そうはいかない。彼女は僕の目的のために必要なのでね ……君は優秀なメイジのようだ。 どうかね、君も『レコン・キスタ』……いや、私と共に来ないかね?」 「お断りだ」 「そうか、なら此処でお別れだ」 ルイズを捕らえている手とは反対の右手で杖を軽く振り、唱える。 「『ライトニ――』」 そこで唐突に、銀色が一閃。何かが宙を舞う。 解放されて、倒れ込むルイズ。彼らはそれを抱き上げて、駆け去る。 呪文を唱えていたワルドはそれを不思議そうに見て、詠唱を止める。 「『――ング…』……?」 そして、何かやわらかい物が落ちる音に対してそちらを振り返り、呟く。 「……何……だと……?」 落ちていたのは、左腕。 ワルドは自らの左腕があるはずの場所を見やる。何もない。 忘れていたものを今思い出したかのように、血が噴き出す。 「私のっ……腕がぁ……!?」 傷口を抑えて、ワルドはうずくまる。 ブルーも纏っていた光が霧散すると、胸を押さえてうずくまる。 左手のルーンの光も消えていた。 ギーシュがよろよろと立ち上がって、礼拝堂の椅子にもたれかかる。 しばらく、そのまま時間が流れた。 静寂は破壊音によって打ち砕かれる。 どこからか飛んできた砲弾により、礼拝堂の一角が崩れ落ちた。 遠くからの喧噪や爆音が聞こえてくる。 ワルドがそれを聞いて顔を上げる。 「な、何が起こってるの……?」 「攻撃が始まったか……!」 ワルドは立ち上がると、傷口から手を離し、血だらけの手で杖を握る。 「私はこんな所で死ぬわけには行かぬ……さらばだ」 「待ちなさい!」 ワルドは『フライ』を使い、崩れ落ちた一角から飛び去る。 制止などは、当然聞くはずもない。 遠くから聞こえてくる戦闘の音に、ブルーが呟く。 「逃げるか」 「どうやってよ」 「かなり先だが、タバサ達が来ている。 そこまで『保護のルーン』を使って行く」 ルイズはそれにうなずいて、歩き出そうとして立ち止まる。 そして俯いてから、振り返って始祖像の方に歩き出す。 「ルイズ?」 「ちょっと待って」 ルイズは始祖像までは歩かず、 その手前の事切れたウェールズの前でかがみ込む。 「…ご無礼をお許し下さい」 そう言ってから、ウェールズの手から『風のルビー』を外す。 外すときに、ルイズの手の『水のルビー』との間に光を作り出した。 なんとも場違いな、美しい虹色の光だった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1549.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 帰る手がかりの一つもつかめぬまま、既にこちらに来て一週間が過ぎた。 一週間もすれば、不本意ながらもこちらの生活にも慣れてくる。 朝起きて、才人共にルイズを起こし、才人が着替えさせている間に、僕が洗い物を済ませる。 僕はスタンドを使えば、いちいち水くみ場まで降りる必要もないので、適任であるのは事実だが、コレには理由がある。 はじめは交代交代で洗濯を行う予定であったが、才人がパンツの紐を切ったのがばれ、洗濯は僕が一手に担うこととなったのだ。 ちなみにこの事で、才人は一週間のご飯抜き、僕も止めなかったということで、五日のご飯抜きを宣告された。 もっともそんなことをされても、ルイズの朝食中に厨房でご飯を貰うので、全く関係がないのだが。 しかし衣食住の、住しか面倒を見ていない、しかもその住ですら怪しいのに、「ご主人様」と呼べ、敬いが足りないとは、理不尽甚だしい。僕のルイズ株は下がりに下がって、既に上場廃止状態だ。 そういう事で僕らは自然と、厨房との親交、つまりはマルトーさん達コックや、シエスタ達メイドとの親交が深まっていくのだが。 既に厨房に来る一通りの人間には、顔を覚えて貰っている状態だ。 一部の人間とは、仲良く会話を交わせるまでに至っている。 食事の後は、才人はルイズと共に授業へと、僕は血管針カルテットと共に衛兵として、見回りに当たる。 見回りといっても、侵入者に備えるなどではなく、生徒同士のもめごとの報告、出来るのならばその場を押さえる事や、魔法関係以外の備品の整理、人手が足りない所の手伝い、貴族の使いっ走りが主な仕事内容だ。 そのため貴族と接触する機会が多く、しかも殆どの貴族が高慢不遜な奴ばかりなので、極めてストレスが溜まる。 御陰でもめごとの仲裁にはつい力が入って、スタンド大活躍だ。何回貴族に向けて、『エメラルド・スプラッシュ』を放ったことか。 衛兵の仕事が再会して早三日目で、僕の前でもめごとを起こしたり、面と向かって罵倒するものは、ほぼ皆無となった。 さて、衛兵の仕事が終われば、僕も才人と同じように、ルイズの世話に戻る。 この時間が、一番トラブルに巻き込まれやすい時間だ。 この間は衛兵の仕事をしている時と違い、貴族に手を出せば、以前と同じく謹慎処分を受ける。 それを知ってか、ここぞとばかりに嫌がらせをしてくる。 もっともそういうことをする、臆病者の嫌がらせなんて、大したことのない罵倒程度なのだが。 適当にデルフリンガーを持った才人をけしかければ、あっという間に大人しくなる。 表向きな立場を持たない才人は、僕と違って、倒しても咎められることもないからな。 こちらに来て一週間。既に僕の平穏を乱す相手はルイズ、才人、そしてキュルケの三人のみだ。 ルイズは言わずもがな、あの癇癪持ちの自称ご主人様にかなう相手はいない。 才人は非常に優秀なトラブルメーカーだ。たいていの場合、僕まで連座で罰を受けるので、迷惑きわまりない。 この二人に比べれば、ルイズと混ぜない限り、たいした問題にならないキュルケは一段落ちる、はずだったのだが、最近になって、一つ問題が出てきた。 キュルケが才人に対して誘惑を敢行した事だ。 七股に挑戦するとは、見上げた根性だと思う。 変節をする人間は嫌いだが、ここまで来ると嫌おうという気すら起きず、返ってほほえましく感じる。 いや、そもそも変節しているわけではないな。一応、『微熱』とやらの二つ名の筋は通しているのか。 多分、相手も火遊び程度で、本気で誘惑するつもりは無いようにも思うのだが、どうか。 それはともかく、この劣悪な上、慣れない状況で、僕らが持ったのは一週間持ったのはやはり一重に、お風呂という存在があったからであろう。 お風呂は心の洗濯とは、誰が言い出したのか。 この異世界に於いて、この言葉は、非常に実感できる重みがあった。 そのため、お風呂のコンディションは常に万全を期しておかなければならない。 特に、放っておけば崩れてくる竈の整備などは、絶対に欠かしてはいけない。 本日の分の仕事を終えた僕は、今日もいつものように竈の様子を見に行った。 その途上、広場で思いがけない人影を見る。 「あれは……」 「よしよし、ヴェルダンテ。君はいつ見ても可愛いね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 あの金髪。気取った雰囲気。間違いない、ギーシュだ。 だが、よく見れば何か、そのギーシュに抱えられて、大きな影がもう一つ。 こちらからはよく見えないが、サイズは小熊ぐらいはある。いったい何だろうか。 僕は後ろから息を潜めて、気付かれぬよう慎重に、ギーシュへと近づいた。 影の正体は巨大な土竜であった。 その土竜はギーシュの言葉に、鼻をモグモグとひくつかせている。 どうやらコレがギーシュの使い魔らしい。 僕はその姿をよく観察する。 「そうかい、そりゃよかった!」 成る程、くるくるとした目、綺麗な毛並み、可愛らしいという形容詞も、間違いではないように思う。 しかしながら、その土竜に頬ずりをするギーシュの様は、僕には非常に滑稽なものにしか見えない。 ともかく僕はギーシュに用があるので、土竜と離れるタイミングを狙って、後ろから声をかける。 「ギーシュ」 「誰だい? 