約 938,401 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2288.html
タバサの部屋から場所を変えてシルフィードのねぐら。 さすがにタバサの部屋の窓にシルフィードが張り付きっ放しというのも目立つし なにより声が結構デカイので移動したわけだが、まだ結論は出ていない。 「で、貸すのか貸さないのかどっちだよ」 一応そう質問したが、ぶっちゃけ貸さないと言っても無理矢理借り受けるつもりでいる。 先にもあったが、ギャングが求める答えにNoは無い。『だが断る』や『絶対にノゥ!』は存在すらしていない。 かと言って、自分が出す答えにはしっかりそれがあるのだから自己中心的極まりないというところだろう。 タバサもいい加減この男がどういうタイプか分かってきているので、どう答えても同じ結果になるんだろうなと思っている。 ……思っているのだが、なんだか釈然としない。 百歩譲って韻竜という事がバレた事は置いておくとしても、隠してきた素性とかをシルフィードは勝手に喋った挙句に『おにいさま』とか呼んでるし。 考えてみれば、今までシルフィードと韻竜として言葉を交わした人間は自分しか居なかった。(緊急避難的にガーゴイルにした事は何回かあるが) 面倒だからとはいえこの事はキュルケにさえ秘密にしている。 それなのに、もう開き直りましたと言わんばかりにプロシュートに喋りまくっている。 で、挙句『おにいさま』だ。 ……これは一体どういう事だろうか?自分を『おねえさま』と呼んでいるのだから、それより年上のプロシュートもそうなるのは分かる。 だが、『おにい《さま》』というのはどういう事だ。譲れるとこ譲っても『おにいさん』だろう。 どういう理屈で戻ったのか分からないが、他人の元使い魔なのに主人の自分と同格の『さま』付けだ。 気に入らないとまではいかないまでも、どこか納得いかない部分がある。 もしかしたら、シルフィードの中でプロシュートの方が順序的に自分より上になりつつあるのかもしれない。 ……これがS.H.I.Tッ!……じゃなくて嫉妬とかいうやつだろうか。 まさかシルフィード相手にそう思うようになるとは露にも思っていなかった。 今なら当時のキュルケの気持ちも少し分かるような気がする。 上機嫌でマシンガントークを繰り出すシルフィードと、どうでもよさそうに生返事を返しているプロシュートを見たが 自分以外の、しかも契約も交わしていない人間にああも懐くというのは、なにかこう複雑な気分だ。 もし、契約の力が切れたりしたらシルフィードは変わらずに居てくれるだろうかとか色々考えさせられてしまう。 無論、そのあたりの事は表情には出さないが とりあえずプロシュートに言ってもどうにもならないのでシルフィードへ矛先を向ける事にした。 「きゅい!?お、おねえさま、なにをー!?」 無言でてけてけとタバサが近づくと両手に持った杖をシルフィードの額に何度かぶつける。 さすがにタバサの腕力で竜に大したダメージがあるはずもないが、唐突に行われた行為にシルフィードも面食らっている。 抗議も無視して杖と額がぺしぺしと小気味良い音を立てているが 叩かれる理由に気付いたのか少しばかり落ち着いたシルフィードが返してきた。 「……もしかしておねえさま、シルフィが楽しそうにおにいさまとお話してるから怒ってるの?」 シルフィードからすれば、プロシュートをそう呼んでいる事に大して意味は無い。 ただ単に、デルフリンガーが『兄貴』と呼んでいた事と、凄い力を持ってタバサの事を手伝ってくれそうな人という事でそうなっているだけである。 「別に怒ってない」 「きゅい?それじゃあなんで叩くのね?」 その疑問への答えは無い。というより、タバサにしては珍しく答えに窮しているようで少し考え込んでいたりする。 「…………」 「……………」 シルフィードとタバサの間に数秒の妙な沈黙が流れる。肝心のプロシュートはオレの方の質問に早く答えろよ。という具合なのだが。 「か、かわいい……」 と、そこに小さいシルフィードの声。心なしか声が震えているのは気のせいではないだろう。 「そんなおねえさまもかわいいのねーーー!」 その声に一拍遅れて思いっきりシルフィードが叫ぶ。 場所を変えていて正解だったというところだろうが、さすがに少し五月蝿い。大体高度3千メイル以上での発声は禁止してたのにもうどうでもいいのか。 幸い周りに人は居ないからいいようなものの、これにはさすがのタバサもシルフィードを睨み付けた。 「大丈夫!シルフィはおねえさまが一番なのね!きゅい!」 最高にハイ!というのはこの事だろうか。柴○亜○先生の絵柄なら間違いなく某ドクターT顔負けの鼻血を出しているはずである。 ぶっちゃけタバサの抗議なぞ全く意に介していない。 今にも『お持ち帰りぃ~~』と言わんばかりに悶えていたが唐突にタバサの横にその巨体を座らせると何かの呪文を唱え始めた。 『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』 聞きなれない。どちらかというと、メローネズコレクションの一つであった日本の漫画に出てくるようなやつだ。 風がシルフィードに纏わりつき、青い渦がそれを包む。 何らかの魔法だろうと思ったがプロシュートの興味は薄い。亀ですらスタンドを使うご時勢だ。 人語を解するシルフィードが魔法を使おうがそれは想定内の出来事である。 ……まぁ裸の女が現れるとまでは思っていなかったが。 そして、そのままタバサを押し倒した。 「このからだならおねえさまを潰さずにすむのね。きゅいきゅい」 そう言いながら頬ずりをしているが、傍から見ればただの変態だ。 とにかく離れさせようとタバサが小さくため息を付き、傍らに落ちていた杖を無言で掴むと横にあった頭を叩いた。 「いたい!?いたいよぅ。シルフィおねえさまに嫌われちゃったの?」 「そうじゃない」 「なら問題ないのね」 そういう事以前に離れろと言いたいのだが、タバサがそれを言うより先に別の所から突っ込みが入った。 「オメーらの漫才なんざどうでもいいんだがよ」 「きゅい?」 頭を掻きながらそう言ったが、なんかマジにどーでも良くなってきた。 もう全部纏めてブッ殺したッ!で綺麗サッパリ済ませてーな、とも思ったが耐える。 とりあえず、このクソ厄介な出来事の領収書は後で全部ルイズと才人に回す事にして一応納得しておく事にした。 そうでも思わないと多分、この先やっていけない。 「シルフィのとっておきなのに、おにいさまあまり驚いてないのね?」 「剣が口利いて、バカデカイ島が空に浮いてんだ。例えポルポの隠し財産が沸いて出ても驚きゃしねぇ」 何でもアリが前提のスタンド使いであるからには多少の事では驚きはしないのだが それ以上にブッ飛んだ世界に慣らされてしまったため、もうこの程度では驚かないようになってしまった。 なお、もう一度言うが今のシルフィードは裸である。それも召喚者とは違って出るとこは出て締まるとこは締まっている。 町を歩けば10人中9~8人は振り向くであろう事確実なのだが、どうやらそのあたりもどうでもいいらしい。 パッショーネの特攻隊とも言える暗殺チームに属していただけあって、元が竜であるしその裸ごときで動じるはずがないのだ。 というか、敵であるならこんな状態でも迷い無く攻撃する事ができるし むしろ、このクソ忙しい時にややこしい事やらかしてんじゃねーよという具合である。 まぁペッシなら話は別だし、メローネならディ・モールト!とでも叫んでそうだが。 そろそろ言葉でなく肉体言語で強制的に分からせてやろうかと思ってきたが、上の方からフクロウが飛んできてタバサの頭の上に留まった。 もうこの世界お馴染みの伝書鳩ならぬ伝書フクロウという事ぐらいは分かるので、押し倒されている状態のタバサより早く書簡を奪う。 「人形…七号?……意味が分からん」 ルイズん家である程度文字が読めるようになったが、人形七号と書かれていてもなんのこっちゃと理解できるもんではない。 そうしていると、物凄く嫌そうな声でシルフィードがその疑問に答えてきた。 「あの憎たらしい従妹姫がおねえさまを人形って呼んでて、七号というのは北花壇警騎士団の番号なの」 やけに『憎たらしい』を強調してきたので、基本的に人懐っこい方のこの韻竜にしては珍しくマジに従妹姫というのが嫌いなのだろう。 「花壇?汚れ仕事専門のチームにんな名前付けるたぁ随分と悪い趣味してんな」 「きゅい…チームじゃなくて騎士団なのね」 騎士団だろうとチームだろうと、あまり変わりはないので訂正する気にもなれないが、やはり貴族の感性というのは理解しがたいもんがある。 オレらなんざ護衛チームとか暗殺チームとかそのまんまだぞ?どういうこった北花壇ってのは。 そう思ったが言うと余計ややこしくなりそうなので口には出さない。 「で、結局のところ、こいつはどういう意味だ」 「う~……つまり、今頃あの小娘が『あの人形娘はまだなの?』とか言いながら召使をイジメてる頃だから……」 「早い話、任務ってわけか」 きゅい、と言いながら頷くシルフィードを見たが思わず溜息が出た。 ったく…次から次へとメンドクセーことばっか起こりやがる。 そう思ったものの、タバサ本人や家族の命にも関わる事なので本人がそれを無視する事はできない事ぐらい分かる。 かと言って、このまま何も行動しないというのも非生産的である。 「他にアテもねーし、ただ待つってのも性に合わねぇ。オレも行くぜ。第一そっちのが早く済むからな……」 「お金が無い」 「おねえさまはいつも新しい本を買い込むからそうなるのね。そんなのだからシルフィのご飯もままならないの」 そんなタバサとシルフィードのシビアな現実問題を聞いて顔を下に向けてプロシュートが少し笑った。 こいつマジにオレ達と同じか。と、思えてきたからだ。 何故なら暗殺チームも金が無かった! 収入源はシマを持たずボスからの仕事内容に見合わないような報酬のみで基本的にリゾットが必死にやり繰りしている状態だった。 組織に反感を抱いた原因の一つであるだけに、余計そう思える。 「ま……試用期間ってやつだ。金は気にしなくていいぜ」 「ガリア?なんでまた急に」 学園に戻ってオスマンを蹴り倒しているフーケにガリアに向かう事を告げたが、まぁ当然の反応というやつだろう。 「理由が必要か?」 「当たり前じゃないか」 適当な理由をでっち上げてもよかったが、タバサの任務付いてった時点で何かしらバレるし、何よりそこまで考えるのも面倒だ。 「そいつは元王族で知り合い連中に汚れ仕事でコキ使われてる。ついでに言うならこいつの使い魔も韻竜ってやつだ」 プロシュートがそう言った瞬間ゴフォ!と飲んでいた水タバサが盛大にむせた。 そりゃあ、あれだけ人が必死になって守っていた秘密をあっさりとバラされたのだから無理も無い。しかもよりにもよってフーケに。 「こいつも付き合わせるつもりだからな……。どうせバレるもんはバレる。なら先に言っといた方が余計な所でボロ出さなくていいだろうが」 さすがに文句を言おうとしたタバサもこれにはぐうの音も出ない。正論と言えば正論である。 フーケを置いていけばいいのだが、どうやら逃走防止のために連れて行くようでガッシリと肩を掴んでいる。 「いい加減、それ止めて……そんなに信用されてないのかね……?」 「オメーの実力は信用してやるが、まだ逃げないと思ってるわけじゃあねぇしな。 最初にオレら全員殺す気だったくせになに贅沢言ってやがる。なんならムショにでも入って待つか?ある意味一番安全な場所だぜ?」 「遠慮するよ……」 ブフゥ~~~というやたら暑苦しい息が聞こえてきたので全力で拒否したが、本気で疲れてきた。 「……他には誰にも言わないで」 しばらく思案してタバサがそう告げたが、それでも不安だ。先もあったようにフーケと言えば盗賊でそうそう信用できる相手ではない。 その様子に気付いたのか、これ以上無いぐらい簡単に、そして最大級に抑止力を持つ言葉でプロシュートが言い放った。 「気にすんな。万が一洩らしたりすりゃあどうなるかは……こいつが一番よく知ってるからよ」 ――畜生……知りたくなかった!聞かなきゃよかった!! 少し強められた手の力とその言葉に本気でそう後悔したが、もう遅い。 知りすぎると大概ロクな事が無いというのは世界を問わず共通の事象である。 これで人が居る場所でおちおち酒も飲めなくなってしまった。酔った拍子でこの事を喋ってこの物騒なヤツに狙われるなど洒落にもならない。 もうすっかりヤムチャと化した盗賊を放っておくと、キュルケがこちらに近付いてきた。 「よぉ。さっきの続きでもしにきたか?フーケならそこで腑抜けてるがさっきみてーな目に合いたくなけりゃあ別の場所でやれよ」 そう言うと、キュルケが笑いながら両手を広げる。 「冗談。それだけはもう二度と御免被るわ。先生から預かった物があるの。それを渡しにきたわ」 放り投げられた革袋を受け取ったが、感触で中身を理解した。 「何だ、この金は?」 一応中身を見たが、それなりの額が入っている。 今まで独身で研究以外の趣味のなさそうなコルベールなら出せてもおかしくは無い額だったが 理由も無しに金だけ渡されても乞食扱いされてるようで何か知らんがムカつく。 「それともう一つ、言付けがあって『アルビオンに渡るならミス・ヴァリエールとサイト君の事をよろしく頼む』だって」 「依頼って事か?こいつは。それより何であのハゲ、オレがアルビオン行くって事知って……オメーか」 現在、目標がアルビオンにある事を知っているのはオスマン、タバサ、フーケ、キュルケの四人。 となると、後は消去法でオスマンかキュルケしかいなくなり、さっきまでコルベールに付き添っていたキュルケが情報を漏らした事になる。 別に機密情報というわけではないのでどうこうする気もないが、さてどうしたもんかと少し考える。 この件に関しては、元々カトレアからも結構金貰って頼まれているからだ。 無論、余裕があれば、との条件付きだが元プロとして依頼の二重受領というのもどうかと思わないでもない。 まぁだが、金はいくらあっても困るもんではないし、くれるというのなら貰っといた方がいい。 「先にくたばってたりしてたら責任取らねーし、金も返さないがな。で、そっちはどうすんだよ。ここで匿うつもりか?」 「さすがにそれは限界があるだろうから、あたしの実家で匿う事にするわ。『自分達を庇ってくれた先生を手厚く葬るため』っていう口実もあるしね」 「で、その先生を殺ったオレは速やかに逃走を実行した方がいいってわけか?」 少量の皮肉と冗談で割った言葉だったが、どうやら本気に捉えられたようで珍しくすまなさそうにしている。 「ったく……たまに言うとこれだ。オレがそんな事気にするようなタマなわけねーだろうが」 普段、一般人が聞いたら冗談に思えるような事でも本気でやろうとしているのだから 急にそういう事を言われてもそう受け取れるはずがないという事を全く理解していないから余計性質が悪い。 ようやく何時もの調子を取り戻したのか目を細めて笑うと、少しタバサと二人にして欲しいと言ってきた。 それに関しては邪魔する気もないので、そうさせてやろうと、場を離れる事にした。 ……フーケをスタンドで無理矢理引っ張りながら。 「丁度いい機会だ。オメーにも『ギャングの世界』ってのを教えてやる。ありがたく拝聴しろよ」 「わたしは盗賊だって!なんなのさギャングって!!」 「似たようなもんだろーが。まずはおさらいだ。LESSON1『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」 「LESSON1からそれ!?」 そうしてキュルケとタバサの話が終わる頃にはギャング的教育LESSON4まで進み少しばかりやつれたフーケが地面に倒れ伏せていた。 ガリアの首都リュティス。 トリステインの国境から千リーグ程離れているがシルフィードならそう時間は掛からない。 と言っても、色々あったので到着は夕方ぐらいになってしまったのだが。 ハルケギニア最大の都市で人口三十万と言われてもプロシュートにはあまりピンとこない。 まぁネアポリスやヴェネツィアと比べればこの世界のあらゆる都市はド田舎という扱いなのだから仕方ない事だ。 無論、プロシュートとフーケは城に入るわけにもいかないので、ヴェルサルテイル宮殿近くの郊外の森で待機している。 ただ待っているのも暇なのでLESSONを再開しようとしたが これ以上やるとイルーゾォみたいに鏡の中にでも引き篭もりそうだったのでガリア関係の情報を引き出す事で手打ちにする事にした。 「ガーゴイル?オメーのゴーレムとどう違うんだよ」 「ゴーレムが命令をしなけりゃ動かなかったりしないのに対して、ガーゴイルは自分の意思で判断して動けるって事だね」 「自動遠隔操作型スタンド。ベイビィ・フェイスの息子みてーなもんか」 魔法で擬似生命を与えられた自立式の魔法人形。スタンド能力で擬似生命与えられた遠隔パワー型のベイビィ・フェイスと共通点はある。 厄介なのが、これも精度が高いと生物の見分けが付かないらしい。 老化が効かないのがこれまた厄介で、やはり息子を思い出させてくれる。 そうこうしていると上の方から翼の音が聞こえてきた。 シルフィードが小声でぶちぶちと文句を垂れているあたりどうやらロクな任務じゃなさそうだ。 「わざわざ呼び出しまで食らって受けた任務ってのは何だよ?暗殺か?」 「……いきなり暗殺ってあんた一体何やってたのさ」 任務=暗殺とかフーケですら考えはしない。相当ヤバい事に足突っ込んでた証拠だ。 「聞きたいのか?ま…別に隠すような事でもないんだがな」 「いーーや、聞きたくない。どうせロクでもない事やってたんだろ?」 「人の事言えねーだろ。専門はあ」 「それ以上言うなァーーーーーッ!」 大声を出してプロシュートの言葉を遮ったが、素面で暗殺が仕事だったとか聞いたらただでさえそうなのに胃に穴が開きそうだ。 「ルセーな…そんなたいした事ァねーだろうがよ……で、任務ってのは?」 色んな意味で限界突破しそうなフーケを放置して任務内容を確認するためにそう聞いたが返ってきたのは実に意外な答えだった。 「タマゴ」 「……あ?」 タマゴってのはアレか。あの卵か。割ると白身と黄身が出てくるどこにでもあるあの卵か。 プロシュートのそんな様子に気付いたシルフィードがさらに付け加えてきた。 「おねえさま、タマゴだけじゃ分からないのね。あの最悪姫は極楽鳥のタマゴを取って来いって言ったのね」 まぁこのブッ飛んだ世界の事だからただの卵ってわけでもないだろ。極楽鳥ってからには万病に効くとかいう効果があるのかもしれねぇ。 と一応の納得はしておいたが、ある事に気付いたフーケが口を挟んできた。 「……確か極楽鳥のタマゴって今の季節は旬の時期から外れてるはずだけど」 フーケの言葉の中にやたらくだらない内容の言葉があったような気がしたが、聞き間違いかと思って一応聞き返す。 「オメー今、旬とか言ったか?言ったよな?言ったな?どういうこった?ええ?」 「え?ああ、極楽鳥ってのは一年に二度タマゴを生むのさ。 幻の極楽鳥のタマゴって言われてて、その味のせいでかねりの値がする代物だよ。一度貴族から盗んだ事があるけど味は知らないね。売ったから」 このアマ今、味とか言いやがったか。つまり今回のタバサの任務の理由ってのは……。 「美食」 「『たかがわたしの美食のため』とか言っておねえさまを火竜の住処に行かそうなんて意地悪姫にも程があるのね!きゅい!」 そうタバサとシルフィードが言った瞬間何か知らないが、やたら小気味良い何かが切れたような音が聞こえたような気がした。 特に気にしないでいると突然フーケが襟元を引っ張られる。 「な、何するのさ!?」 そんな抗議も無視してずーるずると引き摺るように引っ張っていく。 何事かと思い無言で一定の方向を見ながら進んでいくプロシュートの視線の先の物を見たが……見た瞬間冷や汗が思いっきり流れ出た。 進行方向にはヴェルサルテイル宮殿があったからだッ! 「お前何をやろうとしているんだァーーープロシュート!行き先はともかく理由を言えーーーーーーッ!」 「命令出すやつが死ねばこんなくだらねー任務も消えるって事だよな?おい」 そう言い放ち無駄に靴音を鳴らしながら進んでいくプロシュートを見て思考が一層最悪な方向に向かっていく事を感じたが それでもまだ、まさか……?という思いだけは捨てたくはない。 「ストーーーーーップ!冗談よね?冗談って言って!」 「卵だぁ?そんなに食いてーなら極楽に送って死ぬほど食わせてやる」 引き摺られながらも必死に抵抗するが、地力の違いがある上にスタンドでも掴まれているため地面に後を残しながら引っ張られていく。 なんかもう、プロシュートの全身が黒い影のように見えるのはテンパりすぎての幻覚かなにかだろう。 「はーーーなーーーせーーー!大体あんた一人で十分だろ!わたしを巻・き・込・む・な!」 射程半径が200メイルもあるんだから仕掛けるにしても一人で十分だろ。 という事から出た必死の抗議だったが、無常にも次の一言で見事に撃破された。 「ガーゴイルっつーんだったか?その始末をオメーに期待してんだよ」 (こいつ本気かァーーーーッ!確実にわたしを巻き込んで正面からガリアと戦争おっ始めるつもりだッ!!) ――もう止めて!姉さんの胃のライフはゼロよ! ゼロどころか、もうスデにマイナスに突入しているだろ、という突っ込みは置いといて そんなお馴染みの幻聴まで聞こえてきたが、本人は今頃胸を揺らしながら家事に勤しんでいる事だろう。 確かに、こいつの能力ならメイジでも百人単位で相手できるだろうが、氷という致命的な対応策がある。 もしそれがバレでもしたら相当厄介だ。ガーゴイルとかもいるし。 捕まりでもしたら遠島どころじゃ済まない。死刑で済めばまだいい方だろう。 最悪考えられるありとあらゆる拷問を受けて晒し者という事も十二分にありえる事だ。 逃げられたとしても追われる事になる。その事に関しては今でもそうだけどハッキリ言ってレベルが違う。 並みのメイジの2~3人ならどうにでも始末できるが、国に喧嘩売った相手に並みのメイジが追っ手になるはずがない。 この国自慢の花壇騎士団総出で掛かられてはどうにもならないのだ。 いや、こいつはいいよ。杖なんかなくても能力が使えて自分の年齢をも自由に変えられる上に射程も長いから追っ手なんかどうにでもなる。 つまり貧乏くじを引くのは自分一人であまりにリスクが高い。 かと言って、逃げるという選択肢も無い。恐らく、逃げようとしたりしたら即老化を叩き込まれる。 宮殿が射程内に納まってしまえば確実にアウトだ。間違いなく自分も共犯に見られるハメになる。 唯一の望みはバレないように暗殺してくれる事だが、この男の性格的にも能力的にそんな事するはずがない。 Q.ある集団の中に紛れて暗殺対象が居ます。どうやって対象を始末しますか? という問題があれば間違いなく A.全員始末する。 と答えるようなヤツである。きっと……いや、絶対能力全開で正面から堂々と乗り込むに違いない。 一歩、また一歩と宮殿に近付く毎に絶望感がフーケを襲っていくが唐突に歩みが止まった。 「ダメ」 と、タバサが首を横に振りながらそう言ったからだ。 「何だ?この際、オメーの仇ってのも含めて纏めて始末してやるんだがよ」 最初から広域老化を叩き込む。本来のグレイトフル・デッドの大前提だ。 広範囲で巻き込むなら、ついでに始末してやれば丁度いいという具合である。 「わたしが欲しいのは、伯父の首一つ。他はいらない」 そう小さく呟いたタバサを見て、こいつはオレ達とは違うわ。と前に思った事を撤回した。 暗殺チームなら、目的のためなら必要があれば一般人だろうと遠慮なく巻き込む。 無論、進んで攻撃したりはしないが当時はそれだけ必死だった。 「それに、本当なら自分一人の手で仇を討ちたい」 続けてそう言ってきたが声こそ小さいが強い意志を持っている。是非ともペッシに聞かせてやりたい言葉だ。 「つまり、この仕事やってんのは自分を鍛えるためってか?」 その言葉に頷いたタバサを見て、今度は逆に呆れてきた。 過酷な環境の任務をこなしていけば自然と地力も上がり鍛えられる。 一見良い事のようにも思えるが、実際自分達自身がそうだっただけに死ぬ確率の方が遥かに高い事ぐらいは承知している。 それを、このちんちくりんの小娘は昔から当然のようにやっているわけだ。 「ったく……オレの負けだ。依頼の条件って事にしといてやる」 そう言いながらフーケから手を離しかき上げるようにして額の右半分に手をやる。 足元でフーケが小さく『助かった……』と呟きながら荒い呼吸をしているのは気のせいではないだろう。 だが、見た目十二~三のガキに言い負かされっぱなしではない。 タバサに近付くと、その頭を勢いよく叩く。 それと同時にパァンと良い音がし、タバサの頭がぐらぐらと揺れている。 「一人で殺れると思うだけなら、オレらだってとっくにボスを殺れてんだよ。 大体、ボスを相手にする以前に……ブチャラティどもに負けちまったからな」 直接敗れたことを知っているのはホルマジオとイルーゾォだけだが 性格や能力、なにより数の少なさから見て他の連中も一人でブチャラティどもを相手にしたはずだ。 甘く見ていたわけではないが、暗殺チームに属するだけあって単独行動向けのスタンドが殆どだったというのが最大の理由か。 過程として他の連中も誰かと組んで仕掛ければ結果は変わっていたかもしれない。 例えば、イルーゾォが鏡の中へ引きずり込み、無防備な相手を対スタンド戦闘能力の低いリトル・フィートで攻撃し尋問なり始末なりをする。 または、ベイビィ・フェイスの息子やギアッチョが攻撃を仕掛け、敵が気を取られている隙にリゾットがメタリカで確実に始末をする。 と、組み合わせ次第で戦闘力は何倍にもなる。 もっとも、過去の事をどう考えようとも仕方の無い事だが、これから先の教訓としては覚えておいて損は無い。 特に、これから同じような事をやろうとしているタバサにとっては。 「おにいさまの言うとおりなのね。この前だって、おねえさまの味方してくれる人が現れたのに無視して追い返したし」 「オメーみたいなガキが肩肘張りすぎなんだよ。ちったぁ力抜いた方が身のためだ。くだらねー事はこういうヤツに押しつけりゃいいんだよ」 「今、少しでも良い事言ったなって思った事を全力で撤回させてもらうよ」 こういうヤツと言って指差したのは、もちろん今現在、地面に蹲っているフーケの事だ。 あくまで自分はくだらない事に関わりたくないというあたり相変わらずベリッシモ自己中である。 「……覚えておく」 その相変わらずの無表情で返してきた答えに、どこまで分かってるんだかな。と半信半疑だったが、まぁ今はこれでいい。 とにかくそういう事なら、このくだらねー任務をさっさと済ませてこっちの仕事を片付けねばならない。 かったるそうにシルフィードに乗り込むと、とりあえず当面は火竜を何秒ぐらいで老死させられるかを考える事に決めた。 臨時北花壇騎士御一行――地獄の(何にとっての地獄かは知らないが)火竜山脈ツアーに出発。 イザベラ――危うい所で老死を回避。ただし本人は何も知らない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/lostinsaburo/pages/2.html