僕を呼ぶの……は……」 あの決闘の日以来、ギーシュは僕の顔を見ると一目散に逃げ出すため、半径10m内に入れた試しがない。 だが、今の僕とギーシュの距離は1mもない。 ギーシュは僕の接近を許したことで、バカみたいにポカンと口を開ける。 そして状況を認識するや否や、いつも通り、脱兎の如く逃げ出した。 しかし、今回は逃がすわけには行かない。 僕はスタンドで、ギーシュの身体を一瞬にして縛り上げる。 「う、動けない!」 「そんなゲロ吐くぐらい怖がらなくても良いじゃないですか。何もしませんよ、安心してください」 「う、嘘だ。僕は騙されないぞっ!」 参ったな。ギーシュは完全におびえきった目でこちらを見ている。 少し、決闘の時にボコボコにしすぎたのかもしれない。 「だ、誰か助けっ……むがっ!」 「静かにしてください」 「むー! むー!」 騒がれてはマズイので、スタンドを猿ぐつわ代わりにして、ギーシュを黙らせる。 僕は仕方なく、ギーシュが落ち着くまで待つことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「本当に、危害を加えるつもりはないのかい?」 「ええ。そちらから何もしてこない限りは」 「わかったよ」 10分程して、ようやくギーシュは騒ぐのを止め、僕の話に耳を傾け出した。 これで、ようやく会話が出来るのか。 「それで、一体何の用なんだい?」 とはいえ、まだ少々警戒しているようだ。 ギーシュは何を考えているのか探りを入れる目で、こちらを見ている。 この状態で、いきなりお願いを切り出す訳にもいかない。 僕は無難に、先程の使い魔らしき土竜の話を切り出すことにした。 「いえ、あなたが土竜と戯れていましたので、何事かと思いまして」 「土竜? ああ、僕の使い魔のヴェルダンテの事かい?」 多少だが、ギーシュの表情が和らいだ。 この話題を切り出したのは正解かもしれない。 「ヴェルダンテというんですか。凄く可愛らしいですね」 「君もそう思うのかい!」 この後、ギーシュによる20分にも渡る使い魔自慢が繰り広げられると解っていれば、僕はこんな事を切り出そうとは思わなかっただろう。 「ヴェルダンテが…… ヴェルダンテは…… ヴェルダンテ。ああ、ヴェルダンテ、ヴェルダンテ……」 既に何回、ヴェルダンテという言葉を聞いただろうか? 学校では優等生として振る舞っていたので、形だけではあるが、人の話を聞くのはうまいと思う。 その僕が、心の底から止めてくれ、と思ったのだ。 もはや、語るには及ばないだろう。 「……というわけなのさ。どうだい、凄いだろう?」 「……ええ、本当に」 僕はよく耐えました。と続けたい所をぐっと我慢し、大きく息をつく。 まぁ、それだけ耐えたこともあって、ギーシュの僕に対する警戒心は、今は殆ど感じられない。 「ああ、済まないね、長々と話してしまったよ。っと、そういえば君はどうしてこんな所にいるんだい?」 「あちらにある、お風呂を修繕しようと思いまして」 そういって僕は広場の角の、僕と才人で制作した風呂場を指さす。 とはいっても巨大な鍋と、土で出来た竈に、申し訳程度の衝立があるだけなのだが。 ギーシュは興味深そうに、それをまじまじと眺める。 「平民も水の張ったお風呂につかるのかい?」 「いえ、コレは五右衛門風呂といいまして、僕や才人の故郷のお風呂です」 「へぇ、君たちの故郷は、その服装といい、随分変わったところなんだな」 ギーシュは特に、それ以上聞こうとせず、作ったお風呂をまじまじと見ている。 が、やがて興味を失ったのか、再び僕の方へと向き直った。 と、今度は僕の制服のポケットの辺りをじーっと見ている。 確か今、ポケットの中には石けんの香りつけに使おうと思っている、ムラサキヨモギが入っていたな。 ギーシュはいったん口元に手を当て、改めて僕のポケットを指さしていう。 「それはムラサキヨモギの葉かい? できればいくつか譲って欲しいんだが」 「これを、ですか?」 「ああ、代金は払うよ。そのポケットに入っている、半分ぐらいの量で良いんだ」 コレは思いがけない交換材料が出来た。 正直、どうやって頼もうかと思っていた所だ。 これならば僕の方からも切り出しやすい。 「お金はいりませんが、代わりにこの竈を、青銅に錬金してもらえますか?」 「それでいいのかい? なら、おやすい御用さ」 そういってギーシュは、ポケットから薔薇の造花を抜いて、短くルーンを唱える。 すると土の竈は見る見るうちに、赤銅色へと染まっていく。 ものの数秒で、竈は見事な青銅製へと変化した。 僕は改めて見るその魔法の便利さに、素直に感嘆の声をあげる。 スタンド能力には余りそういうものはないからな。 ギーシュはその声を聞いて、得意げに鼻を鳴らす。 「それでは、コレを」 「ああ、確かに貰ったよ」 僕は約束通り、右ポケットの方に入っていたムラサキヨモギの半分を、ギーシュに手渡した。 ギーシュはそれを受け取って、「これでモンモランシーとの仲直りの材料が出来た」等とつぶやいて、ご機嫌な様子で校舎の方へと戻っていった。 何に使うつもりかは知らないが、大方、香油か何かを作るつもりだろう。 それはともかく、これで竈に関しては問題ないだろう。 となれば、後はもう一つの予定である石けん造りだ。 本当であれば、先に石けんをつくってから、才人が来るのを待って竈の修繕を行うつもりだったが、ギーシュとあったことで、この分ならば、才人が来る前に終わらせられそうである。 僕は早速、調理場で貰った海草の灰と廃品の鍋、植物性の油、そしてムラサキヨモギを使って、石けん造りへと取りかかるのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1756.html
早朝、朝靄が漂う魔法学院の玄関先に私とルイズは立っていた。ただ立っているわけではない。王宮からの馬車を待っているのだ。 王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世との結婚式はゲルマニアの首府ヴィンドボナという場所で、2日後のニューイの月の1日に行われる。 その結婚式の場でルイズは巫女として『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげなければならない。 つまり、ルイズはヴィンドボナに行かなければ行かなければいけないのだ。お姫様がヴィンドボナへ行く際、一緒に行くことになっている。 そのためお姫様のいる宮殿から王宮の馬車が迎えに来るというわけだ。学院に帰ってくるのは大体1週間後だろう。 ちなみに私はルイズの使い魔ということで随伴しなければいけないらしい。 ルイズは『始祖の祈祷書』を胸に抱えながら、私はデルフを使って足元にいる猫を地面に押し付けあることを考えながら時間を潰していた。 あることというのは無論最近の生活についてだ。特に生活が苦しいところは無い。『幸福』ではないが前に比べ随分と充実している。 しかし、不満が無いわけではない。今私が大いに不満に思っていることはルイズと同じベッドで眠っているというところだ。 なぜルイズなんかと一緒に寝なくちゃいけないんだ?ルイズがキュルケのようにボンキュボンならむしろ喜んで一緒に眠るがルイズにはそういった魅力が感じられない。 ルイズは13歳か14歳ほどだろうから当然かも知れない。だが、そうなると一緒に寝ているときは邪魔なのだ。何故他人のことに配慮して眠らなくちゃいけないんだ。 一人で好きなときに好きな体勢で眠りたい。つまり自分のベッドがほしい。それが今の切実な願いだった。 剣を売った金で画材を買おうと思っていたが変更してベッドを買ったほうがいいかもしれないと本気で思っている。安物なら買えるだろう。 それと、 「ルイズ」 「なに?あ、ヨシカゲ!あんた何時までいじめてんのよ!」 「ミー!」 