メニュー トップページ 第一章実験編 第二章車校編 第三章オフパコ編 第四章宙・中国人編 第五章ミス研編 第六章コンピ研編 最終章ゼロのサブロー プラグイン紹介 まとめサイト作成支援ツール メニュー メニュー2 リンク @wiki @wikiご利用ガイド 他のサービス 無料ホームページ作成 無料ブログ作成 2ch型掲示板レンタル 無料掲示板レンタル お絵かきレンタル 無料ソーシャルプロフ ここを編集
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1648.html
実家で過ごすこと数日。 ファンシーな雰囲気に慣れつつある自分に少しばかり辟易していたが、なんとかやっていた。 だが、スタンド使いとスタンド使いが惹かれあうように、同じ法則が発動した…! 遂にこの二人が接触…ッ!ドSとドSッ!兄貴と姉貴!性別が同じなら間違いなく同じタイプッ! プロシュート兄貴とエレノオール姉様の邂逅だァーーーーーッ!! とまぁスタンド使いと遭遇したような感じだったが、別に何も起こっちゃいない。 エレノオールはプロシュートを新しく増えた使用人という認識だったし プロシュートも、『ああ、こいつなら確実にルイズの姉だ』としか思っていないわけで。 もっとも、ますますカトレアの事を異常だと思うようになっていたが。 現在のヴァリエール家においてただ一人、明らかにカトレアだけ性格が違う。 突然変異、隔世遺伝、親が違うなど考えが浮かび、この時ばかりはマジにベイビィ・フェイスが欲しいと思っていた。 ちなみに、ルイズママンことラ・ヴァリエール公爵夫人と遭遇した時は 抜けきっていない暗殺者オーラと夫人が発する迫力がカチ合ってもんの凄い事になりかけた。 「新しい使用人ね。平民がヴァリエール公爵家で働ける事を光栄に思いなさい」 ママンがこう言った瞬間、ほんの一瞬だが元暗殺者と元衛士隊隊長のガンの付け合いが発生した。 ハッキリ言えば非常に気に入らない。人を傅かせて当然という雰囲気は、この元暗殺者にとって当然反発材料に成り得る。 今にもグレイトフル・デッドを叩き込むのが早いか杖を抜くのが早いかという感じだったが、片方は情報収集が目的のためすぐに収まった。 「光栄に存じます」 ほとんど何の感情も篭っていない返事だったが、その場はそれでどうにかなったのだが、それをカトレアに見られていたようだ。 机を挟んで対面に向かい合い、脚の上に小動物を乗せている状態で、その事を聞かれた。 「母様と真正面から向き合って威圧されない人なんて初めて見たわ。なんだか根っこの部分がハルケギニアの人間とは違うような気がするの。どうかしら?」 この天然っぽいカトレアにそれを見抜かれた事に驚いた。 確かに、大貴族と暗殺者と言えばそりゃもう別の種族みたいなもんだが、それはあの一瞬しか見せていないはずである。 その一瞬を見破った眼力の鋭さはリゾット並みとも言ってもいい。 別世界の人間かどうかは知っているのかどうか分からないが、もうどうでもいい事だ。 今のところ戻ろうと思っても居ないし、戻る必要も無いからだ。 仲間は全て死に、報復すべき相手のディアボロも既に死んでパッショーネはジョルノが乗っ取っている。 仲間を斃したのはブチャラティを初めとしたヤツらだが、それはこちらから仕掛けたからであって、それを逆恨みにする程腐ってはいない。 家族も居ると言えば居るが、そんなものギャングになった時に捨てたようなものだ。 そう思っているとペコリと頭を下げられた。 「でも、そんな事はどうでもいいの。あのわがままなルイズを助けてくださってありがとうございます」 「…あいつには先にオレが命を助けられたからな」 『恩には恩を、仇には仇を』に従っただけなので、特に助けたと思っているわけではないのだが。 それでもカトレアからしたら、妹を助けてくれた事は感謝してもしきれないという事だろう。 普通なら、疑ってもよさそうなもんだが、アルビオンで戦死したウェールズが持っているはずの風のルビーと本人の性格で疑っていないようだ。 好感は持てるタイプだが、少々人に利用されやすいタイプかもしれない。 そんなタイプだからこそ、もう少し掘り下げて話す事にした。 「あいつは、他のヤツらが思ってる程、柔でもねぇし、無能ってわけでもない」 実際、猿のスタンド使いとやりあった時、ルイズが居なければ確実に詰んでいたはずだ。 ただ、性格的に難があるため、苦笑しながら次の言葉を吐いた。 「ま…オレらに言わせりゃ、まだまだなんだがな」 そして翌日。 トリステイン首都トリスタニアにプロシュートが居た。 カトレアが飼う動物用の品を買いに着ているのだが、まぁそっちはついでで、本当の目的は情報収集だ。 噂話といっても結構馬鹿にできないものがある。金剛玉石だが、本来そういった情報を選別するというのも組織で生き残るためには必要な事だ。 もっとも、大抵メローネに押し付けていたが。 「暑ぃな…」 夏も近いという事で、それなりの気温だ。ここで広域老化を発動させれば半径200メートルの人間は全滅とまではいかないだろうが、かなり効果が出るはずだ。 当人は、念のために髪を下ろし自身を老化させ品目を集めながら、情報を集めている。 さすがにスーツは着ていない。元ギャングといえど人間である。常時スーツというわけではないのだ。暑いものは暑い。 湿度はそう高くないので、不快指数は高くなく、むしろ爽やかさすら感じるのが幸いか。 「やっぱ使えそうな情報ってのは中々手に入らねぇな…」 手に入った情報は、『タルブで敵艦隊を打ち破ったのは伝説の不死鳥フェニックス』というのが殆どだ。 それでアンリエッタが『聖女』と呼ばれている事も知ったのだが、そのフェニックスを操っていた当人は苦笑いするしか無い。 「フェニックスな…確かに、スタンドでも出せないような威力だったが…そうなると、侵攻があるとなるとやはりルイズが巻き込まれる公算が高いな」 スタンド故にストレングスの撃破には至らなかったが、十二分に驚異的な威力である。 アンリエッタはどう思っているか知らないが、少なくとも協力は要請されるだろう。そして何の疑いも無くそれに応じるのがルイズだという事をよく知っている。 「言えた立場じゃあねーが、損な性格してやがんな。あいつも」 そうなった場合、どうすべきかという事も考えねばならない。放っておくというのは後味が悪い。世話になった相手だし、それなりに信用もしている。 だからと言って、馬鹿正直に名乗り出て、使い潰される気は無い。ルイズにその気が無くてもだ。 「…あるか無いかって事を考えても仕方ねぇな」 とりあえず、今すぐにどうこうというわけではないのだ。そう思いそれに関しての思考を打ち切る。 日が沈んだ頃までに集まった情報は他にも2~3あったのだが、どれも使えそうに無い。 『ウェールズが生きていて、アルビオンを取り戻すため地下に潜伏している』という噂まであった。 プロシュート自身はその噂話は、即使えないと判断し切り捨てていた。何せ本人が倒れているのを確認した上で、老化しなかったのを知っているからだ。 「仕方ねぇ…もう少ししたら戻るか」 そう判断し、通りを歩くが、店先に飾られているある物に気付いた。 「…用途が同じなら似るもんだな」 海兵御用達の水兵服である。映画などで見た物と殆ど変わり無い。 「御目が高い。こいつはかなり丈夫ですぜ」 戦闘職用に作られた物であるからには、そうなのだろうと思ったが、特に必要な物ではない。 店主に勧められたが、断りつつ店を離れた。 後に黒髪の少年が凄まじく興奮しつつ、それを買っていった事は別の話である。 夜中頃に、灯が燈され大通りから少し外れたところで人にぶつかった。 「ちっ!」 衝撃で手に持った品を落す。割れ物も結構入っているのだ。 だが、地面にそれが落ちる前にグレイトフル・デッドの腕でそれを受ける。 「危ねーな…割れてたらどうすんだ?おい」 ぶつかっただけなら、特にどうこう言う気は無かったが、完全素通りで通り過ぎようとしている事にムカついた。 相手の肩を掴むが、瞬間背筋に寒いものが奔った。 (なんだ…!?こいつ…!!) 思わず手を離す。殺気でも敵意があるわけでもない。ただヤバイと体が反応した。 「…ああ、すまないね、急いでいるんだ。おや、君とは…どこかで会ったかな?」 フードを被っていたが、振り向いた時にそこから覗く顔を見て、心底ぶっ飛んだ。 (バカな…!あの時、『老化しなかった』んだぞ…!どういうワケだよ!) さっき完全に切り捨て予想だにしていなかっただけに動けない。 そうこうしていると、そいつは人通りも少なくなった王宮へと続く道を歩いていく。 そこでようやく我に返った。 「生きてやがっただと…?ありえねぇ…仮に仮死状態で老化が効かなかったとしても、あの状況で生き残れる可能性は無ねぇ…!」 そいつは完全に死んだと思っていたウェールズだった。 だが、事実だ。現にああして動いている。 人違いという事も考えたが、すぐにそれは無いと判断する。 ターゲットの顔を常に覚えねばならない暗殺者だけあって、一度覚えた顔はそうそう忘れるものではないし、声で本人と確信した。 生きていたというのはいい。こちらに気付かなかったのも髪型を変え自身を老化させているからだ。 だが、肩を掴んだ時に感じた、あの寒気だけは納得できない。 繋いでいる馬の所に戻ると、その側に居る大きなフクロウに向き直る。 「トゥルーカス…だったか?オメーは先に戻って伝えろ。『知り合いに会ったから、ケリ付けてくる』ってな」 「…かしこまりました」 そのフクロウがそう喋り飛び立つ。夜の案内にとカトレアから預けられたヤツだが、この場合伝令に使うのが一番だろう。 そうすると、後を追うようにして自身も城の方向に向かう。 万一、バレるかもしれないと思ったが、あの寒気が妙に気になった。 そういう時プロシュートが取るべき行動は実にシンプル。納得できないなら、納得できるように行動する。それだけの事だ。 夜と言ってもさすがに王宮だけの事はあり、警備は並大抵のものではない。 こういった場所に難なく入れるのはホルマジオ、イルーゾォ、リゾットぐらいのものだ。 プロシュートも老化による変装はできるが、完全警備の場所に入れるものではない。 「さて…どうすっか」 正面からとも考えたが、直ぐに打ち消す。 そんな事をすればウェールズを捜す以前の問題だ。どう考えても賊扱い確定だろう。 城に行ったという確証は無かったが、勘がそこへ向かったと教えている。 勘と言っても、前後の状況を確認した上での勘だ。 本人であれ偽者であれ、戦死したはずの皇太子の姿をしているのだ。 何をやらかすつもりか分からないが、向かった方角も考慮に入れると、十中八九で城のはずだ。 そして、列車の時もそうだったが、その勘に従って行動した時は大抵間違いは無い。 ただあの時と違うのは、今回は動かない城という事だ。 「仕方ねぇ…何かあるとしても、待つしかないな」 性に合わないが、この際贅沢は言ってられない。現状はそれしか選択肢は存在しないのだ。 「待つってのはホルマジオかイルーゾォの仕事なんだが…な」 もう会う事の無いかつての仲間の名を呟き、闇に身を任せる。まだ何かが起こる気配は…無い。 30分程待つと、城の中で何かがあったと感じた。 大きな騒ぎがあったわけではないが、衛兵達の動きが慌しくなってきている。 「何かあったな…入るなら今か!」 慌しくなった分、警備に隙が生まれる。 ガンダールヴでなくなったとはいえ、この前までプロの暗殺者だったのだ。 リゾット程ではないが、気配をある程度消す術も心得ている。 「あいつに気配消されるとマジで分かんねーからな…ペッシが泣いてたぞ」 メタリカを使わなくても時々見失う事がある。特に夜なんぞにやられると洒落にならない。 それで、いつの間にか後ろに立っていたリゾットにペッシがマジでビビって泣いた事が一度あった。 当然、ブン殴り説教かましたが、頭を押さえながらリゾットにも『頼むから仲間内の間で気配を消すな』と言ったのだが あまり変わらなかったのであれは最早意識してやっているのではないだろう。 それが、リゾットの暗殺者としての能力に異論を挟む者がチーム外にも一人たりとも居なかった理由の一つだ。 「オレがやられても、リゾットは生き残ると思ってたんだがな…」 プロシュートは知らない。リゾットが、後少しの所までドッピオを追いつめ、エアロ・スミスの邪魔さえなければディアボロを倒していたという事を。 隙を突き、城の中に手早く潜入すると、自分と姿形が似ている衛兵を見つけた。 「…ん…なんだ…なにをするきさ…」 叫ばれる前にグレイトフル・デッドで殴り飛ばし鎧を奪い着込む。 「こいつを、ここでやんのは二度目だな…」 モット伯での館を思い出すが、浸っている場合ではない。とりあえず何があったのか聞き出さねばならないのだ。 「随分と騒がしくなったが、何かあったのか?」 「陛下が何者かにかどわかされた。魔法衛士隊がラ・ロシェールでの損害で再編中だというのに…!」 「今、現在動けるのは新たに新設された陛下直属の銃士隊だけだそうだが…魔法無しで賊を取り押さえられるものかどうか…」 (なるほど…な。死んだはずのウェールズが来れば、あの姫様は疑いもせず着いていくってことだ) 状況は把握できた。三つある各魔法衛士隊はワルドの裏切り、タルブでの戦闘、そしてトドメの『レキシントンだッ!』のおかげで、ほぼ壊滅状態で再編中という事だ。 それを補うために新設されたのが銃と剣で武装され身辺警護も兼ね、女性のみで構成された銃士隊らしいのだが、戦力不足は否めないというところだろう。 もちろん、唯一動ける戦力であるため銃士隊が出動せざるをえないようだが。 そこまで把握したところで、どうしたものかと思考を張り巡らせる。 自分で着いていったのだから放っておいてもよかったが、やはり、完全に死んだと思っていたはずのウェールズが気になった。 ミスタの頭に3発銃弾をブチ込んで生きていたというのとは、少しばかりワケが違う。 ウェールズがワルドにやられてから広域老化を発動し、その体が老化しなかったのを確認している。 だからこそ、生きて動いていたという事が異様に引っかかる。 スタンド能力で死体を操るというのは何度か遭遇した事がある。 その場合はスタンドが操っているだけで死体そのものが自意識を持っているわけではない。 だがあれは、ぶつかった時にハッキリとした感じで言葉を吐いた。死体を操っているのならもう少し曖昧なはずだ。 何より、背筋に奔った寒いものも気にかかる。操っている死体に触れた程度でああなるはずはない。 (分かんねー事を考えても仕方ねぇ…行くか!) 分からないなら分かるようにするまでだ。そういう思考に到達するあたり、この男まだまだ実にギャング的である。 「陛下をお救いする!私の後に続け!!」 先頭の隊長と思われる女性が、そう叫ぶと兵が後に続き街道を疾駆する。 後ろを離れること約500メートル。その距離を保つようにしてプロシュートが続く。 「どーして中々。結構やるな、あの女」 聞いたところ平民の出らしいが、それだけに実力を備えているのだろう。遠くから見ただけだが、初見としては気に入った方だ。 馬を駆る事30分、前方で動きがあった。 「隊長!前方に騎馬隊!数6!」 「追いついたか!射撃用意!人を狙うな、陛下に当たりでもしたら取り返しがつかん!馬を狙え!」 銃士隊に配備されている銃は新型のマスケット銃。従来の物より精度は上だ。 ギリギリまで射程圏内まで近付く。こちらに後ろを向けている以上魔法は無い。 「撃て!」 隊長がそう叫ぶと一斉に銃弾が放たれる。新型といえど連射はできないが、威力は高い。 騎乗射撃であるから命中率はそう高くないが、それでも少なくない弾が馬にめり込み転倒、落馬させる。 かなりの速度で走らせていたのだ。落馬した連中は地面に思いっきり叩きつけられる。 悪くて即死、良くて再起不能だろう。 「雑魚に構うな!陛下を連れている賊の馬の足を止める事のみ考えろ!」 アンリエッタを乗せた騎馬を入れると残り3騎。 だが、距離を詰めようとしたところで、アンリエッタを乗せた騎馬が速度を落とした。 「観念したという事か…?いや、油断するな!相手はメイジだ!」 アンリエッタまで落馬に巻き込んではならない。そう判断したのか近接し賊のみを仕留めるようだ。 左右側面から分かれて接近する。こうすればどちらかが魔法で攻撃を受けたとしても片方から攻撃できる。敵が騎乗しているのならなおさらだ。 「陛下をかどわかした罪!地獄で償え!!」 各騎馬が剣を抜き隊長が剣を賊に振り下ろそうとした。 「うぁあああああ!」 しかし、そう叫びをあげたのは、賊ではなく隊長だ。 「バカな…後ろから…だと…!?」 他の銃士からも悲鳴があがり落馬していく。速度を出していなかったのが幸いし即死というわけではないが、どれも重症の部類に入るだろう。 「…なんだ…!?なぜ…落馬した者どもが……」 後ろから魔法を撃ってきたのは、さっき落馬させたばかりの3人だ。走る馬から思いっきり落馬したというのに平然と歩いている。 もちろん相手は、その疑問には答えようとせず、落馬した銃士隊の馬を奪い駆ける。 他の隊員は気絶しているが意識を保っているあたり、隊長に任ぜられるだけあって、その精神力も高いのだろう。 「待て…!くそ…!くそ!陛下ァーーーーー!」 そう叫ぶが、それに答えるものは誰一人として居なかった。 馬に乗ったアンリエッタが、目を覚まし、後ろの惨状を目にし愕然とした。 「ウェールズ様…!あの者たちは、わたくしの銃士隊です!なぜ…あのような事を!」 「すまない…だが、誰にも僕達の邪魔をさせたくないんだ。君は僕を信じてくれ」 「でも…」 「ラドクリアンの湖畔で君が誓ってくれた言葉を信じて、僕に任せて欲しい」 「ウェールズ様…」 そう言われると、何も言えなくなる。見せる笑顔には一点の曇りも無い。だからこそその言葉のままに、身を任せた。 「こいつは…ヒデーな」 遅れること数分、倒れている銃士隊の面々をプロシュートが見つけた。 呻き声が上がってるあたり、死者は出ていないようだが、それでも一目で重症だと分かる。 どうしようもないので、さらに馬を進めるが、剣を杖代わりにして歩く人影が視界に入った。 落馬の怪我もあるだろうが、背中に受けた傷が非常に痛々しい。 頭は歩を進めようとしているが、体はついていかない。 遂には、剣を地面に突き刺し膝を付いた。 「くそ…陛下に大恩ある身でありながら…肝心な時にお役に立てなくてどうする…!動け…!動け!」 「やめとけ。今のオメーじゃ行ったところで何の役にも立ちゃあしねーよ」 「何だと…!?お前…衛兵の装備をしているが見た事無い顔だ…誰だ!?」 (こいつ、この怪我でそれに気付きやがったか) 部下の把握は幹部にとっての必須条件だ。それができなかったからこそ、モット伯も直触りを喰らっている。 「気にすんな、オレも賊とかいうヤツに用があんだよ。…何があった」 「…連中、馬から落馬したというのに…平然と立ち上がった…!即死しないまでも、ああも平然と立てるはずが無い…!」 吐き捨てるようにして言ったが、再び立ち上がりおぼつかない足取りで前へと進もうとしている。 「やめとけつったはずだぜ?どうすんだよ」 「黙れ…!私が行かねば、誰が陛下をお救いするというのだ…!」 一歩前へ進むが、頭を掴まれ地面に叩きつけられた。 「ガハ…ッ!貴様何を…!離せ!」 「そんなに死にてーってんなら、今ここでオレが殺してやってもいいんだがよ」 抵抗しようとするが、片手とは思えない力で押さえつけられている上に、重症ともいえる怪我を負っている。動くはずも無い。 少しの間抵抗していたが、杖も持っていない男一人に抗えないようでは、どうしようもない事を悟ったようで、大人しくなった。 「情けない…何がシュヴァリエだ…何が銃士隊隊長だ…私は…陛下お一人すら…満足に助けられんというのに…」 力なく呟き、目から涙が流れている。 「平民が正面からカチあってメイジに勝てるわけねーだろうが」 頭から手を離すが、そこに遠慮無く。しかも、思いっきり突き放すような声で言い放つ 「…ッ!」 睨んでくるが、その程度で気圧されはせず、淡々と続ける。 「やり方ってもんがあんだよ。正面がダメなヤツなら搦め手を使って、側撃、背撃、奇襲、何でも使って隙を作りゃあいい」 スタンド使いと同士の戦いと同じ事だ。近距離パワー型に中距離、遠距離型が正面からぶつかっても勝てるはずはない。 グレイトフル・デッド自身、相手を老化に追い込んでからが本番なのだ。 スタンド使い同士の戦いでなくても、パッショーネと他の組織の抗争の間において、油断し、その隙を突かれ一般構成員に殺し殺されたスタンド使いも数多い。 特に暗殺チームは、その報復を受ける一番手だ。 「先に言うが、卑怯とか言うんじゃねーぞ。持ってないヤツからしたら、魔法なんざ使ってる連中の方が卑怯なんだよ」 メイジと平民の戦力差はスタンド使いと非スタンド使いと同じようなものだ。 刺客の中には当然鉄砲玉扱いの非スタンド使いも大勢居た。 当然、返り討ちにしてきたが、中にはトラップを巧みに使い、追い込まれ危なかった事も数度ではない。 一般人でも扱える強力な武器があるあちら側でもそれだ。 いいとこマスケット銃程度の武器しか無いこっち側で、平民が貴族に勝つ手段と言えば正面以外からの攻撃しか無い。 「分かったら寝てろ。まぁそのダメージで、まだ戦おうとした事は褒めといてやる」 ワルドの時があるだけに、人の事言えた立場ではないが、魔法に対抗できるスタンド能力を持っているからだという事だ。 「くそ…気に入らんヤツだが…仕方ない…陛下を助けてくれ…だが、覚えていろ…陛下になにかすれば…私がお前を…殺す…ぞ…」 そう言うと気絶した。 「ったく…女でこれか?ペッシに見習わせてーとこだぜ」 正直呆れたが、同時に感心もした。 パッショーネでも、これ程の精神力を持ったヤツはそう居ない。ましてこいつは女だ。 「暗殺じゃねーしな。依頼の報酬は…ツケといてやるよ」 街道の脇に運びなるべく目立つように置きながらそう言うと、後を追うべく馬を全速でカッ飛ばした。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1879.html
明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1790.html
猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。 その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。 「…マジか?」 「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」 「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。 覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。 つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。 無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。 「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」 「ルセーぞ」 何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。 しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。 草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。 そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。 ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。 この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。 なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。 多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。 布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。 紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。 とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。 そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。 この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。 まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。 職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。 ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。 「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」 文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。 次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。 人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。 メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。 段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。 丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。 ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。 だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。 