そう言ってルイズは猫を助けようとデルフを蹴飛ばそうとしてくる。 だが、デルフに蹴りを当てさせるわけにはいかないので、猫をいじるのを止めデルフをルイズの蹴りの場所へ移動させる。 猫はその隙をつきどこかへ走り去っていった。しかし、これでいい。猫をヴォンドボナへ連れて行く気がなかったので離れてくれて助かった。 「まったく、趣味悪いわ」 「そんなことはどうでもいい。ルイズ、トリステインに帰ってきてからでいいんだが、服を買ってくれないか?」 「服?」 「そうだ。私の服だ」 そう、服。今現在私は衣服の替えを持っていない。それはなかなか由々しきことだ。この先一張羅で生きていくわけにもいかない。 人が寝しまっている間に自分の服を洗濯したり、夜じゃあまり乾かないので生乾きで着たりと面倒くさいしな。 「そういえば、あんたそれしか服持ってなかったわね」 「ああ、さすがにもう色々と限界だ。使い魔に必要なものぐらいは買ってくれるよな?」 「ま、まあ……今までよく働いてくれたからそれぐらいしてあげてもいいわね。それと同じ服を何着か作らせればいいんでしょ」 「ああ、助かる。ついでに手袋と帽子の予備もあればもっと助かる」 よし、衣服の問題は無事解決したな。しかし、こういったことはルイズが私に賃金をくれれば起こらないんだがな。だが、自分の使い魔に金を渡す奴がいるか?いるわけがない。普通使い魔ってのは下等動物(竜やなんかは例外だ)だ。 そんな文明もない奴らに金を渡しても意味がないからな。私は人間だが、使い魔だからルイズは金をくれない。わかりやすい方程式だ。わかりやすくてむかついてくる。 幽霊でも金が要る世の中なのに金が手に入らないなんて。剣を売れば自分の自由な金が手に入るが所詮一回こっきりだしな。どうせならルイズに賃金でもくれるように交渉してみるか? 「あれ?だれかしら?」 「あ?」 交渉するべきか否かを悩んでいる所に、ルイズの声が聞こえてきた。その声に反応しルイズを見るとルイズは玄関外の朝靄を見つめている。 いや、人影を見詰めている。人影はこちらになかなかの勢いで近づいてきている。やがて朝靄が薄れ始め、人影がはっきりし始めた。 「あれは……、王宮の使者だわ」 「王宮の使者?」 王宮の使者は髪を振り乱し必死の形相でこちらへ走りよってきた。尋常と言える様子ではないことは一目瞭然だ。使者は私たちに気がつくと私たちに近寄ってきた。 「ハァハァハァハァ……き、きみたち」 「ど、どうかしたんですか?」 ルイズも使者の様子におどいた様子で少し焦っている。 「オールド・オスマンは今どちらに?と、取り急ぎ伝えねばいけないことが……」 そういえばオスマンは今何をしているのだろうか?オスマンも私たちと一緒に宮殿へ行くことになっていたはずだ。準備に手間取っているのだろうか? 「オールド・オスマンなら学院長室にいるかと」 「ありがとう。では急ぐので」 そう言うと使者は学院長室を目指し走っていった。 「ねえ、いったいなにがあったのかしら」 「さあな。少なくともいいことではなさそうだったけど」 あの使者の眼にあったのは焦りと悲しみだった。そんな感情を抱いている時点でいいことのはずがない。 「なんだか胸騒ぎがするわ。わたしも行ってみる」 「じゃあ私はここで王宮の迎えを待っておこう。迎えが来たときに誰も居なかったじゃあっちもこっちも困るからな」 というか、いくらよくないことが起ころうと、私に害が及ばない限り知ったこっちゃない。 「……わかったわよ!勝手にしなさい!」 ルイズはどこか怒ったような声を出すと使者のあとを追っていった。やれやれ、何を怒っているんだか…… まあ、そんなことはどうでもいい。迎えが来るまで暇だな。何をして時間を潰そうか……。デルフと喋るか?そうだな、そうしよう。 デルフを完全に抜きはなつ必要は無い。喋れる程度に抜けばいいんだ。そうすれば不意に見られたとしても怪しまれる心配は殆んどない……と思いたい。 さて、何を話そうか。いや、そんなの考える必要は無いな。会話の内容は重要じゃあない。真に重要なのは会話をするということなのだ。 デルフを喋れる程度に引き抜く。 「おはよう相棒」 「ああ」 「相棒ってよ。あれか?好きな子ほどいじめたいってやつか?」 は?抜いて早々何を言ってるんだこいつは? 「何で?って顔だな。だってよ。相棒はあのこねこのことが好きなんだぜ。なのにいじめてるじゃねえか。もし好きじゃねえって言うなら相棒が気づいてないだけさね。ってか、これ前にも話したような気もするけどな」 デルフ、お前はあの猫が気にっているのか?なかなか話題に出すことが多いが、まさか気に入っているのか? ちっ!私は別に好きだからいじっているわけではない!猫自体は……まあ、デルフほどではないが愛着を感じ始めていることは確かだ。 だが、勘違いするな!暇だからいじっていただけだ!それだけなんだぞ! なんてことは口が裂けてもいえない。だから私は、 「ふ~ん」 とだけ返しておいた。自分が好感を抱いている者に素直な感情を発露するには多大な勇気が必要だ。私も早くそんな勇気を身につけたいものだ。 そんなとき、不意に何かが私の足に触れた。下を見るとそこには、 「ほら、こいつも相棒のことが好きだとよ」 どこかへ去ったはずの猫が私の足に前足を乗せ私を見上げている。 「……肩、乗るか?」 「ニャー」 ……首輪を買うのもいいかもしれないな。 そんな気持ちを黙殺しようと努力しながら私は猫を抱き寄せた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9060.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十話「目覚めよルイズ」 用心棒怪獣ブラックキング 宇宙ロボット キングジョー 暗殺宇宙人ナックル星人 登場 トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えた日、トリステインに国家存亡に 関わるほどの危機が降りかかった。クロムウェルに化けたナックル星人の傀儡となった アルビオン艦隊が、ナックルの大軍団とともに攻め入ってきたのだ。侵略部隊はラ・ロシェールから タルブ村に侵入し、暴虐を振るい出した。タルブ村の人々は、怪獣と宇宙人の脅威に なす術なく逃げ惑うばかり。 それに立ち上がらないウルトラマンゼロではない。タルブ村に駆けつけた才人とルイズは、 カプセル怪獣の力を借りてシエスタたちタルブ村の人々を救出。そして才人がゼロに変身し、 ナックルの軍勢に立ち向かう。初めは数の暴力で危機に陥ったが、ちょうどその時に、 過去のハルケギニアに迷い込んで長らく機能停止状態だったジャンボットが復活。 ミラーナイトも戦列に加わって、形勢は逆転となった。 しかし、ナックル星人は余裕の態度を崩さない。大量の円盤群と、ブラックキング、キングジョーを 既に戦場に出していて、まだ何か戦力を隠しているのか? ウルティメイトフォースゼロ、頑張れ! タルブの、そしてハルケギニア全土の未来は君たちの肩に懸かっているのだ! ナックル星人の配下たちと対峙しているゼロは、ブラックキングへと狙いを定めて向き直る。 『俺はブラックキングの相手をする! ジャンボットはキングジョー、ミラーナイトは円盤を 片づけてくれ!』 『承知した!』 『お気をつけて!』 ゼロがブラックキングの方向へ駆け出していくと、残った二人は彼の指示に従う。ジャンボットが キングジョーへ向けて走っていき、ミラーナイトはその場に留まって円盤群の漂う上空を見上げた。 「グアアアアァァァァ!」 ブラックキングは向かってくるゼロへ熱線を吐き出した。ゼロは左に身体をずらして熱線をかわし、 ゼロスラッガーを投擲する。 『ぜりゃぁッ!』 空中を切り裂いて飛んでいくふた振りの宇宙ブーメラン。だがどちらも、ブラックキングの腕に弾き返された。 