視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ! 「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」 しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。 「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」 生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。 「あなた、なにやってるの!」 「ひぃぃいいいいい」 その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。 「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」 踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。 「あ!んあ!あ!ふぁ!」 豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。 「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」 「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」 グリィ! そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。 「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ! だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」 即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。 乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。 そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。 それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。 「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」 「おだまり!」 「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ! 我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」 「 『 圧 迫 祭 り 』 だ ッ ! ! 」 「まだ言うか!」 二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。 「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」 「黙れと言っている!この豚!」 「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」 別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。 「まったく…平民はこれだから…」 養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。 が、扉の方から音。 そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。 「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。 内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。 今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。 小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。 ふとエレオノールと視線が合う。 マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。 「ごご、ごめんなさい!」 踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。 どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。 だが、エレオノールはそうはいかない。 『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。 顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。 状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。 そしてそれを見られてしまった。 「ごご、ごめんなさい!」 そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。 『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。 さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。 そして、それは何時か貴族の中にも… 『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』 「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」 そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。 生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。 そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。 マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。 というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。 なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。 「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」 「一体何が…」 どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。 「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」 「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」 今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ! と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。 今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。 「わ、わかりまひた…」 「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」 「で、でも…この前の任務の時は…」 「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」 情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。 そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。 ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。 戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。 そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。 ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。 そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。 「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」 「え?…ああ、うん」 シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。 「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」 「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」 「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」 元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。 「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」 実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。 「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」 ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。 そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。 「こんなもんか」 一通りの仕事を終えて一息つく。 後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。 後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。 大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。 刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。 メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。 常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。 プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。 後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。 もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。 適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。 が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが 続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。 普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。 次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。 そして、問題無いのが才人だ。 老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。 むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。 そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。 つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。 説教した後のペッシがあんな感じだ。 元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。 もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。 「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」 「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」 「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」 限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。 「で…どんなだよ?使い魔ってのは」 「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」 叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。 「たっく…全然、変わってねーな」 「昔から、あんなだったんですか?」 昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。 「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」 「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」 (意地だけは一端ってワケか) よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが 纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。 「少しそこで待ってろ」 プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。 「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」 「見りゃ分かんだろ。酒だ」 落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。 「いや、それは分かりますけど」 「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」 「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」 「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」 全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。 「あ、ありがとうございます」 「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」 ナイスミドル!! 軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。 今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。 無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。 ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。 「遅い」 「…シシ、シエスタさん?」 部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた 目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。 「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」 「い、いや、ちょっと話してて」 「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」 「俺はルイズの事はなんとも…」 「まぁいいサイト。お前も飲め」 スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。 「い、いただきます」 怖いので差し出されたままの酒を飲む。 この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。 酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。 何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。 最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。 「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」 「なな、なんであんたがいるのよ!」 「する事が無いので遊びにきただけれすけど」 酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。 こちらも対照的である。 そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。 「ミス・ヴァリエール」 「な、なによ…!」 こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。 「飲め」 ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。 「どうしたのよ、これ」 「とりあえず、飲め」 「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」 負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。 「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」 「な、な…!」 唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。 「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」 必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。 そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ… 「……汗かいてますね」 「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」 ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ! 「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」 「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」 「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」 汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ 「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」 「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」 遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。 「い、板じゃないもん」 「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」 完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。 とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。 「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」 「あ……」 少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。 「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」 実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。 そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。 「…なんだこいつは」 目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。 さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。 「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」 とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。 こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。 「オレはこんなキャラしてねーぞ」 文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。 相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。 そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。 そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ! 「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」 急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。 何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ! それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ! いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が! http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg 0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。 ルイズとかにバレるよりはマシだ。 失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。 「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」 反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。 一先ず安堵したが、そう安心してられない。 こんだけ焦ったのも久しぶりだ。 シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。 壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。 試しに頬を少し強めにつまむ。 反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。 というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。 手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。 「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」 ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。 ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。 今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。 ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。 襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。 難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。 相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。 