『ちッ。やっぱり、俺の技を研究して、俺を倒すために訓練されてやがるな』 頭にゼロスラッガーを戻して舌打ちするゼロ。ブラックキングは直接戦闘能力があまり優れていない ナックル星人の用心棒に値する怪獣であり、基本的な能力も高いが、ナックル星人によってその力を 効率良く引き出せるように調教されている。地球侵略時に駆り出された個体は、その時地球を守っていた ウルトラマンジャックの技の対策を徹底的に仕込まれたことで、ジャックの技をことごとくはねのけた。 このブラックキングの力と、もう一つのある「おぞましい武器」によってナックル星人は、 ジャックを一度は完全に破ったことがあるのだ。それほどに恐ろしい侵略者なのである。 『だが、ちょっと研究されたくらいで手も足も出なくなるようじゃ、俺はレオからぶっ飛ばされちまうぜ! でりゃあああッ!』 だがゼロは、筋力が特に強力なブラックキングに対し、あえて肉弾戦を挑みかかる! 「グアアアアァァァァ!」 ゼロのパンチを見切って防ぎ、豪腕を側頭部に叩きつけようとするブラックキング。普通なら、 凶器のような打撲が飛んでくるとなったら、避けようと考えて身を引くことだろう。 しかしゼロは反対に、自分から飛び込んでいった。前腕を差し込むことで、速度の乗っていない 腕のひと振りを食い止めることに成功する。 『はッ! だらぁッ!』 そして空いている右腕で顔面にチョップを入れてひるませ、その流れで首にも手刀を入れた。 悶絶したブラックキングの腹部に横拳が決めて、数歩たじろがせた。その後もゼロはぶつかっていくように 打撃を入れていくことで、ブラックキングを追い詰めていく。 どうしてゼロは怪力のブラックキングを恐れずに肉弾戦を挑めるのか、それについて少々説明しよう。 そもそもゼロは、宇宙警備隊の訓練生時代で既に戦闘術で優秀な成績を出す、才能あふれる戦士の卵だった。 しかしそれ故に慢心した彼は、より強い力を求めて「光の国の禁忌」に手を出そうとした。そのせいで 光の国を追放され、荒廃した大地のみの星でウルトラマンレオから延々と辛い修行を課されるようになった、 苦い過去がある。 この時の修行は、レオ相手に限りなく実戦に近い模擬戦を繰り返すというものだったが、 自分の力量に自信のあったゼロは長いことレオに一撃も入れることが出来なかった。 テクターギアという拘束具を身に着けさせられていたこともあるが、一番の理由はレオが 「小手先の技に頼っているから」だと語った。技に頼れば、心に隙が生じる。見せかけの強さに おぼれていたゼロの動きは、レオに全て読まれてしまったのだった。 そしてゼロは修行の末に、心から生まれる「本当の強さ」を学んだ。その強さが「勇気」を生み出し、 どんなに恐ろしく見える敵にも立ち向かえる力と技を与える。どれだけ訓練されようと所詮は 「小手先の技」しか扱えないブラックキングが、ゼロの「勇気」を上回ることは出来ない。何より、 タルブ村の人々の命を背負うゼロが、心で負けることなどありえない! 一方で、ジャンボットもキングジョー相手に肉弾戦を繰り広げていた。 『むぅんッ!』 ジャンボットは文字通り鉄拳をキングジョーの胸部に打ち込む。しかしキングジョーは びくともしないで、腕をわきわき動かす。 『むッ、頑丈だな。しかし、動きは全く遅いぞ!』 敵の装甲の強固さを一撃で読み取ったジャンボットだが、それでもボクサーよろしくラッシュを 繰り出すことで、どんどんと押し込む。キングジョーも猛ラッシュを受けて踏みとどまるのは難しく、 後退させられていく。 これが生物なら、鉄板に何発も拳を入れていたら、傷つくのは攻撃する側だろう。しかし ジャンボットもロボットで、エスメラルダの技術の粋で造り出された機体。頑強さなら、 キングジョーに引けをとっていない。それどころか、俊敏さでは大きく水を開けている。 攻撃速度では追いつけないキングジョーは、両目からの怪光線を発射した。インファイトを 仕掛けているジャンボットが回避することは難しい。 『ふッ!』 しかしジャンボットは、軽く首を傾けるという最小の動作で光線をかわした。光線は彼の顔 スレスレを横切っていき、地面に着弾する。 『とうッ!』 直後にジャンボットのカウンターのパンチが炸裂し、キングジョーは数歩よろめいて下がる。 ジャンボットもまた、鋼鉄の頭脳の中に確かな「勇気」を持っている。そのために、恐怖の中に 飛び込みながら戦える力があるのだ。キングジョーも恐怖を感じてはいないが、それは心がないだけのこと。 心がないキングジョーは単調な攻撃しか出来ないので、ジャンボットには勝ることが出来ないのだ。 『はぁッ!』 円盤群を相手に回すミラーナイトは、当然のように善戦をしていた。ディフェンスミラーを 大量に張ってタルブ村を覆うことで、円盤の光線を全てはね返す。光線程度しか武器を持たない 相手だったら、鏡を作ることが得意技のミラーナイトは非常に相性がいいのだ。 ここまでは、ゼロたちが優勢である。三人の奮闘に避難したタルブ村の人々も大歓声を上げている。 だが、敵もこのままやられっぱなしではいなかった。 『まずは一機!』 ミラーナイトが円盤の一機に狙いを定めて、ミラーナイフを放とうと腕を振り上げた時、 その肩に熱線が命中したのだ。 『なッ!? 今のは怪獣の攻撃……!?』 驚きを隠せないミラーナイト。何故なら、ブラックキングは今もゼロが圧倒しているからだ。 「グアアアアァァァァ!」 しかし、いつの間にか彼の近くにブラックキングが接近してきていた。つまり二体目だ。 『まだいたのか! ならばそちらを先に……』 「グアアアアァァァァ!」 攻撃目標を二体目に変更しようとした矢先に、また別方向からブラックキングが現れて咆哮を上げた。 『何!? 三体目……』 「グアアアアァァァァ!」 『い、いや、四体目だ!』 気がつけば、ミラーナイトは三体のブラックキングに囲まれていた。 「グアアアアァァァァ!」 『な、何! こっちにも!』 それで終わりではなかった。最初のブラックキングと戦っているゼロの方にももう一体出現し、 敵の加勢に回る。 その時、新たな気配を感じ取ってふと空を見上げるゼロ。その方角からは、キングジョーを 構成する四機編成の円盤が、計四隊も飛来してきたのだ。内二隊がゼロの周囲でキングジョーに合体し、 残る半分はジャンボットの方に回る。 『何ぃ!? 一気に敵の数が……五倍に!』 ブラックキング、キングジョーともに五体になったことに、ジャンボットが思わず叫んだ。 先日はゴルドンが同時に二体出現したが、これはその比ではなかった。 『クッハハハハハ! 見たか! 奴らめ、相当驚いてるぞ!』 旗艦の円盤の中で、ナックル星人が哄笑を上げた。当然、ブラックキングとキングジョーの増援は 彼の仕業である。ウルトラマンゼロに確実に復讐するために、持てる戦力を全て投入したのだ。 しかしあのブラックキングとキングジョーの軍団は、元々ゼロ対策で用意したものではない。 実は、宇宙人連合の仲間たちを、ハルケギニアを侵略してから排除するために密かに 持ち込んでいたものなのだ。侵略が達成されれば、そのままだったら領土を連合で 分割することになる。だがナックル星人はその全てを独占するために、仲間たちを出し抜く 目的で独自の戦力を確保していたのだ。 テンペラー星人とザラブ星人がいがみ合った際に、団結を説いたナックル星人。しかし裏では、 自分が裏切る気でいたのだ。この厚顔無恥な行為を平然と行う卑劣さが、ナックル星人の もう一つの「武器」なのだ。 そしてその「武器」による計略は、これで終わりではなかった。 『はッ! 数を増やせば勝てるなんて発想の貧困さには、全く呆れ返るぜ!』 ゼロは四方を取り囲むブラックキング二体、キングジョー二体に臆することなく言い放った。 そしてウルティメイトブレスレットを叩き、ストロングコロナゼロに変身する。 