「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」 「なに見てやがんだかな」 この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。 いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。 手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。 「……起きてんじゃねーだろうな」 これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。 どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。 典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。 しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。 「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」 面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。 メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。 それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。 徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが 現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。 腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。 「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」 その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。 「くそ…何なんだこいつ…」 元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。 いい加減もうどうでもよくなってきた。 出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。 眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。 バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。 何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。 横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。 メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。 同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。 ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。 …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。 猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。 マリコルヌ―覚☆醒! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2240.html
燃え盛る廊下を走りながら、今自分が夢を見ている事を認める。 そもそもこの館、自分が生まれ育った館は4年前に燃え尽きているのだ。 さらに言うなら、ところどころに転がっている見知った人間達…物言わぬ 骸となって転がっている者達も、その時一緒に灰となっている。 だがそれでも、父と母の部屋に向かう足は止まることはない。 たとえ夢の中であろうとも、あの瞬間を回避できるなら、彼女にそれ以外の 行動をとることなどできようもない。 「父さん!母さん!!」 力任せにドアを開けた彼女の目に飛び込んできたのは、血まみれの… 「………ッ!!!」 飛び起き、ここが自分の学院内であてがわれた部屋である事に気づき ミスロングビルは安堵した。 「馬鹿だね…夢だってわかってたじゃないか…」 そう言って苦笑すると幾分か気持ちが落ち着いてきた。 乱れた寝間着を調え、机の下に仕掛けておいた罠を見る。 「ちゅう」 そのままモートソグニルごと罠を窓の外に放り投げ、ベッドに腰掛ける。 「なんだってまたあんな夢を…」 いや、理由はわかっている。 昼間育郎から聞かされた…というより、エルフの魔法についての話を 聞きたがる育郎を妙に思い、いろいろと(半ば強引に)聞き出したのが、 あの学生の少女、タバサの話だった。 幸せな暮らしが、巨大な権力によって踏み潰される… それはまさしく、自分の身に降りかかった、あの忌まわしい出来事と同じだ。 育郎の話を聞いた後、たまたま廊下でタバサとすれった時、思わず呼び止めて しまったが、結局何も言えなかった。 実際何を言おうと思ったのか… 慰め? そんなものは無意味だ。 誰も憎むなとでも? それこそ無駄だろう。 自分も幾度か復讐を考え、そして何度も諦めてきた。だが憎しみは消えない。 可能ならば、今からでもあの男を八つ裂きにしたいぐらいだ。 「…あの子に感謝しなくちゃね」 父達が命を懸けて唯一守ることのできた少女を思い出す。 それは自分にとっても妹のような存在だった。 自分の命を含む全てを投げ出せば、復讐の可能性はゼロではなかっただろう。 だがそれでは残されたあの娘は、誰にも頼ることが出来ず、いずれ狩り出され、 殺される。そう考えたからこそ、自分は復讐を諦めたのだ。 或いはタバサもいつか選択するときがくるのかもしれない。 病に冒された母か、それとも復讐か… 「…やめやめ。辛気臭くていけないよ」 立ち上がり、窓から自分の故郷がある方角を見る。 「ひと段落したら。休みをもらって帰るのも良いかもね」 言ってから苦笑する。 「やれやれ…今の仕事が板についちまったのかね?」 とっととおさらばするつもりが、すっかり長居してしまった。 或いはこのままここに腰を落ち着けるのもいいかもしれない。 「ま、とりあえずあの坊やの事が一段落したら、考えてみても良いかもね」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1055.html
「シエスタさんが変態貴族のモット伯の所へ奉公することになった。」 「・・・で?」 「助けに行ってくるので今日は休みます。」 「はぁ!?何いってんの!?使い魔に休息なんて無いわよ!!」 「うるせぇ!!労働基準法違反じゃあないか!!」 「だいたい助けるって何するつもりよ!!」 「とにかく今日中には帰ってくるんで!じゃ!」 「あ、こら!待ちなさい!!」 新ゼロの変態 間奏曲(インタールード) さて、こういう場合彼ならどういう行動を取るだろうか? モット伯の所へ殴り込む?彼の性格上、これはないだろう。 しかもモット伯は多少は名の知れたメイジである。 ギーシュなんかとは格が違う。 やはり、口先八丁で丸め込むつもりだろう。こっそり忍び込んで連れ出すつもりかも知れない。 いずれにしろ・・・あまりいい結果は想像できない。 下手したら逮捕される危険性だってある。 そんなことを考えて、ルイズは深いため息をついた。 しかし、当の本人は夕方、シエスタを連れて帰ってきた。 「・・・あんた、何したの?」 「何って・・・シエスタさんを返してもらうようお願いしただけさぁん♪」 「・・・やけに機嫌がいいわね。じゃあ、仕事いつもより多くやっても大丈夫ね。」 「おいおい、そいつはひどいな!HAHAHAHA!」 ルイズは、ノリノリで掃除をするメローネを見て気分が悪くなった。 ルイズは知らない。 メローネがこう呟いていたことを。 「くっくぅ~ん。新しいカモ見つけちゃったぜ。しかも貴族様だぜ。くっくぅ~ん。」
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/165.html
ゼロの剣士-01 ゼロの剣士-02 ゼロの剣士-03 ゼロの剣士-04 ゼロの剣士-05 ゼロの剣士-06 ゼロの剣士-07 ゼロの剣士-08 ゼロの剣士-09 ゼロの剣士-10 ゼロの剣士-11 ゼロの剣士-12 ゼロの剣士-13 ゼロの剣士-14 ゼロの剣士-15 ゼロの剣士-16
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2636.html
瀬戸の花嫁 より瀬戸燦を召喚 ゼロの花嫁-01 ゼロの花嫁-02 ゼロの花嫁-03 A/B/C ゼロの花嫁-04 ゼロの花嫁-05 A/B ゼロの花嫁-06 ゼロの花嫁-07 A/B ゼロの花嫁-08 ゼロの花嫁-09 A/B ゼロの花嫁-10 A/B ゼロの花嫁-11 ゼロの花嫁-12 ゼロの花嫁-13 ゼロの花嫁-14 A/B ゼロの花嫁-15 ゼロの花嫁-16 A/B ゼロの花嫁-17 A/B ゼロの花嫁-18 A/B ゼロの花嫁-19 A/B ゼロの花嫁-20 A/B/C ゼロの花嫁-21 A/B ゼロの花嫁-22
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/561.html
「……ズ………さい……ゥ~…」 寝ているルイズの頭に何か声が聞こえるが寝起きが壊滅的に悪いルイズだ。当然この程度では起きはしない。 「…イズ……なさい……フゥ~…」 今度はさっきよりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。妙に重圧感のある声だったのでさすがのルイズも目を開ける。 「ルイズや…起きなさい…ブフゥ~~」 辺りを見回すが何も居ない。だが景色には見覚えはあった。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭だ そして何故かベッドがそこにあった。 何故ベッド?とルイズが頭に「?」マークを浮かべていると突如 グォォォオオォォ という音と共にベッドに四肢と頭が生える。 ベッドが突然縦も横も巨大な男になったのである。正直言ってビビる。そりゃあジョルノだってビビる。 「……あんた…誰?」 恐る恐るサモン・サーヴァントをし平民を召喚した時のように目の前の男に問うがその返答は実に意外だったッ! 「ブフゥ~~…私はあなたの杖の精です…ブフ~~~」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」 そう叫び一目散に逃げる!自分の杖の正体がこんなのだったのだから半泣き、いやもうマジ泣きだ。 「ブふぅ~逃げないで、逃げないでっていうか引かないで。ブフ~~~ 今日は私…ブフゥ~~~爆発を起こしてもめげずに頑張るあなたを応援しにまいりました。ブフゥゥゥ~~」 さすがに応援という言葉にルイズも立ち止まる。 「さぁこの精霊様に何でも言ってみさないブフゥゥ~~っとね」 「そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?」 さっきまで思いっきりドン引きし逃げようとしていたのに現金なものだが、当の精霊様の返事は 「もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~」 クラッカーを食べながらそう即答した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 もうさっきよりもマジ泣きしながら逃げ回る。顔から色んな汁とか出しながら。 「ま、待ちなさいルイズ!…ブフゥ~今の無し、ノーカン!ノーカン!ブフゥゥゥ」 焦りつつも自分の指ごとクラッカーを食べる精霊様がマジ泣きして逃げるルイズが思わず足を止める言葉を吐き出す。 「ルイズ…ブフゥ~~よくお聞き。寝ている場合じゃあないのよ。ブフーーー 今、君たちにディ・モールトデンジャーが迫っているのだよ。ブふーー」 「……え?……ディ・モールトって何ですか?」 「ブフゥ~~…『非常に』ってこと」 「………デンジャーって?」 「『危険』なこと。ブフ~~~」 「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」 「寝ながら何喚いてんだ…ウルセーから起きろ」 目を開けると悪夢の元凶がそこに居た。 覗き込むようにして起こされたため思わず顔が赤くなる。 「……あんたが原因よ」 「そいつは悪かったな」 もちろん、クラッカーの歯クソほどにも悪いと思ってはいないのだが。 「…ってなんであんたがここにいるのよ?」 ドアには鍵が掛かっており鍵を持っているワルド以外入ってこれないはずだ。 「人がベランダで月見ながら酒飲んでるとこにアホみてーな叫びがしたから来てみればっつーわけだ」 よく見れば窓が開いている。つまりそこから入ったという事だ。 「不法侵入じゃない…ワルドに見つかったらどうするのよ!?」 「使い魔扱いしといて今更でもねーだろうが」 「…実際、使い魔なんだから仕方ないじゃない」 それに返事せずに部屋から見える普段とは違う一つになった月を見る。 「大きさは違うが…一つだけだとイタリアで見るヤツとあまり変わんねーもんだな」 もっともその心中は(ギアッチョがこれ見てりゃあ間違いなく『引力を無視してんじゃあねぇ!コケにしやがってッ!ボケがッ!』とブチキレてるだろうな)であるが ルイズの方はそれを別に受け取っていた。 「…イタリアって所に帰りたいと思ってるの?」 「…戻る手段がありゃあな。あっちではオレの残りの仲間が命を賭けて戦っている オレが生きてるのに戻らないってわけにもいかねーからな。だが、今のとこ戻る手段が無い以上オレの任務はオメーの護衛だ」 「……悪かったわよ」 「何がだ?」 「…わたしが『ゼロ』のせいで、そんな大事な事してる時にこっちに呼び出しちゃって」 一瞬訪れる気まずい沈黙。だがそれを打ち破ったのはプロシュートだ。 「言ったろーがよォーーーオメーに召喚されてなけりゃあオレも死んでたってな それにだ。オメーはまず『自信を持て』…『自信』を持っていいんだぜ!オメーの爆発をよォーー」 「…それって褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ?」 「あの爆発をマトモに食らえば人一人軽く消し飛ばせるからな」 「ok貶してるって事ね?ちょっとそこに座りなさい。ご主人様を貶すって事は躾が必要なようだから」 どこからともなく鞭を取り出すが依然としてプロシュートは冷静だ。 「今のでキレるってギアッチョかオメーは、一体何歳だよ」 「16だけどそれが何か関係あるのかしら?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音とドス黒いオーラを噴出させているルイズだがプロシュートは別の事で飲みかけのワインを思いっきり咽ていた 「ガハッ!ガッ!ゴフッ!……マジかよ?精々12~14ぐれーだと思ってたが」 ボスの娘―トリッシュ(プロシュート達は名前を知らないが)ですら15である。あのルイズをそれより年下と思っているのは当然だッ! 「な、なななななんですってェーーーーーッ!そ、そそそそう言うあんたは何歳なのよォーーーーーッ!!」 「…22だ」 そう聞いて今度はルイズがぶっ飛ぶ番だった。 「OH MY GOD!28ぐらいだと思ってたのに人の事言えないじゃない!」 プロシュートの爆弾発現に思わずさっきまでの怒りがどこかに消し飛んだ。 「ウルセーな…そういやあのワルドってのはどうなんだ?」 「ワルドは…確か26のはずよ」 「お前……あの髭よりオレを上と思ってたってのはどういう事だよクソッ」 思わずギアッチョの口癖がうつったが気にしない。 「確か婚約者とか言ってたな」 「昔、わたしとワルドの父が交わしたのよ。確かに憧れてたけど十年前別れて以来会ってなかったから正直どうしていいのか分からない…」 (6と16って地球じゃあ犯罪だぜ?おい) さすがにこれは文化と価値観の違いなので口には出さないが若干引いている。 「……ワルドから結婚を申し込まれたんだけどどうしたらいいと思う?」 「…憧れてたんならすりゃあいいじゃあねーか。まぁオレに聞かねーと結論が出ねーようじゃあ止めといた方がいいな」 「自分でもよく分からないのよ…ずっと憧れてたのに…何かか心に引っかかる…」 「オレが言えるこたぁテメーで選んだ選択を後悔するような生半可な『覚悟』はすんなって事だ」 「…その覚悟っていうのがよく分からないから聞いてるんじゃない」 「言葉じゃなく心で理解するもんだから説明できるもんじゃあねぇ」 それを最後に言葉が途切れるがその沈黙も長くは続かない。 「チッ…!ナイフを土くれに変えたっていうから予想はしてたがな」 プロシュートの視線の先には月を遮るようにして巨大な物体がそこに存在していた。 月明かりをバックに写るは巨大な人型。さらによく見ればそれが岩で構成されている事が分かる。 そしてその巨大な質量の上に鎮座している長い髪の人物は―― 「オメーか『フーケ』。どうやって脱獄したか知らねーが…今回はババァになるだけじゃあ済まねーぜ?」 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「心配するな、すぐに忘れるからよ。…ただしお前が『老化して』オレをだ」 「お、お礼をしにきてあげたのに、あ、あああいかわらずおっかないわね……」 その言葉に手を掴まれ己の体が急激に朽ち果てていくような感覚を思い出したのかフーケが怯む。 「白仮面とマントの男ってのがそいつか…随分と手の込んだ真似をしてくれるな」 フーケの横にその男が立っているが何も言わない。いや言わないが身振りで『やれ』と言っているようだった。 「それじゃあ、わたしからのお礼を受け取って頂戴!」 「土産なら必要ねぇッ!」 その言葉と同時にゴーレムの拳でベランダが粉砕されるがそれよりも早くプロシュートがルイズの腕を掴み部屋を離脱していく。 だが階段を降り一階に向かうがそこも戦場と化していた。 ワルド達が下で飲んでいたのだがそこに傭兵の一部隊に襲われたのだ。 ワルド、タバサ、キュルケが応戦しているが数があまりにも違いすぎ手に負えないでいる。 床と一体化している机の脚をヘシ折りそれを盾にしているが 傭兵たちは手練でメイジとの戦い方を心得ているらしく、緒戦の応酬で魔法の射程を見極め、その射程外から矢を射かけてくる。 傭兵側が暗闇を背にしているというのも不利な点だった。 「これじゃあジリ貧ね…!」 魔法を唱えようにも少しでも姿を見せればそこに矢が射掛けられる このまま行けば間違いなく精神力が途切れたところに突入され突撃されるのは自明の理だ。 「この前吐かせた連中もこいつらの仲間ってわけか」 そこに二階からプロシュートとルイズが降りてくる。身を隠そうともしないプロシュートに矢が飛んでくるが全てその手前で止まっている。 グレイトフル・デッドでガートしているのだ。そしてそのまま机の影に滑り込む。 「この様子だとラ・ロシェール中の傭兵が集結してるみたいだね」 入り口の先にはフーケのゴーレムの足も見え下手すればこのまま建物ごと潰される恐れがあり、それがプロシュートとタバサを除いて焦らせていた。 「いいか諸君。このような任務では、半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 タバサが本を閉じ自分とキュルケを杖で指し「囮」と呟く そしてプロシュート、ルイズ、ワルドを指し「桟橋へ」と呟いた。 それに応えるかのようにしてワルドが裏口にまわるように促すが、プロシュートは動こうとはせず口を開いた。 「囮ってのは悪くねーが人選ミスだ。タバサとキュルケだけで支えきれるもんでもねぇ。…だがオレとタバサが居りゃあ5分でカタが付く」 「言ってくれるな…だが、君がそれでいいというのなら任せよう。裏口に回るぞ」 ルイズはあの時以来のアレを使うつもりだと思っていたが、そこにプロシュートが自分のために囮を買って出たという吊橋効果もいいとこな思考でキュルケが口を挟む。 「ダーリン…あたしのために…無事会えたらキスしてあげるから死なないでね」 「オメーのためでもねーし、その呼び方は止めろ」 三人が姿勢を低くし移動する。当然矢が飛んでくるがそれはタバサが風を使い防いでいた。 「どうして貴方が囮に?」 「確か二つ名が『雪風』だったな。氷を作れる事と、何より口が硬そうってのがある 対応策を知ってるヤツは少なければ少ないほど良いし合流するのに竜が使えるからな…」 「氷?」 「老化を抑える」 それだけ言い放ち広域老化を仕掛けようとするがそれをタバサに止められた 「あそこにも人がいる」 そう言って杖で指した方向には貴族とここの主人がカウンターの下で震えていた。主人に至っては腕に矢を食らっている。 氷が作られるのを確認すると無言で貴族の客と主人に氷を投げつけ、1~2発頭に当たったのか貴族が文句を言おうとするが 「死にたくなけりゃあ黙って持ってろ」 その、スゴ味の効いた声に全員が押し黙る。 そしてタバサが自分の氷を作ったのを確認すると己の分身の名を宣言するかのように叫んだ。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 突入を仕掛けようとしていた傭兵達の動きが急激に鈍くなる。 クソ重い鎧を着込みこちらに矢を射掛けているのだ。当然――フルスピードでカッ飛ばした車のように『温まって』いる 「頭痛がする…吐き気もだ…この俺が気分が悪いだと…?疲労感で…立つことができないだと……!?」 それに呼応するかのように次々と自らの鎧の自重に耐え切れず崩れ落ちる傭兵達。 それを巨大ゴーレムの上で見ていたフーケだが正直気が気ではない。 「傭兵達が倒れていくって事はあの使い魔が残ったって事ね… それにしても、あんな魔法反則じゃあない…無駄に範囲が広いし射程に入ったら即あんな風になるわね…」 「分散させる事ができれば問題無い」 「あんたはそうでも、わたしはそうはいかないさね…あいつに掴まれた時の事は今でも夢で見るんだから…」 「……よし、俺はあいつを相手にする」 「…わ、わたしはどうすんのよ」 フーケが眼下の惨状に恐怖しつつ引きつりながら男に問う 「好きにしろ。逃げようとも前の勝手だ。合流は礼の酒場で」 男がゴーレムから飛び降りると倒れている傭兵を避けるかのようにして宿屋に入っていく。 「何考えてんだか…勝手な男だよ」 そう苦々しげに呟くフーケだが攻撃を仕掛けるか逃げるかまだ迷っているようだった。 だが、さすがに傭兵達の悲鳴が地の底から聞こえるようね呻き声に変わった時決断は決まった。 「………逃げるんだよォーーーーーッ!スモーーーーキィーーーーーーーッ!」 ゴーレムをジョセフ・ジョースターのように走らせその場を離脱した。 「…片付いたようだな」 酒場の中はスデに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 なにせ鎧姿の傭兵達が全て倒れ伏せ呻き声をあげている。 大半は生きているようだが体が温まっているのだ。寿命が尽きるのは目前だった。 だがそこに一人、仮面の男が乱入してきた。 (新手か…!?…老化してねーようだが氷でも持ったか?) 広域老化で老化してないのなら直しかない。即座にそう判断し接近戦を仕掛けるべくデルフリンガーを抜き距離を詰める。 「やっと…俺の時代が…長かった…冬が…」 白仮面の男が黒塗りの杖を握ろうとする。剣を振ったのでは間に合わない。そう判断し突進しつつ蹴りをブチ込み酒場の外に吹っ飛ばした。 「チッ…!さすがに杖は離さねーか」 吹っ飛ばされながらも杖はしっかり握っておりプロシュートに向き直り杖を構えている。 「兄貴ィ!魔法が来る!」 白仮面が呪文を唱えているがデルフリンガーに言われるまでもなく男との距離を詰めようと駆け出している。 右手に持ったデルフリンガーで斬りかかる。甲高い音が鳴り響き白仮面が杖でこれを止めている。 だがこれは陽動だ。人間見えているものに注意がいけばそれ以外の場所が疎かになる。 「…掴んだッ!」 プロシュートの左手が男の腕をガッシリと掴んでいる。直触りを仕掛けようとしているのだ。 手加減の必要など微塵も無い。スタンドパワー全開の直触り。白仮面の男は確実にミイラになるはずだった――― 「…何の真似だ?」 だが白仮面の男は老化した気配など微塵も見せずにそう答える。さすがのプロシュートもこれには動揺したッ! 「バカなッ!直触りを受けて『老化しない』だとッ!?」 「兄貴ィ!ヤベーぜッ!そいつから離れて構えてくれッ!」 だが、遅かった。離れた瞬間、白仮面の男周辺の空気が冷え空気が弾け閃光がプロシュートの体を貫いた。 「~~~っがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「兄貴ィィィィィィィイイイ!『ライトニング・クラウド』かよぉ!」 一瞬意識が飛びそうになるがそうなれば傭兵達の老化が解除される。それだけは避けようとし意識をギリギリのところで意地するが正直ヤバイ。 「たまげたな…今のを受けてまだ生きているか」 (左腕の感覚がねーな…おまけに直を受けて老化しないだと?話てるって事はゴーレムの類じゃあねーしどういうこった!?) 生物である以上グレイトフル・デッドの老化からは逃げられないはずだ。ましてこの男は魔法まで使っている。 いかに体を氷で冷やしていようとも直触りを受ければ確実に老化するはずなのだが、こいつは老化してない。それが珍しくプロシュートを焦らせていた。 白仮面の男が第二撃を仕掛けようと呪文を唱えようとする。だがそこに上空から風の塊が白仮面の男を襲い吹き飛ばした。 「早く乗って!」 タバサがシルフィードの上から『エア・ハンマー』を唱え白仮面の男を吹き飛ばしたのだ。 一瞬白仮面の男を見据えるが、すぐに考え直す。 (どういうわけか知らねーが直が効かない以上老化は役に立たない…か。腕もヤバイし時間稼ぎは達したな) そう判断しシルフィードに飛び乗る 「直が効かない理由は分からねーが…この借りは兆倍にして返すぞッ!」 その言葉と同時にシルフィードが上空に飛び立ったが事実上の敗北と言ってもよかった。 プロシュート兄貴 ― 左腕―第三度の火傷 スーツ損傷率17% ←To be continued 戻る< 目次 続く