『こいつで勝負だ! 行くぜッ!』 超パワーを持つストロングコロナなら、ブラックキングとキングジョーのカルテットにも 力負けすることはないだろう。四方からの熱線と光線を切り抜け、正面のブラックキングに殴りかかる。 『うらぁッ!』 だがその瞬間、彼の前に『レキシントン』号から発艦したワルド率いる竜騎士隊が割り込んできた。 『うおッ!? 危ねぇッ!』 咄嗟に拳を止めるゼロ。一方で殴り潰されそうになった竜騎士隊は、感謝するどころか ゼロに魔法の攻撃と火のブレスを浴びせかけてくる。 『ちッ。こいつらもナックル星人の手下って訳か……!』 怪獣と比べたらはるかに小さい彼らの攻撃は、ゼロには蚊が刺した程度のダメージにしかならないが、 それでも本来守るべき対象から攻撃されるのは気分のいいものではない。 しかし、ゼロは彼らを叩き落としたりはしない。今は敵に回っているとはいえ、ナックル星人に 利用されているだけなのだ。そんな彼らに手を出すことは出来ない。と言っても、ブラックキングとの 間に割って入られていては後ろに攻撃を加えられない。 『仕方ねぇ。ならあっちからだ!』 身体を左側に向けると、キングジョーに片方のゼロスラッガーを投擲する。 すると、竜騎士隊の半分が左側に回り、ゼロスラッガーの射線上に入った! 『何ぃッ!?』 すぐにゼロスラッガーの軌道を曲げ、頭に戻すゼロ。同時に、竜騎士隊の行動の目的が分かった。 一度目なら偶然かもしれないが、今のは明らかに故意だ。 『こいつら、自分たちから盾になってやがる!』 ジャンボットとミラーナイトの方も、同じ状況に陥っていた。竜騎士隊が纏わりついて、 迂闊に攻勢に出ることが出来ない。円盤群の方は、艦隊が盾になっている。 『くッ! そういう策略か、ナックル星人め……ぐおッ!』 戸惑うゼロたちに隙が生じ、熱線と光線を浴びせかけられてしまった。 「か、艦長、巨人どもは本当に我らに攻撃してこないのかね? もし万が一があったら、 我々に助かる見込みはないぞ」 『レキシントン』号の後甲板では、艦隊司令長官のサー・ジョンストンがボーウッドに 青ざめた顔で問いかけた。彼は本来政治家なので、実戦に命を懸ける覚悟など持ち合わせてないのだ。 その彼に対して、ボーウッドは無表情のまま、冷たい声で返答する。 「そう我々におっしゃったのは、クロムウェル皇帝です。あなたは皇帝のお言葉が信じられないので?」 「い、いや、そんなつもりではないぞ。しかしだな、兵が怖がってはいかんだろう。兵の動きの乱れは、 艦の乱れになるだろう」 怖がっているのは自分だろう、とボーウッドは心の中で侮蔑すると、ジョンストンの言葉を 無視して兵たちに命令を下すのを続行した。 彼らがクロムウェル=ナックル星人から受けた命令は、それまでの常識では到底考えられない内容だった。 「我々に敵対する巨人たちが現れたら、身を張って怪獣と円盤の盾になれ」ということ、その一点を厳重に 命じたのだ。曰く、巨人たちはハルケギニアの人間に攻撃することはないから、命の危険は心配しなくていい、と。 確かにその通り、彼らはゼロたちから攻撃されない。しかし、万一のことがあるとは、 クロムウェルは考えなかったのか? そんなはずがないだろう。要するにボーウッドたちは、 捨て駒の肉壁にされているのだ。そのことを、クロムウェルに尻尾を振るしか能のない ジョンストンたちは気づいてもいない。ボーウッドは余計に彼らを軽蔑する。 同時に彼は、この作戦が名誉も何もない、それどころか恥知らずもいいところの卑劣極まりないもので あることも理解していた。良心につけ込み、無抵抗の相手をいたぶるなど、ゴロツキのやることだ。おまけに 自分たちを、兵士どころか人間扱いすらしていない。それを平然と提案したクロムウェルが、どんな力を 持っていようと、人の上に立つべき人間ではないことは明白だ。 しかし、ボーウッドは良くも悪くも徹底した軍人なのだ。それが分かっていながら、クロムウェルの 命令に逆らうことは選ばない。人間らしい情も、作戦への内心の批判もかなぐり捨てて、ゼロたちへの 妨害行為を続ける。 (巨人たちは、確かに強い。本当の強さがある。しかし、それでも〝個人〟に過ぎない。 彼らでも、変えられない流れがここにあるのだ) ボーウッドは心の中でつぶやいた。 その頃、トリステイン王宮では会議場が大混乱に陥っていた。アルビオンの侵略の報は すぐに王宮に届けられたが、敵が怪獣たちと行軍していると知ると、その脅威を知る皆は そろって二の足を踏んだ。ゼロたちが現れたと聞くと一時的に安堵したが、彼らの苦戦を 耳にしてまた騒然となった。 「ゲルマニアに軍の派遣を要請しましょう!」 「しかし、今からでは到底間に合いませんぞ……」 「ではどうすると言うのか! アルビオンは卑劣極まる手段で、ウルトラマンゼロたちを 追い詰めているという! このままでは彼らの敗北は必至だ!」 「では、我らで怪獣たちと戦えと? 絶対に敵いませんぞ」 「ただでさえ戦力が足りない現状です。死にに行くのと同義でしょう」 誰も彼もが怒号を上げる中、会議室の上座で、本縫いが終わったばかりのウェディングドレス姿のままの アンリエッタは呆然としていた。しかし、不意に薬指に嵌めた『風』のルビーを見つめる。 このウェールズの形見を受け取った時、自分は誓ったのではないか? 愛するウェールズが、 勇敢に死んでいったというなら、自分は……勇敢に生きてみようと。 「きっと、苦戦など今の内だけでしょう。ウルトラマンの勝利を信じましょう」 怒号の中から上がったそのひと言で、アンリエッタは遂に立ち上がった。一斉に視線が 王女へ注がれる。アンリエッタは、わななく声で言い放った。 「今の発言、恥ずかしくないのですか」 「姫殿下?」 「わたくしたちと何の関わりのないはずのゼロたちが、戦っているのですよ! それなのに国を、 民を守る貴族のあなたたちは、何もしないで言い争ってばかり! 我らは、なんのために王族を、 貴族を名乗っているのですか? このような危急の際に、彼らを守るからこそ、君臨を 許されているのではないですか?」 誰も、何も言わなくなってしまった。アンリエッタは冷ややかな声で言った。 「あなたがたは、怖いだけでしょう。反撃をくわえたとして、勝ち目は薄い。敗戦後、責任を 取らされるであろう、反撃の計画者にはなりたくないというわけですね? ならば、わたくしが 率いましょう! あなたがたは、ここで会議を続けてなさい!」 アンリエッタはそのまま会議室を飛び出ていった。マザリーニや、何人もの貴族が、 それを押しとどめようとした。 「姫殿下! お輿入れの大事なお体ですぞ!」 「ええい! 走りにくい!」 アンリエッタはドレスの裾を膝上まで引きちぎると、宮廷の中庭に出た。 「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」 近衛の魔法衛士隊が集まり、聖獣ユニコーンが繋がれた王女の馬車が引かれてきた。アンリエッタは 馬車からユニコーンを一頭外すと、ひらりとその上に跨った。 「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊を集めなさい!」 ユニコーンが走り出すと、幻獣に騎乗した魔法衛士隊が口々に叫びながら続く。 「姫殿下に続け!」 「続け! 後れをとっては家名が泣くぞ!」 次々に中庭の貴族たちは駆け出していく。その様子をぼんやりと見つめたマザリーニは、 残っている者たちへ大声で告げる。 「おのおのがた! 馬へ! 姫殿下一人を行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」 アンリエッタが王宮から発った直後に、タルブ領主の館より数十人の竜騎士隊が飛び立ち、 戦場のタルブ村へ急行した。彼らは領主アストン伯の抱える騎士隊。アンリエッタ出陣の報に 感応されたアストン伯の命で、アルビオン軍へ突撃しに来たのだ。 「皆の者、ひるむな! 我らの敵は人間のアルビオン軍! 売国奴どもに、トリステイン騎士の 勇猛さを見せつけるのだ!」 騎士隊はゼロに纏わりつくワルドの部隊へと、体当たりするように突貫する。彼らの存在に 気づいたアルビオン竜騎士の一部がそちらに回り、交戦を始める。 ぶつかり合い、魔法を散らす両部隊。その場所はゼロとブラックキング一体の間なので、 今度はブラックキングがゼロへの熱線攻撃を踏みとどまった。 『何をやっている。ゴミどもが、我がブラックキングの邪魔をするんじゃない』 この事態に、ナックル星人は苛立ちを見せる。竜騎士を退かせようかと考えるが、すぐに考え直す。 『たかだか人間が一部、いなくなっても大局に変わりはあるまい』 「グアアアアァァァァ!」 ナックル星人の命令を受けたブラックキングが、熱線を放とうとする。その射線上には、 両軍の騎士たち。 『! やめろぉーッ!』 途端にゼロは駆け出し、騎士たちの前に回って、飛んできた熱線を背中で受け止めた。 『うああああぁぁぁッ!』 ゼロの悲鳴が上がり、カラータイマーが赤く点滅し始める。一方で、彼に助けられた騎士たちは 呆然とした顔になった。特にアルビオン側の竜騎士が驚きを禁じ得なかった。 「敵の俺たちを……助けてくれたのか……?」 そこに隊長のワルドが飛来してきて、命令を飛ばす。 「何を手を止めている。早く作戦を続行しろ」 部下たちは、思わず耳を疑った。 「しかし! 彼は私たちをかばったところで……!」 反抗した騎士は、ワルドの雷を受けて火竜ごと撃ち落とされた。 「馬鹿な奴らめ。それでも兵士か? 兵士は何も考えず、言われたことをしていればよいのだッ!」 叫ぶと、ワルドはゼロへ雷を飛ばす。 「おのれ、裏切り者ワルド! 貴様には恥がないのかぁーッ!」 怒り狂ったトリステイン騎士がワルドに魔法で攻撃するが、ワルドの風竜の動きについていけず、 一人ずつ撃ち落とされていく。ワルドの顔には、笑みすら浮かんでいる。 『この、野郎がぁぁぁ……!』 利用されていることを差し引いても非道なワルドにゼロが激怒を覚えるが、それでも 攻撃することだけは出来なかった。 トリステインの騎士隊がアルビオン軍の相手をしても、アルビオン軍も強大な軍勢。その力の前には ほとんど刃向かうことが出来ず、ゼロたちの劣勢に変化はなかった。 「このままじゃ、ゼロたちが負ける……。みんな死んじゃう……!」 南の森で、ゼロたちの窮地を見ていられなくなったルイズが、ギュッと『始祖の祈祷書』を握り締めた。 何とかしたいとは思うが、ただでさえルイズには何の力もない。今もまた、無力な己を呪う。 せめて祈ることだけはしようと、ポケットの中から『水』のルビーを取り出して指に嵌めた。 装飾品として扱うにはルビーが大きいし、アンリエッタに畏れ多いので、ミラーナイトと 会話したり呼び出したりする時くらいしか嵌めないが、今はこれに祈りを捧げる。 「姫さま、ゼロを、サイトを、みんなをお守りください……」 同時に、『始祖の祈祷書』にも祈ることにした。そしてページを開くと、途端に目を丸くした。 その手の中で、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光り輝く。 「え……? 文章……?」 『始祖の祈祷書』は一切文字の書かれていない、白紙の本だった。何度も中身を見たからそれは確かだ。 しかし今は、光るページの中に古代のルーン文字で書かれた文章が書き連ねてあるのだ。ルイズは真面目に 授業を受けていたので、古代語を読むことが出来た。意味は、以下の通りだ。 序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの 系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、 かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が与えし零を 『虚無の系統』と名づけん。 「虚無の系統……!」 ルイズは唖然としながらも、思わずシエスタたちから密かに離れて、森の中で一人になった。 まさかの『虚無』の重大な手掛かりなので、迂闊に他の者に知られる訳にはいかないと判断したからだ。 続きに目を通すと、説明はもっと核心に入っていった。 これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を 取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を 消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の 読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は 『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 ルイズは何度か、自分が『虚無』の担い手ではないかと示唆された。アントラー戦では、 『青い石』の力もあったとはいえ絶大な威力の、未知の魔法を発動し、ワルドはどうしてだか 知らないが、自分に『虚無』の才能があると確信していた。 しかしまさか、こんな場所で、こんな時に、こんな方法で証明されるなんて思ってもみなかった。 こんな言葉も口から突いて出る。 「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの? この指輪がなくっちゃ『始祖の祈祷書』は 読めないんでしょ? その読み手とやらも……、注意書きの意味がないじゃないの」 同時に、可能性に気がつく。今なら、自分の手でゼロたちを助けられるのではないだろうか。 大怪獣アントラーを一撃で瀕死に追いやったあの大爆発、いやそれ以上の威力のものを、自在に発動できるのではないか。 奇跡を起こせるのではないか。 『ぐわあぁぁぁぁッ!』 ジャンボットは、三体のキングジョーに囲まれて殴り飛ばされ続けている。突き飛ばされる先に キングジョーがいて、絶え間なく痛めつけられる。 『ぐぅぅぅ……!』 ミラーナイトは、ブラックキングたちの殴打や熱線を浴び続け、息も絶え絶えになっている。 『くそぉッ! 離しやがれぇッ!』 ゼロは、両腕をブラックキングとキングジョーにひねり上げられて、身動きが取れなくなっていた。 『ハッハッハァッ! ざまぁないなぁウルトラマンゼロ! とどめは俺様が直々に刺してやろう!』 勝利を確信したナックル星人はとうとう自ら戦場に巨大化した姿で降り立ち、拳を鳴らしながら ゼロににじり寄る。 『くッ……おらぁッ!』 『げぶッ!?』 しかし接近したところで、足を振り上げたゼロの前蹴りを腹にもらって、思い切り吹っ飛んで倒れ込んだ。 『クソがッ! 往生際の悪い奴だ! そんなに苦しみながら死にたいのなら、望み通りにさせてやるッ!』 口汚く罵るナックル星人は臆病にも後ろに下がり、彼に代わってブラックキングとキングジョーが ゼロを締め上げる。 『ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 ゼロの絶叫が轟く。 ルイズは、迷いなく杖を抜くと、木々の間から見える、暴虐を尽くすゼロたちの敵を にらみつけながら掲げる。 そして、祈祷書に記されている初歩の初歩の初歩の魔法、『エクスプロージョン』の呪文を唱え始めた。 初めて口にする呪文なのに、とても滑らかに口から流れる。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ 詠唱しながら、ルイズの頭の中に自分が見てきた人々の顔が思い浮かぶ。魔法の才能がない、 と叱る両親に、姉に、先生。その度に悔しく、みじめな思いをした。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 級友たちも、自分を愚弄してばかりだった。どうして自分はみんなのように魔法を使えないのか。 何度も恨んだ。 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ しかしそれ以上に悔しく思い、自分を恨んだのは、才人とゼロ、自分を助けてくれる人たちの 危機に何もしてやれない時だ。彼らはいつも自分を置いて苦しみ、他の者たちが助ける。 自分は仲間じゃないみたいだ。何度も無力感に苛まれ、やるせない思いを募らせてきた。 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…… 長い詠唱ののち、呪文が完成した。ルイズの杖が振り下ろされる。 その瞬間、戦場の上空に、巨大な光の球があらわれた。まるで小型の太陽のような光を放つ、 その球は膨れ上がり、円盤を、戦艦を、怪獣を、戦場の者たちを包んだ。 そして、球が爆ぜた。呪文の主のルイズが目を覆うほどの光が輝いた。 光が晴れ、目を開くと、戦場の景色は一変していた。艦隊は炎上。円盤はひび割れ、ともに 地面に向かって墜落していく。 怪獣たちは、完全に動きを止めていた。キングジョーは火花を散らして気をつけの体勢になると、 後ろにまっすぐ倒れる。ブラックキングは、目の光を失って前のめりに倒れ込み、そのまま絶命した。 ルイズは理解した。アントラーを破ったあの爆発は、『虚無』の力のほんの一部でしかなかったのだ。 『な……な……な……!?』 ナックル星人はわななく声を上げながら、目を疑った。突然視界を塗り潰すような爆発が起きたかと思えば、 自分の軍隊が全滅していた。空を埋め尽くす円盤と戦艦は一隻残らず地に墜ち、アルビオンの竜騎士も一騎も 飛んでいない。キングジョーもブラックキングも斃れた。ナックル星人が無事なのは、単に離れていたから 爆発に呑まれなかっただけのことだ。 『何だ! 一体何が起こった!? 今の攻撃は何だ! こんな俺の手駒を一気に全滅させるほどの 威力の爆発など、見たことも聞いたこともない! 誰が何をしやがったんだ!』 目の前で起きたことを受け入れられず、ナックル星人はパニックになっていた。 『そして何より! その爆発に巻き込まれて、どうしてお前らだけ無事なんだぁウルトラマンゼロぉぉぉぉ!!』 ナックル星人の視界の先には、呆然と突っ立っているが、爆発による外傷を全く受けていない ストロングコロナゼロたちの姿があった。トリステインの騎士も、固まってはいるものの 何もなかったかのように宙に浮いている。 『今のは一体……まさか……』 ゼロだけは、爆発にかすかな心当たりがあった。しかしよく考える前に、ミラーナイトがこんなことを告げる。 『おや? ゼロ、あなたカラータイマーの色が戻ってますよ。どうやってエネルギーを回復したんですか?』 『え? あッ、ホントだ! 何でだ?』 ゼロの胸のカラータイマーは、さっきまで忙しなく点滅していたのに、今は青く輝いている。 だがカラータイマーはエネルギー残量と活動時間の限界を知らせるもの。自然に戻ることは ないはずなのだが……。 しかしゼロは元々思慮深い性質ではないのだ。考えても分からないことは、すぐに頭の片隅に追いやる。 『まぁ回復したのならそれでいいぜ! さぁナックル星人、覚悟はいいだろうな?』 パシン、と拳を鳴らすと、ナックル星人の方に向き直る。対するナックル星人は、戦力を 失ったことで完全に怖気づいていた。 「グアアアアァァァァ……」 だが、まだ動いているものが残っていた。最初に投入されたブラックキングだ。爆心地から 最も離れていたので、かろうじて生き延びていたのだ。しかし口からは黒い煙が立ち上り、 足取りはふらついている。どう見ても戦闘続行できる状態ではない。 『お、おぉ! 生き残りがいたか! ついているぞ! さぁ、早く俺を守れ! あいつらを倒してこい!』 それなのに、ナックル星人はいたわることすらせず、それどころかブラックキングの背後に回って 身を隠すように縮こまると、ゼロたちの方へ押し出した。完全に、自分の保身しか頭にない。 それなのに、ブラックキングは逆らおうともせずにゼロたちへ向かっていく。タルブ村を 焼き払った張本人だが、瀕死の状態で酷使される様は、憐憫すら覚える。 『ナックル星人、どこまでも救えない奴だな……!』 だからゼロは、せめてもの情けでとどめを刺してやることにした。ブラックキングに密着して 取り押さえると、高々と持ち上げて天高く投げ飛ばす。 「ゼアァッ!」 そして自分もジャンプすると、首に下から手刀を振るった。スライスハンドだ! ブラックキングの首が胴体から切り落とされ、両方とも地面に落下した。ブラックキングは 苦しむ間もなく絶命した。 『くッ、くそぉッ!』 最後のブラックキングが倒されると、ナックル星人はアルビオンの時のようになりふり構わずに 逃走しようとした。だが向けた背のすぐ後ろに着地したゼロに、がっしりと捕らえられる。 『お前みたいなのを、二度も逃がすかよ!』 『や、やめろぉー! 助けてくれぇー!』 『そいつは俺じゃなくて、お前が利用した奴らに頼んでみるんだなッ!』 どこまでも往生際の悪いナックル星人を、ゼロが許す訳がない。捕らえたまま再び跳躍し、 後ろへ投げ飛ばして頭から落下させる。必殺のウルトラ投げが決まった。 『が……が……』 まだ息のあるナックル星人だが、時間の問題だ。仰向けに倒れた彼の面前にゼロが降り立つと、 ナックル星人は震える手で指を突きつけた。 『馬鹿め! これで勝ったと思ってるのか!? この星にはヤプール人が来てるんだぞ!』 『何!? ヤプール人!!』 今際の捨て台詞だが、それを耳にした途端にゼロは、ミラーナイトとジャンボットも色めき立った。 『ど、どうせお前ら全員、ヤプールに始末されるんだ……はッ、ははははッ! はッ……!』 負け惜しみの途中で笑いが途切れ、ガクリと力を失うナックル星人。その身体が爆発し、 粉々に砕け散った。 『ヤプール……復活してやがったのか……!』 奇跡的な逆転勝利を収めたゼロたちだが、「ヤプール人」の言葉によって、その顔からは喜びが消し飛び、 険しい色だけが残った。 ナックル星人の軍勢を全て倒すと、ゼロたちは空に飛び立ってはるか彼方へ去っていった。 タルブ村の人々や、騎士たちは大歓声を上げて三人を見送った。彼らは『虚無』の爆発を、 ゼロたちの起こしたものと思っていた。 しかしそれは違うことを、才人はもちろん知っていた。南の森の中でゼロから戻った才人は、 すぐにルイズの下へ走っていく。 ルイズはその場に力なく座り込んでいた。何かあったのか、と慌てて近寄る才人。 「ルイズ、どうしたんだ! 大丈夫か!?」 と聞くと、ルイズはこちらへ顔を向けてきて、呆然とした表情で告げる。 「サイト、わたし……『虚無』の魔法に、目覚めちゃったみたい……」 その言葉に才人は一瞬驚きを見せ、すぐに納得した。やはり、先程の爆発はルイズの起こしたものだったのだ。 アントラーの時と同じ感覚がしたから、薄々勘付いていた。 「やったじゃんか。遂に魔法が使えるようになって」 喜びを分かち合おうとするが、ルイズはむしろ戸惑いを見せている。 「でも……あんまりにも突然のことで、実感がないわ。それに、これからのことを考えたら、ちょっと不安……」 『虚無の魔法』は、現代になっては完全に伝説。実在を信じていない者もいる。そんな中で、 自分が伝説の魔法を復活させたとなったら、周りを取り囲む環境がどう変わるか、予想もつかない。 未来への漠然とした不安を覚える。 しかし、それを察した才人が、気楽に言い放った。 「そんな難しく考えなくたっていいんじゃないか? なるようになるって」 「……そんな無責任な……」 呆れ返るルイズだが、すぐに思い直す。才人は、『ガンダールヴ』なんて伝説の使い魔で、 ウルトラマンとも一体化しているという状態なのに、それに変に気負わずに自然体でいる。 そういう能天気さも必要なのかもしれない、と考えた。 「サイトさーん!」 「あッ、シエスタ」 そうしていたら、自分たちを探しに来たシエスタが走ってきて、迷わず才人の胸に飛び込んだ。 才人とルイズは思わず目を剥く。 「シ、シエスタ!?」 「サイトさん、ご無事でよかったです! 私、サイトさんにたくさん聞きたいことがあるんですよ!」 「そ、それはいいけど、ちょっと、くっつきすぎじゃ……その、胸が当たって……おぉう」 シエスタが才人に抱きつく構図を見せつけられると、ルイズは途端に『爆発』使用後の 疲労感がどこかに吹き飛んで、メラメラと怒りを募らせた。その勢いで立ち上がり、 才人とシエスタに食って掛かる。 「こらー! ご主人様が疲れてるのに、あんたは何やってるのよ! そっちもとっとと離れなさいッ!」 「嫌ですー」 「んなッ!? メ、メイドの分際で生意気言うんじゃないわよ!!」 ギャアギャアわめき立てるルイズとシエスタの間に挟まれた才人の背で、鞘から少しだけ 刀身を出したデルフリンガーが、ボソッとつぶやいた。 「やれやれ。伝説の担い手だってことがはっきりわかったのに……、色恋の方が大事かね。 年頃の人間ってやつぁ、どうにもこうにも、救えねえね」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/813.html
第二話『困惑のち使い魔』 「・・・・・・信じろと言うのか?それを」 「信じるもなにも本当のことなんだから当然じゃない」 少女――ルイズが言うにはここはトリステインという国の魔法学校らしい。 連れていかれたルイズの部屋の窓からは青白い月が二つ顔を出している。それにここに来る前に他の奴らは空を飛んでいた。スタンドではない『何か』の力でだ。 にわかには信じられないが・・・どうやらマジで異世界らしい。 「信じられないっていうならわたしだってアンタが別の世界から来たなんて信じてないわよ。神父様と追いかけっこしてたら死んじゃったなんて、わけわからないもん」 そう言われてはどうしようもないがな。ちなみにプッチ神父のこととかは隠しながらの説明だ。 しかし異世界・・・か。徐倫たちはどうなっただろう。俺のDISCは届いただろうか?能力の一部とは言えプッチ神父との闘いで力になればいいが・・・ 「ちょ、ちょっと!何急にしゅんとしてんのよ!」 「・・・・・・・・・」 ここでこの小娘に喋ったところで現状は動かないのだろう。いや、動かすならば別の方法で、だ。先の話で俺がメイジという魔法使いに召喚されたのはわかった。ならばそのまた逆もしかりだろう。 「・・・おいお前」 「平民が貴族に向かって『お前』ですって?もっと敬ったものの言い方があるでしょ?あと急に顔近づけて話さないでよ!」 「俺を元の世界に戻せ」 ウェザーは華麗にスルーした。 「無理よ」 ルイズはあっさり否定した。 「なぜだ?俺を呼び出せたのだから当然帰せるだろう・・・?それをするだけでいいんだ」 ルイズは一瞬悩んだがすぐに首を振った。 「・・・やっぱり無理よ。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけだもの。帰す方法なんて知らないわ」 「知らんだけで可能性はあるのだろう?ならやってみろ」 「だから無理なのよ・・・『サモン・サーヴァント』は現在の使い魔が死なない限りできないもの」 「・・・・・・」 それを聞いたウェザーはイスにドカリと腰を下ろした。 俺は敗れて死んだ。それは事実だ。人に天気が操れないようにどうしようもない事実だ。 「だから諦めて使い魔になりなさい。わたしも諦めてるから」 「・・・・・・」 「わかったの?」 だるそうに座り、黙りっぱなしなウェザーを見て、ルイズは「ようやく観念したか」と勘違いした。本当は元来ウェザーが無口なだけであるのだがもちろんルイズはそんなことを知るはずもなかった。 「・・・俺はすでに死んだ身だ。だが生きている。どーゆーわけだかな。だから、まあ気まぐれにその・・・『使い魔』だったか?になるのも一興だ」 「本当?」 「ただし、タダじゃあ働かん。第一俺は何かに囚われるつもりは毛頭ないからな。俺はお前の使い魔になる。お前は俺に情報を与える。つまり、ギブアンドテイクの形になるな・・・」 確かに俺は死んだ。だが生きて帰れるのならばそうしたい!帰って、みんなともう一度でいいから話がしたい・・・。そのためには情報が必要で、それにはコイツとは『対等』がいいだろうと言う打算があった。 だがその考えはすぐに訂正されてしまった。 「あら、そんな心配しなくともとっくにギブアンドテイクじゃない?『あなたはわたしに使える』。『わたしはあなたに寝床と食料を与える』。これって挟み撃ちかしら?」 人差し指をたてて勝ち誇るルイズ。なるほど一理ある。だが、脇が甘いな小娘。 「お前は俺を勝手に呼び出した」 「あら、わたしはあなたの命を救ったのよ?」 そう言われてはグゥの音も出ない。まあいい。幸いここは学校らしいからな。図書館もあるし教師だっているだろう。そう言った知識の泉から金の斧を引っ張ってくればいい。 「・・・具体的に何をすれば?」 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるんだけど・・・ダメね、あなたの見てる映像が流れてこないのよね。なんでかしら?」 「さあな」 「次に秘薬とかの原料集めなんだけど・・・異世界からきたっていうなら無理よねぇ?」 「まあな・・・」 「最後にこれがメインと言ってもいいんだけど・・・使い魔は主人を守るのよ!その能力で敵から守るんだけど・・・平民じゃあねぇ・・・」 「そうだな・・・」 ルイズもこの三つは予想していたのか特に言及しなかった。なので、 「そこで護衛が出来ようが出来まいが関係のない仕事を与えてあげる」 するとルイズは部屋の隅に置いてあるカゴを指差した。そのカゴからは白い『何か』が見えている。 「青ざめたなッ!勘のいい貴様は気付いたようだな!そうだッ!洗濯物だッ!あなたには掃除洗濯と言った雑用をしてもらうッ!」 実際ウェザーは青ざめてなどいなかったのだがルイズは一人で『ハイ』になっていた。そんなに平民呼び出したのがショックだったのだろうか。 「・・・・・・わかった」 こういう手合いは相手にしてるとムキになって収拾がつかなくなるからな。 「わかったならいいわ!」 案の定話しはまとまった。 「疲れたから今日はもう寝るわ」 「俺の寝床はどこだ?」 ルイズは床を指差した。 「・・・『グリーン・ドルフィン』だってまだベッドだったぞ」 「しかたないでしょ。ベッドはひとつしかないんだから」 ルイズはそれでも毛布を一枚投げてよこした。さらにその場で服を着替えだしたのだ! 「・・・何してる?」 「寝るから着替えるのよ」 「俺がいるのにか?」 「使い魔に見られたって、なんとも思わないわ。しかも、平民」 さっきからやたらと貴族平民にこだわるな。時代的には中世か? 「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」 足下に投げられたのは下着だった。 「・・・・・・」 着替え終えたルイズはベッドに潜り、指を弾いた。ランプの灯りが落ちる。 「『魔法』か・・・」 ウェザーはそう呟くと壁を背に座り毛布を引き寄せて目をつぶった。 俺はこれからどうなる? 徐倫、アナスイ、エルメェス、エンポリオ・・・ウェザーは仲間たちのことを思い浮かべながら眠りに落ちていった。